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UTSU-WA?のお客様に当日の体験をシェアしていただくwords of guest。
UTSU-WA? Vol.9 うつわと食とご縁の会(2016年12月10日 開催)は、 PRオフィス・デイリープレスの竹形尚子さんにレポートしていただきました。「会いたかった!」と思わせてくれるほどのうつわにこの夜「出会って」しまったという竹形さん。その興奮の瞬間は、こんなかんじだったそうですよ。

UTSU-WA? Vol.9 うつわと食と⑤の会
並木橋から六本木通りへ抜ける通りから、横道を少し入った暗く静かな住宅街に、素敵なシルエットの建物が見えてきました。 使い込まれてしっとりした木の扉を開けると、途端にみんなの賑やかなおしゃべりや、お料理の準備の音や匂いが、目に耳に鼻に飛び込んできて、わくわくしながら部屋に入りました。そこには真っ赤なクロスをかけた大きなテーブルがあって、ぐい飲み、グラス、片口…とお酒を飲むための素敵な器がずらり。




イチ、ニ、サン。…いや、3秒も経っていなかったかもしれません。 「会いたかった!」と思うまでの時間は。
土の色や焼いた表情がとても素直に表現されていて、薄く繊細なのになんとも大らかな存在感を醸し出す片口と目が会いました。焼締めで作られた片口を手に取って、自分の手にしっくりとくる感覚を楽しみながら、目は再びうようよとテーブルに。
そして見つけた縦長のとても小さなおちょこ。この片口とおちょこ素敵!出会った!などと一緒にいた友人に興奮して伝えていると、作家の松本かおるさんご本人が友人の隣にずっといらっしゃったようで、「それわたしなんです」と。うれし恥ずかしでした。


日本酒を注いでもらい、また大きなテーブルへ。シェフの雅代さんのお料理が小皿料理で、4名の作家の方の器で次々と運ばれてくると言う。
テーブルの上には雅代さんが書いたメニューが置いてあって、それを読むだけで旅が始まったような気分になってしまう。雅代さんのお料理はいつだってそうで、1つのお料理から、噛むたびに��の方から新たな味や景色が顔を出してきて、次々と世界が広がります。


料理を載せた小皿が運ばれてくると、楕円の薄いプレートばかりに目がいく。肌色っぽいものから、赤茶、錆びた銅のようなものまでいろんな色があって、どれも美しい。これも松本さんの器。自分が感じたファーストインプレッションをじっくり確信しながら、そして我が家の食卓で使う想像をしながら、友人と、そしてこの日に出会えた方々とお酒と料理を楽しみました。


会の半ば、松本さんと再び同じ輪になる時間がありました。とても気さくで、一度社会人を経験した後、備前で学び、今は長野で備前の土を使って制作をされていることなどをいろいろなお話しを伺えました。女性らしくしなやかな美しさと、豪快でさばさばとした気持ち良い性格の、とても素敵なバランスを持っている方だなと思いました。それがそのまま器に。今のテーブルシーンに合うかたちでありながら、土に素直に、火に素直に作られたプリミティブさがある。とても大らかな器。あぁこの方が作っている器だ、と腑に落ちました。家路につくわたしの手には、片口とおちょこと楕円の平皿が数枚。
こんなふうに器と出会って、それで食事をして、作ったご本人とお話しできて、納得して家に持ち帰れるUTSU-WA?。 なんて素敵な時間だったろう!と思います。
——— 文・竹形尚子(たけがたなおこ) デザインの分野を中心としたアタッシェ・ド・プレス事務所「デイリープレス」を2003年にスタート。書籍倉庫→アンティーク家具屋の後に引き継いだオフィスの半分を「Naname(ナナメ)」と名付け、文字通り坂道でななめになっているこの場所でできる展示会やクリエイター��のプロジェクトを始めたところです。 http://www.dailypress.org http://www.pen-online.jp/blog/n-takegata/1488241491/
写真・米谷享、野頭尚子
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Vol.9 うつわと食と⑤(ごえん)の会 “Utsuwa, Meal and Goen”
2016.12.10 Sat
5年周年を記念する今回のUTSU-WA? のテーマは、ずばり「⑤」です。
とりわけ、自然哲学の思想「五行」に着目しました。万物は「木・火・土・金・水」の5つの元素からなるという古代中国が発祥の思想です。木は燃えて火を生み、火は灰となり土に還り、土の中に金属が宿り、金属は凝固する際に水が生じ、木は水によって養われる。それらの相互作用は、どちらかが強くても弱くても成り立たず、バランスによって保たれる。
うつわも、陶磁器は土を燃やして生まれますし、それらを彩る釉薬は鉱物からなるもの。ガラス器の原料もまた主に鉱物や灰であり、火をくぐり水のような表情を生みだします。
そして火と水で作られる料理を、うつわに盛り木(テーブル)を挟んで楽しむUTSU-WA? は、毎回、さまざまな相互作用によって、新しい「和/輪」=「縁」が生まれています。だから今回の「⑤」は「ごえん」と読む「ご縁」の会です。
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志村和晃
花岡央(ヒロイグラススタジオ)
松浦コータロー
松本かおる
*
人参 牛蒡 桜海老 春菊のサラダ 橙々のビネグレット
白魚唐揚げ 聖護院かぶら 紫大根 獅子柚子 胡桃
マテ貝 紫白菜 赤葱とにんにくの煮込
仔羊 姫りんご 黄ビーツ ケールのロースト
五穀米 オリーブ キヌア ナッツ くこの実 ざくろ
洋梨 紅玉 アーモンドクリームのタルト
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うつわと食とフリーダの会 2016.7. 9 Sat & 10 Sun
「フリーダ」
メキシコ女流画家、フリーダ・カーロは生涯において、あらゆる意味でたくさんの痛みを負った女性でした。描いた作品は時にシュールだけれど、そこから見えてくるのは痛みを知るからこその、強さと冷静さ、女としての情熱的な愛と母のように大きな愛。そして、哀しみに負けないほどのユーモア! UTSU -WA? Vol.8 は、激しくも複雑な感情を伴ったフリーダの人生と彼女をとりまく情景から、その一部分をUTSU -WA ? なりに切り取りました。女性の陶芸家によるメキシコの色彩と自然を思わせるうつわと、船越雅代ならではのパワフルで繊細な料理がそれぞれに違う化学反応を起こします。
【フリーダ・カーロ(1907~1954)】 近代メキシコ画家。シュルレアリズムの作風で知られ、200 点以上にのぼる作品の半数は自画像であった。病気や事故による怪我などで受けた手術は 30 数回。巨匠壁画家ディエゴ・リベラと2 度の結婚、マルクス主義の革命家トロツキーやイサム・ノグチなど恋多き女性としても知られる。
*
木村香菜子
比留間郁美
松本かおる
神尾奈々
*
オルチェッタ マルガリータ
トマティーヨのスープ 貝のセビーチェ ツブ貝 白ミル貝 貝柱 タコ
トルティーヤ
フリーダのタコス
ライスプディング
フリーダのハーブティ
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vol.9 ⑤(ごえん)の会 12/10 sat 一夜限りのうつわ酒場
---- 時間 16時半〜 夕暮れ酒場 / 19時半〜 お月見酒場 会費 5,555円(ワンドリンク、3〜4の小皿料理つき) 参加作家:志村和晃、花岡央(ヒロイグラススタジオ)、松浦コータロー、松本かおる 会場:渋谷 並木橋OLDHAUS ---- 5年周年を記念する今回のUTSU-WA? のテーマは、ずばり「⑤」です。 とりわけ、自然哲学の思想「五行」に着目しました。万物は「木・火・土・金・水」の5つの元素からなるという古代中国が発祥の思想です。木は燃えて火を生み、火は灰となり土に還り、土の中に金属が宿り、金属は凝固する際に水が生じ、木は水によって養われる。それらの相互作用は、どちらかが強くても弱くても成り立たず、バランスによって保たれる。 うつわも、陶磁器は土を燃やして生まれますし、それらを彩る釉薬は鉱物からなるもの。ガラス器の原料もまた主に鉱物や灰であり、火をくぐり水のような表情を生みだします。 そして火と水で作られる料理を、うつわに盛り木(テーブル)を挟んで楽しむUTSU-WA? は、毎回、さまざまな相互作用によって、新しい「和/輪」=「縁」が生まれています。だから今回の「⑤」は「ごえん」と読む「ご縁」の会です。うつわと食と「⑤」がもたらす新しい何かを、五臓と五感でご堪能ください。 * 詳細・お申し込み ↓ 夕暮れ酒場(16:30〜) http://9yugure.peatix.com/ お月見酒場(19:30〜) http://9otsukimi.peatix.com/
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UTSU-WA?のお客様に当日の体験をシェアしていただくwords of guest。
UTSU-WA? Vol.8 うつわと食とフリーダの会(2016年7月9・10日 開催)は、ファッションブランド「Le pivot」のデザイナー・小林かず未さんにレポートしていただきました。小林さん、実はUTSU-WA?Vol.1から参加してくださっている常連のお客様。会の趣旨に共感しいつも心から楽しんでくださいます。「この食事会は、五感で楽しめるわけだけど、その中の"触"の部分は、そこにいる人たちの素敵な気に触れることだなぁといつも思う」というお言葉に感激です。小林さん、ありがとうございます。

「UTSU-WA? Vol.8 うつわと食とフリーダの会」
UTSU-WA?という食事会にご一緒しませんか?とお誘いすると 「どういうこと?」「何?何?」となり、 HPの言葉を引用して趣旨を簡単に伝え、 「とにかく行ってみたら美味しくて素敵なので」と細かい説明をせずに、 感覚的に好きそうな方をお誘いして伺う。
そうすると帰りは必ず極上の笑顔が返ってくる。 なので、お誘いする段階でもう愉しみは始まっている。 私にとってUTSU-WA? はそんな食事会。
8回目の今回のテーマは、フリーダ。 そう聞くだけで、どんなキレイな色合いの料理なんだろう?とか、 作家さんはどんな人なんだろう? と妄想が膨らむ。 会場に一歩入ると、柔らかい笑顔と一緒に テーマに沿った会場作りが目に飛び込んできた。

シェフの雅代さんが用意したというメキシコの窓飾りや

こんな演出が天井にも。
席に着くと、今回参加されている作家さんのお皿が。



空をテーマにしたこのうつわの、何とも言えないブルー具合に早くも一目惚れ。 このブルーの配色は、狙って出来るというよりは一期一会。 希少な1枚を作った作家さんは神尾奈々さん。 スペインやイギリスで陶芸を学んだというエピソードを作家さんから直接伺うというのも、 この会ならではのところ。


この日もう一人いらしていた作家さんは、比留間郁美さん。 今回、フリーダをイメージして制作されたうつわはアートのようで、 比留間さんの作品は、その特徴のある絵付けが印象的だった。 服作りの仕事をしている私は、陶芸の世界にも転写シートがあることを初めて知った。

4人の作家さんとお料理のコラボ。 目で見て、味わってと、この食事会は、五感で楽しめるわけだけど、 その中の「触」の部分は、 そこにいる人たちの素敵な気に触れることだなぁといつも思う。

そしてフリーダのコスプレは誰もしてなかったけど、 ちょっとだけいつもと違う小物をお供に訪れたマダムたちがそこかしこに。

お料理に合わせたメキシコのワインも美味しかったなぁ……と、 余韻に浸る週明けのある日、次のテーマは何かしら?と、 予想をかるーく裏切られることも楽しみに、 もう次のお知らせを心待ちにするのだった。
——– 文・小林かず未(こばやしかずみ)
「Le pivot」デザイナー。
メーカーでデザイナーとして活躍ののち表参道にアトリエショップ「Le pivot」をオープン。素材への思い入れが強く、シンプルなデザインながら抜群に着心地の良い大人のための日常服を提案。多くのファンを持つ。 http://lepivot.jp
写真・米谷享
UTSU-WA? Vol.8 うつわと食とフリーダの会
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Series : うつわと。
陶芸家・神尾奈々さんのこと 文・衣奈彩子

作家のうつわに興味を持つようになった最初のきっかけは、色と形にひかれたことだった。それまで見ていた和食器は控えめな色味のものが多く、お皿や鉢は汁気のあるおかずでも盛りやすいよう大抵カーブを描いていた。しかし私たちのリアルな食生活は、もはや和食だけではない。パスタもパンもサラダもガパオライスも同じ頻度で食卓にのぼる。そうなると色はもっと自由でいいし、ワンプレートのごはんにはフラットなお皿が盛りやすい。というより、私たちの記憶の中にあるうつわの色や形がそうなりつつあるのだと思う。そういううつわがプロダクトではなく、作家さんが頭をひねり手間をかけて完成させた作品だということにひかれたのだった。陶芸家の神尾奈々さんのうつわもそのひとつ。


神尾さんは、イタリアやスペインのカラフルでやさしい陶器が好きでスペインに留学し、その後イギリスで陶芸を学んだ人。フラットなプレートや高台のないボウルなど洋皿のフォルムの食器や陶器のボトルを作っている。神尾さんいわく、ヨーロッパのもの作りは、日本のそれとは全く違うそう。あちらでは、課題を制作するにも最初にコンセプトをしっかりと立てることが大事。やろうと思ったことを貫き作品として表現できているかが評価の対象となる。大事なのは、他人の評価ではなくこうしたいという自己の意識ということ?

ヨーロッパでの学びを経て日本でうつわ作りを始めた神尾さん。「綺麗な色のうつわを提案したい」という思いのもと、さまざまな青いうつわを作り出す。ヨーロッパやアジア各国を旅する中で記憶に刻まれた海の青、空の青、その土地土地で見たいろんなブルー、釉薬を幾通りも調合することで生まれる深さも質感も違う青色を見ていると、自然の中なのか、大海原なのか、どこか大きな世界に吸い込まれていくような気持ちを覚えて心地いい。同じ釉薬でも、土を使い分けることで色味が変わり、窯焚きの状態によっても色の出方が異なるから同じものはできない。神尾さんは手作りの焼物が生み出す偶然のブルーというものを大切にしているのだ。インスタグラムを見ていると、彼女の作品をイタリアンにもアジアのごはんにも上手に使いこなしている人がたくさん。それを見るにつけ「自分はとにかく綺麗な色を出すことだけに注力しよう」とますます思うようになったという。使い方は、持ち主が自由に決めてくれればいい。そう思っている。

神奈川県横浜市にある工房にお邪魔すると、作業の場所だというのに女性陶芸家らしいおしゃれな空間。漆喰の壁を塗り、自作の陶器の破片を埋め込んで棚を作り(実はほとんどお父さんが!)、小さなテーブルを置いた。彼女が大好きな南ヨーロッパの食堂のような雰囲気で、奥からおいしい料理の匂いとマンマの声が聞こえてきそう。
「UTSU-WA?Vol.8 うつわと食とフリーダの会」では、神尾奈々さんのブルーのうつわを使用します。その他の作品も展示販売される予定です。

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Series:うつわと。
UTSU-WA?の開催に合わせメンバーの衣奈彩子が参加作家の紹介をしていきます。
陶芸家・比留間郁美さんのこと 文・衣奈彩子

陶芸家の比留間郁美さんと初めて出会ったのは、「UTSU-WA? Vol.2 うつわと食と茶の会」の参加作家としてお声がけをした時。あれから5年、彼女の作品は、年を重ねるごとに洗練され大人の女性が使いたいうつわに進化している。ライフスタイルショップやファッション関係のお店で作品の取り扱いが多い比留間さんは、陶芸家というよりアーティストの雰囲気。展示のテーマに合わせて毎回オリジナルな世界観を作り上げる。モチーフや色はその都度異なるけれど、共通しているのは絵画から出てきたような洋皿のフォルムと転写プリントによるファンタジー溢れる絵付け。転写プリントとは、草花や動物の絵柄のシールを使って、うつわに模様を転写し釉薬をかけて焼く技法で、おもに工業製品、つまり量産の食器の制作に使われるもの。比留間さんは、ある時、陶芸材料店で転写シールを見かけいつか何かに��おうとバラとトラのモチーフのシールを購入した。しかし、このシールを実際に使うのは、もうすこし後になってからのこと。

女子美術大学で陶芸を学んだ比留間さんは、学生時代から赤をテーマに花や心臓をモチーフにした急須のシリーズを作るなど、コンセプチュアルな作品づくりを得意としていた。卒業後は、信楽の陶芸の森で半年間制作。ここでの活動が、彼女の陶芸へアプローチをさらに進化させる。きっかけとなったのは、当時、ビエンナーレに合わせて来日していたフィンランドの陶芸家、タピオ・ウリ・ヴィーカリとの出会い。アラビアのアートデパートメント部門にいたこともあるこの年配の男性陶芸家は、その年齢に似合わず、陶芸の森の庭用にと、ピンクのドット柄のピクニックマットを陶器で作ると張り切った。結局その作品は失敗してしまったのだけれど、それも含めた彼のものづくりを見て比留間さんは思う。「陶芸って、もっともっと自由でいいんだ」と。

そう考えた比留間さんがその後発表した作品が、その名も「ピクニック」。ピクニックとはフランス語で「つまらないありきたりなもの(ピック)をつまんで集める(ニック)」という意味。この時ついに、以前手に入れたバラとトラの絵柄の転写シールが活躍する。展示会「ピクニック」は、工業製品の食器をありきたりなものと捉え、それに使用する転写シールをありきたりではない彼女なりのアイデアで、うつわにコラージュするというコンセプチュアルな展示になった。この展示をきっかけに、転写プリントを手作りの陶器に自分の手でコラージュすることにのめりこんだ比留間さん。独自の作風がどんどん生まれていった。草花やフルーツ、猫や鳥などの動物、中世の人々など、ヨーロッパのアンティーク皿に描かれているようなモチーフを選び配置するコラージュは、比留間さんならではの間合いがあって、ちょっとシュール。


比留間さんは、最近、奈良市の中心地から東吉野の村に引越しをした。移住に際し、出会った物件は、グリーンの玄関とピンクの壁の部屋が迎えるなんとも彼女らしいもの。川と山に囲まれたのんびりとした場所から、日本の土を材料に、一度使ったら癖になる可愛らしい洋皿が次々に生まれている。
「UTSU-WA?Vol.8 うつわと食とフリーダの会」では、比留間郁美さんがフリーダをイメージして制作したうつわを使用します。その他の作品も展示販売される予定です。


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Series : うつわと。
UTSU-WA? Vol.8の開催に合わせメンバーの衣奈彩子が参加作家の紹介をしていきます。
陶芸家・木村香菜子さんのこと 文・衣奈彩子
数年前、ある人気陶芸家の工房を取材で訪ねたときのこと。倉庫を利用した大きな仕事場の、彼とは反対側のスペースに、きれいな色のお皿がちらほら並んでいるのを見つけた。聞くと奥様で同じく陶芸家の木村香菜子さんの作品だという。しばらくして二度目にお邪魔した時にも、工房の同じ場所に、今度はマグカップやポットがあって可愛かった。しかしこの日もご本人とはあまりお話できず……。この度、三度目の工房訪問にして晴れて木村さんにお話を聞くことができた。だんな様は、陶芸家の大江憲一さん。岐阜県瑞浪市で、2歳と生まれたばかりの女の子を育てながら、夫婦それぞれに毎日の食卓で使える普段使いのうつわを作っている。


木村さんが手がけるのは、リム皿、オーバル皿、ボウル、カップやポットといった洋皿のフォルムのうつわ。一見、プロダクトのように精巧な作りをしているけれど、そこはなんといっても陶芸家の手作り。ひとつとして同じものはなく、可愛らしいゆがみのあるものや、色の濃淡が美しいものなど、人の手の跡が感じられてなんともあったかい。うつわの手触りやパステルカラーの色味のせいもあるけれど、そのあたたかさの源は、木村さんの使う人を思う気持ちにあるのだと思う。

東京造形大学でプロダクトデザインを学んでいた頃、たまたま募集のあった磁器の産地・長崎県波佐見町のプロジェクトで、地元の職人さんに焼物のノウハウを教わりつつ作品を作り上げる機会に恵まれた木村さん。一見するとシンプルな白磁のフリーカップを計画したが、その底には、飲み進めるにつれ三日月が顔を出すというなんとも微笑ましい仕掛けが。カップの底にお月様型のくぼみを配置したデザインは、初心者が作るには複雑で、職人さんをうならせたと言うが、木村さんは、最後まで諦めずに形にした。そういう経験を経て、ものづくりをするならばデザインをするだけでなく、自分が考えた理想の形を自分の手で作品にすることを生業にしたいとそのまま陶芸の道へ。多治見の陶磁器意匠研究所を経て独立した。

波佐見で作ったフリーカップのように、使うことで人を楽しませ笑顔にするうつわを作りたいという気持ちが、いつも心にあるのだろう。木村さんは、心が和む綺麗な色のうつわを人々に届けたいと釉薬の研究に余念がない。パステルカラーひとつとっても、色の濃さをどうするか、マットにするか、ツヤのあるもののほうが良いのか細かく検証していくし、色にインスパイアされて形が浮かぶこともあるという。琺瑯のようなブルーは、その質感に合わせて、文字通り琺瑯のポットやマグカップのような作品に仕上げた。スープやパスタ、サラダにコーヒー。洋風の献立に使える手作りのうつわは、私たちの食生活にピタリとはまり、食事を楽しくしてくれる。


「UTSU-WA?Vol.8 うつわと食とフリーダの会」では、木村香菜子さんのうつわを使用します。その他の作品も展示販売される予定です。
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Series:うつわと。
UTSU-WA?の開催に合わせメンバーの衣奈彩子が参加作家の紹介をしていきます。
陶芸家・松本かおるさんのこと 文・衣奈彩子

土ってこんなにやさしい色をしているんだ——。そう感じたのは、陶芸家の松本かおるさんの作品を両手のひらに包んだ時だった。陶器というものが、土から生まれるということはもちろん知っていたのだけれど、その当たり前のことに、初めてちゃんと気づかされたような初々しい気持ちになったのである。目の前にいくつかあったボウルは、ひ��つひとつ色味が違って、肌色に近かったり、オレンジが強かったり。そうした色の違いは、土の成分によるという。うつわを通して、土と戯れているような感覚を得てなんともいえず心地よかった。

松本さん��、陶芸家を意識するようになったはじめのころから、プリミティブな古代の焼物に興味があったという。ファッションブランドのプレスやレストランのPRという華やかな仕事に就いていた彼女は、忙しくも楽しい毎日を送っていたが、趣味で始めていた陶芸が思いのほか面白く、本格的に取り組んでみたいと思ってしまった。そこで仕事を辞めてしまうというのが、松本さんのすごいところ。焼物の学校に入るため猛勉強をし、会社を辞めてすぐの春には、岡山県にある備前焼の町に住んでいた。
焼物を志すにあたり選んだ焼物が備前焼というのが、また面白い。備前といえば、日本の六古窯のひとつで、炎の流れを感じるような力強い雰囲気の壺や花器、使うほどに味わい深く育っていく酒器などの焼物で知られる。ファッションや食の最先端にいた女性が一番に飛びつく焼物とはちょっと考えにくいが、よ���聞いてみると松本さんは最初から、力強い緋色や渋さではなく、備前焼のなんともやわらかい土の色にひかれていたのだそう。この土のやさしさとテクスチャーを持ってすれば、きめ細やかでスムースなモダンなうつわを作れるのではないか。伝統的な備前焼を東京出身の女性らしい現代的な視点で捉えていたのである。陶芸の学校で学んだあと、弟子入りしたのも、モダンな備前焼を手がける星正幸さんだった。シンプルな形に土の色を閉じ込めるような星さんのうつわ作り。すべて手作業で原土を砕き不純物を取り除いて土を作るところから、一年に一度、二週間に渡って行われる薪窯の窯焚きまでを手伝う中で学んだのは、ひとつひとつの工程をサボることなく、丁寧に積み上げていくことで生まれるものの素晴らしさだった。

釉薬をかけずに焼く「焼締め」と呼ばれる備前焼は、同じ土を使っても焼き方によって、黒くいぶしたようにも、土の色そのままに仕上げることもできる。土の魅力をどう生かしうつわとして人に伝えるのか、考えるのは人である。陶芸家を志してからもうすぐ10年。松本さんはいま、備前の土のやわらかな表情を作品に表現すべく奮闘している。その柔らかさを受け止めるのは、女性でも使いやすく現代の食卓にあうフォルム。薄くて軽いプレートや手に包むだけであったかさを感じるボウル、口触りのいいマグカップなど、女性陶芸家・松本かおるさんの手だからこそ生まれるうつわを追求している。


取材のとき、彼女の腕には、焼き方によっての異なる粘土の玉を連ねた可愛らしいバングルが。伝統の備前焼をもっと知ってほしい、使ってほしい。松本さんの想いは深い。
「UTSU-WA?Vol.8 うつわと食とフリーダの会」では、松本かおるさんの備前焼を使用します。その他の作品も展示販売される予定です。
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うつわと食と夜饗の会 2015.12.5 Sat & 6 Sun
「夜饗」饗〈キョウ、アエ〉:ごちそう、もてなし 饗〈ニエ〉す:その年の新穀を神に供えること
東京での開催は 2 年ぶりとなる UTSU-WA? Vol.7 のテーマは「夜饗」。いわゆる「晩餐会」を UTSU-WA? なりの言葉におきかえてみました。“ 饗 ” は食物を介して、感謝の気持ちを伝えたり、想いを表したりすること。神さまと人をつないだり、人と人とをつないだり。みなさんを “もてなす ” のは、絵柄や色ガラスのにぎやかなうつわに、アジアのお祭りや夜市を意識したパワフルで楽しい料理、そして……。今では日常のようになってしまった“ごちそう”が本来もつ力を、一年のしめくくりに、あらためて感じてみるのはどうでしょう?
前菜 あん肝 インチャン檸檬 特製辣油 木の芽 甘海老の紹興酒漬け 赤貝ととり貝のソムタム
スープ 丸鷄の薬膳スープ
メイン 豚肉のココナツミルク煮込み レモングラス 雪菜
デザート ココナツミルクスープ 安納芋 柿 小豆
参加作家 志村和晃 鈴木陽子 花岡央(ヒロイグラススタジオ) 松浦コータロー
ーUTSU-WA?Vol.7 レポート
ーUTSU-WA? Vol.7のおもてなし
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Series:うつわと。
UTSU-WA? Vol.7 うつわと食と夜饗の会で使わせていただいた染付と色絵のうつわを紹介します。染付は、茶事などでは夏に用いられることが多いうつわです。前回紹介したガラス同様、日本の歳時記においては、これからの季節におすすめしたい食器でもあるのです。

アジアの祝祭をイメージしたUTSU-WA?Vol.8 うつわと食と夜饗の会では、染付にアジアの料理を盛り付けることも楽しみのひとつでした。志村和晃さんの染付のモチーフは、ベトナム。

呉須という青い顔料で絵をつけた染付や赤やピンクなどさまざまな色で絵を施す色絵と呼ばれるうつわは、磁器でできていることが多いです。磁器は、いまから400年前の1616年ごろに、朝鮮から日本に伝わったとされています。日本に伝わった磁器は、東インド会社による貿易を経て、ここからヨーロッパに伝わっていきました。

そういった経緯を考えたとき、アジアとヨーロッパをうつわでつないだ経由地の日本で、晩餐会というパーティ形式+染付+アジア料理を合わせ、歴史と文化と風土が混沌と混じりあう様子を提案したい!とディレクションしたイベントでした。和食器の王道ともいえる染付、色絵は、私たちが大好きなエスニックや中華系のお料理を華やかに見せながら、どこかに神聖でフォーマルな雰囲気を漂わせてくれ、よい晩餐になりました。

松浦コータローさんがスープとデザートのために提案してくれたうつわは、インドの更紗模様をイメージしています。

新作のレンゲもたくさん。

鈴木陽子さんのお碗に色絵同士を合わせると、どちらの模様も気になってうつわをじっくり味わうきっかけにもなったのではないかと思います。

松浦コータローさんの作品。

鈴木陽子さんは、染付と赤絵と銀彩を。

志村和晃さんは、さまざまな形の染付で楽しませてくれました。
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Series:うつわと。
UTSU-WA? Vol.7 うつわと食と夜饗の会で使わせていただいたガラス作家・花岡央さんのうつわをご紹介します。初夏を迎えるこれからの季節にもおすすめしたい色ガラスの世界。

花岡央(はなおか・ひろい)さんは、ヒロイグラススタジオという工房を持ち岡山県で活動をしています。Vol.7では、お水にもお茶にもお酒にも(きっとワインにも!)カジュアルに使えるタンブラーを作ってくださいました。
花岡さんの経歴や工房の様子はこちら↓
「ガラス作家・花岡央(ヒロイグラススタジオ)さんのこと」

色ガラスは、時にライトのように食卓を照らしてくれます。アジアの晩餐をテーマにしつらえた食事会では、ネイビーのクロスを敷いたテーブルを行灯のように照らしてくれるガラス器をしつらえたいと考えました。そこで花岡さんにご相談。

さらに! 日本酒やアジアのお酒を飲むときのイメージにあったのがギリギリまでお酒を注いで楽しめるグラス。そこで容量は少なめ。他の3作家さんの小皿を受け皿に。このグラスには、モロッコグラスのようなイメージもあり、銀彩や蓮の葉型の小皿を合わせました。いやはや、受け皿を置くとなんとも可愛らしい。

容量は、約100ml。日本酒ならたっぷり、お水なら軽く一杯。普段使いによいサイズです。

花岡さんのこの作品は、定番のrenというシリーズ。日本の格子戸にインスピレーションを得て、独自に編み出した技法で作られています。花岡さんは、岡山県の備前市という焼物の町で育ち、一度は陶芸家を志すもガラスに転身。陶芸は、地元の土などその土地で制作する意味を感じられますが、ガラスの原料には土地らしさはとくにありません。花岡さんは、格子という日本の意匠を意識することで、自分がいる場所でしか作れない日本のガラスを提案していきたいと思っているといいます。

同じくren シリーズのボウル。ガラスは夏のうつわと思いがちですが、合わせるものによって一年中素敵に使える。そんな提案もしたくて、今回は、温かいスープと冷たいデザートの両方に使いました。耐熱ガラスではありませんが、花岡さんによると、ガラスの特性として40度くらいまでの温度差には耐えられるとのこと。冬場であれば、使用前に事前に30度くらい、60度くらいと二段階でお湯をはり、あたためておく。もしくは、使用前にしばらくぬるま湯にひたしておくと、温かいものをいれるにも温度差が少なくなるので、熱々のスープをもりつけても割れにくいとのこと。

Vol.7の開催は冬でしたので、どうしても陶器と合わせたく。こちらはデザートですが、松浦コータローさんのお皿とともに。家でもガラスのこんな使い方、いかがでしょうか。
Vol.7の献立はこちら→「UTSU-WA? Vol.7うつわと食と夜饗の会」
ヒロイグラススタジオ http://www.hiroyglass.com

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Series:うつわと。
UTSU-WA?では、作家のみなさんに会のテーマを意識したうつわを提案していただいています。Vol.7 うつわの食と夜饗の会のうつわを振り返ります。
テーブルセッティングはおもてなしのはじまり。夜饗=UTSU-WA?流の晩餐会をテーマに4人の作家さんのうつわでお迎えします。浅鉢にスープボウルを重ねて。

志村和晃さん(浅鉢、スープボウル)

鈴木陽子さん(浅鉢、スープボウル)

松浦コータローさん(浅鉢、スープボウル、レンゲ)

ヒロイグラススタジオ 花岡央さん(スープボウル、グラス)

グラスは花岡央さん、カトラリーレストは鈴木陽子さん、レンゲは松浦コータローさん、グラスの小皿は4作家のものをランダムに組み合わせます。
饗とは〈キョウ、アエ〉=ごちそう、もてなし 、〈ニエ〉す=その年の新穀を神に供えること。食物を介して感謝の気持ちや想いを伝えたり、神様とつながるという意味もあります。 人と人を結びつける水引や縁起のいいグリーンや花は、今夜この場に集うみなさんに良き縁やつながりが訪れることを願って。



写真・米谷享
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UTSU-WA?のお客様に当日の体験をシェアしていただくwords of guest。
UTSU-WA? Vol.7 うつわと食と夜饗の会(2015年12月5・6日 開催)は、フードプランナーで「さいころ食堂」主宰の大皿彩子さんにレポートしていただきました。UTSU-WA?に初めて参加された大皿さん。作家と交わりながら「お皿を彩る」という体験を、ご自身の名前にも重ね合わせ感じ入ってくださったよう。うつわが繋ぐ料理と人の輪、和みの時間を満喫していただけてとても嬉しいです。

「UTSU-WA? Vol.7 うつわと食と夜饗の会」
作家さんと一緒に料理とワインを堪能し、 うつわと存分に戯れる時間。 初めての体験だった。
宴の開始直後、 前菜を自分で盛りつけるという演出で わたしは、一つの皿に夢中になった。

真紅の平鉢。
その色は、 記憶の中にある、淑女の口紅だった。 上品な色気に、手がのびた。
片手ですっと持ち上がるちょうどいい質量、 スリムだけど安心して触れられるふくよかさ、 うっとりする腰の曲線。
きっと、料理とともに完成した一皿を目にしただけでは これほどの魅力に、気がつけなかった。
食べる前から高揚する食事会、 なんて新鮮なんだろう。

幸運にも、真紅の平鉢をつくられた鈴木陽子さんと 同じ食卓を囲むことができた。
陽子さんは、お名前のとおり陽だまりのような方だった。
千葉県我孫子の工房での日常は、 するすると絵付けをしている様子を ひょっこり見にくるおばあちゃんの事など、 のんびり温かいエピソードばかりだった。

また、うつわのことを何も知らないわたしたちへ 技法を丁寧に説明してくれた。
パンが大好きでパンに関わる仕事をしているわたしは 陽子さんのお話を聞きながら、勝手に、 パン職人と近いパッションを感じていた。
パン職人は、料理人でもあり、 酵素や酵母という不確かな生き物と仲良くする醸造家だと思っているが、 うつわ作家さんも、
土や炎の生み出す不確かさを昇華させている。 何100年も残る形にして。
あぁ、かっこいい。
体力的にも厳しいであろう職人作業のことを ニコニコしながら楽しそうに話してくれた陽子さん。
このやさしい笑顔も、 窯焚きの最中はドキドキ緊張するのかな、 念を送ったりするのかな。
もういちど、手元のうつわを撫でた。
この日のお料理は、 見た目も香りも味も艶やかで素晴らしかった。


お料理が乗った全てのうつわが、 血が通ったように、生き生きしていた。 「お皿を彩る」とはこういうことか、と思った。
次回の「UTSU-WA?」には誰を誘おうかな。 大切な友や先輩の顔を思い浮かべてワクワクする。
「食事のお誘いじゃないよ、 “うつわ” のLIVEに行きませんか? 魂のこもったうつわを、目で、肌で、耳で、 それに、とびきりの味で���しめるの!」
と口説こうと思う。

-------- 文・大皿彩子(おおさらさいこ)
(株)さいころ食堂 / フードプランナー
メニュー開発や料理イベントなど食のプロデュースを行う。 アイディアでみんなを楽しくする”おいしい企画家”。 saikolo.jp
写真・米谷享
UTSU-WA? Vol.7 うつわと食と夜饗の会 詳細はこちら
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Series:うつわと。
UTSU-WA?の開催に合わせメンバーの衣奈彩子が参加作家の紹介をしていきます。
陶芸家・松浦コータローさんのこと 文・衣奈彩子

数年前、京都のうつわ店で買い求めた安南手(あんなんで)の小皿が好きで、その作り手のことがずっと気になっていた。安南手というのは、ベトナム(安南)の絵付け陶磁器のことをいい、ざっくりとした土の風合いとちょっとラフな絵柄に大陸的な大らかさを感じる焼き物。私が手にした小皿も、ややグレーがかった陶肌に小さな花々がふんわりと描かれていたが、ひかれた一番の理由は、筆のタッチがいわゆる安南手より繊細で軽やかだったからだ。作者は、松浦コータローさんという日本の若手陶芸家。京都で作陶しているという。現代作家のフィルターを通したベトナム陶器の面白さを感じ、お恥ずかしながら「すごくいい!」と店頭でひとり、唸ったものだ。それから1年は経っただろうか、ある東京のうつわ店のDMに松浦さんの名前を見つけ、その後も展示に通ううち、念願叶ってこの気になる陶芸家に会うことができた。 そのときの展示会では、赤の線が目立つ紅安南手(べにあんなんで)の碗にとてもひかれた。植物の茎や葉が絡み合うように描かれ生命感あふれる構図に、さらりとしたタッチで描き加えられた赤い線は、極々細くはかないのに、存在感がある。松浦さんは、京都の京焼の窯元で絵付け師として7年間勤め技術を身につけたが、京焼のようなハレのうつわもよいが“毎日使える絵付けのうつわ”を作りたいと、仕事の傍ら作品づくりを始めると、長い時間をかけて指先に刻み込んだ精密な絵付けの技術は、どんな構図もモチーフも自分の思うままに表現できるスキルとして、作家・松浦コータローの強みとなった。繊細なのに力のある筆のタッチの秘密はそこにある。いまは独立し、古伊万里や中国のモチーフをアレンジした染付の磁器とふんわりとやさしい安南手の陶器の両方を手がけている。そもそも安南手は、ベトナムの土や釉薬が日本の焼き物ほど完璧でないことから大らかな雰囲気を醸し出す。松浦さんは、その完璧ではないところに作家として工夫を施す喜びを感じ、日本人としての感性を全開にして取り組んでいる。



松浦コータローさんのろくろは、ゆっくりとまわる。土を成形するときのろくろもそうだが、とくに削りのときのろくろは、他の人に比べてずいぶんとゆっくり。自分にあったそのペースで丁寧に削ることで、より軽く繊細なうつわができると思うと力が入る。得意の絵付けも去ることながら、土や釉薬の配合にはとくにこだわる。同じ絵の具で同じ絵を描いても、材料の配合やそれぞれの組み合わせによって仕上がりの雰囲気は何通りにもなる。骨董品の染付や安南手に宿るしっとりとした美しさ。真っ白ではない奥行きのある白。京都で古いものに親しみながら憧れた理想の焼き物を目指して、日々、研究と制作に没頭している。その工房は、滋賀県大津市の、とある丘のほぼてっぺん、丘の反対側に比叡山を望む最高のロケーション。夕日がすっかり落ちても、作業はずっと続いていた。
「UTSU-WA?Vol.7 うつわと食と夜饗の会」では、松浦コータローさんの安南手のうつわを使用します。その他の作品も展示販売される予定です。



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Series:うつわと。
UTSU-WA?の開催に合わせメンバーの衣奈彩子が参加作家の紹介をしていきます。
ガラス作家・花岡央さんのこと 文・衣奈彩子

工芸品やテーブルウェアを扱うライターという仕事柄、ガラスは「涼しげで爽やかで夏に買い揃えたいアイテム」というような原稿をこれまで何度も書いてきた。しかしあるとき気がついた。夏だけでなく秋や冬の時期のテーブルに合うガラス器もあるよねと。そうした目を開かせてくれた工芸家のひとりがヒロイグラススタジオの花岡央(ハナオカヒロイ)さんだった。 ヒロイさんが作るRenシリーズのガラスは、四季を連想させる色を持っている。チェリーのような赤、海の底のようなコバルトブルー、木の葉のブラウン、そしてスノーホワイト。その季節に合う色のガラスが欲しくなる楽しさは、ネイルサロンで色を選ぶときの高揚感に似ているといったら作り手に怒られるだろうか。しかし、うつわとして使う以前にとにかく所有したくなる色、ぐっと心をつかむガラス器であることは間違いないのだ。スリットのあるデザインが懐かしさを感じさせ、心の奥をあったかくすることも手をのばしたくなる理由かもしれない。たくさんある色の中で私がいつも目を奪われるのは可愛らしい赤。なのに、実際に自分の生活に合うと思うのはシックなブラウンやグリーンだったりする。理想と現実のはざ間で揺れちゃうみたいなそういう迷い方は服選びにも似ていて、リアルなもの選びがまた楽しい。自分との関係性を大切に選びたくなるガラスである。そしてもちろん、料理がすこぶる映えるガラスでもある。 GRICEという薄いブルーのシリーズも、ヒロイグラススタジオでしか生まれ得ない作品だ。ヒロイさんの実家の家業はお米作りなのだけれど、GRICEは、手をかけて作ったそのお米を焼いて粉状にしガラスに混ぜることでブルーに発色する。ご家族がお米作りに込めたさまざまな想いが、ヒロイさんのガラスを優しくて澄みわたるブルーに染めているとしたら、なんと心あたたまる話だろう。いいお話が続々と出てくる工房なのである。




花岡央さんは、岡山県の備前市にヒロイグラススタジオを構える。備前焼で知られる地域に育ったヒロイさんは、ごく自然に焼物に携わろうと考え倉敷の芸術科学大学に進学したが、一年生のときに体験したガラスにはまりあっさりと進路変更。同大学で倉敷ガラスの創始者・小谷真三氏に師事する。小谷先生は、濱田庄司や河井寛次郎らとも交流があった人物だが、学生には「これからの作り手は、民芸思想に代表される無名の職人性を重んじるよりも、作家性を重視しながら暮らしの役に立つものを作り生計をたてて欲しい」と諭したという。その後、ガラス作家・辻野剛氏のガラス工房frescoに入社したヒロイさんは、師匠の指揮のもと商品開発の段階から制作に関わるようになり、作品のオリジナリティはもとより、誰にどう届けたいかまで見据えてものづくりをする醍醐味を味わった。ヒロイさんにこの話を聞いて、彼が学びと経験を生かし独立して間もなく生み出したRenシリーズが、受け取るこちらの心を高揚させる理由がよくわかった。
「UTSU-WA?Vol.7 うつわと食と夜饗の会」では、花岡央さんのグラスやボウルを使用します。その他の作品も展示販売される予定です。



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Series :うつわと。
UTSU-WA?の開催に合わせメンバーの衣奈彩子が参加作家の紹介をしていきます。
陶芸家・鈴木陽子さんのこと 文・衣奈彩子

真紅の平鉢ーーーー。それはこれまで見たことのない和食器だった。手がけたのは、陶芸家の鈴木陽子さん。セクシーな雰囲気すらあるこの深い赤色は、磁器の絵付けに使われる赤絵の具をうつわの全面にベタ塗りするという新しい発想から生まれた。京都の伝統工芸の学校で基礎を学んだという彼女がたどり着いた絶対的なオリジナリティにどきどきした。こうしたとらわれのない自由な表現こそが、ヨーコちゃんの持ち味である。ヨーコちゃん(出会ったのがもうずいぶん前なので、親しみをこめてそう呼ばせてもらっている)の仕事は、おもに、染付、色絵、銀彩の磁器。5年ほど前までは土もののうつわを作っていたが、ふと気持ちが変わり、初めて磁器に取り組んで出品したグループ展にたまたま私が立ち寄った。それ以来のご縁。私はそのとき、お茶碗のふちやお皿のリムに沿ってストライプの線を数本描いただけのシンプルな和食器にひかれた。ろくろを回しながらさらりとひくと言っていたその線には「染付や色絵はこうでなくては」という気負いがぜんぜんなくてとてもモダンだった。京都の学校では「持ったときにすこし軽めだと感じるくらいのものが、いいうつわだ」と教えられたそうで、うつわとしてきちんとした形や使いやすい重さだったことにも好感が持てた。 その後も個展に足を運ぶと、雪輪紋という日本の伝統的な文様で、なんと磁器のバターケースが作られていたり(いまや人気商品)、箸置きを応用した色絵のカトラリーレストが生まれていたり、和洋中の食事が入り混じる私たちのリアルな生活で使いたいアイテムが、伝統の技法や絵付けで作られていった。真紅の平鉢もそのひとつである。「UTSU-WA?Vol.5うつわと食と薫りの会」で中近東のフムスやサラダを盛り付けたときには、このうつわが内包するエキゾチックな側面が引き出されて、美しかった。
photo:Naoko Nozu



鈴木陽子さんは、千葉県の我孫子市で作陶している。一軒家の一階を仕事場、二階を住居スペースとしていて、玄関では、染付の表札「すずき」が迎える。染付とは、素焼きした生地にコバルトという藍色の絵の具で絵を描き釉薬をかけて本焼きをするもので「下絵付け」とよばれ、対して、赤絵や色絵は、素焼きして釉薬をかけ本焼きをしたあとに絵を描き、もう一度焼き付けるもので「上絵付け」とよばれる技法だが、ヨーコちゃんが取り組む染付も色絵も、このように工程がとても多く、量産の産地では分業制で作られるもの。それを作家が一人でやるにはかなりの手間がかかるけれど、その分、オリジナリティのある作品を追求できるところが気に入っているという。 この日、私は初めて色絵(つまり上絵付け)の作業を見せてもらった。絵の具にはあらかじめ布海苔(ふ���り・海藻由来の糊)を混ぜ、生地には膠(にかわ・動物由来のゼラチン質の接着剤)を塗る。これは、本焼きしたつるつるの磁器に施す絵付けがはがれないための先人の知恵。ヨーコちゃんは、生地にフリーハンドで下書きをし、絵の具の筆に持ち替えさらさらと描いていく。好きなアンティークの染付や古い有田焼の文様を参考にした図案はもう頭の中にあるので、あとはあまり決め込みすぎずに手の勢いや流れにまかせて描く。軽やかに進む作業に、気負わないから欲しくなるヨーコちゃんのうつわのルーツを垣間見た。
「UTSU-WA?Vol.7 うつわと食と夜饗の会」では、鈴木陽子さんの染付、色絵、銀彩のうつわを使用します。その他の作品も展示販売される予定です。



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