Tumgik
#綱ぐだ♀
nappa-room · 2 years
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視線の先にきみ
「どっか空いてねえかなー。あ、綱にぃ……いてえ!」 「小僧~無粋やわ~」 「酒呑! 何すんだよ」 「あれが何を見てるのか気づかないのん?」 「はあ?」 「まあ、ええわあ。ほな、お昼はあっちで一緒にしましょ」 「は? おい、こら、離せ!!!!」
 さて昼時である。人類最後のマスターと名高き私ですが、今は忙しい。昼時の混み合うノウム・カルデア食堂にて定位置で美男美女の皆様が和気藹々と昼ごはんを食べる様子を眺める……という大事な趣味にいそしんでいる。
 ああ、忙しい。眼福眼福。
 と、視界が陰った。
「うん?」 「主、昼餉を共にさせていただいてかまわないだろうか」
その声の主は渡辺綱だった。
「いいよ、いいよ。趣味に合致するから」 「?」 「何でもないよー」
 適当にごまかしながら心からの笑顔で彼の顔を眺める。問題ない。視界にいるのが大勢の美男美女か、一人の美男子か、の差である。
 うん、いい顔ですねー。
「主」 「なあに?」 「俺の顔に何かついているだろうか」
 綱はやや私から目をそらしながら言う。じろじろ見過ぎてしまっただろうか。悪かったなあ、食べづらいよねえ。
「あ、ごめんね。ごはん、食べづらいね。綱の顔が良いから見過ぎちゃった。また後でゆっくり見るよ」 「顔が良い?」
 綱は首をかしげている。まあ、そういう話に彼は疎そうだ。なんと説明したものか考えていると、綱が先に口を開く。
「俺は主の顔を好ましいものだと思う。そういうことだろうか」 「そう? 同じかなあ。まあ、そうなんだと思うよ」
 そのあたりのふんわりした感覚を突き合わせるのは難しい。うまく説明できるかよくわからないし、自分でもはっきり意識しているわけではないし。でも少なくとも私も綱の顔は、好ましい顔だと思うので、間違いではあるまい。
「主はよく食堂の隅で他の者の様子を眺めているが、その輪には入らないんだな」 「お、よく見てるねえ」 「気になっていたのでな」
 綱は僅かに顔を赤くしてそっぽを向く。ゲオルギウス先生、今の顔写真に撮っておいてくれないかな。
「うーん。ほら私、人類最後のマスターじゃない? だから何かあったら誰よりもど真ん中で活躍しちゃうわけでしょう」 「そうだな」 「もちろん一人じゃ無理だよ。みんなに助けてもらうんだ。でも最後に踏ん張るのは私だ。そういう自負はあるよ」 「……」 「だからかな。なーんにもないときはモブでいたい」
 誰かに言ったことはないし、自分でも明確にそう意識していたわけではないけど。たぶん、きっと、そういうことだ。  異聞帯に行けば、一番に先を行く。間違いない。絶対だ。でも、そうじゃないときは、後ろの方でぼーっとしてたいな、だなんて。
 怠けていると、だらしないと、綱はそう思うだろうか。
「主」 「うん」
 綱は手を伸ばして私の髪をぐしゃぐしゃと混ぜる。
「適切な表現かはわからないが、こういうときは、たぶんこうだと思う」
 少し間が置かれる。綱の手が頭を押さえているので彼の顔は私からは見えない。
「お疲れ様」 「……」
 それから綱は立ち上がっていなくなってしまった。  ……今のはいったい何だったんだ。すると綱はすぐに戻ってきて手にしたマグカップを差し出す。
「主、これを」 「これは?」 「キッチンにいたものに主が温まるものを、と伝えたら出してくれた」
 カップの中身は少しゆるめのお汁粉だった。小さな白玉がいくつか入っていて温かい。綱も同じものを持っていて、今度は隣に座った。
「……思ったより甘くなくてうまいな」 「そうだね」 「ここからは皆の様子がよく見えるな」 「うん。お気に入りの場所なんだ」
 少しずつお汁粉をすすりながら二人で話す。あっちで談笑しているカルナとジナコ、向こうで並んでごはんを食べているランスロットとトリスタン、喧嘩をしているアキレウスとパリス、それから、それから、ここから見える、みんなの話を。  綱は私と同じものを見ながら、言葉少なに相づちを打っている。時たまこちらを見ていることはわかっていたけど、何故か私は綱の顔を見られなかった。
「温まったか」 「うん、ありがとう」 「また食事を一緒にしてもいいか」 「もちろん」
 そして綱はまた私の髪をかき混ぜて、今度こそ去って行った。テーブルに置きっぱなしになっていたカップを2つ、洗い場に返しに行く。食堂に来る前より、体が軽くなった気がした。
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nappa-room · 2 years
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彼が良いと思うもの
「主、今いいか?」
 ノウム・カルデアの廊下で、私を呼び止めたのは渡辺綱だった。
「いいよ。場所はここで大丈夫? それとも食堂か、私の部屋に移動する?」
「主の部屋に興味はあるが、今はここでかまわない」
 そう言って綱が話し始めたのはメディアのことだった。お、メディア・リリィとの報われない恋についてですかな? と、内心色めき立つも、リリィではないマダムの方の話らしい。
「彼女は俺が仕えたメディア・リリィと、彼女がどう違うか教えてもらってもいいだろうか」
「どう違うか、かぁ」
 説明が難しいなあ。英霊としての在り方の違い、という話でいいかな。というかそれ以上は難しいのだけど。性格的な違いとか、根本的な考え方の違いとかは、2人と接する中でお察しいただきたい。私の見え方を彼の先入観にしたくなかった。
「表面的な話だけになっちゃうけど良いかな?」
「かまわない」
 そこで私は話し始める。英霊メディアの生い立ちと彼女がメディアとして座に至るまでの道のりを。
「……とまあ、以上です。何か聞きたいことはあるかな」
 綱は無表情で全てを聞いていた。私の問いかけに少し考えてから口を開く。
「つまり彼女らは『前後』ということだな」 「そういう言い方も出来ると思うよ」 「では俺の『前』が召喚されることはなさそうだ」
 ???? 綱・リリィ、だと?????  一瞬で脳内に小柄な綱が現れ、上目遣いで
「あるじ?」
 と言っている姿が思い浮かんだ。最高では? アリかナシかで言えば、
「アリでは?」 「何がだ?」 「なんでもないです」
 綱は真っ直ぐにこちらを見つめた。イケメンの眼差しは、それだけで攻撃力が高いなあ、なんて思っていると彼が口を開く。
「主は、そういうことはあるのか」 「?」 「誰かに懸想し、それが叶わず思いあぐねていることだ」
 けそう? 恋慕的な? どうだろうか。
「失恋くらいはあるけど、それはカルデアのスタッフになる前の学生時代の事だし、よくある恋に恋するお年頃的なアレだから、たいして覚えてないな」 「現代はそういうものなのか。それとも主がそうであったのか?」
 まあ、そこは両方だろう。現代を生きる中高生が本気で誰かに恋して降られて、くすぶって……なんてのは、もちろんいくらでもあると思う。けど、大体の恋はその内に薄れていく。そして今の私の状況で当時の好いた惚れたは、覚えていられることではなかった。
「他の人のことは知らないけど、少なくとも、私は今、昔の誰かを思っていたりはしないねえ」 「そうか」
 そう言うと綱の頬が僅かに緩んだ。なんだろう?  しかし私の話はいいんだ。今の私はカルデア内にいるイケメン、及び美女、美少女の皆さんを遠くから眺めてニコニコするという大事な趣味がある。そしてその皆様には幸せなカルデア生活を送っていただきたい所存である。
「綱はここでの生活はどうかな? 嫌なことやつらいことはないかな? 楽しくやれてる?」
 本当はメディア・リリィとの進捗を聞きたかったけどやめておいた。鼻息が荒くなってしまいそうだから。
「そう、だな。悪くないと思う。他の者は親切だし、鬼はいるが……。しかし、うん。不自由はない。それに」 「うん?」 「……主が笑顔でいるのが、良い」
 うん???? 何だ? それは????
 私の疑問が顔に出たのか、綱は僅かに眉をひそめる。しかし、ちょっと意味がわからない。良い、とは。
「嫌だったか」 「え、嫌っていうか。よく、わからなくて」 「なんと言えばいいか……。主が笑顔で過ごしているのを見ると、安心する。それを見られただけで、ここに来て良かったと思う。そういうことなんだが」 「う、うん? わかったような、なんというか……」
 それは、どういうことだろう。私が笑顔って事は、つまりトラブルがない状態な訳で……。
「あ、平穏なのがいいってことか! うん、そうだよね。束の間かもしれないけど、綱はずっと戦ってきた人だから、少しでもゆっくりして!」 「?」 「じゃ、じゃあそろそろ行くね! 明日の周回は一緒に来てね!」
 そして私はその場から走り去る。綱が何か言いかけていたけど、聞けずに走った。ちょっと、ほんとに、その。綱の言ったことを、都合良く解釈しないようにするので精一杯だった。
「……明日、どんな顔で周回に誘えばいいんだ?」
 顔を洗って、それからキルケーにでも相談に行こう。
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nappa-room · 2 years
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【FGO二次創作】どちらを向いてあるくか【綱ぐだ♀】
「……」
 ここはノウム・カルデア食堂。今日のおやつは紅閻魔ちゃんとエミヤの合作であるたい焼きで、食堂はそこそこ混んでいた。  その隅の席で、人類最後のマスターである私、藤丸立香は、たい焼きをかじりながら、ある一角を眺めている。
 
「ねえ、キルケー?」
「なんだい、ピグレット」
 向かいの席で同じようにたい焼きをかじるキルケーに声をかける。
「私ね、イケメンには幸せになってほしいと思うのよ」
「本当になんだい、藪から棒に」
「あれよ」
 キルケーの右斜め後ろをこっそり指さす。そこには、先日、弊カルデアにやってきてくれた新たなイケメン、渡辺綱と、彼の元サーヴァントであるメディア・リリィがたい焼きを持って立ち話をしている。
 
「それから、あっち」
 キルケーの反対側の左斜め後ろを指し示した。そこにはイライラした顔でメディア・リリィの方をこそこそと睨む元旦那、イアソンが座っている。
「ほう。イ��ソンは露骨だな。もう少し隠す素振りでもしたらどうなんだ……」
「本当にね。それで、よ。渡辺氏がここで幸せになれる可能性についてどう思う?」
「えー……どうかなー」
 キルケーは、いかんともしがたい顔で目をそらす。どういう意味だ。
 綱はメディア・リリィと穏やかな表情で雑談をしている。有りではなかろうか。綱はメディア・リリィのことを大切にしてくれそうだし(少なくともイアソンよりは)
 でもなー。メディア・リリィはイアソン好き好きだからなー。でも押されて恥じらうメディアちゃん見たいなー。
 
「たぶん、あの2人はくっつかないと思うよ、ピグレット」
「やっぱり難しいかなあ」
「ツナ? のあれはどちらかと言えば親愛であったり貴人に対する礼儀正しさの域を出ないというか」
「そっち? うーん。そっかー」
「主」
「はーい。……へ、綱?」
 首をかしげながら悩んでいたら、いきなり呼ばれてびっくりする。顔を上げてもう一度驚いた。
「あれ、さっきまであっちでメディア・リリィと話してなかった?」
「ああ。しかし彼女はイアソン殿にたい焼きを渡しに行くと言うし、マスターが気にかけているようだからと、別れてきた」
 え、私のせいなの。
「ご、ごめん。邪魔しちゃったかな」
「いや、かまわない。元々主の共をさせてもらおうと思っていたんだ。隣、いいか?」
「そう? どうぞどうぞ福眼です」
「?」
 綱はよくわからないような顔をしつつも隣に座った。向かいではキルケーがニヤニヤしている。
「主、彼女は?」
「初対面だっけ。彼女はキルケー。ギリシャ神話に出てくる魔女だよ」
「初めまして、ツナ。私は大魔女キルケーだ。ふうん、確かにマスターの言うとおり、いい男じゃないか。私がまだアイアイエー島にいたら養っているところだった」
「初めまして、キルケー。イケメン、とはなんだ?」
「顔がいい男のことだよ」
「ちょっと、キルケー!」
 言いたい放題のキルケーを遅ればせながら止めに入る。綱は『顔???』と疑問符を飛ばしているけど、ここからどうごまかしたものか。というか、養うとか言うな。
「そう言えば主はたい焼きはもう食べたのか」
 こちらが何か言う前に綱が話題を変えた。正直助かるので、そこに乗っかることにする。
「うん。粒あんとカスタードを食べたよ」
「俺はこしあんとうぐいすあんをもらったんだが、正直甘い物をそこまで食べられるかわからない。良ければ半分食べてもらえないだろうか」
「いいよ。うぐいすあんかあ、楽しみだなあ」
 ああ、だから「共を」って言ってたのか。そんなに甘いわけではないけど、得意でなければ二つ食べるのは大変かもしれない。綱からこしあんとうぐいすあんのたい焼きをそれぞれ半分もらって一緒に食べる。
「あ、こしあんの方が粒あんより塩が多い。さすがだなあ。うぐいすあんの方は粒がしっかり残ってるんだね。そんで甘さ控えめだから豆感あっておいしいなあ」
「ふむ。そこまで詳しくはわからないが、たしかに美味い」
「カルデアはごはんもおやつもおいしいからね! せっかく来てくれたんだし、楽しんでいってね!」
 私がそう言うと、綱は眼を細めた。なんだろう。笑っているような、切ないような?
『ぴんぽんぱんぽ~ん。はーい、そろそろ定例ミーティングの時間でーす。マシュー、マスター、新所長ー、その他、参加予定のみんなは早めに中央管制室に集合してね。ダ・ヴィンチちゃんでした!』
 唐突に館内放送がかかる。いけない、すっぽかすところだった。
「キルケー、綱、ごめん! 私行かないとだ」
「はいはーい。行ってらっしゃい、ピグレット」
 キルケーはそう見送ってくれて、綱は無言で頭を下げてくれて、私はバタバタと食堂を後にした。
「ねえ、ツナ」
「なんだ」
「イケメンってねえ、顔だけじゃないんだよ。まあ容姿に魅力があるのはもちろんだけど、それだけじゃなく、性格とかも魅力的な人って意味なんだよね」
「だからなんだ」
「マスター、君のことイケメンって言ってニコニコしてたよ」
 私がそこまで言うとツナは黙って、彼女が去った方を見た。先ほどまでツナが笑顔で見つめていた彼女の姿はもう見えない。なのに。
「……」
 ツナはまだそこに彼女がいるかのような顔で食堂の出口を見ている。あー、やだやだ。鈍いマスターは嫌だなー! 私はツナに一声かけて立ち上がった。人様のもどかしい恋路について、リリィじゃない方のメディアに愚痴を言いに行くことにしよう。
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