在る人の旅行記 -1-
「・・・間違い、ないんですね?」
「えぇ、契約金額もそれで構いませんわ」
「・・・・・・、」
私の商談相手―名前をルピナスという―は、実に疑り深い。
事の発端である、[ダーカー化を無力にする薬]について、私の財閥はありとあらゆる手を使って調査・実験・そして研究を重ねてきた。しかしながら、当然の如くそんなものは不可能である。と両者とも分かってはいた。
だが我々は、それに近しいものとして[ダーカー化を軽減する薬]の開発に成功、それに伴って、後の[デューマン]という種族を2名匿っているこのルピナス女史の元へ商談に訪れている。
――まぁ、疑われるのも無理はない。
当然ながら、このような薬は政府に公開することなど言語道断。その製造過程を知られれば、財閥だけではなく私の首も飛ぶからだ。全ては極秘裏に・・・。
「分かりました」
私は、確かにその言葉を聞いた。
「・・・後悔や後腐れはありませんね?」
「えぇ。私の子たちを貴女たちに提供する代わり、その薬をより実用的なものにする。むしろ、貴女たちの方に間違いはないよね?」
・・・質問に質問で帰ってくるとは思っていなかった。これは、余りにも予想外な返答だった。
「・・・・・・このお紅茶は誰が?」
「Rubeusよ。お口に合わなかったかしら?」
私は、ルピナスが座るソファーの側に立っている緑色の髪の少女、Rubeusに顔を向けた。少し怯えているのか、顔が若干引き攣っている。髪がぼさぼさしていて片目が隠れているが、表情を読み取るには十分だった。
きっとバッサリ切ってしまうか、後ろで結ってしまえばとても良い表情が見れるだろう、という私の感想はあえて伏せておく。
「いいえ、そんなこと無いですわ。私の専属メイドとして迎え入れても良いぐらい」
「それは・・・、色々な理由でダメよ。この子の主治医としてもね」
「冗談よ。その子を迎え入れちゃったら、フェデリの仕事が無くなっちゃいますもの。ねぇ?」
Rubeusと対を成すように、私が座るソファーの側に立つ老執事フェデリに話を振った。
「そうですね。貴女のようなお若い方が来られると、庭師ぐらいしかもう残されてないでしょうな」
「まぁまぁ。私はこんなに美味しいお紅茶を淹れて下さる、素敵なお嬢ちゃんに変な真似はしませんわよ。この私のティーカップに賭けて」
「・・・よく分からないけど、この話は成立、ということで」
私はティーカップを置き、机をトントンと軽く叩いた。すると私の左肩に、蒼い有翼生物が現れた。その生物に興味を持ったのか、Rubeusの表情が少し和らいだのを感じ取れた。私は思念で、Rubeusの傍へ行くよう命令した。
それはRubeusの傍へ降り立つと、頭を撫でてくれと言わんばかりにズイズイと擦り寄った。
「貴方のそのクラスも、いろいろ大変そうですね」
「サモナー、と呼ばれてますわね。まだ実験段階ですけれども、私はこれで結構。とても楽させて頂いていますので」
「まるで道具みたいな言い草ね」
「ある意味では間違ってないですわよ。もしこのクラスを使う人が使えば、当然そのようにもなりますし、ね?」
「・・・・・・まぁ、そうね」
ルピナスは酷く困惑していた。Rubeusのような子も同じような事である、というのを理解してもらえたのだろう。彼女らは、後のデューマンという生命体のパイオニアだ。それをどう使うも結局は使う人次第である。
「まぁ、ルピナスさんなら大丈夫だと私は思いますわ」
「ご心配どうも、Plumeria嬢」
私はルピナス邸を後に、優雅に帰路へついた。お気に入りの純白の日傘をくるくると回し、いつものように優雅に。
「お嬢様」
「何かしら、フェデリ?」
「いえ、大した事では御座いません。例の方からお電話がありました。こんなの無茶苦茶過ぎる!この案は却下させてもらう!と。」
「あらあら、面白いことを言いますのね、殿方様も」
「・・・・・・如何致しましょう」
「『ならば首を切り落としましょう』と伝えておいてくださいな」
「畏まりました。お嬢様」
私は、帰路へついた・・・。
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誰が為の生き方 -0-
――――――
濃霧に包まれていて視界が悪い。だが、私はこの場所をよく知っている。ここは、この「船」の動力部だ。そう、「船」なのだ。幾ら見ようとも私も理解できないが、ここは「船」の中
「うあああああああ!!!」
私の思考を遮るかのように聞こえる悲鳴。絶望に満ち溢れた声。それは、私に向けられたものであった。その悲鳴と同時に、視界が一気に晴れる。私の目に映ったのは、人の胴のような巨大な腕を振り上げた、巨大な土偶のような生き物だった。 私の身体は動かせる気配もなく、ただその腕が振り下ろされるのを見つめるだけであった。
再び意識が覚醒していく・・・、いや、これはまだ続きだ。今度は聞き知った、だが誰だか思い出せない話し声が聞こえる。その会話のところどころに、まるで意図的に掻き消すかのように砂嵐のような雑音が入る。辛うじて聞こえる単語を繋ぎ合わせ、その会話の意味を紡ぎだそうと試みる。・・・いや、これももう何度も試みているはずだ。そしてここで聞こえてくる単語はどれも同じ。そして紡ぎだされた答えも、同じ。
「幾ら試行しようとも、生まれるのは全て劣化個体。そしてこれは」
「過去最低のレプリカだ」
ここで身体に全ての感覚が戻り、一気に目が覚めると同時に体を起こす。・・・この一連の流れを、私はもう何度も繰り返している。そしてその度に全身を染め上げる感情に満たされる。
「う、ぐ・・・あああああああああああ!!!」
頭を掻き毟ろうとも消えはしない。ただただ湧き上がる、吐き気を催すほどに身体を覆う殺意。誰に向ければいいのか分からない、だが身体を埋め尽くすほどの殺意。それが分からなくて、余計に頭を掻き毟る。
「・・・主。」
私は、その声を聞き逃さないように意識だけを辛うじて向ける。
「その御心、静まる為であるならば我が命を」
否。殺すべきはお前ではない。殺さなければいけないのは、
「・・・侍女よ、私は一体、誰を殺せば良いのだ」
返答は不要である。潰えぬ感情を吐き出す為に呟く、戯言。
幾人も手に掛け、その血潮を浴びようとも終わらないこの殺意を、誰に向ければ良いか分からない分からないままただひたすらに月日は流れていく。私は、「ユキナ」は満月の夜に吼える。幾度も見る夢の意味と、そして湧き上がる感情の矛先を求めて―――――――――
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瀬笈 葉 小噺-1-
※PSO2、及び東方自然癒本編とは関係のない創作話です。また一部東方project様の作品関係の話が分からないと理解出来ない可能性があります。ご注意下さい。
気づけば、私はここに居た――――
ここがどこだかは分からない。
だけど、1つ確かなことは、
私は「役目を終えて消えた」・・・・・・はずだった。
私が植物たちから力を集め「毒」を抜き出し、綺麗な力を「私を形造っていた」植物たちに返す時が来て、私は消えた・・・・・・はずだった。
でも、今の私には手があり、足があり、身体があり。
私は、私として存在している。でも――――
周りに生きている植物たちの声は聞こえない。
力は失われたけれど、私は私として存在している。
じゃ、今の私は一体何者なのか・・・?今この場所にいる私は、一体何なのか・・・?
そもそも、ここは私の愛した幻想郷なのだろうか。
辺りを見渡せば、幻想郷では見たこともない建物であったであろう物が無惨に朽ち果て、そこを這い覆い被さり自由気ままに植物たちが生きている。
――――これはもしかして、紅魔館の成れの果てなのだろうか。
ここはもしかして、私が見たあの未来の、壊れた幻想郷の一部なのだろうか。
見下ろせば、一面が雲の絨毯で敷き詰められていた。
それともここは天界なのだろうか。
ただ私は、初恋が実ったのかどうかも分からず、辛くて苦しくて怖い時でも、何時でも私の傍にいてくれたみんなが居ない事を理解し涙が込み上げてきた。
私はその場にうずくまり、1人寂しく、虚しく、誰にも届くはずのない嗚咽を漏らした。
「――――あら?」
突然の声に、私は反射的に振り向いた。
「ごめんなさい、驚かせちゃったかしら。」
私の目に映る女の人は、私が今まで見てきたどの人にも該当せず、また幻想郷には似つかわない服装をしていた。強いて言うなら、レミリアさんが着ている衣服に似ている感じはあった。似ているとは言っても、ただ単にそういう雰囲気なだけなのだけれど。
その人は目の前に眩い何かを出し、操作している、という表現が恐らく一番合うであろう動作をしている。
「・・・・・・っ」
手が止まったかと思えば、驚いたような表情で私を見つめてきた。一体、何なのだろうか。
「貴方、ここにダーカーが居たと思うのだけれど、1人で退けたのかしら?」
「・・・・・・?だぁ・・・かぁ・・・?」
「そうよ、それもかなりの数の反応があったはずなの。でも、今はご覧の通り。」
「だぁかぁって、なんですか?」
「・・・・・・。」
女の人は、黙り込んでしまった。なにか変な事を言ってしまったのだろうか。
「・・・・・・貴方は、何処から来たのかしら?」
「わ、私は」
恐らく役割を果たして本当に異変を解決出来た幻想郷。
「私は・・・」
私が役割から逃げて逃げて逃げ続けて、あらゆる幻想が壊され管理者からも見放されてしまった、壊れた幻想郷。
「・・・・・・。」
姿が��るという事は、私は今どちらの世界に居るのだろうか。
「・・・ごめんなさい。それほど考え込んでしまう質問をしてしまったようね。」
「い、いえ、ただ」
今の私には、事の顛末は分からない。
「ただ、『私が居る』という事は、本当に幻想郷にいるのかな、って思ってしまって。」
「幻想郷・・・・・・?」
女の人は、すごく不思議そうな表情でその言葉を繰り返した。
「はい。私の大好きな居場所です。」
「それは何番艦にあるのかしら?」
「え?」
――――この人は、何を言っているのだろう。
「私の知る中ではその、幻想郷という場所、かしら?は初めて聞くわ。」
・・・え?
「勝手ながら、貴方の事は調べさせてもらったけど、貴方はアークスとしての登録はおろか、生態データですら存在しなかったわ。貴方、何者なの?」
・・・この人は、何を言っているのだろう?
「・・・わ、私は・・・・・・」
意味の分からない、初めて聞く言葉ばかりで理解が出来なかった。この人は、何が言いたいのだろうか。
「ごめんなさい、少し脅迫めいてしまったかしら。」
「いえ、その・・・」
「・・・そうね、考えられる事なら、貴方は貴方の言う幻想郷から、私の居るこの世界に平行移動してきた、と考えるのが一番簡易かしら。」
頭が混乱してきた。何を言っているのか全く理解が出来なかった。
「何を言っているのか理解できない、って顔ね。まぁ、仕方がないわね。」
私は・・・・・・。
「・・・これ以上お話をしても、貴方を混乱させてしまうだけね。貴方、名前は?」
「瀬笈 葉(せおい は)です。」
「・・・よし、じゃ葉、とりあえず貴方を私の家に招待するわ。そこで落ち着いたらいろいろお話しましょう。それと私の名前は――――」
ここは幻想郷じゃない。それだけは理解が出来た。
帰りたい、幻想郷に。
会いに行きたい、初恋のもとに。
私が「在る」というのであれば、私の大好きな幻想郷に帰りたい。
皆さんが待っている・・・・・・
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龍族界の姫君
アムドゥスキアの遥か上空。浮遊大陸の奥地。
磁晶龍が守護し安らぐその地に降り立った姫君は、どこか寂しそうな目で我々を見つめた。
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──── 小噺-4-
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
『・・・ね、ねぇ、ほ、ホントに行くの・・・?』
『はぁ?おま、今更怖じ気付いたってぇの?』
『だ、だって・・・。ホントに行くんだなんて思ってなかったし・・・』
『はぁ・・・、あのなぁ、お前が吹き込んできたんだろ?新月の夜ナベリウスに行くと幽霊が見えるって。俺にけしかけてきたのもお前だろ!?』
『そ、そうだけどさぁ・・・、やっぱり怖いよ・・・』
『お前なぁ、俺がわざわざ管理部署の目を盗んでシップ手に入れて、証明してやろうってことで来てるんだぜ?今更引き返すつもりか?』
『ううう・・・』
『怖えんだったらここに残ってろ。原生生物に襲われることもないし安全だろ。俺は行くからな、ちゃんとカメラも持ってきたわけだしよ。』
『あ、ま、待って!1人の方が怖いよ!』
『・・・はぁ、じゃ付いて来い、離れるんじゃねーぞ。』
『う、うん・・・・。』
『・・・・・・・さすがに夜だと原生生物も大人しいのな、1匹たりとも見やしないぜ。』
『ね、ねぇ、なにか聞こえない?』
『あ?鳥の鳴き声ぐらいしか聞こえねー・・・、て、そのホラー映画とかにありそうな言い方やめろ、わざとらしい。』
『そ、そっか。・・・それなら、いいけど・・・。』
『しっかしよ、新月の夜ともなるとすげぇ暗いな。何にも見えねぇぞ。』
『そりゃ、こんなに木々が生い茂ってるんだもん、暗いに決まってるよ。』
『まぁそうだけどさ。お、もうすぐ目的地だな。ちゃんとテレパイプ持ってきてるよな?』
『うん、大丈夫、ここにちゃんと入ってるよ。』
『よしよし、んじゃ終わったらそんまま俺の部屋来いよ、な?』
『う、うん・・・。分かった。』
『ここだな。はぁー・・・、こんなとこ研修以外で来たくねーぞまったく・・・』
『ね、ねぇ、やっぱり、さっきからおかしいよ。変な音がする・・・。』
『またまたんなこと言って、俺にはなんにも聞こえなかったぞ?って、さっきも言ってたけどどんな音よ?』
『なんだろう、こう、キャストがホバー移動してるみたいな、そんな音』
『・・・・ぶ、はっはっはっは!なんだそれ!?そんな音微塵も聞こえなかったぞ?お前ビビり過ぎて耳おかしくなっちまったんじゃねーの!?』
『そ、そんなことないよ!ちゃんと聞こえ、きゃ』
『あーはいはい、あとでたっぷり可愛がってやるからその辺にしとけ、お前は今ビビってる、それだけだってーの』
『・・・もぅ、信じてよー』
『あーもううるせぇな。お小言はあとにしろ。ほら、帰るぞ、パイプ出してくれ。』
『うん、わかった・・・。』
『・・・・・・ん?おいどうした、早く出してくれよ。』
『だ、出した、よ。で、でもどこにも見当たらない・・・』
『はぁ!!?お前、冗談もほどほどにしておけよ!?』
『ホントだよ!確かに投げたけど、どこにも・・・』
『・・・ったく、ちょっと待っとけ、』
『ちょ、ちょっと!持ってるんだったら最初から出してよ!』
『俺はカメラ持ってんの、お前手ぶらだろ?出してくれて当然だってーの。』
『・・・ホントいじわるするんだから・・・』
『あ?なんか言ったか?』
『なんでもないよ。』
『ったく・・・、めんどくせぇこと、・・・・・・・あ、れ?でない、ぞ?』
『ほら、ね?』
『え・・・、これ、どういうことだよ。シップが格納されたとかそういうのじゃねーだろうし・・・』
『ねぇ、やっぱりおかしいよ、さっきの音も、大きくなってる・・・』 『お、俺には、何も聞こえねぇぞ・・・?』
『・・・?ね、ねぇ、あそこ』
『?あ、あれ、アークスなんじゃねーの?そうだ、そうに違いねぇ!』
『よ、良かった・・・。これで帰れるね・・・』
『?おい、あれ、よく見りゃ────に見えないか・・・?』
『あれ・・・?ホントだ、こんなところで何してるんだろう。』
『・・・っははーん、────もたまには夜遊びしたいってやつだな?こりゃいいネタ握れたぜ。』
『ちょ、あんまり変なことしちゃダメだよ?』
『なーに心配いらねぇよ。"これ"を証拠に、他のやつから金巻き上げるってだけだってーの。』
『うーん・・・、私は別に構わないけど、あとあと面倒なことになっても知らないよ?』
『へっ!任せとけって。おーい!────!』
「Encounter」
『え?』
『お、こっち気が付いたな。よしよし。』
『ね、ねぇ、今何か聞こえなかった?』
『?いや、何も聞こえなか、ってこのくだり何回目だってーの・・・』
『・・・・・・?』
「Targets,Lock on」
『え、なに・・・?』
『おーい!────がこんなところで遊んでていいのかぁ!?っはははは!』
「Equipped with weapons・・・」
『ねぇ、なんか様子がおかしい・・・』
『は?』
「Ready――」
『うぐぉっ!!?』
『・・・・・、い、いやあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!』
『おおぉぉぉおぉお・・・・』
「・・・Absorbed Photon」
『あああ、いやあぁぁぁ・・・・あああ・・・』
『お・・・・ま、ぇ・・・・・な、なにぉごあはぁ!?』
『いやぁ・・・やだぁ・・・・・や、やめ、てぇ・・・ああああ・・・・』
『がぁ!はぁっ!あ、ぐぅ・・!』
『やめて・・・やめてよぉ・・・・いや、いやぁ・・・・・』
『あ・・・ぐぁ・・・・・。・・・・・・・・。』
「・・・・・・Deleted」
『・・ひっ!?』
『・・・・ぃゃ、た、たすけ、て・・・・だ、だれか・・・・』
「・・・・・・Lock・・・」
『・・・・・!いや―――』
「・・・・・・Deleted」
「Mission completed」
「ニン・・・ギョウ・・・」
「ニンギョウ、タノシイネ!アハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!」
────Whether 「────」 be saved?
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Chalcedony 小噺-3-
「今任務のブリーフィングを行います。今から転送しますデータを見ながらで結構です。」
私を積んだキャンプシップは、再びナベリウスへと向かっている。
「今回は以前よりも装備が多くなっています。換装ミスに気を付けてください。武器種のみでお伝えしますが今回の装備は、ソード・パルチザン・ワイヤードランス・アサルトライフル・ランチャー・ガンスラッシュとなっています。不備はないですか?」
武装チェック、パレット選択。上から順にタブを操作し、全ての武器が装備されていることを確認する。異常なし。私は軽く頷いた。
「今回は武器の換装速度の調査です。1体討伐するごとに次の武器へと素早く切り替えて下さい。その際に生じる遅延、処理のミスの有無、換装から使用するまでの速度を調査、そのデータは自動的にこちらに送信されます。最深部、ファングバンサー・ファングバンシーを討伐し任務の終了とします。目標討伐時間は――」
突然、緊急の警報音と同時にキャンプシップに強い衝撃が走った。私は直ぐ様壁に手を付きその場にしゃがみ込んだ。この強い揺れは何だ?まるで外部から揺さぶられているような揺れだ。ブツっという音とともにヘンリエッタさんに繋がっていた通信が途切れたかと思えば、別の通信へと繋がった。
「・・・聞こえるかChalcedony。」
この声は、私のクライアント・・・?
「うむ、通信は上手くいっているようだな。」
低くしわがれた、どこか落ち着きのあるこの声、間違いない、私のクライアントだ。
「突然の事だ驚くのも無理はない。ではそのまま聞いてもらうぞ。」
なぜそこまで冷静に言葉を発する事ができるのだろうか。言わば今は非常事態のはず。
「君は、我々にとってとても大きな貢献をしてもらった。君を仕立てあげた甲斐があったものだ。実に良いデータを毎度我々に送ってくれる。まさに逸材だった。生みの親である私としても非常に惜しい。願わくばまだ君のクライアントでいたかったものだ。」
何を、言っているのだろう・・・。
「だが、君はミスをしてしまった。それは下手をすると我々にも影響が出る大きなミスだ。分かるかね?君の体内に不純物が混ざってしまっているのだよ。」
・・・・・・まさか。
「そんなはずはありません。先日起こった出来事はそちらに伝達し処理して頂きました。加えてボディメンテナンスの方も行わせて頂き、"正常である"と診断されました。よもや私が孕んだなどということは有り得ないはずです。」
「ああそうだ。確かに先日の事はこちらで闇に葬らせてもらった。あの事とあの者達は"無かった事"として処理させてもらったよ。君の迅速な伝達と状況報告の賜だ。加えて確かに君の身体は"正常である"と我々にも伝達が来ている。心配することは無い。」
「・・・貴方様の仰りたい事が上手く見えません。何を私に伝えようとしているのですか。」
「・・・・・・君は、果たして真実をその目で見たのかね?」
・・・・・・は?一瞬、私の全思考が止まった。
「・・・・・・え、そ、そん、な・・・」
「君は優秀で真面目だ。我々の一字一句を邪推する事なく従順に聞いてくれる。だが、それ故に欠点もある。自分で真実を見ようとしない、我々の言うことは全て正しいという認識で通す言わば"人形"同然だ。」
そんな・・・、馬鹿な。有り得ない。そんなこと、絶対に有り得ない。
「古来より人と言うものは自らの利益のために他を利用してきている。しかしそれが利用するに値しなくなった時、人はそれをどうすると思う?」
・・・・・・嫌だ。
「どうしたのかね、君なら答えられるはずだ。それとも、分からないのかね?」
・・・・・・嫌だ。
「ならば仕方があるまい。そんなことも答えられなくなった"人形"は」
―――っ!!
「破棄処分するのだよ」
「・・・ぁぁああ、ああああああああああ・・・っ!!!」 ・・・私は、どのぐらいこうしていたのだろう。それを見上げるという表現は、果たして合っているのかどうかが怪しい。薄暗く、空虚でおどろおどろしい。いや、私は見上げているのだろうか?もしくは見下ろしているのだろうか?そのどちらなのかが判別つかない。
「あは、あはは、あ、ははは・・・」
1つ分かるのは、私のクライアントが最後に言っていた通り、私は捨てられたのだ。私は人間に、捨てられてしまったのだ。その証拠に、右を向けばもう飛ぶ気配のしない、先ほどまで私が乗っていたキャンプシップがある。ショートしている箇所が多すぎて、恐らく直すことは出来ないであろう。ついでに破損部分も多く、大破したと言っていいものだ。視線をもう一度、上に向ける。いや、それは上と言えるのだろうか。私が向いた先には、ビル街や住宅地や生産プラントといった居住地が見える。しかしそのどれもが荒廃しておりボロボロで黒ずんでいる。私のこの視界に映る黒い粒子は何だ。私は、どこにいるのだろうか・・・。 「は、はは・・・は・・・」 滑稽だと思っていたが、それすらもどうでもよくなってしまった。そうだ、きっとこれも、クライアントからは"無かった事"にされているに違いない。通信を、クライアントの方に繋げてみた。しかし、聞こえるのは砂嵐の音だけだ。妨害電波でも飛んでいるのだろうか。いや、恐らく意図的に電波が繋がらないように施されているのだろう。ヘンリエッタさんに繋いでみても結果は同じだった。私という存在はここにあれど、「私」はこの世から抹消されてしまったのだ。
「は・・・・は、は・・。・・・・・・」
・・・何か気配を感じる。感じたことのある気配。私はそっと身体を起こし、気配のする方へ向いた。蚊を思わせる生物とも言いがたいもの、ダガンだ。・・・ダーカー?
私はすぐに体勢を立て直し、ソードを構えた。私の身の丈よりも大きい業物だが、振るうことぐらいは容易だ。軽く地面を蹴ると同時、瞬間的に間合いを詰め一気に切り上げる。刃は、攻撃と気付かれる前に対象を切り裂いた。 私の意識が、徐々に正気へと戻っていく。よく見わたせば、私は数えることが出来ないぐらいのダーカーに囲まれていた。分類するのも煩わしいぐらいだ。
私の処分方法は、どうやらこういうことらしい。・・・面白い。どうせもう消されたというのであれば、1つ自由に暴れてからにしよう。 「・・・っ!!?」
突然、頭に強い電気が走った。片手で頭を抑え、膝を付いてしまった。まずい・・・、と思った頃には、目の前にカマキリのように鋭い鎌を持ったエネミー、プレディカーダがいた。構えないと、殺られる・・・!
剣で切り裂く、鈍い音がした。目の前にいたプレディカーダが、その場に倒れこみ蒸発した・・・?
気配が、遠ざかっていく。私を囲っていたダーカーが、徐々に遠ざかっていく。撤退したのだろうか・・・?
プレディカーダが蒸発すると同時に出していた赤黒い煙が消えたところには、形から見るにキャストの足――それも女型のものだ――が見えた。私の他にもアークスがここに?もしかして、助けてもらったのだろうか。・・・痛みがやんだ。私はゆっくりと立ち上がり、感謝を告げるためにその人の方を向いた。
「・・・え?」 気の抜けた、情けのない言葉が口から漏れた。思わず、業物を落としてしまった。今目の前にいるそれを、私は認識することが出来なかった。
「・・・え、あ・・・・。」
なんで、どういうこと?私の頭が、認識しない、理解しようとしない、認めようとしない。有り得ない、意味が分からない、ワケが分からない。なぜなら、そこにいたのは・・・
「わ・・・た、し・・・?」
鈍い感触が私のお腹の辺りに走った。一気に何かが込み上げてきて口から出てしまった。私の血だ。・・・血?視線をゆっくりと下に下ろす。そこには、さっきまで私が握っていたソードと全く同じものが私のお腹に突き刺さっていた。・・・え?ゆっくりと、ぎこちなく視線が前に向く。そこには私と瓜二つの顔があった。ただ、目が紅いことを除いて。
痛い。痛い、痛い。痛い。痛い、痛い、痛い。痛い。声が出ない、痛い。痛い。
「・・・・ぁ、・・ぉ、ぁ・・・ぁ・・・・」 力が入らない、痛い。痛い、痛い。冷たい、痛い。痛い、痛い。
「ぁ・・・・・ぅ、・・・ぁ・・ぁ・・・・・・」
痛い、痛い、痛い。苦しい、痛い、痛い。痛い・・・・・・痛い。
嘲笑・・・嘲笑う声・・・・・・あの男どもの、声・・・?
「ネェ・・・」
掠れた、だが声帯は私と同じ声・・・嘲笑・・・・・・
「タノシカッタ・・・・・・?」
痛い、私と、同じ声、痛い。男の、あざ笑う、声、痛い、いたい、いたい、いたい、
「オニンギョウ、タノシカッタ・・・・・?」
おにんぎょう・・・わたしは・・・・おにんぎょう・・・・・・・・・
「ステラレチャッタネ?ヨゴレタカラ、イラナイカラ、フヨウニナッタカラ、コワレタオニンギョウダカラ、ステラレチャッタネ・・・・・・?」
わらいごえ・・・・・・めが、かすんでいく・・・・・・・
「ぁ・・・・・ぁぁ、・・・ぉ・・・・・・。・・・・・ぁ、ぁ・・・・・・・」
いしきが、もうろうと、して、きた。
「ツライヨ・・・?・・・・シイヨネ?クルシ・・・ネ?イタ・・・・・・・?」
ああ、わたしは、しぬ、のか・・・・・・。こんな、むなしいところで、しぬの、か。わらうこえ、おとこのこえ、わたしのこえ、いたい、くるしい、つらい、かなしい。
「イイヨ、オイデ。イッショニゼンブコロソウヨ・・・?」 視界には、荒廃し黒ずんだ街並みが映る。足は、もう動く気配がしない。辛うじて動く右腕を空と呼べるのか怪しい方向に掲げてみた。すごく震えていて頼りない。心なしか、黒い粒子が纏わり付いている。なんだか、変な気持ちになってる。痛かったのに、苦しかったのに、辛かったのに、今はなんだか、気持ちいい。 視界が、徐々に黒ずんでいく。否、黒い粒子に視界を奪われていっているのだろうか?それすらも、何だか楽しい。
そうか、私は、死んだんだ。私のクライアントの思惑通り、死んだんだ。完全に抹消されたのだ。そうだ、私は
私は、私は何故、死んだのだろう?クライア���トの言うことを従順に聞き、正確に迅速に任務を遂行していたのに、何故?汚れてしまったから?人間に犯されてしまったから?孕まされてしまったから?人間は
人間は、私に何をした?私を良いように使い、利用し、弄び、使えなくなって捨てた?私は何だ・・・?私という存在は、何なのだ・・・?私は、何のために作られたのだ・・・?
人間が、私を捨てた。私は捨てられた。憎い。従順だったのに、捨てた。憎い。痛い。悲しい。辛い。
許さない、私は人間を、許さない。許さない。許さない・・・!
「分かった、行くよ。一緒に全部殺そうね・・・?」
――私の視界は、暗闇に閉ざされた。
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Chalcedony 小噺-2-
任務を遂行しているとはいえ、私に割り当てられた年齢や経験日数を考えるとまだまだ研修生である。任務の無い日中は「便宜上」学校に赴いている。が、そこで得られる知識は既に私の中にインプットされている情報であるがために、聞く意味は殆ど成さないが。私のクライアントからは、「真面目で素直な優等生」を演じていてくれと命令されているので、私もそれに従っている。退屈でどうしようもないが、じゃ私が私生活で何をしているかと聞かれても特に変わったこともしていないのでそれはそれで有りなのかもしれない。
終了のチャイムが鳴った。今日分の授業を受けるという私の任務は終わりだ。準備をしてさっさと帰ろう。このあとは確か、パーツのメンテナンスを行う予定が入ってるはずだ。
「おーい!かるちゃん!」
・・・クラスと呼ばれる、一定の人数で編成されたグループの男子だ。いつも学校帰りに声を掛けてくる、いつもの面倒な連中だ。
「・・・なんでしょうか。」
「なぁなぁ、今日は空いてるだろ?どこか遊びに行こうぜ!」
またこれだ。私はこれから用事があるし、もし無くても暇ではないというのに。アークスというのはこういうものなのであろうか。
「いえ、このあと用事があります。失礼します。」
踵を返し、歩を進める。エンジンを付けていない生身の身体だと動かすのは少々不慣れなところがあるから、あまり早く歩くことは出来ない。当然彼らは私を追ってくるしすぐに追いつかれる。
「んなこと言って、ホントは暇なんだろ?俺らも暇してるからさ、どこか行こうぜ!」
こいつらは、何故私に執拗に迫ってくるのだろう。小柄で幼顔、私に割り当てられた年齢はその上に10歳だ。下手をすれば犯罪に成り兼ねない。
「生憎、私はあまり暇な時間がないので。」
「なんだぁ?帰ってお勉強ってか?さっすがは優等生様だな!」
嘲笑。・・・幾らでも笑うがいい。私は君たちのような下等な存在より遥かに勤しんでるのだから。
「・・・概ね、その通りです。」
・・・さっきからこいつらの動きが妙に怪しい。いつもと雰囲気が違うのもあるが。こいつらに気付かれないように、クライアントの方には連絡しておこう。私の障害となるのであればあちらも黙ってはいないはずだ。念のため録音もしておこう。もしもの時は徹底的に行くつもりだ。
「なぁなぁ、そんなことよりさぁ・・・」
感知。何か粉状のもの。これは・・・睡眠薬か。なるほど流れは大体掴めた。
「俺らと一緒に勉強した方が楽しいって、な?」
急にトーンが低くなった。この不良どもはいつもこうして回っているのだろうか。
「送信完了。」
「は?」
「あなたが今手にしているのは睡眠薬の一種ですね。概ねそれを私に吸わせて眠ったところを何処か遠くに連れて行って果ては『犯す』つもりでしょう。でも残念です。私にはその手口は通用しません。今しがたあなた方が行おうとしていることは所謂『警察』の方に連絡致しました。もし実行に移すならば一時的にあなた方の思惑が成功したとしても社会的制裁が下るでしょうそれこそあなた方は二度と同じ真似否陽の光を浴びることも出来ない事態に」
「・・・お、おい、こいつ、なに、いって、るん、だ?」
「・・・っは!も、もしかして気でも狂ったか?」
「・・・聞いていますか?今重要な事を伝えましたが。」
「う、うるせぇ!と、とりあえず大人しくしろ!」
私の前に構えていた男が、ポケットからそれを取り出した。的中。睡眠薬だ。気が付けば私の後ろに居た男が私を羽交い締めにしていた。・・・やれやれ。どうやら話を聞いていなかったらしい。
「警告。今すぐ離さなければあなた方は――」
口が塞がれてしまった。警告を繰り返してあげたのに聞いてはくれなかったらしい。私の意識が徐々に薄れていく。どうやら薬が効いてきているようだ。男どもの嘲笑が聞こえる。仕方がない。
彼らには、消えてもらおう。
意識が戻ってきた。視界には淀んだ空が映った。想定通り、私はどこかへ連れて行かれたようだ。衣服の感触が少しおかしい。なるほど、開けさせられたというわけだ。衣服がところどころ破れてしまっている。肌が変に生暖かいところがある。ああ理解した。相手は6人もいたんだ、そりゃそうか。
俗にいう、犯されるというのはこういう感じなのだろう。もっとも、私は眠っていたから行為が行われていた最中に何があったかは分からないが。
少々乱暴に扱われていたようで、若干身体を動かしにくい。ところどころ硬直してしまっているようだ。薬の効果がまだ完全に抜けていないのだろうか。というより、そういう系統の薬だったのだろうか。
身体を起こし、周囲を見回してみる。テンプレと言わんばかりにゴミゴミした狭い路地にいる。不純物が体内に入ってしまったら大変だ。帰ったらボディメンテナンスも行ってもらおう。ゴミの山から、誰かの足首が見える。ああ、私を羽交い締めした方の男の靴だ。一応、引っ張りだしてあげよう。ただでさえゴミで散乱して空気が悪いのに、もし腐乱臭でもしたら大変だ。とは言え今は人間の身体とあまり差がない状態だ、そう簡単には引っ張り出せなかった。幸い、ゴミの山がついさっき出来たかのように柔らかかったためそこまで時間は掛からなかったけど。 「・・・・・・だから、警告したのに。」
人間は愚かだ。自らの欲が強まると周りが見えなくなったり、聞こえなくなったりする。それらを押しのけて欲が勝つからだ。
周囲を見渡せば、同じように倒れている男が複数人。全員私を連れ去った男の関係の者だ。6人全員いる。一応、報告だけはしておこう。
「・・・はい。件の・・・、はい、はい、身体は残ってます。・・・はい。よろしくお願いします。」
・・・帰ろう。ここから私の部屋まで少し時間が掛かるのが少々面倒だ。私は開け破れた衣服を結び、なるべく秘部が見えないように整えた。それでも周りからの視線は免れないだろうが。 「・・・・・・だから私は警告したのです。"今すぐ離さなければあなた方は死にますよ"と。もう遅いですけどね。」
顔の無い男たち。見るも無惨だ、と普通の人間ならそう思うだろう。ある者は片腕が無いし、ある者は片足が無い。胴体を裂かれている者もいる。だから私は警告したというのに。私のクライアントは、私の身に人的な危機が加わろうものなら制裁を下す。過程などは知らないし、誰がやったのかも知らない。私が気が付けばもう事後だ。馬鹿馬鹿しい。 私は返り血で汚れきったこの場所を後にした。
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Chalcedony 小噺-1-
惑星ナベリウス 森林エリア
キャストはヒューマンを改造し後天的に機械を埋め込まれた種である
というのを、私は知っている。偉い人たちは何故かそれを公開せず、キャストはキャストとして生まれた、という風に伝えている。だけど私がこの事実を知った時は、特に何も感じなかったからそんな程度のものなのだろうけど。
「ミッションコード転送完了。Chalcedony、起動準備に移ります。」
最も、今の私は機械と人間の2面性を持つ一般的なキャストではなく、与えられた任務を遂行するロボット同様。聞いた話だと、リアパーツ、スタビライザーに用いられているジェットエンジンならぬフォトンエンジン――これで大気中にフォトンがあれば半永久的に稼働出来るという――、半径20m以内の動体反応物を補足、モニター表示や生体データを表示するセミナリオングラスは、私のためだけの特注品だという。人力で行うよりも効率的且つ迅速に遂行するため、ということであろう。ただこのフォトンエンジン、従来キャストに支給されるパーツに搭載されているジェットエンジンに比べ出力が桁違いに高く、制御が少々難しい。恐らく、今の私を生成するパーツは、ただ単なる戦闘というよりも殲滅向きの装甲が割り当てられているということを加味してであろう。
「これより、任務の再確認を行います。」
私をオペレートしてくれるヘンリエッタさんからの通信が入った。彼女もまた、キャストの1人だ。
「今回は、武器の性能調査です。指定されたエネミーを指定数討伐、そのデータをこちらに転送して下さい。」
滅牙武器と呼ばれる物のアサルトライフルタイプ、確かグリズライフルと言っていたはずだ。熊っていう生物の顔を模したライフルらしい。このデザイン、密かに人気があるって誰かが言っていた気がする。
「こちらが要求しているデータ及び討伐数はこちらになります。」
グラスの右側から討伐対象のエネミー一覧が表示された。今回もなかなかの数を要求されている。この手の仕事は大体こうだから驚きはしない。
「Misson Ready・・・」
フォトンエンジン、出力上昇。バーニア制御システム起動、フォトン循環率最適化。エンジン機構、異常なし。制御システム、正常稼働。機体浮上。
「それでは、よろしくお願いします。」
「Starting」
ダッシュ―― 任務開始。
ここのエネミーを討伐するのはそう時間は掛からない。大抵が群れを成して生活しているため、ある程度固まった数で発見することが出来る。その分今回は楽に仕事を終えることが出来そうだ。すぐそこにも、ザウーダンがウーダンを多数引き連れて我が物顔で歩いている。無論、向こうはこちらに気付いてはいない。気付かない位置でも、グラスは彼らの動体反応を感知している。その数20。
「Encounter」
エンジン出力低減。たとえ機体が浮遊状態であっても、音が大きければ対象に気付かれやすい。ましてや数が多ければなるべく気付かれないように工夫しなければならない。エンジン放出――接敵。
私が目の前に現れた、という事実は確認できても、私が何なのかを判別するまでには時間が掛かる。生物の脳はそういうものだというのが私の認識。
円筒状の小さな物体を持ち、構える。ターゲットを見定め、振り被る。ここでようやくザウーダンが私を判別出来たのか、唸り声を上げ威嚇のポーズをとった。・・・だがもう遅い。なるべく群れの中心部にその物体を投げると、割れたと同時に物体から発生する引力によって周囲のエネミーが吸い寄せられる。トラップの1つ、グラビティボム。効果範囲はそれほど大きくはないが、この程度の群れならほぼ集めきれるぐらいの威力はある。腰を落として構え、射出範囲の調整。規則正しいリズムでカウント音が再生される。エネミー全体が入る範囲且つ威力を制御。グラビティボムの効果が切れる直前、ライフルの引き金を引くと同時に上空よりレーザー射出が起こり引き寄せられていいたエネミーに降り注ぐ。断末魔とともに一瞬で黒く焼かれていった。
「十分なデータ量です。これにて任務完了です。お疲れ様でした。」
大の字になって倒れているロックベアが、徐々に浄化されていく。今日の任務は普段よりも格段に早く終わった。
「Chalcedony、これより帰還します。」
徐々に身体が軽くなっていく、という表現が適しているだろうか。私を囲うように出現した簡易転送装置、テレパイプにより身体がデータ化されエリアから消えていく。
気が付けば、私の部屋に居た。私を構成していたパーツは無く、人間のものと変わりない肌の色が私を包んでいた。今日の「私」としての役目は終わった。先ほどの森林エリアとは打って変わって空虚だ。周りを見渡せば、「私」を構成していたパーツが掛かったカプセルがある。「私」とは、次の任務までおさらばなようだ。
海のような深い青のワンピースで、今日はどこに行こう。
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華胥の亡霊
和風拠点は神。
西行寺幽々子っぽいもの
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日本原産 鬼蜻蜒
トンボの複眼は昆虫類最多の約2万8千。
それは視力を棄てる代わりに手にした"動体視力"
加えて、『急発進』『急停止』『バック』『旋回』『ホバリング』
その飛行性能は航空機やヘリコプターのような"人間が造る機械"では再現できないと言わ��ている。
学名は『Anotogaster Sieboldii』
それは魔物の名を冠する蟲
日本原産『鬼蜻蜒(オニヤンマ)』
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待ち人
男勝りな彼女も結局は女の子。待っている時はそわそわ不安になるものです。
彼女の隣には誰が来るのだろう
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Chalcedony 小噺-0-
「その子を調べるのは止めておけ」
ぎっしりと分厚い本が入っている本棚で殆どを埋め尽くされた私の部屋。机の上に灯された小さなランタンと、私が操作している電子端末の光だけがこの部屋を照らしている。私が座っている椅子の背の向こう側、その灯りが届いてないところから教授の声が響いた。
今まさにアクセスしようとしていたフォルダ。まるでそれを閲覧することを見透かしていたかのように・・・
「え?」
気の抜けた私の声が小さな――というよりも、小さくなってしまった――この部屋に響く。
「その子は調べても何の意味も無い。時間を無駄にするだけだ。」
「・・・それ、どういう意味ですか?」
余りにも唐突だったため、返答するまでに時間を要してしまった。
膨大な何千という数の中に埋もれている、特にロックも権限も何も掛かってない普通のフォルダ。特に何も問題はないはず。プロパティを閲覧しても他のものと大差ない有り触れたデータが詰まっているはず。なのに何故?
「・・・そのフォルダ内のデータだけ、最高度の情報封鎖処理が行われている。」
「え・・・。それは、有り得ないはずです!だって、このフォルダは――」
「言いたいことは分かる。俺も良く分からない。何故そのデータにだけ情報封鎖されているのか、が。」
「でも!この前は見ていました!”この中のデータを見ながら”ちゃんと」
教授の方に振り向こうとしたが、大きな手が私の頭に触れた。
「あまり詮索しない方がいい。世の中には、深入りしちゃいけないこともある。そのためだろう。」
優しく、私の頭をそっと撫でた。柔らかい、この感触。
「今日はもう遅い。お前は明日からも仕事があるんだ、もう休め。」
教授の手が、ゆっくりと私の頭から離れていく。感触だけが、まだ少し残っている。
「この本、ちょっとだけ借りていくぞ。少々興味がある内容なんでな。」
私に見せびらかすようにヒラヒラと軽く振り上げ、教授は私の部屋からゆっくりと出て行った。
前に比べて、ちょっと埃っぽくなった私の部屋。そろそろ掃除しておかないと、後々大変になっちゃうな。・・・教授に言われた通り、明日もまた仕事がある。支障を来しちゃうといけないし、今日はもう休もう。
灯りを消して、真っ暗な世界が私を包んだ。
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壊れろ、壊れろ!
ロイド邸にての戦闘をイメージ。ハウンドスピア射出時っぽいもの。
ただしマグのゴストンで台無しになる模様
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新年明けましておめでとう御座います。
テスト投稿も兼ねてテラフォーマー鬼蜻蜒スタイルを置いておきます
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