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濁流#9
(あの漫画二度と返せんなったんは、お前悪ないのそらそうやけど、おれも悪ないからな)
書け、何でもいいから書け。寝起きのニック・ケイヴのように。旅を終えたケルアックのように。眠剤と“向現”とペルメルと缶コーヒーと、他人の辛さを失礼の無い様に触れなければいけない辛さ。幾分怒らせてしまった、興味がないわけでも、どうでもいいわけでもない。それらを解決できない。目の前の承認を交換するだけのやり取りに、提案も解決策も必要がない。ぼんやりと諦めてしまった、大切なことは戦うことでも逃げることでも無くて、そんなもの��本当は、存在しない、と言うこと。作り出した生活の辛苦、みたいなもんは、本当に銃口を突き付けられる以外は勘違いも甚だしい。隣の芝生や雑誌の表紙に、バラエティ番組と友達との会話などでなんとなく出来上がったまっとうな幸せ、クレバーな物言い、男気、女らしさ、変人、精神疾患、夢や希望に勝ち負けと、悪いのはあいつで本当の自分はもっと……それと、脊髄反射のような性欲。 禁欲と摂生を謳った彼の教えは、決して「人間が人間として正しい道を示す」つもりではなかった。正誤はわからない。子を育むことや人とのつながり、金銭のやり取りがシンボリックな対価交換の原理。それが高い所から低い所に水が流れる、物理法則と同じように普遍のものなら、彼の教えは、真逆の、ぶっ壊れた行為なのだろう。そのけつに、居る。自分が特別だとか、つまはじき者だとか、劣等感だとかは薄れて、自身が不気味であることを知った、普通の人の顔を、する。
シャワーを浴びながら、それでもまた“居なくなって”しまいそうになった時、プールで強く日焼けした頃を思い出した。両の腕や肩の皮膚がとても広い範囲で赤く腫れて、冷やしても掻いても痛痒さは止まず、眠れるどころの騒ぎではないと、布団の上でのたうち回っていた。かわいらしい10代の夜。
その時すっと「止めた」と思った。
痒さは変わらずそこにあったが、掻くことも転げることも止めた。それは抑圧や我慢に似ていたけれど、少し違う色をしていた。反応することを止めることは、今の時点では“気合い”としか呼べない、とても重たい扉を開けるような最初があったが、気付けば眠っていた。何の為に?金にもならないのに?これで本当にいいのか、何も評価を勝ち取れないのではないか、嫌われずにうまく反応できるだろうか、また不当に扱われるのだろうか、このまま年を食ってしまうのだろうか、誰にも褒められず糞を喜んで垂れ流し続ける爺になるのだろうか、それをさらし続ける無様な露出狂になるのだろうか、あれもしていないがこれもしていないけれど、あれもしたいしこれもしたい、誰にも会いたくない、死を勘違いするから気まずさに触れたくない……
「止めた」
(死んだ友達が夢の中で誉��言葉を言った。目が覚めて数秒、死んでしまったことを、忘れていた。巧いこと逃がしながら、やれるだけやるわ)
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雑記(チャンドラー/プレイ・バック)
http://d.hatena.ne.jp/YOSSAN/touch
http://blog.goo.ne.jp/madcap_laughs
古い日記──にしては人目を気にしすぎた、かっこ良く言えば散文──が山のように出てきた。ネットって残るものね。
前者は10代後半で後者は20代前半。暴れだす中二病と童貞力から、中也朔太郎もろの後の、しっかりと恋人の居た時期のもの。この頃に既に「林の中の象」にかぶれ、30代間近の今と似たようなことを言っている。様々な実践は5年ほどではまだ足りてないらしいが、遅々としてでも進んでる感じ。
ランボー(詩人のほう)に捧げたのであろう、割と纏まったものもあった。
####
おれは少数派だった。優越感と、劣等感をないまぜにして、一番正しいと思うことを祈った。ああ、なんて不純な魂だろう。《悪いやつらの侵入を防ぐためにおれは閉じ込められている》だけど、その檻の柵に守られていたのを知った。外にでれば内にこもり、壊す壊さないのどうどう巡りだ。
しかしおれは、一つの手段を知った。
それは≪檻そのもののことを唄う≫ことだった。
だけど、最初から檻なんてないひとには、何も言えないじゃないか。
そして、そのひとがとても自由に見える。
──祈れ!祈りだ!それしかお前に手段はない…。
####
こうして思ったのは、何かを書いて(出来ればそれを人目に触れる形で。そうすると凝っちゃってすぐ面倒になってしまうけれど)残して置くことは、無益と有益の間で振れる針を、少しだけ有益の側に寄せることになるのかも知れない、と。
このご時世、ほんでおれ自身のカリスマ性(笑)の無さで余程の好事家しか長い文なんぞ読まんのやけれど。
(ここまで読んで頂いたあなた、気色悪いかもやけど、ありがとう)
最後に、レイモンド・チャンドラーっちゅうアメリカの小説家に最近はまってて、『プレイ・バック』っちゅう遺作をさっき読み終えたのでちょっとそれについて書いて寝る。眠剤半錠のぼやけた意識と、寝ながら聴こう思ってたドヴォルザークの新世界が流れてる。
私立探偵フィリップ・マーロウっちゅうハードボイルド代表みたいなおっ��んが居はんねんけど、チャンドラーの長編はだいたいその人が主人公で『プレイ・バック』でも勿論そう。
いっちゃん有名になったし筆にも油乗り気ってはった前作『ロング・��ッドバイ』からすると、なんだか弱くて前半さっぱりチンプンカンプンやってんけど。マーロウ割と軟派やったし(ロバート・アルトマン映画化ので「マーロウなんて名前はホモだろ?」つって警官にからかわれるくらい、山のように出てくる綺麗な女性を割と素通りしはる)
でも中盤、マーロウがじじいに絡まれて長い人生高説聞かされる辺りからごっつ面白くなってくる。読みながらマーロウに成りきっとる読者に、チャンドラーがじじいに姿を替えて言うてる説があって、踏まえたらごっつおもろい。もうすぐわしゃ死ぬんじゃ~みたいなん軽妙に言うて、人間みんなそう、言うて。
チャンドラーが、これが遺作になる言うの悟ってたかは知らんけど、読者と、そして自分が産んだフィリップ・マーロウへの手向け感があって。エンディングに向かうにつれ、その色は濃くなって、最後は言うてないけど「OK with me」がはっきりと匂って筆が切れる。(こう思うと、マッチョさ盛り倒してた他の映画化と違って、アルトマンのロング・グッドバイが如何にチャンドラーの意向に忠実やったか思た)
ほんで、割と脈絡ない感じで中盤に差し挟まれた、この町の成り立ちみたいな箇所が『グレート・ギャツビー』読んだ時や『グッド・フェローズ』等のアメリカ映画見た時とおんなじもんが浮かんで、アメリカの町の、そして国の、成り立ち方、そしてその描写の仕方の一定の型の様なものが見えた思った。
「しっかりしていなかったら、生きていられない。やさしくなれなかったら、生きている資格がない」
さっむいけどかっこええわ。
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濁流#8
※俺達はガツガツと【救い】を待っている。 ※つまり【救い】は無い。待っているまま維持される。 湿った風を連れて、日が傾いていく。花火大会を目前に、河川敷に近い駅前は、殺気立つほど人気が増える。 ��バイト先のパン屋が店先で唐揚げを売り、行列と、日に焼けた顔で急かすそいつらにおれは毒づき──他に楽しみは無いのか?喫茶店でスマホゲーで盛り上がる集団と、パチンコに並ぶ中年と線の上では同じ、滑らせた意識の下るまま代えの利く娯楽に神経を腐らせている…──ながら、浴衣の少女からこぼれた笑みと若い彼氏の表情の固さに、羨ましさと懐かしさを浮かばせる。 殺気に当てられたバイト先を罪悪感とともに後にして(なぜ時給とシフト制で罪悪感を感じなければならないのだろう?そんな事を思うからいつまで経っても変人扱い?)コンビニの前で煙草を吸っていると、よく見る老体の、日に焼けて筋ばった足を不自然な短さの半ズボンで露にした、缶集めがゴミ箱に半身を突っ込んでいて、ああ、おれの周波数はここに合ってしまったままだ、と思った。嫌味な人の嫌みを振りかけられ夜眠れなくなるおれのままだ。 どことなく気恥ずかしい感じがする、死んだおじいちゃんが静かに嘲笑っているような感じ。小言も、怒鳴ることもなかったおじいちゃんが…あんたが死んじまったからバイトを早抜けして、ベランダでばあちゃんと花火を見るんだよ、嘲笑うなよ、ずっと一緒に見れなくてごめん。来年もまた、どうなるかわかんないけどね。 そうして数年ぶりにベランダから見た花火は、湿っぽさも暖かな感動もなくて、ただただ興奮を呼んだ。人間は強い光と、大きな音によってトランス状態に陥る。テーマパーク、映画やロックコンサート、縮めればテレビやスマホ、目の前の液晶から放たれた強い光や、スロ台のチカチカする挙動、コントローラーを握って聞いたブラウン管からのレベルアップを告げるファンファーレ… 天井まで延びたパイプオルガンを、ステンドグラスを通った色のある日差しの中で聴く… 静かな部屋で横になって、耳の中の音を聴くときの瞼の裏の光… 「下るも上るもない?しかも感傷的になりすぎると固くなるって?」 「…」 「嘲笑うなよ」
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濁流#7
夏はダメだ。体も神経も使い方を忘れたように、熱に浮かさ��ている。頭の後ろがパズルゲームのように四角く消えたようになって、白けた視界の中、ああ、これは誰にも会わない方が良い、と思った。汗だくのままソファーに沈んだ体の不快感そのままに、頭の後ろが戻る���には夜になっていた。 夜は眠れず朝は早くて、翌日、薬で脳みそを叩き起こしながら、知らない人たちの前で喋って歌を唄った。23時には眠ったが2時に目覚めて、今、誰に読まれるともないよるべの無いこの文章を書いている。 痛々しさ、について考えている。 子供の頃からよく、痛々しさの性質を他人から度々指摘されて、夜中に恥ずかしくて眠れなかったりする。それは、サイズ感を間違えた行為や言動、仕草、根底のナルシズムなどが原因で、幾らかマシになったものの、まさかまだ悩むことになるとは思わなかった。来週で29歳になる。 帰りに借りたDVD、今日の大半をかけて作った歌もどこか外していて、今こうやってそれらを描写していることも、何かずれていて恥ずかしい。夏はダメだ。 死のうとした時も、あの娘が居なくなったのも夏だった。 おれは、そのイメージを塗り替えようと色々やったけれど、痛々しさを理由にそれもしなくなりつつある。 20代の夏はあと一度でもう���度と来ない。行き場の無いおれの下のテント。 (異性を欲の捌け口として見ることと、同じ思考の通った人間として見ることとを考えている)
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濁流#6
早くしないと取り返しがつかないんじゃないかと思う。 祖母が越してきて、荷物の中にたくさんの本があった。室生犀星、車輪の下、ファウストにトルストイ。祖母と暮らしていた叔父は、死ぬまで借金にまみれて無職だった。病院に行く金を惜しんでパチンコに行き、ガンが見つかった時は手遅れですぐに死んでしまった。 ヘッセもゲーテも手慰みに堕ちて、耳の遠くなった祖母は親父に怒鳴られている。 何も変えられずに、意思が物置にしまわれて、埃を被る。
おれは埃を吹いてそれを手に取る。
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濁流#5
涙がこぼれそうな気持ち。真夜中の寒さと静けさ、耳にラジオが優しい、けれど、とても切実に聴こえる。すべてのエコー。空から不意に気配がして見上げると、まあるい月が魔法じみている。 おれの身に何が起こった?本番の喧騒を終えて、劇場の前のベンチで煙草をすっていると、取り返しがつかない気がした。みんな行ってしまう。いささか漫画じみているけれど、間に合わなくて閉じられた壁の向こうに、あの娘が笑っていて、少年は壁に拳と額を打ち付けて血が滲んでいる。とても、とても大きな音だった、壁が閉じられた時。けれどあの娘は嫌がっていなかった。選んだのだ。少年の背中はとても細くて、涙を流している。いつか夢か触れたフィクションで見た画がおれの胸裏をいっぱいにした。立てなくなった。 もうすぐ死ぬ人、また会うには遠くなり過ぎる人、何も返せていないから行かないでほしい。そうやって悪い不足を撒き散らして、たくさんの人に嫌な思いをさせてしまう。なんとかならないか、とずっと思ってる。おれがもっと大きければと
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濁流#4
糞みたいな時間に糞みたいな気分だ。センズリとラジオと散らかった部屋。ビデオ・ゲームと乾いたタバコ。 叔父にガンが見付かって、おじいちゃんは90をとうに越えて、親父は定年を迎える。思えば思うほど泡沫のような5年だった。おれは、売れていない。親父が働けなくなるまであと1年を切って、寄生虫のおれは身の振り方を考えている。毛並みに年を感じるようになってしまった家の猫を、触る度に思う、お前もいつかは死んでしまう。 村上龍の小説を読んでいて、圧倒的な危機感に晒されている人間のみ生き残って、後は死ぬ描写があって、おれは心から感動して、何に操られて、何にそれをさせられているのかを考えない、考え抜く行為を放棄することを糾弾する姿勢に共感した。 「脳を作り替えろ、お前が快楽だと感じている行為や、動けなくなる思考の溜まりは、生きてきた今までの澱だ。目覚めよ!」みたいなことを落ち込んだ後輩の男の子に話した気がする。センズリとラジオとビデオ・ゲームに糞みたいな時間を迎えて、何かとんでもないことが起こって、都市機能が麻痺して、さっさと非日常に投げ出されれば楽になると人死にを笑うような最悪の無責任を浮かばせて。 わたしたちの関係は終わってしまった。 すっかり冷えきった心に蜜は染みない。ドロドロして邪魔なだけだ、とどめは、お前が刺せ。猶予も慈愛もないおれの態度におれは泣いた。おれの未来にあなたは居ない、それだけは��りにも確かだった。 誰からも気に入って貰えなかった(そんなことは無い)全部止めて誰からも離れてザムザのように暮らして(それもまた甘美な逃避の夢だ)四十を越えて、取り返しがつかないことに気が付く。出来たことを数えろよ、配られたカードも山札もまだ有る。バードマンは最後にほんとに飛んでたよ。
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濁流#3
ガサッとした思考の塊を置く。 蒙昧の大暴れも安楽の無我も、死ぬか生き延びるかの違いだけでどちらにせよ今大切にしていることが止むのではないか?耳の中で鳴り続ける音楽、詩の要点が見える目、回転の早い(と思っている)頭、その場の磁場を鋭敏に感じる皮膚…全てを(妄想だとしても)使いきって放逸に耽るも早めに死んで止むし、始まりは承認と共感を求めての不足からであっ��、孤独に歩んで林の中の像のように暮らすなら必要がないと、無我無欲を求めても止む。 どちらにせよ振り切ってしまえば止めてしまうのなら、さっさと振り切って止めてしまえば良いのではないか? 忘我と無我の狭間で、延々とバランスを取り続けたツケが大量に垂れ流した時間なら、結局おれは遊んでいたに過ぎない。 恐らくカリスマとか言う輩は振り切った忘我でエロスのように力を奮う…だからドラッグやビジネスは切り離せない。本当に我を忘れた奴か、我を忘れたふりが本当にうまい奴かのどちらかだ。 無我では不可能なのだろうか? セックスの最中「おれは一体何をしているんだ?」と思わなかったことは無いし、自分の身を守るための嘘は沢山ついてきたけど、ユーモアが沸かないのなら強めの言葉を他人に浴びせることは無かった。こう見られたいの自分本意が起点だったけれど、楽しませたいのサービスだったし、間違いはよく見えるから、正論を、おれは吐いていた。棚上げだったけれど。 正論は退屈で、眠るバカに話し掛けるのはとても難しいと、自身の行く先は無我なのに、ずっと忘我の方法論に寄せて暮らしてきた。それがアンビバレントさを生んで、半端さを匂わせていたのではないか。 おれは我を忘れられないよ、記憶と神経が歴然と証明している。どんな時も、例えとても疲れていても、おれはずっとシラフだった。 「電球のように冴えた頭を持て」 だから、上手く話せないと思うと、帰りたくもなる。
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或るアルトカルシフィリアの手記
喰う寝るにあたってまた意味を乞う ……通りすがりの女のクツ
しゃぶりつきたい気持ちを抑えながら 向かったのは死にたがりの崖っぷち それでは皆さん サヨウナラ
地獄の沙汰と天国のルール あんたに見えないものが見える
ひしゃげたおれを先刻の女 そのきれいなカカトでゆっくりとなじる
その時神様が現れたんだ! 神のご意志に反した全人類に告ぐ
地獄の沙汰と天国のルール あんたに見えないものが見える
欲しがること 欲しがること 欲しがること 欲しがること 「ここが例え天国でも、お前は満足しないよ」
Oh my Lord! Oh my Lord!
光の輪が降るように もう誰か死ぬような種を撒くな……
「汝、自らを救え。汝、自らを助けよ」
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濁流#2
書きたくもねえが、件のヘマはおれの怠惰の招いた落ち度だ。人に会わずに何日も過ごして、部屋で何も勝ち取れないでいると責任能力が溶け出してゆく。タイミングを待って立ち上がらずに、明日やろうと思う。判断は溶けて細くなり、先々の予定とやらがとぐろを巻いて牙を出す頃に、おれは動く。何を書いているんだ誰が読むんだ?是非目を洗ってくれ。お生憎様。
こうやってじっと思考を繰って痛みを繰り返す。ブッタは思考を止めろと言った。それだけで、お前の霞んだ目は開くだろうと。そうやって冷静に振り切って、くだらねえ、と思った。それでもまた、取り返そうとする、人の目を気にして。それをずっと繰り返してきた。-を、0に戻して、+に差し掛かる頃また-に戻って、0に戻す。ずっと欲しいものが手に入らない10年だった。ずっとおれは自分が嫌いで、今の暮らしが気に食わなかった。認められなかった。誰かに認められたいの順番待ちから、逃げては並び直して嫌になってもまた並び直す。列は進んでいるのに順番は変わらなかった。
学生の頃の夢を見る。今の頭のまま、体は学校に通う夢。そこら中が警告を発している。出来たことを数えろ。
ハロウィンだから如何にも未成年の女どもが店に屯して煙草を吸う。嫌になりながらおれはウェイターで、死んだ目をして奴等が帰るのを待つ。怖かったのもある。キモいで片付けられるおれの��。十代の頃から同じだ。崩れそうなババアが店に入ってきて、本当にここは客層が悪いとうんざりしていると、その女たちとババアがすれ違って、ばばあがかわいいと言った。ハロウィンのコスプレを決めた若いくせに擦れた女どもを、今からパーティー?と聞いて明るく見送った。女たちは笑ってはしゃいで去っていった。崩れそうなババアでも、悪い女子高生でも、客層の悪い店でもなかった。婆さんのかわいいの一言で、下町の、人情味のある、少し柄の悪い駅前。そう言う風に変わった。悪いのはおれだった。
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濁流#1
力が出ない。腹の底の溜まりものを、頭が邪魔をしている。誰にも会わずに一週間が過ぎた。 書くことで力が戻るかもしれない。深夜午前一時半。昨日も朝方に眠って、後悔と共に起きる。やりたいこと、やるべきことの山が全ておざなりになる午後三時に目覚めて歯を磨く。落ち着け、と、大したことじゃない。何かをするのも何もしないのも、生きて死ぬ上で何も変わらない。終わらない穴堀の外には、何をしても出られない。霞のように消えていくおれの実感と結果――何をしてきたか?死ぬときには何も持って行けない。 パニックになるのは変わらない。以上の思考の羅列を、諦めることに振り切って薄く笑って頭を低くする姿勢を、間違っていると皮膚が告げる。ボロボロになるしかないのか?「月に手をのばせ例え届かなくても」感想と言う名の消費に、おれは汚されてずっと足りないと思わされる。それを気合いだの腹が決まっているだののマッチョな価値観で持て囃し、ハードボイルドは疲れて眠る。ハードボイルドは、疲れでしかない。全うな精神なら疲れる前に休む所を、頭を降って頬を叩いて格好をつける。女にモテるために。
こうやって冷笑的に自分の思考の分析をしたところで得るものは少ない。 それでも、やるんだ。 そうなっていくそのままでしかなければ、お前が死んでいるのと同じように、誰も殺さない。どこにでも入っていけ、何にでも受け答えをしろ。優先順位、効率、タラレバ、隣の芝生に手を振れ。(マッチョだな)けど、もう、そうするしか無いのではないか?自分への負荷と、自分自身の興奮を頭に立てて、走り出すしか無いんじゃないか?そうやってボロボロになっていつかを待つ。いつかじゃなく今が辛いんだ…けど���れは諦めるしかない。おれの見えるおれの足りないはおれが見ているおれのものだ。目をそらすのもなだめ透かすのもいつかじゃなく今ほしいも、ルール違反なんだ。
んなことが書きたいわけではなかった。 凄まじい文化の流れがおれの中を通っている。見聴きしたもの、貫かれた感情、リアル・フィクションへの体を駄目にするほどの希求。28歳、現時点で、何万冊の本、何百枚のレコード、何千本のフィルムになるだろう?
おれはそれをひたすら纏めて行くしかない。どうかこの一文が、その濁流の一滴目になることを願って。
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空は毎日すごい色をしていますよ
3日誰にも会わなくて、2日夕暮れの降りる公園にいた。 公園には誰もいない。日の暮れる間近、子供たちは家に着き、徘徊老人さながらの、髭面のおれは、煙草を吸っている。部屋から持ってきたマグカップに、コーヒーとティースプーンもそのままに、少しでも陽を浴びないと夜が眠れない。 生まれたときからのここには猫が増えて、砂場には柵がされてある。使ったら閉めて下さいの張り紙。開いてる。閉める、音。 ※おれをこの檻から出してくれ!!/出典:青い春/松本大洋 ※(わたし自身でいる為のものが)わたしをある限界に制約し続ける/出典:攻殻機動隊/押井守 足元にボールが転がってくるような。それを投げるポーズをとった胸より低い人影、その横顔を眺めるブランコ、ジャングルジムのてっぺん。逢魔が時、見える気がする幻は薄れる前の家に着いた彼らと、観測して補完するおれの、彼らくらいの年の頃が一緒にいる。感情は残る(だから気をつけないといけない)
日の落ちる先の線路を電車が通ってそこにも人たちがいるんだと思って流れてまた日の落ちる先が見えて吸い殻をポケットにしまう。空は毎日すごい色をしていますよ。青と紫と赤と雲がとても大きい。
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食いついて#2
数人の中の100人に1人、わしのはこわいんじゃろか、修練、センス、コード一発目のストロークでおれは泣いた、帰り道がゆがむやつ、ピッチ、リズム感、緊張、嫌な気運が体にたまってた、自由���スレスレの綱渡り、生まれたてのおれを見て父はショックだったと言った。あまりにも醜くかったから。そのように放られたこの様に、ちやほやされたいのに疲れて帰らせて、その後ろ姿を見えなくなるまで見る。鳩のくちばしにはオリーブ、足元におもちゃの指輪と髑髏(笑)見えなくなる明日と金をちぎれるほどかき集めて正気を保つ。 母よ、目の前で寝るな。 父よ、似たおれがこの様ならあなたはきっと… 飼い猫のでかいけつ。手を伸ばすフワッ。 食いついていこうや吉見 食いついていこうや
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食いついて#1
さんざんほったらかしとるからホームページ更新がてらなんぞ書こかしら。
最近は右手が実に腱鞘炎気味で、ギター弾くにも億劫っちゅううんざりやら、ほんと認めらんない人たちに囲まれてずっとその人たちとの会話を部屋の壁に向かってしつづけて早まもなく27年?ほんでそれが腱鞘炎の引き金な気がする。
と、偽悪的に書きゃあいくらでも書けるんじゃけど、ほんと、そこらじゅうに天国も地獄もあいだあいだのそれもくさるほど転がってるわけで、適当な本のでたらめなページで占う自身の近況のように、吐き気がするほどの色眼鏡で楽になったり死にたくなったりしよる。死にたいっちゅうのはほんで、わしの場合は、死ぬほどと勘違いするほど気まずい思いをしたことを思い出したりすることなんだろうなあと最近は思っています。
(その上、なにもかも同時に起こっとる、っちゅうことやら。後の文もこの前提からはずれてるけど)
せやからあのー、いいこともわるいことも引き伸ばしたらなんぼでも膨らませれるやつなんぼでも転がっとるんやけど、得てして割に平静やなあ思います。せやけどちょっと泣いてもたやつ。
昼前バイト中に、ヘルパーの兄ちゃんに押された車いすのおじいさんが、来店しはった。レジ前で窓から外見ながら、眩しそうに、ここ昔小学校でな、わしも通っててなあ言うてヘルパーさんに話しかけてた。窓の外には公園。バイト後に、失敗したなあ思いながら缶コーヒー片手にタバコ吸うてる、公園。おじいさんからすれば眩しい眩しいやつ、あかん、業務中に涙ぐむ。
アフター・ザ・ゴールド・ラッシュってこういうことなんかなあと。名曲です。
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大海に放る#4
今、何か書けるかもしれないと思った。自室、ラジオから深夜のNHK、昭和の日本の歌。アンプにパソコンを乗っけて、ホットカーペットで地べた。思えば今日は初雪だったらしい。さっきは、言うべきことは泡のように消えていくと思っていた。シガーロスを聴きながら、宮沢賢治の詩集をなんとなく開いたときだ。寒くて合う、冬のうちに読んでおきたいと思った時だ。
今何か書けるかもしれない、と思ったのは、自慰のせいかもしれない(こういうことを書くべきか書かざるべきか。書かずに哲学ぶった文章を書いても、何やら本能の所以、どこかで猿のように人間がしないよう、事後に哲学的な、ある種醒めた心境になる、みたいな話を聞いたことがある。それを隠して僕こんなこと考えれてますは、嫌だ。嘘はつきたくない) 家について、食事をして(いきもののたべかた?見てみないといけない。バイトしてないから親に対しての手を合わせたいただきますが大半を占める)部屋に戻って。何も聴きたくないと思った。けれど、何か聴きたいと思った。5,6年ぶりにエレキギターで、ロックバンドで演奏した帰りかもしれない。自身の、発達障害的な集中力をまた見る。帰り道、とても寒い中割と歩いたけれど、何の苛立ちも感じずに帰った。繰り返し、自分の今日のライブの録音を聴いていた。自画自賛に耽っていた。
怖くも無く、人畜無害でも無く、張り詰めても無く、緩くも無く、若くも無い。御洒落でも、ダサくも無く、暗くも無く、明るくも無い音だと思った。思いつく限り、どこにも無い。カテゴリーとカテゴリーの隙間を縫う音。どこにも行きつかない音。イケメンでも無く不細工でも無い。気持ち悪くも、洗練もされていない。ならおれはどこへ行こう?(何にでも成れるような気は、ずっとしている。人はみんなそう) 0がすっと見えた。必要が無い。 最近ずっと眠れなくて、瞑想をしながら床に入るのだけれど、ずっと雑念が居る。一から十まで数える。呼吸を数える。ゆっくりと吸って吐く。その隙間に、特に吸っている時に、入り込む様々な情念がある。幻覚と言っても差し支えないかもしれない。経験したこと、経験していないこと(どれだけのライブラリーになるだろう?おれと言う一個の人格)想像とトラウマと、居ない人との会話と、明日のことと。ないまぜになって隙間に入り込む。一から十に戻る。戻るとも、戻らない���も言えない。ずっと雑念は有るようで、晴れているようで。そうすると眠りについている。夢を見る。また幻覚だ。 0が消えていく。いつか作りかけた曲の「もう歌うべきことは無いんだ」ということとは、少し違う。 おれが何かを成しても成さなくても何も変わらないと言うこと。簡単に言えばそう。 生きていても死んでいても変わらないということ?違う。ガキの遊びはやめた。考えうること、感じうること、それの限界をその不完全な瞑想で知ったということではないだろうか。おれはホッキョクグマが踏みしめる氷の感触を、知ることはできない。
何も聴きたくないけど何か聴きたいと言う話に戻そう。どちらにしろクオリアの話かも知れない。 音楽を出し切った、そう感じたのかもしれない。空っぽの器に、熱いものを注ぐと割れてしまう。大好きなニール・ヤングも聴けない。ドラムの入った音楽が全体的に聴けない。クラシックに手を伸ばそうか?自室の民族音楽の棚を見る。そこにシガーロスのセカンドが入っていてそれを聴く。冒頭の話に戻る。 (シガーロスはとても良かった。ドラム入ってるけど。カロリーのいるアルバムだ。じっと認識しながら聴くことはしなかった) ※性欲を満たす為のものにも、あざとい肉欲的なものは嫌だと思った。
0の話に答えは出たっけ?厭世感とかそう言うのではなかったと思う。おれは、もう、死にたくない。死ぬことでいやなことから自由になるだなんて、そんな答えはつまらないし、生まれたての自身の足を、今のおれが両手で包みこむビジョンは、本当に死ぬ思いをしたことが無いような、アウシュビッツや被災やビルに飛行機が突っ込む事や戦争を知らないおれには、死なんかよりもよほど実感がある。 ※ここで少し筆を止めて考える※ 何となく知ったような気がする。おれが望むか望まざるかに関わらず、望みは叶う。生は続いていく。すぐに解消されるような不安���期待を、ずっと解消して暮らしていく。だましだまし無益な穴掘りをずっとするのだ。そしておれはそれの外に出たいからこんなことを書いているんだと思う。
音楽と読書と、作曲と、詩と。それくらいあれば生きていけると思っていた。けれど、今日は、ふとそんなものいらないと思った。なら何が欲しい?何もいらないとは言い切れないけれど、何もいらないに近い何かを思った。それを0だと思った。
※ まるで混乱しているかのような文章だ。そして、むかし「きみってえらいんだね」とブログに嫌味を言われた事を思い出した。宣伝。ライブに来ておれの収入を安定させる、あざとくない宣伝活動のひとつ。毒も歓喜も儲けもんだ。とても、とても怖いけれど。 混乱はずっとしているような気がするけれど、出来ない事ばかりが目につく事は、少なくなった気がする。
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大海に放る#3
この疲労が無ければ、ことは成せない。魂のふるえ、薄暗いライブハウスの、楽しげな終演後。金を巻き上げた友達と笑い合う、演者の心には焦燥が渦巻いている(おれだけじゃない筈だ)そしてその焦燥に疲れて、呆れて、何を言われても変わらないと高をくくっても、やはり何か言われないと魂はふるえない。ヘンリー・ダーガーは言うて、シド・バレットは言うて、健康では無かった。病気は、足りていない様子がしっかりと体ごと表れているに過ぎない。タバコも酒もドラッグも、肉も魚も、テレビもユーチューブも、漫画雑誌もツイッターも、女もオナニーも、仕事もましてや、ましてや音楽さえも、ああ言えやしないけど。言えやしないけれど。
おれはじっと座って色々見てきた。
まるで誰もが、ガキの頃の満たされなかった思いを、奪われたものを、取り戻すために年を食ったように思う。集団を、その中の好みの異性を。泣き出しそうな気配を。ずっと、ずっと、美人を、美人の足を胸を、そして顔を。嫌いな奴の面影のある顔を、動作を、喋り方をファッションを、禿げ頭を、吐き気がするような黒子を、電話口にダルイを8回、死にたいを2回告げて歩く若いサラリーマンを、美人を美人を美人を、眺めて歩く。
店員の名前を見て見下し、顔に似合わずスケボーを抱えた奴を見下し、ガタイの良さに恐怖を覚え、背の高さに恐怖を覚える。顔の丸さと、不釣り合いな溌剌とした体を、尻を見て、もっと見たいと思う。判断をして歩く。判断を、解釈をして歩く。
※良いも悪いも無いけれど見えることは特技なんかじゃ、才能なんかじゃなかった。不足だった。何かが不足している。何が不足しているかは大体わかってきた※
でもふとした時に鏡が目に入る。がっかりする時もあれば、気分の良くなる時もある。部屋に積まれた大量の書物も、読まずに溜まるのは鏡だからだ。気に障ったりした過去が行間に潜んで肝心の内容が入ってこない。
本当に、おれには悪気がなかった。いつも、いつも余裕がないことを悔いている。けれど、この余裕の無さが、疲労が、招いた自殺もおれ自身のやめちまった音楽も、あれはあれで本当に良かった。とても、とても良かった。そして今もその渦中にいる。ずっと、居る。
自分のストーリーをドラマチックに解釈することに色んなことを割き過ぎて、あなたのことを忘れていた。クリスマスプレゼントをおくるよ。
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