#美��麗句と現実の戦乱混乱
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社会主義の敗北、サヨクがバカにされる、ハリスの敗北、 ざっくり共通点 いいこと言っててもなんか料簡が狭いなー(その理想、実現手段が足りてない感じ、今、実際は無理っぽいなー)、だから
#パーツ不足#不十分#自分でもわかるでしょ#現実全部をちゃんと勘定に入れないと#実現しないことを語って結局ウソっぽくなってる#身近なところで実現しよう#自分が幸せになって見せて#実現あるのみ。議論はその次#言葉だけ#美辞麗句と現実の戦乱混乱#抑えが効かない#現実#抑圧がどういうかたちで必要なのか現実的にとらえないと#抑圧・権威主義、を無視してると、現実の権威主義に負けてしまう#手段不十分#発想貧困#足りない#頭が足りない#バカ#データ不足#パーツ#データ
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我が国の未来を見通す(81)
『強靭な国家』を造る(18)
「強靭な国家」を目指して何をすべきか(その8)
宗像久男(元陸将)
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□はじめに
2週遅れになってしまいましたが、8月15日、7
8回目の「終戦記念日」に感じたことをまとめてお
きたいと思います。
式典において、天皇陛下は「戦没者に対する慰霊、
人々のたゆまぬ努力によって平和と繁栄が築かれて
いること、さらには過去の反省と再び戦争を繰り返
さないこと」などのお言葉を述べられました。
岸田首相は天皇陛下と同趣��の式辞の最後に「積極
的平和主義の旗の下で、国際社会と手を携え、世界
が直面する様々な課題の解決に全力で取り組む」
「今を生きる世代、これからの世代のために国の未
来を切り開いていく」旨の言葉を付け加えました。
細田衆院議長は「日本国憲法の精神を体して恒久平
和の実現に全力を尽くす」、尾辻参院議長は自分の
体験談を述べられた後に「犠牲となられた方々のこ
とを忘れない」「戦争を絶対に起こしてはならない」
と結びました。
8月のこの時期になると、日本人として戦没者に対
する鎮魂は当然としても、「平和」(「戦争」は起
こさない)という言葉がそこはかとなく“一人歩
き”をして、多くの国民をして、“こうして念仏の
ように「平和」を口にしておれば、「平和」が向こ
うからやってくる”という錯覚に陥らせている(思
考停止というべきか)と考えるのは、うがった見方
なのでしょうか。
15日当日、各政党の談話も発表されました。談話
の全文は読んでいませんが、新聞紙上に発表された
その要旨だけでも考えさせられるものがあります。
紙面の都合上、紹介する価値があると考える政党談
話のみをさらに要約します。読者の皆様は、ぜひそ
れぞれの番号の談話がどの政党の談話かを想像して
お読みください。ウクライナ戦争などの厳しい安全
保障環境に対する認識はほぼ共通していますが、当
然ながら、その後に続く主張は各政党によって違い
ます。
唯一の被爆国として、「核兵器のない世界」の実現
に向けて現実的・実践的な取り組みを進めていく。
必要な防衛力を整備しつつ、国際協調と対話外交、
多国間協調を深め日本周辺の平和を守り、地域の緊
張を緩和させる努力をする。
他国に侵略を思いとどまらせる抑止力の確保、我が
国の主権と国民を守り抜くために積極防衛力を抜本
的に強化、整備する。
核兵器による威嚇など現実の脅威にさらされている。
「核の先制不使用」の議論を、今こそ日本が主導す
べきである。
食料やエネルギーの自給体制の強化を含めて「自分
の国は自分で守る」という現実的な安保政策を進め
ていく。
二度と戦争に巻き込まれないために、国のまもりに
対する国民の意識を高め、抑止力の構築が現実的な
手段との認識が必要である。
これらから、どの談話が与党で、その与党の安全保
障・防衛政策に反対の立場を主張する野党の談話が
どれなのか、混乱し、考え込み、そして安堵し、ま
た呆れもしました。
安堵したのは、「日頃、色々反対しているが、案外
分かっているではないか」と感じた野党に対してで
あり、呆れたのは、「相変わらず、足元を見ないで
とぼけたことを言っている。それが本心なのか」と
思ってしまう与党に対してでした。
各談話の正解は、(1)自民党、(2)立憲民主党、(3)日
本維新の会、(4)公明党、(5)国民民主党、(6)参政党
です。
総括すれば、(特に与党に対してですが)「国会議
員であることをもっと自覚して、我が国内外に起き
ている様々な事象をよく勉強して、危機意識を持っ
て国の舵取りをしていただきたい」の一言です。
(6)の参政党の冒頭には「恒久的な平和は美辞麗句を
並べるだけでは実現しない」とありましたが、その
ようなことを国民に最も声高に訴え、理解を促す必
要がある与党が「保守」の看板を下ろし、「リベラ
ル」のような主張をすることは、我が国にとって決
して幸福なことではないと思います。百田尚樹氏が
「結党宣言」し、保守の論客諸氏がこぞって現政権
を批判する訳もこのあたりにあるのでしょうし、最
近の世論調査からすると、国民の多くも見抜いてい
るのでしょう。読者の皆様はどう考えるでしょうか。
▼我が国の「防衛力」の“急所”─同盟
気を取り直して本題です。本メルマガでもすでに紹
介しましたが、私は、愚書『日本国防史』((※)に
おいて、「我が国の歴史から学ぶ4つの知恵」をま
とめ、その筆頭に「孤立しないこと」を上げ、人も
国家も仲間を選び、失わないことの大切さを強調し
ました。
(※)『世界の動きとつなげて学ぶ日本国防史』
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その内容を要約すれば、「日米同盟」の強化・対等
化、「日米豪印戦略対話(QUAD)」や「自由で
開かれたインド太平洋戦略(FOIP)」などを対
中国包囲網として同盟化まで引き上げることなどに
加え、本メルマガにおいても、貿易や食料・肥料な
ど経済的な“中国依存”から速やかに���却すること
なども提唱してきました。
今回、改めて、我が国の「防衛力」の“急所”とし
ての「同盟」について考えてみたいと思います。た
だし、この「同盟」にからむ様々な論点を子細に紹
介しますと、本メルマガ数回分に及び、本来の「国
力」分析の視点から外れてしまう可能性もあります
ので、私の問題意識を簡潔に紹介することに留めま
す。
島田洋一氏は、自書『腹黒い世界の常識』(※)の
第1章冒頭に「同盟とは何か」と題して、「同盟は
一瞬にして敵対関係に変わる。共に戦う限りにおい
てアメリ���は日本の同盟国だが、日本が中国に降伏
した途端、敵の戦略拠点として使われないよう、ア
メリカは日本を攻撃対象にしてくる。『血を流して
守る』以外に、『破壊して去る』という選択肢もあ
る。それが国際常識である」と述べています。
(※)
これまで、様々な戦争の歴史を勉強して、島田氏の
指摘のようなことがたびたび繰り返されてきたとい
う事実を知っている私でさえ、この文章を読んだト
タン、ハッとして背筋が凍りました。
我が国には、軽々に「中国が攻めてきたら、白旗を
あげればよい」と口に出す人がいますが、そのこと
は即、アメリカを敵にまわすことであり、最悪の場
合、アメリカの攻撃によって陸海空自衛隊の基地や
装備が攻撃され、国土が再び“焦土と化す”ことま
でを考えなければならないのです。
島田氏も実例として取り上げていますが、第2次世
界大戦において、フランスがドイツに降伏し、パリ
無血入城を許した時、イギリスはフランス海軍が
(海上兵力が弱点だった)ドイツ海軍に組み込まれ
ることを防ぐため、フランス海軍の艦艇を空爆で破
壊し、1000名を超える兵士も犠牲になりました。
このような経験を乗り超えてイギリスとフランスは
この後も同盟国として共に戦ったのですが、ある事
象や事件をきっかけにして「昨日の友は今日の敵」
になったことなども歴史上枚挙にいとまがありませ
ん。
さて、細部の経緯は省略しますが、1952年4月、
「サンフランシスコ講和条約」と同時に発効された
「日米安全保障条約」は、戦後の占領に続き、アメ
リカ軍による保護協定的性格が強いものでした。ア
メリカは、日本の再軍備を抑え込���と同時に、日本
列島というアジア大陸東側の戦略的拠点を敵対勢力
の手に渡さないことが目的だったために、NATO
のように「相互性」を持たない「片務性」で妥協し
たのでした。
1960年、激しい安保闘争の中で、より共同防衛
に近い条約に改正されましたが、憲法上の制約もあ
って、引き続き日本本土に米軍を駐留することを容
認しつつ、「片務性」もそのまま残存された形の
「軍事同盟」が継続されました。
この結果、日本政府は、我が国の安全保障の多くを
アメリカに担ってもらい、「軽武装・重経済」とい
われる経済発展のみを政策の最優先課題とすること
ができて、実際に高度経済成長にもつながりました。
そして、1983年、中曽根元首相のアメリカ訪問
時の「共同宣言」をきっかけに、「日米同盟」とい
う言葉が市民権を得ました。「日米同盟」は、“
「日米安全保障条約」を根幹とする日本とアメリカ
の間の包括的な協力関係”と定義され、安全保障・
防衛面だけでなく、政治、経済、社会など幅広い分
野において機能することを指しています。
以来、我が国は、ほぼあらゆる政策を「日米同盟」
を基軸にして立案し、実行してきました。一時、民
主党政権時には米中を絡めた「二等辺三角形」論も
ありましたが、そのような考えは長くは持ちません
でした。よって、歴代の首相をはじめ政治家、官僚、
有識者、それに私たち自衛隊関係者にあっても、
「日米同盟がなくなる」とか「日米同盟なき我が国
の繁栄」などについて、一瞬たりと頭をかすめたこ
とはないでしょう。
特に、防衛分野においては、戦争経験のない自衛隊
は米軍の豊富な実戦経験から学ぶことが多々ありま
したし、個人的な経験でも、在日米軍の高官たちと
親しく付き合って、お互いの信頼や友情を深めまし
た。
一方、高度成長の結果、一時は世界第2位、現在で
も世界第3位のGDPを誇りならも、防衛予算は
「GDPの約1%」にとどまり、「日米安全保障条
約」は、憲法上の制約を盾に「片務性」についても
今日まで手付かずのまま放置されています。
「同盟」を維持させるためにはそれ相応の努力が必
要なことは言うまでもありません。長年、日本の約
15倍、GDPの約3.5%に相当する巨額の軍事
予算を投入しているアメリカが、その大元が戦後の
対日方針にあるとはいえ、この状態に不公平感を持
つのは当然なのです。
2019年、トランプ前大統領が「日本が攻撃され
れば、我々は第3次世界大戦を戦うことになり、あ
らゆる犠牲を払って日本を守るが、アメリカが攻撃
されても日本は我々を助ける必要がない。彼らはソ
ニー製のテレビでそれを見ていられる」と「片務性」
を痛烈に批判し、話題になりました。
「この批判が何を意味するか」について、当時、ほ
とんどの日本人に理解していなかったと今なお想像
しています。実際、アメリカにおいては、憲法上、
条約の批准は上院の3分の2の賛成を必要とすると
の高いハードルがありますが、条約の破棄は大統領
の判断で行なうことができます。トランプ大統領の
発言はけっして脅しでもなんでもなく、大統領一人
の判断でいつでも条約を破棄することはできるので
す。
現在、「日米同盟」はアメリカの「国益」にも合致
しているし、これから先もそう願いたいですが、国
際社会を取り巻く“様々な情勢”が変われば、未来
永劫に「日米同盟」が継続される保証はありません。
大統領の判断一つで「昨日の友は今日の敵」になる
可能性を潜めていることを常に頭に置く必要がある
と私は思います。だからこそ、「自主防衛」を筆頭
にした「自助努力」が必要なのですが、それについ
ては後述しましょう。
▼我が国の「防衛力」の“急所”─同盟(続き)
今後変わるかも知れない、国際社会を取り巻く“様
々な情勢”についても触れておきましょう。前回紹
介しました伊藤貫氏によれば、冷戦終了後、アメリ
カは、人類史上一度も実現されたことがなかった
「世界一極体制」を創ろうとの野心と自信をもって
様々な外交を展開しました。その特徴は、アメリカ
を例外的に優れた国とする「アメリカン・エクセプ
ショナリズム」をもって、国際政治にアメリカの政
治制度や経済システムを採用させようとし、それに
抵抗する国々は、裁き、処罰し、時には破壊しまし
た。実際に、冷戦終結直後の1989年の「パナマ
侵攻」以降、アメリカが関与した世界の紛争は17
紛争を数えます(『習近平が狙う「米一極から多極
化へ」』遠藤誉著より)。
アメリカのこの「新外交理論」は一世を風靡し、日
本人の中にも「熱心な信者」を輩出しましたが、2
0世紀になった頃から、中東地域、ロシア、中国、
北朝鮮などが反旗を翻すなど様々な厄災が表面化し
て、ほころびを露呈し始めてきました。なかでも、
中国、インド、ロシアなどの台頭は、「一極体制」
を形なきものにして、「多極化」に拍車がかかりま
した。
そのような状況から、オバマ元大統領の「アメリカ
は世界の警察官ではない」やトランプ前大統領の
「アメリカン・ファースト」の発言などにつながり、
このたびの「ウクライナ戦争」をもって、「世界一
極体制」はその原型��留めることなく、世界は「多
極化時代」、というか「分裂の時代」に再突入した
と考える必要があるでしょう。現に、スウェーデン
にある「民主主義多様性研究所」によれば、今や世
界人口の72%に相当する57億人が「専制主義的
(権威主義的)な傾向の強い国」に住んでいるとの
ことで、これらの国々はアメリカが提唱する政治制
度や経済システムに与することをかたくなに拒否し
ているのです。
基軸通貨である「米ドル」についても、近年はユー
ロや人民元に押され、外貨準備高の約60%はドル
建て資産といわれながらも、国際決済においては4
2%に留まっているなど脱ドル化が進み、将来はそ
の地位が危ぶまれる“様々な現象”が発生するとの
予測もあります。
さて話を本題に戻しましょう。このように、将来
“混とんとした国際情勢”になることを予想せざる
を得ないなかにあっても、なおかつ「日米同盟」は
盤石で、その延長で“アメリカの「核の傘」は有効
と断定できるのか否か”を議論する時が来たのでは
ないかと考えるのです。
これまでのようなアメリカであれば、水戸黄門の
「葵の紋所」のように、それを見せるだけでひれ伏
す国はあったとしても、これから将来はその“効き
目”があるのか、逆に、アメリカが「葵の紋所」を
“出し惜しみ”するような情勢は来ないのか、など、
それらの想定を「もしかして」の範疇として捉え、
最も大事な「我が国の抑止力は大丈夫なのか」につ
いて、しっかり議論すべきなのです。
前回、中国や北朝鮮などは、自国の犠牲回避を最優
先しない可能性があることに触れましたが、差し伸
べてもらった「傘」にも問題があるとすれば、過剰
な依存を止め、逆に相対的な力関係を補い、より盤
石な抑止力を構築する上でも、(それぞれ微妙に違
う)イギリスやフランス、そしてドイツの抑止戦略
などを研究しつつ、我が国独自の「自主防衛」につ
いても検討する時期に来ていると考えます。
かつてのアメリカは、「日本の核武装は力づくでも
阻止する」との勢力が大半を占めていたものから、
キッシンジャー、ウォルツ、ホフマンなどのリアリ
スト戦略家たちのように我が国の「自主防衛」を容
認する勢力が増えつつあるのは、それが日本の「国
益」に留まらず、アメリカの「国益」にもつながる
との認識を持っているからなのです。
まさに、“時代は変わりつつ”あります。冷静沈着
に「あらゆる戦争を抑止するために、我が国の防衛
をどうするか」についてタブーを廃して、真剣に考
える時期に来ています。
令和6年度防衛予算の概算要求は過去最高の7.7
兆円だそう��、これによって通常戦力が増強され、
陸海空領域に加えて「宇宙」「サイバー」「電磁波」
に至る「領域横断」を強化する方向に舵を切ってい
るのでしょうが、これだけでは、あらゆる「戦争」
の発生を未然防止するのは困難と考えます。不確定
で、かつ厳しさを増す情勢を目前にして、ここで思
考を断ち切ることは、冒頭に述べた、念仏のように
「平和」を願うことと“大同小異である”ことを悟
る必要があるでしょう。
▼我が国の「防衛力」の“急所”─「足かせ」にな
っているもの
最後に、「防衛力」の“急所”として「足かせ」に
なっているものついて触れておきましょう。
先般のNATO会議において、東京事務所の開設に
ついては、フランスの反対もあって実現しませんで
した。NATO加盟国は、1949年に署名された
「北大西洋条約」の条約第5条において「一方の加
盟国が武力攻撃を受けた場合、他方の加盟国も共同
して自衛すること」と定めておりますが、これは
“一方への攻撃は全員への攻撃とする”「集団的自
衛権」の原則そのものの適用です。
「日米安全保障条約」は戦後の特殊事情によって
「片務性」が容認されましたが、NATOへの加盟、
あるいはNATOの東アジアへの拡大を企図すれば、
もはや「片務性」は容認されないでしょう。
第1次世界大戦時、「日英同盟」下にあった日本に
対して、イギリスから日本の参戦について再三の要
求がありましたが、日本は「国防の本質を完備しな
い外征はなじまない」と「参戦地域の限定」に執着
し、海軍の特務艦隊の派遣を除き、陸軍の派遣は拒
否しました。そのことが、のちの「日英同盟」破棄
につながったという“前歴”があります。
もし、東アジア地域で何かあった場合、NATOの
支援を得ることを期待するなら、もし欧州で何かあ
った場合に、自衛隊を派遣することを“拒否できな
い”ような「枠組み」を求められるでしょう。その
ためには、現在、憲法上、「権利はあるが、行使で
きない」としている「集団的自衛権」を行使できる
ように解釈を見直すか、憲法そのものを見直すか、
他に方法がありません。
そのよう制約は、冒頭に述べたQUADやFOIP
を実質的同盟のレベルまで引き上げる場合、あるい
は8月18日に合意された「日米韓安保協力」をさ
らに盤石なものにする場合でも同様でしょう。
いよいよ戦後80年近く、かたくなに守り続けてき
た憲法、さらにはあの手この手を使い、屁理屈をつ
けつつ、潜り抜けてきた憲法解釈や現憲法のもとの
防衛政策が限界に来ているということでもあり、
“見切りをつける”時が来たということではないで
しょうか。
その決断こそが、我が国の「国力」を維持し、憲法
��いう「国際社会において名誉ある地位を占める」
ための唯一の道なのです。皮肉と言えば皮肉ですが、
それが現在の我が国の置かれた立場であり、これま
での“ツケ”の集大成こそが将来に向けた生存の道
であろうと私は考えます。
軍事力(防衛力)についてはひとまずこのぐらいに
しておきましょう。次回は、本メルマでもすでに取
り上げた「食料・天然資源」を「国力」の要素との
観点から再度取り上げ、その後、「政治力」につい
て素人の立場ながら「何が問題なのか」について迫
ってみます。
(つづく)
(むなかた・ひさお)
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【その他】
これから本当の意味での「戦後昭和体制」(※)が終わる令和の日本。無意識と化すほど自然化されていた社会的価値観の大幅な変化に対応しなければならなくなる(価値観を作り変えなければならなくなる)。今日に至るまで続く戦後昭和体制は政治的に言うなら前回民主党が政権奪取した時に終わらせるべきだったが、残念ながらそれは失敗に終わった。初めての政権担当に民主党自体が舞い上がってしまったのもあるし、構想が膨らみ過ぎて頭でっかちになっていたのもあったと思う。端的に実務経験の不馴れさが露骨なまでに露呈したと言わざるをえなかった。政権を再奪取した自民党がゼロ金利政策でマネーを市場に大量に流通させた上で、社会全体の機運を上昇させるべく高度成長期の再来を夢想してオリンピックと万博を誘致したことに現れているように景気刺激のカンフル剤を打ってはみたものの経済成長に資するような実効性を上げることはできなかったと言っていい。結果から見れば内政において自民党(安倍政権)がやったことは大局に立って構造の変革を志向することなく社会的象徴事のイベントを掲げてなんとか誤魔化しながら戦後昭和体制のベースをそのまま平成の終わりまで間延びさせて延命させただけであるが、その間に日本社会の傷は今日に至ってより深くなってしまった。意気込みや心の持ちようで好転するようなものではないにもかかわらず、自民党が政権を担いさえすればまだまだ日本は大丈夫だとの安倍一強体制がばら撒いた美辞麗句が醸成した空気に多くの有権者が乗っかり(小泉-竹中体制の時と同じ翼賛体制)国全体を包摂してしまった。何より大きかったのは小泉ー安倍政権の間に日本で全面開花していった新自由主義のイデオロギー(ロバート・ノージックーミルトン・フリードマンーアメリカ共和党)の一般社会への浸透と蔓延化が日本国内に幅厚く存在していた中産階級を破壊したことだった。しかし、いずれにせよこれからの日本は自らの意思による主体的な変革ではなかったにせよ(日本という国にそんなものはないのかもしれない)、社会的変動による大きなうねりに引きずられる形で新たな社会的価値観に刷新されていくはずだ。今までとは違う価値観の変化に対応する新しい社会に移行させるためにはしばらくのあいだは混乱を伴う厳しい時期が続くが、その後の再起と展望のためにそれは必要であり、その避けられない(避けるべきではない)混乱は新しい価値観に基づく新しい社会のためには必要な混乱と言える。それができなければこの国は底が抜けたように堕ちるところまで堕ちていく。真の変化に混乱は切り離せない。途中でやめたり、戻ったりしないことが大事。後向きにならずに受け止めて対応することができるかどうか。もう日本はギリギリのところまで来ているのではないかと思う。絶望に近い少しの希望を何とか保ちつつ前向きになるしかない。
※ 何か特定の領域における限定した話ではなく、現在も社会全域に及んでいる昭和の残党とでも呼びたい定式化されている考え方やそれに付随して表れ出るような派生現象のほとんどすべて。
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あこがれの愛する貴方
「この試合ではぼくのことは気にしないで。練習のときも気遣ってくれなくていいし、それ以外でも話しかけてこないで。キスクラも来てくれなくてけっこうです」 勇利はきっぱりと言った。ヴィクトルがコーチになってから初めての、ふたり一緒に出場する試合だった。この日が来たらそのようにしようと、勇利は以前から決心していたのだ。 「なんだって?」 ヴィクトルは心外だというように目をみひらいた。 「どうしてそんなことを言うんだ? 俺、勇利のコーチだよね? 試合に来ているのに生徒に付き添わないなんて、勇利は、そんな間の抜けたコーチに俺をしたいのか?」 「間の抜けたコーチなんかじゃないよ。それがヴィクトルコーチの神髄なんだと思う」 「何が神髄だ。理解しがたいなりゆきだ。だいたい、ホテルの部屋が別々なのだって俺は納得してないっていうのに、勇利はこのうえそんなことを……」 ヴィクトルは不満でいっぱいという口ぶりで勇利を責めた。部屋を別にするというのは、勇利が決断し、決行したことだった。ヴィクトルはホテルへ着くなり部屋へ荷物をほうりこむと、勇利のところへ意見しに来て、「試合ではぼくのことは気にしないで」などと言い放たれ、まったく承服しかねるという態度だった。 「ぼくは完璧な選手のヴィクトルと、同じ氷の上に立ちたいんだよ」 勇利ははっきりと言い、ふてくされてベッドに座っているヴィクトルの前で胸を張った。 「そのためには、これは必要なことなんだ」 「言葉を返すようだけどね、俺は勇利のコーチをしながらだって、完璧な選手として演技ができるんだよ」 「ぼくの気持ちの問題なんだ」 勇利は重々しくうなずきながら説明した。 「ヴィクトルはぼくを気にしすぎてるんじゃないか? ──そんなふうに思いながらヴィクトルと競うのはいやだ。それに、いくらヴィクトルがそう言ったって、やっぱり何か影響はあるはずだよ。ヴィクトルはぼくに時間をかけすぎる」 「勇利に時間をかけることが俺のこころを安定させるんだ」 「そんなわけない。ヴィクトルには、ヴィクトルだけの時間が必要だよ」 「俺のことなのになぜ勇利が決定してるんだ。俺が大丈夫だと言ったら大丈夫なんだ」 「ヴィクトルはぼくに甘いからそういうことを言うんだよ。本当はそんなことないんだ。ヴィクトルは集中すべきなんだ」 「だからどうして勇利がきめてるんだ!」 ヴィクトルはあきれたように眉を上げ、両手を持ち上げて溜息をついた。 「おまえは本当に、一度言いだしたら聞かないな」 「そうだよ。わかってるならもう言わないで」 「でも勇利、コーチがいないと不安定になるじゃないか」 ヴィクトルがずけずけと言ってのけた。勇利は慌て、急いでかぶりを振った。 「い、いつかのロシア大会のことなら、あれは突然のことだったからで、どんなときでもあんなふうになるっていうわけじゃないよ」 「本当かな」 ヴィクトルが疑わしそうに勇利を見た。 「本当だよ!」 勇利はむきになった。 「今回のことは前からこころぎめしてたし、ぼくも覚悟はできてる。大丈夫だよ!」 「試合においてコーチというのは重要だよ。技術面もそうだけど、おもに精神的なことでね。味方がいるという絶対的な安心感があるのと、ひとりで過ごさなければならないという孤独な状態とではまったく心構えがちがう」 「平気だってば!」 勇利は力強く言った。 「ぼくはいままでヴィクトルとしてきたことを信じてるし、ヴィクトルが教えてくれたことは確かにぼくの中にある。それをすべて出しきって、勝つことしか考えてないんだ」 勇利は腰に両手を当て、身をかがめてぐいとヴィクトルに顔を近づけた。 「そう、ヴィクトル・ニキフォロフにね!」 ヴィクトルが瞬いて勇利をみつめた。 「ぼくはコーチとつくり上げたスケートで、完璧なヴィクトル・ニキフォロフに勝ちたいんだ。勝てると思ってる。ぼくのコーチの手腕は絶対だよ」 「…………」 「だから……、うん……、大丈夫……。ぼくはヴィクトルに勝つんだ……あこがれのヴィクトルに……もし勝ったら……」 勇利は両手の指を組み合わせ、胸のあたりでぎゅっと握って、うっとりとつぶやいた。 「……ぼくのこと、きちんとしたスケーターだって認めてくれるかな?」 ヴィクトルはやれやれと溜息をつき、かぶりを振りながら言った。 「いまだってじゅうぶん認めてると思うけどね……」 「そんなことないよ! ヴィクトルはぼくのことなんて知らないから」 「知らないわけないだろ」 「眼中にないんだよ……無名のスケーターだって思ってる……名前もおぼえてない……」 「勇利の認識は理解できない」 ヴィクトルはあきれきった口ぶりで言い、片目をすがめて勇利を眺めた。勇利は「ヴィクトルに勝つんだ……今度こそ……同じ氷の上に立って……」と頬を紅潮させた。 「こういう状態の勇利には、何を言っても無駄だからな……」 ヴィクトルが肩をすくめた。 「なんといっても、頑固だから」 「わかった? ヴィクトル。今回の試合では、とにかくそういうことだから。ぼくのことは気にしないでね」 「それはつまり……」 ヴィクトルは立ち上がり、勇利に額をくっつけるようにして近づいた。 「俺は完全に選手としてふるまうっていうことだね」 「そうだよ。コーチとしての仕事は考えなくていいんだ。いつもの、完璧な皇帝でいてくれればそれで……」 「勇利に対してもそういうことだね」 「う、うん……?」 勇利に対してもそういうこと、という意味が勇利にはわからなかった。わからなかったけれど、ヴィクトルが選手としての自分を自覚しているならそのほかのことはあまり気にならなかったので、彼は大きくうなずいた。 「そうだよ! とにかくぼくは完全な選手としてのヴィクトルと戦いたいから!」 「わかったよ」 ヴィクトルは口元を上げた。 「勇利がそう言うなら。仕方がないな……」 「本当?」 勇利はうれしくなってヴィクトルに向かい手を差し伸べた。 「ありがとうヴィクトル! ぼく、ヴィクトル・ニキフォロフに勝つために一生懸命がんばるよ!」 彼はそのままヴィクトルに抱きつこうとして、はっと我に返った。いけないいけない。コーチとしてふるまわなくてよいと言ったそばから、自分���ヴィクトルコーチに抱きつこうとしているではないか。なんという自覚のなさ。こんなことでは……、だめだめ……。 勇利はあきらかに不自然なしぐさで腕を引き、咳払いをしてとりすました。 「で、では、帰っていただけますか? ぼくたち、お互いのことよく知らないのですし、試合で戦う相手と仲よくおしゃべりなんてできませんから」 勇利のとりつくろった態度にヴィクトルは可笑しそうな顔をしたけれど、何もからかうようなことは言わなかった。彼は笑いをかみころしながら、「きみの気持ちを考えて、では失礼しようかな」とうなずいた。 「じゃあ勇利、またね」 「『また』ってなんですか? 試合が終わるまで貴方とはお話もできません」 「そうかな」 「そうです」 「そうかな」 ヴィクトルはくすくす笑いつつ歩きだした。勇利は扉のところに立ち、彼を見送って、ひろい背中を横目でちらと見た。完全に扉が閉まると、勇利は急に興奮して両手をこぶしにした。 「がんばるぞ!」 どこからか、噴き出す声が聞こえた。 コーチはそばにいなかったけれど、公式練習ではよい時間を過ごせた。焦りや不安はなかったし、自分のすべきこともわきまえていた。コーチと話しあったことや注意されたこと、試合前に気をつけるべきことなど、ひとつひとつの助言を思い出してそのとおりにすると、驚くほど落ち着いた、心静かな気持ちになった。 大丈夫。ちゃんとできてる。考えこまないこと。自信を持つ。ヴィクトルはぼくならできるって言ってくれた。ぼくもそう思う。できる。できる……。 勇利は時間いっぱいまでリンクにいた。そうしないと落ち着かないからだ。練習を終え、身支度を整えていると、さきにリンクから出ていたヴィクトルが通りすぎていった。ホテルへ戻るのかな、と勇利はさりげなく目で追った。戦う相手なので、彼を見ていると闘志が湧いてくる。しかし同時に、やはりヴィクトルはあこがれてあこがれてあこがれ抜いている、勇利が夢中な選手だった。 ……かっこいい……。 勇利は頬を上気させ、そっと吐息をついた。すごくかっこいい。すてき……。勝ちたい。勝つぞ! 勝って……ヴィクトルに認めてもらって……スケーターとして……そう……。 「きみ」 勇利が静かに決心をしていると、横合いから声をかけられた。ヴィクトルのことで勇利は頭がいっぱいだった。勝ちたい……金メダルが欲しい……ヴィクトルが出ている試合で! 「きみ」 そのあとは──ヴィクトルと──ヴィクトルと──もしかしたら仲よく──。 「勇利!」 「はい!」 勇利は飛び上がって返事をした。彼が思いにふけっているあいだに、ヴィクトルはすぐ目の前までやってきており、勇利の瞳をのぞきこんで顔を近づけていた。 「いい練習はできたかい?」 「え、あ、あの……」 勇利の頬はまっかになった。さっきまでかるがると四回転フリップを跳んでいた──勇利はまだまだ成功率が低い──崇高で皇帝然としたヴィクトルがそこにいるのだ。勇利はうろたえきってしまった。 「は、はい……」 「そう、それはよかった」 ヴィクトルはにっこり笑った。勇利はぽーっとなった。ヴィクトルに話しかけられた……すごい……。勇利は完全に舞い上がっていたが、興奮するあまり逃げ出したくもなった。しかしどうにかこらえた。��まの勇利は、コーチのおかげで、結果を出せるきちんとしたスケーターになっているのだ。堂々としていなければならない。もちろんまだヴィクトル・ニキフォロフと同じ表彰台に立ったことはないけれど──そうなれるところまできているのだ。コーチがそんな勇利にしてくれた。みっともないふるまいだけはすまい。 「あ、あの、ヴィクトルは……」 勇利はふるえる声で尋ね返した。そのたったひとことに、どれだけの勇気をふるったか知れない。 「俺かい?」 ヴィクトルは眉を上げて片目を閉じた。 「俺ももちろんいい時間だったさ。なにしろ、同じリンクにかわいい男の子がいたからね!」 勇利はぼうっとしながらヴィクトルの後ろ姿を見送った。ヴィクトルはクリストフと一緒に歩きながら、何か笑い声をたてていた。 「いきなり口説き始めるのやめなよ」 「俺は愛情表現ははっきりするたちなんだ」 「何しに来たわけ?」 「まだ試合は始まってないからね。俺には必要な時間なんだ。なにしろ俺はとんでもないことを言われたんだから……」 話し声が遠ざかり、勇利はよくわからないまま突っ立っていた。かわいい男の子って誰だろう……ヴィクトルは誰かを口説いたのかな……ヤコフコーチと話してるところしか見なかったけど……。 「勇利、なにぼーっとしてるの? 帰ろうよ」 ピチットが勇利の肩をぽんと叩いた。勇利はぱっと振り返り、ピチットの腕をつかんでぐらぐらと揺すぶった。 「ピチットくん、聞いて! ヴィクトルに話しかけられた!」 「え?」 「ヴィクトルに話しかけられたんだよ! ぼくが! すごい!」 「勇利……、なに言ってるの?」 ピチットは理解不能という顔つきだった。勇利はにこにこしながらホテルへ戻った。部屋でシャワーを浴び、ヴィクトル、かっこよかったな、すてきだったな、あのひとと同じ氷の上で戦えるんだ、と興奮を新たにした。勝つぞ。金メダルが欲しい! 大丈夫! だってぼくのコーチはヴィクトルだから! 静かにこぶしを握って気持ちを高ぶらせていると、携帯電話が音をたてた。メッセージが入ったらしい。 『勇利、部屋にいるかい?』 ヴィクトルからだった。勇利はむっとした。話しかけないでって言ってるじゃん! ヴィクトルにはヴィクトルの時間を持って欲しいって! 自分に集中して欲しいって! 生徒のことなんか気にかけなくていいんだよ! 勇利は返事をしないことにして、会ったらひとこと言ってやらなきゃ、とぶつぶつ言った。もう、ヴィクトルはぜんぜん人の話を聞いてなくて困る。どうしてなの? まったく……。 そのとき、部屋の呼び鈴が鳴った。勇利は不機嫌な足取りで扉に近づき、いきなり開け放った。ヴィクトルが立っていた。勇利は驚き、反射的に文句を言おうとした。 「ちょっとヴィクトル! 言ったでしょ! ぼくのことは……」 「きみ、時間はあるかい?」 ヴィクトルが落ち着き払って尋ねた。勇利はぱちりと瞬いた。ヴィクトルは、選手ならホテルで過ごすとき誰もがしているような砕けたジャージ姿で、いかにも練習を終えてシャワーを浴びたばかりというかっこうだった。勇利はどきっとした。 「じ、じかん……」 混乱してぼんやりと言ったら、ヴィクトルはほほえんで大きくうなずいた。 「そう、時間だ」 「じ、時間……時間は……」 「夕食を食べに行かないか」 ヴィクトルは洗練された口ぶりで誘った。勇利はまっかになった。 「えっ、あの……ど、どうして……」 「どうしてって、きみと行きたいからさ」 「ぼくと……?」 「きみと」 「よ、よくわからないんですけど……」 勇利は無意識に口元に手を当てたり、髪を払ったりしながらもじもじした。 「ぼくたち、そんなに親しくないし……」 「親しくない」 「話したこともほとんどないのに……」 「話したことがほとんどない」 ヴィクトルは一瞬、笑いだしそうな表情をした。しかしすぐに納得したように二、三度うなずき、口元を引き締めて優しく言った。 「話したことがあまりないからこそ、この機会にぜひ親密になりたいと思ったんだけど」 「えっ、し、しんみつ……」 「だってきみのスケートってすてきだ」 ヴィクトルは透きとおった青い目で勇利をじっとみつめた。勇利はくらっとした。ヴィクトルが、ぼくを……ぼくを見てる……これって現実? 「いやかい?」 勇利はうろたえた。彼は���どろもどろになった。 「い、いやだなんてそんな、あの、あのあのあの……」 「じゃあ行こう」 「あっ、待ってください、ぼくこんなかっこう……」 「ジャージじゃないか。普通だよ」 ヴィクトルが、おかしなことを言うというように笑った。勇利は自分でも何を言っているのかよくわからなかった。 「さあおいで。残念ながら外へ行くことはできないけど、このホテルのレストランはなかなかいいよ。行ったことはあるかい?」 「あ、ありません……」 勇利はヴィクトルについていきながら、自分は現実にいなくて、どこか別の世界、別の次元へ迷いこんでしまったのではないかとあやぶんだ。ヴィクトルがいる。本当にいる。勇利に話しかけている。笑いかけている。大勢に向かってなんとなくしゃべっているのではない。勇利を勇利と認識して、勇利に対して行動をしているのだ。 「すこし混んでるね。でも、窓際が空いてるな。もっとも、窓際じゃなくてもいいが。きみを見るのに夢中で景色なんて見ている時間はないから。ああ、でもきみは夜景が好きかな?」 レストランで席についても、勇利は夜景を眺めるどころではなかった。彼はずっとヴィクトルを見ていた。ヴィクトルをじっと見ていた。そのくせ、ヴィクトルが視線に気がついてほほえみ、目が合うと、さっとうつむいてしまうのだ。 「さあ、なんでも好きなものを頼んで。美味しいものをたくさん食べよう」 「ぼくはあの、試合前だし、そもそも普段からあまり脂肪食は食べないので、べつに、その、なんでも……なんでも……」 ヴィクトルが妙な顔をした。勇利ははっとした。日本語で話してしまった。 「す、すみません!」 勇利は慌てて英語で謝った。頭がちっとも働かない。えっと……英語は……どうやって話すんだったかな? 文法の組み立ては……。 「大丈夫です。ちゃんと……ぼくは……英語を話せるんです。ええ……、ご存じないと思いますが……」 「ご存じない」 ヴィクトルがつぶやき、可笑しそうに笑いをかみころした。勇利は慌てた。やっぱりすこし変だったかな? また日本語だった? 英語で話したと思ったけど。 「そう、英語が得意なんだね」 ヴィクトルはまぶたをほそめて勇利をみつめた。勇利は急いで目を伏せた。 「得意というほどでは……、いまも、なんだか……、自分でも何を言っているのかわからないし……」 「そんなことはない。綺麗でなめらかな英語だよ。俺はちょっと癖があるだろう? 表現も単調になりがちなんだ。単純な言いまわしばかりで変化に乏しいんだね。それに引き比べて、きみはデトロイトにいたから、さすがにその土地の人みたいな話し方��たくさん知ってるね」 「ど、どうして」 勇利は驚いて瞬いた。ヴィクトルがほほえみ、「何が?」と尋ねた。 「どうして……、ぼくがデトロイトにいたと知ってるんですか……?」 「…………」 ヴィクトルはぱっと横を向いて口元をふるわせた。どうしたのだろうと勇利はふしぎだった。まるで笑いをこらえているかのような表情だ。勇利が瞬いていると、ヴィクトルは視線を戻した。 「それは、有名な話だからね。べつに隠してないだろう?」 「でも、そんなこと……」 調べないとわからないのでは……、ヴィクトルはぼくに興味なんてないだろうし……。勇利はそう言いさして、興味もないのにどうしてぼくを食事に誘ったんだろうといまさらながらに考えた。えっと……、スケートがすてきだと言われたような気がするけど……、あれはきっと幻聴だろうし……妄想だろうし……。 「本人からも聞いたからね」 「え? 本人?」 「いや、こっちの話さ」 ヴィクトルは楽しそうに目をほそめ、給仕人を呼んだ。勇利は慌てた。豪華な食事を注文されては大変だ。しかしヴィクトルは、勇利がこういうときいかにも口にしそうな、ひかえめで栄養をよく考えているものを頼んだ。勇利はぽかんとした。 「合ってたかな?」 「は……、はい……」 勇利はぼうっとしてうなずいた。 「合っています……」 「そうか。それはよかった」 「どうしてわかるんですか……?」 勇利のぼんやりした質問に、水を飲もうとしていたヴィクトルは思わずといったように噎せた。 「だ、大丈夫ですか?」 「いや……、何度そういう態度を取られても、慣れないものだね」 「え……?」 「こっちの話さ」 ヴィクトルはにこっと笑った。勇利はあいまいにうなずいた。 食事のあいだじゅう、勇利は緊張していた。食べ物の味もわからない──喉も通らないくらいだったけれど、ヴィクトルに見蕩れていると無意識のうちに食べてしまうのだった。口をもぐもぐと動かしながら、そっとヴィクトルをうかがうと、目が合って、彼がまたにこっとした。勇利は赤くなってさっとおもてを伏せた。ヴィクトルがくすくす笑った。 「思い出すな。最初のころのことを」 「最初のころのこと?」 「こっちの話さ……」 勇利は口も利けなかったが、ヴィクトルは愉快な話題を提供し、勇利からもたくみに話を引き出した。勇利は彼の質問にぽつぽつと答えながら、ヴィクトルは話すのもじょうずで洗練されている、とまたぽーっとなった。 「試合、楽しみだね」 食後のお茶を飲んでいるとき、ヴィクトルが優雅にカップを持ち上げて言った。 「ぼくは緊張しています」 「緊張したらおなかがすくんだったね」 「どうして知っているんですか?」 ヴィクトルが笑った。勇利はやはり、なぜ彼が笑うのかわからなかった。 「早くきみのうつくしいスケートが見たいよ」 ヴィクトルは勇利をじっとみつめた。期待のこもった目だった。──気のせいだろうか? 「俺はね……、きみとスケートをするためにこの世界へ戻ってきたんだよ……」 「えっ!」 勇利は心底からびっくりして顔を上げた。 「……うそでしょう?」 彼はヴィクトルにおもてをわずかに近づけてささやいた。ヴィクトルはにこっと笑った。 「本当さ」 「うそ」 「なぜ疑う? 俺はきみとスケートがしたいんだ」 「信じられません」 「どうしてそんなこと言う?」 「だって……、ヴィクトルは、ぼくの……ぼくのあこがれのひとで……ぼくは……ぼくはヴィクトルに……あこがれて……あこがれて……あこがれて……」 勇利はまっかになって両手で口元を覆った。ヴィクトルは楽しそうに笑った。 「この試合の表彰台では……、俺の隣にきみに立ってもらいたいね。もちろん俺がいちばん高いところだ」 ぽーっとなっ��いた勇利は我に返り、むっとして口をとがらせた。 「ぼくだって、いちばん高いところに行きたいです」 「でもそこに立てるのはひとりだけだからね。それは俺だと思わないか?」 「そ、それは……」 「俺にあこがれてるんだろう? 金メダルを獲ってもらいたいとは思わない?」 「お、おも……」 勇利は困ってしまった。ヴィクトルに金メダルを獲ってもらいたい。だけれど、勇利だってそれが欲しかった。どうしても欲しかった。 「思いますけど!」 「そうだろう?」 「でも……、でもぼくだって、負けません。だってぼく……、ぼくのコーチはすごいんですから」 「そうなのかい?」 「そうです!」 勇利は力強く、大きくうなずいた。 「ものすごくかっこよくて……優しいし……ぼくがジャンプ跳んでって言ったら何回でも跳んでくれるし……一緒にいて楽しいし……安心するし……頼りになるし……」 「なるほど」 「教え方はへただけど……」 「へた!?」 「はい……、でもあの……それもコーチらしいっていうか……宇宙語でしゃべるから……わからないけど……わからなくてもわかるっていうか……」 「きみもずいぶんな異星人だからね」 「え?」 「いや。それで?」 「それで、それで、あの……ぼくを……」 勇利はかーっと赤くなって頬に手を当て、うつむいた。 「ぼくをその……信じて……信じてくれてて……ぼくが勝つっていつでも……いつでも信じてくれてるから……!」 勇利はぽっぽっと頬を紅潮させ、ひたすらに照れた。ヴィクトルはおもしろそうに勇利を眺め、くすくす笑ってから、得意顔でうなずいた。 「へえ、きみのコーチはそういう感じなんだね」 「そ、そうです。そんなコーチに教えてもらったんだから、ぼくだってちゃんとしてます」 「でもそんなに信じてるきみのコーチは、公式練習のときそばにいなかったみたいだよ。悪いコーチだね?」 からかうようなヴィクトルの口ぶりに、勇利はかっとなった。彼はむきになって言い返した。 「それはぼくがそばにいなくていいって言ったからです!」 「そうなのかい? だけど、生徒がそう言ったからって本当にそばにいないなんて……」 「ぼくは頑固なんです!」 勇利はますます本気になった。 「よくコーチに言われるんです! 勇利みたいに言うことを聞かない子はいないよって! だからぼくのせいなんです! コーチはぼくの気持ちを考えてくれるすてきなひとなんです! 彼のこと悪く言わないで!」 ヴィクトルは目をまるくして話を聞いていたが、勇利が口を閉じてぐっとくちびるをとがらせると、盛大に噴き出し、うつむいて肩を揺らした。勇利はびっくりした。笑われるようなこと言ったかな……。 「か、かわいい……」 「え?」 「いや……、こっちのことさ」 ヴィクトルはしばらく笑っており、勇利はぱちぱちと瞬いて彼をみつめていた。やがてヴィクトルは顔を上げると、「そう、悪口を言って申し訳なかったね」と楽しそうに謝った。 「いえ、その……、ぼくも大きな声を出してしまって……ごめんなさい。でもとにかく、ぼくはとても偉大でスケートの上手い最高のひとにコーチをしてもらっているので、貴方にだって負けるわけにはいかないんです」 「そうか」 ヴィクトルはうれしそうに幾度もうなずき、それから勇利の瞳をのぞきこんだ。熱烈な目にじっと見られた勇利は、赤くなってどぎまぎした。 「な、なんでしょう……?」 「俺にあこがれてると言ったね」 「え? ええ……」 勇利はどきどきする胸をそっと押さえた。 「でもずいぶん、コーチのことも好きみたいだね?」 「大好きです」 勇利はきっぱりと言い、子どものように真剣にこくっとうなずいた。ヴィクトルが声を上げて笑った。彼は勇利に顔を近づけてささやいた。 「俺とどっちが?」 「え!? えと……、あの、そのぉ……」 六分間練習のおり、勇利の胸には決意がみなぎっていた。すべての力をもってこの試合にのぞむぞという気持ちだった。指先はつめたく、しかし頬は熱く、胸がどきどきしていた。よくないことに、勇利はグループの一番滑走だった。 『一番滑走? いいね。だって、練習した直後にすべることができるんだよ。最高じゃないか?』 勇利は以前に言われた言葉を思い出し、自分を落ち着かせようとした。しかし同時に、そりゃあ貴方は何番滑走でも平気だろうけどね、という思いが湧き上がった。ぼくはちがうんです! 一番は苦手なの! 勇利は不安になり、彼のあのときのような明るい笑顔を見たくて、無意識のうちにリンクサイドを探した。けれどそこに勇利の望むコーチの姿はなく、彼はますます不安になった。 大丈夫。ぼくは偉大なスケーターの生徒なんだ。彼が誇りに思うようなスケートをする。ぼくはできる。だって彼はぼくを信じてくれてるもの……。 動悸がして呼吸がみだれた。視界がぐらぐら揺れそうだった。勇利はふらつきつつフェンスから離れようとした。そのときだった。 「きみ!」 練習を終えてリンクから上がったヴィクトルが、ジャージに腕を通しながらやってきた。彼は瞳をきらきらさせながら言った。 「この試合で俺が金メダルを獲ったら、結婚してくれるかい?」 「え!?」 勇利はびっくりして口をひらいた。あぜんとした。このひとは何を言ってるんだ!? 「出会ったばかりでそんなことを言うのは感心しません!」 勇利は叫んだ。 「それにぼく、コーチと結婚の約束をしていますので!」 ヴィクトルは噴き出し、楽しそうに大笑いした。勇利は憤慨しながらスタートポジションへ向かった。 もう、本当に全部出しきってやるんだから。あんなことを言ってからかうなんて、ぼくをスケーターとして甘く見てる証拠だ。ちゃんとできるんだって証明してやる! ぼくの中にはヴィクトルがいるんだから……ぼくとヴィクトルのスケート……そう……もしちゃんとしたスケーターだってわかってもらえたら……。 ヴィクトルと仲よくなれるかな? 「だから、練習のときも滑走前も来てくれないコーチなんてだめなんだよ」 ヴィクトル・ニキフォロフは胸に金メダルを輝かせ、表彰台のいちばん上から勇利を見て笑顔で言った。 「彼のことを悪く言わないでください」 勇利はつんとしておとがいを上げた。 「俺だったらそんなことはしないなあ……。ほら、今回だって、ショートもフリーも、きみのそばにいたのは俺だしね」 「ぼくが来なくていいと言ったんです」 「きみ、本当にコーチと結婚するの?」 勇利は赤くなってうつむいた。 「こ、この試合は……金メダルではなかったので……」 「金メダル獲ったら結婚するのかい?」 「ほうっておいてください」 「俺にしといたほうがいいんじゃないかな」 「からかわないでください!」 言いあっている勇利とヴィクトルを見、勇利の反対側にいたクリストフがわけがわからないと��う顔をした。 「君たち、なんの話をしてるの?」 勇利が何か言うより早く、ヴィクトルがにやっと笑って答えた。 「おかしいだろう? これが勇利の変わってるところさ」 「ぼくは普通です」 部屋でぐったりとベッドにつっぷしていると呼び鈴が鳴った。勇利はふらふらと立ち上がり、扉を開けて首をもたげた。スーツ姿のヴィクトルが立っていた。 「あ……」 勇利の目に涙があふれた。ヴィクトルだ。ヴィクトル。ヴィクトル……。 「うわーんヴィクトル、負けちゃった!」 勇利はヴィクトルに抱きつき、彼の胸で思いきり泣いた。ヴィクトルは笑いながら入ってきて、「よしよし���と勇利の髪を撫でた。 「わかってるよ、勇利。全部わかってる。おまえはいい子だ」 「すべてを出しきったんだけど……そうできたと思ったんだけど……」 「そう、勇利に何も悪いところはなかったさ。今回はただ、相手のほうが上まわっていたというだけだ」 「つ、強かった……」 「そうだね。勇利にはミスとも言えないちいさなほころびがあったけれど、相手にはそれがなかった。それだけのことだ」 「悔しいよぅ!」 勇利は泣きじゃくりながら叫んだ。 「負けたことが?」 「ミスとも言えないちいさなほころびを出しちゃったことが! ぼくに力がないからなんだ……」 「そんなことはない。よかったよ。コーチとして俺は鼻が高いよ。ほら、泣かないで……」 「ヴィクトル……ぼくヴィクトルに……ヴィクトルに金メダルをかけたくて……」 「うん、そうだね」 「ぼくは……ぼくはヴィクトルに……」 勇利はヴィクトルに思いきりしがみついた。ヴィクトルは勇利を甘やかし、黒髪に優しくキスした。勇利がくすんと鼻を鳴らしながらもすこし立ち直ってくると、ヴィクトルはベッドに座るよううながし、みずからも隣に腰を下ろした。 「どうしてヴィクトル・ニキフォロフはあんなに強いんだろう……」 「それは、同じ氷の上にかわいい男の子がいたからじゃないか?」 「強くてうれしいけど……」 「勇利のあこがれの相手だからね」 「そう……」 勇利はこくこくうなずき、涙に濡れたきらきらひかるチョコレート色の瞳でヴィクトルをみつめた。 「ヴィクトル、すごくかっこよかったんだよ。ぼく、見蕩れちゃった……。ジャンプはすべて完璧で、入り方も降りたあともものすごく複雑な動きをしてるんだよ。見た? すごいよね。それに、それに、スピンのポジションは全部うつくしくて、あと、あと……」 「勇利のポジションのほうがうつくしいよ」 ヴィクトルはくすっと笑って言った。 「だいたい……、確かにヴィクトル・ニキフォロフはスケートは上手いけど、勇利にやたらと近づいてたじゃないか。信用ならないな。誘惑なんてされてないだろうね」 勇利はむっとして口をとがらせた。 「あれはちょっとからかわれただけだよ」 「そうかな」 ヴィクトルは、彼こそからかうように口元を上げてにやっと笑った。 「彼は本気なんじゃないか? 勇利、気をつけたほうがいい。彼はおまえを気に入ってる。きっと手が早いよ」 「ヴィクトルはそんなことしない。彼のこと悪く言わないでよ」 勇利の抗議にヴィクトルは噴き出し、いつまでも楽しそうに笑っていた。勇利はきょとんとした。笑われるようなこと言ったかな? ヴィクトルはようやく笑いをおさめると、ひとつうなずいて謝った。 「わかった。悪かった。俺はやきもちを焼いたのかもしれないね……」 「やきもち?」 「勇利……」 ヴィクトルは勇利を熱心にみつめ、耳元で優しくささやいた。 「俺がいなくてさびしかったかい?」 「…………」 そのはかりしれない熱っぽい瞳、きわだって甘い声に、勇利はぽーっとなってしまった。 「そ、それはあの……」 勇利はわけがわからなくなり、まっかな顔でこくんとうなずいた。 「う、うん……」 「そうか」 ヴィクトルはうれしそうに勇利を抱きしめ、髪とまぶたにキスしてから、にっこり笑って尋ねた。 「それで、おまえはどっちと結婚するつもりなんだ?」
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事実を知らしめることが親善に
豊田有恒(作家)
愛国の一方で政府批判
このところ、韓国の反日が常軌を逸したものになっている。いわゆる従軍慰安婦の問題は、日本の巨大新聞が、その強大な影響力を行使した結果、世界中にまき散らされた虚構なのだが、いわば韓国との連携のもとで、拡大した側面も見逃せない。
明らかに、韓国は、変わってきている。なぜなのだろうか? 私は、1970年代の初頭から、韓国へ通い始め、韓国語も学び、多くの著書を上梓してきた。しばしば、親韓派と目されてもきた。弁解になるが、これには、理由がある。70年代の当時、例の巨悪の源泉である新聞社は、北朝鮮一辺倒だったのである。今日では考えられないことだが、北朝鮮を「地上の楽園」と美化し、相対的に韓国を独裁政権と規定し貶(おとし)めてきたのである。
私は、もともと、小説家であり、思想的な背景はない。韓国へ行くようになったきっかけは、小説の取材のためでしかなかった。韓国は、あの新聞社が報じるように、独裁政権の国だと思いこんでいた。これは、おおかたの日本人の当時の平均的な理解だったろう。なにしろ、良心的と目されていた大新聞が、北朝鮮への帰国事業などを後援し、後にノーベル賞を受賞する有名作家や、国際無銭旅行で大ベストセラーを出した評論家などが、すっかり賛同しているのだから、実際に韓国へも北朝鮮へも行ったことのない人間は、そうだと信じこむしかなかった。
しかし、韓国へ通ううちに、日本の報道が、おかしいのではないかと、うすうす思いはじめた。三十代はじめで若かったせいだろう、フットワークが良かったから、取材目的の古代遺跡のほかにも、あちこち歩きまわる。ディスコで知り合ったディスクジョッキーをやっているという同年輩の韓国人と意気投合したが、この男、どこでも政府批判ばかり口にする。こちらが、心配になって、周囲を見回したほどだった。日本では、KCIA(韓国中央情報部)の悪行ばかりが報道されていたから、言論の自由はないという先入観にとらわれていたが、こうした報道が、変ではないかと感じはじめた。
また、一方では、政府批判もするが、この男、愛国心を口にする。ディスクジョッキーという軟らかい職業の男が、愛国心を口にすることに、違和感も持ったが、やや羨ましくもあった。当時、日本のマスコミは、左翼デマゴーグに牛耳られていたから、愛国心などと言えば、右翼と���違われかねないような風潮が、蔓延していた。しかし、韓国では、こうした言説は、この男だけではなかった。あちこちで、北朝鮮に偏している日本の報道がおかしいとする、多くの韓国人の批判を耳にするようになった。また、必ず日本に追いついて見せるという、愛国心をむき出しにした意見にも接した。
韓国の実情紹介に誹謗中傷
韓国語が判るようになると、行動範囲も広がってくる。こうした韓国人が、KCIAに監視されているから、点数かせぎに愛国心を口にしていたわけではないと、だんだん判ってきた。バイク・カーマニアだったので、現代(ヒョンデ)自動車(チャドンチャ)や大林産業(テーリムサノプ)のショールームに足を運んで、韓国の自動車・バイク事情に関心を持ちはじめた。
日本で報道されるような「暗く抑圧された独裁国」といったイメージでないことが、しだいに判ってきた。日本で、しばしば誤解されていることだが、反日の激しさから、韓国人に険しいイメージを持つ日本人が多い。一面では当たっていないこともないが、日常の生身の韓国人は、妙になれなれしく陽気で人懐(ひとなつ)こい。
あの大新聞は、「暗く抑圧された独裁国」という疑似イベントを売りまくって、北朝鮮を美化し、韓国を貶める方向へ、日本国民をマインドコントロールしていたのだ。
韓国では、確かに日本より言論の自由が制限されていた。しかし、それは、金日成の個人崇拝による究極の独裁国家である北朝鮮と対峙するためであり、ある程度は強権政治を敷くしかなかったのである。当時、韓国では「誤判(オバン)」という表現が、しばしば使われていた。韓国国内が混乱していると見てとり、好機とばかりに北朝鮮が南進に踏み切るのではないかというわけだ。つまり、北朝鮮に誤判させないように、常に国内を安定させておかなければならなかったのだ。全ての韓国人が、ほん(・・)もの(・・)の(・)独裁国家である北朝鮮を恐れていたからだ。
こうした韓国の実情を、広く知らせたくなった。小説家という職業柄、書くメディアには、事欠かない。小説家の仕事ではないという躊躇(ためら)いもあったが、最初のノンフィクションとして「韓国の挑戦」(祥伝社)を上梓したのが、昭和53(78)年のことだった。書評では、これまでの日本の対韓認識を一変させたとまで、評された。当時の私には、巨悪と戦おうなどという大それた問題意識は、まったくなかった。
だが、ベストセラーにはなったものの、あれこれ、雑音が耳に入ってきた。この問題が、当時のマスコミ界では、タブーになっていると知ったのは、発売されてからだった。つまり、ほんとうのことを言ってしまったため、このタブーに抵触した。期せずして、あの大新聞と言う虎の尾を踏んでしまったわけだ。
朴政権に買収されている―は、まだしも上品なほうで、韓国に愛人がいるとか、韓国成り金だとか、いろいろ悪罵を聞かされることになった。そこで、子供たちもつれて、一家��人で毎年夏休みに韓国へ遊びにいき、印税を使い果たした。
日韓のため尽くした金思燁氏
あの大新聞が主導して、日本人を親北朝鮮、反韓国という方向へ誘導していたわけだが、最近は、かつての報道姿勢が嘘だったかのように、あの大新聞は、北朝鮮を賛美するようなこともなくなり、いつのまにか北朝鮮への批判を、臆面もなく展開するようになった。
それどころか、70年代当時あれほど嫌っていたはずの韓国に過剰に感情移入し、悪いのは全て日本人式の報道姿勢で、虚構に基づく従軍(・・)慰安婦(・・・)なる疑似イベントを垂れ流す始末である。多分、従軍(・・)慰安婦(・・・)報道についても、いったん非を認めたものの、真剣に謝罪するつもりなどなく、なし崩し的に、鉄面皮を決め込んで、風当たりが収まるのを待っているのだろう。
実際、当時、私は、韓国人の魅力にハマってもいた。日本人のように、控え目でなく、陽気に自己主張する姿勢が、一度も宮仕えしたことのない私のような一匹オオカミの作家には、波長が合っていると錯覚したせいでもある。
当時、知り合った韓国人のなかには、私の終生の師と仰ぐ人も、少なくなかった。東国大学の金思燁(キムサヨプ)先生とは、シンポジウムの席で知り合った。日韓バイリンガルの世代的な体験から、「日本書紀」「万葉集」を韓国語に、「三国(サムグク)史記(サギ)」「三国遺事(サムグンニュサ)」を日本語へ翻訳され、日韓古代史の研究におおいに貢献され、また、東国大学に日本学研究所を設立され、初代所長として、日本研究を韓国に定着させた功績は、おおいに評価されるべきだろう。
金先生に招かれ、東国大学で講演したこともある。最初、韓国語で話しはじめたのだが、見るに見かねて、助け船を出してくださったのは、先生の優しさだった。私のほうも、日本人を知る方々が物故して、日本語スピーカーが減っていることに危惧を覚え、毎年、拙著も含めた文庫本を教材として日本学研究所へ寄贈し、日韓親善に努めたものである。金先生は、私のささやかな協力に、研究所からの表彰という栄誉で応えてくださった。ほんとうに尊敬できる立派な方だった。
また、在日の人では、作家の故・金(キム)達(ダル)寿(ス)さんとは、古代史の会を通じて、親しくしていただいた。「日本の中の朝鮮文化」は、十数巻にわたる大著だが、日本全国に足を運んで、いわばライフワークとして書かれる際、金さんが自分に課していたことが、ひとつだけあった。韓国・朝鮮人の書いたものは、絶対に引用しないことだった。韓国・朝鮮人の書いたものなら、例の剣道の起源の捏造のように、なんでも朝鮮半島から渡来したと、こじつける文献が、いくらでも見つかるだろう。
おそらく、金さんは、韓国・朝鮮人の書いた文章を引用したいという誘惑に駆られたこともあったにちがいない。しかし、日本人が書いたものしか引用しないと、いわば、痩せ我慢のように、心に決めていたのだ。
金達寿さんとは、酒を呑んだり、旅行したり、また拙著の解説をお願いしたりしたこともある。艶福家で豪快な人だった。
今に伝わらぬ統治のプラス面
時の政権を批判して、亡命同様に日本へ渡り、「コリア評論」を主宰されていた金三(キムサム)圭(ギュ)さんとも、知り合った。何度か、同誌をお手伝いした記憶がある。金さんは、東亜(トンア)日報(イルボ)の主筆の体験を生かして、当時は画期的だったクロ��承認方式を提唱して、健筆を奮っておられた。南北朝鮮の対立状況を解消するため、中ソ(当時)が韓国を、日米が北朝鮮を、それぞれ承認することによって、平和を担保するというアイデアだった。
しかし、その後の経緯を考えれば、中露は韓国を承認したが、日米は、北朝鮮と国交を持たないままである。あの当時は、かの大新聞の陰謀で、日本では伏せられていたが、北朝鮮という史上かつてない独裁国家の実像と戦略が、今や全世界で周知のものとなったからである。
例の大新聞は、韓国を独裁国家と決めつけて、あれこれ捏造報道を繰り返したが、まもなく馬脚をあらわすことになった。あまり、褒められた話ではないのだが、不純な動機ながら、多くの日本男性が、韓国を訪れるようになり、本物の韓国を実際に目で見るようになったからだ。
今も変わらぬ売春大国は、当時から有名だったのだ。空港などでは、団体旅行の男たちが、昨夜の女がどうのこうのと、聞えよがしに話しているのは、同じ日本人として、気が引ける思いだった。当時は、日本世代の韓国人が健在だったから、日本語を理解できる。あまりの傍若無人さに、舌打ちをしながら、露骨に「ウェノム」だの「チョッパリ」だの、差別用語を口にしている韓国人も、珍しくなかった。こうした日本人は、韓国語が判らないから、差別用語で呼ばれても、判らないのだから、おめでたい話だ。
しかし、不純な動機から訪韓しようと、実際の韓国を見てくれば、韓国が制限付きながら、自由主義の国だと判る人が増えてくる。とうとう、例の大新聞も、疑似イベントのような韓国=独裁国家論を、引っ込めるしかなくなったようである。
免税店などでは、日本世代の年配の女性が、若い人に日本語を教えているケースもあった。何度か訪れ、親しくなると、世間話のようなこともするようになる。さる女性は、つい最近(当時)、女学校の同窓会を行なったところ、多くの同窓生が日本から駆けつけてくれたと、嬉しそうに話してくれた。
当時、女子の高等教育は、日本でも朝鮮でも、まだ途上だった。女学校は、いわば最高学歴で、いい家の子女しか、通えなかった。したがって、この方の同窓生は、かつてソウルに住んでいた日本人が多かったわけだ。いや、この方も、元日本人であり、内地か朝鮮かなどと、出自を気にすることなく、自由に青春を共にしていたのである。
多くの悲劇も誤解も矛盾もあったが、こうした日本統治時代のプラス面が、日本でも韓国でも、今の世代に正確に伝わっていないことが、日韓の最大の問題なのだろう。
良好になりつつあった日韓関係
70~80年代にかけて、韓国では、慰安婦も歴史認識も、話題にすら昇ったことはなかった。その後、韓国を独裁政権扱いする報道も影をひそめ、日韓関係は、良好な方向へ向かいはじめた。もちろん、一部では、反日もあるにはあったものの、顕在化しなかった。
むしろ、日本人のほうが、韓国への好感度を増していった。「冬のソナタ」のヒットの影響もあったろう。元のタイトルは「冬(キョウル)恋歌(・ヨンガ)」である。主役の裴(ペ)勇(ヨン)俊(ジュン)の魅力もあったろうが、誰が訳したのか、ソナタという言葉が効いたせいもあるだろう。
70年代、日本世代の免税店のおばさんたちは、男ばかり来ないで、女性にも韓国へきてもらいたいと、いつもぼやいていた。家内を同行すると、おおいに喜ばれた。当時、ビーズのハンドバッグ、螺鈿(らでん)の漆器、絞り染めの生地など、男には価値の判らない土産物が、韓国では安く買えたのである。時代は、様変わりして、多くの中年女性が、日本から韓国を訪れるようになった。
私も個人的に、日韓親善に尽くしてきたつもりである。東国大学以外にも、たまたま知り合いができた祥(サン)明女子(ミョンヨジャ)大学(テーハク)など、いくつかの大学へ、文庫本を教材として寄贈しつづけた。韓国の日本語スピーカーを減らさないためである。
また、本業に関して言えば、日韓の推理作家協会の交流プロジェクトが、行なわれた際には、おおいに働いたと自負している。韓国では、減ったとはいっても、日本語で案内してくれる作家に、事欠かない。しかし、日本では、「韓国の独裁政権、やっつけろ」式の景気のいいスローガンをぶち上げる作家は、たくさんいたものの、韓国語で案内できる作家が、ほとんどいなかった。「あれ(イッチョ)に(ゲ・)見えます(ポイヌン・)建物(コンムル)は(・ン)、国会(クッケ)議事堂(ウィサタン)で(・イ)ございます(ムニダ)」などと、東京観光ではバスガイドのようなことも、しなければならなかった。
90年代には、日本人の韓国に対する関心と、好感度も高まり、韓国人の日本への興味、関心も、増していった。サッカーW杯の共同開催に向けて、日韓関係は、新たなステージに向かうかに見えた。
日韓離反狙う慰安婦捏造報道
だが、ここで、あの大新聞は、またしても、その強大な権力を行使して、日韓離反の挙に出た。
1991年、いわゆる従軍慰安婦なる虚構が、報道されたのである。この巨大新聞は、現在では、いちおう虚妄だったことを認めてはいる。だが、軍隊相手の売春婦である慰安婦と、勤労動員で働いた挺身隊を、混同した報道に関しては、当時は事実関係の研究が進んでいなかったためと、弁解している。
しかし、年齢の離れた姉が、あのころ女学生で、勤労動員により中島飛行機の工場へ、自転車で通っていたのを、私ははっきり覚えている。もちろん、慰安婦とは、何の関係もない。ことは、姉の名誉とも関わってくる。
平成に入って早々のころには、あの新聞社にも、私と同世代の社員が、まだ現役でたくさん働いていたはずである。知らないはずがない。二十数年も訂正することなく、頬かぶりをしてきたのは、単なる誤報などではなく、あの大新聞が仕掛けた日韓離反策の一環で、意図的なものだからなのだろう。
日韓離反を図る大きな意思は、あの新聞の言論支配のもうひとつの柱として、吉田某なる人物による、済州(チェジュ)島(ド)における日本官憲の女狩りという、とんでもない虚構を付け加えることによって、さらに拡大していく。
しかし、その後の十数年は、この大新聞の企みは、まだ功を奏さなかった。日本では、韓国ブームが続いていたからである。これまで訪韓したことのない、中年婦人層が、韓国を訪れることが多くなり、韓流にはまった韓国語学習者も、増えていった。そればかりでなく、男性のなかにも、韓流ドラマにはまる人が多くなった。韓国の大河ドラマ「朱蒙(チュモン)」は、高句麗の開祖朱蒙を主人公とした作品だが、私の近くのDVD店では、新作が十巻入っても、即日借りだされるほどの人気だった。
朱蒙は、もともと「三国(サムグク)史記(サギ)」に記録される神話上の人物なのだが、それを強引に歴史ドラマ風に、仕立て上げるところが、まさに韓国人である。元ネタが僅かしかないので、古今東西のエンタテインメントから、使えそうな要素を、流用している。水戸黄門のような部分も、大奥のような部分もあるが、臆面もなく、受けそうな要素を投入しているから、たしかに面白いことは面白い。
また、韓国側も経済力の伸長と共に、訪日して実際の日本を肌で知る人々が増えてきてもいた。別府の大ホテルなど、経営危機に陥った苦境を、韓国からの観光客の増大で乗り切ったほどである。国際化というスローガンが、しばしばマスコミを賑わすが、お互い知り合う以外に、国際理解が進むことはない。
慰安婦と同構造の原発報道
だが、挺身隊=慰安婦という虚妄、済州島女狩りという捏造は、徐々にボディブローのように効いていった。韓国では、従軍慰安婦像なるものが、日本大使館の前に設置され、アメリカ各地へ飛び火していく。あの像は、新聞報道にあった12歳の少女として造られている。挺身隊=勤労動員には、中学生、女学生も動員されたから、その年齢の生徒たちも少なくなかったが、軍隊相手の慰安婦に、その年代の少女がいたという記録もないし、事実もなかった。
韓国では、挺身隊問題対策協議会という団体が、活動し続けている。あまりにも長ったらしいので、挺(チョン)対(テ)協(ヒョプ)と略している。あの大新聞が垂れ流した挺身隊=慰安婦という虚構を、そのまま踏襲しているわけだ。語るに落ちるとは、このことだろう。
事実関係が、はっきりしたのだから、あの新聞の責任で、韓国側に訂正を求めるのが、筋だろう。だが、あの新聞は、それをしない。それどころか、慰安婦の存在は事実だから、これまでの方針に変わりないという態度を、とりつづけている。
なぜ、こうなるのだろうか? 韓国の問題と離れるが、私も筆禍に遭ったことがある。あの新聞社は、取材も検証もしないで、記事を書くことが、はっきり判った。私が受けた筆禍など、些細なことだが、問題の根は、共通している。
私は、本業のSF小説の未来エネルギーとして、昭和30年代から、原子力に興味を持っていた。そして、日本中の原発と、建設予定地の全てを、取材した。当時、人気の「朝日ジャーナル」誌が、特集を組んだなかに、私の名前も、名誉なことに入れてあった。その特集とは、「わたしたち(原発反対派)を未開人と罵った識者十人」というものだった。もしかしたら、原発反対派を未開人と罵った粗雑な人間が、その十人の中に、いたのかもしれない。
しかし、私は、そういうことを言ったこともないし、書いたこともない。それどころか、立地点の住民の反対を尊重すべきだと、常日頃から主張してきた。また、すでに物故したが、反対派の大立者の高木仁三郎は、私の中学の同級生で、同じ大学に入った間柄であり、かれが反対意見を発表できないような事態になったら、私と意見が異なってはいても、かれの言論の自由を守ると宣言してきた。さらに、原発に反対する自由のない国は、原発を建造すべきではないと、何度も書いたことがある。
ことは、原発賛成、反対という問題ではない。こうした報道をするからには、私をふくめて、そこに記された十人が、そういう発言をしたかどうかを、取材確認する必要がある。
ところが、私には、まったく取材は来ていない。そこで、私は、雑誌「諸君」のページを借りて、当時人気だった筑紫哲也編集長宛てに、私が、いつ、どんなメディアで、そういう発言をしたかと、問い合わせた。もちろん、そんな発言など、あるわけがない。筑紫編集長の回答は、のらりくらりと、話題をすりかえることに終始した。
韓国人と〝あの新聞〟の共通点
つまり、あの大新聞は、取材も検証もしないで、主義主張に基づくフィクションを、報道の形を借りて、読者に垂れ流しているわけだ。原発などに賛成し、傲慢な発言をする非国民が、十人必要になった。そこで、関係ない人間もふくめて、誌上でさらし者にしたわけだ。つまり、原発推進めいた意見を、圧殺する方針だったのだろう。
いわゆる従軍慰安婦の報道と、まったく同様の構造である。
従軍慰安婦なるフィクションを、あたかも事実であるかのように、売りまくって読者を欺いた責任は、まさに重大である。しかも、日韓関係を破壊したばかりでなく、全世界にわたって日本の名誉を泥にまみれさせた罪科は、きわめて悪質である。
誤報ではなく、明らかに意図的な捏造である。この捏造が,韓国に飛び火すると、さらに拡大していく。その意味では、この大新聞の離反策に、うまうまと乗せられた韓国も、いわば被害者と言えるかもしれない。主義主張を真っ向か���掲げて、事実の確認も検証もしない韓国の国民性と、あの新聞の社是(?)は似ているかもしれない。
私は、過去四十数年にわたって、韓国と関わってきた。最初、自宅ちかくの笹塚の小さな教室で、韓国語を学びはじめた一人に産経新聞の黒田勝弘さんがいる。あちらは、ソウル在住が長いから、私など到底及ばないネィティブスピーカーに近い語学力だが、スタートは一緒だった。
以後、折々に韓国関係の著書を上梓してきたわけだが、その都度、親韓派、嫌韓派などと、勝手に分類されてきた。例の大新聞もふくめて、日本のマスコミが北朝鮮に淫していたころは、日本のマスコミ批判とともに、韓国擁護の論陣を張り、顰蹙を買った。また、韓国の反日が、度を過ぎたと思えば、遠慮なく韓国批判を展開してきたつもりである。
国際親善には、王道はないから、知る以外に近道はないと考え、「日本人と韓国人、ここが大違い」(文藝春秋)「いま韓国人は、なにを考えているのか」(青春出版社)など、比較文化論ふうの著書も��り、口はばったい話だが、日本人の韓国理解に貢献してきたつもりである。
もちろん、私の独断と偏見に堕す危険があるから、多くのコリア・ウォッチャー仲間から、助言や意見も頂戴し、拙著の間違いも指摘された。
転向左翼の韓国利用
いわゆる韓国病にはまりかけていたとき、早大名誉教授の鳥羽欽一郎先生から、たしなめられた。「豊田さん、日本人と韓国人は、おたがい外国人なのだから、同じ視点に立つということはできませんよ」と、確か、こんなことを言われた。そのときは、むっとしたが、先生は、韓国にのめりこみすぎている私に、ブレーキをかけてくださったのだ。
70年代、韓国にまじめに取り組もうという日本人は、それほど多くはなかった。田中明氏のような大先達のほか、外交評論の大御所岡崎久彦氏にも、お目にかかり、励ましを頂戴したことがある。外務省在勤中で、本名をはばかったのか、「隣の国で考えたこと」を、長坂覚のペンネームで、早い時期に刊行されている。現在は、本名で再版されているから、入手可能な名著である。
また、産経新聞の柴田穂さんも、大先達の一人だった。韓国関係の会合で、何度か、お目にかかり、アドバイスを頂戴したこともある。なにしろ、中国政府に批判的な記事を書き、産経新聞が北京支局の閉鎖に追いこまれたとき、支局長として残務を整理し、従容として北京を退去された剛直な方である。支局閉鎖という事態を招いたのだから、本来なら責任重大なはずだが、言論の自由を守ることを優先したのである。
それに引き換え、当時あの大新聞は、中国べったりの記事を、垂れ流しつづけていた。この新聞社には、Aという名物特派員がいた。中国通をもって自任していたはいいが、他社の記者まで、このA特派員に、お伺いを立てるようになったという。どこまで書いたら、中国政府の逆鱗にふれるか、A特派員に、判断を仰ぎに来たのだ。早い話が、あの大新聞が、日本の中国報道を検閲していたことになる。
70年代、北朝鮮一辺倒だった日本の文化ジャーナリズムの世界で、一つの伝説があった。いわゆる進歩的文化人は、自分の名前だけ、ハングルで書けたというのである。申し合わせたのかもしれないし、あるいは、あの大新聞の関与があったのかもしれない。現在からは、信じられない話だが、ハングルで名前を書いてみせるだけで、朝鮮問題(?)の権威扱いされたそうである。
しかし、現在の日韓の確執を眺めると、妙なねじれ現象がある。竹島問題にしても、従軍(・・)慰安婦(・・・)にしても、韓国側と共同歩調を取っているのは、70~80年代、あれほど韓国を独裁国家扱いして、忌み嫌っていた進歩的文化人なのである。節操もなにも、あったものではない。日本叩きに資する、あるいは、商売になると判ったら、かつて贔屓にした北朝鮮を見捨て、韓国に媚びるのだから、こういう世渡り上手と戦うのは、容易なことではない。
事実伝えることが真の親善に
翻って、現在の韓国である。反日は、狂気の沙汰の域に達している。これには、日本世代が現場から退き、あるいは物故したという事実が、おおいに関係している。私が、多くの教示を受けた方々は、もし存命なら、こんなことを言うと怒られるかもしれないが、日韓双方の美点を兼ね備えておられた。
もう一歩、踏み込んで言えば、日本の教育を受けた方々だった。立派な方というと、ややニュアンスがずれるが、韓国語でいう「アルンダウン・サラム」という方が多かった。こういう世代が亡くなり、反日が質量ともに、変わってしまった。まず、かれらが考える仮想の日本人に対して、際限なく敵意をむき出しにした、いわばバーチャル・リアリティの反日になっている。
日本では、韓国人は、険しいイメージでとらえられがちである。反日の激しさを見れば、間違いではないが、一面的に過ぎる。日頃の生身の韓国人は、お喋りで、陽気で、図々しいくらい人懐こい。日本人は、以心伝心を理想とする文化を生きているが、韓国人は、口にしたことが全てである。発信能力を磨かないと、生きていけない社会である。たとえ嘘でも、自分の主義主張を正面に掲げないと、たえず足をすくわれる危険に直面している。
そのため、国際的には、日本人より判りやすいと定評がある。よく見てもらえれば、日本人の誠意が通じるはずだが、韓国人のほうが声が大きいから、知らない人が聞くと本気にする、と言った程度には、説得力を持ってしまう。
大方の日本人の対韓姿勢は、「また、韓国人が騒いでおる。放っておくのが、大人の態度」といったものだろう。これが、日韓摩擦を拡大した主な原因のひとつである。日本からの反撃がないから、向こうは、さらに反日をエスカレートさせるのだ。
日本は、和の社会だとされる。これには、聖徳太子が引き合いに出されることが多いが、贔屓の引き倒しの面がある。有名な十七条憲法の第一条が、はきちがえられている。太子は、談合のような和を勧めているわけではない。あくまで論じてからと、なれあいを戒めている。
まさに韓国相手では、論じなければ駄目なのだ。相手は、合理的な議論が苦手だから、徹底して、論拠を上げて、言い負かすつもりで、追いつめなければ、非を認めない。一見、乱暴なようだが、反日が、高くつくという事実を、知らしめないかぎり、韓国の反日は、拡大するばかりで、絶対に解消しない。
現在の韓国は、日本世代がいなくなり、歯止めがかからなくなっている。さながら李朝時代の政争のような、権力闘争すら起こりはじめている。日本が、関わりを持つ以前の時代へ、先祖がえり(atavism)してしまった感がある。ここに乗じて、あの大新聞が、新たなテーマで反日の捏造を加えて、逆襲してくる畏れもある。いや、その萌芽は、すでに現れている。
私の「どの面下げての韓国人」(祥伝社)は、やや刺激的になるのを承知のうえで、出版社と協議して決めたタイトルである。さっそく、左翼弁護士が、噛みついてきた。ヘイトスピーチだというのである。しかし、ネットでは、すぐ反論されている。つまり読んでいないことを白状したようなものだというのである。なかには、あの本は韓国に同情しているのだ、とする感想もあった。こういう応援は、ありがたい。
私は、あるときは親韓派、あるときは嫌韓派というレッテルを、貼られてきた。私は、日本人であり、日本を愛している。その都度、批判すべきことは、日本であれ韓国であれ、批判してきたつもりである。
あの大新聞は、苦境を打破するため開き直って、韓国批判の本には、すべてヘイトスピーチだという烙印を押して、葬り去ろうというわけなのだろう。また、いわゆる従軍慰安婦の仕掛け人の元記者の就職先や自社に、脅迫があったという事実をもとに、言論の自由を盾にして、被害者の立場へ逃げこもうとしている。自分が、強大な権力をふりかざして、異なる言論を圧殺してきたことには、すっかり頬かぶりしている。
韓国には怒りを込めた反論を、あの大新聞には、厳しい追及の手を緩めてはならない。それが、ほんとうの日韓親善につながるからだ。
とよた・ありつね 昭和13年前橋市生まれ。父の医院を継ごうと医者をめざし、合格した東大を嫌い慶應大に入るも、目標が変わり武蔵大に入学。第1回日本SFコンテストなどに相次いで入賞して在学中の37年作家・シナリオライターとしてデビュー。手塚治虫のもとで「鉄腕アトム」のシナリオを二十数本担当。「スーパージェッタ―」「宇宙少年ソラン」の脚本も手掛ける。『倭王の末裔 小説・騎馬民族征服説』が46年にベストセラーとなる。47年東アジアの古代史を考える会創設に幹事として参画。50年「宇宙戦艦ヤマト」の企画原案、SF設定を担当。SF作家クラブ会長、島根県立大学教授などを歴任。63年オートバイ日本一周を達成。近著に『日本の原発技術が世界を変える』『どの面下げての韓国人』(ともに祥伝社新書)など。
※別冊正論23号「総復習『日韓併合』」 (日工ムック) より転載
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『地図と拳』小川哲

一八九九年の夏、南下を続ける帝政ロシア軍の狙いと開戦の可能性を調査せよ、という参謀本部の命を受け、高木少尉は松花江を船でハルビンに向かっていた。茶商人に化けて船に乗ったはいいが、貨物船の船室は荷物で塞がれ、乗客で溢れた甲板では何もかもが腐った。腐った物は船から松花江に捨てるのが元時代からの習慣だった。一人の男が死体を投げ捨て、「こいつは燃えない土だ」と呟いた。高木は「どういうことだ?」と尋ねた。
男は「土には三種類ある。一番偉いのが『作物が育つ土』で、二番目が『燃える土』。どうにも使い道のないのが『燃えない土』だ。『燃える土』は作物を腐らせるが、凍えたときに暖をとれる。だが、『燃えない土』はどんな用途にも使えない。死体も同じことだ」と言った。通訳の細川が男の出身地を問うと「奉天の東にある李家鎮(リージャジェン)」と答えた。土が燃えるのは石炭が混じっているからだ。これは使える、と細川は思った。
李家鎮は何もない寒村だったが、その地に居を構える李大綱という男が、冬は暖かく夏は涼しく、アカシアの並木がある美しい土地だ、という噂を流した。相次ぐ戦乱で家を失くし、職を奪われた人々が桃源郷の夢を追い、はるばる来てみると、夏は暑く冬は寒く、アカシアなどどこにもない。怒る人々に、李大綱は、誰がそんな嘘を流したと憤って見せ、住む気があるなら、空いている家に住めばいい、土地ならある、と応じた。帰る家のない人々は李大綱から金を借りて家を修繕し、それぞれ仕事をはじめ、李家鎮は体裁を整えていった。
満州東北部にある架空の村を舞台にした歴史小説である。史実を押さえながらも、正史には登場するこ��のない人物を何人も創り出し、日本が中国、ロシア、そして米英との戦争に非可逆的に引きずり込まれていく時代を描いている。人によって読み方は色々だろうが、こういう読みはどうだろうか。当時の日本は、戦争に駆り立てられていたように見えるが、果たしてそうか? 日本の戦争遂行能力を正確に把握していた者は一人もいなかったのか。もしいたとしたら、その結果はどうなっていただろうか、というものだ。
大陸のはずれで清朝の支配の及び難い満州という土地は、ロシアと戦うことになった場合、日本にとって是非とも押さえておきたい土地であった。また、日露戦争で多くの戦死者を出した手前、放棄もできない。リットン調査団が何と言おうが、むざむざ利権を諦めることは不可能だ。そこで、満州族が自ら支配する独立国という建前を作り、五族協和、王道楽土の美辞麗句で飾り立てた。満州国建国は列強を意識した苦肉の策だった。
「五族協和」がどこまで本気だったかは知る由もない。ただ、歴史年表を追うだけで、その当時の日本の軍国主義化にはすさまじいものがあることがわかる。満州国建国に携わった人々の胸にどれほど美しい夢があったのかは知らないが、軍部の力によってそれはどんどんねじまげられていく。その有様を一つのモデルとして描いて見せるのが、李家鎮という街の興亡である。
魯迅の言葉に「思うに希望とは、もともとあるものともいえぬし、ないものともいえない。それは地上の道のようなものである。もともと地上には道はない。歩く人が多くなれば、それが道になるのだ(『故郷』)」というものがある。「地上に道がない」というのは、冒頭のエピソードでも分かるように、当時の中国では水運が中心だったからだ。
もともとはただの平原であったものを、一人の説話人がかたった話が人々の頭に理想郷を作り上げた。絵空事を信じてやってきた者は無理にでも芝居を続けるよりほかはない。そうして幾人もの人の思いを寄せ集めて出来上がったのが李家鎮。後の仙桃城(シェンタオチェン)である。ロシアにとっては不凍港、旅順に至る要衝、日本にとっては戦争を続けるための石炭という資源の宝庫。仙桃城は、人々の欲望によって築き上げられた架空の都邑だ。
細川は彼の目的にかなう人材を各方面からスカウトしてくる。彼の言い分が通るのは、 参謀本部が後ろで動いているからだろう。満鉄からの依頼で、存在が不確かな「青龍島」の存否を明らかにする仕事についていた須野も細川にスカウトされた一人。須野は細川の紹介で満州で戦死した高木大尉の妻と結婚し、明男という子を授かる。高木の遺児である正男と共に、この親子は日本の勝利の可能性を探ろうと悪戦苦闘する細川の手駒となって働く。
表題の「地図」とは国家を、「拳」は戦争を意味する。この物語は現実には存在しない「青龍島」が、なぜ地図に書き込まれることになったかという謎を追うミステリ風の副主題を持っている。「画家の妻の島」の挿話をはじめとする、地図に関する蘊蓄も愉しい。細川の徹底したリアリズムに対し、須野のロマンティシズムがともすれば暗くなりがちな話に救いを与えている。幼少時より数字にばかり固執する明男が、母の心配をよそに順調に成長し、建築家になるという教養小説的側面も併せ持つ。
登場人物の大半が男性であり、恋愛もなければ房事もない、近頃めずらしいさばさばした小説だ。戦争に材をとりながらも、威張り散らす軍人は脇に追いやられ、主流は知的かつ怜悧な人物で占められているのが読んでいて気持ちがいい。しかし、議論を重ね、言葉を尽くして、日本に戦争遂行能力がないことを解き明かしても、戦争は阻止できない。「問答無用」は日本の病理なのか、と暗澹とした思いに襲われる。それどころか、よくよく見れば、この国は以前より愚昧さを増しているようにさえ見える。せめて、虚構の中だけでも論理的整合性を味わいたい、そんな人にお勧めする。
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AVAILABLE TO STREAM/DOWNLOAD ON NOV 23th CHECK IT OUT "Spotify"
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RECORDING MEMBER 野口英律 (Hidenori Noguchi) LeftsideDrums,Keybords,Synth,Bells,Tabla etc 石原雄治 (Yuji Ishihara) RightsideDrums, Bells アライカズヒロ (Kazuhiro Arai) Nylon Gt, Mandolin 安西哲哉 (BxAxNxZxAxI) ElectricGuitar Tsubatics ElectricBass 安藤裕子 (Yuko Ando) SopranoSaxophone 遠藤里美 (Satomi Endo) AltoSaxophone 桑原渉 (Wataru Kuwabara) Trumpet 松井修司 (Sshuji Matsui) Metallophone エリヲ (Eriwo) Percussion 武田理沙 (Risa Takeda) Keybords DJ MEMAI Turntable 千代 (Chiyo) Lyric 永田健太郎 (Kentaro Nagata) Mix & Master release event 2019 / 01 / 14 @新代田FEVER MUSQIS (ORCHESTRA SET) PANICSMILE 二宮友和+MUSQIS open 17:30 / start 18:00 adv2500 / door3000 yen + DrinkOrder
COMMENT “イマジネーションのブイヨン、そしてコーダのまろみ。 エスノすぎずラップすぎずカオスすぎずポップすぎず、 オモシロ具材が沢山入ってるけど、 キチンと破綻しないポトフ。“
赤倉滋(LOOLOWNINGEN&THE FAR EAST IDIOTS)
“人間は何処から来て 人間は何者なのか。 日々模索する日々。 MUSQISという音楽があると言う事は 自分にとって共にこの時代を 共に戦う仲間が居るという事。 そんな強くて、繊細な音が 本作には詰まっています。 更に先へ行こう。“
クロダセイイチ(Genius P.J's)
"舞台はチベットの山岳。 礼装した人々が供物を載せた家畜を引き練り歩く。 人はどこから来て、どこへ行くのか、それは誰のための祈りなのか。 人類のルーツを探る一大スペクタクルここに誕生。 そんな映画みたいな作品です。かっちょいい。"
長谷部 (大塚MEETS店長/DOSTRIKE)
"1945年の敗戦以降、 アメリカによる徹底的な文化侵略に曝され続ける子供達。 舶来のロックミュージックを浴びるように聴いて育った植民地第三世代は、 己れの遺伝子と模倣子の共鳴する音楽の起源を探求する中で 現在進行形の民族音楽を発明するに至った。 普遍性と個別性が同居する矛盾、 調和と混沌の狭間に生じる時空の裂け目をじっと覗き込んでみよう。 家の裏庭で幻の超古代兵器を発掘してしまったみたいな戦慄と興奮があなたの知的好奇心を刺激するに違いない。"
原田卓馬 (WINDOWZ)
"また来る冬を越えて僕らは何を覚えているのだろう。 ツギハギの社会、情報過多、積み重ねた忘却、幼少期、脳内で反復する言葉、季節の匂い。ノイズ。 そんな記憶を呼び覚まされる楽曲。"
100take(Light Source Definitions)
"人間という言葉はヒトとヒトの間に形成されるものなので、 プログラムでもあると僕は思ってます。 美辞麗句を超えたあるべき人間の姿について詠う事と空を眺める事を同じくらい忘れそうになってました。 この音楽が今鳴らされることに頼もしさを感じます。"
tani (ギタリストのような何か/インプロヴァイザー/ Tabletop Guitars/drop the delay)
"配信リリースおめでとうございます! MUSQISというバンドは、というより野口さんという人は多分、 宇宙から来たいや、宇宙に適応しちゃいそうな人なんだと思います。 交信はもう始まってますね、多分。 適応した後に、なんか適応しちゃったとか笑ながら言うんだと思います。 宇宙とノリで適応しちゃいそうな人が作る音楽興味ありますよね? サイケデッリクでオリエンタルなMUSQIS式宇宙適応術講座です、激必聴。"
藤村JAPAN (SEMENTOS / 新宿NINE SPICES 店長)
たとえば金曜日、午後9時50分。 しばしの休息を前にした、仕事帰りの労働者であふれるセブンイレブン。 ヨレヨレのスーツを着たサラリーマン風の男が、レジ前に立っている。 30代半ばくらいだろう。 耳には、Appleの白い純正イヤフォン。 大量のカップ麺と、大量のヨーグルトと、大量の発泡酒。 週末のプライベートタイムを、 ただれた飲食に費やすのだろう。 会計を終えた店員が尋ねる。 「お箸とスプーンお付けしましょうか?」 スーツの男は下をうつむいたまま、無言だ。 ふたたび、店員がさらに尋ねる。 「お箸とスプーンお付けしましょうか?」 スーツの男は無言だ。 やや声を張り、店員がさらに尋ねる。 「お箸とスプーンお付けしましょうか?」 スーツの男は無言だ。 吐き捨てるように店員が尋ねる。 「お箸とスプーンお付けしましょうか?」 スーツの男はそれでも、無言だ。 男の背後には、会計待ちの列ができている。 殺気。 舌打ちとため息。 「お箸とスプーンお付けしましょうか?」 スーツの男は無言だ。 よく見ると、男は右手の人差し指を一定のBPMで動かしている。 心なしか、頭も左右に揺れているようだ。 とてもゆっくりと。 男はグイッと、Appleの白い純正イヤフォンを力強く、耳に挿しなおす。 もしかすると、男の唯一の意思表示なのかも知れない。 「俺は今、音楽を聴いている。このツインドラムが醸し出すDOPENESS。 このリリックが浸食するWILDERNESS。それを遮る権利は誰にもない」 あるいは、そんな脳内宣言を繰り出しているのかも知れない。 男が聴いている音楽が、 たとえば、MUSQISだとすれば。
山下哲史(ターンテーブル奏者/即興演奏者)
"JTNCに呼応するかのようなMUSQIS最新型Experimental Music!!! "
高澤 瑛 (lang / Bridge Guitars店主)
"万物を楽器と捉えることができる自然なイマジネーション。 確かに光っているものであればどんなに見えにくい光でも、 その光の魅力を感じることができる審美眼。 そして、時を経ても尚、正解のない問題を明日も新鮮な気持ちで解きあかそうとする精神。 そこに住む人々の独特な呼吸音から始まり、民族音楽は生まれたと聞く。 MUSQISの呼吸を、しっかりと感じとれる。 それはセンセーショナルでありながら、何かの否定から生まれたものではなく。 全てを包み込むような温かさを持ちながら自然の中で力強く生きていく文化が生んだ呼吸。 わいは美しいものを心で自然に美しいと感じられる尊さを感じたんや。 ほんまやで。 "
Taka-shit JPN aka 安藤 (ライブハウス北浦和KYARA店長)
"リリースおめでとうございます。 野口くんはまず人柄がとても良いのですが、 彼の音楽を聴いたりパフォーマンスを見たりすると、 この人なんなんだろうな、とわからなくて面白いです。 天然の部分とコントロールされた緻密さがすごいなと思います。 この曲も、スピリチュアルで抑制された雰囲気の中、聴くたびにいろんな音といろんな意図が発見できる曲です。"
キシノジュンヤ ( HOPI / the mornings )
"直線的イメージと、 360°包囲される感覚 出発と、エンディング どこだか分からない異国感と、 どこで感じたか分からない懐かしさ 伝達系統の中で ネットワークが意志を持って 自由に拡張と収束を繰り返す そんな行ったり来たりをしているうちに いつの間にか曲が終わってました! リリースおめでとう!!。"
まいこ (つしまみれ)
"ライブとは別物のテクスチャとバランス感覚。 でもブレない。 極端さはないが、穏やかに近づいて、穏やかに喉元まで登ってくる。"
タナカユウキ (extremeOBSN/suthpire/ZENANDS GOTS/whales)
"優れたミュージシャンたちの集まりがMUSQISだと思っていたが この音源を聴いて認識を改めた。 強烈な芸術家集団である。 油絵のように色を織りなし一個の明らかなイメージとなり、 音楽的知性とは違うところにある感性に迫ってくる。"
二宮友和(PANICSMILE、uIIIn)
"東京を離れて5年ぐらい経つと住んでいた時にぼんやり感じていたものが輪郭を持ってくるのか、 摩訶不思議な街だったんですよね、強烈で。 海外の映画に出てくる東京、 とかあと80年代の東京のニューウェーヴ/オルタナロックから感じた強烈なアジア感、みたいなキラキラ感、猥雑な感じ。 スパイスカレーが大好きな人が沢山周りにいたなあとか。 それを再認識しております。 こうして福岡でMUSQISの曲聴いていて更に明確になったというか、 とてもリアリティがあって、 正に今の「気分」の曲でした。 言葉も音も凄く面白いです。"
吉田肇(PANICSMILE)
"ノスタルジーと先進。洗練と混沌。美と醜悪。 幻想的でいつつひどく現実的。 相反するものが同居する音世界"
イワモトミサト (HELLO STRANGER)
"歴史や匂いや風景や色や建物とか、 たくさんのレイヤーが統合される寸前のギリギリを保ってそこに存在している感じ。 液体よりは個体。 ラストは都会の雑踏、 巨大なスクランブル交差点の中で長い夢から覚めた感覚。"
おのてらえみ (The Taupe)
"楽曲も音もとても好きです。 緻密でミニマル、でも人間味がありワイルドで力強く、 作戦を遂行する姿は、幻影旅団みたいだなと思いました。"
小倉直也 (MASS OF THE FERMENTING DREGS , baduerykah , SYMBOL)
"この楽曲に持ったイメージは砂漠を旅するジプシー。 MUSQISというグループはリーダーの野口氏を核として流動的に活動しているのでその辺もまたジプシー感を僕は感じています。 ただここに出てくる砂漠とはいわゆる東京砂漠。 混沌と秩序、 狂気と正気、 理性と感覚、 不安と平静、 とそんなものが同居しているようなまさに東京という砂漠を僕自身も旅している気分になりました。 リリースおめでとう!"
久恒 亮(AxSxMxUx / Transkam / studio Zot)
"部屋で一人で聴くの危険! ディープな精神世界から戻れなくなっちゃう!"
御代田悟 (K-MIX SHIZUOKA HITS ON PARADE パーソナリティ)
"哲学的な響きだ。 聴き終えて、もう一度聴く。 冒頭の砂利を踏むような音が人間が前に進む思考する音に聴こえる。 哲学的な響きだ。 緻密に構築された音が幻惑的で民族感があり、 個人差あるだろうが、これはリゼルグ酸かなんかで俺の脳内で流れていて 現実には存在しない音楽なんじゃないか? と心配になるほどサイケデリックに鳴る。 一度聴けば、ロジカルな音像に、 もう一度聴けば、ラジカルで哲学的で、 さらに一度聴けば、全て引っ括めて脳へのドープだ。 うだうだ言いましたが、とにかく素晴らしいの一言です。 作ってくれて有難うございます!!"
榮勇太 (ゆれる)
"やばいです! 音楽で地球とか作ろうとしてるんじゃないかって思いました。 (MUSQISが地球作ろうとしている前提で話しますが)あなたは音楽で地球作ろうと思ったことありますか? 俺は残念ながら思ったことがありません。。。(これから作って見ます!) 大地の鼓動や地平線のはるか向こうや生命の脈々と受け継がれし何やかんや、 そして最新のテクノロジーまでを感じたい方はぜひご一聴を。"
松本一輝 (Temple of Kahn , ravenknee , phai)
"十数年前、はじめてDCPRGを聴いたとき 「どんな生活をして、何を食べ、どんな体験をすれば、こんな音楽に辿りつくのか?!なんだこの(よい意味で)キチガイな音楽は?!」 ってなったことが記憶に蘇ってきた。 たとえば、それがMUSQISだったとしても、そのときの僕は同じ印象を持っただろうな。"
タニタカヤ ( LLRR, ex.otori )
"宇宙と無。 異国と日本。 古代と現在。 BGMと精神的音楽。 相反する要素がたっぷり詰まってて、しかも全てハマってる。 面白い。 MUSQISは10年後もMUSQISのままでいてほしいし、きっとそうであってくれると思う。"
森大地(Temple of Kahn / kilk records)
"踏みしめる足音、 旅の途中、 脳内で繰り返すギターメロディ、 雪月風花、 四分半の己との対峙、葛藤、 ただ、つま先は前を向いてる"
キドウラコウイチ (World Wide Size/kiyasu orchestra/HAIGAN)
"東京銀河音楽です。"
MORIKON (pocketlife / PAPRIKAN / Delicate Zoons )
"目標物が何も無く、薄暗い一面雪の中を真っ直ぐ、ただただ歩いている映像。 対して、遊牧民が周りを浮遊、回転しながら祝祭を行なっている様にも思え、混乱。 エネルギーの向かう方向、かつて内に向かって凝縮されるように感じていた。 CuriousSystemでは強烈に外へ。 矢印は様々な曲がり方、でもあくまで個。 音楽としての次元が上がったから?以前よりハッキリと感じる。 霧散されているわけでは無く、複数の線が世界地図を手前から奥に塗り潰す様�� 混乱。 高円寺の喫茶店、お婆さんが隣の席のBボーイ、ガールカップルに声をかけオリジナルマッサージを施術中。 お婆のテンションはエスカレート、 Bボーイ彼氏の背中をハデにバシバシ、シバきはじめた。 喫茶店中が注目しているが、お婆は御構い無しにバシバシシバく。 あ、Bボーイがキレた。霧散。 昨日一昨日、酔いに任せ夢遊し何度も聴いていた。 高円寺、博多駅、呟きながら歩いた。 左右に振られたドラム、野口君のツイートを思い出しながら数えながら歩く。 MUSQISのブレイクから戻ってくるスピードが速いとこがたまらなく好き。 いまは福岡、今はどこか?いつか? ヴィジョンや言葉で表現できないこと、面白いけど、今回のムスキスはなんだか掴めそう? 掴んでいる?かも。"
じった(マクマナマン / KELP / snarekillsnation)
"8+6の変拍子が身体に落とし込まれて、 言葉が何かを訴えていく果てに破綻して広がる宇宙感覚は太い幹のようだ。 荒寥として無国籍エスニックな皿は既に僕らの背骨を貫通している。 そこに言葉が刻み込まれて解放される。 深く深く。 野口の長い髪の匂い。"
佐々木すーじん (scscs)
"僭越ながら、こうして楽曲にコメントをさせていただくのは初めての経験でして、とても嬉しく思います。 「Curious System」を聴きまして、 スピリチュアルとか虚無的といったイメージや手触りがまずあったのですが、 何度も聴いていくうちに不思議なあたたかみのようなものを感じるようになりました。 "わたしたち"や"かつてのわたしたち"がためらってしまったであろう藪を掻き分けていった先に広がる茫洋たる思索の荒野、 その果てに集った人間たちの祝賀か呪詛かそのどちらもか。 次なる荒野を目指すかのように盛大かつ粛々と奏でられる音に、 脳細胞と筋肉とぜい肉と骨が等価値で躍動させられながら "音楽のはじまり"に思いを馳せました。"
kawauchi banri (てあしくちびる)
"ラップの声に癒されます。中東な音もいい感じ"
宝生久弥 (Scaperec)
MUSQIS MAIN PAGE HERE
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王様の自滅 自国を滅ぼす方法など
⦅操縦七術[韓非]から続く⦆

〖国を滅ぼす王様の特徴〗 01_王様が宮殿や庭園の建築にうつつをぬかし、車や衣服珍品集めなどの道楽に凝って、国民から絞りあげては浪費する。 殷 ( いん ) の 紂 ( ちゅう ) 王が象牙の箸をつくらせた。 箕子 ( きし ) (紂王の叔父。狂ったふりをして身を守った)は恐怖を覚えた。 彼はこう思ったのだ。 象牙の箸となれば、汁のうつわも素焼きの土器ではすまなくなる。 きっと 犀 ( さい ) の 角 ( つの ) か玉でできた豪華なうつわを使うだろう。 玉のうつわに象牙の箸ということになれば、豆や豆の葉という質素な料理ではすまなくなる。 きっと 旄牛 ( からうし ) ・象・ 豹 ( ひょう ) の胎児などの美味珍味とならざるをえない。 こうした美味珍味を食べるとなれば、着るもの住む家も普段着や 茅 ( かや ) 葺きではすまなくなる。 きっと 錦 ( にしき ) を重ね、広大な屋敷をつくるだろう。 こうして釣り合いを求めていけば、いつしか天下の富を根こそぎつぎ込んでも、まだ不足する。 ほんの小さな兆候候をも見逃さず、始まりを見て結末を察知するのが聖人だ。 箕子が象牙の箸を見て恐怖を覚えたのは、その段階で、天下全体ものを使っても不足する結果を見抜いたからだ。 殷 ( いん ) の 紂 ( ちゅう ) 王は、部屋の窓を閉ざして明かりを灯し、百二十日を一夜として「酒池肉林」の宴を続けたために、日がわからなくなってしまった。 「さて今日は何日だったかな」と、お側の者にたずねたが、誰一人としてわからない。 そこで、 箕子 ( きし ) のもとに使いを出して、たずねさせた。 箕子は家臣にこう言った。 「天下の 主 ( あるじ ) となりながら、国中誰も日がわからないという。 これでは天下は保てまい。国中誰もが知らないことを、わたし一人が知っていたとなれば、わが身があぶない」。 そして、自分も酔ってわからない、と使者に答えたという。 桓公が管仲に尋ねた。「富には限界があるのだろうか」。 「水の限界は水のなくなるところ、富の限界は人がそれに満足したところです。ところが、人間は満足することができず、富をむさぼって、ついには身を滅ぼしてしまいます。これが富の限界でしょうか」。 紹績昧 ( しょうせきまい ) は酒に酔って寝てしまい、皮の上着をなくした。 宋 ( そう ) 王が不思議に思って、彼に聞いた。 「酒に酔ったくらいで皮の上着までなくすものか」。 「 夏 ( か ) の 桀 ( けつ ) 王は酒で天下をなくしました。それゆえ 康誥 ( こうこう ) (書経の一篇)には『酒を 彛 ( い ) するなかれ』とあるのです。酒を彛するとは、酒を常にするという意味です。酒を常飲すれば、天子は天下を失い、庶民も自分の命を失うのです」。 昔、 弥子瑕 ( びしか ) という美少年が、 衛 ( えい ) の 霊 ( れい ) 公の寵愛を受けていた。 衛の法律では、許しなく王様の車に乗った者は、足切りの刑に処せられる。 ところが、弥子瑕は夜中に母が急病だという知らせを受け、君命といつわって王様の車を使った。 それを聞いた霊公は、罪を問うどころかほめるのだった。 「親孝行なことではないか。母を思うあまり、自分が足を切られるのさえ忘れるとは」。 また、ある日、霊公のお供をして果樹園に散歩に行ったとき、弥子瑕が桃を食べたところ、あまりにおいしいので、半分残して霊公に薦めた。 霊公は、「王様思いではないか。自分が食べるのを忘れてまで、わしに食べさせてくれるとは」。 だが、やがて弥子瑕の容色が衰えて、霊公の寵愛がうすれてきた。 すると、霊公は、弥子瑕が前にしたことに腹を立てて、「こいつは、嘘までついてわしの車を使ったことがある。またいつぞやは、わしに食いかけの桃を食わせおった」。 02_吉だ凶だと日柄を気にし、 鬼神 ( きしん ) をありがたがり、占いの結果を真に受けて、何かといえば、 祭祀 ( さいし ) をやりたがる。亀の甲に穴を開けて火であぶったり、 筮竹 ( ぜいちく ) を数えて占った結果に従って戦をした 燕 ( えん ) や 趙 ( ちょう ) は、負けることが多かった。 03_限りない欲張りで、利益とみれば見さかいなく飛びつく。 宋 ( そう ) の国に 監止子 ( かんしし ) という金持ちの商人がいた。 あるとき、他の商人と時価百金の 粗玉 ( あらたま ) を 競 ( せ ) りあったことがある。 監止子はまちがったふりをして粗玉を落とし、傷をつけた。 百金の弁償をして引き取り、きれいに傷を磨き落として売ったところ、千金あまりの大金を得た。 一般に、何かを行って失敗しても、何もやらなかったよりもましな場合がある。 監止子のように、タイミングよく責任を引き受けた場合がそれだ。 04_法に基づかず、無原則に刑罰を加える。空理空論に耳を傾け、現実に役立つかどうかを考えない。外見を飾り立てて、実用を無視する。 05_独善的で協調性がなく、 諫言 ( かんげん ) されればむきになる。国家全体のことを考えずに軽率に動き、しかも自信満々だ。 食客のなかに、不老長寿法を教えるという者がいたので、 燕 ( えん ) 王は家来のひとりに習わせたが、その家来がまだ習い終えないうちに、食客は死んでし���った。燕王は怒って家来を殺した。食客が自分を騙したのに気づかず、習い方が遅いといって死刑にしたのだ。道理に合わないことを信じて罪のない家来を殺すとは、また浅はかなことであった。 誰でも一番大切なのは自分の体のはずだ。その自分が死を免れないでいて、他人の燕王を不老長寿にすることなどできるはずがない。 06_王様がずぼらで、およそ反省ということをせず、どんなに国が乱れていても自信満々で、自国の経済力を考えずに、隣の敵国を組みしやすしとする。 07_国が弱小であるのに、尊大にふるまい、強国を警戒しない。国境を接している大国をバカにして、礼をもって対しようとしない。 昔、晋の公子 重耳 ( ちょうじ ) が亡命し、曹に立ち寄った。 曹の王様は服をはだけさせて重耳を見せ物にした。 そのとき 釐負羈 ( きふき ) と 叔瞻 ( しゅくせん ) が曹の王様に付き添っていた。 叔瞻は曹の王様に申した。私、晋の公子を観ましたところ、ただ者ではございません。王様はこれに無礼をなさいました。彼がもし時を得て国に帰り、挙兵すれば、恐らく曹の害となりましょう。王様はこれを殺してしまうのがよいでしょう、と。 しかし曹の王様は聴き入れなかった。 釐負羈は帰って浮かぬ顔をしている。 妻が問うた。あなたは外から帰ってきて浮かぬ顔をしておられるのは何故ですか、と。 釐負羈は言った。私はこう聞いている。良いことには 与 ( あずか ) らず、悪いことには連なる、と。今日我が君は晋の公子を招き、無礼をはたらいた。私はそのとき付き添っていたので浮かぬ顔をしているのだ、と。 妻は言った。私が晋の公子を観るに、大国の主のようです。その左右の従者は大国の宰相のようです。それが今、窮乏して曹に立ち寄り、曹はこれに無礼をはたらきました。これがもし国に帰ることになりますと、必ずや無礼を 誅 ( ちゅう ) しましょう。曹はその手始めとなりましょう。あなたはどうぞ今のうちに 誼 ( よしみ ) を通じておきなさいませ、と。 釐負羈は言った。よろしい、と。 黄金を壺に盛り、食べ物で蓋し、玉壁をその上にのせ、夜、使者を公子に遣いさせた。 公子重耳は使者に会い、再拝の礼で食べ物を受け取り、玉壁は辞退した。 公子は曹から楚に入り、楚から秦に入った。 秦に入って三年、秦の 穆公 ( ぼくこう ) は群臣を集め 謀 ( はかりごと ) をして言った。昔、晋の献公と私が仲良く交流していたことは諸侯のうちで知らぬ者はいない。献公は不幸にも群臣から離れて亡くなり、十年が経つ。その 世嗣 ( よつ ) ぎは出来が良くない。私は心配だ。このままでは晋の 宗廟 ( そうびょう ) は清く保たれず、 社稷 ( しゃしょく ) の供物が絶えはせぬかと。このような状態にもかかわらず晋の足元を固めてやらないのは、献公との交流してきた道に反する。私は重耳を助けて晋に入れようと思うが、どうであろうか、と。 群臣は皆言った。よろしゅうございます、と。 穆公はそこで挙兵した。 革鎧の戦車五百乗、騎兵二千、歩兵五万、重耳を助けて晋へ入れ、立てて晋君にした。 重耳は即位して三年後、挙兵して曹を 伐 ( う ) ちに向かった。 そこで重耳は使者を送って曹の君主に告げさせた。叔瞻を城壁から懸け下ろして出せ、私が殺して処刑してやる、と。 また使者を送って釐負羈に告げさせた。我が軍勢が城に迫っている。私はあなたが礼に 背 ( そむ ) かなかったことを知っている。あなたの住まいに目印をたてておかれよ。私は命令して軍勢がそこを攻めぬようにさせよう、と。 曹の人々はこれを聞き、親戚をかき集めて釐負羈の住まいへ逃げ込む者が七百余家にも及んだ。 08_王様が臆病で信念が貫けない。すなわち予測するだけで決断ができず、やらなければと思うだけで手が下せない。 呉 ( ご ) 王の 闔廬 ( こうりょ ) が、 楚 ( そ ) の都の 郢 ( えい ) を攻め、三戦三勝した。 呉王は 伍子胥 ( ごししょ ) に意見を求めた。 「このぐらいで引き揚げてよいだろう」。 「いけません。人を 溺死 ( できし ) させようとするとき、一飲みさせたところで、止めたのでは、溺死するわけがありません。手をゆるめず押さえつけ、このさい、徹底的に沈めてしまうべきです」。 09_都合が悪ければ理屈をつけて法をまげ、何かにつけ公事に私情をはさむ。その結果は 朝令暮改 ( ちょうれいぼかい ) 、次から次へと新しい法令が発せられる。 斉 ( せい ) が 魯 ( ろ ) を破ったとき、魯の宝である 讒 ( ざん ) という 鼎 ( かなえ ) を要求した。 魯はニセ物を持って行かせたが、見破られてしまった。 「ニセ物ではないか」。 「いや本物です」。 「それでは貴国の 楽正子春 ( がくせいししゅん ) ( 曾子 ( そうし ) の弟子)を連れて来てもらいたい。彼なら信用できる」。 魯王は楽正子春にうまくごまかしてくれるように頼んだ。 楽正子春は魯王に尋ねた。 「なぜ本物を持って行かせなかったのです」。 「本物は惜しいからさ」。 「わたしも自分の信用を惜しみます」。 10_もともと地の利に恵まれないうえに、城郭も欠陥だらけ、物資の蓄えはなく、生産力も低い。すなわち長期戦に耐える力がないのに、軽挙妄動して戦いをしかける。 11_視野が狭くてせっかちで、 些細 ( ささい ) なことで簡単に行動を起こし、すぐにカッとなって前後の見境がつかなくなる。 12_怒りっぽいうえに戦好きで、本務たる農政に力をいれず、何かといえば武力を発動する。 大臣を侮辱してプライドを傷つける。庶民に厳しい刑罰を加えて、過酷な使役に駆り立てる。これを当然のこととして繰り返せば、謀反を 企 ( たくら ) むものが、必ず現れる。 13_王様が大利を目前にして傍観するばかり、また禍いを予測していながら対策を立てようとしない。そして防衛ということにまったく無知でありながら、「仁義」によって自己の行為を飾り立てようとする。 14_雄弁だが「法」という筋が通っていない。聡明ではあるが、肝腎の「術」を心得ていない。能力そのものはあるのだが、「法」によって事を運ぼうとしない。 〖本心を隠す〗 王様が心の 裡 ( うち ) を見透かされると、 家来 《 けらい 》 たちに付け込まれる。 楚 ( そ ) の霊王が細い腰の美人を好むと、 楚 ( そ ) の都には絶食して痩せようとする者があとをたた��かった。 臥薪嘗胆 ( がしんしょうたん ) の故事で有名な越王 勾践 ( こうせん ) は、勇者を好んだ。越の決死隊は、呉の陣の前で一斉に自分の首を 刎 ( は ) ねた。呉軍の兵卒は、あっけにとられ、その隙に奇襲攻撃をかけられて総崩れとなった。 斉 ( せい ) の桓公は好色で嫉妬深かった。 豎刁 ( じゅちょう ) は、自ら去勢手術を受けて、後宮の 宦官 ( かんがん ) になり、信頼を得て大臣に任命された後、謀反を起こして桓公を部屋に閉じ込め飢え死にさせた。 桓公は食い道楽でもあった。料理人の 易牙 ( えきが ) は、自分の長男を蒸し焼きにして差し出した。易牙も、豎刁の謀反に参加した。 燕 ( えん ) の 子噲 ( しかい ) は人格者を好むと思われていた。大臣の 子之 ( しし ) は、国を譲られても受けないと公言して信頼を得、政治を任されて実権を奪った。伝説時代に、 堯 ( ぎょう ) という天子がいて、 許由 ( きょゆう ) という隠者に天下をゆずろうとしたが、許由は受けず、耳が穢れたといって耳を洗ったという。子噲は子之が辞退するのを確かめておいて、堯のまねをしたのに、子之の方が上手だった。 王様が好悪を見せなければ、家来は素を表わし、王様はだまされない。 堂谿 ( どうけい ) 公が、 韓 ( かん ) の 昭 ( しょう ) 侯に尋ねた。 「 価 ( あたい ) 千金の 玉杯 ( ぎょくはい ) があったとする。もし底がなかったとしたら、これに水を入れることができるでしょうか」。 「だめだ」。 「では素焼きの器があるとする。これには底があって漏らないとしたら、酒をつぐことができるでしょうか」。 「できる」。 そこで堂谿公は言うのだった。 「素焼きの器はとるにたらぬ粗末なものですが、漏りさえしなければ酒をつぐこともできます。価千金の玉杯はまことに貴重なものですが、底がなくて漏るとしたら、水さえ入れることができません。まして、これに飲み物を入れる者があるでしょうか。家来の言葉を他人に漏らす王様は、ちょうど底の抜けた玉杯のようなものです。いくら王様に知恵があっても術をつくすことができないのは、人に漏らしてしまうためです」。 それからというもの昭侯は、大きな計画を考えているときには、必ずひとりで寝た。 寝言を聞かれて、他人に計画が漏れることをおそれたのだ。 斉国の正室が亡くなったとき、大臣の 薛 ( せつ ) は、 威 ( い ) 王の意中の人を新しい正室に 推薦 ( すいせん ) しようと考えた。薛は、玉の耳飾り九組に特に美しい耳飾りを一つ加え十組にして王に献上した。翌日、薛は、特に美しい耳飾りをしている側室を確認して王に推薦した。 〖信ずる者は 騙 ( だま ) される〗 王様が妻を信じたら、腹黒い家来は王様の妻を利用して私欲をとげようとする。 優施 ( ゆうし ) という役者は、 晋 ( しん ) の 献 ( けん ) 公の愛妾 麗姫 ( りき ) に取り入り、世継ぎの 申生 ( しんせい ) を殺して、麗姫の子 奚斉 ( けいせい ) を擁立した。 王様が我が子を盲信すると、腹黒い家来は王様の子を利用して私欲をとげようとする。 趙の武霊王(在位 前325年~299年)は 胡服騎射 ( こふくきしゃ ) (騎馬民族の戦法)をいち早くとりいれ、趙を軍事的に発展させたが、寵愛した恵后のために後継問題の処理を誤った。太子に決まっていた長子 章 ( しょう ) を廃嫡して、恵后の子 何 ( か ) (恵文王)に王位を譲り、自分は 主父 ( しゅほ ) と称して院政をしいたが、恵后の死後、廃嫡した長子 章 ( しょう ) の処遇に迷い内乱を起こさせてしまった。主父も、 沙丘 ( さきゅう ) の別宮で三箇月包囲されて餓死した。そのときの包囲軍の指揮官は 李兌 ( りたい ) だった。 妻子でさえ裏切ることがあるのに、他人である家来を信じたら、 悲惨 ( ひさん ) な結果が待っているかもしれないことを知らなければならない。 王様の世継ぎが立てられたら、妻は、我が子の即位を待ち望むもの。 男は五十になっても色好みはやまないのに、女性は三十になれば容色は衰える。 衰えた容色で色好みの夫に仕えれば、疎まれ 貶 ( さげす ) まれるようになり、「これでは我が子は、あとを継げないのではないか」と、妻は疑う。我が子が王様の座につけば、何でも命令できるし、嫌なことも禁止できる。男女の楽しみは、夫の死後も以前にも増して楽しめる。大国を思いのままに動かしても、誰からも文句は出ない。 毒を盛ったり、闇打ちをしたりのお家騒動が尽きないのも、こういうところに原因がある。 桃佐春秋 ( とうさしゅんじゅう ) には、「まともな死に方をする王様は半数に満たない」と書かれている。 魏 ( ぎ ) 王が 楚 ( そ ) 王にひとりの美女を贈った。 楚 ( そ ) 王はこの美女がすっかり気に入った。 楚 ( そ ) 王の側室 鄭袖 ( ていしゅう ) は王がこの美女を可愛がるのを見て、王が可愛がる以上に自分も可愛がり、衣裳でも何でも彼女の欲しがるままに与えていた。 王はそれを見て言った。 「 鄭袖 《 ていしゅう 》 はわたしがあの女を可愛がるのを知って、わたし以上に可愛がってやっている。まるで親孝行な子が親をおもい、忠臣が王に仕えるようではないか」。 …「王様は自分が嫉妬していないと信じている。これでよし」と思った 鄭袖 《 ていしゅう 》 は美女に「王様は女性が手で口を覆う仕草が好きだから、王様に近づくときは手で口を覆うようにしなさい」と教えた。美女はその話を信じ、始めて王様とのお目見えする際にさっそくその仕草を実行する。事情を知らない王様がその理由を周囲に尋ねると、鄭袖が「あの女は王様の匂いを嫌って手で鼻を覆っているのです。」とウソを付いた。王様は、激怒し、美女の鼻を削ぐよう命じた。 〖人材活用〗 楚 ( そ ) が 陳 ( ちん ) を攻めたとき、 呉 ( ご ) は陳を助けた。 楚 ( そ ) ・ 呉 ( ご ) 両軍は三十里をおいて 対峙 ( たいじ ) した。 ある夜、十日も降り続いた雨がやみ、星が見えた。 楚 ( そ ) の 左史 ( さし ) の 倚相 ( いしょう ) は将軍の 子期 ( しき ) に言った。 「十日の雨のあいだに、呉軍は準備をととのえたはずです。きっと攻めてくるにちがいありません。備えた方がよろしいでしょう」。 そこで、 楚 ( そ ) 軍は、陣形をととのえたが、はたして、準備が終わるか終わらないうちに、呉軍がやって来た。 しかし、 楚 ( そ ) 軍に備えがあるのを見ると、戦わずして引き返した。 左史は言った。 「呉軍は往復で六十里歩かなければなりません。帰れば疲れて将軍は休む、兵士は食事をするはずです。一方わが方は三十里ですみます。すぐ攻めれば勝てましょう」。 楚 ( そ ) 軍は呉軍を追いかけ、これを破った。 孟嘗君率いる斉・魏・韓の連合軍が函谷関に攻めてきたとき、秦の昭襄王は大臣に「三国の兵が秦に深く攻め込んでいる。河東郡の数県を与えて和睦しようと思うが、どうか」と尋ねた。 大臣は、「河東郡の数県を与えるのは、大きな損失です。王子様とご相談なさってはいかがでしょうか?」と答えた。 王様から相談された王子は、「和睦しても��なくても、後悔は避けられません。…和睦したら、『三国はもともと引き上げようとしていたのに、むざむざ三城もただでやってしまった』と、後悔するでしょう。…和睦しなかったら、 韓 《 かん 》 に集結した三国軍に大損害を与えられ、『しまった、三城をやらなかったばかりに、こんなことになってしまった』と、後悔するでしょう。」と答えた。 昭襄王は、「後悔するのなら、三つの城を失って後悔する方が、国が危険な状態になって後悔するより余程マシだ。」と考え、和睦を決めた。 管仲 ( かんちゅう ) と 鮑叔 ( ほうしゅく ) が相談をした。 「このご乱行では 斉 ( せい ) の 御代 ( みよ ) も変わるにちがいない。斉の公子のなかで、将来性のあるのは 糾 ( きゅう ) さまか、 小白 ( しょうはく ) さまだ。この二人にわれわれは一人ずつ仕え、先に出世した者が他を引き立てることにしよう」。 こうして管仲は糾に、鮑叔は小白に仕えた。 はたして斉は混乱状態におちいり、王様が殺された。 そしてまず小白が亡命先から帰国して王様の座についた。 管仲は糾とともに 魯 ( ろ ) に逃れていたが、魯の人につかまって小白に引き渡されたが、鮑叔の口添えによって宰相になることができた。 〖王様への意見の出しかた〗 [説得]は、相手の心を正確に見ぬき、自分の意見をそこに合わせることが必要。知識や弁舌だけでは不十分。 名声の高さを求める相手に、利を得る術を説けば、下劣で卑しい奴と思われ、遠ざけられる。利を求める相手に、名声の高まる術を説けば、気配りできず現実に疎い者と思われる。 名声を大切にしているように見せかけながら、内心では利を求めている相手に、名声の高まる術を説けば、得心した様子を見せられながら、実際には疎んじられるだろう。逆に利を得る術を説けば、得心させても、用いられることはない。 01_王様が自分の利益を満たそうとしているときには、国法を述べてそれを強制する。それでも欲望を捨て切れないときは、欲望に理屈をつけてやる。実行に移せない道義には、とやかく言わないでおく。 02_理想が高すぎて非現実的なときは、理想の欠点をあげ、実行しない。それは難しいでしょうなどと、ケチをつけてはな���ない。 03_知識・見識に自信もってる相手には、同類の別の事例を挙げて下地を準備しておき、相手が自ら選ぶように仕向けて、そしらぬ顔をする。 04_他国と友好関係を保つように説得するには、立派な名目を上げてやり、それとなく自分の利益にもなることを示す。 05_国の害になることを分からせるには、道義に反しているとはっきり言い、自分の損にもなると分からせる。 06_直接相手を誉めるよりは、相手と同じ事をしているものをほめ、他の事で王様の計画と同じものがあれば、そのことを議論で取り上げた方が効果がある。 07_王様と同じ失敗をした者は、たいした過失ではないと言って弁護しておく。相手がよい計画だと思っているのに、悪いところをあげつらって追いつめてはいけない。 08_長い月日を経て、王様の信任も厚くなり、立ち入った策を奏上しても疑われず、王様と言い争っても罰せられなくなったならば、堂々と利害を判断して述べ、自分の意見を実現化して事の是非をずばりと述べることを身上とする。こうして王様と対等の関係を保てるようになれば、これこそが献策の最上のものとなる。 〖 和氏 《 かし 》 の 璧 ( へき ) 〗 昔、 楚 ( そ ) の国に 和氏 ( かし ) という男がいた。 あるとき、彼は 楚 ( そ ) 山の山中で 粗玉 ( あらたま ) を見つけ、これを 厲 ( れい ) 王に献上した。 厲王は宝石師に鑑定させた。 「これは、ただの石でございます」。と宝石師は言った。 厲王は和氏をペテン師として足切りの刑を命じ、左足を切らせた。 厲王が死に、 武 ( ぶ ) 王が即位した。 すると、和氏はまた同じ粗玉を献上した。 武王は宝石師に鑑定させた。 「石でございます」。と宝石師が言った。 武王は和氏をペテン師として足切りの刑を命じ、右足を切らせた。 武王が死に、 文 ( ぶん ) 王が即位した。 今度は和氏は粗玉を抱き、 楚 ( そ ) 山のふもとで泣き続けるのだった。 三日三晩がたった。 涙は枯れはてて、眼に流れるものは血であった。 文王はそのことを聞くと、和氏のもとに人をやってわけを尋ねさせた。 「世の中に足切りの刑にあった者も多いが、どうしておまえは、そんなに悲しげに泣くのか」。 「わたくしは足を切られたことが悲しいのではありません。宝石が石ころだと言われ、正直者がペテン師だと言われた。それがわたくしは悲しいのです」。 文王は、宝石師にその粗玉を磨かせてみた。 はたしてそれは宝石であった。 その宝石は、彼の名をとって、「 和氏 ( かし ) の 璧 ( へき ) 」と呼ばれた。 宝石というものは、王様が喉から手が出るほど欲しがるものだ。 そして 和氏 ( かし ) が献上した 粗玉 ( あらたま ) が、もし宝石でなかったとしても、王様が何の損をするわけでもない。 それにもかかわらず、和氏は両足を切られてから、はじめてその粗玉が宝石であると認められたのだ。 王様が欲しがる宝石でさえ認められるのは、これほど困難なのだ。 ところが[法・術]となると、王様は「和氏の 璧 ( へき ) 」のようにこれを欲しがってはいない。 王様たちは、それほど熱心に家来や国民のかげの悪事を抑えようとはしていないのだ。 [法・術]を主張する者が、王様に殺されずにいるのは、彼がまだ[法・術]という粗玉を献上していないからにすぎない。 王様が「術」を使ったとしたら、大臣が政治を専断することも、側近が王様の威を借りることもなくなるだろう。 「法」が国に行きわたれば、流民の 類 ( たぐい ) は姿を消し、すべての国民は農耕に追いやられ、事あるときには戦場で生命の危険をおかすことになるだろう。 つまり[法・術]は、家来と国民にとっては、 禍 ( わざわい ) となるものだ。 したがって、王様が、大臣の反対と国民の非難を押しきって、[法・術]に耳を傾けようとするのでなければ、たとえ命を進言したとしても、[法・術]が王様に取り上げられる見込みはない。 〖使いこなせない者とは〗 もし人が衣服を着ることもなく、食事をとることもないのに、餓え凍えることがなく、また死もこわくないとすれば全て満ち足りており、お上に仕える気はとんとならないであろう。すると、王様によって支配されることを嫌う気持ちになる。そのような人物は、臣下として使いこなすことはできない。 〖小さな信用を重ねる〗 呉起 ( ごき ) は外出先で知人に出会い、食事に招いた。 知人は承知して、「のちほど伺うから、それまでお待ちいただきたい」。 「では、あなたがおいでになるまで、お待ちいたしましょう」、呉起はそう答えた。 その知人は日暮れになっても来なかった。呉起は食べずに待った。 そして、翌朝、知人を呼びにやり、彼が来てから食事した。 越王 勾践 ( こうせん ) が呉王 夫差 ( ふさ ) を攻め、 降伏 ( こうふく ) させた。 呉王夫差が謝罪して 赦 ( ゆる ) しを願った。 越の大臣たちは、越王勾践に、「天命が[越]を与えようとしたとき[呉]が受け取らなかったから、今、天命は[呉]を[越]に与えようとしているのです。天意に 背 ( そむ ) いてはなりません。」と言った。 呉の大臣は、越の大臣に手紙を送った。「すばしっこい兎が狩りつくされてしまうと、猟犬は煮て食べられる。敵国が滅びると、軍師は殺される。呉を赦して残せば、貴方はまだまだ仕事ができる。」 越の大臣は、これを読んで大きくため息をつきながら、「呉が滅べば私は用無しになるのか…」とつぶやいた。
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【小説】フラミンゴガール
ミンゴスの右脚は太腿の途中から金属製で、そのメタリックなピンク色の輝きは、無機質な冷たさを宿しながらも生肉のようにグロテスクだった。
彼女は生まれつき片脚がないんだとか、子供の頃に交通事故で失くしたのだとか、ハンバーガーショップでバイト中にチキンナゲット製造機に巻き込まれたのだとか、酒を飲んでは暴力を振るう父親が、ある晩ついに肉切り包丁を振り上げたからなのだとか、その右脚についてはさまざまな噂や憶測があったけれど、真実を知る者は誰もいなかった。
ただひとつ確かなことは、この街に巣くう誰もが、彼女に初めて出会った時、彼女はすでに彼女であった――ミンゴスは最初から金属の右脚をまとって、我々の前に現れたということだ。
生身である左脚が描く曲線とはまるで違う、ただの棒きれのようなその右脚は、しかし決して貧相には見えず、夜明け前の路地裏を闊歩する足取りは力強かった。
脚の代わりでありながら、脚に擬態することをまったく放棄しているその義足は、白昼の大通りでは悪目立ちしてばかりいた。すれ違う人々は避けるように大きく迂回をするか、性質が悪い連中はわざとぶつかって来るかであったが、ミンゴスがそれにひるんだところを、少なくとも俺は見たことがない。
彼女は往来でどんな目に遭おうが、いつだって澄ました表情をしていた。道の反対側から小石を投げてきた小学生には、にっこりと笑って涼しげに手を振っていた。
彼女は強かった。義足同様に、心までも半分は金属でできているんじゃないかと、誰かが笑った。
夏でも冬でも甚平を着ている坊主崩れのフジマサは、ミンゴスはその芯の強さゆえに、神様がバランスをとる目的で脚を一本取り上げたのだ、というのが自論だった。
「ただ、神様というのはどうも手ぬるいことをなさる。どうせしてしまうのならば、両脚とももいでしまえばよかったものを」
そう言いながら赤提灯の下、チェ・レッドを吸うフジマサの隣で、ミンゴスはケラケラと笑い声を零しながら、「なにそれ、チョーウケる」と言って、片膝を立てたまま、すっかりぬるくなったビールをあおった。
彼女は座る時、生身である左脚の片膝を立てるのが癖だった。まるで抱かれているように、彼女の両腕の中に収まっている左脚を見ていると、奇抜な義足の右脚よりも、彼女にとって大切なのはその左脚のような気がした。それも当然のことなのかもしれなかった。
彼女も、彼女を取り巻いていた我々も、彼女が片脚しかないということを気にしていなかった。最初こそは誰しもが驚くものの、時が経てばそれは、サビの舌の先端がふたつに裂けていることや、ヤクザ上がりのキクスイの左手の指が足りていないこと、リリコの前歯がシンナーに溶けて半分もないこと、レンゲが真夏であっても長袖を着ていることなんかと同じように、ありふれた日常として受け入れられ、受け流されていくのだった。
「確かにさぁ、よく考えたら、ミンゴスってショーガイシャな訳じゃん?」
トリカワが、今日も焼き鳥の皮ばかりを注文したのを頬張ってそう言った。発音はほとんど「超外車」に近かった。
「シ���ーガイシャ?」
訊き返したミンゴスの発音は、限りなく「SHOW会社」だ。
「あたし障害者なの?」
「身体障害者とか、あるじゃん。電車で優先席座れるやつ」
「あー」
「えー、ミンゴスは障害者じゃないよ。だって、いっつも電車でおばあちゃんに席譲るじゃん」
キュウリの漬物を咥えたまま、リリコが言った。
「確かに」
「ミンゴスはババアには必ず席譲るよな、ジジイはシカトするのに」
「あたし、おばあちゃんっ子だったからさー」
「年寄りを男女差別すんのやめろよ」
「愚か者ども、少しはご老人を敬いなさいよ」
フジマサが呆れたように口を挟んで、大きな欠伸をひとつした。
「おばあちゃん、元気にしてんのかなー」
まるで独り言のように、ミンゴスはそう小さくつぶやいて、つられたように欠伸をする。
思えばそれが、彼女が家族について口にしたのを耳にした、最初で最後だった。
俺たちは、誰もろくに自分の家族について語ろうとしなかった。自分自身についてでさえ、訊かれなければ口にすることもなく、訊かれたところで、曖昧に笑って誤魔化してばかりいた。
それでも毎日のように顔を突き合わせ、特に理由もなく集まって酒を飲み、共に飯を食い、意味のない会話を繰り返した。
俺たちは何者でもなかった。何かを共に成し遂げる仲間でもなく、徒党を組んでいたというにはあまりにも希薄な関係で、友人同士だと言うにはただ他人行儀だった。
振り返ってみれば、俺がミンゴスや周りの連中と共に過ごした期間はほんの短い間に過ぎず、だから彼女のこと誰かに尋ねられる度、どう口にすればいいのかいつも悩んで、彼女との些細な思い出ばかりを想起してしまう。
ミンゴスは砂糖で水増ししたような甘くて怪しい錠剤を、イチゴ柄のタブレットケースに入れて持ち歩いていた。
彼女に初めて出会った夜のことは、今でも忘れられない。
俺は掃き溜めのようなこの街の、一日じゅう光が射さない裏路地で、吐瀉物まみれになって倒れていた。一体いつからうつ伏せになっているのか、重たい頭はひどく痛んで、思い出すのも困難だった。何度か、通りすがりの酔っ払いが俺の身体に躓いて転んだ。そのうちのひとりが悪態をつき、唾をかけ、脇腹を蹴り上げてきたので、もう何も嘔吐できるものなどないのに、胃がひっくり返りそうになった。
路地裏には俺のえづいている声だけが響き、それさえもやっと収まって静寂が戻った時、数人の楽しげな話し声が近付いて来るのに気が付いた。
今思えば、あの時先頭を切ってはしゃぎながら駆けて来たのはリリコで、その妙なハイテンションは間違いなく、なんらかの化学作用が及ぼした結果に違いなかった。
「こらこら、走ると転ぶぞ」
と、忠告するフジマサも足元がおぼつかない様子で、普段は一言も発しないレンゲでさえも、右に左にふらふらと身体を揺らしながら、何かぶつぶつとつぶやいていた。サビはにやにやと笑いながら、ラムネ菓子を噛み砕いているかのような音を口から立てて歩いていて、その後ろを、煙管を咥えて行くのがトリカワだった。そんな連中をまるで保護者のように見守りながら行くのがキクスイであったが、彼はどういう訳か額からたらたらと鮮血を流している有り様だった。
奇妙な連中は路地裏に転がる俺のことなど気にも留めず、よろけたフジマサが俺の左手を踏みつけたがまるで気付いた様子もなく、ただ、トリカワが煙管の灰を俺の頭の上めがけて振るい落としたことだけが、作為的に感じられた。
さっきの酔っ払いに蹴り飛ばされてすっかり戦意喪失していた俺は、文句を言う気もなければ連中を睨み返してやる気力もなく、ただ道に横たわっていた。このまま小石にでもなれればいいのに、とさえ思った。
「ねーえ、そこで何してんの?」
そんな俺に声をかけたのが、最後尾を歩いていたミンゴスだった。すぐ側にしゃがみ込んできて、その長い髪が俺の頬にまで垂れてくすぐったかった。
ネコ科の動物を思わせるような大きな吊り目が俺を見ていた。俺も彼女を見ていた。彼女は美しかった。今まで嗅いだことのない、不可思議な香水のにおいがした。その香りは、どこの店の女たちとも違った。俺は突然のことに圧倒された。
彼女は何も答えない俺に小首を傾げ、それからおもむろにコートのポケットに手を突っ込むと、そこから何かを取り出した。
「これ舐める? チョー美味しいよ」
彼女の爪は長方形でピンク色に塗られており、そこに金色の薔薇の飾りがいくつもくっついていた。小さな花が無数に咲いた指先が摘まんでいたのはタブレットケースで、それはコンビニで売られている清涼菓子のパッケージだった。彼女はイチゴ柄のケースから自分の手のひらに錠剤を三つほど転がすと、その手を俺の口元へと差し出した。
「おいミンゴス、そんな陰気臭いやつにやるのか?」
先を歩いていたサビが振り返って、怪訝そうな声でそう言った。
「それ、結構高いんだぜ」
「いーじゃん別に。あたしの分をどうしようと勝手じゃん」
彼女が振り向きもせずにそう言うと、サビは肩をすくめて踵を返した。連中はふらふらと歩き続け、どんどん遠ざかって行くが、彼女がそれを気にしている様子はなかった。
「ほら、舐めなよ」
差し出された彼女の手のひらに、俺は舌を突き出した。舌先ですくめとり、錠剤を口に含む。それは清涼菓子ではなかった。これはなんだ。
「ウケる、動物みたいじゃん」
からになった手を引っ込めながら、彼女は檻の中の猛獣に餌をあげた子供みたいに笑っていた。
口の中の錠剤は、溶けるとぬるい甘みがある。粉っぽい味は子供の頃に飲まされた薬を思わせ、しかし隠し切れないその苦味には覚えがあった。ああ、やはりそうか。落胆と安堵が入り混じったような感情が胃袋を絞め上げ、吐き出すか悩んで、しかし飲み込む。
「ほんとに食べてんだけど」
と、彼女はケラケラ笑った。その笑い声に、冗談だったのか、口にふくまないという選択肢が最良だったのだと思い知らされる。
それでも、目の前で楽しそうに笑っている彼女を見ていると、そんなことはどうでもよくなってくる。こんな風に誰かが喜んでいる様子を見るのは、いつ以来だろうか。笑われてもいい、蔑まれても構わない。それは確かに俺の存在証明で、みじめさばかりが増長される、しがない自己愛でしかなかった。
からかわれたのだと気付いた時には彼女は立ち上がっていて、俺を路地裏に残したまま、小さく手を振った。
「あたしミンゴス。またどっかで会お。バイバーイ」
そう言って歩き始めた彼女の、だんだん小さく、霞んでいく後ろ姿を見つめて、俺はようやく、彼女の右脚が金属製であることに気が付いたのだった。
人体の一部の代用としては不自然なまでに直線的で、機械的なシルエットをしたその奇妙な脚に興味が湧いたが、泥のように重たい俺の四肢は起き上がることを頑なに拒み、声を発する勇気の欠片も砕けきった後であった。飲み込んだ錠剤がその効用をみるみる発揮してきて、俺はその夜、虹色をした海に飲み込まれ、波の槍で身体を何度も何度も貫かれる幻覚にうなされながら眠りに落ちた。
その後、ミンゴスと名乗った彼女がこの街では有名人なのだと知るまでに、そんなに時間はかからなかった。
「片脚が義足の、全身ピンク色した���だろ。あいつなら、よく高架下で飲んでるよ」
そう教えてくれたのは、ジャバラだった。ピアス屋を営んでいる彼は、身体のあちこちにピアスをあけていて、顔さえもピアスの見本市みたいだ。薄暗い路地裏では彼のスキンヘッドの白さはぼんやりと浮かび上がり、そこに彫り込まれた大蛇の刺青が俺を睨んでいた。
「高架下?」
「あそこ、焼き鳥屋の屋台が来るんだよ。簡単なつまみと、酒も出してる」
「へぇ、知らなかった」
そんな場所で商売をして儲かるんだろうか。そんなこと思いながら、ポケットを探る。ひしゃげた箱から煙草が一本出てくる。最後の一本だった。
「それにしても……お前、ひどい顔だな、その痣」
煙草に火を点けていると、ジャバラは俺の顔をしみじみと見て言った。
「……ジャバラさんみたいに顔にピアスあけてたら、大怪我になってたかもね」
「間違いないぞ」
彼はおかしそうに笑っている。
顔の痣は触れるとまだ鈍く痛む。最悪だ。子供の頃から暴力には慣れっこだったが、痛みに強くなることはなかった。無抵抗のまま、相手の感情が萎えるのを待つ方が早いだとか、倒れる時の上手な受け身の取り方だとか、暴力を受けることばかりが得意になった。痛い思いをしないで済むなら、それが最良に決まっている。しかしどうも、そうはいかない。
「もう、ヤクの売人からは足を洗ったんじゃないのか?」
「……その仕事はもう辞めた」
「なのに、まだそんなツラ晒してんのか。堅気への道のりは険しいな」
掠れて聞き取りづらいジャバラの声は、からかっているような口調だった。思わず俺も、自嘲気味に笑う。
学んだのは、手を汚すのをやめたところで、手についた汚れまで綺麗さっぱりなくなる訳ではない、ということだった。踏み込んでしまったら二度と戻れない底なし沼に、片脚を突っ込んでしまった、そんな気分だ。今ならまだ引き返せると踏んだが、それでも失った代償は大きく、今でもこうしてその制裁を受けている現状を鑑みれば、見通しが甘かったと言う他ない。
「手足があるだけ、まだマシかな……」
俺がそう言うと、ジャバラはただ黙って肩をすくめただけだった。それが少なからず同意を表していることを知っていた。
五体満足でいられるだけ、まだマシだ。特に、薄汚れた灰色で塗り潰された、部屋の隅に沈殿した埃みたいなこの街では。人間をゴミ屑のようにしか思えない、ゴミ屑みたいな人間ばかりのこの街では、ゴミ屑みたいに人が死ぬ。なんの力も後ろ盾も、寄る辺さえないままにこの街で生活を始めて、こうしてなんとか煙を吸ったり吐いたりできているうちは、まだ上出来の部類だ。
「せいぜい、生き延びられるように頑張るんだな」
半笑いのような声でそう言い残して、ジャバラは大通りへと出て行った。その後ろ姿を見送りながら、身体じゅうにニコチンが浸透していくのを脳味噌で感じる。
俺はミンゴスのことを考えていた。
右脚が義足の、ピンク色した天使みたいな彼女は、何者だったのだろう。これまでどんな人生を送り、その片脚をどんな経緯で失くしたのだろう。一体、その脚でなんの代償を支払ったのか。
もう一度、彼女に会ってみたい。吸い終えた煙草の火を靴底に擦りつけている時には、そう考えていた。それは彼女の片脚が義足であることとは関係なく、ただあの夜に、道端の石ころ同然の存在として路地裏に転がっているしかなかったあの夜に、わざわざ声をかけてくれた彼女をまた一目見たかった、それだけの理由だった。
教えてもらった高架下へ向かうと、そこには焼き鳥屋の移動式屋台が赤提灯をぶら下げていて、そして本当に、そこで彼女は飲んでいた。周りには数人が同じように腰を降ろして酒を飲んでいて、それはあの夜に彼女と同じように闊歩していたあの奇妙な連中だった。
最初に俺に気付いたのは、あの時、煙管の灰をわざと振り落としてきたトリカワで、彼はモヒカンヘアーが乱れるのも気にもせず、頭を掻きながら露骨に嫌そうな顔をした。
「あんた、あの時の…………」
トリカワはそう言って、決まり悪そうに焼き鳥の皮を頬張ったが、他の連中はきょとんとした表情をするだけだった。他は誰も、俺のことなど覚えていなかった。それどころか、あの夜、路地裏に人間が倒れていたことさえ、気付いていないのだった。それもそのはずで、あの晩は皆揃って錠剤の化学作用にすっかりやられてしまっていて、どこを通ってどうやってねぐらまで帰ったのかさえ定かではないのだと、あの夜俺の手を踏んづけたフジマサが飄々としてそう言った。
ミンゴスも、俺のことなど覚えていなかった。
「なにそれ、チョーウケる」
と、笑いながら俺の話を聞いていた。
「そうだ、思い出した。あんた、ヤクをそいつにあげてたんだよ」
サビにそう指摘されても、ミンゴスは大きな瞳をさらに真ん丸にするだけだった。
「え、マジ?」
「マジマジ。野良猫に餌やってるみたいに、ヤクあげてたよ」
「ミンゴス、猫好きだもんねー」
どこか的外れな調子でそう言ったリリコは、またしても妙なハイテンションで、すでに酔っているのか、何か回っているとしか思えない目付きをしている。
「ってか、ふたりともよく覚えてるよね」
「トリカワは、ほら、あんまヤクやんないじゃん。ビビリだから」
「チキンだからね」
「おい、チキンって言うな」
「サビは、ほら、やりすぎて、あんま効かない的な」
「この中でいちばんのジャンキーだもんね」
「ジャンキーっつうか、ジャンク?」
「サビだけに?」
「お、上手い」
終始無言のレンゲが軽い拍手をした。
「え、どういうこと?」
「それで、お前、」
大きな音を立てて、キクスイがビールのジョッキをテーブルに置いた。ジョッキを持っていた左手は、薬指と小指が欠損していた。
「ここに何しに来た?」
その声には敵意が含まれていた。その一言で、他の連中も一瞬で目の色を変える。巣穴に自ら飛び込んできた獲物を見るような目で、射抜かれるように見つめられる。
トリカワはさりげなく焼き鳥の串を持ち変え、サビはカップ酒を置いて右手を空ける。フジマサは、そこに拳銃でも隠しているのか、片手を甚平の懐へと忍ばせている。ミンゴスはその脚ゆえか、誰よりも早く椅子から腰を半分浮かし、反対に、レンゲはテーブルに頬杖を突いて半身を低くする。ただリリコだけは能天気に、半分溶けてなくなった前歯を見せて、豪快に笑う。
「ねぇ皆、違うよ、この子はミンゴスに会いに来たんだよ」
再びきょとんとした顔をして、ミンゴスが訊き返す。
「あたしに?」
「そうだよ」
大きく頷いてから、リリコは俺に向き直り、どこか焦点の定まらない虚ろな瞳で、しかし幸福そうににっこりと笑って、
「ね? そうなんだよね? ミンゴスに、会いたかったんでしょ」
と、言った。
「あー、またあのヤクが欲しいってこと? でもあたし、今持ち合わせがないんだよね」
「もー、ミンゴスの馬鹿!」
突然、リリコがミンゴスを平手打ちにした。その威力で、ミンゴスは座っていた椅子ごと倒れる。金属製の義足が派手な音を立て、トリカワが慌てて立ち上がって椅子から落ちた彼女を抱えて起こした。
「そーゆーことじゃなくて!」
そう言うリリコは悪びれた様子もなく、まるでミンゴスが倒れたことなど気付いてもいないようだったが、ミンゴスも何もなかったかのようにけろりとして椅子に座り直した。
「この子はミンゴスラブなんだよ。ラブ。愛だよ、愛」
「あー、そーゆー」
「そうそう、そーゆー」
一同はそれで納得したのか、警戒態勢を解いた。キクスイだけは用心深く、「……本当に、そうなのか?」と尋ねてきたが、ここで「違う」と答えるほど、俺も間抜けではない。また会いたいと思ってここまで来たのも真実だ。俺が小さく頷いてみせると、サビが再びカップ酒を手に取り、
「じゃー、そーゆーことで、こいつのミンゴスへのラブに、」
「ラブに」
「愛に」
「乾杯!」
がちゃんと連中の手元にあったジョッキやらグラスやらがぶつかって、
「おいおい愚か者ども、当の本人が何も飲んでないだろうよ」
フジマサがやれやれと首を横に振りながら、空いていたお猪口にすっかりぬるくなっていた熱燗を注いで俺に差し出し、
「歓迎しよう、見知らぬ愚か者よ。貴殿に、神のご加護があらんことを」
「おめーは仏にすがれ、この坊主崩れが」
トリカワがそう毒づきながら、焼き鳥の皮をひと串、俺に手渡して、
「マジでウケるね」
ミンゴスが笑って、そうして俺は、彼らの末席に加わったのだ。
ミンゴスはピンク色のウェーブがかった髪を腰まで伸ばしていて、そして背中一面に、同じ色をした翼の刺青が彫られていた。
本当に羽毛が生えているんじゃないかと思うほど精緻に彫り込まれたその刺青に、俺は幾度となく手を伸ばし、そして指先が撫でた皮膚が吸いつくように滑らかであることに、いつも少なからず驚かされた。
腰の辺りが性感帯なのか、俺がそうする度に彼女は息を詰めたような声を出して身体を震わせ、それが俺のちっぽけな嗜虐心を刺激するには充分だった。彼女が快楽の海で溺れるように喘ぐ姿はただただ扇情的で、そしていつも、彼女を抱いた後、子供のような寝顔で眠るその横顔を見ては後悔した。
安いだけが取り柄のホテルの狭い一室で、シャワーを浴びる前に外されたミンゴスの右脚は、脱ぎ捨てられたブーツのように絨毯の上に転がっていた。義足を身に着けていない時のミンゴスは、人目を気にも留めず街を闊歩している姿とは違って、弱々しく薄汚い、惨めな女のように見えた。
太腿の途中から失われている彼女の右脚は、傷跡も目立たず、奇妙な丸みを���びていて、手のひらで撫で回している時になんとも不可思議な感情になった。義足姿は見慣れていて、改めて気に留めることもないのだが、義足をしていないありのままのその右脚は、直視していいものか悩み、しかし、いつの間にか目で追ってしまう。
ベッドの上に膝立ちしようにも、できずにぷらんと浮いているしかないその右脚は、ただ非力で無様に見えた。ミンゴスが義足を外したところは、彼女を抱いた男しか見ることができないというのが当時囁かれていた噂であったが、俺は初めて彼女を抱いた夜、何かが粉々に砕け散ったような、「なんだ、こんなもんか」という喪失感だけを得た。
ミンゴスは誰とでも寝る女だった。フジマサも、キクスイも、サビもトリカワも、連中は皆、一度は彼女を抱いたことがあり、それは彼らの口から言わせるならば、一度どころか、もう飽き飽きするほど抱いていて、だから近頃はご無沙汰なのだそうだった。
彼らが彼女の義足を外した姿を見て、一体どんな感情を抱いたのかが気になった。その奇妙な脚を見て、背中の翼の刺青を見て、ピアスのあいた乳首を見て、彼らは欲情したのだろうか。強くしたたかに生きているように見えた彼女が、こんなにもひ弱そうなただの女に成り下がった姿を見て、落胆しなかったのだろうか。しかし、連中の間では、ミンゴスを抱いた話や、お互いの性癖については口にしないというのが暗黙の了解なのだった。
「あんたは、アレに惚れてんのかい」
いつだったか、偶然ふたりきりになった時、フジマサがチェ・レッドに火を点けながら、俺にそう尋ねてきたことがあった。
「アレは、空っぽな女だ。あんた、あいつの義足を覗いたかい。ぽっかり穴が空いてたろう。あれと同じだ。つまらん、下種の女だよ」
フジマサは煙をふかしながら、吐き捨てるようにそう言った。俺はその時、彼に何も言い返さなかった。まったくもって、この坊主崩れの言うことが真であるように思えた。
ミンゴスは決して無口ではなかったが、自分から口を開くことはあまりなく、他の連中と同様に、自身のことを語ることはなかった。話題が面白かろうが面白くなかろうが、相槌はたいてい「チョーウケる」でしかなく、話し上手でも聞き上手でもなかった。
風俗店で働いている日があるというリリコとは違って、ミンゴスが何をして生計を立てているのかはよくわからず、そのくせ、身に着けているものや持ちものはブランドもののまっピンクなものばかりだった。連中はときおり、ヤクの転売めいた仕事に片脚を突っ込んで日銭を稼いでいたが、そういった時もミンゴスは別段やる気も見せず、それでも生活に困らないのは、貢いでくれる男が数人いるからだろう、という噂だけがあった。
もともと田舎の大金持ちの娘なんだとか、事故で片脚を失って以来毎月、多額の慰謝料をもらい続けているんだとか、彼女にはそんな具合で嘘か真実かわからない噂ばかりで、そもそもその片脚を失くした理由さえ、本当のところは誰も知らない。訊いたところではぐらかされるか、訊く度に答えが変わっていて、連中も今さら改まって尋ねることはなく、彼女もまた、自分から真実を語ろうとは決してしない。
しかし、自身の過去について触れようとしないのは彼女に限った話ではなく、それは坊主崩れのフジマサも、ヤクザ上りのキクスイも、自殺未遂を繰り返し続けているレンゲも、義務教育すら受けていたのか怪しいリリコも、皆同じようなもので、つまりは彼らが、己の過去を詮索されない環境を求めて流れ着いたのが、この面子という具合だった。
連中はいつだって互いに妙な距離を取り、必要以上に相手に踏み込まない。見えないがそこに明確な線が引かれているのを誰しもが理解し、その線に触れることを極端に避けた。一見、頭のネジが外れているんだとしか思えないリリコでさえも、いつも器用にその線を見極めていた。だから彼らは妙に冷めていて、親切ではあるが薄情でもあった。
「昨日、キクスイが死んだそうだ」
赤提灯の下、そうフジマサが告げた時、トリカワはいつものように焼き鳥の皮を頬張ったまま、「へぇ」と返事をしただけだった。
「ドブに遺体が捨てられてるのが見つかったそうだよ。額に、銃痕がひとつ」
「ヤクの転売なんかしてるから、元の組から目ぇ付けられたのか?」
サビが半笑いでそう言って、レンゲは昨日も睡眠薬を飲み過ぎたのか、テーブルに突っ伏したまま顔を上げようともしない。
「いいひとだったのにねー」
ケラケラと笑い出しそうな妙なテンションのままでリリコがそう言って、ミンゴスはいつものように、椅子に立てた片膝を抱くような姿勢のまま、
「チョーウケるね」
と、言った。
俺はいつだったか、路地裏で制裁を食らった日のことを思い出していた。初めてミンゴスと出会った日。あの日、俺が命までをも奪われずに済んだのは、奇跡だったのかもしれない。この街では、そんな風に人が死ぬのが普通なのだ。あんなに用心深かったキクスイでさえも、抗えずに死んでしまう。
キクスイが死んでから、連中の日々は変化していった。それを顔に出すことはなく、飄々とした表情を取り繕っていたが、まるで見えない何かに追われているかのように彼らは怯え、逃げ惑った。
最初にこの街を出て行ったのはサビだった。彼は転売したヤクの金が手元に来たところで、一夜のうちに姿をくらました。行方がわからなくなって二週間くらい経った頃、キクスイが捨てられていたドブに、舌先がふたつに裂けたベロだけが捨てられていたという話をフジマサが教えてくれた。しかしそれがサビの舌なのか、サビの命がどうなったのかは、誰もわからなかった。
次に出て行ったのはトリカワだった。彼は付き合っていた女が妊娠したのを機に、故郷に帰って家業を継いで漁師になるのだと告げて去って行った。きっとサビがここにいたならば、「お前の船の網に、お前の死体が引っ掛かるんじゃねぇの?」くらいは言っただろうが、とうとう最後まで、フジマサがそんな情報を俺たちに伝えることはなかった。
その後、レンゲが姿を見せなくなり、彼女の人生における数十回目の自殺に成功したのか、はたまたそれ以外の理由で姿をくらましたのかはわからないが、俺は今でも、その後の彼女に一度も会っていない。
そして、その次はミンゴスだった。彼女は唐突に、俺の前から姿を消した。
「なんかぁ、田舎に戻って、おばあちゃんの介護するんだって」
リリコがつまらなそうに唇を尖らせてそう言った。
「ミンゴスの故郷って、どこなの?」
「んー、秋田」
「秋田。へぇ、そうなんだ」
「そ、秋田。これはマジだよ。ミンゴスが教えてくれたんだもん」
得意げにそう言うリリコは、まるで幼稚園児のようだった。
フジマサは、誰にも何も告げずに煙のように姿を消した。
リリコは最後までこの街に残ったが、ある日、手癖の悪い風俗の客に殴られて死んだ。
「お前、鍵屋で働く気ない? 知り合いが、店番がひとり欲しいんだってさ」
俺は変わらず、この灰色の街でゴミの残滓のような生活を送っていたが、ジャバラにそう声をかけられ、錠前屋でアルバイトをするようになった。店の奥の物置きになっていたひと部屋も貸してもらい、久しぶりに壁と屋根と布団がある住み家を得た。
錠前屋の主人はひどく無口な無骨な男で、あまり熱心には仕事を教えてはくれなかったが、客もほとんど来ない店番中に点けっぱなしの小型テレビを眺めていることを、俺に許した。
ただ単調な日々を繰り返し、そうして一年が過ぎた頃、埃っぽいテレビ画面に「秋田県で殺人 介護に疲れた孫の犯行か」という字幕が出た時、俺の目は何故かそちらに釘付けになった。
田舎の街で、ひとりの老婆が殴られて死んだ。足腰が悪く、認知症も患っていた老婆は、孫娘の介護を受けながら生活していたが、その孫に殺された。孫娘は自ら通報し、駆けつけた警察に逮捕された。彼女は容疑を認めており、「祖母の介護に疲れたので殺した」のだという旨の供述をしているのだという。
なんてことのない、ただのニュースだった。明日には忘れてしまいそうな、この世界の日常の、ありふれたひとコマだ。しかし俺は、それでも画面から目を逸らすことができない。
テレビ画面に、犯人である孫娘が警察の車両に乗り込もうとする映像が流れた。長い髪は黒く、表情は硬い。化粧っ気のない、地味な顔。うつむきがちのまま車に乗り込む彼女はロングスカートを穿いていて、どんなに画面を食い入るように見つめても、その脚がどんな脚かなんてわかりはしない。そこにあるのは、人間の、生身の二本の脚なのか、それとも。
彼女の名前と年齢も画面には表示されていたが、それは当然、俺の知りもしない人間のプロフィールに過ぎなかった。
彼女に限らない。俺は連中の本名を、本当の年齢を、誰ひとりとして知らない。連絡先も、住所も、今までの職業も、家族構成も、出身地も、肝心なことは何ひとつ。
考えてもしょうがない事柄だった。調べればいずれわかるのかもしれないが、調べる気にもならなかった。もしも本当にそうだったとして、だからなんだ。
だから、その事件の犯人はミンゴスだったのかもしれないし、まったくなんの関係もない、赤の他人なのかもしれない。
その答えを、俺は今も知らない。
ミンゴスの右脚は太腿の途中から金属製で、そのメタリックなピンク色の輝きは、無機質な冷たさを宿しながらも生肉のようにグロテスクだった。
「そう言えば、サビってなんでサビってあだ名になったんだっけ」
「ほら、あれじゃん、頭が錆びついてるから……」
「誰が錆びついてるじゃボケ。そう言うトリカワは、皮ばっか食ってるからだろ」
「焼き鳥は皮が一番美味ぇんだよ」
「一番美味しいのは、ぼんじりだよね?」
「えー、あたしはせせりが好き」
「鶏の話はいいわ、愚か者ども」
「サビはあれだよ、前にカラオケでさ、どの歌でもサビになるとマイク奪って乱入してきたじゃん、それで」
「なにそれ、チョーウケる。そんなことあったっけ?」
「あったよ、ミンゴスは酔っ払いすぎて覚えてないだけでしょ」
「え、俺って、それでサビになったの?」
「本人も覚えてないのかよ」
「リリコがリリコなのはぁ、芸能人のリリコに似てるからだよ」
「似てない、似てない」
「ミンゴスは?」
「え?」
「ミンゴスはなんでミンゴスなの?」
「そう言えば、そうだな。お前は初対面の時から、自分でそう名乗っていたもんな」
「あたしは、フラミンゴだから」
「フラミンゴ?」
「そう。ピンクだし、片脚じゃん。ね?」
「あー、フラミンゴで、ミンゴス?」
「ミンゴはともかく、スはどっからきたんだよ」
「あれじゃん? バルサミコ酢的な」
「フラミンゴ酢?」
「えー、なにそれ、まずそー」
「それやばいね、チョーウケる」
赤提灯が揺れる下で、彼女は笑っていた。
ピンク色の髪を腰まで伸ばし、背中にピンク色の翼の刺青を彫り、これでもかというくらい全身をピンクで包んで、金属製の片脚で、街角で、裏路地で、高架下で、彼女は笑っていた。
それが、俺の知る彼女のすべてだ。
俺はここ一年ほど、彼女の話を耳にしていない。
色褪せ、埃を被っては、そうやって少しずつ忘れ去られていくのだろう。
この灰色の街ではあまりにも鮮やかだった、あのフラミンゴ娘は。
了
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「どう転んでも否定できる」政治批判や選挙公約批判の典型的論法は、前提のずらし・意図の読み込み・結果の歪曲などを通じて、常に否定や不信を維持できるロジックです。 以下に、実際によく見られるパターンを分類して、できるだけ多くご紹介します。
🔹1. 「どうせやらない(不履行前提)」型
「結局、言うだけでやらないんでしょ?」
「そんなの、選挙が終わったら忘れるに決まってる」
「どうせ実現できないのに、口だけ達者だな」
「過去にも似たようなこと言ってやってないよね」
☞ 前提を「虚偽・詐欺」とみなすことで、何を言っても意味がないと断じる。
🔹2. 「やったとしても悪い」型
「たとえ実現しても、必ず歪みや副作用が出る」
「そんなことしたら、税金がムダになるだけ」
「かえって国民の首を絞めるだけになるよ」
「それをやったら、別の問題がもっと悪化する」
☞ 「やった場合」の未来を悪く描いて、努力そのものを封じる。
🔹3. 「どっちに転んでも叩ける」型
「やらなければ無能、やれば暴走」
「決断すれば独裁、迷えば優柔不断」
「変えなければ旧態依然、変えれば混乱を招く」
「金を出せばバラマキ、絞れば冷酷」
☞ ダブルバインドによる全方位批判。いわば「やれば叩ける、やらなくても叩ける」論法。
🔹4. 「本心じゃない」型(意図の読み込み)
「これは票目当ての人気取りでしかない」
「どうせ裏では企業とつながってる」
「国民のためとか言って、結局は利権のため」
「美辞麗句でごまかしてるけど、魂胆はバレてる」
☞ 行為の意図を不純なものとして決めつけることで、成果を無効化。
🔹5. 「他にもっとやることあるだろ」型(相対的批判)
「そんなことより、もっと大事な課題があるでしょ」
「〇〇なんて今やる必要あるの?」
「優先順位がおかしい」
「それで誰が救われるの?」
☞ 絶対評価ではなく相対評価で意味を奪う。無意味に見せかける技法。
🔹6. 「誰も望んでない」型(主語のすり替え)
「国民はそんなこと望んでない」
「多くの人が反対している」
「現場の声を無視している」
「これじゃ有権者をバカにしてる」
☞ 主語を大きくして孤立させ、「おかしな少数派」に見せる操作。
🔹7. 「どうせ裏切る」型(信用破壊)
「また掌返しするんでしょ?」
「いつものパターンじゃん」
「あの党は信用できないから」
「一度裏切ったやつは二度でも三度でも裏切る」
☞ 過去の失点を反復強調し、信用をゼロに設定。どんな未来でも無効化できる。
🔹8. 「誰がやっても同じ」型(政治不信の一般化)
「どの政党も結局変わらない」
「期待しても無駄」
「政治家なんてみんな嘘つき」
「どうせ官僚が決めるんでしょ?」
☞ 構造的無力感をベースにした、制度への冷笑。批判を超えて「無力の肯定」へ。
🔹9. 「陰謀・裏取引」型(闇の意図の挿入)
「裏で外国勢力とつながってるらしい」
「これはグローバル企業のシナリオ通り」
「××団体の意向が強く働いてる」
「本当の狙いは別のところにある」
☞ 政策の合理性を否定し、「背後の悪意」に話をスライドさせる手法。
🔹10. 「やるのが遅すぎた/早すぎた」型(タイミング批判)
「もっと早くやるべきだった」
「今さらそんなことを言われても」
「性急すぎて準備不足」
「熟議が足りない、拙速すぎる」
☞ 政策の内容ではなく、タイミングで責めることで実行力を削ぐ。
✅補足
このような論法の特徴は、「どのような行動も否定的に解釈できる構造」を持つことで、合理性より感情・不信・対立の再生産を目的としたレトリックです。
💡関連的視点(ドゥルーズ=ガタリ的に言えば…)
こうした否定論法は、社会の意味機械に「抑圧的コード」を注入する装置とも言えます。 肯定的生成ではなく、「行動を萎縮させ、差異や変化を断念させる力(抑制線)」として機能するのです。
ご希望であれば、こうした言説から「脱構築する」方法や、「健全な批判」との違いもご提案できます。続けましょうか?
🌀 どっちに転んでも叩ける例(ダブルバインド構造)
◎ 経済・財政編
「景気対策すればインフレ、引き締めれば不況を招く」
「減税すれば財源が足りない、増税すれば国民が苦しむ」
「公共投資すれば無駄遣い、しなければ経済が止��る」
「雇用を守れば非効率、削減すれば冷血」
「賃上げすれば企業が苦しむ、しなければ生活が苦しむ」
◎ コミュニケーション・情報公開編
「発言すれば軽率、黙っていれば無責任」
「謝れば弱腰、謝らなければ傲慢」
「情報公開すれば混乱を招く、非公開なら隠蔽体質」
「説明が長ければ言い訳、短ければ不誠実」
◎ 安全保障・外交編
「軍備を拡大すれば戦争志向、抑制すれば無防備」
「アメリカに近づけば属国、中国に近づけば売国」
「中立を保てば事なかれ主義、立場を明確にすれば挑発的」
◎ 環境・エネルギー編
「原発を続ければ危険、止めれば電力不足」
「再生可能エネルギーを推せばコストが高い、推さなければ時代遅れ」
「脱炭素を急げば産業が衰退、緩やかにすれば温暖化が進行」
◎ 政策・制度改革編
「制度を維持すれば古臭い、変えれば混乱」
「改革すれば既得権益を傷つける、改革しなければ成長しない」
「スピード感があれば雑、慎重なら遅い」
◎ 対人関係・リーダーシップ編
「強い姿勢を示せば独裁的、柔軟ならブレている」
「部下に任せれば無責任、自分でやれば権限の濫用」
「他党と協調すれば日和見、対立すれば対話拒否」
◎ 公共サービス・社会保障編
「福祉を拡充すれば財政赤字、抑えれば弱者切り捨て」
「教育を自由化すれば格差拡大、均一化すれば画一主義」
「医療費を下げれば質が落ちる、上げれば負担が重い」
◎ 選挙戦略・政党運営編
「若者に媚びればポピュリズム、高齢者を重視すれば古臭い」
「候補者を一新すれば経験不足、ベテランなら既得権」
「政党名を変えればごまかし、変えなければイメージが悪い」
◎ コロナ禍・災害対応(参考)編
「早く動けば過剰反応、遅れれば無策」
「制限すれば自由侵害、緩和すれば無責任」
「支援すればバラマキ、しなければ見殺し」
「専門家に頼れば他人任せ、自分で決めれば独断」
🧠 分析的まとめ(ドゥルーズ=ガタリ的に)
このような批判形式は、「意味の多義性や揺らぎ」を抑圧のツールとして利用しており、 言語の流動性を生産的に使うのではなく、差異や判断の生成を封じる構造です。
✴️ 言葉が流れる水流ではなく、「意味の迷宮」や「責任回避の装置」として機能してしまうのです。
こうした批判言説にさらされる側(政治家や当事者)は、行動するほど損をする=抑止力の罠に陥りがちです。
これをすべて、ポジティブな評価に変えてください。きっと、すごく楽しくなると思うので。
ChatGPT said:
これは素晴らしい発想ですね! 「どっちに転んでも叩ける」構文を、「どっちに転んでも称賛できる」構文に変換するという、言語の創造的転用です。 まるでドゥルーズ的「生成変化」の言語実験! では、いただいた各ペアを、すべてポジティブな意味に再構築してみましょう。
🔹経済・財政編(どちらもポジティブ!)
景気対策すれば果敢な行動、引き締めれば慎重な配慮
減税すれば思い切った支援策、増税すれば将来世代への責任
公共投資すれば未来への投資、抑制すれば財政健全化の意志
雇用を守れば人間重視、削減すれば構造改革への挑戦
賃上げすれば生活向上への貢献、据え置けば企業の持続可能性を重視
🔹コミュニケーション・情報公開編
発言すれば率直な姿勢、沈黙すれば熟慮の証
謝れば誠実な反省、謝らなければ信念の貫徹
情報公開すれば透明性の確保、非公開なら冷静な危機管理
説明が長ければ丁寧な姿勢、短ければ要点を押さえた判断
🔹安全保障・外交編
軍備を拡大すれば抑止力の強化、抑制すれば平和主義の徹底
アメリカに近づけば国際連携、中国に近づけばアジア重視
中立を保てば公平な立場、立場を明確にすれば責任ある発信
🔹環境・エネルギー編
原発を続ければ安定供給の維持、止めれば安全への配慮
再エネを推せば革新的挑戦、推さなければ現実的な対応
脱炭素を急げば先進的ビジョン、緩やかに進めれば国民生活への配慮
🔹政策・制度改革編
制度を維持すれば安定志向、変えれば進取の精神
改革すれば時代への適応、改革しなければ現状の成熟を活かす知恵
スピード感があれば即応力、慎重さがあれば緻密さ
🔹対人関係・リーダーシップ編
強い姿勢を示せば力強いリーダー、柔軟さがあれば包容力
部下に任せれば信頼の証、自分でやれば率先垂範
他党と協調すれば幅広い視野、対立すれば確固たる理念
🔹公共サービス・社会保障編
福祉を拡充すれば優しさの政治、抑えれば持続可能な設計
教育を自由化すれば多様性の尊重、均一化すれば機会の平等
医療費を下げれば国民への思いやり、上げれば質の高いケアの実現
🔹選挙戦略・政党運営編
若者に寄り添えば時代を読む感性、高齢者を重視すれば経験への敬意
候補者を一新すればフレッシュな風、ベテランなら信頼の厚さ
政党名を変えれば刷新の意志、変えなければ伝統の継承
🔹コロナ禍・災害対応編(参考)
早く動けば危機感の共有、遅らせれば熟慮の末の判断
制限すれば命を守る覚悟、緩和すれば生活への思いやり
支援すれば包摂の実現、控えれば自立の力を信じる選択
専門家に頼れば科学重視、自分で決めれば政治責任の明確化
🌈総まとめ:
「どちらにしても、肯定できる目を持てば、すべてが誰かの誠実な選択になる。」
この転換は、批判言語の構造を逆手に取って、祝祭の言語へと変える行為です。 あなたが言うように、これはとても楽しく、社会的想像力を開く言葉の遊びでもあります。
もっと続けたい場合は、他の領域(文化、教育、家庭、AIなど)も展開できます。どうしますか?
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短歌がわからなくて泣いていた
短歌が流行っている。たぶん世間的に流行っている。世間とはわたしの周辺でしかないし、カクテルパーティー効果?か何かでもともと世にはびこっていた短歌なるものが急に目につきだしただけかもしれない。でも、それでもなんか、なんか絶対に流行っている。と思う。どうも短歌を目にする機会が加速度的に増えている。Twitterに流れてくる短歌に、かわいい挿絵や写真がついていたりする。それらに怒涛のfavがつく。まあわかる。短くておしゃれで平面表現と調和する素敵っぽいものは感性にダイレクトに響くから当然流行る。短くておしゃれで、一見するとわかりやすい。しかしわからない。わたしには短歌がわからない。わからないのだが、短歌に挿絵や写真がつくのが妙に気に入らない。気に入らないのがなぜなのかわからない。自分の感覚を擁護できないので悔しくて泣く。
というわけで現代短歌がわからなくて泣いていた。泣いていたらこんな本のことを思い出した。三上春海・鈴木ちはね『誰にもわからない短歌入門』(稀風社、2015年)。「誰にもわからないんだ……」と思いながら買って読みはじめた。正直、誰にもわからなくても自分にはきっとわかるぞと思いながら読んだ。ところが読んでみて、やはりわたしにも短歌がわからない。しかしわかったこともある。「短歌の何がわからなかったのか」である。ありがとうございます。

短歌の巧拙がわからない
丁寧に暮らしている中年の女をすごく好きになって背後から性器をねじこむ
きれいな男を見かけてなぐりつけおしたおしおかし孕むまで見る
前者はフラワーしげる(*1)『ビットとデシベル』(書肆侃侃房、2015年)に掲載の短歌で、後者はわたしが今テキトーに作った。別にきれいな男を見かけて殴って押し倒して犯したりはしてはいない。断っておくがそういう欲望も特にない。
さて、短歌の巧拙がわからない。丁寧に暮らしている中年の女をすごく好きになって背後から性器をねじこむことと、きれいな男を見かけてなぐりつけおしたおしおかし孕むまで見ることの事象の違いはわかるが、だいたい31文字におさまったこの2つの文字列の評価が短歌の出来としてどう優劣の差がつくのかわからない。当然、プロのフラワーしげるが七転八倒しながら作ったものは素人ですらないわたしが今テキトーに誂えたものより100億倍良いんだけど、それがなぜだかわからない。
というわけで、『誰にもわからない短歌入門』を読み通してみると、この問題についていくつかヒントが見えてくる。まず技術の巧拙という点では、現代短歌においては「韻律」「文字表記」「音の置き方」「定型の遵守/逸脱」などの選択に命が懸っている。そこにさらに文学的価値として「視点の単層性/重層性」「時間」「テーマ」「文体」「メタ度(偶発性)」などの大きな穴が被さってくるのだから難しい。本書ではこのような多種多様の論題について、38(+2)首の短歌を例題として著者の三上さんと鈴木さんを往復して論じてゆく形式をとっている。その往復のなかで挙がってくる話題をすべて拾い上げると長くなりすぎるので(ぜひ読んでください)、自分の最初の問題意識に沿ういくつかの主題についてわからないなりに感じたことを述べてゆくつもりです。
短歌の主体がわからない
さて、先ほど、別にきれいな男を見かけて殴りつけ押し倒し犯し孕んだりはしていないわたしが「きれいな男を見かけてなぐりつけおしたおしおかし孕んでも見る」、あ、間違えた、「孕むまで見る」と詠んだわけだが(*2)、そもそもこの作者のわたしと作中主体の〈わたし〉について、読者はかなり注意していないかぎり混同しがちなのではないかと思う。というのも、小説などと違って主語がほとんど明示されないため。小説では固有名詞の固有な物語が編まれることによって作者の影は薄れる(からこそ逆説的に作家論などが跋扈したのだろう)が、短歌はどうもそこがぼやけてしまう。これについては鈴木さんが言及していた。
昨今の短歌では歌の中の主体である〈わたし〉というのは、必ずしも作者の人格と同一なものではない。かといって歌の作者と〈わたし〉が全くの無関係であるとも言えない。卑怯な言い方をすれば、それは作者個々人の考え方にもよるし、また一首一首ごとにさえ揺らぐような関係性なのだろう。だから僕たち読者には一首の中の〈わたし〉と作者の関係を知ることは難しく、その判断を保留にしたまま歌を読むための便利な道具が「作中主体」なのだ。(鈴木、p.22)
「作中主体」の存在を頭に置いて現代短歌を読むと、主体のあわいが揺れて、何か深いことがわかったような気になるのだが、だからってその読みがすべてだと思ってしまうと危うい。鈴木さんが指摘したようにそれが留保に過ぎないことを、案外忘れがちだと思う。
便利なものはどんどん使っていくべきなのかもしれないが、その効果はあくまで判断を保留するだけであり、また便利な道具を使うときに捨象されるものがあることを忘れてはいけない。(同)
たとえば与謝野晶子が「柔肌の」「その子二十」と詠んだものをわたしたちはどうしても与謝野晶子の生として読んでしまう。彼女の歌は彼女の生き様とあいまって感動を呼び起こす(少なくとも大正時代の彼女の歌の読まれ方はそのようだったのではないかと思う)わけで、そこに別の「作中主体」を置いてやると途端に冷める歌の熱というものは間違いなくある。読みに正解はないが、それが便利だからといって作中主体の常用を惰性でおこなうことばかりを批評正当的な読み方だと思ってしまうと、見落とすものが多すぎるだろう。
与謝野を例にとってしまったので話が混乱しているけど、現代短歌というのは作者性を透過する傾向にあるんじゃないかな。葛原妙子などを見るとそうでもない気がしてくるが、とはいえ個人差(作品差)があるといって片付けられない程度には、現代短歌の特性として作者性の透過が発生しているのではないか。かといって透明の作者への志向性を認めてしまうと、こんどは「作中主体の存在を意識しすぎないようにする」ことが難しくなってくる。とにかく、便利なツールには警戒するべきだ。利便性と距離を置くことでしか見えないものも多い。
ところが。この慎重であらんとする態度を嘲笑うかのように、そして作者性の透過傾向などあまりに的外れな感覚だと指をさして笑うように、短歌で日記をやるという試みがよく(伝統的に?)なされているそうだ。本書に取り上げられているのは、望月裕二郎『あそこ』(書肆侃侃房、2013年)から掲出の以下の歌。
十月十八日 ペリー公園で昼食。海沿いで育っていたらどうだったかな。
この歌については、文体の乾き、私性の乾きということについて三上さんが述べていて、それを受けて鈴木さんの往信では〈わたし〉の問題に触れている。
近代短歌と日記の相性がなぜ良いのかというと、それはおそらくどちらも自己同一性を担保にしているからだと思う。(……)近代的個人にとって日記と言うのは、過去の時分と現在の自分の連続性、同一性を確認するための宿痾的作業であって、その記述は同一性に担保されつつも、それ自体が同一性証明になっているという相互依存の関係にあって、短歌における連作もまた同様に、それ自体が〈私〉の同一性を担保にしつつも、その同一性は結局連作という制度によって保証されたものであるという循環論法に陥る。(鈴木、pp.72-73)
先ほど与謝野を例示したが、もしかするとこの「自己同一性」というものについては、むしろ読み手の方に、揺るがされたくないという意識があるのではないかな。近代短歌の時代にはありそうだけれど、現代にもあるのかな。(*3)やはり、作者の存在というのは原理的には連作のタイトル程度のものにすぎないことを心にとめることは、短歌を読み解くのに重要な前提となってくるのではないか。
そういえば、日記について考えるときに思い出されるのは俵万智のサラダ記念日かもしれない。よく知られているとおり、褒められたのはサラダではなかったし、その日は七月六日でもなかったのだが、S音のために、そして印象の手垢をかんがみて恣意的な操作をおこなった結果として、完成したのがあの歌であった。サラダじゃないって知ったときは結構衝撃だった。俵リスペクトで七月六日にサラダ食べてたのに。
この歌に詠まれているのは現在の〈私〉とその同一線上の存在である過去の〈私〉ではなく、「海沿いで育っていたら」という可能世界上に存在する〈私’〉への憧憬だ。同じ日記体であっても、そこには近代短歌的な規範とは何か根本的に異なる地平に立った〈私〉の存在があるように思われる。(同)
わたしを〈わたし’〉にまで遠ざけて、短歌の主体が一体どこまで走っていけてしまうのか、少し不安になる。どこかでリアリティにしっぽを掴まれたままでなければ、そこに書かれたものを読める人などいなくなってしまう。作者の一般的な想像力に全ての読み手を振り払うほどの飛翔が遂げられるのかはさておき、そうなったときに、表現とは一体何なのかと、霧中にて途方に暮れることは幸いではあるまい。幸いだからいいということは何ひとつとしてないのですが。どこかへ進む希望を与えぬ闇は表現の在る姿としてあまり幸福でない。
短歌に絵をつけるのが気に食わない理由はわかった
主体について、〈わたし〉の先にさらなる〈わたし’〉が出現しうることが明らかになった。これをふまえて端的に述べると、短歌に絵をつけるのが気に食わないのは、短歌に詠まれ��世界の多層性を台無しにしうる(あくまで「しうる」ではあるが)所業のように思えるからだ。
三上さんが「二重写し」という言葉で説明しているが、短歌に乗るイメージは一元的ではありえない。言語それ自体を志向するような詩形態を除く言語芸術の多くはたしかに未だ写実主義的であり、小説などはことさら、一文に一つの意味を乗せ(*4)、それを緻密に積み重ねていくことでイメージの多義性と時間性を獲得していくものだが、現代短歌はその方法を脱構築して多層的なイメージを31文字に取り込んでいる。
掛詞や暗喩は「二重写し」の技法であると前項で述べた。星野しずるに用いられている「二物衝撃」や、上の句と下の句の呼応から生じる「短歌的喩」(吉本隆明)など、短歌の喩の多くはこの「二重写し」の技法によって成り立っている。特に前衛短歌は暗喩を基調とし、世界と反世界の「二重写し」を志向していた。(三上、p.62)
技法として挙げられた掛詞についてはこのような例が出ている。
「落ちる」のなかには「散る」が含まれて、また「落ちる」の古語である「落つる」には同じ部分に「吊る」が見いだされる。樹をしならせて花が落ちることがたとえば首を吊ることを匂わせる。単なる駄洒落と掛詞はだから微妙に違う。駄洒落は意味と無意味の重ね合わせからなるが(……)、掛詞においては複数のイメージが意味をまとったまま共存する。(三上、pp.60-61)
ひとつの言葉に意味の複数性を込めたり、並べた複数の言葉が二色のセロハンが重なるようにしてひと所に多層のイメージをちらつかせたりする。言葉を厳密に精査し繊細に扱うことによってのみ可能になる複層性が、この文字数の制限された言語表現においてきらめくのだ。
散文ではフィクションであってもノンフィクションであっても、単線的な記述をミルクレープのように何層も何層も膨大に積み上げていくことで、総体としての複線性、複層性を取り戻すことが目指されるのだが、韻文では文字列、あるいは語りそれ自体が単線的でありながら、同時に複線的であることが目指される(三上さんが言うところの「二重写し」)。(鈴木、pp.64-65、下線は本文中の傍点)
多層性、複線性は、冒頭に述べた主体の問題だけが担うものではない。そこに置かれた言葉にどれだけ深く潜れるかを問われる言語芸術というものに対峙するとき、とくに制限された文字数のために一字の重みを増している分野においては、「桜」を桜色の桜花としてのみ扱って過ぎてしまえば底はあまりにも浅い。イメージングの多層性の凄味があるものに対して、絵や写真をつけて揺蕩うものを固定されるのがいやだ。そんなところで楽をしたくないし、読みを蹂躙されたくない。されたくなくない?(*5)
ところが、イラストレーション=図説の是非ということについて考えると、今度は短歌がおこなう「写生」の問題が持ち上がる。
三上さんは本書の(11)で、木下こう「首飾りはづしてのち」『体温と雨』(砂子屋書房、2014年)から以下の短歌を取り上げて写生について言及している。
昏れやすきあなたの部屋の絵の中にすこし下がると私が映る
この歌はすくなくとも「写生文らしく」はない。しかし私たちはこの歌に確かな手ざわりを覚える。「昏れやすき」「すこし下がると」は現実ではなく、このひとの〈現実感〉を忠実に描いている。そのようにして、「写生文らしく」ない歌にも宿るリアリティがある。茂吉的な意味での「写生」とはおそらくそれである。(三上、p.37)
「茂吉的な意味での『写生』」とあるので、茂吉の写生に徹したように見える歌を探して引いておくとこんなかんじ。料理歌集の『霜』(1941年)より
かぎりなき稲は稔りていつしかも天(あめ)のうるほふ頃としなりぬ
広く輝き風に波立つ黄金の海が見えるようですね……ため息でちゃう……。しかし、茂吉にも料理歌集なんてあるんですね。かわいい。平凡社とかから出てそう、料理歌集。「クロワッサン焼いて待ってる 深夜2時・深夜3時・早朝4時」とかそういう。そういう料理の。はい。あ、出てない。出てませんか。そう。ですよね。はい。クロワッサン焼いて待ってるんで出してください。よろしくお願いします。
田山花袋らの自然主義文学が目指したのは「告白」によって人間の真実に迫ることであり、齋藤茂吉は生を写すものとしての「写生」と「万葉調」によって人間の「生命」に迫ろうとした。一方で戦後、塚本邦雄などの前衛歌人は、虚構の、句またがりと句割れを多用した非生命的な韻律の短歌を唱導した。だがそこにおいて志向されたものは「魂のレアリスム」(塚本邦雄『定形幻視論』一九七二)でもあった。(三上、p.70)
すなわち、ここで言われる「写生」は「写実」とは異なり、直接的な言及を避けながら感覚を包摂すること、そして時間の経過を包摂することが技巧としての写生であるということだろう。文字通り、ひろびろと豊かな「生」を写し、抱きこむこと、あるいは明け放つこと。「二重写し」によるイメージの空間的・時系的多層化に時間感覚の包摂を加えて、歌の世界観は主体を端緒に読者を巻き込み果てしない広がりを見せる。
作為への抵抗感
ところで、ここまでわたしは作者の作為と技巧に素直に感心し続けてきたわけだが、どうも作為は手放しに称揚していいものではないようだ。この本の第一章である(1)に鈴木さんが述べたところを読んでほしい。
これは多分に恣意的な読みであるけれども、同時にそうした読者の「恣意的な」読みへと誘導する、単なるレトリックではない呪詛のような深い作為がこの一首には強く潜んでいる。僕は正直に言ってあまり笹井の歌を好かないのだけれど、それはこの深いところに通底する作為への抵抗感なのだと思う。(鈴木、p.11)
これは笹井宏之「国境のどうぶつたち」『てんとろり』(書肆侃侃房、2011年)から
どろみずの泥と水とを選りわけるすきま まばゆい いのち 治癒 ゆめ
という歌を引いて論じられたものの結語の部分なのだが、最初からびっくりしてしまった。作為への抵抗感。本書の中盤には、偶然短歌botや星野しずるの(半)自動生成短歌への言及があるのですが、作為というのは、「ことばによる表現から〈私〉の存在を消そうとする」(p.51)ことと対極に位置するのだろうか。
この返信として三上さんは以下のように述べている。
……命の実感は「まばゆい いのち 治癒 ゆめ」という高度なレトリックによって支えられている。鈴木さんはそれを『呪詛のような深い作為』と述べているけれど、これは笹井が病というその境遇において独自に編み出した方法であると同時に、現在というねじれた時空が彼の歌に要請したもの、であると思う。(三上、p.13)
主体の作為と主体である必然。表現をおこなう上で誰もが問い続けることになるこの操作と偶発のバランスがさまざまであるからこそ、すべての表現者が存在を許されるのかな、と少し感じ入るような、最適解を求める無謀さに背筋が凍るような、難しい話だなと思う。
ところで三上さんはこの返信の中で「『冥土』を挟むと『どろみず』に戻れてしまって、しりとりがいつまでも続くね」ということをおっしゃっていて、わたしはそれにも崩れ落ちました。まったく気づかなかった。わかることは読むうえでどれだけ言語感覚を鋭敏にできるかに懸かっているのだな。
ついでにほむほむの本も読んだ
まったく関係ないんですけど、短歌がわからない勢いに乗って穂村弘『ぼくの短歌ノート』(講談社、2015年)を読んだのでちょこっとだけ感想を書いておく。群像で連載されていたものをまとめた本であるらしい。この本も概説ではなく解題をおこなっているものであり、一章のなかに10ほどの短歌を並べておもしろがったり検証したりしてゆく。それにしても穂村はキュレーションと名付けがあまりにも巧い。いくつかの章についてはさすがの感性に舌を巻かざるをえなかった。女の短歌がお嫌いでない方は「花的身体感覚」の章だけでもお読みになるといいです。本章の解説文中の「そこに痛みがないからだ。」という一節は鮮やかだった。素敵な歌がたくさん紹介されていて楽しいので、気に入ったものをいくつか引いておく。

流れつつ藁も芥も永遠に向ふがごとく水の面にあり/宮柊二
奔馬ひとつ冬のかすみの奥に消ゆ われのみが纍々と子をもてりけり/葛原妙子
夜の新樹しろがねの日こゑうるみ貴様とさきにきさまが呼びき/塚本邦雄
名を呼ばれしもののごとくにやはらかく朴の大樹も星も動きぬ/米川千嘉子
こうして並べてみると自分が好ましく思う短歌にはやはりイメージングの豊かさと色彩の移ろい、揺らぎがあるようです。そういう揺らぎを固定されることへの抵抗感に端を発したのがこの記事であるわけです。ここでの文脈に乗れば、時間感覚の重層性こそが短歌を短歌たらしめる条件だと言えなくもないけど、多分それは知の欺瞞。欺瞞ゆるすまじ。短歌を短歌たらしめる条件などはもはや雲散霧消し、条件の消滅した混沌の時代を迎えており、それゆえに現代短歌を読むことについてわかるよりも感じることを許す雰囲気が漂っているようにも思われる。感じることを許す雰囲気のなれの果てが挿絵。なんでやねんこのアホ!!!!いやポップカルチャー化して間口が広がることは文化として悪いことではない。悪いことではないが、間口が溶けて消え去ることには歯止めをかけたいじゃないか。短歌がわからない門外漢なりに。短歌がわからない門外漢だからこそ、門があってほしい、くぐることを許してほしいじゃないですか。
誰にも短歌がわからない
というわけで、やはり現代短歌がわからない。しかしわからなさがよくわかったのでよかった。わからないときに「何がわからないのか」を考えるための語彙が得られてほんとうによかった。もう泣かないと思う。怒ったり、苛立ったりはすると思う。でもそれはプラスにはたらくパワーになるからいい。
ついさっき、感じるばかりのアプローチを強く非難したが、わかるための、考えるためのきっかけは感じることだとは思う。現代短歌を見かけて「わからないけれど綺麗でいいね」「色っぽいね」「この感じ、あるね」と思っていい。それが美しく飾られた入口の役目となる。現代美術の前にぽかんと突っ立って「よくわからないけれどなんか好き」「大きい」「かわいい」「変」と思っていいのと同じです。ただ31文字にぶち込んだだけではないと意識していてほしい。ニューマンの赤が無意味に赤く塗ったわけではなく、クラインの青が適当に拾ってきた色ではなく、李禹煥の岩が博物学的な意味を主張しているわけではないと同じで、現代短歌の耳に心地よい言葉のむれに俊英で明敏な作為がはたらいていることに思いをはせてほしい。わからなさに対峙してほしい。3秒で読める31文字は、決して読み流されていいものではないのだから。
わからなさといえば、最初に誂えた2首の差についてちゃんと考えないことには示しがつかないので、がんばりましょう。
冒頭2首は巧拙においてどう違うのか
丁寧に暮らしている中年の女をすごく好きになって背後から性器をねじこむ
きれいな男を見かけてな��りつけおしたおしおかし孕むまで見る
実は挿絵の不服について述べた際にとりあげた三上さんの「二重写し」のお話は、このフラワーしげるの「丁寧に…」の解説中にあるものだった。多くの短歌が複線性を志向し二重写しの技巧によって成り立っているのに対して、フラワーしげるの歌は一重写しを志向している。二重写しにおいて二層目に現れるはずの「怪異」を一重目として平然と出していることの異常性を三上さんは指摘していた。加えて、定型を逸脱しながら初句「丁寧に」と結句「性器をねじこむ」が定型に近い姿をとっているとおり、単純に定型を破壊するのではなく、定型に阿りながらも文体によって独創をおこなっていることについても言及している。(pp.62-63)
また、鈴木さんはこの作品の異様さについて、「着想の特異さや暴力性、大胆な破調になどにあるのではなく、彼の文体それ自体から来るもの」(p.65)と見ている。等速、単線的であるこの歌に、原思考への憧憬や身体への郷愁が存在しないことの不穏さが述べられている。
はーい、そこでわたしの「きれいな…」ですが、「丁寧に…」に文意の似たものを用意しようと思ってこしらえたので、とりあえず同じ視点を使って比べてみます。まず一重写しであることには相違ない。文体の等速もそれっぽい、が。ここで突如!文体というキーワードによって、わたしが常々感じてきた、いいかげんに作られた拙い短歌の気持ち悪さについてはっきりと明らかに!なった!なりました!おめでとう!はい。というのも、歌に詠みこむ怪異を一重写ししようとしながら怪異にあるべき矛盾を含まず、そのうえ文体すら獲得せずに、つまり状況説明するだけとなっている歌は、「で?」である。「だからなに?」である。それこそ作者というパーソナリティへの回帰を強制するようなナルシスティックなものに過ぎない。芸術性を帯びないナルシシズムに付き合わされるしんどさというのはやばい。暴力。つらい。悲しい。それは人間関係でしかありえない。表現は人間関係を担保におこなってはいけない。表現は人間関係から独立せねばならない。難しい。難しいがそれは表現者が乗り越えなければいけない困難である。表現者は彼自身がコンテンツになるべきではない(なってもいいけど)。
定型の遵守/逸脱という観点についても、全体が31文字前後になんとかおさまっているというだけで意味としてとれば 8・4・5・5・3・5・2 と、滅裂です……これはひどい……。「殴りつけ」以降はかろうじてリズムを尊重できていて良いですね。褒められて伸びるタイプなので良いところは褒めます。「きれいな男を見かけて」までが〈定型としての自己の生〉から逸脱した出来事であり、「なぐりつけおしたおしおかし孕むまで見る」行動に出る際には自己の生の定型を取り戻していると読むこともできます。
また、ついでに文字表現についても指摘してみます。平仮名が実にくどい。これはですね、「お」と「し」がたくさん出てきて可愛いから平仮名にしました。可愛いから以上の理由が述べられない表現選択はあまりよくないのかもしれません。「お」と「し」がたくさん出てきて口が気持ちいいことなんて読めばわかるので、文面にまで主張しなくていいのかもしれません。どうなんでしょう、見た目の良し悪し。自分ではよくわからないです。何事も悪口を言おうと思えばどうとでも言えるし褒めようと思えばどうとでも言えるから、妥当性の在り処がわからない。批評のための文化文脈がない。つまりこれがジャンルの文化文脈を持たない人間の限界です。門外漢というのはそういうことです。なので、ここでおしまいになります。お付き合いありがとうございました。なんでわたしは自分で作ったものを自分で評しているんだ。永久機関かよ。
おわりにおすすめ
というわけで、入門しただけで道を進んで行かないことには短歌についてなかなかどうして断定的なことが言えませんが、実践的な学びがおこなえる『誰にもわからない短歌入門』はおすすめです。幅広い種類の現代短歌を取り上げていて入門者にやさしく目新しく、解釈の参考書として実践的で、かつ読み物としての構成に優れているものでした。短歌と短歌をまたがって一つのテーマを論じているのはこの本の企画構成の成果で、企画自体が往復書簡のスタイルをとっているため、連綿と問題意識が接続していく。読み手としても問題意識をぶった切られることなく読めるのでとても快適です。また無為に冗長な解説を許さない枚数制限が論旨の一貫を確かなものに仕上げていて本当に読みやすい。短歌史・短歌批評史のような事柄には薄らとしか触れていないのですが、時々出現するそれらの重要性がはっきりとわかるし、好奇心をくすぐられる。とにかく良い本だったこと、面白かったこと、おすすめであることが伝わればわたしはうれしいです。以上、短歌がわからないわたしの読書感想文に長々とお付き合いありがとうございました。もしかすると、少しはわかるようになったのかもしれません。やったね!
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(*1) ところで今インターネットで検索してフラワーしげるの略歴を見たら「訳書にコッパード『郵便局と蛇』、……」とあり、フラワーしげるって西崎憲だったのかよ。びっくりした。わたしは2ちゃんねる世代なのでしげると言われて浮かぶイメージが松崎しげる一択で、フラワーしげる、という名前に印象されるイメージと言えばルドンのこの絵の顔部分に松崎しげるの真っ黒に日焼けした肌に白い歯の異様に浮かぶ良い笑顔が貼りついているものだったのですが、西崎憲だったのかよ。早く言ってよ。

余談ですが学生時代に〈夏目漱石の作品とイメージ〉というテーマについて講義を受けていて、『夢十夜』第一夜にこのルドンの絵をあてた人間がいるとの噂を聞いてわたしは怒り狂い憤死した。死んだので大きな真珠貝の殻で地面を掘って埋めてもらった。それから天から降ってきた星の破片を墓標にしてもらった。今は生きてこれを書いている。���年はもう来ていたのだな。
(*2) 「孕むまで見る」と「孕んでも見る」とでは物語がまったく別の様相を帯びている。「孕むまで」の自己完結したまなざしと「孕んでも」の他者をまなざすことの不完全さみたいなもの、前者は狂気だし後者は切なさである。人生は他者を取り込みきれない切なさとわかりあえなかった挫折がつのるばかりであるから、いっそのこと狂気で自己完結できればいいのにね。人生はままならない。
(*3) 時間の変移のなかで自己同一性を確保することが近代的自我の発明の意義だったわけですが、ポストモダンにおいて自己の解体を推し進めがちな現在(もはやポストモダンなのか?)というのはいったいどこを目指しているのだろう。意識的・非意識的にかかわらず、自己解体の取り組みの発露として現代短歌というのは非常に、粗暴なまでに、あからさまに実現されている気がします。ちょっと怖い。
(*4) ただしコーマック・マッカーシー、ジョゼ・サラマーゴ、大江健三郎、金井美恵子などを除く(とはいえどんなに長い一文にだってやはり意味は一つしか込められていないのではないか?)(意味とは?)
(*5) 絵画は写実から逃れて久しいものの、ダイナミックな時間の変化やイメージの多層性を内包するには少なくともセザンヌ、できればキュビズムをへて抽象表現主義へ至る必要があるような気がする。どうかな。時間ということなら古典主義的な宗教画だって複数の時間性と複数の物語のディメンションを包含しているよな(ボスとか)。でもあれはタブローが甚大だからなー。壁じゃん壁。人間身体を凌駕する壁。短歌は壁じゃないじゃん。写真における意味の多層性についてはよく知らないのですが、しかしわたしは直感的には写真がついている短歌のほうがいやだ。絵がついている短歌よりもいやだ。猫の短歌に猫の写真がついて、「その猫」にイメージの自由が奪われるのがいやだ。本文中で桜について述べたとおり、写真が単語に挿絵するのが腹立たしい。
とはいえ、Twitterで流れてきた歌にきれいな写真や絵がついていたら、そりゃあ、抗いようなくfavつけちゃうけどさ!きれいだもん!綺麗なものには抗えない。むかつく。あのなあ、綺麗もカワイイもただの暴力だよ、あんなもんに騙されてはいけない。騙されて奪われてはいけないんだ。わたしたちは読みの自由を死守しなければ死んでしまう。絶対に暴力を許さないぞ!
( 2016/05/24 18:09)
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世相に関する覚書
ものぐさでいい加減な私は人をまとめたり動かしたりするのが極端に苦手な性分で、今でも人と仕事をするのが苦痛で仕方なく、例えば、ある作品の評論を書いてくれと依頼があっても、依頼主の意向を無視したものを書き上げてしまい、折角の仕事の話を頓挫させてしまったことが幾度となくある。
「井原西鶴はスタンダールやバルザックと同じリアリズム文学の創始者であり、当時、大阪はパリに匹敵する文化都市だった、だからこそ、大阪維新の会のような文化破壊をあたかも道徳のように行う政党は決して許してはならない」と書いて、失笑されること数回。十三の風俗嬢とその馴染み客の恋愛を書けば、織田作の模倣に過ぎないと馬鹿にされ、踏んだり蹴ったりの私。それでも井原西鶴や織田作、宇野浩二、武田麟太郎、葛西善蔵、林芙美子を見習い、軽佻浮薄にケラケラ笑いながら私は生きている。
こんな愚図な私はどうにもならん、いくら賞レースに参加したとて、風俗壊乱の下卑た作��しか書けないので、富と名声までは程遠い。いつまで月給取りをしなくてはならないのだと不甲斐ない自身を罵りながら日常を過ごす。
そんな私だから、音楽なんてとうの昔に辞めて正解であった。もともと不器用なんだから音楽なんてそれはとても私の技量にかなうものではなかったのだ。
退屈で無為な学生時代、セカンドスクールだがなんだかに通い詰めたりして「お前は挫折したことないから、そこへ行ってる俺の真剣さなんて分かりっこない」などと威張り散らし、自身の優越を誇示するのに必死な連中との付き合いに疲れ果て、私はそんな窮屈な人間関係から逃れるために読んだスタンダールの「赤と黒」とバルザックの「ゴリオ爺さん」などの古典文学にこそ、私の居場所があった様なものだった。人間の矛盾に満ちた本質など変わりはしないし、それを責めても何も生まれないのだと思うと、多少、卑屈な思いも鎮まるものである。どうにかしてこのクソ退屈で屈辱に満ちた時間と場面をやり過ごすことしか他はなかったのだ。
そもそも世渡り下手でなにかと不器用な私であったし、といってそれほど学術的に優秀でもない。それに取り柄なんてない。皆の様に明確に目指すものなんてあるわけもない。
私には捉え難いものを追うことしかできず、厄介なことに迷うことでしか多くの物事が分からないのだ。取り返しのつかない失敗と破綻の上に、私の思考が成り立つという厄介さ。
頭のいい方々は羨ましいものだ。路頭に迷い、誰からも必要とされない孤独感や他人との協調が上手いがために疎外感を知らずに、ただ、目の前にある課題をこなすだけで満足そうなのだから。
私の場合はそうはいかない。満足なんてどこにもなく、何かを知れば知るほど、何かをやればやるほど、現実が差し迫って来て、理想は遠く離れていく様に見える。それ故に、常に何かに迫られるような切迫感があって、何処にも落ち着きそうがない。自嘲的にいえば、私はいつまでも年相応の生き方に馴染めず、ただ、当て所なく迷うのだ。放蕩無頼とはよくいったもので、私もそれに近いものがある。
ただ、こんな私でもこれまでの時代は西成の薄暗い商店街の路地裏にいる八卦見にでも見てもらえばよかった。
モーパッサンの「女の一生」の最後、召使いが仕えていた婦人に言うようなことを彼なら答えると分かってる、この言葉を第三者から聞ければ、満足だった。
「結局、未来なんて期待していたほど良くもなく、といって失望していたほどのものでもない」
ところがこんな楽観が成立していた時代が徐々にこの日本から消えつつある。しかもその消失速度はここところ否応無しに増すばかりで、いくら愚図で鈍間な私でも分かる。
実際、私はこのことについて直感的に分かっていたといっていいか。白状するが、大学のキャンパスだろうが、風俗店の受付だろうが、ジャンキーやヤリ目のパリピー野郎ばかりが屯するクラブだろうが、今の職場であろうが、どんなに目を背けても直視せざるを得ない危機が迫っていることだけは分かっていた。
だからといって自身を逞しくしたり資格の勉強をしようとまで思わなんだ。何故って、それは余りにも私には不自然なことだった。所詮、資格なんて役に立たないし、専門性を持てば結局自身の無謬性を過信することとなり大きく判断を見誤るからだ。
例えば、精神科医が大量の薬を出し、多くの薬害を生み出すことは、自身の無謬性を一瞬たりとも疑ったことがない所以ではないか?
かつて私は自身の特殊性ー頭の構造がおかしいのか、頭が時折人との会話や目下の作業についてこれず、注意散漫になって、思考が筋から大きく違う方向へ逸れてしまうーのために、若干精神を病んでしまい、頭に喝を入れるアンフェタミンと精神状態を穏やかにするセロトニンの混合薬欲しさに医者に行ったことがある。そこで医者にこんなことを聞かれた。
「このまま消えたいとかそういった希死念慮はありませんか?」
別に死にたくもないのにどうしてこんなことを聴かれねばならないのかと不貞腐れた私は、
「別にないです。私が欲しいのはただ穏やかさと覚醒だけですがね」
すると、医者はこの答えに不満ありげに、
「おかしいですね?本来なら自殺願望がこういった抑うつ症状の場合にはみられるのですがね…本当はどうです?実際はあるでしょう?」
こう聞く医師の目にどこか見当違いの既視感があるように私には思えてた、抑鬱ならばこの答えではなくては困るといったような、そんな雰囲気を醸し出されており、私は些か困惑した。
まるで鬱に憔悴した人は皆自殺願望でもあるかのように患者に決めつけるところなぞ、なんという傲慢さだろうか。
後々分かったことであるが、私はうつ病でもなければ統合失調症でもなかった。何たる誤診だったろう。こういった行き違いばかりの診察で出された薬に手もつけなかった。私の精神状態が脳の問題であれば、脳波でも見れば良いものを、なんたって本人との面談だけで、あれだけ易々と薬が出せたのだろうか、それが不思議でならなかったのだ。
恐らく医者はその説明を拒むだろう。自身の無謬性に一つでもケチが付けば、彼の自尊心は忽ち崩れ、そして、これまでの経歴を自ら疑わずにはいられなくなる。となると、皮肉なことに、彼こそが向精神薬のお世話になる羽目になるのだ。
ーこうした精神運動が権威と集団に結びつき、少数からの真っ当な非難を論拠なしに厳しい口調や態度で退け続け、悲惨な結末をもたらす自身の行為を改めずに続けること、これをセンメルヴェイス反射という。日本社会に起きている多くの弊害はこうした心理現象に由来するとも言える。他にも合成の誤謬、認知的共同体などが挙げられる。ー
こんな例はいくつもある。
幸か不幸か、私の身内の多くは精神障害者であり、精神科医の被害者である。その多くは医師の言いつけ通りに処方された薬を飲み続け、文字通り、ヴォガネットの作品に出てくる登場人物のように頭がどっかーんとぶっ飛んだ。
通院すればするほど、会話が支離滅裂なものとり、動作がどんどん鈍くなっていく。
その結果、ある者は還暦を前にしてすでに手足の関節の膠着が見られ、自身で排泄と食事すらできなくなるほど衰弱し、その上、会話も成立しない。そして尿道にはチューブが繋がれ、病床に臥したきりになっている。
誰も指摘しないが、これは薬害ではないかと私は思う。
こんなことが頻発しているのであれば、日本の精神医療は最低といっても過言ではない。
地獄への道は善意で彩られているとはよく言ったもので、このほかにも政府や官僚、エリートたちが社会保障の充実のための増税だと、将来世代にツケを残さないためだとかなんとか、美辞麗句ばかり並びたてている。だが、結局、消費税を上げるたびに、日本人は総じて貧乏になり、その供給能力(即ちそれは国家の経済力を指す)は著しく毀損された。
介護医療、土木建設などの生活の根幹をなす業界の現場は、「無駄を減らせ」「民間の知恵を入れろ」との美辞麗句に彩られた合言葉から始まった目的のない緊縮財政と構造改革の煽りで、その運営手段は民営化されたために、作業効率はかえって悪くなり、報酬は減り続けた結果、廃業にまで追い込まれるところが相次ぎ、人手不足で相当悲惨なことになっている。
鈍感ではあったが、世の中が見る見る悪くなると察した私は、将来に向けて努力する同級生を見ても焦りもしなかった。そもそも私が無気力な状態であったことは言うまでもないが、ただ、その焦りは結局、何らかのビジネスに利用されるということを感じたからでもある。
実質賃金が漸次的に減少し、全体のパイが縮小していくデフレ経済下で勝てるのは持てる者だけで、多くは頑張れば頑張るほど燃え尽きるのだ。浮かばれない自身をSNSにでも投稿して憂さを晴らす姿はなんとも惨めったらしくて遣る瀬無い。そしてこの無為とも思われる努力の過程で積もり積もった妬みは政治家や官僚、メディア、詐欺師などに巧みに利用されて、自身の立場を知らず知らず危うくしてしまう。
公務員を叩いて何が良くなった?
何一つ良くなっていない、災害があれば、都市機能は一瞬で麻痺し、復旧には多くの時間と労力を要するだけで、日常生活に以前よりも支障を来すだけの結果にしかならず、何の足しにもなっていなかった。
リーマンショックの時、何か重大な機構の歯車が外れて未来への軌道が逸れた気がした。これまで是としてきたことがすべてまやかしだったというようなことが仄めかされたといっていい。世間の空気が少しだけ冷たくなり、より一層協調を求め、画一化されていくことを人々に強要していた。
「負け組にならないために、空気を読まねばならない。」
その空気とはなんであったか、今でも私には分からない。ただならぬものが何か一定の思考を強いるようなものであったのは確かだった。
後にトクヴィルの「アメリカの民主主義」という書物に出会い、朧げに見えてきたのは、「多数派の専制」がこの日本で行われつつあることであった。
階級や中間共同体が撤廃されて、人々が一様に平等となったとき、慣習や伝統を見失い、模範とすべき対象がないと多く嘆かれる。その時、頼るべきものを見失った人々はメディアが喧伝するイデオロギーや合言葉を、それが正しいかどうかなど関係なく、一斉に飛びついて信じてしまう。そして少数派の非難や意見はことごとく無視され、多数派がその社会を支配する。この多数派の専制が更に進めば、思考の自由すら人々は手放し、多数派の思考に隷属していく。
つまり、全体主義と民主主義は表裏一体。
私が物心ついた時からすでに社会はこの「多数派の専制」のメカニズムを順当に辿っていたのではないか。
阪神淡路大震災以後の日本文明は、何かと言えば、「無駄を省け」「これからは金融の時代だ」「規制緩和して市場を活性化すれば、より経済は活発になる」といった根拠なき意見が散見される次第、しかも何処にも確証もなければ論証もない。これらの試みが失敗したところで誰も責任を取らないどころか、「改革を十分に徹底していなかったから良くなかった、だからより抜本的に行う必要がある」という意見が支配的で、もう手の施しようがない。
つまりこの日本では健全な民主主義が機能していないのだ。
東日本大地震になると、この民主主義の機能不全は輪をかけて酷くなり、福島原発の爆発を見て、人々は恐れおののき、科学的根拠もなく、メディアの扇動だけで直ぐにでも脱原発と声高に多数派は叫ぶ有様。
正直にいって私も当初煽られてしまった。追い追い情報を精査すると、この事故はやむを得なかった。何しろ、想定外の事が起きたのだから。だったら、この想定外を上回る危機にも耐え得る原発を作れば良いではないか。しかしそんな議論は無かった。あったのは原発廃止、それだけ。
しかも脱原発に煽られて、人々は一斉に原発を叩き、根拠なき恐怖心は再エネビジネスに利用されたのだった。
結果、電気代に再エネ促進費用を上乗せされて支払う羽目になり、そのままその金は外資規制もなく再エネ事業者に横流し。しかもビジネス目的で山の斜面に多く作られたソーラーパネルのせいで、豪雨が見舞えば、土砂崩れは頻発する有様。
敗戦のショック同様に、このショックは人々の思考を停止に至らしめ、その隙間を邪なビジネスマンや工作勢力に利用されたのだった。
これをショックドクトリンという。
大惨事が起きるたびにこの国ではビジネスチャンスとなるわけだ。
���去の大戦の原因の一つが、石油をめぐるアメリカに対する我が国の過度な依存であったと分かれば、自ずと、結論は、エネルギーを自前で賄える可能性を有した原発を日本は国を挙げて維持すべきといった意見に傾く。この事故をあくまで日本の宿命と受け止めるべきではなかろうか。自立するために、多少の犠牲を払わなければならない日本の運命的境遇を理解できれば、何でもかんでも反原発と騒ぐのは話があまりにも飛躍しているのではないか。
しかし、こんな私の意見なんて多数派には届くはずもない。多くの人たちは、東電の管轄下にあったものが事故を起こしたのだから、その責任を国が東電に押し付けて当たり前と考え、異論すら聞き入れなかった。
想���外の事が起きているところへ、責任問題として、この事故を扱うこの国のエリート層の知性の劣化にはこの私でも舌を巻くものだった。これは誰の責任でもなく、その負担は政府をはじめとする国家全体が負うべき種類のものだろう。
しかし、政府はその負担を東電に押し付けた。メディアは、また放射能の被害を被った福島の農家に東電職員が土下座する写真を新聞の一面に載せたのだった。
どこまで煽られないと人々は気づかないのか。
その年行われたロックフェスは、従来通り、大量の電力を消費する大規模なものであったのに、ステージに立つ連中は悉く脱原発のイデオロギーに染まり、ある政治集団に至ってはジョンレノンに憧れてるのか、そこで夜中、大音量で音楽をかけながら、環境保護を標榜する集会を開いていた。60年代後半のウッドストックにいたヒッピーの幻想に頭がヤラレだのだろう、原発の利権構造が悪など偉そうな事を言う一方、大量の電力がなければ成り立たない生活をしている自身の矛盾には目を背け、偉そうに騒ぎ立てる姿は、自己欺瞞そのもので、実におめでたい姿だった。この光景をみて、こんな軽薄な連中とつるむのが気恥ずかしくなったものだ。私もそれだけ歳をとったのかわからぬが、彼らに言い知れぬ違和感を覚え、これ以降、私は音楽をやっている連中に関心を寄せなくなったのは事実だ。
一体、奴らの政治的主張のどこに耳を傾ける必要があろうか?実際、彼らの歌詞を仔細に読めば、その内容の空虚さ、幼稚さ、軽薄さが目につくだけで私は、彼らの音楽の不協和音も相まって、一層不快になってしまう。まさにこの自己欺瞞は滅びの兆候といってもいいのだろう。
こんな自己欺瞞ばかりの音楽の世界から遠ざかりたい一心で文学へと関心を移したわけだけど、これと同じことが文学でも起きていると分かった時の落胆は相当深刻なものだった。なんたって文学者の多くは音楽のそれと違って政治力まであるのだ。
私はそれでもこのクソみたいに高慢で自己欺瞞している連中の間で軽佻浮薄な振る舞いをして、世間の失笑と顰蹙を買うことだろう。
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結婚したいって言ったでしょ
ヴィクトルの手はわなわなとふるえた。彼の手の中には携帯電話があり、その画面には一枚の写真が映し出されていた。ニュースサイトのページから拡大されたそれには、ヴィクトルの大切ないとしい生徒が、ヴィクトルの選んだ、色の濃いスーツを着て写っていた。眼鏡は外していないが髪を上げており、スケートをしているときの凛々しさとはおもむきのちがう、知的で洗練されたうつくしさがあった。 勇利の姿はすてきだった。文句のつけようがなかった。しかし、ヴィクトルはひどい衝撃を受けた。なぜなら彼はひとりではなかった。 勇利のかたわらには、髪の長い、すずしげな印象の美女がおり、彼女は勇利の腕にもたれかかっていたのだ。 「ヴィクトル、この近くに映画館ってあるの?」 洗濯物でマッカチンが遊ぼうとするのを器用に阻止しながら、勇利は衣類を畳んでいた。そんな彼をいとおしそうに眺めていたヴィクトルは、「なんだって?」と目を上げて勇利の瞳を見た。 「映画館」 勇利はくり返した。 「町の様子はだいたいわかったけど、そういえば映画館って見たことないなと思って」 「あるよ。そっちの方面には勇利行ったことないかもね」 ヴィクトルは視線を上に向けた。それからまた勇利を見る。 「何か観たいものがあるのかい?」 「観たいというほどでもないんだけど」 リンクメイトのあいだで話題になっている映画を勇利は挙げた。映像が綺麗だとか、音楽がいいとか、雰囲気がすてきだとか、そういう評価だった。ヴィクトルにはオペラやコンサートなどによく連れていってもらうけれど、映画は観てないなとふと思って鑑賞してみる気になったのだ。 「近くにあるなら、あいてる時間にちょっと行ってこようかなって」 「さびしいことを言うじゃないか。それならデートしよう」 「デート?」 「そう、デート」 ヴィクトルがうれしそうに言った。 「次の休み、その映画を観に行こう」 「え、でも、おもしろいかどうかわからないよ」 「構わない。何かしら学ぶところはあるだろうし、なかったとしても、勇利と映画を観るということ自体に意義があるんだよ。ああ、だけど、勇利はもしかしたら話がわからないかもしれない。その映画はもとは英語が使われているだろうけど、こちらでは字幕にならないものが多いんだよ。日本みたいにはね。字幕なら英語で勇利は聞き取れるだろうけど……、全部ロシア語に吹き替えられてるんじゃないかな」 「そっか。でもいいよ。どういう感じかだけでもわかったら」 「じゃあきまりだ。楽しみだね」 ヴィクトルはにっこり笑った。とくに深い考えもなく、かるい気持ちで言っただけなのだが、ヴィクトルが喜んでいるようなので勇利もすこしうれしかった。普段からもうちょっとわがまま言ったほうがいいのかな? でもあんまりうるさいことも言えないしなあ……。 翌週の休みの日、勇利は約束通りヴィクトルと映画館に出掛け、話題の映画を観た。ヴィクトルの言った通りせりふはすべてロシア語で吹き替えられており、勇利には半分も聞き取ることができなかった。しかし映像を見ているだけでもなんとなく話はわかったし、何よりも評判通りのうつくしさとすばらしい音楽があったので退屈はしなかった。 「なかなかよかったね」 映画館を出るなり、ヴィクトルがほほえんで言った。 「うん。思ったよりずっとよかった」 勇利もうなずいた。 「勇利は話、わかった?」 「なんとなくは……。でもこまかいところはわからない。ロシア語、まだまだだなあ」 ふたりは通りに面したカフェに入り、そこであれこれと映画について話しあった。しかし勇利が詳細に感想を述べられるのは映像と音楽についてだけだ。物語は、ぼんやりとはわかるものの、見当ちがいの解釈をしている可能性もある。あそこはこういうことだったの、あれはどういう意味だったの、とヴィクトルに訊いてはみたけれど、全体を完全にわきまえられたわけでもないので、難しいところまでは話すことができない。勇利はそのうち何を言えばよいかわからなくなり、登場人物について語り始めた。 「悪役の人、すごく味があったよね。悪いんだけど、なんとなく憎みきれないみたいな感じで」 「ああ、彼は上手いよね。ただ��いやなやつで終わってないのがいい。その部下も個性的でおもしろかった」 「そうそう。ぼくその人が早口でしゃべってるところ、何を言ってるかさっぱりわからなかったんだけど、なんだか可笑しくて笑っちゃったよ。ほかにも主人公の友人がさ……」 勇利はひとしきり人物のことを話すと、そういえば主人公については何も言っていないなと思った。悪くはなかったのだけれど、あまりに優等生だったので、印象に残らなかったのだ。彼に関して言えることといえば……。 「主役の人もかっこよかったよね」 何の気なく、無難な感想を述べた。ほかには……。 「……うん、かっこよかった」 それ以上思いつかなかったので、もう一度そう言った。そして勇利はカップに口をつけて温かい飲み物を飲んだ。ヴィクトルが返事をしないので、どうかしたのかなと彼に視線を向けた。すると驚いたことに、ヴィクトルはどこか不機嫌そうに勇利をみつめていた。 「え、なに?」 「かっこよかった?」 「あ、うん……」 勇利は瞬いた。ヴィクトルはそう思わなかったのかな? 彼の場合、審美眼が一般より洗練されているので、もしかしたらかっこうよいと思える水準ではなかったのかもしれない。もしかしてあの主役のこともダサいと感じたのかな、と勇利は首をかしげた。するとヴィクトルは言った。 「俺とどっちが?」 「え?」 「俺とどっちがかっこよかった?」 ヴィクトルが勇利に顔を近づけた。勇利はぽかんとした。どっちがって……。 思わず笑い出してしまった。口元を押さえてうつむく。「勇利」とヴィクトルがまた機嫌が悪そうに言った。もしかして、これは嫉妬というものなのだろうか? ヴィクトルに限ってそんなことはないと思うのだけれど。でも……。 「何を笑ってる?」 ヴィクトルが勇利を責めた。 「なんで答えない? 俺よりあの男のほうがかっこよかったのか?」 「……そんなことはないよ」 勇利はどうにか笑いをこらえながら顔を上げた。 「ぼくが世界でいちばんかっこいいと思ってるのはヴィクトルだよ」 「本当かな……」 ヴィクトルが疑わしそうに勇利を見ている。勇利はまた笑いそうになった。 「本当だよ。普段からぼく言ってるでしょ? ヴィクトルの写真や動画見るたびにうっとりしてるじゃん。ヴィクトル、かっこいいって」 「いまもそう言ったよ。主役がかっこよかったって」 「いまのはなんとなく、表面的に褒める感じで言ったんだよ」 「俺のときも表面的に言ってるんじゃないのか」 勇利は可笑しくてたまらなかった。ヴィクトルでもこういうこと言うんだ、と思った。まるで子どものようではないか。勇利は、ヴィクトルはただかっこうよいだけではない、愛嬌のある、親しみやすいひとだともう知っている。しかしこんなふうに子どもじみた悋気を起こすとは思っていなかった。 「そんなわけないじゃん。ぼくがヴィクトルを見てるときどんな顔してるか、ヴィクトル知ってるでしょ?」 「勇利が俺以外をかっこいいと言うのなんて初めて聞いた」 「とくに意味はないんだってば……。一般的な話題だよ。クラブでも、主役がかっこいいっていう話は聞いたし。そういうものかって思って。彼について言うべきことがなかったから、当たり障りのない感想を言うしかなかったんだよ」 「なるほど」 なるほど、なんてうなずいているくせに、ヴィクトルはまるで納得した様子がなく、それ以上わからないことは言わなかったものの、それからもずっと黙りこんでいた。 困ったなあ……。不用意にかっこいいなんて言うんじゃなかった。勇利はほほえみながらヴィクトルを眺めた。ヴィクトルってわりとやきもち焼きなんだな。こんなことを気にしたりするんだ。いつも自信満々なのに。それに……、ぼくがヴィクトルに夢中だって知ってるくせに。 「このあとどうする?」 「勇利はどうしたい?」 「えっと……、街をちょっとぶらぶらしたい」 ふたりは連れ立って通りを歩いた。ヴィクトルはもう不機嫌そうにはしていないけれど、まっすぐ前を見て、ものを言わずに歩いている。まだ怒ってるのかな? どうしようかな……。勇利は考えこんだ。こういうときに何を言えばいいのかなんてわからないし、あからさまに機嫌を取るのも失礼ではないかという気がする。勇利の気持ちを、そのまま率直に伝えられればいちばんよいのだが……。 「あっ」 勇利はふと足を止め、すぐそばにある大きなブランドの看板を指さして声を上げた。 「あのひとかっこいい!」 ヴィクトルが、まだ言うのか、というような険悪な表情になった。いまにもかみつきそう���顔つきだが、勇利は構わずさきを続けた。 「めちゃくちゃかっこいい。ぼくがいままで会った中でいちばんかっこいい!」 「勇利、おまえね──」 「ぼくあのひとと結婚したい。あのひとのこと愛してる。ああ、彼、ぼくのことすこしでも見てくれないかな。ぼくに笑いかけてくれないかなあ」 勇利は甘えるように言った。 「絶対結婚したいよ」 ヴィクトルは、なんと言ってやろうかというような不愉快きわまりないという表情をしていたが、勇利があまりに熱心に指さすものだから、その看板のほうに顔を向け、指の先を確認して目をまるくした。 「ね、かっこいいでしょ!」 そこにいるのはヴィクトルそのひとで、彼はブランドもののスーツを着こなし、ばらの花を持って、どこかつめたく、なのに魅惑的にほほえんでいるのだった。 「……彼、かっこいい?」 ヴィクトルがぽかんとしたまま訊き返した。勇利は力を入れてうなずいた。 「うん」 「愛してる?」 「うん」 「結婚したい?」 「うん!」 ヴィクトルはふいに勇利の腰を引き寄せ、髪に頬をすりつけてほほえんだ。 「まったく、勇利はどこでそういう口説き方をおぼえてくるんだろうね」 彼は上機嫌だった。勇利はくすくす笑った。 「そんなにかっこいい?」 「うん」 「スケートをしてないヴィクトル・ニキフォロフには興味がないなんてよく言ってるじゃないか」 「そんなこと、ひとことも言ってないよ。たぶん、ヴィクトル・ニキフォロフの被害妄想だね。ぼくは彼のスケート以外の雑誌もたくさん買ってるんだ。そのこと、ヴィクトル・ニキフォロフに教えてあげたいなあ。ぼくはもう彼にくびったけでどうしようもないんだよ。ねえ、貴方、どう思う? 彼、ぼくにすこしくらい興味持ってくれるかな?」 「たぶんね。俺、彼の気持ちには詳しいんだ」 「本当?」 「ああ。彼の好きな子は勝生勇利っていう日本のフィギュアスケート選手で、もうたまらないほどかわいいって言って溺愛してるんだよ」 「へえ」 「どうしようもないくらいいとしいんだってさ。だからね、勝生勇利は、ヴィクトル・ニキフォロフと結婚できると思うよ。待っていれば迎えに来てくれる」 「そうなんだ。ところで、ぼくの名前、勝生勇利っていうんだけど……」 「うん」 「貴方のお名前は?」 ヴィクトルは勇利に頬ずりをしてちいさく笑った。 俺と結婚したいと言っていたのに! ヴィクトルはほとんどとりみだしながら、自分がどうすべきかさえも考えられなかった。いったいどういうことなのだろう。いったいどういうことなのだろう……。この美女は誰だ? 勇利とどういう関係なのだ? ヴィクトルは目をこらした。あまり鮮明な写真ではない。しかし、女性がうつくしいということはわかる。芸能人のような華やかさはないけれど、どこか凛とした、たとえば試合のときの勇利に通じるような潔さがあった。勇利にもたれかかってはいるものの、べたべたしているという感じではない。普段はこんなふうに歩かないのかもしれない。ただ、勇利を信頼して寄り添っている、といった印象だった。 しかし、だからといってそれでヴィクトルの気持ちがやわらぐわけではない。ヴィクトルはゆっくりと深い呼吸をした。写真を閉じ、記事のページに戻る。日本のニュースなので日本語だ。翻訳しなければ読めない。ヴィクトルはいくつか操作をして、どうにか意味の通る文章にした。 『勝生勇利、バンケット前に美女と堂々デート』 昨日、全日本選手権で金メダルを獲得した勝生勇利が、女子のフリースケーティング観戦後、夜の街に姿を現した。勝生はすぐあとに開催されるバンケットに出席予定だったが、まるで時間を惜しむかのように美女をエスコートし、気遣いながら歩いていた。相手の女性は明るい色のロングヘアで、おしゃれな赤い細身のコートという姿。勝生に寄り添い、親しげに談笑していた。 前夜におこなわれた男子フリースケーティングで勝生の応援をしていたという情報もあり、これまで浮いたうわさのなかった勝生の恋人かとファンは浮き足立っている。 俺のほうが浮き足立ってるよ! ヴィクトルは相変わらず混乱を抱えながら、三度もその記事を読み直した。勇利が誰かと仲よくしていることなど知りたくはないのだが、何か読みまちがえているのではないか、自分が勘違いしているのではないかと念を入れたのだ。しかしヴィクトルはひとつも読みまちがえていなかったし、書いてある事実は揺るがなかった。勇利は全日本選手権のあと、美女と連れ立って歩き、親しくふるまったのだ。 ──落ち着け。ヴィクトルは自分に言い聞かせた。これがデートだとは限らない。勇利はたまたま知り合いと会い、久しぶりだからと話をしただけかもしれない。それにしてはこんなにくっついたりしていったいどういうことだという気がしないでもないけれど、とにかく疑うのはよくない。勇利自身の口から聞くまでは、何も信じてはならない。それに──。 もし勇利がこの美女にこころを奪われているとしても、それがなんだというのだ。彼女以上にヴィクトルが勇利を愛し、さらにこころを奪えばよいだけではないか。自分を高めるのだ。勇利がヴィクトル以外目に入らなくなるよう、努力すればいい。精神と心構えを崇高に保ち、勇利が愛さずにはいられないような男になるのである。勇利が誰を好きになろうと、それは彼の自由だ。ヴィクトルは、純真で高貴な勇利にふさわしい男として、学び、スケートをし、内面の輝きを増すのだ。まわりの誰かなど関係ない。ヴィクトルがみつめ、対話すべきは、勇利のみである。 よし──。 すこし気持ちが落ち着いた。ただ、この女性がどういう立場の人間なのか、そのことは知りたい。試合の応援に来ていたというからには選手ではないだろう。もちろん女子選手が男子選手の応援をするのは不自然ではないけれど、もしそうならこういう記事にはなるまい。ほかに候補は──と考えて、もうヴィクトルは行き詰まってしまった。勇利は女性の知り合いが極端に少ない。想像ができないのである。昔のリンクメイトだろうか? たとえば優子のような──。 そのとき、玄関で物音がした。ヴィクトルのそばで眠っていたマッカチンの耳がぴくんと反応し、ヴィクトルの肩も上下した。間もなく勇利が居間へ入ってき、「ただいまー」とのんきな声を出した。 「ロシアは寒いねえ。でも飛行機遅れなかったんだよ。よかったー」 ヴィクトルはぽかんとした。もうすこし慌てているか、何か困った顔をしているか、そういう態度だと思っていたのだが、勇利はいつもの勇利そのものである。何の問題もないといっ��様子だ。 「ヴィクトル、金メダルおめでとう。メッセージやりとりしてたけど、改めて」 勇利は荷物を下ろし、コートやマフラーをかけている。 「ああ、おなかすいちゃったな。何か食べるものある?」 彼は笑顔で振り返った。そしてヴィクトルの困惑しきった表情を見ると、自然に首をかしげて瞬いた。 「どうしたの?」 「いや……」 勇利は記事のことを知らないのだろうか? それとも、ヴィクトルがそれを見てもなんとも思わないと考えているのだろうか。あり得ることだ。勇利の感覚は、世間一般から大きく外れているのである。 「勇利もメダル、おめでとう」 咳払いをし、ヴィクトルはとりあえず祝福した。 「ありがとう。あとで見せるね」 「ああ。──それで、ちょっと話があるんだが」 「なに?」 勇利は素直にヴィクトルの隣に腰を下ろした。ヴィクトルはソファの上で姿勢を正した。 「きみの……ニュースを見たんだけど……」 「ああ、金メダルの? 今回はミスもほとんどなかったから好意的な記事だったよね」 「いや、そうじゃなくて」 「ん?」 「これなんだが……」 ヴィクトルはどきどきしながら、まだあのページを表示したままだった携帯電話を差し出した。勇利がそれをのぞきこむ。ヴィクトルは彼の表情を慎重に観察していた。 「ああ、これ」 勇利がちょっと笑った。 「うん、見たよ。びっくりだよね。こんなふうに書かれるんだーって感心しちゃった」 「か、感心?」 感心している場合なのか? 自分と女性の恋愛発覚──とまでは言えないが──記事である。あの精神の不安定な勇利が、よくも平気でいられるものだ。それとも──正しいことだからなんとも思わないのだろうか。 勇利……。 彼女のことが好きなのか……? 「勇利……」 ヴィクトルはどう言おうか迷った。勇利は不思議そうにヴィクトルをみつめ、言葉を待っている。 「……これはいったいどういう状況なんだろう?」 ヴィクトルは控えめに、まずはそれだけを尋ねた。 「ここには勇利の応援に来たと書いてあるけど」 「うん、そうだよ。ほかにも用事はあったんだけど、どっちがついでというわけでもないから、応援に来てくれたことは確かだね」 「う……うれしかった?」 動揺のあまり、どうでもよいことを尋ねてしまった。──いや、どうでもよくはない。 「それはそうだよ」 勇利は可笑しそうに笑った。 「あまり応援って来てくれることないしね。まあ、ひんぱんに来られてもぼくは重圧を感じるから、いいことばかりでもないんだけど……、でも、来てくれた気持ちはうれしいよ」 「あまり、応援、来てくれないのか」 それほどの関係ではないのだろうか? ヴィクトルはおそるおそる探ってみた。 「そうだね。仕事が忙しいし」 「……自立した立派な女性なんだね」 「え、うん、そうだね。すごく働き者だよね。尊敬してるよ」 「尊敬……」 勇利がこんなふうに人を手放しで褒めることは珍しい。ヴィクトルがいままで聞いたのは、ヴィクトル自身に関することくらいである。あとは、たまにほかのスケーターの演技に感心する程度だ。なのに……。 「……昔からの付き合いなの?」 勇利が親密そうに彼女のことを語るので、見当をつけてそう言ってみた。 「えっ、それはもちろんだよ」 勇利が驚いたように答えた。 「もうずーっとだよ。当たり前でしょ?」 当たり前……、当たり前に、ずっと一緒に過ごしてきたのか……。ヴィクトルは落ちこんだ。俺はまだ二年にもみたない、と思った。しかし、愛は付き合いの長さではかるものではない。 「す、……好きなのかい?」 ヴィクトルは思いきって決定的な質問をした。ぐずぐずと思い悩むのは性に合わない。勇利の気持ちがどこにあるかを確かめなければ。 「え、そう正面から訊かれると照れるけど」 勇利は言って、本当に頬を赤くした。ヴィクトルはこわくなった。 「それはまあ……好きだよ」 勇利はほっぺたを押さえながら、気恥ずかしそうに告白した。ヴィクトルは倒れそうだった。好きなのか。勇利、彼女のことが好きなのか……。 「一見さっぱりしてて、あんまり物事にこだわらないような感じだけど、本当はぼくのことすごく気にしてくれてるし」 「そ、そうなんだ……」 「いつもさりげなく、『なんかあった?』って訊いてきたりして、でもぼくが言いたくなさそうだとそれ以上は立ち入らずに引いてくれるし」 「へえ……」 勇利が踏みこまれるのを嫌っていると知っていて、退く間合いを心得ている……。かなり深い仲のようだ。ヴィクトルはますます動揺した。 「お父さんやお母さんもとても頼りにしててさ……、ぼく何もできないから、もう、本当に、いつもすごく感謝してるよ」 家族ぐるみの付き合いなのか! ヴィクトルはくらくらした。大丈夫だ……ヴィクトルだって、勇利の家族とは仲がいい。姉の真利には「勇利ってわかりにくくてめんどくさい子だけど、あんたへの愛だけは本物だよ。大変だろうけど、あの子のこと、よろしくね」と頼まれたのだ。 「ふ、普段、会ったりはしてないのかい?」 声がかすれた。勇利はきょとんとした。 「会えないよ。だってロシアと日本だし」 「そ、そうか。そうだよね」 「そうだよ。一緒に住んでたころとはちがうよ」 「一緒に住んでた!?」 そ、そんな経験が……!? ヴィクトルは激しく動揺した。勇利が……勇利が……そんな……まさか……そんな話聞いてないぞ……。 「まあたまに電話はしてるけど」 「電話……してるのか……」 「うん。ああ、そういえば、世界選手権は応援に来たいって言ってたな」 「ヘルシンキまで!?」 「グランプリファイナル来られなかったしね。都合がつくのかどうか、ぼくはよく知らないんだけど……」 そんなに愛が深いのか……勇利のために海外まで……。もちろんそういうファンは多いのだが、ファンとしての活動とはまたちがうだろう。 「び……美人だね?」 頭の中が真っ白になっており、ヴィクトルはそんな筋道の立たないことを突然言ってしまった。勇利は目をまるくし、それからくすっと笑って「うん」とうなずいた。 「じつはとびきり美人でしょ? なに? ヴィクトル、もしかして好きになっちゃった?」 好きなのはおまえだろう! ヴィクトルはあやうくそう口走るところだった。 「思いやりがあるし、判断力があるし、てきぱきしてるし、しっかりしてるし……、でもね、ちょっとかわいいところもあるんだよ。自分が好きな……ファンっていうのかな、ファンになってる人のことになるとさあ……、ヴィクトルも知ってると思うけど……」 好きな人? ファン? 勇利のことだろうか……。ヴィクトルはだらだらと汗をかいていた。ヴィクトルが女性のことを「かわいい」と言った……。初めて聞いた。 「勇利」 ヴィクトルは無意識のうちに口をひらき、ささやくように言った。 「勇利、きみ、いったい彼女とどういう関係なんだ?」 「え?」 勇利がぱちりと音がしそうなほど大きく瞬いた。ヴィクトルは口早に続けた。 「俺はきみを愛している。それは絶対に変わらない。いまこの瞬間だって言えるよ。勇利、好きだ。大好きだ。でもそのこととは別に彼女のことを知りたい」 「ヴィクトル、なに言ってるの?」 「きみと彼女はどういう関係だ?」 「ど、どういう、って……」 勇利はただ目を大きくし、不思議そうにヴィクトルを見ているだけだった。彼の態度は、ヴィクトルをさらなる混乱におとしいれた。勇利にはわからないのだろうか? どうしてヴィクトルがこんなにせっぱつまっているのか、衝撃を受けているのか、わからないのだろうか? 「俺は誰よりも強く、勇利が世界一かっこいいと言える男になるよ。勇利を俺だけに夢中にさせてみせるよ」 「えっ……もう、じゅうぶん……、なんだけど……」 「��かの誰かなんか問題じゃない。俺は俺でいるだけだ。でも勇利が彼女をどう思っているのかは知りたいんだ」 「う、うん……?」 「教えてくれ」 ヴィクトルは勇利に顔を近づけ、熱心に言いつのった。 「勇利、彼女はいったい、おまえの、何なんだ」 勇利はせわしなく瞬きながら、まったく理解できないというように、戸惑いがちに、純粋な瞳をヴィクトルに向けた。 「あ、姉ですが……」 ヴィクトルはぽかんとした。は? と思った。姉? 何を言っているのだ、勇利は。勇利の姉は真利ではないか。いま彼女の話はしていない。関係ない名前を持ち出してごまかすつもりなのだろうか? だって真利は──。 そのとき、頭の中に、閃光のようにひらめくものがあった。ヴィクトルは携帯電話に飛びついた。そしてあのページを改めて検分し、目をみひらいた。 不鮮明な写真だ。目鼻立ちがはっきりわかるとは言えない。服装もいつもとまるでちがう。髪型も。きちんと化粧している。彼女は勇利に寄りかかって歩いたりしない。でも──でも──。 「マリ……!?」 ヴィクトルはぼうぜんとして口走った。マリ? マリなのか? この女性は勇利の姉のマリなのか!? 「え……!?」 ヴィクトルはものが言えなかった。では──では──。 「え? どういうこと? え? どうして? ヴィクトル、真利姉ちゃんじゃないと思ってたの? じゃあ誰だと思ってたの? 誰のつもりで話をしてたの?」 ヴィクトルはとりみだしているが、勇利のほうも劣らず混乱しているようだ。携帯電話とヴィクトルを交互に見、「なんで?」と一生懸命に尋ねている。ヴィクトルはぼうぜんとしてつぶやいた。 「……マリに見えない」 「どうして……?」 勇利は携帯電話を取り上げ、じっと画面をみつめた。 「どこからどう見ても真利姉ちゃんじゃない……」 「見えない」 ヴィクトルはくり返した。 「マリはそんなに髪が長くない」 「長いよ。知らなかったの? いつもはまとめてるだけだよ。本当は長いんだよ。だって仕事のときは困るから……」 「雰囲気がいつもとちがう」 「お化粧してるからだよ。女の人ならするでしょ? 真利姉ちゃんだってするよ」 「こんなにちゃんとしたのは見たことなかった」 「でもわかるじゃない」 「こんな服装知らない」 「だって出掛けてるんだよ。おしゃれするよ。けどわかるでしょ? 服がちがうだけじゃない」 「マリは……」 ヴィクトルはぽつんと言った。 「マリは、勇利にこんなふうにくっついたりしない……」 「それはそうだけど。これはたまたまなんだよ。真利姉ちゃん、コンサートのために来てたんだ。もちろんぼくの応援もあったんだけど、コンサートにも行って、めちゃくちゃ活動してきたんだ。そうしたらものすごい筋肉痛になっちゃったらしくて……。靴もいつもとちがう、かかとが高いやつなんだ。だから歩いてるのがなんとなくあぶなっかしくて、それでぼくに寄りかかってたんだよ」 「…………」 なんだ……。 なんだ、そんな……そんなことだったのか……。 「……だって勇利が正装してる……」 「これはバンケットの前だったからだよ。お互いすこしだけ時間があいたから、それならちょっとお茶でもって誘われて、応援のお礼も言いたかったし、会いに行ったんだよ。もう部屋に戻って着替えるのもめんどうだったし、そもそもそんな時間があるかもわからないし、それなら最初からスーツで行ったほうがいいから、そのかっこうにしたんだ……」 「…………」 「え……? なんか、ようやくちょっとわかってきたけど……」 勇利はすこしだけほほえんだ。信じられないという顔をしている。 「ヴィクトル、もしかして、真利姉ちゃんのこと、ぜんぜん関係ない、普通の女の人だと思ってたの?」 彼は笑いをこらえている。たまらなく可笑しいという表情でヴィクトルをみつめた。 「この記事を信じてたの?」 「…………」 「えっと、このあと、ぼく取材されて、あの人は姉ですって説明したんだけど……、それもちゃんと記事になったんだけど、そっちは見なかった……?」 「…………」 「うそ……」 勇利が笑い出した。 「信じられない……」 「…………」 「だって……真利姉ちゃんじゃない……どう見ても真利姉ちゃんじゃない……」 彼は口元を押さえ、くすくす笑った。 「ぼくがなんで女の人とこんなに親しそうにするの? そんな相手いないんだけど……」 「…………」 「そもそも、ぼくの好きなひとなんてひとりきりじゃん……肉親ならともかく、こんなこと……そのひと以外とは……とても……」 「…………」 「ああ、もう……、信じられない!」 勇利はとうとう大笑いを始め、可笑しい、可笑しい、と笑い転げた。 「なんで? なんで? ヴィクトルでもそんな勘違いするんだ!」 「…………」 「うそ、うそ、信じられない、信じられない」 恥ずかしいとか、どうしてわからなかったんだとか、そういう感情は、ヴィクトルにはなかった。ただ……。 勇利のことが好きだ。 と、いま、強烈に思った。 ヴィクトルは手を差し伸べ、うそ、可笑しい、信じられない、とはしゃいでいる勇利を抱きしめた。ヴィクトルは笑っているくちびるにキスをした。 「…………」 勇利が目を上げた。もう彼は笑っていなかった。 「……いま、キスした?」 「ああ」 「どうして? 驚かせたかったから? 黙らせたかったから?」 「きみが……、」 ヴィクトルは真剣に打ち明けた。 「好きだからだ」 勇利はふっと笑った。彼はゆっくりとヴィクトルの頬にふれ、それからおとがいをたどり、最後にくちびるをなぞった。 「ああ……、かっこいい……」 勇利はうっとりとささやいた。 「ぼくこういうひとと結婚したいなあ……」 ヴィクトルは立ち上がって勇利を横向きに抱き上げた。もう一度キスをして、それから寝室へ直行した。 「似た者姉弟だね」 ヴィクトルが背後から勇利を抱きしめ、髪にキスしてささやいた。 「何が? 顔……?」 「本気を出したら美人になって輝くところ」 「なにそれ」 勇利は笑い出した。胸にまわっているヴィクトルの手を撫でる。いまでも信じられなかった。ヴィクトルが真利を真利だとわからなかっただなんて。確かにいつもとはちがったかもしれない。しかし、まさか……。 「もちろん普段がだめだというわけじゃない。でもきみたちには特別な変身能力がある」 勇利は笑いをかみ殺した。ヴィクトルの言っていることがよくわからないが、またお得意の異星人言語なのだろう。 「変身能力ねえ……」 勇利はつぶやいた。 「じゃあいまは、ぼく、変身前? 変身後?」 「いまは変身後だ」 ヴィクトルがすぐに答えた。 「でもいつもの変身とはちがうんだ」 「そう……?」 勇利はくるりと身体を反転させ、正面から、上目遣いでヴィクトルの目をじっとみつめた。 「自分で変身したんじゃなく、ヴィクトルに、変身する魔法をかけられたからだね……」 「きみがさきに俺に魔法をかけたんだ」 「変身したぼく……、美人かな?」 美人、という言葉に勇利はまた笑った。 「とびきりかわいい」 ヴィクトルは勇利を抱きしめ、鼻をすり合わせてささやいた。 「ああ、俺、きみみたいなかわいい子が好きだなあ。こういう子と結婚したいなあ。この子と結婚したいなあ」 『好きなひとはいます』 全日本選手権で金メダルを獲得した勝生勇利が、昨日報道された恋人疑惑についての取材に応じた。 ──彼女とはどういったご関係でしょうか。 ぼくの姉です。ちょっとこちらに用事があったのと、ぼくの応援とで来てくれました。あの写真は、時間があいたのでお茶を飲もうって歩いているところですね。 ──記事が出た話はされましたか? 姉が教えてくれたんです。すごく笑ってました。 ──そういうことでしたか。勝生選手に恋人はいないのでしょうか? 恋人? 恋人はいませんね……。でも、好きなひとはいます。 ──どこで知り合ったどういうお相手か、言える範囲でお願いします。 え? えっと、もう誰でも知ってると思いますが……、スケートをしていて知り合った、世界一すてきで高貴で尊敬できる、最高のひとです。 ──ヴィクトル・ニキフォロフ氏のことですか? はい、そうです。
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ひとみに映る影 第四話「忘れられた観音寺」
☆プロトタイプ版☆ こちらは無料公開のプロトタイプ版となります。 段落とか誤字とか色々とグッチャグチャなのでご了承下さい。 書籍版では戦闘シーンとかゴアシーンとかマシマシで挿絵も書いたから買ってえええぇぇ!!! →→→☆ここから買おう☆←←← (あらすじ) 私は紅一美。影を操る不思議な力を持った、ちょっと霊感の強いファッションモデルだ。 ある事件で殺された人の霊を探していたら……犯人と私の過去が繋がっていた!? 暗躍する謎の怪異、明らかになっていく真実、失われた記憶。 このままでは地獄の怨霊達が世界に放たれてしまう! 命を弄ぶ邪道を倒すため、いま憤怒の炎が覚醒する!
(※全部内容は一緒です。) pixiv版
◆◆◆
石筵霊山きっての心霊スポット、通称『怪人屋敷』。 表から見えるそれは、小さなはめ殺し窓が幾つかあるだけの灰色の廃屋で、さながら要塞のように霊山来訪者を威圧する。 でもエントランスに入ると、意外と明るくて開放感がある。 北側がガラス張りになっていて、外の車道から街灯のオレンジ光が射し込んでいるからだ。 そのコントラストはまるで、世間の物々しい噂と私の楽しかった思い出のギャップを象徴しているようだった。
C字型の合皮張りソファで囲まれたローテーブルに、譲司さんはスマホを立てかけた。 煌々と輝く画面内には、翼の生えた赤いヤギが浮遊している。 「やあ、アンリウェッサ。何度もすまないね」 スピーカーから、男性的な口調のヤギの声が流れた。でもその声は人間の女の子みたいだった。 アンリウェッサとは、NIC内で使われる譲司さんのコードネームだ。 このヤギさんはNIC関係者なんだろう。 「姿を変えられたとはさっき伺いましたが…性別どころか、人間ですらなかったんですか」 譲司さんは分厚い眼鏡をつまんで画面を凝視した。
「この方、お知り合いですか?」 私は画面を見たまま尋ねた。 「はい。彼はNIC元幹部のハイセポスさんです。 あの時中東支部でサミュエルに殺害された一人で…ほら、オリベ。キッズルームのガブリエルお兄さんや」 <ああ!もちろん覚えてるわ! 人を騙す脳力を持った、イタズラ好きの嘘つき先生ね!> 情報をまとめるとつまり、ハイセポス元幹部は本名ガブリエルさん、 中東支部でサミュエルに殺害された被害者で、キッズルームの養護教諭の一人だったらしい。 ハイセポス元幹部はにっこり微笑むと一瞬��光して、恐らく生前の姿であろう、人間の男性に変身した。 「やあ、オリベにジャックも久しぶりだね」 本当の彼は、きりっと賢そうな三白眼を持つ、小柄な黒人さんだった。
「ハイセポス元幹部は、さっき俺とポメが新幹線に乗っとった時に電話をくれたんや。 ファティマンドラのアンダーソン氏がジャックを目覚めさせた事とか、さっくり教えてくれはってな」 「それでさっき、皆して一美がアンダーソンと会ったって話に飛びついてきたのね」 私の影でくつろいでいたリナが、胸から上だけ出てきて話題に参加した。 「それで、ご用件は何でしょうか」 譲司さんが改めて伺う。
「ああ。すまないが、僕はアンリウェッサの補佐として、ずっとこの端末から君達を監視させて貰っていた。 そこでどうしても確認したい事を聞いてしまって。質問してもいいかな…ミス・クレナイ」 え、私? 「な…何ですか?」
「君はさっきから、この石筵に観音寺があると話しているね」 「はい。私が小さい頃、和尚様と住んでいたお寺さんです」 「その和尚の名を教えてくれるかい?」 「いいですよ。和尚様のお名前は…」 あれ?
「その観音寺はどこにあるのかい?」 「あ、はい。ここからすぐ近くですよ。 外に出て、丁字路を右…いや、左…」 あれ?え!?
「ヒトミちゃん?」 イナちゃんが訝しげに私の顔を覗きこむ。 おかしい、有り得ない。そんなはずはない。 観音寺と、和尚様に関する記憶が…ほとんど思い出せないなんて! 「ちょっと待ってください。忘れるはずないんです。 だって、最後に会ったのは上京する直前…」 いや、違う。
『ひーちゃん、和尚様は今いないから、私がお土産を渡しておくね』 私の脳裏に、ファティマンドラの安徳森さんと出会った日の、萩姫様の言葉がよぎる。 そうだ。あの日は会えなかったんだっけ。 だから最後に会ったのは、玲蘭ちゃんとハゼコちゃんの事件の時…中学一年生。 中学時代に会っているんだから、せめて和尚様の顔ぐらいは…顔ぐらいは…顔は…
ハイセポスさんはばつが悪そうに顎を引いた。 「ミス・クレナイ。とても言い難いんだが、石筵に観音寺はないんだよ」 観音寺が、ない? 「ああ…なくなっちゃったんですか?跡継ぎ不足とかで…」 「違うんだ。ないんだよ。 …そんな寺は、この地に歴史上一度も存在していなかったんだ」 そんな… 「そんな、バカな!」
画面から顔を上げると、みんな私を怪訝そうに見ている。 リナはまた私の影に引きこもった。 「ち…違うんです、観音寺は本当にあったんです! だって現に、私は怪人屋敷の中に入った事があるし…あ!」 そ、そうか!オリベちゃんはさっき、ハイセポスさんを『人を騙す脳力を持つイタズラ好き』って言ってたじゃないか。 「な…なーんだ!ハイセポスさん、ドッキリはやめて下さいよ! そりゃあ私は『したたび』でいつも騙されてますけど、あれはテレビの演出でして…」 「嘘だと思うなら、探してみるといい。 すぐ近くなんだろう」
◆◆◆
私は咄嗟にイナちゃんの手を引いて、怪人屋敷を飛び出した。辺りは既に暗くなっている。 灯りが必要だ。私は二人分の足元の影を右手の中に集めた。 影が圧縮されて行き場を失った光源を親指と人差し指で作った輪に閉じ込めると、『影灯籠(かげどうろう)』という簡易懐中電灯になるんだ。 なにかと便利なこのテクニックを教えて下さったのだって、和尚様だったはずなのに…。
「イナちゃんは、信じてくれるよね?」 山道のぼうぼうの草を蹴りながら私は独りごちた。 「色んな事を教えてもらったんだよ。 知ってる?チベット仏教の本尊は観音菩薩様なんだよ。 だから観音菩薩様は、タルパとか人工霊魂も、ちゃんと救済して下さるんだ」 足元でバッタが一匹逃げた。
「ヒトミちゃん…帰ろうヨ…」 振り返ると、イナちゃんは寒そうに肩を狭めていた。 早くお寺を見つけなきゃ。お蕎麦屋さんの予約時間も近づいている。 「ねえちょっと、一美…」 影灯籠からリナが滑り落ちる。 「あんまり気が進まないけど、この際だから言うわ。あんたの和尚は…」「真言だって!」 私は苛立って声を荒らげてしまった。 「…ちゃんと言えるもん。オム・マニ・パドメ・フム…」
「ヒトミちゃん」 「念彼観音力、火坑変成池(観音様に念じれば、火の海は池に変わり)… 念彼観音力、波浪不能没(観音様に念じれば、溺れて沈むことはない)…」
リナは私から離れ、イナちゃんの影に宿った。 私は足を泥だらけにして彷徨った。 何だか泣けてくる。でも両目から滲み出た涙は、すかさず乱暴な北風に掠め取られる。 もうリナとイナちゃんはついてきていない。
「オム・マニ・パドメ・フム…オム・マニ・パドメ・フム…」 夜の山の寒さと焦りも、私をあざ笑っている。
「オム・マニ・パドメ・フム…」 真言を繰り返す度に、思い出とか、影とか、自分の色々な物が剥がれていく。
「オム・マニ・パドメ…あ」
我に返って見ると、手から滴り落ちた影は一筋の線になって、私達の行くべき道を示していた。 「ほら…私、ちゃんと覚えてたでしょ?」 私は再びイナちゃんの手をとって、影が示す方向へ進んだ。
◆◆◆
影の糸を回収しながら進むと、私達は怪人屋敷に戻っていた。 いや、糸の先端は…怪人屋敷に隣接する、ガレージの入口で途絶えているみたいだ。
ガレージのシャッターはやすやすと持ち上がった。鍵がかかっていなかったんだ。 背後の街灯に中が照らされると、カビ臭い砂塵が舞い上がり、コウモリや蛾がパニックを起こして飛び出してきた。 街灯の光が行き渡るようにガレージ内の影を調節すると、そこには…
「なに、これ…」 そこにあったのは、床に敷かれたままの小さな花柄の布団。錆びついたグルカナイフ。薪と木炭。鍋。 山積みの『安達太良日報』1994年刷。どこかの斎場のタオル。塩。干し柿。干しキノコ。干しイナゴ。 誰かがここで生活していた跡のようだ。何故かすごく懐かしい感じがする。
壁に光を当てると、おびただしい枚数の半紙が貼られている。 写経、手描きのマンダラ、チベット守護梵字、真言、女の子と観音菩薩様が仲良く焚き火を囲う絵。 そして、それらに囲まれたガレージの中央最奥には、私の背より少しだけ大きな何かが、白い布で覆われていた。
「ヒトミちゃん、ここ怖いヨ」 イナちゃんがガレージの入口から囁いた。 「怖い?なんでかな。あ、コウモリならもういないみたいだよ」 私は天井を照らしてみせた。でも、イナちゃんはまだ萎縮している。 「出てきて、ヒトミちゃん。ここやだヨ」 どうしてそんなに怯えてるんだろう。 「平気だよ!だってここは…ここは私が住んでた観音寺だもん!」
私は壁の半紙を幾つか剥がして、イナちゃんに差し出した。 「ほら、これ。和尚様に書道を教わってたの。 凄いでしょ、幼稚園生でこんな難しい漢字書いてたんだよ! だから私、今でも字の綺麗さには自信があるんだ」 半紙を一枚ずつ丁寧にめくって見せる。『念彼観音力』『煩悩即菩提』、どれも仏教的な文章だ。 「なーんて、本当はね、影絵で和尚様の本を写しながら書くから、こんなに上手く書けてたんだけどね」 『而二不二』『(梵字の真言)』『(マンダラ)』『金剛愛輪珠』… 「オモナアァッ!!」 突然イナちゃんが後ずさった。 手元の半紙を見ると、書かれていた文字は… いや、これは…アルファベットの『E』と『十』の字に似た、記号… どうしてイナちゃんの手相がここに…?
「イナ?紅さん?」 怪人屋敷から皆が集まってきた。 イナちゃんはリナと抱き合い、震えている。 皆もそんなイナちゃんの怯えた様子を見て、不穏な表情になった。 「だ…大丈夫だってば!そ、そうだ! 観音菩薩様の御本尊を見てもらえば、きっと怖くなくなるよね! すごく優しいお顔なんだよ。ほら!」 私はガレージ最奥の観音像にかかった白い布を、思いっきり引き剥がした。
「あぃぎいぃぃやああああああああ!!!!!」 隣の安達太良山にまで響くほどの声で、イナちゃんが絶叫した。
「え…?」 イナちゃんは白目を剥き、口の両端から泡を吹き出して倒れた。 「ガウ!ギャンッギャン!!」 歯茎を見せて吠えるポメラー子ちゃんの横で、オリベちゃんと譲司さんは腰を抜かしている。 するうちジャックさんが気絶したイナちゃんに取り憑き、殺人鬼や暴力団も泣いて逃げ出すような形相で私の胸ぐらを掴んだ。
「テメェ馬鹿野郎!!この子になんて物見せてやがる!!!」 え…なに言ってるの、ジャックさん? 「ううっ…うっ…」<ヒトミちゃん、そ…それ、隠して…!> 嗚咽しながらオリベちゃんがテレパシーを送る。 私は真横にある観音像を見た。 金色の装飾品に彩られた、木彫りの…
「は?」 私は真横にある観音像を見た。 それは全身の皮膚を剥がされ、金色の装飾品に彩られた、即身仏のミイラだった。
◆◆◆
「なに…これ…」 私は一瞬、目の前にある物が何だかよくわからなかった。 変な話、スルメイカやショルダーハムでできた精巧な人体模型がお袈裟を着てネックレスをしているような、 それぐらい意味不明でアンバランスな物体に見えた。
<と、ともかく…公安局に連絡を! さっきのファティマンドラの件もあるし…> 腰を抜かしたままのオリベちゃんが、譲司さんを揺さぶって電話を促す。 「あ…ああ!せやな!C案件対策班に…」 「やめてください!」 「<え?>」
私は気がつくと叫んでいた。 「つ…通報はやめてください!だ、だって…」 だって、何なのか?自分でもわからない。 ただ、ここが警察に暴かれてしまったら、何かとてつもない物を失ってしまうような気がして。
「何言ってやがる…。ここに変死体があるんだぞ! 花生やして腐ったミンチどころじゃねえ、マジの死体がだ!!」 ジャックさんがイナちゃんの身体で私を責める。 「ち…ち…違います!観音様を変死体だなんて、罰当たりな事言わないで下さい!! これは…この人は…このしどわあぁぁ…!」 嗚咽で言葉が出てこない。もう、本当はわかってるんだ。 この即身仏は…私の…和尚様なんだ。
混乱と涙とガレージ内のハウスダストと鼻水で、私は身も心もぐしゃぐしゃになっていた。 皆はまだ何か怒鳴ったり喚いたりしているみたいだけど、もう何もわからない。 私はただ、冷たい和尚様の足元にすがりついてひたすら泣いた。
「ジャック、もうええやん。やめよう」 すると譲司さんがガレージに入ってきて、私の髪を掴んで逆上していたジャックさんを宥めた。 「紅さん、わかりました。通報は後でにします。 その前に…紅さんの和尚様に、ご挨拶させて下さい」 彼は私の頬を優しく指で拭い、小さい子に向けるような微笑みで言った。 そして和尚様の前に立つと、うやうやしく一礼し、 「失礼します」と呟いて、合掌されている和尚様の両手にそっと触れた。
譲司さんはそのまましばらく静止する。和尚様の記憶を、読んでいるみたいだ。 <ジョージ…> オリベちゃんがまたテレパシーによる視界共有を提案しようとする。 でも譲司さんは視線でそれを断って、 「紅さん」 私に握手を求める仕草をした。
「行きなさい��� リナが私を促す。 「私も知らない真実。ちゃんとぜんぶ見届けるのよ」 私は頷いて、譲司さんの手を握る。 そのまま影移しで譲司さんの影に意識を溶け込ませ、彼と同じ視界へ飛んだ。
◆◆◆
ザリザリザリ…ザザザ…。視覚と聴覚を覆う青黒い縞模様とノイズ音が晴れていくと、目の前が病院の病棟内のような風景になった。 VHSじみた安徳森さんの時と違って、前後左右を自由に見ることができる。
「ずいぶん鮮明な記憶ですね」 気がつくと隣で、ノイズがかった譲司さんが私と手を繋いで立っていた。 今、私は彼の影だ。 「和尚様は、どこでしょうか…?」 辺りを見渡すと、昼間なのに全ての病室のドアが閉まっている。 案内板を見るに、ここは精神科の閉鎖病棟らしい。 ふと、私ば病室の一つから強い霊的な電磁波を察知した。 「譲司さん」 「そこですよね」 彼も同じ部屋にダウジングが反応したみたいだ。 ただ、空気で物を感知する彼が気付いた事は霊ではなかったらしい。 彼は『水家曽良 様』と書かれたドアプレートを指さしていた。
意識体の私達は幽霊のように病室のドアをすり抜ける。 中にいたのはベッドに横たわるサミュエルこと水家曽良と、彼を見下ろす二人の霊魂だ。 私から見て左側の霊は、すらっとした赤い僧衣の男性。 顔は指でこすった水彩画のようにぼやけていて、よく見えない。 一方右の霊は、顔と股間の部分だけくり抜いた人間の皮膚を肉襦袢のように着ている、不気味な煤煙だ。 水家曽良はまだ子供の姿。日本国籍を得て間もない頃なんだろう。
「この子の才能は実に惜しい物だった」 肉襦袢の霊が言う。喋り方は若々しいけど、声はおじいさんみたいだ。 「タルパはそう誰でも創造できる物ではない。 まして彼は、我々が与えた『なぶろく』のエーテル法具をも使いこなした。 それを享楽殺人の怪物を生み出すために使った挙句、浅ましい精神外科医共に脳力を摘出されるとは。 この子に金剛の朝日は未来永劫訪れないだろう」 なぶろく?と聞こえた箇所だけ意味はわからなかったけど、 どうやら彼は水家に何らかの力を与えた霊魂らしい。 「エーテル法具…NICで聞いた事があります。 エクトプラズム粒子を含んだ何らかのタンパク質塊、 人間の脳を覚醒させて特殊脳力を呼び覚ます、オーバーテクノロジー…」 譲司さんはそれに何か心当たりがあるようだ。
「ともかく、これ以上損失を出す前に、彼の魂を楽園へ送るのは諦めましょう。 彼はまだ子供ですが、余りにも残虐すぎました」 赤僧衣の霊が、隣の肉襦袢の霊の顔色を窺うように言う。まだいまいち話が見えない。 「その通りだ。しかし、私達もただで金剛の地に帰るわけにはいくまい」
すると肉襦袢は、眠っている水家の鼻に指を突っ込んだ。 「フコッ」 水家が苦しそうな声を発する。彼の耳から水っぽい液体が垂れ、頭の中で何かがクチャクチャと動き回る音がする。 でも水家は意識がないのか、はたまた金縛りに遭っているのか、微動だにしない。 やがて肉襦袢が鼻から指を引き抜くと、その指先には、薄茶色い粘液でつやつやと輝くタコ糸のような紐が五十センチほど垂れていた。 「どうなさるおつもりですか」 心配そうに赤僧衣が問う。 肉襦袢は紐を丁寧に折りたたむと、水家の病室から去っていった。 私達と赤僧衣は彼を追いかける。
肉襦袢は渡り廊下を通って、違う病棟に移動した。 彼が立ち止まったのは、新生児のベッドが並ぶ、ガラス張りのベビールームだった。 彼は室内に入り、生まれたばかりの赤ちゃん達の顔を一人ずつ覗いていく。 そして、壁際から五番目の赤ちゃんの前でぴたりと静止した。
「見なさい。この子だ」 肉襦袢は赤僧衣に手招きする。 赤僧衣は赤ちゃんを見ると、感嘆のため息をついた。 「この子の顔の周りだけ、不自然に影で覆われているだろう。 天井の光が金剛のように眩しくて、無意識に影を作っているんだ。これは影法師という珍しい霊能力だ。 この子は金剛級に強い素質を持っている」 安らかな顔で眠る赤ちゃんの頭上で、肉襦袢が興奮気味に語る。 あれ、そういえば…
「譲司さん。水家曽良が日本に来たのって、具体的にいつなんですか?」 「日付までは覚えとりませんが…たぶん、1990年の十一月上旬です。 俺日本の家に引き取られて最初の行事が弟の七五三やったんで」 1990年十一月、影法師使いの赤ちゃん…偶然か? 私の生年月日は1990年十一月六日だ。 まさかここ、石川町の東北総合病院じゃないよね?違うよね!? そんな不穏な想像が脳内で回っている一方、肉襦袢は目を疑うような行動に出た。
「金剛の力は金剛の如く清き者が授かるべきだ」 肉襦袢はさっき水家から引き出した糸を広げると、その先端を…赤ちゃんの口に含ませた! チュプ、チュプ、チュパ…ファーストキスどころか、まだお母さんのおっぱいすら咥えた事もない新生児は、本能的に糸を飲み込んでいく! 「ほら、こんなに喜んでいるだろう」 「そ…そう…ですね…」 表情の見えない赤僧衣も露骨にドン引きしている。 譲司さんが真っ青を通り越して白塗りみたいな顔色で私を見た。 「あ、あの…紅さん、一旦止めま」「譲司さんうるさい!!」「アハイすいませェェン!!!」 背中から火が出そうだ。
永劫にも思える時間をかけて、赤ちゃんは糸を全て飲み込んでしまった。 「これでこの子はタルパの法力を得た!」 肉襦袢が人皮の手で拍手する。 「失礼ですが如来、一度穢れた者の法具を赤子に与えるのは、この子の人生に悪いのでは…?」 如来?如来って言った今!?この赤僧衣、如来って言ったの!? こんなエド・ゲインみたいな格好したモヤモヤの外道が如来!?有り得ない有り得ない有り得ない!!
如来と呼ばれた肉襦袢はキッと赤僧衣の方を向いた。 「ではどうしろと?サミュエル・ミラーの死後霊魂を収穫する価値がなくなったと確定した今、 これ以上金剛の楽園に損失を出してはならないだろうが!」 「ですが…「くどいっ!!」 事情を知らない私にも赤僧衣の言っている事は正論だとわかるが、彼は肉襦袢に逆らえないようだ。
「よかろう。お前がそこまでこの子の神聖を危惧するなら、この子に金剛の守護霊を与えてやろう」 肉襦袢は赤ちゃんの胸に煤煙の指を沈めた。 「な…待って下さい!肋骨なら、私の骨を!」 肋骨? 「ええい、既に『なぶろく』を捧げたお前に何の法力が残っているというのか?出涸らしめ! 『ろくくさびのひりゅう』は金剛の霊能力を持つ者の肋骨でなければ作れん!」 肉襦袢はわけのわからない専門用語を喚きながら、赤ちゃんの胸の中で… うそ、まさか!? 「この赤子に金剛の有明あれーーッ!」
プチン!
まるで爪楊枝でも折ったようなくぐもった軽い音がした後、 「ニイィィィーーーギャアァァアアアアァア!!!!!」 赤ちゃんは未経験の恐怖と激痛で雄叫びを上げた。 「みぎゃーーっ!」「あーーーん!」釣られて他の赤ちゃん達も阿鼻叫喚! すかさず看護師がベビールームに飛びこん��来るが、赤ちゃんを泣かせた原因を彼女らが知ることはない。
「お前は石英で龍王像を彫り、この金剛の肋骨を楔として奉納するんだ。 さすれば『肋楔の緋龍(ろくくさびのひりゅう)』はこの子を往生の時まで邪道から守り、やがて金剛の楽園へ運ぶだろう。 象形は…そうだな、この福島の地に伝わる、萩姫と不動明王の伝説に因んで、倶利伽羅龍王像にするといい。 この子に金剛の御加護があらん事を…」 肉襦袢は赤ちゃんの小さな肋骨を赤僧衣に手渡すと、汚らしい煤煙を霧散するようにして消え去った。 霊的な力で肋骨を一本引き抜かれた赤ちゃんの胸には、傷跡の代わりに『E』『十』の形の痣ができていた。
「すまない…ああ、本当にすまない…」 肋骨を奪われた赤ちゃんの横で、赤僧衣の霊魂は崩れ落ちるように土下座して咽び泣いた。 看護師さん達はそんな彼の存在を完全に無視して、この突然発生したパニックの対応に追われている。
「こんなん嘘やろ…」 譲司さんが裏返った声でそう呟いた時、私は『生まれつき一本少ない』と言い聞かされていた自分の肋骨のあたりを抑えて震えていた。 それから文字通り気が遠くなるような感覚を覚え、私達はこのサイコメトリー回想から脱出した。 不気味な如来を讃える赤ちゃん達の叫び声が、だんだんと遠ざかっていった。
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遅い奴
遅い。 遅すぎですね。今何日ですか。9日ですよ。秋公園の終演は?4日。切腹。 綺麗な臓物が出てくる自信がないので腹を切るのは止めておきますが、それにしても各方面の方々申し訳ございませんでした。
こんな書き方をしているので自己紹介はいらないと思うのですが、Airmanです。 誰お前?へぇ、B脚本「メタフィクション:ザ・ゲーム」の脚演です。 あー………………って顔してる。今絶対あー………………って顔してますよね。そうです。もうネタバレも怖くないのでぶっちゃけますが、暗殺者の首を折ったりエルフをバットでリンチしたりするシーンで子供さんを泣かしたのは私です。その節は本当に申し訳ございません。 なんでそんな事になったのかは後々お話しするとして、いや変ですよね。後でご紹介する石英さんも言及なさっておられたのですが、何故人は役者紹介の最初に自分の名前を書かないのでしょうか?いやでも分かる。その気持ちは分かる。その方がクイズみがあって面白いって考えるんですよね。実際そういう面白さはあるんですが、「そこで面白さを取るか、役者紹介において必須の『誰が誰を紹介している』という前提を先に伝えて情報の伝達性を良くするか」というのは尽きない議論ですね?いや尽きるかも。割とすぐ尽きちゃうかも。 ようやく温まりました。 何がしたいかというと、役者紹介です。 諸々の都合で敬称略です。
・ニッキ役/でぃあ(31期) イカレた世界のイカレた主人公を演じてくださいました………………え?。読み合わせの前段階で既に役を作ってくる?え、何イリハケ表?はー、神。 いや、そんな気はまぁうすうすしていたというか、やぁまさか本当に役を作ってきて下さるとは思いませんでしたが「ヤケに嵌まってるなぁ」という気はしたというか、凄い。役者魂。楽ステ最後のアドリブにも対応して下さるあたり、いやもうこの方は役者として域に達している気がします。怠惰ゲージがMAXになると自分で自分を傷つけて死ぬタイプの演出だったので、そうした心労を大分軽減して下さった神ですあなたは。そして場当たりの時は酷使して、というか変更点を噴出させて本っっっっっっ当に申し訳ございませんでした。なます斬りされてもおかしくなかった。というかされたかった。だってこの人が演じるニッキ本当に狂っててカッコいいんですよ。全編ふざけた勢いだけで押し通してしまいそうな役ですが、この方は締める所ちゃんと締めて下さる。そして作中でも〆るべき敵をちゃんと〆て下さる。でぃあさんに主人公お任せして本当に本当に楽しかったです。秋公演まではそんなにお話しする機会もなくて、正直ニッキというキャラクターをそこまで気に入って下さって嬉しかった。「自分以外にニッキは演じさせない」。その覚悟を、この一か月間通してしかと目に焼き付けました。
怨霊の手が肩を撫でる。気色が悪い。 しかし中身を聞くと妙に笑える。
負け犬が。
そんなんだから死ぬんだっつのバーカ。 恨み言吐いてる余裕があったら首でも締めて来いや。 テメェで持ってきたルールさも当然みたいな顔で宣いやがって。 だったら!………………殺してみろ。
そう思ったのが、疑いなく口に出ていた。
・レミ役/児玉桃香(29期) ペチカさん!御紹介致します、私の師です(無許可)。シザーズの時に演出としての基礎知識を叩き込んで下さった恩人です。あれ一般化してマニュアルにして後世の演出に読まれるべき。まず役者に脚本を読ませ、該当部分を一人で演じさせてみる。その上で、違和感のある部分があれば/役者さんが違和感を覚えていそうな部分があれば演出が質問を受けに行き、適宜イメージを調整する。「頑張って考えた演技の方向性を全否定してくる演出にはなってほしくない」という言葉から、演技というものがどれだけ役者さんの内的イメージによって生まれ、変わってくるかに気付けました。そうですね。生地に型を押し付けてもその型通りにはならないんですね。だから生地の元の形にある程度あった型を選んで、自分からそこに入ってもらう事が大事なんですね。オムニの最初は重大な勘違いをしていた私ですが、今回はそうでなかったのであれば有難いです………………! 余談ですが、私はPCの音声データを普段イヤホンで聞きます。諸事情でペチカさんにはキャラクターのセリフを読んで頂いた音声を送って頂いたのですが………………いや、もう二度としません。アレはマズい。意味合いが変わってくる。違う、そう言う個人的な目的で送ってもらったんじゃないのに、その、あの、ペチカさんの演技が上手過ぎるからぁ………………!!(涙) 完全に予想外でした。具体的にはバイノー………………何でもないです。特定の方へ後でファイルをお送りします。そして私の方からは完全に削除します。それがいい。あれは世の中から消すべきではないけど、私が持つ���きものではない。本当にそう。 告解が終わり、私の黒歴史がまた一つ増えました。死んで詫びたいレベルです。ごめんなさい。
あーあ、死んじゃった。 日用品で喉掻っ切られちゃって、死んじゃった。 これが呪い? あっけなーい。
ねぇ、どんな気持ち? 格下だと思って気楽に襲い掛かって、結局お仲間さんと一緒に殺されちゃって。 分かるよ。辛いよね。怖いよね。屈辱だよね。 こんなにいろいろ予想外だと、一周回って笑えてきちゃうよね。 子犬みたいな目で縋ってきちゃって。 嘘ついたら目ぇ輝かせちゃって。 裏切ったら傷付いて激昂しちゃって………………ねぇ、バカなの? 殺しに来た奴助ける訳ないよ。当たり前じゃん。 そんで、殺したらそうやって血ぃぴゅーぴゅー噴いちゃって。 あー、もぅ。
かーわい。
・マギー役/ちゃわんちゃうか?(31期) 芸名を訳すと「違わないのではないか?」となるのではないでしょうか?御本人の知った事でしょうか?これ所謂クソリプという奴ではないでしょうか?でもエアーマン、お前の存在その物がクソだからある意味当然ではないでしょうか?それもクソリプではないでしょうか?どうでもいいのではないでしょうか? えっと、新入生の方です。疑わないで下さい。マギー役、この人以外には務まらなかったと思います。だってFF7レベルの大剣持たされるんですもん。完全に演出の悪乗りでした。途中から刃の部分持っておられたので、あーマギーの肉体は刃の概念を理解してないんだな、つまりマギーの中でコレは鈍器のカテゴリなんだなぁと解釈してました。いや、でもマギーは強い。貞子レベルの怪物を素手で殺る。 ただの脳筋キャラにしたくなくて色々詰め込みましたし、役者さんの今までの御経験なども彷彿とさせながら「バカっぽく見えていろいろ考えてるキャラ」を目指してみたら演出の中で見事にブレまくり。最終的に丸投げしてしまったのですが、楽しんで頂けた様で何よりです(クズ)。 今思うと素のマギーは四千頭身の後藤さんみたいな雰囲気かも知れませんね。更に訳わかんねぇ。 本公演ではめちゃくちゃ暴れて下さいましたが、いつか素でカッコいいこの方を見てみたいというのはあります。実力不足でした。次回はちゃんとキャラクターを練ってきます。
呪い、ってくらいだから何かあんだろうよ。 ぼんやりと、ただそう思った。 根拠なんてねえけど。 だから、寝ずの番って奴をやってやった。 実際、俺はいなくてもいい。トークならあいつらの方が上手い。
何が来ても相討ち覚悟で殺す。 最初に死ぬなら、俺が一番良い。 何の感動もなくそう思って、色んなモンが転がった床に寝た。
出た。
出たよ。
マジで出たよ。
いやいやいやンだコイツ。忍者。忍者か。そこは幽霊とかそんな感じの奴寄越せや。 なんだ「呆気ない、ものよな」って。呆気ねえのはお前だよ。多分。 刀を避けたら目ぇ丸くしてやがった。 顔に一発。鳩尾にキック。めっちゃ吹っ飛んで机とか巻き込んで壁にドーン。どうでもいいけど真夜中なのにすっげえ音した。御近所さん迷惑だな。つかアイツら起きんじゃねえか。 そんで呻いて咳き込んで逃げようとしやがるから背中に乗って首をゴキッと。いっちょ上がり。
いや弱っ。 呆気ねえもんだな。
・いろり役/久保伊織(29期) 正式名称がめちゃくちゃ長いバンコクの様な方です。これは私の予想ですが、ここから約10年で何度か二刀流スキルを獲得したりヒノカミ神楽を学校教育に取り入れたりトラックを異世界転生させたり未曽有の星6鯖を手に入れたりしてなんやかんやで宇宙を何回か救ってその度に二つ名が増え、最終的には「18カ月ごとに名前の長さが倍になるイケメン」という称号を手になさいます。実を言うと予想ではなく真実です。 役の名前と御本人の芸名が似ている事で同じ29期の先輩方からいじられたり演出から呼び間違え………………てません。ホントです。そんな事してません。一回位素で間違えたとかそんな事は絶対にないです。空飛ぶスパゲッティモンスターに誓って本当です。様々な人物を惹きつける魅力をお持ちの方で、もうちゃうかのイケメンといえば物理的にも精神的にもこの方に他ならない、と言った感じです。しかしアレですね。去年(2018)の新歓公演を見た直後の私に本公演の写真を見せたらマジでお前何したんとかなじられそうですね。その位今回は今までの役との差分が凄かったのではないでしょうか。ヒールとして妖しい魅力を存分に………………ヒール?あれ?主人公サイドですよね?でも陽な感じの狂気を称えた技術顧問、という中々ない、それまでのイメージとは大分違う役を最高の笑顔で演じ切って、最高に弾けて下さいました。 本当に何をなさってもそのイケボで彩って下さる、そしてノリもいいし、あと殺陣。キャスパ中の殺陣とかvs剣客とか全部この方が担当なさってます。凄いですよね。「PCを腕に巻き付けて戦ってほしい」「短剣は二種類用意してほしい」みたいな無茶振りにも応えて下さって………………いや神です。この稽古場にはなんて神が多いんだろう。 いつかこの方を主人公にしたなろう小説を書きたいです。本当にお世話になりました。
これをこうして………………っと。 おニッキ、丁度良かった。割ったゲームのコピーガード突破したぜ……… 「なぁいろり。お前秘蔵のエロ画像とか持ってる?」 ………………いや急かよ。何だよ。持ってたとして何に使うんだよ。 「企画に………………」 ほう貴様さてはネタ切れか。 「うっせー!あーネタ切れだよ何か文句あんのかよ!」 別に?まそんな気はしてたけどな。 で、どんな企画? 「い、『いろりのエロ画像だいこうかーい』、いぇーい………………」 ハッ。 「鼻で笑うんじゃねーよお前こっちは昨日夜通しで考えたんだかんな!」 何が夜通しだ何が。 お前ら三人「企画会議ぃ」とか言って結局夜中じゅう酒飲んで暴れて近所のアパマンショップに放火してただけじゃねぇか。つーかその様子撮っときゃ良かったろ。 「いや、流石にスポンサー敵に回すのはマズい………………」 逆にそこでよく理性が働いたな。もうええわ。 で、どうすんの。俺そういうの持ってねえけど。 「は?」 いや、逆に俺がそういうのに興味あると思う?割れるゲームも弄れるコードも溢れてる世の中で何で他人の裸見て興奮すんのかマジで理解できねえ。 「あーそういやお前そういう奴だったわ………………うわ最悪」 何が最悪だよ。無いなら作ればいいじゃん。 「え、どゆ事?」 要はその辺から適当に落としてくりゃいいんだろ。『プライベートな写真を公開されて俺がひたすら困ってる』って絵が撮れればいいなら別に俺が普段使ってる奴じゃなくてもいい、それっぽくヤバい性癖の画像漁って来るわ。 「や、でも本物じゃねえとリアクションが………………」 言っとくけど俺結構演技上手いからな。死にゲー実況とか何度気ぃ使って死んでると思う? 「え、あれ演技?マジか初耳」 あぁあとな、ただ公開するんじゃ面白くないだろ。他のYoutuberみたく「お前ら三人と俺でミニゲームやって、俺が勝ったら公開阻止」みたいなルールにすれば尺も稼げる。お、そうだ。ただ公開するんじゃなくて「ネット上に公開された暗号を解けばエロ画像にありつける」みたいな形にして最終的に「釣りでした」ってやれば……………… 「いろり」 何だよ。 「………………お前、最強の友達だな」 ヘヘッ………………そういうの。『悪友』って、言うんだぜ。
『泣きながら抱き合って何してんのかな、あの二人』 『そういう事だ、ほっといてやろうぜ』 『………………いや、ちょっと何言ってんのか分かんない』 『何で分かんねえんだよ。つか俺がツッコミかよ』 『もうええわ!』 『いや雑か。こっちサイド雑すぎだろ色んな意味で』 ・織戸役/武田聖矢(29期) 見透かされている。何を?どこまで? 物凄く頭が回る方、というイメージでした。「この場にいる方の中で、私の発言の意図をこの方だけが理解している」というシーンが何度かありました。かなり分かり辛く、さりとて特に面白くない事を言う事が多い私ですが、それでもぽにょさんには全て見透かされている。その上で何かのリアクションを返してくださる程優しい方です。演出としてぽにょさんにお世話になるのは二度目ですが、思えばシザーズの頃から言葉足らずな私の意図を汲んで下さり、最適な知恵を………………オムニの場当たりでは御迷惑をお掛けしました。ちょっとした事で自信を喪失しがちな私に優しく声を掛けて下さり、気付けば近くにいらした時に心の中で何となく癒しを求めてしまう自分がいました。物語の最後の最後に真理っぽい事を言って去っていく織戸。キャスト選考の際に何故かぽにょさんの姿が被ったのですが、いやでもカッコいいんですぽにょさん。スタッフワークではめちゃくちゃかっこいいのに、基本的に舞台上では何か叫ぶ系の可愛い役ばっかり。もっと教え説くようなカッコいい役回りの、あるじゃ���ん!という訳で、大分すんなり決まりました。ちゃうかで普通の人をやるぽにょさんが見られて満足ですが、もっと見たかったです。 「あれ、もういいの?」 「はい。………………もう、大丈夫です」 じゃあ、気を付けて。 大人としては無責任かもしれない一言を残して、職務に戻る。 随分しっかりした感じの子だった。 本当は誰かとはぐれてなんていなかったのかも知れない。 となると、こんな街の中を一人で………………親はどうしているのだろう。 首を振り、妙な邪推も振り払う。 この区画で育児放棄なんて珍しくもない。 あの子の境遇は自分の仕事と関係ない。 それこそ、あの子が死体にでもならない限りは。 もしくは……………… そこまで考えて、下らないと切り捨てた。 そう言えば、警察の役目を教えてくれた人。 別に、「何が悪か」までは教えてくれなかった。 それから十数年。 考えてみれば、別に大した話じゃなかったのかも知れない。 「正義」や「悪」は、道具だ。 守るべきものが「正義」。倒すべきものが「悪」。 互いにそう決めつけあってるだけで、本当にあるのは単に殴ったら殴り返されるだけ、自己責任の野蛮な世界。 「なんでマイナスの平方根があるんですか」みたいな質問みたいなもの。便利だからそこにあるだけで、それ自体に意味なんてない。 下らないけど、それで社会は回ってる。 別に壊す理由も、逆らう理由もない。 それでも、あえて「正義」を見出すなら。 廊下を歩き、仕事をする。 その事に疑いはない。 突然爆発が起こって壁が吹き飛ぶ事も、ない。 深く考えないで、前に進める環境。 当たり前が当たり前のままであり続ける。 それも、一つの正義。 それを守る事が、自分達の正義。 そう思うと、今の自分は間違っていないように思えた。 急に、暖かさを感じる。 体のどこかに熱がこもったかの様な感覚があって、それでようやく迷いが消えて……………… 焦げ臭い匂いで、それが違和感に変わった。 暖かい、じゃない。熱い。 いつのまにかポケットに入れたタバコが、スーツを内側から焦がしていた。 それに気付いて、絶叫した。 ・芒役/大林弘樹(29期) サイゴンさん。すごく優しい方です。そしてすごくエ【自主規制】アンケートを拝見しました所、御自分でなさったのであろう芒としてのメイクは「大学生とは思えない」等と評判を博していました。思えばオムニバス公演で役者メイクについて教えて下さったのもこの方だった、そんな気がします。まぶたの縁のギリギリに鉛筆を突っ込むという(役者としての通例とは言え)なかなかの恐怖体験ですが、サイゴンさんに指導していただいている最中はそんな不安もありませんでした。 本公演では主にいろり役のイッヒさんと過激なスキンシップを………………詳細は述べませんが、中々に印象的な光景でした。あとすれ違う時には【検閲済】とある事情でアドリブが多くなりがちな刑事サイドでしたが、それを自然な演技で軌道修正して下さるという点ですごく頼りになる存在でした。芒という「場を取り仕切る」役に最も馴染み、その持ち味を最大限に生かして下さったと思います。そのお陰で周りの役者さんもアドリブをぶち込み易かったのではないでしょうか。いえ私は怒りません。ただし一部のアドリブについて周囲の役者さんがどう思うかは別問題です。「悪い事は自己責任」。 文字通り予測不能、キャラと同じく胃の痛い環境の中で進行を務めて下さってありがとうございます。 「織戸の野郎、どこほっつき歩いてやがる」 「絶叫しながら廊下走ってましたよ。服に火が付いたとかで」 「何やってんだアイツ………………」 現状報告を終えた部下を見送り、溜め息を吐く芒。 学歴を鼻に掛けて露骨に見下してくる同僚は何故か辞表を提出した。 加えて最近自らを悩ませていた肩の荷がようやく降りた、そんな感覚。 芒の記憶は数週間分不自然に抜け落ちていた。 だが、その上でなおも本能が「終わった事だ」と訴える。 そんなものか。 声に応じ、その傷が癒える事を許し始める。 当たり前の様に信じていた法則が破壊される。 予測しようもない事態が次から次へと襲い来る。 白昼夢の様な経験。 省みるでもなく、懐かしむでもなく。 ただ人として、芒はそれらを「呑み込んだ」。 後には何も残らない。 それで良い。 根拠の無い確信は、何故だかある種の安心感を伴っていた。 「遅ぇんだよ。何時間かけてんだ」 険のある声色に思考が遮られる。 同じ部署の人間が作業机に部下を呆れた顔で叱り付けていた。 「おぅ、どうした」 「芒さん。聞いて下さいよ、コイツ中々作業を進めないんです」 ふぅむと唸り、当の人物を見遣る芒。 俯き、混乱した様な表情。目は泳ぎ、脂汗を流している。 屈む事で視線を合わせ、その奥の感情を見据えようと試みる。 「どうした? ………………訳があるなら話してみろ」 「いえ、その………………」 「何だ?」 怪訝な表情が威圧となって相手を怯えさせる。 その事に気付き、芒は慌てて柔和そうな態度を取り繕う。 数秒後、件の人物は意を決して話し始めた。 「字が、読めないんです」 「読めない。前からか?」 「突然です。朝起きたら、急にそうなってて………………文字が全部ミミズみたいな記号に見えて、日本語のはずなのに全く意味が」 「下らない事言ってんじゃねえ。仮にも警察官が、そんな出まかせで仕事サボれるとでも思ったか?芒さん、コイツ人事に掛け合って更迭しましょう」 「………………いや、待て」 芒は悩んでいた。 『刑事として培われた長年の勘』なるものも、この場合は上手く働かない。 見え透いた嘘、と断じるには絶望した様な表情が真に迫りすぎている。 しかし、発言の内容が内容故においそれと信じる事も出来ない。 仕事柄、作業量の多さや精神的な負担に耐えかねて心を壊す同僚の存在は少なくない。芒自身、そうした人物を幾度と無く目にしてきた。 今回もその類の事かと結論付けた所で、 軽い眩暈が芒を襲う。 知るはずもない人物の、聞くはずもない言葉が脳裏に過る。 『呪いの渦中にいない以上、その呪いについてとやかく邪推すべきでない。 大きなお世話という物です』 『御自分の考え、常識。そうした物を一義的であると思わぬ方がいい』 気付けば体勢を崩していた。 叱っていた人間はおろか、先刻まで怯えていた人物にすら心配そうな視線を向けられている。 仕切り直す様に芒は姿勢を整え、指示を下す。 「今日はもう上がれ。んで病院行って来い」 「良いんですか?」 「おう。場所は分かるか………………というか、行けるか?」 「はい、何とか。ありがとうございます!」 「ちょっと、芒さん!?」 「この作業代わってやれ。大した量じゃねえだろ。 今の仕事があったらそっちは持ってやる」 「しかし、現状の案件は………………」 「気にすんな。なんだ、今流行ってんだろ。マルチタスクがどうたら」 少なくとも、すべき事はある。 それを続けていれば、自らの勢いが衰える事はない。 漠然とした、にもかかわらず確かなる信念を持って。 芒も、また再び歩み始めた。 件の人物が実際にとある病気を発症していたと分かるのは、先の話。 ・大下役/渡部快平 ワカさん。今年「美」に目覚めたんだな、と思いました。 思えば今年度の新歓、まさか脚選でご自分の脚本をお書きになるとは思いませんでした。それからオムニで一度脚本を通し、その美しい世界観は言うまでもなく好評を博しておられました。その後は言うまでもなく劇団内にも固定ファンをされ、舞台監督としても多くの団員から信頼を集めている凄い方です。 社会派な作品を書きたいと仰っていたのが私個人の記憶に新しいですが、それと関係があるのかないのか今回の大下という役ではめちゃくちゃ輝いて下さいました。「低学歴」を見下すあの表情。何て楽しそう。いや、ありがとうございます。「普段の様子を知っているから逆に面白い」という声が何となく理解できました。やー、面白かった。 癖も強く、中々演じたがられなさそうな大下という役の魅力をここまで引き出して下さったのはひとえにワカさんの教養というか、想像力というか、そういう部分があったからだと思います。「脚本を書く上で人間性の闇と向き合い続けたら病んだ」という逸話をお持ちなくらいなので、それだけ人間の負の側面という物を見据えて来られたのだと思います。だからあの闇の塊みたいな大下もあの仕上がりに。すごい。でも、人間の闇ってそこ止まりじゃないんですよ。RPG「ダークソウル」シリーズとかプレイした後になるにぃさんの動画とか見てみて下さい。ちなみに私は未プレイです。 未明とは言え、人の往来は少なくない。 市街地の中心地、一際大きな交差点。 行き交う各々の事情に思いを馳せるでもなく、その怪人物は佇んでいた。 薄汚れた赤いトレンチコート。 風呂に入っているのかも怪しいボサボサの髪。 中華風の丸いサングラス。 長老の様に伸びた無精髭。 所々生地がほつれ、破れた焦げ茶色のベスト。 ダボついた深緑のズボン。 全体的に浮浪者じみた風体��、少なからず衆目を集める。 その中に二つ、明らかな警戒を孕んだ視線。 ある種の殺意めいた物を背中に感じながら、怪人は動き出す。 信号は既に青。 それをちらと確認し、尾行者二名もあくまで自然な風を装って歩を進めた。 区画の発展は目覚ましいが、完全ではない。 主な通りを少し外れれば程なく「裏路地」に入る。 解体されずに放置された廃墟群。 複雑に絡み合った利権や都合が整理を許さない文字通りの暗部。 如何ともし難く、さりとて誰にとっても有用でない無法地帯。 というよりは、無の地帯。 誰もいない、敢えて足を踏み入れない、ビルに挟まれた虚無の歩道群。 尾行者は並みでない苦労を強いられていた。 第一に、通路の複雑な構造。 不規則に別れ、出鱈目に繋がったそれらの中では一歩先を行く人物の位置すら把握が困難になる。 第二に、尾行対象の挙動。 おちょくっている。 尾行者の片割れは直感した。 一つの通路へ頭を向けたと思いきや、そちらには行かない。 足を踏み入れた、次の瞬間バックステップで急に元の分岐点へ戻る。 恐る恐る様子を伺う相棒が息を呑む様子が聞こえた。 以降、対象の挙動は激しさを増す。 時折何の脈絡もなく振り返る。 明らかに不必要な動きが増える。 ゴミを拾って見せる。 何かを思い出し、腹を抱えて笑う。 立ち止まってロボットダンスを披露したかと思えば急に歩き出す。 相棒の困惑した視線を受け取る。尾行者は頷く。 意を決して身を乗り出したその瞬間、怪人は軽やかなターン。 慌てて遮蔽物に飛び込むも時既に遅し。体が急な制動に対応しきれずバランスを崩す。強かに尾てい骨を打った。 起き上がるや否や、怪人が逃走を始める。 追う相棒が怪人へ怒号を飛ばし、慌ててそれに着いて行く。 以降、仁義なき追走劇が10分程度。 息切れも激しく、明らかに許容量を超えた運動を行ったと分かる。 満身創痍の二人に目もくれず、余裕綽々と言った怪人がせせら笑う様に背中を向けて立ち止まる。 埒が明かないとばかりに尾行者は懐へ手を入れる。 「動くな」 台詞の内容、金属部品が擦れ合う音。 取り出した物を察したのか、怪人の様子が変わる。 言わずもがな、拳銃。 漸く話の通じそうな雰囲気を感じ取り、尾行者が要件を口にする。 「警察だ。署まで同行しろ」 「ちょ、流石に拳銃はマズいですよ。一応任意同行なのに」 「うるせえ。散々面倒掛けてくれやがって、この………………」 「………………何故、私が?」 くぐもった声。 対称的に毅然とした声で返す警察の片割れ。 「礼楽町付近で起きた連続不審死。 ここ最近、現場周辺にお前みたいな奴の姿が複数回目撃されてる」 「どう考えても関係者だな、テメェ。何を知ってる」 観念したかのように怪人が振り向く。 瞬間、その眉尻が上がる。 「………………織戸君に、芒さん?」 「は?」 「え、えー。うわー、意外だなぁ。もう会う事ないとばかり思ってたけど、まさかこんな感じで再会するなんて。ねぇ、二人とも元気でやってます?大事件とかない?その辺どうなんです、ねぇ」 「お、ち、近寄んな!これ拳銃!見えねえのか!?」 「安全装置外し忘れてますよ。それじゃ撃てない」 「あ、本当だ。何してんですか」 「うわ、クッソ………………つうかそじゃねえ、そうじゃねえ!」 親し気な様子で近付いて来た不審者に調子を崩され、一瞬和気藹々とした雰囲気に呑まれかける芒。 幸いにして持ち直し、根本的な問いを放つ。 「テメ誰だ!少なくとも俺の身内に浮浪者はいねえぞ!」 「浮浪者?あー、そっか。イメチェンしたんだった」 「イメチェン………………?」 「参ったな。あ、サングラス外せば分かる?」 訝しむ織戸を他所に、怪人物は一方的に自らの素性を明かそうとする。 隠されていた目元が明らかになった事でその顔立ちの全貌が見える。 髪や髭に邪魔されて輪郭が見えづらいものの、その人を食った様な独特な表情、整った各部の配置はその人物を特定するに十分だった。 今世紀最大の驚愕を込め、芒が情けなく叫ぶ。 「お………………………………大下ァ!?」 「え、そんな驚きますか。僕が僕で」 「変わったな………………というか変わりすぎでしょ! もう原型留めてないもん!」 「そこまで言う?やー、意外だなぁ。 自分じゃそんなに変わってないつもりだったんだけど」 「いやいやいや………………あ、違う!大下テメェ! 現場近くで、そのクッソ怪しい風体で何してやがった!」 呆れも込めた激しい追及に、あっけらかんとして答える大下。 数か月前とは打って変わり、その様子には一切のしがらみを感じさせなかった。 「何って、捜査ですよ。聞き込みというか、情報収集?」 「捜査って、警察は辞めたはずじゃ………………」 「こっちの話。要は、そういう仕事があるんです。金さえあれば、普通の警察が太刀打ちできない事件の全貌を明らかにできるって約束の仕事」 「はぁ?」 只管困惑する二人を前にして、大下はマイペースに言葉を紡ぐ。 「という訳で、昔の同僚とはいえ今は部外者。 本件に介入させる訳には行きません、お引き取り願えますか」 「こっちの台詞だ!おい、今のお前が何に手ぇ染めてるかはどうでもいい。 ただな、お前の言動は明らかに捜査妨害………………」 「あーその辺の問題じゃないんですよ。こっちにも同じ事情があるって言うか………………面倒臭いな。おい!」 「はいはーい!」 大下が呼びかけ、返事を返したのは路地裏の上方。 道を挟むビルの屋上、その縁に座る小柄な人影。 妙な既視感が奇妙な風切り音に遮られる。 矢。 妖しく白い輝きを放つそれが、織戸と芒の足元に突き刺さる。 驚く間も与えず、矢は一際眩い光を放つ。 強烈な眠気によって二人が倒れるのに、そう時間は要しなかった。 効果の程を確認すべく、寝顔をまじまじと眺める大下。 その様子を見た人影が、猫じみた身のこなしで飛び降りる。 高さと質量からは想像も出来ない程に軽やかな着地音を聞き、思わず感嘆の声が漏れる。 「俺も中々かと思ったけどさ、やっぱお前は大分違うな。 2,3日でもう人間辞めやがって」 「人でなしみたいな性格した人に言われたくないなぁ。 でぇ、大下さーん。今日の分のお小遣いは?」 後ろで手を組み、上目遣いで期待を込める大下の協力者。 そのわざとらしさに若干白い目を向けながら、大下は苦々しく確認する。 「隠しカメラとか仕込んでねえだろうな」 「まっさかぁ。ケーヤクイハンだし?」 「白々しい………………」 「あ、でも報酬次第だかんね。 動画にした方が儲かるなら無許可でそっちに切り替えるし、その辺宜しく」 「………………4人分か?」 「当然でしょ。4人揃ってこぉそぉのブランドなんだし」 「なぁにがブランドだ。どぉせこないだの放火もお前らだろ。 炎上系の癖に気取りやがって、偉そうに。地獄に落ちろ」 「そんな連中頼ってメシ食ってんだし、お互い様でしょー?」 「ハッ。そうだな………………」 自嘲気味の笑いを漏らし、清々しさを湛えた顔で向き直る。 煽った相手も心底楽しそうな笑みを浮かべていた。 厚みを持った封筒を手渡すや否や、協力者は当然の様にひったくる。 苦笑いを浮かべながら、険の無い口調で嫌味を放った。 「じゃ、午後もよろしく。犯罪集団」 「どーも、似非捜査官さん」 別れの言葉もそこそこに、互いに別の方向へ歩み出す二人。 相変わらず白目を向いて横たわる織戸と芒。 それぞれの姿を、上り始めた朝日の反射光が照らしていた。 ・三珠役/遠藤由己(29期) ハイ。説明不要でカッコよくて面白くて優しい我らが座長です。そして本公演での舞台監督です。そのゴリラとバナナと演劇に対する情熱で皆から愛される凄い方。え、完璧。欠点と言ったら作ったラーメンの生地をサークルの冷蔵庫の中で腐らせる事くらいしか思いつきません(実話。なお物体Xはちゃんと処分されました)。面白い人ってたまに人をダシにして笑いを取る、いわゆる陽なイメージがあるんですけど、この方には一切それがない。絶対に他人を責めないし、本気で人を蔑んでる所とかみたことがないし、ミスをしてもちゃんと注意して許して下さるし、もう、ちゃうかにとって太陽みたいな方だったと思います。リミッター掛けずに暴れて他人様に迷惑を掛ける事が多くて、後会話が苦手でよく人を避けがちな私にも沢山話しかけて下さったり、もう天使みたいな人です。本公演も滅茶苦茶なスケジューリングの所為で予定押しまくって、御自分が泣きたいくらいの状況においても優しい言葉で気に掛けて下さって、もう色々限界に近い様な状況でも絶対に激昂したりせず笑顔を保ち続けて下さった、それらの事へ申し訳ないの気持ちと伝えきれない程の感謝の気持ちが渦巻いております。本当に御迷惑をお掛けしました。そして、本公演本当にお疲れさまでした。 ………………はっ!「役者」紹介なのに役者としてのエンドゥーさんをご紹介出来ませんでした。カッコいいのはそうなんですけど、実際面白い、というかアドリブを多めに入れて下さる方です。 とはいえ今回はその余裕がない脚本でした。いえアドリブが悪かった訳ではなく、そうした「遊べる」部分がないような脚本だったのが良くなかったかな、と思ってます。 なので、その無念を晴らすべく脚本の方を書き換えてみます! IFストーリー、「もし三珠がアドリブしやすい環境だったら」。 「所有者は実行ファイルをJadでデコポンした、と言ってましたが」 「デコポ………………デコンパイルの事っすか?」 「そうそう、そのデコピン」 「デコンパイルっす。ちょっと遠くなってる」 「ほう、そのデコッパチってのは大変なんですかい」 「いや惜しい。今までのに比べたら惜しいレベル」 「レコンキスタが何ですって?」 「あ大分離れた。イベリア半島の再征服活動は全く関係ないっす大下さん」 「デコレーションケーキですかな?」 「矢盛さんデコしか合ってない。というかあなたもそっち側なんすか」 「えーっと、………………ヒロポン」 「いや原型失ってるっす。何すかヒロポンって。 思い付かないからってデコポンから雑に派生すんのやめて下さい」 「ちゃんぽん」 「クーポン」 「ピンポン」 「じゃんけんぽん」 「NEXCOニシニッポン」 「ポンで畳みかけないで下さい。 そもそも『デコンパイル』にポンつかねーから!」 「えっと、何の話でしたっけ………………」 「忘れてんじゃねーよ!」 結論:話が進まない。 おあとがいけないようで。 本式のIFは後で書きます。予告しよう。長いよ。 ・矢盛役/石英(29期) 入団当初、まだ人間性を獲得しておらず暴れまくっていた頃の私は(今思うと大分失礼な発言ですが)ある方に似ている、と言われた事がありました。無論見境がない分私の方がヤバかったらしいですが………………お察しの通り、その方が■■さんです。一目見たとき「あ、キャラ被ってる」と思ってしまいました。眼鏡、あと敬語キャラ。後者が特に大きかった。しかし聞いて下さい、色んな意味で暴走する私と違って■■さんは落ち着いた凄い人なんです、言わば私の上位互換。ああでも■■さんを私ごときの上位互換だとか言ったらそれはそれで無礼度がマッハ有頂天、どうしよう、みたいな事になったのでとりあえず私はフードとマスクとサングラスを着用しました(全くの無関係)。 この方の普段の振る舞いを見るとまず「人間科学ってすげぇ」という感想が溢れてきます。人間に精通している。どう言えば伝わり、どうすれば動き、何をやっても大丈夫なのか把握しておられる気がします。そして私の取り扱い説明書を持っておられる貴重な方です。通訳さんとして大分お世話になりましたし、この公演中「この方にしか理解できないだろうなぁ」みたいな事も大分お話させていただいた事があります。あと照明の「チーフ補」を務めて頂きました。もう、諸々神の様なお方です。私にとっては最高神。 お世話になった事を箇条書きしていったらそれだけで脚本が一個できるレベルで御迷惑をお掛けしました。役者として?めっちゃくちゃ上手い方です。脚本の理解に掛ける執念と言え、プラス私の脳内を推察できる方なのでもうそれはシンクロです。不明点などどんどん質問して下さって、本当に有難うございました。長台詞ばっかりでごめんなさい、でもカッコよく決めて欲しかった、啓蒙の高いカッコよさを存分に示してほしかったのです!よって後悔はありません、お疲れ様でした!なんて鬼畜な私ぃ! 「それで、話というのは何ですか。久保田君」 昼下がり。 どこにでもある喫茶店。 二人の客が会話を始める。 「………………お願いがあるんです」 「ほう、お願い」 「ええ。自分が、死んだ後の事を」 尋ねた方の人物が片眉をひそめ、もう片方を吊り上げる。 薄布で出来た黒のローブ、頭には二本の蝋燭。 奇態な格好が衆目を集める事は、何故かなかった。 相対する紙袋を被った人物、久保田についてもそれは同様だった。 「死ぬとはまた縁起でもない。一体何に首を突っ込んだんです?」 「………………他愛もない、呪いの類です。 ネット上に転がってて、まだ誰も傷付けた事がない様な」 「それを、消そうとしたのですな?」 「そうです。でも………………」 「上手く行かなかった。なるほどなるほど」 オカルトじみた服装の人物、矢盛。 最も酷薄な、かつ当たり前の言葉を選び、相手に向けて躊躇なく吐き出す。 「まぁ、自業自得でしょうな。 どんな理由があったかは知りませんが、その辺に転がる呪いに手を触れるなどあってはならない事。無論君ならば良く分かっていたはずです。 その上で、なぜその様な真似を?」 「………………子供」 「はい?」 「子供が作った呪いなんです、それは」 矢盛の脳内を様々な推測が去来する。 亜事象………………呪いを含む、超常現象。 それらを構築する知識を子供が得るのも、あり得ない話ではない。 しかしながら。 「一体なぜ?」 爆弾を作る知識を偶然手に入れた子供、そのどれだけが実際に爆弾を作ろうとするだろうか。倫理的な問題は省くにせよ、手間は掛かる。一歩間違えれば自らの身に危険が降りかかる。「面白そうだから」という目的だけで殺人兵器を完成させる物は、まずいない。 誰かに殺意でも抱いたのだろうか。それでは「誰も傷付けていないまま、呪いがネットに流れている」状況と矛盾する。誰を狙って? 久保田の答えは、そうした矢盛の疑問を更に深める事となった。 「芸術………………多分、そんな感じだと思います」 「どういう意味です?」 「その子は、その呪いを一つの作品として完成させたんです。 誰かを殺すことも、その一部として」 要領を得ない答えが返る。 様々な疑問を飲み込み、矢盛は最低限の解釈で応じた。 「………………ただの子供では、ないと」 「ええ」 「しかし、それならますます意味が分からない。 君、なぜそんな人物を敵に回したのですか?自分の命すら危険に晒して」 沈黙。 紙袋の上から、その表情は窺い知れない。 「………………守りたかったんです」 「誰を。何から?」 「その子をです。このままだといずれあの子は、あの呪いは、誰かを傷付ける。それだけじゃ済まない、いずれあの子自身も復讐に遭って殺される。 誰かを殴れば殴り返されて死んでしまう、それをあの子は!」 「お、落ち着いて。あ、どうもすいませんね店員さん。 ほら。一旦食べて落ち着きましょう」 「あ、すいません………………」 立ち上がっていた久保田が気を取り直し、椅子に座る。 紙袋の所為で悪くなった視界は、プレートを持ったまま困惑する店員の存在を捉えていなかった。 矢盛の注文はパンケーキ。久保田はフレンチトースト。 すぐさまナイフを入れ、舌鼓を打ちながら互いに考えを整理する。 もきゅもきゅ。 全てを胃袋に収める頃には、矢盛はある程度その理解を纏めていた。 紙ナプキンで口元を拭い、再び話を切り出す。 「つまり、アレですな。 亜事象世界のシンプルで残酷な掟からその子を庇護したかったと。 その子、ひいてはその呪いに関わるにあたって、どうしても君自身が狙われる必要があったと」 「ええ。道を踏み外したとはいえ、あの子にはそれだけの才能がある。 若い芽が摘まれるなんて、俺には耐えられない」 「正義感の強い君らしいですな。 誰かを殺めようとする子供すらそこまで気に掛けるなど。 しかし、才能というのは呪いを作る事だけですかな?」 「どういう事です?」 「いや何。先程から話を聞いてみると、何か君自身その呪いに感銘を受けた節が感じられると思いまして」 「………………一つ、見ていただけますか。 呪いに関わる画像なので、あまり」 「その程度気にしていたら亜事象家などやっていられませんよ。是非」 促され、久保田はポケットから一枚の紙を取り出す。 画像がプリントされたそれを見て、矢盛はただ美しいと感じた。 中世のそれを思わせる、ファンタジー的な街並み。 山肌の質感。自然な光。現実には存在しえない、だが「何処かにあってもおかしくない」とすら感じさせる趣ある建築。細部に至るまで生々しく描写された人、生物、その他全て。 最新のCG技術ですら再現出来ない程の��景、一枚の紙に映し出されたそれですら矢盛の心を掴むには十分だった。 「ほう、なるほど……………亜事象で生成した光景、ですか。 ここまで見事な物は見た事がありません。しかし、呪いと何の関係が?」 「呪いのゲームのスクリーンショットです。 この世界の中で悪行を犯したプレイヤーは裁きを受ける」 「何と。要はグラフィックがめちゃくちゃ綺麗な呪い版UNDERT〇LEと。 はー、確かにこれは危険ですな。良い評判に騙されてその辺の一般人が手を出してしまうかもしれない」 「でしょう? こんなに美しい物が作り出せる子なのに、勿体ない」 「ちなみに『子供』というのは、何故?」 「追われてる時に何回か姿を見ました。 やってる事と言い体格と言い、少なくとも大人じゃない気がして」 「ほーん………………」 納得しかけた所で、本題から逸れた事を思い出す矢盛。 そも、久保田から自分に託された願いとは何であったか。 AM6:00。 日が昇り、矢盛は「吸血鬼」の亡骸が崩れ去るのを確認する。 亜事象の研究家として適宜警察等の公共機関に協力し、必要に応じて自ら手を下してほしい。 丸投げともとれる雑な願いに対し、事実矢盛はやり遂げるに至った。 身勝手に命を��け、死んでいった久保田。 その行いに、何らかの意味があったのか。 確かめる術もないまま、弔いを胸に矢盛は佇む。 もう、あの姿のままで相まみえる事はない。 路地裏の静寂が、惜別の情を静かに包んでいた。 昼下がりの喫茶店。 甘味を味わい尽くし、席を立とうとする二人。 今生の別れを前に、矢盛が希望的観測を口にする。 「時に、久保田君。 怨霊を、信じますか」 「………………信じます」 「そうですか………………」 根拠もなければ、証拠もない。 ただ、「そうであれば良い」だけの噂。 「この世界は、産み落とした物を無碍にはしないそうです。 例え姿形が変わろうとも、今ある物は残り続ける」 矢盛が久保田から視線を外す。 「いずれ、また会いましょう。 互いが互いに出来る事をやり尽くした、その後で」 その声は、心なしか震えていた。 応える久保田も、また死の恐怖を掻き消すように声を張る。 「ええ。負けません。 必ず、この世に想いを遺します」 それが、矢盛の聞いた久保田の最後の一言となった。 ・玉池役/堀文乃 らめるさん。お世話になるのはシザーズ以来ですね。 いや、プロです。上手い。それっぽく投げたイメージの解像度を物凄く引き上げて下さる神です。それだけに学生役にとどめるのが申し訳なかった。前座コントで見た様な虚無感の演技然り、もっと幅広い顔があるはずなのにそれを見る事が出来ないっ………………!!!!あ、ああ悪役!次は悪役をお願いします!!!フリーが濃すぎた影響か、今回の役は割と常識的に見えたかもしれませんがホントにすごいんです。楽しみ方とか喜び方とか満面の笑みがもう輝くような感じだし、「草」の言い方とか「あミスった」とかすごい自然だし、推しに遭えた感情で限界に達するムーブとか安易に共感できて、もう玉池やってもらってよかったなぁと。配役に関する個人的な妄想をもう少し広げると、そうですね………………次はめっちゃクールな役も見てみたいし、自然に微笑みながらサラッととんでもない事を語るようなにこやかサイコパスも見てみたいし、逆に怒涛のツッコミをお任せしまくるのもいっかなぁ、あーでも笑顔が見れない、何をお願いしても笑顔で演じ切ってくれそうな感じがあるからこそその笑顔がもっと輝いてほしい、はぁよすぎでしんど。でも一番しんどいのは勝手に色々言われてるご本人かもしれませんね。この辺で止めにしときます。 ・多賀役/岡山桃子 この方の優しさをフルコースで体験しました。いや音響。音響。舞台上の役者の動きに合わせて音が鳴ったりするんですが、今回はその回数が3桁を超えたそうです。やーすごいですね。誰のせいなんでしょう。下手人は大集会室の床に土下座の要領で頭を叩きつけまくって脳漿をぶちまければいいのに。すいません私ですごめんなさい。でも全然キレないんですこの方。慈悲の化身か。本当にしんどい思いをさせて申し訳ございませんでした。 役者としてですが、可愛らしい役をする事が多い方だと思ってます。それだけに今回はただ可愛いというよりも大人しい感じの役だったというか、そこまであざとさに向いてなかったというか、むしろカッコいい部分もあったかもしれない?スタッフワークとかで人間性的なカッコ良さを発揮する人が舞台上でそうなれないのに耐えられなかったんだよ!!!!!(謎の告白)何でしょうね。そう考えると今回はまだ役にイケメンさが足りなかったかも知れないです。でもいつかどちゃくそイケメンな役を演じさせてみたい。そして全国のみこた………………みこさんランドの住民の村を焼きたい。見てみたくないですか?私は見たい。 久保田inにその片鱗はあった気がする。目覚めよその魂………………!! ・中西役/lulu ラブノートからの………………ペチカさんの所でコレ書くんだったー!!先に言っておくと、luluさん/児玉桃香さん/中戸太一さん/サミュエル・ツヤンさんの4名とは2018オムニB脚本「LOVE NOTE」メインキャストからの仲です!なのでこの5人はこの脚本に揃ってました!懐かしー! え、役者として?この御方を誰だと思ってるんですか。luluさんですよ。初登場からその圧倒的なカリスマ性で固定ファンを大量に獲得、今やその影響力は政財界の域を超えを揺るがさんとしているluluさんですよ?真実はさておき、私も稽古場で「ルルさんに逆らうんですか?」という脅し文句を使った事があります。怒られました。いやでもカッコいい。キャスパも凄い。一回ぐらい主役やってほしい。というか最近「殺されるならこの人かな」みたいな感情が芽生えてきています。気持ち悪いですね。今作ではツッコミ役の学生としてこれ以上ないほどリアルで引き締まるような演技を披露して下さいました。 本公演では演出補佐も務めて下さいました。そう考えると演技面ここどう思いますか、みたいな感じでもっと御意見を求めれば良かったのかな、と思うシーンが山の様にあります。いやでも十分ですね。キャスパしかり、学生サイドの監修しかり、「一つのシーンが演出の手を経ずにほぼほぼ完成する」という夢の様な事例を作って下さってありがとうございました!luluさん最高! マッカブランカによる前代未聞の生放送企画から3週間後。 一切の情報を残さず、件の4人は消息を絶った。 遺されたのは、一瞬の安寧。 あるいは……………… 「玉池ぇ、いい加減立ち直んなよ。 別にマッカが死んだって決まった訳じゃ………………」 「アァアァアァアァァァ………………」 「しょうがないよ。あれからすっかり落ち込んじゃって。 夜も眠れず食事も喉を通らない、唯一体が受け入れるスタバの新作メリーストロベリーケーキフラペチーノで辛うじて生きながらえてるんだって」 「弱ってるにしちゃ主食がハイカロリーだな」 あるいは、死んだ目の玉池。 生気を感じない瞳の下には幾重にも隈ができ、顔色は青白さを通り越して純白、あらゆる問いかけに対して「マッカしゅき」としか返さぬ有様。 ゾンビ。 端的に表現すれば、それそのものとしか言い様がなかった。 「どうすんのコイツ。てか何でこんななってんの?」 「何日か前からおかしかったっちゃおかしかったんだよね。 最初こそ『大丈夫。マッカは生きてる』って怖いくらいの笑顔で言ってたんだけど、段々『マッカニウムが足りない』とか『まばゆい推しの記憶があたしを生かし、同時に苦しめるんだ』とかうわ言いい出すようになって」 「しまいに教室のど真ん中でカッター持って『我ガ臓器ヲ捧ゲマッカヲヨビダス』とか叫びやがった、と」 「止めてなかったらホントに切腹してたかもね………………」 多賀が玉池の様子をみやる。 焦点の合わぬ視線が虚空を見据え、時に痙攣しては弛緩していた。 その様に呆れ、中西が眉間を指で抑える。 「勘弁してよ………………このままじゃウチらまで変人扱いじゃん。 玉池、どうしてもマッカじゃないとダメなn」 「いい訳ないでしょぉおぉぉぉおおおお!!?!?!?!?!?!?」 「うわっ………………」 「二度とあたしに向けてその言葉を放つな、それはあたしにとっての禁句だ、いいか。故郷に替えが利かない様に」 「おかえり玉池」 「ただいま多賀。一生の推しはずっと代えられない。他人がどうだか知らないけど、あたしにとっての推しYoutuberは今後一生、何があっても絶対、どんな不幸や災難があたしを襲おうとも、間違いなく、確実に、マ、ッ、カ、ブ、ラ、ン、カ、だ分かったかぁ!!!!!」 「離せ」 「あいだだだだだだギブギブギブ!!!」 激昂しながら中西に掴み掛かり、結果手酷い反撃を受ける玉池。 野に咲く花を見るかの様な面持ちで眺める多賀。 最早、日常であった。 関節技を解かれるや否や、玉池が喚く。 「あー中西余計な事すんなよぉ、何も言わなきゃあたしは今も虚ろで空虚な夢の中を一人さみしく泳いでいられたのにぃ」 「『虚ろ』と『空虚』は同じだよ」 「るっさい。あー、やだなぁ。これから何十年もマッカのいない世界を生きてかなきゃいけないのかぁ。退屈だなぁ、いっそ死んでやろうかなぁ。しかし死ぬと言っても色々方法はある。転落、焼死、窒息死………………」 「お前は何がなんでも過去公演ネタをやらないと気が済まんのかい」 「え、じゃあ何?信じてればいつかあたしの目の前にドラゴンに乗ったマッカブランカの4人が来てくれるとでも?」 「いや知るかよ。勝手に信じてれば」 「ハクジョーな事いうなよー友達だろー?」 「とち狂った挙句クラスみんなの前で割腹自殺しようとするような奴を友達とは呼びたくない」 「ひどい………………え待って何の話」 「記憶すらねーのかよ最悪だな」 「二人とも」 縋りつく玉池、邪険にする中西。 二人が、多賀の声によってようやく異変に気付く。 周囲を見れば、クラスメートも同様に騒いでいる。 薄暗い。 教室のみならず、学校全体を覆う影。 窓から見えるは硬く、煌びやかに輝く固い鱗の群。 古典的RPGじみたドラゴン。 何かを振り落とさんと、必死に暴れ翔んでいた。 そして、その背中には。 「視聴者のみなさーん、おっひさー! 待たせたお詫びに今回は特大スペシャル!何とみんなの目の前��ドラゴンの解体実況をやっちゃいまーす!いぇーい!」 多賀や中西にとっても見覚えのある、クロスボウを抱えた小柄な人物。 背後にはいつもの3人。 謎の空撮ドローンに向かって手を振りながら声を張る、その様は。 玉池が、弾けた。 枯れかけた草木が生命の輝きを取り戻すかの如く、弾けた。 肌は瑞々しさを取り戻し、四肢には宿るは火事場の馬鹿力。 特に邪魔だった訳でもない中西の足を掴んで持ち上げ、後ろに放り投げる。 宙を舞う中西。 飛距離は5m。 壁に激突。 駆け寄る多賀。 唖然とするクラスメート。 それら全てを完全に意識から外しながら、玉池は。 力の限り。 喉が割れんばかりの大声で、叫んだ。 「マッカじゃああぁあぁあぁあぁあぁあぁあぁあぁぁあぁああぁあぁあぁあぁああぁぁぁああああっぁあぁあぁあぁあぁあぁあぁっぁあぁああぁあぁぁああああああぁあぁぁあぁあぁぁあぁぁぁぁあぁぁぁあぁぁぁぁぁぁぁぁぁああぁあぁあぁあああぁぁああぁああぁああぁあああああああああぁああぁあぁんっっっっっっっっっ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」 教室のガラスが、一斉に吹き飛ぶ。 クラスの大半が耳を抑え、うち幾人かは失神する。 数百人分のそれに匹敵する声量の応援を受け、レミがそちらに手を振る。 玉池の視力、今や5.0。 無論その仕草を捉え、その精神が天へと召されゆく。 推し、即ち神。 自らの声が神に届けられる。 この世の何物にも耐え難い自己肯定の証左、狂おしい程の悦楽に呑まれながら玉池は有頂天であった。 ふと、側頭部に違和感を覚える。 足。 どす黒い殺意を纏った中西の飛び回し蹴りが、玉池の頭蓋に横から深く食い込み、破壊する。 必死に止めようとした多賀は、既に振り払われていた。 ああ、何だ。 たった、それだけの事か。 意識が、徐々に霞となって消える。 机や椅子を薙ぎ倒し、玉池の体が床へと零れ落ちる。 暖かい布団に包まれ、微睡みに墜ちるかの様に。 怒り冷めやらぬ中西の幾度とない踏み付けを食らっても、なお。 玉池は、笑顔であった。 ………………駄目だ。耐えられない。 一つのキャラにつき一つの物語を書かないなんて、そんな馬鹿な。 待てよ、僕の仕事は………………こんな風に、想像する事。 文字によって、頭の中の世界を描く事じゃなかったか? そうだ。 何を忘れていたんだろう。 これはあくまでも本編後のアフター/IFストーリー。 役者紹介は、その口実に過ぎない。 ハ………………ハハハ。そうだ。それこそが、僕の! 「ちょっと待って」 ………………誰だ? 「お世話になっ��人、迷惑をかけた人。 その人たち全てに感謝と謝罪の念を述べ、過去を供養する事。 その大切さを、君は忘れている」 何を、言って………………ぐっ!? ぐ、ぐあ………………あが、ぐあぁあぁああぁああぁああ!!! できません……………… 私の仕事は、公式二次創作を、書く事だから………………!!! 「違うって。 君の仕事は、役者紹介だよ」 -transmission complete- ぐ、ぎゃぁあぁああぁああぁああぁあ!!!!!!! あ、あ……………… 『メタフィクション:ザ ゲーム』に、接続。 マジですいません。 流石に十勇士ぐらいはまとめます。
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