『山沢栄子 私の現代(2019/11/12-2020/1/26 東京都写真美術館』(江間柚貴子)
山沢栄子と同じ戦前生まれの日本の写真家で有名どころと言えば、木村伊兵衛や植田正治、土門拳などが挙げれられる。
同世代の写真家が、作風を変えずにいわゆる写真的な作品を発表し続けたにもかかわらず、 山沢がなぜ1970〜80年代に発表した抽象表現のような作品を制作するに至ったのかが興味深い。
独特の奥行きがわからなくなるような空間構成された作品を見ているとカンディンスキーやリヒターの作品を彷彿とさせ、
その世代には珍しく若いうちにアメリカで写真教育を受けたせいなのか、同時代に生まれた写真家の作品と見比べると作風があまりにも違うので時代感が分からなくなってくる。
山沢がこのような作品を発表していた1970〜80年代の日本の美術界では、岡本太郎が大いに存在感を発揮していた時代ではあるが
岡本太郎とはまた全く別の新しい表現を生み出そうとしていたのが見て取れるだろう。
最近では、昨年末から今年にかけて国立国際美術館において開催された企画展「ニュー・ウェイブ 現代美術の80年代」や『美術手帖』2019年6月号特集「80年代★日本のアート」などで80年代を振り返る試みがいくつか成されてきたようだが、山沢の活動も写真史の分野だけに留まらず、日本の80年代の美術史というより大きな枠組みの中で再考する必要があるだろう。
プロフィール:
1990年生まれ
2015年 東京綜合写真専門学校 写真芸術第二学科 卒業
・Exhibition
2016 金村修ワークショップ企画展「Drawing」at The White
2016 TOKYO FRONTLINE PHOTO AWARD NEW VISIONS #03 at G/P gallery Shinonome
2017「Delirium」at The River Coffee&Gallery
2018「Monumentum」at The River Coffee&Gallery
2019「Remix」at The White
・Prize
2016 TOKYO FRONTLINE PHOTO AWARD ホンマタカシ賞
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『生きている静物画』大山純平(写真家)
男がラーメン屋から出てきて、店の中の店主に一礼をした。彼は戸を閉めて店から少し離れると、携帯電話のカメラで店の外観を撮影した。彼が去ったあとに通行人が、彼がカメラを向けた方向に何があるのか確かめるために頭を回した。部屋の窓のブラインド越しに誰かが廊下を歩くのが見える。私の前を歩く女が両手で髪を後ろに払った。彼女の髪はだいたい金色で、ところどころ色が抜けて白くなっていた。彼女は歩きながら目線を進行方向から少しずらした。そこには「新発売 いなり寿司」と書いてある横断幕が掲げてあった。「去年のやつはどろどろになったから捨てた」と女が言った。前から歩いてくる女が私とすれ違ったあとに鼻歌を歌いはじめた。上階の住人の部屋から「なだそうそう」が聞こえてきた。曲の終わりに観客が拍手する音も聞こえた。電車で「降りるの私だけ?」と女が言った。私は歩きながら腕時計を確認する動作をした。でも腕時計はつけてなかった。それをしたあとに、なんでそんなことをしたのか考えた。手首に当たるスウェットの袖が気になったのだった。私は手を胸元に近づけたところで、街中で歩きながら袖をいじって調整するのはおかしいと思い、袖を確認する動作から最も自然につながる動作を探したところ、現在時刻を確かめることだった。壁面の収納スペースの中央に収まった何も映っていないソニーの大型テレビ。スーツを着た男ふたり、スーツを着た女ひとりが信号待ちをしていた。ひとりの男が「昨日までにやれって言っただろうがー」と上司の真似をすると、もうひとりの男が「3時間で仕上げろって言っただろうがー」と続けた。彼らは上司が怒鳴り付けるさまを誇張しようとしたが、公共の場所にいたので音量を落としていた。声と一緒に息を多めに抜く。女に目立った反応は見られなかった。女に反応があれば彼らの会話は何かの型に収まるはずだった。彼らはもう一度同じセリフを繰り返した。今度は少し腹から声を出すようにして上司の怒鳴りの低音を再現しようとしていた。ふたりともそうした。男児が坂道を走って下りながら横断歩道に向かって「渡ろう。渡る」と言った。男が寝室の広さを女に聞いたあとに相づちを打ちながら寝室を出るついでに天井から吊るされたウィンドチャイムに片手で触れて音を出す。「卵を使った料理が出ると、必ず卵の殻が入ってる。でも全部食べるけど」と男が言った。台風でベランダに設置されている隣の部屋との間の石膏ボードの一部に穴が空いた。入居時にすでに小さい穴が空いていたが、それが大きくなった。管理会社に連絡すると、委託業者が下見に来るとのことだった。「1階の部屋なら外からベランダに入れますよね」と彼は私に聞いた。「目隠しの柵をよじ登ればなんとか」と私は言った。女が男にしゃべりながらワイングラスを手に取り、ワインを飲む前にグラスに付いた汚れに気がついてそれを指先で擦り、グラスの口を自分の口の方に近づけたとき女のセリフがこもって聞こえる。数日後、ベランダから金属の擦れる音がしたので、カーテンを少しだけ開けて外を見ると、薄緑色の作業着の男が外からベランダの壁と柵の隙間に金属製のメジャーを1メートルほど伸ばして差しこみ石膏ボードの大きさを測っていた。彼は一旦メジャーを引き抜いてメジャーを少し伸ばしてから再び差しこんだ。彼はメジャーを引き抜いて立ち去った。食堂で男が同僚の男と食事中にしゃべりながら、前歯の隙間に挟まった食べかすを指先で取り除き、豚が鳴くような音を出して咳き込む。
プロフィール:
https://www.instagram.com/jumpei.oyama/
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『reference』 澤田育久 (写真家)
ALTANATIVE SPACE The Whiteをオープンする一年前、私はこの場所をThe Gallery と名付けて、一年間毎月新作で展示をする実践の場として活用していました。私の作品”closed circuit”は、空間の中で自分の写真がどのように見えるのか、展示を繰り返す���とで実験と検証を重ねながら形作ってきました。今でも私はThe Whiteを使って展示を行い、実験しながら作品を制作しています。
この連載ではThe Gallery - The White での展覧会を中心に記録写真を織り交ぜながら自分の展示を振り返り、検証を試みたいと思います。
substance / howse (大阪)
今回の展覧会も前回同様、写真集”substance”(2018年 rondade刊)のプロモーションとして、大阪の”howse”で開催しました。
会場はおおよそ2.5m x 3mほどのタイトな空間で、スペースの両側には据え置きの棚がしつらえてあります。
この展示では、会場のタイトさを活かして、壁面を写真で覆い写真の空間をつくる展示を試みました。使用したプリントは1,500mm x 2,250mmと、1,200mm x 1,800mmの2種類を使用しました。左右の棚の位置が固定なので壁面の写真は全体的に高めの位置に直貼しています。その際に壁面だけで構成するとどうしても棚が気になってしまうので、棚部分には1,200mm x 1,800mmのパネル張りのロールを配置して空間全体がイメージで包まれるような構成にしました。床面もPVCの板を敷き詰めることでスペースが外部と切り離された空間になるように意識しました。
照明は前回同様LEDの蛍光灯を使用して、水平方向に高い位置と低い位置、また、垂直方向にも配置しています。過剰な照度にすることでより外部とのコントラストを強く生じさせています。
写真が持つ空間を活かしつつ、棚部分は実際に立体的に写真が配置されているので、そこに写真の空間と実際の空間の干渉が生まれ、また、扉の内側には鏡が貼ってあるため、鏡の映り込みという虚の空間も利用しています。
プロフィール:
写真家。1970年東京生まれ。金村修ワークショップ参加。2012~2013年「The Gallery」、2014年よりオルタナティブ・スペース「The White」をそれぞれ主宰。2011年に個展「closed circuit」(TOKI Art Space,東京)、2012年11月より2013年10月まで、1年間にわたり毎月新作による連続展「closed circuit, monthly vol.1-vol12」(The Gallery,東京)を開くなど、展覧会多数。2017年、光田ゆり企画によるαM2017『鏡と穴-彫刻と写真の界面』vol.2として個展を開催した。2017年に自身のレーベル”The White”より写真集「closed circuit」。2018年にRondadeより「substance」刊行。
https://sawadaikuhisa.com
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『「DECODE/出来事と記録-ポスト工業化社会の美術」2019 /9/14-11/4 埼玉県立近代美術館』(江間柚貴子)
もの派について取り扱った大規模な展覧会は過去に2005年に国立国際美術館で開催された「もの派―再考」展がある。もの派と呼ばれる作家達の作品群は関根伸夫の作品《位相-大地》を筆頭に、たびたび振り返られてきた。
ただ、本展は新たな試みとして、もの派の作品を実際に見ることができないことを逆手に取った当時の作品などに関する記録アーカイブ、もの派以降の作家の建築と写真、映像作品を合わせることで、単純にもの派について振り返るのではなくポスト工業化社会の時代の美術について一歩飛躍した見方を掲示している。
もの派について調べていくと、もの派というのが美術運動や明確な目的、意志を持った組織ではなく世間からそのように名称されていた集団であることが露わになってくる。さらに、もの派以前の兆候として幻触と呼ばれる静岡を拠点にした美術作家の集団も近年、注目されているようだ。
もの派という単語が誤解を招きやすいように、自分自身も一個人的な感想として、もの派という名前から連想される石や木材などの素材だけを扱った作品というイメージが強く、あまり関心が向かなかった。だが、ひとたび見てみれば《位相-大地》の何よりあの巨大な筒型の���くれの崇高で野蛮なくらい原始的な美しさに目を奪われてしまうのである。
デュシャンは既製品を使って美術の世界に様々な視座を生み出した。もの派も同様に行為としては似通っている部分もあるかもしれないが、平面、立体、空間や時間軸の観点を通して、ものそのものの存在を問うというところで、日本の美術シーンの中でも大きなターニングポイントの一つであり、大きな功績を果たしていると言って良いだろう。
プロフィール:
1990年生まれ
2015年 東京綜合写真専門学校 写真芸術第二学科 卒業
・Exhibition
2016 金村修ワークショップ企画展「Drawing」at The White
2016 TOKYO FRONTLINE PHOTO AWARD NEW VISIONS #03 at G/P gallery Shinonome
2017「Delirium」at The River Coffee&Gallery
2018「Monumentum」at The River Coffee&Gallery
2019「Remix」at The White
・Prize
2016 TOKYO FRONTLINE PHOTO AWARD ホンマタカシ賞
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『生きている静物画』大山純平(写真家)
女が電話で「貝柱」と言った。上階の住人が階段を下りてきた。白と青のチェックの七分袖のシャツに茶色のパンツ。彼は黒いトートバッグを開いて中を確認すると階段の途中で部屋へ引き返した。戻ってきた彼は両手をパンツのポケットに入れて斜め下を向きながら階段を下りていった。届いた中古のマウンテンパーカーはとても香水臭かった。ポリエステルに付いた臭いはなかなか消えない。アルコールスプレーが有効。私は浴槽に湯を溜めて酸素系漂白剤を規定の量入れて溶かしてからマウンテンパーカーを溶液に浸けた。必要以上に浸けると抜けた汚れが戻ってしまう。必要な時間浸けてもまだ臭いがしたので、もう一度湯を溜めて洗濯用せっけんでもみ洗いをした。泡立つだけのせっけん量が必要。まだ香水臭かった。あとは陰干ししか方法はない。アルコールスプレーを注文した。電車のドアが開くとすぐにオレンジ色のシャツをきた男が私の隣に座っている男の前に歩み寄って「フラッシュついてますよ」と言った。指摘された男は「ああ」と言って携帯電話を操作した。それを確認したオレンジ色の男はドアの方に歩き、手すりにつかまった。上階の住人が女と並んで階段を下りてきた。彼らはその位置関係を崩さなかった。同じ段に足を置き、踊り場で方向転換するときも、どちらかが前後にずれないように、内側の男は歩幅を小さく、外側の女は歩幅を大きくして彼らは旋回していた。男に「麻酔したい」と女が言った。唾を吐く男の家から仏壇の鐘の音が聞こえた。唾を吐く男の家から男の怒鳴る声が聞こえた。彼は「何だよお、これ」と言っていた。前から男女が並んで歩いてきた。彼らはマウンテンパーカーを着ていた。パンツも化学繊維のものだった。男は黒、女は赤。ふたりとも黒ぶちの眼鏡をかけていた。どちらの眼鏡も太めのフレームだった。男の方が私を見て笑っていた。私は彼を知らないので無視して通り過ぎた。雨の中、傘をさした男女が一列に並んで歩いていた。男が傘を前に傾けて付着した雨粒を落とすと、女も男と同じ動作を繰り返した。朝6時前、上階の住人が出勤していった。彼は階段を下りるときに「いてっ」と言った。両手にエナジードリンクの空き缶2本を持っていた。電車で座っている女が「家に帰ったら、まずダンスをします」と目の前で立っている男に言った。男はそれに対して何も言わなかった。女はさっきと同じ調子で「家に帰ったら、まずダンスをします」と言った。男は「わかりました」と言った。電車で吊革につかまって立っている男の鼻息が聞こえた。彼の鼻の穴は何かで狭まっていて、ときおり笛の音がした。彼はイヤフォンをつけていた。私の隣の部屋のドアから床へビニールがはみ出していた。それは焼きそばの麺が入っていた袋だった。隣人は朝6時30分ごろに部屋を出る。そして上階へ向かう階段の方へ行き、一段目に足を置きスニーカーの紐を結ぶ。彼は必ずそれをやった。その時間にその場所にいるのは彼だけだったので、上階から誰かが下りてきて彼と鉢合わせる、ということもなかった。彼の部屋のベランダにはシャツとタオルが何枚か落ちていて、一面が黒い泥で覆われていた。私が入居前に下見に訪れたときにはもうどうしようもなく黒くなっていたが、悪臭を放ったり、害虫が繁殖するわけでもなく、ただ見た目が(ベランダにしては)悪いだけだった。私はそれを見て定期的にベランダをブラシで掃除するようになったが、先日、マンション全体の防水工事が行われ、全室のベランダの床がグレーに塗装された。当然、彼の部屋のベランダも塗装され、シャツもタオルもなくなっていた。
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『reference』 澤田育久 (写真家)
ALTANATIVE SPACE The Whiteをオープンする一年前、私はこの場所をThe Gallery と名付けて、一年間毎月新作で展示をする実践の場として活用していました。私の作品”closed circuit”は、空間の中で自分の写真がどのように見えるのか、展示を繰り返すことで実験と検証を重ねながら形作ってきました。今でも私はThe Whiteを使って展示を行い、実験しながら作品を制作しています。
この連載ではThe Gallery - The White での展覧会を中心に記録写真を織り交ぜながら自分の展示を振り返り、検証を試みたいと思います。
substance / 東塔堂
今回の展示は写真集”substance”(2018 rondade刊)のプロモーションとして恵比寿の書店東塔堂で開催した展覧会です。
この会場はおおよそ1.7m x 2.5mほどと、とても狭い上に、2枚目の写真のように中央辺りに柱があるため、上から見ると凹のような形になっています。
私が通常使用しているイメージのサイズは1,800mm x 1,200mmですので、今まで試みていたような天井から吊るす方法だと、鑑賞者が中で移動をすることは物理的に無理が生じるため、今回はパネル仕上げにした写真を使用して壁面のみで構成しました。イメージサイズはこれまでと同じ1,800mm x600mmの2枚使いを踏襲して、スチレンボードにマウントし壁面から浮かせるため背面にもボードを仕込んでいます。
今回の一番の課題は会場に合わせた見せ方でした。狭いスペースをどのように使うか考えた結果、壁面に直貼よりもパネルにして、写真に物質感を出したほうが狭さが効果的に働くのではないかと考えました。また、パネルにするにあたって意識したことは、イメージに平滑性を出すこと、可能な限りソリッドに見えるようにすることでした。イメージが大きいために素材の硬さ(反りが出ないこと)を重視すると重量とコストがかさんでしまうので、そのバランスが非常に難しく、今回は実際の展示に耐えうるかのテストも兼ねて、スチレンボードの裏に芯材を入れて自作しました。
照明はLEDの蛍光灯を天井と床に配置して部屋の大きさに対して過剰な照度に設定しました。
プロフィール:
写真家。1970年東京生まれ。金村修ワークショップ参加。2012~2013年「The Gallery」、2014年よりオルタナティブ・スペース「The White」をそれぞれ主宰。2011年に個展「closed circuit」(TOKI Art Space,東京)、2012年11月より2013年10月まで、1年間にわたり毎月新作による連続展「closed circuit, monthly vol.1-vol12」(The Gallery,東京)を開くなど、展覧会多数。2017年、光田ゆり企画によるαM2017『鏡と穴-彫刻と写真の界面』vol.2として個展を開催した。2017年に自身のレーベル”The White”より写真集「closed circuit」。2018年にRondadeより「substance」刊行。
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『「みえないかかわり」イズマイル・バリー展GINZA MAISON HERMÈS2019/10/18-2020/1/13』(江間柚貴子)
初めて名前を知った作家だが今年のKYOTOGRAPHIEでも映像作品を出していたようで、繊細で流体的、儚いイメージで展示全体を見ながら去年に原美術館で行われたリー・キットの展示を思い出した。
ポスターを手でくしゃくしゃにする映像作品で手に映ったインクともともとの画像がこすれてただの紙になっていく過程をみていくとなんだか手品を見せられているような不思議に思えた。あの写った画像は一体どこにいったのか、もともとあってないようなものだっただろうか、強く印象に残った。
そもそも写真とは元をたどれば、ただの紙でそこには虚像が写っており過去の現実ではあるものの、現実は本当にそこに存在しているのかということを証明するのは極めて難しいことであることを改めて実感した。
光というのは目に見える世界を構築するすべての事象の根源のひとつであるように思うが、光をとらえるということはどういうことなのだろう。作家の関心もそういったところにあるようだ。
写真装置はもちろん光をとらえ、それを定着させるための装置ではあるが、イズマイル・バリーの作品をみていると写真などで目にしているものは本当に光をとらえたと言えるのか疑問に思えてくる。
何かが存在したという事実は本当に亡霊のようなものだと思う。
写真装置を発明した過去の偉人は光をとらえることに成功したと疑問を抱かなかったはずだろう。
しかし本展をみれば私たちが見たと思っているものは本当に見たといえるのだろうか再度疑問を抱くことになるだろう。
プロフィール:
1990年生まれ
2015年 東京綜合写真専門学校 写真芸術第二学科 卒業
Exhibition
2016 金村修ワークショップ企画展「Drawing」at The White
2016 TOKYO FRONTLINE PHOTO AWARD NEW VISIONS #03 at G/P gallery Shinonome
2017「Delirium」at The River Coffee&Gallery
2018「Monumentum」at The River Coffee&Gallery
Prize
2016 TOKYO FRONTLINE PHOTO AWARD ホンマタカシ賞
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『生きている静物画』大山純平(写真家)
レジで「一番大きい袋に入れて」と言う男がいた。スーパーで買ってきたウインナーソーセージの2パックセットを束ねているテープをはさみで切ると、パックとパックが合わさっていたところに気泡を含んだ無色透明な粘液が付着していた。誰かがウインナーソーセージのパックが陳列されているところに向けて唾を吐いた、ということ。私は試しにゴミ箱に唾を吐いてみた。唾が付着したのは油汚れを拭き取ったあとのクッキングペーパーだった。私はそれをつまみ上げて唾がゆっくり流れ落ちる様子を見た。唾は切り落とした豆苗の根に付着した。道路脇の花壇の管理をしている男の住む家の石垣の上にエナジードリンクの空き缶が立ててあった。上階の住人が20時半帰宅。0時半就寝。2時に起きてトイレを済ませて就寝。2時半に起きて両手に1本ずつビールの空き缶を持って外出。サッカー日本代表の青色の半袖シャツに緑色の短パン、ビーチサンダル。背番号12。3時に片手にエナジードリンクを持ち帰宅。階段の途中で左足のサンダルの底に何か付着したのかを確認した。5時半起床。5時55分出勤。今日は何のゴミの日でもないが、ゴミの入った半透明のビニール袋を持っていた。前から歩いてくる女が私とすれ違ったあとに鼻歌を歌いはじめた。女ふたりが玄関で話をしていた。「まだお元気でいらっしゃるの?」「何年か前に、何年前だったかしら、亡くなったの」「死んじゃったの。お亡くなりになったの。あらまあ」上階の住人が階段を下りてきた。アルゼンチン代表ユニフォーム、背番号10番。どこかの家からテレビ番組の音が漏れていた。男の引き笑いも一緒に漏れていた。彼の引き笑いはテレビより音量が大きかった。テレビ番組が用意した観衆の笑い声に彼の引き笑いが正確に重なっていた。引き笑いは4回1セットだった。「頭に入ってる」「石が」「脳に石が入ってる」と男が言った。男が横を向いたままこちらに迫ってきた。彼は隣の女に「現状維持。全然よくならん」と言った。駅前の路上でワインの無料試飲会が行われていて、大勢の人々が群がっていた。少量のワインが入った透明なプラスチックのコップをもらった人々が人だかりから抜け出てきた。ある人は郵便ポストにもたれかかったり、ある人は飲み物の自販機にもたれかかったりしてワインを飲んでいた。黒ずんだ顔をした老婆はコップを両手で持ってくると、笑みを浮かべながら証明写真機の椅子に腰かけてワインを飲んでいた。荒い息づかいで「はぁ、はぁ、8月分の給料」と言う男がいた。男女が車道を歩いていた。女が「つまみを増やせば飲みが増える」と言うと男は「そうねえ」と言った。前から車が来て、彼らは歩道に移った。ほぼ毎日、午前1時になるとラーメン屋と飲み物の自販機の間のゴミ箱のところに男がやってきた。彼は到着するとまず、ゴミ箱の上にタバコのパッケージとライターを置いて、自販機で缶コーヒーを買う。それから30分から1時間そこに居続ける。道路側ではなく壁側を向いて。そして家に帰る。彼の行動はいつもそうだった。彼はその場所に女を連れてくることがあった。女はゴミ箱とラーメン屋の看板の間に収まるか、自販機とプラスチックのコンテナが積み重ねられたところの間に収まるかどちらかだった。どちらも人ひとり分の幅しかなかった。彼女はいつも壁を背にして男と向き合い、男と一緒にそこに居続けた。
プロフィール:
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vol.10『reference』 澤田育久 (写真家)
ALTANATIVE SPACE The Whiteをオープンする一年前、私はこの場所をThe Gallery と名付けて、一年間毎月新作で展示をする実践の場として活用していました。私の作品”closed circuit”は、空間の中で自分の写真がどのように見えるのか、展示を繰り返すことで実験と検証を重ねながら形作ってきました。今でも私はThe Whiteを使って展示を行い、実験しながら作品を制作しています。
この連載ではThe Gallery - The White での展覧会を中心に記録写真を織り交ぜながら自分の展示を振り返り、検証を試みたいと思います。
closed circuit, Mar. 2018 The White
前回”closed circuit, Jul. 2017 The White”の展示を通して、写真の見せ方はおおよそ決定されたので、この展示でも前回のインスタレーションを踏襲して、作品の正面性をつくらないことで写真同士の関係性が一続きに変化していくように展示を組み立てました。
展覧会の課題として、前回は主に展示の方法について検証しましたが、今回はイメージの内容の検証を試みました。前回使用したイメージは具体的な対象が多く、色の印象が強いイメージも多く含まれていました。そのため、個々のイメージが衝突しあってある種の居心地の悪さのような感覚はあったものの、やや個々のイメージとして独立して見えてしまう印象も持ちました。そこで、今回の展示ではすべてのイメージを白で統一して空間を膨張させるように構成しました。
色がないとイメージ同士の境界があいまいになり、遠近感が失われるような効果もあり、部屋のスケール感もより掴みにくくなるように感じました。
closed circuit, Dec. 2018 The White
展示の内容は前二回を踏襲して構成しました。
今回は新たに鏡を天井の四隅に配置しています。上からの視点を投入することで、客観的な視線を意識させることを試みました。
また、作品中に人がいることが意識されないように、鏡にはなるべく鑑賞者が映らないように配置に気を配りました。
写真自体のフレームの他に別のフレームを持ち込むことで、新しいものの見方の手がかりを探りました。鏡の中でイメージは動的に変化しながら鏡のフレームによって新しいイメージを作り、そのイメージが目の前にあるイメージと���接的につながることで高次的、多視的な視点が得られることを期待しました。
プロフィール:
写真家。1970年東京生まれ。金村修ワークショップ参加。2012~2013年「The Gallery」、2014年よりオルタナティブ・スペース「The White」をそれぞれ主宰。2011年に個展「closed circuit」(TOKI Art Space,東京)、2012年11月より2013年10月まで、1年間にわたり毎月新作による連続展「closed circuit, monthly vol.1-vol12」(The Gallery,東京)を開くなど、展覧会多数。2017年、光田ゆり企画によるαM2017『鏡と穴-彫刻と写真の界面』vol.2として個展を開催した。2017年に自身のレーベル”The White”より写真集「closed circuit」。2018年にRondadeより「substance」刊行。
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『クリスチャン・ボルタンスキー「Lifetime」2019/6/12~9/2 国立新美術館』江間柚貴子(写真家)
アーティストにとって死や実存というテーマほど興味をそそられるものはないだろう。
ボルタンスキーの作品を実際に見るのは今回が初めてで、肖像写真の周りに電球を配置し祭壇のように組み合わせて展示する「モニュメント」シリーズも書籍やウェブで作品を見ると、おどろおどろしいイメージが強く実際に見たら息が詰まりそうな気がしていたが、思ったより重い印象でなかったので少し拍子抜けしてしまった。古くて不鮮明なモノクロの肖像写真が単純に怖くみえるというよりは、そういう死に対する恐怖などが強調され過ぎていて逆に滑稽に思えた。
ボルタンスキーの作品の性質として、死のイメージに対して過度な装飾をしたり恐怖を強調することによって、葬儀や死者を弔う宗教的な行事、風習などは死を理解するための行為の延長にあるものであることを改めて示唆しているように思う。ただ、来世のネオンサインの作品もしかり、良くも悪くもお化け屋敷のようなテーマパーク的な展示になっていたのは、本当に作家本人の意思によるものなのか気になった。
その中でもボルタンスキーの仕事場を監視カメラで撮影した作品《C・Bの人生》に関しては、ボルタンスキーの死後、その価値がまた変わることを前提として見ると、彼の存在が時間・空間を隔てて存在することを考えるとかなり画期的な取り組みと言えるのではないだろうか。
プロフィール:
1990年生まれ
2015年 東京綜合写真専門学校 写真芸術第二学科 卒業
Exhibition
2016 金村修ワークショップ企画展「Drawing」at The White
2016 TOKYO FRONTLINE PHOTO AWARD NEW VISIONS #03 at G/P gallery Shinonome
2017「Delirium」at The River Coffee&Gallery
2018「Monumentum」at The River Coffee&Gallery
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2016 TOKYO FRONTLINE PHOTO AWARD ホンマタカシ賞
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『生きている静物画』大山純平(写真家)
上階の住人がウクレレの練習をはじめた。私はもう寝るので、彼の練習をやめさせようとして物干し竿で天井を強く突いたが、彼はウクレレを弾き続けた。私は彼の練習が終わるまで物干し竿で天井を突き続けた。連続して20回突くと彼は練習をやめた。上階の住人がインターバルトレーニングをはじめた。彼は部屋で飛び跳ねていた。うるさいので、天井を物干し竿で12回突くと、彼はトレーニングをやめた。彼が蛇口をひねり水を流した音がした。しばらくすると彼は階段を下りてきた。階段の途中で彼は「きちがい」と言った。マンションの玄関から私の隣の部屋のドアまで、床に卵液が点々と垂れた跡があった。隣人はドアのところで卵液が漏れ出たビニール袋を一旦置いた、その跡もあった。朝5時。上階の彼が起床した。彼は2回飛び跳ねた。私の部屋の天井が振動した。すぐに彼はドアを乱暴に開け閉めして、朝食を買いにコンビニに出かけていった。子どもたちが七夕の願い事を書いた短冊が歩道に落ちていた。「かぞくがけんこうに長生きできますように」「お母さんのやくにたつしごとができますように」「おりがみがうまくなりますように」傘をさした女が歩いてきた。彼女は私とすれ違うときに「信じられない」と言った。「クリア、クリアカップ」と女が電話で言った。駅前で「このやろう」と男が叫んだ。彼の相手はそこにはいないようだった。「それはちがうでしょ」と談笑していた5人くらいの男女たちはその叫びを聞いて仲間内で静かに笑った。女が「バターナイフ」と言うと、横にいたもうひとりの女は「スカート持ってくるの忘れた」と言った。深夜2時ごろ、信号待ちをしている車から高笑いが聞こえた。男の長めの高笑いに女の短い高笑いが重なっていた。信号が変わり彼らは発車した。21時10分の女がマンションの玄関で外に向かって「ありがとう。ばいばい。またね」と言った。外には自転車に跨がった男がいた。彼は小さく頷きながら手を振っていた。私が信号待ちをしていると、自転車のペダルを漕ぐ音が聞こえた。自転車のどこかが壊れている音がしていた。自転車の男が私に迫ってきていた。彼は私の前にくると、首を私の方に向けて私と目を合わせた。彼はすぐに首を進行方向に向けて走り去った。「大貫さんは木曜日に1回だけにした。うん、このあいだ文句たらたらだったし」と電話で言う女がいた。「コーヒー買って帰ろう」と男が言うと、女は「あのコーヒー私が買ったんだよ」と言った。男が「うん」と言うと、女は「あのコーヒー私が買ったんだよ」ともう一度言った。泣いている男児を見て「嘘泣きだ。嘘泣きしてる」と別の男児が言った。「味はねえ、すっごい好き」と電話で言う男がいた。自転車を押しながら「変な音してるよ。壊れるよ」と母親に言う女児がいた。笑い声は短い「は」を4回。前の車に対して青信号になったから早く行け、という警笛は短い「ぷ」を2回。
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vol.9『reference』 澤田育久(写真家)
ALTANATIVE SPACE The Whiteをオープンする一年前、私はこの場所をThe Gallery と名付けて、一年間毎月新作で展示をする実践の場として活用していました。私の作品”closed circuit”は、空間の中で自分の写真がどのように見えるのか、展示を繰り返すことで実験と検証を重ねながら形作ってきました。今でも私はThe Whiteを使って展示を行い、実験しながら作品を制作しています。
この連載ではThe Gallery - The White での展覧会を中心に記録写真を織り交ぜながら自分の展示を振り返り、検証を試みたいと思います。
closed circuit, Jul. 2017 The White
前回のαMでの展覧会でThe Galleryの連続展の再構成を試みて、今まで意識的でなかった部分に気づきました。そこでこの展覧会ではαMで得た課題をを踏まえて構成に変更を加えました。
一つ目の変更点は写真の裏面の扱いです。The Galleryでの展覧会では会場がとても小さかったこともあり、あまり気にならなかったのですが、大きな会場で整列させて展開すると、展示を鑑賞する際の方向性(正面性)が強く出てしまいました。奥まで行って振り返った瞬間に白い紙が沢山吊ってある状況は、瞬間的に”今まで見ていたものが写真である”という写真の虚構性や物質性を喚起させる側面も感じましたが、やはりそのまま15m近く戻ってくるとなるとその間に冷静に見えてしまうという弱点もあるように感じました。写真を空間に配置してその中を鑑賞者が入り込んで鑑賞する以上、写真は立体としてあらゆる方向から鑑賞されることになるということを体験的にとらえたので、今回は正面と裏面という二元的な方向性を避けるために写真を両面に配置してみました。
二つ目は配置の仕方です。写真の配置はこれまで平行的に揃えて配置していたのですが、この展示では具体的な内容の写真が多いこともあり、整列させると一つ一つの写真が独立して見えてしまうように思えたので、角度を加えてランダムに空間に配置する形式に変更しました。これによって方向性が曖昧になり写真同士の関係もより複雑になったように思います。
展示の方法を修正したことで、使用する写真の数はこれまでの倍以上になり、空間の密度はだいぶ高くなりました。
プロフィール:
写真家。1970年東京生まれ。金村修ワークショップ参加。2012~2013年「The Gallery」、2014年よりオルタナティブ・スペース「The White」をそれぞれ主宰。2011年に個展「closed circuit」(TOKI Art Space,東京)、2012年11月より2013年10月まで、1年間にわたり毎月新作による連続展「closed circuit, monthly vol.1-vol12」(The Gallery,東京)を開くなど、展覧会多数。2017年、光田ゆり企画によるαM2017『鏡と穴-彫刻と写真の界面』vol.2として個展を開催した。2017年に自身のレーベル”The White”より写真集「closed circuit」。2018年にRondadeより「substance」刊行。
https://sawadaikuhisa.com
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『キム・ジンヒ Finger Play KANA KAWANISHI PHOTOGRAPHY (2019/7/16-8/10)』江間柚貴子
キム・ジンヒは韓国の釜山出身の女性のアーティストである。
「Finger Play」展では韓国の雑誌メディアなどに写っている女性の手の部分を再撮影しその上から刺繍を施したり、穴をあけて自身の手を写りこませた作品で成り立っている。
キム・ジンヒはステートメントで身体の中でも手を無意識の動きが多い部分とし韓国メディアが提唱する女性像と現実の韓国人女性としての自身を
刺繍を施すことによって、そこに生じた女性像のギャップを表面化し
少しの遊び心を持って冷ややかに批判しているように見えた。
韓国の女性といえば「82年生まれ、キム・ジヨン」も最近話題となっているようだ。
本書はチョ・ナムジュが執筆したある架空の韓国人女性の半生を描いた長編小説で女性が生きていく中で受ける差別や困難を淡々と描き100万部を超えるベストセラー書となっている。韓国内で本書がひろまった背景として出版と同時期に見知らぬ男に若い女性が殺害された江南通り魔人事件が起きたのもある。犯人の動機が普段から女性から無視されていたからというもので女性軽視や差別が社会問題として浮き彫りになった。
両者ともこういったことをテーマにしている作家となると、フェミニストの一言で簡単に片付けられてしまいそうだが、習慣や常識などを見つめ直すことが社会に求められている時代にあるのだと思う。
プロフィール:
1990年生まれ
2015年 東京綜合写真専門学校 写真芸術第二学科 卒業
Exhibition
2016 金村修ワークショップ企画展「Drawing」at The White
2016 TOKYO FRONTLINE PHOTO AWARD NEW VISIONS #03 at G/P gallery Shinonome
2017「Delirium」at The River Coffee&Gallery
2018「Monumentum」at The River Coffee&Gallery
Prize
2016 TOKYO FRONTLINE PHOTO AWARD ホンマタカシ賞
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