Tumgik
#岩鳶高校
elycchan · 5 years
Photo
Tumblr media Tumblr media
❝ I've seen this before. This sensation...I get it now. This is what I wanted. No need  to rely on or work with  other people. I just want to drift through the water alone in silence. ❞
5 notes · View notes
tinyslyblue · 8 years
Photo
Tumblr media
Ok, this is an old pic, I know, but I like it uwu The little dreamy shark🦈💕 #cosplay #cosplayer #freeiwatobiswimclub #rinmatsuoka #rincosplay #freecosplay #samezuka #samezukaacademy #uniform #crossplay #コスプレ #コスプレイヤー #鮫柄学園 #松岡凛 #free公式サイト #七瀬遙 #岩鳶高校
3 notes · View notes
isakicoto2 · 2 years
Text
つまさきになみのおと
そういえば、自分から電話することだって滅多になかったのだった。 ディスプレイに浮かぶ名前を、そっとなぞるように見つめる。漢字三文字、向かって右手側の画数が多いそれは、普段呼んでいるものよりもなんとなく遠くに感じる。同じ、たったひとりの人を指す名前なのに。こんな場面でやけに緊張しているのは、そのせいなのだろうか。うんと昔は、もっとこれに近い名前で呼んでいたくせに。本人の前でも、居ないところでだって、なんだか誇らしいような、ただ憧れのまなざしで。 訳もなく一度ベンチを立ち上がって、ゆるゆると力なく座り込んだ。ただ電話をかけるだけなのに、なんだってこんなに落ち着かないんだろう。らしくないと叱咤する自分と、考え過ぎてナーバスになっている自分が、交互に胸の中を行き来する。何度も真っ暗になる画面に触れなおして、またひとつ詰めていた息を吐き出した。 寮の廊下はしんと静まり返っていた。巡回する寮監が消していく共同部分の照明、それ以外は規定の中だけで生きているはずの消灯時間をとうに過ぎている。水泳部員の集まるこのフロアに関して言えば、週末の夜にはもう少し笑い声も聞こえてくるはずだ。け��ど、今日は夜更かしする元気もなく、すっかり寝息を立ててしまっているらしい。 午前中から半日以上かけて行われた、岩鳶高校水泳部との合同練習。夏の大きな大会が終わってからというもの緩みがちな意識を締める意味でも、そして次の世代に向けての引き継ぎの意味でも、今日の内容は濃密で、いつも以上に気合いが入っていた。 「凛先輩、今日は一段と鬼っスよぉ」 残り数本となった練習メニューのさなか、プールサイドに響き渡るくらい大きな声で、後輩の百太郎は泣き言を口にしていた。「おーい、気張れよ」「モモちゃん、ファイト!」鮫柄、岩鳶両部員から口々にそんな言葉がかけられる。けれどそんな中、同じく後輩の愛一郎が「あと一本」と飛び込む姿を見て、思うところがあったらしい。こちらが声を掛ける前に、外しかけたスイミングキャップをふたたび深く被りなおしていた。 春に部長になってからというもの、試行錯誤を繰り返しながら無我夢中で率いていたこの水泳部も、気が付けばこうやってしっかりと揺るぎのない形を成している。最近は、離れたところから眺めることも増えてきた。それは頼もしい半面、少しだけ寂しさのような気持ちを抱かせた。 たとえば、一人歩きを始めた子供を見つめるときって、こんな気持ちなのだろうか。いや、代々続くものを受け継いだだけで、一から作り上げたわけではないから、子供というのも少し違うか。けれど、決して遠くない感情ではある気がする。そんなことを考えながら、プールサイドからレーンの方に視線を移した。 四人、三人と並んでフリースタイルで泳ぐその中で、ひときわ飛沫の少ない泳ぎをしている。二人に並んで、そうして先頭に立った。ぐんぐんと前に進んでいく。ひとかきが滑らかで、やはり速い。そして綺麗だった。そのままぼんやりと目で追い続けそうになって、慌ててかぶりを振る。 「よし、終わった奴から、各自休憩を取れ。十分後目安に次のメニュー始めるぞ」 プールサイドに振り返って声を張ると、了解の意の野太い声が大きく響いた。
暗闇の中、小さく光を纏いながら目の前に佇む自動販売機が、ブウンと唸るように音を立てた。同じくらいの価格が等間隔に並んで表示されている。価格帯はおそらく公共の施設に置いてあるそれよりも少しだけ安い。その中に『売り切れ』の赤い文字がひとつ、ポツンと浮き上がるように光っている。 ふたたび、小さく吐き出すように息をついた。こんな物陰にいて、飲み物を買いに来た誰かに見られたら、きっと驚かせてしまうだろう。灯りを点けず、飲み物を選んでいるわけでも、ましてや飲んでいるわけでもない。手にしているのはダイヤル画面を表示したままの携帯電話で、ただベンチでひとり、座り込んでいるだけなのだから。 あと一歩のきっかけをどうしても掴めない。けれど同時に、画面の端に表示された時刻がそんな気持ちを追い立て、焦らせていた。もう少しで日をまたいで越えてしまう。意味もなくあまり夜更かしをしないはずの相手だから、後になればなるほどハードルが高くなってしまうのだ。 今日は遅いし、日をあらためるか。いつになく弱気な考えが頭をもたげてきたとき、不意に今日の後ろ姿が脳裏に浮かんだ。途端に息���しさのような、胸の痛みがよみがえる。やはり、このままでいたくなかった。あのままで今日を終えてしまいたくない。 焦りと重ねて、とん、と軽く押された勢いのまま、操作ボタンを動かした。ずっと踏み出せなかったのに、そこは淡々と発信画面に切り替わり、やがて無機質な呼び出し音が小さく聞こえ始めた。 耳に当てて、あまり音を立てないように深く呼吸をしながら、じっと待つ。呼び出し音が流れ続ける。長い。手元に置いていないのだろうか。固定電話もあるくせに、何のための携帯電話なのか。そんなの、今に始まったことじゃないけれど。それに留守電設定にもしていない。そもそも設定の仕方、知ってんのかな。…やけに長い。風呂か、もしくはもう寝てしまっているとか。 よく考えたら、このまま不在着信が残ってしまうほうが、なんだか気まずいな。そんな考えが浮かんできたとき、ふっと不安ごと取り上げられたみたいに呼び出し音が途切れた。 「もしもし…凛?」 繋がった。たぶん、少しだけ心拍数が上がった。ぴんと反射的に背筋が伸びる。鼓膜に届いた遙の声色は小さいけれど、不機嫌じゃない。いつもの、凪いだ水面みたいな。 そんなことを考えて思わず詰まらせた第一声を、慌てて喉から押し出した。 「よ、よぉ、ハル。遅くにわりぃな。あー、別に急ぎじゃないんだけどさ、その…今なにしてた? もう寝てたか?」 隙間なく沈黙を埋めるように、つい矢継ぎ早に並べ立ててしまった。違う、こんな風に訊くつもりじゃなかったのに。いつも通りにつとめて、早く出ろよ、とか、悪態の一つでもついてやろうと思ってたのに。これではわざとらしいことこの上なかった。 「いや…風呂に入ってきたところだ。まだ寝ない」 ぐるぐると頭の中を渦巻くそんな思いなんて知らずに、遙はいつもの調子でのんびりと答えた。ひとまず色々と問われることはなくて、良かった。ほっと胸を撫で下ろす。 「そ。それなら、良かった」 電話の向こう側に遙の家の音が聞こえる。耳を澄ませると、何かの扉を閉じる音、続けて、小さくガラスのような音が鳴った。それから、水の音、飲み下す音。 …あ、そっか、風呂上がりっつってたな。向こう側の景色が目の前に浮かぶようだった。台所の、頭上から降る白い光。まだ濡れたまま、少しのあいだ眠っているだけの料理道具たち。水滴の残るシンクは古くて所々鈍い色をしているけれど、よく手入れがされて光っている。水回りは実家よりも祖母の家に似ていて、どこか懐かしい。ハルの家、ここのところしばらく行ってないな。あの風呂も、いいな。静かで落ち着くんだよなぁ。 「それで、どうしたんだ」 ぼんやり、ぽやぽやと考えているうちに、水かお茶か、何かを飲んで一息ついた遙がおもむろに投げかけてきた。ハッと弾かれるように顔を上げ、慌てて言葉を紡ぎ出す。 「あー、いや…今日さ、そっち行けなかっただろ。悪かったな」 「…ああ、そのことか」 なるほど、合点がいったというふうに遙が小さく声を零した。 そっち、というのは遙の家のことだ。今日の合同練習の後、岩鳶の面々に「これから集まるから一緒に行かないか」と誘われていたのだった。 「明日は日曜日なんだしさ、久しぶりに、リンちゃんも行こうよ」 ねぇ、いいでしょ。練習終わりのロッカールームで渚がそう言った。濡れた髪のままで、くりくりとした大きな目を真っすぐこちらに向けて。熱心に誘ってきたのは主に彼だったけれど、怜も真琴も、他人の家である以上あまり強くは勧めてこなかったけれど、渚と同じように返事を期待しているみたいだった。当の家主はというと、どうなんだと視線を送っても、きょとんとした顔をして目を瞬かせているだけだったけれど。きっと、別に来てもいいってことなのだろう。明確に断る理由はなかったはずだった。 けれど、内心迷っていた。夏の大きな大会が終わってやっと一息ついて、岩鳶のメンバーとも久しぶりに水入らずでゆっくり過ごしたかった。それに何より、他校で寮暮らしをしている身で、遙の家に行ける機会なんてそう多くはない。その上、一番ハードルの高い『訪問する理由』というものが、今回はあらかじめ用意されているのだ。行っても良かったのだ。けれど。 「わりぃ、渚。今日は行かれねぇ」 結局、それらしい適当な理由を並べて断わってしまったのだった。ミーティングがあるからとか、休みのうちに片付けなきゃならないことがあるとか、今思えば至極どうでもいいことを理由にしていた気がする。 始めのうちは、ええーっと大きく不満の声を上げ、頬を膨らませてごねていた渚も、真琴に宥められて、しぶしぶ飲み込んだみたいだった。 「また次にな」 まるで幼い子供に言い聞かせるようにやわらかい口調につとめてそう言うと、うん、分かったと渚は小さく頷いた。そうして、きゅっと唇を噛みしめた。 「でもでも、今度こそ、絶対、ぜーったいだからね!」 渚は声のトーンを上げてそう口にした。表向きはいつものように明るくつとめていたけれど、物分かりの良いふりをしているのはすぐに知れた。ふと垣間見えた表情はうっすらと陰り曇って、最後まで完全に晴れることはなかった。なんだかひどく悪いことをしてしまったみたいで、胸の内側が痛んだ。 ハルは、どうなんだ。ちらりとふたたび視線をやる。けれど、もうすっかり興味をなくしたのか、遙はロッカーから引き出したエナメルバッグを肩に引っ掛け、ふいっと背を向けた。 「あ、ハル」隣にいた真琴が呼びかけたけれど、遙は振り返らずに、そのまま出入り口へ歩いていってしまった。こんなとき、自分にはとっさに呼び止める言葉が出てこなくて、ただ見送ることしかできない。強く引っ掛かれたみたいに、いっそう胸がちくちくした。 「なんか、ごめんね」 帰り際、真琴はそう言って困ったように微笑んだ。何が、とは言わないけれど、渚の誘いと、多分、先ほどの遙のことも指しているのだろう。 「いーって。真琴が謝ることじゃねぇだろ」 軽い調子で答えると、真琴は肩をすくめて曖昧に笑った。 「うん、まぁ、そうなんだけどさ」 そう言って向けた視線の先には、帰り支度を終えて集まる渚、怜、江、そして遙の姿があった。ゆるく小さな輪になって、渚を中心に談笑している。この方向からでは遙の顔は見えない。顔の見える皆は楽しそうに、ときどき声を立てて笑っていた。 「言わなきゃ、分からないのにね」 目を細めて、独り言のように真琴は口にした。何か返そうと言葉を探したけれど、何も言えずにそのまま口をつぐんだ。 その後、合同練習としては一旦解散して、鮫柄水泳部のみでミーティングを行うために改めて集合をかけた。ぞろぞろと整列する部員たちの向こうで、校門の方向へ向かう岩鳶水泳部員の後ろ姿がちらちらと見え隠れした。小さな溜め息と共に足元に視線を落とし、ぐっと気を入れ直して顔を上げた。遙とは今日はそれっきりだった。 「行かなくて良かったのか?」 食堂で夕食を終えて部屋に戻る道中、宗介がおもむろに口を開いてそう言った。近くで、ロッカールームでの事の一部始終を見ていたらしかった。何が、とわざわざ訊くのも癪だったので、じっとねめつけるように顔を見上げた。 「んだよ、今さら」 「別に断る理由なんてなかったんじゃねぇか」 ぐっと喉が詰まる。まるで全部見透かしたみたいに。その表情は心なしか、成り行きを楽しんでいるようにも見えた。 「…うっせぇよ」 小さく舌打ちをして、その脚を軽く蹴とばしてやる。宗介は一歩前によろけて、いてぇなと声を上げた。けれどすぐに、くつくつと喉を鳴らして愉快そうに笑っていた。 「顔にでっかく書いてあんだよ」 ここぞとばかりに、面白がりやがって。
それから風呂に入っても、言い訳に使った課題に手を付けていても、ずっと何かがつかえたままだった。宗介にはああいう態度をとったものの、やはり気にかかって仕方がない。ちょっとどころではない、悪いことをしてしまったみたいだった。 だからなのか、電話をしようと思った。他でもなく、遙に。今日の後ろ姿から、記憶を上塗りしたかった。そうしなければ、ずっと胸が苦しいままだった。とにかくすぐに、その声が聞きたいと思った。 寮全体が寝静まった頃を見計らって、携帯電話片手にひと気のない場所を探した。いざ発信する段階になってから、きっかけが掴めなくて踏ん切りがつかずに、やけに悩んで時間がかかってしまったけれど。 それでも、やっとこうして、無事に遙と通話するに至ったのだった。 「…らしくないな、凛が自分からそんなこと言い出すなんて」 こちらの言葉を受けて、たっぷりと間を置いてから遙は言った。そんなの自分でも分かっているつもりだったけれど、改まってそう言われてしまうと、なんとなく恥ずかしい。じわじわと広がって、両頬が熱くなる。 「んだよ、いいだろ別に。そういうときもあんだよ」 「まぁ、いいけど」 遙は浅く笑ったみたいだった。きっと少しだけ肩を揺らして。風がそよぐような、さらさらとした声だった。 「でも、渚がすごく残念がってた」 「ん…それは、悪かったよ」 あのときの渚の表情を思い浮かべて、ぐっと胸が詰まる思いがした。自分のした返事一つであんなに気落ちさせてしまったことはやはり気がかりで、後悔していた。いっつもつれない、なんて、妹の江にも言われ続けていたことだったけれど。たまにはわがままを聞いてやるべきだったのかもしれない。近いうちにかならず埋め合わせをしようと心に決めている。 「次に会うときにちゃんと言ってやれ」 「そうする」 答えたのち、ふっとあることに気が付いた。 「そういえば、渚たちは?」 渚の口ぶりから、てっきり今晩は遙の家でお泊り会にでもなっているのだと思っていた。ところが電話の向こう側からは話し声どころか、遙以外のひとの気配さえないようだった。 「ああ。晩飯前には帰っていった」 「…そっか」 つい、沈んだ声色になってしまった。何でもないみたいにさらりと遙は答えたけれど、早々にお開きになったのは、やはり自分が行かなかったせいだろうか。過ぎたことをあまり考えてもどうにもならないけれど、それでも引っ掛かってしまう。 しばらく沈黙を置いて、それからおもむろに、先に口を開いたのは遙の方だった。 「言っておくが、そもそも人数分泊める用意なんてしてなかったからな」 渚のお願いは、いつも突然だよな。遙は少し困ったように笑ってそう言った。ぱちりぱちりと目を瞬かせながら、ゆっくりと状況を飲み込んだ。なんだか、こんな遙は珍しかった。やわらかくて、なにか膜のようなものがなくて、まるで触れられそうなくらいに近くて、すぐ傍にいる。 そうだな、とつられて笑みをこぼしたけれど、同時に胸の内側があまく締め付けられていた。気を抜けば、そのまま惚けてしまいそうだった。 そうして、ぽつんとふたたび沈黙が落ちた。はっとして、取り出せる言葉を慌てて探した。だんだんと降り積もるのが分かるのに、こういうとき、何から話せばいいのか分からない。そんなことをしていたら先に問われるか離れてしまうか。そう思っていたのに、遙は何も訊かずに、黙ってそこにいてくれた。 「えっと」 ようやく声が出た。小石につまづいてよろけたように、それは不格好だったけれど。 「あ、あのさ、ハル」 「ん?」 それは、やっと、でもなく、突然のこと、でもなく。遙は電話越しにそっと拾ってくれた。ただそれだけのことなのに、胸がいっぱいになる。ぐっとせり上がって、その表面が波打った。目元がじわりと熱くなるのが分かった。 「どうした、凛」 言葉に詰まっていると、そっと覗き込むように問われた。その声はひどく穏やかでやわらかい。だめだ。遙がときどき見せてくれるこの一面に、もう気付いてしまったのだった。それを心地よく感じていることも。そうして、知る前には戻れなくなってしまった。もう、どうしようもないのだった。 「…いや、わりぃ。やっぱなんでもねぇ」 切り出したものの、後には続かなかった。ゆるく首を振って、ごまかすようにつま先を揺らして、わざと軽い調子で、何でもないみたいにそう言った。 遙は「そうか」とひとつ返事をして、深く問い詰めることはしなかった。 そうしていくつか言葉を交わした後に、「じゃあまたな」と締めくくって、通話を切った。 ひとりになった瞬間、項垂れるようにして、肺の中に溜め込んでいた息を長く長く吐き出した。そうしてゆっくりと深呼吸をして、新しい空気を取り入れた。ずっと潜水していた深い場所から上がってきたみたいだった。 唇を閉じると、しんと静寂が辺りを包んでいた。ただ目の前にある自動販売機は、変わらず小さく唸り続けている。手の中にある携帯電話を見やると、自動で待ち受け状態に戻っていた。まるで何ごともなかったみたいに、日付はまだ今日のままだった。夢ではない証しのように充電だけが僅かに減っていた。 明るさがワントーン落ちて、やがて画面は真っ暗になった。そっと親指の腹で撫でながら、今のはきっと、「おやすみ」と言えば良かったんだと気が付いた。
なんだか全身が火照っているような気がして、屋外で涼んでから部屋に戻ることにした。同室の宗介は、少なくとも部屋を出てくるときには既に床に就いていたけれど、この空気を纏って戻るのは気が引けた。 寮の玄関口の扉は既に施錠されていた。こっそりと内側から錠を開けて、外に抜け出る。施錠後の玄関の出入りは、事前申請がない限り基本的には禁止されている。防犯の観点からも推奨はできない。ただ手口だけは簡単なので、施錠後もこっそり出入りする寮生が少なくないのが実情だった。 そういえば、前にこれをやって呼び出しを受けた寮生がいたと聞いた。そいつはそのまま校門から学校自体を抜け出して、挙げ句無断外泊して大目玉を食らったらしいけれど、さすがに夜風にあたる目的で表の中庭を歩くくらいなら、たとえばれたとしてもそこまでお咎めを受けることはないだろう。何なら、プールに忘れものをしたから取りに行ったとでも言えばいい。 そうして誰もいない寮の中庭を、ゆっくりと歩いた。まるで夜の中に浸かったみたいなその場所を、あてもなくただ浮かんで揺蕩うように。オレンジがかった外灯の光が点々とあちこちに広がって、影に濃淡をつくっている。空を仰ぐと、雲がかかって鈍い色をしていた。そういえば、未明から雨が降ると予報で伝えていたのを思い出した。 弱い風の吹く夜だった。時折近くの木の葉がかすかに揺れて、さわさわと音を立てた。気が付けば、ほんの半月ほど前まで残っていたはずの夏の匂いは、もうすっかりしなくなっていた。 寝巻代わりの半袖に綿のパーカーを羽織っていたので、さして寒さは感じない。けれど、ここから肌寒くなるのはあっという間だ。衣替えもして、そろそろ着るものも考えなければならない。 夏が過ぎ去って、あの熱い時間からもしばらく経って、秋を歩く今、夜はこれから一足先に冬へ向かおうとしている。まどろんでいるうちに瞼が落ちているように、きっとすぐに冬はやってくる。じきに雪が降る。そうして年を越して、降る雪が積もり始めて、何度か溶けて積もってを繰り返して、その頃にはもう目前に控えているのだ。この場所を出て、この地を離れて、はるか遠くへ行くということ。 たったひとつを除いては、別れは自分から選んできた。昔からずっとそうだった。走り出したら振り返らなかった。自分が抱く信念や想いのために、自分で何もかも決めたことなのに、後ろ髪を引かれているわけではないのに、最近はときどきこうやって考える。 誰かと離れがたいなんて、考えなかった。考えてこなかった。今だってそうかと言えばそうじゃない。半年も前のことだったらともかく、今やそれぞれ進むべき道が定まりつつある。信じて、ひたむきに、ただ前へ進めばいいだけだ。 けれど、なぜだろう。 ときどき無性に、理由もなく、どうしようもなく、遙に会いたくなる。
ふと、ポケットに入れていた携帯電話が震え出したのに気が付いた。メールにしては長い。どうやら電話着信のようだった。一旦足を止め、手早く取り出して確認する。 ディスプレイには、登録済みの名前が浮かんでいる。その発信者名を目にするなり、どきりと心臓が跳ねた。 「も、もしもし、ハル?」 逡巡する間もなく、気が付けば反射的に受話ボタンを押していた。慌てて出てしまったのは、きっと遙にも知れた。 「凛」 けれど、今はそれでも良かった。その声で名を呼ばれると、また隅々にまで血が巡っていって、じんわりと体温が上がる。 「悪い、起こしたか」 「や、まだ寝てなかったから…」 そわそわと、目にかかった前髪を指でよける。立ち止まったままの足先が落ち着かず、ゆるい振り子のように小さくかかとを揺らす。スニーカーの底で砂と地面が擦れて、ざりりっと音を立てた。 「…外に出てるのか? 風の音がする」 「あー、うん、ちょっとな。散歩してた」 まさか、お前と話して、どきどきして顔が火照ったから涼んでるんだ、なんて口が裂けても言えない。胸の下で相変わらず心臓は速く打っているけれど、ここは先に会話の主導権を握ってしまう方がいい。背筋を伸ばして、口角をゆるく上げた。 「それより、もう日も跨いじまったぜ。なんだよ、あらたまって。もしかして、うちのプールに忘れもんしたか?」 調子が戻ってきた。ようやく笑って、冗談交じりの軽口も叩けるようになってきた。 「プールには、忘れてない」 「んだよ、ホントに忘れたのかよ」 「そういうことじゃない」 「…なんかよく分かんねぇけど」 「ん…そうだな。だけど、その」 遙にしては珍しい、はっきりとしない物言いに首を傾げる。言葉をひとつずつひっくり返して確かめるようにして、遙は言いよどみながら、ぽつぽつと告げてきた。 「…いや、さっき凛が…何か、言いかけてただろ。やっぱり、気になって。それで」 そう続けた遙の声は小さく、言葉は尻切れだった。恥ずかしそうに、すいと視線を逸らしたのが電話越しにも分かった。 どこかが震えたような気がした。身体の内側のどこか、触れられないところ。 「…はは。それで、なんだよ。それが忘れもの? おれのことが気になって仕方なくって、それでわざわざ電話��てきたのかよ」 精一杯虚勢を張って、そうやってわざと冗談めかした。そうしなければ、覆い隠していたその存在を表に出してしまいそうだった。喉を鳴らして笑っているつもりなのに、唇が小さく震えそうだった。 遙はこちらの問いかけには返事をせずに、けれど無言で、そうだ、と肯定した。 「凛の考えてることが知りたい」 だから。そっとひとつ前置きをして、遙は言った。 「聞かせてほしい」 凛。それは静かに押し寄せる波みたいだった。胸に迫って、どうしようもなかった。 顔が、熱い。燃えるように熱い。視界の半分が滲んだ。泣きたいわけじゃないのに、じわりと表面が波打った。 きっと。きっと知らなかった頃には、こんなことにも、ただ冗談めかして、ごまかすだけで終わらせていた。 ハル。きゅっと強く、目を瞑った。胸が苦しい。汗ばんだ手のひらを心臓の上にそっとのせて、ゆるく掴むように握った。 今はもう知っているから。こんなに苦しいのも、こんなに嬉しいのも、理由はたったひとつだった。ひたひたといっぱいに満たされた胸の内で、何度も唱えていた。 「…凛? 聞いてるのか」 遙の声がする。黙ったままだから、きっとほんの少し眉を寄せて、怪訝そうな顔をしている。 「ん、聞いてる」 聞いてるよ。心の中で唱え続ける。 だって声、聞きたいしさ、知りたい。知りてぇもん。おれだって、ハルのこと。 「ちゃんと言うから」 開いた唇からこぼれた声はふわふわとして、なんだか自分のものではないうわ言みたいで、おかしかった。 できるだけいつも通りに、まるで重しを付けて喋るように努めた。こんなの、格好悪くて仕方がない。手の甲を頬に当ててみた。そこはじんわりと熱をもっている。きっと鏡で見たら、ほんのりと紅く色づいているのだろう。はぁ、とかすかに吐き出した息は熱くこもっていた。 「あのさ、ハル」 差し出す瞬間は、いつだってどきどきする。心臓がつぶれてしまいそうなくらい。こんなに毎日鍛えているのに、こういうとき、どうにもならないんだな。夜の中の電話越しで、良かった。面と向かえば、次の朝になれば、きっと言えなかった。 「こ、今度、行っていいか、ハルの家」 上擦った調子で、小さく勢いづいてそう言った。ひとりで、とはついに言えなかったけれど。 「行きたい」 触れた手のひらの下で、どくどく、と心臓が弾むように鳴っているのが分かる。 無言のまま、少し間が開いた。少しなのに、果てしなく長く感じられる。やがて遙は、ほころんだみたいに淡く笑みを零した。そうして静かに言葉を紡いだ。 「…うん、いつでも来い」 顔は見えないけれど、それはひらかれた声だった。すべてゆるんで、溢れ出しそうだった。頑張って、堪えたけれど。 待ってる。最後に、かすかに音として聞こえた気がしたけれど、本当に遙がそう言ったのかは分からなかった。ほとんど息ばかりのそれは風の音だったのかもしれないし、あるいは別の言葉を、自分がそう聞きたかっただけなのかもしれない。あえて訊き返さずに、この夜の中に漂わせておくことにした。 「それまでに、ちゃんと布団も干しておく」 続けてそう告げる遙の声に、今度は迷いも揺らぎも見えなかった。ただ真っすぐ伝えてくるものだから、おかしくてつい吹き出してしまった。 「…ふっ、はは、泊まる前提なのかよ」 「違うのか」 「違わねぇけどさ」 「なら、いい」 「うん」 くるくると喉を鳴らして笑った。肩を揺らしていると、耳元で、遙の控えめな笑い声も聞こえてきた。 いま、その顔が見たいな。目を細めると、睫毛越しに外灯のオレンジ色の光が煌めいて、辺りがきらきらと輝いて見えた。 それから他愛のない会話をひとつふたつと交わして、あらためて、そろそろ、とどちらともなく話を折りたたんだ。本当は名残惜しいような気持ちも抱いていることを、今夜くらいは素直に認めようと思った。口にはしないし、そんなのきっと、自分ばっかりなのだろうけど。 「遅くまでわりぃな。また連絡する」 「ああ」 そうして、さっき言えなかったことを胸の内で丁寧になぞって、そっと唇に乗せた。 「じゃあ、おやすみ」 「おやすみ」
地に足がつかないとは、こういうことなのかもしれない。中庭から、玄関口、廊下を通ってきたのに、ほとんどその意識がなかった。幸い、誰かに見つかることはなかったけれど。 終始ふわふわとした心地で、けれど音を立てないように、部屋のドアをいつもより小さく開けて身体を滑り込ませた。カーテンを閉め切った部屋の中は暗く、しんと静まっていた。宗介は見かけに反して、意外と静かに眠るのだ。あるいは、ただ寝たふりなのかもしれないけれど。息をひそめて、自分のベッドに潜り込んだ。何か言われるだろうかと思ったけれど、とうとう声は降ってこなかった。 横向きに寝転んで目を閉じるけれど、意識がなかなか寝に入らない。夜は普段言えない気持ちがするすると顔を出してきて、気が付けば口にしているんだって。あの夏にもあったことなのに。 重なったつま先を擦りつけあう。深く呼吸を繰り返す。首筋にそっと触れると、上がった体温でうっすら汗ばんでいた。 なんか、熱出たときみてぇ。こんなの自分の身体じゃないみたい���った。心臓だって、まだトクトクと高鳴ったまま静まらない。 ふっと、あのときの声が聞こえた気がした。訊き返さなかったけれど、そう思っていていいのかな。分からない。リンは奥手だから、といつだかホストファミリーにも笑われた気がする。だって、むずかしい。その正体はまだよく分からなかった。 枕に顔を埋めて、頭の先まで掛け布団を被った。目をぎゅっと瞑っても、その声が波のように、何度も何度も耳元で寄せては引いた。胸の内側がまだいっぱいに満たされていた。むずむず、そわそわ。それから、どきどき。 ああ、でも、わくわくする。たとえるなら、何だろう。そう、まるで穏やかな春の、波打ち際に立っているみたいに。
---------------------------
(2018/03/18)
両片想いアンソロジーに寄稿させていただいた作品です。
2 notes · View notes
kyoya-itata · 3 years
Text
このところずっと頭の中でLaughterのイントロが流れているのはなぜだろう。公式YouTubeを眺めていて気がついた、アップロード日時が2020年7月17日であることに。昨年の今頃、私はいろいろなことを思いながらこの曲を聴いていたのだ。動画のコメント欄を見ると、多くの人々がこの曲に祈りを託していることが伝わってくる。
音楽を聴いて誰が何を思おうと制御することはできないしむしろ自由だ。時として作り手の意図に反することもあるだろう。それでも言わせてほしい。
この歌が7月と共にあることが救いです。音楽は永遠だから。
もしもこの文を読んだために曲の捉え方が変わってしまった人がいたら余計なことをしたものだと思う。お詫びします。聴いてほしい気持ちに勝てなかった。こんなに美しい和音の連なりが生まれる地球で暮らせて幸せなので。特にAメロの伴奏は言葉にできない。
Music videoは美しい物たちで溢れた6分の映画です。私がこれ以上ごしゃごしゃ言うよりも再生するが早い。
https://www.youtube.com/watch?v=kff_DXor7jc
Reach for answerのこともまだまだ話し足りない。ご存知ない方にご紹介すると、Reach for answerは『Free! 劇場版-Road to the World- 夢』の劇伴であり、遙(主人公)が卒業したあとの岩鳶高校水泳部のメンバーたちが大会でリレーを泳ぐシーンで流れている。新入部員のロミオくんがフライングの恐怖を克服する印象的な場面だ。名作だらけのFree!劇伴の中で、私は特に強い思い入れを抱いている。
Blue DestinationをベースとしながらEVER BLUEがこんなに美しく織り込まれているなんて、加藤さんは本当にすごい方です(みんな知ってる)。私のお気に入りポイントは0:58からどんどんと音形が上がっていくところで、翼が生えたように空を感じる。これまで遙がいないのに遙の存在を感じる曲だったのが、完全新作劇場版ティザーPVによりどんぴしゃで遙の曲になってしまったんだな。いまだにPVを再生すると0:37でぶわりと涙が出てくる。
https://www.youtube.com/watch?v=FBwLJWcTBaE
私のピアノを聴いてFree!面白そうだな、昔やめたけどまた続きを観てみようかなと思う人が現れたら、こんなに嬉しいことはありません。なぜ明るい選曲をと違和感を持たれたかもしれないが、半分そのために投稿しました。
皆さんの心に寄り添う音楽がありますように。
大好きな人たちの元に笑顔がありますように。
2021. 7
2 notes · View notes
mynisepanda · 5 years
Text
Tumblr media Tumblr media Tumblr media Tumblr media Tumblr media Tumblr media Tumblr media Tumblr media
Free! Link up smile! -birthday-
-> 岩鳶高校 Iwatobi + Samezuka 鮫柄学園
30 notes · View notes
xiaorawr · 7 years
Photo
Tumblr media
Stay tuned for something exciting today...! 👀❤️🙏 Guess what’s happening this afternoon? PC: @sumikofotophotography . . . . . . . #iwatobi #cosplay #anime #kawaii #nagisahazuki #swimminganime #free #splashfree #thugisa #hazukinagisa #nagisa #gayswimming #genderbend #genderswap #coser #cosplayersofinstagram #cosplayphotography #cosplayphotoshoot #model #sportsanime #kyoani #throwback #animegirl #animebabe #コスプレ #葉月渚 #岩鳶高校
0 notes
ssuziii · 5 years
Text
[凜遙]後日談
本來是在寫同居三十題的相擁入眠,後來跑題了乾脆獨立出來吧xD
時間軸按照官方
隨心所欲的寫,自己很喜歡的一篇(* ॑꒳ ॑* )
/
  在澳洲的時候他們是背對背睡著的,松岡凜沒說出口的是,他其實很想擁抱對方。
  接到真琴的電話以後,他能想到的就只有帶遙去看看澳洲的海水,去體會他體會過的那些激昂澎湃的心情。不知道有多久沒有和遙單獨相處,從下飛機開始他的腳步就快得讓遙差點追不上,他不停地在腦中思考如何組織語言,畢竟突然要對方跟自己去一趟澳洲怎麼想都很荒謬,更荒謬的是遙居然答應了。
  「……我啊,一直都很憧憬你。」
  在各種句子排列組合後,凜吐出的是這句,他真的尷尬到想立刻消失。
  摸摸後腦杓要遙跟上,沒有特別著墨那句話想表達的意思,逕自帶遙去他和維尼一起看海的那個沙灘。他跟遙說了他在澳洲的故事——一直以來都只有宗介知道的那些,遙是第二個。他當初怕遙知道他在澳洲挫敗的樣子一直沒有說出口,自尊心也告訴自己不能讓自己脆弱的樣子被他看見,然而當遙將自己蜷縮在沙灘上對海水不聞不問的時候,他突然有些心疼。
  他心疼遙在水裡得不到自由,也害怕再也沒有機會和遙一起游泳,被喜歡的事物束縛住該有多麼痛苦啊,這點他不是最清楚的嗎。
  他帶著遙去看了他看過的風景,那時的自己是孤身一人,只能望著海平面思念著幾千幾萬公里外的人,可是現在,那個人就在身旁。
  「——我希望你一直走在我的前面,你得比我走得更高更遠才行。」
  凜閉著眼睛,眼前浮現的是第一次見到遙的時候他輕輕甩掉頭髮上水珠,眼神平和,與世無爭自由自在的樣子,從那時起他就一直在追逐那個人,每一次遙在水裡擺動著雙腿,他就覺得遙是人魚,不小心就會變成泡沫,所以他一直小心翼翼地不要被他發現自己有多麼喜歡他。
  他問:「遙,那時候你沒有感覺到什麼嗎?」
  飯店插的百合花散發著淡淡清香,和遙的沉默一起飄散在空氣中,凜看著他的背影想伸出手,理性卻又告訴自己該止住,他用盡所有的力氣告訴人魚他有多想和他一起在湛藍的海裡游泳,可是人魚沒有回答。
  回國以後就是全國大賽,凜同他鮫柄的隊友和遙在決賽上相遇,接力到最後一棒時鮫柄稍微領先,凜縱身一躍,緊接在後是岩鳶的隊伍,遙約以零點幾秒之差跳入水中,一直到轉身前凜都保持領先,但是後方卻有股不容忽視的力量,強烈的水波在泳池裡翻騰,凜加快了划水的速度卻擺脫不了在後方緊咬的遙,於是他們平行僵持,在終點前十公尺內凜被超越了,以微秒之差輸給了遙。
  那天岩鳶走得很快,凜也得整理部員,他沒有多餘的時間去找遙。
  所以晚上他約遙到岩鳶國小看看那棵櫻花樹,天氣還有點涼,尚不是開花的時節,但是隱約能看到幾朵花苞正在等待開放。
  「今天你的表現真是棒呆了!」他說。
  「你也是。」
  遙淡淡地笑著,從澳洲回來後他認為追求速度的競泳也未嘗不是個選擇,他開始想要站上世界的舞臺,和凜一起。
  「……遙,你知道的吧,之前在澳洲的教練問我要不要回去。」
  「嗯。」
  「一直以來我都追求著勝負,但是對我來說更重要的是夥伴,雖然去了澳洲就是個人賽的訓練,可能暫時沒辦法游接力了,但是我不會放棄的,不管是過去還是現在,我都喜歡和你們一起游接力的感覺。」
  他突然有點想哭,喉嚨像是哽著什麼似的無法呼吸,很快就要春天了,到那時,他就會離開,離開岩鳶町、離開鮫柄、離開遙。
  「凜?」遙發現對方不太對勁,忍不住開口喊他的名字。
  「……你會來找我吧?」他低語。
  「什麽?」
  「我們用不同的方式站上世界的舞臺,到那時你會來找我的吧?」
  凜把頭抬起來,視線對上遙那雙湛藍的眼眸,遙回答:「會的。」
  他眼角一熱,終於忍不住哭泣,他好想在那雙眸子裡永存,他希望遙只看著他,如果藍色的眼睛是海,那他就是魚,魚不能離開海洋,就像他自己無法想像離開七瀬遙。
  六年前去澳洲的時候他每天都在想念他,寫了信卻不敢寄出去只好寄給宗介,但他不知道宗介早已把那封信交給遙,更不知道遙一直都將它好好收著,他只知道在澳洲每個難過痛苦的日子,只要想到海洋另一端的遙他就能撐下去。
  可如今逐漸膨脹的心情已經快要撐不住了,他不想離開遙也不想放棄夢想,他覺得自己真是個貪心的大爛人。
  「吶遙……」他吞吐,語氣中還有剛剛哭過的鼻音:
  「你會不會捨不得我?」
  聞言,遙的臉上閃過一絲驚慌,像是心思被人看透那般,他皺著眉頭,無意識地張開嘴想說什麼,又被他吞了回去,他不知道現在應該看未開花的櫻花樹,還是有他們兩個足跡的沙地——或是凜。
  「我……」
  「我啊,可是超級捨不得你的啊。」
  正想開口,凜先說話了,他露出他尖尖的牙齒輕笑,沒有看遙,只是低著頭露出悵然若失的表情。
  「我說過我在澳洲的那段時間常常過得很不順利對吧?可是每一次當我到海邊的時候,我都會想,在這片海的另一端有你在,想到這裡,我就覺得什麼困難我都能克服。」
  「那你當初回來還那麼盛氣凌人的樣子。」
  「抱歉,因為那時被勝負沖昏頭了嘛。」
  他笑著轉過頭,繼續說:「我原本以為我能和那時候一樣,靠著想念你就能度過,可是越接近離開的時間,我才發現我沒辦法將你放下。」
  「凜……你……」
  「……因為我真的好喜歡你啊。」
  語畢,凜赤色的眼睛泛起淚光,就像日暮時分夕陽下的波浪。
  他一邊用手胡亂抹掉臉上的眼淚,但淚水卻無法停止地湧出,他低低咒罵:「可惡……都幾歲了還哭成這樣,有夠丟臉……」
  「我會。」
  「哈?」
  「我說我會捨不得你。」
  凜疑惑的看著遙,而對方則是一如既往那個冷漠的表情。
  「你去澳洲的那陣子,我才發現你不在我身邊我有多寂寞。」他說。「是你告訴我接力的美好,初中一年級我還認識了幾個新的夥伴,我們一起游了接力,可是當棒次傳到我這裡而那不是你的時候我卻覺得心裡很不好受。」
  遙撇過頭,凜注意到他的耳朵微微泛紅,他不知道那是不是他所想的樣子,不過至少知道自己沒有被討厭,他鬆了一大口氣。
  「而且其實,山崎有把一封信交給我。」
  「宗介!?什麼時候……」
  「初中一年級,比賽的時候有遇到。」
  「可惡……那傢伙……」
  凜記得那一封信,他本來想寄給遙,卻不好意思,只好把遙的名字全部改掉寄給宗介,想到那些內容很早就被遙看過了,他尷尬得漲紅了臉,咬牙切齒心想明天去學校絕對要胖揍那個混帳。
  「凜,你不在的這段時間我會精進自己,然後追上你,到時候再來一決勝負吧。」
  凜聽完以後噗哧出聲,抱著肚子大笑:「不愧是遙啊,我剛剛的告白頓時都不浪漫了。」
  遙不悅地皺眉,喂了幾聲都被笑聲掩蓋,他惱怒得正想轉身卻被凜抓住手腕,和過去不同,凜的力道很輕,像是試探,不用太用力就能掙���,可是遙並沒有甩開。
  「我會非常想你的,遙。」
  遙臉上的紅暈從耳尖蔓延到臉頰,他低下頭,下意識地用另一隻手遮住臉,凜看著他,問道:「我能抱你嗎?」
  「喂……你在說什……」
  「如果不可以的話就拒絕我啊。」
  「……也不是、不行……」
  止不住的笑意綻放在凜的嘴角,他伸出雙臂將遙抱緊。自從發現自己喜歡遙以後他沒有一天不想這麼做,就連他們一起去澳洲對他而言都像是一場夢,而現在他卻真真切切的感受到遙急促的心跳和自己的重疊,這不是夢。
  那天晚上凜向宿舍申請了外宿一日,理由是回家探親。
  他去了遙家,吃他做的鯖魚飯,聊了在澳洲的故事,遙也講了中學時候的事。在凜又一遍一遍強調自己多麼喜歡遙的時候,遙忍不住躲到浴室冷靜,凜就蹲在外面等他。
  其實他超想衝進去的。
  關燈以後他們親吻彼此,然後哪一方都不願先闔眼,凜將手放在遙的腰際,另一手輕輕撫摸他的頭髮,他想著,閉眼的前一刻看見的是遙,睜眼後第一個見到的也是遙,他的身影、他的睫毛、他的頭髮,他都想好好記著,然後帶著這份心情前往澳洲,因為他知道海的另一端有遙在,僅僅這點就讓他感到喜悅。
  凜在遙的眼裡看見了自己,他想,他終於找到了容身的海洋。
END
2 notes · View notes
kachoushi · 4 years
Text
星辰選集
花鳥誌 令和2年9月号
Tumblr media
令和2年6月号の掲載句より再選
坊城俊樹選
この星辰選集は、私が各月の掲載句の中で、雑詠選・撰集選・さいかち集の成績などに関係なく、改めて俳句としての価値が優れていると判断したものを再度選句したものです。 言わば、その号における珠玉の俳句ということになります。
Tumblr media
鶯をきく日きかぬ日百度踏む 小林 敏朗 仕舞屋の路地まで染めて春入日 渡辺 光子 凭れ合ひ深き眠りに納め雛 小県 孝子 並べ売るブリキのおもちや街うらら 岡田 圭子 絵踏せし外海高き耶蘇の村 池松 伸子 海神の赦しの波へ雛流す 田原 悦子 母の日の灯台母の灯なりけり 続木 一雄 踏むがよし神の啓示の絵踏かな 樋口 千代 揚雲雀父と立ちし野探しをり 勢木 宇太郎
Tumblr media
梅蕾むみつしりと枝古りたれば 栗林 圭魚 春愁や形をなさぬ雲ばかり 比嘉 幸子 流し雛穢れを水に祓ひつつ 西村 史子 数式を誦文のごとく受験生 鈴木 月惑 舞姫の文語に惑ふ春の雷 四宮 慶月 枝先に春見つけたり車椅子 木下 茂 遠からず近からず置く落椿 松井 秋尚 春泥にすき込まれたるタイヤ跡 山家 有有 一寸の針の重さや針供養 古賀 睦子
Tumblr media
鳶去りて野は次々と雲雀揚げ 鍛治屋 都 青蔓の雁字搦めの空屋かな 四本木 ただし 芭蕉朝寝して春潮に起こさるる 加納 佑天 干し蛸のラインダンスや島の春 加藤 清美 潮鳴りに木の根開くや其処彼処 赤川 誓城 沈黙の音なき音や白椿 野口 孝子 うぐひすや門柱細き尼の寺 藤野 和魚 無心にはなれぬ我をり野火みつめ 山田 あき子 啓蟄の雨に解かれて跳ぬるもの 沢井 真弓
Tumblr media
代々の土に還らん落椿 有川 公子 沈降の海に祈りの風光る 竹下 雅子 そのかみの絵踏の空の響動せる 渡辺 美穂 春水や水切り石に向き不向き 飯嶋 山紫 遠き日の運針下手や山笑ふ 白神 照恵 紅椿地蔵三尊眠らせず 飯川 三無 着弾に僅か震へし富士桜 岩原 磁利 早や蟻の穴を出でをり走りをり 今井 美佐 春雷や光ましたる仁王の眼 村山 美智子
Tumblr media
裸婦像にふれては消ゆる春の雪 太宰 裕四郎 痛む妻がもつとも春を待つてをり 三浦 一明 来し方のさくら万朶でありにけり 河野 公世 奥座敷女帝三代雛飾る 坂野 柏葉 校庭が別れの渦に卒業生 近藤 数幸 囚徒らの自給自足や耕せり 山崎 肆子 落人の天空の地を耕せり 藤田 克弘 耕人の畦や昼餉と文庫本 田丸 千種 わが国を豊かにせんと耕せる 岩田 好松
0 notes
elycchan · 6 years
Photo
Tumblr media
🐬🐬🐬
4 notes · View notes
jiahuei314-blog · 7 years
Text
<邀約--SPA體驗>體驗法式優雅的芳香奧秘~Darphin 反轉肌齡護膚會~為妳打造逆齡的神奇蹟
Tumblr media
大家平常會做SPA嗎??
我其實一直到去年認識這個品牌之後才體驗人生第一次的SPA~~~然後覺得...原來做SPA這麼的舒服啊!!!!!!
真心覺得偶爾做做SPA不僅可以讓自己更美麗~最重要的是在過程中有種紓壓放鬆的感覺
完完全全是現代人必備的一種新運動~~XDD   放鬆做SPA!!!
畢竟現在的人壓力實在是太大~~工時長 薪水少 房價物價漲~加上很多年輕人一出社會就是好幾10萬的學貸
適當的舒壓是很重要的~~
我以前的紓壓方法其實蠻簡單的就是趁假日的時候放空休息看看韓劇~玩玩彩妝~偶爾跟朋友出去踏青
但自從認識Darphin 體驗了人生第一場芳香SPA之後  我就把SPA排進了我的舒壓選單裏頭了~~
這次要來分享的就是Darphin的護膚會~
Tumblr media
Darphin這次的護膚主要是以抗老為主~~
在護膚的過程當中會使用他們家的經典產品以及這次推出的抗老新品來護膚
我體驗的櫃點是 信義新光三越A8館 Darphin櫃點
其實我去年年底也有在這裡做過一次護膚~~因為去年周年慶我終於入手他們家的舒敏精華了!!!
然後今年居然可以跟Darphin合作體驗護膚~~真的是太令人開心了(拍手歡呼~~~)
以下就讓我來好好地分享一下體驗的過程還有心得吧~~~
Tumblr media
我之所以會接觸Darphin 是因為我自己是敏感性肌膚
再加上我很喜歡的部落客 Nancy推薦他們家的舒敏精華 所以我才靠櫃試用
他們家的櫃姐我覺得都散發著法式女人的優雅~~講話很溫柔 介紹產品也很仔細
然後我很喜歡的是他們不會因為你是新客就不太理你~反而會很認真耐心地介紹他們家��產品並且詢問你的膚質狀況
幫你挑選比較適合的產品  然後拿試用包讓你帶回家使用
並不會在第一時間就想著要讓你把錢拿出來的感覺!!!
這是我在其他櫃點所看不到的~~~大推大推!!!
Tumblr media
簡單的來介紹一下Darphni這個品牌~~
Darphin是巴黎頂級的芳療護膚品牌
以天然植物精萃以及創新的技術創造法式香氛療法保養
他們的每一瓶精華液都經過了10-18道工序製作~所以每一瓶都是相當精純的! 功能也相當的完善
藉由多層次的保養手法為肌膚平衡排毒 舒緩泛紅~使肌膚回復年輕健康
 另外~Darphin的保養品感覺好像沒有多少~~但其實認真算起來也是很多種的
 而且他們會根據不同膚質來量身打造屬於自己適合的保養品
這也是為什麼妳靠饋的時候櫃姐都會詢問你的膚質狀況
除此之外~因為他們家是芳療品牌
所以很多產品都會有珍貴的植物精粹--精油   精露 
這些在芳療的領域來說~是屬於具有功能性的成分之一~~所以在使用過後是真的可以感覺得到肌膚有改變!!
Tumblr media
A8的櫃點因為比較小~~但其實也是五臟俱全
他們的護膚室就在櫃位後方的小房間內~~
Tumblr media
一進去之後就是有張床~上面已經鋪好毛毯
因為當天比較冷一點~~櫃姐還很貼心地幫我準備的電毯!!
Tumblr media
台車上擺滿護膚會使用到的保養品及用具
Tumblr media
跟去年來的時候幾乎一模一樣呢~~哈
Tumblr media
雖然是臉部護膚~但其實整個過程都還是會帶到脖子跟胸前
所以必須把上衣給換掉~~他們會準備乾淨的簡便浴衣~
建議可以穿平口的內衣會比較方便~~我當天是下班就直接過去~所以也沒時間回去換!!
換好之後就可以準備躺平在護膚床上等著見周公拉~~~疑~不對...是見櫃姐拉 XDD
Tumblr media
這次的護膚體驗的主題是 ""反轉肌齡護膚會""
簡單的來說就是一場抗老的護膚體驗~~
過程中會使用很多精油  精露 以及乳霜~
以下就依過程來一一介紹
霸特~~我去體驗的當天只有一個櫃姐 (原本想請其他櫃姐幫忙拍照)  再加上我感冒
護膚過程除了放鬆之外就是一直想著不要咳嗽~不然把感冒傳染給櫃姐就不好了~~~
所以就是手握著準備要拍照的手機~~忍著咳嗽享受護膚~
完完全全忘了拍體驗過程照這件事情!!!  (汗顏) 
然後這次的體驗讓我更愛更愛Darphin了至於發生了什麼事就讓我娓娓道來XDD
Tumblr media
護膚完之後發現完全遺忘拍照這件事情
所以只好躺在家裡床上模擬一下護膚的樣子 (就像下圖面幾張圖那樣...還麻煩Z來充當一下手模  XDD)
櫃姐會用一條乾淨的白色毛巾幫你把頭髮包起來之後就會開始護膚
所以不用擔心頭髮會沾到保養品之類的
Tumblr media Tumblr media Tumblr media
護膚程序的第一道~~~嗅吸放鬆!!!
櫃姐先用了他們家的茉莉芳香精露來讓我嗅吸精油的味道
茉莉芳香精露在護膚的作用上是舒潤柔膚~~有關茉莉的芳療相關大家可以去google一下
因為太多了我就不贅述嚕~~~
Tumblr media
嗅吸完之後就是  卸妝+清潔+去角質
卸妝用的產品就是Darphin很有名的 花梨木按摩潔面膏
我自己也有一瓶但我很少用  因為他很貴啊!!  我只有在每次居家護膚的時候才會用
這款潔面膏的味道真的不是我在說有夠療育的而且剛好是我很喜歡的花梨木精油味道!! (我個人很迷戀花梨木的味道 哈哈)
 用潔面膏按摩完之後櫃姐直接幫擦上青春煥顏珍珠雕霜
這是一個去角質的產品~裏頭有珍珠和 火山熔岩粉以及四種微晶成分
可以為肌膚拋光打亮
Tumblr media
 清潔完畢之後就開始進入保養
以全校舒緩化妝水先做打底
之後就陸續使用全效舒緩精華液 眼圈淡化精華液
接著開始擦上這次體驗的主角  鳶尾緊緻無痕精華 以及 鳶尾緊緻無痕晚霜
搭配小臉神器  陶瓷美顏版進行按摩~
深海基因緊提緊緻眼霜  深海緊緻賦活精華面膜
 擦完保養之後櫃姐會幫你敷上一層深海基因緊提緊緻眼霜  深海緊緻賦活精華面膜 然後再蓋上面膜布
然後就敷個大概15-20分鐘左右吧 但��時我早已經去見周公了這樣~~~哈哈  因為太舒服了
Tumblr media
 再來要說說這次護膚體驗櫃姐的各種貼心~~~
在按摩的過程當中我因為感冒所以有點小咳嗽~~~
櫃姐發現之後還很貼心地幫我準備熱開水~~另外我發現他在按摩的時候只要是經過喉嚨部分的肌膚都非常的輕柔
因為我去年護膚的時候頸部跟肩膀的力道是會稍微大一點點的~~~
除此之外按摩完頸部跟肩膀之後她都會順手在幫我把毛毯蓋上~~~另外他還額外用了白千層精露讓我嗅吸~~讓我的呼吸道有舒服很多~~~
最後敷臉的時候脖子部分的面膜布還特地幫我加熱過敷上去就是好溫暖好舒服啊!!!!!
瞬間看到櫃姐身上的天使光環~~~~天啊!!!!  好貼心!!!!
雖然說Darphin的保養品價格相較於其他品牌來說是真的高了一點
但是我覺得以這樣的服務~再加上精露的使用其實超級無敵省  每次只要2-3滴即可
綜觀來說簡直就是CP值超高!!!!!!  很值得投資啊!!!
下圖左是護膚到一半櫃姐去幫我弄熱開水的時候拍的~~~
下圖右是護膚結束拍的  然後鏡頭不知道沾到什麼~~~ 拍起來好霧阿~~(崩潰~~~)
Tumblr media
   不過下巴線條感覺有明顯~~~  好開心啊!!!
Tumblr media
護膚前   →  護膚後
肌膚就像重獲新生~~~超嫩超好摸~~
另外就是在護膚的過程中~~發現按摩技巧跟我之前去學瘦小臉按摩的幾乎一模一樣耶~~~
就連按摩的那一些穴道也是!!!  有種在上課的感覺~~哈哈  
Tumblr media
 回家洗完澡之後再補拍一張~~~~肌膚在發光~~~而且摸起來超嫩的
好喜歡啊!!!
Tumblr media
想知道更多請上
Darphin 官方網站 http://www.darphon.com.tw/
官方粉絲團  http://www.facebook.com/DARPHINTW/
 更多護膚會詳細資訊大家可以靠櫃詢問唷~~~~
Tumblr media
 以上
希望你們會喜歡今天的分享~~
如果喜歡我的文章不要忘了給我一個讚唷
謝謝你們~~~
歡迎到我粉絲團找我聊聊天唷~想知道我更多的美妝新資訊也可以按個攢追蹤唷
波妞兒愛美
3 notes · View notes
ohmamechan · 7 years
Text
沖をゆく青い舟
 ※大昔に出した本の、短編を中途半端に再録です。  夏合宿の前に、一日だけ実家に戻った。  母が物置をひっくり返して大騒動をしているので何かと思えば、遺品の整理をしているのだと言う。 「来年はお父さんの十三回忌でしょう?久しぶりに、色々片付けようかと思って」  そう言いながらも、母が何一つ父に関わるものを捨てる気が無いのを知っている。七回忌の時もそうだったからだ。  仕舞い込まれていたものを取り出しては並べ、天日に干して、また元通りに収める。  各種大会で取ったメダルや額入りの賞状。トロフィー。くたびれた皮のジャケットやジーンズ、ぼろぼろのスニーカー。色あせた大漁旗。古びたランタン。  とりとのめのない、父を思い起こさせる物ものたち。  それらは、普段は目のつかないところに収められているけれど、その物ものたちの存在を忘れることは決してない。母は特にそうだろう。普段の食事や、居間で和んでい る時、ふとした会話の端々に、父の存在を滲ませる。父がいたこと、父が今はもうこの世にはいないこと、そのどちらも当たり前にしている。母はそんな話し方をする人だ った。 「このTシャツなんか、もうあんたにぴったりじゃない?」  時代を感じさせるスポーツメーカーのTシャツを、背中にあてがわれる。靴を脱ぎ終わらないうちから、母が玄関に飛んできてそんなことを言うのだ。  江は、居間にテーブルにアルバムを広げて、色あせた写真を眺めていた。 「いっつも思うんだけど、私もお兄ちゃんも、ちっともお父さんに似てないのよね。花ちゃんのとこは、みんなお父さんに似てるのよ。娘は父に似るって言うけどうちは違 うわね。全部、お母さんに寄っちゃったみたい」  などと、一人で何やら分析している。  そこへ母が戻ってきて「ほら、このTシャツよ。みんなで海へ出かけた時に着てたのよ」と手にしていたTシャツとアルバムの写真を交互に見ながら言う。どちらも見比 べてみた江が、ほんとだ、と感激する。  以前は、このやり取りを見ているのが苦痛だった。二人が、父の話を和気あいあいとする中に、うまく混ざることができなかった。父の写真を持ち歩きながらも、本当は 写真の中の父と目を合わせるのはこわかった。母に会えば、父の思い出や存在に嫌でも向き合わなければならなくなる。あからさまに避けていたわけではないけれど、あれ これと理由を付けて帰らなかったのは事実だ。  それなのに母は、いつも子ども部屋を出て行ったままにしておいてくれた。小学生の時に使っていた机も椅子も本棚も洋服箪笥も。そう広くもない平屋住まいなのだから 、ほとんど帰らない息子の部屋を物置にするぐらいのことをしても誰も咎めやしないのに。  荷物を自分の部屋に置いて居間に戻った。  アルバムを熱心に覗き込んでいる姉妹みたいな二人に自分も加わる。  どれどれ、と覗き込むと、 「お兄ちゃんは見ないで。この頃の私、太っててやだ」  と江がアルバムの左上のあたりを手のひらで覆い隠した。写真は見えなかったが、指の間から書きこまれた文字だけはなんとか読めた。日付からして、江が二歳、凛が三 歳の頃の写真が収められたページのようだ。 「お前、食っては寝てばっかだったもんな」 「そうね、江はおっとりしていてまったく手がかからなかったわ。おやつをあげればご機嫌で、あとはすやすや寝てたもの。お兄ちゃんがちょこまか動いて忙しかった分、 助かったものよ」 「そうだっけ」  おやつを食べかけたまま寝こける江の姿は記憶にあるのに、自分がどうだったかなんて、まるで覚えていない。 「そうよ。走り回るあんたをおっかけて、ご飯を食べさせるの大変だったんだから。一時もじっとしてなかったのよ」  ふうん、と頷きながら、するりとアルバムに置かれた江の手をスライドさせる。 「あっ、お兄ちゃんだめったら」  露わになった写真に写っていたのは、浜辺に佇む家族の姿だった。祖母の家があるあの町の海岸かもしれない。母に抱えられた江はベビービスケットを頬張っている。腕 はふくふくとしていて、顔はハムスターの頬袋のようにまるい。とてもかわいらしい赤ん坊だと思うのに、江は顔を真っ赤にして「見ないでよ」と憤慨している。  同じく写真に写っている自分はというと、父の肩にまるで荷袋のように抱えられて笑っている。浅黒く日焼けした父も笑っている。こうして顔が並んでいるところを見れ ば、つくりは多少違うけれど笑い方は似ている気がする。 「これ、お父さんが外海に出る前に撮った写真ね」 「全然覚えてないわ」 「おれも」 「まだ小さかったもんね。外に出れば一ヶ月は戻れないから、大変だったのよ。お父さんが」 「大変って?」 「離れてる間にあんたたちに忘れられちゃうんじゃないかって、不安がるのよ。お見送りの時はいっつもさめざめと泣いてたわ」  お父さんかわいい、と江が小さく噴き出した。  中にはいくつか風景写真もあった。眺めているうちに、見覚えのある海岸線が写っているものを見つけた。 「これは、おとうさんの船で島まで渡った時のものね」 「あ、ほんとだ」  母と江がそろって覗き込んで来る。小さいながらも、父は自分の船を持っていた。青い船体に赤い縁取りの漁船。普段は大型漁船の乗組員として沖合や外洋に出ていたが 、禁漁で船が出せない期間は、よく自分の船に乗せて近海に連れ出してくれたものだ。小島を渡って、釣りをしたり、磯で生き物を探したりした。  小学生の時も、オーストラリアにいる時も、父を思わない日は無かった。けれどそれは、こうして思い出に浸るようなものとは少し違っていた。自分が何のために泳ぐの か、今なぜここにいるのかを確かめるための座標のようなものだった。そこに、感傷はあるようで無かった。感傷を背負い込む余裕すらなかったのだ。 「今度、江も凛もここに合宿に行くんでしょ?」 「うん」 「まさか、またあのコーチに船出してもらうのか?」 「いいじゃない!結構楽しいよ」 「お父さんが生きていたら、喜んで船を出してくれたでしょうねえ」  ゆっくりと母が言った。  昨年の夏、あれほどの問題を起こしたのに、鮫柄高校水泳部と岩鳶高校水泳部は頻繁に合同練習を行い、大会前は対抗試合を行うほど親交が深まった。  許してくれる人間もいればそうではない人間もいる。部内には、凛に対して風当たりの強い部員も当然いる。岩鳶高校と交流を持つことをよく思わない部員もいる。そん な中でも、御子柴部長は率先して岩鳶高校を自校へ招待したし、自分たちも岩鳶へ遠征した。今春から後を引き継いだ新しい部長が今回の合同夏合宿を持ちかけたのも、O Bの意見を取り入れたからだ。  彼の言動というよりも人柄が、凛が水泳部に居座ることを不快に思う部員たちの意識を変えていった。 「だって、江くんと会える絶好の機会じゃないかあ」  などと茶化してはいたが、彼がどれだけ気を遣い、部内の雰囲気を良好に保つために力を割いてくれたのか、側で見ていた凛には痛いほどよく分かる。  自分にできることと言ったら、泳ぐことしかなかった。御子柴の厚意に甘えるばかりでは、何も示せない。ひたすら、どんな時も、誰よりも真剣に泳いで見せた。泳ぐこ との他には、先輩に礼を尽し、後輩を支えた。それは部員として当たり前のことばかりだったが、その当たり前を一心にやり通すこと。それが素直にうれしくもあった。  六月末、島へ渡り、例年通り屋内プールを貸し切っての合宿が始まった。昨年と異なるのは、岩鳶高校と合同だという点だ。  合宿の中日は、午前中のみオフタイムとなり自由行動が与えられた。五日間のうち、四日間は泳ぎっぱなし。合宿後はすぐに県大会に向けて最終調整に入る。ではここぞ とばかりに休もう、ではなく、遊ぼう、と考えるのは、まさに渚らしかった。 「ねえねえ、凛ちゃん。明日のお休み、みんなで海で遊ぼうよ」  合宿二日目、専門種目の練習の最中、隣のコースに並ぶ渚がのん気に話しかけてきた。そういう話は後にしろ、とたしなめても、彼はにこにこしながらなおも言った。 「絶対行こうよ。おもしろい景色、見せてあげるから!怜ちゃんが!」  そんなことを大声で言うので、やや離れたところでフォームのチェックをしてもらっていた怜がぎょっとしていた。  渚の言う「おもしろい景色」とは、まさにおもしろい景色だった。 「お前、なんだそのナリは」  晴天の下、焼け付く白砂の上に降り立った怜を見て、凛は顔をしかめた。 「し、仕方ないでしょう。これがないと、ぼくは海へ出ちゃいけないって、真琴先輩が…」  しどろもどろな怜の腰、両方の上腕にはヘルパーが取り付けられ、腕には浮き輪を抱えている。浮き輪はピンクの水玉模様。先日、江が押入れから取り出して合宿用の荷 物の中に加えているのを確かに見た。まさか、怜のためのものだったとは。 「おもしろいでしょ?怜ちゃんてば、去年色々やらかして大変だったんだから、まあしょうがないよね」  何をやらかしたかについては、大体聞いている。夜の海に出て溺れかけたらしい。一歩間違えれば大変なことになっていた危険な行為だ。だからと言って、これはあんま りだろう。 「お前、ほんとに水泳部員かよ」 「どこからどう見ても、水泳部員です!昨日見ましたか、ぼくの美しいバッタを!」 「あ?全然なってねえ。せっかく俺がじきじきに教えてやってるのに、もうちょっとましになったらどうだ」 「知識・理論の習得と実践の間には時間差があるものです。だから昨日あなたに教わったことはですね…」 「もうまた始まった!バッタの話になると長いんだからやめて、二人とも!」  そうして三人で波打ち際で騒いでいると、 「まあまあ、三人とも、とりあえず泳ごうよ」  やわらかい声がすんなりと差し込まれた。真琴がにこにこしながら海を指差す。 「ハル、待ちきれずにもう行っちゃったよ」  見れば、遙が波打ち際から遠く離れた場所をすいすいと気持ちよさそうに泳いでいた。 「なんて美しい…海で泳ぐ姿は、本当にイルカや人魚のようですね」  怜がうっとりした顔をしていた。男のくせになんつう比喩だ、と毒づきたくなるが、あながち外れてもいない。 「僕もあんな風に海で泳ぎたいものです」  怜が唯一泳げるのはバッタのみ��、他の泳法は壊滅的にだめなのだそうだ。一年をかけて少しずつ特訓してきたが、どうしても上達しない。合同練習で会えばバッタの練 習しかしないので、遙と同じく「ぼくはバッタしか泳ぎません」というスタンスなのかと思っていたが、違うらしい。 「鮫柄の皆さんにカナヅチがばれてしまうのも時間の問題です」 「いや、ばれてるよ、怜ちゃん」 「怜…残念ながら」  渚と真琴がそろって悲しげな顔を作った。 「諦めんなよ。練習しろ」  とりあえず励ましておくことにすると、怜は「でも…」と暗い顔で俯いてしまった。その背中を渚が押して、「そうそう、練習しよう!」と無理やり水辺へと引っ張って 行く。 「さあ、特訓だ!松岡教室開講~!」 「いやです!今はオフです!」 「秘密の特訓をして、みんなを驚かせたくないの?」 「それは…」 「いいから来いよ、怜」 腰が引けているその手を取ると、怜は恐る恐る波に足を浸けた。 「やさしくしてください…」などと、目を潤ませ、怯えた小鹿のように言うので、笑いをこらえるのがやっとだった。 「たぶん大丈夫だろうけど」と言いつつ遙を一人で泳がせておくのが心配になったらしい真琴は、遙の後を追って沖へと泳いで行った。遙の姿はもう小さな点にしか見えな いくらい遠のいていた。一人で遠泳でもするつもりなのだろうか。  そういえば、遙とは昨日も今日もろくに言葉を交わしていないことに気付いた。練習中は専門種目が違うのでウオーミングアップやリレーの練習の時ぐらいしか接点がな い。オフだからと浜辺に集まった今朝は、黙々と一人で体をほぐしていた。 小島まで泳いで渡るつもりなら自分も行きたい。前もって伝えておけばよかったな、と思った。別に、必ず遙と一緒でなければならない理由ではないのだけど。 胸のあたりまでの深さのところで、怜の特訓が始まった。 潜ることは抵抗なくできるというので、とりあえずヘルパーを外して自分の体だけで楽に浮く練習から始めた。だるま浮きだの大の字浮きだの初心者向きの手ほどきは散々 やって来たことらしいのだが、それすら怪しいのだと言う。 「海水は水より浮力があるからな。少しは浮くんじゃねえの」  本当は波のないプールの方が断然初心者には向いているし、浮力が問題ではないと思われた。けれど、慰めにそう言ってみると、怜は「なるほど」と素直にうなずいてい た。なんだかすっかりその気のようだ。  怜はすう、と大きく息を吸って水に潜った。だるま浮きから水面近くに浮いて来たところでじわじわと手足を伸ばす。水面下10cmあたりのところで怜の体がゆらゆら と揺れる。 「わあ、海水マジック!浮いてるよ怜ちゃん!プールの時よりもずっと!」  渚が歓喜して大げさに拍手する。とても浮いているうちには入らないような気がするのだが。  次、バタ足を付けてみろよ、と指示を出すと、怜は恐る恐る水を蹴った。ぱちゃぱちゃとバタ足を数回繰り返したところでその体がずぶずぶと沈んでいく。 「おいおい」  掌を掬い上げて浮力を助ける。ぶはあ、と怜が苦しげに息を吐いて体を起こした。 「はあ…途中まではいい感じだったんですが」 「うんうん、進んでたよ」 「潜水艦みたいにな。もう一度やってみろ」  再度バタ足にチャレンジする怜に「もうちょっと顎を引け」と伝えると、すぐに言われたとおりにしてみせた。怜は理屈っぽいところがあるが、素直だ。力を伸ばすのに はそれは大切な要素だ。  顎を引いた分だけ浮力を得て、わずかなりとも浮きやすくなるはずだ。しかし、怜の場合は逆効果だった。頭の方から斜めに沈んでいく。まさに、潜水艦のごとくだ。 「わあ、頭から沈んでいく人、初めて見たあ」  渚の遠慮のないコメントに笑ってはいけないのに、こらえきれずに小さく噴き出してしまった。 「ちょっと!笑わないでください!ひどいです!」  びしょびしょに濡れた髪を振り乱して怜が喚く。 「わりい…いや、ちょっとした衝撃映像だったから」 「動画、とっとけばよかったね!」  渚と二人で笑い合っていると、怜はもう泣きそうな顔をしていた。 「しょうがねえよ。体質だ」  怜の肩に軽く手を置いて慰めた。 「体質?」 「お前、陸上やってたんだろ?」 「はい」 「筋肉質で体脂肪が少ない上に、骨が太くて重いんじゃねえの。ついでに頭も」 「怜ちゃん、頭いいもんね。脳みそ重いんだね」 「なるほど…」 「もうどうしようもなく浮くようにできてねーんだよ。そういうやつ、たまにいるぜ」 「そうなんですか?僕だけじゃなく?」  凛はしっかりと頷いて見せた。 「極端に痩せた人はもちろん、筋肉をがちがちに鍛えた人も当然浮きにくいよな」 「物理の法則からするとその通りですね。僕の体は、そもそも水に浮くようにできていない…」  しょんぼりと肩を落とす怜を、渚が心配そうに覗き込む。 「怜ちゃん…楽に浮けるようになりたかったら、脂肪を蓄えるしかないね。ドカ食い、付き合うよ」 「いや、脂肪は付きすぎると水泳にとっては邪魔なものです」 「そうだっけ?」 「ようはバランスだな」 「カロリー、体脂肪率、筋肉の質…僕の体にとってのこれらの黄金律を導き出さなければ…!」  怜はかけてもいない眼鏡のツルを押し上げる身振りをして、ぶつぶつとつぶやき始めた。 「ま、でもバッタが泳げりゃいいんじゃね?」  あまり思いつめるのもどうかと心配になったのでそう軽い調子で言うと、怜は切実そうに訴えた。 「あなたまで皆さんと同じことを。ここまで焚きつけておいて」 「だってよ、ここまでとは思わなかったからな」 「ひどいです。僕だって、みなさんと同じように泳げるようになりたい」  顔をくしゃりと崩す怜を見ていると、ふと幼いころを思い出した。こんな風に、父と海で泳ぐ練習をした覚えがある。海育ちは、潜るのは得意だが、わざわざフォームを 整えて浮いたり泳いだりはしない。潜って魚を捕ったり、磯で生き物をいじって遊んだりするのがほとんどだった。だから、幼稚園のプールでいざ泳いでみて、ショックだ った。潜水したままプールの床底を進む凛に、友だちが「それ泳ぐのと違うんじゃない」と言ったのだ。スイミングスクールに通っている同じ年の子どもが、それなりに様 になったクロールを披露してくれた。水の中にいるのなんて息を吸うように当たり前にできるのに、あんな風に泳ぎ進む、ということがどうやったらできるのかわからなか った。  しょげかえる凛を見かねて、父が特訓してくれた。当時は祖母の家の隣の長屋に住んでいて、目の前は海だった。幼稚園から帰ってすぐに海へ駆け出して行って、ひたす ら泳いだ。「がんばれ」と両手を広げる父まで、辿り着こうと必死で水を掻いた。毎日練習を繰り返して泳げるようになったとき、父はうれしそうに笑っていた。  もうずっと昔のことが鮮明に思い出されて、懐かしさで胸がいっぱいになった。  だからなのか、肩を落とす怜に思わず言っていた。 「わかった。とことん付き合ってやるから、がんばれよ」  怜が顔を上げて、その目を輝かせた。ええもう遊ぼうよお、と渚が後ろに倒れ込みながらぼやいた。  それから小一時間練習して、休憩に入った。  怜は、沈みがちではあったが、バタ足で10mほど進めるようになった。クロールのストロークはもとより様になっていたので、特に言うことは無かった。推進力はある のだから、ブレスでなるべく浮力とスピードを落とさないようにすれば、それなりに泳げそうだった。あくまでも、それなりにだったが。  三人で丸太のように木陰に転がり、ほてった肌を冷ました。 「感動です…ぼくでも何となく形になりました」 「怜ちゃん、感動したよぼくも!」  わざわざ凛を挟んで、渚と怜が会話する。凛は浮き輪を枕にして、二人のやり取りを聞いた。 「渚くんは、途中から変な顔をして僕を笑わせようとしていたでしょう!手伝っているのか邪魔しているのかわかりません!」 「心外だなあ。リラックスさせようと思ってやったんだよ。緊張したら体が硬くなるでしょ?怜ちゃんぷかぷか作戦の一つだったのに!」 「そ、そうだったんですか」 「なんてね」  渚はそう言うや、跳び起きて海へと駆けだして行った。怜からの反論を見越していたのか、見事な逃げっぷりだった。 「ぼくも、向こうの島まで行って来るねー!」  ぶんぶんと手を振り、あっという間に波間に消えて行った。 「あの人は、いつもああなんです」 「楽しそうだな」 「疲れます」  それには頷くしかない。 「あなたも、泳ぎに行かなくていいんですか?」 「ああ、いいんだよ。ちょっと、疲れも溜まってるし」 「…すみません。オフなのに疲れさせてしまって」  怜が顔を曇らせる。 「いや、お前のせいじゃねえよ。ついオーバーユースしちまうから、オフの日はなるべく休めってコーチに言われてんだよ」 本当は島まで遠泳できるならしてみたかったが、心残りになるほどでもなかった。ひんやりとした木陰の砂の上に転がって、潮風を受けていると、とても気持ちがいい。瞼 の裏に枝葉をすり抜けてきた光が差して、まだらにかぎろった。 「あなたが、ぼくに泳ぎ方を教えてくれるのは、昨年のことを気にしているからですか?」  まるで独り言のような小さな呟きが耳に届いて、凛は瞼を起こした。  怜が生真面目な顔でこちらを見ていた。 「なんだよ急に」 「すみません、確かめておきたくて」  怜が言っているのは、昨年の地方大会のことに違いなかった。彼を差し置いて、岩鳶高校の選手としてリレーに出た。彼らの厚意に乗っかって、大事な試合をふいにして しまった。得ることの方が大きかったけれど、負い目を感じないわけがない。しかし、負い目があるから怜に泳ぎを教えているのではない。それははっきりと、違うと言え る。 「あなたがいつまでも、ぼくに負い目を感じる必要はありません。ぼくが決め、あなたたちが選んだ。それだけのことです。そりゃあ、問題になりましたが、いつまでも引 きずっていても…」 「待て待て、怜」  怜の言葉をやんわりと止めて、上半身を起こした。乾いた白い砂の粒が、はらはらと肌の上を滑って落ちる。怜も体を起こして凛と向き合った。きちんと居住まいを正す ところが、怜の真面目で誠実なところだ。 「負い目って言われるとどうかと思うけど、それは一生無くならない。失くせって言われても無理だ。そういうもんなんだ。でも、罪滅ぼしのために、お前に泳ぎを教えて んじゃねえよ」 「ではなぜですか」  面と向かって問われると、答えざるを得ない空気が漂う。凛はがしがしと後ろ頭を掻いた。 「お前が一生懸命だからだ」 「一生懸命?」 「一生懸命練習しているやつがいたら、手伝いたくなるだろ。そういうもんだ」 「敵に塩を送ることになっても?」 「一人前なこと言うな、お前」 「だって、そうでしょう」  凛は口端を上げた。自然に笑みが湧いた。 「一にも二にも努力努力っていうけどよ。努力すらできないやつだって、ごまんといるんだよな。努力する才能ってやつも必要だ。お前にはそれがある。それは…すごいこ となんだ。そういうやつを、俺は尊敬してる」 「尊敬、ですか」  怜がしみじみと噛みしめるように言った。 「あんだけ見事な潜水艦だったのに、さっきの特訓では一度も音を上げなかったしな。俺だったら三分で逃げ出してる」 潜水艦って言わないでください、と怜はむっとした顔を作った。けれど、すぐにそれを解いて微笑んだ。 「ぼく、とても楽しみなんです。今度は、ぼくもあなたたちと一緒に泳げる。いつだってこうして楽しく泳ごうと思えば泳げるけど。試合で泳ぐのは、特別な気がします」 「確かにな」 「緊張もするけれど、わくわくします」  わくわくします。それはいい言葉だった。長らく自分が見失っていた感情に近い気がした。 「あなたは勝ち負け以外の何があるんだって、言っていましたが」 「どうしたって、勝ち負けはあるんだぜ」 「知っています。でも、ぼくはわくわくするんです。勝つかどうかもわからない。勝ったらどんな感情を抱くのか。負けたらどんな自分が出て来るのか。それは理論では計 り知れない。そういう未知なる気配が、おもしろいと思えるようになったんです」 「俺もそう思う」 「わくわくしますか」 「ああ、する」 「一緒ですね」  怜がふわりとはにかむ。隙だらけのあどけない顔をするので、思わずその頭をわしわしと撫でまわしてしまった。 「なんだよお前。ガキみたいな顔しやがって」 「だって」  怜は泣き笑いのように顔をくしゃくしゃにした。 「僕にも、皆さんと同じ景色が見られるんじゃないかって、今、すごく思えたから」 「そうかよ。楽しみにしてろよな」 「はい」 「怜、ありがとな」 「はい…えっ?」  まさか礼を言われるとは思っていなかったらしい怜は、戸惑っていた。妙に照れくさくなってしまって、そんな怜を置いて弾みをつけて立ち上がった。 「やっぱ泳ぐかあ。あいつら、どこまで行ったんだ?」  木陰から一歩踏み出ると、目が眩むほどの強い日差しに、何度か瞬きをした。  そこへ「せんぱあーい!」と似鳥の甲高い声が聞こえてきた。防風林の向こうから駆けて来る姿があった。 「自主練終わりました!ぼくも仲間に入れてください!」  そういえば、似鳥も海水浴に行きたいと言っていた。わ���わざ断ってくるところが彼らしい。 「愛ちゃんさん、自主練をしていたんですね。見習わなければ」 「お前も自主練みたいなもんだろ」  似鳥はあっという間に、なだからかな浜を駆け下ってきた。 「御子柴ぶちょ…あ、元部長が差し入れにいらしてましたよ」 「暇なのか?あの人」 「そんなこと言ったら泣いちゃいますよ。ちゃんと後であいさつしてくださいね」 「わかってるよ」  怜を連れ出して沖まで行くか、と相談しているところに、今度は「おにいちゃーん!」と江の声が届いた。  見れば、ビニール袋を提げた両手をがさがさと振っている。言わずもがなのアピール。  「手伝います」という後輩たちを置いて、パーカーを羽織ると江のもとへ浜を駆けのぼった。怜は真琴の言いつけ通りの完全防備で、似鳥に浮き輪ごと曳航されて沖へと 出て行った。 「のんびりしてたのに、ごめんね」と江は詫びつつも、しっかり凛に重い荷物を譲り渡した。買い出しのために顧問に車を出してもらおうとしていたら、鮫柄の顧問から呼 び出しがかかってしまったらしい。 「ったく、買い出しくらいあいつらにさせろ。それか、マネ増やせ」 「そうね、マネも増やしたいなあ。時々、花ちゃんが手伝ってくれるんだけどね」  麦わら帽子をちょんと被りなおした江が、それにしても暑いねえ、とのんびり言う。  岩鳶高校が宿にしている民宿は、浜からそれほど遠くない。ビーチサンダルで砂利を踏みながら、江と並んで歩いた。太陽はますます高く、縮んだ濃い影が、舗装された 白い道に焼き付いてしまいそうだった。 「あ、ねえ、お兄ちゃん、見て」  江が白い腕を伸ばし、海のかなたを指した。 「あの船、お父さんの船に似てるね」  見れば、はるか沖を行く船たちの姿が、ぽつぽつとあった。マッチ箱ほどの小さな船影の中に、確かに、父の船と似ているものがあった。青い船体に、白い縁取りの漁船 だ。青い船は、白波を立てて水平線を滑るように進んでいく。やがてその姿は、小島の向こうに消えて見えなくなった。  二人で船を見送ったあと、わたしね、と江が言った。 「一つ、思い出したことがあるの」 「何を?」 「お兄ちゃん、お父さんが死んじゃったあと、よく海に出かけて行ってたでしょ?ひとりで」 「そうだったか?」 「そうだったよ。お母さんが、夜になっても戻らないって、すごく心配してたの。あの時、お兄ちゃんは、何をしに行ってたのかなあって」 「海に行くのは、いつものことだっただろ」 「そうなんだけど。お父さんが死んだあとのことよ。毎日、毎日、お兄ちゃんが帰って来ないって、お母さんが玄関の前でうろうろしてた。それを見て、わたしはすごく不 安だったことを思い出したの」  突然、遠い昔の話を出されて困惑してしまう。確かに、父が亡くなったあと、毎晩のように浜辺へ通っていた覚えがある。けれど、何のためにそうしていたのか、よく思 い出せない。 「でもね、お兄ちゃんは、ちゃんと帰って来た。お兄ちゃんが海から家に帰って来たら、ああ、よかったあ、ていつも思うの。待つことしかできなくて、とっても不安だっ たけど、ああよかった、お兄ちゃんは、どこへも行かずにちゃんと帰って来てくれて、って安心するの。そういう記憶」  沖をじっと見つめていた江が、また歩き始めた。歩調を合わせてゆっくり歩いた。 「お父さんが死んだとき、私はまだ小さかったから記憶はおぼろげなんだけど、最近は、よく思い出すんだ。お父さんが死んだ時の、お母さんの顔とか、海に出て行ったお 兄ちゃんが庭に放りだした自転車とか、お父さんの大きな手とか、声の感じとか、色々、ごちゃまぜに」 「そうか」 「なんでかな、今まで忘れてたわけじゃないんだよ。毎日、仏壇にお線香上げるし、お花の水も換えるし、お祈りもする。けど、そういう決まったことのように亡くなった 人のことを思うんじゃなくて、勝手に湧いてくるの。ふとした時に、お父さんの気配みたいなものが」  それは、凛にもわかるような気がした。さっきだって、怜に泳ぎ方を教えながら、それを感じたばかりだからだ。もう形を持たないはずの父が本当にそこにいるかのよう な感覚。五感のどこかに残っている父の記憶のかけらが、不意に集まって形作るような。 「海にいるからかな」 「そうかもな」 「お兄ちゃんが、お父さんの話をするようになったからかもしれないよ」 「どっちだよ」 「どっちもよ」  江がそう言うのなら、そうなのだろう。  並んで歩きながら、沖を行く船の姿を探した。けれど、もうあの青い船の姿は見えなかった。その名残のように、小さな白波がいくつもいくつも、生まれては消えた。太 陽の高度はますます上がり、水面に踊る光の粒がまばゆく目を刺した。  江を送り届けて海岸に戻ると、遙がぽつんと遊歩道に立っていた。もう海から上がっていたらしい。  江から、あと小一時間ほどしたら宿に戻って食事を摂り、午後からの練習に備えて休むように言ってほしい、と頼まれていた。それを伝えようと軽く手を振ると、遙はふ い、と顔を背けて再び浜へ下りて行ってしまった。なんだよ、とつい零したくなるような態度だ。迎えに来てくれていたわけではないのは分かっていたが、あまりにも素っ 気ない。まあ彼としては珍しくもない振る舞いなので、まあいいかとすぐに思い直した。  真琴や渚たちも沖から戻っていた。彼らは屋根付きの休憩所で水分補給をしていた。 「怜がちょっと泳げるようになってたから、俺、感動しちゃったよ」  真琴が声を弾ませて言う。怜はその隣ですっかり得意げな顔だ。 「浮く練習なら深いところがいいって愛ちゃんさんが言うから、やってみたんです。そしたらできました」 「へえ、やるじゃねえか」 「はい。…しかしまあ、愛ちゃんさんがすごく怖くて。ヘルパーも浮き輪も容赦なく外してしまうし」 「愛ちゃん、スパルタだったよ!」  渚の隣で、似鳥は恐縮したように肩をすくめた。 「凛先輩ほどじゃありませんよう」 「いや、おれよりお前の方がえげつない練習メニュー考えるよな。この合宿のメニューだってさ、一年が、青ざめちまってたもんな」 「え、そうですかあ?ぼく、もしかして、後輩にびびられてますか?」  似鳥が困惑顔で腕に縋り付いてくる。いや、それはない、とすぐに否定しておく。童顔な彼は、どうかすると後輩に舐められてしまいがちだが、面倒見が一番いいのでよ く頼られている。 「似鳥、俺たちはそろそろ戻るか」 「もうですか?」 「午後連の前にミーティングと、OBに挨拶があるんだろ?」 「そうですね…。もうちょっと、皆さんと泳ぎたかったですけど」 「え~、愛ちゃんも凛ちゃんも行っちゃうの?」  似鳥の縋った腕とは反対の腕に、渚がぶら下がる。重い。 「しょうがねえだろ。OB様は、大事にしておかねえとな」  残念がる似鳥を促して、荷物の整理をしていると、それまでベンチの隅にしゃがんでいた遙が、急に立ち上がった。もの言いたげにこちらを見るので、「なんだよ」と思 わず言ってしまう。そのくらい、視線が重い。何か機嫌を損ねるようなことをしただろうか。 「なんか言いたいことあるなら言えよ、ハル」 「別に」  何もない、と遙はまたそっぽを向く。明らかに何もないわけがない態度だったが、もう放っておくことにした。 「お前らもぼちぼち戻れよ。江が、メシ作ってるって」  ちえ、バカンスは終わりかあ、と渚は盛大にこぼし、真琴は部長らしく「手伝いに戻ろっか」とお開きのひと声を発した。まるでそれを待っていたかのように、ぷしゅ、 と空気の抜ける音がした。遙が水玉模様の浮き輪の空気を抜く音だった。無言のまま、ぎゅうぎゅうと体重をかけて押しつぶしている。むっと口を結んでいるところを見る と、やはりご機嫌ななめらしい。 ほんと、よくわかんねえやつ。  手伝うよ、と真琴が遙に歩み寄る。その様を見ているのがなんとなく癪で、凛は「帰るぞ」と似鳥を連れて宿に向かって歩き始めた。  明け方の白砂は、潮を含んで重かった。  少し足を取られながらも、波打ち際を流すようにゆっくりと走った。連日の猛練習の疲れは残っているが、だらだらと眠るよりも、こうして体を動かしている方がすっき りする。  夜の間に渡って来たらしい雲が、東の空から羽を広げるようにたなびいている。それを、水平線に覗いた朝日がうっすらと赤く染めている。波も、同じ色に染まっている 。  朝日の中を行く船があった。まばゆい光の中にあって、色はわからない。  ゆるやかな海岸線の中ほどで、凛は足を止めた。上がった息を鎮めながら、沖合に目を凝らした。  なぜ、父が亡くなった後、毎日海へ出かけたのか。  昨日、江にたずねられたことを改めて考えているうちに、あることを思い出した。昨夜、眠りに落ちる前に、ふとおぼろげな記憶の中から浮かび上がってきた。   父は、凛が五歳の時に亡くなった。夏の終わりの大時化で、船と共に沈んでしまった。船そのものも、遺体も上がらなかった。何日も捜索が続き、母は毎日、港に通った。 何かしら知らせが来るのを待ち続けたけれど、ついに父は戻らなかった。船長を含めた十数人が行方不明のまま、捜索は打ち切られてしまった。だから今も、墓の下に父の 骨は無い。墓石や仏壇に手を合わせる時、どこか空虚な気がするのは、そのせいかもしれなかった。 飛行機に乗って世界中のどこへでも行けるし、ロケットに乗って月へも行けるのに、たった沖合3kmのところに沈んだ船を見つけることができないなんて、おかしな話だ 。捜索を打ち切って、浜から上がって来るゴムボートを眺めながら、そんなことを思っていた。 父が戻らないことを凛と江に告げる母は、やつれて生気を失ったような顔をしていたが、どこかほっとしているようでもあった。何か一つの区切りを迎えなければ、母は限 界だったのだろうと思う。毎晩、祖母に縋り付いて泣いているのを、凛は知っていた。江と一緒に仏間の布団に寝かされ、小さくなって眠る振りをしながら、母の細い嗚咽 を聞いた。母は、泣いて泣いて泣き伏すうちに、いつか細い煙になって消えてしまうんじゃないかと心配だった。朝になると、母は気丈に振る舞っていたので、その不安は 消えるのだけど、夜になって母のすすり泣きが聞こえてくると、家全体が薄いカーテンの中に包まれて、そこだけが悲しみに浸かっているような気がした。 捜索が打ち切られた数日後、形ばかりの葬儀が行われた。遺体の上がらなかった何世帯が一緒に弔いをすることになり、白い服を着た大人たちに連なって、海沿いを延々と 歩いた。波は嘘のように穏やかだった。岬で読経を上げる時、持たされた線香の煙がまっすぐに天へ昇っていったのをよく覚えている。  葬儀が終わると、生活のすべてがもとに戻り始めた。母には笑顔が戻った。友だちと外で遊び、お腹が空いたらつまみ食いをした。江は勝手に歌を作って歌い、ちょっと 転んだだけで泣いた。いつもと同じ毎日だった。  けれどもそれは、凛にとっては、大きく波に揺り動かされて、遠くへ投げ出されてしまったかのように強引で、拭いようのない違和感に満ちていた。誰もかれも、日常の 続きを演じているような奇妙さがあった。  四十九日が済むと、海辺の家を離れて、平屋のアパートを借りてそこで三人で暮らすことになった。父の船は、知り合いに引き取ってもらうことになった。新しい家も、 父の船が人の手に渡ってしまうことも、嫌だった。けれど、決まったことなのよ、と母に泣きそうな顔をされると、何も言えなかった。  引越しをする少し前から、毎日海へ通うことになった。  行き慣れた海岸は、潮が引くと、磯を渡って沖まで行くことができた。ごつごつとした岩場を歩き、磯の終わるところまで足を運ぶと、そこに座り込んで海を眺めて過ご した。  せり出した磯は、ずいぶん海の深いところまで伸びていて、水面から覗き込んでも海底は見えない。もっと小さい頃は、一人では行くなと言われていた場所だった。磯か ら足を滑らせれば、足の着かない深みにはまって危険だからと。  しかし、磯の岩場には、釣り人もいたし、浜辺には船の修理をする近所の大人の姿もあったので、凛は構わず出かけた。  手にはランタンを提げて行った。父が納屋で網を繕う時に、手元を照らすためにいつも使っていた、電池式のランタンだ。凛は、暗くなるとそれを灯して、いつまでも磯 にいた。  父が戻らないことは、幼心にもわかっていた。これから、父のいない生活を送らねばならないことも。  もう二度と、あの青い船に乗せてもらえないこと。泳ぐのが上達しても、大げさなくらい喜んで、頭を撫でてもらえないこと。大きな広い背中に抱き付いて、一緒に泳ぐ こと。朝霧の中を、船で進む父に手を振ること。お帰りなさい、と迎えること。そんなことは、もう、ないのだとわかっていた。  わかっていたけれど、誰も父を探そうとしてくれないことが、誰もが当たり前の顔をして日常に戻ってしまうことが、悔しかった。かなしかった。  海へ通い続けたのは、ぶつけどころのない感情を、なんとか収めようとしていたからなのかもしれない。海はただそこにあるだけで、凛に何も返さない。何を投げても、 すべてを吸い込み、飲み込み、秘密のままにしてくれる。父を飲み込んだ海なのに、憎いとか恨め���いとか、そんな感情は浮かばなかった。むしろ、誰よりも、そばにいて くれている気がしていたのだ。  ある風の強い日だった。その日も、いつものように海へ出かけた。波は荒く、岩にぶつかっては白い泡になって弾けていた。大きな雨雲の船団が、どんどん湧いては風に 押し流されていた。空は、黒い雲と青い晴れ間のまだら模様で、それを移す海も同じ模様をしていた。  嵐の日と、その次の日には海へ行くなと言われていた。嵐の後には、いろんなものが流れ着くからだ。投棄されたごみならよくあることだが、時に死体が流れ着くことが ある。入り組んだ海岸線が、潮の吹き溜まりを作っていたのだ。  父と海に出かけた時に、一度だけ水死体が岩場の端に引っかかっているのを見つけたことがあった、凛は離れているように言われたので、遠目にしか見えなかったが、白 くてふくふくとした塊を、父や漁協の仲間が引き上げていた。あとで父は、凛に諭すように言った。 「嵐の後の海には、こわいものがいる。海に引きずり込まれるかもしれないから、近寄ってはいけない」と。  あの時の教えを忘れたわけではなかったけれど、凛は横風に煽られながら磯の際を歩いた。いかにも子どもらしい発想だ。本当に見つけたとして、どうしていいのか何も わかっていなかったというのに。  雨雲の隙間から、光が差していた。波に洗われて、日に照らされた岩肌は、滑らかに光っていた。海面にはスポットライトのようにまるく光が差し込み、まるで南海のよ うにエメラルドグリーンに透き通って見えた。雨上がりの海の景色の美しさにすっかり心を奪われた。深い深い海の底に、何かもっと美しい景色や生き物がいるのではない か。凛は、父を探すのも忘れて、磯の際に手と膝をつき、夢中で覗き込んだ。きらきらと光のかぎろう碧が美しくて、ため息が漏れた。鼻先が海面に付くかつかないかとい うところで、びゅう、と背中から風が吹いた。ど、と勢いよく押されて、体が前に倒れ込んだ。あぶない、と気付いた時には遅かった。頭から海に落ちてしまう。海にはこ わいものがいる。引きずり込まれるかもしれない。近寄ってはいけない。あれほど言われていたのに。恐怖に体の自由を奪われて、抗えないまま海へ落ちてしまう寸前、後 ろから、ぐい、と強く腕を引っぱられた。 「危ないよ」  と声がした。  慌てて振り返ってみたが、誰もいなかった。ただ、小雨に濡れて黒々とした岩場が広がっているだけだった。  少し遅れて、心臓がばくばく鳴り始めた。  たった今、海に引きずり込まれそうになったこと。それを誰かが助けてくれたこと。その誰かの姿は、どこにも見当たらないこと。  なにか、今、不思議なことが起きたのだ。  凛は泣きそうになりながら、家へ駆け戻った。とにかく、怖かったのが一番。次には、懐かしいようなうれしいような気持ちでいっぱいだった。  危ないよ、という声が、父の声のように思われたからだ。  不思議な出来事は、その一度きりだった。二度と海が不思議な光を放つこともなかったし、助けてくれた声の主と出合うこともなかった。  海辺の家を離れて、母と江と三人で暮らし始めると、そんなことがあったことすら忘れていた。  あれはなんだったのだろうと思う。海面が光って見えたのは見間違いかもしれないし、引きずり込まれそうになったと感じたのは、ただの風のせいだったのかもしれない 。本当はあの時、通りすがりの釣り人がいて、海に落ちそうになっている子どもに声をかけただけかもしれない。  とにかく、奇妙な体験だった。海では不思議なことが起こるものだと感覚で知っている。言い伝えや昔話も多くあり、それを聞いて育つからだ。でも、自分の体験したこ とをどう片付ければいいのか、わからない。  今は、朝日を浴びて美しいばかりの海は、暗くて深い水底を隠し持っている。この海は、父の命を飲み込んだあの海とつながっている。このどこかに、今も父がいるのだ 。 「凛」  不意に声をかけられて、身をすくめる。  気づけば、足元を波にさらわれていた。慌てて、波打ち際から離れる。 「そのままで泳ぐつもりだったのか?」  遙だった。凛と同じようにロードワークに出ていたのか、汗ばんだTシャツが肌に貼り付いていた。  返事ができずにいる凛を、遙は不審そうに見ている。 「いや、泳がねえよ」  首を振ってこたえると、遙の視線が凛の足元に落ちた。 「濡れちまった」  波に浸かってぐっしょりと重くなったランニングシューズを脱いで、裸足になった。砂の付いたかかとを波で洗う。 「どこまで走るんだ?」  気を取り直すようにたずねると、遙は「岬の方まで」と答えた。答えたものの、凛の顔をじっと見つめたまま走り出そうとしない。  昨日は、午後練になってもろくに口を利かなかったからか、どこか気まずい。 「何を見ていたんだ」  遙が言った。 「何って…海しかないだろ」  凛の答えに納得したようではなかったけれど、遙は海を向いた。 「お前も、真琴みたいに海がこわいのか」 「そんなわけねえだろ。俺は海育ちだぞ」 「そうか。真琴みたいな顔をしてた」  相変わらず言葉足らずで要領を得ないやりとりだったが、どうやら心配してくれているらしい。  遠くから霧笛が響いた。大きなタンカーが沖へ向けて港を出て行く。 「船が…あっちの方に、船がいたから、見てた。それだけだ」  そう付け足すみたいに言うと、遙は船の姿を探して、沖合に目を凝らした。潮風にあおられて、彼のまっすぐな黒髪がさらさらと揺れた。遙の目は、「本当にそうか?」 と不思議そうにしていた。遙の目は雄弁だ。誤魔化さずに本当のことを言わなければならないような、そんな気がしてくる。だから、というだけではないけれど、凛はほと んど独り言をつぶやくみたいに、小さく言った。 「船、見てたらさ。俺、思い出したことがあんだよ。昔のことなんだけどさ」  遙を見ると、彼はまだ遥かな沖合に目を向けていた。凛の話を聞いているようでもあるし、波音や風の音に耳を澄ましているようでもあった。 「親父が死んだあと、毎日海に行ったんだ。何をするのでもなかったんだけど。ランタンなんか提げてさ。暗くなるまで海にいた。それで…嵐が来た次の日にも海に行った らさ、おかしなことがあったんだ」  遙がこちらを見ないことをいいことに、一方的に語った。昨夜ふと蘇った、海での不思議な出来事の記憶を。  遙にこんなことを話しても仕方がない。誰かに聞いてほしかったわけでもない。でも、船の姿を探しているような遙の横顔を見ていると、ほろりと漏れだしてしまったの だ。  彼にとってはどうでもいい話。きっと聞いたからといって、何をどうしようとも思わないだろう。  そういう気楽さがもどかしい時もあれば、救われることもあることを知っている。 「あれは、一体なんだったんだろうな」  話終えると、心の中も随分片付いていた。昔のことだから、記憶はおぼろげだし、端から消えていくように心もとない。事実とは異なるところもきっとあるのだろう。  けれど、あの時、海に落ちそうになった自分を助けてくれたのは父だったと思いたがっている自分がいる。  どうしようもない、独りよがりの感傷かもしれないけれど。 「俺も、見たことがある」  遙がふと口を開いたのは、いくらか時を置いてからだった。ごくごく小さく呟くので、凛が語ったことへ返されたものだとはすぐに気が付かなかった。 「見たって、なにを?」  たずねると、遙は、「海が光るのを」と言った。 「一人で遊んでいる時に。海が、とても美しい碧色をしていて、水底まで透けそうだった。子どもの頃の話だ。あの頃はまだばあちゃんが生きていて、話したら、近づくな って言われた」 「どうしてだ」  遙は少しだけ横目でこちらを見て、すぐにまた海へと視線を戻した。 「死は、時々美しい姿で扉を開くんだって言ってた。小さかったから、よくわからなかったけど」 「そんなの…迷信かなんかだろ」 「そうかもな」  でも、と遙は言い添えた。 「お前の親父さんだったかもな」  不意に父の話に繋がって、けれども相変わらずタイミングはちぐはぐで、理解するのにひと呼吸、必要だった。けれど、遙が言おうとしていることは分かった。凛の気持 ちを汲んで、そう言ってくれたことも。  あの海での不思議な体験は、幼かったので、本当はどうだったかわからない。けれど、それでいいのだと思えた。父が、海に落ちそうになった凛を助けてくれた。そう思 いたければ思えばいい。遙のまっすぐな言葉が、不確かだった記憶をすとりと凛の中に収めてくれる気がした。 「…んじゃあ、そういうことにする」  素直にうなずくと、遙はちらりと意外そうな顔をした。朝の美しい海を前に、わざわざ意地を張る必要もない。  凛は頬をゆるめて、遙かに向かって言った。 「あっちまで走るつもりだったんだろ。行って来いよ」 「お前は?」 「俺は、足、こんなだし。散歩でもして戻るわ」 「じゃあ、俺も散歩する」  一緒に波打ち際を歩き出しながら凛は言った。 「ハル、お前、昨日はなんで怒ってたんだよ」 「べつに、怒ってない」  遙が小さな波をぱしゃりと蹴り上げる。その態度が、すでに、なのだが。 「いーや、むすっとしただろ。言いたいことがあんなら言えよ」 「べつにない」 「べつにって言うのやめろ」 「べつにって言っちゃいけない決まりなんかないだろ、べつに」  ついさっきまで、たどたどしくも心がつながったような、そんな気がしていたのに、もういつもの言い合いが始まってしまった。陸に上がると大概そうなってしまう。  はあ、とわざとらしく長いため息をついて見せると、遙はやや口を尖らせて、ぼそりと言った。 「…島に、行きたかったのに」 「行っただろ、真琴たちと」 「いや、行ってない。泳いだけど、すぐに引き返した」 「行けばよかったじゃねえか」  そんなに行きたい島があったのだろうか。 「お前も、連れて行きたかったのに」 ※このあと、二人で海辺を散歩して、微妙ななんだかそわそわする雰囲気に雰囲気になって、宿の手前で、みんなに会う前にハルちゃんが不意打ちでチューをかまして・・・みたいな展開でした。中途半端な再録ですみません・・・
13 notes · View notes
harukoc · 7 years
Text
3 notes · View notes
xiaorawr · 6 years
Photo
Tumblr media
Come find me as Nagisa~ 🐧 . . . . . . . #iwatobi #cosplay #anime #kawaii #nagisahazuki #swimminganime #free #splashfree #thugisa #hazukinagisa #nagisa #gayswimming #genderbend #genderswap #coser #cosplayersofinstagram #cosplayselfie #asian #model #sportsanime #kyoani #colossalconeast #animegirl #animebabe #コスプレ #葉月渚 #岩鳶高校 (at Kalahari Resorts and Conventions - Tesla) https://www.instagram.com/p/Bne_6NvhIV0/?utm_source=ig_tumblr_share&igshid=xz3fd5xaltyh
6 notes · View notes
bani620 · 7 years
Photo
Tumblr media
Free!の映画最強に泣いた😭 しんどいw たまらんぐらいしんどい💖💖💖 嗚咽しながら泣いて終われば目が充血w 7月の約束なんか、大好きな凛ちゃんやし、過呼吸なるわw 絶対なるw 気持ち悪い内容ですんませんw まだ気持ちが舞い上がり中でw なかなか現実世界に戻れませんw #Free!#絆#岩鳶高校水泳部#岩鳶#しんどい#映画#オタ活#早く約束みたい
0 notes
supersoniclevel · 7 years
Text
Free!TYMみてきました
Tumblr media
(撮影・アップロード可能部分) フォトセッション史上最高の衣装でした(海賊が好きなだけ) 作画が悪いとかはもう気にならないよありがとう…ただただありがとう… コラボカフェかなんかの海賊コスプレは宗介がただのゴリラだった(※暴言をお詫びします)けど、これは船長の右腕?相棒?感があってよい。「前が見えねえんだけど」ってキレてたのが面白かったです。 というわけでとても遅くなってしまったけど感想だよ! 今回は計5回観れました。絆と約束はなんだかんだ言って毎週行けなかったので、舞台挨拶コンプできたのはうれしい! ちなみに三期の情報あるかと思って、中の人の舞台挨拶ライビュ付きのも観たんですが、信長くんがカメラ間違えて「ライブビューイングでご覧になっている全国のみなさん、こんにちは~!」って盛大に明後日のほう向いてにこやかに手を振ってたの超面白かったです。 続きから内容についての感想を。 まあ画像でお察しですが鮫柄メインです。
2話が ほんとうに 最高だった。 (語彙力の喪失) まずね、鮫柄が本当にかわいくていとおしい。 鯨津では友達いなかった(※回想でいつも一人なので勝手に決めました)宗介が後輩たちと親しげに接してたり、卒業旅行は4人が一緒の時間をとても自然に過ごしている感じがとてもいい、特に好きなのが「モモの奴、本当に楽しそうだな」って言う宗介自身が楽しそうなのを見て、愛ちゃんがうれしそうに「はい」って頷くシーンなんですが、これ本当に尊くない!!? 風呂のシーンもそうだけど、愛ちゃんと宗介の関係が大事に描かれてるのが嬉しかったなぁ。モモがムードメーカーとして、みんなの笑顔を牽引している感じもとても良かった!顔出し看板の写真なんか、モモがいなかったらスルーして終わっただろうし、他の話ではやりすぎて暴走して��けど(この話との採��合わせだから仕方ない笑)、こういう時の巻き込み力は御子柴百太郎の真骨頂だなと思う! で、この話の本題は、二期では徹底的に語ることを避けられてきた「宗介の進退」についてであるので、どういう方向に話を着地させるつもりなのか、どう展開させるつもりなのか、とてもとても不安でした(初見時はまだ三期の情報が出てなかったのもあって) 二期(約束)の凛ちゃんの「待ってるから」という言葉は、宗介が待ち望んでいた言葉でありながらも、同時に「水泳をやめる」とようやく決意した宗介をいたずらに揺さぶる、ある意味で残酷な言葉だな、と思ってました。 でも、競泳選手としての道を選ばなかった尚と、「でも俺、またあいつと泳ぎたいんだよな…」と寂しそうに語る夏也は、まさに宗介と凛の未来の姿なんだよね…。 これまでは、宗介は水泳の道に戻らなくてもいいのじゃないか、「待ってるから」と言われたことで逆に、凛ちゃんに憧れ追いかけてきた宗介の水泳人生にピリオドが打たれたのではないか、と思っていたんだけど、夏也の寂しそうな姿を見せつけられたら、とても哀しくて、本当にそれでいいのか…ってなった…。当然、宗介も夏也に凛ちゃんを重ねて見ていたと思う。だからこそ「お前これから…」と改めて問われそうになって、前みたいに「実家に帰って親父の仕事を手伝う」って言えない、やりきれない表情を見せる。 また迷いの生まれた宗介に贈られた言葉が、「必勝」。 このシーン本当に泣いた…… TYM屈指の名シーン。 これ、お守りを選んだのがモモなのがミソで、もしもこれが愛ちゃんだったら「傷病平癒」のお守りを選んだと思うのですね。べつにそれは悪いことじゃなくて、宗介の肩が治ることはそれこそ全員の願いだし、宗介とまた一緒に泳ぎたいという想いそのものなんですけど、宗介にしたら凛ちゃんに「待ってるから」と言われた時と同じで、嬉しいけどどうにもできない、どうしたらいいかわからない、ってなってしまったと思うわけ。 それに対してモモは「傷病平癒」とか難しい言葉わからないし(※暴言はお詫びしません)、人に気を遣うとか難しいこともできないし、宗介がいま迷いの中にいることも全然気付いてない、でもだからこそ、普通の斜め上、誰も想像しないような視点からこういう言葉が出てくる。そして、全く想像していなかった言葉だからこそ、宗介の心にスッと入り込んだのじゃないかと思います。モモは奇をてらおうとか、カッコイイこと言おうとかそんなことも全然考えてなくて、ただただ素でこうなんですよね。諦めて、負けそうになっている宗介への最高のエール。モモがこのチームにいてくれて良かったって、何度も何度も思ってきたけど、これほど強く思ったこともないです。 ありがとう。 このお話の主題ではないけど、愛ちゃんから凛ちゃんへの「大願成就」のお守りも本当に愛ちゃんらしいチョイスで、そして凛ちゃんに相応しい言葉だと思う。こんな言い方もアレだけど、ハルちゃんって天才肌の大物感というか、いずれ大成するだろうなっていう感じがすごくするんだけど、凛ちゃんて努力型なのもあってそこのところ未知数で、本当に世界で通用する逸材なのかどうかあやしい部分がある気がするの…。そして凛ちゃん自身も(一度挫折しているし)それを感じていると思う。なのでこの「大願成就」は、これから先つまづいたり立ち止まりそうになった時、凛ちゃんを奮い立たせるもののひとつになるんじゃないかなって思ってます。 後輩二人の精一杯の想いが、彼らの力になるといいな。 ってすげークソ真面目に語ったあとであれなんですけれども、その他「メカイクラは朝のカニたちの中」が訳分からなすぎてもう笑い堪えるのに必死でぶるぶる震えるしかなかったり(美波くんの「朝の…カニたち?」っていうガチ困惑でまた追い打ちかけられてしんどい)、旅館に着いた時のモモがTYM全編通して最カワで身悶えたりしてました。どこの世界に畳にダイブして(痛えよ…)背泳ぎする高校生がいるの!?可愛すぎかよ…… あとは鴫野不動産でのまこはるの流れるようなボケとツッコミとか、寝ている凛ちゃんをプールに運んだところで筋肉ダンスとか、4話の誤解が誤解を呼ぶ展開とかメッチャ笑ったし、岩鳶のPV撮影のところなんかみんなかわいかった…!あの一連のシーンほんと好き! 地味に、渚と凛ちゃんのやりとりがかわいくて気に入ってます。なぎりんは良いコンビだ…。 怜ちゃんとハルちゃんの「お前はもうフリーだ」のシーンは、はるれいコンビ推しとしては非常に気になるんですけれども、そもそもこれの前提に当たる一期4話が個人的にFree!史上最大の謎なので、このシーンもまだ理解が追いついていないのだった…。なので語ることは控える。でもアンサーを描いてくれたのは素直に嬉しいです。はるれいはもっと増えていい。 それから渚怜江はトリオとしてのかわいさに磨きがかかったな~という印象でした。三期でどこまで出番あるかわからないけど、新岩鳶水泳部の活躍も見れたらいいなぁと思ってます! 三期はめちゃくちゃ楽しみでそしてめちゃくちゃ怖い。 内海監督はもう関わらないのかなぁ、、そのあたりもとても気になってます。 とりあえず日和が第二のモンペでないことをただただ祈っている。おわり。
0 notes
new-title · 7 years
Text
アニメ「Free! 」のコラボイヤフォン。「特別版 Free!」劇場公開記念 - AV Watch
AV Watch
アニメ「Free! 」のコラボイヤフォン。「特別版 Free!」劇場公開記念 AV Watch オンキヨー&パイオニアイノベーションズは、アニメ「Free!」とコラボレーションしたスポーツ向けイヤフォン「E3」(SE-E3)2モデルを期間限定で予約販売する。劇場公開中の「特別版 Free!-Take Your Marks-」を記念し、七瀬遙を象徴するイルカマークをデザインした「岩鳶高校 ...
http://ift.tt/2Adp7qt
0 notes