#エイズの文化人類学
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mreiyouscience · 1 year ago
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本書は医療人類学の権威である
「アーサークラインマン」の著書である。
この書籍の副題にあるように
「不確かで危険に満ちた時代を
道徳的に生きるということ」
がテーマである。
社会学者「ジグムント・バウマン」が
言及しているように
現代社会は
「リキッド・モダニティ」
―すなわち変動性が激しく、
先行きが不透明で予測が立てにくく、
複雑で分析が困難を極め、
原因があいまいな社会―
である。
このような「リキッド・モダニティ」において、
個人として
社会に属する集団の一員として
真剣に向き合うことで得られる体験・経験を
「アーサークラインマン」は
「道徳的・人間的体験」と呼んでいる。
そして先に言及したこの体験によって
個人は
人間として生きることの意味を
定義づけるのである。
すなわち、
「道徳的・人間的体験」とは
存在をかけて生きていくということ、
他の人々と
価値ある関係を築いていくということ、
我々にとって意味あることを成していくこと、
そして存在をかけて
懸命に活動している他の人々と共に、
ある体験の場で生きていくこと
を意味するのである。
しかし、
このような道徳が必ず
倫理的な意味での善と
同義でないことに注意されたい。
人々が共有する
「道徳的・人間的体験」は
善とは遠くかけ離れていることがあるのである。
それどころか
有害な場合すらあるのだ。
つまり、
我々が表明し実行に移す価値観が
場合によっては
相手に残酷な体験をもたらすことが
あり得るのである。
少数民族を
スケープゴートにしたり
弾圧したりする
地域社会、
あるいは、
奴隷制度、
児童買春、
女性への暴力、
様々な虐待を容認する地域社会
などについて考えれば
おのずと明らかになるだろう。
ちょうど
ユダヤ人大虐殺や奴隷制度に関与した
ごく普通の男女がそうであったように
そこでの「道徳的・人間的体験」が
おぞましい行為と
共犯になってしまうことは
あり得るのである。
本書は
このような
「道徳的・人間的体験」の只中にあ���て
道徳的人生を生きようとした
人間の物語である。
以下その人々の物語である。
1第二次世界大戦を兵士として生きた
 アメリカ人男性の物語
2内戦のアフリカで戦った
 一人の民間人女性の物語
3文化大革命から今を生き抜き
 成功した中国人男性の物語
4性的空想から慢性頭痛に苦しんだ
 ある牧師の物語
5麻薬中毒とエイズを克服した
 ある女性の物語
6著者自身の物語
7一人の人類学者、精神科医の
道徳的・人間的体験の物語
このように生きた
これらの人生の物語から
著者は
道徳的人生を変容させる要因は
三つあると結論付けている。
主観性、
社会的体験
(日々の人々との関わり合い、会話、エピソード)、
文化的表象の場
(政治経済体制、文化のあり方)
である。
最後に私見を述べたい。
私はこの三つの要因こそが
道徳的人生を変容させ
「ジークムント・フロイト」が主張する
性的欲求(リビドー)を
メタノイアさせ(魂を浄化させ)、
生命の泉(すなわち聖杯)にするのだと
考えている。
*メタノイア;心の転換のこと
メタ ;「~より上の」、「~を超えた」
ノイア;「こころ」
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anamon-book · 5 years ago
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エイズの文化人類学-[エイズ現象]をどう読むか? 別冊宝島67 JICC出版局
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sqiz · 4 years ago
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ダメリカンエリートの人類補完計画発想 先ほど家族で色々と話してたんだけど、米国の行く末の話で、主人が「国境なんて なくなってみんなが同じ言語を話して同じものを食べて幸せに暮らせるのが理想 なんだからなくなるなら無くなればいい」と言ってて、何回も聞き返したけどやっぱりそう言ってて、 本当に…ちょっと…言葉を失いました… >ウチはアイルランド人の旦那だけど理想ばかり話すので具体的にどうしたらいいか?と聞いたら何も言えなくなってた。 https://togetter.com/li/1652188 民度とか言う問題じゃないよなあもう   85:日出づる処の名無し:2021/01/14(木) 08:41:48.25 ID:j/6wFC/H >>72 アイデンティティ政治()なんて言ったところで、それが通じるの米帝内だけなんだけど、普遍的なもんだと思ってるのなんとかならんのかな。 297:日出づる処の名無し:2021/01/14(木) 12:31:17.46 ID:2L6QqKwT >>72 イマジンでも歌えばいいじゃん、オノヨーコに語りかけるように___・ 531:日出づる処の名無し:2021/01/14(木) 15:59:47.96 ID:xBU6noQY >>72 何度か言ってるけど > 「国境なんてなくなってみんなが同じ言語を話して同じものを食べて幸せに暮らせるのが理想 > なんだからなくなるなら無くなればいい」 これって人体で例えればエイズ・免疫不全症候群だよな 自分たちと違う「異物」が入ってくれば程度の差こそあれ「拒絶反応」が起こるのは当たり前の話なのに 「異物を排除する免疫はヘイトクライム。コイツらを排除しないといけない」つってるのがこういう石北パヨでさ・・・ ポリコレ戦士って人間社会に於けるHIVウイルスなのでは 568:日出づる処の名無し:2021/01/14(木) 16:31:16.25 ID:y6Y4MBR9 >>72の続きも怖いな なのこ★休憩中…?(team A.T.) @nanococoa とりあえず…私は日本語を失いたくないし、ずっとピザを食べ続けたくないよ… 本当に、米国の一流大学で洗脳された人の言うことはものすごく浅はかで 現実を1ミリも分かってないんですね…と思って本当にびっくりしました。 ちょっと本当にびっくりしましたよ。。。 なのこ★休憩中…?(team A.T.) @nanococoa たくさんリプ頂いてるので追加で… この方のご主人と同じで、ウチも全くの「机上の空論」なんですよ。 リプでも言及されてる方おられますが、本人は中共、民族浄化の実態、米国の暴動、 黒人優位政策へ傾斜など実感として持ってなくて、純粋にサヨク洗脳の下で すくすくと育ってきた結果だと思います。 2021-01-14 01:49:26 なのこ★休憩中…?(team A.T.) @nanococoa 米国の裕福層は多かれ少なかれこういった思考だと思うので、今回のトランプ氏への (私から見ると常軌を逸した)政治献金妨害を含めた大手企業のバン祭りにも納得がいく。 全く支持できないし異常だけど、彼ら大手企業の中の人たち上層部の多くは 大真面目にやってるのではないか…な?教育って怖いですな! 2021-01-14 01:55:09 なのこ★休憩中…?(team A.T.) @nanococoa @_nakano_takeko_ ほんまに洗脳されてると思う。ずっと過保護で何不自由なく育って、 ずっと多様性多様性多様性ガーって習ってきて本末転倒な事になってるんだよ… 多様性=平均化、貧富も文化の不均一も許さない、って考えに陥ってると思う。
ダメリカンエリートの人類補完計画発想のトンデモぶりに日本人妻がドン引きする珍事が発生 – U-1 NEWS.
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left-stand-homerun · 4 years ago
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韓国現代フェミニズムにおけるTERF(トランス排除的ラディカルフェミニスト)批判――『文化科学』(2020年冬号)掲載論考紹介
2021年2月4日
影本剛 
1.一つではない韓国フェミニズム
韓国の文化理論季刊誌『文化科学』104号(2020年冬号)の特集が「拡張するフェミニズム」である。特集の英語表記は「Stretching Feminism」であり、雑誌の巻頭文によれば、ここでいう拡張とは、帝国主義的な拡大「expansion/extension」ではなく伸縮性や弾力性をもって「拡がり/広がり/伸び行く」という意味であると規定している(イ・ユンジョン「フェミニズムの拡張性を志向して」同誌、25頁)。
本記事では、この雑誌に掲載された二つの論考を紹介し、韓国においてフェミニズムの名で語られ行われるトランスジェンダー排除の運動や議論(TERF)に対して、いかなる批判的議論が提出されているのかを確認することを目的とする。2016年5月の江南駅女性殺人事件以降盛り上がりを見せている韓国現代フェミニズムについては日本でも注目の対象になっているが、その動きは当然のことながら一面的ではない。とりわけ2020年2月、ソウルの淑明女子大学に合格したトランスジェンダーの学生が、在学生たちの入学妨害運動を受けて入学を放棄するという事件が起こったように、「真なる女性」を標榜する運動は、物理的にトランスジェンダー学生の学ぶ権利をはく奪した。これらの動きに対する批判的議論は、日本語であまり紹介されていないと思われる。本記事で紹介するのは、『文化科学』104号に掲載された論考の中でとりわけ重要だと思われる二つの論考、ソン・ヒジョン「再び、物質――「デジタル・フェミニズム」という政治的企画に対するノート」とイ・ヒョミン「ラディカル・フェミニズムの急進性に対する検討」である(『文化科学』の目次や文献情報は以下参照https://www.aladin.co.kr/shop/wproduct.aspx?ItemId=257872769)。ソン・ヒジョンは『フェミニズム・リブート』(2017)の著者でもあり、日本語訳はまだないが、韓国フェミニズムや韓国の文化理論に関して興味のある方ならば見かけたことがあるであろう書き手である。イ・ヒョミンは、2015年以降の韓国のTERF運動に関する修士論文を2018年に提出した研究者である。イ・ヒョミンの修士論文はネットで無料公開されており、ダウンロード数は3000(!)に達している。二つの論考の論点は多岐にわたるが、ここではTERFに関する批判に集中してまとめたい。
2.現代韓国TREFに対する諸検討
 ソン・ヒジョンは2015年以降の「フェミニズム大衆化」を「フェミニズム・リブート(再起動)」と規定して議論を展開させてきた。そこから現在までの6年間を以下のように記述する。
「去る6年間、オン/オフラインを行き来した論争は、女性は同一な集団ではなく、フェミニズムは一つの声ではなく、社会変革を夢見る者��ちの政治とは仲間を発見する過程であるのと同じくらい敵を発見する敵対の過程であったことを示した。」(50‐51頁)
そしてリブート以降のフェミニズムの諸類型を以下のように整理している。
「オンラインに存在するフェミニズム内の多様な立場差をすべて分類し整理することは不可能であろう。ただ、本稿の関心の内部で大きく四つの範疇に整理することができる。①ラディフェミ〔ラディカル・フェミニズムの略〕:2015年以降、ツイッターを中心に登場した韓国型ラディカル・フェミニスト。②スカ〔「混ぜる」の意味〕:ジェンダーの交差性〔インターセクショナリティー〕を思惟するフェミニスト。労働、生態、クィア、障害など多様なイシューを「フェミニズムと混ぜる」と蔑みの意味でラディフェミたちがかれらを「スカ」と呼び始めた。一部の交差性フェミニストたちはこれを領有し、自ら「スカ」と呼びもする。③ウォーマッド:ウォーマッド掲示板ユーザー。自らをフェミニストというよりは女性優越主義者と規定する。ウォーマッドはラディフェミもまた運動圏とみなしてラディフェミ排除的立場を露わにすることもあった。④ウォムスタンス:ラディフェミとウォーマッドが共有している政治的立場。脱コルセット、脱性愛、男性・トランスジェンダー・難民・外国人労働者排除などが主要な立場だ。最近ウォーマッドでは反中国感情が強まっている。」(51頁、脚注5)
 これらの動きの中でいかに「強い「フェミニズムをするのか」、例えば「どれほど脱コルセットをしたのか」などによって内部的なヒエラルキーが形成されはじめる。」(51頁)とりわけ2020年は先述した淑明女子大のトランスジェンダー学生の入学放棄事件、n番部屋が暴露された事件、n番部屋問題を先決課題として提示した女性の党の創建など、多様なイシューが爆発した。そしてその背景にある韓国のオンライン空間はマッチョで女性嫌悪的な市場が広がっている。とりわけ2010年代のアフリカTVやYOUTUBEが「いいね」=金稼ぎという繋がりをつくりだし、n番部屋は賭博サイトと強く繋がっていた。他者を搾取することによって君臨する男の連帯ネットワークであるデジタル共同体が形成された。そしてデジタル空間においても、身体に対する搾取は生じる。韓国フェミニズムが対面しているのはこのような「デジタル」の条件だ。淑明女子大学でのトランスジェンダー学生に入学放棄をさせた事件もまた、デジタル空間におけるTERFらによる排除の声によって醸成された。そしてTERF攻撃を通したフェミニズム攻撃で金儲けをするアンチ・フェミニズム市場もオンライン上で作動していく。
「アンチ・フェミニストたちをはじめとする多くの者たちが韓国社会のトランスジェンダー嫌悪をフェミニストたちの責任にし、内部でその問題を解決しろと促した。フェミニストたちの前にはフェミニストたちが解決せなばならない課題が置かれていたが、だからといってトランスジェンダー嫌悪はフェミニズム��けの問題ではない。TERFのトランス嫌悪論理は西欧のTERF論者たちから借りて来たものであるが、その本体は韓国社会の少数者嫌悪に根ざしているからだ。2018年の済州島のイエメン難民嫌悪扇動の時も同じだった。保守プロテスタントがフェイク・ニュースをつくり、ラディフェミがその内容を熱心に拡散した。そのようにして青瓦台〔大統領官邸〕の請願掲示板にアップされた「イエメン難民受容反対請願」には71万人に達する人々が賛同した。保守プロテスタントとラディフェミの共通部分がいかに大きいのかは分からないが、両者のあいだに意図はしなかったが、しかし効率的な協業が形成されていたことだけは事実だ。」(61頁)
 TERFの議論は、韓国に根付いている少数者排除の議論も主要な養分としている。ゆえに単にフェミニズムの内部だけで議論すべき問いではないということだ。また、TERFの論を支えるのが「女性の安全」という言説であった。そしてその言説のリアリティを担保するものとして、接続したアカウントが26万に達するというn番部屋が明るみになる事件があった。しかし女性の安全言説は生物学的本質主義に基づく女性の囲い込みになり、そうでないものを排除する形の言説が力をもった。フェミニズムのみならず、あらゆる進歩的な政治が、排除の政治がもつ悲壮さと崇高さのエネルギーに誘惑され、その力、その速度に頼ろうとする陥穽が生じた。
「排除の政治を突き動かす嫌悪の言葉はおもしろく、それこそサイダーのように弾ける爽快感を与える。このように政治が娯楽になってしまう瞬間は、常に強い効果を作り出す。そのような感情の激動が「今のようにやっているのでは何も達成できないであろう」という焦りと出会えば速度が加わる。その速度の中で何かをやっているという感覚が高まる。しかし日常的に経験する不安と恐怖を解消するために想像の敵を立てる者と同じくらい、それが嫌悪扇動だということを知りつつも知らないふりをするあるフェミニストたちの焦りが、更に長い時間を逆行させる。/注目すべきことは、かれらの(一種の)転向を正当化させるものが、外ならぬ「まず女から」であるという点だ。つまり「女性運動」と「少数者運動」を分離することで正当性を確保する。その両者が単純に分かれてはいないことを知りつつも、である。そしてこのような簡単な分離はフェミニズムをゲットー化させるのみならず、これまでやってきた女性運動の意義を簡単に廃棄してしまうという結果に至る。「女性団体らが若い女性たちの苦痛をきちんと代弁できていない」だとか「エリートフェミニストたちがチャン・ジャヨン事件について沈黙した」というふうにだ(これはすべて女性の党創建を���備していた人々の口から出た言葉だ)。これはフェミニズム運動の歴史に対する否定であると同時に、共に行かねばならないフェミニストの仲間たちに対する否定でもある。」(64頁)
 次に、イ・ヒョミン「ラディカル・フェミニズムの急進性に対する検討」を整理する。
「若い世代の女性たちが女性嫌悪を自覚し「フェミニストになること」を自負し始めたとき、重要だったことの一つは、まさしく「いかなる」フェミニズムを選択し支持するかの問題だった。」(226頁)
 つまり「韓国フェミニズム」なる一面的表現はそもそも成り立たない。「いかなる」の一つに位置づけられるのがTERFとしての「ラディカル・フェミニズム」である。TERFたちは、「フェミニスト共同体からトランスジェンダーを追放せねばならないだけでなく、かれらの存在自体を認めることはできないと述べ、インターネット空間でトランス嫌悪言説を積極的に主導している。」(226頁)そしてTERFは、「女性人権向上」と「家父長制解体」の目標の下に、トランスジェンダーだけでなく、フェミニズムが障害、人種、動物、環境など、様々なイシューと出会うこと批判する。その中で、TERFらの論争で核心になったものの一つが「既婚女性」の問題だ。
「オンラインにおいて「ラディフェミ」たちは、フェミニズムは人権運動であり単純に一人で考えるだけでは人権運動家とはいえないがゆえに、フェミニストになった以上、家父長制を壊し、女性人権を向上させうる非婚・非出産、非恋愛、非セックス、脱コルセットのような実践を体をもって行うべきだと主張する。この時、結婚はただちに家父長制に賦役する行為とみなされる。〔中略〕かれらは「女性問題が構造の問題であることは認めるが、その構造から抜け出たり壊す方法は、自らその構造から出る方法しかない」と考える傾向がある。」(227頁、脚注4)
また、「ジェンダー」については以下のように整理される。
「問題はTERF言説においてジェンダーが「女性を抑圧するための家父長制の道具」としてのみ意味化されるというところにある。つまりトランスジェンダー排除を主張する若い世代のフェミニストはセックスを生物学的な性、ジェンダーを社会・文化的に規定された性であるとともに性別固定観念を意味する用語として定義して使用しない。そしてセックスの純粋性と絶対性を主張し、ジェンダー解体あるいはジェンダー廃止をフェミニストたちの目標に設定する。女性・男性のような生物学的性による単純な区分には問題がないが、ここに女性性と男性性を指すジェンダー(社会文化的な性)が付け加わることによって女性が二等市民になって抑圧されるようになったという認識だ。「女性はかくあるべき」「女性はこれこれの存在だ」というふうに、あらゆる規定がジェンダーの一環として扱われることによって、女性とは何/誰なのかを問う時、ジェンダー観点に基づいた答え――例えばピンクが好きだとか髪が長いとかスカートを好んで着るのが女性だ――は、それ自体として女性嫌悪的なものになってしまう。許容可能な答えはただ「XX染色体に子宮や膣を持っていて、エストロゲンが分泌される人が女性」というものだけ��。このようにTERFはセックスとジェンダーの概念的区分を通して「真なる」女性と「偽物の」女性を区分し、二つのセックスと二つのジェンダーの一対一対応を仮定することで、支配的ジェンダー規範に不一致する多くの多様な体を排除している。」(228‐229頁)
 このようなTERFにとって、性別とは「感じ」「気分」「信念」ではなく生物学的な領域にのみあり、「ジェンダー論」は、女性抑圧的な現実を見ることのできない政治的正しさに酔った人々くらいが信じるであろう虚構的な話であるとみなされる(229頁)。そのような観点から、TERFの主張と、脱コルセット実践、女性安全言説が重なるとイ・ヒョミンは指摘する。TERFにとって「トランス女性は「わたしたち」があれほど脱ごうとしたコルセットを再び拾って着ることを通してジェンダーを再生産し、脱コルセット実践を無意味にする」(231頁)ということだ。同時に、トイレやスポーツ競技の場に「男性が侵入する」というレトリックを動員して、トランスジェンダーに対して「潜在的犯罪者」の烙印を押す言説を展開する。
 そのようなセックスを自然化し、ジェンダー二分法擁護を主張するTERFの言説は保守プロテスタントの反同性愛運動、嫌悪扇動と出会う。「TERFは保守プロテスタントを出処にする反同性愛宣伝物や主張を積極的に参考し引用しつつ、トランスジェンダー/クィアに対する差別と嫌悪を再生産する。」(232頁)韓国の保守プロテスタントは「ジェンダー」を批判することに力を注いできた。つまりジェンダー平等(gender equality)ではなく両性平等(sex equality)を主張し、「二つの性」という土台を維持することに全力を注いでいる。保守プロテスタントは、「ジェンダー平等政策が施行されれば、トランスジェンダーの性別訂正が認められれば、難民を受け入れれば、「女性たちの安全が深刻な威嚇を受ける」という言説戦略を一貫してとってきた。」(233頁)この論理がTERFを経由して拡散され、トランス嫌悪言説はより力を持つことになる(トランス嫌悪言説だけではなく、ゲイ男性とエイズ患者に対する嫌悪言説も再生産される)。このような保守プロテスタント勢力の議論を栄養素にし、フェミニズムはクィア、移住、障害、環境、動物のような他のイシューと出会っても混じってもならないというTERFの議論の仕方が、どうして「ラディカル」でありうるのかとイ・ヒョミンは問う。
「抑圧のヒエラルキーを想定し、性差別主義をその頂点に置くTERFの主張は全く急進的ではなく、また政治的でもない。フェミニズムは少数者差別に反対する理論であると同時に実践であるがゆえに道徳的かつ倫理的な次元で他の少数者たちと連帯する必要があるというふうな単純な主張をしたいのではない。そもそも混じっていて、分離できない諸問題であるがゆえに共に行かないとならないということだ。」(237)
 そしてTERF批判は決して2010年代以降のみを対象にすることはできず、批判のためには「若いフェミニストが云々」というクリシェに陥るのではなく、自分たちが当然視している根深い土台に向かって(つまり韓国社会に広く根付く少数者差別に対して)、そして自分自身への省察へ向かわねばならないと主張する。
3.まとめ
 以上のように、二つの論考をまとめることで、2020年代の韓国フェミニズム���おけるTERF批判を紹介した。『文化科学』の特集には、趙慶喜「ポスト植民フェミニズムの(再)召喚――1990年代在日女性たちの「慰安婦」運動とアイデンティティの政治」という論文も掲載されている。それは独自的にフェミニズムの場を開いた在日朝鮮人女性たちの行為性を浮き彫りにし、それを「韓日間の「媒介」や「架橋」ではないやり方で東アジアのフェミニズムに位置づけ」、「「K文学の日本的受容」や「韓日間女性連帯」などの国民的ナラティブの代わりに、その連帯の差異空間(in-between)におけるポスト植民フェミニズムを模索してきた在日女性たちの実践、そしてかれらと日本社会の遭遇と行き違いの瞬間を明らかにする」(116頁)という論考だ。重要な論考であるが、本記事の目的とずれるのでこれ以上は議論しない(韓国フェミニズムというとき、慰安婦問題に関連して積み重ねられてきた議論からわたしたちが学ぶべきことはかなり多いであろうし、幸いなことに多くの論考と資料が日本語に翻訳紹介されている)。また現代中国フェミニズム運動の紹介や、フェミニズムに関するイメージ表現、ウェブトゥーン分析など、関連する論考が掲載されているが、それにも触れない(特集外にチョムスキーのインタビューやエスポジトの翻訳もある)。ただ、日本における韓国フェミニズムに対する関心の拡大に��して内実を占める議論の紹介が追い付いていない状況の中において、とりわけ韓国内のTERF批判を、ノート段階であれ日本語空間に提出することは、関心のある方に多少は役立つのではないかと考える。
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higher-up · 4 years ago
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伝えたかったこと(ワクチンについて)
これは、2021年6月14日に、ワクチンを打つ予定という友達に送ったもの。
リンクを貼らないで、なるべく自分の言葉で、最小限に事実を伝えようと思ったけれど、上手くできたかは分からない。
大切な友達に、少しでも考えてもらえればと思った。
(本当は全ての友人、知人に話したかったけれど、それぞれの意見を聴く中で色々なことが浮かび難しく、今でも悶々としている。)
私はテレビを観ない。
インターネットやSNSは使うけれど、情報は元のものを確認する様にし、この文章の一つ一つの項目についても沢山たくさん調べた。
情報が溢れる中で、時に頭が一杯になって休み、たったこれだけの文章に何週間もかかった💦
今は多くの方が分かり易くまとめた情報を上げているが、やはり自分で確かめる必要はあると思っている。
***************
◎コロナワクチンは未承認である
米国FDAに承認されていない。
日本では特例承認されたが通常では認可されない方法。治験も終わっていない。
よってワクチンではなく新薬。添付書には劇薬と記載。
ファイザーの治験終了日は2023.4.6、モデルナは2022.10.27となっている。
動物実験では全死亡のため中止している。
◎死亡者数が多い
5/26時点のワクチン���種後の死亡件数(短期的)は85件
(6/9時点では196件)
摂取率から計算すると6.6万人に1人の割合で死亡。
インフルエンザワクチンでは730万人に1人なので110倍。
米国は3.4万人に1人なので210倍。
過去にも、これほど死亡率の多いワクチンはない。
◎重篤な副反応が多い
全身麻痺、失明、脳梗塞、皮膚異常他。
基礎疾患のない若い人がくも膜下等で亡くなっている。(血栓障害を起こすため。航空会社でも接種を始めたが、上空での発症が心配。) 
医師やオリンピック選手の死亡、副反応で参加できなくなった人もいる。
◎専門家が危険だと警告
ファイザーの元副社長、ワクチン作成の権威者ボッシュ博士他、多くの研究者や専門家、医師が危険だと言っている。
RNAワクチンを接種すると、ワクチンのRNA がその人のDNAに組み込まれる可能性が高い。
免疫系に重大なダメージを与える可能性あり。
影響は永久で感染が消えることはない。(通常、数時間〜数ヶ月で抗体は消える)
◎打った周りの人にも影響
流産、性器異常、子供に生理が来る、発疹ができる他、
副反応が出た医師に点滴をしたらその看護師に皮膚異常など。
接種者は受診しない様にと張り紙をする医院も増えている。
◎厚生労働省のHPや質問に対する回答
新型コロナウィルスの科学的根拠に基づいた証明はない(厚生労働省として発表してない)と言っている。
「あるものとして対応」している。
「ワクチンは重症化を防ぐ効果があっても感染を防ぐ効果が乏しく、どれだけ多くの人に接種しても集団免疫の効果が得られないこともあります。」と説明している。
陽性者でも感染者ではない。
変異株に対応しない。
(元々ウィルスは変異するもの。ウィルスは無くならないし、発症するかは個々の免疫力の問題なので、免疫力を上げる方が効果的)
◎コロナ感染による死亡者数
直接の死因がコロナ以外でも、検査で陽性になればコロナ死としてカウントされる。
病院は、そう報告する様指示されている。(補助金が多くもらえる)
◎PCR検査について
PCR検査の陽性は、感染ではない。しかし感染者としてカウントされる。
普通の風邪でも陽性になる。(インフルエンザ、アデノウィルス、マイコプラズマでも陽性)
陽性判断のct値、日本は化学を無視しずっと高い数値。
多くの研究者、生物学者、医師も、PCR検査を感染症の診断��使ってはならないと警告。
(PCR検査を感染症の診断に使ってはならないと繰り返し警告してきた米国の生化学者が、コロナ騒動が起こる直前に亡くなっていたり、ワクチン接種が始まるタイミングでCt値を下げていることに疑惑、疑問を感じる。 Ct値を下げればPCR陽性者は激減、感染者が減ったとの印象。)
◎有効率について
ワクチンを接種すれば、95%の人に効果があると言っているが数字のマジックで、実際は接種した人のうち0.7%の人にしか効果が得られない。
◎医療崩壊について
何故医療崩壊かというのは、日本の医療の仕組み。
コロナは指定感染症2類になっているが、本来ならば5類レベル。
レベルをあげるから、対応できる病院が限られて医療崩壊。普通の病院は落ち着いている。
そもそも政府はずっと病床数も保健所も減らしている背景もある。
◎曖昧な政府対応への不信感
緊急事態宣言の中途半端さ、自粛要請するが十分な補償はせず経済が悪化、廃業者続出、自殺者の増加の方が深刻。
ワクチン接種を推奨していながら、責任は各個人。
有効率、危険性などをきちんと説明しないのはフェアなやり方じゃない。
国会議員はワクチンを打っていない。
(政治家などがワクチンを打つパフォーマンス、生理食塩水だった例。
オリンピック開催も、政治家が会食を堂々としているのも、コロナは脅威でないと知っているからと思えば納得してしまう。)
***************
現在はもっと大変な状況。
子供達にまで打つ方向になっている。
5月末にコミナティの添付書を見て、
「劇薬」と書いてあるのと「16歳以上に接種」と確認したが、
6月になると「12歳以上」に変更されていた。
ただでさえ治験が終わってないのに、何もしないまま年齢を下げるとは恐ろしいと思った。
これだけ副反応の酷いものは今までにはない。
死亡しても因果関係は不明。直後でもそうだから、何日も経ってから、数ヶ月、数年後の被害は、永遠に闇の中である。
水銀、エイズ、被爆等過去の数々の例でも分かる様に、国は認めない。
遺伝子に関わるワクチンは、子孫にまで影響するかもしれない。
それほど未知である。
職業柄、授業を受ける為、お店に入る為など、選択ができない様にするのは違法である。
強制へ導く背景に何があるのか、おかしいのではないかと疑問を持つのは変でしょうか。
せめて様子を見ることはできないでしょうか。
選択は個人の自由だし、批判するつもりはないけれど、
偏った情報のみを元に尊い命を引き換えにするのは、
あまりにも悲し過ぎる。
♬HEAVENESEの「生まれる前にいた場所へ」
https://heavenese.bandcamp.com/track/to-the-place-before-i-was-born
http://www.heavenese.jp/discography/umare/linernotes.html
数日前に友達に教えてもらい、毎日50回位聴いてる曲♬
曲を聴いて、歌って免疫力アップです!
この方達の活動もまた素晴らしい。
大切なことを思い出し
忘れなければ、
全てのことにおいて選ぶ道が見えてくるのではないかと思います。
《参考》
ワクチンを打たないと決めたのは何年も前ですが、
事実を説明している分かり易い動画があったので
◎ワクチンの仕組みと原材料
https://youtu.be/KpKZAyYLbJg
youtube
◎過去30年間の全ワクチン死亡者数
ワクチン有害事象報告システム(CDC VAERS)より
https://nico.ms/sm38984007
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monqu1y · 4 years ago
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持続可能な開発目標
 提唱者[���連]の正体を見抜けば、盲従の危険さが分かる。  17項目は、有機的に関連しあってるのに、個別にチェックしても無意味。互いの影響をシステム的に分析・解明しなければ…  また、17項目に拘れば、少子高齢化対策が後回しになる。  民族的道徳観の違いも重要な要素だが、タブー視することで、悲劇が起きる。  市営住宅集会所のコミュニティカフェに行った。 A:2000年9月、国連は、開発目標(MDGs: Millenium Development Goals)を掲げ、15年間で達成すべき旨決めた。
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B:開発目標は、8項目です。 1. 極度の貧困と飢餓の撲滅 2. 普遍的初等教育の達成 3. ジェンダーの平等の推進と女性の地位向上 4. 幼児死亡率の削減 5. 妊産婦の健康の改善 6. HIV/エイズ、マラリアその他疾病の蔓延防止 7. 環境の持続可能性の確保 8. 開発のためのグローバル・パートナーシップの推進 C:15年経過したとき、国連は、開発目標を持続可能なもの(SDGs: Sustainable Development Goal)に替え、17項目と具体的指標169個を示して、次の15年間で達成すべき旨決めた。
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私:17項目の内容を並べてみますね。 1. 貧困をなくそう 2. 飢餓をゼロに 3. すべての人に健康と福祉を 4. 質の高い教育をみんなに 5. ジェンダー平等を実現しよう 6. 安全な水とトイレを世界中に 7. エネルギーをみんなにそしてクリーンに 8. 働きがいも経済成長も 9. 産業と技術革新の基盤をつくろう 10. 人や国の不平等をなくそう 11. 住み続けられるまちづくりを 12. つくる責任つかう責任 13. 気候変動に具体的な対策を 14. 海の豊かさを守ろう 15. 陸の豊かさを守ろう 16. 平和と公正をすべての人に 17. パートナーシップで目標を達成しよう A:[持続可能な社会]を実現するための17項目は、有機的に関連しあっているので、互いの影響をシステム的に分析・解明しなければ、目標達成できない。各項目を個別チェック・リストとして使うと、見当違いの結論に到達しかねない。   また、17項目を掲げることで、他の重要な課題を見落とし易くなる。   例えば、[少子高齢化]が喫緊な地域は少なくないが、17項目で事足れりとすれば、地域の衰退に拍車をかけることにもなる。   民族的道徳観の違いも重要な要素だが、タブー視することで、民族的道徳観の違いを理解しないことに基づく悲劇が起きてしまう。 B:提唱者の[国連]も胡散臭い組織ですね。
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C:[目標]を理解した心算で軽率な[行動計画]を立案し、それを国民に強要して社会を悪くしていることに気付かない指導者らが居る。 D:森林を守る目的を掲げた[割りばし]不使用運動は、間伐コスパを悪くして森林守るのを妨げた。 A:[レジ袋有料化]は、環境保護効果が殆ど無いのに、万引きを増加させ、全国の店主・店長を苦しめている。 B:プラスティック・スプーンの有料化強制も、業者を困惑させてるんですょ。 私:非科学的な思い込みで政治をやられたら堪りませんねぇ。
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〔参考:169ターゲット〕 01.貧困をなくそう:あらゆる場所で、あらゆる形態の貧困に終止符を打つ 01.1_2030年までに、現在1日1.25ドル未満で生活する人々と定義されている極度の貧困をあらゆる場所で終わらせる 01.2_2030年までに、各国定義によるあらゆる次元の貧困状態にある、全ての年齢の男性、女性、子供の割合を半減させる 01.3_各国において最低限の基準を含む適切な社会保護制度及び対策を実施し、2030年までに貧困層及び脆弱層に対し十分な保護を達成する 01.4_2030年までに、貧困層及び脆弱層をはじめ、全ての男性及び女性が、基礎的サービスへのアクセス、土地及びその他の形態の財産に対する所有権と管理権限、相続財産、天然資源、適切な新技術、マイクロファイナンスを含む金融サービスに加え、経済的資源についても平等な権利を持つことができるように確保する 01.5_2030年までに、貧困層や脆弱な状況にある人々の強靱性(レジリエンス)を構築し、気候変動に関連する極端な気象現象やその他の経済、社会、環境的ショックや災害に暴露や脆弱性を軽減する 01.a_あらゆる次元での貧困を終わらせるための計画や政策を実施するべく、後発開発途上国をはじめとする開発途上国に対して適切かつ予測可能な手段を講じるため、開発協力の強化などを通じて、さまざまな供給源からの相当量の資源の動員を確保する 01.b_貧困撲滅のための行動への投資拡大を支援するため、国、地域及び国際レベルで、貧困層やジェンダーに配慮した開発戦略に基づいた適正な政策的枠組みを構築する 02.飢餓をゼロ:飢餓に終止符を打ち、食料の安定確保と栄養状態の改善を達成するとともに、持続可能な農業を推進する 02.1_2030年までに、飢餓を撲滅し、全ての人々、特に貧困層及び幼児を含む脆弱な立場にある人々が一年中安全かつ栄養のある食料を十分得られるようにする 02.2_5歳未満の子供の発育阻害や消耗性疾患について国際的に合意されたターゲットを2025年までに達成するなど、2030年までにあらゆる形態の栄養不良を解消し、若年女子、妊婦・授乳婦及び高齢者の栄養ニーズへの対処を行う 02.3_2030年までに、土地、その他の生産資源や、投入財、知識、��融サービス、市場及び高付加価値化や非農業雇用の機会への確実かつ平等なアクセスの確保などを通じて、女性、先住民、家族農家、牧畜民及び漁業者をはじめとする小規模食料生産者の農業生産性及び所得を倍増させる 02.4_2030年までに、生産性を向上させ、生産量を増やし、生態系を維持し、気候変動や極端な気象現象、干ばつ、洪水及びその他の災害に対する適応能力を向上させ、漸進的に土地と土壌の質を改善させるような、持続可能な食料生産システムを確保し、強靭(レジリエント)な農業を実践する 02.5_2020年までに、国、地域及び国際レベルで適正に管理及び多様化された種子・植物バンクなども通じて、種子、栽培植物、飼育・家畜化された動物及びこれらの近縁野生種の遺伝的多様性を維持し、国際的合意に基づき、遺伝資源及びこれに関連する伝統的な知識へのアクセス及びその利用から生じる利益の公正かつ衡平な配分を促進する 02.a_開発途上国、特に後発開発途上国における農業生産能力向上のために、国際協力の強化などを通じて、農村インフラ、農業研究・普及サービス、技術開発及び植物・家畜のジーン・バンクへの投資の拡大を図る 02.b_ドーハ開発ラウンドのマンデートに従い、全ての農産物輸出補助金及び同等の効果を持つ全ての輸出措置の同時撤廃などを通じて、世界の市場における貿易制限や歪みを是正及び防止する 02.c_食料価格の極端な変動に歯止めをかけるため、食料市場及びデリバティブ市場の適正な機能を確保するための措置を講じ、食料備蓄などの市場情報への適時のアクセスを容易にする 03.すべての人に健康と福祉を:あらゆる年齢のすべての人々の健康的な生活を確保し、福祉を推進する 03.1_2030年までに、世界の妊産婦の死亡率を出生10万人当たり70人未満に削減する 03.2_全ての国が新生児死亡率を少なくとも出生1,000件中12件以下まで減らし、5歳以下死亡率を少なくとも出生1,000件中25件以下まで減らすことを目指し、 2030年までに、新生児及び5歳未満児の予防可能な死亡を根絶する 03.3_2030年までに、エイズ、結核、マラリア及び顧みられない熱帯病といった伝染病を根絶するとともに肝炎、水系感染症及びその他の感染症に対処する 03.4_2030年までに、非感染性疾患による若年死亡率を、予防や治療を通じて3分の1減少させ、精神保健及び福祉を促進する 03.5_薬物乱用やアルコールの有害な摂取を含む、物質乱用の防止・治療を強化する 03.6_2020年までに、世界の道路交通事故による死傷者を半減させる 03.7_2030年までに、家族計画、情報・教育及び性と生殖に関する健康の国家戦略・計画への組み入れを含む、性と生殖に関する保健サービスを全ての人々が利用できるようにする 03.8_全ての人々に対する財政リスクからの保護、質の高い基礎的な保健サービスへのアクセス及び安全で効果的かつ質が高く安価な必須医薬品とワクチンへのアクセスを含む、ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)を達成する 03.9_2030年までに、有害化学物質、��びに大気、水質及び土壌の汚染による死亡及び疾病の件数を大幅に減少させる 03.a_全ての国々において、たばこの規制に関する世界保健機関枠組条約の実施を適宜強化する 03.b_主に開発途上国に影響を及ぼす感染性及び非感染性疾患のワクチン及び医薬品の研究開発を支援する。また、知的所有権の貿易関連の側面に関する協定(TRIPS協定)及び公衆の健康に関するドーハ宣言に従い、安価な必須医薬品及びワクチンへのアクセスを提供する。同宣言は公衆衛生保護及び、特に全ての人々への医薬品のアクセス提供にかかわる「知的所有権の貿易関連の側面に関する協定(TRIPS協定)」の柔軟性に関する規定を最大限に行使する開発途上国の権利を確約したものである 03.c_開発途上国、特に後発開発途上国及び小島嶼開発途上国において保健財政及び保健人材の採用、能力開発・訓練及び定着を大幅に拡大させる 03.d_全ての国々、特に開発途上国の国家・世界規模な健康危険因子の早期警告、危険因子緩和及び危険因子管理のための能力を強化する 04.質の高い教育をみんなに:すべての人々に包摂的かつ公平で質の高い教育を提供し、生涯学習の機会を促進する 04.1_2030年までに、全ての子供が男女の区別なく、適切かつ効果的な学習成果をもたらす、無償かつ公正で質の高い初等教育及び中等教育を修了できるようにする 04.2_2030年までに、全ての子供が男女の区別なく、質の高い乳幼児の発達・ケア及び就学前教育にアクセスすることにより、初等教育を受ける準備が整うようにする 04.3_2030年までに、全ての人々が男女の区別なく、手の届く質の高い技術教育・職業教育及び大学を含む高等教育への平等なアクセスを得られるようにする 04.4_2030年までに、技術的・職業的スキルなど、雇用、働きがいのある人間らしい仕事及び起業に必要な技能を備えた若者と成人の割合を大幅に増加させる 04.5_2030年までに、教育におけるジェンダー格差を無くし、障害者、先住民及び脆弱な立場にある子供など、脆弱層があらゆるレベルの教育や職業訓練に平等にアクセスできるようにする 04.6_2030年までに、全ての若者及び大多数(男女ともに)の成人が、読み書き能力及び基本的計算能力を身に付けられるようにする 04.7_2030年までに、持続可能な開発のための教育及び持続可能なライフスタイル、人権、男女の平等、平和及び非暴力的文化の推進、グローバル・シチズンシップ、文化多様性と文化の持続可能な開発への貢献の理解の教育を通して、全ての学習者が、持続可能な開発を促進するために必要な知識及び技能を習得できるようにする 04.a_子供、障害及びジェンダーに配慮した教育施設を構築・改良し、全ての人々に安全で非暴力的、包摂的、効果的な学習環境を提供できるようにする 04.b_2020年までに、開発途上国、特に後発開発途上国及び小島嶼開発途上国、並びにアフリカ諸国を対象とした、職業訓練、情報通信技術(ICT)、技術・工学・科学プログラムなど、先進国及びその他の開発途上国における高等教育の奨学金の件数を全世界で大幅に増加させる 04.c_2030年までに、開発途上国、特に後発開発途上国及び小島嶼開発途上国における教員研修のための国際協力などを通じて、質の高い教員の数を大幅に増加させる 05.ジェンダー平等を実現しよう:ジェンダーの平等を達成し、すべての女性と女児のエンパワーメントを図る 05.1_あらゆる場所における全ての女性及び女児に対するあらゆる形態の差別を撤廃する 05.2_人身売買や性的、その他の種類の搾取など、全ての女性及び女児に対する、公共・私的空間におけるあらゆる形態の暴力を排除する 05.3_未成年者の結婚、早期結婚、強制結婚及び女性器切除など、あらゆる有害な慣行を撤廃する 05.4_公共のサービス、インフラ及び社会保障政策の提供、並びに各国の状況に応じた世帯・家族内における責任分担を通じて、無報酬の育児・介護や家事労働を認識・評価する 05.5_政治、経済、公共分野でのあらゆるレベルの意思決定において、完全かつ効果的な女性の参画及び平等なリーダーシップの機会を確保する 05.6_国際人口・開発会議(ICPD)の行動計画及び北京行動綱領、並びにこれらの検証会議の成果文書に従い、性と生殖に関する健康及び権利への普遍的アクセスを確保する 05.a_女性に対し、経済的資源に対する同等の権利、並びに各国法に従い、オーナーシップ及び土地その他の財産、金融サービス、相続財産、天然資源に対するアクセスを与えるための改革に着手する 05.b_女性の能力強化促進のため、ICTをはじめとする実現技術の活用を強化する 05.c_ジェンダー平等の促進、並びに全ての女性及び女子のあらゆるレベルでの能力強化のための適正な政策及び拘束力のある法規を導入・強化する 06.安全な水とトイレを世界中に:すべての人に水と衛生へのアクセスと持続可能な管理を確保する 06.1_2030年までに���全ての人々の、安全で安価な飲料水の普遍的かつ衡平なアクセスを達成する 06.2_2030年までに、全ての人々の、適切かつ平等な下水施設・衛生施設へのアクセスを達成し、野外での排泄をなくす。女性及び女児、並びに脆弱な立場にある人々のニーズに特に注意を払う 06.3_2030年までに、汚染の減少、投棄の廃絶と有害な化学物・物質の放出の最小化、未処理の排水の割合半減及び再生利用と安全な再利用の世界的規模で大幅に増加させることにより、水質を改善する 06.4_2030年までに、全セクターにおいて水利用の効率を大幅に改善し、淡水の持続可能な採取及び供給を確保し水不足に対処するとともに、水不足に悩む人々の数を大幅に減少させる 06.5_2030年までに、国境を越えた適切な協力を含む、あらゆるレベルでの統合水資源管理を実施する 06.6_2020年までに、山地、森林、湿地、河川、帯水層、湖沼を含む水に関連する生態系の保護・回復を行う 06.a_2030年までに、集水、海水淡水化、水の効率的利用、排水処理、リサイクル・再利用技術を含む開発途上国における水と衛生分野での活動と計画を対象とした国際協力と能力構築支援を拡大する 06.b_水と衛生に関わる分野の管理向上における地域コミュニティの参加を支援・強化する 07.エネルギーをみんなに そしてクリーンに:すべての人々に手ごろで信頼でき、持続可能かつ近代的なエネ ルギーへのアクセスを確保する 07.1_2030年までに、安価かつ信頼できる現代的エネルギーサービスへの普遍的アクセスを確保する 07.2_2030年までに、世界のエネルギーミックスにおける再生可能エネルギーの割合を大幅に拡大させる 07.3_2030年までに、世界全体のエネルギー効率の改善率を倍増させる 07.a_2030年までに、再生可能エネルギー、エネルギー効率及び先進的かつ環境負荷の低い化石燃料技術などのクリーンエネルギーの研究及び技術へのアクセスを促進するための国際協力を強化し、エネルギー関連インフラとクリーンエネルギー技術への投資を促進する 07.b_2030年までに、各々の支援プログラムに沿って開発途上国、特に後発開発途上国及び小島嶼開発途上国、内陸開発途上国の全ての人々に現代的で持続可能なエネルギーサービスを供給できるよう、インフラ拡大と技術向上を行う 08.働きがいも経済成長も:すべての人のための持続的、包摂的かつ持続可能な経済成長、生産的な完全雇用およびディーセント・ワーク(働きがいのある人間らしい仕事)を推進する 08.1_各国の状況に応じて、一人当たり経済成長率を持続させる。特に後発開発途上国は少なくとも年率7%の成長率を保つ 08.2_高付加価値セクターや労働集約型セクターに重点を置くことなどにより、多様化、技術向上及びイノベーションを通じた高いレベルの経済生産性を達成する 08.3_生産活動や適切な雇用創出、起業、創造性及びイノベーションを支援する開発重視型の政策を促進するとともに、金融サービスへのアクセス改善などを通じて中小零細企業の設立や成長を奨励する 08.4_2030年までに、世界の消費と生産における資源効率を漸進的に改善させ、先進国主導の下、持続可能な消費と生産に関する10年計画枠組みに従い、経済成長と環境悪化の分断を図る 08.5_2030年までに、若者や障害者を含む全ての男性及び女性の、完全かつ生産的な雇用及び働きがいのある人間らしい仕事、並びに同一労働同一賃金を達成する 08.6_2020年までに、就労、就学及び職業訓練のいずれも行っていない若者の割合を大幅に減らす 08.7_強制労働を根絶し、現代の奴隷制、人身売買を終らせるための緊急かつ効果的な措置の実施、最悪な形態の児童労働の禁止及び撲滅を確保する。2025年までに児童兵士の募集と使用を含むあらゆる形態の児童労働を撲滅する 08.8_移住労働者、特に女性の移住労働者や不安定な雇用状態にある労働者など、全ての労働者の権利を保護し、安全・安心な労働環境を促進する 08.9_2030年までに、雇用創出、地方の文化振興・産品販促につながる持続可能な観光業を促進するための政策を立案し実施する 08.10_国内の金融機関の能力を強化し、全ての人々の銀行取引、保険及び金融サービスへのアクセスを促進・拡大する 08.a_後発開発途上国への貿易関連技術支援のための拡大統合フレームワーク(EIF)などを通じた支援を含む、開発途上国、特に後発開発途上国に対する貿易のための援助を拡大する 08.b_2020年までに、若年雇用のための世界的戦略及び国際労働機関(ILO)の仕事に関する世界協定の実施を展開・運用化する 09.産業と技術革新の基盤をつくろう:強靭なインフラを整備し、包摂的で持続可能な産業化を推進するとともに、技術革新の拡大を図る 09.1_全ての人々に安価で公平なアクセスに重点を置いた経済発展と人間の福祉を支援するために、地域・越境インフラを含む質の高い、信頼でき、持続可能かつ強靱(レジリエント)なインフラを開発する 09.2_包摂的かつ持続可能な産業化を促進し、2030年までに各国の状況に応じて雇用及びGDPに占める産業セクターの割合を大幅に増加させる。後発開発途上国については同割合を倍増させる 09.3_特に開発途上国における小規模の製造業その他の企業の、安価な資金貸付などの金融サービスやバリューチェーン及び市場への統合へのアクセスを拡大する 09.4_2030年までに、資源利用効率の向上とクリーン技術及び環境に配慮した技術・産業プロセスの導入拡大を通じたインフラ改良や産業改善により、持続可能性を向上させる。全ての国々は各国の能力に応じた取組を行う 09.5_2030年までにイノベーションを促進させることや100万人当たりの研究開発従事者数を大幅に増加させ、また官民研究開発の支出を拡大させるなど、開発途上国をはじめとする全ての国々の産業セクターにおける科学研究を促進し、技術能力を向上させる 09.a_アフリカ諸国、後発開発途上国、内陸開発途上国及び小島嶼開発途上国への金融・テクノロジー・技術の支援強化を通じて、開発途上国における持続可能かつ強靱(レジリエント)なインフラ開発を促進する 09.b_産業の多様化や商品への付加価値創造などに資する政策環境の確保などを通じて、開発途上国の国内における技術開発、研究及びイノベーションを支援する 09.c_後発開発途上国において情報通信技術へのアクセスを大幅に向上させ、2020年までに普遍的かつ安価なインターネットアクセスを提供��きるよう図る 10.人や国の不平等をなくそう:国内および国家間の格差を是正する 10.1_2030年までに、各国の所得下位40%の所得成長率について、国内平均を上回る数値を漸進的に達成し、持続させる 10.2_2030年までに、年齢、性別、障害、人種、民族、出自、宗教、あるいは経済的地位その他の状況に関わりなく、全ての人々の能力強化及び社会的、経済的及び政治的な包含を促進する 10.3_差別的な法律、政策及び慣行の撤廃、並びに適切な関連法規、政策、行動の促進などを通じて、機会均等を確保し、成果の不平等を是正する 10.4_税制、賃金、社会保障政策をはじめとする政策を導入し、平等の拡大を漸進的に達成する 10.5_世界金融市場と金融機関に対する規制とモニタリングを改善し、こうした規制の実施を強化する 10.6_地球規模の国際経済・金融制度の意思決定における開発途上国の参加や発言力を拡大させることにより、より効果的で信用力があり、説明責任のある正当な制度を実現する 10.7_計画に基づき良く管理された移民政策の実施などを通じて、秩序のとれた、安全で規則的かつ責任ある移住や流動性を促進する 10.a_世界貿易機関(WTO)協定に従い、開発途上国、特に後発開発途上国に対する特別かつ異なる待遇の原則を実施する 10.b_各国の国家計画やプログラムに従って、後発開発途上国、アフリカ諸国、小島嶼開発途上国及び内陸開発途上国を始めとする、ニーズが最も大きい国々への、政府開発援助(ODA)及び海外直接投資を含む資金の流入を促進する 10.c_2030年までに、移住労働者による送金コストを3%未満に引き下げ、コストが5%を越える送金経路を撤廃する 11.住み続けられるまちづくりを:都市と人間の居住地を包摂的、安全、強靭かつ持続可能にする 11.1_2030年までに、全ての人々の、適切、安全かつ安価な住宅及び基本的サービスへのアクセスを確保し、スラムを改善する 11.2_2030年までに、脆弱な立場にある人々、女性、子供、障害者及び高齢者のニーズに特に配慮し、公共交通機関の拡大などを通じた交通の安全性改善により、全ての人々に、安全かつ安価で容易に利用できる、持続可能な輸送システムへのアクセスを提供する 11.3_2030年までに、包摂的かつ持続可能な都市化を促進し、全ての国々の参加型、包摂的かつ持続可能な人間居住計画・管理の能力を強化する 11.4_世界の文化遺産及び自然遺産の保護・保全の努力を強化する 11.5_2030年までに、貧困層及び脆弱な立場にある人々の保護に焦点をあてながら、水関連災害などの災害による死者や被災者数を大幅に削減し、世界の国内総生産比で直接的経済損失を大幅に減らす 11.6_2030年までに、大気の質及び一般並びにその他の廃棄物の管理に特別な注意を払うことによるものを含め、都市の一人当たりの環境上の悪影響を軽減する 11.7_2030年までに、女性、子供、高齢者及び障害者を含め、人々に安全で包摂的かつ利用が容易な緑地や公共スペースへの普遍的アクセスを提供する 11.a_各国・地域規模の開発計画の強化を通じて、経済、社会、環境面における都市部、都市周辺部及び農村部間の良好なつながりを支援する 11.b_2020年までに、包含、資源効率、気候変動の緩和と適応、災害に対する強靱さ(レジリエンス)を目指す総合的政策及び計画を導入・実施した都市及び人間居住地の件数を大幅に増加させ、仙台防災枠組2015-2030に沿って、あらゆるレベルでの総合的な災害リスク管理の策定と実施を行う 11.c_財政的及び技術的な支援などを通じて、後発開発途上国における現地の資材を用��た、持続可能かつ強靱(レジリエント)な建造物の整備を支援する 12.つくる責任 つかう責任:持続可能な消費と生産のパターンを確保する 12.1_開発途上国の開発状況や能力を勘案しつつ、持続可能な消費と生産に関する10年計画枠組み(10YFP)を実施し、先進国主導の下、全ての国々が対策を講じる 12.2_2030年までに天然資源の持続可能な管理及び効率的な利用を達成する 12.3_2030年までに小売・消費レベルにおける世界全体の一人当たりの食料の廃棄を半減させ、収穫後損失などの生産・サプライチェーンにおける食品ロスを減少させる 12.4_2020年までに、合意された国際的な枠組みに従い、製品ライフサイクルを通じ、環境上適正な化学物質や全ての廃棄物の管理を実現し、人の健康や環境への悪影響を最小化するため、化学物質や廃棄物の大気、水、土壌への放出を大幅に削減する 12.5_2030年までに、廃棄物の発生防止、削減、再生利用及び再利用により、廃棄物の発生を大幅に削減する 12.6_特に大企業や多国籍企業などの企業に対し、持続可能な取り組みを導入し、持続可能性に関する情報を定期報告に盛り込むよう奨励する 12.7_国内の政策や優先事項に従って持続可能な公共調達の慣行を促進する 12.8_2030年までに、人々があらゆる場所において、持続可能な開発及び自然と調和したライフスタイルに関する情報と意識を持つようにする 12.a_開発途上国に対し、より持続可能な消費・生産形態の促進のための科学的・技術的能力の強化を支援する 12.b_雇用創出、地方の文化振興・産品販促につながる持続可能な観光業に対して持続可能な開発がもたらす影響を測定する手法を開発・導入する 12.c_開発途上国の特別なニーズや状況を十分考慮し、貧困層やコミュニティを保護する形で開発に関する悪影響を最小限に留めつつ、税制改正や、有害な補助金が存在する場合はその環境への影響を考慮してその段階的廃止などを通じ、各国の状況に応じて、市場のひずみを除去することで、浪費的な消費を奨励する、化石燃料に対する非効率な補助金を合理化する 13.気候変動に具体的な対策を:気候変動とその影響に立ち向かうため、緊急対策を取る 13.1_全ての国々において、気候関連災害や自然災害に対する強靱性(レジリエンス)及び適応の能力を強化する 13.2_気候変動対策を国別の政策、戦略及び計画に盛り込む 13.3_気候変動の緩和、適応、影響軽減及び早期警戒に関する教育、啓発、人的能力及び制度機能を改善する 13.a_重要な緩和行動の実施とその実施における透明性確保に関する開発途上国のニーズに対応するため、2020年までにあらゆる供給源から年間1,000億ドルを共同で動員するという、UNFCCCの先進締約国によるコミットメントを実施するとともに、可能な限り速やかに資本を投入して緑の気候基金を本格始動させる 13.b:後発開発途上国及び小島嶼開発途上国において、女性や青年、地方及び社会的に疎外されたコミュニティに焦点を当てることを含め、気候変動関連の効果的な計画策定と管理のための能力を向上するメカニズムを推進する。:※国連気候変動枠組条約(UNFCCC)が、気候変動への世界的対応について交渉を行う一義的な国際的、政府間対話の場であると認識している 14.海の豊かさを守ろう:海洋と海洋資源を持続可能な開発に向けて保全し、持続可能な形で利用する 14.1_2025年までに、海洋ごみや富栄養化を含む、特に陸上活動による汚染など、あらゆる種類の海洋汚染を防止���、大幅に削減する 14.2_2020年までに、海洋及び沿岸の生態系に関する重大な悪影響を回避するため、強靱性(レジリエンス)の強化などによる���続的な管理と保護を行い、健全で生産的な海洋を実現するため、海洋及び沿岸の生態系の回復のための取組を行う 14.3_あらゆるレベルでの科学的協力の促進などを通じて、海洋酸性化の影響を最小限化し、対処する 14.4_水産資源を、実現可能な最短期間で少なくとも各資源の生物学的特性によって定められる最大持続生産量のレベルまで回復させるため、2020年までに、漁獲を効果的に規制し、過剰漁業や違法・無報告・無規制(IUU)漁業及び破壊的な漁業慣行を終了し、科学的な管理計画を実施する 14.5_2020年までに、国内法及び国際法に則り、最大限入手可能な科学情報に基づいて、少なくとも沿岸域及び海域の10パーセントを保全する 14.6_開発途上国及び後発開発途上国に対する適切かつ効果的な、特別かつ異なる待遇が、世界貿易機関(WTO)漁業補助金交渉の不可分の要素であるべきことを認識した上で、2020年までに、過剰漁獲能力や過剰漁獲につながる漁業補助金を禁止し、違法・無報告・無規制(IUU)漁業につながる補助金を撤廃し、同様の新たな補助金の導入を抑制する 14.7_2030年までに、漁業、水産養殖及び観光の持続可能な管理などを通じ、小島嶼開発途上国及び後発開発途上国の海洋資源の持続的な利用による経済的便益を増大させる 14.a_海洋の健全性の改善と、開発途上国、特に小島嶼開発途上国および後発開発途上国の開発における海洋生物多様性の寄与向上のために、海洋技術の移転に関するユネスコ政府間海洋学委員会の基準・ガイドラインを勘案しつつ、科学的知識の増進、研究能力の向上、及び海洋技術の移転を行う 14.b_小規模・沿岸零細漁業者に対し、海洋資源及び市場へのアクセスを提供する 14.c_「我々の求める未来」のパラ158において想起されるとおり、海洋及び海洋資源の保全及び持続可能な利用のための法的枠組みを規定する海洋法に関する国際連合条約(UNCLOS)に反映されている国際法を実施することにより、海洋及び海洋資源の保全及び持続可能な利用を強化する 15.陸の豊かさも守ろう:陸上生態系の保護、回復および持続可能な利用の推進、森林の持続可能な管理、砂漠化への対処、土地劣化の阻止および逆転、ならびに生物多様性損失の阻止を図る 15.1_2020年までに、国際協定の下での義務に則って、森林、湿地、山地及び乾燥地をはじめとする陸域生態系と内陸淡水生態系及びそれらのサービスの保全、回復及び持続可能な利用を確保する 15.2_2020年までに、あらゆる種類の森林の持続可能な経営の実施を促進し、森林減少を阻止し、劣化した森林を回復し、世界全体で新規植林及び再植林を大幅に増加させる 15.3_2030年までに、砂漠化に対処し、砂漠化、干ばつ及び洪水の影響を受けた土地などの劣化した土地と土壌を回復し、土地劣化に荷担しない世界の達成に尽力する 15.4_2030年までに持続可能な開発に不可欠な便益をもたらす山地生態系の能力を強化するため、生物多様性を含む山地生態系の保全を確実に行う 15.5_自然生息地の劣化を抑制し、生物多様性の損失を阻止し、2020年までに絶滅危惧種を保護し、また絶滅防止するための緊急かつ意味のある対策を講じる 15.6_国際合意に基づき、遺伝資源の利用から生ずる利益の公正かつ衡平な配分を推進するとともに、遺伝資源への適切なアクセスを推進する 15.7_保護の対象となっている動植物種の密猟及び違法取引を撲滅するための緊急対策を講じるとともに、違法な野生生物製品の需要と供給の両面に対処する 15.8_2020年までに、外来種の侵入を防止するとともに、これらの種による陸域・海洋生態系への影響を大幅に減少させるための対策を導入し、さらに優先種の駆除または根絶を行う 15.9_2020年までに、生態系と生物多様性の価値を、国や地方の計画策定、開発プロセス及び貧困削減のための戦略及び会計に組み込む 15.a_生物多様性と生態系の保全と持続的な利用のために、あらゆる資金源からの資金の動員及び大幅な増額を行う 15.b_保全や再植林を含む持続可能な森林経営を推進するため、あらゆるレベルのあらゆる供給源から、持続可能な森林経営のための資金の調達と開発途上国への十分なインセンティブ付与のための相当量の資源を動員する 15.c_持続的な生計機会を追求するために地域コミュニティの能力向上を図る等、保護種の密猟及び違法な取引に対処するための努力に対する世界的な支援を強化する 16.平和と公正をすべての人に:持続可能な開発に向けて平和で包摂的な社会を推進し、すべての人に司法へのアクセスを提供するとともに、あらゆるレベルにおいて効果的で責任ある包摂的な制度を構築する 16.1_あらゆる場所において、全ての形態の暴力及び暴力に関連する死亡率を大幅に減少させる 16.2_子供に対する虐待、搾取、取引及びあらゆる形態の暴力及び拷問を撲滅する 16.3_国家及び国際的なレベルでの法の支配を促進し、全ての人々に司法への平等なアクセスを提供する 16.4_2030年までに、違法な資金及び武器の取引を大幅に減少させ、奪われた財産の回復及び返還を強化し、あらゆる形態の組織犯罪を根絶する 16.5_あらゆる形態の汚職や贈賄を大幅に減少させる 16.6_あらゆるレベルにおいて、有効で説明責任のある透明性の高い公共機関を発展させる 16.7_あらゆるレベルにおいて、対応的、包摂的、参加型及び代表的な意思決定を確保する 16.8_グローバル・ガバナンス機関への開発途上国の参加を拡大・強化する 16.9_2030年までに、全ての人々に出生登録を含む法的な身分証明を提供する 16.10_国内法規及び国際協定に従い、情報への公共アクセスを確保し、基本的自由を保障する 16.a_特に開発途上国において、暴力の防止とテロリズム・犯罪の撲滅に関するあらゆるレベルでの能力構築のため、国際協力などを通じて関連国家機関を強化する 16.b_持続可能な開発のための非差別的な法規及び政策を推進し、実施する 17.パートナーシップで目標を達成しよう:持続可能な開発に向けて実施手段を強化し、グローバル・パートナーシップを活性化する 資金 17.1_課税及び徴税能力の向上のため、開発途上国への国際的な支援なども通じて、国内資源の動員を強化する 17.2_先進国は、開発途上国に対するODAをGNI比0.7%に、後発開発途上国に対するODAをGNI比0.15~0.20%にするという目標を達成するとの多くの国によるコミットメントを含むODAに係るコミットメントを完全に実施する。ODA供与国が、少なくともGNI比0.20%のODAを後発開発途上国に供与するという目標の設定を検討することを奨励する 17.3_複数の財源から、開発途上国のための追加的資金源を動員する 17.4_必要に応じた負債による資金調達、債務救済及び債務再編の促進を目的とした協調的な政策により、開発途上国の長期的な債務の持続可能性の実現を支援し、重債務貧困国(HIPC)の対外債務への対応により債務リスクを軽減する 17.5_後発開発途上国のための投資促進枠組みを導入及び実施する 技術 17.6_科学技術イノベーション(STI)及びこれらへのアクセスに関する南北協力、南南協力及び地域的・国際的な三角協力を向上させる。また、国連レベルをはじめとする既存のメカニズム間の調整改善や、全世界的な技術促進メカニズムなどを通じて、相互に合意した条件において知識共有を進める 17.7_開発途上国に対し、譲許的・特恵的条件などの相互に合意した有利な条件の下で、環境に配慮した技術の開発、移転、普及及び拡散を促進する 17.8_2017年までに、後発開発途上国のための技術バンク及び科学技術イノベーション能力構築メカニズムを完全���用させ、情報通信技術(ICT)をはじめとする実現技術の利用を強化する。:キャパシティ・ビルディング 17.9_全ての持続可能な開発目標を実施するための国家計画を支援するべく、南北協力、南南協力及び三角協力などを通じて、開発途上国における効果的かつ的をしぼった能力構築の実施に対する国際的な支援を強化する 貿易 17.10_ドーハ・ラウンド(DDA)交渉の受諾を含むWTOの下での普遍的でルールに基づいた、差別的でない、公平な多角的貿易体制を促進する 17.11_開発途上国による輸出を大幅に増加させ、特に2020年までに世界の輸出に占める後発開発途上国のシェアを倍増させる 17.12_後発開発途上国からの輸入に対する特恵的な原産地規則が透明で簡略的かつ市場アクセスの円滑化に寄与するものとなるようにすることを含む世界貿易機関(WTO)の決定に矛盾しない形で、全ての後発開発途上国に対し、永続的な無税・無枠の市場アクセスを適時実施する。:体制面:政策・制度的整合性 17.13_政策協調や政策の首尾一貫性などを通じて、世界的なマクロ経済の安定を促進する 17.14_持続可能な開発のための政策の一貫性を強化する 17.15_貧困撲滅と持続可能な開発のための政策の確立・実施にあたっては、各国の政策空間及びリーダーシップを尊重する。:マルチステークホルダー・パートナーシップ 17.16_全ての国々、特に開発途上国での持続可能な開発目標の達成を支援すべく、知識、専門的知見、技術及び資金源を動員、共有するマルチステークホルダー・パートナーシップによって補完しつつ、持続可能な開発のためのグローバル・パートナーシップを強化する 17.17_さまざまなパートナーシップの経験や資源戦略を基にした、効果的な公的、官民、市民社会のパートナーシップを奨励・推進する。:データ、モニタリング、説明責任 17.18_2020年までに、後発開発途上国及び小島嶼開発途上国を含む開発途上国に対する能力構築支援を強化し、所得、性別、年齢、人種、民族、居住資格、障害、地理的位置及びその他各国事情に関連する特性別の質が高く、タイムリーかつ信頼性のある非集計型データの入手可能性を向上させる 17.19_2030年までに、持続可能な開発の進捗状況を測るGDP以外の尺度を開発する既存の取組を更に前進させ、開発途上国における統計に関する能力構築を支援する
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kyoto4 · 4 years ago
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『ビジュアルストーリー 世界の陰謀論』  マイケル・ロビンソン 著   ( 日経ナショナルジオグラフィック)
https://natgeo.nikkeibp.co.jp/atcl/product/19/051500020/
【目次】 1章:科学の陰謀:UFO、古代宇宙飛���士説、ロズウェルとエリア51、ピラミッド、消えたソ連人宇宙飛行士、月面着陸陰謀説、地球温暖化と気候変動、HIV/エイズ、エボラウイルス、フッ素水道水、石油枯渇説、遺伝子組み換え作物、砂糖陰謀説、ほか。 2章:政治の陰謀:秘密結社、フリーメイソンとイルミナティ、爬虫類人、ビルダーバーグ・グループ、フィラデルフィア実験、湾岸戦争症候群、タイタニック号、巨大製薬会社、9・11同時テロ攻撃、ロンドン同時爆破テロ、ロシア高層アパート連続爆破事件、パンアメリカン航空103便爆破、マレーシア航空370便、ブッシュ大統領、バラク・オバマ、闇の国家、ほか。 3章:歴史のミステリー:ストーンヘンジ、マヤ文明、ナスカの地上絵、ラスコー洞窟、アトランティス、失われたムー大陸、レムリア大陸、ネス湖の怪物、ボドミンの野獣、イエティ、雪男、モスマン、テンプル騎士団、シオン賢者の議定書、反カトリック主義、ロンドンの大火、ふたつのバビロン、マグダラのマリア、ファントム時間仮説、バーミューダ・トライアングル、ほか。 4章:暗殺、行方不明、謀略:ロマノフ一族、ケネディ暗殺事件、ダイアナ妃、シコルスキ将軍、ケリー博士、アドルフ・ヒトラー、エルヴィス・プレスリー、ポール・マッカートニー死亡説、ウサマ・ビンラディン、ファラオの呪い、マリリン・モンロー、マイケル・ジャクソン、シェイクスピア別人説、切り裂きジャック、ほか。
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xf-2 · 5 years ago
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<何度も繰り返されてきたパンデミックとの闘い。新型コロナウイルスとの付き合い方は、歴史を学べば見えてくる──。感染症対策の第一人者、國井修氏による2020年3月17日号掲載の特集記事全文を、アップデートして緊急公開します>
歴史は繰り返す。
過去のSARS(重症急性呼吸器症候群)や新型インフルエンザ、エボラ熱の流行時と似たようなデジャブを感じる人も少なくないのではないだろうか。メディアは食い付き恐怖をあおり、SNSではフェイクや非難・中傷が行き交い、店からはマスクやトイレットペーパーがなくなり、便乗商法や悪質商法が横行する。
どうやら、これは現代のみならず、今から400年近く前にも同様の世相が見られたようだ。1630年にペストに見舞われたイタリア・ミラノを描いた���レッサンドロ・マンゾーニ著『婚約者(いいなづけ)』(1827年)には、外国人排斥、権威の衝突、専門家への軽蔑、暴走する世論、生活必需品の略奪、さらにユダヤ人が井戸に毒を投げ込んだというデマ、異分子への弾圧と迫害など、理性を失った人間が自らを恐怖の淵へと引きずっていく姿が描かれているという。
「見えない敵」は恐ろしく、実体より大きく感じてしまうもの。不安やパニックに陥ると人間は周りが見えなくなり、正しい判断がしづらくなるのはいつの時代でも同じらしい。
新型肺炎については、少しずつデータが出そろい、次第に敵の戦術や威力が見えてきた。中国、そして日本や韓国を含むアジアで感染者が流行し始めた頃は「思ったほど」怖くない相手と思っていた。3月初めごろまではそう思っていた欧米の専門家も多かったと思う。
しかし、欧州全域に広がり、死者が急増してから、このウイルスの「思ってもみなかった」威力も浮き彫りにされてきた。
私は学生時代にインドなどでコレラ、赤痢、マラリアなどにかかり、医師になってからは破傷風、デング熱、シャーガス病、リューシュマニア症、エボラ熱などの患者を診た。国連や国際機関を通じて、新型インフルエンザ、コレラ、HIV、マラリア、結核などの感染症対策にも当たってきた。
そんな私から世界の状況を見ると「なぜこんなに騒いでいるのか? 世界にはもっと騒ぐべきものがあるし、もっと注目すべきものがあるのに......」という本音もあった。
日本時間3月27日現在、世界の新型肺炎感染者数は202カ国・地域で51万2701人、うち2万3495人が死亡した。これに対して、昨年から今年(3月21日現在)の約6カ月間にアメリカのインフルエンザ流行による患者数は少なくとも推定3800万人、死者数2万4000人に上る。
有史以来、人類が闘い続けてきた結核は、今でも年間推定1000万人が発病し、150万人が死亡する。日本でも年間1万5000人が発病し、2200人が死亡する。日本国内の新型肺炎による患者数・死亡者数をはるかに超え、同じように飛沫感染する病気でありながら、結核に相応の注目は集まらない。
WHO(世界保健機関)の報告によると、新型肺炎感染者の8割は比較的軽症で、呼吸困難などを伴う重い症状や、呼吸不全や多臓器不全など重篤な症状、さらに死亡のリスクが高いのは60歳を超えた人や糖尿病、心血管疾患、慢性呼吸器疾患などの持病のある人だ。
8割が比較的軽症というのは安心材料で、感染しても無症状や軽い症状のため検査を受けていない人も含めると、この割合は実際にはもっと高いだろう。重症化しても、その半数が回復しているが、ウイルス��よる肺炎には有効な薬がないことから治療が困難なことも確かだ。
ただし、新型肺炎でなくとも、統計上、日本では毎年9万人以上、1日平均で260人が肺炎で死亡しており、その多くが高齢者や基礎疾患のある人である。通常の季節性インフルエンザでも、日本では2018年の1年間で3000人(1日平均9人)以上が死亡しており、これらと新型肺炎の比較も重要である。
未知の病原菌が出現し始めた
もちろん、今やるべきことは、流行の拡大を抑えること。特に、オーバーシュート(感染爆発)を防ぐことだ。2月24日に日本の新型コロナウイルス感染症対策専門家会議が、「今後1~2週間が感染拡大のスピードを抑えられるかどうかの瀬戸際だ」という見解を示し、データ上は拡大のスピードを抑えられたように見えている。
しかし、その後、流行拡大の中心は欧米に移り、今、まさに各地でオーバーシューティングが発生している時期である。
もはやウイルスを封じ込めることができそうにないが、このまま感染が拡大したらどうなるのだろうか。それを考える際に、感染症の歴史から学べることはないだろうか。
人類の歴史は感染症との闘いともいわれる。メソポタミア時代、既に疫病は四災厄の1つに数えられ、古代エジプトを含むさまざまなミイラのゲノム解析などから、天然痘など感染症との闘いの跡が見える。
感染症は歴史上、戦争を超える犠牲者をもたらしたといわれる。第1次大戦の死者1600万人、第2次大戦の死者5000万~8000万人に比べ、1918~1919年に大流行したスペインインフルエンザでは5000万人が死亡。
ペストは何度も世界的大流行(パンデミック)を記録し、特に14世紀にヨーロッパを襲った「黒死病」と呼ばれる大流行では、推計死者数は1億人に上るともいわれる。
ほかにも世界で7回のパンデミックを起こしているコレラ、強い感染力と致死力でインカ帝国やアステカ帝国を滅ぼした天然痘、「現代の黒死病」と呼ばれ、治療しなければ致死率が100%近かったエイズなど、「恐ろしい感染症」はたくさんある。
これらに対する医療技術や医学の進歩はつい最近のことである。初めてのワクチン開発が1798年、細菌の発見が1876年、抗生物質の発見が1928年で、わずか100~200年前の出来事だった。
このような治療薬やワクチン、診断法の開発、また公衆衛生の改善によって、人間は感染症との闘いで優位に立てるようになった。感染症を征服できるとの認識も高まり、1967年には米公衆衛生局の医務総監が「今後、感染症の医書をひもとく必要はなくなった」と述べている。
「勝率」を上げるだけでなく、「完勝」するための根絶計画、すなわち患者をゼロにし、病原菌をこの世から完全に排除する努力も行われた。そして、完全試合が成功した。1980年に根絶宣言をした天然痘である。
そして、次の完全試合として、小児麻痺を引き起こすポリオを��ーゲットにした。ところが、1970年頃より人類が遭遇したことのない未知の病原菌がこの世に出現し始めた。
ウイルスでは、SARS、エイズ、ジカ熱など、細菌では、腸管出血性大腸菌感染症(O157)、レジオネラ肺炎、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌感染症(MRSA)など、寄生虫ではクリプトスポリジウム症、プリオン(蛋白質性感染粒子)ではクロイツフェルト・ヤコブ病(CJD)などがある。
ポリオという1つの病原菌を根絶する前に、40以上の新たな感染症がこの世に出現してしまったのだ。この多くは人獣共通感染症とも呼ばれ、もともと野生動物などにすんでいた微生物がヒトに感染したものだ。SARSはコウモリ、ラッサ熱は野生げっ歯類、高病原性鳥インフルエンザは水禽類(カモなど)が宿主と考えられる。
古くから分かっている病気も含めると、人獣共通感染症はWHOで確認されているだけでも150種類以上ある。
薬剤耐性菌という新たな恐怖 このように、新たな感染症が発生し流行する背景には何があるのだろうか。1つは近年、森林伐採や土地開発などに伴い、自然環境が破壊され、生態系が崩れる地域が増えたことだろうか。
私は1990年代に、エボラ熱が流行した中央アフリカのガボンを調査で訪れたことがある。熱帯雨林の中にある村に向かい、夜行列車やジープで何時間も移動した。
真っすぐで広い道が森の奥深くまで続く。外資系会社が直径数メートルもある巨木を伐採し輸送するためである。その道沿いでは、サル、ワニからネズミまで、さまざまな野生動物が売られていた。
そんな村の1つで、エボラ熱が発生し、周囲に拡大していった。以前なら村の風土病で終わっていたかもしれない。しかし、村から都市への人の移動、人口密度の増加、航空網の発達などによって、アフリカ奥地の風土病は都市に侵入し、さらに世界に広がる時代になったのである。
蚊が媒介する新興感染症、また人獣共通感染症も多い。蚊の種類は異なるが、デング熱、ウエストナイル熱、黄熱、ジカ熱、チクングニア熱、マラリアなどがそうだ。
これらは熱帯地方だけでなく、日本のどこでも流行する可能性がある。実際に、マラリアは大正時代以前は全国各地で流行し、年間2万人以上の患者、1000人以上の死者を出していた。
またデング熱は、1960~2010年で世界での発生率が30倍に増加した。人口増加、都市化、海外旅行の増加、地球温暖化が原因といわれている。世界で毎年推定1億〜4億人が感染するが、日本でも年間200例以上の輸入例が報告され、2014年には代々木公園を中心に160例の国内発生が報告された。
ウエストナイル熱も、起源であるウガンダのウエストナイル地方から世界に広がった。アメリカ大陸では1999年に初めてニューヨーク市で発生したが、その3年後には全米各州に流行が拡大した。2018年の全米の感染者数は2647人、死者数は167人に上る。
2つ目の背景として、近年では抗生物質に対する薬剤耐性菌が問題となっている。
病原菌が完全に死滅する前に薬を途中でやめてしまう、有効量よりも低用量の薬を処方または服用する、純度の低い粗悪な薬が出回る、などが原因で、生き残った病原菌が薬に対する耐性を強め、薬が効かなくなってくる。また、それが周囲に伝播していくのである。
世界で発生している薬剤耐性の3分の1を占めるのが結核だ。推定で年間48万人以上の薬剤耐性結核患者が発生しているが、診断・治療されているのは3割程度で、その治療成功率は56%である。
マラリアに対する薬剤耐性も課題である。特効薬とされたクロロキンを含め、これまで開発された薬剤のほとんどに耐性ができてしまった。薬剤耐性マラリアはいつも、東南アジアのメコン河流域の国々で発生し、世界に広がっていく。
薬の不適切な使用や偽薬の蔓延などが原因とみられている。近年開発された特効薬であるアーテスネート製剤にも耐性が出てきたため、現在、この地域では封じ込め作戦が展開されている。
抗生物質は人間だけでなく、畜産業、水産業、農業など幅広い分野で用いられ、そこで発生する耐性菌がヒトに伝播することも知られている。特に、家畜の病気の予防や成長促進のために大量の抗生物質が使用され、さまざまな耐性菌が発生し、人間にも伝播している。
対策がなければ、薬剤耐性菌による死亡者数は、2050年までに世界全体で年間1000万人に上り、経済損失は100兆ドルと推定されている。
このように、新興感染症として出現した病原菌のほとんどは、封じ込めや根絶ができていないが、国の自助努力と国際協力によって、その拡大はほぼ抑えられている。データやエビデンスを積み、研究・開発を進めることで、敵との闘い方が分かってきたものもある。
診断が困難で致死率が高かったHIVは、僻地の村の中でも15分で診断ができるようになった。完全にウイルスを除去できないものの、30種類以上の薬が開発されて死亡率は急減した。
新型肺炎についても、世界中に感染が広がっているが、オーバーシューティングを回避し、流行のピークを下げて遅らせるための介入ができれば、他の疾病と同様にうまく闘い、付き合っていけると思う。
新型肺炎との闘いはまだ終わっていない。いやまさにその真っただ中にあるものの、現存する他の感染症も忘れてはならず、また、将来の新たな感染症の出現も考えて、中長期的な準備もしなければならない。今後、われわれはどう対処すればいいのだろうか。
感染症には国境がなく、新たな病原菌はどこからやって来るか分からない。早い段階で疑わしき情報は全て把握し、確認して、対策を早めに実施しなければならない。
これに対して2000年にWHOは「地球規模感染症に対する警戒と対応ネットワーク(GOARN)」を立ち上げ、世界200カ所以上の研究・援助機関などと協力し、世界中の感染症流行への対策、調査、人材育成を推進している。
新たな感染症が発生した国が情報を隠す場合があるので、対策が遅れないよう、改正した国際保健規則(IHR)を遵守させ、WHOへの通報義務も強化している。
また、将来起こり得る感染症の流行を止めるワクチンの開発を目的として、2017年のダボス会議で「感染症流行対策イノベーション連合(CEPI)」が発足した。政府、民間企業、慈善団体、市民団体などによる革新的パートナーシップだが、今回の新型肺炎でもワクチン開発のため製薬企業や大学などとの連携が進んでいる。
私が勤めるグローバルファンドは、3大感染症(エイズ、結核、マラリア)の2030年までの流行終息を目標に支援を進めているが、エボラ熱や新型肺炎では緊急支援を行い、新たな感染症流行への対応にもつながる保健システムの強化についても援助している。
3月28日現在、すでに26カ国の開発途上国から新型肺炎に関する支援要請があり、5日以内に申請書をレビューして支援を決定しているが、そこでは将来の新たな感染症にも対応できる検査室機能の強化やサーベイランス(感染症の発生動向調査)の強化なども支援対象となる。
将来に向けて、日本は何をすべきだろうか。今回のような危機が起こったときに出てくるのが、日本にもCDCをつくるべきだとの議論だ。CDCとは、ジョージア州アトランタに本部を置く米国疾病対策センターである。
感染症対策以外にも、慢性疾患予防・健康増進、出生異常・発達障害などさまざまな保健分野をカバーし、10以上の研究所・センターを持つ。関連事業も含めた予算は1兆円を超え、日本の国立感染症研究所の100倍以上。職員は1万人以上で、国立感染症研究所の約30倍近くもいる。
世界各国に事務所を抱え、低中所得国の感染症対策の支援も行っている。CDCの実力で驚くべきなのは、データ情報の収集・分析力、いつでもどこでも現場に駆け付けて対策を行う機動力、大規模な調査・実践・人材育成に費やせる資金力である。
人材育成では世界的に有名なEIS(Epidemic Intelligence Service)という2年間の専門家養成コースがあり、これまでに3000人以上を育ててきた。
現在の日本の国家予算でCDCと同じインフラ・人材を整えることは困難だろう。可能なのは、国立感染症研究所や国立国際医療研究センター、国立保健医療科学院などの国立の関連組織・施設に加えて、長崎大学熱帯医学研究所などの大学・研究機関、保健所などの行政組織、企業が持つ研究センターなどを有機的につなげることだ。
また、今回の世界への社会的・経済的インパクトに鑑みて、将来のバイオテロなどの危険性も考えなくてはならず、日本の自衛隊、その医務官との円滑な連携・協力も強化する必要がある。
米国にはCDC以外に、米国陸軍感染症研究所(USAMRIID)などのバイオテロを含む特殊災害・緊急事態に備えて研究・人材育成、有事の時に準備・計画をしている機関がある。さまざまな「最悪のシナリオ」を想定しながら、日本国内の関係機関・組織を強化、そしてつなげる必要がある。
心配なのが日本国内の人材だ。世界で多くの感染症が流行しているが、そこで働く日本人は少ない。危機管理は頭で考えて準備・計画するだけでうまく実践できるものではない。現場で場数を踏んだ専門家、オペレーションの分かる管理者が必要だ。
最近、国立感染症研究所の実地疫学専門家養成コース(FETP)や厚労省の感染症危機管理専門家(IDES)養成プログラムなどを通じて、日本人専門家の養成も行っているようだが、彼らを実際にどのように有効活用するか、どうスキルアップさせるかも考える必要がある。
また、このような対策に必要な「専門性」にも様々なものがあり、単に「感染症の患者が診られる」医師だけで対策はできない。感染症疫学、公衆衛生の専門家はもとより、リスク・コミュニケーション、リスク・マネジメント、ロジスティクス、情報管理などの「本物のプロ」を平時から同定し、またそれが不足するのであれば育成し、有事にどのように活用するかを計画しておく必要がある。
今回、日本の状況を聞くと、必ずしも初動の段階から「本物のプロ」が活用されておらず、専門家会議の立ち上げも必ずしも早かったわけではないようだ。
感染症との21 世紀型の新しい闘い方も模索する必要があるだろう。新型肺炎では医療機関で感染が拡大し、医療従事者も感染している。問診、体温・呼吸・脈拍・血圧などのバイタル測定は医療従事者が直接診察しなくとも、ウエアラブルやスマートフォンでできる時代である。
人工知能(AI)による診断技術は分野によっては専門医に勝ることもある。世界ではその開発と応用が急ピッチで進んでいる。デジタルヘルスなど技術革新に期待したい。
新型肺炎の流行は、日本の健康危機管理の在り方を問うものではあるが、より広い視野に立って、その背景にある世界の状況、地球環境の問題、ヒトと自然との共生・共存について考えるいい機会でもある。
人獣共通感染症の対策は、ヒトおよび動物の健康の両者が相まって初めてできるものだ。その実現と維持のためには、ヒトと動物の健康維持に向けた世界規模の取り組みが必要で、「One world-one health」、一つの世界、一つの健康という概念が広がっている。
さらに、人類がこの地球上で安全に安心して生きるには、人間の健康と命を考えるだけでなく、地球環境や生態系の保全、動物の健康や命の保護も積極的に考える必要がある。このような考え方をプラネタリー・ヘルス(Planetary Health) と呼んでいる。用語や概念だけでなく、実践につながるムーブメントになることを期待している。
「見えない敵」との闘いは将来も続くだろうが、実はその敵とは自分自身、地球にとって最も恐ろしいのは人間なのかもしれない、と私は時々思う。こんなときほど、冷静に自分自身や自分たちの社会を見つめ直し、考える時間が必要なのだろう。
(筆者はジュネーブ在住。元長崎大学熱帯医学研究所教授。これまで国立国際医療センターやユニセフ〔国連児童基金〕などを通じて感染症対策の実践・研究・人材育成に従事してきた。近著に『世界最強組織のつくり方──感染症と闘うグローバルファンドの挑戦』〔ちくま新書〕)
<本稿は、本誌2020年3月17日号掲載の「人類と感染症、闘いと共存の歴史」を加筆・アップデートしたものです>
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myonbl · 6 years ago
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2019年8月5日(月)
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昨日の法事に集まったのは私の兄姉たち、当然私が一番年下である。その際気づかされた事実は、私以外は全員が「年金受給者」であるということ。改めて年齢差を感じたのだが、本日私の手元にもこのような書類が届いた。そうか、3ヶ月後には私も年金受給資格が発生するのか。そう思えば、兄姉たちが少し身近に感じたことだ。
ツレアイは夜の会議のために自転車で出勤、久しぶりに車で行くことにした。
国道1号線・名神京都南手前のMK石油で給油。
研究室でいつも通りPCを立ち上げると、自動的にガルーンの出勤簿が起動する。その後、学内メールのチェックに移るのだが、ログインできない。他のサイトも同様で、ネットワークにトラブルが発生している様子。
仕方なく、先週の採点登録の結果を印刷し、教学センターに提出。戻って来るも回復の目処は分からない、それならと、京都銀行に電話。住宅ローン契約時に設定されていた「抵当権」を抹消するための手続きに必要な書類を受け取りに行くことにした。
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高速道路の状況を確認すると、名神上り線は事故渋滞発生中。茨木IC近くまで行くとさらに悪化している様子、仕方なく高速を諦めて国道171号線を選択。結局、普段よりも40分程度余計に時間がかかってしまった。
午後1時に京都銀行西七条支店、関係書類を受け取る。作業の間に別の担当者が挨拶に、資産形成について説明したいと。「友人の専門家に相談に乗って貰っている」とやんわり拒絶、本音を言えば「ローンが終わればお宅とのつきあいはなくしたい」のだ。
帰宅してから京都地方法務局に電話、手続きのための相談の予約を取る、水曜日14時30分。後で気づいたのだが、歯科予約が15時30分に入っている。ぎりぎりだが、仕方ない。
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先日申し込んだ『マガジン9』から「9を運ぶ鳩のタオルハンカチ」が届く、1枚2000円以上のカンパということで早速5000円送金。
職場のネットワークトラブルも比較的早く解消された模様、箕面市教育委員会から会議日程が決まったと連絡あり。
関西古紙回収組合が回ってきたので、古新聞と段ボールを処分、すっきりした。
夕飯用に、カボチャを煮る。残っていた麺つゆ利用、少し味が濃くなってしまった。
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息子たちの夕飯、ベーコン・キャベツ・ニンジンの炒め物、作り置き惣菜+トマト、味噌汁はタマゴ。折角作ったカボチャを入れ忘れる。
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ツレアイは10月に開催される「エイズ文化フォーラムin京都」の実行委員会、先に晩酌開始。肴は奥川ファームからいただいた「くき漬け」、八頭の茎を塩漬けにした紀北の郷土食。
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ま、こんなもんだろう。
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mreiyouscience · 1 year ago
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他者の苦しみへの責任 レビュー
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 社会的な苦しみは政治的・経済的・制度的な力が人々に加えられることによって、また、それらの力が人々の社会的な問題の取り組み方に影響を及ぼすことによって生み出される。この社会的な苦しみをもたらす問題は、健康、福祉、法律、道徳、宗教など様々な分野にわたっている。それらは、既存のカテゴリーの境界を取り除く。例えば残虐行為によってもたらされるトラウマ、苦痛、機能障害は健康上の問題であるが、それと同時に、政治的、文化的な事象でもある。同様に病気と死の主要なリスク要因は貧困であるが、それは健康が社会的指標であり社会的なプロセスであることを示しているのである。そしてこれらは個人的な問題と社会的な問題が密接に結びついているということを教えてくれるだろう。また、本書に収められている諸論文はいずれも従来の二分法―例えば社会と個人、健康問題と社会問題、経験と表象、苦しみと介入などを分離する見方―を排除する。従来の二分法は人間の様々な苦しみが集団的なものであると同時に個別的なものであり、痛みやトラウマの経験の仕方がローカルなものであると同時にグローバルなものであるという理解を妨げているのである。そのかわりに著者たちはなぜ不安、落胆、死別、恐怖を表す特定の言語―政策や計画に通常用いられる言語とは全く異なる響きを持つ言語―が政治的激変や社会の構造的暴力の下で生きる人々にとって重要な問題を記述するための有効な手段となり得るかを論じている。さらに彼らはグローバル化する言説とローカル化する社会的現実との衝突がしばしば個人的・集団的悲劇を長引かせる結果に終わることも論じている。それらに対する解決の糸口として著者らは社会的な苦しみを文化的表象、社会的経験、政治的・専門的措置という三つの観点から論じている。
 苦しみの文化的表象―映像、原型となる物語、メタファー、デザインなどーはポップカルチャーや特定の社会的組織が政治的・道徳的目的のために利用する可能性がある。すなわち、苦しみには市場があり、被害者は商品化されるのである。(メディアが共同して感傷的に英雄に仕立て上げた被害者を(メディアを通じて)市場に送り出し、苦しみを矮小化したり、偽善的に歪曲化させるのである。)
 また、苦しみの文化的表象を社会的苦しみ(社会によってもたらさせる苦しみ)としてあらわす傾向がある。苦しみの形は社会によって異なっており、正常性(あるいは異常性)はそれぞれの社会の規範的基準によって決まるのである。
 そして政治的・専門的措置は種々の社会的苦しみに対する対応の仕方を決定する。この政治的・専門的措置における中心的対応の一つは苦しみの病理化である。政府や国内の諸機関、そして国家の統制に反対する団体までもが苦しみの病理化を推し進めるのである。しかし、社会的秩序を築いたり、あるいは社会的秩序を改善したりする政治的・専門的措置によってもたらされるのはそれだけではない。公の政策や計画は社会的苦しみの最悪の例を生み出してきた。社会的苦しみを軽減しようとする過程においても意図した結果によってあるいは偶然の結果によってそれらは不幸の量を増加させたのである。なぜこのようなことが生じるのだろうか?それは社会的な苦しみが表現されるとき、それらによって描かれたものが「われわれが介入するためには何をすべきで何をすべきでないか?」を決めるからである。また、それは痛みの非伝達性―苦しむものを孤立させて彼らから文化的な資源、特に言語的資源を奪うことーによっても生じるだろう。
 著者らはこれらの社会的な苦しみに対する解毒剤を提示しているわけではない。しかし、従来はある専門家は健康政策の対象と考え、別の専門家は経済政策と考えていたことに異を唱え、別の問題をも統合するような広範な枠を用いて捉えうるし、捉えなければならないという主張は画期的である。それによって社会的な苦しみに対してより有効な方法で対処できるのである。
 以下各論である。
 「アーサークラインマン」らは苦しみの映像の政治的・職業的・一般的流用が遠隔地の視聴者に訴えかけるプロセスを考察している。それらの苦しみの表象(表現)はそのように流用されることによって根幹にある象徴体系と文化的言説を変化させ、それによって社会的経験(社会によってもたらされる苦しみを抱えている人々の経験)を作り変え、我々の時代の苦しみに歴史的変化をもたらす。つまりメディアが共同して、感傷的に英雄に仕立て上げた被害者を市場に送り出し(苦しんでいる人々の姿を映像や写真にして売買され)、苦しみを矮小化したり偽善的に歪曲化するとき、文化的表象(その国の政治制度や苦しみを生み出している社会構造や文化)と社会的経験はどのような影響を受けるのかを論じている。
 「ヴィーナ・ダス」はインドの反植民地運動において男性達が政治的計画を表す媒体として女性を性奴隷として扱い、壮大な国家像を築き上げたことを記している。また、ダスは文化的資源、言語、そして文化そのものに対する人々の失望、すなわち大いなる幻滅と欺瞞を鋭敏に感じる意識が現代の人間社会の基本的な在り方を規定することも示唆している。つまり、ダスは文化的失望には利点がないわけではないというパラドックスを指摘しているのである。
 「ポール・ファーマー」はハイチにおけるエイズと結核の蔓延が貧困と国際的関係に起因していることが文化や人種を持ち出すことによって覆い隠されてしまう危険性を論じている。しかし、ファーマーは政治的、経��的分析がそれぞれの地域に固有の苦しみの経験の仕方があることを無視し、ローカルな特徴を抹殺することを許していない。彼は国家あるいは世界全体がそれぞれの地域に与える大きな圧力を検討することによって、人々を襲う不幸の社会的原因の究明とエイズ、結核、乳幼児の死亡、極度の貧困等によってもたらされる社会的苦しみに関する問題の考察に文化人類学的、あるいは臨床的に取り組むことができると考えている。
 「マーガレット・ロック」は異なる文化的集合体で問題にされる基本的な事柄が違うこと、そのために苦しみに対する対応の仕方もそれぞれ異なる可能性があることを論じている。また、ロックは「苦しみ」が苦しみを軽減するために考え出されたテクノロジーそのものによって作りだされるということを指摘している。以前は「自然なことだ」と見なされ、したがって、我々人間がコントロールできなかったものをテクノロジーの利用によって、例えば出生、病気、死というような出来事に関する我々の期待は変化したのである。我々はますます完全な赤ん坊を生むこと、寿命を延長すること、病気をなくすことが手の届くところにあると考えるようになっている。そしてそれが出来ないとき、そこに苦しみが生まれるということを論じている。
 「E・ヴァレンタイン・ダニエル」は英国に移住したタミル人を取り上げ、国家の記憶とナショナリズムに関する考察を行っている。彼は移民や難民が生まれ故郷、移住先の国、そして属している集団に起きた根本的な文化的変化に対して、民族離散という形で対応する時に、その政治的・道徳的・心理学的プロセスに巻き込まれて経験する様々な慢性的苦しみを分析している。
 「タラル・アサド」は苦痛、拷問、トラウマに関する自由主義的言説を通文化的に用いることの不適切性を論じている。現代の拷問は「規律社会と切り離すことができないもの」ではないというのがアサドの主張である。彼によれば拷問は「国家の安全」を他の社会的な価値や権利よりも優先する治安維持活動の一環であり、「国民国家の主権を維持するのに不可欠な実践的手法」なのである。
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itokenichiro · 8 years ago
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トロールに関する書籍のLondon Review of Booksによる書評の和訳:"Schadenfreude with bite"
(お願い)改善中です。あきらかな誤訳、不正確な点、アドバイス等がありましたら遠慮なくご指摘ください。よろしくお願いします。英語できる人は原文にあたるのがてっとり早いです
London Review of Books, 15 Dec.2016
Whitney Philips, Why We Can’t Have Nice Things:Mapping the Relationship between Online Trolling and Mainstream Culture Karla Mantilla, Gendertrolling:How Misogyny Went Viral Benjamin Radford, Bad Clowns John Lindow, Trolls:An Unnatural History
原文リンク http://www.lrb.co.uk/v38/n24/richard-seymour/schadenfreude-with-bite
(訳文) トロールはネットにおける「いたずらっ子」を自称し、スキのある獲物を挑発することに関しては機会を逃さない。そして奴らは引き起こされた憤激をみて歓喜するのである。ミネソタ州出身の12歳の少年ミッチャル・ヘンダーソン君が2006年に自殺した際、トロール達は、少年の友人や親類らの悼辞が並ぶMy Spaceのページに襲撃をかけた。トロールらは特に、自死の数日前に少年がiPodを紛失していた事実に着目し、彼の死を軽薄で消費者的な欲求不満と示唆するような投稿をおこなった。彼の死は「裕福な資本主義的な問題群(first-world probles)」というわけだ。ある書き込みは少年の墓石の横にiPodが配置されたコラージュを含むものだった。
トロール行為(trolling)の何がそんなに面白いのか。「すべてのジョークはそれ自体の公衆を作り出す。同じジョークに笑うということは、精神的な一体性の広がりの証左である」とフロイトは語った。あるジョークを理解することは文化を共有することである。より正確には、それは任意の敵対関係において同じサイドに属することを意味する。トロールの行動の目的は、launghing out loudを意味すLOLが転化した「lulz」に置かれている。lulz=嘲笑とは、他人の不幸から派生するような楽しみのひとつの形である。複数年に及ぶ、トロールの参与観察を経たWhitney Phillipsの研究によると、嘲笑(lulz)とは 他人の不幸を楽しむ感覚に攻撃性が加味されたもの(shadenfreud with more bite)である。ミッチェル少年の家族が憤怒すればするほど、トロールはそれを面白いと感じるのである。
2011年、そのような「RIPトロール」〔訳者注:RIPとは、「安らかに眠れ」を意味するRest in Peaceの略語〕の一人であるレディング出身のSean Duffy(25歳)は、亡くなった10代の少女らに関する複数の投稿によって刑務所送りと��った。彼は、15歳で自殺したNatash MacBrydeを「売春婦」と呼んだ。また、14歳で癲癇症で亡くなったLauren Drewの追悼サイトに「ママ助けて!地獄はとても暑いわ!」と母の日に書き込んだ。しばしば、トロール達はターゲットに群がる。著者のPhillipは、レイプ殺人の被害者であるカリフォルニアの10代女性Chelsea Kingの事例を取り上げ、彼女の親戚らがトロールの格好の獲物になったこと、また義憤を感じて介入してきた協力的な人々らもそれぞれ身元を「特定」され、「狩られた」様子を詳細に記述した。
RIPトロールは悲哀を搾取可能な状態と見なす。トロールは死んだ人を何らかの形で気にかけているわけではない。むしろ、彼らは何らかの対象を気にかけすぎること自体を、罰されるべき失敗(a fault deserving punishment)と考えているのである。この点に関する証拠は、トロール行為のサブカルチャー(trolling subculture)の全域を通して、――より他愛もないケースにおいても――見出すことができる。ある事例では、トロール行為の参加者らは複数のゲーム販売店に電話をかけ、とある時代遅れのゲームのありもしない続編の在庫の有無を問い合わせた。彼らがあまりにもしつこく電話をかけるので、店員らはそのゲームの名前を聞いただけて怒り出すようになる。トロールらはその様子を楽しむのである。トロール行為の至高の通貨は搾取可能性であり、最大の悪徳はものごとをシリアスに考え過ぎることである。悲哀にくれる親、というのはもっとも容易に搾取できる対象である。彼らの悲しみや怒りは極めて明白である。とはいえ、弱みのない人間などいない。
計算ずくの冷酷な嫌がらせ、というものは別にトロールが発明したものではない。とはいえ、インターネット以前の時代においてはそれらは少しは無邪気に見えたかもしれない。Jeremy Beadleは『Candid Camera』で不運な人々をだました。不注意な被害者の抑えきれない怒りは、ある種の人にとっては常に滑稽であり、そういった楽しみの中には、サディスティックで冷笑的な態度(sadistic detachment)がどうしても存在する。トロールが新しいのは、計算された非論理性、意図的なスペルミス、文化的な憧憬の再利用、幾重にも積み重なった隠微な参照や内輪ネタといったナンセンスでどうしようもない事柄に、歓喜の感覚delightを付け加えたことである。Phillipsによれば、トロール行為とは、ポピュラーカルチャーの「ラトリナリア」(latrinalia)すなわち便所の落書きなのである。
トロールはまた、限度を知らないように見受けられる点において、彼らの先人とは異なる。嘲笑にはある種の反社会的な力がある。馬鹿にされると人はたいてい黙り込む。なので、会話やコミュニティを継続させるためには、ジョークにもある一定の限度というものが存在する。ジョークはどこかで終了せねばならなず、そこで被害者は笑いの種を明かされる。一方で、トロールは、オフラインの人格の境界を超えた逸脱的なサディズム(transgressive sadism)のまさにその延長上にコミュニティを形成する。このことは、そうしたコミュニティがほぼ完全に匿名の個人(anons)によって構成されている事実からも部分的に了解される。あたかもトロールにとって、個々のトロールの笑いは副次的であり、もっとも重要な目的はその匿名の集団(anounumous collective)の享楽を維持することにあるかのようだ。
大半のよく組織化されたトロールにとって、はっきりとした政治な関与や道徳的な理想を持つことは、嘲笑(the lulz)以外の対象に向けての傾倒を胡散臭いものとする彼らの基幹的な原則と矛盾する。しかしである。Karla Mantilaの造語である「ジェンダートロール」は反フェミストであることを明確に標榜している。彼らの目的は、群衆的な嫌がらせや女性差別的な侮辱(たとえば「まんこ」や「あばずれ」などの罵倒語)、晒し行為、殺人やレイプの脅迫などによって、公然と主張を行う女性を黙らせることである。Mantilaが考察するように、そうした行為に一切の独創性はない。これは「インターネット」とは無関係であり、「男が、潜在的な競合相手である女を周辺化するべく、嫌がらせや侮辱を行うという長い歴史」の延長に位置付けられるべき事象である。それは、「それまで男性優位的であった領域に女性が進出してきたことに対する、「ひとまとまりの文化的な反応」なのである。
明らかにインターネットに由来する新しい変化とは、オフラインの「リアル」な自己とネット上の匿名性との間に厳密な境界線をひくことによって、トロールらが道徳的な責任を否認することが可能となるような環境を創出したことである。ネット上であれば、私のしていることは私とは関係ない、というわけである。しかし、トロールらは、彼らが自称するように「誰でも平等に攻撃対象としている」わけではない。Phillipsが指摘するように、ほとんどの嘲笑は「とくにアフリカ系アメリカ人などの有色人種、女性、ゲイ、レズビアン、バイセクシャル、トランスジェンダー、クイア」に向けられており、トロール共同体は歪なほどに高い比率で英語圏や北欧の若い白人の男性によって構成されている。Phillipsは、オバマ大統領に対するレイシスト的なトロール行為や、彼らがしょっちゅう使う「おかま」といった言葉などを挙げ、トロールらが自身の白人性やある特有の男性性を行使する様子を詳しく記述している。男性優位主義はトロール文化に埋め込まれている。トロールの非-道徳性を、男性の揺るがない優位性に関する男権主義者らのお馴染みの幻想と結びつけたとしても、拡大解釈ではない。何はさておき、すべてのトロール達はジェンダートロールであるかも知れないわけである。
仮にそうであるなら、Phillipsが真剣に論じるところの「トリックスター」としてのトロールの自己像は批判的な検証に耐えることができないだろう。トリックスターとは、善と悪との境界を帳消しにしたり、価値を破壊することが唯一の価値であるような存在である。Phillipsがそのアナロジーに説得されたのは、おそらく彼女がトロールらのジョークを理解したからであろう���「私は彼らのあるタイプのトロール行為を面白いと感じる。そして場合によっては正当化可能であるとも思う」と彼女は書いている。たしかに、サイエントロジーなど、トロールの攻撃対象の中には明らかに同情できないものあり、その際のトロール行為はある種の熱意とともに実行される。しかし、Phillipsがトロールの意図を既存の道徳的秩序を「転覆させる」あるいは少なくともあれこれいじくり回すものとして描写する際、彼女は道徳的秩序を崩壊させる事と、その秩序を転覆させる事と、いじくり回す事の違いはそれほど大きくないかのように語っている。
もしトロール行為が不当な扱いに憤慨した者たちが上げる抗議の声から発生するのだとしたら、それはまったく価値の保全に依存していることになる。トロールたちは、十分に多くの人々が十分に多くの事柄について真剣に考えているという状況に依存している。そこでは、興味なさ気に肩をすぼめる仕草が失敗を意味するからだ。被害者の選択は、ほとんどの場合、多かれ少なかれ 何に対して思いやりを示すのが適切であるかについての道徳的な立ち位置を教えてくれる。(→本文:The choice of victim almost always conveys a moral position on what it is more or less appropriate to care about. )RIPトロールらは明らかに、裕福な白人層の自殺に対してもっとも強い怒りを表す。彼らはそうした死を自己陶酔的なものとし、人々による悲哀の表現をうわべだけのものとみなす。あるトロールはそうした営みを「退屈さと注目を浴びることへの病的な渇望」のため、と語った。一方で、たとえば国家安全局による大規模な盗聴が暴露された後に起きた組織的なトロール行為などは、彼らにとっての極めて重要な罪とは、情報を抑圧したり誤用することであることを示唆している。
トロールは相反する二つのことを同時に行う。トロールは、彼らが嘲笑のために侵犯するところの社会的な規範に対して見事なまでに無関心であると同時に、執念深い懲罰人でもある。その意味で、トロールはジョーカーであり、バッドマンでもある。Benjamin Redfordによるとトロールはピエロや道化師に連なる「自称文化評論家」として行動しつつ、一方では「もっともらしく、すべては楽しいジョークなので(あんまり)本気にしないように」とも主張する。John Lindowのトロールの「不自然な歴史」によると、北欧神話に出てくる本来のトロールは、不適切な行いに罰を与え、社会的規範を擁護する存在である。仮にあなたが冷笑(lulz)の行動原理を真に受けて、社会規範への一切のコミットメントを消し去ったとして、残るのはより純化した形での糾弾のロジックである。悲嘆にくれる者さえも罰しうるのだとしたら、一体誰を罰することができないというのだろう。「誰も我々ほどまでに冷酷にはなれない」、これが彼らの決めゼリフである。この原則こそがトロール共同体のアイデンティティの核となる。「われわれはアノニマスである。そして我々は決して許さない。」そして彼らが許さないのものとは、とりもな��さず「弱さ」なのである。
ネット上の逸脱性に関する社会学的分析は、そうした特徴をマキャベリズムやナルシシズム(自己愛)、病理学的な症状、サディズムなどの特性などに注目しがちである。Phillipsはこうしたすべての見解の誤りを指摘する。それらは、「逸脱」や「性格型」といったカテゴリーの意味深さを当然のことと見なすように読者に要請しつつ、特定の道徳的なアクセントでもって現象を記述しなおしたに過ぎない、とPhillipsは主張する。むしろ彼女は主流文化の影響を強調する。トロールとは「文化的な消化吸収作用の代理人」( ‘agent of cultural digestion’  )なのである。
トロール行為というサブカルチャーの分裂症的で超然としたユーモアは、おそらく9.11に関する膨大な種類のジョークやミーム(文化的遺伝子)に最もよく現れているであろう。Phillipsは、こうした事態をアメリカの極めてメディア化された文化に浸透したシニシズムの必然的な結果だと考えている。9.11とその余波に関するTV報道は、引き伸ばされた一連の「ゴミ」に挟まれた15秒間の恐怖と悲惨の断片的映像によって構成されていた。この状況はアイロニーに満ちた無関心を引き起こさずにはおれない。ブッシュ政権はこの分裂状態へと人々を誘い入れる役割を果たした。たとえば、ラムズフェルドは、占領下のイラクで起きたカオス的な混乱状態について、病的なまでの機嫌の良さで「いろんなことが起こるもんだ」と語った。ブッシュは、ゴルフ場でのインタビューでテロとの戦いの必要性に関する真面目な調子の演説を行ったのちに、スイングに戻り「では、このショットをご覧あれ」と言った。「道徳的な真剣��」の隙間的な時間が終了するや、ブッシュ政権は肌の色によってコード化されたテロの危機を煽りつつ、人々に娯楽とショッピングへと戻ることを促した。この時期に形成された情感的な分裂はトロールらによってさらに拡張されたかも知れない。しかし、分裂を創出したのはトロールらではないのである。
2015年4月、Tiziana Cantoneと呼ばれる31歳のナポリの女性が、自身のセックス映像を少数の友人らに送信した。そのうちの誰かが動画をネットに上げ、動画は急速に拡散した。動画からは顔が見えないセックス相手に向かって彼女が発した「あなた、撮影してるの?いいね。」というフレーズは、SNS上で大人気のパンチラインとなった。そのフレーズは、Tシャツになり、携帯カバーになり、広告のスローガンにも用いられた。誰もが自分のことを知り、政治家によっても非難されるようになったCantoneは仕事を辞め、名前も変え、トスカーナに引っ越し、ネットからの件の動画の削除を求める法廷闘争を開始した。彼女はFACEBOOKから自身の明示的な写真を消す事には成功したものの、すでに何千回もコピーされ配信されていたポルノサイトの映像を消す事はできなかった。複数のサイトに合計20000ユーロを支払うことを命じられた彼女は、9月に自ら命を絶った。
冷笑的なあざけり、すぐさまビジネス化されるミーム、道徳的な装いの悪意など、Tiziana Cantoneへの対応は、まさに集団トロール行為そのものである。Jon RonsonがSo You’ve Been Publicly Shamedにおいて教えてくれているように、こうした行動パターンというのはインターネットに特有なものではない。電話盗聴スキャンダルによって倒産するまで、News of the World紙は定期的に匿名の個人の性生活を暴露する記事を掲載しており、何人かを自殺に追い込んでいる。イギリス人シェフのBen Strangeは、仮に自身の破廉恥行為が公開されてしまったら二度と子供らに顔向けできないと考え、同紙に懇願した。しかし結局、記事にされていまい、氏は自殺した。同じような目にあったウェールズ人の教師Arnold Lewisは、NoW紙のレポーターにもし暴露されるとしたら自殺すると告げた。しばらくして彼の記事が掲載されると、氏は一酸化炭素中毒で自殺した。
SNSはこうした種類の捕食行動の可能性を大きく拡大している。Justine Saccoに対する粘着的な行為は、Ronsonが伝えるもっとも有名な事例だ。南アフリカへのフライトの直前に、Saccoはツイッターで「アフリカに行きます。エイズにならないといいな。冗談よ、私は白人だからね」と投稿した。わずか170人のフォロワーいない彼女は、まさかこのツイートが注目を集めるとは思いもしなかった。しかし、彼女が現地に到着する頃には、白人の愚かさを笑うジョークとしてではなく、文字どおりにレイシストの発言として受け取り、彼女を糾弾する意見でツイッターは炎上していた。到着と同時に、心配した友人から知らせが届き、彼女は事態を把握した。新聞やテレビが報道した。Rupert Murdochが経営するNew York Postは彼女を尾行するためにジャーナリストを派遣した。彼女の過去のツイートから意図的に悪趣味なジョークの数々もBuzzFeedによって掘り起こされた。ある下手に言葉選びをした、あるいはあまりにも言葉を選んだがゆえに逆に的確に対象を攻撃してしまったツイートによって、彼女は仕事を失うことになり、数ヶ月にわたってジャーナリストにつけ回された。
Ronsonは、彼女が破滅に向かっている様子を楽しみにしながらツイッターを眺めていた人々の中のシャーデンフロイデschandenfreudeを認めている。彼自身の当初の感想は、「他愛もないちょっとした「あぁ、誰かがやらかしたな」」というほどのものであった。彼はまた、懲罰的なほくそ笑みの背景にある超然とした感覚(detachment)についても指摘している。「集団狂気だろうが何だろうが、その時の激しい喜びは圧倒的なもので、そうした楽しみには代償が付き物であるという事実と向き合う事で、その楽しみをダメにしようとする奴なんていないんだ」ということである。ネット上のシェイマー(道徳的な叱責を繰り返す人々)を偽善者とみなすことには、抗い難い魅力がある。そうすることで、人は憤りか喜びのいずれかを感じることができる。しかし、別の視点から見るなら、個々のツイッターユーザーの憤りというものは、副次的で代理的なものであり、彼らの主要な役割とは、とりもなおさず匿名集団に燃料を投下することなのである。この場合、トロールとシェイマーとの違いは、前者が自分たちは道徳的な責任を持っていないと間違って理解しており、後者は自分たちが道徳的な責任を持っていると間違って理解している点に求められることになる。
Saccoは比較的穏健な小規模のトロールとして活動を開始した。しかし、彼女がその対象となった糾弾の合唱は、いくつくかの点で、大規模なトロール作戦のように見えた。おそらく、このトロール行為と魔女狩りの間の相互作用がダイナミックであり、その光景にわれわれが大きな喜びを感じるのは、それはすでに私たちが私たち自身に向けて行使する事柄の変形であるからだろう。フロイト的なうっかり発言や失言というのものは、私たちのうちなる魔女狩り将軍の怒りを刺激し、その怒りを楽しむという意味で、まさに自分自身をトロールするひとつの方法なのではないだろうか。あるいは、別の言い方をするなら、トロールは、われわれが日頃あまりにもシリアスに捉えている諸アイデンティティや諸価値への無意識の反感によって駆動されているのではないか、ということである。一方で、ネット上のウイッチハンターは、私たちがすでにそうした反感でもって自身を罰している方法を、過剰な形で肥大化させているのである。この視点からすると、トロールは単なるサディストではなく、人を惑わすマゾヒストである。「トロールに餌をやるな」とは広く流通したネットの知恵である。その論理的な帰結はおろらく「道徳家に餌をやるな」であろう。トロールと道徳家は同一の螺旋構造の部分なのだ。
新聞等による、個人に対する破滅的な嫌がらせの事例は数え切れないほどあるにも関わらず、インターネットは今や、これまでは抑制されてきた攻撃性を解放したことの責任をしきりに問われている。ネット上の底レベルの書き込みは悪意の代名詞となっており、メディアが提供してきたコンテンツの副産物ではなく、ネットの民主化のダークサイドと見なされている。新しいメディアはまた、ヨーロッパや米国での支配的なコンセンサスの崩壊の責を負わされてもいる。ドナルド・トランプの成功や彼のポストトゥルース政治(post-truth politics)は、他の何にも増して、旧来のイデオロギー的な独占が崩壊し、人々がそれぞれが抱く偏見に迎合した情報や意見を探すようになるにつれ、既存メディアの編集部が担保してきた基準が崩壊するといった事態の影響と見なされている。そうした状況下で、政治的な言説は事実ではなくて感情に訴えかけることによって形成される、という風に議論は進められることになる。とするなら、トロール行為は理性的な議論を邪魔するための方法がひとつ増えただけ、ということになる。仮にトロールやネットの性差別主義者か陰謀論者に共通点を探すとするとしたら、それは、彼らが「笑いのため」か「女を黙らせるため」あるいは「自身の妄想を押し付けるため」に会話を脱線させる点であろう。これは、トロールが必然的に「右翼」であるということを意味しないし、実際、多くの場合トロールは右翼ではない。しかし右翼がますますトロール的になっていることは確かである。租税回避が彼の賢さのアピールになるのか否かにせよ、抵当流れから利益を得ようとする計画が「なんっていうか、アメリカのためになる」のか否かにせよ、あるいは戦死者の母親を侮辱することにせよ、トランプ自身が嘲笑(the lulz)のために放った言葉から、いかにして切り抜けるのが良いかを探っているような印象を受けるのである。オルターライトのある著名な支持者らがガーディアン紙に語ったところによると、「われわれはトロールの軍団だ。われわれは勝利する!われわれは獰猛だ」ということである。
極右が、真実の劣化から最も利益を得ることができる政治傾向であると考えらているのには理由がある。PhillipsはFOXニュースとトロールらとの共生関係について詳述している。FOXは道徳的混乱(moral panic)を煽ると同時に、トロールが繁栄する文化的な培養基を提供する。��ディカルは右派は常に、人々を行動に向かわせるようなコミュニケーションの積極的な部分に敏感であった。増殖を目的としたコミュニケーションの一形態であり、トロールをされる人々に対するトロールの権力としてのトロール行為は、そうした戦略にまさしくぴったりなのである。
そうした意味で、6月にTwitter社によって下された、人種差別的罵倒で有名なもっとも悪質なユーザーのひとりのアカウントを凍結するという決断は、そうした流れを食い止めるにあたって効果があるか否かは別として、最初の一歩であり、象徴的な意味を持つものであろう。そのユーザーとは若いオルターライトのコラムニストのMilo Yiannopoulosである。彼は彼の注意深い炎上マーケティングのためのニュース番組のレギュラー出演者であった。彼は映画『ゴースト・バスターズ』の女性チームの中の唯一の黒人メンバーを演じたLeslie Jonesに対して、人種差別的嫌がらせを率先したことを理由としてアカウントを凍結された。Twitter社の前CEOであるDick Costoloは、彼はツイッターのユーザーが減少していることや株価の下落の理由のひとつに、こうした弱者への攻撃をしっかりと撃退できなかったことを挙げ、「われわれは虐待やトロールの扱いに失敗した。長年に渡って失敗し続けたのだ。」と語った。
Yiannopoulosは自覚的にトロールであり、なおかつイデオローグであり、オルターライトの典型的な産物であり、その模範である。アカウント凍結に対する彼の反応は下手に隠された喜びを表明しつつ、「自分たちと違う意見を受け入れることのできない、感情的な左翼のガキども」に対する怒りをぶつけることであった。彼はBusiness Insiderに「私のしたことは、ちょっとジョークを言っただけだ」と語った。彼は、「女は新しいルールに同意する時に限り、男のインターネットへの入場を許される」という彼の提案に対する評判を聞くためにChannel 4ニュースのCathy Newmanを番組に招くなど、大統領選でのトランプの勝利以降、同じ決まり文句を繰り返した。表向きは「嘲笑」lulzのためにやっているという表明によってシリアスな政治的な議題をはぐらかす、という計算された両義性において、オルターライトの心理的秩序(psychic economy)にトロール行為はぴったりと適合する。ヤノプロスが定期的に見解を発表する媒体であるBreibartは、トランプ政権の効果的な前哨地となっている。Breibartニュースの代表Stephan Bannon氏は、FOXニュースの前経営者Roger Ailesがトランプのアドバイザーに就任した翌日、選挙戦をたたかうトランプ陣営と契約を結び、近々、新大統領の「主席戦略官」に就任する予定である。
Breitbartの最もよく知られている二つのスクープは、2009年のAcornというリベラルなNGOに対してのものと、2010年の農務省のアフリカ系アメリカ人従業員であるShirley Sherrodへのバッシングである。いずれの場合においても、Breibartは取材記録を不正に加工している。最初のケースに関しては、Acornの従業員らへのおとり捜査を通して、第二のケースについては、SherrodがNational Association for the Advancement of Colored Peopleでおこなった演説を操作し、あたかも黒人が白人社会の敵であるかのような印象を作り出そうとした。Acornは資金を失い、1年後に債務整理に追い込まれた。Sherrodは失職し、政府役人やNAACPから厳しく叱責されたが、実のところ彼らはダマされていた。ホワイトハウスは謝罪し、農務省は彼女に新たな職を用意した。一連のAcornの事例に責任を負う保守派の活動家は、Acornが「あらゆる手段が正当化されうるような、革命主義的で、社会主義的で、無神論的な世界にいる」とし、であるがゆえに、それに対抗するために彼ら保守派にはあらゆる手段を用いることが許されると主張した。Andrew Breitbartは、NAACPにティーパーティをレイシスト呼ばわりする権利はないと主張するためにSherrodのスピーチを「レイシスト」認定し、また、そうであるからこそ、ティーパーティに存在意義があると力説した。
この、トロールとウィチハンターの双方の役割をこなす能力――あるいは欲望――こそがトランプ主義の情感的な基盤のひとつである。そしてトランプ自身がそもそも最大のトロールである。巨大で、皮が分厚い攪拌者であり、ベルルスコーニ級に屈託がなくそして反道徳的である。多くのトロールと同様に、彼はターゲットを熟知しており、リベラルの粗悪な良心に狙いを定める。ヒラリーとの大統領候補者討論の際、トランプは――ほかの共和党候補はそうはしないであろう――オバマはこれまでのどの大統領よりも多い250万人の人を国外追放にした、と主張して自身の国外追放政策を擁護した。普段はあまり大っぴろげに言われていない事を言う、というはトランプ主義の逸脱的なスリルを形づくっている。これこそ、「ポストトゥルース政治」の批判者が見落としている点である。トランプが飛んでもない嘘をつく時でさえも、トランプはメディアの欺瞞を暴露しながら重要な真実を表明しているに違いない、とトランプの支持層は考える。その一方で、オルターライトはトランプ主義に、興隆しつつある新しい白人ナショナリズムの基盤を発見している。ここで言う白人ナショナリズム(white nationalism)とは、搾取可能な人々――つまるところ「保守的で裕福な白人男性」以外のすべての人――をニヤニヤしながら攻撃する態度を指す。彼らは権力を握ろうとしている。とはいえ、彼らこう言うだろう。「ホワイ・ソー・シリアス?」〔訳者注:"Why so serious?” は映画『ダークナイト』の悪役ジョーカーのセリフである。〕
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yukehaya · 6 years ago
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外国人に健康保険を使ったら駄目。(*^_^*)
いつもありがとうございます。林雄介です。(*^_^*) 財源がなくなったら、日本人は必ず外国人を憎む。 EUなんか右翼政党だらけですよ。中途半端な人道主義は絶対に、人類を不幸にするんですよ。 やるなら、世界政府を作って、貧困そのものをなくさないと、中途半端にやると世界が余計、悪くなるのです。 ニッポンの農業に書いたように、ニッポンの農業を知らない読者いるんですよ、あれはモーゼの十戒と同じだから、死んでから後悔しますよ。 いきなり世界政府なんか作れないから、作る方法もありますけど第三次世界大戦か、人類壊滅規模の自然災害。 アフリカならアフリカで、ここまで救うというラインを決めるんです。私はエイズと癌は救わなくていいと思う。肺炎とか結核とか1960年代の日本なら助かるレベルまでは100%治す、それ以外はやらない。 移民を禁止して、助けるレベルを変えるんです。 で、10年なら10年。20年なら20年で成長目標を決めて、世界社会主義をやって、学歴が均一化したら、国境をなくすんです。 ただ、私が世界大統領になると、人を殺したり、見捨てれないから、失敗するから、プーチンか習近平みたいな人が世界大統領をやった方がいいと思う。 秦の始皇帝でも、織田信長でも、徳川家康でも漢の劉邦でも残忍でしょ? 聖徳太子や上杉謙信だと、天下統一は無理なんですよ。毛沢東じゃなくて、周恩来が中国を建国していたら、すぐに国がつぶれていたはずです。孫文も国を追われている。 中途半端な善人に建国させたら国なんか作れないんですよ。 私は、人類宗教として林雄介教を作って、世界教皇やりますから大丈夫ですよ。アラーはアラーで、ヤーベはヤーベで信仰 させて、共存するから。 宗教勉強会みたいな宗教だから。アラーやヤーベが、本当の神なら世界政府作った時に、共存可能な宗教にしてあるから、共存できますよ。 全部の宗教を大きな矛盾なく解釈できれば問題ないから。 林雄介with,you。 from Blogger https://ift.tt/2WpKxfo via IFTTT
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ama-gaeru · 7 years ago
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林田の世界(初稿版)
第6話 あかんやつ
 人なのか猫なのかもわからない、よく分からないものが部屋に入ってくる。  水を含んだ奴の毛がフローリングの上で潰れて音を立てた。  視線を下げる。  奴の足が見える。指が5本。輪郭は人の足と同じ。  視線を上げる。
 奴が目の前にいる。  ヘッドライトサイズの金色の目が俺を見ている。  白目の部分が広がっているように思う。  奴は笑う。  歯が増えている。丸い歯。 「なう」  奴は俺の顔を手で叩いた。数日前と同じように。  濡れた毛が顔に張り付く。  肉球がない。濡れた毛の中に、人間の手の平がある。  生暖かい。奴の指先が毛ごしに頬を撫でるのを感じた。  これ、あかんやつや。 「これ、あかんやつやー!」  完全に硬直していた林田が叫んだ。俺の体の硬直も解ける。  俺は林田の手を掴み、玄関に向かって走り出そうとした。  気持ちだけは人類最速の男、ウサイン・ボルトだった。  だが、恐怖で体が悴んで、うまく動かせない。体に骨は戻らず、ほんの少し力を抜くだけでこの場に倒れてしまいそうだ。水の中を歩くみたいにゆっくりと玄関に向かうことしかできなかった。 「なう」  のろのろと進む俺たちの横を、猫らしきものが悠々と通り過ぎ、淀みない足取りでバスルームへと消えてゆく。水中で鮫とすれ違ったダイバーの気持ちを、俺は陸地で味わう。  あいつの尻尾が俺の腰のあたりをかすめていった。  意識が遠くなる。  俺と林田はお互いがお互いを引っ張っるようにして前へと進む。  玄関まで精々3メートル程度。  走れば10秒もかからないのに、体はやはり思うように動いてくれない。 「イーッ! イーッ!」  林田が泣く。  俺も泣いてる。  バスルームに消えた奴の足音が戻ってくる。  バスルームから、リビングに。  リビングから、廊下に。 「なう」  俺たちのすぐ後ろに。  毛で覆われた手が、林田の肩を軽く叩くのが見えた。 「イーッ!」  林田は悲鳴を上げながら大きく右に体を傾け、そのままタックルするようにトイレのドアにぶつかった。 「おい、林田!」  俺は慌てて後ろを向き、廊下に崩れ落ちそうになっている林田の体を抱きとめた。 「なう」  後ろなんか向かなきゃよかった。  奴の姿が見えた。  体は濡れていて、毛先から水滴が絶え間なく床に垂れ落ちて行く。  男とも女とも言えない、平べったい輪郭。男の体から男らしさを、女の体から女らしさを抜き取った肉体が、濡れた毛の下で呼吸している。  バスタオルで顔は隠れている。 「なう」  奴はバスタオルを両手でガシガシと動かし、濡れた頭を拭いている。バスタオルの隙間から奴の顔が時折、部分部分だけ見える。 「あかんやつやー!」俺は叫ぶ。  俺の視線を追って後ろを向いた林田が「あやんやつやー!」と叫ぶ。  俺たちは一度として関西に行ったことはない。  俺はトイレのドアを開け、林田を抱きかかえてその中へと逃げ込んだ。  ドアを閉める。鍵をかける。ドアノブが左右に揺れる。 「なうー、なうー」  ミモーとマモーの音程で奴が言う。 「なーう、林田、林田、なうなう、林田ー」  ドアノブの揺れが激しくなる。濡れたノックの音も。 「あかんやつやー! あかんやつやてー!」 「なうなうなうなうなうなーう」  トイレの中が暗くなったり、明るくなったりを繰り返す。  奴がトイレの電気をつけたり、消したりしているのだ。 「これ、あかんやつやー! あかんやつやってー!」 「なう」  奴がドアに体当たりする。 「なう」  もう1度。 「なう」  もう1度。  と、静かになる。明かりがつく。  とても静かになる。  俺は息を殺し、耳を澄ます。  何の音もしない。  何の音も。  あいつがドアの前から歩き去る足音も。  まだ外にいるのだ。息を殺して、俺がトイレから出てくるのを待っている。そうに違いない。  俺はそっとドアに近づき、耳をくっつけて向こう側から何か聞こえないかを探る。  何も聞こえない。  自然と呼吸が浅くなる。  何も聞こえない。  ポタポタと水がたれ落ちる音が聞こえるような気がしたが、それは恐怖のあまり俺が作り出した音かもしれない。頭の中の想像の音か、本当に向こう側から聞こえている音なのかがわからない。  ドアノブが、今にも外れ落ちるんじゃないかと思える程に激しく揺れた。  俺は悲鳴をあげ、反射的にドアノブを握る。 「イーッ! イーッ!」 「なうなう」  ドーンっとドアが触れた。奴が外からドアを蹴り飛ばしたのだ。 「なうなうなうなうなうなうなう」  奴が爪でドアを引っかいている。ドアが揺れる。 「ちょ、も、ちょ、やめ、やめ���ー!」  音が止む。  静かになる。  今度こそ、完全に。
 あらゆる種類の汁を顔から噴出させながら、俺たちは泣いていた。  この種目でなら織田信成に勝てるんじゃないかというくらい泣いていた。顔面ナイアガラ男子ペアフリー。 「気持ち悪かったよぅ」 「うん、うん」  アラサーにもなって俺たちは泣いていた。 「怖かったよぅ」 「うん、うん」  大の男2人が。トイレに閉じこもってヒンヒンと泣いていた。 「おうちに帰りたいよぅ」 「うん、うん」林田はそう頷いてから「俺んちここじゃあーん!」と叫んだ。 「ゔっゔ……ゔぇっ……ゔぇっ……ここんち俺じゃぁーん」  林田はトイレットペーパーを引っ張り出して、あらゆる汁でぐしゃぐしゃになった顔を拭う。だいぶ混乱している。  巨大な濡れたティーバッグをぶつけたような音がドアから響いた。 「林田、なう」 「イーッ!」 「イーッ!」 「なう、なう、なう? なーう、なうなうなう?」 「イーッ! イーッ! イーッ!」 「なう?」  俺は震えながら人差し指を口の前に立てて、「イーッ!」ではなく「シーッ!」と言う。林田は両手で自分の口を塞ぎ、悲鳴をこらえる。俺も両手で自分の口を覆う。 「林田、なうなう」  また濡れたティーパックの音。  奴の手が−−もう前足じゃない。手だ−−ドアをノックする音だ。  少しの沈黙の後、ドアノブがガチャガチャと揺れ始めた。 「なうなう? なーう?」  また沈黙。 「なう」  ガンッとドアが大きく揺れる。奴がまたドアを蹴っ飛ばしたのだ。 「なうなうなう? 林田、なうなう林田、林田林田、なう?」  なうなう声とビチャビチャという足音が遠ざかって行く。  俺はドアにピタリと耳をくっつける。  リビングに続くドアを開ける音。濡れた足音。そしてテレビの音。  −−マベイベー・ダザ・ハンキパンキー−−。  --ドゥダダダン--。  --マベイベー・ダザ・ハンキパンキー--。  この曲は−−。 「……今日はさんま御殿の日だったか」  俺は額ににじみ出た汗を拭う。 「どうする? 今のうちにトイレから出て、玄関までダッシュするか?」と林田が言う。  トイレから玄関までせいぜい3メートル程度。一気に走り抜ければ、仮にあいつがリビングから追いかけてきたとしても余裕で逃げきれ……。  脳裏にアイリッシュダンス風の妙な走り方で、俺たちの前を余裕で走っていたあいつの姿が思い浮かぶ。あの時、あいつは半分も本気を出してない感じだった。逃げきれるかどうか一気に不安になる。  走って逃げる途中で捕まって、床に倒されて、馬乗りになられて、あいつのおでこのあたりからおへそまでがピリッ……ピリリリッ……ピリリリリッって縦に裂けて、そこから王蟲の口のモジャモジャしたアレみたいなのが出てきたらどうしよう。いや、いや、いや。太いミミズとタコの足のハーフみたいなのが出てきて、あいつの体内に引きずり込まれるとか、そういうのだったらどうしよう。いやそれよりも、その太いミミズとタコの足のハーフみたいなのの表面に王蟲紙の口のモジャモジャしたアレみたいなのがいっぱい生えてて、しかもそれがアラビックヤマトみたいなので濡れてて、口の中に入ってきて、俺のお腹に卵を産み付けて、俺は一度は解放されて病院に搬送されるんだけど、その日の夜に容態が急変して、お腹が中からボコボコと膨らんで、破れて、小さいオタマジャクシみたいな、そういうのがバーッと湧き出てきたりとか……そういうのだったらどうしよう。本当にどうしよう。  俺の不安な気持ちをバカにするように「さんま御殿」の観客の笑い声が聞こえてくる。音声でけぇよ。音下げろ、音。 「……ちょーっとだけ、そーっと、ドアを開けてみて、様子を伺ってみるっていうのはどうだろう? それで、あいつがリビングから出て来なそうなら、そのままそーっと玄関から出て行く。もしもリビングから出てきそうなら、チャンスが来るまでここで待つんだ。あいつが今現在、一体何なのかはわからないけど、猫成分がまだ残っているはずだ。そのうちまたアケボノのポーズでいびきかき始めるだろう」  林田は頷き、俺の提案に同意した。 「で、どっちがドア開けて、あいつを見るの?」
 俺たちの運命をかけたじゃんけんが、今、始まる。    「私は断固抗議します」  俺は力強く言った。  ここはアーバンリゾートシーサイド豊洲の1室のちょっと広めのトイレじゃない。  ここはアメリカの格好いい法廷で、俺はアメリカの格好いい弁護士だ。気持ちの上では。 「いいから早くやれ」 「何を持って勝ちとするのか、定義が曖昧です」  ゲイやエイズへの偏見に負けずに裁判を戦い抜いたトム・ハンクスこと、俺。 「いいからやれってば」 「相手を破壊すれば勝ちだと彼は主張しますが、それは真の勝利とは言えないのではないでしょうか」  巨大企業相手に史上最高の和解金を獲得したジュリア・ロバーツこと、俺。 「やれってば」 「例えば私のパーが意味するのがただの紙ではなく、基本的人権を記した文書、リンカーン的な文書だとしたらどうだろうでしょう?」  俺ー・マイラブこと、俺。 「やれ」  俺カーン弁護士。 「確かにミスター・林田のチョキことハサミはリンカーン的な文書をプリントしたA4サイズの藁半紙を切り刻むことができるでしょう。しかし、それは勝利と言えるのでしょうか? こんな粗末なハサミで」俺は指でチョキを作る。「人民の人民による人民のための合衆国を、星条旗の精神を、切り刻むことは決してできないはずです。むしろ、こういった暴力的な行いは我々の自由への闘志を燃え上がらせるばかりではありませんか。つまり、チョキがパーを切り刻んだ時点で、大きな目で見ればチョキの負けなのです!」 「やれ」 「陪審員の皆さん、外を見てください!」 「いないから」 「見えますか? あの人々が掲げているプラカードが? リンカーン的な文書の文字が書かれた、様々なプラカードが! あれぞ紙です。ハサミでは切り刻むことができなかったパーです!」 「いい加減にしないと怒るぞ」 「パーの「パ」はパワー・トゥー・ザ・ピーポーのパ!」 「違う。行け」 「パワー・トゥ・ザ・ピーポー! パワー・トゥ・ザ・ピーポー! パワー・トゥ・ザ・ピーポー! パワトゥザピーポーライトン!」 「そぉぃっ!」  林田のグーが真上から降ってきた。俺は殴られた頭を抑えて呻く。 「まだ言い逃れするつもりなら、次はこれで目玉に行くからな」  ワイルド・ワイルド・ウェスト皺のペケペケパー林田がチョキを構えて、俺の両目に向ける。クソ。勝ったからって調子に乗りやがって。覚えてろよ。俺がアメリカ大統領になった暁にはキャウンキャウン言わせてやるからな。  俺は渋々ドアノブを握り、ドアに耳をくっつける。  −−千葉県勝浦市ヌンボルトペンギンさんの『ショックだった恋人からの一言』−−。  番組本編放送中。コマーシャルタイムじゃなければ奴がリビングから出てくることはないだろう。っていうか音量でかいな。まぁ、音量がでかければ俺たちがトイレから出て行く音が聞こえないだろうからありがたいんだけど。  俺は静かにトイレの鍵を開ける。  カチッという金属の擦れる音が妙に大きく聞こえた。  静かに、静かに、ドアノブを回し、静かに、静かに、ドアを開き、静かに、静かに、頭だけを出して、リビングに向ける。  廊下とリビングを仕切るドアは開きっぱなしだった。ここからだとソファーの背もたれと、テレビの端っこがギリギリ見える。  奴がいつものように床に寝転がってテレビを見ているとしたら、この位置からではソファーに隠れて姿を確認できない。 「どう? いる?」  林田が小声で聞いてくる。 「わかんない。こっからだと見えない」  テレビから温水洋一の声が聞こえる。 「温水さんが喋ってる」林田がヒソる。 「だから?」 「あいつは温水さんのファンだ。俺が『温水洋一』と温水さんを呼ぶ度にフーフー言って抗議してくるくらい温水さんが好きだ」  なぜ。 「だから、今ならテレビに噛り付きのはず。今のうちに逃げよう」  俺は頷き、玄関の方に顔を向けた。 「なう」  手を伸ばせば触れられる距離に奴が立っていた。  視界に入っているのは奴の平べったい胴体、組んだ腕、肩にかけられたバスタオル。 「なう、なう、林田? 林田なう」  俺が悲鳴をあげてドアノブから手を離したのと、奴の手が伸びてきたのと、林田が俺の肩を掴んで後ろに引っ張り、ドアノブを握ってドアを閉めたのは殆ど同時だった。 「なうなうなう」 「手伝って! 手伝って!」  林田が叫ぶ。奴が反対側からドアノブを引っ張り、ドアを開けようとしている。 「なう」  ドアの隙間が広がってゆく。  奴の肩が見える。腕が見える。胴体。足。顔の半分。ピンク色の可愛い鼻はなかった。毛に覆われた人間の鼻があった。 「なう」 「こういうのあかんゆーとるやろー!」  俺もドアノブを握る。  2人がかりでドアを引っ張ると、隙間が徐々に細くなっていった。 「なうなうなう」  隙間がなくなる。 「林田! 鍵!」  ガチャッと鍵がかかる音が響いた。 「なーう? 林田? 林ー田ー?」  ドンドンとドアが蹴られる。  俺たちはドアからできるだけ離れる。 「なー? なー? なうなう?」  ドアノブが揺れ、そして止まる。  ドアの向こうから大きなため息が聞こえてきた。   足音がリビングの方へと移動してゆく。少しすると、またテレビの音が大きくなった。 「くそっ! あいつ、頭いいぞ!」  俺は呻き、洋式便座に座る。 「テレビの音を大きくして、ここに近づいてくる足音が聞こえないようにしやがったんだ! ��ぁ。どうにか、どうにか警察呼べないかな」  俺はズボンのポケットに手を入れて、スマホを探す。ないのはわかってる。ジャケットのポケットに入れてたから。それでも探さずにはいられない。 「林田、スマホ持ってる?」  林田は首を横に振る。 「ソファーの上に置いてきた」  俺は天井を仰ぎみる。助けも呼べない。あ、そうだ。 「大騒ぎしてたらお隣さんが来てくれたりしないかな?」 「このアパートの売りは、窓から見える海と、完全耐震構造と、完全な防音」  コンコンと林田は軽く壁を叩く。 「そもそも、ここあんまり住人いない。空き部屋多い。ここの上の階も下の階も人いない」 「……そういやここ、あれだったな……」 「そうそう。あれ」  林田は便座の真正面にある洗面台の横スペースに腰掛ける。大きな鏡に林田の背中が反射した。  結構いいホテルにあるトイレみたいなトイレだ。バスルームにあるアメニティがロクシタンの石鹸だったりするような感じの。  こんなにいい感じの部屋なのに林田のようなへこたれサラリーマンが住めているのはなぜなのかというと、このアパートの大家が「金と権力とコネを持っている親の元でぬくぬく育った、行動力だけはあるクソ変態クソバカ死んじまえクソ野郎」であり、テレビを見ている人が「こんな奴、税金で養いたくないからさっさと死刑にすりゃいいんだよ」と顔を歪めるような事件を起こした挙句、親の金と権力とコネによって数十名の−−もしかしたら数百になるかもしれない−−遺族にカメラの前で「法律はいつも加害者を守るんです」と唇をかませる勝ち逃げエンドをもぎ取ったからであり、全ての階の全ての部屋の壁紙と床とタイルと排水管が、クソ野郎逮捕の数ヶ月前に全て新品に取り替えられていたからなのである。  ちなみに世間的には大家はアメリカのどっかの雪山の中にある金持ち用療養施設にいるということになっているが、林田によると「時々、中庭の掃除してるよ」だそうだ。なんで平気で住めるんだ。俺、金払ってでも住みたくねぇよ、こんな21世紀の死の館。 「お前って、環境に適応するの得意だよな……まぁ、今回みたいなのはさすがにあれだけどさ」  林田は鼻の下に練りワサビを塗られたような顔をした。 「何? その顔?」 「適応しなきゃイジメられるし、病院に連れて行かれるから仕方ないだろ」  俺は少し考えてから顔を顰める。肩みの中の俺は鼻の下に練りカラシを塗られたような顔をしていた。 「お前、まさか、まだ俺のことを猿の化け物だと思ってんの?」  林田は答えない。  否定をしない。  目眩がしてきた。 「林田、お前なぁ」  俺は片手で顔を覆い、大きく息を吐く。言葉が出てこない。すんごい肩が重い。疲労がこみ上げてきた。 「猿の化け物だとは思ってないよ。ただ」  林田は何回か口を開けたり閉めたりしてから言う。
 「……元々は俺が隠れて飼ってたマンドリルの赤ちゃんだったんじゃないかなって」  俺は両手で顔を覆う。言葉が出てこない。舌が消えたみたいな気分。  林田が狂った。  小学校の時みたいに。
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benediktine · 7 years ago
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【「不当な政治介入を排除できる」~福田康夫元首相語る 記録を残す意味とは】 - 朝日新聞 GLOBE - 特集 > 記録の力 > [Webオリジナル] 記録を語る : http://globe.asahi.com/feature/side/2017090400001.html ublished: September 7, 2017
公文書管理法の制定に取り組んだ福田康夫元首相に、その背景と現在の日本の状況をどうとらえているかを聞いた。
【関連記事】 {{ 特集「記録の力」 : http://globe.asahi.com/feature/2017083000014.html }}
―――公文書に関心を持ったきっかけは
  直接的なきっかけは、米国に国立公文書館(NARA)という大変立派なものがあるのを知ったことです。1980年代半ば、国会議員になる前、父(赳夫元首相)の秘書をしていた時だ。地元である群馬県の前橋市の学校が、終戦直後の航空写真が欲しいということで探していたが、なかなか見つからなかった。知り合いの新聞記者に頼んでNARAで調べてもらったら、「あるよ」と。それで米国に行ったときにNARAに寄って検索用カードで「MAEBASHI」を調べたら、数十枚の写真がすぐ出てきた。ワシントンDCに、日本の地方都市の、しかも戦争で焼かれた写真があるということにびっくりした。しかも、よく整理されていて誰もがアクセスできる。「あぁなるほど、さすがだな」と感心した。
 正しい情報を入手することができるのは、民主主義の原点。入手できないと、国民は正しい判断ができない。結果、悪い判断によって悪い政治家が誕生してしまうことがある。日本では、NARAのように集中的に記録が保存されているところはどこになるかと考えたときに、あるにはあったけれど、とても小さくて大したことがなかった。それが、関心を持った一番最初だ。
 その後、国会議員になり、官房長官になったときに研究会を作り、公文書管理制度の改善について研究を始めた。調べるほどに、日本の公文書館の施設がみすぼらしいだけでなく、体制、制度も整っていないことが分かってきた。その後、2007年に首相になったときに公文書管理法の法制化の作業をした。実際に法律が通ったのは、次の麻生内閣のときだ。
―――管理法ができる前はどういう状況だったか
  公文書の保存と管理についてルールがなかった。90年代後半の薬害エイズ問題では、当初廃棄したとされていた資料が次々と見つかった。なんと、職員のロッカーにあった。2000年代後半の年金記録問題もとんでもない話だった。政府だからと国民が安心して預けている、そのお金についての書類がないなどというのは話にならない。
 外交文書では、首脳同士がちょっと腰掛けて通訳だけを交えて話す時もメモをとる。ところがその会談のメモがどこにあるか分からず、数十年たって、係争の元��なることもある。
 例えば法律も、制定されてから100年後にその趣旨や本質を確認するには、立法過程が残されていることが大事。憲法だって、「アメリカ人が作った憲法だ」「日本人が提案していたんだ」などいろんな話がある。もっと立法過程が明らかになっていれば、そんなつまらない議論をしなくても済む。国をあげての論争にならなくて済む。
―――真実を示す資料が知られていないから、議論が起こるということか
  そういうこと。声のでかいのに、だまされちゃうということだ。重要でないと思っていても100年後は重要になっているかもしれないから、その時々の個人的な判断はしちゃいけない。できるだけ多くのものを記録として残し、国民の求めに応じて容易に提示できるようにすべきだ。
―――公文書管理法の第1条に、以下のようにある。「公文書等が、健全な民主主義の根幹を支える国民共有の知的資源として、主権者である国民が主体的に利用し得るものであることにかんがみ、国民主権の理念にのっとり、(中略)もって行政が適正かつ効率的に運営されるようにするとともに、国及び独立行政法人等の有するその諸活動を現在及び将来の国民に説明する責務が全うされるようにすることを目的とする」
  その精神。事実の集積が国家なんです。最近、明治維新について異論を唱えている人がいるように、時間がたつと歴史は分からなくなってくる。しかし、史実はこれなんだということがはっきりすれば、あまりいろんな拡大解釈はできなくなると思う。歴史的な事実を積み重ねていった結果日本国になるわけで、公文書館に行けばしっかりした事実があると、そういうところを持つことが日本にとっても必要。そうでないと、100年後、日本とは一体何だったのか、ずいぶんいい加減な国だったんじゃないか、となりかねない。
―――公文書管理法に取り組んだときに難しかったことは
  野党とも相談しながら進めたので意見が対立した、ということはなかった。一致して賛成していたと思う。官僚から反対があるかと思ったが、意外になかった。協力的だった。やましいことをしていれば別だが、メモは役人の立場を守るものでもある。まじめな役人であれば、彼らが後から何か言われたときに、説明をする大事な資料になる。だから、役人を守るためにやるんだと思う。
―――後世に記録を残すという意識が官僚に根付いてきたと感じているか
  もう少し理解が必要なんじゃないかなと。公文書なんて自分で適当にやればいいんだと思っている人もまだいる。だから公務員になったら、すぐ講義を受けて考え方を徹底させる必要がある。でも、あまり言い過ぎると、書類を作らなくなってしまう。自分たちは国民のためにいるんだと意識しないといけない。そうすれば、不当な政治の介入などを排除できる。「��れはできない、記録に残りますよ」と一言言えばね、政治家だってむちゃなことは言わないですよ。そう考えれば、役人を守るためにあるんだと考えてもおかしくない。
―――特定秘密保護法ができて、秘密指定をすればどんな資料があるかも分からなくなった。官僚にとってやりやすくなったのでは
  秘密指定をしても、永久(非開示)なんてことはほとんどないと思う。いつか開示されて分かる。だから適当なことを言っても、いずれ分かるよ、恥をかくだけだよということ。
―――東日本大震災の後、政府の原子力災害対策本部をはじめとする組織の会議の多くで議事録が作られていなかった
  管理法は11年4月1日施行。震災は3月に起こったが、あと3週間で施行されるんだから、法律の趣旨にのっとってやっていないといけない。それなのにいい加減にやっていた。自分たちの混乱ぶりを記録として残したくないということでしょう。でも混乱があったのであれば、むしろその混乱ぶりを知ってもらったほうがいい。将来の参考になる。
―――記録をきちんと残すことは、外国との関係で何を意味するか
  日本は事実を積み重ねてきた国ということになれば、日本を信用しないといけなくなる。逆に都合の悪いものは隠しているんじゃないかと思われたらおしまいだ。日本は戦争が終わったときに軍部に都合の悪い資料は燃やしてしまったことがあるから、信用されていないところがあるんだろうと思う。名誉挽回するためには相当の年月、積み重ねが必要だ。でも、いま取り組んでいるようなやり方を続けていけば国際的な評価は、「日本は信用できる」と変わってくると思う。
  村山(富市・当時の首相)談話にあった「平和友好交流計画」にもとづいて始まった「アジア歴史資料センター」は外国人からも評価が高い。「日本にとって不利な資料も出している」と。日本は正直な国なんだということが分かってもらえれば、政治家の交渉のときに役に立つ。センター以外にも、公文書のルールを守って、行政も資料を残していくようになれば、口だけではないと諸外国も分かるのではないか。将来の人が楽をできる。
―――新しい公文書館の計画が検討されている。どんな施設を期待するか。
  どこにどんな情報があるというインデックス機能があればよいと思うが、大変な作業。もっと大事なのは、現物を見ることができるかどうかということ。公文書館に行ったら、本当にあったという感動が教育上必要で、だから展示室を充実させる必要がある。日本でも、美術館や展覧会は人気がある。実物を見たい、という意欲はあると思う。政府がそれに応えていない、ということ。
 日本は今まで経済大国だったが、これから少子高齢化でどんどん外国に追い抜かれていくだろう。あまり大きくない国になってしまう、それは仕方がない。大きくなくても、質の高い国を目指すべきなんです。(聞き手・GLOBE記者 高橋友佳理)
●《ふくだ・やすお》
1936年生まれ。石油会社員から父・赳夫の秘書となり政治の道へ。2000年から04年まで官房長官を務め、07年から1年間、第91代首相に。外交に思い入れが強く、首相辞任後も政府の特使として世界各地を訪問した。現在、日中交流促進実行委員会の最高顧問。
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weeklyliberty-blog · 8 years ago
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レポート:ペドは「ホモ」の間でもっとありふれている―リサーチは同性愛文化の「暗黒面」を暴露したと主張。
Jon Dougherty, REPORT: PEDOPHILIA MORE COMMON AMONG ‘GAYS’: Research purports to reveal ‘dark side’ of homosexual culture
Published: 04/29/2002 at 1:00 AM
Jon E. Dougherty is a Missouri-based political science major, author, writer and columnist.
http://www.wnd.com/2002/04/13722/
 児童性的虐待(チャイルド・モレステーシ��ン)と小児性愛(ペドフィリア)は一人当たり異性愛者(ヘテロセクシャル)より同性愛者(ホモセクシャル)の間ではるかにありふれて起こる、と新しい研究は示す。
「同性愛は性的倒錯であり、我々の文化に恐ろしい帰結を生じてきたところの障害をしばしば伴う、という信念は圧倒的な証拠に支持されている」と、スティーヴン・ボールドウィンSteven Baldwinは「児童性虐待と同性愛運動」“Child Molestation and the Homosexual Movement”に記し、これはすぐに『リージェント大学ロー・レビュー』Regent University Law Reviewに掲載された。
ボールドウィンはワシントンDC国民政策委員会のエグゼキュティブ・ディレクターである。彼は記す。「同性愛文化の暗黒面を不快に見せずに伝えるのは難しい。しかしながら、同性愛行動が西洋文化の根底を――核家族を脅かしていると認めるときが来ている」。
同性愛共同体と多数メディアがそのような非難を嘲笑うけれども、ボールドウィン――彼はカリフォルニア州下院の教育委員会の議長を務め、そこにおいて州立学校での同性愛アジェンダ支持に抗して戦った――は、その報告書で、同性愛活動家の「彼ら自身の性感のため及び同性愛運動の拡大のために児童を標的にする試み」が「家族単位」への「紛うことなき」攻撃を構成すると言う。
ボールドウィンの研究はジュディス・リースマンJudith Reisman[1]が著した近年完成の大作で実証されている。リースマンは『キンゼイ、その犯罪と帰結』Kinsey, Crime & Consequencesなど、性的神話の誤りを暴く多数の権威的著書の著者である。
彼女のテーゼ――これもまた『リージェント大学ロー・レビュー』に著された――において、リースマンは心理学者ユージーン・アベルEugene Abelを引用する。アベルの研究は同性愛者が「……少女性虐待の五倍の発生率で青少年を性虐待する」ことを発見した。
また、アベルは非収監「児童性虐待者は犯罪者一人あたり23.4から281.7まで行為を認めた……その標的は男性であった」。
「児童性的虐待での同性愛者対異性愛者の比率は衝撃的である」とリースマンは言う。彼女は児童ポルノと暴力の研究を許された80万ドルの司法省の主任調査員(PI)であった。「男性同性愛犯罪者一人あたり150.2の少年虐待というアベルのデータは異性愛犯罪者の少女19.8とは比較にならない」。
レズビアンとゲイの親と家、友(Parents, Families and Friends of Lesbians and Gays)[2]のスポークスマン、ジェイ・ヘヴナーJay Heavenerは、同性愛者が異性愛者より高い犯罪率で児童を虐待しているという主張は連邦犯罪データに反証されていると反論する。
「連邦捜査局(FBI)のデータによれば、この主張は虚偽です」と、彼はWNDに電子メールで告げた。「ゲイ・レズビアン共同体は我々自身の経験に真っ向から歯向かう疑わしい研究のいずれに対しても疑問を呈します」。
二十八年間聖職者虐待を診断し治療してきた臨床心理士ゲイリー・シェーナーがSalon.comに告げるには、「同性愛者より異性愛者の事件の方がはるかに多いです」。
純粋な数について言えば、それが正しいかもしれない。しかし犯罪者一人あたりの虐待された児童の数について言えば、同性愛者ははるか大なる頻度で虐待する。そして研究が示すには、大いに選好されるのは少年である。
ボールドウィンが言っているのは、彼が調査した証拠は児童性虐待が異性愛者の間で蔓延しているという断言の誤りを証明している、ということである。彼とリースマンはともに、メディアの成人同性愛者の未成年者虐待の報道もまた歪曲されていると考える。
リースマンは記すには、「国民レズビアン・ゲイ・ジャーナリスト協会(NLGJA)は、同性愛者は人口の二パーセントに満たないけれども、ニューヨーク・タイムズのフロントページの内容を決定する人々の四分の三が同性愛者であると自慢した」。
専門家が指摘するには、この事実はアメリカのカトリック教会内で発生している近年の児童セックス・スキャンダルを考え合わせたらとりわけ興味深い。
ワールドネットデイリー(WorldNetDaily)による最近のニュース・レポートの調査が発見したところでは、
メディアが聖職者の性的虐待を「同性愛」や「ゲイ」活動と記述することはまれである――たとえ最悪の事例が男性対男性接触を含んでいるとしても、そして、調査報告はバチカンが世界中の新学校での同性愛者の急上昇を懸念していると明らかにしたにもかかわらず。
ゲイ・プレス、児童とのセックスを奨励
ボールドウィンいわく、彼の研究は「確証する」だけではなく、「主流派同性愛文化」が「児童とのセックスを奨励することはありふれている」と発見した。
彼は記す。「指導的な小児性愛学術誌『パイディカ』Paidikaの編集委員会はサンフランシスコ州大学教授ジョン・ディチェコJohn DeCeccoのような著名な同性愛者学者が支配しており、彼が『同性愛ジャーナル』Journal of Homosexualityを編集することも起こった」。
彼が研究機関に発見した他のことはこうだ。
l  近年、『同性愛ジャーナル』は特別二号を出版した。それは「男性世代間親交」(Male Intergenerational Intimacy)と題され、成人と未成年者のセックスを愛の関係として描写する多くの記事を含んでいる〔訳注:Intimacyは性的な親交を仄めかす〕。或る記事が言うには、親たちは親たち自身の子供を愛するペドを「ライバルや競争者ではなく、彼らの財産の泥棒でもなく、少年の養育に際してのパートナーとして、彼らの家に招き入れるべき誰かとして」見守るべきであるらしい。
l  一九九五年、同性愛雑誌『ガイド』Guideが言うには、「ゲイ運動は子供たちが自然と性的であると大声で言う勇気をもつ少数派の声のホームになったことを、我々は誇ることができる」。「彼らは誰とであれ自分で選んだ相手との性的表現の権利に値する……」。この記事は遠くへ進む。いわく、「小児性愛者とレッテル張りされることを恐れるかわりに、我々はセックスが良いものであると、子供たちのセクシャリティーも含めて……誇り高く宣言しなければならない……我々は子供たちのためにこれを行うべきである」。
l  著名な同性愛活動団体ACT-UPの創始者ラリー・クレイマーLarry Kramerがその本『ホロコーストからのレポート―エイズ活動家の元』Report from the Holocaust: The Making of an AIDS Activistに記すには、「わたしとしては、教師であれ他の誰かであれ、年上の同性愛者と児童が性交するこれらの事例において、頻りに、実に頻りに、児童がその活動を望み、おそらくせがんですらいるという意見を述べる」。
l  影響力のある同性愛新聞『アドボケート』The Advocateの広告の研究において、リースマンは「三つの挑発的な体位で使用可能な……貫通可能な少年人形Penetrable Boy Doll」のアドを発見した。また、彼女は『アドボケート』の各号での数々の扇情的な少年イメージが平均して14であることを発見した。
l  同性愛者の新聞と旅行出版物は主としてビルマとフィリピン、スリランカ、タイのような少年売春が活発な国を広告する。
同性愛、「青年向け」?
「同性愛生活様式の研究は、それがほとんど専ら青年向け文化であることを確証する」とボールドウィンは記す。「年上の男性への選好を示すゲイはきわめて少ない」。
いわく、「幾人かは十代の少年への注目を認める。幾人かは思春期前の少年を。そして多くの者がカテゴリー間を跨る」。
ボールドウィンの報告書で詳述された一九八八年の研究は、小児性愛者のほぼ全員が自分を「ゲイ」とさえ見なしていると発見した。研究『性的行動アーカイブ』によれば、小児性愛者の86パーセントが自分を同性愛者や両性愛者と記述した。また、同性愛者と自己同定する十代男性売春者の数はこの十五年で10パーセントから60パーセントまで上昇した。
彼の研究の誤りを指摘しようと試みる批評家について、彼が思っていることを問われるとき、ボールドウィンは言う。その結果が彼ら自身のことを語っていると。
彼は言う。「彼らにとって、この理論が虚偽であると言うことは、同性愛運動の指導者の多数を嘘つきと呼ぶことに等しい。わたしの証拠のほとんどすべてはゲイ共同体から来ている」。
ボールドウィンはワールドネットデイリーに宛てて、「わたしは自分のテーゼ――自動性虐待が同性愛運動の統合的部分である――が妥当なテーゼであることの証拠を十分に発見しました」と告げた。
また、他の専門家も児童性虐待者と同性愛範囲率の独特のパターンを発見してきた。
「心理学者はこの暗黒面の有意をいつまで否認できるでしょうか。それが同性愛の条件について含意するところをいつまで無視できるでしょうか。心理学者は性的に混乱した十代の青年に対していつまで熱心にゲイ・ライフへのドアを開いているのでしょうか」、とNARTHを代表してジョゼフ・ニコロージ博士[3]は記す。NARTH――同性愛の研究と治療のための国民協会――は「市民的公論の境界内において、同性愛に関わる原因と治療、行動様式の心理学的理解を提供する」ために存在すると言う。
北アメリカ・マン・ボーイ・ラブ協会、あるいはNAMBLAは「少年未成年者との性交を公然と奨励し、少年愛を彼らが愛する少年のニーズに対する反応であると主張する団体です」。
この集団はしばしば「多数の同性愛運動の最も著名な指導者たち」により是認されている、と彼は言う。
圧力団体、学校に移る
「ゲイ・レズビアン生活様式」の奨励は国立学校で増加している。WNDは同性愛志向ウェブサイト研究で、ほとんどすべての団体が教育者と学校運営者、その他被雇用者に同性愛生活様式を「教育する」何らかの種類のプログラムをもっていることを発見した。
l  GLSEN――ゲイ・レズビアン・ストレート教育ネットワーク――は特に「K-12〔幼稚園から高校までの十三年間の〕学校での性的志向とジェンダー・アイデンティティー/表現に基づく差別」の終わらせるために形成された「保護者と生徒、教育者その他の人々の最大の国民的ネットワーク」を謳う。近年発表された二つのプレスはフロリダ州ブロワード郡学校委員会が「GLSENスポンサード教師向けトレーニングを承認した」[4]と誇った。
l  近年、GLSEN事務で働く学生活動家はカリフォルニアの学校で「ゲイとレズビアン、バイセクシャル、トランスジェンダーの学生」に「声を与え」おおせた。[5]
l  PFLAGは「わたしたちの家から学校の家まで」という国民キャンペーンを作り出し、『性的志向と若さに関しての単なる事実―校長、教員及び学校人事のためのプライマー』Just the Facts About Sexual Orientation and Youth: A Primer For Principals, Educators, & School Personnel[6]と題された冊子を――他の資料とともに――学校職員に配布した。
学校関連のプログラムのほとんどすべては単純に同性愛者とレズビアンの迫害を終わらせるためのプログラムとして運営者と保護者に売り込まれるけれども、同性愛は児童に対して有害であるというボールドウィンの有無を言わせない証拠を曝け出すものはない。
「……同性愛と児童性虐待の関係について学会の文献は何を言っているか? 本当に、ほとんど何もないんです」。ファミリー・リサーチ研究所の編集したデータを引用しながらいわく、「科学的研究は同性愛者の強い小児性愛性向を確証します」。
この研究所は一九八五年『心理学報告』Psychological Reportsの記事における十九件以上の研究とピアレビュー報告をレビューした後、同性愛者が全児童性虐待の25~40パーセントを占めることを発見した。
ボールドウィンは言う。「しかし、児童性虐待者が同性愛者であるとき、多くの報告者はたとえがそれが事実であると知っていてもそれを報告しないという事実のせいで、この数は少なくなっています」。
[1] http://drjudithreisman.org/
[2] http://www.pflag.org/
[3] http://www.narth.com/docs/whyreveal.html
[4] http://www.glsen.org/templates/news/record.html?section=12&record=1309
[5] http://www.glsen.org/templates/news/record.html?section=12&record=1271
[6] http://www.pflag.org/education/schools/docs/justthefacts.pdf〔編集者注:このファイルを開いて読むにはAdobe PDF readerを必要とする〕
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exningen · 8 years ago
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LGBTの児童生徒の学校生活~教員に求められる理解(1)性的指向と性自認正しく理解2017年9月1日
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宝塚大学看護学部教授 日高 庸晴
LGBTあるいは性的マイノリティといった言葉を、以前よりも格段に耳にする。NHKの報道回数は10年前と比すると、現在では50倍以上に上るという。
LGBTとはLesbian(女性同性愛のレズビアン)、Gay(男性同性愛のゲイ)、Bisexual(両性愛の男女であるバイセクシュアル)、Transgender(生まれ持った身体の性別に違和感を持ち、身体の性別とは異なる性別で生きるのを望むトランスジェンダー)の略である。LGBTをはじめとするセクシュアルマイノリティ(以下LGBTで総称)は、人口の5~8%程度の存在率であると推定される。
この連載では、LGBTである児童生徒の実態を示す調査データを示すとともに、学校に必要とされる配慮や支援に当たっての考え方、具体策を述べる。
国際的にみれば、平成23年6月頃からの国連の動きが特筆に値する。
国連人権理事会は「人権と性的指向・性自認」決議を採択、12月にジュネーブで開催された同理事会で、当時の米国務長官ヒラリー・クリントン氏がLGBTの人権課題について演説、27年9月にはUNICEFやWHOといった国連12の機関が、「LGBTに対する差別や暴力を終わらせなければいけない」という共同声明を発表した。
32年に開催される東京オリンピックに向けた動きも見逃すことができない。
26年12月にオリンピック憲章が改正され、「オリンピック憲章の定める権利および自由は人種、肌の色、性別、性的指向、言語、宗教、政治的またはその他の意見、国あるいは社会のルーツ、財産、出自やその他の身分などの理由による、いかなる種類の差別も受けることなく、確実に享受されなければならない」とされ、性的指向が明文化された。
教育に関わる国内動向として、文科省が27年4月に発出した「性同一性障害に係る児童生徒に対するきめ細かな対応の実施等について」という通知がある。加えて翌年4月に再度「性同一性障害や性的指向・性自認に係る、児童生徒に対するきめ細かな対応等の実施について(教職員向け)」といった文書を発表している。文科省が全国の教育現場に対して、いわゆる性同一性障害のみならず、性的マイノリティ全般を視野に入れた文書を2年連続で発し、これを機に、全国の教育委員会や自治体で教員研修の実施が急増している。
LGBTを理解する上でまず必要な知識がある。それは性的指向と性自認の2つであり、それぞれが示す内容と、その違いを正しく知ることが必要になる。
性的指向はどの性別が恋愛感情の対象になるか(対象が異性であるか、同性、両性、いずれの性別へも恋愛や性愛の感情がない等)を示している。
性自認は、自分の性別は男である、女であるといった性別に関する自己認識のことであり、最近では心の性別と表現される場合も多くなっている。
また自らを男であるとも女であるとも感じない、あるいは無性と感じるといった人も存在していることが分かっており、そのありようは多様である。
◇  ◆
京都大学大学院医学研究科修了、博士号取得。米国UCSF医学部エイズ予防研究センター研究員などを経て現職。文科省が2016年4月に発表したLGBT資料作成に協力、文科省幹部職員研修講師等、LGBT理解促進・啓発事業に従事。
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