#失踪軸
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その戦争体験者が「匂いがしない、完全に絵物語」と感じたとすれば、映画には表層的な戦いのビジュアルや物語構造だけが描かれていて、内面や実存、偶然性、非英雄性、人間の矛盾、そして身体的・心理的リアリティがごっそり抜けている可能性が高いです。
以下に、「戦争のリアル」を描く上で足りない可能性がある要素を、テーマ・感覚・心理・構造の観点から分類しつつ、できるだけ多く列挙します。
【1. 身体的リアリズムの欠如】
汗、泥、血、排泄、飢え、臭い、虫、皮膚病、腐臭、死体の硬直
爆音による聴覚のマヒや耳鳴り、吐き気、震え、嘔吐、痙攣
仲間の身体が破裂・欠損していく恐怖と慣れ
怪我の痛みが引かないまま任務を続ける日常
寒さや暑さ、眠れない、ずっと渇いている、痛い、重い、かゆい
「全身が震えたまま、銃を構えた」ような描写
【2. 時間感覚の歪み】
「5分が1時間にも1秒にも感じられる」極限状況
待機、待機、待機……そして一瞬の地獄
時の流れが意味を持たなくなる感覚
日常との断絶した時間の密度や希薄さ
【3. 心理的リアリズム・非英雄性】
臆病になって隠れてしまった自分の記憶
敵の死体を見て吐いたのに、数日後には無感動になっていた
味方が「楽しく」敵を殺していることへの戸惑い
殺したくないのに殺してしまう手の震えと、その後の沈黙
「あのとき引き金を引いていなければ…」という思考ループ
英雄ではなく、ただ生き残っただけの自分
【4. 運と偶然への妄想・信仰】
「なぜ自分が生き残ったか、わからない」
爆弾が数メートルずれていたことの奇跡と罪悪感
「これは何かの意味があるのでは」と思いたくなる自分
お守りや占い、神の声、意味づけせずにはいられない心
【5. 他者との関係の変容】
昨日笑っていた友人が、頭を吹き飛ばされる現実
遺体を運ぶときに、その人の顔が浮かばない
仲間が狂気に陥る姿を見る恐怖
敵を殺した直後に、敵の写真や手紙を見つけてしまう苦痛
【6. 「自己」の崩壊と新たな再構成】
殺すことも死ぬことも日常になっていく
自分が死ぬかもしれない、という理解ではなく“納得”
善悪の軸がぐらつく
帰還後、自分が何者だったかがわからなくなる感覚
「ただの肉の塊になった自分」を発見する体験
【7. 国家・正義・目的への懐疑と幻滅】
戦場での行動と、帰国後の賞賛のギャップ
正義と命令が一致しない苦痛
上官や命令の理不尽さを呑み込むか、壊れるかの選択
戦争の「意味」が理解不能になっていく感覚
【8. みじめさ・矛盾・人間の滑稽さ】
「死にたくない」と叫んで小便を漏らす上官
空腹に耐えかねて、犬の餌を取り合う兵士たち
下品な冗談だけが生き延びるための方法
死体から靴を奪うときの罪悪感とそれを忘れる速度
【9. 帰還後の断絶・孤立・空白】
日常が遠すぎて「帰る場所」が感じられない
何を語っても誰にも伝わらない、という沈黙
戦友の笑い声が頭から離れない
「まともに生きている」ように見えて、何も感じていない
【10. 戦争の「前」や「外」からの視点が欠けている】
「戦争が始まる前の普通の暮らしの記憶」
戦場に行かない人々の無関心と理想化
民間人の視点・戦場の“裏側”にある日常の破壊
加害者にも守りたいものがあったことへの気づき
◆まとめ
戦争をリアルに描くためには、戦闘シーンの迫力やストーリーの巧妙さ以上に、身体・偶然・沈黙・羞恥・無意味・孤独・矛盾・臭気・記憶・無感動といった「人間の限界」に迫る視点が不可欠です。
「匂いがしない」と言われた作品は、おそらく意味や因果が整いすぎており、人間の不条理な弱さや迷い、生理的リアルが欠落していたのでしょう。
もしご希望があれば、「そのような“匂い”を意識的に盛り込むための脚本演出ポイント」もご提案できます。お気軽にどうぞ。
「戦争に直接行かない側」の現実や現実感
【1. 身体的リアリズム(不在ではなく“他の形”での表出)】
座りっぱなしの司令部職員の腰痛、胃潰瘍、疲労死
空襲警報のたびに地下壕へ走る都市住民の動悸・息切れ
子どもを背負いながら疎開路を歩く母親(父親)の足の水ぶくれ
工場労働者の油まみれの手、火傷、慢性的な睡眠不足
「安全な場所」での身体の硬直、息を殺す夜、失禁・嘔吐
【2. 時間感覚の歪み(兵士とは別種の異常)】
ラジオの開戦・終戦放送を聴いたときの「一瞬の凍結」
毎日が「誰かの死の連絡を待��時間」になる家庭
戦地からの手紙が届くまでの時間が異常に長く、届いた瞬間に過去に戻されるような感覚
疎開先で過ごす時間が、「本当の時間」と断絶した非現実のように感じられる
【3. 心理的リアリズム・非英雄性】
「何もできない」都市市民としての罪悪感
募金しかできない自分に苛立つ若者
「戦地に行ってないから語ってはいけない」と自ら口を閉ざす帰還兵の妻
息子(娘)や夫(妻)を「立派に送り出した」ことへの誇りと喪失の共存
【4. 運と偶然への妄想・信仰】
「この神棚に祈れば無事に戻ってくる」と信じる母親(父親)
何かのサイン(夢、お告げ、日常の偶然)を「徴」として受け取ろうとする心理
「爆撃の前日に家を離れていた」ことで生き延びたことの意味づけと混乱
占いや星座、預言などに集団的に依存していく現象
【5. 他者との関係の変容】
近所で戦死者が出るたびに口数が減る住民たち
「息子(娘)さん、帰ってこないの?」と訊かれて黙るしかない母親(父親)
兵士を送り出すことが、共同体内の「名誉」と「義務」になり、人間関係に緊張が走る
疎開先で「余所者」扱いされ、冷たい視線にさらされる子ども
【6. 自己の崩壊と再構成(戦地外でも発生する)】
「妻」として待ち続けた時間の中で、自分が自分でなくなるような感覚
子を失った親が「自分が死ぬべきだった」と語るようになる
空襲後の瓦礫の町で、言葉を失う子ども
自ら志願した息子(娘)の戦死に、肯定も否定もできないまま何十年も止まる時間
【7. 国家・正義・目的への懐疑と幻滅】
戦時報道と現実との乖離を肌で感じる都市民
勝利報道の裏で息子(娘)が戦死した事実に混乱する家族
上層部の豪華な食事の映像に怒りを覚える配給制下の民衆
学校教育で「正義の戦争」と教えられながら空襲で親を失った子どもの矛盾
【8. みじめさ・矛盾・人間の滑稽さ】
瓦礫の中から米を探して盗み食いする子どもたち
「戦死者を讃える式典」で泣かない自分を責める未亡人
国策映画を見ながら、隣で眠る父親(母親)
空襲警報中に着替えを優先して逃げ遅れる市民
空襲で焼け出された者同士で、濡れた畳を巡って口論になる避難所
【9. 帰還後の断絶・空白】
帰ってきた兵士と目を合わせられない家族
「普通の生活」がぎこちなくなる、日常のうすら寒い静けさ
戦地でのことを語ろうとしない父親(母親)に苛立つ子ども
「あの人は昔、誰かだった」という形で語られる帰還兵
【10. 「戦争の外」にある視点】
遠い村の老婆が感じる「戦争なんて知らな��けど、何かが変わった」感覚
民間人にとっての「戦争」は、配給制度、失踪、突然の爆撃音としてのみ現れる
戦地に行くことのない知識人が戦争を「語る」ことの危うさ
犠牲者の顔を知らない立法者が「正義」を語る虚しさ
◆補足的視点:子ども、戦場に行かない大人、高齢者、障害者の経験の特異性
子ども:戦争の意味もわからないまま空襲に怯え、孤児化し、誰の話も理解できないまま成長する
大人:夫(妻)を送り、子を失い、町を守り、避難所で全責任を背負う存在
高齢者:次の世代を見送りながら、自分は何もできないと嘆く日々
障害者:疎開も逃避もできない身体を抱えて、破壊のただ中に取り残される恐怖
◆まとめ
兵士の経験と戦場外の人々の現実は、決して断絶していない「地続きの暴力」として描かれるべきです。 都市や農村、官僚、親、学者、子ども、それぞれが異なる形で身体・偶然・不条理・羞恥・期待・喪失を経験し、戦争はその全体を貫く構造として立ち上がる。
ご希望があれば、ここから文学・映画・演劇・ノンフィクションなど具体作品に即した視点や、戦場体験のない作家がこれらを描く工夫なども掘り下げてご紹介できます。
「戦争を“知らずに”生きている人々の現実」が、戦場の地獄の同時代性とどう不気味なコントラストを成すかを、多層的に列挙します。
【1. 空間的ギャップ】
同じ「時間」に、まったく違う「世界」が隣接して存在していることの異様さ
晴れた休日のピクニックと、そのとき戦場での銃撃戦の地獄が、地球上で同時進行している事実
大都市のカフェで誰かが恋に落ちる一方で、同時刻に前線では誰かの頭部が吹き飛ばされている
戦場では「匂い(死臭・火薬)」が支配しているのに、都市では新製品の香水の広告が流れる
子どもが夏休みの自由研究をしている家庭の裏で、兵士の母親(父親)が「息子(娘)の遺体確認」の電話を受け取る
農村で「今年は豊作だ」と喜んでいる老人が、戦場に行った孫の遺書をまだ知らない
【2. 時間的ギャップ|個人的な「気づき」のズレ】
ある個人が、戦争の現実に気づく瞬間と、それ以前の無関心との断絶
戦争についてまったく意識していなかった人が、徴兵制の通知や親族の死で突然すべてが反転する
「昨日までただのTVの話だったのに、今日は“自分の話”になった」
SNSで笑っていた友達が、突然「戦死者追悼」の黒いアイコンに変わっていて、動揺する
戦争に無関心だった若者が、恋人の兄弟の戦死によって、人生観ごと崩される
学校の授業中に先生が「戦死した教え子」の話をし、生徒の表情が凍る
【3. 時間的ギャップ|集団的な「気づき」や遅延のズレ】
社会全体が戦争の現実に気づくまでの時間差
初期はみんな「どこか遠くの戦争」として扱っていたのが、徴兵や物資不足で「自分たちの生活」が侵食されていく
政府や報道が戦争を隠していることで、市民が**“まだ平和”という錯覚**を保っている時間
戦争が始まってから数年経ってようやく「戻ってこない息子(娘)たち」に異変を感じ始める村の空気
テレビ番組が急に「戦死者特集」を始めて、一般人が**「今さら…?」と違和感を抱く瞬間**
集団的な目覚めが訪れるのは、爆撃が都市部にも及んだとき――「遅すぎた気づき」
【4. 感情的ギャップ】
「日常の喜怒哀楽」と「戦争の非日常」が、ねじれながら共存している
若者がプロポーズを考えていた同じ日、戦場では同年代の兵士が死亡している
家にいる子の誕生日パーティーのケーキを用意する母(父)の手元に、戦死の電報が届く
SNSで自撮り・推し・恋バナで盛り上がっているタイムラインに、ぽつんと戦地からの報告が流れる
街の映画館では笑い声が響き、戦場の衛生兵は**「誰も笑っていない場所」で傷口を縫っている**
新年を祝うカウントダウンの瞬間、兵士は雪の中で一人見張りをしていた
【5. 意識・想像力のギャップ】
自分の“当たり前”が、他者にとって“想像すらできない”現実であるという落差
「朝の散歩が気持ちいい」と言った直後に、「息子(娘)の足が地雷で吹き飛んだ」と語る隣人の表情
「今日、何食べる?」という日常会話が、戦地では**「あと何日食料がもつか」**という恐怖に変わる
自分の悩み(失恋、試験、仕事)を打ち明けた後に、相手が戦争孤児だと知る羞恥と沈黙
「選挙なんて行っても意味ない」と言っていた人が、戦地に送られる前の兵士の最後の投票行動を知ったときの衝撃
「ニュースは暗いから見ない」という態度が、ある人の**「現実からの逃走」**に見えてくる瞬間
【6. 構造的・社会的なギャップ】
「無関心でいられる特権」と、その代償
大都市の富裕��は戦争を「コスト」としてしか見ておらず、田舎の若者が実際に死んでいる
戦場に送られるのは「誰か」であり、自分ではないと信じている都市住民の慢心
「平和のなかにある平和」が他者の死によって維持されているという不都合な構図
メディアの「戦意高揚」の裏で、実際の被害は矮小化されている
戦争が続くほど、兵器産業や経済が潤っていくことへの倫理的ジレンマ
【7. 不在によって浮かび上がるギャップ】
何かが「ここにいない」ことで生まれる痛みと現実感
運動会で一人欠けた家族写真
誰もいなくなった村の青年会
帰ってこない恋人を待つ部屋だけが、時間が止まっている
戦地からの手紙が届かなくなった瞬間から、時計の針の音がうるさく感じられる
◇まとめ
このギャップの本質は、「戦争の“外”にいることの異常な正常性」です。 人は戦争が始まっても、恋をし、笑い、誕生日を祝う。 けれど、それが誰かの死と同時に起きているという“二重性”に気づいたとき、世界は一気に歪んで見えます。 その歪みこそが、戦争の「本当のリアル」の一部なのです。
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小説『あなたが消えた夜に』– 愛する人はなぜ、突然消えたのか? 残された手紙と記憶の断片が繋ぐ、切なくも衝撃の真実。深い喪失と再生を描く、心に響くミステリー&ヒューマンドラマ。
「消えた恋人の秘密」―残された謎と、心を揺さぶる愛の記憶 ある日突然、愛���る人が目の前から姿を消したとしたら、あなたはどうしますか? 何の言葉も残さず、何の痕跡もなく。小説『あなたが消えた夜に』は、そんな不可解な失踪事件を軸に、深い喪失感の中で真実を追い求める主人公の姿を描いた、心に響くミステリー&ヒューマンドラマです。この物語は、愛の形、そして人生の意味を、静かに、しかし力強く私たちに問い��けます。 突然の別れ、そして導かれる「記憶の旅」 主人公は、愛する恋人、リュカと幸せな日々を送っていました。しかし、ある朝目覚めると、リュカは文字通り、跡形もなく消え去っていたのです。なぜ、どこへ?…
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映画『薔薇の葬列』
ATG製作、松本俊夫監督、ピーター(池畑慎之介)主演の映画『薔薇の葬列』(1969)をDVDで見ました。
前から見たかった映画だったのですが、貸しビデオ屋(古い!)にもサブスクにもなく、Amazonで購入したものです。
フランスの作家マンディアルグに似た題名の小説(『薔薇の葬儀』)がありますが、それとは全く無関係ーーゲイバーを舞台にした物語で、当時としてはそういう界隈を描くこと自体、スキャンダラスな試みだったのだろうと推測されます。
意外なことに(というのかな)ゲイバーの一番人気のゲイボーイとバーの経営者の男とバーのママの三角関係(もちろん3人とも男です)を描いた結構下世話な……というと語弊がありますが、まあそういうお話でした。
ゲイバーでゲイボーイとして働く主人公エディ(ピーター)はバーのオーナー権田と愛人関係にあります。権田の愛人でバーのママでもあるレダ(もちろん男性です)は当然面白くありません。なんとかエディをクビにしようとします。
でも、結局権田に捨てられてしまいレダは自殺します。葬儀の場面で、読経の後、ゲイバーに勤めていたゲイボーイたちは造花の薔薇が好きだったレダのために薔薇を一輪ずつもち和尚の跡をついていきます。
え? だから『薔薇の葬列』なんですか?
物語は時間軸を意図的に混乱させ、エディと権田とレダの三角関係の話にエディの過去の物語とエディの知り合いで実験映画を撮っているゲバラなる男が率いるヒッピーたちの物語が絡んでいきます。
エディの過去がどんなものだったかというとーーエディは母一人子一人で育ちました。父親はエディがまだ小さいときに失踪したのです。
あるとき母親は男を部屋に迎え入れます。母親と男が半裸で絡み合っているところに息子のエディ(まあ当時はエディという名前ではなかったでしょうが)が包丁を持って乗り込み、男に斬りつけ母親を刺殺します。
うーん、そんなことをしたらタダでは済まないはずですが……まあいいや。
で、現在ーーエディはエディで権田のみならずゲバラとも肉体関係を持ちます。
面白いのは二つのベッドシーンが終わると「はい、カット」という声がかかることです。すると役者たちは素に戻り、スタッフたちと会話を始めます。監督は「じゃあこのままインタビューのシーンに移ろう」と言って、最初はレダ役の男性に、2度目は主役のピーターにインタビューをします。
メタフィクショナルな作り方と言えばそれまでですが、なか��か凝ってますね。当時としては非常に斬新だったのではないでしょうか。
インタビューの中で「主人公のエディのことをどう思いますか」と尋ねられたピーターは「近親相姦のことはともかく、性格的には私によく似ていると思います」と答えます。
え? 近親相姦? どこに近親相姦の話があるんですかと思っていたら……
とんでもないネタバレでした。
[以下ネタバラシをしています。未見の方はご注意を]
レダが死んで、エディが変わってゲイバーのママになります。権田はエディの部屋でエディが浴室から出てくるのを待っています。
権田はふと本を手に取ります。そこには子どもの頃のエディとその両親が写った写真が挟んであります。
はい、ここまで見ればわかりますね。
権田はエディの実の父親だったのです。
エディが浴室から出てくると、権田は入れ替わりに浴室に入り、そこにあったナイフ(なぜ浴室にナイフが置いてあるのかは謎です)で自殺します。
大きな音がしたのを不審に思って浴室にやってきたエディは権田の死体を見つけ、全てを悟ります(なせその状況で瞬時に全てがわかるのかはわかりません)。
エディは権田が自殺に使ったナイフを手に取り、自分の両目に突き刺します。
お分かりですよね。これはエディプス王の物語をなぞったものなのです。
エディがナイフで両目を刺してよろめいているところで画面が切り替わり、淀川長治が登場します。
はい、あの淀川長治ーー日曜洋画劇場でお馴染みの映画評論家の淀川長治が登場して「怖い映画ですね。残酷の中に笑いを混ぜた実験的な映画ですね。ではまた来週お会いしましょう。さよなら、さよなら、さよなら」と言います。
ここって……笑うところですよね?
そういうメタフィクショナルな作りにして、見る者を虚構と現実のはざまで迷わせたいのだと思いますが……それが成功しているかどうかはよくわかりません。
『薔薇の葬列』はそういうフシギな映画です。
絶対に見るべき名作ではありませんが、映画の歴史の中には(特にATGの歴史の中には)そういう映画もあったのだということを知るにはいい映画だと思います。
追記: ゴダールの手法なのかもしれませんが、この映画の中にはさまざまな文章が引用されています。 私が分かったのは、ギヨーム・アポリネールの詩「地帯」からの引用で「太陽、切られた首」だけでしたが、他にもいろいろあります。 ヒッピーのゲバラが何か洒落たことを言って「ルクレジオの言葉だ」と言っていましたが、恥ずかしながら知りませんでした。
追記2: この映画には写真家の秋山庄太郎や映画監督の篠田正浩が特別出演してるそうですが、彼らの顔をよく知らないのでどこに出ていたのかよくわかりませんでした。 蜷川幸雄も出演していますが、蜷川は特別出演ではなく、役者としての出演だったそうです。 へえ、そうなんだ……
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FF14うちのこ設定用プロフィール
自分と興味がある方用です٩( ''ω'' )و
2022-02-21 23:25:30 log
FF14のうちの子設定用プロフィール
※こちらは芋みちさんのプロフィールテンプレを許可をいただき使用しております。大変ありがとうございます。
※基本的に、自キャラがヒカセンの場合、別キャラがヒカセンの場合、どちらも不明瞭な場合、恋人がいる場合いない場合など、色んな世界軸ごちゃ混ぜで書いておりますので、ざっくりとした捉え方してもらえると嬉しいです。
※随時、追加修正していきます。
①ロート
◆基本情報
名前/ニックネーム:Rot Quartz (ロート・クォーツ) 年齢:17歳 グリダニア到達時点 性別:男 誕生日:不明 種族:ミコッテ/サンシーカー 瞳の色:赤 髪の色や髪型:赤(橙メッシュ) 容姿の特徴・風貌:しっぽふさふさ、しっぽが比較的短い
身長:165cm 成長期 体重:中肉中背 利き手:右
性格:マイペースで素直、年の割に幼い、知識はないがたまに鋭い時がある、子供扱いされることが嫌いで自分は大人だと思っている、おばけが怖い、さびしんぼ。 長所:子供っぽい、偏見や色眼鏡がない 短所:子供っぽい、知識はほぼない 口調: ・一人称:俺 ・二人称:君、あなた ※基本名前をゆるーく呼び捨てる ・口調サンプル:「俺はロートだよーよろしくねー!」「ねぇねぇ今日のお昼なに食べたい〜?」「見てみてー!おっきいの釣れた〜〜!!!」「俺は子供じゃない〜〜〜!!」
ポリシー:特になさそう 趣味:釣り、料理、探検 特技:早寝早起き、手先が器用 不得手なもの:おばけ
苦手な食べ物:辛いもの 好きな食べ物:甘いもの
コンプレックスやトラウマ: ①やたら自分の周りで人がいなくなるので、さすがに「自分が悪い子だからなのでは??」くらいは思っている。捨てられる事に抵抗がある。 ※ただし軽度 ②ちょっと過剰にさびしんぼな時がある ③こども扱いされるのがきらい。
◆来歴
出身地:生まれは不明。育ての親に拾われた後は森の奥でひっそり暮らしていた。
家族構成/恋人関係: ①家族:生みの親の事は覚えていない。12歳の時まで育ての親(ルガディン男性/冒険者のような何でも屋のようなことをしていた)と一緒にいた。現在は行方不明。 ②恋人:グリダニア来てしばらく後にエレゼン男性のエルム(よその子です)と恋人関係に。
冒険者を志した理由:育ての親がいなくなって、贔屓の行商人の助けもありながらしばらくは1人で生活していたが、ふと森の外に出てみたくなった。これはさびしさもあるがどちらかというと、外への好奇心である。育ての親から、
「こどもが1人で森を抜けようとしたらおばけに捕まってしまう」
と教えられており、ずっとこわくて行けなかったが泣きながら走って森を抜けてきた。 おばけに捕まらなかったから、自分は大人だと思っている。
経歴: ※エルムさんがいる世界軸で書いてます。ヒカセンの場合はまた少し変わります。 ・生まれは不明 ・幼少期にルガディン男性に拾われる ・育ての親��2人で森の奥でひっそりと暮らす ・12歳の頃から育ての親が帰ってこなくなった ・17歳で森を出てモードゥナで保護され、しばらく過ごす ・モードゥナでエルムと出会い、エルムに付いて行きグリダニアへ ・グリダニアで冒険者となり、しばらく過ごす ・恋人になるまで時期。エルムがよそよそしくなった頃にロートが恋を勉強する ・エルムと恋人関係になり、しばらく過ごす ・エルムがいなくなる(失踪?) ・(周りの手助けを得ながら)孤児院を始める ・エルムの帰宅 ・孤児院経営しながら、近くに家を建て2人暮らし中
…カミングスーン!
◆戦闘について
メインジョブ:吟遊詩人 ・このジョブをメインにした理由 弓はちょっと教えてもらってた。歌は好き。 サブジョブ:暗黒騎士 ・このジョブをサブにした理由 かっこいい… ◆装備・服装について
戦闘に臨む際の装備(いつもの/お気に入りの):バードシャツ(詩人AF1のデザイン)胴。他は雰囲気でパンツとか履いてる。
普段着:セーラーシャツ。服を選んだりするのが得意ではない(無頓着)なため、エルムがよくコーディネートしてくれる。
好きなファッション:半袖半ズボン、ゴーグル、ラフな格好
◆社会、宗教
現在の住まい:ラベンダーベッド。孤児院と自宅を行き来している。 ・住まいを選んだ理由:森が落ち着く、好き
拠点としている国/村など:グリダニア ・なぜそこを拠点として選んだか:森が好き
信仰神:アーゼマ ・信仰の理由:ぽかぽかするから
所属GC:双蛇党 ・現在の所属GCを選んだ理由:グリダニアにずっといたから ・GCに対してのスタンス:困ってたら助けたい。難しいこと言われてもよく分かってない。悪い人がいたら利用されそうだが、周りに助けられるタイプ ・所属しているGCの盟主に対しての考え:やさしい
◆その他 ※掘り下げ用
メインクラフター(あえて1つか2つ選ぶならどれ?):調理師 メインギャザラー(あえて1つ選ぶならどれ?):漁師
特に仲の良いNPC:アルフィノ ・その理由は? 考えることが苦手で、昔助けられた事がある(側から見れば理不尽に上から怒られているような感じだったが)。自分が難しいことを考えるのが苦手だからアルフィノが目指すものを手助けしたいと思っている。エオルゼアを助けたいアルフィノを助けたいと、雪の家で思ったのであった。
折り合いが悪い/苦手なNPC:特にいない ・その理由は?
特に仲の良い蛮族:サハギン族 ・その理由は? 海が好き、塩も好き お気に入りのマウント:魔法のほうき
お気に入りのミニオン:マメット・ケットシー。エルムさんに初めて会った時にもらった。
お気に入りのカララント:ダラカブレッド
いつも鞄に入っているものは?:釣り餌
好きな場所:南部森林
将来の��:でっかくなりたい!
備考:基本受けですが、エルムさん相手だけ攻め子です。(ロート×エルム)
終わり。
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中国小説-「招魂」

作者:山梔子 公開時期:2024年03月 あらすじ:医者一家に生まれた女主人公(倪素)は、産婦人科を目指す優しく賢い兄を一緒に医者の道を志して奮闘する日々を送っています。しかし、産婦人科医に対する世間の風が厳しい中、兄が家の反対により、医者の道を諦めて上京して官僚登用試験に受けに行きましたが失踪しました。仲良くいつも応援してくれた兄を探すためすぐ都に出発し、途中の寺に不思議な願いをされたことで、15年前に冤罪で亡くなった少年将軍(徐鶴雪)の魂を蘇らせました。失踪した兄と少年将軍の冤罪で織り出すサスペンスヒューマンストーリー。 感想: 人と幽霊の恋で強引なところが結構あります。しかし、この小説は恋バナを主軸を置いていないので、宮廷サスペンスドラマとして読んだ方がいいと思います。素直で一途で頑張り屋の女主人公はどんなことを受けっても信念を曲げないところが気持ち良いです。陰謀によって惨殺された少年将軍が可哀想でしたが、最後はちゃんと冤罪を晴らして一緒に亡くなった兵士たちの魂を輪廻の道に送り出せてよかったです。読み応えがある一作です。
星:★★★★☆
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財經冷眼:
中國人民給台灣國人民的信
我們是逃亡中共的中國難民,我們分佈在世界各地,在這充滿希望與期待的日子裡,一定是上帝指引我們有機會在選舉之前認識台灣選民,他即將不遠萬裡回到台灣投票,為台灣光明的明天投去希望,台灣的璀璨因民主而生,中共起源邪惡,終究止於邪惡,中共漩渦終把自己攪碎,在碎掉之前躲遠點,污跡會噴濺,中共有太多黑暗,在中國很多人一輩子被黑暗籠罩,食不果腹,民眾像機器人不停的連軸轉給中共供血,他們被洗腦覺得外面就是血雨腥風,只有烏雲下有陽光庇佑他們,他們都是被欺騙被奴役的中國人,中國大部分底層養活自己都困難,更別提供孩子讀書,這一大片土地在中共的糟蹋蹂躪下產生太多的可憐人,丟臉的可憐人就像舊屋強拆會消失…!在中國如因痛苦哭喊出聲極可能會被定萬金油尋挑釁滋事罪被收監,還有傷害民族感情罪和間諜罪名,中國現在全民抓間諜,舉報間諜獎,重要線索獎勵50萬人民幣,中共最擅長全球安插間諜,現在西方文明國家各行業被中共邪惡組織滲透,就像台灣那些站在中共一邊的國民黨人,他們私下已經被中共買通,出賣台灣人的自由,他們忘記了他們的先輩如何被中共欺騙逼迫甚至殺害,換來他們今天的平安祥和,不要相信任何站在中共一邊的任何承諾,中共是邪惡軸心國的主導,世界的混亂局面背後都是中共在支持。台灣現在是名副其實的華人之星,台灣有健康放心的食物,有健全的社會福利,孩子出門不怕被失踪,不擔心被割器官,不怕被有毒的空氣和水侵害,不怕被強盜政府欺壓,不怕被虐待,這些都是中國眾多問題中的問題。在中國的上層官員吃著��供食品,他們永遠不需要解決食品安全問題。中共全球結交助力邪惡國,為養間諜黑人,零門檻招收黑人留學生,眾多女大學生被要求陪讀,陪讀期間必須滿足黑人任何需求,很多女大學生被感染愛滋病性病,而不被人民所知,中共治理的中國沒有任何真相,沒有任何自由,沒有任何人權,所有能被人民所知全部是謊言,所有針對中共的不同意見,被自殺,被失踪、被關押…… 我們反應迅速的幸運兒得以流亡海外,我們有些在海外流離失所,因所有資金被中共凍結,要求他們回中國解鎖領取,他們不得不上街乞討,如果中國一直被黑暗籠罩,他們可能要永遠與家人分離。在中國人民福利為零,目前社會失業率極速上升,看不起病死掉,吃不好飯發育不良的孩子不可能被外界看到,因為中國所有傳播平台由中共掌握,謊言假貨,毒食品,毒害著一代又一代中國人…! 中共一向喜歡向唯利是圖的懶漢窮國大撒幣,以此換取這些流氓國家對中共大一統的支持,禁止一切進步與文明的發聲,中共在種種可悲中即將走向末路盡頭… 中共土匪政權一直存在且從未想著解決的眾多問題!將中國社會帶去深淵的下坡路上,中國正在開倒車,意在封鎖重回文革對文明和自由的大屠殺時代!香港被中共邪惡勢力糟蹋的千瘡百孔,香港曾經的輝煌一去不復返,這是一個沒有任何信譽可言的邪惡政權,這是一個皇帝統治的國家,這種政治體制下就是一言堂的國家,下面全是奴才,層層剝削壓迫,習近平又是一個更加邪惡的人,他在位時間越久,中共開倒車的速度越快,中國人民現深陷泥潭無法解脫台灣是華人的最後一片淨土,是華人的希望,我們祈求上帝護佑台灣民主自由走向更文明,更多台灣人民清醒過來,共同抵抗邪惡的壓境,我們更期盼台灣的光亮照耀我們這片土地,照亮我們脫離層層苦難,願上帝救我們不再被謊言蒙蔽,願台灣的民主自由發光發亮,上帝佑護台灣得到一心為台灣的大愛人士,兩岸文明差距的不是一點點,如果你對大陸抱有幻想,你可以此生製造機會來到大陸生活,看一看大陸底層人民的生活,尤其是災難面前的中共政府,作用為零,自己不救助災民,還不允許公益組織救助,因為邪惡有文明相對照,他們心虛心慌,就像台灣的文明會暴露中共霸權的邪惡,不要相信中共,否則我們的今天就是你們的明天。
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帰り道ふたり (淳怜 - 失踪軸パロ - 名家パロ)
視界の端にうつった姿を目で追ったが、違った。全然違った。 (ちがう……) 肌寒いのか暑いのかよく分からない気候だった。東京なら間違いなく上着を脱いでいただろうけれど、脱がなくても別に過ごせる。きっと脱いだら脱いだで少し肌寒くて、結局またカバンを置いて着直す羽目になる。分かっていたから脱がないだけで、ほんの少しの不快感はずっと続いていた。 「大丈夫ですか、日比谷さん」 こちらを振り返って、近藤くんが言う。ここ二ヶ月ですっかり見慣れた、若さばかりが目立つ顔でまばたきした。 「大丈夫ですよね」 日比谷さん大丈夫そうですもんね、と近藤くんは言って、脱いだ上着を邪魔そうに肩に引っ掛けた。袖までまくっている。 「もう戻るだけだからね」 長期出張でも最後の仕事、挨拶回りもようやく終わった。長いホテル暮らしも卒業。最初の一週間ほどは非日常感があって楽しかったけれども、すぐに飽きた。 「明日すぐ帰っちゃうんですか?」 「ああ。あっちで仕事する準備もしないとね」 「勿体無いなぁ。観光チャンスですよ。もみじだってまだ赤くなりきってないから観光客も少なめだって、小木ちゃんも言ってたし」 「少ないって言っても多いよ。小木さんって誰だっけ?」 「経理の女の子ですよ。ちょいぽちゃの」 「へえ」 「どうせ覚えてないでしょ。女泣かせ」 「はは、どうも」 軽く笑って誤魔化す。 今だって歩いていたらスーツケースをごろごろいわせながら歩く外国人とばかりすれ違う。観光地の観光なんて好き好んでするようなものじゃない。興味が無いのならなおさら。 「近藤くんは日曜に帰るんだっけ」 「いや、有給ブチ込んだんで土、日、月と観光して火曜一日寝て水曜から復帰です」 「頑張るなぁ。もうそんなことする体力がないよ」 「またまた。そんな持て余してますみたいな体して」 よく分からないおだて方をされながら、支社に戻る。 もう荷物は片付けてとっくに郵送したし、送迎会も水曜日に済んだ。最後の最後の挨拶回りがはじまる。激励、花束、一言お願いします、の嵐を笑顔で乗り切り、嵐に乗じて飛んできた連絡先つきの紙切れを左のポケットに詰め込んで、ようやく社内巡業を終える頃にはちょうど終業の十分前だった。あと十分でなん��仕事ができるわけでもなし、さっさと引き上げる。ずっと飲み会嫌いを通していたおかげでうるさい視線に晒されるだけで無事退社できた。 「はぁ、終わった。流石にちょっと疲れたな」 「日比谷さん、せっかくだから最後に飲みに行きましょうよ」 「えー……」 支社の人たちには飲み会嫌いで通したが、本社から一緒にきた近藤くんにはそうはいかない。むしろ、淳一の代わりによく酒の席をこなしてくれた。だから嫌な顔はするものの、断ることはしない。明日、朝起きて適当な新幹線で帰れればなにも問題はないのだ。 「ウィスキーのいいとこ知ってるんですよ。日比谷さん好きでしょウィスキー」 「一回もそんなこと言ってないけど」 「好きそうだもん。うィすキ~ぃが、おすきでショ、わう~」 急に歌いだした近藤くんに連れられ、ビジネス街を抜けてしばらく歩く。大通りから一本小道に入ると、別世界のように飲み屋の看板が連なっていた。赤ちょうちんと脂の香り。焼き鳥、ジンギスカン、おでん。かと思えば、看板からして小洒落たバーがぼんやりと明かりを漏らしていたりする。 「ここですよ」 建物と建物の隙間に無理やり押し込んだようなビルに、近藤くんは慣れた様子で入っていく。飲み会をこなし仕事をしながらプライベートも楽しんでいたらしい。若さだなぁ、と思う。二十四歳、何をしていただろう。まだそう遠くない過去のはずなのによく思い出せない。 男二人が乗っただけで少し気まずくなる狭さのエレベーターで四階にあがると、すぐ店の戸が待っていた。本当にバーなのか疑わしいくらい普通のビルのドアだが、Barと書かれているのだからBarなのだろう。もし㈱ナントカとか、ナントカ事務所とか書かれていたとしてもなんらおかしくない。そっちのほうがずっとしっくりくるドア。店内BGMらしきウッドベースの低い音だけが廊下に伝わってきた。 近藤くんがドアを開けて「こんちわ」と挨拶する。 「二人いいすか。ども」 中の人間と話が終わると、近藤くんが目線だけこっちに寄越��て先に入っていった。入る前に財布だけ確認しておく。 薄暗い店内とオレンジ色の照明、それから、ほんの少しだけ甘い香りがした。鼻につくほどではない。部屋に染み付いたアルコールの香りかもしれない。それを消すためにつけた香りかもしれない。ドアをくぐる一瞬だけ感じたそれが、ひどく懐かしく感じた。 いらっしゃいませ、とずいぶん渋い声で出迎えられる。このいい声も商売道具の一つなのだろう。唇の端をゆるく上げるだけの笑顔も。 「お連れ様もご一緒なんですね」 「そう。アレ残ってますか。この人にも呑んでほしくて」 「ありますよ。最近だとお客様にし��紹介してないですからね、アレは」 促され、カウンターの席に座る。近藤くんはいつものお調子者じみた喋り方を少しだけ湿っぽくして、あっという間に店に馴染んだ。淳一も椅子に座って、よく磨かれたカウンターの木を撫でる。 「そうしてるだけで絵になってずるいな、日比谷さん」 「そうかな。近藤くんの方が馴染んでる感じがするけれども」 話しているうちに、チューリップグラスに注がれたウィスキーが差し出された。くるりとグラスを回して香りを吸い込むと、それだけでくらりとするほど濃い。 「山崎の、」 「二十一年ものです」 「へえ……」 舌先にほんの少し載せて、上顎と舌をすり合わせるようにして味わう。痛いほどしびれるアルコールの奥にウィスキーの旨味があった。別にウィスキーが特別好きというわけではないけれども、接待が多い分知識だけはある。二十一年ならそこそこ値も張るだろう。黙ってまたグラスに口をつけると、近藤くんがこちらを目の端で確認したのが分かった。 「あ、そうだ、マスター。俺こっちの仕事終わっちゃったんですよ。だから月曜の夜に来るのが最後です」 「それは残念ですね……。でもまぁ、東京から通ってくださるでしょう?」 「年一くらいになっちゃうよ。やだなぁ。この出張、俺最高に楽しかった。こっちに異動してきたい」 ちびりちびりとやりながら、二人の会話に耳を傾ける。半年くらいしたら話をして、本気でこっちに未練があるようなら人事に口添えしてやってもいいかもしれない、なんてことを考えた。 カウンターの天板を撫でる。よく磨かれてワックスの染み込んだ木は、さらりとしているのにどこかしっとりとした感じがして、妙に肌に馴染んだ。絶対にしないけれど、頬をつければ気持ちがよさそうだ。それを手で、撫でる。記憶にある肌の感触と似ていた。そう、温度も。本当に血が通っているのか不思議なくらい、ひやりとしていた。あの肌。 天板を思い切り殴りつける自分を想像した。きっと手が痛くなって終わりだ。カウンターは白白しくそこに存在しているだけで、傷一つつかないだろう。鬱血痕ができるのも、淳一の手だけ。薄い脇腹に青黒い痕がくっきりと浮かんで、花みたいに見えたりはしない。 「わ、やらしーんだ、日比谷さん」 撫で回しちゃって。奥さん思い出してるんですか? ひゅーひゅー、と囃し立てるように近藤くんが言った。 くるりとチューリップグラスを回す。くらりと頭の中も回る。酔い。自分が酔っていることを理解した。飲みつけない酒、しかも熟成して濃くなっているものを早くに進めすぎたのかもしれない。現に、近藤くんのグラスにはまだ四分の三ほど残っているが、自分は逆に四分の三ほど呑んでしまっている。 「……妻じゃないよ」 「わー……お。ガチのやらしいやつじゃないすか。過去形? 現在進行形?」 「過去形……現在進行形……」 一体、どっちだろう。考えてみる。思い出してみる。あの頃のことを。 日比谷怜司のことを。 淳一と同じ日比谷の名字を持つ従兄弟で、同じ年で、兄弟同然に育った。十八歳の夏に、突然失踪するまでは、ずっと一緒にいた。それ以来ずっと探している。 これは過去形なのだろうか。現在進行形なのだろうか。 ふぅ、と小さく吐き出したため息にもアルコールと熱がこもっていた。 「ね、ね、どんな人なんですか」 「悪いけど、やらしい話じゃないよ」 嘘だ。 白々しく嘘をつくのは慣れている。手のひらがはっきりと覚えている。冷えた白い肌の感触。指も覚えている。根本から先まで。熱い内壁は肌から想像できないほど柔らかく、可哀想なほど淳一を拒む。覚えている。忘れられない。何故隣にいないのか、今も理解できない。 空っぽの部屋にそれだけ残された、見覚えのあるピアスを見てから、淳一の時計は壊れはじめてしまったのかもしれない。針が前に進めなかったり、戻っていったり、もう今が本当はいつなのかちっとも分からなくなってしまっている。 裏でごそごそと物音がして、誰かが動く気配があった。 「りょう君?」 マスターが小さく声をかける。と、バックヤードを仕切る黒い布の隙間から、『りょう君』が顔をだした。 「れ、」 いじ。 強烈に脳を揺さぶられる感覚があった。『りょう君』を見た瞬間、目に飛び込んできた情報が鮮烈すぎて、記憶にある日比谷怜司と重なりすぎて、視界が白むほどだった。 呼びかけようとした名前は声になる前に途切れた。『りょう君』がはっと顔をあげてこちらを見たからだ。 目。 くちびる。 喉仏。 いや、そんなパーツの話じゃない。分からないはずがないのだ。何もかもが同じだ。『りょう君』? なんだその呼び名は。怜司だ。 なにもかもすべて日比谷怜司だ。 「……向坂さん、」 怜司が呼びかけると、マスターが動きを止めた。二人の視線が絡む。失礼、と小さく言ってマスターが奥に入っていった。 「日比谷さん? どうしたんですか?」 がた、と奥で物音がした。自分の手元からも。立ち上がっていることにやっと気付く。グラスが倒れて、細い持ち手が折れてしまっていた。 「うわ割れちゃったじゃないですか。どうすんの」 「帰るね」 「は?」 「これ使って。悪いけど店長足止めして」 財布からカードを一枚抜いて手渡す。黒いそれを見て「は!?」と近藤くんは今度こそ大声をあげた。でも帰ってこない。奥からはマスターも『りょう君』も帰ってこなかった。バックヤードはさきほどの物音を最後に静まり返っている。 足早に店を出て、階段を駆け下りる。上から「ちょっと、お客さん!」と男の大声がして踊り場に響き渡った。構わない。二段飛ばしであっという間に駆け下りる。 ビルから表通りに出ると、すぐに人ひとり分の道とも言えない隙間に入り込む。客と同じ表から入ってこなかったのだから、どこかに必ず裏口がある。おそらくゴミもためておけるような。 隙間を抜けて、少し太めの隙間にたどり着く。消防法など知りもしない場所には、まだ空のポリバケツがぽつりとあるだけだった。街灯もなく、ビル各々の裏口灯が薄暗くドア周りだけを照らしている。 (……左、右……) ドアから出て左側の道には淳一がいた。だから右しかない。しかしそんなに早く降りて来られるだろうか? 『りょう君』が怜司なら、きっと、気持ちがいくら逸っても、体が上手く動かないはずだ。だってそうした。目があったら上手く動けなくなるように、淳一がしたのだ。 てとてん。 と、アプリがメッセージを受信する音がした。 すぐそばの扉の裏からだった。 ドアノブが回る。 てとてん、てとてん。 やけに緊迫したリズムでアプリが鳴る。ドアの隙間が広くなって、聞こえる音が大きくなる。骨ばった手が、腕が、顔が現れて、俯いてスマホを眺めていた目が上を向く。 「怜司」 びくりと『りょう君』が震えて、動きを止めた。 『りょう君』は少しの間固まると、はく、と唇を開け閉めして、それからスマホをポケットに突っ込んだ。ドアを大きく開け、こちらを一瞥しながら普通に歩み去ろうとする。 「来たばっかりなのにもう帰るの? お兄さん」 わざと呼び方をぼかす。後をついていこうとすると、逆に『りょう君』は足を止めた。 「……」 振り向きもしない。目線だけこちらに投げかけてくる。子供ならそれだけで泣き出しそうな睨み方だが、心がぽっと嬉しくなった。こっちを見た。それだけで口元が緩む。 「もしかしてシフト間違えて出勤しちゃった? じゃあこの後別の店で飲もう。お金なら払うし」 「……」 「体調が悪いならタクシーで送るよ」 「……」 頑なに喋らない。『りょう君』が歩きだすと同じように歩くが、数歩いくとまた立ち止まる。分かるよ。表通りに出ようと道を曲がると細すぎて速度が出ないし、直線なら走っても勝てないと思ってるんだろ。五十メートル走の間は俺の方が早かったもんな。心の中で話しかける。でももし近藤くんが足止めしてくれているにしても、そんなに時間はない。 逃げられては困るし、でもここは早く立ち去らないと。困ったな。頭の中ばかり流暢で、現実の自分たちは見つめ合ったまま棒立ちするばかりだ。こうしていても仕方ない。 「怜司、ホテル行くよ」 「……は?」 やっと喋った。久しぶりに聞いた怜司の声は少し低くなって掠れていた。酒焼けでもしているのだろうか。店員が飲まされるような店ではないと思ったが、まぁいい、もうあの店で働くこともなくなるのだ。それに少し枯れた声も耳馴染みが良くて心地いい。 「何言って」 「このままはいさようならで済むと思ってる? まさかまだ『りょう君』で誤魔化せるつもりでいるのかな。まぁお前が『りょう君』だろうと俺は構わないよ。どちらにせよ連れて行くし」 「意味が」 「分かるでしょ。何も難しいこと言ってないから」 はい、と手を差し出すと、怜司はひくりと痙攣するように震えたあと、一瞬でこちらに背を向けた。背。走り去ろうとする体。筋肉の動き。それを見た瞬間、反射的に手を伸ばしていた。ボディバッグの紐を掴んで横に引く。怜司の細い体がぐらついて、脇腹にきれいな空間ができたの��蹴った。スマホが落ちる。ぐ、という小さなうめき声を上げた怜司は壁に叩きつけられて、可愛いなと思う。わざと今蹴ったところを手で押しながら足の間に膝を入れた。 「怜司」 どこを見たらいいのか分からないのだろう、見開いたままの目はマンホールの方を見ていて、口の前にかざされた両手はいつ悲鳴が出ても自分で押さえつけられるように準備しているみたいだった。震えることも忘れるほど体が硬直している。可哀想。失踪する前の怜司はずっとこうだった。息もできない怜司。懐かしさで胸がいっぱいになる。その首元の匂いを吸い込んで肺を満たしてしまいたかった。 「……手つないで行こ。子供のころみたいに」 怜司はうなずかなかったが、拒否もしなかった。逃げられては困るので手首を掴んで夜の町を歩いた。怜司の体はときどき動かなくなって、そのたび紐を引くみたいに力いっぱい引っ張ってやらないといけなかった。
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頭の中に「やばい」しか浮かばない。
この十年が水の泡だ。どうして淳一がここに。どうやって逃げたらいい? そういう考えも浮かんではくるけれど、それよりも圧倒的にやはり、「やばい」。
きつく握りしめられた手首は血が止まって痺れ始めているし、骨もみしみしと音を立てている。前を歩く淳一はとても楽しそうで、もしかして握っているのは自分の手首じゃなくて風船みたいなものなんじゃないだろうかと思うほどだった。 停止した思考の外側が拒否反応を起こしてときどき体が動かなくなる。そのたび肩から腕が抜けそうなほど強く手を引かれた。 しばらく歩いた後タクシーに連れ込まれて、たどり着いたのは普通のホテルだった。ラブホに連れ込まれるかもしれないと思っていたが、ホテルなら逃げられる確率がだいぶあがる。 いや、逃げてどうする? スマホはどこかで落としてしまった。たぶん蹴られたときだ。思い切り蹴りやがって、昼夜逆転生活と貧乏続きで弱りきった体はすでに悲鳴をあげつつある。これで十八のときみたいに手酷くやられたら、死――にはしないけど、気絶したりするかもしれない。それだけはまずい。十年以上ぶりに再開した従兄弟は、昔よりもずっと危ういところがキレてしまったように見えた。 フロントに入った淳一を、スタッフたちが出迎える。ずいぶんと親しげで誰もが淳一の顔を覚えているようだった。長い連泊でもしていたのかもしれない。 親戚と久しぶりに会った。今の部屋をチェックアウトして二人部屋を取り直すか、二人分の金額を払うから今の部屋に二人で泊まらせてくれ。 嘘のような本当のような、明らかに情報と「これからの予定」が足らない説明を淳一がぺらぺらと述べる。フロント係は、今日は満室で部屋替えは無理、本当はダメだが日比谷様なので特別に、と言って一泊だけ一人部屋を二人で使わせてくれることになった。ありがたいことで。何も喋るつもりはなかったが、フロントにいる間中、手の力がきつくなったのでおとなしく黙っていた。ここで助けてください警察を��んでくださいと大声で叫んでいれ���逃げられるかもしれないのに。 「ありがとう。ルームサービスは多めに頼んでも?」 「もちろん、お願いします」 ボーイに促され、歩きだす。最初から強く手を引かれ、少しだけつんのめった。 「あ、ごめん。痛かった?」 さらりと謝ってくる。返事も目を合わせることもしないでいると、他のスタッフがちらちらとこちらを見ていることに気づいた。注目されている。「特別な日比谷様」の連れが気になるのだろう。 俯いてエレベーターに乗り込む。最上階ではないが、それより二つ下の結構いい位置に淳一の部屋はあった。カードキーで解錠し、ドアを開けるなり中に放り込まれた。流石に床に倒れ込みはしなかったが、危うくそうなりそうな勢い。振り返って睨みつける。 「おい」 「そこのドアがシャワーだから」 淳一は今入ってきたドアに背を預けて、腕を組んでいた。 適当に置かれたビジネスバッグも、上着すら脱がずそのままで、長過ぎる足を邪魔そうに交差させて、一歩も動かずそこにいた。 「使っていいよ」 「……」 「なに? いいんだよ俺は、このまましても。全然普通に抱けるし。ただ、久しぶりだから準備したほうが怜司が楽だと思うけれど」 「……」 離された腕に血が通い始めて、そこが心臓になったみたいにばくばくと脈打ちはじめた。痺れは二の腕までのぼり、びく、とたまに筋肉が跳ねる。 「非常口は廊下の突き当り。この部屋の窓は全部はめ殺しで強化ガラスだよ。気になるなら見てくれば」 「……いらねえよ」 逃げ場はないし逃さない、と回りくどく言われ、だんだん腹がたってきた。主導権を握ったつもりでいるのがムカつく。 そっちがその気ならと、ボディバッグを外して部屋の方へ投げ捨て、靴を脱いだ。靴下も。ベルトを外して、ズボンのボタン、ジッパー、そこで一旦手を止めて上着を思い切り脱ぐ。 床に叩きつけて淳一を見ると、ぽかんと口を開けてこちらを見ていた。間抜け面を見て少し気が晴れたので、風呂場のドアを開けて中にすべりこむ。普通に脱衣所があった。ユニットバスだと思っていたがあの淳一がユニットバスなわけないよなとすぐ思い至った。恥ずかしい。恥ずかしいがここまでやってしまったので、服を脱いでは外に投げた。最後に下着も外して放り出す。頭の中でだけ「ばーかばーか」と言っておいた。 「ふん」 普通のホテルの普通の風呂場だったが、さすがホテルというべきか、きちんと清掃されていて照明が明るかった。明るい。手首にはくっきりと淳一の手の跡がついていて、これじゃあ包帯でも巻いて隠さないととても出勤できそうになかった。というかこの手首ではシェイカーがきちんと振れないから仕事にならないだろう。コックをひねって水を出す。あっという間に温度があがって湯気があがりはじめる。全裸の自分と風呂場の温度差で体がぶるりと震え、なんだかまたむかっ腹がたってきた。今ここに淳一がいないからだろうけれども、素直に怒りが湧いてくる。なんだ。なんなんだ今になって。最高に腹立つ。ようやく、ようやく日比谷怜司じゃない生活が落ち着いてきたところだったのに。 めちゃくちゃ長風呂することにして、湯船に栓をした。少し熱め。自分好みの温度で湯を張る。湯を張りながらシャワーを使うことができるようで、そのまま体も頭も思う存分洗って、まぁ、その、下の? そういう部分も一応念のためにアレした。まだ手順を覚えている自分が嫌になる。何回か繰り返してよしとなったところで、腹もくくれた。湯のたまり具合を確認して風呂を出る。淳一はまだドアを背にしたまま、誰かと電話をしていた。 「うん。ありがとう。本当に助かった。今は一緒にいるよ」 裸で、一切体を拭かずに出てきた怜司を見て、淳一は少しだけ目を見開いた。声も普通だったしびくついたりもしなかったが、目だけは大いに動揺していた。よしよし。 あっうん店長さんにもよろしく、などと意味のわからないことを言いながら慌てて会話を切り上げた淳一は、電話を切るなり目を吊り上げた。お前が店長によろしく言ってどうするというのだ。 「ちょっと。なんでびしょ濡れなわけ?」 「お前も入れ、風呂」 「は?」 「早く入ってこいよ」 言い捨てて風呂場に戻る。湯船はまだ満杯ではなかったけれど、浸かると肩下くらいまでは浸かれるようになっていた。思わずほっと全身の力が抜ける。熱め。じんわりと全身に熱が入り込んでくる。 湯船なんて何年ぶりだろう。家を出てからは入ってないと思うから、とりあえず十年は絶対入っていない。 浴室のすりガラスに人影がうつった。でかい図体がぎこちなくもぞもぞしている。 「お前服着たまま風呂入るタイプだっけ?」 そんなタイプが日本人に存在するのか知らないが、声をかけると淳一は風呂の向こうで固まった。そのイレギュラーへの対応力のなさは「日比谷」としてどうなのだと思わなくもないが、どうせ外ではそつなくやるのだろう。そういうやつだ。やがてもぞもぞと服を脱ぐ気配がする。すりガラス越しの体が黒から肌色に変わっていく。なんで人間って裸だと間抜けなのだろう。湯船に浮かんでいるなんてなおさら間抜けなはずなので、今の状況でいうと相対的に怜司の方が間抜けになるわけだが。 「ねえ」 「早く」 比較的大きい声で言うと、当たり前だが風呂の中でも大きく響いた。なにか言おうとしていた淳一はまた数秒固まって、それから風呂の戸を開ける。なんでタオルで前を隠しているのか。どうして若干恥じらった顔をしているのか。バカ? 裸を恥じるより人に向かっていきなり抱かれる準備をしろと言ったり、云年ぶりに再会した従兄弟に向かって普通に抱けるけどなどとのたまう自分を恥じてほしい。 「あのさ怜司」 「その状態で会話続けるか普通?」 なってないヴィーナスの誕生のモノマネみたいなポーズをした淳一は、自分の言葉が何度も遮られたせいかさすがにむっとして、それから桶を掴んだ。ざばりとかけ湯をして、 「熱っっっっっつ!」 「大げさ」 「熱いでしょ! バカなんじゃないの?」 文句を言いながらもつま先からゆっくりと湯船に身��沈めてきた。一気にいかないから余計熱いのに。湯船から盛大に湯がこぼれ落ちていって、浴槽の縁ぎりぎりまで満杯になった。ホテルの風呂とはいえそんなにでかくない浴槽に、デカブツの男二人が入るとそりゃもう狭い。ケツとケツがくっつくくらいに。 淳一は湯の温度が堪えるのか、肩まで浸かりながらも「う~……」なんて唸っている。子供の頃と同じ顔。あぁ、変わらないな、と思ってしまった。変わらないのは困るのだ。淳一が変わらなかったから、怜司は日比谷に帰ることができなくなってしまった。 「風呂上がったら、電話貸してくれ」 「……さっきの店長?」 「涼子ちゃんに電話する。心配してるだろうから」 そう言うと、淳一は一瞬固まったあと、「あ~……」と両手で顔を覆った。どうやら一言で全て察したらしい。 「だから『りょう君』なわけ?」 「……怜司じゃない名前が必要だったからな」 涼子ちゃんには本当に世話になった。 高校二年のはじめ辺りの頃、突然涼子ちゃんが遊びにきた。あの頃は淳一から痛めつけられた傷を全部隠し通せているつもりだったが、やはり家族にはバレていたのだと思う。涼子ちゃんはなんでもない世間話をしていたかと思うと、あっという間に怜司の怪我を暴いてみせた。 「涼子ちゃん、探偵雇ってた」 涼子ちゃんというより、日比谷の差金だろうとは思う。怜司がまっすぐ家に帰っていることも、喧嘩をしていないことも、なのに怪我が増えていくことも、すべて調べがついていた。怜司の性格を知り尽くしていたから、物証でもないと説得できないと思ったのかもしれない。あるいは、母に泣かれたのかもしれない。涼子ちゃんは少し、母の……なんだろう、王子様でありたいみたいなところがあったから。 わけも分からず半裸に剥かれて、素行“良”の証拠も突きつけられて、もうどうしたらいいのか分からなかった。気がつけば全部喋っていた。 淳一に殴られていること。 淳一に蹴られていること。 淳一に犯されていること。 最後のは言う必要はなかったのかもしれない。けれども首から下についた痕の中にはそういう予感を覚えさせるものもあったから、誤魔化しきれなかったと思う。 涼子ちゃんはだんだんと表情を失っていき、そして、その日から少しずつ逃げる準備を進めてくれた。距離を置けとか、冷たくしろ、などとアドバイスをもらってそうしたが、淳一はちっとも変わらなくて、抵抗したりするとひどくなる。逃げるまでに半年かかった。その間に淳一がなんとか落ち着いてくれたら逃げずに済んだが、涼子ちゃんが下した判断は決行だった。誰に相談することもできず、そして何より、怜司が、淳一とのあれこれを両親にすら知られたくなくて、涼子ちゃんに縋って、頼んで、なんとか誰にもバレずに北への電車に乗ることができたのだった。 「……二十八のときぐらいに……」 ぽつりと、淳一が呟いた。自分の膝小僧を見つめて、ぼそぼそと続ける。 「きっとどこかで生きてるとか、諦めないで探そうとか言ってくれてた親戚が、みんな急に怜司は死んだ、探すだけ無駄だ、って言い出したんだ」 「……それは」 誰かが、真実を知ったのだ。 それも日比谷の上の方。 可能性があるのは大爺様か婆様か、��るいは大叔父か。その辺の人間でないと、そこまで全員揃えて手のひらを返しはしない。逆に言えば、上の人間が「怜司は死んだ」と言いさえすれば、日比谷怜司は死んだことになる。誰もそれを疑ったり、反論したりしない。 殴った殴られたまでを知っているのか、抱いた抱かれたまでを知っているのかはさすがに分からないけれど、誰かに知られて、誰かが知らせたのだ。 「家裁から失踪宣告を出してもらったのもその時期だった気がする」 失踪後、七年以上経ち、家族が望んだ場合、家庭裁判所が失踪宣告を出してくれる。この失踪者は一応死にました、ということにして、死後の手続きがとれるようになるのだ。家族が失踪宣告を願い出て受理され、名実ともに日比谷怜司は死んだことになった。らしい。 「失踪宣告? 聞いてない」 「そりゃ、隠されたんだろ」 つまり淳一は、まだ日比谷から“大丈夫”とみなされていないのだ。“大丈夫”なら、怜司の失踪宣告も伝えられたはず。一族の人間が一人消えることを、『これからの日比谷』に教えないはずがない。 考えてみれば涼子ちゃんが父に相談もなく怜司を失踪させるというのもおかしい。どこまで話したかはわからないが、了承は得ているはずだ。情報は共有されてこそ強くなる。 「……俺が怜司に何をしたのか、上の人間は知ってるってことか……」 「……まぁ、」 その上でおそらく、日比谷怜司は、日比谷から切られた。 日比谷淳一という立派な『これからの日比谷』の人生に汚点をつけるかもしれない存在だと思われたのだと思う。死ぬような痛めつけられ方をしたことはないが、殴る蹴るを繰り返すうちに、うっかり殺してしまうこともあるかもしれない。あるいは、怜司がうっかり死んだとき、体に暴力の跡があっては困る。涼子ちゃんが逃し屋役を買って出てくれなかったら、……どうなっていただろう。精神錯乱扱いされてどこかの施設にでも放り込まれていたかもしれない。あり得る。昔は都合の悪い人間を「狐憑き」として隔離していたというし。 淳一はすっかり頭を抱えて黙りこくっていた。一族郎党に自分のしでかしたことがバレていたなんて、しかもコトがコトだ。今頭の中では「どうしよう」が駆け巡っていることだろう。 ややあって、肌の色が首まですっかり赤くなった頃、淳一はようやく口を開いた。 「れいじ、俺と一緒に死んで……」 「俺はそういうなんの解決にもならないつまんねー映画のオチみたいなのは嫌いだ」 「だって」 「死にたくもないくせに死にたいって言うな」 「だって怜司が!」 怜司が……怜司……とぼそぼそ言いながら俯いてしまう。そろそろ自分ものぼせてきた。淳一も一旦冷まさないとまずそうだ。 「おい、上がるぞ」 「無理だ……このまま溶けて消えたい……」 「先輩として教えてやるよ。人ひとりが消えるのにはめちゃくちゃ金と人脈と時間がかかる」 しかも上手くいかなかった。 再び顔を合わせて、お互いを認識してしまった。 このあとどうなるのかを考えないといけないのだ。自分も。淳一も。
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『……淳ちゃん、大丈夫なの?』
電話口の心配そうな声にうんと答えながら、淳一の心配をするあたりさすが分かってるよなぁと思う。 「最初ヤバかったけど……なんとか落ち着いた」 『そう。手は出されてないのね?』 「手? あー。うん」 一応、手は出されてない。足が飛んできたけど。 バスローブをめくって確認すると、うっすらと赤青混じりの痣ができていた。靴の輪郭がよく分かる。 のぼせた淳一は裸のままベッドに転がして、冷蔵庫から出した缶ビールを両脇に挟んでおいた。ふるちんがなんとも情けなく、バスローブを布団代わりにかけてある。 『まさかそっちに出張してるなんて知らなくて。会うとは思ってなかった。油断した』 「いいよ。いつまでも涼子ちゃんにおんぶにだっこってわけにいかないし」 『ばか。甥っ子の一人や二人いつまでもおんぶでだっこできるっての』 「はは、逞し」 確認しておいたホテルの名前と部屋番号を伝える。もしこのあと淳一とこじれてなにか、死ぬようなことがあっても、涼子ちゃんならここから必ず辿ってくれるはずだ。 「一回、ちゃんと、話す……話してみる」 『なにかされそうにな���たら全力で金玉潰しな』 「大事な日比谷の血が終わっちゃうだろ」 『ンなもん治す治す。なんのための医者よ。それにもう産んでんだから大丈夫』 「……そっか」 気付いていはいた。左の薬指。嫁をもらったら子供を作らないわけにいかないだろうことも理解している。けれどもやっぱり、実際にいると知らされると、少しだけ体がぎくりとした。
涼子ちゃんとの電話を終え、ベッドまで戻る。淳一はまだ大の字になって転がっていた。そばに腰を下ろして、赤みの引かないデコに触る。 「水飲めるか?」 「……れいじ」 うっすらと目が開く。弱々しい声で、そう、こいつは基本的に健康なので、風邪なんか引いたりするとすぐこういう声を出すのだった。バスローブの袖を引かれる。 「帰ってきて。もうどこにも行かないで、怜司」 「……」 脇から缶ビールを一本抜いて、プルタブを起こす。ぬるい炭酸とアルコール。袖を引いてくる手に、やはり、プラチナが光っている。 今の淳一は結婚して、子供もいて、仕事も順調か知らないが靴までブランドで揃えるくらいの稼ぎがある。 片や怜司はといえば、戸籍上は死んでいて、妻子どころか恋人もいなくて、好きな仕事をしているけれども稼ぎはギリギリ。肩も腰も冷えにすらやられる歳になってきたし、だからといって独立して自分の店を持つこともできない。せめて昼の仕事に転職したいと思ったところで、やはり所得税だとか、厚生年金とか、そういうのも生きている人間としての証明がないと難しいのだ。今の怜司は、自分がすでに死んでるらしいことしか証明できない。 「不可能、だろ」 「嫌だじゃなくて?」 不可能だ。嫌だとか良いとかそれ以前の問題。 「俺は日比谷には帰れない。原因不明の失踪者で、身元不明の浮浪人だ」 「失踪宣告は確か取り消せるはずだ」 「失踪者じゃなくなったとしても日比谷に帰れるはずないだろ。最終学歴中卒のバーテンダーが日比谷から生まれるか? 生まれない。そいつはこの世に生まれなかったことになる」 「……それは、そうだけれど」 まぁ高校は通信制のところを出させてもらったし大卒も働きながら通信でとったのだが、日比谷からしたら中卒と同じだ。淳一はよほどショックなのか「中卒……怜侍が、中卒……」とぶつぶつ繰り返している。 確認しないといけないことはまだある。 「お前の『帰ってきて』、はどういう状態を指すんだ」 例えば都合のいいときに好きに殴って抱ける存在なのか。友達か。親友か? 日比谷怜司はもうこの世に存在しない。日比谷じゃなく怜司でもない『りょう君』が、どこにも行かずにそばにいたら困るのは淳一のはずだ。 「お前が求めてる“日比谷を共に歩いていく怜司”は本当に死んだんだぞ」 昔。淳一が何故自分を殴るのかたまに考えることがあって、そういうとき決まってたどりつく答えがあった。淳一は“理想の日比谷怜司”を心の中に持っていて、それとズレたことを怜司がするのが許せないのだ。だから殴る。だから犯す。怜司が“理想の怜司”ではないから。 高校のランクを下げて、誰かの理想になるよう頑張る人生からは降りたつもりだった。けれども淳一だけは執拗に、怜司を“理想の怜司”に仕立て上げようと、必死に食らいついてきた。命の危険を感じるほどに。 「分からない」 淳一はぼんやりと言った。全裸で腰にバスローブだけかけられて、脇には缶ビール。ずいぶん間抜けな絵面なのにそれでもどこか絵になるのは、本当にずるいなと思う。半分呑んだビールを黙って脇に差しこむ。 「でも、もう怜司と会えないのは嫌だ。絶対に……」 「全部言え、もう。俺にどうしてほしいのか言え。叶えないかもしれないけど」 正直怜司も、どうしたらいいのか分からない。このまま淳一と二度と会わない生活を続けるのなら、住処を変えて、職場を変えて、もう一度失踪しなければならない。淳一は追ってくる。生きていると知れた今、次はどんな噂が流れようと死体を見るまで諦めないだろう。正直そんな金はどこにもないし、協力者が涼子ちゃんだとバレた今、今度こそ一人の力で失踪しなければならなくなった。次見つかったら……どうなるか想像もできない。 できれば今自分のペースに引っ張り込めている間に穏便に収めたい。 「怜司に……どうしてほしいか……」 淳一は自分の指の隙間から照明を眺めていて、肌の色も少し薄くなってきたようだった。冷蔵庫で冷やしておいたタオルを出してきて、バスローブと共に渡す。淳一はバスローブを布団代わりにかぶって、タオルで顔を覆った。 「なんのために俺を探し回ってたんだよ」 「会うため」 「会ってどうする」 「どうするつもりもない。会いたいと思っただけだ。怜司に会えないのはおかしい」 「人のことさんざんぼこすか殴って蹴ってしておいてか」 「あれは……」 淳一は押し黙って、タオルをちょっとだけずらしてこっちを見た。けれどまたすぐタオルの下に隠れてしまう。 「あれについては何も、言え、違うな、言わない。謝ることもしないし弁解もしないしあのときの気持ちとかを説明するつもりもない」 「上等だな」 「でも」 ふー……と細く長い息を吐いてから、淳一は顔からタオルを外した。 「もう二度としない」 「……」 それが信じられるなら十年以上も逃げていないのだが、どうにも信じたい気持ちにさせる言い方だった。久しぶりに見た、馴染みの顔の効果もあるのかもしれない��� 淳一は自分の脇に挟んでいたビールをとると、体を起こしてぐいと一息に飲んだ。空き缶を投げられて、受け取る。ゴミ箱へ。我ながらスムーズに意思疎通がとれすぎて怖い。 淳一は立ち上がってバスローブをきっちりと着直した。けれど、結局再びベッドに倒れ込む。ぼふ。 「あー……こんなはずじゃなかったのに」 「俺のセリフだっつの」 「怜司はどうしたかったの?」 「は?」問われている意味がよく分からなかった。どうしたかったって、会いたくなかった。二度と。だって会ったら許してしまう。今だってこんなに普通に会話してしまっているのに。まるで最後に話したときの続きだ。部屋に連れ込んで殴るとき以外は、こんな風に普通に会話していた。友達よりも付き合いが深くて、兄弟よりも少しだけ遠い二人のままだった。 会ったら……こうなることは、分かっていた。怜司だって根本のところで、淳一を拒絶なんてできない。周りの力を借りて無理矢理離れないと、あのままどうしようもなくなって二人終わっていただろう。 「このまま二度と俺と会わないで、俺の影におびえて、いない俺から隠れて、逃げて、そうやって生きていくつもりだったの」 「……それは」 ずっと日陰者で、戸籍上は死んでいるから結婚もできないし、恋愛もそれで気が引けてできなかった。戸籍のない人間なんて、いない、とは当事者として言えないし、そういう人たちのネットワークもあるけれど、マイノリティの中のマイノリティだ。死んでるはずの生きた人間はもっと少ない。 三十一歳。 感じてはいた。考えそうになることもあった。いつまでこうしているのか。涼子ちゃんから一文字もらって「涼」になってから、感じるのは人生のどん詰まりばかりだった。 今更まっとうに生きるのか? (……日比谷から逃げた俺が?) そうだ。怜司が逃げたのは、淳一からだけじゃない。日比谷からも逃げた。ついさっきまで普通に会話していた人間に突然殴られたり服を脱がされて体を触られたり、あるいは強制的に女役をやらされたりしながら、日比谷の男として生きていくことはとてもできなかった。次男のとはいえ一人息子の長男だ。怜司にも淳一にも同じだけの期待がかかった。淳一は怜司の保険だったし怜司は淳一の保険だった。二人でセッサタクマしてヒビウエヲメザスのが爺さん連中の望む自分たちの姿だ。とてもついていける思考回路じゃない。別に淳一からのあれそれがなかったとしても、そうそうに道化をやって見限ってもらうつもりでいた。生き物として家柄と相性が悪い。 「どうするつもりだったんだろうな、俺も」 「なんだ……一緒か」 怜司と一緒かぁ。 淳一は呟いて、ごろりと寝返りを打つ。 息を吸って吐くほどの間、心地いい沈黙があった。 「……大八木の爺様、覚えてる?」 「大八木……?」 「あー、奥さんが早くに亡くなって、子供いなくて」 「仙人みたいな爺さんか」 亡くなった奥さん一筋で後妻をとらなかったから、大爺様とかなりこっぴどい喧嘩をして、勘当されたと聞いている。親戚の会合にも参加を許されていなくて、一年のほとんどは引きこもっている、らしい。子供の頃に一度挨拶に行ったきりだ。 「まだ生きてたのか」 「死んだ��。で、爺様のマンションなんだけど、俺がもらった」 「は? なんで?」 「はした金にしかならないから、らしい」 確かに大八木の爺さんが持っていたのは単身向けのあまり大きいとは言えないマンションだが、近くに国立大学があったはずだ。立地がよく空きが出ないから、大儲けはできなくても働かずに生きていくくらいの金は入ってくる。 「待て。払いも引き受けたのか?」 「済ませてたよ。さすが勘当されても日比谷の人間だ。金を転がすのはうまかったみたい」 「へえ……」 大八木の爺様は、寂しいと顔に書いてあるような独居老人だった記憶がある。そうか、死んだのか。結局ずっと一人で生きて、一人で死んだ。日比谷から勘当された日比谷として。 そういう生き方も、元手さえあればできたのかもしれない。 「……管理人を探してる」 「おい」 それはなしだろ。と、言おうとしたが、思ったよりずっと真剣な目がこちらを見つめているのに気付いてしまった。 「だめ?」 「ダメだろ……普通に」 即答できた自分を褒めたい。 「なんでお前の世話で生きていかなきゃならないんだよ」 「いい案だと思ったのにな」 「全然よくない」 それじゃあまるでヒモか愛人か内縁の妻か、要するに二人目さんだ。マンションの管理人として雇われて、部屋も一部屋もらって、給料もらって、家賃は免除してもらう。二十四時間中八時間寝ても残りの時間を持て余す。いつ淳一がくるのかだけを考えて部屋で一人待つ暮らし。それが似合う人間もそれを望む人間もいるだろうけど、怜司は違う。 「じゃあどうする?」 どうするのか。どうしたいのか自分は。長らく目をそらし続けてきた意思確認が、まさか淳一から投げられるとは。 「……生き返りたい、とは、思う」 淳一から逃げたいのか、と訊かれると、難しい。殴られないなら、逃げる必要はない。殴られるなら普通にまた逃げる。いま一番強く願うのは、生きている人間として生きていたいという、なんだか当たり前すぎてぐちゃぐちゃな感情だった。死んだ人間として生きていくよりも、生きている人間として生きていく方がスッキリする。じめじめしない。何より、都合がいい。この世界は生者の街だから、生者に都合のいいようにすべてが作られている。死人のふりをして生きていくのは心臓に堪える。 「お前が俺に何もしないなら」 ぐ、と淳一の喉の奥で、音にならない音がした。喉仏が大きく動く。 「……日比谷に戻ってくる?」 「一旦。それですぐ分籍してもらう」 「分籍? なんで」 「だから日比谷にのうのうと帰るなんてできないって言ってるだろ」 分籍、勘当、なんでもいい。日比谷に縁を切ってもらうのだ。向こうも喜んでしてくれると思う。 「どっかの家に養子に入って、もっかい大学行く。で、起業」 怜司の履歴書では、どこに行っても書類審査をパスできない。面接で「十八歳から三十一歳まで失踪してたと書いてあるけど、どこへ?」「ふらふらしていました」なんてやりとりをした人間を誰が雇うだろう。怜司自身、自分を採用するような会社は疑わしいとすら思う。 「起業って何するわけ」 「……子供向けのプログラミング塾、とか……そしたらどっかの産業大とかの方がいいのか。経済学部いくつもりだったけど……それか専門学校だな。鍼灸大学いって鍼灸師になるとか」 伝統工芸系も考えたけれど、金の心配が出そうな職はだめだ。金に困ったところで、怜司には頭を下げにいく先がない。 とにかく、淳一がもう“大丈夫”なら、道は選びたい放題なのだ。多少の困難はあるだろうけれど、死んでいるよりずっといい。 淳一を見下ろす。が、淳一は目を合わせようとせず顔を少しだけずらした。 「俺は……怜司に、昔みたいにしたい」 「ハイさよーなら」 「待て! 違う! 違うから!」 「うわ」 どんな手足の長さならこの距離で捕まるんだ。しっかりと握られた手が引かれ、ベッドに倒れる。ぼふ。ベッド。久しぶりだ。ずっと布団で生活していたから。反発で体が浮く感覚に、一瞬状況を忘れてしまう。 切羽詰まったような顔をして、淳一がこちらを見下ろしていた。顔の両脇につかれた手と、照明を背負って影になった姿が、なにもかも“そういう感じ”だった。 「殴るとか蹴るとかじゃなくて、“こういう”」 頬から顎に向かって指がすべる。ためらいがちに見せておきながらも、完全に触る気の親指が、唇のすぐそばをくすぐってきた。抱くと言われたし自分も風呂でアレなどしてしまったわけだが、いざ自分の上に乗っかられるという状態になると頭の隅から「は?」が湧き出してきてあっという間��思考を埋め尽くしていく。は? まじで、は? なんなのお前? だが同時に、ここで拒否したら何がどうなるのか分からない、という不安も腹の下から湧いてくる。この角度。この大勢。覚えている。こうなったらもう、終わるまでじっと待つほかなかった。 目をつぶることを促すためにすりすりとくすぐってくる親指を、振り払ったらどうなるだろう。記憶の中の淳一なら目つきが急に変わって殴られる。顔を庇おうとするともっと酷くなる。言葉が一切なくなる。怒鳴りつけない代わりに、喉から出てくるすべてを押さえつけて出さないようにして、手と足だけでなぶられる。ようやく言葉が出はじめるのは、服を脱がされ散々体を弄り回されたあとだ。 体が、拒むことを恐れる。 こんな体にしたくせに、何を急に甘ったるくしてるんだ。“こういう”雰囲気になったことなんて、一秒だってないじゃないか。 振り払えない。でも受け入れられない。いつだって怜司にできるのは精一杯睨みつけることくらいだ。 「俺はお前に無理矢理されたことはあっても合意の上で“こういう”ことになった覚えは一度もない」 親指がぴたりと止まる。歯を食いしばっておくべきか。二つの体の隙間に明確な温度差が生まれて、心臓が馬鹿みたいにうるさい。 「それは……」 「本気ならせいぜい頑張って口説くんだな。俺にフられることも重々承知の上で……いやダメだな? お前結婚してるもんな?」 言いながら気付いた。普通に素に戻って淳一を見上げる。 本気で口説かれたところで、妻子持ちの口説き文句なんて乗ったほうが悪い。危ないところだった。応えた怜司にも慰謝料が発生するやつだ。 「バカ退け絶対にダメだ妻子持ちなんて死んでもいやだ」 「死んでもって」 なんだか本気で傷ついたような声と顔をされて、う、とこちらが詰まる。それでも意地で厚い体を押しのけた。「妻子がいるとは知りませんでした」ならギリギリセーフかもしれないが、さっき涼子ちゃんから教えてもらってしまった。弁護士だって日比谷には揃っている。だめだ。これは絶対にだめなやつだ。 バスローブをことさらきっちり巻き直して、ソファの手すりに座る。物理的な距離も確保しておきたいしいつでも逃げられるようにしておきたい。 淳一はベッドに腰掛けてすっかりしょげていた。子供の頃はむくれることの方が多いやつだったので、意気消沈、みたいな顔をされるとモヤモヤする。 「……離婚……」 「できるのか?」 「できない」 返事は早く、はっきり言い切られた。淳一の言葉ではなくて、「日比谷淳一」としての言葉だ。 「彼女は俺の妻じゃなくて日比谷の嫁だ。帝銀の頭取から預かったんだから、俺はあれを日比谷の嫁として何不自由なく死ぬまで面倒見る義務がある」 離婚は絶対にできない。絞り出すように淳一は言った。 「……まぁ、そうだわな」 ここで「離婚する」とでも言っていれば本当にどうしようもないクズだ。従兄弟を殴って犯して逃げられて、妻子を得たあと再会した従兄弟のために命二つを投げ出すようなら人間として救いがない。 「でも怜司が生きてるのに……怜司がいるのに、」 あの淳一が、悩み苦しんでいる。ぶつぶつと呟きながら、必死に考えている。自分のことなのに他人事みたいに見えた。何を必死になっているのか、頭の中で物事と物事がつながらない。 「俺がこうしてる間にどっかに消えてくれ。待って、行かないで。今考えるから。でも、ああくそ、クソ、……」 「お前、そんなに俺のこと好きだったの」 気づけばそんなことを口走っていた。えっ、と淳一が顔をあげてこっちを見て、怜司もえっと返してしまう。 「俺、怜司のこと好きだったの……?」 「いや知らねえよ」 「えっじゃあ今俺のこと好きって言った?」 「言ってねえよ脳ミソどうしちゃったの?」 さてはこいつ、眠いな。時計を確認すると日付が変わる頃だった。いつもなら客足を見て、日によっては閉店準備をはじめる頃だ。 風呂から上がったままほったらかしにしていた髪もすっかり乾いた。部屋の隅を見れば、蹴散らされた怜司の服が散らかっている。そういえば怜司は怜司で下着もはかずバスローブ一枚なのだ。人のことを、頭の中とはいえさんざん間抜け呼ばわりしたが自分も同じだ。 「とりあえず今日は帰るわ」 「は!? 何、えっ!?」 「お前いつまでこっちいるの? 帰る日に合わせて休みとるから新幹線代貸して」 下着を取りに行って履くと、ズボンにも足を通す。服も着て、バッグの中身を確認する。まぁ家に帰るくらいはできるだろう。 「いやちょっと待って何ほんとに帰ろうとしてんの」 「だって嫌だもんお前の隣で寝るの」 「えっ………………」 「なに?」 よくわからないが固まっている。 「いや駄目だ。絶対どこにも行かせない」 復活は思ったより早かった。 すがさず距離を詰めてきた淳一が、壁に両手をついて、行く手を防がれる。ワー、壁ドンだー、などと頭の中��けで危機感のない自分が囃した。 「俺は妻と子供を幸せにできるけど、俺は怜司がいないと駄目なんだよ」 そこに怜司の幸せが考慮されていないのは淳一らしいというべきところなんだろうか。これから淳一が怜司の隣にいようとしても周りがそれを許さないし、怜司は淳一の隣に立てるように努力するつもりはない。その生き方は日比谷から逃げた段階で途切れた。誰も許さない続きしか待っていないことを、淳一は理解しているのだろうか。 「……明日ミネラルウォーター一杯千円で出してやるから、一〇〇杯飲んでけよ」 バッグから店の名刺を出して渡す。 「ついでに店長にも謝ってお連れさんにも詫びで奢れ。帰る日も確定させてこいよ」 行く手を塞ぐ淳一の、太い腕を払いのける。驚くほどあっさりと外れて、覚悟していた拳は飛んでこなかった。クソ、という小さな呟きを背に出口に向かう。そういえば宿泊料は請求されるのだっけ。いや、そのくらいは甘えても許されるだろう。 靴を履いている間も、背中を蹴られることもなかった。淳一は黙って怜司が身支度を整えるのを見ていた。 じゃあ、と手を振ってドアノブに手をかけたときだった。 「怜司。俺のこと殴って。昔の俺がしたみたいに」 静かに淳一が言った。中学生のときを思い出した。教科書に載っていた走れメロス。淳一、お前は俺のために走ってきたのか。野も山も川も越えて。十三年も。なんていうのは感傷的すぎるか。 だから顔は殴らなかった。とん、と肩を軽く叩く。 「……そんなことして何になるんだよ、バーカ」 ホテルを出ても、淳一は追ってこなかった。
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「サンドイッチ買って。あとビール」 「さっきからどんだけ食ってるか自分で分かってる?」 「あ、ビフカツサンドとビールください。と、これ。にゅうめんも。淳、金」 「……」 怜司が甘えてくる。ほんの小銭の話だけれど、それでも「金」と言われて嬉しいと思う日がくるとは思わなかった。 新幹線に二人並んで座って、外はバカみたいにいい天気で。怜司は受け取ったビフカツサンドにかぶりつきもしゃもしゃと口を動かしている。片手でビールを開けようとするので開けてやった。ビフカツサンドが口元に差し出される。いらない。 「向こうついたらステーキ行こ。久しぶりにあそこの肉食いたい。八階の」 「……いいけどね。全然」 「ステーキは自分で払うよ。新幹線代も返すし」 どうせならカニが食べたいなと思う。時期じゃないから難しいけれども、カニの専門店があるからそこなら食べられるだろう。カニを一生懸命剥いて食べている怜司を想像する。やっぱりカニがいい。 怜司が見つかったことを家に電話して、次の日の昼に電話がかかってきたときにはもうつつがなく全ての準備が整っていた。手続きが煩雑なものも順調に進んでいるらしい。 怜司は、日比谷から嫁に出た深水という人の養子に入ることが決まった。怜司が直筆のサインをして印鑑を押せば、『日比谷』ではなくなる。やはり怜司を日比谷のままにしておくことは難しいらしくて、父も怜司のお父さんも養子に出るのが一番だろうと結論づけたらしい。 深水怜司。もうそうなることが決まったのに、怜司が日比谷じゃなくなる実感が沸かない。それでも大八木の爺様みたいに親戚の集まりすら許されないということはなく、もう三十も過ぎた大人が深水の家で暮らすわけでもなく、あくまで戸籍上のこと、ということらしかった。普通に実家として帰る先は日比谷の家だろう。 『淳くん、もう大丈夫なの?』 電話口で久しぶりに喋った涼子ちゃんは、静かにそう言った。最近聞いた言葉だなと思って、そうだ、近藤くんにも言われたのだ。『日比谷さん、大丈夫ですか?』。近藤くんには悪いことをした。次の日にきちんと謝って、高い焼き肉でチャラにしてもらえることになったけれど、下手な噂の流され方をしたら人事に響くようなトラブルになったかもしれない。淳一が頭を下げにいったおかげで店長から出禁を食らうこともなく、これからもあのバーには通うらしい。 “大丈夫”なのか。自分でもそれは分からなくて、もしかしたらこれから、怜司のことを殴りたくなるのかもしれない。じっと怜司の顔を見る。食べ方が汚いわけではないけれどももしゃもしゃ口が動いている。可愛い。この顔を自分が殴ったことがあるなんて信じられないが、確かに殴った。 「……なに?」 こちらの視線に気付いた怜司がむすっとした顔をする。早くもビフカツサンドはどこかへ消えて、にゅうめんに手が伸びていた。 「いや、なんでもない」 “大丈夫”だよ。そう言って、箸を持つ怜司の手を上からそっと包む。すぐに振り払われて、それすらもくすぐったくて笑ってしまった。
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公式サイト&NEWSをOPENしました!
杉咲 花主演映画『市子』が12月8日(金)よりテアトル新宿、TOHOシネマズシャンテほか全国公開が決定!
本日より公式サイトとNEWSがOPENしました。
原作は、監督の戸田彬弘が主宰する劇団チーズtheater旗揚げ公演作品でもあり、サンモールスタジオ選定賞2015では最優秀脚本賞を受賞した舞台「川辺市⼦のために」。観客から熱い支持を受け2度再演された⼈気の舞台を映画化。
川辺市子(杉咲 花)は、恋人の長谷川義則(若葉竜也)からプロポーズを受けた翌日に、突然失踪。長谷川が行方を追い、これまで市子と関わりがあった人々から証言を得ていくと、彼女の底知れない人物像と、切なくも衝撃的な真実が次々と浮かび上がる…。彼女が背負った過酷な宿命。名前を変え、年齢を偽り、社会から逃れるように生きてきた。なぜ、彼女はそのような人生を歩まなければならなかったのか?市子が、幸せな暮らしを自ら捨ててでも、手にしたかったものとは―。
痛ましいほどの��酷な家庭環境で育ちながらも「生き抜くこと」を諦めなかった川辺市子を演じるのは杉咲 花さん。抗えない境遇に翻弄された彼女の壮絶な半生を、凄まじい熱量で体現。「精根尽き果てるまで心血を注いだことを忘れられません。その日々は猛烈な痛みを伴いながら、胸が燃えるほどあついあついものでした��」と言い切るほど、杉咲さんが全身全霊を捧げ、芝居を超えて役を生き抜く姿が鮮烈にスクリーンに刻まれます。
市子が3年間一緒に暮らしていた恋人の長谷川を演じるのは、若葉竜也さん。この重厚な物語の軸を担う長谷川が、少しずつ市子の真の姿を知る過程で揺れ動く感情の変化を繊細に演じ切っています。さらに、共演陣には森永悠希さん、渡辺大知さん、宇野祥平さん、中村ゆりさん、倉 悠貴さん、中田青渚さん、石川瑠華さん、大浦千佳さんが名を連ね、市子の知られざる人物像や過去を第三者の目線から映し出していきます。
今後の続報もお楽しみに!
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貘とハルの蜜月期間が4〜5日間だけど、短いだけにこの1日の差は大きい。
29巻の最後の場面、カジノで絵本をちらつかせる貘と録音を聞く栄羽が同じ日って勘違いしてたけど違う日の可能性もあるのよね。
録音の日付から失踪日は11/16、聞いてるのが11/20で確定。
蜂名が古書店に来て貘と会った日=貘がカジノで絵本をちらつかせた日でなんだけど、もし空港から古書店が同じ日だったら貘と会ったのは11/19(栄羽が聞いてたのはその翌日)。だから貘とハルの出会い記念日は確定じゃないんだよね。もし確定条件あったらおしえてください。
ちなみに30巻冒頭でハルが叫んでる場面は初読の時は「貘と会う前」だと思ってたけど、ハンカチ落としで出て来るので「貘と会った後」かもと思ったけど、また再び前かも?と思い始めた。というかこの辺の時間軸はバラバラで確定できないようになってるのかな。
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(短評)映画『さがす』

(引用元)
『さがす』(2022年、日本)
突然失踪した父親、彼を捜す中学生の娘、父と同姓同名の見知らぬ男、一体何が起きているのか・・・
こ、こ、これは、傑作だ‼️
大阪西成区が醸し出す磁場、役者陣の演技の魅力、先の読めない展開、斬新なカットや複数人物視点を巧みに活かした語り口で見せる見事なミステリー映画でした🙌
特筆すべきは映像表現の豊かさです‼️片山慎三監督、前作『岬の兄妹』でも感じましたが、要所要所で意表を突くようなカットが散りばめられていて映像として観ていて面白い😲
西成区を中心に街という「場」が持つ力を映像にきっちり入れ込んでいて、『ブレードランナー』を見た時のような感覚でした💦
たまに挟まれるちょっとしたユーモア(というか笑えます😅)も特徴的👍
メインキャスト三人の演技にも圧倒されました‼️全員、吸引力があり、この三人だからできたバランスかもしれません‼️
最後の最後まで目が離せなかった💨
ただ相当ヒヤヒヤする部分もある
ある難病描写が物語の基軸にがっつり組み込まれてますが、正直、相当センシティブな部分に突っ込んでます、医療従事者としては非常にヒヤヒヤしました
作り手もそこは自覚的で覚悟を持ってやってると思いますが、この映画だけで難病やその患者さんのことを議論するのは絶対避けてください
特にこのような重症で治らない病気を持つ人やその家族・友人は、この映画を観るとかなりの衝撃だと思います
この作中の出来事は物語の仕掛けとして重要なのですが、このように追い込まれる人が世の中にはいるのだということは知ったとして、それ以上はこの映画だけを元に議論しない方が良いと思います
この映画のような状況で、犯罪行為は別として、何が正解という議論はそう簡単なものではないです
生きる意味を問う世界で、僕も答えを持ち合わせてないし、当事者らとの対話でしか前に進めないことだと思ってます
生きてる方が素晴らしい、辛くても頑張って欲しいなどと第三者が言える話ではないので
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
詳しくは書きませんがトイレのシーンが本当に凄かったです‼️
感動したとかそういうのじゃなくて、人と人の間に生まれる化学反応というべきか、生きた人間のものすごく人間らしい何かを見てしまった気がして、胸が疼くし気づいたら涙😢
この場面を考えた人も、演じた人もヤバすぎです💦
何かポン・ジュノ映画にも通ずる感性だなと思って観てましたが、調べてみると実は片山慎三監督はポン・ジュノ監督の『母なる証明』で助監督をしてたんですね😧
前作『岬の兄妹』も凄かったですが、この監督は映画はもっと観たいです‼️
業界はこの人にもっと金を出してくれー💰
⇒予告編
⇒Amazon
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「湖底に潜む“怪物”とは何か—単身子を育てる母、優しい教師、無邪気な子供たちが巻き込まれる失踪事件。是枝裕和×坂元裕二×坂本龍一が放つ深淵のミステリー映画『怪物』」
『怪物』は、静かな湖畔の町を舞台にした心理サスペンスです。息子を愛するシングルマザー・麦野早織(安藤サクラ)は、夫と死別しながらも小学五年生の息子・湊(黒川想矢)を大切に育てています。ある日、湊の奇妙な行動を不審に思った早織は、保利道敏(永山瑛太)という生徒思いの担任教師に相談。だが、道敏は優しい言動の裏にどこか影があり、学校と町は次第に二人の見解の食い違いに揺さぶられていきます。そして嵐の朝、湖辺の秘密基地で遊んでいた子供たちが忽然と姿を消し、町中が恐怖と疑念に包まれる――。この“消失”事件を軸に、母と教師、そして子供たちの目線が交錯する群像劇が幕を開けます。 あらすじと登場人物 主人公の麦野早織は、地元の絵本専門店で働きながら、息子・湊と二人暮らしを送っています。湊は湖畔の小学校に通い、クラスメイトの星川依里(柊木陽太)らと無邪気に遊ぶ毎日。しかし、依里の両親や学校側は、彼らの些細な…
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SDC映画の部屋「イングロリアス・バスターズ(2009)」
本作品については、B級カルトのマカロニ戦争映画「地獄のバスターズ(1976)」をクェンティン・タランティーノがリメイク、と当初言われていたが、フタを開けてみると共通していたのはタイトルだけ。正確には戦争映画ですらない。一応、第二次世界大戦下のフランスを舞台にしてはいるが、史実にはまったく沿っていないタランティーノ印の全く独創的なバイオレンス映画となった。 ブラッド・ピットを主演に迎えたことも話題になったが彼の出番はそれほど多くはなく、ユダヤ人の出自を隠してパリに住む女映画館主ショシャナと、彼女の家族を含めてユダヤ人を多数死に追いやった「ユダヤ・ハンター」ランダ大佐が、物語全体を貫く軸となる。 「パルプ・フィクション(1994)」や「キル・ビル(2003-2004)」で用いられた、異なる主人公による複数のエピソードが重層的に絡み合い、クライマックスへと突き進む独特のスタイルは、本作でも充分に活かされている。欠点として、映画全体が長くなるきらいがあるのだが、尺の長さが映画のリズムを滞らせているわけではなく、むしろ後半に向かって加速していくのが快い。映画の重さをエネルギーとするのはタランティーノの得意技なのだろう。ただし残酷な暴力描写が満載なので、痛いのが苦手な人は観ない方が絶対に良い。
戦争映画、とくにナチスとレジスタンスの話は、誰が味方で誰が敵か最後まで読めないのが鉄則なので、映画のあらすじについて多くを語ることはできないが、最初のエピソードはこんな感じ。
フランスの片田舎、ある農家に「ユダヤ・ハンター」であるランダ大佐が数人の兵士を連れてやってくる。緊張する農夫。大佐は一人で家の中に入ると極めて紳士的に振舞い、ミルクをいっぱい所望したあと、農夫と二人だけで話したいと言う。家族を外に出し、会話を始める二人。当たり障りの無い世間話をしていた大佐は突然、「さて、私のフランス語はそれほど流暢ではない。聞くところによると君は英語も話せるということだ。お互いに英語で話そうではないか」と「英語で」話しかける。それまでフランス語で会話していたことさえ観客が忘れかけた頃に、だ。英語のやり取りになったところで、大佐は本題をズバリと切り出す。農夫は失踪したユダヤ系フランス人を匿っているのではないか。農夫の心の揺れを敏感に読み取り、さらに執拗に揺さぶりをかける大佐。やがて農夫は観念し、��下に隠れるユダヤ人一家(彼らにはフランス語しか理解できない)を無言で指差す。大佐はフランス語の会話に戻ったら、何気ないそぶりの芝居をするように「英語で」命令すると、何もなかったかのように「どうやら私の思い過ごしのようだ。これで辞去したいと思う。さあ外に追い出していたお嬢さんたち、中にお入りなさい」と「フランス語で」言い、待っていたドイツ兵たちを中に呼び入れる。床下に向けて機関銃を乱射する兵士たち。知人を売ったことに泣き崩れる農夫。と、床下に隠れていた少女、ショシャナが間一髪で抜け出して、牧草地を駆け出す。大佐が気がついて、逃げる彼女の背中にルガーを向け狙いを定めるが、ふと思い直したように「逃げろ逃げろ!」と嘲笑しながら拳銃をおろす…
20分ほどの緊張感溢れる会話劇と最後の転回の映画的な面白さはもちろんのこと、異なる人種が対話する時、異なる言語を話しているという当たり前のことを商業映画、しかも戦争映画でやる面白さ。敵味方に分かれている兵隊たちがみんな英語でお芝居をする違和感は、おもにアメリカ人観客を対象とするハリウッドならではのジレンマだ。同じ頃に製作された、トム・クルーズ主演の「ワルキューレ(2008)」を見ると一目瞭然。 コミュニケーションそのものを主題としたドラマで、このような言語ギャップに拘る映画は多いが、まさかタランティーノの暴力映画で成立するとは!しかも、全編にわたって、この言語ギャップがトリックに、ギャグに、自虐ネタ(「アメリカ人が英語以外を話せるなんて信じられないわ」とドイツ出身のダイアン・クルーガーに言わせる)に使われていて、しかも面白いのだから文句のつけようが無い。 この成功に大きく寄与したのは「主役」のブラッド・ピットではなく、ショシャナ役のメラニー・ロランとランダ大佐を演じたクリストフ・ヴァルツ。特にクリストフ・ヴァルツは四カ国語を巧みに操り、トリックスター的な大佐を十二分に表現した。この年のゴールデングローブと米アカデミー賞の助演男優賞を始め、数々の栄誉を我がものにしたヴァルツこそが本作品の主役と言っても良いだろう。
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ひばり・チエミのおしどり千両傘
1963年/日本/カラー/86分
「ひばり・チエミの弥次喜多道中(1962年)」に続いて「ひばり・チエミのおしどり千両傘(1963年)」もレンタルDVDで鑑賞しました。ちなみに両作とも正月映画として公開され、沢島忠監督がメガホンを取っています。
鶴岡藩(山形県鶴岡市あたりか?)の貴美姫(美空ひばり)に松平家との縁談話が持ち上がっていた。しかし喜美姫はこの話に乗り気では無い事から拒食症気味になっていた。乳姉妹(喜美姫の乳母の娘)であるお登志(江利チエミ)は腰元として喜美姫の世話をしていたが、大食いの才能を生かして姫が残した御飯を平らげていたので拒食症の事は外に漏れていなかった。
しかし縁談を成立させるための江戸への旅は始まってしまう。立ち寄った宿場町では祭りが行われていた。喜美姫は宿を抜け出し祭りに参加してしまう。その祭りは女性達を姫様としてコスプレさせる風習があったので捜索する鶴岡藩士達も喜美姫を見つけられない。そんな中で姫は村人に襲われそうになっていたところを江戸の木材問屋の若旦那、巳之吉(水原弘)に助けられる。元々縁談に乗り気が無かった事もあって喜美姫は巳之吉に付いていってしまう。
喜美姫が失踪した事は鶴岡藩にとって表に出せない案件となり、お登志を姫の替え玉にする事になる。松平家から女中岩風(清川虹子)が送り込まれて姫としてふさわしいか査定を受けるお登志だったが、不器用ながらも合格を貰う。
しかしこの縁談を良く思わない松平家の一味が喜美姫のフリをしたお登志を襲撃する。鶴岡藩の上層部はこれを利用してお登志を見殺しにすることで責任回避を狙うが、それに対して怒った堀込一馬(安井昌二)によって一味は撃退されてしまう。この襲撃事件をきっかけに替え玉がばれてしまい…というお話でした。
「弥次喜多道中」に続いて沢島監督の芸術性が光り、また日本で、時代劇でミュージカルを成立させている作品でした。「ローマの休日」の姫が一般社会に降りて恋愛相手を見つけるパターンに加えて、「王子と乞食」「とりかえばや物語」の要素を加えた感じでしょうか。喜美姫とお登志のお互いの立場を結果的に入れ替えるという構図は「ターンエーガンダム(1999-2000年)」のディアナとキエルの関係性にも似ています。
感想としては前半楽しい作りになった一方で後半はまとめきれなかったかな、という印象を持ちました。後半は喜美姫と巳之吉、そしてお登志と堀込一馬の二つの恋愛がどうなるのか、というのが物語の軸になっていくんですが、物語が二つに分岐した状態からラストに向けていろんな事を解決していって収束していく感じがしなかったんですよねぇ…。
お登志サイドは結構上手くいっているんです。鶴岡藩の上層部がお登志を見殺しにしようとした事で悪役となってくれて堀込とお登志が安定した武家社会を飛び出して恋愛に走る理由は成立できているのですが、喜美姫サイドにとってみると乳姉妹のお登志を危ない目に遭わせたとはいえ、そうさせたのは自分が飛び出したことがきっかけなので鶴岡藩の上層部は悪役にはなりづらい状況になってしまい松平家との縁談を壊してまで巳之吉に走るのはどうなのかな…と思ってしまいました。美空ひばりさんにも江利チエミさんにもハッピーエンドの見せ場を作ろうと二兎を追ってしまったかなぁ…。当時のお二人と、その周囲の立場を考えると「どちらも立てる」というのはビジネス的に仕方の無い判断と思うんですが、2組同時進行というのは見ている側の集中も別れてしまうし、比較もしてしまうので片側がほんの少し劣っていても、そのほんの少しが悪く目立ってしまうんですよねぇ。江利チエミさんサイドの恋愛を中盤くらいで成就させておいて終盤の盛り上がりでひばりさんサイドの恋愛のサポートを任せた方が良かったと思うんですが…。
しかしこの二作品見て江利チエミさんの役者としてのポテンシャルの高さに��きました。彼女が演じたサザエさんの実写版とか見てみたくなりました。
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おまけ(帰り道ふたり)(淳怜 - 失踪軸パロ - 名家パロ)
妻は自分で選んだ。 日比谷が持ってきた三枚の見合い写真を見比べながら考えたのは、きっと誰を選ぶのかも見られているのだろうな、ということだった。求められているのは淳一の妻ではなく『日比谷の嫁』であり、それ以上に厳しく見られているのは淳一の『日比谷としての判断』だ。並んでいるのは三人の女性ではなく三択の問題で、家柄と社会情勢と家系図から正しい答えを選ばなければならない。 淳一はまだ“若造”なので、間違えた答えを選んだとしても問題はなかった。 あえて一番求められているであろう正解を選んだのは、彼女が、裕美おばちゃんにとても良く似た面立ちだったからだ。裕美おばちゃんよりはるかに自我に乏しく幸せだけを与えられて生きてきたような女性ではあったが、二人並べて姉妹ですと言ったら誰もが信じる程度には似た二人だった。自分と子供を作れば怜司が生まれてくるのではないかと思った。 その頃はちょうど捜索もどん詰まりで、何も手がかりがなく、そして気力が底をつきそうだった。きっとどこかで生きてる、探そう、と言っていた親戚たちも「もう死んでるだろう」「これだけ探して見つからないのだもの」「生きていたとしても日比谷に戻ってこられないんだから」「探すだけ可哀想だ」などと突然声を揃えて言い出して、淳一も仕事がだんだんと忙しくなってきて、何もかもに疲れてしまっていた。怜司に会いたかった。気持ちは大きく揺れて、ただ会いたい気持ちと、会って罵って殺してやりたい気持ちとでいつも心が振り回されていた。長男の一人息子として、「日比谷」であることしか周りは許さなかった。怜司を探すことすら「日比谷」としては不適切な行動なのであまりいい顔はされなかったほどだ。きっとあの見合い写真もメッセージカードの代わりで「もう探すな」という意味だったのだと今は思う。 ……怜司が。 もし怜司が死んでいるのなら、息子として生まれ変わってくるだろうと疑いなく信じた。結果生まれてきたのが娘だったので、なんだ、やっぱり生きてるんじゃないか、と捜索を再開できたわけだが。 妻からは子供は一人しか生みたくないと婚前からしつこく言われていたし、彼女は帝銀の頭取から預かった娘だ。今は頭取も初孫可愛さに浮かれているが、そのうち急かさなくとも妻側の実家から二人目を作るように指示があるだろう。淳一は必要なときに機能すればそれでいい。 日比谷の勤めを果たせばいい。 だからそれ以外の部分では。怜司の前でだけは「淳一」でいたっていいだろう。 フロントマンがうまくやってくれたおかげで、一人部屋に二人で泊まれることになった。右手に荷物を、左でに怜司の手を引いて、ホテルの廊下を歩く。二ヶ月暮らしたこの部屋に、怜司を連れて戻ってくるなんて誰が想像しただろう。鍵を開けると、ドアの前でまた怜司が動かなくなったので強めに手を引いて部屋の中に放り込んだ。たたらを踏んだ怜司がこちらを睨みつけてくる。ドアに背を預けてそれを見返すと、目があった途端細い体が震えた。ずいぶん痩せた。 「右のドア。シャワーだから使っていいよ」 「……」 声をかけたが、怜司は視線をわずかにさまよわせるばかりだった。必死に目を合わせないようにしている。可愛い。 「いいんだよ俺は、このまましても。全然普通に抱けるし。ただ、久しぶりだから準備したほうが怜司が楽だと思うけれど」 「……」 怜司の手首にはくっきりと手形が浮かんでいた。淳一の手の跡だ。あれが消えるまでは手をつないだままということでもある。生白い肌に赤黒く浮かんだ跡が、やっぱりよく似合って綺麗だった。急に血が通い始めたからか、ときおりぴくぴくと肩まで跳ねている。 「非常口は廊下の突き当り。この部屋の窓は全部はめ殺しで強化ガラスだよ。気になるなら見てくれば」 「……いらない」 「そう。待っててあげるから、ゆっくり温まっておいで」 「……」 怜司はしばらく動かなかった。かなり長い時間、立ったまま考えていたんだと思う。淳一もそれに付き合って黙っていると、最後にもう一度ドアを見て、それからのろのろと風呂場に向かった。 さて、どうしようかと考える。飲み水くらいは取りに行ってもいいかもしれない。カバンから会社用のスマホを出して、マナーモードを解除する。部屋に向かって投げると、私用スマホから電話をかけた。派手な着信音が部屋の方で響く。 と、同時に風呂場のドアが開いた。 「……っ、」 まだ服を着たままの怜司が必死の顔で飛び出してきて、すぐに硬直する。だろうな。逃げると思った。 「どうかした?」 発信をキャンセルしながら問いかける。絶対に逃さない。絶対に許さない。 ふらりと怜司の体が揺れて、壁にぶつかった。 「待ってるよ怜司」 さっさとケツの穴まで覚悟して膝をついてごめんなさいしろ。おかえり怜司。
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やせ細った体がシーツの上でくねる。食事をよく忘れるたちだったから、裕美おばちゃんと離れて箸不精になったのだろう。肋骨が浮き上がるのが綺麗で、何度ものけぞらせた。 肌の感触は昔よりざらついている。声はベッドにあがったときより更に枯れてしまっていた。汗が垂れる。しょっぱい味。どれだけ声を上げても泣きわめくことはしない。怜司。すっかり自分のことを不能になったと思っていたけれど、バカみたいに興奮していた。気絶するまで抱いていたい。だって怜司が先に目覚めたら逃げてしまう。細い腰を掴んで揺さぶって揺さぶって、その間怜司は言葉らしい言葉を一言も話さなかった。呻いて、喘いで、それだけ。 歯を食いしばってきつく目をつぶっている顔を見るだけで無性に腹がたって、何度か頬を打った。再開した怜司は昔よりも弱って見えたせいか、拳を握ることはできなかった。それでも足らなくて、気持ちが、気持ちの行き場が、どうしたらいいのか分からなくて、そう、抱くなら丁寧に優しくやりたいとずっと昔から思っていた。なのに気がつけば乱暴に扱ってしまう。 ぐちゃぐちゃになったシーツと、すっかり肌の色が変わってしまった怜司をぼんやり見下ろしながら、ゴムを外す。処分をしないと。ベッドも、このままではまずい。分かっていても体が動かなかった。歯型と鬱血だらけの体は見ているだけで痛そうで、でもそれに対して何かを感じることができない。嬉しいとも悲しいとも感じられない。塗り固めた壁みたいに無が立ちはだかっている。 「……怜司」 呼んでも怜司は起きない。鞄から、いつも持ち歩いている箱を取り出すと、中にピアスが一対揃っていた。あの日怜司が部屋に置き去りにしたピアスだ。 怜司の耳についたピアスを全部はずして、箱からだしたピアスをつける。よく似合っている。穴が斜めをむいているのか上手く刺さらなくて、何度か動かすうちに血がでたけれど、そのシーツに散ったその赤もフランス料理みたいで出来がよかった。 力の入っていない体を持ち上げる。腕の中でくた��と萎れた。怜司の首筋に耳が当たって、血液の流れる音と鼓動を感じる。怜司が生きている。怜司は生きている。
バッドエンド軸
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