とりあえずどこ置くか悩んでる突発的創作SS置き場 イラストはTumblrのアカウントで 創作・企画等→asokanorakugaki 版権→asokanofanart 一日一絵→asokanojinbutsujiten となります。 他にも塗り絵とかビーズとかのアカウントもありますが省略。
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ワンライお題「ご一緒してもよろしいですか」/「帰る場所」
どうしてこうなった。 経緯を思い返しただけで頭痛がする。馬子にも衣裳どころか、脱ぐ事を考えるのもめんどくさくなるレベルに着飾られたジュッドは、はぁあぁぁと盛大なため息を吐く。 此処は、ラディアータ領セーガ公国。遠く離れたトルクメキアを主な拠点として活動する���兵ジュッドが、国境を越えてまでわざわざ指名で受けた依頼は、なんのことはない。ただの、大公女の暇つぶし。 半鳥族がよほど珍しいのか、べたべた翼を触られ、彼女の優秀な家臣たちに着ていた服をひん剥かれ、浴室にドボンされ、現在に至る。 ほとんど歳は自分と変わらないと聞いているが……。表情もそれなら、思考回路も子どもっぽく、やることなすこと意味が解らない。 「この部屋で、待機せよ!」と、大公女にお尻を蹴り飛ばされるように押し込められた部屋で、ジュッドは思わず目を見開いた。 「え? メイファ?」 真っ赤なドレスに、長い黒髪を彩る、真っ赤なヴァージリール(梅)の花の髪飾り。 目の前には、城下の宿で待っているはずの……自分と同じよう、見事なまでに着飾られた、妻の姿があった。 「……」 無言でお互い、見つめ合う。自分の顔はわからないが、たぶん、妻と同じよう、真っ赤になっているに違いない。 隣接する部屋に、楽団が待機していたのだろう。空気を読んだかのように、タイミングよく、音楽が流れ始めた。 こういう時、どう、言えばいいのだっけ……。育ちがよく、教養のあった養母の言葉を、一生懸命思い出す。 「ご……ご一緒……しても、いいですか?」 視線が泳ぐジュッドに、苦笑を浮かべながら、差し出した手を、彼女はとった。 「踊っタこト、私も、無いヨ」 片言の言葉に、ホッとする。どこかのお姫様のように思えたが、いつもの、彼女だった。 思い起こせば結婚はした。が、式を挙げる余裕などなく、婚前同様、一緒に傭兵業に励む日々……。 ……遅くなった結婚式だと、思えばいいか。あの大公女がこちらの事情を知っているとはとても思えなかったが、ジュッドは前向きに、考えることにした。 音楽に合わせ、ぎこちないながらも二人は踊る。恥ずかしさはなかなか消えないが、ある思いが、ジュッドの中に芽生えた。 きっと、言葉にすることはない。けれど。 何処に雇われても。国(トルクメキア)から離れることになっても。 帰る場所は、きっと、此処(彼女の側)だ。
「上手くいったようですわね。タイシャさん」 「……大公女。御戯れがすぎますよ」 満足げに微笑む大公女に、側に控える侍女が、深く眉間にしわを寄せた。 「あら。私は、お兄様がどんな方か、知りたかっただけですのよ。もちろん、出来る事なら妹(あなた)同様、仲良く一緒に暮らしたいほど」 それこそ、御戯れです……と、タイシャはぐっと顔をしかめる。 隠された「異母兄」の存在の噂は、昔からされてきたことなので知っていた。 けれど、自身の出自を知らないその兄は、自由に生きる「砂漠の鷹」。 ならば、妹の「ワガママ」で……ほんの少し、「彼の記憶の片隅」に、残るくらいの接点を、持っても良いではないか。 彼との何気ない会話の中で、妻がいることを知った。彼女の出自と暮らしぶりを家臣たちに調べさせ、今回の事を思いついた。 「「誰か」の幸せな顔を見ることは、為政者の幸せであり、義務であると、思わなくて?」 「……本当に」 御戯れが、過ぎます……。真面目なタイシャは、奔放な異母姉に、小さくため息を吐いた。
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バトンいただきましたー
1アイディアはどう出すか →普段からうんうん唸ってますが、描きはじめる割と直前に降ってわいてくることが多いです。
2アイディアの出やすい場所 →仕事……げふげふじゃなくて、風呂とかご飯食べてる時とか日常生活の中で。
3作品にかかる時間 →ネタがまとまって描きはじめるので、よほど長編にでもしない限りはかきはじめると早いです。 イラスト1枚だと1時間~3時間くらい、短編小説だと計6時間くらいかな? 集中力の関係で、なるべく即日upを目指してます……ホント集中力ないんだorz。
4今までで一番嬉しかった感想 →もう感想いただけるだけ���嬉しくて……。 このキャラ好きだ~とか、このキャラいじめたいーって言っていただけるだけでもう感無量です(笑。
5尊敬してる人 →企画関係者様とか創作に携わってる人。 お絵かきを始めるきっかけという意味ではリアルオカンがマジ先生……かな?
6目標 →もっと早く、もっと丁寧に……。 最近色々と荒いような気がしてげーふげふ。 あと、最近よく言われるんですが創作、設定集以外にも家系図(※関係図ではない)出した方がいいですかね……←
7描きたいジャンル →ガッツリファンタジー充実したいです。 あと現代ファッションをちゃんと描けるようになりたい。 ……現代キャラの私服が非常にダサいと私の中で話題に。 ……いや、ファンタジーの住民もあんまりカッコいいとは思えないんだけどな! ←ぉぃ。
8回してくれた人をどう思うか →じょんさんなのかふぁんさんなのか……一応じょんさんと呼んでるけど時々悩む(@winterfel_fan) 冗談はさておき、PFFKのオルディア様の漫画で知って、FK終盤劣勢でホントガチ泣きしてたのはいい思い出w。 なんていうか、癒しです……可愛い……。あと六堂さんテライケメン。
9お疲れ様でした →ありがとうございまーす!
10回したい絵描きさん →みんな持っていけばいいと思うんだ! ※:たぶんあらかたみんなやってたような気がするんでフリーで
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安曇(CWS/HGまたは00課)
お題:天使,悪魔,心
「君の心の中には、天使と悪魔が共存している」 ふと、以前言われた言葉を思い出し、安曇は苦笑した。 ずっと亞輝斗のことだと思っていた。でも、今ならそれが違うと解る。 天使も悪魔も、自分のことだ。
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ハジマリのオワリ(CWS/HGまたは00課)
地獄絵図と化した惨状に、亞輝斗はただ、怒りに震えていた。 大好き「だった」モノた��……その価値観がぐらりと歪み、音を立てて崩れてゆく。 立ち上がろうとするも、足腰に力が入らず、伸ばしたその手は、「彼女」に届かず。 今朝方、妹が丁寧に結った金の長い髪はほどけて、髪より濃い金の翼をもがくように動かすたび、ざんばらに広がった。 「こいつ……毒酒を飲んでも、まだ動けるのか」 (所詮鬼は、ヒトに恐れられ、追われる存在よ……) 男の言葉に、「彼女」の言葉が追い打ちをかけるように続く。 ああ、これは幻聴か……首だけの「彼女」を見つめ、亞輝斗は精一杯の力をこめて、その腕を「彼女」に伸ばした。 が、無情にもその腕に太刀が突き立てられ、亞輝斗は絶叫する。普段、この程度の怪我なら瞬時に治り回復するのだが、何故か只人のように大量に血が流れ、彼のその傷が塞がることはなかった。 亞輝斗は怒りの形相を浮かべ、そして獣のように吠える。動けない体からバチバチと雷がほとばしり、男たちを威嚇した。が、その威力は普段とは比べものにならない程僅かであり、脆弱なものだった。 亞輝斗は渾身の力を込め、首領格の男に喰らいつく。立派な兜に阻まれ、その身にかぶりつくことはできなかったが、そのまま、相手の首の骨をへし折ってやるつもりだった。 しかし、銀の刃がきらめき、そして……。 激痛を通り越した痛みと熱をうなじに感じ、亞輝斗の意識は徐々に、闇の中に溶けていった。
「やったか?」 男の問いに、「応」と、別の男が答える。兜を外すと鬼の首が喰らいついたままで、忌々しそうに、男はその首を踏みつけ、蹴飛ばした。 衝撃で鬼の首が兜から外れ、床にゴロゴロと転がってゆく。 「御館様。……此奴が、件の鬼の頭目なのでしょうか」 「……だろうな。一番奥の、一番良い部屋で、呑気に細君と酒を飲んでいたのだ。間違いなかろう」 都を脅かす鬼を無事退治できた安堵からか、男の機嫌は徐々に良くなる。それに対し、部下であるもう一人の男の表情は、不安げに曇った。 はて……酒呑童子と茨木童子は、父娘と聞いていたのたが……夫婦であったか……。 しかし、主の間違いを面と向かって指摘できず、自分の勘違いであろうと、ただ、自らの中に浮かんだ疑問を、男は飲���込むしかない。 男は、主が蹴飛ばしたその首を、ゆっくりと拾いあげる。人ならざる者から生まれ、怪力と称される彼が持っても、その首はずしりと重く感じられた。 瞳孔が完全に開き、焦点の定まらない紅い瞳が彼を貫く。 討ち取った相手とはいえ、先程の主の行動に思わずいたたまれなくなり、男は鬼の瞼を閉じさせた。死後硬直が始まる前に口を閉じさせ、血や泥で汚れた顔を拭ってやる。 「ほう……」 思わず、男の口からため息がこぼれた。 怒りの形相しか見ておらず、気がつかなかったが……まるで眠っているようなその鬼の顔は、誰よりも……都で輝く公達や姫たちよりも美しいと、男は思った。 「何をしている! 早くしろ!」 主の言葉に、男は慌てて立ち上がる。鬼の首を持っていた錦で丁寧に包み、そして首桶に納め、主の元へと駆けていった。
かくして、数多もの鬼たちとともに、「酒呑童子」は退治された。 ただ、後年伝説に語られるその鬼が、「善童鬼」……またの名を「那智滝本前鬼坊」と呼ばれる大天狗であり、人違いならぬ鬼違いであった事実を知る「人間」は残念ながらおらず、また、彼の師が彼にかけた呪のことを知る者もいない。 「真実」は「歴史」に埋れ、人々の記憶から、徐々に忘れられ、ついには遠い昔の「御伽噺」となった頃。
紅い瞳の鬼が、再び、目を覚ます。
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Seraphim(CWS/3またはPFFK)
ヴィルジェは温泉に浸かりながら、ふう……と、ため息をひとつ吐いた。 この世界に、卓球があるとは思わなかった。本当に、何年ぶりのことだろう……そう思い、ヴィルジェは思わず自嘲する。 「ヴィルジェ」が、実際に卓球をしたのは初めてだ。しかし、この身体の主……「タスク」と、記憶と知識を共有している状態なので、思わず、 自分の「経験」として、つい考えてしまう。 ……そう。 「ねぇ、今日は「どの立場」で、オレに用?」 さりげなく隣に浸かってきた男に、ヴィルジェは問う。 「なんだ。気づいてたのか。……楽しそうにしてたから、もうちょっと、様子見しとこうと思ったのに」 ヴィルジェに優しく笑う男に対し、ヴィルジェは態度を徐々に硬化させる。 「……もう一度きく。今日はどの立場でオレに……「オレたち」に用? タスクにとっての先生? ��レにとっての伯父上? それとも……」 立ち上がったヴィルジェの肌に、淡い青の文様が浮かぶ。それは、さながら、一種の魔法陣のようで……。 怒りの色をたたえたヴィルジェの赤い瞳が、一滴、コバルトを垂らしたような、不思議な色に染まる。 「ボク……ヲ、壊シタ……せらふ?」 何時もの饒舌なヴィルジェとは違い、声を出すのがやっとといった、たどたどしい口調の彼に対し、男は慌てて首を横に振った。 「マテッ! タスク! その件に関しちゃ、オレも被害者だっての! それに、ココで騒動起こすと、それこそ世話になってる連中に迷惑かかるし、ヴィルジェが困ることに、なるんじゃねーの?」 男の言葉に、ムッとタスクは眉間にシワを寄せた。 「な? 解るか? オレの言ってること、理解できるよな! ……その辺のことは、いつかきっちり、腹割って話そう!」 だから、今は落ち着け……触れようとした男の手を払い、タスクはばしゃんと、しぶきをたてて湯の中に座る。 「解っていただけたようで、何より」 「……」 微笑む男に、タスクは無言でそっぽを向いた。そう、引いたのはヴィルジェの為であり、お前の為ではない。そう、態度が語る。 男は苦笑を浮かべつつ、口を開いた。 「……お前とも、ちゃんと話がしたいけど、とりあえず用があるのはヴィルジェの方。立場は……そうだな。ラディアータ元武帝と、アリストリアル皇弟として」 「……それって、つまりは「公的」ってこと?」 ヴィルジェが表にでてきたことを示すよう、タスクの体に浮かぶ紋様が徐々に収まり、瞳の色も、元の赤に戻った。 男はにっと、得意げに笑う。 「第三国という名の異世界で、誰にも気兼ねすることなく、邪魔も入らない。おまけにここは温泉で、文字通りお互い丸裸。武器や精霊石は持ち込みようがなく、会談の場として、これ以上申し分ないシチュエーションは、滅多にない。……そう思わないか?」 「アンタの場合、温泉めぐりは単なる趣味だろ……」 それに……ヴィルジェはずいっと男に近づき、その手を男の首元に近づける。 「アンタは、オレが「妖魔」だってことを、忘れてる」 ヒトの生気を吸い取り、それを自身のエネルギーに変換する妖魔は、痛覚は人間と変わらないものの、元来肉体を修復する能力に秀でた彼らに物理的な攻撃はあまり意味を持たない。 そんな彼らに丸腰で対峙だなんて、「殺してください」と言っているようなものだ。 対する男も、怯むことなく、同じように、ヴィルジェの首元に、その手を近づけた。 「お前も、俺がかつて「氷眼の悪魔」と呼ばれた男だってことを、忘れてる」 「氷眼の悪魔」……精霊石を使わずとも術を発動させることができた、歴史に名を残す高位の精霊術師。 ヒトの身でありながら、���十人の戦士が束になってやっと一人倒せる妖魔を、たった一人で、一度に何百と血祭りにあげた、「突然変異体(ミュータント)」。 「……やめとこうぜ。お互いソンだろ?」 男を見上げ、悔しそうに、ヴィルジェは、ギリっと奥歯を噛む。確かに男の言う通り、ここでやりあっても、お互いメリットが見当たらない。 「……わかりました。いいでしょう。公式会談といこうじゃないですか。……と、そのまえに」 ふと、気になっていた事実をヴィルジェは確かめようと、男に問う。 「アンタ、どうやって、この世界に来たんだ?」 ヒトという規格から豪快に外れた「氷眼の悪魔」も、さすがに時空の壁を、故意にぶち破る能力は、持ち合わせていない……ハズ。 「ああ、それはな」 ゴニョゴニョと耳元で囁く男の言葉に、ヴィルジェは思わず頭を抱え、呻くようにつぶやいた。 「……なんで、「あの人たち」まで、来てんだよ」
「っしゃー!」 すぱーんッ! と、心地よい音を立てて、ピンポン球のスマッシュが決まる。が。 「アウトです。兄さん。無駄な力、入れすぎなんですよ」 「……下手くそ」 「……うるせぇぞ。そこの愚弟と駄メガネ」 汗を流してくる……と、出て行ったヴィルジェと、少し間をおいて入れ替わるように室内に入ってきた三人組と、成り行きで温泉卓球することになったヴァンは、思わず苦笑を浮かべた。 小柄……ほとんど自分と変わらない身長ではあるが、一応、自分よりは年上だろう。自分と対戦している赤い服の少年は、先ほどからスカぶったり、アウトだったりと、なかなかラリーが続かない。 が、根性というか、その気骨は、なかなか好印象だ。自分と似たところがあるのかもしれない。 「お兄さんたち、どこの国の人?」 ヴァンの問いに、赤い服の少年がにっこりと笑う。 「あー、オレら、別の世界から来たの。戦争終結のちょい前くらいにたどり着いて、こっちの事情にゃ介入はしてないから、そこんトコ、気にする必要はねーよ」 「……?」 眉をひそめるヴァンに、少年は右手を差し出し、口を開いた。 「オレ、ライヨウ・エトー。ヴィルジェのヤツを、迎えに来たんだ」 Copyright (C) 2014 Asoka Nagumo. All rights reserved
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機械人形の幻夢(CWS/1~3またはPFFK)
「何故、裏切った! シエル!」 怒声をあげるコウガを、ただ淡々と、シエルは冷めた目で見下す。 人間と妖魔……和議のための花嫁引き渡しに指定されたのは、深い森の中��あり、そこに現れたのは、数日前から連絡の取れない、親友であった。 「裏切った……とな」 クスクスと笑うシエルだが、コウガを貫くその視線は相変わらず、まるで汚いものでも見るかのように、嫌悪感に満ちていた。 シエルとは長い付き合いだったが、いつも温厚な彼が、このような顔をしているところを、コウガは今まで見たことがない。 「貴様がシエルと呼ぶ、「この身体の主」からすれば、裏切ったのは「コレ」と、貴様の後ろで震えているその男であろうよ……」 シエルに生気を完全に吸い取られ、まるでミイラのようになって絶命した月晶族の族長……シエルの父親の死体を、シエルはなんのためらいもなくその場に打ち捨てた。 ビクッと、コウガの背後でシエルの弟……バーン=セレニタスが震える。 「バーン?」 「ち……父上が……妖魔王所望の義姉上を、率先して差し出せば、きっと、月晶族は安泰だって……だから……」 兄が、邪魔になった。 コウガには、バーンの言葉が、すぐには理解できなかった。 この世界において、身内殺しは大罪である。なのに、彼の父と弟が、彼を、殺した……。 そんなコウガに追い打ちをかけるよう、妖魔の王は親友の顔をして、優しく囁くようにコウガを追い詰める。 「我は、崖の下に捨てられたこの身体を見つけ、有難く利用させてもらうことにしたまで。花嫁殿と引き換えに、侵攻をやめる……との約束だが、「この男」の「最期の願い」、聞き届けてやるのも、悪くはない」 「最期の……願い?」 それは……なんだ? 動揺のあまり、コウガの声が震えた。 妖魔は死体に寄生する前、肉体の主の魂を喰らい、肉体の主の記憶を得るという。 その話が本当であるならば、シエルは……。 先ほどとは一転、戦意を喪失し、呆然と震えるコウガの様子に、妖魔王は呆れたような表情を浮かべる。 「聞いてどうする。貴様が、代わりにこの男の仇を討つとでも言うつもりか?」 ただでさえ数が減っているというのに、同士討ちとは、いやはや……。 「人間とは、あいも変わらず愚かなものだな」 ぞっとするような……それでいて優しい笑みを浮かべながら、妖魔王はうわ言のように「ごめんなさい」と繰り返すバーンの首に、手を伸ばした。 「……いっそ月晶族だけではなく、人間全て、滅ぼしてしまおうか」 「おやめください!」 突然、凛とした女の声が、広い森に響き渡る。錯乱するバーンと茫然自失のコウガ……二人では役に立たないと判断したのか、花嫁……ミレイ=ラジスティアが、輿から降りて三人に詰め寄った。 「……これはこれは花嫁殿」 「約束が違います!それに……あの人が、そんなことを望むわけがない!」 ふと、コウガは違和感を覚えた。ほんの一瞬だが、妖魔王の表情が、曇ったような気がする。 しかし、それは本当に一瞬で、先ほどと同じよう、妖魔王は微笑をたたえて口を開いた。 「我は、嘘偽りは申しておりませ���よ。花嫁殿。この者が絶望の中で何を思ったか……我に、何を願ったか……」 ミレイに触れようと手を伸ばしたとたん、ミレイが妖魔王の顔に平手打ちをした。短く小気味の良い音が、森の中に響く。 「あの人を、貶める真似はやめなさい!汚らわしい!」 その時、コウガは確信した。 ……彼は、妖魔王ではない。 確かに、シエルの父を殺したあの能力……妖魔の力は有しているのだろう。だが。 ……彼は、シエルだ。 目の見えないミレイに、彼の表情の僅かな差異はわからないだろう。しかし、ミレイが妖魔王をなじり、夫であるシエルを庇うたび、彼の表情は曇り、そして複雑そうな感情が、顔に浮かぶ。 それは、単に肉体の持ち主の、「記憶」という名の「情報」を得ただけの妖魔では、あり得ない反応。 シエルの魂は、無事である……安心したのもつかの間、コウガは新たな絶望感に苛まれた。 シエルが妖魔王の魂を逆に喰らったのであるなら、シエルが妖魔王のフリをし、ミレイを迎えに来る必要はない。しかし、実際彼は妖魔の王としてこの場に現れ、父をその手で殺している。 「人間を滅ぼす」。その言葉は紛れもなく、妖魔となってしまった自分に対してと、父と弟に裏切られ、人間という種に対して絶望した彼の、本心に他ならないのではないだろうか。 何も知らず、ノコノコと加害者である族長とバーンの護衛を受けてしまった自分もまた、彼から見れば加害者と同じ……きっと、自分の言葉に、説得力はない。 なら……オレは……。 「なぁ、「シエル」」 コウガの言葉に、妖魔王とミレイ、両方が、「その名で呼ぶな」と言いたげに、不愉快そうに顔を歪めた。 「バーンについては、オレが……いや、オレたちが責任をもって、処罰を下す。だから……」 「命乞い……か」 鼻で笑うシエルに、コウガは深々と頭を下げる。 「頼む。「オレの親友」に、父殺しだけではなく、弟殺しの罪を、着せたくないんだ」 突然、シエルの周囲に、ビリビリとした空気が立ち込めた。彼の怒りに反応してか、精霊の蠢く気配が辺りに満ち溢れる。 「親友……とな。その貴様の親友は死んだ。……その事実を、しかとその身に刻め」 「おやめください!」 ミレイの制止を振り切り、シエルの拳がコウガの腹部にめりこんだ。一撃で皮膚や筋肉に相当する装甲が吹き飛び、バラバラと壊れたパーツが地面に落ちる。 「その男を庇うなら、『聖闘士』。貴様が代わりに死ぬか?」 なんて表情(カオ)、してやがる……。言葉や口調とは裏腹に、今にも泣きそうなシエルの顔に手を伸ばし、コウガはそっと、耳元で囁いた。 「シエル……お前が、そう望むなら」 バキッ! シエルに触れた手が、シエルに付き従う闇の精霊に砕かれる。連鎖するように、腕、反対側の腕、両足と弾け飛び、コウガの緊急生命維持装置が作動。その際、なんらかの要因で視神経が遮断され、視界がブラックアウトした。 「コウガッ!」 ミレイの悲��ととともに、シエルの淡々とした声が、薄れる意識の中響く。 「興がそがれた。当初の目的通り花嫁殿をいただき、我は帰る……」 ……ったく、やっばりシエルちゃんは優しいや。踵を返し、遠のく足音を耳にながら、コウガは思った。 コウガ唯一の生体パーツである「脳」。どんなに他が壊れても問題はないが、唯一修復不可能なその弱点を彼は知っているにも関わらず、コウガの脳を納める頭部を、彼は最初から狙ってはいなかった。
コウガの身体はすぐに修復され、月晶族族長の起こした一連の行為は、すぐに人間側の上層部に明るみになり、バーンを筆頭に月晶族の地位は地に落ちた。 妖魔の王は約束を守り、妖魔の侵略はピタリと止まる。 「シエル」と「ミレイ」の存在は、事実を知り、恐れた人間たちに抹消され、人々は仮初めの平和を得て、年月を重ねた。 あの事件の前年に生まれていた、シエルとミレイの息子……ワタルをコウガは引き取って育て、そして、二十五年……。 再び、妖魔が侵攻を開始する。 人間たちの、「約束の破棄」によって……。
「兄様!」 アジトの入り口で、半壊状態……ボロボロのコウガを見つけ、アルフィーネは目を見開く。彼の腕には小さな男の子と女の子を抱えていた。 「なんとか、生きてるよ……オレも、こいつらも」 そうは言うが、疲労と極限の���況に晒されていたせいか、二人とも顔色が悪く、特に男の子の方は、右側の肘から下が無く、意識も朦朧としていた。 「兄様……悪い知らせがあります。……妖魔が、侵攻をはじめました」 「だろうな。この混乱……アリストリアル総督府と連絡がつけようのないこの事態、あの二人が黙っちゃいないだろう」 アリストリアル総督府には、ワタルがいる。クシアラータで反乱が起こり、ラディアータが侵略されて半年……コウガはすべてにおいて、後手に回りっぱなしだった。 この頃から、コウガには人間に対する不信感が芽生えていた。 あの時、自分はなんのために、文字通り命をかけて、妖魔から人間を守っていたのか。 なんのために、ミレイが人身御供として、妖魔王の花嫁になったのか。 なぜ、シエルが妖魔王になってしまったのか……。 たった二十五年で、全部、無駄にしやがって……。 「妖魔の侵攻具合は? あと、フォルはどこにいる」 コウガは地図を広げながら、妹に問う。フォルというのは、コウガの弟、フォルテ・ピースホープのことだ。 「フォルテ兄様はクシアラータ本国に潜入中です。定期的に連絡があるので、とりあえずは無事ですわ。妖魔の進行は、元アリストリアル帝国領内が主ではありますが……その……」 言い淀むアルフィーネに、コウガはいぶかしげに問う。 「どうした?」 「ラディアータの、月読の森近辺からの連絡が、完全に途絶えているんです」 月読の森は、月晶族の住まう地。かつて、シエルと最後に会った、あの森である。 ��な予感がし、コウガは身震いをした。 「あの……兄様」 そんな中、言いにくそうに、アルフィーネが口を開いた。 「実は、シエル様について、こんな話をきいたんです……ソフィア様から」 思いもよらぬ名前をきいて、コウガは思わず立ち上がった。 そして、彼女の口から聞かされた事実に、愕然とすることになる。 「混乱の元になるため、あまり口外はされませんでしたが、幼い頃、ソフィア様を育てていたのは、シエル様だったそうなのです」
ソフィア=セレニタス。 シエルを殺した、あのバーンの娘。 銀髪銀眼の月晶族の中で、純血でありながら黒髪黒眼をもって生まれた忌み子。 月晶族特有の白い肌に、整った顔立ちの美しい娘ではあるが、実父に疎まれ、赤子の頃に受けた虐待により、顔を含めた左半身に、大きな火傷跡を持つ、可哀想な子。 そして、先ほどの反乱で処刑された、クシアラータ皇帝シオン=ルドルディに見出され、彼の皇后となっていた、シンデレラ……。
月読の森は、死の森と化していた。集落の人間はもちろん、大型の動物や小動物にいたるまで、すべて、干からびたミイラとなって、地面に転がっている。 妖魔の仕業であることは、間違いがない。 そして、話に聞く限り、十中八九……。 「シエル……」 かつて、ソフィアが暮らしていた簡素な小屋に入ると、男が一人、寝台の上に、気だるそうに横になっていた。 近づいたコウガの気配を察してか、シエルはうっすらと銀の目を開け、そして、その手をコウガにゆっくりと伸ばし、首に手を回す。 妖魔の王の冷たい指先が、首筋に触れた。 「そなた、何故、生気が���けぬ?」 コウガの背筋に、電気が走ったような気がした。 「シエル……オレが、わからないのか?」 コウガの言葉に、シエルはいぶかしげにコウガを見上げた。そして、やっと彼が誰であるのか気がついたのか、クスクスと笑い出した。 「これはこれは、聖闘士殿。あいすまぬ。……捕食対象の人間の顔など、いちいち記憶しておらぬからな」 相変わらず、言葉と表情と内包する感情がちぐはぐなシエルに、コウガの良心がずきりと痛む。 彼の目尻には、涙のあとがしっかりと残っていた。が、彼は泣いているのではない。怒っている……そう、コウガの直感が告げる。 「これは、復讐か?」 コウガの問いに、シエルは否、と、即答した。 「これは、盟約だ」 盟約……。シエルの言葉に、コウガの言葉が詰まる。真っ先に脳裏をよぎるのは、ミレイとの、「約-束」。 自分が妖魔の王に嫁ぐかわり、「息子」には幸せを……ヒトとしての天寿を全うさせること。もし、夫のように途中で命が奪われるようなことあれば、自分自身が破壊の手となり、ヒトを滅ぼしてやる……。彼女はそう言って、嫁いでいった。 まさか……。 「ワタルは……」 「ワタル? あぁ、ワタル=セレニタスなら、我が愛しの妻が、保護をしているよ」 シエルの言葉に、コウガはほっと一安心したように息を吐いた。が、そんな彼に、シエルは淡々と、他人事のように事実を告げる。 「もっとも、心身��もに、五体満足な状況ではないけれど」 「何?」 「「生きてはいる」。が、それだけだ。手足を切断され、心を壊され……我が妻の怒りがどれほどのものか、アリストリアルの惨状をみれば、よくわかるであろう?」 コウガは唇を噛んだ。生死不明の養い子が生きているということが解ったことはは喜ばしいことだが、彼が酷い状態であること、さらにアリストリアル方面の妖魔の指揮官が予想通りミレイであることと、不穏な事実が盛りだくさんだ。 加えて、あくまでも無表情で、淡々と語ってはいるものの、シエルの心情が穏やかであるはずもない。 頭が痛くなってきた……ため息を吐きながら、腹をくくり、コウガはシエルにきりだした。 「さっきの話でお前がここにいるってことは、ソフィアとも何か「約束」、してたのか?」 ざわり……コウガの言葉に反応するように、暗闇からなにかがうごめく気配がする。闇の精霊……あの時の記憶が、コウガの脳裏をよぎった。 「幸せ……に……」 ぽつり……と、シエルがつぶやく。それは、実にか細く、今にも途切れそうな声だった。 「「必ず、幸せになる」と、あやつは言った。だから、我はあやつを手放し、人の元へ返した……だが……それは、大きな間違いだったようだ……」 バキッ……と、床が音を立てて割れた。うぞうぞと不気味に室内に闇が満ちて、質量を増している。 シエルの両目からは涙があふれ、はらはらと闇に溶ける。だが、その表情は実に清々しく、なにか吹っ切れたような顔をしていた。 「だから、あやつが死んだ今、我はあやつとの盟約を果たす。あやつが愛し、そのあやつを裏切った民など、我らが喰らいつくしてくれるわ!」 「……個人的には賛成なんだけど、でも、今はダメだ。シエル……」 コウガの言葉に、シエルは訝しげに眉をひそめた。 「シエル。よくきいて。……ソフィアは、確かに助けられなかった。そこは、オレの力不足だ。オレ個人なら、どんなに恨んでも構わない。でも、ソフィアの「息子」なら、無事だ。生きてる。……怪我はしてるけど持ち直した。命に別状はないって」 数日前、コウガが命からがら抱えて逃げ、助けた、男女の子ども。 あの右腕を失った男児は、ベイタロト=ルドルディ……ソフィアの四人の子どものうちの、二番目の息子である。 「シエル……君は、そんな彼女の息子も、食べるつもりなの?」 「……」 初めて、シエルの感情と表情が一致したような気がした。ギリッと奥歯を噛み、恨みのこもった視線でコウガを睨んだ。 「……できない、よね? どんなになっても君は本当に、優しいから」 バンッ……コウガの耳に近いところで破裂音が響く。ふと視線を音のしたほうに向けると、自分の右腕が、ちぎれてぶらりと垂れ下がっていた。 「それ以上、喋るな!」 床に広がる闇が、コウガの足にまとわりつく。 「何度もいうが、シエル=セレニタスは貴様らが殺した。……我が優しい、だと? 自分が壊されても、なお、そう言えるのか?」 ギリギリと闇が、コウガの身体を締め上げた。鋼の骨格が軋み、断線したケーブルから���花が弾ける。 しかし、コウガの顔には笑みが浮かんでいた。彼の意図はわからないが、その笑みは間違いなく、シエルの怒りの火に油を注ぐ。 「……」 シエルは無言でコウガの頭をつかみ、そして、その首を捻じ切った。
「あの……どちら様……ですか?」 闇の中からずるりと現れたシエルに、男はいぶかしげに、しかし驚くことも、戸惑うこともなく問う。 シエルと男とは、直接的な面識はない。ただ、シエル同様、男の名を、この世界で知らぬ者はいない。 シエルは、つかんでいたコウガの頭を、男に向かって投げた。 「コウガ殿! コレは……いや」 あなた、は。男はシエルが「誰か」を即座に察したらしい。が、警戒することもなく、「わかりました」と、一言つぶやく。 「彼の、修復をお望みですね。妖魔王殿」 「……ヒトの敵に対し、物怖じしないどころか、随分と物分かりがよいのだな。貴公は」 シエルの言葉に、男はクスリと笑う。 「まぁ、ココだけの話、あなたに匹敵するほど、人生経験は豊富なつもりなので」 不思議な男だ……と、シエルは思う。 「でも……そうですね。彼の膨大な修理費をあきらめる代わりに一つだけ、よろしいですか?」 「……なんだ?」 男に促され、シエルは椅子に座る。コウガの状態を確認後、男は作業用の上着を着ながら、機材の準備を始めつつ、口を開いた。 「何故、彼を壊した後、わざわざ修理を依頼するため、第三国であるここに連れてきたのか。……あくまで、オレのカンですけど、あなたは、いずれコウガの手で殺されたい……そう、思っているのではありませんか?」 男の言葉に、シエルはびくり……と震える。 「……あたり、ですかね」 無言のシエルに、男はにこりと笑う。嫌味でない、実に素直な性格が垣間見れる笑顔だ。 「何故、そう思った?」 「それは、たぶん、コウガもそう思っているからですよ」 今まで何度もコウガを修理してきた経験からか、男は専用の台を持ち出し、コウガの頭をささえる。そして、首からのぞくちぎれたコードを、別のコードに繋ぎ直した。 脳がフルに動くためには、まだエネルギーが足らないか……コウガの意識はないままだが、それでも、 コウガの脳はひとまず、これで守られた。 安堵のため息を吐き、シエルは思わず自嘲する。 何十年の時を経ても、嘘をつくことは相変わらず苦手であるし、どんなに裏切られても、ヒトを、心底憎みきることができない。 あの時、薄れゆく意識の中、妖魔の王に肉体を狙われ、思わず逆に喰らってしまったことに絶望した。 そしてそのまま、「敵」として、親友に殺してもらいたかった。
シエルはヒトの敵として、コウガに討たれることを望む。 コウガは親友を見捨てた償いとして、シエルに壊されることを望む。 そして、それを薄々感づきながらも、お互い実行する気はない。 けれども何十年後、何百年後、ほんの少しでいい。相手の気が、変わることを夢見て……。 それは実に、不毛な願いで。そして……。 「実に、気の長い話ですね」 男がぽつり……と、静かにつぶやいた。
シエルの、あの時の目が、怖かった。 何十年と会っていなくても、ずっと、きっと、自分のことを「覚えてる」と、自惚れていた。 「親友」として見れなくとも、「憎い相手」として、認識してもらえれば、それでいいと思っていた。 でも、あの時の、アイツは……。 何千、何万といる「ヒト」の「一個体」としか、オレを見ていなかった。 だから……。 「でも、それは、何度も大破されて帰ってくる理由には、なりませんからね」 男にクギをを刺され、コウガは口をつぐむ。 「半年で三回とか……さすがにオレ個人が黙認できる金額じゃ、なくなってきたんですけど」 昨晩も妖魔王はコウガの首を携えて、男の元にやってきた。ものすごく機嫌が悪かったことは、言わずもがな……。 「ストーカーは、嫌われますよ?」 「ストーカーじゃねえよ! ホラ! 養い子に会いにだな!」 会わせてもらえましたか? 男の言葉に、再び、コウガが口をつぐむ。その様子だと、やはり、門前払いをくらったようだ。 話題を変えるか……コウガがかわいそうに思えた男は、苦笑を浮かべて、口をひらく。 「……アリストリアル帝国の再建とは、なかなか思い切った行動に出ましたね。君の従妹殿は」 妖魔は大陸北部を平定し、かつて存在した帝国の名を冠した国を、新たに作った。 そして、現在存在する、全帝国との国交断絶を宣言。鎖国に入る。 ヒト側の各国は、強大な妖魔の能力と生命力に阻まれ、アリストリアル側への物理的な侵攻が不可能となり……同時に、妖魔側がこれ以上の侵攻を行わなくなったことから、事実上の膠着状態に陥った。 「とりあえずは、相手も「現状維持」……って言いたいんじゃないですか? こっちから約束破ってる身なんですから、滅ぼされるよりはよっぽどマシな状況だと思いますけどねぇ」 「……他人事、だな」 そりゃー、他人事ですもん。男はにっこりと、コウガの装甲を溶接しながら答える。 「オレは、好きなことを、好きなだけやればいい……って「約束」で、「ここ」に居るんですから」 へいへい……男の言葉に、コウガはため息を吐いた。 しかし事実、その「約束」がなければ、彼はこの場に本当にいることなく、フラフラと世捨て人のように、各地を放浪していただろう。才覚はあるのに、権力に興味がないどころか��むしろ憎んでいるフシがある。そのくらいのことはやりかねない。 「それに、ヒトも妖魔も関係なく、協力できるところは協力して、みんなでニコニコしてたほうが、人生、楽しいと思いません?」 「……やれやれ。一国の主とは、とても思えんセリフだ」 言ったでしょ? 男……トルクメキア皇帝ジュラン・エトーは、にっこりとコウガに笑う。 「オレは、好きなことを、好きなだけやるために、「ここ」に、居るんです」 ふと、ピンときたのか、コウガはニヤリ……と、笑いながら、ジュランに問いかけた。 「じゃぁ、好きな時に、シエルに会に行って、何が悪いんだ?」 「……その台詞、自分の国が落ち着いて、自分の修繕費くらいまともに払えるようになってから、言ってくださいね」 いつもより手厳しいジュランの口撃に、コウガは否応なく撃沈した。
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ジュッドの場合(CWS/3またはPFFK)
「あなたが死してもなお、生きる理由を、教えていただけません?」 マリアの突然の問いに、ジュッドは動かす手を止めた。床にはバラバラに分解された「セイレーン」が散らばっている。戦闘が少ない間に、メンテナンスをしておこう……というのが、セイレーンの製作者兼、彼の遺伝子上の母親であるユイの言葉であり、一応仮にも彼女の血を引くジュッドもまた、指先は器用な方である。そのため、助手をする羽目になっていた。 世話になっている手前、断れるはずもない。 が。 ジュッドは、ちらり……と、背後に目をやる。彼の背後で、暇そうにメイファが転がり、ジュッドの羽を弄んでいた。 「……すまない、ちょっと、メイファを頼む」 ジュッドの言葉に、ユイが眉をひそめた。 「何故だ? 親にも言えない話なのか?」 ユイが意地悪そうに問うが、ジュッドは短く、「そうだ」と、答える。 「……あんたや、メイファには、聞かれたくない」 きっぱりと断言され、目に見えてユイの機嫌が悪くなった。 そんな母親に、ジュッドは困ったように、苦笑を浮かべる。 「……いずれ、時が来れば、あんたにも話す。が、今は本当に、心の準備ができてないんだ。……頼む」
どこから話せばいいのやら……オレたちが別の世界から来たのは、ここに来た当初に説明した通り。 少々面倒だが、まず前情報として、オレたちの世界に生きるモノたちについて説明しなきゃならない。 かの世界では、人間(ヒュノス)、半鳥族(アプサラス)といった、人種とは別に、もうひとつ、別の分け方がある。 原住民族(カーネリアン)、時空の裂け目に巻き込まれてやってきた異世界人(アベリオン)、そして、アベリオンとは別の世界からきた、侵略種族である妖魔(ディーヴァ)。 妖魔ってヤツは、元来魂だけの存在で、実態を持たない、カーネリアンやアベリオンの死体に巣食う寄生種だ。で、寄生するためには、肉体の持ち主であるヒトの魂を喰らう必要がある。さらに、主食が生きたヒトの精気ときたもんだ。 ……母上の時代には、爆発的に妖魔が増えて、ヒトの数が減り、本当に大変だったらしい。 で、妖魔がヒトに寄生する際、魂を喰らうとさっき言ったが、ごくごく稀に、ヒトの方が逆に妖魔の魂を喰らっちまう事例がある。オレの場合が、それだ。 ヒトの人格を有したままでも、身体的特徴や能力は妖魔で、しかも一回死んでるわけだからさ……三年経った今でも、風当たりとか結構ツライ……食事とかも、嫌悪感から気持ち悪くて吐いちまうし、全然慣れない……。 ……って、アンタに愚痴ってもしょうがないよな……すまん。 へ? 本題? なんでオレが妖魔になったか? ……母上とメイファ、人払いして正解だったな。 ……ヒトとしてのオレを殺したのは、メイファだよ。 あー、その目、信じてないな? 今は魂のカケラでちっちゃくて可愛いし、そのせいで、たぶん本人覚えてないだろうけど、ホントはメイファ、ピッチピチの十九歳のイケメンなんだぞ! ……って親バカ発揮しとる場合じゃないな。すまん。 ……いや、なんていうか、悪いのはオレの方。 オレは息子を……ジェイドを人質にとられ、親友だったメイファの母親を殺した。……アイツの遺言でさ、自分の代わりに強く育ててくれって言われて、言われた通り、強く育てたつもり。 で、十六になったとき、メイファに本当の事を教えた。メイファは見事、敵を討ち取り、オレの人生もめでたく終わる……ハズだった。 が、そう、うまくいかないのが人生ってヤツだ。 妖魔がオレの身体狙ってな……なんていうか、最初はそのまま、喰われて消えて無くなるのも悪くはないって思ったんだが、ふと、あることに気がついちまった。 妖魔に身体をとられるってことは、オレの姿かたちをした別のナニカが、オレのあずかり知らぬところで、メイファやジェイドの前に現れ、あいつらを殺す可能性があるってことに。 ……そんなの、我慢できなかった。 だから、無我夢中で抵抗し、結果、ご覧の通り、喰らい合いに勝っちまったワケだ。
「……つまり、あなたが生きる、結論は」 マリアの問いに、ジュッドは頬を赤らめて答えた。 「……愛……だな」
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名前(CWS/3またはPFFK)
「名前?」 ネリネの問いに、リューは不思議そうな顔をした。 「この前、あなた、たくさん名前がある……って」 ああ……と、リューは頷く。確かに、そう言った記憶がある。 「うん、じゃぁ、教えてあげる。つまらなくて長い、昔話になっちまうかもだけど……」
オレが生まれて、両親が最初にくれたのは、「シェリアス」という名前だった。 そこから、神官が名前を加え、「シェリアス・ミェン・ラジスティア」と正式に名付けられた。 が、実際、この名前が使われたことは、一度もない。オレには二人の健康な兄貴がいて、たまたま、父親の友達が女の子を産んだ直後、子どもを望めない身体になっちまって、それで、その人の所に、貰われることになった。 ああ、オレ自身は覚えちゃいないよ。全部、後から聞いた話。 だから、ここで、「シェリアス・ミェン・ラジスティア」は、「シェリアス・ミェン・ラグルーシュ」という名前に変わる。
本当の事を言うと、オレ、十二歳くらいになるまでの記憶があやふやで、あんまし覚えてないんだけど……三歳になる少し前、世界的な事件が起こった。 オレの国が妖魔に攻め込まれて、実の両親も、育ての両親も死んじまった。 三歳にも満たないガキが、対妖魔最前線でよく生き残れたなと、本当自分の悪運には感心するよ……。 とにもかくにも、守ってくれる人なんかいなくて、「死体置場」なんて呼ばれてた貧民窟にいっとき身を寄せていた。 ガキだったせいで、自分の名前も覚えてなくて、その頃、なんて呼ばれてたか……確か、「テスカ」とか呼ばれてたような気がする。オレが覚えている、最も古い名前だ。 「死体置場」なんて呼ばれるくらいだから、そこらじゅう、ヒトの死体が溢れているような場所だった。 オレは、そこに住むヒトと同じように、妖魔に襲われた死体から、金になりそうなものを剥ぎ、それを売って飢えをしのいだ。妖魔から隠れながら、転がる死体の仲間入りにだけはなりたくないと、必死で生きた。
騙されたのか、かどわかされたのかは覚えていない。七歳くらいの時に、ある男に拾われた。 その男はある街を支配するならず者で、オレはその男から、「リュート・ケツァール」の名をもらった。 そしてオレは、彼に、暗殺者として育てられることになる。
思春期を迎え、オレの身体に、ある変化が現れ始めた。 ずっと自分のことを、男だと思っていた。でも、気がつくと、胸に膨らみが現れ始めたんだ。まるで、女のように。
オレを拾ったあのならず者の男は、それを知るなり、好都合とばかりに喜んだ。……一目見て、暗殺者とわかる暗殺者はド三流だよ。暗殺とは、虫も殺せない人間だと周囲には思わせておきながら、大胆かつ素早く、行動を行わなければならない。条件として、女、子どもは、好都合なんだ。 ヤツは「リューネ・チャルチ」の名をオレに与え、娼館の女将に「女としての作法」を、オレに叩き込むよ���命じた。 最悪だ、と、思ったよ。 でも、この時、オレの人生に、初めて光が差し込んだんだ。
娼館の女将は、恩人と言っても過言じゃない。 男に命じられた通り、オレを「一流の娼婦」として育てた。けれど、オレの状況を察してくれたか、男に隠れて「一流の男」としても通用するように、教育をしてくれた。 読み書き計算はもちろん、モラルとかマナーとか。当時、オレに欠落していた「知識」を、与えてくれた。余計なことをしていることが男に知られたら、自分の命だって、危ない状況だったにも関わらず。 後で兄上たちに再会できたとき、恥をかかなくて済んだのは、本当、彼女のおかげだ。でもそれは、もう少し、後の話。
女将はもうひとつ、オレに「毒」の知識を教えてくれた。 なんで、「毒」かって? ……オレのガキの頃の記憶が曖昧であやふやなのは、「麻薬」のせいだよ。 ガキとはいえ、死に恐怖し、死と隣り合わせでずっと生きてきたんだ。そんなガキが、暗殺者になることに、なんの抵抗感を持たないわけがない。 ……それでもヒトを殺せたのは、男に拾われたあたりから、どうもずっとクスリを投与されてたらしい。気づいた女将が、すぐにそちらの治療もしてくれた。 あぁ、今はなんの後遺症もないよ。……時々、悪夢にはうなされるけど、でも、それはそれなりのことをしてきた報いだから、しょうがないよね。
彼女は、「毒」の知識とともに、それが分量次第では「薬」になることも教えてくれた。 それと同時に、毒のオレが、薬にもなりえることを、気づかせてくれた。
ヒトを殺すことに差異はないけれど、それでも、毒を覚えて以降、直接手を下すよりは、オレの精神状態は随分とマシになったよ。 十五の頃には、完全にクスリの影響下からは抜けて、男の機嫌を伺いつつも、奴を殺す機会を伺っていた。……アイツのせいで、不幸になってる人間は、女将以外にもたくさんいたし。……なにより女将に恩と自由を、返したいと思った。 オレは娼館で客をとるよう、男に命じられていたけれど、閨で香に混ぜた薬を焚いて、相手を気絶させることで、自分の秘密や、貞操を守ることができた。ホント、女将には感謝し足りない。 そして、ついに、あの事件が起こった。
その頃の世界情勢として、ヒト側が妖魔に対し、反撃の狼煙をあげはじめていた。 そのヒトを率いる代表として祭り上げられたのが、高名な精霊術師の血を引き、自身も「氷眼の悪魔」とあだ名されていた、滅んだ帝国の皇子、セントジェリエル・セラフィム・コウキ・ラジスティア。……つまりはオレの、一番上の兄上。 でも、ヒト側も、一枚岩じゃあない。オレを拾ったアイツは、襲い来る妖魔の混乱に乗じて、その街を乗っ取っていた。ヤツは、自分の小さな牙城を守るため、大それた計画を実行する。 すなわち、兄上一派の、暗殺……。
結果として、ヤツの大それた計画は失敗する。 オレはコウガ……あぁ、コーゼンヴァーで一度会ったよね? アイツを狙うように命じられたものの、姉上とユイの機転で大失敗して、捕まっちまった。もちろん、当時アイツらはオレの事、完全に女だと思っていたし、オレも、実の姉妹だなんて、思いもよらなかったけれど。
オレは姉上に、ずっと秘めてた男への反乱の計画を打ち明け、協力を求めた。オレとしては、それで自分の身の保身を狙うつもりだったんだけど、姉上はあの街の現状を、ずっと憂いていたらしい。 コウガなんか、最後までブーブー文句を言っていたけど、姉上に反対しきれず、協力をしてくれた。 かくして、いわゆる「ヴォール・ヤードの変」の火蓋は切って落とされ、三日後、オレはヤツの首をとった。 そして、オレは、ヤツに罠を仕掛けられていたことを知る。
ヤツは、オレの出自を、とっくの昔に知っていたらしい。 いつから知っていたのかはわからない。もしかしたら、最初から知って、オレを拾ったのかもしれない。 オレの世界で、身内殺しは大罪だ。親殺しと子殺し、兄弟殺しは、極刑レベルと言っても過言ではない。 ヤツの計画は、オレが、コウガを殺しても、逆に返り討ちにされても、成功だった。 もし、オレがコウガたちを殺したら、目の上のたんこぶが消えて、万々歳。 もし、オレが兄上たちに殺されたら、オレの出自を明らかにし、「兄弟殺し」を盾に、兄上たちの勢いを失墜させる……ってな具合に。 ……まぁ、まさか出自なんて関係なく、お互い協力して攻撃してくるなんて、思っちゃいなかっただろうけど。 最後の最後にヤツがゲロってくれたおかげで、オレは自分の出自を知った。 でも、知ったところでオレの経歴だ。光の中を歩いてきた���上たちには、邪魔になるだけだろうと思って、本当はそのまま、「バイバイ」するつもりだった。 ……けど、させてくれなかったんだよね。……兄上と姉上ってば。 オレが特化してるのは、あくまで「対人戦」であり、「対妖魔」相手だと、てんで無力で役に立たないのに。 「そんなことは、どうでもいい」 って。口揃えて。 今までもさ、女将には感謝はしていた。けれど……あの時初めて、心の底から「嬉しい」って、思った。 それで、それまで固まってた感情が一気に爆発して、久しぶりに……いや、覚えてる限りでは、「初めて」、泣いたんだ。 ある意味、「オレ」の、産声だな。
「そんなわけでさ。ウチの風習で、「成人したら、自分で名乗る名前を決める」って兄上に教えてもらったからさー。姉上にあやかって、リューネイバーストって名乗ることにしたの。これが、今名乗ってる名前」 ……でも、長ったらしいから「リュー」ってね。と、重苦しい内容にも関わらず、ただ淡々と、実に軽くリューは語る。 「……ホントは、さ。忘れないようにってのも、あるんだ。「リュート」も「リューネ」消せる過去じゃないし、簡単に忘れちゃいけないと思う。対妖魔戦でヒト劣勢で数が少なくなってる中、アイツの命じられるまま、ヒトを殺めてきた罪人の罪は、たかだか数回の対妖魔戦の出撃で、チャラにできるような代物じゃない」 もっとも、その戦いの途中でオレは事故って異世界に飛ばされて、大切な姉上に、すべて押し付ける形になっちまったらしいけど……。 「義兄上のこともある。……故意じゃないけど、四十年トンズラしてたツケ、いずれ、払わなきゃな……」 先日会った、義兄シエル。実の父と弟の裏切りで殺され、妖魔の王の魂を喰い、そのまま、妖魔の王を演じている……とコウガからは話に聞いていた。 確かに、言葉遣いに関しては、以前と比べてずいぶんと様子が違う。が、接する限り、あの優しい義兄そのもののような気がする。 リューは首をぶんぶんと横に振った。義兄のことは、今は置いておこう。そのうち、また会えると思うし。 「ゴメンね。あんまりいい話じゃなくて。……怖かったかな」 今更ながら、不安になってきたのか、リューが顔を伏せる。 「あ、でも、暗殺業はホント廃業したから! 今は、君の力になりたいの!」 この気持ちは、嘘じゃ、ないから。そういうとリューは、いつもの調子で、にっこりと笑った。
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タスク(CWS/2.5)
「被験体267号の処分が決まった」 遠く聞こえる男たちの声に、うとうとと眠りかけていたタスクはふと、目を覚ます。 「何故です! 267号は「熾天使回路」の、唯一の成功例ではありませんか!」 「……アレク皇子と、あのワタル=セレニタス��見られたのだ。あの場では「捕らえた下級妖魔」と取り繕ったが、あの男、なかなかに感が鋭い」 忌々しそうに老齢の男の低い声が響く。 「女帝の耳に入るのも、時間の問題といえよう。ヤツが今から訪れるのも、十中八九それが理由だ! 我らがアベリオンに何をしているか知られたら、研究の援助や完成はおろか、我らの命の保証がない!」 その前に、「証拠」を、処分するしかなかろう……。徐々に近づく声に、タスクは身体を強張らせ、男たちがやってくるであろう、鉄格子の向こう側を、ジッと見つめた。 かくして、五人の白衣の男たちの姿が見えた、その時。 「誰だ!」 男の一人が叫んだ。その視線は、自分とは別の方向へ向けられている。タスクは訝しみながらも、振り返って背後……牢の壁をみた。 いつの間にか、一人の男が立っている。銀の髪に、同じ色の瞳。暗い色のローブを纏い、鮮やかな石の装飾で身を固めた、奇妙な男。 タスクは身構え、そして手負いの獣のように低く唸る。もはや「人間」のカタチには見えない、いびつに変形した身体には、淡く輝く複雑な文様が浮かび、三対六枚の翼がビリビリと震え、彼の警戒心を、如実に表している。 「怯えなくていい。異界の幼な子よ。我は、そなたを助けにきた」 男はタスクに優しく囁く、が、タスクにその声は届いていない。濃い茶に一滴、コバルト・ブルーを垂らしたような、不思議な色合いの瞳から涙が溢れたと同時に、タスクの身体が、バチバチと放電しはじめた。 男は小さく舌打ちし、白衣の男たちに叫ぶ。 「……堕ちたものだなトリオ=アンダンテよ。……いや、耄碌したと、言った方がいいか?」 「……妖魔の王」 その言葉に、ざわり……と、白衣の男たちがざわめく。言葉を発した先ほどの老齢の男が、忌々しそうに男を睨んでいた。妖魔の王と呼ばれた不可思議なその男も、負けじとばかりにギロリと睨み返す。 「貴様……ヒトの世に手出しをせぬ約束ではなかったか」 「あぁ、その通りだ。だが、ヒトの道を外した輩はその限りに有らず」 何……と、言葉を飲むトリオに、妖魔の王は一歩近づき、おもむろに鉄格子をつかんだ。 「あえて言うことでもないとは思うのだが……「コレ」は、ユーロイバーストが目指したものではない。もちろん、貴様がユーロイバーストに並ぶことも、彼女に成り代わることもできぬ」 ぐにゃり……と格子が溶けるように曲がり、ヒト一人が余裕で通れる空間ができあがる。「妖魔の王」が、いかなる人物か……よく知る男たちは思わず悲鳴をあげ、後ずさった。 「……我が義妹を、そしてヒトを、これ以上冒涜するな!」 トリオの首を妖魔の王は掴んだ。我こそはと男たちが逃げようとするが、ふいに突然、複数の人影が現れ、男たちの進路を阻む。 かくして、五体の干からびた死体が出来上がるまで、そう時間はかからず……。 「これで、よいか? ヴィルジェよ……」 妖魔の王の小さなつぶやきを、聞いた「ヒト」は、い��かった。 タスクを、のぞいて。
……おはよう。タスク。気がついた? ん? オレ? オレは、ヴィルジェっていうの。肉体を持たない、魂だけの生命体。君の「知識」で言う、幽霊とか、お化けとか、そんな感じかな。 あ、怖がらないで。……って言っても、無理か。……うん、ゴメンね。 君を虐めた怖いヒトは、もういないよ。……ゴメン。君の存在に、気づけなかった。すぐに父上に頼んで行動を起こしてもらったけど……怖かったね。がんばったね……ゴメンね……。 え? なんでそんなに謝るのかって? ……ホントだ。どうしてだろ……ゴメ……あ……。 ……あはは。可笑しいね……。 ……あのね。タスク。本題というか、お願いがあるの。 この身体、君と、「共有」させて欲しい。 ……あくまでも、所有権は君にある。化け物と一緒だなんて、気持ち悪いだけだろうけど。 その代わり、奴らのせいで変質してしまった君の肉体を、できるだけ元の状態に戻してあげる。壊れてしまった君の魂と自我も、これ以上、壊れて消えてしまわないよう、オレが守ってあげる。 だから……ね。 ……いいの? 本当? ありがとう! ……ねぇ、タスク。君のことを、もっとオレに教えて。もちろん、オレのことも、君に知って欲しい。 ……じゃ、よろしく。相棒。
ワタルがそこに到着した時、既に遅し。 施設の地下には、生気を残らず吸い取られ、まるでミイラのように乾燥し、干からびた死体が五つ。 特徴的なその死体に、ワタルは警戒しながら奥へ進む。 そして。 「……妖魔、か?」 少年が一人、鏡の前に立っていた。それも、一糸纏わぬ素っ裸で。 「んー、こんな感じ? 変じゃないかな?」 クセのある、背中まで伸びた黒に近い濃い茶髪が、少年がくるくると動くたびに揺れる。 あまりの緊張感のなさに、ワタルは思わず気が緩みかけたが。 「ねぇ、ちゃんと「ヒト」に、見えるかな?」 不意に少年に問われ、ふざけるな! と叫んだ。 「えー、オレは、至極真面目なんだけどなー」 口を尖らせ、少年は一歩、ワタルに近づく。 ワタルは腰に帯びた剣を抜き、少年に構えた。妖魔相手に通用する武器ではないが、それでも、ないよりはマシだ。 「貴様が、トリオ殿たちを「喰った」のか?」 「ううん。アレを食べたのは父上。だってさー、オレとタスクからしたらあいつら食べる価値ナシだけど、「あいつらのしたコト」考えたら、「何もナシ」ってのは、やっぱり胸糞わるいじゃん? でも、たぶんタスクも、あんなの不味くて食べたくないだろーし」 タスク……? 訝しむワタルに、赤い目を細め、少年はにっこりと笑う。 「この体の持ち主。……それにね」 突然、少年は地面を蹴り、ワタルに体当たりをした。予想外の行動と力にワタルは剣を落とし、しりもちをつく。 「嬉しいなぁ。そっちから来てくれるなんて」 少年はワタルに覆いかぶさり、心の底から嬉しそうに笑う。 そして、徐々に顔を近づけ。 「!!!」 ワタルの唇に、自らの唇を重ねた。 怒りと羞恥で顔が紅潮したのもつかの間、すぐに気分が悪くなり、徐々に目が回って、ワタルの意識は吹っ飛ぶ。 「実��ずっと前から、「初めて」は、「貴方」と決めてたんだよねー」 まー、だからといって、口移しで生気吸う必要は、ぜーんぜんなかったりするんだけど……ケラケラと笑う少年は、おもむろに、気を失ったワタルの頬に触れた。 柔らかくて、そして温かい「生」の感覚が、自分にも「触覚」を通して伝わってくる。 「やっと、オレを見てくれた……お会いできて、嬉しいです。兄上」
あのね。タスク。オレの両親はね、元々は君と同じ「ヒト」なの。 オレは昔から肉体を持つ「ヒト」が羨ましかった。ヒトに、なりたかったって言っても、過言じゃないよ。 兄上はね、両親がヒトだった時に生まれたの。オレの、憧れの存在。 気づかれなくても、あの人のそばに居たくて、時々、言いつけを破って、兄上の側で過ごしてた。 兄上が君を見つけたあの日、オレもあの場に居たんだよ。 ……うん、君には辛い日だったね。 兄上の「言葉」、オレが謝る。事情を知らない者の発言だ。許して欲しい。 あの人は……ううん。君を除いたこの世界中のヒトは、当事者を含め、「君が知り得るこれから起こる未来」を、まだ知らないんだ。 君が、どこから来て、誰の血を引いて、どのように成長して……愚かで傲慢なあの連中に、何をされたか……残酷な偶然の重なりは、いずれ明らかになる時がきっと来るよ。 ……だから、待とう。 ……君の大好きな、「コルト」や、「アスカ」、「アスマ」と、再会できる、その時まで。
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魔王(CWS/3)
※グロ表現あります。苦手な方はご注意ください。
pixiv小説にupしたものと同じです。
◆◇◆
人の気配を感じて、彼は重いまぶたを開く。 気分は最悪といってもいい。何年も前の事なのに、まるでつい先ほど傷を負ったかのように、失った両足と右腕が焼けるように痛む。
ダレ……ダ?
暗闇のその先にいる、一人の男をじっと見据える。光一筋入らないその部屋でも、彼はその招かれざる客の姿をはっきりと視ることができた。 暗い青の髪、金の瞳、そして、銀灰色の翼……。
アア……オマエ……ハ……
男が『誰』であるかを確信した瞬間、自然と、口元に笑みがうかんだ。 溢れる歓喜と高揚感、そして、悲哀と憎悪。 相反しながらも、高ぶる気持ちが止まらない。
マッテ ……イタヨ……
先ほどまで苦しんでいた痛みを忘れ、彼は男にその先の無い腕を伸ばした。すると、部屋に満ち満ちた「闇」が集束、「人」の手足とは似て���似つかぬ禍々しい手足を形作る。 ふらり……と、彼はゆっくりと立ち上がった。痛みと気だるさは相変わらずで、少し動くだけで呼吸が乱れる。 それでも、彼はゆっくりと男に近づいた。
ツカマエタ
「ガハッ」 彼と男の間にはまだ距離はあったが、突然男がのけぞった。男の首には触れることができない「闇」が絡みつき、苦しそうに己の首を抑え、掻きむしっている。
イイ気味ダネ
男を見下ろし、彼は微笑む。男は苦悶の表情を浮かべながらも、ジッと彼を見上げた。 この男は、「彼」の大切な人間……妻と主人を彼から奪うきっかけを作った張本人。 男の事情など知らない。ただ、その「事実」だけはどう足掻いてもひっくり返らないし、許せない。 だから、こちらを「勝手に」値踏するような、この視線は気に入らない。 かすかにムッとした彼は、男に絡みつく闇に力を込める。それまでミシミシと悲鳴をあげていた男の首が、バキリと大きな音を立てた。 だらり……と、力を失った男の身体が崩れる。しかし、まとわりついた闇は、男を離さない。
コノ程度デ終ワラセテヤルモノカ
彼の腕を形成する闇が、形を変える。それは、鋭く大きな刃となって、男の腹部を切り裂いた。 ツンっと、彼の顔に飛び散った男の血液が、彼の鼻腔を刺激する。とたん、長く忘れていたある感覚と欲求を彼は思い出した。
アア……腹ガ、減ッタナ……
彼は乾いた唇を舐めた。切り裂いた男の腹部に左手をつっこみ、男の内臓を引きずり出す。そして、躊躇うことなくかぶりついた。 口の中に、なんともいえない刺激が広がる。まるでマタタビに酔う猫のように、彼は恍惚とした笑みを浮かべた。
彼は、「その日」の数年前からアリストリアルの総督となり、かの地に妻子と共に赴任していた。 命じたのは彼の主人。大切な彼女と離れることは心苦しかったが、彼女の言葉を否定することもできず、不安を口にすることもできぬまま、着任していた。 そして、「その日」は訪れ、彼の不安は現実のものとなる。 同盟国であるクシアラータの反乱と攻撃。それにより、彼の母国ラディアータは壊滅。彼の主人であるイリス=ラジスティアの戦死……。 同時にアリストリアルも攻め込まれ、彼は妻子共々囚われ人となった。 そして、忌まわしく屈辱的……あっさり処刑されたほうがまだマシとも思えるあの無意味な拷問と、数人の男による、自分への陵辱、妻の自害……。 そして……。
「目が、覚めたか?」 自分の間近にある顔に驚き、ひぃっと彼は声をあげた。 いわゆる「姫抱き」の状態で、彼は男に抱えられていた。細く男性にしては小柄な身体に似合わず体力があるのか、はたまた痩せた彼が軽すぎるのか……男はスタスタと、夜明けの近い回廊を歩く。 長い癖のある銀の髪に、銀の瞳……色こそ違うが、男は自分に……否、自分の若い頃にそっくり��と、彼は思う。 「……どうした?」 眉をひそめ、その男は彼に問う。 「いえ……あの……その……驚いただけで……」 しどろもどろで答えながら、彼は状況を把握……しようとして、思い出した。 ぐったりとうなだれる彼に、男はもう一度、「どうした?」と問う。 「オレ……また、やってしまったんですね……」 彼は、自らのおぞましい行為に、身震いをした。同時に吐き気も感じ、左手で口を抑える。 「気に病む必要はないと、いつも言っている」 そんな彼に対し、男は実に淡々と答えた。 「しかし!」 「捕食者が対象を食した。……ただ、それだけのことだ」 しれっと言い放つ男に、彼はぎゅっと、唇を噛む。 「だけど父上!」 ふと、男が歩みを止めた。 「何度も言うが……我はそなたの父ではない。確かにこの肉体の元の主はそなたの父なのかもしれぬが、それこそ、捕食者の我がそなたの父の魂を喰らい、そのまま肉体を使っているにすぎぬ」 「……相変わらず、嘘が下手ですね」 顔に、書いてあります。苦笑する彼の言葉に、男はふいっと、顔を背けた。 「どう思おうと、事実は変わらぬのに……」 好きにせよ……男は無表情ながらも不機嫌そうに、再び歩き始めた。
クシアラータに攻め込まれたアリストリアルだったが、状況は予想外の方向に進むこととなる。 約四十年前、人類を絶滅寸前にまで追い込んだ『妖魔』と交わされたある約束。 ラディアータの皇女を妖魔の王の花嫁に差し出すことで人類側が得た、仮初めの平和。 約束を反故にされた妖魔……否、妖魔の王と、彼に嫁いだ皇女自らが、大量の妖魔を率いてアリストリアルに侵攻し、かの地をクシアラータの勢力から奪還。かつて滅んだアリストリアル帝国の再建を宣言するとともに、鎖国の道を歩むこととなる。 かの地に生きるヒトは、妖魔に生気を提供する義務を持つかわり、強大な力と生命力を持つ妖魔に守られ、妖魔は決してアリストリアルの民に危害を加えては ならず、クシアラータの侵攻から全力で守る義務を持つ。 そして、ヒトと妖��、双方の主として君臨する皇帝。それは……。
「気分はいかが?」 あれから、男に別の部屋に運ばれてしばらくして……日が昇るとほぼ同時に、彼の元に女性が訪ねてきた。 「あまり……」 正直に、今の気持ちを彼は答えた。そんな彼に、女性は優しく頬ずりし、幼子をあやすように頭をなでた。 「大丈夫。あの子は生きてる。時間はかかるけど、ちゃんとジュテドニアスは再生、回復するわ」 ぎゅっと自分を抱きしめる女性の行為に、彼は思わず苦笑する。妖魔となり、成長の止まった彼女よりずいぶんと老けてしまったが、彼女にとって、自分は別れた当時と同じ……赤子であるらしい。 視力がない彼女からすると、成長した自分が想像しにくいのかもしれない。 「ジュッドには、本当に悪いことをしました……」 自分が自分でなくなるような感覚……否、「あれ」もまた自分であり、主人や妻を失った怒りと悲しみの感情を持ち合わせている自覚もちゃんとある。ただ、暴れる本能を抑える理性が、歳を重ねるごとに弱くなり、完全に本能を押さえつけることができなくなってきている。 「ねえ、母上」 「なぁに?」 彼の言葉に、女性は笑いながら問う。彼は小さくため息をはき、呼吸���整え、そして……。 「ジュッドに、「ありがとう」と、伝えてください」 とても複雑ではあるが、自分の理性が、あの男のおかげでかろうじて繋ぎとめられているという状況はわかっている。 そして、どんなカタチであれ、まだ、ヒトを守れる立場でいれることも……。 そのことは、素直に感謝している。 わかりました。優しく頭を撫でながら、女性はにっこり微笑んだ。
ワタル=セレニタス。 ラディアータ武帝イリス=ラジスティアの従兄であり、皇位継承権第五位……イリスの子供達の所在がわからない現在では、最もラディアータの皇位に近い男。 そして、妖魔たちが担ぎ上げた、新政アリストリアルの現皇帝。 クシアラータや距離を置く他の国からは、妖魔に魂を売り、妖魔を従える存在として、恐怖の対象として彼を呼ぶ。 「魔王」と……。
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精霊の子(CWS/3)
※グロ表現あります。苦手な方はご注意ください。 pixiv小説にupしたものと同じです。
◆◇◆
その部屋は、城の奥……かつて主とその家族が住んでいたという、最も奥の区域の、さらに地下にある。 方向オンチのジュッドだが、慣れているのか彼は迷うことなく、そこに歩を進めた。途中すれ違う者もいたが、彼を咎めることも、また、気さくな挨拶をする者もいない。 ジュッドは手に持つランタンの火を消し、部屋の入り口のドアノブに手をかけ、静かに、滑り込むように室内に入った。 一筋の光すら通さない暗闇の中、かすかに、薄ぼんやりと白い影がうかぶ。よくよく目を凝らすと、室内には豪華な寝台がひとつあり、その上に、色白の一人の男が気だるそうに、枕を背もたれに座っていた。 ジュッドの気配を感じてか、男は瞑った瞼をゆっくりと開く。反射する光もないのに、彼の瞳は揺らめき輝く虹色で、そのふたつの不気味な瞳が、ジュッドをゆっくりと認識するよう、じいっと捉えた。 そして。 「……」 身も凍るほどの殺気を感じ、思わずジュッドは身構えた。と同時に「彼」が腕を伸ばす。不自然に短い……肘上から切断されたその右腕に、暗く重いエネルギーの塊が、まとわりつくように絡まってゆく。それは同じように、足首から先……やはり切断された彼の両足にも、ゆっくりと絡んでゆき、やがて、黒くいびつな……鋭い刃や針が無数に生えた、腕と足を形作る。 「闇」の手足を手にいれ、ゆらり……と、「彼」が立ち上がった。彼の動きそのものは緩慢ではあるものの、ジュッドは動かなかった。 少しクセのある髪は、床にこすりそうなほど長く伸び、それは彼が動くたび、波打つように揺れている。 ふいに、ひやりとした何かが、ジュッドの首にまとわりついた。それは一気にジュッドの首を締め上げる。 「ガハッ」 気道を通る空気量が一気に減り、また、首の骨がミシリと、嫌な音を立てた。 (また、「あちら」に寄ってしまったか……) 一度死に、凄まじい再生能力を持つ「妖魔」として蘇ったジュッドは、苦しい状況下であっても、「彼」の状態を冷静に観察する。 彼の腕と足を構成し、ジュッドの首を締め上げているのは、「彼」に意思を奪われた下級の「闇の精霊」。「彼」の影響は、この部屋に広がる闇全体に、既に広がっている様子だった。 まるで、この部屋自体が「彼」であるかのように。 (確実に、前より干渉力が強くなってるな……) 暗闇の中、表情が読み取れるほどジュッドのすぐそばまで近寄ってきた「彼」は、笑っていた。 声をあげての高笑いではない。ただ、静かに。そして、十五年の年月を経てもなお、少女のように美しいと思える、穏やかな微笑みだった。 しかし、ジュッドに向けられた殺気は消える事なく、また、虹色の瞳は濃さを増し、赤、青、緑、金と、鮮やかに輝いている。 ブラック・オパール。もともと虹の目(イリス・アイ)と呼ばれていた、ジュッドの養い子の持つ柔らかい虹色の瞳とは少々異なる呼び名をもつ、特殊な……否、今まで例のなかった色。 「彼」の本来の瞳の色……ジュッドはもう、ずいぶんと見ていない。それは、それだけの間「彼」の精神が不安定で、なおかつ「彼」が苦しんできた……ということである。 バキッ……という音と共に、激痛がジュッドを襲う。首の骨が、精霊の圧力に耐えきれず砕けた。 いくら「生ける屍」、「とんでもない再生力をもつ化け物」と称される妖魔でも、痛覚は正常であり、許容範囲を超えた外傷的ダメージをくらい続ければさすがに死ぬ。ヒトの人格を持ち合わせたまま妖魔化したジュッドからすると、二度目の死だ。 (もっとも……それもいいかもしれない) 「彼」には、その、資格がある……。 ドシュッ! 闇の右腕を大きな太刀の形に変えた「彼」は、その腕を横一線に切り払い、ジュッドの腹部を斬り裂いた。 激痛で薄れゆく意識の中、最後に瞼に焼き付いたのは先ほどと同じよう、微笑む「彼」の顔で……そのままジュッドは力尽き、床に崩れ落ちた。
かつて、力ある闇の精霊が、人間と交わる事で生まれたという伝承のある、銀髪銀目、白い肌を持つ少数民族、月晶族。 「彼」は月晶族の族長一族出身の父と、精霊術士の名家である、東のラディアータ帝国の皇族の姫君を母に持つ、民族的な混血ではあるものの、種族的には純粋な「ヒュノス(人間)」である。 否、「で、あった」と言った方が、正しいかもしれない。 「彼」はジュッドのように「妖魔」ではない。妖魔に精霊の意思を奪うような能力は無く、また、契約もなしに、否応無く精霊を使役する能力もない。 もちろん、ヒトも同様である。 事は、約十五年前に遡る。 語ると長くなるので省略するが、とある事件により、「彼」の仕える国が攻め滅ぼされてしまい、その国にとって重要な人間であった「彼」は、囚われの身となってしまう。 同じく囚われの身となった妻子の目の前で行われた、「彼」の拷問と陵辱。妻はその最中自害し、絶望した「彼」の精神は砕け散る。 そして。 箍を失った「彼」の、肉体の奥底に眠る精霊の血が暴走を引き起こし、結果、「彼」の肉体と魂魄を、異質なるモノに変質��せてしまった。 「ヒト」という肉体を持ちながら、魂の質は限りなく精霊に近く、そして他の精霊に影響を与える干渉力は、高位の精霊より何倍も強く、精霊王に匹敵する。 しかし「彼」は、その強すぎる力の代償として、物理的な食べ物を「ほぼ」、受け付けなくなる。そしてその代わり、本能的に周囲のヒトの魂や精霊、妖魔を喰らい、命をつなぐようになった。 それは、妖魔がヒトの精気を喰らう行為に似ているが、「彼」が喰らうのは魂そのものであり、根本的に異なる。 もはやコレは、ヒト、精霊、妖魔のいずれにも属さぬ、新しい種の誕生とも言えるだろう。
「……気がついた?」 ジュッドに声をかけたのは、一人の若い女だった。視神経をやられたか、両目をえぐられたか……姿を確認することができなかったが、声の主が自分よりはるかに年上である事を、ジュッドは知っている。 「異界には、バラバラになった夫の死体をかき集め、蘇らせた女神がいるらしいけど、なんかそんな気分ね」 もっとも、貴方が夫だなんて、死んでもイヤだけど……と、女は笑いながら言う。 「アイツ、は?」 潰れた気道が治りきっていないせいか、ガラガラ声で問いながら、ジュッドは現在の自分の状況を把握しようと、動こう……と思ってやめた。痛覚は正常であるはずなのに、痛みどころか体の感覚自体がなさすぎる。 女の言葉通り、全身バラバラか……正直、あまり想像したくない。 「今は大人しく寝てるわ。……あなたに、「ありがとう」って伝えてくれって頼まれたの」 「礼なんか、いらん」 声を出すのも力がいる……ジュッドは短く答えた。 物理的な食べ物を受け付けない「彼」が、唯一口から摂取できるもの……それは、「彼」に近しい存在の、血と肉。 ジュッドもまた、先祖に火の精霊の血を引く人間がおり、血縁的には「彼」の母の妹の息子……従兄弟である。肉体的にも、魂的にも近しい存在といえる。 ……もっとも、ジュッド自身がそれを知ったのは、ここ数年の話ではあるのだが。 「そんなこと言わないで。……私からも礼を言うわ。ありがとう。ジュテドニアス」 女は苦笑しながら、そっとジュッドの頭を撫でた。 どういうわけか、ジュッドの血肉を喰らった後「彼」の暴走は一時的だが治まり、「彼」の自我が回復するという。 もっとも、ジュッドは自我の回復した「彼」と会ったことがないため、話にきく限りではあるのだが。 「目、の色……」 「え?」 「いや……なんでも、な……い……」 ジュッドは首を横に振った。視界は相変わらず見えないが、ぐらぐらと目の回る感覚に気分が悪くなり、自然と言葉尻が細くなる。 「……あなたも、少しお眠りなさい」 お疲れ様……相変わらずジュッドの髪を優しく撫でながら、クスクスと女が笑った。
肉体という名の牢獄。 自我という名の鎖。 脆くほころびながらも、わずかに残る「彼」の「それ」が、完全に壊れてしまったその時。 既にヒトでも精霊でもない……幾多のヒトの魂や精霊、妖魔を喰らい続けた「神」に足るその存在は、なにより「自由」を求め、狂喜と狂気の感情をもって、世に解き放たれるだろう。 しかしそれは、かの地に生きるモノたちにとって、破壊と混乱をもたらす、禍ツ神以外の何者でもない。
女……ミレイは、自ら贄になる道を選んだ���の髪を撫でながら、ため息を吐く。 四十年前の約束……それを知る者は、もう、この世にほとんどいないけれど。 「まさか、「約束の子」自身が、破壊の手になるなんて、さすがの私も思いもしなかったわ……」 自分が妖魔の王に嫁ぐかわり、「息子」には幸せを……ヒトとしての天寿を全うさせること。もし、夫のように途中で命が奪われるようなことあれば、自分自身が破壊の手となり、ヒトを滅ぼしてやる……そう宣言して、ミレイは妖魔となった。 その約束は破られ、「息子」は壊れてしまったけれど……ミレイはいまだ、どうするか決断を下せないでいる。 「息子」が完全にヒトとしての「死」を迎えた時、きっと世界は滅ぶだろう。 ジュッドが己の身を「息子」に捧げ、彼のヒトとしての「命」を繋いでいるのは、ヒトに対する使命感ではなく、「彼」が囚われ、壊れる「きっかけ」を、直接的ではないにしろ作ってしまった贖罪の念から。 そんなジュッドもまた、内に精霊の血を宿している。彼自身、気づいているのかいないのか……時々、左目に赤いオパール様の遊色文様が浮かぶ。そして、「息子」に喰われ、意識を失った後、まるで自身の命をつなぎ止めるかのように、無意識に周囲の精霊を貪り喰らうのだ。 ジュッドの場合、妖魔化しているため、まだ猶予はかなりあると考えれた。しかし……。 (せめて、普通の食事、してくれてれば……) 妖魔狩りを主な生業としていたのに、自身が妖魔化してしまった嫌悪からか、ジュッドは妖魔としての食事……ヒトの精気を、ほとんど食べない。常に空腹状態と言っても過言ではないだろう。しょっちゅうエネルギー切れで倒れていると、ミレイは報告を受けていた。 あの部屋に満ち満ちていた闇の精霊をほぼ喰らいつくした甥は、通常の妖魔以上の回復力を見せている。もっとも、バラバラになった肉体の組織がくっつき、神経が通るまで1週間、完全にすべての臓器が再生するまで、丸一月はかかるだろうが。 現状が最良とはとても思えない……けれど……。 「ホント、どうすればいいのかしらね……」 ふぅ……とため息をはき、ミレイはもう一度、甥の髪を優しく撫でた。 Copyright (C) 2013 Asoka Nagumo. All rights reserved
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PTSD (CWS/HG)
オレの……せいだ……。 「アズミ……それは違う」 だって、母さんが死んだのも、飛行機が落ちてお前の父さんと妹やライゲツの父さんと母さんが死んじゃったのも、ライゲツが死にそうなのも、みんな、オレが不幸を呼ぶから……。 「違う。誰もお前のせいだなんて、思っちゃいない!」 だったら、なんで……。 ナガト、いなくなっちゃったの?
※※※
ふと、十河(トーガ)が目を覚ますと、近い位置に見知った顔があり、思わず飛び起きた。 辺りを見回し、状況把握。そして昨晩、高校時代の同窓会に出席、二次会、三次会を経て、残ったツワモノどもで部屋飲み会に突入し、そのまま眠ってしまった事を思い出した。 酒に強い自分としては平気だが、部屋中アル��ールの匂いが充満しており、顔をしかめた。部屋……いや、この家の主……神薙 安曇(カンナギ アズミ)にしてはいい迷惑だろう。彼は仕事の都合上同窓会には出席できず、勤務明けで帰宅した直後、飲んだくれの酔っ払いに押しかけられ、一緒に酔い潰される羽目になったのだから。 換気しようと窓を少し開けると、冷えた空気が室内に入ってくる。そのせいか、少し寝返りをうつ者もいたが、よほど酔いが回っているのか、目を覚ます者はいなかった。 ふと、十河の足元に、一匹の猫がじゃれつくようにすり寄ってきた。真っ白でフサフサの長い毛並みのその猫を抱え、十河は台所へ向かう。 「悪りいな。お前らの主人、酔い潰しちまったからよ。もうちょい、寝させてやってくれ」 猫を床に下ろすと、十河は慣れた手つきで台所の床に置かれたいくつかの皿に、乾いたドッグフードとキャットフードを広げた。本来はきちんと測ってやらないといけないのだろうが……おおよその目分量だが、まぁやらないよりはマシだろう。 においや音をかぎつけたのか、室内に続々と動物たちが駆け込んできた。犬が三匹と猫が五匹、それと安曇が、この家の住人だ。 周囲にマンションやアパートが多い中、それなりに広い二階建ての一戸建に一人暮らし。彼が面と向かって口にしたことはないが、内心、やはり寂しいと思っているのかもしれない。 元いた部屋……居間に戻ると、一人の男がぼんやりと座り込んでいた。手足は細く華奢で、顔も一見すると女の子のように愛らしい。 「よ! 起きたか? アズミ」 安曇は頭をがしがしとかき、寝起きの十河同様、何が起こったか現状把握に勤めているようであった。 「昨日、俺らが酒を土産に乗り込んだ。オーケー?」 「……オーケー。思い出した」 まったく……と、安曇はため息をはき、まだ眠っている面々を踏まないよう、気をつけながら、机や床に転がる酒瓶を片付けようと掴む。 瓶はほとんど空だった。途中参加の安曇はともかく、三次会まで突入した後でありながら、この量をこの人数で飲み干すとは、我ながらよく飲んだと、十河は感心する。 「飲み過ぎです。肝臓悪くしても知りませんよまったく」 ブツブツと小言をいいながら、安曇は瓶とグラスを持って台所へ向かった。が、しばらくすると、苦い顔をし、戻ってきた。 「朝食が人数分、ありません」 「……多分、いらねーと思うぞ」 死屍累々……というわけではないが、十河は寝ている面々をちらりと見る。気分が悪いのか、中には青い顔をしている者もいた。 「でも、少なくともトーガは食べるでしょう? たぶん、ライゲツも」 「そうだな……」 ぐぅ……と、タイミング良く十河の腹の虫が小さく鳴り、安曇は苦笑をうかべた。 「少し待っててください。コンビニ、行ってきますから」
この家には、開かずの部屋がある。 厳密には、開かずの部屋といっても鍵がかか��ているわけではないし、自由に出入り可能だ。今みたいに。 「トーガ。……なにやってんです?」 「っちゃー。起きたの?ライ」 ひねりかけたドアノブをすかさず離し、両手を上げてホールドアップのポーズをとる従弟を、ギロリと雷月(ライゲツ)は睨む。 「いや、起きてた……の、間違いか」 「狸寝入りしてたことは認めますが、不法侵入は身内としていかがなモノかと思います」 同い年の生真面目で頑固な従兄は、怒らせると大変面倒臭い。十河はしぶしぶ、正直に話す。 「……いや、夢見が悪くてさ。この部屋、どうなったかなーと、ちょっと気になったワケでー」 「夢見?」 訝しげな表情を浮かべる従兄に、十河はぼそりと、呟く。 「ナガトが、行方不明になったときの夢」 「……?」 「あー、もう、そうでした! お前に言ってもわかんねーよな! 俺が悪かった」 もう見ねーから。そう言うと、十河は足早に階段を下り、そのまま家から飛び出した。 「……まったく、意味がわからん」 雷月は、突然怒りだした従弟を見て、狐につままれたような表情を浮かべた。
人間、知らない方が幸せな話は、いくらでもある。 雷月は十二歳の時に飛行機事故に遭い、一年間生死の境を彷徨った。中学三年間は入院のためほぼ通学できず、医者が驚異的と称した彼の回復力をもってさえ、今でも身体中にその時の傷が残っているし、事故以前の記憶は、無くなったまま元には戻らなかった。 だから、彼は知らない。あの部屋で起こった出来事を。そして、幼馴染である安曇と出会うよりずっと前、生まれた時から一緒に育った、もう一人の幼馴染の存在を。
「おお! トーガじゃないか。朝早くからジョギングか? 珍しい」 安曇の家を飛び出し、しばらく走った神社の階段の前で、作務衣を着た男が親しげに声をかけてきた。 手には箒を持っている。どうやら掃除中だったようだ。 「おっちゃん……」 「どうした? 朝っぱらから、大の男が泣きそうな顔、しおってからに」 十河の様子に男は優しげな表情を崩さぬまま、それでも心配そうに、十河の頭をぽんぽんっとたたく。 男は、西塔 修司(サイトウ シュージ)という。安曇が母親を亡くして以降、養父兼後継人となった男であり、また、「もう一人の幼馴染」の、父親でもある。 そして、十河にとっても、父親のような存在の男だった。 神社へと登るなだらかな階段にこしかけ、十河は素直に、修司に事情を話す。 十一年前に神隠しにあってしまった息子の名が出た時、修司は少し驚き、表情を曇らせたが、それでも、彼は十河の話を遮ることなく、最後まできいた。
修司が思うに、その時々において、十河はたしかに当事者ではなかったかもしれない。 ただ、「あの部屋」で、安曇の母親が殺された状態で発見された時も、雷月が生死の境を彷徨う間も、息子……永都(ナガト)が消えてしまったその時も……安曇そばには、十河がいた。 安曇は実父から虐待されていた。我が子を「厄の子」と呼び、この世にはいない者として父親から扱われ、「この世の不幸は全て自分のせい」と思い込んでいた幼い少年。そんな彼にできた、初めての友達(もちろん、安曇にとって、雷月や永都も初めての友達ではあるが、雷月は覚えていないし、永都は現在も行方がわからない)であり、また、唯一全てを見て、知って、共有している、いわば半身。 修司は、安曇とその母親を保護して以降、その境遇から、なにかと彼に対して気をつかってきた。ただ、同じモノを見聞きしてきた十河に対しては……。 (ちと、疎かにしすぎていたか……) 家の事情の複雑さは、方向性は違えど、十河も負けずとも劣らないはずなのだが。
「……でもまぁ、よく、耐えたな」 修司はもう一度、十河の頭をポンポンと撫でる。 「だって、知らない奴に、八つ当たりしてもしょうがないじゃん」 「相変わらず、優しいな。偉いぞ」 むくれながらも、顔を赤めらせ、まんざらでもなさそうに答える十河に、修司もにっこり笑って答えた。 「愚痴なら、全部知ってる俺に言え。……さすがにその歳だと、ケーラさんには言いづらいだろうしな」 「それ以前に……母さんは、顔合わせるたびに小言言ってきてめんどくさいから……」 小声でボソボソとつぶやく十河に、修司はきっぱり。 「そりゃ、お前が浪人に留年と色々やらかしとるからだろう」 自業自得! ケラケラと笑う修司につられ、十河の口からも、笑がこぼれた。 「わ……わかってます!」 ふと、道の向こうから、安曇と雷月が歩いてくるのが見えた。迎えが来たみたいだな……と、修司が頷く。 「愚痴って気がすんだろ? 仲直り、できるな?」 「もちろん」 修司は立ち上がって駆け出す十河を見送り、再び、手に持った箒を動かし始める。 かすかに、十河の「悪りぃ!」という声が聞こえ、自然と、笑みがこぼれた。
※※※
���ったら、なんで……。 「ナガト、いなくなっちゃったの?」 安曇の問いに、答えがすぐには口に出ず、十河はぎゅっと唇を噛んだ。 永都がいなくなった理由なんか知らない。どこにいったかも、自分には解らない。 ただ、これだけは十河も、自信をもって言える。 「オレは、いなくなったりしない!」 安曇に黙って、消えたりなんかしない! 「オレがお前のそばにいて、お前が不幸を呼ぶとか、そんな非科学的なことがあり得ないこと、証明してやる!」 わかったか! 十河はにっと笑い、安曇をぎゅっと抱きしめた。 Copyright (C) 2013 Asoka Nagumo. All rights reserved.
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