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ALTEC 604Bで遊んだ話

はじめに
ALTEC社の同軸スピーカー604Bを家庭で使うエンクロージャーを作りました。1960年代までに商品型番が付いたALTEC社純正の箱のリストの中に直径38cmのスピーカーを取り付けられるものが2種類あります。
大きい方は612型という型番です。これは(H=29.5, W=25.5, D=17+3/4 単位はインチ)というサイズです。小さい614型という型番の箱は(H=24+3/4, W=18+3/4, D=14+1/4 単位はインチ)という大きさです。
この614型は、38cmのスピーカーを取り付けるために限界に近い小さなサイズです。スタジオで至近距離からの音声中心のモニターなら役に立ちそうですが、計算の上では低音はかなり出にくくなると考えられます。
かといって大きい方の純正箱=つまり612型という型番が付いた箱なのですが、こっちは家庭に持ち込んで置くとしたら大きすぎると思います。
そこで、今回は612型と614型の間を埋めるサイズ(H=670mm, W=520mm, D=400mm)として115リットルのエンクロージャーを設計しました。インチ単位で表すと(H=26.4, W=20.5, D=15+3/4 単位インチ)となります。
前回の失敗経験
前回は、部屋に持ち込める範囲としては大きなサイズ(H=750mm, W=750mm, D=250mm)で後面を解放にしました。その箱の写真を下に貼っておきます。

この箱はどういう訳か低音が出にくく全体につまらない音になりました。
ボール紙箱スピーカーに教わる
別の機会に、新忠篤先生がボール紙の円筒箱(実は高級な猫のエサの箱)に8cmのスピーカーを取り付けてあまりにも素晴らしい音を出していらっしゃるのを聞き、秘密を教えていただきました。その秘密とは、箱自体を鳴らすこと、適当な内部損失を箱の中で起こす(つまり吸音材を加減する)こと、という2つでした。
それで思い出したのは、プロ用としてはあまりにも高名であり「傑作」と言われる612型の箱は家に持ち込んで鳴らすと「イイ音がしない」という噂です。
612型の設計は、厚み19mmの米松合板を材料として指定しています。プロの現場なら、大きめのステージやスタジオなどではかなり大きな音を出しますので、おそらく19mmの厚みの米松合板でも箱鳴きが発生します。
しかし、家庭の音量ではとてもじゃないですが19mmの合板を鳴らすほどの大音量を出しません。おそらく家庭で普通に聴いている音量で適度に鳴く箱が必要だったということか、と考えたのです。
前回の箱は厚さ24mmの米松合板なので(しかも後面は解放してあるため)家庭の音量くらいでは箱が振動して鳴くことはありません。ひとまずここから改良しようと狙いをつけて、今回はとにかく鳴きやすい軽く薄い材質で、上に書いた寸法になるように作る計画を立てました。

そこで、見た目は悪いですが厚さ9mmのラワン合板を買い込みフロントパネルに使います。天板・側板・底板は柔らかい桐材の単板で厚さ13mmとして、両手でふっと持ち上げられるほどの軽い箱を作りました。

これは両手引きカンナでダクトの形を整えている工程ですが、その薄さが分かると思います。
塗装工程
見た目の悪いラワン合板を使ったので、全体を水性アクリル塗料で塗装することにしました。

その場合、塗装のノリを良くするには下地処理が重要です。今回はシンプルに砥粉を水で溶いて塗布した下地を使います。

これが砥粉の塗り始め。正直言って子供時代に戻り、泥をペタペタと塗る楽しさを味わいます。

全体に薄乾きの様子です。良く晴れて乾燥した晩秋の1日に行いました。2日以上は置いて完全に乾燥したら、ボロ切れの布を使って塗り付けた砥粉をすっかり擦り落とします。そうすると、木の目地だけに砥粉が詰まって塗装下地が出来上がります。
塗装
いよいよ塗装。ここでは水性アクリル塗料の1回塗りをします。2度塗り以上で表面を磨いて仕上げたい場合には、油性アクリルまたは油性ウレタン塗装がむいていますが、今回はあえて水性アクリルにします。
途中で、塗装剥がれやスレが出ると、使いこんだヴィンテージ・スピーカーの雰囲気が出るので、私は、表面の傷を良しとします。ピアノフィニッシュが良い場合は、塗装下地もシーラーという名前で売られている油性の下地材を塗装して、平滑になるように耐水ペーパーの800版くらいで磨くとうまく行きます。

いよいよ裏板の加工ですが、今回は箱鳴りを「あり」としていますので、12mmのMDFを裏板に使用しました。

こんな感じに、桐材の外側と、MDFは2mmの隙間を持たせて切り出します。そうしないと、梅雨時にMDFと桐材の膨張の差が出て、最悪の場合、外側の桐材を裏板のMDFが押して、板のつなぎ目に割れが入ります。湿度の高い日本の梅雨を乗り切る工夫です。
部品の取り付け

部品は軽い順に取り付けましょう。まずアッテネーター、次に純正のネットワーク・モジュールを裏板のMDF板に付けます。

このリード線の取り出し口を避けて吸音材を置いてゆく必要があるので、ひと工夫が必要です。

と言っても、ラシャ鋏(はさみ)で吸音材に切れ目を入れれば大丈夫です。

吸音材の留め方は、ボール紙を挟んで真鍮釘で打ち付けです。板材が薄いので、それに合わせた18mmの真鍮釘が最適となります。今回の吸音材はアオキ産業株式会社のニードルフェルト材 500mm X 930 mm 厚さ10mmという規格品を4枚(4シート)です。内訳は、裏板に1シート(切断して、スピーカーの背面は2重の厚みとします。ネットワーク部品の周りは残りのシートを使います。その他に、左右の側板にそれぞれシートを1枚ずつ。天板と底板は、1シートを2等分した物を各1枚ずつとします。これで合計4シートを使い切ります。

これが片側の側板に吸音材のニードルフェルトを留めたところです。ちょっと見た目には古毛布に見えますが、まぁ、そんなところでしょう。

内側全てにニードルフェルトを貼り付けた状態です。

スピーカーの604Bは相当重たいので、サブパネルに予め取り付けてそっと載せます。8カ所を5mmのビスで固定しますが、板材の裏側に爪付きナットを打ち込んであります。このネジ山を潰すと付け外しができなくなりますので、慎重に位置合わせして、徐々に周辺のビスを回します。
そんな良いスピーカーなのか
結構な苦労な工作です。取り付けるスピーカーが、その苦労に値するか?という話ですが、今回の604Bは相当良いです。

裏面に”HOLLYWOOD”マークが入っているのは初期型の604Bなので、1950年代のいつか製造されたものです。

製造連番は610番なので、工場に製造記録か出荷前の検査記録が残っていれば、何年の何月生産分か分かりますね。

そして音が良い条件のように言われるベーク材のダンパー。下の方にある「M」の字のように形取られたダンパー押さえ部分に惹かれます。
肝心の音はどうなった
新いエンクロージャーにYouTubeで20Hzや30Hzの音源を探して再生してみました。30Hzは音程正確に音が出ます。20Hzはブオーという箱鳴りを感じさせます。この状態で、10曲ほど聴いてみました。かなり本格的に良いです。痺れますね。
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EL34シングル・ステレオ・アンプの外観と内部の一部分。
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Tube driven smartspeaker upon Google AIY voice kit
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真空管で低周波の増幅だけをして、デジタルをGoogle AIY projectのvoice kitで接続すれば、スマートスピーカーの変なヤツができると思って、ひとまず作ってみた。
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Altec 604B エンクロージャー
春先に買ってほったらかしてあったAltec 604B用のエンクロージャーを作成した。外装の仕上げは、オイルステインで着色したのち、WATOCOオイルのナチュラル・カラーを塗布して磨きである。音のチェックのため、とりあえずMacとDACと真空管アンプを繋いでみたのだが、正直に言って低音が出ない。長年放置されたユニットであるため、エッジとダンパーがそれぞれ硬くなってしまって、最低振動周波数 (f0) が上がってしまったのだと推測した。しかし、1週間ほど鳴らし込むと、エッジの硬さが取れて、やや低音も出始めている。この後のエージングが楽しみである。


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「Altec 604Bというスピーカーは何か?」というのは、少し込み入っている。
まず、このスピーカーの格好を見ると、大型の紙コーンを持つスピーカーの真ん中にホーンがある。こういう設計の仕方には、専用の名前がついていて「同軸設計」という言い方をする。つまり2種類の役割の異なるスピーカーユニットを一つの軸上に中心が揃うように組み合わせてデザインしているのだ。
紙コーンのスピーカーは開口の直径が15インチ(約38cm)ある。低音を鳴らすのに都合の良い設計になっている。この紙コーンのスピーカーが再生する音の周波数は、再生下限から1kHzまでである。
それに対して中心のホーンを駆動しているスピーカーは、やや専門的にいえば「ドライバー」と呼ばれるアルミ製の振動板からできていて、普通は目に見えない取り付け位置に設置されている。それはどこかといえば、紙コーンのスピーカーの磁気回路のさらに後方である。アルミの振動板からなるこのスピーカーの受け持つ音の周波数は、1 kHzから再生上限までである。
音の周波数をいうのに、再生下限とか再生上限とか歯切れが悪いが、それは「箱と部屋の設計が変われば」変わるからである。
低音の下限は、おそらくこのスピーカーを箱に入れずにポンと床に置いて測定したら、100Hz近辺になるのではないか。しかしかなり大型の箱に取り付けると、40Hzくらいからはなんとか聴ける音がでる。
それよりも低い周波数の音も再生はできるのだが、元の音源で収録された本来の音の大きさに比べて、減衰して小さな音になってしまう。
一方、高音の方は、部屋に大量の本でも積んであると、15 kHzあたりで減衰が始まる。その反対に硬いフローリング材や、コンクリートの壁面などの条件が揃えば18 kHzくらいは出せる設計になっている。
以上が基礎理解である。
マニアの人がこういう同軸型のスピーカーを買うとなると、まず気になるのが、設計の元になったユニットのことである。
つまり装置の祖先が気になるのだ。
どんな設計の腕がいい会社も、いきなり同軸型のスピーカーだけを設計したら、数多く売ることができない。
同軸型の設計は、それほど需要が見込めるものではなく、録音スタジオの再生確認用など、比較的用途が限定されているからである。
そこで、メーカーは、まず、単一設計の紙コーンの大型スピーカーと、単一設計のアルミ振動板のドライバーを持つホーン型のスピーカーを量産して、売ってみて評判が良い組み合わせを選んで、同軸型のスピーカーという複雑な構想に挑戦することになる。
そうしてみると、マニアの中でも評判が高いAltec社の38 cm口径のスピーカーには系譜があって、515形式と416形式というのがある。それぞれマニアの間で、こっちが良いという意見はあるが、磁気回路がパワフルなのは515形式の設計である。604Bの低音用のスピーカーにはこの515形式が転用された。
一方、高域を受け持つドライバーとホーンにもAltec社は数々の優れた設計を世に送り出している。ただし、アルミ振動板の直径が設計の基準になっていて、大抵は直径で1インチ、1.5インチ、2インチである。
同軸型の設計をすると、コーン型のスピーカーの中心軸をくり抜いて、ホーン型をガチャこんと組み合わせるので、アルミ振動板の小さい方がフィットしやすい。Altec社には1インチの振動板を採用した名作のドライバーがあって、802形式の設計と言われている。604Bの高音担当には、これがそのまま転用されている。しかし、ホーンだけはこの狭い空間に無理矢理押し込めるものは他に無く、専用の設計である。
この604Bというスピーカーは設計された年代が割合短いため、製造シリアル番号から出荷時期を想像することも難しく無い。このスピーカーの製造シリアル番号は610番という3桁である。そうすると製造は1951年内で、出荷されたのはその後のどこかであろう。1950年代にどこかの録音スタジオのモニター用に使用されたのだとしたら、当時の多くの名曲がこのモニター装置を通ってチェックされて、当時のモノラルLPレコードにカットされたのかもしれない。そういう想像も楽しい。
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An installing and operating example of a tube amplifier with speakers. My favorite speaker is a KEF iQ9 2008 model, which is one of the vintage model.
真空管アンプを自宅のスピーカーに接続した例である。これはKEF iQ9 2008年モデルというヴィンテージのスピーカーを接続したところである。
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A tube operated network audio player, which usese a couple of dual triode as SRPP connections for sound buffer with a Linux embedded system to enable to connect with home Wi-Fi network.
真空管方式のネットワーク・オーディオ再生機です。2本の双三極管をSRPP接続してサウンド・バッファーに用いています。Wi-FiホームネットワークとはLinuxの組み込み基板を使って接続します。
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実はMac OSでiTunesを使ってもhigh resolution audioの再生ができる。ただし、24bit/192kHzまでなら、そして音源の形式が”ALAC”か”WAV”なら。色々と制約があるが。ヘッドフォン用のmini plugからはhigh resolutionの音源を再生しても、ちょっとがっかりするような音しか出てこない。そんな場合も、Macのusb-c ポートにUSB DACを接続すれば、そこそこ満足できる音が引き出せるようになる。おすすめなのはfiioの”Olympus 2-E10K″という安価なDACである。http://www.fiio.net/en/products/27
このモデルは24bit/96kHzまで対応しているので、心底からオーディオ・フリークの人には物足らない。しかし、小さい。軽い。かっこ良い。BGMで聞いていると、時々、生の声で耳元で歌を歌っているのかという錯覚を感じるほどである。
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