#コミッション #skeb #commission #commissionart #イラスト #illustration #illust #drawing #artwork #fanart #バーチャルYoutuber #Vtuber #栗鼠しゅか https://www.instagram.com/p/CpHBMccPJxM/?igshid=NGJjMDIxMWI=
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栗鼠しゅか様の2周年記念MVイラストを担当させて頂きました🌸
にこにこになれる可愛い歌声とこだわりが詰まった素敵な映像、イラストもいっぱい動いてめちゃ可愛いMVとなっておりますのでぜひぜひ✨🐿️🌷
(リンク掲載の許可を頂いております)
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bond所属 栗鼠しゅか様の一枚絵を制作させていただきました。
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「実は私、デスゲームの運営をしてるんですよね。」
「インタビューに応じた●●さん(仮名)はそう語り始める―――。」
……皆様ご機嫌麗しゅう~、フタハナ運営ことフタハナ運営でございます。
じつはPL名のようなものがないので、なんと名乗っていいのかわかりません。
表ではきっと栗鼠大明神オブザゴッドが超真面目で最高な記事を書いているはずなのに、裏ではこんなアホな事をやっております。
裏アドベントカレンダーって聞いて「私は裏だよなぁ」って思ってこちらにお邪魔させていただきました。
と、いうわけで、デスゲームを運営している人間のレポです。
ただ、こちらの記事は他の運営さんのような「運営」としての記事というよりは「デスゲームの運営というロールでフタハナに参加した人の記事」なので、そんな個人的な話どーでもいいわ!!!という方は表の栗鼠大明神様の記事を読むといいと思います。
●デスゲーム運営をやっている人の話。
まず、私は人が死ねば本気で悲しいタイプで、人間の善意を心の底から信じている人間です。
これは某フタハナ勝者さん(匿名)の発言ですが、私もその通りだと思います。そしてできればフタハナはそういう「人が死んだら悲しい」という当たり前の感性を持った方にやって欲しいと思ってます。頭おかしい事いってるぞお前。
そもそもなんでデスゲームが好きかというと、綺麗事を言っている人が最悪な状況になって行く中でどこまで綺麗事を言い続けられるかを眺めるのが非常に好きだからです。
それで死んでしまっても好きだし、その綺麗事が成就するのも好きです。汚い事も何も知らない真っ白な子が現実が自分の信じるような事で成り立っていない事を知って泣き崩れる瞬間が最高に好きです。
そして、ここまでの話で「人が死ねば悲しい」って表現をしている通り、私にはPLとPCの区別がありません。
これは「PLとPCがイコールになる」というロールマナーに抵触するアレではなく、PCも同じく1人の生きている人間として捉えているという意味のものです。
なのでゲーム運営では「キャラクターはあくまでアバターもしくは数値の塊」みたいな価値観の人によく転がされているところがあります。
●フタハナβ~
さて、はじめてのフタハナです。
αとかもありましたがそちらについてはゲーム未満だったので割愛。
私はトップページの通りお耽美ロールをしてもらえたらいいなぁみたいなすごい夢見がちファンシーファンシー脳みそパンケーキお花畑な事を考えながら運営を開始しました。今ではすっかりトップページ詐欺になりつつあります。
結果としては、更新ボタンを連打(そういうバグがあった)してひたすら他プレイヤーを殺し続けるやばいプレイヤーが出現しました。
コンセプト上の話をするなら、フタハナの戦闘システムっていうのが実は単にロールをしていく上で戦闘が発生した時に使うつもりで用意していたので、まさか特に意味もなく淡々と人を殺す奴が出て来るとは思っていなかったというのが正直なところです。
戦闘ロールってお互いに遠慮しちゃって「くらえ!!」「なんの!!」「なんだと!!」「「うわぁ!!」」「「お互いによくやったよな(ガシィ)!」」くらいで落ち着きがちで、私はあまりそれが好きでなかったんですね。
負けたら死んで。
のでシステムに勝敗を預けたかったんですが……と
話が逸れました。
そういうプレイヤーが出て来たせいで、私は「なんで生きている人間を無意味に殺せる人間が存在するの!?!?」と喚きながらひたすら怖くて泣いてました。
キャラ設定をする前に死んでしまったみたいな話を聞いて、申し訳なさすぎて死んだりもしましたが、まぁ、とにかく当時はやばかったです。
システム的に出来る事はやるのがゲーマー
らしいです、実の所、私はそういう人間の事が未だに理解できかねていて、忘れた頃にぶん殴られて床に倒れ伏しひらべったくなったハムスターのようになっています。
おなじみティラノ君が出て来たのはこのあたりからですが、ティラノサウルスについては正直「無人島に出て来そうでめちゃくちゃ強くてこわいやつ」ってごくごく真面目に考えて「ティラノサウルスだ!!!!」ってなっただけだったりします。
当時は精々なんかその程度の存在でしたが、今では結構ティラノサウルス自体が好きになってきています。ティラノ君とはずっ友だからよ。
ちなみにこの時「ゲーム部分かロール部分のどちらかに絞った方が良い」というメールをいただきましたが、どうしてもそういうわけにはいかなったので、「ゲーム部分をしっかり整えて、ゲームで遊んだとしてもロールの邪魔をしないようにする」という方針になることになりました。
実際、その後も何度も「出来る事ならやってしまうのがゲーマー」というのに打ちのめされていますが、それはプレイヤーへの怒りとかでは断じてなく、それを考慮しきれない自分への悲しみと、それに巻き込まれてしまったプレイヤーさんへの申し訳なさって事をご理解ください。
あと、どんなに綺麗なお庭を作っても変な旗を立てたり茶化す人は絶対に居るので、そういう時は一緒に旗を燃やして遊ぶようにしようという心構えをするようになりました。楽しんでいるならそれが正解。
●フタハナΩ~ΩΩΩ
ここからいつもお馴染みのフタハナの画面になりました。
Ωのあたりは実のところあまり記憶にないです。なにぶん昔の事ですし。
ゲーム終了後に雑に全員蘇生してしまったりしましたが、ハロハナで「過去のキャラクターも生き返る」事になったので、恐らくその影響だったんでしょう(たぶん)
豪華客船フタハナ号。
その後は役職等が追加されていくことになり、ゲーム部分を詰めていくという方針の通り、ゲーム部分をひたすら整えていくことになりました。
ちなみに運営するたびにシステム的な殺戮を行うプレイヤーがやはり毎回出現したり、不具合を悪用してまで人を殺しに行くので、その度に「だからなんで意味もなく人を殺せるんだよぉおおおお!!!意味わかんない意味わかんない死ーーーーーーーーーーー!!!」ってなったりしてました。
人間味の塊みたいなデスゲーム運営だなと思います。不具合出しまくるし。
デスゲーム運営、サイコパスじゃないと務まらないと思います。
『運営の贔屓』みたいになってしまうので公式アカウントでは話していませんが、それぞれに推しがいて、Ω~ΩΩΩの中では特に大正コンビがすごく好きであったりしました。
実は心中がすごい好きで、バディを組んだ状態で死ぬとゲームオーバーになるのはそういう性癖によるところが大きいです。死ぬときは絶対一緒、大変優しい世界観のゲームです。
『役職』が増えたのもこのあたりですね。
それぞれを生かしたいいロー��が見られたので、追加して良かったなぁと思っています。不具合もいっぱい出ましたが。
余談ですが、魔術師を追加した時に「最高のcoolを(略)」という台詞をTwitter上で言ったんですが、ZEROのキャスター&龍之介組はとても好きな組み合わせであったりはします。ついカップルって言っちゃうごめん。
fate(主にzero)とかLOVELESSとかガッシュベルあたりが好きなせいでバディ同士で殺し合うという形になったところはあり、武器が大体その時はまっているアニメやゲームの影響だったりと趣味がめちゃくちゃ反映されているゲームです。
最近はまってるジャンルはマイクしか出てこないので武器が増えない。雷の呼吸とか出て来たら察して欲しい、最近はそういう感じです。
なんの話だ、フタハナの話に戻ります。
●ハロハナ
逸れつつ、ようやく本題です
「実は私、デスゲーム運営をしているんですよね」
これまではなんだかんだ言ってもただの「運営」だったんですが、今回に関しては「ああ、私デスゲームの運営だったんだ」と改めて思いました。
運営として命の重さを知っているつもりで、どこか軽く見ていたんだと思います。
●1日目
デスノート(こと、名前を打ち込む事でそのキャラクターを退場状態に変更するシステム)に5人の名前を書き、決定ボタンを押すだけだったんですが、正直とても辛く、ぼろぼろと泣いていました。
デスノートは顔と名前を知らないと効果が発揮しないというのは、顔を名前を知っているような人間を何の躊躇もなく殺せるようになってしまったらもうそれはもはや新世界の神でしかないのだろうと、アイコンと名前を見て、名前を書き込みながら思いました。私は新世界の神にはなれない。
戦闘というあれを介さずに人を殺すだけでこの罪悪感なので、プレイヤー側の「殺してしまった」感はすさまじいんだろうなと思い。
これを7日間も続けるの?という気持ちでいっぱいだったのが1日目です。
●2日目
2日目は既に死んでいる方が多かったので、比較的罪悪感なく『退場』処理を行えました。
ひたすら「できれば退場という形よりもキャラクター同士で殺し合って欲しい」と思っていましたが、それが運営の退場よりもキャラクターに殺された方が納得できるからと思っていたのか、単に私の気が楽だからというだけなのかというあたりは今となってはよくわかりません。
●3日目~5日目
このあたりではさすがに多少慣れて来はしたんですがそれでもやっぱり「あ、このキャラさん好きだ」って思った人をわざわざ自分の手で『退場』して行く作業、大変つらかったです。
1日かけてブーケを探したけれど見つからず、その探したせいで死んでいったキャラの名前を書いていた時には完全に「ああああああああああああああああああ」という感じになっており、逆に直前に助かった人を見て「良かったーーーー!!!」と思ったりもしていました。
自分で殺したキャラって推しなんですよね、Killってもう愛の告白だと思っているので。ほら、殺し文句って言うでしょ?お前を殺す。
ブーケは実は揃えようと思えば4日目~5日目頃には絶対完成できるようになる形で実装していたので、このあたりから脱出も増えて来たのかなと思います。
というのも、今回は「全員殺す」つもりでいたので、生き残りエンドがいい人は好きなタイミングで脱出できるようにというつもりではありました。
「マジでフタハナ誕生するとは思わなかった」とか言われてましたが。
番外では、このあたりでマップを使って面白いロールをする方がいたり、逆に地形チップをめちゃくちゃにしている方がいたりとしました。
このあたりも「出来る事はやるのがゲーマー」というあれだったのでちょっともんにょりとはしてました。
無粋な人のせいで面白い事をしてくれる方が面白い事が出来なくなるというのは個人的には一番避けたく、出来ていた事が出来なくなるというのも避ける方針であったりします。
●6日目
正直もう少し減ると思っていました(4人くらい)が、結果的には9人残る形で退場となりました。
「あの姉妹にはもう少し殺して欲しかった」って人に言ったら「人格分離してません?」って言われたりしましたが、私は正気だ。
直前まで頑張って残ろうとしていた方、本気でフタハナを目指そうとした方達(某看護師さんや某ひとつめさんや某姉妹さん)を見守りながら私もお前に残って欲しかったよおおおおおおおおお!!!最終日によおおおおおおおおおお!!!って思いつつ『退場』していただき、その余韻に浸る間もなく
ステルス戦闘機が出て来た時に慌ててMAPoutを実装したりとてんやわんやしていました、ロール的には認められるけど、そのキャラに対等に戦える状況になられるのは今まで頑張って来た人達に申し訳ないでしょう。
ブーケという手段がある中でここまで皆を蹴落として来た以上、ここにあえて残るだけの理由がきっとこの人達にはあるんだろうという想定でいたんですが。
思ったより皆ふわっとした理由で生き残ってました。
しかも全員ソロ。
守るものがあると最終日には残れない。
なお、私はまた「システム的に出来るならやるのがゲーマー」というのを忘れていた事に気が付いて床で平べったくなっていました。生き残れるから生き残っただけで特にキャラ的にどうしても最終日に残らないといけない理由はないし、どうしても叶えたい願いもない。
「 なんのために242人殺したの!!!!!!!!!?????????? 」
と、思わず叫んでしまいつつ、これだけの犠牲を出したのだから、『フタハナ』になる人の願いには死んでいった人全員を踏み躙るだけの納得がなきゃ嘘でしょ!!!!!と発狂し、床で平べったくなってハムちゃんになってました。
人間の善意を信じちゃダメなんですよゲーム運営。久方ぶりの死ーーー。
なお、あくまでこの時点での話であって、後々それぞれの願いを聞いたりして納得はしているので、単に私が勝手に落ち込んでいただけというのをご理解ください………。
DMで何故かタラテラさん(名指し)の話をされつつ、次の日へ行きました。
ちなみにDM、不具合報告以外に「推しの話」とか「バディが死んだんですがなんとかなりませんか……?」みたいな限界メッセージもたまに来ます。
運営期間中ならわりと楽しく読んでいるので歓迎してます。
*ちなみにこちらは最終決戦前日のDM、この時点でPLさんの察しはついてました。ロール圧で。
●7日目
最後の結末がどうなったかは皆様のご存知の通り。
私はまたボロボロ泣きながら「よがった"よぉ……」とひたすら呟くマシーンになりつつ願いを反映させていきました。
『退場』させていった人が救われたり救われなかったりする様子を見ながら「本当に良かった………」いがいの感情が死滅していました。
ありがとうタラテラさん、ありがとう願いを譲ってくれた黄昏ちゃん。
そもそも『退場』させなければいいんですがほらルールなので(早口)
なんで私はこんなゲームを運営してるんでしょうね、意味わからない。もっと『案内人』みたいなクレイジーサイコハッピー拍手野郎が運営した方がいいと思います。してるんですが。
という感じで、7日間のデスゲーム運営はなんだか私が救われる形で幕を下ろしました。『案内人』がどう感じたかどうかは、私にはわかりません。
個人的な話をすれば、「願いを言え」という一生に一度は言わせてみたい台詞が言えたのでそれがとても嬉しいです。
●まとめ
というわけで今回の脱落システムは大成功だったなぁと思ってはおり、私としては大変に楽しかったし、運営側が退場させるという事で直接的に関わる形になった為により参加者さんを身近に感じられたとは思う…ん、ですが、
ゲームの主役はあくまでプレイヤーの皆様だと思うので、『案内人』が出しゃばるよりはやっぱりプレイヤー同士のやり取りでフタハナが生まれるのが理想なのかなと思う次第であったりはします。
現状ではこういう形を取るしかなかったわけですが、これはこれでとプレイヤーの皆様も楽しんでくださっているといいなと思いつつ。
今後はもう少しシステム的な方に脱落システムは組み込んでいくつもりではあります。(今回もあくまでシステム的なものではあったんですが、手動だったのもあって私とリンクしすぎたのがよくなかったねというやつです。)
まぁ、私は今回はすごい楽しかったよという記事でした。
いかがでしたか!?
ごめんって。
今後も定期ゲーの裏面を爆走するつもりですので、お好きな方は一緒に情緒を燃やしていきましょう。
また、今回の記事で数人のキャラクターについて喋る事になってしまう形になり、その方達は比較的派手な動きをしていた方であったり、ゲーム全体に影響を出していたような方が多いのですが、二人で密なロールを行うというコンセプトの通り、二人(ないし一人)で静かに良いロールをしていた方ももちろんいらっしゃるでしょうし、そういったロールもまた良い物だと思いますので、なんというか、それぞれに楽しく過ごしてくれているといいなと思います。
全キャラクターをピックアップして紹介していきたいくらいですが、記事の長さがものすごい事になってしまうので、今回のところはご容赦ください。
あらあらかしこ
フタハナ運営 拝(タラテラさんを)
【追記】
本記事はわたしの個人的な話になっておりますので、フタハナというゲームをプレイする上ではここに書かれている内容は忘れて頂けると嬉しいです。
創作者に色がついてしまうとその色がどうしても創作物に滲んでしまい、それがバイアスになってしまうんですが、私はそれが非常に嫌いなので。
そういう意味では「ステルス」する方の多い文化は個人的には好ましいです。(この文章はステルスを推奨するものではありません)
【追記2】
ハッハーーーー!!!!!!!!!!!
恨むならそんな記事を投稿した自分を恨むんだなァ!!!
自分の記事も大概にクソ記事である事を棚に上げまくり天界にまで到達し神ことゴッドになった人間の台詞なので真に受けてはいけません。
こほん、改めて色んな記事が読めてとても楽しい企画ですね、ありがとうございます。
アニメの布教をしても良いのでしたら私も全人類に鬼滅の刃を布教したいです。アニメを見たら原作もかって読みましょう、最高です。悪魔のリドルも見て下さい。あとレビュースタァライトもオススメです。ここのあたり全部見れば丸一日ぶんくらいは最高で有意義極まりない時間を過ごせますね。やったぜ。
漫画でよければぜひ宝石の国も 最新刊を買えばなんと今なら地獄が無料(660円)!!!!!!!!!アニメもあるぞ!!!!!!!!!!
プロメアもいいんですが推す手段がない、DVD早く発売してくれ。発売してくれたらいつでも最高になれる最高のDVDなので大麻より効くことになる。たぶんがんも治るし寿命が7万年くらい伸びる、光り輝いている円盤なのでおそらくリオくんがつけ忘れていた天使の輪っか。天界からの賜り物。
プロメア、(情緒を)燃やさなければ生きられないフタハナの皆様にオススメです。
あとそう、ヒプマイはいいぞ、独歩君と 一二三君が推しです。
………私の方もこれだけよくわからん怪文書を書けばもはや五十歩百歩というやつなのでは???????
一途な気持ち、たいへん素敵だと思います。はい。
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●読める字いくつある
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◆読めたら超すごい!ある動物を表す漢字「鼬」って読める?
https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20200407-00010001-cancam-life
2020/4/7(火) 18:00配信 CanCam.jp
読めたら超すごい!ある動物を表す漢字「鼬」って読める?
鼬
知っている言葉でも、漢字で書かれると読めなくなってしまうことってありますよね。日本人であるならば、しっかり読めるようにしたいところ。
たとえば、「海狸」「栗鼠」「馴鹿」などなど読めますか?
「海狸」かい り【海狸】 ビーバーの異名。
「栗鼠」りす 【〈栗鼠〉】
〔字音「りっそ」の転〕
① 齧歯(げつし)目リス科の哺乳類のうち、ムササビ類を除くものの総称。
② ① の一種。頭胴長約20センチメートル。尾長は16センチメートルほどで、毛がふさふさとしている。毛色は夏冬および産地で異なり、冬毛の背面は北方産が暗褐色、南方産は黄褐色、腹面は白色。夏毛は体側が橙褐色を帯びる。平地から亜高山帯の針葉樹林にすみ、木登りがうまく、泳ぎも巧み。昼行性で、種子や木の実を食べる。本州・四国・九州に分布。キネズミ。
「馴鹿」トナカイ じゅん ろく 【馴 鹿】 〔アイヌ語〕
シカ科の哺乳類。頭胴長1.3~2.2メートル、肩高0.8~1.5メートル。雌雄とも枝のある大きな角をもつ。体毛は密で褐色。草やコケを主食とする。ヨーロッパ・アジア・北アメリカの寒帯に分布し、北欧では古くから家畜化されている。カリブー。 〔「馴鹿」とも書き、「じゅんろく」とも〕
これ実は全て動物を表す漢字なんです。普段はカタカナで読んでいるので、和名だと難しいですよね。
今回も、そんな動物にまつわる漢字クイズです。お題はコチラ!
「鼬」。
漢字一文字だと、検討もつかないのではないでしょうか? それではヒントを見ていきましょう! 小学館デジタル大辞泉によると、次の意味が出てきました。
体調は雄が約30~45センチ、雌が約20センチ。体毛は赤茶色で、体は細長く、足が短く、尾は太く長い。主に夜行性で、ネズミ・鶏などを捕食。敵に追いつめられると悪臭を放って逃げる。日本・朝鮮半島・中国・シベリアに分布。
実は日本にも生息している動物なんですね。かわいらしく体も小さいのですが、見た目からは予想できないほど凶暴なんだそう。
それでは正解を見ていきましょう。
「イタチ」でした。
ペットとして飼育されることもある「フェレット」もイタチの仲間であるそうですよ。
狢
読み方:ムジナ(mujina)
アナグマの別称。
イタチ科の哺乳動物
学名 Meles meles
狢
読み方:ムジナ(mujina)
タヌキの別称。
イヌ科の動物
学名 Nyctereutes procyonoides
雑学も学べるCanCam.jpの日本語クイズ。明日も朝6時ごろ更新の予定です。お楽しみに♪(齋藤有紗)
◆「煎茶」「番茶」「玉露」どう違うの?これを機に覚えたい緑茶の基本【違いは何!?】https://cancam.jp/archives/549812
「煎茶」と「番茶」の違いって?言われてみれば、説明できない…。
みなさんは緑茶をよく飲みますか?
緑茶には様々な種類があります。煎茶、番茶、ほうじ茶、玄米茶、などなど……みなさんは、これらの違いを説明できますか?
言われてみれば、なんとなくのイメージしか持っていないという人も多いのでは。今回は、それぞれがどのようなお茶なのか説明していきます。
【煎茶と番茶の違いって、知ってる?緑茶の種類を紹介!】
◆【あわせて読みたい】
※「取り付く○○もない」…○○に入る言葉、わかる?
https://cancam.jp/archives/534702
※「声を荒らげる」って、何て読みますか?なんと約80%の人が不正解!
https://cancam.jp/archives/534718
※「寝覚めが悪い」「目覚めが悪い」どっちが正しい?20代の約7割が間違えた!
https://cancam.jp/archives/546156
※謎の存在?「浪人あるある」を経験者に聞いてみた!【浪人時代編】
https://cancam.jp/archives/547989
※「Esc」「無変換」キーって何?今さら聞けないパソコン知識のおさらい【年間ランキング・PC雑学編】 2020.3.12更新
https://cancam.jp/archives/519275
2018.3.25 作成
◆【関連記事】
「予予」読めたらスゴい!「よよ」じゃなくて、絶対聞いたことある言葉!
https://cancam.jp/archives/716374
「一段落」なんて読む?実は過半数が間違えてる言葉なんです
https://cancam.jp/archives/759827
「貼付」って、読み方わかってますか?「はりつけ」じゃありません!
https://cancam.jp/archives/748817
「既存」って読める?本来の読み方は「きぞん」じゃなくて…
https://cancam.jp/archives/715021
「疎か」ってなんて読む?知らないとけっこう恥ずかしい?
https://cancam.jp/archives/761827
最終更新:2020/4/7(火) 18:00 CanCam.jp
◆★他にもチャレンジしてみる? 漢字クイズ 記事一覧はコチラ
https://cancam.jp/archives/tag/漢字クイズ
★「つよか~」じゃないよ「強か」って読める?
https://cancam.jp/archives/499002?post_date=20171020210110
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碧眼の薬売り
ちゅんちゅん、と朝を知らせる小鳥の囀り。
空いた障子の隙間から、何匹かの雀が私の元へと飛んできた。
私の周りをくるくると飛ぶと、2匹は私の肩の上に留まり、もう1匹は差し出された私の手に留まる。
二匹が自身の毛繕いで忙しい中、すりすりと私の指に体を擦り付ける甘えたがりな小さい雀を、人差し指でそっと撫でる。
ふわふわとした羽毛、じんわりと感じる温かな体温。雀も居心地良さそうに目を細めているのに釣られ、私も目尻を下げた。
すると、それを見て好奇心を擽られたのか、はたまた嫉妬したのか、私の手の方に移って撫でろ言わんば��りに頭を差し出す肩に留まっていた二羽の雀。それを気に入らない一羽が、羽をばたつかせやってきた雀に猛抗議する。
バタバタ賑やかな自分の手の平。ふふっと口から声が漏れた。
外では青々とした木々が、こちらを見ながらこしょこしょと内緒話をするかのように、くすくすと笑うかのように、葉を揺らした。
爽やかな陽射しが注ぐ、和やかな葉月の末日、私は未だ、歩けない。
私が目を覚ましてから一週間ほどの日時が経った。
その間は、ヒナギの作ってくれるご飯を食べたり、薬を塗ったり、包帯を巻き直したり、こうして暇になったら、ヒナギに障子を開けてもらって、夏の山の景色を眺める日々。
時折、今朝の様に野生の動物が私の元を訪れるのも珍しいことではない。実際、毎日来ている。
最初は雀、明くる日は兎、そして栗鼠、貂、大きいものだと鹿、それから蝶や蛇まで。障子を開ければ皆、ちらとこちらに寄る。それもヒナギがいない時に。
若しかしたら、私は動物に好かれているのだろうか、とも考えた。
でも、私がただ単に忘れているだけで、実は記憶を失う前に会っていたんじゃないかとも考えた。
悩める話だが、彼らがこちらに来る分には全然問題ないし、寧ろ歓迎したいくらい。何しろ、足が動かないこの状態だと、私に出来ることは寝る、食べる位しかなく、こうして寄ってくれると私の良い暇潰しになるのだ。自分本意なのは分かっているが。
今日来てくれた雀はその中でも顔見知りだ。初日から、毎日のようにこの部屋にやってくる。一羽で来る時もあれば仲間と飛んでくる時もある小ぶりで可愛らしい雀。勝手に私が「おちび」と呼んでいるその雀はほかの雀は甘えん坊なのか、よく撫でてくれと頭を差し出してくる。
未だにワタワタと慌ただしい手の平で、そっと三羽を包む。すると、指の間からにゅっと顔を出す雀がまた可愛らしくて、笑った。
なんとか手から脱出した二羽が、障子の向こうへと飛び去って行った。パタパタと羽を広げて飛ぶ姿が少し、羨ましくて。
「わたしも、おちびみたいにとべたらいいのに」
おちびは、首を傾げ翳った私の顔をずっと見つめるだけだった。
すると突然、バッと羽を広げ森へ帰っていくおちび。
ヒナギかな、と思い、障子の方を向くと、知らない人の影。少し小柄で柔らかい印象のあるそれは、無骨で大柄な彼のものではないことは明らかだ。
じゃり、じゃり、と近づいてくる人影に緊張し、布団をぎゅっと握りしめる。
ヒナギは狩りの途中で不在。私はこの通り動けない。
どうすれば。
冷や汗が頬をつっと傳う。
そして近づいてきた人影は、いよいよ障子の目の前で止まった。逆光で、その姿はよく分からない。
「あらまぁ、随分と小さな患者さんだこと」
鈴をころりと転がしたような高い声が部屋を木霊する。
敵意の無い間延びしたその声に、手から力が抜けた。
雲が太陽を隠したことにより顕になる彼女。
背中くらいの長さの銀の髪の上には竹笠。山吹色の小袖を着て、背中には木でできた大きな薬箱のようなものを背負っている。
何よりも惹かれたのが、空のように青い瞳。透明感のある、そして光の角度によって星のように光る猫目がちな碧眼は、独特ののんびりとした雰囲気と相まって、何やら神秘的な、魅力的なものに見えた。
暫しぼうっとその女の人を見ていると、彼女は困ったように眉を下げ、自分の顔に何か付いているのかと聞いてきた。
ハッとして首を振ると、胸をなでおろし、縁側に座る彼女は、徐に重たげな薬箱を下ろした。
「さあて、貴方の治療のことなんですけどねぇ」
「あ、え、ちりょう……?」
「そうですよ? ……おやぁ、もしかしてヒナギさんから何にも説明なかったのですか?」
困りましたねぇと、竹笠を外し俯いて何かを考えるお医者さんらしきその人は、ぽんっと手を打ち何かを思いついたかと思えば、草履も脱ぎ、こちらへやってきた。にこにこと笑いながらこちらに来る彼女にどうしていいかわからず、アホの子の様に口を開いてポカンとする自分。気付いたら目の前まで来ていた彼女に驚き、軽く肩が跳ねた。
「自己紹介をしましょう。仲良くなるにはそれが一番でっ、あら?」
ひょいっと突然後ろへ下がった顔。その後には、
「初っ端から近いんだよお前は」
「まぁ、保護者様のお出ましですねぇ」
「っヒナギ……!」
コイツに何されていないかと聞かれた私は素直に頷いた。驚きはしたが、まだ何もされてはいない。
「紹介してなかったな、コイツはツグモネ。薬売りだ」
「人間から妖怪までドンと来いってもんですよ」
ふふん、と胸を張る彼女は、もう一度、今度は私の視線が合うようにしゃがみ直し、ふわりと微笑んだ。
「改めまして、私の名前はツグモネ。もうかれこれ何十年も旅をしているお医者さん兼薬売りです」
よろしくねぇ、とやはり間延びした声で告げた彼女。私も軽く自己紹介をすると、ほんの少しだけ目を見開いて、嬉しそうにゆるゆると顔を緩ませた。
「まぁ、ヤスヒコ君ねぇ。かっこいいお名前」
「え、えと、ヒナギが……つけてくれた」
「あらあら彼が? 珍しい事もあるものです」
彼、名前をつける感覚可笑しいでしょう、と問いかけられれば頷くしかない。本当に酷いものばかりだった。後ろではヒナギが片手で顔を覆い、もうその話はよしてくれと言わんばかりである。自業自得だ。
その後、ヒナギは狩った鹿の処理をすると言い、今部屋にいるのはツグモネと私だけ。
ヒナギの知人とはいえ、初対面だ。少しだけ居心地悪そうに身をよじると、変なことはしませんよとツグモネが笑った。
「お体、少し触りますねぇ」
その声に頷けば、細い指先がそっと怪我をしている肌をなぞる。
触られるたび少しピリリと痛む傷だが、我慢できる位の痛みだ。もっとこう、痛いことをするのかと思った。
「ふふ、もっと色々な器具を使って痛いことするのかと思いました?」
「もっといたいこと、するのかと」
「人間のお医者さまならそうなさるでしょうねぇ。私は幸い他の人より五感が鋭いので、そんな事しなくてもいいんですよ」
「どういうこと……?」
「そういうこと、です」
ふふふとしか笑わない彼女が少しだけ胡散臭く感じた。
「足はどうです? 動きますか?」
ふるふると首を降れば、そりゃあそうでしょうねぇというお言葉。包帯を取れば大小の切り傷、擦り傷、打撲による痣と腫れ、その見るに堪えない姿をさらけ出し、あまりの醜さに自分も思わず顔を顰めた。それでも、崖から落っこちた割には酷い怪我ではないらしい。
足の触診が終わり、ツグモネがちらと私の尾に目を向けたかと思えば、カッと目を開いてそれを掴んだ。
突然掴まれ背中を走るぞわっとした奇妙な感覚に、ひぃっと情けない声を出せば、彼女はハッとした様子で申し訳なさそうに手を離した。
「ごめんなさい、ビックリさせてしまいましたよね」
「だ、だいじょうぶ……」
私がそうおどおどと告げると、ほっとしたように胸をなで下ろす彼女。だが、すぐにその表情は深刻なものに変わっていった。顎に手を当てて、うんうんと悩みながら私の尾をじぃと射抜くかのように見るツグモネの姿に、次第に私の体にも力が入る。
「ヤスヒコ君は、記憶がないとおっしゃっていましたね」
「……ん」
「今のところ思い出せる一番古い記憶って何ですか? どんな些細なことでも良いのです」
昔の記憶――そう尋ねられ、空っぽの頭の中で自分の古い記憶をしばし思い出そうとしてみる。暗闇、轟音、そして――……、
「はしってる」
「というのは?」
「まっくらやみ、ひどいおとのなかで、わたしははしってた」
しかし、この記憶が夢なのか現実なのかは定かではないとそう告げれば、ツグモネはほんの少しだけ表情を曇らせると、再びにっこりと笑って、私の記憶を取り戻す方法を少し考えてみただけだと、そう言った。
「うーん、やっぱり出来なさそうです。ごめんねヤスヒコくん。あっ、勿論貴方の脚は治せるから安心してねぇ」
彼女は薬箱をガサゴソと探り、懐紙に包まれた粉薬とずんぐりとした灰色の壺を取り出した。
彼女の説明によれば、粉薬は炎症と感染症を抑える薬、そして、
「これはね、河童の妙薬といって、まぁ万能薬なんですけど、これを1日1回、貴方の足に塗ってくださいねぇ」
「…….かっぱ」
「そう、河童。うふふ、昔ちょこっと縁があってねぇ……」
薄く笑う彼女は物凄く不気味だ。
今日は私が塗ってあげますねと、妙薬を壺から一掬いし、私の足にのせ、馴染ませるように広げた。無色透明でどろりとしたその薬は青臭い。少し沁みるものの、ひやりと冷たいそれは、蒸し暑いこの季節には程よく気持ちが良い。次第に足の感覚が鈍くなり、だんだんと頭がぼうっとしてくる。
「あらあらぁ、おねむですか?」
「む……」
「んー、妖怪ならそこまで眠気は来ないはずなんですけど、やっぱり人間用に調合し直した方が良さそうですねぇ。麻痺毒の量を減らしますか」
なんてものを加えているんだと抗議しようとした時にはすでに、私は夢の中に落ちていた。
暖かな日差し、群青色の空、日に照らされ黄金色に光るの草原の上で私は立っている。向こうからやってくる、無数の白��狼の群れ。その中でも一際大きな狼が、黒と白、ふたつの大きな尻尾を振ってこちらを見つめる。
やがてそれがぐぐぐと体を丸めたかと思えば、だんだんと小さく、小さく縮み、尾が消え、髪が生え、やがて人になった。
周りの狼たちは甘えるようにその人に体を擦り付ける。依然彼はこちらを見つめたまま動かない。
すると、彼は突然手招きをするかのように手を動かした。
何故かとても駆け寄りたくなって脚を動かそうとするが、縺れて、そのまま倒れ込んでしまう。
やがてだんだんとぼやけていく彼の姿。
必死に手を伸ばす――届かない。
藻掻いてみる――動かない。
「……が、……まで」
ポツリとそう呟いた彼、遠すぎて、よく分からない。
「け……が、……るまでは」
「……かし、元々は……へ……予定ですよ」
「それでも、だ……頼む」
ぼんやりと、ヒナギの声が聞こえて、目が覚めた。もう夜なのだろうか、真ん丸な月が私の部屋を青白く照らしている。
襖の隙間から、ツグモネとヒナギが見えた。何やら深刻な雰囲気にゴクリとつばを飲み、少し布団をずらして身を乗り出し、そろりと襖を開ければ、ツグモネがこちらへ気づき、手を振る。
「お目覚めですか?」
意外とお早いお目覚めでしたねぇ、とコロコロ笑う彼女によれば、先程の妙薬は人間には少し効きすぎるらしい。ついでにいえば、調合をし直したから今後はそれを使ってくれとの事だ。
「たしかさっき、まひどく……」
「毒も使い道によっては薬になりますからねぇ」
威圧するかのように微笑まれ何も言えない。
「まあ、今回はそんな所ですかねぇ。薬は取り敢えず1週間分。足りなくなったころにまたお伺いします」
「あぁ、よろしく頼む」
「いえいえ。あぁ、あとヤスヒコくん」
彼女はすすすすっと私の方へ寄ってきて、耳元に口を寄せた。
「あなたの尾っぽ、間違いなくこの山の主様だった方のものです」
「……!」
「主様の生きる時間はこことは異なるので、特に人間がその時間を生きるには形を変えるしかないのですよ」
ふっと離れた彼女の顔には薄ら笑が浮かび、星のように輝く蒼の瞳で私を見下ろす。彼女に見下ろされた時に見えた、瞳の奥にちらつく寂寥と同情の念が私の心をざわつかせる。
結局その日、ツグモネが去った後も、ヒナギと彼女の会話が、彼女の言葉が、眼が忘れられず、ひたすら布団の中で悶々と悩んだまま、朝を迎えた。
「昨日ツグモネと何を話していた、だ?」
翌日、寝不足で目の下のクマを作った私にぎょっとしたヒナギに、昨日ツグモネとなんの会話をしていたのかを聞いてみた。しかし、答えはなんとまぁ無難な感じで、私の怪我がどのくらいで治るのか、という話らしい。
「まあ、河童の妙薬を使ったとしても、早くて完治は秋が終わる頃って言ってたな」
「そんなに、かかるんだ」
「何か、気になることでもあったのか?」
「……」
ツグモネに告げられた言葉を言おうとしたが、憚られ、口を結んだ。きっと、こんな事を言っても、何も変わらない。
「……なんでもない。ねえヒナギ、わたし、けがなおったら、このやまを、みてみたい」
「……そうだな、もう少し良くなったら、気分転換に外に出よう。歩けるまでは、私が抱いてやろう」
もしかしたら、見て回るうちに自分のことを思い出せるかもしれない。
きっと思い出すことは嬉しいことのはずなのに、私の心の奥底で思い出さないでと誰かが叫んでいるような気がして、その違和感を追い払うように、手首を強く握った。
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林田の世界(初稿版)
第7話 南さんのサムディ
「少し前から薄々そうなんじゃないかなって思い始めてて、なんか徐々に疑惑が深まってきたというか。俺だって最初は『いやいや、まさかなー』って思ったよ? 『また昔みたいに頭が変な風になっちゃったのかもしれないな』って」
最初は控えめで小さかった林田の声が徐々に徐々にはっきりしてくる。
「けど猫がな。どんどん大きくなってきてな。思ったんだよ。『もしかしたら、俺の頭は最初から少しもおかしくなかったのかもしれないぞって』」
林田は洗面台の蛇口の側に置いてあった手の平サイズの四角い石鹸を手にとり、気を紛らわせるように指先でいじり始めた。
顔は下に向けたまま、目だけを動かして俺を見る。
「もし俺の頭がおかしくなかったとしたら、今起きていることに全部説明がつくんだよ。外にいるあれが何になろうとしてるのかも、世界に何が起こるのかも何となく予想がつく。だって2回めなんだ。1回めは、お前だったんだ」
俺の舌はやっと感覚を取り戻す。
「……いつから俺をそういう目で見てたんだよ」
「あいつにお前の妹ちゃんの服を着させてあげた日。もしかしたらこういうの、2回目なんじゃないかって思い始めてて……。すごいデジャビュ感あったんだよ」
結構前じゃねぇか。
――お前だって元は猿じゃん――。
あー。そういえばなんかみょーな目で見てたね。俺のこと。
「じゃぁ、何か? お前は俺が元々はマンドリルの赤ちゃんで、色々進化して最終的に俺になったと言いたいわけか? 小4の時に思い込んだみたいに?」
「うん」
俺は頭が胴体から抜け落ちるんじゃないかってくらい項垂れた。
――まだ慌てるような時間じゃない――。
記憶の奥底から顔を出したスラムダンクの誰かが、両手を軽く広げて顔を横に振りながら、そう繰り返している。
「……で、外にいるアレも間もなく人間になると言いたいわけだな?」
「うん。人間になった後は自分が動物だったことを忘れてると思う。お前みたいに」
――まだ慌てるような時間じゃない――。
頭の中でスラムダンクの誰かが顔を横に振る速度が上がる。俺の慌て度に首振り速度が比例しているのだろう。
「お前は覚えてないかもしれないけど、でも本当にお前はマンドリルなんだよ」
――まだ慌てるような時間じゃない――。
いよいよ首振り速度がレッドゾーンに突入した。もはや名前が思いだせないそのキャラの顔はあまりのスピードで残像が見えるレベルで左右に振れている。でも名前が思い出せない。なんだっけなー。なんだっけなー。レモンが好きな人だ。
せ……せん……あき……せきぐ……福ちゃん……違う。せ、せ、せん……。
あ、魚住?
「仙道」ぶすっとした顔で林田が言う。
「それな! 知ってた!」
知ってたよー!
俺は両手の人差し指で林田を指差す。ゲッツ!
林田は俺のゲッツ指を掴むと、関節を1つ増やそうとでもするみたいにメリメリと力を込めてきた。
俺は悲鳴をあげて指を引っ込める。
「何すんだ!」
「真面目な話をしている時に別のことを考えるのやめてくんねぇかな。さっきそれで喧嘩したばっかじゃん」
「俺にだってどの話題を真面目に聞いて、どの話題を不真面目に聞き流すか決める権利がある!」
そう! 人間には生れながらに自由意志というものが備わっており! 何人たりともそれを奪うことはできないのだ! パワー・トゥー・ザ・ピーポーライトン!
「っていうかなんでお前俺の考えてることがわかるし!」
林田は俺の脳内にいた仙道と同じポーズで首を横に振る。
「こうやって、小声で『せん……せ、せん……まだ慌てるような時間じゃない……せん……魚住?』って言ってたら、誰だってわかる」
どうやら考えていたことが口に出ていたようだ。
「『せん』まで合ってるのに、どうしてそこで魚住が出てくんだよ」
「ウッセェな。それだけ俺の慌て度数が高かったってことだよ! まさか10数年の時を超えて、またしてもお前にマンドリル扱いされると思わなかった!」
びっくりぽんやわ! と頭の中の思い出ボックスから顔を出した朝ドラの人が言う。これは知ってるぞ。
マッサン!
「あさ」林田、ぶす面、パート2。
そう、それなー! 知ってたー!
「だから真面目に聞けってば」
「そんな話しをどうやって真面目に受け止めろっていうんだよ。それが原因で大喧嘩しただろうが。大変だったんだぞ。指は折れるし、夏休みのディズニーランドは取り消されるし、変な奴専用のサマーキャンプに無理矢理参加させられて、夏の思い出が不穏なのばっかりになるし!」
相バンガローの雪太君が「にんげんていいな」の不気味な替え歌を歌いながら、飯盒炊爨用の火に手足をもいだトカゲや羽を毟った虫や串刺しにした栗鼠だか野鼠だかを投げ込んでいた様は、今でも体調が悪い時とかに夢に見る。
燃え死んでゆく小動物の悲鳴は一度聞いたら忘れられない。
あのキャンプ、絶対、なんらかの症例が悪化するタイプのアレだと思う。ほら、ヤク中が刑務所に入ると余計酷いヤク中になるっていうアレみたいな。
雪太君が歌っていた『くまのこみていたかくれんぼー。弱った奴から食べてゆく。猟師が来たりて熊を撃つ。返ーりー討ーちー。いーいなーいーいーなー。人間っていーいーなー。この世は地獄だ、丸ごと燃そう。赤子の目玉が口からボロリ。右と左に悪魔がいるよ。前、前、前歯から、抜いてくね』って歌も時々思い出す。
雪太君はどういうアレで小学校の先生になれたんだろうか。
楽しくていい奴なんだけど、事件性を帯びた性格だとは思う。
「それでも夏休み明けにお前がちゃんと元どおりになってたのを見て、まず最初に『あぁ良かった!』って思ったのに!」
理不尽な理由で攻撃されたにも関わらず、友を心配するこの俺の器の大きさときたら!
「嘘吐け。お前、菓子折り持って謝りに行った俺にいきなり殴りかかってきただろうが」林田、ぶす面、パート3。
「『あぁ良かった!』って思った次に『このクソ野郎。テメェのせいで散々だ。ぶっ殺す!』って思っただけの話だろ。嘘吐いてねぇじゃんよ」
俺の器は大きいが、底は浅いのだ。大抵のことは受け止めるが、受け入れるとはかぎらない。
「お前もあのキャンプに参加すれば俺が殴りかかったことに納得いくはずだ。むしろ、刃物を持ち出さなかっただけ俺は偉いと思うよ。すっげー心を削られるキャンプだったんだからな」
――赤子の目玉が口からボロリ――。
「でもキャンプならまだマシじゃないか。俺なんかこっちの病院だぞ」
林田は自分の頭を指差していう。
「夏休みの間、ずっと検査とカウンセリングだ!」
あ。そうだったんだ。
「……それは仕方ないだろ。俺がお前の親だったとしても病院連れてくよ」
林田はぶす面がいきすぎて潰れまんじゅうとしか形容しようのない顔になる。
「医者と親が結託してさ。俺を丸め込もうとしたんだ。なんかよくわかんない薬飲まされてさ! ケンタッキーおじさんみたいな医者と親に囲まれてずっと質問攻め! 俺が何か言うたびに親が泣くし! 俺が何か言わなくても親が泣くしさ! 1日中、周りのみんなが『君の記憶は間違いだ。君は妄想と現実の区別がつかないんだ。冷静に思い出してごらん。君の記憶は本当じゃないんだ。君が君の記憶だと思っているものはただの思い込みなんだ』って言い続けるんだぞ! 俺がどんなにお前が」
林田は俺を指差す。
「お前が化けマンドリルで、人間の振りして、俺以外のみんなを洗脳しているんだって言っても、誰も聞きゃしない!」
「そりゃぁ、そうだろうよ」
俺、生まれた時から人類だし。
「気持ちとしてはあれだよ! ほら、あの、ほら」
林田は「ほら、あれだよ、ほら」と言いながら何かを握りこむように右手の拳を丸め、目に見えない何かを叩くように上下させる。
「ヘェロォォー! チャッキィィィー!」
林田は喉を潰したダミ声で言う。
「……チャイルドプレイ?」
「そう! それ! あのキモい映画!」
俺、あの映画好きなのに。
「人形の名前がチャッキーで、男の子の名前はアンディだからな」
「どうでもいいよ、あんなキモいの」
俺、あの映画好きなのに。
「あれで人形が殺人鬼だって本当のことを言った主人公が、逆に頭おかしい扱いされて精神病院に連れてかれてっちゃうだろ? 気持ちとしては完全にアレ」
「……つまり、俺はお前の命を狙うチャッキー人形だったと。お前的には」
林田は頷く。
頷くなよ。そこで。つーか、だから体育倉庫で2人きりになった時に暴れまくったのか。
「本当のことを言ってるのに誰も信じてくれないし、俺はお前と友達になった覚えなんてないのにみんなが『前からの友達だよ。あんなに仲よかったのに』とか言うし。それで……これ以上本当のことを言っても俺が狂人扱いされるってわかってきたから、嘘ついて退院した。『俺が間違ってた。あいつはマンドリルじゃない。薬が効いた』って言って」
言葉が見つからない。
「いや、いや、ずっとじゃないから! ずっとじゃないからな! ただ、退院した後はまだお前を疑う気持ちが強かったから、その」
林田は言葉を濁す。
「何? 疑う気持ちが強かったから何?」
「……定期的に下駄箱の中にバナナを入れておいて、反応を見ていた」
あれはお前の仕業だったのか。
「……定期的に下駄箱の中に発情期の雌猿の写真を入れておいて、反応を見ていたりもした」
あれもお前の仕業だったのか。
「お前がウッキーウッキー言いながらバナナを食べ始めるか、ウッキーウッキー言いながら雌猿の写真を持ち帰ると思っていたんだ」
バツが悪そうに林田は言う。
「いや……捨てるに決まってんだろ……気味が悪いし……。俺がバナナ食べたり、写真持ち帰ったらどうするつもりだったんだよ……」
「それはほら。あの……正体がはっきりしたということでだな。こう、ね。いっちゃってもいいんじゃないかなって。ね」
ねって何。ねって。
「実を言うと、いつお前が正体を現して襲いかかってきてもいいように、クリップをつなげて作った鎖帷子を常に服の下に身につけていたんだ」
そんな笑い飯みたいなことしてたのか、林田。
「あと、もしもの時の為にポケットにナイフ入れてた」
「殺意があるじゃねぇかよ……」
「いや、でも、ずっと殺そうとしていたわけじゃないからね? お前と一緒に過ごす内になんかどんどん慣れてきて。『もしかして本当に俺の勘違いだったのかな?』って思うようになったんだよ。だって、お前、なんか……なんか、普通だし」
「そりゃどうも……」
「いつか正体を現して、デッカい猿の化け物になって襲いかかってくるんじゃないかと思ってたのに、なんか普通に俺ん家きて、スト2やっては帰り、また俺ん家きて、ぷよぷよ通やっては帰り、また俺ん家きて、聖剣伝説2やっては帰り、また俺ん家きてマザー2やっては帰り……なんかこいつ「2」ばっかりやってるなぁとか、っていうか人ん家きてロープレのレベル上げしてくのってなんなのって感じで」
「しょうがねぇだろ。家でゲームしてると妹がリセットボタン押したり、コンセント抜いたりして邪魔してきたんだから。あとお前の家のオヤツはレベルが高かったし」
ホワイトロリータは正義。
「お前がずっとそんな調子だから、徐々に徐々に俺の気のせいだったような気がしてきて。みんなが言うみたいに、俺の頭がどうかしていたのかもしれないって思うようになって。それでも一応、時々お前のこと遠くからつけてたりしたんだけど」
待って。
「『アウターゾーン』のミザリーのエロいページだけ切り抜いたやつとか、電話ボックスの中に貼られてるエロ広告を集めて、橋の下に隠してる姿を見たり」
待って。見てたの。
「誰もいない教室で、黒板消し片手に『行っけー! トライダガーZMC!』とか言いながら走り回ってるのを見たり」
待って。待って。見てたの。見てたの。あれ。見てたの。
「そういうのを見てるうちにどんどん『あれ。こいつ別に普通のアホじゃね? これがチャッキー人形みたいな怪物か? これ普通のアホじゃね? 俺、こんなアホを怖がってたの? うーん。これはみんなの言う通り、俺の頭がおかしくなっていたんだな。俺が病気だったんだ。俺の記憶は、脳みそが創り上げた偽物なんだ。忘れよう』って思うようになったんだよ。それでちゃんとカウンセリング受けて、お前がマンドリルだった記憶を思い出さないように閉じ込めていたんだ。猫がああなるまでは、マンドリルのことなんて『そういえばそんな思い込みもあったなぁ』くらいに思ってたし」
「失礼だぞこの野郎! ストーカーしておいてなんだその言い分は! 恥ずかしいだろ! 何でみてんだよ! この、この、ばか! バカ!」
誰も見てないと思ってたのに! 誰も見てないと思ってたのに!
「でも、今は! お前のこと! ちゃんとマンドリルだってわかってるから!」
「わかんなくていいよ! このバカ! もうお前、黙ってろ! 俺は考えを整理する! 頭がおかしくなりそうだ!」
林田は「でも、俺の考えが正しければ、もうそんなに時間がないんだ」と言った。
「黙ってろ! 考え事するんだから!」
俺が強くいうと、林田は手の中のルービックキューブをくるっと回してから「本当に時間がないから、なるべく早く整理してくれよ」と切羽詰まった声で言った。
俺は目を閉じて、林田との殴り合いの結果、病院に運ばれた時のことを思い出す。
硬いシーツ。高さのあわない枕。クリーム色の仕切りカーテン。サイドテーブルに置かれた何冊かのスラムダンクの単行本。
お父さんがベッド側のスツールに座り、林檎を摩り下ろしていた。
お父さんが一摩りする度に、病室に充満していた消毒液とイソジンに似た何かの匂いを林檎の匂いが上書きしていった。
今でも林檎があまり好きではないのは、林檎の匂いを嗅ぐとこの時の身体中の痛みを思い出してしまうからだと思う。
「お前が寝てる間に林田君のお母さんから聞いたんだけどな」とお父さんは林檎を擦りながら話し始めた。
ホルモンのバランスだとか、自律神経の乱れだとか、あとは何かしらのストレスだとか、そう言ったちょっとした弾みで、記憶が部分的に抜け落ちてしまうという症例があるのだそうだ。
短ければ数分間、長ければ数年間の記憶が突然ふっとその人の中から消えてしまう。
脳みそは空白になってしまった記憶を埋めようと動き出し、元々そこにあった記憶とはまるで違うものを引っ張り出してきて、無理矢理に繋げてしまう。
そうして出来上がった「記憶」はデタラメで、奇妙で、意味不明なものだけど、本人にはその「後から作られた記憶」だけが本当の真実になってしまうのだ。
頭の中から「夜空」の記憶だけが抜け落ちてしまい、脳みそがその「夜空」の記憶を別の記憶で埋め合わせた結果、「夜空というのは本当は七色に光り輝くものであり、この暗くて白くて小さいものがキラキラしている夜空は、偽物である」と思い込んでしまった男の人や、頭の中の「犬」の記憶が「チョコレートドーナツ」の記憶と差し代わってしまい、「チョコレートドーナツ」に首輪とリードをつけて「飼って」しまった女の人もいるのだとか。
林田に起きたのはつまりはそういうことなんだとお父さんは言った。
周りがどんなに「そんなことは起きてないんだよ」と丁寧に説明しても、林田の頭の中にある「記憶」はそれを受け入れない。「周りが間違ってる」という思いがどんどん強くなってしまうのだという。
お父さんが言うには、林田の頭から「俺」の記憶がごっそり抜け落ちてしまって、その空白を埋めるために別の記憶、つまりは動物園から脱走した雌マンドリルの子供である赤ちゃんマンドリルの記憶がねじ込まれてしまったのだそうだ。
「つまりどういうこと?」と俺が聞くと、お父さんは神妙な顔をして「林田君の世界ではな。小さなマンドリルの赤ちゃんが、最終的にお前に進化したってことになっているんだ」と言った。
俺は思わず「なんだそれ!」と笑ってしまったが、俺が話しかけようとする度に林田が向けてきた怪物を見るような怯えた眼差しや、遠くから向けられた鋭い探るような視線、クラスメイト達に言いふらしていた「あいつは原始人みたいに毛深い」「あいつは猿野郎だ」「あいつは新種のビッグフットだ」という俺に対する悪口を思い出して、笑いを引っ込めるしかなくなった。
俺は林田の世界の中で、友達でも親友でもなく、猿から進化した謎の生物になってしまっていたのだ。
俺は恐る恐る「でも、元に戻るんだよね?」と聞いた。
お父さんがなんと答えたのかはよく覚えていない。
でも夏休みが終わって林田と再会した時、あいつは−−ちょっとぎこちなかったけど−−、おかしくなる前の元の林田だった。
だから俺は「さすが医学」と胸を撫で下ろしたのだ。
俺は目を開けて手の中にある知恵の輪をガチャガチャと弄っている林田を見つめる。
……それがまさか。10数年も過ぎた今になってひっくり返されるなんてなぁ。
大したことねぇじゃん、医学。褒めて損したわ、医学。
「ほら、見てよ」
林田は全く解けていない知恵の輪を俺に見せる。
「いや、そういうのは解いてからみせろよ」
林田は強いショックを受けた顔をして、殆ど聞き取れないような声で「あぁ。やっぱり」と呟いた。なにがやっぱりだ。知恵の輪は解いてから自慢しろ。
「あのさ、この知恵の輪なんだけど、元々は石鹸だったんだよ? 覚えてない? 知恵の輪になる前はルービックキューブだったし。覚えてない?」
「さっき言っただろ。ちょっと時間をくれって」
何わけわかんないこと言ってんだ。こっちは色々考えなきゃいけないのに。
「でも」
「5分でいいから」
俺はまた目を閉じる。
林田がカスタネットを叩く音が聞こえる。なんであんなもん蛇口の側に置いてたんだかちょっと気になったけど、それよりも頭の整理が先だ。
これは俺が引っ越してくる前に林田の住んでいた町で起きた、俺には全く関係のない話。
俺はそれを実際に目にしたわけじゃない。
クラスメイトや近所の人達、いつも同じバスに乗っていた噂好きのおばさん、妹の友達のお姉さん、それにお父さんや、林田のお母さんや林田から聞いた話をつなぎ合わせて頭の中に浮かんだ「きっとこういうことがあったんだな」という話だ。
俺が小4の時に転入した小学校のすぐ側には大きな雑木林があって、そのちょうど真ん中あたりに私営の動物園があった。俺が引っ越してきた時には既に動物園は閉鎖していて中には入れなかったけど、公園程度の大きさしかないささやかな施設だった。
元々は怪我や年齢などが原因でサーカスや牧場や動物タレント事務所にいられなくなった動物の保護が目的の施設で「近くに小学校もあるし子供達が動物のことを学習できる良い機会かもね」くらいの軽いノリで、後付けで動物園になったたものだと聞いた。
そこにいたのは、ヨーカドーとジャスコと西友と映画館とゲームセンターとミスタードーナッツとモスバーガーとタワーレコードがなくて、これから何十年経っても「アド街ック天国」で特集されることはないだろうけど「日本列島ダーツの旅」であればワンチャンある感じの町にお似合いの微妙な動物達だった。
どこかの暴力団が経営していた畜産場であまり口にしない方がいいものを食べて成長したという噂がつきまとっていた巨大な黒豚。
かつてはペットショップの看板鳥だったが子供のいたずらで官能小説の濡れ場のシーンを丸ごと暗記してしまい、それしか言えなくなったので買い手がつかなくなったヨウム。
動物園の同じ檻で飼われていたリスザル達に背中の毛を引き抜かれ続け、神経症になってしまったカピパラ。
『猫に育てられたワンちゃん』として一世を風靡したものの成犬になってから育ての親猫を食い殺したトイプードル。
バブル後半に歌舞伎町のロシア人ストリップクラブでナターシャやイリーナやアリョーシャの体に絡みつく仕事をしていたボールパイソンなどだ。
動物園に行くまでの曲がりくねった道は近隣住人たちの犬の散歩ルートになっていて、犬の糞があちこちに放置されていていたし、その糞に引き寄せられた蠅や蚊が空中をブンブン飛び交っていたので、その動物園に足を運ぶ小学生はさほどいなかった。
みんな1回行ったら気がつくのだ。
身体中を蚊にさされて、犬の糞を踏みそうになってまで――あるいは踏���でしまってまで――見に行くほどの価値はあの動物園にはないと。
妹は「ヨウムのところとか、男子が殺到してそうだよねー」と笑っていたが、あいつは何もわかってない。もしも万が一、ヨウムの官能小説朗読を聞いているところがクラスの誰かに見られてみろ。次の日からあだ名はエロガッパとか、ムッツリとか、変態になるだろう。あだ名じゃなくてただの悪口だ。クラスの最下層に置かれ、卒業まで無条件で笑い者にされるのだ。
そんなある日。しょぼくれた動物園に彼女はやってきた。生まれたばかりの赤ん坊を抱きかかえて。
ビー玉みたいにキラキラした茶色い目。
南の国からやってきた猿。
雌の16歳。
マンドリル。
名前は南さん。
浅倉南さん。
あの南ちゃんとは何の関係もない。
飼育員の苗字が浅倉で、その人が南こうせつのファンだったからつけた名前だ。
さかな君やアグネス・チャンみたいに南さんは「さん」まで含めての名前だ。
赤ちゃんマンドリルにはまだ名前がついていなくて、檻の側には「素敵な名前を考えてね!」と書かれた手作りの箱が置かれていた。
小学校は大騒ぎになった。
「スゲェ変な顔の猿が来た! 本当の動物園みたい! 赤ちゃんも一緒なんだって! 尻! 尻がすげぇんだよ!」と、皆が叫んだ。
子供達は連日動物園に押しかけ、南さんが子猿を抱きしめて寝ている姿を観察した。
その面白い姿を良い角度でみようと、檻の周りをうろちょろした。
中でも子供達が熱狂したのは南さんの『すげぇ』尻だ。
マンドリルの尻は大変面白い色合いをしている。
赤、青、黄色、紫、水色、ピンクのソフトなグラデーション。
31アイスクリームのハロウィンシーズン限定のアイスにありそうな色合い。
子供達は南さんが尻を見せるたびに歓声をあげた。
南さんがタイヤの山の頂上で座っていると、子供達はがっかりした。尻が見えないから。
そのがっかりが苛立ちに変わるのに時間はかからなかった。
「わざわざ見に来てやったのに、尻の1つも見せてくれないのか。生意気な猿だ」。
そういう空気が出来上がっていたという。
最初に南さんの檻の前でピアニカを弾いたのが誰なのかはわからない。
クラスメイト達は「6年生がやったんだ」と言っていたし、6年生は「俺たち6年生がそんな子供みたいな真似するわけないだろ。5年生ならやるだろうけど」と言っていたし、5年生は「1年生に決まってるだろ」と言っていた。真実は闇の中。
俺が知っているのは、誰かが「南さんはピアニカの音が嫌いで、ピアニカを弾くと子供を抱えて飛び上がるんだ。お尻が丸見えだよ」と言い出したということと、多くの小学生が南さんのお尻を見るために集団で檻を取り囲み、ピアニカを合奏したということだ。
カエルの歌から、猫踏んじゃった、ドレミの歌、それからチャルメラのテーマ。ドレミーレド、ドレミレドレー。
騒音で目を覚ました南さんがその大変面白い尻を振りながら檻の中で叫び声をあげ、歩き回るのを見るまで子供達は満足しなかった。
恐らくだけど、途中から「南さんの尻を見るためにピアニカを弾く」ではなく、「パニックに陥った南さんが悲鳴をあげる様を見るためにピアニカを弾く」に、目的が変わっていたのではないかと思う。
飼育員が何度子供達に注意をし、ピアニカの持ち込みを禁じても、子供達のやり口は巧妙になるばかりだった。ピアニカはランドセルの中やスポーツバッグの中に隠せたし、子供達は飼育員が何時に他の動物の世話をしにいくのか、何時に手薄になるのかを把握していた。
南さんはどんどん情緒不安定になり、動物園側は南さんをしばらくの間、檻に出さないようにしようと決めた。
けれどもその判断はちょっとだけ遅かったのだ。
その日の朝。
南さんは彼女を移動させるため檻を開けた飼育員に襲いかかり、その長く尖った歯で飼育員の顔の肉をガッサー! と持っていった。倒れた飼育員を殴打し、肩の骨を砕いた。
悲鳴を聞いて駆けつけた他の飼育員にも襲いかかり、左手の指を全て食いちぎった。
そして赤ん坊を抱きかかえ、逃げ出したのだ。
雑木林を抜け、小学校の方角へと。
そしてこれも俺が引っ越してくる前に林田の住んでいた町で起きていただろう、俺には全く関係のない話。
俺はそれを実際に目にしたわけじゃない。
クラスメイトや近所の人達、いつも同じバスに乗っていた噂好きのおばさん、妹の友達のお姉さん、それにお父さんや、林田のお母さんや、林田から聞いた話をつなぎ合わせて頭の中に浮かんだ「きっとこういうことがあったんだな」という妄想だ。
そんなに頻繁に顔を合わせたことはないし、言葉を交わしたことも片手で数えられる程度しかないけど、目を閉じればすぐに思い出せる男がいる。
根元が黒いプリン金髪にきっついパーマをかけて、それをリーゼントにして、剃り込み入れて、ヒゲと一体化した長いもみあげを伸ばした、ベニチオ・デル・トロの目つきをした身長2メートル弱の男。
擦れるとシャカシャカ音を出すジャケットを着て、ブーツを履いて、指先部分を切り落としたグローブをはめていて、上の前歯が2本だけ金歯。そして目つきがベニチオ・デル・トロの男。
それが林田のお父さん。つまりは父林田(ちちしだ)だ。
長距離トラックの運転手兼地元猟友会の中心的メンバー。
「そういう怖そうな人に限って本当は優しかったり、お花やケーキが好きだったりするんでしょ。逆に」と思ってしまいがちだけど、そういう意外性のない意外性は父林田には通用しない。
外見が怖い父林田は、中身も怖かった。
様々な「怖い」の要素が盛り込まれるだけ盛り込まれて、あまりにも怖いので逆にちょっと面白くなっちゃっている感じの怖さだ。
話としては面白いけど、巻き込まれた側としてはシャレにならない系というか。
例えばだ。
父林田《は入学式にデコトラできた。
注意しに行った教師は翌日辞職届けを出した。
誰も知らないところで何かがあったのだ。そしてそれが明るみにでることはなかった。
授業参観にもデコトラできた。
注意しに行った教師は翌日辞職届けを出した。
誰も知らないところで何かがあったのだ。そしてそれが明るみにでることはなかった。
運動会にもデコトラできた。
注意しに行った教師は翌日辞職届けを出した。
誰も知らないところで何かがあったのだ。そしてそれが明るみにでることはなかった。
道路交通法など父林田には関係ない。彼が法だからだ。
注意しに行った警察官は翌日辞職届けを出した。
誰も知らないところで何かがあったのだ。そしてそれが明るみにでることはやはりないのだ。
デコトラには重低音に強いスピーカーが積まれていて、そのスピーカーからは佐野元春の歌声がいつも流れていた。佐野元春の曲に重低音を重視しなきゃいけない曲が果たしてあったのかどうかは、今でもわからない。
ただ、人食いザメの登場を観客に予感させるジョーズの例のテーマソングみたいに、佐野元春の歌声が聞こえてきたら父林田のデコトラがすぐそばに迫ってきているのが誰にでもわかった。夕焼け空にサムデイが響いたら、誰もがちょっと身構えた。
デコトラでこない時は、骸骨と炎と龍がエアブラシで描かれたメタリックパープルのアメ車でくる。これにも重低音に強いスピーカーを積んでいた。
何かしらの改造を施していたらしく、その車は前輪がバウンドした。駐車場でバウンバウンと車を弾ませているのを何度かみかけた。
度々、駐車場の持ち主らしき男が「センパーイ、もう勘弁してくださいよぉ。他に借り手いなくなっちまいますよぉ」と弾むメタリックパープルの車に向かって叫んでいるのを目にしたし、度々、メタリックパープルの車の運転席から伸びてきた太くて毛むくじゃらの手が駐車場の持ち主らしき男の胸倉を掴み、そのままバウンバウンと車���弾んでいる様も目にした。男が車と共に上下するのも見た。サムディのリズムにあわせて。
だからもう一度あきらめないで--男の胸倉が掴まれて。
真心が掴める--車の前輪が跳ね上がり、男の体が宙に浮く。
その時まで--車の角度が70度くらいで止まり。
サムデイ! --落下。悲鳴。さーせんした!
この胸に--車の前輪が跳ね上がり、男の体がまた宙に。
サムデイ! --停止。落下。悲鳴。さーせんした!
男が「さーせんした! さーせんした! 本当にさーせんした!」と叫ぶと、林田の親父さんは弾んだ車が一番高い位置まで来たところで、その手を離した。男はいつもギリギリのところで落下してくる車のタイヤから逃れていたけど……そのうちスイカみたいにグチャって行くんじゃないかと思って気が気じゃなかったのを覚えてる。
ちなみに俺がみかけた父林田は、南さんに関するある一件があって「多少は丸くなった」後の父林田だ。
そういうわけで。親達の「うちの子が林田さん家のお子さんと仲良くなったら、あのお父さんとも関わり持たなくちゃいけなくなるのかしら」というヒヤヒヤを感じ取った子供達は、自然と林田を避けたのである。
何でもかんでも親のせいにするのはダサいとは思うけど、俺と出会うまで林田に友達が本当に、本当に、1人もいなかったのはちょっとまぁ、ハンデがでかすぎたんだなって気はする。
林田に友達がいないことを感じ取って父林田は--たまにしか家に帰ってこない分、顔をあわせると「気合の入った親父ぶり」をゴリゴリに押してきたのだと林田は言っていた--、林田の学校生活に積極的に介入した。止せばいいのに。
「これがな、イケてんだよ。人気者だぜ、えぇ、おい」--そう言って、父林田は林田の髪を金髪に脱色し、後ろ髪を伸ばさせた。
林田に友達はできなかった。
そして職員室に呼び出された。
しかし父林田の意向によるものだとわかると、担任は「先生はな。一人一人、みんな違くて、みんないいと思っているんだぞ」と言ってスルーした。
「これがな、イケてんだよ。人気者だぜ、えぇ、おい」--そう言って、父林田は林田に背中に昇り竜の刺繍が入ったジャケットを着せた。
林田に友達はできなかった。
そして職員室に呼び出された。
しかし父林田の意向によるものだとわかると、担任は「先生はな。そういう個性的なセンス、大事だと思っているんだぞ」と言ってスルーした。
「これがな、イケてんだよ。人気者だぜ、えぇ、おい」--そう言って、父林田は林田に手の平サイズの飛出しナイフを持たせた。
林田に友達はできなかった。
そして職員室に呼び出された。
しかし父林田の意向によるものだとわかると、担任は「先生はな。抑止力としての武器って必要だと思っているんだぞ」と言ってスルーした。
思うに、林田がジャイアンとスネ夫のハイブリットみたいな性格なら良かったのだ。恥ずかしげもなく「うちのパパはすごいんだゾォ」と自慢し、わがままを通せば良かったのだ。そしたらそういうタイプの友達ができただろうし、少なくとも小馬鹿にされることはなかっただろうと思う。
だが林田はどちらかというと、キテレツ大百科のトンガリタイプだった。
ちょっと腰が引けているけど、全然悪い奴ではなく、わがままではなくて、押しに弱い。
要するに、感じの良いへなちょこだ。
感じの良いへなちょこというのはつまり、「嫌っても害がない奴」ということだ。
そういうわけで林田はこれでもかってくらい嫌われた。
林田は何度か父林田に髪の色や服装を元に戻して普通になりたいと打診した。
しかしその度に父林田は「……そうか。悪かったな。俺はただ、親父らしいことをしてみたかっただけなんだ」とこれでもかというくらい落ち込み、ベランダに行ってタバコをふかし、青い煙と共に「サムデー、この胸にサムデー、誓うよ、サムデー」と悲しげな声を吐き出したのだ。
林田のよくないところは、ここで簡単に折れてしまうところだ。
結局、林田は全然好きじゃないタイプの服装に身を包み、全然似合ってない金髪ウルフカットで過ごすことになった。
南さんが飼育員に襲いかかって動物園から逃げ出したその日。
林田のクラスは体育の授業のため、校庭に出て体育の先生の指示の元で準備運動をしていた。
先生が朝礼台の上でホイッスルを吹きながら体を動かし、それを先生の前に背の順で縦4列、横8列に並んだ生徒達が真似る。
��を前から開いて回す運動、胸を反らす運動、体を横に曲げる運動、体を前後に曲げる運動。
体をねじる運動の途中で、先生が突然一点を見つめて動かなくなった。
生徒達が先生の視点を追って振り返る。
雑木林と校庭とを隔てるコンクリートの壁の上に、何かがいた。
それは壁に片手でぶら下がり、校庭側に着地する。
そして両手の拳を地面につけると、生徒達のいる方に向かって近づいてきた。
誰かが「南さんだ!」と叫んだ時には、南さんと生徒達の距離はバスケットコートの横幅分程度しかなかった。
何人かの生徒は南さんから異常なものを感じて後ろに下がったが、何人かの生徒は興奮し、喜んでいた。校庭に犬が迷い込んできた時のテンション。
「バカだなぁ。マンドリルは草食で、大人しい猿なんだ。怖がることないのに」としたり顔で逃げた生徒を笑う子もいた。
南さんは一番派手で、目に付いた生徒に向けて走っていた。
つまり、たった1人だけキラッキラの金髪だった林田の元へだ。
誰かが「南さんの口、赤くない?」と言ったのと、やっと正気を取り戻した先生が「逃げてー!」と叫んだのと、ターンッという乾いた音が校庭に響いたのはほとんど同時だった。
南さんは林田から15メートル程離れた地点でつんのめるようにして倒れた。太ももの辺りから流れた血が砂っぽい校庭の土に広がった。
南さんは倒れたまま、水を求める人のように両手を林田に向けて差し出した。
もう一度ターンッと音が響き、南さんの体が見えない手に殴られたように震えた。頭の後ろに穴が空いていた。血が流れる。南さんは動かない。林田も硬直したまま動かない。
そこから起きたことを、学校中の人間が見ていた。校庭にいた生徒達はもちろん、校庭で何かが起きていると気がついて窓に集まっていた校舎の中の生徒達も。
父林田が先ほど南さんが乗り越えてきた壁を超えて、校庭に降り立った。父林田の後ろから父林田と同じような服装の男達が何人かついてくる。
「またぎだ」「またぎだ」「ワイルドハントだ」と生徒達はざわついた。猟友会とまたぎは全然違うのだが、生徒達は彼らをまたぎと呼んでいた。だって、またぎの方が短くて言いやすいから。
彼らは皆、長くて黒い棒をしっかりと抱えていた。猟銃だ。
その場にいた生徒達の頭の中でターンッという音と、血と、動かなくなった南さんとまたぎが繋がる。
子供達がピアニカで正気を失わせるくらいに大好きで、大好きで、大好きだった南さんは撃ち殺されたのだ。
サムディを背負った鬼のような男に。あまりにも無慈悲に。
生徒達はこの時、何も知らなかった。
彼らが知っているのは、なぜか姿を現した南さんが、何も悪いことをしていないのに目の前で撃ち殺されたということだけ。
しかし父林田は知っていた。
南さんに顔をかじり取られた飼育員が病院で生死を彷徨っていることを。
指を食いちぎられた飼育員に待っているこれからの日々がどんなものになるのかを。
それに動物園の園長から、地元の小学生の蛮行を一通り聞かされていた。どうしょうもないピアニカ発狂団共。
父林田は、ブチ切れていた。
ただでさえブチ切れていた父林田を更にブチ切れさせたのは、林田のクラスの誰かが言った「南さんが可哀想」という言葉だったのだと、誰かが言っていた。
彼は分厚い軍手で包んだ手で事切れている南さんの首を掴み、そのままズルズルと死体を引きずって朝礼台まで歩いてゆき、まだ朝礼台の上に突っ立っていた先生をどかした。
そして開いている方の手で朝礼台に置いてあった拡声器を掴み、校舎の窓から頭を出している生徒達に向かって怒鳴った。
もう片方の手で南さんの死体を持ち上げ、その顔が変形した姿を見せつけながら。
「テメェらのせいで死んだんだ! よくみろ! テメェら全員で殺したんだ! 見えるか、馬鹿野郎が! テメェらのせいで、頭がおかしくなって死んだんだよ! この猿は! バカで、バカで、バカなクソガキ共!」
父林田の罵倒は他の猟友会の人たちが彼を数人がかりで朝礼台から引っ張り下ろし、「まぁまぁまぁまぁ。林田さん。まぁまぁまぁまぁ」と宥めて連れて行くまで延々と続いた。テレビだったらピー音でいっぱいになるような罵倒だったらしい。
この(不適切な表現をお詫びいたします)《ピー》! お前らなんか(不適切な表現をお詫びいたします)《ピー》! (不適切な表現をお詫びいたします)《ピー》で(不適切な表現をお詫びいたします)《ピー》!じゃねぇか!
これで小学校の生徒達が心を入れ替えて南さんに申し訳ないと思って、生き物を大事にする気持ちが芽生え、飼育員も一命をとりとめ、顔も奇跡的に回復し、父林田は地元の人々から一目置かれるようになりました、っていうオチならさぞ気分がいいだろう。
しかし、これはそういうわけにもいかなかった。
『小学校の校庭で発砲! 問われる! 地元猟友会の倫理!』
『生徒の間近での発砲! 銃に怯える子供達!』
『なぜ麻酔銃を使用しなかったのか? 子供達に深刻なトラウマ!』
などといった見出しが週刊誌を賑わせた。
ちなみにこれらの週刊誌に記事を書いたのは学校に通っていた生徒の親の1人で、ある日突然辞職届けを出し、一家でどこかに引っ越したという。
誰も知らないところで何かがあったのだ。そしてそれが明るみにでることは多分ない。
それはそれとして。
これはさすがに響いたらしく父林田は少しだけ大人しくなった。駐車場でバウンバウン車をサムディさせたりはするが、それでも少しは大人しくなった。
しかし生徒達は全く、全然、これっぽっちも反省しなかった。
「確かに多少はやりすぎたかもしれないけど、だからといってあそこまで言われることないよねー?」
「ねー?」
「大体、麻酔銃使えば良かっただけの話じゃんねー?」
「ねー?」
「そもそも、南さんのこと、みんなで可愛がってただけじゃんねー?」
「ねー?」
「南さんは学校に遊びに来ただけじゃんねー?」
「ねー?」
「それを勝手に勘違いして撃ち殺したのそっちじゃんねー?」
「ねー?」
「あーあ。南さん可哀想ー!」
「ねー!」
こんな感じ。
飼育員がショック状態のまま息を引き取ったことも、彼ら彼女らの「僕たち、私たちは悪くないもんねー?」「ねー?」の前ではなかったことにされてしまうのだ。
更に悪いことに父林田がまた長距離トラックで仕事に出ると、今まではせいぜい林田を遠巻きに見て「あの子のお父さん、めっちゃ怖いよね」と陰口を叩く程度だったクラスメイト達が、ちょっとだけ大胆に林田を虐めるようになった。
例えばこんなの。
小さな紙に『林田君についてのアンケートです』の文字。
その下にはこう続く。
『林田君についてどう思いますか? これだと思うところに線を引いて『正』の字を作ってください。複数回答OKです。書いた人は前の席か、隣の席の人に回してください』
『林田君はキモい:正一』
『林田君はウザい:一』
『林田君は臭い:正正』
『林田君は死んだ方がいいと思う:正正正正正正正正正正』
これが授業中に林田以外の生徒の席に回る。そして一番最後、授業が終わる直前に林田の席に回ってくる。
林田は回ってくるメモを読まないで捨てるようになったが、そうすると今度は林田のジャポニカ自由帳が机の中から抜き取られ、その中に『アンケート』を書き込まれたのだ。
クラスメイト達はわかっていたんだと思う。
林田が「割と良い奴」だってことを。
だってああいうことが起きる前に「ピアニカ吹くのは可哀想だから止めなよ。赤ちゃんだっているんだから」とクラスメイト達に面と向かって意見したのは林田だけだったし、全生徒の中でピアニカを一度も吹かなかったのも林田だけだったから。
それに林田は「割と良い奴」であると同時に、「割と良い息子」だったので親に心配をかけないために虐められていることは絶対に何があろうと黙っているタイプだとクラスメイト達にはもう完全にバレていた。
「こいつなら、多少大胆に虐めても問題ないでしょ」ってカテゴリーに分類されたのだ。
それで、林田は学校が嫌いになった。当たり前だ。これで嫌いにならない奴がいたらどうかしてる。
林田は時々学校をサボっては雑木林の中を探検するようになった。全然行かなくなるとお母さんが心配するだろうからと、サボる日は週のうち1日か2日くらいだったらしいけど。
犬の糞だらけの道は通らずに、道のない林の中をブラブラと歩いて時間を潰す。
蚊や蠅が多いのは動物園に続く道だけで、道を外れた林の中はほとんど虫がおらず、涼しくて快適だと林田は気がついた。間もなくして、動物園から少し離れた林の中に沼があるのにも気がついた。
気がついてからはその沼の側にある大きな石に腰掛けて、その週発売のジャンプを読むのが林田の習慣になった。
沼は静かで、眺めが良く、串にソーセージを刺したような形の面白い草が一杯生えていた。
林田はそこでぼーっと過ごす。
たまには石の上に寝転がって、木々の合間から見える空を見た。
そこでは林田は自由だった。
そしてこれは俺が引っ越してくる前に俺の家族に起きた、林田には全く関係のない話。シンプルで、どこにでもある話だ。
林田と出会う前の年に、俺のお母さんが殺されたのだ。
その日、お母さんはクリームシチューを作るはずだったのに冷蔵庫に牛乳がないと気がついて慌てていた。
お母さんは財布を手に取り「お母さんがスーパーに行ってる間にジャガイモの皮と人参の皮を剥いておいてくれるって約束するのなら、ついでにアイス買ってきてあげるね」と言い残して家を出た。
平日の午後6時を少し過ぎたくらいだった。金曜日。テレビでカウボーイビバップをやってたから間違いない。男か女かわからないエキセントリックなハッカーキャラが初登場する話だった。
俺と妹はテレビの前にボウルとピーラーと野菜を持って座り、言われた通りに皮を剥きながらアニメを見ていた。
俺も妹も、ブロッコリーみたいな頭の主人公がなんとか言う名前の宇宙船を操縦するのを見るのに夢中だった。たった今、家から飛び出したお母さんが、たった3軒離れた場所で通り魔に襲われ、血まみれで道路に倒れているだなんて想像すらできなかった。
お父さんは俺たち兄妹に事件の詳細を言わなかった。
「悪い人がお母さんを襲って、お母さんは死んでしまったんだ」、これくらいの説明しかしなかった。俺たちはお母さんの遺体をみることもできなかった。「今、お前たちの頭の中にあるのが、お母さんの本当の顔だから。これはみなくていいんだ」とお父さんは言った。棺桶には窓もついていなかった。
俺たちには何もわからないままお母さんはいなくなり、顔も見られないまま燃えて骨になった。
高校生になるかならないかくらいの時に、俺はそれをYoutubeで見つけた。
事件についての短いインタビュー映像。
若い、どこにでもいそうな男がカメラに向かって喋っている。
「女の人が突然叫んで道路に倒れたんです。最初は転んじゃったんだなって思っていたんだけど、側に立っていた男の人が、その女の人の頭に何か、ドリルのようなものを向けるのが見えて、妙だと思ったんですよ。大丈夫ですかって声をかけようとしたら、プシュップシュッ! って音がして、女の人の頭が道路にぶつかったんです。血が一杯流れていて、『どうしよう、死んじゃった』って思ったんです。俺が『誰かー!』って叫ぶと、その男の人が自転車にのって逃げて行ったんです。小太りで、メガネで、40歳くらいに見えましたけど」
Youtubeの動画タイトルは『自らの殺人について語る殺人鬼』。
説明文はこう。
『1998年の5月。住宅街で起きた釘打ち銃による通り魔事件の犯人・川畑周次郎。彼は事件の第一発見者を装い、マスコミのインタビューに答えていた。このインタビューが放送された翌日、警察は川畑逮捕のため自宅に押し入ったが、川畑は被害者と同じように顔に釘を打ち、死亡していた』。
死体がどういう状態だったのかをお父さんは教えてくれなかったが、グーグルは何でも教えてくれる。当時の週刊誌に載っていたモノクロの死体写真や、イラストで。
誰でもよかったのだと川畑の遺書には書いてあったそうだ。
たまたまそこにお母さんがいて、たまたまそこに川畑がいて、たまたまお母さんは死んだ。
シンプルで、どこにでもある、報われない話だ。
俺の与り知らないところで何かが起きて、そして俺には何の説明もないまま、俺の世界には空白が出来てしまった。
その空白は気になることもあれば、気にならないこともあるが、決して元どおりにはならず、何かで埋め合わせることもできない。
俺のお父さんが引っ越しを決意したのは、本当ならお母さんがいるはずの家に、公園に、スーパーに、時々家族で足を運んだ小さな映画館に、お母さんがいないのに耐えられなくなったからだ。お父さんにとってお母さんと過ごした全ての景色は、どこにもお母さんがいないことを思い知らせる景色になった。
それで、俺たち家族は元々住んでいた町か���離れようと決意した。
俺たちは壁に日本地図を貼り、「日本列島ダーツの旅ごっこ」をした。
俺がルィルィウェウェウェイルィルィウェウェウァーと「日本列島ダーツの旅ごっこ」の歌を歌うと、お母さんが死んでから初めて妹が笑った。
俺の投げたダーツが日本海に、お父さんの投げたダーツが地図の外に刺さると妹は更に高い声で笑った。
そして妹の投げたダーツだけが関東の端っこに突き刺さった。
そこが俺たち家族の新しい町になった。
引っ越してきた初日。
まだ学校に転入する日ではなかったので、俺は町をぶらぶらと探検していた。
小さくて寂れた商店街をぶらぶらし、川沿いの道をぶらぶらし、とにかくぶらぶらし続けた。
一応ルールはあった。
知らない町なのでただひたすらまっすぐに歩くこと。
そうすれば仮に迷ったとしても、来た道をただまっすぐ引き返せば必ず家に戻れる。それから念のため、ポケットには新しい住所と電話番号を書いたメモが入れてあった。
で、まっすぐ歩いた。歩いて、歩いて、歩いて、歩き続けて、小学校側までやってきた。
そして更にまっすぐ歩いてゆき、動物園に続く雑木林の道に入り、そこでランドセルを背負った俺と同い年くらいの小学生が道を外れて林の奥へと消えてゆくのが見えた。
「お。第一村人発見!」
そう思った俺はその小学生に声をかけようと思って、彼の後を追いかけて林に入った。
いうまでもなく、その小学生が今俺の目の前で落ち込んだ顔であやとりをしている、林田である。
前話:次話
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栗鼠しゅか様のLive2dイラストを担当させて頂きました。
瞳に桜が舞ったり、お目目がうるきらになったりとても可愛いモデルになっております✨
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栗鼠しゅか様の夏の新衣装お仕立てさせて頂きました💕︎
さわやか夏仕様なオフショルセーラーワンピ衣装もデザインさせて頂きました🎐.*
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栗鼠しゅかちゃんの新衣装がお披露目されました🌸 ファンマークの桜とチューリップを散りばめたドレスをお仕立てさせて頂きました!
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栗鼠しゅか様( @shuka_squirrel_ )の新衣装をお仕立てさせて頂きました。 リボンとフリルの部屋着を可愛らしく仕上げました🎀🐿
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栗鼠しゅか様(@shuka_squirrel_)の新衣装をお仕立てさせて頂きました!
中華ロリィタアイドル衣装です(o🪄'▽')o🪄
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栗鼠しゅかちゃん(@shuka_squirrel_)のSDキャラを描かせて頂きました!✨✨
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Vライバー事務所bond所属の栗鼠(くりね)しゅか様(@shuka_squirrel_)のお姿を描かせて頂きました。
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