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椅子をつくる

贈りものの話。もうすぐ研究室に新しい後輩が入ってくる。どんな子だろう。一人しか顔は知らない。口うるさい先輩にならないようにしなきゃな。さて、6人の新人を迎えて部屋が手狭になるため、さばは小さな椅子を人数分拵えて古い椅子を捨てるらしい。なんだそれ。いいな。私も椅子欲しい。これから入るコミュニティに椅子を作って待ってくれる人がいるって、すごい歓迎されている。なんだそれ。なんだその贈り物は。

贈り物は心がこもっていることが大事なんだと考えてきた。少し自信を失って、贈る人のステータスやTPOにあっていることが大切だと考えてきた。そして贈る人が喜ぶことが大切だと考え直し始めていた。デザインとは人とものの関係を考え直すことだとよく言う。私は別にそんなことばかりではないと思っている。少なくとも、仕事では。それでいいと思っている。だけど、新入生に椅子を拵えて待つさばはいつだってそう考えて、行動してきたのだろうなと思う。いいな、私もあの椅子に座りたい。

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夜行バス

昨日までの3日間旅に出ていた。グリーン席、新幹線、レンタカー、夜行バス、ありとあらゆる移動手段を使い、乗り物欲を満たした旅だった。費用を抑えるために前もって学割を駆使したり激安バスを探したが、のっけから車内販売でビールを飲んだり、現地スーパーで半額の刺身を買っては醤油がなくて小さいボトルを買ったり、もうめちゃくちゃで、最高に楽しかった。新幹線の発着駅ではリンガーハットを食べて、現地の名物は割と食べ逃した。そういう、あとで何も覚えていないような無駄使いをたくさんして、お土産は小さい瓶ふたつしかない。私はいつも、名所を詰め込んだ旅をいつもしていた。しかし今回はただ気になる方へ歩き、人があまりいない公園で寝そべったり、ぼんやりと過ごした。さて、今日も学校に行こう。今日は図書館に行くだけでいいや。

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シンセサイザー

昨日くつろいでいるところに、さばの実家からシンセサイザーが届いた。さばが高校3年生のときに遊んでいたものらしい。コックピットみたいな作りがなんともかっこいい深緑色の古い楽器が届いた。買った時の箱を取っておいて何回も引越しのシールが貼ってあるのがさばらしいなと思った。住まいが変わるたびに実家と家を行き来していたのだろうな。受け取ったさばの顔をみて、直感的に、私にくれるんだなと思った。私はちょうど半年くらい前に楽器メーカーで実習をして以来、音楽がある生活、ひいては音を鳴らすことに夢中になっている。子供の頃、下手く��がいやで意地を張って避けてきた音楽の楽しさを取り戻している。そして私は再来週25歳の誕生日を迎える。小学生ぶりに、あんな大きな箱で何かをもらうワクワクに昨日はなかなか寝付くことができなかった。さばはまずいなあみたいな顔をしていたけど、空気読まずはしゃいでごめん。

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俎板

さばは半年くらい前に適当につけたニックネームである。つまりわたしがさばと暮らし始めて半年が経つ。昨日かっぱ橋でまな板を新調した。さばは道具にはこだわるが高すぎるものは使いづらいことを知っている。気持ち的に。本桐のまな板を残念そうに棚に戻した。かなりレトロなパッケージに包まれた100円のまな板があった。さばはジャンク品が好きだ。思わず手にとっていたが、どうやら重すぎたらしい。100円は魅力である。しばらく眺めて惜しそうに棚に戻していた。決め手に欠けたんだろう。ああでもないこうでもないと唸って選んでいる。100均の小さい小さいまな板を使っていた昨日までのことはすっかり忘れているようだ。さばの言う「良い」はよくわからない。ときめかないものは買わないことを心がけ始めたらしい。結局中くらいのグレードのまな板を買った。割り箸に使われる材木らしい。水をピンと張ったまな板の上で野菜を切る。なんとも広い。玉ねぎを一つスライスしても皿に移す必要がない。今日からお前はうちの道具だよ。不便さを失って、明日からしばらく料理をしないかもしれない。やらんのかい、と言われるかもしれない。先代の小さい小さいまな板も捨ててないからこっそり使うかもしれない。コンビニで買ったご飯をつつく毎日も実はそんなにきらいではない。