kainose-blog1
kainose-blog1
二人ぼっち二人暮らし
13 posts
Don't wanna be here? Send us removal request.
kainose-blog1 · 7 years ago
Text
夏と泥団子と僕
 ラジオ体操から戻り朝ご飯を食べ、いつもの朝のニュースを占いまでしっかり見終えた時のことだった。 「あれ、ルルーシュどこか行くの?」  帽子をかぶり出かける準備をするルルーシュに、僕は少し驚きそう声をかけた。 「うん。学校に行ってくる」 「こんな朝早くから? また図書室?」 「ちがうよ。ヘチマの水やり」 「ヘチマ?」 「今週は僕の班が水やり当番だから」  僕が小学生の頃は朝顔の鉢を持って帰ってきたものだけど、今時の小学生は朝顔よりもヘチマ派なのだろうか。 「今日はスザクが洗濯物の当番だから忘れないでね。ポケットの中身確認してから洗濯機に入れるんだよ。あと、タオルはぱんってしてから干すんだからね。忘れちゃダメだよ」 「あー、ちょっと待ってよルルーシュ」  どこかの主婦みたいなことを言い残し出かけようとするルルーシュの小さな背中を、僕は慌てて呼び止めた。 「なに?」  夏の初めにとりあえずであげた僕のお下がりの帽子は、当然ルルーシュの頭にはぶかぶかだ。早く子供用のを買ってあげなければと思うのだけど、買い物に行く度に忘れて今に��る。このままじゃ先に夏が終わってしまいそうだ。 「僕も一緒に行くから、洗濯が終わるまで待っててよ」 「何でスザクも来るの?」 「えー、ヘチマが見たいから?」  正確に言うとヘチマの水やりをするルルーシュが見たいから、��のだけど、それはちょっとばかりおかしく思われるかなと考え言葉を選んだのだ。  だが、ルルーシュの返事はにべもなかった。 「んー、やだ」 「えっ、やだって何で!」 「だってみんな一人で来るし、僕だけスザクが付いてくるなんて変だよ」 「別に変じゃないよ! いいじゃん僕が付いてたって! むしろお得だよ水やりめちゃくちゃ手伝うよ!?」 「とにかくスザクは来ないで」  可愛い声でなんてことを言うのだろう。 「えー、えー……」  まさか嫌がられるなんて思いもしなかった僕にとって、これはなかなかの衝撃だった。玄関に向かうルルーシュの後を追いかけ、まるで追い縋るように名前を呼んでしまう程度には。 「ねえルルーシュ、どうしてもダメ?」 「うん、ダメ」 「そこを何とか! 今日の風呂当番変わるから! 何なら明日の洗濯物も僕が干すから! あ、それか後でコンビニで好きな……」 「あのね、スザク」  金に物を言わすという、何とも大人らしくない策を繰り出そうとした僕に、靴を履き終えたルルーシュはくるりと振り返ると静かな声音で言った。 「ダメはものはダメなの。大人なんだから聞き分けてよ」 「……はい、すみませんでした」 「すぐに帰ってくるから、いい子で洗濯物干してるんだよ」 「了解しました」  これではまるで立場が逆だ。  でも、これ以上粘って嫌われるのも嫌だったので、僕は大人しく(既に大人しくないような気もしたけれど)引き下がることにした。ルルーシュを見送って、言われた通り洗濯物に取り掛かる。 「うわっ、何でこれこんな砂だらけで……ルルーシュ、じゃないな僕だ……うわー何で砂落とさないでカゴに突っ込んでるんだよ……」  自分で汚した服に自分で文句を言っていれば仕方ない。洗濯機を回す間に掃除機をかけて、スマホをちょっといじって、まだ午前中だというのに厳しい日差しの中で服を干す。温度計を見れば軽く三十度を越えていて、空になったカゴを抱えながらにすかさずもう片方の手をリモコンへと伸ばした。 「僕が小学生の頃って絶対ここまで暑くなかったよなぁ。熱中症なんかも今程騒がれてはなかったし……あ、ルルーシュ何も飲み物とか持ってなかったけど大丈夫かな」  小学校はここから歩いて十分程度のところにある。ヘチマ畑がどれだけのものかは知らないが、水やりにそう何十分もかかりはしないだろう。と��れば、もうそろそろ帰ってくる頃か。  冷えていた麦茶はうっかり飲み干してしまった。慌ててお湯を沸かしていると、携帯が着信音を立てた。見ると、そこには登録されていない携帯番号が表示されている。一体だれだろうか。 「もしもし?」 『スザク? 僕だけど』 「えっ、ルルーシュ?」  驚いて思わずスマホを耳から離し画面を見直す。やっぱりそこに表示されているのは知らない電話番号だ。そもそもルルーシュは携帯なんて持っていない。 「どうしたの? どこからかけてるの? ヘチマの水やりは……」 『水やりは今終わったよ。友達の携帯かりてかけてるの。あのさ、今から友達の家に遊びに行っていい?』 「友達の家? でも今からって、お昼ご飯はどうするの?」 『お昼は……』  携帯の向こうから、何やら他の子供の声が聞こえる。小学生が当たり前のように携帯を持っている時代なんだなあと、 何だか驚きと共に思ってしまったが、僕が小学生の時にだって携帯を持ってる同級生はいたものだ。所謂ガラケーの、キッズ携帯ではあったけれど。 『あのね、友達の家で食べさせてくれるって』 「あぁ、そうなの?」 『だから行ってもいい?』  こんな電話をルルーシュがかけてくることは初めてで。  そうであろうとなかろうと、小学生の子供が、夏休みに、友達と遊びたいと言っているのだ。それを拒む理由がどこにあるだろうか。 「うん、いいよ」  すぐに帰ってくるって言ったのに! 『いいの?』  ……なんてことは、当然言えるわけもなくて。 「もちろん。でも、相手のお家の迷惑にならないようにね。あと、夕方のチャイムが鳴ったら帰ってくるんだよ」 『ん、わかった!』  いつになく嬉しそうな声でルルーシュは答え、そこで通話は終わった。静かになったスマホを見つめながら、そういえば友達の名前すら聞いてなかったなと気づいたけれど、今更かけ直すこともできない。 「……僕はお昼どうしよっかな」  一人だし、適当なチャーハン辺りで済まそうか。もっとも、ルルーシュがいようがいまいが、僕が作ることのできる料理なんて限られているのだけれど。 「えー、ルルーシュ帰ってこないのかー」  たかが数時間のことだというのに妙に寂しい。  とはいえ、実際はウォーキングデッドを数話見る内にルルーシュは帰ってきた。そりゃそうだ、何せ近所の友達の家に遊びに行っているだけなのだから。 「はい、スザクにお土産!」 「えー、なになに?」 「今日一番綺麗にできた泥団子!」  満面の笑みを浮かべながらにルルーシュが差し出してきたのは、そりゃあ綺麗な泥団子だった。綺麗すぎて、一瞬目を疑ってしまう程だった。 「え、わ、すご! これもう球体じゃん! 僕も子供の頃よく作ったけど、こんな丸くならなかったよ。え、ほんとすごいね? どうやって作ったのこれ」 「これ、乾くまでタオルか雑巾で包んでおくといいんだって。そしたらピカピカになるんだって」 「わっ、じゃあ包もう包もう! 普通のタオルでいいのかな」 「タオル汚くなっちゃ��よ? いいの?」 「ルルーシュの泥団子の方が大事だからいいよ」  そんなわけでその団子は丁寧にタオルに包まれ、ベランダの隅へと置かれることになった。明日が楽しみだねなんて言いながら、ルルーシュは思い出したように、でも実際はそうじゃないだろうとわかる顔で言った。 「明日、作った泥団子見せる約束してるから、また遊びに行ってもいい?」 「あー、そうなの?」 「大丈夫、スザクにあげたお団子だから、ちゃんと持って帰ってくるよ」  気にかかっているのはそこではないのだけど。  でもまあ、何が気にかかろうが僕の返事なんて一つしかないわけで。だって夏休みだ。小学生だ。子供は遊ぶのが仕事だ。つまり僕も遊びに行けばいいのか? 蝉取り辺りでも? 「うんいいよ、行っておいで」 「ありがとう、スザク」  お礼を言われる必要なんてない。ルルーシュは堂々と遊びに行けばいいのだ。でも、そう言ってあげられるだけの心の広さは、残念ながら僕にはなかったのだ。  ああそうさ、僕は心の狭い男なんだ。 「だけどね、ルルーシュ」 「うん? なあに?」 「明後日は僕とも遊んでくれる? 僕とも泥団子作ろうよ」 「仕方ないなあ」  大人げない僕の台詞にも、そう言ってルルーシュは笑ってくれたから、とりあえず僕はほっとしながらルルーシュのほっぺをむにむにと摘まんだ。すぐに「やめてよ」と怒られてしまったのだが。
0 notes
kainose-blog1 · 7 years ago
Text
ドーナツの穴は食べられません
「スザク、ゴミ袋がもう無いよ」  夕飯を食べ終えごろごろしていると、今日の洗い物当番だったルルーシュがそんなことを言いながら戻って来た。 「そうだった? じゃあ明日買うの忘れないようにしないとね」 「でも明日燃えるゴミの日だよ。出さないと臭くなっちゃうよ」 「あー、それはそうかも」  この辺りはゴミ出しがなかなかにうるさい。燃えるゴミは専用のゴミ袋に入れなければ出すことができないのだ。悩むこと数秒。よし、と気合を入れて僕は起き上がった。 「暑いけど勇気を���してコンビニに行こう、ルルーシュ!」 「僕留守番してる。行ってらっしゃい、スザク」 「来てくれた子にはデザート買ってあげようと思ったんだけどなー」 「やっぱりスザク一人じゃ可哀想だから僕も行ってあげる」 「よしきた」  そうして僕らは熱帯夜の中コンビニへと向かい、目当てのゴミ袋とアイスを選んでからレジへと向かう。前に並んだカップルもカゴの中にはアイスを幾つも入れていて、いちゃいちゃした後に食べるアイスは格別だよねそうだよねと僕はちょっぴりセンチメンタルな気分になったりもした。いいんだ僕だって帰ったらルルーシュと仲良く食べさせあいっことかしちゃうんだから。 「ねールルーシュ、僕らも仲良いもんね……ん? ルルーシュ?」  隣に並んだルルーシュは、一心にどこかを見つめている。  その視線の先を辿ると、そこにはドーナツがあった。レジ横でチキンやポテトなんかと並んで売られているあれだ。 「ルルーシュ、ドーナツ好きだっけ?」  プリンが好きなのは知っているけどと、思いながら尋ねた僕に、ルルーシュはふるふると首を振りながらにこちらを見上げてきた。紫の目は今日も真ん丸だ。 「食べたことないから知らない」 「えっ、ドーナツ食べたことないの!?」 「知識としては知ってるけど」 「知識としてって……」  そんなことがあっていいのだろうか。今を生きる小学生が、ドーナツの味すら知らないだなんて。確か初めてプリンを食べさせた時にも、ルルーシュは同じことを言っていなかっただろうか? 「オールドファッション一つ」 「スザク、ドーナツ好きなの?」  好きどころかコンビニでドーナツを買ったのなんてこれが初めてだ。店を出てすぐに、チョコレート部分が半分になるように二つに割る。丸々一つあげても良かったけど、そこからのアイスは少し小学生には多いだろうと思ったのだ。 「はい、ルルーシュ」 「何で?」 「この世には知識だけじゃわからないものがたくさんあるんだよ」  言ってから、多分ルルーシュの『何で』は、アイスを買ったのにどうしてドーナツまでという意味だったのだろうなと気づいたけど、まあいいやと僕は歩き出す。手にしたビニール袋ががさがさ音を立てる中、隣を歩くルルーシュは小さな口でドーナツにかぶりついていった。  そして。 「……うわぁ」 「どう?」 「すごい……すごい……」 「美味しい?」 「こんなにおいしいものが、この世に存在してるだなんて……」  たまにルルーシュは言うことが大袈裟だ。でも、まだ十年しか生きていないルルーシュにとっては、それぐらい衝撃的なことなのかもなあと思うとほっこりする。  僕が二口で食べ終えてしまうドーナツも、ルルーシュの手に握られていると大きく見える。食べながら、溶けてしまうアイスを先に頂くべきだったなと気づいたけど後の祭りだ。なるべく原型をとどめている内に冷凍庫に入れなくては。そして風呂上りのお楽しみにするのだ。 「チョコの部分はもっとおいしい」 「あ、だよね。僕もそこが好き。でもポンデリングとかの方がもっと好きかなー」 「ポン……? なに?」 「ポンデリングって言って、もちもちーってした美味しいドーナツがあるんだよ」 「どこに行ったら食べれるの?」 「��スドかな。この辺りには無いから、僕も最近食べてないんだよね」 「ふうん」  どこか神妙な顔で頷いたルルーシュは、残り少なくなったドーナツを、より小さな口でちびちびと齧っている。そんな様子はいじらしいの一言で、今すぐ回れ右をして追加のドーナツを買いに走りたくなってたまらなかった。 「また買ってあげるからさ」 「うん。ねえスザク」  アパートまでは、もう歩いて一分もかからない。 「なあに、ルルーシュ?」 「あのね、僕が大きくなって、お金いっぱい稼げるようになったら、そしたらスザクをミスドに連れて行ってあげるね」 「……うん?」  なんだなんだ。  もしかしてルルーシュは、ミスドをどこかの国とでも勘違いしているのか? いや、そこまで子供じゃないにしても、高級店だとは思っているような口ぶりだ。 「スザクが今僕に買ってくれてるみたいに、大きくなったら今度は僕がスザクに買ってあげるからね。楽しみにしててね」  口約束、というには真剣な、真剣すぎる顔を見ていたら、僕の口からはこんな言葉しか零れ落ちてこなかった。 「嬉しいけど、賭けチェスなんかはしないでね」  お願いだよルルーシュ。
0 notes
kainose-blog1 · 7 years ago
Text
裁縫上手
 ルルーシュと一緒になって洗濯物を畳んでいる時(余談だが、僕はルルーシュと暮らすようになって初めて『洋服を畳む』という行為が習慣化した。それまでは取り込んだタオルをそのまま使っていたし、洋服なんて着るまでかけっぱなしなんてこともざらだった)、ころりと何かが僕の足元に転がっていた。 「あ、ボタン」  つまみ上げてみると、それは今僕が畳んでいるシャツのボタンだった。確認すると上から三つ目。その何とも言えない位置に僕はうーんと首をひねった。 「このぐらいなら何とかなるかな? 夏だし多少開放的でも別に……いやでもちょっとだらしなく見えるかな。母さんが見たら怒るだろうなぁ。僕がイケメンだったら許されたのかな、いや僕だってそんなに顔は悪くないはずで……」 「ボタンつけないの?」  悩む僕に、慣れた様子でタオルを畳みながら、ルルーシュは当たり前のようにそんなことを尋ねてきた。 「裁縫道具持ってないんだよね」  そもそも、一人暮らしで所持している男の方が少ないのではないだろうか。統計を取ったことはないので知らないが。 「僕持ってるよ」 「えっ、嘘」 「はい、スザク」  ルルーシュのカラーボックス、通称ルルボックスから取り出したのは、確かに紛うことなき裁縫セットだった。 「わー、懐かしい。これあれだよね、小学生ならみんな持ってるタイプのやつだよね」 「スザクも持ってたの?」 「色とか形は違うけどね。でも大体これぐらいのサイズの、似たようなやつを持ってたよ」 「今は何で持ってないの?」 「言われてみると何でだろうね」  捨てた記憶はないのだから、まだ実家に残っていたりするのだろうか。色も形も何なら重さまで覚えている気がするのに、それでもどこにしまいこんであるのかはさっぱり思い出すことができない。捨ててはいないと思うのだけどどうだろう。 「貸してあげるから、ちゃんとボタンつけなね」  そう言うと、用は済んだとばかりにルルーシュは洗濯物に戻ってしまった。  せっかくの好意を無視するわけにもいかず、僕は裁縫箱を開いた。ああそうだ、これこれ。この名称のよくわからない物までびしっと揃っているのがこの裁縫セットだ。結局一度も使わなかった物も無かったっけ。  適当な針を選んで、とりあえず糸を通す。専用の鋏で切り、ここからはどうするのだっけ。確か玉結びだか玉留めだか、とにかく糸をくるくるっと針に巻き付けて、それからすーっと下におろせば自然に……こう、くるくるっと巻き付けてから下ろせば、そう、くるくるっとしてから、くるくるっとしてから下に下ろすように……。 「ねえスザク」 「うん、なに?」 「もしかしてだけどさ」 「うん?」 「お裁縫できない?」 「あれ、ばれちゃった?」  自慢じゃないが、授業以外で針と糸を触ったのなんて今この時が初めてだ。その授業中だってまともに針を握っている時間がどれだけあったことか。 「貸して。付けてあげるから」 「すみません」  情けないが、できないものはできないのだから仕方ない。大人しくバトンタッチすれば、ルルーシュはあっという間にボタンを付け終えてしまった。まさに一瞬の出来事だった。 「すごい! えー、ルルーシュ器用だね、すごいすごい!」 「習ったらこのぐらいだれでもできるよ」 「僕も習ったはずだけど全然できないよ」 「それは真面目に授業を受けてないからだよ」  ばっさりと言い切られてしまえば、それ以上何も言い返すことなんてできない。確かに小学生の頃の僕は、優等生とは程遠い存在だったのだから。  しっかりとボタンのついたシャツを広げながら、僕は感嘆の息を漏らした。ちょっと糸の色が違うことを除けば、他のボタンと何も変わらない。 「四年生でも、もう家庭科の授業があるんだね」  もう少し先だったような気がするんだけどなと、思い出しながらに言った僕に、ルルーシュは「ちがうよ」と裁縫道具を片付けながらに首を横に振った。 「授業は無いよ。僕は料理手芸クラブでやってるだけ」 「えっ、そうなの? っていうか、ルルーシュ料理手芸クラブだったの!?」 「そうだよ」 「えー、どうりでお味噌汁作るの上手いと思った……でも、男の子でそういうクラブ入るのって平気? 笑われない?」   特別考えずに発した僕の言葉に、ルルーシュは片付けの手を止めた。  そして、紫の目がじっと僕を見つめ返してきた。 「何で男の子だと笑われるの?」 「いや、えーっと、それは」 「男でも女でも、ご飯は美味しく作れた方がいいし、ボタンだって取れた時に自分で付けられないと困っちゃうよ。スザクはいつもボタンが取れたらどうしてたの?」 「そのまま着るか、諦めて着ないか、ですね……」 「そういうのってもったいないし、やっぱり自分でできるに越したことはないと思うな、僕は」 「仰る通りです」  何だかなぁ。  十も年下の子供に諭されるなんて、情けないにも程がある。  同時に、これだからルルーシュなんだよなと、嬉しく思ってしまう僕は、きっと傍から見ればどうかしているのだろう。でも、嬉しいものは嬉しいのだから仕方ない。 「でもルルーシュ、家ではお裁縫はしないんだね」  クラブに入るぐらい好きなのにと思って言った僕に、「だって」とルルーシュが返してきた言葉は、至極当然のものだった。 「布がないと縫えないもん」 「そりゃそうだ」  男の一人暮らしの家に裁縫道具がないのも当然なら、そんな家に裁縫に適した布がないこともまた当然だ。 「じゃあ今から、ちょうどいい布を買いに行こうか」 「本当っ?」 「ボタンつけてくれたお礼だよ」  なんてことを言いつつ、行き先はいつもの百均なのだけど。だって他に布を売ってそうな店なんて���らないのだから仕方ない。 「スザク優しいね」 「なんのなんの」 「もっとスザクのボタン取れないかな」 「ちょっと引っ張らないでルルーシュ。こら、ダメだってば!」  きゃあきゃあと笑うルルーシュは、連れて行った百均でいくつかの布とボタンを買うと、それで作ったマスコットを僕にプレゼントしてくれた。 「鞄につけられるように、紐もつけておいたよ」  そう言って渡されたのはなんとも可愛らしいクリーム色の猫で、僕は夏休みの真っただ中であることを心から感謝した。だっていくら何でも、これを同級生や元彼女に見られるのは、ちょっと、何というか、あまりにも可愛すぎるというものだから。 「スザク、気に入った?」  それでも僕が大人しく鞄にその猫をぶら下げるのは。 「うん、大事にするよ」  マスコット以上に、ルルーシュが可愛いからに他ならないのだ。  まあそんなの、今に始まったことではないのだけれど。
2 notes · View notes
kainose-blog1 · 7 years ago
Text
嵐の夜に
 さあ寝よう、もといルルーシュを寝かせようと思ったところで、突然雨が降ってきた。それも土砂降りの。元々クーラーをかけていたため慌てて窓を閉めに走るような真似はしなくても済んだのは幸いか。何しろあまりのその勢いに、僕とルルーシュは思わず顔を見合わせてしまった。 「すごいね」 「台風みたいだね」 「これもゲリラ豪雨ってやつなのかなぁ?」  連日三十度を超えるのが当たり前だったり、突然の大雨だったり、全く最近の日本ときたらどうなっているのだろう。僕が子供の頃は、なんて言うほどの年ではないつもりだけど、でも僕が小学生の頃とは明らかに何かが違うと思う。 「明日までに止むかな?」  僕が下ろした布団に、ルルーシュはぴしっとシーツを伸ばして行く。この年にしてルルーシュはベッドメイキングの才能に溢れている。溢れすぎている。まあこれはベッドじゃなくて布団だけど。 「こういう雨ってすぐに止むから大丈夫じゃないかな?」  タオルケットを敷きながらに答えれば、ルルーシュはほっと��た顔を見せた。 「明日何かあるの?」 「図書室に本返しに行くんだ」 「夏休みだよ? 学校開いてるの?」 「曜日と時間は決まってるけど、明日は開いてるよ」  だから本を返し、そして新しい本をまた借りてくるのだとルルーシュは言った。今まで気にしたこともなかったけど、ルルーシュが日頃読んでいるのは学校の本だったらしい。そりゃそうか、この部屋には子供向けの本なんて無いんだから。 「へえ、今の学校ってそんな風になってるんだ」 「スザクが小学生の時は違ったの?」 「え、どうだろ。学校の図書室なんて全然行ってないから覚えてないや」 「本嫌いなの?」 「今は好きだけど、僕がルルーシュぐらいの時は暇さえあれば竹刀にぎってたんだよねぇ」 「スザクは今でもにぎってるよ」 「そう言われたらそうだったね」  そんな会話をしている間にもますます雨の勢いは増し、窓ガラスにあたる音がうるさいぐらいだ。いつもなら欠伸混じりに布団にもぐっていくルルーシュも、今夜は眠気の飛んだ顔をしている。そのお腹に僕はタオルケットを優しくかけた。 「雨の音うるさいね」 「うん」 「子守歌うたってあげようか?」 「そっちの方がうるさそうだからいい」 「えー」  相変わらず僕の歌は不評だ。まあ子守歌なんてろくに知らないことが判明してしまったのだから仕方ない。やれやれと笑いながら電気を消そうとすれば、そこで珍しく待ったがかかった。 「電気つけておいて」 「でもそれだと、眩しくて寝れないよ?」 「いいから」  はっきりとした声音だった。  僕でもびっくりするぐらいの雨音なんだから、まだ小学生のルルーシュにとっては少し怖いのかもしれない。そう思ったら思わず頬が緩んでしまった。だってこんなの可愛いじゃないか。 「一緒に寝てあげようか?」  頬ばかりかつい唇までもが緩んでしまった僕に、ルルーシュはこれまたはっきりとした声で答えてくれた。 「それはいい」 「遠慮しなくていいのに」 「遠慮じゃなくて、スザクは寝相悪いから一緒に寝たくないの」 「えっ、僕寝相悪い?」  付き合ってた彼女にもそんなことは言われなかったのにと、心の中だけで呟く僕に、ルルーシュは布団に横になったまま「うん」と深く頷いた。 「昨日明け方、スザクのタオルケットが僕の上まで飛んできたよ」 「嘘! えー、暑かったのかな……寝てる間にはいじゃうのはよくあるけど。でもおかしいな、昨日も起きた時には、タオルケットは足元で丸まってた気がするんだけど」 「僕がスザクの足元に置いたんだよ」 「お手数おかけしてすみませんでした」  別にいいよとルルーシュは言い、いつものように口元までタオルケットを引っ張り上げた。それじゃ暑いんじゃないかと思うのだけど、ルルーシュ曰く寝る時はこれでちょうどいいらしい。落ち着くというのもあるのかもしれない。 「おやすみ、ルルーシュ」 「うん、おやすみ」 「電気消してほしくなったらいつでも言ってね」 「大丈夫」  明るい部屋の中、僕はいつものように隅に移動させたテーブルに向かいノートパソコンの電源を入れた。暇つぶしにと適当に入った動画配信サイト、これが思いの外楽しくてハマっている。ウォーキングデッドもシーズン3まで入り、平行してバイオハザードまで見返してしまったので、この夏に入ってからという���の僕の対ゾンビスキルは急上昇だ。いつ何時襲われても大丈夫。ルルーシュだってちゃんと守り切って見せるとも。  とは言えウォーキングデッドはあまり連続視聴には向かない。基本的にゾンビに限らず、緊迫したシーンの連続物というのは見ているだけで疲れる。イヤホンを嵌め、小さなパソコン画面を見つめているのもまたその要因なのかもしれない。これがテレビ画面で、ポップコーン片手に見たらまた別なのだろうか。でもこれはちょっと、いやだいぶ、ルルーシュには見せたくない。小学生の間は可愛いアニメなんかを見て……あれ、でもルルーシュって、そういえば子供らしいアニメなんて見ていたっけ? 「……あー、疲れた」  きっかり二話を見終え、面白さと匹敵するぐらいの疲労感を覚えながらに僕はイヤホンを外した。そして、まだ雨が降り続いていることに驚いた。ほんの少し勢いは収まっているようないないような。これはゲリラ豪雨とはまた別のものなのかもしれない。 「すごいなぁ」  少し早いけれど、ゾンビ疲れをしたことだし今日はもう寝るとしよう。歯磨きをして部屋に戻り、電気を消してから布団に入ろうとした、その時だった。 「……スザク?」 「あ、ごめん、起こしちゃった?」 「ううん、まだ寝てないから平気」 「えー、まだ寝てないって……」  僕がリックと共に脳内でゾンビを倒していた間、ルルーシュはずっと起きていたのだろうか。まあこの雨じゃ仕方ないと、イヤホンを外した今なら思う。 「眠くないの?」 「眠いよ。眠いけど……」  真っ暗になった部屋の中、隣の布団で、もぞもぞ、とルルーシュが動いたのがわかった。多分、顔がこっちに向けられていることも。 「一緒に寝る?」  いい加減しつこいと思われるだろうか。でも、気づいた時にはそう口にしていた。他にかけるべき言葉が見つからなかったとも言える。  けれど、今度のルルーシュの返事は。 「うん」 「……えっ?」 「スザク、ちょっと詰めて」 「あ、はい」  言われるがままに僕は端により、そうしてできたスペースに、ルルーシュが持参した枕を置いていく。反射的に僕はタオルケットを引っ張り上げ、横になったルルーシュの身体へとかけていく。目もだいぶ慣れてきた。  僕と一緒に寝るのは嫌じゃないのかな、とか。  そんなに怖いのなら、もっと早くに言ってくれたらいいのに、とか。  ルルーシュが寝れないでいる間、一人ドラマを見てばかりいる僕を、ルルーシュはどう思っていたのかな、とか。  言いたいことも聞きたいこともあったのだけど、狭い布団の中で、やっぱりタオルケットを口元まで持って行くルルーシュは、どこか安心したように微笑んだ……ように見えたけど、何せ電気が消えているのだ、僕の見間違いなのかもしれない。 「スザク」 「うん?」  隣に寝ると、当たり前だけどその声はとても近くから響いてくる。 「僕のこと蹴らないでね」 「ルルーシュを蹴ったりなんてしないよ。蹴るのはタオルケットとゾンビぐらいだよ」 「ゾンビ?」 「いやこっちの話」  明日はもうちょっと、子供向けの映画か何か探してみよう。ポップコーンを買ってきて一緒に見るんだ。たまにはピザの出前か何かを頼むのもいいかもしれない。何せせっかくの夏休みなのだから。そういえば夏休みらしいことなんて、まだラジオ体操ぐらいしかしていない。他には何だろうか。プール? ��? あとは旅行とか? 「ねえルルーシュ。ルルーシュはどこか行きたいところとか――」  尋ねながら気づく。いつの間にか、隣では穏やかな寝息が立てられていることに。 「夜更かししちゃったもんねぇ」  雨の勢いは依然強く、その音はうるさい。それでも不思議なことに、隣でルルーシュがすやすや眠っていると思うと、こちらの心まで穏やかになってくる。あるいはそれは、幸せと呼ぶものなのか。そう思うと僕は何だか泣きたくなる。ルルーシュが僕の横で眠っている、そのことがこんなにも嬉しい。 「……おやすみ」  頬にキスを一つ。  いい匂いがするなあなんて思ってしまったことは、何だか良くない大人みたいだったので、この胸にそっとしまっておくことにしよう。
0 notes
kainose-blog1 · 7 years ago
Text
欲しいもの何かな?
 夏休みに入り一日中一緒の生活を送るようになって、びっくりしたことが幾つかある。いや、それまでも土日休みはそりゃ一緒にいたけれど、一週間の内の二日間と、休みに入ってからの毎日となるとまた話は別なのだ。  とにかくルルーシュは、本ばかり読んでいる子供だった。絵を描いたり折り紙をしたりすることもあるけど、とにかく圧倒的に本を読んでいる時間が長い。一度なんか食後に教科書を読んでいるから、また勉強してるの偉いね、と声をかけたら、ただ読みたいから読んでるだけだという答えが返ってきて僕は心底驚いた。あまりに驚きすぎてしまったのか、ルルーシュはそれ以降勉強時間以外に教科書を開くことはなくなったけれど、だって小学生と言ったら遊ぶのが仕事みたいな生き物じゃないのだろうか?  と思ったところで、僕はふと気が付いた。 「そういやこの部屋、おもちゃとか一つも無いや」  大学生の男が一人暮らししていた部屋に、小学生のおもちゃが山ほどあってもそれはそれで問題だとも思うのだが、今更になって改めてそれに気づくというのも少し間抜けな話だ。 「外で泥だらけになって駆け回るような子じゃないもんな。やっぱり家の中で遊べるおもちゃが必要だよね……あと遊んでるルルーシュが見たい……小学生が喜ぶおもちゃってなんだろ、ゲームとか? あ、Switch欲しいな、ってそれじゃダメか」  僕の欲しい物を買ってどうするのかと、癖で開きかけたAmazonの画面を見て自嘲気味なため息を漏らしていると、風呂上りのルルーシュが頭にタオルをかけたまま戻って来た。 「あ、ルルーシュちょうどいいところに」 「なあに?」 「何か欲しい物ない? 買ってあげるよ」 「どうしたの急に?」  だって君のおもちゃが一つもないから、なんて言うと、頭のいいルルーシュのことだ、変に気を使わせてしまうかもしれない。 「枢木家じゃね、夏休みに何でも好きな物を買ってもらえるんだよ」 「そうなの?」 「そうなの」  あながちその言葉は嘘ではない。子供の頃は祖父母��家に遊びに行く度に、誕生日でも何でもなくてもおもちゃを買ってもらっていたことは確かなのだから。 「だからルルーシュも欲しい物があったら買ってあげるよ」 「うーん」  急に言われても浮かぶものがないのだろう。ここはおもちゃ屋にでも連れて行ってあげた方がいいのかなと思いつつ、この近くにおもちゃ屋なんてあっただろうかと僕は内心で首を傾げた。トイザらスが閉鎖なんて世知辛いニュースを見たのも、つい最近の出来事だったような気がする。 「あっ、欲しいのあった」 「本当?」  ぱっと顔を上げるルルーシュのタオルを取り、頭をわしゃわしゃと拭いてやりながらに僕は尋ねた。 「ルルーシュは何が欲しいの?」 「四角いフライパン!」 「しかくい……え、四角い、フライパン?」 「そう。四角いフライパンがあると、卵焼きが作れるんだよ」  大真面目な顔をしてルルーシュはそんなことを言う。なるほど勉強になりました、と頷きかけて、いやいやそうじゃないだろうと、僕は手にしたタオルを床へと置いた。 「いや、フライパンはいいからさ、そうじゃなくてもっと別の……」 「スザクは卵焼き食べたくないの?」 「好きだよ? 好きだけどね。お酒飲んでる時の出汁巻きなんて最高に好きだけどね」 「スザクはコロッケ選ぶ天才だから、きっと卵焼き作る天才にもなれるよ」  あ、僕が作るのか。 「うーん、でも卵焼きって……」  素人が作ると焦げるイメージしかないのだが、それはそれとしていつものようにAmazonで検索をかけてみれば、出るわ出るわ卵焼き器のオンパレードだ。 「意外と安いんだ」  意外どころか千円を切る物まであるというのは驚きだ。何せこの方、自分で調理器具を買ったことなど一度もないのだ。  値段に釣られたわけではないが、まあこの際フライパンが一つ増えるぐらい別にいいかと僕は肩を下ろした。僕が作れなかったとしても、多分その内ルルーシュが作ってくれるようになるだろう。決して無駄にはならないはずだ。 「じゃ、ルルーシュどれがいい?」 「僕が選んでいいの?」 「いいよ」  スマホを手渡すと、ルルーシュは真剣な顔で画面を見つめていく。あんまり高いのは選ばないでほしいな、いやでも高い方が焦げにくかったりするのかな、あのティファールとか、なんて僕が思っていると、ルルーシュはしばらくしてから「これがいい」と僕に画面を向けてきた。 「どれどれ?」 「これ」  ルルーシュが指さす先には、何と驚きの七百三十円の文字が。  ちょっと考えている��とが顔に出過ぎていたのだろうか。だとしたら反省だ。 「緑色だからこれがいい」 「緑? ルルーシュ緑好きだっけ?」 「スザクの目の色だから」 「えっ」  その答えは何というか。  ちょっと、いやかなり、嬉しかったりなんかして。 「これじゃダメ?」 「……あー、ダメじゃないよ。全然ダメじゃないよ。ルルーシュが気に入ったんならこれにしようね。はい、ポチっとな」 「いつ届く? 明日届く? 明日卵焼き食べれる?」 「届くのはすぐ届くだろうけど、すぐに美味しい卵焼きが作れるかっていうとなぁ」 「スザクなら大丈夫だよ」  ここまで全幅の信頼を寄せられてしまうと、嫌でもがんばらないわけにはいかないというものだ。  かくしてフライパンが届いたその日から、僕の卵焼き練習は始まったのだが、その成果はと言うと、まあ、最近のフライパンは例え安物であろうともそう焦げたりはしないのだということだけ、とりあえずお伝えしておくとしよう。 「スザク、これ卵焼き?」 「……スクランブルエッグ、かな?」
0 notes
kainose-blog1 · 7 years ago
Text
早起きは七十円の得
 目覚ましをかけなくても、起きたい時間に何となく目が覚めるのが僕の数少ない長所の一つだ。すっきりと六時に目を覚ました僕は、朝のシャワーを浴びてからルルーシュを起こした。 「ルルーシュ、朝だよ起きて」 「……んぅ」  毎晩しっかり九時には布団に入り、入ると同時にすやすやと寝息を立てているはずなのに、それでもどうしてその目はなかなか開かないのかが僕には不思議だ。しつこく揺り起こすのにも飽きて、僕は今朝も早々にタオルケットを剥ぎ取った。 「ほら、起きた起きた! ラジオ体操始まっちゃうよ」 「……スザクにあげるー」 「僕には僕のラジオ体操があるから、ルルーシュはルルーシュのラジオ体操を大事にしなきゃいけないんだよ。はい起きる!」  我ながらちょっと意味のわからないことを言いながら、抱っこの要領で身体を起こす。不機嫌そうに歪められた口元が可愛い。チューしちゃうぞ、と思ったタイミングでルルーシュは目を開くものだから、何だか悪いことをしたような気持ちになって僕は焦った。 「あ、ほら、早く顔洗っておいで!」 「もー、スザクうるさい……」 「うるさいじゃなくて元気って言ってよ」  立ち上がったルルーシュは、よたよたと洗面所に向かって歩き出す、水音を聞きながらに僕は布団を畳んでクローゼットへとしまった。クローゼットに布団。何となく違和感を覚える組み合わせだけど、部屋の都合上仕方ない。でも今度引っ越すとしたら、やっぱり布団は畳の上に敷きたいものだ。 「ねえ、スザク」 「ルルーシュおはよう。ちゃんと顔拭いた? 前髪濡れてるよ」 「雨降ってない?」  眉を寄せながら、ルルーシュは窓の外を指さした。しとしとぴっちゃん。どうやら明け方辺りからこの雨は降り出しているようなのだ。 「うん、予報見たら今日は一日雨みたいだよ」 「スザク、雨だとラジオ体操はやらないんだよ」  ため息を漏らしながらのその台詞に、いやいやいや、と僕は首を振った。僕にだって若々しい小学生時代はあったのだ。そんなことぐらいは知っている。 「確かに公園に集まってのラジオ体操はないかもしれないけど、ルルーシュこそ知ってる? あれってラジオで流れてるからラジオ体操って言うんだよ。そして今のラジオは、パソコンからでも簡単に聞けるってね」 「布団敷くからどいてくれない?」 「僕の話聞いてた? 当たり前みたいに布団敷こうとしない! はい、今日はここでラジオ体操やりまーす。ルルーシュはそっちね、ぶつからない位置でやらないと」 「何でそこまでしてラジオ体操やりたいの……」  この上もなく呆れたような目を向けられてしまったが、いつでもどこでも運動をするのはいいことだ。何より一度やろうと決めたのであれば、天候などに左右されてはもったいない。 「何事も出だしが肝心って言うだろ」 「終わり良ければ全て良しともいうよ」 「ルルーシュはああ言えばこう言うなあ!」  生意気な鼻先をむぎゅっとつまんでやれば、ルルーシュは小さな拳でぽかすかと僕の身体を殴ってくる。ちっとも痛くもないそれに、あははと思わず僕が笑っていれば、準備していたパソコンからは馴染み深い声が聞こえてきた。こうしてリアルタイム(生放送ではないけれど)でこの音楽を聞くのも一体いつぶりだろう。それこそ小学校六年生の夏休み以来だろうか? 「はいルルーシュいくよー!」 「もー……」  最後まで嫌そうな声を出していたが、始まってしまえばそこからの数分間、ルルーシュはしっかり大層をしてくれた。ぴょんぴょん飛び跳ねるところは実に可愛かったとだけ言っておこう。今度はスマホで動画撮影しておくのもいいかもしれない。 「ほら、朝から運動するのって気持ちいいだろう?」 「んー、暑い。パジャマべとべとする」 「じゃあシャワー浴びておいで」  日本の夏はどうにも湿気が高くていけない。とは言っても、僕は日本以外の夏なんて知らないのだけど。ルルーシュはブリタニアの夏を覚えているのだろうか。  すぐさま着替えたルルーシュが戻ってくる。眠気はすっかり冷めた様子の顔を見て、微笑みながら僕は冷凍庫を開けた。 「スザク、何食べるの?」  目敏く(と言うのか耳聡くと言うのか)ルルーシュは小走りにこちらにやって来る。 「ガリガリ君だ!」 「朝ご飯の前だけど、今日は特別だよ。ラジオ体操のご褒美」  我ながらルルーシュに甘いなあとは思ったものの、こんな可愛い子を前にして甘くなってしまうのは仕方ない。それに今、僕がルルーシュを甘やかさずしてだれが甘やかすというのだ? これは謂わば運命なのだ。 「朝のアイスってとんでもない贅沢だ……」  目をキラキラさせながらアイスにかじりつく様子は見ているだけでも幸せだった。アイス一つでルルーシュがこんな顔をするだなんて、僕は長いこと知らなかった。 「早起きするといいことがあっただろ?」  一緒になってアイスをかじりながら、僕はルルーシュに笑いかけた。  諺の意味��るところは多分もっと違う意味なのだろうけど、小学生相手なのだ、今はこのぐらいでいいだろう。早起きを習慣付かせることが大切なのだからして。 「これが、三文の徳なの?」 「まあそんな感じ、かな」 「でも三文って九十円ぐらいだろ?」 「今だとそうなんだっけ?」 「ガリガリ君て七十円だよね。あとの二十円はどこに行ったの?」 「……えーっと」  まさかそこを突いてこられるとは思いもしなかった。  かと言ってここでルルーシュに十円玉を二枚握らせるのも何だか違う気がして、朝食にルルーシュリクエストのフレンチトーストを、クックパッド片手に何とか作ることで、その日は納得してもらったのだった。
0 notes
kainose-blog1 · 7 years ago
Text
早起きは九十円の徳
 休みに入るとどうしても起床時間が遅くなる。それでもまだ僕は七時過ぎには自然と目が覚めるのだけど、ルルーシュはというと放っておくといつまでも寝ている。寝る子は育つとは言っても、朝ごはんが冷めていく様を見ているのも忍びないので、僕はほどほどの時間にルルーシュを起こす。 「ほらルルーシュ、朝ごはんできたよ。起きて」 「……んー」 「パン冷めちゃうから起きて、もう八時過ぎたよ」 「大丈夫……冷めてもパンはパン……食べれるパン……」 「そりゃそうだけど」  一瞬納得しかけたものの、いやいやそうじゃないだろうと僕は少々乱暴にタオルケットを剥ぎ取る。小さな身体を引っ張り起こせば、不機嫌そうな唸り声を上げながらも何とかルルーシュはよたよたと歩き出した。 「パンにはなに塗る? 苺ジャム? ピーナッツバター?」 「……ピーナッツ」 「了解」  よく焼いた食パンにピーナッツバターを塗りたくりながら、これを朝食に食べるというのが何ともブリタニア人らしいなと改めて思う。それとも小学生だったら普通なのだろうか。実家では朝は和定食と決まっていたし、ごくまれにパンが出てくる時にもマーガリン一択だったのだ。 「おはよう、ルルーシュ」 「おはよ」  顔を洗ってくると、ルルーシュは幾分すっきりとした顔になる。よしよし、と頷きながら僕はご飯を運ぶ。ベーコンエッグにレタスを千切っただけのサラダ。一人暮らしだった頃にはレタスなんて買いもしなかったことを思い出せば上等だろう。 「ルルーシュはいつもなかなか起きれないね」 「だって眠いんだもん」 「僕なんて子供の頃は無駄に早起きだったけどなぁ。夏休みなんてそれこそ一番に起きて……」  言いながら、そうだ、と僕は思い出す。 「ルルーシュも、ラジオ体操とかあるんじゃないの?」  夏休みの代名詞。小学生の夏と言えばラジオ体操だし、ラジオ体操といえば小学生の夏である。僕が今そう決めた。 「あるけど」 「今日もあったんじゃないの? ちゃんと教えてよルルーシュ。そうしたらその時間に起こしたのに」 「行きたくないから別にいい」 「もー、そんなんじゃダメだよ!」  何せこのルルーシュのことだ。無理やりにでも引きずり出さなければ、夏休み中ずっと家にこもって本を読んでいそうだ。読書家なのはいいけれど、それだけでは健全な小学生の夏の過ごし方とは到底言えない。 「ラジオ体操っていい運動になるし、それに友達にも会えるだろう? 早起きは三文の徳って昔から言うしね」 「三文て今だと九十円ぐらいなんだろ。九十円いらないからその分寝てる方がいいよ」  食パンをもそもそとかじりながらルルーシュは言う。見た目はびっくりするほど可愛いのに、どうしてこの子はこう時折子供らしくない面を見せるのだろうか。それがルルーシュだと言われたらそうなのだけど。  ここは大人として見本を見せるべきなのかもしれない。一枚目のトーストを食べ切ってから、そう気づいた僕は「わかった」と静かに頷いた。 「ルルーシュ、明日から一緒にラジオ体操に行こう」 「えっ、スザクも行くの?」 「うん。ルルーシュ一人にだけ行けなんて言わないよ。一緒に朝から運動して、気持ちのいい汗をかいてこようよ」 「あれって子供が参加する���のなんじゃないの?」 「子供のために開催されてるのかもしれないけど、そこに大学生が混ざったって平気だよ」  多分。 「まあ僕はカードがないから、参加しても判子は押してもらえないだろうけどね」 「じゃあスザク一人で行ってきなよ」 「朝から運動するのって気持ちいいよ! それともラジオ体操よりもジョギングとかの方がいい? 僕はどっちでもいいけど」 「……ラジオ体操でいい」  とても甘いピーナッツバターを食べているとは思えない顔でルルーシュはそう答えた。ちょっと無理やりな形にはなってしまったが、何はともあれ運動するのはいいことだ。それにルルーシュがラジオ体操している姿が見たい。 「スザク、ドレッシングとって」 「はい」 「にこにこしないで。その顔やだ」 「えっ、そんな」  多分八つ当たりなのだろうルルーシュの言葉に、僕は表情筋を引き締めながらに二枚目のトーストに手を伸ばした。
0 notes
kainose-blog1 · 7 years ago
Text
悲喜交々通信簿
 厄介なテストがようやく終わりを告げる頃、ルルーシュも通信簿を貰って学校から帰って来た。 「通知表見てもいい?」 「いいよ」  そうして受け取った通信簿は、三段階中まさかのオール3という評価で、その並んだ数字に僕は思わず目を見開いた。 「えっ、すご! こんなの漫画以外あるんだ!? えっ本当すごい、だって体育まで3とかすごくない!? ルルーシュなのに!?」 「僕が体育の成績がいいとおかしいの?」 「ごめんルルーシュ、そういう意味じゃないよ。そうだよね、別に運動神経いい子がイコールで成績いいってわけじゃないよね。そもそもルルーシュ別に運動神経は悪くないんだし……えー、でもやっぱりすごいね。ルルーシュ、勉強がんばってるんだね」  微笑みかけると、ルルーシュは照れたように頬を緩めた。胡坐をかいた僕の太腿に、両手をかけるようにして自身の通信簿を横からひょいっと覗き込んでくる。 「スザクの通知表は?」 「僕の? 僕のはないよ」 「大学生は通知表ないの?」 「無いわけじゃないけど、そうだなぁ、テストの結果が返ってくるのは来月の終わりぐらいかな」 「僕の夏休み終わっちゃうね」 「まあ大学生の夏休みはそこからも続くからね」  その果てしなく続く夏休みにも、僕には若者らしい予定は一つもないときた。何せ彼女に振られたばかり。でもその代わり、この夏を僕はルルーシュと二人で過ごすことができるのだ。 「スザクは小学生の時の通知表ってどうだったの?」  自分の通信簿を覗くのにも飽きたのか、よいしょっとルルーシュは体勢を変える。僕の身体は、ルルーシュにとってちょうどいい背もたれといったところか。 「んー、国語と音楽が悪かったかな」 「何で?」 「僕がルルーシュぐらいの時には、じっと座って本を読むっていうのがとにかくできなかったんだよね。すぐ飽きちゃってたというか……あと音楽は、真面目に合唱とかができなかったなぁ。すーぐふざけだし��ゃって。隣の子にちょっかい出したりとか」 「そういう子、僕のクラスにもいるよ」 「あ、本当? いつの時代にもいるんだなぁ」 「うん。いっつも歌う時につついたりしてくるから迷惑なんだ」 「……いや本当ごめんなさい」  きっとルルーシュが可愛いから、ついちょっかいを出したくなるんだよと言いかけて、本気で迷惑がっているのだろうルルーシュの横顔を見てしまえば、そんな言葉もとたんにどこかに消えてしまった。 「もう通知表しまっていい?」 「あ、いいよ」 「僕やることあるんだ」  そう言ってルルーシュは自分の引き出し(学習机なんて立派な物を置くスペースはここには無いので、通販で買って僕が組み立てたカラーボックスだ)を開き、そこから画用紙と色鉛筆を取り出し始めた。 「お絵描きするの?」 「スザクは見ないで」 「……ごめんなさい」  どうして僕は続け様に謝っているのだろうと思ったが、あまりにしつこくして嫌われるのも嫌だと、携帯片手にごろりとフローリングの上に寝転がった。  窓を閉め切りクーラーをつけていても、蝉の声は不思議な程によく聞こえてくる。  そういえば、ルルーシュは蝉取りなんてしたことがあるのだろうか。無いような気がする。そもそもここには虫取り用の網もカゴもない。大学生の一人暮らしには、そんなもの無用であるのだから当然だ。  Amazonでぽちぽちと虫取りセットを見ていたはずが、気づいた時にはそれが浮輪になっていた。せっかくの夏だ。ルルーシュを海に連れて行ってあげたい。でもこの辺で海水浴と言うとどこに行けばいいのだろう? それも小学生にちょうどいい海となるとさっぱりわからない。 「スザク、スザク」  もはや蝉取りはどこへやら、海水浴スポットをググり始めていた僕に、ルルーシュがどこか興奮した様子で声をかけてきた。 「ん? ルルーシュどうかした?」 「スザクにこれあげる」 「何か絵でも描いてくれたの?」  よいしょっと腹筋よろしく起き上がった僕は、ルルーシュから一枚の画用紙を受け取った。  そこに描かれているのは、定番な僕の似顔絵なんてものではなかった。 「スザクの通知表だよ」 「……僕の通知表?」 「そう。スザクはいつもがんばってるから、その通知表」  まだ十歳とは思えない程にルルーシュは字が上手だ。その上手な文字が、大きな画用紙いっぱいに書かれている。一番上には僕の名前も。そして何だろう、これは項目なのだろうか。ご飯、そうじ、買い物、せんたく、あいさつエトセトラ。 「スザクのご飯は美味しいから、これは3なんだよ。でも、掃除はあんまりしないからこれは2ね。二学期はもうちょっとがんばってね」 「えー、じゃあこれ買い物と洗濯は何で2なの? 僕両方がんばってない?」 「買い物は、いつもお菓子買いたいって言うから2なの。あと洗濯は、アイロンかけないからダメ」 「お菓子ぐらい買ってもいいじゃん! あー、でも確かにアイロンがけはしてないなごめん……っていうか僕の服、別にアイロンがけ必要なものとかないんだよなぁ」 「でもスザクは、挨拶はばっちりだよ。だからこっちは3なんだ」  喜々とした様子で説明を続けるその身体を、僕はひょいっと抱き上げた。胡坐をかいた膝に乗せれば、さすがに小学生は少しばかり大きい。ルルーシュは一瞬驚いたような顔を見せたが、嫌がりもせず再び通知表の項目���指さした。 「あとねー、ゴミ出しもよく忘れるから2」 「いやもうお恥ずかしい……」  がんばっているからと渡された通知表のはずが、手痛いダメ出しになっているのは気のせいだろうか。でも実際その通りと言おうか、子供というのは案外見ているものなのだなあと驚いてしまう。  そんな手痛い評価の中でも、ご飯の項目につけられた眩しいばかりの『3』という数字を見れば、全ての苦労が報われる気がする。なんて言うのはいささか大袈裟というものだろう。言うほどの苦労なんて僕は何もしていないのだから。 「ルルーシュ、僕の作るご飯好き?」 「うん、好き」 「そっかぁ」  この笑顔が何よりも愛しい。 「じゃあ、今日の夕飯は何がいい?」 「んー」  一転、真剣に考え込む顔だって可愛くて。ああそうだ。僕はルルーシュのどんな顔だって好きなんだ。笑顔も怒っている顔も、欠伸が出そうで出ない、そんなちょっと間抜けな顔も。だってそれが生きているってことだろう? 「あっ、僕あれが食べたい!」 「なあに?」 「ハッピーセット!」 「……」  おかしいなあ。  確かにルルーシュは、今さっき、僕の作るご飯が好きだと言ってくれたはずなのに。 「……ハンバーガー食べたいの?」 「うん。あとポテトも」 「ポテト美味しいもんね」  まあ往々にして、こういうこともあるということで。
 I'm loving it!
1 note · View note
kainose-blog1 · 7 years ago
Text
背ワタ何それ美味しいの?
 午後の授業が休講となり、いつもより早い時間に帰路へとついていた僕は、アパートまであと五分というところで見慣れた後ろ姿を見つけて声を上げた。 「ルルーシュ! お帰り。いつもこの時間に帰ってるの?」 「ただいま。スザクもお帰り」 「うんただいま。まあまだ家じゃないけどね」 「だってスザクがお帰りって言うから」  ちょっぴり唇を尖らしながら言うルルーシュは実に可愛い。あーチューしたいなあと思って、家ならともかく街中でそんなことをしようものなら通報まっしぐらだと思い直す。そもそも家でだってルルーシュにそんな真似をしたことはない。僕は全うな大人なのだからして。 「すごい荷物だね」  全うな大人であるところの僕は、とりあえずルルーシュの抱えていた手提げ袋を持ってあげることにした。 「今日図工があったから。あと、体育も」 「あぁ、これ体操着か。えっ、夏なのにプールじゃないんだ?」 「今日はちがうよ。普通の体育」 「へえ?」  交代制なのか、はたまた何かの点検中だったりしたのだろうか。 「残念だったね、プールじゃなくて」 「別に」  慰めの声をかけた僕に対し、隣を歩くルルーシュの返事は実にドライなものだった。 「えっ、ルルーシュ泳げるよね? プール嫌いなの?」 「嫌いじゃないけど、強いて言うなら体育自体が好きじゃない」 「それは知ってるけど……」  はあ、とため息をもらす様子は、到底小学生とは思えない。大人びた子であることは���かっていたけど、そんな重苦しいため息を漏らされた僕は一体どうすればいいのだろう。体育と給食が何より好きな子供であったから、こんな時気の利いた慰めの言葉も浮かばないときた。 「あ、そうだ。せっかくだから、このまま二人で買い物していこうか。今日の夕飯は何にしようかな。ルルーシュの好きなエビチリにでもしようか」 「えっ、スザク、エビチリ作れるの!?」  先ほどまでの重々しい様子はどこへやら、ばっとこちらを見上げるその顔は驚きと喜びに満ち溢れている。  そんな顔を見たら言えなくなるじゃないか。  いや、冷凍のやつを買うつもりだったんだ、なんて。 「……うん。なんか、がんばればいけるかなって」 「本当!? スザクすごい! 夕飯でエビチリ食べれるなんてすごい……今日はご馳走だね……」 「エビチリぐらいいつでも作るよ! ご馳走じゃないからそんな感動噛み締めたような顔しなくても平気だよ、何なら明日も明後日もエビパーティーしてあげるよルルーシュ!」 「それは栄養バランスが悪そうだから大丈夫」 「栄養バランスとか小学生が気にする!? ダイエット中のOLじゃないんだからさ!」  なんてことを言いつつ僕らはその足でスーパーへと向かった。ありがたいことにエビチリの素なんてものを見つけることができたので、これで何とか美味しい夕食にありつけそうだ。 「お菓子も買っていいかな」 「一つだけならいいよ」 「ありがとう、ルルーシュ」  二人揃ってお菓子コーナーへと移動しながら、僕はそこでルルーシュのランドセルからぶら下がる一つの白い荷物に気が付いた。 「ルルーシュ、これなに?」 「これ? コアラのマーチ」 「ルルーシュが手に持ってるお菓子じゃなくて、これ、こっちの白い袋」 「あぁそれ? 僕今給食当番だから。それの割烹着だよ」 「割烹着……」  ザ・ブリタニア人という顔のルルーシュの口から出る、その言葉のなんて違和感のあることか。そういえばそうだ、小学生にはそんな文化があるのだった。  そこで僕は、ついつい脳内でルルーシュの割烹着姿を想像してしまった。  あの、お世辞にも洒落ているとは到底言えない、それもちょっと緩かったりする小学校の割烹着に身を包んだルルーシュ。……それはもしかして、いやもしかしなくとも、めちゃくちゃ可愛かったりするんじゃないだろうか? 「ねえルルーシュ、今日の夕飯作る時にそれちょっと着せて見せてよ」  欲望を抑えることができずにねだった僕に、ルルーシュはといえばにべもなかった。 「やだ」 「何で!」 「かっこ悪いもん、これ」 「そこが可愛いんじゃないか!」 「じゃあスザクが着ればいいいよ」 「僕が着ても意味ないよ! っていうか小学生のなんて小さくて入らないよ! えーいいじゃんいいじゃん、今日エビチリ作ってあげるんだからそのぐらいしてくれたってさー」 「未成年の子供の、それも食事の面倒を大人が見るのは当然なんだから、それを交換条件として持ち出すのはちょっと卑怯かなって思う」 「……あ、はい」  小学生でもルルーシュはルルーシュだ。僕が口で勝てるわけもない。逆に、小学生相手を口で負かすというのもやっぱりそれはそれでどうかと思うので(僕にもしっかりと良心があるのだ)大人しくアパートへと帰ることにした。  帰宅し、早速向かった台所で、僕らはまじまじと顔を見合わせた。 「ルルーシュ、背ワタって何だと思う?」 「スザクは大学生なんだろ? 大学でセワタって何か習わないの?」  ああ悲しいかな、大学生というのは、そこまで万能なものではない。むしろ分数の計算なんて、とっさに出されても解けないことさえあるぐらいだ。  言い訳なんてできるはずもなく、僕はルルーシュと視線を合わせながらに返事を返した。 「ごめんね。僕文学部なんだ」  だからエビは専門外なんだよ、ルルーシュ。
0 notes
kainose-blog1 · 7 years ago
Text
悲しみの授業参観
 講義で使うプリントを、うっかり無くしてしまった。  いや、正確に言えば「無くしてしまったかもしれない」だ。恐らくはこの間掃除をした時に、別のいらないプリントと一緒に捨ててしまったのだろう。そう当たりをつけた僕は、目下捜索の真っ最中だった。 「何だこれ」  その捜索中に見つけたのだ。  授業参観のお知らせ、というそのプリントを。 「ちょっと、ルルーシュ」  玄関前でゴミを漁っていた僕は、すぐさま部屋へと戻った。宿題をやっていたルルーシュは、鉛筆を握ったまま顔を上げる。今日もどこかのフランス人形かと思うぐらいには可愛い顔だ。いや、この場合はブリタニア人形か。 「なあに、スザク? 探し物は見つかったの?」 「それはまだ見つかってないけど、別の���が見つかったよ。……これ、僕は見た覚えがないんだけど?」  僕が突きつけたプリントを見て、ルルーシュは「ああ」と声を漏らした。何も焦った様子などはない、それどころか落ち着き払ったその態度に、この子は本当に小学生なのかと僕は束の間疑いの目を向けてしまいそうになった。 「うん、そのプリントはスザクに見せてない」 「そこはもうちょっと焦ろうよ! いや違うな、そうじゃなくて、僕にちゃんと見せようよ! 何で僕に教えてくれなかったの? 授業参観、僕に来て欲しくなかった? それか僕に遠慮したとか? でも僕は君の――」 「だってスザクに聞いたら、授業参観の日は授業だって言ってたよ」 「えっ!?」 「木曜日の午後は授業なんだろう?」 「……えっとね、ルルーシュ」  つまり何だ。  僕は先週がルルーシュの授業参観だったなんて知らないし、聞いた覚えもないし、でも今のルルーシュの言い方からすると、僕に一度確認を取ったことは確かなのだろう。そんな、変な嘘をつくような子ではないと知っている。 「……ルルーシュは、僕に、木曜の午後に授業があるかどうか確認してくれたわけだよね?」 「うん、したよ」 「でもその時に、授業参観の話はしてくれてないし、このプリントも見せてくれてないわけだよね?」 「だって授業なら来れないし、それなら言う必要もないかなって」 「いやめちゃくちゃありますけどっ!?」  僕の勢いがあまりに良すぎたからだろうか、驚いたようにルルーシュは肩を跳ねさせた。その小さな肩を掴んで思い切り揺さぶってやりたいぐらいだったが、それは何とか大人の精神力でもって我慢した。僕は理性のある大人なのだ。 「ルルーシュの授業風景とか見たいに決まってるじゃん! 行くよ、何があっても行くよ、テストとかでもない限り行くよ普通の授業ぐらいなら全然サボって行くよ行きたかったよ! えっ本当見たかった死ぬほど見たかった……どうにかして先週に戻れないかな無理かな……無理か……えー見たかったよルルーシュがどんな風に授業受けてるのか学校だとどんな風なのか見たかったようううー……っ」 「えっ、スザク!?」 「ううー、どうして先週の僕は普通に授業受けてたりしたんだろ……バカじゃないのか死ねばいいのに……ちょっと死のう本当」 「ごめんなさいスザク、僕が悪かったから泣かないで! 本当にごめんなさい! もうしないから、ちゃんとプリント見せるから!」  ぼたぼたと涙をこぼす大学生と、そんな大学生を必死になって宥める小学生の図は、側からはどんな風に見えたことだろうか。  その後、僕はルルーシュと出会って二回目となる指切りを交わした。 「学校からのお知らせはちゃんと僕に全部見せてね」 「わかったから、スザクはもう泣いちゃダメだよ。大人なんだから」 「……はい、気を付けます」
0 notes
kainose-blog1 · 7 years ago
Text
君に夢あれ
 ワンルームのアパートは、二人で暮らすとなるといささか狭い。  「おやすみルルーシュ」  「おやすみなさい」  「子守歌が必要だったら言ってね」 「ありがとう。でも気持ちだけもらっておく」   テーブルをどかして布団を敷く。僕の布団を敷く時には、このテーブルは脚を畳んで壁にたてかけておく。   室内灯を消した部屋の中で、それでも卓上の電気スタンドとパソコンの明かりがあれば何をするにも支障はない。いや、ナニをするには支障はあったりもするけれど、それはアイフォン片手にトイレにこもれば済むことだ。サンキュージョブス。   適当なところまで課題を進めて友達のインスタを覗いて、ついでに賃貸サイトも覗いて次に暮らすならどんな感じの部屋がいいかなあと、幾つか画面をクリックしているとお腹が鳴った。   ルルーシュはよく寝ている。毎晩布団に入って五分もすれば健やかな寝息を立てている子だ。ちょっとやそっとの物音では起きないだろうとも思ったが、何となくこの時間に調理器具をガタガタさせることには気が引けた。もとい、料理をするのが面倒だった。   ここからコンビニまでは歩いて五分と言ったところだ。赤ん坊じゃないのだし、そのぐらいは一人にしたって平気だろう。   携帯と財布を持って僕はアパートを出た。後ろ髪が引かれるとまでは言わないけど、何となく落ち着かない気分を感じて仕方なくて、まるで子持ちになったみたいだなと思って笑った。彼女に振られた身で何を言っているのだか。  深夜のコンビニはそれだけで何だか楽しい。無駄にあれこれ買いそうになってしまう。残っていたパスタを温めてもらい、ついでにレジ前に置かれていたチョコをいくつか手に取って帰路へと着いた。家で寝ている子供がいると思うと、どうしてもつい早足になってしまう。これじゃ本当に子持ち��心境だ。  けれど僕がどれだけ早足で家に帰ろうとも、玄関の扉を開けた瞬間に泣き声が聞こえてくるなんてことはなかった。 「おかえり、スザク」 「うわっ」  その代わり、普通に出迎えられてしまって僕は慌てた。 「えっ、わ、ルルーシュ起きてたの?」 「トイレ行こうと思って」 「あぁ何だ、トイレか……」  行っておいでと見送れば、小さく頷きながらルルーシュはトイレの中へと消えて行った。まだ心臓は少しドクドクとしている。そんな自分を情けなく思いつつ、僕は端に寄せたテーブルに向かいパスタを食べ始めた。 「なに食べてるの?」  トイレから戻ってきたルルーシュは、そう言って僕の隣へと座りこんできた。確かにこのミートソースの香りが漂う中では寝辛いかもしれない。 「ごめん、お腹空いちゃって」 「こんな時間にミートスパゲティ食べるの?」 「夜中に食べると美味しいんだよ。ルルーシュも一口食べる?」  なんて進めるのは、悪い大人そのものだろうか。ルルーシュは夜九時には布団に入る良い子だというのに。  案の定、びっくりしたようにルルーシュは目を見開いた。元々大きな目が、さらに大きくなって僕を見上げる。 「だって、もう歯磨きしちゃったよ」 「もっかいすればいいんじゃないの?」 「えっ」  そんな発想は、どうやら今までルルーシュの中には無かったらしい。 「そっか……寝る前の歯磨きをしちゃった後でも、もっかい歯磨きすればよかったのか……そんなこと今まで思いつきもしなかった……」 「えーっと、一口食べる? どうする?」 「食べる」  今度は即答だった。よし、と僕も頷き、フォークにくるくるとパスタを巻き付ける。少し巻きすぎたかなとも思ったけど、あーんと差し出したそのフォークを、ルルーシュは大口を開けて頬張った。 「どう?」 「ほひひー」 「美味しい?」  ゆっくりと飲み込んでから、ルルーシュは大きくこくりと頷いた。 「スザクが作るやつよりも美味しい」 「……夜中に食べると大抵何でも美味しく感じるんだよ」 「そうなの?」 「そうなんだよ」  そういうことにしておいてもらいたい。でないと、明日からご飯を作る気力が無くなってしまいそうなのだから。  そのまま仲良くパスタを半分こして、もう一度歯磨きをしてからルルーシュは布団へと潜り込んだ。 「おやすみ、ルルーシュ。子守歌うたってあげようか?」 「んー、じゃあ歌って」 「え、いいの?」  毎晩拒否されるものだから、本日二回目もそうだとばかり思っていた。それじゃあ、と布団の横に座りながら僕は少しだけ考え込む。どうしようか。実は子守歌なんて一つも知らないなんて今更言えない。 「ねんねんよー、おころりよー」  唯一知っているそのフレーズを口にしたものの、そこから先がさっぱりだ。 「おころりやーまの向こうにはー……パスタ職人が住んでいるー」 「何それ」 「パスタ職人の朝は早いー、朝から生地をこねこねこねー。そしてお昼は大忙しー、パスタを茹で茹でソースを混ぜ混ぜ、そこにいらした団体客ー。えっ二十名ですか、少々お待ち下さいね今テーブル片づけますから!」 「スザク、うるさい」 「ありゃ」  すぐさまダメ出しを食らってしまい、僕の人生初めての子守歌はそこで終わりを告げた。でも結局、僕の子守歌があろうがなかろうが(無い方がいいとルルーシュは言うのかもしれないが)すぐさま健やかな寝息が聞こえてくるのだ。  こんな風にルルーシュの寝顔を見つめる日が来るなんて、昔の僕は知りもしなかった。頭を撫でながら、僕の頬は自分でもわかる程に緩んでいた。 「いい夢を、ルルーシュ」  部屋にはまだミートソースの香りが漂っていたから、この日ルルーシュが見る夢は、ソースの海で泳ぐ夢になるのかもしれない。
0 notes
kainose-blog1 · 7 years ago
Text
僕らは天才同士
 簡単にこちらへ近寄ってくる女性は、また簡単にこちらから離れていくものだと、僕が知ったのは齢二十歳の頃のことだった。その時のルルーシュは十歳。引き取った、初めての夏のことだった。 「だってスザク君、私と旅行に行くよりもあの子といる方がいいんでしょ? それならしょうがないじゃない」  小学生の子供を、まさかアパートに一人残して置けるわけにはいかない。僕の判断は間違っていないはずだった。けれど、彼女の言い分もきっと間違ってはいなかったのだ。この世にはどうすることもできない問題が山積みになっている。少子高齢化社会にしろ、環境破壊問題にしろ。僕が恋人に振られたのも、多分そうしたことの一環だったのだろう。  肩を落としながら、僕はアパートへと帰った。その前に買った、クリームコロッケの袋を下げながらに。 「スザク、お帰りなさい」 「ただいま」  どんな状況であれ、出迎えてくれる人がいるというのはシンプルに嬉しい。炊き立ての、ご飯の香りがすることも。 「ご飯炊いておいたよ。あと、お味噌汁も作ったんだ」 「え、本当? ありがとう。うわー、お味噌汁美味しそう。ルルーシュはあれだね、お豆腐切るのが天才的に上手いよね」 「普通に切ったらこうなるよ」 「僕はならないよ。何か変な感じになっちゃうよ。ルルーシュはお豆腐の良さを最大限に引き出せる切り方ができてるんだよ、つまりは天才だよ。豆腐マイスターだよ」 「それはいいから何買ってきたの?」 「あ、コロッケ買ってきました」  袋の口を開くようにして中身を見せれば、ルルーシュは「わあ」と小さな声を上げる。クリームコロッケだよと言葉を添えれば、懐かしい紫の目がきらきらと輝いた。  最後のダメ押しとばかりに、僕はここでとっておきの切り札を見せることにした。 「しかもこれ、カニクリームコロッケならぬ、エビ入りクリームコロッケだよ」 「スザクはあれだね、コロッケ選ぶ天才だね」 「じゃあ僕ら天才同士だ。よし、天才同士食卓を囲むとしようかルルーシュ」 「その前にスザクは手洗ってね。あとうがいもしてね」 「心得てます」  僕らの生活はなかなかに好調だ。  たとえ彼女に振られたからといって、それが何だと言うのだろう。  だってルルーシュと囲む食卓は、炊き立てのご飯はお味噌汁は、今日もこんなにも美味しいと言うのだからね。
0 notes
kainose-blog1 · 7 years ago
Text
それがなくては話にならない
「どうしようルルーシュ、大変だ!」  あともう少しで秋刀魚が焼けるという段階になって気づくだなんて、何と言う失態なのだろう。菜箸を握ったまま叫ぶ僕に、慌てたようにルルーシュは小さな身体ですっ飛んできた。 「どうしたのスザク」 「大変なんだよ、大変なものを忘れてたんだよ!」 「ご飯炊き忘れた?」 「ご飯は大丈夫、しっかり炊飯器に託してあるよ、でも大根を買うのを忘れた!」  大根おろしのない秋刀魚なんて秋刀魚じゃない!  と、心からの叫びを上げる僕に向かってルルーシュは言った。 「僕、大根おろし食べないから大丈夫だよ」 「えっ、そんな! ルルーシュ秋刀魚好きなんだよね? ルルーシュが好きだって言うから買ってきたのに!」 「焼いたお魚は好きだけど、大根おろしは辛いからいらない」 「ええーっ!」  とんだ裏切りもあったものだと僕は項垂れたが、よく考えなくてもルルーシュはまだ十歳の小学生だ。小学生の子供が「やっぱり焼き魚には大根おろしだよね」と言って憚らない姿というのもちょっと嫌だ。とくにルルーシュの、お人形みたいに可愛い姿でやられるのはもっと嫌だ。 「……ちょっと秋刀魚に待っててくれるよう言っておいてくれる?」 「スーパー行くの?」 「ううん、コンビニ」 「コンビニに大根売ってたかなぁ」  ルルーシュは首を傾げていたが、そんなの僕にだってわからない。  それでも天は僕に味方をしてくれた。大根は売っていなかったが、まさかの大根おろしそのものが売っていたのだ。昨今のコンビニの品揃えには恐れいる。このままの勢いでぜひ大学の単位も陳列してほしいところだ。  そうして予定よりも時間は押したが、何とか僕らは焼きたての秋刀魚と白米という黄金の組み合わせを堪能することができた。ルルーシュが嫌い内臓部分もしっかり貰って、この苦味がまた大根と合わさって美味しいんだよなあと破顔する。 「どうして魚は魚だけで美味しいのに、大根おろしがないと嫌なの?」 「嫌っていうか、一緒の方がもっと美味しいんだよ」  試しに一口食べてごらんと、大根おろしと一口ルルーシュの秋刀魚に乗せてやった。恐る恐ると言った様子でそれを口に入れたルルーシュは、次の瞬間うげえっという表情を見せてくれた。 「……これ美味しくないよ」 「ありゃりゃ」 「スザクのべろ変だよ」 「ルルーシュもね、大人になればわかるようになるよ」  でももう少しだけは子供のままでいてほしい。  その方が大根おろしが節約できるからね。なーんて。
0 notes