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uncle-collection · 8 years
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「未完の漫画と踊りつつある叔父さん」
作・オカワダアキナ(ザネリ/D-10)
¥200/B6/26ページ webカタログ 試し読み:http://www.pixiv.net/novel/show.php?id=7915447
〈作品紹介〉 「踊りつつあることは、踊ることをやめるよりも、こわくて心細いことなのかもしれない」 13歳の僕と、40歳の叔父さん。夏休みに勢いでセックスしてしまったけど、それからとくに連絡はとっておらず、なにごともなかったような日々。このままノーカウントになるのか? 悶々としていた甥のところに、ある日ひょっこり叔父が訪ねてきて……。
おじコレ記念本です。わりとはっきりした性描写を含みます(R18)。 「水ギョーザとの交接」と同一の世界観・人物ですが、単独でもお読みいただけます。本編の結末とはあまり関係なく、つまるところ、おねしょたよしよしおせっくすが書きたかった(わたしの言うおねえさんは性別年齢は問わないものとします)。
〈おじコメント〉 「僕の叔父さんは、元バレエダンサー。無職で独身、四十歳。ぶらぶらしていてよくわからないいきものだ。白くて細長い身体は、なんだかいいにおいがする。踊りは止まってしまったから、おれはゆっくりゆっくり死につつあるのだと、意味不明のことを言う。最近バレエ教室のお手伝いを始めたらしい。大人のくせに、夜中にこわい夢をみては泣き出してしまう弱虫で、僕は叔父さんがかわいそうでかわいいと思うから、あーあ、またしてもちんこに血があつまってしまった!」
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uncle-collection · 8 years
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「三位争い(桃花祝願EX)」
作・高麗楼(鶏林書笈/A-07)
無料配布/B5/12ページ
webカタログ
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〈作品紹介〉 「桃花祝願」の主人公・子玉の娘‘鍾’について、叔父さんの子石が語ります。
〈おじコメント〉 姪の鍾を溺愛する叔父さんです。
〈おじレビュー〉
韓国ならではの大家族にほのぼの。 姪っ子が三番目に好きなのは誰?
 とってもかわいいお話です! 韓国の昔話調とのことですが、なるほど子どもに語りきかせても喜んでくれそう。女の子とその家族がにぎやかで、微笑ましく読みました。短いなかに、韓国らしいにおいや手ざわりがぎゅっと詰まっています。高麗楼さんの作品入門編にぴったりなのではと思います。
 主人公・子石の亡き姉・子玉の忘れ形見、鍾。母親似のかわいい女の子で、子石一家で面倒をみています。 「鍾ちゃんの一番好きな人は誰?」  家族の誰かが、毎日鍾に訊ねます。  鍾のいちばん好きな人は母親の子玉。次は青郁さま(子玉が仕えていた宮女)。では三番目に好きなのは?と問うと、家族全員を挙げる鍾。愛らしいやりとりです。叔父の子石も鍾をとてもかわいがっており、悪い虫がつかないか心配する日々。
 韓国は大家族が一緒に暮らす文化。家族の結びつきも日本より強く、親族をとても大事にします。きょうだいやいとこ同士も、とても仲がよいそう。  本作のように、叔父一家が姪の世話をしていて、家族みんなでかわいがっている、成長を見守っているというのはとても自然なことなのでしょう。  現代の日本では、なかなか大家族で暮らすことはありません。大家族ゆえの窮屈もあるかもしれませんが、本作の昔話のような語りの中ではとても穏やかで、仲が良く素敵な間柄です。叔父や叔母、みんなで姪を見守り暮しているあたたかさを感じました。  ところで韓国では日本と異なる婚姻タブーがあり、いとこどうしでは結婚できなかったり、8親等まで結婚できないなどがあるそう。家族の範囲が日本よりとても広いのですね。
 鍾がとてもかわいいです。かしこくて、おしゃま。元高官の子どもである少年に水を渡してあげるところのエピソードがとても好きです。  姉の義姉妹・青郁さまの弟・青烟さまが、鍾の家庭教師の役割をしています。青郁さまと同じく美しい容姿で、優しいおにいさん。鍾はとても懐いています。 ひょんなことから、ふたりは婚約ということになってしまうので��が……。  ここからの展開と、すっかりお嫁さん気分の鍾が微笑ましいです。さて、鍾の「三位」は誰になるのでしょう?
 本作は「桃花祝願」の関連作です。こちらは鍾の母親・子玉のお話。木槿の国の大妃殿で出会った宮女・青郁と端女の子玉。ふたりの少女時代から、成人後、大妃殿を出てそれぞれの人生を歩むまでのお話。GL純愛物語です。  こちらは今読ませていただいているところなのですが、ふたりの住まうところは木槿(むくげ)の国。「三位争い」で鍾が木槿の花を手にするエピソードがあり、時が流れて子玉が亡くなってしまっていても、母娘のつながりがあるようでなんだか胸がじんとしました。「桃花祝願」はぐっと趣をかえて、しっとりとした物語。あわせて味わいたいです。
(オカワダアキナ)
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uncle-collection · 8 years
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「デートにはうってつけの日」
作・高梨來(午前三時の音楽/E-10)
無料配布/A5/20ページ webカタログ   URL: http://lovelylic.ivory.ne.jp/3am/
〈作品紹介〉 「俺とりんちゃんの関係は?」 「お友達〜」 「じゃなくて、もっかいね?」 「おじさん!」 「はい、よくできました」
歴代最年少のガールフレンドとこと、りんちゃん(高垣りんねちゃん四歳)はふたりいっしょにいる時、パパのお友達の俺のことを満面の笑みで「かれし」だと紹介してくれる。 ・・・・・・うれしくないわけではないけれど、さすがにそれはちょっと。(こちらもまぁ、既婚の身なので) そんなわけで、このお姫様の引率係を申し出た日の俺はいつでも一日だけ彼女の『叔父さん』になる。
「ほどけない体温」から約10年後の未来、友人春馬くんのお嬢さんりんちゃんとふたりで仲良く動物園デートするうんとささやかでありふれた一日のお話。 本編未読の方でもお気軽にどうぞ、ちっちゃなお姫様とお兄さんが楽しくデートする無料配布のお話です。
〈おじコメント〉 子どもがいない、気さくに遊んでくれる叔父さんはよいなぁという夢をおじコレに便乗して詰め込みました。 便宜上の「叔父さん」という反則技のようなあれなのですが、ささやかな秘密をわけあった関係ってよくないかなって。
〈おじレビュー〉
「叔父さん」ってことにしようか。 親の友だち/友だちの子、互いの世界を広げ合う相手。
 いきなりわたしの話をします。子どもの頃、母親の友人・Mちゃんに遊んでもらったことを思い出します。ふわふわした髪が印象的なひとで、仕事でドイツと日本を行ったり来たり。毎年素敵なクリスマスカードを贈ってくれるあこがれのおねえさんでした。 「Mちゃんはどうして結婚しないの?」、あれこれ質問攻めにしてしまったことを覚えています。何をどんなふうに答えてくれたかは、忘れてしまった。記憶にあるのは、Mちゃんのおしゃれな服装だとかおみやげのモーツアルトの包み紙のチョコレートだとか、そういう断片ばかり。Mちゃん、と母親たち友人同士のあだ名をわたしにも呼ばせてくれていたのが、今思うとなんだか嬉しい。  親の友だち/友だちの子、というのはなんだか不思議な距離感です。友人としてみれば、あの子も親なんだなあと感慨深く、子どもの成長は微笑ましく嬉しいもの。また子ども目線では、いつもは小うるさい親が学生時代のあだ名ではしゃいでいたり、あるいは親とはちがう人生の過ごし方をしている姿に不思議やあこがれを抱いたりします。いろいろな生き方を知るきっかけにもなるでしょう。  自分の生活とはちょっとべつのところにいて、知らない景色を見せっこするような。親戚のおじ/おばとの距離感に近いものがあるように思えます。
 本作は、高梨來さんのBL小説「ほどけない体温」のスピンオフ作品。本編から10年後の世界です。  「ほどけない体温」の登場人物・瀧谷忍が、友人(高垣春馬)の娘・りんねちゃんと動物園でデートをする短編です。友人夫婦が水入らずデートのあいだ忍が預かってあげている、というシチュエーションでしょうか。といっても忍は「面倒をみる」という態度ではなくて、りんねちゃんと目線を合わせて一緒に動物園を楽しみます。ちゃあんとデート。かわいいやりとりに、読んでいるこちらもニコニコ顔になります。  忍は、「ほどけない体温」の主人公・桐島周の恋人です。本作では、かれらは人生のパートナーとなっています(本編を読んでいるととても感慨深い……!)。  りんねちゃんは友人の娘ですから、忍は「おじ」ではないのですが、ふたりでおでかけをする際に「かれし」と呼ばれるのもなんだしなあと、他人に紹介する際は「おじさん」と呼んでもらうことに。便宜上の叔父、とでもいいましょうか。忍らしいささやかな嘘、秘密の共有のしかただなあと思います。
 ここで思い出したのは、高梨さんのテキレボアンソロ参加作「lie, lie, lie」でした。こちらも「ほどけない体温」のスピンオフで、語り手は周です。周囲の人に恋人についてきかれた周が、忍が男性であることを話せなくて……。周りの人は「忍」が女性であると勘違いしており、周はなんだか嘘をついているようでうしろめたい。友人・春馬にそのことを相談して、というお話です。  忍と周、それぞれのちょっとした「嘘」。ふたりの態度のちがいが、キャラクターを際立たせているなあと感じました。
 「ほどけない体温」本編でも、周の苦悩は丁寧にえがかれます。自分は同性愛者であるということ、それゆえ抱いている周囲への不信感。周はできるだけ誠実であろうとし、自分のうちにこもりがちです。  けれど、じつはまわりの人たちはみんなあたたかい。読んでいて、そこがとても印象深い作品です。友だち、バイト先の同僚、忍の友だち海吏くんや春馬くん、きっと周の実家の家族だって(方向性や種類は異なるとしても、周にとっては受け入れがたいとしても、受け入れないことを選択するとしても)愛情深いのではないか。周くんは周囲の人たちとちゃんと「会話」をしてゆきます。手を伸ばせば、心を開けば、あたたかな世界が広がっている。ただそれを無理にこじ開けようとするのでなく、周が忍とのやりとりを通して徐々に獲得していくのが素敵。焦らなくていい、だめでも格好悪くても失敗しながらでもいい、不完全な若者同士が寄り添って、自分たちのペースでふたりだけの“生活”を手に入れるということ。テンポの良い若者たちの会話のリズムに乗って、すいすい読み進めました。
 本作で、忍はさらっと「おじさん」になります。便宜上の名前や役割は、かれにとってあまり問題ではないのでしょう。目の前にいる大切な人たちと、あたたかな時間を過ごすことが何より大事。  「ほどけない体温」本編でも、忍は周に対し、ぐいぐいと距離を縮めてゆきます。まっすぐな愛情、懐にするりと飛び込んでくるさまがとてもチャーミング。  だから悩みがちな周とバランスがいいんだなあとしみじみしました。壁や溝をひょいと超えるさまに、こちらも勇気をもらいます。明るくて、優しくて、強い。  本作のあとがきページでの周と忍の会話、忍がなんなく発したさいごのせりふがとても愛おしく、拍手を送りたくなりました。ぜひ、「ほどけない体温」本編と「デートにはうってつけの日」、あわせて読んでほしいです。
 また、高梨さんの作品はいつもごはんがおいしそう! 居酒屋で、アパートで。距離をはかりながら、秘密を打ち明けながら、少しずつ互いを受け入れ許すため、あるいはなんでもない朝や晩の営みとして。  本作でも忍とりんねちゃんが動物園でお弁当を広げるところ、喫茶店に寄り道するところがおいしそうでかわいいシーンです。上野動物園と、谷中の喫茶店でしょうか。テキレボ会場から近いので、イベント後に「巡礼」してみるのもいいかもしれません。
(オカワダアキナ)
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uncle-collection · 8 years
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「みちのくの君(2) 前九年合戦~安倍貞任~」
作・ひなたまり(時代少年/委託-34)
¥600/文庫/212ページ webカタログ   (カタログ本文に試し読みあり) twitter
〈作品紹介〉 平安時代後期・陸奥国。戦をとめるために都へ向かった安倍貞任と藤原経清。少年・源義家との新たなる出会い。そして貞任の出生の秘密が明らかになる。戦と愛憎うずまく歴史冒険ファンタジー小説・第2巻です。フルカラーカバー付き。
〈おじコメント〉 主役・安倍貞任にとっては、兄のような存在の叔父・吉次郎(安倍為元)。貞任より10歳年上で、もとは金一族の子ですが、安倍に養子に入りました。安倍一族の交易を一手にになう、商人としての顔を持つ男です。 なお、貞任自身が「わだつみの姫」のヒロイン・那津の伯父でもあります。登場人物が血縁ばっかりなので、おじだらけともいえます。 歴史ものですが、ファンタジーですし、歴史が苦手な方でも読みやすいと思います。
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「みちのくの君(1) 前九年合戦~安倍貞任~」
作・ひなたまり(時代少年/委託-34)
¥600/文庫/200ページ webカタログ (カタログ本文に試し読みあり) twitter
〈作品紹介〉 「俺の居場所はどこにもない……!」
平安時代後期・陸奥国。十八歳の青年、安倍貞任は、衣川を出て都へ上る決意をし、国府・多賀城に向かう。多賀城の役人・藤原経清(奥州藤原氏初代・藤原清衡の父)との出会いが貞任の運命を変えていく。
前九年合戦をテーマにした歴史大河小説・第1巻です。フルカラーカバー付き。
〈おじコメント〉 主役・安倍貞任にとっては、兄のような存在の叔父・吉次郎(安倍為元)。貞任より10歳年上で、もとは金一族の子ですが、安倍に養子に入りました。安倍一族の交易を一手にになう、商人としての顔を持つ男です。 なお、貞任自身が「わだつみの姫」のヒロイン・那津の伯父でもあります。登場人物が血縁ばっかりなので、おじだらけともいえます。 歴史ものですが、ファンタジーですし、歴史が苦手な方でも読みやすいと思います。
〈おじレビュー〉
前九年合戦のヒーロー、安倍貞任。 波乱万丈の人生を目撃したい!
 前九年合戦とは、平安時代後期の陸奥国で起こった戦いです。源頼義・義家父子が陸奥安倍一族を滅ぼし、終結します。  現在の岩手県の中央〜県南にかけて勢力を広げていた安倍一族。  前九年合戦の長期化の原因に阿久川事件があるといわれています。源頼義が陸奥守としての任期が終わる年、阿久利川のほとりで頼義に仕える藤原元貞の陣地が何者かに襲撃されます。この事件の犯人と疑いをかけられたのが、本作の主人公、安倍貞任です。頼義は処罰しようとしますが、貞任の父・安倍頼時(頼良)は父親として息子をかばいます。 「人倫の世にあるは皆妻子のためなり、貞任愚かなりといえども父子の愛は捨て去るべからず」  この事件は頼義が頼時の暴発をねらった罠と考えられています。
 ……と、久しぶりに日本史の教科書を開いてみたのですが、おそらく予習は不要でしょう。webカタログの試し読みを読ませていただきましたが、一気に引き込まれました。そのまま物語の世界に飛び込んで、貞任の活躍にハラハラドキドキしたいです。  貞任は父親とのあいだに軋轢を感じています。「クソ親父」「親父は俺が邪魔なんだ」「俺なんかいなくてもいい」——。  貞任は生まれてすぐに母親を亡くし、金一族に預けられていました。一族の男子達と馬で駆け回り自由に過ごしていましたが、十三歳になって父のところへ戻されます。書や和歌を与えられ戸惑う貞任。激しく折檻もされます。  ここからどのように物語が広がっていくのか楽しみです。とくに、貞任の父子関係がどのように展開されるのか気になります。
 安倍貞任は、アテルイの再来とも評された人物。色白の美貌の青年とも、ちょっとぽっちゃりしているともいわれています。数多くの伝説が残されており、波乱万丈な人生を過ごしています。  血縁関係にある人物が多く、”おじ”だらけ。貞任の叔父・安倍為元は、兄のような存在でかっこよくて頼りがいのある人物とのこと。また安倍貞任の甥は藤原清衡、奥州藤原氏の初代当主。中尊寺金色堂を建立する人物です。    私自身は歴史に疎いのですが、端正な語り口とイキイキした人物の語りで、とても読みやすくワクワクしております。続きがとても気になる…!  また今回のテキレボアンソロ「山吹の姫」がとても切なく素敵。こちらは奥州藤原氏・藤原国衡と藤原基成の娘の恋のお話です。  ひなたまりさんは奥州藤原氏・安倍氏を中心に、小説・漫画を創作されているとのこと。歴史冒険ファンタジーの世界にぜひ飛び込みたいです。
(オカワダアキナ)
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uncle-collection · 8 years
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「誰がために春は来る」
作・藍間真珠(藍色のモノローグ/A-27)
¥800/B6/140ページ webカタログ   web版(加筆修正前):http://indigo.opal.ne.jp/novel/haru/
〈作品紹介〉 宮殿へと逃げ込んできたのは、傷を抱えた一人の青年だった。教育係の少女と青年。その出会いは後に一つの悲劇の引き金となる。 シリアス恋愛ファンタジー。
〈おじコメント〉 兄夫婦のもとから逃げ出した乱雲は、置き去りにした甥のことを気にしながらも、宮殿の生活に馴染もうと奮闘し……。 選択を迫られた不器用な者たちの物語です。
〈おじレビュー〉
自分のため、は難しい。 異世界でえがかれる等身大の恋、踏み出す一歩。
 ここではない、どこか。異世界ファンタジー作品です。『宮殿』で暮らすひとびとはみな、何らかの事情があって元いた土地から逃れて来た人たち。技使いと呼ばれる能力者たちは、それぞれ炎を生み出したり土を掘り返したり空を飛んだりなど、様々なことを可能とする力を持っていて、宮殿での仕事に役立てています。主人公・ありかも技使い。補助系の使い手で戦闘には不向きですが、結界を張ることが得意。  ある日ありかは、『外』から新しく宮殿へ移住してきた青年・乱雲の教育係に任命されます。試験に合格しないと正式な移住を認められないため、規則や施設の仕組みを教えつつ試験勉強をみてあげる役割です。ありかは18歳、乱雲は20歳をすぎた男性。本来なら移住者より歳上の者が教育係を担うのですが、人手不足によりありかに任されたのでした。困惑するありかですが、心に傷を抱えた乱雲と少しずつ距離を縮めてゆき…。
 別の世界のお話ではありますが、登場人物たちの心の動きは、現代社会で恋や仕事に悩むわたしたちそのもの。等身大のラブストーリーと捉えました。  物語の出だしから、ありかが呼び出されるのは「総事務局」。何の用事だろうと心当たりのないありかが考えるのは「給料の金額訂正……とか」——まるで会社。そう、 『宮殿』はわたしたちのよく知る会社組織そのものなのです。さまざまな人たちが忙しく動き回っていて、見た目には殺風景で、「上からの命令は絶対」、どこか窮屈な場所。  そんななかで出会ったありかと乱雲、ふたりの恋の物語はさながら職場恋愛のように思えました。  こういうたとえ話や読み替えは正道ではないかもしれませんが、思わず「中途入社の乱雲さんをOJTしている若手OLありかさん。やがてお付き合いを始めるけれど、社内のみんなには内緒。そろそろ結婚? でもありかのお母さんの体調がすぐれないし…。足踏みしているうちに乱雲さんが遠方へ転勤?!」というふうにありかたちの恋のゆくえを追ってしまいました(さしずめ、乱雲は営業、ありかは内勤でしょうか)。社内恋愛を覗き見るような気持ちでドキドキハラハラします。  「外回りの仕事はよくメンバーが入れ替わるため、彼には親しい友人が数人しかいない。だから彼が心を許せる場所は少なかった。  いや、宮殿に住む者は誰でもそうだろう。誰もが競争相手になりうる中で、多くの者に心を許すことは危険だった。彼女だって同年代ではあまり親しい者がいない。だから彼と共にいる時間が、何より大切だった。」  ファンタジーの世界で展開されるドラマですが、わたしたちの生活の中でも思い当たるなあという感覚や環境で、物語にすっと入ってゆけます。
 気持ちの流れが丁寧に語られていて、ありかと一緒にドキドキしたり迷ったり、すっかり感情移入して読みました。  ありかも乱雲も、ふたりともあまり押し出しが強くなくて、お互いを思い合っていて……。それゆえ、すれちがったり遠慮しあったりしてしまう。気持ちが通じ合ったあとのほうが悩みが多いのは、ふたりが周囲や仕事のことに気を配りながら生きているからでしょう。ふたりは恋におぼれはしません。いや、できないのでしょう。組織や家族での立ち位置、すべきことをいつもしっかり捉えていて、社会での役割を果たしながら生きている。そうあらねばならないと感じている……。周りのことなんか考えずに気持ちのまま飛び込んでしまえばいいのに!と思わず歯がゆくなってしまうほど。
 後半の展開はあまりしゃべってしまうと野暮なので詳しくは書きませんが、ありかはふたつにひとつの選択を迫られます。第二章第七話に「望まれぬ存在」という題がついていることが、心にずしんときました。また、この回でシイカについて「シイカには逆らえない。それはここにはびこる暗黙の了解のように、小さな頃から体に染みついていた。」と語られていることも、唸ります。母と子の関係。ありかにとってシイカはどういう存在なのだろうかと考えます。  また、宮殿の組織もなようで、ひとりひとりはとてもあたたかみがあります。ミケルダもリョーダもとても優しい人物。  親子関係も組織も、とてもリアルだなあと感じました。直接やりとりする相手は誰も悪人ではなく、悪意もないのに、なぜだか窮屈に感じられたり素直に生きられなかったりすること。わかりやすい敵味方はありません。それぞれが自分の立場を懸命に生ききっていて、それでも、うまくいくこともそうでないこともある。
 社会生活を営む以上、よくもわるくも、「わたし」は「わたし」というだけではいられないなあと思います。「わたし」は娘であり彼女であり会社組織の一員であり……さまざまな役割を担っています。自分というものは相対的で、気持ちに素直になることは困難です。  そういったなかで、ありかの選んだ未来とは。彼女の答えは、正しい/正しくないでは結論づけにくいでしょう。ここは読んだ人によって、感じ方はいろいろだと思います。いずれにしても、ありかが精一杯ぶつかり出した答えで、自分の気持ちと向き合ったもの。ひとりの女性が成長し、歩みだした一歩です。その達成に、胸があつくなりました。 
 おじということでいえば、乱雲はもといた場所から、甥を残して宮殿へやってきています。兄夫婦の子ども・青葉。乱雲はかつて兄のパートナーに片思いをしていて、一緒にいるとふたりの関係を壊してしまうのではないかと逃げてきたのでした。宮殿で小さな男の子を見かけるたび、乱雲は青葉のことを思い出して心をいためます。ある日外回りの仕事で出かけた先で、青葉らしき少年を見かけて動揺してしまい……。  このことを機に、ありかは乱雲の苦悩に寄り添い、ふたりの関係は深まっていきます。物語が進みありかと乱雲が恋人同士になると、乱雲はあまり青葉のことには囚われないように。家族とその周辺=内を向いた人間関係から、仕事を通じて得た恋人=外へ向いた人間関係へと、乱雲は変化してゆく。青年が恋をして、人生のパートナーを得て、大人になってゆく。  そして物語の後半、青葉はありかに——ありかと乱雲に、あるプレゼントを与えてくれて……(と私は解釈しました)。めぐりあわせに、じんとなります。  また青葉は、本作と世界観を共有する「white minds」で活躍します。時系列としては「white minds」はもっと先の話。ありかや乱雲の気持ちや願いが、次の世代に届いているといいなあと思いました。
 シリアスで切ないお話ですが、せりふややりとりがみずみずしく、またところどころで登場する脇キャラクターたちが和ませてくれます。恋をして、誰かを愛するようになって、自分を取り巻く他者と向かい合うこと。誰かのため���考えることは、自分の気持ちを見つめることと等しいのでしょう。懸命に生きるかれらみんなに、あたたかな春が来ますように。
(オカワダアキナ)
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「凍える水色」(短編集『2013 - 2016』に収録)
作・永坂暖日(夢想叙事/C-08)
¥800/A5/204ページ webカタログ 本文:http://musojoji.flier.jp/novels/short/short29_musumeto.html
〈作品紹介〉 王の寝所には黒い桶がある。厳重に封印してあるそれは、かつて王弟だった王が即位した頃からあり、王はそれを誰にも触らせない……。
このあらすじでは、おじが一体どこに出てくるのかが伝わらない! シリアスファンタジーで、同短編集収録の『神の水』の続編になりますが、単独でもほぼ問題なく読めます。
〈おじコメント〉 おじは果たして誰なのか……。
〈おじレビュー〉
冴えた筆致のショート・ショート。 あえて言うなら「おじはいません」、という面白さ!
 兄である王の首を刎ね、弟は王に即位した。兄王の正妃をそのままみずからの正妃としたが、もともと自分が姫(正妃)のことを慕っており、かつて夫婦になろうと誓い合った仲。  娘であるシェクタは面立ちは母親似、先王と現在の王、どちらが彼女の父親なのかわからない。現在の王は、父かもしれないし、叔父かもしれない。王妃も口をつぐんでいる。  さて王の寝所には厳重に封印された桶があり、王はそれを誰にもさわらせない。また代々長寿という王の一族を支えている酒・「神水」、それを作る《神水の巫女》を捜して殺すようシェクタは傭兵に命じていたが…。  こちらで全文を読むことができます。
 残酷なのは誰だろう? 兄を殺した弟か、弟から姫を奪った兄か、夫を殺した男の妻の座になおおさまっている正妃か……あるいはシェクタかもしれない。と同時に、哀れなのは誰だろう、愛のようなものを持っていたのは誰だろうとも考えます。憎むことと愛することは裏表でしょう。渇いた筆致のなかに浮かび上がる「水色」が印象的です。  桶の中身は、読者の思うとおりのものが入っています。本作の魅力は愛憎のドラマであるとか起承転結のどんでん返しのようなものではなく、また寓意を探る物語でもないように思えました。みじかいなかで過不足なく物語/情報を展開するシャープな筆致、読者の脳裏に閃く桶の中身、水色の瞳…。凛冽とした冬の空気のなかで切り取られたイメージ、少々の不気味さ。そういったものを味わいました。短編だからこその潔さや、突き放しが至芸です。    あえて「おじ」という関係性の観点から無理やり本作を読もうとすると、おじはいません……と言ってみましょうか。兄王と現在の王、いずれも真実を口にすることはなく、シェクタの父である可能性はどちらにもあります。シェクタの動機であり愛憎は「父」および「母」に向かっていて、兄弟どちらかが父でどちらかがおじですが、父でない場合「おじ」であるだけ。兄弟と妃の因縁が招き、娘に継承されるある種の呪いのなかに、「おじ」という役割は入り込むことはできません。また、物語はその点についてはっきりとした解をもちません。  とはいえ、このような読み方は邪道ですね。ファンタジーという容れ物ではっきりとした事件は起きていますが、読者が向かい合うのはあくまで「視覚」。できごとや景色を目撃し、鋭い語り口の閃光を浴びるということ。情感を削ぎ落としたつくりが魅力的です。
 個人的には、モチーフに乱歩の「押絵と旅する男」や京極夏彦「魍魎の匣」を連想しました。王は兄王に執着しているように思えて……。とはいええがきかたはあくまでドライです。物語の解釈は読み手に委ねられており、何を受け取り見出すか、自分を映す鏡のような作品でした。  本作は、「2013-2016」という短編集に収められた一編です。52編、シリアスなものからコミカルなものまでさまざままとめられているそう。わたしは「燃える」と「赤ちゃん夜泣きで困ったな」が好きです。   また「神の水」が本作の関連作とのこと。さらりとして、どこか奇妙で……毎晩眠る前に少しずつ味わいたいなあと感じる作品集です。
(オカワダアキナ)
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「変人姫君と熱血騎士」
作・鹿紙路(鹿紙路/A-23)
300円/A6変形 webカタログ 
試し読み:https://kakuyomu.jp/works/1177354054882667196
〈作品紹介〉 野涯国の王女ペトラは、本の虫。その日も聖堂付属図書館で本を読みふけっていた。彼女が図書館から出て出会ったのは直情径行の騎士。じつはふたりは旧知の仲で――
『野の涯ての王国』(「女王の結婚」「魔女と幻術王」)2作と世界観と一部登場人物を共通させたスピンオフです。2作を読んでいなくても大丈夫な、基本ほのぼのコメディ。
105mm×105mmの、かわいい正方形の本になる、はず(鋭意作成中)。
〈おじコメント〉 主人公:王女ペトラの叔父、エッカルトは虚弱・冷静沈着な三つ編み男子。ペトラが心を許す数少ない理解者の一人。連作短編の最終話で出てきます。彼とペトラははたしてペトラの抱える難題を解決できるのか?!
〈おじレビュー〉
愛ある世界で火を囲み、野原を歩く。 若いふたりの恋愛未満と、見守る叔父さま。
 野涯国の姫君ペトラと、騎士アンスヘルムの物語。 ペトラは17歳、本の虫。図書館で借りた本を読みふけってばかり、ちょっと変わり者のお姫様です。ある日ペトラのもとへやってきた騎士・アンスヘルム。廷臣筆頭の武門の家・ヘングスト家の息子です。彼が今後、ペトラの近衛騎士になることに。ふたりは幼なじみで互いの存在を知ってはいましたが、本ばかり読んでいるペトラと訓練場を駆け回っているアンスヘルムは顔見知り程度。ペトラはアンスヘルムの名前も覚束ないほどで……。
 ほのぼのとした物語のなかに、ひととひとが寄り添い、手を取り合うことの喜びが詰まっているように思えました。正方形の装丁も相まって、宝もののように大事に眺めていたいお話。  ペトラのちょっとズレたキャラクターがとてもかわいいです。本に夢中になって、外で雨に降られても反応がワンテンポ遅い。アンスヘルムも少々とぼけていて、ふたりのやりとりが愛おしかったです。  第二話がとても好きです。本が大好きなペトラに対し、アンスヘルムは読書が苦手。文字を追うと眠くなってしまうと言います。でもペトラはアンスヘルムのことを嫌いになったり遠ざけたりはしないし、アンスヘルムもまた、ペトラが本を読むすがたをまっすぐ見つめます。  野原で読書をしていたところに急に雨が降ってきて、洞窟で雨宿りするふたり。ここの会話とシーンがとても好きです。ペトラはアンスヘルムに、自分の付き添いはつまらないだろうと問いかけます。 「そなた、騎士であろう。戦いたくはないのか」 「姫様の身辺に目を配ることも、戦いですよ」  アンスヘルムの言葉を受けて、ペトラは本を読んであげます。たき火のそばで、静かに語られる物語。聴いているうちにアンスヘルムはうとうとしてしまい、小さな夢をみて……。ささやかなやりとりに、きゅんとしました。火を囲んでというのが、こころの灯し火を分かち合うようでいいなあと思います。  相手の好きなものを知ろうとすること、好きなものを差し出そうとすること。恋、と名付けてしまうにはいささか早い……。もう少し手前の段階、こころとこころが近付き合い、そっとふれあうひとときです。あなたとわたしは別々のにんげんで、それゆえ知りたいし教えたい。向かい合い、あるいは隣り合い、話をする。一緒に歩いてゆく。個と個が寄り添うことは、なんて素敵なことなのだろう。ハッとしました。
 ペトラの叔父・エッカルトの立ち位置が絶妙です。身体が弱く寝台に伏せってばかりなのですが、冷静で聡明な叔父さま。変わり者のペトラのよき理解者で、ペトラも信頼を寄せています。本を借りたり甘えたり、掛け合いがとてもキュート。  若いふたりを少々心配しつつも導いてくれるエッカルト叔父さまにニヤリとしました。素敵な叔父さまなのですが、なにぶんすぐ寝込んだり咳き込んだりしてしまうためあまり格好がつかなくて…。本作はキャラクターがみなチャーミングなのですが、エッカルト叔父さまの虚弱さが、コメディ要素をちょうどいい塩梅で支えてくれているように思います。  第三話、風磐国から一時的に野涯国に預けられている王子・ロルダンとの賭けに、エッカルト叔父さまは駆り出されてしまいます。ロルダンはペトラを気に入っていて、宴や遠乗りに連れ出したくて仕方ない。ペトラはそんなことより本を読んで気ままに過ごしたい。そこでロルダンは賭けを持ちかけます。チェスとボウリングで勝ったほうの言うことをききましょうということに…。  お姫様をめぐる王道ともいえる展開なのですが、これがとっても素敵なのです。ふたつの競技は同じ人間がやらなければいけないというルールにより、チェスのからきしなアンスヘルムにかわり、ペトラはエッカルト叔父さまを指名。具合が悪いのに、若者たちの野遊びに真剣に付き合ってあげるエッカルト叔父さまがなんだかかわいい。姪っ子を大切に思っているとはっきり口にするところが頼もしく、でも身体の調子がよろしくないため、アンスヘルムに花をもたせてあげる展開も微笑ましかったです。
 野の涯ての王国で、ペトラは周囲の愛を受けのびのびと過ごしています。変わり者のお姫様も、まっすぐでちょっと抜けた騎士も、虚弱な叔父さまも、みんながそれぞれに生きている。これは持論ですけれども、コメディが成立するのは、愛ある世界だからこそと思うのです。互いが別々の人間であるということを受け入れ、当たり前に尊重しているからこそ、やりとりのズレや人物の弱点を可笑しみとしてえがくことができる。読んでいてとても幸福な気持ちになりました。
 ペトラとアンスヘルムが互いの気持ちに気づくのはまだ先でしょう。本人たち以外、みんな何かを察しているのがなんともかわいらしい。ふたりのこれからが気になります(個人的にはくっついてほしいです……!)。  また本作は「野の涯ての王国」シリーズのスピンオフ。「野の涯の王国〜女王の結婚〜」ではエッカルト叔父さまの若かりし頃もえがかれているそうで、そちらも楽しみです。
(オカワダアキナ)
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「風まかせ」
作・木村凌和(夢想甲殻類/B-14)
500円/文庫/144ページ webカタログ  試し読み:https://kakuyomu.jp/works/1177354054880614244
〈作品紹介〉 これは、ある母親と娘とその父親の、思いをつなぎ合わせたものである。 ある夜生まれた赤ん坊は女の子だった。 まだ少女だった白伊颯(さつ)が、まだ少年だった瑠璃流風(るか)との間に授かった娘を嵐と名付けた。 三人が家族として歩み出す十六年の軌跡。
短・中編八本からなる長編『風まかせ』の隙間を埋める掌編十一本を収録。 現代世界からファンタジー世界に越境する群像劇。
簡単な登場人物一覧しおり付き。 関連作長編『竜と世界と私』の冒頭無料配布冊子封入。 URLから試し読みができます。
〈おじコメント〉 メインは母親(主人公)と、父親と、その娘の話なのですが、娘の叔父にあたるキャラクターが登場します。 主人公に非常に恩を感じていて、姉と慕っている男子高校生です。彼は、上記父親の血の繋がった弟でもあるのですが、嫌いなので、母親の弟を名乗っています。 姪の危機に、父親の弟ではなく母親の弟として助けに行き、つかの間のふれあいがあります。
〈おじレビュー〉
疾風吹きすさぶ家族、十六年の疾走。 家と血から逃れ、風は世界のことわりを超えてゆく。
 タイトルのとおり、風が吹いている物語でした。渇いた、つよい風です。砂を、海を、街を吹き曝し駆け抜ける風は、読者であるわたしたちの身体もここではないどこかへ吹き飛ばします。  風まかせ、その場のなりゆきに任せて行動すること。  なりゆきや時勢の正体とはなんでしょう。誰かの思惑や、風習、偶然の積み重ねでしょうか。とくに血縁による因縁やしがらみは、多くの場合みずから望んで背負うものではないでしょう。なりゆきとは、抗うことのできない風のように思えます。けれど雑踏を構成する足音のひとつが自分の靴音であるように、おそれる血脈も正体不明の風も、自分自身の一部であるのかもしれない——そんなことを思いました。
 本作は、中・短編により構成された十六年間の物語と、年月のあいだを吹き渡る掌編群からなる作品です。少女と少年が娘を授かり、家族になる。けれど彼らを取り巻く環境は殺伐としていて、互いを思いあうだけでは一緒にいられない。思いそのものも、よじれ、とぎれ、それぞれが人生を御することのできないまま、年月は重なってゆき…。吹き荒れる風がままならず、ヒリヒリとした手ざわりの現代ファンタジー作品です。  主人公・白伊颯(さつ)は名家の生まれ。白伊家に仕える瑠璃家の青年・流風(るか)と身分違いの恋をし、子どもを産みます。白伊家は現代の日本にあって、「正気とは思えない"名家"」。計画された「交配」をおこなう閉鎖的なしきたりで、瑠璃家を使って暗殺までおこなう——歪んだ家系のなかで育ち、颯も流風も、家族や愛情を知らずに育ちます。  出産当時、颯は16歳、流風は17歳。まだ少女/少年といってよい年齢です。互いに家のしがらみから逃れたくて家出し、若さゆえの衝動で子どもをもうけたように見えます。ふたりの名前からとって、娘は嵐と名付けられます。  三人が一緒にいられたのはほんのわずかな時間。交配計画から逃れるため、颯は、流風と幼い嵐とは離れ離れになってしまいます。互いに家を出て逃亡生活を過ごしますが、会えないまま。やがて流風と嵐は生き延びるために日本を出、別の世界へ越境します。竜が空を飛び魔法のある、ここではないどこかです。颯はふたりと再会することができるのか、そもそも再会したいのか——。  何をもって、ひととひとは家族になるのだろう。離れていても、会えなくても、捨てても、捨てられても、家族であるといえるのか。烈烈とした語り口の物語が訴えかける命題が、胸に突き刺さります。
 私が本作でとても興味をひかれ、そしておそろしく感じたのは、白伊家・瑠璃家の交配計画をおこなう中心人物、いわば悪の根源は物語にすがたをあらわさないところです。  いや悪役と呼べるキャラクターはいます、交配計画を利用し出世しようとする榊麻耶がそうでしょう。けれどあくまで彼女はしきたりに乗っかっているだけ。また交配にかかわる医者・朱伊皐月も登場しますが、彼も白伊の人間でこそあれ中心ではありません(颯の恋人として登場します)。また白伊家、瑠璃家の思惑のなかで暗躍する瑠璃夏子葉も一筋縄ではいかない人物ですが、彼女の動機は颯たちへの愛憎で、家のしきたりそのものを推し進めたいわけではないでしょう。  颯・流風・嵐を追う、憎むべきしきたりの「顔」は見えません。しばしば拳銃で対峙する相手はあくまで末端です。  颯も流風も、家のしきたりに振り回されど、かれらの心は家そのものからは離れています。家の制度を憎み、出て行くものとして思いは固まっており、そこに葛藤はありません。それでも離れ離れになってしまうのは、家のしきたり/血のしがらみにより生まれた周辺人物の思惑や期待で、まさに「なりゆき」の風でしょう。登場するひとたちはみな、中心になって家を動かしたり賛美したりはしませんが、倒すことはできないし、しない。なりゆきの風は、雰囲気であり空気であり呪詛で、とらえどころがありません。すがたの見えないなにか。そこが現代的なえがきかたで、とても面白く読みました。  颯たちは(読者に)見えない何かに翻弄され、逃げ回ります。悪を倒すことはあたわず、生きるために別の世界へ向かいます。通信や越境そのものはすんなりとおこなわれ、家族の再会を阻む最大の障害は家の制度よりむしろ、ままならない三人の気持ちであるように思えました。かれらはとても不器用に、互いを思い合います。
 颯のキャラクターが魅力��です。美しく強い肉体。男まさりな口調で名前の通り颯爽とした女性ですが、心のうちはとてもナイーブ。よるべなさを鎧うように強くあらねばならなかったというような人物です。  彼女は名家のお姫様という立場から連想される女性ではありません。流風の弟・翼とともに家を出、瑠璃一族の助けを得つつ会社勤めをしながらアンダーグラウンドな仕事に身を投じてゆきます。銃を握り、自宅のマンションは荒れ、目的のためによその男に身体を預けることも(前回テキレボの有志企画「悪女小説フェア」に本作は参加されていました)。  そもそもの流風との関係もあまり良いものとは言い難い。颯は、自分は「独占欲と嫉妬」から子どもを産んだのではと振り返ります。流風・嵐と離れているあいだは流風の妹・夏子葉と関係し、その後の長い逃亡生活のなかではべつの恋人もできます。医者の朱伊皐月は、流風よりも優しく、「まっとうな恋人」(流風自身も、「夜のあれこれを教えなければならなかったから、寝ただけ」と述懐しています)。  自分は母親といえるのか、誰を愛しているのか、どうしたらいいのか。ままならない気持ちを抱えて、流風と嵐に会いに行くことができずにいる颯。嵐の誕生日には毎年ケーキを買い、チラシのベビー服を眺めては記憶の中の嵐に着せてみる…。世界の境界を超えてからも、嫌われていたらどうしようと足踏み。強さと美しさで覆い隠したさみしさが、痛々しく、人間らしいキャラクターです。
 そういった中、娘・嵐と、嵐の叔父である翼、ふたりのやりとりは清涼剤です。  翼は流風の弟ですが、流風のことを好ましく思っておらず、颯の弟を名乗っています。颯と一緒に家を出て暮らしています。  颯は、流風・嵐にずっと会えません。が、翼があいだに立ち、逃亡の手助けをします。娘の嵐は、環、イオレと名前をかえて成長してゆきます。嵐(このときは環)が7歳のとき、翼は高校生。ばらばらの家族の緩衝材のような少年です。  嵐(環)がシロツメクサの花冠を作るのにつきあってあげ、銃を向けられた際は少年ながら必死で守ります。一緒に砂丘を駆け、笑いあう。流風に託された嵐のアルバムを、颯に渡してあげる…。  交配により家族構成がぐちゃぐちゃで人間関係も歪むなか、翼が三人のあいだに立ってあげていることは、ちいさな奇跡のように思えます。血の繋がらない颯を姉と呼び、生活の助けをし、颯にべつの恋人ができた際は弟として腹を立てる。実兄・流風のことは好きではない、それでもコミュニケーションは成立し、立派に流風と嵐の手助けをする。嵐のアルバムをみて、喜ぶ。  血の繋がりの有無も、愛憎も、一緒にいる時間の長短も、家族の必須要件ではないのかもしれません。心のうちでそう思い合うならば、家族といえるのではないか。翼によって示され、その後、世界の境界をこえて「家」から離れる三人を見ていて、そう思いました。
 本作の表紙は風見鶏です。鶏の向く方向によって風向きを知ることができますが、雄鶏を形どることが多い。警戒心の強い雄鳥の習性から魔除けの意味もあるそうです。そうしてみると、本作の男性、流風と翼の風向きを眺める姿に注目したくなります。嵐とともに日本を出、別の世界へと渡る流風。三人のあいだに立ち、感情をぶつける翼。なりゆきの風、さまざまな思惑や期待が若い家族を離れ離れにするなか、どうにか風のなかであがいている。  かれらの行動をうけ、颯がどうするのか。颯は母親として嵐に会えるのか。流風とどう対面するのか。抗えない風とは、かれら自身の思いのよじれも含まれるのでしょう。  風の吹き曝すに任せて走らされているようで、かれらはかれらの意思で、家族であろうとし、じっさい家族として駆けてきたのかもしれない。吹きすさぶ風は、それぞれが制御できないみずからの心ともいえるのでは——そんなふうに思いました。  物語はサスペンスタッチで、スピード感あるアクションや魔法も登場しますが、あくまでかれらが悩み乗り越えようとするのは、自分たちの気持ちのこと。力点は家族のありように置かれています。烈しく切実な愛情の軌跡を見届けてほしいです。
 またテキレボ新刊の「ciger(前編)」には、嵐(環)と流風が登場するそうです。そして、webで連載中の「竜と世界と私」(冒頭部分を無料配布されています)は、「風まかせ」の後の物語。イオレ(嵐)の活躍が気になります。木村凌和さんのえがく世界の広がりが、とても楽しみです。
(オカワダアキナ)
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「泣草図譜文鳥編」
作・うさうらら(花うさぎ/委託-09)
¥400/和綴じA6横版/30ページ webカタログ twitter
〈作品紹介〉 9種類の草花を詠んだ短歌と物語のシリーズ、泣草図譜第3弾です。装丁は概ね前回同様で和紙&和綴じのA6横版。福井県小浜の春を豊富なイラストで織りこみながら短編『海柘榴』のスピンアウトをお送りします。おじコレ、鳥散歩の企画に参加予定。
内容詳細:『海柘榴』で主人公だった徹が春休みに一人で小浜へ帰省する話。はじめての一人旅、はじめての春の小浜でこれまでは見せなかった顔を見せる従兄、伯父。 春爛漫の花の中、一足先におとなになって離れてゆく従兄の背中を追う少年の心情を綴ります。
〈おじコメント〉 春の小浜は花がつぎつぎと咲いて綺麗だ。でも勝くんが言うには伯父の頭ん中は年中お花畑なんだって。今日もきっといまごろは店番をサボって釣りに行ってるってほんとかなあ。
〈おじレビュー〉
におわせる、においたつ。 少年の目で眺めた従兄とその家族。
 図譜とは、図や写真を集録・分類し、説明をほどこした書物をいいます。図鑑のやや古めかしい言い方でしょうか。「9種類の草花を詠んだ短歌と物語のシリーズ」とのこと。季節のくさばなを集めて、そこからたちのぼるうた、流れてゆく物語。  挿絵ということばでは言い表せないように思えます。うさうららさんの作品は、文章と絵と、どちらかがどちらかの引き立て役ということではなく、絡まり合って物語をつくっているようで…。やわらかな和紙に刷られたうつくしい絵(色がとてもきれいです…!)と、流れるようなことばが、丁寧な和綴じでつづられた一冊。めくり、読み、眺め、物語と溶け合う読書体験でした。
 親戚の家にひとりで遊びに行くのは、子どもにとってワクワクする体験でしょう。ひとりで電車を乗り継いで、着替えやおみやげをリュックに詰めたりなんかして。子どものひとり旅はなかなかゆるしてもらえないものですから、親戚の家に行く、というのはいい口実だったりもして。そうして親しいつきあいがあっても、やはり「よそのうち」。ふだんの生活とは異なる場所はドキドキするものです。つまり、ちょっとした冒険。  そして、いとこ(またはおじ/おばなど)のちょっと歳上のおにいさん/おねえさんに会えるのは、なんだかいい時間です。きょうだいや学校の友だちとはちがう距離感。大人の世界を垣間見たり、知らないことを教えてもらったり。もしかしたら、淡い恋のような感情を抱くこともあるかもしれない…。  子どもが両手両足を伸ばして小さな旅に出る。日常から外に出る。ささやかではありますが、かれらは「異界」を覗くのでしょう。
 本作は、少年が春休みにいとこの家を訪ねるお話です。舞台は福井県小浜。北陸アンソロ掲載作「海柘榴」との関連作です。「海柘榴」の語り手・徹と、いとこのおにいさん・勝。「海柘榴」ではすでに大人になっている徹ですが、「泣草図譜 文鳥編」は、かれらふたりの少年時代の物語です。  徹は小学生。分厚い時刻表をおともに、東京からひとりで電車に乗って小浜へやってきます。いとこの家は呉服屋をやっていて、春は忙しい時期。遊びに来た徹は夏に両親と訪れたときとのちがいを感じますが、違和感はそれだけではありません。いとこの勝は中学生で、遊びに来たのに出迎えてはくれず部屋にこもりきり。顔を合わせてもよそよそしく、伯父や伯母のようすもなんだかちがって…。  徹の目線で眺めた、いとこの勝と家族のこと。短い滞在のなかでそっとふれあう心が、春の空気のなかでゆらめいているように思えました。花や潮のにおいたつ春です。
 子どもの視点でえがかれた物語の魅力の一つに、見知った世界をちがった角度で「発見」することが挙げられます。本作のふとした描写にハッとします。徹の子どもゆえの気づきと、子どもだから理解がおいつかない点(読者はなんとなく察することができるのが絶妙です)とがあちこちに織り込まれ���いて、物語は流れ、立ち止まり、たゆたう。浜辺に寄せては返す波のようです。徹と一緒に異界を訪ね、ささやかな驚きやドキドキを感じるということ。 「夏なら午前中に宿題をするとか午後は浜へ泳ぎに行くとかなにかしらやることがあったのに春は特段することがない。」 「小学生の徹にはまだわからない言葉を遠慮なく使う勝の気の置けない態度が徹はむしろ嬉しい。」  小学生の徹がみたもの、ふれたもの、感じたこと、みずみずしいそれぞれを追体験するような手触りです。
 簡潔な文章と、思いや関係性をにおわせる絵、短歌とのバランスがとても好きです。  たとえば横綴じのページ見開きでざわざわと押し寄せる波に、人物の不安や時間の不可逆、抗えない運命のようなものを感じます。そして物語のはじめに置かれた短歌、「口にしただけで春めくハルジョオン 君の名前のかわりに呟く」で、徹が勝をどのように思っているのか、現在の距離感などが伝わってきます。  また、小道具やせりふが洒落ていて、ニヤリとしたり、ドキッとしたり。個人的には、つぶれたスナックからもらってきたアイスペールをヒヤシンスの球根を育てるバケツがわりに使う…という箇所がとても好きです。ディテールがこまかいのにわざとらしさがなくて、どこかの風景を覗き見しているようです。ここの絵、勝の表情がなんともいえずドキっとして…。きっと、徹がみた勝の顔なのだなあと思いました。  におわせるということ。ことばと絵とうたと、それぞれ説明しすぎないのが粋だと思います。読者に噛み砕きと想像の余地を残してくださっていて、だからこそ、物語の中へすっと入っていけるのだなあと思います。いや、いつのまにか物語のなかに「いる」「包まれている」といいましょうか。行ったことはないはずの小浜の風景の中に、たしかに私も立ち、風やにおいを感じたのです。徹の目で耳で手で、勝とことばを交わし、春の空気を胸いっぱいに吸い込んだようでした。    本作の伯父は、釣りとスナック通いばかりのおじさん。徹にとっては優しくて気さくな伯父さんです。甥の徹と、息子の勝と、それぞれの立場によりみえかたは異なるでしょう。そしてまた勝のことも、母親や父親(徹の伯母・伯父)と、徹が見て感じたことはことなる。ひとの姿もまた、花や波のように咲き/揺れ、相対的なものだろうと思います。だからこそ、いとしく思ったり焦がれたりするのかもしれません。そう、ここでもまた、ひとがひとを愛する(ということばはいささかおおげさかもしれません、心がふれあい、ざわめく)ときのにおいや手ざわりを、少年のこころで「発見」したのでした。  本作に「図譜」という題が与えられていることが興味深いです。わたしたち読者は、物語をめくりシーンや人物を眺めて、こころのふるえを蒐集しているのかもしれません。
 また本作は、同じくテキレボ新刊の「百花王」に収録される「海にて白光る」(磯崎愛さんの「街にて赤灯る」と、蛇腹製本でうらおもてになっています。「街にて〜」が紅牡丹、「海にて〜」が白牡丹の物語)は関連作です。徹が中学生になっています。こちらも一足お先に拝見させていただいたのですが、たいへん色っぽい…! ぜひあわせて読みたい作品です。
(オカワダアキナ)
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「時柴流星の変身」
作・泡野瑤子(空想工房/C-20)
300円/A5/38ページ webカタログ  試し読み「時柴流星の変身」https://kakuyomu.jp/works/1177354054882636246 試し読み「時柴兄弟の変心」https://kakuyomu.jp/works/1177354054882636330
〈作品紹介〉 【現代ファンタジー/コメディ/変身譚/柴犬/中学生/高校生/画家/双子】
サークルメンバー:泡野瑤子(阿波)の個人誌です。
■収録作品 ①「時柴流星の変身」(お題de合同本企画2『つめこみっ!』収録作)
 流星にとって、今夜こそが人生のすべてだった。
 一学期最後の日、時柴流星は大好きな玉井さんから花火に誘われる。  思いがけない幸運に舞い上がる流星だが、実は時柴家の男子には代々伝わる「夜に外出してはならない」ある秘密があって……。
 「これから、お前に時柴家の男子にのみ代々引き継がれる秘密を話す。  ……覚悟はいいか?」  「……とりあえず、服着てからにしてくれない?」
②「時柴兄弟の変心」(流星の親世代、時柴太郎・次郎のお話)
 だって俺たち、とびきり仲良しの双子だもん。
 時柴太郎と次郎は、とても仲の良い双子の兄弟だった。  絵を描くのが大好きな二人は、一緒に画家になる夢を叶えるため中学校で美術部に入部するが、二人の絵に対する姿勢は少しずつずれていき……。  「時柴流星の変身」から遡ること三十年前、流星の父親と叔父さんが少年だったころのお話です。
 俺と太郎を、全然違う人間にしないでください。神様、どうか。
〈おじコメント〉  おい:時柴流星(16歳・高校生)  おじ:時柴次郎(45歳・画家)
 収録作「時柴兄弟の変心」の主人公が少年時代の次郎おじさんです。  次郎おじさんは父の双子の弟です。  ジャンル的には現代ファンタジー……だと思います。  ゆるくふざけた作風に若干のまじめ成分が含まれています。
〈おじレビュー〉
胸毛が生えたら柴犬になっちゃうかも?! 運命に困惑する俺、「ギフト」を受け入れた叔父さん。
 「運命が胸毛を生やす!」という冒頭の一文にドキッとしたら(そしてワクワクしたら)、ぜひそのまま読み進めてください。いつのまにか、キュートで切ない柴犬ボーイズたちの虜になっているはず。  特別な何者かに「なりたい」、「ならない」、「なってしまった」。恋に才能、思春期に抱える悩みは、可笑しくて切実です。
 本作は「時柴流星の変身」「時柴兄弟の変心」の二話構成です。作者の泡野瑤子さんは「ゆるくふざけた作風に若干のまじめ成分が含まれています」とコメントされていますが、まさにそんな感じ。明るくハツラツとした少年たちの物語にクスクス笑っていると、いつのまにか胸をぎゅっと衝かれています。テキレボの読者層は何か書く/描く方が多いかと思いますが、表現するひとたちにはとくに刺さるお話でしょう。  「変身」→「変心」と読み、もう一度「変身」を読み返すと、キャラクターのふとしたせりふやまなざしが、ちがった見え方になります。再読してわかる仕掛けにニヤリ、そしてしんみり。平易な語り口で綴られた巧みな物語は、かわいくてふわふわした柴犬が、するどいキバを隠しているよう。面白かったです!
 時柴流星は16歳。クラスのかわいい女の子に花火大会に誘われ舞い上がる、青春真っ��りの少年です。  花火大会を翌日に控えた晩、一本の胸毛が生え始めたことに気づいた流星は愕然とします。時柴家は時々、柴犬に変身してしまう「柴犬体質」の男子が生まれる家系。胸毛が生えた男子は柴犬体質の可能性が高いらしく、ついに自分にも胸毛が——! 若いうちはコントロールが利かずに突然柴犬に変身したり、元に戻ってしまうことも(元の姿に戻ると、いきなり全裸)。はたして彼の初めてのデートはどうなる?「時柴流星の変身」はコミカルで元気いっぱいの物語です。  流星の祖父や叔父は柴犬体質ですが、父親はふつうの人。父・太郎は、流星の柴犬体質をよろこびます。叔父の次郎(太郎の双子の弟)は画家で、犬の視界で見えた風景に人間の目で見えた風景をミックスして絵を描く、独特の色遣いで有名になった人物。 「ほら、俺たち兄弟を見ろ、柴犬体質じゃない俺は普通のサラリーマンになったが、弟の次郎は柴犬体質を生かして世界的に有名な画家になった」「運命を嘆くより、逆手に取れ!」  そう父親に言われるものの、流星はしょんぼり。いつか何かの役に立つかもしれない柴犬体質よりも、明日のデートがどうなるかが一大事。  そうして読者の期待を裏切らず、流星は肝心なところで柴犬になってしまい…。  キャラクターたちがチャーミングで、せりふややりとりに思わずクスッと笑ってしまいます。クラスメイトの鷲尾君がイイ味を出しています。
 さて後半「時柴兄弟の変心」は、次郎叔父さんが語り手です。時間はさかのぼり1985年。太郎と次郎の少年時代の物語です。  30年後の流星の反応とほぼ同じように、突然告げられた柴犬体質の家系に驚く二人。兄の太郎はあまり興味を示しませんが、弟・次郎は内心、「俺だけが柴犬体質だったらいいな」と考えます…。  そこかしこにのぞく80年代の小道具が効いていて、ノスタルジックでほのぼのした語り口。しかし少々のヒリヒリも伴ってえがかれており、夢中になりました。  太郎と次郎は双子のきょうだいで、とても仲良しです。二人とも絵を描くことが得意で、いっしょに画家になることを夢見ています。中学一年の秋、互いを描きあった二枚一組の肖像画で全国コンクールの佳作に選ばれます。「自由な表現を」という選評にそれぞれ思うところのある二人。  鉛筆デッサンが得意で、上手だけれども平凡な絵を描く太郎。奇抜な色や構図に挑み、オリジナリティーを模索する次郎。一心同体だったふたりに少しずつ違いが出始めます。次郎は、太郎が惰性で絵を描いているのではないかと心配に。そうして次のコンクールでは、同じ「花火」という題材でそれぞれ絵を描くのですが…。  次郎は「自由な表現」を目指して試行錯誤します。自分だけの個性がほしいと悩むちょっと痛々しい姿は、読者であるわたしたちも、なんとなく身に覚えがある感覚。  太郎も次郎もお互いのことが大好きで、けっしていがみあいはしません。あくまで仲の良い双子のきょうだいが、それでもべつべつの人間であり、べつの目で世界を眺め、それぞれの人生を歩まねばならないということ。
 「柴犬体質」それ自体はファンタジーの仕掛けですが、才能(ギフト)や個性といったもののメタファーであるといえるでしょう。特別な何者かになりたい。表現者の抱える願いとは厄介で、しかし切実です。太郎と次郎、それぞれの葛藤が沁みました。  ふたりの対比や、けものになってしまうこと——若いときはうまくコントロールできず不自由で、やがて御することができるようになるもの——を才能にたとえた物語は、どこか寓話的。ただ寓意はこめられつつも、説教くさくならずに明るいトーンのまま語られるのが至芸です。きょうだいは一貫して互いを思いあいます。おそらく、作者の泡野さんご自身が太郎のような人、次郎のような人、いずれでもない人——表現や個性というものに、あたたかなまなざしを向けているからなのでしょう。  また、柴犬体質と才能をめぐって悩んだ太郎・次郎兄弟に対して、次世代である流星は恋に夢中です。友人の助けを得つつ、”けものになってしまうこと”にどこかあっけらかんとしているのが、現代的ともいえるなあと感じました。「変身」と「変心」ふたつの物語を並べてくださったことで、それぞれの青春や生き方、ちがいを肯定してくれたように思えます。そう、才能や個性とは、悲壮な運命ではない。物語のはじめにベートーベンの「運命」がもちいられていますが、「運命」も最終楽章は明るく華やかに終結します。それぞれがあるべき姿でそれぞれの持ち場を精一杯生きていくこと。ギフトを受け入れること。愛のある着地が素敵です。
 さて物語の最後は、ふたたび現在。画家となった次郎叔父さんの個展に、太郎と息子の流星が訪れます。流星は次郎叔父さんに、「双子なのに、父さんとは大違いだ」と話すのですが、その際の次郎叔父さんの返答がとてもいい。また、先に引用した太郎のせりふがまったくちがう印象に。「変身」→「変心」→「変身」、ぜひ二周して読んでほしい一冊です。  何かを表現すること、しないこと。自分と自分を取り巻く世界について、ちょっとだけ優しくなれる気がしました。 (オカワダアキナ) 
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「ぼくの、ヒーロー」
作・凪野基(灰青/C-12)
無料配布/文庫/8ページ Webカタログ URL: http://bluegray.self.jp/
〈作品紹介〉 「弟が帰ってきた」父の一言からはじまる、ゆるゆる高校生エリクと船乗りの叔父フランツとの甘酸っぱい交流。叔父さんはみんなのヒーロー、けれど俺は。
〈おじコメント〉 既刊の短編集「エフェメラのさかな」に収録の「宙の渚のローレライ」はフランツ叔父さんが主役のSF短編です。ノルンとラブイチャしています。併せてご覧下さいませ。
〈おじレビュー〉
甥っ子くんのブロークン・ハート?! 自慢の叔父さんがいるって素敵!
 本作は凪野基さんの短編集「エフェメラのさかな」に収録されている「宙の渚のローレライ」の関連作です。あわせて読むと、叔父さんの自己評価と甥っ子の視点のちがいが面白く微笑ましい。少年の歯切れ良い語りも相まって、とびきりキュートな作品です。
 「宙の渚のローレライ」は、宇宙の船乗りフランツ・キサラギの物語。フランツは、近海の宇宙ゴミを拾い、衛星を修理し、航路の安全を守っています。  ある日フランツは、知り合いから噂話を聞きます。小惑星帯のライン航路で女の歌声が聞こえる、しかし宇宙船の通信ログには残らない——。フランツはその"ローレライ"の調査をすることになり…。  フランツの明るい語り口が小気味良いSF作品で、彼の若い恋人・ノルンとの関係/やりとりがあたたかく、愛おしい作品です。  フランツはいわゆる「信頼できない語り手」ということではないでしょう、この物語に叙述トリックという言い方はあまりしたくない。そのことをあえて言う必要がなく、当たり前にみんなが過ごしているという、穏やかな進歩がえがかれています。お話の仕掛けといえば仕掛けの部分なのですが、それによってどうということではなくて……。ただそうであるということ。温度感が素敵な一作です。
 それを受けて、本作「ぼくの、ヒーロー」はどのようにえがかれるのかなあとワクワクしておりました。どちらから読んでも楽しめるように作られているのが粋です。  本作はフランツの甥っ子、エリクが語り手です。エリクにとってフランツは憧れの人。「フランツは格好いい。俺のヒーローだ。」と語ります。エリクはフランツに憧れて機械工学の大学に進んだほど。  「宙の渚のローレライ」のなかで、フランツは自分のことを何度もくたびれたおっさんと語っていましたが、やっぱりカッコイイ人なんじゃないか! 思わずニコニコしてしまいます。  宇宙での仕事で行方不明になっていたフランツ。ある日無事に帰ってきて、エリクに突然できた"叔父さん"。  「フランツは友だちというには大人で、親兄弟ほど近くもなく、教師ほど自らの保身を考えているわけでもなく、面倒臭い小言や説教を垂れるわけでもなく、気安い距離にいた。」  甥っ子と叔父さんのいい距離感です。エリクはすぐにフランツのことが大好きに。けれど最近フランツの様子がちょっと変? どうやら彼女ができたらしい……。  「もしかしてお泊りか。俺に何の断りもなく……いや、断りはいらない。落ち着け、俺。フランツは子どもじゃない。」  動揺するエリクがとってもかわいい! ブラコン(ファザコン)ならぬ「おじコン」とでもいいましょうか、ちょっぴり”モンペ”なエリクがキュートです。フランツからノルンを紹介されたあと、ショックを受けたエリクのある行動は必見です……!
 身内の誰かに憧れや親しみをもつことのプラスの面が、ハツラツとえがかれた掌編です。ちょっとだけ「おじばなれ」して、エリクは大人になってゆくのでしょう。#おじコレ作品でも一二を争うモンペぶり(ちなみに対抗馬は「くるぶしにくちづけ」の大志くんかな)に、お腹を抱えて笑いました。  「エフェメラのさかな」は人魚をテーマにさまざまな世界観をえがいた作品集です。わたしは表題作「エフェメラのさかな」が色っぽくて好きです。凪野さんの引き出しの多さが発揮された、密度の濃い一冊。本作とあわせてぜひはるかな"海"へ出かけてみてください。
(オカワダアキナ)
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「街にて赤灯る」(『百花王』掲載)
作・磯崎愛(花うさぎ/ 委託-09)
¥500 / p48 / ほぼA6(手製本) Webカタログ 試し読み:http://www.pixiv.net/novel/show.php?id=7799130  唐草銀河:http://karakusaginga.blog76.fc2.com/  twitter
〈作品紹介〉 コラボ・花うさぎ(磯崎愛 & うさうらら)による完全手製蛇腹本。大きさはほぼA6縦。 
『百花王』とは牡丹の別名で、片側に白牡丹、片側に紅牡丹の物語が展開されていきます。 
本を「拡げてゆく」ことで物語が展開してゆく、紙の本ならではの愉しみをぜひ手にしてください。 

尚、この本は手製本交換パーティーで制作した装丁をそのままに、中身を全年齢向けの純文学タッチで再構成したものです。 
物語はいずれも「夢使い」が登場するオリジナルファンタジーシリーズを基礎に、単独でもお読みいただける短編にしてあります。
〈おじコメント〉 大桑糺(おおくわただし)はいつも着物、この時代に洋服を一枚も持っていない。職業は養蚕教師にして夢使い。ごくたまに夢だけでなく、色も売る。男にも、女にも。色白の二枚目半。靴は持っていないが靴下は履くことがある。
〈おじレビュー〉
「夢使い」の男は、兄から伯父へうつろう。 ひそやかな呼吸で紡がれる、官能が崩れたあとの時間。
 蚕のつくる繭は、一本の糸です。始まりから終わりまで一本でつながっており、まるい繭には糸の端が隠れています。糸口を手繰り、撚りながら糸にまとめていくのは、蚕の呼吸をたどることのように思えます。一本の糸のなかに、太いところや細いところがあり、こぶが見つかることもあります。生き物の息は均一ではありません。  「街にて赤灯る」の主人公・大桑糺は、夢使いであり養蚕教師。夢使いとは、夢を贖う——客の望む夢をみせることを生業とするひとのこと。夢は夜、寝床でみるものですから、客と一夜を共にすることもあり…。夢使いという職には性のにおいがただよいます(そして、そのことへの偏見や差別もあるとえがかれています)。また養蚕教師は、蚕農家に技術を指導してまわる仕事。いずれも相手のところへ赴く仕事であり、さすらう仕事でしょう。  作者の磯崎愛さんは、夢使いについての小説をいくつも書かれています。それぞれの物語は紡ぎ出された糸であり呼吸であり、ひとつの繭から生まれたものと捉えられるかもしれません。さて本作は、ひそやかな息で紡がれた物語のように思えました。静かで、どこか死のにおいです。廃れていくもの、消えていくもの、すでになくなってしまったもの。試し読みと関連作のテキレボアンソロを読みましたが、散り、枯れてゆく花の官能を予感しました。続きがたいへん楽しみです…!  本作はテキレボ新刊「百花王」の、"紅牡丹"の物語("白牡丹"はうさうららさんの作品です)。色気と死とがひと続きのように思えるのはなぜだろう。糸を手繰りつつ考えます。
 テキレボアンソロ「嘘」の作品、「あにといもうと」は、本作の前日譚です。「あに」が主人公の大桑糺。幼い頃、糺の妹となった幸恵。ふたりは血の繋がらないきょうだいで、互いにどこかきょうだい以上の感情を抱いている雰囲気です。子ども時代の糺と幸恵とのやりとり、糺の生い立ち、そして幸恵が嫁ぐ前夜のことが語られます。現在よりすこし前、昭和の物語です。  さて、作品の冒頭に引かれた与謝野晶子の歌「おりたちてうつつなき身の牡丹見ぬそぞろや夜を蝶のねにこし」は、「庭に下り立って、ぼんやりと夢見心地で牡丹の花を見ていた夜。牡丹の花に蝶が共寝していた」といった意味合いの歌です。なんとも色っぽい。牡丹が幸恵、蝶が糺でしょうか。  蝶は飛び回るものですが、糺もまた、あまり家に寄り付きません。夢使いの弟子入りを始めてからは師匠の家で過ごすことが多く、着るものはほとんど師匠のおさがりの着物。その後も遠くの大学に進学し、製紙工場に勤め、帰省もせずにいます。幸恵の結婚相手は、糺のひとつ歳上で糺とは古くから親しい友人である晃一。実家と距離を置いていた糺は、妹と友人が結婚するのを直前まで知らずにいました。  糺と家族との距離感や、幸恵へ向ける思いが、なんとも読み手の心を軋ませる手ざわりです。久しぶりに帰ってきた実家の家は建て替えられていて、客間に布団を敷いて寝る…。かたちばかりの床の間、妹の踏んだ畳の縁。直接そうと書かれているわけではなく、折り重なるいくつもの情景やちょっとした人物の描写で、糺の抱える孤独やふたりの関係性が伺えるのが巧みであり粋だと感じました。生活の周辺からのぞくほのかな色気を感じる作品です。
 さて、それを踏まえた本作の試し読みです。時は流れ、大桑糺は四十半ば、中年の男になっています。物語は、大桑が晃一から受けた相談、娘の成人式に振袖を見立ててほしいという話題から始まります。晃一と幸恵の間の子ですから、大桑にとっては姪。  大桑は夢使いと養蚕教師で生計を立てていますが、あまり芳しくない様子。いっぽう晃一は不動産業に就き、見た目も生活も貫禄がある。そして、幸恵はすでに亡くなっています。「十三回忌をしたのが何年前だろう。」——「あにといもうと」から長い年月が経っており、世の中は大きく変化しています。  呉服屋の知人の勧めもあり、大桑は幸恵の振袖を広げてみることに。初めて大桑が眺めたそれは、大輪の赤い牡丹の柄で…。
 成人にあたり母親の振袖をあたってみること。仏壇に飾られた写真、死んでしまった犬。ディテールに昭和のにおい、時間の移ろいを感じる風景です。語り口もどこかふるい小説や映画を思わせます。  わたしが本作をとても好きだなあと思うのは、そういったいろいろをことさらに懐かしみ讃美するわけではなく、ただそうであったと、少しずつ移ろってゆくことがあくまで静かに語られているところです。「妹と思ったことはなかった」妹の遺した牡丹の着物と向かい合い、大桑は何を思うのでしょう。「あにといもうと」で引用された与謝野晶子の歌は蝶と牡丹の歌ですが、「街にて赤灯る」の大桑は蝶というより、蚕の成虫としての蛾を思わせます。家畜として改良された蛾は、飛ぶことがあまり得意でない。    牡丹の花は、枯れることを「崩れる」と表現します。大きな花弁がばらばら落ちてゆくさまは、たしかに花自体がかたちを失って崩れ壊れていくように見えます。  げんざい着物で生活するひとはまれで、養蚕は衰退産業、姪も甥も夢使いの血を引き継いでいない。本作でえがかれるいくつもは、崩れてゆく/崩れたものたちです。  妹が亡くなったあとですから、大桑は兄ではなく、立場や役割は伯父。「あにといもうと」での湿度や官能はいくぶん息をひそめ、老いや死のにおいが漂います。色気と死とが連続したもの、表裏一体のもののように感じるのは、咲いた花はいずれ枯れることと似ているように思えました。  ところで牡丹という花は、ふやすのが難しい花だそう。種をまいても親と同じものは咲かず、また種のできない品種もあります。試し読みでは姪の歩、甥の進は話題には出てきますが、登場はしていません。幸恵の子であるかれらがどのような人物で、どのように大桑と接するか興味深いです。
 なお、夢使いに関する磯崎さんの作品は、北陸アンソロジー「ホクリクマンダラ」でも読めます。アンソロジー掲載の「海柘榴」という作品はうさうららさんのコミックとのコラボ作品です。「海柘榴」では大桑が夢使いの仕事に小浜を訪れるシーンがえがかれます(語り手は客の青年)。また、この「海柘榴」の関連作、主人公と従兄の青年の物語が、「百花王」うさうららさんの作品、"白牡丹の物語"だそう。「百花王」と「海柘榴」、あわせて読みたい作品です。(「ホクリクマンダラ」はテキレボでは委託頒布されるそうです)
 また、夢使いの仕事については、現在カクヨムで連載されている「夢のように、おりてくるもの」を読むといっそう世界が広がるように思います。
 繭からつむがれる糸が縦横に織りなす物語群は、生活に立脚しながら、官能的で幻想味を帯びています。  本作の、物静かな息遣いに耳をすませるような読書体験は、なぜだかこっそりおすすめしたい佇まい。続きがとても楽しみで…しかし14部限定なので…! 「百花王」は蛇腹製本とのこと。花びらをめくるように、秘密の手紙や贈り物のように眺めたく、ドキドキしています。
(オカワダアキナ)
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uncle-collection · 8 years
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「会う時はいつも夜の下」
作・森瀬ユウ(とぎれない、いつか / ※委託:ザネリ/C-10)
無料配布/B6/p32 Webカタログ 試し読み:http://skyer.soragoto.net/off/autoki_sample01.html
〈作品紹介〉 僕が叔父さんについて知っている幾ばくかのこと。
おじさんは僕の父親の弟だ。歳の離れた兄弟で、
 父が20歳の時に僕が生まれたということもあり、
 僕とおじさんの年齢は12歳しか離れていない。 

「誰だって、ひとりでいるのは寂しいことなんだよ」
記憶の中のおじさんは、いつだって暗い夜闇の下に佇んでいる。

***

甥と叔父のささやかな交流を描いた書下ろし短編小説1編と、
 サークル:とぎれない、いつかの発行物一覧&冒頭抜粋を掲載したお試し小冊子。 
 
※無料配布となっております。お気軽にお持ち帰りください!
〈おじコメント〉 当作品の叔父さんは、「生真面目で神経質、品行方正がスーツを着たような性格(甥談)」ですが、常にどこか飄々としていて捉えどころがなく、心のうちが読めません。物語は始終甥である「僕」の視点で進みます。「僕」が叔父さんと過ごした数年間を追いながら、果たして叔父さんはどんな人物なのか、一緒に想像を膨らませていただければ幸いです。
〈おじレビュー〉
端正な文章でえがかれる「気づき」。 胸の奥でしんと光る星のこと。
 本作は、森瀬ユウさんの作品世界のエッセンスが味わえる掌編です。繊細で、キリッとした手ざわり。  豊おじさんは、主人公の父親の弟。弁護士事務所に勤め、物静かでどこかとらえどころのない人です。父親とは歳が離れており、おじさんというよりおにいさん。でもはっきりと別の世界のひとです。少年がふれ、垣間見る「大人」。  アパートで勉強を教わったり、なんてことない(ようでかれの心にそっと寄り添うような)言葉を交わしたり…。おじさんと過ごす、少しの時間。
 試し読みで読める、ここの箇所がとても好きです。 「あぁ、おじさんの目は奥二重なんだな。  身長が伸び、昔よりも近づいたおじさんの顔を眺めながら僕は思った。兄である父親が一重だったから、てっきりおじさんも一重なのだとばかり思い込んでいた。  きっと、人生はそんなことの連続にすぎないのだろう。」  ささやかで、しかし大切な気づきです。生活の中で出会うハッとする瞬間を、さりげなく掬いあげたシーンだなあと心に沁みました。夜空の星が、ふと目にとまるような。
 森瀬ユウさんのえがく、クールな青年たちがとても好きです。作品により境遇や生い立ちは異なりますが、かれらはあくまで普通の人たちです。学校に通い、仕事に行き、家族も友人もいます。きちんと社会のなかで役割を果たしており、聡明なひとびと。かれらは傍目には無愛想であったりつかみどころがなかったり、どちらかというともの静かに生きているイメージです。でも、心のうちで大切な誰かがいる。大切な誰かの前でだけ、見せる顔がある。そして、その誰かにすら、大切だということを直接告げることはあまりなくて…。ナイーブで凛とした佇まいに、ドキッとします。  かれらを見ていると、人生のうちですれちがった誰かのことを思い出します。誰かに名前はありません。うまく話せなかったけど、何を考えているのかわからなかったけど、ふと折に触れてシルエットや気配だけ思い出すような誰か。名もなき誰かそれぞれに、大切なひとや思いや葛藤があり、孤独や欠落をやりすごしながら、静かに毎日を戦っている。  森瀬さんは現代の日本を舞台とした作品を書かれています。日常の機微を端正なことばですくいあげる小説群。ちょっとした心の揺れや気づきが、さりげない言葉でつづられています。 ほそい鉛筆で描かれたスケッチのようだなあと思います。日々や風景のかすかな揺らぎを、サッと紙にうつしとったような、といいますか。スケッチとは取捨選択だと思います。見たままを描くようで、何を描き/描かないのかは、描き手の舵取りです。森瀬さんの作品もまた、簡潔に書かれた文章に「ここは明確に語る/語らない」の美学がみえ、気持ち良いです。たとえばさきほど挙げた人物の描写にかんして、そうとハッキリ書きはしない。読んでいるわたしたちがふと、かれらの痛みや愛情を垣間見て、「ああ、これって」「もしかして」とドキッとする。キャラクターの関係性に想像の余地が残されていて、読者は微熱を高めます。その一方、かれらが得たこと、大事にしたい思いについて、まっすぐ結論を差し出してくれる瞬間がある。語るべきこと、語らずにおくこと。きっちり鉛筆を削ってえがかれた風景に、ぜひ出会ってほしいです。
さて本作は、無料配布冊子です。掌編と、発行物一覧。掌編を読んでハッとしたりドキッとしたり、胸の奥でしんと光る星を見つけたかた、ぜひ素敵な作品のかずかずも手に取ってみてください。
(オカワダアキナ)
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「星の流れる夜に -円環の系譜-」
作・高杉なつる(宵待ブルー/C-23)
Webカタログ
¥100/文庫/62ページ
〈作品紹介〉 ――俺、嫌だよ。王になんてなりたくない。
王立士官学校で歴史学を教える教官職に就いているユージン・コレットは、2年前に入学してきた姉の子であるアゼルを見守りながら穏やかな生活を送っていた。 期末試験も終わった頃、王都で行われる葬儀にアゼルと共に出席する事になる。 現国王の弟の子である甥と、一般市民である叔父。 身分立場は違えども親族として過ごしてきたふたりは、王都までの小さな旅に出る。 その旅が、人生を大きく変える事になるなんて……夢にも思わずに。
空・海・大地、それぞれの母たる三人の女神が作り出したと伝えられる世界。 王と騎士と魔術師と……女神の僕である精霊が暮らす世界の物語。 女神の伝承が伝わる世界で生きる人達を語る物語、その序章。
〈おじコメント〉 ささやかに暮らしている庶民の叔父と、王家の血を引きながら自由に学生生活を謳歌している甥っ子が登場します。 変わりたくない気持ちを抱えながらも、周囲がそれを許さなかったりとちょっと切なく、叔父も甥も大人になる一歩を踏み出して行く物語です。
〈おじレビュー〉
抱きしめること、言葉をかけること。 叔父に与えられた「見守る」という役割。
 王立士官学校で歴史学を教えるユージン・コレット。「成績と身分は無関係です」と、貴族の生徒たちにも毅然とした態度の先生です。士官学校の生徒で甥(姉の息子)のアゼル・バートリッジは、17歳の生意気盛り。アゼルは現国王の弟の子ですが、王位継承問題からは外れており比較的自由な暮らしです。制服を着崩したり、ユージンにおねだりをしたりと大らかな学校生活を満喫している様子がチャーミング。ユージンには子どもがなく、アゼルを厳しく指導しつつもかわいがっており、身分や立場は異なるもののふたりは親しい間柄です。  ある日、第三王女が急死したため葬儀に出席することとなったユージンとアゼル。アゼルの両親が外遊中のためユージンが付き添って、王都への短い旅に出ます。そこで起きたできごとは、彼らの運命を変えてゆくもので……。
 イキイキとしたキャラクターと読みやすい語り口で、物語の世界にすっと入ってゆけるファンタジー作品です。こんなひとたちで、こんな景色で…と風景が目に浮かびました。奥行きを感じるひろびろとした世界観。本作は序章という位置付けで、ここから物語が続いていく・広がっていく予感にワクワクします。  葬儀の際に起きた、王太子の座をめぐる殺し合い。一夜にして王の子がひとりもいなくなってしまう惨劇です。残った王の直系男子はアゼルのみ。突然、次の王になることが決まってしまいます。  自分は狡いところがあり戦うことも嫌いで、王の器ではないと悩むアゼル。それがわかっているなら大丈夫だと、アゼルの不安に寄り添い語りかけるユージン。「俺が望んだら、叔父上は俺の側にいてくれる?」…ふたりの気持ちの震えが、赤い月や夜風と重なり切ないシーンでした。
 かれらは叔父と甥、幼い頃から知っていて互いに家族としての愛情や親しみがあります。けれど、親兄弟や配偶者とは異なり、義務や責任はない関係です。いいかえれば、踏み込むことはできない。主従関係もありません。アゼルには側近のウォルターがつねにそばにいますが、彼とユージンが対比的にえがかれているなあと感じました。  ユージンに与えられ、選んだ役割は「見守ること」でした。直接剣を抜くことも政治的な交渉もできない立場で、ユージンはのちに「逃げてしまった」と振り返ります。  わたしたちの人生についていえば、出会ったひとすべての人生に深く関わることは不可能でしょう。距離のある相手を励ますことは無責任ではないだろうかと、ときどき足踏みしてしまうことがあります。でも、相手の幸福を祈ること、見守ることは大切なことなのだと、ユージンとアゼルの関係をみていてしみじみと勇気づけられました。ユージンには後悔があったとしても、事件の際に与えた体温と励ましが、アゼルの国王としての人生の背中を押し、支えてくれた面があるのではないかなあと感じます。抱きしめること、言葉をかけること。直接何かを変えることはできなくても、不安に寄り添うこと。見守ることの本質は、そういうことなのかもしれません。
 後半、物語のなかで長い時間が流れ、ひとも国も変化していったことが示されます。彼らはどのような時間を過ごし、何を得、失ったのだろう…。読者はあれこれ想像を巡らせます。そうしてアゼルからの手紙や、教え子からの申し出もあり、ユージンはアゼルの息子たちの教育を任されます。ユージンの運命は今度こそ動き出してゆく…! 血と時間が育んだ愛情が継承されてゆくことが嬉しく、ここから先の物語が楽しみです。魅力的なキャラクターたちの活躍を、流れてゆく星々のゆくえを、もっと見てみたいです。
(オカワダアキナ)
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「くるぶしにくちづけ」
作・まゆみ亜紀(温室 / ※委託:シャロットの午睡/B-22)
¥600/文庫/120ページ Webカタログ 本編:http://www.pixiv.net/novel/show.php?id=7156272 書き下ろし分試し読み:http://www.pixiv.net/novel/show.php?id=7293422
〈作品紹介〉 ――昭久はお世話されるほうが向いてるよ。 ――ほかのだれでもなく、おれに。
職場の女子校が、今日から共学になる。そんな記念すべき日に甲斐性なしの教師・綾瀬の前に現れたのは、すっかり成長して男らしくなった甥・大志だった。 「昭久が好きです。おれと結婚を前提にお付き合いしてください」 男どうしだということは脇に置くとしても、叔父と甥、教師と生徒と禁忌に禁忌がてんこもり。どうして大志はおれが好きなのか? 綾瀬の煩悶の日々がはじまって…。
世話焼きな年下男に翻弄される足舐めラブ!
〈おじコメント〉 当作品の“おじ”は綾瀬昭久・27歳。私立高校の教師をしています。 受けです。彼を叔父たらしめる甥っ子の高校生・尾上大志に求婚されていて、その熱意にたじろぎ流され気味。 右足のくるぶし付近に古傷があり、大志はそれに妙に執着しているようですが……?
〈おじレビュー〉
さわやかな足舐め、小粋な官能。 甥っ子に"だめにされちゃう"叔父さん!
爪先へのキスは崇拝、足の甲へのキスは隷属だなんていいますが、ではくるぶしは……? ああ、「お世話」かもしれない。甘やかすことって、限りなく愛のある支配かもしれない。 本作は、作者のまゆみ亜紀さんが以前ツイッターで「#うちの作品初級編」というタグをつけていらしたのですが、なるほど納得です。山岳部の遠足や獅子座流星群の観測会など、キラキラした高校生活のなかにどこかフェティッシュな描写が見え隠れして……。まゆみさんの作品世界入門編かもしれません。お世話する/されるって、ちょっとドキドキする行為なんだなあ。爽やかと官能のバランスが絶妙で、至芸です。
「くるぶしにくちづけ」は、甥(高校生)×叔父(高校教師)のBL作品。 綾瀬昭久は、少々ぼんやりした高校教師。勤め先の学校が女子高から共学にかわった年、入学してきた甥の大志にプロポーズされてしまいます。男どうし、叔父と甥、教師と生徒。面食らう綾瀬をよそに、大志は綾瀬のアパートに押掛け、意気揚々とあれこれ身の回りの世話をするようになり…。
年下攻めの魅力とはなんでしょう? まだまだ子どもだと思っていた攻めくんがすっかり「男」になっていて、ドギマギしてしまう受け……そんな成長ギャップにより展開されるドラマは、やはり醍醐味だなあと思います。それが甥と叔父となると、叔父さんは甥っ子くんが赤ん坊の頃から知っているわけで、さらに本作は教師と生徒という関係でもありますから……ハイ、役満です。 本作の甥・大志は炊事洗濯掃除は完璧、背が高くて女子にもてる見た目、おまけに留学経験もあり勉強もできる高校生。叔父の綾瀬は終始たじたじです。 大志のハイスペックにはわけがあります。10年前に一緒に出かけた山で、綾瀬は大志をかばって足に怪我を負ってしまった。綾瀬には後遺症が残り、今も少々足をひきずるほど。大志は子どもながら「責任をとりたい」「傷をいたわりたい」と思うようになり、凛々しく成長したのです(ここの、大志が「いたわりたい」という気持ちに気づく描写・展開が秀逸です!)。 綾瀬への気持ちの根底に罪悪感があり、彼なりに乗り越えた先の「世話したい」、「甘やかしたい」。15歳の彼の、タフさ、一途さ、執着。爽やかさと、ひとすじなわではいかない独占欲をあわせもつ魅力的なキャラクターです。彼の造形がそのまま本作をあらわしているように思えました。すがすがしく、フェティッシュ!  綾瀬の傷跡のあるくるぶしに大志がくちづけるシーンは、愛情とどこかほの暗さが宿り、ドキドキです。酒に酔った綾瀬の嘔吐を世話するシーンもたまらない。本作は性描写はなく全年齢向けですが、みどころたっぷり。 綾瀬は大志の気持ちにこたえられるのか、「世話される」ことを受け入れられるのか…。関係性と気持ちの変化にグッときました。
リリカルな文章とすっきりした構成が、作品全体のトーンをあくまで明るく仕立ててあり、すがすがしく"足舐め"世界に浸れます。 個人的には、まゆみさんの作品はこういった引き算がとても小粋だなあといつも感嘆しています。抑制、コントロールのきいた書き手さんだなあと思います。 また、眺めているだけでうふふと笑みがこぼれてしまうようなカバーイラストも印象的。窓辺に舞う花と風がどこか春を感じさせ、紙の手ざわりもやわらかい。何度も作品世界に招き入れてくれる、素敵な装丁です。
(オカワダアキナ)
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「美少年興信所~所長の逆襲~」
作・鳴原あきら(Narihara Akira)(恋人と時限爆弾 / ※委託:ザネリ/D-10)
¥800/A5/188ページ
Webカタログ 試し読み 作品紹介アシスタント特設ページ
〈作品紹介〉 汚い大人たちの欲望に弄ばれそうになっていた、巧駿介。 そんな彼を救いだしてくれたのは、大学生で探偵助手の、吉屋鷹臣だった。 興信所に居候することになった駿介は、急速に鷹臣にひかれてゆく。 いくつかの事件を経たのち、二人の心は通じ、結ばれる。 しかし、それを邪魔するかのように、興信所を長期不在にしていた所長が、戻ってきた。 彼の名は満潮音(みしおね)純。駿介の実の父ということだが、彼の思惑とは、いったい――?
〈おじコメント〉 吉屋鷹臣の叔父、 門馬知恵蔵(もんま・ちえぞう)。 満潮音興信所の副所長。満潮音が留守の間は実質所長だが、満潮音が戻ってくるとひどいことになり、うさんくささよりも、情けなさが目立つようになる。 満潮音とは中学時代からの知り合いで、大学で再会してからも、いっさい頭があがらない。 ただ、甥である鷹臣や、巧駿介に害をなそうとする時は、必死で抗議する。
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