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【伊那のマウンテンバイクシーンにおいてハブとなる存在を目指す ――INA MTB代表 名小路麻実子】 - 輪界ガタリ : https://rinkaigatari.com/2021/08/09/%E4%BC%8A%E9%82%A3%E3%81%AE%E3%83%9E%E3%82%A6%E3%83%B3%E3%83%86%E3%83%B3%E3%83%90%E3%82%A4%E3%82%AF%E3%82%B7%E3%83%BC%E3%83%B3%E3%81%AB%E3%81%8A%E3%81%84%E3%81%A6%E3%83%8F%E3%83%96%E3%81%A8%E3%81%AA/ : https://archive.is/EwC3k : https://web.archive.org/web/20240905151152/https://rinkaigatari.com/2021/08/09/%E4%BC%8A%E9%82%A3%E3%81%AE%E3%83%9E%E3%82%A6%E3%83%B3%E3%83%86%E3%83%B3%E3%83%90%E3%82%A4%E3%82%AF%E3%82%B7%E3%83%BC%E3%83%B3%E3%81%AB%E3%81%8A%E3%81%84%E3%81%A6%E3%83%8F%E3%83%96%E3%81%A8%E3%81%AA/ 2021年8月9日
レジャーとしてのマウンテンバイクを楽しむために、トレイル(=トレッキングなどのために整備された未舗装道)を利用する方も多いのではないだろうか。しかし現在、トレイルへのマウンテンバイクの立ち入りが規制されるという事態が、日本各地でたびたび起こっているという。その原因としては、地権者からの拒絶や、自転車以外でトレイルを利用する人々との軋轢などが挙げられるようである。このような問題の解消を目指し、マウンテンバイクライダーの有志たちが各地でコミュニティを形成し、マウンテンバイクを楽しめる環境づくりに取り組み始めている。2021年4月に長野県伊那市で産声を上げた、「伊那マウンテンバイククラブ(INA MTB)」もそのひとつである。今回は、その代表を務める名小路麻実子氏に、INA MTBの成り立ちと、伊那におけるトレイルの現状、さらに伊那のマウンテンバイクシーンの今後について話を聞いた。
{{ 図版 1 : INA MTBを主宰する名小路さん }}
■《「昔諦めた夢に挑戦できたのは息子のおかげ」》
―――マウンテンバイクに関わるようになったきっかけを教えてください。
名小路 息子がマウンテンバイクのダウンヒルを始めたいと言ったことです。その当時、私はまだマウンテンバイクを持っていなかったのですが、「やりたいことを一からやる方法」というものを、親の背中を通して息子に教える機会だと思い、一緒に乗るようになりました。
―――マウンテンバイクは女性にはハードルが高いとは感じませんでしたか。
名小路 感じました。女性ライダーも少ないので、最初は「どこから始めたらいいんだろう?」という思いでした。
高校時代は地学部だったので、天体観測のためにキャンプをしたり、岩石採集のために山に登ったりと、アウトドアには親しみがありました。1990年代後半の当時では、男性の友人の中にダウンヒル競技をしている人もいましたが、女性がやるような雰囲気は全くなく、羨ましく見ているだけでしたね。
{{ 図版 2 : 昔は今以上に女子のMTB人口は少なかったそう }}
―――息子さんがマウンテンバイクに興味を持ったのも、名小路さんの影響でしょうか。
名小路 息子にはMTB、ましてやダウンヒルの話をした覚えがないので、彼がマウンテンバイクのダウンヒルを選んだのは不思議です。
��く「息子さんのために自転車に乗られているんですね」と言われるのですが、息子はただのきっかけに過ぎません。むしろ、できなかったことを無念に思っていたマウンテンバイクに、今になってようやく挑戦できるきっかけをもらって、息子に感謝しているくらいです。
■《INA MTBは「山に入って遊ぶきっかけを作る」ための存在》
―――INA MTBのウェブサイトには「マウンテンバイクを通じて山と森のことを知る」活動を行うと書かれています。これはクラブの成り立ちにも関わる理念でしょうか。
名小路 伊那は大自然に囲まれた地域ですが、山に入って遊ぶような子どもをあまり見かけません。それは、大人たちが子どもに「外で遊ぶことは危ない」と教えているからだと考えています。おそらく、昔は地域の人々のつながりが強かったので、子どもが私有地の山で遊んでいても「○○さんのところの子どもだから」と許されていた面があったのではないかと思います。現代では移住者なども増え、近所の人が誰かわからなくなるなど、人同士の繋がりが薄れたことによって、そういったことは許容されづらくなってきているのかもしれません。しかし、そうして人のつながりが消えていくに従って、身近な自然に触れる機会も一緒に少なくなることは非常にもったいないことだと思います。そこで、子どもたちをはじめ、多くの地域の方々に、マウンテンバイクを通して地域の山や森のことをもっと知って欲しいと考えていました。
もちろん、山にも地権者の方々がいらっしゃるので、勝手に野山に入って遊ぶわけにはいきません。そこで、まずはマウンテンバイクライダーが公に認められるような形が必要だと考え、マウンテンバイクライダー同士がつながるコミュニティでありながら、自治体や地権者などとの折衝ができる存在として、「INA MTB」を作りました。
{{ 図版 3 : キッズバイクコースではキッズライダーが自主練に取り組む }}
―――INA MTBを主宰する以前に、自転車コミュニティに知り合いはいましたか。
名小路 最初は自転車の世界に知り合いがいませんでした。息子が始めたいと言った時も、誰に声をかけたら良いのかわからないという状況でした。のちに、白馬岩岳の関係者の方々や地域の自転車ショップの方々、トレイルビルダー(=MTBで走るためのトレイルを整備する人)の方々などと交流するようになり、そのうちに伊那でのマウンテンバイク仲間が増えていきました。
―――INA MTBの活動内容について教えてください。
名小路 INA MTBの活動のテーマは「みんなで楽しく走りながら地元の山を知る」です。この考えをもとに、安全なMTBの乗り方、トレイルを走る際のルールやマナーなどを遊びながら教えています。小さな子どもや初心者の参加者も多くいますが、分け隔てなくみんなで励ましあいながらマウンテンバイクに乗ってトレイル遊びをしています。
{{ 図版 4 : 分け隔てなく「みんなで楽しく走る」INA MTBの参加者たち }}
―――INA MTBの活動場所はどのようにして確保しているのでしょうか。
名小路 いまは伊那市に昨年オープンしたC.A.B TRAILというマウンテンバイクパークを拠点として、伊那で整備されつつある新たなトレイルやマウンテンバイクパークにも活動の幅を広げようとしています。
そうして活動場所を増やしていく中で、伊那のマウンテンバイクシーンをつなぐ、いわばハブのような存在になっていきたいと考えています。
{{ 図版 5 : 交流を深めるのも、子ども達の大切な経験になることだろう }}
■《人々に受け入れてもらえる自転車乗りの育成を通して、共存につなげていく》
―――各地のトレイルにおいて、ライダーと地域住民との間で、自転車の利用に関するトラブルが問題になっています。トレイルでの乗車に対して、結果的に自転車の侵入が禁止されてしまうようなケースや、さらには訴訟にまで発展するケースも聞きますが、どのようにお考えでしょうか。
名小路 マウンテンバイクライダーから「トラブルを避けるために、パーク(=マウンテンバイク専用のコース)��しか走らない」といった声を聞くたびに、山好きとしては胸が痛くなります。
地権者からすれば自分の庭で他人が自転車に乗って走り回っているようなものですし、ハイカーからすれば自転車は速度が出ていて危険だという認識があり、トラブルに繋がっているようです。ライダー人口が増えるとトラブルが表面化しやすくなるでしょうし、実際に長野県内でもライダーが多い地域ではトラブルが増えつつあるという話も聞いています。
{{ 図版 6 : トレイルの押し上げも、みんなでやればきっと楽しい。 }}
―――パークが増えてきているのも、各地域のトレイルでは自転車が走れなくなってきているという事情があるのかもしれません。
名小路 そうかもしれませんね。先に話したような地権者やハイカーとのトラブル以外に、「自転車は危ない」というイメージが世間についてしまっているのも、トレイルを走りづらくなっている原因の一つかもしれません。人々に受け入れてもらえるような自転車乗りを育成するために、子どもたちに「自転車は並んで走ってはいけないんだ」とか「ヘルメットを被らないのは格好悪いよね」といった自転車の利用ルールについて学んでもらうことも、INA MTBの重要な活動だと思います。
■《INA MTBが伊那の自転車文化において果たす役割と、目指す場所》
―――「自転車活用推進法」(※1)などの影響によって、各地の自治体が自転車での町おこしを始めていますが、伊那市でもそのような動きはありますか。
名小路 伊那市では伊那市自転車活用推進協議会が設置され、具体的な協議が始まったところです。私も準備委員として関わっていますが、現在は高齢者の移動手段としての自転車のニーズの調査などが行われています。
{{ 図版 7 : INA MTBは山と名小路さんの関わり方のひとつとなった。 }}
―――INA MTBと自治体の関わりの中で、代表としての役割を教えてください。
名小路 さまざまな自転車店やパークなどの事業者と、自治体との架け橋でしょうか。自治体の方々が自転車の利用法を幅広く熟知されているとは限りませんし、適切・快適な自転車の利用のための環境や必要な設備についての認識には、自転車の利用者と自治体の間でギャップがあるように思います。ですので、私が両者の架け橋になることで、自転車での町おこしに多様性をもたらすためのお手伝いができ��ばと思っています。
―――名小路さんがINA MTBを通じて叶えたい目標はありますか。
名小路 これまでの人生で、アウトドア活動に関わりながら山について考え続け、移住先の伊那という地で、私と山との関わり方を実際にかたちにできたもののひとつが「INA MTB」という存在です。INA MTBが、山と関わる自転車文化の一部としてどのような形で続いていくのかを見守れればいいなと思っています。
{{ 図版 8 : INA MTBを通して子ども達がどのように成長するのかが楽しみだ。 }}
―――INA MTBの今後について聞かせてください。
名小路 伊那の自転車文化の一部として長く続いていくようなものにしたいと思っていますが、具体的な形についてはまだ模索しているところです。いずれにしても、いつも地元で走っている子どもたちが、マウンテンバイクをきっかけとして広い世界に目を向け、さらには羽ばたいていくことを期待して、今後も活動を継続していきます。
※1 国や地方自治体を中心に自転車の活用を推進していくことを定めた法。2017年から施行され、現在その施策の一環として、自転車活用のための設備の設置やサイクリングロードの整備などについて、47都道府県を含む二百の地方公共団体において事業計画の策定が進められている。
(了)
Interview&Text●moving_point_P(ponkotsu) Proofreading●Kohei Matsubara Photo●KuroMino, moving_point_P(ponkotsu)
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【人も山も、それぞれの自然な状態を目指して。登山道を近自然工法で回復させる、岡崎哲三さんインタビュー】 - PORTLA : https://portla-mag.com/post-55635/ : https://archive.is/sjN3G : https://web.archive.org/web/20230925085849/https://portla-mag.com/post-55635/ JOURNEY FOR ACTION 2021.11.29 Written By 国広 信哉
{{ 図版 1 }}
人も山も、それぞれの自然な状態を目指して。登山道を近自然工法で回復させる、岡崎哲三さんインタビュー あなたは山を歩いている。足元を見ると道がある。その道は誰がつくったのか、想像したことはあるだろうか?今回お話を聞いたのは、北海道・大雪山系を中心に、近自然工法を用いて、登山道を整備し、山の生態系を回復させようとしている岡崎哲三さんだ。登山道という公共への接し方を通じて、都市に生きる僕たちはどう公共へ関わるべきかのヒントを探ってみたい。そんなことを考え、共に宿泊していた山小屋にて、早朝から話を聞いてみた。
======================== ●岡崎哲三 1975年、北海道札幌市生まれ。20代のころから登山道整備に携わり続けてきたが、故福留 修氏が生み出した「近自然工法」に触れたことで考え方が一変。より自然な植生の回復と、自然にストレスをかけない登山道のあり方を模索。2011年には合同会社「北海道山岳整備」を設立。2018年には一般社団法人「大雪山・山守隊」を立ち上げた。 ========================
■《福留脩文さんとの出会い、そして苦悩》
「約20年前、山小屋で働き始めました。最初の山の体験がいきなり山小屋管理だったんですよ。そうすると登山者とは違う視点が見えてきて。私たち登山者が行き交うことで、道が崩れていくことに気が付いたんです。僕も当時、山を走っていたし、せめて自分が崩した部分は直したいなって」
幼い頃から自然と慣れ親しんでいた岡崎さん。山小屋時代には、隣の営林署の管理棟に来る方々と山の保全について語り合ったそう。山をなんとかしたいという思いはそこで芽生えたかもしれない、と岡崎さんは語る。登山道整備への原点だ。
「あるとき、近自然工法っていう考え方に出会ったんです。環境省の事業で、大雪山に近自然工法を適用してみる試みがあって、そこで出会ったのが(多自然川づくりの専門家である)福留脩文さん。道内に先生が来られる機会があったら(その頃は本当にお金がなかったので)車中泊しながら講習に参加したりして」
{{ 図版 (省略) }}
そこから近自然工法に傾倒していった岡崎さん。しかし、その活動は順調にはいかなかったようだ。
「自分はすごく熱意を持ってたんだけど、何年かすると一緒に受講した人は全ていなくなったんですよ。こんなにすごい工法なのに、なんで誰もやらなくなったんだろう、もったいないなって。そこから何年後かに、 {{ 北海道山岳整備 : https://sangakuseibi.jimdofree.com/ }} という合同会社を立ち上げました。ただ、いよいよ会社を立ち上げてこれから、って時に先生は亡くなられてしまって」
自身で近自然工法の技術をマスターすれば山は直せるはず。しかし、いくら技術を持っていても、システムの中で正しく利用されない限り山は良くならないことに気が付く。自然公園法などの法律、各省庁と市町村の関係性、執行・管理・運用のプレイヤーの権限、許認可、お金の循環の仕組みなど、既存のシステムの中での活用はたやすいことではない。
「じゃあどうしようかと言ったときに一般登山者のみなさんが重要だなと。これは近自然工法の《生態系の底辺が住める環境を復元すると、自ずと生態系のピラミッドが整っていく》という発想と同じで。それで草の根で近自然工法を実装していく {{ 大雪山・山守隊 : https://www.yamamoritai.com/ }} という一般社団法人を2018年に立ち上げました」
{{ 図版 2 }}
■《登山道って誰のものなんだろう?》
気になる近自然工法の話に入る前に、僕はひとつ疑問がわいた。それは「登山道って誰のものなんだろう?」だ。
{{ 図版 3 }}
日本ではこういった道が登山道である、という法律上の定義はないそうだ。場所や類型、土地の法的権利、公的ゾーニングや計画、時系列、環境、利用やアクセスの権利、管理責任や義務など、いろんな視点から登山道が誰によって利用できるか、あるいは、誰が管理すべきかを考える必要がある。つまり、誰のものと非常に定義しにくい。
この問題提起については、平野悠一郎さんの『 {{ 登山道は誰のものか?ー日本の現状および海外との比較ー : http://koshiryo.com/wp/wp-content/uploads/2019/10/yuuichiro_hirano_191027.pdf : https://web.archive.org/web/20211201172939/http://koshiryo.com/wp/wp-content/uploads/2019/10/yuuichiro_hirano_191027.pdf }} 』を見てほしい。登山道の維持整備の責任は規定されてないのに、善意で維持整備をすると安全管理責任が問われる可能性がある。これが整備に消極的な状況を生んでいる最大の要因となっているようだ。だからこそ、岡崎さんのように責任をもった組織的な活動が重要なのかもしれない。
平野悠一郎さんの資料の中では希望もある。例えば、ニュージーランドの {{ Mountain Bike Rotorua : https://www.mtbrotorua.co.nz/ }} では、土地所有者はマオリ(原住民)コミュニティ、自治体(市政府)が調整役、マウンテンバイカー有志のボランティア団体が林道の維持整備、森林管理は民間の林業会社、といったように適切に管理区分を区分け、永続的に道を管理しているそうだ。
大事な公共である共有財産(=コモンズ)としての登山道を、主体となる任意の団体が管理し、それを行政がサポートしつつ、民意で楽しみながら運用できる仕組みがやっぱり必要なのだろう。これは岡崎さんの登山道整備のための仕組みに近い考え方であり、後述する雲ノ平登山道整備ボランティアプログラムへとつながる。
■《登山道整備は植生復元だ》
話を戻そう。
では肝心の近自然工法とは何なんでしょう?と岡崎さんに聞くと、「まずこの写真を見てもらうのが分かりやすいかも」、と返ってきた。
{{ 図版 4 : 施工前:右側が流水による土壌流出(ガリー侵食)、左側は登山者のよる踏圧による裸地化、複線化が進む。登山道でよく見られる侵食現象だ。 }} {{ 図版 5 : 施工直後:原因である流水を施工個所の上部で排水し、ガリー侵食部は石組みで土留兼歩行路となるように施工。原因を捉え、土壌が安定するように施工。 }} {{ 図版 6 : 10年経過:安定した土壌からは植物が復元し、踏圧による裸地化部にも植物が戻りつつある。こうなると復元した植物が施工物を守る働きが生まれ、長く保つ構造物になる。正しい施工が出来ると自然は復元する。 }}
僕なりに近自然工法が興味深いなと思ったポイントは2つ。1つは「登山道は川と似ている」という点だ。岡崎さんは語る。
「近自然工法は “川”の発想なんです。川もコンクリートで水路化されて、水生生物が住めなくなった場所があるじゃないですか。でも、生態系ピラミッドの底辺の生き物が住める環境を作ると、すぐに生態系は出来上がっていくんです。それは河川では水生昆虫にあたるんですが、山岳地域では植物を育てる土壌環境なんですね。だから土壌環境を安定させることがまず必要なんです。壊れたものを直すとかでなくて、生態系を復��させるとすべてがバランスよく回りだすって発想なんです」
福留脩文さんの論文、 {{ 近自然登山道工法 : https://recreation.forest.gov.tw/Files/RT/Doc/conference/2003_NTS_Conference/S7_Syubun%20FUKUDOME.pdf : https://web.archive.org/web/20211201172943/https://recreation.forest.gov.tw/Files/RT/Doc/conference/2003_NTS_Conference/S7_Syubun%20FUKUDOME.pdf }} にもこのように記載がある。
人間が山腹斜面や尾根の同じ所を繰り返し歩くと、だんだん地表が?地状態となり、雨が?るとそこに水が集まって水?となる。その過程は、まず下方侵食で斜面を掘り下げ��やがて側方侵食が始まる。このようにして掘れ込んだ登山道は、まさに山地河道の模型を?るようであり、「登山道は川である」と言うことができる。
もう1つは「観察し、再現する」という点だ。
「福留先生は『とにかく正解っていうのは自然の中にあるから、自然をよく観察しなさい』『だけど正解は一つではないよ』という禅問答みたいなことを言うんです。わかりました!と言って、馬鹿正直に自然を観察してると、なるほど、この石がこういう形に配置されてるから水が流れても崩れないんだとか、ここにこういう風な形で引っかかってるから全体が安定するんだとか。そういうのが見えてきたんですよね」
岡崎さん曰く、自然そのものが教科書だそうだ。例えば、ガリー侵食部に木柵の階段をつくる場合、固定するのに自然界にない「杭」という存在は使わない。登山道の幅より長い木材をナナメに「引っ掛け」、そこに石材などを合わせて固定する方法をとるのだ。そうすることで、土壌への負荷を下げる。
{{ 図版 7 : 「杭」ではなく、ナナメに「引っ掛ける」様子を手書きの図で書いてくれる岡崎さん }}
「観察をしていると、いろんなものがなんでだろう、不思議だなって。興味がどんどん湧いてくるんです。一番大事なのは自然観察なんです。そこから再現してみる。そうすると生態系が復元されていく。自分の中の登山道整備は半分以上は植生復元ですね」
{{ 図版 8 }}
施工にはそれ以外にも重要な原則はたくさんある。例えば木材や石といった資材が現場の周囲できちんと十分量確保できるのか、などだ。ここで書ききれないため、福留脩文さんの論文、近自然登山道工法の結びから、重要な6つの原則を記載しておこう。もっと詳しく知りたい方は大雪山・山守隊のWebサイトをぜひのぞいて見てほしい。
●1. 現場に使う材料は外から持ち込まず、その約 15 メートル以内で調達する ●2. 人工構築物の構造は、自然界の構造から学ぶ ●3. 現場での各種作業は、道具を始め工法まで基本的に伝統技術を用いる ●4. 必要以上の人工的、造形的な作業を慎む ●5. 現場にある石や樹木にはできる限り傷をつけない ●6. それらの造成から維持管理までの技術を、後世に向け地元に残す
■《石を組んで、道をつくってみる》
百聞は一見にしかず。僕も近自然工法の施工現場を少し手伝わせてもらった。
{{ 図版 (省略) }}
2021年8月末に行われた雲ノ平登山道整備ボランティアプログラムの下見で、祖父岳の雪渓手前、砂礫と岩のミックス帯で歩きづらくなっていた場所を、テストで直してみる試みだ。
出来上がりから見ていただこう。
{{ 図版 9 (動画) : 祖父岳での登山道整備テスト! Shinya Kunihiro : https://www.youtube.com/shorts/XCRxs59SKw8 }}
動画では偶然通りかかったハイカーの方が、ゆっくり安定した足取りで階段を下っている様子が見てとれると思う。
ぱっと見、「え?どこに手を加えたの?」となると思う。そのくらい自然なのだ。しかも、石の安定した踏面が、自然な足の運びの位置に存在している。ハイカーの方が迷いなく下っている様子がそれを表している。
岡崎さん、雲ノ平山荘の伊藤二朗さん、HIker’s Depotの勝俣隆さん、そして雲ノ平山荘のスタッフの方々、約7人で2時間。約10mの登山道だ。もともとあった土壌を傷つけないように、バールや桑の使用は最低限に留めて、手で砂利をかき分けてスペースをつくる。そこに20-30kgほどある石を周囲から運んできて、全員でバランスを見ながら組んでいくのだ。
しかし、石を組むのは想像以上に難しい。ピッタリはめると次の石が置きづらい、一度置いたものを動かすと腰が痛い、いざ歩いてみるとグラグラする。「ボランティアで初めて手伝う人にはレベルが高すぎるのでは?」という言葉が脳裏をよぎる。それに対して岡崎さんは爽やかに答える。
{{ 図版 10 }}
「失敗も含めて経験にしてもらったらいいと思いますよ。自分は参加してくれた人たちの感性をできる限り活かしたいんです。自分ならそう組まないなって思うものでも、確かにそこに大きな石がドンって置かれた方がバランスいいし、自然だなって、自分の想像を飛び越えてできることがあるんですよ。とはいえ、安全管理は大事なので、ぐらついてる石組みは後からきちんと整えます」
「あとやっぱり大事なのは、外部の人が来て直して終わりじゃなくて、地元の人がずっと触っていくことかなと思います。完璧なものはできないし、自然を復元するのに正解はないので、ずっとやり続けなきゃいけない。自分がやったことに対して、自然はどういう反応してくるか、それを観察して、次どうすればいいのかを毎年見ていける人って地元の人しかいないんですよ。いいかどうかっていうのは判断するのは自然なんですよ」
{{ 図版 (省略) }}
整備した後、もともとこうだったのかもしれない、と思えるくらい自然に馴染んでいる場所もたくさんあるそうだ。自分たちで道をデザインし、それを保全し続けていく。シンプルだが、疲れとともにじわりとした充足感があった。
■《草の根でアクションを起こす方法》
なにか協力したい……でも時間や距離の関係でなかなか参加は難しい……おそらく、そんな方々もたくさんいらっしゃるはずだ。他にどんな協力の仕方があるか岡崎さんに聞いてみた。
{{ 図版 (省略) }}
「やっぱり自分たちの活動に賛同いただいて、会員になったり、寄付いただくのが嬉しいですね。登山道整備に関する国や行政からの資金は少なすぎるんです。だからみなさんの協力は本当に欠かせない。そういった草の根的に支える仕組みー。例えば、登山道整備のための協力金制度や、山岳環境を維持するための入山料制度っていうのは、そんなに遠くない将���、どんどん出てくると思います」
一口数千円という手軽さで、登山道に対する恩返しができる。詳しくは大雪山・山守隊のWebサイトを覗いてみてほしい。それ以外に、例えば、ふだん登山するときにできるアクションはあるのだろうか。
「やっぱり、道が崩れてるんだっていう意識を持ってほしい。危ういところを写真を撮って、身近な人にシェアするだけでも良いかもしれません。《利用》と《保全》の両輪で山を楽しむ、っていう考え方がもっとスタンダードになると良いんじゃないかなと思いますね」
{{ 図版 11 }}
崩れてる道ってどんな状況なのだろう。そう岡崎さんに聞くと、例えば、と言って上の写真を見せていただいた。プロじゃない僕から見ても明らかに侵食されてるな、という状況だ。こんな道であれば、登山を愛する方であれば多くの人が見た経験はあるだろう。
ついつい気持ちのいい風景だけをSNSで共有したくなるが、こういった違和感のある風景をSNSで共有することも、草の根アクションの一歩になる。
■《さいごに》
{{ 図版 12 }}
岡崎さんへのインタビューを通じて思い浮かんだのは『 {{ 草の根活動家のためのパタゴニアのツール会議、ノラ・ギャラガー/リサ・マイヤーズ : https://www.patagonia.jp/product/tools-for-grassroots-activists-jp/BH109.html?cgid=books }} 』という本だ。
環境保護活動を戦略的に行うための手法が書かれたこの本では、キャンペーン戦略、マーケティング、ファンドレイジング、データの視覚化など、実用的な用語で章立てられている。
つまり、登山道のようなコモンズをケアしていくためには、ビジネス、テクノロジー、クリエイティブなど、横断的な知識と技術が必要なのだと思う。だからこそ、そこに関わる個人が持つスキルや発信力の集合体が重要だろう。取材中、岡崎さんが何度も口にしていた「やることは大事。広げることはもっと大事」とも通じるはずだ。
徹底的に観察する。綻びがあるなら、それが自然な状態に戻るよう復元する。この原則は登山道に限らないはずだ。都市に生きる僕たちが、当たり前に利用しているコモンズとの接し方のヒントが、この原則に眠っているのかもしれない。
●WRITER 国広 信哉 山、野外録音、辺境音楽、ノンフィクション好き。京都と長野で生きてます。
●EDITOR 堤 大樹 26歳で自我が芽生え、なんだかんだで8歳になった。「関西にこんなメディアがあればいいのに」でANTENNAをスタート。2021年からはPORTLA/OUT OF SIGHT!!!の編集長を務める。最近ようやく自分が興味を持てる幅を自覚した。自身のバンドAmia CalvaではGt/Voを担当。
●PHOTOGRAPHER 国広 信哉 山、野外録音、辺境音楽、ノンフィクション好き。京都と長野で生きてます。
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【「近自然工法」という登山道整備の新しい概念とその可能性について|DOMO講演会レポート】 - YAMAP MAGAZINE : https://yamap.com/magazine/33436 : https://archive.md/5bACs : https://web.archive.org/web/20240401133642/https://yamap.com/magazine/33436 投稿日 2021.12.21 更新日 2023.05.23
{{ 図版 1 }}
2021年7��14日にリリースしたYAMAPの循環型コミュニティポイント「DOMO(ドーモ)」。 YAMAPのユーザー同士でおくり合える他、山の再生や登山道整備など様々なプロジェクトを支援することができます。「大雪山の登山道整備 in 北海道」は、その支援プロジェクトの一つ。いったいどんなプロジェクトで、DOMOポイントはどんなふうに使われるのか? DOMO提携パートナーとして本プロジェクトを推進する「一般社団法人大雪山・山守隊」の代表・岡崎哲三さんをお招きし、12月8日に講演会を開催しました。本記事では、その模様を要約してお伝えします。
●目次 登山道の荒廃が進む、大雪山の現状 過去に「人が施工した箇所」も例外ではない 「大雪山の登山道整備 in 北海道」における、DOMOポイントの使い道 登山道整備の新たなスタイル 「近自然工法」を実践する山守隊 本プロジェクトを深掘り! 大雪山・山守隊 × YAMAP 両社代表による、プチ・クロストーク 「大雪山の登山道整備 in 北海道」についてさらに詳しく知りたい方は…
●登壇者紹介 {{ 図版 (省略) }} 岡崎 哲三(おかざき・てつぞう) 一般社団法人大雪山・山守隊、合同会社北海道山岳整備代表 1975年生まれ、北海道札幌市出身。学生時代、勉強が大嫌いで常に自然の中に身を置く。 高校卒業後、大雪山の山小屋で働きはじめ登山道整備に興味を持つ。2003年近自然工法という発想に出会い、2011年この発想と技術を深めるために北海道山岳整備を立ち上げる。 2018年に民・官・学・企業が連携した山岳管理システムを構築すべく、大雪山・山守隊を立ち上げ、日本各地の民間団体と連携しながら次世代の国立公園管理を目指している。
{{ 図版 (省略) }} 春山 慶彦(はるやま・よしひこ) 株式会社ヤマップ代表 1980年生まれ、福岡県春日市出身。同志社大学卒業、アラスカ大学中退。ユーラシア旅行社『風の旅人』編集部に勤務後、2010年に福岡へ帰郷。2013年にITやスマートフォンを活用して、日本の自然・風土の豊かさを再発見する”仕組み”をつくりたいと登山アプリYAMAP(ヤマップ)をリリース。アプリは、2021年11月時点で280万ダウンロードを突破。国内最大の登山・アウトドアプラットフォームとなっている。
■《登山道の荒廃が進む、大雪山の現状》
―――まずは岡崎さんたち山守隊の方々が活動されている、北海道・大雪山を取り巻く現状のお話からスタート。大雪山というと自然豊かなイメージが強いですが、実際は……? 現地で登山道整備をされている岡崎さんだからこその視点で、大雪山の知られざる課題を共有いただきました。
岡崎:私ども山守隊の活動拠点は、北海道の大雪山です。大雪山には本州のように急峻な山はなく、一度登ってしまえば多少のアップダウンでいろんなところ��行けるという、広さを感じられるところだと思います。
{{ 図版 (省略) : 日本一の広さを誇る大雪山国立公園。ここが岡崎さんたち山守隊の活動拠点 }} {{ 図版 (省略) : 白雲岳の避難小屋周辺にて。大雪山ならではの壮大な景観を楽しむことができる(写真【A】) }}
岡崎:まるでなだらかな丘のような、壮大な景色が楽しめる素晴らしい場所です。ただ、残念ながら、大雪山は登山道侵食の ”見本だらけ” なんです。例えば上で紹介した写真【A】��本当に素晴らしい景色なんですが、登山道付近をクローズアップすると、荒廃の現場がしっかりと写っているわけです。
{{ 図版 (省略) : 写真【A】をクローズアップしたもの。一見すると素晴らしい景色の中にも、登山道荒廃の影が潜んでいる }}
岡崎:他にも、次の写真。写真中央のえぐれた道を普通に登山者が歩いていますけれども、実は右と左の植物帯は本来つながっていたところです。最初は登山者の歩行が起因となり、そこに水やら色々な要因が重なりここまで掘れてしまった……。崩れかけている植物群の中には、正直、あと数年でなくなってしまうものもあります。
{{ 図版 (省略) : 登山者が何気なく歩いているこの道は、もとは左右の繋がった平坦な土壌。「残念でならないのは、荒廃の進行にほとんどの人が気がついてさえいないということ」だと、岡崎さんは訴える }} {{ 図版 2 : 荒廃が進んだ登山道の一例。ここまで荒廃が進んでしまうと、凍結融解()現象の影響などで少しずつ土壌が削れていき ”歩かなくても土壌が流れ続ける状態” になってしまうそう(凍結融解とは…土壌が凍結や融解を繰り返すことで、地表に多用な影響を与えること) }}
■《過去に「人が施工した箇所」も例外ではない》
岡崎:人が施工したところ=既存の施工物でも似たような状況が見られます。大雪山にはメンテナンスが追いつかず、「どうやって歩けばいいのかな?」と思うようなところが実はたくさんあるんです。崩壊した木道を指して「ここを歩いてください」なんて言えないですよね、危ないから。この手の荒廃は登山者というより管理する側の問題ですが、今はかつてのように登山道整備に予算がつきにくいこともあり、メンテナンスが行き届かないのが現状です。
{{ 図版 (省略) : 崩壊したまま放置されている木道。木道の脇には人の歩く道ができて植物がなくなってしまっている }}
岡崎:あるいは、せっかく予算を注ぎ込んで整備をしても、現地の環境とそぐわない施工をしてしまったがゆえに数年で再び荒廃してしまうということもあります。その一例として、次の写真【B】を見てください。この辺りの地層は、表土から1mほど下は氷土でできていると言われています。こんなふうに人の歩行や水の流れによって土壌がV字・U字に掘れてしまう「ガリー侵食」()が進行すると、地面の奥の方に熱が届き、凍土が緩んでしまいます。そうすると、ブロックのような形で植物群が崩れてしまいます。 ( ガリー侵食���は…地表を流れる雨水が地面を削ってできた溝に、さらに水が集中して溝が深くなる現象)
{{ 図版 3 : 荒廃が進んだことで凍土が緩み、植物群がブロック状に崩れ落ちてしまった箇所(写真【B】) }}
これを公共事業によって修復したのが、下の写真【C】です。およそ20mの距離で、飛騰しては数百万円はかかったと聞いています。ヘリコプターで下界から石材を運び、土砂が崩れないように施工したのですが、それからな10年経たずして写真【D】のように崩れてしまったんです。
{{ 図版 4 : 写真【B】を公共工事で修復。下界から石材を運び、土砂の崩れを防いだものの……(写真【C】) }} {{ 図版 5 : 10年経たずして再び壊れてしまった登山道(写真【D】) }}
岡崎:原因は、公共工事で使用した石材。現場にはもともとなかった、人が持ち込んだ重たい石です。石には熱を溜め込む性質があるので、石材が溜め込んだ熱が下の凍土まで浸透してしまい、かえって荒廃を進めてしまっていたんですね。折悪く台風も重なって、わずか一晩でここまで陥没してしまいました。行政がしっかりお金をかけてメンテナンスしてくれていても、「生態系と合った施工」という点ではまだまだ課題がある、というのが実情です。
■《「大雪山の登山道整備 in 北海道」における、DOMOポイントの使い道》
―――続いてのトピックスは、DOMOプロジェクト「大雪山の登山道整備 in 北海道」で、DOMOポイントがどんなふうに使われているのか、というお話。豊富な写真を交えながら、一つひとつ、丁寧にお伝えいただきました。本記事では、ここまでのお話の中で事例として触れられていた「ガリー侵食」にまつわるものとして、「白雲岳避難小屋周辺のガリー侵食防止」の項目についてお伝えします。他の項目についてはセミナー当日の録画(YouTube動画)をご覧ください。
{{ 図版 (省略) : DOMOポイントの使い道
1. 白雲岳避難小屋周辺のガリー浸食防止
2. 高原温泉沼巡り登山コース内の木道設置
3. 高原温泉沼巡り登山コース内の携帯トイレブース設置
4. 登山道整備専門員の教育
5. 白雲岳避難小屋周辺登山道の整備計画作成
}}
岡崎:DOMOポイントを活用し、大きくは上記5つの項目を進めてきました(一部、現在進行中のものやこれからの取り組みも含む)。その一つ、「白雲岳避難小屋のガリー侵食防止」なんですが、コロナ禍だったので現地集合・現地解散で行いました。そのため、資材は事前に白雲岳避難小屋まで荷上げをしておいて、当日、参加者の皆さんと一緒に小屋から運搬するというスタイルを採用しました。参加者は1日20人ほど。登山道の一極に溜まった土砂を取り除き、各所に土を集めて登山道を修復する、というような作業を行いました。
{{ 図版 (省略) : 現場周辺を上空から撮影した写真。登山道には3mほどの高低差がある。低い部分(中央部)に土砂が溜まっているのを整備するのが今回の登山整備のミッション }} {{ 図版 (省略) : 溜まってしまった土壌を掻き出している様子。すべての作業は「植物に配慮しながら」行われる }} {{ 図版 (省略) : ヤシの素材でできた土嚢袋の購入や、登山道整備の知識がある方々への謝礼などに���DOMOポイントが使われている }}
{{ 図版 6 : メンバーの作業によりガリーがある程度埋まった様子。「今後、上の土壌に生えている植物が落ちたとしても、今回の作業で集め置いた土砂がきっちりと受け皿になってくれる }} {{ 図版 7 : 土砂が流れ出てしまった穴も、土嚢袋を使った嵩上げをして、穴を塞ぐ作業を行った }}
岡崎:登山道以外の植物帯に入って土砂を集めるという作業は、登山ではなかなか経験できないこと。植物がどういうところにあって、そこにはどんな土がかぶさっていて、それを避けるためにはどうしたらいいのか……。登山道整備をすることで、植物への配慮とか、自然を守りたいという気持ちが生まれるのではないかと思います。登山者にとっても新しい視点を持つ機会になると思います。
■《登山道整備の新たなスタイル 「近自然工法」を実践する山守隊》
―――岡崎さんたちが日々の活動において実践しているのが、”地質や環境に合わせた登山道整備” を実現する「近自然工法」。そのポイントや事例を教えていただきました。
岡崎:特に大雪山のような高山帯では、”地質に合わせた施工” が顕著に求められます。地質への理解があり、荒廃の原因を見極め最適なプランを実行できる人がいてこそ、登山道整備は成り立ちます。その上で、お金があり、資材が買えて、労働力がある……。このシステムができないと、本当の意味での、いい登山道整備はできません。知識・経験を持ち合わせた「登山道専門員」の教育こそが重要で、今から取り組むべきことなのではと思っています。
{{ 図版 (省略) :”生態系に適した施工” を実現する「近自然工法」のポイント。「近自然工法は ”手法” ではなく ”概念” 」と、岡崎さん
考え方の基本は「近自然工法」
生態系の底辺が住める環境を復元させること
すると自然の生態系のピラミッドが構築されていく
人間の都合で考えるのではなく、「自然はどう成っていくのか」という成り立ちを常に考える
}}
岡崎:私たちが日々実践している「近自然工法」は、その “地質や環境に合わせた登山道整備” を実現する考え方です。ポイントは「生態系の底辺が住める環境を復元させること」、これに尽きると思います。以下の事例にあるように、施工の現場では、鉄の杭など自然界にないものは極力使いません。代わりに、木の幹や石など “その場所にあるもの” をうまく使って土壌の修復を試みます。
{{ 図版 8 : 「自然の中の構造物を取り入れる」という、近自然工法の原則を用いた施工事例。自然界の摂理に習い、自然界に存在しない鉄の杭は使わず、太い木の幹や石を配置してステップを刻んでいる }} {{ 図版 9 : 小笠原諸島での施工事例。土砂が崩れ植物が育ちにくい状態のところ(施工前・左)に、石を置き道をつくった(施工後・右) }} {{ 図版 10 : 施工から一年後、同じ場所には下層植物が育ち、土壌の崩れが起きにくい環境ができていた }}
岡崎:施工して何年か後に植物が育っているのを見ると、嬉しいというか、登山では味わえない、なんとも言えない気持ちになります。近自然工法は決して簡単なことではないですが、そういう喜びを感じられるのはいいところかなと思います。
行政も民間も頑張ってはいますが、残念ながら、侵食や荒廃のペースに追いつけていないのが国立公園の登山道の現状です。本当の管理とは「利用や自然災害による荒廃と、保全による復元力をバランスよく保つこと」です。そのためには、問題提起や利用者の意識変化、登山文化・自然教育の浸透が重要だと思っています。自分ができるのはあくまで「保全を考えられる人の確保」。だたし、それだけでは足りなくて、「利用と保全のバランスをとるシステム」「自然環境は人間にとって必要不可欠なものなんだと誰もが思っている状態」をつくっていかなければ、国立公園が抱える登山道の課題は打破できないと思います。
{{ 図版 (省略) : 「この3つが揃ってこそ、国立公園の未来がある」と岡崎さんは語る
保全を考えられる人の確保
利用と保全のバランスをとるシステム
自然環境が人間にとって必要不可欠という文化
}}
岡崎:今回DOMOプロジェクトとして支援いただいたことで、登山道整備や自然環境に対してこれだけたくさんの人が目を向けてくれているのだと実感できたことはすごく嬉しいですし、本当に感謝しています。ありがとうございました。
■《本プロジェクトを深掘り! 大雪山・山守隊 × YAMAP 両社代表による、プチ・クロストーク》
{{ 図版 (省略) : 大雪山・山守隊の岡崎さん(左)と、ヤマップの春山(右) }}
春山:お話を聞いて感じたのは、登山道整備をしたことがある人は一般の登山者とはまた違った山の見方をされるんだなということ。地形や地質を見て、その環境に適した方法で整備をしていく……つまり自然を読みながら登山道整備をするというのは、自然や山を知る貴重な機会になると思いました。行政任せにして登山者が関わらないのはもったいない。楽しみながら、自分たちの遊び場を自分たちで良くしていく姿勢、登山道整備を登山者自身が行っていくという文化を、一緒につくっていきたいですね。
岡崎:私に登山道整備や近自然工法のいろはを教えてくれたのは、四国にお住いの土木の方なんです。その教えはまるで禅問答のような言葉も多くてですね。「答えは自然の中にある」ですとか、「答えは一つではない」とか、「自然を観察して参考にしなさい」とか(笑)。自分も馬鹿正直なもんで、「よし、自然を見てやろう」と思ってやってみると、本当にそのとき初めて、いろんなものが見えてきたんですね。
春山さんがおっしゃる通り、登山道整備における視点は登山のそれとはまったく違います。水の流れを辿ることで小さな渓流の成り立ちを理解したり、一見なんの変哲もない石が、実は土壌崩れを防いでいることに気がついたり……。こういった視点で自然を読めるようになると、純粋に面白いんですよね。その面白さこそが、法人化して登山道整備を続けたいなと思った一番の要因かもしれません。面白さをきっかけに、登山道整備がもっと広く、普及してくれたらと思います。
{{ 図版 (省略) : 登山道整備活動を通じて、近自然工法のいろはや概念を伝える岡崎さん }}
春山:「その土地にある材料で修理する」という近自然工法の姿勢は、素晴らしいと思います。特に、下界から運んだ石材で修復するも、10年足らずで壊れてしまったというエピソードは印象的でした。人の手であれこれ持ち込んで修復を試みるよりも、その土地にある材で、その土地に適した整備をする方が、長持ちし、年月を経るほどに強くなる。これは登山道整備に限定される話ではなく、生き方や自然との関わりという意味でも重要な示唆を与えてくれているのではと思います。尊敬する中村哲さんも、まさに同じ考え方でアフガニスタンでの用水路建設を実行されており、場所や分野は違えど、自然との関わり方という意味では通ずるところがあると感じました。
岡崎:繰り返しになりますが、自分が常に意識しているのは「周りの自然を見ること」です。例えば植物が復元しているスポットを観察して、「ここはどうしてこんなに復元しているのか」と考えてみる。「もしかしたらこの石が一個引っかかって、それにまた別の石が引っかかった結果、土壌が溜まって平坦な地形ができ、安定勾配になる。そこにまた石材が落ちてきて……」と、観察と思案を繰り返していくわけです。すると、「なるほど自分がやるのは全部直すことじゃないんだ。直るきっかけをつくれば、あとは自ずとよくなっていくんだな」と、思い至る。
私たちの仕事は ”きっかけづくり” なんです。自然に対しても、人に対しても。大雪山以外でも各地域で登山道整備や講演活動をしていますが、あくまで ”きっかけづくり” に過ぎません。実際に育つのは、その土地の植物であり、手入れをするのはそこで暮らす人々です。どんなにゆっくりでもいいから、その土地土地に合うかたちで植物が育ち、地元の人たちが手入れを行っていくのがあるべき姿なんだと思います。
春山:登山道整備において、標高が高く夏が短い大雪山は、気候的にも環境的にも、難易度が高いのではないでしょうか?
岡崎:登山道整備のレベルというより、荒廃の進み具合・深刻度では「どこに行っても大雪山に比べたら大丈夫だな」という感覚はあるかもしれません(笑)。大雪山への人の入り込みなんて、本州のアルプスに比べたら少ないんです。よく「オーバーユースが原因で荒廃している」なんて言いますけれど、大雪山の場合は全然オーバーユースではない。人が入らなくても侵食が進行していることが問題なのに、多くの人がそれに気がついていないんですよね。その深刻さに気がつくと、今度は「今、なんとかせねば!」と焦ってくる。常に自然を観察して考える日々です。ただ、利用と保全を確立するという意味ではそれだけでは不十分なんです。利用する人の量とそこに育つ植物と、利用しても崩れないような日々のメンテナンス。これらをしっかり構築することが必要です。
{{ 図版 (省略) : 大雪山の美しい景色。この景色を守るためにはメンテナンス体制を構築する必要がある }}
春山:そうですね。その中でも、登山道整備の知識・技術を持った人の存在は大きいかと思います。利用と保全のバランスを成り立たせるためには、登山道整備の技術者が、最低でも1?2人は国立公園に配置されるといいですね。ちなみに 近自然工法の知識・技術を持っていて、それを人に教えられる人は国内にどれくらいいるのでしょうか? あるいは、登山道整備のいろはを学べる場所はあるのでしょうか?
岡崎:近自然工法を実践している人は何人かいますが、自分も含めまだまだ発展途上で試行錯誤を重ねながらの人が多いと思います。各地域の実情に合わせて体系的に教えられる人となると、ごくわずかでしょうね。
日本にマッチするかどうかはわかりませんが、海外には登山道整備のシステム化を実現した事例があります。アメリカの国立公園では、1万世帯以上のボランティア登録があります。ボランティア団体が自ら稼いだ資金の他、企業・自治体からの助成金などを元手に、登山道整備のボランティアを指導するチームも含めて運営されているようです。
日本���そういう文化ができる一歩手前まで来ているとは思っています。現代は、今ある道をいかに保全していけるかという時代。共感・賛同してくれる仲間を増やし、一緒になって登山道の保全活動を進めていきたいですね。
春山:僕たちもぜひ協力させていただきたいです。日本には茶道や剣道のように「◯◯道」の概念がありますから「登山道整備道」みたいに、自然と対話し、自然を読みながら登山道を整備する仕組みや文化をつくっていきたいですね。
岡崎:自然保護・環境保全は、私たちも含めいろんな人たちが同じ方向を向いてできることですよね。民・官・学が共同し生態系保全の取り組みとしても、登山道整備を実施していければと思います。
■《「大雪山の登山道整備 in 北海道」についてさらに詳しく知りたい方は…》 今回の記事ではご紹介できなかった話を含め、講演会の模様を下記YouTubeにて配信しております。ぜひご覧ください。
{{ 動画 : DOMO講演会 vol.3 |一般社団法人大雪山・山守隊 : https://www.youtube.com/watch?v=fxe8KfVK_80 }}
●YAMAP MAGAZINE 編集部 登山アプリYAMAP運営のWebメディア「YAMAP MAGAZINE」編集部。365日、寝ても覚めても山のことばかり。日帰り登山にテント泊縦走、雪山、クライミング、トレラン…山や自然を楽しむアウトドア・アクティビティを日々堪能しつつ、その魅力をたくさんの人に知ってもらいたいと奮闘中。
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【山守隊・岡崎哲三さんに聞く、10年後の登山道|「山を守る人たち」が語る未来】 - YAMAP MAGAZINE : https://yamap.com/magazine/45532 : https://archive.is/JPX8g : https://web.archive.org/web/20240401124435/https://yamap.com/magazine/45532 投稿日 2023.03.31 更新日 2023.05.23
{{ 図版 1 }}
今回のYAMAP10周年特集では「これまでの山の10年、これからの山の10年」をテーマに、山を守るプロフェッショナルたちにインタビュー。第1弾は、北海道・大雪山系を拠点に、全国各地で登山道の整備と指導をしている一般社団法人大雪山・山守隊の代表、岡崎哲三さんです。ただ荒廃した登山道を修復するのではなく、生態系を復元させ、人の利用環境も守る「近自然工法」に取り組む第一人者。登山者も一緒になって考えたい、次の10年で取り組むべき課題についてお聞きしました。
●目次 「山好きが、山を壊す」という不思議 「近自然工法」の師の教え 山を守るために仕組みと意識を変える 「人のため」と「自然のため」の整備の違い 答えは自然の中にある 「民間の力で仕組みづくりを」
■《「山好きが、山を壊す」という不思議》 {{ 図版 2 }} ―――登山道整備の話の前に、山との出会いを教えてください。
大雪山・山守隊代表・岡崎哲三さん(以下、岡崎): 私は札幌の山に近い地域に生まれ育って、勉強より海や山が好きでしたね。30年近く前かな。ちょっと山小屋でアルバイトしてみようと訪れたのが大雪山でした。正直、山登りが好きというより、月給18万円で、当時としては北海道では高給だったのにひかれました(笑)。行ってみたら、日給6,000円で30日働けと。なるほどなぁ、なんて思ったものの、始めてみたら面白い環境でした。
当時は林野庁のアルバイトのような人が近隣の山小屋に泊まり、朝から晩まで必死に登山道の整備をしていました。彼らから話を聞く中で、道が崩れる要因の多くが登山者にあることを知り、「山が好きで登っている人が、山を壊しているのか」と不思議に思っていましたね。
{{ 図版 3 : 登山道を整備する大雪山・山守隊の岡崎さん }}
山小屋の管理人として働く中で、登山道をはずれてルールを守らない登山者に注意することに苦労するより、自分たちで手を動かして、登山道を直してみようと思い立ったんです。
実際に整備を本格的に進めてみたら、「俺はこっちの方が向いているな」と実感したんですよ。それで登山道整備ばっかりやるようになって。山小屋の後も、大雪山のヒグマ情報センターなどで勤務しながら、登山道の整備をずっと続けていました。
整備した場所が良ければ、登山者は道から外れずに歩いてくれる…。登山者に言葉で伝えるよりも、自然を守りつつ、登山者を誘導できるという行動のほうが楽しさがありました。
■《「近自然工法」の師の教え》 ―――岡崎さんといえば、山の地形と、生態系の復元を考えた「近自然工法」の登山道整備で知られています。これを知ったきっかけを教えてください。
岡崎:山に入ってから10年ほどたったころ、近自然河川工法の第一人者である故・福留脩文(ふくどめ しゅうぶん)さん(*1)の研修に参加したことで、生態系を復元させることで人間の利用環境も守られる発想の「近自然工法」という考え方を知ったんです。
*1 福留脩文(1943?2013) 日本の多自然川づくりの専門家で、建設コンサルタント。環境問題や地域開発の総合コンサルタント会社、西日本科学技術研究所(高知)を創業。治水と環境が調和した川づくりに尽力した。
河川だけでなく、日本の伝統土木工法も研究していた福留さんのお話は「なるほど、言われてみりゃそりゃそうだ」の連続でした。
例えば、人間の手が入る前の川の話。自然の川には蛇行があって、緩やかな流れの中に多様な生態系があります。人の手によってまっすぐに水路化され、コンクリートで護岸されれば氾濫は避けられ、人間にとっては安全かもしれない。けれど、本来の生態系はなくなってしまう。
ただ、水路化されて生き物が消えた川でも、環境を整えれば再び生態系が戻ってくるということを、福留さんは教えてくれました。それは、山の場合も同じ。荒れ��登山道でも、植物が復元できる土壌の環境さえ安定させられれば、植物は復活するんです。
{{ 図版 4 : 屋久島で屋久杉の根が踏まれることを防ぐため、歩行路を補修 }}
「生態系に関することは自然が教えてくれる」
「生態系の本来の姿について理解を深めれば、どんなに荒れていても復元できる」
近自然工法で登山道を整備しながら、そのような想いに至ったんです。福留さんが亡くなってしまった今となっては正解を教えてくれる人はいませんが、そう確信しています。
―――その経験を機に法人を設立して事業化されたのですね。
岡崎:福留さんの研修を一緒に受講した人たちは大雪山から離れてしまったけど、私は「どんな登山道の侵食でも直る」と思っていたので、「やめたらもったいない」と強く感じていました。そんな想いで合同会社を設立したのが2011年。
といっても、最初はほとんど仕事もないなか、ひたすら登山道整備の現場に行って、技術を深めることを意識していました。しかし数年経て、技術だけ持っていても前に進めないと実感するようになったんです。
―――具体的にはどのようなことがあったのでしょうか。
岡崎:行政とかかわりながら整備を進めるわけですが、どんなに頑張っても、予算や仕組みにも限界があって技術があっても今以上に整備量を増やすことができない…。だから行政にお願いするスタンスではなく、より山に身近な登山者の意識を変え、協力を得ていくことに考えをシフトしたんです。
山の文化を下支えしているのはやっぱり「近隣の人」。つまり、一人ひとりの登山者です。その中には少なからず、私と似た考えを持つ人もいて、一緒に山を守るために発信や活動をしていこうと、一般社団法人の大雪山・山守隊が2018年に立ち上がりました。
■《山を守るために仕組みと意識を変える》 {{ 図版 5 : 伊豆諸島・御蔵島での整備の様子。ハードさとともに充実感が伝わる }}
―――岡崎さんは、日本各地でさまざまな人を巻き込みながら山守隊の輪を広げ続けています。
岡崎:私自身、本来はコミュニケーションとか仲間づくりとか得意な方ではないんですよ。ただ「山を直したい」と考えた時に、登山道が総延長300kmあると言われる大雪山で、1人で1日頑張って数m直したところで自己満足にしかなりません。
山を管理することとは何か──。登山者の踏圧や豪雨などの自然現象による道の崩れがあっても、崩れた分はしっかりと保全し、生態系を維持できること。そこまでできて初めて「管理」と言えます。当たり前の話に聞こえますが、国内で本来の「管理」を実現できているエリアはほとんど無いと思います。
だからこそ、登山道を管理するための仕組み自体を変える必要があり、仕組みを変えるには社会の雰囲気を変える必要があり、社会の雰囲気を変えるためには人々に働きかける必要があります。本当に、苦手なことばかりです。でも自然を守るために、これからもやっていく必要があると思っています。
本当は「自然を守る」なんて発想はそもそもおこがましいと感じています。私が住んでいる大雪山の麓の主産業は農業。大雪山に雪が積もり、それが流れ出て川になり、土壌を運び農業の基盤ができ、街ができています。
大雪山という自然環境がなければ、この場所に私たちはいないかもしれない。実は「自然に守られてい���のは私たち」と思っています。だからこそ、この自然環境が続くために努力し、恩返ししたい。そんな気持ちで続けています。
そしてもう一つの原動力は、日本に自然を守る仕組みがないことへの猛烈な腹立たしさ。日々怒り心頭に発しながら作業しています。
■《「人のため」と「自然のため」の整備の違い》 {{ 図版 6 : ヤマップとの合同企画YAMALIFECAMPUS登山道整備編のひとコマ }}
―――今後に予想される、登山道整備の課題について教えてください。岡崎さん拠点の北海道においても、地方部では登山人口の減少や、管理する山岳会メンバーの高齢化などによる登山道の荒廃が進んでいますね。
岡崎:荒廃には2種類ありますね。ひとつは、人が入らないことによって荒れ放題になってしまう荒廃。もうひとつは、道が削れてしまって生態系が崩れて直すことが不可能な状態。両者は意味が全く異なります。前者は道がもとの生態系に戻る作用、後者は生態系が消えていく作用。
おっしゃる通り、北海道をはじめとした地方の各地で荒廃、廃道化は進んでいます。しかし、本州と比較すると利用者の少ない大雪山の周辺だけでも、道が削れて生態系が崩れていく登山道が多すぎて手に負えないという現実もあります。
私自身は登山道を適切に「管理」できる状態になって初めて人を通すべきだと考えています。登山者のために廃道を再整備するだけでは不十分であり、生態系への影響を最小限に食い止める登山道の整備、そしてそれを維持していく「管理」を優先してほしい。
崩れたところを歩きやすいように整備できる人は沢山います。だけど侵食を止めて生態系を復元させる技術と想いを持って整備している人はめったにいない。その状態は、残念ながら昔からあまり変わらない現状です。
{{ 図版 7 }}
―――一言で「登山道整備」と言っても、登山者を優先的に考えるのか、自然保護までを目的にするかで、「管理」は全く別物になるんですね。
岡崎:人のための整備か、自然のための整備か、その視点によって全く異なります。侵食が進んで、登山者が「もう歩けない」という状態になると、「土留め」と称して木柵階段を作ったりするわけです。しかし、崩れた原因を理解してそれに対応する施工をしない限り、土は延々と流れ続けることが分かっています。
侵食がゆるやかになって、安定した土壌環境になり、隙間から植物が芽を出すような状態になってようやく生態系が作られていきます。 そういった安定した登山道の状態を作らない限り、その登山道を直し続けなければいけません。
■《答えは自然の中にある》 {{ 図版 8 : 丁寧にまとめられた山守隊の活動報告。定期的に会員あてに送付される }}
やっぱり答えは山の中にあって、自分が机上では気が付けないもの。現場で状態を見て「どんな施工、どんな生態系がふさわしいか」���考え、実際に整備をして、正解かどうかは自然が教えてくれます。
必要なのは技術以上に、自然のあり方を理解しようとする姿勢です。土木工法や生態学の教科書だけをあてにしないで。自分たちも整備の教科書は作っているんだけど(笑)。「自然の中に答えがある」「正解は一つではない」。禅問答のようだけど、師匠の福留さんは常にそうおっしゃっていました。
{{ 図版 9 : 「たまには山へ恩返し」と称される登山道整備イベント後の集合写真。大雪山の裾合平にて。 }}
―――登山道から見てきたこの10年の変化と、登山者に期待する次の10年を教えてください。
岡崎:この10年での変化はすごく面白いですよね。日本百名山以外の山に向かう人も増えているし、低山や里山、トレイルランニングなど、楽しみ方が多様になっていると感じます。
次の10年でさらに山を楽しむジャンルが増えていくのではないでしょうか。登山者の皆さんには、自然をたくさんの視点で楽しんでほしいと思っています。
日本百名山、ピークハント、トレイルランニング、ロングトレッキング、動植物の観察、その中に「登山道整備」というジャンルがある未来。
間違いなくこれだけは言えますが、登山道整備は楽しいです。自然を観るだけでなく、自然に働きかけてその変化を楽しむ。生態系の理解が深まり、自然をさまざまに感じ取れる視点が増えます。
いろいろなジャンルを経験した登山者の中には、崩れていく登山道や無くなっていく植物を悲しむ人もいます。そういう人にはぜひ生態系を復元する整備を体験してほしい。山に行って頑張れば次の年には植物が芽吹いているかもしれない。またその山に行きたくなるし、また道直しをやりたくなります。その価値観が広がれば登山道整備は山を楽しむジャンルになると思っています。
■《「民間の力で仕組みづくりを」》 ―――次の10年で登山道整備が山を楽しむためのジャンルの1つ、カルチャーになるといいですよね。
岡崎:海外では登山道ボランティアがカルチャーになって浸透している地域もあります。ボランティア登録している人が数万人もいて、毎日どこかで登山道の整備が行われている国立公園もあると聞きます。
そこではボランティア団体にしっかりお金がまわり、整備のためのガイドブックもある。「仕組み」ができているんです。それにより技術レベルをキープできるし、教えてくれる人もいるから登山者も作業を楽しめる。私たちもその形を目指し、登山道管理の一翼になれるようにしたいと思っています。
登山道整備のボランティアも、押し付けられてやるものじゃない。学びながら実践するのは楽しいものなんです。今あるルールを守りながらも、行政に頼り切らず、登山者ら民間の力で率先して仕組みを作る。
日本でも登山道の管理を担うことができるはず。日本の美しい自然を次世代に残すためにも、次の10年でその仕組み化を実現したい、しなければいけないと思っています。
●ライター 武石 綾子 静岡県御殿場市生まれ。一度きりの挑戦のつもりで富士山に登ったことから山にはまり込み、里山からアルプスまで季節を問わず足を運んでいる。コンサルティング会社等を経て2018年にフリーに。執筆やコミュニティ運営等の活動を通じて、各地の山・自然の中で過ごす余暇の提案や、地域の魅力を再発見する活動を行っている。
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