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asanagi-kuya · 9 months
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9月10日文フリ大阪参加します
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2023年9月10日(日)に、大阪・OMMビルにて開催される文学フリマ大阪11に、サークル・ヨモツヘグイニナで参加します!
スペース番号はQ14、お隣はQ13八束さんのおざぶとんと、Q15が日々詩編集室です。
新刊は「いづくにか、遠き道より 孤伏澤つたゐ短編集」。2014年に書いた「ネムノタキツボ」から、2020年に書いた「オメガのライカと、わたしたち」まで、10編の短編小説で編んだ本です。
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どこへ持っていっても好評だった深海説話集『海嶺𧮾異経』、私家版として10部ほど配布した「おくりもの」、コロナでほとんど紙は頒布できなかった「オメガのライカと、わたしたち』が入ってるのが個人的にはおすすめポイントです。
ヨモツヘグイニナの活動をずっと見守ってきてくださった方だと、「もう読んだことある」というものもたくさんあるかな…と思うので、部数はそんなにたくさん刷っていません。 ヨモツヘグイニナってどんな本作ってるの?を知ってもらうのにいい本かな~と思います。
ほかに持ち込む本でおすすめなのは、 文フリ京都新刊『山梔の處女たち』。少女たちの欲望と恋について、あるいは「恋をしない」ことについての物語を集めています。 東京文フリの新刊「けものと船乗り」もよろしくお願いします。こっちは幻想小説で、きっと「いづくにか、遠き道より」に収録されているような物語がすきだよ~という方には絶対おすすめのやつです。最近はいろいろな事情からこういう耽美的な幻想文学を書くタイミングがなかったので、めちゃくちゃ楽しく書きました!
さ! ら! に!!!!
今回の文フリ大阪は、朝凪空也さん(ウェルウィッチア)が参加されるとのことで!残部僅少の「朝凪空也ファンブック into the Grass-earth」も持ち込みします。朝凪空也さんの初短歌集「零時がきたら日付はかわる」の短歌をモチーフにして、かおりさんがフルカラーイラスト! みやねねこさんが返歌と掌編、つたゐが短編小説をかいています。空也さんの歌集と合わせて是非!わたしは空也さんの新刊「滅びに向かう場所にて」がめちゃくちゃ楽しみです!
他に告知事項としては、 お隣Q-15「日々詩編集室」で、新刊「ゆけ、この広い広い大通りを」の販売があります。自分で企画~お金まで全部やるのではなく、誰かに必要とされて、小説を書き、本にしてもらうのは初めてのことで、どきどきしています。未熟さを実感する部分も多数あるけれど、これが今できる全力なので、よかったらこちらもお読みください。
(9月29日に読書会が開催されるらしくて一番おびえている)
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文フリ大阪がおわると、次は文フリ東京なので、次の小説は、女ふたりのSFみたいな小説を書こうかなと思っています。物語として消費されてしまう女たちが、その消費に抗う物語です。そんなに長くならないと思うので、頑張って作ろうと思います。
最後になりましたが、イベント行かないよってかたはBASEの通販をご利用ください。 『山梔の處女たち』『浜辺の村でだれかと暮らせば』は、残部僅少で(増刷する資金が無かった)、イベント後に残部があれば(増刷の予定ではいます!)すぐに在庫を復活させますが、新刊とかはいろいろあるので、よろしくどうぞ。
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asanagi-kuya · 10 months
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【予約開始しました】『ゆけ、この広い広い大通りを』
9月に三重県久居の日々詩編集室から、孤伏澤つたゐの本がでます!
『ゆけ、この広い広い大通りを』
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シスヘテロの二児の子持ちの専業主婦まり、バイクと音楽が好きなトランスの女性の夢留、都会で働くことができなくなったフェミニストの清香、――かつて同級生だった三人が、「地元」でちいさな試みをする物語です。
 ★あらすじ★ ふたりの子を育てながら生まれ育った町で暮らすまりは、困ったことがあるといつも、友人の夢留を頼る。――父の介護をしながら地元で暮らしている夢留とまりは、かつて中学の同級生だった。ふたりは大人になってから出会いなおし、いまでは子どもやパートナーをふくめた付き合いをしている。 そんなある日、都会で生活していたもうひとりの同級生、清香が急に帰省することになって……。
『浜辺の村でだれかと暮らせば』や『オメガのライカと、わたしたち』『首輪とロマンス』とかがお好きなかたはとてもお楽しみいただけるんじゃないかな? と思います。
いろいろ迷いながら書いて、いまだ足りない部分とかもたくさんあるとは思います。 「地方」でなく「地元」で生きている、そんなひとたちに届けばいいなと思っています。
本の予約はHIBIUTA ONLINE SHOPからできます。九月ころの発送になる予定です。ヨモツヘグイニナから出てる本も取り扱ってもらっているので、よかったらあわせてどうぞ。 よろしくおねがいします~。
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asanagi-kuya · 11 months
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お皿
豪奢な刺身を乗せられるとき
そのひいやりとした感触に
むかしむかし
湖の底の
泥で���ったことを
思い出している
食器棚に仕舞われるとき
岩石であったころの
山の岩肌の奥深く
悠久の年月の眠りを
思い出している
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asanagi-kuya · 11 months
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不思議の国の魔女裁判
私の言動は
あなたたちには理解されない
あなたたちの言動を
私は理解しない
私の言動は
あなたたちに混乱を招く
私の言動は
あなたたちを恐れさせる
恐れは
私を排除する
私を
異物であると
排除する
私が
私たちが
数少ないたくさんの私たちが
みんな
みんな
みんな
みんないなくなったら
あなたたちは
あなたたちだけになり
そうして
次は
その次に
首をはねられるのは
私はそれを
知っている気がする
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asanagi-kuya · 1 year
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グリフォンの羽根
ここから動けない私に 君が贈ってくれたグリフォンの羽根 大きくて力強くて凛々しい そんな本来の持ち主を想像させる羽根
これで私は 君に手紙を送ることができる 今は二層隔てた世界にいる君に
君は 代わり映えのない生活 と呆れるだろうか それとも 相変わらずだね と笑うだろうか 元気そうだ と喜んでくれるだろうか
ここから動けない私は この世界の過去からも 現在からも未来からも ずいぶん遠くなってしまった君に 手紙を送る 君がくれたグリフォンの羽根で
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asanagi-kuya · 2 years
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プリズム
バゴプラさんの第二回かぐやSFコンテストに応募した作品です(選外でした)。 テーマは未来の色彩。
 まずはじめにわたしたちのプリズムについておはなしします/  わたしたちにとってプリズムはとても大切なものです/  プリズムを光にかざすと白い光は三角柱のなかでさまざまな色に分かたれてその分かたれた帯はスペクトルと呼ぶとわたしは知っていますがみんなはただ虹と呼んでいます/  わたしたちはみんなひとりにつきひとつのプリズムを持ち人工太陽にそれをかざしてはやっと目に見える光の帯に感謝や願いや祈りをささげます/  人工太陽の光はそのまま見ると目がつぶれてしまうので必ずプリズムを通して見なければならないというのがわたしたちの決まりです/  目がつぶれるのは嫌なのでみんな守ります/  今日の朝時間にも同じ家に暮らすみんなで外の光の差し込む窓辺に集まって祈りました/  昼時間はそれぞれのいる場所で祈り夜時間になると寝台の上で朝時間と昼時間の光に感謝してやっぱりプリズムに祈るのです/  人工太陽の光が見えなくても感謝することは大切です/  プリズムもスペクトルもとてもきれいなのでわたしはお祈りの時間が好きです/  わたしたちはみんなちがう姿形をしているけれどもずっといっしょにいるとスペクトルに分かれる前の人工太陽の光のようにひとまとめになってしまってそれは良くないことなのでわたしたちは五千時間ごとに居住区に住む人の半分が別の居住区へと移動しなければなりません/  その半分が選ばれるのは無作為なので次はわたしなのかもしれないし違うかもしれません/  選んでいるのは機械だとみんな知っています/  なぜなら目覚めたときにみんなそれを習うからです/  だけど人はそれをプリズムの導きと呼んで感謝したり嘆いたりしています/  移動してきた人たちが街にまざるのはまるで豆のスープにミルクをたらしてもらったときにそっくりだとおもいませんか/  豆のスープやミルクは工場区にある食品工場で作られると習いますがわたしはまだ豆のスープを作る人に会ったことはありません/  大きい人たちはたくさんの試験に合格すると工場見学をすることができますが工場のことは誰にもはなさない決まりです/  大きい人たちにはわたしたちよりたくさんの決まりがあります/  前の五千時間にわたしはとても仲良くなった人がいましたがその人は選ばれてわたしは選ばれなかったからわたしはまだここにいてここにいるみんなは同じ人工太陽の下にいるので仲間と呼びます/  同じ人工太陽の下にいるあいだわたしたちはみんな仲間です/  仲間にはやさしくしなければいけません/  わたしは二千時間ほど前に雨を降らせる人になりたいと言ったらなれるわけがないと言って笑った人がいてそれを言われたときわたしの頭はとても熱くなって今にも大声を出して悪い言葉を使いたくなりましたが雨を降らせる人になるために我慢しました/  仲間にやさしくできない人は悪い人なのでそういう人は雨を降らせる人や風を吹かせる人にはなれないのです/  もうずっと前にずいぶんひどい喧嘩をした人たちがいましたがその人たちはすぐにいなくなりました/  そんな悪いことをする人はめったにいません/  ここは良いところです/  今日わたしは川へ行きました/  わたしがよく行く川です/  わたしの好きな川です/  どんな川かというとその川は純水が流れている川なので水しかありません/  居住区の中には草が生えていて魚がいる川が見られるところもあります/  その川はとても小さいです/  純水の川はとても大きいです/  わたしは水がごうごう流れるのをずっと眺めていました/  流れる水は光を反射して光ります/  この川は街の周りをぐるりと流れてそしてきらきらきらきら光って眩しくてそれはプリズムのかわりをするのです/  そうして街は守られています/  これがわたしたちの暮らしです/  こんな風に暮らしていました/  これらは思い出です/  もう終わりました/  これはわたしのプリズムなのでわたしのデータが全て入っているそうです/  もうい���ないので送ります/  わたしはプリズムが好きなのでいらなくても持っていたいけれど大きい人が送るようにと言うので送ります/  わたしの声は良くきこえましたか/  あなたはわたしの言葉がわかりますか/  あなたはどんな暮らしをしていますか/  あなたのところの光はプリズムにかざすとどんな色が見えますか/  教えてくれると嬉しいです/  さようなら/ ***  ぼくがそれを拾ったのはぼくのうつわの中だった。  水くみ場でぼくのうつわに水をためているときにぽちゃんと中に入ったのだ。  それは触ったことのない形をしていた。  ひんやり冷たくてすべすべつるつるで、だけどすごくとがっている。  匂いはしなかった。  ぼくはそれがクリスタルかもしれないとおもってどきどきした。  クリスタルはめずらしいから集めている人がいて、そういう人は食べ物やほかのめずらしいものとクリスタルを引き換えてくれることがある。  ぼくはぼくが知っている中で一番の物知りのおばあさまのところへそれを持っていった。  お水もちゃんと持っていったよ。  おばあさまにそれを渡すとおばあさまはこれは天上から来たものに違いないと言った。  天上というのは真っ白でヒカリというものがあってこことは何もかもが正反対の世界なのだと言い伝えられている。  遠い昔に天上を目指した人々の物語はここでは誰もが話すことができる。  おばあさまはその天上から来たものを大切にしなさいと言った。  ぼくはクリスタルじゃなくてちょっぴりがっかりしたけど本当に天上から来たものならクリスタルよりももっともっと宝物だからやっぱりうれしくなった。  眠る前にぼくはそれをにぎって形を覚えたり頬に当ててみたりもう一度かいでみたりした。  そうしてうとうとしてきたころ突然それから音がした!  ぼくはびっくりしてとびあがった。  音は小さかったけどぼくのねどこのあなぐらも小さいから音がぼわんぼわんと広がった。  ぼくはまわりのみんなが気づきませんようにとおもいながらそれの上にうつわをかぶせておなかのしたにうずめてなんとか音がもれないようにした。  そうして落ち着いてから音にじっと耳をこらすとそれは小さい人がなにか話しているみたいに聞こえた。  何を言っているのかはわからなかったけど確かに人の話し声みたいだ。  この天上の宝物には小さい人が入っているのかもしれない!  ぼくはあわててそれをおなかのしたのうつわから取り出して誰かいるのってそっときいてみたけれど返事はなかった。  耳にひっつけたけどもう何も聞こえなかった。  ぼくはまた横になって、それをなくさないようにぎゅっとにぎったらちょっと痛かったからふんわりにぎり直してまた眠ることにした。   起きたらまたおばあさまに聞きにいってみよう。 了
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asanagi-kuya · 5 years
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マンドラゴラ
ある時、わたしはマンドラゴラだった。
はじめは土の中にいた。
温かくて湿っていてふかふかとした土に包まれてわたしは眠っていた。
とても穏やかに、静かに眠っていた。
葉が大きく育った頃、周りの土がどんどん剥ぎ取られて、茎をぐいと引っ張られた。
大気にさらされたわたしは、眠りを妨げられたわたしは、あたたかな寝床を取り上げられたわたしは、大きな声を上げた。
わたしを掘り出したのは人間だった。
わたしの声を近くで聞いた生き物はぼたぼたと死んでいった。
けれど、その人間は平気そうにしていた。
わたしは叫び続けた。
人間はわたしを家に持ち帰った。
家にいた者たちはみんな死んだ。
わたしは叫び続けた。
わたしを掴んでいた人間は家の者がみんな息絶えたのを確認すると自分の耳の詰め物を取った。
その人間も死んだ。
わたしは叫び続けた。
だけどもう、あたたかな土にも、穏やかな眠りにも帰れなかった。
わたしは叫び続けて、辺りの生き物をみんなみんな死なせてしまって、近づく生き物もみんなみんな死なせてしまって、そうしていつしか干からびて、ついにわたしも死んでしまった。
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asanagi-kuya · 5 years
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続・本×人間の習作
 おじいちゃんが死んだ。  おじいちゃんといっても血のつながりはない。わたしがまだ一人で生きていけないほど小さいころ、おじいちゃんがわたしを家族にむかえてくれたのだ。  おじいちゃんはひとりぐらしだったけれど、わたしのほかにも家族がいた。それは一冊の本だった。その本はおはなしができた。あなたのおじいさんがあんまり大切にしてくれたからおはなしができるようになりました、と本は言っていた。本とおじいちゃんはわたしが生まれるよりずっとずっと昔からいっしょにいたのだそうだ。本にかいてあることばはむずかしくてわたしには読めなかった。だけど本はいつもじぶんで読んでくれた。ねる前にはおじいちゃんとふたりで本の声をきいた。そうしてるといつのまにか朝になっていた。いつもそうだった。わかるつづりのことばだけひろって読んであそんだりもした。そうするとおじいちゃんも本もわらってくれた。本はなまえもむずかしかったのでわたしはアーちゃんと呼んでいた。アーちゃんとわたしは友だちたっだ。おじいちゃんがいそがしいときや家をるすにしているときにはアーちゃんがずっとそばにいてくれた。わたしが学校に行くようになったらおじいちゃんといっしょにべんきょうを見てくれると言っていた。だけどおじいちゃんは死んでしまった。アーちゃんはおじいちゃんといっしょにいくと言った。アーちゃんはおじいちゃんといっしょにいってしまうけれど、本としてのアーちゃんはわたしに持っていてほしいと言った。そのときはよくわからなかったけれどわたしはうなずいた。  おじいちゃんは箱に入れられてふたをされて土をかけられた。わたしはおじいちゃんがすきだと言ってくれたお気に入りのふくを着たかったのに、ごきんじょさんにまっ黒いふくを着せられて、アーちゃんをむねにかかえて、ふたりでそれをみていた。ずっとずっとみていた。  さようなら、とアーちゃんが言った。それきり本はただの本になった。アーちゃんはおじいちゃんのところに行ってしまった。よかったとおもった。アーちゃんはおじいちゃんとずっといっしょにいたのだから、これで安心だとおもった。  アーちゃんのいなくなったアーちゃんをわたしは大切に持っている。まだ読めないけれど、なにが書かれているかはぜんぶおぼえている。おじいちゃんといっしょにきいた、アーちゃんの声で、ぜんぶおぼえている。
〈了〉
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asanagi-kuya · 5 years
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本×人間の習作
 一人暮らしの部屋はいつもふたり分の声で賑やかだった。  部屋の住人、若くもないが年寄りでもない人間、の手には一冊の本がある。  『アルタ・キヨウラ随想録』イワトビ出版の文庫本だ。値段は5マルジ。大体一般的な昼飯3回分ほどの値段。普及用で絶版もしていないありふれた本。初版というわけでもない。だがその本をその人間は大切に大切にしていた。  これはその本について人間が語った嘘か真かわからぬ話。
***
 わたしがまだ十四五の頃、自分の本という物は持っていなかった。家は貧しく、本を買うという発想がわたしの親にはないようだった。幸いなことにわたしは学校へ行かせてもらい、さらに勉強がよくできるほうだったので、授業が全て終わった後に様々な雑用をこなすという仕事をその歳には得ていた。そうしてわずかばかりの給金を少しずつ貯めてやっと買ったのがこの『アルタ・キヨウラ随想録』だ。この本をわたしはどこにでも持ち歩き、お守りのようにいつも身に着けていた。  アルタ・キヨウラとは物理学者で、科学啓蒙に奔走し数々の素晴らしい随筆を残し、科学随筆を好む者でヒロヌア(わたしの国の名だ)では知らぬ者はいないほどに有名だ。  わたしはどこでだったか一片の随筆を読みすっかりアルタ先生のファンになってしまった。一時は自分も物理学者になりたいと思うほどだった。  そうして何度も何度も読み返し、最初に付けていたブックカバーが擦り切れてしまったのでそろそろ取替なければと考えていた頃のことだったとおもう。  それは喋りだした。 「あの……」 「ん?」 「は、はじめまして……」 「え」  とっさに事態が飲み込めず、わたしは硬直した。 「あ、えっと、わたしです。『アルタ・キヨウラ随想録』。今あなたがお持ちの」  正直にいうと、わたしは自分の頭がおかしくなったのかとおもった。まあ、この話を聞いている君もそうおもうだろう。「病院に行け」とね。 「あの、びっくりしますよね。本が突然はなしだしたら。ごめんなさい」  『ごめんなさい』という部分でわたしの意識が戻ってきた。わたしは自分が疲れていて脳が妙な妄想を始めたのだろうとおもった。試験が終わったばかりだったし、その間に家の仕事も学校の仕事も変わらずこなしていたので、実際とても疲れていたのだ。わたしは学校のベンチで、家に帰るのも億劫に腰掛けていたのだから。 「帰��う……」  わたしは重い腰とわずかな荷物と大事な文庫本を持ち上げて歩き出した。 「お帰りになりますか。不審者に出くわしたらわたしが大声を上げますのでおっしゃってくださいね」  やはり手元から声がする。 「えええ、うそーー。本がしゃべってる。わたし疲れすぎ? そんなに?」 「はい、今お話させていただいたのはあなたの左手に握られた本です。それからあなたはいつも疲れすぎです。わたしが人間だったら今すぐ布団に放り投げます」 「わあ、ワイルド」 「ご心配申し上げているのです」  そこでわたしはうかつにも泣いてしまった。誰かから心配されたり優しくされるということに慣れていなかったのだ。  パタリと涙がカバーに落ちたのを慌てて拭った。 「ごめん、シワが」 「中身は無事です。大丈夫」 「……家に着いたら、カバー、新しいの巻くから」  わたしは自分の目元もガシガシとこすった。 「目を擦ってはなりません。眼球に傷がついてしまう可能性があります」 「見えてるの?」 「感じているんです。フィーリングです。
新しいカバーは買い物の包装紙以外にしてください。
紙売の露店に出ている金魚の柄のものなど素敵だとおもいます」
「どこでそんな情報を」
「物質間情報網はなかなかすごいのですよ。お見せできないのが残念です」  ふふんとでも言いそうなほど誇らしげに本は言った。この頃にはわたしはなんかもう色々どうでもいいやという気持ちになっていてふんふんと本の話を聞いていた。
 そうして本がいうことには、物に人格が宿るというのか、こういうことはこの世では稀に良くあるのだそうだ。わたしの頭は心配ないらしい。とにかく体を休めろとそれはうるさかった。初対面なのに良いやつだ。わたしは人見知りをする質なのに本にはすっかり心を許してしまった。もともとが唯一無二の宝物なのだ。喋りだしたくらいでそれが変わりはしない。
 そうしてふたりで長くも短くもない人生を歩んできた。これからもそうするつもりだ。だが本はかなり草臥れてしまった。まあ、草臥れているのはわたしも同じだが。そんなわけで君を探してやってきたというわけだ。
***
 そう言って本は俺のところに寄越された。よれよれのくたくた。新しく同じ本を買うほうが遥かに安くて手間いらず。確かに俺は本を修繕したり補強したりする仕事も請け負っていたが、本業はエンジニアで、今はそっちの仕事が忙しい。そこをどうしてもというので(おまけに金払いも良さそうだったので)引き受けた。依頼人の言うことを真に受けたわけではない。しかしきっと本当に大切な物なのだろう。本を大切にするやつは良いやつだ。まあ、これは俺の持論。
「本当はね、不本意なんですからね。あの方以外に触れられるなんて」 「ーーあ?」 「もう本当に、仕方なく、仕方なくですよ。あの方がまた昔みたいにピッシリと美しくなって長持ちできる、なんて、嬉しそうに、言うものだから。まったく美容整形みたいないいようじゃありませんか。
 わたしはわたしらしくいたいので、あまり派手にしてもらっては困りますからね」
 作業台から聞こえてきた音に、俺が絶句したことは言うまでもない。
〈了〉
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asanagi-kuya · 6 years
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魔女の話
あたしは魔女じゃない、牢屋に繋がれた少女は小さな両手で顔を覆って泣き続ける。
給仕係の少年は少しのパンと水を手にそれを眺めていた。
あたしは魔女じゃない、今日も少女は泣き続ける。
涙は枯れる事がない。
給仕係の少年は変わらずパンと水を届け続ける。
十年後、大きく逞しく成長した少年は魔女を繋ぐ鎖を解いた。
牢屋から出て走った。
もう誰の目にも届かない遠くへ、遠くへ。
その手にはわずかな食料と、十年前と変わらない小さな少女の手。
あたしは魔女じゃない。
ああ。
なんにもできないの。
うん。
あなたを助けられないわ。
いいんだ、俺が君を守るから。
ずっと、君を守るから。
五十年後、病に伏した老人の側に少女が腰掛けている。
その小さな両手で顔を覆って泣き続ける。
どうしてあたしは魔女じゃないの。
どうして助けられないの。
どうして、どうして。
老人は言う、泣かないで愛しい人。
君の笑顔が大好きなんだ。
老人は息絶えた。
少女はそこを動かなかった。
いつまでもいつまでも。
老人の体は腐っていった。
蛆がわき、発酵し、土に還っていく。
少女はそこを動かなかった。
老人は骨になった。
真白で美しい骨だった。
少女はそこを動かなかった。
魔女だ、魔女がいる。
人間の声がした。
やがて少女は捕らえられた。
繋がれた牢屋の中で泣く少女の前には、いつかの少年が立っていた。
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asanagi-kuya · 6 years
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二〇十七年十二月題詠(1)
朝凪空也題詠(灯)
文庫本開き辿ればそこにある我には見えぬ青い幻燈
進むたび先にともさる電灯はあたたかいとも、冷たいとも
カンテラの灯りは想像の中だけでずっとずうっと燃えております
glow of happiness 心の灯火はほんの少しの風で消えるの
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asanagi-kuya · 6 years
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永遠
明けない夜がないとも限らない
止まない雨がないとも限らない
この世がすでに
地獄であるならば
死んだらのちは
果てなく彷徨う
幻燈となるのだろう
「永遠」に閉じこめられて
僕たちはもう
何処へも行かれはしないのだ
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asanagi-kuya · 6 years
Photo
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asanagi-kuya · 7 years
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ブローチ **
美しさの盛りを過ぎてわたしたちやっとやっと自由になれる
「ブローチはここに刺すの」と心臓を指差す君だ。嬉しそうだね。
エンターキー高らかに押す副作用きっと世界は私を救う
お前だけ幸せなどと許さぬと言う声がする足首さする
真っ黒い何かを呑み下すたびに腐敗の進む私はゾンビ
成長をしていないわと気が付いてとりあえずまだ覚えてる九九
ビスコッティひとかじりする部屋の中モーターはうなり続けて深夜
地に足の着かないままでわたしたち誰かが誰かの首を絞めてる
落ちられるとこまで落ちてブラジルに着いてサンバを踊って帰る
刺さるほどキツイ日差しに立ち向かうビビッドカラーを身に付けて夏
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asanagi-kuya · 7 years
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私の泉
私の泉は枯れたのです 涙ひとつもありません 私の泉は枯れたのです いくら掘っても同じこと 私の泉は枯れたのです どうぞよそへお移りなさい 私の泉は枯れたのです いつか優しい雨が降るまで
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asanagi-kuya · 7 years
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人魚のはなし
人魚に会う日は新月の夜と決まっていた。
其の夜になると私はいつも海辺へ行ったし、人魚のほうでも必ず会いに来てくれた。
人魚との付き合いは長く、陸の上で共に暮らして居た頃もある。
人魚は私の妻であった。
貧しく慎ましいながらもふたり穏やかで楽しい生活であった。
そのうちに子供ができた。
人魚は出産のために海へと帰った。
それからは陸と海とで離れて暮らしている。
産まれた子供は玉のような男児であった。
母親に似た玉虫色の美しい髪に私に似た浅黒い肌をした子であった。
其の日人魚は息子を連れずひとりでやってきた。
ふらふらとおぼつかない泳ぎでこれは何かあったなと思った。
果たして人魚がいうことには人魚達の間で病が流行り、人間の血が無ければ助からないのだという。
カンテラで照らした人魚の顔は真っ青であった。
既に幾らかは手に入れたらしく、その薄い腹には溜め込んだ血がタプタプと揺らぐのが透けて見えた。
私は黙って人魚の手を取った。
私の体で人魚と子供が助かるのならこんなに嬉しいことはない。
人魚は私の意を汲みそっと頷いた。
私の脚をバリバリと噛み砕く人魚の血に染まった口元が私の見た最期の景色であった。
人魚は満足そうに微笑んでいた。
きっと私も同じ顔をしていただろうと思う。
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asanagi-kuya · 8 years
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壺中有天
短い宇宙の歴史の中の 短い地球の歴史の中の 短いヒトの歴史の中の 短いわたしの人生を 短く刻む長い絶望
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