#とても病気だけど、私はとてもかわいい、開いた傷口から虫が出てくるけど、私は大丈夫
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next-virgin-mary · 11 months ago
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288 notes · View notes
takahashicleaning · 1 month ago
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TEDにて
ブライアン・ゴールドマン: 医師も失敗する。そのことを語ってもよいだろうか?
(表示されない場合は上記リンクからどうぞ)
はじめに前提として、日本には、国民皆保険がありますが、アメリカには制度がまだありません。
現在進行中の「移民による移民のための社会実験国家」がアメリカです。
現在進行中の「移民による移民のための社会実験国家」がアメリカです。
現在進行中の「移民による移民のための社会実験国家」がアメリカです。
どんな医師も失敗することがあります。
それなのに、医療の文化は、失敗を恥ずべきものと否定してしまうため、医師は失敗について語ることも、そこから学ぶことも改善することもできない!!
とブライアン・ゴールドマン医師は述べます。医師としての長い経歴のなかからエピソードを語り、失敗について語ることを始めようと医師達に呼びかけます。
透明性が高く悪意もなければ、医師のミスも患者自身の寿命の範囲内と概念を定義することで、人間には、寿命があることを患者に伝えることも重要。
医療の文化には改めるべき点があり、何か手を打つべきだと考えて��ます。一人の医師から始まることなら、まず私から始めます。長いこと医師をやってきたので長年積み重ねた評判の一部を犠牲にしても、その一助としたいと考えます。
話の本題の前に少し野球の話をさせてください。かまわないですか?シーズンも終盤、ワールドシリーズ目前です。みなさんも野球はお好きでしょう?野球に関しては面白い統計がたくさんあります。何百というデータがあります。
データ野球がテーマの「マネー・ボール」もこの当時は公開間近です。データを活用して強いチームを作る映画です。
ここではみなさんも聞いたことがあるはずのデータの一つに絞ってお話しします。打率と呼ばれるものです。3割打者と言えばヒットが3割の選手です。この選手が10回打席に立つと3回はヒットを打って出塁するのです。ボールが外野まで飛んで捕球されずに転がれば、そのボールが一塁に投げられてもボールより先に着けば打者はセーフです。
10打席で3回です。メジャーリーグで3割打者が、何と呼ばれるかわかりますか?好打者、オールスター級の好打者です。4割打者が何と呼ばれるかわかりますか?10回打席に立つと4回安打を打つ選手のことです。伝説の名手、テッド・ウィリアムス以来、メジャーリーグの選手でシーズンを4割で終えた者はいません。
さて、医療の話に戻りましょう。
私にとって断然話しやすい話題です。ただこれからする話のことも考えると少し居心地が悪くなります。さて、虫垂炎の患者を担当する外科医の虫垂切除の成功率が4割だったらどうでしょう?これはまずいですね。
もしもあなたがどこか、とても辺鄙な所に暮らしていて大事なご家族の2本ある冠動脈に閉塞が生じてかかりつけの医師から紹介された心臓外科医の血管形成手術の成功率が2割だったらどうでしょう?いや、でも、いいお知らせです。今季は好調で、みごと復活を遂げて2割5分7厘まで良くなっています。
???ありえないことです。
では、禁断の質問をします。
心臓外科医や上級看護師、整形外科医や産婦人科医や救急救命士の平均の成績はどれほどだと思いますか?10割!!とてもいい答えです。
ただ、実際のところ外科医や内科医や救急救命士の成功率がどれぐらいなら優秀といえるのか?医療に携わる誰一人として知りません。それでも、私も含めた一人ひとりは完璧であれという忠告とともに世の中に送り出されます。
「絶対に絶対に失敗するな、細部に気を配れ、失敗の前���に気を配れ」と。そうですよね。
医科大学にいるときには、こんなことを学びました。私は完璧主義の学生でした。高校の時には同級生からこう言われました。血液テストのためにテスト勉強しそうだ。そんな学生でした。この近くにあるトロント総合病院の看護師寮の屋根裏の小さな自室で勉強しました。
何もかも暗記しました。解剖学の授業では、すべての筋肉を端から端まで覚え、大動脈から分かれる全ての動脈の名前や鑑別診断の難しいものから簡単なものまで覚え、尿細管性アシドーシスの種類を見分ける鑑別診断も覚えました。こうしてどんどん学んで、より多くの知識を身につけました。
私は頑張って、賞をもらえる優秀な成績で卒業しました。医学部を卒業したとき、私はこう思いました。少なくとも可能な限り全てを覚え、可能な限り全てを知っていれば、ワクチンも効いて失敗しなくなるだろう。実際しばらくは順調でしたが、やがてドラッカーさんに出会いました。
トロントで研修医として勤めていた病院の救急外来にドラッカーさんは、運び込まれて来ました。当時、私は循環器科に所属し、当直にあたっていました。救急の担当者から循環器科へ依頼があったら、患者を診察し指導医に報告するのが私の仕事でした。
ドラッカーさんを診察すると息もできず、ゼーゼーと音をたてています。胸に聴診器をあててみると両側からピチピチという音が聞こえ、うっ血性心不全だと分かりました。これは心臓に問題が生じて血液を全部送り出すことができずに肺に逆流した結果、肺が血液で一杯の状態です。それで彼女は呼吸が苦しくなったのです。
この診断を下すことは難しくはありませんでした。診断を下すと私は処置を開始しました。アスピリンを与え、心臓の緊張を解く薬を投与しました。利尿剤を与えて体内の水分の排泄を促すようにしました。一時間半から二時間もすると患者は回復し始めたので、私は手応えを感じていました。
そして、そのとき、私は最初の間違いを犯しました。彼女を帰宅させたのです。おまけに、さらに2つの失敗を重ねました。私の指導医に知らせることなく、彼女を帰宅させました。指導医に電話して経過説明するという私の役割を果たさなかったのです。そうすれば、指導医は自ら診察したはずです。
指導医は患者のことを知っていたので、その情報を貰えたはずでした。私が、良かれと思ってやったことでした。私は、手のかかる研修医にはなりたくはなく、見事にやり遂げて、診療を任されることを望んでいました。指導医の患者であっても彼に相談することすらせずに治療が、できるようになりたかったのでした。
功を焦っていたわけです(マイケルサンデルの言うメリトクラシーの弊害です)
2つ目の失敗はさらにひどいものです。彼女を帰らせるときに心の底の小さなつぶやきに耳を傾けなかったのです「ゴールドマン、まずいよ、やめよう」自分でもまったく自信がなかったのでドラッカーさんの手当をしていた看護師にこう尋ねたのでした「家に帰して大丈夫だと思うかい?」
看護師は少し考えて平然と答えました「大丈夫だと思う」このやりとりを昨日のことのように覚えています。退院の書類にサインして救急車が着くと、救急隊員が来て彼女を帰しました。私は病棟の仕事に戻りました。その後、一日中、午後ずっと、胃のあたりが落ち着かない感じでした。
でも仕事を続けていました。一日が終わると帰るために荷物をまとめ、自分の車の停めてある駐車場まで歩いていく途中に普段とは違うことをしました。帰り道に救急部に立ち寄ったのです。
救急部では別の看護師が、さきほどドラッカーさんの手当をしていたのとは別の看護師が、こんな一言を口にしました。私が知る救急医は全員、この一言を恐れます。
医療に関わる者は皆、この一言を恐れますが、救急医療ではさらに特別な一言です。なぜなら次から次へと患者を診るからです。
こんな一言です「覚えていますか?」「帰宅させた患者さんのことを覚えていますか?」
別の看護師は淡々と尋ねました「また運ばれてきました」同じ口調で続けました。
戻ってきたのはともかくとして瀕死の状態で戻ってきたのです。病院から帰されて家に帰っておよそ一時間すると、彼女は倒れて家族が救急通報しました。
救急隊員が彼女を救急病棟に連れてくると血圧が50しかなく、つまり深刻なショック状態でした。息も絶え絶えで真っ青になり、救急のチームは全力を尽くしました。血圧を上げる薬を与え、酸素吸入を行いました。
私はショックで、体が芯から震えました。
降りられないジェットコースターです。彼女は容態が安定すると集中治療室に送られました。彼女の回復だけが、私の一縷の望みでした。二、三日経つともう彼女が、起き上がれないことがはっきりしました。脳の損傷は回復不能でした。
家族が集まり、その日から九日の間の病状を見ているうちに家族の方も覚悟を決めて九日目に彼女は亡くなりました。ドラッカーさんは、妻であり、母であり、祖母でありました。
死んだ患者の名前は忘れないと言います。これを実感したのは、このときが初めてでした。
そのあと数週間にわたって、私は自分をさいなみ続け、そのとき初めて感じたのですが、医療の文化の中にある恥の感覚は健全な物ではありません。そのとき、私は一人で孤立してしまい、普通なら感じる健全な恥を覚えられませんでした。
そのことを同僚と話せなかったからです。
健全な恥の感覚とは、親友が絶対に守れといった秘密を裏切ってしまいそれがばれて親友に目の前で非難されてろくな弁解もできず、でも最後には、すまなかったと思う気持ちからこんな失敗は二度としないと誓うようなもの。
お詫びをして二度と失敗は繰り返さないのです。こういう恥の感覚からは教訓が得られます。
私の言っている恥の不健全さは、人を精神的に追い込みます。思い詰めたこんな心の声です「君のしたことが悪かったのではない。君が最悪なんだ」私はそんなことばかり考えていました。私の指導医のせいではありません。
良心の呵責。
彼は面倒見よく、遺族と話して問題をうまく収め、私が訴えられないようにしてくれました。私はこんなふうに自問し続けました。なぜ指導医に聞かなかったのか?なぜ帰らせたのか?最悪のときにはこう思っていました。どうしてあんな愚かな失敗をしたのか?なんで医学の道に進んだのか?
人間は完璧ではありません。
ゆっくりとしかし着実にこの感覚は和らいでいきました。私は少しずつ前向きになり始めました。ある曇った日のことでした。雲の隙間から日が射し始めたとき、私はふとやり直せるかもしれないと思いました。
私は自分自身とこんな約束をしました「完璧であるための努力を倍増させて、もう決して過ちは犯さないから、心の声よ黙ってくれないか」すると声は止みました。
私は仕事に復帰しました、そして、また失敗をしてしまいました。
2年後のこと、私はトロントの北に接する地域病院で救急部に配属されました。喉の痛みを訴える25歳の男性を診察しました。忙しい日で、私も気が急いていました。彼はずっと喉を指差していました。喉を見ると赤みを帯びていました。ペニシリンの処方を出して彼を帰しました。彼は診察室を出るときにも喉が気になるようで、まだ指差していました。
2日後に次の救急シフトが巡って来ました。話があるから来てほしいと救急医療部長に言われました。
部長は例のひとことを言いました「覚えていますか?」喉が痛いと言った患者を診察したことは覚えていますか?結局、咽頭炎ではなかったのです。
命に関わる危険もある喉頭蓋炎という病気だったのです。グーグルで調べればわかります。これは感染症でノドではなく上気道の病気です。気道を塞いでしまうことがあります。幸いにも彼は亡くなりませんでした。抗生物質の静脈投与を受け、そのあと数日で回復しました。
そして私は再び恥と自己批判の時期を過ごし、それを何とか振り切って仕事に復帰しました。そのサイクルを何度も繰り返しました。
一度の救急シフトのうちに虫垂炎を2例見逃したこともあります。これは何か手を打たなければいけません。勤務先の病院に一晩で14人もの急患が運び込まれるようならなおさらです。でも今度は二人とも帰らせはしませんでした。
手当に落ち度があったとは思いません。一人は腎臓結石を疑いました。X線検査では異常がないと分かった頃に、再び患者を診察した同僚が、右下腹部に圧痛を見つけて外科医を呼びました。もう一人はひどい下痢だったので水分補給の輸液点滴を指示した上で、同僚にもう一度診察を頼んだのでした。
彼は患者を診察すると右下腹部に圧痛を見つけて外科医を呼びました。どちらの患者も手術が行われ、無事に治癒しました。しかし、毎回、例の声が私をさいなみ悩ませました。
多くの同僚たちと同じように最悪の失敗は最初の5年間のうちに済ませた。と言いたいのですが、それは大嘘です。ここ5年でも、私は手痛いミスを幾つかやらかしています。孤独で、恥ずかしく、支援もありません。
これが問題なのです。
もし、自分の失敗の話を白状することができなかったり、何が起きていたのかを告げるささやき声に気づけないとしたら、どうして同僚に伝えられるでしょうか?同じ失敗を繰り返させないために周りに経験をどう伝えていけば良いでしょうか?
今日のように、どこかで人を集めてこんな話をしたらみなさんにどう受け止められるでしょうか。
誰かがこんな失敗に次ぐ失敗の話をするのを聞いたことはありますか?
たしかに、カクテルパーティーの場でなら、ひどい医者の話を聞くかもしれません。でもそれは自分がした失敗の話ではありません。部屋いっぱいの医師達の前に出向き、こんな活動を支援してほしいと訴え、まさに今日のような話をしようとしても二つ目のエピソードの途中ぐらいで医師達は不愉快に感じ始め、誰かがジョークを飛ばして話題を変えてしまい、何も変わりません。
整形外科の同僚が反対の足の方を切断してしまったと知ったら、私も同僚たちもその医師に対して目を合わせるのも辛くなることでしょう。
我々のシステムはそういうものです。
失敗は完全に否定されるのです。
このシステムでは、人は2種類に分類されます。失敗する人間と失敗しない人間です。睡眠不足に耐えられる人と耐えられない人。お粗末な結果を出す人とすばらしい結果を出す人に分かれます。
まるで政治的な先入観のようであり、抗体が守るべき体を攻撃し始めるようなものです。我々はこんな考えをもっています。
失敗を繰り返す人を医療の世界から追放すれば、後には安全な人だけのシステムが残るという塩梅です。
この考えには2つの問題があります。
医学系の放送とジャーナリズムに20年ほど関わってきた中で医療過誤と医療ミスについて、個人的にできる限りの研究をしてきました。トロント・スター紙の記事を手始めに「白衣と黒魔術」という番組も作ってきました。
私が学んだことは、誤りは実にいたるところにあるということです。
我々が働いているシステムでは、毎日のように間違いが発生し、病院で渡される10の薬剤のうち一つは、渡された薬が間違っているか投与量が間違っています。院内感染の発生件数はうなぎのぼりで猛威をふるい、死亡事故さえ生じています。
カナダ国内では、2万4千人の国民が回避可能な医療過誤で亡くなりました。医学研究所によれば、アメリカでは10万人が犠牲者とされます。どちらの数字も全くの過小��積もりでしょう。
なぜなら、表沙汰になるべき問題も隠されたままだからです。
こういう問題もあります。病院という仕組み自体が、2-3年ごとに倍増する医学の知識に追いつけないのです。
医師の睡眠不足も至る所で見られますが、それを避けることができません。認知のバイアスもあります。胸の痛みを訴える患者の病歴を完全に把握できるとしましょう。
しかし同じ患者でも胸の痛みを訴えるときに、泣きながらくどくどと説明し、患者の息が少しアルコール臭かったら、軽蔑の念が病歴の理解に混ざり、病歴の把握が同じようにはできません。
私はロボットではないのです。仕事のやり方はいつも同じとは限りません。
そして患者達は自動車とは違います。
症状の説明もいつも同じではありません。こういったすべての理由で、間違いは回避できません。私が教わってきたシステムに従って、失敗をした医療従事者を排除していくと誰もいなくなってしまうでしょう。
そんな職業においては、人々は自分の最悪の失敗について話したくないのです。
私の番組「白衣と黒魔術」では、「これが私の最悪の失敗です」といつも誰にでも伝えていました。救急隊員にも心臓外科長にも自分の最悪の失敗の経験を話した上で「あなたの失敗は?」とマイクを向けるのです。
すると彼らは目を見開いてたじろいだようになったり、うつむいて、ごくりとつばを飲み込むと自分の失敗について語り始めます。語りたかったし、聞いて欲しかったのです。こう言えたらいいと思っていたのです
「いいか、おなじ失敗をするんじゃない」
そういうことのできる環境が必要なのです。医療の文化を改める必要があるのです。医師一人ずつが変わることから始まります。
再定義された医師は人間であり、人間としての自分を知って受け入れ、失敗を自慢には思わないが、起こしてしまったことから何か一つでも学ぼうとし、それを他の人にも教えようとします。
自分の経験を他の人に伝えます。他の人が自分の失敗を話すときには励まします。他人の失敗も指摘します。
見逃さないということではなく、誠実な支援の想いがあれば、誰にとってもメリットが生じます。そんな医師が働いている文化では、システムを動かしているのは、人間であることに気付き人間がシステムを動かすなら間違えることもあると認めます。
そうすることでシステムは進化していって仕組みができ上がります。人間がどうしても起こしてしまう間違いを気づきやすいものにします。
また、誠実な支援の心のある場を育みます。医療システムに目の届く誰もが間違いがおきる可能性がある事柄を指摘することができて、そういう指摘が報われるような場です。
とりわけ、実際に失敗したときに、私のようにそれを告白した人が報われる場です。
私の名前はブライアン・ゴールドマン。定義し直されたこんな医師です。人間であり間違えることもあります。申し訳なく思いますが、間違いから得た教訓を他の人に伝えようと努力している医師です。
皆さんが私をどのように思われたかわかりませんが後悔はしません。
私の最後のひとことです、私は覚えています。
(個人的なアイデア)
根本的に、一神教では���存在しない概念かもしれないが、多神教では・・・
透明性が高く悪意もなければ、医師のミスも患者自身の「寿命の範囲内」と概念を定義することで、人間には、「寿命」があることを患者に伝えることも重要。
個人的に「寿命」の定義とは、ジョンロックの言う社会システムのない状態での平均寿命を基準にすれば・・・
ドラッカーがいうテクノロジーの恩恵から限界の克服により、時系列的に長いスパンで平均寿命が伸びたことを幸福に感じる前提を構築できるかもしれません。
各国の寿命の長さを競って誇ることよりも重要な気がします。
メジャーリーグの透明性の高いセイバーメトリックスのような打率ではなく、デットボール率を医者の成功率としてあてはめ指標とするのは、倫理的に難しい。
多神教では、慎重に経過を観て「仏の顔も三度まで」という言葉のように余裕も大事です。
しかし、極端に失敗してしまう医師の兆候を判別して統計的に人工知能で予測し、自浄作用として罪に問う方法としては、検討の余地���ある。人間は完璧ではないので、恩赦の仕組みも必要。
専門外なので、他の方法があればベストです。
その他には、拡張現実や3Dシミュレーターも失敗予防には良いかもしれません。
医師や看護師をはじめとした医療従事者には、厳格な守秘義務が課されています。
医師や看護師をはじめとした医療従事者には、厳格な守秘義務が課されています。
医師や看護師をはじめとした医療従事者には、厳格な守秘義務が課されています。
内閣府の「マイナンバー制度の定義」は「マイナンバーは社会保障、税、災害対策の3分野で複数の機関に存在する個人の情報が同一人の情報であることを確認するために活用されます」
一神教ではなく、概念の多様な多神教の日本では、基本的人権侵害にならないことも重要です。
経済学には「死重損失」という物的資本のみに適用される経済的非効率の指標があります。
人的資本は、基本的人権の尊重から経済的非効率を一部認め、この領域を「投資」と見なすことで公助とし業種の垣根を外し
統合することで行政府が特別会計経由からも一律給付金で底上げし、低年収者に還流すれば好循環が生まれる。
たとえ、増税しても、それ以上の金額を投資分として低年収者に還流すれば良いことが計算上からも理解できる。
合成の誤謬も生じない可能性は高い。
ケイド・クロックフォードの教訓は必見です。
新型コロナウイルスのパンデミックで日本では令状なしで悪用されています。
前提として、公人、有名人、俳優、著名人は知名度と言う概念での優越的地位の乱用を防止するため徹底追跡可能にしておくこと。
<おすすめサイト>
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エリック・トポル:AIは医師が見逃しているものをキャッチできますか?
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<提供>
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東京都北区神谷高橋クリーニング店Facebook版
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t82475 · 7 months ago
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悪魔ッ子の孫娘
[1966(昭和41���年]
1. 帝国サーカス団公演。 「次に登場いたしますはー、希代の魔術師、赤沼幻檀(あかぬまげんだん)と悪魔ッ子リリー!!」 円形アリーナの中央に黒ずくめの魔術師が歩み出た。 床まで届く黒マントに黒手袋と黒いシルクハット。 お世辞にもハンサムとはいえない容貌だった。痩せこけた頬の上に爬虫類を思わせる丸い両眼が開いている。 愛想笑いの一つもしないで、ぎょろりと客席を見回した。
魔術師が黒マントの裾を大きく翻すと、その陰から赤いチャイナ服の小柄な人物が出現した。 年端も行かない少女だった。ほんの6~7歳くらいではないか。 客席がどよめいた。 何もないところに少女が出現したことに驚いたのではない。出現した少女の幼さに驚いたのでもない。 観客は彼女の登場を待ちかねていたのだった。 魔術師と少女のショーは新聞に取り上げられるほど話題になっていた。 ほとんどの客は二人を目当てに来ているのである。
少女はお人形のように動かずその場に立ちくしている。 魔術師は白いロープを出すと少女の手首を背中で縛った。続いて足首も縛る。 人差し指を立てて目の前で振ると、少女は即座に意識を無くした。 その場に崩れ落ちたところを抱きかかえられる。
大きな金庫が引き出されてきた。 その横幅は魔術師が両手を広げた幅で、その高さは魔術師のシルクハットの高さである。 金属製の扉を重々しく開くと中は何もない空洞だった。 そこにロープで縛った少女を転がせた。 頬を軽く叩いて目覚めないことを示す。 扉を閉めて鍵を掛けた。
照明が暗くなって会場全体が薄闇に包まれた。 アリーナ中央の金庫とその横に立つ魔術師がほのかにシルエットになって見えた。 そして──。
おお~っ。 再び客席がどよめいた。 今度は正真正銘の驚きの声。
金庫の上に少女の頭が生えたのである。 その頭はゆっくり上昇し、顔、首、肩、そして胴体から足までの全身が現れた。 手足を縛っていたはずのロープはなくなっていた。 金庫の上に立つチャイナ服の少女。 彼女は硬い金庫の天井をどうやって通り抜けたのだろうか。
不思議なことはもう一つあった。 暗い会場に少女の姿がはっきり見えることである。 スポットライトなどで照らされている訳ではない。 少女自身がほのかに発光していた。まるで幽霊のように。
魔術師が両手を広げて呪文を唱えた。 少女の足が金庫から離れた。 彼女は何もない空間に浮かび上がったのだった。 5メートルくらいの高さまで上昇して静止、すぐに何もない空間を前方へ歩み出す。 観客席の上まで来るとすっと降下した。 真下にいた女性客のすぐ傍に降り、ほんの数センチの距離まで顔を寄せて悲鳴を上げさせた。 少女は会場の空間を上下左右自由自在に移動した。 ワイヤなどで吊られているようには見えなかった。 天井近くまで上ったかと思うと、急降下して客席ぎりぎりで旋回し再びふわりと舞い上がってみせた。
少女が "飛行" していた時間はおよそ5分くらいだろうか。 魔術師が手招きすると彼女は金庫の上に戻ってきた。 ゆっくり金庫の中へ沈み込むようにして消えたのであった。
照明が点いて会場が明るくなった。 魔術師が金庫を解錠して扉を開ける。 中には白いロープで縛られた少女が眠っていた。 最初に閉じ込められたときと何も変わった様子はなかった。
少女は拘束から解放されて目を覚ました。 魔術師と並んで頭を下げる。 満場の拍手と声援を浴びながら彼女は初めて笑顔を見せたのだった。
[2024(令和6)年]
2. 私はテーブルの向かい側に座る男にグラスの水をかけた。 他の女と結婚するから関係を終わりたい? バカにしないで。 「サヨナラ!」 「ちょ、けやき!!」 そのまま席を立ち、小走りでカフェを飛び出した。
金曜日の夜。 私、近本けやきは雑踏の中を泣きながら駆けた。 運命の人と信じてたのに。 とても優しくて、よく笑わせてくれて、どんなグチも聞いてくれて、ベッドの相性も最高で。 大切な話があると言われて、いよいよプロポーズと信じて来たのに。 アラサー女の貴重な2年間を返せ、このバカ野郎ー!! 涙で景色が霞んだ。 私きっとお化粧ぼろぼろだ。
きゃっ。 前から来た女性と当たりそうになって私は転倒した。 歩道に座り込んで腰をさする。 痛、た、た。 「大丈夫ですかっ?」 「だ、だいじょーぶ・・」 その人は私の手を持って立つのを助けてくれた。 赤いチャイナ服を着た女の子だった。 男の子みたいなショートヘア、くりくりした大きな目。 可愛いな。高校生かしら。 いけない、謝らなきゃ。 「ごめんなさいっ、前見ないで走って。そちらこそ怪我とかありませんか?」 「あたしは全然。それよりも」 「はい?」 「変なこと聞きますけど、お姉さん金縛りの癖がありませんか?」 !! 「金縛り!?」 「そんな気がしまして」 「いいえ、そんな癖はないです。失礼しました!」 「あのっ、もしもしっ」 私は顔を背け、女の子を置いて逃げるように走り去ったのだった。
・・金縛り。 布団に入って眠ろうとすると襲われる状態。意識はあるのに身体が動かない。 私は子供の頃によく金縛りをやっていた。 最近は少なくなったけれど、それでもあの感覚は鮮明に覚えている。 やなこと思い出しちゃったな。 ただでさえ男に二股をかけられて滅入っているところなのに。
無性にお酒が飲みたくなった。 飲んでも嫌なことを全部忘れられるはずはないけど、酔えば少しは楽になりそうな気がした。 ・・よぉしっ! 近くにあったファッションビルのパウダールームに飛び込んだ。 泣き崩れたお化粧をちゃちゃっと直して外に出る。 行き慣れたパブに顔を出すのはやめよう。 だって今日は週末の金曜日。絶対に知り合いに会うし、会ったら泣いたでしょって見破られる。
目に留まった雑居ビルの入口にスナックの看板が並んでいた。 いつもなら一人でスナックなんて入らない。 でもその夜の私はひねくれていた。 傷心の女がスナックでカラオケも悪くないわね。 どうせなら一番へんてこりんな名前のスナックに入ろう。 『すなっく けったい』。 よし、ここだ。
3. さほど広くない店内はお客でいっぱいだった。 「ようお越し! ・・お一人?」 カウンターに一つだけ空いていた椅子席に案内された。 とりあえずビールを頼む。
「お姉さんも手品を見に来たのかい?」隣席のおじさんが話しかけてきた。 「あ、いえ」 「違うで。このお客さん今日が初めてやし」 カウンターの向こうのママが言ってくれた。関西弁? 「そうか、ラッキーだね。始めて来て赤沼さんの手品を見れるなんて」 「毎月第3金曜は流しの手品が来るんよ。・・せっかくやから見てってちょうだい」
流しの手品? そんなもの初めて聞いたよ。 言われてみればこのお店、普通のスナックと空気が違った。 カラオケコーナーはあるけど誰も歌ってないし、大声で放談する人もいない。 落ち着いたカフェかバーみたいな雰囲気。 女性も多いな。よく見たらお客の半分が女性だった。 どの人も手品が目的で来てるんだろうか。
しばらくして入口のドアが開き、黒ずくめの男性が現れた。 タキシードの上に黒いマントを羽織ったお爺さんだった。頭にはシルクハット。 ひと目で手品師と分かる服装。 お爺さんに続いて赤いチャイナ服の女の子が入ってきた。大きな革のトランクを両手で持っている。 あっ。あの子! 私が歩道で衝突しかけた女の子だった。
カラオケコーナーのスポットライトの当たる位置まで進むと、二人は並んで頭を下げた。 皆が拍手した。遅れて私も拍手した。 女の子が私に気付いたようだ。胸の前で右手を振って笑いかけてくれた。 困ったな。笑顔を返しにくい。
「今夜もたくさんお集まりいただきましたな。こんな爺の芸がひとときの慰めとなれば幸甚の極み・・」 お爺さんは口上を済ませると、マントの中からステッキを出して振った。 ステッキは一瞬で花束に変わりそれを近くの女性客に渡した。
次に左手を高く掲げた。 何もないはずの手の中にトランプのカード��1枚出現した。 それを右手で取って投げ捨てると、左手にまた1枚現れた。 次々とカードを出現させて投げた。最後の何枚かは左手から直接空中に投げて飛ばした。 「あれはミリオンカードっていう技だよ。あの爺さんの十八番さ」 隣に座るおじさんが教えてくれた。 「へぇ。詳しいんですね」 「まあね。毎月ここで見てるからね」
お爺さんは手品を続けた。 銀色のリングをいくつも繋いで鎖のようにしたり、ピンポン球を指の間に挟んで増やしたり減らしたりした。 それから紙に火を点けそれを口に入れて食べてみせた。 ほとんど笑顔も見せずに淡々と続けた。 マジックとか手品は全然知らないけど、何となく最新のマジックではないような気がした。 昔からある手品をやっているんじゃないかしら。
「レトロだろう?」 隣のおじさんが笑いながら言った。 「やっぱり古い手品なんですか?」 「そうだね。あんなのばかり何十年もやっているらしいよ」 「そうなんですか」 「でもこの後の幽体離脱のイリュージョンはすごいよ。何回見ても不思議なんだ」 幽体離脱? イリュージョンって確か、美女が宙に浮かぶとか、そういうマジックよね?
4. チャイナ服の女の子がカウンタースツール(カウンター席用の背の高い回転椅子)をお店の奥から借りて持ってきた。 トランクの中から薄いカーキ色をしたキャンバス生地の包みを出すと、客席に向けて広げて見せた。 金属の金具とベルトがついていて、先の閉じた長い袖がだらりと垂れたジャケットのような形状。 これは知ってるわ。 病院とか拘置所とかで暴れる人に使う拘束衣ね。
お爺さんが拘束衣を女の子に着せる。 長い袖に腕を入れさせると、背中で編み上げになっている紐を締め上げた。 そして腕を前でクロスさせ袖の先を背中できつく絞って固定した。 腰から下がったベルトも両足の間に通して後ろで留めた。 「どなたか力のある方、お手伝いを」 男性のお客に手伝ってもらって女の子を持ち上げ、カウンタースツールに座らせた。 最後に黄色いハンカチで女の子の足首をスツールの一本脚に縛りつけた。 女の子はにこにこ笑っているけれど、これって割と厳しい拘束じゃないかしら。
Tumblr media
お爺さんが前で指を振ると女の子は目を閉じて動かなくなった。 トランクから大きな布を出し、お客さんに再び手伝ってもらって女の子の上から被せた。 女の子の姿は隠れて見えなくなる。 「さぁて・・、」 お爺さんが前に立って両手を広げた。 布の下で動けないはずの女の子がびくっと動いた・・ような気がした。 しばらく何も起こらなかった。 やがて──。
おおっ。店内に驚きの声が響いた。 布の上に薄いもやのような影が現れて、空中に浮かんだ。 影はすぐにくっきりしてチャイナ服の女の子になった。
女の子は拘束衣を着けていなかった。 浮かんだままにっこり笑うと、ゆっくり一回転してみせた。 一度天井近くまで上昇し、それから降りてきてお店の中をふわふわ移動した。 お客の近くに寄ると手を伸ばして一人一人の肩や頭を撫でた。 わっ。きゃっ。 その度に悲鳴が上がる。
女の子が私の傍に来た。 ごく普通の女の子に見える。でも足が床についてない。 いったいどういう仕掛けなんだろう? 彼女は私の耳に口を寄せて囁いた。 「・・あとでお話しさせて下さい」 先ほど歩道で会話したときと同じ声が頭の中に共鳴するように聞こえた。 あまりにもリアルだった。トリックがあるとは思えない。 まさか本物の幽体離脱? 背筋が凍りついた。
5. その夜、私はベッドの中で眠れないでいた。 二股かけられた男のことは、もうどうでもよくなっていた。 それよりスナックで見た幽体離脱が忘れられなかった。 耳元で囁かれた声。 私は怖くなってあの場から逃げ出して帰ってきたのだった。
あの後、女の子は高く舞い上がって元の場所に戻った。 布の下に隠れた本体に重なるように消えると、手品師のお爺さんはその布を外してみせた。 そこには拘束衣を着せられた女の子が何も変わることなく座っていた。 お爺さんが彼女を解放している間に私は立ち上がり、急いでお会計を済ませてスナックから出てきたのだった。
・・金縛りの癖がありませんか? そうだ、私には金縛りの癖がある。 どうして見抜かれたんだろう? あまり考えちゃいけない。考えすぎると金縛りが再発する。
女の子が拘束衣を着せられる光景が蘇った。 長い袖に両手を差し入れる。袖の先を背中に巻き付けられて、ぎゅっと引き絞られる。 私は仰向けに寝たまま、右の掌を左の脇腹に、左の掌を右の脇腹に当てた。 これで強く縛られたら絶対に動けないよね。 腕に力を入れて身体に押し付けた。 ぎゅ。圧迫感。
・・ブーン。耳鳴りがした。 いけない!! 気がつけば私は動けなくなっていた。手も足もあらゆる筋肉に力が入らない。
(拘束衣に自由を奪われた私。あの女の子と同じ)
違う。これは金縛りっ。
(お爺さんが大きな布を広げた。ふわりと覆われる。何も見えない)
だから金縛りだってば。無理に動こうとし��いで深呼吸しなきゃっ。
(拘束感が薄れる。布を通り抜けるイメージ)
もやが晴れるように視界がクリアになった。 目の前に見えたのは自室の天井。 私は仰向けに寝た姿勢で浮かんでいるのだった。 腕がだらりと斜め下に開いた。 拘束は・・、されていないみたい。
起きなきゃ。 そう思うと空中でまっすぐ立っていた。 ここは私の部屋。ワンルームマンションの最上階。窓の外には街灯り。 自分に起こったことを理解した。 これは幽体離脱だ。
足元を見下ろすと、目を閉じてベッドに寝ている私が見えた。 上へ。 意識するなり、すっと浮上して天井に当たった。と、天井を突き抜けてマンションの屋上に頭を出した。 真っ暗な空と夜の街が見えた。 いけない。 下へ。 降下して部屋に戻った。 スナックで見た幽体離脱は震え上がるほど怖かったのに、いざ自分に起こると驚きも恐怖もなかった。 こういうものかという感じ。 今の私、どんなふうに見えてるんだろう?
洗面台の鏡の前へ行ってみた。 歩かなくても移動できるから楽だ。 鏡の中によれよれのスウェットとショートパンツの女がいた。私だ。 電気も点けてないのにくっきり見える。 そういえばあの女の子もくっきり見えたな。カラオケコーナーのスポットライトの中で。 灯りを点けたらどうなる? 壁のスイッチを入れようとしたら指が壁の中にめり込んだ。 あら残念。
ベッドの上空に胡坐で浮かび、腕組みをして考えた。 私、どうなっちゃったんだろう。金縛りに加えて幽体離脱まで達成してしまうとは。 そもそもこれは現実なのかしら? ぜんぶ夢の中のような気もするし。 スマホやテレビでチェックしたらと思ったけど、触れないから確認できない。 窓に目を向けた。今の私なら窓ガラスを通り抜けられる。 コンビニにでも行って店員さんに私が見えるか聞いてみようか。 ダメだよ。もし本当に見えたら幽霊が来たって大騒ぎになるでしょ。
今、何時だろう? ベッドサイドのデジタル時計は 2:59。見ているうちに 3:00 に変わった。 じー。枕元のスマホが振動して画面が明るくなった。何かの通知を表示するとすぐに暗くなった。 夢だとしたらすごいわね。むちゃリアル。 スマホに手を伸ばしたら手がスマホをすり抜けた。 やっぱりこうなるか。ばかやろー。
・・
気がつけば朝だった。 私はベッドから起き上がって頭を掻く。ああ、本体に戻ったのか。 時計を見ると7時半。 も少し寝ようかな。今日はお休みだし。 いつもの習慣でスマホをチェックすると飲み仲間の女友達から LIME のメッセージが入っていた。 『水曜いつものパブでどう?』 メッセージの時刻は 3:00。
記憶が鮮明に蘇った。 時計が3時になって、同じタイミングで着信通知。 夢と現実がここまで一致するなんてあり得ない。 あの幽体離脱は現実だったと確信した。
それなら──。 私は思った。 あの子に会わないといけない。あの女の子と話をしないといけない。
6. 土曜��せいか『すなっく けったい』は空いていた。 先客はサラリーマン風の若い男性が二人だけ。 JPOP の音楽が流れていたりして、いたって普通のスナックだった。
関西弁のママは私を覚えていた。 「昨日のお姉さんやね。途中で帰ってしもたから莉里(りり)ちゃんが残念がってたわよ」 「莉里ちゃんて?」 「手品のアシスタントしてた子やんか」 「ああ、チャイナ服の女の子ですね」 「そうそう。莉里ちゃんは赤沼さんのひ孫なのよ」 へえ、孫じゃなくてひ孫さん。
ママによると、あのお爺さん(=赤沼氏)は2年ほど前にふらりと現れて手品をするようになった。 ずっと一人でやってたけど、今年の春になって莉里ちゃんも一緒に来て幽体離脱のイリュージョンを始めた。 それが受けて、今では赤沼氏が来る日は手品好きのお客が集まるという。 「あの人も昔は名のある手品師やったらしいけど、今は道楽でやってる言(ゆ)うて笑(わろ)てはったわ」 「私、赤沼さんと莉里ちゃんに会いたいんです。連絡先ご存知ないですか?」 「お姉さんネットで配信してる人? それともマスコミ関係とか。それやったら会(お)うてもらえへん思うよ」 「違いますっ。あの、個人的に、すごく個人的に会いたいだけなんです」 ママはにやりと笑った。 「それやったら、ボトル入れてくれたら話そかな?」 「入れます!」 「よっしゃ。・・あいにく連絡先は分からへんけど、雲島のほうの公園でストリートなんとかゆうのをやってるのは聞いてるわ」 「ストリートパフォーマンスですか?」 「それそれ。やるのは日曜だけでそれも気まぐれや言うてはったから、絶対に会えるとは限らへんけどね」 「ありがとうございます。行ってみます」
「・・ママぁ、カラオケするでぇ」「はーい、どぉぞ」 サラリーマン組が歌い始めた。
「ところで何飲む?」 ママに聞かれた。 「あ、ボトル入れますから。・・その、一番安いので」 「さっきのは冗談やから無理せんでええよ。そやね、何でもいけるんやったらホッピー割なんかどう?」 初めて飲んだホッピーの焼酎割は爽やかで飲み易かった。 「美味しいです」「やろ?」 ママも自分のグラスに入れたホッピーをぐびりと飲んで笑った。 「お姉さんのお名前お聞きしていい?」 「私、けやきです。近本けやき」 「けやきちゃんね、覚えたで。・・それで二人に会うてどうするの?」 「昨日の手品で聞きたいことがあるんです。特に莉里ちゃんの方に」 「ふーん、さてはけやきちゃんも幽体離脱してもぉたんやな」 ぎっくう!!! 「がはははっ、そんな真顔で驚かれたらホンマに幽体離脱した思てまうやんか」 「いえ、あの」 思い切り笑われてしまった。
「さあ、カラオケ空いたで。あんたも遠慮せんと歌いっ」 「あ、はい。・・じゃあ『ふわふわタイム』を」 「がははっ、アニソン! ええやんっ」 それから私はカラオケでアニソンを歌い、サラリーマン二人と意気投合して歌いまくった。 ホッピー割はいつの間にかハイボールとストレートのジンに変わり、結局ボトルキープと変わらない代金を払うことになった。
7. 翌日はよく晴れていた。 私は『���ったい』のママから聞いた公園に来ていた。 そこは野鳥や水鳥の観察ができる貯水池や広葉樹の森が広がる自然公園で、私は赤沼氏と莉里ちゃんを探して歩き回った。 どこにいるのか分からないし、どこにもいないかもしれない。
ふう。疲れてベンチに座り込む。 『けったい』で飲み過ぎたかしら。おかげで爆睡して金縛りも幽体離脱もなかったんだけど。 それにしてもこんなに広い公園って分かってたら、もっと歩き易い格好にしたらよかったな。 私はロング丈のワンピースにヒールを履いて来たのだった。
・・あれ? 遠くに人が集まっている。 なだらかな芝生の丘の上にレンガの壁で囲まれた噴水があって、そこで何かが行われていた。 噴水の上にふわりと浮かぶ人影が見えた。 白いワンピースを着ていて背中に羽根のようなものがついている。
私は立ち上がった。 息を切らせながら斜面を登り、ようやく噴水の端へたどり着いた。 見上げると噴水に虹がかかっていた。 きらきら輝く飛沫と太陽の光。 その光の中、4~5メートルくらいの高さを莉里ちゃんが "歩いて" いた。 肩を出した真っ白なキャミワンピ。大きく広がる天使の翼。ひらひらした裾から伸びる素足。 神々しいくらいに綺麗だった。
「莉里ちゃん!」 私が叫ぶと彼女はこちらを見下ろして驚いた顔をした。 噴水の中をゆっくり降下し、それから水面を歩いて外へ出てきた。 彼女の髪や衣装は少しも濡れていなかった。 噴水の畔には大きなキャリーバッグが置いてあって、莉里ちゃんはその中へ溶け込むよう消えた。 取り囲むギャラリーから「ほおっ」という歓声が上がる。 「すごい! このイリュージョン」「どうなってるんだろ?」会話が聞こえる。 そうだよね。イリュージョンと思うよね普通。
キャリーバッグの脇に白髪のお爺さんが立っていた。 それはもちろん赤沼氏だけど、明るい色のシャツとズボンで優しく笑う姿は『けったい』で見たのと全然違っていて驚かされた。 赤沼氏は観客に向けて親指を立てウインクすると、キャリーバッグを横に倒して蓋を開けた。 バッグの中には拘束衣を着せられて丸くなった莉里ちゃんが入っていた。 立ち上がって拘束衣を脱がせてもらう。 弾けるような笑顔。額に汗が光っていた。 やっぱり可愛い子だわ。
拍手の中、二人はお辞儀した。 足元に置いた菓子缶に小銭がぱらぱら投げ込まれる。 莉里ちゃんが私を見て手を振ってくれた。 薄いキャミワンピ1枚だけ纏った背中に天使の翼はついていなかった。
・・
「近本けやきといいます。先日は途中で帰ってしまってごめんなさい!」 ギャラリーがいなくなってから私は二人に挨拶した。 「あたしは気にしてません。それに、きっとまた会えると思ってましたから」 莉里ちゃんが答えてくれた。
「実は私、金縛りの癖があります」 「あ、やっぱり」 「あの夜、久しぶりに金縛りになりました」 「!!」 「それともう一つ、私も本当に驚いたんですけど、えっと・・」 言い淀んでいると赤沼氏が応えてくれた。 「貴女も幽体離脱したのですかな? 先程のこの娘と同じように」 「あ、あれ、やっぱり本物の幽体離脱・・ですか?」 「はい!」 莉里ちゃんがそう言ってにっこり笑った。
あっさり認めてくれてほっとした。マジックじゃなかった。 さっき見たのも、『けったい』で見たのも、どっちも本物の幽体離脱だったんだ。 二人に告白した。 「私も、生まれて初めて宙に浮いて、自分の寝顔を見下ろしました」
8. 狭いキッチンに香ばしい匂いが漂っている。 ここは赤沼氏が暮らす古びた公営団地。 夕食を食べていきなさいと誘われたのだった。
私は莉里ちゃんと並んで座り、準備する赤沼氏の背中を見ながら二人でお喋りした。 莉里ちゃんのフルネームは関莉里(せき りり)。16 歳で高校1年生だと教えてくれた。 ひいお爺さんの赤沼氏はこの団地に一人住まい。莉里ちゃんは近くの一戸建て住宅に両親と住んでいる。 彼女は赤沼氏のアシスタントを春休みの3月から始めた。 「皆さんの前でふわって浮かんでみせるの、楽しいんです」 そう言って明るく笑う莉里ちゃん。 昼間から着たままでいる肩出し白ワンピが眩しい。
「・・さあ、できたよ。こっちは桜海老のビスクと鮭の香草焼き。メインにチキンソテーのクリームチーズソース。バケットを切らしていたからカリカリに焼き上げた食パン。ガーリックバターをつけて食べて下され」 「これ全部赤沼さんが作ったんですか!?」 「びっくりでしょ? ひい爺ちゃんはお料理が得意なんです」 「昔はフレンチのシェフをされてたとか?」 「いやいや、メシ作りは好きでやっておるだけだよ」
食卓テーブルはないからと、床に置いた卓袱台(ちゃぶだい)を囲んでお料理をいただいた。 「美味しいです!」 「それはよかった。・・そうそう、ワインは飲むかね? ちょうどドメーヌ・トロテローの白があるんだが」 「い、いいんですか!?」 「遠慮は無用。ただしワインにしてはアルコール 15 度を超える強めの酒だ。いけますかな?」 「いけます!」
赤沼氏は笑って冷蔵庫からワインの瓶を出してくると、プロのワインソムリエみたいにスマートに栓を抜いた 「ではティスティングを・・。おっとその前に姿勢を正していただきたい」 「あ、すみません」 私はきちんと正座して、少しだけ注いでもらったグラスを鼻に近づけた。 「どうだね? 2020 年のロワールで最もリッチなワインだよ。ふくよかで甘い香りがするだろう?」 「そうですね、いい香り」 「ゆっくり口に含んで」 口の中に芳醇な香りが広がった。 「舌の上で転がせば辛口で、凝縮された果実感と酸味がたちまち貴女を酔わせようとする──」 「ああ、本当」 ふぁっと熱いものが広がる感覚。 酔ってしまいそう。 でもほんの一口試しただけなのに、私こんなに弱かったかしら?
ぽん。誰かに肩を叩かれた。 振り返ると、いつの間にか赤沼氏が後ろにいた。 「けやきさん、やはり貴女は暗示にかかり易いようだね」 「?」 「もう一度グラスの中身を飲んでみなさい」 ワイン��飲むと味がしなかった。 あれ? 「それはただの水だよ」
「けやきさん、ごめんなさい」 莉里ちゃんが言った。 「あたしからひい爺ちゃんにお願いして確かめてもらったの」
・・
食事をしながら話を聞いた。 暗示は言葉やいろいろな合図を受けて誘導される精神的作用だという。 私はただの水をワインと思い込んだ。 思っただけじゃなくて、本当にワインの味と香りを感じたのだった。 赤沼氏はそうなるように私を導いた。これが暗示。
莉里ちゃんが言った。 「あたし、最初に会ったとき "金縛りの癖がありませんか?" って聞きましたよね。たぶんあれが金縛りの暗示になっちゃったと思うんです。ごめんなさい!」 「でも私にはもともと金縛りの癖があったんだし」 「それも暗示かもしれません。けやきさん、そんなにしょっちゅう金縛りをやってましたか? 癖があるって意識してましたか?」 え? そうだっけ?
「金縛りは睡眠障害の症状の一つと言われるが、それだけではない。暗示が金縛りの引き金になることもあるんだよ」 赤沼氏が説明してくれた。 「起こる起こると思っていると起き易くなるんですね」 「そう。だから逆に金縛りを起きにくくするのにも暗示が使えるし、起こったときに恐怖を感じないようにもできる」 「できるんですか? そんなこと」 「試してみるかね?」 「・・はい。お願いします」
食事の後、食卓を片付けて私は赤沼氏と向かい合って座った。 「貴女が金縛りになったときの状況を話して下さい。できるだけ詳しく、どんな些細なことでもいいから」 「はい、あのときは、」 あのときはベッドに入って、莉里ちゃんの幽体離脱を思い出していた。 金縛りの癖があるって言われたことを考えた。 それから莉里ちゃんが拘束衣を着せられるところを思い出して。 そうだ。私、自分が拘束衣を着て動けなくされるのをイメージした。 両手を前で組んで。ぎゅっと。
・・ブーン。耳鳴りが聞こえた。 あぁ、駄目! 身体ががくがく揺れるのが分かった。
「喝!!」 赤沼氏の声が響く。はっとして我に返った。 大丈夫、ちゃんと動ける。金縛りになんかなってない。 莉里ちゃんが横から肩を抱いてくれた。 「大丈夫ですよ、けやきさん」優しい声で言われた。 「怖い思いをさせてすまなかったね。・・しかし記憶を辿るだけで起こりかけるとは。よほど強い暗示か、さもなくば貴女の感受性が並外れているのか」 赤沼氏が言った。 「でも施術の方向は見えたよ。悪いがもう一度やらせてもらえるかね。もう怖い思いはさせないから」 莉里ちゃんに目を向けると、彼女はまっすぐ私を見て頷いてくれた。 私は答えた。 「やって下さい。お任せします」
・・
赤沼氏が奥の部屋から持って来たのは束ねた縄だった。 「背中で手首を交差させて」 手首に縄が巻き付いた。 それから二の腕と胸の上下にも縄が巻き付いて、全体をきゅっと締められた。 がっちり固められて動けない。 私は人生で初めて縄で縛られた。
仰向けに寝かされ、頭の後ろと背中で組んだ手首の上下に丸めた座布団を押し込まれた。 「床に当たって痛いところはないかね?」 「いいえ」 「では目を閉じて、リラックスして。大きく深呼吸。・・そう、ゆっくり、深く」 息を深く吸うと縄の締め付けが強くなった。 辛いとか苦しいの感覚はなかった。締め付けられることに快感すら覚えた。
「けやきさん、今、貴女は縛られている。貴女を包む縄に身を預けている」 「はい」 「貴女が感じるのは穏やかな���地よさ。縄に守られる安心感。とても気持ちよくて、ずっとこのままでいたいと思う」 気持ちいい。まるで抱きしめられているみたいに気持ちいい。 優しくて、暖かくて。 これは、幸福感。
「いい表情をしているね、けやきさん。貴女は縄に守られているんだよ。何も恐れなくていい。あらゆることが気持ちいい」 私は守られている。 この気持ちよさの中にずっといられたら、何も怖くない。
「たとえ金縛りでも気持ちいい。・・悦び、と言ってもいい」 そうか。 今の私にもう金縛りを怖がる理由なんてないんだ。 金縛りが来ても嬉しい。
「準備できたようだね。さあ、迎えたまえ」 ・・ブーン。耳鳴りがした。 私はそれを受け入れた。
目を開けると赤沼氏と莉里ちゃんがいた。私を見下ろして微笑んでいる。 動こうとしたけど動けなかった。 縄で縛られた腕はもちろん、首、脚、指の一本も動かせなかった。 完璧な金縛り。
怖いとは感じなかった。暗示をかけてもらったおかげだろうか。 私は落ち着いて自分の状態を確認する。 どこも痛くない。気持ち悪いところもない。 誰かが上に乗って押さえている感じ・・、なんてものも全然ない。 身体中の筋肉が脱力したまま、脳からの命令を無視しているイメージ。
面白いね。 嫌じゃないぞ、この感じ。 今までの金縛りで味わったことはなかった。こんな感覚は初めてだよ。 確かに悦びかもしれない。 私、マゾのつもりはないんだけど。 「どうかな?」赤沼氏が静かに聞いた。 「・・今、貴女は動けない。動けないが怖くない。金縛りは怖くない。それどころか快適に感じるんじゃないかな?」
・・はい、快適です。 答えようとしたら、ふわりと身体が浮かんだ。 あれ? 私はそのまま赤沼氏と莉里ちゃんを通り抜けて浮かび上がった。 あらら、また幽体離脱しちゃったんだ。
私は仰向けで後ろ縛りのままだった。 そのまま上昇して天井にぶつかる前に止まった。 前、後ろ、右、左。 自由に移動できることを確かめた。前と同じだ。 その場でくるくる回ってみた。 頭を下に向けて倒立した。楽しい。 おっとスカート。 慌てて見下ろしたらワンピースのスカートはめくれ上がることなく足先の方向へのびていた。 引力は関係ないのね。
前を見ると逆さになった二人と目が合った。 いや逆さになっているのは私の方だけど。 縄で縛られた女が倒立状態でふわふわ飛んでいる。暗がりで会ったら腰抜かすかも。 赤沼氏と莉里ちゃんには見えているんだろうか?
「もしもし、私のこと、どう見えてますか?」 「ええっ」「何と・・」 揃って驚かれた。 「聞こえたよね? ひい爺ちゃん」「はっきり聞こえた」 え、聞こえたらびっくりするんですか?
「貴女が逆さに浮かんでいるのはちゃんと見えておるよ」 「びっくりしたのは、離れていても声が聞こえたことなんです」 二人が説明してくれた。 「この間は莉里ちゃんも私に話しかけてくれたと思いますけど」 「あたしは相手の近くで囁くのが精一杯です」 そうだったのか。確かにあれは耳元で聞こえたわね。 「体外に分離した幽体が普通に会話できるのは大変なことだよ。幽体の濃度がとても高いことの証しだ」 幽体の濃度? さっぱり分からない。
「あの私、金縛りに入っただけなのに、幽体離脱までしちゃったみたいですみません」 「金縛りをきっかけにして幽体が分離するのは珍しいことではないよ」 「よくあることなんですか」 「そうなんだが・・、そこでふわふわされていたら落ち着かないな。���し訳ないが本体に戻ってもらえますかな?」 「あ、はい」 私は自分の身体の上に浮かんだ。 そこには後ろ手に縛られた私が両方の眼をかっと見開いたまま眠っている。かなり不気味だ。
「・・あの、どうやって戻ったらいいでしょう?」 「前に幽体離脱したときは?」 「朝、目が覚めたら戻ってました」 「そうか」 赤沼氏はしばらく思案し、それから奥の部屋に行って紙袋を持ってきた。 「莉里、これで戻してあげてくれるかい」 「これを使うの? 久しぶり!」
莉里ちゃんが紙袋から出したのは赤いゴム風船と空気ポンプだった。 「これは手品で使う風船です」 風船をポンプに繋ぐと、レバーをしゅこしゅこ押して空気を入れた。 「これは画びょうです」 左手に膨らんだ風船、右手に画びょうを持ち、眠り続ける私の本体の耳元で構えた。 「ちょ、莉里ちゃん何するの!?」
ぱんっ!! 大きな音がして私は目覚めた。 「つぅ~」 耳を押さえようとして、自分が後ろ手に縛られていることを思い出した。 「驚かせてごめんさない。これ、あたしが幽体離脱の特訓で戻れないときにやってもらってた方法です」 「幽体を元に戻すには聴覚の刺激が最も効くんだよ」 「そ、そうなんですか」
・・
起き上がって縄を解いてもらった。 淹れてもらったコーヒーを飲みながら、赤沼氏の説明を聞いた。 「元々けやきさんには幽体離脱の特別な能力があったんだろうね。それが急に活性化したのは、金縛りの暗示とおそらくスナックで莉里の実演を見たからだろう」 「私の能力って特別なんですか?」 「そうだね、けやきさんの幽体は濃度レベルが極めて高い。驚くべきことだ」
脳の神経細胞の接点をシナプスと呼ぶ。幽体と肉体の分離はシナプスの活動電位の乱れによって引き起こされる。 分離した幽体の濃度レベルが高いと幽体は可視化され、さらにレベルが高いと音声も伝わる。 レベルが低い場合は本人は離脱の記憶すらあいまいになり、たとえ覚えていても夢を見たと思うだけだ。
「これはわしの知り合いで一ノ谷という学者が提唱した理論だよ。もう何十年も前に死んでしまったが」 「そうなんですか」 「一ノ谷は超短波ジアテルミーという装置を作り、それを使ってわしの娘を訓練した」 え? 娘さんって、つまり莉里ちゃんのお婆ちゃん? 「今のは余計な話だった。忘れて下され」
「ひい爺ちゃん、これからどうするか話すんでしょ?」莉里ちゃんが催促した。 「おお、そうだったね。・・けやきさん、今、貴女が最も注意すべきは金縛りではなく幽体離脱なんだよ。使いこなす訓練が必要だ」 え? 「貴女のように幽体濃度レベルが高い人が無意識に離脱を繰り返すのはとても危険なんだ」 「もし今のまま幽体離脱が続いたらどうなりますか?」 「貴女自身の精神が不安定になる。やがて分離した幽体が独立した人格を得て勝手に行動するようになる。いわゆる生霊だね。娘もそれで危ない目に会った」 ええっ、それは困る。絶対に駄目。
「貴女はお勤めかな? それとも結婚して家庭におられるか」 「独身で勤めています」 男に振られたばかりで来年 30 のアラサーOLだよっ。 「では、後日改めてお越しいただけますかな? 今夜はもう遅い。これ以上続けると明日の仕事に差し障るでしょうから」 「分かりました。・・もしそれまでに幽体離脱が起こったら?」 「貴女の場合は金縛り状態でない限り、幽体の分離は起こらないと思っていい。そして貴女が金縛りになるのは縄で縛られているときに限られる。そういう暗示をかけたからね」 「つまり、縛られなければ安全なんですね?」 「その通り。もし貴女に誰かから緊縛を受ける趣味がおありなら、しばらく控えたほうがいい。その最中に幽体離脱が起こるかもしれない」 「そんな趣味はありません!」
莉里ちゃんが言った。 「けやきさん、実はあたしにも暗示がかかってるんですよ。あたしが幽体離脱するのは拘束衣を着せられたときだけです」 「莉里ちゃんも?」 「だって授業中に居眠りして勝手に離脱しちゃったらヤバイでしょ?」 そうか、だから莉里ちゃんはいつも拘束衣で幽体離脱してたのか。
・・
「では次は土曜日に来ていただくことでよろしいかな?」 「分かりました。時間は?」 「あの、」莉里ちゃんが右手を上げて言った。 「土曜の夜でもいいですか? 日曜日までゆっくりしてもらうことにして」 「夜? ・・なるほど」赤沼氏は何か分かったようだった。 「けやきさん、すまんがこの子の希望に合わせて夜でもよろしいかな?」 次の土曜の夕方6時に再訪の約束をして、私は赤沼氏の住まいを辞した。 すぐ近くにある自宅へ帰るという莉里ちゃんも一緒に出てきて、二人で並んで歩いた。
歩きながら莉里ちゃんは、赤沼氏の娘さん、つまり莉里ちゃんのお婆さんについて教えてくれた。 もう 60 年近い昔、赤沼氏は娘さんと一緒にサーカスで幽体離脱の見世物をやっていた。 娘さんは『リリー』と名乗っていて、彼女が見せる幽体離脱は大評判。当時の新聞に載ったほどだという。 リリーさんは 19 歳のとき父親の分からない女の子を出産し、その翌年に病気で亡くなった。 この女の子が莉里ちゃんのお母さんになる。
「あたしのママに幽体離脱の力はなかったんです。ごく普通に結婚してあたしを生んでくれました」 「莉里ちゃんの能力は赤沼さんが気付いたのね」 「はい。中1のとき金縛りになって固まってるところを見つけてくれました。あれがなかったら、あたし今頃本当に生霊になって飛び回ってたかもしれません」 莉里ちゃんは両手を前で揃えた幽霊のポーズで笑った。
「しばらくして離脱の特訓を始めました。ひい爺ちゃんは急に流しの手品師なんて始めたりして。それまであたし、ひい爺ちゃんが元手品師だってことも知らなかったんですよ」 「昔リリーさんと見せたショーをまたやりたかったのかもしれないわね」 「きっとそうです。ママもそう言って、あたしがお手伝いすることに賛成してくれました」
莉里ちゃんの家の近くまで来て、私は莉里ちゃんと LIME のIDを交換した。 「赤沼さんのアカウントも教えてもらっていい?」 「ひい爺ちゃんはスマホ持ってません」「そっかー」
「けやきさん、あたしね、」 「何?」 「ずっと一人だと思ってたんです」 「?」 「こんなことができるの、もうあたし一人だけと思ってたんです。でも、けやきさんと会えました」 「莉里ちゃん・・」 「ものすごく嬉しくて、泣いちゃいそうなんですよ、あたし」 そう言うなり私に抱きついた。 「これからも一緒にいて下さい。お願いします!」 彼女の背中を撫でてあげた。 「私こそお願いするわ。これからもいろいろ教えてね、先輩」 「まかせて下さい! ・・今度一緒に飛びましょね」 え、飛ぶの? 「じゃあ、サヨナラ!」
手を振って走って行く莉里ちゃん。 真っ白なキャミワンピの裾が広がって揺れていた。 ちょっと大人びてるけど、まだ 16 歳なのよね。 素直で明るくて本当にいい子だわ。
ふと気付いた。 あの子、幽体離脱できるのは自分一人って言ってたよね。 ひいお爺さんの赤沼氏自身に能力はないのかしら? リリーさんのパパなのに。
9. 週明けから急に仕事が忙しくなった。 残業が続いて毎夜牛丼屋か深夜ファミレスの生活。 飲み友達を『けったい』に連れて行きたいと思ってたけど、それも叶わずあっという間に週末になった。
SNS であの噴水パフォーマンスの評判をチェックしてみたら、やっぱりイリュージョンだと思われているようだった。 そりゃあれ見て本物の幽体離脱と判る方が変よね。 女の子が可愛い!という書き込みがたくさんあったのは納得したけど。
金縛りはまったく起こらなかった。 一度だけ、ベッドに入って自分が縛られているところを妄想した。 赤沼氏に縛られた縄。身体を締め付けられるあの感覚。 思い出すと少しだけ胸がきゅんとしたけど、金縛りの前兆であるブーンという耳鳴りは聞こえなかった。 ちょっと残念、だったりして。
10. 土曜日。 約束の時刻に赤沼氏を訪ねた。 莉里ちゃんも先に来て待っていてくれた。
私はまだ自分の意志で自由に幽体離脱できない。 前回は赤沼氏に誘導してもらって金縛りになり、その後勝手に幽体が離れてしまった。 自分で幽体離脱って、いったいどうすればいいんだろう?
「・・幽体離脱が起こるのは金縛り中に限ったことではないよ。強い衝撃を受けたとき、意識障害や失神したとき、酩酊したとき、あるいは普通の睡眠時にも起こり得る」 赤沼氏が教えてくれた。 「でも結局、離脱のハードルが一番低いのは有意識下の金縛り中なんだよ。パニックにならず落ち着いて自分を保てばいい。・・けやきさんはもう金縛りに恐怖はないだろう?」 「はい。縄で縛っていただけたら」 「では貴女の目標は、まず緊縛されて誘導なしで金縛りに入ること、それから意識を体外に向けて分離すること。ゆっくり練習すればいいよ」 「はい」
「けやきさん、あたしも金縛りになってから離脱してるんですよ」 「莉里ちゃんも?」 「そうですっ。コツを掴んだら難しくないです。けやきさんなら絶対にできますよ!」 「ありがとう。やってみる」
・・
私は前回のように床に寝るのではなく、椅子に座って後ろ手に縛られた。 手首と腕、そして胸の上下を絞める縄が心地よい。 縄に抱きしめられる感覚。 肉体は自由を奪われるのに、心には安心感と幸福感が広がる。 ほんと暗示ってすごい。 いつか自由自在に幽体離脱できるようになっても、この暗示だけは解いて欲しくない。
自分の胸に食い込む縄を見下ろした。 そうか、こんな風になってるのね。 我ながらセクシー。もうちょっとお洒落してきたらよかったと思ったくらい。 今夜は特訓だからと、私は動きやすいスキニーパンツに半袖のオーバーニットを合わせて着ていた。 せめてノースリーブとか、もちょっと肌を出したトップスにしておけば、・・って何を考えてるんだ私は。 これは真面目な訓練なのに。 「けやきさん、顔が赤らんで綺麗。羨ましいです」 「あ、ありがとう」 莉里ちゃんに指摘されて焦る。 今は邪念を払って集中しなきゃ。深呼吸���繰り返す。
「OKだよ。この先は貴女一人で行くんだ」 赤沼氏が私の肩に手を置いて言った。 「心の準備ができたら、いつでも始めなさい」 「はい」
私は目を閉じた。 身体を絞め付ける縄の感覚。大丈夫、何も怖くない。 これから私は肉体の自由を明け渡す。その代わりに精神を肉体から解き放つのだ。
・・ブーン。耳鳴りがした。 その音は以前より少し柔らかくなって聞こえた。
自分の身体を意識した。 その身体はまるで時間が止まったかのように静止していた。 外の世界を意識した。 そこには私を拒まない自由な空間が広がっていた。 行ける──。
私は虚空を見上げて飛び上がった。 自分が肉体から離れるのが分かった。 「おおっ、飛んだ!」「けやきさーん!」 赤沼氏と莉里ちゃんが私を見上げていた。 「どうですか? 私の幽体離脱」 私は二人の上空に浮かんで微笑んだ。 宙に浮かぶ緊縛美女、なんちて。 ちょっぴり、いや結構誇らしかった。
・・
私はしばらく空中に浮かんで元の身体に戻った。 戻るときもスムーズだった。 幽体を肉体に重ね、じんわり融合するイメージを描けばよかった。 初めての単独幽体離脱は大成功だった。 たった1回のトライで成功するとは正直思っていなかったと赤沼氏にも言われた。
「さて腹が減ったね。けやきさんも夕食はまだだろう?」 「え、また用意してもらったんですか!?」 「好きで作っとると言っただろう?」
私は緊縛を解かれた。 本当は縄に抱かれる快感にずっと浸っていたかったけど、縛られたままじゃご飯は食べられないものね。 赤沼氏が作ってくれたのは和食だった。 大根のべっこう煮、厚揚げと小松菜の煮びたし、鯖塩焼きに豚汁。 「すごいですっ」 「ありきたりの献立だと思うがね。けやきさんは自分で料理せんのかね?」 「あ、私は外食が多くて。・・でも今は家で作らなくても十分やっていけますから。ね、莉里ちゃん!?」 「お嫁に行くならお料理はできた方がいいですよ、けやきさん」 ズキューン。莉里ちゃんを味方につけようとして逆に撃たれてしまった私。
・・
莉里ちゃんが言った。 「けやきさん、次はあたしと二人で飛びませんか?」 「そういえば莉里ちゃん一緒に飛びたいって言ってたわね」 「それはやった方がいい。一緒に行って教えてもらうことがたくさんあるはずだよ」 そうだね。いっぱい勉強することはあるんだ。 よし、空でも何でも飛んでみせるわ。
今日の莉里ちゃんは膝上ショートパンツとボーダー柄のTシャツを着ていた。 その上に拘束衣を着て袖に手を入れ、その袖を赤沼氏が背中に取り回して強く絞った。 だぶだぶの拘束衣がきゅっと締まったのが分かる。 これで莉里ちゃんは両手を動かせない。 「えへへ、ぎちぎちです」 屈託なく笑いながら言われた。
次は私の番。 再び後ろ手で縛られた。 きっちり両手が動かないことを確認して安心する。 いいな。やっぱり嬉しい。 「私もぎっちぎち」 莉里ちゃんにそう言って笑いかけた。
「行きましょ! けやきさん」「うん、行こう」 目を閉じて、深呼吸。
「けやきさん、」莉里ちゃんが小声で言った、 「はい?」 「一緒に拘束されてるの、嬉しいです」 どき。 「もうっ、集中できないでしょ!」「えへへ、ごめんなさい!」
・・ブーン。耳鳴りがした。 莉里ちゃんが少し震えて動かなくなった。隣で私も固まった。 そして──。
私と莉里ちゃんは部屋の中に浮かんでいた。 互いに微笑���合う。 莉里ちゃんが赤沼さんの近くへ行って挨拶した。 「行ってくる、ひい爺ちゃん」 「うん、気を付けてな」
莉里ちゃんは笑って私を手招きすると窓ガラスを通り抜けていった。 私も赤沼氏に会釈して、窓を抜け外へ出た。
11. 夜の空に浮かぶと私たちはとても小さな存在だった。 「うわぁ~~!!」 小さな子供みたいに叫んだ。
天空に瞬く星々。 眼下にはマッチ箱みたいな団地。 そして周囲 360 度に煌めく街の夜景。 ガラスの粒をばらまいたみたいに綺麗だった。 碁盤目に走る道路と車のライトの列。あそこですれ違う光の線は電車。 はるか彼方に見える超高層ビル群。虹色に光るテレビ塔。
「莉里ちゃん今までこんな景色を独り占めしてたの!?」 隣に浮かんでいる莉里ちゃんに聞いた。 「まあ、空に上がれば見放題ですからね」 「すごいなぁ。これ見れただけで幽体離脱に感謝だわっ」 「うふふ。・・よかった!」 「何がよかったの?」 「幽体同士だと普通にお話しできて。私だけけやきさんの傍で囁かないと駄目かもって、ちょっと心配してたんです」 「ああ、そうか」 幽体のときの莉里ちゃんの声は、普通の人間にはよほど近くでないと聞こえないのだった。
「でもほんと夢みたい! 一緒に飛んでくれる人がいたなんて」 莉里ちゃんは笑顔で両手を広げて一回転した。 暗闇の中でくっきり見えた。 ショートパンツとTシャツ。よく見たら髪に白い造花のバレッタをつけていて可愛い。 私も両手を広げようとして、後ろ手に縛られていることに気付いた。 そういえば莉里ちゃん、いつも幽体離脱したときは拘束衣が消えるわね。
「ねぇ莉里ちゃん、今更だけど拘束衣は?」 「はい、これですか?」 莉里ちゃんを包むように拘束衣が出現した。両手が固定されたぎちぎちの拘束。 「ええーっ!?」 「見た目なんていくらでも変えられますよ?」 拘束衣がふっと消えた。 替わりに莉里ちゃんの背中に大きな翼が生えた。噴水の上に浮かんだときの翼だった。 「はいっ、天使に変身です」 「そ、それ私にもできるの?」 「できますよ。頭の中でなりたい姿を思い浮べるだけです」 ・・じゃあ。 私を縛っていた縄が融けるように消えた。両手が自由になった。 「できた!」「はい、よくできましたー」 「どうして言ってくれなかったの? 変身できるって」 「すぐに気が付くと思って。それにけやきさん、縛られたままで嬉しそうだったし」 「う・・。あれは暗示のせい!」 「うふふ」
莉里ちゃんの服装が変わった。 肩出しの白いキャミワンピ。背中に翼も生えて正に天使だった。 「けやきさんも!」「うん!」 私も莉里ちゃんと同じ衣装になった。背中に翼も。 あれ? 翼の先端が薄れて消えかかってる。 「あたしの姿を見て、しっかり隅々までイメージして下さい」 翼がくっきり表れた。 「OKです!」
「ねぇっ、私たちどこでも行けるんでしょ? スカ○ツリー、見下ろしたいな」 「んー、行けなくはないけど、都心まで急いでも4時間くらいかかりますよ」 「え? どうして?」 「地面を歩くのと同じ速さでしか進めませんし、帰りの時間も考えたら朝になっちゃいますね」 「ぴゅーんって飛べないの? そうか一瞬で移動とか」 「そんな魔法みたいなこと無理ですよー」 幽体離脱だって魔法みたいなものだと思うけど。 「���カ○ツリーは無理だけど、お勧めのコースがありますよ! 行きませんか?」
・・
二人で夜の街を飛んだ。 ビルの上、道路の上。駅の上。 翼を広げて飛ぶのは気持ちよかった。
夜の小学校に降りた。 誰もいない校庭で莉里ちゃんと滑り台を滑ったり、ジャングルジムに登って遊んだ。
自然公園の森を飛び抜けた。 高度1メートルで飛んでも木の枝や幹が邪魔にならない。全部通り抜けられるんだ。 森を抜けたところで先を行く莉里ちゃんが貯水池に飛び込んだ。私も続いて飛び込む。 どぶん。 鳴るはずのない水音が聞こえた、ような気がした。 水中で動かない魚の群れを突き抜けて、水面から上空に飛びあがった。 もちろん私たちはぜんぜん濡れていない。
高圧線の鉄塔をネコバスみたいに登り、両手を広げて電線の上を歩いた。 ジャンプしてトトロみたいに回りながら着地した。 楽しい。初めて外に出してもらった子犬みたいにはしゃいだ。
「次はちょっと冒険です!」 莉里ちゃんが指差したのは幹線道路沿いにそびえる巨大なショッピングモールだった。 もう遅い時刻なのに歩いている人が多い。さすが土曜の夜。 誰にも見られないよう物陰に降り、変身を解いて天使から元の恰好に戻った。 莉里ちゃんは膝上ショーパンにボーダーのTシャツ。足元はバスケットシューズ。 私はスキニーパンツと半袖オーバーニットにパンプスを履いている。 さあ、行こう。モールの通路を並んで歩き出した。 心臓がドキドキしてるのが分かる。幽体なのに。
何人もすれ違って誰にも気付かれない。 「意外とばれないものね」「ばれたら大変ですけど」 「そりゃそうだ」「うふふ」 調子にのってエスカレーターに乗ったりベンチに座ったりした。
ベンチにいると、ヨークシャテリアを抱いた女性が前を通りすぎた。 と、その犬が私たちを見て唸り声を上げた。 女性の手から飛び降りて吠え掛かってきた。 やば! 私たちは慌てて逃げ出した。 通路を走り、角を曲がった。きっと床から足が離れていたたと思う。 正面は全面ガラスのテラスになっていた。誰もいない。ラッキー! 私たちは二人並んでガラスを走り抜けた。 3階から外に飛び出すとモールの外壁沿いに急上昇した。 「おっと!」「ひゃあっ」
高く上がって近くを流れる川の上に出ると、すぐに真っ黒な水面ぎりぎりまで降下して一直線に飛んだ。 いくつも橋をくぐって進むと前方に大きな道路橋が見えた。 それは鉄骨を台形に組んだトラス橋で、オレンジ色の照明が鉄橋全体を照らしていた。 「莉里ちゃん、あそこっ」「はい!」 私たちはトラスの一番上の梁に並んで座った。 「えへへ。びっくりしましたねー」 「ほんと、どえらい冒険だったわ。・・いつもやってるの? あんなこと」 「たまに。でも吠えられたのは初めてです」「犬には分かるのかな」 「そうかも。・・驚きました」 莉里ちゃんは自分の胸を両手で押さえた。 「これからは控えることにします。ああいう冒険は」 「その方がいいわね」
足をぶらぶらさせながら見下ろすと、橋の上を車がたくさん走っていた。 誰かが上を見たら��っと気付くだろうね、あり得ないところに座る女の子の姿に。 目立たない恰好に変身した方がいいかな。 いっそ透明なら絶対に見えないけど。
「ね、透明になれないの? 私たち」 「なれません。お婆ちゃんは透明になれたらしいんですけど」 「リリーさんのこと?」 「ひい爺ちゃんから聞いただけですけどね。幽体離脱も特別な暗示なしで自由にできたそうです」 「すごい人だったのね」 「はい。それで暴走したって話も」 「?」 莉里ちゃんはふわりと浮かんで言った。 「もう一箇所だけ、つき合ってもらっていいですか」
12. もう深夜だった。 たった今走って行った電車はそろそろ最終電車ではないかしら。 周囲は街路樹と街灯が整然と並ぶ住宅街。 私たちは電車の線路に降りた。 「昔、この辺りは一面の雑木林で蒸気機関車が走っていたそうです」 「へぇ」 「ここはお婆ちゃんが生霊になった場所です」 「!」
リリーさんは幽体離脱を繰り返し過ぎて精神が不安定になった。 やがて幽体が独立した意志を持ち、勝手に本体から分離して徘徊するようになった。 ある夜、眠っている本体を起こして外へ連れ出した。 赤沼氏が発見したとき、幽体と本体は線路の上を迫りくる列車に向かって歩いていた。 轢かれる寸前、赤沼氏はリリーさんを抱きかかえて救出した。 それから赤沼氏は一ノ谷博士の協力でリリーさんの精神を安定させ、リリーさんが勝手に幽体離脱することはなくなった。
「まさか幽体が生霊になって本体を��そうとするなんて、思ってもいなかったでしょうね」 「・・」 「だからあたしは暗示をかけられました。勝手に離脱しないように。拘束衣を着たときだけ幽体離脱できるように」 「そうだったのね。私の縄の暗示も同じなのね」 「そうです」 莉里ちゃんは遠い目になって言った。 「暗示の理由を教えてもらったとき、ひい爺ちゃんはこの場所で起こった事件のことも教えてくれました。・・それ以来あたしはときどきここへ来てお婆ちゃんのことを考えています」 「リリーさん、ずっと怖かったのかしら」 「そうかもしれませんね」 「ねぇ、莉里ちゃん。お婆さんはどんな人だったの?」 「無口でおとなしい人だったらしいです。それ以上のことは、ひい爺ちゃんは何も教えてくれません」 「そう」
「・・そうだっ、」 莉里ちゃんは突然にやっと笑った。 「けやきさん、ひい爺ちゃんはずっと独身だって知ってます?」 「あれ? リリーさんがいたのに?」 「ひい爺ちゃんは今年 83 歳です。お婆ちゃんは 19 であたしのママを生んで、ママは 31 であたしを生みました。それで計算すると、ひい爺ちゃん 17 歳でお婆ちゃんが生まれたことになるんです」 「あらら」 赤沼氏、若いときに "やらかした" のかしら? 「じゃあリリーさんのお母さんは」 「分かりません。きっと事情があって結婚できなかったんだろうってママが言ってました」 そうか。それならリリーさんは自分の母親を知らずに育ったのかもしれない。 寂しかっただろうな。
・・
突然風景が変わった。 住宅街が消え、灯り一つない雑木林になった。 電車の線路は木々をかすめるように敷かれたか細い単線の線路に変わった。 私たちの前方に人影があった。 幼い少女が二人、並んで線路を歩いている。 白い寝巻らしきものを来た二人は瓜二つだったけど、片方の少女はぼんやり半透明に見えた。
がしゅがしゅがしゅ。 遠くに機械音が聞こえた。列車が来るんだ。 その音は次第に大きくなった。 やがて黄色いヘッドライトが一つ、こちらに迫ってきた。 少女たちは歩��を止めない。 ボウォーッ!! 汽笛の音。 危ない!!
・・
「見えたんですね?」 莉里ちゃんの声がした。 私と莉里ちゃんは住宅街を抜ける線路にいた。 「残留思念っていうんでしょうか、あたしにも見えるんです。もう 60 年も昔のことなのに」 「幽体になった私たちだけに見えるのかしら」 「たぶん。誰にでも見えたら『幽霊の出るスポット』で有名になるでしょうから」 「それは残念ね。動画に上げたらバズるのに」 「それだったらもっといいネタがありますよ。・・あたし達自身です」 「それもそうね」「うふふ」
・・
二人が赤沼氏の団地に帰りついたのは、日付が替わってだいぶ過ぎた時刻だった。 寝ないで待っていてくれた赤沼氏は叱りもせずに私たちの拘束を解いてくれた。 程なく莉里ちゃんはぐっすり眠ってしまい、それを見届けてから赤沼氏はとっておきのバーボンを開けてくれた。 「水ではありませんぞ」 「あはは、水と判っても騙されたふりして飲みます」
赤沼氏は、莉里ちゃんがこんなに晴ればれした顔で帰ってきたのは初めてだと嬉しそうに話してくれた。 今まで誰にも言えなかった秘密を私に話せた。一人でしかできなかった体験を共有できた。 それは私という仲間ができたからと言ってくれた。 「これからもこの子に寄り添って下されば、こんな嬉しいことはありません」 私は少し考えて返事した。 「これからもお二人のこと、お手伝いさせて下さい」
13. 『すなっく けったい』に行くとさっそくママに声をかけられた。 「けやきちゃん! もう来てくれへんかと思てたわっ」 「すみません、ご無沙汰しちゃいまして」 「ええんよ。はい、こっち座って!」
カウンター席に座りホッピー割を頼んだ。 ああ、美味しいな。 これからも『けったい』に来たら一杯目はホッピー割にしよう。
「さすがに今夜は賑わってますね」 「そら第3金曜やからね。けやきちゃんも手品見に来たんやろ?」 「もちろんです」 「そういえば、あんときは莉里ちゃんと会えたの?」 「おかげさまで、何もかもうまくいきました。・・本当にママさんのおかげです。感謝しきれないくらい」 「何や、気持ち悪い」 ママは不思議そうな顔をしたけど、それ以上は何も聞かずに笑ってくれた。
・・
「こんばんわーっ」 チャイナ服の莉里ちゃんが入ってきた。その後ろに真っ黒なマントとタキシードの赤沼氏。 赤沼氏は年中こんな恰好で手品をするのは大変だと思う。 でも本人に言わすと「これがわしのアイデンティティ」ということらしい。
いつものカラオケコーナーで二人が挨拶すると一斉に拍手が起こった。 莉里ちゃんが私を見つけてウインクしてくれた。 うん、ちゃんと来てるよ!
赤沼氏の手品が始まる。莉里ちゃんはアシスタント。 トランプを扇形に開いたり閉じたり繰り返すとカードがどんどん大きくなった。 財布を開くと中から小さな火が出て燃えたり、両手の間にステッキを浮かせて踊らせたりした。 ハラハラドキドキするような手品じゃないけど、ちょっと不思議で楽しい。 安心して見ていられる手品。 これが赤沼さんのテイストなんだと改めて思った。
さあ、次は幽体離脱イリュージョン。 皆が期待するのが分かる。 莉里ちゃんがカウンタースツールを2脚持ってきてカラオケコーナーに置いた。 「ん? 何で二つ?」誰かが呟いた、 莉里ちゃんは店内をまっすぐ私の方に歩いてきた。 「こちらへどうぞ」 私の手を取って言った。 店内がざわつく。 ・・いつも���違うぞ? 何が起こるんだ?
私は一度は遠慮して断り、再び誘われて首を縦にふった。 羽織っていたジャケットを脱いで席に置く。 立ち上がった私の恰好はノースリーブのブラウスと膝上タイトミニ、黒ストッキングにハイヒール。 今夜のサプライズのために選んだコーデなのだ。 脚を見せるなんて3年ぶりだぞ。
莉里ちゃんに連れられてカラオケコーナーに置いたスツールの片方に座った。 赤沼氏が縄を持っている。 私は黙って腕を背中に回した。 「緊縛!?」 女性のお客さんが両手を口に当てて驚いている。
赤沼氏が耳元で囁いた。 「少々厳重に縛りますよ」 私は無言で頷く。 厳重なのは大歓迎。それだけ私は守られるのだから。
腕が捩じり上げられた。手首を固定する位置がいつもより高いような。 二の腕の外側から胸の上下に縄が回される。 別の縄が腕と胸の間に通されて、胸の縄をきゅっと絞った。 ・・はうっ。 思わず息を飲んだ。こんな縄は初めて。 むき出しの肌に縄が食い込む感触。ノースリーブにしてよかったと思った。 ストッキングを履いた膝と足首にも縄が掛かった。 脚を縛られるのも初めてだった。
気持ちいい。 縄の暗示で導かれる安心感。 それだけじゃない気がした。味わったことのない快感。
隣で莉里ちゃんが拘束服を着せられていた。 袖が強く引き絞られている。 うん、ぎっちぎち。 私も莉里ちゃんも拘束感の中にいるのね。互いに微笑み合った。 大丈夫、いつでも金縛りに移行できるわよ。
赤沼氏が大きな布をふわりと広げ、私たちはその中に包まれた。
・・
チャイナ服の女の子とノースリブラウスの女が空中に出現した。 拘束服も縄も纏っていない。 その代わり二人の背中には大きな翼が生えていた。 お客様の真上で優雅にお辞儀すると、両手を広げてくるくる回った。 私たちは自由だった。 天使のように舞って自由自在に飛び回った。
・・
布が取り払われると、私たちは再び拘束された状態でスツールに座っていた。 お客様全員からスタンディングオペレーション。 赤沼氏がまず莉里ちゃんの拘束衣、そして私の縄を解放してくれた。 「けやきさん!」 莉里ちゃんからハグされた。
それは抱きしめられた瞬間だった。 背筋に電流が走った。 はぁん! 身を反らせて快感に耐えた。 まだ縄で縛られている感覚が残っていた。 気持ちいい。子宮がじんじん震えそうなくらい気持ちいい。 どうしたんだろう。 縄を解いてもらえば暗示は解けるはずなのに。 一歩、二歩、前に進もうとして私はその場に崩れ落ちた。
気が付くとソファに寝かされていた。 まわりを赤沼氏、莉里ちゃん、『けったい』のママ、そして『けったい』のお客さんたちが囲んでいた。 ほのかなエクスタシーが残っていた。 素敵なセックスに満たされた後の余韻のような。 ・・とろけそう。 寝ころんだまま私はだらしなく微笑んだ。
ママが言った。 「・・縄酔いやな。がはははっ。赤沼さん、この人相手に張り切り過ぎたんとちゃう?」 「ううむ。久しぶりの高手小手縛り、つい縄に力が入りましたかな。いやこれは申し訳ない」 「あんた縄師の仕事もしてたん?」 「昔のことです」 莉里ちゃんがきょとんとして聞いた。 「あの、縄師って何ですか?」 小さなスナックに皆の笑い声が響いた。
14. 『けったい』で鮮烈?デビューを果たした私は、それから本格的に赤沼氏と莉里ちゃんのお手伝いを始めた。 二人の手品やパフォーマンスに裏方として同行し、たまにサプライズで幽体離脱イリュージョンに参加する。 主役はあくまで莉里ちゃんだからね。
莉里ちゃんの将来の目標はひいお爺ちゃんのような手品師になること。 赤沼氏に習って手品の練習を始めたし、高校を卒業したらプロについて修行する話もしているようだ。 幽体離脱は大切な自己表現だけど、莉里ちゃん自身はそれを手品のオプションでやる必要はないと考えている。 いつか、超常現象やオカルトではなく、普通の能力として世の中に認められるようになったら、そのとき堂々と見せたい。 それまでに「仲間」が見つかるかもしれないし。 彼女の意見に赤沼氏も私も賛成した。 先は長そうだけど私も全力で応援するつもり。
私は赤沼氏からそろそろ暗示を外してあげようと提案された。 暗示とは、私が金縛り状態に入れるのは縄で縛られているときだけ、という条件付けのことだ。 今の私なら縛られていなくても不用意に幽体が分離することはない。生霊になる心配はないから暗示は不要。 わざわざ申し出てくれたのは、おそらく私の私生活への配慮だ。 一人でいつでも幽体離脱を楽しめるように。 もし私がプライベートでも縛られることを望んだとき、幽体離脱の懸念なく存分にプレイを楽しめるように。
その心遣いにはとても感謝するけれど、私は今のままでいたいと返答した。 誰かに縛られることで幽体離脱の自由を与えてもらう。 とても受動的。でも私はそれが嬉しい。身震いするほど嬉しい。 その「誰か」は今のところ赤沼氏。そしてこれからは莉里ちゃんかもしれないし、未だ現れないパートナーかもしれない。 マゾだね。もう素直に認めるよ。 でもこれは私の特権なんだ。こんな素敵な特権を手放すなんて考えられないよ。
莉里ちゃんからは、けやきさん早く婚活すべきです、と強く言われている。 「けやきさんお料理苦手だからごはんを作ってくれる人、最近けやきさん縛られたらとっても色っぽくて綺麗だから緊縛も上手な人、それと、ときどき幽体離脱しても呆れないでずっと愛してくれる人! この三つは絶対譲れない条件です!」 そんな都合のいい相手が見つかるかしら? でも運よくそんな人と結婚できたら、そのときは赤沼氏に暗示を外してもらおうと思う。 莉里ちゃんに言わせると、ひい爺ちゃんはとても元気で 100 歳まで絶対に死なない! らしいから、まだまだ時間はあるわね。 理想のパートナー探し、頑張ってみよう。
[1963(昭和38)年]
15. その女の子は4歳で、いつも一人でいた。 感情を露わにすることは少なく、話しかけられたときに最低限の受け答えはするけれど、自分から他人に話しかけることはなかった。 この施設にいる子には暴れる子や泣いてばかりの子もいたから、女の子はむしろ手がかからない子として扱われていた。 元々は戦災孤児の保護を目的に設立された施設だが、終戦から 18 年が過ぎた今では親のいない子、育ててもらえない子、その他いろいろな事情の子供がここで暮らしていた。
自由時間になると女の子はよく鉛筆で絵を描いていた。 その絵は人物画のようだけど、いつも顔面がのっぺらぼうで誰だか分からない。 施設の職員から「誰を描いてるの?」と聞かれても、女の子は黙ったままで何も答えなかった。
「上手だねぇ。もしかして君のお母さん?」 突然声をかけられて女の子が顔を上げると、知らない人が微笑んでいた。 その人は 20 歳そこそこの若い男性で、頬がこけていて目だけが大きいちょっと昆虫みたいな顔だけど、笑顔には優しさがにじみ出ていた。 彼女が描いていたのは確かにお母さんだった。 どんな顔か覚えていないから、のっぺらぼうにしか描けない。 でも記憶の中には自分を抱きしめてくれた母親が確実に存在していた。
どうして分かったんだろう? 不思議そうな顔をして男性を見上げる。 「もうすぐ手品をするんだ。見に来てくれるかな?」 その男性は慰問で訪れた手品師だった。
集会室に子供たちが集まって手品を見た。 右手で消えたコインが左手に移動する。手の中からカラフルなカードが何枚も現れる。空の箱から生きたウサギを取り出す。 初めて見る手品に女の子は目を見張った。 最後は大きな黒布を両手に持って広げると、手前に小さなお人形が出てきてふわりと浮かんだ。 お人形はどこにも支えがないのに宙を飛びながら楽しそうに踊った。
まばたき一つしないで見つめながら女の子は思う。 いいなぁ。わたしも飛びたい。 あんなふうに飛んでお母さんに会いに行きたい。
ショーが終わると手品師は女の子にお人形をくれた。 「君が一番熱心に見てくれたからね。そのお礼」 背の高さがほんの 10 センチくらいのセルロイド製の少女人形だった。 手品師は手品で使う人形とは別に、プレゼント用に安価な人形を用意していたのだった。 お人形は女の子の宝物になった。
・・
数週間後、施設で異変が起きた。 深夜、巡回していた職員が廊下で女の子を見た。声を掛けるとその姿はふっと消えた。 さらに数週間過ぎた夜、食堂の天井の近くに女の子が浮かんでいた。腕にあのセルロイドのお人形を抱いていた。 目撃した職員が腰を抜かして動けない間に、女の子は壁の中に溶けるように消えた。 そしてその翌月、2階の窓の外を女の子が飛んでいた。昼間のことであり複数の職員が目撃して大騒ぎになった。 皆で女の子を探すと、女の子は誰もいない遊戯室で一人眠り込んでいた。 慌てて起こして問いただしても本人は何も覚えていなかった。
職員の中に女の子のことを『悪魔ッ子』と呼ぶ者が現れ、やがてその名は子供たちも広がって女の子は苛められるようになった。
・・
女の子が職員室に呼ばれて来るとあの手品師がいた。 人づてに噂を聞いてやって来たのだった。
手品師は女の子の目をじっと見つめて言った。 「きっと飛びたかったんだね。お母さんに会いに行きたいのかな?」 分かるの? わたしの気持ち。 「君は特別な女の子だ。あのとき気付いてあげられなくて悪かった」 この人は何を言ってるんだろう。 でも、いい人だと思った。信じても大丈夫。この人なら大丈夫。
手品師はにっこり笑った。優しくて暖かい笑顔だった。 「僕と一緒に手品をしないかい?」 手品!? あの手品の情景が蘇った。 「自由に飛べるようにしてあげるよ。きっとすごい手品ができる」 ええっ!? 「やりたい。手品も、飛ぶのも、全部やりたい!」 女の子は初めて自分から喋った。
「僕は赤沼っていうんだ。君の名前は?」 「わたしはリリー。リリーだよ!!」
こうしてリリーは赤沼に引き取られた。 翌年正式に養子縁組して親子になった。 二人がサーカスでデビューしたのはさらに2年後。赤沼 24 歳、リリー7歳のときだった。
────────────────────
~登場人物紹介~ 近本けやき (ちかもと けやき): 29歳 独身OL。莉里と出会って幽体離脱の能力が覚醒する。お酒が好き。 赤沼幻檀 (あかぬま げんだん): 83歳。手品師。リリー・莉里・けやきの幽体離脱を導く。 関莉里 (せき りり): 16歳 高校1年生。赤沼のひ孫。赤沼の手品のアシスタントをしている。 『すなっく けったい』のママ: 年齢不詳。豪快なおばさん。 リリー: 赤沼の娘。莉里の祖母。7歳で赤沼と一緒にサーカスのショーに出演する。
タイトルを見ただけでウルトラQを思い浮べた人は何人いらっしゃるでしょうか? この小説は昭和41年に放映されたテレビドラマシリーズ『ウルトラQ』の第25話『悪魔ッ子』(以下、原作) をリスペクトして書いたものです。 小説は原作を知らない方でも読めるように書いていますが、原作も抜群の人気を誇る(と個人的に信じている^^)名作なので、機会があればぜひご覧になって下さいませ。 公式に視聴するには有料配信か円盤購入しかないようです。およその粗筋やシーンの一部ならネットで見られるので、そちらだけでも。
本話は原作の設定を少し変更した上で、魔術師赤沼と悪魔ッ子リリーのその後を描いています。 当初『悪魔ッ子の娘』というタイトルでリリーが生んだ女の子が活躍するお話を書きかけましたが、その娘は2024年の現在では40~50歳くらいになってしまうのでモチベが続きませんでした(笑。 そこで『悪魔ッ子の孫娘』にして女子高生を主人公のアラサーOLと絡ませることにした次第です。 なお名前だけ登場した一ノ谷博士は原作では『一の谷博士』で、シリーズ全体で様々な怪事件を解決に導く学者です。 ちなみにこの人は、ウルトラQの後番組『ウルトラマン』で科学特捜隊日本支部の設立にも関わったそうです。(Wikipedia より)
金縛りと幽体離脱は私の小説では初めて扱った題材です。 自分では体験したことがないので、ネットで調べた内容に作者のファンタジーを加えて創作しました。 肉体から分離した幽体は誰の目にもくっきり見える設定です。 暗いところでも見えてしまうので違和感を感じますが、明るい場所だと普通の人間と区別できません。 (空を飛んだり壁を抜けたりするのを見られたら当然バレます) 肉体から離れられる距離や時間は制限なし。ただし普通に歩いたり走ったりする速度でしか移動できないので遠くへは行きにくい。 あと、幽体時に着用している衣服は本人の脳内��メージで自由に変えられます。 実は主人公のけやきさんが自分の服をイメージし損ねて全裸で空を飛ぶシーンを考えましたが、お話が変な方向に進みそうになって止めました(笑。
もう一つ、暗示も初めてのネタです。 本話ではけやきさんも莉里ちゃんも自分に暗示がかかっていることを認識しています。 二人とも暗示を受け入れていて、しかも解除されることを望んでいない。 無理矢理コントロールされるのではなく、かけられた当人が嫌に思わない、むしろ嬉しい状況が私の好みです。 暗示の与え方についてはいろいろ調べましたが難しいですね。 赤沼氏が暗示をかけるシーン、けやきさんがとても素直な人であるとはいえ、あんな簡単な指示で実際にかかってしまうことはないでしょう。
挿絵は拘束衣を着せられた莉里ちゃんにしました。 自分で描くのは時間がかかりますが、やっぱり楽しいです。
それではまた。 ありがとうございました。
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guragura000 · 5 years ago
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手綱 (2016)
「パート社員になれないか」
 上司は開口一番私にこう言った。私は、やっぱりそうか、と思った。私の頭がおかしいからだ。
 事の始まりは大学一年生の時だった。人混みにいると「バカ」「くせーよ」等の悪口が聞こえるようになり、たまらず精神病院に駆け込んだ。
「あんたは病気です」
 医師からあっさり太鼓判を押された。何種類か薬を処方される。それらを飲み続け、はや五年になる。
 そういうわけで仕事中も私の疳の虫はてんで落ち着かない。体のどこかに暴れ馬が住んでいるのではないかと錯覚するくらいだ。
私は突然どこかに向かって飛び出そうとするし、実際に飛び出したりもする。先輩に連れ戻され、パンを買い与えられ、同情からの貰い泣きまでされてしまう。
また前ぶれなく涙腺が崩壊する。涙が止まるまでの三十分間、業務そっちのけでトイレに引きこもる。
朝、憂鬱で体が強ばり、片道徒歩十五分の通勤に四十分もかかってしまった。医者に相談するとマジかよと漢方を処方されるが、その対処法だけではやはり限界があるようだ。私の暴れ馬の手綱はどこへいってしまったのか。
というわけで私は自分が会社のお荷物だと知っていた。ポンコツをここまで使っていただいたのだから、むしろ感謝しなければなるまい。己の使えなさを自覚しているのにも関わらず図々しく居座るとは、全く迷惑な社員である。そんなわけで私のノーミソはクールにクビ宣告を受け止めた。かっくいい。
 だがしかし。アパートのドアをくぐった瞬間、私はぶっ壊れてしまった。腕を切り刻むのがやめられなくなってしまったのだ。暴走��る体に反し、頭は冷静だった。この状況を馬鹿馬鹿しいと俯瞰する余裕があるくらいだ。いつもそうなのだ。唐突に私の体は突拍子もないことを始めやがるのだ。このドス黒い暴れ馬、こんちくしょうめ。
 右手が頑なにカッターを放そうとしないので、たまらず病院に駆け込んだ。ふらふらして椅子に座っていられない。そういえば七日間ほど物を食べていないような気がする。看護師に具合が悪いので寝かせてほしい旨を伝えると、優しくベッドまで案内してくれた。真っ白な布団に寝転がる。すぐに見知らぬ顔の男性医師がやってきて、カーテンを閉められた。穏やかな声で質問される。
「どこを切ったの?」
「お腹と腕と太腿です」
「見せてもらうね」
 あっさり服をめくられた。腕をまじまじと観察され、恥ずかしさがこみ上げた。誰かにリストカットの傷を見せるのは初めてだ。
「結構ひどいね」
と医師は言った。
 嘘だろう。ネットに転がっていた画像で、私より深い傷をこしらえた人々を嫌というほど見た。自傷というワードで検索をかけると、全世界の目立ちたがり屋が血液を搾り出しているところを容易く見物できる。本気で苦しむ彼らに比べて、私は甘えている。私は演技をしている。本当は辛くなんてないはずなのに、同情を買うためにパフォーマンスをしている。だから私は傷跡を隠す。自分の卑怯さを誰かに見られないように。十代の娘でもあるまいし、この年になって自傷しているなんて情けない。この程度の生活など皆容易くこなしているのだから、私も追いつかなくてはならない。私は不登校をして、ただでさえスタートダッシュに遅れているのだから、倍速で走らなければならないのだ。けれど、と私は思う。私が走った分だけ、皆は先に進んでしまう。私は一生彼らに追いつけない。それって、まるでアキレスと亀ではないか。
 医師は私を見た。悲しげな眼差しだった。そんな目で見ないでくれ。自分がいかに哀れか思い知りたくない。
「入院ですね」
と告げられた。
「どうしてだ」
と私は思った。私の頭頂部のコックピットの操縦士がケロッと言い放った。
「まだ大丈夫でしょ」
 私の心の声が反発する。
「いや大丈夫じゃないだろ、正気か。また体調を崩すぞ」
「甘ったれたこと言って。そんなんじゃ今に社会に適応できなくなるよ」
「もうなってるよ。それに仕事に戻ってまた腕を切り刻むはめになるのなんてごめんだね」
「自分の体よりも常識的に暮らす方が大事でしょ! だから今までガンガンいこうぜモードで運転してきたんじゃん。やっと人間のふりが板についてきたというのに、その努力を無駄にするの?」
 自分同士が問答している。全く私の操縦者は信用ならないやつだ。放っておいたらどこまでも無理をしようとする。だから私は医師に従った。これで私も完全なるキチガイだ。
 サインバルタ、メイラックス、ラミクタールにレクサプロ。そのような薬を飲み続けてもまだ大丈夫だろうと思っていた。自分のおかれている状況を説明することができたし、暴れ馬が顔を出しても誘因を突き止めようと頭を絞ってきた。使える手段なら何でも使った。本を読み、過去を分析し、自分の感情を書き出して整理し、思いの丈をぶちまけた動画を撮り何度も見返した。
 手に取った精神医学の本には、情緒不安定には少なからず親の愛情不足が影響していると書いてあった。何百回も読み返し考えたが最終的に出た結論は「アホか」。それだけである。過去はどうしようもないのだ。消えようのない記憶を突っつき回したところでどうなる。親を許そうとすればするほど憎らしくなるだけだった。精神医学者は揃いも揃って私に親殺しを勧めたいらしい。
自己カウンセリングなどといううさん臭い儀式も一応試した。「心の中でヨウショウキの自分を抱きしめてあげましょう」? できるか! そんなものただの茶番だ。抱きしめたところでどうなるというのだろう。イメージした幼い私には表情がなく、手触りもない。今の私と同じで「だからといって何なのだ」と呆れているようにも見える。お前が私の馬をギャロップさせるのか?可愛い悪魔め。
幾ら「客観的に」分析しようが、元の認知が歪んでいては意味がない。お手上げだ、と本を放り投げる。私一人ではどうしようもない。私は何とか自分を説明する術を手に入れた。暴れ馬に手綱を付けさえすれば完璧に手懐けられると思い込んでいたのだ。しかしそれは錯覚だった。手綱は、手綱はどこにある。
 緊急病棟に入れられた。割腹のいい主治医は、
「自主入院という扱いになるから、あんたがもう大丈夫だと思ったら退院していいからな」
と言った。何じゃそりゃ。あっさりしたものだ。
「とりあえず今週末まで居とくか?」
「じゃ、そうします」
「分かった、手続きしておく。⋯⋯もう絶対に自分を傷つけるな。傷つけたくなったら看護士に声をかけるんだぞ。いいな。これは忠告じゃない。約束だ」
 どうしてだろう。どうして人は口を揃えて自傷をやめろと言うのだろう。私は「やめます」と微笑みながら首を傾げ続けた。自ら死ぬのは悪いこと。自分を粗末にするのは悪いこと。言葉の意味は理解している。けれど感覚として分からないのだ。
 誰かと会話をし、笑顔で家に帰る。ドアがバタンと閉まった瞬間、私の何かが爆発する。狂ったように酒を飲み、ぶっ倒れゲロを吐き、またはカッターで腕を切り始める。翌日、何事もなかったかのように同じ相手と談笑をする。私は皆の笑顔を壊さぬために自分を傷つけていた。ストレスを自分にぶつけて発散していれば誰も傷つけずに済むからだ。私は自己犠牲的な精神を誇りさえした。思慮深い思いやりのつもりだった。だが私の心がけは、どうやら愛ではなかったようなのだ。私はいつの間にか間違った方法で人を愛そうとしていたらしい。
「お前、またやっちまったなァ」
 私の天使が頭上をひらひら飛び回り、笑う。悪魔は黙っている。もう笑い疲れたんだろう。
 自傷をしない。やればできるとたかを括っていた。ところがどっこい、すぐに切りたくて仕方がなくなり頓服をもらうはめになった。漢方だ。苦いくせに全然効かない。
 二日目、見えない手が私の頭を撫でる。気持ち悪くてライブ会場さながらにヘッドバンキングをする。看護士が頓服を持ってきてくれる。ホリゾンと書いてある。
 三日目、野獣のように唸りながら転げ回る。腕を切る以外の怒りの発散方法が分からない。ベッドを殴る。壁に這いつくばって拳を叩き付ける。天使が「クソくらえ!」と叫ぶ。随分口が悪い。冷静な私が部屋の片隅で「あーあ、外に聞こえちゃうかもな」と溜め息をついている。私が粉々だ。
 四日目、医師が診断書を持ってくる。「重篤な障害がある」と書いてある。「イカれちまった!」うるせぇ、三月兎はディズニーの中に引っ込んでろ。
 五日目、ようやく落ち着くものの、休む暇もなく色欲まみれのオヤジ、いや失礼、年配の男性患者に付きまとわれる。気安く名前で呼ぶな、と思いながら柔らかな笑顔で追い払う。病室のベッドでぼーっとしていると、
「ねえ!開けてよ!開けてよ!」
とドアをバンバン叩かれた。恐ろしくなって看護師に相談する。すぐに対応してくれたらしくオヤジの姿が消えた。主治医がやってきて、
「何があってもぜっっっったいに扉を開けるなよ」
と言い残し去っていった。もし鍵をかけ忘れていたらどうなっていたのだろう。私、結構ピンチだったのでは。ゾーッと鳥肌が立った。
 夜、どこかの部屋の婆さんが声を張り上げて泣き始める。何がそんなに悲しいのだろう。遠吠えのような悲鳴の中、私は睡眠薬漬けの眠りに沈んでゆく。
 六日目。外出申請の書類を記入する。ここでは書類を提出し許可が降りなければ外出できない。病棟の入り口に鍵がかかっているのだ。以前から知識として知ってはいたけれど、実際に体験してみるとひどい閉塞感だ。無事外出を許されたのでアパートに帰り、シャワーを浴び、パソコンを申し訳程度に触って病院に戻る。外出時間は一時間だけなので大したことはできない。
 消灯時間になっても眠れず、窓枠に腰掛け景色を眺めた。下方を車のライトがきらきらと駆け抜けてゆく。あれらはどこからやってきて、どこへ向かうのだろう。私はどうしてここにいるのだろう。私の人生はどこへ向かっているのだろう。健康体であるはずなのに、わざわざ薬を飲み腕を切り入院までしている。許可が出なければ外出すらできない。私は閉じ込められている。どこに。どこだろう。私の馬は、忘れようと押しやった私の痛みそのものなのだろうか。存在を思い出してほしいがため、何度も暴れるのだろうか。
 入院中、私は一度も泣かなかった。泣くような出来事は何一つ起こらなかった。私は不味い昼食を口に運びながら「仕事辞めよう」と思った。
 何日目か数えるのをやめる。ここでは食べ物しか娯楽がない。昼食にオレンジが出る。かぶりつくと爽やかな香りが口内に広がり、甘酸っぱさに舌がキュウキュウと悦ぶ。私は果実を見つめる。何てきれいな色なんだろう。じんわりと黄色い幸福に包まれる。ふいに、子供の頃オレンジをよく食べたことを思い出す。今では皮を剥く面倒さが先立ち手をつけなくなってしまった。私は青い匂いを嗅ぎながらふと「海に行きたい」と思った。それから花を見たいと思った。大きな大きな木の下で寝そべりたい。どこまでも続く草原に佇み、ざわめきに耳を傾けていたい。それか湖でもいい。凪いだ水面に滲む杉の木を見つめていたい。私はどうしてこんなところにいて、どうでもいいものに囚われているのか。
 大切な人々を戸惑わせてしまう、言うことをきかない私の体。本当は薬を飲みたくなんかない。体を傷つけたくなんかない。自室で腕を切る度に思うのだ。誰かあのドアを開けて入ってきて。カッターを取り上げて、暴れる私を思い切り抱きしめて。誰か私の血の、魂の流れ落ちるのを止めてほしい。この傷跡にキスをしてほしい。当然ながらそれが叶ったことは一度もない。
 私の天使が言う。
「問題を片付けるのはさァ、自分なんだからネ」
 そうっすね。
「最後に頼れるのはお前自身なんだって。分かってるんだろ」
 悪魔が言う。そうっすね。そうですよね。
 SOSの旗をあげたとする。だがここは海のど真ん中だ。船の航路からは外れている、誰にも気付かれやしない。泳いで陸まで辿り着くしかないのだ。あるいはここは地中深いトンネルだ。私のいる場所がどの地点かなんて自分にしか分からない。ここがどこなのか分からなくても、歩き続けなければならないのだ。どこかに辿り着くために。生きてゆくために。長い道のりだったように感じていたけれど、まだ人生の半分も歩いていなかったなんてね。
 病室を移される。同じ年頃の女性と同室になる。彼女の手首にも規則正しく傷が並んでいる。
 最終日、何となく話をする。
「どこかに行っちゃいたいなあ。何もかも捨ててさ」
 彼女は薬でもつれる舌で言った。私は頷く。
「ああ、分かります。私も出社する道すがらよく考えました。このままバスに飛び乗れば、二時間で東京に行ける。このまま引き返して車に乗れば、三時間で海に行けるって。そうして、できればいなくなってしまいたいんです」
 どうしてだろう?
 降っては上がる雨、途切れ途切れのトンネル、夏の台風、たまに鳴る電話、寄せては返す波、私の不健康な心臓、ころころ変わる処方。四季が一ヶ月に六十回やってきて、私はめくるめく美しさと乱暴さにすっかり目を回してしまう。どこにでも行ける。けれどどこに行っても、世間体と、金と、自分の体からは逃れられない。私の体は私の檻だ。私は、私の体と手を繫ぎたい。彼女は、私は、一体どこに歩いてゆこうとしているのだろう?
 机と椅子だけが置かれた、がらんとし��診察室。浅黒く熟したエネルギーのカタマリが私に問いかける。
「いけるか?」
 私は主治医に頷いてみせる。
「いけます」
 先生は忙しくカルテをめくり、
「退院予定日は今日だよな。じゃ、午後には出ていいよ」
と言った。やっぱりあっけない。
 荷物をまとめる。同室の女性から退院祝いをもらった。ブルボンのプチチョコチップクッキーだった。私達は手を振り合って別れた。どこにも行かないで、と私は彼女に念じた。どこかに行っても、どこかで生きていて。
 天使が内臓の壁に寄りかかり、もの憂げにこちらを見ている。
「自分の体にどこにも行くなと言えるようになることが、あんたの馬の手綱なんじゃないの?」
 私は荷物をガサガサ言わせながら返事をする。
「分かってる」
「分かってないよ」
 私は、そうだよな、と思う。今まで形ばかりの「分かってる」を繰り返してきた。今回も本当にそれを理解しているのかと問いただされたら、怪しい。
 でも、分かりたい。
 外は暑かった。蝉が鳴いていた。車はキーを回せばたやすく走り出す。私はどこにでも行ける。けれど、今はとりあえず家に帰ろう。
 空に、狂いもなく正確な夏が来ている。
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sonezaki13 · 5 years ago
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※サークル内企画「自分の過去作品をリメイクしよう!」で書いた作品です。
高2の時の作品「しとしと降る雨のリズム」のリメイクです。オリジナル版は下にあります。
中途半端なモブキャラF③
 
 昼休み、エミはそそくさと別棟のトイレで弁当を食べ、図書室で過ごす。図書室は先生が駐在しているのでチサトたちも迂闊なことができない。
 私はエミの様子を本棟の空き教室から見ている。トイレや図書室の中までは見えないが、移動している様子は見えるのでおおよそ見当がつく。エミがいなければつるむ相手もいないので、休み時間、誰からも声をかけられない。便利だ。エミの後を離れたところからこっそり追ってみたりもした。まるでストーカーだ。何がしたいんだろう。自分が一人でいるのが嫌だからエミにすがりつこうとしているのだろうか。でも、話しているところをチサトたちに見られたらどうなるか分からない。モブキャラごときがエミと話すのはおかしい。わきまえろ。関係ないんだから大人しくしてろ。
 その日の昼休みも話しかけることもなく、終わった。と、思うということは、私はエミと話すことを試みているらしい。モブのくせに一体何の権限があってエミと話す気なんだろう。そもそも、何を話すつもりだ。話したいことなんてあったっけ。話したいこともないのに話そうだなんておこがましい。私とエミは用もないのに話せるような仲じゃない。モブのくせに図々しい。
 放課後、一人で帰っていると雨がぱらぱらと降りだした。群れて帰っている子たちや走り込みをしている運動部員が口々に騒いでいる。天気予報になかったらしい。天気予報なんて元々見てないから知らないけど。いつも折り畳み傘持ってるし。
 制鞄に手を入れて折り畳み傘を取り出そうとしたが、見つからない。まさかチサトたちの嫌がらせか、と思ったが、そういえば家に干したままだった気がする。私は大抵人のせいにする。嫌な奴だ。別に今始まったことでもないので気にしていない。仕方ない。そういう人間なのだ。モブだし。
 少し考えて例の廃工場が近くにあることに思い至った。また女子が犯されていたら嫌だな、と思いながら前回使った抜け道から侵入する。面倒臭いことに巻き込まないで欲しい。元はと言えばあんな所で犯されていたチサトが悪いのだ。薄いトタン屋根が雨音を鳴らす。パタパタと子どもが楽しそうに踊っているみたいだ。これは私の言葉じゃない。エミが昔言っていた。
「ユイちゃん」
 回想ついでの幻聴かと思ったが、確かに懐かしい声がした。間違えるはずもない。声の方を見ると、エミがいた。まだ大して雨が降ってもいないのに一足先にずぶ濡れになっていたし、顔が赤くなっていた。チサトたちのせいだろう。埃っぽいコンクリートの地面の上で膝を抱えている。
 私はしばらく、あー、だとか、うー、だとか言っていた気がする。話すことがない。話すべきことがない。でも話したい。話したい? アホか。何を話せば良い。話すべきことを話そう。ふさわしい言葉。なんだそれは。かける言葉がない。調子はどう? 今日は何されたの? 痛くない? チサトってひどいと思わない? どれを言っても不正解で不躾で無神経だ。優しくない私がいくら優しいふりをしようとしたって急に出来るはずもない。モブは所詮どれだけ足掻いてもモブだ。価値のあることなんか言えるわけがない。
「大丈夫?」
 絞り出すようにして出てきた言葉がよりにもよってそれだった。無神経すぎやしないか。馬鹿なんだろうか。馬鹿なんだ。
「大丈夫だよ」
 赤くなった顔で、くしゃみをして鼻を啜りながらエミは微笑んだ。
 言わせている。そんなのそう答えるしかないじゃん。何やってんだよ。ほんと駄目だな。モブだから仕方ないか。特に優しいエミならそう答えるに決まっている。違う。こんなことを言わせたいんじゃない。私はただ、私はただ、エミに、エミを、エミが。上手く言葉を組み立てることができない。言葉が空回りする。こんなにバカだったのか私は。
「私はエミに何をしたら良いのか分からない。何もできないでいる。私はいつもエミに頼りきりなのに」
 俯いて、ボロボロのエミから目を背けてボロボロこぼすみたいに言った。こんなのダメだ。ただのゲロだ。言葉のゲロ。
「ユイちゃんにどうにかしてもらおうと思ってないよ」
 胸の奥がぎゅっとなった。モブのくせに。
 私は言葉の裏側で「そんなことないよ」と言ってもらえることを期待していた。この期に及んで私はエミに助けてもらおうとしていた。なので、エミの言葉には面食らってしまったと同時に痛くなった。痛いとか、笑える。何が痛いだよ。そんなの感じなくて済むようにしてたくせにアホか。死ねば良いのに。死ぬ気もないくせに。こんなことで。こんなことで何悲しんでんだよ。関係ない、で���ませてたくせに。役立たずのモブのくせに。いくらエミが酷い目に遭っていても、ちくりともしなかったくせに。私は嫌な奴だ。
「何かして欲しくて、ユイちゃんと仲良くしてるんじゃないから」
 落として上げるのか。ずるい。いや、やはりエミは優しいのだ。勝手に勘違いしただけのくせに。
 思わず顔を上げると、相変わらずエミはあまり表情のない顔をしていた。汚れた鞄には、お揃いで買ったクマのマスコットがぶら下がっている。クマも以前踏まれた時よりさらに黒ずんでいるようにも見えた。そんなことを言われてしまったら、私はどうすれば良いのか分からなくなる。エミのせいだ。期待されてないのか私は。ただ甘えていれば良いのか。餌を待つ雛鳥みたいに口開けて鳴いとけば良いのか。いや、元々分からなかったくせにエミのせいにしようとしている。エミの優しさに甘えてしまおうとしている。
「ありがとう。でも、我慢しないで」
 何言ってんだ。私は。
 エミはぎこちなく微笑んだ。久しぶりに笑った顔を見たような気がした。こんな顔をさせたかったじゃない。こんな顔をさせたくて、言葉をかけたんじゃない。胸くそが悪い。吐き気がする。何の権利があって、どの口がこんなことを言っているのだろうか。我慢しないで? 馬鹿なのか。何となく聞こえの良い言葉を並べて励ましの優しい言葉をかけられたとでも思っているのか。自己満足にも程がある。本当に、鬱陶しくて、疎ましい。消えろ。死ね。私は嫌な奴だ。嫌な奴だと嫌悪するくせに何もしない自分が嫌だ。そこまで分かっているくせに、それでも何もできない自分が嫌だ。モブのくせにモブにすらなりきれない。だから嫌な奴なんだ。私は何者にもなれない。どこにも行けない。
「ユイは弱虫だ。泣いてたら強くなれないよ」
 友達が囃し立てる。昔はエミも他の子ども達と一緒に遊んでいた。私はすぐ泣いていた。転べば怪我をしていなくても泣いていたし、そんなだからすぐ物を取り上げられたり、からかわれたりして泣かされていた。泣くまいとはいつも思うのだが、涙は止まらないのだ。止めようとすればするほどますます涙は出てきて、とうとうしゃくりあげてしまう。
「嫌がってることはやめて」
 エミが私たちの間に割って入った。からかわれている私を助けるのはエミの役目で、私があんまりからかわれるものだから、エミまで皆と疎遠になってしまった。
「嫌がってることはしちゃ駄目なんだよ。『やめて』って言ってたでしょ」
 私はせいぜい一度小さな声で「やめて」と言えたくらいで、抵抗らしい抵抗もできずただ泣いているばかりだった。公園で遊んでいる学校の子たちの輪に入りたそうに眺めている時も、エミが「入れて」と言ってくれた。エミは私の声にいつも耳を傾けたくれたし、私の様子を見ていてくれた。エミが代わりに怒ってくれるし、抵抗してくれるので、私はただ守られていれば良かった。
「あなたたちだって嫌なことされたら嫌でしょ。やめて欲しいってなるでしょ」
 エミは説教臭くてウザがられる子どもだった。しかし状況によっては周囲に助けを求めたりするような賢さもあったので、エミに反撃してくるような子はいなかった。いつも、格好付けて攻撃されるくらいなら、守りに入っていたのに、チサトの時は失敗してしまったのだろう。エミはチサトに同情しすぎていた。この頃のように私のことだけを守っていればあんなことにはならなかったのに。チサトをそんなに気にかけたいならかければ良い。勝手にすれば良い。私はいつだって傲慢で自分のことしか考えていない。だから眺めているだけでいる。誰かが何とかしてくれるのを待っている。何もしなければ傷付かないし失敗しない。しかし、何もしないなんてことは結局できない。私は「ただ見ている」ということを選んでいる。なので傷付くし失敗する。それなのに自分のせいではないかのようなふりをしている。
「弱虫だから鍛えてあげてるだけなのに。良い子ちゃんぶってつまんないの」
 私から取り上げたぬいぐるみを、その子は高く放り投げた。耳の長いうさぎのぬいぐるみだ。ぬいぐるみは木の枝に引っかかってぶら下がっている。私たちのような小さな子どもには届かない。
「エミとユイはほっといて遊ぼ」
 私たちを置いて、皆タコのすべり台へと駆けだした。エミは木に登ろうとしたが、足や手をかけられる場所が少なく、よじ登ることができない。何度も挑戦していたが、結局はずり落ちてしまって駄目だった。その時の私も眺めているだけだった。ついには帰る時間になってしまったので、エミは自分のお母さんを呼んできた。私はただ眺めているだけだった。お母さんは「あらあら」と少し困ってから、箒を持ってきて、ぬいぐるみをとってくれた。たぶんお礼は言ったと思う。何もしない私でも、それくらいはできたと思う。いや、できただろうか。私は全然ちゃんとしていないので、定かではない。もっとちゃんとしないといけないのに。
「ごめんね。私もっと強くなるからね」
 帰り際、エミはそう言った。違う。私が弱いのが悪い。いじめっ子が言っていた通りだ。
 帰りが遅いので心配して父が迎えに来てくれた。もう夕飯が出来ていると言っていた。確か父はちゃんとエミとエミのお母さんにお礼を言っていた。その時は父と母はそこまで仲が悪くなかった。両親にお誕生日プレゼントは何が良いか訊かれた時も、私はただ欲しい物をじっと眺めているだけだった。
 何でこうなってしまったのだろう。
 私はいつもただ眺めているだけだった。自分のことなのに、自分に関係のあることなのに、まるで遠い世界の出来事かのように素知らぬ顔をして、何となく欲求を匂わせている。傲慢で我が儘だ。恥をさらして生きている。恥をさらして生きているから胸を張れないのか。それとも胸を張らないから恥をさらしているのか。生まれつき狡くて卑怯な人間はいる。私が弱いのは親のせいでも、いじめっ子のせいでも、エミのせいでもなくて、私自身のせいだ。
「やっばー。すごいの見つけた」
 チサトの手下みたいな女子が濁ったジュースのペットボトルを掲げている。なんだかよく分からない固形物が浮いている。パッケージを見る限りイチゴミルクだった何からしい。
「これ絶対めちゃくちゃ前のやつじゃん」
 くすくすと笑い合っている。さっきの移動教室で棚の隙間でごそごそやっているかと思ったらこんなくだらないものを見つけてきたらしい。チサトはその様子を楽しそうに眺めていたが、そのペットボトルをさっと子分Aの手から奪った。周囲の目が好奇心で輝く。期待している。薄汚い好奇心がそのペットボトルに向けられている。どんな風にしてエミに嫌がらせをするのか誰もが気にかけている。モブは皆気になって仕方ないのだ。
 チサトは何も言わずにそのペットボトルの中身をエミがいる机の上にぶちまけた。びちゃ、と重い水分が出てきた。悪臭が教室中に立ちこめる。おぇっとむせる声があちこちから上がる。窓の近くの生徒が大慌てで窓を開ける。
 黒ずんだイチゴミルクなのか何なのかわからない液体がエミの机を伝って、スカートを、床を汚す。
「臭い」
 チサトがエミを見下ろしながら言った。いや、お前のせいだろ。えっ、何。コントか。ツッコミ待ちか。思わず内心で突っ込んでしまった。
「臭くなったじゃん」
 珍しく無表情ではなく顔をしかめている。匂いのせいだろうか。眉を顰め、忌々しそうに唇を噛みしめている。そして、エミの頭を掴むと、汚れた机の上に押しつけてごしごしと押しつけて擦った。エミを雑巾だとでも思っているのだろうか。
「とれない」
 チサトがポツリと独り言のように呟いた。エミが濁った咳をした。音からしてもしかしたら吐いたのかもしれない。エミの机の上はゲロとお茶だった何かで悲惨なことになっているだろう。その前から落書きでボロボロだったけど。
「とれない。とれない」
 頭でもおかしくなったんだろうか。いや、元からか。イカれてるよなぁ。チサトは頭おかしい。きっと虐待されて頭がおかしくなったんだ。可哀想だな。死んでた方が良かった。
「とれないよ。これ。とれない。どうすんの」
 上げようとするエミの頭をぐりぐりと机に押しつける。それでもエミはじたばたともがいている。手と足を使って立ち上がろうとするエミの体を、取り巻きたちが鼻をつまみながら押さえつけた。
「あんたのせいだ」
 チサトは怒っていた。不可解だ。どうしてここでチサトが怒るのだ。意味が分からない。全部自分がやったくせに。チサトが悪いくせに何を言っているのだろう。そんなことモブも皆分かり切っているはずなのに、誰一人チサトたちを止めない。関係ないから。にやにや笑っている子たちすらいる。モブに徹している。モブレベルが高いんだろう。すごいな。私はモブすら上手くできない。
「全部あんたのせいだよ」
 たぶん、皆これをパフォーマンスだと思っているのだろう。中世ヨーロッパでは処刑が娯楽だったというし、暇を持て余して中学生にとってはいじめが娯楽なのだ。だから誰も止めない。告発した子だって、止めようとしたふりをしただけだ。結局は役立たずのモブ。
「全部全部あんたが悪いんだよ」
 またどうせ自分に言っているくせに。一人で勝手に死んでくれ。他人を巻き込むな。誰にも迷惑かけないようにして一人ぼっちで孤独に死ね。
「死ね」
 お前がな。エミをぐりぐりと頭で机を擦る力が強くなる。机でエミの顔を押しつぶす気なのだろうか。
「死ね」
 チサトの語気が強まる。何勝手に熱くなってるんだろう。バカでしょ。自分の言葉に自分で興奮してんのかこいつ。変態かよ。
「死ね」
 チサトの顔が赤い。怒っている。怒りに震えるほどに怒っている。何にそんなに怒っているのだろうか。下らない。それをエミに押しつけているだけだ。お前なんて、エミに関係ないくせに。勝手に関係してくるな。マジで死ねよ。
「死ね」
 チサトが言葉を重ねるのに合わせて、取り巻きは冗談ぽく手拍子を始めた。重い空気を積極的に茶化していくいつものパターン。何人かがふざけて、チサトの「死ね」に「死ね」を重ねていく。本当にあるんだな。死ねの大合唱。都市伝説じゃなかったらしい。こういうの本当にあるのか。そわそわしていたクラスメイトたちまで何人か合唱に加わっている。野次馬根性か何かだろうか。しーね、しーね、とリズミカルにクラスの半分くらいが一致団結したような気がした。この団結力があれば今年の体育祭はうちのクラスが優勝だ。おめでたい。楽しみだ。合唱コンクールも優勝できるかもしれない。協力って大事だな。勝手にすれば良い。知らないけど。モブ共は本当に勝手だ。ちょっと勝手すぎるんじゃないか。私も勝手だけど。
「いや、お前が死ねよ」
 何て言おうかとか、どうやって動こうかとか、特に考えてもいなかったが、考えるより先に口と手が出ていた。
 チサトが呆気にとられている。いや、チサトだけではない。教室中が呆気にとられていた。
 一呼吸置いて悲鳴があがる。黄色い悲鳴を上げるのはいつもモブだ。チサトも私も黙っている。チサトの顔面から血の気が引いていく。自分の手の甲からだらだらと流れる血を黙って見つめている。少し黒っぽいのは静脈の血だからだろうか。手や指となるともっと勢いよく血が出るかと思った。うっかりエミの髪の毛まで一緒に切らなくて良かった。結構腕前は良い方みたいだ。プロになれるかも。カッターナイフの。
「ごめんなさいは?」
 ダンボールを切る用のデカいカッターナイフをチキチキさせながら私は言った。血が付いたら刃が錆びそうだ。チキチキ。何枚か折ったらまた文化祭に使えるだろうか。何だかチキチキ言わせるのにハマってしまって私は刃をわざと何度もチキチキ出し入れしているチキチキ。小学校の卒業証書を入れる筒をポンポン鳴らしてたのを思い出す。ポンポンよりチキチキの方がイケてる気はする。こういうのを中二病と言うのだろうか。チキチキ。知らないけど。
「悪いことしたらごめんなさいだよね」
 私は、私とエミ以外はチキチキどうでも良い。やばいじゃん、頭おかしい、等のざわめきが聞こえる。聞こえてますよ。チキチキ。何人かいない気がするから先生呼びにチキチキ行っちゃったかな。すごいな。モブのくせに役に立つんだな。あまり時間がない。でもまぁ残ったのは全員クソみたいな役立たずのモブだチキチキ。そもそももっと前に頭おかしいシチュエーションがあっただろうに、チキチキお前らは頭がおかしいんだろうか。モブだから考えないのか。関係ないもんな。仕方ないよな。ツッコミが遅すぎる。チキチキ。私は誰かのモブかもしれないが、私にとってはエミと私以外全員学芸会の木の役くらいの存在価値だ。チキチキ。チサトが可哀想なことは分かるチキチキが勝手に不幸になれば良い。犯されて殺されようが、チキチキ自殺しようが関係ない。死ねば良い。勝手にチキチキ死ね。でもエミが死ぬのはチキチキダメだ。エミを失うのはダメだ。それは私に関係がある。チキチキ。
「嫌がってることは、しちゃ駄目なんだよ」
 勝てないと思ってたけど、案外いけるじゃん。やったね。カッターナイフ全国大会優勝するかも。まぁチサトなんて屈強な男じゃあるまいし、たかが同い年の女子だ。でもチサトは背も高いし、丸腰だったら勝てなかったろう。私は装備が強いから助かった。カッターナイフの腕前が光る。カッターナイフで人を切るのは初めてなので才能があると思う。持ってて良かったカッターナイフ。
「ごめんなさい」
 チサトは顔にカッターナイフを突きつけられながら、手の甲を止血しようと必死に押さえている。目にはうっすら涙が浮かんでいる。すごい。あっさり。チサトってこんなに弱っちいんだな。カッターナイフよりも弱いとは思わなかった。もっと早くこうしていれば良かった。勝ち気な女もととりあえずカッターナイフを突きつければ言うことをきく。これってトリビアになりませんか。
「許してあげるから死んで」
 カッターナイフの刃がチサトの頬に触れた。チサトの体に力が入るのが分かった。換気のために開け放たれた窓へとチサトを押しやる。
「このまま飛び降りて自殺ね」
 頬にカッターナイフを押し当てたままチサトを窓の外に向かってぐいぐい押す。ぱらぱらと雨が降っている。外が明るいから気付かなかった。狐の嫁入りだ。こんなに明るいのに雨が降ったら虹が出るんじゃないだろうか。出たら綺麗だろうな。
 クラスのざわめきが大きくなる。でも誰も止めない。どうせその程度だということは分かっている。モブは鳴いてるだけ。そういうBGM。所詮背景。
 チサトの髪が雨で湿っていく。しとしとと優しい雨だ。どんな顔をしているのだろう。不服そうにしているのだろうか、恐怖に震えてるだろうか、諦めているだろうか。窓の下へ押し出しているので見えない。
「やめて」
 エミの声がした。
 やっぱりさすがだな。すごいよ。やっぱりここで来るのはエミなんだ。すごいな。ドラマチックだな。モブとは違う。特別なんだ。やはりエミは強くて優しいエミなんだ。
「チサトは悪くないよ」
 やっぱりそう言うんだな。まただ。二回目だよそれ。何も変わってない。エミは変わらない。私も変わらない。いや、変わったのかな。きっとエミは私のことも悪くないと言うのだろう。誰も悪くないなどと綺麗事を抜かすのだろう。エミは強いから分からないんでしょ。
「エミ、ごめんね」
 多分私はこれが言いたかったんだろうな。だってなんかいきなり自然と口から出てきたから。ヨダレみたいなもんだ。言葉のヨダレ。何を謝ってるんだろう。どこからどこまでが駄目だったんだろう。むしろ悪くなかったところが見つけられない。悪いのは何だろう。私の存在だろうか。そんな状態で謝ったって、許されるはずもない。罪が何かも分からないのに償えるわけがない。言いたい気持ちは確かにあった。でも、これは私がすっきりしたいのと一緒だ。ヨダレ以下じゃん。ゲロでありウンコだ。悪臭を放つ、何の役にも立たない言葉だ。
 チサトからパッと手を離して窓の外へと身を乗り出した。ぐらりと視界が揺れる。教室内のくすんだ空気と違って外の空気は澄んでいる。悲鳴が上がる。校舎中に響きわたってそうだ。
「ユイちゃんは悪くない」
 エミが私の腕にすがりついた。柔らかくて温かい。生き物。でも、ほらね。やっぱりエミはそんなことを言うんだ。じゃあ誰が悪いんだよ。誰も責めることができないなんてあんまりじゃないか。エミは誰にだってこうするんでしょ。チサトがもし自ら身を投げようとしていたって止めていたに決まっている。知らないおっさんでも止めている。言わせている。させている。私はモブのうちの一人だ。いくら暴れてみても結局はモブなのだ。役に立たない。関係ない。いや、関係できないのだ。絶対ここは死ぬところだったじゃん。人死にがでないなんてつまらない話だ。この辺りで一人くらい死んでおいた方が盛り上がる。私は誰にも助けられないし、誰も助けることができない。この状況は良くならないし、何も解決しない。何も終わらない。今までも、こ���から先も地獄だ。マシな地獄かもっと酷い地獄か分からないけど、地獄であることには間違いない。でもそれも結局は単なる私の期待であって、地獄すらも来ず、どこへも行けない方がリアルかもしれない。何かそんな気もする。全部めちゃくちゃになれば良かったのに。中途半端だ。結局は中途半端。
 バタバタと足音がしてクラスメイトたちが教師何名かを連れてやってきた。何か叫んでいる。私はすがりつくエミを振り放した。エミが尻餅をつく。関係ない。チサトとも関係ないし、当然エミとも関係ない。だってモブだし。思い出したようにカッターナイフをチキチキやる。もうさっきほどチキチキを好きにはなれなかった。何かな。どうなるんだろ。少年院とかかな。ほらね、やっぱり私ただの嫌な奴じゃん。それでも生きなきゃいけないんでしょ。それでもこの人生終わんないんでしょ。面倒くさい。あーあ。
 青空を背景にしとしとと雨が降っている。こんな弱い雨では何一つ切り刻めやしない。相変わらず虹は出ない。
【書いてみた感想】
・僕っ娘はあまりにもパンチが強すぎて内容を持って行かれるのでカットした。必然性がない。
・いじめの理不尽さはオリジナルの方が上。負けてる。
・どうしても「しとしと降る雨のリズム」のままそれらしい内容にすることができなかった。どう考えてもこの話は「しとしと降る雨のリズム」じゃない。でもあまり良いタイトルも思い付かなかった。今も当時も語感は気に入ってるのでよそで使いたい。
・腐った給食を用意させるために頑張ることを諦めた。
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2ttf · 13 years ago
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groyanderson · 4 years ago
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☆プロトタイプ版☆ ひとみに映る影シーズン2 第七話「復活、ワヤン不動」
☆プロトタイプ版☆ こちらは電子書籍「ひとみに映る影 シーズン2」の 無料プロトタイプ版となります。 誤字脱字等修正前のデータになりますので、あしからずご了承下さい。
☆ここから買おう☆
(シーズン2あらすじ) 私はファッションモデルの紅一美。 旅番組ロケで訪れた島は怪物だらけ!? 霊能者達の除霊コンペとバッティングしちゃった! 実は私も霊感あるけど、知られたくないなあ…… なんて言っている場合じゃない。 諸悪の根源は恩師の仇、金剛有明団だったんだ! 憤怒の化身ワヤン不動が、今度はリゾートで炸裂する!!
pixiv版 (※内容は一緒です。)
དང་པོ་
 ニライカナイから帰還した私達はその後、魔耶さんに呼ばれて食堂へ向かう。食堂内では五寸釘愚連隊と生き残った河童信者が集合していた。更に最奥のテーブルには、全身ボッコボコにされたスーツ姿の男。バリカンか何かで雑に剃り上げられた頭頂部を両手で抑えながら、傍らでふんぞり返る禍耶さんに怯えて震えている。 「えーと……お名前、誰さんでしたっけ」  この人は確か、河童の家をリムジンに案内していたアトム社員だ。特徴的な名前だった気はするんだけど、思い出せない。 「あっ……あっ……」 「名乗れ!」 「はひいぃぃ! アトムツアー営業部の五間擦平雄(ごますり ひらお)と申します!」  禍耶さんに凄まれ、五間擦氏は半泣きで名乗った。少なくともモノホンかチョットの方なんだろう。すると河童信者の中で一番上等そうなバッジを付けた男が席を立ち、机に手をついて私達に深々と頭を下げた。 「紅さん、志多田さん。先程は家のアホ大師が大っっっ変ご迷惑をおかけ致しました! この落とし前は我々河童の家が後日必ず付けさせて頂きます!」 「い、いえそんな……って、その声まさか、昨年のお笑いオリンピックで金メダルを総ナメしたマスク・ド・あんこう鍋さんじゃないですか! お久しぶりですね!?」  さすがお笑い界のトップ組織、河童の家だ。ていうか仕事で何度か会ったことあるのに素顔初めて見た。 「あお久しぶりっす! ただこちらの謝罪の前に、お二人に話さなきゃいけない事があるんです。ほら説明しろボケナスがッ!!」  あんこう鍋さんが五間擦氏の椅子を蹴飛ばす。 「ぎゃひぃ! ごご、ご説明さひぇて頂きますぅぅぅ!!」  五間擦氏は観念して、千里が島とこの除霊コンペに関する驚愕の事実を私達に洗いざらい暴露した。その全貌はこうだ。  千里が島では散減に縁を奪われた人間が死ぬと、『金剛の楽園』と呼ばれる何処かに飛び去ってしまうと言い伝えられている。そうなれば千里が島には人間が生きていくために必要な魂の素が枯渇し、乳幼児の生存率が激減してしまうんだ。そのため島民達は縁切り神社を建て、島外の人々を呼びこみ縁を奪って生き延びてきたのだという。  アトムグループが最初に派遣した建設会社社員も伝説に違わず祟られ、全滅。その後も幾つかの建設会社が犠牲になり、ようやく事態を重く受け止めたアトムが再開発中断を検討し始めた頃。アトムツアー社屋に幽霊が現れるという噂が囁かれ始めた。その霊は『日本で名のある霊能者達の縁を散減に献上すれば千里が島を安全に開発させてやろう』と宣うらしい。そんな奇妙な話に最初は半信半疑だった重役達も、『その霊がグループ重役会議に突如現れアトムツアーの筆頭株主を目の前で肉襦袢に変えた』事で霊の要求を承認。除霊コンペティションを行うと嘘の依頼をして、日本中から霊能者を集めたのだった。  ところが行きの飛行機で、牛久大師は袋の鼠だったにも関わらず中級サイズの散減をあっさり撃墜してしまう。その上業界ではインチキ疑惑すら噂されていた加賀繍へし子の取り巻きに散減をけしかけても、突然謎のレディース暴走族幽霊が現れて返り討ちにされてしまった。度重なる大失態に激怒した幽霊はアトムツアーイケメンライダーズを全員肉襦袢に変えて楽園へ持ち帰ってしまい、メタボ体型のため唯一見逃された五間擦氏はついに牛久大師に命乞いをする。かくして大師は大散減を退治すべく、祠の封印を剥がしたのだった。以上の話が終わると、私は五間擦氏に馬乗りになって彼の残り少ない髪の毛を引っこ抜き始めた。 「それじゃあ、大師は初めから封印を解くつもりじゃなかったんですか?」 「ぎゃあああ! 毛が毛が毛がああぁぁ!!」  あんこう鍋さんは首を横に振る。 「とんでもない。あの人は力がどうとか言うタイプじゃありません。地上波で音波芸やろうとしてNICを追放されたアホですよ? 我々はただの笑いと金が大好きなぼったくりカルトです」 「ほぎゃああぁぁ! 俺の貴重な縁があぁぁ、抜けるウゥゥーーーッ!!」 「そうだったんですね。だから『ただの関係者』って言ってたんだ……」  そういう事だったのか。全ては千里が島、アトムグループ、ひいては金剛有明団までもがグルになって仕掛けた壮大なドッキリ……いや、大量殺人計画だったんだ! 大師も斉二さんもこいつらの手の上で踊らされた挙句逝去したとわかった以上、大散減は尚更許してはおけない。  魔耶さんと禍耶さんは食堂のカウンターに登り、ハンマーを掲げる。 「あなた達。ここまでコケにされて、大散減を許せるの? 許せないわよねぇ?」 「ここにいる全員で謀反を起こしてやるわ。そこの祝女と影法師使いも協力しなさい」  禍耶さんが私達を見る。玲蘭ちゃんは数珠を持ち上げ、神人に変身した。 「全員で魔物(マジムン)退治とか……マジウケる。てか、絶対行くし」 「その肉襦袢野郎とは個人的な因縁もあるんです。是非一緒に滅ぼさせて下さい!」 「私も! さ、さすがに戦うのは無理だけど……でもでも、出来ることはいっぱい手伝うよ!」  佳奈さんもやる気満々のようだ。 「決まりね! そうしたら……」 「その作戦、私達も参加させて頂けませんか?」  食堂入口から突然割り込む声。そこに立っていたのは…… 「斉一さん!」「狸おじさん!」  死の淵から復活した後女津親子だ! 斉一さんは傷だらけで万狸ちゃんに肩を借りながらも、極彩色の細かい糸を纏い力強く微笑んでいる。入口近くの席に座り、経緯を語りだした。 「遅くなって申し訳ない。魂の三分の一が奪われたので、万狸に体を任せて、斉三と共にこの地に住まう魂を幾つか分けて貰っていました」  すると斉一さんの肩に斉三さんも現れる。 「診療所も結界を張り終え、とりあえず負傷者の安全は確保した。それと、島の魂達から一つ興味深い情報を得ました」 「聞かせて、狸ちゃん」  魔耶さんが促す。 「御戌神に関する、正しい歴史についてです」  時は遡り江戸時代。そもそも江戸幕府征服を目論んだ物の怪とは、他ならぬ金剛有明団の事だった。生まれた直後に悪霊を埋め込まれた徳松は、ゆくゆくは金剛の意のままに動く将軍に成長するよう運命付けられていたんだ。しかし将軍の息子であった彼は神職者に早急に保護され、七五三の儀式が行われる。そこから先の歴史は青木さんが説明してくれた通り。けど、この話には続きがあるらしい。 「大散減の祠などに、星型に似たシンボルを見ませんでしたか? あれは大散減の膨大な力の一部を取り込み霊能力を得るための、給電装置みたいな物です。もちろんその力を得た者は縁が失せて怪物になるのですが、当時の愚か者共はそうとは知らず、大散減を『徳川の埋蔵金』と称し挙って島に移住しました」  私達したたびが探していた徳川埋蔵金とはなんと、金剛の膨大な霊力と衆生の縁の塊、大散減の事だったんだ。ただ勿論、霊能者を志し島に近付いた者達はまんまと金剛に魂を奪われた。そこで彼らの遺族は風前の灯火だった御戌神に星型の霊符を貼り、自分達の代わりに島外の人間から縁を狩る猟犬に仕立て上げたんだ。こうして御戌神社ができ、御戌神は地中で飢え続ける大散減の手足となってせっせと人の縁を奪い続けているのだという。 「千里が島の民は元々霊能者やそれを志した者の子孫です。多少なりとも力を持つ者は多く、彼らは代々『御戌神の器』を選出し、『人工転生』を行ってきました」  斉一さんが若干小声で言う。人工転生。まだ魂が未発達の赤子に、ある特定の幽霊やそれに纏わる因子を宛てがって純度の高い『生まれ変わり』を作る事。つまり金剛が徳松に行おうとしたのと同じ所業だ。 「じゃあ、今もこの島のどこかに御戌様の生まれ変わりがいるんですか?」  佳奈さんは飲み込みが早い。 「ええ。そして御戌神は、私達が大散減に歯向かえば再び襲ってきます。だからこの戦いでは、誰かが対御戌神を引き受け……最悪、殺生しなければなりません」 「殺生……」  生きている人間を、殺す。死者を成仏させるのとは訳が違う話だ。魔耶さんは胸の釘を握りしめた。 「そのワンちゃん、なんて可哀想なの……可哀想すぎる。攻撃なんて、とてもできない」 「魔耶、今更甘えた事言ってんじゃないわよ。いくら生きてるからって、中身は三百年前に死んだバケモノよ! いい加減ラクにしてやるべきだわ」 「でもぉ禍耶、あんまりじゃない! 生まれた時から不幸な運命を課せられて、それでも人々のために戦ったのに。結局愚かな連中の道具にされて、利用され続けているのよ!」 (……!)  道具。その言葉を聞いた途端、私は心臓を握り潰されるような恐怖を覚えた。本来は衆生を救うために手に入れた力を、正反対の悪事に利用されてしまう。そして余所者から邪尊(バケモノ)と呼ばれ、恐れられるようになる……。 ―テロリストですよ。ドマル・イダムという邪尊の力を操ってチベットを支配していた、最悪の独裁宗派です―  自分の言った言葉が心に反響する。御戌神が戦いの中で見せた悲しそうな目と、ニライカナイで見たドマルの絶望的な目が日蝕のように重なる。瞳に映ったあの目は……私自身が前世で経験した地獄の、合わせ鏡だったんだ。 「……魔耶さん、禍耶さん。御戌神は、私が相手をします」 「え!?」 「正気なの!? 殺生なんて私達死者に任せておけばいいのよ! でないとあんた、殺人罪に問われるかもしれないのに……」  圧。 「ッ!?」  私は無意識に、前世から受け継がれた眼圧で総長姉妹を萎縮させた。 「……悪魔の心臓は御仏を産み、悪人の遺骨は鎮魂歌を奏でる。悪縁に操られた御戌神も、必ず菩提に転じる事が出来るはずです」  私は御戌神が誰なのか、確証を持っている。本当の『彼』は優しくて、これ以上金剛なんかの為に罪を重ねてはいけない人。たとえ孤独な境遇でも人との縁を大切にする、子犬のようにまっすぐな人なんだ。 「……そう。殺さずに解決するつもりなのね、影法師使いさん。いいわ。あなたに任せます」  魔耶さんがスレッジハンマーの先を私に突きつける。 「失敗したら承知しない。私、絶対に承知しないわよ」  私はそこに拳を当て、無言で頷いた。  こうして話し合いの結果、対大散減戦における役割分担が決定した。五寸釘愚連隊と河童の家、玲蘭ちゃんは神社で大散減本体を引きずり出し叩く。私は御戌神を探し、神社に行かれる前に説得か足止めを試みる。そして後女津家は私達が���読した暗号に沿って星型の大結界を巡り、大散減の力を放出して弱体化を図る事になった。 「志多田さん。宜しければ、お手伝いして頂けませんか?」  斉一さんが立ち上がり、佳奈さんを見る。一方佳奈さんは申し訳なさそうに目を伏せた。 「で……でも、私は……」  すると万狸ちゃんが佳奈さんの前に行く。 「……あのね。私のママね、災害で植物状態になったの。大雨で津波の警報が出て、パパが車で一生懸命高台に移動したんだけど、そこで土砂崩れに遭っちゃって」 「え、そんな……!」 「ね、普通は不幸な事故だと思うよね。でもママの両親、私のおじいちゃんとおばあちゃん……パパの事すっごく責めたんだって。『お前のせいで娘は』『お前が代わりに死ねば良かったのに』みたいに。パパの魂がバラバラに引き裂かれるぐらい、いっぱいいっぱい責めたの」  昨晩斉三さんから聞いた事故の話だ。奥さんを守れなかった上にそんな言葉をかけられた斉一さんの気持ちを想うと、自分まで胸が張り裂けそうだ。けど、奥さんのご両親が取り乱す気持ちもまたわかる。だって奥さんのお腹には、万狸ちゃんもいたのだから……。 「三つに裂けたパパ……斉一さんは、生きる屍みたいにママの為に無我夢中で働いた。斉三さんは病院のママに取り憑いたまま、何年も命を留めてた。それから、斉二さんは……一人だけ狸の里(あの世)に行って、水子になっちゃったママの娘を育て続けた」 「!」 「斉二さんはいつも言ってたの。俺は分裂した魂の、『後悔』の側面だ。天災なんて誰も悪くないのに、目を覚まさない妻を恨んでしまった。妻の両親を憎んでしまった。だからこんなダメな狸親父に万狸が似ないよう、お前をこっちで育てる事にしたんだ。って」  万狸ちゃんが背筋をシャンと伸ばし、顔を上げた。それは勇気に満ちた笑顔だった。 「だから私知ってる。佳奈ちゃんは一美ちゃんを助けようとしただけだし、ぜんぜん悪いだなんて思えない。斉二さんの役割は、完璧に成功してたんだよ」 「万狸ちゃん……」 「あっでもでも、今回は天災じゃなくて人災なんだよね? それなら金剛有明団をコッテンパンパンにしないと! 佳奈ちゃんもいっぱい悲しい思いした被害者でしょ?」  万狸ちゃんは右手を佳奈さんに差し出す。佳奈さんも顔を上げ、その手を強く握った。 「うん。金剛ぜったい許せない! 大散減の埋蔵金、一緒にばら撒いちゃお!」  その時、ホテルロビーのからくり時計から音楽が鳴り始めた。曲は民謡『ザトウムシ』。日没と大散減との対決を告げるファンファーレだ。魔耶さんは裁判官が木槌を振り下ろすように、机にハンマーを叩きつけた! 「行ぃぃくぞおおおぉぉお前らああぁぁぁ!!!」 「「「うおおぉぉーーーっ!!」」」  総員出撃! ザトウムシが鳴り響く逢魔が時の千里が島で今、日本最大の除霊戦争が勃発する!
གཉིས་པ་
 大散減討伐軍は御戌神社へ、後女津親子と佳奈さんはホテルから最寄りの結界である石見沼へと向かった。さて、私も御戌神の居場所には当てがある。御戌神は日蝕の目を持つ獣。それに因んだ地名は『食虫洞』。つまり、行先は新千里が島トンネル方面だ。  薄暗いトンネル内を歩いていると、電灯に照らされた私の影が勝手に絵を描き始めた。空で輝く太陽に向かって無数の虫が冒涜的に母乳を吐く。太陽は穢れに覆われ、光を失った日蝕状態になる。闇の緞帳(どんちょう)に包まれた空は奇妙な星を孕み、大きな獣となって大地に災いをもたらす。すると地平線から血のように赤い月が昇り、星や虫を焼き殺しながら太陽に到達。太陽と重なり合うやいなや、天上天下を焼き尽くすほどの輝きを放つのだった……。  幻のような影絵劇が終わると、私はトンネルを抜けていた。目の前のコンビニは既に電気が消えている。その店舗全体に、腐ったミルクのような色のペンキで星型に線を一本足した記号が描かれている。更に接近すると、デッキブラシを持った白髪の偉丈夫が記号を消そうと悪戦苦闘しているのが見えた。 「あ、紅さん」  私に気がつき振り返った青木さん��、足下のバケツを倒して水をこぼしてしまった。彼は慌ててバケツを立て直す。 「見て下さい。誰がこんな酷い事を? こいつはコトだ」  青木さんはデッキブラシで星型の記号を擦る。でもそれは掠れすらしない。 「ブラシで擦っても? ケッタイな落書きを……っ!?」  指で直接記号に触れようとした青木さんは、直後謎の力に弾き飛ばされた。 「……」  青木さんは何かを思い出したようだ。 「紅さん。そういえば僕も、ケッタイな体験をした事が」  夕日が沈んでいき、島中の店や防災無線からはザトウムシが鳴り続ける。 「犬に吠えられ、夜中に目を覚まして。永遠に飢え続ける犬は、僕のおつむの中で、ひどく悲しい声で鳴く。それならこれは幻聴か? 犬でないなら幽霊かもだ……」  青木さんは私に背を向け、沈む夕日に引き寄せられるように歩きだした。 「早くなんとかせにゃ。犬を助けてあげなきゃ、僕までどうにかなっちまうかもだ。するとどこからか、目ん玉が潰れた双頭の毛虫がやって来て、口からミルクを吐き出した。僕はたまらず、それにむしゃぶりつく」  デッキブラシから滴った水が地面に線を引き、一緒に夕日を浴びた青木さんの影も伸びていく。 「嫌だ。もう犬にはなりたくない。きっとおっとろしい事が起きるに違いない。満月が男を狼にするみたいに、毛虫の親玉を解き放つなど……」 「青木さん」  私はその影を呼び止めた。 「この落書きは、デッキブラシじゃ落とせません」 「え?」 「これは散減に穢された縁の母乳、普通の人には見えない液体なんです」  カターン。青木さんの手からデッキブラシが落ちた途端、全てのザトウムシが鳴り止んだ。青木さんはゆっくりとこちらへ振り向く。重たい目隠れ前髪が狛犬のたてがみのように逆立ち、子犬のように輝く目は濁った穢れに覆われていく。 「グルルルル……救、済、ヲ……!」  私も胸のペンダントに取り付けたカンリンを吹いた。パゥーーー……空虚な悲鳴のような音が響く。私の体は神経線維で編まれた深紅の僧衣に包まれ、激痛と共に影が天高く燃え上がった。 「青木さん。いや、御戌神よ。私は紅の守護尊、ワヤン不動。しかし出来れば、お前とは戦いたくない」  夕日を浴びて陰る日蝕の戌神と、そこから伸びた赤い神影(ワヤン)が対峙する。 「救済セニャアアァ!」 「そうか。……ならば神影繰り(ワヤン・クリ)の時間だ!」  空の月と太陽が見下ろす今この時、地上で激突する光の神と影の明王! 穢れた色に輝く御戌神が突撃! 「グルアアァァ!」  私はティグクでそれをいなし、黒々と地面に伸びた自らの影を滑りながら後退。駐車場の車止めをバネに跳躍、傍らに描かれた邪悪な星目掛けてキョンジャクを振るった。二〇%浄化! 分解霧散した星の一片から大量の散減が噴出! 「マバアアアァァ!!」「ウバアァァァ!」  すると御戌神の首に巻かれた幾つもの頭蓋骨が共鳴。ケタケタと震えるように笑い、それに伴い御戌神も悶絶する。 「グルアァァ……ガルァァーーーッ!!」  咆哮と共に全骨射出! 頭蓋骨は穢れた光の尾を引き宙を旋回、地を這う散減共とドッキングし牙を剥く! 「がッは!」  毛虫の体を得た頭蓋骨が飛び回り、私の血肉を穿つ。しかし反撃に転じる寸前、彼らの正体を閃いた。 「さては歴代の『器』か」  この頭蓋骨らは御戌神転生の為に生贄となった、どこの誰が産んだかもわからない島民達の残滓だ。なら速やかに解放せねばなるまい! 人頭毛虫の猛攻をティグクの柄やキョンジャクで防ぎながら、ティグクに付随する旗に影炎を着火! 「お前達の悔恨を我が炎の糧とする! どおぉりゃああぁーーーーっ!!」   ティグク猛回転、憤怒の地獄大車輪だ! 飛んで火に入る人頭毛虫らはたちどころに分解霧散、私の影体に無数の苦痛と絶望と飢えを施す! 「クハァ……ッ! そうだ……それでいい。私達は仲間だ、この痛みを以て金剛に汚された因果を必ずや断ち切ってやろう! かはあぁーーーっはーーっはっはっはっはァァーーッ!!!」  苦痛が無上の瑜伽へと昇華しワヤン不動は呵呵大笑! ティグクから神経線維の熱線が伸び大車輪の火力を増強、星型記号を更に焼却する! 記号は大文字焼きの如く燃え上がり穢れ母乳と散減を大放出! 「ガウルル、グルルルル!」  押し寄せる母乳と毛虫の洪水に突っ込み喰らおうと飢えた御戌神が足掻く。だがそうはさせるものか、私の使命は彼を穢れの悪循環から救い出す事だ。 「徳川徳松ゥ!」 「!」  人の縁を奪われ、畜生道に堕ちた哀しき少年の名を呼ぶ。そして丁度目の前に飛んできた散減を灼熱の手で掴むと、轟々と燃え上がるそれを遠くへ放り投げた! 「取ってこい!」 「ガルアァァ!!」  犬の本能が刺激された御戌神は我を忘れ散減を追う! 街路樹よりも高く跳躍し口で見事キャッチ、私目掛けて猪突猛進。だがその時! 彼の本体である衆生が、青木光が意識を取り戻した! (戦いはダメだ……穢れなど!)  日蝕の目が僅かに輝きを増す。御戌神は空中で停止、咥えている散減を噛み砕いて破壊した! 「かぁははは、いい子だ徳松よ! ならば次はこれだあぁぁ!!」  私はフリスビーに見立ててキョンジャクを投擲。御戌神が尻尾を振ってハッハとそれを追いかける。キョンジャクは散減共の間をジグザグと縫い進み、その軌跡を乱暴になぞる御戌神が散減大量蹂躙! 薄汚い死屍累々で染まった軌跡はまさに彼が歩んできた畜生道の具現化だ!! 「衆生ぉぉ……済度ぉおおおぉぉぉーーーーっ!!!」  ゴシャアァン!!! ティグクを振りかぶって地面に叩きつける! 視神経色の亀裂が畜生道へと広がり御戌神の背後に到達。その瞬間ガバッと大地が割れ、那由多度に煮え滾る業火を地獄から吹き上げた! ズゴゴゴゴガガ……マグマが滾ったまま連立する巨大灯篭の如く隆起し散減大量焼却! 振り返った御戌神の目に陰る穢れも、紅の影で焼き溶かされていく。 「……クゥン……」  小さく子犬のような声を発する御戌神。私は憤怒相を収め、その隣に立つ。彼の両眼からは止めどなく饐えた涙が零れ、その度に日蝕が晴れていく。気がつけば空は殆ど薄暗い黄昏時になっていた。闇夜を迎える空、赤く燃える月と青く輝く太陽が並ぶ大地。天と地の光彩が逆転したこの瞬間、私達は互いが互いの前世の声を聞いた。 『不思議だ。あの火柱見てると、ぼくの飢えが消えてく。お不動様はどんな法力を?』 ༼ なに、特別な力ではない。あれは慈悲というものだ ༽ 『じひ』  徳松がドマルの手を握った。ドマルの目の奥に、憎しみや悲しみとは異なる熱が込み上がる。 『救済の事で?』 ༼ ……ま、その類いといえばそうか。童よ、あなたは自分を生贄にした衆生が憎いか? ༽  徳松は首を横に振る。 『ううん、これっぽっちも。だってぼく、みんなを救済した神様なんだから』  すると今度はドマルが両手で徳松の手を包み、そのまま深々と合掌した。 ༼ なら、あなたはもう大丈夫だ。衆生との縁に飢える事は、今後二度とあるまい ༽
གསུམ་པ་
 時刻は……わからないけど、日は完全に沈んだ。私も青木さんも地面に大の字で倒れ、炎上するコンビニや隆起した柱状節理まみれの駐車場を呆然と眺めている。 「……アーーー……」  ふと青木さんが、ずっと咥えっ放しだったキョンジャクを口から取り出した。それを泥まみれの白ニットで拭い、私に返そうとして……止めた。 「……洗ってからせにゃ」 「いいですよ。この後まだいっぱい戦うもん」 「大散減とも? おったまげ」  青木さんにキョンジャクを返してもらった。 「実は、まだ学生の時……友達が僕に、『彼女にしたい芸能人は?』って質問を。けど特に思いつかなくて、その時期『非常勤刑事』やってたので紅一美ちゃんと。そしたら今回、本当にしたたびさんが……これが縁ってやつなら、ちぃと申し訳ないかもだ」 「青木さんもですか」 「え?」 「私も実は、この間雑誌で『好きな男性のタイプは何ですか』って聞かれて、なんか適当に答えたんですけど……『高身長でわんこ顔な方言男子』とかそんなの」 「そりゃ……ふふっ。いやけど、僕とは全然違うイメージだったかもでしょ?」 「そうなんですよ。だから青木さんの素顔初めて見た時、キュンときたっていうより『あ、実在するとこんな感じなの!?』って思っちゃったです。……なんかすいません」  その時、遠くでズーンと地鳴りのような音がした。蜃気楼の向こうに耳をそばだてると、怒号や悲鳴のような声。どうやら敵の大将が地上に現れたようだ。 「行くので?」 「大丈夫。必ず戻ってきます」  私は重い体を立ち上げ、ティグクとキョンジャクに再び炎を纏った。そして山頂の御戌神社へ出発…… 「きゃっ!」  しようとした瞬間、何かに服の裾を掴まれたかのような感覚。転びそうになって咄嗟にティグクの柄をつく。足下を見ると、小さなエネルギー眼がピンのように私の影を地面と縫いつけている。 ༼ そうはならんだ��、小心者娘 ༽ 「ちょ、ドマル!?」  一方青木さんの方も、徳松に体を勝手に動かされ始めた。輝く両目から声がする。 『バカ! あそこまで話しといて告白しねえなど!��� このボボ知らず!』 「ぼっ、ぼっ、ボボ知らずでねえ! 嘘こくなぁぁ!」  民謡の『お空で見下ろす出しゃばりな月と太陽』って、ひょっとしたら私達じゃなくてこの前世二人の方を予言してたのかも。それにしてもボボってなんだろ、南地語かな。 ༼ これだよ ༽  ドマルのエネルギー眼が炸裂し、私は何故かまた玲蘭ちゃんの童貞を殺す服に身を包んでいた。すると何故か青木さんが悶絶し始めた。 「あややっ……ちょっと、ダメ! 紅さん! そんなオチチがピチピチな……こいつはコトだ!!」  ああ、成程。ボボ知らずってそういう…… 「ってだから、私の体で検証すなーっ! ていうか、こんな事している間にも上で死闘が繰り広げられているんだ!」 ༼ だからぁ……ああもう! 何故わからないのか! ヤブユムして行けと言っているんだ、その方が生存率上がるしスマートだろ! ༽ 「あ、そういう事?」  ヤブユム。確か、固い絆で結ばれた男女の仏が合体して雌雄一体となる事で色々と超越できる、みたいな意味の仏教用語……だったはず。どうすればできるのかまではサッパリわかんないけど。 「え、えと、えと、紅さん……一美ちゃん!」 「はい……う、うん、光君!」  両前世からプレッシャーを受け、私と光君は赤面しながら唇を近付ける。 『あーもー違う! ヤブユムっていうのは……』 ༼ まーまー待て。ここは現世を生きる衆生の好きにさせてみようじゃないか ༽  そんな事言われても困る……それでも、今私と光君の想いは一つ、大散減討伐だ。うん、多分……なんとかなる! はずだ!
བཞི་པ་
 所変わって御戌神社。姿を現した大散減は地中で回復してきたらしく、幾つか継ぎ目が見えるも八本足の完全体だ。十五メートルの巨体で暴れ回り、周囲一帯を蹂躙している。鳥居は倒壊、御戌塚も跡形もなく粉々に。島民達が保身の為に作り上げた生贄の祭壇は、もはや何の意味も為さない平地と化したんだ。  そんな絶望的状況にも関わらず、大散減討伐軍は果敢に戦い続ける。五寸釘愚連隊がバイクで特攻し、河童信者はカルトで培った統率力で彼女達をサポート。玲蘭ちゃんも一枚隔てた異次元から大散減を構成する無数の霊魂を解析し、虱潰しに破壊していく。ところが、 「あグッ!」  バゴォッ!! 大散減から三メガパスカル級の水圧で射出された穢れ母乳が、河童信者の一人に直撃。信者の左半身を粉砕! 禍耶さんがキュウリの改造バイクで駆けつける。 「河童信者!」 「あ、か……禍耶の姐御……。俺の、魂を……吸収……し……」 「何言ってるの、そんな事できるわけないでしょ!?」 「……大散、ぃに、縁……取られ、嫌、……。か、っぱは……キュウリ……好き……っか……ら…………」  河童信者の瞳孔が開いた。禍耶さんの唇がわなわなと痙攣する。 「河童って馬鹿ね……最後まで馬鹿だった……。貴方の命、必ず無駄にはしないわ!」  ガバッ、キュイイィィ! 息絶えて間もない河童信者の霊魂が分解霧散する前に、キュウリバイクの給油口に吸収される。ところが魔耶さんの悲鳴! 「禍耶、上ぇっ!!」 「!」  見上げると空気を読まず飛びかかってきた大散減! 咄嗟にバイクを発進できず為す術もない禍耶さんが絶望に目を瞑った、その時。 「……え?」  ……何も起こらない。禍耶さんはそっと目を開けようとする。が、直後すぐに顔を覆った。 「眩しっ! この光は……あああっ!」  頭上には朝日のように輝く青白い戌神。そしてその光の中、轟々と燃える紅の不動明王。光と影、男と女が一つになったその究極仏は、大散減を遥か彼方に吹き飛ばし悠然と口を開いた。 「月と太陽が同時に出ている、今この時……」 「瞳に映る醜き影を、憤怒の炎で滅却する」 「「救済の時間だ!!!」」  カッ! 眩い光と底知れぬ深い影が炸裂、落下中の大散減を再びスマッシュ! 「遅くなって本当にすみません。合体に手間取っちゃって……」  御戌神が放つ輝きの中で、燃える影体の私は揺らめく。するとキュウリバイクが言葉を発した。 <問題なし! だぶか登場早すぎっすよ、くたばったのはまだ俺だけです。やっちまいましょう、姐さん!> 「そうね。行くわよ河童!」  ドルルン! 輩悪苦満誕(ハイオクまんたん)のキュウリバイクが発進! 私達も共に駆け出す。 「一美ちゃん、火の準備を!」 「もう出来ているぞぉ、カハァーーーッハハハハハハァーーー!!」  ティグクが炎を噴く! 火の輪をくぐり青白い肉弾が繰り出す! 巨大サンドバッグと化した大散減にバイクの大軍が突撃するゥゥゥ!!! 「「「ボァガギャバアアアアァァアアア!!!」」」  八本足にそれぞれ付いた顔が一斉絶叫! 中空で巻き散らかされた大散減の肉片を無数の散減に変えた! 「灰燼に帰すがいい!」  シャゴン、シャゴン、バゴホオォン!! 御戌神から波状に繰り出される光と光の合間に那由多度の影炎を込め雑魚を一掃! やはりヤブユムは強い。光源がないと力を発揮出来ない私と、偽りの闇に遮られてしまっていた光君。二人が一つになる事で、永久機関にも似た法力を得る事が出来る!  大散減は地に叩きつけられるかと思いきや、まるで地盤沈下のように地中へ潜って行ってしまった。後を追えず停車した五寸釘愚連隊が舌打ちする。 「逃げやがったわ、あの毛グモ野郎」  しかし玲蘭ちゃんは不敵な笑みを浮かべた。 「大丈夫です。大散減は結界に分散した力を補充しに行ったはず。なら、今頃……」  ズドガアアァァァアン!!! 遠くで吹き上がる火柱、そして大散減のシルエット! 「イェーイ!」  呆然と見とれていた私達の後方、数分前まで鳥居があった瓦礫の上に後女津親子と佳奈さんが立っている。 「「ドッキリ大成功ー! ぽーんぽっこぽーん!」」  ぽこぽん、シャララン! 佳奈さんと万狸ちゃんが腹鼓を打ち、斉一さんが弦を爪弾く。瞬間、ドゴーーン!! 今度は彼女らの背後でも火柱が上がった! 「あのねあのね! 地図に書いてあった星の地点をよーく探したら、やっぱり御札の貼ってある祠があったの。それで佳奈ちゃんが凄いこと閃いたんだよ!」 「その名も『ショート回路作戦』! 紙に御札とぴったり同じ絵を写して、それを鏡合わせに貼り付ける。その上に私の霊力京友禅で薄く蓋をして、その上から斉一さんが大散減から力を吸収しようとする。だけど吸い上げられた大散減のエネルギーは二枚の御札の間で行ったり来たりしながら段々滞る。そうとは知らない大散減が内側から急に突進すれば……」  ドォーーン! 万狸ちゃんと佳奈さんの超常理論を実証する火柱! 「さすがです佳奈さん! ちなみに最終学歴は?」 「だからいちご保育園だってば~、この小心者ぉ!」  こんなやり取りも随分と久しぶりな気がする。さて、この後大散減は立て続けに二度爆発した。計五回爆ぜた事になる。地図上で星のシンボルを描く地点は合計六つ、そのうち一つである食虫洞のシンボルは私がコンビニで焼却したアレだろう。 「シンボルが全滅すると、奴は何処へ行くだろうか」  斉三さんが地図を睨む。すると突如地図上に青白く輝く道順が描かれた。御戌神だ。 「でっかい大散減はなるべく広い場所へ逃走を。となると、海岸沿いかもだ。東の『いねとしサンライズビーチ』はサイクリングロードで狭いから、石見沼の下にある『石見海岸』ので」 「成程……って、君はまさか!?」 「青木君!?」  そうか、みんな知らなかったんだっけ。御戌神は遠慮がちに会釈し、かき上がったたてがみの一部を下ろして目隠れ前髪を作ってみせた。光君の面影を認識して皆は納得の表情を浮かべた。 「と……ともかく! ずっと地中でオネンネしてた大散減と違って、地の利はこちらにある。案内するので先回りを!」  御戌神が駆け出す! 私は彼が放つ輝きの中で水上スキーみたいに引っ張られ、五寸釘愚連隊や他の霊能者達も続く。いざ、石見海岸へ!
ལྔ་པ་
 御戌神の太陽の両眼は、前髪によるランプシェード効果が付与されて更に広範囲を照らせるようになった。石見沼に到着した時点で海岸の様子がはっきり見える。まずいことに、こんな時に限って海岸に島民が集まっている!? 「おいガキ共、ボートを降りろ! 早く避難所へ!」 「黙れ! こんな島のどこに安全が!? 俺達は内地へおさらばだ!」  会話から察するに、中学生位の子達が島を脱出しようと試みるのを大人達が引き止めているようだ。ところが間髪入れず陸側から迫る地響き! 危ない! 「救済せにゃ!」  石見の崖を御戌神が飛んだ! 私は光の中で身構える。着地すると同時に目の前の砂が隆起、ザボオオォォン!! 大散減出現! 「かははは、一足遅いわ!」  ズカアァァン!!! 出会い頭に強烈なティグクの一撃! 吹き飛んだ大散減は沿岸道路���破壊し民家二棟に叩きつけられた。建造物損壊と追い越し禁止線通過でダブル罪業加点! 間一髪巻き込まれずに済んだ島民達がどよめく。 「御戌様?」 「御戌様が子供達を救済したので!?」 「それより御戌様の影に映ってる火ダルマは一体!?」  その問いに、陸側から聞き覚えのある声が答える。 「ご先祖様さ!」  ブオォォン! 高級バイクに似つかわしくない凶悪なエンジン音を吹かして現れたのは加賀繍さんだ! 何故かアサッテの方向に数珠を投げ、私の正体を堂々と宣言する。 「御戌神がいくら縁切りの神だって、家族の縁は簡単に切れやしないんだ。徳川徳松を一番気にかけてたご先祖様が仏様になって、祟りを鎮めるんだよ!」 「徳松様を気にかけてた、ご先祖様……」 「まさか、将軍様など!?」 「「「徳川綱吉将軍!!」」」  私は暴れん坊な将軍様の幽霊という事になってしまった。だぶか吉宗さんじゃないけど。すると加賀繍さんの紙一重隣で大散減が復帰! 「マバゥウゥゥゥゥウウウ!!!」  神社にいた時よりも甲高い大散減の鳴き声。消耗している証拠だろう。脚も既に残り五本、ラストスパートだ! 「畳み掛けるぞ夜露死苦ッ!」  スクラムを組むように愚連隊が全方位から大散減へ突進、総長姉妹のハンマーで右前脚破壊! 「ぽんぽこぉーーー……ドロップ!!」  身動きの取れなくなった大散減に大かむろが垂直落下、左中央二脚粉砕! 「「「大師の敵ーーーっ!」」」  微弱ながら霊力を持つ河童信者達が集団投石、既に千切れかけていた左後脚切断! 「くすけー、マジムン!」  大散減の内側から玲蘭ちゃんの声。するうち黄色い閃光を放って大散減はメルトダウン! 全ての脚が落ち、最後の本体が不格好な蓮根と化した直後……地面に散らばる脚の一本の顔に、ギョロギョロと蠢く目が現れた。光君の話を思い出す。 ―八本足にそれぞれ顔がついてて、そのうち本物の顔を見つけて潰さないと死なない怪物で!― 「そうか、あっちが真の本体!」  私と光君が同時に動く! また地中に逃げようと飛び上がった大散減本体に光と影は先回りし、メロン格子状の包囲網を組んだ! 絶縁怪虫大散減、今こそお前をこの世からエンガチョしてくれるわあああああああ!! 「そこだーーーッ!! ワヤン不動ーーー!!」 「やっちゃえーーーッ!」「御戌様ーーーッ!」 「「「ワヤン不動オォーーーーーッ!!!」」」 「どおおぉぉるあぁああぁぁぁーーーーーー!!!!」  シャガンッ! 突如大量のハロゲンランプを一斉に焚いたかのように、世界が白一色の静寂に染まる。存在するものは影である私と、光に拒絶された大散減のみ。ティグクを掲げた私の両腕が夕陽を浴びた影の如く伸び、背中で燃える炎に怒れる恩師の馬頭観音相が浮かんだ時……大散減は断罪される! 「世尊妙相具我今重問彼仏子何因縁名為観世音具足妙相尊偈答無盡意汝聴観音行善応諸方所弘誓深如海歴劫不思議侍多千億仏発大清浄願我為汝略説聞名及見身心念不空過能滅諸有苦!」  仏道とは無縁の怪獣よ、己の業に叩き斬られながら私の観音行を聞け! 燃える馬頭観音と彼の骨であるティグクを仰げ! その苦痛から解放されたくば、海よりも深き意志で清浄を願う聖人の名を私がお前に文字通り刻みつけてやる! 「仮使興害意推落大火坑念彼観音力火坑変成池或漂流巨海龍魚諸鬼難念彼観音力波浪不能没或在須弥峰為人所推堕念彼観音力如日虚空住或被悪人逐堕落金剛山念彼観音力不能損一毛!!」  たとえ金剛の悪意により火口へ落とされようと、心に観音力を念ずれば火もまた涼し。苦難の海でどんな怪物と対峙しても決して沈むものか! 須弥山から突き落とされようが、金剛を邪道に蹴落とされようが、観音力は不屈だ! 「或値怨賊繞各執刀加害念彼観音力咸即起慈心或遭王難苦臨刑欲寿終念彼観音力刀尋段段壊或囚禁枷鎖手足被杻械念彼観音力釈然得解脱呪詛諸毒薬所欲害身者念彼観音力還著於本人或遇悪羅刹毒龍諸鬼等念彼観音力時悉不敢害!!」  お前達に歪められた衆生の理は全て正してくれる! 金剛有明団がどんなに強大でも、和尚様や私の魂は決して滅びぬ。磔にされていた抜苦与楽の化身は解放され、悪鬼羅刹四苦八苦を燃やす憤怒の化身として生まれ変わったんだ! 「若悪獣囲繞利牙爪可怖念彼観音力疾走無辺方蚖蛇及蝮蝎気毒煙火燃念彼観音力尋声自回去雲雷鼓掣電降雹澍大雨念彼観音力応時得消散衆生被困厄無量苦逼身観音妙智力��救世間苦!!!」  獣よ、この力を畏れろ。毒煙を吐く外道よ霧散しろ! 雷や雹が如く降り注ぐお前達の呪いから全ての衆生を救済してみせよう! 「具足神通力廣修智方便十方諸国土無刹不現身種種諸悪趣地獄鬼畜生生老病死苦以漸悉令滅真観清浄観広大智慧観悲観及慈観常願常瞻仰無垢清浄光慧日破諸闇能伏災風火普明照世間ッ!!!」  どこへ逃げても無駄だ、何度生まれ変わってでも憤怒の化身は蘇るだろう! お前達のいかなる鬼畜的所業も潰えるんだ。瞳に映る慈悲深き菩薩、そして汚れなき聖なる光と共に偽りの闇を葬り去る! 「悲体戒雷震慈意妙大雲澍甘露法雨滅除煩悩燄諍訟経官処怖畏軍陣中念彼観音力衆怨悉退散妙音観世音梵音海潮音勝彼世間音是故須常念念念勿生疑観世音浄聖於苦悩死厄能為作依怙具一切功徳慈眼視衆生福聚海無量是故応頂……」  雷雲の如き慈悲が君臨し、雑音をかき消す潮騒の如き観音力で全てを救うんだ。目の前で粉微塵と化した大散減よ、盲目の哀れな座頭虫よ、私はお前をも苦しみなく逝去させてみせる。 「……礼ィィィーーーーーッ!!!」  ダカアアアアァァアアン!!!! 光が飛散した夜空の下。呪われた気枯地、千里が島を大いなる光と影の化身が無量の炎で叩き割った。その背後で滅んだ醜き怪獣は、業一つない純粋な粒子となって分解霧散。それはこの地に新たな魂が生まれるための糧となり、やがて衆生に縁を育むだろう。  時は亥の刻、石見海岸。ここ千里が島で縁が結ばれた全ての仲間達が勝利に湧き、歓喜と安堵に包まれた。その騒ぎに乗じて私と光君は、今度こそ人目も憚らず唇を重ね合った。
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monqu1y · 4 years ago
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国を蝕み弱める五つの害虫  聖人のまねをしても、昔と事情が違う今の世の中で上手くいくはずがない。野良仕事を止め、 以前 ( まえ ) に兎が 打 ( ぶ ) つかって 転 ( ころ ) んだ木の根っこを見守り続けて、次に兎が 打 ( ぶ ) つかるのを待つ男の 二の舞 ( にのまい ) になる。 ⦅興国四具[韓非]から続く⦆
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[国を滅ぼす害虫]は、次の五つ。王様が駆除せず放置していたら、遠からず国は滅びる。 1_学者:今になっても昔の聖人をたたえて[仁義]を看板に使い、もっともらしい服装や態度、飾り立てた言葉によって、現行の法に異議をとなえ、王様の心を乱している。 〖仁徳者の意味〗  王様の個人的仁徳に頼る儒家の「教え]は、国を 保 ( たも ) つ上で、有害無益(因みに、「焚書坑儒」は、韓非の思想を実行したものだと言われている)。  孟子は「幼児が深い井戸の側を歩いていて、その中に落っこちそうになるのを見れば誰もが手を伸ばして助けようとする。これは、幼児の親に恩を売ろうとか、他人に褒めてもらいたいとかではなく純粋に善意から出た行い。人には無償の善意がある」と言ったが、明らかに間違っている。「人は性悪。偏った考えで不正をし、無秩序になれば困るので、王様を尊敬させ、礼儀を教えたり、法律を作って犯罪を取り締まったりして、社会の安全を守れば、[善]となる」と 説 ( と ) く聖人も居た。   糠 ( ぬか ) さえ腹いっぱい食べられない者が白米や肉を食べたいと思うだろうか。  粗末な 木綿 ( もめん ) も着られない者が色鮮やかな絹を着たいと思うだろうか。  政治を行う場合にも、火急の問題が解決しないうちに、不急のことに力を用いるべきではない。  高尚で 難 ( むずか ) しい言葉を使う者は賢者と言われ、人をだまさない[貞信]な人物は仁者と呼ばれているが、広く国民に知らせるべき法を、難しい言葉で書いても、国民が理解することはできない。高尚で難しい言葉など無用だ。  無位無官の者なら、人を利益で動かす財力も押さえつける権力もなく、人をだまさない人物に頼りたくなるかもしれないが、王様は、人を統率し、国の財力を使うことができる。賞罰を加える権限を使い、[術]によって家来の正体を見抜こうとすれば、たとえ相手が 田常 ( でんじょう ) や 子罕 ( しかん ) のような 姦臣 ( かんしん ) だろうとも、だまされるわけがない。  数少ない[貞信]な人物だけでは何千何百とある官職を 充 ( み ) たすことはできず、官吏が少なくなれば、犯罪の取締りが行き届かなくなって、治安が悪化する。  [法・術]に 長 ( た ) けた王様に必要なのは、法の確実な執行であって、人徳者を求めたり、人の誠実さに頼ったりすることではない。 〖天網恢恢〗   子産 ( しさん ) (孔子に評価されている人物)が外出したときのこと、彼の馬車が 東匠 ( とうしょう ) の村の入口を通りかかると、死者を 悼 ( いた ) む女の泣き声が聞こえてきた。  子産は御者の手をおさえて車をとめ、しばらくの間聞きいっていたが、役人をさし向けると、女をとらえて尋問した。  女は自分の夫を絞殺したことを白状した。  後日、御者はこう尋ねた。「どうしておわかりになったのですか」。  子産はこう答えた。  「あの泣き声におそれがあったからだ。人は自分と親しい者が病気になると、まず心配し、死ぬときはおそれ、死んでからは悲しむ。ところがあの女は、死んだ者を悲しんで泣いているはずなのに、泣き声には悲しみがなくおそれがあった。さては何かがあるなと思ったのだ」。  ある人が言った、「子産の政治のやり方は、ご苦労なこと。自分の耳や目に頼らなければ悪事がわからないようでは、鄭の国では捕まる悪者はさぞ少なかろう。刑吏にまかせず、比較検討の方法によらず、法の基準を明らかにせず、ただ自分一人の耳と目を使い、知恵をしぼって、悪人を見つけようというのだ。策のない話ではないか。それに、対象としなければならない物は数多いのに対し、自分一人の知恵はわずかなものだ。少ないもので多いものに勝つことはできない。人間の知恵では、物を知りつくすことはできないのだ。だから、物は物によって治めねばならない。同様に、下にいるものは多いが、上にいるものは少ない。少ないものは多いものに勝てない。すなわち、王様は家来を知りつくすことはできないのだ。だから家来のことは家来自身によって知らねばならない。こうしてこそ、体を使わなくても万事は治まり、頭を使わなくても悪者を捕まえることができる。 宋 ( そう ) の国にこういう言葉がある『雀が一羽空を飛ぶ それを必ず落とすのは いくら 羿 ( げい ) (弓の名人)でも無理なこと天下に網をめぐらせば 逃げる雀はいなくなる』。悪人を見つけるにも、天下に張りむぐらした網があれば、一人として逃がすものではない。この理を知らず、自分の推察を弓矢として使うのでは、いくら子産でも必中は無理だ。『知恵で国を治める者は国に害を及ぼす』という老子の言葉は、子産にあてはまるだろう」と。 〖恥を 雪 ( すす ) ぐ〗   斉 ( せい ) の 桓 ( かん ) 公が酒に酔って、冠をなくした。  それを恥じてひきこもり、三日たっても朝廷に姿を見せなかった。  宰相の 管仲 ( かんちゅう ) が桓公をこう 諭 ( さと ) した。  「こんなことは、王様としての恥とは言えない。善政をもってつぐなえばよろしいのです」。  「なるほど」。と言って、倉を開いて貧しい国民に 施 ( ほどこ ) しをし、囚人を調査して、罪の軽い者を釈放した。  三日たつと、国民はこんな歌を歌った。  「お殿様、お殿様、どうか、もう一度冠をなくしてくださいな」。  ある人が言った、「管仲は 小人 ( しょうじん ) ��対しては桓公の恥を雪いだが、君子に対して新たに恥をかかせたのだ。桓公が貧困者のために倉を開いて食料を与え、囚人を調査して罪の軽い者を釈放したことが[義]でないとすれば、それで恥を雪ぐことはできない。ところがそれが[義]であるとすれば、桓公は[義]を行わずに保留しておき、冠をなくすのを待っていたことになる。つまり、桓公は冠をなくしたから、[義]を行ったのだ。すなわち、小人に対しては冠をなくしたという恥を雪いだが、君子に対して、新しく、[義]をおろそかにしていたという恥をかかせたわけだ。そればかりではない。倉を開いて貧乏人に食料を与えることは、功績のない者に賞を与えること。囚人を調査して罪の軽い者を釈放するのは、悪人に罰を加えぬこと。功績のない者に賞を与えれば、国民はつけあがって高い望みを持つ。悪人に罰を加えなければ、国民は平気で悪事をはたらく。これは世を乱す 本 ( もと ) だ。恥を雪ぐなどと言えたものではない」と。 〖矛盾〗   歴山 ( れきざん ) で農民が 田地 ( でんち ) の境界を争っていた。   舜 ( しゅん ) が出��けてともに農耕にしたがったところ、一年にして境界のあぜは正しく定まった。  黄河の漁師が釣場を奪いあっていた。舜が出かけて漁師の仲間に加わると、一年で釣場は年長者に譲られるようになった。   東夷 ( とうい ) の陶工が作る陶器は粗悪だった。ところが舜が出かけて一緒に作るようになると、一年で陶器は立派になった。  この話を聞いて孔子は感嘆した。  「農業といい、漁業といい、陶器作りといい、本来の職分ではないのに、舜自ら赴いたのは、間違いをなおすためだ。これは何と立派な[仁]だろうか。自ら労働を実践することによって、国民を習わせたのだ。これこそ聖人の徳の力というものだろう」。  ある人が儒者に尋ねた。  「このとき、 堯 ( ぎょう ) は何をしていたのか」。  「堯は天子だった」と、儒者は答えた。  そこで、ある人が反論する、「それならば、孔子が堯のことを聖人というのは、どんなものだろうか。すべてを見とおす聖人が天子の位にあれば、天下からすべての悪を追い払えるはずだ。もし天子として堯がそうしていたのなら、農民も漁師も争うわけがないし、陶器が粗悪なはずもない。そうなれば、舜は徳を施すすべがない。だから、舜が間違いを正したことは、堯に失政があったことを意味する。舜を賢人というならば、堯がすべてを見とおす聖人だったということはできない。堯を聖人というならば、舜が徳を施したということはできない。両立は不可能である」と。   楚 ( そ ) の国に 盾 ( たて ) と 矛 ( ほこ ) とを売る男がいた。  男はまず自分の売る盾の宣伝をした。  「この盾の丈夫さときたら、たいしたものだ。何で突いたって、突き通せるものではない」。  次に、男は矛の宣伝をした。  「この矛の鋭さときたら、たいしたものだ。どんなものだって、突き通せないものはない」。  ある人が尋ねた。  「その矛でその盾を突いたら、どうなる」。  男は返答できなかった。  何よっても突き通すことのできない盾と、何でも突き通すことのできる矛とが、同時に存在することはできない。  堯と舜とを同時に誉めたたえることができないのは、この盾と矛の例えと同じだ。  また、舜がなおした間違いは一年にひとつ、三年で三つだ。  舜は一人しかいないし、その寿命には限りがある。ところが、世の中の間違いには限りがない。限りがあるもので、限りのないものを追求したところで、いくらも防げるものではない。なおせる間違いはものの数ではない。  ところが、賞罰によるならば、世の中の間違いは必ず防ぐことができる。  「法にかなう者には賞を与え、はずれる者には罰を加える」と、命令を出せばその日のうちに、国民はこれに従うようになる。  十日も経てば、命令は国中に行き渡るだろう。一年もかけることはないのだ。  舜は、堯に賞罰をつかわせようとせず、わざわざ自分で出かけた。  知恵のない話ではないか。  それに、自ら労働を実践して国民を導くことは、堯や舜にとってさえ難事業だった。  だが、権威の力によって国民を正すことなら、[法・術]に 長 ( た ) けた王様でなくともできる。  政治を行うのに、どんな王様にでもできる方法をとらず、堯や舜でさえ難しい方法を使おうというのだ。 〖昔と今の違い〗  大昔の世、まだ人間は少なく、獣や蛇の方が数多くいたから、人間はそれらに対抗することはできなかった。そこに一人の聖人が現れた。彼は木の上に鳥の巣のような家をこしらえて、人間が獣や蛇の害を避けるようにしてやった。  国民は喜んで、彼を王として迎え、 有巣 ( ゆうそう ) 氏と呼んだ。  また、人間はそのころ草木の実や貝類を 生 ( なま ) のままで食べていた。  食べ物は生臭く、悪臭をはなち、胃腸をこわして病気になる者が多かった。  そこに一人の聖人が現れ、木をこすりあわせて火をおこし、生の食べ物に火を加えるようにした。  国民は喜んで、彼を王として迎え、 燧人 ( すいじん ) 氏と呼んだ。  時代はくだり、天下に大洪水が起きたことがあった。  そのとき、 鯀 ( こん ) と 禹 ( う ) が排水路を切り開いた。  もし、 禹 ( う ) の時代になってから、木の上に家をこしらえたり、木をこすりあわせて火をおこしたりする者がいたら、 鯀 ( こん ) と 禹 ( う ) に笑われたに違いない。  さらに時代はくだって、 夏 ( か ) の 桀 ( けつ ) と 殷 ( いん ) の 紂 ( ちゅう ) が暴政をしいたときのこと、殷の 湯 ( とう ) と 周 ( しゅう ) の 武 ( ぶ ) がそれぞれ彼らを倒した。  殷・周の時代になってから、排水路を切り開く者がいたら、湯と武に笑われたに違いない。  とすれば、昔の聖人である 堯 ( ぎょう ) ・ 舜 ( しゅん ) ・ 湯 ( とう ) ・ 武 ( ぶ ) のとった方法を、現在世の中でそのまま手本にする者が、新しい時代の新しい聖人に笑われることも、またたしかだ。聖人とは、昔にとらわれ一定不変の基準に固執する者ではない。現在を問題とし、その解決をはかる者をいうのだ。  宋の国で、ある男が畑を耕していた。そこへウサギがとびだし、畑の中の切り株にぶつかり、首を折って死んだ。それからというもの、彼は畑仕事をやめにして、毎日切り株を見張っていた。もう一度ウサギを手に入れようと思ったのだ。でも、ウサギはそれっきり出てこない。彼は国中の笑い者になったという。  昔の聖人のやり方のまねで、現在の政治ができると思っている者は、この切り株を見張った男の同類だ。  昔は男が畑仕事をしなくても、食べ物は草木の実で足りた。女が布を織らなくとも、着る物は鳥の羽根や獣の皮が十分あった。働かなくても生活にこと欠かず、人口は少なく、財物はありあまっていたので、国民の争いはなかった。だから、厚賞重罰を用いるまでもなく、国民は自然に治まっていたのだ。  ところが今は違う。一人で五人の子持ちはめずらしくないから、子供の子供がまた五人ずつとして、祖父の在世中に孫が二十五人もいることになる。こうして人口が増加する割りに物資が増えないから、いくら働いても生活は楽にならない。そのため、国民の間に争いが起こる。どんなに賞罰を強化しても、世の中は乱れずにはすまない。  かって 堯 ( ぎょう ) が王だったときには、王のすみかは、屋根切りそろえないままの 茅 ( かや ) で、たる木は丸太のままの 櫟 ( くぬぎ ) という粗末な家だった。また、王の食べ物は、粗末な 粥 ( かゆ ) とアカザや豆の葉の煮汁であり、王の衣服は、冬は鹿の皮、夏は 葛 ( かずら ) だった。  今なら門番の暮らしでさえこれほど質素ではない。   禹 ( う ) が王のときには、みずからすきくわを手にして国民の先頭に立ち、ふくらはぎの肉がなくなり、すねの毛がすり切れるほど働いた。  現在の奴隷の労働でさえこれほど苦しくはない。  こうしてみると、昔、天子の位を譲ることは、門番の暮らし、奴隷の労働を捨てることにほかならなかった。天下を譲るとはいっても、たいしたことではなかったわけだ。  ところが今では、県知事ともなると、自分が死んだ後も子孫が馬車を乗りまわすほどだ。今の県知事が重視されるのはこのためだ。  つまり、人が地位を退く場合、昔の王は簡単にやめ、今の県知事がなかなかやめないのは、位の実益があるからだ。  水を谷まで汲みに行かねばならない山の住民は、 髏臘 ( ろうろう ) の祭に水を贈り物にするという。  ところが、水害に苦しむ低地の住民は、反対に人をやとって排水路をつくっている。  また、不作の年があけた春には、いとけない弟にさえ食べ物を分けてやらないのに、豊作の秋ならば、通りすがりの旅人でも必ずもてなすが、これもけっして肉親を粗末にし、旅人を大切にするわけではない。現実に食べ物の量が違うからだ。  これと同じく、昔、財物を軽んじていたのも、[仁]という徳目のためではなく、財物そのものがありあまっていたからだ。現在、財物を奪いあうのは、道徳が低下したのではなく、財物そのものが少なくなったからだ。  王位をやすやすと譲ったのも、人格が高潔なのではなく、王位そのものの権威が低かったからだ。  現在、県知事の座を争うのは、争う人の人格が下等なのではなく、県知事そのものの実権が大きいからだ。  量・実益の多少こそが、今、新しい聖人が政治を行うにあたっての基準だ。  昔、罰が軽かったのは、治める者が慈悲深かったからではない。今、罰が重いのは、治める者が残虐だからではない。世の中の変化に応じて、そう変わったのだ。だから、「時代とともに、物事は変わり、物事に応じて、対処の仕方もかわる」ことを知らなければならない。  [ 仁 ( じん ) ]は、儒家の説く最高徳目。慈愛、博愛の意味に近い。それは堯・舜など古代の天子が実現していたとされる。儒家は、堯・舜の時代の[仁]にならうことを主張した。  昔、周の 文 ( ぶん ) 王は、 豊 ( ほう ) ・ 鎬 ( こう ) の間に百里平方の領土を持ち、[仁義]による政治を行って野蛮な 西戎 ( せいじゅう ) をてなづけ、天下を統一した。  その後、 徐 ( じょ ) の 偃 ( えん ) 王は、漢水の東に五百里平方の領土を持ち、[仁義]の政治を行い、その結果、領土を献上して徐に朝貢する国は三十六を数えた。自国を攻められるのを恐れた 楚 ( そ ) の文王が、先手を打って徐を滅ぼした。  つまり、周の文王は[仁義]の政治によって天下を統一したが、徐の偃王は[仁義]の政治によって、国を失ったのだ。  昔役に立った[仁義]が、今では役立たないということが、これでわかる。  舜の時代、 有苗 ( ゆうびょう ) という蛮族が反乱をおこした。   禹 ( う ) が征伐しようとすると、舜はこう言った。  「それはいけない。こちらの道徳ができていないのに武力を使うのは、正しいやり方ではない」。  それから三年というもの、修養に努めてから、舜が 盾 ( たて ) と 斧 ( おの ) をとって舞楽を舞うと、それだけで有苗は帰順したのだった。  ところが、その後、 共工 ( きょうこう ) (伝説中の舜の対立者)との戦いでは、鉄の 槍 ( やり ) は敵陣に届くほど長くなり、堅固でない甲冑では、体を傷つけられたという。盾や斧の舞いは昔は役に立ったが、今では役に立たないというのがわかる。  古くは、国は道徳を競いあい、次に智謀を競いあい、今や、競いあうのは力だ。   斉 ( せい ) が 魯 ( ろ ) を攻めようとしたときのこと、魯では 子貢 ( しこう ) (孔子の弟子)を使者として斉に送り、魯を攻めることの不利益を説かせた。斉の答えはこうだった。「あなたの言葉はごもっともだが、我々が欲しいのは領土であって、あなたの言葉ではない」。そして、斉は魯にむけて兵を起こし、魯の城門から十里の所まで領土を拡げた。  [仁義]の政治を行った徐は滅ぼされ、子貢の雄弁に関わらず魯の領土は削られたことからも、[仁義]や雄弁は、国を保持する力ではないことがわかる。徐や魯が[仁義]や雄弁を使わず、力によって立ち向かったとしたら、相手がいかに大国の斉や 楚 ( そ ) でも、この二国を思いのままにはできなかっただろう。   儒家 ( じゅか ) や 墨家 ( ぼくか ) の学者どもは、「昔の聖人は天下の国民すべてを愛し、わが子を見る親のようだった…刑吏が刑を執行するとき、王は音楽を慎んだ。死刑の判決を知ると、涙を流した」と言って、昔の聖人をたたえている。  しかし、王様の国民への愛で政治が行えるというのは 幻想 ( げんそう ) にすぎない。  刑をのぞまず涙を流したのは、[仁]によったからだが、それにもかかわらず、刑を執行したのは、法によったからだ。昔の聖人でさえ、涙を流しながらも結局は法に従ったではないか。  天下にかくれのない聖人である孔子でさえ、自らの体得した学問道徳を天下に説いたとき、彼の説く[仁義]に感服して弟子となった者はわずか七十人、[仁義]を身につけたのは孔子一人だった。  一方、[法・術]に 長 ( た ) けた王様とはいえない 魯 ( ろ ) の 哀 ( あい ) 公でさえ、ひとたび王位につくや、領民のうち誰一人としてその支配を拒む者はなかった。  国民はもともと権力のままになびくもの。権力はたやすく国民を服従させるものだ。  だからこそ、孔子が家来、哀公が王様という関係ができあがった。  孔子は哀公の[義]にひかれたのではない。その権力に服従したのだ。  つまり、[義]という点では、哀公は孔子に及びもつかないが、権力を使えばその哀公でさえ孔子を家来とすることができるのだ。  今の学者どもは、王様に、権力を使うことを薦めず、[仁義]に努めるよう 説 ( と ) いている。  王様という平凡な人間に孔子の弟子のようになれと言ってもムリな話だ。  スープを用意できないのに、餓えた人に食事を進めるのでは、餓えた人を生かすことにならない。草地を切り開き穀物を作ることもできないのに、民に物を貸し、施し、また褒美をあたえることを勧めるのは、民衆を豊かにさせることにならない。今の学者の言葉は、根本を論じないで、末端にこだわり、空虚な聖人のことばを唱えて民衆を悦ばすことしか知らない。これは絵に描いた餅と同じである。このような議論を、[法・術]に 長 ( た ) けた王様は決して受け入れたりしない。  墨子の博愛主義は絵空事、深遠広大な論は実用できない。墨翟は、天下に明察と認められたが、世の乱れを解決できなかった。  墨子が雄弁ではない理由を問われて田鳩は答えた、「昔、秦伯がその娘を晋の公子に嫁がせたとき、行列を飾り立て、美しい刺繍を施した衣を着た腰元七十人を従えて晋に行かせました。晋の人々はその腰元の中の妾を大切にして公女を大切にしませんでした。これでは妾を立派に嫁がせたと言えるのであって、公女を立派に嫁がせたとは言えません。楚の人で宝玉を鄭へ売る者がおりました。木蘭の櫃を作って入れ、桂椒の香で香りづけし、真珠を綴ったものをかけ、玫瑰で飾り、翡翠を連ねました。鄭の人はその櫃を買い、中の宝玉を返しました。これは立派に櫃を売ったと言えるのであって、立派に宝玉を売ったとは言えません。今の世の論説を見ますに、皆言葉巧みに飾り立てたものばかりです。世の君主はその飾られた文ばかりに気を取られ有用かどうかは考えません。墨子の言説は先王の道を伝え、聖人の言葉を論じ、人々に告げ知らしめるものです。もしその言葉を巧みにしますと、恐らく人々はその飾られた文に気を取られ、その本質を考えないでしょう。飾られた文によってその有用性が損なわれてしまいます。これは楚の人が宝玉を売り、秦伯が娘を嫁がせるのと同じことです。ですから言葉数は多くても雄弁には致しません」と。  墨子が木鳶を作ったとき、三年かかって完成したが、飛ばしたところ一日で壊れた。  弟子が言った、「先生の技巧は木で作った鳶を飛ばせてしまうほどです」と。  墨子は言った、「私は車の梶棒を作る者の技巧には及ばない。八寸か一尺の木材を用いて、ひと朝ほどの時間もかけずに作り、しかも三十石の荷を引き、遠くへ運べるほど力が強く、長い年月保つことができる。今、私は鳶を作ったが三年もかかって作り、飛ばしたところ一日で壊れたのだ」と。  恵子がこれを聞いて言った、墨子は技巧というものを心得ている。梶棒を作ることを技巧であると言い、鳶を作ることを拙いと言ったのだ」と。   郢 ( えい ) ( 楚 ( そ ) の都)の人が、夜、 燕 ( えん ) の宰相にあてて手紙を書いていた。  灯りが暗いので、燭台を掲げている係りに、「灯りを挙げよ」と命じた。  その時つい間違って手紙の中に、‘灯りを挙げよ’と書きこんでしまった。  燕の宰相は手紙を受けとると、「灯りを挙げよとは、明をたっとべということだ。つまり賢人を任用せよということだな」。  よろこんで国王に上奏した。  国王も感心して賢人を用いたので、国はよく治まった。  治まることは治まったが、それは手紙の言わんとすることではなかった。  くつを買おうとした 鄭 ( てい ) の男の話。  この男は、足の寸法を計ってひかえておいたのに、くつを買いに行くとき、持っていくのを忘れてしまった。  くつを買う段になってこの男、「寸法書きを忘れてきたから」といって、家に取りに戻った。  寸法書きを持ってきたときには、店はもう閉まっていて、くつは買えなかった。  誰かが、「その場で、足に合わせてみればいいのに」と言うと、男の答えるには、「足なんか信用できない。寸法書きの方が確かだよ」。  子供たちがままごと遊びをしているときには、土が飯であり、ドロが汁であり、木片が肉だ。  しかし、夕方、家に帰って食べるのは、本当の食べ物だ。  土やドロは玩具であって、実際に食べることはできないからだ。  大昔の伝説を誉めたたえる者は、言葉はりっぱだが実際の役には立たない。  昔の聖人の[仁義]を口にしても、国を治めることはできない。  これも玩具であって、実際の役に立たないのだ。   伯楽 ( はくらく ) (伝説的な馬の鑑定・調教名人)は嫌いな相手に名馬の鑑定法を教え、気に入った相手には駄馬の鑑定法を教えた。  名馬は、そうめったに現れるものではないから、鑑定人の利益も少ない。  ところが駄馬となると毎日のように売買されるから、利益が大きいというわけだ。   周書 ( しゅうしょ ) に「程度の低い言葉が、ときとして高度の役に立つ」というが、これもその一例だろう。   桓赫 ( かんかく ) がこう言った。  彫刻をするときには、鼻は大きいほどよく、眼は小さいほどよい。  大きすぎる鼻は小さくできるが、小さすぎる鼻は大きくはできない。  小さすぎる眼は大きくできるが、大きすぎる眼は小さくはできない。  [仁義]に 惹 ( ひ ) かれて国を弱めたのが、 三晋 ( さんしん ) (韓・魏・趙)だ。  [仁義]に惹かれることなく、国を強大にしたのが、 秦 ( しん ) だ。  その秦が今になっても天下を統一できないのは、まだ政治が完全でないからだ。   鄭 ( てい ) 県の 卜子 ( ぼくし ) という者が、妻にズボンをつくらせた。  妻が尋ねた。  「今度は、どんなのがよろしいでしょう」。  「前のと同じにしてくれ」。  妻は新しいズボンを破って、はきふるしたズボンと同じにした。  卜子の妻は町に行って、スッポンを買った。  帰り道、 潁 ( えい ) 水まで来た。  スッポンも喉が渇いているだろう、水を飲ませてやろうと思って、水の中に放した。  スッポンは逃げてしまった。  ある男が、年寄りの相手をして酒を飲んだ。年寄りが一杯飲むと自分も一杯飲んだ。  また、 魯 ( ろ ) の国に、行儀を気にする男がいた。年寄りが酒を口に含んだが飲めずに吐き出した。それを見て、男もまねをして吐き出した。  また、宋の国に行儀よく見せようとする男がいた。年寄りが飲みっぷりよく 盃 ( さかずき ) を干すのを見て、飲めないくせに自分も干そうとした。 2_遊説家:うそ八百を並べ立て、外国の力を借りて私欲をとげんとし、国の利益を忘れている。  外交について意見を述べる家来は、 合従 ( がっしょう ) 派か 連衡 ( れんこう ) 派か、さもなければ個人的うらみを国の力を借りて晴らそうと��る者。  合従とは、六つの弱国を連合して 秦 ( しん ) に対抗しようとする策。「小国を救ってともに秦を討たなければ、天下すべてを失う。天下が秦のものになれば、自国を保つことも難しくなり、王様の権威は失われる」と言うが、秦に小国が連合してむかう場合、小国間の連合がくずれないとはかぎらない。連合がくずれれば、秦に乗ぜられ、兵を進めて戦えば敗れ、退いて守れば城は落ちる。  連衡とは、秦に従属して、他の弱国を攻撃しようとする策。「秦に従属しなければ、諸国から攻撃を受け、国の安全はおびやかされるだろう」と言うが、秦に従属すれば、 版図 ( はんと ) (戸籍と地図)を献上して領土をまかせ、 印璽 ( いんじ ) を献上して保護を 乞 ( こ ) わなければならない。版図を献上すれば領土は削られ、印璽を献上すれば国の名誉は地に落ちる。領土が削られれば国は弱まり、名誉が地に落ちれば、政治は乱れる。  連衡策をとって秦に従属すれば、この策を進言した者は、秦の力を借りて国内の官職を手に入れるだろう。  合従策をとって小国を救えば、この策を進言した者は、国の威を借りて小国に対して自己の利益を求めるだろう。国家の利益は未確定でも、彼らは領地をもらい厚い俸禄を手に入れる。  進言した結果が成功すれば権力を握っていつまでも重んじられるし、たとえ失敗に終わっても、財産を蓄えて引退するだけのことだ。  このように、王様が家来の進言を受けたあと、成功しないうちに進言した者の爵禄をあげ、失敗しても罰を加えないとしたら、遊説家たちがあてずっぽうの説をたてて、まぐれ当たりを期待しないわけがない。  国を滅ぼし、身を破滅させながら、王様が遊説家のでたらめに乗せられてしまうのは、王様が公益と私利の区別を知らず、遊説家の言葉の当否を察することができない上に、失敗しても罰を加えないからだ。  「外交こそは、大きくは天下に王たるの道、さらには内政を安定させる道である」という遊説は偽りだ。  他国を攻める力を持っている国でも、内政が安定し、治安が保たれている国を攻めることはできない。  国内の政治で[法・術]を用いなければ、富国強兵は不可能、外交に頭を使っても意味がないのだ。  「袖が長けりゃ舞はじょうず、銭が多けりゃ商売繁昌」という 諺 ( ことわざ ) がある。  何か計画を立てた場合でも、国がよく治まり兵力が強大であれば簡単に成功するが、政治が乱れ兵力が弱い国では失敗し易い。  同じ計画を立てても、秦のような強国では、十回 躓 ( つまづ ) いても失敗に終わることはまれだが、 燕 ( えん ) のような弱国では、一回 躓 ( つまづ ) いただけで成功ののぞみはほとんどなくなる。差は、家来の力量ではなく、内政という元手にあるのだ。  周は秦から離れて 合従 ( がっしょう ) 策をとたことがあったが、一年にして秦に滅ばされてしまった。 衛 ( えい ) は 魏 ( ぎ ) と離れ秦と結ぶ 連衡 ( れんこう ) 策をとったが、半年で滅んでしまった。  もし、周と衛が、合従・連衡といった外交策に頼らず、内政の強化に努めていたら…法を明確に示し、賞罰を確実に行い、土地を開発して経済を豊かにし、国民に死力をつくして国を守らせていたとすれば、どんな強国でも、この堅城の下に兵を疲れさせ、乗ぜられ反撃をくうような愚挙を試みるはずがない。侵略しても利益少なく、戦えば大きな損害を被っただろうから。   楚 ( そ ) の王が 呉 ( ご ) を攻めたとき、呉は 沮衛 ( そえい ) と 厥融 ( けつゆう ) を慰問の使者として、 楚 ( そ ) 軍の陣に送った。  ところが 楚 ( そ ) の将軍は、こう言った。  「こいつらを縛れ。出陣の儀式だ。 犠牲 ( いけにえ ) として血を太鼓に塗ろう」。  二人を縛りあげて尋ねた。  「呉は 占 ( うらな ) いをしてから、お前たちをよこしたのか」。  「その通りだ、吉と出た」。  「殺されて、血を太鼓に塗られるのだ。それでも吉か」。  「だからこそ吉なのだ。呉が我々をよこしたのは、もともと将軍の出方を見るためなのだ。  将軍が怒れば、呉は堀を深くし、 砦 ( とりで ) を高くして備える。  怒らなければ、あわてることもない。  だから、わたしが殺されれば、呉は守りを堅くするはずだ。  また、国が占いをするのは、一臣のためではない。  一臣が殺されることによって一国が救われるなら、まさしく吉ではないか。  またもうひとつ。死人に魂がないとしたら、血を太鼓に塗ったところで何になる。もし魂があるとしたら、いざ戦いというときに、我々は太鼓が鳴らないようにして見せよう」。   楚 ( そ ) の将軍は、これを聞くと二人を殺すのをやめた。   宋 ( そう ) の雄弁家である 児説 ( げいえつ ) は、「白馬は馬でない」という 詭弁 ( きべん ) によって、 斉 ( せい ) の 稷下 ( しょくか ) に集まった学者たちを屈服させていた。  その彼が、白馬に乗って関所を通ったことがあった。  ところが、やはり馬として通行税を取りたてられた。  すなわち空論によって国中の学者を屈服させることはできても、実物に当たって点検すれば、関所の役人一人だますことさえできないのだ。  「白馬は馬でない」…「馬」という概念には、白馬も栗毛も黒馬も含まれている。ところが、「白馬」という概念には、栗毛や黒馬は含まれない。故に、「白馬は馬でない」。このような論法は 名家 ( めいか ) という学派の 公孫竜 ( こうそんりゅう ) が唱えた。  鋭い矢じりをさらに 砥 ( と ) ぎ、 弩 ( いしゆみ ) にかけて射れば、眼をつぶってでたらめに矢を放っても、矢の先端は必ずひとつの点に突き刺さる。  だが、直径五寸の的を設置し十歩離れて狙うとすれば、 羿 ( げい ) や 逢蒙 ( ほうもう ) のような弓の名人でなければ必中させることはできない。  基準がなければやさしく基準があれば難しいのだ。  だから、王様が基準を持たずに聴けば、進言する者はでまかせ放題に、長広舌をふるうが、基準を持った上で聴けば、どんな知恵者でも失言をおそれ、でたらめは言わない。  王様が、進言に対して基準を持たず、ただ言葉の巧みさに感心するようであれば、口先の巧みな者が甘い汁を吸い続けることになる。   斉 ( せい ) 王の食客の一人に、絵 描 ( か ) きがいた。  あるとき、斉王が彼に尋ねた。  「いったい何を描くのが難しいか」。  「犬や馬でございます」。  「では何がやさしいか」。  「化物でございます」。  誰でも犬や馬は知っていて、毎日その物を目にしている。  だから、いい加減には描けないのだ。  一方、化物の類は、もともと形がなく、誰も見たことがない。  どう描いてもいいからやさしいというわけだ。 3_遊侠:徒党を組んで義侠を結び、暴力による抗争をして名をあげようする。  犯罪者として処罰されながら、兄弟に危害を加えた相手に復讐すれば 廉 ( れん ) として賞讃され、友人を辱めた相手に友人と一緒に報復すれば 貞 ( てい ) として賞讃される。世間の評判を気にして「廉」や「貞」を処罰の対象としなければ、国民が力を競って争い、役人の手にあまるようになる。  暴力によって国法を 蔑 ( ないがし ) ろにする遊侠の徒を赦してはならない。 4_側近:私財を蓄え、賄賂によって有力者にとりいり、戦士の功労を握りつぶしている。   衛 ( えい ) のある男が、娘を嫁にやるとき、こう教えた、「できるだけへそくりをためることだ。嫁に行っても追い出されるのはごく当たり前のこと、ずっと居られる方がまれだからな」と。  娘は嫁入り先で、こっそりへそくりをためていったが、やがてそれがばれて、姑に追い出されてしまった��しかし、娘が家に帰ったとき、持ち物は嫁に行ったときの倍となっていた。   親父 ( おやじ ) は娘に教えたことが間違っていたと悟るどころか、財産を増やしたのは、賢明だった、と自慢した。近ごろの官僚連中も、みなこれと同じ穴のムジナだ。  楊朱は宋国の東を通ったとき、宿屋に泊まった。そこには召し使いの女が二人いたが、同じ召し使いでも醜い方が格上、美しい方が格下だった。  不思議に思った楊朱がわけを尋ねると、宿屋の主人がこう答えた、「美しい女は、自分でも自分のことを美しいと思うておるもの。わしにはそんな女、美しいとは思えなんだ。一方醜い女は、自分でも自分は見にくいと思うておる。わしにはこんな女を醜いとは思えなんだ」と。  これを聞いた楊朱は弟子に言った、「行いがりっぱであり、しかも決して自分のことを立派だと思わぬような人は、どこへ行っても必ずその真価が認められようぞ」と。 5_商人:ろくでもない容器や贅沢品を買いだめし、時期をみてはそれを売って、農民が苦労して得るのと同じ利益を、労せずしてむさぼっている。  国民は、危険を避けるため有力者を頼って兵役を逃れようとし、要職者に賄賂を贈って便宜を図ってもらおうとする。その思惑が叶えられるなら、利己をはかる者がはびこり、国に尽くす者はいなくなる。  側近を通して請願すれば爵位が金で買えるようでは、商人らの身分を下げることはできない。  不正に 儲 ( もう ) けた金が市場で通用すれば、商人の数は減らない。  儲けが農業の倍あって農民や兵士よりも身分が高いとなれば、節操ある人物が減り、商人が増えるのは、当然だろう。  [法・術]に 長 ( た ) けた王様は、商人や無為徒食する者の身分を低くして、その数を減らそうとする。 ⦅洞察六兆[韓非]に続く⦆
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skf14 · 5 years ago
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08140107
先日プレゼントしたスニーカーで地面を蹴り、靴底を擦り付け、彼は僕も含め外界の全ての情報をシャットダウンしているらしい。さっきから一言も話さず、ただただ地面を凝視しながら揺れている。流れてくる風は先ほど止んだ雨の匂いをまだ色濃く纏っていた。生臭く、青臭い土混じりの湿った匂い。
いつからか僕を追い越して嫌味なほど主張するようになった身長を、僕はただ隣で見上げていた。が、ただ時間は流れていく。照り返しも太陽も、僕には暑すぎる。それに、陽が沈んでは敵わない、と、痺れを切らして名を呼んだ。
「此岸。」
「......」
「此岸、」
「......」
「...   、」
「っ、あ、ご、ごめん、何か話してた...?」
肩をびくりと振るわせて此方を見下ろした此岸のビー玉のように丸く綺麗な目。微笑ましいな、眩しいな、と暫く見つめてから、気付いていないであろう足元を指差してやった。
「全部死んでるよ、蝸牛。」
「あっ...ごめんなさい、」
「今日は、やめておこうか。」
「いや、大丈夫。もう大丈夫。準備出来たよ、ごめんね。」
空に少しだけ空いた隙間から、鬱陶しい程主張する日光が差していた。此岸の足の下でぐしゃり、ぱきり、ぐちょり、ざりざり、粘性の伴った音と共に踏み潰されていった数多の蝸牛が水玉模様の如く、味気のなかったアスファルトに無数のユニークな模様を描いている。
「行こうか。」
「うん。」
にこり、口角を上げ差し出した手を握る此岸は、出会った頃と変わらないようにも思えて、大きくなった手だけが違和感を覚えさせた。此岸から見た僕は、どこか変わったのだろうか。横に並ぶ表情は固く、ただ目の前に鬱蒼と広がる樹海を眺めていた。
あれから10年。たった10年。
自分の身に何があったのか、ちゃんと知りたい。と言い出すまでは触れないでおこう、そう思っていた。そして、言い出した時は、全てを包み隠さず話そう、とも思っていた。覚悟が出来たのだろう、二十歳になった日の夜重い口を開いた彼を、僕はこうして連れてきた。彼の、そして僕の、終わりの始まりの場所へ。
「彼岸と此岸が出会う前の話を、少しさせてもらおう。」
僕の母は美しい人だった。もはや、その記憶しかない、と言ってもいいほどに、母の美しさは脳裏に焼き付いて、他の思い出が色褪せてしまう程に鮮やかだった。実際、父の記憶は殆どない。僕が幼い頃にいなくなった、と、それだけ母から聞かされたことを覚えているくらいだ。写真も面影も家にはなく、あるのは、僕と、母だけだった。
母は、僕のことをそれはそれは大切にした。あるだけの資産を僕に注ぎ、母の思想と、美しい物と、正しい物に囲まれて、僕は作られていった。絶対的な母という正義によって培われていった僕の常識は、世界中のどの法律よりも憲法よりも正しく、破ってはいけないものとなった。今でも、それは変わらない。
思えば僕の初めての相手は母だった。母が艶々と輝くシルクの、純白のシュミーズを肩から落とし、痩せ型な身体からは想像し難いような豊満で、張りのある乳房が脱げかけたシュミーズから溢れ出て、僕は最中に、聖母マリアを抱いていると何度も錯覚を起こした。
学校に行かずとも、友達を作らずとも、僕の全ては母が作ってくれた。だから、外に対して何も求めなかった。僕は家から出たことは殆どなかったし、それを疑問に思ったことすらなかった。全てを知れる状況で、他に興味を持てという方が難しい。
「そして母は、僕が18になった夜、首を吊った。」
白いワンピースを着て、月明かりを背に、母は天井の梁からぶら下がった。揺れる母のワンピースに、外から吹き込んだ初夏の風が当たってふわっと広がって、母の好きだったアングレカムの花を思わせる、そんな、美しく正しい死だった。
死に際、僕に何か言葉を残すこともなく、ただ、にこりと、穏やかな笑みだけを残して、世界に僕を置いていってしまった母を見て、僕は、途端に何をすればいいのか、わからなくなった。リビングに残された母の最後の手紙には、『家に火を付けて、全て綺麗にしなさい。そして、私を、自然に返して。』僕は、母からもらった手紙も服も全て何もかもを置いたまま自宅へ火をつけ、母の遺体だけをトランクに詰めて、初めて、外の世界に出た。
自然、そう言われて浮かんだのは、樹海だった。生前母は何度も、森に還るのは生き物としての本能、と説いていた。僕は本やビデオで何度も樹海を旅し、母が樹海へ帰る姿を夢想しては神々しさに震えた。正しい母は最後まで正しくあるべきだ、そう思って訪れた樹海は、酷いものだった。
「間違った人間が多過ぎる。何もかも、全て、全て全て全て!」
薄汚い服を着たまま中途半端なロープに引きずられるボロ切れのような死骸、散乱するゴミ、情けない泣き言まみれの書き置き、死に切れずに震えてテントで眠る臆病者。初めて見る外の世界が、こんなにも誤りで満ちていることに、俺は気が狂いそうになった。どこを歩いても、見えるものは地獄の沙汰だけで、俺はまたしても行先を見失った。
樹海について2日ほど、拾った死人の荷物を奪い体力を維持しながら歩き回っていた時、ふと、鼻をつく匂いがして、後ろに引きずっていたトランクの中身が気になった。開いた時、俺は、正しいものが何なのか、分からなくなった。あの美しかった母の肌が浅黒く、目は窪み虫が沸き始めて、俺は、俺は、美しい母は、最後の最後に間違えたんじゃないかと、そう思う心を捨てられなかった。
そんなはずはない。僕が正しくて母が間違っているなど、そんな世界は未来永劫あり得ない。僕も母も正しいか、母が正しく、僕はただ教えを乞うか、その二択しかあり得ない。僕が、間違ったこの場所を、間違えたままにしていたから、母をこんな目に合わせた。そう思うと、目に映るもの全てが憎悪の対象になった。
「そして俺は母を運んだその日から、この深い森で、間違えそうな人間を見つけては、正しい選択をさせ続けた。」
「...彼岸くん、」
「いつだって俺は正しい、なぜなら母が正しいから、俺が正しくないと、母も正しくなくなってしまうから、」
「彼岸くん。」
「手首を切る?あり得ない。死に切れない?あり得ない。練炭?あり得ない。逃げただけ?あり得ない。全て間違ってる。俺は吊るして、吊るして、吊るして、この森全てが母の正しさによって美しくなればいいとそればかりを願って」
「   、」
「���ッ...な、何、ごめんなさい、」
「僕だよ、此岸。それ以上噛んだら、爪、無くなっちゃう。」
そっと添えられた体温に目線を落とすと、此岸の手の中にあった僕の指先は血塗れで、所々に白桃色の肉が見え隠れしていた。此岸が取り出したハンカチをそっと被せ、傷の深い箇所を包んでくれる。
「っ...ごめん、もう着いてたね。」
「うん。僕達の、始まりの場所。」
ふと我に帰れば、僕と、此岸が出会った場所に着いていた。無意識に歩いていてもさすがは過ごした場所。順応する能力も高かった僕は、決して樹海の中でも迷わなかった。
「懐かしいね。」
「あぁ。」
「車、無くなってるね。」
「そうだな。安心した。」
僕は見覚えがない車の中で、すごく暑くて、頭がぼーっとして、でもなんだか夜遅く���で起きちゃった日の次の日の朝みたいに、うまくおはようが出来ないような、そんなもやもやした気持ちだった。
ドン、と外から何か叩かれた音で少し目を開けると、外に立っていたお兄さんが、ガラス越しに僕に向かって手を払っていた。よく分からないけど、離れろ、ってことかな、とずりずり、後部座席を這って、お兄さんから離れた。
その瞬間、大きな音でドアの間に鉄の棒が刺さって、それをぐりぐりと動かしながら、お兄さんが隙間から僕の方を見て、そして、足をねじ込んでこじ開けて、手を、差し伸べてくれた。
汗だくのお兄さんが扉からなんとか僕を引き摺り出して、そして、抱き締め車から駆け足で離れていく時、僕は小さくなっていく車を眺めていた。白くて、所々さびていて、窓が真っ黒な車だった。
僕を下ろしたお兄さんは僕に苦しくないか、痛いところはないかと聞いて、僕を一通り見た後、もう一度抱きしめてくれた。
「おにいさん、どうしたの、」
「それはこっちの台詞だ。こんな場所で、何してた。」
「わからない、僕昨日、おうちで眠って、夜中に、お母さんとお父さんが、僕の部屋に来て、つかえないから、すてましょう、7年たてば得するわ、って言ってて、僕、また眠たくなって、おにいさんに起こしてもらった。」
「......そうか。車の中からは、俺がよく見えたか?」
「?うん、お兄さん、怖い顔してたけど、あのまま寝てたら僕、暑くて溶けちゃったかもだから、ありがとうございます。」
「熱かっただろうな。目張りされてないとはいえ、あんな場所で、よりにもよってあの車を選んで放置なんて...運がない。」
「ん...?うん、暑かった、」
「お前、いくつだ。名前は。」
「僕、しらがみ、れい。漢字は、白色の白、神様の神、数字のゼロって書くの。もうすぐ9歳。お兄さんは?」
「俺は、黒崎累、19だ。」
「お名前、なんだか似てるね!」
「あの時、何があったのか、覚えてるか。」
「段々と、時間が経つごとに思い出せたよ。僕には歳の離れた病弱な兄がいて、両親は神童とも呼ばれてた兄を可愛がってた。でも、早くに亡くなったから、僕を作って、兄の代わりにしようとして、そして、失敗した。」
何か騒がしいと思って覗いていれば、こそこそと話す男女と、荷物のように抱えられた子供。男女は、よりによってあの車を色々と物色し、中に子供を置いて、お粗末な自殺風殺害現場を作り上げてから、そそくさとその場を後にした。俺が今この場で手を下すまでもない。
バカでも最低限の知恵をつけてしまう義務教育の敗北ゆえ、鍵をかけやがった車の扉をこじ開けて、扉を開けた。うとうととする男の子。一刻も早くその場から離れようと、俺は車を一度も振り返ることなく遠ざかった。こんなことがなければ触れようと思わない。
あの男女は勿論知らなかったのだろう、その車がかなり昔、農薬を使った、父親の独断による一家心中に使われ、撤去しても撤去しても必ずこの森へ帰ってくることを。
そして、恐らく見えていないであろう窓についた真っ黒な手形が全て、車の内側から付いていたことも。
「その後、彼岸くんが、僕に名前をくれたんだよね。」
「ああ。彼岸と、此岸。学のない俺にしては、いい名付けだと未だに思うよ。」
「...僕ね、どうして、名前をくれたのか、分かっちゃったんだ。」
「......察しがいいな。そうだよ。お前はもう、戸籍上は死亡してる。そして俺もだ。」
「暑いね、彼岸くん。」
「ああ、」
此岸が、まるであの日を懐古して愛おしむような表情でしゃがみ、湿った土に触れた。此岸の両親の顛末を俺から伝えるべきか、ずっと悩んでいた。あんなクソ野郎共とはいえ、親だ、なんて俺が言ってもなんの説得力もないが。
「此岸、お前の両親は、」
「僕、忘れたい事は沢山あるけど、あの日の彼岸くんだけは、絶対忘れないよ。」
「あの日の、俺?」
「うん。頼もしいお兄さんが必死になって、僕を助けてくれた、あの手。」
「...此岸、」
「一人ぼっちだった僕に、眩しい世界を教えてくれたのは、彼岸。君だ。」
「それは、俺の台詞だよ。」
「だからね、僕は過去を捨てはしないけど、今日ここに置いて行こうと思って来たんだ。」
赤の他人を恨める人間は、そう多くない。僕だって実際、殴る蹴るを繰り返してた両親はともかく、無視してた学校の友達とか、近所の人とか、先生とか、そんな人たちは気にしてなかったから。でも、僕と彼岸が出会ってから暫くして、彼岸くんがふらっと夜、出掛けたんだ。僕は気になって、トランクの中に入って追いかけた。長い時間乗っていて、僕が目が覚めた時にはもう車が止まってた。噛ませておいたドライバーを使ってトランクをそうっと開けてみると、彼岸くんが、縛られた男の人、女の人、赤ちゃんを、僕達が出会った場所に連れて来てた。
「どんな気分だ。零を捨ててから地獄が続いただろ。」
「でもなぁ、アンタより、何より、あの子が一番地獄の底にいたんだよ。」
「分かるか?あの車に、一人放置される気持ち。分からないだろうな。」
そこからただただ無言になって、彼岸くんはあの日僕を助けてくれたバールで、3人をひたすら殴っていた。所々溢れる言葉はよく分からなかったけど、でも、間違いを正す、それだけははっきりと聞こえて、僕はトランクをそっと下げて、お家に着くまでずっと、彼岸くんの買ってくれた毛布に包まってによによしてた。嬉しかったんだ。
「僕、案外彼岸のことわかってるんだよ。伊達に何年も、一緒にいないもん。」
地面を触る此岸。土に手を差し込んで、掻き回して、引き抜いたその手に纏わり付く長い黒髪。
「彼岸くんが壊れないように、世界の間違いを少しずつ正そう。」
「此岸、」
「それが、僕の願いだよ。」
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hananien · 5 years ago
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【S/D】アナ雪パロまとめ
アナ雪2の制作ドキュメンタリー面白かった。みんなで一つのものを作るって素敵だなって素直に感動しちゃった。一人でコツコツ作り上げるのも素敵だけどさ、それとはまた違うよね。
アナ雪は大好き。2でアナが超進化を遂げたのでもっと好きになった。また兄弟パロ書きたいな。
3話あるけど全部で12000字くらいなのでまとめました。
<エルサのサプライズパロ>
 弟の誕生日を祝うため、城や城下にまで大がかりなサプライズを仕込んだディーンは、過労で熱を出してしまった。キャスたちの協力もあって無事にサプライズは成功したものの、そのあとで何十年ぶりくらいに寝込むことになってしまった。  (これくらいで熱を出すなんて、おれも年をとったもんだな。そりゃ、ここのとこ狩りもあって、ろくに寝てなかったけど……。昔はそんなこと、ざらだったのに。こんなていたらくじゃ、草葉の陰から親父が泣くな)  「ディーン」 スープ皿を銀の盆に乗せて、弟のサムが寝室にやってきた。「寝てた? ちょっとでも食べれそう?」  「食べるよ。腹ぺこだ」  まだ熱のせいで頭はもうろうとしていて、空腹を感じるところまで回復してないことは自覚していたが、弟が持ってきた食料を拒否するなんて選択肢は、ディーンの中にないのだ。  サムは盆をおいて、ディーンが体を起こすのを手伝ってやった。額に乗せていた手ぬぐいを水盆に戻し、飾り枕を背中に当ててやって、自分の上着を脱いで兄の肩にかけてやる。  兄がスープをすするのを数分見つめてから、サムは切り出した。  「ディーン、今日はありがとう」  「うん」  「兄貴に祝ってもらう最初の誕生日に、こうやって世話が出来て、本当にうれしいよ(※何かあって兄弟は引き離されて大人になり、愛の力で再びくっつきました)」  「おまえそれ、いやみかよ。悪かったな面倒かけて」  「ちがうよ」 サムは少しびっくりしたように目を広げて、それから優しく微笑んだ。「本当にうれしいんだ。まあ、サプライズのほうは、あんたの頭を疑ったけど。ワーウルフ狩りで討伐隊の指揮もしてたってのに、よくあんなことやる時間あったな? 馬鹿だよ、ほんと。ルーガルーに噛まれたって、雪山で遭難したときだって、けろっとしてるあんたが、熱を出すなんて……」  「うーん」 ディーンは唸った。弟の誕生日を完璧に祝ってやりたかったのに、自分の体調のせいでぐだぐだになったあげく、こうやって真っ向から当の弟に苦言をされると堪えるのである。  「でも、そのおかげかな。こうやって二人きりでいられる」  「看病なんてお前がしなくていいんだぞ」  気難し気に眉を寄せてそっぽを向きたがるディーンの肩に手をおき、ずれてしまった上着をかけ直してやって、サムはまた優しく微笑んだ。「ずっと昔、僕らがまだ一緒にいたとき、あんたは熱を出した僕に一晩中つきそって、手を握って励ましてくれた」  そんなことを言いながらサムが手を握ってきたので、しかもディーンの利き手を両手で握ってきたので、ディーンは急に落ち着かなくなったが、すぐにその思い出の中に入り込んだ。「ああ……おまえはよく��を出す子だった。おかげで冬は湯たんぽいらずだったな」  「一緒に眠ると怒られた。兄貴に病気をうつしてもいいのかって、親父に叱られたよ」  「おれは一度もおまえから病気をもらったことなんて」  「ああ、あんた病気知らずだった。王太子の鏡だよな、その点は」  「その点はって」  「僕はその点、邪悪な弟王子だったんだ。あんたに熱がうつればいいって思ってた。そうしたら、明日になっても、一緒のベッドに入っていられる。今度は僕があんたの手を握ってやって、大丈夫だよ、ディーン、明日になれば、外で遊べるようになるさって、励ましてやるんだって思ってたんだ」  「……そりゃ――健気だ」  「本当?」  「うん……」  「こうしてまた一緒にいられて、すごく幸せなんだ」  「サミー」  (キスしていい?) サムは兄の唇を見つめながら、心のうちで問いかけた。息を押し殺しながら近づいて、上気した頬に自分の唇の端をくっつける。まだふたりが幼いころ、親愛を込めてよくそうしていたように。  ディーンはくすぐったそうに笑って顔をそむけた。「なんだよ、ほんとにうつるぞ。おまえまで熱出されたらキャスが倒れる」  「もう僕は子供じゃない」 サムは握った手の平を親指で撫でながら言った。「だからそう簡単に病気はうつらないよ。そもそも兄貴の熱は病気じゃなくて過労と不摂生が原因だからね」  「悪かったな」  「僕のために無理してくれたんだろ。いいんだ、これからは僕がそばで見張ってるから」  「おー」  目を閉じたディーンの顔をサムは見つめ続ける。  やっと手に入った幸福だ、ぜったいに誰にも壊させない。兄が眠りについたのを確認すると、握った指先にそっとキスを落とす。彼がこの国に身を捧げるなら、自分はその彼こそに忠誠と愛を捧げよう。死がふたりを分かつまで。
<パイとエールと>
 公明正大な王と名高いサミュエル・ウィンチェスターが理不尽なことで家臣を叱りつけている。  若い王の右腕と名高いボビー・シンガー将軍は、習慣であり唯一の楽しみである愛馬との和やかな朝駆けのさなか、追いかけてきた部下たちにそう泣きつかれ、白い息で口ひげを凍らせながら城に戻るはめになった。  王は謁見の控えの間をうろうろと歩き回りながら、臣下たちの心身を凍り付かせていた。  「出来ないってのはどういうことだ!」 堂々たる長身から雷のような叱責が落ちる。八角形の間には二人の近衛兵と四人の上級家臣がおり、みんなひとまとまりになって青ざめた顔で下を向いている。  「これだけの者がいて、私の期待通りの働きをするものが一人もいない! なぜだ! 誰か答えろ!」  「おい……どうした」 ボビーは自分の馬にするように、両腕を垂らして相手を警戒させないよう王に近づいた。「陛下、何をイラついてる。今日は兄上の誕生日だろ」  サムは切れ長の目をまんまるに見開いて、「そうだよ!」と叫んだ。「今日はディーンの誕生日だ! ディーンが天界に行っちゃってから初めての誕生日で、初めて王国に戻る日だっていうのに、こいつらは僕の言ったことを何一つやってない!」  手に持っていた分厚い書冊を机に叩きつけた。ぱらぱらと何枚かの羊皮紙が床に落ちて、その何枚かに女性の肖像が描かれているのをボビーは見た。頬の中で舌打ちして、ボビーは、今朝、この不機嫌な王に見合い話を持ち掛けた無能者を罵った。  まだ手に持っていた冊束を乱暴に床に放り投げて、すでに凍り付いた家臣たちをさらに怯えさせ、サムは天井まである細い窓の前に立った。  ひし形の桟にオレンジ色のガラスが組み込まれている。曇りの日でも太陽のぬくもりを感じられる造りだ。サムがそこに立つ前には、兄のディーンが同じように窓の前に立った。金髪に黄金の冠をかぶったディーン・ウィンチェスターがオレンジの光を浴びて立つさまは、彼を幼少期から知る……つまり彼が見た目や地位ほどに華美な気性ではないと知るボビーにとっても神々しく見えたものだった。  ディーンがその右腕と名高かったカスティエルと共に天界に上がってしまってからというもの、思い出の中の彼の姿はますます神々しくイメージされていく。おそらくはこの控えの間にいる連中すべてがそうだろう。  「兄が戻ってくるのに、城にパイ焼き職人が二人しかいない」  「ですが、それで町のパン焼き職人を転職させて城に召し上げるというのは無理です……」 家政長が勇気を振り絞った。しかしその勇気も、サムのきつい眼差し一つで消えた。  「全ての近衛兵の制服を黒に染めろといったのになぜやらない!」  二人の近衛兵は顔を見合わせたが、すぐに踵をそろえて姿勢を正した。何も言わないのは賢いといえなくもない。  「何で黒にする必要がある?」  ボビーの問いにサムは食い気味に答えた。「ディーンが好きだからだよ! ディーンは黒が好きだ、よく似合ってる」  「ディーンはベージュだって好きだろ。ブラウンもブルーも、赤も黄色も好きだ。やつは色になんて興味ない」  「それに注文したはずのエール! 夏には醸造所に話を通していたはずなのになぜ届いていない!」  項垂れる家政長の代わりに、隣に立つ財務長が答えた。「あー、陛下。あの銘柄は虫害にやられて今年の出荷は無理ということで、代わりの銘柄を仕入れてありますが……」  「その話は聞いた! 私はこう言ったはずだ、ディーンは代わりの銘柄は好きじゃない。今年出荷分がないなら去年、一昨年、一昨々年に出したのをかき集めて城の酒蔵を一杯にしろと!」  「そんな、あれは人気の銘柄で国中を探してもそれほどの数はありません……」  「探したのか?」 サムは、背は自分の胸ほどもない、老年の財務長の前に覆いかぶさるように立ち、彼の額に指を突き付けた。「国中を、探したのか?」  財務長の勇気もこれで消えたに違いなかった。  ボビーは息を吐いた。  「みんな出て行ってくれ。申し訳ない。陛下にお話しがある。二人だけで。そう。謁見の儀の時間には間に合わせる。ありがとう。さっさと行って。ありがとう」 促されるや、そそくさと逃げるように控えの間から去っていった六人を丁寧に見送り、ボビーは後ろ手に扉の錠を下ろした。  「どうなってる」 ボビーの怖い声にもサムはたじろがなかった。気ぜわしそうに執務机の周りを歩き回る足を止めない。  「最悪だ。完璧にしたかったのに!」 床に落ちた肖像画をぐちゃぐちゃにしながら気性の荒い狼みたいな眼つきをしている。「ディーンの誕生日を完璧に祝ってやりたかったんだ! 四年前、僕らがまた家族になれたあとに、ディーンが僕にしてくれたみたいに!」  「四年前? ああ、城じゅうに糸を張り巡らせて兵士の仕事の邪魔をしまくってくれたあれか……」 ボビーは口ひげを撫でて懐かしい過去を思い返した。「しかしあの時はディーンが熱を出して……結局は数日寝込むことになっただろう」  「完璧な誕生日だった。僕のために体調を崩してまで計画してくれたこと、その後の、一緒にいられた数日間も」  「あのな……」  「いろいろあって、あの後にゆっくりと記念日を祝えたことはなかった。ようやく国が落ち着いたと思ったら、ディーンは天界に行っちゃった。いいんだ、それは、ディーンが決めたことだし、僕と兄貴で世界の均衡が保てるなら僕だって喜んで地上の王様をやるさ。滅多に会えなくなっても仕方ない。天界の傲慢な天使どもが寛大にも一年に一日だけならディーンが地上に降りるのを許してくれた。それが今日だ! 今日が終われば次は一年後。その次はまた一年後だ!」  「わかっていたことだぞ」 ボビーはいった。「べったり双子みたいだったお前たちが、それでも考えた末に決めたことだ。ディーンが天界にいなければ、天使たちは恩寵を失い、天使が恩寵を失えば、人は死後の行き場を失う」  「これほど辛いとは思わなかった」  サムは椅子に座って長い足を投げ出し、希望を失ったかのように俯いた。  「なあ、サム。今日は貴重な一日だよな。どうするつもりだった。一年ぶりに再会して、近衛兵の制服を一新した報告をしたり、一晩じゃ食べきれないほどのパイの試食をさせたり、飲みきれない酒を詰め込んだ蔵を見せて自慢する気だったのか?」  「いや、それだけじゃない。ワーウルフ狩りの出征がなかったら、城前広場を修繕して僕とディーンの銅像を建てさせるつもりだった」  「わかった。そこまで馬鹿だとは思わなかった」 俯いたサムの肩に手をあて、ボビーはいった。「本当に馬鹿だな。サム、本当にディーンがそんなもの、望んでると思うのか?」  「ディーンには欲しいものなんてないんだ」 サムは不貞腐れたように視線を外したままいった。「だからディーンはディーンなんだ。天界に行っちゃうほどにね。それだから僕は、僕が考えられる限り全てのことをしてディーンを喜ばせてあげなきゃならない。ディーンが自分でも知らない喜びを見つけてあげたいんだよ」  「ディーンは自分の喜びを知ってる。サム、お前といることだ。ただそれだけだ」  サムの迷子のような目がボビーを見上げた。王になって一年、立派に執務をこなしている姿からは、誰もこの男の甘えたな部分を想像できないだろう。  もっとも、王がそんな一面を見せるのは兄と、育ての親ともいえるボビーにだけだ。  「……それと、エール」  「ああ、焼き立てのパイもな」 ボビーは笑う。「職人が二人もいればじゅうぶんだ」  サムはスンと鼻をすすって、ボビーの腕をタップして立ち上がる。  「舞踏会の用意は?」  「すんでるよ。ああ……サム、中止にするわけにはいかないぞ。もう客も揃ってるし、天界のほうにもやると伝えてある」  「わかってる。頼みがあるんだ……」
 ディーンがどうやって地上に戻ってくるか、サムは一年間毎日想像していた。空から天使のはしごがかかって、白い長衣をかぶったディーンがおつきの者たちを従えてしずしずと降りてくるとか。水平線の向こうからペガサスに乗って現れるとか。サムを驚かせるために、謁見の儀で拝謁する客に紛れ込んでくるかもしれない。  そのどれもがあまりに陳腐な空想だったと、サムは反省した。  謁見の儀を終えると、ディーンは何の変哲もない、中級貴族みたいな恰好で、控えの間に立っていた。  ひし形に桟が組まれた、長い半円の窓の前で。  「ディーン」  サムの声に振り向くと、ディーンは照れ臭そうな顔をして笑った。「サム」  二人で磁石みたいに駆け寄って、抱き合った。
 ディーンの誕生日を祝う舞踏会は大盛況した。近隣諸国の王侯貴族までが出席して、人と人ならざる者の世の均衡を保つ兄弟を称え、その犠牲に敬意を表した。ディーンと彼に随行したカスティエルは、誘いのあった女性全員とダンスを踊った。そしてディーンは、しかるべき時間みんなの祝福にこたえたあと、こっそりとボビーに渡された原稿を読み上げ――それはとても礼儀ただしく気持ちの良い短いスピーチだった――大広間を辞した。  「どこに行くんだ?」 一緒に舞踏会から抜け出したサムに手を引かれて、ディーンは地下に向かっていた。「なあ、王様がいなくていいのかよ。まだ舞踏会は続いてるんだぜ」  「僕がいなくてもみんな楽しんでる。今夜は一晩中、ディーンの誕生日を祝っててもらおう」  「本人がいない場所でか?」  「ああ。本人はここ」  サムは酒蔵の扉を開いてディーンを招いた。「ディーン、来てくれ」  いくつかある酒蔵のうち、一番小さな蔵だった。天井は低く、扉も小さい。サムの脇をくぐるように中に入ると、まるで秘密の洞窟に迷い込んだように感じた。  「ここ、こんなだったっけか」 踏み慣らされた土床の上に、毛皮のラグが敷かれている。大広間のシャンデリアを切り取ってきたみたいに重々しい、燭台に灯されたろうそくの明かり。壁づたいに整列された熟成樽の上には、瓶に詰められたエール、エール、エール。  「パイもある」 どこに隠してあったのか、扉を閉めたサムが両手に大きなレモンパイを持ってディーンを見つめている。  ちょっと決まり悪そうな、それでも自分のやったことを認めて、褒めてくれるのを期待しているような、誇らしげな瞳で。  「誕生日おめでとう、ディーン」  二人きりで過ごしたかったんだ。そういわれて、ディーンは弟の手からパイを奪い取った。  パイは危うい均衡で樽の上に置かれて、二人はラグの上に倒れ込んだ。
<永遠>
 誰がなんというおうと、おれたちが兄弟の一線を超えたことはない。  天使たちはおれの純潔を疑ってかかった。天界に昇る前には慌ただしく浄化の儀式をさせられた。”身持ちの固さ”について苦言をたれたアホ天使もいたほどだ。おれはその無礼に、女にモテモテだった自分を天使たちが勘違いするのも無理はないと思うことにした。  ああ、若く逞しい国王のおれと、いちゃつきたがる女は山ほどいた。でもおれは国王だ。心のどこかでは、弟に王位を譲るまでのつなぎの王だという思いもあった。だからこそ、うっかり子供でも出来たら大変だと、万全の危機管理をしていた。  つまりだ、おれはまだヴァージンだ。浄化の儀式は必要なかった��  女とも寝てないし、男とも寝てない。弟とは論外だ。  いつか、サムに王位を譲り、おれが王でないただの男になったら、女の温かな体内で果ててみたいと、そう思っていた。  でもたぶん、それは実現しない。なんというか、まあ……。  天界に行ってから、天使たちがおれの純潔について疑問視した原因が、女じゃないことに気がついた。そこまでくればおれだって、認めないわけにはいかない。  クソったれ天使たちの疑いも、あながち的外れじゃあないってこと。
 おれと弟が一線を超えたことはないが、お互いに超えたいと思っていることはどっちも知っている。  ということは、いずれ超えるってことだ。それがどうしようもない自然の流れってやつだ。  どうしてそんなことになったのかというと、つまりおれたち兄弟、血のつながった正真正銘の王家の血統である二人がおたがいに意識しあうようになったのはなぜかということだが、たぶんそれは、おれのせいだ。おれの力だ。  おれは小さい頃から不思議な力があった。  それはサムも同じだけど、サムの力はウィンチェスター家から代々受け継いだもので、おれのほうはちょっと系統が違った。今では、それが天使の恩寵だとわかっているが、当時はだれもそんなこと、想像もしなかった。それでも不思議な力には寛容な国柄だから、おれたち兄弟は一緒に仲良くすくすくと育った。ところがある事件が起きて、おれは自分の力でサムを傷つけてしまった。それ以来、両親はおれの力を真剣に考えるようになり、おれたち兄弟は引き離された。  おれが十一歳のとき、もう同じ部屋で寝ることは許されていなかったが、夜中にサムがこっそりとおれの寝室に忍び込み、ベッドに入ってきたことがあった。  「怖い夢を見た」という弟を追い払うなんてできるはずがなかった。お化けを怖がるサムのために、天蓋のカーテンを下ろし、四方に枕でバリケードをつくって、ベッドの真ん中でふたり丸まって眠った。  翌朝、おれは自分が精通したのを知った。天蓋ごしにやわらかくなった朝日がベッドに差し込み、シーツにくるまっていたおれたちは発熱したみたいに熱かった。下半身の違和感に手をやって、濡れた感触に理解が追い付いたとき、サムが目覚めた。汚れた指を見つめながら茫然とするおれを見て、サムはゆっくりとおれの手を取り、指についた液体を舐めて、それから、おれの唇の横にキスをした。  おれはサムを押しのけて、浴室に飛び込んだ。しばらくすると、侍女がおれを迎えに来て、両親のことろまで連れて行った。そこでおれは、これからは城の離れにある塔で、サムとは別の教育を受けさせると言い渡された。大事には��らなかったとはいえ、サムを傷つけた力には恐怖があったから、おれはおとなしくその決定に従った。結果として、サムがキスをした朝が、おれたちが子ども時代を一緒に過ごした最後の日になってしまった。  おれの変な力がなかったら、あのままずっと一緒に育つことができただろうし、そうならば、あの朝の続きに、納得できる落とし前をつけることもできただろう。おれはなぜサムがキスをしてきたのか、その後何年にわたってもんもんと考える羽目になった。サムによれば、彼もまた、どうしてあのタイミングでキスしてしまったのか、なぜすぐにおれの後を追わなかったのかと後悔していたらしい(追いかけて何をするつもりだったんだろう)。なんにせよ、お互いに言い訳できない状況で、大きなわだかまりを抱えたまま十年間も背中合わせに育ってしまったんだ。  再会は、おれの即位式だった。両親の葬儀ですら、顔を合わせていなかった。  喜びと、なつかしさ、罪悪感に羞恥心、後悔。それを大きく凌駕する、愛情。  弟は大きくなっていた。キャスに頼んで密偵まがいのことをさせ、身辺は把握していたけれど。王大弟の正装に身を包んだサムは、話で聞いたり、遠目にみたり、市井に出回っている写し絵よりもよっぽど立派だった。  意識するなって言うほうが無理だろ。
 ところでおれは、もう人じゃない。  一日に何度も食べなくても、排泄をしなくても、死なない体になった。天使いわく、おれは”顕在化された恩寵”だそうだ。恩寵っていうのは天使の持ってるスーパーパワーのことをいう。つまりおれはスーパーパワーの源で、天界の屋台骨ってこと。  そんな存在になっちまったから、もう必要のない穴ってのが体には残っているんだが、おれの天才的な弟ならその使い方を知っていると思っていた。  そして真実はその通り。弟はじつに使い方がうまい。  「純潔じゃなくなったら、天界には戻れない?」 一年前から存在を忘れられたおれの尻の穴にでかいペニスを突っ込んだサムが尋ねた。  うつ伏せになった胸は狼毛のラグのおかげで温かいが、腰を掴むサムの手のひらのほうが熱い。ラグの下に感じる土床の硬さより、背中にのしかかっているサムの腹のほうが硬い。  ついに弟を受け入れられたという喜びが、おれをしびれさせた。思考を、全身を。顕在化されたなんちゃらになったとしても、おれには肉体がある。天使たちはおれにはもう欲望がないといった。そんなのはウソだ。げんに今、おれの欲望は毛皮を湿らせ、サムの手に包まれるのを期待して震えている。  「サム……あ、ア」 しゃっくりをしたみたいに、意思を介さず肛門が収縮する。奥までサムが入っていることを実感して、ますます震えが走った。「サム、そのまま……じっとしてろ、おれが動くから……」  「冗談だろ?」 押さえた腰をぐっと上に持ち上げながら、サムはいった。「どうやって動くんだよ。力、入らないくせに」  その通りだ。サムに上から押さえつけられたとたん、おれの自由なはずの四肢は、突如として意思を放棄したみたいに動かなくなった。  「そのまま感じてて……」 生意気な言葉を放ちながら、サムはゆっくりと動き始めた。おれの喉からは情けない声が漏れた。覚えているかぎり、ふざけて登った城壁から落ちて腕を骨折したとき以来、出したことのない声。「はああ」とか「いひい」とか、そういう、とにかく情けない声だ。  「かわいいよ。かわいい、ディーン」  「はああ……」  「あんたの純潔を汚してるんだよ、ディーン……。僕に、もっと……汚されて……」 サムの汗がおれの耳に垂れた。「もう天界には戻れないくらい」
 まあおれは、かねがね自分の境遇には満足だ。天界にエネルギー源として留め置かれている身としても、そうすることを選んだのは自分自身だし、結局、やらなきゃ天界が滅んでしまう。天国も天使もいない世界で生きる準備は、国民たちにもだれにも出来ていない。  せっかくうまくいっていたおれとサムの関係が、期待通りにならないことは承知の上だった。おれたちは王族だ。自分たちの欲望よりも優先すべきことがある。おれは天界で腐った天使どもと、サムは地上でクソったれな貴族どもと、ともに世界を守れたらそれでいい。そう思っていた。サムも、そう思っているはずだった。  一年に一日だけ、地上に戻る許可を与えられて、おれが選んだのは自分の誕生日だった。  ほんとはサムの誕生日のほうがよかった。だけどおれの誕生日のほうが早く訪れるから。  サムに会えない日々は辛かった。想像した以上に永かった。
 下腹をサムの手に包まれて、後ろから揺さぶられながら、おれはふと気配を感じて視線を上げた。酒蔵の奥に、ほの白く発光したキャス――今は天使のカスティエルが佇んでいた。  (冗談だろ、キャス。消えてくれ!)  天使にだけ伝わる声で追い払うが、やつはいつもの表情のみえない顔でおれをじっと見つめたまま動かない。  (取り込み中なの見てわかるだろ!?)  (君はここには残れない) キャスがいった。(たとえ弟の精をその身に受けても。君はもはや人ではないのだ)  (そんなことはわかってる) おれがいうと、キャスはやっと表情を変えて、いぶかしげに眉をひそめた。(君の弟はわかっていない)  (いいや、わかってる……)  「ディーン、こっち向いて」 キスをねだる弟に応えて体をひねる。絶頂に向かって動き始めたサムに合わせて姿勢を戻したときには、もう天使は消えていた。  わざわざ何をいいに来たんだか。あいつのことだから、もしかして本当に、サムのもらした言葉が実現不可能なものだと、忠告しに来たのかもしれない。  天使どもときたら、そろいもそろって愚直で融通のきかない、大きな子どもみたいなやつらだ。  きっと今回のことも、天界に戻れば非難されるだろう。キャスはそれを心配したのかもしれない。  お互いに情けない声を出して、おれはサムの手の中に、サムはおれの中に放ったあと、おれたちは正面から抱き合って毛皮の上に崩れ落ちた。  汗だくの額に張り付いた、弟の長い髪を耳の後ろにかきあげてやると、うるんだ緑の目と目が合った。  「離れたくないよ、ディーン」  「おれもだ」  サムはくしゃっと笑った。「国王のくせに、弱音を吐くなって言われるかと思った」  おれはまた、サムの柔らかな髪をすいてやった。  おれがまだ人だったころ、おれの口から出るのは皮肉や冗談、強がりやからかいの言葉ばかりだった。だれもがおれは多弁な王だと思っていた。自分でもそうだった。  でも今や、そうじゃなくなった。  おれは本来、無口な男だったんだな。  見つめていると、弟の唇が落ちてきた。おれは目を閉じて、息を吸い込んだ。このキスが永遠に続けばいいのにと思う。  願っても意味はないと知っているからな。
 「驚いたよ」 天界へ帰るすがら(地上からは一瞬で消えたように見えただろうが、階段を上っていくんだ。疲れはしないけどがっかりだ)、キャスがいった。「きみたちは……意外とあっさり別れた。もっと揉めるかと思っていた」  「揉めるってなんだよ」  「ずいぶんと離れがたそうだったから」  「ふつうは他人のセックスをのぞき見したこと、隠しておくもんなんだぜ」  「のぞき見などしていない」 キャスは大真面目にいった。「のぞき見ではない。私は隠れてなどいなかった」  おれは天界への階段から転がり落ちそうになった。「おま……キャス……じゃあ、おまえの姿、サムには……」  「見ていただろうな。君とキスしているときに目があった」  「――あいつそんなこと一言も」  「今朝、私には警告してきた。次は翼を折ってやると。君の手の大きさじゃムリだと言ってやったが」  おれはため息を吐いた。  「次があると思っているのだな」  「もう黙れよ」  「一年に一度の逢瀬を、続けるつもりなのか。君はもう年をとらず、彼は地上の王として妻をめとり、老いていくというのに」  「なあ、キャス。おまえに隠してもしかたないからいうが、おれが天界にいるのはサムのためだ。サムが死後に行く場所を守るためだ」  キャスはしばらく黙ったあと、唇をとがらせて頷いた。「そうか」  「ああ、そうだ」  「きみに弟がいて世界は救われたな」  おれは足を止めて、キャスの二枚羽の後ろ姿を見つめた。彼がそんなふうに言ってくれるとは思っていなかったから驚いた。  キャスが振り返っていった。「どうした」  「べつに。おまえ皮肉が上手くなったなって。ザカリアの影響か?」  「やめてくれ」 盛大に顔をしかめてキャスはぷいと先を行ってしまう。  「お、待てよ、キャス。おまえのことも愛してるぜ!」  「ありがとう。私も愛してるよ」    たとえばサムが結婚して、子どもができ、平和な老後を迎えるのを、ただ天界から見守るのも素晴らしい未来だと思う。義務感の強いサムのことだから、十中八九相手は有力貴族の娘か、他国の姫の政略結婚だろうが、相手がよっぽどこじれた性格をしていない限り、いい家庭を築くだろう。あいつは優しいし、辛抱強くもなれる。子どもにも偏りのない教育を受けさせるだろう。安定した王族の指導で、王国はますます繁栄する。国王と王妃は臣民の尊敬を受け、穏やかに愛をはぐくみ、老いてからも互いを慈しみながら、孫たちに囲まれ余生を過ごすだろう。  愛と信頼に満ちた夫婦。サムがそんな相手を見つけられたらどんなにいいか。おれは心から祝福する。それは嘘偽りのない真実だ。  だけど、それは死が二人を分かつまでだ。  サムが死んだら、たとえその死が忠実な妻と手をつなぎ、同時に息を引き取るような敬虔なものだったとしても、彼の魂はもう彼女のものじゃない。死神のものですらない。おれだ。おれがサムを直接迎えにいく。  そしておれがサムのために守ってきた天国で、おれたちはまた、やり直すんだ。  おれが精通した十一歳の朝からでもいい。  ぎこちなかった即位式の午後からでもいい。  世界におれたちだけだったら、どれだけ早くたがいの感情に正直になれたかな。それを試すんだ。  だから今は離れていても、いずれは永遠に側にいられるんだ。  今は言葉だけでいいんだ。おれを汚したいといったサムの言葉が何物にも代えがたい愛の告白に聞こえたなんて変かな。サムの愛の言葉と、この体のどこかに残っているサムの精だけで十分なんだ。  また来年、それをおれにくれ。おまえが誰かいい女と結婚するまで。  おまえのための天国を作って、おれは永遠が来るのを待っている。
おわり
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gomisuteba-dayo-blog · 7 years ago
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 照明を落とした会議室は水を打ったようで、ただ肉を打つ鈍い音が響いていた。ビデオカメラに濾され、若干迫力と現実味を欠いた殴打の音が。  とは言え、それは20人ほどの若者を釘付けへするには十分な効果を持つ。四角く配置された古い長机はおろか、彼らが埋まるフェイクレザーの椅子すら、軋みの一つも上げない。もちろん、研修旅行の2日目ということで、集中講義に疲れ果て居眠りをしているわけでもない。白いスクリーンの中の光景に、身じろぎはおろか息すらこらしているのだろう。  映像の中の人物は息も絶え絶え、薄暗い独房の天井からぶら下げられた鎖のおかげで、辛うじて直立の状態を保っている。一時間近く、二人の男から代わる代わる殴られていたのだから当然の話だ――講義用にと青年が手を加えたので、今流れているのは10分ほどの総集編という趣。おかげで先ほどまでは端正だった顔が、次の瞬間には血まみれになっている始末。画面の左端には、ご丁寧にも時間と殴打した回数を示すカウンターまで付いていた。  まるで安っぽいスナッフ・フィルムじゃないか――教授は部屋の隅を見遣った。パイプ椅子に腰掛ける編集者の青年が、視線へ気付くのは早い。あくびをこぼしそうだった表情が引き締まり、すぐさま微笑みに変わる。まるで自らの仕事を誇り、称賛をねだる様に――彼が自らに心酔している事は知っていた。少なくとも、そういう態度を取れるくらいの処世術を心得ている事は。   男達が濡れたコンクリートの床を歩き回るピチャピチャという水音が、場面転換の合図となる。とは言っても、それまで集中的に顔を攻撃していた男が引き下がり、拳を氷の入ったバケツに突っ込んだだけの変化なのだが。傍らで煙草を吸っていたもう一人が、グローブのような手に砂を擦り付ける。  厄災が近付いてきても、捕虜は頭上でひとまとめにされた手首を軽く揺するだけで、逃げようとはしなかった。ひたすら殴られた顔は赤黒く腫れ上がり、虫の蛹を思わせる。血と汗に汚された顔へ、漆黒の髪がべっとり張り付いていた。もう目も禄に見えていないのだろう。  いや、果たしてそうだろうか。何度繰り返し鑑賞しても、この場面は専門家たる教授へ疑問を呈した。  重たげで叩くような足音が正面で止まった瞬間、俯いていた顔がゆっくり持ち上がった。閉じた瞼の針のような隙間から、榛色の瞳が僅かに覗いている。そう、その瞳は、間違いなく目の前の男を映していた。自らを拷問する男の顔を。相手がまるで、取るに足らない存在であるかの如く毅然とした無表情で。  カウンターが121回目の殴打を数えたとき、教授は手にしていたリモコンを弄った。一時停止ボタンは融通が利かず、122回目のフックは無防備な鳩尾を捉え、くの字に折り曲がった体が後ろへ吹っ飛ばされる残像を画面に残す。 「さて、ここまでの映像で気付いたことは、ミズ・ブロディ?」  目を皿のようにして画面へ見入っていた女子生徒が、はっと顔を跳ね上げる。逆光であることを差し引いても、その瞳は溶けた飴玉のように光が滲み、焦点を失っていた。 「ええ、はい……その、爪先立った体勢は、心身への負荷を掛ける意味で効果的だったと思います」 「その通り。それにあの格好は、椅子へ腰掛けた人間を相手にするより殴りやすいからね。ミスター・ロバーツ、執行者については?」 「二人の男性が、一言も対象者に話しかけなかったのが気になりました」  途中から手元へ視線を落としたきり、決して顔を上げようとしなかった男子生徒が、ぼそぼそと答えた。 「笑い者にしたり、罵ったりばかりで……もっと積極的に自白を強要するべきなのでは」 「これまでにも、この……M……」  机上のレジュメをひっくり返したが、該当資料は見あたらない。パイプ椅子から身を乗り出した青年が、さして潜めてもいない声でそっと助け船を出した。 「そう、ヒカル・K・マツモト……私達がMと呼んでいる男性には、ありとあらゆる方法で自白を促した。これまでにも見てきたとおり、ガスバーナーで背中を炙り、脚に冷水を掛け続け――今の映像の中で、彼の足元がおぼづかなかったと言う指摘は誰もしなかったね? とにかく、全ての手段に効果が得られなかった訳だ」  スマートフォンのバイブレーションが、空調の利きが悪い室内の空気を震わせる。小声で云々しながら部屋を出ていく青年を片目で見送り、教授は一際声の調子を高めた。 「つまり今回の目的は、自白ではない。暴力そのものだ。この行為の中で、彼の精神は価値を持たない。肉体は、ただ男達のフラストレーションの捌け口にされるばかり」  フラストレーションの代わりに「マスターベーション」と口走りそうになって、危うく言葉を飲み込んだのは、女性の受講生も多いからだ。5年前なら考えられなかったことだ――黴の生えた理事会の連中も、ようやく象牙の塔の外から出るとまでは言わなくとも、窓から首を突き出す位のことをし始めたのだろう。 「これまで彼は、一流の諜報員、捜査官として、自らのアイデンティティを固めてきた。ここでの扱いも、どれだけ肉体に苦痛を与えられたところで、それは彼にとって自らが価値ある存在であることの証明に他ならなかった。敢えて見せなかったが、この行為が始まる前に、我らはMと同時に捕縛された女性Cの事を彼に通告してある――彼女が全ての情報を吐いたので、君はもう用済みだ、とね」 「それは餌としての偽情報でしょうか、それとも本当にCは自白していたのですか」 「いや、Cもまだこの時点では黙秘している。Mに披露した情報は、ケース・オフィサーから仕入れた最新のものだ」  ようやく対峙する勇気を振り絞れたのだろう。ミスター・ロバーツは、そろそろと顔を持ち上げて、しんねりとした上目を作った。 「それにしても、彼への暴力は行き過ぎだと思いますが」 「身長180センチ、体重82キロもある屈強な25歳の男性に対してかね? 彼は深窓の令嬢ではない、我々の情報を抜き取ろうとした手練れの諜報員だぞ」  浮かんだ苦笑いを噛み殺し、教授は首を振った。 「まあ、衛生状態が悪いから、目方はもう少し減っているかもしれんがね。さあ、後半を流すから、Mと執行者、両方に注目するように」  ぶれた状態で制止していた体が思い切り後ろへふれ、鎖がめいいっぱいまで伸びきる。黄色く濁った胃液を床へ吐き散らす捕虜の姿を見て、男の一人が呆れ半分、はしゃぎ半分の声を上げる。「汚ぇなあ、しょんべんが上がってきてるんじゃないのかよ」  今年は受講者を20人程に絞った。抽選だったとは言え、単位取得が簡単でないことは周知の事実なので、応募してきた時点で彼らは自分を精鋭と見なしているのだろう。  それが、どうだ。ある者は暴力に魅せられて頬を火照らせ、ある者は今になって怖じ気付き、正義感ぶることで心の平穏を保とうとする。  経験していないとはこう言うことか。教授は今更ながら心中で嘆息を漏らした。ここのところ、現場慣れした小生意気な下士官向けの講義を受け持つことが多かったので、すっかり自らの感覚が鈍っていた。  つまり、生徒が悪いのでは一切ない。彼らが血の臭いを知らないのは、当然のことなのだ。人を殴ったとき、どれだけ拳が疼くのかを教えるのは、自らの仕事に他ならない。  手垢にまみれていないだけ、吸収も早いことだろう。余計なことを考えず、素直に。ドアを開けて入ってきたあの青年の如く。  足音もなく、すっと影のように近付いてきた青年は、僅かに高い位置へある教授の耳に小さな声で囁いた。 「例のマウンテンバイク、確保できたようです」  針を刺されたように、倦んでいた心が普段通りの大きさへ萎む。ほうっと息をつき、教授は頷いた。 「助かったよ。すまないな」 「いいや、この程度の事なら喜んで」  息子が12歳を迎えるまで、あと半月を切っている。祝いに欲しがるモデルは何でも非常に人気があるそうで、どれだけ自転車屋に掛け合っても首を振られるばかり。  日頃はあまり構ってやれないからこそ、約束を違えるような真似はしたくない。妻と二人ほとほと弱り果てていたとき、手を挙げたのが他ならぬ目の前の青年だった。何でも知人の趣味がロードバイクだとかで、さんざん拝み倒して新古品を探させたらしい。  誕生パーティーまでの猶予が一ヶ月を切った頃から、教授は青年へ厳しく言い渡していた。見つかり次第、どんな状況でもすぐに知らせてくれと。夜中でも、仕事の最中でも。 「奥様に連絡しておきましょうか。また頭痛でお悩みじゃなきゃいいんですけど」 「この季節はいつでも低気圧だ何だとごねているさ。悪いが頼むよ」  ちらつく画像を前にし、青年はまるで自らのプレゼントを手に入れたかの如くにっこりしてみせる。再びパイプ椅子に腰を下ろし、スマートフォンを弄くっている顔は真剣そのものだ。  ふと頭に浮かんだのは、彼が妻と寝ているか否かという、これまでも何度か考えたことのある想像だった。確かに毎週の如く彼を家へ連れ帰り、彼女もこの才気あふれる若者を気に入っている風ではあるが。  まさか、あり得ない。ファンタジーとしてならば面白いかもしれないが。  そう考えているうちは、大丈夫だろう。事実がどうであれ。 「こんな拷問を、そうだな、2ヶ月程続けた。自白を強要する真似は一切せず、ただ肉の人形の用に弄び、心身を疲弊させる事に集中した。詳細はレジュメの3ページに譲るとして……背中に水を皮下注射か。これは以前にも言ったが、対象が仰向けで寝る場合、主に有効だ。事前に確認するように」  紙を捲る音が一通り収まったのを確認してから、教授は手の中のリモコンを軽く振った。 「前回も話したが、囚人が陥りやすいクワシオルコルなど低タンパク血症の判断基準は脚の浮腫だ。だが今回は捕獲時に右靱帯を損傷し中足骨を剥離骨折したこと、何度も逃亡を試みた事から脚への拘束及び重点的に攻撃を加えたため、目視では少し判断が難しいな。そういうときは、圧痕の確認を……太ももを掴んで指の型が数秒間戻らなければ栄養失調だ」  似たような仕置きの続く数分が早送りされ、席のそこかしこから詰まったような息が吐き出される。一度飛ばした写真まで巻き戻せば、その呼吸は再びくびられたかのように止まった。 「さて、意識が混濁しかけた頃を見計らい、我々は彼を移送した。本国の収容所から、国境を越えてこの街に。そして抵抗のできない肉体を、一見無造作に投棄したんだ。汚い、掃き溜めに……えー、この国の言葉では何と?」 「『ゴミ捨て場』」 「そう、『ゴミ捨て場』に」  青年の囁きを、生徒達は耳にしていたはずだ。それ以外で満ちた沈黙を阻害するのは、プロジェクターの立てる微かなモーター音だけだった。  彼らの本国にもありふれた集合住宅へ――もっとも、今画面に映っている場所の方がもう少し設備は整っていたが。距離で言えば100キロも離れていないのに、こんな所からも、旧東側と西側の違いは如実に現れるのだ――よくある、ゴミ捨て場だった。三方を囲うのはコンクリート製の壁。腰程の高さへ積んだゴミ袋の山へ、野生動物避けの緑色をしたネットを掛けてあるような。  その身体は、野菜の切りくずやタンポンが詰められているのだろうゴミ袋達の上に打ち捨てられていた。横向きの姿勢でぐんにゃり弛緩しきっていたが、最後の意志で内臓を守ろうとした努力が窺える。腕を腹の前で交差し、身を縮める姿は胎児を思わせた。ユーラシアンらしい照り卵を塗ったパイ生地を思わせる肌の色味は、焚かれたフラッシュのせいで消し飛ばされる。 絡みもつれた髪の向こうで、血管が透けて見えるほど薄い瞼はぴたりと閉じられていた。一見すると死んでいるかのように見える。 「この国が我が祖国と国交を正常化したのは?」 「2002年です」 「よろしい、ミズ・グッドバー。だがミハイル・ゴルバチョフが衛星国の解放を宣言する以前から、両国間で非公式な交流は続けられていた。主に経済面でだが。ところで、Mがいた地点からほど近くにあるタイユロール記念病院は、あの鋼鉄商フォミン一族、リンゼイ・フォミン氏の働きかけで設立された、一種の『前哨基地』であることは、ごく一部のものだけが知る事実だ。彼は我が校にも多額の寄付を行っているのだから、ゆめゆめ備品を粗末に扱わぬよう」  小さな笑いが遠慮がちに湧いた矢先、突如画面が明るくなる。生徒達同様、教授も満ちる眩しさに目を細めた。 「Mは近所の通報を受け、この病院に担ぎ込まれた……カルテにはそう記載されている。もちろん、事実は違う。全ては我々の手配だ。彼は現在に至るまでの3ヶ月、個室で手厚く看護を受けている。最新の医療、滋養のある食事、尽くしてくれる看護士……もちろん彼は、自らの正体を明かしてはいないし、完全に心を開いてはいない。だが、病院の上にいる人間の存在には気付いていないようだ」 「気付いていながら、我々を欺いている可能性は?」 「限りなく低いだろう。外部との接触は行われていない……行える状態ではないし、とある看護士にはかなり心を許し、私的な話も幾らか打ち明けたようだ」  後は病室へ取り付けた監視用のカメラが、全てを語ってくれる。ベッドへ渡したテーブルへ屈み込むようにしてステーキをがっつく姿――健康状態はすっかり回復し、かつて教授がミラーガラス越しに眺めた時と殆ど変わらぬ軒昂さを取り戻していた。  両脚にはめられたギプスをものともせず、点滴の管を抜くというおいたをしてリハビリに励む姿――パジャマを脱いだ広い背中は、拷問の痕の他に、訓練や実践的な格闘で培われたしなやかな筋肉で覆われている。  車椅子を押す看護士を振り返り、微笑み掛ける姿――彼女は決して美人ではないが、がっしりした体つきやきいきびした物言いは母性を感じさせるものだった。だからこそ一流諜報員をして、生き別れの恋人やアルコール中毒であった父親の話まで、自らの思いの丈を洗いざらい彼女に白状せしめたのだろう。「彼女を本国へスカウトしましょうよ」報告書を読んだ青年が軽口を叩いていたのを思い出す。「看護士の給料って安いんでしょう? 今なら簡単に引き抜けますよ」 「今から10分ほど、この三ヶ月の記録からの抜粋を流す。その後はここを出て、西棟502号室前に移動を――Mが現在入院する病室の前だ。持ち物は筆記具だけでいい」  暗がりの中に戸惑いが広がる様子は、まるで目に見えるかのようだった。敢えて無視し、部屋を出る。  追いかけてきた青年は、ドアが完全に閉まりきる前から既にくすくす笑いで肩を震わせていた。 「ヘンリー・ロバーツの顔を見ましたか。今にも顎が落ちそうでしたよ」 「当然の話だろう」  煤けたような色のLEDライトは、細長く人気のない廊下を最低限カバーし、それ以上贅沢を望むのは許さないと言わんばかり。それでも闇に慣れた眼球の奥をじんじんと痺れさせる。大きく息をつき、教授は何度も目を瞬かせた。 「彼らは現場に出たこともなければ、百戦錬磨の諜報員を尋問したこともない。何不自由なく育った二十歳だ」 「そんなもんですかね」  ひんやりした白塗りの壁へ背中を押しつけ、青年はきらりと目を輝かせた。 「俺は彼ら位の頃、チェチェン人と一緒にウラル山脈へこもって、ロシアのくそったれ共を片っ端から廃鉱山の立坑に放り込んでましたよ」 「『育ちゆけよ、地に満ちて』だ。平和は有り難いことさ」  スマートフォンの振動は無視するつもりだったが、結局ポケットへ手を突っ込み、液晶をタップする。現れたテキストをまじまじと見つめた後、教授は紳士的に視線を逸らしていた青年へ向き直った。 「君のところにもメッセージが行っていると思うが、妻が改めて礼を言ってくれと」 「お安い御用ですよ」 「それと、ああ、その自転車は包装されているのか?」 「ほうそうですか」  最初繰り返したとき、彼は自らが口にした言葉の意味を飲み込めていなかったに違いない。日に焼けた精悍な顔が、途端にぽかんとした間抜け面に変わる。奨学金を得てどれだけ懸命に勉強しても、この表情を取り繕う方法は、ついぞ学べなかったらしい。普段の明朗な口振りが嘘のように、言葉付きは歯切れが悪い。 「……ええっと、多分フェデックスか何かで来ると思うので、ダンボールか緩衝材にくるんであるんじゃないでしょうか……あいつは慣れてるから、配送中に壊れるような送り方は絶対しませんよ」 「いや、そうじゃないんだ。誕生日の贈り物だから、可愛らしい包み紙をこちらのほうで用意すべきかということで」 「ああ、なるほど……」  何とか混乱から立ち直った口元に、決まり悪げなはにかみが浮かぶ。 「しかし……先生の息子さんが羨ましい。俺の親父もマツモトの父親とそうそう変わらないろくでなしでしたから」  僅かに赤らんだ顔を俯かせて頭を掻き、ぽつりと呟いた言葉に普段の芝居掛かった気負いは見られない。鈍い輝きを帯びた瞳が、おもねるような上目遣いを見せた。 「先生のような父親がいれば、きっと世界がとてつもなく安全で、素晴らしい物のように見えるでしょうね」  皮肉を言われているのか、と一瞬思ったが、どうやら違うらしい。  息子とはここ数週間顔を合わせていなかった。打ち込んでいるサッカーの試合や学校の発表会に来て欲しいと何度もせがまれているが、積み重なる仕事は叶えてやる機会を許してはくれない。  いや、本当に自らは、努力を重ねたか? 確たる意志を以て、向き合う努力を続けただろうか。  自らが妻子を愛していると、教授は知っている。彼は己のことを分析し、律していた。自らが家庭向きの人間ではないことを理解しなから、家族を崩壊させないだけのツボを的確に押さえている事実へ、怒りの叫びを上げない程度には。  目の前の男は、まだ期待の籠もった眼差しを向け続けている。一体何を寄越せば良いと言うのだ。今度こそ苦い笑いを隠しもせず、教授は再びドアノブに手を伸ばした。  着慣れない白衣姿に忍び笑いが漏れるのへ、わざとらしいしかめっ面を作って見せる。 「これから先、私は傍観者だ。今回の実習を主導するのは彼だから」  「皆の良い兄貴分」を気取っている青年が、芝居掛かった仕草のお辞儀をしてみせる。生徒達と同じように拍手を与え、教授は頷いた。 「私はいないものとして考えるように……皆、彼の指示に従うこと」 「指示なんて仰々しい物は特にない、みんな気楽にしてくれ」  他の患者も含め人払いを済ませた廊下へ響かぬよう、普段よりは少し落とした声が、それでも軽やかに耳を打った。 「俺が定める禁止事項は一つだけ――禁止事項だ。これからここで君たちがやった事は、全てが許される。例え法に反することでも」  わざとらしく強い物言いに、顔を見合わせる若者達の姿は、これから飛ぶ練習を始める雛鳥そのものだった。彼らをぐるりと見回す青年の胸は、愉悦でぱんぱんに膨れ上がっているに違いない。大袈裟な身振りで手にしたファイルを振りながら、むずつかせる唇はどうだろう。心地よく浸る鷹揚さが今にも溢れ出し、顔を満面の笑みに変えてしまいそうだった。 「何故ならこれから君達が会う人間は、その法律の上では存在しない人間なんだから……寧ろ俺は、君達に積極的にこのショーへ参加して欲しいと思ってる。それじゃあ、始めようか」  最後にちらりと青年が寄越した眼差しへ、教授はもう一度頷いて見せた。ここまでは及第点。生徒達は不安を抱えつつも、好奇心を隠せないでいる。  ぞろぞろと向かった先、502号室の扉は閉じられ、物音一つしない。ちょうど昼食が終わったばかりだから、看護士から借りた本でも読みながら憩っているのだろう――日報はルーティンと化していたが、それでも教授は欠かさず目を通し続けていた。  生徒達は皆息を詰め、これから始まる出し物を待ちかまえている。青年は最後にもう一度彼らを振り向き、シッ、と人差し指を口元に当てた。ぴいん、と緊張が音を立てそうなほど張り詰められたのは、世事に疎い学生達も気がついたからに違いない。目の前の男の目尻から、普段刻まれている笑い皺がすっかり失せていると。  分厚い引き戸が勢いよく開かれる。自らの姿を、病室の中の人間が2秒以上見つめたと確認してから、青年はあくまで穏やかな、だがよく聞こえる声で問いかけた。 「あんた、ここで何をしているんだ」  何度も尋問を起こった青年と違い、教授がヒカル・K・マツモトを何の遮蔽物もなくこの目で見たのは、今日が初めての事だった。  教授が抱いた印象は、初見時と同じ――よく飼い慣らされた犬だ。はしっこく動いて辺りを確認したかと思えば、射るように獲物を見据える切れ長で黒目がちの瞳。すっと通った細長い鼻筋。桜色の形良い唇はいつでも引き結ばれ、自らが慎重に選んだ言葉のみ、舌先に乗せる機会を待っているかのよう。  見れば見るほど、犬に思えてくる。教授がまだ作戦本部にいた頃、基地の中を警邏していたシェパード。栄養状態が回復したせいか、艶を取り戻した石炭色の髪までそっくりだった。もっともあの軍用犬達はベッドと車椅子を往復していなかったので、髪に寝癖を付けたりなんかしていなかったが。  犬は自らへしっぽを振り、手綱を握っている時にのみ役に立つ。牙を剥いたら射殺せねばならない――どれだけ気に入っていたとしても。教授は心底、その摂理を嘆いた。  自らを散々痛めつけた男の顔を、一瞬にして思い出したのだろう。Mは驚愕に目を見開いたものの、次の瞬間車椅子の中で身構えた。 「おまえは…!」 「何をしているかと聞いているんだ、マツモト。ひなたぼっこか?」  もしもある程度予測できていた事態ならば、この敏腕諜報員のことだ。ベッド脇にあるナイトスタンドから取り上げた花瓶を、敵の頭に叩きつける位の事をしたかもしれない。だが不幸にも、青年の身のこなしは機敏だった。パジャマの襟首を掴みざま、まだ衰弱から完全に抜けきっていない体を床に引き倒す。 「どうやら、少しは健康も回復したようだな」  自らの足元にくずおれる姿を莞爾と見下ろし、青年は手にしていたファイルを広げた。 「脚はどうだ」 「おかげさまで」  ギプスをはめた脚をかばいながら、Mは小さく、はっきりとした声で答えた。 「どうやってここを見つけた」 「見つけたんじゃない。最初から知っていたんだ。ここへお前を入院させたのは俺たちなんだから」  一瞬見開かれた目は、すぐさま平静を取り戻す。膝の上から滑り落ちたガルシア・マルケスの短編集を押し退けるようにして床へ手を滑らせ、首を振る。 「逐一監視していた訳か」 「ああ、その様子だと、この病院そのものが俺たちの手中にあったとは、気付いていなかったらしいな」  背後を振り返り、青年は中を覗き込む生徒達に向かって繰り返した。 「重要な点だ。この囚人は、自分が未だ捕らわれの身だという事を知らなかったそうだ」  清潔な縞模様のパジャマの中で、背中が緩やかな湾曲を描く。顔を持ち上げ、Mは生徒達をまっすぐ見つめた。  またこの目だ。出来る限り人だかりへ紛れながらも、教授はその眼差しから意識を逸らすことだけは出来なかった。有利な手札など何一つ持っていないにも関わらず、決して���われない榛色の光。確かにその瞳は森の奥の泉のように静まり返り、暗い憂いを帯びている。あらかじめ悲しみで心を満たし、もうそれ以上の感情を注げなくしているかのように。  ねめ回している青年も、Mのこの堅固さならよく理解しているだろう――何せ数ヶ月前、その頑強な鎧を叩き壊そうと、手ずから車のバッテリーに繋いだコードを彼の足に接触させていたのだから。  もはや今、鸚鵡のように「口を割れ」と繰り返す段階は過ぎ去っていた。ファイルの中から写真の束を取り出して二、三枚繰り、眉根を寄せる。 「本当はもう少し早く面会するつもりだったんだが、待たせて悪かった。あんたがここに来て、確か3ヶ月だったな。救助は来なかったようだ」 「ここの電話が交換式になってる理由がようやく分かったよ。看護士に渡した手紙も握りつぶされていた訳だな」 「気付いていたのに、何もしなかったのか」 「うちの組織は、簡単にとかげの尻尾を切る」  さも沈痛なそぶりで、Mは目を伏せた。 「大義を為すためなら、末端の諜報員など簡単に見捨てるし、皆それを承知で働いている」  投げ出されていた手が、そろそろと左足のギプスの方へ這っていく。そこへ削って尖らせたスプーンを隠してある事は、監視カメラで確認していた。知っていたからこそ、昨晩のうちに点滴へ鎮静剤を混ぜ、眠っているうちに取り上げてしまう事はたやすかった。  ほつれかけたガーゼに先細りの指先が触れるより早く、青年は動いた。 「確かに、お前の所属する組織は、仲間がどんな目に遭おうと全く気に掛けないらしいな」  手にしていた写真を、傷が目立つビニール張りの床へ、一枚、二枚と散らす。Mが身を凍り付かせたのは、まだ僅かに充血を残したままの目でも、その被写体が誰かすぐ知ることが出来たからだろう。 「例え女であったとしても、我が国の情報局が手加減など一切しないことは熟知しているだろうに」  最初の数枚においては、CもまだMが知る頃の容姿を保っていた。枚数が増えるにつれ、コマの荒いアニメーションの如く、美しい女は徐々に人間の尊厳を奪われていく――撮影日時は、写真の右端に焼き付けられていた。  Mがされていたのと同じくらい容赦なく殴られ、糞尿や血溜まりの中で倒れ伏す姿。覚醒剤で朦朧としながら複数の男達に辱められる。時には薬を打たれることもなく、苦痛と恥辱の叫びを上げている歪んだ顔を大写しにしたものもある。分かるのは、施されるいたぶりに終わりがなく、彼女は時を経るごとにやせ細っていくということだ。 「あんたがここで骨休めをしている間、キャシー・ファイクは毎日尋問に引き出されていた。健気に耐えたよ、全く驚嘆すべき話だ。そういう意味では、君たちの組織は実に優秀だと言わざるを得ない」  次々と舞い落ちてくる写真の一枚を拾い上げ、Mは食い入るように見つめていた。養生生活でただでも青白くなった横顔が、俯いて影になることで死人のような灰色に変わる。 「彼女は最終的に情報を白状したが……恐らく苦痛から解放して欲しかったのだろう。この三ヶ月で随分衰弱してしまったから」  Mは自らの持てる技術の全てを駆使し、動揺を押さえ込もうとしていた。その努力は殆ど成功している。ここだけは仄かな血色を上らせた、薄く柔い唇を震わせる以外は。  その様をつくづくと見下ろしながら、青年はどこまでも静かな口調で言った。 「もう一度聞くが、あんた、ここで何をしていた?」  再び太ももへ伸ばされた左手を、踏みつけにする足の動きは機敏だった。固い靴底で手の甲を踏みにじられ、Mはぐっと奥歯を噛みしめ、相手を睨み上げた。教授が初めて目にする、燃えたぎるような憎悪の色を視線に織り込みながら。その頬は病的なほど紅潮し、まるで年端も行かない子供を思わせる。  そして相手がたかぶるほど、青年は感情を鎮静化させていくのだ。全ての写真を手放した後、彼は左腕の時計を確認し、それから壁に掛かっていた丸い時計にも目を走らせた。 「数日前、Cはこの病院に運び込まれた。お偉方は頑なでね。まだ彼女が情報を隠していると思っているようだ」 「これ以上、彼女に危害を加えるな」  遂にMは口を開き、喉の奥から絞り出すようにして声を放った。 「情報ならば、僕が話す」 「あんたにそんな役割は求めていない」  眉一つ動かすことなく、青年は言葉を遮った。 「あんたは3ヶ月前に、その言葉を口にすべきだった。もう遅い」  唇を噛むMから目を離さないまま、部屋の前の生徒達に手だけの合図が送られる。今やすっかりその場の空気に飲まれ、彼らはおたおたと足を動かすのが精一杯。一番賢い生徒ですら、質問を寄越そうとはしなかった。 「彼女に会わせてやろう。もしも君が自分の足でそこにたどり着けるのならば。俺の上官が出した指示はこうだ。この廊下の突き当たりにある手術室にCを運び込み、麻酔を掛ける。5分毎に、彼女の体の一部は切り取られなければならない。まずは右腕、次に右脚、四肢が終わったら目を抉り、鼻を削いで口を縫い合わせ、喉を潰す。耳を切りとったら次は内臓だ……まあ、この順番は多少前後するかもしれない。医者の気まぐと彼女の体調次第で」  Mはそれ以上、抗弁や懇願を口にしようとはしなかった。ただ歯を食いしばり、黙ってゲームのルールに耳を澄ましている。敵の陣地で戦うしか、今は方法がないのだと、聡い彼は理解しているのだろう。 「もしも君が部屋までたどり着けば、その時点で手術を終了させても良いと許可を貰ってる。彼女の美しい肉体をどれだけ守れるかは、君の努力に掛かっているというわけだ」  足を離して解放しざま、青年はすっと身を傍らに引いた。 「予定じゃ、もうカウントダウンは始まっている。そろそろ医者も、彼女の右腕に局部麻酔を打っているんじゃないか?」  青年が言い終わらないうちに、Mは床に投げ出されていた腕へ力を込めた。  殆ど完治しているはずの脚はしかし、過剰なギプスと長い車椅子生活のせいですっかり萎えていた。壁に手をつき、立ち上がろうとする奮闘が繰り返される。それだけの動作で、全身に脂汗が滲み、細かい震えが走っていた。  壁紙に爪を立てて縋り付き、何とか前かがみの姿勢になれたとき、青年はその肩に手を掛けた。力任せに押され、受け身を取ることも叶わなかったらしい。無様に尻餅をつき、Mは顔を歪めた。 「さあ」  人を突き飛ばした手で部屋の外に並ぶ顔を招き、青年はもぞつくMを顎でしゃくる。 「君達の出番だ」  部屋の中へ足を踏み入れようとするものは、誰もいなかった。  その後3度か4度、起き上がっては突き飛ばされるが繰り返される。結局Mは、それ以上立ち上がろうとする事を諦めた。歯を食いしばって頭を垂れ、四つん這いになる。出来る限り避けようとはしているのだろう。だが一歩手を前へ進めるたび、床へ広がったままの写真が掌にくっついては剥がれるを繰り返す。汗を掻いた手の下で、印画紙は皺を作り、折れ曲がった。 「このままだと、あっさり部屋にたどり着くぞ」  薄いネルの布越しに尻を蹴飛ばされ、何度かその場へ蛙のように潰れながらも、Mは部屋の外に出た。生徒達は彼の行く手を阻まない。かといって、手を貸したり「こんな事はよくない」と口にするものもいなかったが。  細く長い廊下は一直線で、突き当たりにある手術室までの距離は50メートル程。その気になれば10分も掛からない距離だ。  何とも奇妙な光景が繰り広げられた。一人の男が、黙々と床を這い続ける。その後ろを、20人近い若者が一定の距離を開けてぞろぞろと付いていく。誰も質問をするものはいなかった。ノートに記録を取るものもいなかった。 少し距離を開けたところから、教授は様子を眺めていた。次に起こる事を待ちながら――どういう形にせよ、何かが起こる。これまでの経験から、教授は理解していた。 道のりの半分程まで進んだ頃、青年はそれまでMを見張っていた視線を後ろへ振り向けた。肩が上下するほど大きな息を付き、ねだる様な表情で微笑んで見せる。 「セルゲイ、ラマー、手を貸してくれ。奴をスタートまで引き戻すんだ」  学生達の中でも一際体格の良い二人の男子生徒は、お互いの顔を見合わせた。その口元は緊張で引きつり、目ははっきりと怯えの色に染まっている。 「心配しなくてもいい。さっきも話したが、ここでは何もかもが許される……ぐずぐずするな、単位をやらないぞ」  最後の一言が利いたのかは分からないが、二人はのそのそと中から歩み出てきた。他の学生が顔に浮かべるのは非難であり、同情であり、それでも決して手を出すことはおろか、口を開こうとすらしないのだ。  話を聞いていたMは、必死で手足の動きを早めていた。どんどんと開き始める距離に、青年が再び促せば、結局男子生徒は小走りで後を追う。一人が腕を掴んだとき、Mはまるで弾かれたかのように顔を上げた。その表情は、自らを捕まえた男と同じくらい、固く強張っている。 「頼む」  掠れた声に混ざるのは、間違いなく懇願だった。小さな声は、静寂に満ちた廊下をはっきりと貫き通る。 「頼むから」 「ラマー」  それはしかし、力強い指導者の声にあっけなくかき消されるものだった。意を決した顔で、二人はMの腕を掴み直し、背後へと引きずり始めた。  Mの抵抗は激しかった。出来る限り身を捩り、ギプスのはまった脚を蠢かす。たまたま���固められたグラスファイバーが臑に当たったか、爪が腕を引っ掻いたのだろう。かっと眦をつり上げたセルゲイが、平手でMの頭を叩いた。あっ、と後悔の顔が浮かんだのもつかの間、拘束をふりほどいたMは再び手術室を目指そうと膝を突く。追いかけたラマーに、明確な抑止の気持ちがあったのか、それともただ単に魔が差したのかは分からない。だがギプスを蹴り付ける彼の足は、決して生ぬるい力加減のものではなかった。  その場へ横倒しになり、呻きを上げる敵対性人種を、二人の男子生徒はしばらくの間見つめていた。汗みずくで、時折せわしなく目配せを交わしあっている。やがてどちらともなく、再び仕事へ取りかかろうとしたとき、その足取りは最初と比べて随分とスムーズなものになっていた。  病室の入り口まで連れ戻され、身を丸めるMに、青年がしずしずと歩み寄る。腕時計をこれ見よがしに掲げながら放つ言葉は、あくまでも淡々としたものだった。 「今、キャシーは右腕を失った」  Mは全身を硬直させ、そして弛緩させた。何も語らず、目を伏せたまま、また一からやり直そうと努力を続ける。 不屈の精神。だがそれは青年を面白がらせる役にしか立たなかった。  同じような事が何度も繰り返されるうち、ただの背景でしかなかった生徒達に動きが見え始めた。  最初のうちは、一番に手助けを求められた男子生徒達がちょっかいをかける程度だった。足を掴んだり、行く手を塞いだり。ある程度進めばまた病室まで引きずっていく。そのうち連れ戻す役割に、数人が関わるようになった。そうなると、全員が共犯者になるまで時間が掛からない。  やがて、誰かが声を上げた。 「このスパイ」  つられて、一人の女子生徒がMを指さした。 「この男は、私たちの国を滅ぼそうとしているのよ」 「悪魔、けだもの!」  糾弾は、ほとんど悲鳴に近い音程で迸った。 「私の叔母は、戦争中こいつの国の人間に犯されて殺された! まだたった12歳だったのに!」  生徒達の目の焦点が絞られる。  病室へ駆け込んだ一人が戻ってきたとき手にしていたのは、ピンク色のコスモスを差した重たげな花瓶だった。花を引き抜くと、その白く分厚い瀬戸物を、Mの頭上で逆さまにする。見る見るうちに汚れた冷水が髪を濡らし、パジャマをぐっしょり背中へと張り付かせる様へ、さすがに一同が息を飲む。  さて、どうなることやら。教授は一歩離れた場所から、その光景を見守っていた。  幸い、杞憂は杞憂のままで終わる。すぐさま、どっと歓声が弾けたからだ。笑いは伝染する。誰か一人が声を発すれば、皆が真似をする。免罪符を手に入れたと思い込む。  そうなれば、後は野蛮で未熟な度胸試しの世界になった。 殴る、蹴るは当たり前に行われた。直接手を出さない者も、もう目を逸らしたり、及び腰になる必要はない。鋏がパジャマを切り裂き、無造作に掴まれた髪を黒い束へと変えていく様子を、炯々と目を光らせて眺めていられるのだ。 「まあ、素敵な格好ですこと」  また嘲笑がさざ波のように広がる。その発作が収まる隙を縫って、時折腕時計を見つめたままの青年が冷静に告げる。「今、左脚が失われた」  Mは殆ど抵抗しなかった。噛みしめ過ぎて破れた唇から血を流し、目尻に玉の涙を浮かべながら。彼は利口だから、既に気付いていたのだろう。まさぐったギプスに頼みの暗器がない事にも、Cの命が彼らの機嫌一つで簡単に失われるという事も――その経験と知識と理性により、がんじがらめにされた思考が辿り着く結論は、一つしかない――手術室を目指せ。  まだ、この男は意志を折ってはいない。作戦本部へ忍び込もうとして捕らえられた時と、何一つ変わっていない。教授は顎を撫で、青年を見遣った。彼はこのまま、稚拙な狂乱に全てを任せるつもりなのだろうか。  罵りはやし立てる声はますます激しくなった。上擦った声の多重奏は狭い廊下を跳ね回っては、甲高く不気味な音程へと姿を変え戻ってくる。 短くなった髪を手綱のように掴まれ、顎を逸らされるうち、呼吸が続かなくなったのだろう。強い拒絶の仕草で、Mの首が振られる。彼の背中へ馬乗りになり、尻を叩いていた女子学生達が、体勢を崩して小さく悲鳴を上げた。 「このクズに思い知らせてやれ」  仕置きとばかりに脇腹へ爪先を蹴込んだ男子生徒が、罵声をとどろかせた。 「自分の身分を思い知らせろ、大声を上げて泣かせてやれ」  津波のような足音が、身を硬直させる囚人に殺到する。その体躯を高々と掲げ上��た一人が、青年に向かって声を張り上げた。 「便所はどこですか」  指で示しながら、青年は口を開いた。 「今、鼻が削ぎ落とされた」  天井すれすれの位置まで持ち上げられた瞬間、全身に張り巡らされた筋肉の緊張と抵抗が、ふっと抜ける。力を無くした四肢は生徒達の興奮の波に合わせてぶらぶらと揺れるが、その事実に気付いたのは教授と、恐らく青年しかいないようだった。  びしょ濡れで、破れた服を痣だらけで、見るも惨めな存在。仰向けのまま、蛍光灯の白々とした光に全身を晒し、その輪郭は柔らかくぼやけて見えた。逸らされた喉元が震え、虚ろな目はもう、ここではないどこかをさまよってる――あるいは閉じこもったのだろうか?  一つの固い意志で身を満たす人間は、荘厳で、純化される。まるで死のように――教授が想像したのは、『ハムレット』の終幕で、栄光を授けられ、兵達に運び出されるデンマーク王子の亡骸だった。  実際のところ、彼は気高い王子ではなく、物語がここで終わる訳でもないのだが。  男子トイレから上がるはしゃいだ声が熱を帯び始めた頃、スラックスのポケットでスマートフォンが振動する。発信者を確認した教授は、一度深呼吸をし、それから妻の名前を呼んだ。 「どうしたんだい、お義父さんの容態が変わった?」 「それは大丈夫」  妻の声は相変わらず、よく着こなされた毛糸のセーターのように柔らかで、温かかった。特に差し向かいで話をしていない時、その傾向は顕著になる。 「あのね、自転車の事なんだけれど、いつぐらいに着くのかしら」  スピーカーを手で押さえながら、教授は壁に寄りかかってスマートフォンを弄っていた青年に向かって叫んだ。 「君の友達は、マウンテンバイクの到着日時を指定したって言っていたか」 「いえ」 「もしもし、多分来週の頭くらいには配送されると思うよ」 「困ったわ、来週は婦人会とか読書会とか、家を空けるのよ」 「私がいるから受け取っておく、心配しないでいい。何なら再配達して貰えば良いし」 「そうね、サプライズがばれなければ」 「子供達は元気にしてるかい」 「変わらずよ。来週の休暇で、貴方とサッカーの試合を観に行くのを楽しみにしてる」 「そうだった。君はゆっくり骨休めをするといいよ……そういえば、さっきの包装の事だけれど、わざわざ紙で包まなくても、ハンドルにリボンでも付けておけばいいんじゃないかな」 「でも、もうさっき玩具屋で包装紙を買っちゃったのよ!」 「なら、それで箱を包んで……誕生日まで隠しておけるところは? クローゼットには入らないか」 「今物置を片づけてるんだけど、貴方の荷物には手を付けられないから、帰ったら見てくれる?」 「分かった」 「そっちで無理をしないでね……ねえ、今どこにいるの? 人の悲鳴が聞こえたわ」 「生徒達が騒いでるんだよ。皆研修旅行ではしゃいでるから……明日は一日、勉強を休んで遊園地だし」 「貴方も一緒になって羽目を外さないで、彼がお目付け役で付いていってくれて一安心だわ……」 「みんないい子にしてるさ。もう行かないと。愛してるよ、土産を買って帰るからね」 「私も愛してるわ、貴方」  通話を終えたとき、また廊下の向こうで青年がニヤニヤ笑いを浮かべているものかと思っていたが――既に彼は、職務に戻っていた。  頭から便器へ突っ込まれたか、小便でも掛けられたか、連れ戻されたMは床へぐったり横たわり、激しく噎せ続けていた。昼に食べた病院食は既に吐き出したのか、今彼が口から絶え間なく溢れさせているのは黄色っぽい胃液だけだった。床の上をじわじわと広がるすえた臭いの液体に、横顔や髪がべったりと汚される。 「うわ、汚い」 「こいつ、下からも漏らしてるぞ」  自らがしでかした行為の結果であるにも関わらず、心底嫌悪に満ちた声がそこかしこから上がる。 「早く動けよ」  どれだけ蔑みの言葉を投げつけられ、汚れた靴で蹴られようとも、もうMはその場に横たわったきり決して動こうとしなかった。頑なに閉じる事で薄い瞼と長い睫を震わせ、力の抜けきった肉体を冷たい床へと投げ出している。  糸の切れた操り人形のようなMの元へ、青年が近付いたのはそのときのことだった。枕元にしゃがみ込み、指先でこつこつと腕時計の文字盤を叩いてみせる。 「あんたはもう、神に身を委ねるつもりなんだな」  噤まれた口などお構いなしに、話は続けられる。まるで眠りに落ちようとしている息子へ、優しく語り掛ける母のように。 「彼女はもう、手足もなく、目も見えず耳も聞こえない、今頃舌も切り取られただろう……生きる屍だ。これ以上、彼女を生かすのはあまりにも残酷過ぎる……だからこのまま、手術が進み、彼女の肉体が耐えられなくなり、天に召されるのを待とうとしているんだな」  Mは是とも否とも答え��かい。ただ微かに顔を背け、眉間にきつく皺を寄せたのが肯定の証だった。 「俺は手術室に連絡を入れた。手術を中断するようにと。これでもう、終わりだ。彼女は念入りに手当されて、生かされるだろう。彼女は強い。生き続ければ、いつかはあんたに会えると、自分の存在があんたを生かし続けると信じているからだ。例え病もうとも、健やかであろうとも……彼女はあんたを待っていると、俺は思う」  Mの唇がゆっくりと開き、それから固まる。何かを、言おうと思ったのだろう。まるで痙攣を起こしたように顎ががくがくと震え、小粒なエナメル質がカチカチと音を立てる。今にも舌を噛みそうだった。青年は顔を近付け、吐息に混じる潰れた声へ耳を傾けた。 「彼女を……彼女を、助けてやってくれ。早く殺してやってくれ」 「だめだ。それは俺の仕事じゃない」  ぴしゃりと哀願をはねのけると、青年は腰を上げた。 「それはあんたの仕事だ。手術室にはメスも、薬もある。あんたがそうしたいのなら、彼女を楽にしてやれ。俺は止めはしない」  Mはそれ以上の話を聞こうとしなかった。失われていた力が漲る。傷ついた体は再び床を這い始めた。  それまで黙って様子を見守っていた生徒達が、顎をしゃくって見せた青年の合図に再び殺到する。無力な腕に、脚に、襟首に、胴に、絡み付くかのごとく手が伸ばされる。  今度こそMは、全身の力を使って体を突っ張らせ、もがき、声を限りに叫んだ。生徒達が望んでいたように。獣のような咆哮が、耳を聾する。 「やめてくれ……行かせてくれ!! 頼む、お願いだ、お願いだから!!」 「俺達の国の人間は、もっと酷い目に遭ったぞ」  それはだが、やがて生徒達の狂躁的な笑い声に飲み込まれる。引きずられる体は、病室を通り過ぎ、廊下を曲がり、そして、とうとう見えなくなった。Mの血を吐くような叫びだけが、いつまでも、いつまでも聞こえ続けていた。  再びMの姿が教授の前へと現れるまで、30分程掛かっただろうか。もう彼を邪魔するものは居なかった。時々小馬鹿にしたような罵声が投げかけられるだけで。  力の入らない手足を叱咤し、がくがくと震わせながら、それでもMは這い続けた。彼はもう、前を見ようとしなかった。ただ自分の手元を凝視し、一歩一歩、渾身の力を振り絞って歩みを進めていく。割れた花瓶の破片が掌に刺さっても、顔をしかめる事すらしない。全ての表情はすっぽりと抜け落ち、顔は仮面のように、限りなく端正な無表情を保っていた。まるで精巧なからくり人形の、動作訓練を行っているかのようだった。彼が人間であることを示す、手から溢れた薄い血の痕が、ビニールの床へ長い線を描いている。  その後ろを、生徒達は呆けたような顔でのろのろと追った。髪がめちゃくちゃに逆立っているものもいれば、ネクタイを失ったものもいる。一様に疲れ果て、後はただ緩慢に、事の成り行きを見守っていた。  やがて、汚れ果てた身体は、手術室にたどり着いた。  伸ばされた手が、白い扉とドアノブに赤黒い模様を刻む。全身でぶつかるようにしてドアを押し開け、そのままその場へ倒れ込んだ。  身を起こした時、彼はすぐに気が付いたはずだ。  その部屋が無人だと。  手術など、最初から行われていなかったと。  自らが犯した、取り返しの付かない過ちと、どれだけ足掻いても決して変えることの出来なかった運命を。 「彼女は手術を施された」  入り口に寄りかかり、口を開いた青年の声が、空っぽの室内に涼々と広がる。 「彼女はあんたに会いたがっていた。あんたを待っていた。それは過去の話だ」  血と汗と唾液と、数え切れない程の汚物にまみれた頭を掴んでぐっと持ち上げ、叱責は畳みかけられる。 「彼女は最後まで、あんたを助けてくれと懇願し続けた。半年前、この病院へ放り込まれても、あんたに会おうと這いずり回って何度も逃げ出そうとした。もちろん、ここがどんな場所かすぐに気付いたよ。だがどれだけ宥めても、あんたと同じところに返してくれの一点張りだ。愛情深く、誇り高い、立派な女性だな。涙なしには見られなかった」  丸く開かれたMの口から、ぜいぜいと息とも声とも付かない音が漏れるのは、固まって鼻孔を塞ぐ血のせいだけではないのだろう。それでも青年は、髪を握る手を離さなかった。 「だから俺達は、彼女の望みを叶えてやった。あんたと共にありたいという望みをな……ステーキは美味かったか? スープは最後の一匙まで飲み干したか? 彼女は今頃、どこかの病院のベッドの上で喜んでいるはずだ。あんたと二度と離れなくなっただけじゃない。自分の肉体が、これだけの責め苦に耐えられる程の健康さをあんたに取り戻させたんだからな」  全身を震わせ、Mは嘔吐した。もう胃の中には何も残っていないにも関わらず。髪がぶちぶちと引きちぎられることなどお構いなしで俯き、背中を丸めながら。 「吐くんじゃない。彼女を拒絶するつもりか」  最後に一際大きく喉が震えたのを確認してから、ぱっと手が離される。 「どれだけ彼女を悲しませたら、気が済むんだ」  Mがもう、それ以上の責め苦を与えられる事はなかった。白目を剥いた顔は吐瀉物――に埋まり、ぴくりとも動かない。もうしばらく、彼が意識を取り戻すことはないだろう――なんなら、永遠に取り戻したくはないと思っているかもしれない。 「彼はこの後すぐ麻酔を打たれ、死体袋に詰め込まれて移送される……所属する組織の故国へか、彼の父の生まれ故郷か、どこ行きの飛行機が手頃かによるが……またどこかの街角へ置き去りにされるだろう」  ドアに鍵を掛け、青年は立ち尽くす生徒達に語り掛けた。 「君達は、俺が随分ひどい仕打ちをしでかしたと思っているだろう。だが、あの男はスパイだ。彼が基地への潜入の際撃ち殺した守衛には、二人の幼い子供達と、身重の妻がいる……これは君達への気休めに言ってるんじゃない。彼を生かし続け、このまま他の諜報員達に甘い顔をさせていたら、それだけ未亡人と父無し子が増え続けるってことだ」  今になって泣いている女子生徒も、壁に肩を押しつけることで辛うじてその場へ立っている男子生徒も、同じ静謐な目が捉え、慰撫していく。 「君達は、12歳の少女が犯されて殺される可能性を根絶するため、ありとあらゆる手段を用いることが許される。それだけ頭に入れておけばいい」  生徒達はぼんやりと、青年の顔を見つめていた。何の感情も表さず、ただ見つめ続けていた。  この辺りが潮時だ。ぽんぽんと手を叩き、教授は沈黙に割って入った。 「さあ、今日はここまでにしよう。バスに戻って。レポートの提出日は休み明け最初の講義だ」  普段と代わり映えのしない教授の声は、生徒達を一気に現実へ引き戻した。目をぱちぱちとさせたり、ぐったりと頭を振ったり。まだ片足は興奮の坩堝へ突っ込んでいると言え、彼らはとろとろとした歩みで動き出した。 「明日に備えてよく食べ、よく眠りなさい。遊園地で居眠りするのはもったいないぞ」  従順な家畜のように去っていく中から、まだひそひそ話をする余力を残していた一人が呟く。 「すごかったな」   白衣を受付に返し、馴染みの医師と立ち話をしている間も、青年は辛抱強く教授の後ろで控えていた。その視線が余りにも雄弁なので、あまりじらすのも忍びなくなってくる――結局のところ、彼は自らの手中にある人間へ大いに甘いのだ。 「若干芝居掛かっていたとは言え、大したものだ」  まだ敵と対決する時に浮かべるのと同じ、緊張の片鱗を残していた頬が、その一言で緩む。 「ありがとうございます」 「立案から実行までも迅速でスムーズに進めたし、囚人の扱いも文句のつけようがない。そして、学生達への接し方と御し方は実に見事なものだ。普段からこまめに交流を深めていた賜だな」 「そう言って頂けたら、報われました」  事実、彼の努力は報われるだろう。教授の書く作戦本部への推薦状という形で。  青年は教授の隣に並んで歩き出した。期待で星のように目を輝かせ、胸を張りながら。意欲も、才能も、未来もある若者。自らが手塩にかけて全てを教え込み、誇りを持って送り出す事の出来る弟子。  彼が近いうちに自らの元を去るのだと、今になってまざまざ実感する。 「Mはどこに棄てられるんでしょうね。きっとここからずっと離れた、遙か遠い場所へ……」  今ほど愛する者の元へ帰りたい��思ったことは、これまで一度もなかった。  終
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nyantria · 8 years ago
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* 秋元寿恵 東京帝大出身の血清学者     1984年12月の証言 部隊に着任して人体実験のことを知った時は非常にショックを受けました。 あそこにいた科学者たちで良心の呵責を感じている者はほとんどいませんでした。 彼らは囚人たちを動物のように扱っていました。 ・・・・死にゆく過程で医学の発展に貢献できるなら名誉の死となると考えていたわけです。 私の仕事には人体実験は関係していませんでしたが、私は恐れおののいてしまいました。 私は所属部の部長である菊地少将に3回も4回も辞表を出しました。 しかしあそこから抜け出すことは出来ませんでした。 もし出て行こうとするならば秘かに処刑されると脅されました。 * 鎌田信雄 731部隊少年隊 1923年生      1995年10月 証言 私は石井部隊長の発案で集められた「まぼろしの少年隊1期生」でした。 注: 正式な1期から4期まではこの後に組織された 総勢22~23人だったと思います。 平房の本部では朝8時から午後2時までぶっ通しで一般教養、外国語、衛生学などを勉強させられ、 3時間しか寝られないほどでした。 午後は隊員の助手をやりました。 2年半の教育が終ったときは、昭和14年7月でした。 その後、ある細菌増殖を研究する班に所属しました。 平房からハルビンに中国語を習いに行きましたが、その時白華寮(731部隊の秘密連絡所)に立ち寄りました ・・・・200部隊(731部隊の支隊・馬疫研究所)では、実験用のネズミを30万匹買い付けました。 ハルビン市北方の郊外に毒ガス実験場が何ケ所かあって、 安達実験場の隣に山を背景にした実験場があり、そこでの生体実験に立ち合ったことがあります。 安達には2回行ったことがありますが、1~2日おきに何らかの実験をしていました。 20~30人のマルタが木柱に後手に縛られていて、毒ガスボンベの栓が開きました。 その日は関東軍のお偉方がたくさん視察に来ていました。 竹田宮(天皇の従兄弟)も来ていました。 気象班が1週間以上も前から風向きや天候を調べていて大丈夫だということでしたが、 風向きが変わり、ガスがこちら側に流れてきて、あわてて逃げたこともあります ・・・・ホルマリン漬けの人体標本もたくさんつくりました。 全身のものもあれば頭や手足だけ、内臓などおびただしい数の標本が並べてありました。 初めてその部屋に入ったときには気持ちが悪くなって、何日か食事もできないほどでした。 しかし、すぐに慣れてしまいましたが、赤ん坊や子供の標本もありました ・・・・全身標本にはマルタの国籍、性別、年齢、死亡日時が書いてありましたが、 名前は書いてありませんでした。 中国人、ロシア人、朝鮮族の他にイギリス人、アメリカ人、フランス人と書いてあるのもありました。 これはここで解剖されたのか、他の支部から送られてきたものなのかはわかりません。 ヨーロッパでガラス細工の勉強をして来た人がピペットやシャ-レを造っていて、 ホルマリン漬けをいれるコルペもつくっていました。 731部隊には、子どももいました。 私は屋上から何度も、中庭で足かせをはめられたままで運動している“マルタ”を見たことがあります。 1939年の春頃のことだったと思いますが、3組の母子の“マルタ”を見ました。 1組は中国人の女が女の赤ちゃんを抱いていました。 もう1組は白系ロシア人の女と、4~5歳の女の子、 そしてもう1組は、これも白系ロシアの女で,6~7歳の男の子がそばにいました ・・・・見学という形で解剖に立ち合ったことがあります。 解剖後に取り出した内臓を入れた血だらけのバケツを運ぶなどの仕事を手伝いました。 それを経験してから1度だけでしたが、メスを持たされたことがありました。 “マルタ”の首の喉ぼとけの下からまっすぐに下にメスを入れて胸を開くのです。 これは簡単なのでだれにでもできるためやらされたのですが、 それからは解剖専門の人が細かくメスを入れていきました。 正確なデータを得るためには、できるだけ“マルタ”を普通の状態で解剖するのが望ましいわけです。 通常はクロロホルムなどの麻酔で眠らせておいてから解剖するのですが、 このときは麻酔をかけないで意識がはっきりしているマルタの手足を解剖台に縛りつけて、 意識がはっきりしているままの“マルタ”を解剖しました。 はじめは凄まじい悲鳴をあげたのですが、すぐに声はしなくなりました。 臓器を取り出して、色や重さなど、健康状態のものと比較し検定した後に、それも標本にしたのです。 他の班では、コレラ菌やチフス菌をスイカや麦の種子に植えつけて栽培し、 どのくらい毒性が残るかを研究していたところもあります。 菌に侵された種を敵地に撒くための研究だと聞きました。 片道分の燃料しか積まずに敵に体当りして死んだ特攻隊員は、天皇から頂く恩賜の酒を飲んで出撃しました。 731部隊のある人から、「あの酒には覚醒剤が入っており、部隊で開発したものだ」と聞きました ・・・・部隊には,入れかわり立ちかわり日本全国から医者の先生方がやってきて、 自分たちが研究したり、部隊の研究の指導をしたりしていました。 今の岩手医大の学長を勤めたこともある医者も、細菌学の研究のために部隊にきていました。 チフス、コレラ、赤痢などの研究では日本でも屈指の人物です。 私が解剖学を教わった石川太刀雄丸先生は、戦後金沢大学医学部の主任教授になった人物です。 チフス菌とかコレラ菌とかを低空を飛ぶ飛行機からばらまくのが「雨下」という実験でした。 航空班の人と、その細菌を扱うことができる者が飛行機に乗り込んで、村など人のいるところへ細菌をまきます。 その後どのような効果があったか調査に入りました。 ペスト菌は、ノミを介しているので陶器爆弾を使いました。 当初は陶器爆弾ではなく、ガラス爆弾が使われましたが、ガラスはだめでした。 ・・・・ペストに感染したネズミ1匹にノミを600グラム、だいたい3000~6000匹たからせて落とすと、 ノミが地上に散らばるというやり方です ・・・・ベトナム戦争で使った枯葉剤の主剤は、ダイオキシンです。 もちろん731部隊でもダイオキシンの基礎研究をやっていました。 アメリカは、この研究成果をもって行って使いました。 朝鮮戦争のときは石井部隊の医師達が朝鮮に行って、 この効果などを調べているのですが、このことは絶対に誰も話さないと思います。 アメリカが朝鮮で細菌兵器を使って自分の軍隊を防衛できなくなると困るので連れて行ったのです。 1940年に新京でペストが大流行したことがありました。(注:731部隊がやったと言われている) ・・・・そのとき隊長の命令で、ペストで死んで埋められていた死体を掘り出して、 肺や肝臓などを取り出して標本にし、本部に持って帰ったこともありました。 各車両部隊から使役に来ていた人たちに掘らせ、メスで死体の胸を割って 肺、肝臓、腎臓をとってシャ-レの培地に塗る、 明らかにペストにかかっているとわかる死体の臓器をまるまる持っていったこともあります。 私にとって���、これが1番いやなことでした。人の墓をあばくのですから・・・・ * 匿名 731部隊少佐 薬学専門家 1981年11月27日 毎日新聞に掲載されたインタビュ-から 昭和17年4月、731と516両部隊がソ満国境近くの都市ハイラル郊外の草原で3日間、合同実験をした。 「丸太」と呼ばれた囚人約100人が使われ、4つのトーチカに1回2,3人ずつが入れられた。 防毒マスクの将校が、液体青酸をびんに詰めた「茶びん」と呼ぶ毒ガス弾をトーチカ内に投げ、 窒息性ガスのホスゲンをボンベから放射した。 「丸太」にはあらかじめ心臓の動きや脈拍を見るため体にコードをつけ、 約50メ-トル離れた机の上に置いた心電図の計器などで、「死に至る体の変化」を記録した。 死が確認されると将校たちは、毒ガス残留を調べる試験紙を手にトーチカに近づき、死体を引きずり出した。 1回の実験で死ななかった者にはもう1回実験を繰り返し、全員を殺した。 死体はすべて近くに張ったテントの中で解剖した。 「丸太」の中に68歳の中国人の男性がいた。 この人は731部隊内でペスト菌を注射されたが、死ななかったので毒ガス実験に連れて来られた。 ホスゲンを浴びせても死なず、ある軍医が血管に空気を注射した。 すぐに死ぬと思われたが、死なないのでかなり太い注射器でさらに空気を入れた。 それでも生き続け、最後は木に首を吊って殺した。 この人の死体を解剖すると、内臓が若者のようだったので、軍医たちが驚きの声を上げたのを覚えている。 昭和17年当時、部隊の監獄に白系ロシア人の婦人5人がいた。 佐官級の陸軍技師(吉村寿人?)は箱状の冷凍装置の中に彼女等の手を突っ込ませ、 マイナス10度から同70度まで順々に温度を下げ、凍傷になっていく状況を調べた。 婦人たちの手は肉が落ち、骨が見えた。 婦人の1人は監獄内で子供を産んだが、その子もこの実験に使われた。 その後しばらくして監獄をのぞいたが、5人の婦人と子供の姿は見えなくなっていた。 死んだのだと思う。 * 山内豊紀  証言  1951年11月4日   中国档案館他編「人体実験」 われわれ研究室の小窓から、寒い冬の日に実験を受けている人がみえた。 吉村博士は6名の中国人に一定の負荷を背負わせ、一定の時間内に一定の距離を往復させ、 どんなに寒くても夏服しか着用させなかった。 みていると彼らは日ましに痩せ衰え、徐々に凍傷に冒されて、一人ひとり減っていった。 * 秦正  自筆供述書   1954年9月7日  中国档案館他編「人体実験」 私はこの文献にもとづいて第一部吉村技師をそそのかし、残酷な実験を行わせた。 1944年冬、彼は出産まもないソ連人女性愛国者に対して凍傷実験を行った。 まず手の指を水槽に浸してから、外に連れだして寒気の中にさらし、激痛から組織凍傷にまでいたらしめた。 これは凍傷病態生理学の実験で、その上で様々な温度の温水を使って「治療」を施した。 日を改めてこれをくり返し実施した結果、その指はとうとう壊死して脱落してしまった。 (このことは、冬期凍傷における手指の具体的な変化の様子を描くよう命じられた画家から聞いた) その他、ソ連人青年1名も同様の実験に使われた。 *上田弥太郎 供述書  731部隊の研究者   1953年11月11日  中国档案館他編「人���実験」 1943年4月上旬、7・8号棟で体温を測っていたとき中国人の叫び声が聞こえたので、すぐに見に行った。 すると、警備班員2名、凍傷班員3名が、氷水を入れた桶に1人の中国人の手を浸し、 一定の時間が経過してから取り出した手を、こんどは小型扇風機の風にあてていて、 被実験者は痛みで床に倒れて叫び声をあげていた。 残酷な凍傷実験を行っていたのである。 * 上田弥太郎   731部隊の研究者 中国人民抗日戦争記念館所蔵の証言 ・・・・すでに立ち上がることさえできない彼の足には、依然として重い足かせがくいこんで、 足を動かすたびにチャラチャラと鈍い鉄の触れ合う音をたてる ・・・・外では拳銃をぶら下げたものものしい警備員が監視の目をひからせており、警備司令も覗いている。 しかし誰一人としてこの断末魔の叫びを気にとめようともしない。 こうしたことは毎日の出来事であり、別に珍しいものではない。 警備員は、ただこの中にいる200名くらいの中国人が素直に殺されること、 殺されるのに反抗しないこと、よりよきモルモット代用となることを監視すればよいのだ ・・・・ここに押し込められている人々は、すでに人間として何一つ権利がない。 彼らはこの中に入れば、その名前はアラビア数字の番号とマルタという名前に変わるのだ。 私たちはマルタ何本と呼んでいる。 そのマルタOOO号、彼がいつどこからどのようにしてここに来たかはわからない。 * 篠塚良雄     731部隊少年隊   1923年生    1994年10月証言から ・・・・1939年4月1日、「陸軍軍医学校防疫研究室に集まれ」という指示を受けました ・・・・5月12日中国の平房に転属になりました ・・・・731部隊本部に着いて、まず目に入ったのは 「関東軍司令官の許可なき者は何人といえども立入りを禁ず」と書かれた立て看板でした。 建物の回りには壕が掘られ鉄条網が張り巡らされていました。 「夜になると高圧電流が流されるから気をつけろ」という注意が与えられました ・・・・当時私は16歳でした。 私たちに教育が開始されました・・・・ 「ここは特別軍事地域に指定されており、日本軍の飛行機であってもこの上空を飛ぶことはできない。 見るな、聞くな、言うな、これが部隊の鉄則だ」というようなことも言われました。・・・・ 「防疫給水部は第1線部隊に跟随し、主として浄水を補給し直接戦力の保持増進を量り、 併せて防疫防毒を実施するを任務とする」と強調されました ・・・・石井式衛生濾水機は甲乙丙丁と車載用、駄載用、携帯用と分類されていました ・・・・濾過管は硅藻土と澱粉を混ぜて焼いたもので“ミクロコックス”と言われていました ・・・・細菌の中で1番小さいものも通さないほど性能がいいと聞きました ・・・・私は最初は動物を殺すことさえ直視できませんでした。 ウサギなどの動物に硝酸ストリキニ-ネとか青酸カリなどの毒物を注射して痙攣するのを直視させられました。 「目をつぶるな!」と言われ、もし目をつぶれば鞭が飛んでくるのです ・・・・私に命じられたのは、細菌を培養するときに使う菌株、 通称“スタム”を研究室に取りに行き運搬する仕事でした。 江島班では赤痢菌、田部井班ではチフス菌、瀬戸川班ではコレラ菌と言うように それぞれ専門の細菌研究が進められていました ・・・・生産する場所はロ号棟の1階にありました。 大型の高圧滅菌機器が20基ありました ・・・・1回に1トンの培地を溶解する溶解釜が4基ありました ・・・・細菌の大量生産で使われていたのが石井式培養缶です。 この培養缶1つで何10グラムという細菌を作ることができました。 ノモンハンのときには1日300缶を培養したことは間違いありません ・・・・ここの設備をフル稼働させますと、1日1000缶の石井式培養缶を操作する事が出来ました。 1缶何10グラムですから膨大な細菌を作ることができたわけです ・・・・1940年にはノミの増殖に動員されました ・・・・ペストの感受性の一番強い動物はネズミと人間のようです。 ペストが流行するときにはその前に必ず多くのネズミが死ぬと言うことでした。 まずネズミにペスト菌を注射して感染させる。 これにノミをたからせて低空飛行の飛行機から落とす。 そうするとネズミは死にますが、 ノミは体温の冷えた動物からはすぐに離れる習性を持っているので、今度は人間につく。 おそらくこういう形で流行させたのであろうと思います ・・・・柄沢班でも、生体実験、生体解剖を毒力試験の名のもとに行ないました ・・・・私は5名の方を殺害いたしました。 5名の方々に対してそれぞれの方法でペストのワクチンを注射し、 あるいはワクチンを注射しないで、それぞれの反応を見ました。 ワクチンを注射しない方が1番早く発病しました。 その方はインテリ風で頭脳明晰といった感じの方でした。 睨みつけられると目を伏せる以外に方法がありませんでした。 ペストの進行にしたがって、真黒な顔、体になっていきました。 まだ息はありましたが、特別班の班員によって裸のまま解剖室に運ばれました ・・・・2ケ月足らずの間に5名の方を殺害しました。 特別班の班員はこの殺害したひとたちを、灰も残らないように焼却炉で焼いたわけであります。     注:ノモンハン事件 1939年5月11日、満州国とモンゴルの国境付近のノモンハンで、日本側はソ連軍に攻撃を仕掛けた。 ハルハ河事件とも言う。 4ケ月続いたこの戦いは圧倒的な戦力のソ連軍に日本軍は歯が立たず、 約17,000人の死者を出した。 ヒットラ-のポー��ンド侵攻で停戦となった。 あまりにみっともない負け方に日本軍部は長い間ノモンハン事件を秘密にしていた。 731部隊は秘密で参加し、ハルハ河、ホルステイン河に赤痢菌、腸チフス菌、パラチフス菌を流した。 参加者は、隊長碇常重軍医少佐、草味正夫薬剤少佐、作山元治軍医大尉、 瀬戸尚二軍医大尉、清水富士夫軍医大尉、その他合計22名だった。 (注:ハバロフスクの裁判記録に証言があります) * 鶴田兼敏  731部隊少年隊  1921年生 1994年731部隊展の報告書から 入隊は1938年11月13日でしたが、まだそのときは平房の部隊建物は建設中でした ・・・・下を見ますと“マルタ”が収容されている監獄の7、8棟の中庭に、 麻袋をかぶった3~4人の人が輪になって歩いているのです。 不思議に思い、班長に「あれは何だ?」と聞いたら、「“マルタ”だ」と言います。 しかし私には“マルタ”という意味がわかりません。 するとマルタとは死刑囚だと言うんです。 軍の部隊になぜ死刑囚がいるのかと疑問に思いましたが、 「今見たことはみんな忘れてしまえ!」と言われました・・・・ 基礎教育の後私が入ったのは昆虫班でした。 そこでは蚊、ノミ、ハエなどあらゆる昆虫、害虫を飼育していました。 ノミを飼うためには、18リットル入りのブリキの缶の中に、半分ぐらいまでおが屑を入れ、 その中にノミの餌にするおとなしい白ネズミを籠の中に入れて固定するんです。 そうするとたいてい3日目の朝には、ノミに血を吸い尽くされてネズミは死んでいます。 死んだらまた新しいネズミに取りかえるのです。 一定の期間が過ぎると、缶の中のノミを集めます。 ノミの採取は月に1,2度行なっていました ・・・・ノモンハン事件の時、夜中に突然集合がかかったのです ・・・・ホルステイン川のほとりへ連れていかれたのです。 「今からある容器を下ろすから、蓋を開けて河の中に流せ」と命令されました。 私たちは言われたままに作業をしました ・・・・基地に帰ってくると、石炭酸水という消毒液を頭から足の先までかけられました。 「何かやばいことをやったのかなあ。いったい、何を流したのだろうか」という疑問を持ちました ・・・・後で一緒に作業した内務班長だった衛生軍曹はチフスで死んだことを聞き、 あの時河に流したのはチフス菌だったとわかったわけです ・・・・いまだに頭に残っているものがあります。 部隊本部の2階に標本室があったのですが、 その部屋でペストで殺された“マルタ”の生首がホルマリンの瓶の中に浮いているのを見たことです。 中国人の男性でした。 また1,2歳の幼児が天然痘で殺されて、丸ごとホルマリンの中に浮いているのも見ました。 それもやはり中国人でした。 今もそれが目に焼きついて離れません。 * 小笠原 明  731部隊少年隊 1928年生れ  1993~94年の証言から ・・・・部隊本部棟2階の部隊長室近くの標本室の掃除を命じられました ・・・・ドアを開けたところに、生首の標本がありました。 それを見た瞬間、胸がつまって吐き気を催すような気持になって目をつぶりました。 標本室の中の生首は「ロスケ(ロシア人)」の首だと思いました。 すぐ横の方に破傷風の細菌によって死んだ人の標本がありました。 全身が標本となっていました。 またその横にはガス壊疽の標本があり、太ももから下を切り落としてありました。 これはもう生首以上にむごたらしい、表現できないほどすごい標本でした。 拭き掃除をして奥の方に行けば、こんどは消化器系統の病気の赤痢、腸チフス、コレラといったもので 死んだ人を病理解剖した標本がたくさん並べてありました ・・・・田中大尉の部屋には病歴表というカードがおいてあって、人体図が描いてあって、 どこにペストノミがついてどのようになったか詳しく記録されていました。 人名も書いてありました。 このカードはだいたい5日から10日以内で名前が変ります。 田中班ではペストの人体実験をして数日で死んだからです ・・・・田中班と本部の研究室の間には人体焼却炉があって毎日黒い煙が出ておりました ・・・・私は人の血、つまり“マルタ”の血を毎日2000から3000CC受取ってノミを育てる研究をしました ・・・・陶器製の爆弾に細菌やノミやネズミを詰込んで投下実験を何回も行ないました ・・・・8月9日のソ連の参戦で証拠隠滅のためにマルタは全員毒ガスで殺しました。 10日位には殺したマルタを中庭に掘った穴にどんどん積み重ねて焼きました。 * 千田英男 1917年生れ  731部隊教育隊  1974年証言 ・・・・「今日のマルタは何番・・・・何番・・・・何番・・・・以上10本頼む」 ここでは生体実験に供される人たちを”丸太”と称し、一連番号が付けられていた ・・・・中庭の中央に2階建ての丸太の収容棟がある。 4周は3層の鉄筋コンクリ-ト造りの建物に囲まれていて、そこには2階まで窓がなく、よじ登ることもはい上がることもできない。 つまり逃亡を防ぐ構造である。通称7,8棟と称していた・・・・ *石橋直方      研究助手 私は栄養失調の実験を見ました。 これは吉村技師の研究班がやっていたんだと思います。 この実験の目的は、人間が水と乾パンだけでどれだけ生きられるかを調べることだったろうと思われます。 これには2人のマルタが使われていました。 彼らは部隊の決められたコ-スを、20キログラム程度の砂袋を背負わされて絶えず歩き回っていました。 1人は先に倒れて、2人とも結局死にました。 食べるものは軍隊で支給される乾パンだけ、飲むのは水だけでしたからね、 そんなに長いこと生きられるはずがありません。 *越定男    第731部隊第3部本部付運搬班 1993年10月10日、山口俊明氏のインタビュ- -東条首相も視察に来た 本部に隣接していた専用飛行場には、友軍機と言えども着陸を許されず、 東京からの客は新京(長春)の飛行場から平房までは列車でした。 しかし東条らの飛行機は専用飛行場に降りましたのでよく覚えています。 -マルタの輸送について ・・・・最初は第3部長の送り迎え、、郵便物の輸送、通学バスの運転などでしたが、 間もなく隊長車の運転、マルタを運ぶ特別車の運転をするようになりました。 マルタは、ハルピンの憲兵隊本部、特務機関、ハルピン駅ホ-ムの端にあった憲兵隊詰所、 それに領事館の4ケ所で受領し4.5トンのアメリカ製ダッジ・ブラザ-スに積んで運びました。 日本領事館の地下室に手錠をかけたマルタを何人もブチ込んでいたんですからね。 最初は驚きましたよ。マルタは特別班が管理し、本部のロ号棟に収容していました。 ここで彼らは鉄製の足かせをはめられ、手錠は外せるようになっていたものの、 足かせはリベットを潰されてしまい、死ぬまで外せなかった。 いや死んでからも外されることはなかったんです。 足かせのリベットを潰された時のマルタの心境を思うと、やりきれません。 -ブリキ製の詰襟 私はそんなマルタを度々、平房から約260キロ離れた安達の牢獄や人体実験場へ運びました。 安達人体実験場ではマルタを十字の木にしばりつけ、 彼らの頭上に、超低空の飛行機からペスト菌やコレラ菌を何度も何度も散布したのです。 マルタに効率よく細菌を吸い込ませるため、マルタの首にブリキで作った詰襟を巻き、 頭を下��るとブリキが首に食い込む仕掛けになっていましたから、 マルタは頭を上に向けて呼吸せざるを得なかったのです。 むごい実験でした。 -頻繁に行われた毒ガス実験 731部隊で最も多く行われた実験は毒ガス実験だったと思います。 実験場は専用飛行場のはずれにあり、四方を高い塀で囲まれていました。 その中に外から視察できるようにしたガラス壁のチャンバ-があり、 観察器材が台車に乗せられてチャンバ-の中に送り込まれました。 使用された毒ガスはイペリットや青酸ガス、一酸化炭素ガスなど様々でした。 マルタが送り込まれ、毒ガスが噴射されると、 10人ぐらいの観察員がドイツ製の映写機を回したり、ライカで撮影したり、 時間を計ったり、記録をとったりしていました。 マルタの表情は刻々と変わり、泡を噴き出したり、喀血する者もいましたが、 観察員は冷静にそれぞれの仕事をこなしていました。 私はこの実験室へマルタを運び、私が実験に立ち会った回数だけでも年間百回ぐらいありましたから、 毒ガス実験は頻繁に行われていたとみて間違いないでしょう。 -逃げまどうマルタを あれは昭和19年のはじめ、凍土に雪が薄く積もっていた頃、ペスト弾をマルタに撃ち込む実験の日でした。 この実験は囚人40人を円状に並べ、円の中央からペスト菌の詰まった細菌弾を撃ち込み、 感染具合をみるものですが、私たちはそこから約3キロ離れた所から双眼鏡をのぞいて、 爆発の瞬間を待っていました。その時でした。 1人のマルタが繩をほどき、マルタ全員を助け、彼らは一斉に逃げ出したのです。 驚いた憲兵が私のところへ素っ飛んで来て、「車で潰せ」と叫びました。 私は無我夢中で車を飛ばし、マルタを追いかけ、 足かせを引きずりながら逃げまどうマルタを1人ひとり潰しました。 豚は車でひいてもなかなか死にませんが、人間は案外もろく、直ぐに死にました。 残忍な行為でしたが、その時の私は1人でも逃がすと中国やソ連に731部隊のことがバレてしまって、 我々が殺される、という思いだけしかありませんでした。 -囚人は全員殺された 731部隊の上層部は日本軍の敗戦をいち早く察知していたようで、敗戦数ヶ月前に脱走した憲兵もいました。 戦局はいよいよ���局を迎え、ソ連軍が押し寄せてきているとの情報が伝わる中、 石井隊長は8月11日、隊員に最後の演説を行い、 「731の秘密は墓場まで持っていけ。 機密を漏らした者がいれば、この石井が最後まで追いかける」と脅迫し、部隊は撤収作業に入りました。 撤収作業で緊急を要したのはマルタの処理でした。 大半は毒ガスで殺されたようですが、1人残らず殺されました。 私たちは死体の処理を命じられ、死体に薪と重油かけて燃やし、骨はカマスに入れました。 私はそのカマスをスンガリ(松花江)に運んで捨てました。 被害者は全員死んで証言はありませんが、部隊で働いていた中国人の証言があります。 *傳景奇  ハルピン市香坊区     1952年11月15日 証言 私は今年33歳です。 19歳から労工として「第731部隊」で働きました。 班長が石井三郎という石井班で、ネズミ籠の世話とか他の雑用を8・15までやっていました。 私が見た日本人の罪悪事実は以下の数件あります。 1 19歳で工場に着いたばかりの時は秋で「ロ号棟」の中で   いくつかの器械が血をかき混ぜているのを見ました。   当時私は若く中に入って仕事をやらされました。日本人が目の前にいなかったのでこっそり見ました。 2 19歳の春、第一倉庫で薬箱を並べていたとき不注意から箱がひっくりかえって壊れました。   煙が一筋立ち上がり、我々年少者は煙に巻かれ気が遠くなり、   涙も流れ、くしゃみで息も出来ませんでした。 3 21歳の年、日本人がロバ4頭を程子溝の棒杭に繋ぐと、 しばらくして飛行機からビ-ル壜のような物が4本落ちてきた。 壜は黒煙をはき、4頭のロバのうち3頭を殺してしまったのを見ました。 4 22歳の時のある日、日本人が昼飯を食べに帰ったとき、 私は第一倉庫に入り西側の部屋に死体がならべてあるのを見ました。 5 康徳11年(1944年)陰暦9月錦州から来た1200人以上の労工が 工藤の命令で日本人の兵隊に冷水をかけられ、半分以上が凍死しました。 6 工場内で仕事をしているとき動物の血を採っているのを見たし、私も何回か採られました *関成貴  ハルピン市香坊区  1952年11月4日 証言 私は三家子に住んで40年以上になります。 満州国康徳3年(1936年)から第731部隊で御者をして賃金をもらい生活を支えていました。 康徳5年から私は「ロ号棟」後ろの「16棟」房舎で 日本人が馬、ラクダ、ロバ、兎、ネズミ(畑栗鼠とシロネズミ)、モルモット、 それにサル等の動物の血を注射器で採って、 何に使うのかわかりませんでしたが、 その血を「ロ号棟」の中に運んでいくのを毎日見るようになりました。 その後康徳5年6月のある日私が煉瓦を馬車に載せて「ロ号棟」入り口でおろし、 ちょうど数を勘定していると銃剣を持った日本兵が何名か現れ、 馬車で煉瓦を運んでいた中国人を土壁の外に押し出した。 しかし私は間に合わなかったので煉瓦の山の隙間に隠れていると しばらくして幌をつけた大型の自動車が10台やってきて建物の入り口に停まりました。 この時私はこっそり見たのですが、日本人は「ロ号棟」の中から毛布で体をくるみ、 足だけが見えている人間を担架に乗せて車に運びました。 1台10人くらい積み込める車に10台とも全部積み終わり、 自動車が走り去ってから私たちはやっと外に出られました。 ほかに「ロ号棟」の大煙突から煙が吹き出る前には中国人をいつも外に出しました。 *羅壽山  証言日不明 ある日私は日本兵が通りから3人の商人をひっぱってきて 半死半生の目にあわせたのをどうすることもできず見ていました。 彼等は2人を「ロ号棟」の中に連れて行き、残った1人を軍用犬の小屋に放り込みました。 猛犬が生きた人間を食い殺すのを見ているしかなかったのです。
生体実験の証言 | おしえて!ゲンさん! ~分かると楽しい、分かると恐い~ http://www.oshietegensan.com/war-history/war-history_h/5899/
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97 ABaoAQu
獣人の少女が、機械の少年を身を呈してかばったその時だった。幼竜の吐き出した火炎は彼らを灰に変えず、突如、旋風にとらわれて天へと昇り、おびただしい火の粉と散っていくのを二人は目にした。バルナバーシュもまた、眼前の出来事に前後不覚の意識を振りはらい、その正体をはったと睨みすえる――信じがたいことに、ルドから手離された銀空剣クァルルスがひとりでに宙に浮き、泰然たる立ち振る舞いのごとくゆっくりと回転しているのだ。さきの旋風も銀空剣が巻き起こし、銀灰の大剣は回転をやめてぴたりと定まると、切っ先で竜の額めがけ、流星さながらに飛来していった。未熟ゆえに浮き足立った幼竜の眉間へ、刀身の中ほどまで突き刺さると、竜は悲鳴とともに艶めく玉虫色に鱗を逆立たせ、剣から放たれる衝撃波がその幾枚かを剥ぎ飛ばした。絶命した竜は倒伏し、抜かれた銀空剣がまばゆい青白い光を発して、その柄を握っていた者の姿が月影にあらわとなる。
「ハイン……!」
いちはやくナナヤが叫んだ。青白い光のなかで肩越しに振りむいた男は、イクトルフの門に駆り立てられた悲しき死者ではなく、かつてありしフェレスの戦士、外はねの銀髪に、楽園のコーラルブルーの瞳と荒れ野の陽に焼けた目鼻立ちを持つ、快活と気概にあふれた青年の様相だった。彼は何も答えず、口の端に笑みを浮かべると、ふたたび銀空剣を両手にかかげ、音もなく背後に忍び寄った黒い霧状の魔物へと突き下ろす。ハインの背を斬りつけんとのびあがった漆黒の刃ごと、大剣は叩き割り、霧を両断し、勢いのまま足元の階段に弾かれて硬い音に打ち響いた。とどめとばかりに斬り上げると、光かがやく刀身から風が爆ぜ、霧を散り散りに消し飛ばしてしまった。ルド達は驚きのあまり身をこわばらせ、その偉丈夫の背を見ているしか出来なかったが、ハインの体から光が失せつつあるのに気付いたバルナバーシュが仲間に向かって声を上げる。
「ルド、銀���剣を受け取るんだ。彼の限界が近い!」
ルドは遊色に輝く階段を駆けおり、ハインの持つ銀空剣の、青い布の巻かれた柄に手を伸ばす――指をからめると同時、ハインは光の粒子と変わり、夜の遠空へ舞い上がっていった。バルナバーシュも痛む体をどうにか奮い立たせながら、ハインの幻影が、あの神秘の少女――ストラーラの力によってつかのまよみがえったフェレスの名残りであるのを知る。クヴァリックやハインの祖父がかつて我々を助けた、潰えがたい遺志の発露のように。
「四人ならやれる。ハインさん、僕らに力を貸してください」
ルドの両手におさまった銀空剣は真に目覚め、天空の力に咆哮した。刀身に暴風をまとわせ、うなりをあげながら、ルドは大剣を振りかざしてフェイスゴーレムへと突進する。おぞましき創造物、容貌魁偉たる不気味な赤黒い頭部は、チューブを脈打たせながらこの世ならざるいまわしい呪詛をとなえはじめ、奇怪な波動に空間は痙攣し、ひずみが障壁となって立ちはだかろうとしていた。さらに濃緑と黒がまじりあってねばつく毒性の液体が、ゴーレムの首元から広がり、接近するルドを呑み込もうと擬足を伸ばす。
「させるか!」
バルナバーシュが銀剣アルドゥールを振るって火炎球を放ち、炎の舌が毒沼を舐め上げると、幾重にも連なる金切声があがった。液体は混沌たる異次元の生命体だった――無力化した毒をとびこえ、ルドは重く渦巻くひずみに銀空剣を突き立てる。刀身に、さらには全身にまとわりついて締めつける障壁に、ルドは苦悶し、身をよじりつつ、あらゆるものに祈り、機械の体を力づくで押し進めようとした。ルドの割れた胸甲の奥から青白い光が差し、刀身が照りかえして力を解き放つ。鍔から爆ぜるすさまじい衝撃波がひずみを粉砕し、ルドはゴーレムの右目に銀空剣を突き入れた。剣を引き戻すと、大量の古血を噴き出しながらゴーレムは絶叫し、まろび、大岩のごとく階段を転がり落ちていった。
「終わったのか……?」 「いや、まだだよ」
慎重に辺りを見回すバルナバーシュに、ナナヤが断言する。自らを階段より突き落とした敵は、竜でもゴーレムでも、また黒い霧でもなかった。焦りつつ、彼女はその者が身をひそめる場所を探った。むかつくような臭気があたりに漂いはじめる。
「ナナヤ、君の影だ――君の影のなかにあいつがいる!」
ゴーレムの返り血を浴びてあえぎつつ、ルドが階下から二人に呼ばわった。ナナヤは月光から生まれた自らの影へ目を落とし、度を失ってあとずさった。だが影を切り離せるはずもなく、踵にぴったりと張りついて白い階段に伸びている――拭い去れない罪の意識のように。
「絶対に振り返るな、ナナヤ」
怯えきったナナヤの両肩を、そばにいたバルナバーシュが血相を変えてつかみ、強く言い聞かせた。そして階段をひたすら登るようにと背を叩き、ルドとマックスも彼らに追いつくと、ナナヤの背を守るべくしんがりに控えた。
それから数時間のあいだ、彼らは大階段を登り続け、また道の途中、焦燥から必要最低限の休みさえも拒むナナヤをどうにか押し鎮めるのにルドとバルナバーシュは苦心した。夜は朝あけを迎えつつあり、紫色の空高い幽暗の向こうには階段の終わりが見えはじめていた。さきに続くのは巨大な塔の屋上のようにも見え、乳白と黄金の淡い光に包まれ、虹色の靄めいた暈がかかっている――この世に天国が存在するなら、最もふさわしき示現の予感を向かい来る者たちに伝えていた。だが、その聖域の光に照らされて落ちる、彼らの影に付き従う気配は段を越えるごとに濃くなるばかりで、とうとうナナヤは歩みを緩め、立ち止まってしまった。バルナバーシュもまた、みずからの影に同じものが潜むのを知り、恐怖に青ざめた顔を隠しきれなかったが、絶対に踵を返してはならないことだけは肝に銘じていた。そうしてナナヤを無理にでも連れて行こうと彼女の細腕をつかんだが、手痛く振り払われてしまう。
「あたしは、これ以上はいけない……あの場所はまぶしすぎるよ」
頂きの後光に苦痛に覚え、ナナヤは顔を覆ってしまう。あれは地上の穢れをさいなむ涅槃の光だった――ルドだけが、二人が今しも感じている患苦に鈍かったが、心にうっすらと靄のかかる感覚は確かにしていた。その時、胸の悪くなる臭気が急に湧き立つや、彼らの肉体は名状しがたい変調をきたしはじめた。
「ナナヤ、足が……!」
見れば、ナナヤの膝下までが灰色に染まり、石となって硬化している――その横ではバルナバーシュが突然、激しく咳込んで膝をつき、口元に当てた手のひらに吐き出された血を呆然と見つめていた。二人はついに、階段の魔物――ハインをアビスへ追いやった者の正体を悟り、だがゆえに冷静を保つことは困難だった。相手は自分自身に宿る影そのもの――過去の罪、穢れ、心の闇であり、それが涅槃の光に当てられて魂の破綻を生み、様々な病と呪いをその身に引き起こすのだ。バルナバーシュは未知の菌に侵されて手や顔に黒い斑点が広がり、ナナヤは半泣きになりながら、徐々に石像と化す体から逃れようと身をよじったが、返されるのは鋭い神経の痛みだけだった。
バルナバーシュは刻々と蝕まれる肉体に朦朧としながら、藁にもすがる思いで自らの色濃くなった影に手を伸ばす。すると驚くべきことに、手は階段をすり抜けて、まるで影のなかへと吸い込まれていくようだった。
「ナナヤ、それにルド――そのまま自分の影へ倒れろ。影に入り込むんだ!」 「はあ?! 一体、何言ってるんだよ! 前から思ってたけど、あんた頭がおかしいんじゃないのか!」
ナナヤが錯乱気味に言い、バルナバーシュもまた泡を食っているのは明白だった。死の危機は目前に迫っていた。
「魔術に生きれば時には狂気をも友とする。死にたくなければさっさと言うとおりにしろ!」
とりのぼせた血気のままバルナバーシュが言い放ち、ナナヤは自棄に任せて影に倒れ、ルドもまた自分の影へと身をおどらせた。最後にバルナバーシュが入り込むと、次元を越境する重力にひかれるまま落ち、ロジックの変化により変調も失せ、三人はひとすじの光も差さぬ深淵の闇の世界に降り立っていた。
ここが魔物の手の内と認めたバルナバーシュが銀剣アルドゥールを抜き放ち、ルドとナナヤもならってそれぞれ武器をとったが、闇を掻き分けて彼らの前に現れたのはハインだった。一行が剣を下ろすと、ハインは腕を広げ、口を開いた。
「俺こそがお前たちの影――そして最後の罪悪。さあ、殺すがいいさ」 「あんたはハインじゃない。軽々しくあいつを騙って惑わすな!」
ナナヤの顔はさっと憎悪と変わり、赤毛を逆立て、獣人の牙を激憤に剥いた。ハインを装う魔物は、その言葉を認めるように微笑んでうなずくと、輪郭がねじれ、のたうち、銀糸でかがった灰青色の長衣に銀灰の長髪を流した、はっとするほど美しい女に変貌する。それはバルナバーシュと心の奥底で愛し合ったがゆえに、ともに故国の悲運に巻き込まれた女性の姿だった。
「あるいは私でも良いのかもしれない。そうでしょう、セイン……」
バルナバーシュはこの耐えがたい責め苦に顔を歪ませたが、頑として答えは返さなかった。ルドだけが、魔物の見せる幻影から縁遠くあったが、何が起こっているのかは理解が及んだ。一歩進み出て、銀空剣を両手に構える。
「二人を苦しめるのなら僕が許さない」 「ルド、あなただけは、涅槃を阻むほどの罪を持たない……まるで永遠の赤子のよう。あなたは始めから完成された存在。ゆえにア・バオ・ア・クゥーも取りつけなかった。二人を置いて、おいきなさい。あなたには決戦の地へゆく資格がある」 「違う。二人にも階段を登りきる資格がある。そしてそれは、ハインさんや……セニサさんを二人から断ち切ることじゃない! これは罠なんだ。ハインさんが最後に負けたのは、きっとあなたにだまされて、自分の影を切り離そうとしたから――」
あるいは、ハインは自らの影をこの大剣でつらぬき――そして自滅した。最期に彼が目にしたのは、影とともにつらぬかれた自身の肉体だったに違いない……。ルドはその天性の素質で敵の瞞着を看破すると、毅然とナナヤに振り向いた。
「君にもう罪はない――いや、罪がやっと君のもの、君の許し……君の力になった。ナナヤはさっき、命をかけて僕をかばってくれた! あの時、君の願いが本物になったから、ハインさんも助けにきてくれたんだ。今のナナヤはそれを信じるだけでいい。どうか勇気を出して。一緒に階段を登るんだ!」 「黙れ、罪なきものよ!!」
魔物はセニサから姿を変え、醜く、尾羽打ち枯らした巨大な黒獣と化すと、鉤爪を振りあげてルドの喉笛へと飛びかかった。気を逸らしていたルドは後れを取ってしまう――だが、それまで稲妻に打たれたかのように立ちつくしていたナナヤが、彼の危険にとっさに地を蹴り、鞘走る勢いのまま獣の前足を斬りつけ、その思わぬ反撃に魔物はよだれを散らしながらうなって飛びすさった。ナナヤは獣人たる肢体、躍動的な身のこなしで間髪入れず敵の胴体に飛び蹴りを見舞い、短剣を牙のごとく頬骨に突き刺し、一度離れるとルドを背にして立ちはだかった。
「罪、罪、罪……って、いい加減くだくだしいんだよ、ゴミ野郎が……もううんざりだ! ああ、でも、こいつの言葉はあたし自身でもあるんだっけな……はは、とんだ皮肉だね。なら、力づくでもあたしのものにしてやる。消したりも、切り離したりもしない。墓の底まで付き合ってやるさ」
魔物はふたたび変貌し、妖狐にも似た桃色の産毛におおわれた美しい獣の姿をとると、全身からあの階段の頂きと同じ涅槃の光を放ち、三人を病める苦しみで押し包もうとした。だが、その光を切り抜けたバルナバーシュが銀剣を魔物の首元に立て、ありたけの力で柄をひねり、横に引いて切り裂いた。魔物は赤い口と虹色の牙を剥いて咆えたけ、バルナバーシュにつかみかかった。くいこむ爪に血が流れるのを感じてうめきながらも、彼はもう一度、敵の首筋めがけて剣を振るった。
「バルナバーシュさん!」
光にひるんだルドが、遅れて加勢に入り、銀空剣を敵の脇腹に突き入れて膂力によって縫いとめる。魔物は低くうめいたが、おそるべき生命力で立ち通し、バルナバーシュを地面に叩きつけ、爪はがっきと食いついたまま彼を締めあげようとした。バルナバーシュもまた、負けじと押し返そうとするが、息苦しさから力が抜けていく――遠のく五感に、ナナヤが果敢に叫ぶ声がした。それは聞くものに刻みつけ、次元の壁を破らんとする反攻に猛り、絶対の勝利を誓う裂帛の気合いに溢れていた。
「ハイン、あんたの勇気があたしの正義を救った。それを今、見せてやる!」
魔物の眼前に飛びかかったナナヤの二振りの短剣が、鋭く交差する。魔物の額を十字にえぐり、赤黒い飛沫を散らせながら、その傷へもう一度、今度は柄に達するまで二刀を深く突き入れた。魔物は金切声をあげ、バルナバーシュを放して大きく仰け反ったが、ナナヤは額に食いついたまま短剣をさらにねじりこんで傷を押し広げた。噴き出す返り血はどす黒く、それは階段に積み重ねられた怨嗟と呪い、救われぬ悔恨の淀みでもあり、獣人の少女は全身に浴び、揺らめく赤毛の尾までも黒くしながら、屈せず、己れの正義、そして己れの悪をも受け入れようとした。何が正しくて、何が悪いのか――真実は常に相対、ゆえに、自身の正しいと思うことを為すために、彼女は今、影とともに完全にならなければならなかった。
ルドの振るう銀空剣もまたナナヤの意志に呼応したのか、闇を裂いて輝き、甲高い叫びをあげて主を導いた。ルドは踏み込み、斬り上げの重い一撃を魔物の鳩尾に叩き込み、その傷へ続けざまに突き刺した刀身で腹を大きく切り裂いた。はらわたのかわりに死者たちの嘆きがあふれたが、銀空剣よりもれ出る不思議な楽音と波動がやわらかに包み、彼らの暗い情念が安らかにおさまっていくのを、ルドは剣を通じて渾然一体に感じとった。
みずからを形成するものの大半を吐き出した魔物は力を失い、萎れた花のように、優美な獣から骨と皮に痩せ細った人間の影に変わり果てていたが、なおも命をつないで、よろよろと歩み、両手を伸ばして目の前に立つナナヤの首をつかもうとした。その姿は徐々に、ナナヤを模して獣人の少女に移り変わる――ナナヤは短剣を収めると、息をひそめながらも受け入れ、おずおずと魔物を抱きしめた。影は液体となってくずれ、彼女の足元に大きな水溜まりを産み落とした。ルドとバルナバーシュもその中へ踏み入ると、彼らの視界は途端に閉ざされ、天地が急転し、光の洪水と一瞬の無重力がすべてを支配した。ひとときの悪夢は終わりを告げ、現次元へと魂が引きあげられていく……。
階段に倒れて眠っていたバルナバーシュが目を開けて体を起こすと、辺りはすでに身を切るような朝の暁光に明るく、天空より吹き下ろす風に身震いが走った。やや下の段では、ルドがナナヤを抱き起こし、猟犬のマックスとともに心配そうに覗き込んでいる。
「目を覚まさないんです」
心細げなルドのかたわらでバルナバーシュも少女の様態を診ると、確かに眠りは深いようだが、呼吸は落ち着いており、寝顔も穏やかだった。胸元におかれた右手はなにかを固く握りしめており、それはひび割れた木彫りのトーテム像――ハインの砕けたフェレスの欠片だった。これまでもいくたりかのフェレスの欠片が、残された願いと力を帯びて自分たちの窮地を助けてきたことを思い、バルナバーシュは瞑目し、こよなき感謝と満腔の敬意を祈りとして、亡き友、ハインへと深く捧げた。せめてこの戦いが、かつて彼に救われた命、そして託された願いへの報いとなるのを望みながら。
二人はナナヤが覚醒するまで待つ心づもりであったが、突然、マックスが二人に向かって、まるでナナヤから追い立てるかのように強く吠えだした。由無くルドがなだめてもやまず、少し離れるとマックスは少女のそばでじっと、伏せの姿勢をとるものの、近づくとふたたび吠え、うなりさえあげるのだった。バルナバーシュはルドと顔を見合わせる。
「行け、ということだろうか」 「たぶん、そうだと思います。でも、マックスだけで大丈夫でしょうか」
バルナバーシュは考えを巡らし、そしてうなずいた。
「この階段ではもう、私たちやナナヤはいかなる影も落とさず、すべての脅威は去ったはずだ。もし彼女が目を覚ましたときは、マックスが連れてきてくれる。それにこの先に待つ決闘に、彼女は立ち入ることはできない……それは君も知るところだろう」 「………」
ルドはうつむいて窮していたが、拳を握りしめると顔を上げた。
「行きましょう、バルナバーシュさん。きっとあの二人が待っています」
いまだ眠るナナヤに毛布を巻きつけて壁際にもたせてやると、二人は彼女にしばしの別れを告げ、目の前にした決戦の地をさして残る階段を登りはじめた。近づくごとに、バルナバーシュは己れのフェレス――懐中時計の秒針が、高鳴る胸とともに脈打つのを感じていた。旅の終着は、フェレスが待ちわびた故郷への帰還でもあるのだ。そして彼には何より、フェリクス達と対峙してでも守らねばならぬ願いがある。ルドに希望のありかを示し、荒れ果てた故国の終焉より、愛する者、セニサを救い出すこと――神明に誓って、一歩も引くつもりはない。アルドゥールのありかを確かめるように柄を握りしめ、碧眼は悲壮をたたえて頂きを見据えていた。
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hpmi222 · 6 years ago
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(碧棺兄妹)
 毎日深くなっていく夜の音だけを追うように耳を澄ます。今日は何も聞こえませんようにと祈りながら目を閉じると、敏感になった耳から入った少しの風の音でも体が強ばるのがわかる。
 想像するの。瞼の裏の暗く深い影の向こう側は今日もきれいな青空。そこは誰もいない浜辺で夏に近づいた風が気持ちよくて���手のシャツから伸びるお兄ちゃんの腕に空き瓶のひっかき傷は見えない。「合歓」と私に向ける声は柔らかい。お母さんの真っ白なワンピースは、海風に遊ばれて楽しげにはためく。 日焼けを気にしてつけていたはずのアームウォーマーも深い帽子も今日は置いてきたのね。隠さなくていいんだよ、ここではね。だってきれいなのだから。だって私の夢のなか。夢の中は誰にも邪魔されないでしょう?
 青空をかき消す怒鳴り声がドアの向こう側から聞こえてきて私の短い逃避行は終わった。次はお前だと悟るのに充分な当たり散らされる声はただの騒音。声ですらない、音。今日は誰にしようか花いちもんめ。値踏みするような目つきは楽しげで、「合歓」と吊り上げられた口から獣の匂いがした。中古品にさらに傷を重ねるよりも、新品のお皿をフォークでいたずらに引っ掻くことを好む人だった。私たちはそんな日替わりランチのような扱いを受けていた。
 守ってくれる手が何度も私の代わりにフォークを突き立てられるのをあと何度見る? 
 最後のデザートを味わうように丁寧に浅く浅く引っ掻く行為が、決して殺されはしない行為が、かえって恐ろしく思えた。
 恐怖心の扱い方を知っている声の主に呼ばれたら「はい。」と答える以外の選択肢は許されていない密室。上がっていく息を落ち着けるためにぎゅっと手を握る。この部屋に酸素がないように感じられるくらい吸っても吸っても苦しい呼吸。しっかりして、私。治ったばかりのこの皮膚に思い出させる手つきで丁寧に引っかかれるのだろう。メインディッシュを終えた口を甘く癒やすようにゆっくりと。
 たまにねこの夢を見るの。吐く息の温度が一瞬で奪われてしまう冬のベランダ。私が持っているグラスにサラサラとした星が降り注いであっという間に星がきらめくソーダになる。見あげればホウキに乗った魔法使いが軽やかにステッキを振り上げて「甘くなる魔法をかけておいたよ。」と笑ってくれる。私は自分で口をつける前に飲んで欲しい人達がいるからと締め切られた窓を開ける。あたたかいのに神経が削られる空気で満たされている我が家に戻る。言葉にはできない気持ちをこれで伝えたい、これならば伝えられるかもしれないと願いをこめて。
「合歓、待ってろ。」
 この時間が来てしまったのだと心が冷えていくのがわかる。スイッチが何かはきっと誰にもわからないし知ったところで防げるものではない、という諦めが私たちの気持ちを常に縛った。渡されたイヤホンで耳を塞ぐ。持ち主である父の激しい叱責の声が、陽気な童謡の向こう側でお兄ちゃんを責め立てている。凍りついているみたいに冷え切ったベランダでつとめて明るく歌を口ずさむ私は薄情だろうか。
 魔法使いさんお願いします。あの時みたいにこのお水に星を降らせてください。お兄ちゃんにあげたいのです。
 手を伸ばしてコップを夜空に近づける。寒さで唇が震えだしても歌うことはやめなかった。
 しばらくしてお迎えの声がベランダの窓を開けた。 整えきらない呼吸でもう大丈夫だと笑ってくれる顔には擦り傷がついていた。微笑むことはやめない悲しい優しさばかりを見せるお兄ちゃんに差し出せるものは冷え切った水道水だけ。笑顔は伝染するんでしょう? 悲しい顔も伝染するとしたならば私が選ぶのは決まっている。
「星の光が落ちると甘くなるんだって。」
「そうかよ。」
 笑っているのか、泣いているのかわからない顔を見せたと思ったら不意にふたりの冷たい隙間を埋めるように抱きしめられた。わずかにお兄ちゃんの体が震えていることに気づいても、できることはなくて気付かないふりをする私は(やっぱり薄情ですか)。胸にくっつけた耳から届く震える呼吸音。私を抱きしめた腕からはふわりと血の匂いがしてああかみさま、と唇を噛んだ。
 二人で一緒に住み始めた頃は「いつもあった感覚」がいつまでも肌に張り付いて、その度に「らしさ」を取り戻すことに身を削る日々だった。何が正しかったのだろうか。これからどうやって進んでいけばいいのだろう。考えずにいられる日がどれだけあったのかと思い始めて、出ない答えに首を振る。海に打ち上げられたボトルメールの持ち主を探すよりも途方もない、空想。さざなみのように押し寄せてくる不安や焦燥感が私の中で確かに呼吸を繰り返している。
 ねえ何が怖い?
 誰がくれるわけでもない答え。苦しいのか悲しいのか判別できないまま違和感に占領されたベッドの中で涙に溺れることができたら心地よいのだろうか。柔らかなシングルベットの中はあたたかくて、もう瞼の裏に逃げなくても声に追いかけられることはない。ひとつの結末が繋いでくれた結果が今。今は幸せな毎日。もう震えながら玄関の取っ手を握ることはない。これで、よかった。(今の私には、湧いてくるたらればにどう立ち向かっていいのかわからない。)
 みなとみらい地区の観覧車、コスモクロック21のライトがすべてLED化されてからもう随分経つらしい。日没から日付が変わるまでの間、うつくしいイルミネーションが周囲を飾る。
「乗っていかない?」
 答えが決まっている問いかけはずるいのかな。私より先に観覧車へ向かう背中を追いかける。何を話すわけでもない一五分の小旅行。家族が二人になってから通うようになった学校では、まだらしさを取り戻せずにいる。私のぼんやりとした不安にきっと気づいているんだろうけど、何も聞いてこない。そいういうところに助けられている部分は多い。好きなものを好きと口にすることは勇気が必要だった。そんな気の使い方をするだなんて思いもしなかった。今を繋いでくれたひとつの結末に対してどのように向き合えばいいのか答えを出せずにいる。
「きれいだね。」
「ああ。」
 手持ち無沙汰の右手が煙草を欲しがっている。こうして誰かと重なり合う時間を過ごすことは簡単なことじゃないんだな、と転校前のクラスメイトに連絡が取れずにいることに切なさがこみ上げてきた。自分の中で折り合いをつけていくしかない。絡まった気持ちを解いてくれるココアを差し出してくれる優しい手が、煙草を欲しがっている右手が、焦らなくていいのだと教えてくれた。徐々に地上から離れていくゴンドラ。喧騒やあたたかな笑い声、ヨコハマの町並みから遠ざかっていく私たち。現実からどんどん離れていくような気がする。建物が小さくなっていく。ここには沢山の人たちが暮らしている。日々を苦しみ楽しみながら営みを続けて街を作り上げている。その中の一員に、私もなれているんだろうか。探してしまうのは二人で行ったおしゃれなカフェでも、お気に入りの展望台でもない。暴力に染まっていたあの粗末な、家。
「合歓?」
 引き止める声に広がり始めた凄惨な光景が現実に戻る。ゴンドラが頂上まで登りガタンと揺れた。
「なに?」
「別に。」
 ふい、と逸らされる視線に心配されている。思い出に時効というものがあればいいのにな、と誰かに願いたかった。降りていくゴンドラから見えるファッションビルの広告に踊る「諦めを知ること」の文字がいやに残酷に思えてため息が漏れ出た。
 知った諦めの味を、舌を貫いて麻痺させたその鋭さをどこに流したらいいですか。
 そんな意図で書かれたものではないことはわかっているのに、湧き出る攻撃的な感情に目をふせざるを得なかった。上がりだす息を落ち着けようと深呼吸にすれば涙が滲んでまだこんなにも囚われているのだと、どうしようもない悔しさに襲われる。ぎゅっと手を握って耐えているとガチャリとゴンドラの扉が開かれて冷たい空気がわっと流れ込んできた。降りなきゃ、とぼんやりした頭で立ち上がると冷たい指に手を引かれた。冷えた手は私が無事に地上に降り立ったことを見届けても煙草には手を伸ばさずに、私を貫いた広告が貼られたファッションビルへと向かう。ビルの入り口とは別に、道に面した窓にレジを設けるショップで小さな箱を受け取った兄はそのまま私に手渡した。
「お前、これ好きだろ。」
 右手に揺れる四号のチョコレートケーキは日本ではここで出店していないお店の看板商品。特別な時にしか食べないことにしている私の大好きなケーキ。痺れさせられた舌を甘く癒やしてくれる優しさが小さな箱の中に詰まっていた。
「お兄ちゃん、早く帰ろ。」
 だめだめ、今は流れちゃだめ。鼻の奥から外に出ようとする涙を上を向いて喉に押し込む。紛らわすためにスキップして冷たい右手を掴んだ。煙草吸わせろ、の声が後ろから聞こえてきてはいはいと喫煙所へ寄り道をするためにsiriに話しかけた。
 当たりどころがまだよかったと説明された病院で目に入ったのは、清潔なベッドに横たわる兄の姿だった。
 吊るされた薬剤が少しずつ針を通して体の中に入っていく様子が痛々しい。中身は何だろう。念の為、と告げられた言葉の意図を探る。うなされて、苦しそうな呼吸。止まらない汗。額にハンカチを押し当てれば案の定、起きてしまった。
「合歓…?」
 伸ばされた手が私の頬に触れて、安心したように目が細められた。
「お前じゃなくて、よかった。」
 まっすぐなまなざしに見つめられると、込み上げる虚しさに体がいうことをきかなくなる。ベッド横の丸椅子に座って頬の手を自分の手で包む。うまく呼吸ができない。誰にしようか花いちもんめ。たまたま、家にいたのが兄と父だけだった。たまたま、虫の居所が悪くて。偶然が重なってしまっただけで。
 割れたビール瓶のひっかき傷がまだ治っていない反対の手は無傷だった。慣れることなんてできない。いつだって痛い。何も言葉を発さずに、耐えられるだけ。「大丈夫だ。」とだけ口にする度に体は冷たく冷えていくだけなんだよ。泣いちゃだめ、泣いちゃだめ。悲しい時、涙は塩辛くなるんでしょう。塩水は傷によくないから。ぐっと飲み込んで「家に帰ろう。」と口にする私がどれだけ残酷だったのか。私たちにとってあそこが帰る場所なのかという虚しさが毒として体に回る。口が震えっぱなしのもう二度と思い出したくない光景。兄は穏やかな口調でまた大丈夫だからと言った。この日、父は体調を崩した母の代わりに兄の帰りを待っていた。
「つらいならつらいって、痛いなら痛いって言えばいいじゃない。」
 目の前で泣いている女の子が私を責めている。
「誰も聞いていなくても、自分が痛いんだってわかるように。」
 そうしたら私がちゃんと聞いてるから。
 はっと起きたら見慣れない景色で、一拍遅れて病院であることを思い出した。点滴が終わるまでのあいだだけと、眠ってしまったみたい。外は暗く午後八時を過ぎていた。ゆっくり薬剤を落とし続ける点滴がまだ私たちを足止めしてくれている。兄のあたたかな手首に指を這わせると正常な脈拍が手首を叩いていて安堵する。包帯に滲む血はじんわりとシーツを汚していた。巻き付く包帯をそっと取ると、乾いた血に張り付いてぺりぺりと傷の深さを訴えた。ためらいもなく私は晒された傷口にぎりっと歯を立てた。驚いて起き上がろうとする体を押さえつけてさらに歯を立てる。
「おい合歓、何してる!」
 傷口を歯でこじ開けると「痛い!  やめろ!」と声が降ってきたから私はすぐに口を離した。口の中に広がる血の味が生々しくまとわりつく。これは痛みの味。
「ちゃんと、痛いよね?」
 腕を押さえて顔を歪ませている兄は、私の言わんとしていることがわからず状況を伺っている。
「つらいならつらいって、痛いなら痛いって言って。ちゃんと言って。」
 私が、聞いてるから。
 私の右腕のもう治った引っかき傷がずきりと痛んだ。
 噛み付いた腕の傷は大きく開いて負ったばかりの鮮明さで血をこぼす。点滴がもうすぐ終わる。解放されてしまう。終わってしまえばまたはじまるんだ、と暗い気持ちに心が負けていく。
「終わらないで、ほしいな。」
 無邪気でいること。それは私の課題だった。
 歯を食いしばって乗り越えてきたことが崩れていく。砂の城より脆く、さらさらと。願っても願わなくても日々は変わらない(わかってる。)努力は届かない(わかってる。)けれど希望を失えばすべて奪われた暗く冷たい世界になる(わかってる!)
 愛とは何?
 この両目からこぼれている液体にそれは含まれている?
 泣くことでは何も解決しないことを知っている。ぐちゃぐちゃになった気持ちが出ていくだけだ。悲しいのか、苦しいのかわからない。それでも胸が痛い。確かに何かが刺さっている。
「合歓、大丈夫だ。」
 抱き寄せる腕からは鼻を突く血の匂い。愛とは何。愛はなんでこんなに残酷。愛がなければ私たちは…。
 愛しいと書いてかなしいとも読ませるのだと知った時、やっぱりと思った悲しさがいつまでも胸から消えてくれなかった。
「ねぇ知ってる?」
 私を責めていた女の子に手を引かれて石畳の道に二人分の足音が響いている雨上がり。なるべく路地裏は通らないようにと注意された声を思い出しながら薄暗い道を進む。静かすぎて人通りのない道で背後から襲われでもしたら、と周囲を見渡す私を笑う彼女は私より幼い。
「秘密の場所、教えてあげる。」
 魔法使いが教えてくれたの。
「魔法使い…?」
 コツコツと濡れた石畳の階段を降りたら右のトンネルへ。この先は近道だけど魔法使いがいなければ遠回りすること。
「私、この道を知ってる。」
「何度も来たでしょ?」
 振り向いた顔にかかる前髪にいびつな切れ目が入っている。指先を見ればささくれが目立つ小さな手。きっと袖の向こう側にはフォークの痕があるんだ。
「開けて。」
 地下へ続く階段を照らす松明を通り過ぎて握ったドアノブは冷たくて重い扉を体重をかけながら押し開いた。
「秘密の、場所…」
 昨日、寝つきが悪かったからか正午からはじまった私の休日。胸を高鳴らせて開けた扉の先を見ることはかなわなかった。カーテンを開ければ空が高い。小春日和のやわらかな日差しが部屋を明るく照らした。
 着替えてリビングに行くとたまごサンドとポテトサラダのプレートに夕方には帰ると置き手紙が添えてあった。「疲れた時ほど丁寧に食事をすること。」を二人で決めてから一年が経った。手作りの食事は、体の中からあたたかくなることを私たちは知っている。
 帰宅した兄の手を引いて私たちはいつものように変装して家を出た。夕日で赤く染まる石畳を進む。なるべくひとりで路地裏には入るなと忠告した口が、前は誰かと来たんだろうなと後ろから言葉でつついてくる。二人だったけど実際には初めて来たよ。この石畳の階段を降りたら右のトンネルへ。この先は近道だけど魔法使いがいなければ遠回りすること。
「魔法使いが教えてくれたの。」
「魔法使い?」
 はあ? 呆れる声を上げても特に抵抗はしない兄は私の好きにさせてくれた。そうあの魔法使いが、絵本の中で教えてくれた。もらいものの背表紙に傷が入っていた大好きな絵本はヨコハマが舞台のファンタジー。道案内の女の子についていくとそこにはお店があった。そしてそのお店は実在したことに驚いた。
 掴んだドアノブはずしりと重く夢で見たままで胸が高鳴る。思ったより滑らかに開いた扉の向こう側は夜空に包まれていた。星空の下の広いフロアに転々としかない座席は離れ小島のよう。案内人に渡されたランタンのオレンジが揺れると床の大理石に埋められた石が囁くようにきらめいた。ガラステーブルの下を流れる天の川が美しくて私はカウンターを選んだ。薄暗い店内は星の形のライトでほのかに照らされている。少し離れればはっきりと顔を認識することはできない。帽子を脱ぎ、サングラスをしまって、カラコンをはずした。誰も私たちに気づくことはない。お願い、今だけは知らないふりをして。ありのままでいることの難しさはもう充分知ったの。
「星空ソーダと三日月アイスコーヒー。」
 迷う私たちに薦められたドリンクの眩しさに息を呑む。ランタンに照らせて踊るようにグラスの中を舞う光の粒。星がグラスの中で輝くとそれは甘くなるんだって昔読んだ絵本の魔法使いが笑っていた。
「お兄ちゃん、見て。」
 ランタンからアイスコーヒーを遠ざけたら真上から降り注ぐ星のきらきらが反射した。
「星の光が落ちるとね、甘くなるんだって。」
「そうかよ。」
 本当は甘党なんだって知ってるよ。嗜好品は贅沢品だったもんね。
「ねぇ、おぼえてる?」
 天井を見ればあわせて見上げてくれた赤い目にきらきらと星が降った。
「真冬のベランダ。寒かったけど好きだったんだ。お兄ちゃんの目が一番きれいに見えたから。」
 北風に勝った太陽にはできなかった。月と星がその目を優しく照らしていたの。確かに思い出すのは決して明るくはない毎日だったけど、その日々がくれたものは確かにあった。
 何も言わずに細められる目からこぼれる気持ちが穏やかになったのは最近のこと。息をするのはやっとだった。水面に口を出したところで吸い込めるのは酸素とは限らない。喘ぎながらそれでも生きることから逃げなかった私たちの過去は忘れたい呼吸の温度ばかりを体に覚えさせた。
「ガムシロップ、入れていいよ。」
 開けたことがないのだと渡されたポーションは二つ。パチリと爪を折って注ぐとろりとした液体。これはほしい、と口にすることをやめた舌を甘く癒す魔法。見あげれば魔法使いがウィンクしている。彼はここのオーナーなのだろうか。壁のイラストにありがとうを心の中で囁く。
 いつか来てみたいと思っていた絵本の中の世界。うつくしい幻だと、実在はしないと心のどこかで自分に言い聞かせていた。安心していいよ、ちゃんとその願いは叶うから。隠れて泣いていた幼い頃の私を想う。
「甘くなる魔法をかけておいたよ。」
 魔法使いの口調はもっと軽やかだった気がするな。人差し指をステッキに見立てて左右に振った。
「合歓、ありがとな。」
 頭を撫でてくれる腕に傷が残らなくて良かった。ストローで回された氷がカランカランと嬉しそうな音を立てた。
 大丈夫。痛みを伴わない「大丈夫。」が少しずつ増えてきたように、私たち歩いて行ける。一度に水を与えてると枯れてしまうから、ゆっくりと水と光を浴びていこう。そして、愛が何かを体に覚えさせていきたい。髪を伝って流れてきた体温にも、手を引く私に付き合ったことも、たまごサンドと置き手紙にも愛という血が通っていた。まだ理由を付けなければ飲み込めないものはあるけれど、いつか、ありったけの愛を渡して受け取れる日がきますように。
 大丈夫。少しずつ、ちゃんと、歩けてる。
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masuodosu · 5 years ago
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夏よこい
七月上旬。梅雨明け後の日本は、例年通り、サウナを再現したような蒸し暑い夏へと移行した。この国は毎年、かなりの数の熱中症患者を出しているというのに、年々気温は下がるどころか上がっていく一方だ。意思を持たぬ太陽に文句の一つや二つ、溢したくもなる。案外、しきりにミンミンと鳴き声をあげる鬱陶しい蝉も、同じように文句で声を張り上げているのかもしれない。そんな風に、虫相手に勝手な親近感を持つほど頭がやられる暑さだった。
天気は雲一つない快晴。外を歩けば、次から次へと流れていく汗がガムのようにベタついて不快になる。そんな天気に姫宮桃李が、車を出さず片道三十分の場所まで外出したのは単純明快。アイスが食べたかったからである。
ESは飲食の種類が豊富に取り揃えられた店が立ち並ぶ。食べたいものは大抵、用意されている。しかし餅は餅屋。専門店のものはやはり、味が格段に違うのだ。口の中でパチパチはじけるアイスだって、そこでしか買えない。
「あーもう、日本の夏って粘着質でやだー…夏なんてきらーい…」
不満の声を、誰に言うわけでもなく力なく呟く。先程、店で購入したアイスの袋から僅かに漂う冷気だけが救いだ。
ドライアイスを入れて貰ったので、あと一時間はアイスの形が持つ。そのままESに向かって、食生活管理の鬼である弓弦がいないうちに食べてしまえばミッションコンプリート。カロリー摂取した分、筋トレするのだから問題ないと建前を用意してるので罪悪感はちっともなかった。なので早足で目的を急ぐが、先に限界を迎えたのは氷菓子ではなく桃李の方だった。
「むりぃ…」
変装と熱射病対策で被った帽子のせいで、汗に濡れた頭皮が蒸れて気持ち悪い。体に塗りたくった日焼け止めクリームを無駄にするように、汗がどんどんクリームを流していく。体内の熱が、血液を沸騰させているように感じる。
進行ルートの近くに、どこかに休憩する場所はないかと記憶を掘り起こす。そして、曲がり角を少し真っ直ぐ進んだ場所にある公園の存在を思い出す。どうせなら冷房の利いた施設で涼みたいところだが、目先の欲を優先する。遠くのコンビニより、近くの公園というやつだ。
閑散とした公園。小さなスコップが放置された砂場。園内の木々に止まる蝉の合唱。何となく、寂しさを覚える光景だ。
大人の事情で砂場とベンチしか設置されてない公園には、子供どころか人すらいなかった。休日の昼間でこれとは由々しき事態かもしれない。しかし、市役所勤めでもない一市民の己には関係のないことだ。
桃李は自販機でサイダーを購入して、木で日陰になっているベンチを探して腰を下ろす。横に買い物袋も置いて、泡が出ないように慎重に蓋をゆっくり回して空気を小出しにする。シュウー、と音を立てていくペットボトルから何も聞こえなくなるのを確認すると、一気に蓋を開けて口の中に突っ込むようにして飲む。
「んん〜! ぷはぁー! やっぱり、暑いときは炭酸に限る!」
なお、ペットボトルの炭酸飲料を溢さず飲むコツは紫之創の監修である。いつもお世話になっています。
冷たく刺激的な飲み物で、喉を潤した桃李は腕時計の時間を確認する。店を出て三十分経過したが、ここからESビルとの距離なら、あと数分ほど休んでも大丈夫で安心する。
目線の先の景色が現像に失敗した写真のように歪む。このジメジメとした暑さは、日本独特らしいがそんなオリジナリティにいつまでも固執せず新たなことに挑戦してほしい。懐古主義というのはどうにも好かない。腐れ縁…幼馴染みの家を思い出してしまうせいかもしれない。うんざりする嫌な顔のあいつよりも、あいつの背負うものが一番嫌だとわかったのはいつからだったか。
まだお互い、コミュニケーション方法に喧嘩も罵りもないような幼い頃。パーティー会場に設けられた、椅子やソファーなどがある休憩所で愛らしく声をかけてきた古い思い出を再生していく。
「お隣、いいですか?」
回想の子供の声とぴったり重なる。聞き慣れた声が、頭上からした。顔を上げれば、そこには回想に出てきた幼馴染み…朱桜司がいた。
桃李が反応するよりも先に、司が真っ先に憎らしい態度になった。
「うわっ、桃李くんだ…」
「げっ司…何でここにいるわけ? ただでさえ暑くてイラついてるのに最悪〜」
噂をすればなんとやら。考えただけで出てこられた場合は、想像したらなんとやらと言えばいいのか。
司は眉を寄せて、嫌いな虫が視界に入ったときのような表情のまま見下ろしている。
「こっちの台詞ですよ。あーやだやだ。桃李くんの顔が帽子で見えなかったから、普通に近所の子供と思い込んだのが間違いでした」
「誰が子供だ! ボクもう二年生だぞ!」
「小学二年生?」
「おい同級生」
司は特に気にした様子もなく、勝手に隣に座ってきた。二人の間にあるアイスクリームの入った袋が、ちょうどいい距離を空けている。しかし、許可なく座られるのはいい気はしない。ベンチも公園も、公共物だが。
「ちょっとぉ、司が座ったらベンチ壊れちゃうじゃん」
「なっ! 私、重くありませんから! というか、桃李くん何でここにいるんですか。あなたは向こうで砂遊びでもしてるのがお似合いですよ。泥団子でも作って食べて自給自足してなさい」
「ボクは遊びに来たんじゃなくて休憩しに来たんだよ! あとボクはお前と違って食い意地張ってないから泥団子なんて食べないよ!」
「誰の食い意地が張ってるんですか!」
「お前だよ!」
一触即発。両者、顔を見合わして睨み合う。どれくらいそうしていたか、額から次々と汗の雫がポロポロ落ちていくにつれて二人とも、やる気を削がれていく。
怒りもそうだが、感情を表に出すという行為は体力を削る。そして、体力を消費すると疲れて余計に体が熱くなる。悪循環だ。
「…やめよう。余計暑くなる」
「…そうですね。無駄にenergy消費することありません。一時休戦といきましょう」
「賛成…」
桃李と司はお互い納得し合うと、それから一言も発することなく視線を正面に戻して静かになった。
時たま聞こえる車の通る音と、蝉の鳴き声。思い出したように風が吹いた時に揺れる木の枝と葉の音しか耳に入ってこない。
やることがなく手持ち無沙汰だが、それに焦る気持ちがちっとも沸いてこない。なんとなしに、視界の直線上にある木の観察なんてしてみる。それにもすぐ飽きて、ちらりと隣の司を横目に見る。
司は視線に気づくことなくボーッとしながら目の前を眺めている。無意識に紺色のハンカチで首元を拭いながら、片手でミネラルウォーターを持って座っている姿は俗世的なのに品がある。
「…あ」
無意識に声が出る。よく見れば、この幼馴染みの左肩辺りから日差しが入り込んでいる。これでは変に肌が焼けるし、何より暑いだろう。
司は耳聡く、桃李の声に反応して振り返った。
「どうしました?」
敵意も嫌悪もない、素の表情を向ける司に、桃李は素直に綺麗な顔立ちをしていると思った。でもまだ幼さが残るせいか、どこか儚い印象も残る。そんな思考に持っていかれる自分が嫌で、慌てて買い物袋を自分の膝の上に乗せ、顔を反らす。
「そっち、微妙に日が当たってるじゃん。こっち寄れば?」
「…別に、平気です」
変なところで頑固だ。それは相手が自分だからか分からないが、せっかくの善意を無駄にされて喜ぶ癖を、桃李は持ち合わせていない。
「あー、はいはい。いいから来な…よ?」
どうせ無駄だと思って腕を取って引き寄せると、あっさりとこちらにきた司に驚く。まさかわざと力を抜いたのかと思った。しかしその考えはすぐ違うとわかる。なんせ向こうも、予想外だったように驚いている。
単純に、桃李の筋力が司よりも上回り、されるがままになったようだ。目を見開いた司が、捕まれた腕に視線を注いで呟く。
「…Doping?」
「ドーピングとかしてないからな!?」
合法的手段で手に入れた努力の結晶だ。
「毎日、自主トレで鍛えてるんだから筋肉くらいつくよ!」
「えー、本当ですか?」
お前は鍛えてると公言しているわりには細いよね、と言い返してやろうかとする。だが、ちゃっかり距離を詰めて、体を日陰に収めている姿を確認して考え直す。こちらの目的は達成したからいい。それに、春に比べて痩せた…というより、やつれたように見える外見を指摘するのは恐ろしくもあった。
だからどうせなら、目の前で訝しげにしている幼馴染みに、己の肉体美と努力を思う存分、自慢して語ってやるほうがいい。
「ボクはちゃんと毎日、走り込み50周腕立て伏せ100回懸垂5回やってるからね」
「何で懸垂だけ他と比べて極端に少ないんですか」
「だって、懸垂したらいつの間にか体がぐるっと回転してるんだもん」
「え、逆上がり?」
いつの間にか、掴んだ手は振り払われている。先ほどまで、直で司の温度を感じた手から、熱が失われたことに物足りなさを感じた。鬱陶しいよりも、寂しさが上回る。馬鹿らしい。宿敵相手に、何故そんなことを考える。
「とにかく、ボクの方が司より筋肉があって、逞しい体してるの。ほれほれ、姫宮桃李さまの男らしさに見惚れるがいい」
片手で力こぶを作って見せつける。すると、司は躊躇なく桃李の二の腕に触れてきた。一瞬だけ力が抜け、わひゃあ、などと間抜けな声が口から出てしまった。
「ひゃあ、ちょ、ちょっ…ふふっ…!」
「これは…そんな……まさか…!」
「ちょ、だから、くすぐった…! くくっ、ふ…っ…やめっ…!」
司はくずくったくて身を捩る桃李を気に留めず、興味津々に力こぶをむにむに触ってほぅと溜め息を溢す。
さっきからの言い争いで疲弊したせいが息は乱れている。暑さのせいか顔も赤くなり、気だるげな様子だ。はっきり言おう、特段、こいつに対し下心がなくとも色気を感じる。
「本当だ…桃李くんのここ、凄く固くなってる…大きい…」
「誤解を招く言い方やめろ!」
こいつ、確信犯か。どちらにせよ全年齢で意味深なことはやめていただきたい。
「桃李くんの癖に…私より筋肉がある! 私よりチビなのに!150cm台の壁越えれないのに!」
「お前、ボクが武力行使に訴えないと思ってるだろ?」
「成金貴族はやっぱり野蛮ですね。顔だけは殴らないでくださいよ?」
まるで顔意外ならいたぶられても困らないという傲慢。腕を組んで、こちらを小馬鹿にするように目を細め口角を上げて笑う司の整った顔を、今すぐ崩したくなる。ここまでくると逆に、どうぞ私の顔面に拳を叩き込めと煽ってるようだ。
「…ばぁーか」
「あうちっ!」
無性に腹が立ったのでデコピンしてやると、奇声を挙げて額を押さえた。対して痛くないだろうに、司は重傷に追い込められた被害者のような眼で睨んでくる。相変わらず被害妄想が強いところは変わらないようだ。
「顔は駄目って言ったのに!」
「あ、そこ顔だったの? 気付かなかった〜」
「くあぁっ! わかってるでしょ! Top idolの顔を傷つけた損害賠償、慰謝料を請求します!」
「司のぶちゃいくな顔を、ボクのゴッドフィンガーで整えてあげたんだよ。そっちこそボクに成功報酬よこしな」
「…桃李くんのバーカ!」
「いっ!?」
苦虫を噛み潰したような表情に変化し、立ち上がった司は、桃李の頭に勢いよくチョップを仕掛けて素早く公園の出入口まで走り去って行った。ご丁寧なことに、去り際にあっかんべーと舌を出すのだから、憎たらしいことこの上ない。本当にクソガキ。
思ったよりも頭が結構、痛む。おそらく向こうも相当手を痛めてるに違いない。それでも、一言物申したい。
「デコピンとチョップじゃ、釣り合わないだろー!?」
姿の見えなくなった司に向かい大声を張り上げると、返事するようにピロリン、とスマートフォンから音が鳴った。
わざとか偶然か、司からのメッセージが届いており、内容は怒りで頭に血が昇っていた桃李の、背筋の方から一気に冷やした。
『そういえば。桃李くんの持ってたアイスクリーム、溶けてませんか?』
慌てて膝の上に乗せてた袋の中を確認する。ドライアイスは無くなっており、アイスが詰まっていた筈のボックスの周りは汗を彷彿とさせるように水滴がたくさんついている。手に取れば中からぽちゃんと、液体の揺れる音がした。
アイスクリームが、サイダーとはまた違う甘ったるい液体に変化したことを現実を受け入れながら、桃李は八つ当たりで叫ぶ。
「夏なんて、大ッ嫌いだ!」
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thyele · 5 years ago
Text
2020年4月5日n
ゴールデンボンバー、通販限定CD「CD買ったら(送料)サヨウナラ」発売 収録曲の注釈が凄いんだけど(笑)。 https://www.barks.jp/news/?id=1000180833
なななんと、さん「日本の司法制度のことなんてちっとも分かっていなかったけど、分かっていない自分が怖くなった。 確かに情報をとるのにマスメディアに頼っていた時代は終わった。 自分で情報���真偽を見極める力が必要だ。バカでは生き抜けない。 よくぞ対談してくださった。 @takapon_jp」 https://twitter.com/777nto/status/1238473027580350464
さくさん「スタッフの声をかき消すよ」 https://twitter.com/ArFnSk/status/1238357137320894464
FNNプライムオンラインさん「JR常磐線 全線再開 福島第1原発事故から9年 福島第1原発事故にともなう避難指示により、一部の区間で運転を見合わせていたJR常磐線が14日、全線で運転を再開した。 #FNN」 https://twitter.com/FNN_News/status/1238662384153133056
crazy-shimooon-joeさん「日本人に足らんのはこれやろな。」 https://twitter.com/Shimooon_joe/status/1238861543845986304
セカイノトビラ🌍wwwwさん「イッヌ「大丈夫、ええことあるって」トンッ」 https://twitter.com/Kawaiipettv/status/1238554954299629568
毎日新聞さん「東京都葛飾区四つ木の国道6号で、横断歩道を渡っていた近くの小学5年女児が軽ワンボックス車にはねられ、搬送先の病院で死亡が確認されました。」 http://twitter.com/mainichi/status/1238864992222363649
Charaさん「★Chara+YUKI Mini Album『echo』サブスク解禁! Chara+YUKIのミニアルバム『echo』のサブスク・ストリーミング配信が本日よりスタートしました。 Apple MusicやSpotifyなどのサブスクでも是非お聴きください。 配信・購入リンク: #Chara #YUKI #echo」 https://twitter.com/Chara_xxx_/status/1238623854433464320
ニューズウィーク日本版さん「「農薬がハチの幼虫の脳に害をもたらす」幼虫期への影響を解明する初の研究結果 <これまでもハチの成虫への農薬の作用を研究する論文はいくつか発表されてきたが、幼虫期に農薬がどのような影響を及ぼしているのかを解明した研究がはじめて発表され注目されている......>」 https://twitter.com/Newsweek_JAPAN/status/1239068815746531328
おもしろ科学サイト『VAIENCE(バイエンス)』さん「オーストラリアの森林火災時にウォンバットが自身の巣穴を小動物たちに貸してあげていたことが判明」 https://twitter.com/vaience_com/status/1239103900151476224
ぴえろ@天使さん「テンション高い旅館だな…」 https://twitter.com/dokezaka/status/1238736736789786624
■■■さん「ねこに普段あげてる煮干し、どんなもんか試しに食ってみたら「それ私のやん、信じられん……」みたいな顔して見られた」 https://twitter.com/tohuchaan/status/1238747900005384192
ニューズウィーク日本版さん「東京五輪開催延期決定を受けた関連団体の反応 #パンデミック #新型肺炎 #COVID19 #感染確認 #感染症対策 #感染拡大 #IOC #東京2021」 https://twitter.com/Newsweek_JAPAN/status/1242603719688060935
ロイターさん「キューバが派遣する医師団は、この数日でジャマイカやベネズエラにも送られた。」 https://twitter.com/ReutersJapan/status/1242602094877724675
ウォール・ストリート・ジャーナル日本版さん「NYダウ2万ドル回復、景気対策合意期待で急反発 #株 #米株」 https://twitter.com/WSJJapan/status/1242602140088053761
大神ひろしさん「安倍首相「東京五輪は予定通り開催したい」 海外メディア「五輪を開催する気なのは日本とIOCだけ」 🇬🇧🇨🇦🇦🇺の五輪委「1年延期しないと選手を送らない」 安倍首相「やっぱり五輪は1年延期します」 ↑実態はこうなのに、何で五輪延期は安倍首相の功績みたいな報道してるの?」 https://twitter.com/ppsh41_1945/status/1242576289120178176
日本経済新聞 電子版さん「「かつてとレベル違う」 国内航空にリーマン超え危機」 https://twitter.com/nikkei/status/1241689583311437824
BBC News Japanさん「BBCニュース -「息を止める」「牛の尿を飲む」? 新型ウイルスにまつわるニセ情報」 https://twitter.com/bbcnewsjapan/status/1242600835336593415
日本経済新聞 電子版さん「三菱UFJ銀行の最短2日で借りられる中小企業向けオンライン融資は申込件数が約3倍に。新型コロナの影響で資金繰り難の企業からスピード融資を求める動きが広がっています。」 https://twitter.com/nikkei/status/1242599602051743749
ニューズウィーク日本版さん「インタビュー:ディック・パウンドIOC委員「東京五輪、IOCは来年への延期を明確に示唆」 #新型コロナウイルス #新型肺炎 #COVID19 #感染症 #IOC #スポーツ」 https://twitter.com/Newsweek_JAPAN/status/1242599581529014277
ロイターさん「中国、いまだ新型コロナ情報を隠蔽 米国務長官が批判」 https://twitter.com/ReutersJapan/status/1242619521761980417
ウォール・ストリート・ジャーナル日本版さん「新型コロナ、寒冷・乾燥地で拡大傾向か 研究者が指摘 #新型肺炎 #新型コロナウイルス」 https://twitter.com/WSJJapan/status/1242621000124170245
研ナオコさん「けんちゃん、早く治してまたバカ殿一緒にやりましょうね🙋‍♀️🥚」 https://twitter.com/naokoken77/status/1242610564800450560
朝日新聞(asahi shimbun)さん「コロナに苦しむ沖縄 レンタカー倒産、国際通りガラガラ #新型肺炎 #新型コロナウイルス」 https://twitter.com/asahi/status/1242623244336676864
ニューズウィーク日本版さん「インド、感染者500人に迫り全土に外出禁止令 南アジアで新型コロナウイルス懸念高まる #パンデミック #新型肺炎 #COVID19 #感染確認 #感染症対策 #感染拡大 #インド #アフガニスタン #パキスタン #外出禁止」 https://twitter.com/Newsweek_JAPAN/status/1242612837874372613
日本経済新聞 電子版さん「「一部の選手は来年まで待てないかもしれない」「疲れ切った世界を元気づける強壮剤になるかも」「なぜ東京での夏季開催にこだわるのか」。東京オリンピック(五輪)延期に対する欧米メディアの報道です。」 https://twitter.com/nikkei/status/1242627085564358657
毎日新聞ニュースさん「トヨタ九州・宮田工場がライン停止 社員が新型コロナ感染」 https://twitter.com/mainichijpnews/status/1242626850683105280
どっちが勝つか、フェミニズムVSコロナ 今や感染大国となったスペインから緊急ルポ - Sputnik 日本 https://jp.sputniknews.com/opinion/202003117259644/
「買い占めやめよう」と冷静対応呼びかける声続々…小池都知事の会見受けスーパーに行列 : スポーツ報知 https://hochi.news/articles/20200325-OHT1T50252.html
岡田教授、都内で過去最多の41人陽性判明に「私は41人だと思っていません。もっといるんじゃないか」(スポーツ報知) - Yahoo!ニュース https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20200326-03260130-sph-soci
【貧困女子】新型コロナウイルスで月収は1万2000円に…貯金ゼロインストラクターの生活崩壊~その1~ - Peachy - ライブドアニュース https://news.livedoor.com/article/detail/17999540/
イギリス チャールズ皇太子 新型コロナの陽性反応 | NHKニュース https://www3.nhk.or.jp/news/html/20200325/k10012350051000.html
クラスター量産したいのか!学校再開指針に怒りの声 - 社会 : 日刊スポーツ https://www.nikkansports.com/general/nikkan/news/202003240000610.html
正しく知るPCR検査 「非感染の証明求め病院へ」ダメ(朝日新聞デジタル) - Yahoo!ニュース https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20200325-00000010-asahi-sctch
NHKは1000時間近くか 消えるテレビ中継、編成見直しへ 東京五輪(時事通信) - Yahoo!ニュース https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20200325-00000026-jij-soci
ニューズウィーク日本版さん「新型コロナウイルスは恐れを知らない若者にも感染し、重症化する ーー無症状だったとしてもウイルスを拡散する。若者の協力がなければパンデミックは終わらない」 https://twitter.com/Newsweek_JAPAN/status/1242826073202712576
ニューズウィーク日本版さん「テキサスの病院で虐待が疑われる子ども急増、新型コロナと関連か 小児科病院で同日に子どもが2人、外傷で死んだ。虐待が疑われる入院も増えている。医師たちは、自宅隔離との関連を疑っている」 https://twitter.com/Newsweek_JAPAN/status/1242921953201131520
毎日新聞ニュースさん「台湾 海外帰りの市民を「徹底隔離」 その内情は…GPSで監視、守らなければ360万円罰金も」 https://twitter.com/mainichijpnews/status/1242952034157920257
ロイターさん「新型コロナ、夏に終息の公算小 高温多湿でも活発=欧州当局」 https://twitter.com/ReutersJapan/status/1242950790630780929
日本経済新聞 電子版さん「「通行者数や売上額をみても、3月第2週目以降は回復傾向」。新型コロナによる消費自粛ムードが緩んでいることが、飲食店の予約や商業施設の来店客数データ分析で分かりました。 #新型コロナウイルス #新型肺炎 #COVID19」 https://twitter.com/nikkei/status/1242958274145763328
ロイターさん「米NY州のクオモ知事「人命を犠牲にして経済を加速しろという米国民はいない」。」 https://twitter.com/ReutersJapan/status/1242956931632967687
ウォール・ストリート・ジャーナル日本版さん「米の新型コロナ対策、2兆ドルはほんの始まりか #新型肺炎 #新型コロナウイルス」 https://twitter.com/WSJJapan/status/1242961986134200322
読売新聞オンラインさん「マスク購入で割り込み注意した女性に体当たり、79歳を逮捕 #社会」 https://twitter.com/Yomiuri_Online/status/1242950651769995265
日本経済新聞 電子版さん「新型コロナの緊急経済対策として、政府は世帯に現金を給付する検討に入りました。どのような人が受け取ることができるのでしょうか。 3月26日、日本経済新聞の朝刊をアレンジしてお届けします。 #朝刊1面を読もう」 https://twitter.com/nikkei/status/1242936811720249347
毎日新聞さん「ギョーザの無人配送車、病室に薬を届けるロボット…。中国でロボットや自動配送車などハイテク機器の市場投入が加速しています。」 https://twitter.com/mainichi/status/1242961964931915778
ニューズウィーク日本版さん「新型コロナウイルス感染症で「嗅覚がなくなる」という症例が多数確認される ──無臭症や味覚異常が世界各地で確認されている #新型コロナウイルス」 https://twitter.com/Newsweek_JAPAN/status/1242962995602317313
ロイターさん「米経済団体、性急な活動再開に否定的姿勢 保健当局の勧告重視」 https://twitter.com/ReutersJapan/status/1242963531571625984
松浦達也@ふと気づいた。手を洗おう。さん「牛肉業界はリーマンや震災のほか、BSEや口蹄疫といった業界構造を揺るがすような災厄にも襲われてきたわけで、"肉名人"で知られるサカエヤの新保吉伸さんがそうした苦況をどう乗り越えたか、どうしても聞きたく、話を伺ってきました。締めのコメントがなんと心強かったことか」 https://twitter.com/babakikaku_m/status/1242794892905996288
毎日新聞ニュースさん「新型コロナ影響 給食用食材卸「新和」が倒産へ 山梨県内で初」 https://twitter.com/mainichijpnews/status/1242967671664021504
読売新聞オンラインさん「「俺、コロナなんだけど」叫びながらせき…店内混乱させ業務妨害容疑 #社会」 https://twitter.com/Yomiuri_Online/status/1242968268287225857
ニューズウィーク日本版さん「NY州、新型コロナウイルス感染3万人超に増加 入院率は低下の兆候 #パンデミック #新型肺炎 #COVID19 #感染確認 #感染症対策 #感染拡大 #ニューヨーク #アメリカ #外出禁止」 https://twitter.com/Newsweek_JAPAN/status/1242969224869445632
日本経済新聞 電子版さん「日経平均、一時1万9000円割れ 下げ幅600円超す」 https://twitter.com/nikkei/status/1242969516071477248
ロイターさん「イタリア首相、新型コロナで追加経済対策を用意 「EUも対応を」」 https://twitter.com/ReutersJapan/status/1242968615038705664
ニューズウィーク日本版さん「欧州疾病センター「新型コロナウイルス、喫煙者に重症化リスク」 #医療 #パンデミック #新型肺炎 #COVID19 #感染確認 #感染症対策 #感染拡大 #重篤」 https://twitter.com/Newsweek_JAPAN/status/1242971995295408129
毎日新聞ニュースさん「都内へ移動「慎重な判断を」 茨城知事、在宅勤務など呼びかけ 新型コロナ拡大」 https://twitter.com/mainichijpnews/status/1242972666878820352
朝日新聞(asahi shimbun)さん「あなたの家を消毒します 新型コロナ、便乗商法に注意」 https://twitter.com/asahi/status/1242973553076498432
ニューズウィーク日本版さん「韓国政府、資本規制を一時的に緩和 ドル流動性確保へ #パンデミック #新型肺炎 #COVID19 #感染確認 #感染症対策 #感染拡大 #韓国経済 #文在寅 #世界経済 #ウォン」 https://twitter.com/Newsweek_JAPAN/status/1242984616044134400
毎日新聞さん「マクドナルドでは全米でテイクアウトのみのサービスを開始。今後、レストランでの飲食禁止が全米に広がるかもしれません。#新型コロナウイルス」 https://twitter.com/mainichi/status/1242984614248894464
毎日新聞ニュースさん「米トニー賞授賞式が延期 新型コロナ拡大」 https://twitter.com/mainichijpnews/status/1242984396975554566
毎日新聞ニュースさん「善光寺で新型コロナ終息祈願」 https://twitter.com/mainichijpnews/status/1242984758704893952
朝日新聞(asahi shimbun)さん「外出禁止令、ホームレスを直撃 人通りなく「収入」減る #新型肺炎 #新型コロナウイルス」 https://twitter.com/asahi/status/1243043515954655232
朝日新聞(asahi shimbun)さん「埼玉県も今週末の外出自粛呼びかけへ 新型コロナ対策 #新型肺炎 #新型コロナウイルス」 https://twitter.com/asahi/status/1243046033321381888
朝日新聞(asahi shimbun)さん「「統計をみんな疑ってる」封鎖解除、武漢市民に募る不安 #新型肺炎 #新型コロナウイルス」 https://twitter.com/asahi/status/1243049050770788352
鉄道事故関連ニュースさん「【首都封鎖】小池知事が首都封鎖の可能性に言及 実際の会見の様子 - まとめダネ(3/23 17:40) …を穴埋めできるくらいの金を都が出さないといけないと思います。都民生活も自粛となれば、その費用を都が出さないと多くの人…」 https://twitter.com/TrainAccident/status/1242030273870487554
松本Rei直己さん「東京は今週が山として外出自粛要請をしたらしいけど、政治家、評論家達は先月位から毎週のように今週が山だ山だと言ってるよね。 一体いつが本当の山なんだい?」 https://twitter.com/Rei_Luxury/status/1243049409752924160
ロイターさん「動画:「若い人もコロナ感染」、米加州知事が警告 半数が18─49歳」 https://twitter.com/ReutersJapan/status/1243049991108579328
Shotaroさん「まさに。完全に同意。これは必ず読んだ方がいいと思います。必ず。/ 新型コロナウィルスについて⑥:4月第2週の首都封鎖 - ロックダウンへのカウントダウン-|安川新一郎 #note」 https://twitter.com/ItsShotaro/status/1243004701773201408
ニューズウィーク日本版さん「中国の無症状感染者に対する扱い」 https://twitter.com/Newsweek_JAPAN/status/1243050242825523202
デーブ・スペクターさん「東京五輪の新しいロゴが発表:」 https://twitter.com/dave_spector/status/1243050423168032768
ニューズウィーク日本版さん「3Dプリンターとシュノーケリングマスクで人工呼吸器の試作に成功、伊ベンチャー 医療崩壊に苦しむイタリアで速攻開発、特許は公開して新型肺炎で苦しむ患者に届けたい」 http://twitter.com/Newsweek_JAPAN/status/1243052069944053771
ロイターさん「連帯をもたらすため、#新型コロナウイルス に悩むイタリアへ送られたキューバの医師団。人呼んで「白衣の軍団」だ。」 https://twitter.com/ReutersJapan/status/1243052333170397184
ニューズウィーク日本版さん「NY州、新型コロナウイルス感染1万5000人・死者157人 感染率3日毎に倍増、医療が危機的状況 #パンデミック #新型肺炎 #COVID19 #感染確認 #感染症対策 #感染拡大 #ニューヨーク #アメリカ #外出禁止 #オーバーシュート #医療危機」 https://twitter.com/Newsweek_JAPAN/status/1243052814529683456
日本橋弁松総本店さん「同情を集めつつ、敵意も煽るまかない自慢のお時間です。 本日は、「めかじきのトマト煮」です。弁当用にカットして余っためかじきの端切れ部分を使用。それをトマト煮にするという通常商品では100%あり得ないメニューです。なので、みなさまが口にすることはありません。」 https://twitter.com/benmatsu1850/status/1242952365596004353
鉄道事故関連ニュースさん「新型コロナ、ドラックストア店員を困らせる高齢者「マスク在庫なしでも毎朝長蛇の列」「いつも同じ顔 - キャリコネニュース(3/26 14:22) 女性は、会計の際に指を舐める年配者に難色を示す。財布から金銭、クーポン券…」 https://twitter.com/TrainAccident/status/1243051886766252033
夏彦さん「知っているか? このたった2か所を封鎖する事で 九州全域をロックダウンすることが出来る事を」 https://twitter.com/natsuhiko_v2/status/1243054159449845761
毎日新聞さん「海外から戻った人に14日間の外出禁止を義務づける台湾。自宅隔離を守らなかった人には罰金を科していますが、きちんと隔離に従った人は、計約5万円の補償金を政府に請求できる仕組みになっています。#新型コロナウイルス」 https://twitter.com/mainichi/status/1243055078413500417
ロイターさん「イタリア南部バーリのデカロ市長は、外で遊んでいた市民に「帰れ。家のプレイステーションで遊んでいろ」」 https://twitter.com/ReutersJapan/status/1243055078434463745
立川談四楼さん「「現金を支給すると貯蓄してしまうから商品券」って麻生さん、あんたこの間、同じ口で「老後に備えて2000万貯めろ」って言ったばかりじゃねえかよ。自分で言ってて矛盾に気がつかねえかな。商品券で家賃や水道、ガス、電気代が払えるのかよ。いい歳してみっともねえ、冷てえ水でツラぁ洗って出直せよ。」 https://twitter.com/Dgoutokuji/status/1243018065358422017
ウォール・ストリート・ジャーナル日本版さん「ある家族を襲ったコロナウイルスの悲劇 「私の世界は音を立てて崩れた」 親族が集う旧正月の食事で6人が感染、新型ウイルスは家族を介して広がった #新型肺炎 #新型コロナウイルス」 https://twitter.com/WSJJapan/status/1243055106075082758
東京都庁広報課さん「【都民の皆様へのお願い】 新型コロナウイルス対策に関連して、食品などを過剰に購入される例が発生しているようです。 過剰な購入は、スーパーや商店などの一時的な品薄状態を招いてしまいます。 必要な量の購入にとどめるなど、都民の皆様の冷静な行動をお願いいたします」 https://twitter.com/tocho_koho/status/1243029067751809024
清水 潔さん「国民がコロナ余波に苦しみ、五輪の強行が批判される中、官邸スタッフが3連休にやっていたこと。 「自宅に官邸スタッフを集め、“遺書が公開されても大した影響はない”という世論を作り出すように、“作戦”を練り上げたそうです」」 https://twitter.com/NOSUKE0607/status/1242977178423144449
清水真理 作品集発売中。さん「私みたいに牛肉でアレルギーがある人は和牛商品券���鶏肉商品券とかに替えてもらえるのだろうか。。それだったら図書券とかの方が有難いのですが。。」 https://twitter.com/shimizumari/status/1243055976904683523
毎日新聞さん「SHIBUYA109、今週末の休館を発表 平日も営業時間短縮」 https://twitter.com/mainichi/status/1243057595084091392
朝日新聞(asahi shimbun)さん「通学の電車・バスでの会話控えて 都教委が指針まとめる #新型肺炎 #新型コロナウイルス」 https://twitter.com/asahi/status/1243057608430256128
河野太郎さん「3月25日、新たに新型コロナウイルスに感染した98名、死亡者2名が報告され国内感染者は1292名、国内死亡者は45名となりました。」 https://twitter.com/konotarogomame/status/1242950915801268224
鉄道事故関連ニュースさん「神奈川県でも今週末の不要不急の #外出自粛 を要請 - ANN/Yahoo!ニュース(3/26 14:55) 神奈川県の黒岩知事が新型コロナウイルスの東京での感染拡大リスクが急激に拡大しているとして、県民に週末の不要不急の…」 https://twitter.com/TrainAccident/status/1243058199080488960
朝日新聞デジタル編集部さん「ダイヤモンド・プリンセス号、消毒終え離岸 運航再開へ #新型コロナウイルス の #集団感染 が起きた クルーズ船 #ダイヤモンドプリンセス 号 。 船内の消毒を終え、横浜港の大黒ふ頭を離れました。 運航会社によると、5月16日から運航を再開する予定です。」 https://twitter.com/asahicom/status/1243057595104935936
ゆき姉🥙さん「新型コロナで日本がやってる事 ライブに行きたくて調べて理解したことを素人文系がめちゃくちゃ噛み砕いて描いてみた(1/2)」 https://twitter.com/yucky1313/status/1242641221689827328
朝日新聞(asahi shimbun)さん「「県外への旅行、自粛を」 沖縄知事、県民に呼びかけ #新型肺炎 #新型コロナウイルス」 https://twitter.com/asahi/status/1243059120145494017
surfbeatさん「@mainichijpnews マスクも無え、給付も無え、検査もそれほどやって無え。 お肉券、旅行券、お金は利権にぐーるぐる。 おらこんな国いやだぁ、おらこんな国いやだぁ😭」 https://twitter.com/surf_beat/status/1243025354224046080
毎日新聞さん「政府は26日、3月の月例経済報告を発表。2013年7月以来続いてきた「回復」との表現が6年9カ月ぶりになくなり、戦後最長とみられる景気拡大がすでに終わり、景気後退局面入りしていることがほぼ確実な情勢になりました。」 https://twitter.com/mainichi/status/1243097124155187201
毎日新聞ニュースさん「男子ゴルフも国内初戦を中止 新型コロナ拡大」 https://twitter.com/mainichijpnews/status/1243098972601737222
産経ニュースさん「TOHOシネマズ週末休館 東京と神奈川の全劇場で →東京と神奈川の全16劇場で営業を休止すると発表 →30日から4月2日までの平日も、午後8時以降の上映を取りやめる」 https://twitter.com/Sankei_news/status/1243093643604312064
サイトウさんጿኈ ቼ ዽ ጿさん「いいかげんにしろよ、牛肉で税金納めるぞ。」 https://twitter.com/ritzberry/status/1242814874742218753
【阪神】藤浪晋太郎が嗅覚異常で球界初のPCR検査へ 結果が出る前に経緯を公表した理由 : スポーツ報知 https://hochi.news/amp/articles/20200326-OHT1T50236.html
ハフポスト日本版 / 会話を生み出す国際メディア / 世界各国に広がるニュースサイトさん「新型コロナウイルスの感染者、アメリカが世界最多に。 米国では感染者が急増しており、その数は約8万2000人となった。」 https://twitter.com/HuffPostJapan/status/1243352070482255877
読売新聞オンラインさん「5都県知事、「都市封鎖」回避へ共同メッセージ…若年層に慎重な行動求める #社会」 https://twitter.com/Yomiuri_Online/status/1243134361853136904
毎日新聞ニュースさん「西村経済再生担当相、食料品買い占めに「冷静な対応をお願いしたい」」 https://twitter.com/mainichijpnews/status/1243138417237438464
毎日新聞ニュースさん「岐阜・可児の合唱団で6人の感染者 県「クラスターの可能性」で調査」 https://twitter.com/mainichijpnews/status/1243133330884718593
ロイターさん「アングル:「五輪特需」失ったホテル業界、新型コロナで存亡の危機」 https://twitter.com/ReutersJapan/status/1243138261473792002
朝日新聞(asahi shimbun)さん「新宿御苑、27日から臨時閉園 「桜は見頃だが協力」 #新型肺炎 #新型コロナウイルス」 https://twitter.com/asahi/status/1243125054210105344
みかんとじろうさんちさん「コロナの影響で疲れている方も多いと思いますが良かったらこれ見て癒されてください」 https://twitter.com/jirosan77/status/1243063026900582400
INORAN_OFFICIALさん「最前線で、頑張ってくれている人達に! エールを送ろう!!!!!」 https://twitter.com/INORAN_OFFICIAL/status/1243149218232950784
楠本まきさん「UK夜8時。COVID-19と戦ってくれているNHS医療スタッフに、皆窓を開け、戸の外に出て、拍手して感謝を表した。😭」 https://twitter.com/makikusumoto/status/1243272021317947392
毎日新聞ニュースさん「「買い占め」は報道しない方がいい? 識者から「増幅効果」懸念の声も」 https://twitter.com/mainichijpnews/status/1243272854566612992
朝日新聞(asahi shimbun)さん「3連休、日本中が緊張緩んだ?「影響はこれから表れる」 #新型肺炎 #新型コロナウイルス」 https://twitter.com/asahi/status/1243271013351092224
毎日新聞ニュースさん「ER Dr.の救急よもやま話:新型コロナ 長期化に対応する心構えを」 https://twitter.com/mainichijpnews/status/1243275392539963393
毎日新聞ニュースさん「イマドキ若者観察:ウェブ面接「自宅の音ダダ漏れ」相次ぐ就活ハプニング」 https://twitter.com/mainichijpnews/status/1243275411498229760
TokyoNorthRecordsさん「有効な治療法も薬もない新型のウィルス。 初期対応こそが瀬戸際で大変重要な分かれ道だったのよ。 俺でさえ1月後半にはstaffに注意、マスク着用と購入を一斉連絡しましたよ。 チャーター機飛ばしてウィルス輸入して、いつまでも入国制限もせず、補償なき自粛要請って・・・。 ちょっと理解できない。」 https://twitter.com/TokyoNorth/status/1242875365791424512
NakamuraEmiさん「ブログを更新しました。」 https://twitter.com/nakamura_emi/status/1243190154358976512
楠本まきさん「UKロックダウン3日目|楠本まき #note」 https://twitter.com/makikusumoto/status/1243338426235203597
増田勇一さん「「文化は時代が好調な時にだけ許される贅沢品ではない。それを欠く生活がいかに味気ないかを、私たち今、目のあたりにしている」 本日の朝日朝刊「折々のことば」欄で紹介されてたドイツ文化メディア担当相の言葉。」 https://twitter.com/youmasuda/status/1243288574176268293
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