#沈黙の宴
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hiromusicarts-blog · 1 year ago
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ヒロオガワ - 沈黙の宴 Coda (1988年の作品)
秋の新譜「叙情 - Lyric Suite」の候補曲でしたが選外に
25歳の時に書いたピアノ曲です。
この曲、ショパンのスケルツォ第3番に似てるなぁと思った方、鋭いです。楽曲構成の一部を模倣しています(パクリとか盗用ではありません)
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simamamoru · 11 months ago
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戦闘服の男たちNo.1
さぶ増刊号 1985/7
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G-men 2009/6
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§1 夜明け前
 俺は島護、25歳の陸上自衛隊員だ、体付がごついのでゴリラの様だと皆言う、勿論短髪、入隊して3年、我ながら戦闘服姿��板に着いて来たと思う。今俺は、ジープのドライバーとして、この久しぶりの大演習に参加している。
 演習場の空が、ようやく白み始めてきた。午前4時、俺の運転するジープは、戦車がさっきこねくりまわしていったぬかるみを、ケツを左右にふりながら最後の目的地にむかっている。夜通しの演習は何度も経験してるけど、3日めになるといつも意識もうろう、ただ気力だけで動いているっていう感じ。頭は短髪だからなんとかなってるけれど、顔は不精髭、体だって風呂なんか演習中入れないので汗と埃でべっとりしている。隣で無線機片手にさっきまで巻くっていた金城3尉も、いまは黙りこんでいる。
 金城3尉は27歳、骨太ですげえいい体しているんだぜ、頭はいつもさっぱりと刈りこまれた短髪で、いかにも沖縄生まれっていう顔は本当に野生の証明そのものだね。
 実は俺、前から憧れっていうと照れくさいけれど、気になる人だったんだ。けれども違う小隊の幹部だったのでなかなか話すチャンスも無いし、遠くから見てるだけ。だから今度の演習でジープの運転手として一緒に行動をするって聞いた時とても婚しかったよ。
 そんな金城3財が、ポツリと
「元太の奴、どうしてるかな。」
元太っていうのは、俺の同期で、九州からきた高橋士長のことだ。あいつも図体でけえくせに俺より3歳も年下で、口は悪いが性格よくてなかなか憎めない奴だ。
 そんな元太なんだが腰を痛めたとかで演習の3日ほど前から入院して-まっている。たしか金城3尉の小隊だったはずだ。
「ああ、あいつのことなら心配せんで下さいよ。キングコングみたいな、図体がそう簡単にへこたれませんよ。」
「ひでえこと言うなあ。おまえもゴジラみてえな体してるくせに。」
「じゃ、金城3尉は大魔神じゃないですか。」
 あは、言ってしまった。3尉殿に大魔神だなんて、思わずペロリと舌をてしまう。
「お前も元太と一緒で可愛い奴だな。」
「エヘ、そうですかぁ」
 なんて冗談を言っているうちに眠気も覚めてきた様だ。
 夜も明ければ状況(訓練)終わり。終われば休暇が待っている。
§2 事件発生
 演習が状況終了になると、その夕方は演習場の天幕(テント)の中で恒例の大宴会が始まることになっている。正直言ってこれを楽しみにしている隊員も多い、汗臭い戦闘服を脱いだ時の解放感と、酒を飲んでポロリと出る本音のぶつかり合いがたまらなく好きなんだよな。
 あたりも暗くなり宴もたけなわ、俺たちの天幕は8人のむくつけき男どもで足のふみばもないくらいだ。さっきまでの疲労の色もなんのその、酒は命の水とはよく言ったもんだ。
 幹部同士で呑んでいた金城3尉が赤らめた顔をして、焼酎の一生瓶をかかえてやってきた。そして俺の隣に座りこむ、
「おい、島、飲んでいるか。まっ一杯飲め!」
と言って一生瓶をさしだしてきた。
「3日間、御苦労だったな。お前のおかげだ、さあ飲まんか!」
 いくら俺が力自慢でも金城3尉に押えつけられたら手も足も出ない。
 それでも有無を言わさず、瓶ごと口につっ込んでくる。俺、思わずむせてしまった。そしたらやっと力を緩めてくれ��。
「ふーっ!助かった。もー殺さんでくださいよ。」
 あたりに笑い声が響き渡った。
 そんなとき、俺の手がぐっと3尉に、握られていることに気がついた。
 熱い手だった。急に頭がクラクラとしてきた。酔いが回って来たようだ。だんだん意識が……
「島士長!起きてください」
がんがん鳴り響く闇の底から起こされたのは、午前3時。俺をゆさぶっていたのは、不寝番の伊藤一士だった。重い頭をかかえながら起き上がると伊藤一士は
「高橋士長が、地区病院から行方不明になったそうです。今部隊から連絡が有りました。」
 頭がボーッとしている俺は最初その事態の重大さに追い付いて行けなかったが。少しして、
「な、なんだって!元太が逃げたって!」
 隣で寝ていた金城3尉も起き上がって来た。
「元太がどうしたんだ。」
「地区病院から脱柵(脱走)たって……」
「あの馬鹿野郎!いったいどうしたんだ。」
 3尉もまだ酔っている様だ。俺は戦闘服をひっかけると、半長靴を急いで履き
「金城3財、中隊に電話してきます。」
といって天幕を飛び出した。いったい元太の奴、なにがあったというんだ。まだほとんど冷めて無い酔いとともにそんな思いがぐるぐるめぐっていた。
 電話のある天幕はこの時間には誰もいない、さっきも不寝番が飛んで来て受けたのだ。
 俺は中隊へ電話かけた。こんな事件のあった時は必ず当直が誰かひとり起きているはずだ。
「はい、3中隊当直幹部です。」
「演習部隊の島士長ですが、高橋士長の件でどうなったのか、知りたいと思いまして。」
「ああ島か、三上2尉だ、どうやら午前2時ごろいなくなったらしいんだがな。」
「いったいなにが原因何ですか、」
「それは俺が知りたい位だ。」
「じゃ、詳しい事はまだ…・・・・。」
「そんな所だ、島士長、あまり心配せんで移ろ。」
俺は、演習場に居て何も出来ない自分にどうしようもないいらだちを感じていた。
「何かわかったら電話下さい。俺、ここでまってます。」
 そういって竃話を切った。
§ 3 ふたたび夜明け前
 いつのまにか後ろには金城3尉が立っていた。
「詳しいことはまだわからないそうです、なんか信じられないっすよ。」
 金城3尉は、俺の肩を抱きながら、
「元気出せ島。元太は戻って来る、必ずな。俺も一緒に連絡を待とう。」
 そういって3尉は、持って来た一生瓶を俺に差し出した。俺は進められるままに一生瓶ごとくい飲みした。自棄酒だな、まったく。
「どうだ、もっと飲め。」
 金城3財は、自分でも一杯飲むと、今度は俺を天暮のシートの上に押し倒した。ふだんならこうも簡単に倒れるわけないのだが酔ぱらってなんだか分からなくなってきた。
「まだ飲み足らんか、お前は可愛いやつだぜ。」
 金城3時は、俺の体の上にのしかかって来た、酒の匂いと共に戦闘服に染み込んだ男の匂いがムッ、としてきた。
 気が遠くなりそうな、でも俺、嫌じゃなかった。
 金城3尉の手が俺をきつくだきしめる。耳に熱い吐息がかかる、だんだん体から力が抜けていく……
「元太の所へ俺だって飛んでいきたいんだ、島、分かるかこの気持ち、実はな、俺はこの中隊に来てからずっとお前ら2人が気にいっていたんだ。元太はともかく、お前だって俺は遠くから見ていたんだ。だがな、こんなふうになるとは思ってもみなかった。元太の奴め、俺は寂しいよ。」
そういい終わると静かに唇を重ねてきた。熱いものが体の中から沸いてくる。
 3尉は俺の職闘服の上衣のチャックをおろすと胸のあたりをなぜまわし始めた。
「ウーツ」
 自然に声が出てしまう。いつのまにか戦闘服のズボンのボタンも外されていた。
 そして無造作に手が突っ込まれてきた。
「堅いな。」
 そう言って俺の気持ちを確かめると、おもむろに酒を煽り、口移しで酒を送り込んできた。
 あまりの量の多さに口から溢れてしまった、金城3尉は舌でそれを拭うとまた、唇を重ねてきた。舌と舌が口の中でからみあう、それに加、て強い雄の臭いがたまらなく俺を刺激する。
「金城3尉!た、たまんねえよう。」
 俺はあえぎ声を出してしまう。
「そうか、たまんねぇか、もっと良くしてやる。」
と、言って戦闘スポンからず大くなった俺のモノを引き摺りだした。
「体にお似合いのゴツいモノだな。」
 そう言いながら唾をおれのモノに垂らすと、指で一番敏感な所をこねまわしてきた。もう片方の手は俺の口の中に容赦無く入り込んでくる。
「どうだ、今度は俺の番だ。」
 といいながら、自分の戦闘ズボンの前をまさぐり、俺に馬乗りになってきた。そしていきり勃ったモノを口にねじ込んできた。
「ウグッ!」
 むせ返るような強い臭いに圧倒され、俺は無心に頬張る。その間にも金城3尉は俺のモノをこねくり回す。
「いいな島、この事は2人だけの秘密だからな。」
 腰を動かしながら金城3尉がいう。
 頬張りながら俺がうなずく。
 そして3尉は、一層堅くなったモノ引き抜くと体をずらし、俺の爆発寸前のモノと自分のモノを一緒に握り、激しくシゴキだした。
「ウ、ウッ島、」
「キ、金城3尉ー」
 二人は、押し殺した声でお互いの名を呼びながらおびただしい量をほとばらして果てた。それは、戦闘服のはだけた分厚い胸にふりそそいだ。それを3尉はていねいになめると軽く口を重ねてきた。 
 俺はだんだん気が遠くなりそのまま寝てしまった。
§4 捜索
 翌朝俺と、金城3尉は元太の捜索に協力する為、一足先に演習場を出発した。
 二人とも照れ臭いのか黙ったままだ、だがその沈黙を破るように3尉が、
「昨日のこと、覚えて要るか。」
 と、ひとこと言った。
「え、ええ。」
 俺は思わずどぎまぎして答えた。
「嫌だったらごめんな。」
「そんな、始しかったです。」
 言葉少なめに答える。ジープが信号で停車した。
 シフトレバーを握る手がもうひとつの大きな手に包まれた。
 中隊に帰るとすぐ捜索に加わったが、その日の手がかりは何も無かった。
 だがその夜、金城3尉あてに電話が掛かってきた。
「元太、お前何処にいるんだ。え、よし分かった今行く。」
「島!来い」
 慌てて3尉は飛び出して行く、俺も急いで付いて行く。シープは二人を乗せて夜の町へ走り出していった。
 5分もジープを走らすと、ヘッドライトが道に立っている元太を照らしだした。
「さあ早く乗れ、一緒に中隊に帰ろう。」
 金城3尉が元太に話掛けた、だが、
「俺、帰りたくない。」
 と、一言言ったまま黙って仕舞った。
「仕方が無い、じゃ、俺のアパートに来い、それならいいだろう。」
3尉がそう言うと黙って元太はうなずいた。
 結局元太は、退職していった。奴の腰の病気は、自衛官として仕事を続けていきり直ることはないというものだった。
 陸曹になり、幹部に成ることを元太は夢見ていたのにそれが挫折してしまった。それがつらくて逃げだしてしまったそうだ。
 俺も3尉もなにもしてはやれなかった。あんなに丈夫な奴だったのに。
「俺は、野原でひと暴れする為に自衛隊に入ったんだ。小銃片手に演習場を走り回る、屈強な男だけに許された仕事さ、だけどこの体じゃもうそれもできねぇ。たとえ部隊に戻れても、どうも事話関係の仕事に回されて任期がくれば、はいさよなら そんなのやだぜ」
 そう言ってあいつは国へ帰って行った。
§5明日へ
 それから数週間が過ぎた。あれ以来金城3尉ともなかなか話する機会もなくたまに目で挨拶をかわすぐらいしかできない日が続いた。
 そんなある日、再び金城3尉のドライバーとして演習の偵察に行くことになった。もちろん3尉のご指名…っていうか元太の後釜。
 ほとんど単独行動になるのでずっとふたりきりという訳だ。俺もじっとまってたよこの日をね。
 けれども仕事は、そんな俺の甘い考えをふっとばすかのようにとても忙しかった。話すことは仕事上のことばかり、演習場のなかをシープは縦横に走り抜けて行く。
「さあ、これで終わりだ。島士長、シープを降りて一休みでもしよう。」
 と金城3尉がいったのは午後の日が沈みはじめた時間になっていた。
「はい」
 と返事をして俺はジープを道端に止めた、あたりは一面に草がおい茂っている。
 3尉は降りて立小便をはじめた、おれも並んではじめる。
「フーツ」
 小便が終わっても二人はそのままたっていた。ふと金城3尉の方を俺は見た。横顔が夕日に染まっていた。3尉もこちらを向く、視線が絡み合う。
「久しぶりだな。」
「長かったけど、俺待ってました。」
 ふたたび前を向くと、金城3尉は俺の肩を抱いて茂みの中へ歩き出した。
 夏の終わりの演習場は背の高い草に覆われ、ほんの少し足を踏み入れただけでそこはもう二人だけの世界になっていた。
「俺の事好きか?」
 と、金城3時が聞く。俺が目でうなずく。
 肩に回された手に力が入り思いっきり抱き締められた、背骨が折れんはかりの力である。
 ああ、これが俺たちの愛し方なんだ、有無をいわさぬ強引さで右手が開いたままになっていた戦闘服のズポンの前に突っ込まれてきた、すでにはちきれんばかりとなっている俺のモノを引き摺りだすと唾を付けてシコキだす。
「たまんねぇよぅ。」
 俺はうめき声を金城3尉の耳元でささやいた。
「よーしいいぞ。」
金城3尉はうなずくと、しゃがみ込み俺のモノをくわえこんだ。そして両手で俺のズボンのボクンをはずし際まで下ろす、右手は俺のケツのあなをいたぶり、左手はキンタマを滑り回す。
 そして俺の手は金城3尉の頭をがっちりと押さえ込んでいた。
「金城3尉ーもうがまんできねぇー。」
「うるせぇまだだ。」
 そういうと3尉は、俺を後ろ向きにした。
 俺は覚悟をした。
 ベトベトになった俺のモノをこねくり回しながら、ケツを舐め始めた
「あっ汚いっす」
 臭くないわけがない、それでもグッと舌を突っ込んで舐めまわす。
 俺は快感に蹂躙された。
 3尉は立ち上がって口を拭う。
「いいな。」
 と、一言いうと、自分の戦闘スポンから見事に怒り狂ったモノをまさぐり出し、俺のケツにあてがった。そして乳首を…
 俺が、つい、力を抜くと同時にゆっくりと先の方がめり込んできた。
「ううつ・い、痛ェよう。」
「なあに痛てえだと?男ぞ!がまんせんかあ。」
 そういうと、腰にまわした手に力を込めてきた。物凄い力で俺のケツが引き裂かれる様に少しずつねじ込まれてくる。
「し、島、入ったぞおーっ」
 3尉がうめく様に汗を拭いながら言う、俺もまだ着たままの戦闘服で額の汗を拭った。
「まだ痛いか。」
俺は首を横に振る。
 ゆっくりと金城3尉は腰を使いはじめた、手は俺のモノをシコキだす、もう片方の手は俺の戦闘服のチャックを下ろし、シャツをたくし上げ、乳首をいたぶる。
 いつのまにか俺は金城3財の動きに体を合わせていた。
 
 突然金城3尉の体が痙攣し、俺のモノが思いっきりシゴかれた。体の中で激しいほとばしりを感じると同時に、俺も勢いよく草むらに噴出してしまった。
 そしてそのまま二人ともその場に倒れこんだ。
 二人で大きなためいきをつくと、寝っころがったまま空を見上げた。あたりはすっかり夕焼けで真っ赤になっている。
 ふと、金城3尉が言った。
「島、お前も満期(2任期‥4年)で除隊しちまうんか!」
「ええ、そろそろ国へ帰って親父の現場仕事でも手つだおうか、とでも思っていたんですが。」
 本当はまだどうするか決めていなかった。
「そうか。どうだ、島、陸曹候補生受けてみんか。」
 陸曹になると俺たち陸士の様な任期制の際員と違い、定年まで勤務ができる様になる。つまり職業軍人というわけだ。勿論その為には、試験があり。学科だけでなく、体力検定、基本教練、あげくの果てには小銃担いで障害物競争をする武装走まであるという苛酷なものだ。正直言って一度受験したらもうたくさんと思ってしまう。
「でも、この前一度受けて落ちましたから。」
「一度ぐらい落ちた位でなんだ。もう一度受けてみろ。お前は自衛隊に憧れて入隊してきたのは分かっている。演習に出ている時、お前は一番いい顔をしているじゃないか。」
 
 そう言って金城3尉は立ち上がった。そして、
「島、そこの俺の帽子見てみろ。」
 俺は、そばに落ちていた帽子を拾い上げた。
「あっ、この帽子は…」
「そうだ。元太のだよ。あいつが辞めた時、補給陸曹に頼んで交換してもらったのさ、」
「そんなに金城3尉は元太の事を、」
「そうだ、今でもお前と同じくらいな。好きだったよ。だがな、あいつは気付いてなかったよな。そんなこと。ただの口うるさい小隊長さ。」
 ジープに寄り掛かりながら話てくれた。
「じゃ、俺が辞めても何か俺の身につけていてくれますね。」
 すると俺の方を睨みつけて言った。
「馬地野郎!まだわからんのか。お前は陸曹になるんだ。そして俺に付いて来い!必ず良かったと思う。もう別れの寂しさなんかまっびらだ。」
 そう言いながら俺を強く抱きしめた。迷いが少しずつ消えていくような気持だ。
「よし!俺、また挑戦します。」
「その調子だ、島、俺が合格するまでたっぷりシゴクぞ。」
「エへ、じゃ、合格したらシゴイてくれないんですかぁ。」
二人は顔をあわせて笑った。(終わり)
さぶのカットと、G-men 版の挿画
どちらも木村べん氏。挿画はべん氏より頂いた鉛筆画のコピー。
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ニッポンの夜明け (The Dawn of Japan) • 動物のすべて (Everything About Animals) • 頓珍漢の宴 (Tonchinkan Feast) • Cryptid • デラシネ (Deracine) • 祭りだヘイカモン (It's Matsuri, Hey Come On!) • 羊たちの沈黙 (The Silence of the Lambs) • China Girl • 空想しょうもない日々 (Crappy Fantasy Days) • ウソラセラ (Usora Sera) • すきなことだけでいいです (All I Need are Things I Like) • きみも悪い人でよかった (I'm glad you're evil too) • SAYONARA HUMAN • 1year • はじめまして地球人さん (Nice To Meet You, Mr. Earthling) (Human Ver.) • からっぽのまにまに (At the Mercy of Emptiness) (Human Ver.) • 前夜祭のデルトロ (Del Toro's Eve) • 腐れ外道とチョコレゐト (Kusare-gedou and Chocolate) (Human Ver.) • ありふれたせかいせいふく (Common World Domination) (Human Ver.) • hanauta
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ari0921 · 2 years ago
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「宮崎正弘の国際情勢解題」 
令和五年(2023)12月11日(月曜日)
    通巻第8044号 
 全米で113校あった「孔子学院」の廃校すすみ、残りは五校
  次は中国との「姉妹都市」関係にもメスが入る
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西側諸国では中国の都市との「姉妹都市」関係を解消する動きが顕著となっている。
オランダでは、アーネム市が中国の人権状況の悪化を理由にあげて、武漢市との21年間にわたる姉妹都市関係を終了させた。オランダではほかに7つの都市などが姉妹都市関係を畳んだ。
 英国では、新疆ウイグル自治区での人権侵害を理由にニューカッスル市が山西省太原市との37年間にわたる提携関係を終了した。
 オーストラリアでは、ワガワガ市議会が、中国政府の新型コロナウイルス感染症への誤った対応を理由に、昆明市と32年間にわたった姉妹都市関係を解消する動きを見せた。
カナダでは、ウィニペグ市議会議員が、中国政府の台湾政策、新疆ウイグル自治区などでの人権侵害、ロシアによるウクライナで進行中の戦争への支持、「人民解放軍」の恣意的拘束に対する懸念を理由に、成都との35年間にわたる姉妹都市関係を終了する動議を提出し侃々諤々の議論があったが、議会は否決した。
ドイツのキール市は国家安全保障上の懸念から中国の青島と姉妹都市構築計画を止めた。
 中国の姉妹都市関係は、中国共産党の統一戦線ネットワークの別組織「中国人民外国友好協会」によって管理されている。
米国はどうか。
2023年5月時点で、米中間には234組の姉妹都市と50組の姉妹州/省が維持されており、とくに習近平が福建省時代のワシントン州タコマ市と福建省福州の姉妹関係の先行きがどうなるか、注目を集めている。
日本の都市と中国との姉妹都市関係たるや、日中友好時代の名残で、じつに350以上ある。東京と北京、大阪と上海、京都と��安が代表例だろう。
ほかにめぼしい所を拾うと札幌と瀋陽、旭川と哈爾浜、仙台と長春、甲府と成都、広島と重慶、神戸と天津、福岡と広州、大分と武漢、唐津の揚州、鹿児島と長沙などである。
なかでも名古屋と南京の姉妹都市関係は河村市長が2012年に南京を表敬訪問の際、『南京大虐殺はなかったのでは?』と発言して、南京市側が交流中断という報復的な措置を取った。
この河村市長の勇気ある発言にほかの都市の首長たちは沈黙したまま。
▼日中友好五十年記念事業の寂しさ
2022年は田中角栄の北京訪問から半世紀。熱狂的なパンダ見物の長い行列が、そのブームを象徴したが、さて日中国交回復半世紀を祝う祝賀行事は寂しかった。未だに中国にあってビジネスを展開している企業や、所謂「友好団体」などが義理的に参列しただけで、親中派議員の福田某、鳩山某、二階某あたりがはしゃいだが、大方はシラケていた。
姉妹都市関係を結ぶとどうなるかと言うと、相互訪問で旅費は市議会予算から、土産も。先方は連日宴会、視察なる小旅行はパトカーが先導し、なかにはハニトラも報告されている。  
ようするに中国シンパに籠絡させることに目的があり、また中国側が来日すると、ホテルの格が低いとか食事は量が足りない、こんな粗末な土産は何だ等と批判に明け暮れる輩が多い。
市会議員などと言っても中国では市長より書記が偉いわけで、そのランク別待遇が中国のもっとも関心の深いマナーである。
反日暴動以後、日本側の静かな怒りが拡がって相互訪問は減った。
事実上、相互訪問を途絶えた都市も多いが、正式に関係解消をした都市はないようだ。また中国側もバブル崩壊で地方政府の歳入がなくなり、接待どころではなくなった。
欧米の姉妹都市関係打ち切りのように日本の都市で正式に宣言したところはない。孔子学院も13大学にあるが、廃校の声が聞こえない。
米国は首都ワシントンの動物園にいたパンダを送還した。日本も上野動物園などにいるパンダを送還したらどうだろう?
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kennak · 2 years ago
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【独占インタビュー】  服部吉次さん(俳優・音楽家/78歳)  今年3月に英公共放送BBCが報じたジャニーズ事務所の創業者・故ジャニー喜多川氏の性加害問題のドキュメンタリーを契機に、元ジャニーズJrでシンガー・ソングライターとして活動するカウアン・オカモト氏(27)が実名でジャニー氏を告発するなど、その衝撃は日本中に広がっている。今回、俳優で音楽家の服部吉次氏が小学生の時に受けたジャニー氏からの性被害を告白する。吉次氏は「別れのブルース」「東京ブギウギ」「銀座カンカン娘」などの和製ポップスで知られる国民栄誉賞受賞作曲家・服部良一の次男。長兄は作曲家の故・服部克久だ。(独占インタビュー前後編の後編です)  ◇  ◇  ◇  ──ジャニー喜多川氏に弄ばれたあとはどうしたのですか? 「なぜそうなのか、説明するのは難しいのですが、それからもジャニーとの関係は2年半くらい続きました。彼は毎週土曜日に来て、そのたびにまた私と一緒に寝て同じ行為を繰り返すんです。たぶん1年で30回くらいでしょうか。  秘密の快感と引き換えに、罪悪感は大きくなるし、体によくないという直感も働く。ましてそれが両親にバレたらジャニーが怒られるだろうということも分かるんです。  その頃、ジャニーは『ジャニーズ少年野球団』という、少年野球チームを持っていて、服部家にもそのチームの子どもたちを連れて遊びに来ていました。  彼の運転する車はテールの長いアメ車のクライスラー。それに乗ってドライブするのですが、昔の環状6号線なんか道路の高低が大きいので、まるでジェットコースターに乗ってるみたいで、みんながはしゃいで大騒ぎしたことを覚えています。  これはよく知られていることですが、雨で野球の試合が中止になった時、ジャニーと東京ジャニーズのメンバーが映画『ウエスト・サイド物語』を見に行って、ジョージ・チャキリスのダンスシーンのカッコ良さにしびれてしまい、『これからは歌と踊りだ!』とジャニーがひらめいたといわれていますよね。父の諦道氏も野球とショービジネスにたけていたからそのあたりは血筋でしょう」 ■彼を野放しにした日本社会の閉鎖性  ──なぜ家族が気づかないのでしょう。 「よく言われますが、私の場合ももしかしたら家族が気づいていたのかもしれない。でも、それを体裁が悪い、不都合なことは隠す、という日本的な閉鎖性があったのかもしれない。それが結果的にジャニーを野放しにしたのではないでしょうか。  1965年にジャニーズ事務所が独立した頃もジャニーやメリーも服部家に出入りしていましたが、私とのことは何もなかったかのような振る舞いだし、そもそも彼も少年愛の年齢ではもうなかったからでしょう。私も、記憶の底に封じ込めてしまったのでしょう。そのほうが気持ちが楽ですから。  ただ、その頃ジャニーズ事務所というジャニーにとっては、“趣味”と実益を兼ね備えた“格好の場所”が確保されたわけで、新たな被害者を生み出すことになったのを防ぐことができなかったのは忸怩たるものがあります。  余談ですが、高校生の頃、演劇部の稽古で深夜になることもあって、そんな時なんか、母がジャニーを呼んで『車の運転頼むわね』と、成蹊の演劇部の部室まで迎えに来させるわけです。さすがに彼も憮然とした顔をしていましたが(笑)。  私が大人になってからも、ジャニーは父の主催するコンサートなどにマメに顔を出していました。私はアングラ劇団で役者をしていましたが、生活のために一度だけ兄の克久が音楽を担当した少年隊のミュージカルに出させてもらったことはあります。その時も、『いいよいいよ』とジャニーは二つ返事だったそうです。ただ、慰労会と称した乱痴気騒ぎで若い女優たちをホステス扱いするような世界とはなじめず、それっきりでした」 ──ジャニーズ少年野球団との交流は? 「同じ頃、ジャニーの車で『少年野球団』のメンバー3人と僕の友だちの総勢6人で父の軽井沢の別荘に1泊旅行することになったんです。大人はジャニーだけ。  同行した私の友人Mは今でいうジャニーズ系の美少年で、父の誕生パーティーに彼を呼んだ時に、たまたま来ていたジャニーが彼を見てぞっこんだったようです。『あの子も連れておいで』と言われたので一緒に行くことになりました。  父のコテージは和室と洋間の2部屋。和室が寝所で、両サイドが2段ベッド(4人)で畳に4人分の布団が敷けるから8人は泊まれるんです。  夜、トランプ遊びをした後はジャニーのお定まりのコースです。部屋を暗くして布団に入ったら、気配が伝わってくるんです。『あっ、始めたな』って。  まず2段ベッドの野球少年たち、そして同級生、それから僕。まるで『鴬の谷渡り』みたいに、一晩で5人の間を渡り歩くなんて彼にしてみれば夢の饗宴だったでしょう。大人はいないし、やり放題。ただ、それから数十年後にM君にこの時の話を聞いたら、こう言われました。 『あの時、怖くて外でしくしく泣いていたら、隣のコテージの女性が異常を感じたようで、僕に“どうしたの?”って聞くので途切れ途切れに今自分が体験したことを話したら、そのお姉さんが部屋にいるジャニーを問い詰めたんだ。ジャニーは弁解したけど、彼と同じくらいの年齢のお姉さんは、かなり怒っていた』と。  このことが両親に漏れたら、おそらくジャニーは服部家にも出入り禁止になっていたでしょうけど、言い逃れして事なきを得たのだと思います。この事件後も、ジャニーは服部家に出入りしていましたし、私も何食わぬ顔で接していましたから」 ──ジャニー氏は良一氏の葬儀にも参列されたとのことですね。 「父・良一が亡くなった時、私が喪主である兄の代わりに葬儀を取り仕切っていたのですが、お通夜の時、ジャニーが『よっちゃん、明日の本葬も大変だろう。うちのペントハウスがあるから泊ま���ていきなよ』と言うので、いわゆる『ジャニーズの合宿所』の最上階に泊まりました。  ぼくの妻と子供たちも一���。トイレ、和室、プレールーム、風呂場などすべての部屋にテレビがある広大な部屋でした。妻は『こんなことしてくれるのは今度は有吉に食指を動かしてるのよ』と言って、葬儀の時も片時も有吉から目を離さなかったみたいです。有吉は12歳でしたから」 ■“PTSD被害”を再生産した罪  ──結局ジャニー氏はどんな人だったのか? 「マメで気が付くし、気くばりの人。片付けも一人でみんなの分をさっとやるし、いいオジサンであるのは確かです。でも、ステージに立つ夢を抱きながらジャニーズ事務所の門戸を叩いた少年たちの心と体を傷つけむさぼるように快楽にふけった罪は許せないです。  これはあくまでも私見であり、飛躍しているかもしれないけど、彼は日系2世として朝鮮戦争に従軍してるし、アメリカでの日本人差別も経験している。彼もPTSDに苦しみ、それは性加害という形で発現されたのかもしれないと、一度は彼を戦争の被害者の一人として許す気になった時もあります。  しかし、戦争によるPTSDの被害を知るようになるにつれ、彼はPTSDを再生産し、幾何級数的に増殖するシステムを構築してしまった。その現実が見えた今、彼の罪深さは計り知れないと思います。  私自身、その時のPTSDに苦しみながら、なぜ70年間も告白できなかったのか。あらがえなかった、沈黙してしまった、それがジャニーの性被害を育み、果ては主要メディアの沈黙にまで手を貸してしまった。引き返せない歳月を取り返したい。マスコミの糾弾はもっと厳しくあってしかるべきだと思います」 ▽服部吉次(はっとり・よしつぐ) 本名・服部良次。1944年生まれ。父は作曲家・服部良一。劇団黒テントの創立メンバー。「翼を燃やす天使たちの舞踏」「上海バンスキング」「阿部定の犬」ほか多数の舞台に出演。妻は女優の石井くに子。次男はハンブルク・バレエ団で東洋人初のソリストで、バンクーバー五輪の開会式に出演したバレエダンサー・服部有吉。兄は作曲家・服部克久。甥は作曲家・服部隆之。隆之の娘はバイオリニストの服部百音。 (取材・文=山田勝仁)
(3ページ目)ジャニーズ性加害構造の萌芽は70年前に…一晩で5人の少年の間を渡り歩いた“軽井沢事件”の全貌|日刊ゲンダイDIGITAL
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quuyukadaisuki · 2 months ago
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狂える時の宴 シャドウ・オブ・ソーサー
〜誰が為に時は鳴る〜
_0.プロローグ_✍
【あらすじ】
時は狂い、筋肉は躍る。
ゴールドソーサーを舞台に、時を巡る陰謀と究極の筋肉が激突する!
きらびやかなライトと歓声が飛び交うマンダヴィル・ゴールドソーサー。今日も変わらず、歓喜と熱が交錯するこの遊技場の奥。VIPルームに連なるオーナーの私室と工房を兼ねている部屋に���れた二つの影。
扉は爆発するような勢いで開かれた。
「さあ――、着きましたぞ!」
大きく開かれた扉の入り口に現れたのは、黒いスーツに身を包んだ紳士──その名はヒルディブランド・マンダヴィル。事件屋である。彼の背後からは、やや遅れてミコッテの助手ナシュ・マカラッカが転がり込んできた。
「ヒルディブランド様ぁ〜〜! 本当にここで直るんですか? 燃えたり凍ったり爆風で飛ばされたりして壊れた時計……」
「もちろんですぞ!」
ヒルディブランドは大事そうに懐から一つの懐中時計を取り出した。それは精緻な彫金が施された金の懐中時計。時代を感じさせる意匠であり、表面にはかすかに家紋のような紋様――マンダヴィル家の意匠が光を帯びて浮かび上がる。
「これは幼少の頃より父上から賜った懐中時計――曰く、この時計は遥か古の遺産を模して作ったものだとか……」
そこまで言って、ヒルディブランドはふと懐かしむような目をした。
「――そして父上の手によって製作された珠玉の逸品でもあるのだ。マンダヴィル家の栄光、そして伝統を……この時計と共に時を刻んでいこうと、幼き頃の私は胸に誓ったのですぞ――……」
ぐっと拳を握りしめるヒルディブランド。
「そうだったんですかぁ。ヒルディブランド様にも子供の頃ってあったんですねっ……!」
長い話を遮るかのようにナシュが感心した様子で呟いた。
「……しかし、いついかなる時でも時を刻み続けてきたこの懐中時計が、まさか止まるとは」
秒針は沈黙を保ったまま。まるで、時間そのものが息を潜めているかのようだった。懐中時計の蓋に、子供の頃の自分の影が重なる。父と過ごしたあの日の思い出がふいに胸を突いた。
「そんな大事なものを……私ったらうっかり(ヒルディブランド様ごと)爆破に巻き込んでしまって……」
ナシュの耳がしおらしく垂れ下がった。
ヒルディブランドは、懐中時計を工房の作業台へとそっと置いて高らかに声を上げた。
「心配ご無用ですぞ、ナシュ! というのも、この時計を修理できる唯一の人物……すなわち父上と、ここで待ち合わせているのですぞ〜!」
すかさずマッスルポーズを取り始めるヒルディブランドと、万歳と手を上げて、跳ねるように喜ぶナシュ。
「やったぁ〜! ヒルディブランド様、さすがです〜!」
ヒルディブランドは入口の方へ視線を向けた。まるで、会えなかった時間を取り戻すために父を待つ息子のように。そして、そこへ――重厚な足音と共に、鍛え上げられた肉体美がまばゆく浮かび上がる。
「ホーーーウ! 我が愛息子よ、元気にしておったか」
半裸のゴットベルト・マンダヴィルの筋肉がうねるように光り輝いた。その圧倒的な登場に、ナシュが思わず拍手する。
「ゴッドベルト様〜! 来てくれたんですね!」
「懐中時計の修理��聞いてな。ならばこの腕、夢幻闘乱舞ゥの如く冴え渡らせますぞ!」
「父上の技と情熱ッ─―!」
エオルゼア最強の彫金師と呼ばれるゴッドベルトにかかれば懐中時計の修理なぞ朝飯前のスクワット前だ。
「ゴールドスミス、イノベェーーーーーーーーーションッ!」
目にも止まらぬ早さで懐中時計を分解していく。
「は、はわわ〜〜目が回りますぅ!」
あまりの早さに目が回り始めたナシュがふらりとよろけた――その時だった。微かな振動、そして空気が冷たくなったような錯覚。作業台に置かれた懐中時計のパーツの一つ、一つが、淡く鈍い光を帯び始める。
「……ホゥ? これは……?」
秒針が静かに浮かび上がり、空中で回転を始めた。その周りを取り囲むかのように他のパーツが展開する。時計の文字盤のような魔法陣が描かれ――カチリ、と乾いた音がした。ただならぬ気配。次の瞬間、灰色のスーツに身を包んだ得体の知れない男の幻影が姿を現した。
「──刺激的なパフォーマンスをありがとうございます。おかげさまで、開演と相成りました」
その声は、まるで空間そのものに響くかのようだった。
「ぬおおおおっ!? 何奴?! こ、これは……幻?!」
ヒルディブランドが右往左往しながら叫ぶのを、特に気にすることはなく、幻影は静かに始まりを告げた。
「……紳士淑女の皆さま、ようこそ当劇場へ。我が名はアガレス。時を収集する者――以後、お見知りおきを。皆さまの輝かしい一日を、永遠に鑑賞させていただきます」
優雅で、滑らかで……しかし、どこか失った何かを想起させる。妙に胸を締めつける響きを持っていた。
「ホッホウ……息子よ、これは単なる故障ではないぞ!」
ラピダリーハンマーを構えながら直ぐにでも動けるよう臨戦態勢に入るゴッドベルトと、いきなりの展開に混乱するヒルディブランド、依然として目を回しているナシュ。
「アガレスとやら! 一体何を──っ?!」
「なに、ちょっとした余興ですよ」
時計の秒針が反時計回りにくるくると回りだした。
ヒルディブランドが宙に浮く秒針に触れようと、ゴッドベルトが止めようと手を伸ばすより早く、世界のすべてが、瞬く間に白く塗り潰された。刹那――人々が動きを止め、宙に浮かぶカードやコインが瞬間を切り取られたまま静止する。
そして、始まる――終わりなき永遠に続く1日が、ゴールドソーサーの、そしてマンダヴィル親子の「時」が、狂い始めたのだった。
「それでは良い1日を――」
色彩を欠いた灰色の紳士は、恭しく一礼し、微笑んだ。
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ryoryu-mg · 9 months ago
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 夏の某日。漁村の男たちはいつも通りに漁へ出る。  その中に二〇代真ん中くらいの若い男が一人。  名をイツキと言って、過疎化が進む村で自ら漁師の道を選んだ男だ。  同級生が皆県外へ就職し見栄え至上主義へと染まる中、彼は堅実に歩みを進めていた。
 両親が飛行機事故で亡くなり大学を中退したイツキは、顔なじみのオヤジどもに交じって漁師になる道を選ぶ。  彼は社会不適合者だが、海が大好きだった。  漁師というのは肉体面でも知識面でも覚える事が多く、おまけにえらく専門的で、 『陸の役立たず!』などと嫁や子供に笑われる場面が多々ある。  しかし過度な集中力と強度の知識収集癖を持つイツキにはうってつけだったらしく、今のところは上手くいっている。
 ある晩、イツキは夢を見る。  どこかの砂浜でユラユラと浅瀬に漂っていた。  温もりのある柔らかな砂を、穏やかな波が攫っていく。  手を空にかざせば浅黒く焼けた肌と入道雲のコントラストが美しく、イツキは海に包まれる心地よさを満喫していた。
 その時。ふいに臀部を何かが掠っていく。  浅瀬にしては結構な大きさだった。  イツキは姿勢を変え辺りを見回すが、景色は先ほどと変わらず沖へ流されている気配も無い。  と、何かが彼を真下から押し上げた。  まるで犬猫がじゃれつく様に、何かがその巨体を擦り付けてくる。  大方イルカや小型のクジラだろうと、イツキはそれの鼻先を撫でる。  背ビレには擦り傷が無数にあり、根本が少し欠けていた。
 しかし哺乳類にしては随分と尖った背ビレだな……などと思っていると、その近くに奇妙なモノを見る。  大きな裂傷が、胸ヒレの近くにいくつも入っていた。  まるで巨大なカギ爪で引っ掻いた様だ。  海の哺乳類は厚い脂肪を纏っているとは言え、この深さの傷を負って元気でいられるだろうか? ――致命傷だろう。
 そうこうしているうちに、謎のデカブツは首をもたげこちらを見上げてきた。  鼻先はハンチング帽のつばを肉厚にしたような形で、目は光を吸い込む真っ黒さで、口は大きくナイフの様な歯がビッシリと並んでいる。  デカい。三メートルは優に超える立派なサメだ。  齧られたら一溜りも無いだろう。  しかし奇妙な事に、イツキは特に恐れも無くサメを撫で続ける。  そもそもの話、サメからしたら人間というのはローカロリーなのだから、彼(もしくは彼女)がこうしてコミュニケーションを図るには理由があるのかもしれない――  イツキがサメの鼻や背中を優しく撫で続けると、サメは胴体をずるりと押し付け「こちらへ来い」と手招くように振り向く。  試しに背ビレに掴まると、サメはイツキを連れて広大な海を泳ぎ始めた。
 イツキは様々なものを見た。  極彩色の魚が泳��珊瑚礁、朽ち果てた沈没船、巨大なクジラが回遊する氷河の下、古代文明の水中遺跡……。  実に美しい情景だった。
 そうした遊覧を終え、イツキを乗せたサメはあの砂浜へと戻る。  彼が背ビレから手を放すと、サメは名残惜しそうに身体を摺り寄せ、そのまま沖へと泳ぎ去った。
 目を覚ましたイツキは、はて奇妙な夢だと首を傾げる。  仕事で沖へ出るも、夢で見たサメの事が頭から離れない。  あまりにボケっとしているものだから、仲間の漁師らに怒鳴られる始末だ。  仕方なく、彼は夢の事を話してみた。
「はぁ~! お前そりゃア、魅入られとるな!」  イツキが聞き返すと、漁師らは古い伝承を聞かせてくれた。
 曰く、海には美しいヒトの貌を持つ異形の魚がいて、気に入った人間を水難から助けたり、時に喰らうのだそう。
「大方、昔の人間がサメやらシャチやらを怖がってそう呼んだんだろうなァ」  ひとりがそう締めると、他の漁師が口を挟む。 「言ってもよぉ、俺の先代の話じゃア人魚を招いて宴会したって話だぜ」 「あァ~、網にかかった人魚をもてなしたんだって、ウチの婆さんが……」
 その日は曇天で、魚もあまり獲れない日だった。 オヤジどもの雑談を黙って聞くイツキだったが、ふと遠くに白い尾ビレを見た。  扇の様な形はクジラのそれだろうか。  周りに幾つかの小さい黒い尾ビレが肉眼で確認できた。  彼は声を張り上げ周囲に呼びかける。  この辺りでクジラが回遊するなんて聞いた事が無い。  騒ぎを聞きつけた船長は、双眼鏡でクジラの群れを見るなり顔面蒼白で「陸へ帰る」と言いだした。
 胸騒ぎを覚え、イツキは船長に訳を聞く。 「あの白い奴はダメだ。アレはもう何隻も沈めてる」  そう言うと、船長はドタドタと船内へ引っ込んでしまった。  イツキは他の漁師と協力し、声を張り上げ撤収作業に勤しんだ。  が、イツキがふと海洋へ目をやると、どうしてかあの白黒の群れが船のすぐ近くまで迫っていた。
 船は唸りを上げて全速前進しているのに、クジラは悠々と船を取り囲む。  不意に潮吹きの音がいくつも聞こえ、白い尾ビレがゆっくり沈むのが見えた。  真っ白な巨体が垂直に、船の真下へ潜っていく。  この世の終わりの張りつめた空気の中、その場にいた全員がただ海面を見つめていた。
 次の瞬間、船体が揺れて甲板が大きく傾く。  下から突き上がる圧倒的重量に船体が悲鳴を上げ、他の漁師がぼたぼたと海へ投げ出される中、イツキは船縁にしがみつきソレを見上げた。  真っ白い大きなザトウクジラだった。  海面からそそり立つ巨体がこちらへ傾いてくる。  奴は船を見据え、こちらを押しつぶさんとしていた。  イツキは咄嗟に甲板を蹴飛ばし、船から離れようと試みた。  彼が着水する間際、木材と鋼が軋む音が辺りに響き渡る。  そして漁師たちの悲鳴を全て塗りつぶす様に、あの白い巨体が海面へ叩きつけられた。 クジラが沈むのに合わせて海水が渦を巻き、イツキは海へ引き込まれる。 息もできず、見渡すばかりの碧い海で、イツキは船だった瓦礫と共に沈んでいった。
 大抵こうして生命の危機に瀕した人間は、やれ走馬灯だの後悔だのが頭をよぎるものなのだろうが……イツキには走馬灯になる程美しい日々も、やり残した事も無い。  ただ、死を許された安堵があった。  彼が逆らう事無くただ沈んでいると、目の前にクジラではない灰色の影が現れた。  影はイツキへ問いかける。 「どうして……生きようとは、思わないのですか」
 親無しの自分が、ただ一人だけ生き残ってどうすると言うのか。  自分はこの村で、彼ら船乗りに生かされているのだ。  船を失った今、自分ひとりでは只の『陸の役立たず』ではなかろうか――。
「俺だけが生きて世界が変わるとでも?」
 そう言葉にすると、彼の口から気泡が溢れては海面へ上っていく。  どうやら彼は頭から真っ逆さまに沈んでいる様だ。  まるで身投げでもしたかの様な有様である。
「私の世界が変わるのです」
 灰色の影はそう言って、こちらへと近づいてくる。  そんなの知った事では無い、勝手にしろと、イツキは無抵抗に目を閉じた。
 漁村近くの浜辺。目覚めたイツキは訳も分からず海水を吐き散らす。  鼻や目の奥に塩気と痛みを感じながら、イツキは誰かがこちらをのぞき込んでいる事に気付いた。
 逆光で顔は見えないが、彼の頬をそっと撫でる手は柔らかくひんやりとしていた。  朦朧とした頭では掛ける言葉も見つからず、そうこうする内に人々の騒めきが聞こえてくる。  顔の見えない誰かは、イツキをそっと浜辺へ寝かせ何処かへ行ってしまった。
 イツキがどうにか身体を起こすと、彼を見つけて顔見知りの者が駆け寄ってくる。  先の騒ぎを聞きつけ救助活動に当たっているらしい。  イツキが辺りを見回すと、さざ波の合間に浅瀬から沖へと向かう傷だらけの背ビレが見えた。
 数日後、地元の新聞記事にこんな見出しが出た。
『奇跡の生還! 海の怒りに触れ海難事故となるも全員救出‼』
 そうである。あれだけの大層な事故(というか殺人まがいの出来事)にも関わらず死者が一人も出なかったのだ。  もしかして、あのクジラは漁船を縄張り荒らしのライバルと勘違いしたのでは……などと他愛のない事を考えてみる。  するとアラームが鳴り、イツキに面会の五分前だと告げた。
 イツキは船長や仲間の漁師を見舞いに、彼らの入院先へと向かった。  八床のベッドが並ぶ大部屋には船乗り達の加齢臭と強めのアルコール臭が充満していて、彼は入って早々に窓へと走る��目になる。  窓を開け放ち入り口のドアを全開にすると、清々しい風が吹き抜けていった。  手土産の塩辛いツマミを渡しながら、イツキは今後について船長に訊ねる。  船長は彼の神妙な面持ちを「心配するな」と軽くあしらい、コッソリと耳打ちした。
「組合のモンから聞いたんだが……あの後、近くにいた船で人魚が掛ったらしい」
 曰く、『美しい女の人魚で、怪我をしていたので保護した』とのこと。  そして村の習わしに沿って彼女をもてなす宴会を開くのだが、人魚にその話をしたところ「イツキを呼んでくれ」の一点張りで困っているらしい。  イツキは二つ返事で、宴会の誘いを了承する。
 それから数週間が経ち、人魚が還る前の晩に公民館で宴会が開かれた。  参加者は主に村の漁師らで、主役たる人魚に大漁を祈って酒をガバガバと飲み干した。
 夜空が微睡み、あれだけ騒いだ漁師らが寝落ちした頃、人魚はイツキに村を案内してくれないかと頼む。  酒の飲めないイツキは自車の助手席に人魚を乗せ、ドライブへと出た。  とは言っても、村には役場と魚市場と何かの遺跡跡しか無く、どれもエンタメ性に欠ける地味な場所だった。  イツキはミニマムな田舎道を器用に走りながら、助手席に座る人魚を時折盗み見る。
 彼女は確かに人魚だ。  うるうるとした黒髪から覗く横顔はどこか日本人離れしていて、唇の色形がとてもきれいで端正な顔をしている。  そして、あばらの辺りのエラとへそ下から繋がるスリット、少しザラザラとした灰色の背中と、柔らかく冷たい真っ白なお腹が彼女を人魚たらしめていた。
 イツキは「日が昇る前に」と、彼女を浜辺へ送り届ける。  明け方のマジックアワーの下、彼は人魚を助手席から抱き起して浜辺へと座らせた。  正直な所、港から海に投げ込んでも構わないのだ。  ただ、二度と逢えないだろうと思うと妙に名残惜しくなって、イツキは人魚を浜辺へ連れてきたのである。
 イツキが人魚の隣に腰かける。  人魚は彼の腕をそっと指でなぞった。  水掻きがあり、それでいてか細い女の手が、血管の浮き出た褐色肌の上を辿る様に滑ってい��。 「ここ。血が出てます」  人魚の指先が触れるとヒリヒリと痛む箇所。  どうやら彼女を抱き起こす際に擦り剥いてしまったらしい。  人魚は左手の薬指を己の唇に当て、その鋭い歯で掻いた。  何をするのかと眺めるイツキの腕をそっと取り、擦り傷に血を塗り込む。  傷は跡形も無く消えてしまった。
 人魚に纏わる伝承。  その血は万能の妙薬となり、その肉は食す者に不老不死を与える――
「ねえイツキ」  人魚は彼に甘く囁く。 「私の肉を喰らいなさい」  訳が分からなかった。「どうして?」と人魚に聞き返す。  彼女は只笑って 「貴方には生きて欲しい��  と言った。
「――いや。いらない」  イツキは人魚を押しのける。  親が死んでヤケになって、そんな俺を拾ったのはここの人で、あの船乗り達なのだ。  人魚の肉など食らったら、恩も返せないまま戻れなくなるだろう。
「俺、結婚してんだ。子供もいる」  嘘だ。こんな顔で言っても説得力に欠けるだろうに、ほんとバカだよなぁ。
 人魚は驚きの表情一つ変えないまま、ぽろぽろと涙を流した。  涙はきらきらと眩しい宝玉となって、二人の足元へ落ちた。
「――分かりました」  彼女は突然、イツキの腕を握り潰した。  余りの痛みに彼が身を引くと、人魚は彼を押し倒し砂浜へと沈める。  細腕に見合わぬ剛力で首を絞められ、イツキは訳も分からずこと切れた。
 人魚はイツキの亡骸を胸に抱きしめ、声も出さずにただ彼の顔に宝玉を降らせた。 「頂きます」  人魚はイツキだった肉塊を全て平らげ、静かに海へと還った。
 どうして、上手くいかないのか。  私だって、大切なものを守りたい。  好きな人間には末永く生きていて欲しい。  ただそれだけの願いが、どうしていつも叶わないのだろう?
 人魚は深い海へと潜る。鮮やかな情景が過ぎ去り、碧く重たい暗闇が視界を塗りつぶしても尚、人魚は深みを目指し続ける。
 もう、過ぎた事だ。  あのひとは私の血肉となり、私は今もこうして生きている。  それで充分じゃないか。  また、貴方の知らない海を沢山見せてあげる。  今度は何処へ行こうか?  私の大好きなイツキ。私の、大切な――
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niyuuhdf · 1 year ago
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トキ/灯彦:『証言』
俺は先祖代々の故郷からは幾分離れた込み入った住宅街の一軒家で生まれ育った。 俺が産まれるって時に、俺の父の実父…つまり行屋のじいさんが単身故郷を離れて近場に越してきた。その理由を「可愛い孫のためだ」とかなんとか嘯いてたが。 じいさんには随分と可愛がってもらったもんだ。 そのじいさんがある時口にした 「俺たちは行灯の火を潜り抜けて現し世に偶然姿を晒しちまった。現し世の人々の目に、俺たちのこの姿が分け隔てなくうつるとは、ゆめにも思わずに。」 歌舞伎は東海道四谷怪談の提灯抜けに掛けたらしい言葉。 それは相変わらずの食えねえ薄ら笑みに紛れ溶け込ませるように、諧謔に包み隠しながらも深い悲哀と悔恨の織り混ざったような述懐であったことを覚えている。 その言葉は、まだ年若い俺の心のもっとも深部にある原風景をそのまま写し出したかのようであったから。
ある画家の手記 Part : 行屋虚彦 
『疾彦の証言』
海辺に故郷の土地があるなんてえのは、一つのもののたとえだと、じいさんは言った。 行屋の人間ーーーー随分と大雑把にして大袈裟で選民的な言い回しだと幼い俺は思ったが、他に言いようがなかったもんかねーーーーは、長く住み���いたそこに多少の愛着こそあれ、土地そのものを故郷だと強く体感してなどねえと。
ここからは俺のじいさんの語ったことだ。語るにも聞くにも死ぬほど退屈極まりねえんで適当に端折りながらじいさんの言葉を復唱する。 じいさんが俺に語ったことは、口伝とも言えねえ、じいさんも朧に伝え聞いただけの昔話 どれだけ眉唾か知れたもんじゃねえ そういう類の話だ
蔵を引っ掻きまわしゃ出てくる家系図では、行屋家は平安の武家まで遡る。かのエリート様、文武両道の色男にして若くに妻と幼児を捨てて旅の歌人の人生を選んだ、あの男だ。さもあらん。 そいつが真実どんな様相で生きていたかは知る由もない。ただ、「なにごとの おはしますかは しらねども かたじけなさに なみだこぼるる」なんて詠むからには、己の心に馬鹿正直ではあったかもしれねえ。 かろうじて行屋の血筋の生き様…様相を伺えるのは江戸から。 記録が片手落ちすぎて話にならねえが、その時代にはもう漠然と血縁同士で助け合い、どうにかこうにか支えあって普通に人里の中で生きていた、らしい。
行屋の血筋の者は見えるはずのないものをよく見た。 見えたものを人里でそのまま口にすれば何が起るかは自明の理ってんで、血縁同士で教え伝え合って戒めあった。見えるものを口にしすぎないようにと。 ごく稀に幼な子がうっかり口を滑らせちまって、ひどい仕置きも暴力も迫害も公然とあったらしいが、 行屋の血筋は遺伝的にそのほとんどが誕生からの発達と発育が異様に早く早熟…これは俺もナナも虚も例外じゃねえ。 だから幼い時分から言い聞かせ、親族の中での教育で悪しき事態を防いで沈黙することで、表向きには何事もなく暮らしていくことが可能だった。 それにも勿論個人差はあったろう、いずれ綱渡りには違いねえ気はするが。
まさに当時から、すべてを沈黙し隠蔽し尽くして生きることには限界があったらしい。なにごとにつけ全てが嘘ってのは具合が悪いもんだ。故に、何かしらが時折りふと見える程度の仄めかしを村の中で敢えて情報開示として行ってきた。 不運にも露呈するような形で知られるんじゃあ、周囲に不安と警戒心を与えて排斥されるってんで。そうじゃなくごく穏当に村の利益に繋がる形にして受け入れさせようと。 結果、この海辺の村では運良く受け入れられつづけたらしい。 村民にしてみりゃあ「ありがたい不思議な力、うまくご利益にあやかろう」てふうに…脅威として認識されることはうまく避けてたらしい。 まだ人知の及ばねえものがそこらを跋扈した時代でもあったろうし、��行屋の人間の立ち振る舞いや言動、人間としての気質もその印象に落ち着かせるのに一役買っただろうと。じいさんは言ってた、若い頃の俺が良い例だとな。 産まれてすぐにしっかりと大きく目が開き、よく笑い、人に懐く、すぐに立って歩き走りまわる、幼児に似つかわしくなく流暢によく喋る、運動神経がやたら良くて、口が達者な笑い上戸、周りを冗談や話術や手遊びで沸かせ賑わわせ、躊躇いなく道化にもなる、華やかにしてごく自然に人の輪の中心となり他者を牽引する、が、すべてを絶妙に抑制し、決して逸脱しすぎず飛躍しすぎず常軌を逸さず、己に人間としての分を弁えさせつづける。行屋の人間の若年期ってのは、代々こんなもんだったそうだ。まったく辟易するぜ、じいさんは学生の頃の俺しか知らねえからな、今の俺のざまを確と見ろと言いたくもなる。
昔の話に戻る。 この目は重宝がられさえしたらしい。村人に失せ物さがしなんかを気楽に頼まれたりな、都度その場で解決、不思議な力に村の皆で感謝しつつ宴会でもひらく、ってなふうに…楽観的で素朴なものとして受容されてたらしい。当然の如く例外はあったろうがな。 当時は30代よりかは多少長く生きてもいたらしい、当時はそれくらいの齢でくたばるのはそこまで異例でもなかったかもしれねえし、海が近いことも有利に働いたそうだ。
時代が進めば、怪奇も不思議も人地を超えた力も身幅が狭くなってくる。 里にも医者が それも西洋医学を軸に学んだ医療が及んだ。 行屋の人間の目と苦痛と短命が、放置されなくなった。 仁と医を尽くしてすべての人間に懸命に長寿を達成させようってえ向きだ。 しかし医者が手を尽くせば尽くすほど、行屋の人間だけは医学じゃどうにもできないことだけが只管に浮き彫りになってくる。
もっと時代が進むと、遠方まで容易に情報が行き交うようになった。 行屋の人間の一部は「霊能者」あるいは「エセ霊能者気取りの不気味で不謹慎な血筋」だってんで、一時期は強烈な迫害と少数の誤った信仰を招いて、非科学的なものを否定する世間の流行の猛威を浴びたらしい。
歳を負うごとに身体の苦痛が増し、自制を欠いた狂躁のような激しい気質を帯び、昂って暴走し、性的快楽に耽り、目には激痛が襲う、瞼を閉じ、家からふらふらと海へ向かって外へ出る、ふっつりと茫然自失になる、そういうさまから、行屋家の人間が遠方へ嫁いでいった先では、家に座敷牢なんて豪勢極まる代物も用意されたとか。
行屋の人間は、自分たちの目にも苦痛にも短命にも、名前をつけなかった。 苦痛は耐え忍ぶ。憐れむならそれを上回る快楽を。故郷の慣わしなんぞ何も知らねえ俺でさえ奇しくも似たような手段を取った。 目の激痛は光を遮断することで少しは和らげられる。暗く閉ざした部屋に行灯一つあれば充分。あとは多くの時間を瞼を閉じて生きるだけ。 今でも里じゃ親戚の中を見渡せば、ずっと瞼を閉じた者や、目隠しをした者がちらほら見受けられる。 今のように「病」だと呼ぶことも定義づけることもなかった。当事者間ではそのような認識ではなかったとよ。血族で似た者同士が群をなすと異質さはかき消える。道理だ。 あとは血族以外との折り合い、順応と適応の世界。 どれほどの苦しみであっても、家内で分かち合える以上それは体質に過ぎねえと。 しかし医学に割って入られると事情は変わる。そこから行屋の人間は「精神病者」と定義づけられて、積極的に私宅監置に置かれることになった。定義づけと命名が必要だったのは、医療を施すためだ。行屋の人間を捉える主体が当人らからそっちへ移ったわけだ。 即刻入院治療とならず私宅監置…座敷牢になったのは、もっと手に負えねえ精神を患った患者が病床を占めてたから。そいつらに比べりゃあ行屋の人間は意思疎通が可能で聞き分けがよく大人しい。
その後、また時代が変わって、医師の側の意識改革と医療の是正が始まった。 外部から調査にきた医師団が、親族の私宅監置の現状を調べて、あまりに杜撰で酷いものが多いことから、病院への入院治療を推し進める流れになった。 杜撰で酷い座敷牢ってえと目を覆うような惨状を思い���かべそうなもんだが、それは東京って都会のど真ん中からカメラやら取材道具担いでやってきた人間の感覚で、その感覚は間違っちゃあいないが、当事者との齟齬は大いにあったとかなんとか。 おりしも行屋家の住む土地は人の少ない辺境の海辺、危険行為を繰り返す精神病者を完全に病院に隔離することなく開放的な入院治療と静養がかなうとして、里からほど近い静かな海辺に精神病院が建てられた。勿論行屋の人間のみのための病院じゃなかったろうが。
その後、この国の人口が増加したためか知れねえが、そんな海辺の田舎にも一般住宅が押し寄せひしめき合うようになり始めた。「海が綺麗だ」ってのがよそから好んで移り住みたがる人間の主な理由。 そいつらはいうにことかいて、古くから住む行屋を含めた住人も、そこに建つ不吉な精神病院も忌み嫌い、病院側に立ち退きを要求してきた。まあ海沿いのリゾート感覚で住み始めたんだ、そんなもんだろうな。 病院側は、「患者を院外に出さない」ことを条件に立ち退きを免れた。 これは行屋の人間にとって痛手だった。他の多くの患者にとっても自由と尊��を踏み躙られる大きな痛手だったろうが。行屋の人間にとっては、思いのままに海へ出られない、これこそが痛手だった。 その後の大きな戦争と災害の度に、打撃を受けた精神病院から、一部の行屋家の連中が焼け出されて、そのまま身を隠した。 他の多くの患者は医師との信頼関係によって病院におとなしく留まったらしいが。 身を隠した連中が、海沿いの各地に散って、或いは村にひっそりと戻り、留まったのが、今のお里の実態なんだとよ。
他の地域の海辺で暮らす奴もいるらしい。面識はねえが。望みもしねえが。 海外に飛んだ奴もいるが、皆決して海から離れようとしない、離れ難いんだそうだ。 じいさん曰く、苦痛に耐えられなくなったとき、或いは茫然自失と化した状態で、招かれるように自ら海へ入っていく。そうして自らの火を、もといたあちらへ帰そうとする。火だるまになった身体の炎は海が消火し尽くしてくれる。 幼い頃から、耐え難い苦痛の際には海へ浸かるのがひとつの慣わしであり、自然な行動だったんだと。慣習と衝動のどちらが先だったかは判然としない。 はたから見れば判断能力をなくした入水自殺じみてうつるその行動も、案外現実的らしい。海へ浸かることで身体の苦痛が安らぎ、死に至るまでもなく平然と浜から自宅まで自分の足で戻ってくる場合のほうが多いらしい。 じいさんも七を知ってるが、七が月夜に招かれるように外へ出たがったのは、月より潮と呼応してたように見えたそうだ。
"死の先に帰る場所がある  我々はそこからやってきた  そこにしか我々のよるべはない  死の先に故郷がある  死そのものをのぞむのではない  死後になにかを期待しているのではない  死の先に明瞭な故郷の景色や幻想を抱いているのではない  ただ帰ろうとするときの帰路に偶然死が横たわっている  我々はただ帰りたい  我々は己らの生命、出生、誕生、人生を捉えられない  捉えられないものを無思慮に否定するものでもない  しかし  こちらにきたことは偶然だった  隔てなく人間の身に己がおさまることを知らぬ無知、隔てなく人間の目に我々がうつることを知らぬ無知故にここへきてしまった  その過ちは我々の目を焼き、腑を犯した  我々はただ帰りたい  この由来なき形容し難い感覚を、閉鎖的に、つい近年まで血族とだけ共有してきた  ただ帰りたいだけなのだ  ただ帰してやりたいだけなのだ  どうか行かせてほしい"
じいさんのそのまた祖父さんが遺してった走り書き。遺書か。 「行屋」の姓の字の由来がそんな詩的なもんかは置いといて、 幼い俺にじいさんが零した戯言は、そんなような代々脈々と、連綿と続いた根深い感傷と言いしれぬ衝動に端を発していた。 走り書きの「我々」ってのが何を指してんだか知ったこっちゃねえんで検証にも足らねえが。 俺はそれらを言葉になった上っ面だけで聞き知ったとき、なんの異質さもねえ誰の内にも在るごくありふれた回帰願望の類だと思った。貶めようってんじゃねえ、ただ大袈裟に身内の中だけで秘める必要などなかったものを、ってな。 そういう意味じゃご先祖さんが一等賢い選択をしてる。家族を捨て、出家して、従者もなく一人、諸国をさすらい歌でも詠む、それで結構じゃねえか。 この回帰願望めいたなにか…理論立てれば幾らでも容易く突き崩せる穴だらけのなにか…が代々受け継げるほどに強靭に仕立てられていったのは、身体性…目と身体の苦痛に大きく依拠するだろう。身体の苦痛…身体的な経験の共有は同じ思想や信仰に染めるにもってこいの洗礼だ。おそらくなにより先立ってその身体性があった。 …ただ、「帰りたい」という情緒の言語化…、そこは解せねえ。積極的にそこを言語化して親族間で整えた環境と教育によって伝え刷り込んだという印象は薄かった。 共有したのは具体的な生き延びるすべのほうで、まあ生活様式に規範を揃えりゃそれだけで充分一つの具体的な信仰にはなっちまうが、情緒や思想にはなんの強要もなかったようだ。それよりかは、生来の生まれ持った形容し難い感覚に呑まれて苦しむ者を、血族がなんとかあとから帳尻合わせにそういう戯言を例外的に用いて掬い上げることもあった、程度。 そんな印象を抱いたのは、遠方の親族のことなんざ露知らず育った俺の中にも過去に似たような萌芽があったことを認めざるを得ねえからか、否か。
俺の実父は、俺が産まれる直前になって、抑制の効かない状態に陥ったらしい。意気揚々と里から離れた新天地に移ると言いはり、親族の反対を押しきって実行した。それをその父、つまりじいさんは、淡々と見ていた。 じいさんは、それに賭けた。 じいさんは息子を見張るような建前を身内には示しつつ、息子の移り住んだ土地に自分も移った。 奇矯を装いつつも、俺の父は薄々気付いていただろうとな。親族だけで寄り集まって閉鎖的に同じ場所に留まり続ける、その弊害と欺瞞に。 俺はそこから解き放たれて生まれ育った。虚も。 それは賭けだ。じいさんはその人生の行く末を見届けたかった。 七は大学入学まで里で生まれ育ったが、そこから七を連れ去ったのは俺だ。 その俺が、中学の頃、生家に火を放ち父母もろとも焼き滅ぼした。そのことにじいさんだけが目敏く気付いた、血は争えねえな。 尋ねられたわけでもねえのに、その時俺は動機めいた一言を口走った。嘘偽りない本心だった。「そろそろ帰してやらねえと」…と。
…………
虚の性的快楽への拒絶っぷりは血筋で言うなら異端中の異端だ。
ーーーーーーーーー
曽祖父:
海辺に故郷の土地があるなんてえのは、我々にとっては一つのもののたとえ。 行屋の人間はこの土地そのものを故郷だと強く体感してはいません。 勿論この土地に愛着はあります。何せ長く住み着きましたからな。
これから語ることは口伝とさえ言えない、伝え聞いただけの昔話で ど���だけ眉唾か知れたもんじゃねえが…
辿れば平安の武家まで家系図はありますが、今のような様相で生きていたかは知る由もない。 かろうじて様相を遡れるのは江戸までです。 家業は本来なんだったか、記録が片手落ちなもので定かでないが、その時代にはもう漠然と血縁同士であることを感じ取って助け合い、なんとか支えあって普通に人里の中で生きていたようです。
行屋の血筋の者は、およそ見えるはずのないものをよくその目で見た。 見えたものを人里でそのまま口にすれば何が起るかは自明の理。 だから血縁同士で教え伝えました。見えるものを他者に口にしすぎないようにと。 ごく稀に、幼な子がうっかり口にしてしまい村の秘密を暴き、ひどい仕置きも暴力も迫害も公然とあったようですが。 しかし我々の血筋は遺伝的にそのほとんどが誕生からの発達と発育が異様に早く早熟です。 言い聞かせ、親族の中での教育でそのような事態を防いで沈黙し、表向きには何事もなく暮らしていくことが可能だった。 それにも勿論個人差はある。いずれ綱渡りには違いなかったろうが…。
当時から、すべてを沈黙し隠蔽し尽くして生きることにも限界があったとみえます。故に、何かしらが時折りふと見える程度の仄めかしを村の中で敢えて情報開示として行ってきた。 不運にも露呈するような形で知られるのでは、周囲に不安と警戒心を与え、排斥されます。そうではなく、受け入れさせるのです。 結果、この海辺の村では運良く受け入れられつづけた。 さしずめ村民にすれば「ありがたい不思議な力、うまくご利益にあやかろう」てなもんで…脅威として認識されることなく、ごく自然に受け入れられていた。 まだ人知の及ばぬものが許された時代でもあったろうし、我々の立ち振る舞いや言動、人間としての気質もその印象に落ち着かせるのに一役買ったでしょうな。若い頃の疾彦などが良い例です。 あの子はここで生まれ育ったわけでもないのに …否、だからこそだったのか、行屋家の人間の典型そのものでしたよ。幼い頃から見てきましたが。 産まれてすぐにしっかりと大きく目が開き、よく笑い、人に懐き、すぐに立って歩き走りまわり、流暢によく喋る。運動神経が良く、聡明で、口が達者な笑い上戸、周りを冗談や話術や手遊びで沸かせ、賑わわせ、躊躇いなく愛嬌ある道化にもなる、同時に泰然として威風堂々、自然に他者を牽引する人気者、…がしかし、すべての有能さを絶妙に抑制し、決して逸脱しすぎず飛躍しすぎず常軌を逸さず、己に人間としての分を弁えさせる。 行屋の人間の若年期とは、代々このような気質が多かった。
昔の話に戻りましょう。 この目は重宝がられさえした。村人に失せ物さがしなど気楽に頼まれたり、都度その場で解決してみせ、不思議な力に村のみなで感謝しつつ宴会でもひらく、というような…楽観的で素朴なものとして受容されていたそうです。当然ながら例外もありましたが。 我々も、当時は30代より少し長く生きたし、当時はそれくらいの年齢で亡くなることはそこまで異例でもなかった。海辺が我々に環境として合っていたのもある。
時代が進めば、怪奇も不思議も人地を超えた力も身幅が狭くなります。 ここにも西洋医学を軸とした医療が及びました。 我々の目と苦痛と短命が、放置されなくなった。 …そのことを、我々は沈鬱な内心を抱え、それでも静かに時代に従った。 仁と医を尽くしてすべての人間に懸命に長寿を達成させようとする向きです。 しかし医者が手を尽くせば尽くすほど、行屋の人間だけは医学ではどうにもできないことだけが浮き彫りになってくる。
もっと時代が進むと、遠方まで容易に情報が行き交うようになった。我々は「霊能者」あるいは「エセ霊能者気取りの不気味な血筋」として、一時期は強烈な迫害と少数の誤った信仰を招き、非科学的なものを否定する世間の流行の猛威を浴びたようです。 歳を負うごとに身体の苦痛が増し、自制を欠いた狂躁のような激しい気質を帯び、それが昂って暴走し、目には激痛が襲い、家からふらふらと外へ出る、そしてふっつりと茫然自失になるさまから、行屋家の人間が遠方へ嫁いでいった先では、家に座敷牢が用意された。
我々は、この目にも苦痛にも短命にも、名前をつけなかった。 苦痛は耐え忍ぶのみ。憐れむならそれを上回る快楽を。 目の激痛は光を遮断することで少しは和らげることができる。暗く閉ざした部屋に行灯一つあれば充分。あとは瞼を閉じて生きるだけ。 ここに住む親戚の中にも、見渡せばずっと瞼を閉じた者や、目隠しをした者がちらほら見受けられるはずです。 今のように「病」だと呼ぶことも定義づけることもなかった。当事者間ではそのような認識ではなかった。血族で似た者たちが群をなすと、異質さはかき消えます。 あとは血族以外との折り合い、順応と適応の世界になります。我々のうちではどれほどの苦しみであっても、それは体質に過ぎません。 しかし医学に割って入られると事情は変わります。そこから行屋の人間は「精神病者」と定義づけられ、積極的に私宅監置に置かれることとなった。定義づけと命名が必要だったのは、医療を施すため。我々を捉える主体が我々自身からそちらへ移ったわけですな。 我々はそれを静かに受け入れた。
その後、また時代が過ぎて、医師の側の意識改革と医療の是正が始まった。 外部から調査にきた医師団が、我々の親族の私宅監置の現状を調べ、あまりに杜撰で酷いものが多いことから、病院への入院治療を推し進める流れになった。 杜撰で酷い座敷牢と聞くと目を覆うような惨状を思い浮かべられるかもしれない。が、それは東京という都会のど真ん中からやってきた者の感覚です。その感覚は間違ってはいないが、当事者との齟齬は大いにありました。 おりしも行屋家の住む土地は人の少ない海辺であったので、危険行為を繰り返す精神病者を完全に病院に隔離することなく開放的な入院治療と静養がかなうとして、ここからほど近い静かな海辺に精神病院が建てられた。勿論我々のみのための病院ではなかったはずですが。
その後、全国で人口が増加したためか、こんな田舎にも住宅が押し寄せひしめき合うようになり始めました。「海が綺麗だ」というだけの理由で好んで住みたがる人間たちが、各地から集い出した。 その人間たちは、古くからここに住む我々も、そこに建つ精神病院も忌み嫌い、病院側に立ち退きを要求してきたそうです。 病院側は、「患者を院外に出さない」ことを条件に立ち退きを逃れた。 これは我々にとって痛手だった。他の多くの患者にとっても自由と尊厳を踏み躙られる大きな痛手であったでしょうが。我々にとっては、思いのままに海へ出られない、これこそが痛手だった。 その後の大きな戦争で打撃を受けた精神病院から、一部の行屋家の者が焼け出され、そのまま身を隠した。 多くの患者は医師との信頼関係によって病院におとなしく留まったそうですが。 身を隠した者たちが、海沿いの各地に散���、或いはここにひっそりと戻り、留まったのが、今の我々の実態です。
ここだけではなく、他の地域の海辺で暮らす者もいますよ。 海外に飛んだものもあるが、皆決して海から離れようとしない。離れ難いんでしょうな。 苦痛に耐えられなくなったとき、或いは茫然自失と化した状態で、我々は招かれるように自ら海へ入っていく。 そうして自らの命の火を、もといたあちらへ還すのです。火だるまになった身体の炎は海が消火し尽くしてくれる。 幼い頃から、耐え難い苦痛の際には海へ浸かるのがひとつの慣わしであり、自然な行動でした。慣習と衝動のどちらが先だったかは判然としない。 はたから見れば、判断能力をなくした入水自殺じみてうつるその行動も、案外、現実的なのです。海へ浸かることで身体の苦痛が安らぎ、死に至ることなどなく平然と浜へ自分の足で戻ってくる場合のほうが多い。 七が月夜に招かれるように外へ出たのは、潮と呼応していたように見えた。
我々の故郷はここに無い。 死の先に、帰る場所があるように感じている。 我々はそこからやってきた。 そこにしか我々の帰る場所はない、とも。 …この由来なき感覚を、閉鎖的に、つい近年まで血族とだけ共有してきた。 死の先に 故郷がある。 幼い疾彦に私が零した戯言は、そんなような根深い感傷に端を発していたのです。
私の息子…疾彦の実父は、疾彦が産まれる直前になって、抑制の効かない状態に陥りました。意気揚々とここから離れた新天地に移るのだと言いはり、親族の反対を押しきって実行した。 私は それに賭けた。 だから私は息子を見張るような建前を身内には示しつつ、息子の移り住んだ土地に私も一度は移った。 奇矯を装いつつ、息子も薄々気付いていたのでしょう。親族だけで寄り集まって閉鎖的に同じ場所に留まり続ける弊害と欺瞞に。 疾彦はそこから解き放たれて生まれ育った。…虚彦も。 行く末を見届けたかった。 七は大学入学までここで生まれ育ちました。ここから七を連れ去ったのは疾彦です。 その疾彦が、生家に火を放ち父母もろとも焼き滅ぼした。その動機を疾彦は呟くように私にこう一言語った、「そろそろ帰してやらねえと」…と。
それらすべてが間違っていたのかどうかは …………
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entaku9 · 2 years ago
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 どんなばあいでも、きみはきみ自身を哲学者というべきでもないし、また、ふつうの人々のなかで、多く理屈をいうべきでもない、いや、理屈のとおることをなすがいい。たとえば宴会では、どういうふうに食うべきかを話さないで、食うべきに食うがいい。というのは、覚えておきたまえ、ソクラテスは見せかけというものをまったく無視していたので、人々が彼から哲学者たちに紹介してもらいたがって彼のところへやってくると、彼は彼らを案内して行ったほどだった。このように、彼は無視されるのをしんぼうした。
 もしふつうの人々のなかで、なにか理屈の話が出たら、おおかたは沈黙しているがいい。というのは、きみは消化していないものをすぐ吐き出す大きな危険があるからだ。そしてひとがきみに、きみはなにも知らぬといっても、きみが噛みつかなければ、そのときこそ哲学がものになり始めたのだと知るがいい。というのは、羊は秣を羊飼いのところへ持ってきて、自分がどれほど食ったかを見せはしない、むしろ餌は内部に消化して、外部へ羊毛や乳をもたらすからだ。だからきみも、理屈をふつうの人たちにならべないで、むしろ消化したそれらのものに基づく行動を示すがいい。
エピクテトス.『語録 要録』.鹿野治助訳.中央公論新社,2017年,p.222-223
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yamanokaminoe · 3 years ago
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Tumblr media
「シャーレのハッピー♡バレンタインパトロール」&「狐坂ワカモの沈黙と祝宴」 お祝いイラスト
「ブルーアーカイブ1周年記念グッズ」特設ページ https://yostarshop.com/view/category/ct42
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kokoro-m · 4 years ago
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End the
新宿三丁目駅から電車に乗り込んでからというもの、私の心は底なしの悲しみと悔しさで元あった場所に着地出来ていない。
昼間、実質的勝訴と宴になるツイッターのタイムラインにしきりに喜び、自由のパンケーキが今度こそフライパンからすり落ちることなく裏返せるんだと、そう思ったのに。
私はアジア人だ。
「私は日本人だから」と言って、鼻高々に自己紹介をしたことがある。私は日本が好きだったし、日本は好かれているし、日本は誇り高い国だと思っていたから。日本のご飯は美味しいし、日本の人は親切で礼儀正しい。自分のことを誰しもが好いてくれないのと同じで、誰しも嫌いな食べ物があるのと同じで、全員が一致することはない。アジアの国々、と言ってもどれほどまでがと検索したら52ヶ国が加盟している。私達は52のうちの1つに暮らしている。52ヶ国それぞれに歴史があって、文化があって、ルールがあって、��様である。アジア以外の地域には、もっと大きなコミュニティもあり、色んな言語が飛び交いながら個々に存在して、あらゆる国のルーツを持った人が住み、それを受け継ぎ伝統にし、国を、人種を繋げている。正直勉強不足で上っ面なことしかまだ言えないけれど。
今日は立派な怒りだけを握りしめていたい。
あらゆる人が、その不幸を笑われていいはずはないから。
今日私が目にした二つのことは、一つの大きな、大きな傷に繋がっている。
彼等は、アジアの、誇りと愛の象徴である。彼等がもたらす希望は大きくて、陽射しが反射した水のように尊く、その言葉には血が滲み、生き様を通して誰彼問わず、琴線の響きを与えてくれる。限りない人間性の詰まった、これまでになく素晴らしいアートなんだと毎日思っている。絶え間のない努力と棘だらけの道を、こうしてオリジナルの力で切り開いてくれたことは本当に感動して、感謝と尊敬を抱えるので精一杯だ。叩き割ったガラスの破片を乱暴に投げ返すこともなく、そっとハンカチを落としてきたに違いない。偉大な五文字のと、熱狂させる三文字の刺繍を真っ赤に入れて。7つの影はこれから伝説になるのに泥水で汚さないで欲しい。それさえも彼等は美しく飲み干すだろう、流れるままに浄化される。だから、それを踏みにじる権利は見渡しても何処にもない。隣国に住む者として、日々起こっていることに対しても本当に胸が痛い。
もうひとつ、アメリカで起こったこと。何よりも悲しかったのは、私のツイッターやインスタグラムのタイムラインには、まるで雲ひとつない晴天のようにその話題が浮かんでなかったことだった。何ひとつ。誰かがいいねもしてなければ、誰かがリツイートもしていなかった。話して欲しい、と思っている訳じゃない。ただ、沈黙するということは、残酷である、ということを身に染みてしまって苦しかった。
"最大の悲劇は、悪人の圧制や残酷さではなく、善人の沈黙である。"
(キング牧師の言葉を書いている人がいたので引用しました)
あまりの悔しさに泣きながら食べた親子丼はとてもじゃないけど現実味がなくて、アジア人というだけで私は生きてないのに、アジア人というだけで標的にされ命さえ失ってしまう人が同じ世界の何処かにいると思うと、悔しくて恐ろしくて、しょっぱかった。それでもご飯を喉を通して食べれる自分が不甲斐なかった。その場にいなかった、その事件が起こった国にいなかった、自分の国には銃がなかった、そんな他人事ではとてもじゃないけど済ませなかった。とてもじゃないけど、痛すぎる事件だった。一体どんな気持ちで銃口を見つめたんだろう。自分にない罪を思い出そうともしたのだろうか。自分の非を探したのだろうか。相手は、アジア人というだけで、貴方を殺したかもしれないのに。貴方はただ、生きていただけなのに。生きるために、その場所で、仕事を全うして、頭の中では出勤後のデートやら、食べたいディナーやら、子供の顔を思い浮かべてただけかもしれないのに。ただ道を歩いていただけで。自分の家で、寝ていただけで。ただ貴方が、貴方に銃口を向けた人と、違う人種なだけで。その人のバックグラウンドを嫌う人のために貴方が命を落としていい理由はない。内に秘めたる趣向は、秘めているから自由なのであって、それを行動に起こしてしまっては、悪意に過ぎない。
今回はアジア人だったけれど、至上主義の人々による排他的意識が無残にも残る中で、「知る」 ことから始めた上で何が出来るだろう。無力にも感じる私には、誰を救えるだろう。「当事者」だけの問題は過ぎ去っている。渦の中心で溺れる人を見つけたのなら、そこは危ないんだと、声をかけないといけない。でなければ、そこにいる人には二度と会えないから。そんな悲しいことは止めないと。
私は今確実に感情的にこの文章を書いていて、自分の気持ちを追いやれるはずもなく垂れ流しているけれど、消してしまうかもしれないし修正してしまうかもしれない。ただ今、どうしようもなく辛くて、やりきれなくて、目を閉じて口をつぐまない正義は一体何のためにあるのかと思う。知らなかった、は知れなかった。結んだ口は、誰かを救うために、自分を救うために開いてもいいのではないか。
https://www.gofundme.com/c/act/stop-aapi-hate
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trinityt2j · 5 years ago
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ダ-ティ・松本 不健全マンガ家歴30年[-α]史 ●はじめに  この文章は同人誌「FUCK OFF!7」において書かれたものをベースにして逐次増補改定を加えていき、いずれ歴史の証言として、[というほど大袈裟なものでは無いが…]一冊の本にまとめたいという意図のもと、近年どんどん脳が劣化していくダ-松の覚え書きとしても使用の予定。事実関係は間違いに気付き次第 訂正。同人誌発表時のものも今回自粛配慮して、実名、エピソード等を削除した箇所有り。有り難い事に某出版社よりすでに出版打診があったがまだまだその時期ではない、マンガを描く事が苦痛になったら活字の方も気分転換にいいかも…。 /*マークは今後書き加える予定のメモと心得たし。 ●前史/修行時代・1970 さいとうプロの短くて濃い日々……  1968年に上京。数カ月後東京は戦場に。熱い季節の始まりだった。 2年後親元を飛び出し友人のアパートに転がり込む。場所は渋谷から井の頭線で駒場東大駅下車、徒歩5分。地図で見ると現在の駒場公園あたり。昼間でも裸電球を付けなければ真っ暗という馬小屋のような部屋。数メートル先には当時の建設大臣の豪邸が…。前を通りかかるだびに警備のおまわりがじろり。  いつまでも友人に迷惑もかけられないのでとりあえずアシスタントでも…と手元にあったマンガ誌をひっくり返し募集を探す。幸いさいとうプロと横山まさみち氏のところでアシ募集があり両方応募。どっちか一つ通れば…と思っていたら何と両方受かってしまい、双方に条件を聞く。当時高円寺 のアパート、風呂無し4畳半の部屋で相場12000円の時代。前者一ケ月の給料10000円、後者20000円との事。給料の方がボロアパートの家賃より安いとは…!どう考えても前者は食う方法がないと判断し、後者さいとうプロへ入社。  ここに居たのはたったの半年に過ぎないけれど今思えばこれだけで本が一冊描ける位の濃い半年だった。しかしこのあと2X年分も書かねばならないことを思えば今回はいくつかのエピソードを書くだけに留めよう。  ダー松が入った時は小池一夫氏[クビ?]、神田たけ志氏や神江里見氏、きしもとのり氏[現・松文館社長]等と入れ替わりの時で、きし氏の女遊びの凄さと神江氏の絵のうまさは伝説になっていた。現在「亀有」「ゴルゴ」が歴代単行本の巻数の多いベスト1、2位だが[ともに100巻を越えた]、3位は神江氏の「弐十手物語」[70巻以上]だという事は知ってる人は少ないだろう。  当時の制作部は、さいとうたかを[以下ゴリ]をトップに石川班[ゴルゴ13、影狩り]、甲良班[バロム1]、竹本班[シュガー、どぶ等]の3つに分かれ、それぞれのキャップにサブ・チーフが一人づついて、ヒラが2~6人いるというシステムで総16名。独立し現在も活躍中の叶精作、小山ゆう、やまさき拓味の3名がそれぞれの班のサブ・チーフ。ダー松は石川班で左右1メートル以内に叶氏とゴリにはさまれ、のんびり出来ない状態で、はなはだ窮屈。叶氏はほとんどマンガ家になりたいとも思った事のなかった人で、設計事務所みたいなところで図面を引いていた人がなぜマンガプロダクションに来たのか不思議だった。格別マンガ好きというわけでもなかったせいか現在まで全ての作品が原作もので、オリジナルは一本もないのはそのせい?祭りなどの人がうじゃうじゃ出てくる群集場面が得意。 やまさき氏は大の競馬好き、現在競馬マンガを多く描くのは当時からの趣味が生きたというべきか。もう一つの趣味である��俗についてはここでは書くのは差し控えよう。小山氏は後日ここの事務の女性と結婚するが、当時はつき合っているとは誰も知らず、スタッフの一人がやめる時その女性に交際を申し込んだら、茶店に呼び出されて小山氏からと凄まれたと聞いたが嘘か本当かは不明。  ここでの生活は新入り[ダー松を含めて3名]は朝の9時前に会社に行き、タイムカードを押し、前日のごみをひとまとめして外に出し、トイレ掃除をして、16人分のお茶を2Fで入れて制作部のある3Fへの狭い階段をふらふら昇り、机ごとに置いて歩き、終れば、一息ついて買っておいたパンと牛乳を3分で食べて、やっとそれから仕事。しかし新入りの3名の内1人折茂は常に遅刻なのでいつも佐藤と2人でやっていた。佐藤も遅れる時はダー松1人で。辞めてから10年位、16人分のお茶を持って階段をふらふら歩きお盆をひっくり返す夢をよく見たものだが、実際ひっくり返したのは折茂と佐藤の2人で、よく茶碗を割っていた。 たまには夕方6時には帰れるが、普通は夜10時までで、アパートに帰って銭湯に行けばもう明日にそなえて寝る時刻、このくり返しの日々。週1日は徹夜で明け方に帰り、その時は当日の昼12時出勤。休日は日曜日のみで忙しい時はそれも取り消し。つまり休みは月3日。[これで給料2万円!]そんな日々の繰り返し。  夕方までは皆和気あいあいと仕事していたが、ゴリが夕方6時頃に「おはようさん」と現れると、全員無駄口がたたけなくなり、仕事場はシーンと静まり返り、以下その日が終わるまでは疲れる時間がただひたすら流れるのみ。 当時石川班は「ゴルゴ13」と「影狩り」を描いていたがゴリは主人公の顔と擬音のみ。マジックで最後に入れる擬音はさすがに入れる位置がうまいと感心。ゴルゴの顔はアルバムに大小取り混ぜてコピーがとってあり、忙しい時は叶氏がピンセットで身体に合わせて「これが合うかな~」といった感じで貼り付けていた。  その頃すでに「ゴルゴ」は近々終わると噂されていたが、現在もまだ続いているとは感嘆ものだ。 ゴリと石川氏が「ゴルゴ」の最終回の終わり方を話しているのを聞いたら、何ともつまらない終わり方。しかしあれから20年以上も経つ事だし、きっともっといい終わり方を考えてあるだろうなと思っていたら、先日TVで本人が最初から考えてある終わり方だと言うのを聞き、がっくり。企業秘密だろうから書かないが、作品の最初の方に伏線が数度出ているのでわかる人にはすぐわかる筈。  辞めた小池一夫氏とさいとうプロに何があったかは知らないが、漏れ聞く話では結構もめ事があったみたいだ。 「子連れ狼」で「ゴルゴ13」と同じ設定の回があった時、「小池のガキャー訴えたるー!」とゴリが吠えていたものだが、結局たち消え。さいとうプロ作品で脚本を書いた本人が辞めた後、他の作品で同趣向の作品を書いても著作権は脚本を書いた原作者のものだと思うがどんなものだろう。その回のタイトルは忘れたが、ある場所に居合わせた人々が武器を持った集団の人質となり、その中に素人だと思われていた主人公、実は殺しのプロフェッショナルがいて、次々とその集団を殺していく、といったプロットで、ミッキー・スピレーンの短編に同じような作品があり、本当に訴えていたら恥をかいたと思うが・・・。  そういえば事務の方には山本又一郎という男がいたが、後年映画プロデューサーとして 「ベル薔薇」や「太陽を盗んだ男」等を創る事になるが、この野郎が生意気な男で当時皆に対して10歳は年上、といった感じの振る舞いだったが後日俺と一つしか年が離れてなかった事を知り、そんな若造だったとは、と皆怒ったものだ。以来奴の事を「マタさん」から「クソマタ」と呼ぶようになる。  さて半年後に先輩たちが積もり積もった不満を爆発させる反乱事件が勃発し、2年は居るつもりでいたここでの生活も、辞めるか残るかの選択を迫られる。残ればさいとうプロの現体制を認める事となるので、ダー松も退社。 しかし反乱グループとは別行動をとって一人だけの肉体労働のアルバイター生活へ突入。超ヘビーな労働の製氷工場、人使いの荒い印刷所、命綱もない高所の足場で働く建設現場等々。トラックの助手をしていた時は運ちゃんが「本宮ひろしって知ってるか?うちの息子の友達でさぁ、昔、おっちゃんメシ食わしてくれーなんて言ってきたもんだが、今は偉くなっちゃってさー、自分のビル建てたらしいよ。赤木圭一郎みたいにいい男なんだ。」とうれしそうに話してくれたが、運ちゃんには悪いがそいつは今も昔も一番嫌いなマンガ家なんだ。あの権力志向はどうにかならんか。天下を取る話ばかりだもんなぁ。  ところで後日、単行本の解説で高取英が「さいとうたかをのヤローぶっ殺してやる!」とダー松が言ったなどと書いているが、小生はそんな危ない事言った覚えはないのでここできっちり訂正しておきます。 「会社に火ィつけてやる!」位は言ったかも・・・[嘘] 。 悪口は言っても別に怨みなど無い。ところでアシスタントとしてのダー松は無遅刻、無欠勤以外は無能なアシだったと反省しきり。理想的なアシスタントとはどんなものか、それはまた別の機会に。 *入社試験はどんな事を? *さいとうプロには当時ほとんどろくな資料は無かった? *ハイジャックの回の飛行機内部の絵は、映画「大空港」を社内カメラマンが映画館で写してきたものをもとに描く。 *当時のトーンは印刷が裏面にしてあり上からカッターでけずったり出来ない。 *トーンの種類は網トーンが数種、それ以外はほんの3、4種類位しかなかった。 *仕事中のB.G.M.はアシの一人が加山雄三ばかりかけるので大ひんしゅく。好評だったのは広沢虎造の浪曲「次郎長三国志」、初代桂春団次の落語。眠気もふっとぶ位笑えた。 ダ-松が岡林信康の「見る前に跳べ」をかけてるとゴリは「何じゃー!この歌は!」と怒る。名曲「私たちの望むものは」はこの男には理解不能。 ●1 9 7 1 ~ 1 9 7 4  持 ち 込 み & 実 話 雑 誌 時 代    当時は青年劇画誌全盛時代で、もともと望月三起也氏や園田光慶氏のファンで活劇志向が強く、 主にアクションもののマンガを描いて持ち込みに行っていた。今のようにマンガ雑誌が溢れかえって、山のようにマンガ出版社がある時代ではなく、数社廻るともう行くところがない、という状態で大手では「ビッグコミック」があっただけで 「モーニング」も「スピリッツ」も「ヤン・ジャン」も当然まだない。テーマを盛り込んだ作品を持って行くと編集から「君ィ、うちは商売でやっているんだからねぇ」と言われ、アクションに徹した作品を持って行くと「君ぃ、ただおもしろいだけじゃあねぇ」と言われ 「おい、おっさん!どっちなんだ?」とむかつく事多し。この辺の事は山のように書く事があるが、有りすぎるのでパス。 *そのうち書く事にする。  ただ金属バットで頭をカチ割って脳みそをぶちまけてやりたいような奴が何人もいたのは事実。今年[’97]「モーニング」に持ち込みに行って、断られた奴が何万回もいやがらせの電話をかけて逮捕された事件があったが、そのうちトカレフを持って殴り込みに行く奴が出てくるとおもしろい。出版社も武装して大銃撃戦だぁ!などと馬鹿な事書いてどうする!とにかく持ち込みにはいい思い出が何もない。そんな中、数本だけ載った作品は渡哲也の映画「無頼」シリーズの人斬り五郎みたいな主人公がドスで斬り合う現代やくざもの[この頃の渡哲也は最高!]、ドン・シーゲルの「殺人者たち」みたいな二人組の殺し屋を主人公にした『汚れたジャングル』、陽水の「傘がない」が好きだという編集さんの出したテーマで車泥棒とブラックパンサーの闘士とのロード・ムービー風『グッバイ・ブラザー』、拳銃セールスマンを主人公にした『ザ・セールスマン』、等々10本ちょい位。  さてその頃並行してまだエロマンガ専門誌といえるようなものがなかったような時代で、実話雑誌という写真と記事ページからなる雑誌に4~10ページ位を雑誌の味付けとして描かせてもらう。当時、お手本になるようなエロマンガなど皆無で、エロ写真雑誌を古本屋で買ってきてからみのポーズを模写。マンガで裸を描く事はほとんど初めてで、これがなかなか難しいのだがエロシーンを描くのは結構楽しい。当時出版社に原稿持って行き帰りにグラフ誌をどっともらって帰るのが楽しみだった。SM雑誌の写真ページも参考になる。なお当時のペンネームは編集部が適当につけた池田達彦、上高地源太[この名前はいけてます。また使いたい]等。その数年後、逆にマンガが主で記事が味付けというエロマンガ誌が続々と創刊される。 *さいとうプロをやめたあと編集や知人に頼まれて数人のマンガ家の所へ手伝いに行く。秋田書店「漫画ホット」で『ジェノサイド』を連載中の峰岸とおる氏の所へ行き、仕事が終わったあとまだ売れてない頃の榊まさる氏も交え酒を飲む/川崎のぼる大先生のところへ数日だけ/3000円たこ部屋/小山ゆうオリオンププロ *当時のアルバイトは記憶によると時給150~200円位/大日本印刷市ヶ谷駐屯地/坂/ *一食100円/どんなに貧しい漫画家もみかん箱の上で書くやつはいない/TV萩原サムデイ *ろくでなし編集者 ●1 9 7 5 ~ エ ロ マ ン  ガ 誌 時 代 に 突 入   実話誌は意外とエロは抑え目で描くように口すっぱく言われていたのだが、以前活劇っぽい作品を描かせてもらってたが潰れてしまった出版社にいた児島さんが編集する「漫画ダイナマイト」で打合せも何にもなしに好きに描かせてもらい、ここでエロマンガ家としての才能[?]が開花する。描いてて実に楽しく眠る時間がもったいない位で、人に睡眠時間が必要な事を恨んだ程。出来る事なら一日中休まず描いていたい気分で完全にはまってしまう。  初の連載作品「屠殺人シリーズ」はこの頃から/『漫画ポポ』。中島史雄氏は大学時代にこの作品を見ていたとの事で、トレンチコートにドクター・ペッパー模様のサイレンサーつきマグナム銃で遊戯人・竜崎一也が犯しまくり殺しまくり、サディスト、マゾヒスト、殺人狂、まともな奴が一人も出てこない性と暴力の祭典。ちなみにタイトルページは描かないでいい、との事でどうするのかと思っていたら編集部が中のワンカットを拡大してタイトルページを創り、1ページぶんの原稿料をけちるというせこいやり方だった。けちるといえば、原稿の1/3にCMを入れる際、原稿料を1/3削った会社もあり。 ●1 9 7 6 ~   後に発禁仲間となる高取英と出逢い、『長編コミック劇場』で「ウルフガイ」みたいのをやろうと、怒りに震えると黒豹に変身してしまう異常体質の主人公を設定し、獣姦のイメージで「性猟鬼」なるエロマンガをスタート!しかしその号で雑誌が潰れる。この路線は今でもいけそうな気がするがどんなものだろう。  この頃の珍品に「快楽痴態公園」がある。タイガースに11-0とワンサイドで打ちまくられ、怒ったジャイアンツファンのおっさんが公園でデート中の女をずこずこに犯りまくり、その間にジャイアンツは9回裏に12-11とゲームをひっくり返してしまうのである!その時のジャイアンツの監督はもちろんミスター長嶋、先発堀内、打者は柴田、土井、高田、王、張本等々がいる。タイガース監督は吉田、ピッチャー江本、キャッチャーフライを落球する田淵、そしてあの川藤もいる。解説は牧野…… ●1 9 7 7 ~   上記2作品を含む初の単行本「肉の奴隷人形」が久保書店より発行。後にリングスの会場で逢った佐竹雅昭氏はこの本が一番好きとの事だった。  「闇の淫虐師」もこの年スタート。一話完結でバレリーナ、バトンガール等々、毎回いろんな女たちをダッチワイフのごとくいたぶりまくるフェチマンガとして1979年まで続け、単行本は「堕天使女王」「裂かれた花嫁」「エロスの狂宴」「陶酔への誘い」「終りなき闇の宴」の全5巻。ちなみに今年「闇の淫虐師’97」を『コミック・ピクシィ』にて発表。いつか『闇の淫虐師・ベスト選集』でも出したいところ。 [’98に実現、’99には続刊が出る] ●1 9 7 8 ~   久保書店より第2弾の単行本「狂った微惑人形」。収録作品の「犯された白鳥」は持ち込み時代に描いた初のバレリーナもの。結構気に入っていた作品なのに、後年再録の際、印刷所の掃除のおばさんが捨ててしまい、この世にもはや存在しない不幸な子となる。[’99に宝島スピード・ブックに本より直接スキャンして収録]  エロ、グロ、ナンセンスの会心作「恍惚下着専科」を発表。サン出版より同名の単行本発行。また同出版より「コミック・ペット/堕天使画集」として今までの作品を続々単行本化。全10巻位。これは今でも古本屋で流通しているとの事で、まだまだ世間様のお役にたっているらしい。  この年、「堕天使たちの狂宴」を描いていた『漫画エロジェニカ』が発禁処分、来年でもう20年目となる事だし、当時の人たちと集まってその大放談を収録し「発禁20周年特集号」でも創ってみようかと計画中。さて当時の秘話としてもう時効だろうから書いてみるけど、前述の『堕天使画集』に「堕天使��ちの狂宴」は収録される事となり、当然修正をガンガン入れて出版されるものと覚悟していたら、米国から帰国後出来上がった本を見ると発禁になった状態のまま再録されている!以下桜木編集長との会話 ダ/いや~、いい度胸してますね。 編/だって修正してあるじゃない。 ダ/その修正状態で発禁になったんですよ 編/・・・・・ ダ/・・・・ 以下どんな会話が続いたのか失念…… それにしてもサドの「悪徳の栄え」の翻訳本は発禁後20年以上して復刻されたけれど、「堕天使たちの狂宴」は半年もしない内に単行本になっていたとはエロ本業界とは何といいかげんな世界!しかし作品そのものは、今見るとリメイクする気にもならないどうという事もない可愛い作品で、結局あれもあの時代の姑息な政治のひとかけらに過ぎなかったのだろう。いい点があるとしたら一つだけ、それまでのエロマンガになかった瞳パッチリの少女マンガ的ヒロインを登場させた事位か。今の美少女エロマンガは本家の少女マンガもかくや!という位眼が大きいが当時としては画期的だったかも。 ●1 9 7 9 ~   この年の「淫花蝶の舞踏」は「堕天使たちの狂宴」よりずっといい/『漫画ソフト』。今年出た「別冊宝島/日本一のマンガを探せ!」でベスト2000のマンガがセレクトされているが、ダー松の作品の中ではこの作品が選ばれている。教師と生徒、二人の女たちが様々な男たちの手によってに次々ともてあそばれ、闇の世界を転々として再び巡り会う時、女たちは蝶と化し水��線の彼方に飛び去り、男たちは殺し合い血の海の中で屍と化す。ダー松作品にはこのように男根が女陰の海に飲み込まれてに負けるパターンが多い。[性狩人、遊戯の森の妖精、美少女たちの宴、人魚のたわむれ・・等々]  この年からスタートの「性狩人たち」シリーズ[劇画悦楽号]はバレエ、バイオレンス、SEXの三要素がうまくからみあい、それぞれが頂点まで達する幸福な神話的作品だ。ここから派生した路線も多く、美少年路線は’83の「聖少女黙示録」へ。身体障害者路線は’80の「遊戯の森の妖精」、’84からの「美姉妹肉煉獄」へと繋がる。’81の最終話「ハルマゲドンの戦い」ではせりふなしで24ページ全てが大殺戮シーンという回もあり、中でも一度やりたかった見開きで銃撃戦の擬音のみという事も実現。こんな事がエロマンガ誌で許される時代だった。ちなみにこの回は[OKコラルの決闘・100周年記念]だが、何の意味もない。単行本は最初サン出版より、その後久保書店より「白鳥の飛翔」「少女飼育篇」「ヘラクレスを撃て!」「眼球愛」「海の女神」の全5刊。現在入手出来るのは後の3刊のみ。[「海の女神」も最近在庫切れ]  この年出た「人魚のたわむれ」の表題作は性器に{たこ}を挿入するカットを見た編集長が「・・・[沈黙]・・・頭おかしいんじゃ・・ブツブツ・・気違い・・・ブツブツ・・・」と呆れてつぶやいていたのを記憶している。たこソーニューは今年出た「夜顔武闘伝」で久しぶりに再現。なおこの作品は’83にマンガと実写を噛み合せたビデオの珍品となる。水中スローモーションファックがなかなかよい。 ●1 9 8 0 ~   なぜか「JUNE」の増刊として作品集「美少女たちの宴」がサン出版より出版され、その短編集をもとに脚本化し日活で映画が創られる事となる。[「花の応援団」を当てたこの映画の企画者・成田氏は日活退社後「桜の園」等を創る。]その際、初めて映画撮影所を見学し、せこいセットがスクリーン上ではきちんとした絵になってるのを見て映画のマジックに感心。タイトルはなぜか「性狩人」で、’96にビデオ化された。監督・池田敏春のデビュー第2作となり現在までコンスタントに作品を発表しているが、出来のいい作品も多いのになぜか代表作がない。初期の「人魚伝説」が一番いいか。  この映画に合わせて「美少女たちの宴」を2~3回のつもりで「漫画ラブラブ」で描き出すがどんどん話がふくらみ、おまけに描いてる出版社が潰れたり、雑誌が潰れたりで雑誌を転々とし条例による警告の嵐がきた「漫画大飯店」を経て、「漫画ハンター」誌上で完結したのは’83になる。この作品でクリトリスを手術してペニスのように巨大化させるという人体改造ものを初めて描く。  この年の「遊戯の森の妖精」は身体障害者いじめ鬼畜路線の第2弾!森の中の別荘に乱入したろくでなしの二人組が精薄の少女の両親達を虐殺し、暴行の限りをつくすむちゃくちゃな作品で、雷鳴の中、少女の性器に男達のペニスが2本同時に挿入されるシーンは圧巻!しかしこのとんでもない男達も少女の性のエネルギーに飲み込まれ、朽ち果てていく・・・。 ●1 9 8 1 ~   美少女マンガ誌のはしり「レモン・ピープル」誌創刊。そこで描いたのが「白鳥の湖」。虚構の世界のヒロインを犯すというコンセプトは、アニメやゲームのヒロインをずこずこにするという今の同人誌のコンセプトと同じかも。バレエ「白鳥の湖」において悪魔に捕われたオデット姫が白鳥の姿に変えられる前に何にもされてない筈がないというモチーフにより生まれたこの作品は、悪魔に男根を植えつけられたヒロインが命じられるままに次々と妖精を犯して歩き悪魔の娘となるまでを描くが、あまり成功したとは言えない。ただ人形サイズの妖精をしゃぶりまくり淫核で犯すアイデアは他に「少女破壊幻想」で一回やっただけなのでそろそろもう一度やってみたいところ。「ダーティ松本の白雪姫」はその逆をいき、犯す方を小さくした作品で7人の小人が白雪姫の性器の中にはいり、しゃぶったり、処女膜を食べたり、と乱暴狼藉![ちなみに両者をでかくしたのが同人誌「FUCK YOU!3」の「ゴジラVSジュピター」]この童話シリーズは意外と好評で続いて「ダーティ松本の赤い靴」を上記の単行本に描き下ろして収録。童話は結構残酷なものが多く、この作品も切られた足だけが荒野を踊りながら去って行くラストは原作通り。 *近年童話ブームだがこの頃もっと描いておけば「こんなに危ない童話」として刊行出来たのにとくやまれる。 「2001年快楽の旅」もこの本に収録。快楽マシーンを逆にレイプしてしまう、珍しく映画「2001年宇宙の旅」風のSF作品。  掲載誌を決めずに出来る限り多くのマンガ誌で描こうというコンセプトで始めたのがこの年スタートした「怪人サドラン博士」シリーズ。「不死蝶」シリーズや「美少女たちの宴」シリーズの中にも乱入し、「漫画ハンター」最終号では地球をぶっ壊して[その際地球は絶頂の喘ぎ声をあげ昇天する!]他の惑星へ行ってしまう。今のところ10誌位に登場。いつかこのサドラン・シリーズだけ集めて単行本化したいところ。ちなみに「サド」と「乱歩」を足して「サドラン博士」と命名。作者の分身と言っていい。 [後年、「魔界の怪人」として全作品を収録して刊行、04年現在品切れ中]  この年描いて’82の単行本『妖精たちの宴』に収録の「とけていく・・」はレズの女たちが愛戯の果てに、肉体が溶けて一匹の軟体動物と化す、タイトルも内容も奇妙な作品。作者の頭もとけていた? ●1 9 8 2 ~ 1 9 8 3   ’83年に「美少女たちの宴」が完結。全てが無に帰すラストのページは真っ白のままで、このページの原稿料はいりません、と言ったにもかかわらず払ってくれた久保書店、偉い![明文社やCM頁の稿料を削った出版社=某少年画報社なら払わなかっただろうな……と思われる……]この作品以外は短編が多く、加速度をつけてのっていく描き方が得意のダー松としてはのりの悪い時期に突入。また10年近く走ってきてだれてきた頃でもあり第一次落ち込み期と言っていい。マンガがスタンプを押すように描けないものか、などとふとどきな考えまで湧いてくる。思えば一本の作品には、いったい何本の線を引いて出来上がっているものなのか。数えた馬鹿はいないだろうが数千本は引いている筈。一ヵ月に何万本とペンで線を引く日々・・うんざりする筈です。  この頃のめぼしい短編をいくつか書くと、少女マンガ家の家に税務調査にきた税務署員が過小申告をネタにねちねちいたぶるが、アシスタントに発見された署員は撲殺される。そして板橋税務署は焼き討ちにあう、といった作品「[タイトル失念]xx税務調査」。[後日読者よりこのタイトルを「色欲ダニ野郎」と教えていただく。ひどいタイトル *編集者のつけるタイトルはその人のセンスが実によくわかる。しかしサイテ-の題だなこりゃ…。 果てるまで「おまんこして!」と言わせながら処女をやりまくる「美処女/犯す!」はラスト、狂った少女が歩行者天国の通行人を撃ちまくり血の海にする。「嬲る!」はパンチドランカーとなった矢吹ジョーが白木葉子をサンドバッグに縛りつけ、殴って、殴って、殴りまくる。段平おっちゃんの最後のセリフ「・・ブスブスくすぶっちゃいるが・・・」「打てッ!打つんだ!ジョー!」「お前はまだ燃えつきちゃいねえ!」とはエロ・ドランカーの自分自身に向けて発した言葉だったのかも。トビー・フーパーばりの「淫魔のはらわた」は電気ドリルでアナルを広げてのファック!とどめにチェーンソーで尻を切断!いまだに単行本に収録出来ず。[’98の「絶頂伝説」にやっと収録]「からみあい」は夫の愛人の性器を噛みちぎる。「危険な関係」はアルコール浣腸をして火をつけ尻から火を吹かせる。この手は『FUCK YOU!2』の「セーラー・ハルマゲドン」で復元。そういえばこの作品の序章と終章だけ描いて、間の100章位をとばすやりかたはこの頃の「禁断の性獣」より。女性器にとりつき、男性器に変身するエイリアンの侵略により地球は女性器を失い滅亡する、といったストーリーで当時聞いた話では谷山浩子のD.J.でこの作品がリスナーの投書でとりあげられ、ダー松の名はダーティ・杉本と読まれたそうな。ヒロインの少女がひろ子という名前なのでこのハガキが選ばれたのかもしれないが、作者は薬師丸ひろ子からとったつもりだったのだが・・。[別にファンではない。] 「女教師狩り」は映画館で観客に犯される女教師とスクリーン上の同名のエロ映画の二本が同時進行し、一本で二本分楽しめるお得な作品。 ’83は’80に「漫画エロス」���て描いた「エロスの乱反射」の最終回の原稿が紛失したため単行本が出せないでいたのを、またまた「仏の久保さん」に頼んでラスト近くをふくらませて「漫画ハンター」に3回程描かせてもらい、やっと’85に出版。見られる事に快感を覚えるファッション・モデルが調教される内に、次第に露出狂となっていき、街中で突然裸になって交通事故を起こさせたり、最後はビルの屋上でストリップショー。そしてカメラのフラッシュの中に飛び降りていき、ラスト1ページはその性器のアップでエンド!  本格美少年・ゲイ・マンガ「聖少女黙示録」も’83。レズの姉たちの手によって女装に目覚めた少年がホモのダンサーたちに縛られなぶられ初のポコチンこすり合いの射精シーン。そして性転換して女となった主いるが、その中の’84の「白い肌の湖」はタイトルで解る通りのバレリーナものだがポコチンを焼かれた男が、一緒に暮ら人公が手術で男になった少女と暮らすハッピーエンド。この作品は単行本「美少女ハンター」に収録されてす二人の女と一人の男に復讐するエンディングがすごい!まず男の性器を切り取り、片方の女の性器にねじ込んだあと、その女の性器ごとえぐり取る。そしてその二つの性器をつかんだまま、もう一人の女の性器にフィストファック!のあげく、その二つの性器を入れたままの女性器をナイフでまた切って、ほとんどビックマック状態でまだヒクヒクうごめく血まみれの三つの性器を握りしめるとんでもない終り方!全くダー松はこんな事ばかりやっていたのかとあきれかえる。もう鬼畜としか言い様がない!しかし「ウィンナー」を二枚の「ハム」で包むなんて・・GOODなアイデアだ、又やってみよう。 ●1 9 8 4 ~   「漫画ハンター」で「闇の宴」前後篇を描き、後日これをビデオ化。雪に包まれた六本木のスタジオで痔に苦しみながらの撮影。特別出演として中島史雄氏が絶妙の指使い、東デの学生時代の萩原一至が二役、取材に来たJITAN氏もスタジオに入ってきた瞬間、即出演で生玉子1000個の海で大乱交。カメラマンが凝り性で照明が気に入るまでカメラを廻さず、たった二日の撮影はやりたい事の半分も出来ず。撮影が終ると痔はすぐに完治。どうもプレッシャーからくる神経性だったみたいでこれに懲りてビデオは一本のみ。 この年の「肉の漂流」は親子丼もので、近所の書店のオヤジからこの本はよく売れたと聞いたが、一時よく描いたこのパターンは最近では「FUCK YOU!3」の「母娘シャワー」のみ。熟女と少女の両方が描けるところが利点。「血の舞踏」は久しぶりの吸血鬼もの。股間を針で刺し、噛んで血を吸うシーン等々いい場面はあるが、うまくストーリーが転がらず3回で止める。短編「果てるまで・・」は核戦争後のシェルターの中で、父が娘とタイトル通り果てるまでやりまくる話。被爆していた父が死んだ後、娘はSEXの相手を捜して黒い雨の中をさまよう。  またリサ・ライオンの��真集を見て筋肉美に目覚め、マッチョ女ものをこの頃から描き出す。しかしなかなか筋肉をエロティックに描くのは難しい。 ●1 9 8 5 ~   くたびれ果ててすっかりダレてきたこの頃、8年間働いてくれたアシスタント女史に代わってパワーのかたまり萩原一至、鶴田洋久等が東京デザイナー学院卒業後加わってダーティ・マーケットも第2期に突入!新旧取り混ぜておもしろいマンガをいろいろ教えて貰って読みまくる。「バリバリ伝説」「ビーバップハイスクール」「ペリカンロード」「めぞん一刻」「わたしは真悟」「Be Free!」「緑山高校」「日出処の天子」「吉祥天女」「純情クレイジー・フルーツ」「アクター」「北斗の拳」「炎の転校生」「アイドルをさがせ」「綿の国星」「いつもポケットにショパン」「バツ&テリー」「六三四の剣」永井豪の絶頂期の作品「バイオレンス・ジャック」「凄之王」「デビルマン」等々100冊以上とても書ききれない位で、う~ん・・マンガってこんなにおもしろかったのか、と感動! そこで眠狂四郎を学園にほうり込んで、今まであまり描かなかった学園マンガをエロマンガに、というコンセプトで始めたのが「斬姦狂死郎」。「六三四の剣」ばりに単行本20巻を目指すものの、少年マンガのノリは今では当たり前だが、当時はまだエロマンガとして評価されず、ほんの少し時代が早すぎたかも。’86に中断、今年’97に「ホリディ・コミック」にて復活!果たしていつまで続けられるか? →後に「斬姦狂死郎・制服狩り」、「斬姦狂死郎・美教師狩り」として刊行完結  前年末から始めた「美姉妹肉煉獄」は身障者いじめの鬼畜路線。盲目の姉とその妹を調教して性風俗店等で働かせ、娼婦に堕していく不健全・不道徳な作品で、肉の快楽にひたっていく盲目の姉に対し妹も「春琴抄」の如く己の眼を突き、自らも暗黒の快楽の世界にはいり、快楽の光に目覚めるラスト。 また、これからは女王様物だ!となぜか突然ひらめき「筋肉女」シリーズの延長としてフィットネス・スタジオを舞台に「メタル・クイーン」シリーズも開始。これは単行本2冊分描いたが、連載途中でヒロインの髪型を歌手ステファニーのヘア・スタイルにチェンジしたり、レオタードもたっぷり描けてわりと気に入っている。  10年近く描いた「美蝶」先生シリーズもこの年スタート!こうしてみるとマンガを描く喜びに満ちた大充実の年だったかも。 ●1 9 8 6 ~   この年は前年からの連載ものがほとんどだが、「エレクト・ボーイ」は空中でファックするシーンが描いてみたくて始めた初の超能力エロマンガ。コメディ的要素がうまくいかず2回で止める。この路線は翌年の「堕天使輪舞」で開花。  「夜の彷徨人」は自分の育てた新体操選手が怪我で選手生命を失ったため、その女を馬肉のごとく娼婦として夜の世界に売り渡した主人公という設定。しかし腕を折られ、女にも逆に捨てられ、そして事故によってその女を失ったあげく不能となってしまう。失った快楽を取り戻すため無くした片腕にバイブレーターを取りつけ、夜の街をさすらい次々と女たちをレイプしていくというストーリー。がっちり設定したキャラだったのにまったく話がはずまず、男のポコチンは勃起しないままに作品も不発のまま終る。  「斬姦狂死郎」が不本意のまま終わったため学園エロス・シリーズは「放課後の媚娼女」へと引き継がれる。当時見ていた南野陽子のTV「スケバン刑事・」とS・レオーネの「ウエスタン」風に料理。ラストの「男といっしょじゃ歩けないんだ」のセリフは一番好きな映画、鈴木清順の「東京流れ者」からのもじり。単行本は最初司書房から出て、数年後ミリオン出版から再販、そして’97久保書店より再々販ながら結構売れて今年また再版。この作品は親を助けてくれる有難い孝行息子といったところ。 ●1 9 8 7 ~   さいとうプロOBで那珂川尚という名のマンガ家だった友人の津田が「漫画ダイナマイト」の編集者になっていて、実に久しぶりに同誌で「堕天使輪舞」を描く。超能力エロマンガの第2弾。今回はエロと超能力合戦とがうまくミックスされ一応成功といっていい。この路線は「エレクト・ボーイ」とこの作品、そして’96の「夜顔武闘伝」も含めてもいいかも。一時、この手の作品は数多くあったが最近はめったに見かけない。しかし、まだまだこの路線には鉱脈が眠っているとにらんでいるがどんなものだろう。 ●1 9 8 8 ~   「放課後の媚娼女」に続いて抜かずの凶一無頼控え「放課後の熱い祭り」を2年がかりで描く。’89に完結し司書房より単行本化。そして今年’97に改定してめでたく完全版として復刊!この頃が一番劇画っぽい絵で、たった2~3人のスタッフでよくこれだけ描き込めたなと改めて感心!エロシーンがちょっと少なめながら中島史雄氏がダー松作品でこの作品が一番好き、とお褒めの言葉を頂戴する。  TVで三流アマゾネス映画を見ている内、むくむくとイメージがふくらみ、昔から描きたかった西部劇と時代劇がこれで描けると、この年スタートさせたのが「不死蝶伝説」なるアマゾネス路線。昔々青年誌の創世期にあのケン月影氏がマカロニ・ウエスタンを描いていたことを知る人は少ないだろう。俺もあの頃デビューしていたらウエスタンが描けたのに、と思う事もあったが、このシリーズでほんの少しだけその願望がかなう。  この頃、アシスタントやってくれてた格闘技マニアの鶴田洋久に誘われ、近所の空手道場通いの日々。若い頃修行のため新宿でやくざに喧嘩を売って歩いたという寺内師範は、もう鬼のような人で、行けば地獄が待っていると判っててなぜ行く?と不思議な位休まず通う。体育会系はマゾの世界と知る。組手は寸止めではなく顔面以外は当てて可だったので身体中打撲のあざだらけ、ビデオで研究したという鶴田の体重をかけたムエタイ式の蹴りをくらい、右手が饅頭のように腫れ上がる。先輩たちの組手の試合も蹴りがもろにはいって��ばら骨が折れたりで、なぜこんなヘビーな事をする?と思うが、闘う事によって身体の奥から何か沸き上がってくるものがある。スリランカの元コマンドと組手をやった時、格闘家の気持ちが少しだけ判るようになった。 ●1 9 8 9 ~   ’94まで続く「美蝶」シリーズでこの年は『ノスフェラトウ篇』を描き、シリーズ中これが一番のお気に入り。同人誌の「王夢」はこれが原点。  短編では「悪夢の中へ」はスプラッタ・エロマンガで久しぶりにチェーンソゥでお尻のぶった切り!はらわた引きずり出し、人肉食いちぎり!顔面叩き割り等々でラストに「ホラービデオの規制をするバカは俺が許さん!」などと書いているので、この年が宮崎事件の年か?世間は彼が日野日出志・作のホラービデオ「ギニーピッグ」を見てあの犯罪をおかした、としてさんざんホラービデオの規制をやっといて、結局見てもいなかったとわかったあとは誰一人日野日出志氏にもホラービデオさんにも謝らす゛知らんぷり。残ったのは規制だけで、馬鹿のやる事には全く困ったもんである。先日の「酒鬼薔薇・14才」の時も犯罪おたくの心理学者が、「これはマンガやビデオの影響です。」などと相も変わらずたわけた寝言をぬかしていたが、馬鹿はいつまでたっても馬鹿のまま。少しは進歩しろよ!お前だよ、お前!短絡的で幼稚な坊や、小田晋!よぅく首を洗っとけ!コラ!  「獣人たちの儀式」は退学者や少年院送りになつた生徒、暴走族、ヤクザ達が集まって酒盛りしながら女教師たちをずこずこにしてOB会をひらく不健全作品。編集長が「また危ない作品を・・・」とこぼしたものだが、岡野さん、田舎で元気にお過しでしょうか。この頃の「漫画エロス」には「ケンペーくん」だとか「アリスのお茶会」だとかおもしろい作品が載っていたものです。「爆走遊戯」は伝説のストーカー・ろくでなしマンガ家の早見純が一番好きな作品と言ってくれたが、なぜだかわからない。人の好みはいろいろです。以上3本は単行本「熱き唇の女神」に収録。 「ふしだらな女獣たち」はフェミニストの女二人が美少年をいじめる話。これは「氷の部屋の女」に収録。 ●1 9 9 0 ~   この年の「美蝶」シリーズは『ダンシング・クイーン篇』。マネキン工場跡でJ・ブラウンの「セックス・マシーン」にのせて5人プレイをするシーンや文化祭でのダンスシーン等々結構好きな場面多し。暗くて硬い作品が多いので、この「美蝶」シリーズは肩肘張らずに、かなり軽いノリでキャラクターの動きに任せて、ストーリーも、そして次のコマさえも先の事は何にも考えず、ほとんどアドリブで描いた時もある。  「不死蝶伝説」に続いてシリーズ第2弾「不死蝶」は2誌にまたがって2年位続ける。これも結構お気に入りの一遍。 ●1 9 9 1 ~ 1 9 9 3   「性狩人たち」の近未来版、といった感じの「夜戦士」は学園物が多くなったので、マグナム銃で脳天をぶっとばすようなものが又描きたくなって始めたミニシリーズ。全5話位。松文館より単行本「黒い夜と夢魔の闇」に収録。  この年から知り合いの編集者がレディス・コミックを始める人が多く、依頼されてどうしたものかと思ったが、エロなら何でもやってみよう精神と何か新しい世界が開けるかも、という事から’94位までやってみたものの結果的に不毛の時代に終わる。与えられた素材が体験告白物という事で、非現実的なものは描けないという事は得意技を封印して戦うようなもので苦戦を強いられ、これって内山亜紀氏がやまさき十三原作の人情話を描いたようなミス・マッチングで不発だったかな。今後、もしやることがあれば美少年SMのレディス・コミックのみ。そんな雑誌が出来れば、の話だが。  いくつかやったレディコミの編集の一人「アイリス」の鈴木さんは同じさいとうプロOBで、マンガ・アシスタント、マンガ家、マンガ誌の編集、そして今はマンガ学校の講師、とこれだけ多くのマンガに関わる仕事をしてきた人はあまりいないだろう。これでマンガ評論でもやれば全て制覇だが・・・。  この頃はいつもと同じ位の30~40本の作品を毎年描いていたが、レディコミは一本30~40枚とページが多く結構身体にガタがきた頃で、右手のひじが腱傷炎になり1年以上苦痛が続く。医者通いではさっぱり痛みがひかず、電気針で針灸治療を半年位続けてやっと完治。その後、住んでいたマンションの理事長を押しつけられ、マンション戦争の渦中に巻き込まれひどい目にあう。攻撃するのは楽だが、話をまとめるなどというのは社会生活不適格のダー松には大の苦手で「お前等!わがままばかり言うのはいいかげんにしろー!」と頭をカチ割りたくなるような事ばかりで、ひたすら我慢の日々で血圧がガンガン上がり、病院通いの日々。確実に寿命が5年は縮まる。あの時はマジで人に殺意を抱いたものだが、今でも金属バット持って押しかけて奴等の脳みそをクラッシュしたい気分になる時もある。いつかこの時の事をマンガにしようと思っていて、まだ誰も描いてない「マンション・マンガ」というジャンル、タイトルは「我が闘争」。え?誰も読みたくない?  この間に出た単行本は「血を吸う夜」、「赤い月の化身」「熱き唇の女神」[以上・久保書店] /「牝猫の花園」「真夜中の人魚たち」[以上久保書店]、「美蝶/放課後篇」「美蝶/ダンシング・クイーン篇」「不死蝶/鋼鉄の女王篇・上巻」[以上ミリオン出版]。 ●1 9 9 4 ~ 1 9 9 5   ろくでもない事が続くのは厄払いをしなかったせいか、このままここにいたら頭がおかしくなる、と15年以上いたマンションから引っ越し。板橋から巣鴨へ移動し気分一新!以前からうちもやりましょうよ、と言われていた同人誌創りをそのうち、そのうちと伸ばしてきたものの遂に申し込んでしまい、創らざるをえなくなる。しかもそれが引っ越しの時期と重なってしまい大いに後悔する。しかしいろんな人にお願いして何とか一冊でっちあげ、ムシ風呂のような夏コミに初参加。これが運命の分岐点。レディコミもこの年で切り上げ、以下同人街道をまっしぐら。現在まで「FUCK OFF!」が9まで、「FUCK YOU!」が4まで計10+&冊創る。  ’95からダーティ松本の名前にも飽きてきたしJr,Sam名でも描き始める。 レディコミ時代は松本美蝶。あと2つ位違うペンネームも考案中。  この間の単行本「氷の部屋の女」「双子座の戯れ」[久保書店]、「黒い夜と夢魔の闇」[松文館]、「危険な女教師/美蝶」[ミリオン] ●1 9 9 6 ~   美少女路線の絵柄もこの年の「夜顔武闘伝」あたりでほぼ完成、今後また少し変化させる予定。しかしこの作品は超能力、アマゾネス、忍法エロマンガとでも呼ぶべきか。「グラップラー刃牙」みたいに闘技場での勝ち抜き性武道合戦までいきたかったけれど、残念ながらたどり着けず。  「冬の堕天使」は久しぶりの吸血鬼もの。都営住宅で生活保護をうけている吸血鬼母子のイメージが浮かび、そこから漫画家協会・加藤芳郎を撃つ有害図書騒動のマンガへ。吸血鬼少年が光の世界との戦いに旅立つまでを描き、「闇に潜みし者」は時空を越えて近未来での戦い。その間を描く作品を今後創らなければ。  ���FUCK CITY 2006」はクソ溜めと化した近未来のTOKYOを舞台に久しぶりにダーティ・バイオレンスが炸裂!ハード・エロ劇画と同人誌風・美少女路線の合体は果たしてうまくいったかどうか?30ページほど描き足して、’97、9月にフランス書院のコミック文庫にて発売。[「少女水中花」]  「放課後の媚娼女」と「人形愛」刊行。[いずれも久保書店刊]前者は以前、上下巻だったのを一冊にまとめて。後者は近作を集めた同人時代を経ての初単行本で、同人誌を知らなかった読者はショックを受ける。メタルフアンから以下のようなお手紙を受け取る。「これはジューダス・プリーストの『ターボ』だ。ラストの『眠れる森の少女』は『レックレス』にあたる。しかしジューダスもその後『ラム・イット・ダウン』や『ペイン・キラー』という傑作を世に出した事だし、今後を期待したい」という意のダー松のようなメタルファン以外は意味不明の激励をうける。 ●1 9 9 7   同人誌「エロス大百科シリーズ」スタート!いろんな項目別に年2刊づつ計100ページ位を別刊シリーズとして出し続ければ10年で1000ページになり、以前「谷岡ヤスジ1000ページ」という枕に最適の本があったが、これも一冊にまとめて枕にして寝れば、目覚める頃は3回夢精しているなんて事に・・・などとまだたった40ページの段階で言っても何の説得力もないか。飽きたら2~3号でSTOPするだろうし・・。[推測通り「毛���り」「美少年SM」「女装」3号でストップ中]冬にはやおい系にも進出の予定。  今年出した単行本は厚くて濃いエロマンガを集めた久保書店MAXシリーズ第2弾!「放課後の熱い祭り/完全版」と「夜顔武闘伝」オークラ出版。ともに大幅描き足して25周年記念出版として刊行。ティーツー出版よりJr,Sam名で「昼下がりの少女」、9月にはフランス書院より「少女水中花」の文庫本が出る予定で現在、この同人誌と並行して描き足し中。「斬姦狂死郎」第2部も「ホリディ・COMIC」誌にて6月よりスタート!年内創刊予定の『腐肉クラブ』なる死体姦専門のマンガ誌にも執筆予定。  さてさて25年間、旅行の時を除いて、現在まで2日続けてマンガを描かなかった事はほとんどない。これはその昔、伊東元気氏というマンガ家とお会いしたとき「今月何ページ描いた?」との問いに、「今月仕事ないんでぜんぜん描いてません」と答えたら、「そんな事じゃ駄目だ。仕事があろうがなかろうが、毎月100頁は描かなきゃ。」と言われ、以後その教えを守り[描けるページ数は減ったが]、マンガは仕事ではなくなり、朝起きたら顔を洗うのと同じで生活そのものとなり現在に至る。  今は何でも描けそうなハイな状態で、以前はたまには外出しないと煮詰まってしまうので週いち位ガス抜きをしていたものだが、最近はせいぜい月いち休めば十分の「純エロマンガ体」。[純粋にエロマンガを描くためだけの肉体、の意。ダー松の造語]  こうしてふり返ると、この路線はまだえぐり足りない、これはあと数回描くべし、なぜこれを一度しか描かない!等々、残り時間にやるべき事、やりたい事の何と多い事! 爆裂昇天のその日まで・・・      燃 え よ ペ ン !  なお続きは 1997年後期 1998年 INDEX
http://www.rx.sakura.ne.jp/~dirty/gurafty.html
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yuupsychedelic · 5 years ago
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作品集「GIFT 2020」
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作品集「GIFT 2020」 1.孤独な海 2.Baby, My Loneliness 3.空想交響詩α / β / θ(大いなる挑戦 / 暗黒卿への逆襲 / 愛の勇者たち) 4.茜色の伝説 5.僕のクリスマスプレゼント
1.孤独な海
水滴がぽつりと零れる 雨音はぽろりと溢れる
夜の静寂(しじま)に怯え 沈黙した子供みたく 安らぎを求めて 誰もが暗闇に背を向ける
遥か彼方に未来があるなら なぜ僕らはまだ答えを知らない? 理想 現実 幻想 失望 ロゴスの源流
華やかに艶やかに 厳かにしなやかに
細胞に刻まれた 愛の痕は何処へ? 未知なる海へ舟を漕ぐんだ 僕らは孤独な旅人
波の滴は満ちて 月が踊り出す 君はペシミスト(星はペシミスト) 誰もが絶望するその時
自由な夜の夢よ  僕らを抱きしめろ 希望の鐘が鳴ろうとも  二度と目覚めはしない 夢想 瞑想 妄想 失想 ロゴスの誘惑
密やかに心地良く 穏やかに優しく
遺伝子に囁いた 時の印は何処?
宿命と闘い 明日を掴み取れ
未知なる海へ船を漕ぐんだ 僕らは孤独な旅人
2.Baby, My Loneliness
大好きだった人に彼氏が出来たと知った それから僕は付き合っていた彼女と別れた もう自分の想いを誤魔化すのはこりごりだと 正直に打ち明けたら意外とすんなり頷いてくれた
前の彼女は幼い頃からの友達で 悩み事があれば真っ先に相談する関係だった いつか僕が声なき中傷に怯えてた頃 そっと手を差し伸べてくれた親友だった
でも恋とは違うよな 好きにはなれなかったんだ だけど好きになれなくても 本当は恋人と別れたくはなかった
「恋人ができました」……なんて呟いてみたかった SNSで匂わせる恋人達に憧れた そんな季節はとっくに過ぎて 夢を諦めた 孤独色のコートを身に纏うのは好みなんかじゃない 本音を隠したいから
ちゃらんぽらんなあいつに彼女が出来たと知った あれから何年か経って髪は伸び放題 もう自分の本音を誤魔化すのはこりごりだ 誠実に明け暮れて誰かの顔色を伺うばかりじゃ駄目だよ
あの頃の友達から届いた招待状 数年前に夫婦別姓が実現して結婚式がやけに増えた くたびれたスーツを着ていくわけにもいかなくて 身の丈に合わないタキシードを友に仕立ててもらった
でも何か違うよな 好きにはなれなかったんだ これまで愛した恋人は いつも本当のロマンスじゃなかった
「僕たち結婚します」……なんて呟いてみたかった SNSで歓喜する恋人達に憧れた こんな素直はとっくに消えて 恋を諦めた 孤独色のコートを身に纏うのは好みなんかじゃない 隠したいのは破れた恋の痕
今年もきっと聖夜は一人で過ごすだろう それを世間は孤独だなんて嘲笑するけれども 一人だって意外と悪くはないもんだ うるさい友やつまらない話に付き合わなくていい
……だけど本当は淋しくて
「愛せなくてもいいんだ」……やっと気付いた 誰かを愛することがすべてじゃない こんな想いはいつ振りだろう 心が軽くなった セピア色の思い出に拍手を捧げよう 幸せは心の中にある
My Baby, My Loneliness Love the life you live. Live the life you love……
My Baby, My Loneliness Love the life you live. Live the life you love……
My Baby, My Loneliness Love the life you live. Live the life you love……
3.空想交響詩α:大いなる挑戦
みんなと同じように まっすぐ前を向いて生きろ はみ出すことはいけない 私の言葉に従え
人間のエゴイズム 大人の姿をした子供 だけど反抗する僕らも いずれはああなってしまうのか 憂鬱……
挑戦することを恐れるな 風に抗うことを怖がるな 始発点も踏み出さずに 不安な顔をしてはいけない
けれど挑戦するのが正義だと 勘違いする奴らもいるんだ 人は誰もが二十の顔を持つ
黄金の宮殿に集う 死んだ顔の挑戦者たちが宴を開く
靴下の長さはこうしろ 髪型は肩にかからぬように 誰かが決めた答えを 絶対的だと盲信する
子羊のマインド 負け犬根性は染み付く だけど反抗する僕らも いつかは同じ姿の自分に気付くのか 憂鬱……
失敗することを恐れるな 時代に抗うことを怖がるな 石ころに阻まれるかもわからないのに 踏み出す一歩に遠慮いらない
けれど挑戦するのが正義だと 勘違いする奴らもいるんだ 人は誰もが二十の顔を持つ
戦色の広場に集う 死んだ雲の青空に真偽を問うなら
銀箔の雨が降る 汚れた心を流すため 自惚れた球体の星で生まれた僕らは いつどこで生まれ…… どこへ向かうのだろう?
挑戦することを恐れるな 風に抗うことを怖がるな 始発点も踏み出さずに 不安な顔をしてはいけない
失敗することを恐れるな 時代に抗うことを怖がるな 石ころに阻まれるかもわからないのに 踏み出す一歩に遠慮いらない
けれど挑戦するのが正義だと 勘違いする奴らもいるんだ 人は誰もが二十の顔を持っている
歓喜の歌を共に唄えるその日まで 闘いは終わらない
さあ想うがままに翔け
4.空想交響詩β:暗黒卿の逆襲
青空を突然闇が覆い尽くし 無限に広がる城は現れた そして闇に支配された民たちに 綺麗事は響きはしないさ 数千年前に光に打ちのめされた奴らの 最初で最後の逆襲
限界を越えて日々の生活を送る 声なき者が連帯した時 愛なきプロパガンダは空虚な夢さ 時代の波に押し潰されていく
人はすべてを失くした日に気付く あの日々が僕らには良かったと だけど変わり始めた歯車は戻らない 狂ったままでもまっすぐ進み続けるしかないんだ
宇宙規模の闘いが始まる 武器を持って 最後の夢を離さんと 愛する者に最初のキスをしよう 次はいつ逢えるかわからないから
暗黒卿の逆襲 燃え滾る Space Wars(宇宙戦争)
悲しい時には涙を流せ! 辛い時には力に代えろ! 指揮官の言葉が廃墟に響く 僕らは無言で剣を振りかざす
常識なんてもう関係ないさ 愛する君を守ればそれでいいさ 知性なんてもう何処かへ捨ててきた 僕らは野獣のように勝利だけを目指す戦士だ
宇宙規模の闘いが始まる 武器を持って 最後の夢を離さんと 愛する者に最初のキスをしよう 次はいつ逢えるかわからないから
暗黒卿の逆襲 先が見えない Space Wars(宇宙戦争)
週に一度の停戦日に 通信で愛を囁き合う 仲間たちのラブソングを聞く 何度声をかけても返事がないまま 僕の彼女は何処へ消えた?
宇宙規模の闘いを終わらせる 愛を懸けて 最後の夢を離さんと 愛する人のためにとっておきの一撃を 君は僕の手で必ず守り抜く
銀河越えて安らぎを掴むため 命懸けて この宇宙戦艦で走るよ 愛する人の生存信じて最後の闘い 君は必ず生きていると信じて
暗黒卿の逆襲 ダークサイドとの決戦 夜明けは見えた Space Wars(宇宙戦争)
5.空想交響詩θ:愛の勇者たち
闘いは終わった 君と久々に会った 抱きしめた時のぬくもりは あの頃と少しも変わらなかった
闘いの果てに 君を懐かしむ日々 再会の日の歓びに勝るものは 人生のどこを探してもないだろう
見つめ合うよりも ただ傍にいることが 今は倖せだと感じられる これだけが収穫
何のために僕は闘い続けたのか 君に出逢うためか この星を護り抜くためか
言われるがまま武器を取り 見知らぬ人を斬る日々
そうだ…… 我らが勇者
憎しみは終わった 昨日までの敵同士 同じ食を楽しむ 本当に僕らは戦士だったのだろうか
剣をぶつけ合うよりも ただ語り合うことが 今は倖せだと感じられる これだけが収穫
何のために君は闘い続けたのか 愛を学ぶためか この夢を護り抜くためか
誰かのために武器を取り 見知らぬ人を撃つ日々 そうだ…… 我らが勇者
何のために僕らは闘い続けたのか 傷跡を見るたび 罪悪感に駆られる
愛する人を護るのが大義だと信じてた この星のために闘う それが正義だと信じてた あの頃の純朴な僕らを還して 愛のために闘う僕の想いを返して 本当なら友に剣を向けたくはなかった 本音は闘いなど終わってほしかった
嗚呼 僕はなんてことをしてしまったのだろう さすらう過去に懺悔の日々が続くよ 血みどろの兵士を見て ふと現実に帰った 安らかに眠る友を見て 呼び戻されたのさ
さあ僕らは共に生きていくんだ さあ僕らは友と生きていくんだ さあ僕らは今日を生きていくんだ
New Genesis…… New Generation…… Continue出来るのは今だけ
6.茜色の伝説
卒業してから もう数年が経った 街で君を見たとき 誰かわからずにごめん
カフェで話せば すぐに思い出した 少し雰囲気は変わったけど 心はそのまま
実は君が好きだったんだと ふいに打ち明けた なぜか君は真実を知っていて 静かに笑顔を見せた
まさか再び逢えるなんて思いもしなかったよ 揺らぐ心に気づいた時 僕は何も言えず 遠ざかる背中を見送るだけだった 恋心に気付いた君は何にも変わらないまま
意味深な笑顔 ずっとそのままでいてね
あの日に逢ってから 十年の時が流れた 恋に結ばれた僕は 二度目の同窓会
また君に逢ったとき 何かがときめいた この日も何も変わらぬまま 話は弾んでいく
思い出話で終わらせていいのか 心は揺れ動き やっぱり想いを伝えられず 夜は静かに終わった
いつか伝えようと想いを仕舞い込んだ そうだ既婚者なんだもの 愛すべき人がいる 遠ざかる背中を見送るだけだった 歳を重ねた僕らは何にも変わらないまま
爽やかな笑顔 ずっとそのままでいてね
家族との冬休み いつもの街で男と歩く君にすれ違った 手を繋ぐ相手はおそらく恋人だろう それで何だか安心した もう苦悩しなくていいんだ ぎゅっと妻の手を握りしめた
まさか再び逢えるなんて思いもしなかったよ 揺らぐ心に気づいた時 僕は何も言えず
このまま終われたら何て幸せなことか 言い聞かせていたその時 ふたりの何かが動いた
遠くにいる君へ僕は愛を叫んだ まるでやまびこのように君の声がした だけどそこまでだった 沈黙が返ってくる その後妻に問いただされた 僕は何も言えなかった
あの頃の気持ち ずっとそのままでいてね
7.僕のクリスマスプレゼント
いろいろあったよね たくさん笑ったよね
何もなかった人も 何かあった人も 今夜はシャンパン飲み交わして 共に乾杯しよう
聖夜が更ける頃 この街に雪が降る 「一年に一度の魔法ね」 君はそっと呟く
ベッドでさすらう君が 僕は世界一好きだよ いつも言ってるじゃないか 君を愛してる
ありきたりな言葉 ふたり重ね合うだけで 幸せな気持ちになれるんだもの それが聖夜の奇跡
ときめきのStardust 安らかにHolly Night!!
いろいろ話したよね たくさん泣いたよね
時に喧嘩した夜も 死ぬほど笑った朝も 明日のプレゼントを信じて 一緒に夜を過ごそう
希望の夜明けだね 約束の鐘が鳴る 「今年はどんなプレゼントかな」 君は眠そうに囁く
どんな時も君が 僕は世界一好きだよ 毎日言ってるじゃないか 君を愛してる
ありきたりじゃない 今年学んだのは ふたりで幸せの価値捜すこと それは傍にいること
ときめきのStardust 安らかにHoly Night!!
伝えたいことがある 君と結婚したい どんな幸せも困難も 共に抱きしめよう ふたり愛の河を渡ろう これが僕からのプレゼント
いつまでも君が 宇宙で一番好きだよ いつも言ってるじゃないか 君を愛してる
ありきたりな言葉 ふたり重ね合うだけで 幸せな気持ちになれるんだもの それが聖夜の奇跡
ありきたりじゃない 今年学んだのは ふたりで幸せの価値捜すこと それは傍にいること
ときめきのStardust 安らかにHoly Night!!
【Bonus】YOKOHAMA GOLDEN ERA ‘00
グラウンドを見るたびに あの頃を思い出す オーシャン・ノワールは懐かしさを 僕らに教えてくれた
いつの間にか離れたスタジアム 二十年ぶりに戻れば ずっと待っていたとばかりに 大人になった僕を優しく抱きしめる
パチョレックのツーベース ポンセのホームラン ロバート・ローズのタイムリー ブラッグスのハッスルプレイ
僕らが愛した横浜が 今もそこにある カクテル光線の先には 子どもたちの憧れ
ありがとうこの街 いつまでもベイスターズ
詩集「GIFT 2020」Staff Credit
All Produced / Written by 坂岡 優 Special Thanks to My Family, my friends and all my fans!!
2020.12.25 坂岡 優
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guragura000 · 5 years ago
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自殺未遂
何度も死のうとしている。
これからその話をする。
自殺未遂は私の人生の一部である。一本の線の上にボツボツと真っ黒な丸を描くように、その記憶は存在している。
だけど誰にも話せない。タブーだからだ。重たくて悲しくて忌み嫌われる話題だからだ。皆それぞれ苦労しているから、人の悲しみを背負う余裕なんてないのだ。
だから私は嘘をつく。その時代を語る時、何もなかったふりをする。引かれたり、陰口を言われたり、そういう人だとレッテルを貼られたりするのが怖いから。誰かの重荷になるのが怖いから。
一人で抱える秘密は、重たい。自分のしたことが、当時の感情が、ずっしりと肩にのしかかる。
私は楽になるために、自白しようと思う。黙って平気な顔をしているのに、もう疲れてしまった。これからは場を選んで、私は私の人生を正直に語ってゆきたい。
十六歳の時、初めての自殺未遂をした。
五年間の不登校生活を脱し高校に進学したものの、面白いくらい馴染めなかった。天真爛漫に女子高生を満喫する宇宙人のようなクラスメイトと、同じ空気を吸い続けることは不可能だと悟ったのだ。その結果、私は三ヶ月で中退した。
自信を失い家に引きこもる。どんよりと暗い台所でパソコンをいじり続ける。将来が怖くて、自分が情けなくて、見えない何かにぺしゃんこに潰されてしまいそうだった。家庭は荒れ、母は一日中家にいる私に「普通の暮らしがしたい」と呟いた。自分が親を苦しめている。かといって、この先どこに行っても上手くやっていける気がしない。悶々としているうちに十キロ痩せ、生理が止まった。肋が浮いた胸で死のうと決めた。冬だった。
夜。親が寝静まるのを待ちそっと家を出る。雨が降っているのにも関わらず月が照っている。青い光が濁った視界を切り裂き��この世の終わりみたいに美しい。近所の河原まで歩き、濡れた土手を下り、キンキンに冷えた真冬の水に全身を浸す。凍傷になれば数分で死に至ることができると聞いた。このままもう少しだけ耐えればいい。
寒い!私の体は震える。寒い!あっという間に歯の根が合わなくなる。頭のてっぺんから爪先までギリギリと痛みが駆け抜け、三秒と持たずに陸へ這い上がった。寒い、寒いと呟きながら、体を擦り擦り帰路を辿る。ずっしりと水を含んだジャージが未来のように重たい。
風呂場で音を立てぬよう泥を洗い流す。白いタイルが砂利に汚されてゆく。私は死ぬことすらできない。妙な落胆が頭を埋めつくした。入水自殺は無事、失敗。
二度目の自殺未遂は十七歳の時だ。
その頃私は再入学した高校での人間関係と、精神不安定な母との軋轢に悩まされていた。学校に行けば複雑な家庭で育った友人達の、無視合戦や泥沼恋愛に巻き込まれる。あの子が嫌いだから無視をするだのしないだの、彼氏を奪っただの浮気をしているだの、親が殴ってくるだの実はスカトロ好きのゲイだだの、裏のコンビニで喫煙しているだの先生への舌打ちだの⋯⋯。距離感に不器用な子達が多く、いつもどこかしらで誰かが傷つけ合っていた。教室には無気力と混乱が煙幕のように立ち込め、普通に勉強し真面目でいることが難しく感じられた。
家に帰れば母が宗教のマインドコントロールを引きずり「地獄に落ちるかもしれない」などと泣きついてくる。以前意地悪な信者の婆さんに、子どもが不登校になったのは前世の因縁が影響していて、きちんと祈らないと地獄に落ちる、と吹き込まれたのをまだ信じているのだ。そうでない時は「きちんと家事をしなくちゃ」と呪いさながらに繰り返し、髪を振り乱して床を磨いている。毎日手の込んだフランス料理が出てくるし、近所の人が買い物先までつけてくるとうわ言を言っている。どう考えても母は頭がおかしい。なのに父は「お母さんは大丈夫だ」の一点張りで、そのくせ彼女の相手を私に丸投げするのだ。
胸糞の悪い映画さながらの日々であった。現実の歯車がミシミシと音を立てて狂ってゆく。いつの間にやら天井のシミが人の顔をして私を見つめてくる。暗がりにうずくまる家具が腐り果てた死体に見えてくる。階段を昇っていると後ろから得体の知れない化け物が追いかけてくるような気がする。親が私の部屋にカメラを仕掛け、居間で監視しているのではないかと心配になる。ホラー映画を見ている最中のような不気味な感覚が付きまとい、それから逃れたくて酒を買い吐くまで酔い潰れ手首を切り刻む。ついには幻聴が聞こえ始め、もう一人の自分から「お前なんか死んだ方がいい」と四六時中罵られるようになった。
登下校のために電車を待つ。自分が電車に飛び込む幻が見える。車体にすり潰されズタズタになる自分の四肢。飛び込む。粉々になる。飛び込む。足元が真っ赤に染まる。そんな映像が何度も何度も巻き戻される。駅のホームは、どこまでも続く線路は、私にとって黄泉への入口であった。ここから線路に倒れ込むだけで天国に行ける。気の狂った現実から楽になれる。しかし実行しようとすると私の足は震え、手には冷や汗が滲んだ。私は高校を卒業するまでの四年間、映像に重なれぬまま一人電車を待ち続けた。飛び込み自殺も無事、失敗。
三度目の自殺未遂は二十四歳、私は大学四年生だった。
大学に入学してすぐ、執拗な幻聴に耐えかね精神科を受診した。セロクエルを服用し始めた瞬間、意地悪な声は掻き消えた。久しぶりの静寂に手足がふにゃふにゃと溶け出しそうになるくらい、ほっとする。しかし。副作用で猛烈に眠い。人が傍にいると一睡もできないたちの私が、満員の講義室でよだれを垂らして眠りこけてしまう。合う薬を模索する中サインバルタで躁転し、一ヶ月ほど過活動に勤しんだりしつつも、どうにか普通の顔を装いキャンパスにへばりついていた。
三年経っても服薬や通院への嫌悪感は拭えなかった。生き生きと大人に近づいていく友人と、薬なしでは生活できない自分とを見比べ、常に劣等感を感じていた。特に冬に体調が悪くなり、課題が重なると疲れ果てて寝込んでしまう。人混みに出ると頭がザワザワとして不安になるため、酒盛りもアルバイトもサークル活動もできない。鬱屈とした毎日が続き闘病に嫌気がさした私は、四年の秋に通院を中断してしまう。精神薬が抜けた影響で揺り返しが起こったこと、卒業制作に追われていたこと、就職活動に行き詰まっていたこと、それらを誰にも相談できなかったことが積み重なり、私は鬱へと転がり落ちてゆく。
卒業制作の絵本を拵える一方で遺品を整理した。洋服を売り、物を捨て、遺書を書き、ネット通販でヘリウムガスを手に入れた。どうして卒制に遅れそうな友達の面倒を見ながら遺品整理をしているのか分からない。自分が真っ二つに割れてしまっている。混乱しながらもよたよたと気力で突き進む。なけなしの努力も虚しく、卒業制作の提出を逃してしまった。両親に高額な学費を負担させていた負い目もあり、留年するぐらいなら死のうとこりずに決意した。
クローゼットに眠っていたヘリウムガス缶が起爆した。私は人の頭ほどの大きさのそれを担いで、ありったけの精神薬と一緒に車に積み込んだ。それから山へ向かった。死ぬのなら山がいい。夜なら誰であれ深くまで足を踏み入れないし、展望台であれば車が一台停まっていたところで不審に思われない。車内で死ねば腐っていたとしても車ごと処分できる。
展望台の駐車場に車を突っ込み、無我夢中でガス缶にチューブを繋ぎポリ袋の空気を抜く。本気で死にたいのなら袋の酸素濃度を極限まで減らさなければならない。真空状態に近い状態のポリ袋を被り、そこにガスを流し込めば、酸素不足で苦しまずに死に至ることができるのだ。大量の薬を水なしで飲み下し、袋を被り、うつらうつらしながら缶のコックをひねる。シューッと気体が満ちる音、ツンとした臭い。視界が白く透き通ってゆく。死ぬ時、人の意識は暗転ではなくホワイトアウトするのだ。寒い。手足がキンと冷たい。心臓が耳の奥にある。ハツカネズミと同じ速度でトクトクと脈動している。ふとシャンプーを切らしていたことを思い出し、買わなくちゃと考える。遠のいてゆく意識の中、日用品の心配をしている自分が滑稽で、でも、もういいや。と呟く。肺が詰まる感覚と共に、私は意識を失う。
気がつくと後部座席に転がっている。目覚めてしまった。昏倒した私は暴れ、自分でポリ袋をはぎ取ったらしい。無意識の私は生きたがっている。本当に死ぬつもりなら、こうならぬように手首を後ろできつく縛るべきだったのだ。私は自分が目覚めると、知っていた。嫌な臭いがする。股間が冷たい。どうやら漏らしたようだ。フロントガラスに薄らと雪が積もっている。空っぽの薬のシートがバラバラと散乱している。指先が傷だらけだ。チューブをセットする際、夢中になるあまり切ったことに気がつかなかったようだ。手の感覚がない。鈍く頭痛がする。目の前がぼやけてよく見えない。麻痺が残ったらどうしよう。恐ろしさにぶるぶると震える。さっきまで何もかもどうでも良いと思っていたはずなのに、急に体のことが心配になる。
後始末をする。白い視界で運転をする。缶は大学のゴミ捨て場に捨てる。帰宅し、後部座席を雑巾で拭き、薬のシートをかき集めて処分する。ふらふらのままベッドに倒れ込み、失神する。
その後私は、卒業制作の締切を逃したことで教授と両親から怒られる。翌日、何事もなかったふりをして大学へ行き、卒制の再提出の交渉する。病院に保護してもらえばよかったのだがその発想もなく、ぼろ切れのようなメンタルで卒業制作展の受付に立つ。ガス自殺も無事、失敗。
四度目は二十六歳の時だ。
何とか大学卒業にこぎつけた私は、入社試験がないという安易な理由でホテルに就職し一人暮らしを始めた。手始めに新入社員研修で三日間自衛隊に入隊させられた。それが終わると八時間ほぼぶっ続けで宴会場を走り回る日々が待っていた。典型的な古き良き体育会系の職場であった。
朝十時に出社し夜の十一時に退社する。夜露に湿ったコンクリートの匂いをかぎながら浮腫んだ足をズルズルと引きずり、アパートの玄関にぐしゃりと倒れ込む。ほとんど意識のないままシャワーを浴びレトルト食品を貪り寝床に倒れ泥のように眠る。翌日、朝六時に起床し筋肉痛に膝を軋ませよれよれと出社する。不安定なシフトと不慣れな肉体労働で病状は悪化し、働いて二年目の夏、まずいことに躁転してしまった。私は臨機応変を求められる場面でパニックを起こすようになり、三十分トイレにこもって泣く、エレベーターで支離滅裂な言葉を叫ぶなどの奇行を繰り返す、モンスター社員と化してしまった。人事に持て余され部署をたらい回しにされる。私の世話をしていた先輩が一人、ストレスのあまり退社していった。
躁とは恐ろしいもので人を巻き込む。プライベートもめちゃくちゃになった。男友達が性的逸脱症状の餌食となった。五年続いた彼氏と別れた。よき理解者だった友と言い争うようになり、立ち直れぬほどこっぴどく傷つけ合った。携帯電話をハイヒールで踏みつけバキバキに破壊し、コンビニのゴミ箱に投げ捨てる。出鱈目なエネルギーが毛穴という毛穴からテポドンの如く噴出していた。手足や口がばね仕掛けになり、己の意思を無視して動いているようで気味が悪かった。
寝る前はそれらの所業を思い返し罪悪感で窒息しそうになる。人に迷惑をかけていることは自覚していたが、自分ではどうにもできなかった。どこに頼ればいいのか分からない、生きているだけで迷惑をかけてしまう。思い詰め寝床から出られなくなり、勤務先に泣きながら休養の電話をかけるようになった。
会社を休んだ日は正常な思考が働かなくなる。近所のマンションに侵入し飛び降りようか悩む。落ちたら死ねる高さの建物を、砂漠でオアシスを探すジプシーさながらに彷徨い歩いた。自分がアパートの窓から落下してゆく幻を見るようになった。だが、無理だった。できなかった。あんなに人に迷惑をかけておきながら、私の足は恥ずかしくも地べたに根を張り微動だにしないのだった。
アパートの部屋はムッと蒸し暑い。家賃を払えなければ追い出される、ここにいるだけで税金をむしり取られる、息をするのにも金がかかる。明日の食い扶持を稼ぐことができない、それなのに腹は減るし喉も乾く、こんなに汗が滴り落ちる、憎らしいほど生きている。何も考えたくなくて、感じたくなくて、精神薬をウイスキーで流し込み昏倒した。
翌日の朝六時、朦朧と覚醒する。会社に体調不良で休む旨を伝え、再び精神薬とウイスキーで失神する。目覚めて電話して失神、目覚めて電話して失神。夢と現を行き来しながら、手元に転がっていたカッターで身体中を切り刻み、吐瀉し、意識を失う。そんな生活が七日間続いた。
一週間目の早朝に意識を取り戻した私は、このままでは死ぬと悟った。にわかに生存本能のスイッチがオンになる。軽くなった内臓を引っさげ這うように病院へと駆け込み、看護師に声をかける。
「あのう。一週間ほど薬と酒以外何も食べていません」
「そう。それじゃあ辛いでしょう。ベッドに寝ておいで」
優しく誘導され、白いシーツに倒れ込む。消毒液の香る毛布を抱きしめていると、ぞろぞろと数名の看護師と医師がやってきて取り囲まれた。若い男性医師に質問される。
「切ったの?」
「切りました」
「どこを?」
「身体中⋯⋯」
「ごめんね。少し見させて」
服をめくられる。私の腹を確認した彼は、
「ああ。これは入院だな」
と呟いた。私は妙に冷めた頭で聞く。
「今すぐですか」
「うん、すぐ。準備できるかな」
「はい。日用品を持ってきます」
私はびっくりするほどまともに帰宅し、もろもろを鞄に詰め込んで病院にトンボ帰りした。閉鎖病棟に入る。病室のベッドの周りに荷物を並べながら、私よりももっと辛い人間がいるはずなのにこれくらいで入院だなんておかしな話だ、とくるくる考えた。一度狂うと現実を測る尺度までもが狂うようだ。
二週間入院する。名も知らぬ睡眠薬と精神安定剤を処方され、飲む。夜、病室の窓から街を眺め、この先どうなるのかと不安になる。私の主治医は「君はいつかこうなると思ってたよ」と笑った。以前から通院をサポートする人間がいないのを心配していたのだろう。
退院後、人事からパート降格を言い渡され会社を辞めた。後に勤めた職場でも上手くいかず、一人暮らしを断念し実家に戻った。飛び降り自殺、餓死自殺、無事、失敗。
五度目は二十九歳の時だ。
四つめの転職先が幸いにも人と関わらぬ仕事であったため、二年ほど通い続けることができた。落ち込むことはあるものの病状も安定していた。しかしそのタイミングで主治医が代わった。新たな主治医は物腰柔らかな男性だったが、私は病状を相談することができなかった。前の医師は言葉を引き出すのが上手く、その環境に甘えきっていたのだ。
時給千円で四時間働き、月収は六万から八万。いい歳をして脛をかじっているのが忍びなく、実家に家賃を一、二万入れていたので、自由になる金は五万から七万。地元に友人がいないため交際費はかからない、年金は全額免除の申請をした、それでもカツカツだ。大きな買い物は当然できない。小さくとも出費があると貯金残高がチラつき、小一時間は今月のやりくりで頭がいっぱいになる。こんな額しか稼げずに、この先どうなってしまうのだろう。親が死んだらどうすればいいのだろう。同じ年代の人達は順調にキャリアを積んでいるだろう。資格も学歴もないのにズルズルとパート勤務を続けて、まともな企業に転職できるのだろうか。先行きが見えず、暇な時間は一人で悶々と考え込んでしまう。
何度目かの落ち込みがやってきた時、私は愚かにも再び通院を自己中断してしまう。病気を隠し続けること、精神疾患をオープンにすれば低所得をやむなくされることがプレッシャーだった。私も「普通の生活」を手に入れてみたかったのだ。案の定病状は悪化し、練炭を購入するも思い留まり返品。ふらりと立ち寄ったホームセンターで首吊りの紐を買い、クローゼットにしまう。私は鬱になると時限爆弾を買い込む習性があるらしい。覚えておかなければならない。
その職場を退職した後、さらに三度の転職をする。ある職場は椅子に座っているだけで涙が出るようになり退社した。別の職場は人手不足の影響で仕事内容が変わり、人事と揉めた挙句退社した。最後の転職先にも馴染めず八方塞がりになった私は、家族と会社に何も告げずに家を飛び出し、三日間帰らなかった。雪の降る中、車中泊をして、寒すぎると眠れないことを知った。家族は私を探し回り、ラインの通知は「帰っておいで」のメッセージで埋め尽くされた。漫画喫茶のジャンクな食事で口が荒れ、睡眠不足で小間切れにうたた寝をするようになった頃、音を上げてふらふらと帰宅した。勤務先に電話をかけると人事に静かな声で叱られた。情けなかった。私は退社を申し出た。気がつけば一年で四度も職を代わっていた。
無職になった。気分の浮き沈みが激しくコントロールできない。父の「この先どうするんだ」の言葉に「私にも分からないよ!」と怒鳴り返し、部屋のものをめちゃくちゃに壊して暴れた。仕事を辞める度に無力感に襲われ、ハローワークに行くことが恐ろしくてたまらなくなる。履歴書を書けばぐちゃぐちゃの職歴欄に現実を突きつけられる。自分はどこにも適応できないのではないか、この先まともに生きてゆくことはできないのではないか、誰かに迷惑をかけ続けるのではないか。思い詰め、寝室の柱に時限爆弾をぶら下げた。クローゼットの紐で首を吊ったのだ。
紐がめり込み喉仏がゴキゴキと軋む。舌が押しつぶされグエッと声が出る。三秒ぶら下がっただけなのに目の前に火花が散り、苦しくてたまらなくなる。何度か試したが思い切れず、紐を握り締め泣きじゃくる。学校に行く、仕事をする、たったそれだけのことができない、人間としての義務を果たせない、税金も払えない、親の負担になっている、役立たずなのにここまで生き延びている。生きられない。死ねない。どこにも行けない。私はどうすればいいのだろう。釘がくい込んだ柱が私の重みでひび割れている。
泣きながら襖を開けると、ペットの兎が小さな足を踏ん張り私を見上げていた。黒くて可愛らしい目だった。私は自分勝手な絶望でこの子を捨てようとした。撫でようとすると、彼はきゅっと身を縮めた。可愛い、愛する子。どんな私でいても拒否せず撫でさせてくれる、大切な子。私の身勝手さで彼が粗末にされることだけはあってはならない、絶対に。ごめんね、ごめんね。柔らかな毛並みを撫でながら、何度も謝った。
この出来事をきっかけに通院を再開し、障害者手帳を取得する。医療費控除も障害者年金も申請した。精神疾患を持つ人々が社会復帰を目指すための施設、デイケアにも通い始めた。どん底まで落ちて、自分一人ではどうにもならないと悟ったのだ。今まさに社会復帰支援を通し、誰かに頼り、悩みを相談する方法を勉強している最中だ。
病院通いが本格化してからというもの、私は「まとも」を諦めた。私の指す「まとも」とは、周りが満足する状態まで自分を持ってゆくことであった。人生のイベントが喜びと結びつくものだと実感できぬまま、漠然としたゴールを目指して走り続けた。ただそれをこなすことが人間の義務なのだと思い込んでいた。
自殺未遂を繰り返しながら、それを誰にも打ち明けず、悟らせず、発見されずに生きてきた。約二十年もの間、母の精神不安定、学校生活や社会生活の不自由さ、病気との付き合いに苦しみ、それら全てから解放されたいと願っていた。
今、なぜ私が生きているか。苦痛を克服したからではない。死ねなかったから生きている。死ぬほど苦しく、何度もこの世からいなくなろうとしたが、失敗し続けた。だから私は生きている。何をやっても死ねないのなら、どうにか生き延びる方法を探らなければならない。だから薬を飲み、障害者となり、誰かの世話になり、こうしてしぶとくも息をしている。
高校の同級生は精神障害の果てに自ら命を絶った。彼は先に行ってしまった。自殺を推奨するわけではないが、彼は死ぬことができたから、今ここにいない。一歩タイミングが違えば私もそうなっていたかもしれない。彼は今、天国で穏やかに暮らしていることだろう。望むものを全て手に入れて。そうであってほしい。彼はたくさん苦しんだのだから。
私は強くなんてない。辛くなる度、たくさんの自分を殺した。命を絶つことのできる場所全てに、私の死体が引っかかっていた。ガードレールに。家の軒に。柱に。駅のホームの崖っぷちに。近所の河原に。陸橋に。あのアパートに。一人暮らしの二階の部屋から見下ろした地面に。電線に。道路を走る車の前に⋯⋯。怖かった。震えるほど寂しかった。誰かに苦しんでいる私を見つけてもらいたかった。心配され、慰められ、抱きしめられてみたかった。一度目の自殺未遂の時、誰かに生きていてほしいと声をかけてもらえたら、もしくは誰かに死にたくないと泣きつくことができたら、私はこんなにも自分を痛めつけなくて済んだのかもしれない。けれど時間は戻ってこない。この先はこれらの記憶を受け止め、癒す作業が待っているのだろう。
きっとまた何かの拍子に、生き延びたことを後悔するだろう。あの暗闇がやってきて、私を容赦なく覆い隠すだろう。あの時死んでいればよかったと、脳裏でうずくまり呟くだろう。それが私の病で、これからももう一人の自分と戦い続けるだろう。
思い出話にしてはあまりに重い。医療機関に寄りかかりながら、この世に適応する人間達には打ち明けられぬ人生を、ともすれば誰とも心を分かち合えぬ孤独を、蛇の尾のように引きずる。刹那の光と闇に揉まれ、暗い水底をゆったりと泳ぐ。静かに、誰にも知られず、時には仲間と共に、穏やかに。
海は広く、私は小さい。けれど生きている。まだ生きている。
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sonezaki13 · 5 years ago
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※高2の時に書いた作品です。
リメイク版作成にあたりオリジナルをほぼそのままあげます。誤用、文章作法誤りそのままです。
しとしと降る雨のリズム(前編)
ほらほら、また「ゲーム」の始まりだ。
僕は机に頬杖をついて、それをただ傍観する。
耳障りな騒音。嫌に五月蝿い嘲笑。
多分また避難しているのであろう中澤絵美の机を、さも楽しそうに、愉快そうに運び出している。
あぁ、吐き気がしそうだ。「いじめ」なんて陰湿なショーを見たくもないのに、見せられている気にもなってくれ。楽しんでるのは「行う側」の人間だけじゃないか。
まぁ、そういう僕だって「見てるだけ」という点でいえば、「行う側」に属すのだろう。
とは言っても、「いじめを止める」なんていう馬鹿馬鹿しいことをやっていられる訳がない。これは正当防衛なのだ。仕方ないのだ。
「クラス」という密閉された一つの空間の絶対君主、浅賀千里に刃向かえば、こっちの身が危ない。そんなことになるぐらいなら、少しぐらい目をつぶって、耳を塞いですごすなんて楽なものだ。
それだけで自分の平和と安全が保障される。あとは浅賀千里に逆らわなければ良いだけだ。
そんな所へ絵美が帰ってきた。相変わらず、身を固くして、うつむいて足早に歩いている。
「おかえり~。絵美ちゃん!」
妙に明るく、わざとらしい声で浅賀たちが言った。
絵美はびくっとして、立ち止まった。
そして、教室に流れる重い空気。クラスメイト達は一斉に目を伏せたり、背を向けたり、はたまた便乗してニヤニヤしながら絵美達を眺めたりする。
「絵美ちゃんったら教室間違ってるよ~」
浅賀の下僕の女子が、さも嬉しそうに嫌らしい笑みを浮かべて言った。
そんなはずがないのは誰もがわかっている。絵美は間違いなくこの2-3の生徒だ。
そうじゃなければ、このゲームの標的にもなっていな���だろう。
「ここは絵美ちゃんの教室じゃないんだよ~。…わかってる?」
一度は立ち止まったものの、絵美はその言葉を無視して、クラスへ入ろうとした。
「だから違うって言ってんでしょ!」
鈍い音がして絵美は廊下の白い壁にぶつかっていた。どうやら突き飛ばされたらしい。
今までの妙に明るい口調と一変した激しい口調。しかし、そこから馬鹿にしたような嘲りの態度は消えていない。
「あんたの席はここにあるでしょ。」
楽しそうに彼女達は言う。しかし、絵美は起き上がらない。
「早く座りなよ。」
絵美はじっとして、黙り続けている。
「ま、いいや。次、移動だし。あんたはここに座っときなよ。」
相変わらず絵美は黙ったままだった。
浅賀達は顔を見合わせ、口々に、本人に聞こえるよう大きさで絵美の悪口を言いながら、去って行った。
嵐の前ならず、嵐の後の静けさ。
しばしの沈黙の後、僕らも用意を持って移動を始めた。
皆、無意味に騒いでいる。「絶対君主」の残した重い空気を掻き消す為、さっきのゲームをなかったことにする為。
僕も例外ではない。ほとんど内容のない会話を交わしながら、廊下を歩く。
今も尚 、じっとしている絵美を誰も見ようとしない。うっかり見てしまった奴も、慌て目を反らし、見なかったことにする。
彼女が一人、静かに泣く声が聞こえた。
でも僕らは、そんな彼女がいないみたいに、見えないみたいに、通り過ぎて行く。
―…絵美のおびえた顔を見ていると、黙って見ていることに、ふと罪悪感を感じることがある。そんな時は胸にこみ上げてくる衝動を抑えこんで現状況を正当化する。
だから僕を含む大勢は、彼女と目が合わないようにするんだろう。
自分を犠牲にしてまで絵美を助ける必要はない。止めた所でいじめが消えるとも思えない。
僕らは自分が可愛い。自分が大切。
なぜなら「自分」が無事であって、初めて周囲を認識できるから。
それは悪いことでもないし、おかしなことでもない。だから、いじめを止めようとする人の気持ちがわからない。もっとも、ここにはそんな奴はいないが。
自分を守ることがどうして悪いのか。いじめに立ち向かうことがどうして素晴らしいことなのか。
昔、正義がどうだとかほざいていた奴がいたが、どうして正義を貫く必要があるのか。
正義なんてただの個人の思想にすぎない。
自分の身があっての思想だ。思想をとるか、自分の安全をとるか。
単なるキレイごとの塊にしかすぎない思想を選択するほど、馬鹿なことはない。
思想などという、個人によって価値観も違うような、大した利益にもならないものが必要か。否、そんなはずがない。
だから、僕は「傍観者」であり続ける。
―…また嫌な昼休みがやってきた。
あぁ、ほら、まただよ。
絵美の机はいつだって、1つだけ明らかに他の机から遠ざけてある。
彼女の机は傷だらけだし、油性ペンで書かれた馬鹿馬鹿しいラクガキもあちこちに描かれている。もちろんそれは皆、いじめを「行う側」の人間や、絶対君主たちに誘われた人間がしたことなのだが。
絵美は膝をついて、ゴミ箱をあさっていた。髪は、さっき浅賀たちにかけられたゴミでホコリだらけだった。
また、何かを捨てられたらしい。
そんな絵美はとても惨めで、みすぼらしかった。
そして、僕らはそれを見ないフリをするか、ニヤニヤしながら楽しそうに眺めるかのどちらかを行うのだ。
その後、絵美はゴミ箱から小さな何かを握り締めて、自分の席に戻った。絵美の所に、また浅賀たちがやって来る。
「ゴミなんてあさって、汚いの。浮浪者か何かのマネでもしたいの?」
絵美はまた黙っている。
「何拾ったの?見せてよ。」
浅賀の伸ばしてきた手を振り払うように、絵美は握り締めていたものを背中の後ろに隠した。
浅賀はまゆをひそめた。
「何その態度。」
ながれる沈黙。
「何その目。」
馬鹿にしたように笑う声。
きっと絵美は、またあの怯えを交えつつも挑むような目で浅賀を見ているのだろう。
僕達に、なんでもないような後姿を見せている。
「見せろよ。聞こえないの?」
大きな音がして、クラスメイト達は一斉に絵美たちに注目する。
浅賀は無理矢理、逃げようとする絵美の腕を掴んで手の中のものを奪い取った。
「何これ~。見てよ皆。」
マスコットだった。小さなクマのぬいぐるみのマスコット。今はもうすっかり汚れてしまった小さなマスコット。
あぁ。あれは…。どうしてあれの存在に今まで気付かなかったんだろう。
「汚い人形。こんなのいるの?」
浅賀はクマを眺めながら楽しそうに嘲った。
「返して。」
絵美はか細い声で言った。
浅賀は嘲笑するとクマのマスコットを、汚いものを触るようにつまみ上げた。
「不細工なデザイン。気持ち悪い。気味悪いね。古いでしょ、コレ。」
浅賀はクマに爪を立ると、首と胴体を引っ張った。
古びたクマはあっけなく千切れて、古くなって硬くなっている綿が飛び出した。引っ張られて伸びた布が無残だった。
「汚い。せっかくゴミとして捨ててあげたのに。そんなにゴミが好きなら一生ゴミの中で暮らせば?」
浅賀はクマを床に落とすと、足で踏みつけた。
クマから、さらに綿が飛び出す。
「やめてよ!」
絵美が声を上げて、クマを拾おうと手を出すと、浅賀はクマと一緒に絵美の手も踏みつけた。
「あーあ。うっかり踏んじゃった。急に手を出したら危ないよ。」
そして、もう一度、今度はもっと力を入れて、踏みつける。
絵美の顔が一瞬だけ歪んだ。
絵美の手の下で、クマはぺしゃんこになって、綿を垂れ流して、手や足を変な方向に曲げていた。
絵美の目が潤み始めた。もう泣くのは時間の問題だろう。
絵美自身それに気付いたらしく、慌ててうつむき、顔を隠した。
「あ。またコイツ泣く。」
楽しそうに誰かが言った。
それが合図だったかのように周囲も笑う。笑う。そして、楽しそうに嘲りながら騒ぐ。
絵美が泣く時のマネをしたり、泣くぞ泣くぞと騒ぎ立てたりと一瞬で教室が五月蝿くなる。
絵美は必死に食いしばっているようだったが、やはり結局は泣いてしまった。
泣き虫泣き虫また泣いてやがる泣いたぞ泣いたぞやっぱりなあいつは弱いからほらほら見てよあの汚い顔汚い汚い泣くなんて卑怯だよほらまただいい加減にしろよ弱すぎだよ泣きすぎだしあんな弱い奴見たことないよホントうぜえ
交じり合う騒ぎ声。
絵美は泣きながら、ぐしゃぐしゃになったクマを握り締めていた。
僕の感情がかすかに震えた。
絵美は僕と目が合うと「大丈夫」と言いたいらしい、ひきつった笑顔を見せる。
いつからそんな笑顔しか見せなくなったんだろう。絵美はもっとほっとするような笑顔の持ち主だったのに。
いつから僕らは言葉を交わさなくなったんだろう。ほんの数ヶ月前まで冗談を言い合っていたのに。
僕は、理不尽に攻撃されている絵美を見捨てて逃げたのに、絵美は僕のことを裏切らない。
ねぇ、どうしてそこまでしてくれるの?
―…「絵美ちゃん絵美ちゃん。」
幼い日。迷いなんてない。利益なんて関係ない。ただ自分がどう思うかだけで、生きていけたあの頃。
「お誕生日おめでと。これね、唯花からのプレゼント。」
幼い僕は幼い少女に小さなクマのマスコットをあげた。
薄い茶色の体。黒いビーズの目。気を付けをした姿勢でクマは少女をじっと見ている。
そして少女もクマをじっと見ていた。
「かわいい。」
嬉しそうに満面の笑顔で、少女は言った。その目は輝いていて、今度は僕のことをじっと見た。
「ありがと。ゆいちゃん。大事にするね。」
―…黒ずんで、目が片方取れて、手も歪んでいて、首もなんだかぐらぐらしているクマを絵美は捨てないで、何とか修理して持ち続けていた。
あの日、絵美にクマのマスコットを渡した少女は、今はこんなに汚い生き方しかできていない。ずっと仲良くしていたくせに、いざ、絵美がいじめられるようになったら見捨てた。
絵美はずっとあのクマを大事にしてくれていたのに。
もっとも、気付いたのはクマが浅賀に壊されてからだが。
どうして絵美はそんなにもクマを大事にするのか。幼い日の約束だからか。
なぜ?どうして?わからないわからないわからない。他人なんだからわからないのは当たり前かもしれないが、それすら良くわからない。
それなのに、なんだか嬉しい。こんなに嬉しいのは久しぶりかもしれない。なんで?なんでこんなに嬉しいんだろう。
絵美の近くを通るたびに、クラスメイト達は意図的に顔をしかめる。
ぶつかったりしたら楽しい楽しい宴の幕開けとなる。
きったねぇ何アイツ。菌がついた。はい、ユウタにタッチ。何だよやめろよ!オレを殺す気か?こんなのつけてたら1週間以内に死ぬぞ。あぁ~あオレ死んじゃうし。ま、その分アイツは人殺しだな。ってかアイツ町歩いてるだけで罪じゃん。知らない間にきっといっぱい死んでるって、アイツの菌で。吐き気しそうだし。さっさと自殺だろうとなんだろうとしろって話。ハイ、タッチ。えぇ~なんでオレに回ってくんだよ。そもそもアイツなんであんな所歩いてんの?訳わかんねぇよ。マジウザイって。
―…生きていけないと思うのなら、お前等が死ね。訳わかんねぇのはお前等だ。
仕方のないこととわかりつつ、それこそ吐き気がしそうな言葉に口に出さず反論してみる。
でも、本当はそんなことをしても何の意味もないことはわかっている。
これは一種のゲームであり、クラスの娯楽にすぎない。的当てゲームの延長だ。そう、ただの遊び。ただ、的が人間だというだけのこと。
瀕死状態のクマが絵美の鞄で揺れている。
絵美は最近、物を取られないようにか、いつも鞄に私物を入れて持ち歩いていた。
重そうだな、と思った。持ってあげたいと思った。
でもそれは僕にはできない。僕はあいにく絵美よりも自分が可愛いみたいだ。
僕は僕が可愛くて可愛くて可愛くて可愛くて可愛くて可愛くて可愛くて可愛くて可愛くて可愛くて可愛くて可愛くて可愛くて可愛くて仕方がないのだから。だから、何も行動を取れないでいる。
それで満足?ああ満足さ。
美しき自己愛。それで僕は僕を保つことができる。
クマが悲しそうに片方だけの目で僕を見ていた。
―…僕がやっているのは正当なことであり、平和を築くための行為なのに、平和は音をたてて崩れている気がする。
僕に何が足りない?僕は自分の平和を望んでいるだけだ。それだけだ。嘘じゃない。それだけだ。それだけだ。一体何が足りない?何かが足りない。確実に足りない。でもそれが何なのかわからない。
欠けた部分にできている大きな虚無感。そこに一度気付いてしまった僕は、そこを求めることに必死になっているらしい。
「大丈夫?」
気がつくと、僕は絵美とすれ違いざまに、聞こえるか聞こえないかの大きさで、そう言っていた。
「大丈夫だよ。」
絵美は優しく笑っていた。あの怯えた笑顔でなく、本当に優しく、嬉しそうに、あの頃の笑顔と同じように。
なんで。
なんでこんなに苦しいんだろう。その反面どこか暖かい。痛みと温もりの両方がじんわりと広がっていく。
すれ違いざまの一瞬の会話。それだけなのに。
僕はとにかく、何かしないといけない、と思った。それが何かは相変わらずわからなくて、果てしない虚無感から逃げながらそう思った。
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skf14 · 5 years ago
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06250159
今となっては人が辿り着けない、忘れ去られた森の奥に、古びた洋館は佇んでいた。
夜には人間ではないものたちの舞踏会。
ひとりでに鳴り響くピアノの音に合わせて、魑魅魍魎は舞い踊る。
それを壁に寄りかかって楽しげに眺めていた男が、ふらりと宴に近づきピアノに触れる。その瞬間、ピアノはポロン、と和音を鳴らし、まるで尻尾を振ってじゃれつく犬のようにポロン、ポロンと楽しげな音を奏でた。
「そろそろ調律が必要だね、ピアノくん。」
ある者は体液を、ある者は魂を、そしてある者は全てを忘れられる魔法の粉を撒き散らしながら、魑魅魍魎は宴に酔いしれる。
その時、騒々しい音を立てて洋館の扉が開かれた。音の正体は何かに躓き派手に転んだらしい。驚いた魑魅魍魎たちが逃げ惑い、さっきまで上品な舞踏会を催していた洋館が、まるでお祭り。どんちゃん騒ぎ。
収集のつかない面々に呆れ顔の男。駆け寄り抱きついた騒がしい男が、太陽のような眩しい笑顔と歯を見せて笑う。
「ただいま!おそくなっちゃった!」
「......もう少し静かに入れないのかな、此岸。おかえり。」
「へへ、ごめんごめん、彼岸くん。ゆかがわれてたよ。なおさなきゃ。」
「そろそろ慣れてくれないと、君が来るたびに皆が驚くよ。」
「はは、だよね。ごめんねー、みんな。」
二人が揃ったのを見て、魑魅魍魎たちは散り散りに自らの住処へと帰っていく。ごめんねー、騒がしかったねー、と声をかける此岸を見ながら、場の温度が冷めていく。後に残すのは静寂のみ。呆気ないものだ。いつもこうして全てが終わった後は、酷く寂しい、心に穴が開いたような感覚になる。
どちゃり、と買い物をしたらしい此岸が戦利品を机に置き、遊び盛りの子供のようにソファーに飛び乗って雪崩れ込む。そこはさっきまで首無しの騎士が踊り狂って倒れ込み鮮血を撒き散らしていた場所だったが、どうせ汚れても洗濯するのは僕だ。と開き直って黙っておいた。
「はぁ、つっかれたぁ。まちってほんと、とおすぎだよね。」
「随分遅かったね。今日はどこで遊んでいたんだい?」
「いろんなとこにおでかけしてきたよ。ほらみて。おさいふすっからかん!」
「......此岸くん。」
「はい。」
「僕が今朝、街に行って買い物がしたい!と強請る君に渡したお金はいくらだったか覚えているかな?」
「えーーーー...っとぉ......かみがごまい、だから、ごせんえん?」
「...此岸。あれは諭吉だ。英世じゃない。君が持って行ったのは5万円だ。」
「あー。」
「あー。じゃないよ君。...まぁ、仕方がないか。こうなることは概ね予測済みだったから。で、何を買ったのかな。」
気まずそうに彼岸の顔を見ながらも、戦利品を早く見せびらかしたかったらしい此岸が、紙袋やらビニール袋やら机に投げ出していたあれそれを開封し並べていく。その楽しげな顔に毒気を抜かれた彼岸は、ため息を吐いて彼の前へと座り、広げられる品物の数々を手に取っては、釣られて笑った。
「これは?」
「かいだんでころがすにじいろのおもちゃ!」
「これは?」
「かっこいいりょうりどうぐだよ。かなものやさんでかったの。おにくをやくまえにたたくものなんだって!」
「もうあるんだけどなぁ。肉叩きなら。」
「えへへ。とげとげつよそうでしょ?」
「これは?」
「きんぎょ!こっちには、きんぎょばちもあるよ。えさも!これね、くろくてめがでてるのがぼくで、しろくてきれいなのが彼岸くん。」
「いいな。名前は?」
「しーちゃんと、ひーちゃん!」
「覚え易くて良い。採用。」
「あとね、これ。彼岸くんがすきっていってた、はなだよ。」
「...あぁ、アングレカムか。母に似て、好きな花だよ。よく覚えてたね。この子は日向が好きだから、枯らさないよう日に当ててやらないとね。」
「なんだかいいにおいがする、とおもって。ぼくちゃんとおみずやるね!」
ふんすふんす、と鼻息を荒げまるで褒美を待つ犬のような此岸の頭を撫で、彼岸はさて、と場を仕切り直した。それは、冒頭からずっと気になっていたことを、指摘すべきかと考えあぐねているうちに此岸のペースに取り込まれていたからだった。
「で。今日は何を連れ帰ったのかな。」
「なんのこと?」
「...君のせいで、僕は血塗れだよ。お気に入りのシャツが真っ赤だ。」
「あー...あは、だよね。ごめんね。すてきなかぞくをつれてきたんだ。といっても、ひとりはかけちゃったんだけど...」
「おや、お客様だったか。なら、おもてなししなきゃいけないね。支度しようか、此岸。」
「はぁい!」
後頭部に鋭い痛みが走ったところまでは覚えていた。が、目を覚ました場所は見知らぬ洋館らしき古い建物。ここがどこで、何月何日の何時なのかも全く分からない。口には猿轡、手足には指錠が掛けられていて、身悶えすることしか出来ない。が、身悶えした瞬間、足首に激痛が走り一瞬息が出来なくなる。足をやられた、と脳内で舌打ちを漏らし、あたりを見回せば傍らには横たわる妻と、そして娘がいた。もう一人の娘はどこに。襲われる直前まで一緒にいたはずだ。とコンクリートが剥き出しの床に頬を擦り付け周りを見回していると、古い扉がギィ、と軋んで開く。
「ほら、おきゃくさんだよ!」
「縛り上げて口枷まで。あぁ、血が滲んでるよ。全く...手口が雑だな。」
「ごめんって。だってあばれるんだもん。」
「そりゃ暴れるだろう。いきなり街中で拉致されるんだから。」
軽口を叩きながら部屋に入って来たのは、小柄で細身な色白の男と、その男よりも背が高く、健康的な身体に笑顔を浮かべた男。神経質そうな細身の男が我々を見て顔をしかめ、心配そうに私の顔を撫でた。気味が悪く避けるように身体をしならせ避ければ、しゅん、と困った顔をして顔を覗き込まれる。異常だ。まるで意味が分からない。
「とりあえず、おはなししないとね!彼岸くん!」
「そうだね。此岸。さぁ、いらっしゃいませ、お客様。」
彼岸、と呼ばれた男が私の後頭部へ手を回し、猿轡代わりに口に詰め込まれ固定されていたタオルを取った。肺に流れ込む新鮮な空気を目一杯吸い込んですることなど、一つしかない。
「っ 、ゲホ...誰か!誰か!!助けてくれ!!!!!」
「うわぁーうるさい!うるさい〜!」
「紳士、お静かに。ここは山奥の洋館。呼んでも誰も来ませんよ。」
「誰か!いないのか!助けてくれ!!!誰か!!!!」
「うるさいっていってるじゃんか!もう!」
髪をグシャリと掻き回して癇癪を起こす子供のように叫んだ此岸、と呼ばれた男が手に持っていた火かき棒を思い切り私の頭に振りかざした。その瞬間、鋭い熱さと、そして世界が揺れる気持ち悪さで目が眩む。振りかぶって頭の左側面を殴られた。耳が酷く熱い。
「コラ!此岸!」
「うぇぇ、ごめんなさぁい...だって、ぼくのみみ、いたくなっちゃうから...」
「すまないね。耳が切れてしまったみたいだ...。止血するから、大人しくしていてください。」
私の隣に蹲み込んだ彼岸がポケットから出した柔らかなハンカチで私の耳あたりを押さえ、「救急箱持って来てくれるかな、此岸くん。」と指示する。脱兎の如く駆け出した此岸を目で追えば、傷の様子を見ていた彼岸にくすくすと横で笑われた。
「可愛らしいでしょう、彼。子供なんですよ。」
「...どう見てもただの、大人の男じゃないか。なんなんだ、ここは。アンタは誰だ。目的はなんなんだ。」
「此岸が連れ帰って来てしまった、と聞いています。心中お察しします。」
「聞いてるのかお前、おい!」
「全く、ゴルフじゃあるまいし、火かき棒を振りかぶるなんて。」
「彼岸くん!もってきたよ〜!」
「ありがとう。」
さて、と、先ほど投げ捨てたタオルを拾い上げた彼岸が、私の口にそれを突っ込み直す。そして、救急箱の中から恐らく医療用の針と糸を取り出し、そしてにこりと気持ちの悪い笑みを浮かべた。
生きながら麻酔なしで耳を縫われる、その感覚は���度と味わいたくものだと、焼き切れそうな思考の中でどこか冷静な私が懐古していた。強張った手足の感覚はもう既に無い。
永遠とも感じ取れる時間の中、終わったよ、という声がどこか遠いところからモヤがかかったように聞こえる。目を開けば、優しそうな笑みを浮かべた彼岸が私の頭を撫で、よく頑張りましたね。と私を褒めている。
「うまいなぁ、さすが彼岸くん!」
「全く、君は火かき棒の使い方が分かってないな。そもそも人に振るうものじゃないし、何のためにここに板がついてると思う?」
「...あぁ、そういうことか!ぼくりかいした!じっせんしていい?」
「また余計なことを思いついたな。此岸。全く...。」
「よーしじっせん!こうでしょ!彼岸くん!!!」
声を発せない状況のまま、此岸が先ほど私の頭めがけて振りかぶった姿とはまた違う、上からストンと振り落とすような仕草で火かき棒を、妻と、そして娘の頭に下ろした。ぐちゃ、と鈍く聞こえたその音で、目の前が怒りにより真っ赤に染まった。びくん!と身体を震わせた妻と娘が目を覚まし、そして光景を見て、痛みに喉から搾り出された金切り声で絶叫する。
「ねぇ彼岸くん、ぼくじょうずにできた?」
「...そうだね、とても綺麗で鮮やかだった。で、誰が治療すると思ってるのかな?此岸くん?」
「あっ...」
「罰として明日の洗濯係は君だ。」
「ちぇっ...でも、てつだってくれるんでしょ?」
「...君に任せていたら、また蝶々やらバッタやらを追いかけて終わらないからね。」
「へへ、やさしいなぁ。ありがと!」
手慣れた様子で妻と娘の耳を止血し、火かき棒がざっくりと切り落とした耳を此岸へと手渡す彼岸の様子に、血の気がザザ...と失せていく音が聞こえた。私達は、来てはいけないところへ来てしまった。連れてこられてしまった。
「さ、皆様が落ち着いたところで、本題に入ろうか。此岸。」
「そうだね、彼岸くん。」
私達の体を起こさせ、壁に持たれさせるようにして座らされる。猿轡は外されたが、叫ぶのが無駄だと実感した3人は黙ったまま、ゲス野郎達を睨んでいる。目の前に置かれたアンティークの椅子に座った2人が顔を見合わせ、まるでパーティーのメニューを決めるかのように軽やかに話し始めた。
「どうやら、此岸くんから見た君達の家族としての姿に何か誤りがあったらしいんです。そこで、君達に、正しい家族の正解を見つけてもらおうと思います。」
「きげんは、えーと、いまがよるのにじだから、あしたのよる、じゅうにじまで!みつけられたら、ぶじただしいかぞくとして、これからもしあわせにくらしてもらうね。」
「彼岸、とか言ったか、お前。」
「はい。何でしょう。」
「もう1人、娘がいたはずだ。どこへやった。」
「あぁ、あのちっさいこ?べつのへやでねてるよ!さっきまで、ぼくとあそんでたんだぁ。」
「......人質から人質を取るなんて、クズだな。」
「あー、ちょっと、彼岸くんのことわるくいわないでよ。」
「此岸。いい。僕が優しいことは、君がよく知っているだろう?」
いきりたつ此岸を制して椅子から立ち上がり、私の目の前へ腰を下ろし、慈愛の目線をもって私を見つめ「大切なお客様なのだから。」と頬を撫でる彼岸。心底気持ちが悪く、強く噛み締めたせいで口の中に溜まった血と唾液を奴の顔へと吐きかけてやった。固まる表情と、彼岸を見て目を見開く此岸の顔。
「ひっ...彼岸くん!」
「はは、大丈夫。大丈夫だよ。明日までゆっくり待って、彼らに正しく生きてもらおう。此岸。」
「うん。かお、きれいにしてあげる。いこう?」
「ありがと。行く。」
閉じられた扉。絶望の音にも聞こえる。正しい家族?そんなもの、それぞれに正解があって然るべきで、そもそも私達は間違った行いをした覚えはない。社会のルールを守り、家族4人で楽しくお出かけしていただけだ。
「あなた...」
「パパ、こわいよ。」
「大丈夫だ。お前達も、あの子も、必ず助ける。」
「うへぇ、つめたーい。」
「温度は仕方がないよ、此岸。ただ、まだ身体は柔らかいだろう。12時間がピークだ、明日の朝ごろにはもう使えなくなってるだろうから、今のうちに楽しんでおきな。」
「うん、たのしむー!へへ、かわいいなぁ、」
ベッドの上に寝かされ、首が雑巾のように捻れた幼女相手に此岸が覆い被さり、意気揚々と腰を振っていた。まるでダンスでも踊っているかのようなその姿に、性的な欲求が生来まるでない彼岸は、命の強さを感じていつも見入ってしまう。
「はぁぁ、やわらかくて、しっとりしてて、きもちいい〜!なんかいでもできそうなきがするよ、彼岸くん!」
「あぁ、楽しめ。存分にな。」
「んんん〜〜ふふ、んふふ、あぁ、あぅ、ぅふふっ」
そっとスマートフォンを取り出し、家族の部屋の監視カメラの映像を覗く。此岸曰く、施錠は勿論彼らのアキレス腱を断っておいたから逃げるのは無理、とのことだった。その言葉通り、彼らは芋虫のように這い回り、そして、時折カメラを睨んでは、顔を突き合わせて何か話し込んでいる。全く、酷いことをする。と、目の前で無邪気に幼女と戯れる此岸を見遣る。壁の時計を見れば、そろそろ眠るべき時間だった。
「僕はそろそろ眠るよ。」
「はぁい!おや���み、彼岸くん。どうかいいゆめを。」
「叶うことなら醒めない夢を。おやすみ、此岸。」
白濁と血と体液に塗れ、蝋のように強張り白くなった子供を見下ろす。今更何の感情も浮かばないが、唯一、彼岸が嬉しそうにしていたことが嬉しかった、と、此岸は汚れた愚息や身体を拭いながら思い返していた。彼岸は食欲も睡眠欲も、そして性欲も捨てた人間だった。代わりを満たすのが自分であることを、此岸は心から誇りに思っていた。
トン、トン、と家族が監禁された地下の部屋へ向かいながら、此岸は彼岸のことを思っていた。形容することが何もない空っぽの人生を、楽しさと不変で満たしてくれた彼岸に報いたいと思うのは、此岸にとって正しいことであり、それを止められる法もモラルも何もなかった。守るべきは彼岸、そして己の秩序のみ。
キィ、と開いた扉に弾かれたように顔を上げた家族が此岸を睨み付ける。傍らの椅子を引いて座った此岸は、消耗した様子の子供、そしていきり立った両親を見て、チリチリと焼ける胸の音を聞いた。
「幸せな私達がなぜこんな目に、って思ってる?」
「...貴様、さっきの此岸か?別人か?」
「此岸だよ。彼がくれた名前なんだ。覚えてくれてありがとう。」
「気持ち悪い。何なんだ、貴様らは。ホモのお遊びに、私達を巻き込むな!」
「口汚く罵っても、生憎僕らには効かないよ。」
「...目的は何なんだ。」
「彼岸はね、正しいことを正しいと思い続けてきた人なんだ。僕はそれを正しい、と肯定してあげるために、彼の側にいる。」
「何を言ってるのかさっぱり分からんぞ!」
「だろうね。」
「なぁ、逃してくれ、助けてくれ、頼むから。」
「僕にも彼岸にも、逃すメリットがないよ。」
「誰にも言わない、命だけは助けてくれないか、」
「明日答えを見つけたら、助かる。彼岸がそう言ってたでしょ?正しく生きれば必ず報われる。それを証明してあげてよ、彼岸に。」
「さぁ、行こうか。きっと彼らは聡いから、答えを見つけているはずだよ。此岸。」
「うん!彼岸くん、いこー!」
床に垂れ流された排泄物と、微かに血の匂いのするその部屋で3人は転がっていた。バランスを崩して倒れ、起き上がることが出来ないまま期限の12時を迎えたらしい。出したヒントはきっと何も伝わってないんだろうな、と、此岸は今後の行動を頭の中でシュミレートしていた。彼岸が優しい笑顔を浮かべて、彼らを見下ろす。
「さて、正しい答えは見つかったかな?」
「......私達は、共働きで、娘2人を育て、3人目は男の子がいい、と話していた。忙しい時期でも家族と過ごす時間は必ずとった。お出かけだって散歩だって、いつも横並び、皆で手を繋いで進んできた。貴様らの歪んだ正しさなんて、知らない!私達は私達家族として、これからも、皆で幸せに暮らす!これが答えだ!!!」
「...はぁ...はは、そっか、そっかぁ......」
バッドエンド。選択肢を間違えたプレイヤーはどうなるか。幾度となく繰り返したエンドロールを、一からまた見始める此岸の目に映るのは、昨日買ってきた肉叩きを母親に振るう彼岸の後ろ姿だった。
「だから!間違ってるって言ってんだろうが!何が家族だ、何が幸せだ!!お前らの幸せは!!!誰の不幸の上で!!!成り立ってると思ってるんだ!!!そもそも己が幸せだなんて誇らしげに恥ずかしげもなく言い放つその低能さと自惚れ具合の凄まじさに閉口しちゃうよ俺はさぁ。幸せ?はは、笑っちゃうなぁお前らお出かけで電車に乗ってたらしいが皆が皆スマホを見て会話なんて全く交わしてなかったらしいなぁ!それのどこが幸せな家族だ?おかしいだろ幸せなら和気藹々と仲睦まじく電子機器に囚われてないで語り合えよなぁ!ドラマで見たことあるかよ家族が無言でスマホ見てるだけのシーンをさぁ!間違いに気づかず生きてたからこうなったんだお前らは自分たちが間違ってたことを悔いて悔いて悔いて悔いて死ね!死ね死ね!!はははあーーー楽しいなぁ!」
「彼岸くん、」
「お前、安物買ったろ。折れたぞコレ。いつもの寄越せ。」
「へへ、ごめんね。じゅんびしてあるよ!はい、これ。」
こちらを振り向くこともなく彼岸が投げ捨てた肉叩きの柄の部分。折れた重い頭は、恐らく彼岸の前でずたずたのミンチに成り果てた身体のどこかに沈んでいるんだろう。手に持っていた彼愛用のバールを手渡す。
「彼岸くん、ぼく、ごはんつくってくるね!おなかすいちゃうでしょ!」
「あぁ、出てけ。出来たら呼べよ。」
「...うん、ありがとう。」
彼は愛用の道具を握り締め、目の前のミンチとの遊びを再開させた。こうなってしまった彼岸は見ているのが辛い、と、此岸はいつも終わるまでの間は部屋から出ていた。ぱたり、と閉じられた扉の向こうから、穏やかな彼から出たとは到底思えない狂気じみた彼岸の笑い声と、罵倒と、心を絞られそうな叫びが聞こえて、此岸は耳を塞ぎながらその場を離れた。
暫く経ち、肉のスープが完成した此岸が部屋を訪れると、部屋はさっきとは打って変わって一切の静寂に包まれていた。トントン、とノックをし、扉を開ける。返事がなく、鍵が空いている。終わりの印だった。
「此岸...?」
部屋の真ん中で体育座りする彼岸は、何時にも増して小さく見える。彼岸の後ろには赤をベースに構成されたなんらかの塊が飛び散り、固まり、前衛的な芸術のようにも見える100キロ超の肉が散乱している。震える手に握られたバールはひん曲がり、彼の手に血が滲んでいた。早く手当てをしてやらないと。
「彼岸くん、おかえり。ゆめはどうだった?」
「夢...よく、分からない、けど...悲しくて、嫌な気持ちになる、夢だった。」
「そうだね、まちがったゆめだよ。ぼくらのただしいゆめは、いつみられるんだろうね。」
「分からない、怖いよ、此岸...」
「だいじょうぶ。そうだ、きのうかってきたおはながひとつさいたんだよ!」
アングレカム。繊細な彼の正気を保つためのアイテム。花が咲く姿を見る度、「首を吊った母の姿に似ている。」と笑っていた。
「みにいこう!ぼく、ひさしぶりに、彼岸くんのえがみたいなぁ!!」
「此岸、また笑うだろう。僕は絵が下手なのに、描かせようとするのは何故なんだ。」
「みたままかこうってがんばるきもちがね、すきなの!だからほら、おそとであさごはんたべよ?そのあとふたりで、おへやのおかたづけするの!」
「あぁ...うん、そうしよう。」
朝ごはん。壁の時計はもう朝の7時を指していた。今日の舞踏会はとっくにお開きになっていただろう。
魑魅魍魎が夜な夜な集まるこの洋館。頼りない此岸だけじゃ、管理どころか存在を認知することすら難しいだろう。
今日は此岸と共に、舞踏会で自分達が舞うのもいいかもしれない。と、彼岸は立ち上がり、るんるんと楽しそうな此岸の後に続いて、部屋を出た。
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