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[第五話 兄弟簪]
「これにて一件落着」
漢前之新はそう言うと、泣きじゃくっている女、多恵にこう付け加えた「多恵よ、幸せになるがよい」
店は目抜き通りにあった。女物の着物、櫛、簪などを扱う店である。そこは主人である太郎兵衛と長男で跡継ぎである朔太郎によって切り盛りされていた。
次男である惣一郎は根っからの遊び人として有名であったが、亡き母に似、顔立ちは整い、冷たいところのある兄と似ず、小さいころよりやさしい子として母に育てられており、店で働くものたちにとっての一服の清涼剤のようなものであった。
そしてもうひとつ。この店で有名なのがお多恵。身寄りのないところを太郎兵衛が引き取った体である下女なのだが、何よりの器量よし、ちまたでは有名であった。
「多恵、こんなにも手にあかぎれがあるではないか、薬を塗ってあげよう。おいで」惣一郎は誰にでも優しい。多恵も店のものたちもそれを知っている。世間で美男美女の恋人同士とささやかれてもおかまいなし。店のものでも女たちなどは「多恵にやさしくするぐらいなら私たちにもっとやさしくあるべきだ」と揶揄するものたちがいたが、それが多恵の心労になるということぐらいが悪い点であり、多恵はいつものように頬を赤らめながら「はい、すみません」と答えるのだ。
ある日のこと、数少ない娯楽、祭りが近づいてきたときのことである。朔太郎が多恵を呼び出した。すると、おもむろに一本の簪を多恵に渡しこう言った「多恵は器量もよい、妹を思うような気持ちであるからして遠慮はするな。祭りも近い。誰か想い人と出掛けるとよい。」
多恵は幸せからは縁遠かった。なまじ器量がいいから人から避けられる。そうした朔太郎の行為の意味もわからず、朔太郎の見せる背中に父の背中を見た。だが朔太郎には許嫁がいる。多恵は簪を大事に引き出しにしまうとそんな自分に少し微笑んだ。私は天涯孤独なのに、と。
惣一郎は叫んだ
「兄者!!あなたには言わなければならないことがあるはずだ!!」
おしらす。多恵の引き出しが他の女中に見られ、こんな高価な簪を下女が持つのは盗んだに違いないと引っ立てられたのである。
朔太郎はその時、何も語らなかった。
だが惣一郎に叫ばれた時、朔太郎はやれやれと言うおもむきでこう叫んだ。
「惣一郎!!お前にこそ何か語るべきことがあるのではないか!!」
惣一郎は考えた。必死に考えた。そんな高価な簪、人知れず扱えるのは朔太郎でしかない。必死に考えた後、こう述べた。何をすべきかわかったのだ。
「犯人はわたくしであります。多恵に簪をあげました。黙っていたのは多恵の本心を知るのが怖かったからであります。嘘ではありません。」
多恵はハッとし��顔をし、朔太郎の顔を見る。朔太郎は頷いている。
多恵は泣いた。酷く泣いた。「朔太郎さま、惣一郎さま、多恵は幸せでございます」
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サマンサ!待ちなさい。
彼女は飾られている花という花、すべてを枯らし、ドライフラワーと変えた。
「私は生と死を司る魔女」
すべては美しいまま、時間なんて止まってしまえばいい。
サマンサと呼ばれる少女は家を飛び出した。
メアリーもお母様もみんなみんな意地汚い奴らと付き合って死んでしまえばいい。私が二人を守ってあげてるのに、私がとどめおく美しさなんてどうでもいいのよ。
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おかあさん、カーネションのプレゼント!!
まぁ、でも一本だけ枯れているわね。ドライフラワーかしら。
それをこう。手袋を外し少女が手を触れると花が生き返った。
何を意味しているのかしら?サマンサ?
咲き誇る花たちの中で枯れた花は捨てられる。メアリーが虐められているの。私が守ってあげなきゃ。
そうね、ありがとうサマンサ。
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サマンサの頬を涙が伝う。
おかあさま‥‥‥。
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トニングはゴードンと名乗った騎士に聞く
「君は三歩進んだら、僕に恐れを為して逃げるだろう」
ゴードンはそれを笑い飛ばしずんずんと進む。
するとどうだろう。三歩進んだ当たりで元たっていた場所まで戻ってしまった。何度もそれを繰り返すゴードン。
「おのれキサマ何をした!」
怒るゴードン。
トニングは笑いこう言う。
「ゴードン殿はやはり私を恐れているようだ。」トニングの率いる王国軍の大喝采。
王国の魔法図書館 トニングの魔法より ”さんぽからかえる”
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僕は病院にいる。
詳しく話さねばならない。
28日前
Love cinemas
本文
ending
「ラズベリーケーキはいかが?」
「今の気持ちを誰に伝えたいですか?」
僕は緊張の中ぼやけた世界にいた。
授賞式だ。
僕が書いた小説が飛ぶように売れ、こうなった訳だが、僕の方に自覚がついてくるのに時間がかかっている。
「今の気持ちを誰に伝えたいですか?」
「ス‥スタローンに」
「シルベスタースタローンさんに。」
口をついて出てきたのは、尊敬する映画俳優の名だった。
間違った訳じゃない。間違った訳じゃないけれど、そう答えてしまったものはそうなのだ。
琴音が不審な動きをするのはそのころからだった。今思えばかわいらしいのだが。僕らは一ヶ月程苦しんだ。
概要を話そう。
授賞式を終えて3日程後、日記があるのでその写しをここに記そう。
10月3日
琴音が遊びにきた。執筆中だったので居間で好きなDVDでも観てるといいよと言ったら、黙って家を出ていく。
戻ってきた。戻ってきたと思ったら書斎のドアを「バァアアアアン」と開けて、(口で言ってる)DVD借りてきたと一言。一緒に観ると言って聞かない。
で、何のDVDかと言うと
「バトル・フィールド・アース」
(ちょ‥これ、何故に今!?)
一緒に観たのだが‥一緒に観たのだが‥二人して終始沈黙が時間を押しつぶした。
10月10日
琴音が遊びにくる。
「ユニバーサルスタジオジャパンに行きたい?
それともアフガンに行きたい?」
(ちょ…それ、何故に今!?)
「アフガンには一度は行ってみたいね。遺跡とか。バーミヤン渓谷。」
琴音はすごく不機嫌そうに
「バーミヤン行こうよ、バーミヤン」
中華料理チェーン店バーミヤンにて夕食。
帰り道、DVDを借りる。
僕は「アメリ」
琴音は「ウォーターワールド」
この頃から僕は琴音を疑いはじめる。
それからの一ヶ月間のこと
僕らが観たDVDを羅列しよう。
「バトルフィールドアース」
「アメリ」
「ウォーターワールド」
「ハドソンホーク」
「ポストマン」
「ワイルドワイルドウェスト」
「バトルシップ」
以上。
僕が借りた「アメリ」以外が皆ラジー賞。
僕の疑いは確信へと変わる。
ちょうど琴音の誕生日が11月2日だったので。何か怒らせてしまったのか、謝りついでにケーキを買って家で待ち合わせ。
「季節のフルーツタルト」
奮発した。
「スタローンの誕生日忘れてなかったんだ。」
琴音の第一声
僕の頭は思考を停止した。
(えっ、スタローンの誕生日って今日だっけ!?)
(スタローンスタローン…僕がそれを耳にしたのも口にしたのも授賞式以外考えられない。)
(「やっちまったなぁ」どこからかお笑い芸人が飛び込んできた)
「スタ…スタローンさんですか?」
僕は生まれ落ちたガゼルが必死に立とうとするように質問した。
「そう。わたしのおかげで小説が売れたでしょ。わ・た・しに気持ちを伝えるべきでしょ」
そう、これが僕ら二人の一ヶ月間を超える苦しみのあらましです。
西方等 エッセイ11月号「ラズベリーケーキはいかが」より
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今を大事にすることだライト。エスキースは大事だ。
僕らが行くところは地獄でも天国でもない。
在りし日の記憶の寄る辺。
ほら、雪が降ってきた。
僕らが何処に行くかはわかるね。其の本流。
みんな。笑うところだここは。
ありがとうライト。ライトをよろしくブライ。
「西の帝国と王国」より
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Love cinemas
これはペン太を信じた人間、もしくは知らなかった人間、そして信じてみようとした人間がもたらした神の啓示である。(改訂版)
男は言った。
何だか思いだしたように白鯨について考えていた。
映画の白鯨。
おおまかにわけて
エイハブ、スターバック、その他。
このみっつ。
スターバックは白鯨を「鯨」だと受け入れた。
「鯨捕りが鯨を捕らないでどうする」
と、最も人間を人間足らしめる理由をもって白鯨に向かう。
これは信仰。
その他は白鯨を神の化身としている。
偶像そのもの。
それを恐れ立ち去ろうとする。
これは信仰のもつ姿ではない。
エイハブは憎んでる。
白鯨の向こう側を。
偶像を恐れない。
信仰のもうひとつあるべき姿。
信仰の一歩手前、それとも一歩向こう。
その狂気性。
その男、啓司に捧ぐ。
僕、いや私か。
私は今、小説を書いている。
ペンネーム・ハンドルネームはカタコト。
何時だっただろうか、メッセージが届いて
それからメル友になったペラペラさんと言う方がいる。30代のOLさんだそうだ。
私はついつい嘘をついた。
「私も30代のOLですと。」
それ以来ものを書くのが楽しくなった。
寸評を貰うのだ。
題:悲しいことがありまして
本文:今日の天気はいかがですか?
今日は仕事でやりきれない事があってちょっと凹んでいます。そんな時には読書が最適です。
有名じゃないですが、芥川順平さんの詩を置いておきたいと思います。私好きなんです。
「きっと枯れないでね」「きっと枯れないでね」と
声をかけた そのひとはけっして なにも 見失わない
だから そんなのみこまれてしまうような ことばを口にするのはいよいよ泣いてし まうときじゃないかとはらはらしていると そのひとは笑っていたから それを見たぼくの目にはのみこんだ はずのことばがあふれでて それでそれから そのひとはそんなぼくを見るなり困ったような顔をすると ふいに泣いてしまったから つまりは ぼくのやせがまんとそのひとのがまんはいつだってちぐはぐにこわしあって だから例のごとく こまったぼくは やはり 天気のはなしをはじめ そして つまり そのひとは微笑み もちろん ぼくだって笑った だって さっきまで泣いていたものだから ただただするりとぼくらのてからこぼれおちた それは直ぐにかたちをまとい、それゆえこわれるのです。ことばとなったわたくしのこころは現実に寄り添い、ただくだけるのです。その音が、その響きが、あまりに悲しいのでわたくしなど涙が流れ落ちてしまうのです。ただ悲しくて鳴き、可笑しくなり笑うのです。わたくしが知っていることなどたったそれぐらいのことなのです。 芥川順平
題:カタコトさんへ
本文:奇麗です。
芥川順平さんと言う方にすごく興味を持ちました。調べてみたのですが有名な方ではないのですね、見つかりませんでした。
読んでいてちょっと涙ぐんでしまいました。
そういうわたしもやはり天気の話をするのでしょうか?
今日は晴れています。
そして私は今、少し笑っています。
僕、いや私か。
彼女との文通は楽しい。
僕の感情が、鏡と向き合っているようで。
題;小説を書いてみました。”ペン太の伝説”という。
本文:ぺらぺらさん。私、実は小説家を目指していてペン太の伝説と言う話を書きました。
感想が聞きたいです。
作品はpdfで添付しておきました。
よろしくお願いいたします。
ペン太の伝説 left alive
「あーー退屈で死にそーー。」
知恵は言葉ばかりではなく態度でそれを示すから厄介だ。
啓司はいつも諭す役。
「君ねぇ、死ぬなんて大層な言葉をそんなに簡単に使うものじゃないよ。」
「ペン太なんかはこんなにも暑い中、ほら散歩してる。」
知恵は不思議でたまらない。啓司がいっつも口にするペン太が。
「ひぃふぅみぃよぉやぁどれがペン太なの?」
啓司は作業を続けながら答える。
「どれをとってもペン太だよ。でも僕があれがペン太だと言えばあれがペン太なんだ」
それ自体は重要なことじゃなく、理解は常に誤解の総体であってね。」
暫く眉をへの字にしていた知恵は
「あ、それウケウリって奴だ。リカイハツネニゴカイノソウタイデアル。って何処かで聞いた。」
啓司君、知恵ちゃん、お昼休み行っといでーー。
ここは北海道、辺鄙な土地にある水族館、啓司君も私もアルバイト
として働いている。お昼休みは大概売店で売っているものですます。
お弁当を持ってきている人も多いが、所帯染みていやだ。
若者は若者たれって感じかなぁ。
そこらへんは啓司君と以心伝心だ。
啓司君はいつものベンチでいつものジャムパンを頬張りながら
いつもの牛乳を流し込んでいた。
昔聞いたことがある。イチゴ牛乳を買って他のパンを買った方が
色々な味を楽しめるのじゃないかと。
啓司君は
「ふーん」としか言わない。
私は今日、メロンパンとイチゴ牛乳。
「このセットどうでしょう?」
とたずねると
鼻で笑いながら啓司君
「アウトレイジ ビヨンドって感じかな。」
私は何か悪いことでもしたのか、笑えない。
「何でヤクザものなの、もっとほらサウンドオブミュージックとか。
奏でる味のハーモニーが。」
鼻で笑いながら啓司君。
「メロン熊か・・・。気分で決めたセットなどその程度だ。」
笑えない。実は気分だったのだ。
それは突然のことだった。彼が仕事を辞めると言い出したのだ。
就職先でも見つかったのかというとそうでもないらしい。
「知恵ちゃんには何か話すんじゃないのかい。」
とパートのおばちゃんが
聞いてご覧よというものだから聞いてみたら。
「ペンギンのボールペンが発売中止になったから辞める」
の一点張り。
いい職場なのに。私はペン太のこともよく知らない。
あれからどれだけたったろう、仕事の合間にこうして当時から今を
振り返って色々書いている。ペン太にだって話しかけている。
飼育員のおじさんにどれがペン太なのと聞くと決まって
「それは君が決めればいいじゃないのかい」としか答えてくれない。
教えてくれる人もいなくなった。
退屈だった。ずっと退屈だった。
そんな毎日を過ごしていた。
ところが、ある夜、私は気づいた。今は「目覚めの日」と言っている。
ペン太のボールペンとにらめっこしていたら気づいた。
あぁ独りぼっちなんだこのペン太は。
リカイハツネニゴカイノソウタイニスギナイ。
男は待っていた。人知れず待っていた。独りぼっちで。
独りぼっちの哲学者。
私はそれから何かに取り付かれたように小説と言えるかどうかのお話を書いた。
それがこれ(改訂版)
啓司君に追いつきたくて、知って欲しくて。
後日談
ペンギンのボールペンの再販が決まった。
本屋があった。いっつも啓司君が買う本には丸藤堂という袋に入っていた。
小説を書いた。それなりに売れた。
私は決心をしてその本屋に向かった。足取りは軽やかだ。
哲学書のコーナーに向かうと、スニーカーにコートの啓司君がいた。
嬉しかった。やっぱりいたんだ。
「やぁ啓司君、先生と呼んでおくれよ」
私が声を掛けると、
「やっぱりか。あの本は読んだ。これあげるよ。毎日通ってたんだ。貰い物でよければ。
ジャムパン。ジャムパンの工場で働いているんだ、今。」
そう、苺だ。苺のジャムパンだ。何も変わっていない彼がいた。
素敵、やっぱり素敵。
彼は水族館に復帰した。
私の発案��オットセイのオット君の下敷きの発売が決まったことは秘密だ。
(再改訂版)
私はこの独りぼっちの哲学者を知っている。
キラキラしているのだ。呼吸をするように。
題;ペン太の伝説、感想。
本文;
会いたいです。あって感想を話したいです。
カタコトさんに憧れています。
今度の土曜日、13:00ハチ公前で。
私は赤いワンピースに赤い傘を持っています。
私のことが醜いと思われたなら、どうぞ通り過ぎて下さい。お願いします。
PS:
私は嘘をついていました。
本当は23歳のフリーターです。
すみません。
題:カタコトさんへ、ペラペラから
本文;
初めましてカタコトさん。カタコトさんと言うハンドルネームがかっこよくて私も真似をしてしまいました。ペラペラと申します。30代のOLです。カタコトさんのブログに出てくる作品が好きで仕方がないのですが、何処を探してもないのです。ブログ楽しみにしています。それだけが伝えたかったのです。よろしければメル友に。よろしくお願いいたします。
もう、待ち合わせの時間に��っている。
が、僕は家にいる。
後一本煙草を吸ったら‥‥。
ハチ公前に行ってみよう。
彼女が帰った後を見届けよう。
スプートニクの恋人‥‥持っていくか。
付箋が挟まっている。
「理解は常に誤解の総体に過ぎない」
待ち合わせの時間だ。
カタコトさんに会える。きっと会える。
そうしたら言うんだ。
”あなたはきっと小説家になれる”
交差点の信号を待っていた。
赤いワンピースに赤い傘。彼女はまだ待っていた。
急がなくては‥。
伝えたいことがある‥。
”君は醜くなんてない”
”車との衝突音”
待ち合わせ時間からもう六時間経っている。
私は空をあおぎ呟いた。
「悲しくなんてない。私、悲しくなんてない。」
endroll
題:君に伝えたいことがある
本文:僕は脱サラして小説家を目指している31歳の男です。今、帝都大学病院の304号室にいます。
よろしければ見舞いにきて頂けないでしょうか?
よろしくお願いいたします。
ps:芥川順平も僕が書いたものです。
あなたによこした散文や詩はすべて。(笑)
「会える」
カタコトさんと会える。私は走った。
スプートニクの恋人に付箋を入れて。
304号室の名札には”西方等”とある。
「カタコトさんですか?」私は入室する。
「やぁ、ぺらぺらさん」
「ぺらぺらさん、あなたは醜くなんてない。言っておきたかった。」 「カタコトさん、あなたは小説家になれる。そう言いたかった。」 「ふぅ」二人は溜め息をつく。 「ありがとう」二人は同時に言う。
「ぺらぺらさんはハチ公物語って日本映画を知ってる?」
「うん。悲しい話ですよね」
「僕はね、小さい頃見て悔しくて悔しくて泣いたんだ」
「僕は今そのためにここにいる」
「ぺらぺらさんの名前は?」
「西方等さん、私の名前は平琴音です。」
「そうか、病室の名札か。」
「僕は変わり者でね……」「私も……」
机に置かれた2冊のスプートニクの恋人
雑談は続く
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王国の魔法使い
昔々、遠くの昔。 西の森というところに一人の魔女がおりました。 お話と言えば例の如く、彼女はたくさんの手下を使い近隣住民に多大な迷惑をかけておりました。
ある日、一仕事を終えた手下Aは一人で泣いている女の子を発見します。 「ん、こんなところに生き残りが、何とも目障りな、始末せん。」 そう思い剣を振り上げたところ‥
そこに丁度居合わせた手下Bが何やら止めに入ります。 そしてこんなことを言うのです。 「男を殺すのも女子供を殺すのも構わない、しかし‥ひとりぼっちの子供を殺すのは見過ごせん」
A「何を抜かすかこの老いぼれが!」
B「何を言うかこのキノコ頭が!」
A「なにをぉ」
そんなこんなで仲間と大喧嘩してしまった手下B 後悔後先に立たず魔女やその仲間から追われる身になってしまいました。
そこにはじまるは 一人と一匹の逃亡劇。
王国はそこにあった。かつて隆盛を極めた都市や街。
西の帝国との確執。
老婆は語った。其の孫たちのために。
王国の魔法使い。
出で立ち���犬、其の剣士は人の形を為した犬だった。
ソフィーと名乗る少女を助けたのは其の異形のもの。
ノベスヤンに着いた頃には夜になっていた。
人外の獣である犬は少女にこう告げる。
「もうわたしに用はないだろう。元気でやるとよい。」
するとおもむろに少女は村人たちにこう叫んだ。
「この異形のものたちがわたしの街を滅ぼしました。
どうか、どうか、仇を討って下さい。」
村人からの石つぶてをもらい
たじろぎながらその場を離れようとする犬に対して
少女は叫ぶ。
「あなたにとって正義って何?」
犬はこう答える
「某の経験値、それに”間違えない”ということの方が大事だ。」
ソフィーと言ったな。
「何故かはわたしも知らない。が、
そうするほかなかったのだ。」
少女は頷きもせず
「ならわたしもそう。
それなのにあなたは何も考えないのね。」
少女は立て続けに話した
「連れて行って欲しいところがあるの」
「それとこれはあなたとわたしだけの秘密」
「わたしの本名はマリ。」
「でもソフィーって呼んで」
犬はふんぞり返って聞いた。
「どういった意味があるのだ。そんなことに。」
少女はからかい気味に笑うと
「何故かはわたしも知らない。が、
そうするほかなかった。でしょ。」
要塞都市ツヴァイクに着く。
甲冑を着た女性が二人を視界に認めると
「そこの女の子、隣にいるのは唾棄すべき異形のもの」
「誘拐か?そうならば我が刃のつゆとしてくれる」
と叫ぶ。
犬は当然のこと
「この子を守るためにそばについている」と語る。
ソフィはこう切り出す。
「それはわかりません。」
女は言う「誘拐か、私はクジャと言う。名乗れ犬!」
犬は驚いてソフィーに聞く
「違うのか?」
ソフィーはクスリと笑って呟く
「用心棒になるだけの腕はある?」
「我が輩はルイとなづけられしもの。」
「ソフィーを守る剣として貴殿に勝たねばならんようだ。」
クジャは言う。
「面白い、決界の間で勝敗を付けようではないか。」
「我が城にくるがよい。」
キィイイン、キィイイン(剣がぶつかる音)
{戦闘描写}
「クジャとやら、なかなかやるな」
犬はそう言うと付け足した。
「其の妙なドレスで膝の屈折を隠している」
「剣の軌道が延びてくるのはそのせいだろう」
「当たりか?」
クジャはそれを受けて答える。
「ご名答、異形のものよ。いやルイか。」
「お互い手は出し尽くした。引き分けでよい。」
「ソフィーと言う子は聡明な子だ。大切にせよ。」
その後、誰にも聞こえないような声で
「大奥様の語っていた通りだ‥‥」
「貴殿らは私とともに王国へ」
クジャは手短にそう言った。
ソフィは「わかっています」
と答えると不安そうに犬を見る。
犬「かつて我が仕えし主にとって‥つまり我が輩たちの敵の本拠地か‥‥」
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王国の魔法使い
一本の槍が犬の腹を突き刺した。
倒れ込みそうになりながら
ルイと呼ばれた犬は立った。
真実を告げるために。
光の剣で周囲の敵を蹴散らすと
メアリーの前に立った。
我が輩はあなたの僕になってしまった。
あなたが”トモダチ”が欲しい願ったのに。
あなたを審判するすべてを切り払い、あなたに与えることのできる友情をすべてこの剣に込めてあなたを解放しよう。
そうするとメアリーの胸に光の剣を突き刺した。
金色星に囲まれたメアリーの父、母が姿をあらわす。
メアリー、私のメアリー、辛かったでしょう。やるせなかったでしょう。
すまないメアリー、愛する子よ、君を守りきれなかった。
私、私は。とメアリーは正気に戻る。
ルイよ、貴殿の友情、確と受け取った。
貴殿を侵した過ちに関して助けねばなるまい。
そういうとメアリーの父は槍を操り抜くとルイの傷は塞がった。
ぷかぷかどんどん
トニングとガネーシャの
驚かせ団だよ~
大奥様は孫であるメアリーとの仲直りがしたかったんだ。ルイとソフィーがその鍵を握っていた。
ハイエナが言う。オセェツツうんだよ。
オオカミが言う。復活の祭壇か、時間は後どれくらい許すんだ?
トニングは言う。後3分ぐらい。
そう。ガネーシャは言う。
メアリー、どうかな僕らの提案をのんでくれないかい。君に降った不幸。黒豹の魔法の盾で守ってもらうんだ。黒豹はどうだい?
黒豹は語る。問題ない。
それはもう父上が語っていた。
わたしの領分だろう。
ハイエナ、時間がもうネェゾいいたいことあるんじゃないのか?
うん、そうだね。
僕の息子ライト
私の息子ブライ
かわいくて仕方がないんだ。
ふたりのことをどうかよろしくお願いしたい。
僕はライトに嘘をついてしまった。
初めてで最後の嘘になる。きっとライトは人目につくところで泣かないとは思うけど宜しくわかってやって欲しい。
ブライは私の死を英雄の死と言うだろう。
背中は見せたつもりだ。
私は泣くなと言った。だから彼は泣かなかった。
これから私の不在に気づき泣く事があっても責めないでやって欲しい。
ハイエナは言う。そうだな。
ぱぷーどんどん。
これが最後、
僕ら皆トモダチ、トモダチだよメアリー
すべては大奥様の御心のママに。
音が聞こえる。門番の声が��父上母上の声が。
じゃぁ僕らはここら辺までのようだ。
母上父上、何をそんなに泣いていらっしゃります。母上父上何故そんなに泣いていらっしゃります。
姿が煤けてきえていく。
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王国の魔法使い
ガネーシャはトニングに渡されたクルミの種をまいた。 するとどうだろう 一本のクルミの木が育った。 これで苦しみから解放されるであろう。 生と死を司る東の国の魔女よ
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王国の魔法使い
ライトは戴冠式に立った。
ブライは戴冠式に立った。
ブライのつがえた弓、矢は蕾を持ち奇妙な形だった。
ブライは矢を放つ、魔法で放たれた弓は天に向けて放たれ大きな弧を描き石畳をうがち華麗に立った。
ライトは魔法を唱える。
するとどうだろう、戴冠式上の蕾だった花々が咲いていく。
矢の蕾もそうだった。
二人は玉座に向けて歩き出す。
道すがらブライは石畳に刺さった矢を抜く。
玉座にまで辿り着くと、玉座の隣に座っていた
大奥様に矢を捧げるとこう言う。
「ヘーゲルの花はおいやですか?」
ライトは自慢げに立っている。
大奥様はそれを見ると涙し、
「何て子等なんでしょう」と笑った。
聴衆は「ブラボーブライ」「モアライト!モアライト!」
と賛辞を送り続けた。
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王国の魔法使い
「これ、大奥様に」
「まぁ奇麗なお花が咲いたわね」
「なんと言うお花?」
「ヘーゲルの花だよ」
「この子ったら、何て言う子なんでしょう。」
「えへへ。」
トニングと大奥様の会話
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ぺン太の伝説
これはペン太を信じた人間、もしくは知らなかった人間、そして信じてみようとした人間がもたらした神の啓示である。(改訂版)
男は言った。
何だか思いだしたように白鯨について考えていた。
映画の白鯨。
おおまかにわけて
エイハブ、スターバック、その他。
このみっつ。
スターバックは白鯨を「鯨」だと受け入れた。
「鯨捕りが鯨を捕らないでどうする」
と、最も人間を人間足らしめる理由をもって白鯨に向かう。
これは信仰。
その他は白鯨を神の化身としている。
偶像そのもの。
それを恐れ立ち去ろうとする。
これは信仰のもつ姿ではない。
エイハブは憎んでる。
白鯨の向こう側を。
偶像を恐れない。
信仰のもうひとつあるべき姿。
信仰の一歩手前、それとも一歩向こう。
その狂気性。
その男、啓司に捧ぐ。
「あーー退屈で死にそーー。」
知恵は言葉ばかりではなく態度でそれを示すから厄介だ。
啓司はいつも諭す役。
「君ねぇ、死ぬなんて大層な言葉をそんなに簡単に使うものじゃないよ。」
「ペン太なんかはこんなにも暑い中、ほら散歩してる。」
知恵は不思議でたまらない。啓司がいっつも口にするペン太が。
「ひぃふぅみぃよぉやぁどれがペン太なの?」
啓司は作業を続けながら答える。
「どれをとってもペン太だよ。でも僕があれがペン太だと言えばあれがペン太なんだ」
それ自体は重要なことじゃなく、理解は常に誤解の総体であってね。」
暫く眉をへの字にしていた知恵は
「あ、それウケウリって奴だ。リカイハツネニゴカイノソウタイデアル。って何処かで聞いた。」
啓司君、知恵ちゃん、お昼休み行っといでーー。
ここは北海道、辺鄙な土地にある水族館、啓司君も私もアルバイト
として働いている。お昼休みは大概売店で売っているものですます。
お弁当を持ってきている人も多いが、所帯染みていやだ。
若者は若者たれって感じかなぁ。
そこらへんは啓司君と以心伝心だ。
啓司君はいつものベンチでいつものジャムパンを頬張りながら
いつもの牛乳を流し込んでいた。
昔聞いたことがある。イチゴ牛乳を買って他のパンを買った方が
色々な味を楽しめるのじゃないかと。
啓司君は
「ふーん」としか言わない。
私は今日、メロンパンとイチゴ牛乳。
「このセットどうでしょう?」
とたずねると
鼻で笑いながら啓司君
「アウトレイジ ビヨンドって感じかな。」
私は何か悪いことでもしたのか、笑えない。
「何でヤクザものなの、もっとほらサウンドオブミュージックとか。
奏でる味のハーモニーが。」
鼻で笑いながら啓司君。
「メロン熊か・・・。気分で決めたセットなどその程度だ。」
笑えない。実は気分だったのだ。
それは突然のことだった。彼が仕事を辞めると言い出したのだ。
就職先でも見つかったのかというとそうでもないらしい。
「知恵ちゃんには何か話すんじゃないのかい。」
とパートのおばちゃんが
聞いてご覧よというものだから聞いてみたら。
「ペン太のボールペンが発売中止になったから辞める」
の一点張り。
いい職場なのに。私はペン太のこともよく知らない。
あれからどれだけたったろう、仕事の合間にこうして当時から今を
振り返って色々書いている。ペン太にだって話しかけている。
飼育員のおじさんにどれがペン太なのと聞くと決まって
「それは君が決めればいいじゃないのかい」としか答えてくれない。
教えてくれる人もいなくなった。
退屈だった。ずっと退屈だった。
そんな毎日を過ごしていた。
ところが、ある夜、私は気づいた。今は「目覚めの日」と言っている。
ペン太のボールペンとにらめっこしていたら気づいた。
あぁ独りぼっちなんだこのペン太は。
リカイハツネニゴカイノソウタイデシカナイ。
男は待っていた。人知れず待っていた。独りぼっちで。
独りぼっちの哲学者。
私はそれから何かに取り付かれたように小説と言えるかどうかのお話を書いた。
それがこれ(改訂版)
啓司君に追いつきたくて、知って欲しくて。
後日談
ペン太のボールペンの再販が決まった。
本屋があった。いっつも啓司君が買う本には丸藤堂という袋に入っていた。
小説を書いた。それなりに売れた。
私は決心をしてその本屋に向かった。足取りは軽やかだ。
哲学書のコーナーに向かうと、スニーカーにコートの啓司君がいた。
嬉しかった。やっぱりいたんだ。
「やぁ啓司君、先生と呼んでおくれよ」
私が声を掛けると、
「あの本は読んだ。これあげるよ。毎日、丸藤堂に通ってたんだ。貰い物でよければ。
ジャムパン。ジャムパンの工場で働いているんだ、今。」
そう、苺だ。苺のジャムパンだ。何も変わっていない彼がいた。
素敵、やっぱり素敵。
彼は水族館に復帰した。
私の発案でオットセイのオット君の下敷きの発売が決まったことは秘密だ。
(再改訂版)
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王国の魔法使い 始まり
昔々、遠くの昔。 東の森というところに一人の魔女がおりました。 お話と言えば例の如く、彼女はたくさんの手下を使い近隣住民に多大な迷惑をかけておりました。
ある日、一仕事を終えた手下Aは一人で泣いている女の子を発見します。 「ん、こんなところに生き残りが、何とも目障りな、始末せん。」 そう思い剣を振り上げたところ‥
そこに丁度居合わせた手下Bが何やら止めに入ります。 そしてこんなことを言うのです。 「男を殺すのも女子供を殺すのも構わない、しかし‥ひとりぼっちの子供を殺すのは見過ごせん」
A「何を抜かすかこの老いぼれが!」
B「何を言うかこのキノコ頭が!」
A「なにをぉ」
そんなこんなで仲間と大喧嘩してしまった手下B 後悔後先に立たず魔女やその仲間から追われる身になってしまいました。
そこにはじまるは 一人と一匹の逃亡劇。
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