#彼は下衆より暗黒で、あどけない少女より綺麗で、いつも本当の事しか言わない
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pureegrosburst04 · 6 months ago
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〜謎の過去 ゴールド宝魔の真っ赤な死体惑星〜
???様(裏ストニューボス)「球磨川君に対する私の厚意から来たお膳立てはやり過ぎだった気もするが、よく考えて見たまえ、結果から見てどうとでもなっただろう。それにしてもこれはもうフォローのしようがない、ただ…裸の桔梗に血と骨と内臓と脳を破滅的な無理心中的な形で捧げただけではないかね?偶にはこんなのもありなのだよ」
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無量大数以上ある表版仮想大鉱山総勢500万人が何の意味もなく犬夜叉次元重力で潰れて死んでしまった 肉欲の誘惑を誘う下衆女は、自分から扉を開くチケットを受け取った並行世界のゴールド宝魔を生命の軽さで進撃の巨人世界観を上回りさせる悲惨な結果のみをもたらして、真っ青になって床についた
それは冷血硬派団の一員だった。彼女はやましさと綺麗な少女に対する妬みが恐怖に変わり果てて、善行をするようになった 全てが、どうなっても構わない”””アイツ(中ボス)”””の余興だった
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〜真っ赤な死体惑星 無量大数が絶滅へのレッドゾーン〜
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pompomyusuke · 4 years ago
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         落石
Death is not the greatest loss in life. The greatest loss is what dies inside us while we live.
by Norman Cousins
〜序章 今〜
真っ白な中にいま僕はいる。周りは虚無とカオスが広がり、何もできない。ただ、いま自分が出来る最大限の努力は呼吸をし命をつなぎとめることだ。ゆっくり途方も無い道のりを重たい足で歩き続ける。歩き続けることがいつか、きっと僕にとって何か、良いことをもたらすのではないかと思いきかせた。白く、一点の濁りもない中をただひたすら飽きることなく足を動かすことを続けた。
不意にある人の事想う。ああ、あの人と結ばれたらな。いや、もうあれは過去だ。過ちだ。何を僕は引きずっているのだろう。幾度となく、偽りの意見を反芻させた。目を閉じ、呼吸を整えた。
漆黒の闇から急に現れた、たった1人の人��に狂い戸惑った。気づけば周りにはなにもかも手放していた。自分の、判断だし、決断でもあった。おかけで今なにも関わってくれる人も、動物もいない。そして、今僕は虚無にいる。全ては自業自得なのだ。
〜第2章 過ち〜
目が覚めた。どこか重たく、身体全体に痛みを生じた。目もなかなか、開けることができない。いつもの朝とは違い、日の光りを感じられない。そのせいか、起き上がるのに、10分以上はかかった。僕にとってはかなり遅い方だし、他の人と比べて寝起きはいい方だ。その日は休みだった。飲み過ぎても仕事に支障が出ないようにと、希望休をとっていた。変なところ真面目だよねと大衆に言われる所以がこのことなのかもしれない。
その日そんなに早く起きる必要はなかったがなぜか起きた。どこか気持ちが、心がいつもより落ち着かなかった。目を開けることにためらい、もう一度寝ることを考えた。しかし、いつもとはちがう、違和感を覚えた。僕の部屋はお世辞にいっても綺麗じゃない。ただ、今自分の嗅覚から感じるのはフローラルでとこか愛したくなる香りだった。当時、コーヒーを勉強していた僕は香りに敏感だった。今まで嗅いだことのない、落ち着いていて、どこか派手な綺麗で美しい香りだった。まるでアジア太平洋産のコーヒーを思わせる、どこかどっしりとし荒々しいコクとハーブを感じるような繊細さを僕は感じた。
その香りは、確かに、自分の部屋から香ることのできない香りなのは明確だった。だからこそ、目を開ける勇気がなかった。あの繊細で、どこか悲しい香りは僕は感じたことない。多分、目を開けて現実を見てしまったら後悔することもわかっていた。しかし、僕はゆっくり目を開けた。どんな現実も受け入れることを僕は覚悟した。そこは真っ白でなんの変哲も無い白い天井だった。また、予想通り日光はカーテンから少し漏れるだけの光しかベッドには届いていなかった。そして僕は裸だった。スタイルがお世辞にもよくない身体がベットに放り込まれている。身体は重く、ベッドに根を生えているようにも思えた。この時点で少し飲み過ぎたことを、後悔した。気分と身体の両方の違和感に耐えきれず、少し寝返りをうった。その時何かを触った。柔かく、どこかハリがあり、触るといまにも跳ね返されそうな弾力だった。指先から伝わるシナプスが脳みそ��達したが何かは特定できなかった。もう少し触りたかったが勇気がなかった。そして、一度そこで寝返りを止めた。正体を知ってしまったら、真実に追いつけず、自分の偽りの世界を作り逃避する気がしてならなかった。それが楽なのはわかっていたがどうしてもしたくなかった。向き合うことが僕の数少ない良い点の一つだと理解していたからだ。そしてそれを永遠に自分に自分の武器として、自分の存在を誇示するために持ち続けていたかった。
重たい体をゆっくりと左45度に傾け、現実を見ることを決意した。ぼんやりと映る姿にかすかに見覚えがある。どこかでみたことあり、僕の小さな脳で思い当たる節を探した。学生時代のそんなに多くない友人、ゴルフで出会った仲間、バンドなどで交流を持った人たちなどを当てはめたがどれもちがった。誰かはわからないが、確実にそこにあるものは女体だった。お世辞にも白とは言えない肌ではあるがハリときめ細かさはある。お尻もそれほどありかつひきしまっており、くびれがとても特徴的だ。乳房は少しお椀型でハリもあり乳首は程よく黒がかり僕の好みな形、色だった。髪色は明るめな茶色では、あるものの落ち着きがあり、ショートとロングの間、つまりミドルほどの長さだった。カーテンがなびいている下で、少し日に当たるその姿はどこか幻想的で魅力的で現実に存在する人間には思えないほどの美しさであった。まだ、誰かもわからないが見ていると落ち着くし、このまま時が止まってくれないかとおもった。もちろん、止めることなどできない。
気づいた時には深い眠りについていた。身体の重さは幾分なくなり悪酔いが冷めてきたのが、明らかに実感できた。さっきとは違い外界の光がもろにあたり、風も感じることができた。カーテンが顔なで今にも部屋全体の小物たちが起きなよ、と言わんばかりだ。今時間は何時だろう、ふと思い、また誰かわからない女体の隣でよく寝れたなと自分に驚く。
「おはよ」
聞いたことのある声が僕の背中を包んだ。どこか、優しくも冷徹な声が特徴的だ。恐ろしく、顔を見ることも、もちろん振り返ることもできない。畳み掛けるように女体は話す。
「昨日飲みすぎたようだけど大丈夫?」
やはりかと思った。今までにない酔いが朝遅い、違和感が心を包んだ。僕は平静を装いどこか洒落臭く返事をした。
「あんなんじゃ、酔わないよ」
僕は女体の顔見なくても笑っていることに気づいた。
「へぇー、毎日晩酌してるだけあるわね」
この時、いくつか女体の候補を絞ることができた。晩酌をしていることは少数人にしか告げてないし、なんなら幾分恥ずかしいことではあるから、��々的に自分から発信はしていない。かなり仲の良い、あるいは直近で会話をしている人に絞られる。
「最近そんなに飲んでないよ」
少しかまをかけて、発言した。最近の飲酒量は軒並み右課題上がりをし、来月の健康診断はもう絶望的だ。直近で会話している友人にはその話を何度も話をしている。
「最近飲むのふえてるじゃない。この前も電話した時酔いつぶれてたわよ」
ここで確信をついた。最近ある1人とよく通話をする。同じ職場の人だ。衝動を抑えきれず体の向きを変えて顔を見た。
女体はニヤっと笑った
「椿、、、」
「おはよ」
ドス
頭の中で何かが落ちた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
僕はそこそこ名前の知れている商社に勤務している。商社ではあるが、ほぼサービス業であるため平日やすみが基本だ。平日休みでの特権をまだ実感していない。強いてゆうのであれば、ふとした時にドライブなど外出するとき弊害があまりない。人混み、交通規制、こどもの泣き噦る声などストレスを与える要素がない。もちろんデメリットもある。友人関係が、がらっとかわった。だいたいの友人は土日休みであるため休みが合わず、交流する時間がなく連絡する頻度もすくなくなり疎遠気味になってしまった。また、ある友人は遊べる回数などがすぐなくなったからか、付き合いが悪いなどと吐き捨てられたこともあった。こうして、休日に過ごし方は狭い自宅で引きこもるか、職場仲間と軽くご飯に行くことしかできなかった。時々コミニュティーの狭さに驚愕し、過去自分の思い描いた誇らしき人生の理想との乖離に不安と絶望に日々打ちひしがれるのであった。
僕は時々死をも考えたこともある。富士の樹海で首を吊るいくつもの死体に憧れたこともあった。自分もそのうちの一つにどのようになれるか、考えたこともあった。でも、後一歩のところで勇気が出ずにいた。死ぬ勇気さえ僕には持てれなかった。僕が愚かであることは明確だった。
ただ、仕事での悩みは無いと言ったら嘘ではあるが、さほど気になるほどではなかった。横山と稲村の紛争を常に仲裁して、チームの空気が悪くならないようにいつも注意をしていた。仲間とのコミニケーションを常に積極的にとり、チームの不満やいわゆる膿を出す役割を僕はしていた。人からはそれらは重みでストレスのかかるものであると言うが、僕は気にならなかった。むしろチームが良い方向に前進していることを日々実感し、達成感に浸れた。それが仕事の一つのやりがいであることは否めないし、自分の一つの居場所であったことも確かだ。ただ、その居場所や仲裁に入るのもなかなか至難の技であった。
横山��チームリーダーとして、1年前に配属された。彼は、スタイルがよくイケメンと言う部類にはいり見た目はどこかアグレシッブで仕事に対して強いこだわりがありそうだった。ただ、その見た目とは相反するような過去を持っていた。
19XX年、横山はファッション系の仕事についていた。彼は現場に強くこだわった。彼が配属されたのは西山駅の正面にある、お店も売り上げもかなりボリュームのある店舗だった。店の正面には街のメインストリートがあり、土日には車両の通行が禁止される、謂わば歩行者天国になる。また、道の向かいには最大級のデパートがあり、平日土日関係なくいつも人でごった返している。店の周りにも競合店揃いのファッション系ブランドのお店が軒を連ねる。そこでその店は勝ち取っていかなければならなく、横山自身かなりのプレッシャーであった。前任のマネージャーは成果を出すことができなく半年で別の店舗に異動をした。左遷とも噂された。
横山は客の求めているものを的確に会話を通じて探し出し提案することを目標としていた。そのことを認められたか、前年よりも売り上げを伸ばし上層部にはかなり高い評価で認められた。会社にも評価され次期エリアマネージャー候補とも囁かれていた。横山は仕事にやりがいを感じ、通勤にも片道2時間という長いものであったが文句どころか、毎日が充実していた。
忘れもしない10月20日。いつもどおり横山は出勤した。大通りに群がるスーツをみにまとったサラリーマンをかき分け、店の正面まで歩く。あまりの人の多さで、後ろへ押し流されながら歩き続けるのは一苦労だ。店の鍵は全部で5つある。正面の扉が2枚あり、一枚の扉に上と下1つずつ鍵がある。鍵を開けると30秒以内に店の事務所のセキュリティの機械に鍵を取り付けないとアラームがなる仕組みだ。
この日もアラームを解き、オープン作業を一緒に行うパートの人を待った。作業が始まる9時30分にも来なかった。ここのお店に着任してからはじめての経験であった。パートの携帯に着信を入れたが冷酷な自動音声が聞こえる。
「ただいま電話に出ることはできません」
が横山の耳に響く。まるで暗く深い洞窟の中で聞こえるように。
几帳面で真面目で無断欠勤などするタイプではないため、怒りよりも心配がかった。事故か事件か、最悪の状況が頭をよぎる。とりあえず何事もないことを祈った。電話が早くかかってこないか、気にしながら開店作業を黙々と進めた。本社から送られてきた服や小物の納品物��片付け、陳列。店内の掃き掃除、また陳列されて��る服の整理、などいつもよりも同じ時間で2人分の作業をしなければならないため、時間の体感速度はかなりのものであった。店内に開店まであと5分のチャイムが鳴り響く。当然間に合うはずもなく、開店してから残った作業をすることにした。急いで、事務所に戻りレジの開局作業に取り掛かった。両替準備金を数え、パソコンに入力し、開局させた。もう、幾度となく行った作業のため、手慣れたものだ。毎日同じことの繰り返しであったが毎日同じモチベーションで仕事をすることができた。人はそれを、嘲笑い鼻でわらい社畜だと罵った。横山はそのことを何も感じもしないし、馬鹿にする方が馬鹿だと感じた。
そんなことを頭で回想をしていると気づくと1分前のチャイムが鳴る。横山は店の自動ドアの正面に背筋をのばして、客を迎い入れる準備をした。静寂の中を切り裂くように、店内アナウンスが入る。開店だ。深呼吸で心拍数を安定させる。今日も始まる。
横山は客に向かってしっかりと大きな挨拶をした。
「いらっしゃいませ」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
10月20日夜、街中の有名な居酒屋で団体グループのせいで予約がいっぱいだった。店もてんやわんやで、少ない人数で営業していた。キッチンには洗い物が山積みになり、ドリンクをテーブルまで提供するのに精一杯であった。従業員がベルトコンベアーで流されているかのように機械的にキッチンからドリンクがかなり乗ったトレイを持ち、テーブルまで運んだ。なぜか従業員には顔がない。じっくり見てもそこには何もなく、カオスで色も特徴もない。まるでロボットが店舗を運営しているように感じた。何も面白みも、魅力も感じないお店だ。多くの人が二度と行くことはないというだろう。実際その半年後お店は潰れたという。詳しくはわからない。
その日の団体の客は横山の働くお店の集まりだった。幹事の伊藤は重たい口を開け、淡々と話を始めた。
「ボイコットに参加してくれてありがとう」
参加者は息を飲む。この言葉は絶対に聞くことは覚悟していたし、ボイコットしたことも事実だ。しかし、改めて耳からその情報を聞くと様々な考えが頭をめぐり実感と責任感が心臓からゆっくりと湧き上がるのがわかった。まるで血液のようにその感情が身体中をめぐり次第に身体が硬直していくのがわかった。参加者のうち華奢な男の1人が口を開いた。
「これで横山も終わりだな。」
伊藤はその言葉をきき深く項垂れ、自分の今の行動がどの程度影響し波及していくのか想像するのができなかった。想像したくないのではなく伊藤の脳みそではキャパオーバーでこれからのことがわからなかった。どのようにこれから自分の��場が変わっていくのかも先を見越した行動ではなく瞬間的で能動的であったことは間違いない。そして、伊藤はこれにきづくことはなかった。
伊藤は何かを決心したかのようにまた鉄の扉のような唇を開けた。
「そうだな。祝おう。皆で。」
重苦しくどこか窮屈な空気の中冷やかしのようにグラス同士の冷たく乾いた音が部屋中に響き渡る。乾杯のこともそこに明るさはなく海の奥深く光の届かない場所にいるかと錯覚するぐらい暗く意味深なものであった。主婦がお酒を飲みながら現実を受け止めたかのように話をした。
「私、本当にボイコットしたのね」
伊藤がゆっくりと口を開いた。
「そうだよ。俺らはやったんだ。でもこれも全て横山がわるい」
「そうわよね。自業自得だわ。」
主婦はそう言い放ちグラスを空にした。無理やり流し込んだせいか咳こんだ。その音さえ虚しく聞こえる。
伊藤が息を吐き思いつめながら鍋をつついた。
鍋には色も何もないカオスが広がっていた。なぜだろう、食欲も湧かないしそこには何もない。物理的ではなく精神的に。
「明日からどうなるかな」
空虚な世界にその声だけ響いた。周りは静かに息を飲んだ。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
枯葉が落ちある種のイルミネーションが広がっていた。自然が作り出すトンネルはどこかに吸い込まれ迷走しいずれ消えていくことを実感した。皆口を開け小さな頭の中で回想する。出口はどこなんだろう。
横山は会社に解雇された。ボイコットの日から次の日でだった。次の日も従業員は誰もこず、たった一人静かに営業した。現実、一人で営業することもできず、閉店を余儀なくされた。会社からボイコットについて、ヒアリングを幾度と無く横山に行なったが、何もわからなかった。事実、横山自身アルバイトたちによって遂行されたボイコットがなぜ行なわれたのか甚だ理解できなかったからである。横山は小さくか細い声で何度も連呼した。
「わからないです。すみません。」会議室はため息に包まれた。
彼が転職するのは、季節が幾度と無く変わった後だった。あのボイコットから仕事に対する熱意がまったくもてず、故郷である横浜に身を隠した。実家での居心地はよくはなかった。口うるさい親父と心配性な母親が彼に対して異常なまでに面倒を見ていたがそれが逆に狭く感じた。早く仕事をしないのかと部屋の扉をノックする音を毎日聞き、親父が酔った勢いで母親との馴れ初めを永遠と語るが興味がなかった。両親との生活は約2年だったがなぜ実家に戻ってきたか聞いてこなかったし知らない。彼らにそのことに興味が無かった。
そんな実家であったが一人で住むよりましであった。あのボイコットから人間不信になってしまった。外を出歩くといくつもの白と黒の目が彼自身を凝視し監視されているように思えた。また、このころ横山は人間の顔の表情が素直に受け入れることができず人間の後ろに何も無いカオスの顔が見えるようになっていた。そいつは口も鼻も目も耳も何もかも無い。しゃべることさえしず、ただ黙って横山をみていた。横山はそいつを見始め外に対しての絶望感と虚無さから外に出なくなった。少しでも安心した場所に行きたく実家へと移った。
横山の部屋は2階の角にあり風通しはかなりいい。部屋には小さな窓がある。埃がかぶっていて、窓のふちは錆付き重い。あるとき外界を覗いた。
家のしたに広がる商店街がにぎわっていた。
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donut-st · 6 years ago
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あなたにだけは忘れてほしくなかった
 アメリカ合衆国、ニューヨーク州、マンハッタン、ニューヨーク市警本部庁舎。  上級職員用のオフィスで資料を眺めていた安藤文彦警視正は顔をしかめた。彼は中年の日系アメリカ人である。頑なに日本名を固持しているのは血族主義の強かった祖父の影響だ。厳格な祖父は孫に米国風の名乗りを許さなかったためである。祖父の信念によって子供時代の文彦はいくばくかの苦労を強いられた。  通常、彼は『ジャック』と呼ばれているが、その由来を知る者は少ない。自らも話したがらなかった。  文彦は暴力を伴う場合の少ない知的犯罪、いわゆるホワイトカラー犯罪を除く、重大犯罪を扱う部署を横断的に統括している。最近、彼を悩ませているのは、ある種の雑音であった。  現在は文彦が犯罪現場へ出る機会はないに等しい。彼の主たる業務は外部機関を含む各部署の調整および、統計分析を基として行う未解決事件への再検証の試みであった。文彦の懸念は発見場所も年代も異なる数件の行方不明者の奇妙な類似である。類似といっても文彦の勘働きに過ぎず、共通項目を特定できているわけではなかった。ただ彼は何か得体の知れない事柄が進行している気配のようなものを感じ取っていたのである。  そして、彼にはもうひとつ、プライベートな懸念事項があった。十六才になる姪の安藤ヒナタだ。
 その日は朝から快晴、空気は乾いていた。夏も最中の日差しは肌を刺すようだが、日陰に入ると寒いほどである。自宅のダイニングルームでアイスティーを口にしながら安藤ヒナタは決心した。今日という日にすべてをやり遂げ、この世界から逃げ出す。素晴らしい考えだと思い、ヒナタは微笑んだ。  ���校という場所は格差社会の縮図であり、マッチョイズムの巣窟でもある。ヒナタは入学早々、この猿山から滑り落ちた。見えない壁が張り巡らされる。彼女はクラスメイトの集う教室の中で完全に孤立した。  原因は何だっただろうか。ヒナタのスクールバッグやスニーカーは他の生徒よりも目立っていたかもしれない。アジア系の容姿は、彼らの目に異質と映ったのかも知れなかった。  夏休みの前日、ヒナタは階段の中途から突き飛ばされる。肩と背中を押され、気が付いた時には一階の踊り場に強か膝を打ちつけていた。 「大丈夫?」  声だけかけて去っていく背中を呆然と見送る。ヒナタは教室に戻り、そのまま帰宅した。  擦過傷と打撲の痕跡が残る膝と掌は、まだ痛む。だが、傷口は赤黒く乾燥して皮膚は修復を開始していた。もともと大した傷ではない。昨夜、伯父夫婦と夕食をともにした際もヒナタは伯母の得意料理であるポークチョップを食べ、三人で和やかに過ごした。  高校でのいざこざを話して何になるだろう。ヒナタは飲み終えたグラスを食洗器に放り込み、自室へ引っ込んだ。
 ヒナタの母親はシングルマザーである。出産の苦難に耐え切れず、息を引き取った。子供に恵まれなかった伯父と伯母はヒナタを養子に迎え、経済的な負担をものともせず、彼女を大学に行かせるつもりでいる。それを思うと申し訳ない限りだが、これから続くであろう高校の三年間はヒナタにとって永遠に等しかった。  クローゼットから衣服を抜き出して並べる。死装束だ。慎重に選ぶ必要がある。等身大の鏡の前で次々と試着した。ワンピースの裾に払われ、細々としたものがサイドボードから床に散らばる。悪態を吐きながら拾い集めていたヒナタの手が止まった。横倒しになった木製の箱を掌で包む。母親の僅かな遺品の中からヒナタが選んだオルゴールだった。  最初から壊れていたから、金属の筒の突起が奏でていた曲は見当もつかない。ヒナタはオルゴールの底を外した。数枚の便箋と写真が納まっている。写真には白のワイシャツにスラックス姿の青年と紺色のワンピースを着た母親が映っていた。便箋の筆跡は美しい。『ブライアン・オブライエン』の署名と日付、母親の妊娠の原因が自分にあるのではないかという懸念と母親と子供に対する執着の意思が明確に示されていた。手紙にある日付と母親がヒナタを妊娠していた時期は一致してい���。  なぜ母は父を斥けたのだろうか。それとも、この男は父ではないのか。ヒナタは苛立ち、写真の青年を睨んだ。  中学へ進み、スマートフォンを与えられたヒナタは男の氏名を検索する。同姓同名の並ぶ中、フェイスブックに該当する人物を見つけた。彼は現在、大学の教職に就いており、専門分野は精神病理学とある。多数の論文、著作を世に送り出していた。  ヒナタは図書館の書棚から彼の書籍を片っ端から抜き出す。だが、学術書を読むには基礎教養が必要だ。思想、哲学、近代史、統計を理解するための数学を公共の知の宮殿が彼女に提供する。  ヒナタは支度を終え、バスルームの洗面台にある戸棚を開いた。医薬品のプラスチックケースが乱立している。その中から伯母の抗うつ剤の蓋を掴み、容器を傾けて錠剤を掌に滑り出させた。口へ放り込み、ペットボトルの水を飲み込む。栄養補助剤を抗うつ剤の容器に補充してから戸棚へ戻した。  今日一日、いや数時間でもいい。ヒナタは最高の自分でいたかった。
 ロングアイランドの住宅地にブライアン・オブライエンの邸宅は存在していた。富裕層の住居が集中している地域の常であるが、ヒナタは脇を殊更ゆっくりと走行している警察車両をやり過ごす。監視カメラの装備された鉄柵の門の前に佇んだ。  呼び鈴を押そうかと迷っていたヒナタの耳に唸り声が響く。見れば、門を挟んで体長一メータ弱のドーベルマンと対峙していた。今にも飛び掛かってきそうな勢いである。ヒナタは思わず背後へ退いた。 「ケンダル!」  奥から出てきた男の声を聞いた途端、犬は唸るのを止める。スーツを着た男の顔はブライアン・オブライエン、その人だった。 「サインしてください!」  鞄から取り出した彼の著作を抱え、ヒナタは精一杯の声を張り上げる。 「いいけど。これ、父さんの本だよね?」  男は門を開錠し、ヒナタを邸内に招き入れた。
 男はキーラン・オブライエン、ブライアンの息子だと名乗った。彼の容姿は写真の青年と似通っている。従って現在、五十がらみのブライアンであるはずがなかった。ヒナタは自らの不明を恥じる。 「すみません」  スペイン人の使用人が運んできた陶磁器のコーヒーカップを持ち上げながらヒナタはキーランに詫びた。 「これを飲んだら帰るから」  広大な居間に知らない男と二人きりで座している事実に気が滅入る。その上、父親のブライアンは留守だと言うのであるから、もうこの家に用はなかった。 「どうして?」 「だって、出かけるところだよね?」  ヒナタはキーランのスーツを訝し気に見やる。 「別にかまわない。どうせ時間通りに来たことなんかないんだ」  キーランは初対面のヒナタを無遠慮に眺めていた。苛立ち始めたヒナタもキーランを見据える。  ヒナタはおよそコンプレックスとは無縁のキーランの容姿と態度から彼のパーソナリティを分析した。まず、彼は他者に対して��ったく物怖じしない。これほど自分に自信があれば、他者に無関心であるのが普通だ。にも拘らず、ヒナタに関心を寄せているのは、何故か。  ヒナタは醜い女ではないが、これと取り上げるような魅力を持っているわけでもなかった。では、彼は何を見ているのか。若くて容姿に恵まれた人間が夢中になるもの、それは自分自身だ。おそらくキーランは他者の称賛の念を反射として受け取り、自己を満足させているに違いない。 「私を見ても無駄。本質なんかないから」  瞬きしてキーランは首を傾げた。 「俺に実存主義の講義を?」 「思想はニーチェから入ってるけど、そうじゃなくて事実を言ってる。あなたみたいに自己愛の強いタイプにとって他者は鏡でしかない。覗き込んでも自分が見えるだけ。光の反射があるだけ」  キーランは吹き出す。 「自己愛? そうか。父さんのファンなのを忘れてたよ。俺を精神分析してるのか」  笑いの納まらないキーランの足元へドーベルマンが寄ってくる。 「ケンダル。彼女を覚えるんだ。もう吠えたり、唸ったりすることは許さない」  キーランの指示に従い、ケンダルはヒナタのほうへ近づいてきた。断耳されたドーベルマンの風貌は鋭い。ヒナタは大型犬を間近にして体が強張ってしまった。 「大丈夫。掌の匂いを嗅がせて。きみが苛立つとケンダルも緊張する」  深呼吸してヒナタはケンダルに手を差し出す。ケンダルは礼儀正しくヒナタの掌を嗅いでいた。落ち着いてみれば、大きいだけで犬は犬である。  ヒナタはケンダルの耳の後ろから背中をゆっくりと撫でた。やはりケンダルはおとなしくしている。門前で威嚇していた犬とは思えないほど従順だ。 「これは?」  いつの間にか傍に立っていたキーランがヒナタの手を取る。擦過傷と打撲で変色した掌を見ていた。 「別に」 「こっちは? 誰にやられた?」  キーランは、手を引っ込めたヒナタのワンピースの裾を摘まんで持ち上げる。まるでテーブルクロスでもめくる仕草だ。ヒナタの膝を彩っている緑色の痣と赤黒く凝固した血液の層が露わになる。ヒナタは青褪めた。他人の家の居間に男と二人きりでいるという恐怖に舌が凍りつく。 「もしきみが『仕返ししろ』と命じてくれたら俺は、どんな人間でも這いつくばらせる。生まれてきたことを後悔させる」  キーランの顔に浮かんでいたのは怒りだった。琥珀色の瞳の縁が金色に輝いている。落日の太陽のようだ。息を吸い込む余裕を得たヒナタは掠れた声で言葉を返す。 「『悪事を行われた者は悪事で復讐する』わけ?」 「オーデン? 詩を読むの?」  依然として表情は硬かったが、キーランの顔から怒りは消えていた。 「うん。伯父さんが誕生日にくれた」  キーランはヒナタのすぐ隣に腰を下ろす。しかし、ヒナタは咎めなかった。 「復讐っていけないことだよ。伯父さんは普通の人がそんなことをしなくていいように法律や警察があるんだって言ってた」  W・H・オーデンの『一九三九年九月一日��はナチスドイツによるポーランド侵攻を告発した詩である。他国の争乱と無関心を決め込む周囲の人々に対する憤りをうたったものであり、彼の詩は言葉によるゲルニカだ。 「だが、オーデンは、こうも言ってる。『我々は愛し合うか死ぬかだ』」  呼び出し音が響き、キーランは懐からスマートフォンを取り出す。 「違う。まだ家だけど」  電話の相手に生返事していた。 「それより、余分に席を取れない? 紹介したい人がいるから」  ヒナタはキーランを窺う。 「うん、お願い」  通話を切ったキーランはヒナタに笑いかけた。 「出よう。父さんが待ってる」  戸惑っているヒナタの肩を抱いて立たせる。振り払おうとした時には既にキーランの手は離れていた。
 キーラン・オブライエンには様々な特質がある。体格に恵まれた容姿、優れた知性、外科医としての将来を嘱望されていること等々、枚挙に暇がなかった。だが、それらは些末に過ぎない。キーランを形作っている最も重要な性質は彼の殺人衝動だ。  この傾向は幼い頃からキーランの行動に顕著に表れている。小動物の殺害と解剖に始まり、次第に大型動物の狩猟に手を染めるが、それでは彼の欲求は収まらなかった。  対象が人間でなければならなかったからだ。  キーランの傾向にいち早く気付いていたブライアン・オブライエンは彼を教唆した。具体的には犯行対象を『悪』に限定したのである。ブライアンは『善を為せ』とキーランに囁いた。彼の衝動を沈め、社会から悪を排除する。福祉の一環であると説いたのだ。これに従い、彼は日々、使命を果たしてる。人体の生体解剖によって嗜好を満たし、善を為していた。 「どこに行くの?」  ヒナタの質問には答えず、キーランはタクシーの運転手にホテルの名前を告げる。 「行けないよ!」 「どうして?」  ヒナタはお気に入りではあるが、量販店のワンピースを指差した。 「よく似合ってる。綺麗だよ」  高価なスーツにネクタイ、カフスまでつけた優男に言われたくない。話しても無駄だと悟り、ヒナタはキーランを睨むに留めた。考えてみれば、ブライアン・オブライエンへの面会こそ重要課題である。一流ホテルの従業員の悪癖であるところの客を値踏みする流儀について今は不問に付そうと決めた。 「本当にお父さんに似てるよね?」 「俺? でも、血は繋がってない。養子だよ」  キーランの答えにヒナタは目を丸くする。 「嘘だ。そっくりじゃない」 「DNAは違う」 「そんなのネットになかったけど」  ヒナタはスマートフォンを鞄から取り出した。 「公表はしてない」 「じゃあ、なんで話したの?」 「きみと仲良くなりたいから」  開いた口が塞がらない。 「冗談?」 「信じないのか。参ったな。それなら、向こうで父さんに確かめればいい」  キーランはシートに背中を預け、目を閉じた。 「少し眠る。着いたら教えて」  本当に寝息を立てている。ヒナタはスマートフォン���目を落とした。
 ヒナタは肩に触れられて目を覚ました。 「着いたよ」  ヒナタの背中に手を当てキーランは彼女を車から連れ出した。フロントを抜け、エレベーターへ乗り込む。レストランに入っても警備が追いかけてこないところを見ると売春婦だとは思われていないようだ。ヒナタは脳内のホテル番付に星をつける。 「女性とは思わなかった。これは、うれしい驚きだ」  テラスを占有していたブライアン・オブライエンは立ち上がってヒナタを迎えた。写真では茶色だった髪は退色し、白髪混じりである。オールバックに整えているだけで染色はしていなかった。三つ揃いのスーツにネクタイ、機械式の腕時計には一財産が注ぎ込まれているだろう。デスクワークが主体にしては硬そうな指に結婚指輪が光っていたが、彼の持ち物とは思えないほど粗雑な造りだ。アッパークラスの体現のような男が配偶者となる相手に贈る品として相応しくない。 「はじめまして」  自分の声に安堵しながらヒナタは席に着いた。 「彼女は父さんのファンなんだ」  ヒナタは慌てて鞄から本を取り出す。 「サインしてください」  本を受け取ったブライアンは微笑んだ。 「喜んで。では、お名前を伺えるかな?」 「安藤ヒナタです」  老眼鏡を懐から抜いたブライアンはヒナタに顔を向ける。 「スペルは?」  答える間もブライアンはヒナタに目を据えたままだ。灰青色の瞳は、それが当然だとでも言うように遠慮がない。血の繋がりがどうであれ、ブライアンとキーランはそっくりだとヒナタは思った。  ようやく本に目を落とし、ブライアンは結婚指輪の嵌った左手で万年筆を滑らせる。 「これでいいかな?」  続いてブライアンは『ヒナタ』と口にした。ヒナタは父親の声が自分の名前を呼んだのだと思う。その事実に打ちのめされた。涙があふれ出し、どうすることもできない。声を上げて泣き出した。だが、それだけではヒナタの気は済まない。二人の前に日頃の鬱憤を洗いざらい吐き出していた。 「かわいそうに。こんなに若い女性が涙を流すほど人生は過酷なのか」  ブライアンは嘆く。驚いたウェイターが近付いてくるのをキーランが手を振って追い払った。ブライアンは席を立ち、ヒナタの背中をさする。イニシャルの縫い取られたリネンのハンカチを差し出した。 「トイレ」  宣言してヒナタはテラスを出ていく。 「おそらくだが、向精神薬の副作用だな」  父親の言葉にキーランは頷いた。 「彼女。大丈夫?」 「服用量による。まあ、あれだけ泣いてトイレだ。ほとんどが体外に排出されているだろう」 「でも、攻撃的で独善的なのは薬のせいじゃない」  ブライアンはテーブルに落ちていたヒナタの髪を払い除ける。 「もちろんだ。彼女の気質だよ。しかし、同じ学校の生徒が気の毒になる。家畜の群れに肉食獣が紛れ込んでみろ。彼らが騒ぐのは当然だ」  呆れた仕草でブライアンは頭を振った。 「ルアンとファンバーを呼びなさい。牧羊犬が必要だ。家畜を黙らせる。だが、友情は必要ない。ヒナタの孤立は、このままでいい。彼女��親しくなりたい」 「わかった。俺は?」 「おまえの出番は、まだだ。キーラン」  キーランは暮れ始めている空に目をやる。 「ここ。誰の紹介?」 「アルバート・ソッチ。デザートが絶品だと言ってた。最近、パテシエが変わったらしい」 「警察委員の? 食事は?」  ブライアンも時計のクリスタルガラスを覗いた。 「何も言ってなかったな」  戻ってきたヒナタの姿を見つけたキーランはウェイターに向かい指示を出す。 「じゃあ、試す必要はないね。デザートだけでいい」  ブライアンは頷いた。
「ハンカチは洗って返すから」  ヒナタとキーランは庁舎の並ぶ官庁街を歩いていた。 「捨てれば? 父さんは気にしない」  面喰ったヒナタはキーランを窺う。ヒナタは自分の失態について思うところがないわけではなかった。ブライアンとキーランに愛想をつかされても文句は言えない。二人の前で吐瀉したも同じだからだ。言い訳はできない。だが、ヒナタは、まだ目的を果たしていないのだ。  ブライアン・オブライエンの実子だと確認できない状態では自死できない。 「それより、これ」  キーランはヒナタの手を取り、掌に鍵を載せた。 「何?」 「家の鍵。父さんも俺もきみのことを家族だと思ってる。いつでも遊びに来て���いよ」  瞬きしているヒナタにキーランは言葉を続ける。 「休暇の間は俺がいるから。もし俺も父さんもいなかったとしてもケンダルが 相手をしてくれる」 「本当? 散歩させてもいい? でも、ケンダルは素気なかったな。私のこと好きじゃないかも」 「俺がいたから遠慮してたんだ。二人きりの時は、もっと親密だ」  ヒナタは吹き出した。 「犬なのに二人?」 「ケンダルも家族だ。俺にとっては」  相変わらずキーランはヒナタを見ている。ヒナタは眉を吊り上げた。 「言ったよね? 何もないって」 「違う。俺はきみを見てる。ヒナタ」  街灯の光がキーランの瞳に映っている。 「だったら、私の味方をしてくれる? さっき家族って言ってたよね?」 「言った」 「でも、あなたはブライアンに逆らえるの? 兄さん」  キーランは驚いた顔になった。 「きみは、まるでガラガラヘビだ」  さきほどの鍵をヒナタはキーランの目の前で振る。 「私が持ってていいの? エデンの園に忍び込もうとしている蛇かもしれない」 「かまわない。だけど、あそこに知恵の実があるかな? もしあるとしたら、きみと食べたい」 「蛇とイブ。一人二役だね」   ヒナタは入り口がゲートになったアパートを指差した。 「ここが私の家。さよならのキスをすべきかな?」 「ヒナタのしたいことを」  二人は互いの体に手を回す。キスを交わした。
 官庁街の市警本部庁舎では安藤文彦が部下から報告を受けていた。 「ブライアン・オブライエン?」  クリスティナ・ヨンぺルト・黒田は文彦が警部補として現場指揮を行っていた時分からの部下である。移民だったスペイン人の父親と日系アメリカ人の母親という出自を持っていた。 「警察委員のアルバート・ソッチの推薦だから本部長も乗り気みたい」  文彦はクリスティナの持ってきた資料に目をやる。 「警察委員の肝入りなら従う他ないな」  ブライアン・オブライエン教授の専門は精神病理学であるが、応用心理学、主に犯罪心理学に造詣が深く、いくつかの論文は文彦も読んだ覚えがあった。 「どうせ書類にサインさせるだけだし誰��もかまわない?」 「そういう認識は表に出すな。象牙の塔の住人だ。無暗に彼のプライドを刺激しないでくれ」  クリスティナは肩をすくめる。 「新任されたばかりで本部長は大張り切り。大丈夫。失礼なのは私だけ。他の部下はアッパークラスのハウスワイフよりも上品だから。どんな男でも、その気にさせる」 「クリスティナ」  軽口を咎めた文彦にクリスティナは吹き出した。 「その筆頭があなた、警視正ですよ、ジャック。マナースクールを出たてのお嬢さんみたい。財政の健全化をアピールするために部署の切り捨てを行うのが普通なのに新しくチームを立ち上げさせた。本部長をどうやって口説き落としたの?」 「きみは信じないだろうが、向こうから話があった。私も驚いている。本部長は現場の改革に熱意を持って取り組んでいるんだろう」 「熱意のお陰で予算が下りた。有効活用しないと」  文彦は顔を引き締めた。 「浮かれている場合じゃないぞ。これから、きみには負担をかけることになる。私は現場では、ほとんど動けない。走れないし、射撃も覚束ない」  右足の膝を文彦が叩く。あれ以来、まともに動かない足だ。 「射撃のスコアは基準をクリアしていたようだけど?」 「訓練場と現場は違う。即応できない」  あの時、夜の森の闇の中、懐中電灯の光だけが行く手を照らしていた。何かにぶつかり、懐中電灯を落とした瞬間、右手の動脈を切り裂かれる。痛みに耐え切れず、銃が手から滑り落ちた。正確で緻密なナイフの軌跡、相手はおそらく暗視ゴーグルを使用していたのだろう。流れる血を止めようと文彦は左手で手首を圧迫した。馬乗りになってきた相手のナイフが腹に差し込まれる感触と、その後に襲ってきた苦痛を表す言葉を文彦は知らない。相手はナイフを刺したまま刃の方向を変え、文彦の腹を横に薙いだ。  当時、『切り裂き魔』と呼ばれていた殺人者は、わざわざ文彦を国道まで引きずる。彼の頬を叩いて正気づかせた後、スマートフォンを顔の脇に据えた。画面にメッセージがタイピングされている。 「きみは悪党ではない。間違えた」  俯せに倒れている文彦の頭を右手で押さえつけ、男はスマートフォンを懐に納める。その時、一瞬だけ男の指に光が見えたが、結婚指輪だとわかったのは、ずいぶん経ってからである。道路に文彦を放置して男は姿を消した。  どうして、あの場所は、あんなに暗かったのだろうか。  文彦は事ある毎に思い返した。彼の足に不具合が生じたのは、ひとえに己の過信の結果に他ならない。ジャックと文彦を最初に名付けた妻の気持ちを彼は無にした。世界で最も有名な殺人者の名で夫を呼ぶことで凶悪犯を追跡する文彦に自戒するよう警告したのである。  姪のヒナタに贈った���集は自分自身への諌言でも��ると文彦は思った。法の正義を掲げ、司法を体現してきた彼が復讐に手を染めることは許されない。犯罪者は正式な手続きを以って裁きの場に引きずり出されるべきだ。 「ジャック。あなたは事件を俯瞰して分析していればいい。身長六フィートの制服警官を顎で使う仕事は私がやる。ただひとつだけ言わせて。本部長にはフェンタニルの使用を黙っていたほうがいいと思う。たぶん良い顔はしない」  フェンタニルは、文彦が痛み止めに使用している薬用モルヒネである。 「お帰りなさい、ジャック」  クリスティナが背筋を正して敬礼する。文彦は答礼を返した。
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yuupsychedelic · 3 years ago
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詩集『グロリアス・モーニング』
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夢中
これまで夢中になっていたことに 夢中になれなくなる ふと気づいた瞬間 いつも屁理屈ばかり捏ねてさ
それが大人になる意味ならば もう大人になりたいと言わない 子供と言われたってかまわないよ 自分を殺めるくらいなら
目の前のことに夢中になりすぎる 悪いことだって信じてた あの頃の僕に手を差し伸べてくれた 君の声に応えたい
ユートピアにようこそ
ここは憂いだらけの世界 生きることも 死ぬことも 好奇の目に晒されて
愛や夢を外套に 誰もが「正義のミカタ」を気取って 空想ばかりを主張する 知識まみれの操り人形たちよ
今こそ飛び立とう 歴史を忘れよう 自分の都合のいいことだけ ずっと考えていよう
��約書
地球という名のちっぽけな星 私はくれてやります あなたに託してしまった方が よっぽど上手くいく気がしますから
凡庸な人間に 気まぐれな自然 争いばかりの自惚大戦に 私は心から疲れ果ててしまったのです
宇宙船の群れが見えます これから地球は変わっていくでしょう 私はこの瞬間より王になりました さあ地球よ私色に染まりなさい
寂しがり屋のルンバ
恋愛に薔薇を 綺麗事に拳銃を 永遠にピリオドを 大統領にシャンプーを
いつまでも報われないと 嘆いてばかりじゃ始まらないけど 今日くらいはワインに物を言わせて 泣き明かしてもいいじゃない?
一匹狼じゃ眠れない 人は独りじゃ生きられない ほんとは私も寂しがり屋 お願いだから誰か構ってよ
大切だった君へ
君の手をぎゅっとする仕草とか 必ず「おはよう」のメッセージをくれるとことか あんなに大好きだったのに どうして浮気してしまったんだろう?
いつも使っている香水じゃない 気づいた時にはもう遅かった その理由は嘘ばかりだったけど かつての私は涙を必死に我慢してた
さよなら大好きだった君へ とびきりの愛と優しさに感謝を さよなら大嫌いになった君へ 街角で新しい彼女とすれ違うたび 泣きそうになる
かつて親友だった貴女へ 私の恋人を奪って嬉しいですか かつて友達だった貴女へ せめて彼を幸せにしてください
チケットをご用意できませんでした
人の群れ���すれ違うたび あの日の私を責めたくなる どんなに頑張っても上手くいかずに 神様にさえも見放された
SNSを開くと「最高でした!」の声 ひとつだけの悪意にメンションを送り やっとの想いで保たれる あまりにちっぽけなプライド
かつての私はもっと素直だったよ 匿名アカウントに閉じこもってなかった どれだけ傲慢なんだよ 夜の静寂に声なき声が響く
勇者たちの産声
遥か悪魔城の彼方 ユートピアに勇者は立つ 大いなる船出に授けられた 伝説のエクスカリバー
燃えたぎる情熱と 愛を護る勇気よ 大切な人を想うシンフォニア 胸の鼓動は速くなる
青春の終わりに 君は闘いへ出た 嵐が吹き荒れ 明日を告げる鐘は鳴る ここに新たな伝説の幕が開く 夜明けを信じてその剣を振るえ
本音
優しくなりたいと願うほど 掌から滑り落ちてくようで 僕は何から始めりゃ良いのか 人生がわからなくなっちゃうよ
きっかけは些細なこと 隣の人がお年寄りに席を譲ってた そっと言い出せないのが辛くて イヤホ��の音量を上げた
優しさを偽善と勘違いされ いつか貶されたことがあったから 未だ優しさの意味を知らずに 目の前の温もりに嫉妬してばかり
失恋3秒前
いきなり空き教室に呼び出された 彼氏が憮然とした表情で立ってた そして「別れよう」の一言を告げ スローモーションで去っていった
私は何が起きたのか解らなかった 今も心の中は整理できないままで 友達から見せられたフェイク動画 貴方も私を信じられなかったんだ
人は大きすぎる悪意を目にした時 何も出来ぬまま立ち尽すしかない そんな現実に私もやっと気付いて 大切な思い出にそっと火をつけた
私はアンドロイド
あなたが「人間の心はないのか?」と訊ねた時、 心という言葉がインプットされていないことに気づき、 私は慌てて図書館へ走った。
図書館で国語辞典を開くと、 まったく考えたことのない概念が目の前に広がり、 私は雷に打たれたような気持ちだった。
惑星征服のためのアンドロイドとして生まれ、 その任務を遂行するためにここにいるのに、 人間を好きになっては何も出来ないじゃないか。
運命と宿命の間で、 私は仲間の宇宙人たちとの親交を断ち、 目の前のあなたを好きになってみることにした。
幕末大掃除
この世の中を掃除しよう 常識すべてを洗濯しよう 無垢な偏見を整理しよう もっと良い世の中を作ってこう
平穏だった江戸の世に 突然黒舟が現れて 殿様方は慌てふためき やっと気付いた現実
箱庭の中で酒を飲んでるばかりじゃ 井の中の蛙大海を知らず 閉じ篭ってたばかりのニッポンに 風雲急を告げる 嵐が来る
新たな夜明けをこじ開けろ 古い時代にケリをつけろ 源氏も足利も徳川も為し得なかった より良い世の中を作ってこう
俺たちの妄想のような 綺麗事ばかりじゃねえ 幕末!
それでも生きてく
真夜中になると死にたくなる 自分のことを傷つけたくなる
時々真昼間でもこうだから ほんとに自分のことが嫌いになる 根暗人間と呼ばれて ずっとここまで生きてきた
愛する人がいると 裏切ってしまうんじゃないかって不安になる 大切な人といると 嫌われちゃうんじゃないかって不安になる
光陰矢の如し かつてのような能天気な僕に還りたい
最後のキッスはさよならの痕に
思わず抱きついてしまったよ まだ離れたくなくて 春になったら別れると決まっていても 運命に逆らいたくなったの
あんなに泣かないって決めたのに 今は涙が止まらなくて ドライマティーニで恋を醒まそうとしても 少しも喉は渇きそうにない
目の隈をメイクで誤魔化して なんとか悟られまいと頑張った あれほど燃え上がった恋の結末は 舌を絡ませた口づけ
サヨナラで終わらせられなくて あなたを���らせちゃってごめんね いつだって独りよがりだったのかもしれない もう私は二度と恋をしないよ
Great Traveler
幾千光年先の新たな銀河へ行こう 僕らは開拓者(コロニスト) 時代の申し子さ かつて地球で生まれし 希望の種族は今 幾多の喜びと悲しみの果てに 宇宙へ旅立った さあ 誇りを胸に 愛を忘れてはいけない 蒼き星で生まれた希望 歴史が憶えている 僕たちも跳べる 明日を描いてゆける 超光速で 宇宙(ソラ)を駆けて 偉大なる夢を創ろう
Wind Express
渋谷センター街の スクランブル交差点で ふと周りを見渡して 悲しみに覆われた
生きてくことが怖くなり 愛や夢も掴めずに 誰にも負けない情熱が
少しずつ沈んでいった
アイドルは希望を歌うけど 僕らに未来なんてない 見せかけの宿命に 答える勇気もない
時代に惑わされるな 風の電車に乗れ! 時代の波を越え 大切なものを掴もう
私とパルコ
近所のパルコが閉まるらしい 閉店セールに群衆集まる そんなことならこうなる前に もっと行ってりゃ良かったのに
背伸びしたくなる季節 誰もがそんな時があるさ ラブにピースにHere WEGO!! 青春時代を染め上げたこの場所
だから今夜は踊り明かそう パルコ パルコ 青春ロコモーション 時間を戻して Let's Party!! パルコ パルコ いとしのパルコ
みかんのうた
みかん みかん 僕のみかん みかん みかん 君のみかん みかん みかん 一粒つぶ みかん みかん 一口でも
酸っぱくて顔を顰めるキミも 甘くてサムズアップするキミも まるで恋愛のようなその味に ずっと一目惚れしたままなんです
僕らはきっとみかんが好き あなたもきっとみかんが好き 和歌山 愛媛 静岡 熊本 みかんと一緒に大きくなる
だってさ
口を開くと言い訳ばかり クラスにひとりはいる こんな奴のせいで空気は最悪
小さなミスも気づけば大事 形にならなきゃ Feel So Good そのくせ脳天気だから手に負えない
薄々みんな気づいてた 文化祭終わりの打ち上げで 彼がいないからって悪口大会
人間の薄汚さを現してるよう 悪いヤツじゃないって信じたい 僕はいつだって性善説
幼馴染の話
いつも気さくに話しかけてくれて モジモジしてたら連れ出してくれた まるでフィクションのように優しいキミは 僕の唯一の幼馴染
中学になっても高校になっても その人懐っこさは変わらなくって ちょっとした反抗期できつく当たって 泣かせてしまったこともあった
意地ばっかり張ってさ ���音で話せなかった僕を きちんと叱れる強さを持っていた そんなキミが今でも憧れ
偏愛の21世紀
黄金の20世紀に 僕らは憧れ 縋りついてる
権威なんか嫌いだと 宣ってる奴でさえ 鎖から逃れられない
もし手を上げられるなら 打ってしまいたい奴もいる 思わないなら聖人君子だろう
ヒステリックにニュースは流れる サイケデリックに世論は揺らぐ 差別も格差も君は大好きだ
まだ間に合うかな
学生時代に好きだった人 最近のことがちょっと気になって SNSで名前を打ち込んだ そこに現れたのはあの日の君だった
こんなこと側から見れば あまりにキモすぎて 伝えられなかった名残惜しさ 僕は未だ青春を卒業出来ずにいる
風に流されぬようにと 想えば想うほど流されて 失うものは何もないのに
目に見えないものばかりを気にして 僕は大人になってしまった
たえなる時に
真夏の昼下がり 僕らは森に迷い込んだ 何かを探していたのかもしれない 少年時代の気まぐれ
いつの日か思い出す時に ぽっかりと欠けたパズルの一ピース 抜け落ちているからこそ さらに尊くなる
抱きしめたいほどの過去を あなたは持っていますか? 愛おしくなるほど大切な人が あなたにはいますか?
少年時代の思い出 安らかに眠れと 昨日の僕に語りかける 名もなき君の歌よ響け
楽天主義
全部全部嘘と言ってしまいたい 積み木を崩してしまいたい もしもタイムマシンで過去に戻れるなら 生まれた頃に戻ってしまいたい
なんとかなるさと ここまで生きてきた でも、なんとかならなかった それが人生というもの
やっと気付いた頃 とうに大人になってた 久遠の少年時代よ もし時を巻き戻せるのなら
恋愛とか勝てなかった試合とか そんなものに興味はない 明日を描けるだけの 希望を掴めればそれでいい
だけど 僕は器用じゃない 過去を活かせないだろう どんなに作られた筋書きも 一つの道しか選べない
だから 僕はこのまま行く ありのままに生きていく
どんなに不器用な生き方でも 自由に生きれば なんとかなるさ!
恋愛使い捨て論
「次の日曜日にまた逢えるかな?」
そんな会話が街から聞こえる 僕らが生きる希望という名の未来 振り返れば何も出来ない過去
優しさの意味を強さと勘違いして 大切なものも捨ててしまった 僕は愚かさに慣れすぎて 誠実さを忘れた
もう一度だけ…… 何度も耳にした口約束に意味はあるか 恋愛さえも使い捨てるような奴らに 明日を語る資格はない
好きを惜しみなく
帰り道のふとした瞬間 下を向いていたら 君とぶつかった
話すと同じクラスだと知り ずっと無意識だったのに 恥ずかしくなった
想像よりも世界は狭くて 嫌になりそうなこともある 君と付き合っているうちに 自分の嫌いな部分も好き��なれる気がした
好きを言わなきゃ伝わらない 当たり前に気付いたのは別れてから
人は今をちゃんと見つめられない 大きすぎる明日を見つめてしまうもの
アイドルになるということ
アイドルになると決めた日から そのためだけに頑張ってきた 自分に自信なんて無いけれども 頑張ったことだけは自信を持って言える
涙と悪意を希望に変えて 仲間に夢を誓ったあの日 半信半疑の目 疑心暗鬼の私 すべては自分を裏切らぬために
ここに立てたよ 見てますか? やっと叶えられた夢 さらに翼を広げて 明日を描くと 今日は終わりと始まりの日
此処は怪獣共栄圏
一般人より出動要請 ジャケットとヘルメットを身に纏い 片手に麻酔銃 もう片手にはタブレット 殺しなんてご法度だから
街で暴れる怪獣たちに この身ひとつで立ち向かう 時々居なくなる仲間もいるけど 私たちがやらなきゃ誰がやる
地球が好きだから 人間が好きだから ここを通すわけにはいかないと 覚悟決めてやるしかないのさ
加古川に生まれて
川の流れを見つめて あの街を思い出す 今も住んでいるはずなのに 何故だか懐かしくて
日常の色と違う 何かを求めているんだろう 変わらぬものに心を託せば 楽になると信じていた
どんな想いも あの街は抱きしめてくれた 友も恋人も今は街を出たけど 僕は故郷を信じてみたい
あなたへ
ちっぽけなプライドを振りかざして 隣街にマウントばかり取る いくら政治が上手くいってるからって 暴言を言われりゃ苛々するさ
そんな時代じゃないだろう? 連帯がお好きなんだろう?
私の中の悪魔に蓋をして 天使気取りでいるのも辛いものさ こうはなりたくないと思うほど 気づけば嫌いに近づくだろう 意識すれば意識するほど 自分のことが見えなくなる
Oh baby ムカつくやつは写し鏡 明日のあなただ
まだ見ぬ君に
いつか友になる君や 恋人になる君へ 私のことをいくつか伝えるから ちゃんと聞いてほしい
まず気まぐれ人間で いきなり悲しくなるし 急にテンション上がったと思えば 夢中になると止まらないし
こんな私と繋がってくれてありがとう ずっと背中を押してくれてありがとう
離れてしまった人も 最近繋がった人も
こんな私と繋がってくれてありがとう ずっと背中を押してくれてありがとう
決して立派な人じゃない でも自虐的になるのをやめてみるから ここから未来を見据えて 無邪気に生きてみるよ
まだ見ぬ君のために 私だって誰かの好きになりたいよ
青春の夜明け
いくつになっても わからない 大人になること その意味が かつての僕なら 否定する 笑顔も涙も 抱きしめて
青空に突然 銀色の雨が降る 傘も差すのが 面倒な時もある 青春の気まぐれよ 時に逆らったまま 面白いことを 始めてみたい
迷ってばかりじゃ つまらないよ 走り出して��よう あなたらしく
青春の夜明けに ここから一歩踏み出す 勇気があれば それでいい
失恋した夜 泣き明かして 親友にLINEして 愚痴を吐いた かつての私が 通り過ぎた 夢の背中に あなたがいる
止まない雨などない 叶わぬ夢などない そんな言葉を 信じたいわけじゃない 青春の気まぐれよ 明日を教えてくれ 面白いだけじゃ 勿体無いから
焦ってばかりじゃ 見えないよ 顔を上げてみよう あなたらしく
青春の夜明けに ここから一歩踏み出す 希望があれば それでいい
泣いてばかりじゃ わかんないよ そう私の目を見て 微笑んでほしい やりたいことが出来ない人生だから せめて面白いことに素直になりたい
迷ってばかりじゃ つまらないよ 走り出してみよう あなたらしく
青春の夜明けに ここから一歩踏み出す 勇気があれば それでいい
詩集『グロリアス・モーニング』 Credits
Produced / Written / Designed by Yuu Very Very Thanks to My family, my friends and all my fans!!
2022.5.17 Yuu
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mashiroyami · 6 years ago
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Page 110 : 親子の夢
 卵屋の二階を訪れたザナトアは、古い椅子に腰掛けて身体を休めていた。  年を取るにつれて、不自由な身体だと実感する。肉体を駆使するからこそ余計に痛感するのだ。かつては簡単に踏み出せた数歩すらあまりに鈍く、重く、身体の節々は痛む。視界は霞み、老眼鏡をかけなければ文字を追い辛くなった。幸いにして脳はさほど衰えていないが、不意に足下を掬われ、床に沈み、それから目を見張る速度で老いる例はザナトアも知るところだ。  生き物はいずれ死ぬものであり、生きていれば老いていく必定に縛られている。育て屋稼業を営んできたザナトアは、キャリアの間に数えきれぬ別れを経験してきた。依頼主のもとへ帰って行く別れもあれば、野生に戻っていく別れもあり、そして死別もある。生き延びるほど、別れに対して鈍感になっていく。ポケモンに限らない。狭小な世間では、人付き合いの悪い彼女の耳にも時折届く。誰某が倒れただの、死んだだの、腐った魚が泳いでくるように、或いは静かな波に揺れて打ち上げられてきたように、新鮮味を失った報せとしてやってくる。  老いているという自覚は、思いがけず幼い旅人を家に住まわせてから更に濃厚になった。  風化していくこの家で借り暮らしを始めたアランが、籠を藁で埋めて何度も階段を往復し、或いはポケモン達に餌を与え、或いは床や壁を掃いて磨いて、そういった細々とした仕事を文句の一つ吐かずに淡々とこなしている姿を、多少は感心しながら観察していた。本音を漏らせば、老体には助かってもいる。不慣れ故の手際の悪さは目につくが、吸収が早い点にも身軽な身体にも若さを実感した。ザナトアはもうじき齢七十四。アランとの年の差は殆どちょうど六十年分と知った時は呆気にとられたものだ。孫と言っても通じてしまう。 ��卵屋の内部はいつもより静かだ。ヒノヤコマを頭とした群れが出かけているところである。親友である幼く飛べないドラゴンは、衰弱を契機とした病で飛べなくなったピジョンと談笑している。その隣で、涼やかにエーフィは横になっていた。  この子達をどこまで世話してやれるのだろう。騒がしいポケモン達を前にふと静けさに襲われた時、ザナトアは一考する。  少なくとも、余程の不幸が無い限りフカマルは遺される立場となる。ドラゴンポケモンの寿命は長い。種族によっては人の一生を超越する。純粋培養といえようか、無邪気でとぼけた明るさをもったまますくすくと育つ彼を見ていると、必然的に彼が経験する別れについて考えざるを得ない。則ち、自身の死後の世界について。  誰かが死んでも、此の世は途切れることなく動いていく。しかし自分の命は自分だけのものではないと知っている。だからフカマルには自分以外のおやが必要だ。野生を経験していないのだから尚更である。ドラゴンポケモンを簡単に野に放てば、生態系が崩れる恐れもある。無論、フカマルに限らない。ここに住むポケモン達、皆まとめて、互いに互いの生命を共有しており、誰かの助けを借りなければ生きられないポケモンもいる。  ふと、顔を上げた。風の流れが変わった。傍でドラゴンが軽快に鳴く。  フカマルが窓に跳び乗り、小さな手を懸命に振っている。つられるように、エーフィが隣へ歩み身を乗り出した。ヒノヤコマや、野生に帰ろうとしているあのポッポを含めた群れが帰ってくるところのようだった。ザナトアは立ち上がり、整然と隊列を成して飛翔する群衆を見つめる。彼等は数日後に控える、湖を舞台にしたレースに出場する面々だ。  秋、晴天の吉日に催されるキリの一大行事である秋季祭で行われる、鳥ポケモンによる湖を舞台としたレース、通称ポッポレースには、いくつかの部門がある。  町を超えて、国土各地のチェックポイントを回り再びこのキリに戻ってくる過酷で長期間を覚悟する部門。こちらは数日を必要とする。一方、湖畔に点在するチェックポイントを全て回り同じ場所へと帰ってくる、数時間で終えるレースは、一定のタイムをクリアした精鋭の参加する部門と、誰でも参加可能な部門とがある。ザナトアの擁する野生ポケモンのグループは後者での参加となる。前者は参加規定としてポッポのみという縛りがあるが、後者は種族を選ばない。形式上順位はつけられるものの、己の肉体を駆使し競うことが目的というよりも、空気感を楽しむ場だ。出場するポケモンが多岐に渡るため、華やかがなんといっても特徴である。家族や友人同士で共に飛ばせたり、衣装を着せたり、背中に別のポケモンや人間を乗せて飛ぶのも許されているような自由なレギュレーションだ。当日の飛び入り参加も可能��飛べさえすれば良いという内容で、珍しいドラゴンポケモンでも出場すれば拍手喝采、注目を浴びる。手に汗握る本気の試合形式とはまた違った趣向で祭を盛り上げる。  とはいえ、混沌とするため事故を招きやすい実情がある。  大小入り交じる見知らぬポケモン達に囲まれると、不安に煽られあらぬ方向へ飛んでいき迷子になる、或いは単純に体力不足等の様々な理由で、棄権するポケモンも出てくる。ザナトアは全員が最後まで飛び続けることを最大の目標とする。そのために、チームで隊列を組み練習を重ねさせた。ただ、ザナトアは特別なことは殆どしていない。飛んでしまえば手を離れる故もあるが、彼女が口を出さずともヒノヤコマやピジョンなどレースの経験者である進化ポケモンが全体をコントロールしてくれている。彼等は血は繋がっていないけれど、皆兄弟のようなものだ。信頼で結ばれた結束は固い。  しかし、このうちの何匹かは恐らくそう遠くない将来にこの卵屋を離れていくだろう。自分の手元から離し本来の居場所へと帰す、それこそが今のザナトアの使命である。  不意に、新入りの獣の尾がぴんと伸びて、喜びの声をあげた。  ほんの少しの挙動だけで解る。主人が帰ってきたのだ。  西日が強くなっている中、長い丘の階段を上がりきったところだ。漸く見慣れてきた栗色の髪を、朝と同じく後ろで一つに結っている。両手に紙袋を抱えて重たげであった。 「手伝いに行っておやり」  エーフィに声をかけると、彼女は頷いて、すぐさま駆け下りていった。惚れ惚れするような滑らかに引き締まった身体を柔軟に伸ばし、主を労うことだろう。  群れが窓の傍で密集し、小鳥達から中へ入っていく。一気に賑やかになり、フカマルが一匹一匹に声をかけていた。このささやかな時間がザナトアにとっては愛おしいものである。  逞しいポケモン達と時間を過ごすほど、別れを意識し、同時に命を貰っていると痛感する。けれど別ればかりが人生ではない。ここが居場所と定住を決めた者もいる。まだこの子たちといたい。痛快な人生、まだ終わらせるには勿体ない。 「お疲れさん。さ、ゆっくりお休みよ」  薄い黄金色をした穀物を餌箱に流し込めば、疲労もなんのその、活気溢れて食い付く鳥ポケモン達に微笑んだ。先導したヒノヤコマ達に声をかける。後で好物の小魚を持ってきてやろう。祭日に向けて、皆順調だ。  フカマルを引き連れて、食事に騒ぐ卵屋を後にする。リビングに戻ってくると、アランが荷物を下ろしているところだった。白い頬に薄らと血色が透いている。アランはザナトアに気付くと、柔和な笑みを浮かべた。  反射的に抱いたのは違和感である。  妙だ。  ザナトアは直感した。  アランは約束通り夕食準備に間に合うように帰宅し、台所では隣に立ち、いつものように料理を手伝う。流石に熟れてきて、ザナトアが何も言わずともフカマルの好みを押さえた餌を用意できるようになったし、自身のポケモン達にもそれぞれに合った食事を用意している。購入品を手早く冷蔵庫にしまえるようになり、食器の収納場所は迷い無く覚えてしまった。  ポケモンに対しては些細な変化にも気を配れる自負があるザナトアだが、人間相手となると疎いことも自覚している。良くも悪くも厳しく、距離を置かれることも多い。自然と人との交流が減り、偏屈に磨きがかかった。しかしそんなザナトアでも、頑なに無表情だったアランが町から帰ってきて急に笑うようになれば、嫌でも勘付く。人形のようだった人間が、本来の形に戻って笑む。それは人としておかしくはないことであるが、違和感を持つのは皮肉である。  散らかった机上に無理矢理空間を作ったような場所で日常通り食事を囲い、アランはぽつぽつと穏やかな色合いで話す。アメモースの抜糸やブラッキーには異常が無かったこと、町はいよいよ祭が近付き浮き足立っていたこと、湖畔の自然公園に巨大なステージが設置されていたこと、町中でポッポレースの広告を見かけたこと。確かに喜ばしい報せもあるが、アメモースは完治したわけではなく、他の問題が解決したわけでもない。大きな変化を与えるほど彼女が祭に興味を持っているかと考えれば、ザナトア自身は疑問を抱いた。過ぎるのは、別の要因がある予感だ。無表情の裏で何を考えているのか読むことの出来ない、端からは底知れない少女にしては、実に明白な変化だった。 「町で何があったんだい」  食器を置き、単刀直入に尋ねた。表情は変わったが、相変わらず食事の進む速度は鈍い。  アランの笑みが消える。ザナトアの問う意味をすぐに理解したかのように。  逡巡するような間を置いて、口を開いた。 「エクトルさんに会いました」  存外あっさりと答えて、ザナトアは不意を打たれたように目を丸くした。 「病院でアメモースとブラッキーを診てもらってから、時間があったので」 「……そうか」  知人に出会い気が紛れたのだろうか。アランは常にどこか緊張し、相手の様子を窺う目つきをしていた。普段は気にもならないが、時折妙に儚げに飛行するポケモン達を眺めていることもあれば、刃先を向けているような非道く冷酷な顔つきをしていることもある。  二人共暫く黙り込んでいたが、長くは続かなかった。ザナトアの方から続ける。 「あの子、元気にしているのかい」 「はい」 「そうかい」細い目が、更に小さくなった。「それなら、別にいいんだけどね」  ザナトアの肩がゆるやかに落ちる。  アランは目を伏せ、手にしていたスプーンを皿に置く。スープなら多少は食べられるので、ここ最近は専らそればかり口にしていた。 「前から思っていたんですけど、ザナトアさんとエクトルさんは、どういう関係なんでしょうか」  耳を疑うように、老婆の���間に大きな縦皺が寄る。 「知らないのかい」  信じられないとでも言いたげな声音だ。アランが戸惑うように肯くと、大きな溜息が返ってきた。 「呆れた。……いや、あいつにね。今更だよ。語るほどのものでもないけれど」 「昔、お世話になっていたとは聞いています」 「それだけかい?」  できるだけ相手の神経を逆撫でしないよう注意しているかのように、慎重にアランは頷く。 「そうかい。まあ、それだけだがね、しょうがない子だね……あんたも本人に聞いてやればいいのに」 「なんとなく、聞いてはいけないような雰囲気があって」 「これだけ年が経ってもまだ引き摺っているんだろうねえ……あたしのことなんて忘れたものだと思っていたくらいなのに」  解った、と彼女は言う。 「これを食べたら喋ってやるさね。ちょっと長くなるかもしれないがね。だからあんたも今日はそれを食べきってやりな」  ザナトアはパンを千切りながら顎でアランの手元のスープを指した。今日買ってきた野菜をふんだんに使い、細切れの豚肉を放り込み、うんと柔らかくなるまで煮込んでスープに溶けてしまうほどになっているものだ。ミルク仕立てで見た目はシチューにも近いが、濃厚な味付けではない。味が濃いと気分が悪くなってしまうからだった。  黙ってアランは食事を再開した。義務感に駆られるのか、その日は綺麗に平らげてしまった。
 食事を終え、部屋の奥のダイニングテーブルに熱いアールグレイを淹れたカップを二つ並べ、二人は直角の具合にソファに腰掛けた。アランは眠たげに触角を下げたままのアメモースを膝に抱える。  ザナトアは小さく浮かぶ湯気を眺めて、一口軽く含んだ。味わう間も殆ど無く、胸中を熱い塊がするりと落ちていく。  ポケモントレーナーだったんだよ、とザナトアは始め、アランは背筋を伸ばした。 「まだあたしが育て屋の現役だった頃にあの子は遊びに来るようになった。クヴルールの家元だったから実家は町の方だが、親戚がこの辺りに住んでいてね。何の縁か、ここにやってきた。子供は大体ポケモンに憧れるからね。噂でも聞きつけたんだろう。ここには沢山のポケモンがいると。  多くのキリの人間が一家に一匹は鳥ポケモンを持っているように、あの子も一匹ポケモンを持っていた。  今でも覚えているよ。見てほしい、としつこいから仕方なく相手してやったら、モンスターボールから立派なチルタリスを出してきた」  まだ八つか九つか、そのくらいの年齢だったはずだとザナトアは笑う。 「自分で育てたって言うんだ。多少は震えたね。勿論、ほんのちょっとさね。それから流石に嘘だろうと思い直したけど、話を聞くほど、どうやら本当らしい。こっそり野生ポケモンと戦わせたり、本を読んで技を訓練したりね。やけに熱っぽく語るものだからさ、嘘にしちゃ上出来だとね。  その日からあの子はよくここに来るようになった。町からここまでは遠いよ。一日に数回だけ通るバスを使ってさ、チルタリスが人を乗せられるようになってからは、その背中に乗ってね。学校が終わ���てからここに来て、長期休暇になれば泊まり込んで。ポケモン達とバトルをして、遊んでいた。親がどう言うかあたしは心配だったんだが、どうも事情が複雑で、誰からも咎められることはなかった。あの子の家族は、あの子に無関心だったのさ」  ザナトアはソファを立ち上がり、リビングから廊下へと繋がる扉のすぐ隣にある本棚の前に立ち、一つ取り出した。古びた群青色で、厚みのあるアルバムだった。  ダイニングテーブルに広げられたものを、アランは覗き込んだ。少し焼けて褪せた色が写真の古さを物語った。幼い黒髪の少年と、チルタリス、数多くのポケモン達の日々が記録されている。たまに写る女性は、今よりずっと皺の少ないザナトアだった。カメラを向けられることに慣れていないように、ぎこちなく攣った表情をしている。  少年は満面の笑みを浮かべていた。乳歯が抜けたばかりのように、でこぼことした白い歯並びが印象的である。ページを捲るほど目に見えて身長は伸び、体格は大きくなっていく。顔にも膝小僧にも擦り傷をつくり、絆創膏を貼り付けているのは変わらない。時を進ませたどの写真でも多様な表情を浮かべている。説明が無くとも、少年期のエクトルであると察することができた。基本的には無愛想な今の彼とは正反対の、自由奔放に溌剌とした姿であった。 「悪ガキだったよ、あたしからしてみれば。こちとら仕事だからね、勝手にバトルされると調整が狂うからやめろって言ってるのに聞かないんだから。外が静かになったと思ったら書庫で本を読み漁って床に物が散乱してるし、こうした方がいいああした方がいいって育成に口を出してくるし。子供は黙ってろってね。でもちゃんと聞くと、的を外しているわけではない。あたしも随分教えたね。気に食わないところもあったけどね、楽しいもんだったよ。  ポケモンを持つ子供が皆そういうように、プロのポケモントレーナーになりたい、ポケモンマスターになりたいって話をしていた。あの子は確かに子供だったけど、立派なポケモントレーナーだった。  実際、ちょっとした大会にも参加していてね。キリは地域柄ポケモン関連のイベント事は盛んな方だが、ジュニアじゃ抜きん出ていて話にならなかった。大人相手でも遅れをとらない。その頃になればはっきりと確信したね。あの子には才能がある。こんな田舎町で燻らせるには勿体ないくらい。  あの子が家でよく思われていないのも流石に解っていた。どれだけ結果を出しても気にも留めない奴等なんか見返してやりな、とよく言い聞かせていた。誰よりもあの子のことを解っている気でいた。だから客のトレーナーともバトルの経験を積ませ、首都で開かれるような全国区の大会にも参加させた。あたしが保護者役でね。そこまでいくとレベルが高くなってきてね。バトルが得意な人間なんていくらでもいるんだよ。最初は一回戦で負けた。こんなもんかとちょっと残念だったけど、悔しかったのか更に夢中になって遂には家出してしまってね。流石のあたしもあの子の親戚の元に話をしに行ったんだがね、好きにさせ��やれなんていうものだから、腹を括ったというかね……。あの子はあの子で、難しい本を読んで知識を詰め、新しいポケモンも育てて、技を鍛え、毎日戦略を練って、益々のめり込んでいった」  ふとアランに笑いかける。幾分、いつもよりもザナトアの表情は柔らかかった。 「修行の旅まで出たんだよ」  アランは僅かに目を丸くした。 「旅……ですか?」 「そうさ、あんたと同じ。と、あんたは別にトレーナー修業ではなかったか」  ザナトアは続ける。 「危険が伴うから賛否あるがね、西の山脈方面に向かうと手強い野生の根城がごろごろある。それから各地の大会に出て、経験を積んでいった。旅を始めてからは何か合致したように腕を上げていってね、楽しそうだったよ。元々風来坊なところはあったけど、自由な生活が性に合っていたんだろうね。自分の居場所を自分の力で探すのは、とても大変だけれど。立派なことさ。挫折も経験、栄光も経験、ポケモン達と共に成長していった。あたしの楽しみは、チルタリスに乗って帰ってくるあの子の土産話だった。日に焼けて、身体はどんどん大きく逞しくなって、元気な顔を見せてくれることがさ。あたしには子供がいないけど、息子のような存在だった」  流暢な口が、不意に立ち止まる。 「転機は恐らく、クヴルール本家のご息女が生まれた事だね」  静かな口調は、次への展開を不穏に物語った。つまりは、クラリスの影響となる。アランは口元を引き締める。 「規律に厳しいと言われてるクヴルールの人でありながらあの子が自由にできたのは、分家も分家、それも末端の、末っ子の人間だったからだ。そこらのキリの人間とそう変わらない、ただ名字だけクヴルールと貰っている程度。  詳しい経緯は知らない。ただ、あの子が連れ戻されたのは、奇しくもあの子がここらでは誰よりも強いトレーナーだったからだ。そのときには最早誰もが認めざるを得ないほどに。  細かい事情は、あたしだって知らないけどね。要は、お嬢さんのお目付役を頼まれたってことさ。  ポケモントレーナーとしての目標を捨てると、トレーナーはもう辞めると言い出した時は、あたしの方まで目の前が暗くなったね。そこに至る葛藤を今なら想像こそできるが、……いや、それは烏滸がましいだろうね。うん。激しい口論になったものさ。  純粋な自分の望みなら大した問題じゃない。プロの道は甘くないし、途中で諦めるトレーナーは数知れない。あの子もその一人だったというだけ。だけどあの子の場合、その理由はあの家にあった。  あまりにも今更だろう。どれだけ戦果を上げようと家族は殆ど見向きもせず、むしろ邪魔者が離れてせいせいしたというくらいだったのに、トレーナーとして誰が見てもそれなりに形になってきてこれから成熟していこうという時に。家に戻れ、ご息女を護れ。どの面下げて言えるのか、ふざけるのも大概にしろとね。人生の選択に少しばかり自由になりつつあるだろうに、いつの時代を生きているつもりなのかとね。クヴルールを許��なかったし、屈するあの子にも幻滅してしまった。……あの子は本当は、多分ね、寂しがっていたよ。家族に振り向かれないことを。だからポケモンに没頭していたというのも否めない。それを利用したのなら尚更たちが悪い。  結局喧嘩別れになって、それきりさね。あの子とは二十年近く会っていないことになる。凝り固まってたあたしも悪かったと今なら思うけれど、謝るタイミングも無くなってしまったね」  長い溜息をついた。 「エクトルはね、ポケモンが大好きだった」  噛み締めるように、懐かしむように、切実に、語る。 「あたしはこの界隈に身を埋めているから、プロトレーナーの道がどれだけ険しいかは理解しているさ。それでもね。ポケモンは沢山のことをあたし達に教えてくれる。あたしは今でも学んでるよ。彼等を通して得る経験はかけがえのないものになる。旅を勧めたのはあたしだけれど、あの子には世界はキリだけではないと教えたかったって理由もあった。トレーナーとして成功せずとも、ブリー���ーでも、うちの手伝いでもいい。なんだって良かったんだ。あの子のポケモンに対する愛情は純粋だった、だからあたしはあの子がポケモンのと共にのびのびと生きてくれるのなら、それ以上に幸せなことはないと思っていた。宝だとすら思っていた。視野が広くて、冷静と情熱を使い分けられる子だった。そして何よりポケモンが好きだった。……自惚れだと、甘いと思うかもしれないけれどね、あの愛情は、正しい使い方をするよう誰かが導いてやらなければならなかった」  あたしには出来なかった、と感傷的に呟く。 「どんな形でもいい。あの家から引き剥がすべきだったと、あたしは今でも信じているし、後悔しているさね」
 ザナトアは彼女の核心にも迫る語り部を続けようとした最中、目頭を強く抑え、頭痛がすると言って、すんなりと幕引きを迎えた。アランはザナトアの骨と薄い肉ほどしかないような細く丸まった小さな身体を支えて、寝室へと連れて行った。やんちゃなフカマルもおとなしくして、ザナトアの傍についている。  寝床のソファに寝そべり毛布にくるまりながら、アランは夜の静寂をじっくりと味わう。  散りばめられた星から星座が生まれるように点と点が結ばれていき、合致する。嘗てエクトルがクラリスに放った言葉もクラリスが自由を求めて起こした行動も、昼間に彼が放った責任という意味合いも、真の根源は彼にあるのだとすれば繋がる。  判断を誤った、とエクトルは言った。  ならば正しい判断とは一体なんなのか。どこから誤っていたのか。どうすれば正しかったのか。  愛情の正しい使い方とはなんなのか。  ザナトアの言うことがもしも正しいのなら、彼は間違いで出来ているのか。間違ったまま生きているのか。正しくない愛情の行き所はどこなのか。そもそも正しさとはなんなのか。  以前キリで、ポケモンを好きだろうと彼女が言うと、彼は返した。そんな時代もあったかもしれない、と。大好きだったものがずっと好きであるだなんて確証はどこにもなくて、ならば、ザナトアの語った純粋な愛情はどう変容したのか。幸福の膨れあがった笑顔を浮かべポケモンに囲まれていた少年は、数多のネイティオの屍を重ねて繁栄を繋げようとした家の渦中に飛び込んでいった人物と同一なのだ。しかし、衰弱したアメモースに憂えた表情を浮かべた男もまた同じ人間である。  結局、暴力的なまでの濁流に巻き込まれれば、ひと一人分の人生など意味を成さないようでもある。アランの口から流れゆく重い吐息が、音も無く広がった。  生き物はずっと同じではいられない。人はいつまでも純粋ではいられない。アランも、アランを取り巻く存在も、皆。  部屋をぼんやりと照らす足下の小さな光が揺れている。暗闇に浮かぶ黄金の輝きがソファの傍にあって、余波のような淡さでアランの視界を僅かに明白にする。僅かな光も、暗闇の中ではしるべのようである。  月光に照らされるアラン自身は、今、無色の顔をしている。ザナトアの話を終始醒めた目で聴いていた。瞼をきつく閉じる。毛布を擦る音、白い月光、紙の匂い、沈黙するラジオ、健やかな寝息、闇夜に抱かれ皆眠る。ひとまぜになって混濁は透き通っていく。  部屋に響く風の音が強い。夜を彩る虫の歌が部屋に差し込む。  どれほどのことがあろうと、時間はやはり等しく生き物を静かに流し、夜を越えて、朝はやってくる。  卵屋の傍で首を千切られたポッポの死体が発見されたのは、朝陽もそよ風も穏やかで、たおやかで、平凡な翌日のことだった。 < index >
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whileiamdying · 6 years ago
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 雨が降りさうである。庭の桜の花が少し凋れて見えた。父は夕飯を済ませると両手を頭の下へ敷いて、仰向に長くなつて空を見てゐた。その傍で十九になる子と母とがまだ御飯を食べてゐる。
「踊を見に行かうか三人で。」と出しぬけに父は云つた。
「踊つて何処にありますの。」と母は訊き返した。
「都踊さ、入場券を貰ふて来てあるのやが、今夜で終ひやつたな。」
 母は黙つてゐた。
「これから行かうか、お前等見たことがなからうが。」
「私らそんなもの見たうない、それだけ早やう寝る方がええわ。」
「光、お前行かんか。」
 父は子の顔を見た。子は父の笑顔からある底意を感じたので、直ぐ眼を外らすと、
「どうでも宜しい。」と答へた。
 併し子はまだ遊興を知らなかつたし都踊も見たことがないので綺麗な祇園の芸妓が踊るのだと思ふと、実は行きたかつたのだが、父や母と一緒に見に行つてからの窮屈さが眼についた。
「行くなら早い方がええし。」と又父は云つた。
「行きたうないわな、光。」と母は横から口を入れた。
 子は真面目��顔をして、「うむ」と低く答へると母の方へ茶碗を差し出した。が、もう食べるのでなかつたのに、と気が付いたが又思ひ切つて箸をとつた。
「光ひとりで行つて来い。」と父は言つた。すると、
「あんた一人でお行きなはれ。」と直ぐ母は父に言つた。
 父は又笑顔を空に向けた。それぎり三人は黙つて了つた。
 子は御飯を済ますと縁側へ出て、両手を首の後で組んで庭の敷石の上をぼんやり見詰めてゐた。両足がしつかりと身体を支へて呉れてゐないやうに思はれた。
 鶏小舎の縄を巻きつけた丸梯子の中程を、雌鶏が一羽静に昇つてゆく。そのとき石敷の上に二つ三つ斑点が急に浮かんだ。雨だなと子は思つた。母は元気の良い声で
「そうら降つて来た」と云つて笑つた。
 父も笑つた。そして
「なアに止むさ。光ひとりで行つて来んか、あんな札を遊ばしておいても仕様がないし。」
 子は父のさう言ふ言葉の底意に懐しさを感じて来た。
「光らあんな所へ行き度うはないわなア光?」と、母は云つた。
 子はそれに答へずに直ぐ二階へ昇らうとして父の前を通ると、父は体を少し起した。
「よ光、一人で見て来いや。もう今夜で終ひやぞ。」
「もう雨が降るしよしませう。」
 子はさう云つて二階へ来ると窓の敷居に腰をかけた。下腹から力が脱けてゐた。
 空はそれなり雨を落とさずに何時の間にか薄明かるくなって来た。その下に東山がある。その向ふに京都の街がある。
 二十分程して、他所行きの着物を着た母が腰帯のまま二階へ来た。行くんだなと子は思ふと、気が浮いて、
「何処へ行くの?」と訊いた。
 母は黙つて押入を開けると、下唇を咬んで蒲団の載つてゐるまま長持の蓋を上げた。
「行くの?」と子は又聞いた。
 母は黒く光つた丸帯を出して、
「お父さんつて雨が降つてるのに、」と呟くと、子の顔を一目も見ずに下へ降りて行つて、階段の中程の所から
「用意お仕や。」と強く云つた。
 子は腹を立てた。「行くものか。」と思つた。
 暫くしてから、母は帯をしめて又二階へ来た。
「まだ用意おしやないの。」
「行きたかないよ。」
 母は黙つて子の顔を眺めてゐた。
「お母さんとお父さんと行くといい、俺は留守をしてゐるよ。」
「今頃そんなことを言うて……」
「やめだつてば。」
「可笑しい子。」
 母は薄笑をし乍ら押入から子の着物と帯とを出した。子は東山の輪郭に沿うて幾度も自分の顋を動かしてゐた。
「早やう。」と母は云つた。
 子は母の出して呉れた着物を一寸見て又眼を東山に向けた。母はそのまま立つて子の顔を見てゐたが「可笑しい子やないか、」と呟くと下へ降りて行つた。
 子はソツと着物を弄つてみた。が、下へ降りた時母の手前を考へて呼ばれる迄着返ずにゐてやらうと思つた。すると直下から母が呼んだ。子は強ひて落ちつくために返事をせずに又敷居へ腰を据ゑた。下から声がする。
「お父さんが待つてゐやはるの��。」
 子は父を思ふとそのまゝの容子で下へ降りた。
「まだ着返てやないの、」と母は顔を顰めた。
「これでいいよ。」
「ああそれで好えとも。」さう云つて父は煙草入に敷島を詰めた。
 子は父の前では拗ねる気がしなかつた。三人は外へ出た。
 母が空を見上げて「降るに定つてるのに、」と云ふと、父は、
「何アに。」と云つて停留所の方へ歩いた。
 祇園へ着いた時にはもう真暗であつた。歌舞練場と書かれた門の中へ父は這入つていつた。そこに踊がある。二人はその後に従いた。踊のひときりがまだついてゐなかつたので三人は光つた広い板間の控へに坐つて次のを待つた。
 子は父が莨を口に銜へたのを見ると自分のマツチでそれに火を点けた。が、父に媚びてゐる自分の気待を両親に見ぬかれてゐるやうな気がしたので、父の莨入から自分も一本ぬきとつてすつた。
 周囲に群衆がつまつてゐるためか三人は黙つてゐた。間もなく踊のきり[1]がついた。群衆は控へから桟敷の方へ動いて行つた。
 三人が土間の中程へ場をとつた時、母は父と子の間へ二人より少し退き加減に坐つた。
 幕が上ると同時に左手の雛壇から鼓の音がして、両側の花路から背の順に並んだ踊子の群が駆けるやうに足波揃へて進んで来た。夫々手に花開いた桜の枝を持つてゐる。最初には踊子らの顔が、どれも同じやうに綺麗に見えた。
 母は不意に子の肩を叩くと後を向いて囁いた。
「光、それそれ、あの西洋人の顔をお見いな、面白さうな顔をしてゐる。」
 子は���台の反対の桟敷に居る二三の外国人の顔を見た。が、別に彼等の顔から母の云ふ程な表情を感じなかつた。で、又急いで踊子達の顔に見入らうとした時、ふと自分の眼を後へ向けささうと努める母の気持ちを意識した。
「なアをかしい顔をしてゐるやらう。日本人は奇妙な踊をするもんやと思うて見てゐるのやらうな。」
 子はただ「ふむ、ふむ」と答へておいた。が、母が正面に向き返るまで自分からさきに舞台の方を見ることが出来なかつた。
「あれきつと自分の国へ帰つてから、日本で面白いものを見て来たつて云ふのやな。」
 さう云つてから母は漸く踊子の方を向いた。子はまだ故意に後を向いてゐた。が、見るものが無かつたので、その時間を利用して群る人々の顔の中から目立つた綺麗な顔を模索した。
 一度舞台から消えた踊子の群は再び手拭を持つて、ゆるゆると踊り乍ら両側の花道から現はれた。
 すると母は子の方へ顔を寄せて又囁いた。
「あの子お見、可愛らしいことなア、人形さんのやうや。」
 子は母が胸の上で指差してゐる踊子に見当をつけてよく見ると、最後から二番目のまだ小さい杓子顔の雛妓であつた。子はその顔から何処か良い所を捜さうとつとめてみた。そして時々眠さうな眼をすることが可愛いと強ひて思つた。
「後から二番目?」
「そやそや、可愛らしいやろ」
「うむ��」と子は言つて見付けておいた美しいいま一人の踊子を見ようとしたが、母の看視を思ふと図太くその方許りを見続けることが出来なくなつた。彼は母に知れるやうにあちらこちらに眼を置き変へた。そして、右手の雛壇の隅で長唄を謡つてゐる年増の醜い女を見あてたとき、ここならよからうと思つて、眼の置き場をそれに定めた。直ぐ首条に疲れを感じたが耐へてゐた。彼の横に彼の年頃の学生が一人自由に踊を眺めてゐる。彼は羨しく思つた。
 父は初から絶えず舞台の方を向いてゐた。子は父を有りがたく思つた。
 間もなく踊は済んだ。まだ早かつたので電車通りに出てから三人は街を見て歩いた。子は下駄を引摺るやうにして黙つて親等の後に従いた。歩き乍ら、恋人を抱いた時の自分の姿を思ひ浮べた。今母の眼の前で、傍を通る少女を一人一人攫へてキツスしてやらうかと考へた。
「もうし、光がね万年筆が欲しいんですつて。」と母は不意に良人に云つた。
「入りませんよ。」と子は強く云つて母を睥んだ。
 父は黙つてゐた。
 母は子の方を振り向いて、
「お前欲しいつて云うてたやないの。」と笑ひながら云つた。
「そんなこと云はない。」
 が、実は言つたと子は思つた。
 ある文房具店の前まで来た時、父は黙つてその中へ這入つていつた。子は万年筆を手にとつてゐる父を見ると、急に父が恐ろしくなつて来た。
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montagnedor · 8 years ago
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みゆるぎ
ワンドロ18  お題:「夏」のつもりが微妙ですすみません #鉄拳版深夜の真剣創作一本勝負 家庭用7の内容には文句を言いたいものの、体力も使うのでちょっと逃避していつもの自己満足でシャオアリラス仁(自分の好きなキャラを出しておくだけ物件)です。なんとなく複数カプ疑惑が漂いますがきっと違います、平和めなのを書きたかったのです;;こんなに暑いのなら、なごみの一つでもくださいと乱心したせいでしょうか。 三島サーガみたいな世界も新設定もまっぴらだと言いつつ、仁のトゲが少なめでデビルが出やすいところだけ7っぽいかも。 タイトルは「微動」か「水動」(こちらは当て字)かそんな感じです。つまり、割と普通な日々。 https://www.google.co.jp/search?q=%E3%83%91%E3%82%AD%E3%82%B1%E3%82%BF%E3%82%B9&oq=%E3%83%91%E3%82%AD%E3%82%B1%E3%82%BF%E3%82%B9&aqs=chrome..69i57j0l2.11884j0j7&sourceid=chrome&ie=UTF-8 (作中のパキケタスとは)
+++++ すまない。だいぶ間違えた、と男は言った。 基本的に、物騒なことは言ってもネガティブな事はそう言わない男が。 気にするな。いや本当に気にするな、と青年が言った。 常日頃、棘は多いが極めて淡々と言葉を紡ぐことの多い青年がいつにない調子で。 リン・シャオユウに誘われてだと、おそらくこういう所には来ないし、別にお前は悪くない、と。猛暑が連日報じられるその日、彼等はアクリル硝子の水槽の前にいた。 冷房が行き届き、冷え性の母親や年配の人々は、サマーウールのカーディガンを纏って震える。 青い光に満ちたほの暗い回廊は、平日ならではの閑散とした人出だった。 義務教育での夏休みが始まり混雑するのは、明後日からだという。 ***** 出張中、男が善意で青年を引っ張り出し、行き当たった水族館は、予想外にどうにも渋い所だった。 大きな回遊魚の代わりにイワシの群が円筒の中を泳ぎ、カクレクマノミの代わりには眼の座ったウツボが数尾とぐろを巻き、なんともファンタジーよりも地元の産業活性化に根差した力強そうな施設であり。 「昔の捕鯨史なんかも扱ってるという紹介だったんで、俺の故郷とも通じるかと思ってみたんだが、」 (注:往年のアニメ『小さなバイキング〇ッケ』はスウェーデン原作である) なんだか、なまなましいな、と男は頭を掻いた。 フロアをぶち抜きにした天井からは巨大な骨格標本がいくつもぶら下がり、たまに水槽の前でさえ、幼稚園児の激しい泣き声が上がっており、 「さっきのウツボコーナーかな」「うん、あのウツボだろう」そんな事を言い合い、彼等はつまり、非常に「お察しします」系のおとなしい客になってしまっていたのだった。 ***** 「別にそんなに気にするな。嫌味じゃなく興味深いぞ」 言いつつ青年は、休憩スペースで、ハイビスカスティーのグラスを手にする。オレンジとピンクの中間色の上にはカルピスがフロートされており、しかしそれをかき混ぜてしまうことはしないでいる。かたや男は氷をどっさり入れたサングリアのグラスを親の仇か何かの様にストローでつつき、いや、でもそういうつもりじゃなかったんだと不本意そうに呟いた。 夏だから、海を思えたらいい、涼と一緒に胎内のような空間を漫喫できたらいい、という話で、60センチ厚さのアクリル硝子の向こうの、でもとても近く綺麗に見える生命に何か感じてほしかったんだ。それにそのなんだ、そういう仕様なら普通の遊興施設の中でも、お前に「万が一」の事が起きても比較的大丈夫そうかと。 そう言う男に対し、いや、本当にいいから、と相手は再度返した。別にウツボにもハリセンボンにも恨みはないから、変調も起きそうにない、見る分に少し怖くはあるが、と。 彼の故郷の島は地形的に海水浴に適さず、川遊びばかりだったので海の生き物は案外苦手なのだとも。だから青年は音もなく揺れる青い光を背に受けつつ、そちらには目を遣ろうとしなかった。たまに水槽の天井から夏の外光が差し入り、青く染まる事もなくそのままきらりと卓上のグラスまで落ちる。汗をかいたグラスと、そのせいで濡れた青年の指先も眩しく輝いたが、彼の表情は至って静かなままだった。 ***** ああ、そういえば、聖人によるドラゴン、つまり悪魔退治が実は鯨退治だったのではないかという説があるのを知っているか? うん? 聖ジョージが倒したドラゴンとは鯨であり、悪魔退治認識だったとのではないかと、H.メルヴィルは書き残している。だから、M細胞騒動の際に投入した機体にはそんな名を付けた。覚えているか? あ、お前が京都から自力で飛んで帰って来て本社前で力尽きたあの。なんだって真夏の盆地に全身レザーなんかで行ったんだ、お前は時々本当にバカだなと。 それは忘れろ。と、初めて渋い表情になった青年が相手の顔の前で小さく手を上げる。さっき見た「パキケタス」の骨格標本、まだ四本の手足があったという原初の鯨は興味深かった。ああいうのがドラゴンか悪魔として本当にいた可能性はいろいろ感じ入る事もあった。 「仁」 「恐しいな」 「仁」 「もしあんな気味悪いのが生き残って有史まで存在したなら」 「よせ」 「誰が悪いわけでもないまま悲劇も起きただろう」 「そんなことは 「「ヤッホ―――――!!!!!」!」 そんな大音声(オンセイではなくダイオンジョウ)が青年の鼓膜を突き破り掛け、強烈なアームによる抱擁(プレス)が男の頸椎をへし折りかけた。 ***** 「も~~~、やっと見付けたよ仁」 「ラース、ずっと会えたのです、探索をしにくいのががっぺむかつく」 そんな言葉が続いたあたり、彼女らの急襲は若干の武力攻撃をも意図していたらしい。やめてほしい首を狙うのは。首を痛めるとでかい図体の男でも重い荷物を持つことを医者に止められ、妻子にそれを任せて周囲には冷たい目で見られる事がままある。鉄拳衆退職組にだって、 いやそう思えば、いかにも首が母方似で長く細く、15歳以降はそこへの重大な怪我を防ぐべく祖父に集中的に鍛えられた青年の方がもっと大変だ、と気付いた男がテーブルから顔を上げれば、青年はあろうことかツインテールの少女の顔面にアイアンクローをかましていた。 シャオ、お前の大声は俺の痛覚に直撃するレベルのもの、だ、と、何度、言っ、た? 夏といえども、あのタトゥーじみた左腕の痣を人目に触れさせたくないせいでの青年の長袖のボタンシャツが��りびりと裂けていく。宙に浮いてじたばたする少女をその凶悪な鈎爪からはずし、掴んでいた方をもどうどうと宥めれば、青年の額と双眸の辺りには赤と黒の不吉な隈取が現れており、荒い息とともに背もたれに倒れる。 あ~ごめんごめん忘れてた、大丈夫?とプロレス技もどきをかけられていた方が心配そうにのぞき込むあたり、この少女達、心身ともに大概丈夫い。恐らく青年よりも、ひょっとしたら男よりも。 だって非常事態なんだもん、との言葉がそこに続いた。 ***** 「あのね、いつかの怪しい自称エクソシストの人が『この辺に私の獲物がいますよ!』って騒いで一緒についてきてたの」 すごくウキウキ顔で。そんな言葉に青年が眉をひそめ、男が荒っぽく舌打ちする。 「『コスプレでの入館お断り』とでも書いておけばいいんだ」などと至って常識の範囲でのダメ出しをしつつ額に手を遣る青年の隣で、いくらなんでもこれは使いたくないが、と男が胸元に手を遣る。どうやら非常時に備え、銃刀法に引っかかるものも携行しているらしかった。だが、 「御心配なく、なのですラース、シャオさんと私で当面の時間稼ぎだけは完遂しました、なのです」との機械少女の言葉とともに、どぉん、という音が階下から響いた。 ***** 「えっとね、よくわからないけど、あの手の人やシーシェパード?とかの人達が一番嫌がりそうなフロアに先に行ってみたの。多分だけど仁もあんまり見たがらなさそうだからいないだろうと思って」 吹き抜け構造になっている下のフロアを見下ろせば、何やら青い光弾が幾条も飛び、悲鳴が上がっている。 「えーとね、捕鯨漁が盛んだったころのホルマリン漬けがいっぱいあるフロアね。クジラの赤ちゃん、え~~とタイジ?の標本とか」 「加えて何故か大量に鯨の睾丸とペニスの標本が保存されておりました、です。ああいったものは縁起物扱いだったのでしょうか、です」 「で、あの人『なんと罪深い!!!!!』って故障しちゃった?みたいな??」 との台詞とともに、何やら『オッセ!』との謎の叫びも聞こえて来る。 「シャオ、お前」 「シャオユウ、アリサ、君達」 「「何(でしょうか)?」」 二対の瞳が応えを待つ。隠すでもなくきらきらしつつ。 「……お前は悪くない、たぶん」 「むしろグッジョブ」 男が親指を立てた。 ***** 非常ベルが鳴り響き、市警のパトカー、通報ミスの消防車や町内消防隊の人々なども続々とやってくるのを後目に退館した彼等が向かったのは、少女達のリクエスト、彼女らへの御褒美であり、海に面した人気のお店での昼食だった。 のだが、 すまない、また間違えたみたいだ。 男が呟く。 クロマグロの胃袋の酢味噌和え、心臓の刺身、目玉の唐揚げお任せにしてみたところ、漁港でなければ楽しめないとの薀蓄とともに出て来るメニューの数々に、 わかってるから気にするな、 そう、青年がため息をついた。 誰も悪くない。それでも悲劇は結構起きる、と。 (了) 後日 「ああ、そういえばあの後知ったんだがな仁」 男が何やらたいそう機嫌良さそうにデスクワーク中の青年に声をかけにきた 「なんだ」 「クジラとイルカの違いを知ってるか?」 「……?」 「なんとだな、ざっくりしたところではサイズの違いだけなんだそうだ。4m以下なのがイルカで大きくなるのがクジラで」 つまりだな、お前のデビルもお子様に喜ばれ愛されるというルートさえありうるというわけで 非常に前向きすぎ遅すぎ雑すぎる回答に呆れたように「そうかよかったな」とだけ青年は返し、 しかしこっそりと、少しだけ笑った。
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myu-hiroming · 8 years ago
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檸檬か生姜か牛乳あるいは苺を入れて (17)
無頼寺までー 乗り込んだタクシーの運転手に伝えると 何故か運転手はちらりとこちらを見た。 駅から遠いし、バスのほうが安いのだが、時刻表を見ると2時間に一本しかない。残念ながら行ってしまったばかりなのでタクシーを使うことにした。 ずいぶんな田舎町だ。 ここは志波さんの地元なんだろうか。 あまり彼が地方出身者のイメージはない。ここは特に観光地でもないし、今回の事がなければ一生来ることはなかっただろうなとぼんやり流れ行く景色を見ていた。 「お客さん、無頼寺にはお迎えかい?」 唐突に運転手が聞いてきた。 「お迎え?」 「違うん?」 「あ、住職に会いに」 「あぁそおなん? あそこはな、親父さんの代は偉い格の高い寺やったんやけどなぁ。子供が寺継いでからなんやえらい変わりましてな」 はぁ、と言いながら運転手の話を聞き続ける。 「今は駆け込み寺として有名ですわ」 「駆け込み寺?」 「問題児やら、よう子供育てられん親の子供なんかを預かって育ててんのや。でもな、あそこに預けられた子ぉらは皆ええ子になるゆうてここらじゃ有名なんやに」 「……そうなのですか」 「そやから無頼寺まで言うお客さんはだいたいが子供に会いに行く親とか、まぁ、身内なんかなと。すんませんな、よぉ見たらお兄さんまだ若いもんなぁ」 「いえ、若くはないですよ」 寺で教育しているのか。 俺も住職に認められなければ、ルキアの場所は教えてもらえない。住職とはどんな人なんだろうか。 「どんな方、ですか?住職は」 「あたしゃ面識ないんやけど、ほぼボランティアで子供達の面倒みてんだからえらいできた方なんちゃうの?坊さんなんやし」 「……そうですね」 そうなのだろう、な。 そのできた人間に、俺はこれから裁かれるのか。少しどころかかなり気が重い。だがこれしかルキアの場所を知る術はないのだ。 ルキアに会えたらー 会えたら俺は、どうするんだろうか ルキアは自分の意思で俺と決別した。 携帯も繋がらない。解約したようだった。井上や石田もわからないという。 あの日連絡が取れなかったのを今悔やんでもどうにもならないが、 ルキアは俺にさよならを言うつもりだったんだろうか。 それとも最初から、何も言わないで消えるつもりでいたのだろうか。 石田に渡された、ルキアと石田の会話は丸暗記出来るほど何度も聞いた。聞きたい内容では決してないが、あのテープからは ルキアの声が聞けるから。だから聞いてしまう何度でも。 ルキアは石田に何度も同じ事を言っていた。 一護は優しい、と。 ふざけてでも好きだと言わないでいてくれたのは一護の優しさだと、あの馬鹿は言う。 嘘で好きと言われていたほうが、嫌いにはなれたかもしれないが 一護は私に好きなんて言ってない 私が勝手に好きになったのだから 一護を恨んでなんていない 一緒に暮らしていて、一護はいつでもやさしかった。時には喧嘩もした。でも仕事の愚痴も聞いてくれたし相談にものってくれた。 一護はお兄さん、なのだ、そして妹なのだ、私は 思えば昔からそうだったから 一護はあの頃のまま私を受け入れて 家族のように思ってくれていたのだと思う だからー 本当に一護を恨んでないのはわかって欲しい 一護を絶対に悪く言わないで嫌わないでほしい 石田にそんなことをお願いするルキアの声は 俺のよく知るルキアの声だ 強がりなんかじゃない、ルキアの話し方だった。 わかってないのはお前じゃねえかと 腹立たしくもなった。出ていく程に傷つけておいて尚、どうしてもルキアに腹がたつのだ。 好きと言っていたら ルキアは家を出ていかなかったのだろうか 本当にそれだけなのか? 何故触れていたとか抱かれていたのか その想いは全く伝わってないのか本当に 金を取らないから抱かせてくれという言葉をそのままとるなんて いやー 照れ隠しにしても、あの時の自分の欲望にしても、あの言葉は最低だったと思う。 そんなわけねぇだろそんな言葉を本気でなんて言うわけないし信じる訳もないとあの時は思った。 いや、忘れていたのだ ルキアにそう言ったことなんて そんな言葉であの日、ルキアを抱いた俺は馬鹿だと思う。 素直に、なれない 想いを伝える言葉が上手く言えない だって 言葉なんて 凶器じゃないか 刃物で脅して手に入れるのを 誰もがするのか望むのか 寺は山の上にあった。 タクシーを降りて石の階段を昇る。これを出かける度にここの人間はやっているのかと思うとそれだけで修行だなと思う。 階段を上がりきると、皆お揃いのジャージを着た年齢のバラバラな男女が、なぜか大縄跳びをしていた。 「なんやえらい男前が来たで」 目付きの悪い小さい女が口元をゆがめて俺に気づいて笑った。歓迎されている感じではない。 「すみません、住職にお会いしたいのですが」 「……なんのようなん?」 「え?」 「何の用やて聞いてるんやけど」 「あぁ」 と言いつつ、何と言えばいいのかわからず固まっていると 「空鶴さんか都さんの男ちゃう?」 綺麗に切り揃えられたおかっぱの男がにやにやと下衆な笑いをしなかがら近寄ってきと。 「おにぃーさんなんや、この辺のもんやないやろ」 「はぁ」 「はぁやて。なんやえらいスカしてんな」 「…………」 挑発するようなその態度にイラッとくるが ここで喧嘩など絶対出来ない。 こいつ達が預けられてるという人達なのか。子供もいるが、この絡むような喋り方をする男女はどうみても子供ではない。 その時、ドサッと大きな音がして、男の子が1人倒れた。 「あ~ぁ、また倒れたぁ」 「はよ誰か都さん呼んできて」 横柄な感じといい、人1人倒れたというのに誰も慌てない事に違和感を感じつつ倒れた子供にかけよった。 青白い。確かに貧血だろう。 「その子よく貧血おこすの」 中学生くらいの女の子が俺の横に腰をおろした。 「病院は?」 「いかないよ、だってただの貧血でしょ」 「よく倒れるなら放っておいたらだめだ。この子は肌が白すぎる。赤血球が少ないかもしれないし治療が必要かもしれない」 そう言うと女の子はそうなん?と不思議そうな顔をした。 緋真がそうだった。 もっと早くから病院に行っていればもう少し違っていたのだ。緋真もまた、病院に連れて行ってもらえる環境で育っていなかった。 「あ~すいませ~ん」 呑気にも聞こえる声にカチンとして、思わず睨むように振り向いた。 「この子はよく貧血を起こすそうですね」 「あ?」 「病院へ連れていきましたか?」 「一回連れてったけど。貧血だって」 「そんなに何度も貧血を起こすなんておかしいとは思わないんですか?」 少しきつい言い方をしてしまったことに舌打ちしそうになる。でもあまりに呑気に感じられて我慢ができない。 「おかしいとは思うけど、身体弱いんだから仕方ないのかと」 「血液検査はしてもらいましたか?」 「しねぇよ。貧血だって、終わりだったし」 豪快とも感じる女の話に、仕方ないのかと思っている���倒れた子供が目を覚ました。 「大丈夫か、気持ち悪いか?」 話しかけると、子供は虚ろな瞳で俺を捉えてふるふると首を振った。 「……すみません、大丈夫です」 「謝らなくていい。普段から目眩はひどいのか?」 「いつもじゃない……運動すると、時々……苦手だから……だから……気持ちの問題って……」 泣きそうになる子供の頭を撫でてやり、そうっと身体を起こしてやった。 「病院に行こう。君はきちんと検査をしてもらわなきゃだめだ」 「え、」 「気持ちの問題なこともあるけど、そうでなくて病気の場合もあるんだ。1度ちゃんと調べてみような」 泣きそうな顔の子供はこくんと頷いた。 可哀想に 精神が弱いと言われて本人も傷ついているのだろう。もちろんその場合もありうるが、この肌の白さは違う気がした。 「ちょっと、あんた誰?その子どうすんだよ!」 子供を抱えた俺に、後から来た豪快な女は慌てたように俺の前に飛び出した。 「この子を病院に連れていく。血液検査をしてもらう」 「はぁ?何言ってんの? 勝手にそんなこと、てか知らねえ奴に勝手にこの子を渡せねえよ!」 「俺は医者だ、だからこの子が心配だ。この子と同じ状況の子を知っている。その子も病院に行くのが遅すぎたんだ。だから放っておけない」 女はグッと口をすぼめた。 「保険証とこども受給券を持ってきてください」 「……ほんとに医者かよ、保険証まで出せなんて言われても信用できねえんだけど」 疑り深い女だなと舌打ちしたくなる。 だが考えてみれば、何も言わずに現れて子供を抱えて身分証明書を持って来いという俺は危ない男に見えなくない。 「住職に黒崎が来たと伝えてくれればわかると思う。今日約束をしている」 「あぁ、」 女の嫌悪感丸出しの顔がすっ、と引いた。よかった。 「あんた海兄のお客さんか。医者、なのか?」 「あぁ、医者だ。小児科医だ」 「悪かった。ひとさらいかと思って。保険証だっけか?ちょっと待ってろ」 女はそう言うと走って家に戻って行った。 かいにいのお客さん? かいにいとはなんだ。志波さんのことか? そうだ志波さんの名前は海燕だ。海兄ということか?だとすれば今の女は志波さんの妹なのだろうか。 「はい、保険証と児童受給券。シンジ、車でこの二人病院連れてって」 「ほ~ぃ」 「すまないね、アンタ。医者寄越すなら海兄もそう行ってくれりゃぁいいのによ。変な態度とって申し訳なかった」 「いや俺も初対面で図々しくてすみません」 「その不気味なおかっぱ男が車で連れてくから、よろしく頼みます」 「はい、」 そう言っておかっぱの男と共に、階段を降りようとした時 「なんやどぉしたん?!」 俺の前を歩いていたおかっぱが、驚いた声を上げたその先には 泥まみれの男と女が階段を上がってきていた 声が出ない どうして 何で 俺の目の前に泥にまみれたルキアがいた
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natsucrow820 · 8 years ago
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紅と別れ
「口紅塗っても良いかい?」
 唐突に彼から落とされた問いに、彼女は一瞬目を見開き、しかしすぐに仕方がないな、と言わんばかりに目を細めた。
「構わない」
 非番の日だった。何とはなしに二人で予定を合わせていた。何処か、適当に街をうろつこうと決めていた。
 彼女は常はきっちりと軍服を着込んでいたけれど、祓衆(はらいしゅう)から離れる時は着物を纏っていた。彼女の生家は未だに力を持っている武家であったから、幼い頃から彼女は上等な着物を宛がわれていた。それは今でも変わらず、今日も彼女は一目でそうと知れる程に値の張るであろう黒地に牡丹の咲き誇る着物を纏っていた。下手な者が着れば不格好になりかねないそれを、彼女はまるで初めから彼女の為に作られたかのように綺麗に着こなすのだから見事なものである。今も昔も、彼は、彼女程着物の似合う女性というものに出会ったことはない。
 彼女の許しを得た彼は、椅子に座った彼女の前に跪く。そして彼女から手渡された貝を開いた。彼女が部隊の者から貰ったのだというその真白の貝には真紅が詰まっていた。その真紅を紅筆に絡ませて、彼女の唇に押し当てて、引いた。驚く程に滑らかに、紅色が彼女の唇を滑った。常日頃はどうせ落ちるからと化粧をしない彼女に極彩色が乗せられる様は、彼の支配欲を満たしていった。
「普通に引いて行けば良いのかな」
「ああ、色が付けば構わない」
 形の良い唇に紅を乗せていく。彼女の肌は白く、また今日に限って言えば白粉を付けているものだから、鮮やかな紅を塗った唇はいっそ目に毒だった。慎重に色を乗せながら、彼は彼女の面を盗み見た。峻厳に吊り上っていることの多い目は、はっとする程に長く黒々とした睫毛に覆われていて、時折ふるりと震えた。あのきつく涼やかに吊り上った目尻に紅を引いたらさぞ似合うだろう。ぼんやりと彼は思った。きっと、彼女が此処までの接近を許しているのは自分だけなのだ。そんなことも考えた。そうすれば、仄暗い欲望が満たされる心地がした。
 彼女の自室で、彼女の許しを得て、彼女に触れ、その唇に紅を乗せる。
 それは、酷く官能的で神聖な行為であるように、思えた。
 
 
 氷のように冷たい頬にそっと触れる。力を籠めたら、ぼろぼろと崩れてしまうのではないか、そんな予感がした為に彼は指先のみを彼女の肌に乗せ、ゆっくりと滑らせた。曲線を描く頬から、閉ざされた口の端を経て、程良く尖った顎へ。彼のその行為に、しかし彼女は目を開きはしなかった。
「ざまぁないね、梓(あずさ)」
 ふっ、と、彼は笑った。
「本当に、お前は俺より先に逝ってしまうんだから」
 不思議な程に、彼の心は凪いでいた。彼女の死が知らされた時も、自分がかつて危惧していた程には心は乱れなかった。その時だったのだ。ただ、そんなことが脳裏を過っただけだった。彼女は彼女の為にその命を使い果たしたのだ。そう考えると、すとんと彼の胸にその事実は収まったのである。彼女はそういう奴だった。その時初めて彼は、帯鉄梓という一人の女性の在り方を思い出したのだ。己と肩を並べる程に強く、凛と在り続ける彼女の、その内の柔らかさに目を向けることが出来たのである。
 多くの事務処理の後に対面した彼女は、思っていた以上に奇麗な姿をしていた。顔は無傷であったし、医師達が尽力したのだろう。身体にも目立つ損害は残されていなかった。虚ろの器を眺めて、彼はほう、と息を吐き出した。幾らこの肉体に手を加えようとも、中に、彼女はいない。誰でも解っているだろう。それでも、何かせずにはいられないのだ。彼も、その例に漏れなかった。
「お前、本当に皆に愛されているね。戦死だって、分からないくらいに奇麗にしてもらって」
 台の上に横たわる彼女の隣に置かれた椅子に座って、彼は持ち込んでいた諸々を椅子の傍に据えられていた小さな机に広げた。
「無理を言って、ってお前は怒るかな。でも、これだけは譲れなくてね」
 言いながら、白粉の入った漆塗りの入れ物を開けた。筆で白を取り、それに負けず劣らず白い彼女の顔にそっと乗せていく。化粧をしない為に肌理の細かな彼女の肌は、僅かに光を放っているのではないだろうかと言わんばかりに滑らかになった。頬には薄紅を、ほんの少し。壊れ物に触れるかのように、慎重に。息を詰めて、彼は彼女に死に化粧を施していった。
 唇を色付ける為に貝を開いて、その中に詰まった真紅を筆に取った時、胸の奥が騒めいた。不意に、叫びたくなった。だがその衝動を深呼吸一つで抑え込んで、彼は形良い、存外にふっくらしていた彼女の唇に紅を乗せていった。この艶やかに彩られた唇が開かれて、その様には不釣り合いな堅苦しい言葉を吐くことはもうないのだ。凛としたあの声が、耳朶を震わせることは、もう叶わない。湧き上がる感情を頭を振って追い払い、彼は、幾度目かの紅を筆に絡ませた。そして筆が向かうのは、固く閉ざされた彼女の目。長い睫毛が影を落とす、その眦に一筋だけ紅を引き、指で馴染ませた。何時かの思い付き。実行して、彼は後悔した。その鮮烈な紅を刷いた目を、彼女は未来永劫開く事は無い。貝を閉じて、筆を空中に暫し彷徨わせ��後に、彼はそっと机に置いた。
 死に化粧を施した彼女は寒気がする程に美しかった。生きている何ものよりも美しく、そして同時に、もう決して躍動することのないことを如実に示してもいた。自らが施した化粧の崩れぬように、彼女の頬をそっと一度撫ぜてから、彼は立ち上がった。机に広げていた化粧道具を、片付ける。そして、彼女の顔を覗き込む。
 滑らかな肌、すっと通った鼻梁、意志の強そうなきりりとした眉、涼やかでいながら烈火を宿していた目、そして、何時もは引き結ばれていて時折ふわりと綻んだ、今は紅い、紅い唇。息の掛かる程に、睫毛の触れ合う程に近寄って、身体を起こした。
「さようなら、梓」
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cinema-note · 7 years ago
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前作、衝撃的なデビューを果たした『デッドプール』。 R指定作品にもかかわらず、クールでユーモアのある演出に多くの人の心を鷲掴みにしましたね。 もちろん私のハートもがっちり。
前作から2年、ついにデップーが『デッドプール2』として帰ってきました! 試写会はもちろん全部ハズレ。悔しかったので、公開日前日の前夜祭に行ってきましたよ!!!!!
デッドプール2
監督 デヴィッド・リーチ 脚本 レット・リース ポール・ワーニック ライアン・レイノルズ 出演者 ライアン・レイノルズ ジョシュ・ブローリン モリーナ・バッカリン ジュリアン・デニソン ザジー・ビーツ T・J・ミラー ブリアナ・ヒルデブランド ジャック・ケシー ステファン・カピチッチ 公開 2018年 製作国 アメリカ合衆国
あらすじ
最愛の彼女ヴァネッサとを取り戻し、お気楽な日々を送る俺ちゃん(デッドプールね)。 しかしそんなのは束の間、ある日未来からやってきたマッチョな機械男ケーブルがやってきて、大きな事件に巻き込まれちゃうんだ。 大好きなマイラヴァー・ヴァネッサのたっての希望もあって、ケーブルが命を狙う謎の力を秘めたガキを守ることにしたんだけど、俺ちゃん一人だとパワー不足・・・
そ・こ・で・・・だ! 特殊能力を持った奴らを集めて、最強鬼やばチーム”Xフォース”を結成するところまではよかったんだが・・・
続きは劇場で!1人5回くらいみてね♡(公式サイトより)
前作よりさらにハチャメチャになってるぜ!
んもう〜〜めちゃくちゃ! デッドプールと製作陣がやりたい放題やって、大暴れしてました。 前作同様、楽しそうにやってんなーというのが伝わってきてよかったですね。
ストーリーの流れはきちんとあるんですが、全てのシリアスなシーンをぶち壊すぶち壊す! 笑っていいのか悲しんでいいのかよくわかりませんでした(笑) パロディと小ネタは『レディ・プレイヤー1』に負けないくらい散りばめられていましたね。 多分誰かのカメオ出演もあるんだろうな〜と思って鑑賞後に調べたら、なかなかすごいことになってましたね(笑)
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オープニングとおまけが最高にテンション上がりました。一番声だして笑っちゃいましたね。
未来からやってきた男から少年を守る!
前作のデビュー戦で大暴れしたデッドプール。異色のダークヒーローとして孤独に生きてきたデッドプールですが、今作では仲間とともに敵に立ち向かっていきます。
突然最愛のヴァネッサを失ったデッドプール。 失意の中コロッサスによってたすけられたデッドプールは、X-MENの見習いとして仲間入りします。 ところが最初の現場で好き勝手やって、そこにいたラッセルという少年と一緒に刑務所送りに。
デッドプールは能力を奪われ、いよいよ死にそうになったとき、未来からケーブルという謎の男が登場。 彼の「ラッセルを殺す」という言葉によってストーリーはガラッと方向転換しまます。
今作は、デッドプールのセリフにある通り、ファミリー映画的な要素がありましたね。 仲間のチームを立ち上げ、敵に立ち向かっていくストーリーは、正統派ヒーロー映画の続編でよくみますので、その辺りも意識しているのかな?
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正統派な流れを取りつつも、デッドプールらしいめちゃくちゃな演出がおもしろかったです。
ヴァネッサを失い孤独だったデッドプールが仲間に出会い、「正しい心の場所」を見つけるのが一つ目。 デッドプールが、未来からやってきたケーブルの手助けをするのが二つ目。 虐待を受けていたミュータント、ラッセルの苦しみ・悲しみを救うのが三つ目。
この三つのストーリーが交差しながら本編は進んでいきます。
パロディと小ネタがてんこ盛りで楽しい一方、テーマがパンクしている印象を受けました。 多分、あれも書きたい、これも書きたい!ってやってるうちにめちゃくちゃになっちゃったのかなー。
ただ、私��してはデッドプールらしくしすぎかなとも感じてしまいました。 大量のおふざけ演出はおもしろいんですが、笑ったらいいのか感動したらいいのか、よくわからなくてストーリーそのものにのめり込めませんでした。
デッドプールが死にかけるクライマックスのシーンも、どっち、これシリアスと笑いどっちに気持ち持っていったらいい?と混乱しちゃいました。
なんかの映画でもオチを全部笑いに持ってかれてどうしたらいいかわからなくなったことがあったので、こういうタイプの演出が苦手なのかもしれません。
はっちゃけ具合は花丸満点で、ストーリーは思い切ってどれか削ってコンパクトにしてもよかったかな。 小ネタが多い分情報量も多いので、ストーリーは前作のようにシンプルでもよかったかもしれないですね。
小ネタもてんこ盛り♡
やりたい放題のパロディ・小ネタはデッドプールにしかできないですよね! 続編でもスタッフは楽しそうに遊んでましたね〜
まず、オープニングでいきなり登場するのが「ローガン」。 いきなりぶっこんできたか!と大喜びしました(笑) しかも『LOGAN/ローガン』の結末に盛大にケチをつける始末。
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「俺ちゃんも死んでみよ〜と」言って気軽に死ぬデップー、さすがっす。
そして爆破とともに始まるオープニング・・・ア!?!?!?!? ここは激テンション上がりました。やばかったですね。 まさかの007パロ!!!!!そして歌はセリーヌ・ディオン。 007まで食い物にしちまうのか!と大興奮でした。 ガンバレルに、ヌルッとした映像の動き、暗めの色彩、完全に007でした。
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エンディングでもスペクターのポスターの格好したデッドプールのイラストがありましたね。
そしてケーブルへのターミネーターネタ。 ターミネーターというワードはなかったですが、「ジョン・コナー」や「審判の日」など、確実にわかるネタを入れてましたね〜
ちなみに、ケーブル役のジョシュ・ブローリンは、マーベル作品で、最大の敵・サノスを演じているんですよね。 きちんと中の人ネタもぶっこんでました。
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中の人ネタで言えば『グーニーズ』ネタもありましたね!
もちろんケーブルへのサノスネタだけではなく、他のキャラクターのマーベルネタも。 ドミノを「黒いブラックウィドウ(ブラックブラックウィドウ)」と呼んだり、ドーピンダーを「ブラウンパンサー」と呼んだり、やりたい放題。 追いかけてくるケーブルに「ウィンターソルジャーかよ!」とデッドプールが叫んでるシーンもありましたね。
あとはホークアイか! 刑務所に連れていかれたデッドプールは、逃げたり暴れたりしないように能力を失う首輪をつけられてしまいます。 その時に、「ホークアイと一緒だ」とコメントしてました(笑)
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ホークアイさんだって頑張ってるんだぞ!
マーベルネタがあれば、もちろんX-MENネタもあります。 そもそもX-MENはネタにするというより、ストーリーにがっつり関わっているのですが(笑)
コロッサスが死にかけているデッドプールを、「恵まれし子らの学園」に連れて行くのですが、そこでデッドプールは、プロフェッサーXの車椅子を荒い運転で乗り回していました。
あとは一瞬だけどX-MENのメンバーも登場! 「もっと制作費使ってX-MENのメンバー出してよ!」と文句を言うデッドプールに、チラッとメンバーが顔を出して首を横に振るシーンがありました。
本当に一瞬で誰がいたのかきちんと確認できなかったのですが、サイクロップス、ビースト、クイックシルバーがいたかな? いやー嬉しいですね!
あとはジャガーノートが敵として登場しました。 すっかり忘れていたのですが、そういや『X-MEN:ファイナル ディシジョン』に登場してましたね!
デッドプールの配給会社である20世紀フォックスが、ディズニーに買収されたからか、しきりにデッドプールが『アナと雪の女王』の「雪だるまつくろう」を歌ってたのも印象に残ったな。
もちろん替え歌してたけど!
ディズニーといえば『スターウォーズシリーズ』もネタぶっこんでました。 お下品なネタでかなり攻めてましたね〜
小ネタのフィナーレはおまけシーン! ここが劇場でも一番盛り上がってましたね。
未来からきたケーブルが持っているタイムワープできるアイテムを使って、デッドプールが最後の大仕事に取り掛かります。 まずはヴァネッサを助けてあげる。(よかった!) そして最初の「Xフォース」メンバーだったピーターを救ってあげる。
ここまでならまあよくある展開ですが、ここからがやっぱりデッドプールスタップのすごいところ。 デッドプールはさらに時を遡ります。
さらに時を遡った先には、『ウルヴァリン:X-MEN ZEROO』のデッドプールが・・・! おいおいまじかよ! そしてその向かいには・・・なんと若きウルヴァリンが・・・!!(涙)
はい、『ウルヴァリン:X-MEN ZERO』のデッドプール vs ウルヴァリンのシーンにデッドプールが介入しちゃったのです。
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そんなのありかよ!!!(大興奮)
デッドプールは、過去のデッドプールの頭をぶち抜いて殺します。(そもそも死ぬのか?) 棒立ちになっているウルヴァリンに「気にしないで!」と声をかけ、さらにデッドプールは時を移動。
最後にやってきたのが、『グリーンランタン』の台本を持って嬉々としているデッドプールの中の人、ライアン・レイノルズの元。 もう『グリーンランタン』の文字をみただけで笑えますね。 「大作に出れるぞ!」と喜ぶライアンの頭も、ぶち抜く。
いや〜楽しかったな〜 スタッフも細かいところまでしっかり手を入れてますね。 もちろんここじゃ書ききれてない、というか私が拾い切れていないネタがたくさんあるので、みなさんも小ネタ探してみてください!
相変わらず俺ちゃんお茶目♡
ストーリーでもにょもにょ書きましたが、じゃあおもしろくなかったのかというと、そんなことはない!!
デッドプールは前作同様、口が達者で飄々としてるのに加えて、今作では弱い部分ややさしさを感じるところも。
特にヴァネッサの影響もあって、ラッセルのことはかなり気にかけていましたね。 デッドプールってこんなに思いやりあるキャラだったっけ?と思うほど(笑)
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そういやこの人、能力を手にする前は普通の人間だったんだっけ・・・
本作のデッドプールのキーパーソンは、ラッセルとケーブル、そして「Xフォース」!
まずはラッセルとケーブルの紹介をしましょう。
ラッセルはミュータント能力を持った少年。 ミュータント養護施設で虐待を受けていたラッセルは、自分の能力(手から炎が出せる)で、施設長を殺そうとしていたのです。
虐待を受けていたことを知ったデッドプールは、彼のことを気にかけるのですが、このラッセルが未来でとんでもない悪事を働くのです。
未来で危険な存在となってしまうラッセルを止めるために、未来からやってきたのがケーブル。
ケーブルがなぜ未来からやってきたのか知った瞬間、誰もが思ったでしょう。 「『ターミネーター』じゃん。」と・・・
その通り、ケーブルの存在や目的、行動はほぼターミネーター(笑) これは原作コミックスの通りなのかな?ちょっとその辺がわからないのですが、きちんとターミネーターネタもぶっこんでました。
そして、ふたりの行方を追うためにデッドプールは新たなチームを作ります。 それが、「Xフォース」!
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パクリ?そんなの『デッドプール』では日常茶飯事ですよ。
一番最初のメンバーはオーディションをするのですが、任務は大失敗。 デッドプールとドミノ以外死んでしまいます。 ミュータントが集まる中、普通の人間ピーターの存在がイケてましたね(笑)
そして最終決戦では、ドミノとケーブルに、コロッサス、ネガソニック、ユキオが加わります。 暴走するラッセルの心を鎮めたあとは、ラッセルも仲間に加わり、新たな「Xフォース」が誕生。
この「Xフォース」が今後、シリーズで活躍してくれそう。 すでに「Xフォース」スピンオフの脚本を製作しているようなので、楽しみですね!
パワーアップしたキャスト、そしてゲストも・・・
ライアン・レイノルズ最高だね! 今作でもキレキレの台詞回しを披露していたね! ああいうおふざけキャラがぴったりですね〜。本人も生き生きのびのびと演じていました。
クライマックスで一旦死んでしまったデッドプールが、黄泉の場所みたいなところでヴァネッサと出会うとき、もう死んだからか実験を受ける前の綺麗な顔で登場したんですよ。 あのひっどい顔面(褒め言葉)に見慣れていたから、急にイケメンが出てきてびっくらこきました。
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劇場では、急にイケメンが出てきたせいか、かすかに笑いが聞こえてきました(笑)
そうそう、本来あの顔なんだよね、そうだよね。世界一セクシーな男に選ばれたこともあるもんね。
ジョシュ・ブローリンもよかったですね。 真面目で堅物だけどちょっと抜けてるキャラって感じで、今後も活躍してくれるのかな? コロッサスとキャラ被りしている気もするが・・・まあなんとかなるだろ。
ネガソニック役のブリアナ・ヒルデブランドは美人になりましたね〜! もともとキレイめな顔立ちでしたが、大人になって顔がシュッとしたのか、ますますキレイになった!
そして忽那 汐里ちゃんよ〜 かわいい〜〜〜〜〜!!! 久しぶりにみたらなんだか大人っぽくなったなあ。 でも笑った顔がまだ幼くてキュート。
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・・・とかいってたらもう25歳でした。えっまだ10代かと思ってた・・・
もともと帰国子女だから英語は問題ないだろうと思ってたけど、そもそもそんなに出番なかったですね。 アクションも一瞬だったしな〜
でも見た目が派手だから印象的ではあったな。 あんなピンクの髪が似合うのすごい! デッドプールとの、「Hi ウェイド〜!」、「Hi ユキオ〜!」のやりとりは癒されました。 今後のシリーズでも活躍して欲しいな〜!
そうそう、先程は細かく書きませんでしたが、カメオ出演が超豪華だった。 そして私はどちらも気づきませんでした・・・(笑)
まずはケーブルが未来から現代にやってきたときに声をかける男が、マッド・デイモンとアラン・テュディック。 マット・デイモンはまたカメオ出演かーい!!! 『マイティ・ソー バトルロイヤル』にも出てましたね。
そして最初の「Xフォース」のメンバーの一人として登場するのがブラッド・ピット。
まじで!?!?!ブラピ!?!? ブラッド・ピットが演じるのは、透明人間になれる能力を持ったキャラクター。 最初は顔すら出てこないのですが、最後に電線にひっかかって死ぬ瞬間に、本当に一瞬だけ顔がみえます。
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時間にしてマジで1秒とかそこらなので、初見じゃ絶対わからない・・・
ぜひこれから鑑賞される方は探してみてください。
アクションはよりスタイリッシュに!音楽もガンガン使うぜ!
アクションは前作よりもさらに立ち回りがキマってましたね! ド派手な演出、というよりはスタイリッシュで洗練された動きが印象的だったのですが、監督が『ジョン・ウィックシリーズ』、『アトミック・ブロンド』のデヴィット・リーチなんですよね〜
オープニングに流れたスタッフロールで「『ジョン・ウィック』で犬を殺した人」と紹介されていて、あ、デヴィット・リーチなんだ!と気づいたので(笑)、アクションも彼がつくったものとしてみれておもしろかったです。
同じシリーズでも監督によってやっぱり雰囲気変わりますよね。 前作では勢いや迫力がより全面に押し出されたアクションでしたが、今作は「魅せる」アクション、という感じで、また違う良さがありましたね。
立ち回りが計算されていて、アクションシーンのワンカットワンカットがかっこいい。 これはデヴィット・リーチ監督の強みかもしれませんね。
一番好きなのは、ミュータント輸送車の中でケーブルと対峙するシーンかな。 ふたりの取っ組み合いもいいですし、飛んでくる銃弾を刀でかわそうとするあの動きもかっこいいわ〜 銃弾がもろに被弾しているっているオチも『デッドプール』らしくて最高。
日本の東京でもお仕事してましたね〜 本編の序盤で、世界各地で仕事をしていたことを回想するシーンがあり、日本もここで登場。 相変わらず海外作品で作られる日本のシーンはシュールなんですよね。
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あの温泉なんだかヤクザのアジトなんだかよくわからない場所はなんなんだ(笑)
音楽も今回は途切れることがなかったんじゃないかってくらい、たくさんの楽曲が使われていましたね。 タイトルは全然思い浮かばないのですが、一度聞くとああどっかで聞いたことあるな、と思うような懐かしい曲が使われていました。
前作に引き続き、デッドプールの「音楽スタート」も! そのシーンもめちゃくちゃおもしろかったな〜
総評
評価
ストーリー
(3.0)
キャラクター
(4.0)
キャスト
(5.0)
演出
(4.0)
映像・音響
(4.0)
総合評価
(4.0)
良かった点
映画などの小ネタがてんこ盛り
アクションがスタイリッシュ
小ネタは一回じゃ拾いきれないほどたっぷり仕込まれてました!
悪かった点
シリアスなのかコメディなのかよくわからない
オチを全部笑いに変えるので、マジなのかふざけているのかわからなくてあまり共感できなかったのが残念です。 まあそれが『デッドプール』らしいのでここはなんとも言えないところですが・・・
まとめ
正直言えば、前作の方が私の好みだったかな! 振り切ったクソ感が爽快で、ハマったんですよね〜
今作は、しっかりしたテーマがあって、作品に重みができていて、それが私はちょっとハマらなかったですね。 でもその分作品そのものの、見応えはあるかと思います。
でも映画の小ネタはボリュームアップしているし、アクションはスタイリッシュでかっこいいし、前作よりもおもしろいと感じたところもたくさんありました。
小ネタを楽しむというのも本作の魅力の一つなので、何回も観にいって楽しむのもよさそうですね!
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reco9isle · 7 years ago
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1-4
 帰還したリコナとローガンは、身支度を整えてから、揃って村長の家を訪ねた。  そして、ここ数日の森の様子や、アオアシラの死骸のこと、そして光る海と、海から覗いた影のことを伝える。伝えて、訊いた。  一体あれはなんなのか? その心当たりを。  応えは程なくして返ってきた。村長の顔を彩るのは渋面ともつかない微細な苦みだ。ため息と共に吐き出された紫煙はゆっくりとほどけて、天井へ上っていく。 「心当たりがある」 「それは?」  急かすように言ったのはリコナだった。それも当然だろう。ここしばらくの、得体の知れない危機感や疑問が解消されるのだから。 「それは、ラギアクルスと呼ばれておる」 「ラギアクルス……その名前は、聞いたことがないな」 「ローガンは、以前は大陸でハンターをしていただろう。知らなくてもおかしくない。何せラギアクルスは海に棲むものなのだからな」 「なるほど」  それから村長はラギアクルスについて知っていることを語った。  ラギアクルスは別名では海竜と呼ばれ、近隣の島々でも書物や詩歌にと語り継がれている存在だという。そして海に棲み、雷を操る故、その際には海が光ること。普段は人界に立ち寄る事はないが、たまに姿を見せることがあることを口にする。 「神様の遣いとする話もある。そうすると、刺繍のパターンにも使われる場合があるわけじゃ。ほれ、ここを見なさい」  村長が、足元の敷物にある一点を指さす。  そこには首の長い竜のようなものが描かれていた。  そして近くには雷雲と、舟の刺繍。舟には皿をもった人の姿がある。先ほどの話を考えれば、これは嵐を収めて貰おうとラギアクルスに捧げ物をするシーンを示しているのだろうか。リコナは、もうじきやってくる雨季の事を思い出した。  符号していると思った。ラギアクルスの外見やもうじき雨期に入ろうかと言う時期に、それから雷を操り海を光らせるという点。 「よく分かった」  リコナが思案している横で、ローガンはそう言って席を立とうとする。 「ちょっと、ローガン?」 「なんだ」  呼び止められた男は面倒くさそうな目でリコナを見る。 「いや、なんだじゃなくて。これからどうするか決めなきゃ……」 「それは決まっているだろう。無視するんだよ」 「ええ……?」  ローガンが深い息を一つついて、座り直した。 「神様扱いされていて、供物を渡したこともある。この刺繍にあしらわれた事や言い伝えの全部が真実とは言わないが、だとしてもこいつはそうそう人間に危害を与える存在ではない」 「そうかもだけど」 「いいか? お前が勝手に嫌な予感を抱いているだけで、ラギアクルスとやらは未だ何もしていない。やったことと言えば、リコナが把握してる限りでも僅かに二度、アオアシラを喰った事だけだ。竜だって腹が空けば飯くらい食う。その程度の話だよ」  そう言われてしまえば、それはその通りだった。反論の余地もない。 「ちなみに村長、ラギアクルスってのはどのくらいの大きさなんだ」 「言い伝えでは頭から尾まで、大人が四、五人といったところだと聞いておるが」 「結構大きいか……。まあ、いざとなっても狩れないレベルじゃないだろう?」  そう言いきるローガンは頼もしい。  きっと何かが起こった時にはラギアクルスを狩る気ではいるのだろう。そう思いつつもリコナは釈然としなかった。
 * * * 
「それはきっと、何かが起こってからでは遅いと思ってるかどうか、ではないでしょうか?」  疲れた体を引きずって自宅に帰ったときには、もう真夜中になっていた。手早く汗を流して着替えたリコナに、その従者であるカナトは言う。  彼は漁師が大半を占めるこの村の子供としては線が細い方だ。それは彼の体が人より少し弱いことに起因する。その代わりと言っては難だが、同年代の男の子のなかでは飛び抜けて賢かったし、落ち着きがあった。だからこそ、リコナはカナトのことを従者に選んだのだ。 「……そうだね」  そして、その通りだ。何かが起きてるということは、それについて既に手遅れなのだから。 「リコナさんは、ずっと何かが起こる前に対処していましたから」 「それって普通でしょ? 誰かが怪我したり、死んだりしてからじゃ遅いじゃん」 「うーん、それはそうですね。ただ、そうあり続けることは、リコナさんにとって、やはり負担なのだと思っています」  そう言ってカナトは、机の上に広がった地図や、壁に貼られたモンスターの目撃情報メモの方をちらりと見た。それらは全て、リコナが誰にも言われるでもなく、自分の手に届く範囲を守るために収集した情報の積み重ねだった。  常に新しい情報を入れるために、リコナは狩りに出ない日も部屋にこもって眠り更ける……ということはしない。出かけて、村人の仕事を手伝うことすらあった。夜は夜で、見聞きした情報をまとめて、考察をする。その結果、危険だと思えば狩りに行くし、もちろん問題ないとする範囲ならばわざわざ狩ることはしない。  それはとても勤勉な姿だ。だからこそ負担もあるとカナトは言う。 「まあねえ」  リコナはベッドに寝そべり、さもありなんと思う。そういう細かい心労や肉体の疲労は、全て、心当たりのあることだ。だからといって、止める気はないけれど。  ローガンの部屋を思い出す。彼の部屋には酒瓶がたくさんあった。それが彼のストレス解消方法なのは容易に想像がつく。自分にとってのそれは、きっと……。リコナはそう思いながら、目を閉じる。  疲労は、彼女の意識をあっという間に眠りへと誘った。  その翌日、リコナはいつも通り夜明け前に目を覚ました。  動きやすい服装に着替えて、軽くストレッチを始める。黒いレザーのトップスとホットパンツは、リコナがハンターになる際に教官を務めた人物から記念にと贈られたものだ。戦うには心許ないので実戦では使っていないが、体の動きを阻害しないのでトレーニングには便利なものだ。  一通りストレッチを終えると、付属の鎧を着ける。彼女の持つ最も上等な鎧よりは全然軽いものではあるのだが、重要なのは、少しでも重いものを身につけると身体の動かし方も変わるということだ。 「さて、と。……っとお!」 「わ、すみません」  部屋を出るところで、リコナはカナト少年とぶつかった。カナトの手にあったバスケットが揺れて、危うく落ちかけるのを、リコナは空中でキャッチする。 「今日も早いね、カナトくん」 「いえ、リコナさんこそ。昨晩は遅かったので、さすがに寝ていらっしゃるかと思いました」  従者はハンターの家に住み込むことも出来るのだが、冷静に考えればカナト少年も思春期なわけで、と思って通わせている状態だ。それでもいつも、カナトはリコナの起床に合わせて部屋を訪れていた。  ふと、ローガンは……というよりラシェアはどうしてるのだろうと考えかけて、リコナは頭を振った。それは考えても詮無いことだ。 「目が覚めちゃってね。まあ適当に流して直ぐに戻るから、部屋で待っててね」 「はい」  切り替えよう。リコナはバスケットをカナトに返し、大地を蹴った。  身に纏った軽装の鎧は、心地よい重みをもたらし、カチャカチャという音を響かせる。潮風が素肌を擽った。今日は港の方まで足を伸ばしてみよう。リコナは軽快な足取りで坂を下る。
 * * * 
 村を一回りした後、リコナは部屋に戻った。カナトが持ってきたバケットから朝食を摂り、それから地図を手にベッドに座る。 「何か、気になることでもありましたか?」 「ちょっとね」  リコナは地図をざっと見ると、昨日、目星をつけたメラルーの住処や生活圏、アオアシラの死骸の発見地点を割り出して印をつける。随分と時間が経った気がするが、案外しっかり記憶していることに自分の事ながら感心する。 「ふむ」  印を指で辿ってみる。  それらは一直線とは行かないまでも綺麗に道なりになっており、リコナの推測が正しいことを教えてくれた。 「間違ってない。と、思う」  最後に、あの時ラギアクルスがいたであろう箇所にバツをつける。  ラギアクルスは海に棲む竜種だという。アオアシラが海岸を歩いていたところ、突然襲われたと思われた。油断していたアオアシラは、その初撃で絶命したはずだ。  ラシェアと薬草取りに出かけた日に現れた方のアオアシラは、逃げ出す事には成功したのだろう。しかしその傷は深く、パニックに陥りながら逃げるうちに失血……力尽きるに至った。 「んー」  リコナはそのまま仰向けに寝転んで考える。ローガンの言葉が脳裏に残っていた。  ラギアクルスは餌を獲っていただけで、まだ何の問題も起こしてない。だからまだ狩る必要はない。  確かにそうだ。そもそもラギアクルスがいた場所も、村からは離れた狩猟区の奥。心配するのも馬鹿らしいほど遠いのだ。 「カナトくんは、もし隣にとても凶暴な肉食のモンスターがいたとして、でもこのモンスターは人を襲ったことがないから平気だろうって言われたら、納得できる?」 「どうでしょうか……」  カナトは微妙な苦笑いを浮かべる。それがリコナの意地悪な設問なのが直ぐに分かったからだ。  本音を言えば、大丈夫ではない。怖いだろう。例えそれがアオアシラであり、鎖に繋がれ、檻に入っていたとしても恐ろしいものは恐ろしい。でもそう答えるということは、リコナを戦いに駆り立てることと同義だと思えた。  この世界での暮らしは、何処までいってもモンスターの直ぐ隣。モンスターという危険な隣人を許容しなければとてもではないが、この世界の何処にも安寧の地は見出せない。しかし、それが隣にいることが分かっていて、平然とすることもできはしないのだ。いつ、その牙が、ひとを脅かすかも知れない限りは。
「でも、僕は、リコナさんの思うことであれば、信じたいです。リコナさんが、平気だって言うのなら」 「……そうだね」  リコナは小さく嘆息する。  カナトの言いたいことはつまり、リコナが常に村の安全を第一として、精力的に狩りを行ってきたことに対して、信頼したいとする考えだ。  リコナというハンターは、少しでも危険を見出せばそれらを全て排除してきた。だからこそ、そのリコナが安全だというのなら、それは妥当なものであると。  でも、自らの幼い従者が、そんな打算的な思いの下に言葉を発したとは思いたくなかった。リコナは、カナトの感情をこそ、受け取りたかった。 「あの、僕は何か間違ったことを言ってしまったでしょうか?」 「ううん。そんなことない。カナトくんの気持ち、嬉しいよ」  本音だった。本音だと思いたい。リコナはそう思う。  リコナはそこで手にした地図をテーブルの上に放り投げた。それから少しだけ勢いをつけて立ち上がる。  何となく気分が暗くて、気合いを入れないと立ち上がれなかった。 「お出かけですか?」 「うん。また少し、走ろうと思う」 「ええっと、疲れてませんか?」 「それとこれとは別の話だよ。ハンターは体力勝負。その体力は日々の鍛錬で培うもので、サボればそれだけ体力は落ちちゃうの」 「うーん。仰りたいことは、分かります」  そう言いながら、カナトはリコナの進路を塞いだ。 「言ってる事とやってることが違ってるよ」  リコナは困ったように言うが、彼は首を振って、リコナのことをベッドに押し戻した。休め、と言うことか。リコナは思う。  リコナがベッドに腰掛けたせいで、彼の方が少し目線が上になる。そうすると、リコナは少しだけ落ち着かない気分になった。 「ここ最近、リコナさんが何かを気にして気を張ってることは、誰の目から見ても明らかだと思いました。その結果、リコナさんが体調を崩したら、僕は何のために従者をしているんだということになりかねません」 「そう……かもね」 「というわけで、今日はお休みです。久しぶりにマッサージでもどうですか?」  カナトはそう言って、身軽な動きでリコナの後ろに回った。  指先が首筋をさわりと擽って、それから肩をぐっと押し込む。ぞわりとしたのは一瞬で、じわりと広がる気持ちよさにリコナは深く息を吸った。  どちらかと言えば、リコナもマッサージをする側の立場だ。長老衆の集会所では、リコナはよくよく肩揉みをお願いされる。若い女性に肩を揉まれるというのは、肉体、精神共に一定の快楽を伴うものなのかも知れない。リコナは年寄り臭いと思いながらもそれに同意するに近い事は考えていた。  触れ合いというのは、どこかで欲してるものなんだなと。  肩をひとしきり揉んでから、カナトはぐいぐいとリコナの背を押す。どうやらまだまだ続けるらしい。リコナがベッドに寝転ぶと、カナトと覚しき重みがかかって、微かに息苦しくなるのを感じた。 「カナトくーん、体重増えたんじゃないかなぁ」 「どうでしょうか。自分ではよく分からないです。でも、友達と比べればまだまだ全然軽いとは思います」 「うーん」  そうかもしれない。村で見かける子供たちは、子供であっても筋肉は結構あるように見受けられるから。そもそも、そういった子らは背中に乗せるのはいろいろ心配だろう。悪戯的な意味で。上で跳ね飛ばれたりして、腰を傷める羽目になっては叶わない。  リコナは、身体の奥から滲み出すように出てきた睡魔を噛み殺しながら、カナトの指先の感覚を追うのに集中した。  肩から、背中を押して、腰へと降りて、ちょっと飛んで、太腿に触れる。太腿に触るときに少しだけ戸惑いが感じられるのはご愛嬌だろう。  彼にとって、このマッサージは生殺しなのか、ご褒美なのか。少しだけリコナは気になったが、その脳内議会が立ち上がる前に、その意識は眠気の波にさらわれていく。  さすがに無防備すぎではないかと思ったが、それは眠気を散らすほどの感情には満たなかったようだった。
 * * * 
 木々が粉微塵に砕け、水柱が高く立つかのような轟音で、リコナは目を覚ました。  部屋は暗い。夜になってしまったようだ。一つだけランプが付いているのは、カナトが自分のためにつけたものだろうと思う。扉は開きっぱなしになっており、カナトの姿は室内にはなかった。  リコナはゆっくりと身体を起こすと、念のために双剣を持つ。部屋を出ると、少し離れたところにカナトは立っていた。 「カナトくん。今の音って……」  轟音で目が覚めたにしては、静かだった。リコナが暗闇に立ち尽くす従者に並ぶと、そこからは村を一望することができた。リコナが住む家は、村の高台にあるのだ。  しかしそこに広がっていた光景は、のどかな村の港ではない。  ごうっと風が吹く。  風は焦げ臭い。  リコナは眼下に広がる光景に絶句した。港が燃えている。海の上に浮かぶデッキはバラバラになり、陸上にある部分は燃え盛り、闇夜を煌々と照らしていた。  遅れて、悲鳴と、何かが激しく燃える音が、耳に届く。 「何なの、これは」  リコナは呟いた。  目の前にある光景が信じられなかった。これまで必死に守ってきた村が、燃えている。  何で?  そう思った瞬間、村に、咆哮が轟く。青い光が、闇を奔った。そしてまた何処かが燃える。 「まさか……、こ、の……!」  気付いたときには、リコナは走りだしていた。  クロオビの装備は、耐久性が不安だとか、そういうことは脇に置いておく。むしろ普段着に着替えてなかったことこそ僥倖だ。  一息に坂を駆け下りると、そこはまるでまるで地獄絵図かの様だった。家屋は燃え、砕けた木片は辺りに散らばっていた。そしてそんな破滅の光に照らされ、薄暗闇のなか睥睨するのは、海竜だった。  何が、村からは離れた狩猟区の奥だからだ。馬鹿なんじゃないのか。リコナは歯噛みした。相手は海を縄張りとする竜なのだ。だとすれば、安全なのは内陸に村がある場合であって、間違っても港のあるような海沿いの村は安全ではない。  リコナは双剣を構え、ラギアクルスと対峙する。  しかし、かの竜は、余りにもあっさりと背を向けると、水底へと潜っていった。 「ちょっと……!」  拍子抜けだ。納得できない!  リコナは海に飛び込もうとして、誰かに腕を掴まれる。  そして目の前で、村を滅茶苦茶に蹂躙したラギアクルスは、姿を消した。後に残ったのは、バラバラに砕かれて燃える港と、無力なハンターの少女だけだった。 「落ち着け」  そう声がして、リコナは自分の腕を掴んで止めているのがローガンだと気付いた。 「なんで止めたの!」 「お前な……夜の海だぞ。俺はそこまで海の狩りには詳しくないが、これだけは分かるって事がある。今飛び込んでも、暗くて何も見えやしない。返り討ちに遭う可能性が高いって事だ」  正論だ。  だからこそラギアクルスも、去ることを選んだのだろうと思える。海のなかは海竜のフィールドであり、ハンターの領域ではない。夜の海であれば尚更だ。 「それより、手伝ってくれ。ラシェアが見つかってない」  追い打ちのようなローガンの言葉にリコナは総毛立つのを感じた。冷や汗がどっと溢れて、声が震える。 「どういうこと!?」 「タイミング的には、俺の所から家に帰っているところかと思う。いつもどういう道を歩いてるのかは分からんが、もしかしたら港を通ったかもしれない。とにかく、ラシェアが見つかってないんだ」 「嘘……」  リコナの脳裏にラシェアの顔が浮かぶ。この村に来てからの付き合いではあるが、親友と呼んで差し支えない相手のことだ。  辺りを見渡す。この酷く荒れた港の何処かにいるのだろうか? リコナは駆けた。  駆けつけた村人たちの姿が見え始めていた。そちらにも目を向けるが、やはりラシェアはいない。ラギアクルスはアオアシラを襲っていた。それは食糧を得るためだ。でも、だからといって、まさか。 「リコナ、こっちだ!」  ローガンの声に、少女はハッと顔を上げた。声を頼りに合流すると、ローガンはラシェアを抱きかかえていた。ぐったりと、ローガンに身体を預けている。 「大丈夫なんだよね?」 「目立った外傷はないと思う。血が出てる様子もない。単に気を失ってるだけ、だと思いたいな」 「とりあえず、休ませよう」  リコナの言葉に、ローガンは賛成だと頷いた。 「リコナは、ここで引き続き、行方不明になってる奴とか、怪我人がいないか見ててくれないか。俺も、ラシェアを寝かせたら直ぐに戻る」 「わかった。ラシェアのこと、お願いね」  夜中にも関わらず、港はざわつき始めていた。でもそれは普段通りの何処か心地よい喧噪ではなくて、例えば手を貸してくれと叫ぶ声だったり、見るも無惨に破壊された港を嘆く声だったりした。  悲痛だった。無力だった。  リコナは泣き叫びそうになるのを堪えた。きつく手を握りしめた。でも握った手は何処にも振り下ろせなくて、自嘲する。  こんな思いをするためにハンターになったんじゃないのに、と。 「リコナちゃん、すまねえ、こっち手伝ってくれえ」  誰かの声がする。  リコナを必要とする声だった。少女は己の無力を忘れるために、その夜が明けるまで、我武者羅に働いた。
 * * * 
「おい、リコナ?」  ローガンの声が聞こえた。  反応して、身体を動かそうとするが、それは上手くいかなかった。  リコナは、眠りの淵にある己の状況を見直そうとする。しかし、港で人助けして、片付けをして、それ以降の記憶は見つからなかった。  目を開く。目の前にあったのはベッドの脚だ。どうやら家に帰り着いたところで限界を迎えて、意識を失っていたらしい。硬い床の上で眠っていたせいか、彼女の身体は強張っていた。 「リコナ、返事をしろ」  扉がどんどんと叩かれている。これ以上、返事がなければ今にも侵入せんという勢いだった。昨晩の事を考えれば当然ではあるが。  リコナは身体に力をこめて、立ち上がる。床に倒れたの無様な格好で迎えるわけにはいかなかった。着替えもしてないし、とても他人様に見せられる様ではない事に気付く。慌てて扉の向こうに返事をした。 「起きたみたいだな。別に急がなくてもいいが、ラシェアの家に行ってやれ。目を覚ましたらしいからな」  リコナは慌てて身支度を整えるが、着たままにしていたクロオビ装備を干す頃には、日は高くなっていた。水が滴る髪を乾かすのももどかしく、歩くうちに乾くだろうと家を出る。  そこで、ちょうどカナトが歩いてくるのにかち合った。 「あ……」  気まずそう��表情を浮かべた。カナトの視線がリコナの顔を捉えて、それから地面に落ちる  手にはいつもの、パンの入ったバケット。 「おはよ、じゃなくて、こんにちは……かな」 「……はい」 「珍しく寝坊しちゃってさ、はは、カナトくん���?」 「そう、ですね」  歯切れの悪いカナトの様子に、リコナは首を傾げた。彼は体質上、常から声にそこまでの張りがあるわけではないが、変に言葉尻を濁したり、あからさまに沈んだ声を出すことは珍しかった。 「どうしたの?」  リコナはチュニックの裾を押さえて、カナトの前にしゃがんだ。覗き込んだ彼の顔は、今にも泣いてしまいそうに見えた。 「僕の……あれは、僕のせいです。僕が、リコナさんに休んだ方が良いって言って、だけど、いつも通り見回りしてたら、もしかしたら気付けてたかもしれなくて」 「……それは」  昨日は全然、そんなことは思わなかった。だけどそう思っても仕方のない事かもしれない。  その二つは、少しも無関係だとは思えないほどの関わりがあった。確かにリコナが外にいれば、眠っていなければ、それはもう少し早くに分かったのかもしれなかった。それは事実かもしれなくて、カナトはそれを気に病んでいた。
「カナトくん」  でも、それはそれだ。 「それは、カナトくんが背負う重みじゃない」  リコナは、カナトの持っていたバスケットを脇において、それから少年の身体を抱きしめてやる。 「それは、ハンターである私が背負うべき重みだからさ。カナトくんは気にしなくていいの」  そうなのだと、リコナは自分でも思った。  確かにカナトは、リコナに休むよう気遣いから提案した。でもリコナは、村の安全の為に、それを断ることができたのだ。ラギアクルスの事を知っているのだから、そうするべきだったのに。  それは、ハンターであるリコナの判断の誤りであって、カナトの発言に責任はない。 「それはカナトくんが、ちゃーんと従者の仕事を考えてるって事なんだよ。私はそれが嬉しい」「でも」 「でも、じゃないの。私はね、あの竜の事を知っていたの。そういうやつがいるんだって知ってて、危ないなって思ってたの。でも些細な事ばかり気にしててさ。それで、見誤ったんだ」  それは言うまでもなくローガンのことだった。彼と足並みを揃えるべきなのではないか、という遠慮だ。  でも、ローガンが来なければ、リコナは一人でさっさとラギアクルスを倒しに行くはずだった。そうしたら、こんな酷いことになんてならなかったのだ。 「カナトくんだって、それを知ってたら、休んだらなんて言わなかったはずだった。でも、私は直接には言わないで、曖昧な事を言ったから、それはカナトくんには分からないわけで」 「それは……」 「ほら。だから、カナトくんは悪くないよ。それは、私の重みなんだよ」 「…………はい」  答えるのを待ってから、リコナは、抱擁を解いた。  カナトは、今にも泣きそうな顔だった。必死にこらえていたけど、それでも、もうすぐそれは決壊して、泣いてしまうんだろうとリコナは思う。  それでも我慢している姿は、とても強かった。 「私は、ちょっとラシェアのところに行ってくるよ。しばらく戻らないけど、お腹は空いてるから、家で待っていて」  一緒に食べよう?  そう言ってリコナは少年の頭を撫でて、それから、その場を足早に去った。カナトが見せた強がりを無駄にしないように。  悔しいだろうなと、思った。  その口惜しさを、消化しないまま奪ってしまったのはリコナだ。でも、これでよかったのだとも思った。カナト少年は、身体が弱い。日常生活に苦労するほどではないが、生まれついた体力の無さはその細い線に表れていて、ハンターを目指すことなど到底できないだろう。  モンスターに関する悩みの殆どは、その相手を討ち倒せば解決できる。今回の事も、そうだ。でもそれは、カナトには叶わない。だから最初から、彼にその口惜しさを自力で解消できる手段なんてなかったのだ。
 * * * 
 カナトと分かれたリコナは、村はずれにあるイクスジニア家を訪ねた。イクスジニア家は、村の薬師の家で、ラシェアはその三姉妹の三女だった。  リコナが家に入ると、計四対の視線が彼女を刺した。刺したというのはリコナの主観で、それは事故を防げなかったという負い目から来るものなのだが。 「リコナちゃん、よく来たわね。ラシェアはもう起きてるから、ちょっと話し相手になってあげてよ」  イクスジニアおばさんは、そう言ってリコナを歓迎した。  姉妹の二人も、やれ「ラシェアったら薬が苦いなんて文句言うのよ、薬ってそんなものだって自分で分かってるだろうのに」だとか「ちょっと怪我してるからって果物が食べたいなんて姉を使いっ走りさせるなんて」だとか、口々にリコナへと愚痴を向ける。  誰も、これがリコナの怠慢から招かれたことだとは思っていなかった。それが少し彼女の気持ちを軽くする。会釈して、リコナはラシェアの部屋に入った。  ラシェアは憮然とした顔で「もう苦い滋養強壮剤なんて要らないわ。怪我もしてないのに……」と言ってから、それからリコナの姿を認めて、笑顔になる。 「あら、お見舞いに来てくれたの?」  そう言われてから、リコナは特に何も持ってきてないことに気づいた。不死虫がひとつまみもあれば、冗句にはなったかもしれないのに。 「えっと、顔を見に来ただけだよ」 「それを、お見舞いに来たと言うんじゃないかな……」  ラシェアが苦笑して、ベッドの上で身体を起こした。  部屋の空気が動くと、リコナの鼻腔を快い香りが擽る。花の香りだ。ポプリか何かか。部屋の主に似た優しさを感じた。 「ラシェア、無理しなくていいよ」 「ううん。平気。というか、特に怪我はしてないの。元気だし。なのにこんな大事みたいにして、心配性よね」 「……ラシェアの事が大切なんだよ」  リコナは、ベッドの縁に座り、身体を起こしたラシェアの様子を窺う。  確かに、ローガンの見立てや彼女の自己申告の通り、目立った傷はないようだ。身体を起こす所作も、微かに気怠げな雰囲気が混じるだけで、筋を傷めているとか、骨を折っているとか、そういった気配はなかった。 「そうそう、リコナかローガンが来たら聞こうと思ってた事があるの」 「?」 「姉さんたちがこんなに私に構ってるってことは、怪我人は居なかったって事で良いんだよね?」 「少なくとも昨日の段階では、ね。今日、正確な被害がハッキリすると思うけど。怪我に関して言えば、たぶん、ラシェアが一番、重症なんじゃないかな」 「よかった」 「うーん、それは、よかった……と言えるのかなあ」  あっけらかんと、被害者が思ったより少なかった事を喜ぶラシェアに、少女は微妙そうな笑みで返す。見た目、怪我はしてない。だけど気は失っていた。その時点で、何事もなかったはずがない。  あの夜、何が起きたのか。リコナは正確に知る必要があった。  ラギアクルスが襲撃し、港の一部が破壊されたというのは、あくまでもアウトラインだ。詳細ではない。そしてそれを聞くのは、ラシェア以外ではあり得なかった。 「……いや」と、リコナの口元が小さく動く。  それはやっぱり、言い訳にしかならない情報だ。  結局、ラギアクルスを討伐するのは間違いない。そして、リコナは、それを可能な限り早く成したかった。引き延ばすほど、村が危険に曝される可能性が高まるからだ。  でもローガンにとっては、今回のラギアクルスの襲撃は未だ様子見の領域みたいだった。そのつもりなら、第一声は、ラシェアの体調ではなくて、討伐についてだったろうからだ。  彼が考えているのは、精々、夜中にもちょっと見回りしよう、程度のものだろう。それが、彼のスタンス。  そうしたらリコナは、討伐を早める理由をローガンに示さないといけない。もしラシェアの体験のなかに、ラギアクルスの危険性や再襲撃の可能性を示唆するものがあれば、それを足がかりにしてローガンを説く事になるだろう。そのために正確な情報が知りたいが、それは、リコナの都合だ。 「? リコナ、どうしたの?」  ラシェアが、数瞬、意識を逸らしたリコナの顔を覗き込んでいた。心配そうな表情だ。心配なのはこっちなのにと、リコナは思った。  ラシェアに問うことは簡単だ。  でもそれを聞いたら、彼女はそれを思い出すことになる。昨晩の、お世辞にも素敵とは言えないであろう恐ろしい体験を反芻することになるのだ。  それは、自分の都合によって引き起こされてよい事だろうか? リコナは、言葉を飲み込んだ。 「ん……明け方まで作業があったからね。ちょっとは寝たんだけど、本調子じゃないのかも」 「お疲れさまだね」 「いえいえ。じゃあ、そろそろ帰ろうかな。カナトくんも待たせてるし」  リコナは立ち上がる。小さな未練のようなものが、身体を重くしたような気がした。  いや、気のせいじゃない。服を引っ張られてるのだ。誰に何て、考えるまでもない。 「なーに、ラシェア?」  振り向いて、リコナはどきりとする。 「……リコナ」  声は、震えていた。  気丈に笑っていたはずの表情は凍っていて、ラシェアは今にも泣きそうな顔で、リコナを呼び止める。  リコナは座り直して、ラシェアの頭を撫でてやった。  ああ、なんて馬鹿だったんだ。人の痛みと言うものがまったく分かってない人間だ。カナト少年には大人のふりをする事はできた。でも、それはあくまで自分の為の行動に理屈を付けてるだけのことだったのだ。  リコナは溜息を押し込めて、ただ、友を労る。  恐ろしい体験を反芻させることになる、というのはリコナから見ての話だった。実際は、彼女はどの道、絶対に反芻することになる。だから怖いことを怖いまま抱えることの方が、辛いに決まってるのだ。  それに触れないで置くというのは、その恐怖の解決に手は貸しませんよと突き放すのと同じこと。  リコナは、それでよかった。恐ろしいモンスターとの邂逅を経た後でも、ハンターだからという思いがあれば、自重を支える事ができた。  でもラシェアはそうじゃない。  ハンターじゃないから。見た目で平気そうだなんて思わないで、きちんと気を配るべきだったんだ。 「ねえ、ラシェア。昨日、何があったか聞いていいかな。その重みを、少しだけでも私に預けてほしいんだ」
 * * * 
 リコナはローガンの家に向かった。帰りは遅れるが、カナト少年には後で一言謝りを入れれば済むと思う。それよりも重要なのが、ローガンと今後の事を話すことだった。  結論を言えば、ラシェアの話は、何の新情報ももたらさなかった。ただの主観的な話である。そして後から現場を見れば分かるくらい、ざっくりとした記憶。  ��シェアは大きな恐怖を感じていた。そしてその恐怖が、辺りの様子や経緯を記憶することを阻害した。  あるいはショックを和らげるために、詳しいことを忘れてしまったか。  まあ考えてみれば分かる事だ。彼女の話によれば、ラギアクルスとは、かなりの至近であったという。そして彼の竜は雷を放ち、巨体をうねらせて、港を破壊していた。  目の前で暴れる竜、見慣れた港が破壊される光景。これが怖くないというのなら、何を見ても膝を抱えることはないだろう。  だから、仮にローガンが、リコナの見立て通りに、直ぐに討伐しようだなんて少しも思ってなかったら、それを論理的に説得する手段はない。すごく怖がっていたから、というのは、感情論に過ぎないからだ。目の前にいて怖くない竜種なんて存在しない。重要なのは客観的に危険かどうか。けれど。  考えている間に、ローガンの家に到着する。逡巡は、一呼吸だけ。  感情論で結構。  リコナは戸を叩いた。 「リコナか?」 「はい」 「……お前、明日じゃ駄目なのかよ」 「駄目です」  きっぱりと即答する。  対する返事は少し間があった。扉が開く。そこにいたローガンの顔は面倒臭いという表情だったし、リコナの顔を見て、さらにその色は深まった。 「とりあえず入るか」 「ううん。ここでいい」 「そうかい。で?」 「その」  リコナは、ローガンの顔を見る。面倒臭いという色はなりを潜めていた。何を話そうとしているのかの想像はついているのだろう。 「私は、ラギアクルスを討伐することにした。これについては、私が勝手にそうした方が良いと思っただけなので、はっきり言って、あなたの意見は求めてない」 「……おう」 「決して、邪魔はしないで」 「もし邪魔したら?」 「ラギアクルスと戦う前に、双剣を研ぎ直すことになる」  リコナが言うと、ローガンは参ったねと肩をすくめた。 「……本気なんだな」 「ええ」 「分かった。この村を守ってきたのはお前だ、リコナ。そこまでの覚悟で言うなら、俺も協力する」 「……」 「なんだその意外そうな顔は」 「またそんな非論理的な判断でと、咎められるかと」  ローガンは頭を掻いた。 「そう言って、結局今回のことはお前の言うとおりだったからな。だから今回はお前の顔を立てる」 「今回こそローガンの言うとおりかもよ」  リコナが言うと、ローガンは半笑いで応えた。 「じゃあその時は、その次で俺を立てないといけないな。そう言うときに限ってお前が正しいかも知れないが」 「そうだね」 「……いずれにせよだ。俺は女の刃を受けて死ぬ趣味はない」 「よく言うよ」  二度も裸を見たくせに。とは言わないけれど。 「じゃあ、リコナ。話は終わりだ。今日は休め。明日の朝、万全の体調と、装備で会おう」 「うん」  扉が閉じて、リコナは握りしめていた手を解いた。いつの間にか握っていたらしい。最悪、妨害を受けながらの狩りになると思っていたから。  でも、協力は取り付けられた。  リコナは少しだけ足取り軽く、自宅を目指した。  村には、昨晩襲来したラギアクルスの残した爪跡がしっかりと残っている。幸いにも、死者は出なかったようだが、誰の心にも恐怖を植えつけたことは間違いなかった。片づけをする村人に声をかけながら、彼女はそう思う。守らなければ。それがハンターの使命だ。この村の、爪であり、牙である者の責務であった。  翌日、リコナは身支度を整えて、家を出た。  彼女のまとう蒼い鎧は、大空を統べる王者、飛竜リオレウスの素材によるものだ。それも、ただのリオレウスではなく、その亜種となる蒼き竜のものである。  それは彼女の最高の装備であり、最も気合の入る装備だ。  言うまでもなく、彼女は倒すつもりだった。村を襲った、あの海竜……ラギアクルスを。 「……?」  しかし、ローガンの指定した待ち合わせの場所で待っていたのは、彼の従者となるラシェアだった。 「ラシェア、もう出歩いて平気なの? それも、こんな朝早くから」 「怪我をしたわけじゃないし。ずっと寝てる方が体に悪いから」 ���リコナが駆け寄りつつ言うと、ラシェアはあっけらかんと言ってみせる。その姿に安心してから、そうじゃなくて、と言った。 「ここには待ち合わせで来たんだけど。なんでここに? ローガンは?」  彼女はその問いに、困ったように眉を寄せてから、答える。 「ローガンは、もう出発してる」 「え、なんで!?」 「ええと……」  剣幕に圧されるラシェアの顔を見て、リコナはそこで追及をやめた。それよりも、まず追いつくことが先決だ。 「とにかく、私も急いで向かうから! ラシェアも、気をつけて家に帰ってね!」  要は、先に行っているというだけだ。  腹立たしいが、追いかければ済む話でもある。そう思えば、それをラシェアが呼び止めた。 「リコナ、待って」 「……何?」 「えっと、実はね。ローガンから、リコナを引き止めておけって言われてて」 「どうして?」  と聞きつつも、その理由は想像がつく。  きっと、怠慢で村の港を破壊されたことに対する贖罪のつもりなのだ。しかも相方のハンターが警告していたのに。それを対処不要だと断じてこれなのだから、その落とし前はつけなければならないと思っているらしいわけだ。 「これは、俺の責任だからって、ローガンは」 「そんなの知らないよ」  強く言った。  そんなの知らない。  百歩譲って先行するのは許すとしても、ラシェアを使って足止めにかかるなんて、全く理解不能だ。馬鹿みたい。呟くように毒づいた。 「リコナ……頼みたいことがあるの」  彼女の手には、二つの包みがあった。どちらも厳重に包装されており、中身はよく分からない。大きさは手のひらに載る程度で、一辺五センチもなかった。 「これは?」 「ローガンの薬。これを彼に渡してほしい」 「ふう……ん? 二つも?」  受け取ったそれをポーチに入れる。包みは二つ。よく見ると、一つにはリコナ用、とタグが打ってあった。 「えっと、彼に渡すのは、一つでいい。もう一つは、リコナが持ってて。……本当は、こういうのは良くないの。でも、胸騒ぎがするから……」  ラシェアの言葉の意味を、リコナはうまく理解できずにいた。少なくとも、今の段階では。 「とにかく、片方をローガンに渡せばいいんだよね?」 「ええ」 「じゃあ、行くから」  走り出し、狩猟区への船渡しを目指す。  一度だけ振り返ると、ラシェアはまだこっちを見ていた。
#mh
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magicrazy0808 · 8 years ago
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RWコピペbotまとめ
RW関連 ツイッターに流したコピペbotまとめ
ウルトラ自分向け
以下コピペ
虚「のりつっこみ?ってなんですか」 厄「騎乗位じゃね?」 虚「きじょ……なんですか?」 厄「あ、教えてあげよっか?とりあえずあっちの部屋で」 顎「覚悟は出来てるな」 厄「待って」
厄「あぎたんに『キで始まってスで終わるものなーんだ?』って聞いてみたら『貴様を殺す』って即答されて、速攻で200m逃げた」
顎「凶悪犯に対してエイヂが『暴力じゃ何も解決しねえんだよ!!!』と叫びながら殴り掛かっていったんだが」
虚「UGNで合同作戦会議があったんですけど、厄師丸さんが別チームの女の子にセクハラして泣かせてしまって中断しちゃって。 顎多さんがキレて椅子蹴っ飛ばして『表へ出ろ』、厄師丸さんも応酬して『上等だよ』って言って外に出たんですけど、そこで顎多さんは扉締めて鍵掛けてました。 外からは厄師丸さんの『オ゛ォォイ顎多テメェこのクソアマァ!!!開けろボケぶッ殺してやる!!!』っていう罵声が……後でUGNの人に連行されてました。 あ、顎多さんは振り向いて二秒で『それでこの資料の続きなんだが』って通常運転に戻りました 」
顎「風が強いな」 虚「私のほうが強いです!」 顎「うん」
厄「えいちゃんから『最近カノジョの機嫌がちょっと悪くてさ~』ってライン来てて、寝落ちして無視っちゃってたから慌てて返信したら『悪い、寝取った』って送っちゃって、それで今窓の外から姿の見えない殺気を感じてるわけなんだけど」 
虚「ひじきとこんにゃくの煮物を作ってみたんですが、いまいち……不味くないんですけどおいしくもないんです、おいしい煮物が食べたいです」 顎「鷹の爪を少し入れてみたらどうだ」 虚「なるほど! ……エイヂさーーーん!!!」 顎「違う」
厄「こないだあぎたんと無線で喋ってて、ちょっとセクハラっぽいこと言ったら『ん?何だ?悪いな、よく聞こえなかった。もう一回、言えるもんなら言ってみろ』って言われて、振り向いたら心臓の位置にレーザーポインターが当たってたときの話する?」
エ「自販機で珈琲飲もうと思ってボタン押したら隣のお茶が出てきてさ。じゃあお茶押せばいいのか、と思って押したらお茶が出てくるじゃん。そこにちょうど顎多が通りかかったから『あのさあ、この自販機お茶押したらお茶出てくんだよ!』ったらすごい目で見られて、あの!!!! 俺そこまで馬鹿じゃないから!!!!」
顎「面子で鉄板焼きの店に行ったんだが、店員の『お肉はどのように焼きましょうか?』に対してエイヂが『死なない程度に!』とか答えるもんだから厄師丸が乗っかって『野性的に激しく、かつ憐れみを持って』とか言い出すし、爛崎は『なるべくかわいく』とか言う」 
厄「あぎたんさすがに胸なさすぎじゃない? リポビタンでもDあるのに」
顎「俺が家で冷えてるからクリアアサヒが代わりに現場出てくんねえかな」
虚「この世でいちばん美味しいものって何でしょう?」 エ「人の金で喰う焼肉~~~~」 顎「仕事上がりの一杯」 厄「他人の弱味」
厄「貧乏ゆすりするより金持ちゆすったほうが得じゃない?」
顎「まあ……この件に関しては、胸にしまっておこう」 厄「どこにあんだよ胸なんか」 顎「…………(静かに虚子を指差す)」 虚「しまう……んですか!? 私の胸に!?」
厄「余計なこと思いついた!」 他「「「そのまま黙ってろ」」てください!」
虚「顎多さんちに行ったときに、部屋の中が暗かったので、電気つけないのかな~と思って『顎多さん、暗くないですか?』って言ったら『元々こういう性格なんだ……』って言われて違うんです! そういう意味ではなく!」
エ「厄師丸がめちゃくちゃうっちゃんにちょっかい掛けてて、ついに『静かにしてください!』って怒鳴られてたんだけどその程度で引く奴じゃねえじゃん、『はあ? 呼吸するなってこと? 心臓も動かすなってこと?』とか言い出してやべーこれガチの喧嘩になるなと思ってたら、顎多が通りかかって一言『生命維持に集中しろ』って一喝して去っていった」
顎「爛崎が初めてうち来てコタツに入ったとき『悪魔が人間を堕落させるために造り出した道具にしか思えません……!』とか言ってて笑った」
厄「例えばさあ、あぎたんが煙草吸ってたらどう思うよ?」 虚「煙草になりたいと思います」 厄「そういうアレじゃなくて」
厄「人間は大きく二つに分けることができるよね。剃刀(コレ)で」 顎「通報」 厄「待って」
エ「春先で制服の上からガーディアン着てる女の子めっちゃ可愛くねえ!?」 厄「強そう」
顎「爛崎、雷が落ちそうだから気を付けろよ」 虚「大丈夫です! 厄師丸さん(188cm)がいるので!」 厄「いえ~い」 ドヤ顔 顎「避雷針にされてんだよ……」
厄「あ~なんか今日カツ丼食いてえな」 顎「通報」 厄「まじホントちょっと待って」
厄「うっちゃんがめっちゃ短いスカート穿いてたから『見えちゃうぞ~』つったら『大丈夫です! スパッツ履いてますから!』とか言いながら目の前でスカート捲ってきたわけ。そしたらスパッツに『残念だったな』って文字が印刷されてて……何それ……どこで買ったの……つーか俺にそれ見せるために買ったの!? と思ってブランドのタグ見せてもらおうと思ってスカートに潜り込んだところから記憶がなくていま医務室の白い天井を見つめているところなんだけど」
虚「おいしいシチューのつくりかた~! まずオリーブオイルを用意します!」 エ「それを飲む!」 虚「にが~い! 全然おいしくなかったですね! おわりです!」 顎「なんで誰も止めねえんだ」
虚「女の子は『俺のことどう思う?』って聞かれるとキュンとくるらしいですよ!」 エ「マジで? 俺のことどう思う?」 虚「ぬふー! ちょっときました!!」 顎「爛崎、俺のこと……どう思う?」 虚「た、たはーーー!! ありがとうございます!!! 神です!!」 厄「うっちゃん、俺のことどう思う?」 虚「髪切ったらどうですか?」
虚「厄師丸さんは地上何階から落ちたらリザレクトするんですか? これってトリビアになりませんか?」 厄「なんかうっちゃんが急に殺意高いこと言い出した、俺なんかやったっけ?」 顎「こないだテメーが3階から落ちたのに無傷だったから言ってんだよ」 厄「あれは俺もビビった」
エ「まず俺がニュージェネが研修受けてる会議室に飛び込んで『お前ら! 早く逃げろ!』って言う役やるから、 厄師丸 が『そいつを訓練室に連れ戻せ。これ以上口を開かせるな』って言う役な。そしたら俺が『嫌だ! もうあの部屋は嫌だ!』って言いながら連行されるから、そこで顎多の『君たちには期待している』で締めようぜ」 顎「よし」 虚「よくない」
顎「お、雪降ってきたな」 虚「やっふー! 積もりますかね!」 エ「は、俺は雪ごときで浮かれたりしないぜ。うっちゃんと違って大人だからな。んじゃちょっと巡回に行ってくるぜ! ヒャッホゥ!」
顎「爛崎、かまくらの作り方って知ってるか?」 虚「わかりますよ! まず平家を滅ぼすんですよね!」 顎「違う」
虚「あ、あのっ……! 肉じゃが作りすぎちゃったんですけど、完食しました」
エ「カレーを一晩寝かせたつもりが起きていた……だと……!?」
顎「失せろ」 厄「ひっど、もっとオブラートに包んで言って」 顎「オブ失せろラート」
顎「とっとと視界から消えてくれねえか」 厄「は? それが人にものを頼む態度? やる気あんのか?」 顎「失礼ですが、近々わたくしの視界よりご消滅される予定は御座いませんでしょうか?」 厄「ありませ~~~~ん!」 顎「失せろ」
【避難訓練の「おはし」】 厄「お前は危険だ 早いとこ 死んでもらおう」 虚「抑えきれない……! 早く行って! 死んでも知りませんよ!」 エ「俺はお前を 離さない! 死なせない!」 顎「お前ら はしゃぎすぎると 死ぬぞ」
エ「顎多が充電切れでビービー鳴る携帯に向かって『そうやって泣き叫ぶ余裕があるならもう少し動いたらどうなんだ?』ってキレてて心から携帯に同情した」
虚「カラオケに行ったら注文したパスタを精神的に追い詰めてしまい、やきそばにしてしまう夢を見ました」
顎「厄師丸をチームから追い出そうと思ったことは一度もないな。そのまま殉職しろと思ったことは無数にあるが」
エ「うっちゃん、ピザって10回言って」 虚「私パスタ派なんですよねー」 エ「そっかー」
顎「さっき食堂行ったら爛崎がパスタに爪楊枝振りかけたまま硬直してた」
エ「不器用すぎるせいか実は料理系のアレが全然できなくて、マキ(彼女)に『みじん切りもできないの?』ってバカにされたのが悔しくてさ、コッソリ練習しようと思ってたんだけど、さっき包丁とたまねぎ持って給湯室に立ってたら通りがかった顎多に『……それはお前が持っていいものじゃない、ゆっくりこっちに渡すんだ……』って刑事ドラマみたいなこと言われて不覚にも泣きそうになった」
厄「一方あぎたんは俺に『壁ドンって知ってる~?』って聞かれたもののなんか知らなかったっぽくて、若干困った感じで俺の胸倉を掴んで後頭部を思いっきり壁に打ち付けた前科があるよ。聞いて。ねぇ、わかんないなら聞いて。そういうネタ振りだから。」
厄「すっげー喉乾いた」 エ「バームクーヘン喰う?」 顎「カップ酒ならある」 厄「殺す気か」
エ「今からそいつを~♪ それからこいつを~♪」 厄「殴りに行こうか~♪」 顎「通報」 厄「お前らグルだな」 
厄「作戦ミスった時、あぎたんかなり苛々してたっぽくてめちゃくちゃ理不尽に当たってきたんだけど、『俺を罵って気が済むならそれでいいよ、でもさ』って言いかけた時点でよく考えたら全部俺のせいだったからそのまま一時間ぐらい一方的に罵られ続けた」
顎「家の鍵だと思って取りだしたらヘアピンで、隣にいた爛崎に期待に満ちた視線を向けられた」
厄「ところであぎたん��マジで気になる相手とかいないの?」 顎「……いるな」 厄「え? マジで? ちなみに聞くけど俺?」 顎「よく第九会議室の南の角に浮いてる、髪の長い女」 厄「は」 顎「気が付くといるんだよな、夕方ぐらいになると」 厄「待って」 顎「たまにお前の隣にも」 厄「待って」
虚「あんまり幽霊が出るって噂がすごいので、こないだ第九会議室で悪霊を追い出すっていうお香を焚いてみたんですよ。そしたら厄師丸さんが『なんか変な臭いする』って行って会議室から出て行きました」
顎「爛崎、上からケーキ貰ったんだが」 虚「はい! (`・ω・´)」 顎「チーズ」 虚「(`・ω・´)」 顎「チョコ」 虚「(`・ω・´)」 顎「苺」 虚「+:.゜(*゜∀゜*)゜.:。+」 顎「モンブラン」 虚「(`・ω・´)」 顎「好きなの選んでいいぞ」 虚「どれでもいいです(`・ω・´)」 顎「苺をやろう」 虚「+:.゜(*゜∀゜*)゜.:。+」
顎「朝一番で『CMでさあ、キリンさんが好きです、でもゾウさんのほうがも~っと好きです、っつーのあんじゃん? あれって要するに、背の高いシュッとした男も好きだけどやっぱ結局ゾウさんが大事だよね、って意味じゃないかと思ったんだけどどうよ?』と聞いてくるような奴と組んで仕事してる」
エ「もうかなり機械壊しまくってるけど一度も機械に壊されたことはないし今んとこ無敗、つまり俺はめちゃくちゃ機械に強い!」
顎「飲み会で男を落したいなら、少し酔ったふりをして後ろから甘えるように男の首に腕を巻き付け肩から肘、肘から手首、首後部にカンヌキのように固めた反対の腕が三角形を描くように頸動脈を締め上げ、ついでに横隔膜をカカトで押さえれば10秒ぐらいで落ちるぞ」
エ「世の中そんなに甘くねえんだよ」 顎「舐めたのか?」 エ「いや、噛みついた」
虚「口裂け女に遭ったときには『ポマード』と三回言えばいい、って最近知りました。それまで顎多さんに言われた『身体の真ん中、胸の下あたりを全力で殴ればいい』っていう対象法を信じてました」
エ「会議室で突っ伏して『パスタおいしいです……』ってなんか幸せそうな寝言いいながら寝てたうっちゃんに対して顎多が『違うぞ爛崎、それはうどんだ』って囁いてた。うっちゃんは『……うどん……?』って悩んでた」
虚「道ばたに綺麗な花が咲いてたので、エイヂさんに『見てくださいこれ!』って言って持っていったら『腹減ったのか? 飯なら奢ってやるから、草は食べないほうがいいぞ、後が辛いから』と。ち、違います! 食べません!」
顎「テメーは本当に空気読めねえな」 厄「窒素78.08%酸素20.95%アルゴン0.93%二酸化炭素0.034%ネオン0.0018%ヘリウム0.00052%、風速はおよそ1.82(m/s)」 顎「そういうところだよ」
虚「エイヂさんから移動中に迷子になったって電話が来て、急いで通話をスピーカーフォンにしてみんなで地図広げたんです。『エイヂ、周りに何がある?』っていう顎多さんの問いかけにエイヂさんは『……太陽が真上にある!』って勢いよく答えて、厄師丸さんは崩れ落ちるように笑い出して脱落しました。顎多さんは真顔で『よし、アジアまで絞れたぞ』って答えてました」
エ「こんなところで終わっちまうのか……! くそ、俺にもっと力があれば……」 ?「――力が欲しいか」 エ「誰だ!?」 ?「――何者にも負けない、強い力が欲しいか」 エ「……欲しい。みんなを護るための、力が……!」 ?「――アンケートにご協力ありがとうございました」 エ「待てゴルァ」
顎「力が……欲しいか……?」(うどんにおもちを入れる)
エ「ちょっと聞きたいんだけどさ、こないだうちのチームのリーダーに『お前は時々注意力が三万になってる』って言われたんだけど、普通のヒーローって何万ぐらいあるもんなの?」
虚「嫌なことがあったときは顎多さんに『パスタ!!!』って言うと『はいはいパスタパスタ』って返されてだいたいどうでもよくなるのでオススメです」
虚「卒業のとき好きな人の第二ボタンもらうのって、心臓に近い位置だかららしいですよ!」 顎「ほーん、なんで心臓もってかねえんだろうな」 虚「死にます」
厄「あぎたーん聞こえるー? そっち側危ないわ」 顎「具体的に説明しろ」 厄「『この料理は作ったことないけど、何度か食べたことあるしレシピ見なくてもなんとかなるでしょう!』って言いながら厨房に向かううっちゃんぐらい危ない」 顎「ルート変更する」
虚「お酒を飲み過ぎるとアルコール依存症になるって聞きました」 顎「それはデマだな。かれこれ10年以上毎日晩酌してるが、そんな症状が出る気配はない」 エ「いや言いづれえんだけどそれは依存症だろ」 厄「つーか10年前あぎたん未成年じゃねえ?」 虚「顎多さん!!!」 顎(立ち去る)
虚「最近、この近所で黒っぽい服を着た不審者が出るらしいんです。なので、厄師丸さんは黒っぽい服を着ないようにしてくださいね!」
厄「どうよこの一糸纏わぬ連携プレー!」 顎「服を着ろ」
虚「どうしてセブンイレブンはいい気分なんでしょうか?」 厄「シックスナインのちょっと後だから」 虚「シックス……?」 厄「あ、教えてあげよっか? いい気分だよマジ」 顎「なるほど、覚悟は出来てるな」 厄「待って」
エ「うっちゃんが会議室にスマホ忘れてったから、やべーはやく知らせなきゃ! と思って電話したら、会議室の机の上で着メロが鳴った……」
厄「今日真夏日だっけ、クソ暑いな……なんか冷たいものない?」 虚「あそこに顎多さんがいますよ!」 厄「それが?」 虚「冷たくしてもらえると思います!」
エ「顎多が言う『誰に許可取ってこんなに暑いんだまったく』ってかなりパンチの聞いたジャイアニズムフレーズだと思う」
顎「戦闘ライセンス以外に何か資格持ってるか?」 エ「死角? 特にねえな、迷彩中は無敵だぜ!」
虚「じゃーん! エイヂさんとツナと茸のカレーを作りましたー!」 厄「鷹入りカレー」 顎「具にするな」
虚「恋人がいる人って、毎年夏まつりが来るたび浴衣買い替えるんですかね? すごいお金かかりそう」 厄「同じでいいんじゃない? どうせ最後は脱がすんだし」 虚「ええ……でも『去年も同じの着てたな』って思われそうじゃないですか?」 厄「じゃあ夏までに彼氏を変えりゃいい、そうすりゃタダじゃん」 虚「なるほど! 最低!」
虚「エイヂさん、もうお腹がすいて歩けません……」 エ「じゃあ走るか!!!」 虚「はい!!!」 (走って帰る)
虚「あんまりにもお腹が空いていたせいか、顎多さんに『爛崎!』って呼ばれたときうっかり『ごはん!』って返事してしまいました……」
虚「さくらんぼの差し入れがあったので、『さくらんぼのへたを舌で結べる人はキスが巧いって話ありますよね!』ってエイヂさんと二人で練習してたんですよ。そしたら厄師丸さんが横から出てきてさらっと二本掛け合わせて結んでて、二人で「「うわーーー」」って言ってすごいっていうか正直ドン引きしました。顎多さんはさくらんぼ食べるの自体が久しぶりだったらしくて種を呑み込みかけて四苦八苦してました」
エ「誰だよインスタント焼きそばの湯切りするときにシンクの裏側から叩いてくるやつ! ビビるからやめろよ!」
厄「どうして壊れるほど愛しても1/3も伝わらないんだろうな?」 エ「壊したからじゃねえの」
(――タ………ケ……) エ「ッ、今の声は!?」  (――タ……ス……ケ……テ……) エ「誰だ!?  どこにいる、今いくぞ!」  (――タラコ……スパ……ゲッ……ティ……) エ「なんだ、たらこスパゲッティ喰いたい人か……」
顎「爛崎に神妙な顔で『午後の紅茶って朝飲んでもいいんでしょうか……?』って聞かれたから『特別に許可する』と答えておいた」
厄「動くな! 手を上げろ! そう、そのまま両手を頭の後ろに……よーしいいぞ、そして心持ち胸を張れ! ちょっと腰は捻り気味に! 伏し目がちに視線は流して、口をだらしなく半開きにしろ、よしそうだ! いいぞ、お前、いま最高にセクシーだ! めちゃくちゃいいぞ!」
エ「携帯がカレーに刺さった。あんまりにも完璧に真っ直ぐ刺さってたから、記念に写真取ろうと思って携帯探したらカレーに刺さってた」
虚「さっきうっかり松ぼっくりを踏んでしまったんですけど、顎多さんに『今のが手榴弾だったらお前、景気よく死んでたぞ』って言われて、いったい普段顎多さんはどういう現場でお仕事されてるんでしょう……」
厄「ほうれんそう? あー、報復・連鎖・総括の略ね」
エ「よく歌いながら歩いてるうっちゃんが、さっき自販機でなんか買いながら、ゆずの夏色のサビんとこを『この長い長い下り坂をー君を自転車の籠につーめてーブレーキを引きちぎりなーがらーゆっくりーゆっくりーふっふふーん♪ 』って歌ってて……『君』が無事かどうかすげー心配なんだけど……」
厄「は、片腹痛ぇな。……誰か救急キット持ってる?」
顎「喋り方が上から目線なのを改めたほうがいい、と言われたんだがよくわかんねえな、誰かアドバイスしてみろ」
虚「『矛盾』ってどういうお話でしたっけ」 顎「どんなものでも貫く矛、と、どんなものも通さない鉄壁の盾」 エ「その矛で闇を払い、その盾で愛する人を守ったらどうなるのか」 虚「最高にかっこいいパターンの奴ですね!」 エ「最高にかっこいいパターンの奴だぜ!」
エ「電車の中で着信鳴っ��、仕方なくスマホ取った顎多が『いま電話の中だから電車切るぞ』って通話切ってから一言『……逆だ』って真顔で言っててクソ笑った」
厄「あーもー疲れた、うっちゃんちょっと肩叩いてよ」 虚「はい、厄師丸さんの肩ってジャガイモみたいな形してて気持ち悪いですね。芽とか生えてそう」 厄「できれば物理的に叩いて」
顎「宗教の勧誘みたいなのが来て『あなた���死神についてご存じですか?』って言われたんだが、ちょうど銃の手入れしてたからそれ持って『俺のことか?』と聞いたら無言でドア閉められた」
厄「いま『NO MUSIC NO LIFE』って書いてあるTシャツ着たエイちゃんがイアホン外したから、アイツそろそろ死ぬな」
エ「休憩室見たらうっちゃんが『おめでとうございます! 元気なお弁当ですよ!』って言いながら鞄から弁当出してた」
顎「『お探しのページは見つかりませんでした』? ふざけんな、諦めずにもっとよく探せ」
エ「全員帰ったあとの会議室で『おい! みんな無事か!』『返事をしろ!』『くそっ、まさか全員やられたのか……!』って一人芝居してたら、帰ったはずの顎多がこっち見てて『生存者一名、これより帰宅する』つって去っうおおおおおおおおおああああああああああああああああ」
厄「昔酒の席であぎたん『周りにいる人間、誰が敵だの仲間だの、いつ裏切られるかだので悩む必要はない。乾杯すりゃ仲間だし、ムカついたらビール瓶で殴ったらみんな死ぬ』って言ってたし、数時間後にきっちり殴られたからね」
顎「立ちくらみの正式名称は『眼前暗黒感(がんぜんあんこくかん)』らしいという話を爛崎としていたら、完全獣化を解いたエイヂが『くっ……眼前暗黒感がっ……』とか言いながら戻ってきた」
エ「金が溜まったらプロポーズしようと思ってるんだけど、どういう感じで切り出すか悩むなー」 厄「(壁に手をつきやや上を見上げ髪をかきあげながら)俺の人生が茨の道だとしたら(ここで相手を指差す)お前はそう、そこに咲いた、一輪の、薔薇 」 エ「お前普段何考えながら生きてんの?」
虚「顎多さんに『鳥南蛮を作ったんですが、ポン酢とタルタルソースだったらどっちが好きですか?』って聞こうとして間違えて『タン酢とポルポルソースだったらどっちが好きですか?』って聞いてしまって、顎多さんには『ポルポルソース』って真顔で返されました……作るしかないんでしょうか、ポルポルソース……」
厄「待機してたら待ちくたびれたうっちゃんが隣で寝ちゃって、下手に触ると寝起きで手加減のテの字もない歌が飛んでくるからそっとしといたんだけど、あぎたんから『爛崎はどこだ?』って電話来て何も考えず『うっちゃんなら今俺の隣で寝てるよ』って言っちゃって『……どういうことだ? もう一回言ってみろ』って凄まれる事案が発生」
虚「こっそりペットボトルに水割りを作って持ってきてる顎多さんが『他の連中には内緒な』っておせんべいをバリくれたんですけどモグ絶対バレて怒られるとモグ思いますしモグそんなことで私の口をモグ封じられるとバリこれおいしいですねモグモグ」
エ「爆弾事件でエマージェンシーが出て、ちょうどR対の本部に居たせいか顎多から『本部は無事か?』ってライン来てたから大丈夫って返そうとしたんだけど出動直前で焦ってたせいで間違って『本部は大爆発だぜ!』って送っちまった……どうすれば……」
暇すぎたのでしりとり(罰金制度あり) 顎「おかか」 虚「かに」 エ「にんじん! ……さん! です! よ!」 顎「潔く負けを認めろ」
虚「迷惑メールフィルターを強にしたのに、厄師丸さんからメールが届くんですよね……」
厄「最近『レイザーエッジはホモ』ってクソみたいなレスが流行っててマジギレしてたんだけど、うっちゃんだけが『私そういうの嫌いじゃないですよ!』って励ましてくれた」 エ「多分それフォローじゃねーぞ」
顎「この前厄師丸がぼーっとヤニ蒸かしながらアヒル見て『あー鳩』とか言ってて本当にセックス以外は全部どうでもいいんだなと思った」
厄「何度教えてもあぎたんがAKBのことを『群衆』って呼ぶ」
虚「顎多さんが昔、Aライセンスを取ってうかれていた私に『この仕事続けていくなら楽しいのは最初だけだ』って言ってましたけど、あれは嘘ですね。ヒーローの中には、待機中に廊下で駆けっこしてあまつさえそれで賭けを始める人や、任務中にレーザーポインターでサバゲーしようとする人、罰金つきのしりとりをする人、『任意出動だし眠いから帰る』って言って本当にそのまま帰っちゃう人がいます。まあ全部顎多さんなんですけど」
厄「みんなすぐ俺のことクズクズ言うけどおかしくない? 俺他人にそこまで辛辣にしたことないよ?」 顎「居ねえからな、お前より下が」 虚「(頷く)」 エ「(頷く)」 厄「おかしい」
厄「うっちゃんとあぎたんがテレビでK-1見てて、うっちゃんが『顎にちょっと当たっただけであんなに簡単に倒れちゃうんですか?』って聞いたら、あぎたん『脳が揺れるからな』って言って、急に振り向いて右ストレート一閃。正確に顎をブチ抜かれた俺はカウンター返す間もなく昏倒。なんで実例で見せようとすんの? つうか俺関係なくない?」
虚「顎多さん! いいニュースと悪いニュースがあります! まず、厄師丸さんがヴィランと交戦して孤立、負傷して身動きが取れない状態です!」 顎「そうか……。それで? 悪いニュースは何だ?」
厄「そもそも『 Trick or Treat! 』はTrの部分で韻を踏んでるんだから、『お菓子をくれなきゃいたずらするぞ!』は和訳としておかしいと思うんだよね。押韻とバランスを鑑みるならやっぱ一番正しい和訳はこうよ、『お菓子がないなら犯すぞ!』」 顎「児ポ法」 虚「どこからどう見ても文句のつけようのない立派な犯罪者ですね!」 厄「おうお前ら、菓子はどうした菓子は」
厄「おい、誰だよ、俺の煙草にマグネシウムリボン仕込んだ奴、急に喫煙所で神々しく光り輝いちまったじゃねーか、怒ってないから出ておいで、あぎたんかうっちゃんでしょ、おいどこに隠れてやがる、はやく出てこいオイ」
エ「悪ぃ、状況が読めねえ……!」 顎「"じょうきょう"」 エ「さんきゅー!!!」
厄「煙草切らしちゃって口寂しかったから、あぎたんに『ガムかなんか持ってない?』って聞いたら、靴の裏見てから『悪い、今はない』って言われたんだけどアンタどういう状態のガム喰わせる気だよ」
虚「すごい発見なんですけど、エイヂさんって毎日ノーブラなんですね……!!!!」 エ「うわっ本当だ!!!!」 虚「ノーブラヒーロー……!!!!」 厄「いや普通なんだけど、その言い方だとエイちゃんがド変態に聞こえる」 エ「お前に言われたかねえわ」 虚「厄師丸さんもノーブラじゃないですか!!!!」 顎「そうだったのか、引くわ」 厄「どこから突っ込んでいいのこれ? マ█コ?」 エ「頼むから誰かツッコミに回ってくれよ……!!!」
ピロンッ メール1件 虚『今夜、花火大会があるんですよ! 一緒に見にいきませんか!』 厄「お」 ピロンッ メール1件 虚『間違えました! 今のは顎多さんに送るメールでした! 厄師丸さんは蛍光灯でも見ててください!』 厄「おん」
虚「合コン……? って、お持ち帰りができるらしいんですけど、タッパーとか持っていったほうがいいんでしょうか……!?」
厄「ちょっと腹立つことあって、あんまり人殴るのもよくないなと思ってここはあえて悲しんでみることにしたんだけどだんだんマジで悲しくなってきちゃって、ちょうどそこにあぎたんいたから『いま俺悲しみに包まれてるわ』って言ったら『悲しみだって別にお前なんざ包みたかねえよ』って言われてそうだなって思って悲しむのやめた。ちょっと人殴ってくる」
顎「爛崎から『終末まで大雨ですよ、お気をつけて』ってやばいメールきた」
厄「今日新婚さんプレイみたいな夢見てさあ、朝起きると台所で、裸エプロンの」 虚「やめてください!!」 厄「俺が朝飯作っててさぁ」 虚「本当にやめてください」
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zuidou-blog · 8 years ago
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エレウテリア 第五話
Conte エレウテリア Ghost and Insurance 第五話 「DON’T TRUST ANYONE OVER 30」 遊園地廃墟の夜が深い青に落ちていく。月明かりは木々を透過して注ぐ。海底の冷たさを等しく全員へ示す光に命ある総ての者は押し黙る。その身を闇に引きずり込まれないように。反対に騒ぎ出す者等。インサニティ。ルナティーク。月に憑かれて踊る魂の際限ないダンスの果てには神聖な狂気の世界が待つ。湖面に映るぐにゃぐにゃの時間。一時も落ち着かない生活がやってくる。生まれ持った音のボリュームには個体差がある。シューゲイズに惹かれるEDM。フォークソングとぶつかるポジティブ・パンク。ソウル・ミュージックとジャズが手をつないでニューウェーブを握りつぶす。 トイレの割れた窓ガラスをオバケが踏むと小気味良い感触が靴の裏から全身を伝わった。 「男子トイレってこんな感じなんだね」 「そうだよ」 驚くべきこ���に水道はまだ通っていてホケンが蛇口を捻ると腐ったような臭いの水が勢いよく飛び出し止まらなくなった。呆然として半笑いでオバケを見、疑問に感じた部分を混ぜ返す。 「“そうだよ”?」 「男とよく夜の公衆トイレで」 「そんなことだろうと思った!」 『暗黒日記二〇一六』執筆中の少年は個室で言いがたい感覚に襲われていた。清沢洌にちなんでキヨサワと呼ばれることになった彼がトイレに駆け込もうとすると当然のように少女二人もついてきた。「気にすんな」と言われても無理というものだったが彼史上最強クラスの便意と長時間に亘る格闘をするうちに無理ではなくなっていった。ボロボロの木の板一枚挟んだ向こうにいる彼女達をいつの間にか戦友のように感じている。下卑た冗戯も戦争映画の音声に聞こえ、敵国へ勝利を納め扉を開けた時彼の心には密かに二人への親愛の情が生まれていた。暗いのは好都合誰か人がいたとして姿を見られる危険は日中より少ないと三人は園内を彷徨う。突入する建物には必ず生活感があることに驚いた。廃墟を棲家にしている人々がいるのだろうか。いるとしてそれはどんな種類の人間だろう。山奥で隠遁生活をしなければならない集団。カルト宗教、指名手配犯、ホームレス……。何にせよ安全で善良な人物が暮らしているとは思えなかった。予感は的中した。明け方湖の側で発見した第一村人は遠目にも危険人物らしい相貌である。全裸で逆立ちをしながら詩の朗読をしていた。好きな作者の物が結構あったのでコイツは危ないとオバケは感じたのだった。 「あ、所長」 「所長?」 「あの人がここの総責任者なんだ」 「つまりアレをやれば我らの勝利……?」 「待って待って待って」 叢を分けて飛び出すと逆立ち全裸は華麗にバク宙を決めて二足歩行体勢に戻った。恥という感覚がとことん抜け落ちているようだ。衣服を纏おうとは欠片も考えぬ素振りのまま仁王立ちでオバケを迎えた。 「君は……新しい世話係だったかな。早いね。もう辞めたいっていうのか。よし。分かっているな。今日一日生き延びることが出来ればここから出て山を下りる権利が与えられる。死んでしまえばそれまで。それがローズバッドハイツ従業員のルールだ。では始めようか」 「イエーイゲームスタートふっふー!」 オバケが茂みに戻るとホケンとキヨサワは同時に彼女の頭を力いっぱい叩いた。 「だって……何あのRPGの敵対モブみたいな発言!?字幕見えたわもう!」 「いきなり出ていってどうするつもりだったの」 「本当に殺す気でいた?」 「そういう訳じゃ…..。上手くすれば状況打開する道につながるかなーと」 「で、上手く出来ましたか勇者オバケよ?」 「あーうーん、山下りる権利?くれるって」 「すごいじゃん!」 「うん、うん、でもな、あのな、今日一日、生き延びられたらって、言ってた」 「どういうこと?」 「うーんとうーんとああいうことかな」 無線機で連絡を取り逆立ち男は大量の人間を集めていた。真っ赤なツナギを身につけた集団のその数はどこに隠れていたのか不思議な程。最悪な状況が自分で思っていた以上に行く所まで行っていたことにオバケが気付いたのはこの時だった。逃げ延びられるはずもなく彼女達は山を下りるどころか頂上へと連行されていく。道々見えたのはこの廃遊園の全景。過酷な労働の果てに息絶えた亡者へ死してなおその手足を働かせることを強制する死臭噎せ返る工場。圧倒される物々しさは美の領域にまで達していた。ぜんたいここは何なのか。この先に何が自分達を待つのか。ぞくぞくと心臓を震わせるのは恐れだけでなく期待も大きいのであった。 薔薇。薔薇。薔薇。薔薇。薔薇。山頂を支配する無数の薔薇の花の群生。人の営みも動物達の食物連鎖も虚しい遊戯にしか思えなくなるほどただそこは薔薇園だった。薔薇が薔薇のみしか必要とせず薔薇のために薔薇は存在し薔薇のため薔薇が死ぬ。自家中毒の桃源郷。こんなところに連れて来られてはいよいよ死ぬしかない気がした。だが不思議と怖くなかった。切り刻まれ腐り果てて堆肥になったら養分としてこの美しい薔薇の一部になれる。それは本望かもしれない。私が生まれたのはきっとそんなふうに綺麗なものになるためだったんだ。 「やあ」 薔薇はとうとう中世ヨーロッパの貴族階級のような声で口を利いた。遮るものの何もない場所で声はどこまでも響く。 「呆気なかったな、非行少女たち」 そして薔薇は人のかたちを模した。荊のベッドから身を起こす人影がある。美輪明宏がまだ美輪明宏になる以前の美輪明宏のような美青年が薔薇の海から生まれた。見覚えがあるように思ったのは恐らく究極の美というものは原始的な記憶領域に訴えかける作用を有するからだろう。蛇に睨まれたように身体が動かせずにいると青年は彼女らに自ら歩み寄った。コミュニケーションを取ることが却って困難になる距離まで近付いて黙ったまま観察する。彼のあまりの顔の近さにオバケにはそれが昆虫のような異星人のような巨大な目玉を持つ怪物に見えた。彼女らを連行した赤ツナギの一団が丘の上に立つ建物から出て来た別働隊から何事か報告を受けている。そして薔薇から生まれた青年へ報告は受け渡された。 「君たち….スタッフじゃなかったの?」 アゴ、というより両のエラに手を入れられ顔を持ち上げられたオバケは改めて目撃した青年の美しさに戦く。同時に気付いたこともあった。彼の目には何も映じられていない。目の前にいる私を、耳元の部下を、恐らく人間として見ていない。心を開いていない目。あの芸能プロダクションの人間と同じ、溶けたプラスチックの目。途端に強烈な嫌悪感に苛まれた。それは青年に対してだけでなく今まで全てから逃げ続けてきた自分自身に対しても同様だった。彼の澱んだ目の中でオバケの消したい過去たちが溺れてはまた浮上する。 「わっ!わー!何ですか、やめっ、あの、何ですか!?離してください!」 赤ツナギ達がホケンを拘束して運ぼうとしている。キヨサワはどうなったのかと探すと彼は赤ツナギの一人からいけないことをした子供に諭すように叱られていたが彼自身はどこか全く別の方向を見ている。それに対し赤ツナギは注意せず聞き手のいない説明会を続けていた。憶えている外の景色はこれが最後だ。神経症的に空間を埋める薔薇。濁ったプラスチックの視線。拐われる少女。遠くを見つめる少年。今となってはどれ一つとして現実感がない。私は始めからここにいて全部ただの妄想だったのかもしれない。 罅割れの激しいサイレンが鳴った。曜日の無い一日がまた始まる。人ひとり埋もれる高さの雑草が生い茂る中庭を伐り開いた空き地にはブルーシートが敷かれ、黒ずみ欠けたアイスクリーム屋の白い椅子とテーブルが並ぶ。キャスター付きホワイトボードは黒板を手前にある手術台は教卓の役割を果たしていた。現実社会という戦地から疎開した青空教室。しかし飽くまでも日本的な詰め込み型教育で教えられる科目はただの一つだった。危険薬物はその人の四肢を腐らせ五感を狂わす薬である。自ら進んで人間でなくなりたい者は使えばいい。日々突き刺される言葉の烈しさは薬物の刺激に慣れた「生徒」への配慮なのか家畜を見る目をした赤ツナギの憂さ晴らしなのか。小学校卒業以来、中学は週に一度作文を提出することで足りない出席日数を補完、高校は開き直って呆気なく中退、とまともに学校という物へ通った経験がなかったのでアタシはこの歪んだ青空教室を楽しんでいるきらいがあった。大学ってもしかしたらこんな感じかなと見当違いな想像もした。 それは長い梅雨の明けた7月のよく晴れた日だった。青空薬物リハビリプログラムは日一日と脱落者が増えていき生き残ったのはアタシと80年代のロックスター風にウェーブのかかった茶髪を長く伸ばした男だけにいつの間にかなっていた。荒くれ者然とした彼とは一度だけ話したことがある。ノートを見せて下さい、という意外にも丁寧な口調に面食らってしまい返答出来ずにいると俺のも見せますから、といらない交換条件を提示してきた。びっしり書き込まれた文字はタイプされたような美しさで、しかも見易く配置された内容はところどころ図に表してあるほどのこだわりよう。呆然と見惚れてしまったのを覚えている。よっぽど本気なんだろうなと思った。彼にとっても今日は待ち焦がれた日だと思う。予定ではいよいよプログラム最終日なのだ。 「おめでとう!」 薔薇の花。何週間、もしかしたら何ヶ月ぶりに見た青年は変わらず美しく息をしていた。いつもの常に苛ついている太った赤ツナギは萎縮して陰に隠れていたがその飛び出した腹部まではへこんでいなかった。残念。青年は笑顔を全く崩さないままにバッグからあるものを取り出す。 「最終試験だ!僕のモットーは“平等”だからね!このローズバッドハイツから出て行こうとする人には従業員にも患者にも同じ条件を出す!」 患者。アタシは患者だったのか。ずっと自分が何なのか探していた。子供にも、大人にも、学生にも、アイドルにも、狂人にも、誰かの大切な人にも、私は結局なれなかった。薬物リハビリ施設で治療を受ける哀れな患者。私という動物のつまらない正体を簡単に暴かれたせいでなんだか笑い出してしまいそうになった。 「今日一日生き延びろ」 壊れた機械のねじ穴を永遠に塞いでしまうような絶望的な清々しさで彼はそう言って次の言葉を続ける。 「けどクリーンなスタッフ達をわざわざクスリ漬けにするわけにはいかないし、ろくに運動もしてない君たちを走り回らせても仕方ない。彼等と君たちには別の生き残り方を目指して貰わなければ。そうだろ?そうしないと平等にならないもんね?」 素人目にも凄まじい高級品だと分かる黒い革の手持ちバッグから出て来たのは、一組の注射器と、粉末の包みだった。綿の飛び出した緑の手術台ーーそれは先述の通り教卓なのであるーーにその二つを見せつけるようにゆっくりと置く。 「これが何か分かる人ー?………..今日一日、君たちはここに居てもらう。それだけ。それが最後のテストだ。勿論、ここまで来た君たちは、目の前にかつてお世話になったおクスリがあるからって貪り打ったりはしないもんね。じゃあね!ああ寂しくなるなあ!一気に二人もローズバッドハイツを卒業しちゃうなんて!……….日付が変わったら、お迎えが来るよ」 金縛りなんて比じゃなかった。これからどんなに最強最悪の大悪霊に取り憑かれてどれだけおぞましい金縛りにあったってすぐに自力で解ける気がした。幽霊のたぶん充血して瞳孔の開ききった目を力いっぱい睨み返しながら、そいつがたまらず成仏してしまうまでやり返せる自信があった。もし、ここで、この場所で、身動きが出来たとしたら。体感で一時間が過ぎてやっと、骨の軋む音を頭蓋骨に爆音で反響させながら首を回して、隣にいる彼の様子を見ることが出来た。彼も同じく硬直してしまっていたが一部だけ激しく運動している点がオバケとは異なる。何かが宿った人形が髪をのばすように。聖像が血涙を流すように。微動だにしない肉体から絶えず滝の涙が流れていた。涙腺が心臓として脈打ちいち早く緊張を氷解させる。不安や恐れや怒りの入り混じった彼の姿を目で追っていると体の動かし方を思い出していくようにしてオバケも徐々に徐々に震える手足を命令に従わせていくことが出来るようになった。天敵に遭遇した動物と食糧を発見した動物。彼等の中で目まぐるしく入れ替わり立ち替わりする欲求の種類はまさに野生のそれであった。手術台に載せられているのは人生を破壊する道具である反面、どうしようもなく必要としてしまう存在でもある。二人とも一言として言葉を発せないうちに日は傾こうとしていた。時間が泥のようにまとわりつく。呼吸をするほど息は苦しくなる。酸素が猛毒だった地球最初の嫌気生物の気分。 「限界だ!」 ロックスターもどきの彼はチューブで腕を縛り血管を浮き立たせる。粉末を炙って透明な液体にし注射器で吸い取ったら一度ゆっくり押し出して針の先を2回はじく。そういえば、この動作への憧れがアタシを壊していったんだっけ。辛い時間を埋めてくれた映像。トレインスポッティング、ウルフオブウォールストリート、時計じかけのオレンジーー。映画はどんなダメ人間も許してしまう魔法だ。どれだけ人を嫌い嫌われるやつでもスクリーンは分け隔てなく愛してくれる。必死で、投げ遣りで、幸せで、不幸で、孤独で、愛し合っていられた。その中のどれ一つとして本当には味わったことのないアタシと画面の中のキラキラした彼等彼女らは全てを共有してくれた。おかげでアタシはハイティーンにして既に老境に入ったベテランジャンキーだった。灰彦店長の贈り物はだからきっかけでしかなく、あれがあっても無くてもどの道アタシは同じような人生になっていたと思う。だから、この、今まさに長い断薬生活に別れを告げようとしている同志のロン毛チリチリなんちゃってロックヒーローには、無意味な永遠の中に逆戻りして欲しくない。オバケは男に背後からしがみついた。注射針はもう彼の皮膚を突き破っていたが腕を振るだけで引き抜けたことから血管には達していない確率が高い。海岸線に沈み始めた夕陽が黒ずんだ濃いオレンジを二人目掛けて投げ込んだ。弾けた光はそのまま部屋中に広がり波打つ。 「だっ……ああ!も、さ!?うああっ!」 言葉が何一つ形にならなかったことで自分が泣いていることを知った。言いたいことが沢山あった。本当にいいの?じゃあ何で今まであんなに頑張ってたの?ここを絶対に出たい理由があるんでしょ?勝手な想像だけどさ、何が何でももう一度会って謝りたい人がいるんじゃないの?じゃなきゃ、きっと人間はそこまで自分の為だけに命がけにはなれないでしょ?全部ただの呻きにしかならなくて悔しくてひたすら彼の背を叩き続けた。這いずりながら彼はまだ注射を打とうと手を伸ばす。いっそう強く呻いて背中を叩いた。何度も何度も何度も。それでも彼は諦めず震える手を夕陽に透かしていたが、やがて抵抗をやめた。それから二人で馬鹿みたいに泣いた。悲しさを、悔しさを、全て流し切ろうとするかのようにいつまでも泣いていた。顔中ドロドロになって乾いてまたドロドロになって乾いてを3回繰り返した頃にはやっと少し落ち着いてきた。外はもう暗くなって、警備担当の赤ツナギの持つ懐中電灯の光だけが何の明かりもない敷地外を不気味に漂っている。 「あれやらない?ミ��ティング」 返答する以前に彼の顔の地殻変動っぷりが笑い事じゃなったのでポケットティッシュを差し出した。ありがとうと恥ずかしそうに呟いたあと顔を隠すように拭きながら彼は言う。 「もう二度とやることも無いだろうから記念にさ!」 白と黄色のまだらになったティッシュの塊をゴミ箱に捨てて戻って来がてら小さく引き攣った笑顔をオバケに向ける。彼女も自らの顔の汚れを拭き取ることでどうしても表れてしまう笑顔を隠していた。かつてない和やかな空気の中最後のミーティングは始まった。薬物依存の人間同士が集まって自分の薬物体験を発表し合う。そうすることにより薬物の恐ろしさを俯瞰的に感じ取るのがこの「ミーティング」の目的である。だがオバケはここで行われるプログラムの中でこれを最も苦手としていた。薬物についての話を集中して聞いていると頭の中が混沌としてくる。想像力が制御を失いどこまでも広がっていってしまう。アマゾン奥地では船で山を越えるんだ!先住民と戦争を!ジークハイル!フィツカラルド!いやザ・ダムド!ヘルムート・バーガー!ルキノ・ヴィスコンティ!地獄!老人という怪物!プレタポルテそしてYSL!YSL!称えよ我らがイヴ!我らがイヴを称えよ!ハイル!ハイル!ハイル!バスキアみたいなスライ・ストーン!さらばさらば藍色の青春時代!ヴィーナスは毛皮を着て陽射しがサングラスのマイノリティ!結論はシルクのバナナ!ーー喉が渇いた。砂漠にいや火星に置き去られてもうソル200くらい経ったような猛烈な喉の渇きでいつも幻覚は止むのだった。 「ごめん。付き合わせちゃって」 窓とは逆の壁を埋め尽くす段ボールの中から500mlの水を一本、彼が差し出していた。この施設には満足な物資こそないが絶えず喉の渇きを訴える入居者達の為に水だけは大量にあるのだ。ダム一つ分くらいありそうだといつか誰かが冗戯を飛ばしていたがあながち目測は外れていないのではないかと思う。ローズバッドハイツ。遊園地廃墟の姿を取った薬物リハビリ施設は「水」と「薔薇」の天国なのだ。 「大丈夫、じゃないけど大丈夫。何もしないよりはこの方が楽だったと思うから、気にしないで」 「そっか。今何時だろうね?」 「10時くらい?たぶん」 「そうだよね。ああ……さっきは本当にありがとう。あのままじゃ本当に何のために頑張ってきたのか、全部台無しにするところだった」 オバケが会話を続けられなかったのはミネラルウォーターをがぶ飲みしていたせいだけではなかった。もう一本さらに一本と二桁を超える数のペットボトルを要求してもまだ渇きを訴える彼女は彼にはとても見ていられない状態にあった。獰猛な肉食動物のように目をギラつかせて補給したさきから摂取量を遙かに凌ぐおびただしい水分を汗として放出している。温度感覚が狂い冷え切った室内にも関わらず暑さに喘ぐオバケ。支給品の病的に白いブラウスが湿って上手く脱げず彼女は男に助けを求めた。ボタンを全て外されると腕を抜くのも待てず彼女はホコリや髪と混じって床に転がる注射器へ飛びついた。痙攣しながら目的を果たそうとする。何が正しいのだろう。どこで間違ったのだろう。何故今俺はここで破滅しようとしている女の子をただ黙って眺めているのか。男は思う。良いじゃないか。俺には関係ない。後一時間足らずで決着はつく。俺は勝って、彼女は負けた。それだけだろ?何もするな、何もするなよ。お願いだ。 人を狂わす月の光がまたこの場所を深い深い海底に沈めていく。水槽の中に淡く揺れている海月のダンス。水面に浮かぶ薔薇の首。一組の男女が大麻の甘ったるい匂いを全身から放ちながら一糸まとわぬ姿で乱れている。人間離れした美しさの青年は普段の余裕溢れる態度をいくらか崩し目を細めて二人を眺めていた。翌朝、彼等は無論ハイツを退去することなど許可される訳もなく特殊患者向けのエリアへ移されることが決まった。ただ、0時に出会うべきだったところを翌昼12時に初対面した「お迎え」は意外な人物が務めていた。灰彦、と所長は彼女を呼んだ。 次回 第六話 「駅は今、朝の中」
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mitosa-blog1 · 8 years ago
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She ain’t gonna smile for you
大統領選以降、体調不良も相まって暫く新大陸ニュース断ち。日課のレイトショーやコメディーショー パトロール、大好物SNLも見るのをやめて、ポリティック ファスティング略してポリファス()をしてみたら割とすっきりしてきた今日この頃。
しかし、ファスティングなどしている場合ではなかった。そろそろポップコーンとコーラの準備をせねば・・・
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バラク&ミシェルさんのフェアウェル インタビューも一巡し、シカゴでの最後の大統領演説も終わり(ワシントンじゃなくて、シカゴの地元集会って辺りがとてもオバマさんらしいなと思った。ボランティアスタッフの力が原動力となり大統領になった人だもんね)。皆大好きオバイデン(オバマ&バイデン大統領副大統領のブロマンス)のハッピーエンディングに全米が泣き。あっという間にもうトランプ大統領が爆誕。yeah!
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久々に、次期大統領にフェイクニュースと命名されたCNNをつけ、いつものNBCとかCBSの番組をネットでチェックし始めたら。もうあれだね、驚き悲しみ憤り戸惑いとかぜーんぶ1周して
「みんな〜!4年分のポップコーンとコーラの準備出来た〜?! ∩( ´∀` )∩ 」
みたいなノリになってて。
世界中のコメディアン達にとって24時間365日がクリスマスみたいな4年間のスタートに相応しい前夜。特にアレック ボールドウィンにとっては。超早いけど、メリークリスマース!
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(素顔のアレック ボールドウィン実は結構好み///めっちゃダンディでかっこいぃ・・・(隣はティナ・フェイかな(サラ・ペーリンの神モノマネで有名なコメディー女優))
そうやって自傷的なユーモアを交えつつ中には真面目にきちんと批判をする人も沢山いる。控えめに言って、人の生き死にがかかってるわけだから笑ってばかりも居られないよね。。ひん。 メリル・ストリープのゴールデングローブでのスピーチとか。大嫌いになっちゃったSNLとか。全米一人気ミュージカル「ハミルトン」とか。
ハリウッドとブロードウェイは全員「過大評価されてたやつら(overrated)」と化す。しかしもうそのクダリはいい加減飽きた。
例:
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マスコミ会見を頑に開かなかった間にそういう小さい事に関していちいちいちいちいちいちツイートで反応してみせるドナルドおじさんもう良いからあんたはこれからシリア問題をどうするかとかそういうことに時間を費やしてくれ(雑)
「自分を批判するヤツ=敵」
っていうスーパー単純な志向回路を全世界に公表して何がしたんだろう。もう、、、
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色々振り返ってたら書き途中だったポストがいくつかあって。もう終わったことだから良いかなと思いつつ、私にとって大事なことなのでここに記録しておこうと思う。
ヒラリー・ローダム・クリントン (Hillary Rodham Clinton) その人について。
前回総括したはずなんだけど、本当にあの選挙戦はなんだったのだろうという凄まじいトラウマを植え付けられた私。なんてナイーブなの。。
ところで、ヒラリーが何故負けたのかとか。トランプが何故勝てたのかとか。それを何故予測できなかったのかとか。そんなことは一部の学者やマスコミの皆さんがやってくれれば良くて。
それより、「ドナルド・トランプの大統領としての資質は疑わしいものがあるけどヒラリーもどっこいどっこいじゃない?」とかいう人はちょっと何か、目とか耳に病を抱えていらっしゃるのかなと穿った見方をしてしまうので止めれば良いんじゃないかな。え、本当にこの大統領選ちゃんと見てた?少なくとも、3回はあった公開討論とか全部見た?ちゃんと見た?え?あの会見は?あのスピーチは?翻訳&解説付でリンク送ろうか?!ってなるからよ、、(疲)
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(白目になっちゃぅから...)
ヒラリーは負けた。色んな理由で。お金持ちのエスタブリシュメントだったからなのか。結局FBIのお粗末に終ったメール問題があったからなのか。あの世紀の不倫スキャンダル野郎ビル・クリントンの妻だったからなのか。どれも腑に落ちないけれど。
このハフポスの記事、賛否両論あるんだけど、論調はともかく事実関係は間違ってないので是非多くの人に読んでもらいたいなと思う(日本語訳)。ちなみに英タイトルは「Stop Pretending You Don’t Know Why People Hate Hillary Clinton (ヒラリー・クリントンが何故嫌われるのか分からない振りするのは止めよう)」であって、邦題とちょっと違うあたりも何か微妙なんだけど。
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最後の文章。
ここで、2人の人物を思い出してみよう。一人は若い女性で、将来有望な法律関係のキャリアを歩み始めている。彼女は誰にも相手にされないような障害を持った子供たちや恵まれない境遇に産まれた子供たちに、確実に教育を受けさせる方法はないか聞いて回った。もう一人は若い億万長者で、兄の家族に復讐するため、甥っ子が必要としている医療保険を意図的に削った。
後年、人々はこんな大統領選があったことを嘆くことだろう。主要政党から出た初の女性大統領候補が――これまでの非現職の候補よりも有能で、大統領としての資格があり、徹底的に調べつくされた候補が、明らかに無知で、憎悪を掻き立てる扇動家と比べられなければならない屈辱に耐えた今回の大統領選を。
ほんそれ*
*ほんとそれな、の意 (簡単に済ました)
私がヒラリーを応援したいなと思った瞬間っていうのが実はあって、その話しを書いておきたいと思う(やっと)
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彼女は学生時代から超優秀で、イェールのロースクールを卒業後若くして弁護士になってそこからのファーストレディってなんかもう超凄い!みたいなことは知っていたんだけど、実はヒラリーのお母様は、幼い頃に両親に捨てられ壮絶な人生を送っていて、そんな母親に育てられた彼女は学生時代から児童養護、子供の学ぶ権利を守る活動などに熱心に取り組んでいたというのを知って。あぁだからファーストレディを終えて議員になってからも、ずっとこの問題に熱心だったのかと。
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インタビューや著書で「母は両親に捨てられるというあまりに辛い体験を私に話すことはあまりなかった」「母は結局、大学に行く機会がなかったけれど、母のおかげで、自分がこうと決めたことは何でもできるんだと確信するようになった」と語っているヒラリー。
「彼女は8歳の時に両親から捨てられました。両親は彼女を列車でカリフォルニアに連れていき、3歳若い妹の面倒を見させました。最終的に、彼女は祖父母によって虐待されたカリフォルニアにいき、メイドとして働きました。彼女は不平等に打ち勝ちました。彼女は私に、無限の愛と、自身では受けてこなかったサポートを自分の子供に提供する方法を見つけました。」
このお母様が居たからこそ、自分の意思を(超)貫ける女性になって、周りの女性や子供の福祉をずっとライフワークとしているんだろうなと気づいた時。ちなみにお父様は世界大戦を戦った元海軍のゴリゴリ保守な方だったというのも結構びっくり。でもなんかそれで腑に落ちる部分もあったな。
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日本だとやたらビルの不倫騒動の時の大統領夫人のイメージしか報じられないし、ただ単にお金持ちの白人ブロンド(そもそも元はブロンドじゃない)のエリート女性、っていう感じでしか捉えられていないけど。
こういうモチベーションでキャリアをスタートしている政治家を応援したい
なって私は思った。やっぱり弁護士とか政治家は社会的弱者に寄り添えるようであってほしいというのが信条なので。親がやってたから、とか。お金が稼げそうだから、とかじゃない。当たり前なんだけどそういうのが私の中で一番大事なのでね。
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あとはやっぱり結婚してからの彼女の生き方よね。
1975年、当時アーカンソー州の知事選に負けて大学教授をやっていたイェールの同級生であり恋人でもあったビル・クリントンと結婚したわけだけど。彼や彼の友人達が言うにはイェールで
「ビルはヒラリーと仲良くなろうと大学中を追いかけ回していた」
っていうエピソードが有名で。確かにこんなモジャモジャ男が近づいてきたら逃げたくもなるわな。
ついに結婚へ。自宅の居間かどこかで質素に挙げたらしい。ヒラリーらしい。
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ヒラリーの弁護士時代に何回かプロポーズしたけど、まぁ見事に断られ続け、やっとこさ結婚にこぎつけたビル。ついにあの憧れのヒラリー様のお許しを頂き、結婚し、娘も生まれ、大統領にもしてもらって、、、からの不倫(爆)。しかもその火消し&尻拭いを自分の不貞で傷つけたヒラリーしてもらうという。
いやー、
古今東西、居るんだなこういう男(遠目)
ヒラリーが結婚渋った理由が分かるよ。女の直感すごい。と私は勝手に納得している。
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(2005年トランプ3回目の結婚式の2人&トランプ&メラニア。まさかこの十数年後にこの4人で大統領選を戦うとはねぇ。。)
私ビル・クリントンの政策的功績はけっこうあるとは思うんだけど、ヒラリーを知れば知る程「・・・」ってなるわー。しかも今回の大統領選の何にびっくりしたかって「ビル・クリントンの過去の性的スキャンダル」を使ってヒラリーが責められてたんだよ?え、ごめん、立候補してるのビルじゃないけど?え?不貞を働かれた妻なんだけど?え?って。大真面目に責めたてるから、文字通り唖然、みたいな。
そういや今となっては削除されてるけど
「クリントンは夫も満足させられないなら、どうしてアメリカを満足させられると思うんだ?」
なんてツイートしてるしね。や、あんたそれブーメランだけどねって誰か教えてやって...もう...(疲)
(これが最初の妻イヴァナさんかな?歴代皆外国人モデルか女優という、まぁ本当に分かり易い男だな。ドナルドの浮気で泥沼離婚。)
ぶっちゃけ責め立てられるポイントがそこしかないのは分かるんだけど、トランプおじさんが大真面目に「ビルは不潔だ不誠実だ、けしからん!」「ヒラリーはビルの相手の女性を陥れた女の敵だ!」みたいなことを公開討論とかでブチあげるわけよ。
集会とかではそれに応えてサポーター達が「あのビ◯チを殺せ!」で盛り上がるわけよ(一部だけど)あの光景はホント異常だなぁと今でも思う。ヒラリーはひたすら相手にしてなかったけど、それをずっと見ていた私は、「ビルてめぇこの期に及んでマジいい加減にしろよ(真顔)」と拳を握りしめていたものでした(とばっちり)
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ヒラリーのエピソードで有名なのは、ビルが大統領選に立候補した時に発言した、
「家にいてクッキーを焼いてお茶を入れてることもできましたけど、自分の職業を全うすることを選びました」
というものだけど。これもよくなんか揚げ足とられる話しで。まぁこれは私が働いてるからそう思うのか分からないけど、紛れもない事実で誰を傷つけようとも意図してないこの発言にキーキー言う人って何なの?
暇なの?(たぶん正解)
と思うし、彼女こそ、心からそう思って当然だと思うわ。だってまさに「女は家でクッキー焼いてお茶でも入れてろ」っていう、男性からも、同じ女性からも押しつけられる価値観やシステムとずっとずっと戦ってきたんだから。今の時代でさえ女性は容姿で判断され、半歩下がって夫を支える事こそが美徳みたいな価値観がアメリカですらそこいらにはびこってるわけで。あの時代にヒラリーのように胸張って自分の実力を発揮しようとする女性がどれだけ貴重な存在だったか。
女を見た目でしか判断しない、女は自分の思い通りになるし何でもやっていいと思っている(本人談)、そんな男に選挙で負けるなんてマジ気が狂うわ、私なら...
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(人権とは女性の権利であり、女性の権利とは人権である。というあの国連でのスピーチ。日本語全訳を探してみたけどちゃんとしたのなかったわ...なんか色々納得。)
ところで私がものすごいシンパシーを感じたのは、彼女が、生まれてから使い続けている性であるローダム姓を使い続けようとしたこと。
1978年、ビルが初めてアーカンソー州知事に当選した時、当選したにも関わらず候補者の妻として「ヒラリー・ローダム」という旧姓を使い続けたことを非難されたっていう。まだ弁護士の仕事を続けていたことも暗に批判されたような感じね。まアーカンソーという片田舎(失礼)ということもあるし、1978年といえばアメリカで女性が自分のクレジットカードを持つ権利が与えられてからまだ5年くらいの時代らしく。そんなこともあるかもねって感じではあるけど。
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このインタビューのヒラリーの回答も本当に素晴らしいのよね。
「貴方が旧姓を使ったことで票が減ったんじゃないか」
と言われれば
「もしそれが理由だとしたらもちろん後悔はしますが、彼が失ったであろういかなる票も私は惜しいです。彼の公約であったり、若さ、出身地、色んな理由が考えられますが、そのどれも彼に投票しないという理由にはならないと私は信じています。」
と返し。
「旧姓を使うことで、貴方がリベラル過ぎると思われることは煩わしくはありませんか?(アーカンソーは当時比較的保守的な州)」
と言われれば
「それについてはどうでしょうか。XXXXという歌手は保守的な人として知られていますが旧姓を使ってますし(中略)ある人にとって私は保守的過ぎると映るそうです。◯◯過ぎる、というのは公人として生活していく上でのリスクではあります。ただ、人々のイメージに沿って生きていくというのは誰しも難しいのではないでしょうか。」
と返すという。強ぃ・・・
こういうインタビューを数々観て思ったんだけど、本当にヒラリーは言葉遣いが巧みで超論理的でどんな質問にも綺麗に自分の主義主張に沿って返すというザ・弁護士でね。そういうのが色々切り取られて、「偉そう」とか「傲慢」とか「嘘つき」とかいうイメージがついて回ったんだろうなたぶん、と思うわ。生半可な気持ちでディベート挑んでも勝てるわけないというか、絶対丸め込まれそうだな、みたいな。
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ちなみに80年にビルが再選を目指して選挙に負けた時も、「旧姓を使い続けたからだ」という質問は飛び、結局その次の選挙から彼女は「ヒラリー・ロダーム・クリントン」という名前にした。
後に彼女はそのことを「私にとって易しい決断ではありませんでしたが、家族、自分の為、彼の為に決断したことです。」と毅然と語ってるわ (悲)まぁそれに対して「政治的決断だった、ということですね?(皮肉)」とか言ってくるク◯野郎なインタビュアーが居ましたが、
ロクな人生を送ってないと確信しています。
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その後ヒラリーはファーストレディになり。笑い方も話し方も髪型もメイクも変えた。髪の色は明るいブロンドになった。もっと親しみ易く、優しい、夫を支えるファーストレディのイメージの為に。
医療保険改革などヒラリーの得意分野に関してビルは積極的にアドバイスを求めたし、そういった委員会の委員長に任命したりと、権限も与えたりした。だけど、ヒラリーのその前例のない存在感と仕事っぷりは戸惑いを生んで、陰の大統領と揶揄されたり、加えてビルの女性スキャンダルなんかも勃発し、それをTVの生放送で弁護した超ロックで潔い妻の対応に、何故かヒラリーが悪いみたいな感じになって。最終的にビルの再選の妨げになるとまでストラテジスト達に言われてからは、一歩下がった妻を演じるようになっていくという。OMG...
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名前も、「ヒラリー・ロダーム・クリントン」から「ヒラリー・クリントン」になることが多くなった。それは、一部の保守層を取り込む為のレトリックだとも言われるけれど。
なんか今回の選挙戦では「ヒラリーは話し方も笑い方も全てがフェイクだ」とか言われててさぁ。や、それは彼女が周囲の過剰な批判や期待に応えてきた結果なんじゃないのって。
ありのままで生きようとすれば「洗練されてない」「女らしくない」と言われ、じゃあ、と思って変えようとすれば「痛々しい」とか「偽物っぽい」とか言われて。あれなんかよく聞く話しじゃないか。
と思えてきて。自己主張が強すぎれば「意地の悪い不愉快な女」だし。
そらこんな表情にもなるわ。
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(私、実はこのヒラリーの写真がもの凄く好き。私としては彼女らしくて最高にかっこいいなと思うw)
女性がそのありのまま、その意思のまま生きていくということが如何に難しいかということを、彼女を通じて再度学べた気がした今回の選挙戦。女の敵は女だなとも再確認できたし、「白人」女性であるという点においては「特権階級の女」扱いされて、一部のフェミ層からも結構嫌わていたことも興味深かった。
右側からは悪魔アバズレ魔女呼ばわりされて、十分にリベラルではないと左側からも批判された。
良まとめ:【米大統領選2016】ヒラリー・クリントン氏を深く暗く憎む人たちとは
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ただ、彼女は自分が女性であるという属性をセンチメンタルに利用することは無かったし、どんなにその髪型や体型や話し方をからかわれても、感情的になることはなかったし、反論することもしなかった。
それはその69年という人生の中で、絶対に「してなるものか」と思ってきたことだったからだと思うんだ。
だから彼女が大統領選後、「ガラスの天上を破ることは出来なかった」と最後のスピーチで話したからって「女だから負けたと思っている」なんて言うのはお門違いも良いところな反応だなと思う。まずスピーチを全部聞け、と思うし←彼女ほど「女だから」を嫌う女性はいないでしょうに。仮に、仮に、彼女が「女性」であることを利用したことがあったとして、
彼女が「女性だから」乗り越えなければならなかったこれまでの障害の方が圧倒的に問題じゃない?
と。ヒ��リーはそのことでつまらない文句を吐いてきたわけじゃない。この大前提を最近忘れている人達がすごく多いなと思う。男性だけでなく女性でも。
なんかパラリンピックでメダルをとったアスリート達をとりあげて「すごいすごい」とだけ持ち上げる一方で、彼らが日々直面する小さな〜大きな、けど絶対に改善しければいけない問題については全く気を止めないのとある意味似ている感覚。
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そんな意味で、オバマさんが選挙戦終盤で語った民主主義についてのスピーチが私はとてもとても好きで何度も見てはその任期の終わりを思ってメソメソしたものです。。その中で、とても大切なことを話しているから。
「ヒラリーはこれまで沢山の批判を受けてきました。右からも、時には左からも、皆さんが想像できるすべてのことで責められてきました(中略)
彼女はそうした40年間に失敗もしました。私がするように。そしてここにいる皆さん全員がするように。失敗は、人が挑戦する時に起こることです。それはかつてルーズベルトが言及した市民であるときに起こることです『試合会場の外から批判する臆病な魂ではなく、実際にアリーナに立ち、勇敢に戦い、失敗もしますが最後には勝利の高みを極めるもの』です。
ヒラリー・クリントンはそのアリーナにいる女性だ。彼女はずっと私達の側にいてくれた。たとえ私達が気づかない時でも。そして皆さんがこの民主主義について真剣になるならば。彼女の考え全てに同調出来ないというだけで、家にとどまってはいられないはずです。皆さんは彼女とアリーナに降りてこなければ。なぜなら、民主主義はただ見物するだけのスポーツではないからです。アメリカは「誰かがしてくれるだろう」ではなく、「我々にはできる(Yes, We can.)」のはずなのだから。」
自分が「正しい」と信じたことに誠心誠意取り組んだ結果にあった成功も失敗も。彼女はずっとこの衆人環視の中で、40年間に渡ってその全てを受け止めてきた。
逃げ出すことも卑屈になることも、ましてや弱音を吐いたり泣いたりなんてこともせずに。
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皆大好きミシェル・オバマ大統領夫人のこの選挙におけるカリスマ性に関してもはや語る必要もないのだけど、就任当初はあまり政治活動に積極的でなかったミシェルさんが今回、目の色を変えて、それこそ何かが降臨したかのように人々にヒラリーの応援を訴える姿がね。とても印象的な選挙戦だったのだけど。
彼女はそれこそ、黒人女性というアメリカ社会的ヒエラルキーでいったら底辺の方にいるわけだよね。担任教師にすら「そんな大学は君には無理だ」とか言われながら諦めずにプリンストン、ハーヴァードに行って弁護士になって。色んな偏見や圧力と戦い続けてきた彼女だからこそ、ヒラリーと共有できる価値も沢山あっただろうなぁとシミジミしたな。
今でこそ、一部トランプサポーターからも好意を寄せられちゃうミシェルさんだけど。以前は肌の色はもちろん、筋肉質な体格や身長からやれ男だの野獣だのなんだの、まぁすごい言われようだったし、未だに言ってる頭おかしい人達もいるんだよね。本当に史上最高最強のファーストレディだったと思う。
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ヒラリーはただただ、自分の可能性に蓋をすることなく、努力を怠らず、時に失敗しながらも、信念を持って生きてきただけ。そのとてつもなく豊富で良質な知識や経験を家族や国の為に使おうと思った人でしょうに。無情な言葉を投げつけれくる人々の期待にまで応えようと自分の容姿や笑い方まで変えながら。
その実力さえあれば、ファーストレディ、上院議員、国務長官、大統領選候補、、そんな重圧なんて捨てて、穏やかで上質な人生が遅れるのに。
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コメディエンヌ、サマンサ・ビー曰く
「私がヒラリーならとっくの昔にこのアメリカなんていうやつは見捨ててるわ。でもほら、彼女は関係(=ビル)に見切りをつけることに関してはヘタクソだから。」
確かにー。
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ところで、色んな価値観においてガラパゴス化したこの島国日本の男性が「ヒラリーってなんか苦手」と言うのを選挙戦中よく耳にしたことが個人的に一番疲れた要因だったんだなー。「なんかって、なんで?」って聞くと大体答えは「なんか怖そうだから」なんだけど。
「そうかな。」と応えながら、私は大抵心の中でこう呟いていた。そしてこれからも心身の健康の為に呟いていようと思う。こんな顔で。
She ain’t gonna waste her smile on you, asshole.
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mashiroyami · 6 years ago
Text
Page 104 : 不在
 方角を頼りにして近道のために選んだ荒い林の中を潜り抜け、秋の陽に照らされて凪いでいる湖の表面を木々の隙間から見た時、ラーナーの胸に宿ったのは傷に沁みるような懐かしさだった。奥底からこみ上げてきてくると、まるでここが一つの故郷のような錯覚を覚えた。湖畔の町に滞在したのはほんの僅かだったというのに、何故だろう。或いは、安堵を勘違いしているのかもしれない。首都から歩き続けて辿り着くまでの道のりは長かった。はっきりとした目的地が、しかも既に見覚えのある場所であるというのは、真夏から地続きの旅の中で初めての経験だった。それは彼女が想像していたよりも大きな喜びを与えた。自ら決め、歩き出した旅で初めて辿り着こうとして辿り着いた場所。ここで味わったことを忘れたわけではないし、それもまた胸を痛めるけれど、今は達成感が上回った。  ゴールを目前にして、身体の倦怠感や痛みが和らいでいくのが分かり、足取りが自然と軽くなる。  湖の際をなぞる道はコンクリートで固められていて、その道をぼんやりとどこか夢心地のような感覚で辿る。エーフィが軽やかな動きで剥き出しの防波堤に跳び上がり、湖からほど近い境目を悠々とラーナーに合わせて歩き始めた。  風が無い。今日は天候も比較的良く、水面はとても静かだ。遠い向こう岸の小さな町並みも薄らと輪郭を視認できる。湖畔の町と銘打たれたこの町だが、湖畔という意味ではこの湖を囲う全ての町に当てはまるはずだ。それでもこのキリがその名を持つのは、最も繁栄しているからか、或いは、水神とやらの存在によるものか、もっと別の理由か。  けれどラーナーにとってはこの町こそが湖畔の町に値することは間違いない。  時折自動車が横切っていき、静寂を裂いていく。  長い舗装路を辿っていくと、背の低い白壁の家並みに入ってきて、いよいよ嘗て降り立った風景と重なる。昼間の日差しが白を余計に強調するけれど、その目映さは夏の頃とは異なった。町全体が馴染んだような、ぼやけたような、或いは枯れたような気配が漂っている。  しかし、すぐに以前訪れた時とは明らかな違いに気付く。  建物と建物の間、窓と窓を繋ぐように小さく色とりどりの旗がいくつも吊り下がっており、町を彩っていた。ポッポやムックルといった小型の鳥ポケモンがその旗の紐で足を休めては、飛び立って大きく揺らしていく。各住居の玄関口も掌大程のランプが秋の花と共に飾られている。夜になればランプの灯がともって、夜道を温かく柔らかな光が照らすだろう。  まるで祭りが催されているかのようだ。  町の静かな騒がしさを物珍しい目で眺めながら、ラーナーは道すがらに見つけた電話ボックスに入った。黒い公衆電話に小銭を投下し、鞄の中でいつの間にかくしゃくしゃに潰れてしまっていた一枚の手紙を丁寧に開いた。その中に記された電話番号を、間違えないように慎重に入力する。耳元でコール音が鳴るたびに、緊張で心臓の鼓動が早まっていった。五度目で目を閉じ、耳を傾ける。彼女の記した番号が間違っているとは到底思えなかった。だが、日中なのだ、電話に出られる状況でなくともおかしくはない。  時間をずらしてかけ直すべきか。七度目のコール音まで粘って受話器を置こうと耳から離す直前で、不自然に音が途切れた。  息を詰めて受話器を耳に押しつけた。薄い雑音が微弱に鼓膜を振動させる。電話が繋がっているが、相手からの声は無い。 「もしもし」勇気を出して震えるような弱々しい声を出してみる。「クレアライトです。ラーナー・クレアライトです」  祈るように受話器を握る手に汗が滲む。 「エクトルさんですか」  返答は無い。  寡黙で最低限のことだけ口にするような人物であるとは把握している。とはいえ反応がこうも一切無いと、ミスの無いようダイヤルを押したつもりでも自信が萎んでいく。  向こうで布を擦るような音がした。 『お久しぶりです』  冷ややかな低い声音には聞き覚えがある。威圧感をも与えるだけの不思議な迫力。それだけで、間違いなく本人だと確信し、一気に以前のこの町での記憶が走り抜ける。  安堵と緊張が同時に喉を通り抜けていって、生唾を呑んだ。 『この電話番号は、お嬢様に教���りましたか』 「あ……はい」  刺々しい口調に気圧されながら返答すると、受話器越しに溜息が聞こえてくる。 『解りました。それで、用件は』  感慨に耽る暇も他愛も無い談笑をする隙も無い。ラーナーもそれに乗じた。もう一枚手にしている、首都を出る間際に青年から貰ったメモに視線を落とす。つらつらと整った字体で書かれた手紙とは打って変わり、お世辞にも綺麗とは言えない走り書きの、まさにメモという言葉が当てはまるものだ。 「ザナトア・ブラウンという方を知っていますか」  返ってきたのは長い静寂であった。  僅かな溜息の後、返答が来る。 『存じ上げておりますが』  釣り餌に獲物が引っかかったような感覚に、ラーナーの胸が高鳴った。 「本当ですか」 『ええ、キリではそれなりに有名ですから』 「その人に会いたいんです」 『え』  珍しく狼狽の気配が露呈し、前のめりになりそうになったラーナーも瞬時にそれを察知した。 『……何故ですか』  冷静さを取り戻した声で尋ねられ、一呼吸を置く。 「昔、羽を失くしたクロバットをもう一度飛ばせることができたと聞きました。だから、会いたいんです。アメモースが、一枚翅が折れてしまって、飛べなくなったんです。もう一度飛ばせてあげたいんです」 『アメモース?』  疑うような声音。彼は鋭い人間だ。ラーナーの手持ちがエーフィとブラッキーのみであることを覚えているのなら、多少の違和感を覚えてもおかしくはない。しかし、事情を説明するのに今は時間も覚悟も足りていない。 「また追って説明します。とにかく、できるなら、その人に会わせてほしいんです」 『会うこと自体は、出来なくもないでしょうが』どこか歯切れの悪い口調だった。『承諾されないかと』 「どうして」  受話器を強く握りしめ、耳を澄ませる。  唯一の希望、ただそれだけを求めてここまで来たのだ。そう簡単には手放せない。 『……私も詳しくは存じませんが、羽を失くしたポケモンを再度飛ばせることに成功したのは、そのクロバットだけだったはずです。今、彼女がどうされているかは分かりませんが、恐らくもう手を引いているかと』  ラーナーは思わず足下で二又の尾を揺らしているエーフィに目配せした。  長い電子音が割り込んできた。通話終了が近いと報せる合図だ。ラーナーは片手で小銭を探る。 『ひとまず会って話しませんか。事情があるようですし、私も慎重になりたい用件なので』 「はい」 『今はキリにおられるので?』 「はい。キリの、駅に向かったら分かりやすいですか」 『いえ、以前お嬢様とおられた湖沿いの自然公園があったでしょう。あそこで落ち合いましょう。場所は覚えていますか』  自信があったわけではないが、湖畔に向かえば見つかるだろう。肯定し、すぐに会うとのことで約束をとりつけた。 「時間は大丈夫なんですか」  今更ではあるが、唐突にも関わらず妙にフットワークが軽いのが気にかかった。 『……ええ。以前より自由がきくようになりましたから』  皮肉めいたような言葉だった。  自分の旅の形が変わったように、周囲も変わっているのかもしれない。そんな火花のような予感を嗅ぎ取って、ラーナーは何も言えなくなった。 『それにこの番号にかけてきたら、すぐに駆けつけるよう言われておりましたので』 「……クラリスに?」 『はい。では後ほど』  そこで通話は途切れた。  ゆっくりと受話器を置き、ラーナーは長い息を吐く。  息の苦しくなる電話だった。目的も果たせるかどうか、雲行きが怪しい。しかし糸が完全に切れたわけではない。  鞄にメモをしまい、アメモースの入ったボールを見やる。フラネで飛行を試み失敗して以来、アメモースは諦めたように動かなくなった。暴れ回る気配も無く、無気力がそのまま生き物の形を成しているかのように、いつボールから出しても暗い表情を浮かべている。  飛べるようになったら、とラーナーは思う。そうしたら何かがきちんと噛み合って、うまくいくような予感がするのだ。  電話ボックスを出て、湖畔へと足先を向ける。元の道を辿り再び湖を前にし、自然公園に歩みを進めた。  殆ど車道しかない道を進んでいくと、やがて整備された白い歩道へと出る。雄大な湖を眺めながら散歩のできる贅沢な遊歩道帯だ。ここも心なしか人が多い。道に等間隔に備えられた街灯に、町中で見かけた情景と同じように花が添えられている。道に沿って一列に並んだ花壇に、成熟しようとしている稲穂のような植物がお辞儀をして茂っているのも印象的だ。車道と逆側に目線を移せば、ポッポが点々と湖上を飛び回り、水面と空の成す青い景色を眺めている人達が並んでいる。時間の流れ方が少しだけ遅れているような長閑な雰囲気が町全体をくるんでいる。  遊歩道の先に見覚えのある広大な芝生が一面に広がる自然公園へと辿り着いた。  のんびりと浮き足立った町の中で、周囲を見張るような目つきのネイティオを隣に据え、黒スーツを着こなしてだんまりとベンチに座り込み、小型のノートパソコンを打ち込んでいる彼は異質だった。座り込んでいても、体格の良さが背中越しに伝わる。派手ではないが、存在感があるのだ。  あの人はもう居ないのだ。男の背中を遠目に見つけたラーナーは改めて思いを致す。白く塗られた柵に寄りかかって明るい話も暗い話も交わしたあの人は。あの人達は。  ネイティオの首が不自然なほどぐるりと回り、大きな瞳に捉えられたラーナーは硬直する。いち早く感知したネイティオに気が付き、エクトルはパソコンを畳み振り返った。  現れたラーナーとエーフィを確認して、会釈をする。手本のような綺麗な所作だ。 「まさか戻ってこられるとは思っていませんでした」  出会って早々の言葉にしては棘があるようだが、以前と変わらない無表情を浮かべている。私もです、とラーナーは力無く流した。  居場所を迷っていたところに、促され、ラーナーは隣に浅く座る。居心地の悪さに腰から頭まで痺れるようで、背筋を伸ばす。その間にエクトルは鞄にパソコンをしまった。 「お仕事中にごめんなさい」 「いえ、休暇中なので」 「休暇?」  目を丸くしたラーナーは改めてエクトルを観察するが、群青のネクタイを形良く締め、皺も殆ど無いスーツをしんと伸びた姿勢で着て、嘗てキリで出会った時と印象は変わらない。その外見に休暇という弛緩した雰囲気はまるで感じ取られなかった。 「纏まった休みなんて随分取っていないので、結局仕事をしておりますがね」  他にやることもないですし、と付け足した。 「そういうものなんですか」 「さあ。私が欠けているだけです」  欠けている、という自虐の含まれた言葉にラーナーは口を噤む。それから、欠けている、と心の中で反芻した。  ぎこちない空気が流れている脇で、エーフィはネイティオの隣に歩いていき、二匹は目を見合わせる。ネイティオの表情は彫像のように変化が無い一方、エーフィは腰を下ろして尾を揺らし二人の様子を見守る。 「本題に移りましょう。アメモースは今居ますか」 「はい」  ラーナーは膝に鞄を乗せると、アメモースの入った紅白を取り出し、開閉スイッチを押す。閃光と共に同じ地点にアメモースが姿を現す。包帯を巻かれ翅を一枚失ったアメモースは触角を垂らし、やつれた様子で光を失った瞳をエクトルに向けた。  負傷したアメモースを前にエクトルの表情は静かに曇る。 「可哀想に」  口元で呟き、手を組む。 「……確かにあのクロバットは飛べるようになりました。飛べなくなった鳥ポケモンは珍しい話じゃありませんから、それ以来貴方と同じように彼女の腕を求めてキリの内外からトレーナーが訪ねてきました。けれど、結局クロバット以外を飛ばせることはできませんでした」 「それで、今も」 「今のことは分かりませんが、もう随分前から受け入れなくなったはずです」 「そう、なんですか」発する言葉が堅くなる。「あの、クロバットの話っていつのことなんですか」  暫し考え込む横顔に、望郷に似た雰囲気が滲んだ。 「二十……五、六年程前でしょうか。お嬢様が生まれる前ですから」  思わぬ過去の話にラーナーはたじろいだ。当然、彼女も生を受けていない頃のことになる。同時に、平然と語る目の前にいる人物が急に一回りも大きな人間に見えた。 「そんなに前の話だったんですか」 「ええ。なので余計に驚いたということもあります。噂がまだ残っているとは」  一瞥する視線に非難や憐れみの色が滲んでいるような気がして、ラーナーは肩を狭めた。 「自分で調べたわけじゃないんです。知り合いが教えてくれて、それに縋ってきてしまって」 「そうですか」 「でも、アメモースを飛ばせてやりたいのは、本当なんです」  口調に力を込める。  当事者は理解しているのかしていないのか、彼女の膝で黙り込んでいる。弱り切ったその様子を横目で見やり、エクトルは沈黙した。 「正直なところ」苦言を呈するように続ける。「私自身はあまり気が進みませんが」言葉に迷い、選び抜いたものを慎重に発しているような口ぶりだった。「希望を託したくなるトレーナーの気持ちもあるでしょう」  ラーナーが視線を上げると、相変わらずエクトルは難しい顔つきをしていた。 「私は事情がありその方とは会えませんが、話はしておきます。うまくいくかは分かりません。後は貴方次第です」  徒労に終わることも覚悟していたところに、僅かな光が差し込んだようだった。可能性は残されている。芯から広がる安堵に腰が抜けてしまいそうになり、ほっとエーフィに視線を投げると、相手も微笑んでいた。 「ありがとうございます」  声を絞り出すと、エクトルは首を振った。 「大したことではありません」 「いいえ、本当に有り難いです。���うく、何のためにここに来たのか、水の泡になるところだったので」 「頼りにするのは構いませんが、後先は考えた方がいいですよ」  直球な意見にラーナーは面食らい、そうですよね、と弱々しく返した。 「それに安心するにはまだ早いです。私の話を聞いていただけるとも限りません」 「エクトルさんのお知り合い、なんですか?」  彼の眉間が僅かに歪む。 「何故」 「なんとなく、そうなのかなって」  気分を害しただろうかと萎縮したが、次の瞬間には彼の表情は元通りになっていた。 「……昔お世話になっていた時がありました。ですが、もう長らく会っていません」  ネイティオを見やり、指に力を籠めた。 「あちらはもう私の顔なんて見たくはないでしょうし、私も合わせる顔がありませんから」  含みを持たせた言葉が気にかかる。  ザナトアという人物と彼の間に存在しているのであろうただならぬ気配に、これ以上踏み込んではいけない過去を想像させた。 「……なんだか」ラーナーは顔色を窺う。「元気が無いですか」  エクトルは細い漆黒の目を少しだけ丸くして、鼻で笑った。 「失礼。話しすぎると良くないですね」 「何があったんですか」 「特には。お嬢様の元を離れたというだけです」  水流のようにさらりと打ち明けられた事実は、ラーナーに与える衝撃の大きさとしては充分だった。  絶句したラーナーを振り返る男の淡々とした表情からは、感情が見えてこない。 「貴方こそ、以前より弱っていらっしゃるように見受けられます。あの二人の少年はどうされましたか。アメモースも貴方のポケモンではなかったはず。別行動をされているので?」  ラーナーはぐっと喉の奥を引き締める。  痛いところを躊躇無く突いてくるが、当然の事項だろう。出会った時から違和感を抱いていたに違いない。彼女たちを知る誰かからいつか必ずこの質問が来ることなど、とっくに理解している。  エクトルはラーナーを観察するが、彼女の顔色は何一つ変わらなかった。晴れも曇りもなく、寸分も変化の無い表情で口を開く。 「あの二人は今首都にいます。元々、一人で旅をするはずだったんです。漸く本来の形になった、ただそれだけなんです」  呪文のように言い切り、黙り込んだ。そうですか、と呟いたエクトルもそれ以上は追随しなかった。  深く尋ねられるほどお互いに親密な関係でもない。この短期間の変化についてそれぞれで疑問を抱いたまま、しかし干渉しなかった。少なくともラーナーにはそれをするだけの力が残されていなかった。欠けている、エクトルの発した言葉を再び思い返す。欠けたのは彼だけではない。ここにいる誰しもが、きっとどこか欠けている。 < index >
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