#炊飯マグ
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便利な世の中です。 ありがたやー。 #ダイソー #炊飯マグ https://www.instagram.com/p/CKtjEgqlU_C/?igshid=2rutvxw6m0bl
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サラダ用ミニ #パスタ と #ダイソー の #炊飯マグ #ricecookingmug で #スパゲッティ ( *・∀・)✨ #日本の技術 #daiso #japan #microwaveoven #food #日本 #photo #photograph #写真 #picture #電子レンジ #ずぼら飯 #picture #料理 #japanese #lunch #ランチ https://www.instagram.com/p/By9a4YnAmPG/?igshid=zn8v3q06okuu
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#おうちごはんlover #20200724 #おひるごはん #塩焼きそば イベリコ豚バラ キャベツ 蒸し中華麺 丸鶏がらスープのもと ホップ塩 黒胡椒 酒 ふーみんマグはお茶 #いただきます #焼きそば #麺スタグラム #麺 #イベリコ豚 #キャベツ #お昼ごはん #lunchtime #ランチ #自炊記録 #昼ご飯 #おうち時間 #おうちメシ #ひとりごはん #iberico #お茶 #ふーみん #ごちそうさま #スポーツの日 #連休 https://www.instagram.com/p/CDAv4S6FPoE/?igshid=amv9is0p5qnx
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可愛い三毛猫や柴犬のお顔がフタになったマグカップ型炊飯器。 電子レンジで手軽に1合のお米を炊ける デコレ アニマル炊飯マグです。 可愛い三毛猫や柴犬デザインのマグカップ型炊飯器: 大人のお洒落情報 0107 オシャレカタログ
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毒を食らわば皿まで
うちよそ。フェドート←ノルバ(パパ従兄弟) ※モブの死/暴力・性暴力行為の示唆
揺れる焚火を前にマグを両手で包み込む。時折枯れ木が弾ける音を拾いながら、岩場に座すノルバはじっと揺れる炎を見据えていた。泥水より幾分かましなコーヒーはすっかり湯気が消え去り、食事の準備をしていたはずの炊き出し班がいつの間にやら準備を終えて、星夜にけたたましく轟く空襲に負けぬ大声で飯だと叫んでいた。バニシュを応用した魔法結界と防音結界が張られているとはいえ、人の気配までは消すことが出来ないがゆえに常に奇襲が警戒されるこの前哨地において、食事は貴重な愉楽のひとつである。仲間たちが我先にと配膳の前に列を成していくその様子を、ノルバはついと視線だけを向けて捉えた。 サーシャ、ディアミド、キーラ、コノル、ディミトリ、マクシム、ラディスラフ、ヴィタリー。 炊き出しの列に並ぶ仲間の名を、かさついた口元だけを動かし声は出さずに祈るように唱える。土埃にまみれた彼らが疲弊しきった顔を綻ばせて皿を受け取っていく様に、ノルバは深く息を吐いた。
「おい、食わないと持たないぞ」 「っで」
コン、と後頭部を何かで軽く叩かれ、前のめりになった姿勢に応じてマグの水面が揺れる。後ろを仰ぎ見れば、見慣れた顔が深皿を両手に立っていた。
「フェドート……」 「ほら、お前の分だ」 「ああ……悪ィな」
ぬるくなったマグを腰かけている岩場に乗せ、フェドートから差し出された皿を受け取る。合金の皿に盛られたありあわせの材料を混ぜ込んだスープは、適温と言うものを知らないのか皿��しでも熱が伝わるほど酷く熱い。そういえば今日の炊事係にはシネイドがいたな、と彼女の顔を思い浮かべ苦笑いを零した。 皿を渡すと早々に隣を陣取ったフェドートは、厳つい顔に似合わず猫舌のために息を吹きかけて冷ましており、その姿に思わず小さく笑い声がもれる。すかさずノルバの腕を肘で突いてきたフェドートに「面白れェんだから仕方ねえだろ」と毎度の言い訳を口にすれば、彼は不服そうな顔を全面に出しながら「それで、」と話を切り上げた。
「さっきは何を考えていたんだ。お前がぼうっとしているなんて、珍しい」 「…………ま、ちょっとな」
ようやく冷まし終えた一口目を口に含んだフェドートに、ノルバは煮え切らない声で返した。彼の態度にフェドートはただ咀嚼しながら無言でノルバを射抜く。それに弱いの分かってやっているだろ、とは言えず、ノルバは手の中でほこほこと煮えているスープに視線を落として一口分を匙で掬った。 豆を中心に大ぶりに切られたポポトやカロットを香辛料と共に煮込んだスープは、補給路断たれる可能性が常にあり、戦況の泥沼化で食糧不足に陥りやすい前線において比較的良い食事であった。フェドートが別途で袋に詰めて持ってきたブレッドや干し肉のことも考えれば、豪華と言えるほどである。まるで、最期の晩餐のようなものだ。 ───実際、そうなるのかもしれないが。 ため息を吐くように匙に息を吹きかけ、口内を火傷させる勢いのスープを口に放り込んだ。ブレッドと食べることを前提に作ったのだろう。濃い味付けのそれは鳴りを潜めていた空きっ腹を呼び覚ますのには十分だった。 フェドートとの間に置かれたブレッド入りの袋に手を伸ばす。だが彼はそれを予測していたらしく、袋をさっと取り上げた。話すまで渡さないという無言の圧を送られたノルバは観念して充分に噛んだ具材を飲み下す。表面上を冷ましただけではどうにもならなかった根菜の熱さが喉を通り抜けた。
「次の作戦を考えてた。今日までの作戦で死者が予想以上に出るわ、癒し手が不足してるわで頭が重いのはもちろんだが、副官が俺の部下九人を道連れにしたモンだからどうにもいい案が浮かばなくてな」
言って、ノルバはフェドートの手から袋を奪取すると中から堅焼きのブレッドを取り出し、やるせなさをぶつけるように噛み千切った。何があったのか尋ねてきた彼に、ノルバはくい、と顎で前哨地に設営された天幕を指す。中にはヒューラン族の男が一人とロスガル族の男が二人。ノルバと同じく、部隊指揮官の者達だった。折り畳み式の簡易テーブルの上に置かれた詳細地図を取り囲み話をしているが、平行線をたどっているのか時折首を振る様子や頭を掻く様子が見える。 お前は参加しなくていいのか、とノルバに問おうとして、ふと人数が足りないことに気付いた。ここにはノルバ率いる第四遊撃隊と己が所属し副官を務める第二先鋒隊、その他に第八術士隊と第十五歩兵隊に第七索敵隊がいたはずだ。そう、もう一人部隊長が────確かヒューラン族の女がいたと思ったが。 フェドートが違和感を覚えたことを察したのか、ノルバはスープに浸したブレッドを飲み下すとぬるいコーヒーを手に取り、その味ゆえか、はたまたこの状況ゆえか、眉間に皺を寄せつつ少量啜った。
「セッカ……索敵隊の隊長な、昨日遅くに死んだんだわ。今回の作戦は早朝の索敵と妨害がねェ限り成り立たなかったろ? 俺はその代打で一時的に遊撃隊を離れて第七索敵隊の指揮を預かってた。…………そうしたら、このザマだ」 「……副隊長はどうしたんだ、彼女が死んだのならそいつが立つべきじゃあないのか?」 「普通はな。ただ、まあ、お前と同じだよ。副官としては優秀だが、全体を指揮する人間とは畑が違う。本人の自覚に加えて次の任務は少しの失敗もできないとあって、俺にお鉢が回ってきたってェわけだ」
揺れる焚火の薪が音を立てて弾けた。フェドートはノルバの言葉に思い当たる節があるのか、「ああ……」と声を零すと干し肉を裂いてスープの中に落としていく。ノルバはその様子に僅かに口角を上げると、ブレッドをまたスープに浸して食みながら状況を語った。 曰く、昨日遅くに死んだセッカは直前まで普段と至って変わらない様子だったという。しかし、日付が変わる直前、天幕で早朝からの作戦に向けての確認作業中にセッカは突如嘔吐をして倒れ、そのままあっけなく死んだ。彼女のあまりにも急すぎる死に検死が行われた結果、前回の斥候で腕に負った傷から遅効性の毒が検出され、毒死という結論に至った。 本人に毒を受けた自覚がなかったこと、術士隊がその日は夜の任であり癒し手の人数が不足していたため軽症者は各自で応急処置をしていたこと、その後帰還した術士隊も多数の死傷者を抱えて帰ってきたこと等、様々な不幸が折り重なって生まれた取り返しのつかない出来事だった。 問題は死んだ時間である。早朝からの任務を控えていた��ッカが夜分に死亡し、且つ翌朝の作戦は必要不可欠であったため代理の指揮官を早々に選出しなければならなかった。だが、セッカの副官である男は「己にその器たる資格なし」と固辞し、索敵隊の者も皆今回の作戦の重大さを理解しているからこそ望んで進み出るものはいなかった。 その最中、索敵隊のひとりが「ノルバ殿はどうか」と声を上げたのだと言う。基本的にノルバは作戦に応じて所属が変わる立場だ。レジスタンス発足後間もない頃、何もかもを少数でこなさなければならない時期からの者という事もあって手にしている技術は多岐にわたる。索敵隊が推した所以である諜報技術もその一つだった。結局、せめて今回作戦だけでもと頼まれたノルバは一日遊撃隊を離れ、索敵隊を率いたという。
「別に悪いとは言わねェよ。あの状況で、索敵隊の精神状況と動かせるヤツを考えれば俺がつくのが妥当だ。俺はセッカがドマから客将として入ってから忍術の手ほどきも受けていたから、死んだと聞いた時から予想はしてた」 「………………」 「ああ、遊撃隊は生還率が高く、指揮官が一時離脱しても一戦はどうにかなると言われたな。実際、俺もどうにかなる……どうにかさせると思ってたさ。そうなるよう事前に俺がいない間の指示も伝えてから行った。だけどよ、前線を甘く見る馬鹿が俺がいないからって浮足立って独断行動をしたら、どうにもなんねェんだわ、そんなの」
ブレッドの最後の一口を呑む。焚火の煙を追って、ノルバは天を仰いだ。帝国軍からの空襲は相変わらず止む気配がない。威嚇を兼ねたそれごときで壊れる青龍壁ではないが、星の瞬く夜空を汚すには十分だった。
「技術はあって損はないけどよ、その技術で転々とする道を進んだ結果、一度酒飲んで笑った仲間が、命を預かった部下が、てめェの知らねえとこで、クソ野郎の所為でくたばっていく度に、なんで俺は獲物一つの野郎でいられなかったんだと思う」
目を瞑る。第四遊撃隊は今朝まで十六人だった。その、馬鹿な副官を合わせて十人。全体の約三分の二を喪った。良かったことと言えば、生き残った者たちが皆比較的軽症だったことだ。戦場で果てた者たちが、彼らの退路を守ってくれたという。死んだ部下たちの遺体は回収できなかった。帝国が回収し四肢切断やら臓器の取り分けやらをされて実験道具としているか、はたまた荒野に打ち捨てられたままか、どちらかだろう。明日戦場に出た時に目につくだろうか。もう既に腐敗は始まっているだろう。その頃には虫や鳥が集っているかもしれない。 とん、とノルバの背に手が触れた。戦場において味方を鼓舞するそれを半分隠せるほど大きな手。その手は子供をあやす父親のようにゆっくりと数回ノルバの背を叩くと、くせの強い彼の髪に触れた。届かない空を見上げていたノルバの視線をぐっと地に向かせるように、荒っぽいが情愛のある手つきでがしがしとかき回す。「零れるからやめろ馬鹿!」と騒ぐノルバに手を止めると、最後に彼の頭を二度軽く叩いて手を離した。 無理をするな、とも、泣いていい、とも言わない。それらがノルバにはできないことであり、また見せてはならない顔であることを元々軍属であったフェドートは理解していた。ノルバは片手で椀を抱えたままもう片方で眉間を抑え、深く息を吸って、吐いた。
「……今回の大規模な作戦目標は、この東地区の中間地点までの制圧だ。目標達成まであと僅か、作戦期間は残り一日。全部隊の半数以上が戦死し、出来る作戦にも限りがある……が、ここでは引けない。分かっているよな」 「ああ。この前哨地の後ろは湿地帯だ。今は雲一つない空だが、一昨日から今日の昼間までにかけての雨で沼がぬかるみを増している。下手に後退すれば沼を渡っている最中に敵に囲まれるのがオチだ。運よく抜け出せたとしても、晴れだしてきた天気の中ではすぐに追跡される。補給路どころか後衛基地の居場所を教えてしまうだろうな。襲撃されたら単なる任務失敗では済まない」 「そうだなァ、他にはあるか?」 「……第七索敵隊の隊長はドマからの客将だったな。彼女が死んだとあれば、仲間の命を優先して中途半端に任務を終えて帰るべきではない────いや、帰れないな。"彼女は勇敢に戦い、不幸にも命を落としました。また、甚大な被害が出たため作戦目標も達成することが出来ず帰還しました。"ではドマへの示しがつかない。せめて、目標は達成しなければどうにもならん」 「わかってるじゃねェの」
くつくつと喉を鳴らして笑うノルバを横目に、フェドートは適温になってきたなと思いながらスープを食む。豆と根菜に内包された熱さは随分とましになっていた。馴染み深い香草と塩っ気の濃い味で口内を満たしながら、フェドートはこちらに向けられている視線へと眼光を光らせた。 鋭い獣の瞳の先にあるのは、ノルバが指した天幕。射抜かれたロスガルの男は肩をわずかに揺らすと、すぐに視線を地図へと戻した。フェドートは男の態度にすっと目線を椀へと戻すと、匙いっぱいにスープを掬う。具に押しのけられて溢れたスープが、ぼとぼとと椀に戻っていった。 万が一にでもこのまま撤退という話になれば────もしくは目標を達成できず退却戦となれば、後方基地に帰った後、まず間違いなくノルバは責任を問われる者のひとりになるだろう。ともすれば、全体の責任を負いかねない。ノルバ自身は最良を尽くし、明らかに自身の行いでは��いことで部下を大量に失っている身だが、皮肉なことに彼はボズヤ人でないことや帝国軍に身内を殺された経験を特に持たないことから周囲の反感を買っている。責任の押し付け合いの的にするには格好の獲物だ。 貴重な戦力であり、十二年ひたすらに積み重ねてきた武勲もある。まず死ぬことはないだろうが相応の折檻はあるだろう。フェドートは息子同然の子の師であり、共にボズヤ解放を目指す戦友であるノルバにその扱いが待ち受けているのが分かっているからこそ、引けないとも思っていた。ノルバ本人にそのことを言っても「いつものことだ」と笑うから決して口にはしてやらないが。 汁がほとんど匙から零れ、具だけが残ったそれを口に運ぶ。いつの間にかノルバは顔から手を離していた。血糊の瞳と、濁った白銀の瞳はただ前を見つめている。ノルバは肩から力を抜くように大きく息を吐き出すと、フェドートに続くように匙いっぱいにスープを掬い大口を開けて食べ、袋から干し肉を取り出して頬張った。
「ま、何にしろ全体の損失を考えりゃここでは引けねェが、簡単に言えばあと一日持たせてもう目と鼻の先にある目的を達成さえすればどうとでもなるんだ。なら、大人しく仰々しいメシを食いながら全滅を待つこたァねえ。やっこさんを出し抜いて、一泡吹かせてやろうじゃねェの」 「本当に簡単に言うなぁ……」 「そんぐらいの気持ちでいかなきゃやってけねェんだよ、ここじゃあな。ダニラ達もあっちで相当頭捻ってるし、案外メシ食ってたら何か、し、ら…………」
饒舌に動いていた口が止まる。急に黙り込んだノルバにフェドートは怪訝そうな顔でどうしたと彼を見やる。眼に映った顔は、笑っていた。 ノルバの手の中で、空の匙が一度踊る。そのしぐさに目を奪われていると、匙はこちらを指してきた。
「なあ、フェドート。アンタ、俺の副官になる気はないか?」
悪戯を思いついたこどものような表情だった。しかし、彼の声色が、瞳が、冗談なのではないのだと語る。「は、」とフェドー���は吐息のごとく短い声を上げた。ノルバは手を引いて袋の中からまたブレッドを手に取る。「ようはこういうことだ」ノルバは堅く焼いたそれを一口大に引きちぎり、ぼとり、と残り半分もないスープの中に落とした。
「遊撃隊と」
ぼとり。
「先鋒隊と」
ぼとり。
「索敵隊。この三部隊を統合して俺の指揮下に置き、一部隊にしたい」
三つのかけらを入れたスープをノルバは匙でくるりと回す。突飛な発想だった。確かに遊撃隊はノルバを含め僅か六人の生存者しかいない。どこかの部隊に吸収されるか、歩兵隊あたりから誰かを引き抜いてくる必要はあるだろうが、わざわざ先鋒隊と索敵隊をまとめる必要があるかと言われれば否である。 帝国との兵力差は依然としてある状況でいかにして勝ち進めることができているのかと問われれば、それは部隊を細かく分��て配置し、ゲリラ戦で挑んでいるからに他ならない。それをノルバはよく知っているだろうに、何故。 答えあぐねているフェドートにノルバは真面目だなと笑うと、策があるのだと語った。
「承諾が得られるまで細けェことは話せねェが、成功率は高いはずだ。交戦時間が短く済むだろうからな。それが生存率に繋がるかと言われれば弱いが、生き残ってる奴らの肉体と精神両方の疲労を考えれば、戦えば戦うほど不利になるだろうし、どうせ負けりゃほとんどが死体だ。だったら勝率を優先した方がいい。ダニラのヤツは反対するかもしれねェが……俺が作戦の立案者で歩兵隊と変わらない規模の再編隊を率いるとなれば、失敗したら責任を負いたくない野郎共は頷くだろ」 「おいノルバ、」 「で、これの問題点と言やァ、デケェリスクと責任を全部しょい込んで無茶苦茶を通そうとする馬鹿の補佐につける奴なんて限られてるし、そもそも誰もつきたかねェってとこなんだが」
ノルバ自身への扱いを聞きかねて小言を呈そうとした口を遮って続けられた言葉に、フェドートは息を詰まらせた。目の前の濁った白銀と血溜まりの瞳が炎を映して淡く輝く。
「その上で、だ。もう一度言うぞ、第二先鋒隊副隊長さんよ。生き残って勝つ以外は全部クソな俺の隣席だが、そこに全てを賭けて腰を据える気はないか?」
吐き出された地獄へ導く言葉は弾んでいた。そのアンバランスさは他人が見れば奇怪に映るだろうが、フェドートにとってはパズルピースの最後の一枚がはめられ、平らになった絵画を目にした時のような思いだった。ああ、お前はこんなに暴力的で、強引で、けれども理性的な男だったのか。 「おっと、ギャンブルは嫌いだったっけか」とノルバが煽るように言う。彼の手の中でまた匙がくるりと弧を描いた。茨の海のど真ん中で踊ろうと誘っておきながら、退路をちらつかせるのは彼なりの優しさかそれとも意地の悪さか──おそらくは両方だろう。けれども、フェドートはここでその手を取らぬほど、野暮な男になったつもりはなかった。 フェドートが口角を上げて応える。ノルバは悪戯の成功したこどもの顔で「決まりだな」と言うと、浸したブレッドを頬張る。熱くもなく、かと言ってぬるくもない。シネイドが作ったであろう火だるまのようなスープはただ美味いだけのスープになっていた。 この機を逃すまいと食べ進めることに集中した彼に合わせてフェドートも小気味よく食事を進ませ、ノルバが最後の一口を口に入れるのに合わせてスープを飲み干す。は、と僅かに声を立てて息づくと、ノルバは空の皿を脇に置き腰のポーチを漁ると小箱を取り出した。��ェドートはそれに嫌そうな顔を湛え腰を浮かせたが、「まあ待てよ」とノルバがにやにやと笑って彼の腕を掴んだ。その細い腕からは想像できないほどの力で腕をがっちりと掴んできた所為で逃げ道を塞がれる。もう片方の手でノルバは器用に小箱を開けた。中に鎮座していたのは煙草だった。
「俺が苦手なのは知っているだろう!」 「わーってるわーってる。そう逃げんなよ。願掛けぐらい付き合えって」
スカテイ山脈の麓を生息地域とする特有の葉を使ったそれは、ボズヤでは広く市民に親しまれてきた銘柄だった。帝国の支配が根深くなり量産がしやすく比較的安価なシガレットが普及してからというもの、目にしなくなって久しかったが、レジスタンスのひとりが偶然クガネで発見し仲間内に再び流行らせたという。ノルバも同輩から教えられたらしく、好んで吸う側の一人だった。 ノルバは小箱から葉巻を取って口に咥えると、ポーチの中に小箱をしまい、代わりに無骨なライターを取り出して、フェドートに向かってひょいと投げた。フェドートが器用に受け取ったのを見るや否や彼は咥えた煙草を指差して、「ん」と喉の奥から言葉とも言えない声を上げた。フォエドートが嫌がる顔をものともせず、むしろそんなものは見ていないとばかりに長く白いまつげを伏せて火を待つノルバに、フェドートは観念してライターの蓋を開けると、押し付けるように彼の口元の上巻き葉を焦がした。
「今回だけだぞ。いいか、吐くときはこっちには、ぶっ、げほッ!」 「ダハハハハ!」
フェドートが注意を言い終わるよりも先に、ノルバは彼に向かって盛大に煙を吐き出した。全身の毛を逆立ててむせる彼に、ノルバは腹を抱えてげらげらと笑う。
「お前なあ!」 「逃げねえのが悪ィんだよ、逃げねえのが」 「お前が離さなかったんだろうが!!」
威嚇する猫のように叫ぶフェドートなどどこ吹く風で笑い続けるノルバに、「ったく……」と彼はがしがしと頭を掻く。ノルバの側に置かれた椀をしかめっ面のまま手に取り、もう片手で自身が使った皿と空になった麻袋を持ってフェドートは岩場から立ち上がった。
「こいつは片付けてくるから、吸い終わってから作戦会議に呼び出せよ、ノルバ」
しかめっ面の合間から僅かに呆れた笑みを見せたフェドートは、ノルバに背を向けると配膳の天幕から手を振るシネイドの方へと足を進めた。その彼の後ろ祖型を目で追いながらノルバは膝に肘を立て頬杖をつくと、いまだくつくつと喉からもれだす笑い声は殺さないまま焚火の煙を追うように薄く狼煙を上げる葉巻を弄ぶ。
「他のヤツならこれでイッパツなのになァ。わっかんねェな、アイツ。おもしれえの」
フェドートの背中にふうっと息を吐く。煙で歪んだ彼の背は掴みどころが見つからない。ノルバはもう一度吸ってその煙幕をさらに深くするように吐きだすと、すっかり冷めたコーヒーを飲み干して立ち上がった。
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本日もご来店ありがとうございました。 明日も六日町クエスト、ひな祭りと商店街は賑やかになりそうです。 さて、昨日入荷したTi400NH。 サンプルを見た時から楽しみだったスタッキングがこちら。 バックカントリーアルミポット、Tiストレージ560、Ti400NH、Tiデミタス220NHのセット。 オールノーハンドルのクッカーセット。これでNABETSUCAMもフル活用できます。 ハンドルが無いことでスタッキングが綺麗ですね。まさに応量器の様です。 このフルセットはキャンプ用で炊飯も汁物も作れる万能セットになると思います。 ハイキング用ならバックカントリーアルミポットを外して400を湯沸かし専用、560を器に、220をマグに使う感じかな。 実戦投入が楽しみです! #evernew #エバニュー #400nh #バックカントリーアルミポット #スタッキング ・ ・ ▼オンラインストアはこちら Instagram topから👉 @yamatokurashi http://ourthing.stores.jp ・ ・ ・ #ourthing #アワーシング #宮城県 #栗原市 (Ourthing アワーシング) https://www.instagram.com/p/CpXSu0tPY4n/?igshid=NGJjMDIxMWI=
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白鯨191
サンストリート浜北はイオンに着ていく服がない人のためのショッピングモール。
メキシコの木彫動物アレブリヘAlebrije。
関西の店や人は詩の核を持つ。
エッセイ漫画はエッセイ文に比べ、自画像としての主人公を美化(猫化)しがち。但し福満しげゆき以外。
エッセイ漫画を使った糾弾はエッセイ文に比べ、受容法を注意しないと偏る。
ゴミは収集してくれて当たり前、と思いはじめた社会は終わる。
ゴミ収集・配達は携わる人が「このくらいで辞めよう」と思ったらすぐ途絶する。
あるいは小規模で個人レベルですでに途絶させられているかも。
「切れ」は前後で主体たる主題が変わる。
寝返り返りは打てるけれど寝返りは打てない。
幼児の服と女子校の制服とアイドルの衣装が可愛いのは着せられているから。
炊飯マグは独身男スタイル。
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夕飯♪ ・マグとろご飯:炊きたてご飯,きはだまぐろ・ぶつ切り,山芋を大根おろしですって作ったとろろ,生卵,追いがつおつゆ,ねりわさび ・韓国海苔:上記ご飯を巻いてのり巻きにして食べる ・帆立貝柱の刺身 ・お惣菜の甘辛ごぼう ・荻野屋の峠のぱりっこ漬 ・冷奴,おろし生姜,削り節,醤油 ・冷たい水出し緑茶 ・甘いミニミニパンケーキ ・牛乳プリン 御馳走様♪ #夕飯 #マグとろご飯 https://www.instagram.com/p/ChrnjtUPdEX/?igshid=NGJjMDIxMWI=
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雨に泣く人、笑う紫陽花
2018.06.06.(水)
今日は転職先の会社の面接を受けてきた。無論スーツで。そんな日に限って雨なのはもう28年生きてきて慣れっこだ。
面接は30分程度で終わってしまい、私が作っ��きたポートフォリオやスケッチ、バッグ等はこちらが言うまで見ようともしなかった。
やっぱり若すぎるのか?私は。一会社のブランドを任せるには頼りないっていうの?そりゃこの年の割には色んな会社回ってるし、大丈夫なのかと思うかもしれないけれど、私だって辞めたくて辞めてるわけじゃなし、二つ前の会社なんか取引先が倒産してその煽りを受けて人員削減されたわけだし。
それに私は自分で言うのもなんだけど、そこら辺の人よりも出来るんだから。センスだって…ある…はず。
ここまで色々な会社に断られ続けていると勝ち気な私でさえどうしたって折れてしまう。私はやっぱり駄目なの?センスもないの?私がやってきたことは意味がなかったの?まだ我慢しなきゃいけないの?
私と同い年の人達はその身を華やかに着飾り、悠々と街を闊歩しては、美味しいお酒を飲み、自身の武勇を饒舌に語る。私はそれを未だ陰から怨めしく、羨ましく見ている他ないのだろうか。いつになれば私も日の光の下を歩けるのだろう。
へこむ日程電車はすんなりと私を家に帰してくれない。遅延に次ぐ遅延。自転車なら15分かからないところ50分かけて家路につく。こんな日くらい甘いものに慰めてもらいたい。
YAMAZAKIのシューロールケーキを食べる。昔よりもクリームが少なくなって小さくなったよね。私もどんどん萎んでいくんだろうか。
シューロールケーキを食べ終わって袋だけがだらしなく横たわる。その隣には珈琲の染みが未だ取れずにいる白いマグが佇んでいた。底には少しだけ残った珈琲。覗き混むと私が映った。疲れた顔の私は大層醜く、見たくもないから残りの珈琲を一気に飲み干す。
少し眠ろう。晩御飯まで。起きた時には白いご飯が炊けている。きっと大丈夫。
そう言い聞かせなきゃいけないほど私は弱ってる。
戦え、私。
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How to #cook #cooking # bread with #mug and #spoon . #ダイソー #炊飯マグ #パン #料理 #クッキング #ダイソー #日本の技術 #daiso #japan #microwaveoven #food #日本 #photo #photograph #写真 #picture #スプーン #マグ #ずぼら飯 #easy #easycooking #レシピ #instagram #インスタグラム #breadcooking #cookingbread https://www.instagram.com/p/Byhs0tgAPuC/?igshid=12b0hszmfqvw9
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#自炊記録 #20200721 #夕食 昨日のチキンと揚げ茄子をトマトソースで煮たもの なおみさんからいただいたオーガニックの全粒粉ペンネ 思いのほかトマトソースが少なくなり 全粒粉ペンネを入れたら負けそうだから こんな感じの盛りっぷり ふーみんマグはお茶 #おうちごはんlover #晩ご飯 #自炊生活 #夜ご飯 #夜ごはん #おうちメシ #おうち時間 #ひとりごはん #トマトソース #まだ #ある #次は #何 #作ろうかな #pasta #tomatosauce #いただきます #ごちそうさま #美味しい #自画自賛 #ありがとう https://www.instagram.com/p/CC6XUj6FE7G/?igshid=5ln8i0u46kwb
#自炊記録#20200721#夕食#おうちごはんlover#晩ご飯#自炊生活#夜ご飯#夜ごはん#おうちメシ#おうち時間#ひとりごはん#トマトソース#まだ#ある#次は#何#作ろうかな#pasta#tomatosauce#いただきます#ごちそうさま#美味しい#自画自賛#ありがとう
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MAITO
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フィンランドの夕飯は高い。
買付で2−3週間の滞在になると、レストランなどの高い夕飯ばかり食べていられない。
安くあげようとするならば、マックかバーキンかスーパーのサラダか冷凍食品。あるいは自炊ができる宿に泊まっているならば簡単な自炊。
そうなってくると自炊可あるいは電子レンジの有無など、宿選びというのも重要なポイントになってくるのです。
そんなフィンランドであるが、ランチは8〜10ユーロくらいでビュッフェを食べれるレストランが多い。
「夜は高いから軽く済ませるので、お昼はしっかりたべよう!」などを口実にたまにお昼にビュッフェを食べてしまう。(だからついつい量を取りすぎて太るんだ、、分かってはいるんだけれども、買付で歩くとお腹減るんだなあ)
そんなビュッフェでお皿に盛り付けているある時、一つのことに気が付いた。
おじさんがランチのご飯と一緒に牛乳を飲んでいることに。
しかも一人だけではなく、何人も。
また注ぎに行くのが面倒くさがり屋のおじさんなんか、最初から2杯分も確保している奴だっている!
朝食にパンと一杯の牛乳なら別に驚かない。
ランチのしっかりとしたご飯に牛乳を合わせる。しかも、おじさんが。
なんだか可愛らしい光景でもあった。
スーパーに行くと本当に乳製品天国なフィンランド。
そんなフィンランドの大手乳製品メーカー「VALIO」がアラビアに別注したマグ。
「So I think I drink milk」

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やさしい光の中で(柴君)
(1)ある日の朝、午前8時32分
カーテンの隙間から細々とした光だけがチラチラと差し込む。時折その光は強くなって、ちょうど眠っていた俺の目元を直撃する。ああ朝だ。寝不足なのか脳がまだ重たいが、朝日の眩しさに瞼を無理矢理押し上げる。隣にあったはずの温もりは、いつの間にか冷え切った皺くちゃのシーツのみになっていた。ちらりとサイドテーブルに視線を流せば、いつも通り6時半にセットしたはずの目覚まし時計は、あろうことか針が8と9の間を指していた。
「チッ……勝手に止めやがったな」
独り言のつもりで発した声は、寝起きだということもあり少しだけ掠れていた。それにしても今日はいつもに増して喉が渇いている。眠気眼を擦りながら、キッチンのほうから漂ってくる嗅ぎ慣れた深入りのコーヒーの香りに無意識に喉がこ��りと鳴った。
おろしたてのスウェットをまくり上げぼりぼりと腹を掻きながら寝室からリビングに繋がる扉を開けると、眼鏡をかけた君下は既に着替えてキッチンへと立っていた。ジューという音と共に、焼けたハムの香ばしい匂いが漂っている。時折フライパンを揺すりながら、君下は厚切りにされたそれをトングで掴んでひっくり返す。昨日実家から送ってきた荷物の中に、果たしてそんなハムが入っていたのだろうか。どちらにせよ君下が普段買ってくるスーパーのタイムセール品でないことは一目瞭然だった。
「おう、やっと起きたか」 「おはよう。てか目覚ましちゃんと鳴ってた?」 「ああ、あんな朝っぱらからずっと鳴らしやがって……うるせぇから止めた」
やっぱりか、そう呟いた俺の言葉は、君下が卵を割り入れた音にかき消される。二つ目が投入され一段と香ばしい音がすると、塩と胡椒をハンドミルで少し引いてガラス製の蓋を被せると君下の瞳がこっちを見た。
「もうすぐできる。先に座ってコーヒーでも飲んどけ」 「ん」
顎でくい、とダイニングテーブルのほうを指される。チェリーウッドの正方形のテーブルの上には、今朝の新聞とトーストされた食パンが何枚かと大きめのマグが2つ、ゆらゆらと湯気を立てていた。そのうちのオレンジ色のほうを手に取ると、思ったより熱くて一度テーブルへと置きなおした。丁度今淹れたところなのだろう。厚ぼったい取手を持ち直してゆっくりと口を付けながら、新聞と共に乱雑に置かれていた郵便物をなんとなく手に取った。 封筒の中に混ざって一枚だけ葉書が届いていた。君下敦様、と印刷されたそれは送り主の名前に見覚えがあった。正確には差出人の名前自体にはピンと来なかったが、その横にご丁寧にも但し書きで元聖蹟高校生徒会と書いてあったから、恐らくは君下と同じ特進クラスの人間なのだろうと推測が出来た。
「なんだこれ?同窓、会、のお知らせ……?」
自分宛ての郵便物でもないのに中身を見るのは野暮だと思ったが、久しぶりに見る懐かしい名前に思わず裏を返して文面を読み上げた。続きは声に出さずに視線だけで追っていると、視界の端でコトリ、と白いプレートが置かれる。先程焼いていたハムとサニーサイドアップ、適当に千切られたレタスに半割にされたプチトマトが乗っていた。少しだけ眉間に皺が寄る。
「またプチトマトかよ」 「仕方ねぇだろ。昨日の残りだ。次からは普通のトマトにしてやるよ」
大体トマトもプチトマトも変わんねぇだろうが、そう文句を言いながらエプロンはつけたままで君下は向かいの椅子に腰かけた。服は着替えたものの、長い前髪に寝ぐせがついて少しだけ跳ねあがっている。
「ていうか同じ高校なのになんで俺には葉書来てねぇんだよ」
ドライフラワーの飾られた花瓶の横のカトラリー入れからフォークを取り出し、小さな赤にざくり、と突き立てて口へと放り込む。確かにクラスは違ったかもしれないが、こういう公式の知らせは来るか来ないか呼びたいか呼びたくないかは別として全員に送るのが礼儀であろう。もう一粒口に含み、ぶちぶちとかみ砕けば口の中に広がる甘い汁。プチトマトは皮が固くて中身が少ないから好きではない。やっぱりトマトは大きくてジューシーなほうに限るのだ。
「知らねぇよ……あーあれか。もしかして、実家のほうに来てるんじゃねぇの」 「あ?なんでそっちに行くんだよ」 「まあこんだけ人数いりゃあ、手違いってこともあるだろ」 「ったく……ポンコツじゃねぇかこの幹事」
覚えてもいない元同級生は今頃くしゃみでもしているだろうか。そんなどうでもいいことが頭を過ったが、香ばしく焼き上げられたハムを一口大に切って口に含めばすぐに忘れた。噛むと思ったよりも柔らかく、スモークされているのか口いっぱいに広がる燻製臭はなかなかのものだ。いつも通り卵の焼き加減も完璧だった。
「うまいな、ハム。これ昨日の荷物のか?」 「ああ。中元の残りか知らないけど、すげぇいっぱい送って来てるぞ。明日はソーセージでもいいな」
上等な肉を目の前に、いつもより君下の瞳はキラキラしているような気がした。高校を卒業して10年経ち、あれから俺も君下も随分大人になった。それでも相変わらず口が悪いところや、美味しいものに素直に目を輝かせるところなんて出会った頃と何一つ変わってなどいなかった。俺はそれが微笑ましくもあり、愛おしいとさえ思う。あとで母にお礼のラインでも入れて、ああ、それとついでに同窓会の葉書がそっちに来ていないかも確認しておこう。惜しむように最後の一切れを噛み締めた君下の皿に、俺の残しておいた最後の一切れをくれてやった。
(2)11年前
プロ入りして5年が経とうとしていた。希望のチームからの誘いが来ないまま高校生活を終え、大学を5年で卒業して今のチームへと加入した。 過酷な日々だった。 一世代上の高校の先輩・水樹は、プロ入りした途端にその目覚ましい才能を開花させた。怪物という異名が付き、十傑の一人として注目された高校時代など、まだその伝説のほんの序章の一部に過ぎなかった。同じく十傑の平と共に一年目から名門鹿島で起用されると、実に何年振りかのチームの優勝へと大いに貢献した。���本サッカーの新時代としてマスメディアは大々的にこのニュースを取り上げると、自然と増えた聖蹟高校への偵察や取材の数々。新キャプテンになった俺の精神的負担は増してゆくのが目に見えてわかった。
サッカーを辞めたいと思ったことが1度だけあった。 それは高校最後のインターハイの都大会。前回の選手権の覇者として山の一番上に位置していたはずの俺たちは、都大会決勝で京王河原高校に敗れるという失態を犯した。キャプテンでCFの大柴、司令塔の君下の連携ミスで決定機を何度も逃すと、0-0のままPK戦に突入。不調の君下の代わりに鈴木が蹴るも、向こうのキャプテンである甲斐にゴールを許してゲーム終了、俺たちの最後の夏はあっけなく終わりを迎えた。 試合終了の長いホイッスルがいつまでも耳に残る中、俺はその後どうやって帰宅したのかよく覚えていない。試合を観に来ていた姉の運転で帰ったのは確かだったが、その時他のメンバーたちはどうしたのかだとか、いつから再びボールを蹴ったのかなど、その辺りは曖昧にしか覚えていなかった。ただいつまでも、声を押し殺すようにして啜り泣いている、君下の声が頭から離れなかった。
傷が癒えるのに時間がかかることは、中学選抜で敗北の味を知ったことにより感覚的に理解していた。君下はいつまでも部活に顔を出さなかった。いつもに増してボサボサの頭を掻き乱しながら、監督は渋い声で俺たちにいつものように練習メニューを告げる。君下のいたポジションには、2年の来須が入った。その意味は、直接的に言われなくともその場にいた部員全員が本能的に理解していたであろう。
『失礼します、監督……』
皆が帰ったのを確認して教官室に書き慣れない部誌と共に鍵を返しに向かうと、そこには監督の姿が見えなかった。もう出てしまったのだろうか。一度ドアを閉めて、念のため職員室も覗いて行こうと校舎のほうへと向かう途中、どこからか煙草の香りが鼻を掠める。暗闇の中を見上げれば、ほとんどが消灯している窓の並びに一か所だけ灯りの付いた部屋が見受けられる。半分開けられた窓からは、乱れた黒髪と煙草の細い煙が夜の空へと立ち上っていた。
『お前まだ居たのか……皆は帰ったか?』 『はい、監督探してたらこんな時間に』
部誌を差し出すと悪いな、と一言つけて監督はそれを受け取る。喫煙室の中央に置かれた灰皿は、底が見えないほどの無数の吸い殻が突き刺さり文字通り山となっていた。監督は短くなった煙草を口に咥えると、ゆっくりと吸い込んで零れそうな山の中へと半ば無理やり押し込み火を消した。
『君下は……あいつは辞めたわけじゃねぇだろ』 『お前がそれを俺に聞くのか?』
監督は伏せられた瞳のまま俺に問い返す。パラパラと読んでいるのかわからないほどの速さで部誌をめくり、白紙のページを最後にぱたりと閉じた。俺もその動きを視線で追っていると、クマの濃く残る目をこちらへと向けてきた。お互いに何も言わなかった。 暫くそうしていると、監督は上着のポケットからクタクタになったソフトケースを取り出して、残りの少ないそれを咥えると安物のライターで火をつけた。監督の眼差しで分かったのは、聖蹟は、アイツはまだサッカープレーヤーとして死んではいないということだった。
迎えの車も呼ばずに俺は滅多に行かない最寄り駅までの道のりを歩いていた。券売機で270円の片道切符を購入すると、薄明るいホームで帰路とは反対方向へ向かう電車を待つ列に並ぶ。間もなく電車が滑り込んできて、疲れた顔のサラリーマンの中に紛れ込む。少し混みあっていた車内でつり革を握りしめながら、車内アナウンスが目的の駅名を告げるまで瞼を閉じていた。 あいつに会いに行ってどうするつもりだったのだろう。今になって思えば、あの時は何も考えずに電車に飛び乗ったように思える。ガタンゴトンとレールを走る音を聞きながら、本当はあの場所から逃げ出したかっただけなのかもしれない。疲れた身体を引きずって帰り、あの日から何も変わらない敗北の香りが残る部屋に戻りたくないだけなのかもしれない。一人になりたくないだけなのかもしれない。
『次はー△△、出口は左側です』
目的地を告げるアナウンスで思考が現実へと引き戻された。はっとして、閉まりかけのドアに向かって勢いよく走った。長い脚を伸ばせばガン、と大きな音がしてドアに挟まる。鈍い痛みが走る足を引きずりながら、再び開いたドアの隙間からするりと抜け出した。
久しぶりに通る道のりは、いくつか電灯が消えかけていて薄暗く、不気味なほど人通りが少なかった。古い商店街の一角にあるキミシタスポーツはまだ空いているだろうか。スマホの画面を確認すれば、午後8時55分を指していた。営業時間はあと5分あるが、あの年中暇な店に客は一人もいないであろう。運が悪ければ既にシャッタは降りているかもしれない。
『本日、休業……だあ?』
計算は無意味だった。店のシャッターに張り付けられた、チラシの裏紙には妙に整った字でお詫びの文字が並んでいた。どうやらここ数日間はずっとシャッターが降りたままらしいと、通りすがりの中年の主婦が店の前で息を切らす俺に親切に教えてくれた。ついでにこの先の大型スーパーにもスポーツ用品は売ってるわよ、と要らぬ情報を置いてその主婦は去っていった。こうやって君下の店の売り上げが減っていくという、無駄な情報を仕入れたところで今後使う予定が来るのだろうか。店の二階を見上げるも、君下の部屋に灯りはない。
『ったく、あの野郎は部活サボっといて寝てんのか?』
同じクラスのやつに聞いても、君下のいる特進クラスは夏休み明けから自主登校となっているらしい。大学進学のためのコースは既に3年の1学期には高校3年間の教科書を終えており、あとは各自で予備校に行くなり自習するなりで受験勉強に励んでいるようだ。当然君下以外に強豪運動部に所属している生徒はおらず、クラスでもかなり浮いた存在だというのはなんとなく知っていた。誰もあいつが学校に来なくても、どうせ部活で忙しいぐらいにしか思わないのだ。 仕方ない、引き返すか。そう思い回れ右をしたところで、ある一つの可能性が脳裏に浮かぶ。可能性なんかじゃない。だがなんとなくだが、あいつがそこにいるという確信が、俺の中にあったのだ。
『くそっ……君下のやつ!』
やっと呼吸が整ったところで、重い鞄を背負うと急いで走り出す。こんな時間に何をやっているのだろう、と走りながら我ながら馬鹿らしくなった。去年散々走り込みをしたせいか、練習後の疲れた身体でもまだ走れる。次の角を右へ曲がって、たしかその2つ先を左――頭の中で去年君下と訪れた、あの古びた神社への道のりを思い出す。そこに君下がいる気がした。
『はぁ……はぁっ……っ!』
大きな鳥居が近づくにつれて、どこからか聞こえるボールを蹴る音に俺の勘が間違っていない事を悟った。こんなところでなにサボってんだよ、そう言ってやるつもりだったのに、いざ目の前に君下の姿が見えると言葉を失った。 あいつは、聖蹟のユニフォーム姿のままで、泥だらけになりながら一人でドリブルをしていた。 自分で作った小さいゴールと、所々に置かれた大きな石。何度も躓きながらも起き上がり、懸命にボールを追っては前へ進む。パスを出すわけでもなく、リフティングでもない。その傷だらけの足元にボールが吸い寄せられるように、馴染むように何度も何度も同じことを繰り返していた。
『ハッ……馬鹿じゃねぇの』
お前も俺も。そう呟いた声は己と向き合っている君下に向けられたものではない。 あいつは、君下はもう前を向いて歩きだしていた。沢山の小さな石ころに躓きながら、小さな小さなゴールへと向かってその長い道のりへと一歩を踏み出していた。俺は君下に気付かれることがないように、足音を立てないようにして足早に神社を後にした。 帰りの電車を待つベンチに座って、ぼんやりと思い出すのは泥だらけの君下の背中だった。前を向け喜一、まだやれることはたくさんある。ホームには他に電車を待つ客は誰もいなかった。
(3)夕食、22時半
気付けば完全に日は落ちていて、コートを照らすスタンドライトだけが暗闇にぼんやりと輝いていた。 思いのほか練習に熱中してしまったようで、辺りを見渡せば先輩選手らはとっくに自主練を切り上げて帰路に着いたようだった。何の挨拶もなしに帰宅してしまったチームメイトの残していったボールがコートの隅に落ちているのを見つけては、上がり切った息を整えながらゆったりと歩いて拾って回った。
倉庫の鍵がかかったのを確認して誰もいないロッカールームへ戻ると、ご丁寧に電気は消されていた。先週は鍵がかけられていた。思い出すだけで腹が立つが、もうこんなことも何度目になった今ではチームに内緒で作った合鍵をいつも持ち歩くようにしている。ぱちり、スイッチを押せば一瞬遅れて青白い灯りが部屋を照らした。
大柴は人に妬まれ易い。その容姿と才能も関係はあるが、自分の才能に胡坐をかいて他者を見下しているところがあった。大口を叩くのはいつものことで、慣れた友人やチームメイトであれば軽く受け流せるものの、それ以外の人間にとってみれば不快極まりない行為であることは間違いない。いつしか友人と呼べる存在は随分と減り、クラスや集団では浮いてしまうことが常であった。 今のチームも例外ではない。加入してすぐの公式戦にレギュラーでの起用、シーズン序盤での怪我による離脱、長期のリハビリ生活、そして残せなかった結果。大柴加入初年度のチームは、最終的に前年度よりも下回った順位でシーズンの幕を閉じることになった。それでも翌年からも大柴はトップに居座り続けた。疑問に思ったチームメイトやサポーターから���非難や、時には心無い中傷を書き込まれることもあった。ゴールを決めれば大喝采だが、それも長くは続かない。家が裕福なことを嗅ぎつけたマスコミにはある事ない事を週刊誌に書き並べられ、誰もいない実家の前に怪しげな車が何台も止まっていることもあった。 だがそんなことは、大柴にとって些細なことだった。俺はサッカーの神様に才能を与えられたのだと、未だにカメラの前でこう言い張ることにしている。実はもう一つ、大柴はサッカーの神様から貰った大切なものがあったが、それを口にしたことはないしこれからも公言する日はやって来ないだろう。
「ただいまぁー」 「お帰り、遅かったな」
靴を脱いでつま先で並べると、靴箱の上の小さな木製の皿に車のキーを入れる。ココナッツの木から作られたそれは、卒業旅行に二人でハワイに行ったときに買ったもので、6年間大切に使い続けている。玄関までふわりと香る味噌の匂いに、ああやっとここへ帰ってきたのだと実感する。大股で歩きながらジャケットを脱ぎ、どさり、とスポーツバッグと共に床へ投げ出すと、倒れ込むように革張りのソファへとダイブした。
「おい、飯出来てるから先に食え。手洗ったか?」 「洗ってねぇ」 「ったく、何年も言ってんのにちっとも学習しねぇ奴だな。ほら、こっち来い」
君下は洗い物をしていたのか、泡まみれのスポンジを握ってそれをこちらに見せてくる。この俺の手を食器用洗剤��洗えって言うのか、そう言えばこっちのほうが油が落ちるだとか、訳の分からない理論を並べられた。つまり俺は頑固汚れと同じなのか。
「こんなことで俺が消えてたまるかよ」 「いつもに増して意味わかんねぇな。よし、終わり。味噌汁冷める前にさっさと食え」
お互いの手を絡めるようにして洗い流していると、背後でピーと電子音がして炊飯が終わったことを知らせる。俺が愛車に乗り込む頃に一通連絡を入れておくと、丁度いい時間に米が炊き上がるらしい。渋滞のときはどうするんだよ、と聞けば、こんな時間じゃそうそう混まねぇよ、と普段車に乗らないくせにまるで交通事情を知っているかのような答えが返ってくる。全体練習は8時頃に終わるから、自主練をして遅くても10時半には自宅に着けるように心掛けていた。君下は普通の会社員で、俺とは違い朝が早いのだ。
「いただきます」 「いただきます」
向かい合わせの定位置に腰を下ろし、二人そろって手を合わせる。日中はそれぞれ別に食事を摂るも、夕食のこの時間を二人は何よりも大事にしていた。 熱々の味噌汁は俺の好みに合わせてある。最近は急に冷え込んできたから、もくもくと上る白い湯気は一段と白く濃く見えた。上品な白味噌に、具は駅前の豆腐屋の絹ごし豆腐と、わかめといりこだった。出汁を取ったついでにそのまま入れっぱなしにするのは君下家の味だと昔言っていた。
「喜一、ケータイ光ってる」 「ん」
苦い腸を噛み締めていると、ソファの上に置かれたままのスマホが小さく震えている音がした。途切れ途切れに振動がするので、電話ではないことは確かだった。後ででいい、一度はそう言ったものの、来週の練習試合の日程がまだだったことを思い出して気だるげに重い腰を上げる。最新機種の大きな画面には、見覚えのある一枚の画像と共に母からの短い返信があった。
「あ、やっぱ葉書来てたわ。実家のほうだったか」 「ほらな」 「お前のはここの住所で、なんで俺のだけ実家なんだよ」 「知るかよ。どうせ行くんだろ、直接会った時に聞けばいいじゃねぇか」 「え、行くの?」
スマホを持ったままどかり、と椅子へと座りなおし、飲みかけの味噌汁に手を伸ばす。ズズ、とわざと少し行儀悪くわかめを啜れば、君下の表情が曇るのがわかった。
「お前、この頃にはもうオフだから休みとれるだろ。俺も有休消化しろって上がうるせぇから、ちょうどこのあたりで連休取ろうと思ってる」 「聞いてねぇ……」 「今言ったからな」
金平蓮根に箸を付けた君下は、いくらか摘まんで自分の茶碗へと一度置くと、米と共にぱくり、と頬張った。シャクシャクと音を鳴らしながら、ダークブラウンの瞳がこちらを見る。
「佐藤と鈴木も来るって」 「あいつらに会うだけなら別で集まりゃいいだろうが。それにこの前も4人で飲んだじゃねぇか」 「いつの話してんだよタワケが、2年前だぞあれ」 「えっそんなに前だったか?」 「ああ。それに今年で卒業して10年だとさ。流石に毎年は行かねぇが節目ぐらい行ったって罰は当たんねーよ」
時の流れとは残酷なものだ。俺は高校を卒業してそれぞれ違う道へと進んでも、相変わらず君下と一緒にいた。だからそんな長い年月が経ったことに気付かなかっただけなのかもしれない。高校を卒業する時点で、俺たちがはじめて出会って既に10年が経っていたのだ。 君下はぬるい味噌汁を啜ると、満足そうに「うまい」と一言呟いた。
*
今宵はよく月が陰る。 ソファにごろりと寝転がり、カーテンの隙間から満月より少し欠けた月をぼんやりと眺めていた。月に兎がいると最初に言ったのは誰だろうか。どう見ても、あの不思議な斑模様は兎なんかに、それも都合よく餅つきをしているようには見えなかった。昔の人間は妙なことを考える。星屑を繋げてそれらを星座だと呼び、一晩中夜空を眺めては絶え間なく動く星たちを追いかけていた。よほど暇だったのだろう。こんな一時間に何センチほどしか動かないものを見て、何が面白いというのだろうか。
「さみぃ」
音もなくベランダの窓が開き、身体を縮こませた君下が湯気で温かくなった室内へと戻ってくる。君下は二十歳から煙草を吸っていた。家で吸うときはこうやって、それも洗濯物のない時にだけ、それなりに広いベランダの隅に作った小さな喫煙スペースで煙草を嗜む。別に換気扇さえ回してくれれば部屋で吸ってもらっても構わないと俺は言っているのだが、頑なにそれをしようとしないのは君下のほうだった。現役のスポーツ選手である俺への気遣いなのだろう。こういう些細なところでも、俺は君下に支えられているのだと実感する。
「おい、キスしろ」
隣に腰を下ろした君下に、腹を見せるように上を向いて唇を突き出した。またか、と言いたげな顔をしたが、間もなく長い前髪が近づいてきてちゅ、と小さな音を立てて口づけが落とされた。一度も吸ったことのない煙草の味を、俺は間接的に知っている。少しだけ大人になったような気がするのがたまらなく心地よい。
それから少しの間、手を握ったりしてテレビを見ながらソファで寛いだ。この時間にもなればいつもニュースか深夜のバラエティー番組しかなかったが、今日はお互いに見たい番組があるわけでもなかったので適当にチャンネルを回してテレビを消した。 手元のランプシェードの明かりだけ残して電気を消し、寝室の真ん中に位置するキングサイズのベッドに入ると、君下はおやすみとも言わないまま背を向けて肩まで掛け布団を被ってしまった。向かい合わせでは寝付けないのはいつもの事だが、それにしても今日は随分と素っ気ない。明日は金曜日で、俺はオフだが会社員の君下には仕事がある。お互いにもういい歳をした大人なのだ。明日に仕事を控えた夜は事には及ばないようにはしているが、先ほどのことが胸のどこ��で引っかかっていた。
「もう寝た?」 「……」 「なあ」 「……」 「敦」 「……なんだよ」
消え入りそうなほど小さな声で、君下が返事をする。俺は頬杖をついていた腕を崩して布団の中に忍ばせると、背中からその細身の身体を抱き寄せた。抵抗はしなかった。
「こっち向けよ」 「……もう寝る」 「少しだけ」 「明日仕事」 「分かってる」
わかってねぇよ、そう言いながらもこちらに身体を預けてくる、相変わらず素直じゃないところも君下らしい。ランプシェードのオレンジの灯りが、眠そうな君下の顔をぼんやりと照らしている。長い睫毛に落ちる影を見つめながら、俺は薄く開かれた唇に祈るように静かにキスを落とした。
こいつとキスをするようになったのはいつからだっただろうか。 サッカーを諦めかけていた俺に道を示してくれたその時から、ただのチームメイトだった男は信頼できる友へと変化した。それでも物足りないと感じていたのは互いに同じだったようで、俺たちは高校を卒業するとすぐに同じ屋根の下で生活を始めた。が、喧嘩の絶えない日々が続いた。いくら昔に比べて関係が良くなったとはいえ、育ちも違えば本来の性格が随分と違う。事情を知る数少ない人間も、だからやめておけと言っただろう、と皆口を揃えてそう言った。幸いだったのは、二人の通う大学が違ったことだった。君下は官僚になるために法学部で勉学に励み、俺はサッカーの為だけに学生生活を捧げた。互いに必要以上に干渉しない日々が続いて、家で顔を合わせるのは、いつも決まって遅めの夜の食卓だった。 本当は今のままの関係で十分に満足している。今こそ目指す道は違うが、俺たちには同じ時を共有していた、かけがえのない長い長い日々がある。手さぐりでお互いを知ろうとし、時にはぶつかり合って忌み嫌っていた時期もある。こうして積み重ねてきた日々の中で、いつの日か俺たちは自然と寄り添いあって、お互いを抱きしめながら眠りにつくようになった。この感情に名前があるとしても、今はまだわからない。少なくとも今の俺にとって君下がいない生活などもう考えられなくなっていた。
「……ン゛、ぐっ……」
俺に組み敷かれた君下は、弓なりに反った細い腰をぴくり、と跳ねさせた。大判の白いカバーの付いた枕を抱きしめながら、押し殺す声はぐぐもっていてる。決して色気のある行為ではないが、その声にすら俺の下半身は反応してしまう。いつからこうなってしまったのだろう。君下を抱きながらそう考えるのももう何度目の事で、いつも答えの出ないまま、絶頂を迎えそうになり思考はどこかへと吹き飛んでしまう。
「も、俺、でそ、うっ……」 「あ?んな、俺もだ馬鹿っ」 「あっ……喜一」
君下の腰から右手を外し、枕を上から掴んで引き剥がす。果たしてどんな顔をして俺の名を呼ぶのだと、その顔を拝みたくなった。日に焼けない白い頬は、スポーツのような激しいセックスで紅潮し、額にはうっすらと汗が浮かんでいる。相変わらず眉間には皺が寄ってはいたが、いつも���鋭い目つきが嘘のように、限界まで与えられた快楽にその瞳を潤ませていた。視線が合えば、きゅ、と一瞬君下の蕾が収縮した。「あ、出る」とだけ言って腰のピストンを速めながら、君下のイイところを突き上げる。呼吸の詰まる音と、結合部から聞こえる卑猥な音を聞きながら、頭の中が真っ白になって、そして俺はいつの間にか果てた。全て吐き出し、コンドームの中で自身が小さくなるのを感じる。一瞬遅れてどくどくと音がしそうなほどに爆ぜる君下の姿を、射精後のぼんやりとした意識の中でいつまでも眺めていた。
(4)誰も知らない
忙しないいつもの日常が続き、あっという間に年も暮れ新しい年がやってきた。 正月は母方の田舎で過ごすと言った君下は、仕事納めが終われば一度家に戻って荷物をまとめると、そこから一週間ほど家を空けていた。久しぶりに会った君下は、少しばかり頬が丸くなって帰ってきたような気がしたが、本人に言うとそんなことはないと若干キレながら否定された。目に見えて肥えたことを気にしているらしい本人には申し訳ないが、俺はその様子に少しだけ安心感を覚えた。祖父の葬儀以来、もう何年も顔を見せていないという家族に会うのは、きっと俺にすら言い知れぬ緊張や、不安も勿論あっただろう。 だがこうやって随分と可愛がられて帰ってきたようで、俺も正月ぐらい実家に顔を出せばよかったかなと少しだけ羨ましくなった。本人に言えば餅つきを手伝わされこき使われただの、田舎はやることがなく退屈だなど愚痴を垂れそうだが、そのお陰なのか山ほど餅を持たせられたらしく、その日の夜は冷蔵庫にあった鶏肉と大根、にんじんを適当に入れて雑煮にして食べることにした。
「お前、俺がいない間何してた?」
君下が慣れた手つきで具材を切っている間、俺は君下が持ち帰った土産とやらの箱を開けていた。中には土の付いたままの里芋だとか、葉つきの蕪や蓮根などが入っていた。全て君下の田舎で採れたものなのか、形はスーパーでは見かけないような不格好なものばかりだった。
「車ねぇから暇だった」 「どうせ車があったとしても、一日中寝てるか練習かのどっちかだろうが」 「まあ、大体合ってる」
一通り切り終えたのか包丁の音が聞こえなくなり、程なくして今度は出汁の香りが漂ってきた。同時に香ばしい餅の焼ける香りがして、完成が近いことを悟った俺は一度箱を閉めるとダイニングテーブルへと向かい、箸を二膳出して並べると冷蔵庫から缶ビールを取り出してグラスと共に並べた。
「いただきます」 「いただきます」
大きめの深い器に入った薄茶色の雑煮を目の前に、二人向かい合って座り手を合わせる。実に一週間ぶりの二人で摂る夕食だった。よくある関東風の味付けに、四角く切られ表面を香ばしく焼かれた大きな餅。シンプルだが今年に入って初めて食べる正月らしい食べ物も、今年初めて飲む酒も、すべて君下と共に大事に味わった。
「あ、そうだ。明日だからな、あれ」
3個目の餅に齧りついた俺に、そういえばと思い出したかのように君下が声を発した。少し冷めてきたのか噛み切れなかった餅を咥えたまま、肩眉を上げて何の話かと視線だけで問えば、「ほら、同窓会のやつ」と察したように答えが返ってきた。「ちょっと待て」と掌を君下に見せて、餅を掴んでいた箸に力を入れて無理矢理引きちぎると、ぐにぐにと大雑把に噛んでビールで流し込む。うまく流れなかったようで、喉のあたりを引っかかる感触が気持ち悪い。生理的に込み上げてくる涙を瞳に浮かべていると、席を立った君下は冷蔵庫の扉を開けてもう2本ビールを取り出して戻ってきた。
「ほら飲め」 「おま……水だろそこは」 「いいからとりあえず流し込め」
空になった俺のグラスにビールを注げば、ぶくぶくと泡立つばかりで泡だけで溢れそうになった。だから水にしとけと言ったのだ。チッ、と舌打ちをした君下は、少し申し訳なさそうに残りの缶をそのまま手渡してきた。直接飲むのは好きではないが、今は文句を言ってられない。奪うように取り上げると、ごくごくと大げさに喉を鳴らして一気に飲み干した。
「は~……死ぬかと思った。相変わらずお酌が下手だなお前は」 「うるせぇな。俺はもうされる側だから仕方ねぇだろうが」
そう悪態をつきながら、君下も自分の缶を開ける。プシュ、と間抜けな音がして、グラスを傾けて丁寧にビールを注いでゆく。泡まで綺麗に注げたそれを見て、満足そうに俺に視線を戻す。
「あ、そうだよ、話反らせやがって……まあとにかく、明日は俺は昼ぐらいに会社に少し顔出してくるから、ついでに親父んとこにも寄って、そのまま会場に向かうつもりだ」 「あ?親父さんも一緒に田舎に行ったんじゃねぇの?」 「そうしようとは思ったんだがな、店の事もあるって断られた。ったく誰に似たんだかな」 「それ、お前が言うなよ」
君下の言葉になんだかおかしくなってふふ、と小さく笑えば、うるせぇと小さく舌打ちで返された。綺麗に食べ終えた器をテーブルの上で纏めると、君下はそれらを持って流しへと向かった。ビールのグラスを軽く水で濯いでから、そこに半分ぐらい溜めた水をコクコクと喉を鳴らして飲み込んだ。
「俺もう寝るから、あとよろしくな。久々に運転すると疲れるわ」 「おう、お疲れ。おやすみ」
俺の言葉におやすみ、と小さく呟いた君下は、灯りのついていない寝室へと吸い込まれるようにして消えた。ぱたん、と扉が閉まる音を最後に、乾いた部屋はしんとした静寂に包まれる。手元に残ったのは、ほんの一口分だけ残った温くなったビールの入ったグラスだけだった。 頼まれた洗い物はあとでやるとして、さてこれからどうしようか。君下の読み通り、今日は一日中寝ていたため眠気はしばらくやって来る気配はない。テレビの上の時計を見ると、ちょうど午後九時を回ったところだった。俺はビールの残りも飲まずに立ち上がると、食器棚に並べてあるブランデーの瓶と、隣に飾ってあったバカラのグラスを手にしてソファのほうへとゆっくり歩き出した。
*
肌寒さを感じて目を覚ました。 最後に時計を見たのはいつだっただろうか。微睡む意識の中、薄く開いた瞳で捉えたのは、ガラス張りのローテーブルの端に置かれた見覚えのあるグラスだった。細かくカットされた見事なつくりの表面は、カーテンから零れる朝日を反射してキラキラと眩しい。中の酒は幾分か残っていたようだったが、蒸発してしまったのだろうか、底のほうにだけ琥珀色が貼り付くように残っているだけだった。 何も着ていなかったはずだが、俺の肩には薄手の毛布が掛かっていた。点けっぱなしだった電気もいつの間にか消されていて、薄暗い部屋の中、遮光カーテンから漏れる光だけがぼんやりと座っていたソファのあたりを照らしていた。酷い喉の渇きに、水を一口飲もうと立ち上がると頭痛と共に眩暈がした。ズキズキと痛む頭を押さえながらキッチンへ向かい、食器棚から新しいコップを取り出して水を飲む。シンクに山積みになっていたはずの洗い物は、跡形もなく姿を消している。君下は既に家を出た後のようだった。
それから昼過ぎまでもう一度寝て、起きた頃には朝方よりも随分と温かくなっていた。身体のだるさは取れたが、相変わらず痛む頭痛に舌打ちをしながら、リビングのフローリングの上にマットを敷いてそこで軽めのストレッチをした。大柴はもう若くはない。三十路手前の身体は年々言うことを聞かなくなり、1日休めば取り戻すのに3日はかかる。オフシーズンだからと言って単純に休んでいるわけにはいかなかった。 しばらく柔軟をしたあと、マットを片付け軽く掃除機をかけていると、ジャージの尻ポケットが震えていることに気が付いた。佐藤からの着信だった。久しぶりに見るその名前に、緑のボタンを押してスマホを耳と肩の間に挟んだ。
「おう」 「あーうるせぇよ!掃除機?電話に出る時ぐらい一旦切れって」
叫ぶ佐藤の声が聞こえるが、何と言っているのか聞き取れず、仕方なくスイッチをオフにした。ちらりと壁に視線を流せば、時計針はもうすぐ3時を指そうとしていた。
「わりぃ。それよりどうした?」 「どうしたじゃねぇよ。多分お前まだ寝てるだろうから、起こして同窓会に連れてこいって君下から頼まれてんだ」 「はあ……ったく、どいつもこいつも」 「まあその調子じゃ大丈夫だな。5時にマンションの下まで車出すから、ちゃんと顔洗って待ってろよ」 「へー」 「じゃあ後でな」
何も言わずに通話を切り、ソファ目掛けてスマホを投げた。もう一度掃除機の電源を入れると、リビングから寝室へと移動する。普段は掃除機は君下がかけるし、皿洗い以外の大抵の家事はほとんど君下に任せっきりだった。今朝はそれすらも君下にさせてしまった罪悪感が、こうやって自主的にコードレス掃除機をかけている理由なのかもしれない。 ベッドは綺麗に整えてあり、真ん中に乱雑に畳まれたパジャマだけが取り残されていた。寝る以外に立ち入らない寝室は綺麗なままだったが、一応端から一通りかけると掃除機を寝かせてベッドの下へと滑り込ませる。薄型のそれは狭い隙間も難なく通る。何往復かしていると、急に何か大きな紙のようなものを吸い込んだ音がした。
「げっ……何だ?」
慌てて電源を切り引き抜くと、ヘッドに吸い込まれていたのは長い紐のついた、見慣れない小さな紙袋だった。紺色の袋の表面に、金色の細い英字で書かれた名前には見覚えがあった。俺の覚え違いでなければ、それはジュエリーブランドの名前だった気がする。
「俺のじゃねぇってことは、これ……」
そこまで口に出して、俺の頭の中には一つの仮説が浮かび上がる。これの持ち主は十中八九君下なのだろう。それにしても、どうしてこんなものがベッドの下に、それも奥のほうへと押しやられているのだろうか。絡まった紐を引き抜いて埃を払うと、中を覗き込む。入っていたのは紙袋の底のサイズよりも一回り小さな白い箱だった。中を確認したかったが、綺麗に巻かれたリボンをうまく外し、元に戻せるほど器用ではない。それに、中身など見なくてもおおよその見当はついた。 俺はどうするか迷ったが、それと電源の切れた掃除機を持ってリビングへと戻った。紙袋をわざと見えるところ、チェリーウッドのダイニングテーブルの上に置くと、シャワーを浴びようとバスルームへと向かった。いつも通りに手短に済ませると、タオルドライである程度水気を取り除いた髪にワックスを馴染ませ、久しぶりに鏡の中の自分と向かい合う。ここ2週間はオフだったというのに、ひどく疲れた顔をしていた。適当に整えて、顎と口周りにシェービングクリームを塗ると伸ばしっぱなしだった髭に剃刀を宛がう。元々体毛は濃いほうではない。すぐに済ませて電気を消して、バスルームを後にした。
「お、来た来た。やっぱりお前は青のユニフォームより、そっちのほうが似合っているな」
スーツに着替え午後5時5分前に部屋を出て、マンションのエントランスを潜ると、シルバーの普通車に乗った佐藤が窓を開けてこちらに向かって手を振っていた。助手席には既に鈴木が乗っており、懐かしい顔ぶれに少しだけ安堵した。よう、と短く挨拶をして、後部座席のドアを開けると長い背を折りたたんでシートへと腰かけた。 それからは佐藤の運転に揺られながら、他愛もない話をした。最近のそれぞれの仕事がどうだとか、鈴木に彼女が出来ただとか、この前相庭のいるチームと試合しただとか、離れていた2年間を埋めるように絶え間なく話題は切り替わる。その間も車は東京方面へと向かっていた。
「君下とはどうだ?」 「あー……相変わらずだな。付かず離れずって感じか」 「まあよくやってるよな、お前も君下も。あれだけ仲が悪かったのが、今じゃ同棲だろ?みんな嘘みたいに思うだろうな」 「同棲って言い方やめろよ」 「はーいいなぁ、俺この間の彼女に振られてさ。せがまれて高い指輪まで贈ったのに、あれだけでも返して貰いたいぐらいだな」
指輪という言葉に、俺の顔の筋肉が引きつるのを感じた。グレーのパンツの右ポケットの膨らみを、無意識に指先でなぞる。車は渋滞に引っかかったようで、先ほどからしばらく進んでおらず車内はしん、と静まり返っていた。
「あーやべぇな。受付��て何時だっけ」 「たしか6時半……いや、6時になってる」 「げ、あと20分で着くかな」 「だからさっき迂回しろって言ったじゃねぇか」
このあたりはトラックの通行量も多いが、帰宅ラッシュで神奈川方面に抜ける車もたくさん見かける。そういえば実家に寄るからと、今朝も俺の車で出て行った君下はもう会場に着いたのだろうか。誰かに電話をかけているらしい鈴木の声がして、俺は手持ち無沙汰に窓の外へと視線を投げる。冬の日の入りは早く、太陽はちょうど半分ぐらいを地平線の向こうへと隠した頃だった。真っ赤に焼ける雲の少ない空をぼんやりと眺めて、今夜は星がきれいだろうか、と普段気にもしていないことを考えていた。
(5)真冬のエスケープ
車は止まりながらもなんとか会場近くの地下駐車場へと止めることができた。幹事と連絡がついて遅れると伝えていたこともあり、特に急ぐこともなく会場までの道のりを歩いて行った。 程なくして着いたのは某有名ホテルだった。入り口の案内板には聖蹟高校×期同窓会とあり、その横に4階と書かれていた。エレベーターを待つ間、着飾った同じ年ぐらいの集団と鉢合わせた。そのうち男の何人かは見覚えのある顔だったが、男たちと親し気に話している女に至っては、全くと言っていいほど面影が見受けられない。常日頃から思ってはいたが、化粧とは恐ろしいものだ。俺や君下よりも交友関係が広い鈴木と佐藤でさえ苦笑いで顔を見合わせていたから、きっとこいつらにでさえ覚えがないのだろうと踏んで、何も言わずに到着した広いエレベーターへと乗り込んだ。
受付で順番に名前を書いて入り口で泡の入った飲み物を受け取り、広間へと入るとざっと見るだけで100人ほどは来ているようだった。「すげぇな、結構集まったんだな」そう言う佐藤の言葉に振り返りもせずに、俺はあたりをきょろきょろと見渡して君下の姿を探した。
「よう、遅かったな」 「おー君下。途中で渋滞に巻き込まれてな……ちゃんと連れてきたぞ」
ぽん、と背中を佐藤に叩かれる。その右手は決して強くはなかったが、ふいを突かれた俺は少しだけ前にふらついた。手元のグラスの中で黄金色がゆらりと揺れる。いつの間にか頭痛はなくなっていたが、今は酒を口にする気にはなれずにそのグラスを佐藤へと押し付けた。不審そうにその様子を見ていた君下は、何も言わなかった。 6時半きっかりに、壇上に幹事が現れた。眼鏡をかけて、いかにも真面目そうな元生徒会長は簡単にスピーチを述べると、今はもう引退してしまったという、元校長の挨拶へと移り変わる。何度か表彰状を渡されたことがあったが、曲がった背中にはあまり思い出すものもなかった。俺はシャンパン���代わりに貰ったウーロン茶が入ったグラスをちびちびと舐めながら、隣に立つ君下に気付かれないようにポケットの膨らみの形を確認するかのように、何度も繰り返しなぞっていた。
俺たちを受け持っていた先生らの挨拶が一通り済むと、それぞれが自由に飲み物を持って会話を楽しんでいた。今日一日、何も食べていなかった俺は、同じく飯を食い損ねたという君下と共に、真ん中に並ぶビュッフェをつまみながら空きっ腹を満たしていた。ここのホテルの料理は美味しいと評判で、他のホテルに比べてビュッフェは高いがその分確かなクオリティがあると姉が言っていた気がする。確かにそれなりの料理が出てくるし、味も悪くはない。君下はローストビーフがお気に召したようで、何度も列に並んではブロックから切り分けられる様子を目を輝かせて眺めていた。
「あー!大柴くん久しぶり、覚えてるかなぁ」
ウーロン茶のあてにスモークサーモンの乗ったフィンガーフードを摘まんでいると、この会場には珍しく化粧っ気のない、大きな瞳をした女が数人の女子グループと共にこちらへと寄ってきた。
「あ?……あ、お前はあれだ、柄本の」 「もー、橘ですぅー!つくちゃんのことは覚えててくれるのに、同じクラスだった私のこと、全っ然覚えててくれないんだから」
プンスカと頬を膨らませる橘の姿に、高校時代の懐かしい記憶が蘇る。記憶の中よりも随分と短くなった髪は耳の下で切り揃えられていれ、片側にトレードマークだった三つ編みを揺らしている。確かにこいつが言うように、思い返せば偶然にも3年間、同じクラスだったように思えてくる。本当は名前を忘れた訳ではなかったが、わざと覚えていない振りをした。
「テレビでいつも見てるよー!プロってやっぱり大変みたいだけど、大柴くんのことちゃんと見てるファンもいるからね」 「おーありがとな」
俺はその言葉に対して素直に礼を言った。というのも、この橘という女の前ではどうも調子が狂わされる。自分は純粋無垢だという瞳をしておいて、妙に人を観察していることと、核心をついてくるのが昔から巧かった。だが悪気はないのが分かっているだけ質が悪い。俺ができるだけ同窓会を避けてきた理由の一つに、この女の言ったことと、こいつ自身が関係している。これには君下も薄々気付いているのだろう。
「あ、そうだ。君下くんも来てるかな?つくちゃんが会いたいって言ってたよ」 「柄本が?そりゃあ本人に言ってやれよ。君下ならあっちで肉食ってると思うけど」 「そうだよね、ありがとう大統領!」
そう言って大げさに手を振りながら、橘は君下を探しに人の列へと歩き出した。「もーまたさゆり、勝手にどっか行っちゃったよ」と、取り残されたグループの一人がそう言うので、「相変わらずだよね」と笑う他の女たちに混ざって愛想笑いをして、居心地の悪くなったその場を離れようとした。 白いテーブルクロスの上から飲みかけのウーロン茶が入ったグラスを手に取ろとすると、綺麗に塗られたオレンジの爪がついた女にそのグラスを先に掴まれた。思わず視線をウーロン茶からその女へと流すと、女はにこりと綺麗に笑顔を作り、俺のグラスを手渡してきた。
「大柴くん、だよね?今日は飲まないの?」
黒髪のロングヘアーはいかにも君下が好みそうなタイプの女で、耳下まである長い前髪をセンターで分けて綺麗に内巻きに巻いていた。他の女とは違い、あまりヒラヒラとした装飾物のない、膝上までのシンプルな紺色のドレスに身を包んでいる。見覚えのある色に一瞬喉が詰まるも、「今日は車で来てるから」とその場で適当な言い訳をした。
「あーそうなんだ、残念。私も車で来たんだけど、勤めている会社がこの辺にあって、そこの駐車場に停めてあるから飲んじゃおうかなって」 「へぇ……」
わざとらしく綺麗な眉を寄せる姿に、最初はナンパされているのかと思った。だが俺のグラスを受け取ると、オレンジの爪はあっさりと手放してしまう。そして先程まで女が飲んでいた赤ワインらしき飲み物をテーブルの上に置き、一歩近づき俺の胸元に手を添えると、背伸びをして俺の耳元で溜息のように囁いた。
「君下くんと、いつから仲良くなったの?」
酒を帯びた吐息息が耳元にかかり、かっちりと着込んだスーツの下に、ぞわりと鳥肌が立つのを感じた。 こいつは、この女は、もしかしたら君下がこの箱を渡そうとした女なのかもしれない。俺の知らないところで、君下はこの女と親密な関係を持っているのかもしれない。そう考えが纏まると、すとんと俺の中に収まった。そうか。最近感じていた違和感も、何年も寄り付かなかった田舎への急な帰省も、なぜか頑なにこの同窓会に出席したがった理由も、全部辻褄が合う。いつから関係を持っていたのだろうか、知りたくもなかった最悪の状況にたった今、俺は気付いてしまった。 じりじりと距離を詰める女を前に、俺は思考だけでなく身体までもが硬直し、その場を動けないでいた。酒は一滴も口にしていないはずなのに、むかむかと吐き気が込み上げてくる。俺は今、よほど酷い顔をしているのだろう。心配そうに見つめる女の目は笑っているのに、口元の赤が、赤い口紅が視界に焼き付いて離れない。何か言わねば。いつものように、「誰があんなやつと、この俺様が仲良くできるんだよ」と見下すように悪態をつかねば。皆の記憶に生きている、大柴喜一という人間を演じなければ―――…… そう思っているときだった。 俺は誰かに腕を掴まれ、ぐい、と強い力で後ろへと引かれた。呆気にとられたのは俺も女も同じようで、俺が「おい誰だ!スーツが皺になるだろうが」と叫ぶと、「あっ君下くん、」と先程聞いていた声より一オクターブぐらい高い声が女の口から飛び出した。その名前に腕を引かれたほうへと振り返れば、確かにそこには君下が立っていて、スーツごと俺の腕を掴んでいる。俺を見上げる漆黒の瞳は、ここ最近では見ることのなかった苛立ちが滲んで見えるようだった。
「ああ?テメェのスーツなんか知るかボケ。お前が誰とイチャつこうが関係ねぇが、ここがどこか考えてからモノ言いやがれタワケが」 「はあ?誰がこんなブスとイチャつくかバーカ!テメェの女にくれてやる興味なんぞこれっぽっちもねぇ」 「なんだとこの馬鹿が」
実に数年ぶりの君下のキレ具合に、俺も負けじと抱えていたものを吐き出すかのように怒鳴り散らした。殴りかかろうと俺の胸倉を掴んだ君下に、賑やかだった周囲は一瞬にして静まり返る。人の壁の向こう側で、「おいお前ら!まじでやめとけって」と慌てた様子の佐藤の声が聞こえる。先に俺たちを見つけた鈴木が君下の腕を掴むと、俺の胸倉からその手を引き剥がした。
「とりあえず、やるなら外に行け。お前らももう高校生じゃない���だ、ちょっとは周りの事も考えろよ」 「チッ……」 「大柴も、冷静になれよ。二人とも、今日はもう帰れ。俺たちが収集つけとくから」
君下はそれ以上何も言わずに、出口のほうへと振り返えると大股で逃げるようにその場を後にした。俺は「悪いな」とだけ声をかけると、曲がったネクタイを直し、小走りで君下の後を追いかける。背後からカツカツとヒールの走る音がしたが、俺は振り返らずにただ小さくなってゆく背中を見逃さないように、その姿だけを追って走った。暫くすると、耳障りな足音はもう聞こえなくなっていた。
君下がやってきたのは、俺たちが停めたのと同じ地下駐車場だった。ここに着くまでにとっくに追い付いていたものの、俺はこれから冷静に対応する為に、頭を冷やす時間が欲しかった。遠くに見える派手な赤色のスポーツカーは、間違いなく俺が2年前に買い替えたものだった。君下は何杯か酒を飲んでいたので、鍵は持っていなくとも俺が運転をすることになると分かっていた。わざと10メートル後ろをついてゆっくりと近づく。 君下は何も言わずにロックを解除すると、大人しく助手席に腰かけた。ドアは開けたままにネクタイを解き、首元のボタンを一つ外すと、胸ポケットから取り出した煙草を一本口に咥えた。
「俺の前じゃ吸わねぇんじゃなかったのか」 「……気が変わった」
俺も運転席に乗り込むと、キーを挿してエンジンをかけ、サンバイザーを提げるとレバーを引いて屋根を開けてやった。どうせ吸うならこのほうがいいだろう。それに今夜は星がきれいに見えるかもしれないと、行きがけに見た綺麗な夕日を思い出す。安物のライターがジジ、と音を立てて煙草に火をつけたのを確認して、俺はゆっくりとアクセルを踏み込んだ。
(6)形も何もないけれど
煌びやかなネオンが流れてゆく。俺と君下の間に会話はなく、代わりに冬の冷たい夜風だけが二人の間を切るように走り抜ける。煙草の火はとっくに消えて、そのままどこかに吹き飛ばされてしまった。 信号待ちで車が止まると、「さむい」と鼻を啜りながら君下が呟いた。俺は後部座席を振り返り、外したばかりの屋根を元に戻すべく折りたたんだそれを引っ張った。途中で信号が青に変わって、後続車にクラクションを鳴らされる。仕方なく座りなおそうとすると、「おい、貸せ」と君下が言うものだから、最初から自分でやればいいだろうと思いながらも、大人しく手渡してアクセルに足を掛けた。車はまた走り出す。
「ちょっとどこか行こうぜ」
最初にそう切り出したのは君下だった。暖房も入れて温かくなった車内で、窓に貼り付くように外を見る君下の息が白く曇っていた。その問いかけに返事はしなかったが、俺も最初からあのマンションに向かうつもりはなかった。分岐は横浜方面へと向かっている。君下もそれに気が付いているだろう。 海沿いに車を走らせている間も、相変わらず沈黙が続いた。試しにラジオを付けてはみたが、流れるのは今流行りの恋愛ソングばかりで、今の俺たちにはとてもじゃないが似合わなかった。何も言わずにラジオを消して、それ以来ずっと無音のままだ。それでも、不思議と嫌な沈黙ではないことは確かだった。
どこまで行こうというのだろうか。気が付けば街灯の数も少なくなり、車の通行量も一気に減った。窓の外に見える、深い色の海を横目に見ながら車を走らせた。穏やかな波にきらきらと反射する、今夜の月は見事な満月だった。 歩けそうな砂浜が見えて、何も聞かないままそこの近くの駐車場に車を停めた。他に車は数台止まっていたが、どこにも人の気配がしなかった。こんな真冬の夜の海に用があるというほうが可笑しいのだ。俺はエンジンを切って、運転席のドアを開けると外へ出た。つんとした冷たい空気と潮の匂いが鼻をついた。君下もそれに続いて車を降りた。 後部座席に積んでいたブランケットを羽織りながら、君下は小走りで俺に追いつくと、その隣に並んで「やっぱ寒い」と鼻を啜る。数段ほどのコンクリートの階段を降りると、革靴のまま砂を踏んだ。ぐにゃり、と不安定な砂の上は歩きにくかったが、それでも裸足になるわけにはいかずにゆっくりと海へ向かって歩き出す。波打ち際まで来れば、濡れて固まった足場は先程より多少歩きやすくなった。はぁ、と息を吐けば白く曇る。海はどこまでも深い色をしていた。
「悪かったな」 「いや、……あれは俺も悪かった」
居心地の悪そうに謝罪の言葉がぽつり、と零れた。それは何に対して謝ったのか、自分でもよく分からない。君下に女が居た事なのか、指輪を見つけてしまった事なのか、それともそれを秘密にしていた事なのか。あるいは、そのすべてに対して―――俺がお前をあのマンションに縛り付けた10年間を指しているのか、それははっきりとは分からなかった。俺は立ち止まった。俺を追い越した、君下も立ち止まり、振り返る。大きな波が押し寄せて、スーツの裾が濡れる感覚がした。水温よりも冷たく冷え切った心には、今はそんな些細なことは、どうでもよかった。
「全部話してくれるか」 「ああ……もうそろそろ気づかれるかもしれねぇとは腹括ってたからな」
そう言い終える前に、君下の視線が俺のズボンのポケットに向いていることに気が付いた。何度も触っていたそれの形は、嫌と言うほど覚えている。俺はふん、と鼻で笑ってから、右手を突っ込み白い小さな箱を丁寧に取り出した。君下の目の前に差し出すと、なぜだか手が震えていた。寒さからなのか、それともその箱の重みを知ってしまったからなのか、風邪が吹いて揺れるなか、吹き飛ばされないように握っているのが精一杯だった。
「これ……今朝偶然見つけた。ベッドの下、本当に偶然掃除機に引っかけちまって……でも本当に俺、今までずっと気付かなくて、それで―――それで、あんな女がお前に居たなんて、もっと早く言ってくれりゃ、」 「ちょっと待て、喜一……お前何言ってんだ」 「あ……?何って、今言ったことそのまんまだろうが」
思い切り眉間に皺を寄せ困惑したような君下の顔に、俺もつられて眉根を寄せる。ここまで来てしらを切るつもりなのかと思うと、怒りを通り越して呆れもした。どうせこうなってしまった以上、俺たちは何事もなく別れられるわけがなかった。昔のように犬猿の仲に戻るのは目に見えていたし、そうなってくれれば救われた方だと俺は思っていた。 苛立っていたいたのは君下もそうだったようで、風で乱れた頭をガシガシと掻くと、煙草を咥えて火を点けようとした。ヂ、ヂヂ、と音がするのに、風のせいでうまく点かない。俺は箱を持っていないもう片方の手を伸ばして、風上から添えると炎はゆらりと立ち上がる。すう、と一息吸って吐き出した紫煙が、漆黒の空へと消えていった。
「そのまんまも何も、あの女、お前狙いで寄ってきたんだろうが」 「お前の女が?」 「誰だよそれ、名前も知らねぇのにか?」
つまらなさそうに、君下はもう一度煙を吸うと上を向いて吐き出した。どうやら本当にあのオレンジ爪の女の名前すら知らないらしい。だとしたら、俺が持っているこの箱は一体誰からのものなのだ。答え合わせのつもりで話をしていたが、謎は余計に深まる一方だ。
「あ、でもあいつ、俺に何て言ったと思う?君下くんといつから仲良くなったの、って」 「お前の追っかけファンじゃねぇの」 「だとしてもスゲェ怖いわ。明らかにお前の好みそうなタイプの恰好してたじゃん」 「そうか?むしろ俺は、お前好みの女だなと思ったけどな」
そこまで言って、俺も君下も噴き出してしまった。ククク、と腹の底から込み上げる笑いが止まらない。口にして初めて気が付いたが、俺たちはお互いに女の好みなんてこれっぽっちも知らなかったのだ。二人でいる時の共通の話題と言えば、サッカーの事か明日の朝飯のことぐらいで、食卓に女の名前が出てきたことなんて今の一度もない事に気付いてしまった。どうりでこの10年間、どちらも結婚だとか彼女だとか言い出さないわけだ。俺たちはどこまでも似た者同士だったのだ。
「それ、お前にやろうと思って用意したんだ」
すっかり苛立ちのなくなった瞳に涙を浮かべながら、君下は軽々しくそう言って笑った。 俺は言葉が出なかった。 こんな小洒落たものを君下が買っている姿なんて想像もできなかったし、こんなリボンのついた箱は俺が受け取っても似合わない。「中は?」と聞くと、「開けてみれば」とだけ返されて、煙が流れないように君下は後ろを向いてしまった。少し迷ったが、その場で紐をほどいて箱を開けて、俺は目を見開いた。紙袋と同じ、夜空のようなプリントの内装に、星のように輝くゴールドの指輪がふたつ、中央に行儀よく並んでいた。思わず君下の後姿に視線を戻す。ちらり、とこちらを振り返る君下の口元は、笑っているように見えた。胸の内から込み上げてくる感情を抑えきれずに、俺は箱を大事に畳むと勢いよくその背中を抱きしめた。
「う゛っ苦しい……喜一、死ぬ……」 「そのまま死んじまえ」 「俺が死んだら困るだろうが」 「自惚れんな。お前こそ俺がいないと寂しいだろう」 「勝手に言ってろタワケが」
腕の中で君下の頭が振り返る。至近距離で視線が絡み、君下の瞳に星空を見た。俺は吸い込まれるようにして、冷たくなった君下の唇にゆっくりとキスを落とす。二人の間で吐息だけが温かい。乾いた唇は音もなく離れ、もう一度角度を変えて近づけば、今度はちゅ、と音がして君下の唇が薄く開かれた。お互いに舌を出して煙草で苦くなった唾液を分け合った。息があがり苦しくなって、それでもまた酸素を奪うかのように互いの唇を気が済むまで食らい合った。右手の箱は握りしめたままで、中で指輪がふたつカタカタと小さく音を立てて揺れていた。
「もう、帰ろうか」 「ああ……解っちゃいたが、冬の海は寒すぎる��。帰ったら風呂炊くか」 「お、いいな。俺が先だ」 「タワケが。俺が張るんだから俺が先だ」
いつの間にか膝下まで濡れたスーツを捲り上げ、二人は手を繋いで来た道を歩き出した。青白い砂浜に、二人分の足跡が残る道を辿って歩いた。平常心を取り戻した俺は急に寒さを感じて、君下が羽織っているブランケットの中に潜り込もうとした。君下はそれを「やめろ馬鹿」と言って俺の頭を押さえつける。俺も負けじとグリグリと頭を押し付けてやった。自然と笑いが零れる。 これでよかったのだ。俺たちには言葉こそないが、それを埋めるだけの共に過ごした長い時間がある。たとえ二人が結ばれたとしても、形に残るものなんて何もない。それでも俺はいいと思っている。こうして隣に立ってくれているだけでいい。嬉しい時も寂しい時も「お前は馬鹿だな」と一緒に笑ってくれるやつが一人だけいれば、それでいいのだ。
「あ、星。喜一、星がすげぇ見える」 「おー綺麗だな」
ふと気づいたように、君下が空を見上げて興奮気味に声を上げた。 ようやくブランケットに潜り込んで、君下の隣から顔を出せば、そこにはバケツをひっくり返したかのように無数に散らばる星たちが瞬いていた。肩にかかる黒髪から嗅ぎ慣れない潮の香りがして、俺たちがいま海にいるのだと思い知らされる。上を向いて開いた口から、白く曇った息が漏れる。何も言わずにしばらくそれを眺めて、俺たちはすっかり冷えてしまった車内へと腰を下ろした。温度計は摂氏5度を示していた。
7:やさしい光の中で
星が良く見えた翌朝は決まって快晴になる。君下に言えば、そんな原始的な観測が正しければ、天気予報なんていらねぇよ、と文句を言われそうだが、俺はあながち間違いではないと思っている。現に今日は雲一つない晴れで、あれだけ低かった気温が今日は16度まで上がっていた。乾燥した空気に洗濯物も午前中のうちに乾いてしまった。君下がベランダに料理を運んでいる最中、俺は慣れない手つきで洗濯物をできるだけ綺麗に折りたたんでいた。
「おい、終わったぞ。お前のは全部チェストでいいのか?」 「下着と靴下だけ二番目の引き出しに入れといてくれ。あとはどこでもいい」 「へい」
あれから真っすぐマンションへと向かった車は、時速50キロ程度を保ちながらおよそ2時間かけて都内にたどり着いた。疲れ切っていたのか、君下は何度かこくり、こくりと首を落とし、ついにはそのまま眠りに落ちてしまった。俺は片手だけでハンドルを握りながら、できるだけ眠りを妨げないように、信号待ちで止まることのないようにゆっくりとしたスピードで車を走らせた。車内には、聞き慣れない名のミュージシャンが話すラジオの音だけが延々と聞こえていた。 眠った君下を抱えたままエントランスをくぐり、すぐに開いたエレベーターに乗って部屋のドアを開けるまで、他の住人の誰にも出会うことはなかった。鍵を開けて玄関で靴を脱がせ、濡れたパンツと上着だけを剥ぎ取ってベッドに横たわらせる。俺もこのまま寝てしまおうか。ハンガーに上着を掛けると一度はベッドに腰かけたものの、どうも眠れる気がしない。少しだけ君下の寝顔を眺めた後、俺はバスルームの電気を点けた。
「飲み物はワインでいいか?」 「おう。白がいい」 「言われなくとも白しか用意してねぇよ」
そう言って君下は冷蔵庫から冷えた白ワインのボトルとグラスを2つ持ってやって来た。日当たりのいいテラスからは、東京の高いビル群が遠くに見えた。東向きの物件にこだわって良かったと、当時日当たりなんてどうでもいいと言った君下の隣に腰かけて密かに思う。今日は風も少なく、テラスで日光浴をするのには丁度いい気候だった。
「乾杯」 「ん」
かちん、と一方的にグラスを傾けて君下のグラスに当てて音を鳴らした。黄金色の液体を揺らしながら、口元に寄せればリンゴのような甘い香りがほのかい漂う。僅かにとろみのある液体を口に含めば、心地よいほのかな酸味と上品な舌触りに思わず眉が上がるのが分かった。
「これ、どこの」 「フランスだったかな。会社の先輩からの貰い物だけど、かなりのワイン好きの人で現地で箱買いしてきたらしいぞ」 「へぇ、美味いな」
流れるような書体でコンドリューと書かれたそのボトルを手に取り、裏面を見ればインポーターのラベルもなかった。聞いたことのある名前に、確か希少価値の高い品種だったように思う。読めない文字をざっと流し読みし、ボトルをテーブルに戻すともう一口口に含む。安物の白ワインだったら炭酸で割って飲もうかと思っていたが、これはこのまま飲んだ方が良さそうだ。詰め物をされたオリーブのピンチョスを摘まみながら、雲一つない空へと視線を投げた。
「そう言えば、鈴木からメール来てたぞ……昨日の同窓会の話」
紫煙を吐き出した君下は、思い出したかのように鈴木の名を口にした。小一時間前に風呂に入ったばかりの髪はまだ濡れているようで、時折風が吹いてはぴたり、と額に貼り付いた。それを手で避けながら、テーブルの上のスマホを操作して件のメールを探しているようだ。俺は残り物の鱈と君下の田舎から貰ってきたジャガイモで作ったブランダードを、薄切りのバゲットに塗り付けて齧ると、「何だって」と先程の言葉の続きを促した。
「あの後女が泣いてるのを佐藤が慰めて、そのまま付き合うことになったらしい、ってさ」 「はあ?それって俺たちと全然関係なくねぇ?というか、一体何だったんだよあの女は……」
昨夜のことを思い出すだけで鳥肌が立つ。あの真っ赤なリップが脳裏に焼き付いて離れない。それに、俺たちが聞きたかったのはそんな話ではない。喧嘩を起こしそうになったあの場がどうなったとか、そんなことよりもどうでもいい話を先に報告してきた鈴木にも悪意を感じる。多分、いや確実に、このハプニングを鈴木は面白がっているのだろう。
「あいつ、お前と同じクラスだった冴木って女だそうだ。佐藤が聞いた話だと、やっぱりお前のファンだったらしいぞ」 「……全っ然覚えてねぇ」 「だろうな。見ろよこの写真、これじゃあ詐欺も同然だな」
そう言って見せられた一枚の写真を見て、俺は食べかけのグリッシーニに巻き付けた、パルマの生ハムを落としそうになった。写真は卒アルを撮ったもののようで、少しピントがずれていたがなんとなく顔は確認できた。冴木綾乃……字面を見てもピンと来なかったが、そこに映っているふっくらとした丸顔に腫れぼったい一重瞼の女には見覚えがあった。
「うわ……そういやいた気がするな」 「それで?これのどこが俺の女だって言うんだよ」 「し、失礼しました……」 「そりゃあ今の彼氏の佐藤に失礼だろうが。それに別にブスではないしな」
いや、どこからどう見てもこれはない。俺としてはそう思ったが、確かに昨日会った女は素直に抱けると思った。人は歳を重ねると変わるらしい。俺も君下も何か変わったのだろか。ふとそう思ったが、まだ青い高校生だった俺に言わせれば、俺たちが同じ屋根の下で10年も暮らしているということがほとんど奇跡に近いだろう。人の事はそう簡単に悪く言えないと、自分の体験を以って痛いほど知った。 君下は短くなった煙草を灰皿に押し付けると火を消して、何も巻かないままのグリッシーニをポリポリと齧り始める。俺は空になったグラスを置くと、コルクを抜いて黄金色を注いだ。
「あー、そうだ。この間田舎に帰っただろう、正月に。その時にばあちゃんに、お前の話をした」 「……なんか言ってたか」
聞き捨てならない言葉に、だらしなく木製の折りたたみチェアに座っていた俺の背筋が少しだけ伸びる。 その事は俺にも違和感があった。急に田舎に顔出してくるから、と俺の車を借りて出て行った君下は、戻ってきても1週間の日々を「退屈だった」としか言わなかったのだ。なぜこのタイミングなのだろうか。嫌な切り出し方に少しだけ緊張感が走る。君下がグリッシーニを食べ終えるのを待っているほんの少しの時間が、俺には気が遠くなるほど長い時間が経ったような気さえした。
「別に。敦は結婚はしないのかって聞かれたから答えただけだ。ただ同じ家に住んでいて、これからも一緒にいることになるだろうから、申し訳ないけど嫁は貰わないかもしれないって言っといた」 「……それで、おばあさんは何て」 「良く分からねぇこと言ってたぜ。まあ俺がそれで幸せなら、それでいいんじゃないかとは言ってくれたけど……やっぱ少し寂しそうではあったかな」
そう言って遠くの空を見つめるように、君下は視線を空へ投げた。真冬とは言え太陽の光は眩しくて、自然と目元は細まった。テーブルの上に投げ出された右手には、光を反射してきらきらと輝く金色が嵌められている。昨夜君下が眠った後、���車中の誰も見ていない車内で俺が勝手に付けたのだ。細い指にシンプルなデザインはよく映えた。俺が見ていることに気が付いたのか、君下はそっとテーブルから手を離すと、新しいソフトケースから煙草を一本取りだした。
「まあこれで良かったのかもな。親父にも会ってきたし、俺はもう縛られるものがなくなった」 「えっ、まさか……昨日実家寄ったのってその為なのか」 「まあな……本当は早いうちに言っておくべきだったんだが、どうも切り出せなくてな。親父もばあちゃんも、母さんを亡くして寂しい思いをしたのは痛いほど分かってたし、まあ俺もそうだったしな……それで俺が結婚しないって言うのは、なんだか家族を裏切ってしまうような気がして。もう随分前にこうなることは分かってたのにな。気づいたら年だけ重ねてて、それで……」
君下は、ゆっくりと言葉を紡ぐと一筋だけ涙を流した。俺はそれを、君下の左手を握りしめて、黙って聞いてやることしかできなかった。昼間から飲む飲みなれないワインにアル��ールが回っていたのだろうか。それでもこれは君下の本音だった。 暫くそうして無言で手を握っていると、ジャンボジェット機が俺たちの上空をゆっくりと通過した。耳を塞ぎたくなるようなごうごうと風を切り裂く大きな音に隠れるように、俺は聞こえるか聞こえないかの声量で「愛してる」、と一言呟く。君下は口元だけを読んだのか、「俺も」、と聞こえない声で囁いた。飛行機の陰になって和らいだ光の中で、俺たちは最初で最後の言葉を口にした。影が過ぎ去ると、陽射しは先程よりも一層強く感じられた。水が入ったグラスの中で、溶けた氷がカラン、と立てたか細い音だけが耳に残った。
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*2019.3.29 #朝ごはん #きょうはぴ店の日 ・ アジアご飯がマイブーム ⚪︎パクチー風味のコールスロー ⚪︎ブロッコリーのナムル ⚪︎蓮根の炊き込みご飯むすび ・ 今週は金、土、日の営業です 本日もいろいろ再入荷! #モーニングプレート #ポーランド食器 #朝ごはん #ワンプレごはん #ポーランド食器のピグマリオン商會 #楽しい #ピグマリsnap #クッキングラム #polishpottery #ポーリッシュポタリー #ポーリッシュポタリーのある暮らし #ポーリッシュポタリー名古屋 #名古屋食器屋 #名古屋市千種区 #ラブリー #暮らしの道具 #くらし #うつわ #暮らしを楽しむ #onthetable #オーガニック #organic #アジアンテイスト 📙ケリー4月号掲載☺︎ #HPへはプロフィール欄より→ @petit_pyg ←マニアックネタのスタッフOlaちゃん、 - - - - - - - - - - ※時間は日により異なります! 3月の実店舗ぴ⃝店は毎週金土と31 時間は金と31日…11-17時 土…12-18時 - - - - - - - - - - 🍽ぽってりマグs、クラウドボウル、箸置き (ピグマリオン商會|ポーランド食器と雑貨) https://www.instagram.com/p/BvkkYZynjog/?utm_source=ig_tumblr_share&igshid=cbzo3jz173i2
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