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彼のご両親が優しい。どうやっても返しきれない。決して否定せずに話を聞いてくれる、結婚しないの、とか言わず、ただただ、見守ってくれている。私の若さ、いやさ、幼さをも、ひとりの人間として接してくれる。

この日は彼のお父さんの誕生日を祝った。どうか、いつまでもアクティブで、けれども家族に心配かけない程度にね。ろうそくに火を灯す。その瞬間は彼は不在で、私は若干の居心地の悪さと、仲間に入れてもらえた実感でそわそわしつつ、ハッピーバースデーを歌う。ディア…お父さん…そこは口ごもり、拍手する。一息でろうそくは消えた。

小ぶりのホールケーキを4人で食べる。彼のお父さんの分が一番大きい。それがまた、見ていて嬉しかった。

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体の毛が気になるのでどうにかしたいのだと、初めて母に訴えたときがあった。太くて密な私の体毛は、私の性格柄、からかわれることはなかったものの、いわゆる「いじられキャラ」の友人が、ボーボーだと笑われてるのを隣で聞いておびえていた。

どのようにして母が認めてくれたのかはわからない。でもきっと抵抗があっただろうな。もし、私に娘がいたら、なんて想像すると、きっと、幼く柔らかい肌を傷つけることは恐ろしいだろうな。毛なんて関係ないとか、見当違いなことを言ってしまいそうだな。

ずるずると思い出すのは中学生の頃の記憶。母に内緒でYahoo!ブログを綴っていた。撮った写真と、たわいもないできごとの話。それでも投稿すれば読んでくれる人がいて、コミュニティができて、そのとき文章の上手い下手なんか考えていなかった。ただ写真を見てほしくて、楽しくてやっていた。

そうやって今も書けばいいのだと思う。まとまらない文章で、何が言いたいのかわからないことを書けばいい。結局、秘密にしていられなくて泣きながら、ブログを書いている、黙ってやってごめんなさい、と打ち明けた私はつくづく馬鹿真面目だなあと、あの頃の私を愛おしくも思う。

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実家からの帰り道、後ろ髪を引かれて泣きそうだ。あんなに辛くて憎くて、半ば家出するように離れたのに。兄が京都のお土産を買ってくれていた。思えば昔からそういう人だった。お土産サンキューと言うと、んー、とだけ返ってくる。感情表現が薄いけど、やさしい人。兄はカメラが趣味で、こもってプレステやってて、美術と歴史に詳しくて、フランス留学して…今なら聞きたいことがいっぱいあるのに、実家を出る前はそれら全てが、呑気に生きている人間に見えて、許せなかった。私はこんなにも必死なのにと。無視、嫌味の日々で顔も見たくなかった。時間と距離が解決すると言うのは本当だね。蓄積されたわだかまりは簡単には消えないけれど、今日、またひとつほぐれた気がする。新しく買ったカメラを見せる。軽いよと渡す。兄が自室からバズーカみたいなカメラをもってくる。母も会話に加わる。ようやく兄妹に戻れた日。

伏見稲荷のしあわせ白狐おまもり。

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アンガーマネジメント、と心の中で唱えて、深呼吸する。それでもなぜ怒ってはいけないのか、というより、怒ってはいけないと思うに至っているのか、納得いかない。感情のままぶつけないくらいには成長できたのかもしれないけど、所在ない私の本音よ。一度自室にこもる。書いて落ち着く。「あなたのためにやったのに」なんて、全く実にならないとわかっていても何度も繰り返している。私はおかしいのだろうかと、たびたび思う。

ぜんぶ本の話、の中で池澤春菜が「書くことで自分を守ることができた。」「ずっと断末魔みたいな叫びを書き綴っていました。」「書くこという逃げ場がなかったら、取り返しのつかないことになっていたと思う。」と語っていて、それだ、と思った。

３年前、こんなに文章を(量的に)書けていたのかと自分で驚く。それくらい切羽詰まっていた。書くことでの発散に立ち返る。

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丁寧な暮らし、というワードが皮肉めいて聞こえるのはわたしだけでしょうか。毎日ストレッチすること、筋トレすること、自分の服を自分で洗濯して、食べるものをこしらえて、掃除して、ゴミを出して…。

"日常の些事であっても、そういうひとつひとつを拠として私はなんとか無事に日々を送ってきたのだ。"

取るに足らない日常の些事。自分が心地よくいられるように物事をこなすことによって、生きていることを感じられる。それは丁寧に暮らすというよりも、切実な、生きていけるようにという祈りに近いと思う。

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わたしが、いちばん、と言っていいほど、大事にしている信条が台詞として語られていて、改めて忘れちゃいけないことだなあと、また見つめ直す。

大事なひとの幸せを願うこと、自分自身の幸せを求めること。だれかを幸せにできるなんて傲慢か。他人の考えていることなんか全部わかるわけなくて、その人といることがわたしにとっての幸せだから、わたしの気持ちは嘘じゃないから。たしか、こんなようなことを角田光代さんもおっしゃっていた。

サトウさん…わたしもだよ…ジェットコースターに乗せられちゃった気分だよ…

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作家さんたちは、特別な日を過ごしてるわけじゃなくても、見てる景色、感じることの解像度みたいな、ざるの網目の細かさみたいなものが違うのかなと、エッセイ読むたびに思う。

たくさん感じていたい。感情いっぱいでいたい。

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再読。

前に読んだときの感想で、そらんじられるような詩と出会いたいとか言ってた気がするけど、そういえばわたしにもおまじないのように唱えてきた一節があったじゃん。

共感と理解は全然違うよなあ。

同じことを考えてたとわかれば、そりゃあ、湧き立つ喜びがあって、わたしなんかは、すごい早口で喋りだしてしまう。

けど、過度に共感を重視すると、むしろずれていくんじゃないか。全く同じってことはない。

わたしの目、わたしの感情。

だれかの目、だれかの感情。

全く同じことはないから、すごく似てると嬉しいのかなあ〜。共感できなくても理解できなくても、受け入れることができたらと、おもうね。

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いままでかなり意気込んで臨んでいたtumblerだけど、もうすこし気楽にでもいいから、感想とか思い浮かんだこととか残しておこうと思ってまた書いてみる。

「夜は短し歩けよ乙女」の続編？ということで、積読から引っ張り出した。森見登美彦は音読したくなる文体なので、ぶつぶつ唱えながら読んだ。SFに分類されるのかな、パラレルワールドかな。生きてると大小問わず選択の連続で、もしあっちを選んでいたら、あれしてれば、なんて、たらればをいくらでも想像できてしまう。でも、どっちを選んでも、いまと大して変わらないんだろうな���いう気もする。伊坂幸太郎の本でもそんなこと言ってたな。「終��のフール」だったかな。たしか伊坂の「PK」では、ゴキブリ１匹を始末するかしないかで未来が変わっていたけど、大きなどーんとした選択よりも、どちらかと言えばそんなささいな、一瞬のことでゆるやかに変化してるのかな。

まあ、ここに存在するわたしが生きてる世界A？以外のことは知らないし考えてもしょうがないけど、意味のないことを想像してみるのもおもしろいよなあ。

"何より、恐るべき想像ではあるが、いずれの道を選んでいても小津とは出会っていたのではないか。小津の言う通り、我々は運命の黒い糸で結ばれているということだ。"

運命というもので、だれかとわたしが関係をもつことが既に決まっていたとしても、わたしが生きてる中でちょっとでも関わりあえたひととのご縁は、とんでもなくありがたいものだと思うのよ。

そういえば装丁が中村祐介ではなかった！

2020.09.30

[uunrr]

気になるからと買った本は、そのまま半年くらい放置されていた。正しくは、数ページ読んで、違うなと感じて読み進められなかった。

周囲からどう思われるか、あまりにも気にしすぎている主人公にいらいらしたから、序盤であきらめた。でも時間が経って、なんとなくまた開いたら、そのいらいらの正体がわかった。わたしが、家族に対して抱いた感情と似てるんだ。「うちはうち、よそはよそ」と言いながら、外ではおどおどし、みっともないと思われないか、社会的に"正しい行いなのか、よそを気にしているのが滲み出ていて、そばにいるのが恥ずかしかった。そのくせ家では、政治の非難やひとに対する文句が出てくる出てくる。そんな家族がいまでも嫌いだ。同じようにはなるまい。そうおもいながらも、ひとの目を気にする癖は、確実に植えつけられていて、生まれや育ちに憤っていた。悔しかった。最近は、周りにどう思われるかより、じぶんが好きだとおもう服を着ることに楽しさをおぼえて、過度に周りを気にすることが減った。だから、こうやってなんでもないように書けるようになった。

いらだちは、読み進めるにつれて、共感を呼んだ。その感情を知っているから、いまのじぶんを客観視することになり、胸につかえて苦しかった。

主人公は、"社会的に"落ちぶれた存在の姉に対して、こんなに立派でしょう、成功したでしょう、ねえ見てよ、と、見てほしい、とおもっていることに気がつく。そしてわたしは、親に対して、見てよ、とおもっていることに気がついた。

わたしは楽しんで生きることに、どこか後ろめたさを抱えている。なぜだろうと疑問だった。どうしてふつうに楽しめないんだろう。その答えが出て、苦しくなった。我ながらひどい答えだったから。見てよなんてかわいいもんじゃない。おい、見ろよ、見てんのかよおい。自暴自棄。やけくそだ。

抜け出したい。じぶんの人生をそれなりに愉快に送りたい。さらに読み進めていくと、主人公が出会ったマティアスという男性に、ひとりの男の子が重なった。

マティアスは、主人公がどんなひとなのか、なんて気にせずにしゃべりかける。わたしが思い起こした男の子も、わたしと話したいというのではなく、彼の中で話したいことが溢れて、つい出てきてしまうかのように、話を聞かせてくれる。自意識にがんじがらめになっているとき、こちらの都合なんて気にせずに、ぽいぽい話しかけられているうちに、自然とほぐれてくる。あ、じぶん笑ってる、楽しい、とおもえたことに気がつく。

『私を助けてくれるのは、いつだって人でした。ああ、猫にだって助けてもらうことがあるから、自分以外の「誰か」でした。』

やさしい言葉をかけてくれるひと、そっとしてくれるひと、ずけずけとものをいうひと、ほめてくれるひと、みんなみんな、わたしを助けてくれた。あと、もちろん猫も。

生まれや育ちは変えられない。ずっと苦しいままかもしれない。でも、わたしの世界はそれだけじゃないはずだとおもえた。

「うつくしい人」　西加奈子

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この物語に出会ったのは、約10年前。当時、新聞の連載を祖母が切り抜き、ノートに書き写すように言った。本を読みなさい、とよく言われていたっけ。わたしはあまり気分が乗らないものの、言われるがまま、書き写した。当時は作者の名前なんて気にもせず、内容もさほど覚えていなかった。でも、"さよ""仄田くん""グリクレル"という登場人物の名前と、ざらついたタッチの挿絵は、ずっと頭に残っていた。

その作者が川上弘美だと発覚したのは、去年のこと。「センセイの鞄」を読んで、もっとこの人の本を読みたいとおもった。ほかの著書を検索していたら、見たことのある物語の名前が載っていた。ずっと、断片だけが頭に残っていた、あの物語。うそだろ、とおもった。

川上弘美の文章は、なんというか、なじむ。それは漢字とかなのバランスかもしれないし、感情の機微のすくいかたかもしれない。そして、人間を万物の霊長として扱わないところ。生物の一種、哺乳類のホモサピエンス、われわれはただの人間だってこと。それは、わたしの理想というか、忘れたくないことだから、川上弘美の言葉が、風通りよく、体の中に入っていく。

小学校4年生の女の子"さよ"と男の子"仄田くん"が、ふしぎな夜の世界に迷い込み、七つの夜を冒険する物語。これだけ聞くと、勇敢で壮大なファンタジーかとおもわせる。しかしこれは、現実とつながっている。人間、という存在のわれわれに、問いを投げかける。

「おまえたち全員といったら、決まっているじゃありませんか。おまえたち、仲間どうしで傷つけあい、仲間でないものをも傷つけ、地球上で我が物顔にふるまっている、人間たち。そういう、おまえたち全員のことです」

「それで、何もできないから、おまえは、おまえたち全体のことに、何の責任も持たなくていいと、こう言うのですね」

わたしたち、人間。地球上の生物としての人間を考えると、その愚かさに目を向けると、どこか、もやりとした気持ちになる。人種差別？環境破壊？社会問題と呼ばれ���ものは、あげればきりがないのだろう。正直、直接関係ないや、よくわかんないや、と、流してしまうことのほうが多い。情けないね。よくないなあとおもいつつ、変えてみせよう！うごこう！なんて、そう簡単に意識改革できない。やっぱりどこか人ごとだから。自分のことで精一杯だよっておもってしまう。ああ、でも、よくないよなあ、わかってる。見ないふりしていていいのかって、おもってるからこそ、この言葉に引っかかってしまった。

そして、こんな言葉でも、尋ねてくる。

「いいところも悪いところもまじりあってでこぼこしていて、いつそのいいところが出てくるか、いつ悪いところが出てくるか、いつ悪いところが出てくるか、わからないのが、すてきでしょう」

「どうでもいいものまで全部大事にして捨てずに残しておくあんたたちは、とっても邪魔なの」

人間に対する肯定と否定。その通りだ。人間…人間なんて…とおもうけど、たぶんわたしは人間という生物が好きなんだとおもう。はっきりしなくて、ふらふらしてる、ぐちゃぐちゃした気持ち、何かの拍子にころっと変わる気持ち、醜さ、愚かさ、揺れている、そういうものを抱える人間が、どうにも、いとおしく感じてしまった。

「七夜物語」　川上弘美

センセイの鞄との出会いは直感だった。

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日記を読んだ。日記。そのひとの脳内に限りなく近いもの。他人の生活なんて、そういえば全然知らないんじゃないか。わたしが知ってるあのひとも、このひとも、わたしが見ている部分であって、そのひとの全部じゃない。わたしの知らないあなたをこっそり覗ける、ひとの日記を読むという好奇心。

周りに読書が習慣化しているひとがあまりいないから、本の話で盛り上がれる瞬間に出会うと、言葉がぽんぽん飛び出す。饒舌になる。お風呂で思い返して恥ずかしくなるくらい。

読み終えた日記は、それに近い感覚に連れて行ってくれた。あーいまはこの文章じゃなかった、とか、なにも読む気分になれない、とか、あるよね！あります！と、ひとり読みながら盛り上がった。じぶんより遥かに本を読んでいるひとでも、そういうことあるんだって安心した。わたしは、その日の気分で読む本も変わるから、並行して何冊か読むし、いまこの本が必要な気がするとおもうと、控えている本があっても、知的財産と称してええいと買う。その日の相性で、読む本も変わるし、読めない日もある。何を言ってるのかわからなくて、挫折した本もある。こんなわたしは真の読書好き(?)ではないのか…本を大事にできていないのか…とおもったときもあったけど、むしろ読書が生活に馴染んでいるということなのかもしれない。

日記には、起きた時間とか食べたものとか、本人にはなんでもないような出来事が記されている。でも、読んだ人には物珍しかったり、考えたこともないようなことだったり、違う、という部分をやんわりと受け入れられる。いろんなひとがいるってことが、自然と頭に入る。

ひとの日記を読むことで、人間いろいろだなって、なんでもありだなって、ちょっと肩の力が抜ける気がした。

「読書の日記　本づくり　スープとパン　重力の虹」　阿久津隆

毎日書いてるわけじゃないけど、かれこれ10年目のほぼ日手帳。

10年前の今日(7月10日)。

せおよぎできるようになった！！

らしいです。

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ざらざらとした手触りの黄色のカバーに、空色のゆるやかなイラスト。かわいらしい装丁に惹かれて購入した本。詩、というものの魅力について書かれているのかなと、やんわりとした気持ちで読み始めた。

読了して、わたしは文章を書くのが怖くなった。だって、著者はわたしと生きてきた年数はそれほど変わらないのに、密度が違うとおもった。言葉に対して、それほど疑問を覚えていないじぶんに気づかされる。本が好きとか、言葉はきちんと選びたいとか、おもっているはずなのに、言葉はするする流れていっているんじゃないか。いまこうして書きながらも、この表現は、はたしてわたしの気持ちと合致しているのだろうかと、疑問を抱く。

でも著者もこう言っている。

"「本当に思ってる？」と、自分に問いただすことの繰り返しです。" "書くことは難しい。けれどやっぱり楽しい。自分どうしでかくれんぼしてるみたいです。"

じぶんの本音を探る行為として、それから、そうだね、書くことは楽しいから、やめずにいたい。

さておき。わたしにとって詩は、物語が頭に入らないとき、でも活字は追いたいときに、ぼんやりと読むものだった。記憶に残ってる詩もいくつかあるけど、どちらかといえば、よくわからないなあとか、なんとなくいいなあとか、その程度で、覚えていないもののほうが多いだろう。

もったいない読みかたをしていた。「読め」ていなかった。わからなくてもいい。でも、「今、この詩がわからない」ということを、わかっておくんだったな。どこかで、突っかかりを感じたものは、じぶんの感性に何か、訴えているもの。わかるものがわからなくなったり、わからないものがわかったり、詩は、変わっていくじぶんの感性を、認識できるものなんだ。

"自分の想像力は個人の想像力ですから行き詰まりがあります。しかし、詩人の視点をちょっと取り入れるだけで、心の動きがまるで変わってくる。"

詩人という、極上の感性を言語化することのできるひとの、五感を借りることで、わたしの五感が拡張される。

詩、ゆっくりと、あじわう、ということができそうだ。お守りになるような、そらんじられる一編と出会えるといい。

「のどがかわいた」 大阿久佳乃

去年の夏に出会った詩はずっと机に飾っている。

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家ではお酒を飲まないようにしている。いや、正確には、していた。よほどのご褒美に缶ビールを買うことはあったけど、それは月に１度あるかないかだった。それがこの自粛期間で破られている。働いて、課題やって、家は居心地が悪くて、まいにち、へとへとで、酒でも飲まなきゃやってやれんわ！！そんなこんなで、スーパーで安いお酒を買う。

お酒はおいしい。舌が肥えてるわけではないし、詳しいわけでもないけど、おいしさも、たのしさも、あるんだってことを感じてる。それなのに、家で飲むとき、わたしはやけ酒と言われるように、すべてを忘れたくなっている。量は少ないとはいえ、ほんとはそんな気持ちで飲みたくない。だから、家では極力飲まない、と決めていた。

いま、一本の赤ワインが家にある。遠出もできないし、近くに酒屋があるし、行ってみるかと、どきどきしながら足を運んだ。見た目で選んだ一本を、今晩、開ける予定だ。

読み終えた本は、ワイナリーでの物語。わたしにとって、華やかでおしゃれな飲み物のイメージがあるワイン。その裏には、慎重で地味ともいえる作業がある。伸ばす葉を選び、葉を摘み取り、実った房もさらにふるいにかける、ぶどうを育てる、選択の連続。収穫して、発酵、攪拌…あれして、これして…。ワインづくり、奥深し。わたしは、物づくりに携わるひとの話が大好物だ。

「ワインが発酵する音に耳を済ませるのも好きだ。しゅわしゅわと炭酸の弾けるような静かな音は、ずっと傍で聞いていたくなる。どんな色の、どんな味わいのワインになるだろう。」

「月の光を溶かし込んだように美しく澄んだ黄金色をして、飲めば月の上を歩くようにふわりと軽やかな幸福が舌の上におとずれる。」

ああ、なんて、とろけるような表現をするんだろう。ワイン、ワイン…。手間をかけて、時間をかけて、予測不能な天候の中で、つくられた、そんなものを、口にしているのかと、しみじみした。普段はあまり意識していないけど、味や香りを言語化するって、すごいことだよなあ。読み終えたわたしは、いつもと違った気持ちでお酒に臨めそうだ。

くそったれ、なんて気持ちじゃなくて、今日も生きた、じぶんのために、ゆっくり、滲み込ませるように。

「月のぶどう」　寺地はるな

※追記　コルク開けるの失敗して飲めなかった。ワインは横に寝かして保存しないと、コルクが乾燥して開けにくくなるんだって。失敗から学んだと言い聞かせる…。

[uunrr]

愛とは…

わたしにとっての永遠のテーマのような、謎であり、土台、といいますか、それを書いた代表的な本を、やっと手に取った。かなり前から気になっていたものの、あからさまなタイトルから敬遠していた。でもだんだんとジャンルに囚われずに本を読むようになったし、いろんな方がおすすめしてるし、タイミングは今かもしれないとおもった。

愛、なんて、Bigなものを、こんな若造のじぶんが書くのはちょっと怯える。けど、いまのじぶんなりの考えを残しておくのは、いい気がする。

前置きはさておき。わたしは、やさしいね、とか、えらいね、と声をかけられると、後ろめたくなってしまう。わたしがあなたにした行為は、あなたのことを思ってじゃない、じぶんが嫌われたくない、使えないやつと思われたら怖い、ってだけだから。ひとの目にとらわれて、自己犠牲がひどいなって、じぶんで呆れるときもある。

"見かけの非利己主義のすぐ後ろには、かすかな、だが同じくらい強烈な自己中心主義が隠れている"

若林さんのエッセイと同じようなこと書かれていた。この一文を痛いほど自覚している。ひとを愛せる人間でありたいとおもうのだけど、全くひとを信じてない。じぶんのことしか考えてないんだよね。そのくせ、どうしてもさ、やっぱり愛されたいとおもうもので。

じゃあどうしたら、あい、せる？あいし、あいされる？読みながらおもったのは、あい、を特別視しすぎてるのかもしれないなあということ。

"愛は技術であると知ることである。どうすれば人を愛せるようになるかを学びたければ、他の技術、たとえば音楽、絵画、大工仕事、医学、工学などの技術を学ぶときと同じ道をたどらなければならない"

あい、だって例外じゃない。訓練が必要だし、ぼやっとしてたら降ってくるものでもない。みんなが欲しいって待っていても、伸ばした手は空っぽのまま。だから、あなたのこと好きよって、じぶんから向かっていくことが、ときには必要、なのかも。

同じように、じぶんのこと好きよって言えたらいいのにね。汝のごとく汝の隣人を愛せ、というのは、汝のごとく、が鍵なのかもね。でもじぶんのこと好きになるってそう簡単じゃない。だからせめて、嫌なじぶんをできるだけ、しまっておきたい。好きになれなくても、まあ嫌いじゃない、くらいにはなれるかな。どんなときに卑しいじぶんが出てくるのか、寝不足？空腹？ただぴーぴー喚いてないで、みつめる訓練をすることで、ましになれたらいいとおもう。

書きながらも、考えがぐるんぐるんしてしまう。かっこよくまとめたいけど、結局、わかったようで、わからない。本の内容も、宗教とか哲学者の思想とか、ところどころ、わたしには難しかった。でも、わからないってことは、お楽しみボックスを持ってるみたいだ。いまは箱を振って中身を探って、こんな感じか？と、なんとなく想像しておこう。歳を重ねて、少しずつ包みを開いて、いつか、中身がわかる。そんな存在の一冊かな。

この本に書いてあることが全てではないとおもうし、いろんな形があって、そのひとが、それを愛と呼ぶなら、だれにも否定できないのだろうと、おもう。

愛とはこうです、と、定義するよりも、感情に対して、これが愛と呼ぶのかもしれないと気がつくほうが、わたしにはしっくりきてる。たとえば誕生日を覚えていてくれたとか、「また今度」を実現してくれるとか。二度寝するとか、アイス2個食べるとか。感情が先で、そこに名前をつけたんじゃないっけ。

受け売りの考えばかりで、右往左往して、ぼやけている、これが、いま。

「愛するということ」　エーリッヒ・フロム

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俳句。5.7.5、という17音に全てを託すもの。文字数の制限や季語を入れるといった決まりの中で、見たもの感じたものを表現するって、ものすごく粋で、技ありで、難しそう。

でも、そこまで仰々しく捉えなくてもいいみたい。日頃の「おっ」とか「わあ」とか感じたことを、詠めばいいんだね。限られた音だからこそ、想像する余白がある。ルールがあるから自由…みたいな…やつだろうか。

詠み手が意図した描写でなくても、読んだ人が想像する余地があって、そこに正解も不正解もない。同じ句を鑑賞しても、穏やかさを感じる人もいれば、寂しさを感じる人もいる。共感するものもあるし、どんどん妄想が膨らむものもある。解釈に幅があって、あなたはそうなのね、そういう考え方もあったのね、なんて広がっていく、器の大きさよ。むしろ大きさ決まってないよね、無限大だよ。

ひとりでじんわりと読み込むのも良いけど、誰かと「どう思う？」って、ぽんぽん思ったことを気軽に交わしながら味わうのがいいんだろうな。

"散歩して季語を見つけると、季語に「はい、今、何感じた？」「何思った？」と聞かれているような気がするんです。"

堀本さんの問いかけと、それに対する又吉さんの考えに後ろからついていきながら、自分だったら…と考える。問いかけて、考えて、答える。なんだか忘れていたことのような気がして、考えるって楽しいなと思った。考えて答えて全部まる、だから、小心者のわたしも、わたしはこう思う！って言えそうだ。俳句。

表紙の又吉さんがかっこいい。歳時記ほしい。また芋づる式に読みたい本が増えた。とりあえず尾崎放哉かな。

「芸人と俳人」　又吉直樹×堀本裕樹

[uunrr]

命を終えたのち。わずかでも、生涯で関わったひとびとの口から、じぶんのことを語られるとき、じぶんという、生きていた人間のありようが描かれる、のかな。いろんなひとが、少しずつ線を足していくように。それは太い線？曲線ですか？塗りつぶす？もしかしたら、絵を破り捨てたくなるひともいるかもしれない。

１枚のまっさらな画用紙を取り囲むひとびとが、頭に浮かんだ。

わたしが語れるあの人やこの人だって、わたしが見聞きした、ほんの一面のことでしかない。当たり前で、ちょっと不思議なことだとおもう。

"わたしとマエストロだけが、何十年、だいじに歌ってきた歌なんですよ"

誰かと過ごした思い出のひとつに、音楽があるのは、なんだかとても尊くおもえた。確固たるもののようにおもえた。

うちでうたおう…

いまは、この歌を、みんなで口ずさみたいな。

「ピエタ」　大島真寿美