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唐突に降り注いだ大量の雨粒。先程までこちらの暑さなど考えもしない程に照りつける陽射しに夏の訪れと梅雨の終わりを感じながら、帰路に着いていたというのに。頭上に浮かぶ薄鼠色の浮遊物もすっかり様変わりしたなとのんびり歩いている場合じゃなかった。
休みだからと普段よりその量を増した燻る煙に伴い、知らぬ間に切れてしまった手持ちを補うために近くのコンビニへと足を運んだのが十数分前。出掛けるついでにソファに寝転び寛いでいる彼に声を掛けた。「何かいるもんある?」『んー、アイス食べたい。バニラアイス。…あ、やっぱりあっさりしたやつがいい。』「おっけ。ちょっと出てくるわ。」キーケースと財布と携帯を手に取り外に出る。この暑さだと少しでも涼しさを求めて車に乗るのが当たり前。でも何故か、何となくそんな気分ではなくて。季節の移り変わりを肌で感じたかったのかもしれない。すぐそこだしいいか、と安易に歩を進めたのが間違いだった。数ヶ月前に比べると随分と強くなった陽射しに目を細め、辺りに響く蝉の鳴き声にさらに夏の訪れを感じた。数分もすれば辿り着いた目的地。入るや否や真っ先に彼の所望した物が陳列されている場所へ向かう。この間置いてあったのとはまた種類変わってんな。限定品や季節物で目まぐるしく入れ変わる商品を流し見しつつ、希望通り口当たりの爽やかな物を手に取りカゴに入れる。バニラアイスも買っとくか。置いてたら食べるだろうし。俺はチョコアイスにしよ。あとタピオカ。その他適当に食べ物もいくつか放り込んでレジに向かい、今ではすっかり呼び慣れた番号と、ちらりと視界に入った懐かしいもう一つのそれを店員に伝えて会計を済ませた。
店の外に出ると湿気を多く含んだ生温い空気が身体を包み込むと同時に、先程とは香りが微かに変わった風が妖しく肌を撫でた。勢いも強い。涼しい、けど。あー…もしかして。携帯の時計を見るとすっかり夕刻で。頭上に浮かぶ雲の流れも早くなっている。早く帰ろ、アイス溶けちゃうし。つーかアイス買うなら車で来りゃよかった。夏なんてこれから嫌でも感じるだろ、と過去の自分に悪態をつきながら思考を��らせていると、強い風と共にザワザワと何かが動く音がこちらに近付いてきた。…あ、間に合わねぇ。数秒後、アスファルトに勢いよく打ち付けられた雨粒がたちまち世界を���く染めていく。暑さに煽られて猛烈な勢いを帯びた重い雫はバタバタと、辺りは勿論俺の体にも降り注ぎ瞬く間に髪と服を濡らす。家までもう少しだが既に全身で浴びた状態になってしまった。タイミング合いすぎじゃね?心の中でボヤきつつ諦めて急ぐことなく歩を進める。周りの人々は足早に雨宿りできる場所を探したようで、気付けば歩道には誰一人いない。濡れたら嫌だもんな。俺も濡れるつもりはなかったんだけど。…まぁこれも夏の風物詩ってことで。熱を感じていた肌には冷たい雨粒が寧ろ気持ち良い。ここまで降られることも中々ないし。そう開き直りビニール袋片手に携帯だけ濡れないようにして、一瞬にして姿を変えた世界を清々しい気持ちで眺めながら帰り着けば、ガチャリとまだ止まない雨風を家の中に入れないよう扉を少しだけ強く閉める。んー、このまま上がったら床濡れるな。でもアイスが溶ける前に冷凍庫に入れたい。どっちみちタオル取りに行かねぇとだし。思った以上にずぶ濡れになった状況を整理しながら、持っていた袋を置いて己の髪を伝い流れる水滴をぶるぶると頭を振り払い落とす。ふと、ポタりと滴り落ちる音が耳を鳴らした。その音に吸い寄せられるように瞳を閉じて肌に張り付く服の密着感を感じていると、中々上がってこないことを不思議に思ったのかリビングで寛いでいたのであろう彼の足音が近付いてくる。此方が瞳を開いたのと彼が俺を見つけたのはほぼ同時だったらしく、彼が視界に現れれば『え、めっちゃ濡れてんじゃん。そんなに降ったの?』と驚きが投げ掛けられる。「歩いて行ったら降られた。」『え、車じゃなくて?』「何となく歩きたくなって。」『たまにそういうとこあるよなぁ。…じゃなくて、タオル!』ぱたぱたと脱衣所までタオルを取りに行ってくれた後ろ姿が消えたかと思えばすぐに戻ってきた。そんなに急がなくてもこんなんじゃ風邪なんて引かねぇのに。彼の様子に込み上げてきた愛しさに少しだけ口元を緩ませていると、ばさりと被せられた布に遮られる視界。…こういう所は荒いんだよな。そんなとこも可愛いけど。「ありがと。」言葉を渡しつつ視界はそのままに髪を拭き、ある程度水分を取り払ったところでタオルから彼の様子を覗き込むとじっとこちらを見つめている。「…ん?何?」『いや、濡れてん��ぁって。』「ふは、なんだそれ。」『服張り付いてんのっていいよね。』「こっちは気持ち悪いんだけど。」『あ、脱がしてやろっか?』「いや自分で脱ぐ。」目の前で何やら楽しそうに笑う相手にタオル���押し付けて持たせればベタりと張り付く衣服を脱いで軽く振り払う。未だに感じる視線の先を再び見やると、視線の主は先程より距離を詰めて来た。「さっきから何?アイス溶けるんだけど。」『ん、買ってきてくれてありがと。』こちらの言葉を撫でるような返答が来たかと思えば、するりと伸びてくる腕。そして脇腹に触れる指先。ぴく、と反射的に眉根が寄ったのを彼は見逃さなかっただろう。そのまま己の体に浮かぶ線をなぞるように動き始めた指先を感じた俺は咄嗟に彼の手を掴みその動きを制した。「なあ、着替えるから。」『うは、残念。』再び楽しげに笑う相手に何が残念だよと今度は彼に悪態を飛ばしては「これ入れといて。」と置いていた袋を持たせる。『はーい、わかった。』何かに気を良くしたらしい彼はあっさりと部屋に戻っていった。それに続いて家に上がり真っ先に脱衣所に向かって濡れたものを全て脱ぎ捨てるも此処には着替えがない事に気付き、とりあえずタオルを腰に巻いて取りに行く。
雨に濡れたせいで身体に取り巻いていた暑さが取り除かれたものの、未だ��に熱が残っているのか服を着る気になれない。部屋はエアコンが効いており、肌に残る水分が気化する熱に体温を攫われそうになった時に着ればいいかと取り敢えず下だけ着てTシャツ片手に部屋に戻ると、出かける前と同じようにソファに陣取る姿が視界に入った。と思えば、アイスを口に含んでいる。相変わらず自由なことだ。その隣に座るとテーブルの上に置かれた箱が二つ。と、ライターが一つ。「あ、やっぱそれ食べた?」『うん、流石ひかる。これと他のも俺の好きなやつだった。』「だろ?お前が好きなもんくらい分かる。」鮮やかな丸い氷塊を口に含みながら話す相手を横目に持っていた服を置く。そしてテーブルに腕を伸ばして白いパッケージの箱とライターを手に取ると、真新しいその封を切り1本取り出しては火をつけて一口、深く肺に入れ込んだ。あぁ、やっぱ美味いな。久々の味を暫し堪能して煙を吐き出す。窓の外を見ると先程までの雨はとうに止んでいた。…マジでタイミングだったじゃん。これから増えるんだろうな。などとぼんやり考えながら煙を燻らす。その様子を見ていたのか、『つーか、電子に変えたんじゃなかったっけ。』と横から零れる声。声の方向を一瞥すると、既に残りの氷塊に視線を戻している彼がおそらく最後の一粒を口に含んでいる。食��の早いな。まぁ小さいからすぐ食い終わるか。「たまに吸いたくなんだよ。」『んは、忘れられないってやつね。』「それはなんか違くね?」『まぁまぁ。ど?おいし?』そう投げ掛けられると同時に此方に伸びる指先。そのまま己の指からすり抜けた煙が彼の口に運ばれる。『ん、やっぱこれだわ。』何処か満足げに煙を吐きながら述べてもう一口深く吸ったかと思えば、ふうと勢いよく此方に振りかけられた紫煙。俺自身があまりされることのないその行為に思わず目を顰めると不意に肩を押して体重を掛けてきた。一息ついていた状況で気が抜けており制するのが間に合わず、天井と彼だけが映る視界へと一変する。「…は?」脈絡のない動作に思わず眉を顰めると目の前の相手は灰皿に煙草を置いて含み笑いをしながら此方を見つめる。『んー?さっきのひかる見たら、ねぇ。』「さっきの?何もねぇだろ。」『ふは、自覚ねーの?』此方の返答にニヤりと口角を上げたかと思えば脇腹に指先が触れた。そのまま滑らかに撫で上げる感覚に反射的に一瞬息を飲んでしまえば、それを待っていたとでも言うようにクスりと小さな息が降り掛かる。…ああ、これか。久々の感覚に漸く相手の意図を理解したものの、未だ身体を這うのみの指先に焦れったさを感じると共に、この先に起こる少し先の未来を徐々に思考が想起していく。それでもなお、此奴の腕を引いていつでも下にやれると意識の余裕を保つ己に無性に腹が立ってきた。特に此方側の時は余計なことを考えたくない。気付けば首元や耳に唇を寄せている相手の後頭部を少しだけ掴みぐい、と此方に向けさせれば噛み付くように口付ける。不意に重なった唇に彼が僅かに目を開いたのも束の間、乗ってきたのかと何処か嬉しそうに笑みを零すと柔らかな舌で唇を軽くノックしてきた。緩く弄ぶような相手を崩してやろうと躊躇うことなく口を開いて此方から伸ばそうとした時、それよりも早くに彼の舌が割り込んできた。そのまま絡めとるように深い口付けが始まれば、時折弾ける水音と微かな吐息が二人を包む。…あの時雨の中がどんな世界で、何を感じたのか話してやろうと思ったのに。もうそんなこと、どうでもいい。そう、こいつのせいで。…それよりも。するなら早くそれだけを考えたい。こういう時に限って、なんて嫌な予感がしなくもねぇけど。もうどうにでもなれ。最後に他人事のように浮かんだ思考を彼が捉えたのか、止まっていた指先が悪戯に動き始めた。それまで絡まっていた視線に少しだけ距離が空き、睫毛から覗いた瞳の奥に妖しく篭った熱から目を逸らす。全てはあの雨のせいにして。
窓の外では視界を遮る程の雫が再び激しく降り始め、開けた世界から二人を隠して静かに攫っていった。
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【QN】ある館の惨劇
片田舎で依頼をこなした、その帰り道。 この辺りはまだ地方領主が収めている地域で、領主同士の小競り合いが頻発していた。 それに巻き込まれた領民はいい迷惑だ。慎ましくも回っていた経済が滞り、領主の無茶な要求が食糧さえも減らしていく。 珍しくタイミングの悪い時に依頼を受けてしまったと、パティリッタは浮かない顔で森深い峠を貫く旧道を歩いていた。
「捨てるわけにもなぁ」 革の背負い袋の中には、不足した報酬を補うためにと差し出されたパンとチーズ、干し肉、野菜が詰まっている。 肩にのしかかる重さは見過ごせないほどで、おかげで空を飛べない。 ただでさえ食糧事情の悪い中で用意してもらった報酬だから断りきれなかったし、食べるものを捨てていくというのは農家の娘としては絶対に取れない選択肢だ。 村に滞在し続ければ領主の争いに巻き込まれかねないし、結局考えた末に、しばらく歩いてリーンを目指すことに決めた。 2,3日この食料を消費しつつ過ごせば、この"荷物"も軽くなるだろうという見立てだ。
この道はもう、殆ど利用されていないようだ。 雑草が生い茂り、嘗ての道は荒れ果てている。 鳥の声がした。同じ空を羽ばたく者として大抵の鳥の声は聞き分けられるはずなのに、その声は記憶にない。 「うげっ」 思わず空を仰げば、黒く分厚い雨雲が広がり始めているのが見えた。 その速度は早く、近いうちにとんでもない雨が降ってくるのが肌でわかった。
「うわ、うわ! 待って待って待って」 小雨から土砂降りに変わるまで、どれほどの時間もなかったはずだ。 慌てて雨具を身に着けたところでこの勢いでは気休めにもならない。 次の宿場まではまだ随分と距離がある。何処か雨宿りできる場所を探すべきだと判断した。 曲がりなりにも街道として使われていた道だ、何かしら建物はあるはずだと周囲を見渡してみると、木々の合間に一軒の館を見つけることができた。 泥濘み始めた地面をせっせと走り、館の玄関口に転がり込む。すっかり濡れ鼠になった衣服が纏わり付いて気持ちが悪い。
改めて館を眺めてみた。立派な作りをしている。前庭も手入れが行き届いていて美しい。 だが、それが却って不審さを増していた。
――こんな場所に、こんな館は不釣り合いだ、と。思わずはいられなかったのだ。
獅子を模したドアノッカーを掴み、館の住人に来客を知らせるべく扉に打ち付けた。 しばらく待ってみるが、応答はない。 「どなたかいらっしゃいませんかー!?」 もう一度ノッカーで扉を叩いて、今度は声も上げて見たが、やはり同じだった。 雨脚は弱まるところを知らず、こうして玄関口に居るだけでも雨粒が背中を叩きつけている。 季節は晩秋、雨の冷たさに身が震えてきた。 無作法だとはわかっていたが、このままここで雨に晒され続けるのも耐えられない。思い切って、ドアを開けようとしてみた。 「……あれ」 ドアは、引くだけでいとも簡単に開いた。 こうなると、無作法を働く範囲も思わず広がってしまうというものだ。 とりあえず中に入り、玄関ホールで家人が気づいてくれるのを待とうと考えた。
館の中へ足を踏み入れ、後ろ手に扉を閉める。背負い袋を床におろし、一息ついた。 玄関ホールはやけに薄暗い。扉を締めてしまえばいきなり夜になってしまったかのようだ。 「……?」 暗闇に目が慣れるにつれ、ホールの中央に何かが転がっていることに気づいた。 「えっ」 それが人間だと気づくのに、少し時間が必要だった。 「ちょっ、大丈夫で――」 慌てて声をかけて跪き命の有無を確かめようとする。 「ひっ」 すぐに答えは出た。あまりにもわかりやすい証拠が揃っていたためだ。 その人間には、首が無かった。 服装からして、この館のメイドだろう。悪臭を考えるに、この死体は腐りかけだ。 切断された首は辺りには見当たらない。 玄関扉に向かってうつ伏せに倒れ、背中には大きく切り裂かれた痕。 何かから逃げようとして、背中を一撃。それで死んだか、その後続く首の切断で死んだか、考えても意味がない。 喉まで出かかった悲鳴をなんとか我慢して、立ち上がる。本能が"ここに居ては危険だ"と警鐘を鳴らしていた。 逃げると決めるのに一瞬で十分だった。踵を返し、扉に手をかけようとした。
――何かが、脚を掴んだ。 咄嗟に振り向き、そして。 「――んぎやゃあぁあぁぁぁあぁぁぁああぁッッッ!!!???」 パティリッタは今度こそあらん限りの絶叫をホールに響かせた。
「ふざっ、ふざけっ、離せこのっ!!!」 脚を掴んだ何か、首のないメイドの死体の手を思い切り蹴りつけて慌てて距離をとった。弓矢を構える。 全力で弦を引き絞り、意味があるかはわからないが心臓に向けて矢を立て続けに三本撃ち込んだ。 幸いにもそれで相手は動きを止めて、また糸の切れた人形のように倒れ伏す。
死んだ相手を殺したと言っていいものか、そもそも本当に完全に死んだのか、そんな物を確認する余裕はなかった。 雨宿りの代���が己の命など冗談ではない。報酬の食糧などどうでもいい。大雨の中飛ぶのだって覚悟した。 玄関扉に手をかけ、開こうとする。 「な、なんでぇ!?」 扉が開かない。 よく見れば、扉と床にまたがるように魔法陣が浮かび上がっているのに気づいた。魔術的な仕組みで自動的な施錠をされてしまったらしい。 思い切り体当りした。びくともしない。 鍵をこじ開けようとした。だがそもそも、鍵穴や閂が見当たらない。 「開ーけーてー! 出ーしーてー!! いやだー!!! ふざけんなー!!!」 泣きたいやら怒りたいやら、よくわからない感情に任せて扉を攻撃し続けるが、傷一つつかなかった。 「ぜぇ、えぇ……くそぅ……」 息切れを起こしてへたり込んだ。疲労感が高ぶる感情を鎮めて行く中、理解する。 どうにかしてこの魔法陣を解除しない限り、絶対に出られない。
「考えろ考えろ……。逃げるために何をすればいいか……、整理して……」 どんなに絶望的な状況に陥っても、絶対に諦めない性分であることに今回も感謝する。 こういう状況は初めてではない。今回も乗り切れる、なんとかなるはずだと言い聞かせた。 改めて魔法陣を確認した。これが脱出を妨げる原因なのだ。何かを読み取り、解錠の足がかりを見つけなければならない。 指でなぞり、浮かんでいる呪文を一つずつ精査した。 「銀……。匙……。……鳥」 魔術知識なんてない自分には、この三文字を読み取るので精一杯だった。 だが、少なくとも手がかりは得た。
立ち上がり、もう一度ホールを見渡した。 首なしメイドの死体はもう動かない。後は、館の奥に続く通路が一本見えるだけ。 「あー……やだやだやだ……!!」 ��態をつきながら足を進めると、左右に伸びる廊下に出た。 花瓶に活けられた花はまだ甘い香りを放っているが、それ以上に充満した腐臭が鼻孔を刺す。 目の前には扉が一つ。まずは、この扉の先から調べることにした。
扉の先は、どうやら食堂のようだった。 食卓である長机が真ん中に置いてあり、左の壁には大きな絵画。向こう側には火の入っていない暖炉。部屋の隅に置かれた立派な柱時計。 生き物の気配は感じられず、静寂の中に時計のカチコチという音だけがやけに響いている。 まず、絵画に目が行った。油絵だ。 幸せそうに微笑む壮年の男女、小さな男の子。その足元でじゃれつく子犬の絵。 この館の住民なのだろうと察しが付いた。そしてもう、誰も生きてはいないのだろう。 続いて、食卓に残ったスープ皿に目をやった。 「うえぇぇっ……!」 内容物はとっくに腐って異臭を放っている。しかし異様なのは、その具材だ。 それはどう見ても人の指だった。 視界に入れないように視線を咄嗟に床に移すと、そこで何かが輝いたように見えた。 「……これ!」 そこに落ちていたのは、銀のスプーンだ。 銀の匙。もしかすると、これがあの魔法陣の解錠の鍵になるのではないかと頬を緩めた。 しかし、丹念に調べてみるとこのスプーンは外れであることがわかり、肩を落とす。 持ち手に描かれた細工は花の絵柄だったのだ。 「……待てよ」 ここが食堂ということは、すぐ近くには調理場が設けられているはずだ。 ならば、そこを探せば目的の物が見つかるかもしれない。 スプーンは手持ちに加えて、逸る気持ちを抑えられずに調理場へと足を運んだ。
予想通り、食堂を抜けた先の廊下の目の前に調理場への扉があった。 「うわっ! ……最悪っ」 扉を開けて中へ入れば無数のハエが出迎える。食糧が腐っているのだろう。 鍋もいくつか竈に並んでいるが、とても覗いてみる気にはなれない。 それより、入り口すぐに設置された食器棚だ。開いてみれば、やはりそこには銀製の食器が収められていた。 些か不用心な気もするが、厳重に保管されていたら探索も面倒になっていたに違いない。防犯意識の低いこの館の住人に感謝しながら棚を漁った。 「……あった!」 銀のスプーンが一つだけ見つかった。だが、これも外れのようだ。 意匠は星を象っている。思わず投げ捨てそうになったが、堪えた。 まだ何処かに落ちていないかと探してみるが、見つからない。 「うん……?」 代わりに、メモの切れ端を見つけることができた。
"朝食は8時半。 10時にはお茶を。 昼食・夕食は事前に予定を伺っておく。
毎日3時、お坊ちゃんにおやつをお出しすること。"
使用人のメモ書きらしい。特に注意して見るべきところはなさそうだった。 ため息一つついて、メモを放り出す。まだ、探索は続けなければならないようだ。 廊下に出て、並んだ扉を数えると2つある。 一番可能性のある調理場が期待はずれだった以上、虱潰しに探す必要があった。
最も近い扉を開いて入ると、小部屋に最低限の生活用品が詰め込まれた場所に出た。 クローゼットを開けば男物の服が並んでいる。下男の部屋らしい。 特に発見もなく、次の扉へと手をかけた。こちらもやはり使用人の部屋らしいと推察ができた。 小物などを見る限り、ここは女性が使っていたらしい。 あの、首なしメイドだろうか。 「っ……!」 部屋には死臭が漂っていた。出どころはすぐにわかる。クローゼットの中からだ。 「うあー……!」 心底開きたくない。だが、あの中に求めるものが眠っている可能性を否定できない。 「くそー!!」 思わずしゃがみこんで感情の波に揺さぶられること数分、覚悟を決めて、クローゼットに手をかけた。 「――っ」 中から飛び出してきたのは、首のない死体。
――やはり動いている!
「だぁぁぁーーーっ!!!」 もう大声を上げないとやってられなかった。 即座に距離を取り、やたらめったら矢を撃ち込んだ。倒れ伏しても追撃した。 都合7本の矢を叩き込んだところで、死体の様子を確認する。動かない。 矢を回収し、それからクローゼットの中身を乱暴に改めた。女物の服しか見つからなかった。 徒労である。クローゼットの扉を乱暴に閉めると、部屋を飛び出した。 すぐ傍には上り階段が設けられていた。何かを引きずりながら上り下りした痕が残っている。 「……先にあっちにしよ」 最終的に2階も調べる羽目になりそうだが、危険が少なそうな箇所から回りたいのは誰だって同じだと思った。 食堂前の廊下を横切り、反対側へと抜ける。 獣臭さが充満した廊下だ。それに何か、動く気配がする。 選択を誤った気がするが、2階に上がったところで同じだと思い直した。 まずは目の前の扉を開く。 調度品が整った部屋だが、使用された形跡は少ない。おそらくここは客室だ。 不審な点もなく、内側から鍵もかけられる。必要であれば躰を休めることができそうだが、ありえないと首を横に振った。 こんな化け物だらけの屋敷で一寝入りなど、正気の沙汰ではない。 すぐに踵を返して廊下に戻り、更に先を調べようとした時だった。
――扉を激しく打ち開き、どろどろに腐った肉体を引きずりながら犬が飛び出してきた! 「ひぇあぁぁぁーーーっ!!!???」 素っ頓狂な悲鳴を上げつつも、躰は反射的に矢を番えた。 しかし放った矢がゾンビ犬を外れ、廊下の向こう側へと消えていく。 「ちょっ!? えぇぇぇぇっ!!!」 二の矢を番える暇もなく、ゾンビ犬が飛びかかる。 慌てて横に飛び退いて、距離を取ろうと走るもすぐに追いつかれた。 人間のゾンビはあれだけ鈍いのに、犬はどうして生前と変わらぬすばしっこさを保っているのか、考えたところで答えは出ないし意味がない。 大事なのは、距離を取れないこの相手にどう矢を撃ち込むかだ。 「ほわぁー!?」 幸い攻撃は読みやすく、当たることはないだろう。ならば、と足を止め、パティリッタはゾンビ犬が飛びかかるのを待つ。 「っ! これでっ!!」 予想通り、当たりもしない飛びかかりを華麗に躱したその振り向きざま、矢を放った。 放たれた矢がゾンビ犬を捉え、床へ縫い付ける。後はこっちのものだ。 「……いよっし!」 動かなくなるまで矢を撃ち込み、目論見がうまく行ったとパティリッタはぴょんと飛び跳ねてみせた。 ゾンビ犬が飛び出してきた部屋を調べてみる。 獣臭の充満した部屋のベッドの上には、首輪が一つ落ちていた。 「……ラシー、ド……うーん、ということは……」 あのゾンビ犬は、この館の飼い犬か。絵画に描かれていたあの子犬なのだろう。 思わず感傷に浸りかけて、我に返った。
廊下に残った扉は一つ。最後の扉の先は、納戸のようだ。 いくつか薬が置いてあっただけで、めぼしい成果は無かった。 こうなると、やはり2階を探索するしかない。 「なんでスプーン探すのにこんなに歩きまわらなきゃいけないんだぁ……」
慎重に階段を登り、2階へ足を踏み入れた。 まずは今まで通り、手近な扉から開いて入る。ここは書斎のようだった。 暗闇に目が慣れた今、書斎机に何かが座っているのにすぐ気づいた。 本来頭があるべき場所に何もないこと���。 服装を見るに、この館の主人だろう。この死体も動き出すかもしれないと警戒して近づいてみるが、その気配は無かった。 「うげぇ……」 その理由も判明した。この死体は異常に損壊している。 指もなく、全身至るところが切り裂かれてズタズタだ。明確な悪意、殺意を持っていなければこうはならない。 「ほんっともう、やだ。なんでこんなことに……」 この屋敷に潜んでいるかもしれない化け物は、殺して首を刈るだけではなく、このようななぶり殺しも行う残忍な存在なのだと強く認識した。 部屋を探索してみると、机の上にはルドが散らばっていた。これは、頂いておいた。 更に本棚には、この館の主人の日記帳が収められていた。中身を検める。
その中身は、父親としての苦悩が綴られていた。 息子が不死者の呪いに侵され、異形の化け物と化したこと。 殺すのは簡単だが、その決断ができなかったこと。 自身の妻も気が触れてしまったのかもしれないこと。 更に読み進めていけば、気になる記述があった。 「結界は……入り口のあれですよね。ここ、地下室があるの……?」 この館には地下室がある。その座敷牢に異形の化け物と化した息子を幽閉したらしい。 しかし、それらしい入り口は今までの探索で見つかってはいない。別に、探す必要がなければそれでいいのだが。 「最悪なのはそのまま地下室探索コースですよねぇ……。絶対やだ」 書斎を後にし、次の扉に手をかけてみたが鍵がかかっていた。 「ひょわぁぁぁっ!?」 仕方なく廊下の端にある扉へ向かおうとしたところ、足元を何かが駆け抜けた。 なんのことはないただのネズミだったのだが、今のパティリッタにとっては全てが恐怖だ。 「あーもー! もー! くそー!」 悪態をつきながら扉を開く。小さな寝台、散らばった玩具が目に入る。 ここは子供部屋のようだ。日記の内容を考えるに、化け物になる前は息子が使用していたのだろう。 めぼしいものは見当たらない。おもちゃ箱の中に小さなピアノが入っているぐらいで、後はボロボロだ。 ピアノは、まだ音が出そうだった。 「……待てよ……」 弾いたところで何があるわけでもないと考えたが、思い直す。 本当に些細な思いつきだった。それこそただの洒落で、馬鹿げた話だと自分でも思うほどのものだ。
3つ、音を鳴らした。この館で飼われていた犬の名を弾いた。 「うわ……マジですか」 ピアノの背面が開き、何かが床に落ちた。それは小さな鍵だった。 「我ながら馬鹿な事考えたなぁと思ったのに……。これ、さっきの部屋に……」 その予想は当たった。鍵のかかっていた扉に、鍵は合致したのだ。
その部屋はダブルベッドが中央に置かれていた。この館の夫妻の寝室だろう。 ベッドの上に、人が横たわっている。今まで見てきた光景を鑑みるに、その人物、いや、死体がどうなっているかはすぐにわかった。 当然首はない。服装から察するに、この死体はこの館の夫人だ。 しかし、今まで見てきたどの死体よりも状態がいい。躰は全くの無傷だ。 その理由はなんとなく察した。化け物となってもなお息子に愛情を注いだ母親を、おそらく息子は最も苦しませずに殺害したのだ。 逆に館の主人は、幽閉した恨みをぶつけたのだろう。 「……まだ、いるんだろうなぁ」 あれだけ大騒ぎしながらの探索でその化け物に出会っていないのは奇跡的でもあるが、この先、確実に出会う予感がしていた。 スプーンは、見つかっていないのだ。残された探索領域は一つ。地下室しかない。 もう少し部屋を探索していると、クローゼットの横にメモが落ちていた。 食材の種類や文量が細かく記載されており、どうやらお菓子のレシピらしいことがわかる。 「あれ……?」 よく見ると、メモの端に殴り書きがしてあった。 「夫の友人の建築家にお願いし、『5分前』に独りでに開くようにして頂いた……?」 これは恐らく、地下室の開閉のことだと思い当たる。 「……そうだ、子供のおやつの時間だ。このメモの内容からしてそうとしか思えません」 では、5分前とは。 「おやつの時間は……そうか。わかりましたよ……!」 地下室の謎は解けた。パティリッタは、急ぎ食堂へと向かう。
「5分前……鍵は、この時計……!」 食堂の隅に据え付けられた時計の前に戻ってきたパティリッタは、その時計の針を弄り始めた。 「おやつは3時……その、5分前……!」 2時55分。時計の針を指し示す。 「ぴぃっ!?」 背後で物音がして、心臓が縮み上がった。 慌てて振り向けば、食堂の床石のタイルが持ち上がり、地下への階段が姿を現していた。 なんとも形容しがたい異様な空気が肌を刺す。 恐らくこの先が、この屋敷で最も危険な場所だ。本当にどうしてこの館に足を踏み入れたのか、後悔の念が強まる。 「……行くしか無い……あぁ……いやだぁ……! 行くしか無いぃ……」 しばらく泣きべそをかいて階段の前で立ち尽くした。これが夢であったらどんなにいいか。 ひんやりとした空気も、腐臭も、時計の針の音も、全てが現実だと思い知らせてくる。 涙を拭いながら、階段を降りていく。
降りた先は、石造りの通路だった。 異様な雰囲気に包まれた通路は、激しい寒気すら覚える。躰が雨に濡れたからではない。
――死を間近に感じた悪寒。
一歩一歩、少しずつ歩みを進めた。通路の端までなんとかやってきた。そこには、鉄格子があった。 「……! うぅぅ~……!!」 また泣きそうになった。鉄格子は、飴細工のように捻じ曲げられいた。 破壊されたそれをくぐり、牢の中へ入る。 「~~~っ!!!」 その中の光景を見て思わず地団駄を踏んだ。 棚に首が、並んでいる。誰のものか考えなくともわかる。 合計4つ、この館の人間の犠牲者全員分だ。 調べられそうなのはその首が置かれた棚ぐらいしかない。 一つ目は男性の首だ。必死に恐怖に耐えているかのような表情を作っていた。これは、下男だろう。 二つ目も男性の首だ。苦痛に歪みきった表情は、死ぬまでにさぞ手酷い仕打ちを受けたに違いなかった。これがこの館の主人か。 三つ目は女性の首だ。閉じた瞳から涙の跡が残っている。夫人の首だろう。 四つ目も女性の首。絶望に���みきった表情。メイドのものだろう。 「……これ……」 メイドの髪の毛に何かが絡んでいる。銀色に光るそれをゆっくりと引き抜いた。 鳥の意匠が施された銀のスプーン。 「こ、これだぁ……!!」 これこそが魔法陣を解錠する鍵だと、懐にしまい込んでパティリッタは表情を明るくした。 しかしそれも、一瞬で恐怖に変わる。 ――何かが、階段を降りてきている。 「あぁ……」 それが何か、もうとっくに知っていた。逃げ場は、無かった。弓を構えた。 「なんで、こういう目にばっかりあうんだろうなぁ……」 粘着質な足音を立てながら、その異形は姿を現した。 "元々は"人間だったのであろう、しかし体中の筋肉は出鱈目に隆起し、顔があったであろう部分は崩れ、悪夢というものが具現化すればおおよそこのようなものになるのではないかと思わせた。 理性の光など見当たらない。穴という穴から液体を垂れ流し、うつろな瞳でこちらを見ている。 ゆっくりと、近づいてくる。 「……くそぉ……」 歯の根が合わずがたがたと音を立てる中、辛うじて声を絞り出す。 「死んで……たまるかぁ……!!」 先手必勝とばかりに矢を射掛けた。顔らしき部分にあっさりと突き刺さる。 それでも歩みは止まらない。続けて矢を放つ。まだ止まらない。 接近を許したところで、全力で脇を走り抜けた。異形の伸ばした手は空を切る。 対処さえ間違えなければ勝てるはず。そう信じて異形を射抜き続けた。
「ふ、不死身とか言うんじゃないでしょうねぇ!? ふざけんな反則でしょぉ!?」 ――死なない。 今まで見てきたゾンビとは格が違う。10本は矢を突き立てたはずなのに、異形は未だに動いている。 「し、死なない化け物なんているもんですか! なんとかなる! なんとかなるんだぁっ!! こっちくんなーっ!!!」 矢が尽きたら。そんな事を考えたら戦えなくなる。 パティリッタは無心で矢を射掛け続けた。頭が急所であろうことを信じて、そこへ矢を突き立て続けた。 「くそぅっ! くそぅっ!」 5本、4本。 「止まれー! 止まれほんとに止まれー!」 3本、2本。 「頼むからー! 死にたくないからー!!」 1本。 「あああぁぁぁぁっ!!!」 0。 最後の矢が、異形の頭部に突き刺さった。 ――動きが、止まった。
「あ、あぁ……?」 頭部がハリネズミの様相を呈した異形が倒れ伏す。 「あぁぁぁもう嫌だぁぁぁ!!!」 死んだわけではない。既に躰が再生を始めていた。しかし、逃げる隙は生まれた。 すぐにねじ曲がった鉄格子をくぐり抜けて階上へ飛び出し、一目散に入り口へ駆ける。 後ろからうめき声が迫ってくる。猶予はない。 「ぎゃああああもう来たあああぁぁぁぁ!!!」 玄関ホールへたどり着いたと同時に、後ろの扉をぶち破って再び異形が現れる。 無秩序に膨張を続けた躰は、もはや人間であった名残を残していない。 異形が歪な腕を、伸ばしてくる。 「スプーンスプーン! はやくはやくはやくぅ!!!」 もう手持ちのスプーンから鍵を選ぶ余裕すらない。3本纏めて取り出して扉に叩きつけ��。 肩を、異形の手が叩く。 「うぅぅぐぅぅぅ~ッッッ!!!」 もう涙と鼻水で顔はぐちゃぐちゃだった。 後ろを振り返れば死ぬ。もうパティリッタは目の前の扉を睨みつけるばかりだ。 叩きつけたスプーンの内1本が輝き、魔法陣が共鳴する。 「ぎゃー! あー!! わーっ!! あ゛ーーーッッッ!!!」 かちゃり、と音がした。 と同時に、パティリッタは全く意味を成さない叫び声を上げながら思い切り扉を押し開いて外へと転がり出た。
いつしか雨は止んでいた。 雲間から覗いた夕日が、躰に纏わり付いた忌まわしい物を取り払っていく。 「あ、あぁ……」 西日が屋敷の中へと差し込み、異形を照らした。異形の躰から紫紺の煙が上がる。 もがき苦しみながら、それでもなお近づいてくる。走って逃げたいが、遂に腰が抜けてしまった。 ぬかるんだ地面を必死の思いで這いずって距離を取りながら、どうかこれで異形が死ぬようにと女神に祈った。
異形の躰が崩れていく。その躰が完全に崩れる間際。 「……あ……」 ――パティリッタは、確かに無邪気に笑う少年の姿を見た。 翌日、パティリッタは宿場につくなり官憲にことのあらましを説明した。 館は役人の手によって検められ、あれこれと詮議を受ける羽目になった。 事情聴取の名目で留置所に三日間放り込まれたが、あの屋敷に閉じ込められた時を思えば何百倍もマシだった。 館の住人は、縁のあった司祭によって弔われるらしい。 それが何かの救いになるのか、パティリッタにとってはもはやどうでも良かった。 ただ、最後に幻視したあの少年の無邪気な笑顔を思い出せば、きっと救われるのだろうとは考えた。 「……帰りましょう、リーンに。あたしの日常に……」
「……もう、懲り懲りだぁー!!」 リーンへの帰途は、晴れ渡っていた。
――ある館の、惨劇。
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第38話 『白き山脈にて (2) - “エレドスティ山地"』 In the white mountains chapter 2 - “Mountains”
エレドスティ山地は白銀に覆われている。
所々灰色の岩肌が覗いているが、モノクロの世界が山頂まで延々と続いているのだ。
見ず知らずの人間が来れば、たちまち自分の位置を見失い、これまでも多くの部外者が��中で遭難し、姿を消したり、遺体となって発見されてきた。
エレドスティの狩人は先祖代々伝わる景色の覚え方を伝えてきた。
鹿岩、猪の木立、柊の穴…
似たような地理の中から僅かな特徴を捉え、形状によって動物や自然のものになぞらえ、様々な目印に名を付けて、位置関係を記憶し、道を知る。
エレドスティの狩人はそうしてきたのだ。
そして、村に奇跡でも訪れない限りおそらくは、私がそれを継ぐ最期の一人となるのだろう。
死体に宿ったジョゼフは私の指示に従い、急斜面を駆け上がっていく。
浮石の多い岩場を避け、雪庇を予見し、迂回の必要性を説き、最短の道筋を指し示す。
傍らでは、ライツが無言でその様子を見つめている。
背後に立ったアリーセがこちらを見ているのか、それともまだ山頂を見つめているのか、振り返る余裕のない私にはわからなかった。
やがて、しばらく道なりに進むだけのなだらかな斜面で、私の指示は一旦途切れた。
「山頂まで足を踏み入れる者は多いのか」
唐突に、ライツが表情を変えず、抑揚のない声で尋ねてきた。
面食らった私は即座に返答ができなかったが、しどろもどろしつつ、答えた。
「あ、いや… そうですね、そんなに多くはないかな。ここまで登れて、帰れる者がまずそう多くない」
「では、その大都市の蜃気楼とやらを目にした者も、多くはないという事か」
「数人ってとこですね。」
「なるほど… ならば、間違いなさそうだな」
これこそが、エレドスティに彼らがやってきた理由なのだ。
麓の村で囁かれていた、眉唾ものの噂。
それが遥か遠方に住む彼らの元にまで伝わって、こうしてここまで足を運んできたのだとしたら、恐るべき情報収集能力と言わざるを得ないのだろう。
実際に、最初に蜃気楼を見たのは、隣家のハンスだったはずだ。
それ以外に、狩り仲間の何人かが見たと言っていた。
私自身、山頂に足を運ぶ事は少なくなかったが、そんなものを目にした事はなかった。
多くの場合、それは吹雪いた日に見えるらしい。
吹雪いた日にわざわざ山頂まで登る馬鹿はいない。
山に通じた者なら、リスクを冒す前に降りるのが基本だからだ。
だから、それを見たという者は総じて、年数の浅い未熟な狩人達だった。
年長者達は、そうした噂を一笑に付していた。
山で吹雪かれた失態を誤魔化そうと、それらしい作り話をして誤魔化そうって算段だ、ハンスを真似して他の者も同じ事を吹いているんだ、そう言って取り合わなかった。
私も、同じ程度に考えていた。
作り話���はないにしても、極寒の中で似たような幻覚を見ただけだろうと、軽く見ていた。
その噂がどうやって村の外にまで流れていったものか。
出入りがない村ではないのだから、誰かがこの話を、村の外でしたという事なのだろうが…
村の誰もが信じなかった話を、部外者であるこの屍術師達は、端から信じていた。
信じるに足る何かを、無知なる村人には持ち得ない情報を、彼ら自身が持っていたからなのか。
確認する手段はないが、そうとしか思えなかった。
「着いたぜ」
耳の内側で声がこだまする。
目線をライツから戻すと、ジョゼフの視界のあった辺りには、一層濃い白さの靄が立ち込めていた。
いや、違う。
それは、山が見せる過酷さの一側面だ。
猛烈に吹き荒ぶ雪の粒が、ジョゼフの視界の一切を閉ざしていた。
仰ぎ見る山頂付近は、既に雲の中にすっぽりと覆われているように見えた。
私達がいる中腹はまだ穏やかに白い粒が舞い散る程度である。
山の天候は変わりやすい。
こうして山の中の離れた地点を直接目にする機会など持ち得なかった私は、実際に同じの山の中にいながら全く異なる気候に晒された二者間を実感し、大層感心してしまった。
しかし、ライツは無感動に、また抑揚のない声を出した。
「視界が悪いな。払うか?」
「ライツ様はすぐ楽しようとするんだからいけねぇなァ」
ジョゼフが冗談めかして言う。
「いいからさっさとやれ」
突然背後のアリーセが声を発したので、思わず後ろを振り向いてしまった。
事実上、彼女の声を聞いたのはこれが初めてとなった。
彼女は、明後日の方向を向いたまま、表情だけ苛立たしげに眉をしかめていた。
ライツがおもむろに呪文を唱え始めると、ジョゼフの視界に、死体の右腕が映る。
わかっていた事なのに、腐肉を晒したそれを見て、一瞬だけ目を背ける。
ライツの動きに合わせ、視界の中の右腕が同じように動く。
そのときだけはまるで、ライツがその死体の右腕を動かしているかのようにも見えた。
呪文を終えると、視界の中の右腕が光り、目映い筋が白く閉ざされた虚空に放たれる。
窓を拭うかのようにライツが右腕を左右に振ると、死体の右腕が同様に白い空間を左右に払い、それに合わせ、空気の裂け目とでも言おうか、前方の中空に雪の振り込まない空間が浮き上がる。
そしてその空間の先に、驚嘆すべき光景が広がっていた。
大都市。
噂が形容したその言葉は、決して間違いではなかった。
密集し、入り組んだ石造の建造物群。
外縁を城壁が囲い、その広さは、かつて目にした城下町を数個中に収める事ができるほどの威容であった。
「ほ、本当にあったのか…」
開いた口が塞がらず、呆然と見つめる私の脇から、アリーセが乗り出し顔を近づけて幻像に目を凝らす。
「…見せていますね、これ」
「だろうな」
ライツが相槌を打つ。
「見せる?誰が?」
素っ頓狂な声を上げる私を無視して、ライツが鼻の下に手を当て、考え込む。
「誘っている、のだろうな…」
その言葉に、背筋がぞわりと粟立った。
姿を消した狩人の仲間達。
何人もの仲間が、この蜃気楼を目にしている。
「実際に行ってみるのが早かろう。ジョゼフ、進め」
「アイサー」
ライツとジョゼフの手短な会話の後、視界が再び高速で動き始める。
「行くって、どこへ…?」
この場所で、今の私がどれほど間の抜けた存在なのか、自分でも嫌というほどわかっていた。
だが、わからないものはわからない。
それに変わりはないのだ。
ライツは、実に味気なく答えた。
「この都市に、ですよ」
猛然と斜面を駆け下りていく死体。
生身の人間であれば一昼夜はかかるであろう山越えを、屍術師連中は、ものの1時間足らずで為そうとしていた。
エレドスティ山地は複数の山から成り、麓の村に面した山は、テレス山だ。
実際にはパルムとナンネックという2つの山も面したコの字の中央に村があるのだが、パルムとナンネックは厳しく切り立った崖に面しているため、村から直接登る事はほとんど不可能である…少なくとも生身の人間なら、と今なら言えるが。
テレスを越えた先には、登りと同じだけの急勾配が待ち構えており、そしてさらにその奥に、レイーニ山や南北に横たわるナンネックの北端側などが連なっているはずだった。
しかし、そうした私の知識は、今この場において、何の役にも立たなかった。
視界には、広大な未知の盆地に、蜃気楼で見たものと全く同じ都市の情景が広がっていた。
こんな場所を、私は知らない。
「あの蜃気楼はいわば、入り口なのだろう。従来は何者も足を踏み入れられぬよう、目を逸らさせる術…具体的にどのようなものかは直接出向かねばわからぬが…が、施されていると考えれば説明がつく」
私の困惑と疑念を聡く察したライツは、丁寧な補足を加えてくれた。
「それはつまり、誰かがあの大都市を隠していたという事ですよね…」
私は質問しながら、聞かなければよかったと後悔していた。
当然ながら、私の質問は否定されず、首肯だけが返ってきた。
こうした会話を尻目に、死体はあっという間にその都市の南端にまで歩を進めていた。
見上げ仰いだ城門と思しき石柱は、天頂部が雪に霞んで詳細な造形が確認できないほどの高さを誇っていた。
その石柱には、私には全く想像もつかぬような未知の言語と見られる字の並びと、獣とも人ともつかぬ異様な生物の抽象化された像が彫りつけてあった。
ライツも、その彫り物を目にして、鼻先に指を当てて、考え込み始めた。
「私はあまり詳しくはないのですが… もしや、これはとてもその、古くて価値があるものなのではないでしょうか?」
私はおずおずと、自身の感想を述べた。
ただ、ライツの反応は、予期したどんなものとも異なっていた。
「仮にそうだとして、我々には関係ない」
その言葉に呼応するかのように、死体の視界がまたゆっくりと滑り始めた。
馬車が4台並んでも通れそうな幅の広い石畳の回廊は、城門と同じ高さのアーチを描いた天井の下をひたすらに真っ直ぐ伸びていた。
左右には、アーチを支えるように左右の直立した壁面が続き、それぞれ所々に大小の穴が開いており、それらが市場の露店のような、街道に面した何らかの建造物であるように見えた。
一体誰が、何の目的でこんな威容の都市を築き上げ、そして秘匿してきたのか、そうした背景を思うと、私はその威容に対する感動などよりも強く、薄ら寒いものを感じずにはいられなかった。
素足で歩む死体は、足音らしい音も立てない。
回廊に踏み入ってからは風音も止み、回廊は不気味な静寂に包まれていた。
そうした状況にあっては、僅かな音であっても、聞き逃す事はなかったと言える。
進行方向の暗闇から、濡れた何かを引きずるような、気色の悪い音が聞こえてきた。
それと同時に、聞こえなくなったはずの、風音らしき音が幽かに響いた。
しかしそれは、あるいは本当に風音だったなら、どんなに良かったろうと思う。
二度三度、音は規則的に繰り返される。
やがてその音は、明確な声となって私の耳に響いた。
「テケリ・リ」
文字に起こすならば、こう記すのが適切かもしれない。
その声は確かな音の響きを持って、繰り返し、死体の立つ場所へと迫ってきていた。
本能が相反したふたつの欲求に働きかけ、私はその間に立ち、身動きが取れなくなっていた。
つまりは、「それを見たくない」という恐怖と、「それを見たい」という好奇とである。
「敵性だな、構えろジョゼフ」
「言われなくとも」
死体の視界がやや沈み、その腕が目前に上げられて拳と手首が映る。
そして…
その先に映ったものを目にしたとき私は、声にならぬ叫び声を上げ、尻もちをつき倒れた。
回廊と覆うほど巨大で、暗く虹色に発光するタール状の粘液の塊、それが、自らの意志を持って、身を捩り這いずりながら渦を巻いて、雪崩れてきていた。
その表面には、無数の眼球のようなものが、まるで滝壺に湧く気泡のようにせり出しては弾けては消え、明滅していた。
それはまた、姿を消した仲間達の末路を示唆するものでもあった。
もしもこの怪物に直接遭遇していたなら、私は容易く失神していた��ろうと思う。
ただ、今置かれた状況が、遠方の誰かの運命をガラス越しに垣間見るような他人事じみたもので、その溝によって隔絶されているという実感が、私の意識を現実につなぎとめる役割を果たしたと思えた。
「よく燃えそうだ」
嘲り混じりに、ジョゼフの独り言がこちらに届いた。
応えるように、ライツが短い呪文を口ずさみ、右手を軽く振るう。
幻像の中で、死体の腕が突如燃え上がった。
屍術師とは何者なのか、死体を使って戦うとはどういう事なのか、何故冒涜者達はそれを選んだのか。
その真実を、これから私は、目の当たりにする事になる。
~つづく~
※今回のショートストーリーは、ohNussy自筆です。
白き山脈にて (3) - “ショゴス"
「ショートストーリー」は、Buriedbornesの本編で語られる事のない物語を補完するためのゲーム外コンテンツです。「ショートストーリー」で、よりBuriedbornesの世界を楽しんでいただけましたら幸いです。
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tofubeats RUN 制作日誌
tofubeats - RUN 初回プレス分に封入 2018/10
CDを購入 https://amzn.to/2RjjdPM iTunes Store/Apple Music LISTEN NOW Spotify LISTEN NOW
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まず最初に「寝ても覚めても」の脚本を読んで、とても戸惑った。世間体に囚われず自分の思うままに動く主人公、朝子の気持ちがあまり理解できなかったからだ。ただそういった理屈じゃないところに人間らしさというものがあるというのもよくわかる。まずは映画が終わったあとに見ている方々が朝子のことを嫌いにならないような曲にしたいな、というようなことをボンヤリ考えた。 今回の映画の鍵になるのは淀川らしい。我々関西人には馴染み深い川だ。淀川~音楽と聞くと上田正樹「悲しい色やね」しか出てこない。実際脚本を読んでからこの曲を聴くとそれなりにハマるのだ。ただ残念ながらああいうソウルフルなボーカルは自分にはできないので、まずは川についての認識を改めよう。脚本を読み込んだあと、書店に行き、ブルーバックスの棚から「川はどうしてできるのか」を購入することからこの 曲の制作は始まった。こういう本を読んでいると日能研に通っていたころを思い出す(きっと最後に真面目 に勉強していたのがその頃だったからだろう)。読み始めて早々に「河川の3作用」という懐かしい項目にぶつかった。皆さんは覚えているだろうか、侵食、運搬、そして堆積。なんだかこれで曲ができそうな気がしてきた。こういう予感は当たる時の方が少ないのだが、RIVERはそんなアイデアをもとに叩きが仕上がった。 1箇所を除いてほとんど最初に書いた歌詞が採用された。
8月某日、主題歌がひとまず仕上がりサントラに取り掛かっている最中、映画のロケが神戸でも行われるということで見学に行ってきた。その場所は六甲アイランドという埋立地で、独特の雰囲気がある人工都市だ。行きしに昔よく行っていた御影クラッセで差し入れを買う。きっと映画のスタッフはさぞ大人数なこと だろう。普段は買わない大きなサイズを買ってみる。早めについたアイランドセンター駅の周りは閑散とし ており、夏の空気がじんわり漂っていた。少し辺りを所在無さげにうろついているとスタッフの方に見つかる。本来は閉館中の美術館に裏口から入れてもらうさなか、本当にこの中で映画のロケなんてしているのだろうかと不安になった。 中に入ると撮影真っ只中。まだ知り合う前の主人公2人が美術館の中ですれ違うシーンが何度も別アングルから撮影されていた。大阪の国立国際美術館周辺から移動してきてここ神戸で美術館の内観を撮影する、というスケジュールだったようだが、話を聞けばこの日はセリフがあるシーンはほぼ撮らないという。2人 の足音と東出さん扮する麦が歌う鼻歌だけがひっそりと響いていた。映画を撮るというのは音楽を作るよりも遥かに大変だな、となんとなく撮影を眺めているとひと段落したタイミングで「トーフビーツさんからバー ムクーヘンの差し入れで~す!」とスタッフの声。映画の現場ではこうして差し入れを周知させるという慣習を知らなかったのでめちゃくちゃ驚いた。ちゃんと差し入れを持って行っておいてよかったと胸を撫で下ろす。 のほほんと見学している自分以外の皆様は仕事中。監督や主演のお二人への挨拶もそこそこに車に乗って家路につく。美術館を出るともう見慣れた景色に逆戻りで、あんなに画になるふたりを神戸で暮らしていて 見ることなんて無いので変な気分だった(だが、後に唐田さんとビデオで共演させていただくことになってしまい、さらに時空は捻じ曲がる)。車に乗り込み、ちょうど本土に向かう橋の手前でロケバスと隣り合わ せになった。きっと映画のスタッフの皆様が乗っているのであろう。一方でひとり家路につく自分の仕事は つくづく小編成だなと思いながらハンドルをロケバスと逆の方向に切った。湾岸から本土への橋を走っている時は、光の中に飛び込むようで気持ちが良い。家に帰ればまだまだサントラの制作が待っている。
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神戸某所の洒落たカフェでジャンプのお色気枠の漫画をipadで読むのが仕事になるとは思っていなかったが、以前にもカドカワのお色気映画の主題歌を書いたことがあった。こう言った類のラブコメと縁がある人生、オタク冥利に尽きますね。「電影少女」を全巻読むところから始まったこの仕事、RIVERといい資料に向き合う作曲が今夏は多い。漫画と脚本を行き来して要素を書き出していく。ドラマの要素、漫画の要素、そして西野さん(劇中で西野七瀬さん扮するアイちゃんが歌うということは最初から決まっていた)。こうして曲のデモが出来上がってから同じカフェで3日くらいかけて仕上げたのがふめつのこころの歌詞だ。TVサ イズの制約や歌唱キーのこともあり、いろいろと縛りの多い中で展開させるためテンポもこれまでのシング ルで一番早いし、イントロもほとんど無い、自分としては珍しい曲ができた。 ちなみにここでいう「こころ」というのは自我、とか意思というものに近い、と当時の走り書きに書いてある。ビデオガールは恋をしてはいけないし、主人公の翔も自分から行動するのが苦手だ。自ら扉を叩くというのは簡単なことではない��だが、だからこそそういう「こころ」を持って欲しい、というテーマに最後は収まった。きっとそういったことを皆に気づかせるためにアイは降臨したはずなのだ。前のアルバムの若林さんによるライナーノートやその時読んでた本もヒントになったかもしれない。
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先ほども書いたがふめつのこころは西野さんによって歌われることがあらかじめ決まっていた曲だ。レコーディングは師走真っ只中、電影少女の撮影の合間を縫って行われた。テレビ東京に到着するとちょうどアイ がふめつのこころに合わせて踊っているビデオの撮影最中。いつのまにか可愛らしい振り付けが付いていて驚いた。しかし流れているのは自分の仮歌だ。これももう少しすれば目の前にいるアイに吹きかえられる。 まだまだ大量の撮影を控えている西野さんはアイの格好のままスタジオにやってきた。簡単な挨拶を済ませてから、話もそこそこにレコーディングへ。いつもグループで多忙なアイ、いや西野さんはソロでのがっつりしたレコーディングは初めてだという。歌は上手なのだが控えめな声量で、少々珍しい設定で録りが始まる。前回のアルバムのレコーディングで逆に自分の声がバカでかくて逆方向に珍しい設定になっていたこ とを思い出す。 ところ��゙ころグッと張ったときに魅力的な声を出す人ですね、などエンジニアの方と話しながらレコーディ ングは進行。メインのメロディを録り終えてから次はハモ、というところで、「実は一人でハモりを録ったことないんです」と西野さん。慣れない作業かもしれませんが頑張ってみましょう、とキューを返して録り始めるが、とくに大きな躓きもなく終了。西野さんは同じくアイの格好のまますぐに撮影のスケジュールに戻っていった。トップアイドルの過密スケジュールは大変だなあ(それに加担しているのだが)と西野さんを見送り、ハウスエンジニアの方が素材を整理するさまをコーヒーを飲みつつ眺めていた。我々の希望に反して残念ながらアイ歌唱のバージョンは音源としてリリースされることはなさそうだが、この曲はこのバージョンのために書き下ろしたことをここにメモしておく。そういえば今作はもう1曲お蔵入りになった曲がある。 現場でよくプレイしているがサンプリングの許可が降りなかった。FANTASY CLUBの海外版に「BABY」 が収録できなかった件もそういった事情なのだが、なかなか日本の権利元からサンプリングに対する理解を得るのは難しい。などと言っている間に平成が終わる。
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年明け、初めて母校の高校で講演をするというオファーがあり、高校2年生向けに自分の仕事について話 す機会があった。高校時代からそこまで世間とソリが合っていたわけでもない上に今や10個の年齢差、共学化までしている母校はもはや別の学校だった。あんなにザルだった入り口で守衛さんに「何か御用ですか」 と止められる。ミュージシャンとしては地味な部類なので忘れがちだがもうジャケットを羽織ったくらいで はこの胡散臭さは隠しきれない。 2コマの講演は概ね好評で胸をなで下ろすも非常に気疲れする現場だった。終了後すこし不思議なキャラで人気だったかつての担任が何人か将来音楽の仕事や舞台の仕事がしたいという子を連れてきてくれた。宝塚の受験を頑張っている子などがいるのは本当に自分のいたころの母校と違いすぎて驚いたが、大体の人は何か一つに傾倒しなければいけない!と肩肘を張りすぎている気がする。自分は高校の時はそれなりに音楽に打ち込んでいたが将来音楽関係の仕事をしたいとは思っていなかった。好きなことや凝れることがあると人生は楽しくなると思うが、それをどう仕事と絡めていくかというのは別の難しい問題。そんな話をしていると噂を聞きつけた3年生が数名、教室へ飛び込んできた。2年生より彼らは自分のことを知ってくれているようで、聞いてみると乃木坂のファンでもあるという。ちょうど年始にOAが始まった電影少女のラブシーンにドギマギしているそうだ。そんな高校生の姿を見てなんだか無性に嬉しくなった。 もうドラマのOAは始まっているが後半のエピソード用のサントラの作業はまだ少しの修正を残していた。 午後は高校の隣にある同じく母校の大学に通うLe Makeup君と合流し修正作業。長めにかかるかなと思っていた作業はあっけなく終了。作業をした部室はまだ自分が卒業した時と大差無く、自分が部室に持ち込んだゲーム機や椅子もまだそのままで、後輩たちのサボりの一助になっている模様で一安心。
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RIVERを書き下ろしてから約半年、バレンタインデーの頃に「寝ても覚めても」の初号試写があった。自分にとっては作った主題歌、そしてサントラを初めて劇場で体感する日である。タクシーに乗ってもよかったのだが気持ちを整理したくなり、歩いて撮影所に向かう。会場に到着するとすぐに試写は始まった。 映画自体、何度もラッシュを見て曲をつけていたのに映画館で改めてそれらを見るのは本当に緊張した。 正直映画自体のことよりも音楽がちゃんと映像を引き立てられているか心配で仕方がなく、エンドロールで RIVERが流れ出したときなどもこちらは気が気でなかった。 ひとまず映画は終わり、大きく息を吐いたところで明かりがついた。横を見てみると、同じ列の少し向こうに唐田さんが座っていて驚いた。何主演の近くの席で見とるねん俺は、と思ったがそんなことにも気づかないくらい曲のことで頭がいっぱいだったようだ。唐田さんは初ヒロイン仕事がようやく一息ついたのだろう、涙を拭いつつ近くの席の方と労をねぎらいあっていた。世間の評価を一手に引き受ける俳優の方���の重 圧たるや自分には想像もつかないものだ。 ロビーに出るとスタッフの方々に当日来ていた俳優の方々を紹介される。同世代の俳優さんたちが頑張ってらっしゃる姿は刺激になった、と伝える。瀬戸康史さんは楽曲を聞いてくださってると言ってくださり嬉しかった。TVで見ている方々とこうしてご挨拶させていただくのはデビューして結構経つがまだ不思議な感覚になる。俳優陣が談笑するのを遠目に眺めながら大勢で仕事をした経験が自分には無いな、もしそんなことがあったとしても雰囲気良くできる自信は無いな、と思う。 挨拶もそこそこにレーベルのスタッフとタクシーを拾おうと駐車場に出ると瀬戸さんが車に乗り込んだところだったようで、流していたカーステの音量を上げてくださった。なんと流れていたのは自分の曲 「BABY」。顔も中身もイケメンや...と思いつつ、お礼をして外に出た。後ろからうっすら自分の歌が聞こ える。映画にも、瀬戸さんのドライブにも自分の曲が何かを添えられているのだとすれば良いのだけど。自分にとって音楽はいつも最初の方の順番にあるものだが、他人や社会にとってはそんなことない、というのはなかなか外に出ないと気づけない。
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前作FANTASY CLUBにとって大きな指針になったのは若林恵氏のWIRED巻頭言だった(ので、ライナーノートをお願いした)のだが、今回「RUN」のとっかかりになったのは「ニュータウンの社会史」という本である。おもしろかった本ほど読み終わったら人にあげてしまう癖があり、悲しいことにこのエッセイを書 いている今、手元にその本が無い。誰にあげたのかももう思い出せない。 日本で最大の新興住宅地、多摩ニュータウンを紐解く本書はもともと興味を持って関係書籍を読んでいた自分にとってもおもしろい読み物で、とくに開発初期における歪みの部分とそれらを対処しようとする住民、 といった関係性のあたりはなかなか興味深い記述が多かった。最初期の多摩ニュータウンでは住宅計画と交 通網の整備などに大きなズレが生まれており、道路網の不足による深刻な渋滞や鉄道の整備の遅れで住民は 多大な迷惑を被っていたという。 そんな多摩ニュータウンの最初期に生まれた「多摩交通問題実力突破委員会」という組織が面白い。交通 インフラが整備されていない最初期の状況を打破するため、ニュータウンの住民たち自ら組合的組織としてこれを発足。乗り合いバス的なものを独自に運営していたという。本組織についての記述はほんの1Pほどで あるが、郊外に新天地を求めた最初の人々のタフさというか、自分たちで寄り合って問題を解決しようとする姿勢、というのが新鮮で、今自分が思っているニュータウン観というものとは結構違う。今や静寂やある意味狂気の象徴���して扱われることの多いニュータウンだが、最初は人口激増の末、都会から新しい住環境を求めた人々がやってきた場所であって、そのように考えると普段の風景もまた違って見えてくる。
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カンヌ映画祭に「寝ても覚めても」が出品されるそうだ。しかもコンペ部門。濱口監督の技量と映画界からの期待に驚いた。豪勢なドレスとスーツに身を包んだ主演お二人と監督の姿をネット中継で見ていると自分がこの作品に関わっていることなど忘れそうだ。そんな時に日本語っぽい音楽が急に流れてきたなあ、と 思ったらそれがRIVERだった。今この曲のボーカルは部屋で短パン姿、デスクに足を掛けてチョコを食べている。 少し間を置いて上映後の囲み取材も中継されていた。俳優陣2人と共に登壇した監督は言葉を選びながら回答する俳優陣とは対照的にひとり淀みなく次々と質問に答えていた。とくに朝子について聞かれ、「僕は彼女の判断を全面的に支持します」とハッキリ言っていたのは印象的だった。
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Pizzicato Oneの「わたくしの二十世紀」を聞いており(めちゃくちゃ素晴らしいアルバムだ)、小西氏の作詞で出てくるテレビ、映画、電話といった要素の二十世紀らしさみたいなことについて考えていた。これから自分たちは二十一世紀に音楽を作るにあたってこういった言葉の問題と向き合っていかなければならないと思う。レコードはSpotifyになり、映画はNetflixになり、YouTubeがあり。音楽も細分化と言われて久しいが、そんな中でどういった歌詞の音楽を作るのか。 そんなことについて考えながら大阪での仕事に向かっていたのだが、時間があったので少々寄り道することにする。大学を出る少し前から数年間住んでいた御影のあたりは今どうなっているだろう。言うても5~6 年なので大して変わっていないだろうと到着してみると見たことのない広大な空き地が広がっており絶句。 アパートの向かいはもともとゴルフの打ちっ放しになっており、静かな住宅街に時折球を打つ音が響くのが好きだった。横の駐車場だけはコインパーキングとして残っており、打ちっ放しはサッパリなくなったというわけだ。アパートは住んでた時のまんまだったけど。なんだかな~と思い近くにあったコンビニでコーヒーでも買おうと思ったらなんと最寄りのコンビニもなくなっており、洒落たコーヒー店ができていた。そんな気分ではないので車に戻る。 不完全燃焼な気持ちをなでつけるため、その後通る芦屋で洋菓子を買うことにした。生菓子がとても美味しそうだったがもう暑い時期なのでやめておく。ここのカヌレは常温で5日持つ。取材先と、マネージャーと、後日のためにもう何個か買っておく。お土産を持っていくのは大好きだ。こうやって物を選んでいる時や、��れらを現地に持っていくまでの間は相手のことを考えており、あげる側のほうが満足度が高いことはしばしばある。結局コーヒーはセブンイレブンで買った。
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「RUN」のビデオを大急ぎで神戸で撮影して、数日ぶりの安眠だ、と床についたわずか数時間後の朝8時前、地震で叩き起こされた。関西では久々の大きな地震に大騒ぎ。一人暮らしなのに「ヤバいヤバい」と言いながら積んである荷物を抑えた。地震が収まってから作業部屋に出てみるとたいした被害はなかったのだがモニタースピーカーがコーンの方からズドンと落ちていてげんなり。通電し直してみると嫌な感じのノイズ。まあスピーカー1台くらいで済んでよかった。とてつもなく眠かったが家にいても仕方ないので町に出る。安全確認のためか電車が高架の途中で停車していた。神戸もほんの一部のエリアは停電していたようで、 電力会社の作業を眺めながらホームページに既にその停電情報が出ていたのを見て感心する。 喫茶店は通常通り営業していたが、交通機関の影響で何人かバイトが来られていないようだ。その後電車が止まって通勤の路が絶たれた父から連絡が来たので店を変えて茶をシバく。同じく通勤中だった妹は交通機関が動いていたのでそのまま出勤。眼前の父はニュースを見ながら会社の部下たちに休みの連絡を入れていた。上司かくあるべし。しかし会社勤めというのは大変だ。父と解散してから自宅に帰るもエレベーターは動いておらず、久々に階段を登って部屋に帰る。もうこんな感じだと仕事をする気にもならないので、も ともと翌日から行く予定だった香川に前ノリすることにした。神戸ではとくに重大な事故なども起きていな かったようだが、こういうことがあるとどうも気持ちが落ち着かなくなってしまい、音楽とか作っている気 分ではなくなってしまう。 香川では翌日会う予定だった小鉄さんが仕事終わりに合流してくださり、地元の洒落た喫茶店に連れて行ってくださった。モヤっとした気持ちがこうして人に会って取り払われるのは非常に助かる。深夜にコーヒーが飲める店があるのはいいなと思った。話は盛り上がり、2杯目の紅茶を飲み終えるくらいのところで地元の方に声を掛けられる。写真を撮影してサインを書き、なんだかもどかしくなり、店を出た。
わずかその半月後、今度は西日本を中心に激甚な豪雨が発生する。在来線も概ね止まりつつあった7/5に大阪でライブの出演予定があり、昼間駅に行ったらJRが止まっていたので帰宅して車で会場に向かい直した。 往路はそうでもなかったのだが、帰りの雨はひどく、ワイパー��意味がなくなるほどで、高速道路を徐行して帰った。翌日になるといよいよ冗談でないくらいの雨量。びしょ濡れになりながら向かった役所で用事を済ませたら家に帰るのが面倒になってしまい、そのまま東京出張に向かうことにした。USBでDJできる時代 でないとこうはいかない。新神戸駅についたら駅構内は過去見たことないような雨漏りでバケツだらけの状態となっており、新神戸から西側は運休となっていた。駅の裏手のいつも穏やかな川も濁流で、ホームには普段見ることの無いスタッフが代わる代わる様子を確認しに来ていた。新幹線はほぼ満席で、溜まっていたポイントでグリーン車のチケットをなんとか取って乗車。新大阪を過ぎたあたりで新幹線の字幕スーパーから新大阪以西の山陽新幹線エリアとの連絡運行中止が発表されていた。 タッチの差で到着した東京は穏やかな天気で、予定どおり夕方に家を出ていたら移動できずに今日のDJ飛ばしていたな...とホッとする。ただニュースを見ていると被害の状況が沢山流れてきて、この安堵というのはどういう安堵かと考えさせられた。定期的に会っている岡山の方々を案じるが、自分にできることは非常に限られている。DJ明けの翌日も新大阪以西、新幹線は運休の報せ。次の仕事まで都内に滞在することにする。あんまり曲を作る気にならないのでアルバムのために作っているプレイリストを再生していると 「RIVER」のデモが流れ出し、少々モヤっとする。
そんなことを書いていたら7月末の高知公演でも台風直撃に見舞われてしまい延泊を余儀なくされる。結果天気は穏やかなものだったがJR全線運休の発表をいいことにひろめ市場で高知の方とのんびり食事をいただく。あいにく胃腸の調子が悪くカツオを貪り食うことができず残念だったが。携帯を開くと見たことないような軌道で紀伊半島から九州に向かって西行する台風の天気図。体験したことのない天気の連続に変に2018年の未来に生きているな...と感じさせられた。
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パソコン音楽クラブのリリースパーティが大阪であり、遊びに行ってきた。彼らには「ふめつのこころ」 のリミックスやそもそもドラマ電影少女のサウンドトラック制作でもお世話になったが、そんな彼らが出した「DREAM WALK」は久々に身辺近しいところから出た決定作、という感じでとても嬉しい気持ちになっ た。別に音楽を作っている人たちは身辺にたくさんいるが、それらをきっちり自らの個性でパッケージングして流通に乗せるというのはなかなか簡単にできることではない。東京のリリパの日もたまたま横のビルで 「寝ても覚めても」の取材があり、イベントも終わりがけの頃、会場に入れてもらったが、両日ともに本当に良い雰囲気で、集まっている面々から寄せられている期待値の高さも大いに感じる現場だった。 自分��「lost decade」を最初にインディでリリースしてその後色々揉まれて今があるわけだが、彼らはいったいこれからどういうステップを踏んでいくのだろうか。権利のことやいろんなことで悩んだ末に今があるのだが、悩んだりしたことが糧になったとはあまり思いたくない。その間、良い気分で良い音楽が作れたか もしれないのに、機会損失も甚だしい。自分のことに精一杯なのはまだまだ続きそうだが、頑張って良い曲を作っている若手への不要な慣習の押し付けやそれによって生まれる損失はできる限り取り除いていかないと、こういっためでたい場面に会う機会が減ってしまうかもしれない。急なサマータイム導入案のニュースを見ながらなかなか世間も変わらないなと思う。こういった事柄を決裁してる人は過去に今の自分のような苦悩に苛まれなかったりしなかったのであろうか?と思うが、年を取ったり立場を得ると忘れてしまうのだろうか。そこまで偉くなったことはないのでわからないがそうだとすれば本当に恐ろしいことである。 パソコンに続いてアルバム製作中というin the blue shirt・有村くんに「新譜楽しみにしてるで」と軽めの挨拶をしてワイパさんや久々の友人と富士そばに行き、そのまま自分はDJを控えていたクラブへ歩いて向かう。ワイパさんもまた別の現場へ向かっていった。いつもゴミゴミしたところを通るのが嫌で代官山の方面から向かうことが多いのだが、久々に渋谷の街を歩く。ここの街並みには未だに慣れない。なぜここにはこんなに沢山人がいるのだろう。 1ヶ月分くらい人と会った1日だったが、昼の映画の取材でも夜のクラブの楽屋でも「当たり前のことを言ってくれる人が少ない」という話になった。不祥事も「無い」と言い切ってしまえば無いことになってしまうし、今日も数々のニュースが「声をあげたところで世の中は変わらない」、とフワっとした諦めを投げかけ てくる。その後またひとつテンションの上がらない話を楽屋で聞いてモヤっとした気持ちになる。最近こういう話しかしていない。そのうちの一人は実際にその後調子を崩されてしまったそうだ。一方押し付ける側の人間はそのまま今も仕事をしているはずだ。真面目にやっていくことのなんと難しいことか。胸が痛む。
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アルバムも締め切りに差し掛かった8月某日、「RIVER」のMV撮影が都内で行われた。映画の主題歌ということもあり「寝ても覚めても」主演の唐田えりかさんに主演をオファー。快諾していただき、馴染みの森監督は僕と唐田さんの生活がクロスオーバーするようなコンテを仕上げてくださった。最初は船の上でキーボードを弾きながらリップシンクするのをドローンで...とかだったので五反田の喫茶店で「それをお客さんに納得させる演技力が僕にはありません!」とアピールしたら普通に部屋でパソコンをいじる、みたいなやりやすい環境を用意してくださった。ほんと世の中に見えてる自分のビジ��アルのほとんどはこのようにデ クノボウに気を使っていろいろやってくださる真のオシャレな人たちのおかげです。 唐田さんのシーンをふらっと覗くと化粧品のCMのような透明感で、しかも映画では東出さんの横に並んで居た唐田さんが自分の横に並ぶとは...と楽屋で遠い目になってしまった。その後、合間に唐田さんとマネー ジャーさんからご挨拶いただき、唐田さんがご自身で作ったというZINEを頂く。今、帰りの新幹線でペー ジをパラパラとめくりながらこうやって自分の作ったものを形にしているのはどのような形であれいいなあ、 と改めて思う。 MVの最後のシーンは隅田川に掛かる橋の上でRIVERを自分が弾き語るというシーンだった。橋の上に置かれた自分のパソコンとキーボードを見て違和感を隠しきれなかったが、外で鍵盤を触るなんて経験自分に は無かったので新鮮だった。夜風に吹かれて演奏するのも悪くない。ただ実際楽器はほとんどできないので運指は適当だ。キーボードを弾き終わり、立ち上がった自分はそのあとずっと別々に行動していたはずの唐田さんとすれ違う。人生はどこで交差するかわからない。
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前回のアルバムはマスタリングのことまで書けていたが、入稿の時点でアルバムが完成していたのは FANTASY CLUBが初めてだったと思う。2年にアルバム2枚をリリースするという昔ながらの契約も2周目、 今回はひるがえって厳しいスケジュールでの制作となっているのでアルバム制作を最後までこのエッセイで 記録しておくのは難しそうだ。前作から1年と少しの間に全曲自作のリミックス・アルバムと劇伴アルバム2 枚強分を制作した。あといくつかの外仕事。そうやってドタバタしているうちにゲストがゼロという本当に異例の作品が完成しようとしている。いつのまにかボーカリストみたいになっているし、顔もそれなりに差すようになってなかなか人生は思ったように進まないなと思う。 自分の中で本当に大変だ...というモードに達さず完成させることが初めてできたのがFANTASY CLUBだった(今当時のエッセイを見たらアウトロ作りに1週間もかけている!)のだが、そんな言い分が毎度通るほど まだ我々はイケてない。皆様にこの文章とともにちゃんとアルバムが発売日に届いていることを切に願う。 良いことなのか悪いことなのか、我々はずっと必死だし、それはまだしばらく続く。
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2023年2月13日(月) 出張旅行記その100 【1月21日】 日も暮れて暗くなり,Saxの演奏を終えたところで,一旦ホテルに戻ります。晩ご飯を食べに行く前に,Saxを部屋に置いていくことにします。 フロントに着くと,ちょうどおばあちゃんが降りてきました。ああ,疲れた,そんな顔をしています。店主の部屋も含めて,部屋の掃除を終えたのでしょうか。このホテル,おばあちゃんと息子以外のスタッフを見ていません。二人でやっているみたいです。 悪いんだけどさ,部屋を601号室から201号室に替えてくんない? お金を払っているのですから,妙な違和感は払拭しておきたい。それを,言うべき時に言っておく。店主も学びましたよ。 Google翻訳をおばあちゃんに見せた瞬間,おばあちゃんの失望した様子がはっきりと理解できました。 私,今日一日必死こいて掃除したのに。 ベトナム語を理解できない店主ですが,おばあちゃんがそう言っているのが分かりました。 落ち込むおばあちゃんを必死で慰める店主。肩をポンポンと叩き,背中をさすってあげます。 今日は疲れたよね。ごめんごめん,部屋の交換は明日でいいからさ。明日,お願いね。 ようやくおばあちゃんも元気を取り戻したようです。 なんなんだ,このホテル? まあしかし,おばあちゃんの可愛さに免じて,ここは引きます。 ご飯を求めて旧市街地区を歩きます。麺は多くの店で扱っているのですが,ご飯を扱う店がなかなか見つからなくて。 Ô Quan Chưởng(オ クアン チュオン; 東河門) 旧ハノイ(タンロン)城の門。1873年にフランス軍がこの門から侵攻した際,抵抗して亡くなったクアンチュオン氏にちなんで名付けられているそうです。 夜はライトアップされ,ここでも映える撮影が行われていました。 散々歩き回り回ったのですが,ご飯を食べられる店がなかなか見つからず,結局,観光客でいっぱいの店に入ることにしました。 た,高ぇえ! チャーハンが100,000ドン?600円くらいです。ビールが50,000ドン?まあ,500mlですからね。でも,店主そんなにいらないです。330mlでも十分だったのに。 それよりもここの店で何が一番驚いたかと言うと,トイレでした。 トイレが2階にあると言うので,狭い階段を上がり,これまた天井の低い,細くて水の溜まった廊下を通ります。 おいおい。玉ねぎが二つ,床に転がってるぞ。飲食に携わる者として,この環境はありえないんだけど。 狭いトイレで用を足し,再び濡れた廊下を通って店の外のテーブル席に戻ります。 ここのダンジョンみたいなトイレ,既視感があります。絶対,昔来たことのある店です。 誰か,店主に学習能力をつけてあげてください。 ここで食事をしている観光客を眺め,いったいどれだけの者がこの店の劣悪な環境を知っているんだろうと思いながらチャーハンを食べます。 一番すごいのは,その劣悪な環境を目の当たりにしながら,出されたご飯を食べられる店主かもしれません。 二度と来ることはないでしょう。 前にも同じことを思ったかもしれないけど。 そして数年後,同じような投稿をしているかもしれないけど。 口直しにBarへ行くことにしました。昔,Minhさんに連れて来てもらったことのあるSports Barです。 SportivO あの時は10人くらいで飲みましたが,今回は一人。 普段は見ることもないサッカーを,さも熱烈なファンを装ってビールを呷ります。おおッ!今のプレー,いいねえ! スポーツをやるのは好きですが,他人がスポーツをしているのを見るのには,あまり興味が沸かない人です。 店の真ん前で花火が上がりました。日本では考えられない状況ですが,テト(ベトナム正月)前ですから,あっても不思議ではないのでしょう。 どうやら今日は大晦日に当たるようです。 ホテルに戻る道中,ホアンキエム湖北側の道は車両通行禁止となり,歩行者天国になっていました。ここでも誰かが花火を打ち上げました。 特設されたステージでは,綺麗なアオザイを着た踊り子たちが,踊りと歌を披露しています。 ハノイは,いよいよ正月気分に包まれてきました。 【お知らせ】 海外出張から帰ってきちゃいました。現在、通常営業しています。 ご来店、心よりお待ちしております。 【身体のセルフケア】 2023年3月11日(土) 16:30~18:30 上福島コミュニティーセンターにて 詳細、お申込みはメッセージにてご連絡ください。 #カフェ #バー #東南アジア料理 Cafe & Bar ສະ��າຍດີ(#サバイディー ) 大阪府大阪市福島区鷺洲2-10-26 📞06-6136-7474 #osaka #fukushimaku #cafe #bar #福島区グルメ #福島区ランチ #福島区バー #ラオス #ベトナム #チキンライス #ベトナム旅行 #ベトナム料理 #biahoihanoi #biasaigon #変わろう日本 https://www.instagram.com/p/ComTCDhSX0U/?igshid=NGJjMDIxMWI=
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ODによる自殺未遂の体験談
はじめに
私は昨日、出勤途中の大きな駅のトイレで市販薬の過剰服用による自殺を図りました。経験から言えることは、「とにかく死ぬことは辛く苦しいことである」ということで、薬が効いている最中は本気で生きたいと思いました。
しかし当然、この経験をしたからといって、自殺に至った原因が解消されたわけではありませんし、私自身「死ぬことはとても辛いが、生きることも辛い」と未だに考えていることは事実です。
私がこの文章を書こうと思った理由は上記のことに関連しており、もう2度と同じ過ちを繰り返さないようにするために、そして、あの時の苦しみを思い出して自殺という選択を自らが選択しないようにするためにこの体験談を書きます。
ODをするまで
当日は久しぶりの出勤予定で、家を出てからも会社へ向かう心算でした。しかし、電車に乗った直後からこれまでと同じように身体の震えや汗、眩暈が止まらず、駅に着いた時には抜け出すように車両を飛び出ました。
会社へ向かうための乗り換えをしないといけないのにどうしても身体が動かせず、そうしている間に出勤の時間に間に合わなくなり、その時点で「死にたくはないが、今大きな事故にたまたま巻き込まれれば会社に行かなくて済むのに」と考えていました。そして、「ODなら楽に入院くらい出来るかもしれない」と考え、すぐにネットで市販薬のODについて調べました。
大きな駅だったので薬局も多く、ネットで調べた市販の風邪薬を分割して買うために4件ほどはしごをしました。(リュックの中身が風邪薬入りの紙袋でいっぱいになり、それだけで1万円ほど払った際に勿体無いなあとも考えていました。) 風邪薬の購入後は、大量の薬を飲むために2リットルの水をコンビニで購入しました。
その後、どうせ1日中過ごすなら綺麗なトイレが良いと思い、百貨店を探しましたが、朝なのでどこも開いておらず、また、そうこうしている間に会社から連絡が来ることが恐かったので、結局駅のトイレを選びました。
OD体験記(前編〜トリップ中〜)
結局ODをしようと決心してから準備を済ませ、トイレに篭るまでに約1時間かかりましたが、トイレに篭りました。そしてリュックを置き、コートをかけ、錠剤を50錠パキパキせっせと飲みました。
飲んですぐは効果が出ず、もう少し飲むべきかなとも思っていましたが、10分くらい待つかと思ったことを覚えています。その後すぐ、頭と首が痒くなり、薬が効いてるのかなと冷静に思った直後から記憶がぷっつりと途切れました。
次に目を覚まし、冷静に時計を見ようと思えたのは3時間ほど経った12:44でした(腕時計を見て、思ったより時間が経っていないな。ということと、会社は昼休憩中だから今は連絡がこないな。と安心したことを覚えています。)
この直後は、記憶が曖昧ですが、天井のタイル張りが目の前にあるように見えたり、視界が金色や真っ白に見えるようになり、「vampire survivorsみたいだな…」と思っていました。また、イヤホンで音楽を流していたのですが、その音楽が凄く遠くで、しかし爆音で音が割れているような感じで聴こえており、「間違って覚醒剤を飲んだのか!?」と思っていました。記憶が途絶える前は便器に座っていたのですが、目が覚めた時点でからはトイレの床に直接座っており、何度か吐き気を催しては平気で床に吐いたり、口から固い泡を吹いていたことも覚えています。(平気で床に吐けばいいと思っていたあたり、気が大きくなっていたのかもしれません)
この症状は3〜4時間くらい続いており、実際の体感としても以降の症状に比べて1番長く感じていました。この間は苦しみよりも、ただただトリップしているなあという実感だけがありました。
OD体験記(中編〜不快感と身体の異常の実感〜)
最後に時計を見ることが出来たのは15:44だったと記憶しています。その後も苦しみは感じず、冷静に今日が心療内科の通院日であることを思い出し、そこが開く時間もスマホで調べ、その時間ちょうどに着くには17:30くらいにトイレを出ればいいか。と考えていました。また、日本語はめちゃくちゃで短文ですが、ツイートをする余裕すらもありました。
しかし、ふと立ち上がろうと思った際に身体が凍ったように動かず、立ち上がれないことに気付きました。その直後から手足の痺れを実感しました。
床に座ったまま、音楽が途���れていたので再生するために、スマホをポケットから取り出そうと、開いたままの手で本能的にポケットを漁り、スマホを手に乗せて取り出しましたが、自分の手の皮が何重にも膨れ上がったような感覚でした。それでも現代っ子のスマホ依存は恐ろしく、電源ボタンをこれまた本能的に触っていましたが、画面は暗いままでした。スマホはバッテリーが切れただけでしたが、自分は「なぜこの機械は暗いままなんだろう?そもそもなぜこの機械を触りたいのだろう?この機械はなんなんだろう?」と思ったことを覚えています。
この頃に、急に笑い出したり何か独り言を大きな声で話したり、「会社なんか辞められるわ!」という解放感というか無敵感のようものを感じたりするようになっていました。しかし、一度ドアをノックされた際には、笑いを止め、冷静にドアノックを返したことを覚えています。
その後、ようやく立ち上がってから、初めてODの辛さを実感します。
まず、視界がぐるぐる回転していることに気付きました。直後は「回転に合わせて首を回せば楽だな」と思ったり、目を閉じたりしていましたが、数分後には猛烈な吐き気に襲われました。また、猛烈な寒さを感じたり、口が震えて歯をガチガチ鳴らしたり、両手足も痙攣していました。
その後も、視界が波打っているように見えたり、駅構内のアナウンスが爆音で聞こえたりもしており、その全てに不快感を感じていました。しかし、早くトイレを出ないといけないと感じ、何度も床に倒れては立ち上がりということを繰り返していました。
この間もとても辛��ったですが、震えが足だけになり、意識が朦朧になりながらもリュックからモバイルバッテリーを取り出してスマホの充電をしたりもしました。そして、自分でも症状が軽くなったと体感し、スーツの上着とコートを羽織って初めてトイレを出たのは17:30頃だったと思います。
OD体験記(後編〜トイレからの脱出〜)
トイレを出て歩き出してすぐ、目の前の立ち小便器にも男の人がいましたが、肘や膝といった関節が曲がらず上手く歩けませんでした。右手個室トイレの扉に手をつきながら手洗い場へ歩き鏡を見ると、自分の頭はボサボサで、なによりも目がおかしい。異常なほど開いており、1秒に1〜2回白目を剥いている。こんな状態で病院に行けるわけがないと思い、すぐ個室へ引き返しました。
トイレに戻ってから改めて「自分は恐ろしい状況にある。心療内科に寄らず帰るべきか?救急車を呼ぼうか?」と考えながら、2リットルの水を何度か飲みました。しかし、猛烈な吐き気は続いており、飲むたびにすぐに嘔吐してしまいます。
その頃は不快感を感じながらも、トリップ中の頃と違い意識はハッキリとしているような状態でした。ふと、スーツに吐瀉物がかかっていることに気付き、「濡れティッシュで拭いてから出ないといけないな」と思い、リュックを漁りました。途中ハンドクリームを便器の中に落としましたが、独り言で「あー大丈夫です!ハンドクリームでよかったです!」と、なぜか会話口調で、独り言をかなり大きな声で話していました。(話した内容を覚えているのはこれだけですが、なんどか同じように話し口調で独り言を話していました)
結局リュックに濡れティッシュがないことを確認し、ふとトイレ備え付けの便座クリーナーが目に止まりました。読んでみると、トイレットペーパーに吹き付けて使用するもので、これでスーツを拭いても汚くはないしその場凌ぎにはなるか。と思い結局これで拭きました。
幸い吐瀉物はあまりかかっていなかったため、スーツを綺麗にするのに時間はかかりませんでした。その後、水を飲んでも吐き出さなくなり、時計を見ると18時でした。「そろそろ心療内科に行かないと家に帰るのが遅くなるな」と考え、2度目のトイレ脱出を図ります。やはり目は異常に開いており、関節も曲がらず、手をつきながら歩いている状況でしたが、ここで初めてトイレから出て改札を目指します。
地下鉄を使うかタクシーを使うかを考えながら歩きましたが、トイレを出て改札へ向かう経路の半分を過ぎたあたりで、視界がぐるぐる回り出します。その回転の仕方が今日1番といえるくらいで、慌ててトイレへ引き返しますが、当時の自分からするとトイレから相当歩いていたため、引き返して2〜3歩ですぐ、その場で嘔吐しました。
マスクをしていましたが、マスクはびしょびしょになり、今度はコートやズボンにも派手にかかってびしょびしょになりました。当然駅の床にも漏れてしまいましたが、一度吐いてからは吐き気がなくなり、そのまま動かない身体でトイレの個室に引き返しました。(当時の周囲の方や駅員さんごめんなさい)
本日2度目のトイレ脱出に失敗し、泣きながらマスクを便器に落としました。今度の吐瀉物は朝から何も食べず、また、それまで何度も吐いていたからか、ほとんどが水のようなものでした。しかし、コートやズボンがびしょびしょでそのままで出ると確実におかしい(歩き方や目の時点で既におかしかったけど)。泣きながらコートやズボンをトイレットペーパーで拭きますが、濡れた後は落ちません。また吐瀉物が右手のシャツの中に入っており、濡れている不快感を感じますが、そこはもう周りから見えないのでどうでもいいと感じていました。
OD体験のその後
2度目の脱出に失敗したものの、外で盛大に吐いてからは一気に不快感が消え去りました。そして、自分の身体を誰かに診てもらいたいと思い、改めて心療内科へ行くことを決心します。(ここで家に帰ったり救急車を呼ぶ選択を取らないあたり、相当思考がおかしくなっていたと思います。)
3度目の脱出を図ったのは18時半頃でした。替えのマスクがなかったためノーマスクで、しかしハンカチを持っていたので顔を洗い口を濯いでトイレを出ました。スーツは吐瀉物でびしょびしょですが、モノ自体は「ほぼ」見えていなかったと思います。結果から言うと、この3度目の脱出は成功し、ようやく半日を過ごしたトイレを後にします。
しかし、改札を出ようとカードを通すとエラーが出ます(駅構内で何時間も過ごしたからかもしれません)。窓口へ向かい駅員にカードを差し出しますが、そこで初めて呂律が回らないことに気付きます。それでも必死に平静を装い、駅員に明らかに変な目で見られながらも改札は通してもらえました。そして初めて駅を出て、タクシー乗り場へ向かいます。
呂律も回らず、歩こうにも関節が曲がらず、服装は吐瀉物でびしょびしょですが、横断歩道も渡り、見事タクシーに乗り込みます。また呂律が回らないながらも行き先を伝え、走行中は地図アプリでドライバーに場所を詳細に伝えたりもしました(運転中車内で吐かないか不安でしたが、今日はそれ以降吐くことはありませんでした。)
タクシーは10分かからない程度で心療内科に着き、クレカで支払いを済ませて心療内科へ入りました。受付にて、予約日が1週間ずれていたことも発覚しましたが、呂律が回らず、また「どうしても今日見てほしい」という訴えもあってか、何時になるか分からないが待ってほしいという条件のもと、今日中に先生に診てもらえることになりました。
結局30分ほど待っただけで呼ばれ、その頃には歩き方もややましになり、部屋へ入ると、先生に今日あったことを全て話しました(先生のことは信頼しています)先生は、「そんな中よく来てくれました。今日来てくれてよかったです。」と言い、仕事の今後についての相談や診断書の発行等を行ってくれました。ODのことも話しましたが、市販薬ならそこまで〜と思ったより薄い反応だったため、何錠飲んだかは話せず自分も「まあいけるか…」と思い、救急車を呼ぶべきか等の深い相談はしませんでした。
診察後は更に体調も回復し、近くの薬局でマスクを買って電車で自宅に帰りました。帰りの電車内では座れず、また、ODの最後の症状としてしゃっくりが止まらなくなり、その服装も相まってか周囲にジロジロ見られましたが、自分は、とにかく吐き気がなく、また、無事に家に帰れるという安心感でいっぱいでした。事前に親に「車で送ってほしい」とだけLINEを送り、最寄駅からは、親の車で家まで送ってもらいました。
さいごに
家に帰ってから親に吐いてしまったことを伝え、スーツ等を全て預けて服を着替え、顔と口を洗うとすぐに部屋のベッドに飛び込みました。
しばらくしてから親が部屋に入ってきて、そこで初めて、今日は仕事に行けなかったこと、そして、死にたくはなかったがどうにかなりたくなり、駅のトイレでODをしたことを伝えました。「馬鹿なことをするな」と言われ優しく叩かれましたが、なによりもそれを伝えた直後から罪悪感と安心感が溢れ出し、成人男性とは思えないほど泣きじゃくりました。その後は、部屋を出てほしいと伝えたのだったか、すぐに親は部屋からいなくなり、自分は泣き疲れて眠り、夜中の3時頃に目を覚ましました。(余談ですが、この時、好きなゲームであるOMORIのBGM 「Clean Slate」が脳内再生されました。)
アナウンスや人の出入りがうるさい駅のトイレで半日を過ごし、ゲロや泡を吐き、呂律が回らず身体が動かせずトイレの床で転げ回った後に、自宅の布団で寝ていると、静かで綺麗な自分の部屋で眠ることと、自分を思ってくれる人がいることの素晴らしさを改めて実感することが出来ました。
はじめに書いたように、私はこの経験があった翌日からも仕事や将来を考えると生きるのが辛いと感じています。しかし、生きることと同じように死ぬことも辛いと肌身に感じました。将来の自分も含めた今生きるのが辛いと感じている人が、この文章を読むことで「死ぬことも相当辛いことである」と感じ、同じ経験をする人が1人でも減ればと思い恥ずかしながらこの文章を公開しました。最後にこの最悪の日のことを忘れないため、その記録として、なぜか撮影していた当時の2枚の画像を添付します。

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剱岳、別山尾根テント泊

3回目のアルプスは、春からの目標だった剱岳へ!天候の関係で2泊3日の予定が1泊2日に、それが私の体力面の問題で結局2泊3日で終わるという、ややこしい展開でした…。
新幹線、電鉄富山、ケーブルカー、バスを乗り継ぎ室堂入り。 富山名物の白エビかき揚げの載った立山そばで腹拵え。

外へ出ると雨だったのでレインウェアを着込むも、降ったり止んだりで蒸し暑い…。

みくりが池。 ここの温泉は日本一標高が高いと聞いて、帰りに入ろう!と話していたのですが…。

山ガスがシューシューと音を立て、硫黄の臭いが立ち込めています…。 右奥に見えるのが雷鳥荘ですね。

池塘。少し紅葉が始まっている感じ。

今回は泊まれないから…と、記念に撮っておいた1枚。結局泊まったんだけど。

雷鳥沢キャンプ場が見えて来ました。空も晴れて来た!

清く澄んだ川を渡ります。帰りはバテ過ぎて、ここに飛び込みたい衝動に駆られました…。

またガスって来ました。 この辺までは、まだカメラに向かって笑う余裕があったんですが…。
雨の中、登りの途中でバテてしまい、せっかく軽量化して来た同行メンバーに荷物を手分けして運ばせてしまう事態に…大変申し訳ございません。

その後はバテていたので途中をだいぶ端折りましたが、剱御前小屋の先から見えた雪渓です。

剱御前小屋の前で少しだけ休んで、写真を撮る余裕も出て来ました。

剱御前小屋から劔沢キャンプ場までは下り基調で幾らか回復。

今夜の野営地、劔沢キャンプ場が見えた! テントはサクッと設営するも、雨で冷えたのか今回も低体温症気味。 しかもマットを持参し忘れ、殆ど眠れず…夜中に静かな星空と満月は堪能したものの、完全に寝不足。

夕飯時は雨だったので、テント内で各自自炊。 シーフードカレーメシにウィンナーとチーズをプラスして、コーンポタージュと共に頂きました。 4人で来てるのに、孤独な夕飯…。

朝も���ント内で一人。 尾西の五目ご飯、アマノフーズのナスの味噌汁、紀文の切れてる玉子焼き。 こんな時間(2:45)に、食べ過ぎで満腹です。

身支度を整え、未明に出発。 ちょこちょこルートを間違えながら、気付けば既に2番目の鎖。 この先も鎖場には番号の付いたプレートがあるのですが、多いので割愛します。

お、東の空が白んで来た! 「山際少し明かりて ようよう白くなりゆく」ってヤツですね。 春じゃなくて秋だけど。

明るくなって、さっきまでいたテント場も見えるようになりました。 真っ暗で距離感が分からなかったけれど、結構歩いて来たんだな〜。

鎖場も本格化して来ます。

雲海が綺麗!


よそ見してると滑落しそうになるけど、この夜明けの空も見ずにはいられない…

いよいよご来光タイム!

前剱に到着です!

何と、前剱の山頂からは初めて見るブロッケン現象が!しかも二重!

自分の影が映ってる〜!

その後もブロッケンがクッキリと!

今度は鎖場を下ります。楽しい!やっぱり鎖場大好き♬

ブロッケンの興奮冷めやらぬ中、いよいよ噂の鉄の橋へ。

朝日に照らされ、鎖場を移動する皆さん。セピア写真みたいになってます。 渋滞してるな〜。

アレ?何か思ったより怖くなさそう??? 思っていたより幅があるし、短いし。 でも、この写真では分かりづらいですが両側が切れ落ちてるんですよね。

でもまぁ何があるか分からないし、ここからはセルフビレイシステムを活用します。 まだ動作にイマイチ慣れない私…。 ハーネスに掛けたカラビナを外すのにマゴマゴしてます。

上から撮ってもらった写真。 カラビナを鎖に掛けることに夢中だったけど、結構切り立っていたんですね。
さっきの橋の下も、切れ落ちてるのが良く分かる。

でもこの時はとにかく登ることに夢中で周りは見えていませんでした。

振り返ると、さっきまでいた前剱岳が。神々しい…。

今度は岩肌にもブロッケン!こんなに乱発されると、もう祭りだ、祭り!

見えますか?クッキリ二重です◎

ブロッケン現象にも若干見飽きたところで、山頂へ向かいます。

平蔵の頭の始まり。

こういう杭のような足場は初めて。慎重に登ります。

平蔵の頭を越えたら、また鎖で下ります。 同じく鎖場のアップダウンの連続だった、両神山の八丁尾根のようでした。 いや、こっちの方がスケールが大きいんですけどね。

尾根の反対側はガスってますね〜

平蔵のコルから見た平蔵の頭。ところで平蔵って誰?

あの尾根を歩いて来たのか〜。良い景色!頑張ろう!

平蔵のコルの始まり。だから、平蔵って誰?

こうして写真で見ると凄い所にいるなぁ…。 高さはあんまり気になってなかったカリメロ。

9番鎖場、カニのタテバイ、始まり始まり〜!また杭だ!

タテバイの鎖にカラビナを通しているところ。作業に夢中なカリメロ。 緊張はしていたけれど、思っていたほど怖くはありませんでした。

山頂まではあと少し!疲れてるけど、頑張れ私!

���ロヘロになりながらも、何とか登頂! もちろんメチャクチャ笑っております♬
万年低山専門ハイカーだった私が、まさかの剱岳に登れる日が来るなんて…。

あちら側は、一般登山者は進入禁止!

山頂からの眺望は無かったけれど、湧き立つ雲が綺麗でした。

さぁ、下山します。ここが本日のメインイベントなのかな?

先ずは右足から降ろすんだよね…と予習して来た事を確認しつつ。

ヨコバイでも、もちろん笑顔。 スマホを出して後ろにいるCLを撮影し返す余裕もありました♬ セルフビレイのお陰で安心感があったのが大きいかも。

長い梯子を降りるCL。 コレ、上で体の向きを変える瞬間がちょっとドキドキしました。

タテバイ&ヨコバイよりも、梯子の後のここの鎖場の方が、手こずったかも…

上から見るとこんな感じ。 短足のカリメロには、足場が微妙でした。

13番、前剱の門。ここへ来て、また登り。

青空も出て来ました!テント場も見えてますね。

歩いて来た稜線を振り返る。

チングルマが風に揺れていました。 白くて可憐な花が、何でこうなっちゃうんだろう?不思議。

劔沢小屋の前から見た剱岳。雄大です。 テント場からこの小屋まで片道10分はあるのに、メンバーのうち二人はビールを買いに昨夜もここまで歩いたそうです。 雨に濡れて寒くても、ビールは飲みたくなるものなのね〜。

テント撤収後、室堂へ急ぎます。 バスターミナル(ホテル立山)が見えて来ました。 あそこまで、結構な距離だけど…マズイ、もうあと2時間も無い!
バスの最終便に間に合うよう頑張ったものの、荷物の重さでスピードが出ず、登頂の疲れで脚がプルプル…。 結局、雷鳥荘前でタイムアウト。 まさに「体力の限界!」で、仕方なく当初の計画通りにもう一泊して翌朝帰宅することになりました。
雷鳥沢に戻ってのテント泊も考えたけれど、疲労困憊でそんな気力も残っておらず…。第一、食糧も残ってないし! 雷鳥荘に空きがあって本当に良かったです(涙

お世話になった雷鳥荘。 ご飯も温泉も楽しめる、とっても良いお宿でした。
当初の計画では体力があったら3日目に立山三山を回る予定でしたが、恐らく私はグッタリで無理だったでしょうね…。 立山三山は来年のお楽しみにとっておくことにして、その時は大日岳にも登りたい! だけど雷鳥沢キャンプ場から室堂までの「万里の長城」みたいなあの石段は、もう当分歩きたくないというのが本音。 それとも、小屋泊でなら頑張れるのかな〜?

大日岳。宿の展望温泉からも見えました。来年はきっと登るからね!

帰りの新幹線では、富山駅のデパ地下で買った秋の味覚弁当で舌鼓。 満腹で夕飯は食べられず。

そして今回も雷鳥さんには出会え〜ず。 今年最後の望みは来月の南アルプス!今度こそ会えると良いな〜♬ (会えなくて悔しかったので、今回はホテル立山で雷鳥手拭いを購入)
当面の課題は体力強化と荷物の軽量化。あとは、どんな環境でもグッスリ眠れる図太さを身に付けなくちゃ!
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昔、彼奴から下の名前で呼ばれていたことを思い出した。彼奴は関係性や距離と比例して人の呼び方を変える癖がある。今でこそ自分達の呼び方がある種互いに対するイメージに大きく影響することを理解するようになったから、下の名前では表立って呼ばなくなった。それでもこうやって二人のとき、明け方ふたりで生温い布団の中に裸の儘だったり揃いのルームウェアを見に纏って潜り込んでうつらうつらと抱き合うとき、昔の癖でとろとろとほとんど原形のない状態で、俺の名前を呼ぶ。此奴には言ったことがないけれど、俺はその瞬間がたまらなく好きだったりする。
あのとき、名前を呼び返してやればよかったのだ、と起き抜けに真っ先に後悔した。
朝起きたら彼奴がいなかった。久しぶりに二人の休みが揃った日の朝だった。明日は何しようか、何処行こうか、なんて話し合いながら手を繋いで眠ったはずなのに。朝起きたら彼奴の分の体温だけ、すっぽりと布団の中からは消えていた。寝惚けた頭をひたすらに動かして、明け方、おそらくまだ起きるには早すぎる時間にどうしてか彼奴が俺の顔をぼうっと眺めて、その舌ったらずの声で俺の名前を呼びかけてきていたことをぼんやりと思い出した。あまりにも眠すぎて、というかほとんど夢の中で、返事は疎か反応すらしてやれなかった。あの声が、最後の記憶。記憶が違っていなければ、多分あの声は泣いていた。
「……いる?」
いるはずないってわかってるのに、掠れた声で確認して彼奴の名前を呼んで、二人の生活空間を馬鹿みたいに一つひとつ探す。玄関、お風呂、トイレ、リビング、寝室、クローゼットの中、そんでバルコニー。いない。分かってたけど、いない。二つ並んだコップ。恥ずかしいけど、なんて笑いながら色違いで買った靴。揃いのルームウェア。似合うよ、って言ったら嬉しそうな顔をして買っていた今では彼のお気に入りの洋服。そのどれもがそのまま部屋にあったから、完全に出て行ったわけじゃないんだと何処か安心する。でもただの買い物だとか、散歩じゃないんだってこともわかる。
寝室にあるサイドテーブルの引き出しが不自然に開けられていて、そこから俺のネックレスだけがなくなっていた。金色のシンプルなデザイン。彼奴を抱く時、裸にこれ付いてんのが格好良いんだと言われたネックレス。それと彼奴だけが、今、この家からなくなっていた。
LINE。分かっては居たけど、当然連絡もなければ、こちらから送るメッセージにも既読はつかない。――何処行ったの? の一言しか俺も送ってやることが出来なくて、一人溜息をつく。なんとなく今日起きたら隣に居ないんじゃないかって、そんな気はしていた。
彼奴は、時々バランスを崩す。心のそれも、身体のそれも、周りにはそんな予兆おくびにも出さないで、急にぐらりと崩れる。そんで姿を消す。死にそうなネコみたいだと思う。何がトリガーになるのか、今回は何だったのか分からないけど、まあそろそろ"ソレ"が来るんじゃないのかってことくらいは、長年の付き合いでさすがに分かっていた。でもさ、今日じゃなくて良いじゃない。
「……いや、"今日"だからか」
9月1日。初めて一緒に遊んだ日。近所の祭に行ったその日を記念日に据えた。二人の記念日は幾らでもあった。恋人という名前に二人の関係を変えた日だとか、一緒に住み始めた日とか。長き付き合いでもあり、お互いの気持ちを認識してからその関係になるのが緩やかだったのもあり、はっきりとした記念日はなんとなくこの日が良いんじゃないかと思った。彼も同じ認識だった。――深澤と俺の夏祭り記念日だからね、なんて彼は茶化して笑っていた。ね、そうだよ。記念日だよ、俺と御前の、大事な記念日。
恋人という関係こそ築いたものの、彼は俺と人生を歩むことを時々酷く怖がった。彼の言葉を借りれば、「ふっかの人生を奪っている気がする」ってやつだ。俺の中の世界がどんどん彼で広がっていくのが怖くて、彼の中に俺がどんどん広がっていくのが怖いらしい。何が怖いんだよって、馬鹿げているとは思ったけれど、口にはしないでおいた。だって彼は、真剣にそれに悩んでいた。
花が咲くことのない愛だと、彼奴はよく自嘲的に笑った。
夏祭りに行ったあの日、二人の中にあった"愛"が芽吹いたんだとしたら、俺らはそれを大事に、大切に育ててきた。でもその愛がゆるゆると根を張り、新しい葉を開き、茎を伸ばし、大きくなればなるほど、彼奴は怖気付いた。だってこの花は咲かないの、って、そんなことはあの日、愛が芽吹いた瞬間から知っていたはずなのに。
「今なら間に合う」と彼は、じっとその大きな目を黒々させて、まるで自分に言い聞かせるみたいに俺に、呟いた。
「今なら、ふっかも生きていける人探せるよ。だってこんな素敵な人、引っ張りだこだよ。ね、逃げるなら今、いまなんだよ」
ぽろぽろ涙を落としながら、しゃくりあげながらそうやって訴える御前を置いてどうして��が居なくなるなんて思えるの。御前には俺しか居ないし、俺には御前しか居ないの。そうやって震える肩を何度も掴んで、掴んでは説得した。伝わってる気はしなかった。だからそのまま彼奴を抱いた。溶けてしまいそうなほどに白く綺麗なその肌に赤く、紅く花を散らせば、それが分かって貰えると願った。ほろほろと雫をこぼしながら、小さく喘ぐ命を何処にも逃してやるものかと思った。無論、今もそう、思っている。
外を見やればしとしと降り注ぐ雨。こんな日は出て行くのを辞めておけばいいのに、なんて、また息を吐く。傘は持って出かけただろうか。なんとなく、彼奴の行く先にあたりはついていた。昔俺がよく行っていたカフェの裏で、小さな池のある公園のすみに佇む、机と椅子と屋根がある休憩用の建物みたいなところ。ああいう建屋のことを"あずまや"っていうらしい。最近知った。昔、デートの約束があってもカフェで片してた仕事がキリのいいところまで終わらなかったとき、彼奴をそこでよく待たせた。後何分で終わるよ、なんて連絡すると、今と変わらず、――わかったって優しく文字で笑って、その建屋の下でニコニコと待っていてくれた。彼奴の好きな洋画で、主人公と初恋の相手が出会う場所の風景によく似ているらしい。雨の日は特によく似ていて好きなのだと、笑っていた。今日は雨だし、多分、あそこだろう。ここからなら少し頑張れば歩いていけるから、彼奴歩いて向かっているだろうか。品はないけれど、タクシーで先回りをしてやろうと、思い立った。いつも待たせていたからね��今日はあそこで、御前を待っといてあげんね。だから、ね、気をつけて御出で。
「……ふっ、か?」
予想通り、作戦通り。恋人様の頭脳を舐めんなよ。タクシーを飛ばして10分。建屋に腰を下ろしてからはほんの少し。タバコに火を付けていると聞こえる足音。足元に目をやれば、白いスニーカーの端を少し泥で汚していたから、やっぱり、歩いてきたんだね。間に合って、良かった。迷子になってなくて、良かった。
目をまんまるにしてぽかんとした顔をした彼が、俺がアルコールの缶と彼奴の好きなお菓子をコンビニのビニール袋から取り出すのを見ると、「……お見通しかよ」と口を尖らせた。
「あの映画の舞台、本当のモデルは、ロンドンとかニューヨークとかだと思うけどね」
「分かってるよ、そんなの。それでも俺は此処が好きなの」
「俺を待ってた場所だから?」
「……」
いつも待たせて悪いから、今日は、俺が待っててみたよ。って笑ったら、そりゃ、どーも。ってぐっと目を細めた。拗ねてるみたいな顔だったけど、口元は少しだけ緩んでたから、うん、大丈夫。
「あんまり隅っこだと濡れるよ。御出で」
そろそろと近づいてきた恋人を、持参しておいた大きめのタオルでがばり、包んで抱き寄せたら、「んわ」ってタオルの中から小さな悲鳴が聞こえた。まだ開いたままのビニル傘が、とす、って音を立てて、転がる。わしゃわしゃと雨雫をすべて吸い取るみたいに、髪を、身体を擦った。濡れた身体を拭いてるみたいに見せかけて、少し、抱きしめる力を強くした。逃さないように。何処にも、逃げないように。
御前の帰る場所はいつだって此処にあって、御前の逃げる先も此処に有るんだよ。
大丈夫、壊れたって崩れたってこうやって俺が一つ一つ拾い集めてまた御前にあげるから。これからはちゃんと、俺の見える範囲に居ろよ?馬鹿。
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極上の代償。

今日は天気良さそうですぞ〜!しかも気温も低め!こいつは期待できるかも!

朝一、デポ地へ車を置きに行くと朝早い時間にも関わらず既に物凄い数の車が。
立山オープンしてもう空いてきたのかと思ったけど今週もまた混んでるのか〜とスキー場に着いてみるとあれ?そこまで混んでないな〜。
多分、登山客の車だなありゃ。

実はご好評いただいている山中厄除け手拭い新色が出たんですよ。茅色です。

朝一、これ見よがしに頭に巻いてゴンドラに並んでいると何やら怪しい3人組に絡まれました。あ!秘密ほうてい結社DARMADAの構成員だ!
「おい、なんかいい手拭いじゃねえか。売れよ。いくらだよ?」
『ヒィ〜〜〜!只今春のキャンペーンで普通は1万円のところ千円になります〜!』
「3枚よこせや」
『こ、これは山で困っている人達に売りつける分なんです〜!』
「うるせえ!売れ!」
3枚買い占められてしましました。目的のためなら容赦無くM &AをしてくるDARMADA。恐ろしい〜。そして毎度あり〜。

ゴンドラを降りると、あ、やべ。
GREEN.LABとPEACEMAKERとTJ BRANDとOUTFLOWの試乗会やってる。
何がやべえと言いますと、あっしGREEN.LABライダーにも関わらず今まで割って使っていたFREEBIRDのスプリットが折れてしまい、今はTJのスプリットを使っているのです。この板を持っているとこにPEACEMAKERのTSKに見つかるとすぐさま写真を撮られてSNSに晒されるんですよ。
役者が揃ってしまいました。
今回も御多分に漏れず晒されました。ジローくんとツーショットで。ありがとよ!来年はROOTSMOUNTAINのスプリット乗れるかな〜?

さてさて今日のゲストはこちらの御三方。20代、30代、俺が40代で、あと50代。あらゆる世代が集まりました。

前回、うちのツアーが初バックカントリーだった彼はフル装備をレンタルしていたけど今回は全部揃えてきたそうです。偉い!
いまだに綿のロンTですが。

雨上がりで気温も低めなので最近にしては空気が澄んでます。山並みが綺麗ですね〜。

下の方は風もなくなかなかな灼熱でしたが上がってくると風が吹いてまいりました。

絶景!!

最後が急なんだよな〜。

でもこの二人はVERTSなので余裕。

スプリットのおじさんもなんとか頑張って登頂!!

お疲れ山ー!!絶景を楽しんで!!

よく見ると信号機みてーな3人ですね。

滑る斜面はなかなかいい仕上がりですぞ。

俺が写真を撮るために途中まで降りてリグループポイントを説明してみんなに出てもらいました。

ウッヒョーーーーー!!!

しかし、非常にいいコンディションだったのですが俺の説明が上手く伝わっておらず滅茶苦茶壮大な横滑りになってしまいました〜。説明下手でごめーん!

しかし標高下がってない分まだまだ楽しめますぞ!

お山全体がパリッとしてて最高なコンディション。

続くピッチが特に最高でこまめに切ったら勿体無いと思ってロングピッチにしたら全然写真撮れなかった〜!下手こいた!

下の沢もなかなか良かったです。

下はストップになってきたけど問題なく降りてきました。
さ〜て問題はこの先です。

あれ、渡らなきゃならんのですよ。結構な水量です。石の上歩いて渡るラインなんて見当たらず、キャッキャ言って渡れるレベルじゃね〜。

てな訳でロープ出しました。
もうちったあ濡れるなんて気にしてられません。

なんとかみんな無事渡渉成功!
一人ロープが使える消防士の方がいたので助かりました〜。

渡渉後のリンゴの甘さが身体に染み入りました。

その後も除雪が進んだ林道をなんとかショートカットしようと林を滑り

藪漕ぎを余儀なくされたり、

根曲がり竹採りかよ!

しつこくショートカットを試みるも普通に後から歩いてきたグループに抜かれたりしながら

クタクタになり下山!!いや〜いい雪を滑った代償はなかなかなもんでしたね〜。久々に探検隊でしたね〜。みんな無事で良かった〜。
本日もお疲れ山でした!&おしょっ様でした���!!
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#鎌倉街歩き な #今日も今日とて散策中 ♪(^o^)v . #大船フラワーセンター #バラ園 の #バラ 、 #アンブリッジローズ 。 . 断続的な雨降りで夕暮れの薄暗さの中でも、 輝く程の美しさ。 魅入られてしまう自然の造形美。 まぁ閉園時間が迫ってたので、 感激してる余裕は無かったんだけど。 . . . . . . . . . . 昨日の撮影はかなり厳しい環境だったらしい。 秋雨で一気に冷え込み、そりゃそーだ\(^o^)/。 望遠レンズでガンガン撮ってたけど、 小雨は降りっぱなし。 でも何かに追い立てられるかの如く、 鬼気迫る勢いで撮影を続けた俺。 . 気付いたら、レンズが一気に曇った!Σ(゚Д゚) . 雨粒で濡れたのかと思ってチェックしたけど 問題無し。 フィルタを外して拭いてチェックしても 問題無し。 あれ?とひょいと覗いた望遠レンズは、 真っ白だった!(@_@;) ぎゃおーす!と雄叫びをあげそうになりつつ 拭いたんだけど。 . 外レンズの内側が曇ってて拭けない!。・゚・(ノД`)・゚・。 . これ、マジでヤバい事態だΣ(゚Д゚)Σ(゚Д゚)Σ(゚Д゚)。 目が点状態のまま、まずは外してレンズ交換。 その後は集中力が削がれつつも撮影続行。 どうしようどうしよう?と頭の中はぐるぐるでも。 ぎりぎり最後に曇りが晴れたので、 復活させて撮影撮影と継続を。 気付いたら閉園案内のラストアナウンスで撤退開始。 結局、家で確認したら結構な枚数が そもそもの薄暗さで撮影に失敗してた。。。orz . 今回のトラブルは、確実に雨が降っても 決行したことが原因。 俺の所為だ〜。・゚・(ノД`)・゚・。 でも小雨や雨上がりの花は本当に綺麗なんだよ。。。orz 要するに、防滴仕様のミラーレスを 買えって話だな┐(´д`)┌。 あうあうあ〜σ(゚∀゚ )。 ちょーっと自分の行いを見直しまっす!(`・ω・´)ゞ . . . 今振り返れば、現状への足音を聞いてたのかも。 既にその兆候は聞かされてたし。 うん、確かにね。 . #日比谷花壇大船フラワーセンター . 撮影:2021/10/13 . #鎌倉散策ウォーキング #鎌倉散策 #鎌倉散歩 #鎌倉歩き #鎌倉暮らし #湘南散歩 #今日もX日和 #XA7 #FujifilmXA7 #Fujifilm_XA7 #XC50230 #そうだ鎌倉行こう #1192かまくらさん 夕暮れハンター 夕暮れ散策 #その旅に物語を #たびすたぐらむ #旅スタグラム #KanagawaPhotoClub #花すたぐらむ #フラワースタグラム #はなまっぷ #花撮り人 #私の花の写真 . (日比谷花壇 大船フラワーセンター) https://www.instagram.com/p/CVAyzEUlAwj/?utm_medium=tumblr
#鎌倉街歩き#今日も今日とて散策中#大船フラワーセンター#バラ園#バラ#アンブリッジローズ#日比谷花壇大船フラワーセンター#鎌倉散策ウォーキング#鎌倉散策#鎌倉散歩#鎌倉歩き#鎌倉暮らし#湘南散歩#今日もx日和#xa7#fujifilmxa7#fujifilm_xa7#xc50230#そうだ鎌倉行こう#1192かまくらさん#その旅に物語を#たびすたぐらむ#旅スタグラム#kanagawaphotoclub#花すたぐらむ#フラワースタグラム#はなまっぷ#花撮り人#私の花の写真
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志希晴拘束えっち
久々のR-18 えっちな描写に全振りしました tumblrって官能小説OKなんですね イベント後の楽屋に残ってしまっているのは、疲れているせいとかこの後に打ち合わせがあるとかじゃない。ソファーに座っているのだが、後ろからしっかりと抱きつかれていて、身動きがとれなくなってしまっているのだ。 「なあ、どうしたんだよ?」 「…………」 さっきからずっとこの調子だ。同じユニットの皆は既に解散してしまって、オレが残っていたところに志希がやってきた。ソファーに座って帰り支度をしていたのだが、挨拶もせずに抱きついてきてから、不機嫌な様子のまま何も言わない。とはいえこのままでは埒が明かない。どうにかこうにか志希が不機嫌な理由を考えていはいるが、これといった理由を思い出せない。確かにお互い仕事が忙しかったが、廊下ですれ違う時は挨拶したし、撮影の合間に会いに来てくれてちゃんと放したりしてたはずだ。 「なにかやなことでもあったのか?」 「…………違う」 「じゃあなんで不機嫌なんだよ……話してくれなきゃわかんねぇよ……」 つい語気が荒くなってしまう。しかし、怒っているわけではないのだ。どちらかというと不安な方が強くて、どうにかできないか悩んでいる。そんな様子を察してくれたのか、ゆっくりと志希が話し始めてくれた。 「だって……二人きりじゃなかったじゃん」 「……え?」 「あたしと晴ちゃん以外にプロデューサーやスタッフさんがいたり、他のアイドルの娘たちが必ずいたりしたじゃん……。だからこうやってぎゅーってしたり、色んなお話したりができなかった。せっかく晴ちゃんが傍にいるのにやりたいことや話したいことが全然できなくて、もどかしくて、寂しくて、辛かった」 抱きしめる力がより一層強くなる。志希の香りが鼻をくすぐって、ああ確かにこんな風に時間を過ごすことはなかったな、と思い出す。 「そっか、じゃあ今日はこれからずっと志希に付き合うよ。それならいいだろ?」 「ほんと!?ありがと晴ちゃん♪」 志希の喋り方が明るくなる。なにはともあれ、機嫌が直ったようで良かった。この時に一つ誤算があったとすれば、志希がやりたいことっていうことが自分が想像したこともないようなことで、それに付き合わされる破目になってしまったことだった。
志希につれられて、倉庫の中のラボまでやってきた。今はもうほとんど使用されてないせいか、少し埃っぽいここは滅多に人が来なくて確かに二人きりになるにはもってこいの場所だ。なぜか志希はここの合鍵を持っていて、念入りに鍵までする。過去にどうやら一度間違って入って来てしまった人がいるらしく、その際に自分の実験道具で怪我をさせてしまうかもしれなかった、とのことだった。 棚と棚の間の実験スペースは、様々な薬品を扱うせいかある程度清潔に保たれている。ただし、大きな実験机の上は資料やら機材やらでごちゃごちゃしてるし、床に敷かれている布団は折りたたまれることなく乱雑に放置されてある。いつものように上に掛かってある布団をどかして二人でそこに座り込む。椅子もあることはあるのだが、机を使わないとき以外は基本使わない。布団の上の方が気楽な姿勢でいられるし、横になったりもできるからだ。いつもとは違う感触がするような気がして、目線を布団の下に向けてみるとオレが前に来た時にはなかったマットが敷いてあった。志希なりに気を使ってくれたのかな、と思うと自然と頬が緩んでしまう。 普段通りになにか話すのかな、と顔を向けた途端に志希の綺麗な顔が目の前に映っていた。あまりに一瞬の事で驚いていると、口に触れる感覚からようやく状況を理解する、 (あ……キスされてる……) ここ一ヵ月近くこういうことをしていなかった気がする。どことなく懐かしい感触を覚えながら、ゆっくりと目を閉じる。わずかな部分に触れているだけ、それでも確かに感じる相手の愛情を長く深く受け止めあう。今までの時間を取り戻すかのように、お互いに離れようとはしなかった。 この時間がずっと続くと思っていたけど、不意に志希がオレの肩を掴んで引き離した。 「あれ……?」 目を開けると、志希はこちらをじっと見つめていた。普段の何倍も真剣な様子なのに、恥ずかしいのかほんのり顔が赤く染まっている。 「ごめん、晴ちゃん。もう抑えきれないかも」 優しくゆっくりと押し倒される。志希が望んでいることがわかるし、これから恥ずかしい目にあわされるっていうのもわかるのに、少しも嫌な気持ちにはならない。多分オレもそれを望んでいるんだろう。ああ、もうどうにでもなれ。好きな相手から求められるのは嬉しいって思ってしまうから。 「脱がせていーい?」 「……一々聞くなよ、イヤって言っても……その……」 「うん♪でもやっぱり晴ちゃんの口から聞きたいなーって」 「…………」 「んーやっぱり我慢できないっ!」 「うわあっ!」 返事を待たずに押し倒されて、着ていた服を脱がされる。あっという間に下着だけにされて、まじまじと見つめられる。 「あんまり見んなよ……」 今着てるのは無地のブラとショーツが一緒に売られてるやつだ。服は基本おさがりだし気にしないのだけれど、こうやってじっくり観察されるとちゃんとしたもの着てくれば良かった、と思ってしまう。 「ん~、今度一緒に下着買いに行かない?それかプレゼントしてあげるっ♪」 「なんかそういうの選んでもらうの、すっげぇ恥ずかしいんだけど……」 「え~?もう気にしてないでしょ?今だってわざわざ脱がせやすい体勢でいてくれたし♪」 「~~っ!?」 本当か?いやでも確かに抵抗するよりか、志希に脱がされるのが当たり前になってて、手間取らないようにそうしている……気がする。志希のなすがままになっているどころか受け入れてる自分が急に恥ずかしくなって、膝と肘を折り曲げて身体の前に持ってきて、志希の真正面から離れるように姿勢を横にする、 「ねえ、晴ちゃん。ついでにもう一個だけお願いしていい?」 「……なんだよ」 「こういうこと♪」 志希の両手がオレの手首を包み込んだかと、いつの間にかバンドのようなものが巻かれている、両手首を一つの輪っかが縛っていて、自力では外せなさそうだ。両腕を開こうとしてみるものの、手首に食い込んでいるそれは充分な強度をもっていて外れる気配さえない。なんとなく、嫌な予感がする。 「なあこれ、外れねーんだけど……」 「次は足だね♪ほら暴れなーい」 絶対にマズいことになる。しかし、抵抗しようにも腕は自由にならない上に体格の差もあるし、志希の方が自由になるポジションにいる。結局抵抗らしい抵抗さえできずに、足首に細長いロープが巻かれて近くの棚の脚と結びつけられる。そのせいで、足が開かれたまま閉じることができない。縛られたせいで、身体は仰向けの状態に引き戻され横を向くこともできない。 「な、なぁ志希、もういいだろ?このカッコすっげー恥ずかしいし……」 今まで着せられてきたどんな衣装よりよっぽど恥ずかしい。自分の身が自由にならないことがこんなに恐怖を感じるとは思わなかった。身体が熱くなって、少しずつ汗が湧いてくる。 「うん、これで最後だから安心して♪」 志希の両腕がオレの頭の後ろに回ったかと思うと、視界が深紅に包まれる。ふわりとした感触からハンカチが巻かれているのだと察する。厚手なせいか、全く前が見えなくなったかと思うと後ろできつく結ばれる。 「これでよしっ!どう?」 「どうって……動けねえし前は見えねえし……不安だよ、志希」 「大丈夫、ちゃんと気持ちよくしてあげるから♪」 「そういう問題じゃ……っ!?」 頬に柔らかくて細い感触がした。志希の指だろうか。予想がつかなかったせいか、驚いて身体が跳ねてしまう。頬から首へと伝う感触がいつもよりしっかり感じられてしまうせいで、こそばゆくてしょうがない。手で止めようにも自由にならないこの視界と両腕じゃどうしようもない。 「どう?いつもよりしっかりと……あたしを感じられるでしょ?」 「あっ……」 耳元でそう囁かれる。志希の綺麗な声も、いい匂いも、やわらかで繊細な指の感触も、全部全部強く感じられて心臓の高鳴りが抑えきれない���どうしようもなく不安なのに、この状況に興奮してしまっている自分がいる。 体をなぞる指が首から鎖骨へと降りてきて、胸の中心から下へと辿っていく。その位置から下着が上へとズラされて、胸が外気に晒される。自分の呼吸がいやに大きく聞こえて、身体が息に合わせて上下する。 「ねえ、晴ちゃんからは何も見えないだろうけど……すっごくいやらしいよ、今の晴ちゃん♪」 「~~っ!!」 「晴ちゃんも……どきどきしてくれてるかな?」 追い打ちのような言葉で余計に羞恥心が煽られる。思考が一瞬止まった隙に、志希の指が離れたかと思うとショーツの締めつけが緩くなって、代わりに小さな固い感触が腰の両側に当たる。 「志希、まっ……て!!」 「ここで待ってもいいけど、もっと恥ずかしくなるだけだよ?待たないんだけどね♪」 「あ、あぁ……!」 ゆっくりゆっくりと下着が下ろされていく。動かせない両足ではどうやったって抵抗なんて手出来ない。じわじわと痛めつけられるような辱められるような行為に、頭も心臓も熱くなってどうにかなってしまいそうだ。下着が膝まで下ろされて、外気が触れていた部分が入れ替わる。一番恥ずかしくて見られてほしくない場所を晒しているのに、少しも隠すことができないどころか、どうなっているかすらわからない。羞恥と恐怖と興奮で頭がぐちゃぐちゃになって、なぜか涙が出てきた。 「うっ…くっ、しき……ぃ」 「あれ……やりすぎちゃったかな?……でも、こっちは喜んでくれてるみたい♪」 「うあっ!!?」 身体に快楽の電流が流れる。足と足の間に滑り込ませた指から秘所へと与えられた刺激が、この状況によって増幅されて全身に巡る。今まで経験したことのない衝撃に体が震えて、勝手に声が出る。 「ここ、すっごいぐしょぐしょだね……晴ちゃんもすっかりえっちになっちゃったね♪」 「なっ……!?そんなんじゃ……」 指の動きが止まって、おそらく反対側の手で頭を撫でられる。 「違わないでしょ?もうあたしと変わらないぐらいえっちだって♪言ってみて、ほらっ」 「う……」 こんなのずるい。卑怯だ。恥ずかしくてどうしようもないセリフのはずなのに、頭を撫でられて、志希からおねだりされてしまうとなんでもしてしまいたくなる。それで気が済むなら、喜んでくれるなら、少しくらい恥ずかしくてもいいって思わせられる。もう十分すぎるほど恥ずかしい目にあわされてるはずなのに。 「オレは……志希と同じくらい……えっち、です……」 「……晴ちゃんさー、あたしのことを信用してくれるのは嬉しいんだけど、信用しすぎなのもどうかと思うよ?♪」 小さな���と共に耳の近くに何かが置かれる。すると、少ししてからさっき言ったセリフがオレの声で再生された。 「志希ぃっ!!けっ、消せ!!」 「え~、せっかく晴ちゃんからのあたしだけが聞けるメッセージなのに……」 「ふざけんなっ!!」 「はいはい、じゃあ消してくるから待っててね♪」 耳元に置かれていたものを拾い上げるような音がしたと思うと、足音が遠ざかっていく。 「お、おい!待てって!置いていくなよ!」 「すぐ戻ってくるよ♪」 「う、嘘だろ……からかうなよ、志希……志希?」 声が返ってこない。まさか本当に置いていかれたのだろうか。熱くてどうしようもなかった身体が、急速に熱を失っていく。いつ帰ってくるのかもわからないのに、ここに人が入ってこないとも限らない。そうなったらお終いだ。それをわからないはずがないのに、どうして行ってしまったのだろうか。焼ききれそうだった脳が、ぐるぐると不安が巡り始める。 「嫌だよ、行かないで……志希……っ」 歯を食いしばって、目頭が熱くなる。早く、早く。それ以外にはなにも考えられない。 「だから、信用しすぎちゃダメだって」 「え、あ……」 頬に温かくて柔らかい感触がする、涙と汗が混じって流れた通路を舐めとって、猫が子猫をあやしてるみたいだ。 「ごめんね、不安にさせちゃって。数分ぶりの志希ちゃんだよ♪」 はらりと目の前を覆っていたものが取り除かれて、志希の姿が視界に映る。あんなに酷いことを二回もされたのに、この笑顔を見ると安心して全部許してしまいたくなる。 抱きしめようとして両腕を伸ばして、縛られていることに気づく。 「なあ、これも外してくれよ」 「それはだめ♪まだ最後にひとつだけ試したいことがあってねー」 今度は志希の手のひらで目を覆われてしまった。手首に香水をつけているのが、匂いが一層濃くなって頭がくらっとなる。 「力抜いてくださーい♪」 「あっ……いっ!?」 下から異物が挿入ってくる。志希の指よりも、冷たくて固くて大きなものが多少は指で慣らされた場所をこじ開けるように侵入しようとしてくる。視界の代わりに他の感覚が補おうとして、体の中に入ってくるそれを深く重く感じてしまう。 「こうした方が落ち着くかな?」 目を覆っていた手が頭の方に移動して撫でてくる。志希は隣に座っていて、可愛がるような目線でこちらを見ていた。 「あ……いいっ!!?」 志希の姿が見えて、一瞬気を落ち着けた瞬間に一気にそれは身体の中に入ってきた。不意の衝撃に身体が反って、まるで身体の中に一本の長い棒が通されたみたいだ。 「あちゃー……やっぱり痛かった?大丈夫、これからはゆっくり気持ちよくなっていくよー♪」 「なっ……あっ!?ひいっ!」 刺さっていたそれが上下に動いて、中を荒らし始める。往復するたびに弱いところと擦れて、感じたことのない快楽の波に溺れてしまいそうだ。 「ああっ!!だめっ……だってぇ!!」 「気持ちいいでしょー、晴ちゃんの弱いところにちゃーんと当たるように改良したからね♪もうイっちゃいそうでしょ?」 興奮と快楽が溜まっていって、今にも吐き出しそうになる。志希の声も、いやらしい水音も、匂いも、今まで感じたことのない痛みと感触も、全部全部身体が受け入れていく。それは同時に限界を呼び寄せることになる。 「……っっ!!!!!」 声ではない音が口から漏れて、気持ちよさに溺れた身体が数回跳ねる。頭の中も身体も愛おしい気持ちも恥ずかしい気持ちも全部溢れ出すみたいにはじけ飛んだ。しかし、余韻に浸ろうとした身体はまだ動いてるそれによって再び起こされる。 「イっ……たのに、なんでっ!?」 「んっ♪」 志希が両手を開いてこちらに見せる。何も触ってないのに、中にあるそれは確かにまだ動き続けている。快楽を受けて崩壊した身体に再び波が押し寄せる。 「早く……抜いてぇっ……」 「うん、あたしが満足したらね♪」 満足したら。それは一体いつなのだろうか。快楽によって薄れゆく意識と共に、終わったら絶対に一言文句を言ってやる、と誓うことでしか抵抗なんてできなかった。
「ねー晴ちゃーん、機嫌直してよー、やりすぎたのは謝るからさー」 「………………」 結局あの後は晴ちゃんが気絶するまでしちゃっていた。さすがにやりすぎたことを反省して、すぐさま後処理をすることにした。縛っていた手はまだしも足首は少し赤くなっていて、とりあえず軽い応急処置だけしておいた。汗と涙と愛液に濡れた身体を拭いて、布団に寝かせてあげた。ただ、起きてからというもの自分の服を体育座りで抱え込んで、ずっとそっぽを向いている。 「ほら、さすがにそろそろ帰らないといけないし、服とか着ちゃったら?」 「……むこう向いてろよな」 「うん、あと一応身体は拭いておいたけど、もし使いたいなら机の上のタオルを自由に使ってね」 そう言った途端に、後頭部に柔らかいけど勢いのある感触が飛んできた。自由に使って、とはそういう意味じゃなかったんだけど、これも仕方ないだろう。 「……もういいよ」 振り返ると、晴ちゃんがもう身支度を済ませて靴を履こうとしていた。……やばい、めっちゃ怒ってる。でもしょうがない、お預けされてた分を取り返すにはあれくらいしないと気が済まなかった。それでこうやって怒らせているのだから、元も子もないのだけれど。 あたしの横を通り過ぎたかと思うと、すぐにぴたりと立ち止まった。あれ?と思っていると、右手が後ろ向きに差し出される。 「……送ってってくれるんだろ?遅くなっちまったし……」 「うん!」 左手でそれを受け取って、前へと歩き出す。晴ちゃんを引っ張るようにして、出口へと向かう。 「志希……」 「はい、なんでしょう」 ……あれ?やっぱり許してもらえてない? 「今日みたいなこと、すっげえ恥ずかしかったし、怖かったし、痛かった」 「う……ごめん……」 「でも……いいから」 「え?」 「志希がしたいなら、その……また……っっ!なんでもねえ!はやく行くぞ!!」 「は~い♪」 駆け出した晴ちゃんに置いてかれないように、一緒に走る。次があるなら今回のようなことではきっと満足できなくなってるだろうけど、晴ちゃんは許してくれるだろうか? ボイスレコーダーと棚に仕込んでおいたビデオカメラのメモリーカードは、確かにポケットの中にある。しばらくはこれで満足できるだろうと思っていたけれど、さっきのセリフを録音してないことを後悔した。 でも、本当に大事なことは記録やデータには残らないことをよく知っている。だからこそ、今はただこの愛しい恋人との二人三脚のような走りを楽しむことにした。
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ひとみに映る影シーズン2 第四話「ザトウムシはどこへ行く」
☆プロトタイプ版☆ こちらは無料公開のプロトタイプ版となります。 最低限の確認作業しかしていないため、 誤字脱字誤植誤用等々あしからずご了承下さい。 尚、正式書籍版はシーズン2終了時にリリース予定です。 (シーズン2あらすじ) 私はファッションモデルの紅一美。 旅番組ロケで訪れた島は怪物だらけ!? 霊能者達の除霊コンペとバッティングしちゃった! 実は私も霊感あるけど、知られたくないなあ…… なんて言っている場合じゃない。 諸悪の根源は恩師の仇、金剛有明団だったんだ! 憤怒の化身ワヤン不動が、今度はリゾートで炸裂する!! pixiv版 (※内容は一緒です。) ☆キャラソン企画第四弾 牛久舎登「かっぱさん体操」はこちら!☆
དང་པོ་ 洗面所で顔を洗い、宴会場に戻る。時計は丁度六時をまわった所だ。ふと、窓の外から懐かしい歌が聞こえてきた。 『かっぱさん体操第一ィィィ!』『プッペケプッぺップー』 「うー。何だよぉこんな朝っぱらからぁー!」 「ふわあぁ~」 「ああ、かっぱさん体操の時間……」 朝っぱらから近所迷惑な体操音楽によって、佳奈さん、万狸ちゃん、玲蘭ちゃんが同時に布団から出てきた。玲蘭ちゃんと私はカーテンを開け、大音量で音楽を流しながら体操する河童の家教団を眺める。 「牛久の河童はかっぱっぱーのパァー」 「お皿を磨いてツーヤツヤーのツャー」 「「みんなで腹からワッハッハーのハァー、笑顔に勝るー力なし」」 「は? 二人なんで歌えるの?」 歌詞を暗記している私達を、佳奈さんが訝しんだ。 「佳奈さんの地元にはいませんでしたか? 河童信者」 「ぜぇんぜん」 「北関東から東北あるあるなんじゃない? 私も会津にいた時はほぼ毎朝だったのに、沖縄(うちなー)では一度も聞いた事なかった」 影電話で万狸ちゃんにも聞いてみる。 <木更津はどう?> 「一度だけ布教に来た事はあったね……あの体操で大狸様を怒らせちゃって、追い出されてた」 <あはははは> 河童の家、案外ローカルネタなのかな。 「じゃあ、どの学年にも一人はいる子河童も知らないですか? 佳奈さん地元は京都でしたっけ」 「ううん、両親両方京都だけど東京生まれ東京育ち……そもそも子河童って何?」 「そこからですか」 茨城県に本拠地を置く新興宗教、河童の家。元お笑い芸人の牛久舎登が発足し、『笑顔に勝る力なし』を教義とする。そのため宗教活動では一発芸や話術を磨く修行をし、信者は男も女も子供も、皆河童のように頭頂部を剃り上げる。この教団が近所にあると毎朝『かっぱさん体操』という体操曲が爆音でかかり、また近隣の学校には通称『子河童』と呼ばれるお調子者な学生が何人か生息する。そして彼らは将来、教団が運営する芸能事務所『かわながれ興業』に所属するんだ。でも人を笑わせる、そして人から笑われる事も最上の幸福であるという教えを拡大解釈した信者が、パワハラやいじめ、体罰を起こして時折問題になっている。 「私が知っている河童の家についての情報は、こんなところですかね」 「へぇ……やけに芸能界に影響力がある宗教だと思ってたけど、そんなだったんだね」 「ああ、東北も多いけど、大阪には芸人養成学校があるから日本一信者が多いんだって」 玲蘭ちゃんがスマホで調べてくれた。 その時、トントン、と襖がノックされる。 「おはよぉございます……。お嬢さん方。河童さん��体操終えて食堂混む前に、朝食行きませんか?」 タナカDだ。 「そうしよっか」 カメラが回るだろうから、私達は各々最低限顔を描く。眉毛面倒だから影で作っちゃった。後で朝風呂に入ってからちゃんと直そう。 གཉིས་པ་ 食堂に行くと、奥の席で既にタナカDが朝食を一品ずつ物撮(ぶつど)りしていた。テーブルには全員分のネームプレートと朝食が配膳されている。 「ぅあ~~~~~~~~……」 席につくなり、佳奈さんからアイドルが一番出しちゃいけないような声が漏れた。 「どうしたんですか佳奈さん、まるで深夜バスにでも乗ってたみたいな顔して」 「似たようなもんだよ……ずっとすごい雷鳴ってたじゃん。しかもなんか救急車の音とかしなかった? それで朝はかっぱさん体操。ほぼ一睡もできなかった」 「救急車、ですか」 「はぁ……一美ちゃんは本当にどこでも眠れるよね……昨晩大雨だった事も知らなかったでしょ」 「うーん……」 本当の事を言うと、眠るどころじゃなかったんだけど。それを説明する事もできないからもどかしい。 「雷雨ぐらい気付いてました。私も全然休んだ気がしないです」 「でも寝てただけいいじゃん」 「嫌な夢を見てたんですよ。私は地元のお寺の尼僧になってて、お御堂のバルコニーが浸水して和尚様が馬頭観音になってすっごい怒ってる夢」 この内容は嘘ではない。そういう夢を見たのは事実だ。 「ば、罵倒観音? なにそれカオス……それはうなされるわ」 「おう何だ何だ、お二人共だらしないですなぁ!」 タナカDが物撮りを終えて席につく。彼は朝から声が大きい。 「まあ冷めないうちに食べようじゃありませんか。『じゅんなぎ』もありますよ」 「へえ、じゅんなぎですか」 手元のネームプレートを裏返すと、朝食メニューが書かれていた。 『朝食 おこんだて イシガキダイのちらし寿司 小松菜とかぼちゃのお味噌汁 わかめの辛子味噌和え じゅんなぎ』 おお、朝からなかなか豪華だ。ちらし寿司は大きな鯛のお刺身がどっさり乗っていて海鮮丼のよう。お味噌汁のかぼちゃもほうとうを彷彿とさせる大きなスライスで食べ応えがある。わかめは勿論新鮮な生わかめ。そして、千里が島で一度は食べてみたかったじゅんなぎ! 「皆さん、これはですね。『蓴菜(じゅんさい)で鰻繋ぐ』、つまり『ヌルヌルした野菜でヌルヌルした鰻を捕まえるような行いは無謀である』という諺が由来の、千里が島の郷土料理なんです。蓴菜と冷製の鰻を湯葉で巻いてあるから、『不可能を可能にした縁起物』、すなわち霊力が上がるパワーフードなんですよ!」 「おぉいおいおい、紅さん。台本もないのに詳しいですなあ! ま、僕はじゅんなぎが無くても今日は無敵ですがねぇ……フフン」 「どうしてですか?」 「いやね? お二人が眠れない夜を過ごしていた間に恐縮ですけど。昨夜、狸おじさんのおかげですごぉく縁起の良さそうな夢を見ましてですねぇ!」 「へ?」 何の事ですか? と言いたげな表情で、隣のテーブルの斉一さんがこちらを見る。 「夢に人語を話す化け狸が出てきて、僕にお酌してくれるんですよぉ。なんかご利益ありそうでしょぉ。しかもただの化け狸じゃない、ドレッドヘアのちょいワル狸ですよ!」 「ぶっ!! げほ、げほ!」 斉一さんが辛子味噌和えをむせた。ていうか、その狸、完全に斉二さんの事じゃないか。 「い、いや、わざとじゃないんだよ!? なーんか俺もタナカさんと晩酌する夢を見た気がしてたんだけど、本当わざとじゃないのマジで!!」 当の本人は必死に否定している。要するに寝ぼけてタナカDに取り憑いたまま寝ていたという事らしい。どうりで今朝あんな事があったのに、斉一さんしか迎えに来なかったわけだ……! 「狸おじさん、風水的にはどうなんですか? ラスタな狸って縁起いいんですかね??」 「ん゙っ、ん゙んっ……き、聞いた事ないですね……あれかな! 昨晩私が張った結界が効いている証拠とか! はい、ぽ、ぽんぽこぽーん……ふっくくく……ぽっ、ぽこ……」 斉一さん、完全にツボに入ってしまったようだ。佳奈さんも釣られて肩を揺らしだした。 「ちょっふっふっふ……タナカDが能天気すぎるだけだよそれ! てか狸おじさん困ってるし……なにラスタな狸って!?」 「部屋にラスタな狸がいたら報告した方がいいですか?」 「あっはっはっはっは!!」 何故か玲蘭ちゃんまで佳奈さんに調子を合わせる。じゃあ私も。 「玲蘭ちゃん、ラスタな狸はタナカさんに譲るんで、可愛い女の子狸は私が貰っていい?」 「それなら昨夜ずっと一美の隣で寝てたよ」 「きゃー! アハハハ」 皆で和気あいあいと食事していたら、いつの間にかじゅんなぎを無意識に食べてしまっていた。けどなんか、別にもういいかな……という気分だった。 གསུམ་པ་ 食後。手短に朝風呂に入り、軽く荷物をまとめてホテルを発つ。今日はまず主要な観光スポットを幾つか巡って、図書館で資料を見ながら埋蔵金の場所を推理する段取りだ。ロビーを出ると、青木さんが待ってくれていた。 「おはようございます。昨晩は凄い雨けど、ご快眠を?」 「全然だよー。そこの三角眉毛は別だけど」 「おう誰がデブで三角眉毛だとぉ? この極悪ロリータ」 「佳奈さんデブとは言ってないじゃないですか。いいから行きますよ、お二人共。青木さん困ってるでしょ」 手元で地図を見ながら、一行はまず徳川徳松こと御戌神(おいぬのかみ)が祀られる、御戌神社へ。ホテルから海沿いのなだらかな丘を五分ほど登ると、右手に見えたのは『石見沼(いしみぬま)』だ。青木さんが解説をしてくれる。 「中央に大きな岩をご覧で? あれに水切りで石当てるのに成功すると、嫌いな相手が怪我を」 「初っ端から物騒な観光スポットですね!?」 驚く私の背後で、カメラを抱えたタナカDがガハガハと笑った。 「これぐらいで驚いてちゃあ後が持ちませんよぉ紅さん! なにせ千里が島は縁切りのテーマパークですからなぁ。この後はもっともっと物騒な所をお見舞いしていきますよぉ」 「タナカさん、あなた本当にこの島を応援したいんですか? それとも視聴者をドン引きさせたいんですか?」 「ナハハハ、だぶか放送後は調布飛行場に行列が出来ているかもしれませんよ? 『あの紅一美がチビった恐怖の心霊島』と……」 「青木さん、石! 丸い石ください、水切りしやすそうなやつ!!」 「あややや、喧嘩はやめて下さいだぁあ!」 と、こんな所で尺を取っても始末に負えないから、小競り合いを演じたらさっさと移動する事に。暫く進み、御戌神社の鳥居が見えてきた。 「ウゲ……」 それを見た途端、私は絶句。それは鳥居と呼ぶには余りにも不気味な色に見えた。まるで糖尿病で壊疽を起こした脚みたいな……いや、この異常には心当たりがある。 「佳奈さん、この鳥居なんか変じゃないですか?」 「え、普通じゃない?」 思った通り、佳奈さんは平然としている。これは倶利伽羅龍王を討伐した時、地元の神様から聞いた現象だ。倶利伽羅を生み出した邪教、金剛有明団にまつわる物は、信仰心に準じて見た目が変わって見えるらしい。例えば倶利伽羅も金剛信者には美術品のように美しい龍に見え、金剛に恨みがある私には汚物にしか見えない。今回もそれと同じ……つまりこの神社は散減同様、金剛にまつわる領域なんだろう。我慢して入るしかなさそうだ。བཞི་པ་ まずは普通の神社と同様、手を清める。案の定手洗い場も気持ち悪く見えて、正直とてもじゃないけどここの水に触れたくない。ていうか臭い。牛乳を拭いた雑巾みたいな臭いがする。とりあえず口はつけず指先をちょっとだけすすいだけど、後で境外で肌荒れするまで手を洗いたい! 詳しく境内を見る前に、賽銭箱に小銭を入れて手を合わせる。金剛とこれ以上因縁が続いては困るから、小銭がない振りをして五円玉をタナカDからタカった。神様に手を合わせている間は金剛への嫌悪感を読み取られないように、無我を貫いた。 参拝が終わったら、境内を進み御戌神が眠る『御戌塚(おいぬづか)』へ。境内はそこそこ広い割に、随分と殺風景だ。まず社務所がない。青木さんいわく、神社境内に職員が常駐すると現世との縁が切れてしまうからだそうだ。そして狛犬もいない。御戌様が御神体だからだという。 奥へ進んでいる途中、私はふと左手に一際強烈な禍々しさを感じた。見ると竹やぶに覆い隠されるように、傘立てみたいな簡素な祠が建っていた。厳重にしめ縄が巻かれ、星型の中央に一本線を引いたような記号の霊符が貼ってある。 「青木さん、あれは何ですか?」 「大散減(おおちるべり)というオバケを封じた祠ですだ。あまり直視したら良くないかも……ああっタナカさん、撮影など!」 「ダメかい? そんなに恐ろしいオバケなの、そのオオチルベリってやつは」 「モチのロンだから! 体が五十尺もある、八本足にそれぞれ顔がついてて、そのうち本物の顔を見つけて潰さないと死なない怪物で! しかも人間の肋骨食べて、一本足のミニ散減を生み出すとか。だからともかく、大散減は撮っちゃダメですだぁ!」 「一尺って何メートルでしたっけ、なんだか想像つかないですなぁ~」 タナカDは渋々とカメラを逸らした。人間の肋骨から新たな散減を生み出す……昨晩、おばさまの肋骨から散減が生まれた瞬間を私は見た。それに、倶利伽羅龍王も……。 そして私達は御戌塚に到着。平将門公の首塚みたいなお墓っぽい形状の石碑を予想していたら、実際は犬の石像だった。徳松さんご本人は不在のようだ。恐らく既に成仏されたか、どこか別の場所にいるんだろう。 「あれ? 一美ちゃん、これ犬じゃなくない? タテガミがあるよ」 「これはどちらかと言えば狛犬ですね。狛犬は獅子に似ているんです」 「あ。確かに、普通の神社の狛犬も、タテガミ生えてたかも! そういえば、徳川徳松は狛犬の魂を持ってたんだよね。じゃあお犬様の犬種って狛犬なのかな?」 「あはは、そうかもだ。それと、志多田さん。御戌様はわんこの『犬』でなくて、十二支の『戌』という字を」 「へー、どうして?」 青木さんによると、戌という漢字は滅ぶという字が元になっているそうだ。植物が枯れて新たな命に変わる様子を表しているんだ。早逝して祟り神になった徳松さんをよく表していると思う。 「御戌塚から伸びる道は、竹やぶで薄暗いのが『亡目坂(なきめざか)』、奥の見晴らしいい方が『足失坂(あしないざか)』で。いずれも嫌な奴を思い浮かべながら歩くと、それぞれ違ったご利益がとか。ちなみに足失坂を途中で右に下ると『口欠湿地(くちかけしっち)』が……」 「青木さん、今は特に切りたい縁はないんで大丈夫です!」 さすが御戌神社周辺は地名が物騒だ。昨晩斉三さんが言っていた、『気枯地』という言葉がしっくり来る。これ以上ここにいても千里が島のネガティブキャンペーンにしかならなさそうだから、私達は次の場所へ移動する事にした。ལྔ་པ་ 足失坂を下り、ザトウムシ記念碑がある『千里が島国立公園』へ。物騒な地名とは裏腹に本当に見晴らしが良い。閉塞的な御戌神社から出た瞬間、空がばっと広がったような感じだ。麓に見える口欠湿地も空の青を反射して美しく輝き、それをタナカDが嬉々としてカメラに収める。千里が島の縁切りや祟りといった暗い側面だけじゃなくて、こういった絶景も収録出来たのは本当に良かった。 国立公園は坂中腹からふもとまでの広い敷地を有する。地面は芝生とシロツメクサで覆われ、外周は桜並木に囲まれている。ただ、やはり気枯地だからか、桜はどれ一本として真っ直ぐ生えていなかった。 ザトウムシ記念碑は簡素な作りで、歌詞と小さなイラストだけ書かれた石碑だ。歌い継がれてきた民謡のため、作詞作曲者は不明らしい。また隣にはザトウムシの生態を説明するパネルもあった。 「ええと、『ぼくはクモに似てるけど、ダニの仲間なんだよ! 八本足に見えるけど、そのうち一本は杖なんだよ! 一人ぼっちよりも、みんなで集まるのが大好きだよ!』なるほど……ザトウムシがワサワサ密集してたらなんかちょっと嫌ですね」 「僕前に公園のベンチで、黒いタワシみたいな塊落ちてて……触ると大量のザトウムシがブワササーと」 「やだー! 青木君やめてよ~」 「わはははは!! それは最悪ですなぁ!」 公園を抜けて市街地へ降りていくと、月蔵(つきくら)小学校と併設する町民図書館が見えてきた。カメラに群がる小学生達に軽くファンサービスしながら、図書館へと急ぐ。私がお目当ての子はみんな「ドッキリ大成功! したたびでーす!!!」と絶叫しながら全力疾走で追いかけてくる。佳奈さんの影響だ。私も期待に応えて校庭をダッシュしたら、地面から急にスプリンクラーが出てきて水を撒き始めた! 「ぎゃー! また騙されたーっ!!」དྲུག་པ་ 何とか濡れずに済むも、息絶え絶えで図書館に入る。トイレを借り、やっと手を洗えた! と安堵して戻ると、皆は既に資料が並べられたテーブルを囲んでいた。太っているタナカDと大柄な青木さんは、小学生向けの低い椅子で収まりが悪そうにモゾモゾ蠢いている。私も着席するとカメラが回り、タナカDが進行を始める。 「実際に歩かれてみて、お二人何かお気付きになった事はありますか?」 気付いた事か。���つかあったけど、金剛有明団や霊にまつわる情報は直接共有できない。少しぼやかして話そう。 「斉ぞ……ええと、狸おじさんから伺ったんですが、植物が曲がって生える土地は風水的に不吉らしいんです。それで今日気にして見ていたら、御戌神社がある坂の上に近づくほど木がねじれたりしてて、海沿いの石見地区や市街地である月蔵地区はそうでもないんです」 「御戌様が埋蔵金を守ってるからかな? じゃあ神社の近くが怪しいね!」 佳奈さんが消せる蛍光ペンでコピー地図を囲んだ。 「不吉な場所ですかぁ。だぶか神社から一番遠い南側、竹由……こりゃ『たけよし』で合ってるかい?」 「ですだ」 「竹由地区ね。この辺はまっすぐ生えてるんですかねぇ」 確かに地名に『よし』が入っていて、島の南側は縁起が良さそうではある。私達はまだ行っていない竹由地区の資料を見ると、小さなお寺が一つあるだけで後は住宅街のようだ。 「志多田さんはどうだい?」 「うーん、埋蔵金については何もなかったかなー。ところで青木君、この地図のここ、誤植じゃない?」 「え、誤植で?」 全員で地図を確認する。佳奈さんが指さしている箇所には、『新千里が島トンネル(旧食虫洞)』と書かれていた。昨日、私と青木さんが行ったコンビニの所だ。 「食虫……洞? 確かに変ですね。『虫食い洞』なら虫がトンネルを掘ったような感じで意味が通じるけど、食虫洞じゃ洞窟が虫を食べちゃうみたい」 「でしょでしょ? それともウツボカズラがいっぱい生えてるのかな」 「いえ、『食虫洞(くむしどう)』が正解で。ウツボカズラは生えてねぇけど、暗いから虫を食うコウモリが住んでるかもだ」 「うーん、そういう問題なのかな……? まあ関係ないからいっか……」 佳奈さんは煮え切らない顔のまま、地図を机に置いた。タナカDが仕切り直す。 「じゃじゃじゃあ、まずは今まで埋蔵金探しに失敗した方々の仮説を見てみましょうよ! 青木君」 「はい、こちらを」 タナカDは青木さんが差し出した資料を私達側に向ける。インターネット上で日本各地の徳川埋蔵金に関する情報をまとめたサイト、『トレジャーまとめ』さんの記事コピーだ。これまでザトウムシの歌詞をもとに埋蔵金のありかを探索した人々のレポートらしい。上からざっと目を通す。 ・その一 ザトウムシは座頭、盲目の暗喩だ。歌詞の『ザトウムシ』という言葉の総文字数を歩数として、記念碑から亡目坂を登る。そして到着地点の地面を掘ってみた。 結果 何も出てこなかった。これを試みた探索者の一人が島を出た後(以降は修正液で消されている) ・その二 『水墨画の世界』は白黒、あの世を表している。竹由地区には名前に『虫』がつく虫肖寺(ちゅうしょうじ)があり、そこには墓地が隣接している。その墓地で、黄昏時に太陽が見える西側の井戸内を調べた。 結果 何も出てこなかった。これを試みた探索者全員が数日後、(以降は修正液で消されている) ・その三 ザトウムシが埋蔵金を表しているなら、食虫洞は金を蓄える隠し場所に違いない。歌詞の通り、黄昏時から逢魔が時にかけての時間、トンネルを調査した。 結果 翌々日、(以降は数行にわたり修正液で消されている。塗りこぼしから微かに『トンネルが永遠に続いて外に出られ』という一文が垣間見える) ・その四 『口欠』『足失』『亡目』など体の欠損にまつわる地名は心霊現象や祟りが多いという。その三箇所いずれかに宝があるとみて、調査した。 結果 それらの地点には共通して護符の貼られた祠があり、護符を剥がした探索者は肋(次の行以降は紙ごとハサミで裁断されている) 「「いや怖いわ!!」」 全部読み終わる前に佳奈さんと異口同音! 「ちょっと青木君、これ元は何て書いてあったの!?」 「すいません、あんまりにも酷いデマなどが。根も葉もねぇので僕が修正を!」 「本当にデマなんでしょうね!?」 「嘘こいてねぇです、本当に事実無根なので! 大体、コトが事実なら普通新聞に載るなど……」 事実なら新聞に載るほどの事が書いてあったのか。これは下手に島を引っ掻き回すと、またとんでもない事になりそうだ。 「まあまあまあ、お嬢さん方。要はあなた方がね、埋蔵金を見つけちゃえばいいんですよ」 「なに他人事みたいに言ってるんですか、この三角眉毛は。祟られる時は全員祟られるんですよ? わかってんですか?」 「そーだそーだ、デブちん三角眉毛!」 「おう遂にちゃんとデブって言ったな!? 今日の僕にはラスタな狸がついているんだ。一人でもしぶとく生き残ってやるぞぉ」 「一美ちゃん、ちょっと今夜御戌神社で丑の刻参りしよっか」 「了解しました。加賀繍さんのぬか床に五寸釘入ってるから分けてもらって……」 ん? 「佳奈さん、今の言葉もう一回いいですか?」 「え? だから、『御戌神社』で『丑の刻参り』」 「……それだ!」 ラッキー! 今の超下らないやり取りで、歌詞の謎が一つ解けたかもしれない! 「おぉ何だい、そんな聞き返すほど僕を呪いたいのか小心者」 「違いますよ。見て下さい、歌詞の一番と二番の冒頭……」 ザトウムシの一番、二番の歌い出しは、それぞれ『たそがれの空を』『おうまが時の門を』だ。 「いいですか? 昔の日本は十二時辰(じゅうにじしん)、つまり十二支で時間を測る単位を使っていました。その単位では、『逢魔が時』と『黄昏時』……つまり夕方から夜に変わる時間帯は、『酉の刻』と『戌の刻』になるんです」 「じゃあ歌詞に当てはめると、一番は『戌の刻の空を』、二番は『酉の刻の門を』に変換できるって事?」 「はい。ここで思い出しませんか? 御戌塚から伸びる二つの道」 「薄暗い亡目坂と、見晴らしがいい足失坂……あっ、『戌』から『空』が見えるのは足失坂だ!」 「そうです。しかも続きの歌詞が『ふらついた足取りで』、足って言ってるんですよ! 一方二番……酉の門といえば?」 「神社の『鳥居』! 坂からまた神社に戻っちゃってる!?」 「そうなんです!」 つまり、私の説はこうだ。この歌は埋蔵金のありかを一箇所漠然と示しているんじゃなくて、そこに至る道順のヒントが歌詞になっているんだ。御戌塚から始まり、足失坂を通って何らかのルートを経由。やがて神社に戻って、そこからまたどこかへ行く……こうして遠回りをする事自体が、埋蔵金を発見するために必要なのかもしれない! 「なるほど、道順を! それは今まで誰もやらなかったかもだ……それにしても、お若いのによく十二支の時間をご存知で?」 「あはは、青木さんより若くはないですよ~。小さい頃ちょっとだけお寺に住んでた事があって、こういう歴史っぽい雑学にちょっと明るいだけです。ただ……」 残念ながら、歌詞に干支にまつわる描写はそれしかないんだ。そこから先の謎はまだわからない。私が自説をフリップに書き終えると、タナカDが佳奈さんに話を振る。 「志多田さんどうですか? 紅さんがワンアイデア出しましたよぉ」 「急かさないでよー。私まだ食虫洞の謎が頭から離れないんだから。そーいうタナカDこそ何かないの?」 「僕かい? そうですな……このサビの、『月と太陽が同時に出ている』って、日蝕か月蝕って事でしょ? 千里が島で日蝕月蝕が観測された事って歴史的にあるんですかねぇ?」 「え? この歌詞って単純に黄昏時の事じゃないんですか?」 「あ、そうか。そりゃ黄昏時には月と太陽が両方見えますな」 すると今度は佳奈さんが閃いた。 「ちょっと待って、日蝕……?」 佳奈さんは私の手元から地図を取り上げ、食い入るように見つめ始める。 「……しょく、ふき、ぞう、すずり……」 「佳奈さん?」 「あー、そういう事かあ! これ、千里が島の地名ってさ、繋げるとみんな漢字一文字になるんだ!」 「え、そうなんですか?」 「どういう事で?」 青木さんも知らなかったようだ。全員興味津々で佳奈さんの指さす地図に見入った。 「例えばこれ、食虫洞はさ、食と虫を繋げて書くと日蝕の『蝕』になるでしょ。亡目坂は盲目の『盲』、月蔵は臓器の『臓』」 「すごい、本当ですね! 石見は書道の『硯(すずり)』、竹由は『笛』ですか。あれ、でも足失坂は……」 「『跌(つまずく)』。常用漢字じゃないけど」 「つまずく?」 タナカDは自分のスマホで『つまずく』と入力し、跌と変換できるか試みた。 「ああ、跌(つまずく)だ! 確かに跌ですよ跌! いや、よく読めますなあ。ところで佳奈さん、最終学歴は?」 「いちご保育園だってば。何度も聞くなー!」 佳奈さんは国文学分野で大学を卒業しているけど、年齢不詳アイドルである彼女にとってそれは公然の秘密だ。タナカDはそれを承知の上で度々ネタにしているんだ。 「あれ、佳奈さん。それを当てはめたら歌詞解読できるかもしれませんよ!」 「え本当? よーし、やってみよう!」 こうして数十分試行錯誤しながら、私達したたびチームの歌詞解釈はほぼ完成した。それが、こうだ。 たそがれの空を ザトウムシ ザトウムシ歩いてく (御戌塚から始まり、空が見える方向へ進む) ふらついた足取りで ザトウムシ歩いてく (そのまま神社境外に出て、つまずきやすい道、つまり足失坂へ進む) 水墨画の世界の中で 一本絵筆を手繰りつつ (足失坂のふもとから水墨画の世界、硯と水を象徴する石見沼へ進む) 生ぬるい風に急かされて お前は歩いてゆくんだね (石見沼から風が吹く方向、口欠湿地方面へ進む) あの月と太陽が同時に出ている今この時 ザトウムシ歩いてく ザトウムシ ザトウムシ歩いてく (口欠湿地から月が太陽を蝕む場所、旧食虫洞へ進む) おうまが時の門を ザトウムシ ザトウムシ歩いてく (食虫洞を抜けた所から丘を登り、御戌神社の鳥居をくぐる) 長い杖をたよって ザトウムシ歩いてく (神社境内から視覚障害者が杖を頼りに歩くような暗い道、亡目坂へ進む) ここまで考察した段階で、地図に道順を引いていた佳奈さんがペンを止めた。 「何これ……星……?」 蛍光ペンで地図に書かれた道筋は、島の中心に魔法陣のような模様を描いていた。五芒星の中心に一本線を引いたような、シンボルを。 「佳奈さん。まだ、解読できてない歌詞は残ってますけど……これはこの形で完成だと思います」 「一美ちゃんもそう思う? これ以降の歌詞って、対応する地名が見当たらないんだよね……」 「青木さん」 私はさっきの埋蔵金探し失敗談を手に取る。 「この消されている箇所、要するに全部『祟りがあった』って事ですよね?」 「はい……あ! いえ、そんな事は……」 「そうなんですね。つまり余所者が千里が島を検めるためには、正しい儀式か何かを踏まないと祟りに遭う。その儀式の方法こそが、この民謡ザトウムシに隠された暗号の正体だった」 「……」 「私、さっきこのシンボルを見たんです。御戌神社の、祠で……」 もう私の中で謎は核心に迫っていた。霊能者達は今それぞれ除霊活動に励んでいるけど、『ザトウムシ』……恐らくは、怪物の親玉であるそれを倒さなければ島の祟りは終わらないのだろう。 「結論が出ました、青木さん。ザトウムシは、徳川埋蔵金のありかを示している歌じゃありません。私はこれを……八本足の怪物、大散減を退治するための手順を示した歌だと思っています」 衝撃的な結論に全員が呆然としていると、窓の外で何かが破裂するような音がした。更に間髪入れず、河童信者が一人血相を変えて図書館に飛びこんでくる。 「たた、た、大変です! 大師が……大師が……紅さん、ともかく来てください!」 「え? どうして私が……うわあ!?」 河童信者は乱暴に私の腕を掴み、外へ連れ出した。他の皆も続く。牛久大師が私を指名したという事は、また散減が現れたのだろう。けど今はカメラが回っている。玲蘭ちゃんや万狸ちゃん達は別行動だし……私、どうすればいいの!?
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【/D】テーブルクロスの下での続き(本番)
タイトルの通りです。十四歳のディーンがまやかしの合意のもと…という話なのでご注意下さい。
またしても8000字越えちゃった。
◇
二時間ほどかけて食事とディーンのもてなしを受け、全員が活き活きとした顔つきで食後酒を楽しむのを、イドリスは自らもグラスを傾けながら眺めた。素晴らしい気分だった。イドリスは、自分がすっかりこの不道徳な会合に魅せられてしまったのを自覚した。 リックスが飲み干したグラスの底をコンコンとテーブルに叩きつけた。 「腹はいっぱいか?」 テーブルの底からコンコンと返事がした。 「今日は彼、頑張りましたね」 頬を紅潮させ、いよいよ四十歳にしか見えないような顔でキンツル医師はいった。今夜はこれで引き揚げ時だと察し、イドリスは椅子を引いて感謝の言葉を述べようとした。 「今夜はこのような素晴らしい催しにご招待いただき――」 「あ、待って、待って。まだ帰らないで下さい。帰ったらダメですよ」 ニックがいった。 引き止められたのは、”寄付”の件だと思い、用意していた弁解をする。「もちろん、サムの勉強はみてあげるつもりです――今夜これからでもいいですが、もう遅いのではないでしょうか、先ほど下膳に来たときも眠そうでしたし――」 「そうじゃなくて、もう、先生。一度口に出しただけで満足なんですか?」 ニックはほほ笑みながら、友人の浅慮を嘆くようにわざとらしいため息を吐いた。 「十四歳の男の子の”中”に入れたこと、ないでしょう?」 イドリスの腹の底が再びざわめいた。 「今日は校長先生の歓��会ですから」とリックスがいう。「私たち、同じ趣味を持つ者どうし、協力すれば、より充実した生活を送ることができますよね。それに、ディーンもこれが好きなんですよ。この子はね、孤児院にいたんですが、そのころから同じようなことをやってたんです」 足の間に這ってくるものの気配がし、白く細い手がイドリスの太腿をしっかりとつかんだ。テーブルクロスが内側からめくられ、イドリスの足の間から湖の精霊のような美しい顔があらわれる。 「ディーンを問題児だという人間は、多くいますが、この子の扱い方を知らないだけです。この子ほど素直で従順な子はいない。何をしたって喜んで受け入れる。ようはね、先生。弟なんです。サムのほうが肝心なんです。ディーンの舵はサム、それを覚えておけば、何にも難しいことはありません」 つまりディーンは、弟の安全や、おそらくは、同じ屋根の下で眠ることができる権利を得るために、大人しく里親たちの要求に応じているというのか。 それが本当だとしたら、イドリスは、ディーンが愚かだと思ったし、その無力さを愛おしいとも思った。 学校で遠目から見る彼、まあ何度か校長室送りにしたことはあるので、側で見る機会もなかったわけではないのだが、学校の安い電灯の下で見る彼の髪はありふれたブラウンに見えた。ところがいま、シャンデリアや本物の蝋燭の灯の下で見る彼の髪は透き通るような金色だった。彼はイドリスの太腿で体重を支えながら立ち上がると、イドリスの肩に手をおいた。彼の全身が白く輝いて見えた。彼は全裸だった。テーブルクロスの中で脱いだのか。いつから脱いでいた? みんなの足にせっつかれ、かわるがわる初老の男たちのペニスを咥えていたときからか。それとも、今、この時のために。 目の前に飛び込んでくる、大理石のようにきめ細やかな肌と、早摘みしたベリーのようなあわい乳首にどこを見ていいのかわからず、イドリスは少年の養父に視線をやった。「あの、私は――その――」 「センセ、おれ、もう慣らしてあるし」 ディーンが定型文以外の言葉を話したので、イドリスは人形が目の前でしゃべったような衝撃を受けた。鮮やかなペリドットの瞳で少年はイドリスをまっすぐに見ていた。「乾かないうちに、やりたいんだ。お願いします」 「ディーン、校長先生にお願いする態度がそれじゃあだめだ」 養父にたしなめられると、ディーンは「はい、すみません、おとうさん」といった。少し屈んで、まだ衝撃で胸がドキドキしているイドリスのフロントを寛げ、落とした首のまま、上目遣いに「いい?」と尋ねてきた。それがなにか見当がつかなかったわけではないが、ろくに声も出せないうちに、今日ふたたび、少年の手によってペニスを立たされた。 十分な硬さになると、ディーンは手を上げてイドリスの胸元のボタンに指をかけた。そこでまたしてもリックスの注意が入った。ディーンはこれにも「すみません、おとうさん」と謝り、身をよじってテーブルの上にあったナプキンを取って、手をぬぐってから、またボタンに指をかけた。細かい指導をするものだと思ったが、妻子のある男たちに触れるなら必須のマナーなのだろうと想像ができた。 きれいに拭われた指が胸元に差し込まれた。イドリスはその指を握って、キスを請いたいと思った。「キス……」そうと言い終わる前に、赤い唇が下りてきた。イドリスは少年の腰に手を伸ばし、温かな肉の弾力を手のひら全体で感じながら、キスが深くなるように引き寄せた。ディーンは、いっさい抵抗しなかった。イドリスの胸にもたれかかるようにして、好きなだけ深いところを探らせた。魂が持っていかれるようなキスをしたのは初めてだった。 どれだけそうしていたかわからなかった。ディーンが胸に置いた手を少し押したので、苦しいのかと思って我に返った。ディーンの頬は上気していて、目じりには涙が溜まっていた。睫毛の上にも涙が乗っていて、あまりにも完璧に美しいものを見た気がした。 ディーンはその瞳でイドリスを見つめたまま、ゆっくりと体を返し、テーブルの上に腹ばいになった。いまや、イドリスの食卓には、これまで味わったことのない、最上級の肉が提供されている。その肉は、早くイドリスに食べてもらいたくて、自ら肉を切り分け、一番おいしい場所を、これでもかと彼にみせつけ、誘惑する。 ディーンは後ろに伸ばした手の中指と薬指でアナルを広げ、「ほら、センセ」と少し苦しそうな声でいう。「せっかく慣らしたのに、全部こぼれちゃうよ」 赤い腸壁の中から透明な液体がツっと溢れ、一筋白い内またを伝ってすんなりとした曲線の脚へ落ちていく様を見た。「早く、センセ……ミスターウエイクリング……入れて下さい……お願いです……」 イドリスは椅子を蹴る勢いで立ち上がり、少年の細い腰を両脇からがっしりとつかむと、勢いそのまま、開かれた若い肉壁に向かって熱い肉棒を突き入れた。少年の足が床から浮いた。テーブルの中央の果物皿が傾き、転がったオレンジが向かいに座っていたニックの膝の上に落ちた。 「ア――ア、ア、アア――ッ!」 ディーンの甲高い悲鳴が危険なほど大きく聞こえた。リックスが合図し、ニックが素早くディーンの顔の下にナプキンを差し入れ、悲鳴が漏れないように上から頭を押さえつけた。 「ウッ、ぐぇっ、ぐぅ、ぐううッ」 イドリスはディーンの苦しそうな嗚咽も、ディーンを押さえるニックの手の甲に浮かんだ筋、痙攣するように床をひっかくつま先の動きも、すべて把握していたが、ディーンを犯すのをやめられなかった。やめたくなかった。できるなら、自分でディーンの頭を押さえつけ、彼の悲鳴をコントロールしたかった。 ディーンの嗚咽がすすり泣きに変化すると、ニックが手を放して顔を近づけ、何か言葉をかけ始めた。イドリスは彼らの会話を一番近いところで聞いているはずだが、肉を打つ音と脳を絞られているようなすさまじい快感で全く聞き取れなかった。顔を上げたニックがリックスに「無礼講ですよね?」と確認するのは聞こえた。リックスの返事は聞こえなかったが、その後のニックの行為からすると了承したのだろう。 ニックは普段の穏やかな態度を一変させてテーブルの上に残った皿やボトルを薙ぎ払い、よっと発破をかけてテーブルの上に上がってしまった。さすがに呆気にとられて、イドリスは動きをとめて彼が何をするつもりか見極めようとする。そして彼が足を広げて座り、自分の股座にディーンの顔を置くのを見て、ますます呆気にとられた。 「ニック!」 「だって声を押さえるのに窒息させちゃ可哀そうだよ」 ここでもディーンは抵抗する気がないようだった。後ろからかなり深くイドリスに貫かれているのに、ニックのペニスを出してやろうと、震える指でベルトに手を伸ばす――イドリスは思わず叫んでいた。「ベルトくらい自分で解け!」 「ごもっともです」 ニックは自分でくつろげた下着の中からペニスを取り出し、ディーンの口に入れてやった。イドリスがまた動き始めるとディーンもうめき声をあげるようになったが、ニックのペニスが口に入っているからそれほど大きな声にならなかった。 「うーん」 ニックは後ろに手をつき、リラックスした表情で首を回した。「さすがにこの状況で舌は回らないか。でも、これもいい。僕、寝てしまいそうですよ、気持ちが良くて」 「ディーン……ディーン……」 イドリスはフィニッシュに向かい、ディーンの手を取って腰を反らせてやろうかと思ったが、ニックのせいでそれが出来ないことに気が付いた。仕方がないので、逆にぴったりとディーンの背中にくっつき、深く彼の中に入れたまま振動を速めた。 絶頂に達していると気づかないほどに、オーガズムは自然に訪れ、驚くほど長く続いた。イドリスは頬ずりした背中はびっしょりと濡れていた。ディーンの汗だと思ったそれは、イドリスの口から垂れた涎だった。脳みそが溶けたかのような量には苦笑いするしかない。 「ああ、ああ、すごい。すごいよ、ディーン。ああ、君は完璧だ。素晴らしい」 イドリスはナプキンで彼の背中と自分の口を拭きながら、キスを落とした。 「ん……」 ペニスを含んだディーンが鳴く。 「顔が見たい。ニック、少しいいですか」 「もちろん、いい子だったね、ディーン」 ニックに支えられながら振り向いたディーンの顔は濡れていたが、それと自分の涎だらけの顔とを比べるのは、下水道の亀と白鳥の美しさを比較できないのと同じ、不可能なことだ。イドリスは感謝を込めてディーンの頬を撫でた。「良かったよ、ディーン」 「ありがとう、ございます……」 疲労のためか、舌ったらずな言い方が可愛らしい。キスをしようとして顔を近づけるとディーンは初めて抵抗した。あやうくショックを受けかけたが、すぐにイドリスは気づいた。ニックを咥えたままの口で他の男にキスすると養父に怒られるのだ。そこで彼は新しいナプキンを探したが、さっきニックがすべて床に放ってしまったので見つからなかった。 ディーンは熱っぽい顔でため息を吐くと、へなへなと力を抜いてテーブルの上に倒れてしまった。何事かと思ったが、ディーンはその場所のテーブルクロスに唇をこすりつけ、拭っている。イドリスの胸がじんと熱くなった。拭い終わったディーンがおもむろに養父を見つめる。リックスは何もいわなかった。億劫そうに起き上がるディーンをニックの腕が支え、イドリスのほうへ近づけてくれる。イドリスは、自分にキスするために用意された唇に吸い付いた。 「正直にいっていいかな?」 キンツル医師は握りしめた両手を胸の前に掲げ、感極まったように目を赤くしていた。「これほど感情に訴えかけてくるセックスは初めてだよ。まるで愛し合っているようだった。君た��二人に――ニックにも――祝福あれと願わずにはいられない」 「文句のつけようがない新人を連れてきてくれたな、ニック。彼は”これ”のルールをよくわかってる」 保安官はかなり前から立って、ニックの後ろ、ディーンの顔が良く見えるところに移動していた。「それにしても、ニック、君の献身にはいつも驚かされるが、それの始末は口でやらせるのかい。それとも……?」 「ルール上は、禁止されている――けど、今日は無礼講でしょう? リックス」 ニックが弱ったように笑いながらリックスに懇願すると、家主の男は仕方がないというように肩をすくめた。「校長先生、失礼ですが、既往歴など――我々に告白しておくべき病歴はありますか?」 鋭い目つきに、肝が冷えたが、それはこのような会に参加するには必要不可欠な質問だった。「ありません、全く。ニックに検査結果を知らせています。そうでなければ、彼が私を招待してくれるはずがない」 「その通りだ」 リックスはにっこりして両手を広げた。「ニック、私はかまいません」 「感謝します」 ニックはテーブルを降りてディーンを抱こうとしたが、まだイドリスとディーンは繋がっていた。 「白けるようなことは言いたくないんですけど、抜いてくれます、ウエイクリング先生?」 イドリスは何となく抜くタイミングがなくてそのままだったのが、恥ずかしくて、顔に血が上るのを感じた。すぐに抜こうとするのを、ディーンが「待って」といって止める。 「待って、抜くときはゆっくりお願いします。そうでないと、こぼれるから」 「あ、ああ。ああ、すまない」 イドリスは指でアナルを広げながら、いわれたようにゆっくりと抜いた。それでも、広がり切った肉穴からは、白いものが零れた。魅入られたように目が離せないでいると、花が蕾に戻るように、赤い肉がきゅっと中に締まるところまで見ることができた。 「今日は先生の歓迎会なんだから。それに、もうそこまで服を汚したらどうせ着替えないといけないでしょうしね。仰向けに横たわって下さい」 ニックはクリエイティブな仕事をこなしているようにテキパキと指示をして、わけのわからないイドリスの背中を押してテーブルの上に寝かせ、彼の上にディーンを置いた。しまうのを忘れていたペニスが、ディーンのペニスと合わさる。もう二回も達しているというのに、また火が灯るのを感じた。 ディーンは目を閉じ、イドリスの胸の上に手をついてニックを待っていた。イドリスの上にいるディーンのアナルをニックが貫いた。その時、ディーンのペニスがピクンと小さく反応したのがわかった。 ディーンも感じているのかもしれないというのは純粋な驚きで、好奇心と歓喜の気持ちが伴った。 「校長先生、ディーンのイク顔、見せてあげます。本当にラッキーだな、初日で見れるなんて」 ニックがいった。 「自信たっぷりだな、ディーンがイクの、珍しいのに」 アデリ保安官がいうと、キンツル医師が返事をした。「だけどニックが挿入すると高確率でイクのは確かですよね。多分前立腺を刺激するのにちょうどいい形をしてるんでしょう。べつにテクニックがすごいってわけじゃない。程よいサイズというのもポイントでしょうね」 「ディーン、どうなんだ? イクか?」 ディーンは養父の声には応えた。閉じていた目を開け、イドリスの胸に当てていた手を握りしめた。「は、い、おとうさん。んっ、まだ、わからないけど、でも――」 「イったら、今週末、サムを連れて遊園地に行ってもいい」 ディーンの大きな目の色が変わるのがイドリスにはわかった。 「手は? 手を使っちゃだめですか?」 リックスの答えはなかった。ディーンはゆるく腰を使って、自分とイドリスのペニスがうまくこすれる位置を探し出した。それがイドリスにはたまらなかった。信じがたいことに、彼は数時間のうちに、三度目の射精に向けて腰を動かし始めた。 「二人でそんなに頑張らなくても、僕にまかせて」 ニックがディーンの尻を叩く、小気味のよい音がした。二本のペニスの間に湿り気が増す。ニックがある角度で突き上げた瞬間、ディーンの口から「ひいん」という可哀そうな声がした。悲鳴ともうめき声とも違う、それが彼の純粋な喘ぎ声だった。 「ここか!」 ニックは金脈を掘り当てた鉱夫のように喜んだ。「一気にいくぞ、僕ももう持ちそうにない!」 「アアン!」 ディーンはまるで間違ったスイッチを押された人形みたいに、狂ったように喘ぎだした。「ああん、ああーん、ああ――ンン――あウー……ヒィーぃぃ……」 「これを聞けなくなるのは惜しいけど、また口を塞がないと、サムが起きるかしら」 キンツル医師がリックスに尋ねた。サムの名前が出たとたん、ディーンは涙をこぼしながら口を引き結んだ。噛み締めた唇の端に血が滲んでいるのが見え、イドリスは咄嗟に自分の指を差し込んだ。ディーンは驚いたように目を見開いた。「噛んでいい」とイドリスはいったがディーンは首を振った。そしてその指を、きつく、きつく吸い上げた。 「ンンう、ンウ、ンンウ」 ニックの動きはリズミカルかつ正確で、ディーンの押し殺した喘ぎ声もそれにつられて規則的だった。そのリズムが早くなり、喘ぎ声がブレスを失う。ディーンの熱くそそりたったペニスの先端が、ちょうどイドリスのカリに引っかかり、それがきっかけでイドリスは三度目の絶頂を迎えた。勢いは全くなく、腹の間にじんわりとした熱が広がっただけだった。ディーンのほうはその熱がきっかけになったようだった。それともニックがついにダイアモンドを掘り当てたのか。ディーンの射精の勢いは若いだけあってすごかった。イドリスの頭を飛び越え、オレンジの皿があった辺りまで飛んだ。もちろんイドリスの顔にもかかった。ディーン自身の顔にもかかったのかもしれないが、イドリスが彼にキスしたのですぐにどちらのものかわからなくなった。 「イクよ、ディーン!」 一拍遅れてニックもフィニッシュした。 イドリスと違ってニックはすぐに抜き、力尽きたようにそのまま床に寝転がった。 「あ……」 大人しくキスをさせていたディーンが顔を放した。イドリスがどうかしたのかと尋ねると、彼は顔を真っ赤にして尻を押さえ、ソロソロと慎重に彼の上から退き、後ずさるようにして部屋から出ていこうとした。 「ディーン! お客様に失礼だろう!」 リックスがいうと立ち止まったが、ディーンは今にも泣き出しそうな顔で――実際少し前までボロボロ泣いていたのだが、明らかに様子が違う――許しを請うた。 「おとうさん、ごめんなさい。だけど、おれ――おれ――」 ディーンは一瞬だけ、苦痛や困惑とは別の表情を浮かべた。イドリスはそれが怒りだったのかもしれないと、後になった思った。 「おれ、もれそうなんです、おとうさん……」 ああ、と理解するように頷いたのはキンツル医師だった。 「今日はご苦労だったね、ディーン。ゆっくりお休み」 保安官も手を上げて別れの挨拶をした。「体を大事にな」 ニックは横になったまま、「僕がいっぱい出したせいだね、ディーン。お大事に」といった。 「あ……」 イドリスも何か言いたかったが、ディーンは「それではみなさま、おやすみなさい」といって、逃げるように退室してしまった。 リックスが立ち上がり、解散を宣言した。医師と保安官の二人は歩いて帰っていった。ニックは泊っていくといって、玄関横の長椅子に毛布を用意してもらっていた(埃だらけの椅子で寝られる彼を本当に心の底から尊敬した)。イドリスはシャワーと着替えを借り、車を呼んでもらった。 改めて、今日招待してもらったことへの感謝を伝え、今後も必ずルールを守るので、参加を続けたいことを明言した。 「先生、今度、ディーンが学校で問題を起こしたら」 玄関まで見送ってくれたリックスは最後にひとつ忠告をくれた。「校長室のデスクの下でしゃぶらせるのはいいですよ。でも、髪の毛はつかまないでください。あの子は何でも受け入れてしまうから、こっちで線引きしてやらないといけないんです」 イドリスはすっと体の熱が下がるような思いだった。「はい、すみません。今後は絶対に、ディーンを傷つけてしまうようなことはしません」 「それが問題なんですよ。ディーンはあれが好きなんです、ああいう、乱暴に扱われるのがね。しかしそういうクセがつくと、価値が下がるもんでしょう」 リックスは派手な寝息を立てて眠るニックのほうをちらりと見た。「ニックはクセのある子を見極めるのが上手い」 「ええ、彼の熱意には驚かされます」 「私たちはみな、子どもを愛してる。大事に扱ってやりたいと思ってる。校長先生も、われわれと同じ思いでいる。そうですね」 「ええ、ええ。もちろんです」 「それでは、また来週。少し早めに来て、サムに数学を教えてやってください」 「ええ、喜んで」 イドリスは、今日を境に人生が鮮やかに色づくことを確信した。
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【黒バス】愛のある生活
2013/05/03発行オフ本web再録
【愛のある生活】
「真ちゃんさ、今週か来週、どっか空いてる日ある?」
空調の効いた部屋の中で、高尾は何のきっかけもなく、たった今、降って湧いたのだとでもいうような口調で緑間に声をかけた。部屋の外ではまだ夕方の火が残って、黒い道路とベランダをじりじりと焼いている。けれどそんな外のことなど、窓を閉じきった二人には関係の無い話であった。二人の厳正なる協議の結果決まった二十八度の人工的な空気の中で、緑間と高尾は古びた革張りのソファに腰掛けている。所々に煙草の焦げ跡が見えるこれは、宮地から受け継いだ歴史ある一品である。宮地もまた、大学の同級生から受け継いだと言っていたから、ヴィンテージと呼んで差し支えないほどの貫禄を持っていた。きっと二人の前に宮地はここに腰掛けて雑誌を読んでいたのだろうし、名前も知らない彼の同級生は野球観戦をしていたのだろうし、きっとその前の持ち主はこのソファの上で窮屈なセックスをしたに違いなかった。時間と情念が染み込んだずっしりとした色は、思いのほか部屋に馴染みやすい。高尾はその上であぐらをかいてテレビを見ていたし、緑間は足を組んで本を読んでいた。てんでバラバラの行動をしている二人は、目線も合わせずに会話している。
高尾の唐突な質問に、緑間は雑誌から顔を上げずに答えた。並んで座るソファの向こうではテレビが騒がしい音を立てている。
「丸一日か」
「んー、できれば」
そこでほんの僅か、緑間は雑誌から視線を上げると宙を見つめた。蜃気楼を見定めようとするように細めた視線の先には何も無い。頭の中のカレンダーを彼はめくる。九月の始め。大学二年生の夏休み。高校生はもう二学期が始まっているだろうが、大学生はまだ半分近く夏休みが残っている。むしろ本番はこれからだろう。しかし、世の学生は講義が無ければバイトと遊行で予定を埋め尽くしているかもしれないが、こと緑間に限ってそれはなかった。伝手で紹介してもらった家庭教師のバイトは酷く割が良かった。一時間二千円で毎回ケーキやらしるこが出るのだよ、と高尾に伝えた時の表情を、緑間は未だに忘れていない。
あれは二人で夕飯の買い出しに出かけた時のことだ。季節は秋の終わりで、冷たくなった空気に秋物のセーターは少し風通しが良すぎた。俺久しぶりに真ちゃんに殺意抱いたわ、とはその時の高尾の言である。今日の夕飯はもやしでいいかな、俺今月ピンチなんだよね、真ちゃんはお金あるかもしれないけどね、とぶつぶつ呟く姿は、緑間でなくともあまり眺めていたいものではなかった。当の本人である彼は、お前は以前にも俺を殺そうと���たことがあったのかと問おうか考えて、どのような答えが返って来たとしてもあまり歓迎できる事態ではない、と結論づけた。喉元まで出かかっていたその言葉を飲み込んだ。その程度には彼も大人になっていた。代わりに、お前とセックスする時は大体死にそうになっているんだが、と伝えれば高尾は何も無い所でつまずいた。その後しばらく無言で、高尾は肉を買い物かごに無心に放り込んでいた。その日の夕飯は牛のすき焼きだった。とてもよく覚えている。
「……真ちゃん?」
「ああ、ぼんやりしていた」
「もー。それで、どう?」
完全に思考が逸れていた緑間は、もう一度、空中に浮かぶ見えないカレンダーに視線を移す。大学に入り、友人もできた。高校ほど顕著に周囲を拒むことは無い。講義の終わりの飲み会にだって顔を出すようになった。しかし、彼は大学の友人たちと毎日繁華街に繰り出すより、二人の家で静かに本を読むことを好んだ。カレンダーはまだ空いている。
「……木曜。来週でいいなら火曜」
「あー、今度の木曜は俺がバイト入ってんだよなー、来週の火曜は空いてる」
「それなら、そこでいいんじゃないか」
「うん」
再び本に意識を戻した緑間は、高尾の「それじゃー、そこ空けておいてね」という一言に軽く頷いた。
「それで、結局なんなのだよ」
「ああ」
目線を合わせないまま、ゆっくりと会話は続く。高尾の突然な誘いは初めてのことではない。最初は理由から何から全て尋ねていた緑間も、最近では中身も聞かずに許可を出すようになった。全ては『慣れ』の一言で片付けられるのかもしれない。そしてそれは、悪いものでもなかった。二人の間を流れる時間は酷く優しかった。きっと二人は昨日もこうしていたのだろうと思わせるような速度。明日もこうしているのだろうと思わせるような空気。テレビからは、バラエティ番組特有の揃えられた笑い声が響く。
「大掃除しようと思って」
「……大掃除?」
そこでようやく緑間は、読んでいた本から意識を外した。怪訝な顔で高尾の方を見れば、視線に気がついた高尾も、テレビから緑間へと視線をスライドさせる。隣同士に座る二人の距離は近い。
「そ。去年の夏はドタバタしててやれなかったけどさ。年末に大掃除やったじゃん? あれ、夏もやっとこーかなーと」
二人がルームシェアを始めたのは、大学入学とほぼ同時期だ。緑間は危なげなく第一志望の医学部に合格を果たし、高尾も、周囲から危ぶまれつつ有名私大の経営学部に合格した。あれだけバスケしかやっていなかった癖に、と周囲からやっかみ半分賞賛半分の拍手を受けつつ、めでたく二人で現役合格を果たしたのである。
難があるとすれば、それは双方共に大学が自宅から離れていることだった。一人暮らしには躊躇う。けれど自宅から通うには厳しい、そんなもどかしい距離。特に、遅くまで授業が入るであろう緑間にとって、通学に二時間かかるという現実は歓迎できたものではなかった。
「だったら、一緒に住んじゃおうよ」
そう言いだしたのは高尾だったろうか。緑間は「馬鹿なことを言うな、許される筈がないだろう」と言ったかもしれないし、「そうだな」と答えたかもしれない。
いいや、もしかしたら緑間が「一緒に住めばいいだろう」と言ったのかもしれなかった。高尾が「それは無理なんじゃないかな」と答えたのかもしれなかったし、「真ちゃんナイスアイデア!」と叫んだのかもしれなかった。今となっては二人とも覚えていないことである。それは世間一般から見れば大事なことだったのかもしれない。しかしこうして一緒に暮らすことに慣れてしまえば、大切な思い出は存外あっさり過去になっていくものだった。一度この件で二人言い争ったこともあるが、お互いに相手が言いだしたのだと主張して譲らなかった。「どっちが先にプロポーズしたか論争みたいだよな」と、後に高尾は苦笑いしたけれど、それに関してはお互い自分からだと譲らなかったのだから、不思議なものである。
どちらが言いだしたのかはともかく、まだ学費も親に出してもらっている身の上の二人、まさか当人だけで決定できるはずもなかった。恐る恐る親に話を出してみれば、二人が驚くほどスムーズに親同士は連絡を取り、一時間ほどの世間話と五分の要件で話はあっという間にまとまった。妹を抱え、あまり余計な出費をしたくない高尾家と、財政面はともかく、お世辞にも生活力があるとは言えない息子を一人暮らしさせるのが不安な緑間家は、あっさりと大学生二人の同居を許諾したのである。高校三年間、お互いの家に入り浸り続け、親にすれば今更だったのかもしれない。両親同士が、迷惑をかけると思いますがうちの子をよろしくお願いします、と言い合うのを聞いていた二人の表情は、それはそれは微妙なものだった。何故俺がこいつによろしくしなくちゃいけないのだよ、いや迷惑かけるのは恐らく真ちゃんっしょ、という視線が二人の間で交錯していた。
「……よろしくお願いします」
「……よろしくお願いします」
ダンボールに溢れかえった二人の新居で、正座しながら向かい合って挨拶をした初めての夜を、二人ともまだ覚えている。
一年目は慌ただしく過ぎた。正直な話、幾度か破局の危機を迎えたほどである。女の子と結婚する前に同棲しろってのはなるほど正しいと、高尾は一人、誰もいないトイレで頷いたものだった。ちなみにこの時は、トイレから出るときに便座の蓋を閉めるか閉めないかで二人が大喧嘩していた時であり、現在では蓋は必ず閉じきられている。だいたいそういったことに我慢がきかなくなるのは緑間の方で、彼の様々なジンクスに高校生活で大分慣れたと考えている高尾ですら、一緒に生活してその異常さを痛感することになったのであった。今までこれを全て実行していたのかと思えば頭が痛い。真ちゃんママとパパってさ、流石真ちゃんのお父さんとお母さんだよね。初めて緑間と喧嘩をして仲直りをした日の夜、高尾がぽろっと呟いた言葉は紛れなもなく本音である。とはいえど、緑間から言わせれば高尾の生活も酷いものであった。味噌壺に直接胡瓜を突っ込んで食べる、牛乳パックを開け口からそのまま飲む、CDの外と中身が一致していない、なんていったあれこれである。そういったこと一つ一つ、慣れない暮らしや生活習慣の違いを見つける度に二人は喧嘩をして、たまに食器が一枚割れたりした。しかし二年目ともなればお互いに慣れてくる。緑間が洗濯物を洗う曜日に敏感なことも、高尾が調味料のメーカーにこだわることも織り込み済みである。夕飯を食べるか食べないかの連絡だってスムーズになった。慣れは、決して悪いものではない。
高尾が言った大掃除とは、年末に二人で行ったものである。なるほど、確かに一年分の汚れはなかなか落ちるものではなかった。半年間隔でやってしまおうという意見は、緑間にとっても悪いものではない。
「場所は? 全部か?」
「全部! まあ普段だってちょいちょいやってるし、一日で終わるだろ」
天井払って、壁と床拭いて、窓磨いて、あと洗面所と風呂トイレに台所だろー。
指折り数える姿に、悪いものではないが、これは結構な重労働になるなと緑間は溜息をついた。背の高い緑間にとって、天井付近はあまり負担ではないが、その分床に近づくと途端に身動きが取れなくなる。自分の体が、邪魔なのである。せめてその日が晴れるように祈るしかない。雨の日に水拭きなどしたら間違いなくカビが発生して、本末転倒になるだろう。
二人の協議の結果決まった二八度の冷房。高尾が選んだ柔らかいらくだ色のローテーブル。二人が好きなつまみ。緑間は、細かい朝顔の透かし彫りが入った切子ガラスのコップに手を伸ばす。氷を入れたグラスと緑茶は、見た目からして涼やかだ。冷房の下、僅かに汗をかいている表面をなでて、彼はそのまま一息に飲み干した。頭の中のカレンダーに、大きく赤い文字で、大掃除と刻み付ける。
「ところで高尾、テレビは消していいのか」
「えっ!? あ、ダメダメ。宮地さんが推してるチーム歌うから。真ちゃんもしっかり見ろよ?」
「は?」
「え、だって十月に大坪さんと木村さんも一緒に飲みあんじゃん。絶対にカラオケ行って歌うから、合いの手とコール覚えなきゃだろ?」
「断わる! お前だけやればいいだろう!」
「真ちゃんも一緒にやるから面白いんだろ!」
ほらほら、これCM明けに歌うから!
逃げだそうとする緑間を押さえつけて高尾はテレビの音量を上げた。暴れだす体の向こうで、同じ顔をしたアイドルたちが笑顔を振りまく。半年前に出た新曲と同じようなメロディと同じようなキャッチーさで、彼女たちはテレビの向こうから愛を届けている。日本中の可愛い恋人たちのために。
二人、相手を黙らせるために仕掛けたキスに夢中になって、結局ろくに歌を聴くことはできなかったのだけれど。
***
よっしゃ、良い天気だ。
前日に二人で作ったてるてる坊主が効いたのかどうかは判らないけれど、檸檬色のカーテンをひけば高い青空が見えた。白いちぎれ雲が自信ありげに浮かんでいる。ホンの少し涼しくなった空気はまだ残暑模様。朝でも肌には汗が浮かぶ。午後からはきっと焼け付くような暑さが来るだろう。おり良く強い風が吹く。洗濯物がよく乾きそうだった。絶好の掃除びよりだと高尾は笑う。お前はそんなに掃除が好きなら、普段からもっと部屋を片付けろと緑間は溜息をつく。そう言う緑間が、いつもより十五分早起きしていることを高尾は知っている。
「じゃ、まずは上からな」
「壁か」
「んー、天井ざっとはたいてから壁かな」
汚れても良い格好ということで、二人とも服装はラフである。高尾は少しくたびれたTシャツに、これまた古びたジーンズ。緑間も洗いざらしのシャツとクロップドパンツだ。二人とも素足だが、ここでも去年の夏、スリッパ派と素足派による二日間の戦争があったことを知るのは、この二人だけである。ちなみにこれは開戦から二日目の夜、素足派による「だって夏のフローリング気持ちいいじゃん!」という叫びを否定しきれなかったスリッパ派の譲歩によって幕を閉じた。一週間に一度のクイックルワイパーを条件にして。それももう、一年前の話である。
ハタキと、堅く絞った雑巾を手渡され、緑間は黙々と天井の埃を落とし始めた。丁寧にやるような箇所でもないので、四角い部屋を丸く掃くような雑さで終える。そもそも、椅子に乗らなくとも天井に手が届く緑間にとっては簡単な作業である。洗剤やらスポンジやらを出して準備している高尾を尻目に壁にとりかかった。手渡された雑巾で、力をこめずに、壁紙の目に沿って拭いていく。ポートレイトや写真が貼られているのを丁寧に外してみれば、うっすらと壁に日焼けの跡が見えた。僅かに色の変わった境界線を、感慨深く緑間は撫でる。ついでとばかりに、飾ってあった額も拭いてしまう。それにしてもなんだか見慣れた雑巾だと思えば、それは高尾が寝間着代わりに使っていた白いTシャツだった。それがざっくばらんに切り刻まれ、雑巾として再利用されていることを見て取って、緑間はまたひとつ溜息をついた。いつの間にこんな主婦臭い技を身につけていたのか。
そもそも壁を拭くことすら緑間は知らなかった。しかし考えてみれば壁も汚れるものである。年末に帰省した際に母に聞いてみれば、毎年拭いていたとのことで、それまで母の仕事に全く気がついていなかった緑間は少し自らを恥じた。言われれば手伝ったのにと暗に言えば、あなたにはもっとやって欲しいことがあったから、と少し老いた母は笑った。高尾に、何故お前は知っているのだと聞けば、俺ん家は妹ちゃんも俺も総出で掃除させられたから、とあっけらかんとした答えが返ってきて、彼は黙り込むしかなかった。
その高尾は先に窓を始めている。バスケをやめた今となっても、自分にあまり水回りの仕事をさせようとしない高尾のことを緑間は知っている。基本的に自分の物は自分で片付けることが二人の間のルールだが、食後の皿は緑間がやろうとしても高尾が全て洗っていた。高尾が手際よく洗っていく皿を、緑間は隣で黙々と、白い木綿の布巾で拭いていく。会話は、あったりなかったりである。さすがに大掃除となって、濡れた雑巾に触れないわけにも行かないが、洗剤を使うような場所は頑なに自分でやろうとする高尾を、今更とがめはしなかった。その小さなこだわりは、きっとこれからも続いていくのだろうと緑間は知っていた。いつか高尾が緑間の左手を大事にしなくなった時、二人の関係は終わるのかもしれないなとぼんやり緑間は思っている。それが、本当の終わりなのか、それとも次の場所へと進むのか、そこのところはまだわかっていないし、わからなくて良いと思っている。結局、今のこの場所が居心地良いと思っているのは、双方同じなのである。だからこそ、こうやって二人で手入れをするのだから。
二人暮らしの狭い家とはいえど、壁一面となればそれなりに重労働である。意識をそっと白い壁に移して、彼は壁紙をなぞる。固く固く絞られた雑巾が、ホンの少し黒ずんでいく。その分また壁は白くなる。世の中はうまい具合にできている、と緑間は思う。
緑間が壁を拭き終わり、高尾の様子を窺えば、彼は丁度全ての窓を磨き上げたところだったらしく、休憩にしようか、と笑った。曇り一つ無く、洗剤の跡すら見えない窓ガラスと積み上げられた雑巾に、こいつも大概完璧主義である、と緑間は思う。太陽は既に頂点、二人が掃除を開始してから二時間が経過、時計は十二を僅かに過ぎていた。朝の想像通り、日差しはますます勢いに乗って世界をじりじりと溶かす。無論掃除している最中にクーラーはつけていないので、二人とも背中には汗の痕が滲んでいた。風呂入る? という高尾の一言に緑間は首を振る。どうせこれからもっと熱くなるに決まっているし、目的はまだ半分しか達成されていなかった。
その様子に高尾は軽く頷いて、額に滲んだ汗を首から下げたタオルで拭う。窓の裏側を掃除するために外に出ていた高尾の方が体感はより暑かったのだろう、顔は少し赤くなっていた。素麺で良いよね、という言葉に緑間は頷いて、そのままぐるりと首を回した。パキ、と空気が割れるような音がする。あー、お湯沸かすのあっつい! という高尾の叫びを無視して、緑間はテーブルの準備を進めていた。どうせ手伝うこともないので、黙々と皿を並べる。濃緑の箸は緑間、橙は高尾。今��良いだろう、と緑間はクーラーのスイッチも入れた。お世辞にも新しいとは言えないそれは、大きく低い振動音と共にゆっくりゆっくり動き出す。ゴオ、オという音をたてて冷たい空気を排出するそれが効き始めるまでに、もう少し時間がかかるだろう。それまではこの部屋はただのサウナだった。気分だけでも涼しく、とグラスに氷を入れて緑茶を注げば、案外喉が渇いていたことに気がつく。
「きゅうり入れるー?」
「入れる」
台所の方から飛んできた声に、緑間は髪間入れずに答えた。夏の胡瓜は、夕立をナイフで切ったような食感がするから好きだと彼は思う。
「卵は?」
「細切り塩で」
「なんだよこまけえな」
文句を言いながらも、高尾は注文通りに手際よく仕上げていく。サラダ油がたっぷりと敷かれたフライパンの隣で、ボウルめがけて白い卵の殻がパカリと割れる。出てきた黄身をダンスでもするようなこ気味良さでかき混ぜて塩をふれば、その頃にはフライパンはすっかり温まって湯気を立てている。卵を流し込めば薄く広がって、柔らかいそれを一気にまな板の上に放り投げた。食べ物で遊ぶなと緑間が苦言を呈したことは数知れないのだが、最後に放り投げる癖は未だに抜けないままである。余熱で固まるそれを手際よく畳んで細く切りながら、なんか残り物あったっけ、と高尾は呟いた。緑間が冷蔵庫を開ければ昨晩の煮物が出てきたので、彼はそれを小鉢に盛る。タッパーから直接食べてしまえばいいだろうと言う高尾と、残飯を食べているようだと許せなかった緑間の、そんな戦争の結果はここにもある。
「おい、高尾、吹きこぼれそうだぞ」
「うっわ。やべ、あぶな」
透明な素麺は、川のようだから好きだと、昔高尾は笑って言った。
「いただきます」
「いただきます」
両手をあわせて自分の器にきゅうりと卵を投入しながら緑間は尋ねる。
「このあとは」
同じくきゅうりと卵を投入して、ごっそりと素麺を器に入れながら高尾は首を傾げた。麺つゆが器から溢れそうになるぎりぎりのところまで素麺が入り込んでいて、よくもまあそんな絶妙な量を取るものだと、緑間はいっそ驚嘆の目でそれを見つめる。彼の器には二口ほどで食べきってしまえる程度しか麺は入っていない。
「んーあとは床と水回りだな。台所洗面所風呂トイレ。あとリビング片づける」
「なるほど」
ネギは無いのか、という緑間の台詞に切らしてる、と口の中に詰め込みながら高尾は答えた。キムチならあるけど、という言葉に首を振る。生姜はするの面倒くさいから却下ね、と尋ねる前に答えられて緑間はいささか不機嫌そうに麺をすすった。
「台所は絶対に俺だとして、他の水回り、いやでも真ちゃんにできると思えねえ」
「失礼な」
「いや、そーは言うけど、排水口に詰まった髪の毛ヘドロって結構えぐいぞ」
「う」
緑間がそこの掃除を担当したことは今までに一度も無い。水回りだからである。しかし初めてパイプがつまりかけて、すわ水道トラブル五千円か、と慌てて掃除をした時の憔悴を高尾は覚えている。髪の毛だって人体の一部だということを何故忘れていたのだろう。生物の一部が、ずっと水にさらされていればどうなるかは明白だった。すなわち、腐る。その時の異臭とあまりにもグロテスクな見た目を思い出して、高尾は慌てて首を振った。間違っても食事中に思い出したい光景ではない。あれ以来、髪の毛はなるべく排水口に流さない、紙にくるんでゴミ箱に! と叫び続けていたが、そうはいっても限界はある。こまめに掃除をするようにはしていても、夏場の腐食の早さを冷蔵庫を預かる高尾は知っていた。そして、どう考えても潔癖症のきらいがある緑間に向いている仕事では無いということも。
「水回り全般俺がやるから、真ちゃん床お願いね」
「……分かった」
高尾の悲壮感の漂う決意を受け取ったのか緑間は神妙に頷いた。別に死地に赴くわけでもなし、高尾は笑って緑間の状況を告げる。
「しゃがむのきついだろうけどファイト」
身長百九十五にとっては、床に這うのも重労働である。広くないとは言えど、終わる頃には腰が悲鳴を上げることは歴然としていた。
「……代わらないか」
「ヘドロ」
「……」
緑間は黙って素麺をすすった。やっぱネギ欲しいな、と高尾は笑った。
「高尾」
磨き上げられた窓の向こうから夕日が差し込むのを見て、緑間は風呂場にいる高尾に向かって少し大きめの声をかけた。実際、やってしまえば床は案外すぐに終わり、高尾が悪戦苦闘している様子を見てとった緑間は一人だけ休憩するのもなんとなく心地悪く、結果リビング全体の掃除を始めていた。小物に少し溜まった埃だとか、装飾棚の隙間まで、一度始めてしまえば徹底的にやり切るまで集中する緑間は、目を刺す橙の光にふと気がつくまで、黙々と掃除を続けていたのである。
「ん、真ちゃん終わった? 俺も終わりかな~」
風呂場でシャツとズボンの裾を捲りながらカビと戦っていた高尾は、最後に洗剤をシャワーで流して伸びをする。腰からも肩からも不穏な音を感じて高尾は苦笑した。風呂に充満する洗剤の臭いに、少し頭が痛くなっている。換気扇を回して浴室から足取り軽く飛び出した。
「お、スゲー。リビング超きれいになってる」
「当然だろう」
床だけをやっている割には時間がかかっているなと薄々感づいていた高尾だったが、新居さながらに整えられたリビングと少し誇らしげな緑間の表情に、全てを悟って彼は笑った。完璧主義はどっちだよ、と告げれば軽く肩をすくめられる。
「やっぱ整理整頓は得意だよな真ちゃん。あんだけのラッキーアイテム把握してただけあるわ」
「だが、これが」
入らないのだよ。そう続けた緑間の視線の先には積み上げられた本と雑誌。幾枚かのCD。二人ともに気になっていたから、自分の部屋には持ち帰らずに置き放していた書籍の類である。月バスの五月号を買ったのは高尾だし、六月号を買ったのは緑間だ。緑間が気まぐれに買ったミステリの新刊を、高尾が気に入ってシリーズで揃えてしまった事もあった。高尾がおすすめだと無理矢理押し付けたバンドの新作のアルバムを何故か緑間が買ってきた。そういった、二人の間で分かちがたかったあれそれがリビングテーブルの上に広げられている。どちらが買ってきたのかももう覚えていない物もちらほらと見受けられた。これも一種の慣れなのかもしれないと、高尾は思う。放っておくには量が多すぎたし、どちらかの部屋に持ち込むにはあまりにも二人の間で共有されすぎていた。
「んー」
彼がちらりと壁に目をやれば時刻は四時。陽は頂点を過ぎてなお盛んである。むしろ暑さはこれからが本番だとでも言いたげな表情で、町は赤く燃え盛っていた。朝から掃除をしていたことを思えば結構な時間だが、一日を締めくくるにはいささか早い。まだ太陽は今日を終わらせるつもりがなさそうである。そう結論づけて、高尾は一仕事終えたと言いたげな緑間を振り返る。その表情を見て緑間は顔を引きつらせた。ろくなものではない。
「買いに行こっか」
「は?」
「本棚」
ホームセンター近えし。
その高尾の言葉に自らの予想が完璧に当たったことを理解して、緑間は一つ大きな溜息をついた。
そう、二人がこの街に居を構えることに決めた、大きな理由の一つがそれだった。本屋やコンビニを併設した大型のホームセンターが徒歩圏内なのである。トイレットペーパーから墓石まで揃うと謳うその店は流石の品揃えで、信じられないことに深夜二時まで営業している。男二人暮らし、計画的な買い物が得意ではない以上、いざという時に頼れる存在は大きかった。それは例えば、夜中にいきなり花火をしたくなった時なんかに。
「…支度をする」
置くのここでいい? と窓枠の下を指した高尾は、どこに持っていたのかいつ取り出したのか、メジャーを使って寸法を測り始めている。奥行ありすぎると通る時にぶつかっちゃうかな、でもあったほうが上に物とか置けて便利かな、そう目を輝かせる高尾はもう緑間のことを見ていない。これはもう止まらないな、と、この一年で学習した緑間は着替えるため、一人先に部屋に戻ろうとした。
「え、いーじゃんもうこのままで」
「外にでる格好ではないのだよ!」
見ていなかったはずの高尾に腕を掴まれて緑間は怒鳴る。その視野の広さを無駄に活用するくらいなら、素麺の噴きこぼれを防げと緑間は言いたい。そんな怒気に気がついているのかいないのか、メジャーをポケットにしまいながら高尾は笑う。
「今日組立までやるとしたらまた汚れるから着替え直しだし、めんどいだろ」
「そういう問題じゃ」
繰り返すが、今日は掃除で汚れると思っていたから、緑間も手持ちの服の中で最も汚れていいものを着ているのである。それに汗もかいている。近所のコンビニ行くのにラルフローレン着る必要なんてないだろ、と高尾は笑うが、コンビニじゃあないしラフにも限度があるし、これはマナーの問題だと緑間は思う。大丈夫真ちゃん別にくさくねえって、との言葉に彼は本気で頭を叩いた。
「ほれ、はやく」
涙目の高尾に引きずられて、結局、そのままの格好で、鍵と財布だけをポケットに突っ込んで二人は出発した。外に出た途端に額に滲む汗に、緑間も降参の溜息をつく。仕方がない。ここまできたら、とっとと買い物を済ませて綺麗になった家に帰ろう。足下のサンダルは安っぽい音を立てて道を進んだ。
「ぜってえこっちの方がいいって」
「そんな下品な色がか? こちらの方が落ち着いていて良いだろう」
「そんなじじいっぽいのやだよ俺!」
とっとと買い物を済ませようという当初の思惑などすっかり忘れ、緑間は高尾と二人、本棚のコーナーでにらみ合っていた。ただでさえ目立つ二人組は完全に周囲の視線を集めている。案内している販売員も、最初は少し驚いたようだったが今は完全に笑いをこらえた顔で二人のやりとりを眺めていた。
「この人だってこっちのほうが今はやりだっつってたじゃん!」
「はやりの物は飽きるのも早いのだよ。こちらのほうが容量も大きく沢山入るとあの方も説明していただろう」
「いいや、いっぱい入ったって好きじゃなかったらしょうがないね。見るだけで嫌になるようなものに物を入れたいなんて思わないじゃん」
「ふん、入りきらなければ元も子もないだろう。それに」
「それに?」
「大きいほうが良いに決まっているのだよ」
「真ちゃんここでもそのよく判らない大きいもの志向持ち出すのやめようぜ!」
話し合いは完全に平行線である。こちらの商品はいかがですか、と指し示されたものを見た二人は、数秒間それを見つめ、「財政的にちょっと」と同じタイミングで声を発した。
「待って真ちゃん、一回冷静になろう」
「良いだろう」
「まず容量だ」
ああでもないこうでもないと言い争えど結論が出ないので、ついに高尾は最終手段に出ることにした。申し訳なさそうに販売員に紙とペンは無いか尋ねる。快く差し出されたそれに、高尾は雑に「デザイン」「色」と書き込むと、他に何かある? と緑間に尋ねた。特になかったらしい緑間は首を振って黙って見ている。それに頷いて、高尾は二本の線を伸ばし、間に横線をランダムに引いていった。二人がどうしても戦争を終結させられなかった時、諦めの平和条約の作り方をこの一年間で彼らは生み出していた。
「真ちゃん、右と左どっち」
古式ゆかしいあみだくじだった。
一時間後、高尾の選んだ色と緑間の好みの型をしたブックシェルフは無事にレジを通り抜けた。販売員に頭を下げて、二人は板を小脇に抱え込む。あみだくじはぐしゃぐしゃに丸められて高尾のジーンズのポケットにつっこまれていた。後で洗濯をする時に出し忘れて洗濯物を汚すパターンなのだが、今の彼はそんなことには気がつかない。二人、何かをやり遂げたような顔で家路を行く。配送業者も組み立て業者も近くで待機していたが、これくらいならば自分達でやると丁重に断わった。自転車で来れば良かったかな、とぼやく高尾に、逆に載せられないだろう、と緑間も淡々と返す。背中に夕日を背負って、二人の前には長く長く影が伸びている。やべえ俺モデルみたいに脚長い、お前はもう脚長おじさんって感じ。そう言って高尾が笑いながら取ったポーズがあまりにも滑稽で緑間は笑う。どうやら笑わせようと思って取ったポーズでもなかったらしく、高尾は一瞬複雑そうな顔をしたが、どうやら調子に乗ったようで、その後も家にたどり着くまでことあるごとに奇妙なポーズで緑間を笑わせにかかった。調子に乗りすぎて板を落としそうになったところまでご愛嬌である。とはいえどなかなかの重労働で汗をしこたまかく羽目になったので、あの服装で正解だったのかもしれないと緑間は頭の片隅で思った。そんなこと、口に出しはしないけれど。
会議という名の喧嘩時間に反比例するように、案外あっさりと組み立て終わった白いそれは二人の腰よりも低く、窓枠の下にぴたりと収まって、雑多に積み上げられていた本も雑誌もCDも、全て収めて夏の光をはじいていた。これに合わせて変えようと、高尾が一緒に買った白いカーテンがはためいている。磨き上げられた窓、滑らかな床、白い壁は夕日で赤い。本棚もカーテンも、夕焼けと同じ色で呼吸をしている。暑さも和らいできた。午後七時。夕日は地平に差し掛かり、町陵を金で縁取っている。昼間、高尾がいつの間にか干していたシーツが、朱金の鼓動を飲み込んで乾く。一日が、終わろうとしている。
「よっしゃ、これで終わり!」
「雑巾はもう捨てて良いか」
「おう!」
あー、一仕事終わったし、ビール飲もう! 枝豆冷やして! あとはなんだ、漬け物と、キムチで鶏のささみ和えて、いや、手羽先の方が良いかな。夏はうまい!
次々と夜の献立を並べる高尾に、緑間は僅かに頬を緩めた。腹が減っているのはお互い様である。何せ今日は、とてもよく働いたので。はじめは全くと言っていいほど合わなかった食の好みも段々と近づいて、今ではお互いの好物を好きだと言えるようになっている。
ねえ真ちゃん、今度おっきいソファ買いに行こうよ。今のも良いけどさ、もっとスプリング効いたヤツ。並んでテレビ見てさ、そんでそのまま…。
不真面目な頭を思い切りはたいて、歴史あるソファに緑間は腰をおろした。高尾が座れないように、真ん中に。空中にある明日のカレンダーの予定を見つめて、彼は午前中の用事に大きくバツをつけた。文句を言う高尾の口を塞ぐ。洗いたてのシーツで惰眠をむさぼるのも悪くないだろうと思って。
開け放した窓から夜風。彼らの城は今日も明るい。
Love is life.
【愛こそすべて!?】
まさか真ちゃんがあそこまであのソファに愛着を持っているとは思わなかった。その点は俺の見込みが甘かったとしか言えない。そりゃ、俺だってあれのことは気に入ってるさ。大分古びてるとはいえども、それがまた洒落てる感じ出してるし。座り心地だって悪くない。いや、悪くなかったんだ。でもさ、スプリング壊れちゃったんだから仕方ないじゃん。布を突き破って出てきたバネは鈍い黄金色をしていて、王様みたいな貫禄があってやけに格好良かった。それが真ちゃんとのセックスの最中じゃなければね。あの男三人が座ったらぎゅうぎゅうになる場所でどうやんのって話だけど、まあ窮屈には窮屈なりの楽しみ方があるってことでここはひとつ。
さて、俺たちはしばらく顔を見合わせたあと、まあお互いのケツにそれが刺さらなくて良かったじゃないかっていう結論に達した。その後ベッドに移動してどんくらい何をどうやったかっていうのは、俺だけの秘密にさせてくれ。
んで、後日修理してもらおうと、見積の業者さんを呼んだ俺たちは、提示された金額に頭を抱える羽目になった。流石王様。流石ヴィンテージ。俺たちは知らなかったが、このソファに使用されていた革は本革の相当質の良いものだったらしく、 これを貼り直すとなると普通に新品を買ったほうが良いというような、そんな値段になってしまうのである。古い物ほど、整備には金がかかるってことらしい。人間もそうかもね。
「あっちゃー、これはしょうがねえな……買いなおすか」
「……」
「やっぱ無いと不便だもんな。真ちゃんいつ空いてる? 別に丸一日じゃなくてもいいけど。買いに行こう。粗大ゴミって確かシールとか貼って業者さん呼ばなきゃいけないんだっけ……」
「…………」
「真ちゃん?」
「捨てないのだよ」
「は?」
「捨てない」
パードゥン? って感じだった。っていうかパードゥン? って言っちゃった。そしたら、捨てないのだよ、ってもっかい強く言われて、マジか、ってなった。その時は、俺は真ちゃんの、いつもの、まあかわいい我が儘だと思ってたんだけど、思ってたから、割と軽い調子で説得を始めちゃったんだけど、どうやらそれがより気に食わなかったらしく、結局その日の夕飯は無言でお互いにカップラーメンをすすった。そりゃ、俺だって愛着がないとは言わないけど、流石にあの値段は学生には無理だ。そんなの真ちゃんだってわかってるはずである。なんでそんなにこだわんの? って聞いたら、視線をそらされながら「バネが飛び出たソファがラッキーアイテムになるかもしれないだろう」って言われた。もしもそんなことになったらいよいよおは朝は専属の占い師を変えるべきだと思う。
とりあえず翌日、前の持ち主である宮地さんに電話してみた。もらったんですけど壊れちゃいましたすんませんっつったら、お前らにやったモンだから別に構わねえよ、とだるそうに返された。そもそもあれ古かったしな。しかし何して壊れたんだ? そんな風に聞かれて、いや、ちょっとはしゃぎすぎて、としか返せなかった俺は多分悪くない。
まあそんな感じで、俺は捨てて新しいのを買いたいんだけども、真ちゃんは全然そんなつもりがないらしく、バネはいつまでも飛び出したままだった。最初は王様のように見えたそいつもずっと見てると腹立たしくなってくる。案外間抜けな感じじゃないか。何年の歴史があるんだか知らないが、お前の時代はもう終わったんだ。
っていうか普通に危ない。怪我をしたらいけないからと説得したら、真ちゃんはしばらく考えたあげく、部屋からぬいぐるみを一つ持ってきてぶっさそうとしたので慌てて止めた。なんで目の前でいきなりスプラッタを見なくちゃいけないんだ。お前の男らしさはそんなところで発揮されるべきじゃないだろう。っていうか、そもそもお前はそういう物を大事にする奴だと思ってたんだけど。一通り止めた後、不審そうな顔で、「お前は何を言ってる。これはパペット人形だ」って、最初から手を通すために空いてる穴を見せられて思わず脱��。そんな訳であのソフアには蛙がど真ん中に堂々と立っている。バネは見えなくなったが、今度はこいつがウザイ。心底腹が立つ。っていうかこの蛙の居場所のためだけに、俺たちの生活スペースが侵食されてるんですけど! 真ちゃん!
「これは」
俺とお前が、初めて、一緒に選んだものだろう。
そうですね。
「は? それで結局お前らそれどうしたわけ?」
「いや、やっぱ普通に不便だし無理なんで、新しいの買いました」
「そりゃそうだよな」
「んで、あのソファは真ちゃんの部屋に運び込まれて、今大量のラッキーアイテムのぬいぐるみが置かれています」
「あっそ」
久しぶりに宮地さんと差しで飲んでいる時に、ふとその話題になった。いや、俺が、ソファに座ってこの前真ちゃんとテレビ見てたら、って言ったんだっけ。結構酔いが回ってるらしい。覚えてない。
「つか、お前らが一緒に選んだってなに。あれ、俺がゆずったやつだけど」
「いや、実は真ちゃん、あれ宮地さんの部屋にある時から気に入ってたみたいで、俺も結構欲しかったんで、宮地さん家に行った時にそれとなくねだろうって事前に打ち合わせしてて……あたっ」
笑顔の宮地さんに叩かれたが、まあこれは仕方がない。引越し祝いに下さいとねだったら案外あっさりくれたんだし、そんなに怒らないでくださいよ。愛する後輩の、かわいいおねだりじゃないですか。やっぱり世界は愛が回してるんですよ。あのソファは、俺と真ちゃんと、あと多分宮地さんとか、宮地さんの前に使ってた人とか、それより前に使った人とか、その前の人とか、その前の前の人とか、作った人とかの愛がこもってるんですよ。だからやっぱり、捨てれなかったんですよ。そういうことなんですよ。決して、真ちゃんの我が儘に付き合った訳じゃないんです。
「嘘つけ」
そうっすね。嘘ですでも嘘じゃないんですよ。だってこれも俺の愛の形で、あれも真ちゃんの愛の形。世界は愛でできてるんです。愛こそ全て! 飲みましょう!
Love is life, Love is all.
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ナポレオンのロシアからの撤退を彷彿する 2012年のグレート・キャラバンの旅 (2020年夏実施予定)

もし、アメリカの西部開拓はフロンティア精神の表れならば、シルクロードの精神は、人間自身の果てしない野望への冒険ではないだろうか。それこそが今の日本に一番必要とされる精神かもしれない。
シルクロード、古来、主に三つのルートがあった。天山山脈北に広がるのが草原の道。この草原の道は今から4千年も前、一番古くから交易路として栄えていた。その理由も馬にあったのだ。馬は人間の移動、交易範囲を広めただけでなく、人間の遠い、知らない世界を知りたいという冒険心のようなものを引き出したのだ。
古代の冒険者たちの道をもう一度、馬で辿る。これこそ、この「グレートキャラバン」の趣旨なのだ。


■第一幕 騎馬遊牧民の歴史の舞台
トルファンから巴仑台、和静を通り抜け、車に揺られて10時間、天山の真中に広がるバインブルク大草原へ辿りついた。ここは、遠古時代では騎馬民族の匈奴や烏孫氏が駆けめぐった。そして今から1500年前、中国の唐王朝と張り合った突厥帝国がここに都を置いた。遊牧民族は建造物を作らなかった。今では草原を吹き過ぎる風だけはここでかつて起きた歴史を語ってくれるのだ。



今ではここに住み着いているのは、四百年前、ロシアのキップチャック草原から帰来したモンゴル部落だ。13世紀、チンギス?ハンの大遠征と伴い、ヨーロッパでキップチャックハン国がチンギス?ハンの子孫たちによって作られていた。しかし15世紀にモスクワ公国に滅ぼされ、17世紀にそこに残ったモンゴル部族がロシアに支配されていた。エイカリナ一世の頃、ロシアとオースマントルコの間頻繁に戦争が行われ、そこのモンゴル部族が過酷な兵役に強いられていた。ここままではこの部族が消滅してしまうという危機感から、部族のリーダーオバシハンは部族を率いて、モンゴル高原への帰還を目指した。しかし、ロシア側は戦闘力として活躍してほしいという思いから帰らせたくなかった。だから、ここのモンゴル部族は寄り道しながら、ロシアと戦いながら、2万キロを渡り、最終的にイリ河を渡り、中国(※)への帰還を果たした。(当時中国?モンゴルを統治しているのは清王朝。清は自ら中国と呼ぶため、ここは“中国への帰還”の言葉を使った)当時の清の皇帝はその熱い故郷への思いを讃え、世界にも稀なほど豊な草原、バインブルク大草原を与えた。20万人の部族は帰って来た時、残りわずか6万人だった。今でも6万人のモンゴル人がここで暮らしている。この民族大移動は、世界史の中では、最後の民族大移動とも言われている。
今ではここのモンゴル族の風習の中に、チンギス?ハン時代の古い風習が残されつつ、顔付きなどでは純粋なモンゴル的な顔もいれば、ヨーロッパ的な感じの顔付も多いことは、このような歴史から見れば、解明できるかもしれない。
■第二幕 匈奴のお墓



出発して間もなく一面平坦な草原に着いた。ここで競馬とモンゴル相撲を行うことにした。競馬を行った場所は、古代の匈奴のお墓だった場所だ。今はわずかに高い丘の形しか残っていない。地下では発掘されていない。中国政府が発掘を禁止しているためだ。他に既にたくさんのお墓を発掘しているので、残りのものは後世に残すため、地下に眠らせたいためだと考えられる。
丘の四方では非常に平らになっていて、この自然な円形を利用して、地元の遊牧民では毎年ここでナーダム大会を行い、競馬はまさにこのお墓を沿って行っている。
遊牧民の人たちはいつもここにいるので、匈奴のお墓にもおそらく無頓着になっていただろうが、僕にはそれがいつも特別な意味を持つように思え、畏怖な気持ちに包まれてしまう???
実は相撲の間に、非常に重大なお知らせがガイドの陳さんから知らされた。反日気運の高まりで、バインブルク政府並びに公安局が日本人退去の指令が出された(政府主導の反日という意味ではなく、各地方政府は自分の管轄地域で揉め事が起きてほしくないための保守的なやり方だ。)最初それを聞いた時に、所詮旅行会社の『自作劇』で、余分に苦労料をもらいたいだけではないか半信半疑だった。だから、その後の競馬に自分が参加したのもその嫌な気持ちを拭払したかった。しかし、政府から電話の調べがあり、最後、北京のホテルから退去勧告があった情報が日本の事務所から聞かされて、ちょっとしたことではないと本気で心配し始めた。
しかし、旅が始まったばかりだし、何としてもここで終わるわけにはいかない。日本ではかつてテレビに放送されたアドベンチャー企画だし、以前中国観光局が後援になっていたなど話し、そして裏の約束も含め、政府?公安局との交渉を重ね、結果的に、現地公安局が安全保障のため同行するという条件付きでの滞在となりました。(実際のところ公安局も本気で心配していないので、奔流の団体から何らかの献上金がほしいだけで、一度現れて後は実質同行していない)
だから、結局、次の日、彼らの到来を待たなくてはいけないため、白鳥の湖へ行って今日の宿泊地に戻ることになった。実は次の朝までに僕が宿営地が移動しないことに完全に納得していないが、夜は非常に冷えたので、次の朝また悪天候だったため、無理にしていたら、政府を怒らせるだけでなく、テントを濡れている地面に立ててしまうと、参加者も夜の寒さにやられる。これらを考え、次の日の朝、参加者を集合し、事情を話し、この日の宿営地に留まることにした。
■第三幕 白鳥の湖





朝、曇りの中、西へと出発した。しばらく進むと、滑らかな丘を登り始め、一面に見慣れぬ濃密の草と赤い花が点々と咲いている。馬から降りて写真を撮っている間、なぜか先頭が止まっているように見えた。急いて先頭に駆け着いた。石だらけの峠の前に、どのように進むか参加者の一部が戸惑い、止まったのだ。遊牧民スタッフはちっとも問題にしていないが、初めて馬に乗る人にしては、一つの試練になるに違いない。ろくに操れていない初心者たちにして、転ぶと身の危険があるとだれでも感じるはずだ。その時に僕がやるべきことが三つあった。①先頭の遊牧民にもっと緩やかな下りやすい道がないかと探す指示を出す。②参加者に安心させて、馬自身もこういう時に慎重に進路を考えていることを伝えることだ。③先頭に進んでいる人たちを止め、でないと後ろの馬が焦ってしまったら危険が高まるためだ。なんとか全員、峠を越えた。
すると、目の前に羊の群れと、そのもっと先に、山に囲まれた大きな湖が見えた。神秘でグレーに近い色で全く波紋もない湖。中に白い点が遠からも見える。白鳥が生息しているのだ。湖に向かって進む間にどこからかたくさんの羊と牛がやってきて、湖の畔が覆われていた。
湖の畔を沿って進むと、ヤックとも遭偶した。近くにいると、あまりにもの大きさに少し怖くも感じた。もちろん、襲ってこない。ここは、あらゆる動物がとても平和に穏やかに暮らしている。何人かの遊牧民以外、彼らはきっと人間のことを知らない。人間の怖さも当然知らないはずだ。遊牧民スタッフ一人が畔にある馬の群れを追いたてると、馬の群れが狂うように逃げ始めた。その一瞬、カメラに収めた。
余談だが、これらの馬は野生馬ではない。野生馬というのは、体つきはむしろ少しロバに似ていて、世界でも若何十頭しか存在しない。自然の中にいる馬の群れはどれも誰かが飼っているもので、「野生馬」に関違う理由は、馬の群れを飼うことはほとんど人間が何もタッチする必要がない。馬の群れは大抵オスが一頭だけで後は全部メス。繁殖まで馬の群れは自立で管理できるのだ。仔馬が生まれて三歳になったら群れから追い出される。群れを飼っている遊牧民はそれを他の遊牧民に売ればよい。だから馬の群れはほとんど野生のままに草原にいるのだ。
ここの景色は恐らく参加者には一生忘れないだろう。帰りに、山と山の谷間を通る場所があって、山の上に何人かの遊牧民の少年たちが多分面白がって、ずっと見下ろしている。西部映画のワン?シーンを思い浮かべた――山の上に敵が現れる。それでも進むしかない。双方とも何事もないように。そして次の一瞬、打ち合いが始まる???どうでもいい幻想がいっぱい思い浮かぶ。それだけ白鳥の湖の後、自分の気持ちが高揚しているのがわかる。
■第四幕 黒い草原



昨日夕焼けが見えたのに朝になってなぜか雪に変わった。これは高原の気候なのかもしれない。今日は南を目指した。雪のためあたりははっきり見えなくてとにかく道路を沿って進んだ記憶があった。少し寒かった。先の道路状況がはっきり読めないため、ペースを速足。吹雪の中で参加者が必死について来たようにも見えた。
しばらくして景色が少し変化があった。草原は凸凹に覆われている。馬を並足で慎重に進めるしかない。そうしたら、左側に黒い山脈が見えてきた。崖が一面のような山脈だった。草が深く濃く生えているため黒く見えた。違う種類の草だった。岩石も散らかっていた。崖の下に緩やかに広がる草原の斜面に、夥しい数の羊、ヤギ、ヤックがいた。雪の天気もあって、違うプラネットにいる錯覚さえした。そして、鷲もいた。堂々と、大きいな岩石にひとり立つ、黄い「鎧」に覆われて。地元でも「ゴールド鷲」と呼ばれている。
チンギス?ハンを描く小説「蒼き狼」の中に、黒い森という地域があったが、そこから連想して、ここは「黒い草原」と勝手に名付けた。
黒い草原を後にして、今度また緩やかな草原に入る。今度川と草原が交り、その先に吊り橋があった。一部の馬は吊り橋を怖がる恐れがあるため、全員降りて馬を引いて吊り橋を渡った。今日の宿泊地は吊り橋のすぐ向こうにあった。
雪のため休憩せず一気に宿営地に駆け着いたため、テントはまだできていない。そこに一つとても小さな店があった。チョーコレットを買って皆を喜ばせようと思って店に入ったが、チョーコレットがなかったので、おやつを買って配った。その後、腰の痛みが顕著になってきたため、とにかく馬を降りてからはスタッフに任せればいいから、一人で店に入って休んだ。腰は去年のグレート?キャラバンの最後の最後に、冷えと疲れでヘルニアになり、今年の7月中旬、出発直前に激しい運動をしている時に再発してしまった。馬に乗る時はなんとか腰に負担の欠けない乗り方はできるが、悪天候にはどうしようもない。雪や雨の日では、腰の痛みが増してくるのだ。で���、良く考えたら、ヘルニア直後で、ここまで二か月間連続で、ここまで過酷な状況の中で馬乗れる人はそうそういないだろう。いつか日本の競馬買の連中に��慢しようと思うようになり、自分一人で秘かに笑った。
到着3時間くらい経っただろうが、外は晴れてきた。周りは絶景だった。広がる草原、ゆったりと流れる川、遠くに雲の中の白い山々???参加者たちは外に出ていっぱい遊んだ。
■第五幕 開都河の畔




今日は悪天候と予測されるため、宿営地を移動せず、替りに景色が素晴らしいと言われる北の方に向かう。しかし出発して間もなく天候が崩れるどころか、少しずつ快晴となった。もし、二日目の景色がアイルランドっぽいとすれば、三日目はカナダのイメージ、そして今はアメリカ西部に彷彿できる。しかし2時間して少しずつ草が高くなり、緑も眩しくなってくる。草原はこの季節ではかなり黄色になっていたが、ここだけはなぜか緑に見える。草は更に高くなる。草とも木ともいえないくらいの高さになってくる。先の道はどんどん細く見えた。通れるかの心配もあるし、あまりにも美しかったから、そこでお昼休憩にした。
河は翠色だった。参加者たちは河の畔で休んだ。馬たちは草の深いところに入った。すべてのんびりしていた。人間の声以外、自然は茂っていて、しかし音が立たない。私はこの間、大好きの白い馬と下見に出た。この先の道は一般の参加者にしてはきっと厳しいと分かったから、午後は路案内人を雇い、違う方法へ向かうことにした。
休憩の間に、白い馬と寄り添って日記を書き始めた。「この河はタリム盆地、そしてかつての楼蘭王国に流れる河。今僕たちはその上流から下流に向かって。毎日手付かない大自然を旅し、地球のダイナミックな景色と出会い、驚きと感動が絶えない。昨日はヤクと鷲と出会った。一昨日は白鳥たちの地に踏み入れた。雁の群れが宿営地の空を通り過ぎ、雪の山が当たりに時間の流れをも止めている。何千年も昔、古の人々と、今私たちは同じ世界を生きている、、、」
■第六幕 天空の草原へ



午後、現地の遊牧民少年の案内で進んだ。知らず内になぜか馬で山を登り始めた。60度ほどの急斜面だ。参加者たちは必死に鞍に絡みついているが、案内人の少年は何事もないように悠々と峰の上で馬の上で眺めている。一体どこを案内したいのか。馬と一体になっての登山運動が終わると、現れたのが平坦な台地、天空の草原なのだ。四方の草原を見下ろせ、遠くの山脈の聳えている雪の山頂を平行に眺めながら馬を進める。夢の中のようだ。
途中、案内人の彼も迷ったように見えた。登るのがいいが、どこから降りるかは見失ったようだ。
■第七幕 雪原の行進




朝6時頃、外では騒ぎ越えが聞こえた。大地は大雪に覆われていた。20センチほどもあり、テントの一角は雪の重さで壊れた。参加者は突然の大雪に楽しんでいるが、こちらでは様々な決断に強いられていた。①雪の中で危険を冒しても進むべきかどうか。②クチャまでの路が封鎖された場合どのようにウルムチに向かうか。③どこで迎えに来る車と合流するか、そしてどうやって。
雨でも、車が滑り、ランドオフの車さえ嵌る可能性がある。まして大型バスでは草原の道はとても無理だ。それは昨日の朝、身をもって体験していた。泥の中で、一時間ほど泥と横滑りと戦っていた。予定通り先に行く場合、急な斜面があったりするらしく、雪では非常に危険だと言われる。
決断のために、やるべきことが二つあった。一つ私たち今いる場所の天気予報だ。ここは高原の中なので、ラジオの天気予報だけでは信用できない。地元の気象局にも電話することにした。もう一つは遊牧民スタッフを集め、危険の度合いを詳細に聞いた。結果的にこの日から連日の降雪らしく、先の路では危険すぎで、更に身の危険をたとえ何とか回避できるとしても、国道に辿りつくはずもなく、そしてバスと合流できなくなってくる。いざという時にも、ランドオフの車がついてこられない。そして更に最悪の場合、クチャまで完全に封鎖されたら、この先ではウルムチにさえ行けなくなる。以上を鑑じて、元の道を辿ることにした。いざの際にバスが迎えに来られるし、クチャまで封鎖されても、来た道で天山を横切り、和静県に向かう道が残る。
雪の中の大撤退が始まった。『戦争と平和』という映画の中のナポレオンがロシアから撤退するシーンと彷彿するほどだ。馬の旅はやはりロマンが多い。たとえ撤退でも。
雪の中の注意点を伝えた。足跡を沿っていくとか、雪の中でどう馬を動かすとか、足が鐙から外れやすいとか。でも、自分は結構雪の中を駆けていた。一つはもともと止めづらい馬だし、もう一つなぜかうれしくなった。夏なのに、雪の行進は楽しい。偶に一番先頭にいると、真っ白の一面、他に何もない。冒険者の気持ちに燃えた。


5、6時間後、全員無事に予定している場所に着いた。参加者の多くはもっと乗りたかったように見えた。バスを待っている間に、風雪の中に最後の草原の食事を食べた。遊牧民と別れを惜しんだ。彼らはまたこの寒さの中に家まで長い行程��あるはずだ。
帰りに、僕は食事を運ぶ車に乗った。運転手の掛けている音楽が好きだからそれに乗った。細い山道で曲るところでもまったくスピードを落とさない。スリルを楽しんでいるように見えた。なんと、この二人の運転手は、毎日100キロ先の街から暖かい朝食、昼食、夕食を届けるためこの道を三往復している人だから、この道を知り尽くしているはずだ。
■第八幕 クチャへ
山路のため、降雪すると、バスでは通れなくなる。やむなく8代のタクシーを雇い、合計11台の車の隊列でクチャへ向かった。車の中では景色を楽しむ以外やることがなかったため、写真と、そして妄想で楽しんでいた。本来、僕の車が一番先頭でないといけないが、途中、何台かの気早い若き運転手に越された。面白いことに、途中僕の車がやってきたのを見かけや、付近に散らかって休憩している参加者を運転手たちが呼び、一瞬にして全員に車に乗った。その風景が、パイロットたちが指示を受けて素早く戦闘機に登場するシーンと重ねた。夕方前クチャに着いた。







(この旅で最も印象深かった人。きっと立派な起業家になるように予感する)
■後書 天山バインブルク大草原は世界の壮観を網羅したように思う。天候の違う時に訪れたら、まったく違う景色が目の当たりにした。そして馬で奥へ進むにつれて、一日の中でも、カナダのような景色、ロッキー山脈の景色、映画の中のインディア人居住地のような景色、アイルランドの景色など移り変わっていきます。 ここはまた野生動物の天国だ。ヤックや白鳥、鷲は馬隊のすぐ横に擦り違う。そして世界で狼を見かけられる数少ない場所の一つだ。私たちは山の中に深く入っていかないので、遭遇はしないが、夜になると狼の鳴き声が聞こえてくる時があった。 ここの遊牧民は外国人はもちろん、外の世界の人をあまり見たことがなく、人懐こいというか、純粋で心が透き通っているように見える。外部と接触少ないゆえに、彼らの文化はモンゴル共和国などよりも、チンギスハン時代のものが残されているのだ。その証拠の一つはモンゴル相撲のやり方は独特だった。現代見世物にもなれるようなモンゴル相撲ではなく、純粋に戦うためにあるものだった。 でも、羊の解体はモンゴルの遊牧民と違って、イスラムのやり方だった。本来モンゴルは心臓の動脈と止める、血を大地に流さないやり方ですが、それでは周辺のウィグル人やカザフ人は買いに来てくれないので、知らず内にイスラムの人々に合わせたと言えます。人間は文化、プライドよりもまずは生きていくことが大事ということを物語っているように思います。











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