仕事を辞めてパリへ飛ぶ人。「神」という名のウーパールーパー��看取った人。内臓が地球の人。はじめて朝を体験する人。火山灰を集める国籍不明の人。突然誰かに語り始める人、人、人。YouTuber御用達のコンビニ。そのコンビニの老店主。道端のバヤリース。カーセックス。ある人間の愉快な一年。そのなんやかやと、それ以外のなんやかやが、交錯して錯綜して頻繁に脱線する。仲西森奈( https://linktr.ee/morinakanishi )の連作掌編小説。50篇ごとに、加筆修正を加えて、「出版社さりげなく」より書籍化し、20巻(1000篇)完結予定。
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#096 メモランダム(4)
すべての物語には奇跡(ミラクル)が含まれている。奇跡を運命で型取り、必然と偶然で肉付けする。奇跡は心臓。運命は骨。必然と偶然は肉や血管や皮膚、そして内臓など。「わたし」と「あなた」が出会う。「あなた」が「わたし」の友達の従兄弟だったから。「わたし」が「あなた」に会いに行く。「あなた」の連絡先を、「わたし」は知っているから。「あなた」は「わたし」の幼馴染かもしれない。それとも、「あなた」は「わたし」に育てられている、サボテンや、犬や、亀なのかもしれない。「わたし」がヒトではないことだってある。「あなた」は、「わたし」が生きる時代、あるいは生きていない時代の、どこにいる? 「わたし」は「わたしたち」かもしれないし、「あなた」は、「あなたとわたし」かもしれない。「あなたとわたし」が、「あれ」や「これ」に出会うことだってある。ひとつひとつ、肉を、血管を、皮膚を、内臓を、肉付けしていく。「なぜなら」という道のりを、道筋を、遡行的に舗装していく。そうしてすべての物語が、すべての「なぜなら」のはじまりにたどり着く。なぜなら、「わたし」が生まれたから。なぜなら、「あなた」が生まれたから。なぜなら、この世界が、このように在るから。
珈琲を淹れる。豆を挽いて、フィルターに落として、お湯を垂らして、蒸らして、注ぐ。濾していく。抽出していく。最初に、濃い、原液のようなものが出てきて、あとはそれを出涸らしのような抽出液で薄めていく。薄め方によって、味わいが変わる。
奇跡の薄め方によって、物語は表情を変える。どれだけ薄めても、奇跡の気配は消えない。なぜなら。わたしが書いているから。あなたが読んでいるから。わたしが生まれたから。あなたが生まれたから。この世界が、このように在るから。
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#095 色彩
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「あけましておめでとう」「あけましておめでとう」と、僕たちは口々に言った。 「今年もよろしく、メイジュー」と、ぽビュー5が手を差し伸べてくる。 「ありがとう。今年も、うん、よろしく」と言いながら僕はその手を握って、ぽビュー5と見つめ合う。 「それで」とカンパナ。「これからどうする」 「今年で最後にならなきゃいいけどな」と田中〜愛〜田中はカンパナの言葉を遮るように言ってカンパナに睨まれている。「やめとけマジで。喧嘩も、つまんねーこと言うのも、どっちもやめとけ」と歌詞宮10葵が最後の煙草を咥えながら言っていて、「あんたは煙草をやめなさい」とくくぅくがマザーみたいな口調で言っている。「それに、火は目立つ」 「×××。××××××。×。」 背中から、モロー・スペースの声が小さく聞こえてくる。僕はおんぶ紐を背負い直して、モロー・スペースに向かって言う。「もうすこし。ここまできたよ。もうすこし」 「ひとまず今日はここで眠ろう」というぽビュー5の提案に皆が同意し、カンパナによって見張り順と時間配分が決められた。時間がわかる器具(アナログ式の腕時計)を持っているのはくくぅくだけだったから、くくぅくは腕から時計を外して、最初の見張り番である田中〜愛〜田中に渡した。田中〜愛〜田中は暗闇の中、夜行眼鏡でじっと地図を見ている。「地図にかまけて見張りを怠らないこと」とくくぅく、黙ってサムズアップする田中〜愛〜田中。僕はその光景をぽビュー5のすぐとなりで座って見ていて、ぽビュー5は、僕の服の裾を掴んだまま既に眠っている。
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いまから7〜8年前、世界中が未知のウィルスでパニックになっていた。熱風邪に似た症状を引き起こすが、致死率は低く、感染力が強烈で、なによりも恐ろしかったのが、肌の色の変化、という後遺症だった。症状が落ち着いた人たちの肌が、一昼夜で変わってしまう。ある人は黒く、ある人は白く、ある人は黄色く。緑、橙、紫、グレー、青。木目調、なんて人もいるらしい。黒人が白人に、白人が黒人に、黄色人種が黒人に、白人が黄色人種に、黒人が緑色人種に。人間のプリミティブでルッキズムな差別感情に直截な形で訴えかけてくるその後遺症によって、あらゆる人々があらゆる人々に多層的な差別と暴力を振りかざし、国が分裂し、国と国が諍い、紙幣が紙になり、紙が人を扇動し、気候変動と世界規模の飢饉で断末魔だらけになった世界中で、ワクチンの開発と同時に、肌の色を元に戻すための薬品開発が急速に進められ、その途上で、新たな兵器が生まれた。色彩定着型ゲノム式小型爆弾プリムラである。
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僕たちはみんな、プリムラに被爆した人間の子宮から産み落とされ、施設の中でマザーに育てられた。だから僕たちはみんな、プリムラによってめちゃくちゃにされたDNAの塩基配列情報のおかげで、「プリミティブな」肌の色をしていない。国なのか、企業なのか、特定の団体なのか、それともゲリラ的なチームなのか、まったくの個人なのか、どういう人間が、いつ、どういう方法でプリムラを発射するのか、もはやまったくわからない時代になった。なにせAmazonやshopifyで誰でも買える爆弾なのだ。自作プリムラ(クラフト・プリムラ)のハウツー動画を投稿し続ける古参YouTuberだっている。僕たちが暮らしていた施設の監視区域にプリムラが落とされて、近くを歩いていた監視員の肌が、地面にこぼれたガソリンのように滑らかな虹色に変化していくのを見てパニックで暴れ狂う監視区域の監視員たちや、恐慌を来している管理塔からの支離滅裂なアナウンスを後景にして、僕たちはマザーの点滴を引っこ抜いて施設から抜け出した。
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マザーが命名権を行使する前に施設を抜け出した僕たちには最初、名前がなかった。僕たちはあくまで「僕たち」だったし、名前なんてなくてもお互いを識別し、呼ぶことはできた。でも僕たちはもう、(おそらく)施設には戻らない。だから僕たちは、ひとりひとり、自分で自分に名前をつけた。発話機能をいじくられているモロー・スペースだけは、モローに代わってみんなでいくつも案出しをして、モローが満面の笑みでうなづくまで何日も名前を考えた。モロー、はくくぅくの、スペースは10葵のアイデア。・で分けて呼ぼうよ、と言ったのは僕だ。モローは僕の背中で何度もうなずいて、その揺れで転びそうになった。あれは、楽しかったな。
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信じられないかもしれないけれど、僕たちは3日で西東京国から関西甲信越連合共和国を跨いで、旧京都市まで辿り着いた。この島の国境管理はそもそもが杜撰だったし、島��各国の人口減少と高齢化、さらに各地で巻き起こっているプリムラ被害の混乱で、多くの人は国やそのシステムに良くも悪くも依存しなくなっていた。マザーの生命線を抜いて施設から抜け出してきた僕たちはいろんな意味でわかりやすい、見つかりやすい身分だったけど、隠れる場所、移動手段、勝手に同胞だと思って世話を焼いてくれる人たちは各所にいたし、あった。緑地再建法と畑地支援法によって様々な高層建築が解体され、あるいは解体予定建物にされ、施設の目が行き届かなくなっていたことも僕たちに味方していた。僕たちは、貿易トラックの荷台に隠れて、緑色人種2世の運転手と一緒に、国を地域を、山を畑を、駆け抜けて、通り越して、ここまで来た。
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「メイジュー。メイジュー」 カンパナに揺り起こされて、僕は僕の肩に頭を乗せて眠りこけているぽビュー5をそっと横に寝かせて、夜行眼鏡と地図、それから腕時計を受け取る。 「時間だ」 「うん」 「いいな」 「なにが?」 「順番。お前と逆がよかった。お前の見張り中に、きっと日の出だろう」 「ああ、うん。そうだね」 「代わりに、目に焼き付けてほしい。俺は寝るけれど、お前の目は、俺たちの目だから」 「うん。そうだね」 「おやすみ」 「おやすみ」 カンパナはくくぅくと田中〜愛〜田中の間にむりやり挟まるように横になって、すぐに寝息を立て始めた。田中〜愛〜田中が苦しそうに呻いている。僕はみんながそれぞれどんな夢を見ているのか、なんとなく、わかるような気がしている。
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はじめから、ここに来るつもりではなかった。あてなどなかったし、ただ、せめてこの小さな島の、遠くへ遠くへ進んでいけたら、と僕たちは思っていた。 「わたしの祖母が、スペースコーヒーっていうお店を旧京都市のどこかで最近までやっていて」 国境を越えてしばらく走ったあと、旧国道の沿道で車を停めて休憩しているとき、モローの名前を聞いたトラックの運転手が教えてくれた。 「なつかしいな。空おばあちゃん」
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それで僕たちは、かつてスペースコーヒーがあった場所を当座の目的地にした。どのみち僕たちは、あまり長くは生きられないのだ。当座当座で動いていくくらいが、ちょうどいい。
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空の色がぼやけてきた。夜行眼鏡もそろそろいらないだろう。僕は肉眼で地図を眺めて、この場所が岩倉川と高野川の合流地点であるということ、僕たちが隠れているこの場所が、千石橋という橋の下であることを改めて確認する。鳥の声、川の音、葉っぱの声、橋の音。カンパナは目に焼き付けろって言ったけど、こんな窪みみたいな場所で日の出を見るのは困難だ。一気に空が明るくなって、僕は、僕たちの目でその薄青色を見ている。かつて、と僕たちは思う。かつて僕たちは、知らなかった。「何を?」とぽビュー5。「��にたくない」と僕。
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#094 すばらしい日々
たらみのみかんゼリーが食べたかった。ただ、それだけなのだ。
「どしたのそれ」
「ん〜いや、あそこの高架下でさ、ダンボールの中に入っててさ、震えてたから」 「から?」 「ん?」 「震えてたから?」 「や〜かわいそうじゃん」 自分の眉間に皺が寄っているのがわかる。鼻から息が漏れる。後先考えずに何かを拾ったり誰かを助けたり。それで面倒なことになっても構わない。あなたにはそういう、主人公気質があるのだ。 ◎◎◎は、のんきに彼の手のひらの上でウネウネ動きまわっている。 「で、どうすんのこの子」 「名前はもう決めてあるんだ〜」 「は?」 「ハロー。いい名前だよね。ね〜ハローっ」 あなたは紙袋からミルクポーションくらいのサイズのゼリーを取り出して、蓋を剥がしてハローにあたえた。帰ってくる途中にペットショップあたりで買ったんだろう。もうすっかり飼う気でいるようだ。 ハローは嬉しそうにキイキイ鳴いている。むかつくけどちょっとかわいい。 「俺思うんだけど、あいさつってしてもされても気持ちいいじゃん? それだけで気分が上向きになるっていうかさ。ちょっといい日いい瞬間になるみたいなところ、あるじゃないっすか。だから〜、こいつの名前はハローなのです。ね〜ほら、ハローって言うだけで、なんかちょっと、こう、よくない? わからんけども」 ハローは、もうすっかりあなたに懐いてしまったようで、手のひらの上から離れ、あなたの身体中を這い回っていた。「やめろよ〜」とくすぐったそうに笑うあなた。もや〜っ。 「それでさ〜、ちゃんと買ってきた?」 「買ってきた?」 「ゼリー」 「ゼリー? うん、これ」 「わたしの」 「あ」 「ファミマ。たらみ。ゼリー。ねえ。みかんの。ねえ」 「あ〜」 「風邪薬」 「うん」 「熱さまシート!」 「……」 梅雨入りするかしないかの六月初め、私は季節はずれの熱を出した。私もあなたも風邪すら滅多にひかないから、家にはそういった類の備えがなにもなかった(絆創膏もないことに気づいてふたりでちょっと笑った)。だから私は、夜勤明けのあなたにささやかなおつかいを頼んだのだ。風邪薬と熱さまシートと、あとたらみ。別に好きってわけではないしむしろどっちかっていうと嫌いなんだけど(甘ったるくて)、体調を崩したり落ち込んだりしているとき、肉体的にも精神的にも弱っているとき、無性に食べたくなるのがそれなのだ。たらみのみかんゼリーは薬みたいなもので、というかもう薬で、とりあえず弱っているときに口に入れ続けているとなんだか元気になったような気がしてくるのだった。「入れ続けるなら薬っていうより点滴だよね」とはあなたの言葉である。 「は〜〜ごめんほんとごめん〜! すぐ! す〜ぐ帰ってくるから!」と、ハローを身体からひっぺがし、あなたは慌てて家を出た。 私は在宅勤務の編集者で、あなたは夜勤の警備員で、私とあなたは小学校の同級生で。大学卒業間際にちょっとしたきっかけでささやかに再会して、それからお互い暇なときに連絡を取るようになり、だらだらと食事をしたりぼやぼやと遊んだりしているうちに、四捨五入、みたいな感じである日を境に付き合い始め、私の引っ越しを期に二人暮らしをすることになったのだ。 寂しそうにキュイキュイ鳴くハローを無視し、私はおぼつかない足取りでメビウスと黒ラベルの空き缶を取り、ベランダに出る。 火をつける前にタバコの葉の匂いを嗅いでいると、ベランダの真下、アパートの出入口からあなたが速歩き気味に出ていくのが見えた。せかせかと最寄りのファミマ方面へ向かっていく。「おお、行け行け」と、私は少し愉快な気持ちになって、タバコをくわえる。 「……そうだ」 このタバコを吸い終わるまでにあなたがここに戻ってきたら。些細なあれこれはひとまず置いといて、今日は一日、大人しく、病人らしくふるまうこととしよう。 それまでに戻ってこなかったら。 こなかったら、玄関でキスをしよう。 そこそこ屈強である私がこんなに素直にしんどくなっているのだから、わたしの体内で跋扈しているウィルスだって、きっと屈強なはずだ。そのウィルスを、思いっきり、あなたにうつしてあげよう。あなたの身体を、ウィルスに組み伏せてもらって、そうして、一緒に寝込もうじゃないか。 網戸越しにハローがこっちを見ていた。 「いや、嘘だよ。うそうそ。やんないよ」 向かい風が吹いてタバコの煙が部屋に入る。それを吸ってハローが大げさにせき込んでいるのを、目を細くしてざまあみろと笑う。部屋の中で流れているテレビの天気予報が、関東地方の梅雨入りを宣言しているのを、なぜか清々しい気持ちで聞きながらタバコを吸い続ける。アパートの、道路を挟んだ向かい側、私立の小中学校のような外観の老人ホームから、音楽が聴こえてくる。しばらく聴いていて、UNICORNの「すばらしい日々」だとわかる。奥田民生を意識しているのか素でそうなのか、のっぺりした声質のボーカルが、「す〜べ〜て〜を〜捨〜て〜て〜ぼ〜く〜は〜生〜き〜て〜る〜」と歌っているのがかすかに聴こえる。高校生のこ��再結成したUNICORNの、その復活ライブの違法アップロード動画を当時��ニコニコ動画で観たな、と懐かしくなって、YouTubeで検索してみても出てこない。久々にニコニコ動画にアクセスして探してみてもヒットしない。さすがに消されたか。そんなことをしている間に煙草はちびて吸えなくなっていて、あなたはいつの間にか帰ってきていて、ハローはベッドに上がって眠っていて、煙草が先だったのか、あなたが先だったのか結局わからないまま、私は部屋に戻って、あなたと数秒ハグをする。
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#093 光景/後景(4)
「ボウリング行こうよ」 「得意じゃないじゃん」 「いや、そうだけどさ」 「おーいおいこっちだよ」 「ペロ! こっちよ。あ〜い良い子だねえお〜んよしよしよ〜し」 「いやか? そんなに」 「なんで今日なのよ」 「今日しかないからだろ」 「休みはこれからもあるでしょうに」 「ペロそれ嗅いじゃだめ。だ〜め」 「ほい。ほれほい、行くぞペロ。ガーター無しにしてやるからな」 「ペロも嫌がってるじゃないの」 「そんなことないだろ。ねえペロ?」 「はいこっちおいで。ははちょっ、ははは舐めないでいま舐めないでお〜いやだったねえはいはいはい」 「降ろしてやれよ。歩きたいだろう」 「言われなくても降ろすもんね〜えペロちゃん」 「いこいこ」 「行きませんよ」 「ボウリングはもういいよ。あっち行こう。まだ行ったことない」 「ん〜どちたのどしたのどちたのペロたん。嬉しいねえ」 「急に変わるもんだなあ」 「嬉しい。嬉しい嬉しいぺろちゃん嬉しい」 「ほらチャイ専門店とかあるぞ」 「あなたチャイとか知ってるの」 「飲んだことはない」 「あっねえ楓になにか買ったほうがいいんじゃないの」 「ビールとワインと蟹と肉があるだろ」 「もう〜そういうことじゃなくって。あっだめよペロ」 「ほらケーキ屋さん、さっき通ったとこできてたでしょ。あそこもう戻って見てみようよ」 「もうちょっとここらへんぷらぷらしたいなあ」 「でも言ってるあいだに時間ないよほら」 「む〜んそうだなあ」 「ぱっと行ってぱっとまたこっちきて」 「楓ボウリング得意かな」 「行かないよ。ほら行くよ」 「ん。ペロ〜行くぞ」 「あちょっと待ってちょっと」 「なんだよ」 「珈琲スタンドもできてるほらほら」 「ああほんと」 「ほらコスタリカだって。楓よ〜」 「なんでもイコールで結ぶなよ」 「勇人さんあちこち飛び回ってるみたいだし、楓もあちこち飛び回ればいいんだよね」 「それじゃあ結婚した意味ないだろう」 「そんなことないよ、ねえ〜ペロちゃん」 「ほら行くぞ」 「はいはい。あとで珈琲買おうね」 「おれはあれ、チャイ買ってみたい」
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#092 錦松梅
わたしの住む国で、国旗を燃やすことが罪になる決まりができても、それはあるひとつの現実世界の話なので、例えば別の現実世界、文章の中で国旗は燃える。その証拠に、いまわたしの目の前で、旗は燃えている。燃えている旗を映すわたしの瞳が、わたしの瞳に映る旗に、その熱に焼かれそうになるまで、わたしの瞳はその光景を見つめる。その火で暖を取る。燃える旗が、ほろほろと崩れ、細かく砕け、火が小さくなり、さらに砕け、粉のようになり、錦松梅のようになるまで、わたしはその場を動かない。錦松梅って知っていますか。調べてみてください。美味しいですよ。
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#091 カーセックス(13)
このままどこまでも行こうよ、とコミナミが言う。クマガイの返事を待たずに、無理や不可能が意思の可否に影響することはいつだってないよ、とさらにコミナミが言う。それでも無理で、不可能であるがゆえに、このままどこまでも行くことについて異議を唱えるつもりであるならば、と続けてコミナミが言う。いまここで、とコミナミが言う前に、クマガイの左手がコミナミの側頭部に伸びる。コミナミの髪がクマガイの左手の運動でもみくちゃになる。クマガイの左手をコミナミの右手が掴む。クマガイの右手はハンドルを掴んでいて、時速125キロで、ふたりの体温が移動している。
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#090 ヘクトパスカル
JR総武線千葉行きに乗って市ヶ谷を過ぎて浅草橋を過ぎて錦糸町を過ぎて本八幡を過ぎて、過ぎて過ぎて西船橋、に、着いて、降りて、改札を出て、北口に出てすぐ右手の低層ビルに入って階段を降りて貸しスタジオの扉を開けるまでの時間、考えていたこと。たとえば。たとえばだ。気圧が株で、ヘクトパスカルがお金の単位だったとする。低気圧の日は1株あたりの値段(ヘクトパスカル)が安値だ。だからこのときに気圧株を買っておいて、高気圧になっ��あとにその気圧株を売り飛ばせば、差額分のヘクトパスカルが儲けとして手に入る。そう、低気圧は買いのチャンスなのだ。そして高気圧もまた、売りのチャンスなのである。ここまで大丈夫ですか? 「たぶん大丈夫じゃないし、疲れてますね?」 受付で会員証を出して鞄をロッカーに預けて貝原さんとDスタジオに入ってドラムスティックを握るまでわたしは貝原さんにべらべらとしゃべり続けていて、だから疲れていて、今日は気圧が低い。 「疲れているし」 「ですよね」 「大丈夫じゃないんですけど」 「はい」 「それは仕事の話なので、だから大丈夫で」 「はい」 「わたしは今日もやる気です」 「よっしゃー」 じゃあシングルストロークからいきましょか〜、と貝原さんが言ってメトロノームのスイッチを押して、BPM50、55、60、65、すこしずつ速くなっていく。速くなっていくのは案外簡単で、そこからまたBPM50に戻っていく、遅くなっていくのがむずかしい。貝原さんにあんな話するんじゃなかった。気圧のイメージがBPMと重なる。気圧が上がると身体もラクで、下がるとしんどい。速くなるのは簡単。遅くなるのがむずかしい。一緒。いや一緒ではないだろう、たぶん。ダブルストロークも終えて、チェンジアップ。すこし休んでから今度はアクセント移動を速いテンポや遅いテンポで。そのあたりでもう気圧のなんやかやは意識から外れていて、流れる汗、呼吸、メトロノームの電子音、貝原さんが言葉少なにフォームやリズムの乱れを指摘してくれるときの声色や口調、そういうあれこれと、そういうあれこれだけがいま存在しているこのDスタジオの、それだけで完結している時間に、ずっといたい。ずっとは言いすぎた。でも、もっといたい。 「なんでしたっけ。気圧が株で気圧株をヘクトパスカルで、あれ」 「いや、もういいんです。ほんとに。ごめんなさい」 レンタル時間もあと5分ほどになって、特に片付けるものもないわたしたちは、Dスタジオを出て自販機でC.C.レモンを買って、貝原さんは南アルプスの天然水を買って、ぐびぐび飲みながら、壁に寄り掛かるようにして話していた。 「いやいや謝らなくても。低気圧が買いなんでしたっけ」 「訊くなあ貝原さん。あれ、もしかして、気圧投資に御興味がお有りですか……?」 「ありますね。ところでヘクトパスカルと日本円のレートってどうなっているんですか」 「それはちょっと、ダウに聞かないと」 「ダウって言いたいだけでしょう」 「東証にも問い合わせないと」 「証券の話してるわけじゃないのに」 わたしと貝原さんの付き合いは長い。といっても、友達とか親類とか仕事仲間とか、そういう感じではなく、なんというか説明に困るのだけど、貝原さんは元書店員だ。わたしが生まれてからいままで、いっとき離れたり疎んだりしながらも結局住処にし続けているここ、西船橋の、駅南口から原木ICの方面まで7〜8分歩いたあたりにあった中規模書店、ブックス・ホークア��に、わたしが中学生だったころから、5年ほど前まで、貝原さんはホークアイの店主としてお店に立ち続けていた。ホークアイは、原木ICのすぐそばという立地条件から、中〜長距離を運転する様々なドライバーの利用客が6割、地元の利用客が4割、といった塩梅だったようで、だからなのか、雑誌類の棚がやたらと充実していた。漫画雑誌の棚ひとつをとっても、週刊・月刊の、見覚えや聞き覚えのあるものから、西船近辺の書店ではここにしか置いていないのではないか、と思えるようなマイナー漫画誌や、そのバックナンバーまで棚差しされていたのだった。そして貝原さんはじめ何人かいた店員さんのいい加減さ、というか仕事の回らなさも相まって、ほとんどの雑誌がなんの梱包も結束もされず、されていたとしても粗雑なお客さんの所業によってそれらが剥がされ、立ち読みし放題になっていた。わたしも、高校時代は『楽園 Le Paradis』『コミックビーム』『IKKI』の最新号が出るたびに足繁く通っては立ち読みにふけっていたので、貝原さんにとっては疎ましい存在だったのかもしれない。その罪滅ぼしというか禊というか、そういう心持ちで、欲しい本や必要になった参考書などはなるべくホークアイで買っていたのだけれど、やはりそのころから、というか、もしかするともっとずっと前から、すこしずつすこしずつ経営は下向きになっていたのかもしれない。5年前の夏、ひっそりとお店は閉まり、いまホークアイがあった場所はボルダリングジムになっている。お店をたたんだあとの貝原さんは、なにを思ってか老人ホームで働き始め、その老人ホームのスタッフにバンド経験者がちらほらいたこと、貝原さんも学生時代軽音サークルにいたこと、などなどが重なって、駅前の貸しスタジオでスタッフたちとセッションをしたり、ひとりでスタジオに入って個人練習をしたりするようになった。ホームの出し物でスタッフたちと演奏したりもするらしい。そしてその貸しスタジオが入っている低層ビルの、入り口の扉。「ギター、ドラム、コントラバス、エレキベース、ヴォーカル、キーボード、ゴスペル、DJ。当スタジオでは多様なレッスンを多様なスタッフが、初心者の方から経験者の方まで、ひとりひとりのペースに合わせたカリキュラムで実施しています! 現在絶賛生徒募集中! 詳しくは当スタジオ受付まで!」の張り紙を、今日みたいな爆弾低気圧と、それによる仕事の凡ミスで爆発しそうになっていたわたしが棒立ちで眺めているときに、個人練習終わりの貝原さんがホクホクした顔でその扉を開けたのだった。それが、わたしたちの、新しい、はじめましてのはじまり。 「週1。隔週とかでも、なんでもいいんですけど。一緒にスタジオ入りませんか」 「なにかやってるんですか」 「いや、まったく。いや、リコーダーならたぶん。いやそれも��しいかも」 「えっと」 「あ、三矢田です」 「あ、はい、三矢田、さん」 「貝原さんがやっていることを、そのすごい初歩の初歩みたいなのを、わたしもやってみたいなあと」 「ドラムを」 「ドラムを。はい」 「それは、僕が三矢田さんの先生になるってことですか」 「そうかもしれないし、そうではないかもしれないです」 「はあ」 レッスンを受ける。教師と生徒の関係になる。金銭の授受が発生する。うまくは言えないけれど、そういうことはしたくなかった。とは言いつつ、わたしよりも遥かに叩ける貝原さんが、わたしに指導するような形には結果、なっているのだけれど。だからこれは、幼稚で稚拙な綺麗事だとは思うのだけど。遊びたかったのだ、わたしは、貝原さんと。この人と、この些細なきっかけで、友達みたいになれたら愉快だな、と直感的に(もっと言うと、偏頭痛によるやけっぱちのフレンドリーさで)思ったのだ。あの日、扉の前で鉢合わせて、瞬時にお互いが「あの人だ」とわかったあの日、わたしたちはふたりで、西船橋駅の北口から南口に回って、原木ICの方へ歩いた。歩きながら話した。 「あなたのことは覚えてますよ」 「でしょうね、って言うのもおこがましいですけど、でしょうね」 「そうですね」 「ごめんなさい、立ち読みばっかで」 「いいんです、そういう人たちへ抱く愛憎も、仕事の一部だったので」 「やっぱりあったんですか、憎」 それにしても、返す返す失礼というか、悪い意味で無邪気なわたしである。 「そりゃ。お金だし。でも」 「でも」 「……」 「でも?」 わたしたちは元ホークアイ現ボルダリングジムの目の前にいた。 「気圧の変化で体調が変わるのは、鳥も同じらしいですよ」 「はあ」 「コーヒーゼリーって、実は世界的にかなり珍しい食べ物らしいです」 「コーヒーゼリー……」 「日本にしか存在しないし、海外で、コーヒーゼリーと言っても、通じない」 「へえ」 「どんな国に行っても、です」 「はあ」 「来週火曜はどうですか。スタジオ」 「えっ火曜。えっスタジオ」 「火曜が駄目なら、木曜でも。ちょっと時間がまだ読めませんが」 「えっ、あ、火曜。だいじょうぶです」 「よかった。そうしましょう」 貝原さんのそのときの表情を、何度も思い出す。いまも。スタジオの料金を割り勘で払って、わたしと貝原さんはいつものように、低層ビルの前で手を降って別れた。小さなバスターミナルを抜けて、コンビニやバーや居酒屋やキャバクラ、キャバレー、いつまでも猥雑な西船橋の駅前を、客引きの兄ちゃん姉ちゃんを、ずんずん通り過ぎて、焼肉屋のダクトのにおいに空腹を募らせながら、どんどん細くなって、人もまばらになって、暗くなっていく道を歩く。偏頭痛が数時間前より和らいでいるのがわかる。iPhoneを取り出して、気圧アプリを開く。明日は売りだろう。歩く速度も速いだろう。
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#089 永谷園
伏子は眠れない。眠れないことを伏子は嘆かない。ぬいぐるみを枕元に置いて、目を瞑って、四肢の力を抜いて、しばらく経っても意識が退かないとき、伏子は潔く起き上がる。ベッドから降りて、スリッパを履いて、キッチンへ向かう。眠れないときは永谷園、と決めている。ケトルに浄水を充填して、よどみないフォームでスイッチをいれる。キッチンに置いてあるキャンプ用の椅子に腰を下ろして、伏子は今日、久々に顔を合わせた会社の後輩の話を思い出す。家に籠もりっきりのあいだ、後輩はなにかに取り憑かれたように、もしくは目覚めたように、サンドイッチばかり作っては食べていたらしい。いみわかんないくらいすべてを包んでくれるんですよ。気づいちゃったんです。とは後輩の談だ。伏子さんはありますか、過激にひとつのなにかを食べ続けたこと。後輩にそう訊かれるまでもなく伏子の頭には永谷園の三文字が浮かんでいたが、どうだろ、とはぐらかした。伏子の、永谷園に対しての想いを知っているのは、姉の平子だけだ。永谷園の、あさげ、や、お茶漬けの素、のcmに登場する、シンプルな背景とラフなカメラワークのなか、永谷園のそれらをただただ貪るように啜り喰う男が、伏子の初恋相手であり、いまもなお揺るがない理想の男性、ひいては理想の人間像なのだった。cmの男がお茶漬けをがつがつ食べているそばで、黒電話が鳴り続けている。それに「ただいまお茶漬け中」と油性マジックで書かれた紙をバンと貼り付ける男。伏子はそのcmを初めて観た翌日、初潮を迎えた。ケトルの温度が上がってきた。常夜灯だけをつけた仄暗いキッチンで、伏子は自らを抱くように、臍の前で腕をクロスさせて縮こまる。やってくる。やってくる。永谷園がやってくる。ビデオテープに録画し、DVDにダビングし、パソコンに取り込み、YouTubeにアップロードし、継ぎ足し継ぎ足しの秘伝のタレのようにソフトを変えハードを変え観続けてきた永谷園のcmの男が、伏子の身体にやってくる。ケトルの中のお湯はふつふつと動き出し、伏子は立ち上がり、炊飯器を開ける。常夜灯に照らされた湯気の奥に、眉間に皺を寄せながら白米に喰らいつくcmの男の姿が見える。
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#088 昨日
昨日(4月1日)はサクラコ(仮名)がずっとわたし(人間)の部屋(3階���アパートの3街角部屋7畳の1K)にいて、だらだらの延長線上でじゃれたりはしゃいだり(アマゾンプライムで仮面ライダーを1シーズンぶっ通しで観たりキムチ鍋を作って食べたりお互いがお互いのSNSに夢中になったり煙草を吸ったり仮面ライダーのよかったシーンを飛び飛びで観返したり)しているうちに眠れないまま朝(6時)になって、朝(6時)というか今日(4月2日)になって、昼前(11時)から昼下がり(13時)まで2時間ほど強引に眠ってからスドウ(仮名)と大学(通っていた大学)で待ち合わせて、まるで目的が定まらないまま2時間ほど左京区(大学のあたりから郵便局のあたりまで)を歩き回って、高野橋から鴨川に降りたところにある小さなカフェで、川沿いを歩く犬(シェパード、プードル、ビーグル、柴犬、プードル、ラブラドール……)とその飼い主ひとりひとり(男女女女男こどもこども女)、いっぴきいっぴきに注目しながらコーヒーを、スドウは紅茶を飲んで、出町柳のホームセンター(D2)であらゆるペットのためのあらゆるペットフード、あらゆる肥満体の人間のためのあらゆる健康器具、ツーバイフォーの木材、ハトメパンチ、座布団、文房具、生理用ナプキンとタンポンとおりものシート、を添削するように見回って、百万遍の居酒屋でビールを飲んで、スドウを下宿まで見送って、わたしは手放しで自転車(白のGIANT)を漕ぎながら部屋に帰って、今は吐き気をもよおしながらこの文章を書いている。吐き気の理由、原因、はわからない。ひさしぶりにこういう文章を書いた(書いている)からなのか、寝���足(不規則な生活リズム)からなのか、お酒(中途半端な飲酒量)からなのか、そのどれでもないのかはわからない。京都にいること。東京へ行くこと。最近のこと。昔のこと。未来のこと。すきなひと(すきかもしれないひと)のこと。そもそも人をすきになるということ。性別のこと。仕事のこと。ほかにもたくさん書こうとしていたこと。考えようとしていたこと。を、だからわたしはすべて放棄してこの覚え書きとする。記憶のひだに指を入れてふしふし動かすことは仄かな快楽だから、いっこいっこいっかしょいっかしょ思い出そうとしてみたり、思い出せなかった部分は放っておいたりして、ふしぎなほど、とにかくあたまがいたく、喉の奥から下腹部にかけて浮遊感と異物感がある。きもちいい。おやすみなさい。
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#087 ブルー
多くの場所、多くの場合において、人々はブルーだった。ブルーな人の中にはホワイトもいて、ブラックもいて、イエローなんて人もいた。多くの場所、多くの場合において、人々はグリーンを求めた。グレーなことをときおり好み、ときおり忌み嫌っては、より多くのグリーンを求めた。それなのに、多くの場所、多くの場合において、グリーンは目減りし、目減りするにつれてグリーンを求めるブルーな人々の声はレッドになっていった。ブルーなシルバーの増加も深刻だった。多くの場所、多くの場合において物事が多層化し、複雑になっていく途上で、ベージュやピンクの意味も移り変わっていった。数少ないゴールドな人は、数多くのブルーな人々のことを見て見ぬ振りし、グリーンを切ったり貼ったりし、ブラウンの髭剃りで髭を剃った。そんなあるとき、どこからともなく、レインボーな人が現れた。レインボーな人は多くの場所、多くの場合においてブルーだったし、ホワイトもいて、ブラックもいて、イエローなんて人もいた。多くの場所、多くの場合におけるブルーな人々同様、グリーンを求めていたし、グレーなことを少なくない場面で強要され、それはレッドなんじゃないか、と思えるような場面であっても、そのグレーさ故に黙殺されることが多くあった。レインボーな人の中にはゴールドな人もいて、そういう人は自身がレインボーであることを隠そうとしたり、逆に声高に主張したりもした。多くの場所、多くの場合において、ブルーな人々は困惑していた。レインボーな人はいったい、何色なんだ?
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#086 結婚式
だいたい2時間くらい前までは楽しかった。それまではいたってノーマルだった。スペシャルでノーマルな式だった。俺はこの日のために新調したスーツでその場にいて、北脇と鶴見がそれを茶化した。北脇と鶴見もパリッとしたスーツを着ていたし、北脇は在宅SEで普段滅多にスーツを着ないことが雰囲気から伝わってくる。鶴見のスーツもきっとこの日のためにクリーニングに出したものだろう。俺たちはお互いの清潔さに浮かれ、はしゃぎ、俺たちと同じ大学同じサークルで付き合ってそのままゴールインした新郎新婦そっちのけで盛り上がっていた。鶴見は要所要所でハンカチを眼にあてていた。俺たちはそれも茶化した。うぇ〜い鶴見ぃ。 そんな茶化し茶化されはしゃぎはしゃがれが続いていたから、しばらくはその不思議さに気づかなかった。最初に気がついたのは北脇だった。あれ、なんでだろうな。北脇が新郎新婦の席をアゴで指している。よく見てみると、新郎新婦が座っている脇に、ちんまりしたテーブルが置かれていて、その上に、ハンドミル、ドリッパー、ペーパーフィルター、サーバー、ケトルが置かれていた。たしかに、なんでだろう。そういうサービスじゃね。どんなサービスよ。会場のスピーカーから司会進行役の声が聞こえてくる。さあここで、お待ちかね、新郎新婦による���ウェディングコーヒーの抽出です! は? と北脇。なにそれ、と鶴見。動揺する俺たちを置き去りに、会場内は待ってましたの大喝采。新郎、勇人さまに因んだ抽出方法、ハンドドリップで、新婦、楓さまに因んだこのコスタリカのシングルオリジン、中深煎りの豆を、さあ、勇人さま楓さま、お手を取って前へ! 勇人あいつそんなにコーヒー好きだったっけ。楓とコスタリカになんの縁があんのよ。さあ……。会場内はあたたかな空気に包まれている。すすり泣く声も聴こえる。ケトル沸騰! 司会進行役がそう言って、勇人と楓は手に手を取ってケトルのスイッチを押した。静かにケトルの沸騰を待つ会場。コーヒーの袋を開ける楓、ハンドミルに豆を入れる楓、ハンドミルを回す勇人、ドリッパーにペーパーフィルターをセットする楓。俺たちはなにを見ているのだろう。静かすぎる。そうしてそれから、だいたい2時間。会場にいる何十、何百人の出席者に、一杯一杯、入魂の共同作業を抽出し終えるまで、俺たちは帰れない。鶴見の元へ、ようやくコーヒーがやってきた。厳かにマグを手に取り、ちびちび飲む鶴見。美味しそうだ。俺もはやく飲みたい。
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#085 A
現実逃避への入口(16歳 高校生)たまに読むもの(35歳 歯科医助手)作り話(21歳 大学生)リズム、メロディー、ハーモニー、のどれでもあるもの(24歳 音楽関係者)ねむくなる(9歳 小学生)めくるもの(21歳 大学生)隣人愛(78歳 自営業)文字文字文字文字(19歳 大学生)私には縁のない代物でございます(81歳 専業主婦)敵(23歳 無職)想像しなきゃいけない(12歳 小学生)それがわかれば読んでいません(40歳 塾講師)ドラマ以上映画未満(17歳 フリーター)娯楽(27歳 会社員)誰かの頭の中と外(21歳 飲食業)出入り自由なパラレルワールド(48歳 会社員)歩きながらは危ない(14歳 中学生)はじめまして(45歳 在宅ワーカー)人生の俯瞰(30歳 理学療法士)知らない人に出会うこと(22歳 大学生)すきなひとがすきなもの(19歳 浪人生)背筋と心と眼にくるモノ(24歳 鉄道員)アンダーグラウンド(15歳 中学生)人間用CSS(27歳 ノマドワーカー)自分よりひどいやつがいる(25歳 公務員)ハリーポッターとダレンシャン(30歳 保育士)僕が死んでも残り続ける(39歳 旅人)たいくつ(8歳 ガキ大将)何度もなぐさめてくれた(15歳 中学生)必��誰かに読まれる(52歳 元自衛隊員)写真のように切り取られた脳内映像(20歳 専門大学生)一生追いつけない理想の自分(21歳 役者志望)インスタント神さま(19歳 時計技師見習い) だいたい、ほんとうのこと(30歳 ベビーシッター)半沢直樹(41歳 運送業)しらない(38歳 会社員)辞書ではないもの(23歳 大学生)教えてくれないし教えてくれる(18歳 高校生)書き込めないな(33歳 宮大工)長い(16歳 高校生)積んでおくもの(29歳 薬局店員)最後はポジティブ(30歳 無職)まあまあ、そんなむずかしいこと言うなよ(27歳 質屋)また会いたいなって思う人が増える。会ったこともないのに(40歳 服飾業)
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#084 ハイカラ
サンドイッチ作る。サンドイッチ食べる。サンドイッチなくなる。サンドイッチ食べたい。サンドイッチ作る。サンドイッチ食べる。サンドイッチなくなる。サンドイッチ食べたい。サンドイッチ作る。……。 「が、この1ヶ月続いた」 画面におばあちゃん、おかあさんの顔があって、映っていて、おばあちゃんは笑って、おかあさんは心配そうな苦笑いをしている。 「あんたそんなパンの人だったっけ」 「いいねえ。ハイカラなお母さんになるよ」 それで、おかあさんには「ごはんの人だったけどなんかパン目覚めた、最近」と応えて、おばあちゃんには「ハイカラって言葉、いいね。ありがとう」と応えた。わたしたちはZOOMで、繋がっている。 「それであんた今日もサンドイッチだったの?」 心配そうだ。おかあさんは心配するのが得意だ。 「うんそう、パンの上に海苔とスライスチーズ、その上に焼いたししゃも、でその上にパン。サンド。美味しかった」 「ハイカラだねえ〜」 今日のおばあちゃんはやたらハイカラって言う。離れていてもZOOMでこうして話せる、会っているかのように振る舞える、そのハイカラさに釣られてハイカラという言葉がおばあちゃんの頭の中で蠢いているのか、単にここのところハイカラという言葉にハマっているのか。おばあちゃんくらいの歳になっても、なにかひとつの言葉に鋭敏にハマったりするのだろうか。わたしはそうなれるだろうか。 「それは朝?昼?」 「お昼。っていうか朝昼」 「ちゃあんと3食にしたほうがいいよ」 「昼なんだよ、起きたらもう。わたしの朝は昼なの」 おかあさんの止まらない3食奨励に応答しながら、わたしはどんどん煙草の口になっていった。吸いたい。でもふたりの前で吸ったら、めんどうくさいことになる。おかあさんは怒るだろうし、おばあちゃんは切なげな顔をするだろう。それともハイカラと言ってくれるだろうか。ハイカラなお母さん。ハイカラなお母さんってなんだ。そもそもお母さんになれるのかもわからない。なるつもりは、いまのところ、ない。 「それで昨日の夜はなに食べたの」 「だから〜、サンドイッチだよ」 「あんたほんと大丈夫なの〜……」 「劇薬むさぼってるわけじゃないんだから」 「なんだったの具は」 「昨日は〜。昨日の夜は、鮭焼いて、身をほぐして、それをパンの上に盛って、その上に刻んだディル、マヨネーズ、黒胡椒がりがりして、その上に湯がいたほうれん草てきとーに切ってのっけて、サンド」 「お魚たくさん食べるのはいいことねえ〜。いいお母さんになるよ」 「ハイカラでいいお母さんになれるかな」 「なれるよ〜」 「あんたしょっぱい味付けの魚ばっかじゃないの。大丈夫なのほんとに」 「大丈夫だよたぶん大丈夫だってもうほんとに」 そうして数回の再接続を経て、ZOOMでの通話は終わった。立ち上がって、大きく伸びをして、「たばこ煙草タバコだよほんとに〜〜〜」と言いながらキッチンに行って、ずっと我慢していた煙草に火をつけた。 それが自宅待機最終日のわたしで、サンドイッチはもう作っていない。わたしの喫煙はその後、2度目のZOOM通話であっけなくバレて、おかあさんは思ったより静かな反応で、おばあちゃんはやっぱりちょっと切なそうにしていた。わたしはサンドイッチの話をした。もう作っていないけど。嘘だけど。おばあちゃんのハイカラが聴きたかった。ハイカラね、とうれしそうに言ってほしかった。言ってくれた。切ない顔で。
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#083 バスタブ
身体中の痛みで眼が開き、肩までかけられている毛布を半ば反射的に剥ぐと、目の前に、というか四方につるんとした真っ白い壁があって、夢、夢の中、白い、狭い、……となにも考えていないに等しいふやけた思考と意識をしばらく漂ってから、そうか、ここは風呂場か、と気がつく。ここは風呂場で、私は乾いたバスタブの中で眠っていて、そしてここはコモドさんの家だ。筋肉痛のような全身の痛みはゆっくりと頭のてっぺんにのぼってきているところで、私はゆるやかに重くなっていく頭を抱え込むように三角座りをする。仕事が終わって、事務所の鍵を閉めて、歩きだそうとしたらコモドさんから電話がかかってきて話しているうちにまったりしよしよしましょうしましょうみたいなふうになって、でそのまま電車を乗り継いでコモドさんの家まで行ってコーヒー飲み飲み話たらたらで長居してしまって、移動手段が徒歩orタクシーになって、どうしよかな……、と思ったり言ったりしていたらコモドさんがキッチンから貰い物だというボトルワインを持ってきて、そのまま、それから。ええと。 「 」 「 」 風呂場の外からかすかに声が聴こえてくる。コモドさんのほかに、だれかいるのだろうか。それとも通話かなにかだろうか。コモドさんの、やわらかい、けれどハスキーな声と、粒の大きい、快活な声が聴こえてくる。 そこそこ長い付き合いのような気がするけれど、私はコモドさんのことをなにひとつ知らないままだな、と思った。知らないまま、バスタブでうずくまって���る。ふふ、と笑ってから、コモドさんと話している人は、友達なのかな、恋人だったりするのかな、それとももっと別のなにか?と思案しながらもう一度横になる。守られているような気持ちになりながら、白い壁/バスタブを見つめる。 「…………わは、へーそうなんだ。もういいのね。えっとなに、なにからだっけ、あ、土井です。フルネーム?の方がいい?じゃあ土井美郷です。名前そのまんまで呼ばれることってほとんどなくて、親もみーちゃんだし。ドイちゃんとか呼ばれることもあるけど、あ、友達とかね、あるけど。だいたいはコモドって呼ばれ、ふふ呼ばれてます、ね。友達が知らん人に紹介するときもコモドって言ってる、言ってた、言ってるから、ほんとだいたいそう。由来、いやあ由来ひどくて、小学、3年忘れもせんわそのとき、クラスにディポっていうやつがいて、いやあだ名なんだよね、なんでディポなのかは忘れちゃったなあ知ってたっけな。まあディポ、いて、ディポすげえ意地悪で、…………」 暗闇に眼が慣れていくような感覚で、徐々に、コモドさんの声が聴き取れるようになってきた。たぶんこれは、通話だろう。話し相手の声もだんだんと鮮明になってきて、「いいよ、もうすこししゃべって」とか「そういうことがあったんか」とか、言葉少なにコモドさんの声に応答しているのがわかる。 それからまた、しばらくして、ガスコンロに火がつく。水道が流れて、シンクに置かれたマグカップに水が当たる。その音でまた目覚める。ずいぶん寝心地の良いバスタブで、身体の倦怠感もあってなかなか動き出せずにいるうちに二度寝してしまっていた。もう通話は終わったようで、コモドさんが、コモドさんの一日を始めようとしているのがわかる。 バスタブに響いてくる音から私はコモドさんの生活を思う。ここはひとりだ。わたしもコモドさんも、わかりやすくひとりひとりだ。それでもこうして声が、音が、聴こえてくる限り、私はひとりでも大丈夫なのだ。たぶん。 ていうかそもそも、誰だって、それぞれの世界で、いつまでもどこまでも、ひとりぼっちなんだ。 朝にしては夜っぽい感傷に浸りながら、そうだったそうだった、と思いながら、私は身体を起こす。眠い。夜までバスタブで眠れる気がする。そしたらコモドさん、困るだろうな。あくびを噛み殺しながら、バスタブをまたいでドアを開ける。今日も、今日が始まる。
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#082 おめでとう
まず、米粒が浮く。 その次に、テレビが台の上から横にスライドし、畳に落ちる。みそ汁が、サンマが、納豆が宙に浮き、本棚からは本、タンスからは秋物の洋服がパタパタと飛び出してきた。今年もまた、はじまった。私はふよふよ浮いている米粒���箸でつまんで、一粒一粒口に入れた。米粒は舌に触れると砂糖に変わり、唾液と混じって飲み込むころにはケチャップになっている。 姉は座布団の上にあぐらをかいてキャッキャ笑っている。姉がバンザイするようにゆっくり両手をあげると、その動作に合わせてちゃぶ台が浮き上がり、くるくる回り出す。その遠心力でちゃぶ台の上に置いてあったリモコン類は畳に落ちるが、その頃には、リモコンはチョロQに変わっている。 「おかあさーん。はやく、ロウソク」 台所で準備をしている母に向かって言う。言ってる途中で、私の足も畳から離れて、浮き上がってきた。醤油差しから醤油が出てきて、空中で数字になる。「23:58」。そろそろだ。はやくしないと。 「ごめんごめんおまたせ。おまたせ」 母がやってきて、いちご大福にロウソクを突き立てる。突き立てたと同時にロウソクに火がつき、姉が浮き上がり、母が浮き上がり、ちゃぶ台の回転に合わせてあらゆるものが空中で回り始めた。醤油の数字が「23:59」に変わる。オーケー。あとは、待つだけだ。 私はちゃぶ台の周りをぐるぐる回りながら、いつまでたっても赤ん坊の姉を見つめる。 姉と私は、母の言葉を信じるならば、受精せず、卵子だけが勝手に細胞分裂を繰り返して生まれた、双子の姉妹であるらしい。だからうちには父親がいないのか、と幼い頃は納得したけれど、もしかしたら、母が作り出した与太話なのかもしれない。でもまあ、それでもいいか、どっちでもいいか、と最近は思ったりもする。 醤油の数字が「00:00」に変わる。ちゃぶ台が振動して、スピーカーのようになって、音楽になる。バースデーソングだ。「ハッピバースデートゥーユー♪」とちゃぶ台から響く声はなぜだか私の声に似ていて、毎年聴くたびにむずがゆい気分になる。部屋の電気が消え、姉は空中のいちご大福を手にとって、息を大きく吸い込んだ。 「ハッピーバースデー!」 私と母が言う。 姉の息でロウソクの火が消え、部屋は暗闇に包まれた。さっきまで浮いていた物たちが、一斉に重力を取り戻し、畳に落ちる。 そろそろ、梅雨明けだな。暗闇で、畳の感触を頬に感じながら、私は外の静かな雨の音を聴いている。
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#081 琥珀
純喫茶・琥珀 〒603-×××× 京都府京都市北区×××××××××××××××××145-5 TEL・FAX どちらも非公開
・いけず先生 昼夜季節問わず被っている、つば広のストローハットがとっても似合うおじいちゃん。 つばが広すぎて、ストローハットが、ち��っとおっぱいっぽく見える。 おっぱいハットと密かに呼んでいる。心のなかで。ひそかに。 プロ雀士らしい、とか、元精神科医らしい、とか、土地をいくつも持っている富豪らしい、とか、愛人が8人いてそのうちの5人がロシア人らしい、とか、左頬の傷跡はとあるメジャーリーガーと木屋町の酒場で大喧嘩のすえ刃傷沙汰になった結果、とか、比叡山で修行経験あり、とか、ラーメンライターらしい、とか、ジョジョとカイジとゴルゴとワンピースと脳噛ネウロの元ネタ、とか。そうかも……から、んなわけないやろ……まで、多種多様な噂話が、いけず先生には絶えない。 「腎臓はな、スポンジと一緒。油もん、酒、塩分、たくさん取ったら水をがぶがぶ飲まんと。スポンジも使い続けたらくたびれてしおしおんなるやろ。一緒」
TEL 075-××××-×××× Address
・植前さん 大阪のIT系企業でばきばき働くサラリーマン。 部下に、ばきばきにゲイの人が何人かいる。 おおげさなオノマトペをたくさん使う人。 ばりばり。ばきばき。ぼっこぼこ。ぶっつぶつ。どんどこ。わんさか。ばくばく。がんがん。どんどん。ぐっつぐつ。 ばきばきに、という言い方も植前さんの口調そのまま。 ばきばきにゲイ、はほんとどうかと思う。古い。おもんない。 琥珀歴はかなり長い。といってもいけず先生のほうがだんとつ長いけど。 「ここのナポリタンは大切なんだ」
TEL 080-××××-×××× Address 京都府京都市左京区××××××××××××××1-18-14 エトワール××××608号室
・濱口さん フリーのカメラマン。 宣材写真からポートレート、風景写真、結婚式のカメラマンまで、なんでもござれ。 琥珀には20年ほど通っている。 ねずみ顔。いつもiPadがテーブルに置かれている。 「20年通ってもデカい顔できひん、ここは」
TEL 080-××××-×××× Address 京都府京都市北区×××××××××××××××× 28-45 ハイツ××××201号室
・池戸さん ライター。いかがわしい雑誌でいかがわしい記事を書いているらしい。 しゃべるときとそうでないときの差が激しい。 すなお。やさしい。ラフなかっこうがいかしている。 趣味は山登り。山の中で酒を飲むのがたまらんとのこと。 飲みに誘われたい……! 「いいかげん覚えてくれよ。うそうそ。ブレンドとフレンチトーストおねがいします」
TEL
Address
・渡辺さん ジャズをとにかく聴いている人。 人と話すときに眼を合わせようとしない。 演劇人がほんとうに嫌い(過去になにかあったんだろうか)。 なので、2010年ごろから毎年行われている、KYOTO EXPERIMENTという舞台演劇フェスが開かれているあいだは、とっても(いつもより)不機嫌。 「演劇人はアホ。アホやし、演劇について語るやつもアホ。ばーか」
TEL 075-××××-×××× Address 京都府京都市中京区×××××××××××××××××× 1-26-2-1003
・ミキさん 祇園四条で働く女装家。 池戸さんの友達。兵庫に畑を持っている。 女装歴はかなり長いが、いわゆるびょーき的なちりょーを始めたのはほんとうに最近らしい。 今生は注射だけで我慢する。とのこと。 「なんか。ここで突然泣きだしたり涙ぱ〜って出てても、そっとしといて。だから先に言っとくわ。ごめんね。ありがとう」
TEL 090-××××-×××× 03-××××-×××× Address 京都府京都市左京区××××××××××××××××××× 5-4-30 ××荘2F
・鳶じい 舞妓さん(うつくすぃ〜女性)が大好きなかわいいおじいちゃん。 必ずコーヒーゼリーを食べる。 「きれいな子を撮るとな、ブレんねん絶対」
TEL
Address
・一汰くん シャイボーイ。 女の子と付き合ったことがない。らしい。 マッチングアプリを使いまくっている。らしい。 「人の顔も名前も覚えるの苦手で……。あっ。美味しかったです。ごちそうさまでした」
TEL
Address
・内藤さん 演劇関係?映画関係?の人。 煙草を1日5箱(100本!!?)吸う。 ものすごい音の咳をする。 「煙草?ありゃほんとまずいね。吸ったことある?」
TEL 080-××××-×××× Address
・アキさん 左京区でカフェをやっている人。 大抵、夜に来て、とてもしずかにお酒を飲む。(たぶん)いい人。 不規則な生活が得意、らしい。 眼の下のクマがすごいけど、クマが似合う人だな、とも思う。 たまにミキさんと同じテーブルに座ってぽそぽそと話していたりする。関係性は不明。 「ギャップというか、差にくらくらするよね。うちはここまで長く続けられるかな」
TEL 075-××××-×××× 080-××××-×××× Address 京都府京都市左京区××××××××××××××××××× 26 空珈琲 京都府京都市左京区×××××××××××××× 18-44 エスポワール××××204号室
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#080 空
「っははは!やめてやめて。っははははは!あ〜。アキです。お空、空車、空気の空でアキ。満足、満車の満でミチル。で、空満。そうそうっはは庄司智春みたいなね。どっちも名前っぽいんよな〜そうそう。 そうね。だからもう……え〜、……10年以上ここにいることになるのか。東大路通りと御影通りがぶつかった、ここ。ここだし。あと大枠で。大枠でっていうか、ここ、京都に。長いな。居すぎたし、もう、ちょっと、動き方がわかんなくなってるし、うん。っていうか動くつもりがいまはないっていうか、な〜、うーん、動き方も、いや動き方っていうか、その想像がうまくつかめない?わかんないし。まだまだ、もうすこし、それがいつなのか、わかんないけど、でもここに、いるつもり。いるつもりですね。す〜げえいやなこともやるせな〜いこともたくさんあるし特に行政はクソだが、まあ、しかし。うん。 で、ここ。へへ、ここ。この、お店。アキの空から取って空珈琲って書いてスペースコーヒーっていうここの店主で、ようやく1年。1年、もったなあって感覚がとってもつよい。しんどかった。でも、楽しかった。たのしい。重かったり、軽かったり、しんどかったり、楽しかったり。そういう波、うん波だと思うな。波でしかなくて、それに乗るしかなくて、いつまで乗れるんだろうって。っはは、思ってる。ます。ああ……えっと立ち上がっていいこれは立って、あそうじゃあ、よっ……。………………………………………………っしょいしょいしょい、よっと。っへへそうそうこれね。これ書いたのイタルくん、あイタルくんっていう、え〜わたしの友達の、後輩の、友達、っふふ遠いね。そうイタルくんっていう、そういう、繋がり、繋がって、知り合った子がいま、そうそうここの2階に居候というか。まあ一応家賃ぽいのもらってるけどうん、うんめちゃくちゃ、いちまんごせ1万5000円だね。わたしに払って。住んでるんだけど。イタルくんが勝手に書いたんだよねこのこれ看板にさ、これ黒板みたいになってるから。そうそうそう上手いよね。いや上手いんだけど。ちょっとよく、よくわかんないけどまあ上手い、あまりにも収まりが良いからなんか、飛び出せ宇宙のカフェインて、なんかそのままにしてるけど。はは。いやよくないんだろうな。いやどうなんだろ。べつに消しても、いやイタルくんに言うけど消しても、まあいいだろっていう、あれですね。でも食べログにこの、ここ、看板の写真とかあって、宇宙のカフェインてなんやろねっていう。でもな〜。……うんうん。なんかね。悪ふざけとチャームは紙一重じゃないですかたぶんたぶんね〜、たぶん。っははそう、っていう、これは看板でした。っはは。 んね〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜なんかね。……そうそう。京都ってね、なん、なんかそう、学生と観光客と僧侶の都市だから。っははいやほん、ほんとにそうそう。うん。いやそうで、そうなんですよね。いや雑だけど。そんなことはないよ。そうも思ったりするけれど。でもやっぱり、ね、実感、や実感か?というかなんというかそうだななんか、卒業、大学を、のときにとくに思ってたんかな卒業いちにい3年目くらいまで、いやもった、もっとかなでも、うん。思っていて。みんな。みんなっていうのは、わたしの、当時、当時っていうか友達が、まず卒業と同時に、さ。わ〜て、わ〜って、大阪東京神戸、神戸はそんな多くないや、でもそう、大阪東京神戸〜、とか、地元、それぞれの、とか、あとねそうね、コモドとかはそれこそだけど海外とか。散って。散ってっていうか。いや散ってか。そう。京都に残った人もさ。機をうかがう、うかがっていたんだ、ろうな、ろうなっていうかまあそうそう。っはは。そうね。すこしず〜つさ。ひょいひょいとひとりひとりいなくなっていき、ね。だいたいそれでそうね〜なんか、5年かな。卒業して大学、卒業して5年も経つとね、ずっといるのとかわたしくらいかな?みたいな。ね。うんたぶんそうで。わたしだけなんですよね。ほ〜んとね。ほんとに。 イントネーションはかなりそうでしょう。中途半端なんですよねえ〜っははは。高校までずっと埼玉、実家が埼玉でそうそう、埼玉いたし。10年以上こっちいて��イントネーションくらいで。がっちがちにはならんね、言葉。すきだな、でも、京都弁。京言葉って言わんと怒られる、いや怒る人もいるって、きくけどわたしはまだ出会ったことない、ないそういう人、でも、あ、いや出会ってるんやけどなんか、言わんだけかもね、わたしにね、それはね、なんかあるかもね。 太陽カフェも潰れたでしょう?しょう?って訊いてもわからんか。いやわかるんか。そっか。まあけっこう前だけどね。んね。うわっそうそう〜!げんざえもんもさ、漫画定食の、そう、げんざえもんもさ、潰れたし、村屋も場所変わったし、変わったの、変わったんだよ〜そうそうそう!そうなの。で、なんやっけな。ああ……。いやあ大川寺っていうね、おおかわでら、って書いて、だいせんじ、ってね、あの〜出町の、出町柳のさ舛方商店街そうそうあそこのね、なんか突っ切って乾物屋とかあるあたりの斜向いだったかなそこの、はいはいそうそうそこの、2階にね、あっはは!いやごめんなさい。ふふちょっと思い出していろいろ。そこのね2階に大川寺っていう酒場があってねコウタさんていうね、占い師兼寿司職人兼プログラマー兼落語家兼ドラマー兼DJふふ兼兼兼兼たくさんあってそうそうっていうコウタさんって人がねいてね。コウタさんがそうその、やってた。そこも潰れちゃったし。まああそこは潰したって感じだけどそれにしても。いろんな。潰れて。なくなって。そういうの。わたしひとりで受け止める、おおげさだけど、受け止めるのはしんどかったなみんないなくなってから。そうそう。みんなの中にはさあ〜、こう、学生時代っていうパッケージに入った、きらきら、そのままの京都、カギカッコつきの京都、がずっとあってそこから、うん更新されてへん、京都がずっと、そこからのままで、それをなぞるようにして、なんかたまに答え合わせ、答え合わせかな?まあそんな感じでたまに、観光客として京都にくる、もどってくるでしょう、でしょうっていうか、くるの、みんなは、でも、わたしは、わたしの京都はいま、ここ、この、京都だから、カギカッコつきの京都を、わたしは、うん、パッケージにしないっていう選択、選択って言えるほどあれじゃない大それた大したなんだ、なんだ?いやまあそう、そういう選択をしたのはわたしだから。そこに悔いもなんもないけど。でもたまに、羨ましくなる。羨ましさともまた違うんかな。冷たくなる。自分が。いま自分こわいな、って思う。たまに京都にくる、ともだち、みんなに、たまに京都で会うとき、こわいな。こわくないかなってこわくなる。時間がもう違うから。かなしかったときもうんあったもちろん、けど、うーん、うん、いまはなんかそんなん言ってられんみたいな。1年。いやあ〜〜〜〜〜〜1年か。続いたなあ!っふふ。京都の珈琲、珈琲っていうか、きっちゃ、喫茶の流れ、ブームとまで言えるんかな、まあなんかゆるっとした流れ、はなんか、すこしずつ移ろってる感覚はあるから、うん〜なんかね。うちはどちらかと言うとほんとはあさ〜い、うん、浅煎りか深煎りかで言ったら浅煎りをほんとは推したいけどま〜、すこしずつですね。うんうん。いかんせん浅煎りは。っへへ。なんかそうそう浅煎りはなんか、けったいな、っふふけったいなって普段使わんけど。な〜んか、なんだろな。��ゃらくさい感覚。気取りが拭えん感じあるから、でもなんか、そんな、もっと、う〜ん、がぶがぶ飲んでいい感じのね。もっと。そう。やっぱり自分が美味しいって信じてる。信じるものは。信じたいじゃないですか。うんうん。へへへへへ!もうちょっとかかるかもな。すこしずつですね。 元気かな。っていつも思ってる。いっつもは嘘。それは嘘やわ〜ごめんごめんっははは!イタルくんはなんかねえ、あっ今日はいないですよ〜なんか、バイトの面接とかで、うん。そ〜〜出るんかな。ね。わたしは別にいつでも、いつでもっていうか、いたいだけ居ればいいよって感じ。わたしはわたしでここじゃなくて。住んでる場所あるし。そんなん。ね。いいけど。出たいのかもね。貯めて。そう。なんかね。苦しいのかもね。 カジ、コモド、サガミ、平子、エマ、っははそうだエマあんた送別会で貸した金返して〜。はい終わり!終わり終わり。ふふ、元気でな」
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