#語られぬ樹に実は熟し
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「婚活」について。 結婚について年来の持説を述べる。 どのような相手と結婚しても、「それなりに幸福になれる」という高い適応能力は、生物的に言っても、社会的に言っても生き延びる上で必須の資質である。 それを涵養せねばならない。 「異性が10人いたらそのうちの3人とは『結婚できそう』と思える」のが成人の条件であり、「10人いたら5人とはオッケー」というのが「成熟した大人」であり、「10人いたら、7人はいけます」というのが「達人」である。 Someday my prince will come というようなお題目を唱えているうちは子どもである。 つねづね申し上げているように、子どもをほんとうに生き延びさせたいと望むなら、親たちは次の三つの能力を優先的に涵養させなければならない。 何でも食える どこでも寝られる だれとでも友だちになれる 最後の「誰とでも友だちになれる」は「誰とでも結婚できる」とほぼ同義と解釈していただいてよい。 こういうと「ばかばかしい」と笑う人がいる。 それは短見というものである。 よく考えて欲しい。 どこの世界に「何でも食える」人間がいるものか。 世界は「食えないもの」で満ち満ちているのである。 「何でも食える」人間というのは「食えるもの」と「食えないもの」を直感で瞬時に判定できる人間のことである。 「どこでも寝られる」はずがない。 世界は「危険」で満ち満ちているのである。 「どこでも寝られる」人間とは、「そこでは緊張を緩めても大丈夫な空間」と「緊張を要する空間」を直感的にみきわめられる人間のことである。 同じように、「誰とでも友だちになれる」はずがない。 邪悪な人間、愚鈍な人間、人の生きる意欲を殺ぐ人間たちに私たちは取り囲まれているからである。 「誰とでも友だちになれる」人間とは、そのような「私が生き延びる可能性を減殺しかねない人間」を一瞥しただけで検知できて、回避できる人間のことである。 「誰とでも結婚できる」人間もそれと同じである。 誰とでも結婚できるはずがないではないか。 「自分が生き延び、その心身の潜在可能性を開花させるチャンスを積み増ししてくれそうな人間」とそうではない人間を直感的にみきわめる力がなくては、「10人中3人」というようなリスキーなことは言えない。 そして、それはまったく同じ条件を相手からも求められているということを意味している。 「この人は私が生き延び、ポテンシャルを開花することを支援する人か妨害する人か?」を向こうは向こうでスクリーニングしているのである。 どちらも「直感的に」、「可能性」について考量しているのである。 だから、今ここでその判断の正しさは証明しようがない。 そ���ぞれの判断の「正しさ」はこれから構築してゆくのである。 自分がその相手を選んだことによって、潜在可能性を豊かに開花させ、幸福な人生を送ったという事実によって「自分の判断の正しさ」を事後的に証明するのである。 配偶者を選ぶとき、それが「正しい選択である」ことを今ここで証明してみせろと言われて答えられる人はどこにもいない。 それが「正しい選択」であったことは自分が現に幸福になることによってこれから証明するのである。 だから、「誰とでも結婚できる」というのは、言葉は浮ついているが、実際にはかなり複雑な人間的資質なのである。 それはこれまでの経験に裏づけられた「人を見る眼」を要求し、同時に、どのような条件下でも「私は幸福になってみせる」というゆるがぬ決断を要求する。 いまの人々がなかなか結婚できないのは、第一に自分の「人を見る眼」を自分自身が信用していないからであり、第二に「いまだ知られざる潜在可能性」が自分に蔵されていることを実は信じていないからである。 相手が信じられないから結婚できないのではなく、自分を信じていないから結婚できないのである。
学院標語と結婚の条件 - 内田樹の研究室
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「宮崎正弘の国際情勢解題」
令和五年(2023)12月27日(水曜日)参
通巻第8070号
AIは喜怒哀楽を表現できない。人間の霊的な精神の営為を超えることはない
文学の名作は豊かな情感と創造性の霊感がつくりだしたのだ
*************************
わずか五七五の十七文字で、すべてを印象的に表現できる芸術が俳句である。三十一文字に表すのが和歌である。文学の極地といってよい。
どんな新聞や雑誌にも俳句と和歌の欄があり、多くの読者を引きつけている。その魅力の源泉に、私たちはAI時代の創作のあり方を見いだせるのではないか。
「荒海や佐渡によこたう天の川」、「夏草や強者どもが夢の跡」、「無残やな甲の下の蟋蟀」、「旅に病で夢は枯野をかけ巡る」。。。。。
このような芭蕉の俳句を、AIは真似事は出来るだろうが、人の心を打つ名句をひねり出すとは考えにくい。和歌もそうだろう。
『春過ぎて 夏来にけらし 白妙の 衣干すてふ 天香具山』(持統天皇)
皇族から庶民に至るまで日本人は深い味わいが籠もる歌を詠んだ。歌の伝統はすでにスサノオの出雲八重垣にはじまり、ヤマトタケルの「まほろば」へとうたいつがれた。
しかし人工知能(AI)の開発を米国と凌ぎを削る中国で、ついにAIが書いたSF小説が文学賞を受賞した。衝撃に近いニュースである。
生成AIで対話を繰り返し、たったの3時間で作品が完成したと『武漢晩報』(12月26日)が報じた。この作品は『機憶(機械の記憶)の地』と題され、実験の失敗で家族の記憶を失った神経工学の専門家が、AIとともに仮想空間「メタバース」を旅して自らの記憶を取り戻そうとする短編。作者は清華大でAIを研究する沈陽教授である。生成AIと66回の対話を重ね、沈教授はこの作品を「江蘇省青年SF作品大賞」に応募した。AIが生成した作品であることを予め知らされていたのは選考委員6人のうち1人だけで、委員3人がこの作品を推薦し
「2等賞」受賞となったとか。
きっと近年中に芥川賞、直木賞、谷崎賞、川端賞のほかに文学界新人賞、群像賞など新人が応募できる文学賞は中止することになるのでは? 考えようによっては、それは恐るべき時代ではないのか。
文学の名作は最初の一行が作家の精神の凝縮として呻吟から産まれるのである。
紫式部『源氏物語』の有名な書き出しはこうである。
「いづれの御時にか、女御、更衣あまたさぶらひたまひける中に、いとやむごとなき際にはあらぬが、すぐれて時めきたまふありけり」
ライバルは清少納言だった。「春は曙、やうやう白く成り行く山際すこし明かりて、紫立ちたる雲の細くたなびきたる」(清少納言『『枕草子』』
「かくありし時すぎて、世の中にいとものはかなく、とにもかくにもつかで、世に経るひとありけり」(道綱母『蜻蛉日記』)
額田女王の和歌の代表作とされるのは、愛媛の港で白村江へ向かおうとする船団の情景を齊明天王の心情に託して詠んだ。
「熟田津に 船乗りせむと月待てば 潮もかなひぬ今は漕こぎ出いでな」(『万葉集』)。
「昔、男初冠して、平城の京春日の郷に、しるよしして、狩りにいにけり。その里に、いとなまめいた��女はらから住みけり。」(『伊勢物語』)
▼中世の日本人はかくも情緒にみちていた
「ゆく河の流れは絶えずして、しかももとの水にあらず。淀みに浮か��泡沫(うたかた)はかつ消えかつ結びて、久しくとどまりたるためしなし」(『方丈記』)
『平家物語』の書き出しは誰もが知っている。
「祇園精舎の鐘の声、諸行無常の響きあり。 沙羅双樹の花の色、盛者必衰の理をあらはす。 奢れる人も久からず、ただ春の夜の夢のごとし。 猛き者も遂にはほろびぬ、 偏(ひとへ)に風の前の塵におなじ」。
『太平記』の書き出しは「蒙(もう)竊(ひそ)かに古今の変化を探つて、安危の所由を察(み)るに、覆つて外(ほか)なきは天の徳なり」(『太平記』兵藤祐己校注、岩波文庫版)
「つれづれなるままに、日くらし硯にむかひて、心にうつりゆくよしなし事を、そこはかとなく書きつくれば、あやしうこそものぐるほしけれ」(『徒然草』)
古代から平安時代まで日本の文学は無常観を基盤としている。
江戸時代になると、文章が多彩に変わる。
井原西鶴の『好色一代男』の書き出しは「「本朝遊女のはじまり、江州の朝妻、播州の室津より事起こりて、いま国々になりぬ」
上田秋成の『雨月物語』の書き出しはこうだ。
「あふ坂の関守にゆるされてより、秋こし山の黄葉(もみぢ)見過しがたく、浜千鳥の跡ふみつくる鳴海がた、不尽(ふじ)の高嶺の煙、浮島がはら、清見が関、大磯小いその浦々」。
近代文学は文体がかわって合理性を帯びてくる。
「木曽路はすべて山の中である」(島崎藤村『夜明け前』)
「親譲りの無鉄砲で小供の時から損ばかりしている。小学校に居る時分学校の二階から飛び降りて一週間ほど腰を抜ぬかした事がある」(夏目漱石『坊っちゃん』)
「石炭をば早はや積み果てつ。中等室の卓つくゑのほとりはいと静にて、熾熱燈の光の晴れがましきも徒らなり。今宵は夜毎にこゝに集ひ来る骨牌カルタ仲間もホテルに宿りて、舟に残れるは余一人ひとりのみなれば」(森鴎外『舞姫』)。
描写は絵画的になり実生活の情緒が溢れる。
「国境の長いトンネルをぬけると雪国だった」(川端康成『雪国』)
谷崎潤一郎『細雪』の書き出しは写実的になる。
「『こいさん、頼むわ』。鏡の中で、廊下からうしろへ這入はいって来た妙子を見ると、自分で襟えりを塗りかけていた刷毛はけを渡して、其方は見ずに、眼の前に映っている長襦袢姿の、抜き衣紋の顔を他人の顔のように見据みすえながら、『雪子ちゃん下で何してる』と、幸子はきいた」。
「或春の日暮れです。唐の都洛陽の西の門の下に、ばんやり空を仰いでいる、一人の若者がありました」(芥川龍之介『杜子春』)
▼戦後文学はかなり変質を遂げたが。。。
戦後文学はそれぞれが独自の文体を発揮し始めた。
「朝、食堂でスウプをひとさじ吸って、お母様が『あ』と幽(かす)かな声をお挙げになった」(太宰治『斜陽』)
「その頃も旅をしていた。ある国を出て、別の国に入り、そこの首府の学生町の安い旅館で寝たり起きたりして私はその日その日をすごしていた」(開高健『夏の闇』)
「雪後庵は起伏の多い小石川の高台にあって、幸いに戦災を免れた」(三島由紀夫『宴のあと』)
和歌もかなりの変質を遂げた。
正統派の辞世は
「益荒男が 手挟む太刀の鞘鳴りに 幾とせ耐えて今日の初霜」(三島由紀夫)
「散るをいとふ 世にも人にも さきがけて 散るこそ花と 吹く小夜嵐」(同)
サラダ記念日などのような前衛は例外としても、たとえば寺山修司の和歌は
「マッチ擦る つかのま海に霧ふかし 身捨つるほどの 祖国はありや。」
わずか三十一文字のなかで総てが凝縮されている。そこから想像が拡がっていく。
こうした絶望、空虚、無常を表す人間の微細な感情は、喜怒哀楽のない機械が想像出来るとはとうてい考えられないのである。
AIは人間の霊感、霊的な精神の営みをこえることはない。
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『ガラスの街』
五月は読書の月だ。僕は本を読んだ。数多の本を。 最初、それは次の小説のアイデアを得るためだった。頭上の樹々からワインのための葡萄をもぎ取るような、循環を続けるにあたっての摂取だった。いきおい堕落しつつある現実から少しでも意識を逸らすためでもあった。 普段の僕は、本を読んで時間を過ごすことは少ない。長い時間ひとつの文章に集中することができないのだ。 それに読むことよりは書くことのほうがずっと大切だと僕は思っている。読む行為は、現実という制限された枠組みのなかではせいぜい膝丈ほどの優先度しかなかった。 しかし五月ではあらゆるものが落下した。熟れ過ぎた果実が枝との繋がり終え、足元に開いた坩堝に呑み込まれていった。読む行為もそうだ。落ち、煮え滾る器の中で混合した。 いまでは僕の「読む」は混沌としている。それはいまでは長身の僕、その僕以上にのっそりとそびえる一本の巨大な柱となっている。物言わぬ花崗岩の柱。五月、僕はそんな柱を中心にぐるぐると回り続けている。手は文庫本に添えられ、目は9.25ポイントの文字に注がれている。足は僕の意識から離れて交互に動いている。ひたすら歩き、ひたすら読んでいる。柱から少し離れた誰彼にどう見られているかどう言われているかなんてことお構いなしに。
いや。そんな話自体がどうでもいい。関係ない。 きょう、僕は自分自身が”うすのろ”だということを語りにきたのだ。
***
五月。 僕はどんなものを読んだのだろうか。 金ができて僕がまずやったことは大学生協の本屋に行くことだった。カウンターで二枚つづりの注文用紙を手に取り、もう何年も使い続けている青のボールペンで書いた。 "9784002012759" 週明け、僕は地下の生協で注文の品を受け取った。『失われた時を求めて』全十四冊。いまは第一巻を読んでいる。僕がふと目をあげると、あの遠い窓の奥で、大叔母が目を爛々と輝かせているというイメージが浮かぶ。泳ぐような精神の移ろいもまた。
シェイクスピアの『夏の夜の夢』も読んだ。 『MONKEY』のvol.31の三篇、ケン・リュウ「夏の読書」、イーディス・ウォートン「ジングー」、ボルヘス「バベルの図書館」も読んだ。 仕方なく後回しにされていた本を買って読んだのだ。 金銭の自由は、精神という鈍い壁に茂っていた蔓植物のような不足を一太刀で解決した。
『春の庭』も読んだ。『九年前の祈り』も。 ウルフの『波』も読み始めている。 僕の貪欲は、過去に読んだことがあるかどうかなんてものでは選ばなかった。カーヴァーの『象』、春樹の「タイ・ランド」、マン��ーの「イラクサ」、ヴォネガットの『スローターハウス5』。マラマッドの「悼む人」も読んだ。
一度の時に、僕はこれらの本を読んだのだった。 こんなに大量のフィクションを仕入れて、いったい何をしようとしているのか? 紛争でも起こそうとしているのか?
何のためか。それは僕自身にもわからなかった。 僕は特定の目的をもって読んだわけではなかったようだった。五月の読書は「文章の上達」や、「ストーリーテリングの技法」といったそれまでの興味とは別物だった。振り返ればそうだとわかる。
五月の読書は、それまでの自分を抑制しようとする、極めて機械的な態度とは違っていたのだ。 言えば、それは無垢に機械的な読書だった。 これまでの僕は断じて読書好きではなかった。どんな傑作でも一時間もしないうちに音を上げて投げ出した。ドストエフスキーやメルヴィルと出会ったときでさえ、メインストリームは”書くこと”、そして”生きること”で変わらなかった。この五月に僕は初めてむさぼるように読んだのだ。頭を空っぽにして。堆い小説の亡骸の山に坐すかのようにして。
それで、僕は何かしら成長したか。 いや。成長なんて一つもなかった。 そこには変化さえなかった。二週間前と、すべては同じだった。僕が着るのは依然深いグレーのブルゾンだった。コミュニケーションもぎこちないままだった。 だからそこで起きたことはシンプルだ。つまり、僕はポール・オースターの『ガラスの街』を読み、ある一つの事実に行き当たった。 「僕はなんという低能なのだ」という事実に。
***
一昨日から僕はポール・オースターの『ガラスの街』を読み始める。 『MONKEY』でオースターのエッセイを読んで彼のことを思い出し、その夜に丸善に立ち寄った僕は彼の本を久々に手に取った。 三日で読んだ。 「三日で読む」というのは僕にとってほとんどあり得ないことだった。僕のリュックサックには必ず四、五冊の本があった。読むときにはまずそのとき一番惹かれる本を手に取った。そして十数ページが過ぎ、抱いていた軽度の好奇心が満たされてしまうと、浮気性の蜜蜂のようにまた別の小説の甘いのを求めるのだった。 だから、一日目、二日目と時を経るごとに加速度的にその好奇心が勢いを増し、三日目には150ページを一つの瞬間に通貫して読んでしまったのだ。僕の読書体験において、異例中の異例だった。
『ガラスの街』を読んで、僕はうちのめされた。徹底的に。 ”面白さ”、そして”新鮮さ”の二つが、やはり事の中心だった。読書においておきまりのその二つが今回も僕を虐め抜いたというわけだ。 『ガラスの街』を読み終えた瞬間、僕の生きる世界のどこかが確実に変化した。
「祈っている。」 僕がこの最後の一文を読んだとき、曇り空の下にいた。その一節がこちらに流れ込んできたあと、僕は立ち上がった。テーブルがごとりと���れるほどぶっきらぼうに立った。取り乱していたのだった。僕はそのままであてもなく歩き始めた。 「これ以上座っていることはできない」 「このまま座っていると、僕は頭の先から崩れ落ちてしまう不可逆的に」 そうした、僕という精神を一切合切覆してしまうほどの強烈な予感のために。 僕は予感に乗っ取られないよう、何も考えないと努めていた。何も感じまい、何も見まい、と。 リラックスを意識し、肩から力を抜く。腕をぐんと伸ばし、指をぽきぽきと鳴らした。イヤホンを耳にした。『ベリーエイク』を再生する。いつか足元をくすぐった波のように心地よい、ビリーアイリッシュの声に心をしっとり傾けた。 もちろん、そんなことは無駄だった。とりあえずの形など、何の助けにもならなかった。以前との比較から始まる違和感たちは強権的に僕の感情の戸をこじ開けた。 歩く中、透明の空気が奇妙に凪いでいた。風景からは特定の色が抜け落ちていた。向こうで笑う声、衣擦れの音、靴底の摩擦。音という音がワンテンポずれて聞こえた。 変化は女王だった。彼女は支配的だった。 僕は小説による変化を受け入れ、恭順のように認めたわけではなかった。むしろ、変化は僕にどうしようもなく訪れていた。言わば、言い渡しのようにして。 女王を僕は素晴らしい小説を読んだ後の”ゆらぎ”の中に閉じ込めたのだった。何もかもが、僕に合わない形に作り替えられていた。建物を構成する直線はいまやでたらめで恐��がつのった。頭上の青はこのように汚い灰色では絶対なかった。
――そして、当然、この点についての文章はかたちだけに過ぎない。これらは省略した文章。書く必要がないということ。 なぜなら、あなたたちもかつて同じ経験を経ているからだ。小説を読み終えたあとに来る世界の変質を。 加えて、忘れるなんてことを女王が許すわけもない。これについても言わずもがなだろう。
そして、重要なのは変化のよろめきではない。 そうなんだ。きょうしたいのは女王の話とは実は違うのだ。ここであなたに伝える言葉は破壊だ。 破壊。 それは”面白さ”と”新鮮さ”のコンビがやったわけではなかった。変化の体験に曝されたゆえのサイコ・ショックでもない。 木々を打ち砕く手斧となり、人体を壊す剣となり、バベルの塔をゼロにする雷となったのは、オースターの書きっぷりだった。
オースターは、考え抜いていた。 そこで”感じ”は排除されていた。 感覚による言い表しがまるで無かったのだ。僅かにイメージに依拠するものがあっても、それは必ず共感の姿勢だった。テーブルに身を乗り出し、相手の声に耳を澄ませる態度。
『ガラスの街』では、本当に一切���協はなかった。僕はとても信じられず、街を隅から隅までしつこく歩き回った。しかし、本当に妥協はどこにも無かった。
オースターは僕とコミュニケートすることを選んでいた。そのへんの宙に感覚という水彩画を描いて「ほらご覧」とする、ごく個人的で他者には見せつけるだけという表現は徹底的にしなかった。チャンドラーを始め、私立探偵ものに由来する例の論理的な高慢さはあった。しかし、確実にオースターは読者と対峙していた。彼は殴る、殴られる痛みを完全に了解した上でリングに立っていた。 彼の据わった眼が僕を揺るがしたのだった。彼は完全の脆弱性を知りながら、完全に書いていた。 それだから、彼を読んだとき、僕は……
向こうから厚底ブーツの女が歩いてくる。 女は痩せている。薄い、流線形の黒一枚に身を包んでいる。背が高く、ありったけに若い。二十歳前後に見える。二つの瞳はキャップに隠れている。すれ違いざまに見える耳にさえ、カナル型のイヤホンで黒が差されている。マニキュアはあまりにも美しい銀色に染まっており、高まりを誘う。 センスがいい。綺麗だ。 彼女はなんて豊かなんだ。 僕はそう思う。 ほとんど同時に、ガラス一枚を隔てた向こうで本を読む人を見つける。 また女だったが、今回性別は重要ではなかった。その読む人は区切られたブースで、文庫に目を落としていた。化粧や唯一のファッションなどもなく、やはり装飾は重要でなかった。というのも、いまにも涎が垂れてきそうなほどに口をあんぐりと開けて読んでいた間抜けなその放心が、僕の記憶に楔として打ち込まれていたからだ。
これらのスケッチが、何かを直截に意味することはない。二つの風景は隠喩ではない。 正直に、上記は僕が受けた印象の再放送だ。 この日記は『不思議の国のアリス』ではない。二つは作為的な意味を持たない。 書いたのは「意味を持たない」ということを明らかにするためだ。 その内容でなく、外側、僕のスタイルという基本的な骨組みを露わにするためだ。
そう。だから、つまり……僕は痛みから逃げている。オースターとは違って。 きょう、読んで、事実は突きつけられる。
***
”言葉”はもう一度響く。
「大西さんの小説は、けっきょく古典から表現を引用しているだけ」
「僕は彼にもう興味がないんだ。かつて、彼は賢い人だと思っていた。書くものに何かしらの意味があると思っていた。でも、そうじゃないと知った」
「あなたの課題は、独自の世界観を提示できるかということです。海外の小説、そして村上春樹でなく」
***
そして、このように敗北してもなお、僕は決定的な何かについて述べることはなかった。張りつめた表情で、まやかし、それ自体に必死に祈る。��うそのような生き方しかできないと信じ込んでいるのだ。
「この大地にあるものはすべて、消え去るのだ。そして、今の実体のない見世物が消えたように、あとには雲ひとつ残らない。私たちは、夢を織り成す糸のようなものだ。そのささやかな人生は、眠りによって締めくくられる」
祈りの文句を何度も何度も口にした。 僕の声はいつも通りにすごく軽くで響いた。 そして一度響いてしまったものは泡沫のようにたちまち消え去った。
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東京滞在日記。
◆Day1
12:45 新横浜到着。寒いと思ってヒートテックやらネックウォーマー、��毛したパジャマを持っていったにも関わらず、気温25度で照り返しがきつく汗ばむ気候。東京に住んでいた頃、関東は体感温度が関西よりも5度くらい低い気がしていたのに。レイジアゲインストザマシーンのウィズアウトアフェイス。かっこええー。96年発売の曲の中で一番好きかもしれないな。いや分かんないけど。終わるのが悲しくてリピートしてしまう。
12:57 京急に乗って雑色へ。「ぞうしき」と読むらしい。聞いたことも見たこともない地名。最近友人が引っ越したというので、おじゃまさせてもらうことになった。ありがとう。大田区。飛行機に乗らない私にとってはあまり縁のない地区。東京タワーからは程遠く、都会とは縁のなさそうな樹々が生えていて、なんだか良さそうな街。昔ながらの商店街もある。バックナンバーからaiko、いきものがかりと平成J-popが次々と流れてくる。結構長そうな商店街。天六ほどではないだろうけど、先が見えないので抜けられるのかドキドキする。突然見覚えのある走り方をする人影が見えてきた。
13:55 友人宅到着。ちょっと駅からは離れているけど、立地は最高。大きな窓からは多摩川が見えていて、開放感でいっぱい。空港が近くにあって、すぐにここを飛び出してアメリカへでもいけそう。
14:30 友人は1日在宅ワーク。ずっとパソコンに向かってタイピング&会議私は後ろでひたすらゴロゴロ。ヒモみたいになってた。
16:00 夕方、仕事終わりの友人と茶をしばくため虎ノ門へ。むっちゃ薄暗い照明のお店。店内はマスターのオキニが詰まった宝庫みたいになっていて、グレングールドがかかっている。ライトな雰囲気のカフェと聞いていたけど、かなり荘厳な感じ。バカ話できるかな?友人登場。私が今ちょうどほしかったcasetifyのiPhoneケースを使っていてテンションが上がる。「ちょうど昨日藤原ヒロシが『便利』って言ってたよ」という話から佐川急便男子の話まで途切れることなく2時間強話しまくる。酸味の効いたコーヒーと濃厚なチョコレートケーキ、淡白なチーズケーキの相性がそれぞれ完璧だった。友人の背後からフライヤーの三島由紀夫が鋭い眼光でこちらを睨んでいた。ずっと怖かった。
19:10 『ざっくりYouTube』で見ていた池尻大橋の「喜楽亭」へ。ジュニアさんが座った席と同じところに座れてテンションが上がった。料理はもちろん極上。こう言っちゃなんだけどまずいハンバーグカレーとかあるのかなぁ。ルーとライスを綺麗に分けずに「親父ガケ」して「親父グイ」(ルーを皿一面にかけぐちゃぐちゃにして食べること)してしまう癖、治したい。というか治す。いやだわー。無意識って怖い、気をつけよう。
22:00 帰宅。友人と話す。思い出話2割、今後の話8割。昔は覚えてもないようなどうでもいい話しかしなかったのに、キャリアとか結婚とか出産とか、切ないね。けど仕方ないね。そうそう、何で雑色に引っ越したのか聞いてみた。いい場所だけど都心からはだいぶ離れているし…。友人曰く、最近の日本にますますいやけが差してきたので、すぐ海外に飛べるように空港付近にしたとのこと。かっこえ。昔から彼女の意思&意志が強くてすぐ行動に移せるところ、尊敬してる。
◆Day2
12:00 13時からの打ち合わせに向けて横浜へ。ほどよい都会感。建物の感じもどこかオシャレに見える。今日は風が強い。ふわっと香るくさいにおい。もう銀杏の季節か。『トークサバイバー2』で(シソンヌ)じろうさんが叫んでた「銀杏〜!くせえからうめえのか、うめえからくせえのか?」っていう素朴な疑問、私も思う。いつか教えてくれ。
15:30 一旦帰宅。友人会議中。多摩川を少し散歩する。『セトウツミ』の舞台ってここかなぁ?とかあらゆる平成ジャパニーズ映画のロケ地に思いを馳せながら歩いてみる。
16:50 半年ぶりに代田橋へ。行く場所は決まっているのに常に緊張する。Fat Boysを聴いて喝を入れる。
17:01 ジャスミンティー購入。手鏡にてデ��に大きなおできと小さなニキビを確認。
17:10 緊張で首が左上右下に動いてる感じ。つまり吐きそう。
18:01 代田橋到着。とりあえずトイレに行く。
18:03 緊急事態。一旦酒を入れなければと彷徨う。
18:09 「納戸」は閉まっていた。がっくし。
18:18 「ジュークボックス」へ入る。マスターに挨拶するも覚えていない様子。半年ぶりだし2回目だから仕方ないかと思ったが、zineの話をしたら思い出してくれた。髪型とファッションで人は変わるということが分かる。コーヒー焼酎のロックを2,3杯入れる。美味い。
19:40 マスターに教えてもらった「大天狗」というお店に入る。焼き鳥がぶりぶりで美味しかった。この書き方だと不味そう。身が大きくて味付けも辛すぎず無すぎず、つまりちょうど良くて美味しかった。特にレバー塩。
23:39 ���電に乗れた。代田橋に来る時はいつも終電と共にお別れだ。はー。終電といいながら蒲田までしか行かない。代田橋のお兄さんにもらったハイボールを片手に電車に揺られる。
0:16 蒲田駅から多摩川沿いを歩いている。徒歩22分。結構近い。友人に連絡する。川沿いで合流することに。
...

↑記憶なし
◆Day3
12:47 起床。若干頭痛。友人は会議中。
17:18 山手線に乗っている。今日学んだこと。二日酔いでも酒は飲め。但し、酒がないと話せない場合に限る。つまり緊張状態に縛られる状況の場合。
17:46 綺麗な夕焼けを写。肝心な時にカメラを持ってきていない。そして非常に落ち込んでいる。

↑夕焼け
19:15 友人とご飯に行く。カジュアルなフレンチビストロ。ここで「人生の目標」とか「働くこと」とか「死ぬこと」などシリアスな話を熱く語り合う。
20:39 多摩川散歩。酔っ払っていたので写真がすべてぶれている。

↑彗星到来。ネオ東京
◆Day4
8:45 朝から餃子を作る。大学時代から彼女とはずっと餃子パーティーをしていた。餃子で繋がる友情と言っても過言ではない。彼女の家族たちと餃子パーティーをしたこともある。今後誰と会ってもそうマウントをとっていく。味噌ダレで乾杯。パートナーの話で盛り上がる。いくつになっても色恋の話は楽しいな。しかし外食が多くて、胃が悲鳴を上げ始めてる。
10:45 多摩川の写真を撮る。毎日多摩川を見ながら生活できる幸せ。噛み締めた。川のある生活っていいなぁと実感。天気も良くて雲の形もポテトフライみたいでよかった。

↑ マンションの広告にありそうなくらい完璧な景色。うまく言えないけれど。

↑パノラマで撮った
11:00 友人と別れの時。でも12月にまた会える。でも帰り道少しツンときた。それくらい居心地が良くて、一緒にいて落ち着ける存在だったのだと改めて思う。会うのは半年ぶりだったけど、しっかり話すのは2年半ぶりくらい。彼女はすごく…さらにいい方に変われていて、刺激をもらうと同時にすこし、自分に対して不安になったりもした。同じ歩幅で歩いてると思っていたから。全然違ってたんだ!今、小さい頃に遠方の祖父母の家に何泊かして帰らなければならない時の悲しさで涙が止まらなくなるあの感じが襲ってきてる。嬉しいのに少し寂しいな。
12:02 有楽町駅到着。映画館の前を通り、スコセッシの新作今日公開だと思い出す。でも今日は無理。ノーマネーソーリー。
12:06 ある人と待ち合わせ。その後ランチ。
15:33 新幹線到着。いよいよ帰る。おセンチな気持ちなのでブレッドのプレイリストを聴いている。ただ、ウォークマンのプレイリストは厄介。
16:03 『Dumb and Dumber』(ジムキャリーはMr.ダマー)をみる。百面相最高。we love jim carrey!!!
18:40 帰宅
.
おしまい。
東京ってやっぱり刺激のある街。ずっといたら飲み込まれそうで怖いけど。昔からそう思っている。昔東京に数年住んでみたけど、まぁ仕事とか色々なことがあって、いい思い出は全くなかった。でもきっと、その頃の自分は視野が狭くて未熟で卑屈ですごく保守的だったのだと思う。その頃の自分のことを…ようやく客観的にみれるようになった気がした。離れてみるとやっぱ東京って面白い街だと思うし、会いたい人がいれば誰にだって会いに行けるし、刺激の宝庫だなと思う。
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各地句会報
花鳥誌 令和7年4月号

坊城俊樹選
栗林圭魚選 岡田順子選
………………………………………………………………
令和7年1月4日 色鳥句会 坊城俊樹選 特選句
浪の花清張も見し日本海 久美子 嫁御振り褒め寒鰤に熨斗を掛く 美穂 去年今年あるやなしやの区切りかな 修二 凩や波たちあがる潦 成子 寅さんと共に過ごして寝正月 修二 水鳥は群れ鉄橋は連なりて 光子 啄みて捨てて怒りの寒鴉 睦子 海鳴りや落書の壁の凍てはじむ かおり 神ノ島へ掲げてみたる破魔矢かな 睦子 狐火の小径へ朱き紅をひき かおり ラガーマン荒ぶる君に前歯なく 修二 御影石冬野に開き納骨す 愛 祈るとは誰かを想ひ冬銀河 かおり
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
令和7年1月6日 花鳥さざれ会 坊城俊樹選 特選句
九頭竜の四季諷詠の去年今年 かづを 花鳥詠む心貫く去年今年 同 待春の聲と聞きゐる鳥語かな 同 犬と居てあつち向いてほいと日向ぼこ 清女 手袋の中に賽銭初詣 同 豊齢線ますます深く初鏡 同 北陸の冬波高し妻見舞ふ 匠 霊峰へ翳す手の先初山河 笑子 柏手にある玉響の初明り 希子 恐龍像摩那姫像も冬籠 雪 誰か聞く蝶深深と凍つる音 同 而して九十四の初鏡 同 思ひ出を閉ぢ込めてゐる瓢の笛 同
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
令和7年1月9日 うづら三日の月句会 坊城俊樹選 特選句
初御空穏やかに晴れ八十路入る 由季子 初旅や朱の橋渡り神の島 都 一輪の床の花にも淑気有り 同 東雲に光広がる初御空 同 装ひも新たお出まし雪女 同
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
令和7年1月10日 鳥取花鳥会 岡田順子選 特選句
経文の沁みたる罅の鏡餅 悦子 八十路来て皺も宝の初鏡 佐代子 蒼穹へ空の巣掲げゐる冬木 都 新色の紅の封開け初鏡 美紀 薄氷や予期せぬニュース聞いた日に 同 裸木に掛りしままの竹蜻蛉 宇太郎
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
令和7年1月11日 枡形句会 栗林圭魚選 特選句
手入れよき句碑の礎冬菫 亜栄子 雲脱ぎて聳ゆ初富士神々し 三無 浮かび来る発句掬ひゐる初湯かな 同 健やかを念じ願うて初湯かな 多美女 数の子の無数の命噛みしむる 三無 数の子の講釈長き老かな 多美女 鉛色光わづかに冬の川 幸子 山歩き終へて麓の初湯かな 白陶 蠟梅の香りに偲ぶとしあつ師 三無 餅花の一枝整ふ年尾句碑 亜栄子
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
令和7年1月11日 零の会 坊城俊樹選 特選句
冬日影内股のまま少女像 小鳥 マスクとり生肌の笑みの美しき 軽象 狸穴にかつての上司ゐて御慶 久 坂に坂また坂ありて春を待つ 和子 お詣りのしんがりにゐて日脚伸ぶ 光子 静かなる鏡の瞳寒の紅 季凜 煎餅屋くわりんたう屋に日脚伸ぶ 美紀 おもちや屋の前で春着を褒め合うて 要 遠鐘に春著のひらと振りむける 順子 福耳に干支のピアスを春隣 同
岡田順子選 特選句
指先にうすうす流す寒の水 光子 餅花を飾り髪飾りを売れり 要 恐竜の果て裸木の大銀杏 同 柳の井汲む仏恩の水涸れず 昌文 石彫のみなし児に着せ冬帽子 美紀 狸坂暗闇坂へ松明けて 要 聖人の背後流るる叔気かな 三郎 寒晴を映す井水の余白なく 同
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
令和7年1月13日 なかみち句会 栗林圭魚選 特選句
街頭の木々の葉散らし風冴ゆる 貴薫 朝の日の届き冬菊煌めける 秋尚 寒晴の空鋭角にビルの影 同 多摩川や寒の流れはおだやかに 和魚 梅の莟膨らみ初むる空青き 秋尚 影一瞬枝の寒禽躱しきる 聰
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
令和7年1月14日 萩花鳥会
つつがなく過ぐや晦日の陽が沈む 俊文 己が巳よた易く人は蛇となる 健雄 筆始め老僧一字「金」と書く 恒雄 信号を待つ間に溶けりしぐれ虹 明子 春よ来いつい口ずさむ凍る朝 綾子 初空もいつもと変はらずランニング 健児 冬風の波止に親子の釣り名人 美恵子
………………………………………………………………
令和7年1月14日 さくら花鳥会 岡田順子選 特選句
年毎に賀状の重み寂し���り 実加 震へたる弓引く腕や射場始 紀子 めづらしく福井は晴れて初御空 裕子
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
令和7年1月15日 福井花鳥句会 坊城俊樹選 特選句
春の月これより空を独り占め 世詩明 振り返ること許されぬ雪女郎 同 初諷経身内の仏偲びつつ 希子 飾り焚く顔てらてらに氏子衆 同 初詣いつもの場所に犬連れて 数幸 餅花や風の動きに揺れたまふ 令子 初場所の化粧回しに郷土色 同 初場所や郷土力士に北乃庄 千加江 初鏡九十四とはこんなもの 雪 去りし人胸の枯野に火を放ち 同 美しき月日重ねし暦果つ 同 年行くと云ふ大いなる音聞かん 同
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
令和7年1月17日 さきたま花鳥句会
左義長の炎を見つむ児の真顔 月惑 とぐろ巻く白蛇の絵馬や初詣 八草 寒鴉人なき米軍基地に戯れ 裕章 白足袋に祝ぎの余韻やこはぜ解く 紀花 若水をしたためし筆「金」と書く ふゆ子 ふだんより勢ひ盛ん初句会 としゑ 平和へと進む節目や去年今年 久絵 堂の奥閻魔舌出し冬うらら 康子 初みくじ凶にくじけず息災日 恵美子 巳年なる昭和百年初詣 みのり 午前五時なほ煌々と冬の月 彩香 雪見酒手酌の猪口は江戸切子 良江
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令和7年1月19日 風月句会 坊城俊樹選 特選句
天心へ直立のこゑ鳰 千種 朴冬芽尖りて天を刺す勢ひ 三無 鐘楼は高く臘梅香りきし 芙佐子 撞くことのなき梵鐘へ蝋梅黄 慶月 葦原の風ぐせ堅く枯れてをり 千種 寄生木の透け高々と春隣 久子 白鷲のふはりと跨ぎ霜の田へ 同 誰を迎ふ好文木の年尾句碑 幸風 雪富士の淡く城山見てをりぬ 慶月 冬蝶にかどはかされし園児どち 経彦
栗林圭魚選 特選句
膨らみて辛夷の莟混み合へる 秋尚 葦原の風ぐせ堅く枯れてをり 千種 笹鳴や桝形山の尾根の径 幸風 万両の実の熟したる常夜灯 文英 観音は胸に日を溜む冬うらら 三無 冬の日をふんはり溜めてねこじやらし 秋尚 代々の僧都の墓や冬木の芽 芙佐子 臘梅のこぼれし香り栞りけり 秋尚
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
令和7年1月16日・21日 柏翠館・鯖江花鳥合同句会 坊城俊樹選 特選句
閉ぢ込めし思ひ出を吹く瓢の笛 雪 初明り庭の一木一草に 同 謹みて猫には猫語もて御慶 同 大寒や西日ふくらむ日本海 ただし 大寒の日野山仰ぐ式部像 同 二人だけの内緒の話初電話 清女 待春の��吹き一木一草に かづを 真向ひの日野の霊峰初茜 英美子 冬晴れの指先までもはづむなり 洋子 女正月話あれこれ湧く如し みす枝 庫裡の窓埃いつぱい日脚伸ぶ 和子 葬送のリムジンに舞ふ雪の花 嘉和 無人駅一人乗込む雪女郎 世詩明 白山の雪の白さを拝しけり 同 雪解水九頭竜川を疑がはず 同
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
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2025/3/9 16:00:13現在のニュース
日本発の全樹脂電池に技術流失懸念、国際問題アナリストの古川氏「刑事罰強化など急務」([B!]産経新聞, 2025/3/9 17:00:07) 東京大空襲から住民守った「イーグルビル」 数十人が焼夷弾から逃れ地下室へ あの日私は 戦後80年([B!]産経新聞, 2025/3/9 16:48:46) 王将戦第5局 藤井王将・永瀬九段 2日目の午後のおやつを3Dで(毎日新聞, 2025/3/9 16:41:50) 減反の欠陥「何もしてこなかったじゃないか」米価高騰、いらだつ首相:朝日新聞([B!]朝日新聞, 2025/3/9 16:36:55) きっかけは長男の制服破損 母親が開いた制服リユース店、人気じわり(毎日新聞, 2025/3/9 16:34:36) 元放射線技師が自然発酵ビールに挑戦 自慢のラガーが全国1位 奈良:朝日新聞([B!]朝日新聞, 2025/3/9 16:30:35) 自民・小泉氏「党議拘束かけるべきではない」 選択的夫婦別姓めぐり(朝日新聞, 2025/3/9 16:30:03) (社説)学術会議の法案 学問の自由脅かし 禍根を残す:朝日新聞デジタル([B!]朝日新聞, 2025/3/9 16:19:34) 極端に暑い夏、大雪の冬なぜ? 偏西風や海水温など影響 - 日本経済新聞([B!]日経新聞, 2025/3/9 16:18:40) 後継者いない中小企業、悪質M&Aトラブル相次ぐ…債務引き取るはずが資金吸い上げ連絡絶つ(読売新聞, 2025/3/9 16:13:56) 大船渡の山林火災、新たに4地区361世帯882人の避難指示を解除…最大時から約半数に(読売新聞, 2025/3/9 16:13:56) 国内女子ツアー開幕戦、逆転で岩井千怜が2連覇…10アンダー・ツアー8勝目(読売新聞, 2025/3/9 16:13:56) 三笘薫、終盤まで出場 海外サッカー(日本経済新聞, 2025/3/9 16:12:37) 前川恭子厩舎、管理馬初出走 中央競馬初の女性調教師(日本経済新聞, 2025/3/9 16:12:37) お茶を味わうということ(産経新聞, 2025/3/9 16:11:39) 「高校無償化」に外国人学校も対象にするのか 自民党の山田賢司氏が指摘 有元隆��(産経新聞, 2025/3/9 16:11:39) 朝鮮通信使の道のりたどる「日韓ウオーク」ソウルから東京へ出発 高齢化受け今年で最後(産経新聞, 2025/3/9 16:11:39) 岩井千怜が逆転で2連覇 女子ゴルフ開幕戦「ダイキン・オーキッド・レディース」最終日(産経新聞, 2025/3/9 16:11:39) 「店を爆破する」京都・宇治の茶製造販売業店にはがき郵送容疑、男逮捕(産経新聞, 2025/3/9 16:11:39) 「誰にも言えない」埋没してきた女性たちの声 87人の経験が物語る(朝日新聞, 2025/3/9 16:07:59) 四半世紀そのままの地震被害想定 石川県、今年度見直す予定を先送り:朝日新聞([B!]朝日新聞, 2025/3/9 16:04:56) 藤井王将はスムージー、永瀬九段は4連続の「いちご」 王将戦第5局(毎日新聞, 2025/3/9 16:04:54) 「不遇の時代」から、ようやく 柔道日本代表初の女性監督への期待(毎日新聞, 2025/3/9 16:04:54) コーヒー農家を増やしたい 鹿児島の企業が豆果肉自動除去機を開発(毎日新聞, 2025/3/9 16:04:54) 「不遇の時代」から、ようやく 柔道日本代表初の女性監督への期待(毎日新聞, 2025/3/9 16:01:49) 国際女性デー「自分の名前でいたいだけ」 選択的夫婦別姓の実現訴え:朝日新聞([B!]朝日新聞, 2025/3/9 15:57:41) 裏テーマは「ロシア」と「LGBT」 IOC会長選混戦に ”ぼったくり男爵”の後任選ぶ([B!]産経新聞, 2025/3/9 15:55:23) 高校生が育てた「いちご豚」好評…熟しすぎた「とちおとめ」など活用、「ブランド育てるモデルに」([B!]読売新聞, 2025/3/9 15:51:26) 山陽新幹線50年 妥協許さぬ車両点検、ホームドクター“最後の砦”(毎日新聞, 2025/3/9 15:49:19) ナンシー関さんの「消しゴムはんこ」5000点、自然劣化で危機に…デジタル保存へ知人ら活動([B!]読売新聞, 2025/3/9 15:46:50) 大阪マラソンに続き…名古屋ウィメンズマラソンでコース間違え | 毎日新聞([B!]毎日新聞, 2025/3/9 15:43:03) 岩手・大船渡の山林火災 新たに4地区の避難指示を解除(毎日新聞, 2025/3/9 15:42:11) 自民・小林鷹之氏、石破政権に苦言 「意思決定が二転三転」(毎日新聞, 2025/3/9 15:42:11) お祝い、反動、重圧? 新横綱優勝が難しいワケ 大相撲春場所(毎日新聞, 2025/3/9 15:38:49) 中国で「新たなコロナウイルス」発見 武漢の研究所調査 「ヒトへの感染は未確認」も疑念([B!]産経新聞, 2025/3/9 15:36:28) https://mainichi.jp/articles/20250307/k00/00m/040/322000([B!]毎日新聞, 2025/3/9 15:36:21) お祝い、反動、重圧? 新横綱優勝が難しいワケ 大相撲春場所(毎日新聞, 2025/3/9 15:35:01) “一味”待つ熊本を冒険 「ワンピース」像巡るバスツアー4月開始(毎日新聞, 2025/3/9 15:35:01)
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2025/03/03 BGM: Andy Summers - A Certain Strangeness
さいきんになって(2日ほど前からだろうか)、たぶんこの気候からくる急激な気温の変化のせいで喉に違和感を感じるようになり、風邪の引きはじめのような症状を自覚するようになった。今朝、いつものように軽くシャワーを浴びその後英会話関係のZoomミーティングに顔を出す。その後、通院日だったので市のいちばん大きな総合病院に赴き、そこで医師の診断を受ける。月に1度の定期的なミーティングだ。ぼくがここさいきんのめまいの症状のことを話すと、医師はそれはおそらく���候・気圧の変化が作用しているのではないかとおっしゃって、ためしに頓服の漢方薬を処方してくださった。その後ほんらいならグループホームの本家におもむく予定だったのだがキャンセルすることに決めて、LINEで管理者の方にその旨を伝えた。
病院で会計を済ませ、その後近くの薬局にてその漢方薬をふくめた薬をもらう。その待ち時間に、スマートフォンをいじるのも飽きたのでここさいきんカバンの中に突っ込んでいて折に触れて読み返していた鶴見俊輔『期待と回想』をあらためてめくる。その『期待と回想』の中で、鶴見はぼくたちのコミュニケーションの実相についてあらためて彼ならではの平易な語り口で解き明かしており、ぼくの理解力・語彙力ではなかなか要約しづらいもののそれでもなお啓発的に感じられた。なので、ふとここで読む手を止めて自分自身の過去を振り返る。ぼくもいじめに遭ったりその後も発達障害のせいでつらい思いをして、疑心暗鬼・人間不信に陥ったり孤独の果てにアルコールの底なし沼で死にかけたりしたものの、それでもコミュニケーションをあきらめきれなかった。いま、こうして英語や日本語であれこれ書いたり英語を学んだりしているのもそうした「あきらめの悪さ」「しぶとさ」ゆえのことだ。過去、クラスメイトたちと自分とのあいだに絶望的な「断絶」があり、そのせいで孤立して頭の中で死ぬことばかり考えていた日々が頭をよぎる。それはこのぼくの発達障害特性と、彼らがそうした特性をいまだ知らなかったことに由来する断絶だったと言える。
実を言うと昨夜、ぼくが参加させてもらっている自助グループのLINEグループにてぼくは魔が差してしまい、すこしばかり暴言を吐いてしまった。この公開日記ではその特性上さすがに書くことははばかられるが、職場であった実に世知辛い・不条理でトラウマにさえなっているできごとについてだ。そのことで、あくまで内輪のグループにて書いたことだからとはいうもののそれでもあとになって「あんなこと書くべきではなかったかな」とも思ったりしたのだったが(なにせあきらかに、われながら粗暴なコメントだったから)、それでもメンバーたちがそのコメントを受けとめてくださってシンパシー(同情・共感)を示してくださったのがありがたかった。いや、いまはもちろんジョブコーチたちもいるしグループホームの方々とも、他にもWhatsAppやLINEを通していろんな方々ともつながっていて幸せに暮らせている。そのあたりは安心してください。
午後になり、その風邪気味のコンディションのこともあって今日はそんなわけでひたすら部屋でおとなしくする。風邪の引きはじめの症状に効くという葛根湯を服用し(去年買って常備していたものが残っていて、期限をたしかめたうえで呑んだ)、その後しばし昼寝をしてからいくぶんか(熱はないものの)めまいが残る頭でベッドに寝そべり、J・D・サリンジャー『ナイン・ストーリーズ』のページをめくって読むともなしに読んだ。実を言うと、ぼくはサリンジャーの良き読者とは言えない。いや、正確に言えば好きな作家だと胸を張って言えないというか、すくなくとも「愛読した」「むさぼり読んだ」たぐいの作家ではない。『���ャッチャー・イン・ザ・ライ』が青春小説の金字塔と言われるとたしかにそうだと納得はするが、村上春樹ほど「寝食を忘れて」読んだわけではないのだった。でも、それでもいつだっただろうか、この『ナイン・ストーリーズ』とはじめて出会って劈頭の「バナナフィッシュ日和」のインパクトに衝撃を受けてからぼくは折に触れてこの短編集をエバーグリーンなものとして受けとめ、読み返してきた。
とくに、こんかいは末尾を飾る「テディ」が目を引く。早熟な天才少年のテディをめぐるスケッチのようでもありなんだか預言的・崇高な響きをも持つこの短編が内包する深遠で挑発的ですらある哲学的洞察と、それをいともかんたんに言語化する手つきにしびれてしまった。これはまったくもって誤読・妄想かもしれないが(ただ、ヨタ話としては面白いかなと思ってあえて書く)、ぼくから見ればサリンジャーの世界で特権的な役割を与えられる登場人物たちもまたたぶんに発達障害的なところがあって、たぶんにそれに加えてあまりにも繊細すぎ・賢すぎる頭脳を持っていることもあって「アウトサイダー(はみ出し者)」として生きることを強いられるのではなかろうかとも思った。悪ノリついでに言えば、その意味ではここにいてこれを書いているこのぼくもホールデン・コールフィールドやシーモア・グラース、テディといった人たちの系譜に連なるというか、子孫と言ってもいいのかなあ……とも。いや、さすがにぼくの頭脳のポンコツぶりを鑑みれば「不肖の息子」ということにはなると思うけれど。
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海水浴場でつかの間のひとときを過ごした嶋田は、制服に着替えた大樹を水戸市内の自宅まで送った。元々、自転車通学で大樹の顔や腕は日焼けしていたが、更に小麦色になった様だった。白いワイシャツに冴えていた。
大樹の父・広樹の勤め先でもあるK百貨店の裏に車を停めると、
「先生、楽しかった。ありがとう」
と、彼は笑顔で言った。
「まァ、有���義な夏休みをお過ごし下さい」
と嶋田が話すと、一瞬考えた様だが大樹は、
「夏休み中でも会いたい」
と言った。登校日は八月のお盆明けだった。それ以外の日でも部活動で学校は開放しているので、
「じゃあ、毎日ではないけど図書室にいるから、声かけて」
と、嶋田は大樹に伝えた。
未だ、携帯電話は普及し始めたが現在の様にスマートフォンはなかった。学校への持ち込みもできなかった頃である。家からかけると嶋田との関係性を母・利江子に疑われてしまう。佐伯と肉体を交えた関係であることも秘密にしているのに、嶋田にまで更なる関係を結んでいると知られてはとんでもないことになる。そんな状況の中で、嶋田のその言葉は有難かった。
こうして二人は別れた。K百貨店の裏は備前町と言う住宅街になっていたが、一方通行の道路の方に見えなくなる大樹の姿を嶋田は見送った。今夜は佐伯の家に泊まると言っていたっけ?彼の両腕に抱かれながら接吻を求め、歓喜の声を上げるのだろう?嶋田は、昨夜大樹と寝たばかりなのに、何故か妬いてしまった。
午後六時近くになると、地下一階の食料品売り場がタイムセールを始めるのを思い出し、嶋田はついでに買い物でもしようとそのままK百貨店の駐車場へ車を走らせた。
佐伯の家では、佐伯が夕食の準備をしていた。食卓にしている八畳の和室では大樹が座布団を半分に折り、横になっていた。久しぶりの海水浴で疲れたのか寝息をたてていた。
今夜は「なす」の揚げ浸しと、鶏の唐揚げである。唐揚げは大樹の好物だった。佐伯は、
「大樹、ご飯できたよ」
と言った。あまり熟睡していなかったのか、その一言で大樹は目覚めた。上半身を起こし、グッと背伸びをしながら、
「嗚呼、寝ちゃった…」
と声を上げた。
佐伯は準備をしながら、仕事帰りに最寄りのスーパーで買った生酒を冷蔵庫から取り出しながら、
「先生と寝たのか?」
と聞いた。彼は、大樹の男癖について重々知ってはいた。まァ、未だ性欲が衰えない齢ではあるから仕方ないと思っていた。
グラスを片手に、佐伯は大樹と向かい合って座った。互いに箸を取りながら、
「うん、寝た」
と大樹は答えた。生酒の封を切り、グラスに注いでクイッと一気に飲むと、
「じゃあ、今夜はエッチしないよ」
と、佐伯は言った。
「妬いてるの?」
「否、疲れちゃうだろ?」
「ううん、大丈夫だよ」
「だって、先生に愛されたンだろ?」
「今夜はおじさんに愛されたい」
そんなやり取りをしながら、佐伯は一物が熱くなっていくのを感じた。ヤバい、今は落ち着け。嗚呼、父さんがまた悪さをしているな…。
「父さん」とは、佐伯の実父・浩志のことである。私立S高校で英語を教え、大樹の両親・広樹と利江子の恩師��もあった。彼こそ男癖がひどく、広樹にも手を出したことがあった。
浩志は、大樹が引越してくる前に急性心筋梗塞で他界したが、時折息子が見る夢の中に現れては悪さをしていた。
徐々に酔いが回ってくると、箸を置いて仏間でもある隣の和室へ行き、仏壇の扉を閉めた。父さん、今夜は穏やかに過ごさせてくれ。佐伯はそう思いを伝えた。その様子を見ながら、
「おじさん、どうしたの?」
と不思議に思ったが、何事もなかった様に、
「否、何でもないよ」
と、佐伯は苦笑した。
夕食を済ませ、風呂にも入ると佐伯は応接間でレコードを聴きながら、サイドボードの中からスコッチウィスキーを一本取り出し、オールドファッションドグラスに注ぎ、飲んだ。大樹も一緒に、彼が作った「シャーリーテンプル」を片手に過ごしていた。グレナディンシロップを炭酸水で割った、ノンアルコールカクテルである。レコードは、浩志の好きなフリオデカロのタンゴアルヘンティーノである。
互いにTシャツとハーフパンツと言う寝間着にしているラフな格好で、
「最近、私小説は書いてるの?」
と佐伯は聞いた。
「否、書いてない」
と大樹は言った。今はシャープペンシルがなかなか動かないらしい。どうしても描写が直接的になり、読み手に想像させる様な文章が書けないと話した。佐伯は、
「だったら、フィッツジェラルドの『チャタレイ夫人の恋人』でも読んでみたら?」
と勧めた。
「何それ?」
「イギリスの長編小説だよ。でも、読んでいくうちに飽きるンだよなァ…」
「それじゃ参考にならないなァ」
佐伯も現代文を教えてはいないので、たまたま浩志が読んでいた文庫版を手に取っただけだったので、オススメではなかった。彼は地理を教えていた。
「jueves」と言う曲が流れていた。西語で「木曜日」の意である。いつしか佐伯は大樹に接吻を求め、ハーフパンツの右側に手を忍ばせた。大樹の鼻腔にシーバスリーガルの香りが漂い、それだけで酔ってしまった。内腿を開き、一物が硬直しながら熱くなっていくのを感じながら佐伯の首に両腕を絡ませ、口角からこぼれそうになった唾液を飲んだ。
「おじさん、欲しいの…」
「嗚呼、父さんがオレに悪さをしてるよ…」
「否、おじさん自身がしてるンでしょ?」
「大樹、欲しいよ」
そのまま二人は寝間着を脱ぎ捨て、ブリーフだけになって絡んだ。いつしかブリーフもラグの上に重なって残され、二人は愛し合った。気付くとレコードの針は上がっていた。互いに喘ぎ声を上げながら、二人は寝室でもある仏間に広げた布団に飛び込み、肉欲のままに乱れた。
絶頂は佐伯の方が早かった。彼は愛液を大樹の下腹部に跳ばした。
「あッ、ああッ、あッ、ああん!」
乳白色でねっとりと、濃厚な愛液だった。栗の花に似た「匂い」を放ち、それは大樹を絶頂��と誘った。
「うぅぅぅぅん!」
大樹も、佐伯に劣らぬ愛液を飛ばした。それが佐伯の下腹部を汚し、
「た、大樹。すごいよ…」
と彼を驚かせた。
しばらく二人は、布団の上に並んで横たわっていた。天井が回っても見えた。興奮の故か? 快楽と言う名の孤島に流れ着いたかの様な感覚があった。おのずと二人は手と手を取り合い、再び身体を寄せ合って接吻した。
「昨日もイッた筈なのに、底なしだね」
「おじさんのこと、愛してるから…」
「父さんが、オレを狂わせたンだ」
「否、おじさん自身でしょ?」
「じゃあ、酒のせいだね」
そう言葉を交わしながら、しばらく二人は余韻に浸っていた。
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2019年創作まとめ
創作・企画トークに便乗して、今年の創作活動をまとめました! 企画タグに参加させていただく関係上、一応自己紹介をば… 里見透と申します。物心ついた頃からものづくりが好きで、気づけばそこそこ長い間、アマチュア物書きをしております。 陰謀に振り回される少年少女を主人公にした、架空世界の物語を描くのが好き。 以前はWeb掲載中心で活動していたのですが、2017年ころからオフラインのイベント参加にハマり、最近はどちらかといえば、イベントに向けた小説誌の作成・頒布を中心に活動しております。
★2019年に書いた物語 振り返りをやろう!!!と改めて考えてみて気づいたんですけど、今年、なんと三作品しか書いてない。マジか。 以下、一作ずつの所感を述べています。ネタバレはほんのりあるけど、クリティカルなことは書いていないはず。 ・「アカシア年代記 Ⅲ 永遠を彷徨うコンドルの噺」 (2019/1/14Web公開/約32,000字) リンク先サイトで全文読めます。 田中ちゃんとのコラボ作品、「アカシア年代記」の透側三作品目でした。 「アカシア年代記」と呼ばれる全知全能の書をめぐる、オムニバス形式の短編集。私はこの回で、スペイン統治下のインカ文明──をモチーフにした物語を書きました。 征服民である父と、被征服民の王族であった母を持つ少年ヨセフ。限りなく被征服民の容貌に近い彼は、その美しさから父に目をかけられ、征服者としての人生を用意されています。 しかし弾圧され、失われてゆく母方の文化、己のもう一つのルーツに思いを馳せてしまい、……という物語です。 「アカシア年代記」では、前二作品も中国の敦煌莫高窟やイタリアのリソルジメントをモチーフにした物語を書きました。別に企画としてそういう縛りがあったわけではないのですが、共作者の田中ちゃんが歴史にも造詣の深い方なので、なんだか、わかってもらえる気がしてついやってしまう。笑 「年代記」というシリーズ全体の方向性を定めるアイテムから、「語ること・残すこと」という要素を得て、失われてゆく文化、捨て去ろうとする人々、ルーツを共有するとはどういうことなのか?という点に焦点を当てました。個人的には、自分が書いたアカシア年代記三作品の中で一番気に入っています。 あんまりエンターテイメント性のある作品ではないけど、気に入ってくださ��方がいらしたらいいな。 確か2018年内に制作する予定だったのが、どうしても上手くまとめきれず、田中ちゃんに二週間くらい締め切りを延ばしていただきました…。田中ちゃんごめん…。 ・「語られぬ樹に実は熟し」 (2019/4/30刊行の「民族・無国籍風HFアンソロNova Horizonto」収録/約12,000字) 久遠マリさん主催の、平成最後のアンソロジーに参加させていただきました。 民族・無国籍風というジャンルに惹かれて参加を決めたのですが、しばらくLFばかり書いていたので、ハイファンタジーって…ハイファンタジーってなんだっけ…?とものすごく迷走したのを覚えています。 当初は生き別れの義兄を探すため、ドラゴンとの戦いを強要される剣闘士になった少年の話を書こうとしていたのですが、上手く行かずに全ボツにしたりもしましたね…。ただこのボツ原稿、戦闘シーンを書くのが結構楽しかったので、その後に書いた「のっぺらぼうと天宿りの牙卵」でちょっとだけ戦闘リベンジしました。 最終的に提出した「語られぬ樹に実は熟し」は、深い密林に閉ざされた秘境の里での物語になりました。里に生まれた男女の双子は、この里を守る神子として、先見の姫を祀る役目を与えられる。先代の神子にして妹のクプラを亡くし、神子と成った兄のユラギは、歴代の神子の身に何が起こったのかを知ってしまい、……という物語です。 この作品は、とにかく文化の彩りや鮮やかさの描写に力を入れました。画像映えしそうな感じが良いなと思って。 しかし散々ボツを繰り返した結果、締切を延長していただいた上、主催のマリさんに「こんな完成度のものを提出できません…」などと散々弱音を吐き、それでもなんとか励ましていただいて完成させた、もう本当にはた迷惑な制作となりました…ごめんなさい……今になって読むとそんなに悪くない気もする。←←←
・「のっぺらぼうと天宿りの牙卵」 (2019/11/24冊子頒布開始/約111,000字) 今年の私の代表作。と思いたい。 6月頃から書き始め、私の夏と秋を全てかっさらっていった本年の個人誌です。 しばらく暗め、というかおとなしいテンションの作品が続いていたので、ここらで一発ハイテンションなのやらかしたいよね!?という思い+なんでだったか全く覚えてないけど和風ファンタジー書いてみたい!という思いから仕上がりました。 見習いの白牙法師である刻雨は、幽鬼退治の最中、ある青年に命を救われる。だが自らを萬景の国の主であると名乗る青年、新玉は、顔のない鬼と化していた。白牙法師にとって魂の伴であり、刻雨にとってはまた別の価値をも持つ「牙卵」を新玉に喰われてしまった刻雨は、彼と行動をともにする内に、萬景の国を取り巻く陰謀に巻き込まれ、……という物語です。 書いててめっちゃ楽しかった。 刻雨とアラタマがそれぞれ生きるチカラ強めと言うか、「それは俺のせいじゃない」「国とかどうでもいいけど俺がこうしたいからする」というのをきっぱり言うタイプだったので、作者的には「よし!行け!好きにしろ!!!」と力強く背を押せました。おかげでなんか字数ががんがん増えた。 途中、刻雨の生い立ちや幼少期の話が出てくるのですが、多分普段の私なら、物語におこすのは「刻雨の生い立ち〜御晴野に引き取られて色々苦労したくだり」だと思うんですよね。正直彼、御晴野に引き取られるまでろくに人間扱いされていないので(飛鳥井にいたときと見世屋にいたときでは扱われ方が真逆だけど)、御晴野でも人間社会に溶け込むまで結構苦労したはずだし、多分そこで一本話が書けるなと…。 でも既にその辺りを乗り越えて、すっかり人間らしくなった彼だからこその話が書きたかったので、まあこれはこれでいいかなって思っています。ドジっ子だけどメンタル強い。理不尽に対して噛みつく牙はある。祟りの設定について、今ひとつ踏み込めなかったのが心残り…。 ところで最後のシーンについてですが、何かしらの方法はあったけど恩人と別れるのが嫌ではぐらかしたんじゃねえかなコイツ、と薄ぼんやり疑念を持っています(非公式設定)。もしそうなら、後でバレて殴られればいいよ。それくらい利己的に育ちました。 アラタマについては刻雨との対比の要素が強かったので、オラオラ系と見せかけて周囲への気遣い半端ない、案外奥ゆかしい子になりました。 自分の境遇を見定めて最大限の「我が儘」を全力行使する、というのが書いていて気持ちよかったです。 眠れないって気づいてるはずなのに座敷に着いたらとりあえず横になってみたり、花街に行ったと見せかけて一人で月見酒(時系列的にめっちゃ細い月しか空に出てない=たぶん月なんか見てない)してたり、「二度目のXXには臆さない」ってことは一度目は流石に怖かったのかな…とか、物語自体は刻雨視点で語られますが、ちょっと踏み込んでいただけると、アラタマの心境もちょこちょこわかるようにしたつもりです。(でも説明不足だったかな…という反省はある…)。アラタマ、出来る子なのに境遇がとにかく不憫で本当にごめん…上司に恵まれない…。 本作については、和風ファンタジーだからこそ神仏の区別をきちんと考え��くてはいけないのでは?と思って色々調べたことで、かえって「日本の歴史を紐解けば紐解くほど、神仏の区別つけんの無理だわ」という境地に至ったのもいい思い出です。土着の神が法師とやりとりしてたり、「成仏」という単語が出てきたり色々混ざってますが、日本はね、しょうがない。 尚、プロットが仕上がった辺りから、匙於ナゲルさんの絵で表紙を飾っていただきたいなああ…というかナゲルさんに断られたらもう話の内容変えるわ…ナゲルさんがいい…ナゲルさん……と強い念を持って依頼させていただいたのですが、幸運なことにご快諾いただき、素敵な表紙をカバー裏を仕上げていただきました! 「少年漫画みたいな表紙がいい!!!」というざっくりすぎる依頼に対して、本当に素敵な表紙を描いていただきました。大感謝……!!! 更に今作は、凪野基さんに下読みをしていただきました。自分ではなかなか気づけないポイントや、数十年間勘違いに気づいていなかった日本語の誤用などをご指摘いただき、とても勉強になりました。 あー…こちらも当初の予定よりかなりビハインドしてしまい、諸々納期が遅れてご迷惑をおかけしまして……すみません……!!!
・タイトル未定 今現在、過去作品の外伝を執筆しています。本当は年内に書き終えたかったんですけどね〜〜無理そうですね〜〜〜… 作者による二次創作感の強い作品ですが、そのうちお目見えできたらいいなと思います。
★ここまでのまとめ なんで毎回締切どおりに書き終わらないのかな!?!?!?!?!? そんなにギリギリに作業を始めているわけでもないし、わりと計画的にやっているつもりなのですが…いつも締切ちょいすぎくらいに「もうこれでいこう!!!これ以上は延ばせない!!!!!」というところで妥協している一年間でした。 プロットを作っても大体プロットどおりに進まないというか、書いている内に書きたい要素がどんどん増えてしまうというか、いやでもそれが楽しくて創作やってるので、そこはどうしても削れないというか… もうちょっと、自分のマネジメントを上手くやっていく方法はないかと悩む日々でございます…。
★参加イベント振り返り 2019/2/17 COMITIA127 2019/3/21 Text-Revolutions8 2019/5/6 第二十八回文学フリマ東京 2019/11/24 COMITIA130 & 第二十九回文学フリマ東京(委託) 今年はついに、ずっと出てみたかった文学フリマに参加できました! コミティアよりもブースの前に余裕があって、立ち止まって作品の中身を吟味してから買ってくださる方が多かった印象です。 どうしてもコミティアのほうが知り合いも多く、規模も大きいので、日程が重なるとティアを優先して��まいがちだけど、文フリも今後参加させていただけたらいいな〜。
★2020年の予定 基本的に予定は未定なのですが、5月に新刊を出す予定です。新刊といっても過去作品のリメイクなのですが、ちょっと今までとは違う試みをしたいな〜と画策しています。うまくいくかな〜〜? こちらもまた素敵な絵師さんに表紙をお願いしておりますので、ご期待下さい!!! 他には合作のお約束をしているものがあるのと、秋くらいにまた新作で一冊出せたらいいなと思っています。どうかな〜うまくいくかな〜〜 3月ころから仕事が忙しくなる可能性があるので、��んとも言えないのですが、今後も好き勝手に楽しく創作していけたらいいなーと思います。
長々とお付き合いいただき、ありがとうございました。 来年もどうぞよろしくお願いいたします!!!
★活動場所 ウェブサイト:http://thor.hiho.jp/ 通販:https://thorsatomi.booth.pm/ Twitter:https://twitter.com/ThorSatomi
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Season 2, episode 3 - ensoniq
「エンソニックは、良きライバルとして共に大きくなる会社や。」 〜伝・梯郁太郎氏
♬ ♬ ♬
「幻のジャイアント・インパクト」
1980 年代初頭アメリカ合衆国。当時世界で最も進んでいた黎明期のパソコン業界。
そこにSound Interface Device、略してSID(シド)なる音源チップが誕生。そのSIDは最初パソコン用音源ICとして開発。なるも、ちょっと歪んだその音が凶悪な個性を帯びているという評判から、やがて後世にてチップチューンの名ICとしてレトロフューチャー的に再発見。2000 年前後にはスウェーデンはelektron社きってのイカれた卓上シンセSID Stationの音源コアとなり、その希少な在庫が枯渇して入手不可能となった後はその音をモデリングしたエミュすら登場、今や伝説のチップとして名を轟かせる。
そこまでして時空を超えてひっぱる人気の名石SID。デビュー当時「ぴー」とか「ぶー」とかしか言わんブザーみたいなPC用の音源回路ばかりの中、すでにSIDは1台のシンセサイザーをまるっと内蔵、すなわち:
・3基のデジタルオシレーター:鋸歯状波、矩形波、三角波、擬似乱数ノイズ、この3基のオシレーターを円環状にカスケードさせたハードシンクすら可能 ・1基のステートバリアブルVCF ・3基のアンプ ・3基のEG ・3基のリングモジュレーター:3基のオシレーターを円環状にカスケードさせたリング変調も可能
...をすべて内包して3音ポリを実現。リングモジュレーター3基とかハードシンク3系統とかどっちも円環状に変調できるとか何気に凄いですね。さしずめ「リング状リング変調」「リング・リングモジュレーション」「リンリンモジュ♬」てとこでしょうかね。SID Stationではウェーヴシーケンスすらできたよね!すぐバグってメモリーがぱぁぷりんに吹っ飛んだけどね!
それもそのはず、SIDを設計した開発エンジニア・チームはパソコン業界を超えて、ゆくゆくはプロ仕様シンセサイザーに採用されることすら夢見てこれを作った。彼らに言わせれば当時のパソコン向け音源ICなんて、音楽のことなどまるで分かってないやつらがでっちあげた代物。そこにミュージシャンマインドでもって音楽的���風を巻き起こさんと取り組んだ意欲作 SID。唯一彼らが心残りなのは、イラチなクライアントのせいで開発期間が短すぎて音質を充分によくできなかったこと。
いや、もうひとつ。さらにもうちょっとだけ時間があれば3音ポリどころか空前絶後の32音ポリにすらできたこと。ただでさえ当時ありえない32音ポリしかも前代未聞3オシでリンリンモジュ。 聴こえますか、このぎゅるぎゅる言うエンドレスなリンリンモジュの音が。まさにタキオン粒子加速器、エネルギー充填120%!反物質砲ファイア!!!
いやぁ、もし当時そんな怪物チップが出来上がっていたら6音ポリしかなかったJUNOはおろかPolysixやJX-3Pはひとたまりもなく吹っ飛び、最大でも8音ポリだったJupiterやTRIDENTはもちろん名機prophetもOBもSynthexも大打撃、挙句DX7をもってしても16音ポリとあっては戦略やり直しとなったのであろうか。
大陸を一撃で殲滅しえた恐るべきオーパーツの如き破局、そのコアたりえた一個の種、秘石SID。
このICを誕生せしめた若きエンジニア・チームは、彼らの偉業にちゃんちゃら無理解なパソコン業界に嫌気がさして見切りをつけ、いっそ電子楽器メーカーにならんと進路変更。 その社名を新規に考えるべく、まずは出発点として「音に関するもの」を意味するsonic(ソニック)、おふらんせ〜ふうに洒落てみるべく最後1文字「c」を「q」に変更してsoniq、さらに「包み込む」というような意味の接頭語 in- をくっつけて insoniq としたいところを敢えてそうせず、その接頭語 in- を古語 en- へとひねることで洒落てみて ensoniq。英語で「エンソニック」と発音するときは「ソ」にアクセント。なんならついでに「エンソニック」と「インサニック」の中間みたいな発音で。その名のとおり理想の音でくるむように、包み込むようなイメージでどうぞ。
やがて目からウロコの次世代シンセメーカーとしてめきめきと頭角を現すばかりか、海外シンセメーカーたちが安価で高性能なメイド・イン・ジャパン・シンセたちとの競争に敗北し軒並みばたばたと倒産する中、唯一、並みいる日本企業たちを相手にその好敵手として大立ち回り、デジタル・エイジにて大活躍、創造性の国アメリカならではのとらわれない発想と国産機の痛いところを突いた名機の数々でもって全地球のシンセヲタどもをぐぬぬと唸らせることになるこの会社。 これまでこの連載で紹介した電子楽器メーカーはすべて 70 年代前半までに設立され、ヴィンテアナログシンセ時代から続いてきた古参企業ばかり。YAMAHA や KAWAI に至っては戦前から存在する老舗。だが、ここについに新しい生粋のデジタル世代が登場。黄金の80sにふさわしくちゃきちゃきのとんがったデジタル野郎たちが大暴れするそんな彼らが旗揚げしたのは、時に1983年、MIDIが公式に誕生しDX7が電子楽器の金字塔として堰を切ったように怒涛の快進撃で世界へあふれだしていたころであった。
♬ ♬ ♬
「ファーストインパクト:Mirage」
ensoniq社が最初に出したのは実はパーカッションパッドであったが、ほとんど無名。いい音がするらしい。そして創業2年後の1985年、急速に成熟しつつある電子楽器マーケットにおいて全くの無名だった彼らはMirage(ミラージュ)という名の価格破壊サンプリングキーボードをだしぬけに投入。 お歴々はご存じであろう、当時サンプラーといえば最高1億円したシンクラヴィアか、1,200 万円もしたフェアライトCMI、はたまたイーミュレーターやカーツウェルK250 といった300万円はくだらない電子楽器のロールスロイスみたいなやつばかり。そんなところへやにわに1,599米ドルというアゴ外れんばかりにありえない破格でガチ道場破りしてきたのがMirageであった。
SIDチップをベースに自社開発した音源IC「DOC(ドック: Digital Oscillator Chip)」、コードネーム「Q-Chip」。これはSIDで開発期間が短すぎて具現化できず無念の涙を飲んだ32ボイス仕様を実現した夢のチップ。だがすでにDX7が出てきた今、Mirageではこれをあえて戦略的に8ボイスに制限し、その代わり1ボイスあたり2オシレーター最大4波形を重ねてトリガーできる仕様とした。8ボイス✕4波形で32音、うまいっ! しかも強力な自社開発デジタルオシレーターチップに加えてカーティス社のVCFでもってデジアナハイブリッドな音の加工も可能という、自力でIC設計できるensoniq面目躍如。
その一方で7セグ2桁LEDが唯一の表示、しかもテンキーだけでパラメーターを打ち込むという、しかもそれは16進数という、無慈悲なカスタマーエクスペリエンス。そもそもあまりの音質のひどさにMirageはサンプラーではなく原音をとどめないシンセであるとまでジョークにされて叩かれるも、そんな噂どこ吹く風。フェアライトが登場して6年、みんなアート・オヴ・ノイズの真似したくてしたくて「んもぉぅ辛抱たまらん」うずうずしてたところへ欧米ではDX7よりも安いサンプラーが放り込まれたのだから猛獣の檻に生肉を放り込むようなもの。
しかもシンセまるっと入った音源チップを自社開発できることがensoniqのコア・コンピタンスだった���けだが、彼らの強みはそれだけではない。 記憶メディアだって業界初の3.5インチ・フロッピーディスク。当時、他のサンプラーが採用していたストレージはほんとうに「フロッピィ」だったぺらっぺらの5インチ。耐久性ヤワすぎて折れ曲がる上に薄いプラが劣化するやつ。なので硬質な樹脂カートリッジに守られていた3.5インチはハンドリングも楽でガシガシとスタジオでもライヴでも現場でミュージシャンがタフに使える頼もしい相棒。一層お安い価格破壊MIDI音源モジュール版までちゃんと用意。上級者にはオプションでMASOS(メイゾス:Mirage Advanced Sampler Operation System)という黎明期のエディターソフトすら完備する全方位っぷり。PC業界からスピンナウトしただけあって、なおかつミュージシャン・マインドなだけあって「分かってらっしゃる!」
一方、Mirageには妙なところもあった。ビット深度が8bitだったのは時代だとしても、量子化の目が粗すぎてループ時に波形ゼロクロス・ポイント同士が出会わないことがあり、そのときはサンプルをディチューンさせることで波長を無理くり変えてゼロクロス・ポイント同士をつなげてループさせたのだという!!! 野蛮!!!
Mirageの雄叫びを純正ライブラリーサウンドで聴いていただきたい:
Ensoniq Mirage Sound Demo
youtube
いいねぇ、粗さがインダストリアル♬ っていうか粗いくせに不思議にリアルというか、音楽的ですらある、圧倒的じゃないか...!
これですよこれ! 音楽的であればそれでいい。だってみんなこれがしたかったんでしょ? それにPC業界出身だからチップ設計はもちろん、ストレージメディア選択とかも時流を読んでばっちし的確。 デジタルに熟知した彼らはサンプラー市場にぽっかり空いたブルーオーシャンな窓を目ざとく見つけ、そこにピンポイントでMirageをぶちこんだのであった。そこまで狙い済ませたモデルが人気炸裂しないはずがない。それまでやれ音のクォリティだトータルな楽曲制作環境だとくそまじめに気にしていたやつらを尻目にMirageはパンクなまでに軽快なスペックでもってバカ売れ。この痛快さは、だがむしろ歴史の必然ですらあった。まさしく製造業界のパンク野郎ensoniqは、だがミュージシャンにとって大切なものが何かをよく分かっており、しかもそれをパソコンという外様の発想で具現化するヒーロー、旧弊であり様式美であった楽器業界を打破する新進気鋭の疾風怒濤であった。かっこいい!
同じ1985年、AKAI初代サンプラーしかもすでに12bitのS612やSequential Prophet-2000といったサンプラーが続出、CASIOからは庶民の味方SK-1 Sampletoneを見た。翌1986年には業界標準機となるAKAI S900、KORG DSS-1、Roland S-50/S-10などと個性派サンプラーが続々登場、世界はアナログとFMとサンプラーというサウンドが支配。それはまだPCMシンセが台頭する前のことであり、よってKORGもRolandもシンセメーカーでありながらフラッグシップはサンプラーというちょっとだけ不思議な時代でもあった。
え? 当時PCMシンセってまだだっけか? 当時のPCMシンセって400万円したKurzweil K250だけ?
じつはMirageローンチの翌年、PCMワークステーションシンセの草分けensoniq ESQ-1リリース。Roland D-50の前年、KORG M1に先立つこと2年、ensoniqはすでに次の一手を打っていた。
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「セカンドインパクト:ESQ-1」
ESQ-1は実はMirageのアーキテクチャーを概ね引き継いでいる。同じ音源チップをあえて8音ポリに制限するところまで同じ。ただそれを3オシレーターとして見せており、
・3基のPCMオシレーター ・1基のVCF ・1基のVCA ・ハードシンクならびにリングモジュレーション可能
って、ちょっとSIDみたいな先祖返り的な構成。

とはいえ32の音源波形はPCMではあったがサンプルまるごとではなく1波のみ切り出してループさせたもの。それでも流石ミュージシャン・マインドを持った彼らだけのことあり、サンプル1波ループとはいえ切り出し方が天才的にうまくてリアルに聴こえ、それをフィルターやEGで加工すれば表情ゆたかなPCMシンセサウンドになった。すなわちKORG DW-8000やKAWAI K3にも近いがサイン波倍音加算合成でもなく一応はPCMだったのであり、音のリアルさや音色バリエーションの豊富さにおいてもこれらを凌駕するものであった。なによりも音が音楽的。これまたスペックや数値ばっか気にする当時の真面目人間からは出てこない「使えるサウンド」であった。
加えて最大2万4千ノートの8トラックシーケンサーも搭載。これは2年後のKORG M1が最大でも7千ノートでベースライン2〜3曲分でしかなかったことを思えばその3倍以上、楽曲制作に充分であった。電源をオフってもバックアップ・バッテリーでシーケンスデータは保持。8ボイス8パートマルチティンバー音源はそのまま8トラックに対応し、じつはKORG M1よりも前に史上初の本格的こんにち的ワークステーションシンセとしてデビューしていたのであった。この質実剛健なつくりを見るといかにM1がマーケティングの勝利だったかって分かるよね。
パソコン業界ゆずりは音源やシーケンサーだけではない。初めてファンクションキーを導入した操作性も流石PC。アバウトだがLCDよりも視野角が広いFL管を採用、今ならそのエモい表示がレトロフューチャー・コンピューター感。そしてensoniqはファンクションキーのことを「ソフト・キー」と呼び、画面によって機能が変わるから、すなわちソフトウェアに依存して規定されるからだと説明。このクールなネーミングセンスもPCならでは。なのだが、どういうわけかその説明が欠落したまま日本に伝わり「押した感じが柔らかい」と紹介されてしまう。 この操作性を活用し、1画面内に10音色を一気にならべて表示、ファンクションキーでよりどりみどり思いつきで音色選択できるすぐれた操作性もお初。40年くらいたってからKORG KRONOSにてSetlistという名前でふたたび採用。
そしてトドメのプライス1,395米ドル。日本価格はDX7や後のD-50、M1を上回る29万8千円であり事実上無名であったが、海外ではぐっと親しみやすい価格設定。おかげで5万台も売れたらしく、特に北米ではESQ-1と一緒にATARI STやCommodore AMIGA など黎明期のパソコンが綺羅星の如くならび、ESQ-1は海外コンピューターミュージック用キーボードとしても市民権を得た。そして日本のミュージ郎よりも先にゆくその普及率に、じつはその航跡を追うかの如くもうひとつの知られざるビジネスが勃興していたのであった。サードパーティ音色ライブラリーである。
ESQ-1が売れるところ、雨後のたけのこの如くあまたの音色ライブラリーメーカーが登場。中には不幸にして自宅を失って友人の土地に長さ6mのトレーラーハウスを停めて暮らし、膝の上にESQ-1のっけてそのローンに苦しみながら夜な夜な午前3時まで一心不乱に音創りするあぶね〜野郎まで登場。その彼が作ったESQ-1音色カートリッジは半透明のエポキシ樹脂にくるまれて生産され、それゆえにVoice Crystalシリーズと名付けられた。そう、Eye & I社Voice Crystalシリーズ。のちに大ヒットし、特にRoland D-50用のライプラリーはK社エンドースを受けていたキースさんまでを虜にしてクリスマス・アルバムまるまる一枚を制作せしめロゴをバミって隠したD-50とともににやけて雑誌宣伝広告写真にまで映ってしまったあのシリーズである。
同じ1986年、Apple社から初期のパソコンApple II GSが発売。GS とは Graphic and Soundの略であり当時盛んに言われていたマルチメディアへの対応を謳ったモデル。そしてここにも搭載されたのがまさにensoniqのDOC音源チップであった。Apple II GSは、これをそのまんま32ボイスのシンセ音源チップとしてフル活用、さらに15ボイスに達するステレオ波形再生も実現、Macintoshが登場するまで古典的時代の牽引役として輝ける看板機種となった。
一方、本業においてシンセとサンプラー、すなわちESQ-1とMirageというペアでもって時代を先取りしたensoniq。だが北米では絶好調でも日本では販売価格がむやみに高かったせいかあんまし認知されていない。そうこうしているうちにDX、CZ、FZ、S900、D-50、そして最後の大物KORG M1が「ワークステーションシンセ」というキャッチーなタームを繰り出してESQ-1のお株をさらってしまった。 そんなデジタル群雄割拠の中、ensoniqは音源チップDOCを進化させた DOC IIを開発。これをコアとしてESQ-1の後継機種SQ-80 と、Mirageの後継機種EPSことEnsoniq Performance Sanplerとを開発。中でもEPSはのちの電子楽器業界を大きく変えるコンセプトをはらんだ胎動となったのである。
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「サードインパクト:EPS, SQ-80」
EPSは、パンキッシュだったMirageから一転、ただまじめに音が良いサンプラーになっただけではない。
確かにシンセと違ってサンプラーには写実主義という出自があった。勝手気ままに理想の音を追究してもゆるされる自由奔放天真爛漫なシンセとは違い、当時のサンプラーに几帳面でくそまじめなイメージがつきまとうのは、その命題が写実主義だったからに他ならない。原音忠実、ハイファイ再生、だからビット数もサンプリング周波数も内蔵メモリー容量もどんどん数値はうなぎのぼり。高音質それだけのために恐竜のように肥大化してゆく一途。 でもなんかそれって袋小路。
だからこそ、そこに異を唱えたのがEPSであった。不毛な量的拡大ではなく質的転換、鍵はアーティキュレーションにあった。
生楽器にはアーティキュレーションがある。具体的に言うとさまざまな奏法がある。例えばヴァイオリンであれば、 ・弓を押し引きするアルコ ・弦をはじくピッツィカート ・短く跳ねるように弓で弦をこするスタッカート ...などなどあるわけで、既存の日本製サンプラーでは各奏法を別々のプログラムに収録してライブラリーが作成されていた。つまりプログラムごとに高度に専門化された内容でライブラリーが制作されており、現場では奏法ごとに異なるプログラムを逐一サンプラーにロードして演奏する。すなわち...
・アルコ用プログラム ・ピッツィカート用プログラム ・スタッカート用プログラム ...などなどなど。
だがEPSでは必要な奏法をすべて収録したプログラムを1つ作成し、それをロードしさえすれば主要なアーティキュレーションすべてが自在に演奏できるようにした。プログラムの中にレイヤーを設け、そこに各奏法を収録したのである。
・ヴァイオリン用プログラム - アルコ用レイヤー - ピッツィカート用レイヤー - スタッカート用レイヤー ...などなどなど。
各レイヤーは単一奏法をサンプリングしたマルチサンプルで構成され、最大8レイヤーで1プログラムを構成する。 しかも奏法=レイヤーの切替は鍵盤左横の2連パッチセレクトボタンで行う。このパッチセレクトボタンがじつはensoniqならではの秀逸な発明であり、鈍重なプログラムチェンジを行うことなく、すばやく音色を切替えられる。プログラムを構成するレイヤーのみを切替えているからだ。だからタイミングよく反射神経で、それこそ演奏中その場の思いつきだけでぱっぱとアーティキュレーションを切替えられる。
なんならアーティキュレーションにとらわれず、まったく異なる音色を各レイヤーにもたせて切替えてもいいね。 なおこのパッチセレクトボタンは基本アンラッチ(モーメンタリー)だがラッチ設定にもできる上に、フットスイッチでも可能。
アーティキュレーションごとに個別プログラムを用意するのではなく、必要なアーティキュレーションをすべて網羅したプログラムをつくる。つまり楽器まるっと1つ、あるいは楽曲まるっと1つ収録したプログラムを制作する。そしてそれを最大限にぶん回せる構造にサンプラーを設計する。
ひょっとしたらライブラリーを先に規定し、あとからそれに合わせ込むようにしてハードを設計したのかもしれないサンプラー。それがEPSであった。 これは実に理にかなっていて、つまりコンテンツを最重要視した設計ということである。サンプラーたるものコンテンツありきなわけで、それが見抜けなかった当時の日本メーカーはやっぱハードしか念頭にない古典的ものづくり企業だったのであり、そもそもハードをなんのために使うのかがイマイチ分かっていなかったと言わざるを得ない。いや、それはE-muやKurzweil、Fairlightといった海外企業でも同じか。いかにensoniqがうがったものの見方をしていたかが分かろうというもの。
サンプリングはもう当たり前。次につくるべきは肥大化するあまりただのレコーダーへ堕ちようとしていたサンプリングマシンではなく、役立つ楽器としてのサンプラーであった。
もっと正せば、なぜサンプラーを使うのか?シンセがあるのになぜサンプラーなのか?サンプラーにしかできない事はなにか?と考えたとき、写実、というテーマがあるのであり、それを単に原音忠実としか捉えなかった既存メーカーと、アーティキュレーションという次元まで踏み込んで「写実」というテーマを考え抜いたensoniqとの違いであった。
そういやEPSではプログラムチェンジで切替えられる音色単位を「プログラム」とか「パッチ」とかって言わずに「インストゥルメント(楽器)」って呼んでたね。 歴史の浅いサンプラーがゆえに名称が固定化していない、そんな時代ならではの自由度の高さとはいえ、やっぱ示唆に富んでます。
もちろん当時これは目からウロコであった。今どきの大容量ソフトウェア音源には奏法の違いを切り替えるべく、最下1オクターヴをスイッチ代わりに打鍵させる機種があるよね。言わばその発想をすでに1988年に先取りしていたのがエンソ、偉い! 史上初めてアーティキュレーションに着目しアーティキュレーションを切り替えながらリアルタイム演奏できたサンプラーだからEnsoniq PERFORMANCE SamplerイコールEPSだったわけ。
13bitといういささか中途半端な解像度だったEPSは、12bitの2倍も音が良いというだけでなく、サンプラーのパラダイムシフトを宣言するものであった。
他にもEPSには自動ループ作成機能があり、いろんなアルゴリズムが選べたばかりかSynthesized Loopという究極アルゴリズムに至っては波形そのものを書き換えてしまうことで若干音が変わろうがおかまいなし、無理くりでもループをとる。え、サンプラーって原音忠実が至上命題と違ごたっけ? でも結果が音楽的でありさえすればそれでいいでしょ? 持続音がほしかったんじゃないの? やろうと思えばオケヒからでもループとってじゃ〜〜〜〜〜ってサスティン効かせて流せるのよ。おかげでensoniqはループがとれない音はない!と断言しきっていた。もはや蛮勇。
演奏中に別の音色フロッピーを読み込ませることができるLoad while playもまた目からウロコ。ロード中は他になにもできないのが当たり前と思っていた私たちは、マルチタスクというものを知らん原始人だったわけだ。 おまけにポリフォニック・アフタータッチも装備。世が世ならばMPEとともに大注目されていたはず! オプションでFlash Memory Bank、今で言うSSDも先駆的に搭載され、特にディスクベースだったOSをストアしておくと起動が早くて便利。なんて80年代には早すぎて誰も知らなかったよ。
最初は、単に安くておもしろいサンプラーでありさえすれば良かったMirage。 その次に、すぐれたサンプリング「楽器」たらんとしたEPS。
この成長は、E-muですら成し得なかったものであった。E-mu社がEmulator IIの開発に難儀したのは「単なるサンプラーを超えてサンプリング楽器とはなんぞや?」という問いに対し有効解を見つけるのに苦心したからにほかならない。それをensoniqはやってのけたのであり、無から有を、ゼロから1を、理想解を具現化しえた唯一のメーカーであった。ぐぬぬと唸らされたのは全世界。

他メーカーにはない自由な発想の数々、そしてそれを惜しみなくつぎ込んだ豊かな果実EPS。当時メイド・イン・ジャパンを始めとする安価で高性能で高音質の機種が台頭していたときに、まったく違う発想のサンプラーが登場。それはそもそも何故サンプラーなのよ?サンプラーって何よ?という本質から考え直してゼロから起こした自由の国アメリカならではの機種のはずだった。
はずだった?
SQ-80とEPSはユニークな発想が光り他社の弱点を突いた問題作でありプロからの評判も上々だったが、銀行屋がもっと売上をと言い出した。欧米の銀行は日本以上に短期的成果を要求してくる。それゆえensoniqはすみやかに次世代機種を出す必要があった。そんなアクロバットを実現するためには今までと同じことを繰り返すわけにいかない。 果たしてensoniqはSQ-80にとってかわる次世代シンセを開発。そのために下した英断とは:
・音源チップDOC、DOC IIを廃番とし、さらなる新音源チップDOC IIIコードネームOTISを開発、かつ、これを初めて投入 ・ESQ-1、SQ-80と続けてきたシンセのアーキテクチャーも敢えて棄てる ・サンプラーEPSをベースに、なおかつそれにひねりを加えた次世代シンセ音源をつくる ・次世代シンセは初めてCDと同じくサンプリング深度16bitを実現 ・更にエフェクト用に優秀なDSPを新規開発。これによる新型24bitマルチエフェクトを内蔵させる ・すべてをかつてなく短期間で商品化する
時に西暦1989年、名機VFXが誕生する。
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「フォースインパクト:VFX」
世の中ワークステーションシンセだらけ、もうすっかりワーステ・ブーム。かつてESQ-1がその草分け的存在だったのに、マーケティングの勝利M1にお株を奪われたわけで。 しかしその流行に乗って百花繚乱に咲き乱れるワークステーションシンセたちの真っ只中にあって、VFXは真逆にワーステを捨て、ただただ音のキャラと表現力のみにこだわった素のシンセとしてまさかの逆張りデビュー。内蔵シーケンサーはおろか、フロッピーディスクドライヴがあったはずのところには意味不明の穴ぼこがぼこっと口を開けている始末。こんな後始末もろくにしないとは、よっぽど開発を急いでいたのであろうか。とにかく、ただただ個性的な新音源と強力エフェクトあるのみ。 その一方でCPUには名門モトローラM68000! これ当時Macやフェアライトに採用されていたガチなやつですよ。ちなみにAKAI S900のCPUはNEC PC-98と同じV30。prophet-5はZ80だったよね。そしてVFXの音源ICには前述のとおり第三世代チップensoniq謹製OTISを、内蔵エフェクトには最新DSPを投入。音源チップのほうは90年代に入ると通信カラオケやアーケードゲームの数々にも搭載されることになる。
驚愕したのは音、音、音、壮大な音。映画館のような重低音が出る出る満ちる、エピックなサントラなど朝飯前。低域にコンプかかってんじゃね〜か?って思うくらい。しかもとにかく太い、押しが強い、いやそんなもんじゃない、もう我が強い、腕っぷしが強い、サウンドの力こぶ筋骨隆々、そこのけそこのけ強強すぎてミックスの中でいくら音量を下げても俺が俺がと出てくる出てくる。ごりごりのシンベ。のしあがるオーケストラ。つんざくリード。自己主張はげしすぎてそこんじょらのシンセはもちろんメタルのディストーションギターの音の壁ですらもろともせず抜けて聴こえるシンセブラス。どやかましいロックなアンサンブル全体をたった1音で深々とせき止め、がっぷり四つに組んでガッツリ支える、ヘラクレス級に腕力を誇るストリングス。重低音重低音。もはやVFXは音世界を支える巨人アトラス。あんなランボーなやつ、ちょっといない。他機種の音色は皆さん荷物まとめて帰って行きよりましたわ。
プリセット音色がまた秀逸、単体で聴くと「え?」と思う音色でもアンサンブルに混ぜると絶妙に良い音色になる。なんというミュージシャンだましいな耳でもって開発されたのか。 単に推しが強いメリケン・サウンドだけではなく、自分で音をつくるとそれはそれはもう深い深い幽玄なるたましいの深淵をのぞきこむ底なし沼にディープな音もつくれる。なんだか日本ではコムテツが多用したSYMPHONYというプリセット音色でばっか知られているようだが、なんともったいない! あんなもんオケヒ・ループにペットのサンプルをレイヤーしただけで自作できる。さらに工夫して作り込めばほんとうに深い味わいある音が、プリセットとはまるで違う音のパノラマが展開する名機。
・なんせPCM波形が実物以上に壮大な音がする ・その上に、PPGウェーヴテーブル音源の発想を取り入れた新開発TransWave波形もいろいろ搭載。楽しい! ・Oberheimにしかなかったモジュレーション・マトリクスも初めて採用 ・6系統の減算方式レイヤーによる重層的音創り ・強力エフェクトのおかげで何をやってもバルビエリ御用達どよよんサウンド ・そしてEPSゆずりのパッチセレクトボタンのおかげで、どぎまぎしながら音色選択ボタンを押すタイミングを狙いすます苦行さいなら

VFXはすぐれて他社の弱点や欠点をうまく突いた名機であり、ensoniqが他社シンセをよく研究していることの現れであった。というよりそれ以前に、そもそもシンセとは何か?どうあるべきか?と鋭く問うシンセ史上たぐいまれな名作であった。ひとことで言えば思いつきに即答えてくれる、難しい仕込み不要、そんな直感的デジタルシンセであった。
そしてこの広大かつフレキシブルに音が変化するアーキテクチャーを、ensoniq はDynamic Component Synthesis(各ブロックが動的に他ブロック��働きかける音源)と呼んだが、さすが英語が母語だけあってうまくその売りとなる特徴をとらえている。
にもかかわらずVFXは不運なシンセとなった。 銀行屋が圧力をかけるゆえensoniqはVFXを手っ取り早くつくるはめに陥ってしまい、いい加減なつくりのまま量産してしまい基板や機構に不備が続出、バグも多くてクレーム続出。ついにアメリカにて「No more Ensoniq!」と言い出す楽器店まで現れた。それも最大手チェーンGuitar Center。 それでもなお音がいいのはなんでか?というと、これもやはりいい加減なつくりだったから! すなわちデジタルに強すぎてアナログ回路にむとんちゃくだった彼らがテキトーな最終段アンプをでっちあげてしまい、それが逆に奏功して良い音になったのだという!!!
度重なる蛮勇にクレーム殺到、それでもなおその音にこの上もなく恋い焦がれたユーザーたちアーティストたち。まさに「蛮勇引力の法則」ここに極まれりensoniq。
これゆえ不良撲滅すべく改良を重ねたあげく、半年後にワークステーションシンセVFX-SD投入。VFX「-SD」は機能追加されたSequencer + Disk driveの略。それでも��だ故障が多々あり、VFX-SDのFL管ディスプレイの直下をぐいっと押すとてきめんにエラーが出る笑 のちにアコピ波形に重点を置いたVFX-SD II、さらにはSD1、そしてついにSD1 32 Voiceと世代交代を重ねるにいたりようやく不具合沈静化。VFX-SDをSD1仕様にまでアップグレードしてもらえる基板交換サーヴィスもあったが、ただでさえ十万円もした上にエンソニック・ジャパン社まで送り返さねばならず諦めてしまったは一生の不覚。いやそもそも最初からVFX-SDをじっくり開発して出すつもりが焦って先にVFXというカタチで半年くらい先にフライイングで出しちまったんじゃねーの?とすら勘ぐってしまうね笑
そのVFX-SDというワークステーションシンセが誇るは音源だけではない。

こちらもすぐれた最大24トラック内蔵シーケンサー。いにしえのOpcode 社 VISIONと同じく長大なパターンシーケンサーで構造的に作品が作れる。思いつきで断片的なシーケンスを12トラックでたくさん作り上げ、それがたまってきたら適当につないでソングにしてみたり順列組合せを変えてみたりと試し放題、思いつくままに発散しまくるアイディアを作品へと収斂させ昇華させてくれるクリエイティヴ・ツールとして最高! しかも12トラックのシーケンスをつなげてソングをつくると、ソング全体にわたりさらに12トラックのリニアトラックが追加。個々のシーケンスをまたぐオブリとか録音できる。
Undo / Redoも「オーディション機能」と変名された上で初搭載、シーケンストラックを再生しながらこれまた思いつきでbefore / afterを切り替えつつ比較試聴できるミュージシャンマインドな便利機能。当たり前ですがイベントエディットも充実しているばかりか、最後にオーディション機能で締めくくられるからホンマにエディットして良かったのかどうかbefore / afterで比較検証させてくれて気に入らなければもとに戻れるって、いかれぽんちな思いつきだけのクリエイターにとって至れり尽くせりじゃないですか。
デモ演奏も音楽的でセンスあふれる、もう立派な「いい曲」。 日本のワークステーションシンセのデモ曲といえば、マルチティンバー能力の限界に挑戦すべくアクロバティックなまでに各パートをぶん回した非現実的な曲芸「こんなことまでできます!ドヤ顔」みたいなもんばっかで聴いてるだけで目ぇ回ったが、ensoniqのデモ曲はちゃんと楽曲として成立しうるばかりか、落ち着きあってセンス良くてまとめ方もうまくて大人でかっこよくてデモだけでアルバム出来そう♬
ついでに機種名もロゴもアーティステイックでかっこいいね!
ミュージシャンマインドで設計された機械がミュージシャンを支援してくれる、理想のensoniqシンセ。 EPS 16 Plusという16bit化された新型サンプラーも発売、これにはVFXゆずりのグレイトなマルチエフェクトも搭載され、楽器としてだけでなくサンプル加工にも抜群に使えるようになった。EPS 16 PlusはVFX-SDとともに双璧をなし、その下にSQ-1(61鍵)、SQ-2(76鍵)、という廉価版ワークステーションシンセを配し、SQ-Rという1Uのコンパクトながらに実力派の音源モジュールも誕生、2Uの強力エフェクトアウトボードDP/4もスピンオフ、ensoniqは黄金時代を迎える。そればかりか音楽のたのしみを広げようと、補聴器まで試作していたというSDGsアクセシビリティ先取り!
その音は世界中で玄人ウケし、安いコモディティと化しつつあった日本製の機種とは一線を画す。そしてその高いプロファイルでもってensoniqは並みいる既存メーカーに対する異議申し立てとなり、それらの好敵手となった。
そしてついにensoniqは、EPS系の最終進化形ASRことAdvanced Sampling Recorderシリーズを経て、VFX以来5年かけて開発を重ねてきた夢のシンセを世に送り出すことになる。 同社最後の大輪、音源コアDOC IVコードネームOTTO、それを心臓として建造された双頭のフラッグシップシンセTS10とTS12。1994年のことである。
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「ファイナルインパクト:TS12」
Ensoniq TSシリーズ、それはそれは空前絶後に壮大な音がするシンセであった。構造はSD1をさらに発展させた完成形であり、音源波形も新規であるために既存機種との互換性は無い。比較して聴けばSD1もまだまだ粗削りだったのだと分かる。ド太い重低音はもちろん、澄みきった濁りのない深い音色もする。映画館「みたいな」ではなく今度こそまんま映画館そのものな音がした。

TS10は61鍵シンセタッチ鍵盤、お家芸ポリフォニックアフタータッチ完備。TS12は76鍵ハンマーアクション鍵盤搭載。このタッチはかなり独特なものでアコピとは似て非なるもの。Flying Action Weighted Mechanismという大仰な名前がついた。88鍵ではなく76鍵でハンマーアクションを採用したのはステージピアノとしてクルマに載せられるサイズを考えてのこと、つまり車社会アメリカならではの機動力を考えてのことであろう。
16波形を数珠つなぎにしてウェーヴシーケンスをつくれたので、KORGよりも波形ステップ数は少ないものの音色ごとに個別設定できる点では実はKORGを凌駕する長所があった。デイヴ・スミス対ensoniq、ここでもアメリカ人同士の対決! KORGも気にしたのか最近のwavestateではウェーヴシーケンスを1,000もメモリーできるという、とてつもない上限値でもって事実上問題ないレベルにまで回避している。

ASRシリーズのサンプルライブラリを読み込めたのもポイント、読み込むデータによっ��自動的にTSになったりASRになったりと二つの顔をもつ双頭シンセとなった。両者はアーキテクチャーが違うため、つまりこれはソフトを自動的に入替えることで機能が変わるパソコンのようなキャラをシンセでも具現化したことになる。
なによりも、とかく日本のデジタルシンセが冷たく痩せた音がするのに対し、あたたかく骨太で豊かでスケールの大きな音がする。これは4年後の1998年にあたかも打倒ProToolsと言わんばかりに出てきた同社DAWシステムPARISことProfessional Audio Recording Integrated Systemにも言えた。事実PARISは「あたたかい音がするDAW」としてハリウッド映画音楽業界でも話題であった。お得意の高性能DSPを6基も搭載したPCIカードを開発、これにより非力なパソコンでも高度な処理が可能となって文字通りレコーディング業界への福音のごときシステムだったPARIS。 そして巨大な体躯というか威容を誇る重厚長大なフラッグシップTSシリーズは、説得力あふれるビッグな音はもちろん、広大な仕様・性能を満載しているがゆえにensoniq最高傑作との呼び声も未だに高い。
だが、ensoniqは自分たちの理想郷を追い求めすぎた。
TSシリーズは業界最強な独自アーキテクチャーを貫きすぎたのか、SMFやGM、wavファイルといった互換性に欠ける孤高の存在であった。90年代ともなるとDTMが進展しユーザーが増大して市場の裾野が広がり、さほどパワーユーザーではないライトユーザーも参加した結果、今まで以上に簡単に音色やシーケンスデータをシェアできるよう互換性が求められるようになった。だからこそMIDI規格にもSMFやGMといったより細かいルールが制定されたのであり、MIDIと対をなすオーディオにおいてもwav/AIFF互換が必須となった。すべてはデータの再現性を担保するため。流通しやすく、誰でも同じような結果になるよう再現できるため。個性よりも普遍。普遍による流通とシェア文化。シェアラブルであること。
かつてPCからスピンナウトして誕生したensoniq、だが今ふたたびPCの軍門に下るときがきた。
このあとTSシリーズの中核を成していたVLSI音源チップDOC IVことOTTOはensoniq社製オーディオボードSoundscapeにも搭載され、そのままensoniqはPC系へと軸足をシフト。そして巨艦TSシリーズ亡き後、ensoniqから出てきたシンセは音はわるくないものの限定的なフィーチャーを帯びたモデルばかりとなった。
薄暮の迷路にさまよいこんだかにも見えたensoniq。 その中、唯一例外的に輝いていた変態シンセは第二世代TransWave音源を搭載したシンセFIZMO(フィズモ)。これはensoniqが物理モデリング音源を開発するも実現できず、「物理モデリング=physical modeling」略して「phys mo」そのつづりをストリート文化っぽく変えて「FIZMO」という機種名だけが残ってしまった機種である。今ならヴィジュアル系な外観はもちろん、ウェーヴテーブル音源として光る個性が注目されたやも。 さらには北米でいち早く台頭してきたhiphopサンプラー文化に着目、AKAI MPC対抗機種としてASR X を投入、卓越したサンプラーに強力無比なエフェクトを組合せた力作。音も太くてよかったよね、でもちょっとむずかしかったか。
やがてensoniqはSoundBlasterをつくっていたシンガポールのメーカー Creative 社の傘下に入り、そこでE-muと合併してEmu-Ensoniqとなり、そのままフェードアウト。
ちなみにKORG 01/Wは相当にVFX/SD1を参考にしたようで、VFXのモジュレーションマトリクスはKORGのAMS(Alternative Modulation Source)機能となり、アコピの音に重点的にPCM容量をあてがう戦術、内蔵マルチエフェクトのつくりや効き具合などなど、エンジニアをヘッドハントしたフシもある。ワーステ本舗のプライドとしては、ensoniqを無視できなかったのであろう。
そもそもなにがミュージシャンにとって一番うれしいのか、アーティストがやりたいことは何なのか?その本質「why?」をなによりも第一に見抜いてソリューションを提供していたensoniqの自由な着想と回答、それらはソフトウェアとコンテンツの天国アメリカならではのパラダイムに基づくものであったことを、お歴々はもうお気づきのことであろう。彼らが世に送り出した名機たちは、つねに物事の本質はどこかを探し、本質を問うところからはじまる斜め上をゆく自由さがあり、その外様ならではのすぐれた問題意識にはじまる思考と思索の旅路、その帰結であり果実であったに過ぎない。そして冒頭にかかげた都市伝説に語られるとおり彼らは日本メーカーと共に成長すべき良きライバルであったのだが、それだけに歴史の波に消えてしまったのはつくづく惜しいと言わざるを得ない。天才E-muですら思いつかなかった自由な発想、斬新な解、そして楽器業界の多様性、ロスト。
楽器進化論、その樹形図におけるミッシングリンクとなったensoniq。楽器というビジネスは、PCの前に消え去るしかないのであろうか? 当時SteinbergがVST規格を提唱し、初のプラグインシンセneonがぽよよんと出るに至り、さとい先取の精神の持ち主たちは異口同音にハードウェア退場論を盛んにぶちあげていたものである。そのあとも度々、特にpropellerheads社Reasonの宣伝などは「いつまでハードウェアを使ってるんだ? さっさと棄てて僕たちソフトの世界で完結しちまいなよ」という主旨の、ややもすると苛立ちすらこもったものであった。
だが、苛立つということはそれだけ彼らの足元がヤワであることの証左でもある。
次はPC時代になろうがネット時代になろうが、それどころかなんべん倒産しようが不死鳥の如く奇跡の復活を繰り返してきた未来���向メーカー、その輪廻転生を見ていきたい。舞台はアメリカから大西洋を渡ってドイツへと移る。
(2022年8月13日同人誌にて初出)
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猟犬のゆりかご stray dogs.
その黒い犬は、朝靄のなかにねむっているやさしい思い出をじっと、眺めている。おおきな身体はしなやかで、しるしの星を戴いて、凡庸に立つクリスマスの樅の木のように、朴訥としてどこか盲目な従順、ひとみ燃えるピジョン・ブラッド、星を融かし沈めたくだもの、喉を焼くサングリアの酒精、あらゆる焔に熱はなく、ただ煌々と、しらじらと、夜明けとともに世界の表層が、嘗められてゆくのを感じていた。さあ、朝だ。日が昇り、山肌を温め、空気をかき混ぜ、靄を払って、変わり映えのない日を今日も積み重ねる。羊たちは草を食み、石についたわずかの朝露と、塩分とをちびりちびりと舐めている。彼は眠るためではなく羊をかぞえ、起きだして仕事をはじめた。
日々の多くは単調だ。どきどきしたり、わくわくしたり、ちょっとした異変や、予想できない天候���変化のたぐいはあっても、まったく思いもよらないことや、出逢ったことのないひと、見たことも聞いたこともない大事件が起きるなどというのは、魔法使いの長い人生においてだって稀なこと。未だ未開の土地も多く、ひとの手の入らない、魔法があったって生きていくのにけして楽とは言い難い南の国は、うつくしく積み上がった石の、白亜の尖塔を天へ向けて聳えさせている雄大なるグランヴェル城を有する中央の国や、華やかなりし芸術の都、花の、音楽の、絵画のそうして演劇の、文化の発展いちじるしい西の国、一年の多くを雪と嵐に鎖されて、自ら持ち得る魔法のみを恃みにし、傲慢で高潔、純粋すぎるがゆえにいっそ邪悪ですらある魔法使いたちに縋らなければ生きてゆくさえむつかしい、しかし凍てつく嵐のはざま、垣間見える土地の峻厳にして繊細なうつくしさは、他の追従をゆるすことはない北の国、それぞれの孤独で互いをぬるく慰め合う、晴れた日の雨のような、いつだって濡れて光っている石畳の東の国、それらのどこより未熟で、純朴、大陸にあってもっとも魔法使いと人間との紐帯たしかな土地である。力を重宝されるのみでなく、単純に、きびしい暮らし向きのなかにあって、それらを区別することに、意味など見出しかねるというのが実際のところだろう。区別して暮らすよりも、助け合うほうがよほど生きやすいのだ。少なくともここ、南の国では。
開拓と、生活、日々のちいさな積み重ね、森を拓き、山を切り崩し、水を引いてようやく畑に実りをもたらす。まずは明日を、そうしてその次の日を。南の国で未来と云えば、遠いかなたの日々ではなしに、まずは来月、来年の話になる。星を詠み風を視て、やれ今年の収穫はどれだけで、食い扶持はこれだけ、来季に種にするぶんを省いた残りを備蓄と、売って僅かに贅沢にする。暮らし向きはけして裕福であるとは言えなかった。かくいうレノックスも、天候に恵まれず収穫のきびしい年には、そう易くはくたばらない魔法使いであることに胡坐をかいて、いったい何日絶食したものか定かではない。自分はかつて軍人でもあったから、満足に食うこともかなわない強行軍も経験があると請け負って、育ち盛りの子どものいる家に食糧を回してもらった。まったく苦でないというと語弊があるかもしれないが、満足にものを食えずひもじい思いをすることよりも苦しいこと悔しいこと、しんどいことがほかにもあると知っていて、較べてなんということも無い、自分には耐えられると判断したまで。のちに長じた子どもたちはあの厳しい冬、レノックスが食い扶持を分けてくれていなかったらきっと死んでいたと、彼に深く感謝をするのを、けして忘れはしなかった。感謝や、親愛、それらを求めてしたことではなかったけれども。
羊飼いの職に就いてもう何年になるだろう。そもそもレノックスが南の国へやってきたのは、かつての知己、たったひとり誰より敬愛して、このひとのほかにあるじはないと定めた男、偉大なる中央の国の建国の英雄でありながら歴史の闇の中に消えてしまったファウスト・ラウィーニアの消息を訊ねてのことだった。革命の終局にあって、彼が率い、レノックスも所属していた魔法使いの隊は、手酷い裏切りにあってファウストが火に架けられると、文字通りに旗印をうしない、司令官をうしなって、てんでバラバラに離散してゆくほかになかった。レノックスを含めた数人が、無辜のままに焔のなかで、さいごまで親友を信じていた男の処刑を遠くから見つめていたが、彼らはどれほどファウストを慕っていようとも、彼を助けるために駆け寄ることかなわなかった。
別段、レノックスは、まさに火に架けられようとするファウストを救うために躍り出て、そのころは影も形もなかったグランヴェル城の裏手、物見高く、興味と、熱狂の渦にのまれて、どれだけ自分が残酷になろうがお構いなしの、詰めかけた民衆を蹴散らしたって良かったし、処刑台のきざはしに足をかけた瞬間に無数の矢で射られたって良かったのだ。
けれどもできなかった。ほかならぬファウストが望まなかったし、幼馴染の親友と、あたらしい国を夢見て故郷を出てここまで旅をしてきた男が、ずっと人のために尽くしてきた男が、たと��自分の命を救うためとは雖も部下が人を傷つけるなど許すはずがなかったのだ。それに、今後、彼の部下であった魔法使いたちに類が及ぶのをファウストは懸念していた。すべての罪をひき被り、目立って処刑されることで、部下たちが人に紛れて逃れゆく時間を稼ごうと考えていたのは間違いないし、最後まで彼は、親友がほんとうに彼を火に架けることなどないと、信じていたかったのかもしれない。真に指揮官としてすばらしいひとだった、というのは、彼に心酔し、敬愛を寄せるレノックスのエゴからなる評価ではないだろう。
しかし無情にも火は点けられ、英雄は自らその片腕を永遠に捥いだ。レノックスは無力だった。焔は、けして燃えやすいとはいえない男の肉のうえを嘗め尽くし、花のように、星のように、うつくしく燃え上がった。ぱちぱちと爆ぜる音の響きは懐かしくさえある。行軍中の、けして快適とは言い難かった野営の火を囲んで談笑し合う仲間たちに、人間と魔法使いの区別などなかったあの夜、あかるいすみれ色のひとみに、若い希望が輝いていたあの夜、ぱちぱちと爆ぜる篝の火に、誰もが横顔に陰を濃く落としていた、あの夜、たしかにこの人に追蹤ていこう、どこまでも、いつまでも、決意した、あの夜! 同じ音を立てて、愛した男が死に瀕していた。
レノックス・ラムはただ佇むだけの唐変木、しるしの銀の星を戴くこともできない、樅になれない何か、楡か、花楸樹か、ああ、あそこに架けられたのがおれだったなら! そう易々とは燃えなかったろうに。
「レノックス、おまえさん、しばらくこの国にとどまってみちゃどうかな? バカンスだとでも思ってさ。どう? なんにもないけど、仕事くらいは斡旋してあげられるよ」
そういったフィガロの意図はいまだに読めない。穏やかに微笑んでいるようでいて、実際のところは誰のことも愛していない、のみならず、自分自身の行く末にさえ無関心なのではと思われてならないフィガロ・ガルシア、かつて北の国で、今もってなお魔王と恐れられる大魔法使いオズと同門であり、兄弟子として肩を並べたこともあったという男が、なぜ何者でもないもののように振る舞うのか、答えは遠からず死に瀕した、彼の寿命だったかも分からないし、理由などないのかもしれなかった。死を間近にして命を惜しんでいるだとか、ただこれまでには馬鹿々々しくてやる気にもならなかった普通の暮らし、地に足の着いた暮らしというやつの真似事をやってみたくなったのかも分からない。
なんにせよあの人のことはあれこれと考えるだけ無駄だからよせと、呆れたように、しかしどこか信頼にも似た声音でファウストが語っていたことをありありと思いおこされる。あの革命のさなか、フィガロもファウストの師として、また革命軍のきまぐれな懐刀として従軍していたが、当時のフィガロはまさにきまぐれ、ファウストがあれほどまでに人間と親密で、らしくないのと対照的に、まさに言葉の通りの魔法使いらしい魔法使いだったうえに、彼は革命を見届けることも無くふらり途中で姿を消したのだ。つまりあの短期間でファウストは、師と親友、ふたりから裏切られたことになる。
はたしてフィガロを頼るのが正しいことであったのか。レノックスにも疑念はあった。しかし数十年、数百年と生きるうち、ファウストの足蹠を追い続けるのも難しくなった。自分が彼になぜこれほどまでに執着しているのか、おそらく明確な言葉では語られるまい。悔恨や、懺悔、つぎの機会が与えられるのであれば今度こそ、死地の果ての果てまでもファウストに追蹤ていくのだと思ったけれど、それらが自分の、身勝手な願いに過ぎないこともまた、分かり切っていた。彼はやさしいひとだから、いつか再会して、過去を詫びて、次の機会を冀ったなら、この愚鈍な、星ひとつ掲げない従者を許してしまうだろう。だからこそ見つからないように身を潜めているのかもしれないが、処刑のあと焔が消えて、そこに輝く石が残されていなかったと聞いたとき、レノックスはどうしても、彼を見つけ出さなければならなくなった。
しかしながら、彼は決して、みずからを迷子の仔羊(stray sheep)とは呼ばない。右も左も定かでなくて、善悪が一元的なものではないとすでに学んだからには、彼もまた戸惑い揺れる寄る辺ない生きものであったに違いないのに! レノックス・ラムは縋らない。これは彼に信仰がないためではなくて、彼の信ずる神が、彼に縋られ、寄りかかられ、頼みにされる��を良しとしない、ただそれだけの理由であった。まったく、驚くほどの敬虔だ、さもなくば盲信だ、自らを擲ち穿つ、おそろしい自己犠牲の。
腕をふるい、足を払い、身体をして成す暴力は、実際のところ、彼にとってはさしたる労苦でもなかった。激しやすく、ゆえに寡黙で、ことばのさきに振る舞われる暴力は、先祖伝来、あるいは、顔も見たことのない始祖、名前もしらない女たち、かれらから脈々と、粛々と、継がれてきた血や、歌や、儀礼や、そのほかすべての非科学的で超自然的な、迷信じみたアミニズムのなかに、流れていたかもしれなかった。フィガロ・ガルシアはバカンスなどとうそぶいたが、未だ発展の途上にある南の国で、魔法がなくとも家畜たちを抱え上げて斜面を行くことができ、肉体、精神共に健全で屈強、レノックス・ラムでなければ満たせないいくつもの条件が、彼の人生を、南の国で羊飼いとして暮らすことに引き留めた。ファウストを見つけ出し、そのうえで彼が復讐を望むならその手足になって働いて、あらゆる敵をなぎ倒し、あらゆる悪意と脅威の盾になって死のうと考えたことを、一日たりとも忘れたつもりはなかったが、短い一日も繰り返すうちに1年になり、5年になり、羊は仔を産み殖えたが、拓かれた牧草地は子どもや女、ほかの若い羊飼いたちに譲ってしまって、レノックスはますます険しい山肌に羊を追った。
「レノ、おまえは案外羊飼いの王様の素質があったのかもね」
「冗談でしょう。俺は星ひとつ、満足にかざせない」
ばかだな、しるしの星なんておまえには必要がないだろう、輝きなんぞなくったって、それだけでかい図体が、どれだけ目立つと思ってる? いたずらそうに笑うフィガロの眸は薄曇りの冬の海に落ちた星だ。きっと怒られるけれど、肩をすくめて鼻でわらうようなその言い草に、ファウストの面影をみつけてレノックスも頬をゆるめた。
導きの星はもうないけれど、いつかふさわしいときが来るまで、俺はずっと立っている。険しい道を歩んできたひとが、ふとひと息ついて脚を休めるそのときに、広げた枝が安らぎになりますように。
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100の質問が大好きなフォロワーさんから回ってきたので仕方なくやります。やりたくないけど(ぉ
質問はhttps://www.100q.net/100/question.cgi?que_no=2 を使っています。いにしえ・インターネットのことを思い出したので寒めのノリで書いていますが、虚言癖太郎である私にしては珍しく嘘はついてないと思います。
Q.1 あなたのハンドルネームを教えてください。
御樹原文奈は本名ですが……
Q.2 生年月日を教えてください。
2001年2月24日です。さいきん二十歳になりました。プレゼントは前後6ヶ月受け付けております。
Q.3 血液型を教えてください。
A型です。振り返るとA型のものではない部屋が広がっているので、血液型占いは当てになりません。
Q.4 病弱な方ですか?
昔新型インフルエンザが流行ったときにナウなヤングのわたしは当然かかったのですが、カルテに「元気」と書かれました。生まれてこの方虫歯の一本もないです。ナウなヤングなので今流行のなんたらウイルスにも感染しました(このタイミングで公開する情報じゃなくない?)マジで辛さ以外の味覚が全部消失するので、ちゃんと予防対策しましょう。
Q.5 自分が政治家になったとして、絶対に汚職しない自信はありますか?
今の私を見てると意外かもしれませんが、友人には「なんやかんやで権力を手にしそうだが、権力を一番与えてはいけない人間」だとずっと言われていました。そういうことです。
Q.6 歌は好きですか?
歌うのは好きなのでお風呂で歌ったりしますが、カラオケにはここ1年行ってません。ナウなヤングにバカウケのなんたらウイルスが全部悪い。
Q.7 よくカラオケで歌う曲は?
逆張りなのでたいてい皆さんに全く通じない曲を歌っていますが、健常者の音楽で一番よく歌うのはそばかすだと思います。
Q.8 ペットを飼っていますか?飼っている人は、ちゃんと世話していますか?
お祖母様の家に住んでいた頃はバカでうるさい犬がいましたが、引っ越したのでいません。
Q.9 ある程度上手に演奏することができる楽器はありますか?
高校の授業のおかげでギターが原義でちょっとだけ弾けましたが、気づいたら完全に忘れていました。中学の頃は音楽の成績が4でしたが、リコーダーがギターに変わった高校では5でした。そういうことです。
Q.10 高いところは平気ですか?何メートルくらいまでなら怖がることなくいられますか?
高いところはへっちゃらなので観覧車とかで怖がる人間はまじで意味わからないですが、重力が狂うと死ぬほど怖いので、急に後ろから抱えられたら20センチでも怖いです。あとジェットコースターはマジで無理です。いいのか?俺をジェットコースターに乗せようとすると本気で泣き喚き暴れる成人女性を目にすることになるぞ?
Q.11 あなたのよく使うゴミ箱には蓋(ふた)がついていますか?(回転式なども含めて)
我が家唯一の蓋がついているゴミ箱(収集してもらうときに入れとくペールは除く)は常にものが置かれており、ここ1年で開いたことは一度もありません。
Q.12 あなたの家にはどれくらい本がありますか?
同人誌を本とカウントしなければ、文学部学生にしてはかなり少ないほうだと思います。自分所有の本は3段ボックス2つに収まります。
Q.13 何かの本がその本の大半を占めていたりしますか?(漫画ばかり、小説ばかり・・・など)
同人誌を抜きにしてもほとんどが漫画で、あとは最低限のSF研究会要素でほとんど全部です。漫画もSFも買い出したのは大学に入ってからなので、高校以前の私には本を所有するという概念は殆どなかったとわかります。
Q.14 自由に飛べる翼を手に入れたなら、どのくらいの高さまで飛んでいきますか?
無計画に高く飛んで、太陽熱で翼が溶けるタイプの人間です。
Q.15 楽譜は読めますか?
一応読めますが、手先の器用さがそれについてこないので歌唱以外に活かされたことはないし、歌唱するのであればお手本を聴いたほうが楽に音��を取れます。
Q.16 命を除いて、一番大切なものは何ですか?
何人かの好ましい人間が平穏無事に暮らしてくれることは、命の次くらいに大事です。そのためならなんだってします。
Q.17 飲めば若返ることが出来る水があったら・・・どのくらい若返るまで飲みますか?
私は何歳に若返っても美少女なので、そういったものを欲してやまない人に高額で売りつけます。
Q.18 このままではいけないと思うことを一つ挙げてください。
このままだと卒業できません。
Q.19 努力を踏みにじられることを・・・どの程度許せますか?
努力らしい努力をしてこなかったから卒業が危ぶまれているわけですが、踏みにじられてよい努力などないと思う一方で、誰もが誰かしらの努力を踏みにじり得るし、それは権利であるとも思います。
Q.20 今、あなたの隣にあるものは何ですか?
赤いゴミ箱があるのをみて、今日ゴミを出しそこねたのに気づきました。
Q.21 喜劇と悲劇・・・どちらが好きですか?
AかBか、ではなく好きになったものが好きです。ただ悲劇は喜劇に比してそこまでの動機づけを丁寧にやらないと納得してもらえないぶん、私好みになる可能性が高い気もします。
Q.22 もしあなたが世界を手に入れたなら、まず何をしたいですか?
「皇居の横にそれよりでかい家を建てて天皇に引っ越し蕎麦を持っていきたい」と前々から言っているように、ピラミッドを建てさせたり黄金のあやなちゃん像を建てさせたりと悪目立ちしたいですが、そうなるとヘイトを買うので、バックアップを取るところからはじめようと思います
Q.23 たった一匹の小さな虫でも、殺すのが嫌になったことはありますか?
情がわいて……とかはないですが、虫が本当に苦手なので殺しても後処理できないな……とおもって嫌になることはしょっちゅうあります。
Q.24 良い嘘と悪い嘘の違いは何だと思いますか?
面白いか面白くないかです。
Q.25 どうしても忘れられない曲はありますか?
ジュエルペットてぃんくる☆のED曲、「空ニラクガキ」です。20歳になって以来、「大人になるその日が来て」しまったことに気づき、爆涙(ばくるい)するだけの毎日を送っています。みんなもジュエルペットてぃんくる☆を見てくれ……
Q.26 思い出の場所はありますか?
家の近くの神社です。
Q.27 酒に飲まれて失敗したことはありますか?
二十歳になって1週間くらいしか経ってない人間に聞いても面白くないですが、父上様は顔にマンホールの跡をつけて帰ってくるタイプの人間だったので、不安ではあります。
Q.28 大好きな飲み物をいくつでも挙げてください。
コーヒーとドクターペッパーの中毒患者です。まだまだお酒は未開拓ですが、いまのところコークハイがかなり好きっぽいです。
Q.29 あなたの生きがいは?
インターネットでこの世に生きとし生けるものたちの人生をつまみ食いバイキングすることです。
Q.30 最近、自分の歳を意識したことはありますか?
ここまで二十歳二十歳言ってたの見ました?
Q.31 ここまで質問に答えて、なんとなく懺悔(ざんげ)しているような気分になっちゃいましたか?
自分語りは楽しいですね。
Q.32 楽をしてお金を稼ぐならどんな方法が一番確実でしょう?
親のスネをかじり潰そうとしています。
Q.33 晴れと雨はどちらが好きですか?
晴れのほうが好きですが、たまには雨が降ってくれないと飽きます。
Q.34 雷は平気ですか?
パソコンさえ平気なら大丈夫です。雷を怖がる人間ってアニメ以外に存在するんですか?
Q.35 風は好きですか?
風という自然現象を好き/嫌いの評価軸に置いたことが今までありませんでした。多分あまり好きではないです。
Q.36 泳ぐのは得意ですか?
鋼鉄の肉体、御樹原文奈とはこの私のことです。背泳ぎ25メートルに1分かかります。
Q.37 これだけは負けられないという、誇りが持てることはありますか?
私が設立したあとに生えてきた二番煎じのコウメ太夫研究会がどれもまともに活動もしないまま自然消滅したなか、私達はそこそこやれている点じゃないですかね。これだけで就活を乗り切る気満々なので……
Q.38 ちゃんと睡眠取れていますか?
時間で言うならパーペキです。規則性は無で、寝たくなったときに起きたくなるまで平均12時間寝続ける生活を送っています。
Q.39 喧嘩は嫌いですか?
自分が勝てないので嫌いですが、自分が腕っぷし最強だったら大好きだったと思います。
Q.40 人ごみが苦手ですか?
今日のお出かけ中、梅田の地下鉄付近でだけ異様に鼻水が出たので、人間アレルギーだと思います。
Q.41 自分には全然出来ないことを他人が軽くやっているのを見て、燃える方ですか?
負けないが????????
Q.42 人の心を読めるとして・・・どれくらいで嫌になると思いますか?
人の心の断片を得るためにインターネットやってるような人間だし人間の心が醜いのは身を以て知っていますが、ちょっとやってみないとわからないので読心術を教えて下さい。おねがいします。おねがいしましたよ。
Q.43 自分のまわりには面白い人がたくさんいると思う?
こういうことを自分で言うから最悪ですが、そこらの「いつメンキャラ濃すぎwww」ちゅてる奴らよりは濃いメンツが揃ってると思います。
Q.44 昔、誰かに借りて、いまだ返していない物ってありますか?
会誌第二号の印刷費をつけてもらったっきり返してません。このままなんとか撒けないかなと考えています。
Q.45 逆に、貸したけど帰ってこないものってありますか?
パッと思いつくのだとゲーム機が2台ほど?もう引っ越したので気にしてもいませんが。
Q.46 甘党?辛党?
甘いのと辛いのは全部好きです。味がするとおいしい。
Q.47 熱い飲み物は苦手ですか?(猫舌とか)
飲み物ではないですが、たこ焼きなんかは剥がれる口の皮まで含めての料理だと思っています。
Q.48 コーヒーは苦い方が良いと思う?
物や気分にもよりますが、基本的には酸味寄りのものが好きです。
Q.49 破壊的に不味い物を食べたことはありますか?また、それは何ですか?
貝類が基本的に大好きなのですが、初めて食べたサザエで大外れを引いて以来、それだけは苦手です。
Q.50 マイブームってありますか?
栄養ドリンクを哺乳瓶で飲みながら女児アニメを観るのが好きです。
Q.51 温かいそばと冷たいそばはどっちが好きですか?
今はまだ寒いので温かいそばが食べたいです。
Q.52 集中力に自信がありますか?
ここまで来るのに既に5回はツイッターを見ています。
Q.53 飽きっぽい性格だと自分で思いますか?
前の質問の回答から察してください
Q.54 楽器の名前を5つ挙げてください。
ギター、ギロ、ベース、マリンバ、タンバリン…………俺の中の芭蕉が勝手に!?
Q.55 面倒な事も進んで引き受けたりする。
誰から頼まれてるかによります。打算的な人間なので。
Q.56 人違いをして暴走したことがある。
ないです。限定的すぎない?
Q.57 自動車用信号の「黄色」についての見解を述べてください。
止まれ、止まれないなら行け
Q.58 裸足で歩くことについての見解を述べてください
冬場のお風呂上がりに裸足で歩いてるとぺたぺた言うし足跡がついてたのしい
Q.59 ○×形式の質問のほうが答えやすいと思いますか?
ややそう、部分的にそう
Q.60 「薬指」の重要性を語るとしたら、それは何?
結婚指輪の装備スロットであることくらいしかなくないですか?
Q.61 頭痛、腹痛、腰痛、関節痛、のうち、一番マシなのはどれですか?
頭痛には慣れっこです
Q.62 どの程度の温度が一番過ごしやすいですか?
今より一回り暖かくなって上着のありなしをきぶんで選べるくらいの気候が良いです。
Q.63 好きな花火は何花火ですか?(線香花火、ロケット花火など)
花火は光って燃えるのでぜんぶ大好きですが、最初にあれを思いついた人があれを花火だと言い切った情熱を買ってヘビ花火、ということにしておきます。
Q.64 一番好きなことわざは何ですか?
三十六計逃げるに如かず
Q.65 敵に囲まれたとき、どうやって逃げますか?(どうしても戦わずに逃げねばならない)
どのくらいの文脈で敵なのか、どの規模の囲まれなのかによってくるとは思いますが、実際に窮地に立たされたら何もできずに捕まると思います。
Q.66 気になる言葉を一つ書いてみてください。
最近はニャホニャホタマクローブームが来ています。
Q.67 春の良いところは?
夏じゃないとこ
Q.68 夏の良いところは?
いずれ過ぎ去ること
Q.69 秋の良いところは?
夏じゃないとこ
Q.70 冬の良いところは?
誕生日があること
Q.71 一日何通くらいメールが来ますか?
去年は毎日1通づつ365分割されたドグラ・マグラがメールで届いていたのですが、今年はそれがないので来ない日すらあります。体感を平均すると2.5通くらいだと思います。
Q.72 届くメールがウィルスの確率はどれくらいだと思いますか?
目の届くところに来たことは一度もないです。ネットリテラシーたか子なので。
Q.73 届くメールが営業・宣伝などの確率はどのくらいだと思いますか?
これも目の届くところには来ないです。インターネットが上手なので。
Q.74 今、一番買いたい物は?
ブッダマシーンを誕生日にもらったことにより変なもの買いたい欲は少し収まったので、クソかわいいネコチャンのアロマディフュー��(リンクが機能してなかったので後で直します)がほしいです
Q.75 今、一番飼いたい生き物は?
生き物を飼う事によって発生する責任を負いたくないので概念としてのねこを飼いたいですが、今ねこを飼うとなると絶対に名前を「タマクロー」にしてしまうので、もう少しニャホニャホタマクローブームが落ち着いてからにしたいです。
Q.76 これだけは譲れないというポリシーはありますか?
逆張りにあらずんばオタクにあらず、の精神でスギ以外すべての花粉症で苦しむなど、多岐にわたる活動を行っています。
Q.77 どういう絵が一番得意ですか?(風景画、人物画、漫画など・・・)
筆記はほぼ満点でしたが、美術の成績は3です。
Q.78 好きなおつまみは?(未成年でも答えてください、おつまみだから)
ベタですがさきいかが好きです。それはそうとこの前生まれてはじめて鮭とばというものを食べましたが、「めちゃくちゃ旨い革紐」という感想でし��。もともと革製品って鮭みたいなにおいしません?
Q.79 持病とかありますか?
コミュニケーションと手に難を抱えています。
Q.80 ホームページは持っていますか?
流石にそこまで老人じゃないですね。
Q.81 コーヒーには砂糖やミルクをどのくらい入れますか?
普段は入れませんが、苦く淹れて砂糖もミルクも狂ったように投入してどっちが勝つか眺めるのも好きです。
Q.82 一番使ってみたい武器は?(剣、弓、銃など・・・)
斧とか鎚とか、そういう「破壊!!!!!」って感じのものを振り回したいです。
Q.83 得意な料理は?
熱湯です。
Q.84 最近頑張ったことは?
今日は雨なのにお出かけしてえらかったと思います。おかげでよく眠れそうです。
Q.85 あなたの寝る部屋の床は畳ですか?
違います。
Q.86 どんな味が好みですか?
馬鹿舌なのでいわゆるパンチが効いてる味はだいたい好きですが、馬鹿舌を認めたくないので繊細なうま味(あじ)みたいなのも好んでいます。
Q.87 おすすめダイエット法は?
痩せようと思ったことがないです。超絶怒涛の最強美少女なので。
Q.88 ファンタは何味が好き?
グレープ以外を安定的に入手する手段がない以上グレープと答えざるを得ないのでは?
Q.89 好きな四字熟語を書いてください。
敵前逃亡
Q.90 完全な現実が0%で、完全な幻想を100%とすると、あなたの理想は何%くらい?
半々くらいがいいと思います。やなことがあったときに責任転嫁しやすいので。
Q.91 掃除の道具を一つ書いてみてください。
ちりとり!……もしかしてこれ、「ドス」とか「uzi」とか答えるべきやつですか?
Q.92 友情を音で表すと、どんな音になるでしょうか?
これがぶっちぎりで難しくて笑っちゃいました。パチパチ弾ける緑色の燐光、というイメージです。
Q.93 好きな虫は?
いません。
Q.94 あなたの今使っている消しゴムはどんなものですか?
「黒いこと」だけが決め手だったよくわからんやつです。汚れが目立たないのはストレスフリーで良いです。
Q.95 願いをするなら何にしますか?(例:星、仏、神)
私は私自身を唯一絶対の神とする非常に私的な宗教、私教を信仰しているので、私自身に祈るほかないです。
Q.96 あなたの一押しTVゲームは?
タイタンフォール2をみんなでやろう、地球最高のゲームなので……
Q.97 あなたの体で一番調子が悪くなりやすいのは?
頭がしょっちゅう痛くなります。これも全部気圧ってやつのせいなんだ。
Q.98 今、外国に行くならどこに行きますか?
虹の国ですかね。友人が建国するらしいので。
Q.99 この質問が、実は質問作成者の、大いなる野望の第一歩だとしたら、どうしますか?
どうするもこうするも、2003年に作ったものなんて忘れてるか忘れたくなってるかのどっちかじゃないですか?
Q.100 お疲れ様です。この質問をした感想をお書きください。
これ最後まで読む暇人とかいないと思うんですけど(汗)
って答えるのが正しいインターネットの作法です。覚えておいてくださいね。
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櫻井よしこさんの論考をシェアさせていただきます。
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他人事ではない中国の「見えない手
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米国の歴代大統領は退任後すぐに回顧録を出すのが習性となっている。読 者は世界中に存在し、最初からミリオンセラーが約束されている。出版契 約料が日本の標準では考えられないほど高額なのも当然かもしれない。た とえばオバマ前大統領夫妻は6500万ドル(約68億円)を得た。私はこの余 りの高額に驚きを超えて笑ってしまったが、それでも各大統領の回顧録は 読んでみるのがよい。
歴代米大統領の中で中国の工作を最も深刻な形で受けていた一人は、間違 いなく民主党のクリントン氏であろう。ヒラリー氏があれ程頑張っても初 の女性大統領になれなかった原因のひとつに、中国マネーの影響があるの ではないか。クリントン夫妻の中国マネーにまみれたイメージが、ヒラ リー氏の道を閉ざした可能性は高いだろう。その中国の魔の手が民主党だ けでなく共和党にものびていたという衝撃的な事実を『見えない手』(飛 鳥新社)が見事に報じた。
著者はクライブ・ハミルトン氏とマレイケ・オールバーグ氏だ。ハミルト ン氏は豪州への中国の侵略を詳述した『目に見えぬ侵略』の著者である。
中国共産党の工作を描き尽くす作品第二弾としての『見えない手』は、侵 略の舞台を北米大陸と欧州に絞っている。どの国の事例も深刻だが、米国 共和党の取り込み、とりわけブッシュ家への工作は凄まじい。
ジョージ・W・ブッシュ氏の回顧録、『決断のとき』(Decision Points)には、両親の愛情を一杯に受けて育った素直な人物像がにじみ出 ている。大酒飲みで、失敗も仕出かした若きブッシュ氏が結婚し、40歳で 酒を断ち、キリスト教への信仰を深めていく姿は素朴で実直な人間像その ものだ。
ブッシュ氏の大統領としての評価には様々あろうが、私の疑問のひとつは ブッシュ家と中国の関係だった。父ブッシュは1974年から76年まで北京連 絡事務所長、76年から77年まで中央情報局(CIA)長官を務めた。レー ガン大統領に副大統領として奉じ、89年から93年まで大統領として、中国 の天安門事件に対処し、湾岸戦争を戦った。彼は天安門事件で中国が国際 社会の経済制裁を受け締め出されたとき、事件からひと月後の89年7月に 秘密の使節団を北京に送り込み善後策を話し合っている。
甘い誘惑
国際社会による経済制裁の輪を突き破ったのは表面上わが国の海部俊樹政 権だったが、実際はいち早く中国救済に動いたのは米国で、その立役者が 父ブッシュだった。
中国は父ブッシュを「古い友人」と呼ぶ。右の呼称は中国に多大な貢献を した世界的な人物に与えられるもので、キッシンジャー氏らが受けてい る。
このように父が中国と親しい関係にあったにも拘わらず、息子ブッ シュ氏は大統領に就任するや、前任のクリントン大統領による米中は戦略 的パートナーという定義を否定し、中国を戦略的ライバルと位置づけた。 米国の甘い対中政策を変えようとしたかに見えた息子ブッシュ氏の路線は 大統領就任1年目、2001年の9・11事件で大きく変更された。ブッシュ氏は 中国の江沢民国家主席をテキサス州クロフォードにある自分の別荘に招 き、ライバル路線から共にテロと戦う協調路線に切り替えていった。
その間中国側が息子ブッシュ氏の弟たちに注目していたことが、その後の 展開から見てとれる。フロリダ州知事だった弟のジェブ氏が16年の大統領 選挙に出馬したとき、中国は130万ドルを献金した。実際に献金したのは カリフォルニアの不動産開発会社経営者のゴードン・タンとシンガポール に拠点を置く陳懐丹で、二人はパートナーとされている。
ジェブは早々に選挙戦から脱落し、中国の当ては外れたかに見えた。しか し、二人の中国人富豪はそれ以前の13年から、ブッシュ家の三男、ニール 氏を彼らの会社「新海逸」の非常勤会長として囲いこんでいた。
ニール氏は「ジョージ・H・W・ブッシュ(父ブッシュ)中米関係財団」 を創設、会長に就任し、ブッシュ家の中国資産を引き継いだ(『見えない 手』)。財団は「中国人民対外友好協会」と連携関係にあるが、同協会は 中国共産党の統一戦線工作団体である。
ニール氏が中国側からさまざまな働きかけ、甘い誘惑を受けたであろうこ とは容易に想像できる。たとえば19年6月24日、中国共産党機関紙の「人 民日報」はニール氏の発言を熱狂的に報じたという。
伝えられるところによると、ニール氏は、1中国はより成熟しつつある が、米国の民主制度には欠陥がある2米国の政治家たちは米国人が中国を 問題視するように洗脳している3米国は貿易障壁を中国を責め立てるため の政治的武器として利用している、などと語っている。
エリートと娘を結婚
ハミルトン氏はニール氏のさらなる発言も紹介している。たとえば、国営 放送の中国国際電視台の取材で「中国の人々の自然な優しさと贈り物を贈 る習慣」に感嘆したと語ったが、これは自分を手なずけた中国の手法を白 状するものだ。
ニール氏はさらに「中国で人々が享受している自由の台頭を見れば、米国 人は中国に対する見方を変えるはずだ」などとも語っている。
ブッシュ家は共和党を支える名門政治家一族である。無論、米国の政治の 変化はダイナミックで、ブッシュ一族の影響力がどれ程大きく長く続くか は保証の限りではない。しかし、中国の浸透工作は極めて巧みに構築さ れ、注ぎ込まれる経済的資源は莫大である。米国のみならずカナダ、欧州 諸国の事例をみると、各国のエリート層を取り込む手法では巨額のカネと 利権に加えて女性が活用されている。これと見込んだエリートと娘を結婚 させる手法だ。
もちろん結婚には互いに愛情が必要だ。それにしても共和党のミッチ・マ コーネル上院議員のケースには考えさせられた。上院の与党リーダーとし て大統領に次ぐ強い力を持つ氏は、かつて対中強硬派だった。それが1990 年代以降、「有名な対中融和派」になったと分析されている。
氏は93年に中国系米国人で江沢民の同級生ジェームズ・チャオの娘、イ レーン・チャオ氏と結婚した。ジェームズ氏の所有する海運会社は中国の 国有企業と密接な関係にある。娘のイレーン氏は息子ブッシュ政権で労働 長官を、トランプ政権で運輸長官を務めた。ジェームズ氏は2008年、娘夫 婦に数百万ドルを贈与し、マコーネル氏は最も裕福な議員の一人となり、 共和党を親中路線に導くべく働いてきたと分析されている。
中国の深い企み、考え抜かれた戦術・戦略に、私たちが晒されているのは 明らかだ。しかし、世界を中国の価値観で染められてたまるものかと思 う。そして改めて日本の現実を見つめると、黒い不安が広がる。孔子学 院、千人計画、親中派議員と財界人。日本にも伸びているはずの「見えな い手」の実態を抉り出す時だ。
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ウーユリーフの処方箋|公式サイト
いい感じの世界観にみえてふらふらとインストールし、今日公開された3章ラストまで一気に遊びきりました。ミト押しです。
このゲームの所感は、クリアしたときに読み返したら面白いかなあと思って長々まとめておきます。
早速ちょっと整理ができていないのだが、ゲーム内ゲームである乙女ゲーム版ウーユリーフの処方箋(ややこしい)とは、「異世界から召喚されたヒロインが、その世界の乙女ゲーム専門制作会社に勤めつつ、従業員のイケメンたちと恋をはぐくむゲーム」という理解でいいんだろうか。キリオじゃないけど設定盛りすぎである。
さておき。
「イケメンたちを襲う異形のモンスターとなり果てた、乙女ゲームのヒロイン」という、一般に流布する「乙女ゲームなるもの」をメタにパロディしまくった強力パンチから始まるプロローグ。
例えばライトノベル分野で現在流行している「乙女ゲームのキャラに転生する」形式もこれらの仲間なのだが、このように文化が認知・成熟すれば、自然とお約束というものは生まれるし、お約束というものが生まれればそれをあえて解体して、新たな知見を生み出す行為も往々にして行われるわけで。乙女ゲームもその段階なんだなあと、まあまあ乙女ゲームを遊んできた一プレイヤーとしても思ったりしながら進めていく。
(ところで本日公開された三章では、登場人物の一人であるノゾミが乙女ゲームの現状を、約20年前にもなる美少女ゲームブームになぞらえて語るオタクの姿に「俺俺、俺だよ俺!」とデジャヴュを感じたりなんだりしなくもない)
「好みでも何でもない女とキスなんかしたくない」と、キリオのヒロインに対する評価は辛らつだ。もし彼をはじめとしたゲーム内キャラクターたちに自由意思に見合った裁量権があれば、好みじゃないヒロインとも無関心でいられただろうが、攻略対象とヒロインという強制的な関わりを運命づけられたことにより、個人間ではかえって嫌悪……なんなら憎悪を抱いてしまったのがキリオというキャラクターなのだろう。
キリオのヒロインに対する言葉には、乙女ゲームを嬉々として遊びイケメンたちを消費する、現実(この場合はマツリのいた世界ではなく、我々の世界のこと)のプレイヤーへの風刺も多分に含まれていると感じる……そう思っていたら、三章ではメーカーに入り込む談で、早速このあたりのことにも触れている。思ったより早かった。やはり、このゲームにおける乙女ゲーム・乙女ゲーム市場への批判性とは、もったいぶって引っ張るのではなくあくまで序盤のジャブ程度の要素なのかも。
そんな消費構造に思いをはせる一方で、2章でナビゲーション役の大樹ウーユリーフの明かしたゲームキャラクターのコンセプトを聞く限り、この物語の目的とはどうもそういった「ゲームシステムとい虎の威を借りた横暴なプレイヤー」を断罪するだけのものでもないように感じている。
大樹ウーユリーフのいう、乙女ゲームの攻略対象たるもの・乙女ゲームのヒロインたるもの論は、端的にいえば我々の世界にもまだまだ蔓延る「男たるもの」「女たるもの」という旧来的な規範意識に近似している。実際に、我々の世界とそう変わらない価値観で生きてきただろうマツリも「いつの時代の話だ」と聞いて呆れる始末。ゲーム世界における男女の規範意識がどの程度なのかは確証は得られないが、マツリとキリオでその点においてはそう違わない価値観であるように見える。
ここでふと、ヒロインから見たこの世界とはどんなものだったのだろう、と想像をめぐらす。
ヒロインと恋することを運命づけられたキリオが内心でヒロインのことを嫌っていたように、ゲーム世界の住民であってもゲームシステムに沿った価値観で生きているとは限らない。
モンスターになる前のヒロインの人物像は、たいてい地味で垢ぬけない人物として語られる。一方の攻略対象たちは、大樹ウーユリーフの言葉から察するに高い社会性と資質と自負をもった人物であると想像できる。
スペックと自立心の高い男性たちの中で、地味で受け身の女性が一人……その構成員の一人であったキリオは、ヒロインがモンスター化する前から内心で好みじゃなかった全く関心がなかったと吐露するし、もしかしたらそこには軽んじた感情さえあったかもしれない。
異世界から飛ばされ見知らぬ世界で、斜陽産業に差し掛かったメーカーに就職し、自分に対して複雑な感情を抱く高圧的な男性に囲まれている。唯一の味方になってくれるだろう補助キャラクターの大樹ウーユリーフは、穏やかな顔で「男性とはそんなもの。女性とはこうあるべき」という価値観を隠さない。ヒロインからみたこれらの人間関係とは、「嬉しいハーレム世界」というよりは「肩身の狭い状況」なんじゃなかろうか。それもかなり強烈な。
ヒロインはそんな世界で殺人を犯したという。そこまで至ってしまった経緯が私の想像の通りであれば、(決して殺人行為の罪を無効としないことは前提に)その心中を全く理解できないわけではない。
あと個人的にあのモラハラ大樹は燃やしたい。今すぐ燃やしたい。大樹を燃えカスにするミニゲーム頼んますよSEECさん。
話変わって。
ウーユリーフから罰を受けたヒロインは、逆に大樹の召喚能力を奪い、現実世界からイケメンたちを呼びだし続けているという。そんな行為は、マツリのいた現実世界では「男たちが特定のゲームをインストールした途端に失踪する」という形で現れる。
ゲームに興味のある男性ばかりではないし、女性向けとうたわれたゲームを自発的にインストールするケースは限られるだろうが、それでもゲームは常にインストールされているという。ということは、現実世界における彼らの端末にゲームをインストールする別の存在がいる可能性は高いし、いるとすればゲーム世界のヒロインが放った刺客であろう。この刺客とは、ゲーム序盤に登場したキャラクター「更紗」ではないか。
普段からゲームに限らず物語コンテンツに興味の薄いマツリに、更紗はわざわざ「乙女ゲーム版ウーユリーフの処方箋」の存在を教え込むし、実際にマツリがゲームをインストールされる直前に連絡を取ってきたのは更紗(の番号)だった(ここの演出怖くてよかったね~~)
現実世界からイケメンを呼び込む手段として、現実世界を自在に動き回る更紗を送り込む。攻略対象にふさわしい人物をみつければ、それとなく近づいて交友関係を築いて連絡先を得て、機会を見てゲームデータを送りこむ……というのが、更紗というキャラクターの役割なのではないだろうか。
そういえば、キリオ本来の女性の好みは「都会的で自立した女性」だという。基本的に女性キャラクターがいない本作だが、ほとんど唯一の固有キャラクターとして登場する更紗は、垢ぬけた容姿を持ちながらも男性とも友人関係を築ける、まさにキリオの好みと一致するような人物だ。
もし、ゲーム世界のヒロインがキリオたち攻略対象らに対して殺意を持つほどに追い詰められていて、さらに自在に外見を操れるアバターを得たとしたら、地味で受け身な自分とは全く異なる、更紗のようなキャラクターを作る可能性は高いんじゃないだろうか。
また発想を少し飛躍させると、この更紗こそが黒幕である可能性もあるだろう。いまでこそ艶やかな女性のように見えるが、その過去にはゲーム世界のヒロインのようにルックスの良い男性全般に鬱屈した感情を抱いており、その復讐心の発露として呪いのゲームをばらまいている……というのもありえる筋ではないだろうか。
このあたりは色々想��(妄想)が働く個所だが、最終的に外れることも含めて今後の楽しみということで。
話を変わって。2章終盤に見たヒロインの行動範囲の変化についても考えをまとめたい。
2章終盤で、それまでロビーには出現しなかったヒロインが、ロビーの中まで追いかけてきたという描写がある。これまでの決まった行動が変化するということは、その前段階で別の変化があったと思われる。展開からいえばこれは直前にマツリと失業ロボが、ロビーの大モニタを修理したことだろう。
まだはっきりとしたことは言えないが、「困ってるロボを助けてハートを得ること」もしくは「その場にある大きなものを修理したこと」のいずれかがフラグになり、ヒロインの行動範囲を広げる要因になっている可能性は高い。マツリたちが今後ロボを助けていくにつれて、最終的にはビルの外まで出歩き、彼らの居住区にまで至る展開もあるかもしれない。
そこまで考えて、そもそもヒロインはなぜあのビルの廊下ばかり出現するのだろう。2章まではロビーにも出てこなかったし、食堂にも出現しないという。もし彼女の目的が効率よくイケメンたちと遭遇し好感度を上げることだとすれば、食糧庫でもある食堂や、往来の激しいロビーこそ重点的に見張りそうなものだが。
ここでヒロインの行動原理について整理してみる。振り返ってみれば、彼女の選択肢はイケメンたちに親切に挨拶したりなんだりしているだけの行動だ。あのヒロインからみた世界とは、まだ普通の乙女ゲーム世界そのものであり、ゲーム世界を楽しんでいる=イケメンたちとの交流を楽しんでいる認識である可能性は高い。
さらに三章のヒロインは「ときめき」を探しているかのように言葉を発したことから、彼女はあんな姿になってもまだメーカー勤務者の職務として、より良い「ときめき」を探すために、イケメンたちとの交流()を重ねているのかもしれない。
余談だが、このあたりの設定は、ホラーゲーム「SIREN」の屍人を思い出す。SIRENシリーズの屍人とはいわゆるゾンビ型モンスターなのだが、実は彼らにも一定の自我があり、彼らの視点では屍人こそ美しく幸福に満ちた世界に生きている存在だ。屍人からは常人こそが屍人のように見えていて、そんな常人を屍人世界に親切心で導こうとしている。しかし常人からみれば、これらは攻撃行為に他ならない(シリーズ作によってこのあたりの設定は差異がある)
ともあれ、ヒロイン自身はあんな姿になった後も(もしくはあんな姿になったからこそ)、いまでもゲームを楽しんでいるのだ。
三章に入ると、ロビーにもいけるようになったことから、ロビー内のマンホールから侵入できる秘密の水路にも行動範囲を広げている。一方で、エレベーターでしか行けない10階には現れないという。確かに、あの体躯と手足では、暗号コードの入力なりエレベーター内への侵入なりは難しいのかも。
ヒロインの体躯が通り徒歩で行ける場所であればよいなら、やはりビルから飛び出して、外を出歩くイケメンたちとの交流()に勤しみそうなものだが、そういうことはしない。
思うに、彼女が行動できる範囲とは、物理的に歩いていける距離である以上に、ゲームとして安定した空間なのではないか。2章のとある分岐では、あの世界に「バグ」の概念があり、マツリたち呼びだされた人物たちも影響しうることが示唆されている。あのロビーの壊れた大モニターとはゲームにおけるバグ=本来意図しない動作をしている個所であり、それを直すことによってゲームは本来の姿を取り戻し、プレイヤーキャラであるヒロインも広々と行動できるようになっていくのでは。
となると、ヒロインが出現しないという食堂も、一見普通にみえて実は何かのバグを抱えた個所なのかもしれない。もしくは、プレイヤーには開示されない領域、システム裏の扱いなのではないか…。
発想を変えてみる。ヒロインは、明確な目的をもってビル内部の一部にだけ立ち歩いているのではないか。
大樹ウーユリーフから罰を受けたと同時に、ウーユリーフに対して厳重な封印を施した彼女は、つまりはその時点まではビルの外にいたはずだ。ゲームシステムというあの世界における物理法則に縛られてビルから出られないなら、大樹のふもとにいた話は矛盾が生じる。彼女は何か明確な動機があってビル内部にとどまっているのかもしれない。その動機が、ロビーの大モニタ修理に伴って方針転換されて、ロビーにまで進出するようになったのではないか。
……とまで考えるも、今の段階はビルの中がどうなっているのかも不明なので、具体的な動機を想像するのは難しい。このあたりも、今後の開示を楽しみに待つつもり。
最後に、ラストレジェンドについて。
露骨にマツリとの関係性が暗示されているし、イメージカラーや名前のロジックからいってもマツリ以外の4人のメインキャラクターたちとも関係ある可能性は高い。
例えば、彼ら5人は過去に現実世界で出会っており、ラストレジェンドの展開はその当時を暗喩する……とも考えられるが、それにしては5人とも全く面識がない風だし……記憶をなくしているのもありそうだが、そうだとしても経歴が結構ばらばらっぽい。
またキリオの問題もある。彼自身は純ゲームキャラクターであり、マツリのいた現実世界とは関係がないはず……と思っていたら、三章ではそんな彼が過去に現実世界にいたことが示される。マジで?
そもそもあの現実世界が真に「現実」なのかどうかも疑うべきかもしれない。ゲーム世界と現実世界とは、同じ時空に存在する同一世界の一地域でしかなく、彼らは単に2地点を移動しているだけ、ということもあり得るのか。キリオはかつてゲーム世界地域から現実世界地域へと移動し、そちらの地域で芸能人として活躍するべくラストレジェンドの誰かとして参加していた……とかね。
またもう一つ考えられることとして、一見ラストレジェンドが現実世界におけるなんらかの暗喩であり、ゲーム世界に迷い込んだ登場人物たちに関係があるように見えて、その実キリオだけは現実世界に根を下ろした人物ではなく、ここの座席が一つ浮く。イケメンは次から次へと投入されているので、キリオ以外のまだ見ぬ登場人物が鎮座する可能性はあるが、もう一人だけ異世界からやってきた名前を持った登場人物が存在している。つまり、ヒロインだ。
ヒロインもまたゲーム世界においては異世界からやってきた存在であり、彼女が本来トゥルーエンドで帰るはずだった現実世界とは、マツリたちがいた現実世界であると説明されている。であれば、現実世界におけるヒロインがラストレジェンドの関係者であり、最初にこの世界に呼び出された登場人物である可能性もまたあるのではないか。
そうなると、ヒロインとは本当に女性なのかどうかもちょっと怪しいんじゃない…? キリオは折に触れて「男だから抱っこしたくないわけじゃないからね」と、なんとなーくジェンダー規範に関する価値観を口にするし、ロボットたちに性別はなく好きな口調で好きにふるまっている様に祭りは「自由だな」と口にする。ここから垣間見える、このゲームにおける性規範意識とは「ヒロインだからといって女性であるとは限らない」ということもありえるのではないかなあと。
ちょっとこの辺りは自分の中でもふわふわしており、だいぶ隙のある論になっているので、また折に触れてみ返したい。
続きの感想記事はこちら。
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合同作品「最後の聖夜にあなたは何を想う?」+詩集「大人になっても」

詩集「最後の聖夜にあなたは何を想う?���
檸枳(@negi_ma613)
変身ベルト、レターセット、ぬいぐるみ ひとつひとつ誰かの夢となって渡すのは存外面白いらしい 笑いながら君は白い髭を外す 最後に、子供として僕は君の涙が欲しいと言った 紅いコートは少し濡れていた
Airis(@cleloinverno__)
「誕生日おめでとう」 メリークリスマスの中に異質な言葉が聞こえた。それが自分に向けられていることに気づくのに数秒。 「あれ違った?」 「ちが、わない…」 「よかった。はいこれ」 ぽんっと私の手の上に綺麗に放送されたものを置くと直ぐに人の群れに戻って行った。他の人に渡しているものとは大きさ、そもそもサンタのシールではなかった。 何故だか涙が溢れる。 「ありがとう…」 来年も君が祝福してくれればいいな、なんて。
千月薫子(@Thousands_Moon4)
誰もいないオフィス、暖房だけは上司様の慈悲で切られずにごうごうと唸っていた。パソコンの右端を確認するとちょうど[23:50xxxx/12/25]になった。最後のクリスマスもあと10分。回転椅子にもたれて息を吐く。変わらないな。思えば元号が変わった時も、年を経るごとに心が厚くなってゆく。初めても最後もそうでないのも、全部同じだ。いつもと同じように日が沈みまた昇る。だが、今日ばかりはそうも言ってられない。おもむろに携帯を取り出し、電話をかけた。
りおん(@RionasSammy)
クリスマスになると、街も赤、青、金や銀と色づく世界。 おこに雪が加わったら、とても素敵よねーと、少女の様な微笑みで云う君は、歳を重ねても変わらず可愛らしい。
「ねえ、柊さん」 「なんだい、りっちゃん」 「私ね、貴方と若い人みたいに、こうしてクリスマスを過ごせるの嬉しいの」 「そうだな」 喩え、最後の聖夜だとしても俺は君の傍に居て、手を繋ぐのだろうな。
livre(@livrebouqin)
一昨年は男の子だった。去年は友達だった女の子。 今年は私。 毎年この日に散らされていく命を、何度も見てきた。 祈りしは悪魔の召喚だって。くだらない。そんなもの本当は居ないわ。 悪い夢は決して醒めない。誰も救われなどしない。 神様も悪魔もきっと世界に居ないけれど、それでも私が、何かに願おうとするなら。 光の日に願う最期の祈りは。 どうかこの命で終わりにしてください。 来年の今日には、誰も死ななくていいように。
シノミヤ.(@shinomiya56)
世間はクリスマス本番を迎え、華やかに装飾された樹々が街を彩っていた。 僕は生まれたときから耳が聞こえない。だから、賛美歌も、鈴の音色もわからない。 普通の人がうらやましかった。障害を持って生まれた僕は自分を責め、線路に飛び降りたこともあった。 僕が自分を傷つけるたび、母は僕にホットミルクを作ってくれた。 もうこの世にはいないお母さんへ。
お母さんの作るホットミルクが、僕にとってのきよしこのよるであり、たったひとつの祈りでした。
僕は自分の娘に向けて、母が教えてくれた手話で、大好きだよと微笑んだ。
シノミヤ.
坂岡ユウ(@yu_psychedelic)
ねえ、あなた もし私と離れても 決して無駄にはならないよね 二人の暮らし ひとつの道 楽しかったよ 倖せだったよ あっという間に来てしまった 最後の聖夜……
ねえ、あなた もし私がいなくても 私を忘れたりはしないよね 二人の恋は青春そのもの 嬉しかったよ 倖せだったよ ほんとは離したくなかった 君のその手を……
風に乗り あなたの元へ もう一度だけ 行けたらいいのにな
夢に舞い あなたと共に もう一度だけ 笑えたらいいのにな
叶わぬ願い それでもあなたを愛してる
ねえ、あなた もし私が死んでも 思い出だけは忘れないでね 二人でいるだけで自由になれた 愛しているよ 倖せだったよ もう二度と会えないかもしれない ねえ、淋しいよ……
ねえ、あなた もし時が過ぎても この恋は忘れないよね?
ねえ、あなた 私との日々を忘れないでね?
あなたと出逢えて本当に良かった 倖せだったよ 私は確かに倖せだった もう一度あなたと会いたいよ 最期はあなたと一緒がいい……
時を駆け あなたの元へ 明日の朝に 行っていればいいのにな
星と共に あなたに愛を 明日の朝に 伝えに行きたい
最後の聖夜は ラスト・チャンス
叶わぬ願い それでもあなたを愛してる
春の雨の日 追い抜いた自転車 あの日の淡い思い出 約束の指輪よ それから何年か経って 恋仲になり こうして私たちは永遠になる
風に乗り あなたの元へ もう一度だけ 行けたらいいのにな
夢に舞い あなたと共に もう一度だけ 笑えたらいいのにな
時を駆け あなたの元へ 明日の朝に 行っていればいいのにな
星と共に あなたに愛を 明日の朝に 伝えに行きたい
最後の聖夜にあなたは何を想う?
B面(enc.):大人になっても
1.「Love and Peace, Heart to Heart」
泣き明かした日もあった 眠れない夜もあったよ 君に出逢うまでは 何も見えなかった
校舎の片隅で独り彷徨い 灰色に染まった青春は 恋の魔法で塗り替えられた
Love and Peace 今夜だけは…… すべて抱きしめて 花束を贈ろう 感謝の気持ちを込めて…… 心 口づけ合い ふたり語ろう
喧嘩した日もあった 怒りをぶつけた日もあった これも若さなのか 自由を求める声か
君に出逢ってからは素直に笑えるようになった 生きる意味を見つけたのさ 恋の魔法 醒めない夢
Heart to Heart 今夜だけは…… すべて許し合い 言葉を重ね合えば 愛は分かち合える…… 聖夜は誰もが倖せになる時さ
Never ending dream 今夜だけは…… 君を帰さないと 心から叫ぼう 恋の魔法の中で…… 好きになるだけが恋の形じゃない
自由に唱おう 今日が終わらぬうちに
2.「ヴァージン・ガールに憧れて」
紅いマネキンに群がる 流しのペテン師達よ ニセモノの黄金に騙され 涙する少女たちの物語
剥がされ 投げ出され すべてを失うとき ようやく気付くんだ 自分の夢の価値に
何も知らない若者が 繁華街を彷徨う 今日も誰かの声に惑わされ 現実に絶望するのさ
酸いも甘いも嚼み分けた あの日の少女は語る
蒼いプラチナに群がる 愚かな男達よ 純情を騙し切ったなら 最後まで抱きしめろ
犯され 跪き ホントウを知るとき ヴァージンに刷り込まれた 大人に気付くだろう
無垢で在ろうと願うなら お家にいることさ 明日も鳥かごに護られて 篭れよ 君の世界に
何も知らない若者が 甘い声に繋がれ 処女という結を切ってまで ニセモノの金を欲する
酸いも甘いも嚼み分けた あの日の少女は語る
何も知らない若者に もう何も言わない どうせ耳を傾けないから 好きにすればいいんだ
イエロー・マネキンの君は 今何を想うだろう 放り出された少女たちは 大人になったことに気付くのさ
酸いも甘いも嚼み分けた あの日の少女は語る 時代に流され惑わされ いつしか自由を失う
酸いも甘いも嚼み分けた あの日の少女は語る 一杯のワインが夜の闇に誘う 誰もが少女に憧れていただけさ
3.「マイ・ファースト・ラヴ……」
曲がりくねった道の途中 立ち止まることもあるだろう そんな時 君がいれば どんな夢でも叶えられた……
突然切り出された 「もう別れよう」という声に 僕は立ち尽くし 言葉を失った
もし別れなくとも 初めからやり直せたなら 今よりもきっと君を倖せにするだろう
僕には君が大き過ぎて 持て余していたことに気付けなかった 誰にも失敗はあるだろう でも 間違えちゃいけないこともある
君と過ごした日々が 青春と呼べるなら 誰よりも君を倖せに出来なかったのが 僕の想う 唯一の後悔
きっと夢の価値は自分が決めるもの 前に進めないこともあるだろう そんな時 ふたりなら どんな試練にも一歩を踏み出せた……
突然つぶやかれた 「終わりにしよう」という声に 今も僕は立ち尽くしたまま 何も言えないまま もしリセットボタンを 一度だけ押せるのなら 次こそはきっと君を倖せにするだろう
僕には君が眩し過ぎて 退屈させていたことに気付けなかった 誰もが失敗するだろう でも 間違えちゃいけないときもある
君と過ごした日々が 青春と呼べるなら 誰よりも君を倖せに出来なかったのが 僕の想う 唯一の後悔
今年の聖夜も 君の面影を抱きしめている いくつになっても 君が僕の隣にいること 脳裏に焼きついたまま離れなくて……
君と過ごした日々が 青春と呼べるなら 誰よりも君を倖せに出来なかったのが 僕の想う 唯一の後悔
きっと夢の価値は自分が決めるもの 前に進めないこともあるだろう そんな時 ふたりなら どんな試練にも一歩を踏み出せた……
恋人達のペイヴメント ひとり通り過ぎ 悲しみに暮れたまま あの日の恋を憂う
君と過ごした日々が 青春と呼べるなら 誰よりも君を倖せに出来なかったのが 僕の想う 唯一の後悔
4.「グレー・スカイは青春の色」
電車に揺られる 無表情な乗客たち スマフォを触っていたり 音楽を聴いていたり…… 無数の壁が見えたよ
気付いたときにはもう遅すぎる 何にも変わらなかった青春 誰かと話そうにも方法がわからなくて ただテディベアを抱きしめることしか出来なかった
殻を破れるなら 今すぐにでも破りたい でも破れない 破りたくない もう一人の自分が止めに来る
過去を消せるのなら 誰にでも消したい過去がある でも消せはしない 消せば消すほど もう一人の自分が止めに来る
人生はジレンマ 生きるとはジオラマ 遠くから見つめるようなもの
パソコンを眺める イヤホンを耳に挿した青年よ そこは誰のものかい? なんのつもりなんだ…… 声なき声が聞こえた
顔を上げたときにはもう手遅れさ 明日に迫った 最後の日 何かを変えようにも変える時間がなくて ただ自分でない誰かに八つ当たりすることしか出来なかった
見栄を張れるのなら ずっと見栄を張ったままでいたい もう張る見栄がない 何もないんだ 君はありのままでいるしかない
そこに愛があるのなら 空気でも抱きしめただろう でも愛する人はいない 誰もいない 君はありのままでいるしかない
人生はジレンマ 生きるとはジオラマ 遠くから見つめるようなもの
放課後の教室で 夢を語り合った頃のように もう一度やり直せるなら あの頃に戻りたいよ
叶わぬ夢と やろうとしなかったことを きっと今の自分なら…… いや おそらくやり直せたとしても 今と同じ道を歩んだのだろう
後悔の海の中に美化された青春が ぷかぷかと浮いている
青春を語るのは 青春に避けられた者だけ ここに生きるのは 空っぽになった抜け殻だけ
あゝ ため息だけが 静寂(しじま)へと消えていく 明日も その先もずっと 同じ繰り返しのまま 愚かな旅人に振り向くものはいない 永遠の孤独な旅
人生とはジレンマ 生きるとはジオラマ 遠くから見つめるようなもの
5.「Honey White Christmas」
ホットミルクを注いで あんなことやこんなこと 洗いざらい一緒に話そう
ソファーに身を寄せれば 憂いも吹き飛ぶさ プレゼントとかもあったら 嬉しくなっちゃうね
白い雪に覆われた街 恋人たちは抱き合う 若さだけを信じて 僕らは少し大人になった 恋だけがすべてじゃない それでも今夜は信じたいんだ 運命に翻弄された 恋人達のための夜 Happy Christmas, and grateful this year!!
【あとがき】
メリークリスマス!! (ほんとはハッピーホリデーの方がいいのかしら?) 今年は本当に色々あった。 高校を卒業した。 大学に入学した。 新しい仲間と出逢った。 彼らと楽団を作った。 被写体になろうとした。 トランスジェンダーを公表した。 友達と喧嘩した。 自分の未熟さに気付いた。 毎日泣き続けた。 心を壊した。 人が怖くなった。 初めて挫折の味を知った。 路上に倒れたこともあった。 声が出なくなったこともあった。 自分の作品が商業の舞台に立った。 幼い頃からの夢が叶った。 夏に作った楽団が動き始めた。 決して悪いことばかりではなかった。
まっすぐ走れなくなったとき、私は思わず絶望しました。 何も周りが見えなくなり、何をすればいいのかわからなくなりました。 でも、絶望して良かった。 今ではそう自信を持って言えます。 これからも、どこまでも。 みんなと一緒に夢を追いかけていけますように。 最高の青春をつくっていけますように。 来年も跳ぶよ!!
素敵なクリスマス、素敵な2020年になりますように。 excelsior!!
A面:合同作品「最後の聖夜にあなたは何を想う?」クレジット Produced / Written by 坂岡 ユウ Written by 檸枳・Airis・千月薫子・りおん・livre・シノミヤ.
B面:詩集「大人になっても」クレジット Produced by JOHNNY “JOSEPH” PHILIPS WALKER Lyrics Produced by S.I.BIER Written by MARTINI ROSSI(#1, #5)・STEVEN CORONA(#2)・Yuu Sakaoka(#3)・YUKUZO O’MICHI(#4) Edited by Miyuki Shimano Bootleg Name Thanks to Bootleg Association Creative Team (all names except Yuu Sakaoka)
Special Thanks to My Family, my friends and all my fans!!
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