#羽中文字: 卯黒
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kyudo-order · 6 years ago
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シャフト: 2015黒 羽根: TF0594黒尾羽 特選抜染 大中白柄 糸・和紙: 糸 black黒 毛引き: 金(基本色) 筈巻加工: 矢絣 金 プチデコ: 金箔加工 羽中下地加工: 金 羽中文字: 卯黒 筈: 天弓筈ブラック
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hi-majine · 6 years ago
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三十石  1/2
 京都見物にまいりましたふたりの男が、円山二軒茶屋、八坂の塔、高台寺、清水坂、大谷鳥辺山、大仏さん、耳塚三十三間堂と見物いたしまして、でてまいりましたのが、伏見街道でございます。 「さあ、早よう歩き、なにをぼーっとしてるねん?」 「べつにぼーっとしてるわけやないけど、なんぞ子どものみやげを買《こ》うて帰ろうおもうて、なにを買おうと、思案《しあん》してるねん」 「ほな、伏見人形でも買うて帰りいな」 「伏見人形てなんや?」 「この稲荷山の土で焼いた人形や。ここの人形はな、持って帰って破れても、その土が、もとの稲荷山へかえるというねん」 「ほう、えらいもんやな……そんな人形を売ってるか?」 「このへんは、人形屋ばっかりや……みてみ。だんだん職人がじょうずになるのか、器用になったんか、人形も焼き物とみえぬ羽二重細工《はぶたえざいく》のようやろ? ……どうや? 所帯道具かて、なにひとつないものはないわ。みな焼き物でできてるやろ?」 「そうかいな? ……けども、みわたしたところ、横槌《よこづち》がないな」 「これっ、焼き物の横槌がつかえるか?」 「おまえ、焼き物でなんでもあるというたがな」 「そら、いうたけど、焼き物の横槌があるかいな……そのほかのもんなら、あるというねん」 「ほうきがない、ほこりたたきがない。十能《じゆうのう》がない」 「おい、おまえ、ないものばっかり選《よ》ってるがな。あの棚にある大黒さんが、えびすさんの耳をほじくっている。あの肉づきといい、にたっと笑うてるとこは、ものでもいいそうやな」 「やあ、こっちののれんのあいだから首をつきだして、鼻たらしてる丁稚《でつち》もようできてるわ」 「どれいな?」 「あののれんのあいだから顔をだしてるやないか」 「あほ! あれは人間やがな」 「ああそうか……人形屋はん、ごめんなはれや」 「おいでやす。どうぞおかけ」 「おまえ、どれでも売るかえ?」 「へえ、どれでも商《あきな》います」 「ほな、あののれんのあいだから首だしてる人形、あれ、きれいに鼻ふいてなんぼや?」 「のれんのあいだから首だしてる人形? ……これ、あたまひっこめてい……あれは、わたしのせがれで……」 「なんや、おまえはんのむすこか……けったいなむすこをこしらえたんやな。あんなせがれ、大きなってもろくな者になれへんで、いまのうちに売ってしまい」 「ひとりしかないせがれを売ってしもうたら、跡とりがなくなります」 「なかったら、またこしらえたらええがな」 「こしらえたらええがなというて、じきにできるものやおまへん」 「そこをうんときばって……」 「なにほどきばったかて、わたしのような年になったらだめどす」 「ほな、わいが手つどうてこしらえよか?」 「いや、それにはおよびまへん」 「そうか。わいならすぐこしらえるんやがな。おしいな……棚にあるあたまの長い人形、あれはなんや?」 「へえ、福禄寿《ふくろくじゆ》どす」 「なんぼや?」 「あの福禄寿、百七十文どすが、百六十にまけておきます」 「なんや? 百六十が百七十やが、百六十にまけるのか?」 「いいえ、福禄寿、百七十を百六十にまけますので……」 「ややこしいねだんやな。値を聞いて肩がこってしもた……この小さい人形は?」 「へえ、この人形は、肌身につけていただきますと、船などに酔わぬまじないで……」 「これは��んや?」 「へえ、寝丑《ねうし》と申しまして、子どもに瘡《かさ》ができましたら、この丑《うし》に、坊《ぼん》の瘡を食べてくれ、嬢《いと》の瘡を食べてくれとたのむと、ふしぎとその瘡がなおりますねん」 「ふーん、お医者はんみたいな丑やな」 「値はなんぼや?」 「三百だす」 「この小さい、きたない寝丑が三百とは、ねうしがないな……やあ、いろいろな丑があるなあ」 「へえ、これが黒丑で、これが赤丑、こっちが斑丑《まんだらうし》だす」 「ああ、さよか……ほな、背なかにすき鍋を背負うて、なかに葱《ねぶか》と焼き豆腐いれると、ジューと鳴く丑はないか?」 「そんなすき焼きみたいな丑はおまへん」 「とにかく、寝丑と、この小さい文づかいと虚無僧《こむそう》の人形をもらうわ。みんなでなんぼや?」 「へえ、五百だす」 「だれがぼやくねん?」 「いえ、ぼやくやおまへん。五百だす」 「ああそうか……ほな、銭はここへおくで」 「ありがとうさんで……」 「えらいじゃまをしたな。それ、みやげができた」
 やってまいりましたのは、伏見寺田屋の浜で、夕方になりますと、三十石の夜船に乗るお客さんを呼んでおります。 「へえ、あんさんがた、お下《くだ》りさんやおまへんか? もし、そ��らの顔の色のわるいかた、あんた下《くだ》らんか?」 「いや、結《けつ》して(便秘して)こまってんねん」 「おい、なにいうてるねん」 「え?」 「結してこまってるとは、なんのこっちゃ?」 「あの人が、わての顔をみて、下らんかというてたずねてはるさかい、結してこまるというたんや……わてな、一昨日《おとつい》から便所《ちようず》へいかずや」 「ちがうがな。船に乗って大阪へ帰ることを下らんかというてるのや」 「ああ、そうか。ほな、大阪へ帰って下ります」 「そないていねいにいわんでもええ……おい、船はすぐにでるか?」 「へい、すぐにでます。どうぞご一服を……」 「そんなら待たしてもらおう」  二階へあがりますと、お客さんがたくさん待っておりますが、そこへまいりましたのが、船宿の番頭さんで、 「へえ、どちらさんも、えらく長らくお待たせいたしました。もうほどなく船がでます。今日《こんにち》は、えらいおつかれのことでござります。宿の番頭でござります。みなさんのおところとお名前を帳面に書かしていただきます。役場へとどけますのんどすが、どうぞてんご(じょうだん)をいわんように、ひとつていねいにいうていただきとうおす……ええ、あんさん、どちらさんでござりましょうか?」 「わいはな、大阪船場っ」 「わあ、きたないな、つばがはねまっせ……ええ、大阪船場どすな」 「今橋二丁目」 「へ……ええ、お名前は?」 「鴻池善《こうのいけぜん》右衛門《えもん》」 「ええ? ……鴻池はんのお手代《てだい》で?」 「いやいや、手代やない。わいが鴻池善右衛門」 「そんな、あんた、無茶いうたかてあきまへんで……鴻池はんにはごひいきになっておりますので、よう存じております。鴻池の旦那《だん》さんは、もっとよう肥えてはったようにおもいますが……」 「米高がこたえて、どかっとやせたんや」 「米高でやせた? てんごばっかりおっしゃって……もうすこうし背が高かったようにおもうてますが……」 「道中をして歩いてるうちに、ちびって背が低うなったんや」 「ちびった!? なにいうてなはる……そっちの旦那《だん》さんは?」 「おいどんは、鹿児島は本町通り二丁目、西郷……」 「え? 西郷!?」 「西郷ひくもり」 「どうぞなぶらんように……そっちのおばあさんは?」 「みずからは、小野《おのの》小町」 「いやあ、きたない小野小町やな。みずからちゅう顔やないわ。塩辛《しおから》みたいな顔をしてなはる。そっちの坊《ぼん》は?」 「ムチャチボウベンケイ」 「なんや、お子たちまでなぶりなはる……そっちのご出家は?」 「愚僧は、高野山弘法大師、これなるは、円光大師……おんなぼきゃ、べろしゃな、まかぼたら、まにはんどまじんばら、ばらはりたやむ……真言経を二十一ぺん書け」 「どうぞなぶらんように、ていねいにいうておくれやす……あんさんは?」 「ほなら、わたし、ていねいにいうよって、ていねいに書いてや」 「へい、ていねいに書きます」 「仮名で書いてや」 「へいへい、仮名で書きます」 「おうさかより、さんりみなみにあたる、せんしゅうさかい……」 「それなら、最初《はな》から泉州堺でええのどす」 「ていねいにと、いうたやないか」 「��いねいすぎますがな……泉州堺……へえへえ」 「だいどうくけんのちょう、ほうちょうかじきくいちもんじかねたか、ほんけこんぽんかじもときゅうざえもん、なごやししんまちどおりにちょうめ、おなじくしてん、にょうぼ、さよ、せがれ、まんきち」 「もし、それはなんどす?」 「こんどな、堺から名古屋へ庖丁《ほうちよう》の店をだそうとおもうねんが、ちらし(広告)のところ書きは、それでわかるかしらん?」 「知らんがな、そんなこと……そちらさんは?」 「わいは、大阪|西渡海里町《にしとかいりちよう》じゃ」 「へえへ、こりゃほんまや。大阪西渡海里町、へえへ、お名前は?」 「八文字屋徳兵衛、近江屋|卯兵衛《うへえ》、福徳屋万兵衛、大黒屋六兵衛、大和屋徳七、河内屋太郎兵衛、紀州屋源助、泉屋与兵衛、浪花屋清七、山城屋喜三郎、堺屋治助、赤穂屋太三郎、備前屋佐兵衛、讃岐《さぬき》屋喜平、肥前屋角兵衛、伊勢屋三郎兵衛」 「えーえ、おっしゃったのは、どなたはんとどなたはんどす?」 「おっしゃったのは、こなたはんおひとりや」 「え? おひとりで? ……あの……名前をぎょうさん書きましたが……これなんどす?」 「去年、うちのおとっつあんが死んでな、香奠《こうでん》をもろうたんやが、香奠がえしをせんならん、何軒あるやろ?」 「もし、うだうだいいなはんな。帳面がまっ黒になりましたがな」  番頭はん、ぶつぶついいながら下へおりてしまいました。  しばらくいたしますと、川から船頭の声が聞こえてまいります。 「さあ、だしまっすぞー」  この声に、みながどやどやと下へおりてきますと、下では、女中さんがべんちゃら(お世辞)を申しております。 「へえ、どなたさんもおしずかにどうぞ、おはようお上がりを……もし、あんたはん、わらじをお召しにならんでもよろしゅうござります。すぐに船に乗るのんどすので、そこにてまえかたの下駄がおす。それをはいてお越しあそばせ。川端へぬいでおいていただきましたら、わたしのほうの焼き印が押しておすので、あとでひらいにまいります……あの、あんさんのお弁当、これにこしらえてござります。なかに高野豆腐《こうやどうふ》がはいってござります。お汁《つい》は、しぼってござりますが、せっかくのお召し物にしみがつくといきまへんので、わらび縄でさげるようにしておす。どうぞ、さげてお越しあそばせ。ありがとさんで。どうぞおはようお上がりを、ありがとさんで、おしずかにお越しあそばせ……まあ、これは、船場の旦那《だん》さんどすかいな。おみそれ申しておりまして、まことに失礼をいたしました。まあまあ、これはこれは、坊《ぼん》さん、大きゅうおなりあそばしたことわいな。先年お越しのときは、乳母《おんば》さんに抱かれてござったのに、こんなに大きいおなりあそばして、かわいおすわいな。お帰りになりましたら、ご寮《りよう》人さん(奥さん)によろしゅういうていただきますように……さきほどは、ご祝儀《しゆうぎ》をいただきまして、ありがとうさんどす。あの、おもよどんという女中《おなごつ》さん、まだ奉公しておられますか? まあ、さようでござりますか。ご忠��なおかたわいな。どうぞお帰りになりましたら、寺田屋の竹が、『よろしゅういうてくれと申しました』と、いうていただきますように……さよーならー、どなたもおしずかにお下りやーす」 「わあ、あいつ、なんや? 大きな口あきよったな」 「みんなのあたまへおしずかにをふりかけよったんや」 「ああ、そうか。ほな、さよーならー」 「これ、おまえ、なにしてるねん?」 「うん、あいつがおしずかにをふりかけよったんやさかい、わいは、さよならをゆすりこんだったんや」 「そんなしょうむないことをしないな」 「おーい、早よこい、早よこい」 「どなたもおしずかに……」 「早よこい、早よこい」 「おしずかに……」 「おい、おまえ、女中《おなごし》と船頭とみくらべて、なにうろうろしてるねん?」 「船頭は、早よこいというし、女中《おなごし》はおしずかにというし、どないしたらええねん?」 「なに、あほなこというてんねん、早ようこんかいな」 「おーい、お客さんがた、早よこい、早よこい」 「船頭はん、このお客さん、ひとりで五人前とっとくれ。こちらのお客さん、ひとりで二人前、三人で五人前、二人で三人前とっとくれ」 「あれは、なにをいうてよるねん?」 「あれはな、ひとり前の場所やと、混《こ》みおうてくると、坐ってられへんさかい、ひとりで二人前とってゆっくり坐るとか、三人で五人前の銭を払うて足をのばすとか、ひとりで五人前の場所買うて寝るとかするねん」 「ああそうか……おい、船頭はん、ふたりで、ひとり前とってんか?」 「なんやて? ひとりでもせまいのに、ふたりで、ひとり前どうして坐りなさる?」 「ひとり坐って、ひとり肩車するねん」 「そんなあほな……肩が痛《いと》うて、大阪までいかれへんがな」 「肩が痛うなったら、枚方《ひらかた》で、上と下と交替するわ」 「なにいいなさる。早よう乗りなされ」  お客さんが船に乗りこみますと、それへ物売りがまいります。 「どなたも、おみや(おみやげ)はどうどす? おみやはどうどす? おちりにあんぽんたんはどうどす? 西《にし》の洞院紙《といんがみ》はよろしおすか? おちりにあんぽんたん……もし、あんた、あんぽんたん」 「こらっ、なにぬかしやがるねん。あっちへいけ」 「おい、おまえ、なにをおこってるねん?」 「この物売り、わいの顔みて、あんた、あんぽんたんやいいよるねん」 「そりゃ、おまえのことやない。あんぽんたんという菓子の名やがな」 「ほんまか?」 「かきもちのふくれたんに、砂糖の衣《ころも》がかかったあるのや」 「ふーん、おかしな名やな」 「東山というのやが、俗にあんぽんたん」 「そうか……おちりてなんや?」 「ちりがみのことを、京ことばで、やさしくおちりというねん」 「ほな、便所へいたら、おちりでおちり(お尻のしゃれ)をふくか?」 「きたないしゃれをいいな」 「西の洞院紙てなんや?」 「大阪ですきなおし、京で西の洞院紙、江戸で浅草紙いうねん」 「えらい名がかわるねんなあ」 「まあ、ところによって名がちがうのやな……大阪でなんきんを、京でかぼちゃ、江戸で唐《とう》なすというそうな。ところによって唱《とな》えがかわる。浪花《なにわ》の芦《あし》も伊勢の浜荻《はまおぎ》というでな」 「妙なことをいうねんな。こらっ、物売り、買えへんわい。あっちへいけ!」 「まあ、あんたはん、いっかいお声どすなあ」 「こらっ、いっかいといわずに、大きいといえ」 「そんなことをおいいかて、京のことばや、しかたがおへんえ」 「なにいうてんのや。京がどれだけえらいのや?」 「京は、王城の地どすえ」 「なんや? 王城の地? ……青物ばっかり食《くろ》うて往生の地やろ?」 「まあ、あんなことおいいる。京は、一条から九条まで法華経普門品《ほけきようふもんぼん》が埋めておすえ」 「そんなもん埋めんと、ちょっと石でも埋めえ。歩きにくうてかなわんわい」 「あんなことをおいいる……京の御所のお砂をおつかみてみ」 「なんぞになるのか?」 「どんなおこり(熱病)でもおちるえ」 「おこりがおちる? ……ほな、大阪の造幣局の金をおつかみてみ」 「おこりがおちるんどすか?」 「首がおちるわい」 「おい、そんな無茶いいないな……物売り、怒って行《い》てしもうたわ」 「京のやつがものいうと、生《なま》ったれてるんので腹が立つ」 「そんなこというたかてしょうがない。郷《ごう》に入《い》っては、郷にしたがい、ところに入っては、ところにしたがうということがある。そう、おまえのようにいうもんやない」 「けったくそがわるい。寝てこまそ」 「これ、お客さんよ、こんなとこへ寝なはったら、じゃまになるがな。のきなはれ」 「こらっ、なにをしやがんねん、人のあたまをなぐりやがって……」 「お客さんよ、船頭はしておりますが、お客さんのどたまをどついたりはしません」 「いいや、いまなぐりやがったわい」 「どつきやしまへん。じゃまになるで、どきなはれと突いたで、おまえのどたまが鳴ったんじゃろう」 「こらっ、人のあたまをなぐっといて、鳴ったんじゃろとはどうや?」 「どつきやしまへん。どきなはれと突きや、おまえのどたまが鳴ったんじゃろ……よう鳴るどたまじゃ」 「こらっ、よう鳴るどたまとはなんじゃい? 太鼓みたいにぬかしおって……なぐったわい」 「おまえさんは、なぐったといいなさる。おれは、なぐらんという。こりゃ、おさまりがつかんがな……おまえさん、なぐったといいなさるなら、なぐられたという書き証文持っとるかい?」 「こらっ、なにいうてんのや。なぐられるのに、いち���ち証文を書いてなぐられるやつがあるかい」 「これ、角《かく》よ」 「おーう」 「いつまでお客人をとらまえて、からこうとるかえ? ……お客さんよう、そいつは、国からでてきて、まだ間がない者じゃで堪忍《こらえ》まいよ」 「おまえのようにやさしくいうてくれたらええのに、人のあたまなぐっといて、よう鳴るどたまやというによってに、腹が立つねん」 「それじゃから、こらえまいよというのじゃ」 「そういてくれたらええのや。銭をだして乗ったら客や、その客のあたまをなぐるというやつがあるか?」 「それじゃから、こらえまいよというのじゃ。銭をだしたといいなさるが、この船は、船行船《せぎようぶね》(水死人を供養するための川施餓鬼をおこなう船)じゃござんせんで、銭ゃあいただきます……こらえまいよというに、こらえられんか? こらえられんなら、こらえられんとぬかしてみくされ。どたまからかちまく(なぐる)ぞ」 「うわあ、こわやの。あいさつ人の船頭のほうがこわいわ。どたまかちまくいいよる」 「そやかて、おまえがわるいがな。船頭の通り道に寝てるよってに……」 「船頭になぐられるわ、おまえにしかられるわしたら、わいの立つ瀬がないがな」 「そないに怒りいな。あないにいうてるが、馬方、船頭、お乳《ち》の人というて、ことばは荒いが、気立てはええもんや。あないごつごついわんと、この大きな船がうごかされへん。馬方かてそうや。馬の手綱持ったら、年中怒ってよる。『どう、長いつらさらして、張りたおすで! どちくしょうめ! 脛節《すねぶし》いがんでるがな』……まあ、ようあんな無茶いいよる。むかしから、馬の丸顔みたことないで。みんな長いもんや。馬かて張りたおされたら痛いよってに、顔をみじこうしたいやろが、でけんさかい、気のええもんで、鼻で笑うてる、『ヒヒン』とな……『どちくしょう』て、馬はちくしょうにきまってる。脛節いがんでるて、いがんでるので歩けるのや。まっすぐやったら歩かれへんがな。けどな、ああいうよってに、馬がうごくねん。やさしいのがええというて、京ことばで馬を追うてみい。馬はうごけへんで……『ちゃいちゃい、お歩きんかいな? なにしとるねん、あんたはん、長《いか》いお顔どすな。お足《みや》ゆがんどすえ』というてたら、馬が、『そうどすか』いうて、寝てしまうわ。船かていっしょや。『どきなはれっ』てな調子でやるさかい、船がうごくねん。なあ、船頭はん」 「やかましいわい」 「それみい。おまえのために、わいまで怒られるがな」 「おい、船頭はん、早ようだしいな」 「おい、だしますぞう!」
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shibaracu · 5 years ago
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●五(ご、う、いつ)
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◆5 - Wikipedia - ウィキペディア 5(五、ご、う、いつ)は、自然数また整数において、4の次で6の前の数である。英語の序数詞では、5th、fifthとなる。ラテン語ではquinque(クゥィンクゥェ)。 4 ← 5 → 6 素因数分解 5 (素数) 二進法 101 六進法 5 八進法 5 十二進法 5 十六進法 5 二十進法 5 ローマ数字 V 漢数字 五 大字 五 算木 Counting rod v5.png 五進法   ◆五 | 漢字一字 | 漢字ペディア 音. ゴ. 訓. いつ・いつつ. 意味. いつつ。数の名。いつたび。「五感」「五穀」. 下つき. 三五(サンゴ)・三三五五(サンサンゴゴ)    なりたち    出典『角川新字源 改訂新版』(KADOKAWA)    指事。二本の線が交わった形から、物事が交錯するさまを示す。借りて、数詞の「いつつ」に用いる。 ■もっと学べる!コラムを読もう! 「三が一」で「五が二」とは? ~数字の部首はややこしい~ (公財)日本漢字能力検定協会 https://www.kanken.or.jp/kanken/trivia/category01/180101.html   ◆い【▽五】 ご。いつつ。いつ。多く他の語の上に付いて複合語として用いられる。「五十(いそ)」「五百(いお)」   ◆ぐ【▽五】 丁半ばくちで、5の数をいう。 「―一、―六、―三と三ばいきってな」〈洒・卯地臭意〉   ◆ご【五】 1 数の名。4の次、6の前の数。いつつ。いつ。「四の五の言う」 2 5番目。第5。 [補説]金銭証書などで間違いを防ぐために、「伍」を用いることがある。   ◆ご【五】[漢字項目] [音]ゴ(呉)(漢) [訓]いつ いつつ [学習漢字]1年 一〈ゴ〉 1 数の名。いつつ。「五穀・五色・五臓・五輪」 2 五番目。「五更」 二〈いつ〉「五日」 [名のり]い・いず・かず・ゆき [難読]五百(いお)・五十鈴(いすず)・五十(いそ・いそじ)・五加(うこぎ)・五月蠅(うるさ)い・五月(さつき)・五月雨(さみだれ)・七五三縄(しめなわ)・五倍子(ふし)   ◆いつ【五】 〘名〙 ① 五つ。名詞・助数詞の前に直接つけて用いる。「五棟(いつむね)」「五束」「五��」 ※万葉(8C後)五・八八〇「あまざかるひなに伊都(イツ)とせすまひつつ都の手ぶり忘らえにけり」 ② 物の数を、声に出して順に唱えながら数えるときの五。いい。 ※年中行事秘抄(12C末)鎮魂祭歌「一(ひと)二(ふた)三(み)四(よ)イツ六(むゆ)七(なな)八(や)九(ここの)十(たりや)」 ※滑稽本・浮世風呂(1809‐13)二「皆(みんな)がお諷(うた)ひ。一二(ひとって)、三四(みいよ)、五六(イイツむ)七八(なんなやあ)には、九(こう)と一十(いちじゅ)ヤ」   ◆ごん【五】 〘名〙 五合(ごんごう)を略したもので、酒についていう。 ※滑稽本・浮世風呂(1809‐13)三「角大(炭の銘)を抱て、劔菱(酒の銘)五(ゴン)(五合の事)といふ正月だ」   ◆ ご‐こう〔‐カウ〕【五更】 の解説    1 一夜を初更(甲夜)・二更(乙夜 (いつや) )・三更(丙夜)・四更(丁夜)・五更(戊夜 (ぼや) )に五等分した称。    2 五更の第五。およそ現在の午前3時から午前5時、または午前4時から午前6時ころにあたる。寅 (とら) の刻。戊夜。   ◆ い‐お〔‐ほ〕【▽五▽百】 の解説    1 数のごひゃく。「五百年 (とせ) 」    2 数の多いこと。「五百枝 (え) 」   ◆五加 (うこぎ) 【五=加/五=加=木】 の解説 ウコギ科の落葉低木。幹には鋭いとげがあり、葉は5枚の小葉からなる手のひら状の複葉。雌雄異株。初夏、黄緑色の小花が散形に集まってつく。実は熟すと黒い。中国の原産。根皮を干したものを漢方で五加皮 (ごかひ) といい、強壮薬とする。若葉は食用。ウコギ科の双子葉植物は約700種が温帯から熱帯に分布し、タラノキ・ヤツデ・キヅタ・チョウセンニンジンなども含まれる。《季 春》「おもひ出てさし木の―摘日かな/白雄」   ◆五月蠅 (うるさ) い【▽煩い/五=月=蠅い】 の解説 [形][文]うるさ・し[ク] 1 物音が大きすぎて耳障りである。やかましい。「隣の話し声が―・い」 2 注文や主張や批評などが多すぎてわずらわしく感じられる。細かくて、口やかましい。 「―・い小姑 (こじゅうと) 」「規則が―・い」「ワインにはなかなか―・い」    3 どこまでもつきまとって、邪魔でわずらわしい。また、ものがたくさんあり��ぎて不愉快なさまにもいう。しつこい。「ハエが―・くつきまとう」「この写真はバックが―・い」    4 いやになるほどにすぐれている。     「御心とどめて物宣ふにこそあめれ。―・き人の幸ひなりや」〈宇津保・沖つ白浪〉    5 いやになるほどに、こまごまといきとどいている。        「れいの―・き御心とはおもへども、えさは申さで」〈源・夕顔〉    6 技芸がすぐれている。        「織女 (たなばた) の手にも劣るまじく、その方も具して、―・くなむはべりし」〈源・帚木〉 [補説]古くは、いきとどいて完全であるさまを、わずらわしく感じる意と、よしとする意の両面からいった。 [派生]うるさがる[動ラ五]うるさげ[形動]うるささ[名] [用法]うるさい・[用法]やかましい――「人々の叫ぶ声がうるさい(やかましい)」「窓を打つ風の音がうるさい(やかましい)」「ブルドーザーの音がうるさい(やかましい)」のように、不快に感じる声・物音・騒音などには相通じて用いられる。◇「蚊のブーンという羽音がうるさい」など、必ずしも大きな音ではないが、わずらわしく感じられるときは「うるさい」が用いられる。◇また、「うるさい」は「規制がうるさい」「世間がうるさい」「髪が長すぎて、うるさい」「装飾がごてごてとうるさい」など、音以外の不快なものにも用いられる。◇「親がうるさい(やかましい)」「味にうるさい(やかましい)」「時間にうるさい(やかましい)」など、「あれこれ言う」の意味では相通じて使われるが、「やかましい」のほうががみがみ言う度合いが強い感じである。   ◆七五三縄 (しめなわ) 【注=連縄/▽標縄/七=五=三縄】 の解説 神を祭る神聖な場所を他の場所と区別するために張る縄。また、新年の祝いなどのために家の入り口に張って悪気が家内に入らないようにしたもの。左捻 (よ) りのわらに適当な間隔を置いて紙四手 (かみしで) などを下げる。しめ。しりくめなわ。→四手 (しで)    ◆五倍子 (ふし) 【五=倍=子/付子/附子】 の解説 ヌルデの若芽や若葉などにアブラムシが寄生してできる虫癭 (ちゅうえい) (虫こぶ)。紡錘形で、タンニンを多く含み、インク・染料の製造に用いる。昔はお歯黒に用いられた。ごばいし。《季 秋》「山の日は―の蓆 (むしろ) に慌し/青畝」   ◆五月雨 (さみだれ) 《「さ」は五月 (さつき) などの「さ」、「みだれ」は水垂 (みだれ) か》    1 陰暦5月ごろに降りつづく長雨。梅雨。つゆ。さつきあめ。《季 夏》「―を集めて早し最上川/芭蕉」    2 断続的にいつまでもだらだらと続くことのたとえ。「五月雨式」「五月雨戦術」   ◆五月 (さつき)【五‐月/皐=月/▽早月】 の解説    1 陰暦5月のこと。《季 夏》「庭土に―の蠅の親しさよ/竜��介」    2 ツツジ科の常緑低木。関東以西の河岸の岩上などに自生。初夏、枝先に紅紫色の花をつける。観賞用で、数多くの園芸品種がある。さつきつつじ。《季 夏》「―咲く庭や岩根の黴 (かび) ながら/太祇」
  ◆五とは (ゴとは) [単語記事] - ニコニコ大百科 https://dic.nicovideo.jp/a/%E4%BA%94 2010/08/29 五とは、数の5を表す漢字である。 ・漢字として 意味    数の5、5回、5番目、という意味がある。また伍と通じて仲間という意味がある。 字形    〔説文解字・巻十四〕では「五行なり。二に從ひ、陰陽、天地の閒に在りて交午するなり」と上下の横二画が天地でそれを交画で結んで陰陽の交わる様を表し、五行のことを指すとする。 さすがは陰陽五行説大好きっ子の説文である。    古文に㐅という☓字の字形があり、一から亖まで数を表すのに横棒を並べ、5は棒を交わらせて表していたとされる。 ただ五の字形も古くからあり、白川静は交叉した木で器の蓋を表す意味が古くからあったとする。    これ以外に糸巻きの象形の説もある。 音訓    音読みはゴ(漢音、呉音)、音読みは、いつ、いつつ。名のりに、いず・かず・ゆきなどがある。 古文に㐅という☓字の字形があり、一から亖まで数を表すのに横棒を並べ、5は棒を交わらせて表していたとされる。 ただ五の字形も古くからあり、白川静は交叉した木で器の蓋を表す意味が古くからあったとする。   ◆五芒星(ごぼうせい) https://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%BA%94%E8%8A%92%E6%98%9F 五光星、五稜星あるいは五角星(英: five-pointed star)と呼ばれる5つの角を���つ星マークのうち、互いに交差する長さの等しい5本の線分で構成され、中心に五角形が現れる図形である。ペンタグラム(英: pentagram)、五線星、星型五角形(星型正五角形)ともいう。 5つの要素を並列的に図案化できる図形として、洋の東西を問わず使われてきた。世界中で魔術の記号とされ、守護に用いることもあれば、サタニズムに見られるように上下を逆向きにして悪魔の象徴とすることもある。悪魔の象徴としてとらえる際には、デビルスターと呼ばれることもある。
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kurihara-yumeko · 8 years ago
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【小説】龍とトラガス (2013)
「俺さ、卯年の大晦日から、辰年の元旦にかけて生まれたらしいんだよね。だから、龍と兎で、龍兎(りゅうと)って名前にしたんだって」
 大きな透明のケースの中に積み上げられた、ウサギのぬいぐるみの山。アタシはそれを崩すべく、アームの操作に集中していた。横に立ってひとりで話していた男は、そう言いながら嵌めていた革の手袋を外し始める。
 UFOキャッチャーのアームは、機械が古いのか調子が悪いのか、今にも止まりそうなほど、キリキリと音を立てて動く。ボタンから手を離すと、ガクガクと震えながらアームが開いた。その先端がぶつかった拍子に、山の中腹あたりにあった、ピンク色したウサギのぬいぐるみが、ぼとりと落ちる。その一瞬の落下を見て、飛び降り自��をしたら、こういう風に落ちるのかなと連想した。
 アタシはそこで、男の両手に目を移す。男は手袋を外し終えた両手を、揃えて突き出していた。
 パッと目を引く、黒い影が二つ。
 男の右手の甲にはウサギの、左手の甲には龍の、黒一色のタトゥーが施してあった。影絵のようなデザインのウサギと龍はそれぞれ向き合っていて、右と左で一対なのだという印象を与える。
 タトゥーを見つめたまま、何も言わないでいると、男は笑いながら口を開く。まるで鼻で笑ったような笑い方だったのが、やけに耳に残った。
「自分の名前にちなんで、スミ入れたんだ。兎と、龍」
 視界の隅で、開いたアームが再び音を立てて閉じ始めていた。アームが当たった先にいたぬいぐるみたちが、取り出し口へ向かってぼとぼとと落下していく。
 アタシは黙ったまま、男の左手に手を伸ばした。
 龍のタトゥーの上には、縦横無尽に切り傷が走っていた。ついさっき負ったばかりなのか、まだ血が滲んでいるような赤々とした傷もあれば、古い傷なのか、痕となって残っている傷まで、数えきれないほどの赤い線。
 アタシの手が触れるよりも早く、男はすぐに左手を引っ込める。分厚い革の手袋をさっさと嵌め、留め具をぱちんと鳴らすと、何食わぬ顔でアタシを見下ろした。
「で?」
 男は小さなピアスが三つ連なっている左眉だけを器用に上げて、表情を歪ませてアタシを見ていた。
 唇の両端から牙のように覗く、尖ったキャッチの口ピアスが二つ、きらりと光る。その口の奥、舌の上にももうひとつ、ピアスがあいているのが前歯の隙間から見えた。右の小鼻にも、ピアスがひとつあいている。被っている帽子は耳まで覆うようなヒダがついているから、確認はできないけれど、この男、きっと両耳にもたくさんのピアスをぶら下げているんだろうと思った。
 男は手袋を嵌めた左手を、UFOキャッチャーの台の上に置き、その長身をかがめるようにしてアタシと目線を合わせ、顔を近付けてきた。体重をかけているのか、ぎしり、と台が軋んだ音を立てる。まだ手袋を嵌めないでいた右手で、アタシの顎を持ち上げる。アタシの全身を舐め回すように見た後、男は言う。
「それで、あんた、いくら?」
 UFOキャッチャーの景品受け取り口には、四匹のウサギが死んだように動かないで転がっていた。アタシの視界の隅には、男の手の甲で黒いウサギが歪んだ姿でいるのが見える。
 アタシ、行くとこ無いんだよね。
 そこで初めて口を開くと、男は蔑むような目でアタシを見つめたまま、小さく何度も頷いた。
 上等だ、うちに来いよ。
 男が低い声で、唸るようにそう言う。
 ――雪も降らなかったクリスマスの深夜。ピアスだらけの顔面と、ウサギと龍のタトゥーを持つ男、龍兎に��タシは出会った。
 風俗店がずらりと並ぶネオン街の片隅。
 安アパートの一室が、龍兎とアタシの住み家。
 目の前に建つ廃ビルに日射しを遮られ、昼間でも薄暗いこの部屋は、アタシたちにお似合いに思えた。
 アタシは分厚いカーテンの隙間から、外の様子を窺う。朝六時のネオン街は、白けていく空に反比例するように夜の華やかさを失い、ここから見下ろせる路地には、疲れた顔のホストや酒で顔がむくんだキャバ嬢が気怠そうに行き交っていた。
 ベッドを振り返ると、龍兎は肩まですっぽり毛布にくるまって、静かに寝息を立てている。
 そっとその毛布をまくって龍兎の左手を確認した。黒い龍の上には、真新しい赤い線が三本増えている。龍兎は毎日、新しい傷を左手の甲、龍のタトゥーの上に作る。テーブルの上にはカッターが置いてあった。そっと毛布を戻す。
 床に落ちていた服を拾いながら、龍兎がゴミ箱めがけて投げたくせに入らず落下したままだった、使用済みの避妊具を捨てる。その時、真新しい薬のゴミが捨ててあるのを見つけた。
 毎晩自傷行為して、毎晩薬を飲んで、毎晩アタシを抱く。龍兎はそういう奴だった。そういうアタシは、別段龍兎の自傷を止めるでもなく、なんの薬なのか尋ねることもなく、抵抗ひとつせず大人しく従う。
 いつまでも裸でいるのはさすがに寒くて、パンツを履いてブラのホックを留めていると、首についている南京錠が小さな音を立てた。
 アタシの首にはスタッズがいくつもついた首輪が嵌まっていて、自分では外せないように小さな南京錠が掛かっている。南京錠の鍵は龍兎が持っていると思うけれど、もしかしたらとっくに捨てたかもしれない。
 アタシは龍兎に飼われている。
 そして龍兎は、アタシを自分の好みの女にしていく。
 出会ったその日にこの部屋に連れて来られ、最初に着ていたワンピースとコートを捨てられた。代わりに龍兎は自分のクローゼットの中から、アタシが着られそうな服をいくつか引っ張り出して、首輪と南京錠を嵌めさせた。
 龍兎はアタシにピアスもあけさせた。今日もバイトが終わったら、ピアス屋へ行くと言っていたから、きっとまたアタシの身体には穴が増えるんだろう。
 彼の服を着て、彼と同じ場所にピアスをあけて、アタシと龍兎はまるで仲の良い恋人同士みたい。アタシをそんな風にして、どうするつもりなのだろう。
 でも、そんなの全部、どうでもいい。
 アタシは服を着て、テーブルの上に出しっ放しだったピルケースを手に取る。今日の分のピルを一粒取り出すと、コップに半分ほど残っていたぬるい水と一緒に飲み込んだ。ごくり、とわざと音を立てて飲み込むと、アタシの喉は首輪が邪魔だと言わんばかりに、小さく震えた。
 龍兎は朝の九時から夕方まで、ほぼ毎日、パンク系のヴィンテージものばかりを扱う服屋でバイトしている。バイト帰りにアタシをピアス屋に連れて行きたい時は、バイト先まで迎えに来るよう言ってから出掛けていく。
 服屋は裏道に一本入ったところにあって、客はコアな常連客ばかり、店が混むといったことは滅多に無い。店員は龍兎だけで、店長はゴツいシルバーアクセばかりを身に着けた、ホスト風の若い男。
 アタシが言われた時間の五分前に行くと、店内には店長の姿しかなかった。店の中はいつも潮風を連想させる香水の匂いがして、この店で買った服にも、この店で働く龍兎の身体にも、その匂いがこびりついていた。
「ああ、いらっしゃい」
 店長がアタシに気付いてそう声をかける。もう何度もこの店を訪れているので、店長とも顔見知りだ。
「龍兎なら裏で今ちょっと仕事してるから、もう少し待っててくれる?」
 アタシが黙って頷くと、悪いね、と店長は言う。
 店長はいつも、いやらしい目でアタシを見る。アタシが以前売春していたことを龍兎が話したのだろう。龍兎がいない時、いくらだったらヤらせてくれんの? と訊かれたことだってある。以前ならば、なんのためらいも無く関係を持っただろう、それがお金になるのであれば。でも今のアタシには、そんな気力も活力も無い。
 どうでもいい、と思ってしまう。自分の身体も、自分の未来も、自分の生死さえも、まるでどうでもいい。なんとも思わない、なんとも感じない。
 最近のアタシの生きる世界は色彩を失い、まるで現実味が無い。長い夢を見ているような、そんな気分の毎日だ。龍兎に出会う前のアタシは、一体どうやって生きていたんだろう。何に希望を見出し、何を求めて生きていたんだろう。今では昨日のことまでもぼんやりとしか思い出せない。いつからこうなったのかもよくわからない。
 ただひとつ確かなことは、アタシはもう疲れてしまったということだけ。生きることに疲れ切ってしまった、そんな感じがする。
 龍兎はまだ出て来ない。いつの間にか店長はすぐ側にまで来ていて、アタシの胸を触ろうとしていた。
 今日はTシャツの上から、ライダースジャケットを着ている。このライダースだけは、龍兎のサイズではどれも大きすぎて、この店で新しく買ったものだ。店長はそのライダースのジッパーを慎重に下げる。それから左手をアタシの腰に回して動けないようにし、右手で左胸を服の上から撫で回し始めた。
 腰細い割に、胸デカいんだな。アタシの耳元で低く囁くように店長が言う。その吐息は思っていた以上に熱く、息遣いは興奮しているようだった。店長から、この店に漂う潮風の匂いがする。
 アタシはぴくりとも動かず、店長のされるがままになっていた。今の自分の状況を冷静に見つめている一方で、なんの感情も湧いてこなかった。もっと触って欲しいという欲情も、やめてくれという拒絶も、今のアタシには抱けない。アタシには何も無い。生きているのに死んでいるような、きっとそんな虚ろな顔を、しているんじゃないだろうか。
 店長の右手がTシャツの胸元から侵入してこようというところで、龍兎が店の奥に通じる���アから出て来た。咄嗟に店長はアタシから手を引く。お疲れ様でしたと言う何も知らない龍兎に、何事も無かったかのような平気な顔で、お疲れ様、と店長は言った。緊張も焦りもその表情には欠片も無い。余裕すら感じられる口元だった。たいしたものだと内心思いながら、龍兎に連れられて店を後にした。
 龍兎は長身で細身、身体はさほど筋肉質でなく、どこか中性的な印象を与える外見。
 黒髪は少し伸びていて、その襟足だけが脱色して白い。鼻筋はあまり通ってはいないけれど、目は切れ長の一重で、いつも冷めたような顔をしている。両耳と顔はピアスだらけで、すれ違う通行人たちは、思わず凝視するか、一瞬で目を逸らすかのどちらか。でもピアスとは違って、両手のタトゥーだけは、外出時には手袋を着用して、ひたすら隠していた。
 店の外に出ると外気は驚くほど冷えていて、アタシはライダースのジッパーを上げた。両手をポケットに入れ、首をすくめるようにして少し後ろを歩いていると、ふとこちらを振り返った龍兎が、さみぃな、と言った。
 アタシがそれに小さく頷くと、龍兎はウサギがいる方の手の手袋を外し、アタシの左ポケットに突っ込んできて、そのままアタシの手を握り締めた。龍兎の手は特別温かいという訳ではなかったけれど、黙ってそのままでいた。
 あのクリスマスの晩、龍兎が声をかけてきた時、アタシはすぐにナンパだとわかった。一夜の宿のつもりで誘いに乗った。それからもう一ヶ月が経とうとしている。寝て金を貰ったのは最初の晩だけ。それでも龍兎は毎晩アタシを抱くし、アタシも未だに龍兎の部屋で暮らしている。
 アタシたちは一体、なんなのだろう。龍兎は店長に、アタシのことを「俺の女」と紹介していた。アタシは、龍兎の恋人なのだろうか。龍兎はどういうつもりで、アタシを側に置いているんだろう。
 訊こうと思えばいつでも訊けるけれど、尋ねる気にはならなかった。今の生活にこれといって不満も無いし、訊いたところで何かが変わる訳でもない。
 アタシと龍兎はお互いの話をほとんどしない。龍兎の名字も年齢も知らないし、龍兎もアタシが亜野(あや)という名前なのは知っているけれど、小嶋という名字なのは知らないはずだ。
 アタシが龍兎の側にいることに、大きな理由は無い。龍兎がそうさせているから。ただそれだけ。
 ピアス屋は、龍兎のバイト先よりもさらに裏通りにある。ゆるやかな下り坂の途中にあるテナントビルの五階、それがピアス屋「蛇腹」の在り処だ。
 薄暗い店内。壁には「なんでそんなことしたの」と訊きたくなるようなピアスをした人々の写真が飾られている。入ってすぐのところに小さなカウンターがぽつんと置かれていて、その奥に施術室があるのだけど、今は薄汚れたカーテンでその入り口は塞がれている。カーテンには「空室」と書かれたプレートが引っ掛かっていた。
「いらっしゃい」
 カウンターの下の方で何やら作業していた男が、龍兎とアタシが店に入って来た物音を聞きつけて、カウンターの向こうに頭を覗かせた。
 頭はつるつるのスキンヘッド、その頭頂部から額、鼻筋にかけて大蛇が渦巻いているデザインのタトゥー。龍兎みたいに耳も顔もピアスだらけ。この男は、この店の店主だ。
 龍兎は彼のことを「蛇腹さん」と呼んで慕っている。古くからの知り合いらしく、龍兎のピアスをあけたのも、彼なのだと聞いた。詳しい年齢は知らないが、彼はその大蛇のタトゥーと大量のピアスという外見のせいでほとんど外出はせず、男のくせに透き通るような白い肌をしている。
 蛇腹さんはこの日の空模様と同じ、灰色のパーカーを着ていて、フードを深く被っていた。彼の派手なタトゥーは、鼻筋よりやや左側に描かれた、蛇の尾の部分しか露出していない。
「待ってたよ。アヤちゃんに新しいピアスあけるんだろ?」
 ハードな見た目に似つかわしくなく、ほんの僅かな空気の振動にすらかき消されそうなほど、淡々とした静かな声。
「今日はどこにあけようか?」
 蛇腹さんがそう言いながらアタシを見た。その目線が髪に隠れている両耳を見ているのだと気付いて、アタシは耳が見えるようにサイドの髪を両耳にかけた。
 アタシは右耳に三つ、左耳に二つピアスをあけていて、右はヘリックス二つにイヤーロブひとつ、左はイヤーロブ二つだ。ヘリックスは耳輪の上部のことで、イヤーロブっていうのは耳たぶのこと。ピアスをあけている人を見たことはあるけれど、自分の身体にそんな名前がついているなんて、ピアスをあけるまで知らなかった。
 アタシの身体はアタシのものなのに、アタシはそこに名付けられている名称を知らない。アタシの身体にはあといくつ、知らない名前がついているんだろう。
 アタシのピアスたちはどれも、龍兎が自分のピアスと同じ場所にあけるように蛇腹さんに頼んだものであり、どうやら龍兎は、自分とアタシの耳のピアスの位置と数がそっくりお揃いになるようにしたいらしい。お揃いになるためにはあと、右のイヤーロブに二つ、左はインダストリアルとコンクを、それぞれひとつずつあけなくてはいけない。
 耳のピアスが完成したら、龍兎は顔のピアスまで真似させるだろうか。眉ピが左に三つ、鼻ピが右にひとつ、口ピは口の左右にひとつずつ、舌ピがひとつ……。それが終わったら、どうするだろうか。アタシの金髪は龍兎と同じ黒髪にされるかもしれないなと思った。
 そして龍兎は、きっとアタシの身体にタトゥーを入れることを要求するだろう。ウサギと龍。その二つのタトゥーを。そしてアタシはきっと、何一つ抵抗せず、大人しく従うのだろう。そんな気がした。
「こないだは左のロブにあけたんだっけ。じゃあ今日は右にしようか。リュウと同じように、ロブでいいの?」
 蛇腹さんは龍兎に向かってそう言った。蛇腹さんはピアスについて、アタシには一切意見を求めない。龍兎も同意を求めない。アタシも何も言わない。
 右の耳にあけるとしたら、イヤーロブの残り二つのどちらかだ。左耳じゃなくて良かった、と思う自分がいることに気がついた。インダストリアルもコンクも、なんだか面倒くさそうなピアスだから。
「……いや、ロブは後でいいや。今日はこいつに、トラガスあけてやって」
 トラガス、という単語に一瞬アタシは戸惑った。咄嗟に振り返り、カウンターの上に常備してある耳ピアスの部位とその名称一覧表に目をやった。案の定、トラガスは龍兎の耳にはあいていない部位だった。「耳の穴の、顔寄りの方」、としかアタシには表現できない、ちょっとだけ指でつまめる軟骨部分が、トラガスだ。
「トラガス?」
 蛇腹さんも怪訝そうな表情をしていた。
「トラガス、お前あいてないだろ」
 俺もそのうちあけるんだよ、と龍兎が言った。
「俺の真似ばっかじゃつまんねぇじゃん。たまには俺がこいつの真似するわ」
「真似するためにやらせるんじゃ、意味無いだろ」
 龍兎の言葉に蛇腹さんはうっすら笑いながらそう言って、じゃあトラガスね、とやっとアタシの方を見た。アタシは頷きもせず拒否もせず、ただ黙って立っていた。
 蛇腹さんはカウンターの中から手招きして、施術室に通じるカーテンを開けた。アタシがいつも通りカーテンの向こう、施術室へ足を踏み入れようとしたところで、あれ、と蛇腹さんが声を上げる。
「リュウ、お前見に来ないの?」
 アタシがピアスをあけてもらう時、いつも後ろに龍兎がいて、施術の様子を見ている。位置はどうしろだとか、穴の大きさはいくつにしろだとか、さんざん口うるさく指示して、蛇腹さんはいつもそれを適当にあしらって苦笑していた。てっきり今日もいつものようについて来るだろうと思っていたけれど、龍兎はカウンターのところでガラスケースに並んでいるピアスの数々を眺めていた。
「あー、うん。俺とおんなじとこにあける訳でもないし。よろしく頼むよ、蛇腹さん」
 龍兎はふと顔を上げるとアタシの顔を見て、気の緩んだ表情をした。いつもぶっきらぼうで無愛想な龍兎のそんな顔を見て、ああこれがこの人の笑顔なんだと、アタシは少し遅れて気がついた。微笑んだのだ。龍兎が笑ったところなんて、今まで見たことがあっただろうか。でもそういえば、アタシが新しいピアスをあける時、いつも嬉しそうな顔をしていたような気がする。あれは、笑っていたのだろうか。
「あっそ。じゃあアヤちゃん、こっちおいで」
 アタシが施術室の中に入ると、蛇腹さんはプレートをひっくり返して「施術中」にするとカーテンを閉めた。蛇腹さんが、そこ座って、と台の側にある椅子を目で示したので、アタシは黙ってその椅子に座る。すると、蛇腹さんは作業の手を止めて、隣までやって来ると、アタシを上から下までじろりと見た。
 龍兎のバイト先の店長がするような、いやらしい目つきではない。無機質な、感情を感じさせない目だった。何故かアタシは、以前偶然立ち寄ったペットショップで見た、赤い目を持つ白い蛇のことを思い出した。
 蛇腹さんはアタシの耳元で囁くように言う。
「ずっと気になってたんだけど、アヤちゃんってリュウとどういう関係? カノジョ?」
 アタシを見つめる蛇腹さんの目は、飲み込まれそうなほど真っ黒だった。カラコンだ。すぐにそう気がついた。蛇腹さんは、黒目の大きなカラーコンタクトを両目に入れている。だから、爬虫類みたいな印象を与えるんだ。
「あいつとヤッてんの?」
 瞳に圧倒されて、答えるのを忘れて黙っていると、さらに声を潜めてそう言ってきた。アタシは黙っていた。否定も肯定もいらないだろうと思った。
 蛇腹さんは手を伸ばす。アタシの髪を耳にかけ、右耳に触れる。トラガスという、そういう名前がついていることを初めて知った、アタシの一部。蛇腹さんは「ここにあけるから」と言って、強くつねった。その痛みにアタシは僅かに顔をしかめる。
 蛇腹さんは一度アタシに背を向け、台の上に置かれたピアスをあけるための道具をいじり始めた。
「人によってはイヤホンが耳に入りづらいとか、耳掃除が面倒になったりするけど、大丈夫? あと最初のうちは膿が出たり腫れたりするから、何かあったらすぐ連絡して。俺の番号は、前に教えたよね」
 16Gと14Gならどっちがいい? と付け加えるように訊いてきたので、アタシは「16」とだけ答えた。わかった、と低く蛇腹さんは返事をして、棚の引き出しを開ける。ピアスはサイズの書かれたビニール袋に個別に入れて保管してあって、蛇腹さんはたくさんのピアスの中から16Gのものを探していた。
「あいつ、HⅠⅤだよ」
 唐突に、蛇腹さんが言った。一瞬、何を言われたのかわからなくて、蛇腹さんを黙って見つめた。蛇腹さんはそんなアタシの視線に気付いたのか、ピアスを探す手を止めてこちらを見た。頭に描かれたタトゥーの蛇の目と、アタシの目が合う。
 蛇腹さんの口元は微かに笑っていた。まるで卑しいものでも見るかのように、アタシのことを笑っていた。
「知らなかった? リュウは、HⅠⅤだよ。HⅠⅤに、感染してる」
 蛇腹さんはそう言うとピアスを探す作業に戻る。あった、と小さくつぶやくように言って袋をひとつ手に取り、これからアタシの身体に食い込んでいくであろう、小さなピアスを取り出した。
 あのピアスは、きっとアタシに痛みを与える。
 そっと自身のトラガスに触れてみた。ここに穴があく。龍兎には無い、穴があく。アタシは一体、どこに向かおうとしているのだろう。アタシにはわからない。きっと龍兎にも、蛇腹さんにもわからないだろう。
 じゃあ始めるよ、と準備ができたのか、蛇腹さんはそう言った。アタシは目を閉じた。ピアスをあけられている間は、目を閉じる。いつの間にかそういう習慣になった。
 蛇腹さんの手が耳に触れる。突き刺さる痛みと同時に、ごりごりという音が、頭の中に響いた。
 アタシがどこへ向かっているのか、誰にもそんなことはわからないし、そんなことがわかったところで、何の意味も無い。
 その夜、龍兎はいつになく上機嫌で、スーパーで買ってきた、割引シールが何枚も貼られた売れ残りの惣菜を頬張りながら、アタシのトラガスに触れ、「どう?」と何度も訊いてきた。「痛かった」ぐらいしか感想が持てないアタシは、そう訊かれる度にその通り答えた。あんまりにもしつこく訊いてきて正直うざったかったけれど、日頃無表情で無愛想な龍兎が穏やかそうな顔をしているので、そこまで悪い気はしなかった。
 シャワーを浴びて、いつも通り龍兎は薬を何錠か飲んでからアタシを抱いた。いつも通りの、前戯はほとんど無い、性欲をただ処理するかのような性交。言葉は何も発さず、短い吐息を鋭く吐き出して龍兎は果てた。もう事が済めばアタシなんか必要無いんだとでも言うように、すぐさま男性器を抜き、精液の溜まった避妊具を外してその口を結ぶとゴミ箱���放り投げる。ティッシュ数枚で性器を拭うとそれも丸めてゴミ箱へ投げた。
 龍兎はいつも通り枕元のカッターを引き寄せて、左手の甲、その龍のタトゥーの上に切り傷をひとつ新しく作ると、そのままカッターを投げ出し、アタシに背を向けた。ずっと無言のまま、毛布にすっぽりとくるまって、おやすみも言わずに眠ってしまう。いつもと同じだ。
 龍兎が始めて龍兎が終わらせた一方的な行為に、アタシはまだ呼吸を上手く落ち着けることもできずに、同じベッドの上、しばらく天井を仰いでいた。
 龍兎の寝息が聞こえ始めるのを待ってから、アタシはそっと起き上がって、枕元にあるティッシュの箱へ手を伸ばした。股間を拭い、ゴミ箱へ捨てる。
 自分の鞄から、財布を取り出す。レシートが何枚も入っているその中から、見たことのある大蛇がデザインされた名刺を見つけるのに、たいして時間はかからなかった。
「これはお得意様にだけ渡してる、特別な名刺だから」
 出会ったその日、この名刺を渡してきた時に言った、あの男の口元を歪めただけの笑みを思い出す。文字が何も印刷されていないその名刺には、携帯電話の番号がペンで走り書きしてあった。
 アタシは龍兎が脱がせた服を、順に拾い上げて身に着ける。眠りに就いたばかりの龍兎を起こさないように気をつけた。物音をできる限り殺してブーツを履いて、ライダースを羽織る。スキニーパンツには携帯と名刺だけを入れた。行かなくちゃいけない。何かがアタシにそう急かす。
 化粧もせず、髪もとかさずに、手ぶらのまま龍兎の部屋を出た。外の空気は冷え切っていて、その寒さに首をすくめた時、あけたばかりのトラガスが、ずきん、と痛んだ。アタシはまるで逃げ出すかのように早足で歩き出しながら、名刺に書かれた数字を携帯に打ち込み、迷わず「通話」ボタンを押した。
 ピアス屋「蛇腹」まで駆けて行くと、もうとっくに閉店時間は過ぎているはずなのに、店の扉の鍵は掛かっておらず、カウンターの一番奥の照明だけが点いていた。
「待ってた」
 掠れた声でそう言う蛇腹さんは、薄暗い店内でアタシを見て笑った。カウンターの中から出て、アタシの横をすり抜けると、店の表のドアを施錠する。
「施術室、入って」
 振り返りもせずにそう言うので、アタシは黙って従った。「空室」のプレートの下がっているカーテンを開けると、施術室の中はカウンター同様に薄暗かった。部屋の隅に小さなストーブが置いてあって、オレンジ色の炎が闇の中で揺れていた。
 アタシはトラガスをあけた時と同じ椅子に腰を降ろした。カウンターの灯かりを消した蛇腹さんが、施術室へ入って来る。蛇腹さんはカーテンを閉め、アタシからは一番離れた位置にある長椅子に腰掛けた。
「で、なんで電話してきたの」
 蛇腹さんの声が、微かに部屋の空気を震わせる。その爬虫類みたいな目で、アタシを見ていた。
「リュウと別れたくなった?」
 答えないアタシに、蛇腹さんはそう訊いてくる。
 ――アタシは龍兎に飼われている。あの部屋で抱かれることだけが、アタシの存在理由。
「……教えて、龍兎のこと」
 それだけ言うと、蛇腹さんは素っ気無く答えた。
「言ったろ、あいつはHⅠⅤだ���て」
「……なんで、HⅠⅤに感染したの」
「あいつ、左手に刺青があるだろ」
 アタシの脳裏に、龍兎の左手がよぎる。影絵のような、黒一色の龍のタトゥー。その上に刻まれ続ける、自傷の痕。
「あの龍の刺青入れた時、HⅠⅤに感染したんだよ。針の使い回しだったそうだ」
 アタシは黙ったまま蛇腹さんを見た。蛇腹さんもアタシを見ていた。
「二年ぐらい前だったかな。あいつ、スミ入れたいって言い出してさ。それで、俺に蛇の刺青入れた、彫師を紹介したんだよ。先に彫ったのは右手の、ウサギの絵の方だった。左手の龍の絵を彫るってなった時、彫師がいろんなデザインを描いたんだが、リュウは全部却下した。刺青って一生モンだろ? リュウもこだわりたいし、彫師だって自分の作品にはこだわりたい。そんな時、あいつ、刺青のイベントに行ったんだとさ」
 ――タトゥーイベントで龍兎はひとりの彫師と意気投合した。その彫師が即興で描いてくれた龍のデザインに心惹かれ、その日のうちに下絵を彫った。後日続きを彫ってもらい、完成させるはずだったが、突然、その彫師と連絡がつかなくなった。それで中途半端なタトゥーはカッコ悪いと、最初の彫師に頭を下げて頼み、続きを完成させてもらったのだが、その数ヶ月後になって、HⅠⅤに感染していることが発覚した――。
「どうして発覚したと思う?」
 蛇腹さんはそう訊いてきた時、嘲笑うかのような表情をしていた。蛇腹さんが決して、龍兎の前ではしない顔だった。
「あいつ、当時付き合ってた女にガキができたってんで、病院に行ったらわかったんだとさ。女の方が感染してるのがわかって、リュウも検査を受けたら感染してた。その頃になって、イベントの参加者に、HⅠⅤに感染した人がちらほらいるって噂になってきてな。リュウはその女と結婚するつもりでいたんだが、破局。子供は中絶。女は今もリュウから金もらって、リュウと同じ、エイズの発症を抑える薬を飲んでどっかで生活してる」
 喉の奥を震わせるようにして、蛇腹さんは笑っていた。
「それからだ。それからリュウは、女をとっかえひっかえしてる。適当にその辺をぶらついては女をひっかけてきて、半ば無理矢理、自宅に軟禁して。新しい女ができる度にここに二人でやって来て、自分と同じ場所にピアスをあけさせる。あんたとおんなじだ。大抵、女たちは途中でリュウがどっかおかしいことに気付く。リュウが見ていない隙に、『あの人ちょっとおかしい』と俺に訴えてくるようになって、俺があいつの過去を話すと、皆、気味悪がって逃げ出す」
 蛇腹さんはそう言いながら立ち上がり、アタシのところまでやって来た。椅子に腰掛けたままのアタシを見下ろし、首輪に手を伸ばす。蛇腹さんの指が、アタシの首に嵌められた首輪を少しだけ乱暴に引っ張った。その指が闇の中、ぼんやりと輪郭を失って、白く光っているのを黙って見つめた。
「だが、こんなの首に嵌めた女は、あんたが初めてだな」
 蛇腹さんは首輪に掛けられた南京錠を手に取りながら、それに顔を近付けていた。
「ただの市販の南京錠か。近所に腕の良い鍵屋がいる。紹介してやってもいい。すぐに合鍵くらいできるだろ」
 蛇腹さんは南京錠からも首輪からも手を放し、言った。
「リュウから逃げたいなら、こんな首輪さっさと外して、あの部屋を出て行けよ。あいつは女に捨てられるっていうのが一種のトラウマなんだ。女に捨てられた後は、まるで鬱病みたいになっちまって、逃げた女を探し回る気力も無い」
「……ほんとなの?」
 蛇腹さんは怪訝そうな顔をした。
「俺の話を疑ってるのか?」
 蛇腹さんの声は話している間、一貫して淡々としていた。それは不気味なほど、平坦な声音だった。まるで催眠術にでもかけられているみたいだ。
「疑ってるなら、部屋に戻って本人に訊いてみろよ」
 アタシは何も答えなかった。返す言葉がアタシの中にはどこにも見つからなかった。
 何も想像できなかった。この話を切り出した時、龍兎はどんな表情をするのだろう。アタシは龍兎のことを何も知らない。彼がどうすれば喜ぶのか、どうしたら傷つくのか、まるでわからない。
 そうだ。一緒に暮らすようになって一ヶ月。アタシは今まで一度も、龍兎を喜ばせようと思って、何かをしたことなんて無かった。
 帰る、と言ってアタシは立ち上がる。
「あの部屋に帰るのか」
 蛇腹さんはどこか呆れたような声でそう言うと、眠たそうに欠伸をした。
「わかっただろ。リュウはそういう駄目な奴で、誰かをがんじがらめに束縛したいんだ。お前を必要としている訳じゃない。お前じゃなくたって別にもいい、側にいてくれる女なら誰でもいいんだよ」
 蛇腹さんは台の上に無造作に置かれた煙草と、コンビニでもらえるような安っぽいライターを引き寄せながら、そのおまけだとでも言うような投げやりな口調で言った。その言葉に、ずきん、とアタシのトラガスが痛んだ。
「ああ、でもそれはお前も同じか」
 蛇腹さんは煙草を咥え、火を点けながら言う。
「お前だって、泊めてくれる男だったら、誰でもいいんだもんな」
 まるで全てを見透かしているかのような冷たい目で、アタシを見つめていた。アタシはありがとう、と礼だけ伝えて蛇腹さんに背を向ける。店を出る時、まだ施術室で煙草をふかしている蛇腹さんが何か言ったのが聞こえたけれど、アタシはそれに耳を貸さなかった。
 右耳のトラガスに触れる。そこにあるピアスの感触を、何度も何度も冷え切った指先で確認しながら、この虚ろな世界のことをぼんやり思った。
 初めての性交の相手は、義父だった。
 アタシが小学四年生の時にママが再婚して新しくやってきた父親は、ママのいない時にアタシを素っ裸にしては欲情していた。
 アタシはまだ初経も迎えていない子供だったはずだけど、当時の記憶はぼんやりとしていて、あまりはっきりとは思い出せない。思えば、あの頃からアタシの心は空っぽだった。
 義父の次におかしかったのは、六年生の時、クラス担任だった若い男の教師で、アタシの成績が悪く、こんなんじゃ中学校に進んだらたちまちやっていけなくなる、補講授業を夏休みに行う、と言ってきたのが始まりだった。成績が悪かったのは本当のことで、アタシは元々勉強が苦手だった。担任の教師は、アタシを人気の無い教室に呼び出して、やってこさせたプリントを見ることもなく、持ってこさせた教科書を開かせることもなく、ひたすら卑猥な言葉を言わせるだけ言わせて、無理矢理にアタシを犯した。それは夏休みの間、ほぼ毎日続いた。
 中学に上がってからは、男の先輩たちが近寄って来た。いかにも頭の悪そうな、不良の先輩たちは、遊びに行こうと誘い出しては、大勢で順番にアタシを抱いて楽しんでいた。先輩の家で、カラオケで、学校で。どこででもヤッた。
 アタシはその頃も、家にママがいない日は義父に抱かれる生活をしていて、義父に連れられ産婦人科を受診し、生理不順だからという理由でピルを処方してもらっていた。定期的に性病の検査も受けた。
 まだ義務教育も終えていない義理の娘と性交するような男を、尊敬の目で見たことなんて当然無かったけれど、義父の存在に感謝した。義父が変態じゃなかったら、アタシは何回堕胎手術を受ける羽目になっていたのかわからない。
 高校に上がったばかりの頃、義父に犯されている場面をついにママに見られて、アタシの家庭は終わった。義父が家に来てから、毎日のように犯されて、五年が経っていた。
 今までずっと黙っていたせいで、ママは何も知らなかった。ママの受けたショックは計り知れない。ママは頭がおかしくなって、アタシの顔を見て話すことすらできないまま、精神科に入院した。
 親戚たちの手によって、ママと義父は離婚、義父は警察に突き出された。以来、ママも義父も、どうなったのか知らない。
 その頃ちょうど、高校ではアタシが援助交際をしているという噂が立ち、アタシを停学にしようという話が職��室で持ち上がっていた。高校を辞め、「ひとりで自立した生活を送る」と、親戚たちにはそんな嘘をつき、短期のバイトと援助交際でお金を稼いで、その日暮らしを始めた。
 最初は親戚たちを欺くために、小さな安いアパートを借りたけれど、契約が切れるのを機に、そこを出た。頭も愛想も悪かったアタシは、親戚たちにはこぞって嫌われていて、アタシの行方や生活の様子を心配する人はいなかった。
 カプセルホテル、ネットカフェ、街角で出会った知らない男の家。そこを転々としながら生活した。 
 アタシの家族が崩壊して、三年。
 身体を売って、金を得て、眠る日々だった。
 この淀んだ、薄汚い、虚ろな世界。
 アタシの身体も、心も、中はすかすかで、そこには何も無い。ただ空っぽだ。生きていても、空しい。死んでいるのと変わらない。
 龍兎と出会った日、あの日はクリスマスだった。
 街には一夜の相手になりそうな女を狩る男たちがうろついていた。アタシに声をかけてくる男は何人かいたけれど、もう自分の身体を売る気にもなれなくて、乾いた笑顔で見え透いた嘘をついて、男たちを振り切った。
 どこにも行く気になれなくて、どこにも行く場所なんか無かった。
 生きることにも、死ぬことにも、なんの興味も関心も湧かなかった。過去の出来事も、これから起こる未来のことも、全てなんだってよかった。
 なのに、あの時声をかけてきた龍兎に、ついて行ってしまったのは何故だろう。でも、それはたいしたことじゃないのかもしれない。龍兎について行くか、行かないか、なんてことは。だって、興味が無かったんだ。それでこの先がどうなるのかなんて。
 もうアタシはどこへも行けない。
 だから、どうだってよかった。
 そう、どうだっていい、全部。
 ぜんぶぜんぶぜんぶぜんぶ、どうだって、いいんだ。
 ずきん、
 と、
 アタシのトラガスが痛んだ。
 ぼんやりした頭で目を覚ました。
 アタシは知らないホテルの一室で、知らない男と同じベッドで、裸で寝ていた。テーブルの上には、酒の缶の山。どれくらい飲んだのか覚えていないけれど、頭ががんがんと痛む。気持ち悪い。吐き気がした。
 今は何時だろう。時計を持たないアタシには知る術が無い。携帯をスキニーパンツのポケットに入れて来たはずだけど、床に落ちていたアタシの衣類を拾い上げて探ってみても、見つからなかった。まぁいいや。どうせ、連絡する相手もいないし、連絡してくる人もいない。寝ている男を起こさないように衣類を身に着けながら、笑った。
 アタシには何にも無い。家族も、友達も、恋人もいない。家も、職場も無い、居場所なんて存在しない。大切な人もいないし、誰からも大切と思われてなんかいない。
 アタシは何なんだろう。誰が、アタシのことをアタシだと証明してくれるんだろう。ピルをもらう時に必要な保険証だけが、存在を証明してくれるモノだなんて、笑える。
 アタシはホテルの部屋を出た。吐きそうだったけれど、トイレで物音を立てたら寝ている男が目を覚ましそうな気がして、こらえた。
 昨日の記憶が、だんだん蘇ってくる。
 蛇腹さんの店を出て、龍兎の部屋に戻ることをためらってしまったアタシは、知らない男に声をかけられて、コンビニで酒を大量に買い、ホテルに入り、酒を飲んで、性交して、寝た。アタシは昨日、ピルを飲んだかどうかどうしても思い出せなくて、早く部屋に戻って確かめなくちゃ、と思った。そしてすぐに、部屋にいるであろう龍兎のことを思った。龍兎は目が覚めた時、アタシが部屋にいないと気付いたら、どう思うだろう。
 怒るだろうか。それとも、最初からアタシなんかいなかったとでも言うように、いつも通りの日々を過ごすのだろうか。
 わからない。わからなかった。アタシは、龍兎のことを何も知らないから。
 じゃらり、と金属の揺れる音がする。首の南京錠が、いつもより重く感じた。
 ホテルを出ると、外は眩しかった。太陽は真上に昇っている。昼だ。
 と、ホテルを出てすぐ、数人の女たちがアタシを取り囲んで声をかけてきた。胃の中がひっくり返りそうだったのと、頭が割れそうなほど痛むのとで、女たちが何を言っているのかよく聞こえなかった。断片的に、「私の男」「ホテル」「一緒に」「見た」「許さない」「クソ女」という単語だけが、かろうじて聞き取れたけれど、その意味を頭が理解するよりも早く、女の拳が腹に食い込んで、アタシは滅茶苦茶に吐きながら崩れ落ちた。倒れたアタシの背を、胸を、顔を、尻を、足を、女たちが力いっぱい蹴りつけてくる。その痛みにアタシは呻き、変な動物みたいな声を上げた。
 道路のアスファルトに思い切り頬をこすりつけながら、中学生の頃も、よくこんな目に遭ったことを思い出した。下校途中の路地裏で、女子の先輩たちがよく待ち伏せしていた。女子たちは大抵、アタシのことを輪姦した先輩たちの彼女か、その友人たちだった。一対一ならともかく、こうやって複数人に暴力を振るわれたんじゃ、抵抗の仕様が無いし、そもそも抵抗する気力すら湧かない。
 思考も神経もおかしくなりそうだった。殴られても蹴られても、途中から痛みを痛みとして感じなくなっていた。身体は重く、意識は黒く染められていく。死ぬのかな、と思った。男と寝て、それを恨まれて女にボコられて死ぬなんて、汚れたアタシにはお似合いな末路だ。
 幸せに生きて、愛に包まれて眠るように死ぬなんて、そんな温かい人生、アタシには似合わない。ドブに捨てられて、汚物にまみれて、他人から目を背けられ死ぬような、そんな最期しか、自分の人生の結末を思い描けなかった。
 でも充分じゃないか。アタシは充分、今日まで無様に生き延びた。今更しがみついてみじめったらしく守るべき生なんか、アタシにはこれっぽっちも残っていない。
 もう意識を手放そうとした、その時。
 ずきん、と猛烈な痛みがトラガスに走った。
 その痛みではっとした。
 アタシの名前を、呼ぶ声がする。
 一斉に、アタシの周りにいた女たちの気配が無くなる。走り出していく無数の足音と、こっちへと駆け寄って来るひとつの足音が聞こえた。アタシは重たく動かない身体に精いっぱい力を入れて、微かに瞼を持ち上げた。
 男の声がする。アタシの名前を呼んで、ダイジョウブカ、ダイジョウブカと言ってくる。これがダイジョウブに見えるのかよ、と思わず言いたくなるくらいに。でもアタシの喉も、舌も、唇も、もう声を発する機能なんか持っていない。
 おまけに、視界は霞んでいて、よく見えない。倒れているアタシには、地面しか見えていないのだけれど、地面の上に、何か白っぽいものが見える。なんなのかよくわからない。何か模様がついている、白っぽいものだ。なんの模様だろう。アタシは懸命にそれを見ようとする。
 しばらく奮闘して、やっとそれがなんの模様かわかった。
 それは、一匹の黒い龍だった。
 身体にいくつもの傷を負い、その痛みに悶え、哭いている龍。
 アタシは動かなくなった身体を無理矢理動かす。左腕が肩から外れそうなほど、強烈に痛んだけれど、それでも構わず、龍に向かって手を伸ばした。
 その龍の傷に、触れた。
 龍が哭いている。
 傷が痛むから、哭いているの? 違う、きっとそうじゃない。そうじゃないはずだ。
 男の声が、耳元でしているはずなのに、とても遠くから叫んでいるように聞こえた。
 アタシの名前を、呼んでいる。
 その声が聞こえなくなるまで、アタシは龍の傷を撫で続けた。
 アタシの身体が、動かなくなるまで。
 アタシの意識が、消えてなくなるまで、ずっと。
 気がついた時には、病院にいた。
 目を覚ました時、アタシの右手を握ったまま、ベッドに寄り掛かるようにして、ひとりの男が眠っていた。
 龍兎だった。
 龍兎は目の下にうっすら隈を作っていて、アタシが眠っていた一日半、ほとんど眠らずに側にいてくれたんだと後でわかった。アタシが寝ている間はずっと起きていて、目覚めた時に寝ているなんて、間抜けな男だ、と思った。
 龍兎はあの朝目が覚めて、アタシがいないことに気付き、街中を探し回っているうちに、たまたま運良く、ホテルの前を通りかかったらしかった。
 アタシは女たちからの暴行で全治一ヶ月の怪我を負った。極めつけは、上の前歯を二本とも折られていたことだった。前歯が無いとアタシの顔はとって���おかしなことになっていて、見舞いに来た蛇腹さんは、アタシの顔を見るなり思い切り噴き出し、病室中に響くほどの大声で笑った。普段は聞き取りにくいほど小さな声で話すのに、大きな笑い声だった。
 それから蛇腹さんは、口の中をよく見せてみろ、と言い、折れた前歯をじっくり観察した後、「これなら大丈夫だ、差し歯が作れるだろうよ」と言った。
「いっそのこと、オリジナルの差し歯でも作ったらどうだ。豹柄とかさ。ギャルは好きだろ、豹柄」
 そんなことを言ってにやにやと笑う蛇腹さんは、病院に来るために頭のタトゥーをフードで隠し、顔のピアスを全て外して、カラーコンタクトもしていなかった。病人には優しくしないといけないからな、攻撃的なルックスはやめただけだ、と言っていたけれど、ピアスも無い、瞳も小さい蛇腹さんの顔も、見慣れないからか面白くて笑えた。
 龍兎は毎日のように見舞いに来てくれて、アタシの身の回りの世話を甲斐甲斐しくこなした。ずっと無愛想な表情で、口数もいつもよりずっと少なく、常に不機嫌そうだった。だからアタシは、いつも以上に龍兎に声をかけなかった。でも元からアタシたちは、会話なんてろくにしたことが無いのだ。
 退院の日も、龍兎は来てくれて、まだ松葉杖が無いと上手く歩けないアタシの代わりに、荷物を持ってくれた。二人肩を並べて、そうするのが当たり前のように、龍兎の部屋へ続く道を歩いて行く。雪が降りそうな天気で、寒さのためか、黙って歩いた。
 龍兎が口を開いたのは、もうすぐアパートがビルの向こうに見える、という距離に来た時だった。
「……蛇腹さんから、聞いたんだろ、俺のこと」
 龍兎の声は、どこか投げやりな声音だった。龍兎は立ち止まって、しばらく黙っていたけれど、やがてポケットから何かを取り出した。
 小さな金属片。鍵だ。
 龍兎はアタシの首についている首輪の南京錠にその鍵を差し込むと、回した。鍵は呆気無く回る。
 がちゃん、と音を立てて、南京錠が地面に落ちた。
 この鍵が外れた時、それは龍兎にとってアタシがいらなくなった時だと、ずっと思っていた。
 龍兎は首輪も外して、それを南京錠と同じように地面に落とす。龍兎の顔は不機嫌そうで、それは叱られた子供の表情に似ていた。
「嫌なら、出てけよ。もういいよ、お前なんか。いらねぇよ」
 龍兎はそう言うと、突然、荷物が入った紙袋をアタシに押し付けて、自分だけさっさと歩き出してしまう。
 アタシは松葉杖を両手で突いていて、荷物を持つ余裕が無い。紙袋の中を覗いてみたけれど、着替えが入っていただけで、大切なものは何も無かった。保険証はライダースのポケットに入っているし、携帯はどこに落としたのか、まだ見つかっていない。
 大丈夫だ。必要なものなんか無い。アタシはいつも、何も持っていないのだ。
 紙袋をそこに置いて、龍兎の後を追いかけた。入院中に松葉杖の使い方に慣れたとは言え、大股で歩く龍兎の足には追いつけない。それでもずっとその背中を追いかけていると、不意に龍兎は立ち止まり、こっちを振り向いた。
「……なんでついて来るんだよ」
 その声は明らかに怒っている。
「もう知ってんだろ、俺がHⅠⅤだってことも、別れた女の治療費払ってるってことも、頭のおかしい奴だっ��ことも。そうだよ、俺はそういう奴だよ。好きでもねぇ女に首輪つけておかないと、いてもたってもいられなくなる、精神異常者だよ。俺と同じとこにピアスあけさせて、俺と同じようにしてやらないと、俺のこと理解してもらえないんじゃないかって不安になる、馬鹿みたいな男だよ。ああ、わかってるよ、どうせ、理解なんかされないってことは」
 龍兎はそう言った。その声は明らかに怒っているのに、どうしてだろう。
 龍兎は、泣いていた。
 立ち止まってそう言っている間に、なんとか龍兎に追いついた。両目から、ぼろぼろと涙を零す龍兎の顔を、アタシは黙って見上げた。
 アタシは龍兎の左手を取った。手袋を外せば、そこに龍が姿を現す。
 傷だらけの、龍。
 アタシが入院している間、龍兎は自傷行為をしていなかったようで、新しい傷はひとつも無かった。思えば、初めて出会った時からずっと気になっていた、傷まみれの龍がいる左手。
「龍兎、ピアスあけてよ」
 アタシは無意識のうちにそう言っていた。
「右耳のトラガス、あけて。アタシも、この龍のタトゥー、左手に入れるから」
 龍兎の目が、驚いたように見開かれる。
 右耳のトラガスは、龍兎には無いアタシだけのピアス。
 まるで心臓のように、ずきんずきんと、何度も痛む。
 ――アタシは、ここにいる。
 この先の人生が、どうなっても別にいい。いつどこでどんな風に死んだって構わない。この灰色の世界がどうなろうと興味なんて無い。龍兎がHIVのキャリアでも、精神異常者でも、どうでもいい。
 アタシにあるのは、トラガスの、突き刺さるような痛みだけだ。
 そしてアタシは知っている。龍兎にあるのは、あの左手の、自傷の痛みだけだってこと。
 だから龍兎はトラガスにピアスをあけ、アタシは左手に龍を描かなくてはいけない。
 龍兎は、よくわからない表情をした。口元を緩めたその顔が、笑っているんだ、と気付くのに、五秒かかった。その五秒のうちに、龍兎はアタシのことを、両腕で抱き締めていた。
 龍兎の、アタシとお揃いのライダースの肩越しに、空から雪が舞っているのと、自分の息が空中で白く輝いて、霧散していくのを見た。耳元では、龍兎が声を押し殺して泣いている。アタシにはそれが、あの龍が哭く声のように思えた。
 痛みに哭いているんじゃない。アタシたちはそんなことすら満足にできないくらい、不格好で哀れな生き物だ。
 松葉杖を捨てた。どこにも行けないのだから、こんなもの、もういらない。空いた両手を伸ばして、龍兎の身体を抱き返す。
 そうして、ふと、こんな風に龍兎を抱き締めたことも、抱き締められたことも、初めてのことだと気がついた。
 龍兎の涙がアスファルトに落ちる。一滴、二滴と染み込んでいく。アタシは、最後に泣いたのがいつだったのかさえ思い出せずに、ただそれを見つめる。
 アタシたちの身体も心も空っぽで、そこには何も無いとしても。いくら交じり合ったところで、この肉塊を温め合うことすら、できないとしても。
 でもそれでもいい。それでもアタシは、この痛みを知っている。
 冷たい風に晒されて、龍兎の身体は特別温かくはなかった。でもそれでも、充分だった。
 それだけで、ただ良かった。
 了
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kachoushi · 2 years ago
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各地句会報
花鳥誌 令和5年8月号
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坊城俊樹選
栗林圭魚選 岡田順子選
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令和5年5月1日 花鳥さざれ会 坊城俊樹選 特選句
葉桜に声まで染まるかと思ふ 雪 葉桜の懐深く観世音 同 葉桜を大天蓋に観世音 同 ふと思ふ椿に匂ひ有りとせば 同 葉桜の濃きに始まる暮色かな 泰俊 葉桜の蔭をゆらして風の音 同 老鶯を聞きつつ巡りゐる故山 かづを 四脚門潜ればそこは花浄土 和子 緑陰を句帳手にして一佳人 清女 卯波寄すランプの宿にかもめ飛ぶ 啓子 蝶二つもつれもつれて若葉風 笑 雪解川見え隠れして沈下橋 天
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
令和5年5月6日 零の会 坊城俊樹選 特選句
五月闇喫茶「乱歩」は準備中 要 だんだんに行こか戻ろか日傘 和子 錻力屋のゆがむ硝子戸白日傘 昌文 空になる途中の空の鯉幟 和子 ラムネ玉胸にこもれる昭和の音 悠紀子 だんだんは夏へ昭和へ下る坂 慶月 だんだん坂麦藁帽子買ひ迷ふ 瑠璃 白シャツのブリキ光らせ道具売る 小鳥 蟻も入れず築地塀の木戸なれば 順子 夕焼はあのアコーディオンで歌ふのか きみよ 谷中銀座の夕焼を待ちて老ゆ 同
岡田順子選 特選句
築地塀崩れながらに若葉光 光子 日傘まづは畳んで谷中路地 和子 ざわめく葉夏の赤子の泣き声を 瑠璃 築地塀さざ波のごと夏めきて 風頭 カフェーの窓私の日傘動くかな 和子 二階より声かけらるる薄暑かな 光子 下闇に下男無言の飯を食ふ 和子 覚えある街角閑かなる立夏 秋尚 谷中銀座の夕焼を待ちて老ゆ きみよ 誰がために頰を染めしや蛇苺 昌文 青嵐売らるる鸚鵡叫びたり きみよ
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
令和5年5月6日 色鳥句会 坊城俊樹選 特選句
カルデラに世帯一万春ともし たかし 大いなる大地を画布に聖五月 朝子 渚恋ひ騒ぐ厨の浅蜊かな たかし しやぼん玉母の笑顔を包みけり 朝子 乙姫の使者の亀ならきつと鳴く たかし 風に鳴るふらここ風の嗚咽とも 睦子 桜貝拾ひ乙女となりし人 久美子 風船の子の手離れて父の空 朝子 夕牡丹ゆつくりと息ととのふる 美穂 はつなつへ父の書棚を開きけり かおり 鷹鳩と化して能古行き渡航路 修二 風光るクレーンは未来建設中 睦子 人去りて月が客なる花筏 孝子 束ね髪茅花流しの端につづく 愛 悔恨深し鞦韆を漕ぎ出せず 睦子 ひとすぢの道に薔薇の香あることも 同
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
令和5年5月8日 武生花鳥俳句会 坊城俊樹選 特選句
戦争は遠くて近しチューリップ 信子 霾や廃屋多き街となり 三四郎 長長と系図ひろげて柏餅 昭子 鞦韆を揺らし母待つ子等の夕 三四郎 代掻くや越の富士山崩しつつ みす枝 氷菓子あれが青春かもしれぬ 昭子 モナリザの如く微妙に山笑ふ 信子 風なくば立ちて眠るや鯉幟 三四郎 観音の瓔珞めいて若葉雨 時江 春といふ名をもつ妻の春日傘 三四郎 もつれては蝶の行く先定まらず 英美子
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
令和5年5月9日 さくら花鳥会 岡田順子選 特選句
金環の眼や神々し鯉幟 実加 テンガロンハットの老夫麦の秋 登美子 筍を運ぶ人夫の太き腕 あけみ 緩やかに青芝を踏み引退馬 登美子 赤き薔薇今咲き誇り絵画展 紀子 自らの影追ひ歩く初夏の昼 裕子
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
令和5年5月9日 萩花鳥会
マンションの窓辺で泳ぐ鯉幟 祐子 兜より多産な鯉を子供の日 健雄 山頂に吹き上がるかな春の息 俊文 新緑やバッキンガムの戴冠式 ゆかり 仰向けのベッドに届く風五月 陽子 この日から五類に移行コロナあけ 恒雄 武者人形剣振り回すミニ剣士 美惠子
………………………………………………………………
令和5年5月10日 立待俳句会 坊城俊樹選 特選句
囀や高鳴く木々の夜明けかな 世詩明 すがりたき女心や花薔薇 同 仏舞面の内側春の闇 ただし 菖蒲湯に老の身沈め合ひにけり 同 うららかや親子三代仏舞 同 花筏寄りつ放れつ沈みけり 輝一 花冷や母手造りのちやんちやんこ 同 機音を聞きつ筍育つなり 洋子 客を呼ぶ鹿みな仏風薫る 同 渓若葉上へ上へと釣師かな 誠 子供の日硬貨握りて駄菓子屋へ 同 白無垢はそよ風薫る境内へ 幸只 春雨は水琴窟に託す朝 同
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
令和5年5月11日 うづら三日の月花鳥句会 坊城俊樹選 特選句
里山を大きく見せる若葉かな 喜代子 父母座す永代寺も夏に入る 由季子 三国町祭提灯掛かる頃 同 難解やピカソ、ゲルニカ五月闇 都
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
令和5年5月12日 鳥取花鳥会 岡田順子選 特選句
ホーエンヤ口上述べて祭舟 史子 暮の春どちの館の椅子机 すみ子 声潜めメーデーの歌通り過ぎ 益恵 手擦れ繰る季寄卯の花腐しかな 美智子 鳥帰る曇天を突き斜張橋 宇太郎 海光も包まん枇杷の袋掛 栄子 葉桜や仏の夫の笑みくれし 悦子
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
令和5年5月13日 枡形句会 栗林圭魚選 特選句
菖蒲湯の香を纏ひつつ床に就く 多美女 風低く吹きたる社の陰祭 ゆう子 やはらかき色にほぐるる萩若葉 秋尚 すと立てし漢の小指祭笛 三無 深みゆく葉桜の下人憩ふ 和代 朴若葉明るき影を高く積み 秋尚 メモになき穴子丼提げ夫帰る 美��子 祭笛天を招いて始まれり 幸子
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
令和5年5月14日 なかみち句会 栗林圭魚選 特選句
植物園脇に馴染みの姫女苑 聰 近づきて見失ひたる山法師 秋尚 母の日の記憶を遠く置き去りに 同 崩れかけたる芍薬の雨細き 同 若葉して柔らかくなる樹々の声 三無 葉桜となりし川辺へ風連れて 秋尚 白映えて幼稚園児の更衣 迪子 くれよんを初めて持つた子供の日 聰
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
令和5年5月17日 福井花鳥会 坊城俊樹選 特選句
一人逝き村軽くなる麦の秋 世詩明 水琴窟蔵す町屋の軒菖蒲 千代子 三国沖藍深めつつ卯波来る 笑子 母の日や母の草履の小さくて 同 カーネーション戦火の子らに百万本 同 遠ざかる思ひ出ばかり花は葉に 啓子 麦秋の響き合ふごと揺れてをり 千加江 あの世へもカーネーションを届けたし 同 紫陽花やコンペイトウと言ふ可憐 同 人ひとり見えぬ麦秋熟れにうれ 昭子 永き日の噂に尾鰭背鰭つき 清女 更衣命の先があるものと 希子 春愁や逢ひたくなしと云ふは嘘 雪 風知草風の心を風に聞く 同
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
令和5年5月17日 さきたま花鳥句会
鯉幟あえかな風も見逃さず 月惑 土間で輪に岩魚の骨酒郷の友 八草 背に茜萌黄の茶摘む白き指 裕章 薫風や鐘楼の梵字踊りたる 紀花 潦消えたるあとや夏の蝶 孝江 初夏の日差しじわじわ背中這ふ ふゆ子 水音のして河骨の沼明り ふじ穂 なづな咲く太古の塚の低きこと 康子 竹の子の十二単衣を脱ぎ始め みのり 薔薇園に入ればたちまち香立つ 彩香
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
令和5年5月21日 風月句会 坊城俊樹選 特選句
野阜に薫風そよぐ母の塔 幸風 突つ伏せる蝶昂然と翅を立て 圭魚 夏めきて観音膝をゆるく曲げ 三無 谷戸深き路傍の石の苔の花 久子 捩花の気まま右巻き左巻き 炳子 人の世を鎮めて森を滴れる 幸子 水音は水を濁さず蜻蛉生る 千種 夏蝶のたはむれ城主墓に罅 慶月 薫風やボールを投げてほしき犬 久
栗林圭魚選 特選句
要害の渓やえご散るばかりなり 千種 恙少し残り見上ぐる桐の花 炳子 十薬の八重に迷へる蟻小さき 秋尚 野いばらの花伸ぶ先に年尾句碑 慶月 忍冬の花の香りの岐れ道 炳子 水音は水を濁さず蜻蛉生る 千種 谷戸闇し帽子にとまる夏の蝶 久子 日曜の子は父を呼び草いきれ 久 ぽとぽとと音立てて落つ柿の花 秋尚 黒南風や甲冑光る団子虫 千種
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
令和5年5月28日 月例会 坊城俊樹選 特選句
二度廻る梓渕さんかも黒揚羽 秋尚 夏めきぬ膝に一筋擦過傷 炳子 茶席へと鳥獣戯画の帯涼し 要 万緑を黒靴下の鎮魂す 順子 美しき黴を持ちたる石畳 みもざ 霊もまた老ゆるものかな桜の実 光子 薄き汗白き項の思案中 昌文 黒服の女日傘を弄ぶ 緋路
岡田順子選 特選句
夏草や禁裏を抜ける風の色 月惑 白きもの真つ白にして夏来る 緋路 女こぐ音のきしみや貸しボート 眞理子 蛇もまた神慮なる青まとひけり 光子 風見鶏椎の花の香強すぎる 要 霊もまた老ゆるものかな桜の実 光子 白扇を開き茶室を出る女 佑天 緑陰に点るテーブルクロスかな 緋路 黒服の女日傘を弄ぶ 同 二度廻る梓渕さんかも黒揚羽 秋尚
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
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kyudo-order · 6 years ago
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シャフト: KC麦粒75-18木目調 羽根: TF0505黒尾羽 染なし 糸・和紙: 糸 193紫 毛引き: 黒 羽中文字: 卯黒 筈: KC麦粒カーボン用筈(ミズノ80用併用)ホワイト
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kyudo-order · 6 years ago
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シャフト: 2015黒 羽根: TF0559黒尾羽 抜染 飛龍 糸・和紙: 糸 217 毛引き: 金(基本色) 羽中文字: 卯金 筈: 天弓筈アイボリー
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kyudo-order · 3 years ago
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シャフト: KC麦粒80-23木目調 羽根: TF0592黒尾羽 特選抜染 犬鷲柄 糸・和紙: 糸 080 毛引き: 銀 筈巻加工: 矢絣 銀 プチデコレーション: シルバーフェザー 羽中文字: 卯銀 筈: KC麦粒カーボン用筈(ミズノ80用併用)ホワイト
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kyudo-order · 4 years ago
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シャフト: ミズノSST80-24S(エンジ色) 羽根: TF0513黒手羽 抜染 元ブチ 糸・和紙: 糸 353 毛引き: 金(基本色) 羽中文字: 卯金 筈: Mizuno筈ホワイト
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kyudo-order · 5 years ago
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シャフト: 2015黒 羽根: TF0505黒尾羽 染なし 糸・和紙: 糸 290青 毛引き: 金(基本色) 羽中文字: 卯銀 筈: 天弓筈ブラック
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kyudo-order · 6 years ago
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シャフト: 2015ブルー 羽根: TF0869ターキー オーシャンブルー 糸・和紙: 糸 black黒 毛引き: 白 筈巻加工: 矢絣 白 羽中下地加工: 黒 羽中文字: 卯白 筈: 含み筈ブラック
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kyudo-order · 6 years ago
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シャフト: 2014ダークブラウン 羽根: TF0559黒尾羽 抜染 飛龍 糸・和紙: 糸 015 毛引き: 金(基本色) 羽中文字: 卯黒 筈: 天弓筈アイボリー
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kyudo-order · 6 years ago
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シャフト: 2014バンブー柄 羽根: TF2002花白鳥 風切(遠的用) 染なし 糸・和紙: 和紙 092印伝 うさぎ紺 毛引き: 金(基本色) 羽中文字: 卯黒 筈: 天弓筈アイボリー
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kachoushi · 3 years ago
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各地句会報
花鳥誌 令和4年8月号
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坊城俊樹選
栗林圭魚選 岡田順子選
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令和4年5月7日 零の会 坊城俊樹選 特選句
金剛の粒となりけり薔薇の雨 和子 鍵穴を覗けば明治聖五月 きみよ 薔薇園のクレオパトラはまだ蕾 秋尚 ひざまづく職人の手に朽ちし薔薇 久 華やかに薔薇から離れゆく女 順子 旧家とは黴の匂ひと薔薇の香と 久 ダイアナと言ふ白薔薇にさみだるる きみよ 避雷針錆びて眠りし夏館 いづみ セルを着て館の手すり撫でてをり 季凜 棕櫚の花待つ洋館の灯は昏く 和子 この薔薇も名の幻を抱き続け 順子 罪深き身をつつみたる薔薇の風 和子
岡田順子選 特選句
セピア色かな夏炉の上の写真 光子 父と子の聖霊が触れバラ白に いづみ 緞通の褪せし撞球室に夏 光子 大滝の水のふたつの光る芯 三郎 裏木戸を守る閂とめまとひと 久 黴の世や蔵に遺作の絵が少し 同 薔薇の夜に抱かれて園の鳥となり いづみ いくつもの薔薇の名を呼びゐたりけり 光子 薔薇を売る男はそつと跪く 小鳥 金剛の粒となりけり薔薇の雨 和子
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
令和4年5月9日 武生花鳥俳句会 坊城俊樹選 特選句
観音の慈悲の眼差し春の雨 中山昭子 春愁や逝きたる友と病む友と ミチ子 奥院に鎮もる神や祭果つ 昭中山子 渓水の音も卯の花腐しかな 時江 田植機の通りて泥の日曜日 久子 幾何学も知らず蜘蛛の囲かけてをり 中山昭子 代掻くや鉄塔揺らし雲揺らす みす枝 仏壇の母と語りし母の日よ 信子 無人駅菜の花一輪挿しの卓 英美子 海色の風を運びて夏来る 時江 とりどりの駄菓子買ひ込み昭和の日 上嶋昭子 粽解く香りの中に母の顔 みす枝
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
令和4年5月9日 なかみち句会 栗林圭魚選 特選句
北信の山々を背に鯉幟 貴薫 風を呑む園児手作り鯉のぼり 三無 新茶淹れ母と語らふ京都旅 せつこ そこはかと由緒ある家鯉幟 美貴 嫌なことすうと消えゆく新茶の香 美貴 故郷の新茶届きて長電話 史空 鯉幟男児誕生高らかに せつこ 新茶汲む最後の雫ていねいに 美貴 新茶の香部屋にすつきり立ち昇り せつこ 五人目にたうたう男の子鯉幟 あき子
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
令和4年5月9日 さくら花鳥会 岡田順子選 特選句
奥越の麻耶姫目覚め山若葉 令子 子どもの日少年その日句を作る 同 書き込みの多き譜面や夏浅し 登美子 駆け足も卯月の雨に追ひつかれ 紀子 肩ぐるま手を伸ばしをり藤の花 実加 二輪車のオイル残香夏に入る 紀子 菓子のやう小さなトマト頰張りし あけみ
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
令和4年5月10日 萩花鳥句会
句友とも会へぬコロナや夏に入る 祐子 育つ子に未来の風を鯉のぼり 健雄 ひとけなく今は昔の多越の藤 恒雄 葉桜や母と集ひしこのホテル ゆかり 甘夏の里は潮風吹くところ 陽子 葉桜を揺らす影なし廃校舎 明子 葉桜の土手お揃ひのユニホーム 美恵子
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令和4年5月12日 うづら三日の月花鳥句会 坊城俊樹選 特選句
ウクライナいつまで続く五月闇 由季子 母の日に思ふ後に父もゐて さとみ おしやれする気持ちかき立て更衣 同 麦秋や大河一筋地を分ける 都
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
令和4年5月12日 花鳥さざれ会 坊城俊樹選 特選句
湯の句会 第一回
ご機嫌の鶯老を鳴きにけり かづを 若葉風光となりて消えゆけり 同 雨意去りし故山に鶯老を鳴く 同 問ひかけに長い返事や暮れの春 和子 黄金の麦田後へ三国線 同 絹ずれの音や女将の裾捌き 雪子 群青の海深くして沖朧 希
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
令和4年5月13日 花鳥さざれ会 坊城俊樹選 特選句
湯の句会 第二回
境内に浄土思はす白牡丹 希 巫女が舞ふ白きうなじの祭髪 同 日本海見えゐる岬卯波寄す 同 夏立つや虹物語ある町の 匠 雑談に疎き耳なり宿浴衣 清女 宿の名に謂のありて花菖蒲 千代子
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
令和4年5月13日 鳥取花鳥会 岡田順子選 特選句
チューリップ幼き我に連れ戻す 佐代子 海彦へ浜の茅花野風に伏す 都 廃線の駅名標に花菜雨 宇太郎 風を待つ鯉幟眼を天に向け 佐代子 葉がくれに花見つけたり朴散華 すみ子 虞美人の涙のかたち芥子坊主 美智子 配膳車筍飯の香を乗せて 悦子
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
令和4年5月14日 枡形句会 栗林圭魚選 特選句
野仏の錫􄼺の錆姫女菀 亜栄子 木陰抜け風の広ごる麦の秋 秋尚 枡形はなべて大樹や寺若葉 百合子 竹林を暗め卯の花腐しかな 秋尚 鯉のぼり色塗り分けて切り抜いて 白陶 母の日は父の寡黙の思ひ出も ゆう子 母の日の遺影の母は凜として 多美女 雨に濡れ向きそれぞれの竹落葉 秋尚
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
令和4年5月15日 風月句会 坊城俊樹選 特選句
頰杖の墓美しく新樹光 慶月 木の朽ちて大蛇めきたる翳り沼 文英 あぢさゐの色ととのはず人逝けり 葉月 黒南風や樹霊を浸す水の音 千種 蜘蛛の糸聖観音の背中より 慶月 鎌倉へ羽蟻を運ぶ蟻一つ 久子 青梅の転がる坂の下に句碑 要
栗林圭魚選 特選句
朴の花真白き命天に置き 三無 大空を水馬飛ぶ池の面 軽象 ひとつづつ落つる準備のえごの花 秋尚 稲毛氏の寺門はひそと朴の花 芙佐子 錆びゆくを天へ曝して朴の花 要 母の塔新樹の風に集ふ人 ます江 翡翠の帰りを待たず水流る 久
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
令和4年5月16日 伊藤柏翠記念館句会 坊城俊樹選 特選句
口笛の鳴る子鳴らぬ子揚げ雲雀 清女 一匹の蟻に従ふ千の蟻 英美子 魚釣る女子学生の夏帽子 千代子 三代も待ちし男の子や鯉幟 みす枝 新緑を塗り重ねたる昨夜の雨 かづを 金色の観音像や夏近し 和子 ロシアより卯波来るかと若��湾 世詩明
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
令和4年5月18日 福井花鳥会 坊城俊樹選 特選句
母の日や吾子は二人の母となり 千加江 葉桜や葉室麟よむ木陰あり 令子 早逝の友かと思ふ春の虹 淳子 母と子の二人だけなる鯉幟 同 花衣母の手を借り着たる日も 清女 麦秋の夕陽をあびて波立ちぬ 笑子 ぜんまいの萌ゆのけぞつてのけぞつて 雪 髢草少し癖毛でありし母 同 春日あまねし万葉の流刑地に 同 鶯や万葉の野を席巻す 同
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
令和4年5月21日 鯖江花鳥句会 坊城俊樹選 特選句
一輪は少し小さく二輪草 雪 咲き倦みし十二単の紫も 同 人淋し二人静の花の名に 同 新しき鋏で薔薇の手入かな 同 人乗せてふらここと云ふ揺れ様に 同 永き日や動かして見る石一つ 同 人の世に二人静の花として 同 花冷と云ふ美しき夜の色 同 蝶知るや初蝶として待たれしを 同 虹立ちぬ私雨に軒借れば 一涓 町中の道に横切る蛇に遇ふ 中山昭子 羅やピアスに及ぶ愁ひあり 上嶋昭子 噴水のみどりの風に穂を揃へ 世詩明 風鈴を吊りて孤独を紛らはし 同 妊れる女片影寄り歩く 同
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
令和4年5月22日 月例会 坊城俊樹選 特選句
十字架はエルサレムへ向け風光る いづみ 青葉蔭ひそと風神育ちつつ 千種 砲口は二度と開かず夏の雲 月惑 風見鶏よりゆらゆらと夏の蝶 炳子 ジーパンへ真夏の脚をとぢこめる 光子 白鳩は夏雲の綺羅として零れ 小鳥 肩上げて走る少年夏の雲 和子 行く先へ一瞬止まる瑠璃蜥蜴 政江
岡田順子選 特選句
花に棲む木霊らしきへ黒揚羽 俊樹 夏霞海峡の橋空に架く 裕章 ジーパンへ真夏の脚をとぢこめる 光子 磔刑のイエスへ舞はぬ黒揚羽 俊樹 舞殿の鈴の鳴るかにユッカかな 圭魚 蓮の葉はいまだ小人が乗る程度 俊樹 靖国の同期のさくらんぼ揺るる いづみ 􄑰􄑰を緋鯉呑みては金色に 俊樹 衛士は今休めの姿勢木下闇 梓渕 教会や十字架雲の峰を生む 和子
栗林圭魚選 特選句
桜の実踏み研修のバスガイド 順子 病葉を掃き寄せ森に戻しけり 梓渕 炎昼の影を小さく警邏立つ 光子 新樹萌え茶室を闇に誘へり 梓渕 万緑の闇に鎮みし八咫鏡 いづみ 山姥の齧り捨てたる桜の実 要 葉桜や雑念払ひ切れずをり 秋尚
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
令和4年5月 九州花鳥会 坊城俊樹選 特選句
兵の死へ怒濤のごとき冬銀河 佐和 潮の香の茅花流しに出会ふ道 久美子 茅花流しみすゞの海の鯨墓 美穂 捩花や後ろの正面だあれ ひとみ 苺この光沢ベネチアングラス 勝利 夏潮の夕餉にぎあふ漁師飯 喜和 薬玉に風は平城宮より来 愛 茅花流し川向うより蹄音 成子 ビルの窓アルミホイルのやうな夏 ひとみ 離れ難くて飛ばしたる草矢かな 美穂
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
令和4年4月6日 立待俳句会 坊城俊樹選 特選句
筍が十二単を纏ひつつ 世詩明 南方に行けば散りたる渡り鳥 同 巣つばめに留守を預けし駐在所 同 風立ちて赤き炎の野火走る ただし 霾るや大名町も片町も 清女 小屋の前若芽探るや茗荷汁 輝一 猫寺に春待ち顔の猫ばかり 洋子 三つ編の少女三人ふらここに 同 蕗の薹仏秘観音在す寺 やす香 乱心の如くさまよひ梅雨の蝶 秋子
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
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kachoushi · 3 years ago
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風月句会
2022年5月15日
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於:多摩市民館4F第6会議室
坊城俊樹選 栗林圭魚選
坊城俊樹選 特選句
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坊城俊樹選 特選句
頬杖の墓美しく新樹光 慶月 木の朽ちて大蛇めきたる翳り沼 文英 あぢさゐの色ととのはず人逝けり 葉月 黒南風や樹霊を浸す水の音 千種 蜘蛛の糸聖観音の背中より 慶月 鎌倉へ羽蟻を運ぶ蟻一つ 久子 青梅の転がる坂の下に句碑 要
坊城俊樹選 入選句
一陣の古の風時鳥 久子 鎌倉の城跡遥か谷若葉 眞理子 将来は植物学者蛇苺 久 切株を包み十薬香り濃し 圭魚 さくらの実とはくれなゐにほろ苦く 斉 姫女苑供花とし宝永墓朽ちぬ 慶月 行春や梵鐘音をくれぬまま 佑天 朴の花真白き命天に置き 三無 梅雨昏む空突き上げて母子像 芙佐子 葉隠を少し灯して柿の花 斉 五輪塔朽ち老鶯の鳴き渡る 要 街騒を遠くまとひて山若葉 眞理子 枡形門夏黒蝶は武士か ます江 人しれず頭擡ぐる蛇苺 千種 濡れてゐる薔薇の薫りに夜の匂 斉 隠沼に泥を漁りて夏の鴨 要 陽子さんへ供華のどくだみ姫女苑 慶月 姫女苑ここにも澄まし顔をして 秋尚 枡形の山にとよもす青葉木菟 幸風 青葉冷メタセコイアは傾かず 千種 稲毛氏の寺門はひそと朴の花 芙佐子 錆びゆくを天へ曝して朴の花 要 薔薇園へバスの乗客ただならず 圭魚 切り岸を埋め棒立ち姫女苑 千種 赤き灯を点す漫ろの蛇苺 亜栄子 春闌ける多摩川のたり流れたり 佑天 丹沢の影墨絵めく夏霞 秋尚 柿の花万余中ばは地に還り 圭魚 山門を昏めて高き朴の花 斉 峠路へ傾れ落ちをり山うつぎ 芙佐子 城址へと胸突坂の薄暑かな 炳子 傾きし墓碑に重なる桜蘂 葉月 五輪塔黴に傾げてをる古刹 慶月 母の塔マリア降りくる聖五月 久子 若葉風丸く広がる地平線 白陶 夏帽を��よと上げ詣で心かな千種 谷間の暗きに菖蒲黃を放つ 芙佐子 森抜けて薫風よぎる母の塔 三無 鈍色の空を薄めて朴咲けり 亜栄子 観音の結縁円し暮の春 佑天 十薬の十字の白や武士の墓 葉月 
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栗林圭魚選 出句
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栗林圭魚選 出句
薔薇園へバスの乗客ただならず  朴の花崩れ落ちんとかくも焦げ 万緑や遠き丹沢行夢見 切株を包み十薬香り濃し 笹藪を抜けて華やぎ金銀花 柿の花万余中ばは地に還り 薄曇囀り細く途切れがち
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栗林圭魚選 特選句
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栗林圭魚選 特選句
朴の花真白き命天に置き 三無 大空を水馬飛ぶ池の面 軽象 ひとつづつ落つる準備のえごの花 秋尚 稲毛氏の寺門はひそと朴の花 芙佐子 錆びゆくを天へ曝して朴の花 要 母の塔新樹の風に集ふ人 ます江 翡翠の帰りを待たず水流る 久
栗林圭魚選 入選句
鎌倉の城跡遥か谷若葉 眞理子 母の塔TARO恋しと鳴く老鶯 亜栄子 登城坂なりしよ定家葛咲く 千種 漆黒のD51映ゆる樟若葉 芙佐子 姫女苑植物園の道すがら 白陶 鎮魂碑メタセコイアの緑さす 要 夏めくや樹々耀ふて音を成し 眞理子 梅雨昏む空突き上げて母子像 芙佐子 街路樹は桂新樹の波となり ます江 大いなる新樹並木の中に入る 白陶 五輪塔朽ち老鶯の鳴き渡る 要 竹組みに幼の塗り絵蟻登る 佑天 蜘蛛の糸聖観音の背中より 慶月 老鶯の木霊す横山母の塔 亜栄子 枡形門夏黒蝶は武士か ます江 城址に都心一望夏霞 芙佐子 若楓空にささやきかけてをり 白陶 隠沼に泥を漁りて夏の鴨 要 軒下に伸びする猫や花卯木 眞理子 見下せど見えざるほどに谷若葉 白陶 ジョギングの蹴散らしゆく桜の実 芙佐子 鐘楼の綱を五月の風揺らす 慶月 丹沢の影墨絵めく夏霞 秋尚 山門を昏めて高き朴の花 斉 青梅の転がる坂の下に句碑 要 城址へと胸突坂の薄暑かな 炳子 定家かずら花より蔓をたどりたる 久 五輪塔黴に傾げてをる古刹 慶月 隠沼にメタセコイアの新樹光 幸風 夏帽をちよと上げ詣で心かな 千種 森抜けて薫風よぎる母の塔 三無 鈍色の空を薄めて朴咲けり 亜栄子 観音の結縁円し暮の春 佑天 墓石より旅立つ揚羽蝶雲へ 慶月
(順不同特選句のみ掲載)三無記
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kachoushi · 5 years ago
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各地句会報
花鳥誌令和2年8月号
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坊城俊樹選
栗林圭魚選 岡田順子選
令和2年5月5日 さゞれ会
累々と墓黒々と落椿 雪   落椿踏むにつけても偲ぶ人 同   落椿女を踏むと云ふ男 同   表札に士族とありて武具飾る 匠   閻魔様に折り合ひつけて彼岸寺 同   夫逝きし白を極めるつつじかな 笑   満開に共に歩みし人のなく 雪子
(順不同) ………………………………………………………………
令和2年5月7日 うづら三日の月句会
坊城俊樹選 特選句
葉桜の香り流るる足羽川 英子 夏近し手足やさしく風過ぐる 同   角砂糖白磁に溶けて街薄暑 都   遠き日にここで迷ひし麦の秋 同   一輪の余花に集まる日差しかな 同  
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
令和2年5月11日 武生花鳥俳句会
坊城俊樹選 特選句
髪止めに真珠一つぶ五月来る 上嶋昭子 喪のひとの手のひんやりと若葉どき 同   大砲のごとく筍置かれけり 信子 鉄塔の四脚も植田の中となる 同   楮漉く千年の里風光る 時江 金泥に波打つ裾野竹の秋 同   花吹雪殉国の人偲ばばや みす枝 月光に濡れて新樹の艶めけり 同   晴天に大きくうねる鯉幟 さよ子 青梅の落つる音してふと不安 同   大空を大きく沈む代田かな 錦子 バイブルに手をおく祈り風薫る ミチ子 草朧ふはりと人の現れし 中山昭子 百匹の大河を跨ぐこひのぼり 英美子
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
令和2年5月12日 萩花鳥句会
城山を消して卯の花腐しかな 小勇 老いし猫病みて添ひ寝や明易し 祐子 夏めくや開襟シャツにスニーカー 美恵子 春昼や地上の雀おにごつこ 吉之 工夫してマスク文化は手縫ひから 健雄 ひと月半家籠る間に夏めきて 陽子 葉桜や四女は無事に嬰児を ゆかり 産土の原始の森の椎若葉 克弘
(順不同) ………………………………………………………………
令和2年5月12日 さくら花鳥会
岡田順子選 特選句
黙々と祖母想ひ剥く夏蜜柑 裕子 釜の艶褒められもして夏炉守 寿子 鯖へしこ無口な兄が酔ふ夕べ 登美子 夏籠写経もひとり墨を磨る 令子 振り向けば囲まれてゐし遠蛙 紀子 海夕焼け劇画の如き雲なりし みえこ 父からの筍二本と帰路につく 裕子
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
令和2年5月13日 芦原花鳥句会
坊城俊樹選 特選句
もこもこの優しき綿毛白木蓮 けんじ 紙風船薬の匂ひふくらませ 孝子 静かにもおでましならず雛の間 寛子 春の山眠り解くや獣道 依子
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
令和2年5月13日 鳥取花鳥会
岡田順子選 特選句
島浦の永久なる茅花流しかな 栄子 叢雨の止みて香の立つ花楝 益恵 若布干す近寄る孫も追ひ払ひ すみ子 番傘に宿屋の太字夏の雨 幹也 柏手に滝音遠く加はれり 宇太郎 緑陰に臼置かれあり陣屋跡 都   東照宮深くに沈め夏あざみ 悦子 新緑を天蓋にして墓眠る 佐代子 若布干す並びし媼皆一糸 すみ子 鰻食ふ昔の川の匂ひして 幹也
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
令和2年5月16日 伊藤柏翠俳句記念館
坊城俊樹選 特選句
牡丹の芽ほぐるる音の有るや無し 雪   揺られざるまま揺られゐし糸桜 英美子 陸軍墓地裏山道や著莪の花 ただし ジョンウェイン様に御目もじ春の暮 和子 農小屋を開くこと待つ燕かな 富子 竹の秋一山を似て一寺なる 一仁 青葉風軍馬の像の駈けるごと みす枝 子供の日兜かぶせて大将に 同  
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
令和2年5月21日 鯖江花鳥俳句会
坊城俊樹選 特選句
初蝶に待たるる思ひして人に 雪   永き日や遅るにまかす置時計 同   濁世いま風を靡かせ薔薇香る 一涓 結ひ今も眼裏にあり植田見る 同   水口に水踊り入れ代掻きぬ みす枝 一面の黄金焦げゆく麦の秋 同   終夜月明るくて明け易し 直子 村眠る代田に星を溢れしめ 信子 荒島岳そつくり映す代田かな 昭子 花芯より崩るは哀し白牡丹 世詩明
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
令和2年5月 零の会(投句のみ)
坊城俊樹選 特選句
茉莉花の月よりたたなづくかをり 光子 海ほほづき写真に遺る姉二人 炳子 天帝の夜へひとこゑや青葉木菟 順子 括られしままのふらここ雲流る 眞理子 薄暑かなひとはひとから遠ざかる 公世 チューリップみだらに割れて蕊黒し 和子 眉を引く八十八夜のバスルーム いづみ 白藤のゆさり青磁の大鉢に 眞理子 まつしろな水へ噴水落ち続け 千種 夕暮が燃え尽きてゐる薄暑かな 伊豫 吸ふ息を肺に満たして春惜む 小鳥 出棺を見送りに出る花の下 清流 列島をがらんどうなる薄暑来る 伊豫
岡田順子選 特選句
昼寝覚なんたる猫の目の蒼さ 公世 街一切消えてゆくなり春夕焼 和子 括られしままのふらここ雲流る 眞理子 スケボーの子に引つぱられ藤の花 小鳥 撫でてゐる馬は相棒ライラック 光子 こ煩い姉にまつかなアマリリス 三郎 塵芥車のうた角に消え街薄暑 小鳥 薔薇見えて噴水見えぬ席であり 千種 青といふ頑是なきもの子どもの日 公世 桜蕊降り頻る日のとしあつ忌 清流 俯いてからの青空姫女菀 慶月 股ぐらを通り抜けたる青嵐 伊豫 十字架の薄暑の胸となりしかな 俊樹 谷根千の古寺を過ぎりてつばくらめ 梓渕
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
令和2年5月 なかみち句会(投句のみ)
栗林圭魚選 特選句
一八の花に湧く風しなやかに 秋尚 摩崖仏仰ぎ見る目に若葉風 有有 幣揺らす五月の風や祝詞上ぐ 貴薫 青空へ姿勢正して緑立つ 秋尚 品書は心太のみ峠茶屋 美貴 矢車や音立てやをら廻りだし せつこ 紫に波打つ藤の幹猛る 怜   産土の杜ふくらませ楠若葉 同   若葉風兄に会ひたく無言館 あき子 豆桜富士山見ゆる峠道 ことこ
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
令和2年5月 風月句会(投句のみ)
坊城俊樹選 特選句
空つぽのブランコのまだ揺れてゐる 和子 薔薇咲かせ運命流しくる隣家 慶月 少年の拳にささる薔薇の棘 炳子 踏み切りに人疎らなる駅薄暑 慶月 狛犬は韓国風の宮薄暑 要   愁ひつつ神鈴振れば青葉風 政江 鏝跡の壁の屋敷と白薔薇と 慶月 青蔦の囲む窓よりランプの灯 政江 さざめきを洩らし薔薇園閉鎖中 眞理子 まどかなる月へまつたき白薔薇 千種
栗林圭魚選 特選句
大ぶりの豆大福や古茶を汲む 眞理子 湧き上がりつつ鎮れる新樹かな 要   富士塚の頂上よりの若楓 同   大空に連なるこゑの揚雲雀 幸風 鉄線の花に触れ去る影一つ 久子 揺るぎなき銅の鳥居や夏の蝶 亜栄子 グッピーと共に隠居や新茶汲む 亜栄子 蝦蛄剥きし指の痛みに白ワイン 要  
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
令和2年5月 福井花鳥句会(投句のみ)
坊城俊樹選 特選句
黒髪の娘の洗ひ髪すぐ乾く 世詩明 一気呑みビールは咽を鳴らしけり 同   柏餅供へて偲ぶ吾子のこと 千代子 囚はれのごとき身なりて春は逝く 和子 四月尽人通り無きこの街に 同   菜園の中は蝶々の交叉点 千加江 吾子ら来ぬ牡丹咲けど亦散れど 昭子 深海の色の紫陽花贈り来る 同   自粛にてクロスワードす日永かな 令子 ひとひらの光となりて花は葉に 啓子 遠ざかる思ひ出ばかり花は葉に 同   ダム見えて無尽蔵なる蕗の径 よしのり リラ満ちて無人校舎の無表情 数幸 初蝶の黄の滴らんばかりなる 雪  
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
令和2年5月 九州花鳥会
坊城俊樹選 特選句
フーコーの振り子の孤独五月闇 伸子 卯の花や仏の胸に彫る仏 成子 街薄暑時をきざまぬ花時計 豊子 紫陽花に薄水色の雨の降る 千代 弥陀仏の薄目の奥の楠若葉 さえこ 少年の孤独の前にかたつむり 朝子 来し方を肘の蛍と戻りけり 愛   潮の香の高きふるさと夏の月 洋子 花卯木垣に咲かせて尼の留守 初子 永仁の壺中に深し五月闇 喜和 夏の蝶天を破りて降り来たる 朝子 卯の花の乱れやすきを篭盛に 豊子 桜桃忌磁針はいつも揺れ迷ふ 伸子 アパートの小暗き窓や夕蛍 志津子 生き方を変へねばといふ夏来る 光子 籠りゐの春漸くに夏の立つ 由紀子 新樹燃ゆ薬五粒に生かされて 初子
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
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