#栞と嘘の季節
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findareading · 9 months ago
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小学校では読書が推奨されていて、休み時間に本を読む同級生は珍しくなかった。真面目なやつだという斜に構えた視線も多少は向けられたけれど、それでクラスから浮くということはなかったように思う。中学校で、がらりと変わった。教室で本を読むのは自分は変人だと主張するに等しく、同質性を身につけなければ危害さえ加えられかねない中学校という空間にあって、読書は挑戦的な行為だった。その点、この高校は過ごしやすい。誰がどこでどんな本を読もうが、誰も気にしない。
— 米澤穂信著『栞と嘘の季節』(2022年11月、集英社)
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sawakiguchi-msk · 12 hours ago
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米澤穂信『栞と嘘の季節』文庫版を手に入れたあたし♪
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ナツイチのネコ入りミニ下敷き栞🔖かわいすぎっ!
単行本で持ってる『本と鍵の季節』文庫版も買っちゃったわね〜
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maigochan · 1 day ago
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最近買った漫画
新しく買った
・ふつうの軽音部
・pink
・交換日記がおわっても
・のあ先輩はともだち。
・ありす宇宙までも
続刊を買った
・橘くん
・金曜日はアトリエで
・煙たい話
・放課後帰宅びより(既読分を買い揃えた)
・太陽よりも眩しい星
・来世ちゃん
最近買った小説
・プロジェクト・ヘイル・メアリー
・君のクイズ
・地図と拳
・栞と嘘の季節
ほぼ全部一昨日買った。買いすぎかもしれない(すごくそう)。しかも図書館で借りた本読んでると来た。最悪。積むなよな……!
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coastloop · 9 months ago
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「たぶん、図書室は、というか図書館は、偉大になれる可能性の担保だと思う。それがどれぐらい使われるかはあんまり問題じゃなくて、あるかどうかが問題になる」
「偉大にって、誰が、どんなふうに」
「誰でも、どんなふうにでも。だからこれだけの本が必要だし、こんなもんじゃ足りない」
米澤穂信"栞と嘘の季節"(集英社)
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yuupsychedelic · 6 years ago
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詩集「もしも、昨日の僕をぶん殴れるなら。」
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詩集「もしも、昨日の僕をぶん殴れるなら。」
1.「四つ葉の詩」 2.「冷笑」 3.「吐息」 4.「スカイブルーは知っている」 5.「絃」 6.「フォトジェニー」 7.「田舎者のオキテ」 8.「無音」 9.「英雄の中の英雄」 10.「凛」 11.「自慢話」 12.「18」 13.「鬱」 14.「瞿麦(Cool-Baku)」 15.「♡♡♡」 16.「★(Black Star)」 17.「Boot Schwarzenegger」 18.「#シュウカツ」
四つ葉の詩
いつか、 私たちが伝説になる日が来るんだね、 なんて、 君は健気に言っている。
そのいつかが、 本当のいつかになるかもわからないのに、 そのいつかを感じさせないくらい、 君は健気に笑っている。
四つ葉のクローバーを夢中で捜した夏を憶えているかい?
君の「健気」というアイコンは、 四つ葉のクローバーから産み出されたものなのだ。
雨上がりの河川敷、 膝を泥まみれにして、 君はひたすら四つ葉のクローバーを捜していた。
見つけたときの笑顔、 よそ行きの洋服は見る影もなくなっていたけれど、 それを感じさせないくらい、 君は健気に佇んでいた。
今年もきっと、 君は何処かで健気に微笑んでいるのだろう。
冷笑
「わたしはあなたのことが嫌いよ!」
隣のあの子がそう言ったとき、 俺は友達と世間話をしていて、 その声に耳を傾けてはいなかった。
友達が彼女の声に気付いて、 こちらに冷笑的な視線を送る。
俺にとって、 彼女はどうでもいい存在だった。
「わたしはあなたのことが嫌いよ!」
隣のあの子がもう一度口を開いたとき、 俺は友達の右腕を力一杯に握っていて、 既に教室を駆け出そうとしていた。
友達は彼女をクッと睨みつけて、 こちらに向かってこないように仕向ける。
俺にとって、 彼女はどうでもいい存在だった。
–––– 数日後、隣のあの子は転校していった。 「好きだよ」という置き手紙を俺の机の中に残して。
吐息
その寒さを紛らわすように、 ぷはーって、 お互いに息を吹きかけて、 ぎゅっと、 強い力で抱きしめてみたら、 どうにか、 この夜を越えられるような気がした。
それは、 とてもとても寒い夜のことだった。
この街は今月五十回目の停電で、 電気が通っていない間は、 街がフリーズしたかの如く、 静かに凍りついていて、 僕らは暗闇の中で、 ジャックオランタンを頼りに、 互いを抱きしめるしかな���った。
それは、 とてもとても寒い夜のことだった。
あの国王は僕らのことは見向きもせず、 きっと美味しいものばかり食べているのだろう、 君はそう冷たく言うけれど、 僕は「違うよ」と再び息を吹きかけた。
スカイブルーは知っている
もしも、 悲しみという感情を この絵で繕えるとしたら…… 僕は一枚の絵を描くだろう。 大きく、遥かな絵を。
人は誰もが芸術家だ。
愛も、夢も、明日も。 この絵にはすべてが入っている。
もしも、 その絵が不満だとしても オリーブオイルを一滴垂らしてしまえば…… ほら、元通り。
そんなわけないと思う君は、 いちど理想に浸ってみればいい。
青空のキャンバスに、 あしたの自分を描いてみればいい。
どこでもいいじゃない。
芸術ってのは、創り出す勇気から生まれるものなのだから。
ソーシャルネットワークの海に、 今日もわたしは言葉を投げ込みます。 思い思いの声を、 言葉として詰め込むのです。 愛とは、 そういう儚さから生まれてくるものですから。
私の人生は言葉と共にあります。 生まれてきて、 言葉を忘れたことは一度もありません。 話せるようになってから、 常に社交的な人であり続けようとしました。
しかし、どんなものにも限界はあります。 私の糸は、完全に千切れてしまったのです。 –––– それはふとした瞬間でした。 嗚咽して、泣き喚く。 暗黒の日々が始まりました。 人はいなくなり、孤独に這い回る。 私に希望なんてありませんでした。 そんな状態でも、 言葉だけは手放せませんでした。 本は手放せても、 言葉だけは手放せませんでした。
フォトジェニー
突然の宣告。 –––– 余命一ヶ月。 僕には「一瞬一瞬を大切に生きろ」という医師からの“最後の使命”が与えられた。
病院からの帰り道、僕はフィルムカメラを購入した。 五千円と八パーセントの消費税。 懇意にさせてもらっていた店主のもののお下がり。 これが僕の希望だった。
それから…… 僕は一心不乱にあらゆる景色を収め続けた。 美しいものも、汚いものも。 近すぎるタイムリミットに翻弄されながら。 僕の病状は刻々と悪化していった。 二十日も経たぬうちに、その足で歩くことさえも身体は拒絶し始めた。
それでも…… 写真だけは止められなかった。 髪は抜け落ち、少し動くだけで全身に激痛が走る。 逃れられぬ宿命と闘いながらも、僕は“希望”に全精力を注ぎ続けた。 生きろ、生きろ、あともう少しだけ生きさせてくれ…… 僕はもう来ないかもしれない明日にすべてを託す。 きっと大丈夫。 –––– 翼はまだ錆びついてなんかない。
田舎者のオキテ
ある朝、僕は電車に乗った。
どんどん人は増えていき、 車窓から見える景色には見たこともないビルが立ち並んでいる。
人混みは空虚だ。
電車に乗っているうちに、 そんな気持ちに駆られてしまうことがよくある。
無表情でスマフォに向かっている君! 僕は今、君に話をしてるんだ。
「何も知らねえくせに、俺に口出しするんじゃねえよ」
ヒップホップに夢中の男はそう言って僕を睨みつける。
たしかに、そうだ。 僕は何も知らない。 何も知らないから、君に質問する。
「僕はどこへ行けばいいんだい?」
僕がこう言うと、男はそれを無視してまた自分の世界に浸り混んでしま���た。 田舎者に頼れる者は、底なしの勇気と、根拠のない知恵だけ。 そのことを身を以て感じた瞬間だった。
無音
電車に乗ってるとさ、 やけに汚いビートが響いてくんだ。 切れたり、いきなり大きくなったり。 わけわかんねえよな。 「うるさい」っていう人もいねえ。 俺も結局は勇気がなくって、 なんも言えなかった。 あいつは何がしたいんだろう? 自分の耳を痛めつけて、 人の才能を自分のモノだと思い込んで、 満足げに座っている。 満面の笑みを浮かべている。 酔いつぶれて、 昨日も飲んだから未だ二日酔いで、 まるでトランスしたかのごとく、 あいつの耳から漏れるビートを見つめている。 イヤフォンの線、切れてるぜ? ひとりの男がつぶやくが、ヤツは音楽に夢中で気付かない。 俺は目的の駅に着くと、 何も言えない自分が恥ずかしくなって、 さっさと電車を飛び出しちまった。 情けない話だよな。 ほぼほぼ言い出しっぺみたいなもんなのに、 誰にも聞こえない舌打ちしか出来ない。 こんな部屋でしか本音さえも言えないんだぜ? ……あいつの方が俺なんかよりよっぽど立派かもな。
英雄の中の英雄
ヒーローたちの闘いが終わると、 寂しげな音楽に合わせてスタッフロールが流れる。 そこにいつも表示されていたこの文字。 ひらがなだから、すぐに覚えてしまう。 子どもでも、大人でも。 いのくままさおと同じだ。 キャメラマンのいのくままさおさん。 この御方、つい最近まで現役だった。 ずーっとヒーローたちを撮り続けてきた。 支え続けてきた。 ヒーローの中のヒーローって、こういう人なのかもしれない。 昭和から平成へ、平成から令和へ。 ただの少年でも、ヒーローになれるんだ。 勇気を、希望を、そして何より…… 夢を子どもたちに与え続けてきた。 そして、いつしかヒーローはみんなのものになった。 子どもから大人まで、 みんながヒーローを愛している。 ヒーローに触れている。 かつては「ヒーロー��好き」ということ自体が恥ずかしかった。 「こんな歳で?」という声が怖かった。 でも、今なら言える。 ヒーローが好きだ、と。 今だから叫べる。 僕はヒーローと共に飛びたい。–––– もっと高く、もっと遠く。 明日も、明後日も。
わたしに「凛」なんて求めないでください。 わたしはわたしのままで居たいのです。 わたしらしく居たいのです。 わたしに嘘を吐きたくないのです。 わたしがわたしで生きられる世の中を作ってください。 わたしがわたしで居ようとするからといって罵倒するのは止めてください。 わたしはそんなに異様ですか? わたしのことがそんなに嫌いですか?? わたしたちの存在がそんなに憎いですか??? わたしの質問に答えてください。 わたしはあなたのことを「許さない」と言っているわけではありません。 わたしはあなたのことを知りたいと思っているのです。 わたしに「らしく」なんて求めないでください。 わたしにはわたしのわたしらしさがあるのです。 わたしがセーラー服を着ていたら。 わたしを罵倒するんでしょうね、あなたは。 わたしはわたしらしくいたいだけなのに。 わたしなんてその程度の人間ですよ、所詮。 わたしが嫌いなら消してしまっても構わないんですよ。 わたしをサンドバッグにしてもらっても全然構わないんです。 わたしのことがそんなに嫌いなら、いっそのこと殺してください。 わたしが殺されたら、それで満足なんでしょう? わたしがいなくなっても困らないんでしょう?? わたしって、あなたにとってはその程度の存在だったんですね。
–––– こんな奴、とっとと消えてしまえばいいのに。
自慢話
ねえねえ、こんなことあったんだよ! あの人が来てね、こんな話をしてくれたんだよ!! うちの専攻、これがすごいだよ!!!
うっせえんだよ、そんなの調べりゃわかるんだよ。 黙れよ、ほんとは未読無視してぇんだよ。
あんたのことが世界で一番嫌いなんだ。 ぶっとばしてえんだよ。 殺してえんだよ。 スナイパーライフルがあったら、きっと即狙ってる。 その程度のやつにアタシの人生狂わされてた。
なにがサイバーパンクだって? 貴様のパンクはパンクって言わねえんだ。 そんな腰抜けに何が出来るって言うんだ。 あんっ? 言えるもんなら言ってみろよ。 その雄弁で間抜けな口でさあ。 自慢話してる暇があったら動けよ。
その足で、その口で、全身で表現してみろよ。 ふふっ、ナメないでくれる??
ぶっとばしてやるから。 次逢うとき、覚えてろ。
18
去年の夏 空(くう)が死んだ それから すべては変わった
平穏な日常 ささやかな幸せ すべては失われていった
祖母は変わってしまった 認知症が刻々と進む これまでの常識も 忘れてしまい 家族は途方に暮れていた
親友を失い 我が家へ迷いこんだ祖母を ちっぽけな意志で除け者にした そんな俺だった
「ごめんね、迷惑をかけて」 その声があまりに辛かった だけど俺は限界だった 涙に暮れたあの夏
- あれから一年が経って 少しずつ日常が還り 誤魔化しながらも 普通に生きられる 倖せを噛みしめるようになった
電話が鳴る度 嗚咽した去年の夏 着信音さえトラウマになって 静かに切られた電話線
ずっと続くのか…… 死ぬまで続くのか…… 時間が母を悩ませる
「ごめんね、迷惑をかけて」 今はみんなに謝りたくて でもプライドが許さない 情けないほど弱い俺だけど
自分を見繕うことだけは 他人より少しだけ自信がある 自慢にならない事を自慢と 言い換えて意思を押し付けてた 気付かぬうちに
「ごめんね、迷惑をかけて」 今はあなたに謝りたくて 言い訳なんかもうしない あなたに出逢えてよかった
人生という荒波の中 ヒトは後悔をいつも背負っている 俺は永遠に罪を背負って生きる 過去という十字架を
涙に暮れたあの夏から 俺は変わってしまった
ひゅーん、ばーん。 今年も花火大会が始まる。 ユーラシア大陸に届けとばかりに、 何万発といった火花が夜空に散っていく。 この季節になると、僕は憂鬱になる。 今年も彼女は出来なかった、 来年もきっと彼女は出来ないだろう、と。 夜に耳栓をしたくなる。 屋台も、花火も、全部なくなってしまえばいいのに。 フランクフルトも、わたあめも、全部いらない。 豆粒のような人たちが、今年も無邪気に笑っている。
ひゅーん、ばーん。 今年も花火大会が始まる。 豆粒のような人々は現実となり、 僕の目の前で躍動している。 なんと、僕に彼女が出来た。 –––– 言うまでもなく、人生最初の彼女だ。 彼女はこの世で最も美しいとさえ思えた。 浴衣も、お洋服も、よく似合う。 僕にとってのミューズだった。 いつか出来ると願いつつも、もう半分諦めていた恋。 叶ってしまった、この歳で。 はじめての青春。 二十歳の夏、僕は君に恋をした。 「諦めなければ夢は叶う」って、君が教えてくれたんだ。
瞿麦(Cool-Baku)
それは、可愛げのあるもの。 それは、使い勝手の良いもの。 それは、一生を共にできるひと。
街は変わりました。 この数十年で。 ビルは立ち、自然が失われる。 まるで、歴史を塗り替えていくかのように。 発展と破壊はいつも背中合わせです。 擦り合わせても、妥協しても、結局は離れられないのです。 いけません、地球が泣いています。 そのまま続けるのです、国家元首は叫んでいます。 僕らが声を挙げられるツールはあるのでしょうか? いえ、ありません。 –––– 正確にはひとつだけあります。しかし、声を挙げるにはリスクが大きすぎるのです。 小さなパンと、薄いスープが僕らの主食です。 不幸自慢をするわけではありませんが、これだけしか許されません。 お金はあります。 でも、お金があることを知られると、すべてを奪われてしまうのです。 今が満足、今で満足。 果てしなく自分を言い聞かせてみましょう。 すると、あら不思議。 まるで満足したような気になるではありませんか。 これが一家円満の秘��です。 余計なことなんてしなくてもいいのです。 さあ、一緒に幸せになりましょうよ。
♡♡♡
「カラータイマーみたいなヤツが、実際にあったらいいのにな」 僕らはついつい無理をしすぎて、 余裕という名前の宝をどこかへ置き忘れてしまう。 そして、 いつしか趣味の愉しみ方さえも忘却の彼方へ……
「そんなのつまらないと思わないかい?」
誰かの言葉が響こうとも、 それは大して実績のない輩だからと、 まるで何も言っていないかのように無視をする。
青空は曇り空へと変貌し、 無意識のうちに、 自らの両足には重くて堅い枷が縛り付けられていた。
もはや、 僕らに何かを叫ぶ力なんてない。
そこにあるのは、 “堕落した自尊心”のみ。
「僕らは一体何処へいく?」と空へ紙ヒコーキを飛ばしても、 返ってきたのは空虚なやまびこだけだった。
★(Black Star)
暗黒街から抜け出して、 この翼で宙を舞い、 愛に向かってまっしぐら、 俺は俺のままでいい、 たまにはワガママもいいじゃない、 いっそ、 嫌いなあいつをぶっ飛ばしてもいいじゃない、 この歌で、 この音楽で、 このステージで、 僕にはスーパーヒーローになんてなれない、 だったら、 ダークヒーローになればいいじゃない、 黒い星になって、 ヒーローと背中合わせで、 互いの意志を叫んでみよう。
Boot Schwarzenegger
似ても似つかぬコスプレをして、 面白くもないモノマネで聴衆を笑わせて、 同調圧力でウケているのにも気づかず、 まるで銀幕スターになったかのように、 満面の笑みを浮かべている。
週刊誌は絶えずカメラという名の銃を向け、 彼も常にそのカメラをロックオンし、 無言の戦争が今日も始まる。
ニセモノなのに、 ホンモノのように振る舞う君。
あれ、 ホンモノって、 どっちなんだろう?
わかりきっているくせに、 ワイドショーはヒステリックに嗚咽する。
#シュウカツ
埃だらけのアルバム 捲ってみれば あなたと過ごした日々 眩しく光る
純情な日々 みなぎる若さは 今の僕らに 無縁だけど……
何度も喧嘩して 何度も微笑んだ日々 青春の終わりが見えてくると 当たり前が輝きだした
別れの日に 涙は要らない 笑顔で送り出してくれ いつまでも泣いてちゃ 君らしくない いつかまた逢えるから
いとしさ せつなさ ぜんぶ閉じ込め 君に最後の愛を ここに贈ろう
青春のときめき 思い出してみれば あなたと暮らした日々 まるで走馬灯
若さに溺れ 何も言い出せず 堂々巡り続けた日々 それも蒼さか?
別れの日に 涙は要らない 笑顔で送り出してくれ クヨクヨすんなよ 君らしくない 必ずまた逢えるから 希望 絶望 ぜんぶ閉じ込め 君に最後の愛を ここに贈ろう
埃を被った小説の 栞はあの日のまま さらば思い出よ 愛しき日々よ さよな���
君と暮らしたこの家 出逢った日に もう一度戻れたとしても やり直したいとは思わない 君が好きだよ この胸に飛び込め 必ず幸せにするから!
別れの日に 涙は要らない 笑顔で送り出してくれ 人生の終わりに 涙は要らない 笑顔で送り出してくれ
いとしさ せつなさ ぜんぶ閉じ込め 君に最後の愛を ここに贈ろう
一緒にいてくれて 本当にありがとう
あとがき��詩は究極のサブカルチャー」
泣いて、笑って、怒って。 いっぱいあったよ、この一ヶ月。 まあ、締めくくりというわけではないんですけど。 とても楽しんで書きました。
最初に書いた作品は「♡♡♡」でした。 3日前の夜。 それまで書いてたのを一気にひっくり返して。 ここまで短期集中で書いた作品も珍しい気がします。 わたしは筆があまり速くので……
個人的に、「詩」って究極のサブカルチャーだと想うんですよね。 決してメインにはならないけれど、だからといっていらないわけでもない。 そこに魅力を感じて、ずーっと書き続けてきたわけですが。
これからも一生詩という分野とはお付き合いを続けていこうと思っています。 新しい場所で、新しい仲間と出会って、よりその想いが強くなりました。 わたしの創作活動は、詩から始まった。 原点なんです。詩が。
大好きな詩をみんなに届ける。 これからも、いつまでも。
最後まで読んでくれてありがとう。書いてて、ほんとに楽しかった☺︎
【Credits】 詩集「もしも、昨日の僕をぶん殴れるなら」 企画・文:坂岡 優 Concept by YUU_PSYCHEDELIC Special Thanks to My Family, my friends and all my fans!!
この作品を読んだ人々にささやかな倖せが訪れますように。 もしこの作品が気に入ったら、よければ広めてくださいね。
いつもありがとう。
坂岡 優
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hamasutaikitai · 2 years ago
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Saturday 4/1/2023
エイプリルフールの嘘はついてないけど、友達と久々に会えてめっちゃ楽しかった日。朝まで遊ぶのもたまにはいいもんだなー。悩んでること思ってること沢山話してすっきり。お酒も強くなりました!これ多分久々に俺と飲んだらびっくりするくらい強くなってる気がする!って思ってたのに、帰り道で栞聞いてぐおー!ってなりました。似合う季節がまたきて過ぎ去って、もう何年目でしたっけ。今でも鮮明に思い出せる快晴の桜並木は、未だに最高を更新できてないなーとか。当たり前が当たり前じゃなくなって、その当たり前も当たり前じゃなくなって。俺!今!頑張ってる!って胸張って言えるわけじゃないけど、形は違えどこれも幸せかもってやっと思えた気がする。そろそろ俺も地に足つけて生きますかね!つって。マジで毎年のことだけど、春っておセンチになりすぎてもはやジワ。
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kachoushi · 8 years ago
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雑 詠
花鳥誌 平成29年7月号
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雑詠巻頭句
坊城俊樹主宰選 評釈
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門を鎖し花を余らす御廟かな 牟礼 鯨
御廟というからは高貴な身分の人の墓であろう。門に鎖された域内にも満開の花が咲いている。そこには一般の花人は入れず、満開の花があたかも余っているようだと言うのである。陵などを思へば、荘厳なたたずまいの墓石と桜色との対比は、美しくも哀しい歴史を秘めている。
下ぶくれ地蔵みな手に��車 牟礼 鯨
お地蔵様たちは水子地蔵なのか。まだ幼い赤ん坊の頬を持つその下ぶくれのお顔。どれも手に持つ風車には、彼岸からの春の風が回り続けている。何列にもなる地蔵たちの姿が見え、何列もの哀しい赤児の顔が見える。
せはしなく穴を湿らす春の蟻 牟礼 鯨
「春の蟻」というところに愛着を感じる。夏の蟻ならばせっせと餌を運ぶ行列を思うが、これは春雨に濡れた蟻たちの少しく寒い作業。まだ持ち帰る物もなく、雨滴をのみ持ち込んでいる性を思った。
ふつふつと芽の滾り立つ音の中 冨永 桂
「滾る」という措辞に共感を覚える。その滾る音とはいかなるものか。びっしりと揃った芽たちの生命の滾り。その無音にして大音響の叫びこそが季題の「芽」、すなわち木の芽や草の芽たちの本情そのものであろう。
桜爛漫大音響を奏でつつ 冨永 桂
これも同様な景色。桜が満開で爛漫たる大きな山や土手などを思った。そこに吹く風を思ってもいい。字余りである上五がその大音響の余韻とも。「花爛漫」では一幅の絵となるが、ここにきて野生の桜たちの氾濫する生き様を見る。
水音に背きて和して百千鳥 冨永 桂
百千鳥とは大木などに群れる数十羽の鳥たちのことだが、あるときは水音に背いて囀を放ち、あるときはそれに従うような旋律で囀る。これはまさに音楽であって、春鳥たちの賛歌である。
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灯台の螺階を仰ぐつくしんぼ 上嶋 眞理子
土筆たちは風に揺られつつ、岬の灯台の螺旋階段を見上げている。おそらくは灯台の周囲を螺旋状に巡っている階段を思う。これは、港内の灯台というより、荒々しい浪が打ち寄せる孤高なる白き灯台である。
亀鳴くや円空仏の口に笑み 上嶋 眞理子
「亀鳴く」という季題と円空仏の取り合わせが絶妙。ましてその口元の笑みは荒削りの仏像の笑みの不思議さに満ちている。亀も鳴かざるを得ないというものだ。
草朧サーカス小屋の去りし跡 上嶋 眞理子
そこはかとない哀愁を感じる。今でこそあまり見られないサーカスの小屋。さほど大きな催しではない、小ぶりのサーカスの去った跡の景色。逢魔が時を過ぎ、夜となるとそこには幻のサーカスの余韻が朧となっている。
吽像の口開かしめよ花吹雪 比嘉 幸子
��犬の阿吽の口でも良いのだが、ここは阿吽の仏像。金剛力士たちの怖ろしい口を思う。阿形の口はもとより、吽形の口でさえこの天から吹き付ける花吹雪には開くのである。
曳くもののなき花筏辷りゆく 比嘉 幸子
花筏とはたしかに何も無いものに曳かれている。それは風や流れのせいなのだが、散り落ちてしまった花の末路の姿には何か目に見えないものに曳かれているという幻想が美しい。
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野の匂ひ天に散らして雲雀鳴く 刀禰 小勇
誰が付けたものかヒバリとは「雲の雀」と書く。雲があればそうだが、晴天の時はいかに。野から突然に飛翔して、その土の匂いを空、やがては天までもまき散らすという。その感性に敬服。
石庭の渦波立ちて日永かな 刀禰 小勇
龍安寺の石庭など見ていると、その渦が実に海のただ中にあると実感する。やがてそれが波立つ様に何かの意志を感じる。「日永」という季題にある仏教観をまさにとらえた。
結願の空に木蓮の真白 増田 さなえ
結願とは日を定めて宗法などを終了すること。またその日のことをいう。その日の空ならば、そこには真白なる木蓮の花が似合う。
探偵になりたかつたと万愚節 増田 さなえ
エイプリルフールの句でこんなに面白いのも珍しい。探偵になりたかったという嘘。洒落ているではないか。相撲取りなどでもいいが、なんとなく実現できそうな余韻がある。
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蒼きまで白き桜を活けにけり 栗原 和子
白を極めた桜の枝を思う。それは、白すぎてそこには蒼の翳を持つ。その翳は見る人の感性の中にある色であり、活けた人の心情の色でもある。
花の雨出せぬ葉書を栞とし 栗原 和子
何かの理由で出せなかった葉書。花の雨に濡れてしまったからか。それを、しかたなく栞として本の間にはさんだ。葉書の内容は情感あふれるものであり、花の便りそのものでもあるとも思う。
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yo4zu3 · 6 years ago
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エンドロールにはまだ早い(柴君)
 ∵背中に想う
 長く降った雨に打たれ、今年の桜は既に散ってしまった。新緑の生い茂る木々の足元で、ほんの薄く色づいた花びらだけが、濡れたコンクリートにいつまでも張り付いている。  送別会ラッシュがひと段落したかと思えば、すぐに歓迎会が催される。何かと理由をつけて飲みに出かけたいのは、春の穏やかな気候がそうさせるからかもしれない。全くはた迷惑な話だな、と年中金欠の俺は心の中で悪態付く。それでもこうして律義に出席する事におそらく理由はない。が、あえて言うのならば��はり春のせいなのだろう。
 よく晴れた金曜日だった。その日の夜は高校時代に所属したサッカー部のOBが集まる、いわゆる同窓会の予定があった。急な休講により午前で講義を終えてしまった俺は、大学の敷地内にある図書館で時間を潰したのち、人々で溢れかえる駅の改札を抜けた。同じく飲みに来たのであろう人の波を避けながら、先のほうで信号待ちをする集団の中に見覚えのある男の頭を見つけた。頭一つ分ほどの目線の高さに燃えるような赤い髪。派手な身なりの男はどこからどう見ても大柴喜一だ。幼馴染で、犬猿の仲。高校を卒業して二度目の春を迎えた今も、その関係は変わっていない。だから一瞬、変わらない懐かしい後ろ姿に声をかけるべきか迷っていた。だが追いつく手前で歩行者信号が青に変わると、大柴は足早に去ってゆき、それ以上近づくことは叶わなかった。
 まずいな、とどこかぼんやりした頭で思う。成人してもなお酒も苦みも得意ではないので、“とりあえず”のビールを残すとすぐにカルピスハイへと切り替えた。だが今思えばそれがまずかったのかもしれない。いつものように何食わぬ顔でノンアルコールにしておけばよかったのに、今日に限ってそうしなかったのは、この場の雰囲気に流されたからに違いない。早々に回ったアルコールのせいで耳や頬がひどく熱かった。  いよいよまずいなと思ったのは、場所を変え、二軒目へと向かおうというときだった。皆が笑いながらゆっくりと歩く中、ふと、先頭にいたはずの大柴が立ち止まり、靴紐を結び直すためにその場に屈み込んだ。繁華街の雑踏の中、眩いほどのネオンライトが、きちんと鍛えられた背中の筋肉を浮き彫りにさせている。あいつの体なんて初めて見たわけでもない。それなのにその後ろ姿を捉えてから、ずっと大柴から視線が外せない。  どこの駅前にもあるようなチェーン店の安居酒屋の、寂れた座敷席で皆が胡座をかくなか、大柴だけがその高い背をきちんと伸ばして座っていたり、トマトスライスをつまむ箸使いは意外にも綺麗だと思った。昔からこんな感じだっただろうか、と酔いのまわった頭で考えても仕方がないことはわかっている。だがあれから二年たった今、俺も大柴も少しだけ大人になっていても何らおかしい話ではない。  一番遠い席に座る男を眺めていると、時折視線が合ったように思うのは気にし過ぎているだけ��ろうか。よそった焼きそばを半分ほど皿に残し、誤魔化すようにカルピスハイを口に含む。同窓会というものに浮かれているのは、案外自分も同じかもしれない。
 終電が間もなくだという理由で、二軒目の会計を済ませると会は一旦お開きになった。道のど真ん中で「よし、次行く人~っ!」と叫ぶ灰原先輩はすこぶる機嫌がよく、飲み足りないらしい上級生たちは次の店を探すためにそれぞれがスマホと向き合っていた。 「もう面倒くせぇから、歩きながら適当に入ろうぜ」  誰かがそう言うと、散り散りになっていた男たちはあてもなく夜の街をゆっくりと歩き出した。その間にもメニューを持った客引きのアルバイトが「お兄さんたち、どう?」「飲み放題980円ですよ」とひっきりなしに声をかけてくる。 「えーっと、今何人だ」 「十ぐらいじゃね?」 ���君下、お前は終電大丈夫なのか?」  唐突に声をかけてきたのは臼井だった。ぼんやりと自分の足元を眺めながら歩いていた俺は、その声に熱くなった顔を上げた。セーブしていたのか、あるいは酒に強いのか、普段とあまり変わらない様子の臼井はにこやかだった。 「明日休みなんで大丈夫っす」 「そうか、それならよかった」  そうは言ったものの、正直に言えばこの後どうするかなんて何も考えてはいなかった。都内の大学に進学した俺は、今も変わらず実家に住んでいる。走ればまだ終電には間に合うだろうが、急ぎで帰る予定もなければ、そうするだけの余力も残っていなかった。 (それに……)  ちらり、と斜め後ろを歩く大柴を見る。あいつもこのまま残るのだろうか。結局この日はまだ一言も口を聞いていなかった。とくに何かを期待しているわけではないが、このまま先輩たちに付き合ってだらだらと始発まで待つのも悪くない。  いつのまにか次の店が決まったらしく、店の入り口で水樹が両手を挙げて立っている。水樹は卒業後、以前より契約していた鹿島にそのまま入団した。明日の練習は大丈夫なのだろうか、とお節介なことを思っていると、店の前でふと、誰かに手首を掴まれて思わず立ち止まる。 「あ?」  勢いよく振り向くと、険しい表情をした大柴が俺の手首を掴んでいた。 「なっ……にすんだよ」  なんで、お前が。思いがけない人物に少し怯んだ俺の声は、威勢を失くしみっともなく尻すぼみになってしまった。掴まれた手首がじりじりと熱い。振り払おうと腕を振り回すが、俺よりも一回りほど大きな掌はそう簡単に放してくれず余計に力が込められて、触れられたそこが一層熱を持ったように思えた。  おかしい。今日の俺はどうかしている。嫌いなはずの男をじっと盗み見、触れられ、まるでそれを喜んでいるかのように頬や身体が熱い。先ほどから���駄に高鳴っている胸の鼓動ですらいつもと違っていた。こんなのはまるで俺じゃない。 「っ、気安く触んな」 「お前、もう帰れ」  その掌の温度とは裏腹に、冷めた声が棘のように胸に刺さる。素っ気ない物言いはいつのも大柴と同じなのに、なにかを堪えるようなその瞳は、はじめて見る表情だった。だから油断したのかもしれない。 「すんません、こいつ連れて帰ります」  俺の手首を掴んだまま、店の入り口で人数を数えていた臼井に向かい大柴がそう言った。臼井は一瞬驚いたような表情をしたが、すぐに「ああ、分かった。気をつけて帰れよ」といつもの笑みを浮かべて小さく手を振った。隣にいた水樹が俺と大柴を交互に見て、不思議そうに首を曲げていたがそれどころではなかった。お疲れ様っす、と軽く会釈をした大柴が、俺を掴んだまま駅とは反対方向へと歩き出したからだ。 「ちょ、待て! 放せバカ!」  嫌がる俺を引きずって道のど真ん中を進む大柴の表情は窺えない。が、なぜか怒っていることは雰囲気で察していた。まだ肌寒い春の夜にぴりぴりとした空気を纏い、あれから何も言わない大柴に俺は諦めて引きずられることにした。ここで揉めて運よく逃れられたとしても、ふらつく足で人の波をかき分けて、一体どこへ行くというのだろう。酔っぱらった男が引きずられているこの奇妙な光景に、街行く人々は何ら疑問に感じていないことだけが唯一の救いだった。
 そこからは所々の記憶が曖昧だった。ひどく酔っていた、というよりも、あまり思い出したくないというのが本当かもしれない。  繁華街の眩いネオンがピンクや紫ばかりに変わり、怪しげなバーやホテルが立ち並ぶ。普段足を踏み入れることのないエリアにやってきたところでまさかとは思ったが、大柴の足は迷うことなく一軒のホテルへと吸い寄せられてゆく。ラブホテルにしてはシンプルな――言い換えれば味気のない――ここは大柴の行きつけなのだろうか、と思うと、なぜか胸のあたりがずきりとした。大柴はパネルの前で一度立ち止まり、何やら部屋を選んでいる様子だったがそんなことはどうでもよかった。こいつの意図がまるで読めない。今日一度も話しかけなかった男、それも犬猿の仲であるはずの俺を突然こんな場所へと連れ込んで、一体何がしたいのだろう。だが俺は不安になるどころか、むしろその先を想像してあり得ないと思いながらも秘かに期待してしまった。  壁に凭れ、うっすらと額にかいた汗を掌でぬぐうと、その腕はまたすぐに大柴の掌へと収まった。連れられたエレベーターの中で、暫くの間ぎこちない空気が流れる。俺の手首を握る大柴の手が湿っている。これは夢ではなく現実なのだと他人事のように思った。
 ⌘⌘⌘
 翌朝、ひどい頭痛で目を覚ますと、頭の鈍い痛みよりも自分が素っ裸で眠っていたことに驚いた。起き上がろうと���て腹筋に力を籠めるが、身体のあちこちに痛みが走り思うように力が入らない。 「……っ」  ひねり出した声も掠れ、張り付いた喉が渇きを訴える。おまけに昨日のコンタクトをしたままの視界はぼんやりとしていて、ここが自宅ではないことに気づくまでに随分と時間が掛かった。遠くでざあざあと水の流れる音が聞こえている。  俺は、あの後どうしたのだろう。肌触りのいいシーツに手を伸ばしながら、その感触を確かめる。ひんやりと冷たいそれはしっとりと濡れているようにも感じた。思考を巡らせすぐに思い出したのは、終電組を見送り、大柴に半ば無理やりここへと連れられたことと、あいつの怒ったような瞳の色。全身に触れた大柴の指。腰の痛み。俺の名を呼ぶ低い声。どれも朧気だが現実だという確信がある。
「起きたか?」  声のしたほうを振り向くと、真っ白なバスローブを羽織った大柴が立っていた。派手な赤い髪色も水分を含んだ今はやけに大人しく、垂れ下がった先端からぽたり、ぽたりと水滴を垂らし、バスルームへと続く絨毯を濡らしている。備え付けの冷蔵庫からミネラルウォーターを二本取り出すと、その一方をこちらに向かって投げてくる。 「……今何時だ」 「知らん。自分で見やがれ」  蓋を外し、ゴクゴクと喉を鳴らしてそのほとんどを飲み切った大柴は、俺のよく知る太々しい態度だった。急に自信のなくなった俺は、サイドテーブルに投げられていた自身のスマホを起動する。午前十一時半を過ぎたところだった。 「シャワー入るならさっさと入れ。ちなみに二時間延長しているから、これ以上はテメェで払えよ」  身体の痛みを堪えながら、時間内になんとかシャワーを済ませると、昨日の服をそのまま身に着けて外へ出た。高く上った太陽の光がやけに眩しい。あれだけたくさんのネオンが輝いていたこの街も、今は寂れたようにひっそりと息を殺して佇んでいる。道行くサラリーマンの視線が痛い。居心地の悪い中、どうやってこいつに別れを告げればいいのかがわからなくて、二人してぼうっと突っ立っていると突然、大柴の腹が鳴った。 「腹減ったな」  同意を求めた大柴の腹がもう一度鳴り、「ラーメンでも行くか」と勝手に歩き出す。別にこのまま別れてもよかったものの、その後ろ姿を追いかけてしまったのは、昨夜の残像が重なったせいなのかもしれない。結局これが何なのかわからないまま、俺はラーメン屋ののれんをくぐることになった。
「お前、ラーメンなんか食うんだな」  太めの麺を魚介のスープに浸しながら、カウンターの隣の席で豚骨ラーメンを啜る男の手元を盗み見ていた。昨日見た綺麗な箸使いは幻などではなく、硬めに茹でられた極細面を器用につまんでいる。 「あーまあ、大学の付き合いとかでたまに、な」 「友達いるのかよ」 「なっ、舐めんなよバカ君下! つーかお前こそ、どこで何してんだよ」  そう言われて初めて気が付いた。俺たちは幼馴染であるのに、高校を卒業して以来の互いのことを殆ど知らなかったのだ。少し呆気にとられながら、時間を埋めるようにぽつぽつと近況を話し始めると、ホテルを出たときに感じていたギスギスとした空気はいつの間にかなくなっていた。傍から見ればただの仲のいい友人のように見えるだろうか。今よりも更に若かった俺たちはいがみ合うばかりで、互いが他愛もない話を何の気づかいもなくできる相手だということをこれっぽっちも知りはしなかった。だから隣で笑う男に対し、まるで昨夜の出来事が最初からなかったかのように振舞った。  大柴は都内の私立大学に通っているらしく、今は一人暮らしだという。どうせ親の金で借りたマンションなのだろうと思ったが、それは口には出さなかった。俺も自分のことを聞かれたので、実家であるスポーツショップを手伝いながら、たまの空いた時間で家庭教師のアルバイトをしていると話した。 「じゃあここの会計はお前が払え」 「あ? 奢りって言ったじゃねぇか」  席を立ちながら、当たり前のように伝票を手渡してくる大柴を睨みつける。 「奢りだとは言ってねぇだろ」 「テメェ、嵌めやがったな」 「まあハメたと言えばそうだが」 「なっ……そっちじゃねぇだろ! このタワケが」  いきなり蒸し返された昨夜の失態に思わずお冷を吹きこぼしそうになる。袖で口元を拭い、目の前にあった腹にジャブをお見舞いしてやると、「いってぇなバカ!」と大柴が吠えた。 「チッ、せっかく人がなかったことにしてやろうと思ったのに」  結局その場は君下が支払った。ホテル代に比べれば大した額ではないが、口止め料ぐらいにはなるだろう。のれんをくぐり外へ出ると、いつの間にか太陽が真上に昇っている。相変わらず時間の感覚が曖昧だったが、家に帰って眠ればそのうち戻るだろうか。 「じゃあな」 「ああ、またな」  そう言うと、タクシーで帰るという大柴は大通りへ向かい歩いてゆく。 「またって何だよ」  小さくなってゆく後ろ姿を眺めながら、果たして次はあるのだろうかと、ふと思った。 
 ∵好きだと言えない
 見慣れない番号から連絡があったのは、あれからちょうど一週間たった金曜日の午後だった。机の上でうるさく鳴り続けるバイブレーションに負けて、電話を取ったのが運の尽きだった。 「テメェ、何回鳴らせば出やがるんだ!」  耳鳴りがしそうなほどの大声に、思わずスマホを耳から離した。それからもう一度画面を確認し、表示されている番号を速攻で着信拒否に設定した。  次に電話が鳴ったのはちょうど四限が終わった頃だった。またもや知らない番号から電話が掛かってきたが、嫌な予感しかしないそれを無視し続けた。今日はこの後家庭教師のバイトがある。着信が途切れた隙に、カレンダーに保存した住所を確認して地図アプリを開く。大学からほど遠くない場所にある一軒家で、中学生相手に中間試験対策を行う予定だった。  早歩きで校門を抜けると、目の前の通りに真っ赤なスポーツカーが停まっているのが視界に入った。半分開いた運転席から、車と同じ髪色の男がサングラスをかけて、こちらに向かい手を振っているのが窺える。 「嘘だろ」  鳴りっぱなしの電話の相手が目の前に現れたのだと悟ると、これ以上近づきたくはなかった。今からでも気づかないふりをしてどうにか逃げ切りたかったが、車の中の大柴は口をへの字に結んだまま、親指で助手席を指している――つまり、乗れということか。少し迷ったが、君下は素直に従うことにした。ここは自分の通う大学の目の前であり、万が一あいつの機嫌を損ねて騒がれても困るのは俺のほうだ。ただでさえ目立つ真っ赤なスポーツカーは、既にこの場に不似合いだった。あのラーメン屋で迂闊にも大学名を教えたことを後悔しながら、身を屈めて助手席――後部座席のドアに手をかけると鍵が掛かっていて開かなかった。止むを得ずだ――へと乗り込むと、車はすぐに発進する。 「おい、何処行きやがる」  今日はバイトが、と言おうとして、大柴の機嫌がすこぶる悪いことを察して口を噤んだ。むしろ怒りたいのはこちらだというのに、どうして俺が気を遣わなければいけないのだろう。大柴の前だと時々自分がわからなくなる。 「なんで電話に出ねぇんだ」  やはり拗ねていやがる。アポイントなしにやって来られるぐらいなら、せめて通話に出てやればよかったと少しだけ後悔した。 「授業中だぞ」 「知るか。俺も授業中だった」 「どんな学校だよお前のところは……つーか、わざわざここまで来て何の用だ」  信号に引っかかると大柴は短く舌打ちをし、ブレーキを踏んだままこちらを振り向く。サングラス越しに目が合い、なぜかあの日の夜を思い出して急に気恥ずかしくなった。あの日の出来事は何度も忘れようと試みたが、ふとした瞬間に大柴の温もりを思い出しては惨めな気持ちになっていた。こんなこと、二度と忘れられる訳がない。 「その……なんだ、お前と飯でも行こうと思って」 「は?」 「いいだろ飯ぐらい。たまには幼馴染と話したいこともあるだろうが」  幼馴染だと? どの口がそう言っているのだろうか。眉間に皺が寄るのと同時に、不自然に心臓が高鳴っている。 「生憎だが、俺は今からバイトなんだよ……あ、次の信号を右に曲がれ」 「じゃあ終わるまで待ってる。因みに俺の奢りだ」  奢りという言葉に嫌でも眉尻がピクリと反応した。それを見たのであろう大柴は余裕のある笑みを浮かべている。やはりこの男はいちいち気に食わない�� 「当たり前だろうタワケが。八時に迎えに来い」
 半信半疑で仕事を終えて外へ出てみると、暗闇の中でもその車体ははっきりと窺えた。運転席のシートを倒して眠りこける大柴の姿を認め、小さくため息をついたのち窓ガラスをノックする。  そこから車を走らせること数分で焼肉屋の駐車場に辿り着いた。「今日は肉の気分だな」と笑った男に俺はまだ少しだけ警戒心を抱いている。  当たり前だが運転してきた大柴は酒を飲まなかった。俺も翌日のことを考えて酒はビール一杯に留め、たわいも無い話をして二時間ばかりで店を出た。何も言わずとも実家まで送り届けた男は欠伸を噛み殺しながら「じゃあ、またな」と言った。やはり次もあるのか、と内心で思うだけにして、家の前で車が見えなくなるまで見送った。  そんなことが週に一度、あるいは二週に一度ほどのペースで続いている。俺のスマホの着信履歴には「バカ喜一」という名で登録された番号がずっと並んでいる。発信履歴には、未だその文字が一つもない。
 ⌘⌘⌘
 雲一つなく晴れた火曜日だった。季節はいつの間にか夏から秋へと移り変わり、この奇妙な関係が始まって半年が過ぎていた。  あれ以来大柴と酒を飲むことはあっても、ひどく酔うこともベッドを共にすることもなかった。人当たりが決して良いわけではない君下にとって、大柴と過ごす時間は己を晒け出せる数少ない機会になっていた。正反対の性格とは、裏を返せば酷く似通った思考をしているということだ。その証拠にサッカーに関して言えば、同じピッチに立った二人の呼吸はぴたりと合う。そう考えると自分たちは決して相性が悪いわけではないらしい。近過ぎた距離だけが互いを嫌悪する理由だったのかもしれない、と今更になって思うのだった。  ともあれ俺は大柴に特別な感情を抱いている。これが恋なのかはわからないが、自覚するまでに大した時間は掛からなかった。
「珍しいな、お前から誘ってくるなんて」  柔らかな午後の日差しが差すテラスでアイスコーヒーを啜っていると、待ち合わせの時間よりも少し早くやってきた大柴が隣の席に腰掛けた。初めて俺から電話をかけて、まだ三十分も経っていない。手にしていた文庫に栞を挟み、テーブルの上のスマホと重ねて置き直した。 「まあな……早かったな」 「ちょうど風呂入ったところだった」  そう言われてみると、大柴の髪がまだ濡れているような気がした。少しだけ心拍数が上がるのを感じていると、「それで」と大柴が続きを促す。 「あまり奢られてばかりだと、あとで何言われるかわかんねぇからな。たまには俺が奢ってやる」 「うむ、よかろう」  今日大柴を誘ったのは、明日が十月十日――つまり大柴の誕生日だということも少なからず関係している。当日に予定を組まなかったのは我ながら女々しい考えだと思う。その日に都合よく誘いが来ると限らなければ、大柴に彼女がいるのではないかと勘ぐっている自分がいたからだ。今までそういった類の話をしなかったのは意図的なのかもしれない。一度だけ大柴に聞かれたことはあったが、「そういうお前はどうなんだ」と聞き返すだけの勇気はなかった。  思えば高校時代は部活に明け暮れていて、恋愛ごとなどに全く興味がなかった。幸いにもサッカー部は練習が忙しく、彼女がいる奴の方が少ない。自分のことで精一杯なのに、他人に気を遣い機嫌を取り、それが一体何になるのだろう。性欲処理なら自慰で済む。彼女だっていつかそのうち出来るだろう。当時は本気でそう思っていた。  だがそれが大学に進学し、サッカーを辞めた今でも変わることはなかった。放課後と休日の殆どを占めていたサッカーは、そのまま家の手伝いと細々とした家庭教師のアルバイト、そして勉強へと成り代わった。
 珍しく電車で来たという大柴を連れて、待ち合わせをした駅前から続くゆるい坂道を上り、裏通りにあるスペイン料理店へと足を運ぶ。予約した時間よりも早めに着いたが、カウンターがメインの狭い店内は既に半分ほど席が埋まっていた。あたりを見渡しながら「よくこんな店選んだな」と感心したように言う大柴に、「ちょうどテレビでやってたんだよ」と教えてやる。通された一番奥の席に着いたところでウエイターがメニューを持ってやって来たので、とりあえずカヴァを二杯オーダーした。  人気店というだけあり、前菜にと頼んだスパニッシュオムレツが運ばれるころには店の前に軽く列ができていた。機嫌のよいたくさんの話し声、忙しなく鳴るグラスや食器のぶつかる音、薄暗い空間にぶら下がったあたたかな裸電球の色と陽気なギターが鳴るラテン音楽。舌を弾ける慣れない泡に気分はすっかり良くなり、塩気のきいた料理はどれも絶品だった。魚介のたっぷりと乗ったパエリアをつついている大柴も「お前にしては悪くないチョイスだ」とへらりと笑い上機嫌だった。本当に機嫌がいいらしくいつもよりもグラスを開けるペースも早く、いまは何杯目かのテンプラニーリョを舐めている。 「なあ、そろそろ付き合わねぇか」  まるで昨日の試合結果を伝えたかのような、何気ない口調だった。だから気分よく酔っていた君下は危うくその言葉を聞き流すところだった。 「そうだな……って待て、おい、今なんつった?」 「だから、付き合おうかって聞いてるんだよ」  やはり大柴は天気の話でもしているかのように言うものだから、話の内容が鈍った頭に入ってこない。言葉に詰まっていると、追い打ちをかけるようにワイングラスを持つ手を上から握られる。ああ畜生、なんてずるい奴だ。こうされてしまえば、その大きな手を振り解くことは難しい。悔しさにぐっと唇を噛みしめていると、それを見た大柴はにやりと勝ち誇った笑みを浮かべている。 「明日が俺様の誕生日だと知らなかったわけではあるまい。だからプレゼント代わりにお前をも貰ってやろうと言ってるんだ」 「っ! 畜生が」 「返事はイエス以外聞かねぇぞ」 「じゃあわざわざ聞くんじゃねぇよ」  分かっているくせに、とテーブルの横に下げてある伝票をひったくり、そそくさと席を立ちレジへと向かう。入り口付近の小さなパーテーションで会計をしていると、大柴が俺の背後を通り過ぎながら「俺の家な」と耳打ちした。 「クソ……やっぱり嵌められてんのかも」  俺は騙されているのだ。頭ではそう思っているが、素直にうれしいと思っている自分もいる。無意識ににやける口元をこれ以上誤魔化しきれそうに���い。顔が妙に熱いのは、飲みすぎた赤ワインだけのせいではないような気がした。  
 ∵切れない関係
 なぜこいつなのだろう、と腰を動かしながら何度も思った。打ち付けるたびに君下の細い腰がびくり、と跳ね、だらし無く開いたままの唇がてらてらと濡れているのが視界に入る。正直に言うと、男は論外だと思っていた。突っ込まれる側なんて勿論無理だが、抱くことすら考えたことなどなかった。だが現実に今、同じ男である君下の中を貫く己の欲望は、はち切れそうなほどに張り詰めていた。 「んっ……もう、出そう……」 「ぐッ……あぁっ……」  思ったより限界は近い。一刻も早く欲を吐き出したくて、内壁を擦り上げるように性器を擦り付けた。ぢゅぷ、ちゅぷ、と音を立てるそこは何で濡れているのかも定かではない。そもそもここ小一時間ほどの記憶が曖昧だった。懐かしい顔ぶれで年に何度かの会合をしていたはずが、いつのまにか幼馴染と駅前のラブホテルの一室にいる。アルコールの影響でどろどろに溶けた思考のまま、自力で立つことすらままならない様子の君下を壁に押し付け、服もそのままに膨らませた股間を擦り付けた。俺以上に泥酔している君下の、苦しそうに息を吐く唇に吸い寄せられるように口づけ、気がついた頃にはこうなっていた。うつ伏せになった君下とシーツの間に左手を差し込むと柔らかいものに触れたが、同時に生温かい滑りを感じて君下がいつのまにか一度達したことを察した。別に否定したいわけではない。だがこれは、明らかに男同士のセックスだった。
 正直に言って、あまり居心地のいい視線ではなかった。理由はわからないが、俺は君下に睨まれている。長年の付き合いで君下が俺を好ましく思っていないことは知っている。だがこうも判りやすい嫌悪を示されたことはなく、大抵は俺の存在自体を無視されることが多かった。だから睨まれていることに気づくと、必然的にその視線の意味を知りたくなった。  カルピスらしきものを飲む君下を盗み見る。長い前髪が邪魔をしてうまく表情は読み取れないが、一番遠いこの席から見てもわかるほどに、顔全体が赤く染まっていた。酒は弱いのだろうか。それとも顔に現れるタイプなのか。ともかくジョッキを握りしめたまま、誰と話すわけでもなくちびちびとそれを口に含み続けている。君下の隣に座る鈴木とたまに目が合うが、俺が君下を見ていたことは恐らく気づかれていないだろう。  結局何一つ答えを得ることができないまま、会はお開きになり、大げさに手を振りながら終電組が帰って行った。俺の住むマンションはここからそう遠くない。酔いも心地よい程度に留まっている。どうせタクシーで帰るのだ。今すぐ帰る理由も見当たらず、かといってこれ以上残る目的もない。帰りたくなれば適当に抜ければいいか、などと思いながら、なんとなく人の流れに乗って歩いていると、前を歩く臼井が君下に何かを話しかけている。 「明日休みなんで大丈夫っす」  大丈夫ではないことは、その不確かな足取りを見ればわかる。臼井もおそらく分かっているだろうが、本人の意思を尊重したのか、「それならよかった」と笑いかけるだけだった。いや、良くねぇだろう。そう思うと、俺の体は勝手に動いていた。
 初めて身体を重ねた日から、ずっと君下のことが頭を離れなかった。かわいそうだと思ったわけではない。だがあの時、酔った君下を放っておけないと思ったのは紛れもない事実だった。本能に突き動かされるまま、適当に連れ込んだホテルで衝動的に身体を繋げた。俺も大概酔っていたのだろうが、壁に押し付けた君下を前に、俺の下半身はしっかりと反応を示していた。それでも誰でも良いわけではないことは、プライドの高い俺自身が一番よく判っている。俺はあの時たしかに、幼馴染である君下敦という男に欲情していたのだ。     ⌘⌘⌘
 君下が会計を済ませている間にタクシーを拾うと、行き先を告げて後部座席へと乗り込んだ。待ちわびた瞬間だった。まさか自分の誕生日の前日に食事に誘われるとは夢にも思わなかった。遅れてやっきた君下が隣へ乗り込むと、自動的に扉が閉まり、ゆっくりと車は夜の東京を滑り出す。緩やかな車の揺れに合わせて時折触れた肩だけが、これが夢ではなく現実なのだと俺に訴えかけていた。   そうして俺たちは晴れて恋人同士になったわけだが、思っていたよりも上手くいっていたと思う。付き合うとはいっても、俺は所属している大学のサッカー部の練習、君下はバイトと実家の手伝いで忙しい。会う頻度は付き合いはじめる以前と大して変わらなければ、行き先だっていつもの居酒屋か、俺の気に入っているバーだったり、そんなもんだった。デートらしいものをしたこともないが、あれほど仲の悪かった俺たちにしては大きな喧嘩もなかった。友情の延長線のような関係は気楽で、それでいてやることはやっているので性欲は満たされるが、その一方で何かが足りないような気もしていた。
 互いに予定のない金曜の晩は、外で待ち合わせて軽く食事をしたのち、俺のマンションへと一緒に帰る。手間だからと一緒にシャワーを浴び、そのまま互いの性器を擦り合わせて軽く抜いた。風呂でやるとのぼせるから嫌だ、という君下の意見を酌み、濡れたままベッドルームまで運んでやると溺れるように身体を重ねた。本来ならばモノを受け入れる場所ではないそこは、初めて抱いた頃と比べると、随分と慣れた様子だった。恐らく君下には他にも男がいたのだろう。本人に直接聞いたわけではないので確信はなかったが、そう思うと胸のあたりがもやもやとした。これがいわゆる嫉妬だということに気づいてしまえば、どうしたってあの男を自分だけのものにしたいと思うのは人間の本能だ。存在すらわからない相手に嫉妬し、根拠のない怒りをぶちまけるかのように、ぐったりとした細身の身体を力任せに何度も突き上げた。
 二度目のシャワーを浴び終えベッドへと戻ると、気を失っていたはずの君下が起きていた。俺の枕を抱えて力なく横たわっている。自分の放った精液にまみれていた白い腹も、いつの間にかきれいになっていた。 「一緒に住まねぇか」  ベッドの空いているスペースに腰かけながら、ずっと思っていたことを口にした。寝ぼけ眼だった君下の瞳が少し見開かれる。 「というかここに住め。特別に家賃は要らねぇし、家の世話をするなら今雇っている家���婦と同じ額を出してやる」  実家の手伝い以外にもバイトをしているということは、この男は相変わらず金に困っているのだろう。男二人暮らしの生活費を稼ぐために掛け持ちをしているというのに、さらに俺と会うためにバイトを増やさ���れば会う時間も今以上に限られてくる。そんなのは堪ったものではないだろう。 「えっこの家……家政婦なんていたのか」 「当たり前だろう。俺が家事をやると思ったか」 「まあ、確かに想像できねぇな」 「だろう。それに慌てて帰る必要もなくなる」  俺がただこいつをそばに置いておきたかっただけだ。これは俺のわがままなのだと、そんなことは分かっている。だがそれを素直に口にしたところで、この男が素直に従うという期待はしていなかった。一緒にいるための理由を必要としたのは、曖昧なこの関係を、何かで縛っておきたかったからなのかもしれない。そのぐらい俺たちの関係は、ひどく壊れやすいもののような気がしていた。
 それからすぐに君下は、両手に荷物を提げて俺の住むマンションへとやってきた。古い旅行鞄はいつかの修学旅行で見たような気がする。くたびれたそれに入っていた殆どは大学で使うらしい参考書や難しい本だった。最小限の服も私物も、あっという間に俺の部屋の一部となった。  家事はある程度できるという君下に「とりあえず腹減ったから何か作れ」とリクエストをすると、「じゃあまずは買い出しに付き合え」と交換条件を言い渡された。ここの家賃は勿論、食費などの生活費もすべて俺が――正確には俺の親父が――支払うとの約束だった。 「冷蔵庫は酒か水しかねぇし、お前ちゃんと食ってるのかよ」  呆れた様子でほとんど使われていないシステムキッチンを確認した君下は、「うわ、鍋もフライパンもねぇな」と頭を抱えている。俺は食事の大抵を外食か、もしくは週に二度やってくる家政婦が作ってきたもので済ませていた。広いキッチンにはコンロのほかにオーブン機能付き電子レンジも備わっていたが、自分で使うのはドリップ式のコーヒーメーカーぐらいものだろう。  そのほかにもあれやこれやと君下が買い物リストを作り、行き先も近所のスーパーから少し離れたショッピングモールへと変更になった。広々とした店内で大きなカートを押して歩きながら、いかにもカップルらしいなとどこか他人事のように思った。 「もっと良いもの買えよ、どうせ俺の金だ」  俺がそう言ったのも何回目だろうか。貧乏性とは知ってはいたが、まさかここまでだとはさすがに思わなかった。どうでもいいものはいつまでも悩むくせに、よく使うような必需品は百円ショップなどで済ませようとする。現にいま君下が選んでいる包丁も、まるで子供のままごとに使うもののように安っぽい代物だった。 「これちゃんと切れんのか?」 「喜一、お前はわかってねぇな」 「あ? なんだと」  プラスチックの箱に入ったそれを籠へと放りながら、君下は得意げな顔で俺を見る。いつになく楽しそうな男は、「切れねぇ包丁で料理するのが主婦ってもんだろ」と訳の分からないことを言い、見下したように笑っていた。俺はその言葉の意味���いまいちわからなかったし、それを理解する日は一生来ないだろうと思った。切れない包丁を買ったその日、君下は案の定涙を流しながら玉ねぎを切っていた。頭がいい癖に意外とバカだというところも愛おしい。玉ねぎ入りの焼きそばを食べながら、いつのまにか心底こいつに惚れていることに気づかされた。  だが、そんな日々は半年も続かなかった。いつかこうなると分かっていたのに、どうして止められなかったのだろう。君下が毎日刻んでいた玉ねぎの香りは、もう思い出すことができない。
  
 
 ∵花が散る
 いつのまにか桜が蕾をつけている。  君下と最初に寝たのも確か去年の春だったな、と教室から見える中庭の木々を眺めていると、ふいにポケットの中身が震えた。先月買い替えたばかりのスマートフォンを取り出すと、君下から「今日は実家に泊まる」と短いラインが入っていた。ロックを解除して「了解」とだけ返事をしながら、そういえば今日は練習がなかったのだと思い出す。まっすぐに帰宅してもどうせ夕食は外で摂ることになるだろう。
「あ、大柴くん。今日って結局来れるんだっけ」  退屈だった講義が終わり、荷物を纏めていると斜め後ろの席から声をかけられた。聞き覚えのある声に振り向くと、ミルクティーブラウンの長い髪をひとつにまとめた女がこちらを覗き込んでいる。確か同じサークルのミキだかそんなありきたりな名前だったはずだが、女の名前にいまいち自信はなかった。 「あー、たぶん行けるけど」 「よかった! 大柴くん最近来ないことが多かったから、ちょっと寂しかったってミキが言ってたよ」 「ああ……」  ミキはもう一人の連れのほうだったか……なんて失礼なことを思いながら、集合場所を聞いて一度その場で別れた。どのみち今夜は一人で食事をする予定だったので、それに人数と酒が少し加わる程度だ。思い返すと君下と一緒に暮らし始めてからは、籍だけ置いていたサークルにはほとんど顔を見せなくなっていたので、たまにはこういう日も悪くないのかもしれない。そう軽く見ていた俺が甘かったのだ。  時間を気にせずに酒を飲んだのは久しぶりで、情けないことに早い時間に潰れてしまった俺は、目を覚ますと見知らぬ天井が視界に入り大いに戸惑った。泥の中にいるように重たい身体と、どくどくと脈打つような頭の痛みにしばらく起き上がることも適わない。肌に当たる感覚から今俺はベッドの上にいて、そう広くはない部屋のどこかからはすうすうと規則正しい寝息が聞こえている。それも一つではなく、この空間に複数人いることはなんとなく察した。  これはものすごくまずい状況ではないか。ベッドに横たえたまま顔を動かすと、顔のすぐ隣に女の真っ白な太腿がある。花柄のスカートはめくれ上がり、布の隙間から薄桃色の下着が覗いていた。頭の痛みどころではないこの状況に飛びあがるようにベッドから降り、部屋を見渡すと、サキもミキもアサミもマリも服を乱し、誰だかわからない女と男が���こら中に横たわり眠りこけている。 「なんじゃこりゃ」  覚えのない光景に呆然としていると、ずるり、と前の開いたスラックスが落ちかけたので慌てて引き上げる。通していたはずのベルトは見当たらず、背中を嫌な汗が伝う。嘘だろう。まさか俺は――  慌ててチャックを引き上げると、布の上から財布もスマホもポケットに入っていることを確認して大慌てで部屋を出た。失くしたベルトなど今はどうでもいい。とにかくこの悪夢のような場所から一刻も早く立ち去りたくて、安っぽいホテルの廊下を一目散に駆け抜けた。
 その日は幸いにも土曜日で大学に行く必要はなかった。だが夕方には練習があるので、面倒だが一度車を取りに戻ることにした。時刻はちょうど朝の八時を過ぎ、駅前には休日出勤のサラリーマンがちらほらと窺える。コンビニに寄り、水と頭痛薬を購入して飲み込むと、ホテルを出たころよりも幾分か冷静さを取り戻したような気がした。  一日ぶりの愛車を運転しながら、昨夜のことは考えないようにしていたがどうしても罪悪感がぬぐい切れない。何が起こったのか一切記憶はないが、所謂ラブホテルのような場所で目が覚めてしまえば、どんな馬鹿でも大方の予想はつく。ずっと大柴の隣に座っていたミキ――サキだったかもしれない――が、始終俺にべったりくっついていたことは覚えている。俺にその気がなくたって、何もなかったとはとてもじゃないが思えない。  ふらふらになりながら帰宅すると、玄関にはないはずの靴がきちんと脱ぎ揃えられていて、またもや嫌な汗が額に浮かぶ。まさかもう帰ってきたのか? あれからまっすぐに帰ったので、時刻はまだ九時にもなっていない。思わず独り言が零れたのと、寝室の扉が開くのはほぼ同時だった。 「よお……俺が居ねぇからって夜遊びか?」  靴を脱ぐために腰かけた俺の背中に、低い君下の声が刺さる。長い付き合いの中で君下の怒った声は何度も聞いているが、これは俺の知っている声とはだいぶ違っていた。ぞくり、と鳥肌が立ちそうなほどに冷たく、突き放すような声だった。振り向かなくとも君下が本気で怒っているのだと気づいた俺は、弁解したい気持ちを抑え、「急な集まりで飲みすぎて終電逃しちまった」とだけ報告した。暫くの沈黙が流れる。居心地の悪さを誤魔化すように、脱いだ靴をきちんと並べなおしていると、君下は「さっさと風呂入ってこい」と吐き捨てるように言うとリビングへと去って行った。  熱いシャワーを浴びながら、今回の件をどうやって切り抜けようかと考えていたが、リビングでコーヒーを飲んでいた君下に「女と寝ただろ」と先手を打たれてしまった。 「くせぇんだよ。如何にも頭からっぽです、みたいな品のない香水を振りまいてんじゃねぇよ」  自分では気づかなかったが、帰宅した当初から俺が纏っていた匂いがいつものそれではないと気づいていたようだった。君下の勘がいいのは昔からだが、ずばりと言い当てられて余計に居心地が悪くなる。 「お、俺は悪くねぇからな。何も覚えていないし、確かに同じ部屋に居はしたが、それだけで浮気とは限らねぇだろ!」 「誰が浮気って言った���だ馬鹿が!」 「なっ……! テメェがカマかけるようなこと言ったじゃねぇか! それに浮気って、お前こそ他に男がいるんじゃねぇのかよ」 「あ? んだよそれ、自分のことは棚に上げて、よくそんなことが言えるな!」 「おい誤魔化すなよ!」  言い訳を重ねるうちに、つい熱くなってずっと気になっていたことを口にしてしまった。「本当は俺以外にも、男が居るんじゃねぇの?」そう言うと君下は、ひどく傷ついたような顔をした気がした。バン、と大きな音を立てて、君下の変な柄のマグカップがテーブルに叩きつけられる。その音にびくり、と肩を揺らしたが、次の瞬間、君下の眉が寄せられ、その切れ長の目に涙が浮かんでぎょっとした。見たこともないぐらいぐしゃぐしゃに顔を歪め、短い嗚咽を漏らしながら泣き始めた君下に、俺の怒りはあっという間にどこかへ消えてしまっていた。両手で顔を覆う君下を抱き寄せ、震える背を力強く抱きしめる。 「ごめん、ほんとに覚えてなくて……悪かった」 「うっ……ぐ、っ」 「もう二度としねぇよ。絶対に」  どうしてこんな大事な存在を傷つけることができるだろうか。こんなにも愛おしい奴を、俺はこいつ以外に知らないというのに。  顔を覆っていた手を引きはがし、赤く腫れた目尻に口づけを落とす。ちゅ、ちゅ、と何度も優しく触れたそこは、海のようなしょっぱい味がした。君下が泣き止むころには、いつの間にか頭痛はしなくなっていた。
 それから一週間後、君下はこの家を出て行った。元々少なかった荷物はきれいになくなり、リビングのテーブルの上に「ごめん」とだけ書かれた付箋と、合鍵だけが残されていた。一度実家を訪ねてみたが、記憶の中より少し痩せた親父が出てきただけで、「あいつは秋からずっと友達の家にいるぞ」という情報しか手に入らなかった。大学の前で待ち伏せをしたことも何度かあったが、いつかのときのように、偶然に君下と遭遇できた試しは一度もない。  四月に入り、毎年恒例のOB会にも行ってみたが、案の定君下の姿はなかった。今年の幹事である鈴木に聞いてみたが、欠席の返信を貰って以降、さっぱり連絡が取れないらしい。「お前、なにかしたんだろ」臼井に似て勘のいい鈴木にそう問い詰められたが、俺たちの関係を知らないこいつらに何と説明すればいいのかすら浮かばず、「何もねぇよ」と言うことが精いっぱいだった。その年も桜はいつの間にか散ってしまっていた。いつか花見をしようと約束したが、叶うことはもうないだろう。  
 
 ∵なすすべもない
「で? いつまでここに居るんだよ。あ、俺もウノだ」  手札から一枚を切り捨てた鈴木が、思い出したかのようにそう言った。 「分かんねぇ……あいつが諦めるまで? おい佐藤、はやくしろ」 「あ~~どうしよう、ちょっと待って。ちょっと考えてるから」 「何でもいいから出せよ栄樹、どうせその手札の量だと負けるぞ」 「うるせぇ! 今からでも十分ひっくり返せるぞ、っと、ワイルド」 「色は?」 「青」 「ん、あがりだ」 「サンキュー君下、俺もあがり」 「だあああああ!! 何なんだよお前らは���」  つうかもう帰してくれ! やけを起こしカードを巻き散らした佐藤が吠える。そうは言うがいつの間にかすっかり夜も更け、もう終電は走っていないだろう。
 俺が大柴のマンションを出て向かったのは鈴木の家だった。一度遊びに行ったことのあるそこはこぢんまりとした学生向けのアパートで、広さはないがベッドのほかにどうにか寝れそうなサイズのソファーが置いてある。急に訪ねてきた俺に対し、鈴木は特に理由を求めることもせずに「ソファーなら貸してやる」と言ってあっさりと受け入れた。鈴木の住むアパートから大学までは少し距離があったが、大学を挟み大柴のマンションとは反対方面なので正面玄関を通らずに済む。  喜一のいない俺の日常は案外普通に戻ってきた。喜一に貰った金は貯めてあった上に、減らしていた家庭教師のアルバイトも再開すれば生活費には困らない。迷惑料として家賃の半分を鈴木に手渡すと「そん��の要らねぇから、ちゃんと理由だけ教えろ」と返されてしまったが。 「もう半年か? あいつ、びっくりするぐらいしょげてたぜ」 「ふん、野郎がそんなことで落ち込むたまかよ」 「でもあれはさすがに可哀そうだった。俺なんか危うく鈴木の家にいるって言いそうになったからなぁ」 「ハイハイお友達だな、泣けるぜ」  今年の春のOB会は幸運にも鈴木が幹事だった。うまく言い訳をしてくれたらしく、君下の不参加を誰も不思議に思わなかったのだろう。ただ一人を除いては。 「まああいつモテるからなぁ。ほら、顔だけはいいだろ」 「顔だけ、な」 「付き合ってたお前がそれを言ってやるなよ」  ぐしゃり、と握り潰したチューハイ缶をゴミ袋に投げ入れると、あくびをしながら佐藤は「もう寝るわ」と言って、寝床にしている床へと転がった。ローテーブルには食べかけのつまみや総菜などが残っていたが、十月じゃあもう腐る時期じゃねぇな、と理由をつけてそのままソファーへと寝転がった。 「栄太、でんき~」 「ったくお前らは……」  頭上でパチン、と音がして視界を暗闇が覆った。闇夜に浮かぶ残光性のまるい輪を見つめながら、まだ眠れそうにないなとぼんやりと思う。
 覚悟はしていたつもりだった。だがその覚悟があっても、それを受け止めるだけの心が俺にはなかったのだ。要するに子供だったのだ。俺も喜一も。青春時代のすべてをサッカーに捧げ、とても恋愛どころではなかった俺たちの心はまだ思春期にも満たないのだろう。  大柴が女受けするというのは紛れもない事実だ。背が高く顔も良くてサッカーもできる、おまけに両親は医者で運転手付きの大豪邸に住んでいる。だが壊滅的にバカなので彼女ができない。俺にとってはどれも随分昔から知っていることだった。それでも彼氏ではない関係を求める女も一定数はいるはずだった。その可能性を甘く見ていた俺にも非があると思っている。男同士だなんてうまくいくわけがない。そう思ってしまうのは、俺もあいつも元々そういう趣味ではなかったというところにある。やっぱり女のほうがいい。そう言われてしまえば最後、俺にはもう成す術��ない。そのことが一番恐ろしいと、あの日知ってしまったのだ。  実家に泊まると連絡したが、いざ自分のうすっぺらな布団で寝てみると急に寂しさがこみ上げてきた。馴染みのあるはずの布団が急に赤の他人のもののように思えたのだ。隣に感じない大柴の温もりを恋しく思い、あまり深く眠れないまま早朝に目を覚ますと、簡単な朝食とメモを残して実家を後にした。春の明け方はまだ肌寒い。それでも今頃家で寝ているであろう大柴の寝顔を思えば、寒さなど微塵も感じることはなかった。鍵を差し込み、起こさぬようにそっとドアを開けるといつもの靴が見当たらない。少しの違和感を覚えたが、寝室のドアを開けて余計に胸がざわついた。もしかしたら、もしかして――
「おい、それ、どうにかなんねぇのかよ」  うんざりしたような鈴木の声に、まどろんでいた君下ははっとした。息をしようとしてずっ、と鼻を啜り、そこでようやく自分が泣いていることに気づいた。 「悪い、へんな夢見てた」 「毎日か?」 「……」  毎日とは、と聞き返さなくても意味が分かった。おそらく俺は無意識のうちに、毎晩こうして悪い想像をしながら泣いていたのだろう。 「いい加減にちゃんと話し合えよ。案外あいつも同じ気持ちかもしれないだろ」  鈴木の言葉は全くの正論だった。俺は佐藤に差し出されたティッシュボックスから一枚を引き抜くと、思い切り鼻をかんでゴミ箱に向かって投げた。 「すまねぇな」 「そう思うならさっさと服着ろ。そんで荷物持って外に出ることだな」  徐に立ち上がり、部屋の明かりをつけた鈴木を目を細めながら見上げる。素っ気ない口調から怒っているのだと思っていたが、意外にもその口元は笑っていた。ぽかんとした表情で見上げていると、アパートの外から短いクラクションの音が鳴る。「お、早かったな」と呟いた佐藤はスマホで何かを打ち込んでいる。 「おい、まさか」 「迎えがきたぞ。さっさと帰るんだな」
 ∵エンドロールにはまだ早い
 低いエンジン音が振動となって両脚を伝う。途中で買ったトールサイズのラテを飲みながら、落ち着かない気持ちをどうにか抑えようと試みていた。  佐藤から連絡があったのは先週の木曜日の午後だ。休講になった四限を車で寝て過ごし、練習へと向かおうとした時だった。寝ぼけ眼で電話を取り、「ふぁい」とあくび交じりに返事をすると、「お前、今日鈴木の家に来れるか」といきなり要件を伝えてきた。 「君下がいる。練習が終わったら来いよ」  君下が出て行って、既に半年が経っていた。
 俺が悪いのだと分かっている。だが別れも告げずに急に消えた君下に対し、俺だって怒りがないのかと聞かれれば答えはノーだ。知り合いをつたって探し回ったが、一向に足取りがつかめない。これは誰かが嘘をついている可能性もあると思ったが、そうまでされるとあいつを連れ戻そうという気にはこれ以上なれなかった。  君下にはやはり男が居たのだろうか。あの時はつい頭に血が上り、かっとなってそんなことを口にしたが、思い返してみるとあいつがそれに明確な答えをしたかどうかは分からない。もしかしたら俺がほかの女に手を出したことをきっか��に、ただ俺と別れる理由を作りたかっただけなのかもしれない。いや、でも――。考えれば考えるほどに悪いイメージは浮かんでは消え、忘れようにも忘れられない。まさに悪循環だった。  君下がいない間、あのサークルの集まりには何度か顔を出した。寂しさを埋めたいだけなのか、あるいは自分を試したかったからなのか。黙っていれば女には困らない容姿をしている自覚はある。見てくれだけを狙っている馬鹿な女は案外あっさりと釣れた。  だが何度女の裸を前にしても、どうしても抱く気にはなれなかった。華奢な美女からむっちりとしたギャルまで様々を試してみたが、ただ目の前のそいつが君下ではないという現実を突き付けられるだけで、そのたびに無駄に張り手――もれなくインポという不名誉な称号付き――を食らう羽目に遭ってしまった。それはプライドの高い俺の心を傷つけるだけでなく、本気で不能になってしまう予感さえしていた。君下のいない今、唯一の友人である佐藤に泣きつくと、「俺も何かわかったら連絡するから」と毎度困った顔で慰められた。  そして佐藤はその約束を守ったらしい。
 鈴木の住まいは何の変哲もない、いたって普通のアパートだった。住所を教えられたが今が夜だということもあり、この何の特徴もない建物を見つけるのに随分と時間が掛かってしまった。パッ、と短くクラクションを鳴らすと、佐藤から「今行く」とラインが入り、程なくして二階の角部屋から男が一人出てきたことが窺える。遠目で見てもわかる、長い黒髪の男は紛れもなく君下だった。  逃げられるかと思ったが、君下はまっすぐに俺の車へと歩いてくると、何も言わずに助手席へと腰かけた。大きな荷物は膝の上に抱えたまま、その眼はじっと前方を見据えている。 「帰るぞ、君下」  返事はないが、君下は大きなカバンの上からシートベルトを締めたのでそれを了解と取ることにした。まるで家出した息子を引き取りに来た親父のような気分だな、と呑気なことを思いながら、俺はゆっくりとアクセルを踏み込んだ。
 深夜の道路は思ったよりも空いていて、互いに一言もしゃべらないままあっという間に自宅マンションへと辿り着いてしまった。地下駐車場に車を停め、エレベーターで六階へ昇る。隣の住人はまだ起きているらしく、玄関の外にまで深夜のバラエティ番組の声が聞こえていた。  靴を脱ごうと背を屈めると、急に背中に重みを感じてバランスを崩した。 「おわっ?!」  どすん、と派手な音を立てて俺は膝から転げ落ちた。すぐに受け身を取った上にマットレスのお陰で痛みはないが、急にのしかかってきた君下に「何だよ、危ねぇだろうが」と文句を言おうとした俺の唇に、あたたかなものが触れた。 「?!」  突然に口づけられ、無防備だった唇の隙間から舌が侵入してくる。歯列をなぞり、その奥で縮こまっていた俺の舌を探り当てるように、君下の舌がじゅ、ぢゅっ、と厭らしく音を立てながら吸い上げる。 「あっ、まへ……」  久しぶりの感覚に腰がじん、と痺れ、貪りあうような口づけの合間に吐息が漏れた。すべてを吸いつくすかのような、君下の積極的な舌遣いに柄にもなく翻弄されっぱなしだった。いつの間にか俺の両手は君下の腰を抱き、シャツの裾からやわらかな肌を探り当てようと伸びてゆく。 「はぁ……っ喜一、っ」  ここはまだ玄関先で、足元には靴を履いたまま君下はゆらゆらと腰を動かしている。俺の顔を両手で挟み、しっかりとその存在を確かめるように深く口付ける。忙しない接吻に口の端から唾液がこぼれるが、それすらも吸い尽くすように君下の赤い舌が俺の顎を這う。 「おい、どうした……らしく、ねぇじゃねぇか」  ようやく解放された唇は酸素を取り込み、久しぶりに深く呼吸をしたような気がした。上気しぼうっとした様子で膝立ちになる君下を抱き寄せる。柔らかな黒髪の隙間に指を差し込み、首筋に鼻先を埋めると久しぶりの君下の匂いがした。 「どこにも行くなよ」  ようやく捻り出した声はどこか頼りのない声だった。君下に会ったら、言ってやりたいことはたくさんあった。この半年間、どんな思いで俺がお前のいない家に住んでいたのか。必死に探して、誤解を解いて謝ろうとして、それでも見つからないお前のために、何度眠れない夜を過ごしたのだろう。言いたいことは山ほどあったはずなのに、いざ本人を目の前にしてしまうとそのどれもが無意味だった。伝えたいことはただ一つ。どんな形であれ俺のそばに居てほしい。たったそれだけだったのだ。 「去年の今日……お前が俺にくれたものを覚えているか」  きつく抱き寄せたまま、君下は何も言わない。俺の真横にある顔が、どんな表情をしているのかすら分からなかった。 「あの時のプレゼントを返せと言われても困るのだが」 「……クセェ奴だな」 「るせぇな、じゃあ言わせるなよ」  俺の肩で君下が震えている。泣いているのかと思ってぎょっとしたが、引き剥がしてみると目に涙を浮かべ、必死に笑いを堪えていた。  「テメェ、笑うか泣くかどっちかにしろよ」 「クク……っ。わ、笑ってんだろうがッ……ブフッ」 「あー信じらんねぇな、畜生。俺は誕生日だっていうのに」  もうとっくに日付は変わっている。十月十日――今日は俺の誕生日だ。まさかこうなることを狙ってわざと君下は戻ってきたのだろうか。そう思えなくもないし、それだけのことをやるほどこいつの性格が悪いことを俺はよく知っている。 「なあ、誕生日プレゼント、何が欲しい?」  半泣きの君下が俺に聞いた。 「あ? お前を貰うってさっき言ったじゃねぇかよ」 「それは去年やっただろ? 今年は何がいいかって聞いてやってんだよ」  確かに一度もらったものを返してもらっただけである。これで今年もお前を貰うと言えば、またこいつは居なくなり、来年の誕生日に戻ってくるかもしれない。我ながらそれを思いついたことにぞっとしたが、君下以外に欲しいものなんて今すぐには思いつかなかった。 「あ、そうだ。新しい包丁買ってくれよ」 「なんだそりゃ」 「ちゃんと切れるやつにしろよ。それでお前が俺に焼きそばを作ってくれ。春になったら一緒に桜を見に行こう。どうだ? これでいいだろう」  返事を聞く前にその唇を塞いでやる。どうか気が早いだなんて思わないでくれ。先��ことは何一つわからないが、今はこのまま君下と繋がっていたかった。俺たちの物語は、エンドロールにはまだ早いのだ。
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