#銘柄自由な利酒セット

[kawamurayutaka]

Buone Notizie

木から落ちた

最新にして最悪の部分

時代のけばけばしい安っぽさ

この猿は猿真似や好きな事に服従している

森には細いばらばらでまとまりの無い小道がある

荒々しく無鉄砲な誠実さで進む

チンパンジーは本当に戦争をするのか

ＶとＳ

毛が抜け始めた猿カカポ

ファラオの墓をあばく（言）無数のけだもの（赤）死が速やかに訪れる（言）

黒い風（東）黒い鏡に（裸）残忍（内）まっこうから（裸）誤解の余地なく（パ）世界中の（内）脈略の毒性（赤）隠密裡に（濁）苦い永い悪食の卓に（赤）魂を知ることを（悪）

混沌たる渦のまっただ中（お）陰謀のイタダキ（ダ）農耕技術と狩猟の手管によって万物を支配するにいたった（悪）

蝿が飛び回る陽光の中（ク）デニムのズボンに汚染した（赤）

特徴づけるメガネ（内）歯の抜けた魔女の息の（バ）冷淡さ（ク）声のトーンはわかる（電）

過去のあらゆる過ちが旅人を不利に導く（ア）高みからデカダンスの本能が秘かに作動している（ニ）膏汗がにじみ（半）視覚に（シ）鉄砲玉（赤）悪には悪を（　）横っ面を引っぱたく（半）シンバルを鳴らし（シ）心耳にとどろく（お）

胴震いがとまらなかった（赤）

ウンでもスンでもない（赤）不即不離（両）暗黙の前提（ジ）微に入り細に入り（処）ラッシュの中に消えていった（ク）白い嘘（おぼ）

独りでとり乱し（蝶）片手に猛毒（ハ）それが好きでなければならない（歴）白羽の矢（処）自身がニュースになって（電）

唸り声におびやかされ（箕）罹災（わ）の都（ハ）幾万の衝突（ク）何かの科によって（小）かつての「現在」を甦る不気味な既視感（プ）方向を記述する（シ）記号がその記号をくり返し（見）前へか後ろへか（ニ）エゴからセルフへの（経）見返りの（わ）欲望に制限を課す（裸）多くの家畜（裸）四つの市門がある（パ）都市が存在し始める（見）

自分達の顔を（蝶）目にしたものを写す（電）はずんだ眼の色（濁）囁き合い（濁）破片と化して到着するかもしれない（ア）陰険な肉欲の鉄則以外には常に笑い続けてきた（ノ）眠りまで（フ）究竟（刺）をともなった機敏さ警戒心（ア）静穏（裸）に叮嚀に（刺）精神修行の核心（ア）息を吸うこと（内）

ぶらぶら（刺）玉虫（フ）原始的な観照力（パ）コウモリ耳に（ハ）唇は紫色に（裸）片目の商人（荒）帽子をかぶった頭が（い）消え去り（い）マーマレイドを舐め（Ｊ）笑い声を残して（刺）死のまぎわまで近づいた人間（蝶）死ねずに（蝶）眠っていた言葉（Ｉ）言うことはない（い）

この阿魔（刺）かの眼（う）愛情の監視（殺）そっけない（歴）間に合わせの丸太小屋（爆）血の悪酔い（大）コンビニエンスな発想が（　）ひどく痛む（半）奇態な自覚にいきなり打たれ（蝶）手たちが群がる（爆）

なぜそんな（小）却を経た（赤）古い都（赤）泥棒（大）十夜の夢（大）少し舌のもつれる歌声（裸）変化をズバリ誰によって（バ）拡まったのかその由来は勿論分からない（小）密雲を吹き払った（濁）定めて大向こうを騒がす（刺）毒素遺伝子が絡む（Ａ）九尾の狐（小）

老衰してコルセットをつけたテナー歌手（裸）悲しげに（爆）路上をさすらう門付芸人（赤）つかの間の休息場所....見知らぬ公園の臭い（爆）

直径数キロの（ク）悪い空気（ノ）墨や朱をだんだんに注し（刺）どんな機械でも（Ｉ）退引きならない（半）愛情を帳消し（半）すべての地獄（い）に吸収する（フ）機械の形をとった化石化（マ）どこか現実離れしない（赤）

合理的な価値（孤）リトル・アジア（フ）男と女の脳（内）不意に思った（永）人間たちはなんとなく不満を持っている（孤）弱者が不正と見なすものも強者にとってはつねに正しいものでしかない（ソ）物語の陰の物語をあばく（処）都合よく操られ（処）うなだれた（い）ある種の心理的な（孤）劣等感を（孤）欲求のセットを育てあげてきた（孤）人間という生物は幾世紀にもわたって自分をコントロールする能力のどうしようもない欠如を示してきた（バ）

独裁的な（楽）「想像」という語の解釈を（魔）欲望のままに聴く（シ）幻の刻み音（蝶）怠慢な安逸との間に（魔）微妙な媒質（Ｘ）感覚の映像（魔）

見知らぬミクロコスモス（パ）死は変幻自在な生命体（ア）軽々しく信じたり無批判に受け入れたりすることも危険（ア）腐敗し汚物に変身（パ）亀ふたたび（パ）絵文字はどのようにでも無限にヴァリエーションが作り出せる（言）午に近い（箕）某月某日（悪）同日同刻（同）独創的な暗号（わ）目が吸いつけられ（ク）方向喪失（時）

　「もうどうにも（い）インチキだ明らかにインチキだ」（裸）

マラチオンの（内）ぬるぬる（裸）登場人物の（裸）二三本横にはみ出した乱杭歯に（美）ひきゆがんだ顔（東）整形手術（裸）工夫と情熱（孤）一種の密室殺人（わ）動機を（歴）追剝ぎ（半）ひょっとすると（歴）排除する（Ｉ）仔細が（半）巣を食っている（半）少女の手ほどの雲が一つ（ハ）うす気味の悪い（箕）時の手（ア）坐って微笑んでいる奇怪な像（フ）熾烈な戦い（処）意志をくじく（オ）

最も醜い容貌を持つ（濁）小人の肖像画の意図（フ）筋金入りの糞（視）大長老の威厳などどこへやら（わ）ピカレスクの要素（Ｉ）裏銘（永）登場人物や名前や舞台に関心がある（バ）金歯を吐き出して（裸）制度化された低い暴力（内）全面的に疎外され（視）恥辱のために（裸）不屈で戦闘的な（殺）奇妙な豊かさ（い）最悪の方式（ソ）社会と正気（言）不安に対する不安（時）現代の集団的神経症（時）世迷いごと（バ）心への反映（時）御迷惑（半）迷信（パ）迷蒙（パ）ミアスマ（パ）針と墨と図柄（見）

車は今それは機械的制御の危険性について私たちに警告する目的を果す（Ｉ）実験において（匂）意思決定をしているのは機械ではなくその機械を設計して権限を与えた人間（Ａ）

マルコーニ無線電報（ハ）連結ラインに電気のけいれん（爆）かすかなきしみ音（蝶）脳内に録音された言葉エングラム（視）死刑執行人の不手際（処）主体が（バ）身代わりになって体験（バ）死んだ山羊の屍体を夢中になって（C）検屍しようというのではない（Ｃ）一様に匂う空気の流れは高度に人工的（匂）

暗がりにうごめく裸形（大）奇形の精巧な模型（性）

第一の布告（ハ）事実ファクトと虚構フィクションをアッセイ分析と（歴）すべての政治組織の（Ｉ）悪人の欲望を伸張し倍加する正しい方法は、シンジケートのマネー・ロンダリングに（殺）予測不可能な（ノ）新奇な（性）愛情の要因を排除する（ノ）電気の欲求（爆）

はじめに言葉ありき（言）言葉とは何であるか？（言）「私」という言葉について混乱している（Ｉ）怖ろしい硬直から（い）苦痛の蓄積にキーワードをつなぐ（視）黒豹のオペラケイプが床に広がり（ハ）真のユートピアとは（シ）青空を背に（大）二人の亡骸と（半）バランス（シ）最後の生命（ノ）守るべき何の節度をも持たない人々をかきわけて（ノ）たどった道をとらえ（日）失われた文字のアルファべットに従いつつ（見）泥の壁（裸）沈潜し（日）太陽そのものが大地に降りて来ないように（パ）はなしことばを言語を説明する（日）あいだに虚空の広大無辺（い）言語とメタ言語（日）避けがたい（シ）影は長く（グ）不自然に這い進み（大）種をまくことだけを（　）言葉だけがただひとり虚無に挑戦する（オ）

歴史はフィクション（視）わが国旗なお健在なりし（裸）

夢とは正確に何ですか？（Ｉ）習癖ノート（裸）初耳のすじのとおった話（Ｃ）手紙の一行一行（Ｃ）くちばしをさしはさまない（視）心の内部（電）環境の中にあるものすべて吸収し熟知している（電）大量の思い込み（２）全てが主要な要素になる（シ）灰（パ）中心点の中心（パ）一つの針穴（い）永遠なる物体の質量（パ）零のために（い）だれでもないものの墓（い）ひび割れたコンクリート（爆）ぐるぐる（電）光の渦巻き（電）夢だと思ったあのときの文字（永）の香り（爆）消え去るよう（い）空はゴーストが描いている（爆）静かになりたい（赤）眠りたい（赤）ノスタルジーを抱いてきた（２）

言葉のチリが落ちてくるとともに（爆）目は左から右にたまらなく動き（Ｉ）いかめしい顔と顔（電）被害者カレンダー（バ）孤独な群衆（孤）何千もの人人が録音再生機器（電）システマティックに（電）メタノイアに（内）路上のサウンドを録音していた（電）仏も不在にする無心（赤）別の「現実」（コ）死体（ハ）はだれだ？（爆）

孤立し酒を飲まずあまり外出しない（視）不在の（爆）排便の発見（自）便器は大陸を汚染するに足る（裸）足や腕（自）手といった具合に身体のあらゆる部分に便をぬった（自）四角四面の日課を形成した（自）屋外便所の（裸）不変にして不動の均整（ク）血走ってぴくぴく脈打（お）片づけておかねばならない急用（ハ）率直でありたい（合）

黒いウーズテッドのアブリル・ハリソンのスーツ（視）何者（半）澄んだ水底のような眼が開く（大）ハエの眼（匂）

液体空気のように冷たく青いドクター（爆）生半尺な弱足（赤）実演という言葉を使うのは（裸）手術が演技であるからだ（裸）

ある種の（永）散髪はいまでも１世紀前でも所用時間は変わらない（２）

下を向いている（匂）けたたましい婦人（性）淫蕩な気分（永）金のあるあいだは何を考えても無駄なことだと（籠）住所を残さなかった（爆）賽子の失いダイス（赤）現実的根拠のない無内容なおしゃべり（２）何かがなくてはならない（バ）

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[fsravine]

#ビールスタンド重富 で美味しい #生ビール 2杯頂いた後、 #利根屋 で #コウネ でもつまもうと思ったら、休み じゃぁ、#初ちゃん へってこっちも休み！ もう、#餃子 だ！と #清ちゃん に行くと、まさかのここまでお休み！ 月曜休み多いなぁ〜 という事で、散策開始 #肉居酒屋 でコウネにするか？ 名前が気になる #立ち飲み にするか？ 結局入ったのは、#角打ち の #酒屋 #福本屋 店の奥が #立ち呑み スペースになってて、料理も結構ある！ 酒屋らしくお酒のメニューも豊富で、#銘柄自由な利酒セット 800円ってのがある！ これは面白い！ 32種類の #日本酒 から3つチョイス！ #雨後の月純米吟醸夏 #千代むすび純米生原酒 #竹鶴純米酒 やっぱり、#竹鶴 は比較として飲んでみたいよね 常温で、ホント昔ながら日本酒！って感じなんだけど、#どて焼 や #宮島焼 の味噌系の濃いのには合うんだよねーこれが！ #雨後の月 はサラッとしてて、ちょっと辛口 #千代むすび がこの中ではいちばん、呑みやすく、口当たりもなめらか #ヤングコーン串 や #かき串 とも合わせやすい 1490円の #せんべろ なかなか良いお店だね！ #広島 で新たに発見！ (立ち呑み福本屋) https://www.instagram.com/p/ChlZabSBFagJ33agcn284wI7TR4dOAiYgju9N00/?igshid=NGJjMDIxMWI=

[sorairono-neko]

お泊まりセットを持ってきてよかった

「勇利、今日、食事をして帰らないか」 　更衣室でヴィクトルに声をかけられ、勇利は戸惑った。ヴィクトルは勇利がロシアへ来たときから、こんなふうに誘ってくれることが多い。何度目だろう？ 「こんなかっこうでいいの？」 「構わない。かしこまった店じゃないからね。いつもと同じ、庶民的なところさ」 「うん……じゃあ行く」 　断る理由もないので、勇利はこっくりうなずいた。確かにヴィクトルは、勇利ひとりでも簡単に入れるような気軽なところへ連れていってくれる。それでいて料理は美味しく、雰囲気もとてもいいので、勇利は毎回食べ過ぎそうになるのだ。 「ヴィクトルはぼくを太らせようと企んでるんじゃないの？」 　今日の店もそんな店だった。勇利は食後のお茶を飲みながら笑った。 「ちゃんと考えて注文してるじゃないか。大丈夫だよ」 　ヴィクトルは答えてから両手を組み合わせ、魅力的な視線で勇利をみつめた。 「勇利、デザートは？」 「ほら、太らせようとしてる」 　ヴィクトルは陽気に笑った。勇利も合わせて笑いながら、ふしぎな気持ちだった。ヴィクトルはどうしてこうやって誘ってくれるのだろう？　彼はスケート以外でも忙しいし、リンクでは自分の練習と勇利の練習で手いっぱいだし、それ以上勇利にかかわらないほうがゆっくり過ごせるのに。きっと、ロシアへ来たばかりで右も左もわからないものだから心配してくれているのだろう。店を教えたり、ロシア語の使い方を説明したり、気晴らしに協力したりと、気遣っているのだ。ぼくの精神がもろいから、と勇利は考えた。 「出ようか」 「うん」 　ヴィクトルは、レストランから出ても、勇利のアパートのほうへは歩かなかった。勇利は彼についていった。 「ヴィクトル……」 「すこし散歩して帰らないか」 　ヴィクトルは優しい笑みを浮かべて提案した。 「勇利さえよかったら」 「……うん。べつにいいけど……」 　これもひんぱんにあることだった。ヴィクトルはよく勇利を川沿いの散歩へ連れてゆく。歩くのが好きなのかな、と勇利は思った。それとも……。 「今日はあまり曇ってないね」 　ヴィクトルが空を見上げた。サンクトペテルブルクは曇り空が多い。 「寒くないかい？」 「うん、平気」 「夜はまだ風がつめたいからね」 　ヴィクトルはそんなことを言いながら、さりげなく勇利の手を握った。勇利はどきっとした。 「ほら、手が冷えてる」 「べつに、寒いからじゃないよ。たまたま」 「たまたまでも、冷えていたらあたためたくなるね」 　そう言ったヴィクトルは、勇利の手を握り直し、離す気配がなかった。勇利はうつむいた。どうしてこういうことするのかな……。 　なんとなく、黙りがちになってしまった。ちょっと気まずい。ヴィクトルといて、沈黙だから気まずいなんていうこと、日本にいたころはなかったのに。 「そろそろ、スケートシューズを新調しようと思うんだ。そうそう、いま履いてるやつをつくったときはね……」 　ヴィクトルが穏やかに話している。勇利はその声に聞き惚れていた。なんてすてきな声なのだろう。あたたかくて、つやっぽくて、優しくて──普段リンクで聞いている声とはなんとなくちがう気がする。もちろんそんなはずはないけれど。 「勇利、聞いてるかい？」 　ヴィクトルが笑いながら勇利の顔をのぞきこんだ。ヴィクトルの向こうで、美術館のきらびやかなひかりが川面に反射した。 「あ、うん、聞いてる」 　勇利は慌ててうなずいた。ヴィクトルは口元を上げてまぶたをほそめた。 「俺といても楽しくないかな」 「え……そんなことないよ」 　勇利は口ごもった。 「……ぼくといるほうが楽しくないと思うけど」 「なぜ？」 「おもしろみのある人間じゃないから。ぼくのどこを見てもスケートのことばっかりだし」 　スケートとヴィクトルのことばっかり、と言いそうになったけれど、それはおさえた。 「勇利がおもしろみのない人間？」 　ヴィクトルは愉快そうだった。 「勇利みたいに、知れば知るほどいろんな顔を持ってる子はいない」 「ヴィクトルは考え方がおかしいからそう思えるかもしれないけど……」 「考え方がおかしいのはきみだ」 　ヴィクトルはくすくす笑った。ヴィクトルは変だから言っても無駄だと思って、勇利はあきらめた。 「勇利ほど魅力のあるひとを、俺は知らないよ」 　ヴィクトルは熱心に言った。勇利は「ふうん」とあいづちを打った。 「聞いてないな」 「聞いてるよ」 「本当だよ」 　ヴィクトルは足を止めた。彼はつないでいた勇利の手を一度離してから、熱烈な態度でまた握り、甘い声で言った。 「俺はいつか、おまえのすべてをあばきたいと思ってるんだ……」 　あばく？　あばくってなんだ？　あばかれるようなことないんだけど。頭のすみでそう冷静に判断しながらも、勇利はすこし混乱した。ヴィクトルの言葉より、その声にどきどきしてしまった。なんとなくいつもとちがう声、と思っていたけれど、いまのは、完全に普段とは異なっていた。もっと魅惑的で、もっと熱を帯びていて、もっと──とにかく、もっと勇利をのぼせ上がらせる声だ。 「……訊いてくれたら、なんでも答えるけど」 　勇利は動揺しているのが伝わったら困るので、できるだけ平気そうな口ぶりで言った。 「何が知りたいの？」 「それはまた今度にしよう」 「なんで？」 「俺が知りたいのは、こんなところで包み隠さず見せられるような、日常的なことじゃないんだ」 　じゃあどんなことなんだろう……。勇利はますます赤くなってしまった。ヴィクトルは何を言ってるんだろう。いつも勇利に接近する彼だが、今夜はそれよりも親密かもしれない。ちっともいやな気分ではないけれど。 「……帰ろうか」 　ヴィクトルが方向を変えた。勇利は慌ててうなずいた。 「う、うん」 　これ以上一緒にいると、変な気持ちになってしまいそうだ。ヴィクトルはいったいどうしたのだろう。 「送るよ」 「大丈夫だよ」 「送る」 　アパートまで送ってくれるのも普段どおりだった。どうしてこんなに過保護なのかなと思った。平気なのに。 　ふいにヴィクトルが勇利の手を離した。勇利はびっくりした。つないでいるのがいやになったのだろうか？　自由になった手がひんやりした。するとヴィクトルは勇利の腰を抱き直し、身体をくっつけて黒髪に頬を寄せた。勇利はまたどきっとした。 「あの……」 「寒いだろう」 「いや、寒くないんだけど」 「俺が寒い」 「ヴィクトル、これくらいの気候、慣れてるでしょ」 「日本で甘やかされたからね」 　ヴィクトルは楽しそうに笑った。 「勇利とこうしていないとだめな身体になっちゃったんだ」 「いままでしてなかったじゃない」 「それは我慢してたから」 「本当はしたかったの？」 「そうだよ」 　へえ、と思いながら勇利はうつむいた。何を言えばよいのかわからない。 「……なんで我慢してたの？」 「我慢しなくてよかったの？」 　ますますわからなくなった。ヴィクトルはまた楽しそうに笑った。 「まあ、もう限界って感じで解禁しちゃったから、同じことだけど」 　ヴィクトルは何を言っているのだろう？　勇利は頭の中がまったく整理できなかった。 「我慢なんか、しなくてもいいんじゃない」 　勇利はぼうっとしながらつぶやいた。今度は、自分のほうが何を言っているのかよくわからなかった。 「勇利、それはどういう意味かな？」 　ヴィクトルがおどけながら、しかし目つきはかなり真剣な様子で尋ねた。勇利はどぎまぎした。 「べつに、ぼくは……ヴィクトルって普段からくっついてくるし……これくらい……」 　ヴィクトルがほほえんだ。彼はアパートの入り口まで勇利を送ると、向かいあって頬を撫で、顔を近づけた。 「じゃあ、おやすみ」 「う、うん……おやすみなさい」 「勇利」 「はい」 　ヴィクトルは愉快そうに口元をほころばせた。 「おまえは、わかってるのかわかってないのか、本当に難しい子だね」 「料理を練習してたんだけど、だいぶ上達したよ」 　いつものように送ってもらうとき、ヴィクトルが弾んだ声で言い出した。 「一度、うちに食べに来ないか」 「いいの？」 　勇利は素直にうれしかった。練習のときだけではなく、ヴィクトルともっと一緒にいられたらなと彼は考えていた。だからヴィクトルが誘ってくれるのは喜ばしいことなのだ。さらに、彼の家に行けるとなると、レストランで食事をと言われるよりもはしゃいでしまった。 「勇利に合わせた、カロリーが低めのものにするよ。カツ丼は出さない。勇利は残念かもしれないけどね」 「カツ丼は勝って食べるからいいの」 　ヴィクトルがカツを揚げているところを想像すると、なんだか可笑しかった。 「いつ？」 「勇利さえよかったら、明日はどうかな」 「え？　明日？」 　急だな、と思ったけれど、とくに予定があるわけではないので、勇利はいつだって構わない。 「ああ。あさっては休みだろう？　ちょうどいいんじゃないかと思って。了承してくれるなら、今日下ごしらえをしておくよ」 　勇利に異論はなかった。困るどころか、突然うれしいことがきまって浮かれてしまった。 「いいよ。じゃあ明日」 「楽しみにしてるからね」 　ヴィクトルは勇利の髪にふれ、笑顔で帰っていった。勇利は手を振って見送り、それから、ヴィクトルがさわった髪にてのひらを当ててしばらくぼんやりした。 「……明日はヴィクトルの家だ」 　くるりときびすを返すと、アパートへ駆けこみ、自室でひとしきり騒いだ。何度かヴィクトルの家には行ったことがあるけれど、過ごしたのはそんなに長い時間ではなかった。明日はごはんを一緒に食べられる。 「あ……」 　そこで勇利はどきっとした。食事をするだけなのだろうか？　ヴィクトルは「あさっては休みだろう」と言った。つまりそれは、泊まっていけばいいということなのでは──。 「まさか」 　勇利はつぶやいた。そんなはずはない。休みなら、帰宅が遅くなっても問題はないという意味だ。ほかにないではないか。なぜ泊まるなんて考えてしまったのだろう。ずうずうしい。 　……でも……。 　勇利は、ヴィクトルがいつも食事に誘ってくれることを思案した。あれは──あれはいったい何なのだろう。何か理由はあるのだろうか。──もちろんわかっている。ロシアに慣れていない勇利のためだ。それは理解しているのだけれど──。 　しかし、ああいうときのヴィクトルの視線やしぐさには、何か熱がこもっていないだろうか？　特別なものが感じられないだろうか？　気のせいだろうか？ 　気のせいにきまっている、というのが勇利の意見だった。熱だなんて、そんなものはない。ヴィクトルはおおげさだから、それが態度に出てしまっているだけだ。意味なんてないのだ。けれど……。 　わかっているのかいないのか、難しい子だ、とヴィクトルは言った。わかっているって、何をだろう。どういうことだろう。ヴィクトルは、いったい──。 　勇利は、ヴィクトルがしていることはただの生徒への親切だと思うのだけれど、そうきめつけてしまうのをためらうような目をヴィクトルはしているのだった。彼はいつも食事のとき、どうしてあんなに勇利をみつめるのだろう。勇利が話すと、なぜ何を置いてでもおまえの声を聞いていたいというような態度で耳を傾けるのだろう。手を握ったり腰を抱いたり、ヴィクトルなら以前からしていることだが、以前からされているからこそ、あのころとは何かがちがうというような気がしてならない。経験のない、何も知らない勇利がまさかと感じてしまうようなものをヴィクトルは持っている。 　やっぱり……ぼくが泊まることをヴィクトルは考えてるんじゃ……。 　もしそうだとしたら必要なものはなんだろう、と勇利は考えた。歯ブラシ。着替え。櫛。タオルとかは……貸してもらえるのかな。ほかには……。勇利はうんうんうなって頭を悩ませながら、結局、ひきだしを開けたり洗面所に行ったりして、思いついたものを用意した。お泊まりセット、と思いつつそれらを布の袋に詰め、そこで急に赤くなった。 　こんなものを支度してるなんてヴィクトルに知られたら、ばかだと思われるんじゃない？　勇利、泊まる気まんまんで来てるじゃないか、なんてあきれられたらどうしよう。勇利、泊まっていくつもりなんだ。へえ。俺なにも言ってないのに、すごい思いこみだよね！　笑顔でそんなふうに言われたら……。 「うわ……」 　勇利はベッドに座りこんでしまった。それはいやだ。かなり恥ずかしい。だって、普通、友達の家に行くときに泊まる準備なんてしない。ヴィクトルは友達ではないけれど──しかしコーチと生徒でも似たようなものだ。すごい思いこみだよね、と笑われるくらいならいいけれど、驚いた、戸惑ったような表情で、勇利、なんで……？　などと言われたらもう立ち直れない。 「やっぱりやめよう」 　勇利は腰を上げ、用意したものを片づけようとした。だが、その動作はすぐに止まってしまった。 　でもヴィクトル、かなり情熱的だよね？　ぼくの思い違いじゃないよな？　確かに、生徒に優しくしてるだけかもしれないけど、あの熱っぽさはまぼろしじゃない。泊まる準備してなかったら、反対に笑われるんじゃないの？　勇利は何もわかってないって言われるんじゃないの？　あんなに誘ってるのにただ食事をするだけだと思ったのか、なんて。本当に勇利は子どもだね。かわいこちゃん。 「…………」 　ぼくは子どもじゃない、と勇利は思った。ぼくだって二十四歳の立派な成人男子なんだ。ヴィクトルのところでお泊まりのひとつやふたつ！ 　勇利は、お泊まりセットを紙袋で厳重に包み、中身がわからないようにした。そもそも勇利が何をたずさえているかなんて、ヴィクトルには知りようがないのである。ヴィクトルが、勇利は泊まるのだというつもりで行動したら、もちろんわかってた、ぼくは大人だもんと、そのようにふるまえばよいし、「じゃあこれで」と別れる気配を見せたら帰ればいい。その場合、帰宅してからかなり恥ずかしい思いをしそうだけれど、ヴィクトルにわからないなら構わない。 　だいたい──だいたい、そうだ。泊まるということについていろいろと考えこみすぎなのだ。ヴィクトルはもしかしたら、話しこんで遅くなったら泊まったほうがいいから、というくらいの気持ちでいるかもしれない。いちいち身構えるなんて、そもそもそれがおかしいのだ。ヴィクトルの家に泊まる。普通のことではないか。何を悩んでいるのだろう？　ばかばかしい。 　勇利は紙袋からお泊まりセットを取り出し、布袋のままバックパックに詰めた。何か言われたら、遅くなったら泊まらせてもらおうと思って一応支度してきた、と笑顔で答えればいい。ヴィクトルも、用意がいいね、と笑うだろう。 「いちいち考えすぎなんだよな……」 　勇利は自分にあきれ、ふっと息を漏らした。つまらないことに時間を使ってしまった。シャワーを浴びてもう寝よう。 　勇利は照明を消してベッドにもぐりこんだとき、ヴィクトルのことを考えた。ヴィクトル、料理練習したって言ってた。忙しいのにすごいな。外食が多いって話してたのに。料理に目ざめたのかな？　ヴィクトルは料理も上手いのかな……。 　そんなことを考えているうちに眠ってしまった。 「なかなかの出来だと思ってるんだ」 　ヴィクトルは得意げに言い、勇利はこっくりうなずいた。確かに、テーブルの上に並べられた料理は、数はそれほど多くないけれど、いろどりも盛り付けもいかにも美味しそうで、食欲をそそった。 「すごいね、ヴィクトル」 「がんばっただろう？」 「うん」 「まあ、家庭料理だけどね」 「関係ないよ。ぼく日本の家庭料理、こんなにちゃんとつくれないし」 「いつか勇利の手料理も食べたいね」 　ヴィクトルがじっと勇利をみつめた。勇利はまた何か──情熱的なものを感じてどぎまぎした。 「えっと、あの……」 「座って」 「あ、はい」 「ワイン飲む？」 「いや、お酒は……」 「すこしくらいいいだろう？」 「じゃあ……ちょっとだけ……」 　楽しい時間だった。練習の成果か、料理は美味しく、普段ひとりでどうにかこうにか食べるものをつくり出している勇利には贅沢なくらいだった。素材も新鮮なものばかりだ。なにより、ヴィクトルと一緒に家庭の食卓についているという状況が最高の調味料だった。勇利はいつもより饒舌になり、時が経つのも忘れてヴィクトルとのおしゃべりに夢中になった。 「居間でお茶を飲もうか。紅茶でいい？」 「うん」 　マッカチンを構ったり、ヴィクトルの説明する紅茶の葉に感心したりしているうちに、さらに時計の針は進んだ。気がつくともう十時を過ぎており、勇利は途端にどきどきし始めた。どうしよう。���ろそろ帰るって言ったほうがいいのかな？　ヴィクトルはどういうつもりなんだろう。ぼくが泊まっていくのが当たり前だと思ってるんだろうか。そうだとしても、とくに意味はないんだろうけど。それはわかってるけど、どういう態度でいるのが正解なんだ？ 「これ、本当に美味しいね」 　勇利は帰宅するということを切り出せず、二杯おかわりした紅茶について感想を述べた。 「そうだろう？　最近のお気に入りなんだ。よかったら葉を持って帰るかい？」 「いいよ、そんな。銘柄も教えてもらったし、自分で買うよ」 「いや、じつは買いすぎて困ってたんだ。気に入ったからってこんなに買わなくていいだろうっていうくらいにね。勇利が引き取ってくれたら俺も助かる」 「そうなの？　じゃあもらおうかな……」 　もしかしたら、勇利に遠慮させないための方便かもしれないけれど、あまり断るのも悪いと思って勇利はうなずいた。 「ちょっと待って」 　ヴィクトルは立ち上がり、台所にひっこんで茶葉の支度をした。 「淹れ方はさっき話したとおりだからね。蒸らすのが大事だよ」 「うん、わかった」 　戻ってきた彼の手から包みを受け取り、勇利はバックパックをひらいた。包みをしまおうとしたら、膝にのせたそれが倒れてしまって、ソファに座っている勇利の脚から床に転がり落ちた。 「ああ……」 「大丈夫？」 　勇利がバックパックを拾うあいだに、ヴィクトルが、中から飛び出した布袋に手を伸ばした。勇利はどきっとした。 「あ、自分で拾うから──」 「ん？」 　ヴィクトルのほうへ視線をやった勇利は、さらにどきっとした。袋の口が開いている。そこから、歯ブラシや下着など、お泊まりセットの中身がこぼれていた。 「あ……！」 　勇利はまっかになった。たとえ恥ずかしい思いをしたとしても、ヴィクトルにわからないならそれでいいと思っていたのに、勘違いしているという証拠をみずから見せつけてしまった。どうしよう。 「あっ、あの、そ、それは……」 　ヴィクトルの手から、勇利はものすごい勢いでお泊まりセットを取り戻した。なんて言い訳すればいいのかわからない。えっと、えっと──そうだ。遅くなったら泊まらせてもらおうと思って一応支度してきたんだ。そう言うのだ。だが、勇利は口を利くことができなかった。なんだ、泊まる気なのか、ずうずうしい。そう思われている。絶対に思われている。 「やっ、えっと、こ、これはそうじゃなくて──ちがくて──」 「ああ」 　ヴィクトルは落ち着き払って言った。 「そろそろお風呂に入る？」 「えっ」 「案内するね。その前にタオルだね。脱衣所のほうにもあるけど、肌触りのいいものがこっちに──」 　ヴィクトルは居間から出ていった。勇利は赤い顔のままぽかんとしていた。やっぱりヴィクトル、ぼくが泊まっていくと思ってたのかな？　お泊まりセットは正解だったの？　なんだ。よかった……。しかし、ほっとしたそばから、果たしてそうだろうかという疑惑が頭をもたげた。ヴィクトルは本当はびっくりしたのかもしれない。え、勇利、泊まっていくんだ、と戸惑っているのかも。ただ、それをおもてに出してしまうと、勇利が罪悪感をおぼえるし、落ちこんでしょんぼりしてしまう。だからヴィクトルももともとそのつもりだったかのようにふるまったのだ。そうだ。そうにきまっている。ほかに考えられない。 　そもそも、ヴィクトルが勇利に誘いかけていたというのだっておかしいのだ。そこからして勘違いだ。ヴィクトルはただ、ひとりでいる勇利を気遣って連れ出していたに過ぎない。生徒を思いやっていただけだ。勇利が最初に考えたとおりなのだ。情熱的だっただの、ぼくも大人なんだからだの、いろいろと理屈をこねていたけれど、そんなのは勇利の願望だ。ヴィクトルは勇利に熱っぽい態度なんて示していないし、勇利はどうしようもない子どもだ。 　扉がひらいてヴィクトルがタオルを差し出した。 「はい、これ。使い終わったら、そのまま洗濯かごに入れておいてくれたらいいから。お風呂はこっちだよ。おいで」 　勇利は緊張しながら、お泊まりセットを抱えてヴィクトルについていき、シャワーの使い方はこうで、身体を洗うのはこれを使って、シャンプーは、という説明を上の空で聞いていた。たまらなく気恥ずかしい。 「何か質問はないかな？　ないなら俺は戻るね。ゆっくり浸かっていいから」 「あっ、あの！」 　勇利は思いつめたようにうつむいた。 「……なんだい？」 「ただ、泊まるだけだから！」 「え？」 「泊まるだけだってわかってるから！　意味なんてないから！」 「……何が？」 「お風呂お借りします！」 　勇利は言いたいことだけ言うと、ヴィクトルの背を押して彼が廊下へ出るのを手伝い、それからばたんと扉を閉めた。服を脱ぐあいだも、湯に浸かっているときも、とにかく恥ずかしかった。絶対変に思われている。ヴィクトルはいまごろ、勇利にはどこで寝てもらおうと、寝床について悩んでいることだろう。突然のなりゆきに溜息をついている。 「ああ……」 　勇利は頭を抱えた。 「お泊まりセットなんて持ってくるんじゃなかった……」 　お泊まりセットは勘違いの証しだった。ああ恥ずかしい。きっとヴィクトルは、ちょっと食事に連れていったり家に呼んだりしただけで泊まる支度をしてくる勇利に恐れをなして、今後は誘いかけてこないだろう。恥ずかしいし、さびしいし、勇利はひどくかなしんだ。 「あの、お風呂、ありがとう……」 　しかしいくら気恥ずかしくても、知られてしまったからにはお泊まりセットを使わないわけにはいかない。歯をみがき、清潔な部屋着を着て戻った勇利にヴィクトルはほほえみかけ、「俺も入ってくるよ」とかるく髪にふれた。いかにも親しいしぐさだったけれど、同情はいいんだよ、と勇利は思った。 　ソファの上で膝を抱え、マッカチンと身を寄せ合いながら、勇利は、帰ったほうがよいのではないかと、そのことについて検討した。だって、恥ずかしいお泊まりセットの衣類を着てひと晩じゅうヴィクトルのそばで──といっても同じ部屋ではないだろうけれど──過ごすなんて耐えられない。明日の朝も、どんな顔でヴィクトルに会えばよいのか。そもそも、勇利のぶんの朝食はあるのか。「夕食だけのつもりだったから何もないんだよ」なんて言われたら、ずうずうしさを思い知らされてまた恥ずかしくなる。そんな目に遭うくらいなら、恥を忍んで「もう帰ります」と切り出したほうがよいのではないだろうか。 　そうしよう。ヴィクトルが上がってきたら帰るって言おう。勇利は決心し、彼を待ち構えた。 「じゃあ寝ようか」 　ところがヴィクトルは、居間へ戻ってきて勇利の顔を見るなりそう言った。勇利は、え、と戸惑った。まだすこし早い時間だと思うけれど……だが、ヴィクトルはいつもこのくらいの時刻に眠るのかもしれない。ヴィクトルは寝てくれればいい。ぼくは帰る。 「あの、ヴィクトル、ぼく……」 「ほら、おいで。部屋へ行こう」 「部屋って？」 「きまってるだろう？　俺の寝室だよ」 「え、一緒に寝るの？」 「一緒に寝ないの？」 　ヴィクトルは驚いたように勇利を見た。勇利のほうが驚いているのだが。だって、たとえ泊めてくれるとしても、同じベッドで寝るとは思っていなかった。ほかに寝具がないということだろうか。それならなおさら申し訳ない。 「ヴィクトル、あの、ぼく帰ろうと思うんだ」 「え？」 　ヴィクトルはさらに驚いて目を大きくした。 「……なぜ？」 「なぜって、その、そりゃあ、もちろん……」 　お泊まりセットなんて持ってきて恥ずかしい思いしちゃったし……とは言えず、勇利はもじもじと指をいじった。するとヴィクトルが困ったような顔になった。 「いざとなったらこわくなっちゃったかい？」 「こわいっていうか」 「さっきも、泊まるだけ、とか言ってたけど……」 「と、泊まるだけって言ったけど、泊まりません」 「歯ブラシまで持ってきてくれたんだから、もう覚悟をきめてくれたんだと思ったのに」 「覚悟って？」 「勇利はもしかしたら意味がわかってないかもなあと心配してたんだけど、ちゃんと理解して、そのつもりで来てくれたんだと思ったのにな……」 　ヴィクトルはじっと勇利をみつめた。その甘いまなざし。とろけるような低い声。勇利の手を握る熱っぽいてのひら。ヴィクトルの情熱は、勇利が「思いちがいじゃない」と思ったあの愛情をあきらかに帯びていた。勇利はくらくらした。 「いいんだよね……？」 　ヴィクトルが吐息まじりの声で、優しく確認した。彼のうれしそうな、いとおしそうな目つきに、勇利はあっという間にのぼせ上がった。 「あ、あの……」 「泊まっていくよね？」 「あの、ぼく……」 「俺のベッドで一緒に寝るだろう？」 　勇利はぽーっとなった。彼は夢見ごこちで答えた。 「は……はい……」 「勘違いだと思ったの？　ばかだな……」 　朝のすがすがしいベッドで、勇利に腕枕をしたヴィクトルは、黒髪を梳いたり、すくい上げてキスしたりしながらにこにこ笑った。 「あんなにわかりやすく誘ってたのに、どうしてそんなふうに思うんだ？」 「だって……」 　勇利はヴィクトルの胸に顔をこすりつけて拗ねた。 「わかんないよ、そんなの……」 「あれほどあからさまにやってたのにわからないなんて、勇利は純粋だね」 「……褒めてないでしょ」 「すごく褒めてる」 　ヴィクトルは勇利の顔じゅうにちゅっちゅっとキスした。 「勇利が俺のところに泊まるために必要なものを準備してる姿を想像すると、かわいくていとおしくて変になりそうだよ」 「お泊まりセットっていっても着替えと歯ブラシくらいだよ……」 「お泊まりセット？　かわいいね、それ」 　ヴィクトルはうきうきしたように声を弾ませた。 「これからはデートのたびにお泊まりセットがいるね」 「ヴィクトルがいつ食事に誘ってくるかなんてわからないのに、難しいよ」 「じゃあ毎日お泊まりセットを持って行動すればいい」 「そんな恥ずかしいことできるわけないだろ！」 「どきどきするな……勇利のバックパックを見るたび、あの中にお泊まりセットが入ってる……って喜んでしまいそうだ」 「聞いてる？」 「俺は勇利の部屋に着替えと歯ブラシを置いておこうかな……」 「いきなり飛躍しないでよ！」 「でも、必要だろう？」 　それはつまり、ヴィクトルはぼくの部屋で、ゆうべみたいなあんなことやこんなことをぼくに……と考えて、勇利は口元にこぶしを当て、赤くなった。 　すると、ヴィクトルがもっと飛躍したことを言いだした。 「それとも、一緒に住む？」 　勇利は訊き返した。 「いつから？　今日？　明日？」

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