otoba-blog
otoba-blog
Nighthawks
2 posts
Don't wanna be here? Send us removal request.
otoba-blog · 8 years ago
Text
▷ image
Tumblr media
Googleの検索結果を眺めながら、イメージについてイメージする。その時、僕は中が空洞になっているガラス玉みたいなものを想像する。そして、それは往々にして曇っている。たまに磨いてやらないといけない。日々のエクササイズ。運動というと、近所の区営プールに水着とバスタオルをもって、脇腹につき始めた脂肪を摘みながら向かうようなことを想起するかもしれない。でも、この掃除じみた運動は、『実際に』足を運ばないことをさらに『実際に』選択して、これまでの人生で何となく感じてきた(しかし、確実に認知されてきたに違いない)アスファルトの色彩や匂い、指に伝わる脂肪の硬さあるいは質感といったものをガラス玉の中へ詰め込んでいくといった作業工程をたどる。うまくいけばプールサイドの塩素を肺いっぱいに吸い込むことができるかもしれない。そうなればひとまず安心だけれど、うまく感覚を手繰り寄せられないと、答え合わせじみたやり方でタンスからバスタオルを引き出し、ふう、運動か、���一人ボソボソ呟きながら、本棚脇にかけられたスイミング・バッグを手に取り、玄関の薄闇の中テニス・シューズを履くことになる。
その容器(のようなもの)は一般的に(あまり一般論ばかり言ってはいられない時代だけれど)想像力と呼ばれている。しかし、その素材・構成物の純度を測る単位にはまだ名前がない。目盛りが無い不安定な形状の定規みたいだ。この実に特殊な不確定性の化身は、右端にキリコの『予言者』、左端にマグリットの『秘密の分身』を乗せることで、僕という支点を嬲りだす。勿論、それはイメージだ。でも、イメージに過ぎない、と吐き捨てることがどれだけ難しいことか。だから今回いっそのこと、ポップでファンシーな名前をつけてみようと思う。そうすれば少なくとも、これ以上シュルレアリスムみたいな本来戦うべきでない難敵と相まみえずに済む。
小一時間悩んだ末、僕はその単位をモグラとすることに決めた。明日の朝刊一面で『想像力単位/モグラに決定』と銘打たれるわけでも、モグラ学者からの鳴り止まない感嘆電話を煙に巻く必要性が生じるわけでもない。ただ、今日から僕が制定する僕個人の世界において、モグラという単語に想像力の単位という意味合いが追加されるに過ぎないのだ。そして、幸運なことに、この決断がモグラの穴掘りに影響をもたらすことはない。彼らのうちの誰かが親しい仲間に「なぁ、聞いたか。俺ら、人間界で想像力の単位になったんだぜ」と言い出して、「えぇ、マジかよ。これまた単位だなんて大層なもんになっちまったな」なんて答える、そんなことは起こり得ない。それはそれで素敵なことのように思えなくもないけれど、超えなくてはならない無数の現実的な障壁が僕とモグラの間には聳え立っている。
何を隠そう、僕はモグラという生き物を見たことがない。あくまで知識として、まず彼らが存在していること、そして暗黒の地底で穴を掘っていることを知っている。でも、それこそが、その事実らしきものが、僕の世界にとって彼らが想像力の単位名に足る所以なのだ。純な充足。モグラが下がれば下がるほど、あたりはもっと暗くジメジメとしてくるし、また、モグラが上がれば上がるほど、明るさは増し、リアリスティックな世界に近づくことができる。世界はデュシャン的であるだけでなく、セザンヌ的でカンディンス���ー的でもあることがわかるようになる。直観的・象徴的といった、名称の必要条件もモグラは軽々クリアしている。
明日こそはプールに行って一時間ほど泳いでみようかと思う。きっと体は思うように動かない。まずクロールは無理だ。すぐに息が上がって、多分50メートルも泳げない。ゼエゼエ息を吐きながらジャンプ台の銀パイプにしがみつく自分がありありと浮かぶ。バタフライなんてもっと無理だ。力み過ぎて却って前に進まない。そうだな、のんびり平泳ぎでもしよう。まずはスピードなんか気にせず、長く泳ぐことだけを心がけながら。一掻き一掻き、リラックスして。
でも、どうだろうな。やっぱり、明日になってみないとわからない。モグラに掻き方を習ってからじゃないと。
0 notes
otoba-blog · 8 years ago
Text
冬の塔
雪が降った。大雪だった。
カーテンを開けると塔が見える。窓の外はひどく寒そうだった。僕は思わず両手を口元に運んで、息を吹きかけてしまう。疲れているわけじゃない、9時間も寝たばかりなんだ。でも、わかるだろう? こちらの動揺を誘うほどの緊迫感が吹雪には備わっている。血に飢えた白クマが獲物に牙を立てているのを傍観している気分だった。僕は息を潜める。そんな彼らを前にガラス窓一枚が盾になるはずがない。
塔。乾ききる前の水彩画に水バケツを溢したみたいにその輪郭は震えていた。僕はその揺らめきをしばらく目で追っていた。おそらく、1キロ先くらいにある、教会の塔。12時になると、鐘の音が聴こえてきた。うとうとしていられない。僕は立ち上がると、ポットを火にかけた。棚からティーバッグを取り出してスヌーピーのマグカップに���り込む。
湯が沸くのを待つ間も僕はずっと塔を眺めていた。それは僕になにも語りかけてはこない。現に僕は今なにも考えたくない気分だった。昨晩のアルコールの残りがスタッズだらけの革ジャンを着た柄の悪い連中に扮して、ちょうどこめかみのあたりで反乱を起こしているのかもしれない。思考がうまく纏まらない。
気づけばポットがブクブク音を立てて震えている。火を止めてから、蓋を外して湯を冷ました。そして、丁度良さそうな加減で湯を注ぐ。僕はデスクまで戻る途中、ティーバッグの紙タグをきっかり三回上下に動かして、それから一口だけ啜った。水蒸気で曇る眼鏡。もう三日続けてイングリッシュ・ブレックファストだった。もう午後だぜ、と思う。勘弁してくれよ。
席につくと、まだ塔はユラユラ流れているばかりだった。僕はその態度に一通り呆れてから、パソコンの電源を付けた。たちまち震えるような轟音が部屋を満たす。しかし、それは起動画面の途中でプツンと切れてしまう。
おいおい、頼むぜ。そう言ってパソコンをいくら叩いてみても反応は返ってこない。電源ボタンを押したところでスクリーンは真っ黒なままだ。僕��しかたなく、マグを片手に窓辺まで歩いて行く。
塔にはまだ行ったことがない。行く予定も計画もない。僕が個人的な繋がりを見出すものは大抵血の通った人間に対してだ。塔は僕にとって窓の延長上にある建造物でしかない。しかし、ずっとそのシルエットばかり眺めていると、事前に窓にプリントされていた不恰好な模様のように見えてくる。概念的同化。塔はある限定された世界において、窓になっている。
僕はそこから何を覘きみるのだろう? その景色はどんなものに繋がっているのだろう? 僕は自らがつい5分前まで頑なに拒否していた想像力を働かせはじめる。その羽はちゃんと寒空に広がって、塔の近くまで僕を運んでくれる。
塔の近くは想像通りに寒かった。雪は次第に雹にかわって、頬を乱暴に叩き始める。僕は空いた両手をパジャマのポケットに突っ込んで、その鋭利な建造物を上から眺めた。12時16分。短針と長針とが別居中の夫婦みたく沈黙を貫いていて、その根底には運命の留め具が刺さっていた。しかし、それも今や凍りつき、姿を隠し始めている。別れの時が近いのかもしれない、と僕は思った。
別れ。それが醸し出す翳りがやけに癇に障る雪の午後だった。誰かに飛んでいるのが見つかって、指をさされながら奇妙がられる、そんな心地悪さが思い出される。一��目を開いてしまえば、白い夢は終わり、暖房の効いた部屋まで戻ることができる。しかし、そこには誰もいない。まだ暖かいポットの残り湯と、紅茶のカップ、そして動かなくなったパソコンしか残されていない。僕は独りなのだ。これまでも。そして、きっとこれからも。
どこへ行こうか、と僕は思う。じっと飛び続けているのにも段々疲れてきた。白く染まっていく景色の中で、僕はどうしても目を開ける気にはならなかった。そうすることに敗北のレッテルさえ貼り与えていた。とにかく、僕はどこかへ向かわなくちゃいけない。凍え堕ちてしまう前に。どこか遠くへ。
南に行こう、と僕は思い立つ。暖かいところでは、きっと何もかもが真新しく生まれ変っている。線路の分岐器すら新式で、カチッと心地よい音を立てながら、僕をこの滞った流れから弾きだしてくれることだろう。
でも、僕は知っている。誰もこの窓から逃れることはできない。人は窓であり、部屋の壁は窓であり、雪は窓なのだ。ありとあらゆるものが繋がっている。そして、僕だけが窓になれずにいる。
悲しいのかもしれない、南を目指して飛びながら僕は思う。それは力強い淋しさではない、色のない悲しさなのだ。涙が頬を伝って街へと落ちていく。すると、それは道歩く他の誰かの頬を掠める。
「ねぇ、雪だよ」と彼女が隣の誰かに向けて語りかける。
僕は目を開いて温室に舞い戻る。そして、脳裏にこびり付いた見慣れた顔を呼び醒ます。そして、答える。
「冬みたいだ」
0 notes