いつぞやの正月裏話 5/5
illustration:とりごぼう( https://twitter.com/torigobou_san )
ミズチ「チハヤ〜〜! 餅つきなんて超久しぶりだねぇ! さすがチハヤだな〜」
チハヤ「私は…愚痴をこぼしてしまっただけですよ」
ミズチ「でもさ、それを叶えようってしてくれる、仲間をつくったのはチハヤでしょ?」
チハヤ「…そうですね。とても、ありがたいことです」
ミズチ「でもボクも手伝いたかったな〜! けど…あれ見ちゃうと手伝わなくてよかったかも!」
エイザン「ウオオオオオオ!」
ディルガ「ハアアアアア!」
ゴルマラス「ヌウウウウウウ!」
チハヤ「…鬼気迫るお餅つき…ですね」
ミズチ「あはは! 餅つき誤解されそう! じゃあボクは味付けの手伝いしてくるね」
ミズチ「カザハヤがあんこだけじゃなくて、いろいろ揃えてくれたんだ!」
チハヤ「……皆さん、ありがとう」
・ ・ ・ ・ ・
エイザン「さあ、仕上げんぞ!」
エイザン「……最近、どんな男がいたんだ?」
ディルガ「ワダツミでモテようとして…紋付き袴を手に入れた奴がいたんですよ〜」
エイザン「なぁ〜〜〜にぃ〜? やっちまったな〜〜〜!」
ディルガ「男は黙って」
エイザン「フンドシ!」
ディルガ「男は黙って」
ゴルマラス「フンドシ!」
ディルガ「男は黙って」
エイザン・ゴルマラス
「フンドシ!!!!」
※イベントシナリオがなかった、エイザンフンドシスキンリリースに合わせて、当時書いたものです。イラストは当時これを読んで、とりごぼうさんが描いてくださったものを今回お借りしました。当時も今回もありがとうございます。
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いつぞやの正月裏話 4/5
ゴルマラス「…チッ、なんで俺まで」
ディルガ「漢塾のものとして、人助けは当たり前であろう!」
ゴルマラス「俺はそんなものに入った覚えはねぇぞ!!」
リン「…手伝ってくれないの?」
ディルガ「心配しなくていい。たとえゴルマラスが首を縦に振らなくても…」
ディルガ「ゴ族の魂が助けてくれる!」
ディルガ「さあ! ワダツミ式の新年を祝う儀! 我々の力でここに!!」
ゴルマラス「お、おい…ゴ族って…」
ディルガ「うおおおおおおおお!」
(※各自ベストな変身シーンをご想像ください)
リン「わーい♪ フンドシの人ー!」
ヨミ「リンちゃん…見ちゃだめですって」
リン「フンドシでチハヤちゃん、元気になるよね!」
ヨミ「褌は関係ないですからね…」
ディルガ「さあ、参りましょう!」
ゴルマラス「…………」
・ ・ ・ ・ ・
カザハヤ「よぉし米が蒸しあがったぞー!」
スズカ「チハヤ殿、もうすぐですよ」
チハヤ「すみません…私のわがままで…」
スズカ「こんな正月を迎えられるなんて、チハヤ殿のおかげですよ」
スズカ「ワダツミの者だけじゃなく、幻影兵みんなが笑顔じゃないですか。これこそがチハヤ殿のお力!」
チハヤ「…ううん、皆さんのおかげです」
エイザン「コホン…俺もいっちょ、気合を入れっかねぇ」
エイザン「先にあんな格好で待機されちゃあな、ワダツミの男がすたる」
エイザン「行くぜ!!」
(※各自ベストな脱衣シーンをご想像ください)
リン「すごーい♪ エイザンさんもフンドシー!」
ヨミ「リンちゃん…」
ディルガ「さすがエイザン殿! 王道、正装という感じがしますな」
エイザン「今日は筋肉披露大会じゃねぇんだ。さっさと取り掛かれ、杵でしっかり米を潰すぞ」
ゴルマラス「こんなもん、早く叩きまくればいいんじゃねぇのか?」
エイザン「わかってねぇな。力任せで杵をついてもうまい餅はできん」
エイザン「ディルガ、合いの手はその名の通り、つき手との呼吸が大事だ」
エイザン「ゴルマラス、力いっぱいじゃなく、力はむしろ抜いて中心に杵を落とすんだ」
エイザン「つき手2人、合いの手1人。究極の餅つき…ゆくぞ!」
エイザン「おいさ!」
ディルガ「はっ!!」
ゴルマラス「ふん!」
エイザン「おいさ!!」
ディルガ「はっ!」
ゴルマラス「ふん!!」
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いつぞやの正月裏話 3/5
エイザン「…で、餅じゃなく餅つきがしてえってことで、俺なわけか」
レイダ「はい」
エイザン「そりゃ、作れなくねぇし…むしろ、餅つきは得意だがよ」
レイダ「問題ないじゃないですか」
エイザン「…餅つきはな、1人でするもんじゃあねえんだ」
レイダ「…?」
エイザン「覚えてねぇのか? 餅つきってのは、餅を突くやつと餅を返すやつが居て、できるんだ」
レイダ「そういえば…」
エイザン「道具…いや、杵も臼も作ってやる。俺が餅を突いてもいい。だが、餅つきのキモは“合いの手”だ」
レイダ「エイザンさんの杵に合いの手を入れられる人…ですか」
・ ・ ・ ・ ・
レイダ「…というわけなんです」
レイダ「ですが、兄様にはそんなことさせるわけにはいきませんし…」
レイダ「チハヤさんの意向でミズチさんやハヤテさん、クオンさんにはナイショにしたい、とのこと…」
レイダ「カザハヤさんとレイメイさんは、もち米を調達しに出てしまったし…」
レイダ「ジンさんとザンゲツさんは別依頼で出払ってますし…」
レイダ「とはいえ、ワダツミ以外の男性陣には、餅つきは難しい気がします…」
リン「はい! はい! 私、良い人知ってる! 知ってる〜!!」
レイダ「本当ですか?」
リン「ね、ヨミちゃん! 絶対、あの人たちなら大丈夫だよね!」
ヨミ「もしかして…リンちゃん…」
リン「フンドシの人たち!」
ヨミ「…………」
レイダ「褌…?」
ヨミ「コホン…ディルガさんとゴルマラスさんのことです」
レイダ「ああ…夏の方々」
リン「きっと手伝ってくれるよー! 聞いてくるね!」
レイダ「はい、お願いしますね」
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いつぞやの正月裏話 2/5
スズカ「…というわけなのだ」
スズカ「元ワダツミの幻影兵の知識を集結させれば…なんとかならぬかのう?」
カザハヤ「材料ならなんとかなると思うけど?」
スズカ「本当か?」
カザハヤ「いつだか…旧ワダツミの海岸に警備に行ってたろう?」
カザハヤ「グリードダイクのあの辺りなら、もち米を栽培しているよな?」
フェイリン「ええ、グリードはもち米食べるもの。ちまきとか美味しいわよ?」
フェイリン「それにワダツミの餅ってあれでしょ? “白玉あんみつ”に入ってるやつでしょ。私も食べたいわ!」
カザハヤ「餅と白玉は正確にはちょっと違うが。まぁ、だいたい合ってるからいいか」
カザハヤ「じゃあ、もち米は調達できるな。ウォン! 行ってくれるか?」
ウォン「ん〜いいけど、いくらくれんの?」
カザハヤ「こないだの酒代…立て替えてるの忘れたかい?」
ウォン「…ちぇ、覚えてんのかよ。しょーがねえなー、もー!」
フェイリン「ところで…なんで旧ワダツミから餅を持ってくるんじゃなくて、
もち米を、なの?」
カザハヤ「まあまあ、それは食べるときのお楽しみってぇやつよ!」
カザハヤ「さてと、次は道具だな…」
レイダ「カザハヤさん。丁度いい方がおりますよ」
カザハヤ「…?」
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いつぞやの正月裏話 1/5
——サガ近郊。
チハヤ「…………」
スズカ「チハヤどの。眉間にしわ寄せてどうなされた?」
チハヤ「あ…スズカさん。すみません、ちょっと考え事を」
スズカ「拙者が助けられるものならば、なんなりと申してくだされ」
チハヤ「ありがとうございます」
チハヤ「…スズカさんは、ワダツミのお正月を覚えてらっしゃる?」
スズカ「正月?」
チハヤ「ええ、お正月。お参りにいったり、お節を食べたり…」
スズカ「無論、覚えてますぞ。拙者はお節よりも雑煮が好きで…」
チハヤ「うふふ…。お餅は美味しいですものね」
スズカ「…? なぜ暗い顔をするのです」
チハヤ「お餅…です」
スズカ「…?」
チハヤ「お餅が食べたいんです!」
チハヤ「チーズドッグも、ケーキも。チキンも美味しいです。けど…お餅が食べたいんです」
スズカ「な…なるほど…?」
チハヤ「でも、ここにはお餅をつく道具も、もち米もない。それは…わかっているんです」
チハヤ「新年が近づくたびに…お餅がどんどん食べたくなってしまって。食べられないと思うと…せつなくなって」
チハヤ「ミズチにも心配かけてしまうし…どうしたらいいのか…」
スズカ「な、なるほど…」
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You’re my Valentine.
「さてとと、仕込んでおかないとね」
Ber Murmurのカウンターで、バイトの娘に買ってきてもらったチョコレートスティック菓子……いわゆるポッ〇ーに似た菓子を広げる。
「ブランデーグラスだと量が多いかしら? 去年も残すお客さんいらっしゃったし……」
グラスの棚を眺めて、フルート型のシャンパングラスを手に取る。
「小さめのほうなら、そうねピッタリかしら」
袋を開けて、数本グラスに刺し入れる。10本ほど入れて、満足そうに微笑んだ。
「うん、これくらいね」
毎年なにかしらのチョコレートを客の為に用意する。キスチョコだったり、ボンボンだったり。七色カカオの警備をする娘たちから差し入れてもらったものを使ったり。店のメニューにもキスチョコはあるけれど、好んで頼む方は店では少ない。今日だけは甘いものが皆大好きになったように、欲しがるチョコレート。
「殿方ってかわいいわよね」
そう呟きながら、フルートグラスのステム、足の部分に真紅のリボンを巻いて飾り付けていく。バレンタイン当日のみのチャーム。
「これを1本つまんで口に運んであげるだけで、売り上げ倍増♪」
チョコレートを貰えずにやってくる客は、ここに甘えに来る。ささやかな甘え。疲れて、くたびれて、日々生きて、そんなに好きなわけでもないのに1つもないと寂しいチョコレートを求めて。口に咥えて渡すなんて下品なことはしない。そういうのは別の店へどうぞ。でも……1回くらいはやってみたいかもね。
「こうやって咥えて、キスするみたいに……んー」
「……ゴホン、すまない仕込み中に」
「っ!? さっ、サ……っ!!」
「ユアンから、新しい情報があると聞いて……店を開ける前に来たんだが……」
「あっ、ああ、情報、そう、そうね、そう……っ!」
「忙しいならまた改めるぞ……」
「いや……えっと、あの、できれば……店を閉めてからのほうが……ごめんなさい」
「ああ、解った。急にすまなかったな」
急な来客が去って、はぁっと息を吐く。
あーびっくりした、びっくりするじゃない。変なところ見られちゃったし、あなたの分は別に用意してあるのに今来るなんて。ユアンも時間見計らって……ってそんな機敏の効く子でもないわね……。はぁ、もう。やんなっちゃう。あれ、今渡せば���かった? 店閉めたあとだと他の子もまだ居る時間に来そうだものね……。はぁ、ホントうまくいかない。
カウンターの内側に置いた、紫のチェックと黄色の二種類のリボンをかけた、小箱を見つめる。
「今年も、渡せないまま終わりそうね」
店を閉めて誰もいなくなったカウンターで、毎年この小箱を開けて、独り飲むのも嫌いじゃない。甘い感情は甘いものと一緒に飲み込んできた。まだ自分の番じゃないから。これでいいの、と。そうして少しだけチョコレートに酔うのは嫌いじゃないのだから。
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『素晴らしい、可愛い、見事な』3/3
「一通りの飼い方を教えずに帰るつもりか!?」
そう叫んだ彼は先を歩き、研究室と呼んだ部屋に通される。と、既に何冊もの事典の“梟”の項目が開かれたままになっていた。
「本で理解したんじゃないのか?」
「馬鹿言うな、実践に勝つ文字情報は無い。えっと、キヴァだったな…? 普段は何を食べ、どう暮らしているのか教えてくれ」
えっと、の後のセリフは俺ではなく、しっかりキヴァを見つめて言葉が発せられた。キヴァは喜んでとでも言うように、ホゥと一言鳴いた。続いてジーニアスも高らかにホゥと鳴いた。
キヴァが了承したのでは仕方がないと、サガに戻るのを1日延ばして、ヴィンセントの屋敷に泊まることにした。キヴァとジーニアスはすっかり仲が良くなり、キヴァなりに何かを教えているようだった。その間、俺はキヴァの生活や梟の生態を話し、ヴィンセントが質問をしながらメモしていくという講義のような時間になった。ヴィンセントは勘が良く、それを褒めると「当たり前だ、俺は大陸一の機械技師だぞ?」と不敵に笑った。実際そうなんだろう、彼は本当に敏い男だった。
一通り梟の育て方、いや接し方を教えると、ヴィンセントは俺の樹木医の仕事に興味を持ったようで、あれこれと質問を投げかけてきた。知識おいて知らないものがあるのが許せないような勢いだが、それでも嫌な気分にさせられることはなく、むしろ口下手な俺が誘導されるかのように様々なことを話すことになった。昼間の無駄に感じた講義よりも、はるかに濃密で充実した、話した満足感しかない時間を過ごした。
ふと脇を見ると、いつのまにかキヴァとジーニアスは止まり木に肩を寄せ合って眠っていた。夜行性とはいえ、二匹とも昼間の疲労が溜まっていたのだろう。
「ヴィンセントさーーーーーーーーん!? また晩御飯も食べずに籠ってるんですかあああああ!!」
そんな穏やかな時間を切り裂くような声が屋敷中に響いた。
「ヤバい。ユート、すまん。耐えてくれ」
「え…?」
狼狽えたヴィンセントが早口な小声で呟くと同時に研究室のドアが開いた。
「ヴィンセントさん! 何度言ったらわかるんですか、帰ってきたら連絡する。メイド業務ってのは察することが仕事ですけどね、スケジュールあっての仕事なんですよ。出かけたときくらい帰宅の連絡をして、お夕食の潤滑な作業をさせてくれたっていいと思うんですよ! う、んッ!? お、客様ぁ!? ちょ、ちょっとヴィンセントさん、お客様が来てるだなんて、それこそ聞いてないですよ! え、あ! 梟!? 二匹もいらっしゃるの? ちょ、ちょ、ちょっとお待ちくださいね!!」
大きな屋敷にはメイドくらい居ても当然なのだが、大きな屋敷のメイドには似つかわしくないほどの元気いっぱいな少女が慌てて去っていた。いや、来て、話して、去っていった。2匹と並んで面食らっていると、ヴィンセントが小さくため息をつく。
「ユート、改めて言う。泊まって行ってくれ。というか、それしかもう選択肢はない。キャロルに見つかった以上、明日の朝、馬鹿みたいな量の朝食を食べ終わるまでは帰れないと思ってくれ」
「あ、いや…悪い、こちらこそ」
「いいんだ、あいつは世話好きの塊みたいなやつだ。けど、俺は必要以上に構われるのが苦手だからな…」
「なるほど、ありがたくもてなしを受けるよ」
「そうしてくれ。ジーニアス、キヴァ、お前たちにもきっとキャロルが適切な食事をくれるからな」
初めてのことばかりの夜はキャロルの参加で早送りのように過ぎていき、びっくりするほど柔らかな寝床で朝を迎えた。そしてヴィンセントが言った通り、朝からキャロルはこれでもかと食事を用意してくれていた。
機械と煙の嫌な国――
そんなイメージしかなかったスロウスシュタインの記憶は、あの日以来すっかり変化したのだった。
今朝届いた手紙を読み終わり、いつものように出会った日のことを思い返す。あの時いなかったソポが封筒で遊んでいる。キヴァ、ソポ、ヒエノ。そのすべての名前の意味を当てた男。素晴らしい、可愛い、見事な。そして落ちていた梟に、天才と名付けて愛する男。機械にも、動物にも、人間にも愛される男。
――その手紙の差出人との出会いの日は、俺は一生忘れないだろう。
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『素晴らしい、可愛い、見事な』2/3
「うあああああああああああ~~~~~っ!」
「うるさいッ! 叫ぶなッッ!!」
ヤクよりも大鷹よりも早く疾走する、やたら背の低い馬車のようなものに乗せられて、俺は初めてスロウスシュタインに赴いた。キヴァは足元に居たので無事だったが、ヒエノを連れてこないで本当に良かったと思った(ソポはこの頃は、まだ俺のもとに居なかった)。小さな梟は俺の膝の上で布に包まれ、ほのかな温かみを俺に伝え続けていた。思えば、こんな振動の大きな乗り物に乗せて運んでよく無事だったなと、今なら思う。
大きな屋敷の前に“アルケミィサイドカー”を停めるとヴィンセントは手招きもせずに足早に門をくぐり、ドアを開けた。そして、めんどくさそうな顔をして振り向くと「早くしろ」と吐き捨てるように声を上げた。こちらと言えば初めての乗り物で疲弊しきってるというのに。
「この部屋にあるものは好きに使っていい。しばらく、ここにいろ。骨折かどうかが判断できれば問題ないか?」
「あ、ああ…」
「梟を貸してくれ、骨折かどうか調べる」
「わかるのか?」
「俺はわからないが、機械と化学が解らせてくれる」
「……?」
不可思議に思いながら梟の包まれた布を手渡すと、粗暴な言葉遣いとは裏腹に丁寧に、慎重に、優しくその布を受け取って、部屋から出て行った。あの手つきであれば、梟が嫌がることはしないだろう。
俺は通された部屋のソファに座ってみる。座り心地の良いイイ椅子だった。部屋を見回すと古い感じはするが整頓はされている部屋だった。古くからある屋敷の客間、という感じだった。屋敷といい調度品といい、なかなかの家柄なのかもしれない。
テーブルに用意されていた水さしから水を少し貰い、キヴァにも与える。キヴァがホッとしたため息のように小さく鳴いたので、俺もやっと一息ついた。アルケミィサイドカーの緊張のせいで、ガチガチになっていた身体がソファに沈んでいく……。
「…ホゥ」
キヴァの声で目が覚めると同時に、ドアが音を立てて開いた。
「骨折はしてないようだ」
「そうか…よかった」
「というか、もう大丈夫そうだ」
ファサッと羽音がすると、小さな梟が彼の帽子に止まった。
「フフ…帽子が気に入ったのか? ああ、お前衝突の衝撃で、ここ…羽が抜けたのか…ふむ…帽子、お前も被るか?」
急に優し気な表情を見せて梟と話す彼を見て、ついフッと笑ってしまった。
「なにがおかしい!」
「おかしくはない、微笑ましいんだ」
「同じだ!」
気恥ずかしかったのか、声を荒げる。しかし、彼の上でも梟は安心したように身動きせず、羽を狭める気配も見せない。きっと彼はこの梟を飼うし、梟もそれを既に了承しているのだろう。良い関係がすでに築かれている。
「梟は無事なようだし、俺はおいとまするよ」
キヴァも小さな梟に挨拶とばかりに小さく鳴くと、梟も同じように小さく鳴いた。賢い鳥だ。
「いまのは…挨拶か? 賢いんだな、梟は」
「ああ、“知恵の象徴”とも言われるらしい」
「知恵の象徴か…………ジーニアス……」
彼がつぶやくと、帽子の上の梟が嬉しそうに鳴いた。
「うん、ジーニアスだ」
「いい名前だな」
「ああ」
名前も決まったことだしと…椅子から腰を上げると、また大きな声を出された。
「まだ帰るな!! ユート、お前にはまだ用がある!」
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『素晴らしい、可愛い、見事な』1/3
――その男と出会ったのは機械の国ではなかった。
樹木医としての講演をしてほしいとエンヴィリアに呼ばれた。普段ならあまり気が進まないのだが、そろそろ新しい書物を買いに街に降りてもいい時期でもあった。講演は誰も寝る者がおらず、かといって鋭い質問が飛んでくるわけもなく、ごく無難に終了した。
預けていたキヴァを肩に乗せ、街をふらついていると、突然大きな声で呼び止められた。
「おい、そこの! それは猛禽類か?」
振り向くと大きな帽子を被った青年が三白眼で俺を指差し、見上げていた。
「……? そうだが?」
「猛禽類を飼っているという認識でいいんだな?」
「飼っている…というか、家族のようなものだ」
“飼っている”という言葉が不服というようにキヴァも小さく鳴いた。しかし、男はそんなことはお構いなしとばかりに畳みかけてくる。
「言い方はなんでもいい。お前は猛禽類に精通しているんだな?」
「…少しは」
「じゃあ、ついて来てくれ」
名乗りもせず、事情も分からないまま、踵を返して早歩きで先をいく青年。腹を立ててもいいはずなんだが、最後の言葉が“ついてこい”ではなく“ついて来てくれ”なのが気になって、素直に後を追った。
「さっき見つけた。これはどうにかなるものか?」
青年が指差す足元に小さな梟が落ちていた。慌ててしゃがみ込み、そっと手で拾い上げると、息はあった。その場所の上…上空を見るように首をあげると、背の高い建物の窓に鳥が当たった後がある。きっと街まで出てきてしまい、ガラスにぶつかってしまったんだろう。
キヴァがホゥとまた小さく鳴く。まだ大丈夫かもしれない。
「治療が必要だが、俺はこの国の者じゃない。獣医は近くにあるのか?」
「俺も地元じゃない。獣医の場所など知らないから探していたら、お前を見つけたんだ」
「……人に聞いてみるか。しかし、キヴァを見る目が物珍しそうだから、獣医があっても梟を手当できる者がいるかはわからない」
「キヴァ…? “素晴らしい”?」
「…っ! 古語なのによく意味が解ったな」
「フッ…いい名前だな。俺はヴィンセントだ。用があってスロウスシュタインから来ている」
「ユートだ、サガから来ている」
「だろうな。で…この梟はまだ持ちそうか? 持つとしたら、あとどれくらいだ?」
「…大きな骨折はしていないように見えるから…今日中に目を覚ませば…」
「じゃあ、うちに行こう。ユート、お前も来い」
「え…? スロウスへ?」
「ここからならそこまで遠くない、行くぞ」
「…えっと、歩いていくのか?」
「お前は馬鹿か? 町の外れにアルケミィサイドカーを止めてある」
「……?」
その後の俺は、様々な人生初めての体験を否が応でも経験させられることになる。
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