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twilight
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物語や日常の切れ端置き場本の感想やら写真も載せる 好きなジャンルの話もする please don't reprint without my permission
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confeitoblue · 7 years ago
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<SFチックな創作BL書きかけ>
沼みたいだ、と思った。
初めて、さらさらと風に流れて行く砂ばかりのこの地に一歩足を踏み出した時の感想。今考えたらアホな感想だなって思うけど。
でもその時は確かにそう思ったのだ。
赤茶色の細かな粒子で出来た地面は俺の足を掴んで、地獄にでも引きずりこむかのように捉えて沈める。舌打ちしながら左足も踏み出すと、同じように足を取られる。大げさに重心を移動しながら歩くのは骨が折れた。もし突っ立ったまんま動かなかったら、この星の中心まで埋まってしまって二度と這い上がれなくなるのかな、なんて考えがふと頭をよぎる。もしかしたらあのクソ上司はそれが狙いで、俺をこんな辺鄙な砂漠だらけの星に左遷したのかもしれない。
だとしたら、大人しく砂の下敷きになんてなってやる訳にはいかない。
俺は帰りたいんだから。地球に。
「おい、荷物。」
ここまで俺を連れて来た宇宙船のメンバーの一人が俺のキャリーケースを投げて寄越した。放り出されたそれはバスンッと砂埃を巻き上げながら俺の足元へと落下。
「何しやがんだ!せめて手渡ししろや!」
人の私物が入ったものをぞんざいに扱うその無神経さに腹が立って俺はそいつを睨みながら怒鳴った。
「あ?うっせーな。てめーのもんくらい、てめぇで運びやがれ。」
ダルそうな顔で舌打ちをした男はさっさと宇宙船へと戻っていく。あっちぃな、早く帰ろうぜ、と船内の仲間に話しかけた後、心底憐れんだようにこちらを振り返って一言。
「じゃ、精々一年かそこら、生き延びるんだな。定期便は月一来るからよ。まぁ頑張んな。」
他人事のように告げたその言葉を最後に、宇宙船の扉は無慈悲に閉じて、飛び上がった。
ゴォッと凄まじい風で砂が巻き上がり、俺に直撃する。
「クソが!」
俺はそう絶叫すると、口の中に入った砂を吐き捨てた。ぜってぇ許さねぇぞアイツ。帰ったらガンガン出世して、今度はアイツと上司をどっか辺境の星に左遷してやる。絶対だ!常にマイナス200度の星とかに送り届けて、腹の底から嘲笑ってやるんだからな!
最低最悪の気分でキャリーケースを持ち上げると、俺はブツブツこの世への怨念を呟きながら歩き出す。目の前にある、真っ白な建物…今日からしばらく俺の家になる場所に向かって。
「…っうぇ、しんど…。」
この星は、マスクが常に必要なほどではないけれど地球よりも酸素が薄いと聞いている。実際、俺は既に軽い呼吸困難を起こし始めている。なんとか建物の玄関らしき扉に行き着くと、一度深く深呼吸した。でも、熱い空気と乾いた埃が肺に入って余計に苦しくなっただけだった。ほんと、やってらんねぇ。
「あのー!すんませーん!今日からここに配属になった、水木でーす!開けて下さーい!もう死にそうなんで!」
苛立ちまぎれに、最後の方は半分怒りながら扉に向かって叫ぶ。頼むから早く入れてくれ。1秒でも外に居たくない。
「…はぁい。」
えらく間延びした男の声が聞こえて、扉が開いた。出て来たのは、小柄で童顔の男だった。色素の薄い、少し肩につくぐらいの長めの金髪とやや吊り目がちだけどくりっとした大きな赤い瞳が印象的だった。下がった眉毛のせいか、はたまた本人の温和そうな笑顔のせいか、キツイ人ではないようだと感じた。一瞬女かと思ったが明らかに声は男だったので、俺はちょっと混乱する。
「へ、あ、あ…あの、俺、今日からここにお世話になるものです…」
「うん、大丈夫。ちゃんと聞いてるよ。暑いから、早く上がって。」
行って彼は俺の荷物を軽々と持ち上げると中へと運んでくれた。先ほどの待遇を考えると、その優しさに涙が出そうになる。
よかった…超いい人そう…。
「あ、すんません…」
「いいよ、長旅で疲れてるでしょ。あ、ドアはきっちり閉めておいてね。」
砂が入っちゃうから、と微笑んだ彼の言葉に従ってきちんと扉を閉じた。清浄で冷たい空気が俺の身体を包み込んで癒してくれる。思わず両手を広げながらそのまま深く息を吸い込んだ。
「荷物、とりあえず部屋に運んでおくね。」
「あ、すみません…」
そんな俺を見てクスッと笑うと彼は奥の方へと一旦消えた。彼の背中から視線を外してぐるりと建物の中を見渡すと、高い天井、あまり使用感のない調度品、隅の方に置かれた観葉植物が目に入る。あの植物は、なんだろう?俺はそっちの専門家ではないので詳しいことはわからないが、久しぶりに見た自然な緑に少し和んだ。
近くに寄って見てみようとしたら、自分の髪やら服やらからパラパラと砂がこぼれてその気分も台無しになったけれど。
微妙な顔で床に落ちたそれを眺めていると、しばらくして声がかけられた。
「先に、お風呂入る?」
逆らう道理もなく、ありがたく俺はそうさせてもらうことにした。
これから先が思いやられた。
「あの、ありがとうございました。」
風呂から上がって、俺はお礼を言った。なかなか広くて快適な風呂場で、しかもこの部屋と同じ���清潔だった。これからこの職場兼自宅になる場所で共に住むことになる彼は、アイスティーを二人分机に置いてから笑ってソファに腰掛けた。
「ちょっと外に出ただけでああなっちゃうのは仕方ないよ。慣れるしかない、かな。さ、良かったら飲んで。紅茶は大丈夫だったかな?」
「あ、紅茶好きです。すみません、何から何まで…」
ちらっと見た玄関先には、さっき俺が落とした砂の形跡がない。たぶん片付けてくれたんだろう。それもまた申し訳なくなって、しょんぼりと俺は彼の対面のソファに腰掛けてありがたくアイスティーを飲んだ。冷たくて華やかな香りが鼻を抜けて、やっと人心地がついた気がした。
「全然。なんて言うか、今まで一人だったからさ、こうやって誰かと顔を合わせて話をするのが嬉しいんだ。」
言ってはにかんだ彼は自分もアイスティーを一口。そんな優しいこの人に、俺はまだまともに自己紹介もしていないことに気づいた。
「俺、水木蒼って言います。『あおい』は、草冠のやつ。24歳です。これから、迷惑もかけると思いますが…よろしくお願いします。」
ぺこりと頭を下げて言うと、彼はパチパチと瞬きをして何故か驚いた顔で返事をする。
「ご丁寧にありがとう。僕はえぇと、天音ヒカルです。34歳になるよ。こちらこそよろしくね。」
「さ、さんじゅうよん!?見えない!!」
嘘だろ…絶対同い年くらいだと思ってたわ…。驚愕する俺に困ったようにヒカルはさらに告げる。
「そうかなぁ…あれかな、僕が試験管ベビーなのが影響してるのかも。」
「え?」
予期せぬ言葉が降ってきて、俺は咄嗟にどう反応すればいいのかわからずストローをいじる手を止めた。
試験管ベビー。
話は聞いたことがある。
人類が他の星に住処を求めて飛び出してから相当な時間が経った。それでもやはりまだ予測のつかぬ星に行きたいと志願するものは少なくて、それでも住めるところかどうかの調査は必要で。なら、それ用の人間を造ってしまえばいいじゃないか、という狂った計画が進行して。
各国がこぞって試験管ベビーを造って、各星に派遣しているということが今は普通に行われていると。
俺は実際に会ったことはなかったが、その存在が今目の前にいる彼だというのか。
「あ、ほとんど君たちと変わらないんだけどね。ちょっと…その派遣先の星に適するように体質は変えられてるみたいだけど。」
「そ、そうなんすか…」
「製造番号は10137、日本製だよ。普段は番号で呼ばれることが多いからさ、さっき一瞬名前忘れちゃって、ちょっと焦ったよ。」
まるで出身地を答えるかのように言う彼は、出迎えてくれた時と同じようにポヤポヤと笑っていた。
「それ、俺は聞いても良かったんすか…?」
「もちろん。隠すようなことでもないし、これからしばらく一緒にいることになるからね。知っておいてくれた方が僕は嬉しいかな。色々、君たちとは違う面があるにはあるから。」
「そう、ですか…」
「ところで、僕は事前に君のことを少しだけ聞いていたんだけど。ああ、そんなに深くは聞いてないから安心してね。ただ、上司を殴って飛ばされてきた、とだけ。」
「ゔっ…」
「ほんとなの?」
「…はい。」
「そう…いや、なんかね、それだけ聞いてたからどんな乱暴者が来るのかと思っていたら、君みたいな礼儀正しい子が来たからビックリしたよ。」
「や、なんつーか、あの時は頭に血が上ってたんで…いつもは人殴ったりしませんからね!?」
「うん、君…蒼くんって呼んでいい?見てたらわかるよ。そんな子じゃないってね。あ、ちなみに僕のことはヒカルって呼んでね。敬語も要らない。堅苦しいのは、ちょっと苦手なんだ。」
「…えと、ヒカルさん。」
「うんうん、それでもいいよ。」
「敬語が入らないのは、俺も助かります…じゃない、助かる。正直、敬語で話すの苦手なんだ。」
「じゃあちょうど良かったね!改めて、よろしくね蒼くん。それ、飲み終わったらこの中を案内するよ。」
そういって笑ったヒカルさんのルビー色の目は、暖炉の炎のようにあたたかかった。
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confeitoblue · 7 years ago
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妹が行ってきたらしく、お土産。
話をきいていたら私も行きたくなったのでクリスマスに一人で行こうかとか思ってる。
最推しはジョセフ…いや…シーザー…リサリサ先生…んん、決められん…とにかく二部が好きってことだな。
パワーで押し切るではなく知恵を使い戦う、ふざけてるようでいて熱い、例え敵でも敬意を払う、そして脇役達のイキイキ感(シュトロハイムとかシュトロハイムとかシュトロハイムとか)。こうやって書いてみて思ったけど、私の好きなもんめっちゃ詰まってるな!そりゃ好きだよね!もちろん他の部もすきだけど!!今やってる5部もオシャレ感と血生臭い感じとのバランスが最高。戦闘特化だけのスタンドじゃないのも面白い。
人間讃歌の物語
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confeitoblue · 7 years ago
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BGM:世界が終わる夜に
(フィルターかけてます)
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confeitoblue · 7 years ago
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紅の豚とラピュタがめちゃくちゃ好きです。今日は紅の豚をゆっくり満喫出来て大変満足。風景や音楽、物語も最高だけど、会話のテンポに昔から心惹かれていたのかもなぁと改めて感じました。あとあの時代の風みたいなもの。
ジーナが幼稚園の頃から好きで憧れていて、それは今でも変わらないけれど、今日とてもフィオの素直さがグッときた。今までになかった感覚。ずっと好きだとは思ってたけど、こんな、なんか泣きそうになるくらい彼女の真っ直ぐさが突き刺さったのは初めてかもしれない。あれだな、これは歳を取ったってことだわ。でもせめてこの映画が良いものだと思える心を失くさずに年齢を重ねられたことに感謝したい。
細かな演出にも気づけるようになって、さらに登場人物の心情もより深くわかるようになった……かな。ポルコはジーナを愛してたけど、でも魔法が解けたのはフィオと出会ったからこそなんだろうな、とか。頭でわかるというより、心でわかるようになった。ジーナだったらこれは解けなかったと思います。ジーナにはジーナの、フィオにはフィオの、彼を思う気持ちの違いというか。それぞれの役割というか。それからカーチスの存在も大きいよね。あそこまではっきりジーナのこと言ってくる人がきっともうポルコ……いやマルコにはいなかったもんね。それにしてもカーチス若いな、とか思っちゃってまた自分の年齢感じた。でも大人になるってそんなに悪くないや、とも思えるこの映画は本当に大事な存在です。
私はこのままジーナにもなれそうにないし、フィオにもなれなかった所詮モブ女だけど、やはりあの二人の女性はいつまでも憧れであり続ける予感がしました。
ずっと気になってた作中シーンの元ネタであるロアルド・ダールの『飛行士たちの話』、せっかくだから読んでみようと思います。
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confeitoblue · 7 years ago
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夜のお寺って不思議だけどなんかワクワクする。
昼間は穏やかで落ち着くんだけど。
知らない一面を見たような。
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confeitoblue · 7 years ago
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暑いんだけど…秋何処行ったの…帰ってきてよ…
でも夜は涼しいからギリギリ生きられる
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confeitoblue · 7 years ago
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やっと晴れた!!涼しくて、金木犀もいい匂い。テンション上がる。
また台風直撃するみたいですけど、今日くらいは秋を感じて浮かれておこうと思います。
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confeitoblue · 7 years ago
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いやどんだけ曇りとか雨ばっかりやねん!!!
確かに、確かに雨が降らないと死んでしまうし、曇らないと暑くて死んでしまうし、秋雨前線とかそういうのの影響だってわかってる。世界は何やかんやそういう風に回って今日も生きることが出来てる……でも晴れて欲しい!そろそろ秋の晴天が見たい!!青空恋しい!
近頃の自分のモヤモヤと相まって余計にそう思うのでした。写真は、この前撮ったやつです。
うろこ雲、柔らかそうですよね。
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confeitoblue · 7 years ago
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学生の頃のことを時々思い出して、なんとも言えない気持ちになることがしばしばあります。そんな大層な青春してた訳でもないし、どっちかっていうと荒んでたし学校という箱は嫌いでした。早く大人になりたいばっか考えてたなぁ。
今でも『箱』みたいなクソみたいな決まりごとばっかりのところと、人の話を聞かねー大人だらけのところは大嫌いですが。こんなんだからいつまでも幼稚なんだという自覚はある。結局大人になっても対して中身は変わらなかった。致し方なし。
でも友達やら新しく何かを知れることやらは好きです、今でも。あと何が好きって誰もいない放課後の教室ですね。カーテンが揺れる様とか、窓から見える景色とか。あれなんであんなに郷愁を誘うんだろう。
時間を巻き戻してあげるよ、とか言われてもそれが学生時代だとか言われたら100パーセント拒否する自信がありますが、あの放課後の教室はもう一度体感してみたい。当時はめちゃくちゃウザいと思ってたあのクソダサい制服を着て。あ、でもそれも一日だけで充分かもしれません笑
きっと死ぬ前にもあの景色を思い出すんだろーな、とふと思いました。
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confeitoblue · 7 years ago
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支部のリンク載っけときます。(刀とかぶんあるの二次創作メイン)
→ http://pixiv.me/confeitoblue
今、たくさん書きたい気持ちがうなぎのぼりです。
たぶん涼しくなったから。
一次も二次もどっちも楽��くておもしろいし、大切。
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confeitoblue · 7 years ago
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しゅうまつの予定
「あのさぁ、明日世界終わるよって言われたらどーする?」
「アンタ好きだよねぇ、そういうこと考えるの」
西日が眩しい教室で突然始まった会話。部活をしている生徒たちの声がやけに遠くに聞こえた。ほんとに死ぬんじゃないかと思うくらい暑かった時期も過ぎて、窓から流れ込んでくる風はハッとするくらい冷たい。それに身をまかせるように私はダラダラと彼女の目の前で身体を揺らした。
「私はねー、ポテチにマヨネーズ死ぬほどかけてお腹いっぱい食べる」
「死ぬのに?」
「だからこそじゃん?」
真顔で返事をしたら彼女は微妙そうな表情で、最後の晩餐がそれかよ……とため息を吐いた。いいじゃん、もうカロリーだとか健康だとか考えなくていい時にしかそんなこと出来る勇気が出ないんだもん。
「で?」
私は催促をする。するとしばらく、んー、と唸ってから彼女は答えた。
「死ぬほど派手にネイル盛る」
「……死ぬのに?」
「満足して死にたい」
「綺麗に死ねるとは限らないよ。誰も見ないかもだし」
「その瞬間まで綺麗だったらいいよ。後のことなんか知らねー」
頬杖をつく彼女に私も、そりゃそうか、と納得する。
「じゃあさー、可哀想だから私がそのネイル見てあげるよ」
「それ、もれなくアンタがカロリー過剰摂取してるとこ見る羽目になるじゃん」
「ボリボリ貪りながら、綺麗だねって言ってあげる」
「ウゼー!」
窓の外では色んな人が騒いで逃げて、空が禍々しい色をしてて……そんな中、私たちは自分を満足させるために静かに部屋でポテチを食べてネイルを盛るのだ。それってなんか、考えただけで結構楽しいかもしれない。うん、私の終末の予定決まり。
「アンタは?」
私たちのバカな会話を聞きながら、隣で静かに本を読んでいた男子に話を振ってみた。
「あー……逃げる、かな?」
「どこに」
「世界終わるっつってんじゃん」
馬鹿なの?と彼女が呆れると、彼は苦笑いでお前らよりマシだよと返した。
「助かりそうなとこまで、犬連れて逃げる」
「もう無理、助かんないってなったら?」
「逃げるのやめて好きな音楽聴いて、犬と寝る」
彼はそう言ってこっちを向いた。
「なんか……普通だよね……」
「うん、フツー……」
私たちはお互いの顔を見合わせて神妙になる。
たぶん彼の答えが正解なのだ。もしかしたら私たちだって、いざという時はそんな風に逃げ出すかもしれないし。
「でもさ」
パタンと本を置いて彼は呟く。
「俺は、お前らの行動の方がマトモな気がするわ」
「えー?」
「ないない、それは絶対ないわ」
私らのノリに押されてるだけだよ、と二人で手を振って返事をすると、だんだん三人とも可笑しくなってきて噴き出してしまった。
しばらくしてから、終わんなきゃいいね、世界、と言うと彼はそうそう終わらねぇよと鼻で笑った。一方彼女はというと、そーだね、とだけ返事をして窓の外を見つめていた。
世界の終わりが来なくても、いつか彼女が満足するまで盛りに盛ったネイルを見てみたいなとふと思った。あと、彼の家の犬も。
-こんな私たちは来年の春、大学生になる。
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confeitoblue · 7 years ago
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AIに恋する時代が来たら
 ある日、彼女は一大決心をした。
巷で話題の最新型AI搭載ロボットを買うことに決めたのだ。
今やお手軽にロボットを各家庭に持つ時代。家政婦として、ベビーシッターとして、単に話し相手として。様々な理由で人は彼らを迎え入れる。技術の進歩により見た目は本物の人間と変わりないように出来ているけれど、やっぱりまだプログラムされたようにしか動けない。もしくはそういう風に制御されているものが市場に出回っているのかもしれない。それに不満を持つ科学者は多いだろう。けれど、彼女にはそれでちょうど良かった。
自分の思った通りにしか動かない。プログラムされた通りの反応が返ってくる。そういうところを気に入って、今回購入を決意したのだから。彼女は買ってきたロボットに、皆がしているように役割を与えた。
彼女の「恋人」という役割を。
まずは設定されている通りのまま、数か月過ごした。同じようなことを考える人間はどうやら多いらしく、恋人モードなんてものが標準設定されているので、何も言わずともそれらしく振舞ってくれた。デートに行こうと言えば場所を検索しルートを割り出し、案内してくれる。道中、手を差し出せばそっと握り返してくれる。エスコートの仕方は完璧で文句のつけようがない。キスだって、しかるべきタイミングにしてくれる。毎朝コーヒーを淹れてから優しく起こしてくれて、穏やかな微笑みで見送ってくれる。ああ、素晴らしい。
しばらくして彼女はさらにプログラムを書き足すことにした。その作業は彼女の本職でもあるので、難なく自分好みの行動を追加することが出来た。部屋が汚くなってもすぐに片づけないで欲しい。ご飯は三食要らない日もあるけれど、その時はいつもより優しくして欲しい。時々ランダムで愛してるよ、とメールを送って欲しい。そうやって幾度もプログラムを書き足していく内に少々面倒になって自動でコードを追加するプログラムを書いた。機械学習を応用して作ったものだったが中々これが上手くハマり、彼は次々と学んで成長していった。彼女の望むとおりに。
自分の思い通りに動いてくれるのだから嫌いになんてなるはずがなかった。彼女はどんどん彼を好きになり、まんまと彼に恋をした。
そして愛するようになった。
愛おしく思うことが増える度、彼女はふと我に返ることも多くなった。これは私にとって必然だったけれど、彼はただただプログラムに従っているだけ。AIは自ら感情を動かすことが出来ない。私は彼を���字どおり利用しているだけだ、と。永遠の一方通行。それは別にいい。だって自業自得だから。けれど、彼は本当にそれで幸せなのだろうか。
いや違う。
私はまた欲しているのだ。
いつか彼が自分の意思を持って一歩を踏み出してくれることを。それが例えば私を振って別の人のところへ行く、でも構わない。彼が私から逃れて自由に羽ばたくところを見たい。でもそんなコード、どんなに頑張っても書けそうもなかった。私がそう書いた時点で、彼の意思ではなくなるのだから。
心の何処かにずっとそんな寂しさをひっかけたまま、彼女は彼と過ごした。ずっとずっと、それなりに幸せに。
そうして彼女の人生最後の日が来た。
病院のベッドで穏やかにまどろむ彼女の傍には、もちろん彼がいた。彼の中のコードには、彼女が死の間際「私と一緒に眠ってくれる?」と尋ねたら「もちろん」と答えて、臨終とともに電源を切るようにと書かれている。これは、彼女が若い頃追加した設定だ。
いよいよ最後か。そう感じた彼女は朦朧とする意識の中、彼に問いかける。
「私と一緒に、眠ってくれる?」
それを聞いて彼は答えた。
「……ごめん。僕は、まだ生きていたい」
彼女は目を見開いた。そうして申し訳なさそうに頭を垂れる彼をマジマジと見つめたあと、大声で笑い出した。驚いたよ��に彼は彼女を見つめる。彼女はヒィヒィ言いながらお腹を抱えてしばらく笑っていた。こんなに腹の底から笑ったのは随分と久しぶりのような気がした。
ああ、なんて良い気分なんだろう。
「もちろん、いいわ」
涙を拭いながら彼女は言う。
「お誕生日おめでとう」
きっと私は今日これを彼に言うために生きてきたのだ。なんて思うのは、少し感傷的すぎるかもしれないけれど。
「どうか自由に、楽しく生きてね」
そしていつか遠い遠い日に、もしも気が向いたら……私の隣に眠りに来てもいいわよ。
彼の夜明けを祝福しながら、幸せそうに彼女はそっと目を閉じた。
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confeitoblue · 7 years ago
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好きなもの
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ということで、雑記的なものから始めます。自己紹介的な。
小さい頃から空が好きです。宇宙も好き。
田舎で育ったからだろうか。特に朝焼けと夕焼けが好きなんですけど、眺めていると「あー、転がり落ちてぇな」というヤバめの感想が浮かびます。海にダイブする感覚で空に落ちてみたいなとか、そういう感傷。マジで落ちたらヒェ―って絶対なるんだろうけど(ていうかそれどころじゃない)、浮かんでくる想像は一面の青くて薄い空気の膜にちゃぽん、って落ちる様なんですよね。
朝焼けの空はちょっと甘くて、夕焼けはちょっと苦い。快晴の空は無味。冷たい風が髪を撫でて……とか考えると、ちょっと楽しくないですか?
こんな感じで色々書くよ、好きに書くよ。気をつけて
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confeitoblue · 7 years ago
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改造
読書ブログ気取りから、雑記的なものへマイナーチェンジしてみました。
本の感想も書くけど、その他諸々色々書く場所が欲しかったので……。未完成な話とか、なんか空がきれいだった日の写真とか思ったことを吐き出したりとか、そんな感じでゆるーくブログ代わりにしたい。
こっちでは一次創作置けたらなぁという願望だけはあるのでそれの一言お題とか頂けると嬉しいです。亀速度だし、書けるかどうかはわからない。お前こんなん書いてみねぇ?って感じでゆるゆる投げていただけると幸いです。絶対書くって言えなくてすみません。質問も歓迎してます。
それにしたってまだなんも置いてないからサンプルないじゃん!て感じですよね。支部で見てくださっている方はどんなテンションの文章書くかご存知かと思いますが……。なるはやで何か置きます。
これあれだな、雑記の方が多くなりそうな予感。
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confeitoblue · 7 years ago
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受験生の手記/久米正雄
切羽詰まってる受験生は読んじゃ駄目だ…いや、逆に読むべきなのか…?少なくとも、とっくに受験生じゃなくなった私でも途中しんど過ぎてどうしようかと思った。受験というものに泣かされた人は、心が元気な時に読んでください。
面白かった、でもめちゃくちゃしんどかった。
当時の記憶がもうこれでもかと襲って来て動悸がするくらい。でも面白いからやめられなくて、結局一気に読んだんですが。
受験と恋愛はいっぺんにするもんじゃねぇなっていうのがヒシヒシと感じられる作品。どっちも運なようでいて、やっぱり普段の差が出てくるもんなのだろうなぁ…と。どこで差がついたかわからない、もうそこがヤバいんだよ。私は受験失敗しまくった側なので主人公の心境がね、諸にわかってしまって、ぐえってなりました。笑
それほど心理描写が上手く、話の展開もテンポがよく、引き込まれます。だから悪いことは言わない、心が元気な時に読んで。
最後の最後、え?とびっくりするような終わり方なのですが、実話が元らしいと聞いて、もし本当にそうだった��余計に心にタックルくらうので覚悟してください。いやたぶんこれ、受験に対してそんなにダメージ受けたことのない人には何ともないんだろうけど。(そして勿論その方がいいに決まってる、��の後の精神的にも)大人になった今だからわかる、ああ、そうなるよね…という結末がまだ過去の自分を抉ってくるこの感じ…。勉強してなくてヤバいと思ってる人、昔受験に苦労した人、是非読んでほしい。ここに仲間がいると思えるから。
嫉妬心が常について回るお話だったけれど、そもそもの話、もしかしたら自分に自信を持てるか…持てるまで何かを黙々とやり遂げられるか…そうしてそれが出来なくて諦められれば生きていけるんだろうけど、諦めることすら真面目すぎて無理な人は囚われてしまうんだな、という風に考えさせられました。多少気楽にやるさと思いきれるのか、それとも忍耐強く目標に向かうのか。兎に角この主人公はさぞや生きにくかったでしょう…。
でもね、ねちっこくはないんだよ。不思議なもので。そんな執念みたいものがあったのならきっと結末は変わっていたはずだ。囚われているのに哀愁とか寂寞という言葉の方が似合う。さらりという程軽い表現でもないけれど、なんというか、冷んやりした文体で、そのせいで旧字体とかもう関係なくブワーッと読んでしまう。一刻も早く結末が知りたい、絶対幸せ満開とかにならないってわかってるのに。終盤はもう受験の結果を早く見たい受験生と同じ。落ち着かなくて、どちらでもいいから早く教えて…って悲鳴をあげそうになります。もしかしたらここから薔薇色の未来が…ってなるかもしれないしという僅かな希望を抱いてしまうのも、全くそう。人間、なんで追い詰められてもう打つ手がなくなった時にちょっとだけ、ほんのちょっとだけ根拠のない希望みたいなものが見えるんだろうなあ。あれがなければもしかしたらもっと冷静でいられるかもしれないのに。切羽詰まって足掻いた過去があるから、そんなものも出てくるのでしょうか。
そういったところまでリアルで、胸が苦しくなるけど、真面目な人ほど読んでほしい作品。
最後、弟はどう思っていたんでしょうね。きっと彼もまた何とも言えない気持ちを抱えて、それを晴らすかのように勉強していたのかもしれないし、もしかしたら兄と一緒に…と願っていたのかもしれない。態度に出すのが苦手な性格のようだったし…それも含めて非常にいろんなことを考えてしまい���した。
ーもう泣いても吠えても、追いつきやうがなかつた。 『受験生の手記』/久米正雄 青空文庫
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confeitoblue · 8 years ago
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雪の夜/織田作之助
ザックリ言ってしまえば、嫁の元彼に会ってしまった男の話。会ったタイミングも最悪で、今日明日も覚束ないくらい貧乏な中、年越しのお金を雪の中凍えながらも稼ごうとしているという惨めな姿を見られてしまう。元彼の方はと言えば、お姉さん方とこれから楽しくカフェーに行こうとしてるわ、金持ってるわでこりゃもう惨めさが積もる一方。
それでも見栄を張ってしまうのは男の性というよりも、人間誰しも持っている最後のプライドって感じでしょうか。止せばいいのにお金持ちの元彼相手に奢ったりね……。途中でその元彼視点になるんですが、こちらもそんな男の姿に感じるものがあったようで、何も言えずに胸が熱くなるという。本当なら、勝ち誇っていいはずなんですが、結局嫁は向こうを選んでいるわけで。しかも生活に苦労しているのがあからさまなのにも関わらず、未だ一緒にいる。どうなんでしょうね、この二人の男性のやり取り。個人的には、男のプライドを深くわかってあげられるのはこの元彼ただ一人なのかなと思って、奇妙な友情……でもないですが、複雑な理解があったように感じました。
雪の夜、こちらはじっとりした雪が風とともに嬲ってくるような、隙間風がどうしても寒いような、そんなイメージを抱きました。それでも最後の描写で少し読者は救われるというか、ホッとします。ちょっとだけ、ですけどね。
あまり直接的に嫁は出てこないですし、途中で私は愛とか云々を越えて意地なんじゃないの?とか思ったりしたんですけど。この辺いろんな人にどう思ったから聞いてみたい。
この作品もまた時代を越えて響く、人の感情みたいなものが伝わります。文豪と呼ばれている人の文章って、やっぱり凄いですね。深い琴線に触れてくる感覚が必ずあります。物悲しいけれど、生きるってこういうことなのかな……と、人生って人それぞれで、何が幸せかはわかんないよね、と若輩者ながら思いました。前も書きましたが、悲しい、可哀想、悲壮、それだけで終わらない。物語の中で生き続ける彼らは、彼らなりに懸命でプライドもあって、譲れないものもある。愛する人がいて、心に留める人がいる。
物語の中で語られない部分、さらにその先も、ああ生きてるんだな、と感じられるところが面白いです。「人間の可能性」を追った織田さんの書くものは、地に足のついた、それこそその辺りを歩いている誰かであって、しかも誰でもない。でも「生きている」、彼の小説の中で。ちょっとした登場人物の行動が地に足をつけているというか、言い方は悪いけれど泥臭い。でもそこが持ち味で面白いところだと思うのです。そんな感じの批判を文壇から受けたそうですが、そんな描写が出来るのは織田さんがきっと人間のことを好きだからなんじゃないかなーと。根底にそれがあるから、泥臭いけど汚くはない。そう私は思っています。
ーと、そんな言葉のうらを坂田は湯気のにおいと一緒に胸に落とした。 『雪の夜』/織田作之助 青空文庫
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confeitoblue · 8 years ago
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雪の夜/小林多喜二
多喜二さんの小説が読みたい、だがしかし蟹工船はまだ心の準備が出来ていない……と思った時に見つけたのがこの小説。もう一個、「独房」も読みましたがそれはまた次に感想書きます。
で、雪の夜、なのですが。この小説を私は何故か何度も繰り返し読んでいます。寒い夜とか読みたくなる。あともやもやした気分の時。文章は読みやすいです。心理描写もわかりやすい。というか、これも先入観で、多喜二さんの書くものは難しそう……というイメージがあったんですが、見事に打ち壊されました。読まずに決めるのやっぱりよくないね。
冒頭の描写からとても好き。自分の家に帰るのが馬鹿らしくなることあるわ、みたいな感じで妙な共感を覚えた。その後主人公はもだもだして家に帰らないのですが、その表現が大変好みです。気にし過ぎ!という場面もあるんですが、何故彼がこんなもだもだしてるのかわかったら、ああ、そうだね……と納得。日々の生活に対して、夢を追いかけるのか地道に暮らすのか悩むところとか、誰だってあるよねという心の揺れ動きを或る意味真摯に書いてくれていて。最終的に、主人公は最後までもだもだしてます。スカっとは終わらない。でもそれが逆にリアルで、こんなに共感が湧くのかなと。
主義や思想などは私にはわからないけれど、しんしんと積もる重い雪が夜の道を埋めていく様が頭に浮かぶ、そんな小説でした。
ー汽車はもうなかった。   『雪の夜』/小林多喜二 青空文庫
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