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幻の『本』屋
最寄り駅を出発してすぐ、いつもの通勤電車の車窓から低い家屋の間を縫うようにして一瞬、ちらりと見えた『本』という看板が気になった。線路沿いに細い道を挟んで住宅が密集している区画があり、その中の一軒が本屋さんを営んでいるのだろうか。ぱっと見の記憶だが年季の入ってそうな白地に黒の太字でただ『本』とだけ書かれた看板だった。 まさか近所に本屋さんがあったなんて。 これは是非とも足を運ばねばならない。 いく週間か過ぎてようやく探索をする時間を設ける事が出来た。 その日は近くの病院に健康診断を受けに行く道でも「啄木鳥」という良さげな喫茶店を見つけたところだったので、その流れにあやかり決行したのであった。 線路脇の細い道を進みながら曲がり角のたびに横に折れ、軒先をひとつひとつ確認していった。 やがてついに、それっぽいお店を見つけた。 ガラス戸の向こうにはビニール紐で束ねられた古本らしきものが積み上がっているのが見える。 たぶんここは本屋だったのだろう。 しかし、今はもう閉店していた。 ガラス戸には店主の逝去と閉業の旨を伝える貼り紙がしてあった。日に焼けて色褪せた文字は手書きで、日付も記してあった。2月とある。 建物の正面上には看板をはめておくための枠だけが赤く錆びついていた。 わたしがここから出勤するようになったのは今年の4月からなのでその時にはすでに閉店していたことにな���。看板も閉店と時を同じくして外されるものだと思っていたが、店内も放置されているくらいなので看板の撤去もついこの間終わったのだろうか。 ともかく、本屋(だった場所)は見つかったが見かけた看板の実物は見つけられなかった。 電車の窓から見た錯覚だったのか、それとも他にも本屋さんが存在しているのか、まだ探検の余地はあるという一旦の帰結を迎え帰路につく。 今はもう入れないあの本屋さんだけが心残りだ。
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今でもよくわからないこと
中学三年生の冬、午後の選択授業で理科室にいた時。たしか先生の指示で教卓まで何かを取りに列に並んでいた時。 前に並んでいた友だちの左肩になにか、黒い、毛足の長いまっくろくろすけみたいな毛玉が乗ってるなと思って それを取ってあげようとした。 絶対に埃か無機物にしか見えなかったので何も考えずに軽く左手でそれを払ったのだけど、 触れた感覚もないまま人差し指に針で刺されたような痛みだけツキーンと伝わってきた。 思わず手を引っ込めて振り払う仕草をして「いてっ」と小さく声に出してしまった。 まさかあれは人を刺す虫かなにかだったのか?と思って辺りの床も見渡すけれど正体不明の黒いもさもさは見当たらない。 思いっきり手を振り回してしまって恥ずかしい。 痛みはわたしの勘違いだったのかとも考えたけれど、現実に指は赤みを帯びて腫れてきている。 その授業の後、友だちに付き添ってもらって保健室に行ったけど 虫?に刺されたかも?としか説明出来なくてすごくもどかしかった。 消毒をしてもらって保冷剤で冷やしながら次の美術の授業を受けたが当然集中出来ない。 刺された痕はたしか翌日にはすっかり治っていたような気がする。 今でもふと思い出した時にあの黒い虫?の正体を調べているけど よくわからない。
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ここにないもの
ここにないもの 新哲学対話 /野矢茂樹 初めて哲学の事について書かれた本を最後まで読んだ エプシロンとミューの2人が対話をしながら哲学的な事について考えるという内容で、わたしにはこのほとんど対話の構成がとても読みやすかった 人生は無意味だとか 自分の死についてだとか 10年後の自分だとか ちょっと小難しいけれど考えてみないわけにはいかないような議題たち 言葉によって世界を隅々まで捉えることはきっと出来ないけれど 言葉を尽くしてみて初めて世界の広さを実感できることもあるのだろうな わたしが絵を描いている時 絵の具を乗せれば乗せるほど 画面が絵に近づけば近づくほど 自分の中にあった(絵の上に乗せるつもりだった)何かが少しずつこぼれ落ちて行っている感覚がある 代わりに画面にはそこにしか現れない何かが出来上がってることもある 絵に描いたから見ることの出来る、思ってもみなかった何か 『なんたって考えられる限りの人生のエピソードを収めるもっと大きな絵柄なんだから それはもう思いもよらないものでしかありえない。』 『未来は<ある>のではなくて<なる>。』 良いなと思った文中の言葉 植田真さんの絵もいいんだこれ
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家探し
春に引っ越しを考えているので いまから新居探しの真っ最中 けれどなかなかコレという物件が見つからない 外を歩いていても家にばかり目がいってしまう こんなことならいっその事家なんて持たない方が潔く生活出来るのじゃないか なんて考えが飛躍してしまったりする そんな訳にもいかないのでまた家の問題を考える 間取りを見るのは好きなので眺めている分には楽しいけれど 住むとなると家賃や立地や内装、色んな条件が付き纏う 家賃がよくても駅から遠かったり まさに一長一短だ 新しい生活を想像するのはとてもわくわくする 知らない土地に自分を置くのが好きなのかもしれない だからこそスタートになる部屋決めは妥協出来ない 幸い急いでないのでじっくり吟味しようかな
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捨てられないイヤホンの話
シアンとピンクのおもちゃのようなカラーリングが可愛いイヤホン デザインも音質も普通 値段も 高校生だった私が買えたくらいなのでさほど高くなかったはずだ 移動している時に聴くくらいだし もともと音にはあまり頓着していなかったので 黄緑色のiPodに合うかもしれないと思ったから それだけの理由で決めた 特に思い入れもなかったはずなのに 使い始めて5年かちょっと経ったぐらいの時期にイヤホンの調子が悪くなってしまった どうやら中で線が切れてしまっているらしく、片方の耳から音が聞こえにくい状態だった それでもしばらくは騙し騙し使っていたが とうとう完全に音が聞こえなくなった こうなってしまっては仕方がないので代わりにiPhoneに付属していたイヤホンをとりあえず使うことにした 壊れてしまったイヤホンは捨てるのがおそらく自然な流れだろう でも私はなんとなく捨てられずにいる デザインも音質も普通 特に思い入れもなかったはずなのに、手放さずにいるのはなんでなのだろう このイヤホンで聴いた曲は今でも聴けるし 物を捨てたからと言って思い出までなくなったりはしない それでも私はイヤホンを捨てたら 捨てた事に対してすこし胸をチクリとさせるのだろうか いま使われなくなったイヤホンを見て 高校生だった当時を思い出してチクリとなるように
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たかが世界の終わり
自分の死を告げるために12年ぶりに家族の元へ戻る男と、その家族のはなし 特になにか事件が起こるわけでも ドラマチックな展開があるわけでもない映画 結局主人公は決定的なことを言わずに去っていくし翌日の朝からはまたなんでもないそれぞれの日常が始まるのだと思う わたしは実家から離れて暮らしてるけれど、わたしが帰ると家の中でなにか反応が起きているのを察知してたりする (すごくゆったりした揺らぎみたいな) というのを観てる間に思い出してた ほっこりする とか あったかい とかの中に収めない形容しがたい、濃密な家族の愛を観た という感じ 音楽も良くて 恋のマイアヒの使いどころすごかった
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友達になりたい。
やっとっ 買えた大童澄瞳さんの「映像研には手を出すな!」おもしろかった きっと浅草ん家にはAKIRA全巻揃ってる あと知り合いのこと照れもせず○○氏って呼ぶ人はユーモアセンス高いって持論が出来た 自分も設定画とか建物の細かい断面図(どこの部屋がどんな部屋でみたいな説明)ばっかの本大好きだったもので浅草氏にちょっと寄り気味で読んでいたけれど、未来少年コナンが出てきたので一気に興奮した 話合いそうだしぜひ友達になってほしい! 第二集は今夏発売予定だそうで今から待ち遠しい なんだか知らんが、面白くなってきやがった!
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3月のライオンは人前で読めない
羽海野チカさんの漫画「3月のライオン」とても好きな作品ですがわたしは人前で読むことができません 読むたび読むたびに泣いてしまうから (���とじっくり集中して話に浸りたいから) 胸を打つどころでは無く 奥深くの部分をぐわっと鷲掴みにされてブン回されてる感じです どうしてそんなに感動してしまうのだろうと考えてみても理由はよくわからないのですが ページの隅々まで詰まった言葉や絵の熱量がまるで生きてる様に息づくから 登場する人たちの心に圧倒させられたりほっとしたりするのだと思います わたしには目指している世界があって そこと自分との間にある途方もない距離に漠然とした不安を感じることがあります その時にこの物語に触れると今までの人生のどっかを肯定してもらえた様な気がして 一歩踏ん張れるのです
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