#過去の人を振り返って並べると確実に被ってる時期に気づいて自分でうわってなることがある
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恋色が濃いめな感じな半日だった。別に何があるとかじゃないんだけどふとした瞬間に、あーなんか人を愛したいかもみたいな。人をって敢えていうけど。自分の中にある恋とか愛の情を伝えたいかもとか思って、でもなんだろ。やっぱり昔みたいにそこに付随するヒートアップ的なオプションはなくて。落ち着いたよなーとか思って、過去を振り返ったり。
そういえば、この話に至る経緯があって。必然と言えば必然。きっとこの機会が重ならないなら死ぬまで結びつくことはないだろうという元恋人がいて。付き合った初期は12年前。いや、まあ、付き合ってないんだけど。2〜3年俺が振り回して、ラスト1年付き合って別れた人なんだけど。何となく勘で、今年はどこかで��の人と話す機会があるだろうって薄ら思ってたんだよね。もう今年を逃すと、来年からはガチで平行線の無縁な人になるから。そう思ったのが1ヶ月前で、今日の明け方に連絡が入ってて、数年は聴いてなかった声を聴いたけど俺忘れっぽいから声すら思い出せなくて。薄情なやつだね。5年はちゃんと話してなかったから別に用はないし、相手は一方的に俺のことを見る機会が多々あったらしくてその時ほぼ確で横に岸くんがいたから岸くんのことを恋人かと思ってたらしいけど。全然違う話はできたし、今俺をしてることも言ったし。恋人がいることも話したし。恋人はどんな人って訊かれたから、あなたと付き合ってた時の俺とは相反する真逆な人って答えておいた。年内に一度ぐらい会えたらいいねと社交辞令の様な話もしたんだけど、2週間はほぼ同じ場所に行くんだから声掛けるよって言ってくれたから気長に待つ予定。その人のことって、マジで泣き顔の印象が強くて。これはエゴとして。数年間、いつかは言いたかったあの時はごめんとそれなのに好きになってくれてありがとうと今更俺にしてくれてたことは愛情に溢れてたんだなと知りましたってことを言葉にできたからスッキリしたというか。スッキリしたかな、勝手に。あと、誕生日おめでとうって毎年10月20日は思ってたから、伝えられて良かったよ。おめでとう。
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シャイマ・ハリル東京特派員 今年9月、静岡地方裁判所から無罪判決を言い渡された際、世界で最も長い期間、死刑囚の立場に置かれてきた袴田巌さんは、その瞬間を理解することも、ましてや味わうこともできないようだった。 「再審無罪になったよって言ったけれど、本人は返事はしなくて」と、姉の袴田ひで子さん(91)は静岡県浜松市の自宅で、BBCに語った。 「分かっているのか分からない��か、ちょっと分からなかった」 ひで子さんは、一家4人が殺害された事件で袴田さんが強盗殺人罪に問われ、1968年に有罪判決を受けて以来、再審を求めて闘い続けてきた。 そして今年9月、88歳の袴田さんはついに無罪となり、日本で最も長く続いた法廷闘争が終わりを迎えた。 袴田さんの裁判は特筆すべきものだ。しかしそれはまた、日本の司法の根底にある、制度的な残虐性にも光を当てている。日本では現在、絞首による死刑執行の数時間前まで、死刑囚は執行予定を知らされない。そのため死刑囚は、今日が最後の日かもしれないという不安の中で何年も過ごすことになる。 人権の専門家は長い間、このような扱いを残酷で非人道的だと非難し、受刑者が深刻な精神疾患を発症するリスクを高めると指摘してきた。 そして、無実の罪での処刑におびえながら、独居房で人生の半分以上を過ごしたことは、袴田さんの心身に大きな負担をかけた。 自宅の食堂で食事の準備をする袴田ひで子さんと、座っている巌さん 画像説明,袴田巌さんは2014年に釈放されて以来、ひで子さんと共に暮らしている 2014年に再審が認められ、釈放されて以来、袴田さんはひで子さんの細やかなケアのもとで生活している。 私たちがアパートに到着したとき、袴田さんは高齢となった姉弟を支援するボランティアグループと一緒に日課の外出をしていた。ひで子さんによると、袴田さんは見知らぬ人に対する不安があり、長年「自分の世界」に閉じこもっているという。 「しょうがないのかなと思います」とひで子さんは話した。 「40何年か刑務所の中にいて(中略)狭い3畳の一部屋に押し込まれて」 「人間じゃない扱いを受けているんですよ。えさを与えられている動物みたいな生活なんですよ。それが長年続いたからこういうことになったと思っています」 死刑囚の独居房での生活 元プロボクサーの袴田さんは1966年当時、静岡県のみそ製造会社で働いていた。同社専務の自宅で火災があり、焼け跡から専務と妻、その子供2人の刺殺体が見つかった。捜査当局は袴田さんが一家4人を殺害して家に火をつけ、現金約20万円などを盗んだとして、強盗殺人罪などで逮捕・起訴した。 「その時には家宅捜索が入って警察が来たんですが、ただ何が何だかわからなくて。警察に連れていかれたという記憶はある」と、ひで子さんは当時を振り返った。 家族の自宅と、袴田さんとひで子さんの姉2人の家も捜索され���袴田さんは連行された。 袴田さんは当初は無実を訴えていたが、取り調べを受けて自白した。後に袴田さんは、1日約12時間にわたって尋問されたり殴打されたりし、自白を強要されたと話した。 逮捕���ら2年後、袴田さんは殺人と放火の罪で有罪となり、死刑を言い渡された。ひで子さんが弟の態度に変化を感じたのは、袴田さんが死刑囚の独居房に移されたときだった。 特に印象に残っているのは、ある日の面会だという。 「『昨日処刑があった。隣の部屋の人だった。元気でと言ってた。みんながっかりしてる』って、一気に言われました」 「それ以後(中略)精神的にぐらっと変わってきた」 リング上で闘っているプロボクサー時代の袴田巌さん(左)の写真 画像説明,プロボクサー時代の袴田巌さん(左)の写真 日本で死刑囚として過ごすことで心身にダメージを受けてきたのは袴田さんだけでない。死刑囚たちは毎朝、今日が最後の日になるかもしれないという不安の中で目を覚ます。 34年間死刑囚として過ごし、後に無罪となった免田栄さん(故人)は生前、メディアへのインタビューなどで、午前8時から8時半の間が最も重要な時間だったと説明。その時間帯に死刑執行が通告されるのが通例だったからだとしていた。 また、刑務官が自分の居房の前で足を止めるかもしれないという恐怖は、言葉では表現できないものだったとしていた。 人権団体アムネスティ・インターナショナルが2009年に発表した死刑囚の状況に関する報告書の中で、主執筆者のジェームズ・ウェルシュ氏は、「死が差し迫っていると日々おびえるのは、残酷で非人道的、屈辱的だ」と指摘した。報告書は、死刑囚が「重大なメンタルヘルス(心の健康)の問題」のリスクにさらされていると結論付けている。 ひで子さんは、年月がたつにつれて袴田さんの精神状態が悪化していくのを見守るしかなかった。 「(ある時の面会で)『俺わかるか』なんて聞かれたから、『わかるよ。袴田巌だよ』って言ったら、『それじゃあ違う人だね』と言って(自分の居房に)すっと引っこんだこともありました」 「もう相当ね、精神的に参っていたんですよ。とんでもないこと言うから、『そう』って相づちを打って、生きていればいいやと思って帰ってきた。私にはそんな状況でした」 ひで子さんは袴田さんの主要な代弁者、そして擁護者としての役割を果たすようになった。しかし、袴田さんの再審請求はなかなか前進せず、ようやく進展が見られたのは2014年になってからだった。 自宅のテーブルにモノクロの写真を並べているひで子さん 画像説明,ひで子さんは、「いつでも小さな弟を守らなくちゃと思っていた」と話した 袴田さんを有罪とした重要な証拠は、袴田さんの職場のみそタンクで発見された、赤い染みのついた衣服だった。 この衣服は、殺人事件の発生から1年2月後に「発見」されたもので、���察はそれが袴田さんのものだと主張した。一方、弁護側は長年にわたって、衣服に付着していたDNA型が袴田さんのものと一致しないとして、証拠はでっち上げられたものだと訴えた。 静岡地裁は2014年、弁護側の主張について信用性を認め、再審開始と袴田さんの釈放を決定した。 しかし、この決定をめぐって法的な争いが長引き、再審が始まったのは昨年10月になってからだった。再審の法廷でひで子さんは、弟の命を救うよう訴えた。 袴田さんの運命は、証拠の衣服の染み、特にその経年変化にかかっていた。 検察側は、発見当時、染みは赤かったと主張。これに対し弁護側は、タンク内で長い間みそに使っていれば、血痕は黒くなるはずだと指摘した。 静岡地裁の國井恒志裁判長は衣類について、「事件から相当な期間がたった後、捜査機関によって血痕を付けるなど加工され、タンクの中に隠されたものだ」と判断。 さらに、捜査記録を含む他の証拠も捏造(ねつぞう)されていたと認定し、袴田さんの無罪を言い渡した。 判決を聞いたひで子さんは涙を流した。 「裁判長さんが被告人は無罪といった時は本当にうれしくて、涙があふれてきました」 「私はそんな涙もろい人間じゃないんですが、1時間ぐらい涙がとめどなく流れてきました」 「人質司法」の問題 裁判所が袴田さんに対する証拠を捏造だと結論付けたことは、深刻なことだ。 日本の刑事裁判の有罪率は99%だが、その背景には「人質司法」と呼ばれる制度が存在する。この制度について、人権団体ヒューマン・ライツ・ウォッチ日本代表の土井香苗氏は2023年の報告書で、逮捕された人々の無罪推定の権利や迅速かつ公正な保釈の審理、取り調べ中の弁護士との接触を否定するものだと指摘。そうした虐待的な慣行が、人生や家族を引き裂き、冤罪(えんざい)を生み出しているとしている。 米ハワイ大学マノア校で、日本の刑事司法を専門とするデイヴィッド・T・ジョンソン教授(社会学)は、過去30年間にわたり袴田さん事件を追ってきた。 ジョンソン教授は、この事件が長引いた理由の一つとして、「弁護側にとって重要な証拠が2010年頃まで開示されなかったこと」を挙げている。 この不作為は「極めて重大で許しがたいものだ」とジョンソン教授はBBCに語った。 「裁判官たちは、再審請求に対してよくそうするように、この事件を先送りにし続けた。みんな忙しく、そのうえ法律がそれを許しているからだ」 ひで子さんは支援者と共に再審請求を求めてきた画像提供,Getty Images 画像説明,ひで子さんは支援者と共に再審請求を求めてきた ひで子さんは、不正の核心は強制された自白と、袴田さんが受けた圧力にあると述べている。 一方、ジョンソン教授は、誤った告発は単一のミスによって起こるのではないと指摘する。むしろ、警察から検察、裁判所、国会に至るまで、あらゆるレベル��の失敗が重なっているのだという。 「最終的に決定するのは裁判官だ」 「冤罪が発生するのは、最終的には裁判官がそう決定したからだ。裁判官が冤罪を生み出し、維持する責任は、あまりにも頻繁に無視され、軽視され、見過ごされている」 そのような背景の中で、袴田さんの無罪判決は画期的な出来事であり、過去にさかのぼって正義が実現されたまれな瞬間だった。 袴田さんの無罪を宣告した後、再審を担当した國井裁判長は、正義が実現するまでに時間がかかったことについてひで子さんに謝罪した。 「ものすごく時間がかかっていて、裁判所として本当に申し訳なく思っています」 それから少しして、静岡県警の津田隆好本部長がひで子さんの自宅を訪れ、姉弟の前で頭を下げた。 津田本部長は、「逮捕から無罪確定までの58年間の長きにわたり、言葉では言い尽くせないほどのご心労、ご負担をおかけし申し訳ありませんでした」と謝罪した。 ひで子さんの返事は予想外のものだった。 「58年も前ですので、私たちはもう運命だと思っております。いまさら警察に、苦情を言うつもりはありません」 ピンクの扉 約60年にわたった不安と心痛の後で、ひで子さんは自宅を、採光を意図して整えた。部屋は明るく、家族や友人、支援者と一緒に写ったひで子さんと袴田さんの写真でいっぱいだ。 ひで子さんは、白黒の家族写真をめくりながら、赤ちゃんの頃の「かわいい」弟の思い出を語り、笑顔を見せる。 6人兄弟の末っ子の袴田さんは、いつもひで子さんの隣に立っていたようだ。 「昔から、子供の時から常に一緒にいたでしょ。だからなんとなく昔から、小さい子だから、弟だからかわいがらなきゃいかんという認識があった。それがもう長年続いていて、当たり前みたいになっています」 ひで子さんは袴田さんの部屋に入り、袴田さんの椅子を占領している茶トラ猫を紹介してくれた。それから、若い頃のプロボクサー時代の写真を指さした。 「チャンピオンになるつもりで始めたんでしょうけど、身体を壊してちょっと休んでいる時に、事件が起きたんです」 袴田さんは2024年9月に無罪判決を受けた画像提供,Getty Images 画像説明,袴田さんは2024年9月に無罪判決を受けた 袴田さんが2014年に釈放された後、ひで子さんはアパートをできるだけ明るくしたいと考えたと説明する。そこで、玄関のドアをピンク色に塗った。 「明るい部屋に入って明るい生活をしていれば、自然に治ると思っているんです」 ひで子さんのアパートを訪れると、まず目に入るのは希望と回復力を象徴するこの鮮やかなピンク色のドアだ。 それが効果を発揮しているかどうかは不明だ。袴田さんは、かつて3畳の独居房で何年もそうしていたように、今でも何時間も行ったり来たりしている。 しかしひで子さんは、もしこのような重大な司法の誤りがなかったら、2人の人生がどうなっていたかという問いに、とどまり続けることはしない。 袴田さんの苦しみの原因を誰に求めるかという質問に、ひで子さんは「誰にも」と答える。 ���恨みつらみを言ったって始まらん。泣きごと言っても始まらんと思ってる。だから再審開始に向かって頑張ってきた」 今のひで子さんの最優先事項は、弟に快適に過ごしてもらうことだ。毎朝、袴田さんの顔を剃り、頭をマッサージし、朝食のためにりんごやあんずを切っている。 91年の人生の大半を弟の自由のために闘ってきたひで子さんは、これが自分たちの運命だったと語る。 「もう考えてもしょうがないことだから、そんな過去のことを思わない。これからの人生、いくばくもない私だけどね」 「せめて5年でもいいから長生きして、巌を自由に生かしたいと思っています」 追加取材:中山千佳 (英語記事 One woman's 56-year fight to free her innocent brother from death sentence)
「少しでも長生きして弟に自由な時間を」 袴田巌さんの無罪のため56年間闘った姉ひで子さん、BBCに思い語る - BBCニュース
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2024年5月20日

G7広島からきょうで1年 平和公園にサミット記念館オープン 一般公開始まる 世界平和を思う場所に(RCCニュース 5月19日)2024年5月20日に追記
G7広島サミットの開催から19日で1年です。広島市の平和公園にはサミットを伝える記念館がオープンしました。
原爆資料館・東館のとなりに完成したのは、G7広島サミット記念館です。湯崎知事や広島市の松井市長らが出席してオープニングセレモニーが行われました。


記念館には写真パネルやゆかりの品、96点が展示されています。宮島・岩惣のワーキングディナーで使用された円卓のほか、首脳たちが原爆資料館を見学した際に記した芳名録のレプリカも並んでいます。
湯崎英彦 広島県知事(広島サミット県民会議 会長)「皆さんにご覧いただいて、改めてサミットを思い起こしていただきたい。世界平和への皆さんの思いを強くする1つのきっかけになるとうれし��」
入場は無料で、次に日本でサミットが開催される2030年の年末まで公開されます。

「影響は想像以上」 G7広島サミットから1年 経済効果は? 湯崎知事「持続可能・成長する観光地に」 (RCCニュース 5月17日)
深堀りNEWSDIGは、G7広島サミットの経済効果についてです。開催からまもなく1年。コロナ禍の収束や円安といった追い風の中、今、多くの観光客が広島を訪れています。
去年5月19日から3日間、広島市のホテルに各国首脳が集まって開かれたG7広島サミット。あれからまもなく1年が経とうとしています。

こちらは、サミットに参加した首脳たちが記念撮影をした場所。1年たった今も、こうして訪れる人がいます。
訪れた人は「ここで撮影しているというのは聞いていた。娘と記念に足を運んだ」
ホテルでは、実際に会議で使われた円卓を今も展示しています。こちらは、広島サミットをニュースで見たという外国人客。九州や関西など日本を周遊するツアーに参加し、このホテルに立ち寄りました。
外国人客「私たちは北イングランドのランカシャーから来た。ここに来られて、とてもうれしい。G7はここで開かれ、私たちはここに滞在している。素晴らしい」
刻一刻と、その模様が国内外に伝えられた広島サミット。ホテルによると、影響は想像以上だったといいます。
グランドプリンスホテル広島 中村洋之 マーケティング支配人「(この1年の変化は?)サミット開催直後からホームページの検索数が通常時の10倍ぐらいに増えて、ある程度は『サミット開催ホテルに泊まってみたい』という声は想像していたが、期待以上の反響で、宿泊予約も大きく伸びた」
ホテルの宿泊客数は、コロナ禍の前とほぼ同じ水準に戻りました。そうした中で。

中村洋之 マーケティング支配人「特に海外の客が増えて、アジア(からの客)はまだコロナ前から回復していないが、欧州からの客が大変増えた」
先月は、ヨーロッパからの客が前の年の同じ月に比べ、107パーセント伸び、サミットで広島やホテルの露出が多かった効果だとみられています。

桟橋に到着したフェリー。こちらもサミットの舞台となりました。世界遺産の島、宮島です。
観光客「(どちらから?)京都から。この人は2回目で。ぜひ行きたいと言って、連れてきてもらった」
観光客「横浜から来た」
去年、宮島では島を訪れた人の数が、過去2番目の多さとなって、観光客がV字回復しました。
今年も2月の来島者数が過去最多を記録。ゴールデンウイークを過ぎたこの日も、平日だというのにご覧のような人出です。目立つのは日本人客よりも、外国人客の姿です。
お好み焼き ももちゃん 百々明宏店長「平日も特に外国人の観光客が多くて、ありがたい限り。ヨーロッパの人を含めてインド圏、アジア系の外国人も多い印象」
地元の観光協会も来島者数が好調な理由として、外国人客の増加が大きな要因だとしています。

宮島観光協会 上野隆一郎事務局長「海外の客、各国首脳が大鳥居をバックに写した映像が流れたので、その効果が絶大だったと思う。何とか(年間で)過去最高を記録していきたいという思いはある」
では、サミットの受け入れ側として県民会議の会長を務めた湯崎知事は、この1年間の経済効果について、どう捉えているのでしょうか。

湯崎英彦 知事「外国人の宿泊者数でみても、去年、通年でみると、5月まではコロナの影響があったので、完全には回復していないが、サミットの後、6月以降は全体でみるとコロナ前��上回っているような状況になっているので、特にアメリカとかヨーロッパのG7の国からの観光客が増えていて、そういう意味ではやはりサミットのインパクト、経済効果というのも出ているんじゃないかと思う」
こうした傾向は、全国の他の地域と比べても、うかがえるといいます。
湯崎英彦 知事「今、日本全体の外国人観光客をみると、かなり地域差があって、東京、大阪、福岡、ここにすごく集中している。他の地域はまだ、コロナ前の20%減とか30%減とかというのは非常に多いが、広島はとんとんに戻ってきたりとか、サミット後は、それを上回るような形になっているので、そういう意味でみても、かなり経済効果というのは出ているんじゃないかと思う」
では、こうした効果を持続し、発展させていくためには、どのような取り組みが必要なのでしょうか。知事はそのキーワードとなるのが、「おいしい」だと語ります。
湯崎英彦 知事「今、県や県の観光連盟で取り組んでいるのは、元気、おいしい、暮らしやすいというところで、『おいしい』というところは、観光する上で大きな要素になっているから、これは世界的にそうなので、全体で『おいしい』イメージをつくっていくと。例えば北海道や金沢とか今、災害で苦労されているが、『これがおいしい』というよりも、『この地域がおいしい』というイメージがある。そういうイメージをつくるということと、それから世界遺産に向けてたくさん来ている客に、もっといろんな場所に行ってもらう。そのためのコンテンツとか、アクティビティとかそういうものをつくっていく。そういう2つで持続可能、成長続ける観光地としての位置づけというのを確立していく必要があると思う」

首脳たちが囲んだ円卓=2024年5月17日午後1時2分、広島市中区、興野優平撮影
広島G7サミットが残したものは 開催から1年、「記念館」オープン(朝日新聞 5月19日)2024年5月20日に追記
広島で開かれた主要7カ国首脳会議(G7サミット)から19日で1年になる。サミットは広島と世界に何を残したのか。
同日、広島市の平和記念公園で「G7広島サミット記念館」がオープンする。平和記念資料館の隣にできた約111平方メートルのプレハブだ。県と市が約5千万円の事業費を投じて建設した。
G7や招待国の首脳らが資料館を訪れた際に記した芳名録の複製、首脳らが囲んだ円卓、写真パネルなど約100点が展示される。期間は次に国内でG7サミットがある2030年末までだ。
湯崎英彦知事は14日の定例会見で「国内外の多くの来訪者にとって、G7各国首脳の核兵器廃絶への思いを受け止め、改めて平和について考える契機になれば」と話した。
広島市の松井一実市長は16日の定例会見で、昨年度の平和記念資料館の入館者数が過去最多だったことに触れ、「(サミットは)平和の発信と共に、広島の魅力を世界各国に発信できた。そのことによる成果であると思う」と語った。
しかし、サミット後の世界ではG7が再確認した目標の「核兵器のない世界」がますます遠ざかるような出来事が続く。
パレスチナ自治区ガザへの攻撃を続けるイスラエルでは昨秋、閣僚が核使用を「一つの選択肢」と発言した。核兵器の保有や使用を全面的に禁じる核兵器禁止条約には、核保有国や米国の「核の傘」の下にある日本が不参加だ。今月6日にはウクライナ侵攻を続けるロシアが戦術核兵器の演習準備を始めたと発表。16日には米国政府が、西部ネバダ州の核実験場で14日に核爆発を伴わない未臨界核実験を行ったと発表した。
平和教育や平和文化交流を続けるNPO法人「ANT-Hiroshima」の渡部朋子理事長は「核兵器廃絶に向けた貴重な機会を、広島はG7サミットで失った」と指摘する。
昨年のサミットでは「核軍縮に関するG7首脳広島ビジョン」が公表された。核軍縮をうたう一方で、核兵器は「防衛目的のために役割を果たし、侵略を抑止し、戦争及び威圧を防止」するとして核抑止力を肯定する内容で、被爆者団体などから批判を浴びた。
ウクライナのゼレンスキー大統領が飛び入り参加し、G7首脳との間で軍事支援の強化が���束された。渡部さんは「広島は非核・非戦・非暴力の場だったのに、ウクライナに対する軍事支援を表明する場になってしまった」と振り返った。
「記念館」が平和記念公園内に建てられたことについても、「公園に眠る被爆者の方々に申し訳ない」と批判する。
その一方で注目するのが、G7サミットに政策提言する国際的な市民ネットワーク「C7(Civil(シビル)7)」だ。昨年には東京で「C7サミット」があり、市民の連帯が生まれたという。「グローバルとローカルがつながり、より良い世界に向かって手をつなぐという非常に大きな意味がある」
今年5月14、15日には6月にイタリアであるG7サミットを前に現地で開かれた。広島出身で「核政策を知りたい広島若者有権者の会」(カクワカ広島)共同代表の高橋悠太さん(23)も参加。渡航前、「去年の広島での開催を経て、もう既に(核廃絶に向けた)芽が広がっている」と話していた。
G7首脳への提言には、昨年の被爆地・広島での開催を踏まえ「平和、共通の安全保障、核兵器廃絶」という項目が新たにできた。そこには「何者であっても核兵器による威嚇や使用は許されないことを再確認せよ」と書かれている。(興野優平、魚住あかり)

広島サミット1年 被爆地の訴え、軽んじるな(中国新聞 社説 5月19日)
広島を舞台にした先進7カ国首脳会議(G7サミット)開催から1年になった。先進国の首脳が集い、原爆資料館などを訪れてメッセージを記した。被爆地として歴史的節目となる会議だった。
地元開催のひのき舞台で岸田文雄首相が誇らしげに成功を強調した場面は記憶に新しい。だが、この1年間、核兵器のない世界への取り組みがどれだけ進んだだろうか。
ウクライナに侵攻したロシアは戦術核兵器の使用を想定した演習準備を始めた。米国も14日にバイデン政権3回目となる臨界前核実験をした。核保有国の独善ぶりはむしろ拡大している感さえある。
「核には核で対抗する」という核抑止論が世界で幅を利かせている。しかし、核兵器がある限り、使用される危険は消えない。「核のボタンを押す」と威嚇する指導者は現に目の前にいる。被爆国である日本は抑止論ではなく、世界からの核廃絶を目指す具体的な行動を示すべきだろう。
私たちは首脳による広島訪問を呼びかけてきた。平和記念公園や原爆資料館を訪れ、原爆被害の実態を知ってもらうことで核廃絶の取り組みが広がると信じてきたからだ。
原爆資料館の入館者数は2023年度、198万人を超え、過去最高を大幅更新した。歴史的な円安に加え、サミット効果も大きかった。広島サミットがヒロシマの惨禍を世界に伝える契機になったことは成果と言えよう。
ただ、サミットで初めてまとめられた核軍縮文書「広島ビジョン」には不満が募る。核兵器禁止条約に触れず、核廃絶にも言及しなかった、核保有国に追随するような内容は全く評価できない。全国の被爆者団体へ向けた中国新聞社のアンケートでも「核廃絶へ成果がなかった」と広島サミットへの厳しい意見が半数を超えたのもうなずける。
広島市も広島県も核抑止論からの脱却を求めている。それが被爆地の訴えであるのは言うまでもない。にもかかわらず、政府は24年版外交青書に「米国が提供する核を含む拡大抑止が不可欠」とする特集面を新設した。まさに聞く耳を持たずである。
保有国の横暴ぶりをみて、非保有国は核兵器を全面禁止する方向に結束しつつある。積極参加すべき日本は被爆者団体などからの再三の要請に背を向け、オブザーバーにも加わらない。
到底納得できない。世を去った幾多の被爆者の「二度と被爆者を生み出してはならない」という思いが岸田首相には届いていないのだろうか。
「各国首脳とともに『核兵器のない世界』を目指すために、ここに集う」
サミットの際、岸田首相が資料館の芳名録に残したメッセージである。集まったことを誇っただけで、具体的に何を協議し、どう取り組むかという決意などが全く記されていないのはなぜなのか。
広島は核なき世界を実現するために、とりわけ重要な責務を持つ都市である。その地でサミットを開いた事実だけを強調し、政治のレガシーにすることなど許されない。

G7 広島サミットから1年 核兵器を巡る現状は 若い世代に聞く(毎日新聞 5月19日)
核兵器廃絶の活動に取り組む高橋悠太さん=広島市中区で2024年5月9日午後1時59分、武市智菜実撮影
主要7カ国の首脳が被爆地に集まったG7 広島サミットから1年を迎えた。核兵器のない世界の実現に向けて行動する若い世代は、その後の状況をどう見ているか。核廃絶を目指すNGOの代表として国内外を奔走する高橋悠太さん(23)に聞いた。
核軍縮交渉進まず
私が代表理事を務める一般社団法人「かたわら」(横浜市)は2023年春の設立で、核兵器をなくそうと行動する市民の「傍ら」にありたいというのが趣旨。市民のためのシンクタンクとして、地方自治体への政策提言や情報発信などに力を入れている。
サミットに市民サイドの声を届ける「G7市民社会コアリション」の一員として、外務省のシェルパ(首脳の補佐役)にも面会し、核兵器廃絶をサミットの主要議題に取り上げてもらうよう求めた。4月の面会では、6月にイタリアで開かれるサミットで 広島サミットを引き継ぐ形での議論をお願いした。
1年前を振り返ってみると、被爆地でサミットが開かれても核兵器を巡る現状は変わらなかった。核を保有する西側諸国が核軍縮を呼びかけるようであれば大きな進展だと思ったが、核拡散防止条約(NPT)の第6条が核保有国を含む締約国に義務として定める核軍縮交渉は進んでいない。
広島サミットでは初めて核軍縮に特化した声明「 広島ビジョン」が出されたが、その後にパレスチナ自治区ガザ地区に侵攻したイスラエルの閣僚からは核使用をほのめかす発言があった。通常戦争が核兵器の使用につながるリスクは高まっているのではないか。 広島と 長崎は核の問題を考える���発点で、サミットはそれを共有する機会だったはず。しかし、被爆地からのメッセージは軽んじられているのが現実だ。
核兵器廃絶の活動に取り組む高橋悠太さん(前列右から2人目)。左隣は広島県原爆被害者団体協議会の箕牧智之理事長=広島市中区で2024年5月9日午後2時53分、武市智菜実撮影
広島ビジョンでは、核兵器のない世界という究極の目標は「現実的で、実践的な、責任あるアプローチを通じて達成される」とある。しかし「責任あるアプローチ」とは「核抑止力」を含むのか。そうであるならば、どういう状況で、どんな大義があれば、核兵器を使用できるというのか。その問いを詰めていけば核兵器の被害を認識しなければならず、 広島と 長崎に立ち返ることになるはずだ。
一方で世界には気候変動や難民問題など、さまざまな課題がある。核兵器の問題は核保有国がNPT第6条を順守し、核軍縮に向けてきちんと対応すれば済む話でもある。
戦争が行き着く先は……
日本国内で気になるのは、核廃絶を求める人たちの発言が内輪にとどまっているように思えることだ。地元の広島を離れて東京にいると、戦争体験から学ぶ機会が途切れつつあると実感する。戦争が行き着く先に核兵器の問題があることを語るのは難しい。
市民社会から核廃絶を求めていくために、核を巡る言説を強くしたい。 広島サミットの際には他の分野のNGOなどと結びつきができ、環境問題の中で原発を取り上げ、子どもを巡る政策から平和に言及するといった協働が生まれた。共通の土台を作れたことは成功だったと思う。
イタリアでのサミットを前に、世界各国のNGOなどが現地で今月開いた国際会議「C7サミット」に参加し、政策提言書には気候危機や人道支援などと並んで核兵器廃絶が盛り込まれた。
核兵器は「人類はどう生きるか」という人権問題につながる。さまざまな課題は戦争、さらには核兵器の問題とつながっていることを訴えていきたい。【聞き手・宇城昇】
たかはし ゆうた 2000年生まれ、 広島県出身。中学・高校時代から核兵器廃絶の署名活動などに参加。「核政策を知りたい 広島��者有権者の会」(カクワカ広島)の共同代表、国内で活動する人々のネットワーク「核兵器廃絶日本NGO連絡会」の幹事も務める。

「コミュニティ拠点として賑わいを創出」貸会議室や子どもプログラミング教室も!広島銀行が新コンセプト支店オープン(RCCニュース)2024年5月20日
広島銀行は、JR広島駅前の商業施設に新しいコンセプトの支店を開店しました。

JR広島駅前のエールエールA館7階に開店したのは、広島銀行広島東支店です。

敷地面積は880平方メートル。老朽化が進む旧広島東支店やエールエールA館の1、2階にあった支店などが移転して営業します。
エールエールA館では、2026年度に広島市中央図書館が移転する予定で改装作業が進んでいます。
広島銀行では最大40人を収容できる有料の貸会議室を初めて支店に併設し、子どもプログラミング教室やカルチャースクールを開くなど、「コミュニティー拠点として賑わいを創出したい」としています。


広島銀行 清宗一男 頭取 「今の銀行の支店という、ロードサイドで1階で入ったらカウンターがあるというイメージを払拭した新しいタイプのお店にしたい」

広島東支店では、銀行業務の時間外も市民の憩いの場としてロビーを開放することにしています。
youtube
広島銀行 3店舗を統合し新支店オープン(広島テレビ)
広島銀行は20日、広島市内の3店舗を統合した新しい形の支店をオープンさせました。
広島駅南口にある、エールエールA館内にオープンした広島東支店。広島市南区にあった旧店舗と大州支店、広島駅前支店の機能を一か所に集約し、経営資源の効率化を図ります。
広島銀行 清宗一男 頭取「(客は)口座番号も変更する必要なしに、一つの所で取引いただくのがこれからの時代に合っている。」
新店舗は銀行の営業時間が終わった後もロビーを開放するほか、予約すれば誰でも使える会議室が午後8時まで利用可能です。
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新広島駅ビルの姿が徐々に 広島電鉄「駅前大橋線」の橋梁は6月設置 周辺で通行止めも(RCCニュース)2024年5月20日
建設中の新しい広島駅ビルの囲いが取れ始め、その姿が徐々に明らかになってきました。一方、路面電車が乗り入れるための橋は来月設置される予定で、その工事にともない周辺の道路が一時通行止めになります。
小林康秀 「建設が進む広島駅ビルの東側の建物の囲いが取れ始めました。大きな『広島駅』、それからアルファベットで『HIROSHIMASTATION』と見えるようになりました」
新しい広島駅ビルは地上20階、地下1階建てで、その2階部分に広島電鉄の新ルート「駅前大橋線」の路面電車が乗り入れます。
広島駅前の交差点にかかる大型の橋梁はいよいよ来月設置。この工事にともない、広島駅前の周辺の道路は、6月13日、16日、17日の深夜から早朝にかけて通行止めになります。また、予備日が19日の未明から早朝に設定されています。

通行止めとなっている時間は、迂回が必要となるほか、広島駅前の仮設のタクシー乗降場が利用できなくなるということです。
駅前大橋線と新しい広島駅ビルは来年春に開業する予定です。
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🎼 1507 「ウナ・セラ・ディ東京」。
・2021年12月21日に発表されました 首相官邸の コミィやモナなどの “仕込み” 資料です。表の米印は (#1) すべての打ち込まれてしまった分 (2021年12月20日迄分)。(#2) 2021年9月1日公表分より 割合の計算に用いる人口データは 2021年1月1日現在の住民基本台帳に基づくものに変わりました。(#3) 職域分は 2021年12月12日迄のものです。先日から 三度目の正直用に 一列増えましたけれど、それでも打ちますか?それとも人を辞めますか?

・2021年12月21日に発表されました、東京都福祉保健局によります 東京都の “仕込み” 資料です。打ち込まれてしまった “それ” は 2021年12月20日分迄です。

・2021年12月に発表されました、警察庁によります 自らのいのちをどうにかされた方の資料です。ジシハダメゼッタイ!

・警視庁によります 交通人身事故発生状況 (2021年12月20日迄分) です。くれぐれも気をつけてください。


えっと、朝が寒くって ついついお布団と毛布を被ったまま出勤したくなる今日この頃ですけれど、そんな中で テレビの中の 天気予報を眺めていたりするときに聞こえてきます "放射冷却" がどうのかうので 朝が冷え切っているという話に ん?って疑問を (地球温暖化並みに) ふつふつと持ち始めています。何が本当で何が���当ではないという話は こんな世の中ですから 星の数ほどに あったり無かったりしますけれど、今夜は 我が国がいま起きている危機を感じさせる過去の歴史を 今一度思い返します。
・日本経済新聞より。特措法を改正させることにより、日本人を 一人残らず えらい目 (みなごろし) に遭わさうと企む自民党について。どこまでも悪いことばかりしか考えない これらのデストロンの怪人たちの勝手を許すわけには参りません。皆で追放しませう。


・えっと、タンブラさんのフォトの都合で フォトが載せられませんので、手書きでお伝えします。うちの国の政府 (きっと非日本人) がアイヌの方々に何をしたかということが書かれているのですけれど、この歴史と同じやうなことが いまの日本で起きています。このままいくと、日本人は この世界から消えます。めげずに がんばって戦ってください。目を覚ましてください。わたしは こんな国にした輩どもを許しません。今に見ていろ。
公益財団法人アイヌ文化新興・研究推進機構 の 「アイヌプリ -アイヌの心をつなぐ-」 より抜粋。
・明治以降、戦前まで
明治になりますと、日本全体がさうであったやうに、アイヌの人たちの生活の様相も大きく変わるとともに、その文化も大きく変容します。外からの力による変容です。この明治初期のアイヌの人たちに関わる出来事は、その後の文化変容を理解するうえで重要ですので、少し詳しく見ていくことにします。明治になり、アイヌの人たちの生活の様相が大きく変わった要因のひとつに、社会的背景として、アイヌの人たちの生活の場の国有化があります。明治2年 (1869) に開拓使が設置されて後、明治5年 (1872)、政府は 「北海道土地売買規則」 及び 「地所規則」 を公布し、深山・幽谷・人跡隔絶の地以外の土地を個人に売り下げるとしました。その対象となったところは 「地所規則」 の第七条に 「山林川沢、従来土人等漁猟伐木仕来シ土地ト雖、更ニ区分相立、持主或ハ村請ニ改テ〜」 とあるやうに、アイヌの人たちの漁狩猟・採取の場も含まれていました。さらに、政府は、明治10年 (1877) に 「北海道地券発行条例」 を公布し、政府が管理するところとしました。規則には 「第16条 旧土人住居ノ地所ハ其種類ヲ問ス当分統テ官有地第三種ニ編入スヘシ〜」 とあります。もうひとつ、同規則第15条に 「山林山沢原野等ハ当分統テ官有地トシ其差支ナキ場所ハ人民ノ望ニ因り貸渡或ハ売渡ス事アルヘシ」 とあり、アイヌの人たちの居住域と併せて、先に売り下げの対象とした山林山沢原野をも官有地としました。次に、アイヌの人たちに直接的に大きく影響を与えたものとして、シカ猟やサケ漁に関わる規則の制定、伝統的慣習の禁止です。
明治8年 (1875) 9がつ、開拓使は 「日高胆振両州方面鹿猟仮規則」 をもって 「矢猟(俗語アマツ���ト唱ル 機械ノ義ハ深山幽谷等ニ住居スル旧土人々跡隔絶ノ地ニ於テ相用ル分前条同様免許鑑札ヲ可受〜」 と、日高胆振のアイヌの人たちのシカ猟に制限を与えました。矢猟は深山幽谷、人跡未踏の地であればいいといっていますが 「免許鑑札を受けなければならない」 と、制限を与えています。さらに、同年11月には、その範囲が夕張・空知・樺戸・雨竜郡に及び、翌年1月には十勝国にも及んでいます。しかし、前年9月には 「従来旧土人共毒矢ヲ以獣類ヲ射殺スル風習ニ候処右ハ獣類生息妨害不尠ニ付 今後堅ク相禁候〜」 と、アイヌの人たちの伝統的な狩猟法である弓矢による狩猟は禁止となり、代わって猟銃を貸与する、としています。最終的には、明治9年 (1876) 年11月 「北海道鹿猟規則」 の制定により、アイヌの人たちの鹿猟は非常に困難なものになってしまいました。同規則には、
① 鹿猟志願者は願書をだし、免許鑑札をうけなければならない。
② 猟者の人数を年600名とする。
③ 免許鑑札を受けても毒矢による狩猟は禁止する。
などとあり、文字を持たないアイヌの人たちが願書を書けるはずがなく、猟者の人数制限、毒矢の禁止は、実質的にはアイヌの人たちのシカ猟を困難なものにしています。シカ猟に食料の多くを依存していたアイヌの人たちにとって、シカ猟ができなくなることは死活問題でした。このシカ猟に加えて、この時期、もうひとつアイヌの人たちの主食とされたサケに関わる出来事があります。サケ漁の制限です。明治16年 (1883)、開拓使 (札幌県) は十勝川上流のサケ漁を禁止しました。そのため、翌年の春には十勝地方のアイヌの人たちが飢餓状態におちいる事態を招きました。このシカ猟やサケ漁の制限・禁止は、アイヌの人たちの連綿と続いた伝統的な食料獲得が失われることであり、生業の変容でもありました。また、開拓使は、アイヌの人たちの漁狩猟に制限を加える一方で、農業を奨励し、政府も明治32年 (1899) には北海道旧土人保護法を制定するなどして、アイヌの人たちの生業の農業への転換を図りました。狩猟から農業へという生業の転換は、当然、文化にも変容をもたらしました。漁狩猟に伴う儀礼、シカの送り儀礼や新しいサケを迎える (迎えた) 儀礼などの集団での実施がむずかしくなり、やがては多くの地域で実施されなくなり、わずかに個人単位で実施・伝承されるやうになりました。さらに、年ごとに増えていく開拓者が自分たちだけの集落を形成するとともに、アイヌの人たちの居住域にまで住むやうになり、やがて人口のうえで開拓者がアイヌの人たちを圧倒するやうになりました。開拓者がアイヌの人たちと混住することになり、伝統儀礼の実施がやりづらくなったことも確かです。かうした生業に関わる変容と併せて、この明治のはじめのころ、さらに伝統的な生活習慣に大きな変容がありました。明治4年 (1871)、開拓使は布達をもって、アイヌの人たちに対して、
・〜是迄ノ如ク死亡ノ者有之候共居家ヲ自焼シ他ニ転住等ノ儀堅可相禁事 (これまでのやうに、死者が出たとき、住んでいた家を焼いて、他にうつり住むことは禁止する)。
・自今出生ノ女子入墨等堅可禁事 (今後生まれてくる女子に入墨をすることは禁止)。
・自今男子ハ耳環ヲ著候儀堅相禁シ女子ハ暫ク御用捨相成候事 (今後男性が耳環をすることは禁止。女性はしばらくの間は禁止しない)。
・言語ハ勿論文字モ相学候様可心懸事 (言葉は勿論であるが、文字も学ばせるやう心がけること)。
といっています。「家を焼く」 というのは、アイヌの人たちは高齢者、特におばあさんが亡くなったときに、死後の世界で住めるやうにと、住んでいた家を焼くことにより、死後の世界に家を送る、という考えに基づくもので、おばあさんは自力で家を建てることができないので、現世から送ってあげるわけです。ここには 「送る」 というアイヌの人たちの重要な精神世界があります。アイヌの人たちは、日常使用しているものなどは神々がそれらの姿に変身し、人間のために使われているとして、破損などにより使用できなくなったり、不用になったりすると、儀礼を伴って家の周囲にある一定の所に置きますが、それは、ものの姿に変身して人間の世界にいた神々を神々の世界に送り帰すということであり、単に捨てるということではありません。アイヌ語で 「イワッテ」 などと呼ばれています。かうした神々との関わりのある重要な習俗も、その実施が困難な状況となってきました。女子の入墨の禁止は、女性にとっては大変重要な問題です。女性は入墨をすることにより成人であると認められ、結婚することが許されたといわれています。入墨をしていない女性は結婚の相手がみつからないとか、し後の世界でつらい目にあうとかいった話しが伝えられています。実際には、この布達が出された後も女性の入墨は続けられ、昭和50年代でも入墨をしているおばあさんが健在でした。男性の耳環は、現在ではほとんど目にしませんが、江戸時代に描かれたアイヌ絵 (アイヌの人たちを描いた絵を特にさう呼んでいます) に登場するアイヌの男性の多くは���環をつけています。特に布達でもってその着用を禁止していることから、明治になってもまだ多くの男性がつけていたものと思われます。さらに、伝統的な習俗の変容の要因として、キリスト教や仏教、神道へのアイヌの人たちの信仰があります。これは急激におきたものではなく、徐々に広がりをみせたものですが、明治になるといち早くキリスト教の宣教師らが来道し、布教に努めていますが、結果としては、仏教を信仰する人たちのほうが多数を占めているやうに思われます。このキリスト教や仏教、神道を信仰することにより、それまでアイヌの人たちが持っていた世界 (信仰) 観が失われていくことになります。因みに、現代に生きるアイヌの人たちのなかで、仏教を信仰しながらも先祖供養の折には、墓前でイクパスイとトゥキでもって酒を捧げ、供物を半分に割り、片方を供え、片方は墓参にきた人たちが食べるという伝統的な供養を行っている人たちもいます。ですから、すべてが失われたということではなく、部分的なものが受け継がれて現在に至っているといえます。なお、この墓参あるいは盆、彼岸の行事などでの し者 (先祖) の供養は、アイヌの人たちの伝統的なものではありません。アイヌの人たちは、人間は しぬと し後の世界にいき、そこで現世と変わらぬ生活をすると考え、墓参は一切しませんでした。供養は、クマの霊送りや新築祝いなど大きな儀礼が終了した後に行われたといわれています。大きな儀礼では、日常とは違った特別な料理がつくられますので、その料理を し後の世界にいる人たちにも味わってもらうという考えです。また、普段口にすることのない珍しい食べ物を手に入れたときにも、やはり同じ考えから供養を行なったといわれています。供養の場所は各個人の家の屋外にあるヌササン (祭壇) に向かって左側につくられた先祖供養専用のヌササンです。この先祖供養の形態の変容ですが、江戸時代の後末期までさかのぼる可能性があります。そのころの蝦夷地の各場所では請負人が一年を通して様々な行事 (年中行事) を行っており、そのなかに盆や彼岸の行事も入っていますので、これらを自分たちの文化に組み入れた可能性です。
アイヌの方々が失ったものを いつかきっと取り戻します。
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アジャラカモクレンニセンニジュウイチネンニガツツイタチカラナノカマデノニッキ
2月1日(月)
起きられない。出勤寸前に起きる。急いで支度をして、身支度を整えながら豚キムチを食べて家を出る。働く。慌ただしい。働き終える。閉店後の職場でだらだらしていたらクラブハウスのなんだかWelcomeみたいなroomにjoinしてしまってなんだこれなんだこれと思っているうちにroomがcloseしてnewなroomがcreateされてわたしはそこにjoinしてそこはclosedなroomではっしーとわたしのふたりだけが入っているtalk roomみたいなもので、なんだこれなんだこれ、と言いながら久々にはっしーと話した。なんだか危ういSNSがまた出来たなあ、と細目で遠巻きに眺めていたクラブハウスに、朝方、鵜飼さんから招待されていて、招待されたからには使ってみよう、ということで、わからないなりに登録を済ませていたのだった。はっしーはこれからクラブハウスで、メニカンで、建築のあれやこれやをぼそぼそゆるゆる話す、それに参加するために招待されたから使い始めた、ということで、わたしもはっしーも話しながらクラブハウス探り探りといった感じだった。お互いの近況を軽く話したり、しょうもない話をたらたらしたりして、23時になってはっしーはメニカンのtalk roomに行ってわたしはすこし時間をあけてからそのroomにinした。どれどれ、みたいな気持ちで入ってラジオのように(というかこれはほとんどラジオだ)聴いていたら案外面白い話がなされていて、韓国の半地下建築はもともと防空壕、ということらしかった。次回は建築における収納について語るらしい。おもしろ〜、と思いながら、トークが終わったばかりのはっしーをすぐさままたclosedなroomにinviteすると「なんなんだよ」と言いながらはっしーがroomにinしてきた。小学5年生だか6年生だかのとき、その学年の生徒全員で校庭に埋めたタイムカプセルをそろそろ掘り返す年齢なのではないか、みたいな話になって、わたしはそれ、行けるのかなあ…………と思ったし言った。普段言われないことたくさん言われそう。社会って感じしそう。これが多様性か、みたいな。行くとしたら、はっしーと行きたい。というか、はっしーとふたりじゃないとたぶん行けない。わたしにそこまでの勇気はない。そのあとチャットモンチーとメダロットの話をしていたら止まらなくなるような感じがあって、久しく聴いていないチャットモンチーをあれこれ聴き漁りたい欲求に駆られていると操作ミスかなにかでroomが閉じて、終わった。(と、ここまで書いて、クラブハウスの利用規約に、テキストに書くことも含めて音声の記録はダメよっていうものがあることを思い出したのだけど、この文章はどうなんだろうか)。それから『進撃の巨人』のアニメ最新話を観たり、さあ帰るかと思いつつチャットモンチーの曲をiPhoneで漁っていると今度は遠藤からクラブハウスのclosedなroomのinviteが届いて、なんだなんだと思いつつ話した。遠藤は相変わらず遠藤だった。それで、遠藤とのroomが終わって、いろんなアカウントのフォローフォロワーを見て、わ〜この人もやってるんだ、あ、この人も〜、みたいな気持ちでフォローをしていったり、フォローした人を招待した人、招待した人を招待した人、その招待した人を招待した人……と、祖先を辿るようにアカウントを見ていったり(最終的に、誰にも招待されていない、おそらくオリジナルメンバー、みたいな人に辿り着く。オリジナルメンバーの数が何人なのかはわからないけれど、招待された人を辿っていったらあの人とあの人の祖先?オリジナルメンバー?が同じ。みたいなことはけっこうありそうで、それはちょっとおもしろいな、と思った。にしても差別や排除や格差が生まれる萌芽みたいなものがたくさんあるサービスだな……���とも思っている)しているうちに午前2時過ぎとかになっていて、さすがにいすぎた。チャットモンチーをガンガンに聴きながら帰宅。なんだか変にお腹がすいていて、カップ麺を食べたい、みたいな気分だったのだけどカップ麺は家に無く、コンビニに買いに行くのもなんだか違う、となって、柿ピーをお椀に盛って、その上にマヨネーズをかけて、それをスプーンで掬って食べた。自分でも、さすがに気持ち悪い食事だな、と思う。
注射を打ちたい。もう1ヶ月くらい打っていない。プロギノンデポー2A(アンプル)。生理くらいカンタンならいいのに、と思う。カンタン、というのは、周期が予測できて(もしくは予測しやすくて)(そして、そのためのスマホアプリもあって)、予測できない場合その理由/原因も調べればたくさん出てきて、生理によるさまざまな身体的不調/変化やその対処法も調べればたくさん出てきて、医学的にも民間療法的にもスピリチュアル的にもライフハック的にもたくさんの言説、書籍、記事、ツイート、YouTube動画、cm、などがあって、身近な人、友人、知人、家族などに相談することが比較的(すくなくとも、トランスジェンダーのホルモン注射、なんてトピックより遥かに)容易で、……みたいな「カンタン」で。ホルモン注射はとにかく打ってる本人ですら「よくわからない」。ホルモン注射による副作用、みたいなものは注射の同意書を書かされるときなんかに書面で提示されるし、当事者のブログやらツイッターやらで信憑性不明の情報を拾うことはできるが、「よくわからない」。副作用の過多や身体への影響は個体差がデカい(ように感じる)し、投与を長期間辞めた場合や、投与間隔が不規則になったときの身体への影響も、「よくわからない」。わたしは現在、3週間に1度、新宿のクリニックへ行ってプロギノンデポーを2A投与しているが、その間隔も自分に合っているのかどうか「よくわからない」。注射を打つ前後や打った当日(特に当日)は如実に心身の調子がおかしくなって頭も身体も使い物にならなくなる(重い頭痛、眠気、寂寥感、身体のダルさ、感情の制御不能、など)が、それがどこまで注射それ自体の影響なのかは正直「よくわからない」。注射が打たれた、ということによるノーシーボ効果もある気がする。ただ、気の持ちようだろ、と言われても(誰にも言われたことはないが)、思おうとしても、頭と身体が言うことを聞かない、みたいな状態にはなるから、やっぱり注射の副作用なのかもしれない。注射前(前回の注射から3週間が経ったあたり)はやたらと身体が疲れやすくなり、食事と睡眠と性欲のバランスがあべこべになる(気がする)。感情の喜怒哀楽の喜と楽がうす〜く稀釈されたようになる。注射後数日も同じく。いまは1ヶ月近く注射を打っていないから、もう身体の中には男性ホルモンも女性ホルモンもほとんど残っていない、すっからかんの状態で、はやく、とにかく、注射を打ちに行きたい。打ちに行けない。悲しみと怒りの感情ばかり積み上がっていく。これはとても良くない。緊急事態宣言によって、職場が時短営業になってから、出勤時間が変則的になっていて、それに身体がぜんぜん慣れてくれないのが大きな理由で、夜どうしても眠れず、朝どうしても起きられない。出勤前に注射を打つためには、かなり早起きして家をでないといけないのだが、それがどうしてもできない。勤務時間は少なくなっているはずなのに、通常営業時より明らかに疲れている。まあ、出勤前に注射なんて打ったらその日はもう負の傀儡みたいな状態で働くこと確定になってしまうから、休日に打ったほうがいいのだろうけど。でも、休日に打ったら打ったで、その日いちにちのすべてが注射の副作用によっておじゃんになるから、なるべく休日には打ちたくない。じゃあ、いつ打てば……?そ��も「よくわからない」。しんどい。はやく打たないとやばい気がする。これも「気がする」だ。なんもわからん。生理がいい。乱暴な物言いなのは承知の上で、どうせなら生理がいい。どうせ不調になるなら。どうせしんどいのなら。誰かと、この不安と不調としんどさと「よくわからなさ」を分かち合いたい。語り合いたい。スマホアプリだって欲しい。あたりまえに、あらゆる場所や人やメディアから情報を受け取りたい。そういう身体でありたい。生理がいい。
この世には2種類の人間がいて、それは歯磨きをルーティーンとして行う人とタスクとして行う人なのだけど、わたしは後者で、だから今日もタスクをこなしてわたしは偉い、偉いぞと思う。タスクだと思わないと歯を磨けない。歯磨きをルーティーンとして難なくこなしている人はすごいな、と思う。他者、という感じがする。
大切に書きたい。と先週の日記にわたしは書いたけれど、「大切に書く」とはいったいどういうことなのだろう。といま思っている。大切に書く必要なんてないんじゃないか。わからんけど。いや、なに言ってるんだ。必要だ。わからんけど。
持続可能性。持続可能な書き方。持続可能な働き方。持続可能なホルモン投与。持続可能な生き方。持続可能な歯磨き。持続可能なアンガーマネジメント。ぜんぶ大切で、ぜんぶわからない。
負の感情でほんとうにどうしようもなくなったときは、耳が壊れそうな音量で、同じ音楽をリピート再生させながら、喉が千切れそうになるくらい大きな声で、絶叫みたいな声で、疲れ果てるまで歌う。笹塚に住んでいたときは何度かそれをやった。クソ迷惑だっただろうなと思う。いまの家ではまだやっていない。いつかやるだろう。
ないものねだりを続けていてもどうしようもない。自分で自分を殴っているのと一緒だ。
生活がミニマル、ミニマム?ミニマムになって久しい。1日のうち、自分が言葉を発する相手が、職場で関わる人と家のぬいぐるみたち(貪欲、太子、羊のジョージ、シゲルくん。のうち、特に貪欲と太子)だけだった、という日が、めずらしくなくなってきた。自然と、ぬいぐるみへの言葉の比重がデカくなっていく。ぬいぐるみは言葉を理解しているし、ちゃんと言葉を返してくれる。ぬいぐるみの言葉は人間の言葉とは違って、見えないし聴こえない。声、とか文字、とか仕草、とか、そういうものではない。でもたしかにぬいぐるみはぬいぐるみとして言葉を発していて、わたしに日々言葉を投げてくれる。わたしはそれを受け取る。受け取って、わたしも言葉を投げ返す。ここ数年、わたしの命を絶えず救ってくれたのは貪欲で、だからわたしは、お金が貯まったら、貪欲をぬいぐるみの病院に送って、あちこちを治してもらう。わたしにはそれくらいしかできない。貪欲はわたしを人生ならぬぬいぐるみ生を賭けて愛してくれているので、わたしもわたしなりの方法で貪欲を愛する。
とか打ってるあいだに午前4時半です。お風呂入ってないけど限界だ。着替えて眠って、お風呂は明日だ。
2月2日(火)
チャットモンチーにはほんとうに救われてきたな。もちろんチャットモンチーだけじゃない、たくさんのもろもろに救われてきたからいま死んでいないのだけど。それにしても、救われた、ありがとう、と久々にチャットモンチーを聴いて改めて思う。男子高校生だったわたしの、どうしようもない気持ちをたくさん掬い取ってくれた。映画『アボカドの固さ』の監督である城さんが夢に出てきた。わたしは新作映画の制作助手みたいな立場で、城さんに「本物の笹を大量に準備して欲しい。経費かけずに」と言われて、「それは〜、いつまでですか?」「明日」「明日……。明日、はい、明日」という会話をしていて、内心めちゃくちゃ焦っていて、でもひとり、竹林所有者が知り合いにいたな、あの人なら……でも無料で手配してもらうのはできないかもな……いやいやでもやらなきゃ、交渉しなきゃ、と緊張しているあたりで目が覚めた。目が覚めてからもしばらく「笹……笹ってほんとうに準備しなくていいんだっけ……夢だっけ……」となっていた。洗濯機カバーが届いた。サッサで洗濯機を隅々拭いてからカバーをかけて、リビングとキッチンをクイックルワイパーで掃除して、トイレでロラン・バルト『物語の構造分析』をすこし読んで、コーヒーを淹れて、飲んで、煙草を巻いて、吸って、火曜だからInstagramの『ショート・スパン・コール』を更新。今日は「#017 醤油」。これは井戸川射子『する、されるユートピア』を何度も読んでいた時期に書いたもので、『する、されるユートピア』の文体にめちゃくちゃ影響を受けているのが読んでいて「ああ、そうだ」と思い出すくらい顕著で、でもなのかだからなのか、わたしはけっこう好きな1篇。そういえば2月だ、と思って、きよぴーのカレンダーの2月分を壁に貼って、『イラストレーション』2020年3月号の付録だった福田利之イラストの卓上カレンダーを2月に差し替えて、ついでにパソコンデスク周りをすこし整理した。FM���ジオをつけっぱなしにしたままにしていたらラジオのゲストがシンバル職人の人で、未知の話が繰り広げられていて面白かった。シンバルを作るにはシンバルの音を何度も聴かなければいけないが、シンバルの音を何度も聴くと耳がやられる。そのジレンマについて語っていて、なるほどな〜〜と思いながらお腹をさすっていた(お腹がうっすら痛い)。マバヌアがナビゲーターを務めていて、ティンパニのすこし変わった奏法(マラカスで叩いたり)についてのハガキを読んでいたりして、流し聴きするつもりでつけたラジオだったのにずいぶん聞き入っていた。ツイッターを見ると脱マスク社会になるまで最低でも2〜3年はかかるみたいな記事があって、2〜3年か、と思��。中学生、高校生。小学生や幼稚園生や大学生も、だけど。20代以下の人たちは、いま、どういう気持ちで日々を送っているのだろう。うまく想像できない。というか、自分の幼少期〜10代、マスク社会ではなかった自分の過去を、いまの幼年〜10代の人たちに重ね合わせて想像することしかできない。しんどいだろうな、とか、つらいだろうな、とか、窮屈だろうな、とか思うことはカンタンだけれど、自分の幼少期〜10代といまの幼年〜10代を比べて「かわいそう」とか「しんどそう」とか思ったり言ったりするのはそれはそれで暴力だし決めつけだとも思う。いまの幼年〜10代の人たちの、それぞれの楽しさ、愉快さ、面白さ、切実さ、安心、揺らぎ、決心、葛藤、努力、知恵、衝動、を無視したくない。それらはたしかにあるはずで、どんな世界になっても、それらはなくならないはず。きっと。
ふとしたきっかけで、ここ最近、短歌を作るときに大切にしていることや考えていることをある人に話すことになって、そのときわたしは「わからせない。共感させない。理解させない」こと(だからといってデタラメに言葉を並べて作るのではなく、あくまでわたしにはわかるし、表したいものはある、でも他人にわからせようとはしていない、という態度)を意識的にやっている、と答えた。それは去年の春前あたりか、もしくはもうすこし前、『起こさないでください』が出てからすこし経ったあたりに思い始めたことで。トランスジェンダー、といういち側面を持ったわたしが作る短歌には、意識的にせよ無意識的にせよ、必ずトランスジェンダーとしての意識や作為や視点や感情やそれらがないまぜになった機微が含まれているはずで。はずなのだけど、果たしてその、トランスジェンダーとしてのいち側面を加味した機微を、短歌界隈、特に「歌壇」とか言われている界隈、そこにいる評論家、歌人、などなどがどれだけ汲み取ってくれるのか。そういった機微を丁寧に(真摯に。もしくは、ジェンダー論やトランスジェンダーの歴史的歩み等の確固とした知識を持った上での冷静さで)わたしの短歌を読む人がどれだけいるのか。わたしは、そんな人は短歌界隈にも「歌壇」にも、現時点では存在しないと思っている。トランスジェンダーについて仔細に語れる人、教養を持っている人、背景を読み取れる人、がいない限り、わたしのただごと歌はただのただごと歌��なり、あるある短歌はただのあるある短歌になる。『起こさないでください』では、わりと意識的に、わたしがトランスジェンダーだということを、「トランスジェンダー」「性同一性障害」という言葉をほぼ使わずに、「わかりやすく」「それとなく」示す、ということをしたのだけど、そういう努力は不毛だな、と思うようになった。どこだったか、レビューサイトで「性同一性障害当事者の方の歌集」みたいな紹介のされ方をしていて、なんだかすごく徒労感を覚えたのが大きなきっかけのような気がする。ショックだった。あんなに言葉を選んでも、そういう切り取られ方になるのか、と思った。だからもう、わかりやすくするのはやめて、どんどん、積極的に内に籠ろう、と思ったのだった。わかりやすくする必要はない。理解されなくていい。すくなくとも、短歌においては。理路がめちゃくちゃだしまとまっていないが、そういうわけでわたしは去年の春頃からずっと、自分の芯を誰にもわからせないように短歌を作っている。10年後、50年後、100年後、1000年後なのかわからないが、トランスジェンダーの短歌制作者が台頭して、そういった人たちの歌集があたりまえに編まれる/読まれるようになった遠い未来で(短歌界の現状を鑑みるに、ほんとうに、遠いだろうな、と思う)、ふと思い返される歌集であったらいいな、『起こさないでください』は、とささやかに、思っている。
もたもたと支度をして家を出て急いで新宿に行く。注射。打てた。そのまま急いで職場へ。働く。今日はちょっとイレギュラーで、休日だったのだけど2時間だけ働くことに。働き終えて、頭がぐるぐるする。ふらふらと職場を出て帰宅。ずっしりと重たい気分。トイレに籠ってフジファブリック「タイムマシン」を久々に聴いたら涙が止まらなくなってだらだら泣いた。つらい。疲れた。しんどい。ヨダちゃんから電話が来て、へへへと思って出る。クラブハウスの話をする。途中で回線の調子がおかしくなって切れて、そのまま切り上げてお風呂に入った。お風呂から出て、中橋さんとLINEでやりとりしていたらなぜかクラブハウスで実況中継モノマネをしたりしながらだらだら話すroomをすることになってくっちゃべっていたら中橋さんのゆるい繋がりも参入してきて4時ごろまでふざけあって楽しかったけど疲れた。疲れているのにさらに疲れるようなことしてどうする、と思ってかなしくなって眠る。
2月3日(水)
わかりやすく、注射の副作用、みたいな感じがする。なにかとても気持ちの悪い夢を見て目覚める。涙が出てくる。しんどい。起き上がれない。やっといたほうが、進めといたほうがいいのだろうけど今日はほんとうに動けない、と思ってnotionでこまかな仕事を割り振ってお願いして、ずっと横になっていた。たまに起きてトイレに行ったりごはんを食べたり。大前粟生『岩とからあげをまちがえる』、ケン・ニイムラ『ヘンシン』を布団に潜って、貪欲と太子を抱きしめながら読んでいた。森とかいう人のオリンピックやるやる駄々のニュースにもうなんの感情も湧かない。しんどさのピーク時あたりに短歌が1首できて、その短歌を軸にして「卒塔婆条項」という短歌連作が出来上がった。縦書き画像にして、ツイッターへ投下。短歌制作から縦書き画像作成、ツイートまでをすべて布団の中で行った。柴崎友香『春の庭』を読み始めた。すこし眠った。起きて、夜にスパゲティを食べた。涙が出る。しんどい。頭がぐちゃぐちゃする。眠い。だるい。くるしい。もう3日くらいお風呂に入っていないから、入らなくちゃ、と思う。『ショート・スパン・コール』94篇目はひとまず置いといて、先に95篇目をすこし書く。暗い未来の話。しんどいからすこしずつ書こうと思う。頭が思い。楽しいこと、面白いこと、愉快なこと、うれしいこと、考えられない。考えたい。『春の庭』をもうすこし読む。読んだら、お風呂に入って、たくさん泣いて眠る。
短歌連作「卒塔婆条項」 火事場かな いや卒塔婆だよ 馬鹿力出す機会なく今生を終え 冬の中にいま立っていて曇り空だから眩しい花一匁 語呂合わせで入れられた助詞煮え立てばそれがカンテラ 健やか欲の 白い服白くない服あてがってそれぞれの凸それぞれの凹 似顔絵を近影にする しばらくはカーテンの世話を焼く能もなく けん玉に蹂躙性を見出して手に持ったまま道路を歩く 言うなればみんな日記を書いていて総文字数が星に等しい
2月4日(木)
起きる。家を出る。働く。しんどいことが続く。電話をかける。電話に出ない。メールを送る。帰る。寝る。
2月5日(金)
起きる。返事が来ていた。ZOOMのURLをコピペしてメール。むずかしい。むずかしいな。と思いながら話す。話し終えて、��っと疲れて、すこし時間が余ったからいそいそと財布だけを持って近所のスーパーへ。なんだか普段は滅多に買わないパンでも買うかみたいな気持ちになっていて、食パン6枚切りと肉まん4個セットとナイススティックと納豆と豆腐とバターを買って帰って米を食う時間は無く肉まんをがつがつ食べていそいそと出勤。働く。働き終える。疲れた。被害者意識がつのっていて、とても良くない精神状態。ほんとうに疲れた。帰って、朝方まで眠れず。焦って寝る。
2月6日(土)
起きる。肉まんを食べる。家を出る。働く。あたまがきゅうきゅうする。いそがしい。働き終える。疲れた。ここのところ連日夜〜夜中にクラブハウスでわちゃわちゃとしゃべっている。しゃべりすぎて喉がおかしくなりそう。でも誰かとなにかを話さないと感情がはちきれそうになる。朝方までしゃべる。眠る。
2月7日(日)
起きる。お茶漬けと肉まんを食べる。家を出る。働く。頭の重さと共に働く。職場の環境、モノの配置や運用ルールなどが半月ほど前から毎日のようにがっちゃんがっちゃん変わっていて、慣れてきたと思ったら変わり、慣れてきたと思ったら変わり、のイタチごっこみたいになっていて、頻繁にバグみたいな動きをしてしまう。手が空を切る。その場でツイストする。視線が定まらない。でもそんなバグを何度も何度も起こしながらすこしづつ環境は整えられているような感じもしていて、いつか、いつか安定するようになるのか、ぜんぶ、とか思ったり忙しさ��翻弄されて愚直に身体を動かしたり、もはや心が身体の奴隷みたいな状態でズビズバ動いていたら閉店になっていて忙しい日だった。足と腰が明確に重い。頭も重い。でもなぜか今日は昨日一昨日よりすこしは気持ちが明るくて、ばくばくとごはんを食べた。長らく気がかりだった原稿に対する処遇のメールが来ていて、開いて、読んで、ホッとした気分と「直接的な対話はついぞなかったな」「これだけコストをかけても原稿料は出ないんだもんな」といううっすらとした徒労感を感じながら、でもよかった、最悪の結果にならなくてほんとうによかった、諦めなくてよかったし最後までブチ切れなくてよかった、と思いながらビールを飲んで煙草を吸ってだらだらしていたら午前2時半になっていて慌てて家に帰る。今日は湯船に浸かってから眠る。原稿を書く時間と余力がなくてしんどい。なんとかしろ。来週中に。
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2020年5月8日午後4時50分ごろ、中国海警局所属の巡視船4隻がわが国の領海に侵入したと、海上保安庁第11管区海上保安本部(那覇)が翌9日に発表しました。
そしてそのうち2隻が、沖縄県八重山郡、尖閣列島所在の魚釣島の西南西約6・5海里において操業中の与那国町漁協所属の漁船(9・7トン)に接近した後、移動する漁船を追尾したと説明しました。中国の巡視船は約2時間後にいったん退去したものの、翌9日午後6時ごろに再びわが国領海に侵入し、10日午後8時20分ごろまでの約26時間にわたり、居座り続けました。
このような行為は、単に領海を侵犯して、わが国の漁船に危害を加えることだけが目的ではありません。わが国の領域内で警察権を行使しようと試みる、かなり悪質な主権侵害行為で、言うまでもなく重大な国際法違反です。
日本政府は11日、外交ルートを通じて厳重に抗議を行ったと発表した上で、菅義偉(よしひで)官房長官は「新型コロナウイルス感染症の拡大防止に向け(中略)中国側の前向きな対応を強く求めていきたい」と述べるにとどまりました。
それに対して中国の報道官は、わが国の巡視船が違法な妨害を行ったと非難し「日本は尖閣諸島の問題において新たな騒ぎを起こさないよう希望する」と述べ、責任を日本側に転嫁しました。その上で「中日両国は力を集中して感染症と戦うべきだ」と発言しています。
この両者の言い分を第三国の人が聞けば、どう思うでしょうか。単に「厳重な抗議を行った」と間接的に発表するわが国に対して、中国は具体的にわが国が違法な妨害行為をしたと直接的に非難し、さらに新たな騒ぎを起こすなと盗っ人たけだけしいセリフを吐いています。しかし、世界の人々の大半は、尖閣諸島の存在やその経緯など知りません。
それらの人々が今回行われた日中両政府の発表を見れば、よくて五分五分、客観的には中国の方が正しいと思うのではないでしょうか。なぜ、わが国は記者会見において、堂々と中国を非難できないのでしょうか。これは今に始まったことではなく、中国が突然尖閣諸島の領有権を主張してから今に至るまで続いています。
わが国の政府は、尖閣諸島に関して中国が何をしてきても「わが国固有の領土」という呪文を唱えるだけで、国外だけでなく国内に対しても、自国の立場を広報することを怠ってきました。
この問題に限らず、わが国の対外発信能力が低いことは今回のウイルス対策を見ても分かるように、現政権でも変わりません。このままでは中国のプロパガンダによって、日本がかつてのように悪者にされかねません。まずは内閣府に国内外向けた広報を専門とする部署を設け、諸外国並みに発信力のある報道官がわが国の立場を伝え、官房長官は実務に専念すべきです。
ここで、日本政府のPR不足を補うために、次の年表で尖閣諸島の歴史をおさらいしておきましょう。
私も年表を作成していて嫌になったほどですから、読まれた方も不快な思いをされたかと思いますが、こちらに記されている出来事は紛れもない事実です。こうして時系列に並べてみると、中国の明確な侵略の意図が読み取れるかと思います。
今回の事件に関し、与那国町議会では県や国に警戒監視体制強化と安全操業を求める意見書を5月11日に全会一致で可決しています。さらに15日には石垣市議会も抗議決議を全会一致で可決しています。ですが、地元紙の八重山日報など少数のメディアしか、このことを報じていません。
わが国の主権が侵害され、地元の議会が怒りの声を上げているにもかかわらず、大手メディアが報じないのは大問題です。マスコミの報道以外に情報源を持たない多くの人たちにとっては、報じられないことはなかったことと同じで、事件そのものも、マスコミが報じないことも知らないままです。
中国の侵略行為に直面し、一番被害を受けている漁師の声を、国や県、マスコミ、日頃は弱者に寄り添うふりをしている人たちは誰も取り上げません。こんな理不尽なことが許されてよいのかと憤りを感じます。
私は、中国が尖閣周辺に巡視船を配備するのは大きく分けて二つの理由があると思います。一つは国際社会への実効支配アピールで、巡視船が撮影した映像を利用するなどしてプロパガンダを繰り広げること。もう一つは、わが国の反応をうかがう威力偵察のようなものです。
改めて年表を見ると、中国が尖閣諸島の領有権を主張し始めて以来、国内法の整備や実力行使を徐々にレベルアップさせているのに対し、わが国は防戦一方の感があります。なお、中国で最初に国有化を主張した周恩来元首相は、尖閣諸島の領有権を主張し始めた理由として「国連の調査により、周辺海域に油田があることを知ったから」と述べています。
具体的な行動を起こし、報道を通じて自分たちの意思を表明する中国は、日本国内の世論を注視しています。そして、世論が弱いと見るや強い手段に出て、強いと見るや対応を緩和することで、じわじわと侵略のペースを進めてきています。
2012年にわが国が尖閣諸島の三つの島を国有化すると、中国は大騒ぎして哨戒艦による領海侵犯を常態化させました。ですが、本当は彼らこそ、その20年も前の1992年に国内法で尖閣諸島の領有を明記、つまり国有化を表明しているのです。
92年当時の日本政府はこのような重大な主権侵害を問題にしなかったばかりか、マスコミも大きく報じなかったため、多くの国民がこれを知らないまま約30年が経過してしまいました。
そして日本が尖閣諸島を国有化した12年当時、92年の国有化表明について知っている人間が少なくなっていたせいもあってか、一部の人を除いて、誰もこのことを指摘しませんでした。さらに当時の野田佳彦政権は反論するどころか、国有化直前に北京に特使を派遣してお伺いを立てるありさまでした。
日本の国有化発表後、わが国のマスコミは連日のように、中国での官製反日デモの映像を背景に北京の代弁者のようなコメンテーターたちを使いました。そして「当時の石原慎太郎東京都知事が買い取り宣言したのが原因だ」と事実に反したコメントをさせ、まるで日本が悪いことをしたかのように報じ続けたのです。こうして日本の反中世論を封じた結果、日本国民による中国バッシングが起こらず、今日の事態を招いています。
これと同様のことが、現在のウイルス禍においても行われています。わが国のマスコミの大半は本来の原因者である中国を非難せず、自国の政府を一方的に叩き、マスコミの情報だけを見聞きしていると、いつの間にか中国ではなく日本が悪者になってしまったような印象を受けます。このままでは、日本国内において中国に対する非難の声を上げることは難しくなるでしょう。
いまさら言っても仕方のないことですが、92年当時の日中の国力の差に鑑みれば、彼らが国有化したことを理由に本格的な灯台の建設を行い、ヘリポートを復活させて公務員を常駐させるなどしていれば、今日のような事態になることはありませんでした。日本政府は公式発言として否定していますが、実際は鄧小平氏の棚上げ論にだまされ、彼らが国力をつけるまでの時間稼ぎをさせられただけでなく、政府開発援助(ODA)などにより官民挙げて技術や資金援助も行ったのです。
結果、今や空母を保有するほどの海軍を育て上げてしまった揚げ句、その見返りとして自国の領土領海を脅かされているのです。棚上げ論と言えば聞こえはよいですが、要は結論の先延ばし、嫌なことから逃げるだけのことです。嫌なことは借金と同じで、先送りにするにつれて利息が膨らみ続けるように、問題はより大きく、解決は一層困難になるのです。
中国が場当たり的ではなく、計画性を持ちながら一貫してわが国の領土を侵略しようとしていることは、共同通信の記事(2019年12月30日付)からも読み取れます。記事によると、東シナ海を管轄する海監東海総隊の副総隊長が、中国公船が初めてわが国の領海を侵犯した08年12月8日の出来事を「日本の実効支配打破を目的に、06年から準備していた」と証言しています。
この証言の意味は、1978年4月に中国の武装漁船百数十隻が尖閣諸島海域に領海侵犯したときから今日に至るまで、中国指導部による計画された侵略行為が行われ続けているということです。
間抜けなのは、日本の政官財マスコミがその間、せっせと彼らに技術や資金の支援を行うだけでなく、日中友好とばかりにほほ笑んでくる相手を疑うこともせずにこぞって友好的態度をとり続けてきたことです。一方、彼らは嘘で塗り固めた反日教育を徹底的に行ってきたというおまけ付きで、こんな間抜けな話はめったにあるものではなく、日本政府、特に外務省にお勤めであった方々には猛省していただきたいものです。
かように中国は一貫してわが国の領土を狙っているというのに、いまだに中国を擁護する人々が政官財やマスコミに少なくないのは底知れぬ闇を見るようです。
「中国が意図的に侵略している」というのは周知の事実です。しかし、共同通信の記事を通じ、中国側が当時の高官にあえてインタビューという形で発表させた理由について考えてみると、一つの仮説が浮かびます。あくまで私の臆測ですが、このインタビューは中国指導部が尖閣侵略のレベルをワンステップ上げるための観測気球ではないかということです。
こう言うと、インタビュー記事の4カ月後には、習近平国家主席の国賓訪日が予定されていたので、「中国側がそんなことをするはずがない」という声も聞こえてきそうです。しかし、それに対する反論として、2010年にわが国で開催されたアジア太平洋経済協力会議(APEC)の直前に起こった出来事を挙げたいと思います。
同年9月7日、尖閣諸島沖のわが国領海内で中国漁船が海上保安庁の巡視船に故意に体当たりする事件が発生し、海上保安庁は漁船の船長を逮捕しました。
一方、中国は国内にいる日本人を拘束し、レアアース禁輸などの手段でわが国に圧力をかけた結果、日本政府は同船長を処分保留で釈放しました。実質的には無罪放免です。
法と証拠に基づけば、容疑者を釈放する理由など一つも無いのに、なぜそれが行われたのでしょうか。後に政府高官が自民党の丸山和也参院議員(当時)に語ったところによると「起訴すればAPECが吹っ飛ぶ」、つまり当時の胡錦濤国家主席が来なくなるというものでした。この成功体験により、彼らは国家主席の訪問が日本に対して強力な外交カードとなることを学んだのではないでしょうか。
事実、今回の新型コロナの感染拡大の際においても、習主席の国賓訪日中止が発表されるまで中国全土からの入国制限を行わないなど、日本政府は公式に認めてはいませんが、中国に対する過剰な配慮が感じられました。それは国賓訪日を成功させたいという思惑以外には考えられません。
もし今回の新型コロナ騒動がなければ、共同通信の記事に無反応な日本の世論を見て、中国は今回の領海侵犯よりも一層大きな仕掛けをしてきたかもしれません。
仮にそうした状況が発生した際、中国は日本の対応次第で「春節中、訪日旅行を禁止する」「国家主席は日本に行かない」などと言うかもしれません。そのとき、わが国が毅然(きぜん)とした対応が取れたのかというと怪しいものです。
ただ、中国が口だけではなく実際の行動に移した今、彼らが尖閣侵略のレベルを上げたことに疑いの余地はありません。
問題なのは、自覚のあるなしを問わず、彼らのプロパガンダにわが国のマスコミが加担していることです。彼らは中国のプロパガンダを報じる一方で、一部メディアを除き中国の度重なる領海侵犯を報じません。
国民が関心を持たないから報じないのか、マスコミが報じないから国民が関心を持たないのか、因果の順序は分かりません。ですが今や日本国民は、12年12月に杜文竜大佐が言ったように「中国の領海侵犯に慣れてしまった」感があります。
中国はそれを感じ取り、米中経済戦争でにっちもさっちもいかなくなった状況を打破しようと日本に助けを乞う前段として、今回の領海侵犯事件を仕掛けてきたのかもしれません。
いずれにせよ、われわれ日本人は、千年恨む隣国かの隣国と違い忘れやすい民族です。北朝鮮による日本人拉致問題にしても、02年の小泉純一郎首相の訪朝後はあれほど盛り上がったのにもかかわらず、現在はどうでしょうか。今やマスコミで取り上げられるのは、家族が亡くなられたときだけです。
尖閣の問題にしても、東京都が買い取り資金を募ったときにかなりの金額が集まったにもかかわらず、今はその募金の使い道を論ずることすらしません。今回の事件も大して騒がずにスルーしてしまえば、彼らはますます図に乗ることでしょう。
それでも、ほとんどのマスコミは沈黙し続け、国会で取り上げられることもありません。あまり知られていませんが、今年3月30日には鹿児島県屋久島の西約650キロにある東シナ海の公海上で、海上自衛隊の護衛艦と中国漁船が衝突する事件が起きています。
本件もこの事件のように、多くの国民が知らないまま、うやむやな形(自衛隊に対しては形式通りの捜査は行われているでしょうが、中国漁船に対しては恐らく何もしていないと思われます)で終わりかねません。せめて政府は海上保安庁が撮影した動画を公表するなり、あの海域で何が起こっているのかを国民に知らせるべきです。
今回の件で問題なのは「中国の哨戒艦が漁船を追尾したということ」、そして「わが国の領海に中国の巡視船が26時間も居座ったということ」です。漁船の追尾に関しては詳細が分かりませんので省きますが、昔ならいざ知らず、21世紀にもなって他国の領海で26時間も武装巡視船が居座って領有権を主張するなど、私は寡聞にして知りません。
仮にあったとすれば、それは既に���力衝突のレベルです。では、何ゆえに今回そのような事態が起こったのかというと、中国側から見て「わが国が何もしないから」です。おそらく現場の海保の巡視船は、無線や拡声器、電光掲示板などで領海からの退去を要請したと思います。しかし、ただ「待て」と言われて、素直に待つ泥棒がいないのと同じで、彼らは何の痛痒(つうよう)も感じなかったことでしょう。
他国であれば警告射撃してもおかしくないのですが、わが国は憲法により武力による威嚇すら禁じられています。ですから、厳格に法令を順守すれば、相手が国家機関である今回の場合、それも適いません。外交ルートによる抗議も同様に、何らかの制裁を伴わなければ単に抗議したという記録を残すだけで、何の効力も生じません。
何しろ相手は国際常設仲裁裁判所の判決を「ただの紙切れだ」と言って無視する国です。今回は滞在したのが26時間だったからよいようなものの、もし365日、彼らが領海に居座ればどうなるでしょうか。
その場合、尖閣の領有権をあきらめるか、物理的に排除するかの2択しかありません。一部の人は「話し合えば分かる」などと言いますが、相手は何十年もの先を見据えて計画的に侵略しに来ています。その相手が乗ってくる話となると、わが国が大幅に譲歩するような場合だけです。そもそも元々存在しない「領土問題」をわが国が話し合う理由がありません。
さらに問題は、多くの国民がこの事実を知らない、もしくは薄々感じていても認めたくないので見て見ぬふりをしていることです。マスコミも、一部の専門家以外は警鐘を鳴らす人はおりません。国権の最高機関に至ってはここ数年茶番劇が続き、いたずらに時間を浪費するだけでこの問題に対して議論すらしません。
民主主義国家であるわが国においては、国民世論が盛り上がることが重要です。中国もそれを恐れているからこそ、マスコミに圧力をかけて自分たちに不利な報道をさせないようにしているだけでなく、パンダなどを使うさまざまな方法により、日本国民が中国に好感を持つような工作活動も行っています。そのため、今回のウイルス騒動に関しても、公式声明で中国を非難する政治家はほとんど見受けられず、マスコミの大半も中国責任論を報じません。
それどころかウイルス対策において、欧米と比較して桁違いに被害の少ない結果を出しているわが国の政府を叩いてばかりいます。ですから、他国とは違って、中国に対する訴訟が起こることもありません。さらに会員制交流サイト(SNS)上で中国を非難すれば、差別という話にすり替えられて逆に糾弾されるほどです(一時はユーチューブでも、中国への非難コメントが削除されていると問題になりましたが、後にこれはシステムの不具合とされました)。
このまま私たち日本国民が声を上げなければ、彼らは組み易しと思い、より一層侵略の度合いを上げてくるでしょう。それだけでなく、欧米各国がウイルス問題で対中非難を強める今、自由主義社会の結束を切り崩すために、中国がアメとムチを使ってわが国を取り込みにくることにも警戒が必要です。この期に及んで国家主席の国賓訪日を蒸し返すなど、安易に中国に加担することは現に慎まなければなりません。
1989年の天安門事件後、わが国は世界中から非難を受けていた中国の国際社会復帰を、他国に先駆けて後押ししました。その大失態を再び繰り返してはなりません。
ただ中国に対して、わが国が無為無策であるかというと、そういうわけではありませんので、公平に、ここ最近の日本の動きも紹介しておきましょう。
海上保安庁および警察の動き 16年:石垣島海上保安部に巡視船を増強し、大型巡視船12隻による「尖閣領海警備専従体制」を確立 :宮古島海上保安署を保安部に昇格 19年:宮古海上保安部に小型巡視船9隻からなる「尖閣漁船対応体制」を確立。那覇航空基地に新型ジェット機を3機配備して空からの監視体制を整備 20年:尖閣諸島をはじめとする離島警備にあたるため、沖縄県警に151人の隊員を擁する「国境離島警備隊」を発足
自衛隊における動き
16年:沖縄県与那国島に陸上自衛隊の部隊を新設
19年:海上自衛隊が今後10年規模で12隻の哨戒艦を建造し、哨戒艦部隊を新設していくことを表明
20年:宮古島駐屯地に、地対空および地対艦ミサイル部隊を配備
ただこれらは、いずれも「盾」を増強しているだけで、中国に脅威を与えるまでには至りません。ゆえに彼らは、日本がいくら部隊を増強しようが自分たちのエリアまで攻めてこないことが分かっています。ですから、守りのことは一切考えず、日本が増やした以上に部隊を増強してくると思われます。
実際中国は、今年1月から1万トン級巡視船の建造を始めています。つまり、わが国がこのような対応策をとっている限り、決して中国は侵略の野望を捨て去ることはなく、部隊増強のイタチごっこが続きます。
安倍政権は、現行法上可能な範囲内で懸命にやっているとはいえ、憲法に一言も書かれていない「専守防衛」という言葉に縛られている以上、この現状を打破することは難しいでしょう。
日本には「『矛』がないのか」と問われれば、「ある」と自信をもって答えたいところです。しかし、情けないことに米国頼みが実情です。その米国の動きを見てみると、今年の年初にライアン・マッカーシー陸軍長官が具体的な配備場所には触れなかったものの、中国の脅威に対抗し、次世代の戦争に備えるために太平洋地域で新たな特別部隊を配備する計画を明らかにしました。
4月にはフィリップ・デービッドソンインド太平洋軍司令官が、沖縄から台湾、フィリピンを結ぶ、いわゆる第1列島線への部隊増強を国防総省に訴えていること���明らかになるなど、対中戦略の見直しを実行に移し始めています。
特筆すべきは米太平洋空軍が、4月29日に行われた諸外国とのテレビ会談で台湾を加えたことです。この会議は中国周辺19カ国の空軍参謀総長や指揮官を集め、新型コロナウイルスの感染状況や対応について意見交換を行いました。
台湾軍関係者は会議後のインタビューで、これまでも米国とのテレビ会議や軍事交流を実施してきたことを明らかにしています。これらの動きを見る限り、今のところ米国は中国に一歩も引かない構えであると言ってもよいでしょう。
しかし、ここで強調しておくべきは、当たり前のことですが米国は日本を守るために戦うのではありません。あくまで「自国の国益のために戦う」のであって、自国を守るためであれば「平気で日本を見捨てる」ということです。
仮に、今秋の大統領選で現職のドナルド・トランプ大統領が敗北すれば、方針が大転換されることは容易に予測できます。ゆえに、今後も対中戦略が維持される保障はありません。今回中国が攻勢に出てきたのも、米国の航空母艦が新型コロナによる感染症で航行不能に陥っていることと無縁ではないでしょう。
そのためわが国は、いつ米国に見捨てられても大丈夫なよう、法令的にも物理的にも、迫りくる侵略に備えなければならないのです。
それには憲法改正を含め、国策の大きな転換を図らなければなりませんが、わが国は民主主義国家であるため、それは国民世論の後押しがなければ不可能です。ゆえに、一人でも多くの国民に、わが国の危機的な状況を認識してもらう必要があります。
例えば、海上保安庁の大型巡視船に各マスコミの記者を同乗させた上で、尖閣諸島や竹島、北方領土のほか国境離島の取材をさせて多くの国民に国境を意識させるという方法があります。日本国民に対してわが国の危機的状況を広く周知するだけでなく、日本の正当性と隣国の傍若無人な振る舞いを世界に向けてアピールすることにもつながり、検討してみる価値はあると思います。
今の日本には、国民一人ひとりに領土問題や国防について考えるきっかけを与えていく地道な作業が必要です。しかし、それを日本を敵視する国が手をこまねいて待ってくれるはずもありません。地道な作業は続けていくとして、今すぐにでも実現可能なことも考え、実行するべきです。
中でも一番効果的なのが、かつて自民党が選挙公約で掲げたにもかかわらず、いまだ実現に至っていない次の政策です。
・尖閣諸島への公務員常駐 ・漁業従事者向けの携帯電話基地局の設置 ・付近航行船舶のための、本格的な灯台および気象観測所の設置
これらについて、日本国内で正面切って反対することは難しいでしょう。それに、憲法や法令を改正する必要もありません。さらには外交手段として、台湾に領有権の主張を取り下げてもらうことも検討すべきでしょう。実現はかなり難しいと思いますが、李登輝元総統がおっしゃっていたことを信じれば、漁業面で大幅に譲歩すれば可能性はゼロではありません。
いずれにしても、中国が今回、侵略のレベルを一段上げてきた以上、わが国も悠長なことを言っておくわけにはいきません。それなのに、多くの国民はそのことを理解しておらず、マスコミの扇動に乗って騒ぐ一部の人たちに引きずられ、本来の国難から目をそらすように些末なことで大騒ぎしています。ただ、私たち国民の一人ひとりが声を上げることも大事ですが、最終的に対応するのは政府です。ゆえに、日本政府は中国関係で何かあったとき��ための体制を整えておくべきです。
もしそれが難しいのであれば、政府は国民をより信頼し、正直に何もできない現状を伝えた上で、具体的な政策を説明して理解を求めるべきです。「国を守るためには、憲法をはじめとする法令を変えなければならない」と政府が持っている資料を使って説明すれば、普通の感覚を持った日本人であれば反対しません。今こそわが国は、政府国民が一体となってウイルス、そして中国の侵略にも立ち向かって行かねばならないのです。
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NoxRika

桝莉花
朝、目を覚ますと、「もう朝か」とがっかりする。希望に満ちた新しい朝起なんてほとんどなく、その日の嫌な予定をいくつか乗り切る作戦を練ってから布団を出る。
マルクスの「自省録」を友人に借りて読んだ時、初めは偉そうな言いぐさに反感を持ったが、日々の中で些細な共感をするたびに、ちょっとかっこいいんじゃないかなどと思うようになった。嫌な予定を数えるだけだった悪い癖を治すため、そこに書いてあったような方法を自分なりに実践している。半ば寝ぼけているから、朝ごはんを食べている時には、どんな作戦だったかもう思い出せない。
ただ、担任の堀田先生に好意を寄せるようになってからは、今日も先生に会いに行こう、が作戦の大半を占めている気がする。
リビングへ出ると、食卓には朝食が並んでおり、お母さんが出勤姿で椅子に半分くらい腰掛けてテレビを見ていた。
「あ、莉花。見てニュース」
言われた通りにテレビに目を凝らすと、映っていたのはうちの近所だった。
「えー、引き続き、昨日午後五時頃、○○県立第一高等学校で起きました、無差別殺傷事件の速報をお伝えしております」
全国区のよく見知ったアナウンサーの真剣な顔の下に、速報の文字と四名が現在も重体、教師一名を含む三名が死亡とテロップが出た。
「えっ、これって、あの一高?生徒死んじゃったの」
お母さんは眉根を寄せ、大げさに口をへの字にして頷いた。
「中学の時のお友達とか、一高に行った子もいるんじゃないの?」
しばらくテレビの画面を見詰めながら考えを巡らせた。お母さんは「大変大変」とぼやきながら立ち上がり、
「夕飯は冷蔵庫のカレーあっためて食べてね」
と家を出て行った。
中学の時に一緒にいた友だちはいるけれど、知りうる限り、一高に進学した子はいなかった。そうでなくても、今はもうほぼ誰とも連絡は取り合っていないから、連絡したところでどうせ野次馬だと思われる。
地元の中学校に入学して、立派な自尊心となけなしの学力を持って卒業した。友だちは、いつも一緒にいる子が二人くらい居たけれど、それぞれまた高校で「いつも一緒にいる子」を獲得し、筆マメなタイプじゃなかったために、誕生日以外はほぼ連絡しなくなった。誕生日だって、律儀に覚えているわけじゃなくて、相手がSNSに登録してある日付が私の元へ通知としてやってくるから、おめでとう、また機会があれば遊びに行こうよと言ってあげる。
寂しくはない。幼いことに私は、自分自身のことが何よりも理解し難くて、外界から明確な説明を求められないことに、救われていた。友だちだとかは二の次で、ましてやテレビの向こう側で騒がれる実感のない事件になんて構ってられない。
高校で習うことも、私にはその本質が理解できない。私の表面的なものに、名前と回答を求め、点数を与えて去っていく。後にこの毎日が青春と名乗り出るかも、私には分からない。気の早い麦茶の水筒と、台所に置かれた私の分の弁当。白紙の解答用紙に刻まれた、我が名四文字の美しきかな。
学校に着いたのは七時過ぎだった。大学進学率県内トップを常に目標に掲げている我が高校は、体育会系の部活動には熱心じゃない。緩く活動している部活動なら、そろそろ朝練を始めようという時間だ。駐輪場に自転車を停めると、体育館前を通って下駄箱へ向かうのだが、この時間だと、バスケ部の子たちが準備体操をしていることがあり、身を縮こまらせる。今日はカウントの声が聞こえて来ないから、やってないのかな。横目で見ると、女子バスケ部に囲まれて体育館を解錠する嬉しい後ろ姿が見えた。
担任の堀田先生だ。
そういえば、女子バスケ部の副顧問だったな。
背ばっかり高くて、少し頼りない猫背をもっと眺めたかったけれど、違う学年の、派手な練習着の女子たちに甲高い声で茶化されて、それに気だるげな返事をしている先生は、いつもより遠くに感じた。あ、笑ってる。
いつも通りに身を縮こまらせて、足早に玄関へ駆け上がった。
出欠を取るまでまだ一時間半もあり、校内は静まり返っていた。
教室のエアコンを点け、自身の机に座り、今日の英単語テストの勉強道具を机に広げた。イヤホンをして、好きなアイドルのデビュー曲をかける。
校庭には夏季大会を前にした野球部員たちが集まり、朝練にざわつきだす。イヤホンから私にだけ向けられたポップなラブソングを濁すランニングのかけ声を窓の向こう側に、エアコンの稼働���だけが支配する教室。
「おはよー」
コンビニの袋を提げて入って来た風呂蔵まりあは、机の間を縫い縫い私に近寄って来た。
イヤホンを外しておはよう、と返すと、彼女はそのまま私の前の席に座った。片手でくるくるとした前髪をおでこから剥がし、もう片手に握ったファイルで自分を仰ぎながら、馴れ馴れしく私の手元を覗き込んだ。
「早くない?」
「小テストの勉強今からやろうと思って」
「え、やるだけ偉くない?私もう諦めてるよ」
目の前で手を叩いて下品に笑う。
「いや、普通にやっといた方がいいと思うけど」
叩きつけるような返事をした。
手応えのないコミュニケーション。読んでいた分厚い英単語帳を勢いよく窓から放り投げ、そのまま誤魔化すように浮遊する妄想と、バットとボールが描く金属音の放物線。オーライ、オーライの声。空虚な教室の輪郭をなぞり、小さくなって、そのまま消えた。
「いやー、はは」
向こうが答えたのは、聞こえないフリをした。
まりあとは、限りなく失敗に近い、不自然な交友を持ってしまった。中学を卒業し「いつも一緒にいる子」と離れ、高校に一年通っても馴染めず焦った私は、次なる友だちを求め私よりも馴染めずにいたまりあに声をかけた。短期間で無理やり友だちを作った私は、学校へ来ることが苦手な彼女に優しく接することを、施しであり、自分の価値としてしまっていた。その見返りは、彼女のことを無下に扱っても「いつも一緒にいる」ことだなんて勝手に思い込み、機嫌が悪い時には、正義を装った残酷な振る舞いをして、彼女を打ちのめすことで自分を肯定していた。
出会ってからすぐに距離が縮まって、充分な関係性を築き上げる前からその強度を試すための釘を打っているようなものだ。しかし、人を穿って見ることのできない彼女は私を買い被り、友人という関係を保とうと自らを騙し騙し接してくる。それもまた癪に触った。要はお互いコミュニケーションに異常があるのだ。でも、それを異常だとは言われたくない、自分の法律を受け入れて友だちぶっていてほしい。それは全くの押し付けで、そのことに薄々気付きながらも、目を背けていた。
ちょっとキツい物言いで刺されても、気づかないふりするのが、私たちだったよね。あれ、違ったかな。
しかし、もともと小心者な私は、根拠のない仕打ちを突き通す勇気はなく、すぐに襲い来る罪悪感に負け、口を開いた。
「あ、ねえ…ニュース見た?一高の」
「知ってる!やばくない?文化祭で生徒が刃物振り回したってやつだよね?めっちゃかわいそう。びっくりしてすぐに一高の友達にラインしたもん」
「何人か亡くなってるらしいじゃん」
「え、そうなの、笑うんだけど」
「笑えないでしょ」
それが、彼女の口癖なのも知っていた。勘に触る言葉選びと、軽薄な声。最早揚げ足に近かった。
「あー、ごめん。つい」
片手をこめかみに当て、もう片手の掌をみなまで言うなと私に突き出してくる。この一瞬に関しては、友情なんてかけらもない。人間として、見ていられない振る舞いだった。
「ごめん」
また無視した。小さな地獄がふっと湧いて、冷えて固まり心の地盤を作って行く。
ただ、勘違いしないで欲しい。ほとんどはうそのように友だちらしく笑いあうんだから。その時は私も心がきゅっと嬉しくなる。
黙り込んでいると、クラスメイトがばらばらと入って来て教室は一気に騒がしくなり、まりあは自分の席へ帰っていった。ああ全く、心の中にどんな感情があれば、人は冷静だろう。愛情か、友情か。怒りや不機嫌に支配された言動は、本来の自分を失っていると、本当にそうだろうか。この不器用さや葛藤はいつか、「若かったな」なんて、笑い話になるだろうか。
昼休みの教室に彼女の姿は無かった。席にはまだリュックがあって、別の女子グループが彼女の机とその隣の机をつけて使っている。私は自分の席でお弁当を広げかけ、一度動きを止め片手でスマホを取り出し「そっち行ってもいい?」とまりあにメッセージを送った。すぐに「いいよ!」が返ってくる。お弁当をまとめ直して、スマホと英単語帳を小脇に抱えて、教室を出た。
体育館へと続く昇降口の手前に保健室があり、その奥には保健体育科目の準備室がある。私は保健室の入り口の前に足を止めた。昇降口の外へ目をやると、日陰から日向へ、白く世界が分断されて、陽炎の向こう側には、永遠に続く世界があるような予感さえした。夏の湿気の中にもしっかりと運ばれて香る校庭の土埃は、上空の雲と一緒にのったりと動いて、翳っていた私の足元まで陽射しを連れてくる。目の前の保健だよりの、ちょうど色褪せた部分で止まった。毎日、昼間の日の長い時間はここで太陽が止まって、保健室でしか生きられない子たちを、永遠の向こう側から急かすのだ。
かわいそうに、そう思った。彼女も、教室に居られない時は保健体育の準備室に居る。保健室自体にはクラスメイトも来ることがあるから、顔を合わせたくないらしい。準備室のドアを叩くと、間髪入れずに彼女が飛び出てきた。
「ありがとねえ」
「いいよいいよ、もうご飯食べ終わった?」
二人で準備室の中に入ると、保健室と準備室を繋ぐドアから保健医の仁科先生が顔を出した。
「あれ、二人一緒にたべるの?」
「はい」
私はにこやかに応えた。その時に、彼女がどんな顔をしていたかわからない。ただ、息が漏れるように笑った。
先生の顔も優しげに微笑んで私を見た。ウィンクでもしそうな様子で「おしゃべりは小さい声でお願いね」と何度か頷き、ドアが閉まった。準備室の中は埃っぽくて、段ボールと予備の教材の谷に、会議机と理科室の椅子の食卓を設け、そこだけはさっぱりとしている。卓上に置かれたマグカップには、底の方にカフェオレ色の輪が出来ていた。
「これ、先生が淹れてくれたの?」
「そう、あ、飲みたい?貰ってあげよっか」
「…いいよ」
逃げ込んだ場所で彼女が自分の家のように振舞えるのは、彼女自身の長所であり短所だろう。遠慮の感覚が人と違うと言うか、変に気を遣わないというか、悪意だけで言えば、図々しかった。
ただ、その遠慮のなさは、学年のはじめのうちは人懐っこさとして周知され、彼女はそれなりに人気者だった。深くものを考えずに口に出す言葉は、彼女の印象をより独り歩きさせ、クラスメイトは彼女を竹を割ったような性格の持ち主だと勘違いした。
当然、それは長くは続くはずもなく、互いの理解と時間の流れと共に、彼女は遠慮しないのではなく、もともとの尺度が世間とずれている為に、遠慮ができないのだと気付く。根っからの明るさで人と近く接しているのではなく、距離感がただ分からず踏み込んでいるのだと察した。
私は、当時のクラスの雰囲気や彼女の立場の変遷を鮮明に覚えている。彼女のことが苦手だったから、だからよく見ていた。彼女の間違いや周囲との摩擦を教えることはしなかった。
彼女は今朝提げてきたコンビニの袋の口を縛った。明らかに中身のあるコンビニ袋を、ゴミのように足元に置く。違和感はあったけれど、ここは彼女のテリトリーだから、あからさまにデリケートな感情をわざわざ追求することはない。というか、学校にテリトリーなんてそうそう持てるものじゃないのに、心の弱いことを理由に、こんなに立派な砦を得て。下手に自分の癪に触るようなことはしたくなかった。
「あれ、食べ終わっちゃってた?」
「うん。サンドイッチだけだったからさ」
彼女の顔がにわかに青白く見えた。「食べてていいよ」とこちらに手を伸ばし、連続した動作で私の手元の英単語帳を自分の方へ引き寄せた。
「今日何ページから?」
「えーっとね、自動詞のチャプター2だから…」
「あ、じゃあ問題出してあげるね。意味答えてね」
「えー…自信ないわあ」
「はいじゃあ、あ、え、アンシェント」
「はあ?」
お弁当に入っていたミートボールを頬張りながら、彼女に不信の眼差しを注ぐ。彼女は片肘をついて私を見た。その視線はぶつかってすぐ彼女が逸らして、代わりに脚をばたばたさせた。欠けたものを象徴するような、子供っぽい動きに、心がきゅっと締め付けられた。
「え、待って、ちょっと、そんなのあった?」
「はい時間切れー。正解はねえ、『遺跡、古代の』」
「嘘ちょっと見せて。それ名詞形容詞じゃない?」
箸を置いて、彼女の手から単語帳をとると、彼女が出題してきたその単語が、今回の小テストの出題範囲ではないことを何度か確認した。
「違うし!しかもアンシェントじゃないよ、エインシェント」
「私エインシェントって言わなかった?」
「アンシェントって言った」
「あー、分かった!もう覚えた!エインシェントね!遺跡遺跡」
「お前が覚えてどうすんの!問題出して!」
「えー、何ページって言った?」
私が目の前に突き返した単語帳を手に取って、彼女が嬉しそうにページをめくる。その��動を、うっとりと見た。視界に霞む準備室の埃と、彼女への優越感は、いつも視界の隅で自分の立派さを際立つ何かに変わって、私を満足させた。
「午後出ないの?」
私には到底できないことだけど、彼女にはできる。彼女にできることは、きっと難しいことじゃない。それが私をいたく安心させた。
「うん。ごめんね、あの、帰ろうと思って」
私は優しい顔をした。続いていく物語に、ただ次回予告をするような、明日会う時の彼女の顔を思い浮かべた。
「プリント、届けに行こうか。机入れておけばいい?」
私は、確信していた。学校で、このまま続いていく今日こそ、今日の午後の授業、放課後の部活へと続いていく私こそ本当の物語で、途中で離脱する彼女が人生の注釈であると。
「うん。ありがとう。机入れといて。出来ればでいいよ、いつもごめんね」
お弁当を食べ終えて、畳みながら、彼女の青白い顔が、心なしか、いつもより痛ましかった。どうしたのかと聞くことも出来たが、今朝の意地悪が後ろめたくて、なにも聞けなかった。
予鈴が鳴って、私が立ち上がると、彼女がそわそわし始めた。
「つぎ、えいご?」
彼女の言葉が、少しずつ私を捉えて、まどろんでいく。
「うん。教室移動あるし、行くね」
「うん…あのさ、いつもさ、ありがとね」
私は、また優しい顔をした。
「え、なんで。また呼んでなー」
そのまま、準備室を出た。教室に戻ろうと一歩を踏み出した時、背中でドアが開く音がした。彼女が出てきたのだと思って足を止め振り返ると、仁科先生が保健室から顔を出して、微笑んできた。
「時間、ちょっといいかなあ?」
私が頷くと、先生は足早に近寄ってきて、私を階段の方まで連れてきた。準備室や保健室から死角になる。
「あのさあ、彼女、今日どうだった?」
「へ」
余りにも間抜けな声が出た。
「いつもと変わらなさそう?」
なんだその質問。漫画やゲームの質問みたい。
「いつもと変わったところは、特に」
「そっかあ」
少し考えた。きっと、これがゲームなら、彼女が食べずに縛ったコンビニ袋の中身について先生に話すことが正解なんだろう。
まるでスパイみたいだ。中心に彼女がいて、その周りでぐるぐる巡る情勢の、その一部になってしまう。そんなバカな。それでも、そこに一矢報いようなんて思わない。 不正解の一端を担う方が嫌だ。
「あ、でも、ご飯食べる前にしまってたかも」
「ご飯?」
「コンビニの、ご飯…」
言葉にすれば増すドラマティックに、語尾がすぼんだ。
「ご飯食べれてなかった?」
「はい」
辛くもなかったけれど、心の奥底の認めたくない部分がチカチカ光っている。
「そうかあ」
仁科先生は全ての人に平等に振る舞う。その平等がが私まで行き届いたところで、始業の鐘が鳴る。平和で知的で嫌味な響き。
「あ、ごめんね、ありがとう!次の授業の先生にはこちらからも連絡しておくから」
仁科先生はかくりと頭を下げた。「あ、ごめんね、ありがとう!」そうプログラミングされたキャラクターのように。
「いえ」
私は私のストーリーの主人公然とするため、そつのない対応でその場を去った。
こうして過ぎてゆく日々は、良くも悪くもない。教育は私に、どこかの第三者に運命を委ねていいと、優しく語りかける。
彼女の居ない教室で、思いのほか時間は静かに過ぎていった。私はずっと一人だった。
放課後はあっという間にやってきて、人懐っこく私の顔を覗き込んだ。
ふと彼女の席を振り返ると、担任の堀田先生が腰を折り曲げ窮屈そうに空いた席にお知らせのプリントを入れて回っていた。
「学園祭開催についてのお知らせ」右上に保護者各位と記されしっとりとしたお知らせは、いつもカバンの隅に眠る羽目になる。夏が過ぎれば学園祭が来る。その前に野球部が地方大会で強豪校に負ける。そこからは夏期講習、そんなルーティンだ。
堀田先生の腰を折る姿は夏の馬に似ていた。立ち上がって「あの」と近寄ると、節ばった手で体重を支えてこっちを見た。「あ」と声を上げた姿には、どこか爵位すら感じる。
「莉花、今日はありがとうね 」
「え?」
「お昼まりあのところへ行ってくれたでしょ」
心がぎゅっと何かに掴まれて、先生の上下する喉仏を見た。
絞り出したのはまた、情けない声だった。
「はい」
「まりあ、元気そうだった?」
わたしは?
昼も脳裏に描いたシナリオを、口の中で反芻する。
「普通でした、割と」
先生は次の言葉を待ちながら、空になったまりあの椅子を引き寄せて腰掛ける。少し嫌だった。目線を合わせるなら、私のことだって、しっかり見てよ。
「でもお昼ご飯、買ってきてたのに、私が行ったら隠しちゃって」
「どういうこと?」
「ご飯食べてないのにご飯食べたって言ってました。あんまりそういうことないかも」
「あ、ほんと」
私を通じて彼女を見ている。
まりあが、先生のことを「堀田ちゃん」と呼んでる姿が目に浮かんだ。私は、そんなことしない。法律の違う世界で、世界一幸せな王国を築いてやる。
「先生」
「私、まりあにプリント届けに行きます」
「ほんと?じゃあお願いしようかな、莉花今日は吹部は?」
「行きます、帰りに寄るので」
「ねえ、莉花さんさ、まりあといつから仲良しなの」
「このクラスになってからですよ」
「そうなんだ、でも二人家近いよね」
「まりあは幼稚園から中学まで大学附属に行ってたと思います。エスカレーターだけど高校までは行かなかったっぽい。私はずっと公立」
「あ、そうかそうか」
耐えられなかった。
頭を軽く下げて教室を出た。
上履きのつま先が、冷たい廊下の床だけを後ろへ後ろへと送る。
私だって、誰かに「どうだった」なんて気にされたい。私も私の居ないところで私のこと心配して欲しい。そんなことばっかりだよ。でもそうでしょ神様、祈るにはおよばないようなくだらないものが、本当は一番欲しいものだったりする。
部活に行きたくない、私も帰りたい。
吹奏楽部のトランペット、「ひみつのアッコちゃん」の出だしが、高らかに飛んできて目の前に立ちふさがる。やっぱり行かなくちゃ、野球部の一回戦が近いから、行って応援曲を練習しなきゃ。ロッカー室でリュックを降ろし楽譜を出そうと中を覗くと、ペンケースが無かった。
教室に戻ると、先生はまりあの椅子に座ったまま、ぼんやりと窓を見ていた。
私の存在しない世界がぽっかりと広がって、寂しいはずなのに、なにを考えてるのか知りたいのに、いまこのままじっとしていたい。自分がドラマの主人公でいられるような、先生以外ピントの合わない私の画面。心臓の音だけが、後から付け足した効果音のように鳴っている。
年齢に合った若さもありながら、当たり障りのない髪型。 短く刈り上げた襟足のせいで、長く見える首。そこに引っかかったUSBの赤いストラップ。薄いブルーのワイシャツ。自分でアイロンしてるのかな。椅子の背もたれと座面の隙間から覗くがっしりとしたベルトに、シャツが吸い込まれている。蛍光灯の消えた教室で、宇宙に漂うような時間。
私だって先生に心配されたい、叱られたい。莉花、スカート短い。
不意に立ち上がってこちらを振り向く先生を確認しても、無駄に抵抗しなかった。
「うわびっくりした。どうしたの」
「あ」
口の中で「忘れ物を…」とこぼしながら、目を合わせないように自分の席のペンケースを取って、教室から逃げた。
背中に刺さる先生の視線が痛い?そんなわけない。
十九時前、部活動の片付けを終えて最後のミーティングをしていると、ポケットに入れていたスマートフォンの通知音がその場に響いた。
先輩は「誰?」とこちらを見た。今日のミーティングは怒りたがらない先輩が担当で、こういう時には正直には言わない、名乗り出ない、が暗黙の了解だったから、私は冷や汗をかきながら黙っていた。
「部活中は携帯は禁止です」
野球部の地方大会の対戦日程の書かれたプリントが隣から回ってきた。配布日が昨年度のままだ。去年のデータを使い回して作ったんだろう。
そういえば、叱られたら連帯責任で、やり過ごせそうなら謝ったりしちゃだめだと知ったのも、一年生の時のちょうどこの時期だった気がする。ただ、この時期じゃ少し遅かったわけだが。みんなはとっくに気付いていて、同じホルンパートの人たちに迷惑をかけてから、人と関わることはこんなにも難しいのかと、痛いほど理解した。
昔、社交には虚偽が必要だと言った人が居たけれど、その人は羅生門ばっかりが教材に取り上げられて、私が本当に知りたい話の続きは教科書に載っていなかった。
「じゃあ、お疲れ様でした。明日も部活あります」
先輩の話は一つも頭に入らないまま、解散となった。
ぼんやりと手元のプリントを眺めながら廊下へ出た。
堀田先生は、プリントを作る時、明朝体だけで作ろうとする。大きさを変えたり、枠で囲ったり、多少の配慮以外はほとんど投げやりにも見える。テストは易しい。教科書の太字から出す。それが好きだった。
カクカクした名前も分からない書体でびっしりと日程の書き揃えられた先輩のプリントは、暮れかかった廊下で非常口誘導灯の緑に照らされ歪んだ。
駐輪場でもたもたしていると、「お疲れ」と声をかけられた。蛍光灯に照らされた顔は、隣の席の飯室��んだった。
ちょっと大人びた子で、すごく仲がいいわけではなくても、飯室さんに声をかけられて嬉しくない子はいないと思う。
「莉花ちゃん部活終わり?」
「うん、飯室さんは」
「学祭の実行委員になっちゃったんだ、あたし。だから会議だったの」
「そっかあ」
「莉花ちゃん、吹部だっけ?すごいね」
「そ、そんなことないよ。それしかやることなくて」
自転車ももまばらになった寂しい駐輪場に、蒸し暑い夕暮れが滞留する。気温や天気や時間なんて些細なことでも左右される私と違って、飯室さんはいつもしっかりしていて、明るい子だ。ほとんど誰に対しても、おおよそ思うけれど、こんな風になりたかったなと思う。私の話を一生懸命聞いて、にこにこしてくれるので、つい話を続けてしまう。
飯室さんとの距離感は、些細なことも素直にすごいと心から言えるし、自分の発言もスムーズに選べる。上質な外交のように、友達と上手に話せているその事実もまた、私を励ます。友だちとの距離感は、これくらいが一番いい。
ただ、そうはいかないのが、私の性格なのも分かっている。いい人ぶって踏み込んだり、自分の価値にしたくて関係を作ったり、なによりも、私にも無条件で踏み込んで欲しいと期待してしまう。近づけばまた、相手の悪いところばかり見えてしまうくせに。はじめにまりあに声をかけた時の顔も、無関心なふりをして残酷な振る舞いをした時の顔も、全部一緒になって煮詰まった鍋のようだ。
また集中力を欠いて、飯室さんの声へ話半分に相づちを打っていると、後ろから急に背中をポン、と叩かれた。私も飯室さんも、軽く叫び声をあげた。
「はーい、お嬢さんたち、下校下校」
振り返ると、世界史の細倉先生が長身を折り曲げて顔を見合わせてきた。私が固まっていると、飯室さんの顔が、みるみる明るくなる。
「細倉センセ!びっくりさせないで」
「こんな暗くなった駐輪場で話し込んでるんだから、どう登場しても驚くだろ。危ないからね、早く帰って」
「ねえ聞いて、あたしさ、堀田ちゃんに無理やり学祭実行委員にされたの」
「いいじゃん、どうせ飯室さん帰宅部でしょ。喜んで堀田先生のお役に立ちなさい」
「なにそれー!てかあたし、帰宅部じゃないし!新体操やってるんですけど」
二人の輝かしいやりとりを、口を半分開けて見ていた。たしかに、細倉先生は人気がある。飯室さんが言うには、若いのに紳士的で振る舞いに下品さがなくて、身長も高くて、顔も悪くなくて、授業では下手にスベらないし、大学も有名私立を出ているし、世界史の中で繰り返される暴力を強く念を押すように否定するし、付き合ったら絶対に大切にしてくれるし幸せにしてくれる、らしい。特に飯室さんは、細倉先生のこととなると早口になる。仲良しグループでも、いつも細倉先生の話をしていると言っていた。
イベントごとでは女子に囲まれているのは事実だ。私も別に嫌いじゃない。それ以上のことはよく知らないけれど、毎年学園祭に奥さんと姪っ子を連れてくると、クラスの女子は阿鼻叫喚する。その光景が個人的にはすごく好きだったりする。あ、あと、剣道で全国大会にも出ているらしい。
私はほとんど言葉を交わしたことがない。世界史の点数もそんなに良くない。
「だから、早く帰れっての。見て、桝さんが呆れてるよ」
「莉花ちゃんはそんな子じゃないから」
何を知っていると言うんだ。別にいいけど。
「もう、桝さんこいつどうにかしてよ」
いつのまにか細倉先生の腕にぶら下がっている飯室さんを見て、なんだか可愛くて思わず笑ってしまった。
「桝さん、笑い事じゃないんだって」
私の名前、覚えてるんだな。
結局、細倉先生は私たちを門まで送ってくれた。
「はい、お気をつけて」
ぷらぷらと手を振りながら下校指導のため駐輪場へ戻っていく先生を、飯室さんは緩んだ顔で見送っていた。飯室さん、彼氏いるのに。でもきっと、それとこれとは違うんだろう。私も、堀田先生のことをこんな感じで誰かに話したいな。ふとまりあの顔が浮かぶけれど、すぐに放課後の堀田先生の声が、まりあ、と呼ぶ。何を考えても嫉妬がつきまとうな。また意味もなく嫌なことを言っちゃいそう。
「ね、やばくない?細倉センセかっこ良すぎじゃない?」
興奮冷めやらぬ飯室さんは、また早口になっている。
「かっこ良かったね、今日の細倉先生。ネクタイなかったから夏バージョンの細倉先生だなと思った」
「はー、もう、なんでもかっこいいよあの人は…。みんなに言おう」
自転車に跨ったまま、仲良しグループに報告をせんとスマートフォンを操作する飯室さんを見て、私もポケットからスマートフォンを出した。そういえば、ミーティング中に鳴った通知の内容を確認してなかった。
画面には、三十分前に届いたまりあからのメッセージが表示されていた。
「莉花ちゃんの名字のマスって、枡で合ってる?」
なんだそりゃ、と思った。
「違うよ。桝だよ」
自分でも収まりの悪い名前だと思った。メッセージはすぐに読まれ、私の送信した「桝だよ」の横に既読マークが付く。
「間違えてた!早く言ってよ」
「ごめんって。今日、プリント渡しに家に行ってもいい?」
これもすぐに既読マークが付いた。少し時間を置いて、
「うん、ありがとう」
と返ってきた。
「家についたら連絡するね」
そう送信して、一生懸命友達と連絡を取り合う飯室さんと軽く挨拶を交わし、自転車をこぎ始めた。
湿気で空気が重い。一漕ぎごとにスカートの裾に不快感がまとわりついてくる。アスファルトは化け物の肌みたいに青信号の点滅を反射し、黄色に変わり、赤くなる。そこへ足をついた。風を切っても爽やかさはないが、止まると今度は溺れそうな心地すらする。頭上を見上げると月はなく、低い雲は湯船に沈んで見るお風呂の蓋のようだった。
やっぱり私も、まりあと、堀田先生の話題で盛り上がりたい。今朝のこと、ちょっと謝りたい。あと、昨日の夜のまりあが好きなアイドルグループが出た音楽番組のことも話し忘れちゃったな。まりあは、堀田先生と細倉先生ならどっちがタイプかな。彼女も変わってるから、やっぱり堀田先生かな。だとしたらこの話題は触れたくないな。でもきっと喋っちゃうだろうな。
新しく整備されたての道を行く。道沿いにはカラオケや量販店が、これでもかというほど広い駐車場と共に建ち並ぶ。
この道は、まっすぐ行けばバイパス道路に繋がるが、脇に逸れるとすぐ新興住宅地に枝分かれする。そこに、まりあの家はある。私が住んでいるのは、まりあの住むさっぱりした住宅街から離れ、大通りに戻って企業の倉庫密集地へと十分くらい漕ぐ団地だ。
一度だけまりあの家に遊びに行ったことがある。イメージと違って、部屋には物が多く、あんなに好きだと言っていたアイドルグループのグッズは全然なかったのに、洋服やらプリントやら、捨てられないものが積み重なっていた。カラーボックスがいくつかあって、中身を見なくても、思い出の品だろうと予想がついた。
まりあには優しくて綺麗なお姉さんがいる。看護師をしているらしく、その日も夜勤明けの昼近くにコンビニのお菓子を買って帰って来てくれた。お母さんのことはよく知らないけれど、まりあにはお父さんが居ない。お姉さんとすごく仲がいいんだといつも自慢げにしている。いいなと思いながら聞いていた。
コンビニの角を曲がると、見覚えのある路地に入った。同じような戸建てが整然と並び、小さな自転車や虫かごが各戸の玄関先に添えられている。風呂蔵の表札を探して何周かうろうろし、ようやくまりあの家を見つけた。以前表札を照らしていた小さなランタンは灯っておらず、スマートフォンのライトで照らして確認した。前に来たときよりも少し古びた気がするけれど、前回から二ヶ月しか経っていないのだから、そんなはずはない。
スマートフォンで、まりあにメッセージを送る。
「家着いた」
既読マークは付かない。
始めのうちは、まあ気がつかないこともあるかと、しばらくサドルに腰掛けスマートフォンをいじっていた。次第に、周囲の住人の目が気になり出して、ひとしきりそわそわした後で、思い切ってインターホンを押した。身を固くして待てども、返事がない。
いよいよ我慢ならなくて、まりあに「家に居ないの?」「ちょっと」と立て続けにメッセージを送る。依然、「家着いた」から読まれる気配がない。一文句送ってやる、と思ったところで、家のドアが勢いよく開いた。
「あ、まりあちゃんの友だち?」
サドルから飛び降り駆け寄ろうとした足が、もつれた。まりあが顔を出すと思い込んでいた暗がりからは、見覚えのない、茶髪の男性が現れた。暗がりで分かりにくいけれど、私と同い年くらいに見える。張り付いたような笑みとサンダルを引きずるようにして一歩、一歩とこちらへ出てくる。緊張と不信感で自転車のハンドルを握る手に力がこもった。
ちょっと、まりあ、どこで何してるの?
男の子は目の前まで来ると肘を郵便受けに軽く引っ掛け、「にこにこ」を貼り付けたまま目を細めて私を見た。
「あ、俺ね、まりあちゃんのお姉さんとお付き合いをさせて頂いている者です。いま風呂蔵家誰も居なくてさ。何か用事かな」
見た目のイメージとは違った、やや低い声だった。街灯にうっすらと照らされた顔は、子供っぽい目の下に少したるみがあって、確かに、第一印象よりは老けて見える、かな。わからない。大学生くらいかな。でも、まりあのお姉さんって、もうすぐ三十歳だって聞いた気がする。
恐怖を消し去れないまま目をいくら凝らしても、判断材料は一向に得られず、声の優しさを信じ��るか、とりあえずこの場を後にするか、戸惑う頭で必死に考えた。
「あの、私、まりあと約束してて…」
「えっ?」
男性の顔から笑顔がすとんと落ちた。私の背後に幽霊でも見たのか、不安に強張った表情が一瞬覗き、それを隠すように手が口元を覆った。
「今?会う約束してたの?」
「いや、あの」
彼の不安につられて、私の中の恐怖も思考を圧迫する。言葉につっかえていると、ポケットからメッセージの通知音が響いた。助かった、反射的にスマートフォンを手にとって、「すみません!」と自転車に乗りその場から逃げた。
コンビニの角を曲がり、片足を着くとどっと汗が噴き出してきた。ベタベタの手を一度太ももの布で拭ってから、スマートフォンの画面を点灯した。メッセージはまりあからではなく、
「家に帰っていますか?今から帰ります。母さんから、夕飯はどうするよう聞いていますか」
父さんだった。大きいため息が出た。安堵と苛立ちと落胆と、知っている言葉で言えばその三つが混ざったため息だった。
「今友だちの家にプリント届けに来てる。カレーが冷蔵庫にあるらしい」
乱暴に返事を入力する。
一方で、まりあとのメッセージ画面に未だ返事はない。宙に浮いた自分の言葉を見ていると、またしても不安がじわじわと胸を蝕んでいく。
もしも、さっきのあの男が、殺人鬼だったらどうしよう。まりあのお姉さんも、まりあももう殺されちゃってたら。まりあに、もう二度と会えなかったら。あいつの顔を見たし、顔を見られちゃった。口封じに私も殺されちゃうかも知れない。まりあのスマートフォンから名前を割り出されて、家を突き止められて、私が学校に行ってる間に、家族が先に殺されちゃったら。
冷静になればそんなわけがないと理解出来るのだけれど、じっとりとした空気は、いくら吸っても、吐いても、不安に餌をやるようなものだった。冷たい水を思いっきり飲みたい。
とりあえず家に帰ろう、その前に、今一一〇番しないとまずい?いや、まだなにも決まったわけじゃない。勘違いが一番恥ずかしい。でも、まりあがそれで助かるかも知れない。なにが正解だろう。間違えた方を選んだら、バッドエンドは私に回って来るのかな。なんでだ。
コンビニ店内のうるさいポップが、霞んで見える。心細さで鼻の奥がツンとする。スカートを握って俯いていると、背後から名前を呼ばれた。
「莉花ちゃん?」
聞きたかった声に、弾かれたように振り返った。
「まりあ!」
まりあは制服のまま、手にお財布だけを持って立ち尽くしていた。自分の妄想はくだらないと、頭でわかっていても、一度はまりあが死んだ世界を見てきたような心地でいた。ほとんど反射的に、柄にもなくまりあの手を握った。柔らかくて、すべすべで、ほんのり温かかった。まりあは、口角を大きく上げて、幸せそうに肩を震わせて笑った。
「莉花ちゃん、手汗すごいね」
「あのさあ、結構メッセージ送ったんですけど」
「うそ、ごめん!気づかなかった」
いつもみたいに、なにか一言二言刺してやろうと思ったけれど、何も出てこなかった。この声も、全然悪びれないこの態度も、機嫌の悪い時に見れば、きっと下品で軽薄だなんて私は思うんだろうな。でも今は、あまりにも純粋に幸せそうなまりあの姿に釘付けになるしかなかった。もしかして、私の感情を通さずに見るまりあは、いつもこんなに幸せそうに笑っているのかな。
「本当だ、家に行ってくれたんだね、ごめんね」
「そう言ったじゃん!て言うか、何、あの男の人」
「あ、柏原くんに会った?」
「柏原くんって言うの」
「そう、声が低い茶髪の人。もうずっと付き合ってるお姉ちゃんの彼氏」
「そ、そうなんだ」
やっぱり、言ってることは本当だったんだ。盛り上がっていた様々な妄想が、全部恥ずかしさに変換され込み上げてくる。それを誤魔化すように次の話題を切り出す。
「どこか行ってたの?」
「一回、家を出たの。ちょっとコンビニ行こうと思って。今お財布取りに戻ったんだけど、入れ違っちゃったかも、ごめん」
「普通、私が家行くって言ってるのにコンビニ行く?」
「行きません」
「ちょっとくらい待ってくれる?」
まりあは、
「はあい。先生かよ」
ちょっと口を尖らせて、すぐに手を叩いて笑った。
いくら語気を強めても、仲良しで包みこんで、不躾な返事が返ってくる。それがなによりも嬉しかった。怖がることなく、私と喋ってくれる。欲しかったんだ、見返りとか、自分の価値とかルールとか全部関係なく笑ってくれる友だち。あんなに癪に触ったその笑い方も、今はかわいいと思う。
「先生といえばさ、柏原くんって、堀田ちゃんの同級生なんだよ。すごい仲良しらしい」
「え!」
柏原くんって、さっきの男の人のことだ。堀田先生が三十前後だとして、そんな年齢だったのか。というか、堀田先生の友だちってああいう感じなんだ。ちょっと意外だ。
「大学時代の麻雀仲間なんだって。堀田ちゃん、昔タバコ吸ってたらしいよ、笑えるよね」
「なにその話、めちゃめちゃ聴きたい」
飯室さんが仲良しグループと喋っている時の雰囲気を、自然と自分に重ねながら続きを促すと、まりあは嬉しそうに髪をいじりだした。
「今もよくご飯に行くみたいだよ、写メとかないのって聞いたけど、まだ先生たちが大学生の頃はガラケーだったからそういうのはもう無いって」
「ガラケー!」
私も手を叩いて笑った。
「莉花ちゃん、堀田先生好きだよね。いるよね、堀田派」
「少数派かなあ」
「どうなんだろう。堀田ちゃんが刺さる気持ちは分からなくはないけど、多分、細倉先生派の子のほうが真っ当に育つと思うね」
「わかる。細倉先生好きの子は、ちゃんと大学行って、茶髪で髪巻いてオフショル着てカラコンを入れることが出来る。化粧も出来る。なんならもうしてる」
コンビニのパッキリとした照明に照らされ輝くまりあ。手を口の前にやって、肩を揺らしている。自分の話で笑ってもらえることがこんなに嬉しいのか、と少し感動すらしてしまう。
「今日もムロはるちゃんの細倉愛がすごかったよ」
「ムロはる…?」
まりあが眉をしかめた。
「飯室はるなちゃん、ムロはるちゃん」
本人の前では呼べないけれど、みんながそう呼んでいる呼び方を馴れ馴れしく口にしてみた。ピンときたらしいまりあの「あー、飯室ちゃんとも仲良しなんだ」というぎこちない呟き���BGMに、優越感に浸った。私には友だちが沢山いるけれど、まりあには私しか居ないもんね。
コンビニの駐車場へ窮屈そうに入っていく商品配送のトラックですら、今なら笑える。
「最終的には細倉先生の腕にぶら下がってた」
「なんでそうなるの」
「愛しさあまって、ということなんじゃないかな」
「莉花ちゃんはさ、堀田ちゃんの腕にぶら下がっていいってなったら、する?」
「えー、まずならないよ、そんなことには」
「もしも!もしもだよ」
「想像つかないって」
「んー、じゃあ、腕に抱きつくのは」
「え、ええ」
遠くでコンビニのドアが開閉するたび、店内の放送が漏れてくる。視線を落として想像してみると、自分の心音もよく聞こえた。からかうように拍動するのが、耳の奥にくすぐったい。
細倉先生はともかく、堀田先生はそんなにしっかりしてないから、私なんかが体重を掛けようものなら折れてしまうのではないか。「ちょっと、莉花さん」先生は心にも距離を取りたい時、呼び捨てをやめて「さん」を付けて呼ぶ。先生の性格を見ると、元から下の名前を呼び捨てにすること自体が性に合っていないのだろうとは思うけれど。
そもそも、「先生のことが好き」の好きはそういう好きじゃなくて、憧れだから。でも、そう言うとちょっと物足りない。
「莉花ちゃん」
半分笑いながら呼びかけられた。まりあの顔をみると、なんとも言えない微妙な表情をしていた。引かれたのかな。
「顔赤いよ」
「ちょ、ちょっと!やめてよ」
まりあの肩を軽く叩くと、まりあはさっきよりも大きな声で笑った。よろめきながらひとしきり笑って、今度は私の肩に手を置いた。
「でも、堀田ちゃん、うちのお姉ちゃんのことが好きらしいよ」
「え?なにそれ」
「大学同じなんだって、お姉ちゃんと、柏原くんと、堀田先生。三角関係だって」
返事に迷った。自分の感情が邪魔をして、こういう時に飯室さんみたいな人がどう振る舞うかが想像できない。
本当は、堀田先生に好きな人がいるかどうかなんて、どうでもいいんだけど、そんなこと。それよりも、まりあから、明確に私を傷つけようという意思が伝わってきて、それに驚いた。相手がムキになっても、「そんなつもりなかったのに」でまた指をさして笑えるような、無意識を装った残酷さ。
これ、私がいつもやるやつだ。
そのことに気付いて、考えはますます散らばってしまった。
「そんなの、関係無いよ」
しまった。これだから、重いって思われちゃうんだよ、私は。もっと笑って「え、絶対嘘!許せないんですけど」と言うのが、飯室さん風の返し方なのに。軽やかで上手な会話がしたいのに、動作の鈍いパソコンのように、発言の後に考えが遅れてやってくる。まりあの次の言葉に身構えるので精一杯だった。
「あはは」
まりあは、ただ笑って、そのあとは何も言わなかった。
今までにない空気が支配した。
「私、帰るね」
なるべくまりあの顔を見ないようにして、自転車のストッパーを下ろした。悲鳴のような「ガチャン!」が耳に痛い。
「うん」
まりあは、多分笑っていた。
「また明日ね」
「うん」
漕ぎ出す足は、さっきよりももっと重たい。背中にまりあの視線が刺さる。堀田先生の前から去る時とは違って、今度は、本当に。
遠くで鳴るコンビニの店内放送に見送られ、もう二度と戻れない、夜の海に一人で旅立つような心細さだった。
やっとの思いで家に着くと、二十時半を回っていた。父さんが台所でカレーを温めている。
「おかえり、お前の分も温めて��よ」
自室に戻り、リュックを降ろして、ジャージに着替える。また食卓に戻ってくると、机の上にカレーが二つ並んでいた。
「手、洗った?」
返事の代わりにため息をついて、洗面所に向かう。水で手を洗って、食卓に着く。父さんの座っている席の斜向かいに座り、カレーを手前に引き寄せる。
「態度悪い」
「別に悪くない」
「あっそ」
箸立てからスプーンを選んで、カレーに手をつける。
「いただきますが無いじゃん」
「言った」
「言ってねえよ」
私は立ち上がって、「もういい」とだけ吐き捨て、自室に戻った。
父さんとはずっとこうだ。お母さんには遅い反抗期だな、と笑われているけれど、父さんはいつもつっかかってくる。私が反抗期だって、どうしてわかってくれないんだろう。
まりあの家は、お父さんが居なくて、正直羨ましいと思う。私は、私が家で一人にならないよう、朝はお母さんが居て、お母さんが遅くなる夜は父さんがなるべく早く帰ってくるようにしているらしい。大事にされていることがどうしても恥ずかしくて、次に母親と会える日を楽しみだと言うまりあを前にすると、引け目すら感じる。勝手に反抗期になって、それはを隠して、うちも父親と仲悪いんだよね、と笑って、その話題は終わりにする。
せめて、堀田先生みたいな人だったら良かった。
そう思うと心がチクッとした。あんなに好きな堀田先生のことを考えると、みぞおちに鈍い重みを感じる。先生に会いたくない。それがどうしてそうなのかも考えたくない。多分、まりあが悪いんだろうな。まりあのことを考えると、もっと痛いから。
明日の授業の予習課題と、小テストの勉強もあるけど、今日はどうしてもやりたくない。どうせ朝ちょっと勉強したくらいじゃ小テストも落ちるし、予習もやりながら授業受ければどうにかなる。でも、内職しながらの授業は何倍も疲れるんだよな。
見ないようにしてきた、ズル休みという選択肢が視界に入った。スマートフォンを握りしめたままベッドに寝転がって、SNSを見たり、アイドルのブログをチェックしていると、少しづつ瞼が重くなってくる。
瞼を閉じると、今度は手の中に振動を感じる。まどろみの中で、しばらくその振動を感じ、おもむろに目を開けた。
画面にはまりあの名前が表示されている。はっきりしない視界は、うっすらとブルーライトを透かす瞼で再び遮られた。そうだ、まりあ。
私、まりあに文化祭のプリント渡すの、忘れてた。
目が覚めた。歯を磨くのも、お風呂に入るのも忘れて寝てしまったらしい。リビングを覗くと、カーテンが静かに下がったままうっすらと発光していた。人類が全て滅んでしまったのか。今が何時なのか、まだ夢なのか現実なのか曖昧な世界。不安になって、急いで自分の部屋に戻りベッドの上に放りっぱなしのスマートフォンの画面を点けた。
「あ…」
画面に残る不在着信の「六時間前 まりあ」が、寂しげ浮かんでくる。今の時刻は午前四時、さすがに彼女も寝ている時間だ。すれ違ってしまったなあ、と半分寝ぼけた頭をもたげながらベッドに腰掛ける。髪の毛を触ると、汗でベタついて気持ち悪い。枕カバーも洗濯物に出して、シャワーを浴びて…。ああ、面倒だな。
再びベッドに横になると、この世界の出口が睡魔のネオンサインを掲げ、隙間から心地いい重低音をこぼす。
あそこから出て、今度こそ、きちんとした現実の世界に目を覚まそう。そしてベッドの中で、今日を一日頑張るための作戦を立てて、学校へ行くんだ。いいや、もうそんな力はないや。
嫌になっちゃうな、忙しい時間割と模試と課題と、部活と友達。自律と友愛と、強い正しさを学び立派な大人になっていく。私以外の人間にはなれないのに、こんなに時間をかけて、一体何をしているんだろう。何と戦ってるんだ。本当は怠けようとか、ズルしようとか思ってない。時間さえあれば、きちんと期待に応えたい。あの子は問題ないねと言われて、膝下丈のスカートをつまんで、一礼。
勉強なんて出来なくても、優しい人になりたい。友達に、家族に優しくできる人になりたいよ。わがまま言わない、酷いこともしたくない。でも、自尊心を育ててくれたのもみんなでしょ。私だって、画面の向こう側のなにかになれるって、そう思ってる、うるさいほどの承認欲求をぶちまけて、ブルーライトに照らされた、ほのかに明るい裾をつまんで、仰々しく礼。鳴り止まない拍手と、実体のない喜び。
自分を守らなくちゃ。どこが不正解かはわからないけれど、欲求や衝動に従うことは無謀だと、自分の薄っぺらい心の声に耳を傾けることは愚かだと、誰かに教わった気がする。誰だったかな、マルクスかな。
今の願いは学校を休むこと。同じその口から語られる将来の夢なんて、信用ならない?違うね。そもそも将来の夢なんてなかった。進路希望調査を、笑われない程度に書いて、それで私のお城を築く。悲しみから私を守ってね。
目を開けると目前のスマートフォンは朝の六時を示していた。
「うそだあ」
ベッドから転げるように起き上がると、枕カバーを剥がして、そのまま呆然と立ち尽くす。今からシャワー浴びたら、髪の毛乾かしてご飯食べて、学校に着くのは朝礼の二十分前くらい。予習の課題も小テストの勉強もできない。泣きそうだ。
力なく制服に着替えると、冴えない頭でリュックサックに教科書を詰め込み部屋を出た。肩に背負うと、リュックの中で二段に重ねた教科書が崩れる感触がした。
続く
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第34話 『旧き世に禍いあれ (2) - “ブラストフォート城塞"』 Catastrophe in the past chapter 2 - “Blastfort Citadel”
ブラストフォート城塞を見渡せば、『城』という華やかな言葉の印象とは遠い、石造りの堅牢な風貌は砦のそれと言っていいだろう。
スヴェンはこの建造物も元は修道院だったと噂では聞いていた。ただ、城塞に研究所を設けた時には既に砦として使われていて、実際のところどうだったかは、皆目見当がつかない。むしろ験を担いだ誰かの作り話ではないかと考えていた。作り変えられた施設にしては、礼拝堂だったと見られる建物もなく、険しい斜面をわざわざ切り出して作られた来歴の割には、この地に作られた由来すら記録に残されていないのも疑念の余地がある点だった。
城塞と名を冠しながらも、城壁の内側に市街はない。居並ぶのは兵舎や倉庫、そして厩舎などの背の低い軍用の建物で、全てが同じように暗い色をしていた。
はぁと深い息を吐く。その息は白く、スヴェンは体をぶるりと震わせた。外套の襟を直し、足を早める。
短い秋は瞬く間に過ぎ去り、もうすっかりと冬だ。視界に入る山岳はすっかりと白い雪に閉ざされている。ブラストフォートは年中気温が低く、1年の半分以上は雪に覆われている。
この城塞は、トラエ、ラウニとソルデの三国間で起きた紛争の中心地となった。三国の国境線が交わる丁度中央地点で、思惑も戦線もぶつかり合った。互いの国へ進攻するに際しても、ここを通らず他二国に兵站を送るにはどうあってもリスクの高い迂回が生じる関係で、攻めるも守るも、話はまずこの城塞を手中にしてから、という事情もあった。この要塞を抑えた国が勝つと信じられ、激しい争奪戦が目下進行している。
トラエがこの城塞を維持し続けられているのは、”軍神”ゴットフリートのおかげだ。不敗を誇るゴットフリートは、皇帝の厚い信望を受け、ブラストフォート城塞に陣を敷いた。ここを確実に堅持し続けることが、即ち勝利を意味する。武勲で比肩する者のいないゴットフリートが此度の采配を受けたのも、当然の帰結であり、疑いを示す者もいなかった。
対するラウニやソルデもそれを理解していたからこそ、戦火はさらに激しくなって行った。トラエ無双の英雄が、史上最も堅牢を誇る城を守護している。つまり、ここを打ち崩したもの、あるいは守り抜いたものが、この戦争を制するに等しい。この三国戦争の顛末を決定づける、天下分け目の決戦地の様相を呈していった。
ゴットフリートは戦場で一度もその膝を地面についたことはなかった。スヴェンが城に派遣されて3年、ブラストフォート城塞は今もトラエ帝国領のままだ。各地で名を馳せたどんな名だたる英雄が攻めてこようとも、この城塞を越えた者は未だかつていなかった。
(砦としての適切なつくりと、それを最大限に生かす武将……。理屈で言うは容易いが、それがこうして揃い立つと、これほどまでに守り抜けるものなのか)
スヴェンは眼鏡のブリッジを押し上げて、先を急ぐ。その手は幾冊もの分厚い魔術書があった。
激戦地とはいえ、兵糧が乏しくなるこの季節には大きな動きも見られなくなる。天候によってはなお一層、双方ともに大人しいものだ。攻めあぐねた敵軍に二面三面と包囲されながらも、ブラストフォート城塞はまるで平時のように静まり返っていた。
(ああ……どうしてうまく行かないのだ……)
城塞の中にある研究室の扉を開ける。
真っ暗な部屋を、たったひとつのランタンが照らしていた。本来はもっと採光がいい窓があったのだが、スヴェン自身が本棚で潰してしまっていた。外光は観測を伴う実験に不向きだ。
城塞の中の、私の城。眼鏡を再度押し上げて、ふふと短く笑う。
「次はうまくやってみせる……この書こそ本物だ、今度こそ……吾輩が見つけるのだ」
ぶつぶつと言葉を口の中で繰り返しながら、長い執務机の上に置かれていた書類や本を床にすべて落とし、新しい本を置いた。
本棚やコートハンガーにかけられた外套、並んだ靴などは嫌と言うほど規則正しく、寸分のずれもないように置かれているというのに、余程気が高ぶっているのか、今は床に落ちた本たちを気にして直すそぶりもない。
大きな椅子に腰かけて、その本を開いてページを手繰り始めた。
世界を知るということに限りはあるのだろうか。スヴェンは幼い頃からずっと考えていた。世界を知るためにありとあらゆる本を読み解き、特例を受けて最高学府に進級したときも、当然のこと、以外には特に何も思わなかった。神童と呼ばれ、世界の知識を見る間に吸収し、未知の研究に邁進し、知性で遥かに劣る両親とは縁を切り、知こそが価値とする者達とこそ縁を深め、生きてきた。
――この世界は、一個の生命だ。
そう悟ったのはいつのころだろう。それからスヴェンの関心は世界の表層を辿ることではなく、世界の成り立ちの根源を掴むことに移った。
この感覚までも理解し共有できる者はさすがにいなかったが、スヴェンは気にすることはなかった。目的と到達点は明確だったからだ。
世界が生まれた瞬間を見る。つまり、過去へ遡行しその瞬間を観測することが出来れば、世界が生命であり、巨大な有機体であり、何がどうやってそれを作り出したのかを証明できるのではないか、と考えた。菌類はそれぞれの菌根で膨大な情報網を作り上げることで知られている。ならば世界は? 世界と世界を構成する生命や物質との関係も、似たものではないのか?
夢を見ていると言われた。気が狂ったとも。けれど、スヴェンは時間を移動することに執着し、トラエ皇帝はスヴェンの情熱に理解を示した。思えばこんな突拍子もない目的に意義を見出す皇帝というのもまた、妙ではあるとは思った。皇帝にもまた、過去に遡行する事で成し遂げたい、”過去に戻ってでもやり直したい何か”が、心中にあったのかもしれないが、それを聞き出す術をスヴェンは持たないし、スヴェン自身興味もなかった。少なくとも、時間遡行がもたらしうる皇家の安定、全ての危険を排し、あるいは時を超えて未来の悲劇を食い止め続けて、皇家そのものを永遠に君臨させる、という”表向きの”理由――そのために、皇帝はスヴェンを支援することを決定し、臣君達も、やや半信半疑ではありながらも、それを支持した。
「これだ」
今日も皇帝に頼んでいた奇書が届けられた。
スヴェンはブリッジを押し上げ、眼鏡の位置を直す。正常な観測のためには、眼球とレンズの距離は常に1.5cmを保たねばならない。立ち上がろうとして自分が先程叩き落した本を見やり、露骨に眉をしかめる。頭の中を整理し終えて一息ついたら、急に普段の几帳面さが顔を出した。手早くそれらを元あった場所へそそくさと戻して、室内を完璧に揃え、部屋の中心に立った。
「まず、魔石を用意して……」
木箱に詰めてある魔石を取り出し、机に置く。魔石は貴重な資源である。研究には大量の魔石が不可欠だった。魔石なしには、相当な魔力量を消耗する実験を繰り返し行うことは出来ない。ブラストフォートは戦地だ。当然、魔術師部隊が使うために魔石も大量に集められていたが、落城までには湯水のごとく消費されていた魔石も、入城し防衛に転じてからは、ゴットフリートを中心とした白兵戦主体の迎撃戦において、これらが投入される機会も乏しく、結果余剰が出ていた。山と積まれた荷物を運び出すにも、労力がかかる。それならば、国内にいる魔石を必要とする人員が、逆にブラストフォートまで来れば良い。研究をする場所としては些か物騒な地ではあったが、自由にできる大量の魔石が得られる機会には代えがたかった。スヴェンは二つ返事で前線まで足を運んだ。研究には様々な代償がつきものだ。それを理解してくれる後ろ盾を得たスヴェンは、他の誰よりも恵まれていると言えるだろう。
取り上げたいくつかの魔石の中から、更に質の良いものを選ぶ。一番大きいものはナリだけで中身は薄く、魔力自体は少ないようだ。ページをたぐる仕草に似た動作で、一粒ずつ指を触れては次の石に触れ、研ぎ澄ませた感覚で内容量を確認していく。最後に触れた人差し指ほどの魔石が最も密度が高く、多くの魔力を秘めていた。
「よし……よし……まずは一時間前に戻る……そうだ……」
長い間研究し、様々な方法を用いたが、まだ成功させたことがない。
スヴェンも焦り始めていた。戦火は年を追って激しさを増している。今は冬期で戦線が膠着しているが、雪が溶ける頃にはまた激化される。2国がこの城塞を攻め、帝国は防戦し続ける。魔石の余剰が出ているのも今だけだ。魔石の消費量も年々増え続け、そうなればいつ自分に回してもらえる分が枯渇するとも知れない。そう考えれば、時間は限られている事になる。一度でも成功させられれば、魔石を消耗する前の時間に何度でも戻って、ほぼ無限の実験を繰り返し、術式完成を確実なものにすることが出来る。それが理想であり、今の目標だ。勿論この方法は戻る人間の肉体時間の経過は加味されておらず、スヴェン本人の寿命の解決という課題が残ってはいるが、禁術に手を出せば、その辺りは時間遡行に比べれば造作もないだろうと見当がついていた。
本のページを睨むように再度読み上げようとした時、パチン、と何かが弾ける音がした。ふぅっと風が頬を撫でる。
音がした方向を振り向いて、スヴェンは動けなくなった。
空間に大きな渦が現れたのだ。
その渦に向かって風が吹き込んでいる。
「おお!」
未知なる光景に弾んだ声を上げる。
まず渦から出てきたのは、手だった。男の両の手が伸び、時空の切れ目をこじ開けて、その姿を現した。これから始めようとしていた実験によって、数分か数時間の未来から自分が戻ってきたのではないか。どうやら、今実験している術式は成功したのではないか。歓喜に身が打ち震える。
単純な転移魔術など、スヴェンも何度も見たことがあるし、日常的に行使している。周辺空間に生じた歪の性質や姿の現れ方から、今目の前で行われているものは、通常のそれとは質が異なることは一目で判断できる。それは”理論上、時間遡行が成功すればこのような形で転移が成されるだろう”と想定した結果そのものだった。
「スヴェン博士か?」
渦から現れた男に尋ねられ、スヴェンは驚いて身を竦めた。
男は自分の身なりに気が付いたのか、ゴーグルの中の目を丸めて、被っていたマスクを外した。城塞の戦士たちよりも重装備だが、防寒具として見ても、防具として見ても、異様な姿をしていた。それはむしろ、ガスや毒に汚染された領域に立ち入る者が使う防護服に似ていた。
男は軽く会釈した。
「僕はフィリップ。スヴェン博士で間違いありませんか?」
「いかにも、吾輩はスヴェンだが……」
答えながら、興奮で何度もメガネを押し上げる。
「僕は未来から来た」
「おお、やはり! では、未来では時間移動の方法が確立されたのか! 素晴らしい! 素晴らしい!!」
スヴェンは無邪気に飛び跳ねた。
悲願だ。
奇跡が目の前で起きたのだ。経緯こそまだ判然としないが、宿願が果た��れたのだ。
「その方法が知りたいか?」
「ああ、無論だ。吾輩にとって、生涯をかけた研究の成果だ!」
「僕の生きる時代にはその技術は確立している」
身の内から湧きあがる感動に震える。長い時間をかけた研究が実を結ぶのだ。喜ばない人間がいようものか。
スヴェンはズレたメガネを何度も押し上げ、唇をペロリと舐めた。
「未来では、あなたの完成させた基礎を発展させ、実際に過去に飛ぶことが出来るようになった」
「そうか……そうか……! それで」
「研究資料はある。それを渡してもいい」
フィリップと名乗った男は荷物からひとつの本を取り出して見せた。スヴェンは手を伸ばしたが、ぴたりと手を止める。
「……吾輩は、基礎を完成させた……?」
「ああ、そうだ」
「つまりは吾輩が術式を確立させたわけではないのだな」
基礎を完成させた研究者が自分だとして、その先、実際に技術転用することは別の次元の話になるはずだ。魔術、火薬、物理……この世の全ての技術はそうして生み出されてきた。小さな研究の成果を種として多くの科学者が取り組み、発展的に理論を大成させていく。芽吹いたものを育てひとつの大樹とするにはそれだけの手間と時間と閃きが必要になる。
今までもスヴェンは『時間遡行の第一発見者』『行使者』となるために、寝食を忘れ、周囲から気味悪がられるほど、研究に必死で取り組んできた。
それでも時間が足りないと感じていた。その肌感覚は間違いではなかったのだ。
目の前に提示された本は確かにスヴェンを求めた結果に導くだろう。
だが、同時に自身の敗北を決定づけるのだ。己の力量だけではここには辿り着けなかったのだと、認めることとなる。
フィリップは静かに逡巡するスヴェンを見ていたが、やがて、微笑みながら頷いた。
「これは’’真実’だ。研究者としての矜持はさておき、”真実”を知りたくはないか?」
スヴェンはハッとして顔を上げた。
真実。
私は何のためにここまで進み続けてきたのか。
彼が言っていることが正しく、自身で術式を完成することがなかったとしても、それは過程に過ぎない。私が目指していたものは、あくまで”真実”ではないのか?
「もしも、それをいただくと言ったら? 何が望みだ?」
心のどこかで、素直にそれを受け取る事に呵責が生じていたのだろう。だから、それを受け取る事を、無意識に合理化したがっていたのかもしれない。未来から来た男に対価を返すことで、”真実”を受け取ってしまう自分に理由を与えようとしていた。
予見した通りにスヴェンの瞳に灯った貪欲な光を見出して、フィリップはにやりと笑った。
「城塞内の警備情報をいただこう」
「警備の? 何故だ?」
「知らない方がいい。あなたには関係のないことだ」
「……そもそもお前は、何のためにここにいるのだ?」
「知れば、来たるべき未来のことも伝えねばならなくなる。必要以上に過去を変える事は避けたい……ただ、必要なものがあるとだけ。それを持ち帰る事だけなら、この時代の歴史には影響しない、それは保証しても良い」
まるで台本があるかのように、フィリップは淀みなくスヴェンに語り掛ける。
未来から来た。それは間違いないだろう。スヴェンが口外もしていなかったはずの、仮説段階の転移の様子そのものが目前に展開したことで、疑う気持ちなど寸分もなくなっていた。受け取った資料に目を通せば、そこからもまたフィリップが未来から来た事が真実であるという証拠を得る事もできるだろう。ただ、もう一声、フィリップが信頼に値するという、自身が”真実”を受け取る事に感じる呵責を打ち消すだけの理由を求めたかった。
「受け入れたいのは山々だが、警備情報をとなると難しい。未来から来た事が仮に真実でも、君がトラエ以外の人間であったならば、私の立場からすれば利敵行為に与しかねない事になる。理解してくれるか」
スヴェンはこう言い放ちながら、内心で自嘲した。スヴェンは、フィリップがトラエの人間である事を証明してくれる事を期待していた。彼があらかじめ私の呵責を砕く準備までした上でここに来ていると、察しが付いていた。その上でこんな事を方便にするのは、戯曲を棒読みする姿を見透かされるようで、歯がゆかった。
フィリップは答えをやはり用意していたようで、間髪入れずに分厚い上着のポケットから、ひとつのネックレスを取り出した。金色のネックレスは傷がつき、古いものだった。スヴェンはその取り出す様を見ながら、やはり見透かされていたのだと、思わず赤面した。
「開けてみてくれ」
スヴェンはおずおずと受け取り、開いた。そして息を飲む。
「これは……!」
「一緒に映っているいる赤ん坊が僕だ」
一目見て分かった。写真に写った男は、ゴットフリートだ。城塞の食堂で目にした、岩でも噛み砕きそうな厚い顎、豹を思わせる眼光、右頬と左こめかみに負った特徴的な傷跡。スヴェンの知るゴットフリートよりもかなり年を重ね、白髪や白髭を蓄えた風貌で笑っていた。
――未来だ……。
スヴェンは、ごくりと息を飲んだ。
「あのゴットフリートが、人の親、果ては老人か……。戦場で死ぬような者ではないとは、思っていたが」
「祖父は一族の誇りだ」
「……分かった。警備情報を渡そう。だが、本当に面倒事は起こさないのか……?」
「表立っては何も起きないから、安心していただきたい。この時代には捨て置かれたものを、持ち帰るだけだ」
スヴェンには、その言葉の意味まではわからなかった。
その後の逡巡を見越したように、ゆっくりと研究書をスヴェンに差し出す。
「戻れる先は魔力の量に左右される。魔力を1点に集中すればいい。杖を使えばいいだろう」
「お……おお……」
「この本に詳しくまとめられている。運命は、未来は変わらない」
「本当に?」
「あなたが、あなたのために使うだけに留めれば、自ずとそうなるだろう」
答えないスヴェンの胸に、ドンと本が叩きつけられる。
その感触に、スヴェンの理性はぐらりとふらついた。
月が高く上ったのを見上げ���、フィリップはゆっくりと山岳の斜面を進んだ。姿勢を低くし、音を立てないように。
(……不安はあったが、狙ったタイミングに戻れたな……)
グレーテルと徹底的に城塞の歴史を調べた。
激しい攻防戦から間がなく、その後しばらく戦闘がない、天候が落ち着いている時期。かつ、当日の天気が晴天で満月であること。
いくら協力を得ることが出来て警備の状況が把握できていても、誰もいないはずの山の斜面で灯りを用いて、遠目にでも見つかる危険を冒すことは避けるべきだ。暦を遡り、目途をつけたのが今日この日だった。
斜面には雪が積もっている。この積雪から数日、戦線に動きはなかったと記録されている。束の間の平和。だが、その直前には、この斜面で、たくさんの人と人が殺し合ったのだ。静寂に包まれた雪景色の中、あちこちに矢が突き刺さったまま放置されていた。戦闘の跡だ。
左右を見渡してから、フィリップは一番近くの雪を掻いた。そこにも矢が刺さっている。
(……矢先の雪がほのかに赤い)
山岳地の雪らしく、水を含まないさらさらとした雪で、払えば埋もれたものが簡単に姿を現す。
「……あった」
雪の下には、傷の少ない兵士が眠るように倒れていた。
念のため体を検めるが、四肢も無事で、背中に矢を受けた痕があるだけだ。専門外だが、転がした下の赤黒い土の色から察するに、死因は失血だろう。
こんなに状態のいい屍体を見たのは、いつぶりか。
ここはまさに、フィリップにとって宝の山だ。
見渡す限り、無数の屍体が隠されている。先日攻め入ってきたが退路を断たれ、殲滅の憂き目にあったラウニの一個師団がこの斜面に眠っている。
ざっと見積もっても数千から万を超すだろう。 この雪の下にある屍体さえあれば、それらは全て、二人が未来で戦うための手足となる。計り知れないほどの戦力だ。
グレーテルも転送を待っているだろう。と言っても、未来で待つ彼女の方からしたら、突然数千の屍体が目前に現れるような形になるのかもしれないが。
兵士を完全に雪の上に横たえてから、フィリップは術式を展開した。過去に遡行することに比べ、未来に送ることは難しくはない。状態が劣化しない静止した時空間に屍体を閉じ込める。そして、ある特定の時期に来たら、閉じた時空間から屍体を現実に表出させるように仕込んでおく。川の流れを下るように、時の流れに逆らわずに未来へ向かうのであれば、身を任せるだけで良い。逆に、流れに逆らって上流に向かおうとするには、莫大なエネルギーを要する。それが、時間遡行研究者たちがたどり着いた、ひとつの答えであった。
遺体はぼぉっと青白い光に包まれて、ふっと消えた。
成功だ。
こうして閉じ込めた屍体全てが、グレーテルの元で姿を現すだろう。彼女も状態のよさとその数に感動するはずだ。周囲を見渡し、笑みが溢れる。
屍体の数は多ければ多いだけいい。フィリップは近くの雪中を再び探り始めた。
「ん? なんだぁ?」
突然降ってきた声に、フィリップはぴたりと動きを止めた。
振り向けば、豪奢な装備に身を包む屈強そうな男が、首を傾げながらこちらを見ていた。ありえない。
「――……巡回はいないはずじゃ……」
スヴェンから得た警備資料は棚から即座に取り出されたものであって、あの場で嘘を取り繕うためにあらかじめ用意できるようなものではなかったはずだ。
だからこそ、その内容を信じたフィリップは夜を待って行動を開始したのだ。
「巡回なんざしてねえさ。散歩してただけだ」
男は野太い声で言った。
「しっかし、誰だ、お前は。さっき屍体を掘り返してたよな?」
「……何のことだ」
「おいおい、しらばっくれても無駄だ。見てたぞ。目の前から消えたんだからな」
失敗した。
頭の中で思考が急回転を始める。どうやってこの場を切り抜ける? 取り繕うか、命を奪い口を封じるか、逃げるか?
「転送魔法か? それで屍体を運んで何しようってんだ」
「それは……」
なにかうまい口実はないか、言葉を手繰ろうとするフィリップを待たずに、男は叫んだ。
「戦場泥棒は重罪だぜ!」
雪をギュッと踏みしめる音を立てて、男はフィリップに飛び掛かる。
やるしかないか。
咄嗟に、重力歪曲《グラビティプレス》の術式を展開する。
跳躍し上向いた兜の中の顔を、月明かりがはっきりと照らす。豹のような眼光がこちらを見据えていた。一瞬、フィリップの胸中に幼い日が去来した。
(――……ゴットフリート爺さん!)
逃げなければならない。話も通じない。殺してはいけない。
月明りを背に大きな影が落ちる。
フィリップは咄嗟に術式を変じて、空間移動《テレポート》に切り替えた。短い距離であればすぐに展開して移れる。
鈍い音を立てて、ゴットフリートが鞘から引き抜いた剣が雪に突き刺さる。さきほどまでフィリップが立っていた雪の跡は、衝撃で爆ぜて消え失せる。そのまま、目線を数歩先のフィリップに向ける。
「はっ、やっぱり転移か。ラウニの連中は知ったこっちゃねぇが、ここには俺の隊の奴も幾人か眠ってんだ…」
雪から剣を振り上げるように引き抜き、巻き上げられた細かい雪がまるで煙幕のように広がる。視界が真っ白に染まる。
フィリップは咄嗟に腕で顔を庇ったが、視界に影が過る。
(まずい!)
二度目の転送が一瞬遅れ、避け切れなかった。ゴットフリートの剣先は肩から胸にかけて切り裂く。傷は浅いが痛みによろめく。
雪の影から突きを繰り出したゴットフリートは、目をぎらりと輝かせる。
「魔術師相手は滅多にやれねえんだ。面白えな……!」
まともにやり合ったら、殺される。
運が悪すぎる。
本気でやり合ったところで、ゴットフリートに勝てるわけもない。仮に勝てたとしても、祖父である彼を今この場で殺したら、未来から来た自分は一体どうなる? 前例がなく、全く予想がつかない。年老いてからも人の話を全く聞かなかったあの男が、戦場跡をうろつく怪しい男が語る”理由”なぞ、おとなしく聞いてくれるはずもない。殺さずに無力化出来るような術も持ち合わせてはいない。
なんとかやり過ごして、逃げるしかない。
再度テレポートをしようと身構えたフィリップに向かって、ゴットフリートが大きく踏み出そうとして、ぴたりと止まった。
「……なんだ? 臭ぇな……」
眉をぐっと止せ険しい表情で辺りを見渡す。
確かに何か匂いがする。嗅いだことのない匂いだ。
「屍体の臭いでもないな……なんの臭いだ……?」
唐突に、その匂いが一層強くなった。
屍体は確かに掘り返した。けれども、この気温で、雪の下にあった兵士の体は腐敗するはずがない。凍てつき、匂いもなかったはずだ。
腐ったような、けれどももっと酷く脳を直接刺激するような……嗅いだことのないほど異臭。
「……うっ」
胸が悪くなる。
ゴットフリートも片手で鼻を抑えながら、周囲を見渡した。
ふたりの視点が1点にとまった。打ち捨てられた盾だ。放り出されて地面に突き立ったままのそれが、奇妙な黒い靄に包まれている。
「おい、小僧、お前の術か、ありゃあ?」
ゆらゆらと噴き出ていた黒い煙の密度が増す。
フィリップは自分の背中が粟立つのを感じた。
あれは、だめだ。
理由はわからない。ただ、本能が叫ぶ。けれど、足が竦んで動かない。
盾を包んでいた煙は次第に細くなり、盾と地面が成す角から勢いよく噴き出した。そして、その煙が見たこともない不気味な黒い猟犬の姿を取った。
~つづく~
原作: ohNussy
著作: 森きいこ
※今回のショートストーリーはohNussyが作成したプロットを元に代筆していただく形を取っております。ご了承ください。
旧き世に禍いあれ(3) - “猟犬の追尾”
「ショートストーリー」は、Buriedbornesの本編で語られる事のない物語を補完するためのゲーム外コンテンツです。「ショートストーリー」で、よりBuriedbornesの世界を楽しんでいただけましたら幸いです。
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SW2.5シナリオ 『タポの神隠し』
シナリオ名 : 『タポの神隠し』 推奨人数 : 3-5人 推奨レベル : 2-3 ジャンル : はじめてのばんぞくたいじ 難易度 : ★★★☆☆ メモ : 百番煎じ
●概要 “導きの港”ハーヴェス王国から北に向かって約一日。タポの村と呼ばれる農村で、ここ数か月謎の失踪事件が起きているという。 滅多に蛮族の被害も無い平和な村に一体何が起きたのか。新米冒険者達はその謎を解き明かす為、タポの村の奥地へと赴いた──。
●GM向けシナリオ概略 タポの村周辺に、レッサーオーガが率いる蛮族の小さな集団が隠れるようにして居座っていた。初めは狼や猪などの害獣や森の木のみを食べて過ごしていたが、群れが大きくなるにつれ、食料が足りなくなっていく。 そこで群れのボスであるレッサーオーガはタポの村に目を付け、ある日の夜に村長であるライアンを食い殺す。 その後村長ライアンに成りすましたレッサーオーガは、月に一度の頻度で村人を森へ誘導し、子分たちの食料としていた。 更なる群れの巨大化を目指すレッサーオーガは、これ以上に無い餌場を手にしたのだった。
●シナリオの流れ 1.導入 2.タポの村へ~村を散策 3.東の森 4.蛮族の洞窟 5.報告 6.レッサーオーガとの決戦 7.結末
●1.導入
PC達の関係性はご自由に。朝8時に、ハーヴェス王国にある水龍の逆鱗亭の店内から描写が始まります。
多様な冒険者が集う“導きの港”ハーヴェス王国。絢爛豪華な湾岸都市の一画にある、【水龍の逆鱗亭】にてこの物語は始まる。 木製の暖かな店内を、二メートル以上の巨体を持つ男が見渡す。 手に持った依頼書に見合った実力を持つのであろう、君達○人に大声を張り上げた。 「おい、そこの新米達! 仕事を探してるならこっちに来てくれないか!」 「まずは自己紹介をしておこう。俺の名前はナッシュ・ヴァルター」 「この水龍の逆鱗亭の店主だ」 「経験を積みたいってなら丁度いい仕事があるぜ? 話だけでも聞いてみないか」
元々一流の冒険者であったナッシュ(熊リカント/男性/57歳)は、ハーヴェス王国でも有名な冒険者の宿の店主です。 彼の指導の下、大成した冒険者も数多くいる事から、彼は信頼に足る人物であるという事はPCも知っていて良いでしょう。 ���承諾すれば、ナッシュは仕事の内容について話してくれます。
「お前達にやって貰いたいのは、“人探し”だ」 「このハーヴェス王国から北に一日かけて向かった所に、タポの村と呼ばれる農村がある」 「タポの村では四か月程前から、月に一人くらいの感覚で人が消えているらしい」 「──そこでお前達冒険者の出番ってわけさ」 「依頼内容は行方が知れなくなった四人の村人の捜索」 「村の近場には魔物も出ないって聞くし、お前らみたいな新米には丁度いいだろう」 「報酬は前金一人300ガメル、達成で更に一人700ガメル支払われる」 「どうだ、受けてみないか」
ここでナッシュが語る依頼の達成とは、「居なくなった四人の安否の確認」という事になります。 全員が生きている必要はなく、最悪死体の確認だけでも問題はありません。勿論、生きている事に越した事はないと併せて伝えて下さい。 本来であれば「失踪の謎の解明、及び解決」も必要となりますが、あくまでも村からの依頼は失踪した村人の捜索となります。 この依頼に了承したPC達に、ナッシュは一人300ガメルの前金を支払ってくれます。
●2. タポの村へ~村を散策
ここから自由に探索が可能になります。GMは、日数計算に気をつけて下さい。 前金が支払われた段階から、72時間。それまでにPC達が囚われた村人を解放出来なければ、村人は食べられてしまいます。 タポの村へはナッシュの言葉通り、24時間で辿りつけます。それまでに買い物を行ったり、何か調べ物をしたりした分の時間はざっくり計算すると良いでしょう。
タポの村は大きな畑が広がっており、牧歌的な空気が村を包み込んでいる。 村の東には深い森、北には鉱山としても使われている切り立った山がある。
タポの村に着けば、見張り番である男、ベッポ(人間/男性/25歳)がPC達を出迎えてくれます。
「おお、こんな村に客人とは珍しい」 「……まさかその出で立ち、アンタ達が依頼を引き受けてくれた冒険者様かい?」 「ああ、やっぱり! アンタ達を呼んだのは俺だ!」 「俺はベッポ、この村の見張り番だ。よろしく頼むよ!」
好青年であるベッポは、十日前に最愛の妹アンジェが神隠しにあっています。村長に扮したレッサーオーガが上手く時間稼ぎをしましたが、遂に痺れを切らしたベッポを始めとする村人達が独断で冒険者に依頼を出しているのです。 ベッポは村の立ち入りの為には村長への挨拶が必要とし、冒険者達をタポの村村長、ライアンの家へと案内します。 ライアンの家は小屋とも呼べる程度の他の村人の家とは異なり、立派な木製の家です。ベッポはその扉をノックし、大声で来客を伝えるとPC達を家の中に招き入れます。
一人で暮らすには少々広めの空間に、木製の椅子に腰かける老人の姿がある。 何処か険しい表情を浮かべた老人は、君達を睨み付けるように覗き見た。 「……ようこそ御出でなすった」 「儂はライアン、この村の村長です」
勿論、この時は既にライアンは死亡しており、家の中で白骨化しています。 レッサーオーガは用心深く、粗を出さない為にも率先して冒険者と話をしようとはしません。 あくまで邪険に扱い、さっさと村から出ていって貰おうとします。PC達から質問を受けても、「知らない、分からない、覚えていない」の三種類くらいしか喋りません。さっさと家から追い出そうとまでします。
このシーン以降、ライアンと同じ場所にいる状態で、PLがライアンを怪しむ発言を行った際には、真偽判定を振らせましょう。 村で情報を集める前に行った場合の達成値は「12」。後述する情報を取得した場合は「8」になります。 もしこの真偽判定を達成した場合、一気にシーンは「● 6.レッサーオーガとの決戦 」へと移ります。
上記のライアンとの話を終え、村長の家を追い出されたPC達をベッポが迎えます。
「アンタ達には期待してるぜ、冒険者さん」 「消えた中には俺の妹アンジェも居るんだ」 「よろしく頼むよ!」
これ以降、PC達は自由に行動する事が出来ます。 ベッポを含む、他の村人達に聞き込み等を行う場合は以下の中から必要な項目を拾い、応えて下さい。 この辺りはGMのさじ加減で、上手くPC達を誘導してあげると良いでしょう。 特に重要になるのは、「村長の様子がおかしくなった」事と、「村長ではなく村人(ベッポ)達が依頼を出した」という事です。
「アンジェは二週間前、森へ果物を取りにいったんだ」 「…だがそれから返ってくる事はなかった」 「もう我慢ならないと、他の村人からカンパを募ってアンタ達冒険者を呼んだのさ」
「村人が居なくなってから、村長の元気が無くなっちまったんだよな」 「お疲れなんだろう」
「そういえば最近、夜に村長が出歩いてる所見てないなぁ」 「ついこの間までは、村の見回りを日課にしてたんだが」
「村の男達で森や鉱山を探したんだが、何も見つからなかった」
「この村は貧乏だから、アンタ達冒険者を呼ぶのに時間がかかっちまったんだ」 「村長は結構金を持ってるって聞いてたから期待してたんだけど、実際は無一文だったみたいでね」
森、鉱山に向かう場合は、片道一時間かかります。 鉱山では特にイベントはありません。
●3.東の森
東の森までは、一時間も掛ければたどり着く事が出来る。 森の木々たちの背は高く、陽が出ていてもどこか薄暗い印象を受けるだろう。
森では足跡追跡判定、もしくは探索判定を行う事が出来ます。 足跡追跡判定は達成値7、探索判定は達成値8で判定を行い、成功した場合は以下の描写を読んでください。
大小様々な足跡が伸びている。 その中でも特段小さな足跡が正規の道から外れて、巧妙に隠されていた獣道へ続いている事がわかる。 また、その足跡のすぐ傍に、何かを引きずったような跡も続いている。
これは蛮族が村人を襲い、自分達の洞窟へ攫った跡です。 もし判定に失敗した場合、5時間の探索を経て自動で獣道を発見する事が出来ます。その場合は足跡などの描写は不要です。
更に一時間ほど獣道を進めば、岩場にぽっかりと口をあけた洞窟に辿り着きます。 洞窟の内部は暗く、暗視が無ければ光源が無い限り見渡す事は出来ません。
● 4.蛮族の洞窟
レッサーオーガの群れの子分である蛮族達の住処です。群れはゴブリン(『Ⅰ』439p)、ダガーフッド (『Ⅰ』438p)、アローフッド (『Ⅰ』437p)で構成されています。 数はゴブリンが二匹で固定、ダガーフッドとアローフッドは(PC数-1)として下さい。
蛮族は二つのグループに分かれており、それぞれゴブリンを隊長としてダガーフッドとアローフッドが半分づついます。 半分は洞窟で待機、もう半分は狩りに出かけています。 PC達がこの洞窟の内部に侵入を試みた瞬間から、丁度30分後に狩りにでた蛮族が戻って来ます。GMはここでも時間管理を行って下さい。
まず洞窟の入口には早速罠が配置されています。 罠感知判定、達成値8に失敗すると、5mの落とし穴に落ち15点の物理ダメージが入ります。更に穴の下には小石が散りばめられており、大きな音が響きます。 その音で蛮族の待機グループが穴から這い出し、即時戦闘となります。穴に落ちたPC達の処遇はGMに任せます。 この罠を回避すれば、蛮族の待機グループは洞窟の内部に居る状態になります。
洞窟は一本道になっており、5分もあるけば分かれ道に出ます。 分かれ道では北、西、東に進む事が出来ます。 狩りに出かけた蛮族が戻ってきた場合、彼らは真っ直ぐに北の道を目指します。
・洞窟西:奴隷置き場 依頼承諾から48時間以内であれば、PC達の耳に金属音が聞こえます。 その奥では、壁に鎖でつながれた村人アンジェ(人間/女性/20歳)の姿があるでしょう。 彼女は蛮族に連れ去られて以降、何とか生き延びていました。 アンジェはそれ以降、PC達に同行を申し入れます。戦闘などが入る場合、蛮族は彼女を含めた中からランダムで攻撃対象を決定して下さい。 アンジェの能力はHP12、他は全て0です。 もし依頼承諾から48時間以上が経過している場合、この場所には鎖があるだけで他には何も見当たりません。
・洞窟東:ゴミ捨て場 この場所には蛮族達の生活ゴミが捨てられています。 基本的には動物の骨などです。この場所では探索判定を試みる事が出来ます。 自動成功で、獣の骨に混じって人骨も見つかります。 更に冒険者レベル+器用で判定を行い、8以上が出ればその人骨が三人分(アンジェ死亡時、四人分)である事がわかります。 この探索判定を行えば、依頼は完了したとみなされます。PC達に伝えてあげると良いでしょう。 達成値5以上で「ピアス」「指輪」「ネックレス」(売却値100G)が見つかります。これは既に死亡した村人達の遺品です。
・洞窟北:居住区 ここは蛮族達の寝床として使われており、広い地面には藁が乱雑に敷かれています。更に部屋の奥には宝箱が一つあります。また、壁には松明が掛けられており視界は良好です。 もし最初の罠で戦闘になっていない場合、蛮族の待機グループはこの場所で寝そべっています。 蛮族退治後、この場所では探索判定を行う事が出来ます。 達成値5以上で、敷かれた藁の数が確認出来ます。小さな藁の束が(ダガーフッドの数+アローフッドの数)分、中くらいの藁の束が二つ(ゴブリンの数)分ある事を伝えて下さい。 達成値8以上で、洞窟の壁に文字が刻まれている事が分かります。汎用蛮族語で書かれています。
『女 未だ 食うな』 『人族 警戒 しろ』 『次 満月 戻る』
宝箱には鍵が掛かっています。解除判定、達成値は10です。 中には「能力増強の指輪」(『Ⅰ』329p)が一つ入っています。指輪の内容はダイスで決めるか、GMが決めて下さい。
●5.報告
洞窟の蛮族を倒せば報告を行う事になります。この際、「誰に報告をするか」、「アンジェを連れているか」、「遺品をどうするか」で分岐があります。 ライアンに報告した場合、「お疲れ様でした」と短く言うだけで、特に労う事もせずに冒険者達を返そうとします。 ベッポに報告した場合、アンジェを連れ帰れば泣きながらお礼を言います。アンジェが死体となっていれば、ベッポはがっかりとした様子でPC達を見送ります。 どちらにせよ、「村人の安否が決定」した時点で、彼らは冒険者を見送ろうとするでしょう。
遺品の三種類は売却する事も可能ですが、それぞれの家族に返す事も出来ます。 返した場合、エンディングで更に報酬500ガメルが追加されます。
●6.レッサーオーガとの決戦
村長ライアンに成りすましたレッサーオーガに対し、真偽判定を試みて成功した場合、レッサーオーガは本性を顕します。 基本的には家から出る事はないので、家の中での描写となるでしょう。 見破った際、即座に戦闘を仕掛ければ奇襲を掛けたと見なせます。先制判定に確実に成功し、ライアンは自分の手番でようやく人化を解除出来ます。 ご丁寧に見破った旨をライアンに伝えた場合は、正々堂々戦う事になります。
ライアンの瞳が怪しく輝く。 「ほう、私の姿を見破ったか」 「村人共め、勝手に冒険者なんぞ送り込みよって……全く面倒な事を」 「��こは貴重な餌場だ、簡単に手放すつもりもなければ──この事を知った貴様らを、生かして帰す道理もない」
ここではライアンに扮するレッサーオーガ(『Ⅰ』p442)との戦闘です。PCの数が4人以上の場合は、剣の欠片を(人数-3個)持たせましょう。 レッサーオーガ は一人で、援軍等はありません。家の中といえども容赦なく魔法をぶっ放してきます。 レッサーオーガ を倒せば、最後に彼は恨み言を残します。
「馬鹿な……!」 「だが、これで終わったと思うな……!」 「私という歯止めがなくなった以上、も���、この村は……」
更に洞窟攻略後、それをPC達が伝えた場合は更に悔恨に満ちた顔を浮かべ、呟きます。
「な、何だと!?」 「クソ、忌々しい人族共め!」 「貴様らさえ、居なければ……!」
レッサーオーガ死亡後、ライアンの家で探索判定を行えます。 自動成功として、家の隅から人骨が一人分見つかります。これは勿論、本物のライアンの物です。 達成値9以上で、ライアンの隠し財産が見つかります。宝石が箱に入っており、全て売却すれば500ガメル相当になるでしょう。
●7. 結末
PCが洞窟攻略(蛮族全討伐)してなおかつレッサーオーガを倒した場合は自動でエンディングを迎えます。 やり残したことがある場合、PC達にどうするか尋ね、自発的にハーヴェス王国に戻る事を選択した場合でもエンディングを迎えます。
エンディングは特定の要素によって変化します。
【エンディングA】…レッサーオーガを倒し、蛮族を全て討伐 君達の依頼完了から数か月後。 タポの村では作物が大豊作となり、君達宛てにたくさんの野菜が届く事になる。 そこに添えられた手紙には、君達への感謝が所せましと並べられていた。 もうあの村で人が消えるような事件は起こらないだろう。 君達が、あの悪しき蛮族を討伐したのだから。
【エンディングB】…レッサーオーガを倒すも、蛮族を打ち残す。 君達の依頼完了から数週間後。 君達の耳に、驚くべきニュースが飛び込んでくる。 タポの村、蛮族により崩壊。 次に改訂されるであろう地図から、タポの村は永遠に消失した。
【エンディングC】…レッサーオーガを倒していない。 君達の依頼完了から数か月後。 水龍の逆鱗亭に、新たな依頼が舞い込んだ。 ──タポの村にて、人探しをお願いします。 タポの村では月に一回、誰かが消える。 その恐ろしい事件は、終わらなかった。
また、上記に加えて遺品を村人に返したかの有無で、報酬金額が500ガメル変動します。
報酬として一人1000ガメル(前金300、達成700)が支払われます。 そのほかの戦利品や、物資の売却品、遺品返却による報酬などはプレイヤーの頭数で割って下さい。
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詩集「もしも、昨日の僕をぶん殴れるなら。」

詩集「もしも、昨日の僕をぶん殴れるなら。」
1.「四つ葉の詩」 2.「冷笑」 3.「吐息」 4.「スカイブルーは知っている」 5.「絃」 6.「フォトジェニー」 7.「田舎者のオキテ」 8.「無音」 9.「英雄の中の英雄」 10.「凛」 11.「自慢話」 12.「18」 13.「鬱」 14.「瞿麦(Cool-Baku)」 15.「♡♡♡」 16.「★(Black Star)」 17.「Boot Schwarzenegger」 18.「#シュウカツ」
四つ葉の詩
いつか、 私たちが伝説になる日が来るんだね、 なんて、 君は健気に言っている。
そのいつかが、 本当のいつかになるかもわからないのに、 そのいつかを感じさせないくらい、 君は健気に笑っている。
四つ葉のクローバーを夢中で捜した夏を憶えているかい?
君の「健気」というアイコンは、 四つ葉のクローバーから産み出されたものなのだ。
雨上がりの河川敷、 膝を泥まみれにして、 君はひたすら四つ葉のクローバーを捜していた。
見つけたときの笑顔、 よそ行きの洋服は見る影もなくなっていたけれど、 それを感じさせないくらい、 君は健気に佇んでいた。
今年もきっと、 君は何処かで健気に微笑んでいるのだろう。
冷笑
「わたしはあなたのことが嫌いよ!」
隣のあの子がそう言ったとき、 俺は友達と世間話をしていて、 その声に耳を傾けてはいなかった。
友達が彼女の声に気付いて、 こちらに冷笑的な視線を送る。
俺にとって、 彼女はどうでもいい存在だった。
「わたしはあなたのことが嫌いよ!」
隣のあの子がもう一度口を開いたとき、 俺は友達の右腕を力一杯に握っていて、 既に教室を駆け出そうとしていた。
友達は彼女をクッと睨みつけて、 こちらに向かってこないように仕向ける。
俺にとって、 彼女はどうでもいい存在だった。
–––– 数日後、隣のあの子は転校していった。 「好きだよ」という置き手紙を俺の机の中に残して。
吐息
その寒さを紛らわすように、 ぷはーって、 お互いに息を吹きかけて、 ぎゅっと、 強い力で抱きしめてみたら、 どうにか、 この夜を越えられるような気がした。
それは、 とてもとても寒い夜のことだった。
この街は今月五十回目の停電で、 電気が通っていない間は、 街がフリーズしたかの如く、 静かに凍りついていて、 僕らは暗闇の中で、 ジャックオランタンを頼りに、 互いを抱きしめるしかなかった。
それは、 とてもとても寒い夜のことだった。
あの国王は僕らのことは見向きもせず、 きっと美味しいものばかり食べているのだろう、 君はそう冷たく言うけれど、 僕は「違うよ」と再び息を吹きかけた。
スカイブルーは知っている
もしも、 悲しみという感情を この絵で繕えるとしたら…… 僕は一枚の絵を描くだろう。 大きく、遥かな絵を。
人は誰もが芸術家だ。
愛も、夢も、明日も。 この絵にはすべてが入っている。
もしも、 その絵が不満だとしても オリーブオイルを一滴垂らしてしまえば…… ほら、元通り。
そんなわけないと思う君は、 いちど理想に浸ってみればいい。
青空のキャンバスに、 あしたの自分を描いてみればいい。
どこでもいいじゃない。
芸術ってのは、創り出す勇気から生まれるものなのだから。
絃
ソーシャルネットワークの海に、 今日もわたしは言葉を投げ込みます。 思い思いの声を、 言葉として詰め込むのです。 愛とは、 そういう儚さから生まれてくるものですから。
私の人生は言葉と共にあります。 生まれてきて、 言葉を忘れたことは一度もありません。 話せるようになってから、 常に社交的な人であり続けようとしました。
しかし、どんなものにも限界はあります。 私の糸は、完全に千切れてしまったのです。 –––– それはふとした���間でした。 嗚咽して、泣き喚く。 暗黒の日々が始まりました。 人はいなくなり、孤独に這い回る。 私に希望なんてありませんでした。 そんな状態でも、 言葉だけは手放せませんでした。 本は手放せても、 言葉だけは手放せませんでした。
フォトジェニー
突然の宣告。 –––– 余命一ヶ月。 僕には「一瞬一瞬を大切に生きろ」という医師からの“最後の使命”が与えられた。
病院からの帰り道、僕はフィルムカメラを購入した。 五千円と八パーセントの消費税。 懇意にさせてもらっていた店主のもののお下がり。 これが僕の希望だった。
それから…… 僕は一心不乱にあらゆる景色を収め続けた。 美しいものも、汚いものも。 近すぎるタイムリミットに翻弄されながら。 僕の病状は刻々と悪化していった。 二十日も経たぬうちに、その足で歩くことさえも身体は拒絶し始めた。
それでも…… 写真だけは止められなかった。 髪は抜け落ち、少し動くだけで全身に激痛が走る。 逃れられぬ宿命と闘いながらも、僕は“希望”に全精力を注ぎ続けた。 生きろ、生きろ、あともう少しだけ生きさせてくれ…… 僕はもう来ないかもしれない明日にすべてを託す。 きっと大丈夫。 –––– 翼はまだ錆びついてなんかない。
田舎者のオキテ
ある朝、僕は電車に乗った。
どんどん人は増えていき、 車窓から見える景色には見たこともないビルが立ち並んでいる。
人混みは空虚だ。
電車に乗っているうちに、 そんな気持ちに駆られてしまうことがよくある。
無表情でスマフォに向かっている君! 僕は今、君に話をしてるんだ。
「何も知らねえくせに、俺に口出しするんじゃねえよ」
ヒップホップに夢中の男はそう言って僕を睨みつける。
たしかに、そうだ。 僕は何も知らない。 何も知らないから、君に質問する。
「僕はどこへ行けばいいんだい?」
僕がこう言うと、男はそれを無視してまた自分の世界に浸り混んでしまった。 田舎者に頼れる者は、底なしの勇気と、根拠のない知恵だけ。 そのことを身を以て感じた瞬間だった。
無音
電車に乗ってるとさ、 やけに汚いビートが響いてくんだ。 切れたり、いきなり大きくなったり。 わけわかんねえよな。 「うるさい」っていう人もいねえ。 俺も結局は勇気がなくって、 なんも言えなかった。 あいつは何がしたいんだろう? 自分の耳を痛めつけて、 人の才能を自分のモノだと思い込んで、 満足げに座っている。 満面の笑みを浮かべている。 酔いつぶれて、 昨日も飲んだから未だ二日酔いで、 まるでトランスしたかのごとく、 あいつの耳から漏れるビートを見つめている。 イヤフォンの線、切れてるぜ? ひとりの男がつぶやくが、ヤツは音楽に夢中で気付かない。 俺は目的の駅に着くと、 何も言えない自分が恥ずかしくなって、 さっさと電車を飛び出しちまった。 情けない話だよな。 ほぼほぼ言い出しっぺみたいなもんなのに、 誰にも聞こえない舌打ちしか出来ない。 こんな部屋でしか本音さえも言えないんだぜ? ……あいつの方が俺なんかよりよっぽど立派かもな。
英雄の中の英雄
ヒーローたちの闘いが終わると、 寂しげな音楽に合わせてスタッフロールが流れる。 そこにいつも表示されていたこの文字。 ひらがなだから、すぐに覚えてしまう。 子どもでも、大人でも。 いのくままさおと同じだ。 キャメラマンのいのくままさおさん。 この御方、つい最近まで現役だった。 ずーっとヒーローたちを撮り続けてきた。 支え続けてきた。 ヒーローの中のヒーローって、こういう人なのかもしれない。 昭和から平成へ、平成から令和へ。 ただの少年でも、ヒーローになれるんだ。 勇気を、希望を、そして何より…… 夢を子どもたちに与え続けてきた。 そして、いつしかヒーローはみんなのものになった。 子どもから大人まで、 みんながヒーローを愛している。 ヒーローに触れている。 かつては「ヒーローが好き」ということ自体が恥ずかしかった。 「こんな歳で?」という声が怖かった。 でも、今なら言える。 ヒーローが好きだ、と。 今だから叫べる。 僕はヒーローと共に飛びたい。–––– もっと高く、もっと遠く。 明日も、明後日も。
凛
わたしに「凛」なんて求めないでください。 わたしはわたしのままで居たいのです。 わたしらしく居たいのです。 わたしに嘘を吐きたくないのです。 わたしがわたしで生きられる世の中を作ってください。 わたしがわたしで居ようとするからといって罵倒するのは止めてください。 わたしはそんなに異様ですか? わたしのことがそんなに嫌いですか?? わたしたちの存在がそんなに憎いですか??? わたしの質問に答えてください。 わたしはあなたのことを「許さない」と言っているわけではありません。 わたしはあなたのことを知りたいと思っているのです。 わたしに「らしく」なんて求めないでください。 わたしにはわたしのわたしらしさがあるのです。 わたしがセーラー服を着ていたら。 わたしを罵倒するんでしょうね、あなたは。 わたしはわたしらしくいたいだけなのに。 わたしなんてその程度の人間ですよ、所詮。 わたしが嫌いなら消してしまっても構わないんですよ。 わたしをサンドバッグにしてもらっても全然構わないんです。 わたしのことがそんなに嫌いなら、いっそのこと殺してください。 わたしが殺されたら、それで満足なんでしょう? わたしがいなくなっても困らないんでしょう?? わたしって、あなたにとってはその程度の存在だったんですね。
–––– こんな奴、とっとと消えてしまえばいいのに。
自慢話
ねえねえ、こんなことあったんだよ! あの人が来てね、こんな話をしてくれたんだよ!! うちの専攻、これがすごいだよ!!!
うっせえんだよ、そんなの調べりゃわかるんだよ。 黙れよ、ほんとは未読無視してぇんだよ。
あんたのことが世界で一番嫌いなんだ。 ぶっとばしてえんだよ。 殺してえんだよ。 スナイパーライフルがあったら、きっと即狙ってる。 その程度のやつにアタシの人生狂わされてた。
なにがサイバーパンクだって? 貴様のパンクはパンクって言わねえんだ。 そんな腰抜けに何が出来るって言うんだ。 あんっ? 言えるもんなら言ってみろよ。 その雄弁で間抜けな口でさあ。 自慢話してる暇があったら動けよ。
その足で、その口で、全身で表現してみろよ。 ふふっ、ナメないでくれる??
ぶっとばしてやるから。 次逢うとき、覚えてろ。
18
去年の夏 空(くう)が死んだ それから すべては変わった
平穏な日常 ささやかな幸せ すべては失われていった
祖母は変わってしまった 認知症が刻々と進む これまでの常識も 忘れてしまい 家族は途方に暮れていた
親友を失い 我が家へ迷いこんだ祖母を ちっぽけな意志で除け者にした そんな俺だった
「ごめんね、迷惑をかけて」 その声があまりに辛かった だけど俺は限界だった 涙に暮れたあの夏
- あれから一年が経って 少しずつ日常が還り 誤魔化しながらも 普通に生きられる 倖せを噛みしめるようになった
電話が鳴る度 嗚咽した去年の夏 着信音さえトラウマになって 静かに切られた電話線
ずっと続くのか…… 死ぬまで続くのか…… 時間が母を悩ませる
「ごめんね、迷惑をかけて」 今はみんなに謝りたくて でもプライドが許さない 情けないほど弱い俺だけど
自分を見繕うことだけは 他人より少しだけ自信がある 自慢にならない事を自慢と 言い換えて意思を押し付けてた 気付かぬうちに
「ごめんね、迷惑をかけて」 今はあなたに謝りたくて 言い訳なんかもうしない あなたに出逢えてよかった
人生という荒波の中 ヒトは後悔をいつも背負っている 俺は永遠に罪を背負って生きる 過去という十字架を
涙に暮れたあの夏から 俺は変わってしまった
鬱
ひゅーん、ばーん。 今年も花火大会が始まる。 ユーラシア大陸に届けとばかりに、 何万発といった火花が夜空に散っていく。 この季節になると、僕は憂鬱になる。 今年も彼女は出来なかった、 来年もきっと彼女は出来ないだろう、と。 夜に耳栓をしたくなる。 屋台も、花火も、全部なくなってしまえばいいのに。 フランクフルトも、わたあめも、全部いらない。 豆粒のような人たちが、今年も無邪気に笑っている。
ひゅーん、ばーん。 今年も花火大会が始まる。 豆粒のような人々は現実となり、 僕の目の前で躍動している。 なんと、僕に彼女が出来た。 –––– 言うまでもなく、人生最初の彼女だ。 彼女はこの世で最も美しいとさえ思えた。 浴衣も、お洋服も、よく似合う。 僕にとってのミューズだった。 いつか出来ると願いつつも、もう半分諦めていた恋。 叶ってしまった、この歳で。 はじめての青春。 二十歳の夏、僕は君に恋をした。 「諦めなければ夢は叶う」って、君が教えてくれたんだ。
瞿麦(Cool-Baku)
それは、可愛げのあるもの。 それは、使い勝手の良いもの。 それは、一生を共にできるひと。
街は変わりました。 この数十年で。 ビルは立ち、自然が失われる。 まるで、歴史を塗り替えていくかのように。 発展と破壊はいつも背中合わせです。 擦り合わせても、妥協しても、結局は離れられないのです。 いけません、地球が泣いています。 そのまま続けるのです、国家元首は叫んでいます。 僕らが声を挙げられるツールはあるのでしょうか? いえ、ありません。 –––– 正確にはひとつだけあります。しかし、声を挙げるにはリスクが大きすぎるのです。 小さなパンと、薄いスープが僕らの主食です。 不幸自慢をするわけではありませんが、これだけしか許されません。 お金はあります。 でも、お金があることを知られると、すべてを奪われてしまうのです。 今が満足、今で満足。 果てしなく自分を言い聞かせてみましょう。 すると、あら不思議。 まるで満足したような気になるではありませんか。 これが一家円満の秘訣です。 余計なことなんてしなくてもいいのです。 さあ、一緒に幸せになりましょうよ。
♡♡♡
「カラータイマーみたいなヤツが、実際にあったらいいのにな」 僕らはついつい無理をしすぎて、 余裕という名前の宝をどこかへ置き忘れてしまう。 そして、 いつしか趣味の愉しみ方さえも忘却の彼方へ……
「そんなのつまらないと思わないかい?」
誰かの言葉が響こうとも、 それは大して実績のない輩だからと、 まるで何も言っていないかのように無視をする。
青空は曇り空へと変貌し、 無意識のうちに、 自らの両足には重くて堅い枷が縛り付けられていた。
もはや、 僕らに何かを叫ぶ力なんてない。
そこにあるのは、 “堕落した自尊心”のみ。
「僕らは一体何処へいく?」と空へ紙ヒコーキを飛ばしても、 返ってきたのは空虚なやまびこだけだった。
★(Black Star)
暗黒街から抜け出して、 この翼で宙を舞い、 愛に向かってまっしぐら、 俺は俺のままでいい、 たまにはワガママもいいじゃない、 いっそ、 嫌いなあいつをぶっ飛ばしてもいいじゃない、 この歌で、 この音楽で、 このステージで、 僕にはスーパーヒーローになんてなれない、 だったら、 ダークヒーローになればいいじゃない、 黒い星になって、 ヒーローと背中合わせで、 互いの意志を叫んでみよう。
Boot Schwarzenegger
似ても似つかぬコスプレをして、 面白くもないモノマネで聴衆を笑わせて、 同調圧力でウケているのにも気づかず、 まるで銀幕スターになったかのように、 満面の笑みを浮かべている。
週刊誌は絶えずカメラという名の銃を向け、 彼も常にそのカメラをロックオンし、 無言の戦争が今日も始まる。
ニセモノなのに、 ホンモノのように振る舞う君。
あれ、 ホンモノって、 どっちなんだろう?
わかりきっているくせに、 ワイドショーはヒステリックに嗚咽する。
#シュウカツ
埃だらけのアルバム 捲ってみれば あなたと過ごした日々 眩しく光る
純情な日々 みなぎる若さは 今の僕らに 無縁だけど……
何度も喧嘩して 何度も微笑んだ日々 青春の終わりが見えてくると 当たり前が輝きだした
別れの日に 涙は要らない 笑顔で送り出してくれ いつまでも泣いてちゃ 君らしくない いつかまた逢えるから
いとしさ せつなさ ぜんぶ閉じ込め 君に最後の愛を ここに贈ろう
青春のときめき 思い出してみれば あなたと暮らした日々 まるで走馬灯
若さに溺れ 何も言い出せず 堂々巡り続けた日々 それも蒼さか?
別れの日に 涙は要らない 笑顔で送り出してくれ クヨクヨすんなよ 君らしくない 必ずまた逢えるから 希望 絶望 ぜんぶ閉じ込め 君に最後の愛を ここに贈ろう
埃を被った小説の 栞はあの日のまま さらば思い出よ 愛しき日々よ さよなら
君と暮らしたこの家 出逢った日に もう一度戻れたとしても やり直したいとは思わない 君が好きだよ この胸に飛び込め 必ず幸せにするから!
別れの日に 涙は要らない 笑顔で送り出してくれ 人生の終わりに 涙は要らない 笑顔で送り出してくれ
いとしさ せつなさ ぜんぶ閉じ込め 君に最後の愛を ここに贈ろう
一緒にいてくれて 本当にありがとう
あとがき「詩は究極のサブカルチャー」
泣いて、笑って、怒って。 いっぱいあったよ、この一ヶ月。 まあ、締めくくりというわけではないんですけど。 とても楽しんで書きました。
最初に書いた作品は「♡♡♡」でした。 3日前の夜。 それまで書いてたのを一気にひっくり返して。 ここまで短期集中で書いた作品も珍しい気がします。 わたしは筆があまり速くので……
個人的に、「詩」って究極のサブカルチャーだと想うんですよね。 決してメインにはならないけれど、だからといっていらないわけでもない。 そこに魅力を感じて、ずーっと書き続けてきたわけですが。
これからも一生詩という分野とはお付き合いを続けていこうと思っています。 新しい場所で、新しい仲間と出会って、よりその想いが強くなりました。 わたしの創作活動は、詩から始まった。 原点なんです。詩が。
大好きな詩をみんなに届ける。 これからも、いつまでも。
最後まで読んでくれてありがとう。書いてて、ほんとに楽しかった☺︎
【Credits】 詩集「もしも、昨日の僕をぶん殴れるなら」 企画・文:坂岡 優 Concept by YUU_PSYCHEDELIC Special Thanks to My Family, my friends and all my fans!!
この作品を読んだ人々にささやかな倖せが訪れますように。 もしこの作品が気に入ったら、よければ広めてくださいね。
いつもありがとう。
坂岡 優
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二人の好物がコロッケになった話
タイトルの通りです。二人のコロッケ好きという共通点、偶然なのかどちらかの布教なのか、色々なパターンが考えられますが、どちらも別に好物ではなかったというパターンをつらつら考えた結果です。ネタ被りあったらすみません。
こんなに自分が奥手だったなんて、知らなかった。そういえば、まともに恋愛もしたことがないんだった。 そんな気づきを得たのは、ひとえに最近新しく部下になった3つも年下の少年のせいだった。 もう少し一緒にいたいな、と思ったとき。笑ってほしいな、と思ったとき、とりあえず模擬戦を申し込んでる。そう打ち明けたとき、先輩諸氏はちょっと見たことがないくらい絶望的な顔を晒した。 そんな気は、俺だってしていたんだ。ああ、これたぶん「一般的」ってやつじゃないなって。でも俺と出水で、二人とも「一般的」とはかけ離れた人間なんだから、別にこれでも良くない? そう言い訳したら、「何が『俺と出水』だ」と諏訪さんに怒られた。「まだ『俺と出水』なんてくくれるような関係でもないくせに」というちょっと難しい言い回しで、風間さんに視線で助けを求めたら「付き合ってから言え、ってことだ」とどうでも良さそうに説明してくれた。 まあ、それは確かに。このままじゃ、たぶん「上司と部下」以上にはなれないんだろうな。ただ、強くて、一緒にいると楽しいだけの隊長になって、それじゃやっぱり満足できないと思ったから、俺は出水のこと好きなんだ。恋愛的な意味で。 でも実際のところ模擬戦に誘うのが一番出水が喜ぶんだけど、どうしたらいいんだろう。
作戦室のソファで寝っ転がって私物のスマホをなにやらいじっている出水は、特に用事も無さそうで、ただなんとなく帰るのが億劫なんだろうなって見ていてわかった。そろそろ夕食時で、これを過ぎてしまえば任務もない未成年の隊員が本部をうろうろしているとあまり良い顔をされない時間帯になる。俺もいい加減帰るかと、腰をあげたところだった。 「出水」 「はーい?」 スマホからいとも簡単に目線をはずし、上向いて逆さまにこちらを見上げる。無防備に晒された喉元が真っ白で、手をのばしてくすぐってやりたくなった。もちろんそんなこと、しないけど。できないけど。 「俺、帰るけどお前は?」 一緒に帰るか、という一言には至らなかった。断られたら、寂しい家路になる。 「あれ、もうそんな時間ですか?」 握りしめたままだったスマホに目を向け、それからすっかり帰り支度を整えた俺をもう一度見て、「太刀川さんが帰るならかーえろ」と歌うみたいに言って立ち上がった。 なんだこいつ、かわいいな。 本人にとっては大したことないフレーズにまで(それこそ「カラスが鳴くから」レベルに意味がなくても)ちょっと嬉しくなる俺は本当に単純で簡単だった。 ろくに荷物もない高校生はすぐに身支度を整えて俺の隣に並ぶ。「さ、帰りましょ」と一緒に帰るのを当然のように言った。 互いの家の位置くらいは知っていた。行ったことはないけど。ボーダーの秘密の連絡通路を使って外に出て、それから500mくらい歩いたらもう俺たちの帰り道は別々になる。本部に近い方がいいや、と警戒区域の近くに部屋を借りたこと、特に後悔はないけど、こういう時ちょっと損した気分になる。もう少し遠ければ、出水とそれだけ歩けたのに。うちまで送るって言ったらちょっと過保護だろうか。でも、出水の家はわりと街の中心部に近くて賑やかなとこだし、高校生男子を送るほどの距離でもない。でもまがりなりにも部下だしな。そんな打算を頭で巡らせながら、出水と歩くほんの少しの距離。 古い商店街は、半分くらいシャッターが降りていて、店の明かりよりも古めかしいデザインの街頭の方が煌々と地面を照らしていた。時間も時間だけど、それより警戒区域に近いこの場所を嫌って店を閉じた人が多いからだろう。それでもなおこの場所にとどまろうという店主たちは逆に図太い人間が多い。同じように図太くこの辺りに住み続ける地元住民やボーダーの人間に、この商店街は重宝されていた。俺も生活用品の買い物はたいていここですませている。 この商店街を抜けたところが、俺と出水の帰り道の分岐点だった。出水と他愛のない話をするこの時間が名残惜しくて、だけど今更この状況で模擬戦に誘うこともできない。「家、寄ってく?」なんてちょっとまだ早い。そもそも人を呼べるようなーーしかも気になる相手を初めて呼ぶような、そんな状態の部屋じゃない。そろそろ洗濯しないと限界だな、と太刀川をして思わせる、そういう惨状だった。 「それで、二宮さんがー……」 二宮の話なんて全く頭に入って来なかったが、話しながら出水の歩調が自然と弱まるのはわかった。もう少しで分かれ道だ。 あー残念だな、でもまぁ、明日どうせ会うんだし。 そう思って、話の区切りがついたあたりでじゃあな、と別れる準備をした、その時。 唐突に思い出した。そういえば、こいつら明日からテスト週間じゃないか? 明日からしばらく大学生中心の編成になると、風間さんから編成表を受け取ったばかりだった。テスト週間だって構わず本部で遊んでる米屋と違って、出水は食堂で勉強していることはあっても隊室に来る頻度はぐっと下がる。それに今日見た編成の感じだと、俺の方が任務についていてほとんど本部の中にはいないだろう。そう思ったらつい、何も考えずに口が開いていた。 「ちょっと待て」 おつかれっしたー、と何の未練も無さそうに爪先を俺と別の方向に向けようとする出水の腕をつかむ。 「はい?」 といっても特に用事はないんだった。 あー、と無意味に誤魔化して、そうしてふっと鼻先をくすぐったのは、胃を刺激する油の匂い。身体に悪そうなものに、人は無条件で引きつけられる。食べ盛りの想い人を引き留めようとしている、俺みたいな人間は特に。 「──腹、空かね?」 出水は一瞬理解が追いつかなかったようだった。口をぽかりと開けて、だけどすぐににやりと笑って「空きました!」と腹に手を添えて良い返事。よしよし、と思惑通りの答えに満足する。 錆び付いたシャッターの降りた隣の洋品店に対して、その総菜屋は未だに裸電球が店頭で明々としていた。保温器のオレンジの光も相まって、商店街の終点にしては視覚的に賑やかだ。中を覗いてみるとさすがにこの時間にトレーの上に残っている品は普通のコロッケ一種類。ガラスケースの上には、段ボールに「半額!!」とマジックで大きく書かれた看板が立てかけられている。 「これでいい?」 指さして聞くと、「もちろん」と出水は目を細めて大きく一つ頷いた。 「おばちゃん、コロッケ2個ちょうだい」 店の奥で隅っこに置かれた小さなテレビに目をやっていた総菜屋のおばちゃんは、そこで初めて俺��ちに気が付いたように「はいはい」とリズミカルに言ってこちらにやってくる。 「あんたたち、ボーダーの子かい?」 にこにこ笑いかけられて、思わず大きく一つ頷けば、「いつもありがとね。お疲れさま!」とちょっとびっくりするくらい大きな声で言われて、形が崩れたコロッケをもう一つおまけしてくれた。 「わ、ありがとうございまーす!」 すかさず礼を言う出水は要領が良くて、俺も続けて「ありがとうございます」と頭を下げる。やっぱり年上だし、隊長だし、落ちついて聞こえるように意識して。 そのまま出水を見たら、ちょうど目があって思わずふたりで笑ってしまった。おばちゃんに労われたことも、コロッケをおまけしてもらったことも、出水と目があって、それから二人で笑えたことも、出水と二人で共有することが、一つずつ増えていくのが嬉しくておかしい。 「うわ、うまそ」 四つ辻の斜向かいにある小さな公園の、ブランコに腰掛けてビニール袋を広げると、むわっとかぐわしい油の匂いが広がった。 「ほら、落とすなよ」 「太刀川さん、おれのこと相当子どもだと思ってるよね」 拗ねるような台詞なのに、どこかくすぐったそうにするから、そうできるうちは思いっきり甘やかしてやりたくなる。それほど遠くない未来に、甘やかすだけで収まらなくなるだろうけど。 少し離れたブランコの間。コロッケの挟まれた紙包みを、手を伸ばして出水に差し出す。出来立てというわけではなかったけれど、しっかり保温されていたコロッケからは十分熱が伝わってきて、掌は熱かった。 受け取ろうとした出水の指先が袋に触れて、小さく「あつ、」と漏らしたのが、俺の手のことだと一瞬勘違いしそうになった。慌てて手を引こうとして、袋を取り落としかけたのを、出水が立ち上がって、俺の手ごと両手で掴んで事なきを得る。 「あ、ぶなー」 おれに落とすなって言っといて!って抗議されて、全然、年上の威厳なんて無くてちょっと情けないけど、全面的に俺が悪いから「すまん」と素直に謝る。出水は、 「うそうそ、おれも、ちょっとびっくりして、受け取りそこねちゃったから」 すみません、と、俺の手を両手で包んだまま、前髪の触れそうな至近距離で笑った。
コロッケは魅惑の匂いに違わず、残り物とはいえ衣はさくさく、中はほくほく実にうまかった。コロッケってのは、作るのは面倒なわりに子どもにはさほど喜ばれないので、家庭で作るにはいまいちハードルが高いらしい。���謂「和食」が食卓に上ることが多かったうちでは、余計にコロッケが食事のメニューに取り入れられるのは稀だった。 「コロッケなんて、久しぶりに食べたかも」 「うちも。母さん油使うの嫌がるし、姉ちゃんも揚げ物ヤダっていうから」 母さんと姉ちゃんがそうなったらもう、おれと父さんの意見とかないも同然なんですよね、と出水は大げさに肩をすくめてみせた。 「久しぶりに食べると、こんなうまかったっけってなるよな」 「はい」 話しながら、その合間に出水は少しずつコロッケをかじっていく。コロッケはそれなりにボリュームがあったけど、俺の口なら三口くらいで食べ終えてしまえる。だけど出水の口だと、その三倍くらいかかりそうだった。まだできあがっていない薄い身体と同じように、薄い唇と真珠みたいな小さめの歯の向こうに少しずつコロッケがかじられて消えていく。早々に自分の分を食べ終えたおれはその様子をリスみたいだな、と思いながら見守っていた。 ようやく出水が一つ食べ終わったとこで、おまけにもらったもう一つを半分にして二人でわけた。ちょうどその時、商店街で唯一未だ明かりの点っていた例の総菜屋の明かりが消えて、残されたのはアーケードの上に掲げられている街灯だけになった。そこからも距離のあるこの公園はいっそう暗くなる。その薄暗がりの中で、出水の明るい髪色と白い肌が幽霊みたいに浮き上がって見えた。だけどその、幽霊みたいに色彩の薄い後輩が、俺の手元にあるコロッケの片割れをもぐもぐ小さな口で、機嫌良さそうに頬張っている。その姿にギャップがありすぎて、だけどこういうとこも好きだな、とひそかに思った。そんなことをぼんやり考えながら、自分の分を口に入れる。一口で食べてしまえるサイズだった。
ようやく出水の試験期間が終わり、日常が戻ったその日の夜。やはりだらだらと居残っていた俺たちは、同じタイミングに本部を出て、俺はやっぱり進歩なく、出水を引き留める算段を頭の中でしていた。同じ手を使うのは、ちょっと芸がないかな、と思いつつ、それでも商店街を抜けるあたりで隣歩く出水を窺うように歩調を緩めるのを止められなかった。今日は昼飯、何食べてたっけ。国近の持ってきたおやつを、どのくらいつまんでた? 気分じゃないとか断られたら、しばらく立ち直れないかもしれない。 「太刀川さん」 そんなふうに頭を悩ませている俺の上着の袖を、出水が控えめに引っ張ってへらりと笑った。その人差し指が指さす先には、商店街の終着点、煌々と光を宿した例の総菜屋。 「お腹、減りません?」 「──減った、減ってる」 「こないだのお礼に、奢るから食ってきましょ」 ああ、ほんとうに、出水ほど俺のことをわかってるやつはいない。
「いいよ、俺上司だし、年上だし」 「いいからいいから、給料出たばっかだし、遠慮しないでください」 浮ついた声で言いながら出水の見ている保温ケースの中には前回よりも多く総菜が残っていた。コロッケに限らず、唐揚げやらメンチカツやらがいくらか残っている。店のおばちゃんに、「この間おまけしてくれたから」と出水は先に父親へのおみやげだと言って唐揚げを包んでもらっている。 「じゃあ、コロッケで」 「え、良いんですか? 遠慮してます?」 それも多少はあったけど、最初にお前と食べたコロッケの味が忘れられないからってのが本当のところだった。だけどそんなことうまく伝えられる気もしなかったから、「前食べたらうまかったからいいんだ」と肝心なところだけ抜いて返した。 「ふーん、じゃおれもそうしよ。すみませーん、それとコロッケ2つ追加で。すぐ食べちゃうからパックじゃなくて紙でね」 出水の言葉に、総菜屋のおばちゃんは「仲良しでいいわね」なんて笑ってた。それから「また来てね」と。出水はそれに「はぁい」と、年上に甘える例のちょっと母音をのばすような発音でそう答えた。そうか、出水的にはまた次があるらしい。それなら今度はもうちょっと気軽に誘えるな、と俺は下心ばかりの頭で考えていた。これで模擬戦以外の手札が増えたぞ、と諏訪さんや風間さんに心の中で勝ち誇る。 それ以来、やっぱり諏訪さんに絶句されるくらい今度は馬鹿みたいに帰り道にその総菜屋に寄りまくった。もちろん、俺にも出水にもそれぞれの付き合いがあり、俺の会議が長引く時もあれば出水が同学年の連中とランク戦をして居残ることもあったから、そう毎日というわけでもない。だけど帰るタイミングが合った時には必ずと言っていいほどそこへ行き、二人でコロッケを頬張った。10回目くらいにあの気の良いおばちゃんが心配そうに他の総菜を薦めてくれた時にはちょっと申し訳なくなった。でもやっぱり、俺は出水と食べるときにはあの時と同じコロッケを食べたかった。
それは、ちょうど15回目のコロッケを食べた頃だった。 広報用の雑誌に載せるから、とプロフィールの記入用紙が配られたのはもう少し前の記憶で、すっかり忘れ去られていたそれを出水が積み上がった資料の中から発掘してきたのだ。その資料こそ、俺が今苦しめられているレポートに使われるはずのもので、ちなみに集めるだけで満足して放置していたせいでまだほとんど目を通し切れていない。 「太刀川さん、これまだ提出してなかったんですか」 資料の整理を手伝ってくれていた出水が人差し指と親指でつまみ上げたアンケート用紙をヒラリと揺らす。 「バッカお前、今それどころじゃないだろ、明らかに」 「いやー、でもこれ今日締切ですけど」 「見なかったことにしろ」 「うわ、さすが隊長、模範解答」 出水の皮肉に応じる時間も惜しいほど、今はせっぱ詰まっている。特に考える必要もないくらい簡単なアンケートだが、だからこそ余計に意識を割くのがもったいない。その上締切を延ばしてくれとも言いにくい。 完全にキャパシティをオーバーしている自隊の隊長を後目に、出水は申し訳程度の資料の整理も終えて暇そうにソファに横たわっていた。他人事の顔で眠そうにこちらを眺めている。この様子じゃ自分の分はとっくに提出しているらしい。 「ああ、じゃあお前書いといてくれよ」 「えええ、無理でしょ」 単なる思いつきだが、それはなかなか良いアイデアに思えた。 「いや、いける。お前、俺のことならだいたい知ってるだろ」 「そりゃまあ、それなりに?」 「最後にチェックはするから。それで、もし間違いなかったらなんか奢ってやるよ」 お前が俺のことどれだけわかってるか、テスト。 一足先に学期末のテストを終わらせた高校生への恨みも込もっていたのだけど、その部分は通じなかったらしい。「奢る」の一語を聞いて出水は途端に目を輝かせた。 「マジすか。やります」 この変わり身の早さはいっそ気持ちがいい。勢いよく身を起こして用紙に向き合った出水は、時々悩むように首をひねりながら、それでも少しずつ空欄を埋めていった。 あの公園で、互いの話をさんざんした。他愛のない話ばかりだったから、「知ってるだろ」なんて嘯いておいて本当はどれだけ出水の記憶にとどまってるか定かじゃない。それでも、今出水が俺のことを思い出そうと思って、あの公園での時間を思い返してくれているなら、それはそれで嬉しかった。 レポートも徐々にだけど進んで、完成にはほど遠いものの見通しがつき始めた頃、「できました!」と高らかな宣言が上がった。 差し出されて目を通した記入用紙にはやや右上がりで角張った出水の筆跡で、見慣れた俺のプロフィールが書かれていた。 出水の字で「太刀川」って書かれてるのが、なんか良い。 内容とは関係ない部分に浮かれつつ、「好きなもの」の欄に目が止まる。 「うん?」 「違うとこ、ありました?」 「いや、お前この『コロッケ』って」 「え? 太刀川さん、好きでしょ」 あれだけ美味そうに食べてるんだから。 何を当たり前のことを、とでも言うように首を傾げた出水の髪がふわりと揺れる。 「うーん、ちょっと違うような違わないような」 「何それ」 「いや、好きじゃないわけじゃないんだけど」 「おれも『コロッケ』って書きましたよ。だからいいでしょ」 「何が『だから』なのか全くわからん。……でもまあ、良いよ。お前がそう言うなら」 そうか、お前も好物コロッケにしたのか。同じ物が好きって、しかもそれが公表されるってちょっと良いんじゃないかと頭の沸いたようなことが過ぎってしまった。諏訪さんたちに知られたら「小学生か!」とそれこそ詰られそうな甘酸っぱいことが。 「じゃあ、せいかい?」 「正解正解」 95点くらい。付け加えると、「何だよそれ!」と不服の声が上がる。 本当は、その項目に「出水公平」と冗談でも書いてくれれば満点をやってついでに花丸もつけて、いくら奢ってやったって良いくらいだったけど。それにはまだ少し言葉が足りない。15回コロッケを一緒に食べたって、それで伝わるほど甘くはないと知っている。 でも、出水が自分の好きなものに「コロッケ」と書いた理由の中に、俺と同じ気持ちが少しでもあるなら、16回目には伝えても良いかもしれない。 俺別に、コロッケが特別好きだったわけじゃないんだよ。普段わざわざ買って食べたりしないし。あの時食べたのだって半年ぶりくらいのレベル。それでも好物だってお前が思うくらい美味そうに見えたんだとしたら、別に理由があるんだよ。なあ、なんでかわかる?
* * *
高校生は今日もやかましい。 食堂でうどんを食っている俺の背後から、耳に馴染んだ声が聞こえた。 「今日の1限の化学でさぁ、」なんて俺にはわからない学校生活の話をするのは確かに出水の声だった。どうやら俺には気がついていないようで、連れ立ってきた米屋たちとともに俺のいるテーブルから少し離れた席にガタガタと腰を下ろす音が聞こえた。ランク戦に夢中になって昼飯を逃した俺はともかく、昼食にも夕食にも半端な時間だ、任務前の腹ごしらえだろう。トレーをテーブルに置く音じゃなくて購買で買ったらしき物をビニール袋から取り出すガサガサという音が耳に入ってきた。 声をかけても良かったが、どうせこの後任務でも会うし高校生の会話に割って入るほどの用事もない。何より、太刀川隊にいる時の出水と高校生組で連んでいる時の出水には微妙な違いがあって、自分の前ではあまり見せない気軽さとか粗暴さとか、傍若無人さとか、そんなものを遠くから眺めるのが、俺はひそかに好きだった。 「ーーだから言ったじゃん、ぜってぇ無理だって」 「やーイケると思ったんだけどなぁ」 なんてだらだら続ける会話の合間にパッケージをあけて「あ、これ新作じゃん」なんて物色する声も聞こえる。興味が次から次へ移り変わって、肝心の会話���内容もおざなりになって取り留めがない。聞いてて飽きない。 「あ、アイス。いつの間に入れたんだよ。ずりぃ」 「ずるくねぇよ、お前も買えば良かったじゃん」 「あのコンビニ寒すぎて、アイスって気分にならなかったんだよな」 「そだっけ?」 「お前と違ってセンサイなの、おれは。年中半袖野郎にはわかんねーよ。でも、人が食べてんの見ると食いたくなるよな」 「こっち見んな、寄んな」 「ケチ」 「お前の一口でけぇんだもん」 「は、そんなことねぇよ」 「佐鳥いっつも泣いてんじゃん」 「人聞き悪いこと言うな」 「いや、マジで一気に半分くらい無くなんじゃん」 「そだっけ?」 「自覚ないの、タチわりぃ」 「うっせ。良いからよこせ」 一連の会話を聞くともなしに聞いていて、あれ? と思う。 俺自身が出水にねだられたことは無いが、出水の一口が大きいイメージは無かった。聞いてて、へぇそうなのか、なんて暢気に思っていたけど、ふと浮かんだ光景にぶわっと違和感が広がる。あいつはいっつもあの小さい口で、ちまちまとコロッケを啄んでいた。俺だったら三口で食べ終わってしまうようなサイズのそれを、時間をかけて、少しずつ。とっくに食べ終わった俺はいつもそれを眺めて待っていて、その分だけ一緒にいる時間が増えた。そう思っていたのに。 座る椅子がガタンと派手な音を立てるくらい、勢いよく振り返る。こちらを向いていた米屋の「あ、太刀川さん、ちっす」、なんて挨拶を意識の端っこで聞いて、だけどそのほとんどはただ一人、こちらを背にして座る、見慣れたふわふわの頭に向けられていた。そのふわふわ頭が、米屋の挨拶につられるようにこちらを振り向く。 「あれ、太刀川さん、そんなとこにいたの」 そんなふうにこっちの動揺なんて気がつきもしない出水も、さすがにこの沈黙と俺の視線を怪訝に思ったのか、自分たちの会話を反芻するように目線を上にあげ。そして「あ、」となんとも間抜けな声を漏らした。 「あは、バレちゃいました?」 悪戯が暴かれた子どもみたいに無邪気に笑う、三つ年下の高校生に問いつめたい。 お前の何が「バレた」って言うの。お前のその「ふり」の話? それともその先にある気持ちの話? 正直言って結局俺は何の確信も、まだできてない。言葉にしないと伝わらないって、自分でも反省したばっかりだ。だからはっきり言ってくれ。 何しろ恋愛初心者で、恋の駆け引きも手管も、何もわかっちゃいないんだから。
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一 はじめに 平成最後の施政方針演説を、ここに申し述べます。 本年四月三十日、天皇陛下が御退位され、皇太子殿下が翌五月一日に御即位されます。国民こぞって寿(ことほ)ぐことができるよう、万全の準備を進めてまいります。 「内平らかに外成る、地平らかに天成る」 大きな自然災害が相次いだ平成の時代。被災地の現場には必ず、天皇、皇后両陛下のお姿がありました。 阪神・淡路大震災で全焼した神戸市長田の商店街では、皇后陛下が焼け跡に献花された水仙が、復興のシンボルとして、今なお、地域の人々の記憶に刻まれています。 商店街の皆さんは、復興への強い決意と共に、震災後すぐに仮設店舗で営業を再開。全国から集まった延べ二百万人を超えるボランティアも復興の大きな力となりました。かつて水仙が置かれた場所は今、公園に生まれ変わり、子どもたちの笑顔であふれています。 東日本大震災の直後、仙台市の避難所を訪れた皇后陛下に、一人の女性が花束を手渡しました。津波によって大きな被害を受けた自宅の庭で、たくましく咲いていた水仙を手に、その女性はこう語ったそうです。 「この水仙のように、私たちも頑張ります。」 東北の被災地でも、地元の皆さんの情熱によって、復興は一歩一歩着実に進んでいます。平成は、日本人の底力と、人々の絆(きずな)がどれほどまでにパワーを持つか、そのことを示した時代でもありました。 「しきしまの 大和心のをゝしさは ことある時ぞ あらはれにける」 明治、大正、昭和、平成。日本人は幾度となく大きな困難に直面した。しかし、そのたびに、大きな底力を発揮し、人々が助け合い、力を合わせることで乗り越えてきました。 急速に進む少子高齢化、激動する国際情勢。今を生きる私たちもまた、立ち向かわなければならない。私たちの子や孫の世代に、輝かしい日本を引き渡すため、共に力を合わせなければなりません。 平成の、その先の時代に向かって、日本の明日を、皆さん、共に、切り拓いていこうではありませんか。 二 全世代型社会保障への転換 (成長と分配の好循環) この六年間、三本の矢を放ち、経済は十%以上成長しました。国・地方合わせた税収は二十八兆円増加し、来年度予算における国の税収は過去最高、六十二兆円を超えています。 そして、この成長の果実を、新三本の矢によって、子育て支援をはじめ現役世代へと��胆に振り向けてきました。 児童扶養手当の増額、給付型奨学金の創設を進める中で、ひとり親家庭の大学進学率は二十四%から四十二%に上昇し、悪化を続けてきた子どもの相対的貧困率も、初めて減少に転じ、大幅に改善しました。平成五年以来、一貫して増加していた現役世代の生活保護世帯も、政権交代後、八万世帯、減少いたしました。 五年間で五十三万人分の保育の受け皿を整備した結果、昨年、待機児童は六千人減少し、十年ぶりに二万人を下回りました。子育て世代の女性就業率は七ポイント上昇し、新たに二百万人の女性が就業しました。 成長の果実をしっかりと分配に回すことで、次なる成長につながっていく。「成長と分配の好循環」によって、アベノミクスは今なお、進化を続けています。 (教育無償化) 我が国の持続的な成長にとって最大の課題は、少子高齢化です。平成の三十年間で、出生率は一・五七から一・二六まで落ち込み、逆に、高齢化率は十%から三十%へと上昇しました。 世界で最も速いスピードで少子高齢化が進む我が国にあって、もはや、これまでの政策の延長線上では対応できない。次元の異なる政策が必要です。 子どもを産みたい、育てたい。そう願う皆さんの希望を叶(かな)えることができれば、出生率は一・八まで押し上がります。しかし、子どもたちの教育にかかる負担が、その大きな制約となってきました。 これを社会全体で分かち合うことで、子どもたちを産み、育てやすい日本へと、大きく転換していく。そのことによって、「希望出生率一・八」の実現を目指します。 十月から三歳から五歳まで全ての子どもたちの幼児教育を無償化いたします。小学校・中学校九年間の普通教育無償化以来、実に七十年ぶりの大改革であります。 待機児童ゼロの目標は、必ず実現いたします。今年度も十七万人分の保育の受け皿を整備します。保育士の皆さんの更なる処遇改善を行います。自治体の裁量を拡大するなどにより、学童保育の充実を進めます。 来年四月から、公立高校だけでなく、私立高校も実質無償化を実現します。真に必要な子どもたちの高等教育も無償化し、生活費をカバーするために十分な給付型奨学金を支給します。 家庭の経済事情にかかわらず、子どもたちの誰もが、自らの意欲と努力によって明るい未来をつかみ取ることができる。そうした社会を創り上げてこそ、アベノミクスは完成いたします。 子どもたちこそ、この国の未来そのものであります。 多くの幼い命が、今も、虐待によって奪われている現実があります。僅か五歳の女の子が、死の間際に綴(つづ)ったノートには、日本全体が大きなショックを受けました。 子どもたちの命を守るのは、私たち大人全員の責任です。 あのような悲劇を二度と繰り返してはなりません。何よりも子どもたちの命を守ることを最優先に、児童相談所の体制を抜本的に拡充し、自治体の取組を警察が全面的にバックアップすることで、児童虐待の根絶に向けて総力を挙げてまいります。 (一億総活躍) 女性比率僅か三%の建設業界に、女性たちと共に飛び込んだ中小企業があります。時短勤務の導入、託児所の設置などに積極的に取り組み、職人の三割は女性です。 彼女たちが企画した健康に優しい塗料は、家庭用の人気商品となりました。女性でも使いやすい軽量の工具は、高齢の職人たちにも好んで使われるようになりました。この企業の売上げは、三年で二倍、急成長を遂げています。 女性の視点が加わることにより、女性たちが活躍することにより、日本の景色は一変する。人口が減少する日本にあって、次なる成長の大きなエンジンです。 女性活躍推進法を改正し、このうねりを全国津々浦々の中小企業にも広げます。十分な準備期間を設け、経営者の皆さんの負担の軽減を図りながら、女性の働きやすい環境づくりに取り組む中小企業を支援してまいります。 パワハラ、セクハラの根絶に向け、社会が一丸となって取り組んでいかなければなりません。全ての事業者にパワハラ防止を義務付けます。セクハラの相談を理由とした不利益取扱いを禁止するほか、公益通報者保護に向けた取組を強化し、誰もが働きやすい職場づくりを進めてまいります。 働き方改革。いよいよ待ったなしであります。 この四月から、大企業では、三六協定でも超えてはならない、罰則付きの時間外労働規制が施行となります。企業経営者の皆さん。改革の時は来ました。準備はよろしいでしょうか。 長年続いてきた長時間労働の慣行を断ち切ることで、育児や介護など様々な事情を抱える皆さんが、その事情に応じて働くことができる。誰もがその能力を思う存分発揮できる社会に向かって、これからも、働き方改革を全力で推し進めてまいります。 障害者の皆さんにも、やりがいを感じながら、社会でその能力を発揮していただきたい。障害者雇用促進法を改正し、就労の拡大を更に進めます。 人生百年時代の到来は、大きなチャンスです。 元気で意欲ある高齢者の方々に、その経験や知恵を社会で発揮していただくことができれば、日本はまだまだ成長できる。生涯現役の社会に向かって、六十五歳まで継続雇用することとしている現行制度を見直し、七十歳まで就労機会を確保できるよう、この夏までに計画を策定し、実行に移します。 この五年間、生産年齢人口が四百五十万人減少する中にあっても、多くの女性や高齢者の皆さんが活躍することで、就業者は、逆に二百五十万人増加いたしました。女性も男性も、お年寄りも若者も、障害や難病のある方も、全ての人に活躍の機会を作ることができれば、少子高齢化も必ずや克服できる。 平成の、その先の時代に向かって、「一億総活躍社会」を、皆さん、共に、創り上げていこうではありませんか。 (全世代型社会保障) 少子高齢化、そして人生百年の時代にあって、我が国が誇る社会保障の在り方もまた大きく変わらなければならない。お年寄りだけではなく、子どもたち、子育て世代、更には、現役世代まで、広く安心を支えていく。全世代型社会保障への転換を成し遂げなければなりません。 高齢化が急速に進む中で、家族の介護に、現役世代は大きな不安を抱いています。介護のために仕事を辞めなければならない、やりがいを諦めなければならないような社会はあってはなりません。 現役世代の安心を確保するため、「介護離職ゼロ」を目指し、引き続き全力を尽くします。 二〇二〇年代初頭までに五十万人分の介護の受け皿を整備します。ロボットを活用するなど現場の負担軽減を進めるとともに、十月からリーダー級職員の方々に月額最大八万円の処遇改善を行います。 認知症対策の強化に向けて、夏までに新オレンジプランを改定します。認知症カフェを全市町村で展開するなど、認知症の御家族を持つ皆さんを、地域ぐるみで支え、その負担を軽減します。 勤労統計について、長年にわたり、不適切な調査が行われてきたことは、セーフティネットへの信頼を損なうものであり、国民の皆様にお詫び申し上げます。雇用保険、労災保険などの過少給付について、できる限り速やかに、簡便な手続で、不足分をお支払いいたします。基幹統計について緊急に点検を行いましたが、引き続き、再発防止に全力を尽くすとともに、統計の信頼回復に向け、徹底した検証を行ってまいります。 全世代型社会保障への転換とは、高齢者の皆さんへの福祉サービスを削減する、との意味では、全くありません。むしろ、高齢者の皆さんに引き続き安心してもらえることが大前提であります。 六十五歳以上の皆さんにも御負担いただいている介護保険料について、年金収入が少ない方々を対象に、十月から負担額を三分の二に軽減します。年金生活者の方々に、新たに福祉給付金を年間最大六万円支給し、所得をしっかりと確保してまいります。 こうした社会保障改革と同時に、その負担を次の世代へと先送りすることのないよう、二〇二五年度のプライマリーバランス黒字化目標の実現に向け、財政健全化を進めます。 少子高齢化を克服し、全世代型社会保障制度を築き上げるために、消費税率の引上げによる安定的な財源がどうしても必要です。十月からの十%への引上げについて、国民の皆様の御理解と御協力をお願い申し上げます。 八%への引上げ時の反省の上に、経済運営に万全を期してまいります。 増税分の五分の四を借金返しに充てていた、消費税の使い道を見直し、二兆円規模を教育無償化などに振り向け、子育て世代に還元いたします。軽減税率を導入するほか、プレミアム商品券の発行を通じて、所得の低い皆さんなどの負担を軽減します。 同時に、来たるべき外国人観光客四千万人時代を見据え、全国各地の中小・小規模事業者の皆さんにキャッシュレス決済を普及させるため、思い切ったポイント還元を実施します。自動車や住宅への大幅減税を行い、しっかりと消費を下支えします。 来年度予算では、頂いた消費税を全て還元する規模の十二分な対策を講じ、景気の回復軌道を確かなものとすることで、「戦後最大のGDP六百兆円」に向けて着実に歩みを進めてまいります。 三 成長戦略 (デフレマインドの払拭) 平成の日本経済はバブル崩壊から始まりました。 出口の見えないデフレに苦しむ中で、企業は人材への投資に消極的になり、若者の就職難が社会問題となりました。設備投資もピーク時から三割落ち込み、未来に向けた投資は先細っていきました。 失われた二十年。その最大の敵は、日本中に蔓延したデフレマインドでありま��た。 この状況に、私たちは三本の矢で立ち向かいました。 早期にデフレではないという状況を作り、企業の設備投資は十四兆円増加しました。二十年間で最高となっています。人手不足が深刻となって、人材への投資も息を吹き返し、五年連続で今世紀最高水準の賃上げが行われました。経団連の調査では、この冬のボーナスは過去最高です。 日本企業に、再び、未来へ投資する機運が生まれてきた。デフレマインドが払拭されようとしている今、未来へのイノベーションを、大胆に後押ししていきます。 (第四次産業革命) 世界は、今、第四次産業革命の真っただ中にあります。人工知能、ビッグデータ、IoT、ロボットといったイノベーションが、経済社会の有り様を一変させようとしています。 自動運転は、高齢者の皆さんに安全・安心な移動手段をもたらします。体温や血圧といった日々の情報を医療ビッグデータで分析すれば、病気の早期発見も可能となります。 新しいイノベーションは、様々な社会課題を解決し、私たちの暮らしを、より安心で、より豊かなものとする、大きな可能性に満ちている。こうしたSociety 5.0を、世界に先駆けて実現することこそ、我が国の未来を拓く成長戦略であります。 時代遅れの規制や制度を大胆に改革いたします。 交通に関わる規制を全面的に見直し、安全性の向上に応じ、段階的に自動運転を解禁します。寝たきりの高齢者などが、自宅にいながら、オンラインで診療から服薬指導まで一貫して受けられるよう、関係制度を見直します。外国語やプログラミングの専門家による遠隔教育を、五年以内に全ての小中学校で受けられるようにします。 電波は国民共有の財産です。経済的価値を踏まえた割当制度への移行、周波数返上の仕組みの導入など、有効活用に向けた改革を行います。携帯電話の料金引下げに向け、公正な競争環境を整えます。 電子申請の際の紙の添付書類を全廃します。行政手続の縦割りを打破し、ワンストップ化を行うことで、引っ越しなどの際に同じ書類の提出を何度も求められる現状を改革します。 急速な技術進歩により、経済社会が加速度的に変化する時代にあって最も重要な政府の役割は、人々が信頼し、全員が安心して新しいシステムに移行できる環境を整えることだと考えます。 膨大な個人データが世界を駆け巡る中では、プライバシーやセキュリティを保護するため、透明性が高く、公正かつ互恵的なルールが必要です。その上で、国境を越えたデータの自由な流通を確保する。米国、欧州と連携しながら、信頼される、自由で開かれた国際データ流通網を構築してまいります。 人工知能も、あくまで人間のために利用され、その結果には人間が責任を負わなければならない。我が国がリードして、人間中心のAI倫理原則を打ち立ててまいります。 イノベーションがもたらす社会の変化から、誰一人取り残されてはならない。この夏策定するAI戦略の柱は、教育システムの改革です。 来年から全ての小学校でプログラミングを必修とします。中学校、高校でも、順次、情報処理の授業を充実し、必修化することで、子どもたちの誰もが、人工知能などのイノベーションを使いこなすリテラシーを身に付けられるようにします。 我が国から、新たなイノベーションを次々と生み出すためには、知の拠点である大学の力が必要です。若手研究者に大いに活躍の場を与え、民間企業との連携に積極的な大学を後押しするため、運営費交付金の在り方を大きく改革してまいります。 経済活動の国境がなくなる中、日本企業の競争力、信頼性を一層グレードアップさせるために、企業ガバナンスの更なる強化が求められています。社外取締役の選任、役員報酬の開示など、グローバルスタンダードに沿って、これからもコーポレートガバナンス改革を進めてまいります。 (中小・小規模事業者) 中小・小規模事業者の海外輸出は、バブル崩壊後、二倍に拡大しました。 下請から脱し、自ら販路を開拓する。オンリーワンのワザを磨く。全国三百六十万者の中小・小規模事業者の皆さんは、様々な困難にあっても、歯を食いしばって頑張ってきました。バブル崩壊後の日本経済を支え、我が国の雇用の七割を守ってきたのは、こうした中小・小規模事業者の皆さんです。 新しいチャレンジをものづくり補助金で応援します。全国的に人手不足が深刻となる中で、IT補助金、持続化補助金により、生産性向上への取組も後押しします。 四月から、即戦力となる外国人材を受け入れます。多くの優秀な方々に日本に来ていただき、経済を担う一員となっていただくことで、新たな成長につなげます。働き方改革のスタートを見据え、納期負担のしわ寄せを禁止するなど、取引慣行の更なる改善を進めます。 後継者の確保も大きな課題です。四十七都道府県の事業引継ぎ支援センターでマッチングを行うとともに、相続税を全額猶予する事業承継税制を個人事業主に拡大します。 TPPやEUとの経済連携協定は、高い技術力を持つ中小・小規模事業者の皆さんにとって、海外展開の大きなチャンスです。「総合的なTPP等関連政策大綱」に基づき、海外でのマーケティング、販路開拓を支援してまいります。 四 地方創生 (農林水産新時代) 安全でおいしい日本の農産物にも、海外展開の大きなチャンスが広がります。農林水産品の輸出目標一兆円も、もう手の届くところまで来ました。 同時に、農家の皆さんの不安にもしっかり向き合います。二次補正予算も活用し、体質改善、経営安定化に万全を尽くします。 素晴らしい田園風景、緑あふれる山並み、豊かな海、伝統ある故郷(ふるさと)。我が国の国柄を守ってきたのは、全国各地の農林水産業です。美しい棚田を次の世代に引き渡していくため、中山間地域への直接支払などを活用し、更に、総合的な支援策を講じます。 農こそ、国の基です。 守るためにこそ、新たな挑戦を進めなければならない。若者が夢や希望を持って飛び込んでいける「強い農業」を創ります。この六年間、新しい農林水産業を切り拓くために充実させてきた政策を更に力強く展開してまいります。 農地バンクの手続を簡素化します。政権交代前の三倍、六千億円を上回る土地改良予算で、意欲と能力ある担い手への農地集積を加速し、生産性を高めます。 国有林野法を改正します。長期間、担い手に国有林の伐採・植林を委ねることで、安定した事業を可能とします。美しい森を守るため、水源の涵養、災害防止を目的とした森林環境税を創設します。 水産業の収益性をしっかりと向上させながら、資源の持続的な利用を確保する。三千億円を超える予算で、新しい漁船や漁具の導入など、浜の皆さんの生産性向上への取組を力強く支援します。 平成の、その先の時代に向かって、若者が自らの未来を託すことができる「農林水産新時代」を、皆さん、共に、築いていこうではありませんか。 (観光立国) 田植え、稲刈り。石川県能登町にある五十軒ほどの農家民宿には、直近で一万三千人を超える観光客が訪れました。アジアの国々に加え、米国、フランス、イタリア、イスラエルなど、二十か国以上から外国人観光客も集まります。 昨年、日本を訪れる外国人観光客は、六年連続で過去最高を更新し、三千万人の大台に乗りました。北海道、東北、北陸、九州で三倍以上、四国で四倍以上、沖縄では五倍以上に増えています。消費額にして、四兆五千億円の巨大市場。 観光立国によって、全国津々浦々、地方創生の核となる、たくましい一大産業が生まれました。 来年の四千万人目標に向かって、海外と地方をつなぐ空の玄関口、羽田、成田空港の発着枠を八万回増やします。世界一安全・安心な国を実現するため、テロ対策などの一層の強化に取り組みます。国際観光旅客税を活用し、主要な鉄道や観光地で表示の多言語化を一気に加速します。 来年三月の供用開始に向け、那覇空港第二滑走路の建設を進めます。発着枠を大幅に拡大することで、アジアと日本とをつなぐハブ機能を強化してまいります。 北海道では、昨年、フィリピンからの新たな直行便など、新千歳空港の国際線が二十五便増加しました。雄大な自然を活かした体験型ツーリズムの拡大を後押しします。広くアイヌ文化を発信する拠点を白老町に整備し、アイヌの皆さんが先住民族として誇りを持って生活できるよう取り組みます。 (地方創生) 観光資源などそれぞれの特色を活かし、地方が、自らのアイデアで、自らの未来を切り拓く。これが安倍内閣の地方創生です。 地方の皆さんの熱意を、引き続き一千億円の地方創生交付金で支援します。地方の財政力を強化し、税源の偏在を是正するため、特別法人事業税を創設します。 十年前、東京から地方への移住相談は、その半分近くが六十歳代以上でした。しかし、足元では、相談自体十倍以上に増加するとともに、その九割が五十歳代以下の現役世代で占められています。特に、三十歳未満の若者の相談件数は、五十倍以上になりました。 若者たちの意識が変わってきた今こそ、大きなチャンスです。地方に魅力を感じ、地方に飛び込む若者たちの背中を力強く後押ししてまいります。 地域おこし協力隊を、順次八千人規模へと拡大します。東京から地方へ移住し、起業・就職する際には、最大三百万円を支給し、地方への人の流れを加速します。 若者たちの力で、地方の輝ける未来を切り拓いてまいります��� (国���強靱(じん)化) 集中豪雨、地震、激しい暴風、異常な猛暑。昨年、異次元の災害が相次ぎました。もはや、これまでの経験や備えだけでは通用しない。命に関わる事態を「想定外」と片付けるわけにはいきません。 七兆円を投じ、異次元の対策を講じます。 全国で二千を超える河川、一千か所のため池の改修、整備、一千キロメートルに及ぶブロック塀の安全対策を行い、命を守る防災・減災に取り組みます。 四千キロメートルを超える水道管の耐震化、八千か所のガソリンスタンドへの自家発電の設置を進め、災害時にも維持できる、強靱(じん)なライフラインを整備します。 風水害専門の広域応援部隊を全ての都道府県に立ち上げ、人命救助体制を強化します。 ハードからソフトまであらゆる手を尽くし、三年間集中で、災害に強い国創り、国土強靱(じん)化を進めてまいります。 (東日本大震災からの復興) 九月二十日からいよいよラグビーワールドカップが始まります。五日後には、強豪フィジーが岩手県釜石のスタジアムに登場します。 津波で大きな被害を受けた場所に、地元の皆さんの復興への熱意と共に建設されました。世界の一流プレーヤーたちの熱戦に目を輝かせる子どもたちは、必ずや、次の時代の東北を担う大きな力となるに違いありません。 東北の被災地では、この春までに、四万七千戸を超える住まいの復興が概ね完了し、津波で浸水した農地の九割以上が復旧する見込みです。 原発事故で大きな被害を受けた大熊町では、この春、町役場が八年ぶりに、町に戻ります。 家々の見回り、草刈り、ため池の管理。将来の避難指示解除を願う地元の皆さんの地道な活動が実を結びました。政府も、インフラ整備など住民の皆さんの帰還に向けた環境づくりを進めます。 福島の復興なくして東北の復興なし。東北の復興なくして日本の再生なし。復興が成し遂げられるその日まで、国が前面に立って、全力を尽くして取り組んでまいります。 来年、日本にやってくる復興五輪。その聖火リレーは福島からスタートします。最初の競技も福島で行われます。東日本大震災から見事に復興した東北の姿を、皆さん、共に、世界に発信しようではありませんか。 五 戦後日本外交の総決算 (公正な経済ルールづくり) 昨年末、TPPが発効しました。来月には、欧州との経済連携協定も発効します。 いずれも単に関税の引下げにとどまらない。知的財産、国有企業など幅広い分野で、透明性の高い、公正なルールを整備しています。次なる時代の、自由で、公正な経済圏のモデルです。 自由貿易が、今、大きな岐路に立っています。 WTOが誕生して四半世紀、世界経済は、ますます国境がなくなり、相互依存を高めています。新興国は目覚ましい経済発展を遂げ、経済のデジタル化が一気に進展しました。 そして、こうした急速な変化に対する不安や不満が、時に保護主義への誘惑を生み出し、国と国の間に鋭い対立をも生み出しています。 今こそ、私たちは、自由貿易の旗を高く掲げなければならない。こうした時代だからこそ、自由で、公正な経済圏を世界へと広げていくことが、我が国の使命であります。 昨年九月の共同声明に則って、米国との交渉を進めます。広大な経済圏を生み出すRCEPが、野心的な協定となるよう、大詰めの交渉をリードしてまいります。 国際貿易システムの信頼を取り戻すためには、WTOの改革も必要です。米国や欧州と共に、補助金やデータ流通、電子商取引といった分野で、新しい時代の公正なルールづくりを我が国がリードする。その決意であります。 (安全保障政策の再構築) 平成の、その先の時代に向かって、日本外交の新たな地平を切り拓く。今こそ、戦後日本外交の総決算を行ってまいります。 我が国の外交・安全保障の基軸は、日米同盟です。 平和安全法制の成立によって、互いに助け合える同盟は、その絆(きずな)を強くした。日米同盟は今、かつてなく強固なものとなっています。 そうした深い信頼関係の下に、抑止力を維持しながら、沖縄の基地負担の軽減に取り組んでまいります。これまでの二十年以上に及ぶ沖縄県や市町村との対話の積み重ねの上に、辺野古移設を進め、世界で最も危険と言われる普天間飛行場の一日も早い全面返還を実現してまいります。 自らの手で自らを守る気概なき国を、誰も守ってくれるはずがない。安全保障政策の根幹は、我が国自身の努力に他なりません。 冷戦の終結と共に始まった平成の三十年間で、我が国を取り巻く安全保障環境は激変しました。そして今、この瞬間も、これまでとは桁違いのスピードで、厳しさと不確実性を増している現実があります。 テクノロジーの進化は、安全保障の在り方を根本的に変えようとしています。サイバー空間、宇宙空間における活動に、各国がしのぎを削る時代となりました。 もはや、これまでの延長線上の安全保障政策では対応できない。陸、海、空といった従来の枠組みだけでは、新たな脅威に立ち向かうことは不可能であります。 国民の命と平和な暮らしを、我が国自身の主体的・自主的な努力によって、守り抜いていく。新しい防衛大綱の下、そのための体制を抜本的に強化し、自らが果たし得る役割を拡大します。サイバーや宇宙といった領域で我が国が優位性を保つことができるよう、新たな防衛力の構築に向け、従来とは抜本的に異なる速度で変革を推し進めてまいります。 (地球儀俯瞰(ふかん)外交の総仕上げ) 我が国の平和と繁栄を確固たるものとしていく。そのためには、安全保障の基盤を強化すると同時に、平和外交を一層力強く展開することが必要です。 この六年間、積極的平和主義の旗の下、国際社会と手を携えて、世界の平和と繁栄にこれまで以上の貢献を行ってきた。地球儀を俯瞰(ふかん)する視点で、積極的な外交を展開してまいりました。 平成の、その先の時代に向かって、いよいよ総仕上げの時です。 昨年秋の訪中によって、日中関係は完全に正常な軌道へと戻りました。「国際スタンダードの下で競争から協調へ」、「互いに脅威とはならない」、そして「自由で公正な貿易体制を共に発展させていく」。習近平主席と確認した、今後の両国の道しるべとなる三つの原則の上に、首脳間の往来を重ね、政治、経済、文化、スポーツ、青少年交流をはじめ、あらゆる分野、国民レベルでの交流を深めながら、日中関係を新たな段階へと押し上げてまいります。 ロシアとは、国民同士、互いの信頼と友情を深め、領土問題を解決して、平和条約を締結する。戦後七十年以上残されてきた、この課題について、次の世代に先送りすることなく、必ずや終止符を打つ、との強い意志を、プーチン大統領と共有しました。首脳間の深い信頼関係の上に、一九五六年宣言を基礎として、交渉を加速してまいります。 北朝鮮の核、ミサイル、そして最も重要な拉致問題の解決に向けて、相互不信の殻を破り、次は私自身が金正恩委員長と直接向き合い、あらゆるチャンスを逃すことなく、果断に行動いたします。北朝鮮との不幸な過去を清算し、国交正常化を目指します。そのために、米国や韓国をはじめ国際社会と緊密に連携してまいります。 北東アジアを真に安定した平和と繁栄の地にするため、これまでの発想にとらわれない、新しい時代の近隣外交を力強く展開いたします。 そして、インド洋から太平洋へと至る広大な海と空を、これからも、国の大小にかかわらず、全ての国に恩恵をもたらす平和と繁栄の基盤とする。このビジョンを共有する全ての国々と力を合わせ、日本は、「自由で開かれたインド太平洋」を築き上げてまいります。 (世界の中の日本外交) 中東地域の国々とは、長年、良好な関係を築いてきました。その歴史の上に、中東の平和と安定のため、日本独自の視点で積極的な外交を展開してまいります。 TICADがスタートして三十年近くが経ち、躍動するアフリカはもはや援助の対象ではありません。共に成長するパートナーです。八月にTICADを開催し、アフリカが描く夢を力強く支援していきます。 世界の平和と繁栄のために、日本外交が果たすべき役割は大きなものがある。地球規模課題の解決についても、日本のリーダーシップに強い期待が寄せられています。 我が国は四年連続で温室効果ガスの排出量を削減しました。他方で、長期目標である二〇五〇年八十%削減のためには非連続的な大幅削減が必要です。環境投資に積極的な企業の情報開示を進め、更なる民間投資を呼び込むという、環境と成長の好循環を回すことで、水素社会の実現など革新的なイノベーションを、我が国がリードしてまいります。 プラスチックによる海洋汚染が、生態系への大きな脅威となっています。美しい海を次の世代に引き渡していくため、新たな汚染を生み出さない世界の実現を目指し、ごみの適切な回収・処分、海で分解される新素材の開発など、世界の国々と共に、海洋プラスチックごみ対策に取り組んでまいります。 本年六月、主要国のリーダーたちが一堂に会するG20サミットを、我が国が議長国となり、大阪で開催します。 世界経済の持続的成長、自由で公正な貿易システムの発展、持続可能な開発目標、地球規模課題への新たな挑戦など、世界が直面する様々な課題について、率直な議論を行い、これから世界が向かうべき未来像をしっかりと見定めていく。そうしたサミットにしたいと考えています。 これまでの地球儀俯瞰(ふかん)外交の積み重ねの上に、各国首脳と築き上げた信頼関係の下、世界の中で日本が果たすべき責任を、しっかりと果たしていく決意です。 平成の、その先の時代に向かって、新しい日本外交の地平を拓き、世界から信頼される日本を、皆さん、勇気と誇りを持って、共に、創り上げていこうではありませんか。 六 おわりに 二〇二五年、日本で国際博覧会が開催されます。 一九七〇年の大阪万博。リニアモーターカー、電気自動車、携帯電話。夢のような未来社会に、子どもたちは胸を躍らせました。 「驚異の世界への扉を、いつか開いてくれる鍵。それは、科学に違いない。」 会場で心震わせた八歳の少年は、その後、科学の道に進み、努力を重ね、世界で初めてiPS細胞の作製に成功しました。ノーベル生理学・医学賞を受賞し、今、難病で苦しむ世界の人々に希望の光をもたらしています。 二〇二〇年、二〇二五年を大きなきっかけとしながら、次の世代の子どもたちが輝かしい未来に向かって大きな「力」を感じることができる、躍動感あふれる時代を、皆さん、共に、切り拓いていこうではありませんか。 憲法は、国の理想を語るもの、次の時代への道しるべであります。私たちの子や孫の世代のために、日本をどのような国にしていくのか。大きな歴史の転換点にあって、この国の未来をしっかりと示していく。国会の憲法審査会の場において、各党の議論が深められることを期待いたします。 平成の、その先の時代に向かって、日本の明日を切り拓く。皆さん、共に、その責任を果たしていこうではありませんか。 御清聴ありがとうございました。
第百九十八回国会における安倍内閣総理大臣施政方針演説
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「2019年夏コミ大反省会議」
「はい皆さん揃いましたね。それではこれより2019年夏コミ大反省会議を始めます」
「では被告人は被告人席へ」
「えっコレ会議じゃないの?」
さあ始まりました。
という訳で2019年夏コミ大反省会議です。
さけとめくんね、色々反省があるよね。ちゃんと反省していこうね。
や、ちょ、ちゃうんすよ!違うんです!!まずは僕の話を少し聞いてほしい。
あの、まずね、文字数ね。
あれね、完全に見落としてて、「文字数指定ないの久々だな~」とか思いながら書いてたよね。
ウーン被告人を有罪とする。
申し訳ございませんでしたっ!!!
どなた様も夏コミ大変お疲れ様でございました。今年は特に暑かったし4日間だったし南館あるしで色々大変だったりもしたのかなと思っていますが、楽しかったですか?なら良かった。
この夏はふたつ文章を書かせていただきました。
まず、サークル「あおしろ荘」さまの『ノンフィクションコンパス』に、個人的に好きな作品の話を書きました。
半開きの目でラジオ聞いてたらぶっちぎってるという話が聴こえて、慌てて確認したら「4500字くらいで」「じゃあ4500字くらいで」というやりとりがあったよね…。すごい反省しています…。
内容について少し説明しておくと、せーはくさんからお話を頂いた時点で「これは僕が主役じゃなくていいな」と思ったので、文章全体のテーマを「お刺身に乗っているタンポポ」としました。お刺身に乗っているタンポポは勿論主役じゃないし食べられない。けど、お刺身にタンポポが乗っていると…おいしい!!そういうものを目指しました。それから、本のタイトルが『ノンフィクションコンパス』だというお話は最初に頂けていたので、文章の中にノンフィクションコンパスという概念が織り込まれるように意図しています。もっともこういった事というのはあくまで書き手が勝手に意図しているだけのものなので、うまく拾っていただけていたらざまあみろってくらいのもので、そう読めなくても美味しく食べられるお茶請けになるよう努力しました。
「被告人ね、まだ他にも反省あるよね」
「ハイ…」
書く内容については、すごく迷走しました。こういったお話を頂いたときはいつも10個くらいのテーマを挙げてそれぞれ書いてみて、その中からいけそうなものに絞ってゆくのですが、今回は最後の最後まで定まりませんでした。
「で、締切は?」
「本当に申し訳ございません…」
本当に申し訳ございませんでした…
今回せーはくさんには途中稿を含め3つ原稿を送らせて頂いています。有難いことにご本人からOKを頂いたので、その中から第二稿をこの辺に載っけておこうと思います。それではVTR、どうぞ。
「同じ時間を過ごすこと」について
朝靄の内側に校舎がけぶる。音楽準備室の小さな窓から窺う景色は単一の白で、 「上手くいくんかねえ」とごちる私の心象風景に同期する。 ただでさえ狭苦しい屋内の独り言に、 「まあ何とかなるべ」 と返事があった。
ハイこんにちはー!皆さんはアニメ観てますか!?それはどんな作品ですか?楽しいですか?幸せですか? 私には分かりません。
私にはアニメの大半の事は分かりませんが、これだけは断言させていただく。 この世の中のあらゆる映像作品は、たった2つにのみ分類される。
キャラクターのまゆ毛がハの字の作品か、 逆ハの字の作品か。
この世の中のあらゆる映像作品は、その二種類のみに分類されるのです。
こんにちは、まゆ毛原理主義過激派です。皆さんは不幸なことにこの文章をここまで読んでしまいましたね。よかったですね。ドンマイ。元気出してね。 従って、先に主張する我々の主張が「アニメーション作品」を捉える上で避けようのないひとつの真理を 捉えて離さないことは既に皆さんにとっては確定的に明らかであることと思います。
という訳で本日は『映画 けいおん!』の話をします。 不幸な皆さんには申し訳ないが、お付き合い戴く。
そもそも、私は『けいおん!』の熱心なファンではなくて。自分の中のこの作品の記憶を紐解くと、確か冬コミが 近い時期にこの作品のライブイベントが開催されるという話を聴いて、「へえ、奇特な人たちもいたもんだ」という 感想を抱いたところからしか始まらない。いくらなんでもひどくない?でもそうなので仕方ない。ちなみにその冬は勿論元気に有明まんがまつりを闊歩していたのが私である。行こう!有明まんがまつり!(お暇ならで結構です)
けいおん!、本当に全然知らなくて。いや勿論アニメオタクのひとりではある私なので常に新作はチェックしていた筈で、その中に 『けいおん!』を観ていなかった筈はないのだけれど、その記憶は私の中に無くて。…思い起こせば私はいつもそうで、 本作に限らず『~憂鬱』であるとか、『~☆すた!』であるとか、要するに「なんか世間で流行ってる系の作品群は 漏れなく見過ごしてしまうタイプのオタク」が私だったのだと思う。そういうつもりはないのに、何故かそういう作品 だけはピンポイントで見逃してしまう…思い起こせば『ラ〇ライ〇!!』もそうだな…なんでや…
閑話休題。でもない��れど、「見逃してしまう」。それは何故なのか。私は考えた。考えた結果、一つの結論を得た。
それは、「まゆ毛が逆立っている作品を例外なく回避しているタイプのオタク」に自分が分類されている、という認識である。
まってまって。引かないで。あと5秒でいいから私の話を聞いてほしいんです。
ここで改めてご確認いただきたいのは、先に挙げた作品群のキービジュアルである。並べて見てみると改めてよく分かる ひとつの事実。それは、これらの作品たちが例外なく「主要人物たちのまゆ毛を逆立てた作品群」であったということである。 並べてみておじさんもちょっとびっくりした。『けいおん!』は勿論のこと、『~憂鬱』も、『~☆すた!』も、 キービジュアルで目を引くのは「眉を逆立てたキャラクターの目線」だったんです。
これは驚きの事実、では勿論なくて。それはまゆ毛原理主義過激派であれば確定的に明らかな話だったんですけど。
つまり、どういうことかというと(ここで本記事の主張が加速します。ギアを4速に入れろ)、「まゆ毛の在り方がその作品性を決定づける」 ということなんですね。
さて、再度『けいおん!』という作品に視線を向けましょう。この作品はまごうことなき「日常系作品」である、と一般に認識されていると 思います。それは本作の原作が『まんがタイムきらら』誌に連載されていた事(この辺はレトリックですが、その後の作品群を振り返ったときに この定義はおかしなものではないといえるでしょう)、四コマというフォーマットが「繰り返し」というサイクルを持つ普遍性を描くフォーマットである 事、そして、そういう原作を映像化した本作もまた、「繰り返される日常」を描くというフォーマットに基づく映像作品であったといえることに 集約されます。この辺りは面倒なのであんまり細々と話すつもりが無いんですけど、本作の中で「繰り返し描かれる描写フォーマットの構造」 に意識を向けることができれば、このことは理解されると私は思います。
『けいおん!』という作品は、まごうことなき「日常系作品」の金字塔です。にもかかわらず|だからこそ、と前置詞を置いて私は主張します。 「本作は、日常を描いた作品では全くない」ということを主張します。
何故か。何故なんだろな。答えは簡単ですね。「主要人物のまゆ毛が逆立っているから」です。
加速しすぎました。注釈を入れましょう。
そもそも「まゆ毛」とは何か。まゆ毛。皆さんは考えたことがあるでしょうか。
「まゆ毛」とは人の表情の中にあるものの一部で、その人物の感情をよく表わす部位の一つです。そして、それは「普遍的な」感情の流れを表わす 代表的部位として挙げられます。 これに対称的なのは「瞳」でしょうか。よくあると思うんです。「釣り目のキャラクター」「たれ目のキャラクター」という風に登場人物を個性付けし分類すること。あなたにはありませんか?なかったらごめんね?本稿はこのまま加速してゆくのでごめんね?
「瞳」はまゆ毛と同じく人物の感情をとてもよく表わす部位の一つです。しかし、この両者の 間には大きな違いがあります。それは、瞳はさして動かすことが出来ず、一方のまゆ毛はその時々で大きく動かすことが出来るという事です。 あなたは見たことがあるでしょうか。釣り目のキャラクターの眦が下がる瞬間を。また逆に、たれ目のキャラクターの眦が切り立つ瞬間を。 あまり多くは無いと思いますし、「観た」という方は極めて貴重な瞬間に立ち会ったことと思います。いいなあ。いやそうじゃない。その話はしてない。
「瞳」という部位は、人間にとって感情を示す部位であると同時に、大きく動かすことのできない部位でもあります。まぶたの構造を考えたときに、それが 上下方向には動いても、左右方向には動きづらいものであることは自然に理解できるものだと思います。だからこそ、その瞳の形状は「その人物の性格や志向性」とでも 呼ぶべきパーソナリティを持つ。いいですか。瞳というものは「その形状を大きく変えることが出来ない」からこそ、その人物の「人間性」を表わすのです。自分で意識してもなかなか変えることのできないパーソナリティ。性格。「動かせない」からこそ、瞳にはそういった人間それぞれの個性が現れるのであり、それは容易に動かせないからこその個性でもあります。だからこそ、それが変わる瞬間というものは極めて特別な瞬間なのです。何の理由もなく釣り目のキャラクターの眉尻が下がったら、それはただの作画崩壊というものでしょう。
では「まゆ毛」はどうか。まゆ毛というものはキャラクターの感情を描く上では極めて雄弁で、また同時にあらゆるキャラクターにとってその雄弁性が不変なものでもあります。釣り目の子もたれ目の子も、その感情の動きに 基づいて等しくまゆ毛が動きます。例えば嬉しければ眉尻が下がり、例えば怒れば眉根が寄るのです。ここにおいて各キャラクターの「パーソナリティ」は 意味を持ちません。そういったものを越えた普遍的な「感情の導線」を描くのがまゆ毛だからです。これに近い部位としては口角などが挙げられるでしょう。自由に動かせるからこそ、性格などに関係なく「その場面における心理表現」としての感情を表すことが出来る。それがまゆ毛なのだという事が出来ます。 どんな人にとっても自由に動かすことが出来る。だからこそ、ともすれば自分自身ではままならない「性格」みたいな部分を越えて、その人物のその瞬間の 感情が表れる。まゆ毛というのはそういう部位なのです。
さて、面倒な話を終えたので『けいおん!』のキービジュアルの話に戻ります。
何故私はこの作品を回避してしまっていたんだろう…、その理由を私はまゆ毛に求めました。つまり、端的に言ってしまえばその表現が「怒っている風に見えた」みたいなことです。 いや厳密には違って、「アクティブ」とか「前進する気持ち」みたいなものを、当時の私はこのビジュアルから感じていたように思います。それは当時の自分に してみれば、なんだか前のめりな感覚があって、その姿勢に少し引いてしまったのかなあ…みたいな。こういう表現でうまく伝わるのかしら。分かりませんが。
ただ、そういう気持ちを抱きながらこの作品を観ていた私には、それが「誤解だったなあ」ということも観ていてわかったりもしました。その「わかったりしたこと」 というものが、私が(、あっこれ言ってなかった。私めちゃめちゃ『映画 けいおん!』は好きなんですけど)、私がこの作品を好きなのか、ということを捉える上で 大事な部分にもなっていました。
これはとても素朴な質問なんですが、皆さんは、「眉尻があがる」ってどういう時だと思いますか?
その人物にとって、まゆ毛がピンと立つとき…。
色々考えたんですが、私にとってのそれは「非日常に居る時��なのかな、と思うんです。 これは質問ですが、皆さんは当たり前の自分の日常の中で眉尻があがるときって ありますか?…無いんじゃないか、って私は思います。日常の中では心は動かない。眉尻が下がることはあっても、上がることはないんじゃないか。自分の日常を 振り返ったとき、私はそのように思います。そして、これはその認識が正しいという前提から導き出せることでしかないのですが、であれば、眉尻が上がる瞬間って、 「日常の外側」、つまり、その人が「非日常に居る時」以外に無いのじゃないか、と私は捉えます。そして、そういうふうに捉えて見てみると、この作品のことが すごくシンプルに分かる気がしたんです。
この表現は例えばTV一話冒頭に集約することが出来ます。この起床から学校に辿りつくまでの一連のシーン、1期最終話のリフレインを挙げるまでもなく2つの事が 同時に描かれている。それはひとつには「これが普遍的に日常の一コマに過ぎないこと」であり、ひとつには「それが日常の一コマであったとしても、その人の人生 における特別なワンシーンでもあること」である。何でもない当たり前みたいな景色ですよね。何でもない当たり前の景色の中の主人公・平沢唯の眉根はこの間常に 上がりっぱなしなんです。それは「この日常に過ぎないワンシーン」が、彼女にとっては「新しい場所に立つ特別な瞬間」でもあることを意味しています。この 「特別な瞬間」に関してはここにかかる他の面もありますが、本論の軸ではないので無視しましょう。原理主義過激派なので。で、この「日常であり特別な瞬間でも ある」という描写はそのまま、本作OPに繋がっているんですね。再放送があったのでお近くの方は見返してくださいね。無い人は借りて観て。 本作OPは各パートメンバーの演奏カットを前面に置きつつ、その日常の様子を背景として流してゆくという構成をとっています。注目すべきは、この前景と背景の 表情が、同じキャラクターを描きつつ大きな対称形を描いているということです。よーく見てください。全然違うでしょ?全然違うんです。この個々のシーンで 誰がどんな表情をしているかという関係性はその人物の人物性を考察する上ですごく大事だと思うんですが全部省略します。原理主義過激派なので。必要なところは 後で書きます。で、このOPを観ていて思ったんです。「あーこれ日常系アニメだった」ということを。いや控えめに言っても気づくの遅いんだけど、それまでの 流れを観ていたら、僕にはこの作品が「当たり前みたいな日常」を描く作品には思えなかった。そして、実はこのOPの各シーンを観ていても思えなかった。 それは、その日常を背景とした前景で音楽を演奏する彼女たちの姿が、僕には非日常そのものにしか見えなかったからなのだと思う。
ここだけの話、僕はTV版の『けいおん!』はそんなに好きではなくて(理由はまゆ毛が逆ハの字だからです。原理主義過激派なので)早々に『映画 けいおん!』の話をします。
(ここから映画の話を延々とする感じ)
…ハイ!ここまでで約4500字です。いやーどうですか解説のさけとめさん。
「書き手の精神状態が心配になりますね。ほんとうにボツになって良かったなと思います」
これが第二稿で、このまま書き進めた話は15000字くらいになりました。
書き上がったのが7/18 日の朝で、「はー夜に見直して問題なかったらこのまま送ろ」と思って、問題しかなかったので夜に丸ごと消しました。軽トラに間違えてサターンVのF1ロケットエンジンを載せてしまったかのような失敗感がある。これはすごい。これは人さまの本に載せられない。
ないので丸ごと消してしまって、この話の完成稿は手元にも残ってません。この無茶苦茶な話が一体何処へ飛んでいったのかは誰にもわからない…。
『ノンフィクションコンパス』に掲載されているのはその後に一から書き直した話で、個人的にはちゃんと書けたのかなと思ってはいます。思ってはいますが、同時に締切がすごいことになってしまい、せーはくさんには本当にたくさんたくさんご迷惑をおかけしてしまったと思います。申し訳ございませんでした…!
文章の中に書いたことは文章を読んでいただければ分かることなので、ことさら敢えて触れる必要もないのかなと思っています。かるーい触感で味わいのあるものを、というのが頂いた役割に対して行うべきことだと思っていたので、そんな感じに伝わってくれていたら嬉しいです。作品について私は詳しいわけでは全くないので、その辺りは詳しい方が何処かでたくさん話していただけたらいいなと思います。
「いや被告人君さあ、ほんとはもう一個あるよね?」
「ひいっ!!」
ひいっ、ではない。
実は内容について反省がいっこだけあって、頂いていたテーマが「私自身について」という話だったんですが、蓋を開けたらほとんどいつも通りの私の話になってしまったなと思っています。
ただ、私には自分の話って難しくて、あのー、あんまり良く憶えてないんです、自分のこと。その時々で観たり聴いたり読んだりしたことはあれこれ出てくるけど、自分自身のことって殆ど出てこなくて。自分のことにあんまり関心が無いんだと思います。結局僕はいつも自分の好きなものについて訳分かんない与太話を延々としている人で、それだけなんだと思います。
まあ頑張って入れたけどね!心にコウペンちゃんを飼ってゆくぞという強い気持ちを持ってゆきたい。
ただ、その入れた話についても、やっぱりその「私の好きなもの」があってこそ成り立つ類の話でしかなくて、僕にとって大事なものって、自分の中よりも外にばっかりあるみたいなんですよね。そういう事に改めて気づけた事は、今回とても有り難かったです。ありがとう。
大したことない話を書かせていただきました。大したことない話でいいんじゃないかなと思います。いろんな人が好きなものの話をしてくれたらいいなあ、そう願っています。
もう反省はないです。無い…はず。あったら第二回が開催されます。
カンカン!
「それでは、2019年夏コミ大反省会議をこれにて…閉廷する!」
「やっぱコレ会議じゃないですよね!?」
ちゃんちゃん。
ちゃんちゃんじゃなかった。
この夏はふたつ文章を書かせていただいたのだけど、そのうちひとつはせーはくさんすら聞いたら蒼白になるような事情でビッグサイトに並ばなかったんですけど。
ただもしかしたらそのうちしれっと何処かに出たりすることもあるかも知れないので一応書いておこうかなと思います。
『ノンフィクションコンパス』のテーマをノンフィクションコンパスにしたので、こちらはそれと対になるような構成を取れたらいいなと思って、USGの曲から個人的に好きなもうひとつの曲をモチーフに採用しました。その上で、ノンフィクションコンパスとは違う相手の話を書きました。文章構造としては相似形になるような形を企図しています。
書いたことは、基本的には同じ事だと思っています。つまり僕自身の話であり、僕が大事に出来たらいいなと思うものの話です。なので実質的には読む意味ない話だったりする。
それでもこれを書いたのは、「今これを書いておく必要がある」と思ったからで。人の心ってとても不確かで、簡単にコロコロ変わっていってしまうんですよね。僕は手紙とか書く時も下書きを一切書かないタイプなんですけど、それは下書きを清書していったときに、途中から下書きを無視して全然関係ない話を始めてしまうことが余りにも多かったからです。その時の気持ちってその瞬間に切り取っておくしかないものなんじゃないかと思っている。
未来のことは分からないけれど、この夏書いた文章は、希望という祈りみたいなものを込めて書いたつもりです。
未来はいつも、不確かだから面白い。振り返ったときに、その過去である現在を指差して笑えたら、それはそれは素敵なことなんじゃないのかな。それはそれとして、今できることは今頑張らなくちゃいけないし、今捉えられるものは今きちんと書き残しておきたい。この先もそうしてゆけたらいいなと思っています。
今度こそおしまい。明日東京に帰ります。
じつわこの文章自体、3回くらい書き直しました。かるく、かるーくカールおじさん。チーズ味おいしいなあムシャムシャ。
言えないこと、書けないこともやっぱりあって、言うべきでない、書くべきでない、と思うのと同時に、それ以前に言葉にならないことも、やっぱりあります。誰にでもそういうことはあると思う。
言葉にならない想いを、最近は言葉にしないままちゃんと抱いておこうと思っています。そしてそれはそれとして、僕は僕の好きなもののどこが好きか、どうして好きかという話をしてゆきたい。今、僕にできる事はそれだと思うので。
大したことない話をたくさんできたらいいな。一瞬一瞬を大事に拾って、大事なものを大したことない笑い話にしてゆけたらいいなと思う。
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妹のために、妹のために、妹のために。(推敲中)
ふたなり怪力娘もの。血なまぐさいので注意。
扠、ここはある民家の一室、凡そ八畳程の広さの中に机が二つ、二段ベッドが一つ、その他本棚や観葉植物などが置いてある、言つてしまえば普通の部屋に男が二人顔を突き合はせ何やらヒソヒソと、いや、別に小声で話してゐるわけではないのであるが何者かに気づかれないよう静かに話し合つてゐる。一人は少し痩せ型の、黒い髪の毛に黒い縁のメガネが聡明な印象を与へる、如何にも生真面目さうな好青年で、もう一人は少し恰幅の良い、短く切られた髪の毛に色の濃い肌が健康な印象を与へる、如何にも運動が得意さうな好青年である。前者の名は那央と言ひ、後者の名は詩乃と言ふ、見た目も性格の型も違えど同じ高校に通つてゐる仲の良い兄弟である。二人の間にはノートの切れ端と思しきメモと、丁度半月ほど前に買つた十キロのダンベルが、そのシャフトを「く」の字に曲げ事切れたやうにして床に寝そべつてゐた。
何故メモがあるのか、何故ダンベルのシャフトが「く」の字に曲がつてゐるのか、何故二人の兄弟がそれらを囲んで真剣な話し合ひをしてゐるのか、その説明をするにはもう一つ紹介しておかねばならぬ事があるのであるが、恐らく大層な話を聞かずとも直ぐに状況を何となく分かつて頂けるであらう。其れと云ふのも二人にはもう一人血を同じくする、一五〇センチに満たぬ身の丈に、ぷにぷにとした餅のやうな頬、風でさらさらと棚引き陽の光をあちこちに返す黒い髪、触つた此方が溶け落ちるほど柔らかな肌、此れからの成長を予感させる胸の膨らみ、長いまつ毛に真珠を嵌めたやうな黒目を持った、--------少々変はつてゐる所��言へば女性なのに男性器が付いてゐるくらゐの、非常に可愛らしい中学一年生の妹が居るのである。名前は心百合と言ふ。成る程、ふたなりの妹が居るなら話は早い、メモもダンベルも話し合ひも、全てこの妹が原因であらう。実際、メモにはやたら達筆な字でかうあつた。-----------
前々から言ってきたけど、こんな軽いウェイトでやっても意味が無いと思うから、使わないように。次はちゃんと、最低でも一〇〇キロはあるダンベルを買ってください。私も力加減の練習がしたいのでお願いします。曲げたのは直すので、これを読んだら持ってきてください。
あと全部解き終わったので、先週から借りてた那央にぃの数学の問題集を返しました。机の上に置いてあります。全然手応えが無かったから、ちょっと優しすぎると思います。新しく買ったらまた言ってください。
心百合より
このメモは「く」の字に曲がつたシャフトの丁度折り目に置かれてあつて、凡そ午前九時に起床した詩乃がまず最初に見つけ、其の時は寝ぼけてゐたせいもありダンベルの惨状に気を取られメモを読まないまま、折角値の張る買ひ物をしたのにどうして、一体何が起きてこんなことに、…………と悲嘆に暮れてゐたのであるが、そんな簡単に風で飛ぶような物でも無いし、それに落ちたとしても直径二センチ以上ある金属がさう易易と曲がるわけでも無いから何者かが手を加えたに違ひ無く、自然と犯人の顔が思ひ浮かんでくるのであつた。わざわざ此れを言ひたいがためにダンベルを使ひ物にならなくしたのか。俺たちにとつては一〇キロでもそこそこ重さを感じると云ふのに、一〇〇キロなんて持ち上げられるわけが無い、しかもその一〇〇キロも、"最低でも"だとか、"力加減"だとか書かれてゐるので妹はもつと重いダンベルを御所望であるのか。確かにふたなりからすると、一〇〇キロも二〇〇キロも軽いと感じるだらうが、此れは俺たちが自分の体を鍛えるための道具であるからそつとしておいて欲しい。さう彼は文句を言ひたくなるものの、未だ中学一年生とは言へ、本来車でも打つから無ければ曲がるはずも無いシャフトを綺麗に曲げてしまつたと云ふ事実に、ただひたすら恐怖を感じ震える手でこめかみあたりに垂れてきた冷ややかな汗を拭ふのであつた。
一体全体、ふたなりの女の子は力が強いのである。そして其れは心百合も例外では無く、生まれて間もない時から異常な怪力ぶりを発揮してきた。例へば此れはある日の朝のことであつたか、彼ら彼女の父親が出勤しようとしてガレージのシャッターを開けると、何の恥ずかしげもなく無断駐車してゐる車の、後ろ数十センチが見えてゐたことがあつた。幸ひにも丁度車一台分通れるくらゐの隙間はあるし、其れに父親の向かふ方向とは逆の位置にあつたので、何とか避けて車を出せさうではあつたのであるが、如何せん狭いガレージと、狭い通りと、幅のある車であるから、ふとした拍子で擦つてしまふかもしれない。かと言つて警察やらレッカーやらを呼ぶ時間も手間も勿体無い。仕方が無いので父親は、当時十四歳であつた那央と、当時十二歳であつた詩乃を呼び出して、ほんの数センチでも良いからこの車を向かふ側へ押せないかと、提案して自身も全身を奮ひ立たせたのであるが当然の如く動く気配は無かつた。ならばせめて角度だけでもつけようと思ひ、三人で掛け声をかけ少しでも摩擦を減らさうと車の後ろ半分を浮かせようと頑張つたものの、此れまた持ち上がる気配も無くたつた数秒程度で皆バテてしまつた。さうして諦めた父親は携帯を取り出し、諦めた二人の兄弟は数歩離れたところにある壁に凭れ、こんなん無理やろ、何が入つてんねん、と那央が言つたのをきつかけに談笑し始めた丁度其の時、登校しようと玄関から出てきた心百合が近寄つてきて、どうしたの? さつきから何やつてたの? と声をかけてきた。そこで詩乃が其の頭を撫でながら事情を説明して、ま、無理なものは無理だし、今日こそ親父は遅刻するかもな、と笑ひながら言ふと心百合は、
「んー、………じゃあ私がやってみてもいい?」
と言ひながらランドセルを那央に押し付け、唖然とする兄たちを余所に例の車へ向かつて行く。そしてトランクにまでたどり着くと、屈んで持ち易く力の入れ易い箇所を探しだす。----------当時彼女は小学三年生、僅か九歳である。自分の背丈と同じくらゐの高さの車を持ち上げようと、九歳の女の子がトランクの下を漁つてゐるのである。流石に兄たちも其の様子を黙つて見てゐられなくなり駆け寄つて、ついでに電話を掛けてゐる最中の父親も駆け付けて来て、結局左から順に父親、心百合、詩乃、那央の並びでもう一度車と相対することになつたのであるが、那央が、せえの! と声を掛け皆で一斉に力を入れる前に、よつと、と云ふ可愛らしい声が車の周りに小さく響いた。かと思ひきや次の瞬間には、グググ、と車体が浮き上がりたうたう後輪が地面から離れ初め、男たちが顔を見合はせ何が起きてゐるのか理解するうちに、一〇センチ、一五センチは持ち上がつてしまつた。男たちのどよめきを聞きながら、心百合は未だ六割程度しか力を入れてゐないことに少しばかり拍子抜けして、これならと思ひ、
「お父さんも、お兄ちゃんたちも、もう大丈夫だから手を離していいよ」
と言ふと、片手を離しひらひらと振り、余裕である旨を大して役に立つてゐない他の皆に伝え背筋を伸ばした。
「それで、これどうしたらいいの?」
男たちが恐る恐る手を離し、すつかり一人で車の後部を持ち上げてゐる状態になつた頃、娘が其のやうに聞いて来たので一寸だけ前に寄せてくれたら良いと、父親が答えると心百合は、分かつた、とだけ言つてから、そのまま足を踏み出して前へ進もうとした。すると、初めの方こそ靴が滑つて上手く進めなかつたのであるが、心百合も勝手が分かつて来たのか、しつかりと足に全体重と車の重量を掛け思ひ切り踏ん張つてゐると遂には、タイヤと地面の擦れる非常に耳障りな音を立てて車が前へと動き出したのである。そして、家の前だと邪魔になるだらうから、このまま公園の方まで持つて行くねと言つて、公園の側にある少し道が広がつてゐる所、家から凡そ三〇メートル程離れてゐる所まで、車を持ち上げたままゆつくりと押して行つてしまつた。
あれから四年、恐らく妹の力はさらに強くなつてゐるであらう。日常では兎に角優しく、優しく触る事を心がけてゐるらしいから俺たちは怪我をしないで済んでゐる、いやもつと云ふと、五体満足で、しかも生きてゐる。だが今まで何度も危ない時はあつた。喧嘩は全然しない、と云ふより一度も歪みあつたことは無いけれども、昼寝をしてゐる妹の邪魔をしたりだとか、凡ミスのせいでテストで満点を逃し機嫌が悪い時に何時もの調子で話しかけたりだとか、手を繋いでゐる最中に妹が何か、------例へば彼女の趣味である古典文学の展示に夢中になつたりだとか、さういう時は腕の一本や二本覚悟しなければならず打ち震えてゐたのであるが、なんと情けない話であらう。俺たちは妹の機嫌一つ、力加減一つで恐怖を覚えてしまふ。俺たちにはあの未発達で肉付きの良い手が人の命を刈り取る鎌に見える。俺たちにはあの産毛すら見えず芸術品かと思はれる程美しい太腿も、人の肉を潰したがつてゐる万力のやうに見える。……………本来さう云つた恐怖に少しでも対抗しようとダンベルを買つたのであるが、丸切り無駄であつた、矢張り妹には勝てぬのか。直接手を下されたわけでも無いのに、またしても負けてしまふのか。もう身体能力だけでなく、学力も大きな差をつけられたと云ふのに。---------------心百合は元々、小学校のテストでは常に満点を、…………少しドジなところがあるからたまにせうもない間違ひを犯すことがあるが、其れは仕方ないとして試験は常に満点を取り続けてをり、ある日学校から帰つて来るや、授業が暇で暇で、暇で仕方がないからお兄ちゃん何とかしてと言ふので、有らう事か俺たちは、其れならどんどん先の内容をこつそりと予習すると良い、と教えてしまつた。其れから心百合は教室だけでなく家でも勉強を進め、タガが外れたやうにもう恐ろしい早さで知識を吸収したつた一週間か二週間かで其の学年、-----確か小学四年生の教科書を読み終えると、兄から譲り受けた教科書を使って次の学年、次の次の学年、次の次の次の学年、…………といつたやうに、兄たちの言ふ通りどんどん先の内容を理解していき、一年も経たぬ間に高校入試の問題が全て解けるようになつてゐた。かと思えば、那央の持つてゐる高校の教科書やら問題集やら参考書やらを、兄の迷惑にならぬよう借りて勉強を推し進め、今度は半年程度で大学入試の問題をネットから引つ張り、遊び半分で解いてゐたのである。そして此方が分からないと言つてゐるのに答え合はせをして欲しいと頼んで来たり、又ある時は那央が置きつぱなしにしてゐた模試を勝手に解いては、簡単な問題ばかりで詰まんなかつた、お兄ちゃんでも全部解けたでせう? この程度の問題は、と云ふ。そんなだから中学一年生の今ではもはや、勉強をしてゐるうちに好きになつた古典文学を読み漁りながら、受験を控えた那央の勉強を教えるためにも、彼が過去問題集に取り組む前にはまず、心百合が一度目を通し、一度問題���全て解き感想を言つて、時間をかけるべきか、さうでないかの判断の手助けをしてゐるのである。先のメモにあつた後半の内容はまさに此の事で、どんなに難しさうな問題集を持つて行つても簡単だから考へ直すべしと言はれ凹む那央を見てゐると、詩乃は二年後の自分が果たしてまともな精神で居られるのかどうか、不安になつて来るのであつた。
さうすると此の兄弟が妹に勝つている点は何であらうか、多分身長以外には無い気がするが、もう後数年もすると頭一つ分超えられてしまふだらう。聞くところに寄ると、ふたなりは第二次成長期が落ち着き始める一四、五歳頃から突然第三次成長期を迎え、一八歳になる頃には平均して身長一八七センチに達すると云ふのである。実際、那央のクラスにも一人ふたなりの子が居るのであるが、一年生の初め頃にはまだ辛うじて見下ろせた其の顔も今では、首を天井に向けるが如く顔を上げないと目が合はないのである。だが彼らは未だに、こんな胸元にすつぽりと収まる可愛い可愛い妹が、まさか見上げるほど背を高くしないであらうと、愚かにも思つてゐるのであるがしかし、さうでも思はないとふたなりの妹が近くに居ること自体怖くて怖くて仕方なく、心百合を家に残しどこか遠い場所で生活をしたい衝動に駆られるのであつた。
扠、読者の中には恐らくふたなりをよくご存知でない方が何名かいらつしやるであらうから、どうして此の兄弟が、可愛い、たつた一人だけの、愛しい、よく出来た妹にここまで恐怖を感じるのか説明しておかねばならぬのであるが、恐らく其れには引き続き三人の兄妹の話をするだけで事足りるであらう。何分其処に大体の理由は詰まつてゐる。-------------
ふたなりによる男性への強姦事件は度々ニュースになるし、其れに世の男達なら全員、中学校の保健体育で習つた記憶がどこかにあるから皆知つてゐるだらう。本日未明、〇〇県〇〇市在住の路上で男性が倒れてゐるのを誰々が発見し、現場に残された体液から警察は近くに住む何たら言ふ名前の女性を逮捕した。-----例へばさう云ふニュースの事である。凡そ犯人の側に「体液」と「女性」などと云つた語が出てきた��其れはふたなりによる強姦を意味するのであるが、世の中に伝えられる話は、実際に起きた出来事にオブラートにオブラートを重ね、さらに其の上からオブラートで包み込んだやうな話であつて、もはやお伽噺となつてゐる。考へてみると、大人になれば一九〇センチ近い身長に、ダンベルのシャフトのやうな金属すら曲げる怪力を持つ女性が今日の男性を暴行し無理やり犯せば、そもそも人の形が残るかどうかも怪しくなるのは容易に想像できる。実際、幾つか例を挙げてみると、ふたなりの"体液"を口から注ぎ込まれ腹が破裂し死亡した男や、行方不明になつてゐたかと思えば四肢が完全に握りつぶされ、そしてお尻の穴が完全に破壊された状態でゴミのやうに捨てられてゐた男や、ふたなりの"ソレ"に耐えきれず喉が裂け窒息死した男や、彼女たちの異常な性欲を解消するための道具と成り果て精液のみで生きる男、……………挙げだすとキリがない。二人の兄弟は、ふたなりの妹が居るからと言つて昔からさう云ふ話を両親から嫌と言ふほど聞いて来たのであるが、恐ろしいのはほとんどの被害者が家族、特に歳を近くする兄弟である事と、ふたなりが居る家庭は一つの例外なく崩壊してゐる事であつた。と云つても此の世の大多数の人間と同じやうに、彼らも話を言伝されるくらゐではふたなりの恐ろしさと云ふ物を、其れこそお伽噺程度にしか感じてゐなかつたのであるが、一年前、小学六年生の妹に、高校生二年と中学三年の兄二人が揃つて勉強を教えてもらつてゐたある夜、机の間を行つたり来たりするうちに何故かセーラー服のスカートを押し上げてしまつた心百合の、男の"モノ"を見た時、彼らの考へは変はり初めた。其の、スカートから覗く自分たちの二倍、三倍、いや、もう少しあらうか、兎に角妹の体格に全く不釣り合いな男性器に、兄たちが気を取られてゐると心百合は少し早口で、
「しばらくしたら収まると思うから見ないでよ。えっち。それよりこの文章、声に出して読んでみた? 文法間違いが多くて全然自然に読めないでしょ? 一度は自分で音読してみるべしだよ、えっちなお兄ちゃん。でも単語は覚えてないと仕方ないね。じゃあ、来週までに、この単語帳にある単語と、この文法書の内容を全部覚えて来ること。----------」
と顔を真赤にして云ふと、下の兄に高校入試を模して作つた問題を解かせつつ、上の兄が書いた英文の添削を再開してしまつた。が、ほんの数分もしないうちに息を荒げ出し、そして巨大な肉棒の先端から、とろとろと透明な液体を漏らし淫猥な香りを部屋中に漂はせ初めると、
「ど、どうしよう、…………いつもは勝手に収まるのに。………………」
と言つて兄たちに助けを求める。どうやら彼女は五〇センチ近い巨大な肉棒を持ちながら其の時未だ、射精を味はつた事が無かつたやうである。そこで、ふたなりの射精量は尋常ではないと聞いていた那央は、あれの仕方を教えてあげてと、詩乃に言ふと急いでバケツと、絶対に要らないだろうとは思ひつつもしかしたらと思つて、ゴミ袋を一つ手に取り部屋に戻つたところ、中はすでに妹が前かがみになりながら両手を使つて激しく自分のモノを扱き、其の様子を弟が恍惚とした表情で見守ると云ふ状況になつてゐる。----------何だ此れは、此れは俺の知る自慰では無い。此れがふたなりの自慰なのか。………………さうは思ひながら、ぼたぼたと垂れて床を濡らしてゐる液体を受け止めるよう、バケツを丁度肉棒の先の下に置くと、そのまま棒立ちで妹の自慰を見守つた。そしていよいよ、心百合が肉棒の先端をバケツに向け其の手の動きを激しくしだしたかと思えば、
「あっ、あっ、お兄ちゃん! 何これ! ああぁあんっ!!」
と云ふ、ひどくいやらしい声と共に、パツクリと開いた鈴口から消防車のやうに精液が吹き出初め、射精とは思へないほどおぞましい音が聞こえて来る。そしてあれよあれよと云ふ間にバケツは満杯になり、床に白くドロドロとした精液が広がり始めたので、那央は慌ててゴミ袋を妹のモノに宛てがつて、袋が射精の勢ひで吹き飛ばぬよう、又自分自身も射精の勢ひで弾き飛ばされぬよう肉棒にしがみついた。-------
結局心百合はバケツ一杯分と、二〇リットルのゴミ袋半分程の精液を出して射精を終え、ベタベタになつた手と肉棒をティッシュで拭いてから、呆然と立ちすくんでゐる兄たちに声をかけた。
「お兄ちゃん? おにいちゃーん? 大丈夫?」
「あ、あぁ。…………大丈夫。………………」
「しぃにぃは?」
彼女は詩乃の事をさう呼ぶ。幼い頃はきちんと「しのおにいちゃん」と読んでゐたのであるが、いつしか「しのにぃ」となつて、今では「の」が略されて「しぃにぃ」となつてゐる。舌足らずな彼女の声を考へると、「しーにー」と書いたほうが近いか。
「……………」
「おい、詩乃、大丈夫か?」
「お、………おう。大丈夫。ちょっとぼーっとしてただけ。………………」
「もう、お兄ちゃんたちしっかりしてよ。特にしぃにぃは最初以外何もしてなかったでしょ。……………て、いうか私が一番恥ずかしいはずなのに、何でお兄ちゃんたちがダメージ受けてるのん。………………」
心百合はさう言ふと、本当に恥ずかしくなつてきたのか、まだまだ大きいが萎えつつある肉棒をスカートの中に隠すと、さつとパンツの中にしまつてしまつた。
「とりあえず、片付けるか。…………」
「おう。……………」
「お兄ちゃんたち部屋汚しちゃってごめん。私も手伝わせて」
「いいよ、いいよ。俺たちがやっておくから、心百合はお風呂にでも入っておいで。------」
このやうにして性欲の解消を覚えた心百合は、毎日風呂に入る前に自慰をし最近ではバケツ数杯分の精液を出すのであつたが、そのまま流すとあつと言ふ間に配管が詰まるので、其の始末は那央と詩乃がやつてをり、彼女が湯に浸かつてゐるあひだ、夜の闇に紛れて家から徒歩数分の所にある川へ、音を立てぬよう、白い色が残らないよう、ゆつくりと妹の種を放つてゐるのであつた。空になつたバケツを見て二人の兄弟は思ふ。------------いつかここにあつた精液が、ふとしたきつかけで体に注がれたら俺たちの体はどうなる? そもそも其の前に、あの同じ男性器とは思へないほど巨大な肉棒が、口やお尻に突つ込まれでもしたらたら俺たちの体はどうなる? いや、其れ以前に、あの怪力が俺たちの身に降り掛かつたらどうなる? ふたなりによる強姦の被害者の話は嘘ではない。腹の中で射精されて体が爆発しただなんて、昔は笑いものにしてゐたけれども何一つ笑へる要素などありはしない、あの量を、あの勢いで注がれたら俺たち男の体なんて軽く吹き飛ぶ。其れにあんなのが口に、お尻に入り込まうとするなんて、想像するだけでも恐ろしくつて手が震えてくる。聞けば、顎の骨を砕かうが、骨盤を割らうが、其んな事お構ひなしにねじ込んで来ると云ふではないか。此れから先、何を犠牲にしてでも妹の機嫌を取らなくては、…………其れが駄目ならせめて手でやるくらゐで我慢してもらはねば。…………………
だが彼らは此れもまた、わざわざ時間を割いてまでして兄の勉強を見てくれるほど情に満ちた妹のことだから、まさかさう云ふ展開にはならないであらうと、間抜けにも程があると云ふのに思つてゐるのであるが、そろそろなのである。ふたなりの女の子が豹変するあの時期が、そろそろ彼らの妹にも来ようとしているのである。其れ以降は何を言つても無駄になるのである。だから今しかチャンスは無いのである。俺たちを犯さないでくださいと、お願ひする��は今しか無いのである。そして、其の願ひを叶えてくれる確率が零で無いのは今だけなのである。
「------もうこれ以上引き伸ばしても駄目だ。言いに行くぞ」
ダンベルとメモを持ち、勢ひよく立つた那央がさう云ふ。
「だけど、………それ言ったら言ったらで、ふたなりを刺激するんだろ?!」
「あぁ。…………でも、少しでも確率があるならやらないと。このままだと、遅かれ早かれ後数年もしないうちに死ぬぞ。俺ら。………………」
「くっ、…………クソッ。……………」
「大丈夫、もし妹がその気になっても、あっちは一人で、こっちは二人なんだから上手くやればなんとかなるさ、……………たぶん。………………」
「最後の「たぶん」は余計だわ。……………」
「あと心百合を信じよう。大丈夫だって、あんなに優しい妹じゃないか。きっと、真剣に頼めば聞いてくれるはず。……………」
「兄貴って、たまにそういう根拠のない自信を持つよな。………」
さう言ふと、詩乃も立ち上がり一つ深呼吸をすると、兄と共に部屋を後にする��であつた。
心百合の部屋は、兄たちの部屋に比べると少しばかり狭いが其れでも一人で過ごすには物寂しさを感じる程度には広い、よく風が通つて夏は涼しく、よく日が当たつて冬は暖かく、東側にある窓からは枯れ葉に花を添えるやうはらはらと山に降り積もる雪が、南側にある窓からはずつと遠くに活気ある大阪の街が見える、非常に快適で感性を刺激する角部屋であつた。そこに彼女は本棚を此れでもかと云ふほど敷き詰めて新たな壁とし、嘗ての文豪の全集を筆頭に、古い物は源氏物語から諸々の文芸作品を入れ、哲学書を入れ、社会思想本を入れ、経済学書を入れ、そして目を閉じて適当に選んだ評論などを入れてゐるのであるが、最近では文系の本だけでは釣り合ひが取れてない気がすると言ひ初め、つい一ヶ月か二ヶ月前に、家から三駅ほど離れた大学までふらりと遊びに行つて、お兄ちゃんのためと云ふ建前で、解析学やら電磁気学やら位相空間論やらと云つた、一年か二年の理系大学生が使ふであらう教科書と、あとさう云ふ系統の雑誌を、合わせて十冊買つて来たのであつた。そして、春までには読み終はらせておくから、お兄ちゃんが必要になつたらいつでも言つてねと、那央には伝えてゐたのであつたが、意外に面白くてもう大方読んでしまつたし、途中の計算はまだし終えてないけれども問題はほとんど解き終はつてしまつた。またもう一歩背伸びをして新しく本を買いに行きたいが、前回大量にレジへ持つて行き過ぎたせいで、大学生協の店員にえらく不思議さうな顔をされたのが何だか癪に障つて、自分ではもう行きたくない。早くなおにぃの受験が終はつてくれないかしらん。さうしたら彼処にある本を買つて来てもらへるのに。それか二年後と言はず今すぐにでも飛び級させてくれたらいいのに。…………と、まだ真新しい装丁をしてゐる本を眺めては思ふのであつた。
なので那央が大学生になるまで数学やら物理学は封印しようと、一回読んだきりでもはや文鎮と化してゐた本たちを本棚にしまひ、昨日電子書籍として買つてみた源氏物語の訳書を、暇つぶしとしてベッドの上に寝転びながら読んでゐると、コンコンコン、…………と、部屋の扉をノックする音が聞こえて来た。
「はーい、なにー?」
「心百合、入ってもいいか?」
少し澄んだ声をしてゐるから那央であらう。
「いいよー」
ガチャリと開いたドアから那央が、朝に軽いイタズラとして曲げたダンベルと、その時残しておいたメモを手に持つて入つて来たかと思えば、其の後ろから、何やら真剣な表情を浮かべて居る詩乃も部屋に入つて来る。
「あれ? しぃにぃも? どったの二人とも?」
タブレットを枕の横に投げ出すと心百合は体を起こし、お尻をずるりとベッドの縁まで滑らせ、もう目の前までやつて来てゐる兄二人と対峙するやうにして座つた。
「あぁ、…………えとな。…………」
「ん?」
「えっと、………お、おい、詩乃、……代わりに言ってくれ。…………」
「えっ、………ちょっと、兄貴。俺は嫌だよ。…………」
「俺だって嫌だよ。後で飯おごってやるから頼む。……………」
「………言い出しっぺは兄貴なんだから、兄貴がしてくれよ。…………」
あんなに真剣な表情をしてゐた兄たちが何故かしどろもどろ、………と、云ふよりグジグジと醜い言ひ争ひをし始めたので、心百合は居心地が悪くなり一つため息をつくと、
「もう、それ元通りにして欲しくて来たんじゃないの?」
と言つて、那央の持つてゐるダンベルに手を伸ばし、トントンと叩く。が、那央も詩乃も、キュッと体を縮こませ、
「えっと、…………それは、…………ち、ちが、ちがってて…………」
などと云ふ声にならぬ声を出すばかりで一向にダンベルを渡してくれない。一体何���違つてゐるのだらう、………ま、ダンベルを持つて来たのだから直して欲しいには違ひない、と、云ふより直すと書いたのだから直してあげないと、------などと思つて、重りの部分に手をかけると、半ば引つたくるやうにして無理やりダンベルを奪ひ去つた。
「いくらお兄ちゃんたちに力が無いって言っても、こんな指の体操にもならないウェイトだと意味無いでしょ。今度はちゃんとしたの買いなよ」
さう云ふと、心百合はまず手の平を上にして「く」の字に曲がつたシャフトを、一辺一辺順に掴んでから、ひ弱な兄たちに見せつけるよう軽く手を伸ばし、一言、よく見ててね、と言つた。そして彼女が目を瞑つて、グッ…と其の手と腕に力を込め始めると、二人の兄弟がいくら頑張つても、--------時には詩乃が勝手に父親の車に乗り込んで轢いてみても、其の素振りすら見せなかつたシャフトが植物の繊維が裂けるやうな音と共にゆつくりと反り返つていき、どんどん元の状態に戻つて行く。其の様子はまるで熱した飴の形を整えてゐるやうであつて、彼らには決して太い金属の棒を曲げてゐるやうには見えなかつた。しかもさつきまで目を閉じてゐた妹が、いつの間にか此方に向かつて笑みを浮かべてゐる。……………其のあまりの呆気なさに、そして其のあまりの可愛いさに、彼らは己の中にある恐怖心が、少しばかり薄らいだやうな気がするのであつたが、ミシリ、ミシリ、と嫌に耳につく金属の悲鳴を聞いてゐると矢張り、目の前に居る一人の可憐で繊細で、人々の理想とも形容すべき美しい少女が、何か恐ろしい怪物のやうに見えてくるのであつた。
「はい、直ったよ。曲がってた所は熱いから気をつけてね」
すつかり元通りになつたダンベルを、真ん中には触れないやう気をつけながら受け取ると、那央はすぐに違和感に気がついた。一体どう云ふ事だ、このシャフトはこんなにでこぼこしてゐただらうか。---------まさかと思つて、さつきの妹の持ち方を真似してダンベルを持つてみると、多少合はないとは言え、シャフトのへこんでゐる箇所が自分の手の平にもぴつたりと当てはまる。其れにギュッと握つてみると、指先にも若干の凹凸を感じる。もしかして、--------もしかして、この手の平に感じるへこみだとか、指先に感じるでこぼこは、もしかして、もしかして、妹の手の跡だと云ふのであらうか。まさか、あの小さく、柔らかく、暖かく、ずつと触れてゐたくなるやうなほど触り心地の良い、妹の手そのものに、この頑丈な金属の棒が負けてしまつたとでも云ふのであらうか。彼はさう思いつつ、もしかしたらと自分も出来るかもしれないと思つて力を入れてみたが、ダンベルは何の反応もせずただ自分の手が痛くなるばかりであつた。
「で、他に何か話があるんだよね。何なの?」
「あ、…………えっ、と。…………」
「もう、何なの。言いたいことはちゃんと言わないと分からないよ。特に、なおにぃはもう大学生なんだから、ちゃんとしなきゃ」
と五歳も年下の妹に諭されても、情けないことに兄がダンベルを見つめたまま固まつてゐるので、恐怖心を押さえつけ幾らか平静になつた詩乃が、意を決して口を開けた。
「それはだな。…………えっと、……心百合って、ふたなりだろ? だからさ、今後気が高ぶっても俺らでやらないで欲しい。……………」
ついに言つてしまつた、だけどこれで、…………と詩乃はどこか安堵した気がするのであつたが、
「えっ、…………いや、それはちょっと無理かも。………だって。…………………」
心百合がさう云ふと、少し足を開いた。すると那央と詩乃の鼻孔にまで、いやに生々しい匂ひが漂ふ。
「………だって、お兄ちゃんたちが可愛くって、最近この子勝手にこうなるんだもん」
心百合がスカートの上からもぞもぞと股の間をいじると、ぬらぬらと輝く巨大な"ソレ"が勢いよく姿を現し、そして自分自信の力で血をめぐらせるかのやうに、ビクン、ビクン、と跳ねつつ天井へ伸びて行く。
「ねっ、お兄ちゃん、私ちょっと"気が高ぶった"から、お尻貸してくれない?」
「い、いや、………それは。…………」
「心百合、……………落ちつい、--------」
「ねっ、ねっ、お願いっ! ちょっとだけでいいから! 先っぽしか挿れないからお尻貸して!!」
心百合は弾むやうにして立ち上がると、詩乃の手首を握つた。と、その時、ゴトリ、と云ふ重い物が落ちる音がしたかと思ひきや、那央が扉に向かつて駆けて行く様子が、詩乃の肩越しに見えた。
「あっ、なおにぃどこ行くの!」
心百合は詩乃をベッドの上に投げ捨て、今にもドアノブに手をかけようとしてゐた那央に、勢ひよく後ろから抱きつく。
「あああああああああああ!!!!!!」
「ふふん、なおにぃ捕まえた~」
ほんの少し強く抱きしめただけで心地よく絶叫してくれる那央に、彼女はますます"気を高ぶらせ"、
「しぃにぃを放って、どこに行こうとしていたのかなぁ? ねぇ、那央お兄ちゃん?」
と云ひ、彼が今まで味はつたことすら無い力ではあるが、出来るだけ怪我をさせないような軽い力で壁に向かつて投げつけると、たつたそれだけでぐつたりとし起き上がらなくなつてしまつた。
「もしかして気絶しちゃったのん? 情けないなぁ。………仕方ないから、しぃにぃから先���やっちゃお」
ベッドに染み付いてゐる妹の、甘く芳しい匂いで思考が止まりかけてゐた詩乃は、其の言葉を聞くや、何とかベッドから這い出て、四つん這ひの体勢のまま何とか逃げようとしたのであるが、ふと眼の前にひどく熱つぽい物を感じるたかと思えば、ぶじゅっ、と云ふ下品な音と共に、透明な液体が床にぼとりと落ちて行くのが見えた。--------あゝ、失敗した。もう逃げられぬ。もう文字通り、目と鼻の先に"アレ"がある。俺は今から僅か十三歳の幼い、其れも実の妹に何の抵抗も出来ぬまま犯されてしまふ。泣かうが喚かうが、体が破壊されようが関係なく犯されてしまふ。あゝ、でも良かつた。最後の最後に、こんな天上に御はします高潔な少女に使つて頂けるなんて、なんと光栄な死に方であらうか。-----------------
「しぃにぃ、よく見てよ、私のおちんちん。お兄ちゃんを見てるだけでもうこんなに大きくなつたんだよ?」
さう云ふと、心百合は詩乃の髪を雑に掴んで顔を上げさせ、自身の腕よりもずつとずつと太い肉棒を無理やり見せると、其の手が汚れるのも構はずに、まるで我が子の頭を撫でるかのやうな愛ほしい手付きで、ズルリと皮の剥けた雁首を撫でる。だが彼には其の様子は見えない。見えるのはドクドクと脈打つ指のやうな血管と、男性器に沿つて真つ直ぐ走るホースのやうな尿道と、たらりたらりと垂れて床を濡らすカウパー液のみである。其れと云ふのも当然であらう、亀頭の部分は持ち主の顔と同じ高さの場所にあるのである。------まだ大きくなつてゐたのか。…………彼にはもう、久しぶりに会ふことになつた妹の陰茎が、もはや自分の心臓を串刺しにする鉄の杭にしか見えなかつたのであるがしかし、其のあまりにも艶めかしい佇まひに、其のあまりにも圧倒的な存在感に、手が打ち震えるほど惹かれてしまつてもうどんなに嫌だと思つても目が離せなかつた。
「んふふ、……お兄ちゃんには、この子がそんなに美味しそうに見えるのん?」
「………そ、そんな、……そんなことは、ない。…………」
さうは云ふものの、詩乃は瞬きすらしない。
「でもさ、------」
心百合はさう云ふと、自身の肉棒を上から押さえつけて、亀頭を彼の口に触れるか触れないかの位置で止める。
「------お兄ちゃんのお口だと、先っぽも入らないかもねぇ」
と妹が云ふので、もしかしたらこの、俺の握りこぶしよりも大きい亀頭の餌食にならないで済むかもしれない、…………と詩乃は哀れにも少しだけ期待するのであつたが、ふいに、ぴゅるっと口の中に何やら熱い液体が入り込んで来る。あゝ、もしかしてこれは。………………
「………けど、そんなに美味しそうな顔されたら諦めるのも悪いよねっ。じゃあ、お兄ちゃん、お口開けて? ………ほら、もっと大きく開けないと大変なことになるよ? たぶん」
「あっ、………やっ、………やめ、やめやめ、いゃ、ややめ、あが、………………」
………まだ彼は、心百合が途中で行為を中断してくれると心のどこかで思つてゐたのであらう、カタカタと震える唇で一言、やめてくださいと、言ほうとしてゐるのであつた。だがさうやつてアワアワ云ふのも束の間、腰を引かせた妹に両肩を掴まれ、愉悦と期待に満ちた表情で微笑まれ、クスクスとこそばゆい声で笑はれ、そしてトドメと言はんばかりに首を可愛らしくかしげられると、もう諦めてしまつたのか静かになり、遂には顔が醜くなるほど口を大きく開けてしまつた。
「んふ、もっと力抜いて? …………そうそう、そういう感じ。じゃあ息を吸ってー。………止めてー。………はい、お兄ちゃんお待ちかね、心百合のおちんちんだよ。よく味わってねー」
其の声はいつもと変はらない、中学生にしては舌つ足らずな甚く可愛いらしい声であつたが、詩乃が其の余韻に浸る前に、彼の眼の前にあつた男性器はもう前歯に当たつてゐた。かと思えばソレはゆつくりと口の中へ侵入し、頬を裂し血を滴らせるほどに顎をこじ開け、瞬きをするあひだに喉まで辿り着くと、
「ゴリュゴリュゴリュ………! 」
と云ふ、凡そ人体から発生するべきでは無い肉の潰れる音を部屋中に響き渡らせ始める。そして、彼が必死の形相で肉棒を恵方巻きのやうに持つて細やかな抵抗してゐるうちに、妹のソレはどんどん口の中へ入つていき、ボコリ、ボコリとまず首を膨らませ、鎖骨を浮き上がらせ、肋骨を左右に開かせ、あつと云ふ間にみぞおちの辺りまで自身の存在を示し出してしまつた。もうこれ以上は死んでしまふ、死んでしまふから!止めてください!! ———と彼は、酸素の薄れ行く頭で思ふのであつたが恐ろしい事に、其れでも彼女のモノはまだ半分程度口の外に残り、ドクンドクンと血管を脈打たせてゐる。いや、詩乃にとつてもつと恐ろしいのは次の瞬間であつた。彼が其の鼓動を唇に数回感じた頃合ひ、もう兄を気遣うことも面倒くさくなつた心百合が、もともと肩に痛いほど食い込んでゐた手に骨を握りつぶさんとさらに力を入れ、此れからの行為で彼の体が動かないようにすると、
「ふぅ、………そろそろ動いても良い? まぁ、駄目って言ってもやるんだけどね。良いよね、お兄ちゃん?」
と云ひ、突き抜かれて動かない首を懸命に震はせる兄の返事など無視して、そのまま本能に身を任せ自分の思ふがまま腰を振り始めてしまつたのである。
「〜〜〜???!!!! 〜〜〜〜〜〜〜!!!!!!」
「んー? なぁに、お兄ちゃん。しぃにぃも高校生なんだから、ちゃんと言わないと誰にも伝わらないよぉ? 」
「〜〜〜〜〜!!!!!!!」
「あはっ、お兄ちゃん死にかけのカエルみたい。惨めだねぇ、実の妹にお口を犯されるのはどんな気分? 悔しい? それとも嬉しい?」
心百合は残酷にも、気道など完全に潰しているのに優しく惚けた声でさう問ひかける。問ひかけつつ、
「ごぎゅ! ごぎゅ! ずちゅり! ……ぐぼぁ!…………」
などと、耳を覆いたくなるやうな、腹の中をカリでぐちゃぐちゃにかき乱し、喉を潰し、口の中をズタズタにする音を立てながら兄を犯してゐる。度々聞こえてくる下品な音は、彼女の陰茎に押されて肺の中の空気が出てくる音であらうか。詩乃は心百合の問ひかけに何も答えられず、ただ彼女の動きに合はせて首を長くしたり、短くしたりするばかりであつたが、そもそもそんな音が耳元で鳴り響いてゐては、妹の可愛らしい声も聞こえてゐなかつたのであらう。
もちろん、彼もまた男の端くれであるので、たつた十三歳の妹にやられつぱなしというわけではなく、なんとか対抗しようとしてはゐる。現に今も、肩やら胸やら腹のあたりに感じる激痛に耐へて、力の入らぬ手を、心百合の未だくびれの無い未成熟な脇腹に当て、渾身の力で其の体を押し返そうとしてゐるのである。………が、如何せん力の差がありすぎて、全くもつて妹には届いてゐない。其の上、触れた場所がかなり悪かつた。
「何その手は。私、腰触られるとムズムズするから嫌だって昔言ったよね? お兄ちゃん頭悪いからもう忘れちゃったの? -----------
……………あ、分かった。もしかしてもっと突っ込んでほしいんだ!」
心百合はさう云ふと、腰の動きを止め、一つ、涙と鼻水でぐしゃぐしゃになり怯えきつてゐる兄の顔を至極愛ほしさうに撫でる。そして、
「もう、お兄ちゃん、そんなに心百合のおちんちんが好きだなんて早く言ってくれたらよかったのに。昔、精通した時に怯えてたから嫌いなんだと思ってた。…………
--------んふ、んふふ、…………じゃあ心置きなくやっちゃってもいいんだね?」
と変はらず詩乃の頭を撫でながら云つて、彼を四つん這いの状態から正座に近い体勢にし、自身は其の体に覆いかぶさるよう前かがみになると、必死で妹の男性器を引き抜こうと踏ん張る彼の頭を両手で掴み、鼠径部が彼の鼻に当たるまで一気に、自身のモノを押し込んだ。
「~~~~~~~??????!!!!!!!!!!」
「あんっ、……お兄ちゃんのお口の中気持ちいい。…………うん? お口? お腹? ………どっちでもいいや。---------」
心百合は恍惚(ルビは「うっとり」)とした表情で、陰茎に絡みつく絶妙な快感に酔ひしれた。どうしてもつと早く此の気持ちよさを味ははなかつたのだらう。なおにぃも、しぃにぃも、ただ年齢が上なだけで、もはや何をやつても私の後追ひになつてゐるのに、私がちょつと睨んだだけで土下座をして来る勢ひで謝つて来るくせに、私がどんなに仕様もないお願いをしても、まるでフリスビーを追ふ犬のやうにすぐに飛んでいくのに、-----------特に、二人共どうしてこんなに勉強が出来ないのだらうか。私が小学生の頃に楽々と解いてゐた問題が二人には解答を理解することすら難しいらしい、それに、そもそも理解力も無ければ記憶力も無いから、一週間、時には二週間も時間をあげてるのに本一つ覚えてこなければ、読んでくることすら出来ず、しかもこちらが言つてることもすぐには分かつてくれないから、毎回毎回、何度も何度も同じ説明をするハメになる。高校で習う内容の何がそんなに難しいのだらうか、私には分からぬ。そんなだから、あまりにも物分りの悪い兄たちに向かつて、手を上げる衝動に襲われたことも何度かあるのではあるけれども、別にやつてもよかつた。其れこそあの、精通をむかえたあの夜に、二人揃つて犯しておけばよかつた。あれから二人の顔を見る度にムクムクと大きくなつて来るので、軽く手を強く握ったり、わざと不機嫌な真似をして怯えさせたりした時の顔を思ひ出して自慰をし、自分の中にもくもくと膨らんでくる加虐心を発散させてゐるのであるが、最近では押さえが効かなくなつてもう何度、二人の部屋に押し入つてやらうかしらんと、思つたことか。さう云へば他のクラスに一人だけ居るふたなりの友達が数ヶ月前に、兄を嬲つて嬲つて嬲つて最後はお尻に突つ込んでるよ、と云��てゐるのを聞いて、本当にそんな事をして良いのかと戸惑つてゐたが、いざやつてみると自分の体が快楽を貪るために、自然と兄の頭を押さえつけてしまふももである。このなんと気持ちの良いことであらう、那央にぃもまずはお口から犯してあげよう、さうしよう。…………………
と、心百合は夢心地で思ふのであつたが、詩乃にとつて此の行為は地獄であらう。さつきまで彼女の腰を掴んでゐた手は、すでにだらんと床に力無く垂れてゐる。それに彼女の鼠径部がもろに当たる鼻は、-------恐らく彼女は手だけ力を加減してゐるのであらう、其の衝撃に耐えきれずに潰れてしまつてゐる。とてもではないが、彼に未だ意識があるとは思えないし、未だ生きてゐるかどうかも分からない。が、心百合の手の間からときたま見える目はまだ開いてをり、意外にもしつかりと彼女のお臍の辺りを眺めてゐるのであつた。しかも其の目には恐怖の他に、どこか心百合と同じやうな悦びを蓄えてゐるやうに見える。口を引き裂かれ、喉を拡げられ、内臓を痛めつけられ、息をすることすら奪われてゐるのに、彼は心の奥底では喜んでゐる。…………これがふたなりに屈した者の末路なのであらう、四歳離れた中学生の妹に気持ちよくなつて頂けてゐる、其れは彼にとつて、死を感じる苦痛以上に重要なことであり、別に自分の体がどうなろとも知つたことではない。実は、心百合が俺たちに対して呆れてゐるのは分かつてゐたけれども、一体彼女に何を差し上げると、それに何をしてあげると喜んでくれるのか分からなかつたし、それに間違つて逆鱗に触れてしまつたらどうしようかと悩んで、何も出来なかつた。だが、かうして彼女の役に立つてみるとなんと満たされることか。やはり俺たち兄弟はあの夜、自慰のやり方を教へるのではなく、口を差し出し尻を差し出し、犯されれば良かつたのだ。さうすればもつと早く妹に気持ちよくなつてもらえたのに、……………あゝ、だけどやつぱり命は惜しい、未だしたい事は山程ある、けど今はこの感覚を全身に染み込ませなければ、もうこんなことは二度と無いかもしれぬ。-------さう思ふと気を失ふわけにはいかず、幼い顔つきからは想像もできないほど卑猥な吐息を漏らす妹を彼は其の目に焼き付けるのであつた。
「お兄ちゃん、そろそろ出るよぉ? 準備はいーい? かるーく出すだけにしておいたげるから、耐えるんだよ?」
心百合はさう云ふと、腰を細かく震わせるやうに振つて、いよいよ絶頂への最後の一歩を踏み出そうとする。そして間もなくすると、目をギュッと閉じ、体をキュッと縮こませ、そして、
「んっ、………」
と短く声を漏らし快楽に身を震はせた。と、同時に、薄つすら筋肉の筋が見える、詩乃の見事なお腹が小さくぽつこりと膨らんだかと思ひきや、其れは風船のやうにどんどん広がつて行き、男なのに妊婦のやうな膨らみになつて遂には、ほんの少し針で突つつけば破裂してしまふのではないのかと疑はれるほど大きくなつてしまつた。軽く出すからね、と云ふ妹の言葉は嘘では無いのだが、其れでも腹部に感じる異常な腹のハリに詩乃はあの、腹が爆発して死んでしまつた強姦被害者の話を思ひ出して、もう限界だ、やめてくださいと、言葉に出す代はりに彼女の腕を数回弱々しく叩いた。
「えー、………もう終わり? お兄ちゃんいつもあんなにご飯食べてるのに、私の精液はこれだけしか入らないの?」
とは云ひつつ詩乃の肩に手をかけて、其の肉棒を引き抜き始める。
「ま、いいや、お尻もやらなきゃいけないし、その分、余裕を持たせておかなきゃね」
そしてそのままズルズルと、未だ跳ね上がる肉棒をゆつくり引き抜いていくのであるが、根本から先つぽまで様々な液体で濡れた彼女の男性器は、心なしか入れる前よりおぞましさを増してゐるやうに見える。さうして最後、心百合は喉に引つかかつた雁首を少々強引に引つこ抜くと、
「あっ、ごめ、もうちょっと出る。…………」
と云つて、"最後の一滴"を詩乃の顔にかけてから手を離した。
「ぐげぇぇぇぇぇぇぇ…………………!!!!お”、お”え”ぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!」
一体どこからそんな音を発してゐるのか、詩乃が人間とは思へない声を出しながら体に入り切らぬ妹の精子たちを、己の血と共に吐き出して行く。が、心百合はそんな彼の事など気にも止めずもう一つの標的、つまり壁の側で倒れてゐる那央に向かつて歩みを進めてゐた。
「なおにぃ、いつまで寝たフリしてるの? もしかしてバレてないとでも思ってた?」
「あ、…………え、…………や、やめ。…………」
「えへへ、やめるとでも思ってるのん? しぃにぃはちゃんと私の愛を受け止めてくれたんだよ、………ちょっと死にかけてるけど。 なおにぃはどうなるかな?」
那央は体を起こし、そのまま尻もちをついた状態で後ずさろうとしたものの、哀れなことに後ろは壁であつた。
「お、お願いします、………やめ、やめてください。お願いします。………………」
「んー? お兄ちゃんは自分に拒否権があると思ってるのん? それに、私は今、"気持ちが高ぶってる"んだから、お兄ちゃんがするべきなのは、そんな逃げ回るゴキブリみたいに壁を這うことじゃなくて、首を立てに振ることだよ」
だが裂けた口から精子を吐き出し続けてゐる弟を見て、誰が首を縦に振れようか、ヒクヒクとうごめく鈴口からカウパー液を放出し続けてゐる肉棒を見て、誰がうんと頷けようか。彼に選択権は無いとは言つても、命乞ひくらゐはさせても良いであらう。
「お兄ちゃんさ、情けないと思わない? 妹にハグされただけで絶叫して、妹に軽く投げられただけで気絶して、妹に敬語を使いながら怯えてさ、……………そんなにこの子の餌食になりたいのん?」
「こ、心百合、……………頼む。…………頼むから落ち着いてくれ。……………」
「んふふ、お兄ちゃんって諦めが悪いよね。でも嫌いじゃないよ、そういうところ。------」
「あ、あ、…………や、やめて、…………ああぁ、や、やめてくださ…………………」
「もう、しぃにぃと同じ反応しないで! お兄ちゃんでしょ? 弟の方がまだ潔くて男の子らしかったよ? っていうかさっき私に、犯さないで、って言ったのもしぃにぃだったじゃん」
心百合は土下座のやうに下を向く那央の頭を上げさせ、肉棒の先つぽを軽く口の中へねじ込む。
「あ、あが、………。ひ、ひや。……………」
「だからぁ、………バツとしてなおにぃを犯す時は、遠慮しないことにしよっかな。-----えへへ、大丈夫だって、しぃにぃはまだ生きてるし、大丈夫大丈夫。----------」
さうして彼女は本当に容赦なく、那央の頭を手で掴み固定して、一気に自身のモノの半分ほどを突つ込んだ。そして、前のめりになつて暴れる兄の体に背中から覆いかぶさるように抱きしめると、
「よっ、と。………」
と軽い掛け声をかけ、そのままスツと、まるでお腹にボールでも抱えてゐるかのやうに、何事も無く男一人を抱えて立ち上がつた。体勢としては、妹の男性器に串刺しにされた那央が、逆立ちするやうに足を天井へ向けて、心百合に抱きかかえられてゐる、と云へば伝はるであらうか、兎に角、小学生と言はれても不自然ではない小柄な体格の女の子に、標準体型の男が上下を逆にして抱えられてゐると云ふ、見慣れぬ人にとつては異様な状況である。
「~~!!!~~~~~~!!!!!!!」
「こら、暴れないで。いや暴れてもいいけど、その分どんどん入って行くから、お兄ちゃんが困ることになるよ?」
其の言葉通り、那央が暴れれば暴れるほど彼の体は、自身の体重で深く深く心百合のモノに突き刺さつて行く。が、其れでも精一杯抵抗しようと足をジタバタ動かしてしまひ、結局彼女のモノが全部入るのにあまり時間はかからなかつた。
「もう諦めよっ? お兄ちゃんはこれから私を慰めるための玩具になるんだから、玩具は玩具らしく黙って使われてたら良いの」
だがやはり、那央は必死で心百合の太腿を掴んで彼女の男性器を引き抜こうとしてゐる。なのでもう呆れきつてしまひ、一つ、ため息をつくと、
「いい加減に、………」
と云ひながら、彼の肋骨を拉げさせつつ二、三十センチほど持ち上げ、そして、
「………して!」
と、彼の体重も利用して腕の中にある体を振り下ろし、再び腹の奥の奥にまで男性器を突つ込ませた。
「っっっっっっ!!!!!」
「あぁんっ! やっぱり男の人のお口はさいこぉ、…………!」
心百合はよだれを垂らすほどに気持ち良ささうな顔でさう云ふのであるが、反対に、自分では到底抵抗できぬ力で体を揺さぶられた那央は、其の一発で何もかもを諦めたのか手をだらりと垂れ下げ出来るだけ喉が痛くならないように脱力すると、もう静かになつてしまつた。
「んふ、…………そうそう、それでいいんだよ。お兄ちゃんはもう私の玩具なの、分かった?」
さう云ひながらポンポンと優しくお腹を叩き、そのまま兄を抱えてベッドまで向かふ。途中、未だにケロケロと精液を吐き出してゐる詩乃がゐたが、邪魔だつたので今度は彼を壁際まで蹴飛ばしてからベッドに腰掛けた。そして、
「ちゃんと気持ちよくしてね」
と簡単に云つて、彼の腰の辺りを雑に掴み直すと、人を一人持ち上げてゐるとは思へ無いほど軽やかに、------まさに人をオナホールか何かだと勘違ひさせるやうな激しい動きで、兄の体を上下させて自身の肉棒を扱き出したのであつた。股を開き局部を露出してなお、上品さを失はずに顔を赤くし甘い息を吐き綺羅びやかな黒髪を乱す其の姿は、いくら彼女が稚い顔つきをしてゐる��云へ万人の股ぐらをいきり立たせるであらう。勿論其れは実の兄である詩乃も例外ではない。どころか、彼はもう随分と妹の精液を吐き出しいくらか落ち着いてきてゐたので心百合と那央の行為を薄れていく意識の中見てゐたのであるが、自身の兄をぶらぶらと、力任せに上へ下へと上下させて快楽を貪る実の妹に対しこの上なく興奮してしまつてゐるのである。なんと麗しいお姿であらうか、たとへ我が妹が俺たちを死に追ひやる世にも恐ろしい存在であらうとも、ある種女神のやうに見えてくる。そして其の女神のやうな高貴な少女が、俺たち兄弟を道具として使ひ快楽に溺れてゐる。………なんと二律背反的で、背徳的で、屈辱的な光景であらう、人生の中でこれほど美しく、尊く、猥りがましく感じた瞬間はない。------彼はもう我慢できなくなつて、密かに片手を股にやり、ズボンの上から己の粗末なモノを刺激し初めたのであるが、ふと視線に気がついてグッと上を向くと、心百合が此方を見てニタニタと其の顔を歪ませ笑つてゐた。
「くすくす、……………お兄ちゃんの変態。もしかして、なおにぃが犯されてるの見て興奮してたの?」
心百合はもう那央の体を支えてゐなかつたが、其れでも其の体は床に垂直なまま足をぶらつかせてゐる。
「ほら、お兄ちゃんも出しなよ、出して扱きなよ。知ってるよ私、お兄ちゃんが密かに私の部屋に入って、枕とか布団とかパジャマとかの匂いを嗅ぎながら自慰してるの。全部許したげるからさ、見せてよ、お兄ちゃんのおちんちん」
「あっ、………えっ、…………?」
自分の変態行為を全部知られてゐた、-----其の事に詩乃は頭を殴られたかのやうな衝撃を受け、ベルトを外すことすらままならないほど手を震えさせてしまひ、しかしさらに自身のモノが固くなるのを感じた。
「ほら早く、早く、-----------」
心百合はもう待ちきれないと云ふ様子である。其れは年相応にワクワクしてゐる、と云ふよりは獲物を見つけて何時飛びかかろうかと身を潜める肉食動物のやうである。
「ま、まって、…………」
と、詩乃が云ふと間もなく、ボロンとすつかり大きくなつた、しかし妹のソレからすると無視できる程小さい男の、男のモノがズボンから顔を出した。
「あははははっ、なにそれ! それで本当に大きくなってるの?」
「う、……ぐっ…………!」
「まぁ、いいや。お兄ちゃんはそこでそのおちんちん? をシコシコしていなよ。もう痛いほど大きくなってるんでしょ? 小さすぎて全然分かんないけど」
と云つて心百合は那央の体を掴み、再びおぞましい音を立てながら"自慰"に戻つた。そして詩乃もまた、彼女に言われるがまま自身の粗末な男性器を握ると悔しさやら惨めさやらで泣きそうになつたが、矢張り妹の圧倒的な巨根を見てゐると呼吸も出来ないほどに興奮して来てしまひ、ガシガシと赴くがまま手を動かすのであつた。だが一寸して、
「あ、しぃにぃ、見て見て、-------」
と、心百合が嬉しさうな声をかけてくる。………其の手は空中で軽く閉じられてをり、那央の体はまたもや妹のモノだけで支えられてゐる。------と思つてゐたら突然、ビクン! と其の体が暴れた。いや、其れは彼が自分から暴れたのではなく、何かに激しく揺さぶられたやうだと、詩乃は感じた。
「ほらほら、------」
ビクン、ビクンと那央の体が中身の無い人形のやうに暴れる。
「------お兄ちゃんのちっちゃい、よわよわおちんちんじゃ、こんなこと出来ないでしょ」
ベッドに後ろ手をつきながら、心百合がニコニコと微笑んでさう云つてきて、やうやく詩乃にも何が起きてゐるのか理解できたやうであつた。まさか妹は人を一人、其の恐ろしい陰茎で支えるのみならず、右へ左へとあの激しさで揺れ動かしてゐるとでも云ふのであらうか。いや、頭では分かつてはゐるけれども、全然理解が追ひつかない。いや、いや、ちやつと待つてくれ、其れよりもあんなに激しく暴れさせられて兄貴は無事であらうか。もう見てゐる限りでは全然手に力が入つて無く、足もただ体に合はせて動くだけ、しかも、かなり長いあひだ呼吸を肉棒で押さえつけられてゐる。……………もう死んでしまつたのでは。----------
「んぁ? なおにぃもう死にそうなの? ………………仕方ないなぁ、ちょっと早いけどここで一発出しとくね」
男性器を体に突つ込んでゐる心百合には分かるのであらう、まだ那央が死んでゐないといふ事実に詩乃は安心するのであつたが、先程自分の中に流し込まれた大量の精液を思ふと、途中で無理矢理にでも止めねば本当に兄が死んでしまふやうな気がした。
「んっ、…………あっ、来た来たっ……………」
心百合はさう云ふとより強く、より包むように那央を抱きしめ、其の体の中に精を放ち始める。が、もう彼の腹がパンパンに張らうとした頃、邪魔が入つた。
「やめ、………心百合、もうやめ、…………!」
「なに?」
見ると詩乃がゾンビのやうに床を這ひ、必死の力でベッドに手をかけ、もう片方の手で此方の腕を握って、しかもほとんど残つてゐない歯を食ひしばつて、射精を止(や)めさせようとしてゐるではないか。兄のために喉を潰されても声をあげ、兄のために激痛で力の入らぬ足で此方まで歩き、兄のために勝ち目など無いと云ふのに手を伸ばして妹を止めようとする献身的な詩乃の姿勢に、心百合は少なからず感動を覚えるのであつたが、残念なことに彼女の腕を握つてゐる手は自身の肉棒を触つた手であつた。
「お兄ちゃん? その手はさっきまで何を触ってた手だったっけ?」
と云ふと、那央がどうなるのかも考えずに無理やり肉棒を引き抜きベシャリと其の体を床に投げつけ、未だ汚い手で腕を握つてくる詩乃の襟首を掴んで、ベッドから立ち上がる。
「手、離して」
「は、はい。………」
「謝って」
「あ、あぁ、……ご、ごご、ごめんなさい。……………」
「んふ、…………妹をそんな化物でも見るみたいな目で見ないでもいいんじゃないのん? 私だって普通の女の子なんだよ?」
「……………」
「ちょっとおちんちんが生えてて、ちょっと力持ちで、ちょっと頭が良いだけなんだよ。それなのにさ、みんなお兄ちゃんみたいに怯えてさ、……………」
「心百合、…………」
「------本当に、たまらないよね」
「えっ?」
「でも良かったぁ、……………もう最近、お兄ちゃんたちだけじゃなくて、友達の怯えた表情を見てると勃ってしょうがなかったんだもん。……………」
「こ、心百合、…………」
「だからさ、今日お兄ちゃんたちが部屋に入ってきて、犯さないで、って言った時、もう我慢しなくて良いんだって思ったんだよ。だって、お兄ちゃんも知ってるんでしょ? ふたなりにそういう事を言うと逆効果だって。知ってて言ったんでしょ? -------」
「まって、……そんなことは。…………」
「んふ、……暴れても無駄だよ、お兄ちゃん。もう何もかも遅いんだよ、もう逃れられないんだよ、もう諦めるしかないんだよ、分かった?」
「ぐっ!うああ!!!」
「あはは、男の人って本当に弱いよね。みーんな軽く手を握るだけで叫んでさ、ふたなりじゃなくっても女の子の方が、今の世の中強いよ、やっぱり。お兄ちゃんも運動部に入ってるならもっと鍛えないと、中学生どころか小学生にすら勝てないよ? …………あぁ、でもそっか、そう云えば、この間の試合は負けたんだっけ? 聞かなくてもあんな顔して夜ご飯食べてたら誰だって分かっちゃうよ」
心百合はさう云ふと、片手で詩乃を壁に投げつけた。
「ぐえっ、…………」
「-----ま、そういう事は置いといて、中途半端に無理やり出しちゃって気持ち悪いから、さっさとお尻に挿れちゃうね。しぃにぃは後でやってあげるから、そこで見てて」
詩乃が何かを云ふ前に心百合は、ひどい咳と共に精液と血を吐き出し床にうずくまる那央を抱えて、無理やり四つん這いの体勢にする。そしてジャージの腰の部分に手をかけて剥ぎ取るように下ろすと、其処にはまるで此れからの行為を期待するかのやうにヒクヒクと収縮するお尻の穴と、ピクピクと跳ねる那央のモノが見えた。
「なぁに? なおにぃも私にお口を犯されて興奮してたのん?」
「ぢ、ぢが、……ぢがう。………」
と那央が云ふけれども激しく嘔吐しながらも自身のモノを大きくすると云ふことは、さう云ふ事なのであらう。
「んふふ、じゃあもう待ちきれないんだ。いいよ、それなら早く挿れてあげるよ。準備はいーい?」
さながら接吻のやうに心百合の男性器と、那央の肛門がそつと触れ合ふ。が、少なく見積もつても肛門の直径より四倍は太い彼女のモノが其処に入るとは到底思へない。
「だめ、だめ、だ、だめ、………あ”ぁ、ゃ、………」
那央は必死に、赤ん坊がハイハイする要領で心百合から逃げようとしてゐるのであるが、彼女に腰を掴まれてしまつては無意味であらう、ただ手と足とがツルツルと床を滑るのみである。しかし其のあひだにも心百合のモノはじつとりと品定めするかのやうに、肛門付近を舐め回して来て、何時突つ込まれるか分からない恐怖で体が震えて来る。一体どれほどの痛みが体に走るのであらうか。一体どれほどの精液を放たれるのであらうか。妹はすでに、俺たち二人の腹を満杯にするまで射精をしてゐるけれども、未だ普段行われる自慰の一回分にも達してをらず、相当我慢してゐることはこの足りない脳みそで考へても分かる。分かるが故に恐ろしい、今のうちに出来る限り彼女の精液を吐き出しておかないと大変な事になつてしまふ。凡そ"気が高ぶった"ふたなりが情けをかけ射精の途中で其の肉棒を引き抜いてくれるなんて甘い希望を持つてはいけない。況してや先つぽだけで我慢してくれるなど、夢のまた夢であらう。…………あゝ、こんなことになるなら初めからダンベルなど放つておけばよかつた、どうしてあの時詩乃に、云ひに行くぞ、などと持ちかけてしまつたのか、あのまま何も行動を起こさなければ後数年、いや、後数日は生きていけさうであつたのに。あゝ、どうして。-------さう悲嘆に暮れてゐると、遊びもここまでなのか、心百合が自身のモノの先端を、グイと此方の肛門に押し付けて来た。そして、
「んふ、ちょっと痛いかもしれないけど、我慢してね。-------」
と云ふ悦びに打ち震えた優しい声をかけられ、腰を掴んでいる手に力が込められ、メコリと肛門が広がる感覚が走れば直ぐ其の後、気を失ふかと思はれる程の激痛で目の前が真暗になつた。
「ぐごっ、…………ごげっ、ぐぁ、……………」
絶叫しようにも、舌が喉に詰まつて声が出てこない。だけどそんな空気の漏れる音を立ててゐるうちにも妹のソレはどんどん那央の中へ入つて来て、もう一時間もしたかと彼が思つた頃合ひにふと其の動きが止まり、次いで腰を握りつぶしてゐた手の力も抜けていき、たうたう全部入つたんだ、何とか耐えきつた、と安堵して息を吸つたのであるが、しかし心百合の言葉は彼を絶望させるのに十分であつた。
「------ちょっと先っぽだけ入れてみたけど、どう? 気持ちいい?」
「ぅご、………う、嘘だろ…………」
「嘘じゃないよ。じゃ、どんどん入れてくね」
「あがああああああああああっ、がっ、あっ、…………」
那央の絶叫は心百合に再び腰を掴まれ、メリメリメリ、………と骨が軋む音が再びし始めるとすつかり無くなつてしまつた。彼は激痛からもはや目も見えず声も出ず考へることすら出来ない状態なのだが、此れが人間の本能と云ふやつなのであらう、其れでも手を前に出し足を上げ、一人の可憐な少女から逃げようとしてゐるのである。が、いつしか手���空を切り膝が宙に浮くやうになるともう何が起きてゐるのか訳が分からなくなり、心無い者に突然抱きかかえられた猫のやうに手足をジタバタと暴れさせるだけになつてしまふ。そして、さうやつて訳が分からぬうちにも心百合の陰茎は無慈悲に入つて行き、体の中心に赤々と光る鉄の棒を突つ込まれたかのやうに全身が熱くなり汗が止まらなくなり初めた頃、いよいよお尻に柔らかい彼女の鼠径部の感触が広がつた。広がつてしまつた。
「んふふ、どう、お兄ちゃん? 気持ちいーい?」
「………………」
「黙ってたら分からないよぉ?」
と、云ひつつ心百合は腰を掴んでゐた手で那央の体を捻り其の顔を覗き込む。
「あがっ、…………」
「私はお兄ちゃんに気持ち良いかどうか、聞いてるんだけど」
「こ、こゆ、…………」
「んー?」
那央は黙つて首を横に振つた。当然であらう、自分の拳ほどの太さの陰茎を尻にねじ込まれ、体が動かないようにと腰を掴んでゐた手でいつの間にか持ち上げられ、内蔵を滅茶苦茶にしてきた陰茎で体を支えられ、もう今では中指の先しか手が床に付かないのである。例へ激痛が無くとも、腹に感じる違和感や、極度に感じる死の恐怖や、逃げられぬ絶望感から決して首を縦に振ることは出来ないであらう。
「そっか、気持ちよくないんだ。…………」
「はやく抜いてく、…………」
「------ま、関係無いけどね」
気にしないで、気にしないで、ちやんと気持ちよくしてあげるから、と続けて云ふと心百合は再び那央の腰を掴み直す。
「こ、こゆり!!! やめて!!!」
「うるさい! 女の子みたいな名前して、おちんちんで突かれたぐらいで文句言わないで!」
この言葉を切掛に、心百合は骨にヒビが入るほど其の手に力を入れ、陰茎を半分ほど引き抜いていく。そして支えを失つてもはや力なくだらりと垂れる兄を見、
「んふ、………」
と妖艶に色づいた息を漏らすと、彼のお尻に勢ひよく腰を打ち付けた。
「ぐがあぁ!!!!!」
「あぁん、お尻もさいこぉ。……………お兄ちゃんの悲鳴も聞こえるし、お口より良いかも、…………」
さう云ふと、もう止まらない。兄がどんなに泣き叫ぼうが、どんなに暴れようが自身の怪力で全て押さえ込み、其の体を己の腰使ひでもつて何度も何度も貫いて行く。そして初めこそ腰を動かして快楽を貪つてゐたが、次第に那央の事が本当に性欲を満たすための道具に見えてくると、今度は自分が動くのでは無くさつきと同じやうに彼の体を、腕の力だけで振り回して肉棒を刺激してやる。
「あぎゃっ! いぎぃ! おごぉっ!!-------」
「あはっ、お兄ちゃん気持ちよさそう。…………良かったねぇ、妹に気持ちよくしてもらえて。嬉しいでしょ?」
「こ、ごゆぅっ!! ごゆり”っ!!! ぐあぁっ!!!」
「なぁに、お兄ちゃん? 止めてなんて言わないでよね。いつもお勉強教えてあげてるのにあんな反抗的な目で見てきて、悔しかったのか知らないけど、どれだけ私が我慢してたか分かる?」
「じぬっ!! じぬがら!!! ゃめ!!!」
「…………んふ、もう大変だったんだから。毎日毎日、お風呂に入る前の一回だけで満足しなきゃいけなかった身にもなってよ」
「ぐぎぃっ!!こゆっ!!あ”あ”ぁっ!!!」
「でもさ、思うんだけど、どうしてあんな簡単な入試問題すら解けないのん? 私あの程度だったら教科書を読んだら、すぐに解けるようになってたよ? しかも小学生の頃に。入試まで後一ヶ月も無いのに大丈夫?
……………もうお兄ちゃんの代わりに大学行ったげるからさ、このままこんな風に私の玩具として生きなよ。そっちの方が頭の悪いお兄ちゃんにはお似合いだよ、きっと、たぶん、いやぜったい」
傷だらけの喉をさらに傷つけながら全力で叫ぶ那央を余所に、心百合は普段言ひたくて言ひたくて仕方無かつた事を吐露していくのであつたが、さうしてゐると自分でも驚くほどあつと云ふ間に絶頂へ向かつてしまつて、後数回も陰茎を刺激すると射精してしまひさうである。全く、この出来損ないの兄は妹一人満足させることが出来ないとでも云ふのであらうか。本当はこのまま快感の赴くがままに精液を彼の腹の中に入れてやりたい所だけど、折角手に入れた玩具を死なせてしまつては此方としても嫌だから、途中で射精を止めなければならぬ。いや、未だ壁の側で蹲つてゐるしぃにぃが居るではないか、と云ふかもしれないが人の腹の容量などたかが知れてゐて、満杯にした所で未だ未だ此の体の中には精液が波打つてゐる。-------あゝ、ほんの一合程度しか出ない男の人が羨ましい。見ると、なおにぃの股の下辺りに白い点々が着いてゐるのは多分彼の精液なのだと思ふが、なんと少ないことか。私もあのくらいしか出ないのであれば、心置き無く此の情けない体の中に精を放つことが出来るのに。……………
「------そろそろ、……そろそろ出るよ、お兄ちゃん。ちゃんと私の愛、受け止めてあげてね」
さう云ふと心百合は今までの動きが準備体操であつたかの如く、那央の体を激しく揺さぶり始める。そして最後、那央のお尻に自分のモノを全て入れきり目を閉じたかと思ひきや、
「んっ、んっ、………んん~~~。…………」
と、其の身を震わせて精子を実の兄の体の中で泳がせるのであつた。が、矢張り彼女にもどこか優しさが残つてゐたのか数秒もしないうちに、じゅるん、と男のモノを引き抜き那央を床に捨て、どろり、どろりと、止めきれ無かつた精液を其の体の上にかけると、でも矢張りどこか不満であつたのか壁際で自身の小さな小さなモノを扱いてゐたもう一人の兄の方を見た。
「しぃにぃ、おまたせ。早くしよっ」
其の軽い声とは逆に、彼女の肉棒はもう我慢出来ないと言はんばかりに、そして未だ未だ満足ではないと云はんばかりに大きく跳ね床に精液を撒き散らしてゐる。一体、妹の小さな体のどこにそんな体力があるのか、もうすでに男を滅茶苦茶に嬲り、中途半端とは云へ三回も射精をしてゐると云ふのに、此のキラキラと輝くやうな笑顔を振りまく少女は全く疲れてなどゐないのか、これがふたなりなのか。-----------
「あ、えぁ、…………」
「? どうしたの? なにか言いたげだけど。………」
「そ、その、きゅ、きゅうけい。…………」
「--------んふ、何か言った? 休憩? 私、休憩なんて必要ないよ。それにお兄ちゃんも十分休んだんだから良いでしょ。……ねっ、早くっ、早くお尻出して?」
「い、いや、いや、…………………」
起き上がつてドアまで駆け、そして妹に捕まえられる前に部屋を後にする、……………さう云ふ算段を詩乃は立ててゐたのであるが、まず起き上がることが出来ない。なぜだ、足に力が入らない、----と思つたが、かうしてゐる内にも心百合は近づいて来てゐる。其の肉棒を跳ね上げさせながらこちらに向かつて来てゐる。-------もうじつとしてなど居られない。何とか扉まで這つて行き、縋り付くやうにしてドアノブに手をかける。が、其の時、背中に火傷するかと思はれるほど熱い突起物が押し付けられたかと思つたら、ふわりと、甘い甘い、でも決して淑やかさを失ふことの無い甚く魅惑的な匂ひに襲はれ、次いで、背後から優しく、優しく、包み込まれるやうにして抱きしめられてゐた。そして首筋に体がピクリと反応するほどこそばゆい吐息を感じると、
「おにーちゃんっ、どこに行こうとしてるのん? まさか逃げようとしてたのん?」
と言はれ、ギュウゥゥ、………と腕に力を入れられてしまふ。
「ぐえぇ、………ぁがっ!………」
「-----んふふ、もう逃げられないよぉ。しぃにぃは今から私に、……この子に襲われちゃうの。襲われてたくさん私の種を吐き出されちゃうの。------ふふっ、男の子なのに妊娠しちゃうかもね」
「ご、ごゆり、…………あがっ、………だれかたすけて。……………」
と云ふが、ふいにお腹に回されてゐた手が膝の裏に来たかと思へば、いつの間にかゆつくりと体が宙に浮いて行くやうな感じがした。そして顔のちやつと下に只ならぬ存在感を感じて目を下に向けると、すぐ其処には嫌にぬめりつつビクビクと此方を見つめて来る妹の男性器が目に留まる。そして、足を曲げて座つた体勢だと云ふのに遥か遠くに床が見え、背中には意外と大きい心百合の胸の感触が広がる。…………と云ふことはもしかして俺は今、妹に逆駅弁の体位で後ろから抱きかかえられて、情けなく股を開いて男のモノを入れられるのを待つてゐる状態であるのだらうか。まさか男が女に、しかも実の妹に逆駅弁の体勢にされるとは誰が想像できよう、しかし彼女は俺の膝を抱え、俺の背中をお腹で支えて男一人を持ち上げてしまつてゐる。兄貴は心百合のモノが見えなかつたからまだマシだつただらうが、俺の場合は彼女の男性器がまるで自分のモノかのやうに股から生えてゐて、……………怖い、ただひたすらに怖い、こんなのが今から俺の尻に入らうとしてゐるのか。------
「あれ? お兄ちゃんのおちんちんは? どこ?」
詩乃はさつき自身のモノをしまふことすら忘れて扉に向かつたため、本来ならば逆駅弁の体位になつて下を向くと彼の陰茎が見えてゐるはずなのだが、可哀想なことに心百合のモノにすつぽりと隠れてしまつて全く見えなかつた。
「あっ、もしかしてこの根本に感じてる、細くて柔らかいのがそうなのかな? いや、全然分かんないけど」
心百合のモノがゆらゆらと動く度に詩乃のモノも動く。
「本当に小さいよね、お兄ちゃんのおちんちん、というか男の人のおちんちんは。私まだ中学一年生なのにもう三倍、四倍くらい?は大きいかな。…………ほんと、精液の量も少ないし、こんなのでよく人類は絶滅しなかったなぁって思うよ。-----まぁ、だから女の人って皆ふたなりさんと結婚していくんだけどね。お兄ちゃんも見てくれは良いのによく振られるのはそういうことなの気がついてる? 女の人って分かるんだよ、人間としての魅力ってものがさ。------」
「こゆり、…………下ろして。…………」
「あはは、役立たずの象徴を私のおちんちんで潰されてなに今更お願いしてるのん? ふたなりに比べて数が多いってだけで人権を与えられてる男のくせに。お兄ちゃんは、お兄ちゃんとして生まれた時点で、もう運命が決まってたんだよ。…………んふ、大丈夫大丈夫、心配しないで。もしお兄ちゃん達に人権が無くなっても、私がちゃんと飼ってあげるから、私がちゃんとお兄ちゃんにご飯を食べさせてあげるからさ、そんな不安そうな顔する必要ないよ、全然。--------」
「こゆ、り。…………」
「だって私、お兄ちゃんたちのこと大好きなんだもん。なおにぃにはあんなこと言ったけど、なんていうか二人とも、ペット? みたいで可愛いんだもん。だから普通の男の人よりは良い生活をさせてあげるから、さ、-----」
と、其の時、詩乃の体がさらに浮き始める。
「…………その代わりに使わせてね、お兄ちゃんたちの体。--------」
さう云ふと心百合は、早速兄の体を使おうと一息に詩乃を頭上へ持ち上げて、彼の尻穴と自身の雁首を触れ合はせる。意外にも詩乃が大人しいのはもう諦めてしまつたからなのか、其れとも油断させておいて逃げるつもりだからなのか。どちらにせよ動くと一番困るのは内蔵をかき乱される兄の方なのだから静かに其の時を待つてゐるのが一番賢いであらう。
「んふ、…………じゃあ、挿れるね。--------」
詩乃は其の言葉を聞くや、突然大人しく待つてなど居られなくなつたのであるが、直ぐにメリメリと骨の抉じ開けられる音が聞こえ、そして股から体が裂けていくやうな鈍い痛みが伝わりだすと、体全体が痙攣したやうに震えてしまひもはや指の一本すら云ふことを聞いてくれなかつた。其れでも懸命に手足を動かそうとするものの体勢が体勢だけにそもそも力が入らず、ひつくり返された亀のやうに妹の腹の上でしなしなと動くだけである。だがさうしてゐるうちにも、心百合は力ずくで彼の体に男のモノを入れていき、もう其の半分ほどが入つてしまつてゐた。
「そんな無駄な抵抗してないで、自分のお腹を触ってみたら? きっと感じるよ、私のおちんちん」
妹に言はれるがまま、詩乃はみぞおち辺りを手で触れる。すると、筍が地面から生えてゐるやうにぽつこりと、心百合の男性器が腹を突き破らうと山を作り、そして何やら蠢いてゐるのが分かつた。
「あっ、……はっ、………はは、俺の、俺の腹に、あぁ、……………」
「んふふ、感じた? 昔こういうの映画にあったよね、化物の子供が腹を裂いて出てくるの。私怖くて、お兄ちゃんに抱きついて見れなかったけど、こんな感じだった?」
「-----ふへ、………ふへへ、心百合の、こゆり、………こゆ、…………」
「あはっ、お兄ち��んもう駄目になっちゃった? しょうがないなぁ、………」
と云ふと、心百合は腰を引いて詩乃の体から陰茎を少し引き抜く。
「-----じゃあ、私が目を覚まさせてあげる、………よっ!」
「っおごぁっっっ!!!!!」
其のあまりにも強烈な一撃に、詩乃は顔を天井に上げ目を白くし裂けた口から舌を出して、死んだやうに手をだらんと垂れ下げてしまつた。果たして俺は人間であるのか、其れとも妹を気持ちよくさせるための道具であるのか、いや、前者はあり得ない、俺はもう、もう、…………さう思つてゐると二発目が来る。
「ぐごげぇえええっっっっ!!!!!」
「んー、…………まだ目が醒めない? もしもーし、お兄ちゃん?」
「うぐぇ、……げほっ、げほっ、………」
「まだっぽい? じゃあ、もう一発、………もう一発しよう。そしたら後はもうちょっと優しくしたげるから!」
すると、腹の中から巨大な異物が引き抜かれていく嫌な感覚がし、次いで、彼女も興奮しだしたのか背後から艶つぽい吐息が聞こえてくるようになつた。だけど、どういふ訳か其の息に心臓を打たせてゐると安心して来て、滅茶苦茶に掻き回された頭の中が少しずつ整頓され、遂には声が出るようになつた。
「こ、こゆり。………」
「うん? なぁに、お兄ちゃん」
「も、も、ももっと、もっと、…………」
もつと優しくしてください、と云ふつもりであつた。しかし、
「えっ、もっと激しくして欲しいのん? しぃにぃ、本当に良いのん?」
「い、いや、ちが、ちが、…………」
「----しょうがないなぁ。ほんと、しぃにぃって変態なんだから。……でもさすがに死んじゃうからちょっとだけね、ちょっとだけ。-------」
さう云ふと心百合は、今度は腰を引かせるだけでなく詩乃の体を持ち上げるまでして自身の陰茎を大方引き抜くと、其のまま動きを止めてふるふると其の体を揺する。
「準備は良い? もっと激しくって言ったのはお兄ちゃんなんだからね、どうなっても後で文句は言わないでね」
「あっ、あっ、こゆり、ぃゃ、……」
「んふ、-------」
と、何時も彼女が愉快な心地をする際に漏らす悩ましい声が聞こえるや、詩乃は床に落ちていつた。かと思えば、バチン! と云ふ音を立てて、お尻がゴムのやうに固くも柔らかくもある彼女の鼠径部に打ち付けられ、体が跳ね、そして其の勢ひのまま再び持ち上げられ、再度落下し、心百合の鼠径部に打ち付けられる。-------此れが幾度となく繰り返されるのであつた。もはや其の光景は遊園地にある絶叫系のアトラクシオンやうであり、物凄い勢ひでもつて男が上下してゐる様は傍から見てゐても恐怖を感じる。だが実際に体験をしてゐる本人からするとそんな物は恐怖とは云へない。彼は自分ではどうすることも出来ない力でもつて体を振り回され、腹の中に巨大な異物を入れられ、肛門を引き裂かれ、骨盤を割られ、さう云ふ死の苦痛に耐えきれず力の限り叫び、さう云ふ死の恐怖から神のやうな少女に命乞ひをしてゐるのである。だが心百合は止まらない。止まるどころか彼の絶叫を聞いてさらに己を興奮させ、ちやつと、と云つたのも忘れてしまつたかの如く実の兄の体をさらに荒々しく持ち上げては落とし、持ち上げては落とし、其の巨大な陰茎を刺激してゐるのであつた。
「あがあぁぁぁ!!!こゆ”り”っっっっ!!!!ぅごぉあああああっぁぁ!!!!」
「えへへ、気持ちいーい?」
「こゆりっっ!!こゆり”っ!!!!!こゆっ!!!!」
「んー? なぁに? もっと激しくって言ったのはお兄ちゃんでしょう?」
「あぁがぁぁっっ!!!ごゆ”り”っ!!!」
「んふふ、しぃにぃは本当に私のこと好きなんだねぇ。いくら家族でも、ちょっとドキドキしちゃうな、そこまで思ってくれると。------」
腰を性交のやうに振つて、男を一人持ち上げ、しかも其の体を激しく上下させてなお、彼女は息を乱すこともなく淡々と快楽を味はつてゐる。が、其の快楽を与えてゐる側、------詩乃はもう為すがまま陵辱され、彼女の名前を叫ぶばかりで息を吸えてをらず、わなわなと震えてゐる唇からは血の流れを感じられず、黒く開ききつてゐる瞳孔からは生の活力が感じられず、もはや処女を奪はれた生娘のやうに肛門から鮮血を垂れ流しつつ体を妹の陰茎に突き抜かれるばかり。でも、其れでも、幸せを感じてゐるやうである。何故かと云つて、彼ら兄弟は本当に妹を愛してゐるのである。其の愛とは家族愛でもあると同時に、恋ひ人に向ける愛でもあるし、崇敬愛でもあるのである。そしてそこまで愛してゐる妹が自分の体を使つて喜んでくれてゐる、いや彼の言葉を借りると、喜んで頂けてゐるのである。…………此の事がどれほど彼にとつて嬉しいか、凡そ此の世に喜ぶ妹を見て嬉しくならない兄など居ないけれども、死の淵に追ひ込まれても幸せを感じるのには感服せざるを得ない。彼を只の被虐趣味のある変態だと思ふのは間違ひであり、もしさう思つたのなら反省すべきである。なんと美しい愛であらうか。---------
「んっ、………そろそろ出そう。……………」
さうかうしてゐると、心百合はどんどん絶頂へと向かつて行き、たうたう、と云ふより、此れ以上快感を得てしまつては途中で射精を止める事が出来ない気がしたので、さつさと逝つてしまはうと其の腰の動きをさらに激しくする。
「ひぎぃ!!うぐぇ!!ごゆりっ!!じぬ”っ!!!じぬ”ぅっっっっ!!!!」
死ぬ、と、詩乃が云つた其の時、一つ、心百合のモノが暴れたかと思ひきや、唯でさへ口を犯された際の名残で大きく膨れてゐた彼の腹がさらに膨らみ、そして行き場を失つた精液が肛門をさらに切り裂きながら吹き出て来て、床に落ちるとさながら溶岩のやうに流れていく。
「あっ、あっ、ちょっ、…………そんなに出たら、………あぁ、もう! 」
心百合は急いで詩乃の体から男性器を取り出し床に捨てると、本棚に向かつて流れていく精液を兄の体を使つて堰き止め、ついでにもう殆ど動いてゐない那央を雑巾のやうに扱つて軽く床を拭き、ほつとしたやうに一息ついた。
「まだ出したり無いけど、ま、この辺にしておこうかな。………これ以上は本が濡れちゃう。-------」
続けて、
「なおにぃ、しぃにぃ、起きて起きて、-------」
だが二人とも、上と下の口から白くどろどろとした液体を吐き出し倒れたままである。
「-----ねっ、早く起きて片付けてよ。でないともう一度やっちゃうよ?」
と云つて彼らの襟を背中側から持ち、猫をつまむやうにして無理やり膝立ちにさせると、那央も詩乃も一言も声を出してくれなかつたがやがてもぞもぞと動き始め部屋の隅にある、彼女がいつも精液を出してゐるバケツを手に取り、まずは床に溜まつてゐる彼女の種を手で掬い取つては其の中に入れ、掬い取つては其の入れて"行為"の後片付けをし始めたので、其の様子を見届けながら彼女もウェットティッシュで血やら精液やらですつかり汚れてしまつた肉棒を綺麗にすると、ゴロンとベッドに寝転び、実の兄としてしまつた性交の余韻に、顔を赤くして浸るのであつた。
那央たち兄弟は体中に感じる激痛で立つことすら出来ず、ある程度心百合の精液をバケツに入れた後は這つて家の中を移動し、雑巾を取つて来て床を拭いてゐたのであるが、途中何度も何度も気を失ひかけてしまひ中々進まなかつた。なんと惨めな姿であらう、妹の精液まみれの体で、妹の精液がへばり付いた床を雑巾で拭き、妹の精液が溜まつてゐるバケツの中へ絞り出す。こんな風に心百合の精液を片付けることなど何時もやつてゐるけれども、彼女に犯されボロ雑巾のやうな姿となつた今では、自分たちが妹の奴隷として働いてゐるやうな気がして、枯れ果てた涙が自然と出て来る。-------あゝ、此の涙も拭かなくては、…………一つの拭き残しも残してしまつては、俺たちは奴隷ですらない、人間でもない、本当に妹の玩具になつてしまふ。だがいくら拭いても拭いても、自分の体が通つた場所にはナメクジのやうな軌跡が残り、其れを拭こうとして後ろへ下がるとまた跡が出来る。もう単純な掃除ですら俺たちは満足に出来ないのか。異様に眠いから早く終はらせたいのに全く進まなくて腹が立つて来る。が、読書に戻つて上機嫌に鼻歌を歌ふ妹のスカートからは、蛇のやうに”ソレ”が、未だにビクリ、ビクリと、此方を狙つてゐるかの如く動いてゐて、とてもではないがここで性交の後片付けを投げ出す事など出来やしない。いや、そもそもあれほど清らかな妹にこんな汚い仕事などさせたくない。心百合には決して染み一つつけてなるものか、決して其の体を汚してなるものか、汚れるのは俺たち奴隷のやうな兄だけで良い。-------さう思ふと急にやる気が出てきて、二人の兄達は動かない体を無理やり動かし、其れでも時間はかかつたが綺麗に、床に飛び散つた精液やら血やらを片付けてしまつた。
「心百合、………終わったよ。-----」
「おっ、やっと終わった? ありがと���」
「ごめんな、邪魔してしまって。…………」
「んふ、………いいよいいよ、その分気持ちよかったし。-------」
さう心百合が云ふのを聞いてから、兄二人は先程まで開けることすら出来なかつた扉から出て行こうとする。
「あ、お兄ちゃん、------」
心百合が二人を呼び止めた。そして、
「-----また明日もしようね」
とはにかみながら云ひ二三回手を振つたのであるが、那央も詩乃も怯えきつた顔をさらに怯えさせただけで、何も言はずそそくさと部屋から出ていつてしまつた。
「詩乃、…………すまん。…………」
心百合の部屋を後にして扉を閉めた後、さう那央が詩乃に対して云つたけれども、云はれた本人は此れにも特に反応せず自分の部屋に、妹の精液が入つたバケツと共に入りほんの一時間前まで全ての切掛となつたダンベルがあつた位置に座り込んだ。其のダンベルと云へば、結局心百合の部屋から出る時に那央が持つてゐたのであるが、自室に入る際に階段を転げ落ちてゐく音がしたから多分、兄と一緒に踊り場にでも転がつてゐるのであらう。もう其れを心配する気力も起きなければ、此れ以上動く体力も無い。なのに体中に纏わりつく心百合の精液は冬の冷気でどんどん冷え、さらに体力を奪つて来てゐる。ふとバケツの方に目を向けると、二人の血でほんのりと赤みがかつた妹の精液が半分ほど溜まつてゐるのが見える。-------一体これだけでも俺たち男の何倍、何十倍の量なのであらうか。一体俺たちがどれだけ射精すれば此の量に辿り着けるのであらうか。一体どれほどの時間をかければ人の腹を全て精液で満たすことが出来るのであらうか。しかも此の液体の中では、男の何百、何千倍と云ふ密度で妹の精子が泳いでゐると云ふではないか。…………恐ろしすぎる、もはやこの、精液で満たされぱんぱんに張つた腹が彼女の子供を授かつた妊婦の腹のやうに見えてくる。もし本当にさうなら、なんと愛ほしいお腹なのであらうか。………だが残念なことに、男は受精が出来ないから俺たちは心百合の子供を生むことなど出来ぬ。其れに比べて彼女の子供を授かれる女性の羨ましさよ、あの美しい女神と本来の意味で体を交はらせ、血を分かち合ひ、そして新たな生命を生み出す、-------実の妹の嬲り者として生まれた俺たち兄弟とは違ひ、なんと素晴らしい人生を歩めるのであらう。だが俺たちの人生も丸切無駄では無いはずである。なんせ俺達は未だ生きてゐる。生きてゐる限り心百合に使つて頂き喜んで頂ける。もう其れだけで十分有意義である。詩乃はパキパキと、すつかり乾きつつある心百合の精液を床に落としながら立ち上がると、バケツに手をつけた。
--------と、丁度其の時、妹の部屋の方向から、ガチャリと扉の開く音がしたかと思えば、トントントン…………、と階段を降りていく軽い音が聞こえてきた。さう云へば、ふたなりも男と同じで射精をした後はトイレが近くなるらしいから、階段下のトイレに向かつたのであらう。と、詩乃は思ひながら其の足音を聞いてゐたのであるが、なぜか途方もない恐怖を感じてしまひ、心百合が階段を降りきるまで一切の身動きすら取らず、静かに息を潜めて心百合が戻つて来るのを待つた。----今ここで扉を開けてしまつては何か恐ろしいことになる気がする。…………其れは確かに、今しがた瀕死になるまで犯された者の「感」と云ふものであつたがしかし、もし本当に其の感の云ふ通りであるならば、先程階段を転げ落ちていつた那央はどうなるのであらう。多分兄貴も俺と同じやうに全く体が動かせずに階段下で蹲つてゐるとは思ふが、もし其処に心百合がやつて来たら? いや、いや、あの心優しい心百合の事だし、しかももう満足さうな顔をしてゐたのだから、運が良ければ介抱してくれてゐるのかもしれない。————が、もし運が悪ければ? 此の感が伝えてゐるのは後者の方である、何か、とんでもなく悪い事が起こつてゐるやうな気がする。さう思ふと詩乃は居ても立つても居られず、静かに静かに決して音を立てぬようそつと扉を開けると、ほとんど滑り落ちながら階段を降りて行く。途中、那央が居るであらう踊り場に妹の精液の跡があつたが、兄は居なかつた。でも其の後(ご)もずつと精液の跡は続いてゐたので何とか階段を降りきつたのであらうと一安心して、自身も階段を降りきると、確かに跡はまだあるのであるが、其処から先は足を引きずつたやうな跡であり、決して体を引きずつたやうな跡ではなくなつてゐる。…………と云ふことは、兄はもしかして壁伝いに歩いたのだらうか、------と思つてゐたら、ふいに浴室の方から声が聞こえてきたやうな気がした。最初は虫でも飛んでゐるのかと思つたけれども、耳を澄ますと矢張り、毎日のやうに聞いてゐる、少し舌足らずで可愛いらしい声が、冬の静寂の中を伝はつて確かに浴室から聞こえてくる。そしてよく見れば、兄の痕跡は其の浴室へ向かつて伸びてゐる。------いや、もしかしたら精液まみれで汚れてしまつた那央を綺麗にしようと、心百合がシャワーを浴びせてゐるのかもしれない、それに自分もティッシュで拭くだけでは肉棒を綺麗にした気がせず、もしかするとお風呂にでも浸かつてゐるのかもしれない。…………が、浴室に近づけば近づくほど嫌な予感が強くなつてくる。しかも脱衣所の扉を開けると、ビシュビシュと何やら液体が、無理やり細い管から出てくるやうな音、-----毎夜、妹の部屋から聞こえてくる、兄弟たちを虜にしてやまない"あの"音が聞こえてくる。
「あ、あぁ、…………」
と声を漏らして詩乃は、膝立ちになり恐る恐る浴室の折戸を引いた。すると心百合は其処に居た。此方に背を向け少し前のめりになり、鮮やかな紺色のスカートをはためかせながら、腕を大きく動かして甘い声を出して、確かに其処に居た。-----
「こ、こゆり。……………」
「うん? もしかして、しぃにぃ?」
心百合が此方に振り向くと、変はらずとろけ落ちさうなほど可愛い彼女の顔が見え、そして彼女の手によつて扱かれてゐる、変はらず悪夢に出て来さうなほどおぞましい"ソレ"も見え、そして、
「あんっ、…………」
と、甲高い声が浴室に響いたかと思えば腕よりも太い肉棒の先から白い液体が、ドビュルルル! と天井にまで噴き上がる。
「あぇ、こゆり、………どうして、…………」
「んふ、やっぱり中途半端って良くないよね。もうムラムラしてどうしようも無かったから、いっその事、我慢しないことにしたんだぁ。……………」
其の歪んだ麗しい微笑みの奥にある浴槽からは、彼女の言葉を物語るかのやうに入り切らなかつた精液がどろどろと床へと流れ落ちていつてゐる。……………いや其れよりも、其の精液風呂から覗かせてゐる黒いボールのやうな物は、其れに縁にある拳のやうな赤い塊は、もしかして、-------もしかして。………………
「あ、兄貴、…………」
もう詩乃には何が起きてゐたのか分かつてしまつた。矢張り、良くないことが起きてゐた。其れも、最悪の出来事が起きてゐた。-------射精は途中で無理やり止めたものの合計で四回も絶頂へ達せられたし、其れなりに出せて満足した心百合は、兄たちが"行為"の後片付けをしてゐる最中に読書を再開したけれども、矢張りどこか不満であつたのか、鼻歌を歌ふほど上機嫌になりつつも悶々としてゐたのであらう。何しろあの時妹の肉棒は、惨めに床を拭く俺たちを狙ふかのやうに跳ねてゐたのである。其れで、兄たちが居なくなりやうやく静かになつて、高ぶつた気もついでに静まるかと思つたのだが、意外にもさうはならない、むしろ妹の男性器はどんどん上を向いていく。あゝ、やつぱりお兄ちゃんたちの顔と叫びは最高だつた。あれをおかずにもう一発出したい。………と思つても、兄たちがバケツを持つていつてしまつたので処理をしようにも出来ず、結局我慢しなければならなかつたが其のうちすつかり興奮しきつてしまひ、ベッドから起き上がつて、一体どうしたものかと悩んだ。------いや別に、バケツはあと一つ残つて居るのだから今ここで出してもよいのだけれども、其れだけで収まつてくれる筈がない。お風呂も詰まつてはいけないとお兄ちゃん達が云ふから駄目だし、外でするなんて、夜ならまだしもまだ太陽が顔を覗かせてゐる今は絶対にやりたくない。そもそも外でおちんちんを出して自慰をするなぞ其れこそ捕まつてしまふ。どうしよう。…………さう云へばさつき、さういえば階段からひどい音が聞こえたのは少し心配である。もう二人は歩くことも出来ないのかしらん。可哀想に、歩くことも出来ないなんて其れは、其れは、……………もはや捕まえて欲しいと自分から云つてゐるやうなものではないか。さうか、お兄ちゃんたちをもう一回犯せば良いんだ。どつちが階段を下りていつたのかは知らないが、歩くことも出来ないのだから下の階には二人のうちどちらかが未だ居るはず、いや、もしかしたら二人共居るかもしれない。-------と、考へると早速部屋から出て、階段を下り、下で倒れてゐた那央を見つけると服を汚さぬよう慎重に風呂場まで運んで、そして、----ここから先は想像するのも嫌であるが、心置きなく犯して犯して犯して犯したのであらう。浴室に散乱するシャンプーやらの容器から那央が必死で抵抗したのは確かであり、其れを己の力で捻じ伏せ陵辱する様は地獄絵図であつたに違いない。いや、地獄絵図なのは今も変はりは無い。何故かと云つて心百合のモノは此方を見てきてゐるのである。ビクビクと自身を跳ね上げつつ、ヒクヒクと鈴口を蠢かしてゐるのである。此の後起こることなんて直ぐ分かる。-------逃げなくては、逃げなくては、………逃げなくてはならぬが、心百合がほんのりと頬を赤くし愉快な顔で微笑んで来てゐる。あゝ、可愛い、………駄目だ、怖い、怖くて足が動かない。…………と、突つ立つてゐると心百合の手が伸びてくる。そして、抱きしめられるやうにして腰を掴まれるとやうやく、手が動くようになり床に手を付けた。が、もう遅い。ずるずると、信じられない力で彼の体は浴槽の中へ引きずり込まれていく。どれだけ彼が力強く床に手を付けようとも、どれだけ彼が腰に回された手を退けようとも、ゆつくりと確実に引きずり込まれていく。そして、またたく間に足が、腰が、腹が、胸が、肩が、頭が、腕が、どんどん浴室の中へと入つて行き、遂に戸枠にしがみつく指だけが外に出てゐる状態となつた。が、其の指も、
「次はしぃにぃの番だよ? 逃げないで。男でしょ?」
と云はれより強く引つ張られてしまふと、耐えきれずにたうたう離してしまつた。
「やめてええええええええええええええええええええええ!!!!!!!!!!!!!!!!!」
心百合と云ふたつた一三歳の、未だぷにぷにと幼い顔立ちをした妹の力に全く抗えず、浴室に引きずり込まれた詩乃はさう雄叫びを上げたが、其の絶叫も浴室の戸が閉まると共に小さくなり、
「んふ、………まずはお口から。-------」
と、思はず恍惚としてしまふほど麗しい声がしたかと思��きや、もう聞こえなくなつてしまつた。
(をはり)
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0月24日、ワシントンの政策研究機関「ウィルソン・センター」で行われた、ペンス副大統領の「米中関係の将来」についての演説を全文翻訳にてご紹介します。 スピーチに引用されてるカデットの祈りも翻訳しました。 <ホワイトハウス 2019/10/24>
フレデリック・V・マレック記念講演でのペンス副大統領の発言
コンラッド・ホテル ワシントンD.C. 東部夏時間11:51 AM
副大統領: 温かく歓迎に感謝いたします。そして、新しい議長のスコット・ウォーカー知事、元下院議員ジェーン・ハーマンさん、この歴史的中心の役員全員の皆さん。 ウィルソン・センターは、アメリカのリーダーシップと世界の舞台にとって、自由の素晴らしいチャンピオンであった大統領の名にちなんで名付けられました。
そして同じ精神で、今朝は米国内および世界各地の自由のチャンピオンであるもう一人の大統領からのご挨拶から始めさせていただきます。第45代アメリカ合衆国大統領、ドナルド・トランプ氏のご挨拶を申し上げます。(拍手)
今日は極めて重要な週の終わりにここに来ました。トルコ軍がシリアを侵攻した後、米国大統領の強力な経済的および外交的行動とトルコとクルドの同盟国の協力のおかげで、シリア防衛軍はトルコの軍事支配下にある国境地域から無事撤退することができました。
そして昨日、トルコ国防省は、恒久的な停戦とすべての攻撃的な軍事作戦の中止を確認しました。(拍手)
我が国の部隊が戻ってきます。私は、この停戦を通して、トルコと我が国のクルド人の同盟国が、戦争で破壊されたこの地域のすべての人々の平和と安全を回復すると信じているセーフゾーンを、国際社会が設ける機会を作り出したことを喜ばしく思います。確かに前進ですね。
ですから、本日ここにお集まりいただき、誠にありがとうございます。また、第1回フレデリック・V・マレック記念講演会をお届けできることを大変光栄に思います。
フレッド(フレデリック)を知っている人なら誰でも、彼が誇り高きウェストポイント*(訳注*:陸軍士官学校)の息子で、「義務、名誉、祖国」という言葉で人生を生きていたと述べるでしょう。 彼は他の人に相談する時、彼は、母校のカデットの祈り1)を引用し、「安易な間違った方ではなく、より困難な正しい方を選んでください」と促していました。
フレッドは、何人たりとも―何よりも、国家が自らの価値観を捨てて自国の利益を守ることはできないことを理解していました。今日は、フレッドを偲んで、21世紀の運命の大部分がかかっているテーマ、すなわち米国と中国の関係について議論したいと思います。
トランプ大統領は政権発足当初から、「より公正で安全で平和な世界」を実現するために、誠実さ、公正さ、相互尊重を基盤に中国との関係を構築することを決意していました。
1年前の今月、私は中国の債務外交と軍事拡張主義など、米国の利益と価値に最も有害な中国の政策について多くのことを話しました。信仰の国民への弾圧、監視国家の構築、そしてもちろん、関税、割当、為替操作、強制的なテクノロジー移転、産業補助金など、自由かつ公正な貿易とは相容れない中国の有利な政策についてです。
過去の政権は早くも終わってしまいましたが、皆このような不正乱用を知っていました。こうした不正乱用を容認するだけでなく、それによって利益を得る事が多かったワシントンの既得権益を覆そうとする者はいませんでした。この政治的なエスタブリッシュメントは、中国の経済的侵略と人権侵害に対して沈黙していただけでなく、ほぼそういったことを可能にしました。毎年、アメリカの中心値域では各工場が閉鎖し、北京では新しい超高層ビルが建てれるたびに、アメリカの労働者たちの士気はますます低下し、中国はますます勢いづいてきました。
20年足らずの間に、トランプ大統領が「世界史上最大の富の移転」と述べたように、中国のGDPは過去17年間で9倍以上成長しました。世界第2位の経済大国になりました。この成功の大部分は、米国の中国への投資によってもたら��れたものです。
中国政府の動きは、米国の昨年の対中貿易赤字が4000億ドルを超え、米国の世界貿易赤字の半分近くを占めたことの一因となりました。トランプ大統領が何度も述べているように、我が国は過去25年間に中国を再建しました。 まさにそのとおりで、その時代は終わりました。
歴史が示すように、3年も経たないうちに、ドナルド・トランプ大統領はその物語を永遠に変えてしまいました。米国とその指導者たちはもはや、経済的関与だけで共産主義中国の権威主義国家が、私有財産、法の支配、国際通商規則を尊重する自由で開かれた社会に変わることを期待しないでしょう。
その代わりに、2017年の国家安全保障戦略に明示されているように、米国は今や中国を戦略的・経済的ライバルとして認識しています。そして、私が直接証言できるのは、アメリカ国民の圧倒的多数が、都市部と農場で、米中関係に関するトランプ大統領の明確なビジョンを支持しているということです。大統領の立場は議会でも超党派の幅広い支持を得ています。
この支援を受けて、トランプ大統領は過去の失敗した政策を正し、米国を強化し、中国政府に説明責任を負わせ、米中関係を両国と世界のために、より公平で安定した建設的な方向へと導くために、大胆かつ断固たる行動をとってきました。
我々の政権が発足したとき、中国は世界最大の経済大国になる軌道に乗っていました。専門家らは、中国経済が数年内に米国経済を追い抜くだろうと予測していました。しかし、トランプ氏の大胆な経済政策のおかげで状況は一変しました。
この政権の初期から、この大統領は米国史上最大の減税と税制改革に署名しました。米国の法人税率を引き下げたのは、世界中の他の法人税率を反映させるためです。我々は、過去最高水準で連邦規制を後退させました。我々はアメリカのエネルギーの束縛から解き放ちました。そして、トランプ大統領は自由で公正な貿易を強く支持してきました。
その結果は? アメリカは世界の歴史の中で最強の経済力を持っています。(拍手) そして、我が国の歴史の中で最強の経済力。
現在の失業率は50年ぶりの低水準にあります。今日、かつてないほど多くのアメリカ人が働いています。過去2年半の平均世帯収入は5,000ドル以上上昇しました。そして、それは大統領の減税や勤労世帯のためのエネルギー改革による節約を考慮に入れていません。
大統領の政策のおかげで、米国は米国経済に数兆ドルの富をもたらしましたが、中国経済は依然として立ち遅れています。
米国人労働者と理不尽な貿易慣行との公平さを図るため、トランプ大統領は2018年に中国製品に2500億ドルの関税を課しました。そして今年初め、大統領は、もし米中の貿易関係における重要な問題が今年の12月までに解決されなければ、さらに3000億ドルの中国製品に関税を課すと発表しました。
知的財産権と国民のプライバシーを保護し、国家の安全保障を守ために、ファーウェイやZTEなどの中国企業の違法行為を抑制するための強力な措置を講じてきました。また、世界中の同盟国に対して、最も機密性の高いインフラやデータについても中国政府の管理下に置かない安全な5Gネットワークを構築するよう求めてきました。
そして、経済的に力をつけてきた今、トランプ大統領は、一世代を超えて、国防費の大幅な増加にも署名しました。過去三年間だけで国防に2兆5000億ドルの新たな投資が行われました。世界史上最強の軍隊をさらに強化しました。
そして、いかなる国も海洋公共財を領海であると主張する権利を持たないことを中国に明確に示すために、米国は昨年、航行の自由作戦のペースと範囲を拡大し、インド太平洋における我が国の軍事プレゼンスを強化しました。
あらゆる場所の自由を愛する人々の価値観を守るために、我々は中国共産党に対し、中国人の信教の自由を抑圧していることを非難してきました。中国では、何百万人もの少数民族や宗教的少数派が、宗教的・文化的アイデンティティを根絶しようとする共産党の取り組みに抵抗しています。
中国の共産党は、キリスト教の牧師を逮捕し、聖書の販売を禁止し、教会を破壊し、100万人以上のイスラム教のウイグル人を投獄しました。
我々は、先月、トランプ大統領が中国共産党当局者にビザ規制を課した際、中国政府は新疆のイスラム少数民族に対する扱いについて責任があるとしてきました。また、ウイグル人やその他の中国系イスラム教徒への迫害に加担したとして、中国の20の公安局と8社の中国企業に対する制裁も行なっています。(拍手)
そして我々は、台湾がやっと手にした自由を守るために同国を支持してきました。現政権下では、追加の軍事有償援助を承認し、台湾が世界有数の貿易経済国であり、中国文化と民主主義の象徴であることを認めました。
そして、何百万人もの人々が平和的に抗議のデモを行う中、我々は香港の人々を代表して声を上げました。また、トランプ大統領は、1984年の中英連合声明にもあるように、香港の人々の権利を尊重する平和的解決が必要であることを早くか��表明してきました。
これらは、すべて歴史的な行動です。中国との関係において、米国の国益をこれほどまでに積極的に推進した大統領はいません。
米国の行動と決意に対して、一部の多国籍企業は、米国の経済政策は厳しすぎるし、米国の利益や価値観を推し進めることは中国とのより良い関係に反すると主張している者もいます。
しかし言うまでもなく、我々はそれに非常に異なる見方をしています。覇権争いが進行中であり、米国の力が増しているにもかかわらず、我々は中国にもっと良いものを求めています。そのため、米国は数十年ぶりに、ドナルド・トランプ大統領のリーダーシップの下、中国の指導者たちを厳密に扱っています。世界の大国の指導者はどのように扱われるべきか―敬意をもって、だが、一貫性と誠実さをもって。
そして、その誠実な精神において、私がハドソン研究所でスピーチを行ってから、中国政府は経済関係を改善するための大きな行動をまだ取っていないことをお伝えしなければなりません。我々が提起した他の多くの問題に関して、中国政府の行動はより攻撃的になり、不安定化しています。 貿易面では、この5月、何カ月にもわたり苦心した交渉の結果、多くの重要事項について合意に達しましたが、最終的に中国は150ページに及ぶ合意を撤回し、双方、振り出しに戻りました。
今でもトランプ大統領は、中国政府が合意を望んでいると信じています。また、我々は、新たな第一段階の協定における米国の農業に対する支援を歓迎し、今週チリで開催されるAPECサミットの直後に署名されることを希望します。しかし、中国は、両国の間には構造的な問題や重要な問題が広範囲に存在しており、それらにも対処しなければならないことを知っています。 例えば、中国の指導者が2015年にローズガーデンで行った一次停戦の合意にもかかわらず、中国は我が国の知的財産の窃盗を支援し助長し続けています。
昨年7月、FBI長官は議会で、1,000件の知的財産盗用に関する現在の捜査の大半は中国が関与していると述べました。米国の企業は、知的財産窃盗によって毎年数千億ドルもの損失を被っています。
このような統計の背後には、企業だけでなく、人権侵害や才能の窃盗によって脅かされる人々や家族、そして夢も含まれています。自由企業体制は、リスクを取る市民が自らの野心を追求し、犠牲から得られる報酬を得るかどうかにかかっています。彼らの労働の産物が盗まれたり、彼らの額の汗が無駄にされたりすると、それは我々の自由企業システム全体を弱体化させます。
昨年だけでも、中国を巻き込んだ知的財産窃盗事件が相次いでいます。テスラは今年3月、元エンジニアが、中国の自動運転車会社に転職する前に、米国で開発した自動操縦システムに関連する30万件のファイルを盗んだとして、元エンジニアを提訴しました。
そして昨年12月、司法省は、中国国家安全部内の悪名高いハッキンググループによる4年近くに及ぶ活動を終結させたことを明らかにしました。これらの中国政府関係者は、10万人の米海軍関係者の名前と資料、船舶の整備情報などを盗み出し、国家安保に深刻な影響を及ぼしました。
中国が中国製のフェンタニルやその他の合成オピオイドを取り締まると約束したにもかかわらず、実際には、これらの致死性の高い薬物が国境を越えて流れ込み、毎月何千人もの米国人の命を奪っています。 そして今日、中国の共産党は、世界がかつて見たこともないような監視国家を建設しています。何億台もの監視カメラがあらゆる視点から見下ろしています。少数民族は、警察が血液サンプル、指紋、音声記録、複数の角度からの頭部撮影、虹彩スキャンまで要求される任意の検問所を通過しなければなりません。
中国は現在、独裁政権で使用しているのとまったく同じ技術ツールをアフリカ、ラテンアメリカ、中東の国々に輸出しています。これらのツールは、新疆ウイグル自治区のような地域に配備されています。多くの場合、米国企業の支援を得て導入されています。 また、中国政府は、民間技術分野と軍事技術分野の障壁も打破しました。このドクトリンは、中国政府が「軍民融合」と呼ぶものであり、法律と大統領令により、中国の企業は、民間、国有、外国を問わず、自国の技術を中国軍と共有しなければなりません。
中国のこの1年間の同地域での軍事行動と近隣諸国に対するアプローチも、ますます挑発的なものになっています。 2015年に中国の指導者がローズガーデンに立ち、中国は南シ��海を「軍国化するつもりはない」と発言しましたが、中国は人工島に建設された軍事基地からなる列島の上に高度な対艦ミサイルと対空ミサイルを配備しました。
また中国政府は、フィリピンやマレーシアの船員や漁師に定期的に脅威を与えるため、「海上民兵」と呼ばれる船舶の利用を拡大していいます。また、中国の沿岸警備隊は、ベトナムが自国の海岸から石油や天然ガスを採掘するのを阻止するために、ベトナムに圧力をかけようとしています。 2019年の東シナ海では、中国の挑発行為に対応して、我が国の親密な同盟国である日本は、過去最多の戦闘機の緊急発進を予定しています。中国の海洋警察も、日本施政権下にある尖閣諸島周辺の海域に、連続60日以上も艦船派遣しています。
中国はまた、「一帯一路」構想を利用して世界中の港に拠点を設けていますが、これは、表向きは商業目的ですが、最終的には軍事目的になる可能性があります。今では中国の国旗がスリランカからパキスタン、ギリシャまでの港に掲げられています。 今年に入り、中国はカンボジアに海軍基地を建設する秘密協定に調印したと報告されています。また、中国は大西洋の海軍基地になる可能性のある場所まで狙っていると報告されています。
そして、米政権は 「一つの中国」 政策を尊重し続けていますが、3つの共同コミュニケや台湾関係法に反映されているように、中国は、札束外交によって、この1年間で、外交承認を台北から北京に切り替えるようさらに2カ国を誘導し、台湾の民主主義に対する圧力を強めています。
国際社会は、台湾との関与が平和を脅かすものではないことを忘れてはなりません。台湾と地域全体の平和を守ります。米国は、台湾の民主化がすべての中国人にとってより良い道を示すと常に信じています。(拍手)
しかし、この1年間、香港の騒乱ほど自由に対する中国共産党の反感を露呈することはありませんでした。 香港は150年間、中国と世界の重要な窓口の役割を果たしてきました。香港は、強力で独立した法律機関と活発な報道の自由を持つ、世界で最も自由な経済圏の1つであり、何十万人もの外国人居住者が住んでいます。
香港は、中国が自由を受け入れる時に、何が起こり得ることかという実例です。それにもかかわらず、中国はここ数年、香港への介入を強化し、「一国二制度」という拘束力のある国際協定によって保証された国民の権利と自由を縮小するための行為に取り組んできました。
しかし、トランプ大統領は、「合衆国は自由の象徴だ」と明言していいます。(拍手) 我が国は、国家の主権を尊重します。しかし、米国は中国政府がそのコミットメントを守ることを期待しており、トランプ大統領は、当局が香港の抗議者に暴力を行使した場合、米国は、貿易協定を結ぶのははるかに困難になるだろうと繰り返し明言しています。(拍手)
その後、香港当局は、デモの発端となった強制送還法を撤回し、中国政府も自制を示したことを喜ばしく思います。 これからも、米国は中国に対し、自制を示し、コミットメントを守り、香港の人々を尊重するよう、引き続き求めていくことをお約束します。そして、この数カ月間、自らの権利を守るために平和的にデモを行ってきた香港の何百万もの人々と、我々は共にいます。(拍手) 我が国は、あなた方に感銘を受けています。我々は、あなた方が非暴力の抗議の道を歩むよう求めます。(拍手) だが、あなた方には何百万ものアメリカ人の祈りと称賛があることを知っておいてください。
昨年私が述べたように、中国は地域や世界に影響力を行使し、中国共産党も米国の企業、映画スタジオ、大学、シンクタンク、学者、ジャーナリスト、地方、州、連邦政府の当局者に報酬を与えたり、圧力をかけたりして、米国における国民的論議に影響力を与えています。
今日、中国は数千億ドルもの不正取引された商品を米国に輸出しているだけでなく、最近、中国は検閲を輸出しようとしています。これはその政権の特徴です。企業の貪欲さにつけ込み、中国政府は米国の世論に影響を与えようとし、米国企業を支配しています。
そして、あまりにも多くの米国多国籍企業が、中国共産党に対する批判だけでなく、米国の価値観を肯定的な表現さえも口を閉ざすことよって、中国の資金と市場の誘惑に屈しています。
ナイキは「社会正義の擁護者」と自称していますが、香港に関して言えば、社会的良識を入口でチェックすることを好んでいます。実際、中国のナイキ店舗は、ヒューストン・ロケッツのゼネラルマネージャーの「自由のために戦え。香港を支持する。(Fight for Freedom. Stand with Hong Kong)」という7語のツイートに抗議して、ロケッツの商品を棚から撤去し、中国政府に加わりました。
また、日常的にこの国を批判する自由を行使するNBAの大物選手やオーナーの中には、中国国民の自由と権利に関して声を上げることができない人もいます。中国共産党の肩を持ち、言論の自由を抑圧するNBAは、独裁政権の完全子会社のように振る舞っています。
人権侵害を故意に無視する進歩的な企業文化は進歩的ではありません。抑圧的です。(拍手) アメリカの企業、プロスポーツ、プロアスリートが検閲を受け入れることは、間違っているだけではありません。非アメリカ的です。米国企業は、米国の価値観を支持して、米国内だけでなく世界中で立ち向かうべきです。(拍手)
そして、中国の経済的、戦略的行動、米国の世論を形成しようとする試みは、私が1年前に述べたことを証明しています。今日まで、まさに真実です。中国は異なる米国大統領を望んでおり、それはトランプ大統領のリーダーシップが機能しているという究極の証です。 米国経済は日増しに成長し、中国経済がその代価を払っています。大統領の戦略は正しい。大統領は、これまで誰も経験したことのないような、アメリカ国民のため、アメリカの仕事のため、アメリカの労働者のために戦っています。そして、私は皆さん方にこの政権が決して屈しないことをお約束します。(拍手)
とはいえ、大統領は同様に、米国は中国との対立を求めないことを明確にしました。私たちは公平な競争の場、開かれた市場、公正な取引、そして我々の価値観の尊重を求めます。
我々は中国の発展を封じ込めようとしているのではありません。我が国は、何世代にもわたって中国国民と享受してきたように、中国の指導者と建設的な関係を築くことを望んでいます。もし中国が一歩踏み出し、この歴史上ユニークな瞬間をとらえ、アメリカ国民をあまりにも長い間利用してきた貿易慣行を終了させ、新たなスタートを切るならば、私は、ドナルド・トランプ大統領が新しい未来を始めるための準備、意欲があることを知っています。—(拍手)—アメリカが過去にそうしたように。
鄧小平の「改革開放」政策が外部世界との関与と交流を奨励した時、米国はこれに積極的に応じました。我が国は、中国の台頭を歓迎しました。我が国は6億人の人々が貧困から抜け出すという驚くべき成果を祝いました。米国は、中国の経済回復に、どの国よりも多くの投資を行いました。
アメリカ人は中国国民ためにより良いものを望んでいます。しかし、そのためには、我々は、中国がいつかそうなるかもしれないと想像したり希望したりするのではなく、現実のあるがままに受け入れなければなりません。 また、トランプ政権が中国から「デカップル(分断)」を望んでいるかどうかを問われることもあります。その答えは明らかに「No」であり、米国は中国と中国のより広い世界への関与を求めています。しかし、公正さ、相互尊重、国際的な商取引のルールに合致した方法での関与です。
しかし、これまでのところ、中国共産党は真の開放や世界的な規範との融合に抵抗し続けているようです。 中国政府が今日行っていることは、サイバースペースにおける共産党の巨大なファイアーウォールから、南シナ海の砂の万里の長城(グレートウォール)まで、香港の自治に対する不信から、あるいは信仰心の抑圧からも、すべて、何十年にもわたって中国共産党が世界から「デカップル(分断)」していることを示しています。
習近平国家主席自身も、党総書記に就任した��後に非公開の演説で、中国は「2つの社会システムの間の長期的な協力と闘争のすべての側面に対して誠実に準備するべきだ。」と述べたと聞いています。彼はまた、当時の同僚たちに、西側の回復力を過小評価しないようにと述べました。そして、それらの言葉には分別がありました。
中国は、自由を愛する米国民の回復力や米国大統領の決意を過小評価してはなりません。(拍手) 中国は、米国の価値観が深く根付いていること、これらの価値観に対する米国のコミットメントが建国の父たちに対するコミットメントと同じくらい強力であること、そして米国に民主主義と自由の明るい光が消える日は決してないことを知るべきです。(拍手)
アメリカは抑圧と専制に対する反乱から生まれました。我が国は、並外れた勇気、断固たる決意、信仰、そして火のような独立と意志を持つ人々によって建国され、定住され、開拓されました。何世紀にもわたって何も変わっていません。
米国人は、すべての男性と女性は平等に創造され、創造主によって、生命、自由、幸福の追求という、不可分の権利を与えられていると信じています。そして、これらの信条を変えるものは何もありません。(拍手) これらの信条こそが我々です。我々はずっとこれらの信条を持ち続けるのです。
そして、我々は、民主主義の価値観―個人の自由、宗教の自由、良心の自由、法の支配―が米国と世界の利益に役立つとこれからも信じます。そして、人類の野望を解き放ち、世界のすべての国家と国民の間の関係を導くための最良の政府であり続けるでしょう。
米中関係において我々が直面している多くの課題にもかかわらず、ドナルド・トランプ大統領のリーダーシップの下では、米国はこれらの挑戦が中国との具体的な協力を妨げることは許さないと断言できます。
我々は、中国との経済関係において長年待望されてきた構造改革を実現するための誠実な交渉を継続します。そして、今朝、再び大統領から伺ったように、トランプ大統領は合意に達することができると楽観的なままです。
我々は、教育、旅行、文化交流を通じて、両国国民の間に絆を築き続けます。 また、中国と米国は、北朝鮮の完全かつ最終的かつ検証可能な非核化を確保するために協力するための関与の精神を維持し続けます。 また、ペルシャ湾における軍備管理及び米国の制裁措置の実施について、より一層の協力を求めます。
米国は中国との関係改善を模索し続けるでしょう。その際には、率直にお話ししたいと思います。なぜなら、これは米中両国が正さなければならない関係だからです。
米国は引き続き、中国との関係の抜本的な再構築を追求するでしょう。そして、ドナルド・トランプ大統領のリーダーシップの下、米国はこの方針を維持します。米国民と両党の選出議員は、今後も決議を維持します。我々は、我が国の利益を守ります。我々は、我が国の価値観を守ります。そして、我々は慈善と万人のための善意の精神でそうします。(拍手)
トランプ大統領は習主席と強い個人的関係を築いています。その上で、両国国民のより良い暮らしのために両国の関係を強化する方法を模索し続けます。 そして、我々は、米国と中国が共に平和で繁栄した未来を共有するために努力することができ、またそうしなければならないと強く信じています。しかし、率直な対話と誠実な交渉だけがその未来を現実にすることができます。
1年前にスピーチを締めくくったように、今日は終わりにします。アメリカは中国に手を差し伸べています。そして我々は、中国政府が近いうちに、今度は言葉ではなく行動で、そして米国への新たな敬意で立ち返ることを願っています。
「人間は目の前を見ているが、天は遠い将来を見ている。」という中国のことわざがあります。我々が前に進むとき、決意と信念を持って平和と繁栄の未来を追求していきましょう。トランプ大統領のリーダーシップと米国経済と世界における米国の地位に対するビジョンへの信頼、そして中国の習近平国家主席と築いた関係への信頼、そして米国民と中国国民との永続的な友好関係への信頼。 そして、天が遠い将来を見るという信念、そして神の恵みによって、アメリカと中国はその遠い将来に共に出会うでしょう。
ありがとうございました。神のご祝福がありますように。アメリカ合衆国に神の祝福がありますように。(拍手)
END
(海外ニュース翻訳情報局 樺島万里子)
カデットの祈り¹⁾ 神よ、私達の父なる神よ、人間の心の探究者は、私達が誠実さと真理であなたに近づけるよう助けてください。私達の信仰が歓喜に満ち、また私達があなたを自然に賛美しますように。 誠実なふるまいと清廉な思考への称賛を強め、高めてください。偽善と見せかけに対する嫌悪がなくならないようにしてください。私達が一般的な生活水準以上の人生を送ろうと努めることを勇気づけてください。安易な間違ったものではなく、より困難な正しいものを選ぶようにし、全てが得られるときには、半分の真理で決して甘んじることがないようにしてください。高潔で価値のあるすべての人への忠誠心から生まれた勇気を与え、悪と不正に妥協することを軽蔑し、真理と権利が危険にさらされても恐れを知らない勇気を私達に与えてください。命の神聖なものにおける軽薄さと不敬さから私達を守ってください。新しい友情の絆と新しい奉仕の機会を私達に与えてください。明るい表情の人たちと心を共にし、悲しみ苦しみを受ける人たちへの同情で心に明りを灯してください。 無機質で汚されていない陸軍工兵隊の名誉を維持し、汝と我が国に対する義務を果たす上でのウェストポイントの理想を私達の生活の中で示すために、私達を助けてください。これらすべてを、偉大な友とすべての陸軍修士の名においてより頼みます。 アーメン (樺島万里子訳)
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