Tumgik
hoshicham · 7 months
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「In my dream」
毎日何処か退屈で、物足りなさを埋め合わせるみたいに、夜の街に繰り出す人々。言語が同じでも同じ言葉を持っているわけじゃないから、人と分かりあうのは難しい。
暗く狭い箱の中、心臓に重く響く音と乱反射した光を浴びながら、恍惚と夜の海を泳ぐ彼女を見つけた、夢の中でなら随分前から会っていたような気もする。言葉に内在された時間の余白と呼応するように同じ言葉を持って彼女と出会うことができた。
夜通し遊び、ふたり同じ家に帰るときに見た、だんだんと染まりゆく朝焼け、それから逃れるように眠りにつき、彼女の部屋のカーテンの隙間から漏れる夕暮れの色は、永遠に私たちの世界を、柔らかに包み込んでいる。それでも隣にいる彼女の全てを知り得ることはできない。壊れそうなほど華奢な身体を抱きしめる度に、感じる切なさはその不可侵な領域だろう。彼女の強く美しい精神がこんなにも小さな身体に包まれていたことを知る度に何故だか途方に泣きそうになった。
虚な瞳の中に隠された穢れのない心がいつまでも透明なままでありますように。手を離したら何処か遠くへ行ってしまいそうで不安になる、きっと一人で夢を見ているんだ。遮るものなどなく果てしなく澄んだ空を、風になる夢を。
柔らかな午後の陽射しが降り注ぐ草原で、瑞々しい匂いのなかに寝転び、目を瞑る彼女の長い睫毛を眺めていたい、赦しのような優しい笑顔を曇らせるものなど何もない世界で。
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hoshicham · 7 months
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「緑とオレンジを閉じ込めた六畳」
虹色の蛍光灯が光る街を走り回ったあの日。柔らかそうな栗色の髪の毛を宙に浮かせて、きっとこの惑星は彼女のために生まれたに違いない。ぱっと現れて、流れ星のようにどこかへ行ってしまう。彼女といると夜に浮かぶ月も、昼を照らす太陽でさえ手が届きそうな気がする。ご飯を食べた数時間後に換気扇の下でなんとなく始まる会話が好きだ。まあるく弧を描く沈黙が私たちを優しく包み込むあの時間も。彼女がひとりで目を覚まして寂しい思いをしないように、月曜の朝は他の平日より少し遅く家を出る。どうしようもなくなった夜、時たま彼女を思い出す。オパールの結晶になった彼女はそのままオーロラを夜空に浮かべて、私は勢いよくその夜空をロケットとなって泳ぐのだ。何よりも速く。スターターピストルが爽快に音を上げる。グラウンドを走る彼女をただずっと見ていた。
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hoshicham · 8 months
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「生命を宿すスペースデブリ」
パリ、と何かが割れる音で目が覚めた。左頬を掠める風を追って、窓に辿り着く。この窓から見えるのは年中真っ白な雪景色で、それ��外何もない。雪景色の真ん中に小さく線が飛んでいる。窓ガラスに罅が入っていた。普段より冷たく感じた空気の要因はこれだった。罅の重なった部分の小さく空いた穴を軽く指で押すと、ガラスの破片が砂のようになって人差し指にくっついた。親指で擦って乱雑に破片を落とす。その辺のテープを貼ってなんとか誤魔化したけれど、なんだか情けなく感じてすぐ剥がした。小さな隙間を通してピーピーと冷たい空気が鳴っている。どうにかしてくれと悲鳴を上げているみたいだったけど、私は何もできずにぼーっと外の白を見ていた。雨が降るとこの景色は灰色になって、曇り空と同化して一面一色になってしまう。おばあちゃんが言うには、昔、このあたりは暖かくなると緑が生い茂って、空の青と大きな太陽とでいっぱいになっていたらしい。その景色を見たことがない私は、ふうん、と適当な相槌をするしかできなかった。でも、それ以降ずっと待っている。しっとりとした新緑の葉っぱに澄んだ青、目を瞑ってしまうほど眩しく輝く太陽。もうずっと、ずっと長いこと待っている。
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hoshicham · 10 months
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「揺らぐ小胆」
がたんごとん、車輪が軌条の継ぎ目を通過する音が静かな電車内に跋扈している。窓の外から見える住宅街はひたすら続くように感じられる。いつからか、祖母の耳はあっという間に遠くなって、電車内で会話をすると周りの人に一瞥されるまでになってしまった。元から小さく丸まっていた背中はもっと小さくなった。綺麗な夕焼けだねえと祖母がつぶやく。言葉にはしないが、痴呆が進み始めた祖母を、子供部屋の隅っこに置いてあるぬいぐるみみたく扱う叔父夫婦の家に帰したくない。この景色が緑に変わり、また住宅街を映し出す頃、祖母は気を遣った笑顔を貼り付ける。毎度その笑顔を見て、途端に悲しくなる。たまにどこかへ連れて行くくらいしかできない自分も叔父夫婦と変わらないのに。ぎゅうと皺の増えた小さな手を握る。握り返す手は力無かった。
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hoshicham · 11 months
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「胸元で光るゴースト」
ひまわりのように果てなしなく黄色いのに、ふとした瞬間に色褪せた水色になる。ミラーボールのように至る所を色鮮やかに照らしているのに、自身の内側には壊れかけの小さな豆電球がぽつんとあるだけのような気さえする。
レンズ越しに世界を写す彼の後ろ姿をずうっと見ていた。緩く弧を描く首から背中までの骨がくっきりと線になっている。深い夕方の黄丹色と藍色が交差する。レンズを覗く彼の姿は、虫取りに必死になる少年みたいだった。それでいて、肉眼でこの世界を俯瞰する姿はやたらと大人っぽく見える。冗談の裏に隠している感情を、たまにスコップで掘りたくなる。ぽっかりと空いた穴を虫眼鏡で見たらどんなふうだろう。きっとその穴にはたくさんの星たちが小さく輝いて、静かな波の音だけが聴こえる。瞼を閉じたら暗闇が身体を覆うように、砂浜が海面よりもっときらきらして見えるように。
瞬きを忘れるほど目紛しく景色を変えてしまうこの世界で、彼は一体何を見つけるのだろう。
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hoshicham · 1 year
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「白銀色の飽和」
自分と同じくらいの小さな手を握るたび、何かがお腹の底から滲んで弾けそうになる。街の建物たちの横顔に色をつける夕焼けの橙。彼女の緩く弧を描く睫毛が、頬に影を作っている。ずっとこの緩やかな空気が流れるままに、何にも傷付けられないふたりだけの世界で生きていたいと、叶いもしない空想を胸の奥に抱く。この真っ暗で抜け出せないトンネルのような世界を、じんわりと燃える炎で照らしてくれる彼女が心底大切で、でも上手く言葉にできずにいる。何度も踏み躙られて血が巡らなくなった表情の裏に隠した私の心を丁寧に守ってくれる。毎度彼女より遅く起きる私は、ひとり目覚めて過ごしただろう数時間を心配する。私の寝顔を撮ったカメラの画面を見せて笑うとき、少し安心する。彼女の身体が黒い霧で覆われてどうしようもなくなったとき、私の体温でその霧を雨に変えられたらいいのに。全部流れて綺麗さっぱり、残った水溜りに反射する太陽の眩しさを与えてあげられたらいいのに。
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hoshicham · 1 year
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「とんぼ玉」
瞼を開くと、あたたかい日差しが白くなって視界をいっぱいにした。その白が次第に薄く青に変わって頭上に広がっている。周りを見渡すと水々しい緑がずうっと続いて果てしなかった。自身を包んでいる白いマットレスと羽毛布団だけがぽつんと空間に違和感を作っている。つい数分前、真っ暗の四畳半で意識を失ったばかりだ。手を日差しにかざすと、指の隙間から降り注ぐ眩しさにやられた。冷たくなっていた爪先が太陽の温かさを吸収してマシになっていく。たまにぎこちなく吹く風が髪の毛を揺らす。不快感のない青臭さを孕んで、妙に心地よかった。
無限に続いている青と緑の先には何があるのだろう、もしかすると、ぐるっと回って結局無限であるような、丸く広がる緑だけが答えかもしれない。全体にふんわりとした価値観が彷徨うこの空の下、太陽の光だけがくっきりと眩しい。薄く雲がかかっても、���づいたら勝手にまた光っている。勝手に解決して、ただ輝いている。けたましく電子音が鳴り響いた。それを合図に羽毛布団を引っぺがして走った。ずっと長いこと、景色の変わらない大地を走った。不思議とお腹も両足も痛くはなかった。
すごくすごく長いと感じた一日の終わりに、ただこの丸い青緑の球体と太陽の眩さに抱かれていたい。
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hoshicham · 2 years
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「透明な立方体」
湿った土の上を歩くたび、太陽の光を遮るように生い茂った緑の一欠片から一滴の水滴が落ちるたび、濁り曇った瞳を思い出す。何度も何度も思い出す。あの時、あの瞳が欲していたものを与えてあげていたら、こんなにどうしようもなく希望のない慈雨を求めずに済んだだろうに。青空を覆う木々の影が、汗ばんだ背中を追いかけてくる。たまに通る温い風が、ざわざわと雑音になって耳に囁いてくる。遠くに見える青はあんなに明るくて眩しくて、しんとしているのに。未だ、あの日のじっとりとした、肌に纏わりついて離れない湿度を憶えている。忘れられないでいる。
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hoshicham · 2 years
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「海底、地下丸階」
青い夏の風にさらさらと流れる黒髪を見ていると涙が出そうになった。白い指がぬるい海水を撫でる。掬った海水はどこかしら隙間を見つけて元ある場所にぽちゃんと音を立てて帰ってゆく。遠くから蝉の鳴く声が聞こえるだけの静かすぎる海岸はやたら他人行儀に思えた。太陽は薄い灰色の雲に目隠しをされて、ぼんやりと常夜灯のように陸を申し訳程度に照らしている。彼女の瞳と同じように鈍く鈍く世界を覆っている靄を溶かす確実性は、この世にはない。ただ目の前に続く地平線が無限であるといい。この先の沖のもっと先が無限であるといい。彼女の心を深海のように暗くした欺瞞心が、もうこの浅い空間に入ってこないよう切に祈るしかない。その濁った痛々しい視線を向けないでくれ。言葉にならないその視線で、僕を脅さないでくれ。
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hoshicham · 2 years
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「心臓へ」
徐々に深みを増す海は痛いほど荒れていて、空は暗澹とした表情をしている。その幽暗は出口のないトンネルのように感じる。早く解放してほしいのに、どうにもここから抜け出せない。ようやく陽の光がさしたかと思えば、すぐ分厚い雲に塞がれて、傷を治すふりをして悪化させるだけだった。
徐々に薄くなった雲から薄明光線が海面を照らす。どうせまた、すぐ隠れてしまうのだろう。光の反射できらきらとした海面。今まで見たこともないくらい青は暢達に輝いて、暴威を奮っていた波は心地よくさらさらと流れている。夜には白ぼけた藍色と星々が安穏を齎してくれる。伝えたい思いが伝わっているのかひどく不安になる。どうか、手をついている大地から、溢れる気持ちが全部全部、あなたに伝わってほしい。
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hoshicham · 2 years
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「名称未設定ああああのコピー」
もう、放っておいてほしい。あの人がこうだ、世間で話題になっているあれがこうだ、あなたはこうだ、わたしはこうだ、そんなの、私は特に何も思っていない。その表情は何だろう、本当に、何も考えていないだけ。こちらが逆に問いたい。その期待は何?私も期待しないから、あなたも期待しないでほしい。何も求めないでほしい。何も返せないから。全てに「意味」があると信じて疑わない、その神経が癪に障る。私を推理しないで、あなたの持っている大きな虫眼鏡で心を覗かないで。何も出てこないよ、何も無いんだから。入道雲がくっきり描かれている澄み渡った青空から、眩しい太陽の光が降り頻るおおきなプールでぷっかりとひとりで浮かんでいるような感覚。永遠に続く草原で日向ぼっこをしながら、心地よい風が頬を撫でるような感覚。
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hoshicham · 2 years
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「僕の地球、君の衛星」
閉めきれていないカーテンの隙間から入る街頭のぼんやりとした白い光が、ふたりの身体に線を引いている。君はすうすうと息を立てて、僕は光に目を細めながら、たまに震える絹のような睫毛を見ている。その睫毛に囲われた瞼に隠れる瞳はいつも太陽のような彼をみつめて、僕は月のように君の周りをただ回るだけなのに、それでも重力に逆らえない。たまに、太陽に覆い塞がって、君の昼に光の環を浮かび上がらせたいと思ったりする。線の白がだんだんと流れてオレンジになり始める。小さな唇の薄い桃色がううんと唸る。僕はカーテンを引いてゆっくりと線を消した。隣人のつけたテレビの音と、洗濯機を回し始めた音が重なって壁越しに薄っすらと響く。時刻は午前6時半を迎えようとしていた。
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