#この腕の��と骨がとてつもなくどストライクすぎて
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久しぶりに韓国ドラマを観てきゅんきゅんして、私も貴方の言葉に触れようってDMだったりカカオを開いて遡ったりしたの。沢山のスクショもあるけど、もう一度初めから振り振り返えようって。そしたら、韓国ドラマなんかよりとんでもなくきゅんきゅんして、ドキドキして、どうにもならなくなって昼間?と言うか午後?からお酒なんて飲んじゃったんだけど…?私じゃ有り得ない行動をしてて笑っちゃったよね、思わず。その当時も今も話してるときゅんきゅんするし、ドキドキしてどうにもならない気持ちが溢れるのに、それは今も変わらず何度読み返しても色褪せない。もうどこスクショ撮ったらいいのか分からないくらい、全部貴方の愛に言葉に包まれていて……フォルダがいっぱい。それも幸せ。いつだってこんなに愛しくて私をどうしようもない気持ちにさせるのは、貴方だけなんだと実感したの。幸せな毎日を一緒に過ごしてくれてありがとう。貴方の言葉に触れられて、抱き締められて今日も私は幸せです。
#この腕の筋と骨がとてつもなくどストライクすぎて#思わず連写してました#あと、洋服のダボッと感も堪らなく好きだし#髪の毛がいつも寝癖そのままな所も好きだし#髪の毛ふわふわなのもとっても好き#キリッとした眉毛と奥二重?二重?も最高にいいし#涙袋が可愛くて愛嬌ありまくり#ひとつの写真でこんなに語れるくらい見まくってるけど#好きすぎじゃない?って自分自身で思う#仕方ないよね、好きすぎるもん#間違えた、愛しすぎてるんだもん#いつもありがとう#ily
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2017年ポケモン映画感想
劇場版ポケットモンスターキミにきめた!
(mari8rmふせったーより転載)
___________
ソウジ君かわいい
ほんとかわいい
キャラデザめっちゃ好み
※以下ソウジ君の話しかしてません
本当はまともに本編の感想とか書いた方が良いのかもしれませんが、正直読んでて重たい感想(感動・憤り・悲しみ・評論みたいなスマしたヤツ)とか書きたくなくなったので、もう今年の映画は頭を悪くして「ソウジ君かわいい」の話をメインにやっていきたいと思います。
↓↓↓↓↓↓
「~してくれたまえ」ってなんだよ
「忠告しておく」はサイトに載ってた
でも「~してくれたまえ」は知らなかった
「~してくれたまえ」はなに!?
博士志望だから!?
いやなにその露骨な博士志望キャラ推し!?
まずは口癖から!?形から入るタイプ!?
初見ほんとに笑ってしまった…
普通に「~してくれ」でいいじゃん なんなんだおまえ かわいい
言うたびに笑ってしまう 「~してくれたまえ」
ソウジ君、口癖がよくわからない かわいい
ポケモンセンターでサトシがママと電話してるところで初登場だったでしょ
なんかソウジ君、めっちゃ目立ってなかった?
ただでさえカントーに普通はいないルカリオと一緒 ってだけで目立つのに、全身真緑じゃん、、、目立つじゃん
目に優しい色をしている(それなのに目立つ)
森にとけこむ練習とかしてるの?大丈夫?
忍者なんじゃないの?知らないけど
いやあそこのサトシもかなり浮いてたけども……なんかソウジ君すごく緑だった
森と同化しようとしてた(ポケセンの中で)
ソウジ君、意味がわからない 服がかわいい
「ルカリオ、はどうだん!」が初台詞なんだけど、
なにこれ、めっちゃうまくない?
本郷奏多、うますぎない?
ゲスト声優、あなどれない
画面に浮かない、違和感ない
とてもかわいい、信じられない
やばいよラップ 刻んでない?
***ラップ終了***
低い少年声で、それでいてかわいい
すごいよソウジ君、 見た目だけでなく声までもかわいい
調べたら別所で声優業もしたことある方っぽいですね
いやーそれでも、それでも上手いよ奏多くん
本郷奏多くんありがとう、めっちゃかわいいよソウジ君
ソウジ君、声がかわいい
ルカリオを介抱するソウジ君、とてもかわいい
サトシとマコトちゃんが言い争いしてる間にルカリオになんか食べさせてたね?オレンの実かなんかかな ちゃんと見てなかった
あ~~これが後の「ポケモン博士は医学の知識も必要」の伏線かな すごいねソウジ君!なんでもできる!
「どこかで雨宿りしないと」ってマコトちゃん言った瞬間、「あ、これ洞窟にソウジ君いるパターンじゃん」って瞬時に思った
マジでいた
おまえポケセン帰ってないんかい!!!!(ツッコミ)
「忠告しておく」って雨察知してたやんけ!
ルカリオの手当的にポケセンに寄らなかったの?
なんなの?ソウジ君、ぼくちょっ��よくわからないよ
まぁそのおかげでヒトカゲ助かったから良いのかな…良かったねヒトカゲ
ぶっちゃけ「なんでこんなになるまで放っておいたんだ!」のところ、サトシにビンタするのでは?って思った
それはしなかった な~んだ…
ソウジ君カッとなって殴るタイプではない メモ
ところでエンテイライコウスイクン説明するときの���ウジ君の電子機器の背景ルカリオだったね ルカリオ大好きすぎない?かわいいね
なんかゴリゴリする道具で薬を作るソウジ君
その後マコトちゃんの写真でソウジ君が料理係っぽいことが判明
あのね…、おばちゃん詳しいから教えてあげるけど…、今の君のポジション、TVシリーズだったら まちがいなく や ば い こ と な っ て た よ
たとえどんなにクールに出てきても、どんなに女子にキャーキャー言われるキャラでも、中の人がうえだゆうじだろうが宮野真守だろうが梶くんだろうが、TVシリーズ軸の旅メン料理係は ま ち が い な く お笑いキャラになるんだよ、知ってる?
具体的にはサンバ衣装着たり、耳引っ張られたり、仮面に操られたり、マイロッドで釣りしはじめたり、シャドーボール腹にぶちこまれたり、女装したり、謎のブリッジして悶えたり…………
数えきれない視聴者の笑いを誘うボケ担当になるところだったよ、ソウジ君!君、ほんと危なかったね!いや私タケシもデントもシトロンも好きだけど!好きだけど!
とりあえず尺の短い劇場版のおかげでソウジ君はクールな少年というイメージは保たれたのであった 良かった(?)
ところで、ソウジ君水着にならんのんかい!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!やっばりクール枠だった………くそっ…………
いやデントも劇場版は水着なかったもんな………緑の髪の人は水着NGなんですかね くさタイプなのに………(ちがいます)
どうでもよくないけど料理するところのソウジ君の腕、超エロいので最高です
これもどうでもよくないけど、寝袋で寝るソウジ君がかわいい テント派ではなかった
書籍コーナーで本を読むソウジ君、かわいい
リザードにのしかかられて倒れるサトシを心配するソウジ君、かわいい
口元に手を当てて熟考するソウジ君、かわいい
「負けた時こそ~」と諭すソウジ君、クール
「すべてのバトルに勝つつもりかい?」のソウジ君、声色が優しい
幼少期のショタソウジ君、かわいい
部屋の後ろにあるのピアノ?暖炉?えっボンボンなのでは?
スノボ?できるのソウジ君、強くない?
レントラーにお守りされてるソウジ君、大丈夫か?
レントラーとサヨナラすることを語るソウジ君の声色、ちょっと寂しげでやばい
オコリザルに胴上げされるソウジ君、おもしろい
���子育て」とか言い初めるソウジ君、びびる
「決めるのはサトシだ」のソウジ君、顔がツボ
なんか本郷奏多くん、うますぎないですか?クールキャラなんだけど、ちょいちょい声色が優しいところある かわいい
ボンジイを見て「あの本の作者!」と指を指すソウジ君、かわいい
おまえなんだよ~~~~年相応の反応できるんじゃん?クールキャラなのにかわいい属性ももってるの?かわいい
声もあそこが一番高めでかわいいよ~~~うんうん ソウジ君かわいい
総合的に見てソウジ君はかわいい
個人的にエンテイに遭遇したあたりの作画と、キャタピーが進化する時の引きのカットのソウジ君の作画が好きです。
いやもう、とにかくソウジ君がかわいい
大丈夫か?かわいすぎなのでは?
飛ばされてルカリオに助けてもらってるソウジ君とか、EDでみっちり着こむソウジ君とか、 もうあれ、すごいかわいい
最初キャラデザ発表されたときからかわいいと思ってた
顔が好みだった…
だけどね?なんかね?映画みたらね?ごらんの有り様ですよ
ソウジ君かわいいおばけになってしまったんですよ
なんだよあいつ、かわいくない?
足細い!腕ほそい!体ひょろひょろ!声がかわいい!謎の口癖!
かわいい~~~~~~~~~~~~!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!(暴れる)
歴代アニポケに寄り添って生きてきて、基本ポケモンばかり舐めてきたけど、ここまでどツボどストライクのキャラデザの人間キャラが、こんな20年っていう記念すべき年にポッっとでてくるなんて、ぼくは私は……
語彙力がなくなって、もうかわいいしか言ってませんよこの人
ソウジ君かわいい
本当にかわいい
ソウジ君とってもとっても好みだった……
生きててよかった…
大丈夫、映画の前売り、私は6枚買って今日1枚使って1枚あげたから、あと4回はタダでソウジ君に会えるよ、やったね私!先見の明あるね!(ただのキャップピカチュウ目当てです)
もちろん映画の内容もちゃんと見た でもなんかもう映画の内容はあんまり語ったらよくない気がする
説明するのも面倒だし、頭を使ってアニポケ見るのやめた
かわいかったこと、楽しかったことだけ見て楽しく生きるんだ~~~~へへへ!アニポケ超楽しい!!!!!!!
サトピカかわいい!
マコポチャかわいい!
ラストのルカリオのアップのシーン、めっちゃかわいかった!
ボンジイかわいい!
マーシャドーかわいい!
ロケット団かわいい!
クロスかわいい!
ルガルガンとガオガエン、めっちゃ好き!
その他の皆様もみんなかわいい!
つら!
かわいい!
かわいいは正義!
ありがとうアニポケ!
ありがとうスタッフの皆様!
応援してきてよかった!
これからも応援する!
せんきゅ~世界!ハバナイスデー!チャオ!ニーハオ!グラシアス!メルシー!ブエノスアイレス!アディオスアミーゴ!
わかってる、皆まで言うな、あれだよ、円盤をシカ―ラだよ
あ、あとこれ!���れ超重要!!!!!!
ソウジ君、作画ミス?色ミス?が2ヶ所あって(他にもあるかもしれないけど)
・サトシの夢の中
サトシ達が授業を受けているところ、サトシがぼーっと空を見てる時のソウジ君の長袖が描かれてない
・クロスと別れるところ
三人がアップで声をかけてる時のソウジ君の長袖が描かれてない
長袖がないんですよ…………………
とってもかわいいんですよ………………
ソウジ君ちょ~~~~~~~~~~~~かわいいんですよ~~~~~~~~~~~~!!!!!!!
うわ~~~~~やばい!!!!!!!!!超かわいい~~~~~~~~~!!!!!!!!!!!!!!!ソウジくん~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~!!!!!!!!!!!
「袖なかったのかわいかったよね」ってあなたも
「見逃した;;」ってあなたも
もっかい劇場にいこう
そしてソウジ君を見よう
ソウジ君ほんとかわいかった ありがとうアニポケ ありがとうスタッフさん ありがとう本郷奏多くん ありがとうソウジ君
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りんみお浮気紀行!
「だーっから! アヤしいと思ったんだよあのおっちゃん!」 本田未央は叫んだ。息もたえだえ背中で車を押しながらのうったえは、永遠の存在を感じさせるほどに青く広大なモハーヴェ砂漠の空に消えていった。 「まあ英語もロクに話せない日本人、カモでしかないよね」 渋谷凜はつぶやいた。道路にしたたり乾いて消える汗を眺めながら命というものに思いをめぐらせていたため、その声は、いっそ景色に似合いのそらぞらしいものとなった。 「もー! しぶりんはなんでそう冷静かね?」 「いや、騒いでも消耗するだけだし」 「じゃあ未央ちゃんが盛り上げるから、そのかわり、倒れたらあとを頼むよ」 「そのかわりってなに、助けないよ……」 未央はそれで、なにか続けようと口をもごもごさせたが、なにしろそこは乾いていた。同じくらいからからの舌で唇の亀裂をさぐると、うしろ数メートルに置き去りとなった言葉を切なげに細めた目で見つめ、未練を吹っ切るよう「きゅうけーい!」と言った。それで返事を待つこともせず、真っ赤なキャデラック・エルドラドの運転席に回り込���、サイドブレーキをががんと引いた。 凜はもう一度「助けない」とつぶやき、車体の日陰に腰をおろす。最悪の正午を過ぎてもう、映画のなかの逃亡犯みたいに車体に背中をへばりつける必要のないことに心からの感謝を捧げていると、ペットボトルが差し出される。 五百ミリの、最後の水。 そのうちきっかり五十ミリを飲んで、未央に返す。未央も同じだけ飲む。ふたりは互いが、互いを生かしているのだとわかっている。 互いがいるからこそ、かろうじて希望をうしなわずにいられる。 ふたりが直面しているのは、そういう現実だった。 ロサンゼルスよりラスベガスをめざして走り出したキャデラックのエンジンが末期の白い煙を吐き出してから二時間、モハーヴェ砂漠を横断するはずのルートを通る車は一台もない。道を間違えたのだろうか。この道を使う人はいるのか。何度か目にした、廃棄されたかつての道路や骨になった獣を思い返し、未央は立ちあがる。「ちょっと見てくる!」と緩やかな登り坂を、そのむこうに水や緑、ケンカなんてすっかり忘れて両腕をいっぱいに広げた恋人が待っていると信じるような足どりで駆けていく。 ��そういうとこだよ」 凜はつぶやき、圏外としか言わないスマホを眺めると、ジーンズのポケットからシルバーのジッポライター、ラッキー・ストライクを取り出した。ジッ、ジッと火をつけ、たばこの煙を、恋人とのケンカ――アメリカまで飛んでしまいたくなるほど最低な――の原因となったそれをふぅーっと吐き出した。 「ゼロ点」 輪っかのかたちをつくろうとして、もやっとまるい煙を吐き出しながら、凜は思い出す。 『――こうなったら完ぺきな、百点満点の浮気をしてやろうじゃないか、しぶりん!』 と青白い顔をして向かったレストルームから戻るなり、未央はミツボシ☆☆★のアタマでも歌うみたいに、ロックグラスのボウモアをあおって言った。凜はそのとき、百点満点の浮気という言葉のもつハッピーなときめきに胸のまんなかをがつんと打たれ、ろれつのまともに回らなくなった口で「やるぅ」とこたえた。それからふたりは、飛行機の一泊を二日酔いで、ロサンゼルスでの一夜を景気づけにと入ったホテルのバーでぶち壊しにして、今夜こそはと意気込みながらロマンチックなほど真っ赤なボディのキャデラック・エルドラドで乗り込んだモハーヴェ砂漠で、死にかけているのだった。 「しぶりーん! 坂、下り坂! ここまで押せばクルマで下りれる!」 「なにか見える?」 「なんにも、でも大丈夫だって!」 なにが大丈夫なのだろう、そういうとこだよ、と凜はたばこを地面に押しつけて立ちあがる。灼熱の日射しに頭をくらくらさせながら、手でつくった庇の下から未央を見て、「あっ」とこぼす。 あたりをたしかめて、叫んだ。 「未央! 絶対走らないで! 落ち着いて、右のほうを見て……ゆっくり……」 太陽に向かって伸びる花みたいに手を振っていた未央は、凜の声にしたがうと、瞬間ものすごい速度で駆けだした。 そのうしろから、数頭のコヨーテが牙を剥き、未央に迫った。 「バカ! バカ未央!」 凜は叫び、車内を見た。スーツケース、クッションやからっぽのペットボトル。凜は運転席のドアを開くと、助手席のほうへ回り込み地面の石をいくつか拾う。「よけて!」と放ったこぶし大のそれはなだらかな山なりの軌道を描き、およそコヨーテに届かないままことんと落ちる。 「しぶりん、横!」 未央が叫んだ。それは偶然だったが、飛びかかったコヨーテは凜が反射で開いた助手席のドアにぶつかり、よだれでべったり窓を汚すと地べたに横たわり首を振った。 凜はシートにぼうっと座り、腕や足に咬み傷のないことをたしかめ顔を上げた。未央は数秒で車にたどり着く距離にいたが、コヨーテはいまにも飛びかかりそうだった。凜はとっさに腕を伸ばし、クラクションスイッチを殴りつけた。突撃ラッパのようなキャデラックのクラクションが鳴り響き、コヨーテが一瞬動きを止めた。それで未央は運転席に滑り込みドアを閉じる。「窓!」と凜が叫ぶ。なかばほど開かれていたそこが、閉じるより早くコヨーテが顔をすべり込ませる。獣のにおいが、飢えた牙からよだれがしたたる。未央がクッションで首の根元をおさえつけ、凜がなにか叫びながらペットボトルをその口に押し込んだ。コヨーテがかん高い悲鳴をあげ滑り落ちると、窓はのんびりと閉まっていった。 ふたりは荒い息をはきながら、顔を見合わせる。 「水、飲むよ」と未央が言う。 「私も」と凜はこたえ、きっかり五十ミリの水を飲むと、「なんで走ったの」と言う。 「いや、だって、ゆっくり歩くのってクマ……」 「みんなそうだよ、追ってきたでしょ!」 「知らないよ! 怖かったんだもん!」 「それは、そうだと思うけど……」 「もういい、私がばかでした! 助けてくれてありがと!」 「なにその言い方、私こそ助かったよ! ありがとう!」 それでふたりは少し黙って、車内の重たい雰囲気から逃げるように外を眺める。コヨーテは五頭、車道に寄り集まり、地獄の門の番犬らしく獲物を見張った。未央はふたたびクラクションを鳴らすが、かれらはもう微動だにしない。かすかに耳を動かすばかりで、やわい肉のたっぷり詰まった真っ赤な檻から視線を外すことはなかった。 「やばいやばいやばい……」 未央はつぶやく。 「未央、見て」 と凜はダッシュボードを指さす。そこでは、エンジンが動かなくなって一時間を待たずバッテリーの切れたために放り出されたプラスチックのハンディ扇風機が、溶けて車と一体になろうとしている。 「うそでしょ……」 「シートはそこまでじゃないだろうけど、でも」 「ニュースとかで見るよ。置き去りにされた……」 「そう。とにかく手を打たないと、私たち」 その後のことばを、凜は口にしない。つうっと流れた汗が頬を伝い、あごをしたたり脚へ落ちる。 「死ぬ」 未央は言う。 凜はしずかにうなずき、後部座席へ体を移す。スーツケースから着替えや化粧ポーチ、ヘアアイロンを取り出しながら、「未央。さっきはごめん」と言う。「私、かっとなるとまわりが見えなくなるっていうか……昔からそうで、だから、責めてごめん」 未央は神妙な面もちでうなずきながら、昔からってそれ自覚あったんだ、という返事を飲み込む。後部座席がぎゅうぎゅうにならないよう、着替えや安眠グッズ、電源コードを受け取りながら、「私こそ、ごめん」とこたえる。「私も、ひとりで突っ走っちゃって……だからあーちゃんとも、いや関係ないけど、とにかく! ごめんなさいしぶりん!」 そうして、ふたりは互いを見つめる。共に歩んだかがやかしい青春の日々が、乗り越えてきた苦難の数々が、それぞれの目の奥でぱっ、ぱっとまたたきはじめる。 「生きよう」 とぶつけたふたりの拳のあいだには、なにか、火花のようなものがはじけた。 「っても役立ちそうなのなんもないじゃん!」 「落ち着いてってば……グローブボックスは? なにもない?」 「んー、保証書? とかマニュアルくらいしか……ん? ん?」 「どうしたの」 「なんか二重底? になってるっぽい……しぶりん、なんかテコにできるのない?」 「ヘアアイロンでいい?」 「たぶんいける……壊したらごめん」 「助かるならなんでもいい」 未央がしばらく、うんうんうなりながらグローブボックスを探る様子を、凜は眺めた。時刻は十四時。太陽は西へ傾きだしていたが、それが沈みあたりが涼しくなる頃にはあの扇風機と同じ運命だろう。コヨーテは、いっそこっちに来ないかと誘うような甘い目つきで見つめた。凜が中指を立ててそれにこたえていると、「あっ」と未央がこぼした。 「外れた? なに、なにか出てきたの?」と凜はたずねる。 未央は黙っている。 凜はシートから身を乗り出し、未央の手もとを覗きこむ。 「あっ」 と同じようにこぼす。 「アヤしいと思ったんだ、あのおっちゃん」 未央はこたえ、ふるえる手で拳銃を握りなおした。
千秋楽ドーム公演の開幕を告げる特効のキャノン砲。 破裂音が鳴り響くと、観客たちはその高揚に歓声をあげ踊り狂う。 しかし観客――コヨーテの群れはその音がモハーヴェの空に霧散すると、肉の魅惑にしたがいふたたびキャデラックのまわりに腰を落ち着けた。 「痛い! しぶりんこれめっちゃ痛い! 耳ちぎれてない!?」 「ごめん、きんきんして……聞こえない」 「なに? なんて���ったの?」 「落ち着こう。ちょっと、けむいし」 凜はそう言って耳を、みずからのものと未央の耳の両方を塞いでいた手を離し、窓をすこし開く。それでコヨーテが、準備はできたか、とばかりに目をかがやかせるので、「やるか」とつぶやく。 耳鳴りが止んでようやく、「いけると思ったのに」と未央は首もとの汗をぬぐった。 未央の案はこういうことだった。いつかポジパで農村再生プロジェクトにたずさわったとき、猟銃の空砲で害獣を近づけないようにする様子を目にしたことがある。そんなふうに、コヨーテも銃声で追い払えるはず。 「音が足りないのかなあ」 「私だったら千キロ遠くに引っ越して二度と寄らない」 「そうだ! レコ大シンガーしぶりんの声ならきっと」 「冗談?」 「半分くらいは」 「……卯月のはちみつかりんシロップがないとむり」 「冗談?」 「わりとまじ」 ならケンカなんてしなきゃいいしそもそもたばこだってしまむーにガチトーンで叱られる前にさっさとやめてたら良かった。 未央はそういうことばを五十ミリの水と一緒にぐっと飲み込み、「やるしかない」と言った。 凜はその声を、レコ大授賞式の前室で見せたより厳粛な態度で受け取ると、「たしかめよう」とこたえた。 未央がおぼつかない手で開いたリボルバー式の弾倉より、黄金の弾薬がばらばらっとこぼれる。ひとつ、あやまって落下したそれを凜は拾いあげると、薬莢の触れ合う音すらたてない慎重さで手のひらへ返す。未央はその一つひとつを、おびえとも脱水症状ともとれないふるえを帯びた指先で、コヨーテを撃ち抜く瞬間を思いながら弾倉へ込めなおす。 頭。 頭。 腹。 頭。 頭……をそれた銃弾はモハーヴェの広大な礫砂漠に小さなあとを残し、未央と凜の体はおよそ二十四時間後に通りがかったドライバーに発見され、彼はいかにも面倒に遭ったというふうにぬるくどろっとしたバニラシェイクを吸いながら金品を奪うとおおまかな場所だけを記憶し、トラックを走らせて百キロ離れたガソリンスタンドより警察に匿名の通報をかける。 五頭のコヨーテ、五発の銃弾。 一発も外せない。 未央は弾倉をフレームへ、祈りにも似た仕草で戻すと、その金属音が神さまの啓示であるかのように目をつむり、深く息をはいた。 「ほんとうに、いいの?」凜がたずねる。 「任せてよ。だいたい見つけたの私じゃん」と未央はこたえる。ニュージェネのリーダーだから。ここまで連れてきたのは私だから。百点満点の浮気だなんてばかみたいに誘った私のせいなんだから、そういうことばをいくつも飲み込む。「ぜんぶ私が……なんとかする」 そうして未央は狙いを定める。すこしだけ開いた窓から突き出した銃身が、コヨーテの眉間を捉える。コヨーテは、並んで地べたに横になりながらいかにも冷めた目で未央を見ている。 食われる。 どうせ食われる。 銃弾は一発も当たらず渇き苦しみもだえながら死んでいくのならいっそ体を差し出してしまった方がどれほど楽か――未央は照準を腹部に定めなおす。てのひらの汗が止まらない。当たらない。このままでは当たらない。てのひらを拭ったタオルが、じっとりして湿っている。 しぶりんを、不安に思わせてしまう。 未央はふたたび銃身の先を見つめるが、そこはふるえている。みずからが、ふるえているのだ。胸が苦しい。ずうっと息を止めていたことに気付く。未央は深呼吸をくり返し、コヨーテを睨みつけると、「ちょっと待って」と銃身をお���す。「できるから、でも、ちょっとだけ」そう言って、目のあたりを強く押さえる。 未央のその、苦しみに、凜は頭や胸のまん中のあたりがかっと熱くなり、「貸して」とほとんど奪うように銃を手にとる。 きのうの夜のステーキは、ぎっしり重たい赤身なのにやわらかくて、ミディアムレアのうっすら赤い切り口からは肉汁がたっぷりこぼれて、胃もたれするくらいにそれは、おいしかった。 凜は思った。つまりそういうことだ。ものを食べて生きるように、私はいま生きるためにコヨーテを撃つ。しおれた花弁を剪定するのと同じだ。できる。私にはできる。照準をぴったり鼻のあたりに合わせ息を止めたそのとき、コヨーテがした大あくびが、ハナコのそれと重なって見えた。 「しぶりん」 その声に、肩に触れた手に、凜は息を呑み全身をこわばらせトリガーを引いた。轟音が響き、銃弾はコヨーテの上方数十センチの空を切り、遠い砂地に突き刺さる。コヨーテは驚き散りぢりに去っていくが、すぐにもとの場所へ戻ると。なにも起きなかったかのようにだらりと寝そべった。 その様子を、ふたりはなにもせずじっと見ていた。 「ごめん、私」と凛は言う。 「違うよ。私がばかだった、私が」と未央は言う。 「ごめん、失敗した……ごめん」 「平気だよ。大丈夫、大丈夫だから」 「ごめん、ごめんなさい……」 「だめだよ、しぶりん……泣かないでよ……」 激しい耳鳴りで声は聞こえなかったが、互いがなにを言っているのかはよくわかった。 ふたりはしばらくそうしていた。身を寄せ合い、やがて降り下ろされようとする死のてのひらの影の巨大なおそれを、分かち合うよりほかにできることはなかった。
からっぽのペットボトルをバックシートに放り投げ、凜は「たばこ吸っていい?」とたずねた。喫煙は様々な疾病になる危険性を高めあなたの健康寿命を短くするおそれがあります。未央はばかばかしく赤いマルの描かれた箱の文言をだらっと目で追ってから、「好きなだけ吸ってよ」とこたえた。 「しまむーにちくってやる」 未央は涙の涸れたあとをぬぐい、ささやくようつけ加えた。 「いくらでも」 凜はほほえみ、生きて帰れたら、ということばをたっぷりの煙にかえて吐き出す。 そのにおいはもう、凜にも未央にも平生のようには感じられない。脱水が、体から感覚を奪いつつあった。手���がしびれ、モハーヴェのけわしい山岳の輪郭はかすんで見え、したたるほどの汗でにじんでいたシャツさえも、段々乾きつつあった。 「アメリカのひとはさあ」未央がつぶやく。「なんであんなパンパカ撃てるんだろ。映画とか」 「慣れてるんじゃない」凜がこたえる。「はじめてのステージ、ほら、私たちけっこうやばかったけど、いまはわりと平気だし」 それ言うかあ、と未央はのろのろ凜の肩を叩き、「なら私には一生むりかな」と小さく笑う。 「どうして」 凜はたずねる。 未央は、ゆっくりとこたえる。 「私はこわいよ。明るくふるまってごまかしてるけどさ、いまもステージに上がるのは逃げ出したいくらい、こわい。結局さ、根っこは変わらないんだよ。……臆病で、あーちゃんも悲しませる」 「……未央」 「ってごめん、関係ないね。あはは、もうこんな状況なのにやんなっちゃうな、もうさ……」 「撃てるよ」 未央ははっと顔を上げる。その視線を、凜が受け止める。凜のその、真実のみがもつ白青く澄んだかがやきをたたえた目が、未央をまっすぐに見つめている。 「未央は立ちあがった」凜は続けた。「あのとき立ちあがって、ステージに戻ったみたいに……未央は……」 しかしその声は、少しずつ小さくなりやがて消える。凜はぼうっと、青い泉のまぼろしを見るように視線を遠くへ飛ばした。その指先よりたばこがこぼれ落ち、「しぶりん! ひ! 火!」と騒ぎたてる未央の声も届かないようだった。 やがて凜は、「聞こえる」と言った。 コヨーテが、その声を聞いたかのように耳をぴんと起こした。 未央はしばらく、なにが起きているのかわからなかった。しかしコヨーテが立ちあがり、道路の後方はるか遠くを見つめはじめたころすべてを理解し、「……助かった」とこぼした。 「助かった! 助かったよしぶりん!」 そのとき後方から、なだらかな坂のさらに向こう、未央にはもうぼやけて見える平野から救世主が放つには華々しすぎるライトイエローの反射光をたたえて、巨大なトラックが姿をあらわした。 「しぶりん、ほら返事して! 聞こえてるでしょ!」 未央が勢いよく抱きつくと、凜はほとんど体勢をくずしかける。「聞こえてる」とささやき、覚めないまぼろしを漂うように「助けを、呼ばなきゃ」と続けた。 未央は大きくうなずき窓を開く。コヨーテは寄ってこないようだった。ひどく怯えるらしいその群れを勝利の喜びをもって一瞥し、未央は「おおい!」と叫んだ。トラックは、近づきつつあった。 未央はドアを開いた。凜の制止を振り切り、運転席から道路へ飛びだした。コヨーテはもう未央を見ることもなかった。「助けて! ヘルプヘルプ!」未央はそういうふうに声をあげ、両手をいっぱいに振った。 凜がゆっくりと、助手席から道路へ降りた。未央を、コヨーテを、あたりをうかがう表情はけわしい。耳を澄ませ、目を開き、轟音を響かせながら接近するトラックを不安症患者の目で見つめ続け、やがて「逃げよう」と言った。 その声にしたがい、コヨーテが駆け出す。 未央は「なんで」とたずね、その声がみずからの心をむなしくすり抜けていく様子を感じた。 トラックはゴウゴウと排煙を吐きながら、まっすぐに、走っていた。定められたレールの上を死ぬまで走り続けることを運命づけられた古い機関車のように、その巨大な車体はキャデラックの同一車線上を突き進んだ。 「なんで! 気付いてくれないの」 「居眠りでもしてるんでしょ、いいから逃げて!」 「でも……ひどいよ、こんなの……」 「未央! 走れ!」 凜の叫びとともに、炎のひらめきのような反射光が未央を射貫いた。そのとき未央は、トラックに撥ね飛ばされ無残な轢死体となった自らの体を飢えたコヨーテがなかば飽きながら食い尽くす様子を幻視し、「くそう!」と駆け出した。しかしトラックが、キャデラックの背後にて突然に身をひねり、その頭を未央へ向けた。トラックのフロントには牙のような装飾があり、それは未央を襲うようだった。 死ぬ。 未央は思った。 ひとり取り残され、コヨーテに取り囲まれた凜がなすすべなく……。 未央はすべての力を込め、跳躍した。トラックはふたたび首を振り、車体を道路中央へ戻すとキャデラックの運転席のドアを吹き飛ばし、荒々しい砂煙をあげながらおよそ数十メートル先で停止した。 未央はじっと見ていた。運転席の窓から、からみつく蛇のタトゥー彫りのされた野太い腕が突き出され、親指が、地を差した。 地獄に落ちろ。 そうして、トラックは走り出した。未央は遠ざかる光を追いながら、心で唱えた。地獄に落ちろ。百点満点の浮気だなんて愚かな誘惑をおこない友だちの命を危機にさらしたお前は地獄に落ちろ。 「未央!」凜が叫んだ。「戻って、早く!」 はっと顔を上げ、よろこびの吠え声をあげながら駆け戻るコヨーテを目にすると、未央は立ちあがる。足がふらつく。視界がゆらぐ。熱狂と落胆のあまりの激しさに、全身が悲鳴をあげていた。「こっち!」凜が言った。未央は飛び込んだ後部座席のドアをきつく閉じると、「なんでだよ」と言った。 コヨーテが激しく吠えた。凜が「やだ! やだ!」とくり返しながら、ドアをなくした運転席へ殺到するコヨーテを、スーツケースで懸命にとどめていた。しかし足もとの隙間から、一頭のコヨーテが侵入しつつあった。その頭を凜が必死に蹴り飛ばすが、勢いは止まらない。スーツケースが鋭い爪で削られていく音は悲劇的で、断末魔の叫びによく似ていた。 地獄に落ちろ。 未央は助手席を見た。 拳銃。 銃弾は四発。コヨーテは五頭。 しぶりん。 未央は呼んだ。 撃てるよ。 凜はそう言った。 しぶりんが信じてくれたから、私は。 未央は叫びながら助手席へ飛び込み、手にした銃でコヨーテの頭部を撃った。轟音とかん高い悲鳴があり、なまぐさい臭いが飛び散った。次いでスーツケースとルーフのすき間から牙をのぞかせたコヨーテの口腔内から頭部を撃ち抜くと、足もとより侵入するもう一頭を狙った銃弾はその鼻先をかすめたが、次弾は両目のあいだを貫いた。 かちかちかちかちかちかちかちかち。 未央はトリガーを引き続ける。そうして、弾がすっかりなくなったことに気付き顔を上げると、凜が笑った。 そのとき凜は、たしかに笑ったのだ。 未央はおたけびとも悲鳴ともつかない声をあげながら、スーツケースに飛び込んだ。凜の支えていたそれに体をしたたかぶつけ、飛びかかっていたコヨーテごとアスフ��ルトへ落下した。その衝撃はコヨーテの頸椎を折り砕き、スーツケースをもまっぷたつに破壊した。息をあえがせながら、視界に射した黒い影へ、未央はとっさに壊れたスーツケースのかたわれをかかげた。最後のコヨーテの爪が、吠え声が頭上から降りかかり、死んだ、と未央は思った。もう一度つっこんでくるか、横からまわりこんでくるか、足のほうにくるか、どう襲ってきても次は耐えられない。しぶりん。未央は思った。どうか生きのびてほしい。突き立てられるコヨーテの牙を頭上に幻視しながら、未央は残された時間を祈りにつかった。 しかし、その瞬間はおとずれない。 かん高い悲鳴と、小さな衝撃があった。それがあまりに弱々しく静かだったので、未央は目を閉じることすらしなかった。空想の爪や牙がいつまでもやってこないので、そうっと顔をのぞかせる。ほとんどかたまりの血が頬をなで、未央は悲鳴をあげる。いきおいスーツケースをひっくり返すと、コヨーテは死んでいた。首から血を噴出させた死骸から、未央はあとずさる。車体に背を預け、死んだコヨーテから広がっていく血をぼんやり眺めていると、凜がとなりに腰を下ろした。 「撃てたでしょ」 凜は言った。その手から大量殺人に用いられた鉈のような金属片――吹き飛ばされたドアの破片がこぼれ落ち、からんからんとやけに晴ればれした音をたてた。 「まあね」 未央はこたえた。 そうしてぶつけたふたりの拳から、はっきりとした光がはじける。 「ほら、未央ちゃんってスーパースターでしょ」 「そうだね。未央。未央はスーパースター……」 「ちょちょちょしぶりん、否定してよ」 「だめ。一生こする」 「照れるんだって……」 そうしてふたりは、ふたたびキャデラックを押しはじめる。助けも邪魔もなく、ドアをなくして少し軽くなった車体が坂を登りきると、広大な、見渡す限り命の気配すら感じられないほど荒涼としたモハーヴェの砂漠が一面に広がっている。 「まあ」未央は言う。「行けるとこまで行こっか」 「そうだね」凜は言う。「無事に帰れたら、一億点あげるよ」 ふたりを乗せたまっかなキャデラックがのろのろと、なだらかな坂をくだっていく。
長い旅路の終わりのようにキャデラックのホイールが最後の回転を終えると、「止まった」と未央は言った。 止まった。 止まった……。 呆然とそうくり返すと、未央はハンドルを殴りつけ「どうして! もうちょっとなのに!」と叫んだ。「なんで! なんで!」と、涸れて出ない涙の代わりに感情はたかぶった。 「未央、うるさい」凜が言った。「頭いたい、しずかにして」 未央はごめんと小さくこたえ、顔をあげる。 その目にかすかな希望が見える。 未央の視線は砂漠のはるかむこう、オアシスと同じ色をした建物をはっきりと捉えている。それはガソリンスタンドに見える。モーテルにも見える。いずれにせよそれは、かすんだ視界より時おり消え失せるようなものであっても紛れのない、真実の希望だった。 しかしそれはあまりに遠い。一キロ、二キロ。十キロ。もしかして一千キロ。どれほどの距離にあるのかうかがい知ることはできないが、そこはみずからが日本へ置き去りにした幸福な日々のように、もう届かないものと感じられた。 「しぶりん」 未央は呼ぶ。 「行こうよ」 と凜はこたえる。帰らなきゃ、私たち……ささやきながら開いたドア��ら、凜の体はゆっくりと倒れていく。 未央はキャデラックを飛び出し、凜の様子をたしかめた。渇ききり、汗の一滴も流れず、意識はうつろなようだった。「帰ろう」と、凜はくり返した。「未央、帰ろう」凜は目を開かないまま腕だけをぐうっと伸ばした。 未央は、その手を取った。 肩を支え、立ち上がり、歩き出した。 希望はたしかに見えていた。しかし歩みは弱かった。一歩、また一歩と進むたび、灼熱の道路に命がこぼれ落ちた。 やがてふたりは、くずれ落ちる。 そのとき、未央の体が凜の下敷きになったのは偶然ではなかった。未央はただ、少しでも凜が苦しくないようにと、そう願ったのだった。全身が痛み、背中は焼けるようだった。それでも、凜がそんなおもいをしないのであればいいと、まっさおな空を見上げて思った。 「ごめんね」 未央はそのとき、凜のために言った。 こたえるように凜が体を起こした。凜はそうし���、未央を見つめると、くちびるにキスをした。からからのくちびるは、はじめて愛のたしかめられる瞬間のように、ほんのわずかだけ触れ合い、離れていった。 なんだこれ。 百点満点じゃん。 未央はそう思った。嬉しくて叫び出したくなるような、運命的なまでのキスだった。未央はもう、うまく言葉も発せない喉を懸命にふるわせ、「しぶりん」と呼んだ。話したいことがたくさんあった。せめて一言だけ、このキスの感想だけでも聞いてから死にたいと思った。 凜はこたえる。 「……卯月」 続ける。 「卯月、卯月……」 それで未央は胸が苦しくなって、世界のそこかしこできらめく数多の愛の星々から見離されたような気持ちになって、くちびるをきつく噛んだ。血がにじむほど噛みしめ、やがて大きく息を吐くと、「死なせるもんか」と言った。 涙は流れない。 しかし未央は。 「どうしても、生かしてやる」 そう言って、凜のポケットをさぐった。肌に触れていた固い感触は、凜の大切そうに扱っていたジッポライターのそれだった。 つたない手つきで着火をたしかめ、未央はキャデラックを振り返る。およそ十数メートルほどの距離を、這うようにして戻っていく。タンクを開くとタオルを取り上げ、ガソリンを染み込ませる。ガソリンを今度はペットボトルに集め、タンクにつっこんだタオルへ続く導火線を道路にこぼしていく。 そうして、未央は凜のそばへ戻る。凜がまだ息をしていることをたしかめ、ポケットから取り出したたばこに火をつけた。それを一口すうっと吸い激しく咳き込むと、「絶対やめさす」と凜へ告げ、たばこを指ではじく。 炎はガソリンの道を伝い、車へ走った。炎はタオルに取りついたと思うと、またたく間にタンクへ吸い込まれ、爆発が起きた。 その、あまりの大きさに未央は笑った。まっかなキャデラック・エルドラドはドライブインムービーの八十五分的に吹き飛び、あとからあとから黒煙をもうもうと吐き出した。 未央はしばらくもの珍しいその光景を眺めて、視線を飛ばした。数キロ離れたあの青いガソリンスタンド、あるいはモーテルから、何台もの乗用車やトラック――ばかばかしいほどの黄色い光をたたえた――が炎に誘われてやってくる様子を見た。 地獄には、落ちるかもしれない。 未央は思った。 でも、私だけにして。 しぶりんを、��まむーのもとへどうか届けてあげてください。 そんなふうに思いながら、未央の意識は熱砂へ沈んだ。
*
――それじゃあいきますよ、さん、にい……。 ちょっと、待って卯月。いちからって話したじゃん。 ええ、そ、そうでした! (あたたかい笑い声) もう一回いこうか、せーの。 いち、にい……。
――さん、と卯月は続けない。いまにも空へ放とうとしていたカサブランカのブーケを胸に抱きしめ、うすいピンクのウェディングドレスをそっと揺らしながら、白鍵を鳴らすように教会のステップをくだっていく。 その隣で、凜がほほえんでいる。清澄な連弾をかなでる奏者のように、卯月の足取りを支えながらステップをくだっていく。その身を包むコーラルブルーのドレスはやさしく、淡く光をはじいている。 「さん」と卯月が言ったのは、藍子の前だった。みずからの幸せをまるごと分かち合うかのように、「藍子ちゃん。未央ちゃん。ご婚約おめでとうございます」とブーケを差し出した。藍子は驚いて、列席者たちから贈られる彩り豊かな祝福に包まれながら、長い時間をかけてはぐくまれた愛情そのものと同じくらいに美しい花を受け取ると、泣いてしまった。すると卯月もつられて泣いて、ふたりの涙は予定外のお色直しが必要になるくらい温かく流れたので、未央は目のはじのほうをうるませながら、明るく笑った。 「おめでとう、未央」 凜が言った。 「おめでと、しぶりん」 未央はこたえた。 ふたりは互いの涙を眺めて、照れるみたいにまた笑った。 長い冬の終わる日だった。四月の半ばまでじっと居座っていた寒気が去り、よく晴れた空とあたたかいと感じられる微風が春のおとずれを告げると、若い命がすくすく芽を伸ばしはじめる、そういう日だった。 鮮やかに、新たに、なにもかもが生まれ変わっていく。 そういう季節の、はじまる日だった。
「お疲れ、花嫁」と未央はカクテルグラスを差し出す。「どっちがいい?」 「ピーチで」凜はこたえて、淡いピンクのグラスを受け取る。「仲人ありがと。ところでこれ……」 「ノンアル」 「だね」 「なになに飲みたいかんじですかおねえさん?」 「逆。今日はいいかなって気分」 「見よ! かように幸福のわれらを深く酔わせることといったら!」 「なんのフレーズ?」 「いま考えた」 「……ちゃかさないで、ほら」 乾杯、とふたりはグラスをぶつける。はかない光が、ふたりを包むうす暗がりを一瞬照らし、カフェテリアのまばゆい喧噪のうちに溶けていった。 はなやいだ二次会だった。所属タレントふたりの結婚とあって、特別に開放されたプロダクション併設のカフェテリアは、二十三時をとうに過ぎたいまも醒めやらない祝福の暖気でいっぱいだった。日中の式には参加できなかったアイドルたちが、代わるがわる訪れた。酒も食事も、用��されていたものが早々になくなっても次々運び込まれた。こうこうと、オフィス街の夜に照らし出されるそこは、旅人が砂漠に浮かべる楽園の夢のようだった。 「しまむーは?」 「あそこ。先輩方になんか教わってる」 「あー……」 「藍子は?」 「あっち。お姉さま方になんか」 「ああ……」 そうしてふたりは黙りこむ。熱砂のおとずれを待ちわびる。ふたりには、話せていないことがあった。帰還より数年が過ぎてなお、あの、モハーヴェの砂漠に置き去りにしたおもいが、茫漠とふたりの心に広がっていた。 「……覚えてる?」未央が言う。「しぶりん、あのときさ」 「キスをしたよね」凜が言う。「私、……未央にキスをした」 乾いた風が吹きはじめる。やがてあたりの喧騒は消え、カフェテリアに灯されたまっしろな明かりが、ふたりの姿を砂漠の影に、たどり着くことのなかったモハーヴェの夜に覆い隠す。 「……覚えとんのかーい」 「最近、思いだしたんだよ。車を買おうかって、卯月と話して……」 「うん」 「赤いキャデラックが展示されてて、懐かしいなって見てたら、急に」 「爆破したやつ」 「そう。あれの負債とか結婚費用で結局、車買えなかった」 「あはは。ばーかばーか」 「あんたもでしょ」 ふたりは少し笑う。 グラスをかたむけ、「バチが当たったんだ」と未央は言う。 「……卯月だって思ってた」 凜は続ける。 「あのとき私、卯月がきてくれたって思ってた」 「うん。知ってるよ」 「そんなわけないのに」 「なくもないかも」 「謝るのも違うって、思うんだけど」 「うん」 「あのときキスをしてごめん。未央。あんな、あんな……」 「百点満点の?」 「あんなことして、私、未央を裏切った」 「思ってない。未央ちゃんはぜんぜんそんなふうに思ってない。ほら、しぶりんこっちおいで」 「でも」 「誰も疑わないよ。う、わ、き、だなんて」 「そうじゃない、未央のばか。バカみお」 「よしよし。ほら、誰もいない。好きなだけ泣けばいいさ」 未央はそう言って、凜を強く引き寄せる。胸のうちに、まだ十代の少女だったころよりもずっと、小さな声で泣くのがうまくなった凜を抱きしめながら、未央は顔を上げる。うるんだ瞳にゆらぐ光は、あのとき見ることのかなわなかった砂漠の夜の星々を思わせる。それで未央は思う。ここは砂漠だ。このモハーヴェの夜に誰が、それこそ車まで爆破しなきゃならなかったのに、いったい誰が私たちを見つけるだろう。 「いっぱい泣いたらさ」 未央はこの日のため、悩みに悩んだパーティバッグを開いて、続ける。 「ここに、ぜんぶ捨ててこうよ」 そうして未央はシルバーのジッポライターを、かつて凜のものだったそれをうやうやしく、永遠のおもいを誓う指輪みたいに差し出す。 「……たばこもうやめたけど」 凜は涙をぬぐって続ける。 「持ってて、くれたんだ」 「いやー、ねえ? 返す機会もないし勝手に捨てるのもなあって」 「そうだよね」 「……受け取ってくれる?」 凜はその、ぴかぴかに磨かれたライターを、未央の手のひらからそうっと取り上げ、「ありがとう」と言う。 「いままで大切にしていてくれて、ありがとう」 両手でしっかりと包んで、そう言う。 「ちゃんと捨てろよ」 それで未央は、笑う。 「……さーて、十二時もまわったことだし愛��るシンデレラを迎えに行きましょうかねえしぶりんや」 「なにそれ、かなりださい」 「はあー? アイオライトしぶりんには未央ちゃんのセンスがわかんないかなあ~」 「ちょっと、私そういうのとっくに卒業したんだけど」 「は? かわいい、チューするぞ」 「は? ねえ、スーパースターが浮気してるけどこっち」 ふたりは軽口とともに立ち上がり、モハーヴェのうす暗がりからカフェテリアのさんざめく光へ、それぞれの愛するひとのもとへ帰っていく。 「じゃあね、親友」 未央は言う。 「これからもよろしく、……親友」 凜は言う。 そうしてぶつけた拳の間にそのときはじけた小さな光は、長いながい、旅の終わりとともにはじまったふたりの新たな旅を、永遠に照らす。
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2021/5/1
朝、遠足が楽しみで早起きしてしまう子どもです。窓を開け、玄関にも出てみる。遠足日和! そろそろ半袖でもいいような気がして、何を着ていこうか。ここはひとつ、みんなに奇襲をかけるべく、ガラッとイメージを変えて青い花柄のシャツを着ていくことにする。どうせイメージを変えるならと思い、シャツインしてみると、なかなか面白い感じになったからこれで行くことにする。念のため、お気に入りの青のスカジャンも上から羽織る。家を出て、10歩くらいでスカジャンを脱ぐ。あっついね! お財布がすっからかん、ATMでお金を下す、機械からありがとうございます、どういたしまして。横断歩道の待ちに加わろうとすると、向かい側にNの姿が見えて手を振る、あれ、なんか反応がうすい、どうしたんだろう。信号が青になって横断歩道を渡ると、誰だかわからなくて目を凝らしてましたって。奇襲は成功なのか? 青い靴下がいいね。ついでやってくるのはT、わあッ、夏仕様だって。奇襲は成功ってことでいいのかしら。今日は何のアニマル柄だろうと楽しみにしていたら、今日はアニマル柄ではなくて、でも、恐竜の骨のネックレスを身につけている。いいなぁ。じつは鈴を付けはじめたのは、コジコジのワッペンとか、アニマル柄とか、フクロウのかばんとか、恐竜の骨のネックレスとか、そのひとを象徴するような逸品を誠実に身に付けていることに憧れていたからで、鈴≒お遍路≒仏教≒東南アジア≒夏≒カリーみたいな意味も無理やりなこじつけながら込められている。少し遅れて到着するのは坊主頭の伸び具合が気になるRで、坊主頭はぜんぜん伸びていなくてざんねん。このあいだと同じ着古した浅緑のジャージを着��いて、その質感にじぶんの青のスカジャンと似たような匂いを感じる。死んだおじいちゃんのことを思い出している。おじいちゃんも同じこだわりの逸品を身に付け続けたひとで、おばあちゃんとお母さんの天才的な計らいにより白装束ではなくいつもの格好で棺におさめられ、こだわりの逸品たちといっしょに燃やされていった。あんなに素敵なお葬式ははじめてだった。
産まれたてのカモの赤ちゃんを見に行く。元気いっぱい! 泳ぎが速い! ゴムボールのような弾力! 子どもたちが数をかぞえているのに便乗、ことしは十二羽。一羽だ��生後二日目ながら潜りの練習をしているカンのいい子がいる。おばあさんが電話口でカモの赤ちゃんの産まれたことを誰かに伝えている。見ているときはわりと冷静にだったけれど、いま元気いっぱいの赤ちゃんたちの姿をあらためて思い浮かべてみると涙がとまらない。
このあいだRが行けなかったマンションに。なんかけっこうひとがいて侵入がむずかしそうだから、外階段のこわいほうに上ることにする。Nは下からみんなの姿を見るといって待機。青いウニと緑のウニ。うう、やっぱりこわい、足がすくむ。歩道橋にいる豆粒サイズほどのNが見える。TとRはぜんぜんまったく平気なようで、鍵のかかった柵をよじ登って屋上に行ってしまう。柵すらない30センチあまりの敷居のあるところから真下を覗いていて、楽しげな声がきこえてくる。Nもあがってくる。こんな錆びた外階段に4人もひとが居たんじゃ底が抜けちゃうって思って、錆び鉄のところじゃなくてコンクリートのところに身を寄せる。そしたらナイスショットで遠景を眺める三人の後ろ姿をパシャッ。下には写真を撮っている男のひとと被写体の女のひと。Nから技使いのかよこさんのはなしを聞きながら駅のほうへ。急な縁談のはなしといい、かよこさんのはなしといい、そういうひとを引き寄せているのはNのほうかもしれなくて、きっとNの真心のようなもの(想像では、それは鳥のかたちをしている)が日頃からポロっと表面にこぼれているからなんじゃないかと勝手に想像する。かよこさん、あってみたいなぁ。技、使えるようになりたいなぁ。お目目のとってもきらきらした犬とすれちがう。その瞳に歓喜するTなんだけど、おまいさんのその瞳も相当なものだぞっと思う。全盛期の松坂大輔のように真っ直ぐミットにとどくストレート、いつも三振してばっかりだから、そろそろカキーンッと打ち返してやりたいね。
地下鉄、窓の反射、静かな列車内で思いがけず視線劇のようになる。
薄々気づいていたけれど、どうも先頭を歩かされている。ちゃんとみんなが着いてきているかどうか、後ろに振り返ると三人が鈴の音に導かれるように縦一列に連なって歩いている。それはそれでおもしろいんだけれど、なんかちょっと、ねぇ。
目的の駅が近づいてくるあたりから唾液腺が活発に活動しはじめ、お店のまえで御馴染みのスパイスの薫りを感じたときにはもう滝のようなよだれ具合になっている。角の四人席、右からNとTがよこならび、その向かいにRとじぶんがよこならぶ。当然、投げ込まれるTのストレート、まぁた簡単にストライクをとられると思ったら、ペロッと笑ってくれる、めずらしくボール先行。Rのチャームポイントの耳のはなし、Nちゃんもこの耳がいいんだよって言っていたとか、ふたりがいっしょにいるところ見たいなぁ。あと、Rは耳だけでなく前��もかなりチャームポイントだと思う! カントリーカリー×4が到着、おばちゃんは相変わらず曲者で、でも、旦那さんをSさんと、名前のさん付けで呼ぶのがかわいい。嗚呼、なんて美味しいんだぁ。プリックナンプラーが口のなかで弾ける、Rのプリックナンプラーを噛んだときのアクションがお手本すぎる。おばちゃん帰りがけに気づいてくれてうれしい。そう、そうなんだよね、元気が出るんだよね!
Hからの連絡はまだなく、オリンピック公園を経由しつつ川に向かうことにする。長閑な住宅街の裏通り、一軒だけ名前のついているアパートがあって親近感がわく。大学に面した通り、花がいっぱい咲いていて天国みたい。白と赤のNのそう言い表すところの踊り子のような花、この花のことはまえから気になっていて、Rが調べてくれた名前は長すぎて思い出せない、でも、この花をみんなで見たことは忘れないないだろうなぁ。オリンピック公園は色濃い緑がどこまでも揺らいでいて、夏の息吹に包まれている! しかも、その緑の膨らみの上から鉄塔が覗いている。この夏の雰囲気をTが手放しに喜んでいる。そういう素直な声を聞けるのって嬉しくて元気がでる。
Hから連絡がきて、来た道を引き返す。Nがカゴ抜けインコを発見、みんな、どこどこって樹の上のほうを見上げる。インコの繁殖力はなかなかのものらしく、いつかスズメとかと同じようにそこら中でインコが見られるようになるのかなって。住宅地の家のドアに映るじぶんたちのでかい影。たけのこ、たけのこの思い出。
地下鉄はトンネルを抜けて。改札前でHの姿を探す。いた! トレンチコートがよくお似合い。挨拶なんかを交わしながら川のほうへ。河原の入口に工事が入っていて、ちょっと雰囲気が変わっている。川の水面がきらきら、列車が橋をガタンゴトンと渡る。河原がこんなに広いとどこに腰を落ち着ければいいのかわからなくて、わからなくなったその場所に相変わらず準備のいいNのビニールシートを広げることになる。そこは花が咲いているからと遠慮するNに、雑草は踏み付けられて丈夫に育つんだよとR、そうか~そうだよね~とN。風が強くて、ビニールシートを広げようとした瞬間にもそのすべてがNの顔面に襲いかかる。わあああっと暴れるN、手伝おうするかに見えたRはよりビニールシートがNの顔面���襲うように手配する。みんなでビニールシートを広げ、それっと荷物を四隅に乗せる。
てんとう虫がくる、飛んでゆく、パカッとロボットみたいに飛ぶんだねってR。夕陽が見たいと言うNに、太陽の沈む方角を確認しながらRが望み薄だねって言う。上裸のおじさん。ボールを咥えた犬。薄々というか明確に気づいていたけれど、風が強すぎて、しかもこの風は驟雨の前兆のような風で、なんか肌寒くなってくる。Rのトートに預けていたシャカジャンをRが気を利かせて出してくれる。でも、まだそこまでではないから、だいじょうぶって半袖シャツの下に折りたたんでいた長袖インナーの腕を出す。そんなつもりではなかったけれど、Tを筆頭に大笑い。じぶんのことながら、それがなんだかじぶんでも可笑しくって、可笑しくって、ボケたつもりはまったくないんだけども、いまのところ生涯で二番目に笑ってもらった思い出になりました。
心配していた雨が降りはじめる。降りはじめにもかかわらず大粒の雨がひゃーひゃー落ちてくる。橋の下に避難しても横なぶりの雨が吹き抜けてまったく雨宿りにならない。いま思えば、みんなでビニールシートの下に隠れて移動したらもっと愉快だったかもしれない。これからどうしようか、ひとの家が大好きなRがすかさずHの家に行こうという。いやあ、うちはうさぎ小屋だからな~、とH。一瞬の間があって、見える、見えるぞ! Hのまわりにたんぽぽの綿毛のようなほわほわの浮かんでいるのが! 狭いことをうさぎ小屋と言うことの可笑しさから、それなら狭くて天井の高いうちは鳥小屋だなぁっと思ってなおのこと愉快になる。はやく引っ越したいとしか思えなかったじぶんの住まいが、この頃だんだんと楽しいところになりつつある。
行く当てもなく、エレベーターで商業ビルの最上階に上ってみたり。お洒落なトイレに入ってみたり。外側に面したガラス張りのエレベーターで下降、みんなでうおおおぉって言いながら、遊園地のアトラクションみたいに楽しい。ほかの商業ビルにも行ってみる。何故かエスカレーターに鎖がかけられいて、Rとそのなかに入ってみる。大きな立派なビルなのに誰もひとがいなくて、何となく廃墟にいるような不気味さがある。そんなことをしているうちにも雨があがり、日差しもでてきて、さっきまで肌寒いくらいだったのにぐんぐん暑くなってくる。適当に歩いていたら川を渡す大きな橋に行き当たったから、これを渡って対岸でさっきの続きを。橋の上はありえないくらい風が強くて、ゴゴゴゴゴーって風の音でおたがいの声も聞こえにくい。油断すると手に抱えたスカジャンが吹き飛ばされそう、カツラだったら確実に吹き飛んでいる。橋を渡ると、越県している。知らないうちに県境を跨いでいたらしい。段差の小さなやさしい階段をくだる。野球場があるからマウンドに立つ、マウンドは気持ちがいいね! 投球の仕草をしたら球みえましたって。
河原の階段に腰を落ち着かせる。階段の裂け目から雑草が伸びていたり、苔が生えていたり、ミズゴケがかわいい。さっきまでいた対岸とはずいぶんと雰囲気がちがって、この寂れた感じがとてもいい。Hの幻聴のはなし。まえに『かおるクロコダイル』について書いた文章はじぶんでもとても気に入っていて、いまでもたまに読み返す。いま思ってみれば、これはあくまでも小説について書いた文章だけれど、どうやらHという個人の人柄に全面的な賛同を示しているような具合でも��りそうで、ほとんどラブレターのようなものじゃないかっと、ちょっと照れてしまう。水槽のはなし、お墓から芽が出たら見に行きたいなぁ。誰かがたばこを吸い始めると、急に盛り上がるRとN。とても可笑しい。隣人にパンを分け与える聖職者か、占領下の子どもにチョコレートを分け与えるアメリカ兵のようにHはふたりにたばこを分け与える。
ふらふらと川岸に下りてゆくHのあとを追う。ゴロタ石の川岸に興奮しちゃう、石投げ放題じゃん! 石を投げまくる。Rは石を跳ねさせるのがめっちゃ上手い、5回とか6回も跳ねる。こんどは流れてきたビニール袋を狙って投げる。大きな石を両手の下手投げで川に投げ入れる、ザッブーーン。対岸にはかっこいいダンスミュージックをウーファー付きの大きなスピーカーで流して踊っているひとたち。もらい踊りする。ゴロタ石に向けても石を投げてみる、カッチカチといい音がする。炊飯器のお釜。NがRの帰りの時間を心配している。駅のほうに向かう。公衆トイレに寄る、Rのトートを預かる、用を足して出てきたRはニコニコでありがとうって。髪がなくてできないのが残念なんだけど、髪があったらわしゃわしゃわしゃーって犬を洗うみたいに髪を撫でまわしたい。そういえば、風に吹かれまくったTの髪がライオンみたい。
Rは暗くなったら帰るとNちゃんと約束したらしく、まだ明るいから公園に行くことにする。でかい犬。さすがに先頭を歩くのには飽き飽きで、憤慨してるって言いながら後ろにまわる。Rが最後尾を譲ってくれる。ようやく、みんなのことを後ろから眺められる。後ろを歩くのは気分がいいなぁ! 憤慨って言葉がなんかおもしろくて気に入ってしまって、憤慨、憤慨、憤慨を連呼していたら、申し訳なさそうに苦笑いするNと目が合う。
公園。小さな公園なんだけれど、かつてはきっと鎮守の森だったであろう面影を残している。その象徴のような大樹は太い根っこが地面からモリモリ盛り上がっている。いい樹だなぁっとちょっと泣きそうになる。ブランコ乗る、目一杯。みんな一本の樹に集まっている。揺れがおさまってから、みんなの集まっていた樹のもとに遅れて向かうと、木肌に「殺す」と刻みつけられていて大笑い。まるで幻聴がHの小説のように視覚的現実としてあらわれたようだとワクワクする。Tから毎日ポケモンパンばかり食べているはなしを聞いて、何か作りに行ってあげたほうがいいんじゃないかと心配になる。ブランコにぶら下がって懸垂をしているひとをみて、Tができる? って。まぁ、ちょびっとならできるだろうと思ったら、まさかの一回もできず、ショックすぎる! Rもこの運動に参加、一回、二回、三回とできている、悔しい! 鉄棒があるから逆上がりくらいならできだろうと高を括ってのぞむと、もうほんとうにかなりギリギリで辛うじて坂上がれる。Mちゃんはこれで精一杯と前まわり。ていうか、ほかのひとはまだともかくとして、Tはちょっと違和感ありすぎるからMちゃんでいいですか、いいよね! でも、ちゃんと呼べるかな、ひとの名前をちゃんと呼べない病気のことが脳裏によぎる。公園の電灯がともる。それが橙色の光で、夕陽は見られなかったけども、夕陽みたいでいいなぁと思う。
駅に向かう、あんまり辿り着きたくはない。蔦に覆われたもこもこの何か。ひとりだけ反対方向のRを見送る、エスカレーターから手だけ見える、嗚呼あああぁ。対向車線のホームにのぼる、Rが向こう側にいるかなって探すけどいない。ベンチに座る、ベンチがすべすべでからだが沈む。疲れているし、お腹が減っている。電車がくる。大好きなロードムービーのこととか、子どもの頃の夏の公園を思い出している。旅のさなかで、ひとり、ふたりと仲間が増えていって、終幕とか夕暮れがきて、ひとり、ふたりと仲間たちが散り散りにさよならしてゆくときのことを。ついでHとのさよならのときがくる。同じようなことが何度か繰り返されると、最初の頃の新鮮な感覚が薄れていったり、かえって義務感のような重荷になったりすることがあるけども(それはおたがいに)、Hのそれはあたまで考えるようなそんなややこしいことをスッと越えて、ごく自然に最前線の地点からとっても素直な気持ちの発露としてなされているような感じがする。だけど、それはひとりでは成立しなくて(それはおたがいのことであるから)、じぶんもまたそれを素直に受け止めて心から喜ぶことのできる才能があるってことを見出せたことが何よりも嬉しくて、そのことを先に見出して導いてくれたHにはあたまが上がらんのです。
列車に残されたじぶんたちはまことにほんわかした気持ち。そういえば、夏好きですかって質問にHが「暑いの以外ぜんぶ好き」って答えてたの秀逸っていうか、新しいっていうか、素直だったなぁ。
カッキーンっと打ち返すべく、Mの真っ直ぐな瞳を見つめる。その目のよさに触れると、ええぇ、目つき悪いし、目で笑わないしって。ええぇ! って、こっちも応酬すると、MがNに「こんなふうに笑ってみたらいいの?」ってニコッとする。そのがんばった健気な表情、かわいすぎて気絶するかと思いました。
お腹ペコペコ、夕飯を食べていくことに。まさかのうちでってことに。え! でも、こういう機会がないと部屋は荒れ放題だし、片付いていると気持ちがいいし、おかげでさいきんは日々の生活にちょっと丁寧で神聖な感じがある。駅に着くと、なんと、なんと、ざざぶりの大雨。Nの小さな折り畳み傘に三人中腰でおさまってワーーーーッて泥棒のように小走り。なんで中腰なのかはわからないけど、なぜか中腰なんだよね。絵本の『すてきな三にんぐみ』のことと、ルビッチの『ニノチカ』に出てくるすっとこどっこい三人組のこと���思い出しながら。雨は降っているにかぎるね!
秘密基地みたいって言ってもらえて感無量、ほんとうに秘密基地を作りたくて、秘密基地みたいにしたいと思って作った部屋だから。ロフト上り下り、ガンバ一話だけ観る、泣きそうになっちゃう。
雨やんでる。カモの赤ちゃんの寝姿を見て、ふたりを駅までお見送り。このあいだNが見ていたふたり同時に時が止まったように灰色だった表情のはなし、そのとき、その瞬間、Mの目が嘘かほんとうかわからないけれど、くしゃっと、さっきのように笑っている。
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Page 97 : 笹波白
突き抜けていくような澄んだ深緑の瞳が、まるで朝の光をそのまま閉じこめたような瞳が、ラーナーを、圭を、包むように捉えていく。それから視線を手元に落とすと、感覚を確かめるように右腕を軽く上げて、何度も手を開いては閉じて指を伸ばしては曲げて手首をくねらせて弛緩しては収縮する筋肉の動きを一筋一筋丁寧に繰り返す。痛みを感じないのか、鎮痛剤が効いているのか、白は顔色どころか表情もまったく変えずに動作を続けて、やがて落ち着いたように小さな吐息を落とした。 『……戻ってきたんだ』 口から自然と出てきたのは李国語だった。実感をこめた声は、いつもの彼とまったく同じ声音だというのに、まったく別種のものであるということはラーナーにもなぜだか理解できて、弾丸のように彼女の胸を貫いた。 立ち尽くすラーナーの横を圭が通り抜けて、ベッドの隣までやってくる。 『白、まさか、本当に』 未だに信じられないように、見慣れている顔をまじまじと見つめる。 『……圭? ここは? 団?』 『病院だよ……』 圭は苦くほころんだ。 『記憶が……無いのか。まさか、黒の団にいた頃で止まってるなんて』 『……違う。今、混乱してて……すごく、変な感じ……』 そう呟いて瞼を指で押さえる。起きて間もない様子である。背中を丸め、所作の一つ一つが気怠げだった。 その様子をじっと遠くから眺めていたラーナーの肩が叩かれ、反射的に慌てて振り返った。 「……大丈夫?」 過剰な反応に驚いたように仰け反ったのは、真弥だった。アーレイス語にさり気なく安堵しつつ、迷ってから、ラーナーは素直に首を横に振る。 深いわだかまりを抱えた雰囲気を挟み、ラーナーが無意識に動かした視線を真弥は追う。 「何があった?」 来たばかりの真弥も違和感を汲み取ったのか、どこか仄暗い目で白と圭の様子を見つめている。二人は既に言葉を交わしている様子はなく、噛み合わない歯車のような空気感を漂わせている。 「私にも……何が何だか……」 「ふうん」 「……圭くんは、白、と呼んでました」 え、と声を漏らした彼の顔は、純粋な驚きを浮かべ、目を細め白を見やった。 「……ああ、へえ。なるほどね」察したのか、納得したように頷いた。「笹波白、か」 「何か知ってるんですか」 「一応、ね」 即答され、ラーナーは改めて真弥を見ると、澄んだ金色の瞳が試すような視線を送っている。 「知りたいかい」 重々しい口調だった。 怯みそうになりながら、ラーナーは白に視線を移した。クロと全く変わらない顔。垢抜けたような横顔。あの人がクロでないとするならクロは一体どうなったのか。どうしてこうなったのか。圭は、真弥は、何を、どこまで、知って���て、その一方、自分は、何も知らない。 「教えてください」 真正面から真弥に対峙する。 「教えてください、何もかも」 そうでなければ、納得できない。 背中ごしに聞き耳を立てていた圭も、後ろを振り返る。ただひとり、白だけがラーナーを見ず、重く項垂れている。
*
白を病室に残し、診療所の入り口まで戻ると、一行はエレベーターではなく、その隣の扉の向こうにある階段を選ぶ。ところどころ錆びたような薄暗い場所は、白い蛍光灯に照らされた、滅多に使われることのない冷たく翳った空間だ。数段上がって踊り場へと足を運ぶと、耳を澄ませて人の気配が無いことを確かめる。真弥はひんやりとした手摺りにもたれ掛かり、緊張から解放されたように弛緩した。 「しかし、驚いたな」 「ああ」 肯く圭の表情からは動揺が消えずにいる。 「今になって……まさか、もう一度会うことになるなんて思ってもなかった」 「俺、あっちとは殆ど会話したことないんだよね、多分。よく気付いたな」 「雰囲気が違うってラーナーが言ったから……」 身体を強ばらせて踊り場の真ん中に立っているラーナーを見やる。彼女は力無く首を横に振った。勘が冴えた感覚も無く、あの姿を眺めて、思ったことをそのまま口にしただけだった。 「それに、クロの様子がちょっと違うのは、ここ最近感じてた。妙に弱々しかったり……今思うと、もしかしたら前触れみたいなものだったのかも」 圭の指摘に、ラーナーは耳を持ち上げるような感覚を覚えた。 心当たりはいくつかある。 リコリスの、山脈に沈んでゆく燃えるような夕焼けと、影の対比、こうべを垂れている向日葵の大群、それらを揺らす夏の夕風、靡いている深緑の髪、座り込んで、やがて膝を抱えた弱々しい背中。しかし、どこかの瞬間、豹変して、鋭い刃を剥き出しにする。弱さと強さ。リコリスよりも前、トレアス全体を見渡せる遺跡のほとんど頂上付近で、じっとすべてを眺めトレアスの空気に溶けていた、その姿を見つめながら、身体が限界に近付いたり発作が起こると精神は極端に揺らぐのだと、嘗てアランは語った。ふとした弱さは、随所に現れていた。原因不明の発作や、黒の団との激しい戦闘で、心が乱れているのだと彼女は考えていた。すべてを繋げるのは乱暴だとしても、藤波黒の、もっと、ずっと奥にある根本が、恐らく大きな鍵を握っている。 笹波白とは一体誰なのか、藤波黒とは一体誰なのか、二人の関係性は一体なんなのか、圭と真弥の会話に耳を立てながら、ラーナーにも漠然としたひとつの予想が浮かんできた。 「あいつに関しては、圭の方が知ってるだろう。一番近い場所にいたんだ。俺も、昔クロからぼんやり話してもらっただけだし」 「……うん」 後ろめたげな表情を浮かべ、圭は深呼吸をした。遠い目をして、記憶を引き出し、何から話すか、しばしの時間を要した。縦に伸びた空間はとても��かで、しかし、無骨な場所であるせいか、閉塞的でもあった。 「白……笹波白というのは、あいつのほんとうの名前だ」 そして圭は話し始めた。 「名前、というか、本物の方、といったらいいのかな。藤波黒っていうのは、もう一人の笹波白、いわゆる、二重人格っていうやつかな。元々は白のみだったけど、三年以上前、白は苦しみにどうしても耐えられなくて、自分の中に消えて、代わりに藤波黒という人格が生まれた」 存外、強い衝撃を受けている感覚は無かった。目を逸らさず、ラーナーは唇を引き締めた。 「どうしてクロが生まれたのか、それは俺も完全に解っているわけではないけど、俺の中で整理している範囲で何があったのか説明しようとすると、クロや白のことだけじゃなくて、俺や真弥さん、あとニノ……ラーナーのお母さんのことも含めて、黒の団にも関わってくると思うんだ。話は少し長くなるけど」 「いいよ」 即座に応える。 「教えて」 欲求に急かされて、圭は苦笑を浮かべる。 「クロが、ラーナーにあまり言わなかった理由、今ならわかる気がする」 寂しげに呟いた。 以前、昔の話は得意ではないと仄暗い溜息をついた。記憶を伝える役割まで回ってくるとは彼も考えていなかった。また、繋げていく、重いものを胸に受け止めながら、再度口を開く。 「……ずっと前、李国で、黒の団と白の団という二つの組織が戦争をしていた。そのことは知ってる?」 「うん」 「それは知ってるんだな。……元々李国はかなり治安の悪い国で、そういう内戦も大なり小なりあって、別に珍しいことじゃないんだ。ただ、この二つの組織の戦いは、かなりひどい方だったと思う。裏社会でトップの権力持った組織だったから。あれは……権力争い、みたいなものだったのかな。相手を完全に潰すまで続ける、そんな戦いだった。長い間諍いをしていたけど、泥沼化していて、お互い消耗しつつもあった。黒の団の方は勝機を見出すために、今の黒の団の主要メンバーで、元々はアーレイスで活動していた研究グループを引き入れた。……この、研究の内容とか、何やってきたかとか、詳しいことは俺、正直全然わかってないんだけど……真弥さん、わかる?」 たどたどしく尋ねると、真弥はほんの少し顔を伏せる。 「ポケモンの力、わざとか、進化とかを研究していたらしいよ。ポケモンって、人間の力や常識を超えた凄まじい力を持ってるでしょ。その正体が一体なんなのかとか、どういう風にエネルギーが回っているのか、調べていたって。……黒の団は、彼等の実験に協力し、まず前線で使っていたポケモン達の大幅な強化��験に成功した。野生としての本能を目覚めさせたり、セーブしてる力を限界異常に突破させる。ポケモンの力は自然の力。自然に人間は勝てないものさ。団内では滋養強壮とか、強制強化とか、いろいろ言われている。ただ、強大な力を限界以上に引き上げる代わりに、大半は理性を失う。自爆するポケモンもいた、耐えきれずに戦いに出され���前に死ぬんだ。強力すぎて身体にはかなりの負担がかかってたんだろう。それに、せっかく莫大な力を得ても、理性を失っていれば指示が通らず、最悪の場合味方同士で殺し合いになることもある。敵味方の判別がつかないんだ。命令をきくことができても、かなり単純な指示でないとあっちは理解できない。実際穴だらけではあったと思うけど得られる力は強力だった。あれで随分白の団を消耗させることができた」 「……私、見たことあると思います」 「ん、そうなのか。そうか、ラーナーも何度か黒の団とは対峙しているもんな」 ラーナーは目を伏せる。 「ホクシアで、相手が使っていたザングースの目が尋常じゃないほど血走っていて……理性は吹っ飛んでいるような、感じで」 「間違いないね。今はもう少し改良が重ねられてコントロールが効きやすくなっているかもしれないけど。……話しすぎた。どこまで話そうか」 「いいよ。俺が解るのは、戦いのことと、白とクロのことだけだ」 「わかった」真弥は苦笑する。「話が逸れたね。完璧とまでは言えなくとも充分に結果を出し、黒の団はその研究グループを信用し始めた。グループの頭は、ラルフォ・ヒストライトという若い研究者だ。若いけど優秀で、底なしの実験欲を持つ人物だった。……元々は、携帯獣学とやらの研究をしていたらしい。奴は黒の団に、理性を保ちながら強大な力を使える駒を作るため、人間も兵器にするため、……ポケモンの力を、やりようによって、人間も使えるのではないかと、人間とポケモンを合成させるという実験を提案した。人間をベースとしてポケモンの力も使える、化け物の作成」 「……」 「少し渋られた部分もあったらしいが、実際それができたという噂もあったからね。何より奴の強い要望で、実験は開始されることとなった。野生ポケモン、さっき言ってた薬等により力を増幅されながら結局使い物にならなかったポケモン、白の団から剥奪したポケモン、人間の方は主に李国の路上に住んでいた貧しい子供や内戦のどさくさに紛れて誘拐した子供が大半、偶に白の団の捕虜なんかが使われた。実験は、想像がつきにくいかもしれないけど、ポケモンの持っている、生命エネルギーという、ポケモンの命そのもののようなエネルギー……これが、ポケモンのわざの発動なんかにも関わっているらしいんだけど、これを人間に無理矢理流し込んで……合わせる、合成……定着させて、人間がポケモンの力を自在に操れるようにさせる、そういう実験が行われた。はっきり言って人道的では無かったよ。成功も失敗もあった。多くは失敗した。失敗作は出来損ないと呼ばれていて、これもまた多くは理性を失っていて、勝手に自分で死んでいたり、わけがわからず周りを破壊したり、意志が無くなってて抜け殻になっていたり、まあ、最終的には殺される。悲惨な末路だよ。一方の成功体は、次の段階としてエネルギーの解析やコントロールを行いながら、戦闘訓練を行い、前線に送られた」 真弥は言葉を詰まらせて、ひとつ間を置く。圭と互いに視線を合わせてから、再びラーナーに向き合った。 「ラーナー。クロの火閃を間近で見てきた君のことだ、薄々感づいている部分もあるだろうけれど」 ラーナーの唇が、きゅっと引き締まる。 「俺や圭、それにクロ……白は黒の団の一員だった。そしてその実験の成功体だ」 その言葉を、ラーナーは、ただ黙って聞いていた。 真弥の右手が上がる。長い袖が垂れ、手首につけている黒い腕輪が露わとなった。 「俺はアブソルとの合成体で、主に元々のわざの鎌鼬をベースとして、風の刃を起こすことができる。圭はフローゼルとの合成体で、刀にイメージを乗せることで水を操ることができる。何が実際できるようになるかは、本人の適応力や想像力にもよるし、蓋を開けてみなければ正直わからない。俺も、何もない状態で風を起こせるんじゃなくて、このブレスレットを媒介にして使うことができる。基本的には、何かしらの道具をベースとして、頭の中に具体的なイメージを描きエネルギーを流し込むような感覚が、人間がポケモンの力を使ううえで重要だと教えられている。慣れれば簡単なんだけどね。道具が何がいいのかは、人や力の性質にも寄る。俺みたいに道具を増幅器みたいに使って環境に作用させる奴もいれば、圭のように道具に直接力を注ぎ込んで扱う奴もいるし、あるいは自分自身にエネルギーが流れて肉体強化に特化している奴もいる。……といっても、よく、わからないだろうけどさ。あいつの場合は火閃という武器だ。ただ、クロは俺たちとでは一つ大きな違いがある。クロは、唯一の二重合成実験の成功者で、ストライクとポニータとの合成体だ」 身を固まらせているラーナーの傍ら、真弥は圭に視線をやる。これぐらいで充分だろ、と語っているのを受け取って、圭は深い息をついて、口を開いた。 「クロ……違うな、……はは、なんか、つい癖で言っちゃうな。白の話を、するよ。 あいつは李国の最底辺のストリートの出身で、母親も父親もいない、双子である笹波零と一緒に生きていた。話を聞いている分には、相当仲が良かったというか、依存関係というか……まあ、過酷な状況だったから、助け合わないと生きていけなかっただろうし。それが、白だけが黒の団にやってきて、そこですぐに実験を受け、まずストライクとの合成が成功した。けど、白はとても臆病で弱虫な性格だった。勿論戦闘も恐怖でしかなかった。白は誰も殺せなかった。……いや、一人だけ、いたんだけど……あそこは、誰かを殺さなければ生きていけない場所だった。だから、殺せない白には、他の奴らよりずっと苦しい日々だったと思う。黒の団では戦闘訓練の他に、暴力や自己否定やらで精神がねじ曲げられて、気付いたら殺しを躊躇わない兵器になってた、みたいな感覚なんだけど、白はそんなのだったから、処罰もずっと厳しくて、それでも殺せなくて自分の身体や力をうまく使えなくて余計に苦しんで……そして、ある戦いで相手の罠にかかって、爆発に巻き込まれて炎から逃げられず、全身に大火傷を負った。……そこを助けたのが、ニノだったんだよ」 「……」 「ニノは、……ニノも、黒の団の一人で、合成実験の成功者だった。それも、初めての成功者だったって……。ラーナーの持っているそのブレスレットは、俺の刀や、真弥さんのブレスレットと同じ。ニノは、それを媒介にして、対象を治癒することができた」 無意識のうちに、ラーナーは手首に巻き付けている母の形見を掌で包んでいた。 放心状態に傾きそうになるところを、辛うじて立ち続け、誰にも聞いたことのない真実を、ラーナーは静かに必死に、ありのままに呑み込もうと努めた。余計な思考が邪魔をしようとしているのではない。たたみかけてくる事実だけで精一杯だった、受け止められる限界を超えぬように踏みとどまろうとしていた。 「そのニノのおかげで、白はその場凌ぎでひとまず命は助かったけれど、危ない状態は続いて、団に連れ戻されてから、二重合成の提案がなされて、そのまま実験に入り、成功してしまうんだよ。それが、ポニータとの合成だ。それまでもほとんど再起不能になった成功体に何度か実験はされたけど、どいつも滅茶苦茶で……成功したのは白が初めてだった。けど完全に成功かというと、それは微妙なところだった。成功したら合成元のポケモンは死ぬはずなのに、ポニータも何故か生きているし。でも、火閃や、足し算したようなその他の飛躍的な身体の強化が、ポニータとの合成が成功していることを証明している。けど、知っての通りだけど、定期的に予防の薬を打たないと発作が起こって致命的なことにもなる。多分、二匹分のポケモンの命は身体には負担が大きすぎるんだ。それに、身体にも明確な変化が出た。あいつ、髪の毛や瞳が緑色だろ。あれ、元々は真っ黒だったんだよ。けど、ポニータとの実験後には変色していた。あと、顔つきも変わったし……ストライクの影響が、出てきたんだろうって。もともと、ストライクとの合成で身体能力が上がったり感覚が鋭くなったり、肉体特化型で、そのタイプは確かに外見が変わることもあるんだけど、後からくる変化って、出来損ないはしょっちゅうだけど、成功体には珍しいんだ」 長い息を吐く。 「初の二重実験の成功体に待っていたのは、俺から見ても、文字通り地獄だったよ。白が完全にクロに入れ替わったタイミングはよくわからなかったけど、白は結局、いろんなことに、耐えられなかったんだと思う。藤波黒っていうのは、白が自分を守るために作り出したもう一人の自分。……或いは、白が願った姿だったのかも。強い、炎を恐れない、指示をこなせる、団の実験にも耐えられる、人を殺せる、ポケモンを殺せる、感情を殺せる、そんな、団の理想として白に求めた姿。クロは実際、強かった。ほんとうに、強かった。端から見れば、まるで別人だった。まさか、本当に別の人格になってるなんて思いもしなかったけど」 「……うん」 脳裏に、熱風にはためいている彼の姿がよぎった。孤独な背中。獰猛な炎が膨れ上がり、他を拒む。 「結果的に、白の団の本拠地に攻撃仕掛けて、戦争には勝った。けど殺し合いは終わらなかった。残党も残らないように殺したし、手に入れたポケモンや人間を使って、あるいは別のところから仕入れて、実験も続いた。どのときだったかな……まともに口をきかなくなったあいつが、自分は笹波白じゃないってはっきり言ったのは。俺が、いつもみたいに、あいつの名前を呼んだ時に、白って言った時に、だよ。そりゃ、初めて聞いた時には何言ってんだこいつって意味がわからなかったけど、なんか、納得するところもあって、やっぱり、白とは全然、違ったから。俺は、昔は白のお守りでもやってるような気分で、そのぽやっとしたところに苛々してたから、クロに入れ替わったことでまともな連携がとれるようになっていて、端的に言ってあいつの方が強いし、まあ、正直都合いいって考えてたりもしてたんだけどさ……でも、そのうち、クロは実験や外出任務以外は地下牢に隔離されるようになって、ずっとそこで過ごしてきた真弥さんに会って……そして、黒の団を脱出することを決意して、それに、俺も含めて何人か協力した。その逃亡には成功し、その後はまとめて潰されないように、それから、それぞれ脱出してからは目的も違えば、そもそも俺みたいに団を出てからの目的なんて無いやつもいて、結局、散らばった。俺とクロは少しの間は一緒にいたけど、あいつが笹波零を探すために山越えして国境を渡るって言い出して、別行動になったな。もう、会うことなんて無いと思ってた。俺たちが黒の団に狙われるのは、黒の団の関係者そのもので、存在が危険だから。けど、運良く生き延びて、生き延び続けて……今ここにいる」 圭は言葉を切り、口を閉じた。 終わったのだと物語る空気を吸い込んで、ラーナーはじっと余韻に浸っていた。 なにかを、返さなければならないと思った。受け止めて、応えなければならないと。けれど、なかなか言葉は浮かんでこない。彼等が語ったのは、彼女が焦がれ続けてきたものだった。決して届かなかった過去の情景。クロの背負っていた数々の謎。セルドが殺された理由、ラーナーが命を狙われた理由、それは、彼女が予想していた以上に黒の団と母親が密接な繋がりを持っていた過去に起因するだろうことは、想像に難くなかった。相手は、クロを匿っていたことを理由に一家まるごと殺害する者達だ。それにしても、凄惨な戦争の背景も、人体実験も、いつかクロにかいつまんだ話を聞かされたが、具体的な話はされてこなかった。人間と、ポケモンの合成実験。なるほど、クロ達の常軌を逸した異能の理由も判明したが、そんな絵空事のようなことがあるものかとも疑う。しかし、実際に彼女はその目で見てきた。それがすべてだ。けれど、クロがほんとうはクロではなくて、ほんとうは笹波白なのだという、二重人格なのだという、そんなこと、確かに、クロの様子がおかしいと思うことはあっても、今迄想像したこともない、ずっと、傍にいた、隣にいた、支えられてきた、助けられてきた、クロは、笹波白のもうひとりの人格だと、そして今、再び入れ替わったのだと。改めて考えるほどに信じられなくなる。果たして、どこから納得していけばいい。息もつかせぬ出来事の数々に、元々心は罅割れていた。まだぎりぎり形を成しているところを、叩き壊されていく。 なにかを言うために、口を開き、躊躇して、 「クロは、そんな人じゃない」 滲み出すように呟いた。 もっと、もっと言うべきことは別にあって、言いたいことがいくつも膨れ上がっていて、たくさんの思いが奥底をうねっているはずなのに、思考が乱れている中、長い時間を超えてもほとんど考えられないまま、ぽつりと、彼女はそう呟いたのだった。 「確かに強い人だったし、戦いを恐れない人だったけど、私を助けてくれたし、ポ���モン達にも優しかったし、ぎこちないところがあっても、感情を見せる人だった」 「うん」圭は、優しげに肯く。「それは、黒の団を出て、クロ自身が手に入れたものだよ」 ラーナーは顔を上げた。 「この三年間でクロが手に入れたものは、白のものじゃない。けど、クロは白だし、白はクロで……言ってしまえばクロは偽物で、白が本物なのは、事実だ」 はっきりと言い切った言葉が槍のように突き刺さる。 「にせもの……」 呆然と繰り返したラーナーを見て、圭は慌てて声をあげる。 「たとえの話みたいなものだから。今まで一緒にいたのはクロ、そうだろ」 「でもこれからは」 息を詰める。そして誰もその続きを口にしようとはしなかった。 本物と偽物。目に見えるものばかりが真実ではない。だとしたら、真実とは、本物とは、一体、なんなのか。一体、何が確かなのか。 なにをしんじればいいのか。 「……クロは、笹波白は死んだって言ってた」 「意味深だよね、それ」 真弥は肩を揺らす。 「……その言葉の意味も今になってはわからないからどうともいえないけど、クロは白を遠ざけようとしているところはあった。でもなんで名前を否定したんだろうなって、名前を棄てたんだろうなって思うんだ。俺たちには名前しかなくて、だから、自分からそれを取ると、何者でも無いものになってしまって、唯一の自分のものを棄てて……藤波黒という名前だって、結局偽名みたいなものじゃん。そうしてまで、白を遠ざけたかったのか……ある意味白を殺そうとする行為だったのか……。けど、本当のところはわからない。クロが何を考えていたのか」 ラーナーは唇を噛む。 彼が何を考えていたのか、すこしも理解できていなかったことを改めて突き付けられているようで、足が竦む。 なにも、わかっていなかったのだ。わからないまま、離れていってほしくなくて、縋っていた。 「……白が現実に耐えられなくて引っ込んだように、クロもまた現実に耐えられなくて、また白と入れ替わった」 陰鬱な天井を仰ぎながら、真弥は独り言のようにぽつぽつと連ねる。 「そういうところかね」 「多分。黒の団に叩きのめされたのと、アラン達の死がとどめだったんじゃないかな」 「心の変化は良い方にも悪い方にも作用したってところか。……入れ替わったという表現も正しいのかどうか。元々は白なんだから、クロという人格はどうなったのか」 「……わかんない」 「二重人格って、只でさえ曖昧そうだしね。ほんと、飽きさせないというか、面白いやつだ。さて、どう接したものかな」 真弥の指が手摺を叩く。 ラーナーの思考は益々ぼやけていく。今目覚めているのは笹波白だ。藤波黒が遅発的な存在で偽物なのだと、そう言うのなら、普通に考えれば、淘汰されるのは、恐らく、クロの方なのだ。 心が、悴んでゆく。 「……あの」 ラーナーは憔悴した声をあげる。 「もう一つ、訊いてもいい?」 「……うん」 気怠げながら、積極的な姿勢を見せるように、圭は前のめりになる。 「昨日の昼間……黒の団の人が言っていた。……お母さんとお父さんを殺したのは、クロだって」 「え」 途端にオレンジの瞳が丸くなった。 「なんで、そんなこと」 「わからない……違う、……ううん……ぜんぶわからなくなってきた。……信じたくない、でも、昔のクロが、今のクロと違うのなら、それは」 「違う」 威圧を込めてはっきりと言い放ったのは、真弥だった。 真弥に視線が集まる。軽薄な態度が板についている彼は、いつになく真剣な顔つきで、むしろ怒っているようでもあった。 「あのクソガキの言うことをまともに信じるなって言っただろう」 「……ごめんなさい」 すっかり萎れているラーナーの言葉を無理矢理切るように、真弥は長い溜息をついた。ロジェの狙いは、悉く成功しているに違いない。とんでもない爆弾を残していったものだ。今の様子を目にすれば、あの三日月は調子良く歪むことだろう。絶え間の無い激動、掌の上で、踊らされ、無防備なままでは、弱り、霧散していく。 少しだけ沈黙を置いて、真弥は口を開く。 「ラーナー。俺はね、今まで散々嘘をついて生きてきた。裏切りに裏切りを重ねてきて、最早何が嘘で何が本当かも曖昧になっているくらいには。相手が誰であろうと、上手く自然に嘯ける自信がある。だけど、君に初めて対面した時から、君に対してだけは、絶対に嘘をつかないと誓っていた」 長い前置きの果てに、隙だらけの懐へとどめになりえると理解していても。放つ一瞬、踏み切るように真弥は息を吸い込んだ。 「君の両親を殺したのは、俺だよ」
*
ポニータが潜り込むように顔を擦りよせてくるのを、白はふわりと抱きしめる。 ちろりと触れるようにポニータは頬を舐めて、口元を掠った。口付けのような触れ方だった。過剰なようにも思えるまじわりに白は少々戸惑いながらも、微笑んで受け入れた。鼻や口からこぼれてくる温かい吐息や動物的な香り。全てが新鮮に白の中に溶け込んでいく。五感が研ぎ澄まされている実感があった。肌に埋め尽くされている穴が残らず開いて、空気を吸い込んでいるようだった。 あたたかい炎。傷つけることのない炎。恐くないと言葉無く伝わってきているような気がして、深い安堵に心を委ねる。 ごく至近距離でポニータの息づかいと自分の息づかいが合わさって肌に染み、白の耳に聞こえてくる。 『きっと、きみだけだよ。ぼくを受け入れてくれるのは』 ゆっくりと凪のように囁くと、ポニータは肯定も否定もしなかった。深い眼差しでただじっと白を見つめているだけ。 白はポニータに額を寄せる。深緑の髪が揺れて、ポニータの肌に押しつけられて、さらりと滑らかに落ちる。 『零はどこ……?』 白は淋しげに絞り出した。問いかけても、誰も応えてはくれない。 『零に会いたい……零、零。……零』 擦り切れた声はあっけなく透明な光の中へ吸い込まれていく。血を分けた双子の名前を譫言のように繰り返す。どこも見ていない。彼の瞳は、嘗て隣にいたたったひとりの存在だけを求めている。 呟き続ける口を止めるようにポニータは当てられている白を押し返した。優しい動作。どこか哀しそうな佇まいをしている。淡い炎���霞んでいくように揺れた。見守られている白の顔がポニータから離れて、窓の外に視線を移し、ぐんと顔を上げる。雲一つ無い美しき青い空が広がって、深緑が蒼に沈む。 全身が痛む。目覚めてから時間が経つほどに傷が起き上がっていく。あちこちの痣が殴られ蹴られた瞬間を思い出させる。傷が刃で抉られた瞬間を鮮明に掘り起こす。鋭い骨の痛みは折られた記憶を呼び起こす。包帯の隙間に見える火傷の跡は、ずっと遠く、高くて遠い空の下、荒野の記憶を蘇らせる。 零はここにはいない。 零は、求めるものは、きっと、あの空のむこうがわに。 < index >
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金科玉条のごとく、少年野球の指導者が呪文のように唱える
「肘を下げるな!」
というセリフ。
確かに、肘が下がった状態でスローイングすると、肘、そして肩にも強いストレスがかかるのは間違いない。そしてそれが、「野球肘」というスポーツ障害に繋がっていくことも確かだろう。
だから、投球時、肘を下げさせないように指導することは大変重要なことだ。
では、どうやったら「肘を下げないで」ボールを投げることができるのか。
そこまで「指導」できるかどうかが、「良い」指導者か、「ただの」指導者かの違いでありましょう。
その練習方法として、今現在私が「最適」なエクササイズだと思っているのが
真下投げ
である。
この「真下投げ」を始めて目にしたのが、この雑誌
Hit & Run (ヒットエンドラン)
2006年1月号から3月号・5月号・7月号までの4回に渡り特集されていた(当時は隔月刊)。残念ながら、1月号の在庫はないようだが、3,5,7月号はまだあるようだ。
さて、「真下投げ」という練習方法が、肘を下げさせないためにどうして有効だと感じたのか。
その訳は…
やり方は簡単。足を肩幅よりやや広めにして、前足(右投げなら左足)を投げたい方向に向け、後ろ足はその向きに直角に(つまり、右投げなら自分の体の右方向へ向く)、なおかつ、前足の拇指球と後ろ足の拇指球が同一線上にあるように置かせ、一度、頭の後ろで両手を組ませてから、グローブをする手を前足の向きと同じ方向の前方へまっすぐに突き出し、ボールを持つ手はやや頭の後ろ、絶対に90度以上に肘の角度は伸ばさせないようにしながら、前に突き出したグローブの真下の地面をめがけて思い切りボールを叩きつけるように投げるのである。
投げ終わった時は、バウンドしたボールをすぐに眼で追わないようにして、前足一本で全体重を支えるようにしてフィニッシュを迎える事だけは気を付けさせなければいけません。
…
これだけ。
…… へ? 、だから、どうしたの?と、知らない方は思われる方が多いだろう。
が、効果は抜群、肘痛に悩んでいたウチの息子も、この投げ方をしている時は肘に全く痛みを感じずにボールを投げられていた。
他の選手と相対して普通にキャッチボールする時は、どんなに軽く投げていても痛みを感じるというのに、真下投げで地面に叩きつけるように投げる時は、どんなに強く投げても肘に痛みを感じない、というのである。
なんか、だまされている様な気分になったものだが、とにかく通常であれば肘痛の時は、もちろん「ノースロー」の指示を出されてしまうが、“投げるための筋肉・バランス感覚”は当然衰えてしまうわけで、いくら走って足腰を鍛えるチャンスだぞ、と言ってみたところで、“投げる動作”からは程遠いトレーニングとなる。
が、この真下投げをすれば、痛みを感じないで、投球動作に必要な筋肉・バランス感覚はほぼ通常投球とニアなままで、鍛錬を続けることができるのである。
どころか、地面から跳ね返るボールのバウンドする高さをより高く、と、意識させて強く投げさせれば、リハビリどころか、肘痛を抱えた状態においても、遠投能力の向上にまでつながる、というのである!
こんなに、おいしい都合の良い話があるのだろうか。
が、あったのである。
なにより、ウチの次男がこの練習方法で、肘痛を抱えながら投能力を向上させ、3週間で通常練習に復帰した時、休養前よりもかえって投球能力が向上したような状態で練習を再開することができたのであります。
これは、全くの実話である。
次男が小学校4年生の時、ピッチャー候補生に抜擢され、投げ過ぎで肘を痛めたわけでありますが、その時その肘痛を治すためにありとあらゆる書籍・DVDを買いあさり研究した時に、さきほど紹介したベースボールマガジン社から出ている「ヒットエンドラン」という月刊誌(当時は隔月刊)の中で、当時東京大学大学院助手の伊藤博一氏が記事を寄せていたのを偶然目にしたというわけであります。
なぜ、真下投げだと肘が痛くないのか?
私は、肘が“最適なルート”を通るように腕を振れるので、痛めている部分(じん帯とか、腱とか)が骨にこすれたりせずに動かせるからではなかろうか、と想っている。
つまり、そこが、スローイング時の体幹に対しての『最適な肘の高さ』なハズだ。これはアンダースローでもサイドスローでも同じらしく、ボールのリリースポイントは地面を基準にした身体の位置に対して低くても、体幹の角度、両肩を結んだ線からすると、肘の高さはしっかりと保たれているらしい。なるほどねー。
真下投げのやり方については、私の言葉だけでの説明で良くわからなければ、インターネットで検索すると、動画でも紹介しているサイトがそれこそごまんとあるので、そちらを参考されると良いでしょう。
前回、前々回の記事ともに、肘痛を予防するために、肘を上げて投球するためには土台である“肩”の健全な状態で(つまり0ポジションを使って)投げられることが必要で、だから、0ポジションを維持するためのインナーマッスルが重要なはず、と展開して��たのであるが、この真下投げというトレーニングは、肘を高い位置で保持しながらスローイングをする為の「具体的な」練習方法だと考えている。
逆に、“遠投”という練習方法は、肘・肩に一番負担をかける、とも伊藤氏はおっしゃっている。
真下投げは、重力に逆らわず、重力に引っ張られる方向へ投げるため、その分負荷が小さくなる。逆に、遠投は、斜め45度近く上方に向かって投げるため、その分重力に逆らって投げなければいけないので当然ストレスがかかる。
それと、腕の力だけでは遠くに投げにくいので、ちょうど陸上競技の投擲種目である円盤投げの様に、体幹の横回転に頼って腕を振りがちになり、腕の位置が下がり始める。
遠くへ強いボールを投げようとして、体幹の回転を使用するのは当然なんだろうが、遠投の様に上方に向かって投げると、上体が突っ立ったままになり、身体を回転しきれず、リリースの瞬間あたりから回転が止まり始め、結果、回転の勢いのエネルギーを足腰や体幹で吸収することができず、ブレーキするための余計なストレスが肩と肘にかかる…のではないか、と、私は解釈している。
小学生などを観察しているとその傾向が顕著なのだが、尚更悪い事に、遠くに投げたいばかりに力む為、身体が開き始める。着足を着く位置が、投球方向より利き腕の反対側へ徐々にずれ始めてくるはずだ。
これが悪循環の始まりで、身体が開く事により、いわゆる“壁”を崩し始め、“キレ”の良い身体の使い方ができなくなり、余計力む、更にフォームを崩す、肩肘に負担をかける…という流れになりかねないはず。
投能力の低い子が遠投を繰り返すと、間違いなくフォームを崩すのである。
真下投げの良いところは、上肢の使い方だけではなくて、最後の最後まで体幹を捻りきって投げられること、軸足から着足への体重移動をしっかり意識できることにもあると思う。
ので、私は、学童野球の指導者時代は、子供達にはいわゆる「遠投」はさせなかった。
塁間以上の距離になったら、必ずワンバウンドで投げさせるようにして、そのバウンド量が、捕球者の身長よりもあきらかに高くなるようなら、かなり“山なり”の送球角度になっているわけなので、そうなったらそれ以上離れさせなかった。もしも、二人の投能力差があり過ぎる場合は、能力の低い方の子はツーバウンドで投げさせ、とにかく山なり送球にならないように気をつけさせた(ツーバウンド以上させないと釣り合いが取れないようでは、あきらかに“能力差”があり過ぎなので、組ませない方が良い)。
このやり方を徹底したところ、試合中、チームの「暴投」が減る、という想わぬ副産物が貰えた。以前は、無理にノーバウンドで投げようとして、ショーバンになって捕球者が弾いてしまったり、バウンドが高くてバンザイしてしまい後逸、なんてシーンが目立ったのだが、キャッチボールの時からワンバウンド送球を意識してやらせていたら、そういう暴投が激減したのであった。
肩を強くしたい、投能力を向上させたいからと、ガンガン“遠投”ばかりやらせていると、逆にフォームを崩し、肩肘に負担をかけ、最終的にかえって投能力が弱まってしまうことに��りかねない。ゲーム中のエラーも増えるハズ。
また、ピッチャーだからとガンガン遠投させると、もともと投球能力の高い選手は効果があるのかもしれないが、コントロールの定まらない子の場合は、フォームが崩れリリースポイントが安定せずますますコントロールが悪くなってしまうはずだ。
ピッチャーなら、逆に、5メートルぐらいの超近距離から初めて、かまえたミットを動かさなくても捕球できるように投げられたら、一歩下がる、またストライク・スローだったら更に一歩下がる…というふうに、コントロールが乱れない、フォームが崩れないのを確認しつつ、徐々に投げる距離を伸ばしていく、というキャッチボールを絶対にさせるべきである。
ピッチャーのキャッチボールは、暴投したら逆に近付いて近い距離からやり直させる、ぐらいの“繊細さ”でやらせないと、まず、コントロールは向上しない。断言しちゃう。
ウチの息子二人は、この方法で必ずキャッチボールを繰り返し、次男は中学時代エースとして活躍、フォアボールは1試合平均1個、三男は学童野球時代エースとして投げフォアボール数は1試合平均1.5個という、コントロールの良いピッチャーでありました。
どうしても“肩を強く”してやりたいのならば、いわゆる“遠投”に頼らなくとも、真下投げで、できるだけ高くバウンドするように思いっ切り投げさせていれば、“遠投能力”もアップするのである。これは、次男を指導してきた私の経験上からも間違いない、と言える。
伊藤氏も、真下投げでバウンドするボールの“滞空時間”の長さは、実際の遠投距離やボールスピードと比例する、とおっしゃっていた。
先程も述べたが、ウチの次男が小4の時に肘を痛め、キャッチボール休止中に、自主トレで真下投げに取り組んだのだが、あくまで痛みを感じない範囲でバウンドする高さをより高く、つまり、ボール滞空時間が長くなるようにやらせた。気分転換にもなるかとストップウォッチで計ったりしてやらせていたのだが、肘痛が完全に収まり、通常練習に復帰した時、あきらかに故障前よりピッチングが良くなっていたのである。
これぞまさしく、『怪我の功名』
良い事づくめに思われる真下投げだが、当然、どんなフォームでやらせても良いわけではなく、適当にやってると効果が出ない、どころか、ますます投球障害を悪化させかねないので、必ず守らなければいけない注意点があると思われる点を、自分の指導経験上感じたことから述べます。
まず、“肘痛”のリハビリ、もしくは予防という視点から一番気をつけないといけないと思うのは、バウンドしたボールが、投球方向線上の、利き腕と反対側に跳ねていかないように気をつけることだと思う。
真上から、真下に投げおろしていれば、イレギュラーしなければ当然「真上」に跳ね返り、またその場所か、投球線上のどこかに落ちてくるはずであるが、利き腕側の反対側の方に跳ねて落ちる場合、肘が下がった状態で行っているハズだ。だから、それではかえって肘にストレスをかけかねず、肘痛を悪化させかねないのではないかと想うのだ。
実際、学童野球の指導をしている時にも部員達にやらせていたけれど、真下投げでも肘が痛いと訴えてくる子がいたが、良く観察すると、跳ね返ったボールが身体の左側の方へ必ず跳ね返っていた(この子は右投げ)。で、真上に跳ね返るようにやらせた時はあまり痛さを感じていないようだった。
また、体重を軸足側に残すようにして(つまり上体が突っ立ったまま)やっているような子、前足にしっかりと体重移動が出来ていない子の中にも、肘に痛みを感じていた子がいたので、投げ終わった時に、メジャーのレッドソックスに以前在籍していた岡島投手のようなノールック投法のフィニッシュよろしく、しっかりと着足だけで体重を支えている様なフィニッシュのフォームでやらないとこれまた上肢にかかる負荷が大きくなってしまうのじゃなかろうか、と想っている。
だから、投げ終わったら前足だけでしっかりとバランスを取って止まってろ!と指導した時もあったのだが、それだとバランスを取ることだけに意識が集中してしまい、しっかりと腕を振り切るように投げることが出来なくなっていたようなので、前に倒れこむようなバランスの崩し方なら良しとしておいた。まぁ、これは小学生に対しての話なので、ある程度年代が上の選手なら、バランストレーニングにもなるので、しっかりと腕を振り切りつつ、着足(前足)一本でがっちりと体重を支えるフィニッシュを意識させてやらせても良いのかもしれない。
それと、最初のフォームではせっかく肘が90度以内に収まっていい感じに見えるのに、投げようとする瞬間にボールをもった手がびよよ〜んと伸びきってしまい、いわゆる「アーム投げ」状態で肩から先の手が一本の棒のようになったかのように腕を振って投げてしまう子もいるので、これも元も子もないと想う。
上体を捻り始めても、ボールリリースぎりぎりまで頭の後ろからボールを持つ手を離さないよう我慢し、上体が地面と平行になるぐらいまで倒れ込んだ瞬間に、90度に曲げたままでいた腕を一気に腕を解放するように振って投げられるようにすると、うまくすれば「アーム投げ」の矯正になるかもしれない(なかなかうまくはいかないけれど)
そして、フィニッシュで腕をギッと止めないで、背中まで振り切ってしまうこと。良く、ボールを投げ終わったあと、その腕が地面を指しているようにフィニッシュを止めてしまう子もいるが、つまり身体がしっかりと回転していないわけで、これまた、肩・肘にかかるストレスは大きくなってしまうだろう。
逆説めくが、慣れるまでは、真上に跳ね返るのはあまり厳しく注意しないで、とにかくしっかりと上体を捻りきって、振った腕が背中側に巻きつく様になるまでしっかりとフィニッシュをとらせることを先に徹底させた方が良い子もいる。子供を見て注意点の優先順位を決めましょう。
「真上にボールが跳ね返るように投げる」と言う事は、自分でやってみればわかるが、肘が一番高い位置を通っている腕の振りが出来ている証拠でもある。真下投げは、最終的には跳ね返るボールが、真上に高く舞い上がるように、しっかりと体重移動をしながら行うことができるようになって、完成すると想ってやらせた。
おそらく、真下投げで、「肘を高く」使うこと、「身体の上手な捻転」の感覚、ならびに、「軸足から着足への体重移動」の仕方、をしっかりと身につけることができるようになる、ハズ。
ただし、肘を上げれば良い、という話ではないので、そこだけは注意した方が良い。身体の回転軸に対して直角の位置を上腕は通らなければいけない。肘だけ上がっていても、これまた故障の原因になりかねない。とすると、ボールをリリースする瞬間は、上体は利き腕と反対方向にほとんど傾いており、頭に一本棒が刺さっているとすれば、その棒が向く方向は、右投げであれば、マウンドから投げていると想定して、ファーストを指すぐらいの姿勢でいなければいけないはずだ。そうすると、着足の内転筋、お尻の付け根、ハムストリングスの当たりにすさまじいストレスを感じるハズである。かなり、わざとらしいほどにダイナミックなフォームに観えるだろうが、そのぐらいに思い切ってやらせた方が良い、と、私は想う。経験上。
野球肘、もしくは野球肩でお悩みのご子息をお持ちの親御さん、是非、試していただきたい。
ウチの息子二人、それぞれ一度だ���肘痛に悩まされたが、その後は全く再発せずに健康な野球を楽しんでおります。
また、「真下投げ」という表現は使っておりませんが、ボールを自分の体の前で高くワンバウンドさせてスローイングする練習方法を紹介している本は沢山あります。
エースナンバーをつける科学的練習法—誰よりも速く投げる!
この「エースナンバーをつける科学的練習方法」は、DVDも出ておりますが、非常に参考になるピッチング能力を高めるドリルが満載なので、そのうち紹介してみたいと思います。
考える力を伸ばす!ジュニア野球練習メニュー200
考える力を伸ばす!ジュニア野球練習メニュー200
これは二冊とも現慶応大学野球部監督の江藤省三氏が監修しているので当然だと思いますが、ピッチャーに限らず、野手の送球能力向上のためにも有効だと紹介されています。
DVDストレート完全マスター!
この本では、真下というよりもバッテリー間ぐらい離れて、その真ん中あたりにバウンドさせて低めにコントロールできるような練習方法として紹介されていますが、その考え方としては同じように思いました。DVD付書籍ですが、このDVDには村田兆治氏のピッチングにかける情熱がヒシヒシと伝わってくる内容のビデオが入っていて、村田ファンの私としてはとても良かったです^^;
ある意味、“遠投”というトレーニングとは対極にあると言える“真下投げ”
いいことばかり書いてきたが、しかし、野球というスポーツは、地面にボールを投げる競技では無く、バウンドしたボールの滞空時間を競うものでもない。
あくまで、“捕球者”のグラブめがけ、捕りやすいようにボールを投げてやることが重要なスポーツである。
その為の練習も、充分に積まなければ実戦では役に立たないのは当然。そこのところは勘違いなきよう。
真下投げ、は、投球動作がまだぎこちない選手、肘ないし肩を痛めてしまった選手のリハビリ&矯正エクササイズとしては“最適”だと思われる、ということである。
お試しあれ。
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