#見付天神浜垢離
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wankohouse · 11 days ago
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見付天神裸祭 浜垢離
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見付天神裸祭〜水陣の浜垢離
正式の呼び方などが判るページ
(例)
見付天神では駕輿丁とは言わない⇒輿番と言う
先供⇒正式には神輿御先供係
水陣や龍陣は梯団ではなく、梯団を構成する祭組(地域割)名
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dadnews · 10 months ago
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大祭の安全願い「浜垢離」 氏子ら、威勢よく海で清め 磐田・見付天神裸祭 [静岡新聞] 2024-09-04
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momijiyama1649 · 6 years ago
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ざこば・鶴瓶らくごのご お題一覧 1992年    1 過労死・つくし・小錦の脂肪    2 一年生・時短・ニューハーフ    3 レントゲン・混浴・アニマル    4 ゴールデンウイーク・JFK・セクハラ    5 暴走族・かさぶた・バーコード    6 タイガース・母���日・入れ墨    7 目借り時・風呂桶・よだれ    8 しびれ・歯抜け・未婚の娘    9 ヘルニア・目ばちこ・フォークボール    10 造幣局・社員割引・オリンピック    11 父の日・猥褻・丁髷    12 ピエロ・ナメクジ・深爪    13 ミスユニバース・特許・虫さされ    14 魔法使いサリー・祇園祭・円形脱毛症    15 サザエさん・ジャンケン・バーゲンセール    16 ト音記号・北方領土・干瓢    17 妊婦体操・蚊帳・ビヤガーデン    18 身代わり・車だん吉・プラネタリウム    19 床づれ・追っかけ・男の涙    20 海月・肩パット・鶏冠    21 放送禁止用語・お年寄り・ピンポンパン    22 おかま・芋掘り・大人げない    23 復活・憧れ・食い逃げ    24 蒲鉾・風は旅人・半尻    25 泉ピン子・ヘルメット・クリーニング    26 美人姉妹・河童・合格    27 スカート捲り・ケツカッチン・秋の虫    28 チンパンジー・フォークダンス・いなりずし    29 稲刈り・小麦粉・フランス人    30 日本シリーズ・鶴瓶・落葉    31 クロスカウンター・学園祭・タクシー    32 付け睫毛・褌ペアー誕生・ツアーコンダクター    33 泣きみそ・ボーナス一括払い・ぎゅうぎゅう詰め    34 静電気・孝行娘・ホノルルマラソン    35 暴れん坊将軍・モスラ・久留米餅 1993年    36 栗きんとん・鶴・朝丸    37 成人式・ヤクルトミルミル・まんまんちゃんあん    38 夫婦善哉・歯磨き粉・夜更かし    39 金の鯱・オーディション・チャリティーオークション    40 ひ孫・いかりや長介・掃除機    41 北京原人・お味噌汁・雪祭り    42 視力検査・フレアースカート・美術館めぐり    43 矢鴨・植���・うまいもんはうまい    44 卒業式・美人・転た寝    45 らくごのご・浅蜊の酒蒸し・ハットリ君    46 コレラ・さぶいぼ・お花見    47 パンツ泥棒・オキシドール・上岡龍太郎    48 番台・ボランティア・健忘症    49 長嶋監督・割引債・厄年    50 指パッチン・葉桜・ポールマッカートニー    51 同級生・竹輪・ホモ    52 破れた靴下・海上コンテナ・日本庭園    53 シ��バーシート・十二単衣・筍    54 ぶんぷく茶釜・結納・横山ノック    55 睡眠不足・紫陽花・厄介者    56 平成教育委員会・有給休暇・馬耳東風    57 生欠伸・枕・短気は損気    58 雨蛙・脱税・右肩脱臼    59 鮪・教育実習・嘘つき    60 天の川・女子短期大学・冷やし中華    61 東京特許許可局・落雷・蚊とり線香    62 真夜中の屁・プロポーズ・水戸黄門諸国漫遊    63 五条坂陶器祭・空中庭園・雷    64 目玉親父・恐竜・熱帯夜    65 深夜徘徊・パンツ・宮参り    66 美少女戦士セーラームーン・盆踊り・素麺つゆ    67 水浴び・丸坊主・早口言葉    68 桃栗三年柿八年・中耳炎・網タイツ    69 釣瓶落とし・サゲ・一卵性双生児    70 台風の目・幸・ラグビー    71 年下の男の子・宝くじ・松茸狩り    72 関西弁・肉まんあんまん・盗塁王    73 新婚初夜・サボテン・高みの見物    74 パナコランで肩こらん・秋鯖・知恵    75 禁煙・お茶どすがな・銀幕    76 ラクロス・姥捨山・就職浪人    77 掛軸・瀬戸大橋・二回目    78 海外留学・逆児・マスターズトーナメント    79 バットマン・戴帽式・フライングスポーツシューター    80 法螺貝・コロッケ・ウルグアイラウンド    81 明治大正昭和平成・武士道・チゲ鍋 1994年    82 アイルトンセナ・正月特番・蟹鋤    83 豚キムチ・過疎対策・安物買いの銭失い    84 合格祈願・パーソナルコンピューター・年女    85 一途・血便・太鼓橋    86 告白・ラーメン定食・鬼は外、福は内    87 カラー軍手・放火・卸売市場    88 パピヨン・所得税減税・幕間    89 二十四・Jリーグ・大雪    90 動物苛め・下市温泉秋津荘・ボンタンアメ    91 雪見酒・アメダス・六十歳    92 座蒲団・蛸焼・引越し    93 米寿の祝・外人さん・コチョコチョ    94 談合・太極拳・花便り    95 猫の盛り・二日酔・タイ米    96 赤切符・キューピー・入社式    97 リストラ・龍神伝説・空巣    98 人間喞筒・版画・単身���任    99 コッペン・定年退職・ハンドボール    100 百回記念・扇子・唐辛子    101 ビクターの手拭い・カーネーション・鉄腕アトム    102 自転車泥棒・見猿言わ猿聞か猿・トマト    103 紫陽花寺・豚骨スープ・阪神優勝    104 三角定規・黒帯・泥棒根性    105 横浜銀蝿・他人のふり・安産祈願    106 月下美人・フィラデルフィア・大山椒魚    107 鯨・親知らず・ピンクの蝿叩き    108 蛍狩・玉子丼・ウィンブルドン    109 西部劇・トップレス・レバー    110 流し素麺・目高の交尾・向日葵    111 河童の皿・コロンビア・内定通知    112 防災頭巾・電気按摩・双子    113 河内音頭・跡取り息子・蛸焼パーティ    114 骨髄バンク・銀杏並木・芋名月    115 秋桜・ぁ結婚式・電動の車椅子    116 運動会・松茸御飯・石焼芋    117 サンデーズサンのカキフライ・休日出勤・ウーパールーパー    118 浮石・カクテル・彼氏募集中    119 涙の解剖実習・就職難・釣瓶落し    120 ノーベル賞・めちゃ旨・台風1号    121 大草原・食い込みパンツ・歯科技工士    122 助けてドラえもん・米沢牛・寿貧乏    123 祭・借金・パンチ佐藤引退    124 山乃芋・泥鰌掬い・吊し柿    125 不合格通知・九州場所・ピラミッドパワー    126 紅葉渋滞・再チャレンジ・日本の伝統    127 臨時収入・邪魔者・大掃除    128 アラファト議長・正月映画封切り・ピンクのモーツァルト 1995年    129 御節・達磨ストーブ・再就職    130 晴着・新春シャンソンショー・瞼の母    131 家政婦・卒業論文・酔っ払い    132 姦し娘・如月・使い捨て懐炉    133 立春・インドネシア・大正琴全国大会    134 卒業旅行・招待状・引っ手繰り    135 モンブラン・和製英語・和風吸血鬼    136 確定申告・侘助・青春時代    137 点字ブロック・新入社員・玉筋魚の新子    138 祭と女で三十年・櫻咲く・御神酒徳利    139 茶髪・緊張と緩和・来なかったお父さん    140 痔・恋女房・月の法善寺横丁    141 ひばり館・阿亀鸚哥・染み    142 初めてのチュー・豆御飯・鶴瓶の女たらし    143 アデラン���・いてまえだへん(いてまえ打線)・クラス替え    144 長男の嫁・足痺れ・銅鑼焼    145 新知事・つるや食堂・南無阿弥陀仏    146 もぐりん・五月病・石楠花の花    147 音痴・赤いちゃんちゃんこ・野崎詣り    148 酒は百薬の長・お地蔵さん・可愛いベイビー    149 山菜取り・絶好調・ポラロイドカメラ    150 お父さんありがとう・舟歌・一日一善    151 出発進行・夢をかたちに・ピンセット    152 ホタテマン・深夜放送・FMラジオ    153 アトピッ子・結婚披露宴の二次会・おさげ    154 初産・紫陽花の花・川藤出さんかい    155 ビーチバレー・轆轤首・上方芸能    156 ワイキキデート・鹿煎餅・一家団欒    157 但空・高所恐怖症・合唱コンクール    158 中村監督・水着の跡・進め落語少年    159 通信教育・遠距離恋愛・ダイエット    160 華麗なる変身・遠赤ブレスレット・夏の火遊び    161 親子二代・垢擦り・筏下り    162 鮪漁船・新築祝・入れ歯    163 泣き虫、笑い虫・甚兵衛鮫・新妻参上    164 オペラ座の怪人・トルネード・ハイオクガソリン    165 小手面胴・裏のお婆ちゃん・ガングリオン    166 栗拾い・天国と地獄・芋雑炊    167 夜汽車・鳩饅頭・スシ食いねぇ!    168 長便所・大ファン・腓返り    169 美人勢揃い・雨戸・大江健三郎    170 親守・巻き舌・結婚おめでとう    171 乳首・ポン酢・ファッションショー    172 仮装パーティー・ぎっくり腰・夜更し    173 ギブス・当選発表・ちゃった祭    174 超氷河期・平等院・猪鹿蝶    175 コーラス・靴泥棒・胃拡張    176 誕生日・闘病生活・心機一転    177 毒蜘蛛・国際結婚・世間体 1996年    178 シナ婆ちゃん・有給休暇・免停    179 三姉妹・バリ・総辞職    180 家庭菜園・ピンクレディーメドレー・国家試験    181 ほっけ・欠陥商品・黒タイツ    182 内股・シャッターチャンス・金剛登山    183 嘘つき娘・再出発・神学部    184 金柑・恋の奴隷・ミッキーマウス    185 露天風呂・部員募集・ぞろ目    186 でんでん太鼓・ちゃんこ鍋・脳腫瘍    187 夢心地・旅の母・ペアウオッチ    188 (不明につき空欄)    189 福寿草・和気藹々・社交ダンス    190 奢り・貧乏・男便所    191 八十四歳・奥さんパワー・初心忘るべからず    192 お花見・無駄毛・プラチナ    193 粒揃い・高野山・十分の一    194 おぃ鬼太郎・シュークリーム・小室哲哉    195 くさい足・オリーブ・いやいや    196 ダイエットテープ・北京故宮展・細雪    197 若い季節・自動両替機・糞ころがし    198 おやじのパソコン・なみはや国体・紙婚式    199 降灰袋・ハンブルグ・乳首マッサージ    200 雪見酒・臭い足・貧乏・タイ米・コチョコチョ・雷・明治大正昭和平成・上岡龍太郎・お茶どすがな・トップレス(総集編、10題リレー落語)    201 夫婦喧嘩・川下り・取越し苦労    202 横綱・占い研究部・日本のへそ    203 マオカラー・海の日・息継ぎ    204 カモメール・モアイ・子供の事情    205 ありがとさん・文武両道・梅雨明け    206 団扇・ボーナス定期・芸の道    207 宅配・入道雲・草叢    208 回転木馬・大文字・献血    209 寝茣蓙・メロンパン・初孫    210 方向音痴・家鴨・非売品    211 年金生活・女子高生・ロングブーツ    212 エキストラ・デカンショ祭・トイレトレーニング    213 行けず後家・オーロラ・瓜二つ    214 金婚式・月光仮面・ロックンローラー    215 孫・有頂天・狸    216 雪女・携帯電話・交代制勤務    217 赤いバスローブ・スイミング・おでこ    218 参勤交代・ケーブルカー・七人兄弟    219 秋雨前線・腹八分・シルバーシート    220 関東煮・年賀葉書・学童保育    221 バンコク・七五三・鼻血    222 ホルモン焼き・男襦袢・学園祭
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%81%96%E3%81%93%E3%81%B0%E3%83%BB%E9%B6%B4%E7%93%B6%E3%82%89%E3%81%8F%E3%81%94%E3%81%AE%E3%81%94
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cotochira · 3 years ago
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3/3
 連日寝不足なので爆睡できた夜行バスで横浜駅に到着するとまだ六時も回っていなかった。とりあえずコインロッカーに大きい方の鞄を預けた、集合時間の十時までできれば喫茶店で時間を潰したいが、どこも開いていないのでしばらくは外をウロウロしていないといけないのだ。せっかくだから海の方へいこう、とみなとみらいとか赤レンガ倉庫とかそういう景色を想像して横浜駅の東口から歩き始めたのだが、Google Mapも見ずになんとなくで道を決めたのでどうやら方向を間違えたらしく、でっけえ工場が立ち並ぶ散歩道にはつまんなすぎる空間に迷い込んでしまい、コスモワールドの観覧車を見つけたころにはとっくのとうにスタバとか開いていた。
 それで三人と合流したときにはもう二時間くらいは普通に歩いていたのだが、結局ここからさらに三倍は歩く日になった。みんないちおうはじめて顔を合わせる相手ではあるんだけど何回も通話し��いたし三人が一緒に遊んだ話とかも聞いていたので主観的には普通に馴染んだ。JR小田急線に乗って藤沢まで向かう。戸塚くらいまで来ると建物の配置もまばらになり、だんだん大きなマンションやオフィスなどのビルが減りきれいな一軒家が増えていく感じ。横の鯖さんとしゃべっていたがずっと景色を見ていて声だけ聞こえてきたのでほぼ通話だ。早く寝るのに睡眠剤を飲んだらめちゃくちゃ悪夢を見たらしい。みんないつも夜更かしなのに早くから来てくれてありがたいことだと思った。
 藤沢駅自体には見向きもせず江ノ電に乗る。藤沢-江ノ島間はあんまり町の真ん中を走らないしわりあいすぐなので江ノ電らしい楽しみは少なめだが、それでも江ノ電に乗っているなあということだけでじゅうぶんに嬉しい気持ちになった。くる途中に「プレーンソング」読んできたんですよねえと庶民さんが言う。そういえばこうして、まあ各々離れてではあるが家でだらだら喋ってきた人たちと急に足を伸ばして海辺まで行くって、結構プレーンソングの最後のほうっぽいなあと言ったらそこまで読んでないかったらしい。保坂和志のネタバレについて、どれくらい本気で謝ればいいか不明だ。
 江ノ島駅に着いたら改札のところに「ご卒業おめでとうございます」と横断幕がかかっている。そういえば横浜駅で袴姿の女性とすれ違ったな。昼食をどうしようか相談しながら海へ向かう。さっきから家が近いsatooさんがだいたい案内してくれている。背の低い建物が思い思いに「西海岸っぽさ」「ハワイっぽさ」「鎌倉=京都っぽさ」などを主張する通りを抜け、海に出ると思わず声が漏れた。
 海はいい! 水辺っていいからな。なかでも海は一番でかいから一番いい。砂浜は見えないが島へと架かる橋の端っこには砂が溜まっていたりして、マスクで鼻の効かないなかでも潮の気配が感じられる。あっ��とsatooさんだか庶民さんが声を上げた、──海掘ってる! 見ると海の中に浮かぶ小さな浮島みたいなところに陣取ったショベルカーが、海にショベルを突っ込んで動かしていた。あれ独断でやってたらすごいですね。ウケると思ってやったら引かれちゃったんだろうな。そうなったらもう降りられない人っていますからね。
 江ノ島に来ることになったのは、僕が江ノ電に乗りたいと言っていたら庶民さんが江ノ島に行ったことがないらしいのでそうなった。ほか二人はそこまで積極的ではなかった、僕も前に一度来たことがあったが、そのときは島に入ってからいろんな土産屋を抜けて神社まで来たあたりでその導線のわざとらしい感じにさめて途中で帰っちゃったりしたのだ。それでもわざわざ約束まで取り付けて来たのだから僕も案外江ノ島に何かしらを期待しているのかも知れない。名前といいロケーションといい、大したことないと半ばわかっていつつも、もし少しでもよかったらすごくいいだろうなあと思わずにはいられなくて来てしまうのだろうと思う。
 そういうネガティヴなイメージを共有していたおかげか、上陸してみると立ち並ぶ店々の商売っけマンマンな感じに対してそれほど辟易するでもなかった。上機嫌でひとつ道を逸れて岩場に抜ける。岩に囲まれてるせいか波は穏やかで、まだ海という感じも薄い。
 良いパック寿司の醤油皿みたいなのが落ちていた。
 メインストリートへ戻ってくると雰囲気に飲まれてイカ串と一緒にたっけえビールを買った。無敵状態だ! 両手をそれでふさいでガンガン階段を上っていった。しかし最初の展望台みたいなスポットまで来て気づくのだが本当に全く酒が効いていない。年下でまだお酒に慣れていないsatooさん庶民さんもチューハイを買っていたのだがやっぱり普通にしていて、有料で入れる庭の手前の広場まで来たときにはみんな完全にニュートラルなテンションで椅子に納まり、クレミアを食べている鯖さんを見ていた。広場では大道芸人が爆音で音楽を流しながら、僕たちが来たときにはまだ準備体操をしていて、あのまま夜まで準備体操し続けていたらすごい、と言ったのが誰だったか分からない。
 ニュートラルなテンションで黙々と階段を上るのはしんどい。なんなら通常より下がりそうになっていたところで海の見えるスポットにさしかかる。ごつごつした岩場へ降りていくと足もとにすぐ波が来ていて、見上げると白い岩の崖があり、やっと背景でない目の前の出来事として海を感じることができた。白波が足下まで打ち上げてくる。金沢ではじめて海に行ったとき、この水平線の向こうに韓国や中国やロシアがあってそこでも、また違った様式の、でも同じようなふだんの生活が営まれているんだという、月並みの感慨が鮮やかに戻ってきたことを感じた。太平洋側だとそうはいかない。どっちにしろ向こう岸なんか見えないのだが、おそらく日本海側からユーラシア大陸までの二倍ではきかない距離を思うと、その果てしない広さがひたすら水で満たされているのだという果てしなさが迫ってきて、ゼリーのようにひとかたまりの海が目の前にあった。
 東映だ〜、といってはしゃいだ。
 蒸しパンのやつも落ちていた。
 蟹もいた。
 岩場から上がっていくと導線の先には洞窟があるらしい。しかも金取るらしい。でも今更引き返すのもあれなので頓着のスイッチを切ってチケット代を払い、ズンドコ進んでいく。天井が低くて怖いなか進んでいくと、最奥は紫色のライトで照らされている。近づいてみると、作り物の竜が待ちかまえていた。一同、うわ〜、やりすぎやりすぎ、いらね〜、とはしゃいだ。
 洞窟から出ると、さっき崖の下の水面に浮かんでいた果物がまだあった。楕円形でだいだい色と黄色がグラデーションになっていたので、ぼくはマンゴー説を推した。satooさんは柑橘系説を譲らなかった。釣りするときの浮きなんじゃないか、みたいなことをぼくが言ったが、夢がないので忘れた。
 どうやらここまで下ってきた階段を登って大道芸人のいた広場まで戻らなければならないらしい。マジか。いやすれ違うひとが割といたから薄々分かってはいたけど。とくに鯖さんは心配になるくらいイヤになっていて、おかげでほかの三人は比較的元気を保てていた感じがあった。とにかく広場までひいひい言いながら戻ってきて、商店の立ち並ぶ坂を通り過ぎ、橋の手前で十分くらいは座っていた。すごく大きな犬、たぶんセントバーナード? が通ってちょっと湧いた。来るときにいた大きな犬(トイでないプードルなど)の話をして、それもとぎれるとみんな疲れに任せて意識をTwitterへ沈めていった。  ひとしきりじっとしてから、よしっ!と庶民さんが柏手を鳴らした。行きましょう。いい区切りつけてくれましたね、とsatooさんが感謝して、立ち上がった。
 とにかくみんなおなかが空いてきたので、鎌倉まで行って何か食べましょうという話になる。庶民さんが、江ノ島って、と総括らしき感想を口にした。来てる人みんなちょっとずつ垢抜けてない感じがいいですよね、──垢抜けてないだったか間が抜けてるだったかなんて言ったかよく覚えていない。ドッチラケなこと言うなあ! とぼくやsatooさんが大きめに驚いてみせると、いやほめてるんですよ、いいとこだと思います、などと言った。なんかでもわかったかも。さっき書いた淡い期待が、なんとなく来る人みんなをぽやっとさせてしまうのかもしれない。
 駅へ戻ってホームへ入る。鯖さんが自販機で買った飲み物をすごい無感情に飲みきった。なんかむしゃくしゃしてお金が使いたかったから買っただけだったらしい。そんあことある?
 江ノ電の続きに乗る。ここからは鎌倉高校前とか、「季節の記憶」の舞台の稲村ヶ崎あたりとか(鯖さんがわりと最近「季節の記憶」を読んでいたので、案外ホットな話題だった)、見所のある箇所だ。江ノ島駅を出てすぐは特に、お寺とかも見える古い町並みの中を通っていくのでおもしろい。二時くらいを回り、比較的早く帰る制服姿なんかもいてそれなりに混んでいる。真ん中あたりの、別荘みたいな綺麗な家が立ち並んでいる感じが好きだ。生活感がない静けさが、降りて歩いていても簡単に親しめず、ひどく遠くに来た感じが強くする。
 鎌倉駅で下車。駅前でマクドナルドを見つけてしまい、マックでいいじゃん! と固まりかけるが、satooさんに導かれて一応小町通りをみて行く。しかしどれもこれも観光客価格で鼻につくし、ぼく以外はみんなちゃんと昼食代に頓着しているのでちょうど良いところがない。結局引き返してマックを食べた。しばらく足を休めている間に、satooさんが古本屋に行くことを提案し、鯖さんが場所を調べてくれる。
 アトリエを改装したらしい古本屋は可愛らしく古びた一軒家で、小さいながらもおもしろそうな本が並んでいた。庶民さんが前から気になっていたという吉田健一の「舌鼓ところどころ」を見つけた。ぼくはヴァージニアウルフの自伝的な文章を集めた絶版本を三千円で買った。わりと勇気が要ったが、たぶん復刊されるにしても今年や来年の話じゃないだろうし、かなり良い買い物になったと思う。
 店を出てからコンビニへ行った。アイスが食べたいと言っていた庶民さんと半分こする約束でチョコモナカジャンボを買って出た。そこで待っていたsatooさんはジュースを買っていたのだが、鯖さんが棒アイスを手に戻ってきたのを見るや、みんなアイス買うなら言ってくださいよ! と自らの買い物を悔やんでいた。
 ぼくの荷物を回収しに、いったん横浜駅へ戻る。みんな疲れてぼんやりしていた。橙色の斜陽が雲の形を立体的に照らしていて、鯖さんがそれを庶民さんに教えてあげていた。こんなに広い空みたの久々かもしれません、と庶民さんがつぶやく。東京に来て以来、時節柄外もたいして出ないのでそういうことになるらしい。
 ついでに駅の近くのブックオフへ寄る。庶民さんがどうやら良い買い物らしい漫画を含めたかなりの大荷物をもって出てきたのも驚いたが、satooさんが解説目当てに何冊目か分からん「風立ちぬ」を買っていたのに驚いた。そんなに好きだったのか。フォローしてからも日が浅いから当たり前だけど、知らないもんだな。ぼくは、俺が買わなかったら誰も買わんだろといういいわけと共にフェルナンド・ペソアを買った。
 帰りの電車は果てしなく混んでいた。これが本当に正しいことなの〜〜!? 「よつばと」で東京の満員電車に乗ったときのよつばの台詞を口にすると、「よつばと」の話になったりした。
 今日は庶民さんちに泊まる予定だ。庶民さんたちの会話以外で聞かない駅名で下車し、お酒や食べ物などを買って庶民さんちへ向かった。本棚とベ��ド、机で八割埋まったワンルームにみんなして詰まって、鯖さん以外はお酒を飲み始めた。satooさんがすごい勢いで酔っぱらい、庶民さんもそれに続いた。ぼくは許可を得て換気扇をつけたキッチンでタバコを吸いながら、たぶん弱いとかじゃなくて酔っぱらってる状態に慣れてないだけだよ、と説明した。調理場は玄関上がってすぐのところにあったから、立って喫煙しているぼくが奥で座って飲み食べしている三人をみる形だ。なんか年上っぽい年上をやっているなあという自覚があった。三人とも僕より色々みて読んでいるしそう軽率なことを無自覚に言ったりしたりもしないので普段は年齢の上下を強く意識しないが、飲酒のこととなるとさすがにこうもなるか。酒飲むとイキりみたいになるのが嫌なんですよね、と庶民さんが言った。色んな味のものがあるから楽しみたいだけなのに。たしかに、ぼくも数年前なんとなく思ってたけど言葉にしてなかったことだ。
 庶民さんが吸ってみたいというので途中のたばこをあげたが、二回とも咳き込んで水を飲む羽目になっていた。こんなもんなんで平気になったのか、まだ常喫するようになってから一ヶ月くらいのはずなのにもうわからない。
 ぼくもべつに強くはないので何杯か飲んでそれなりにぼやっとしてきたころから、音楽を聞くターンになる。satooさんが教えてくれたタルトタタンというバンドが良かった。めちゃくちゃ同じフレーズを繰り返すボーカルが曖昧な意識にうまいことハマった感じがあった。庶民さんはゆらゆら帝国の「昆虫ロック」を自分の曲だと感じるらしい。おれの曲はなんだろ。飲んでないのもあって(べつに飲んでも良いだろと思ったのだが、ほかの二人がなんか執拗に止めるのでずっとコーラとか飲んでいた)鯖さんは常にやや蚊帳の外で、ヤケクソなんだか正常な判断なんだかしらないが、どっちにしてもすごいが、途中から性的なMMDの動画を流したりしていた。踊るキャラクターの局部を隠すモザイクがどんどん小さくなっていくのを見た。すごい文化だ。
 たいして飲みもしなかったが場酔いもあってなんやかんやわやくちゃになり、かなり良くない話や良くない言動をしたあといつの間にか寝ていた。起きると飲んでいた二人ももう起きていて、飲んでいなかった鯖さんは始発で帰ったらしかった。たらたら支度していたら庶民さんが友達と会う約束の時間になっていて、ちょっとあわただしく出発した。駅でsatooさんと別れると、ぼくは京都で見逃した映画を見に、下北沢に向かう電車に乗り込んだ。
 案外道中が長い。東京って狭いからどこからどこへも三十分圏内だと思ってた。江ノ島を出て橋を渡っている途中、鯖さんが言っていたことを思い出したりする。この辺に住んでる人って、みんなここが好きだからわざわざ住んでるんですよね、と言った。たしかに湘���くらいになるとそうだろう。こういう言い方をしてみると別に取り立てて好きでもない場所にあれこれの事情で住んでいることが妙なことにも思われる。僕は京都に好きで住んでいる、それを環境が許してくれている。ありがたいことだ、と思った。
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skf14 · 5 years ago
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12150006
軽快なメロディが音割れしていることにきっと全員気付いているはずなのに、誰も指摘しないまま、彼は毎日狂ったようにそれを吐き出し続けている。
時刻���朝の8時過ぎ。何に強制されたでもなく、大人しく2列に並ぶ現代の奴隷たち。いや、奴隷ども。資本主義に脳髄の奥まで犯されて、やりがいという名のザーメンで素晴らしき労働という子を孕まされた、意志を持たない哀れな生き物。何も食べていないのに胃が痛い。吐きそうだ、と、50円のミネラルウォーターを一口含んで、押し付けがましい潤いを乾く喉に押し込んだ。
10両目、4番目の扉の右側。
俺がいつも7:30に起きて、そこから10分、8チャンネルのニュースを見て、10分でシャワー、10分で歯磨きとドライヤー、8:04に自宅を出て、8:16に駅に到着。8:20発の無機質な箱に乗る、その最終的な立ち位置。扉の右側の一番前。黄色い線の内側でいい子でお待ちする俺は、今日もぼうっと、メトロが顔を覗かせるホームの端の暗闇を見つめていた。
昨日は名古屋で人が飛び込んだらしい。俺はそのニュースを、職場で開いたYahoo!のトップページで見かけた。群がる野次馬が身近で起きた遠い悲劇に涎を垂らして、リアルタイムで状況を伝える。
『リーマンが飛び込んだ』
『ブルーシートで見えないけど叫び声聞こえた』
『やばい目の前で飛び込んだ、血見えた』
『ハイ1限遅れた最悪なんだけど』
なんと楽しそうなこと。まるで世紀の事件に立ち会った勇敢なジャーナリスト気取り。実際は目の前で人が死ぬっていう非現実に興奮してる変態性欲の持ち主の癖に。全員死ね。お前らが死ね。そう思いながら俺は、肉片になった男のことを思っていた。
電車に飛び込んで仕舞えば、生存の可能性は著しく低くなる。それが通過列車や、新幹線なら運が"悪く"ない限り、確実に死ぬ。悲惨な形を伴って。肉片がおよそ2〜5キロ圏内にまで吹き飛ぶこともあるらしい。当然、運転手には多大なトラウマを植え付け、鉄道職員は線路内の肉片を掻き集め、乗客は己の目の前で、もしくは己の足の下で、人の肉がミンチになる様を体感する。誰も幸せにならない自殺、とは皮肉めいていてよく表現された言葉だとつくづく思う。当人は、幸せなのだろうか。
あの轟音に、身体を傾け頭から突っ込む時、彼らは何を思うのだろう。走馬灯とやらが頭を駆け巡るのか、やはり動物の本能として恐怖が湧き上がるのか、それとも、解放される幸せでいっぱいなのか。幸福感を呼び起こす快楽物質が脳に溢れる様を夢想して、俺は絶頂にも近い快感を奥歯を噛み締めて堪えた。率直に浮かんだ「羨ましい」はきっと、俺が人として生きていたい限り絶対漏らしてはいけない、しかし限りなく本音に近い、5歳児のような素直な気持ち。
時刻は8:19。スマホの中でバカがネットニュースにしたり顔でコメントを飛ばして、それに応戦する暇な人間たち。わーわーわーわーうるせえな、くだらねえことでテメェの自尊心育ててないで働けゴミが。
時刻は8:20。腑抜けたチャイムの音。気怠そうな駅員のアナウンス。誰に罰されるわけでもないのに、俺の足はいつも黄色い線の内側に収まったまま、暗がりから顔を覗かせる鉄の箱を待ち侘びている。
俺は俯いて、視界に入った己のつま先にグッと力を込めた。無意識にするこの行為は、死への恐怖か。馬鹿らしい。いつだって、この箱の前に飛び込むことが何よりも幸せに近いと知っているはずなのに。
気が付けば山積みの仕事から逃げるように、帰りの電車に乗っていた。時刻は0:34。車内のアナウンス。この時間でこの場所、ということは終電だろう。二つ離れた椅子に座ったサラリーマンがだらりと頭を下げ、ビニール袋に向けて嘔吐している。饐えた臭いが漂ってきて貰いそうになるが、もう動く気力もない。死ね。クソ野郎が。そう心の中でぼやきながら、俺はただ音楽の音量を上げて外界を遮断する。耳が割れそうなその電子音は、一周回って心地いい。
周りから俺へ向けられる目は冷たく、会社に俺の居場所はない。同期、後輩はどんどん活躍し、華々しい功績を挙げて出世していく。無能な俺はただただ単純で煩雑な事務作業をし続けて、それすらも上手く回せない。ああ、今日はただエクセルの表作りと、資料整理、倉庫の整理に、古いシュレッダーに詰まった紙の掃除。それで金を貰う俺は、社会の寄生虫か?ただ生きるために何かにへばりついて必要な栄養素を啜る、なんて笑える。人が減った。顔を上げると降りる駅に着いていた。慌てて降りる俺を、乗ろうとしていた騒がしい酔っ払いの集団が睨んで、邪魔そうに避けた。何だその顔は。飲み歩いて遊んでた人間が、働いてた俺より偉いって言うのか。クソ。死ね。死んでくれ。社会が良くなるために、酸素の消費をやめてくれ。
コンビニで買うメニューすら、冒険するのをやめたのはいつからだろう。チンすれば食べられる簡単な温かい食事。あぁ、俺は今日も無意識に、これを買った。無意識に、生きることをやめられない。人のサガか、動物としての本能か、しかし本能をコントロールしてこその高等生物である人間が、本能のままに生きている時点で、矛盾しているのではないか。何故人は生きる?生きるとは?NHKは延々とどこか異国の映像を流し続けている。国民へ向けて現実逃避を推奨する国営放送、と思うと笑えてきて、俺は箸を止め、腹を抱えてしこたま笑った。あー、死のう。
そういえば、昔、俺がまだクソガキだった頃、「完全自殺マニュアル」なる代物の存在を知った。当然、本を変える金なんて持ってなかった俺は親の目を盗んで、図書館でそれを取り寄せ借りた。司書の本を渡す際の訝しむ顔がどうにも愉快で、俺は本を抱えてスキップしながら帰ったことを覚えている。
首吊り、失血死、服毒死、凍死、焼死、餓死...発売当時センセーショナルを巻き起こしたその自称「問題作」は、死にたいと思う人間に、いつでも死ねるからとりあえず保険として持っとけ、と言いたいがために書かれたような、そんな本だった。淡々と書かれた致死量、死ぬまでの時間、死に様、遺体の変化。俺は狂ったようにそれを読み、そして、己が死ぬ姿を夢想した。
農薬は消化器官が爛れ、即死することも出来ない為酷く苦しんで死ぬ地獄のような死に方。硫化水素で死んだ死体は緑に染まる。首吊りは体内に残った排泄物が全て流れ出て、舌や目玉が飛び出る。失血死には根気が必要で、手首をちょっと切ったくらいでは死ねない。市販の薬では致死量が多く未遂に終わることが多いが、バルビツール酸系睡眠薬など、医師から処方されるものであれば死に至ることも可能。など。
当然、俺が手に取った時には情報がかなり古くなっていて、バルビツール酸系の薬は大抵が発売禁止になっていたし、農薬で死ぬ人間など殆どいなくなっていたが、その情報は幼かった俺に、「死」を意識させるには十分な教材だった。道徳の授業よりも宗教の思想よりも、何よりも。
親戚が死んだ姿を見た時も、祖父がボケた姿を見た時も、同じ人間とは思えなかった俺はきっとどこか欠けてるんだろう。親戚の焼けた骨に、棺桶に入れていたメロンの緑色が張り付いていて、美味しそうだ。と思ったことを不意に思い出して、吹き出しそうになった。俺はいつからイカれてたんだ。
ずっと、後悔していたことがあった。
小学生の頃、精神を病んだ母親が山のように積まれた薬を並べながら、時折楽しそうに父親と電話をしていた。
その父親は、俺が物心ついた、4、5歳の頃に外に女を作って出て行った、DVアル中野郎だった。酒を飲んでは事あるごとに家にあるものを投げ、壊し、料理の入った皿を叩き割り、俺の玩具で母親の顔を殴打した。暗い部屋の中、料理が床に散乱する匂いと、やめてと懇願する母親の細い声と、人が人を殴る骨の鈍い音が、今も脳裏によぎることがある。あぁ、懐かしいな。プレゼントをやる、なんて言われて、酔っ払って帰ってきた父親に、使用済みのコンドームを投げられたこともあったっけ。「お前の弟か妹になり損ねた奴らだよ。」って笑ってたの、今思い返してもいいセンスだと思う。顔に張り付いた青臭いソレの感触、今でも覚えてる。
電話中は決まって俺は外に出され、狭いベランダから、母親の、俺には決して見せない嬉しそうな顔を見てた。母親から女になる母親を見ながら、カーテンのない剥き出しの部屋の明かりに集まる無数の羽虫が口に入らないように手で口を覆って、手足にまとわりつくそれらを地面のコンクリートになすりつけていた。あぁ、そうだ、違う、夏場だけカーテンをわざと開けてたんだ。集まった虫が翌朝死んでベランダを埋め尽くすところが好きで、それを俺に掃除させるのが好きな母親だった。記憶の改変は恐ろしい。
ある日、俺は電話の終わった母親に呼ばれた。隣へ座った俺に正座の母親はニコニコと嬉しそうに笑って、「お父さんが、帰ってきていいって言ってるの。三人で、幸せな家庭を作りましょう!貴方がいいって言ってくれるなら、お父さんのところに帰りましょう。」と言った。そう。言った。
俺は、父親が消えてからバランスが崩れて壊れかけた母親の、少女のように無垢なその笑顔が忘れられない。
「幸せな家庭」、家族、テレビで見るような、ドラマの中にあるような、犬を飼い、春には重箱のお弁当を持って花見に行き、夏には中庭に出したビニールプールで水遊びをし、夜には公園で花火をし、秋にはリンゴ狩り、栗拾い、焼き芋をして、落ち葉のベッドにダイブし、冬には雪の中を走り回って遊ぶ、俺はそんな無邪気な子供に焦がれていた。
脳内を数多の理想像が駆け巡って、俺は、母の手を掴み、「帰ろう。帰りたい。パパと一緒に暮らしたい。」そう言って、泣く母の萎びた頬と、唇にキスをした。
とち狂っていたとしか思えない。そもそも帰る、と言う表現が間違っている。思い描く理想だって、叶えられるはずがない。でもその時の馬鹿で愚鈍でイカれた俺は、母の見る視線の先に桃源郷があると信じて疑わなかったし、母と父に愛され、憧れていた家族ごっこが出来ることばかり考えて幸せに満ちていた。愚かで、どうしようもなく、可哀想な生き物だった。そして、二人きりで生きてきた数年間を糧に、母親が、俺を一番に愛し続けると信じていた。
母は、俺が最初で最後に信じた、人間だった。
父親の家は荒れ果てていた。酒に酔った父親が出迎え、母の髪を掴んで家の中に引き摺り込んだ瞬間、俺がただ都合の良い夢を見ていただけだと言うことに漸く、気が付いた。何もかも、遅過ぎた。
仕事も何もかも捨てほぼ無一文で父親の元へ戻った母親が顔を腫らしたまま引越し荷物の荷解きをする姿を見ながら、俺は積み上げた積み木が崩れるように、砂浜の城が波に攫われるように、壊れていく己の何かを感じていた。母は嬉しそうに、腫れた顔の写真を毎度俺に撮らせた。まるでそれが、今まで親にも、俺にも、誰にも与えられなかった唯一無二の愛だと言わんばかりに、母は携帯のレンズを覗き、画面越しに俺に蕩けた目線を送った。
人間は、学習する生き物である。それは人間だけでなく、猿や犬、猫であっても、多少の事は学習できるが、その伸び代に関しては人間が群を抜いている。母親は次第に父親に媚び、家政婦以下の存在に成り下がることによって己の居場所を守った。社会の全てにヘイトを募らせた父親も、そんな便利な道具の機嫌を損ねないよう、いや、違うな、目を覚まさせないように、最低限人間扱いをするようになった。
まあ当然の末路と言えるだろうな。共同戦線を���んだ彼らの矛先は俺に向いた。俺は保てていた人間としての地位を失い、犬に、家畜に成り下がった。名前を呼ばれることは無くなり、代わりについた俺の呼び名は「ゴキブリ」になった。家畜、どころか害虫か。産み落とした以上、世話をするほかないというのが人間の可哀想なところだ。
思い出したくもないのにその記憶を時折呼び起こす俺の出来の悪い脳を何度引き摺り出してやろうかと思ったか分からない。かの夢野久作が書いた「ドグラマグラ」に登場する狂った青年アンポンタン・ポカン氏の如く、脳髄を掴み出し、地面に叩きつけてやりたいと思ったことは数知れない。
父親に奉仕する母は獣のような雄叫びをあげて悦び、俺は夜な夜なその声に起こされた。媚びた、艶やかな、酷く情欲を煽るメスの声。俺は幾度となく吐き、性の全てを嫌悪した。子供じみた理由だと、今なら思う。何度、眠る父親の頭を金属バットで叩き割ろうと思ったか分からない。俺は本を読み漁り、飛び散る脳髄の色と、母の絶望と、断末魔を想像した。そう、この場において、いや、この世界において、俺の味方は誰もいなかった。
いつの間にかテレビ放送は休止されたらしい。画面端の表示は午前2時58分。当然か。騒がしかったテレビの中では、カラーバーがぬるぬると動きながら、耳障りな「ピー」という無慈悲な機械音を垂れ流している。テレビの心停止。は、まるでセンスがねえな死ね俺。
ずっと、後悔していた。誰にも言えず、その後悔すらまともに見ようとはしなかったが、今になって、思う。何度も、あの日の選択を後悔した。
あの日、俺がもし、Yesと言わなかったら。あの日の俺はただ、母親がそう言えば喜ぶと思って、幸せそうな母親の笑顔を壊したくなくて、...いや、違う。あれは、幸せそうな母親の笑顔じゃない、幸せそうな、メスの笑顔だ。それに気付けていたら。
叩かれても蹴られても、死んだフリを何度されても自殺未遂を繰り返されても、見知らぬ土地で置き去りにされても、俺はただ、母親に一番、愛されていたかった。父親がいない空間が永遠に続けばいい、そう今なら思えたのに、あの頃の俺は。
母親は結局、一人で生きていけない女だった。それだけだ。父親が、そして父親の持つ金が欲しかった。それだけだ。なんと醜い、それでいてなんと正しい、人間の姿だろう。俺は毎日、父親を崇めるよう強制された。頭を下げ、全てに礼を言い、「俺の身分ではこんなもの食べられない。貴方のおかげで食事が出来ている」と言ってから、部屋で一人飯を食った。誕生日、クリスマス、事あるごとに媚びさせられ、欲しくもないプレゼントを分け与えられた。そうしなきゃ殴られ蹴られ、罵倒される。穏便に全てを済ませるために、俺は心を捨てた。可哀想な生き物が、自己顕示欲を満たしたくて喚いている。そう思い続けた。
勉強も運動も何も出来なかった。努力する、と言う才能が元から���けていた、可愛げのない子供だったと自負している俺が、ヒステリーを起こした母親に、「何か一つでもアンタが頑張ったことはないの!?」と激昂されて、震える声で「逆上がり、」と答えたことがあった。何度やっても出来なくて、悔しくて、冬の冷たい鉄棒を握って、豆が出来ても必死に一人で頑張った。結局、1、2回練習で成功しただけで、体育のテストでは出来ずに、クラスメイトに笑われた。体育の成績は1だった。母親は鼻で笑って、「そんなの頑張ったうちに入らないわ。だからアンタは何やっても無理、ダメなのよ。」とビールを煽って、俺の背後で賑やかな音を立てるテレビを見てケタケタと笑った。それ以降、目線が合うことはなかった。
気分が悪い。なぜ今日はこんなにも、過去を回顧しているんだろう。回り出した脳が止められない。不愉快だ。酷く。それでも今日は頑なに、過去を振り返らせたいらしい脳は、目の前の食べかけのコンビニ飯の輪郭をぼやけさせる。
俺が就職した時も、二人は何も言わなかった。ただただ俺は、父親の手口を真似て、母親の心を取り戻そうと、ありとあらゆるブランド物を買って与えた。高いものを与え、食わせ、いい気分にさせた。そうすれば喜ぶことを俺は知っていたから。この目で幾度となく見てきたから。二人で暮らしていた頃の赤貧さを心底憎んでいた母親を見ていたから。
俺は無邪気にもなった。あの頃の、学校の帰りにカマキリを捕まえて遊んだような、近所の犬に給食のコッペパンをあげて戯れていたような、そんな純粋無垢な無邪気さで、子供に戻った。もう右も左も分からない馬鹿なガキじゃない。今の俺で、あの頃をやり直そう。やり直せる。そう思った。
「そんなわけ、ねぇよなぁ。」
時刻は午前4時を回り、止まっていたテレビの心拍が再び脈動を始めた。残飯をビニール袋に入れて、眩しい光源を鬱陶しそうに睨んだ。画面の中では眠気と気怠さを見せないキリリとした顔の女子アナが深刻そうな顔で、巷で流行する感染症についての最新情報を垂れ流している。
結論から言えば、やり直せなかった。あの女の一番は、俺より金を稼いで、俺より肉体も精神も満たせる、あの男から変わることはなかった。理解がし難かった。何度殴られても生きる価値がない死ねと罵られても、それが愛なのか。
神がいるなら問いたい。それは愛なのか。愛とはもっと美しく、汚せない、崇高なものじゃないのか。神は言う。笑わせるな、お前だって分かっていないから、ひたすら媚びて愛を買おうとしたんだろう。ああ、そうだ。俺にはそれしかわからなかった。人がどうすれば喜ぶのか、人をどうすれば愛せるのか、歩み寄り、分り合い、感情をぶつけ合い、絆を作れるのか。人が人たるメカニズムが分からない。
言葉を尽くし、時間を尽くしても、本当の愛の前でそれらは塵と化すのを分かっていた。考えて、かんがえて、突き詰めて、俺は、自分が今人間として生きて、歩いて、食事をして、息をしている実感がまるで無い不思議な生き物になった。誰のせいでもない、最初からそうだっただけだ。
あなたは私の誇りよ、と言った女がいた。そいつは俺が幼い頃、俺じゃなく、俺の従兄弟を出来がいい、可愛い、と可愛がった老婆だった。なんでこんなこと、不意に思い出した?あぁ、そうだ、誕生日に見知らぬ番号からメッセージが来てて、それがあの老婆だと気付いたからだ。気持ちが悪い。俺が人に愛される才能がないように、俺も人を愛する才能がない。
風呂の水には雑菌がうんたらかんたら。学歴を盾に人を威圧するお偉いさんが講釈を垂れているこの番組は、朝4時半から始まる4チャンネルの情報番組。くだらない。クソどうでもいい。好みのぬるめのお湯に目の下あたりまで浸かった俺は、生きている証を確かめるように息を吐いた。ぼご、ぶくぶく、飛び散る乳白色が目に入って痛い。口から出た空気。無意識に鼻から吸う空気。呼吸。あぁ、あれだけ自分の傷抉って自慰しておいて、まだ生きようとしてんのか、この身体。どうしようもねえな。
どうせあと2時間と少ししか眠れない。髪を乾かすのも早々に、俺が唯一守られる場所、布団の中へと潜り込んで、無機質な部屋の白い天井を見上げた。
そういえば、首吊りって吊られなくても死ぬことが出来るんだっけ。そう。今日の朝だって思ったはずだ。黄色い線の外側、1メートル未満のその先に死がある。手を伸ばせばいつでも届く。ハサミもカッターも、ガラスも屋上もガスも、見渡せば俺たちは死に囲まれて、誘惑に飲まれないように、生きているのかもしれない。いや、でも、いつだって全てに勝つのは何だ?恐怖か?確かに突っ込んでくるメトロは怖い。首にヒヤリとかかった縄も怖い。蛙みたく腹の膨れた女をトラックに轢かせて平らにしたいとも思うし、会話の出来ない人間は全員聾唖になって豚の餌にでもなればいいとも思う。苛立ち?分からない。何を感じ、生きるのか。
ああ、そういえば。
父親の頭をミンチの如く叩きのめしてやろうと思って金属バットを手に取った時、そんなくだらないことのためにこれから生きるのかと思うと馬鹿らしくなって、代わりに部屋のガラスを叩き割ってやめた。楽にしてやろうと母親を刺した時、こんなことのために俺は人生を捨てるのか、と我に返って、二度目に振り上げた手は静かに降ろした。
あの時の爽快感を、忘れたことはない。
あぁ、そうか、分かった。
死が隣を歩いていても、俺がそっち側に行かずに生きてる理由。そうだ。自由だ。ご飯が美味しいことを、夜が怖くないことを、寒い思いをせず眠れることを、他人に、人間に脅かされずに存在できることを、俺はこの一人の箱庭を手に入れてから、初めて知った。
誰かがいれば必ず、その誰かに沿った人間を作り上げた。喜ばせ、幸せにさせ、夢中にさせ、一番を欲した。満たされないと知りながら。それもそうだ。一番も、愛も、そんなものはこの世界には存在しない。ようやく分かった俺は、人間界の全てから解き放たれて、自由になった。爽快感。頭皮の毛穴がぞわぞわと爽やかになる感覚。今なら誰にだって何にだって、優しくなれる気がした。
そうか、俺はいつの間にか、人間として生きるのが、上手くなったんだ。異世界から来てごっこ遊びをしている気分だ。死は俺をそうさせてくれた。へらへらと、楽しく自由にゆらゆらふわふわ、人と人の合間を歩いてただ虚に生きて、蟠りは全部、言葉にして吐き出した。
遮光カーテンの隙間から薄明るい光が差す部屋の中、開いたスマホに並んだ無数の言葉の羅列。俺が紡いだ、物語たち。俺の、味方たち。みんなどこか、違うようで俺に似てる。皆合理的で、酷く不器用で、正しくて、可哀想で、幸せだ。皆正しく救われて終わる物語のみを書き続ける俺は、己をハッピーエンド作者だと声高に叫んで憚らない。
「俺、なんで生きてるんだっけ。」
そんなクソみたいな呟きを残して、目を閉じた。スマホはそばの机に放り投げて、目を閉じて、祈るのは明日の朝目が覚めずにそのまま冷たくなる、最上の夢。
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guragura000 · 5 years ago
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海辺の洞窟
 リネン君は、誰よりもまともです、という顔をして、クズだ。彼の中身はしっちゃかめっちゃかだ。どうしたらそんなにとっ散らかることができるのか、僕には分からない。
 彼の朝は床から始まる。ベッドに寝ていた筈なのに、いつの間にか転がり落ちているのだ。頭をぼりぼり掻きながら洗顔もせずに、そこらに落ちている乾いたパンを食べる。前日に酒を飲んでいたのであれば、トイレに行って吐く。
 それから自分を寝床から蹴落とした女を見やる。それは顔も知らない女であったり、友人の彼女であったり、上司の妻であったりする。ともかく面倒くさそうな女だ。
 ここで必ず電話が鳴る。誰もがリネン君が起きる瞬間を見計らったように電話をよこす。それとも彼の体が電話に備えるようになったのか。まあ、どちらでもいい。
 電話の向こうは女の関係者で、烈火の如く怒っている。朝から怒鳴り声を聞くのは気分のいいものではない。口の中から胆汁がしみ出してくるような心地になるので、黙って切る。
 リネン君にとって、彼女とその関係者の将来など、自分には関係のないことなのである。いやいや彼は彼女らの人生に大いに干渉しているのだが、リネン君は全ての責任を放棄しているのだ。誰が何と言おうと、彼は彼の行動の責任をとらないし、とるつもりもない。だからどうしようもない。
 そうこうしているうちに女が目覚める。彼女はリネン君の消えゆく語尾から、彼氏や旦那の名前を聞き取るだろう。次の瞬間彼女はヒステリックに喚き出し、リネン君は自室を追い出されるはめになるわけだ。
 リネン君はあくびをしいしい喫茶店に入り、仕事までの時間を潰す。休日であれば友人なのか知り合いなのか曖昧な人間と遊ぶ。暇な輩がつかまらなければ、その辺をうろつく汚い野良猫とたわむれる。リネン君は大抵の人には煙たがられるが、動物には好かれるのである。
 リネン君は出会う人々とろくでもない話をする。誰かを笑わせない日はないし、誰かを傷つけない日もない。彼は湧き上がった感情を、健全であれ不健全であれ、その場で解消するだけなのだ。
 僕等は同じ��パートに住んでいる。リネン君の部屋は一階の一番端っこ、僕の部屋は二階の階段のすぐ隣だ。親しくなる前から彼の顔は知っていた。朝、父さんに言われて新聞を取りに行くと、みちみちにチラシの詰まった郵便受けの前で悪態を付いている彼を時々見かけた。母さんから、
「あんな人と付き合っちゃダメよ」
とお叱りを受けたこともある。その理由を聞くと、
「しょっちゅう女の人を連れ込んでいるみたいだし、毎晩のように酔っ払って何かを叫びながら帰ってくるし、たまに非常階段で寝てるし、ゴミは分別しないで出すし、昼間もふらふらして何をしているか分からないし、無精髭を剃りもしないしこの間だって⋯⋯」
と、このように、大人達のリネン君の評判はよろしくなかった。
 僕等はアパートの庭に設置されている自販機の前で出会った。リネン君の第一声は、
「おい。五十円持ってないか」
だった。小遣いでジュースを買いにきた小学生にかける言葉ではないと思うが、いかにも彼らしい。リネン君はたかった金で手に入れたエナジードリンクを一気に飲み干した。それから隣でグレープジュースをちびちび啜っている僕を、
「ガキ。礼に煎餅やるから来い」
「え? でも知らない人の家に行くなって母さんから言われてるし」
「親離れは早いにこしたことない。いいから来い」
「え、あ、あの、ちょっと」
誘拐まがいに部屋に招いたのだった。
 そうして僕は彼と親しくなった。もちろん母さんには内緒で。
 彼の部屋は余計なものでいっぱいだ。年期の入った黒電話、聞きもしないレコード、放浪先で見つけてきた不気味な雑貨、または女性。つまり彼の部屋は子どもの暇つぶしにもってこいの場所なのだ。
「リネン君はどこから来たの?」
 僕が尋ねても、彼はにんまり笑って答えない。
「俺がどこからやってきたかなんて、お前には関係ないことだろ?」
「じゃあこれからどこへ行くの?」
「嫌なことを聞くやつだな、お前は」
 リネン君は心底うんざりした顔で僕を睨みつけた。けれど僕は睨まれても平気だ。大人は彼を怖がるけれど、僕はそうではない。彼は子どもと同じだ。好きなことはやる。嫌いなことはやらない。それだけ。それは子どもの僕にとって、非常に理にかなったやり方に思える。
 大人は彼をこう呼ぶ。「根性なし」「我がまま」「女たらし」「クズ」⋯⋯。
 リネン君は煙草をくゆらせる。
「近所のババア共ときたら、俺の姿が見えなくなった途端に悪口おっ始めやがる。常識人になり損なっただけなのにこの言い草だ。奴らに面と向かって啖呵切る俺の方がよっぽど潔いぜ。違うか?」
 本人はそう言っているが、リネン君は陰険だ。この間なんて仕事で成功した友人の彼女と寝て、絶交を言い渡されてされていた。僕には確信犯としか思えない。
「バカ言え。どうしてそんな面働なことをやらなくちゃならな��? 俺はな、他の奴らの目なんてどうでもいい。自分の好きなことに忠実でありたいだけだ」
 リネン君は良くも悪くも自分の尻拭いができない。つまりクズっていうのは、そういうことだと思う。
 とはいえ彼は僕に良くしてくれる。
「林檎食うか?」
 彼は台所から青い林檎を放ってくれた。
「ありがと」
 僕は表皮を上着の袖で拭き、がじっと齧る。酸っぱくて唾液がにじむ。リネン君は口いっぱいに食べカスを詰め込みながら、もがもがと言った。
「そういや隣の兄ちゃん、引っ越したからな」
 なぜとは聞かなかった。リネン君が原因だと察しがついたからだ。
「どうせ彼女を奪ったんでしょ」
「『彼女を奪う』か。『花を摘む』と同じくらいロマンチックな言葉だな。お前、いい男になるよ」
「適当なこと言って」
「悪いな、またお前の植木鉢から花を摘んじまったよ」
「本当に悪いと思うなら、もうこんなことやめてよね」
「駄目だ。夜になると女が欲しくなる。こう見えても俺は寂しがり屋だからな」
「うえー、気色悪っ。⋯⋯それでお兄さんはどこに?」
「浜辺の廃屋に越したって。遊びに行こうったって無駄だぜ。あいつ、彼女にふられたショックで頭がおかしくなっちまって、四六時中インクの切れたタイプライターを叩いてるんだそうだ」
 彼女にふられたショック? それだけではないだろう。リネン君の残酷な言葉に弱点を突かれたのだ。
 人間は隠そうとしていた記憶、もしくはコンプレックスを指摘されると、呆れるほど頼りなくなるものだ。ある人は気分が沈みがちになり、ある人は仕事に行けなくなる。リネン君は、大人になるということは秘密を隠し持つようになることだ、と言う。
 つまり、と僕は子どもなりに解釈する。大人達は誰もが胸に、洞窟を一つ隠し持っているのだ。穴の奥には宝箱があって、そこには美しい宝石が眠っている。宝石は脆く、強く触れば簡単に壊れてしまう。彼らは心を許せる仲間にだけその石を見せる⋯⋯と、こんな具合だろうか。
 リネン君は槍をかついでそこに押し入り、宝石を砕いてしまうのだろう。ばらばらに砕けた宝物。リネン君は散らばる破片を冷徹に見下ろす。物語の悪役のように⋯⋯。
 ではリネン君の洞窟は? 彼の胸板に視線を走らせる。何も見えない。堅く堅く閉ざされている。僕は酸っぱい林檎をもう一口齧る。
 午後の光が差す道を、僕等は歩いた。今日の暇つぶし相手は僕というわけだ。
「リネン君」
「何だ」
「僕、これ以上先へは行けないよ。学区外だもの」
「そんなの気にするな。保護者がついてるじゃないか」
 リネン君は自分を指差した。頼りになりそうもない。
「学校はどうだ」
「楽しいよ」
「嘘つくんじゃない」
「嘘じゃないよ。リネン君は楽しくなかったの?」
「楽しくなかったね。誰がクラスメイトだったかすら覚えていない。あー、思い出したくもない」
 路地裏は埃っぽく閑散としていた。あちこちに土煙で茶色くなったガラクタが転がり、腐り始める時を待っている。プロペラの欠けた扇風機、何も植えられることのなかった鉢、泥棒に乗り捨てられた自転車⋯⋯。隙間からたんぽぽが図太く茎を伸ばしている。僕達はそれらを踏み越える。
「友達とは上手くやれているか」
「大人みたいなことを聞くんだね」
「俺だって時々大人になるさ」
「都合の悪い時は子どもになるくせに?」
「黙ってろ。小遣いやらないぞ」
「ごめんごめん。友達とはまあまあだよ」
「どんな奴だ」
「うーん」
 僕はそれなりに仲のいい面子を思い浮かべる。けれど結局、分からない、とだけ言った。なぜなら誰であっても、リネン君の擦り切れた個性には敵わないように思えたからだ。僕の脳内で神に扮したリネン君が、同級生の頭上に腕組みをしてふんぞり返った。
「どいつもこいつもじゃがいもみたいな顔してやがる。区別がつかねえのも当然だ」
 リネン君はまさに愚民を見下ろす神の如くぼやく。だが僕は彼を尊敬しているわけではない。むしろ彼のようになるくらいなら、じゃがいもでいる方がましだと思う。
「ところでリネン君、僕等は一体どこに向かっているの?」
 彼の三角の鼻の穴が答えた。
「廃墟だよ。夢のタイピストに会いに行く」
 潮の匂いに誘われ松林を抜けると、そこは海だ。透き通った水色の波が穏やかに打ち寄せる。春の太陽が砂を温め、足の裏がほかほかと気持ちいい。リネン君の頭にカモメが糞を落とす。鳥に拳を振り上げ本気で怒り狂う彼を見て、僕は大笑いする。
 その建物は浜辺にぽつりと佇んでいた。四角い外観に白い壁、すっきりとした窓。今は壊れかけて見る影もないが、かつては垢抜けた家だったのだろう。
ペンキが剥げたドアを開ける。錆びた蝶番がひどい音を立てる。中はがらんとしていた。一室が広いので、間取りを把握するのに手間取る。主人を失った椅子が一脚悲しげに倒れている。家具といったらそれきりだ。天井も床もところどころ抜けている。まだらに光が降り注ぎ、さながら海の中のようだ。
 空っぽの缶詰を背負ったヤドカリが歩いている。リネン君がそれをつまみ、ふざけて僕の鼻先に押しつける。僕の悲鳴が反響し消えてゆく。本当にここにお兄さんが住んでいるのだろうか。
「どこにいるってんだ。これだけ広いと探すのも手間だぜ」
リネンくんは穴の空いた壁を撫で、目を細める。
「僕は何だかわくわくするな。秘密基地みたいで」
「だからお前はガキだってんだ」
「うるさいな⋯⋯あ」
「あ」
 僕等はようやく彼を見つけた。
 お兄さんは奥の小さな部屋にいた。バネの飛び出た肘掛け椅子に座り、一心不乱にタイプライターを叩いている。紙に見えない文字が次々と刻まれてゆく。テーブルには白紙の「原稿」が山積みになっていた。僕等は息を呑み、その光景に見入る。
僕は目の前の人物がお兄さんだと信じることができなかった。きらきらしていた瞳は濁っていた。締まった頬はこけていた。真っ直ぐだった背骨はたわんでいた。若さでぴんと張ったお兄さんは、くしゃくしゃになっていた。
「ご熱心なことで」
 リネン君はテーブルに寄りかかり、これみよがしに足を組む。
「おい、元気か」
 お兄さんは僕等に目もくれない。リネン君は溜息を吐く。
「聞こえてるのか」
 先程よりも大きな声だった。沈黙が訪れると、キーを叩く音だけがカチャカチャと鳴った。呼吸のように規則正しく。カチャカチャカチャ、チーン。カチャカチャカチャカチャ、カチャ。
 リネン君は懲りずに話しかける。
「何を書いてるんだ。小説か。いいご身分だな。ちゃんと物食ってるか。誰が運んでくれてる。あの女か?答えろよ。答えろっつうんだ。おい!」
 かつてお兄さんは僕とよく遊んでくれた。爽やかに笑う人だった。時折食事に誘ってくれた。決まって薄味の感じのいい料理だった。彼女が顔を出す日もあった。彼に似て優しい女性だった。リネン君が彼女を知るまでは。
「お前、俺が彼女と寝てからおかしくなったんだってな」
 リネン君はねちっこい口調で囁く。
「脆いもんだ、人間なんて。そうだろ? 好青年だったお前がこんなに縮んじまった。どうしたんだ? 筋トレは。スポーツは。やめちまったのかよ。友達は会いにこないのか? そうだよな。病人と面会なんて辛気臭いだけだ。
 お前は何もかも失ったんだ。大事なものから見放されたんだ。良かったなあ、重かっただろ。俺はお前の重荷を下ろしてやったんだよ。大事なものを背負えば背負うほど、人生ってのは面倒になるからな。
 にしても、たかが女一人逃げたくらいで自分を破滅させるなんて馬鹿なやつだな。お前は本当に馬鹿なやつだよ」
 お兄さんは依然として幻の文字を凝視している。それにもかかわらず毒を吐き続けるリネン君がやにわに恐ろしくなる。一度宝石を砕かれた人は、何もかもどうでもよくなるのかもしれない。何も感じることができない空っぽの生き物。それは果たして人間なのだろうか。もしかしてリネン君の石は、もう壊されてしまった後なのかもしれない。
 チーン。
 お兄さんが初めて身動きをした。原稿が一ページできあがったらしい。彼は機械から完成品を抜き取ると、ロボットのように新たな用紙をセットした。後は同じことの繰り返しだった。決まったリズムでタイプを続けるだけ。カチャカチャカチャカチャ。
 リネン君は舌打ちをした。
 僕等は廃屋を後にした。夕日が雲を茜色に染め上げる。水平線が光を受けて星のように瞬いていた。海猫がミャアミャア鳴きながら海を越えてゆく。遠い国へ行くのだろうか。
「壊れた人間と話しても張り合いがねぇな。ったく時間の無駄だった。まともな部分が残ってたら、もう少し楽しめたんだがな」
 リネン君はクックック、と下劣な笑いをもらす。仄暗い部屋で背中を丸めていたお兄さんの横顔が頭をよぎる。
「リネン君、どうしてお兄さんだったの?」
 僕はリネン君に問いかける。糾弾ではなく、純粋な質問だ。リネン君は億劫そう��髭剃り跡を掻きむしった。
「お前には関係のないことだろ」
「お兄さんに何かされたの? お金がほしかったの? それとも彼女さんが好きで妬ましかったの?」
「どれもガキが考えそうなことだな」
「ねえ、何で? 教えてよ」
 彼は僕の肩をぽんと叩いた。それで分かった。彼は僕の問いに答えてはくれないだろう。明日も、明後日も、その先も。ひょっとするとリネン君も、自分がどうしてそうしてしまうのか分からないのかもしれない。だから洞窟荒らしを繰り返してしまうのかもしれない。それは彼の壊れた宝石がさせることなのかもしれない。ずっと、ずっと前に壊れてしまった宝石が。
 僕は彼の手を握る。
「僕には何でも話してよ。僕、子どもだし。大人の理屈なんて分からないし。リネン君が話したことは誰にも言わないよ。友達にも絶対。だからさ⋯⋯」
 リネン君は鼻をスンと鳴らした。何も言わなかったけれど、僕の手を払いのけることもしなかった。
 僕等はとぼとぼと暮れなずむ街道を歩いた。夜が深まるにつれ、繁華街のネオンがやかましくなる。リネン君は殊更騒がしい店の前で立ち止まると、
「これで何か食え」
僕に小銭を握らせドアの向こうに消えた。
 近くの自販機でコーラを買う。プルタブを開けると甘い香りが漂う。僕はリネン君の部屋に放置されていたビール缶の臭いを思い出す。どうして黄金色の飲み物からあんな臭いがするのだろう。コーラのように甘やかな匂いだったらいいのに。そう思うのは、僕が子どもだからなのだろうか。
 僕は全速力で走る。野良犬にちょっかいをかけていたら、すっかり遅くなってしまった。早く帰らないと母さんに怒られるかもしれない。これまでの時間誰と何をしていたのか問い詰められたら、リネン君のことを白状しなければならなくなる。自白したが最後「あんな人と付き合うのはやめなさい」理論で、監視の目が厳しくなるかもしれないのだ。
 慌ててアパートの敷地に駆け込んだ時、リネン君の部屋の前に女の人が座り込んでいるのが見えた。臍が出るほど短いTシャツ、玉虫色のジャケット、ボロボロのジーンズ。明るい髪色と首のチョーカーが奇抜な印象だ。切れかけた電球に照らされた物憂げな顔が気にかかり、つい声をかけてしまう。
「あの。リネン君、しばらく帰らないと思いますよ。居酒屋に入ってったから」
 女の人は僕を見た。赤い口紅がひかめく。瞬きをする度、つけ睫毛からバサバサと音がしそうだ。彼女はかすれた声で返事をした。
「そう。だろうと思った」
 彼女はラインストーンで飾られたバックから煙草を取り出し、火をつける。煙からほのかにバニラの香りがした。
「君は彼の弟?」
 僕はぶんぶんと首を横に振る。これだけは何が何でも否定しなければならない。
「ふーん。じゃ、友達?」
「そんなところです。僕が面倒を見てあげています」
「あいつ、いい歳なのに子どもに面倒見られてるんだ。おかしいの」
 女の人はチェシャ猫のようににやりと笑った。彼女は派手な上着のポケットをまさぐる。
「ほら、食べな」
 差し出された手にはミルク飴が一つ乗っていた。
「あ。有難うございます」
「あたしミクっていうの。よろしくね」
「よろしくお願いします」
 僕は彼女の横に腰かけ、飴玉を頬張った。懐かしい味が口内に広がる。ミクさんは足を地べたに投げ出し、ゆらゆらと揺らす。僕も真似をした。
「ミクさんはリネン君の彼女なんですか」
「はあ? 違うって。昨日あいつと飲んでたら突然ここに連れ込まれちゃって、明日も来いなんて言われてさ。暇だから何となく寄っただけ。彼氏は他にいる」
 恋人がいるのに名も知らぬ男の家に二晩続けて泊まりにくるなんて、やはり大人の考えることはよく分からない。
「それにあいつ、彼女いるんじゃないの?」
「えっ。いないですよ」
 正しくは「ちゃんとした彼女はいない」だ。
「そうなの? 昨日彼女の話で盛り上がったのになあ。じゃあ思い出話だったんだ、あれ」
 好奇心が頭をもたげる。僕はわくわくと聞き返した。
「リネン君が言う彼女って、どんな人だったんですか?」
「えーとね。確か大学で知り合って」
 リネン君、大学なんて行ってたんだ。
「サークルの後輩で」
 サークル入ってたんだ。
「大人しくて可愛くて料理が上手くて守ってあげたくなる感じで」
 そんな人がリネン君と付き合うだろうか。
「結婚しようと思ってたんだって」
「まさか!」
「うわ、びっくりした。突然叫ばないでよね」
「すみません。今のリネン君からは全く想像できない話だったもので」
「そんなに?」
 やっぱ君っておかしいの、とミクさんは微笑む。
「どんな人にも、こっそり取っておきたい思い出って、あるからね」
 僕はひょっとして〝彼女〟がリネン君の宝石だったのではないかと推測し、やめた。いくら何でも陳腐だし、ありきたりな筋書きだ。恐らく宝石はもっと複雑で、多彩な色をしているはずだから。
ミクさんはあっけらかんと言う。
「ま、君の反応を見る限り、彼女の存在もあいつのでっちあげだった可能性が高いけど」
大いに有り得る。彼女は腰を上げスカートの砂を払った。
「行くんですか?」
「うん。君もそろそろ帰る時間でしょ?」
「リネン君にミクさんが来たこと、伝えときましょうか?」
「いいよ。この分じゃ、約束したことすら覚えてないと思うから」
ミクさんは僕に溢れんばかりにミルク飴を握らせると、
「またどこかでね」
カツカツとヒールを鳴らして立ち去った。
 ドアを開けた瞬間母さんがすっ飛んできて「心配したのよ!」と怒鳴った。
「まあ許してやれよ、男の子なんだから。なあ?」
「お父さんは黙ってて!」
「はい」
どうして僕の周りの男どもはこうも頼りないのか。
母さんにこってりしぼられながら、僕はかつてのリネン君の恋人を思い浮かべる。まなじりは涼しく吊り上がり、心なしか猫に似ている。けれどリネン君がどんな顔をして彼女に接していたのかという点においては、全く想像がつかない。
女性を抱いては捨てるリネン君。皮肉を言ってばかりのリネン君。人を廃人にするリネン君。リネン君にとって今の生活は、余生でしかないのだろうか。
洞窟は宝石の輝きを失ったら、どうなるのだろう。僕等は心が壊れても死なないけれど、それは果たして幸福なことなのだろうか。人は肉体が朽ちるまでは何があっても生きる運命だ。この体は意外と頑丈だから。
「聞いてるの?!あんたって子は本当に⋯⋯ちょっと、誰からこんなにミルク飴貰ったの!叱られながら舐めないの!」
「痛っ!」
頭をはたかれた衝撃で、口の中の飴がガチンと割れる。
僕の宝石は誰にも見つからないように、奥深くに隠しておこう。誰かが洞窟に侵入した場合に備え、武器を用意しておこう。相手を傷つけることのない柔らかな武器を。もしかしたらその敵は、リネン君かもしれないから。
僕がお説教されている頃、孤独なタイピストの家に誰かが食事を運んでいた。カーテンの向こう側に蝋燭の火が灯され、二人の影が浮かび上がる。
古びた机に湯気の立つ皿が置かれると、お兄さんはぴたりと手を止める。彼は凝り固まった体をやっとのことで動かし、痩せ細った手でスプーンを掴む。
その人は彼が料理を口に運ぶのを、伏し目がちに、いつまでも見守っていた。
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wankohouse · 11 days ago
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見付天神裸祭 浜垢離・道中練・鬼踊り・鬼踊り後
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鬼踊りが終り、ぐちょぐちょの腰蓑と草鞋を捨てる。持ってってもええけどしばかれるかも知れん
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見付天神例祭 鬼踊り (見付天神裸祭) 2023年
磐田市見付の矢奈比売(やなひめ)神社(見付天神)では2023年9月17日~24日の8日間に例祭があり、9月23日には四年ぶりに「鬼踊り」が行われた。
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見付天神例祭 浜垢離する先供(さきとも) 2010年
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地域で祭組を組み参加する。御瀧車はその一つ。
鬼踊りに向う途中で街を練り歩き、集団がすれ違う度にあいさつ代わりにしばき合いをする。警固はその間に入って阻止する係だったと思う。2010年。
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鬼踊りの拝殿に向う東区富士見町の元門車(げんもんしゃ)の道中練り 撮影年不明
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鬼踊りを終えた後、腰蓑を取る。2010年。
觸鈴はリストバンドの人だけが持って良い事になっている。
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groyanderson · 6 years ago
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ひとみに映る影 第一話「めんそーれ猪苗代湖」
☆プロトタイプ版☆ こちらは無料公開のプロトタイプ版となります。 段落とか誤字とか色々とグッチャグチャなのでご了承下さい。 書籍版では戦闘シーンとかゴアシーンとかマシマシで挿絵も書いたから買ってえええぇぇ!!! →→→☆ここから買おう☆←←← (あらすじ) 私は紅一美。影を操る不思議な力を持った、ちょっと霊感の強いファッションモデルだ。 ある事件で殺された人の霊を探していたら……犯人と私の過去が繋がっていた!? 暗躍する謎の怪異、明らかになっていく真実、失われた記憶。 このままでは地獄の怨霊達が世界に放たれてしまう! 命を弄ぶ邪道を倒すため、いま憤怒の炎が覚醒する! pixiv版 (※内容は一緒です。)  (前作までの「NICシリーズ」につきましてはこちらをご覧下さい。)
 ◆◆◆
 それは私がまだ会津(あいづ)の猪苗代町(いなわしろまち)に住んでいた、中学1年生の時の事だった。
 玲蘭(れいら)ちゃんは、ある日沖縄から私の学校に転校してきた。 東北地方の田舎に県外から転校生が来るのは珍しく、彼女はクラスのちょっとしたアイドルだった。 しかも意外だったのは、彼女は祝女(ノロ)という沖縄の伝統的な巫女さんで、中学生なのに悪霊払いや地鎮祭の仕事をしていた事だ。 電車で石筵(いしむしろ)にある霊山に行って、かわいい巫女服で修行をしたりしていて、まるで本物の魔女っ子みたいと当時の私は憧れていた。 どうして私が、彼女のそんな特別な事情を知っていたかというと…私も昔石筵の観音寺に住んでい事があって、少しだけ他の人にはない力を持っていたからだ。
 私の家は代々、影法師(かげぼうし)という霊能力を継承していた。 念力で光の屈折を歪めて色んな形の影絵を作ったり、自分やものの影に幽霊を取り憑かせて操らせたりする術だ。 霊能力の才能を認められた小さい頃の私は、家族の意向で、小学校に上がるまで石筵の観音寺で修行して過ごしたのだった。 加えてそこの和尚様は、昔チベットで修行をされていて、「タルパ」という人工の魂を作る術も持っていた。私はそれも少しだけ教えて頂いた事がある。
 人間の子供の魂は、周りの幽霊や、幽霊未満の人の想いの名残りを吸収しながら成長していき、やがて自我が芽生える。 タルパはそういった身の回りに漂う魂のかけらを人為的にかき集めて、自分の想像力や念力で魂に成形する技術だ。 だからそれは、人を1人生み出すのと同じくらい重みのある行為だと、和尚様はよく説かれていた。
 とはいえ、幼い頃の私が作る事を許されていた魂は、虫や小鳥とか、古道具に染み付いた気持ちを具現化した小さな神様の影絵だけだった。 それゆえタルパ作りは影法師の修行の一環ぐらいにしか思っていなかったし、山を降りてからはやり方も殆ど忘れていた。 でも中学で出会った玲蘭ちゃんは、かわいい猫の魂を作ってペットにしたり、 漫画のキャラクターにそっくりなイケメンの魂を作ったりしていて、当時の私にとってすごく衝撃的だった。 むやみに魂を作ることは良くないと和尚様から教わっていたにも関わらず、当時の私は遊び感覚で玲蘭ちゃんにリクエストをしてしまった事も度々あった。
 だけど私達は、そういう「人工の命」達の重みを突然思い知らされることになった。 ある日、玲蘭ちゃんが私に相談を持ちかけてきた。 作った魂が暴走して、手のつけられない悪霊になってしまったらしい。
 実は玲蘭ちゃんのお父さんは、福島に赴任してから職場の女性と浮気していた。 お母さんはそれを知っていたけど、玲蘭ちゃんの学費のために離婚できないという。 そこで玲蘭ちゃんは、お父さんがまた別の県に異動になれば浮気をやめてくれると考えた。
 玲蘭ちゃんのお父さんは主に猪苗代をまわる観光バスの運転手だった。 だから玲蘭ちゃんは、猪苗代が観光地として人気がなくなれば、お父さんの福島での仕事が減って異動になると考えた。 そして猪苗代湖(いなわしろこ)に巨大な恐竜の未確認生物が出るという都市伝説を利用して、恐竜の姿の魂を作り出し、暴れさせた。
 その作戦の効果は絶大だった。霊感のある観光客が湖に近寄るのを恐がり、猪苗代を守っていた仏様方は恐竜に怯えて逃げ出した。 すると湖に悪い物が集まってしまい、県内外から入水自殺者までもが引き寄せられるようになった。 当然猪苗代の評判はガタ落ち。ただ、本当の問題はその後に起きた。 集まった悪霊を吸収して力をつけたその恐竜が、湖を出て市街地で暴れだしたんだ。
 DNAを持つ動物から生まれた命と違って、人工の魂の本能は、完全に作り手が創造した通りになる。 肉食の獣という設定の魂を作れば、その魂はたとえ触れられなくても草食動物に付きまとい続けるし、 薬物中毒者という設定にすれば、その魂は消滅するまで永遠に苦しいまま生きる事になる。 玲蘭ちゃんは猪苗代湖の恐竜を作る時、湖に誰かが来たらともかく暴れ回るように作ってしまったらしい。
 ◆◆◆
 恐竜騒動が始まってから数週間後、猪苗代の中学に通っていた私は、石筵の和尚様に呼び出されてこの件について何か知っているか尋ねられた。 友達の引き起こした不始末を告げ口するようで気が引けたが、私は仕方なく恐竜の正体について打ち明けた。
 すると和尚様は私を、山の麓の熱海町(あたみまち)にある、大峯不動尊(おおみねふどうそん)という小さなお寺へ連れて行かれた。 そこで二人で影法師を呼び寄せる真言を唱えると、萩姫(はぎひめ)様が現れた。 不動明王様のお告げで福島に来られた平安時代のお姫様で、死後は影法師にとっての神様のような存在になられたお方だ。 和尚様が萩姫様に事の顛末を説明すると、萩姫様は私にタルパを作って恐竜を止めるように命じられた。
 私は不動尊の近くにある滝のほとりに座って、揺れ続ける水面にタールのような黒々とした影を広げながら、どんなタルパを作ればいいのか考えた。 自分が作れる薄べったい影絵の体で悪霊と戦えるほど強い魂を作るのは相当難しい。 けどそれ以上に、ずっと遊び半分だった1人の命を産むという行為の責任の重さを、私はこの時ようやく理解した。 もしも私がタルパに無責任な本能を与えてしまったら、その子は玲蘭ちゃんの恐竜のように、苦しみながら他の災いを生み出してしまうかもしれない。 恐竜をやっつけるその場しのぎの設定だけじゃ、ぜんぜん済まないんだ…。
 結局その日は何もできないまま帰宅した。 夜、風呂場でぼーっと今まで作ってきた影法師達について考える。 虫みたいな小さな生き物の魂は、近くに卵や赤ちゃんがいれば自然と吸い寄せられて吸収される。 それを転生と呼ぶか消滅と呼ぶかは人それぞれだけど、少なくとも彼らは新しい命の一部になる。 九十九神(つくもがみ)、物に宿る小さな神様は、物が壊れるかゴミとして処理されるまではその物に宿り続ける。 たまに職人さんの子供に宿って、その子の才能の一部になる事もあるらしいけど、基本的に彼らは自分では動かない。 でも、これから私が作ろうとしているのはもっとずっと大きな魂だ。 きっとこの騒動が終わった後も、私と同じくらいか、私以上に長く存在し続けるかもしれない…。
 長風呂でのぼせ始めた頃、浴室に1羽の小鳥の幽霊が飛んできた。 よく見るとそれは、オカメのお面を被っている。というより、人面鳥だ。
 「…オカメインコ?」 私はその子を見た瞬間、真っ先にそんなオヤジギャグを口走っていた。 するとオカメインコが私をじろりと見上げて言った。
 「ちょっとやめて頂戴、アナタまでサ。 アタシの事忘れたの?アタシよ、アタシ…。」
 そう言うとオカメインコは、黒い影の姿になり、浴室のタイルにビタッと貼り付いてみせた。 壁面にまるで影絵のように浮かび上がる小鳥のシルエットを見て、私は思い出した。 この子は私が修行中に作った小鳥の影法師タルパだ。
 「すごい!どうやって3Dの体になったの?」
 彼女いわく、ある日熱海町の辺りを飛んでいると、源泉神社(げんせんじんじゃ)で深沢(ふかざわ)の名水を守る龍神様に捕まったらしい。 そしてイタズラに知能を与えられ、自分が人間によって作られた偽物の小鳥だと知る。 すると彼女は自分も人間に近付いて人工の魂を作ってみたくなり、龍神様に頼んで人間の顔を付けて貰ったのだという。
 「せっかくだから美人にして頂戴って頼んだの。だから最初はアタシ、自分がゼッセーの美女だと思ってた。 でもいざ人前に出てみたら、酷いのよ!みーんなアタシをオカメインコだって笑うの! あのふざけたドラゴン野郎、わざとやったんだわ!!」
 石筵は和尚様や玲蘭ちゃんのように、式神や生霊、タルパといった人工の魂を作る修行者が多い。 そしてそういう人の中には、文化の継承や土地を守るために、妖怪や神様の魂を作って管理する生業の方々がいる。 不思議な神通力を使う龍神様だなんて一見ファンタジーめいているけど、 石筵の麓にある熱海町の神社でなら、神様の役割を担う魂が祀られていてもおかしくない。私はオカメの話に納得した。
 プリプリと怒っているオカメをあやしながら、私は自分の部屋に戻った。 (廊下ですれ違ったお父さんが「オカチメンコ」と呟いて、メチャクチャにつつかれてた。) その後はお互いに近況を語り合い、恐竜の件の話になった。
 「勝てるかな?影のタルパでも。 だけど…もし戦いが終わったら、その後その魂はどうなるんだろ?」
 するとオカメは、私を小馬鹿にするようにため息を吐いて言った。
 「アナタ、バカね。どうして痛めつけるのを前提に考えてるのよ。 人工だろうが天然だろうが、誰だって生まれつきの本能ぐらい持っているわよ。 でも生き物って、自分の本能を満たすために知恵を絞るから繁栄できるんでしょう? 鳥が巣を作るのも、蟻が食べ物を運ぶのも、生存本能や食欲を満たすため。 人間があれこれややこしい事をするのも、安全で幸せに暮らしたいからじゃないの?? だったらその恐竜ちゃんにも、やっつける前に正しい本能の満たし方を教えてあげるべきよ。」
 彼女の言葉は目から鱗だった。まだ幼くて何も知らなかった私が作ったただの小鳥の影絵がいつの間にか成長して、 まるで私よりも大人のように立派な事をスラスラ言ってのけた事実が何よりも説得力を帯びていた。 私は思った。一人で無い知恵を絞ろうとするより、この子と協力して玲蘭ちゃんの恐竜を止める事は出来ないかと。 今まで自分にとって「動く影絵」でしかなかったタルパが本物の命だと教えてくれた彼女なら、きっと…。
 「お願い。猪苗代湖の恐竜を止めて欲しいの。 そのために必要な事は何でもするから。」
 オカメは私に二言だけ願いを告げた。
 「この不格好な姿だけでも作り直して頂戴。あと、ちゃんとした名前をつけてよね。」
 ◆◆◆
 翌日の放課後、私は自分の影に1人のタルパを宿して猪苗代湖に向かった。 その魂の名前は「リナ」。空を飛べて、恐竜とお話できるぐらい大きな宇宙人。 彼女の本能は、人工の魂を作る研究をすること。 本人の意向を汲んで、人間に変身できるようにした。 顔は家にあった芸能雑誌の、「今年の美男美女芸能人ベスト10」で1位になった男女両方を贅沢に足して2で割った顔。 (結果ヒゲの生えたオネエさんみたいになったけど、リナは「両方のトップの顔を兼ね備えたアタシこそ最強の美人」だと言い張っていた。) それ以外はぜんぶ自由。私は他に一切手を加えていない。
 猪苗代湖の玄関口、長浜(ながはま)に到着すると、辺りは静まりかえっていた。 この時期はいつもなら白鳥が飛来して、観光客や大きな遊覧船で賑わっているけど、その日は閑古鳥すら鳴かないもぬけの殻だった。 穏やかな湖面にそっと手を入れてみると、海の水とは違う生ぬるい淡水の感触が伝わってくる。
 その時、地鳴りとも汽笛ともいえない「ズーン」と重い唸り声が上がり、湖の中腹から高い波が湖畔に迫ってきた。 私達はコンクリート打ちの道路に駆け上がった。それでも沖に到達した高波は、せり上がって私の膝から下を強く打ちつけた。 湖の水がスニーカーの中に入りこんでいた砂浜の砂と混ざりあって、私はまるで金縛りに遭ったように足が重たくなるのを感じた。
 体勢を立て直して湖面を見ると、遊覧船よりも大きな恐竜の霊が、私達を鋭い眼差しでねめつけていた。 有名なUMAのネッシーにそっくりな、首長竜だ。 親の世代が若かった頃は、ネッシーブームにあやかって世界中の湖でこういう恐竜の目撃情報が多発したらしいけど、 まさか現代の猪苗代湖で恐竜の怨霊が暴れ回る事になるなんて、誰も予想できなかったと思う。
 「へえ。これが沖縄の巫女が作った魂なの。」 リナは私の影から湖面にするすると伸びていき、巨大化しながらカラフルで立体的な姿に変身した。 宇宙人としての彼女の姿は、「でかくて強そうだから」という単純な理由で、アメリカで目撃されたフラットウッズモンスターという宇宙人の姿をモチーフにした。 栗型の頭部にハロゲン電球のように光る2つの目、枯れ枝みたいに硬くとがった腕や鉤爪に、昭和のスケバンのロングスカートめいた円錐状の下半身。 モンスターと名がつくだけあって、恐竜と並んでもなかなかの大迫力だ。 リナが恐竜の近くへ飛んでいくと、恐竜は玲蘭ちゃんが作った本能に従いリナを攻撃しようとする。 でも、リナは小鳥だった時と同じようにひらひらと宙を飛んで攻撃をかわしていた。
 2つの魂の演武に見とれているうち、気がついたら私の周りにも悪霊が集まっていた。 成仏できない動物から、俗世に恨みを持つ人間、それに、これまた誰かが人為的に作ったらしい、呪いの擬人化みたいな怪物まで。 私はむかし和尚様から教わっていた護身術で、それらの悪霊達を1つずつ処理していった。
 淀んだ気配が薄くなってきた頃に再び湖面を見ると、恐竜はすでに目を回しているようだった。 ずっとくるくる飛び回るリナに翻弄されていたみたいだ。 リナは龍神様から学んだらしい方法で、私達と会話ができるように、恐竜の魂を昇華させた。
 「恐竜さーん!どうして暴れるんですかぁー!?」 私は大声で恐竜に問いかけてみた。 恐竜はまだ自分が喋れるようになったと気付いていないで、混乱しているようだった。 しばらくまごついて、やがてしどろもどろに口を開く。
 「わからない…さー…。私は…波…。 湖に風が吹けば…私も暴れるさー…。」 リナの術で辛うじて理性を得ているけど、恐竜はまだ目の焦点も定まっていなかった。 波…。きっと、今までは感情も意識もなくて、自然現象のように暴れていたんだろう。
 「特に理由がないならもうやめてー!あなたが暴れたら、みんな困るんですー!」 私は恐竜に声をかけ続けた。恐竜は困った顔をして応える。
 「それは…難しいさー。誰かが来ると、私…なんだか体がうずいちゃうのさー。」 恐竜は今度ははっきりと、暴れたい欲求があると自認しているようだった。 私に言葉を伝えようとするごとに、恐竜の自意識がだんだんと出来上がっていくのを感じた。
 今度はリナが恐竜に問いかける。「ねえあんた、暴れるのは楽しい?」 恐竜は更にはっきりと答えた。「そうさー…楽しいのさー!」
 するとリナは、急に恐竜の頭の真横で大きく宙返りをした。 スカート状に広がった下半身が恐竜の頭をパーン!と音を立てて打ちつける。 恐竜は豆鉄砲を食った鳩のような顔をして、少しうなだれた。
 「い、痛いさー!何するのさー!?」 リナは意地悪げに目をまたたかせ、恐竜の鼻先を指さして言った。  「あら、ごめんあそばせ。目の前であんたが動いたから、思わず暴れちゃったわ。」
 「恐竜さん、わかった?人前で暴れるのは危ないんだよ。 今みたいにぶつかって怪我をしたり、虫とか小さい子は死んじゃうかもしれないんだよ!」 恐竜は悲しそうな顔をして、大きく2回頷いた。 私達の言いたかった事が伝わったみたいだ。
 「でも、どうしたらいいさー?私、湖に人間さんがいっぱい来たり、お船さんが泳いでるの見ると、どうしても我慢できなくなっちゃうさー…。」恐竜が自信なさげに言った。 確かに、暴れるという本能から生まれて来た子にとって、それを我慢し続けるのは、人間が絶食や徹夜をするのと同じくらい過酷なんだと思う。 私はどう答えればいいかわからなくて、ただ「そうだよね…」と呟いた。
 するとリナが、私の方を向いて尋ねてきた。  「…ねえ。恐竜の出る湖って、そこまでマイナスイメージかしら?」  「え?」
 「UMAブームってやつ?結局この子の元ネタって、人間がいたらいいな!って思って探していた生き物なんでしょ? それなら…人間やここいらの神様方にとって危なくなければ、この子は別に暴れていてもいいんじゃない?」 なるほど、一理あると思った。危なくない暴れ方…。 映画とか遊園地のアトラクションみたいな…。
 「そうだ。ねえ!暴れるとき、人間とか船から少し離れることってできる? 誰にもぶつからない湖のド真ん中なら、暴れても大丈夫だから!」  「え、本当さー?ぶつからなければ、みんなを困らせないで済むのさー?」  「うん!むしろ、どんどん暴れちゃって!その方がみんなも喜ぶと思う!」
 恐竜は子供のように無垢な笑顔になった。  「私が暴れて…みんなが喜ぶ…!」 その表情にはもう、心を知らない悪霊の時の面影は完全に消えていた。
 ◆◆◆
 それから数日後、私はある晩、玲蘭ちゃんの家を尋ねた。 玲蘭ちゃんのお母さんに手土産を渡してから、私達娘2人はリビングのテレビをつける。 その日は、心霊特番で猪苗代湖が取り上げられる日だった。
 恐竜の悪霊を見たという人のインタビューや、入水自殺者の事が放送されて、玲蘭ちゃんは気まずそうにリモコンを手にした。 でも私は、いいから見てみて、とその手を抑えた。 番組の取材班と有名な霊能者が猪苗代湖に行って霊視をする。 霊能者はしばらく湖面を見つめてから、カメラに向かって説明を始めた。
 「確かに恐竜の霊…いえ、精霊のようなものがいます。 ですがそれは、誰かの想いが作り出した生霊のようなものだと思います。」 玲蘭ちゃんは驚いて、「当たってる、あの人インチキじゃないんだ」と意外そうにつぶやいていた。
 「この恐竜は、人に危害を加えようとしているのではありません。 湖にお客さんが来ると、嬉しそうに踊っているんです。 きっと、猪苗代湖を観光地として盛り上げていきたいという、地元の方々の想いから生まれたのでしょう。 ですが、その想いが強すぎて、この辺り一帯の気が乱れて悪い物まで吸い寄せてしまったようですね。」
 その後は霊能者がお祓いをして神様を呼び戻し、そこで猪苗代湖の特集は終了した。 玲蘭ちゃんはしばらく呆然として、ふっと我に返ったように家を飛び出した。
 後を追って玄関を出ると、玲蘭ちゃんは自転車にまたがっていた。 私も急いで自分の自転車のキーを外し、彼女を追いかける。 田んぼや畑ばかりの一本道を突き進み、彼女が自転車を止めたのは、猪苗代湖畔のサイクリングロードだった。
 「ハゼコー!!」 玲蘭ちゃ��が湖に向かって叫ぶ。するうち湖面がせり上がって、恐竜があらわれた。 この子の名前はハゼコちゃんというようだ。
 「アンマー」沖縄の言葉で、ハゼコちゃんが玲蘭ちゃんをママと呼んだ。 玲蘭ちゃんはハゼコちゃんに手を伸ばして、長い首を抱き寄せた。
 「ごめんね、ハゼコ…。 私…ただ、お父さんに元に戻って欲しかっただけだったの。 私のお父さん、バスの運転手で…でも、猪苗代に来てから、コソコソよくない事をしてたの。 だから、もうここから出ていかなきゃならなくなればいいんだって思って。 それだけの理由でハゼコを作って、猪苗代湖をめちゃくちゃにして… 大変な事しちゃった。ハゼコにも、すごく苦しい思いをさせちゃったの…。」
 ハゼコちゃんは涙のつたう玲蘭ちゃんの頬を、舌で不器用に拭った。  「そうだったんさー…。アンマーは、オトウサン…アンマーのスー(父親)に悪いことをやめてほしかっただけなのさー。 だったら、もっともっと猪苗代湖を盛り上げていけばいいのさー!」  「え?」
 「猪苗代湖が元気になれば、アンマーのスーも忙しくなって悪い事ができなくなるのさ~。猪っ苗っ代っ湖さ~!」 ハゼコちゃんが朗らかに歌いながらくるくる回ってみせる。 玲蘭ちゃんも、目尻の赤くなった顔を上げて笑顔を見せた。  「猪っ苗っ代っ湖さ~、あいでみ!めんそーれ!」 二人は会津弁と沖縄弁のめちゃくちゃに混ざった言葉で歌った。 猪苗代湖を騒がせた事件はもう大丈夫だと思って、私は楽しそうにはしゃぐ二人を背にそっと自転車にまたがる。 そのまま湖から立ち去ろうとすると、ハゼコちゃんが私を呼び止めた。
 「待ってさー!お姉さんの名前を教えてさー!」 残念、漫画みたいにクールに退場しようという青臭い試みは潰えてしまった。 私の影の中に潜んでいたリナが、それをくすくすと笑う。 私は照れ隠しにはにかみながら振り向いて、ハゼコちゃんに改めて自己紹介をした。
 「私はひとみ。紅一美(くれないひとみ)です。」
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dadnews · 2 years ago
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見付天神裸祭 大祭へ安全祈願 磐田・福田海岸で「浜垢離」 氏子ら1000人超参加 [静岡新聞] 2023-09-20
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yuupsychedelic · 4 years ago
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詩集「Gemini -Evergreen Story-」
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詩集「Gemini -Evergreen Story-」
1.ジェミニは風の中 2.太陽の踊り子 3.雨やどり 4.アイビー・ボーイも恋をしたい 5.嵐の夜に 6.時違い 7.21 8.心唄 9.愛のバラッド 10.サマーシャワー 11.ピュラスの独唱 12.Evergreen Story
(セクション表記:A〜G=Aメロ,Bメロetc…, S=サビ, I=導入, +=応用 )
ジェミニは風の中
街角ですれ違う 麗しき人よ その名はジェミニ
時を越える記憶 涙を駆ける愛 いくつもの日々を越えて 君に風が吹くのさ
ピントを合わすまで 気付かぬ世界よ 君を知るまで すべてはモノクロだった
ジェミニは風の中 永遠(とわ)に輝く 後悔よ 憂鬱よ 昨日に置いてゆけ
まだ見ぬ未来へ…… アクセル
刹那に星は流れて 突然愛が終わる 時の魔法 消えぬうちに 風に乗り絆繋げ
視線を合わすまで 交わらぬ世界よ 君に逢うまで すべてはモノクロだった
ジェミニに恋をして いつしか別れた セピア色 問いかける 恋の行方は
どんなに辛くても…… アクセル
既読が付かぬまま 言葉は闇へ消えてく 青春色のセンチメンタル 衝動を塗り替えよ
涙を交わすまで 見えない真意よ 君と離れて すべてはモノクロになった
ジェミニが置いてった 解けないパズル まるで解れた後の愛みたいさ
悲しい時こそ…… アクセル
①【I・A・B・S・SⅡ】 - ②【A・B・S・SⅡ】-③【C・B・S・SⅡ】
太陽の踊り子
太陽の踊り子 麗しき若者 真夏に照らされて 最初の恋をした
チェリオの自販機 貝殻に頬赤らめた 幼少の僕が 今や懐かしい
突然の通り雨 家路へ急ぐ君が なんだか眩しくて 自然に追いかける眼
太陽の踊り子 麗しき若者 真夏に照らされて 最初の恋をした
でも届かぬ想いよ ふと我に帰る時 遥かなる愛の果てに 僕は大人になった
ウィンナコーヒー ココアシガレット…… 涙に暮れた夜こそ 生まれ変わるチャンスさ
太陽の踊り子 麗しき若者 真夏に照らされて 最初の恋をした
部活の仲間と 一緒に笑い合ってた 何も疑わず 好奇の対象だった
でも気づいたら独り 子供に取り残された 過ぎ去りし時の中で 繋がらない記憶の渦
愛なき抱擁に 何も感じない 夢なき接吻に 明日は見えない
過去から未来へ 太陽が昇るとき 永遠の詩口遊み 大人であること 放棄する
太陽の踊り子 麗しき若者 真夏に照らされて 最初の恋をした
僕らは大人になり ふと我に帰る時
あの時の僕は 何をしてたのかと 後悔の渦に襲われたなら 子供時代を振り切った証さ
未知との遭遇に 不安を覚えた夕立ち 出逢いと別れを重ねながら この人生をまっすぐに往くのさ
太陽の踊り子 麗しき若者 真夏に照らされて 最初の恋をした
でも届かぬ想いよ ふと我に帰る時 遥かなる愛の果てに 僕は大人になった
①【S・A・B・S・SⅡ】 - ②【A+・S・SⅢ・SⅡ】-③【C・D・S・E・SⅢ・SⅡ・S・SⅡ】
雨やどり
傘を忘れた 気持ちは憂鬱 走って帰る 道の途中で
���つも君に逢う 何故なのか?
声を交わす non no no no 同じクラス non no no no 別の世界で生きてくはずの 二人の運命が繋がって Uh…
雨やどり 命取り 君モドリ ハッピー・モード
雲の隙間に虹が見え 手を振り別れた瞬間 恋が芽生えた さよならの影に疼く青春
傘を忘れた 予報は雨模様 肩で息をして 君に逢いにゆく
もうここにいない わかってても
雨が運ぶ non no no no 時弄ぶ non no no no 同じ世界になった瞬間 二人の運命は離れ離れ Uh…
雨やどり 渡り鳥 君は去り アンハッピー・モード
晴れ渡る空が切なく眩しく 君を思い出す度 止まらない涙 言葉なき別れに嘆く青春
雨やどり 記憶辿り 君愛し マイユース
青空に再び雨雲を架け 虹の彼方へ 君を呼ぶ 人生は別れるために…… あるのだろうか?
①【A・B・C・S・SⅡ】-②【A・B・C・S・SⅡ】-③【S・SⅡ+】
アイビー・ボーイも恋をしたい
東京へ出た時 皆が大人に見えた 同じ学部の仲間も ひとつ先輩に見えた
お洒落なんか興味ないけど 今のままではダメだ なんとなく街へ出かけて 服と靴を選んでみた
悲しいほどに似合わない その姿に驚いた お洒落って難しいんだと 俺は俺なりに知った
アイビー・ボーイも恋したい 今は見習いでも
地元へ帰った時 「少し垢抜けたね」と言われた クラスメイトに会う度 並ぶのは似たような言葉
若すぎたから気付けなかったけど その言葉に秘められた意味 何度思い出しても 頬が赤く染まる
まるで熱に浮かされたみたく ふと我に帰った この街は人を変える そんな力があるんだと
東京生まれの君は気付かない 魔性の大東京
人の目なんか気にしたことない そんな僕だけど いつの間にか人の目気にして 大切なもの忘れてた
自分に合う姿 いちばん良い自分 お洒落って難しいんだと 俺は俺なりに知った
どんな街でも自分らしさ 忘れちゃいけないよね 恋をするならまず自分から 愛せる人になるのさ
アイビー・ボーイも恋したい 今は見習いでも
①【A・B・S・SⅡ】-②【A・B・S・SⅡ】-③【C・D・S・SⅡ】
嵐の夜に
ふたりきりガールズトーク 抱き枕 Hold me tight!! 雷鳴に怯えて眠れぬ夜は 秘密の話をしようよ
気になるあの人 あいつの点数 好きなアイドル ほしいものリスト
もちろん自分のこと 悩みも打ち明けよう 秘密基地みたいだ ドキドキが止まらない
嵐の夜に 朝まで喋ろう 眠気が来るまで 話し尽くそう ……プチョヘンザ!
何気ない会話が 今夜の主役になる 芝居は要らない ありのままでいい
もちろん眠くなる でも聞き逃したくない 身体には悪いけどさ 始まったら終われない
嵐の夜に 朝まで喋ろう 寝坊してもいい 話し尽くそう ……プチョヘンザ!
修学旅行の夜を思い出してほしい 今しか出来ないこと 全部やろうよ
嵐の夜に 朝まで喋ろう 眠気が来る前に 話し尽くそう ……プチョヘンザ!
夜明けまで待つから ふたりきりガールズトーク
①【A・B・C・S】-②【B・C・S】-③【D・S・E】
時違い
若葉が色づく頃 君はまだ若かった 冬服の袖を捲り 街を歩く五月の朝
いつものバス停で 偶然隣になった 毎日見かけていたから 顔を覚えていた
どうして話をしたか 今も思い出せない ひとつだけ確実なのは きっかけが僕からじゃないこと
時は流れて 季節も移ろい この街に君はいないよ それぞれの人生 君の行方は知らない
夏服に着替えた頃 少しだけ近づく距離 お互いの話をして たまに寄り道もした それが倖せだった……
夏休みが始まる前に 一度だけ遅刻した時 明日も逢えると信じていたけど 次の日は逢えなかった
想い溢れて 涙流れる この街に君はいないよ 男と女の友情 君の行方は知らない
永遠なんてないこと 僕は学んだよ 誓いの明日繋ぐために 今を生きてる
時は流れて 季節も移ろい この街に君はいないよ それぞれの人生 君の行方は知らない
忘れられぬ青春 ふたりの時違い
①【A・B・C・S】-②【A+・C・S】-③【C・S・D】
21
もうすぐ五年になるよね 君と出逢ってから 恋もした ケンカもした
いまの僕らなら いちばん合う気がする
共に歩いてるだけで 僕は倖せだった 愛を確かめなくとも 未来は輝いてた
今でも思い出す度 君が恋しくなる よく話した 夜も明かした
いまの僕で もう一度巡り逢えるなら
共に夢を見ていた 日々が倖せだった 息を確かめなくとも 明日に時めいてた
いまなら僕も 君の言葉がわかる 共に風に吹かれた 僕らは倖せだった
波に追われなくとも 青春を感じてた 共に明日を追いかけた 時代が倖せだった
嘘を確かめなくとも その言葉が総てだった
いまの僕で もう一度巡り逢えるなら
①【A・B・C】-②【A・B・C】-③【B・C・C+・B】
心唄
君と僕の関係 もう長い関係 不思議な関係 どうでもいい関係
ほどほどの関係 恋する関係 ケンカした関係 泣き明かした関係
腐れ縁の関係 最高の関係 一生続く関係 大切な関係
凹凸関係 おしゃれな関係 羨む関係 みんなが知ってる関係
昨日出逢った関係 今日知り合った関係 最近友達になった関係 生まれて初めて恋をした関係
関係ない関係 関係ある関係 これからもよろしくの関係 ありがとうの関係
All【A・A・A・A・A・A+】
愛のバラッド
悲しみの夜が 今日もやって来た 君との時間だけは 終わらないと信じてた
あの頃の俺達は ずっと若かったね 君が傍にいる 意味もわからなかった
夕陽に照らされて 自転車を押して帰った日 アヤメの花を握ってさ 約束したこと
今も覚えてるよ 忘れたフリをしたけど 些細なすれ違いが いつしか大きな傷になった
今だから言える 後悔してると 別れてもいいと言って ごめんね
安らぎの夜が 今宵も明けてゆく 君と共に過ごした日々が 無性に恋しくなる
思い出話に 浸りたくはないが 夜が深くなる程に 後悔が止まらないよ
泣き明かした夜は ずっと電話したよね アヤメの花は枯れたまま 月の光を浴びて
今も覚えてるよ 無かったことにしたけど 些細な嘘が 心のかさぶたを開く
今だから言える あの言葉の意味を 別れてもいいと言って ごめんね
君のことだから 新たな恋を育むだろう 俺なんかよりずっと立派な恋人 でも忘れられない 忘れてはいけないんだ 忘れてはいけない気がする 過去に縋るなんて こんなの俺じゃないけど 自尊心……
今も覚えてるよ 忘れたフリをしたけど 些細なすれ違いが いつしか大きな傷になった
今だから言える 後悔してると 別れてもいいと言って ごめんね
今だから言える あの言葉の意味を 別れてもいいと言って ごめんね 愛のバラッド
①【A・B・C・S・SⅡ】-②【A+・B・C・S・SⅡ】-③【D・S・SⅡ・SⅡ+】
サマーシャワー
Summer Shower…… Summer Shower……
今年の夏はやけに寒い どうしたものかと考えたら 別れたばかりの君の顔が浮かぶ
その場凌ぎの言い訳がバレた 君の髪に光る赤いバレッタ
気付かれなきゃいいだろ 軽い気持ちで I Love You…… 感じなきゃいいだろ 週末ホテルで rendez-vous……
すべてが甘すぎた 恋の終わり
Summer Shower…… Summer Shower…… 頬の傷が沁みる
今日はなぜだか胸が火照るぜ 君と別れて一年 今夜も知らぬ女(ひと)を抱く
仲間は「やめとけ」と言うけど 棄てられたままの理性
恋にならなきゃいいだろ 朝になればサヨナラ 見つめなきゃいいだろ その日だけ Instant Love
すべてが甘すぎた 若き日の過ち
Summer Shower…… Summer Shower…… 自暴自棄になる
愛の尊さも知らぬまま 知ってしまった別れの傷
気付かれなきゃいいだろ 軽い気持ちで I Love You…… 感じなきゃいいだろ 週末ホテルで rendez-vous……
恋にならなきゃいいだろ 朝になればサヨナラ 見つめなきゃいいだろ その日だけ Instant Love
すべてが稚すぎて すべてが未熟だった 最初で最後の恋夏(コイナツ)
①【I・A・B・S・SⅡ】-②【I+・A・B・S・SⅡ】-③【I+・B+・S・SⅡ・C】
ピュラスの独唱
何も知らない子供達 その夢は純粋無垢 世を知り尽くした大人達 醒めないでと祈る
真夜中のエチュード 無題のドラマ 悲しいほどの静寂が 涙の矢を撃つ
本当にやりたいことはなんだろう? 一体なんのために生きるんだろう??
そこに憂いはなく もっとも優雅なメディテーション
嗚呼 夜明けまで待っておくれ 嗚呼 目を覚ますな 涙を流すな
あなたは僕らの愛しい天使だ だから小悪魔のように笑わないでおくれ
蒼い星に生まれし希望よ 時代に抗う勇気はあるか あなたが大人になる頃に まだ希望を胸に抱けるか
嗚呼 夜明けまで待っておくれ 嗚呼 目を覚ますな 涙を流すな
純白の雨が降る 汚れなき命の息吹 何かを愛することも知らぬまま ぐっすり眠れよ
あなたは僕らの愛しい天使だ だから小悪魔のように笑わないでおくれ
地球が産まれた時 誰に想像できたか 七十七億人の星屑 今壊れ逝く運命を
嗚呼 夜明けまで待っておくれ 嗚呼 目を覚ますな 涙を流すな
神よ時を止めろ! あなたには見えるだろう 淀みなきユートピア さあ現実を見る前に 眠れよ 眠れよ 眠れよ 眠れよ
①【A・B・C・D・S・SⅡ】-②【E・S・F・SⅡ】-③【A・S・SⅢ】
Evergreen Story
Baby, Green…… いつまでも色褪せぬ恋 最初で最後のロマンスさ
織姫と彦星が 七夕を待つように セレネの恋に 応える男(ひと)のように
何にもなかった十代 二十代は星に消えた
明日なき青春の日々は とうに過ぎ去り 自由の旗を掲げて ようやく掴んだ平穏
そんな日に君を見つけてしまったのだ これが一目惚れなんだと 気付いた瞬間 戸惑いの嵐……
遅れてきた夢 僕のEvergreen Story 君に届け!
太陽と月が 重ならぬように 王妃と青年が 巡り逢わぬように
風を追いかけた三十代 四十代は何処へ消えた?
誰かに追われ続けて 忘れかけた純情 自由の日々を手にし�� ようやく気付いた恋情
忘れかけてたことを今日から取り戻す 今からだって跳べるのだ 気付いた瞬間 戸惑いの嵐……
遅れてきた夢 僕のEvergreen Story 恋よ叶え!
宇宙の法則に従うならば もう長くはない僕の人生
誰かに流されたまま 終わりたくはないよ 誰も守れぬまま 終わりたくはないよ
誠実に生きてきた 不器用に生きてきた この人生の最後に やっと夢を見たのだ ……完全燃焼!
涙も愛も知らずに ここまで来てしまった だから今こそ僕は 全力で恋をする
六十になった頃から 身体が軽くなった 恋するウキウキも やっとわかってきた
かつて軽蔑したコトの 魅力に気付いた瞬間
遅れてきた夢 僕のEvergreen Story 君に届け!
遅れてきた夢 僕のEvergreen Story 明日を繋げ!
Baby, Green…… 永遠に色褪せぬ恋 一度きりの青春 最初で最後のロマンスさ
①【I・A・B・S・SⅡ・SⅢ】・②【A・B・S・SⅡ・SⅢ】・③【C・S・SⅡ+・D・B+・C・SⅢ・SⅢ・I+】
Bonus1:モノレール
夢の痕が今も 淋しく微笑む 愛を知らぬ人が それを見て微笑む
黄金色の未来を 思い描いてた かつてこの国が 豊かだった頃
埃を被れど まだ走れると こちらを見ている 君が切ない
役目を終えても まだやれると こちらを見ている 君が悲しい
夢の痕が今にも 消え去りそうだ 愛も消え失せて 終りを待つのみ
今日も人目付かず 静かに生きている 最期を待つだけの 君でいいのか
Bonus 2:期末テスト
まずは名前を書きましょう クラスと名前 忘れずに
つぎは問題 見渡そう 出来る出来ない 見分けよう
最初の問題 解けたなら テストの傾向 見えてくる
出来ない問題 気にしない 出来る問題 確実に
これが私の必勝法 よければみんな真似してね♪
まずは答案見渡そう イージーミス 誤字ってない?
つぎは躓いた場所を まだ行ける 大丈夫
最初に上手く行かずとも まだ諦めちゃダメさ
残り十分 ケアレスミス 残り五分 総仕上げ
これが私の必勝法 よければみんな真似してね♪
最後に答案ズレてない? 不安 出来ない チェックしよう
チャイムがなったら伸びてみて おつかれ おつかれ ごくろうさま
これが私の必勝法 よければみんな真似してね♪ ……って、みんなやってるか!笑
Bonus3:I'm a Creater
あなたが生まれる少し前に ひとつ跨いだ Century 生まれてすぐで知らないが みんな騒いだ Millennium
時は緩やかに流れ 色々あった 2001 やっと私が歩き始めて 言葉を喋った 2002
青色の星が流れ 最後に夢を見た 2003 手のひらを太陽に掲げ 友と橋を渡った 2004
ひらがなを書き始め 言葉がわかった 2005 看板の漢字を読み 友に自慢した 2006
いついつまでも夢を見る 青春と怪獣の表現者 私だけの世界創るのさ
とにかく落ち着きがなく 走り回った 2007 ピアノと水泳で 水泳を選んだ 2008
野球に出逢い とにかく遊んだ 2009 野球を始め 沈黙を知った 2010
信じられない光景 友よ生きろ 2011 明日はどこだ 人生考える 2012
いついつまでも夢を見る 青春と怪獣の表現者 私だけの世界創るのさ
まだ見ぬ世界 夜明けを求めた 2013 アルフィー出逢う きっかけはウルトラの風 2014
小説家になる 道はここだ 2015 詩を描き始める 未来が見えない 2016
青春の味 永遠信じた 2017 夢破れ 風が変わった 2018
いついつまでも夢を見る 青春と怪獣の表現者 私だけの世界創るのさ
すべてが壊れた 何もわからぬ 2019 すべてが変わった 何をしようか 2020
さあここからだ 強くあれ 2021 いくつになっても まっすぐ生きたい 20XX
風に吹かれても 時に流されても この根だけは絶やさずに
いついつまでも夢を見る 青春と怪獣の表現者 私だけの世界創るのさ
私は創作家 言葉と共に生きるひと
詩集「Gemini -Evergreen Story-」
(Yuu Sakaoka Project / YSSP-006)
All Produced / Written by Yuu Sakaoka Respect to 浜田省吾, ラッツ&スター, BEAT BOYS, 鈴木雅之, チェッカーズ, 高橋みなみ, 八木莉可子, ENNE, 爆風スランプ, 沢田研二, 高見沢俊彦, 井上陽水, 雪見撫子, 小坂菜緒, グレゴリオ聖歌, PINK FLOYD, ボブ・ディラン, 加山雄三(永遠の若大将), 姫路市営モノレール, スバル・ワールドラリーチーム, ウルトラマン, 北島康介, すべてのチブル星人, クレイグ・ブラゼル, すべての創作者のみなさま, 大滝詠一 with All My Loving. Designed, Directed, Commercial by Yuu Sakaoka
Special Thanks to My Family, my friends and all my fans!!
2021.6.18 Yuu Sakaoka
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ama-gaeru · 7 years ago
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林田の世界(初稿版)
第16話 本当の世界・本当の友情・本当の俺  両腕と右足を失い、仰向けに倒れている。
 視界が狭い。左半分がよく見えない。顔の左半分が痛みの塊になっている。息を吸う度に背中や腿の傷が開いて体の下に血が溜まっていく。
 胸が苦しい。林田が肋骨の上に座っているせいだ。
 あいつは背中を丸めて前かがみになり、俺の顔を覗き込んでいる。
 妖怪みたいだ。妖怪顔覗きとか、そういう。水木しげるタッチの林田を想像してみたけど、全然面白くなかった。面白くないから痛みから気を反らす役にも立たない。
 食いちぎってやった耳の傷からの出血はほぼなくなっていた。頬や顎に付着した血は乾いてひび割れている。林田がそれを掻くと血は砂煙になって空中を舞った。
 林田は団子を丸める要領で、血で濡れた両手を擦り合わせている。掌の間から右手と左手が舌を絡めてキスしてるような音がした。嫌な音だ。聞きたくない。
 あいつの掌で転がっている赤黒い物が、えぐり取られた俺の左目だ。
 神経は繋がっていないのに眼球が潰される痛みを覚えた。幻肢痛だろうか。
「これが義眼だったらいいのに」
 林田がそう唱えた途端、左目から痛みが消える。魔法のように。
 熱のこもったため息が漏れた。どうせ、ろくなことにならないのはわかっている。次の苦痛が齎されるまでの小休止だ。わかってる。
 奴は手の中に現れたおはじきと勾玉の間の子みたいな形の義眼を物珍しそうに見つめている。妖怪義眼見つめ���痛みが薄れたからか、今度は少しだけ面白い気がした。
 頭の中に新しい思い出が出来上がり、つかの間の余裕が消える。
 思い出の中で、俺の目は川畑が抉られたということになっている。林田に抉られた記憶と、川畑に抉られた記憶が同時に俺の中にあり、俺の中の苦痛は2倍になる。
 俺は横を向いて胃液を吐き出した。鼻の奥が痛い。咳き込み、目を開ける。
 白い空間のそこかしこに、お母さん達の死体が転がっている。浜に打ち上げられたクラゲみたいだ。顔に突き刺さった釘が早朝の波飛沫みたいに輝いている。顔が破壊され尽くしたことで、お母さんの顔にあった曖昧さはなくなっている。死をもって存在が完成したとでもいうんだろうか。ふざけてる。
 流れ出た血は前衛絵画風のデタラメな線や点を空間に残していた。
 こんなに沢山お母さんがいるのに結局1人も助けられなかった。
 頭の中に蝿の群れが飛び交う。思考が何かを掴もうとしているのはわかるがそれが何かがわからず、ひたすらにもどかしい。
 鳥の鳴き声が聞こえた。幻聴かと思ったけど、確かに鳥の声だった。
 俺は首を反らして後ろを見る。上下が入れ替わった視界に、世界の欠片が映る。
 欠片の中には俺の家の玄関がある。玄関の敷石の上で1羽の雀が跳ねているのが見えた。雀はこちらを向くことすらなく、何度か軽くジャンプした後、どこかに飛んで行ってしまった。
 それで、欠片の中には沈黙するドアが残る。
 黒くて艶のあるそのドアは暮石のように見えた。見るべきではなかったと後悔したが、遅すぎた。
 あの向こうで、今この瞬間に起きている遠い昔の思い出が頭に流れ込む。 ドアの向こうで、小さな俺はリビングに仰向けに倒れている。今の俺みたいに。
 その周りを川畑は円を描き、ゆっくりと歩く。
 バールの頭が床に擦れる。あいつはわざと音を立てている。新郎新婦が乗る車に下げられた缶みたいに、ガラガラヘビの鳴らす尻尾みたいに、自分の存在をそうやって主張する。
 腹にめり込んで内臓を潰すあいつの拳が、頭を蹴り飛ばすあいつのつま先が、肉を切り落とすあいつの振るう鉄の冷たさが、あいつが齎す苦痛と恐怖が、俺を破壊していた。蹂躙はすでに完了している。俺は永遠に変わってしまった。
 あいつは力そのもので、死そのものだ。決して争えない相手だ。対峙してしまったら、逃げ出すか、あるいは一体になるしかない。
 俺は一体になる方を選んだ。暗い世界で、最も暗い部分に輝きを見た。
 スタック——そう言うんだ。
 近づいてくる車のライトを見つめたまま、硬直してしまう動物の状態。スタック。
 死は苦痛という闇を照らす輝きであり、一度その輝きを見てしまえば、もう終わりなんだ。
 俺はスタックされた。もう自由にはなれない。
 あのドアの向こうであり、あのリビングである場所で、川畑が俺のハイルーラーになる。
「どうか、お願いです。許してください」
 俺は許しを乞う。俺は俺の母親と妹を殺した男を崇拝する。
「殺さないでください」
 俺は俺の切り刻まれた手足が、俺の歯が、俺の爪が、俺の目玉が、俺の血が、妹の首が、妹の腹から引き出された何かしらの臓器が散乱するリビングで、男を神とする。
 俺がすぐには死なないように川畑が止血した手足を虫みたいに動かす。固く縛られたことを慈悲と捉える。
「お前がこういう風にされたがったから、こういう風にしてやったんだ」
「はい。そうです」
 俺は答える。川畑が望んだように。俺は昔から誰かに望まれる何かになるのが得意だ。
「俺はこういう風にされたかったんです」
 俺は繰り返す。
「俺もお前も楽しんだよな? 俺はよかれと思ってそうしたんだし、お前もよかれと思うだろう? よかったよな? すごく、よかったよな?」
「よかったです」
 俺は答える。川畑が望んだように。
「そうだよ。よかったんだよ。なぁ、何がよかった?」
 俺は答える。望まれる通りに。
「俺の両手を切り落としてくれて本当によかったです。俺は幸せです」
「それから?」
「妹をあんな風に……」
「あんな風って? どんな風? どんな風だ? なぁ、説明しろよ」
 俺は説明する。川畑が繰り返し俺に教えた通りに。妹がどういう風に死んでいったかを。川畑は満足する。ズボンの中に手を突っ込んで扱き始める。手の中には妹のえぐり取られた性器がある。
「俺は幸せです」
「おおおおおっあっはっおぁそれから?」
「俺はもう元には戻れません。ありがとうございます。よかったです」
「そうだよ。ぁおおっおっよかったんだよ。お前はとても喜んでる。おおおおんっんっんっ。俺はお前を喜ばせた。俺はお前の神様なんだよ」
「はい。あなたは俺の神様です」
 川畑は情け無く「んーっ」と呻いて血と精液でべたついている手を取り出すと、潰れたイチジクに似たものを床に投げた。あれはあいつが切り取った妹の性器だ。それを切り取られている時の妹の体の震えを思い出し、俺の内臓が魂と共に縮小する。
「お前の世界は俺のものなんだよ」
 川畑は手をズボンに擦りつけながら笑う。死んで欲しいと思う。
「はい。俺の世界はあなたのものです」
「お前が生きていられるのは俺がそれをよかれと思っているからだ。たったそれだけなんだ。今後もよかれと思って欲しいか?」
「はい。はい。欲しいです」
「俺はいつまでもお前を気にかけ、いつまでもお前によかれと思おう。お前の世界はいつまでも俺のものだよ。さぁ、俺を愛していると言え。心から」
「愛しています。神様」
 沈黙。ため息。苛立った足音。
「それだけ? たったそれだけ? それで全部か? お前の心の中にあるのはそれしかないのか? 違うよな? もっとあるはずだ。感謝の気持ちが。俺への、ありがとうの、心からの気持ちが」
 バールが激しく床を叩く。
「心から神様を愛しています。俺をこんな風にしてくれてありがとうございます。愛しています。俺の妹をあんな風にしてくれてありがとうございます。愛しています。俺はもう元には戻れません。そんな風にしてくれてありがとうございます。取り返しがつかなくしてくれてありがとうございます。愛しています。愛しています。あなたが大好きです。ありがとうございます。大好きです。あなたは素晴らしい。あなたは良い人。あなたは俺の神様。俺の世界。愛しています。俺をぐちゃぐちゃにしてくれてありがとう。嬉しい、嬉しいです、愛してる、愛してる、神様」
 小さな俺は血の中で愛を叫び続ける。
 悲鳴を上げる。今、出来上がった幼少期のトラウマが俺の内側を破壊する。
 記憶ができる。
 この事件の後、常に強い暴力衝動を抱えるようになった俺の記憶。義手や義足を看護師やお父さんに投げつける記憶。俺の中に暴力を振るうことに全く抵抗のない俺が生まれる。暴力に救いをみた俺が生まれる。闇を光のように崇める俺だ。
 欠片の中の玄関ドアが開く。
 お父さんの服に着替えた川畑が笑いながら歩いてくるのが逆さまに見える。ドアが開いている間、俺が川畑に愛を叫ぶ声が聞こえた。
 反射的に両手をついて立ち上がろうとし、腕がないことを思い出して呻く。腕がないことを思い出すまでのわずかな間に、掌が生乾きの血だまりに触れて軽く滑るような感触を覚えた。これも幻肢だろう。残酷過ぎる。
 川畑が近づいてくる。
 俺の中で燃え上がる殺意が、先ほど生まれたばかりの過去によって強烈な畏怖へと塗り替えられそうになる。俺の中に現れた過去の俺が、あいつに頭を垂れて、額を擦り付けて、慈悲に縋れと叫んでいる。彼は俺の神なのだからと。最低だ。
 川畑は欠片から出てくると、俺の顔を踏み越え、林田の体を通り抜け、お母さん達の死体を踏み越えて、自分が出てきた欠片の中へと戻っていった。 血のついた川畑の足跡が白い空間に残された。
 そのうち、この空間は白い部分よりも赤い部分の方が多くなるのかもしれない。お母さん達の血と、それから俺の血。頭の中で思考の蝿が唸る。
 俺は視線を自分の周りに向ける。血は生乾きでベタベタしている。
 俺のちょうど腰の横あたり。体を起こそうと手をつくとしたらそこだという場所、そこの血だまりに俺の目は釘付けになる——そこに掌を押し付けた痕があった。
 間違いない。掌の痕だ。親指の付け根部分の皺の痕や、指先が押し付けられた痕も見える。
 俺は反対側に顔を向ける。反対側の腰の横にも、同じように掌の跡があった。
 強烈な光の筋が脳に差し込んだ。
 デタラメに羽ばたいているだけだった思考の蝿が、共産国の軍隊パレードみたいに翅並を揃え、その光に向かって行進を始めた。
 林田の手が俺の顔を掴み、正面を向けさせる。
 あいつの顔が目の前にあるが、俺の意識は自分の両手に向けられていた。 ここは……現実のラインが定まっていない作りかけの世界だ。
 ここに床と呼べばいいのか、地面と呼べばいいのかわからないが、とにかく「歩ける平たい場所」があると俺が認識しているから、俺は歩けるし、こうして倒れることができるし、血はそこに飛び散り、お母さんたちの血が広がるんだ。
 本当はただ白くみえるだけで、実態はないのに。
 だったら同じことが出来るはず。いや、出来ていたんだ。さっき、自分に腕がないことを忘れていた時、俺には腕があったんだ。ないと気がついた時に消えてしまったが。意識して無意識にあれが出来ればいいんだ。
 林田の指が俺の右目の下を引っ張る。下まぶたの色を見る医者みたいな手つき。
 垂れた前髪の毛先が俺の額を刺すほどに顔を近づけて、奴は俺の目を覗き込む。
 林田がため息を吐き、曲げていた背中を伸ばす。
「まだまだ全然傷ついてないな」
 林田は体を捩って後ろを向き、俺の残された左足の腿を軽く叩いた。
 また切り落とす気だ。氷水が背骨の中を走る。
 俺はもうなくなった拳を固く握りしめることを考える。
 出来るはずだ。絶対に。俺にならできるはずだ。
 思い込みの激しさは俺の長所だ。俺は何にだってなれる。��興宗教の信者にも、家電量販店の店員にも、アメリカの弁護士にも、なんにでも。俺の想像が許す限りの全てのものに、俺は思い込みの強さでなりきれる。俺が俺になる。その俺には今の俺にはない手足がある。だが、俺だ。俺が俺になるだけだ。簡単だ。出来る。
「もっと辛い目にあわせないとダメなんだろうな」
 俺は、俺の思う、俺だ。
 イメージする。
 腕のある俺を。両目の揃った俺を。両足で立てる俺を。
「お前は本当にはいないから」
 俺は、俺の思う、俺だ。
 存在しないからといって、存在しないと限らない。
 腕。肘。手。指。視界。足。
「お前がどんなに傷ついても、俺は少しも悲しくない」
 俺は、俺の思う、俺だ。腕。肘。手。指。視界。足。腕。肘。手。指。腕。足。肘。視界。手。指。足。腕。肘。手。指。視界。腕。足。肘。手。指。腕。肘。手。指。視界。
「それが正しいんだ」
 上空に浮かんでいた欠片の1つが、ギロチンを思わせる冷酷さで俺の残された足に向かって落下してくるのが見えた。
 首元を掴んで引き寄せた時、林田は悲鳴をあげなかった。
 驚きが奴の顔から狂気を取り払い、赤ん坊のように無垢であどけないものに変える。無力で、非力で、完全な無抵抗。広い視界にそれが見える。目が戻ってる。
 俺は林田を掴んだまま転がり、あいつに乗り上げた。
 落下してきた銀色の欠片が俺の足があったところに音を立てて突き刺さる。
 俺は林田を引き寄せると、顔面のど真ん中に拳を叩きつけた。
 林田が大きく仰け反り、鼻血が数滴、空中に飛び散った。ルビーみたいだ。
 手は離さない。引き寄せ、もう一発お見舞いする。同じ力を込めて、全く同じ場所に。林田の鼻は潰れ、壊れた蛇口みたいに血が流れ出す。顔の下半分が血だらけになったが、依然としてあいつの顔には赤ん坊のような無垢さがあった。何が起きているのかまるでわかっていないからこその表情だろうが、忌々しいと感じた。
「クソ野郎!」
 こいつはわかっていてやった。お母さんがああなるって。俺が苦しむって。全部わかっていてやった。それも繰り返し。何度も。こいつが俺の人生に、俺の過去に、川畑を呼び込んだ。
「救えねぇ!」
 俺はまた殴る。拳を叩きつける瞬間に息を吐く。腹筋がビキッと音を立てるんじゃないかというくらい固くなる。
「人殺しのっ!」
 殴る。もう一度。更に、もう一度。一発殴るごとに殺されていったお母さん達の顔を思い浮かべた。それに、それを冷ややかに見ていた林田の顔も。怒りは俺の力をどこまでも高めていく。ハルクになった気分だ。こいつを徹底的にスマッシュする。
「ウジ虫がっ!」
 殴って、殴って、それでどうする? どこまでやる? 自問するも答えは出なかった。いや、出てはいる。ただ目に入らないようにぼかしているんだ。故意に。
 全てが終わった後に「こんなつもりじゃなかった。気がついたらこうなっていたんだ。俺は悪くない」と自分に言い訳する余地を残すために、答えを封印する。
 林田は俺に殴られないように両手で顔を庇う。
 俺は肋骨の下に拳がえぐりこむようにして腹を殴った。林田は悲鳴を上げて体を震わせ、頭を覆っていた手を腹に移動させた。俺は右手であいつの顔を掴み、全体重をかけて地面——と認識されている平面——に叩きつける。
 林田の頭は平面にぶつかり、跳ね返り、俺の掌にあたり、また平面にぶつかる。何本かの歯がポップコーンみたいに口から飛び出してそこらに転がっていった。 林田を見下ろす。
 大きく開いた口から細かい泡が次々と溢れてくる。泡同士が繋がって真っ赤に染色された海葡萄の房を咥えてるように見えた。
 俺に切っ先を向けて空中で停止していた銀色の欠片達が一斉に震え、ぶつかり合ってシャラシャラと音を立てた。耳障りだ。
「俺を切り裂きたいか!? やってみろ! この間抜けを盾にしてやるからよ!」
 俺は空間中の欠片に聞こえるように怒鳴る。
「何本手足を切り落とされようが、首が切り落とされようが、俺は消えてなんかやらねぇ! 存在しない存在になって、こいつの顔面を潰れたトマトに変えてやる! 何かしてみろよ! このトンマの潰れ具合がひどくなるぜ!」
 欠片達は震えるのを止め、最初の時のようにゆっくりと空中を滞留し始めた。知らぬ存ぜぬを通すようだ。あいつらに意思があるかなんてどうでもいい。通じたっぽければそれで十分だ。
 俺は林田に目を向けた。
 両目が別の方向を向いている。額の左側の皮膚がレンジで温め過ぎた餅みたいにたるみ、変色していた。骨が陥没してるんだろう。
 頭の周りには流れ出した血が丸く溜まっていた。死んではいない。口が上下に動いている。痙攣の一種なのか、意思を持ってやっているのかはわからない。
 左目がぐるりと回転して俺を見た。俺の顔を。それから俺の腕を。
 俺は自分の両手に目を向ける。
 そこに手がある。指先から肘まで血で真っ赤だ。手は確かにここにあるが、俺の顔と同じようによりきちんと見ようとすると、だまし絵の見えない方の絵みたいに存在感が薄くなった。
「これは」
 林田はヒヒヒと唇を曲げて笑った。
「俺の深層心理が望んだ痛みだ」
 反射的に林田の頬を引っ叩いていた。林田は呻いたが笑うのは止めなかった。
「黙れ!」
 俺は林田の耳があった場所にできた逆Cの字型の傷に指を突っ込み、思い切り引っ掻いた。鼓膜が破れるような悲鳴を上げ、林田は俺の下で手足を振り回して暴れた。
 俺はもう一度奴の頬を打つ。もう一度。もう一度。
「これがお前の望みか!? これがか!? お前がこれを望んだから、俺がお前をこうしたっていうんだな!? 俺の意思ではないっていうんだな!?」
「そうだよ!」
 林田が叫んだ。顔の半分が口になったんじゃないかと思うくらい大きく口を開いて。ハッチポッチステーションの人形みたいだ。
「そうだ! 俺の望みだ! 俺がお前にこれを望むから! お前はこうするんだ! 俺の思った通り! 全部! 俺の! 俺はお前に本当にいてほしいと望み、だからこうしてお前は本当っぽく振る舞う! 心があるみたいに! 本物みたいに!」
「撤回しろ!」
 俺は再び顔面を殴り始めた。
 林田は叫ぶ。悲鳴なのか歓声なのかわからない。
「どうして伝わらない! どうして少しも通じないんだ! クソ野郎! なんでわかんないんだ!」
 体の中に溜まった怒りが、憎悪が、暴力を肯定していた。
「お前が悪い! わからないお前が悪い!」
 あいつの顔が潰れて血が滲んだニキビみたいになるまで殴り続けた。
「お前が悪い! 全部! 全部! 自分一人だけが傷ついたみたいな顔して! お前はどうなんだ! 俺をわかろうとしたのかよ! 少しでも俺の気持ちを想像できないのかよっ!」
 全身が雨を浴びたように濡れている。傷口が開いて全身から流れ始めた血と、吹き出す汗と、林田の返り血が皮膚の上で混ざる。
 林田の呼吸は弱くなっている。両目はほとんど瞬きをしない。頭の周りの血溜まりはもう大きめのピザと同じくらいにまで広がっていた。ところどころに浮いている白いものは、もしかしたら頭蓋骨の欠片かもしれないが、人の頭蓋骨を砕いたことなんてないから、こういう風に砕けるものなのかわからない。もしかしたらただの爪でちぎった消しゴムカスかもしれない。頭蓋骨か、消しゴムカスか、より可能性の高い方だろう。
 こいつは俺のお母さんと妹と過去の俺を変質者と同じ檻に閉じ込めたクソ野郎で、俺の目玉をえぐり、俺の手足を切り落としたサディストだ。それに多分もう狂ってる。生きている限り、自分でも何してんだかわからないまま暴れ続けるだろう。こいつは有害な神だ。死んだ方がこいつのためだ。どうしょうもない。
 俺は林田の首に両手をかける。両手の親指で喉仏を潰すように力を込める。
 大きく開いた林田の口の奥から、灯油ポンプがタンクから中身を吸い出す時のような音がした。
 微かな声が音の後に続く。
「殺さないで」
 血だらけの林田の顔が、1人も助けてあげられなかったお母さんの顔に重なった。
 四隅を取られたオセロのように、あるいは北朝鮮のマスゲームのように、俺を突き動かしていた殺意がひっくり返り、別の抗いがたい感情に変わった。それが俺の振り上げた腕にしがみついて、それを下げさせる。
 林田が痙攣し始める。
「クソッ! クソッ!」
 イメージする。両腕のない自分を。集中のため目を閉じる。
「俺は俺の思う俺だ!」
 瞼を上げれば、俺の両腕は中途半端な位置で切断された腕に戻っていた。 腕があったことがなくなり、俺が散々殴りつけたこともなくなり、林田の顔は元に戻る。
 林田は俺を見る。何が起きたのかもどう反応すればいいのかもわからないでいる、あの無垢な顔だ。
 俺はその顔を見返す。自分がどんな顔をしているのかわからないし、胸に渦巻いているのが怒りなのか悲しみなにかもわからない。それは感情が感情になる前の名前のない衝動なのだと思う。これが怒りになるのなら、それは再び暴力になって林田に襲いかかり、今度は止まらないだろう。これが悲しみになるのなら、それは俺を打ちのめし、二度と立ち上がれなくするだろう。
 俺は顎と肩を揺り動かしながら深呼吸を繰り返す。背中を伸ばし、天を見上げる。
 銀の欠片が魚のように白い空間を泳いでいる。俺は目を細めて遠くの欠片達を見つめる。何を探しているのか自分でもわからなかった。それから、徐々にわかってきた。俺が探しているのは天啓だと。どうすればいいのかを教えてくれる兆し。あるいはそれが兆しだと思い込める何か。星の並び。湯のみの底に残った茶葉。なんでも良い。俺がもしも林田を憎んでいるのなら、あるいは憎みたいのなら、星空に刃の星座が見えるだろう。俺がもしも林田を許しているのなら、あるいは許したいのなら、茶葉に仏なり十字架なりが見えるだろう。そういったものを、俺の星座を、俺の茶葉��、俺は探していた。だが何もない。どこにも、何も。
 背中を汗か血が流れ落ちていく。かな��長い間、上を見ていたから再び林田に顔を向けた時、脳がぐらついた。呻いて、倒れそうになるのを堪える。
「テメェが憎くてたまんねぇよ」
 俺はさっきまで俺が握りつぶそうとしていた林田の喉を見つめながら言う。あいつの顔は顔は見たくなかった。
「憎くて、憎くて、たまんねぇよ。ぶち殺してやりてぇよ。けど、おんなじくらいお前が哀れでたまんねぇんだ。テメェがあんまり……」
 言葉を探す。浮かぶ言葉はどれも俺が抱えているものから近くて遠い。だから最初に浮かんだものを選んだ。
「孤独だからだ」
 声に出すと俺が抱えていたものが変質した気がした。それは孤独だと口に出した瞬間に孤独になったんだ。元がどんな感情だったのか今はもう捉えられない。
「孤独だろうよ。ここは自分のいるはずの世界じゃない、自分だけが違う場所にいる、誰かと関係を築こうにも、突然ひっくり返るかもしれない。お前が地獄でのたうつのを、周りが、俺が、半笑いで見てる。辛いんだろうよ。けどな! それはお前の問題だ! お前の地獄なんだ! 俺はな、お前を殺してやりたいし、許してやりたい。殺したくねぇし、許したくもねぇ。したいのか、したくねぇのか、できるのか、できないのかもわかんねぇ。だから……だから、それは一旦、頭の外に出しておく! 保留だ! 保留! 後回し!」
 俺は目線を上げて林田を見る。
 俺は林田の表情を星空や茶碗の底の茶葉として見つめる。あいつは小さく「保留?」と言った。もう一度「保留」と言うと、真冬に熱い風呂に入った時みたいに表情筋を緩めた。
「……やっぱり、お前は俺の妄想だから、俺を本当に殺したりは」
 俺は右腕のある自分をイメージする。右腕が出現し、林田が悲鳴をあげる。
 あいつの顔に右腕で殴りつけた分のダメージが出現する。あの見ているだけで憂鬱な気持ちになる頭でっかちの金魚みたいに膨らんだ顔を抑え、林田は呻く。
「俺がお前を殺さなかったのに、お前の力は全然関係ねぇ」
 何時間もプールで泳いだ後に水から上がった時みたいだ。暴力の中に浸かっていた時は全く感じなかった疲労が、そこから外に出た途端に何十倍にも膨らんでのしかかってくる。疲労が声から力を奪っていた。
「お前が散々、何度死のうがそもそも存在しないんだからかまわねぇ、ちっとも心が痛まねぇってせせら笑ってた俺のお母さんのおかげで、お前は生きてんだ。お前が本物じゃねぇだの本当は何も感じてねぇだのほざいた俺の心のおかげで、お前は生きてんだよ。お前がそれを認めようが認めまいがな。俺は保留にすると言っただけで、テメェを憎んでないとは言ってないぞ。顔は元に戻しておいてやるが、言動に気をつけろ。次は両腕を出現させてやるからな。もう一発、頭を殴りつけて、頭蓋骨から脳みそをぶちまけさせて、死ぬ直前に両腕を消して、お前を元に戻してもいいんだ」
 俺は両腕のない自分をイメージする。俺の右腕は消え、林田の顔も元に戻る。
 林田はもう折れていない鼻を指で抑えながら、俺の腕を凝視している。
「一体、どうなって……」
「ここではなんだって出来ると言ったのはお前だろう。コツさえつかめば精神力と思い込みでどうにかなる。お前みてぇなテンパリストがこの俺相手によりにもよって精神力で勝負を挑むとは、自殺行為もいいとこだ」
 林田の耳を食ったことも関係しているかもしれないが、言わんどく。確証ねぇし。
 俺は立ち上がり、林田の上から退く。ただ立つだけなのに腕がないとうまくバランスが取れなくて、途中何度かふらついた。
「俺はこれからすげぇテメェに文句を言う。それをテメェは全部聞け」
 林田の正面にどかっと腰を下ろす。あぐらを組むのにもやはりもたついた。
「ありとあらゆる文句を言うからな。俺の体から文句が全部出て言ったら、テメェをどうするか、俺の中で結論も出るだろう。おい、聞いてんのか?」
 林田はぶつぶつぶつぶつと独り言を続けていた。最初はただ口の中で飴みたいに転がしていた声が徐々に大きくなり、俺の耳に届く。
「本当はいないんだ。この痛みも全部、本当の世界がくれば全部なかったことになって消えるんだ」
 青ざめた顔で林田は言う。死ぬ直前までいったことで流石に自分で自分の考えに疑いを持ち始めたのか、目線が泳ぎまくってる。でも、それでもその考えを手放すつもりはなさそうだ。
「本当の世界なんてどこにもねぇよ」
 掠れた声で林田は「そんなことない」と答えた。
「あるのはお前が本当の世界だと定めたお前の世界だ」
「違う。違う。本当の世界はあるんだ。なくちゃいけないんだ。本物の世界に行けば、そこには本物の俺の家族がいるんだ。お前が俺の世界に割り込んできてから消えてしまった俺の本当の家族だ。歩いている人も、何もかもが本物で、そこで俺は安心して暮らせるんだ」
 まるでトトロは本当にいるもんとぐずるガキだ。
「いつか突然自分の世界が消えてしまうんじゃないかって怯えて暮らさないで済む。俺は頭のおかしい奴って扱われないで済む。みんなと同じ世界に俺はいられるんだ」
「へぇ、そりゃすげぇな。そこには『本当の俺』もいるのか?」
 林田は「本当の?」と繰り返してから、視線をあちこちにさ迷わせる。答えを探しているんだろう。
「勿論、そうだ。そう。そこにはきっと、きっと、本物のお前がいる」
 とても素晴らしいことを思いついたように林田は笑った。
「本物のお前にはちゃんと顔があって、名前があって、とにかく本物なんだ。お前が実在するんだ! 絶対的で揺るぎないお前だ! 本当の友達なんだ! 本当のお前だから、本当の友達だから、俺の心をわかってくれるんだ」
 陰鬱な気持ちになる。
 これが良くないんだ。林田を殴り殺しかけた時の俺も、同じ袋小路にはまった。
 俺は右腕を出現させる。再び鼻血を流し始めた林田の頭を俺はそこそこ手加減してぶん殴った。
「バーカ!」
 もう一発。
「バーカ!」
 もう一発ぶん殴ってから、素早く腕を消した。怪我も傷も痛みも今は消えたろう。林田は痛くもない顔を抑えて呻いている。
「全員お前と同じものを見るのなら、それは全員お前だ。お前しかいねぇんだ。ただのお1人様ランドだ。お前のいう本当の世界はそういう世界だ。本当から一番かけ離れた、そもそも存在しようがない世界だ」
 人からの受け売りだが、偉そうに言ってやった。
「お前は本当の世界が来ると困るからそうやって俺を騙そうと」
「どう思おうと知ったことか」
 その考え方のせいで、あんな憎悪に飲まれる羽目になったんだ。
「俺はお前に俺の感じ方や目線を納得させようとも、理解させようとも、共感して欲しいとも、意思疎通したいとも思ってねぇ。ちょっと前まではお前に俺の気持ちをわかって欲しいと思ってたけどな、間違ってた。破滅する考え方だ。自滅の価値観だ」
 俺は自分の言葉に頷く。
「『本当に相手が大事ならわかりあえるはずだ』とか『本当に思いあっているなら気持ちがわかるはずだ』とか『想い合えば心は一つになれる』とか。大嘘なんだ。全部くだらない、大人向けのサンタクロースだ。それこそ、お前の言うシルエットだけの怪物じゃねぇか。絶対に実現しないことを『気持ちは通じるものだ。もしも通じないのなら、どちらかが悪いんだ』と思い込ませるための妄言だ。ろくなもんじゃねぇ。そんなものを目指しちゃいけないんだ。『わかりあう心って素晴らしいよね』みたいなのは居酒屋のトイレの張り紙みたいにゲロと酒とクソの臭いが染み込んだ薄っぺらい紙だ。トイレットペーパーが切れててどうしょうもない時にだけは役にたつかもな」
「そんなの誤魔化しだ」
 林田が敵意の滲む目で俺を睨んでいる。
「じゃあ、そう思ってろ」
 俺は林田が何か言い返してくるのを待ったが、林田はただ俺を睨みつけているだけで何も言ってはこなかった。
「『本当の』だの、『本当に』だの、なんて語られるものは全部嘘だ。本当の愛、本当の存在、本当の世界、本当の人生、本当の幸せ。クッッソくだらない! 全部ねぇよ! 大嘘なんだよ! そもそも存在しないものを作り上げて、自分で作り出したものに引きずり回されているんだ! 他人の気持ちなんて、どうやったってわかんねぇし、自分の気持ちなんかどうやったって伝んねぇんだ! 気持ちが通じ合う瞬間なんて絶対にないんだ! それの何がいけないんだ。ずっとみんな1人だ! それがなんだっていうんだ! 元々そういうものなんだ! 他人の心と通じ合うなんてことを、素晴らしいこと、良いこと、コミュニケーションの成功例みたいに考えるな! 誰だって他の人の世界じゃ異物なんだ。なんだかわかんねぇもんは、なんだかわかんねぇままそこにいるんだ」
「一体なんの話をしてるんだ!」
「なんの話か!? 俺とお前の話だ! ずっと、俺とお前の話をしてるんだ! 俺はすっげぇ喋るからな! 抱え込んだこと、全部言葉にしてやる! 全部口で説明してやる! 俺は言いたいことを勝手に言うから、お前は俺の言葉から、お前にとって都合のいい言葉を選んで、組み替えて、勘違いして、ずれた認識して、誤訳して、誤解して、思い込んで、解釈違いして、意図を読み違えて、見当違いな考察をして、ソース不明の情報をつなげて、無責任な視点で勝手に納得したり、しなかったりすればいいんだ! どうせそれしか出来ないんだ! お前は俺をお前の妄想で出来てる創造物だと思うから、『俺がこう思ってるからこいつはこう思ってる』ってややこしく考える。でも、そもそもそれがちげーからな! お前、何回も何回も俺の目玉覗き込んでたけど、1回も俺の気持ちわかってねぇから! 俺が消えたくねぇっつてのに消そうとするわ、俺が消えてぇっつてんのに消そうとしねぇわ、史上稀に見るやりたい放題ぶりだったな、クソ野郎! 何が『俺が苦しんでる時信じてくれなかった』だ。信じられるわけないだろ。当たり前だ。世界中、誰だって、お前の話なんか信じねぇよ。逆にお前の話を信じる奴がいたらそいつはやべぇ奴だよ。俺は信じなかったが、後々になって『本当だったんだ。悪い事したな』って後悔はしたがな。死ぬほど後悔して泣いたけどな。後悔して、後悔して、なんとかして助けようとしたけどな」
 俺は自分の両腕の先を林田��向ける。
「それでこのグロいざまだ! 悲惨どころの話じゃねぇぞ、ボケがっ! 階段から落ちて大怪我するわ、脳腫瘍になるわ、何にも悪いことしてない人を存在ごと消すはめになるわ、生きていられたかもしれない人たちを見殺しにするわ」
 林田が驚いた顔をする。
「聞いてないぞ」
「話す前にお前が月ぶん投げて世界崩壊させたからだろうがっ! お前を生き返らせるためには、お前が想像しているよりも沢山の、すげぇ沢山の人を丸ごと消さなきゃいけなかったんだよ! どーだ、驚いたか! 大惨事を引き起こしてやったぜ! 死ななくて済んだ可能性もあったアパートの人たち、お前のご近所さんだったかもしれない人たち、最初からいなかったことにしたからな! 完全に無抵抗で、自分たちに何が起きるのかわかってもいない、何にも悪いことしてない人たちをな!」
 俺は切断された両手を広げて、ジャジャーンのポーズをする。
「それなのにお前はいきなりぶっ壊れて、世界が全部ぶっ壊れてよぉ。俺は身体中血まみれになって、お母さんが死ぬとこ何回も見させられて、妹が殺されるとこも見させられて、ガキの頃の俺が体切り刻まれてんだ。俺のメンタルがゴリラじゃなかったら、3、4回はショック死してるからな! けどな、俺とお前はな、やってること変わんねぇんだ! 自分にとって一番大事なもののために、他の何かを犠牲にするってことだ! 『悪いとは思うけど、どうしてもこうしなきゃいけないんだ、だから消えてくれ』って、そういうことなんだよ! 俺はテメェのために好きだったってことになってた子を消したし、たくさん消した! 俺は悪い��とをした! 許されないことをした! 俺の罪だ! 俺の犯行だ! 俺が犯人で、計画犯で、実行犯で、確信犯だ! そしてお前はお前のその『本当の世界』とやらのために世界を消して、俺を消そうとしてる! 目的が正しければ何をやってもいいと思ってる! そこに到達するまでに流す痛みに、自分以外の人間が流す痛みにどこまでも鈍感になる! ムカつくのは、テメェがその痛みを、罪を、引き受ける気がこれっぽっちもねぇってことだ! 川畑のクソ野郎とお前はそっくりだ! 『俺は悪くない。俺にこうさせた相手が悪い』そうやって、自分がやったことを、人のせいにする! この卑しい、腰抜けの、もやし野郎! 仮にテメェが『悪いとは思ってるんだよ』って言いながら、俺を同じように痛めつけたとしたら、それはそれで『謝るくらいならやるな!』ってムカつくだろうよ! どっちにしろムカつくんだよ! ムカつくんだ!」
「何が言いたいんだ!」
「文句を言ってるんだー! 最初に言っただろうが、本当に人の話聞かねぇなぁ!」
 俺は怒鳴った。
「テメェに、文句を言ってる! なんだと思ったんだ!? 俺が例えば、テメェの胸に深く突き刺さる、素敵な名言でも言ってやるとでも思ってたのか! その魔法の決め台詞であら不思議! 世界が明るく輝いて、ラピュタが宇宙に飛んでいくってか! バカか! クソが! テメェは俺に、他人に、何を期待してやがる! テメェは最低のクソ野郎で、テメェが何しようが、俺はムカつくって話をしてるんだっ! テメェに『テメェ最低だな!』って言うためなら、俺は『テメェ最低だな』って言うのにふさわしい理屈をひねり出してやるって話だっ! ああ、そうだぜ! 俺は矛盾だらけで筋なんか通ってねぇよ! 自分のことは棚に上げてテメェを糾弾してやる! ザマーミロ! どうせお前には、俺がどんなに筋の通った、キラキラした素敵な良いことを言っても全然刺さんねぇよ! 言葉が刺さるのは、刺さる言葉を待っている相手にだけだ! 本当は自分でも自分がやってることがおかしいって薄々わかってるのに、どうすればいいのかわからないで、誰かが引き戻してくれるのを待ってる奴にだけ言葉は刺さるんだ! 刺さってんのか、それとも刺さったふりをしてるのかはわかんねぇけどな! どーせ、テメェにはグッときたのグの字もねぇんだろ。いいけどな! 俺が勝手にやってることだからな! 俺の思うような反応をお前から得られなくてもムカつくだけで終わりだよ! その点お前はなんなんだ! お前のお気持ちを世界中の人間がお察ししないとご不満か!? その年で『誰も本当の俺をわかってくれないの! 俺って世界一可哀想』病か!? クソみてぇな思春期の、クソみてぇな自我を引きずりやがって! 中学卒業するまでに治しとけ! 大人になってから患うから周りを巻き込んでご覧の通りの悲惨な有様になるんだよ! このパンデミック野郎!」
 林田の顔が真っ赤になり、メロンの皮を思わせる血管の網が浮き上がり始める。
「お前なんか実在しない、ただの物語のくせにっ……!」
「この世に物語じゃないものが一体幾つあるっていうんだ! みんな物語じゃないか! お前だってな、俺にしてみりゃ物語だよ!」
 俺は顎を突き出して林田をせせら笑う。
「俺は実在する! 物語なんかじゃ」
「他人って超怖ぇよな! 超、怖ぇよな!」
 また思い込みをぶつけ合うだけの怒鳴り合いになりそうだったので、でかい声をあげて黙らせる。ヘタレは悔しそうに唇噛んで黙ってりゃいいんだ。
「何考えてるか全然わかんないし、意思疎通も出来ないんだからな! どうやったってわかりあえない存在ばかりだ! 友達だと思っているのは自分だけで、実は嫌われてるのかもしれないし、ずっと疑いの目で見られてるのかもしれないし。ただ道を歩いていただけなのに、知らない男に殺されるんだ! 俺のお母さんみたいに! ただ家でテレビを見ていただけなのに、兄貴が家に招き入れた知らない男に殺されるんだ! 俺の妹みたいに! ただのクラスメイトに『ホクロがあれば完璧だから』って目玉の下に鉛筆突き刺されるんだ! ただの思いつきで誰かが作った落とし穴に落ちて、足が動かなくなるんだよ! 怖いよな! 『わからない』ってことは、本当に怖いよな! 得体がしれないって怖いよな! でもそれが、他人がいるってことなんだ! 『いつまでも続くごく普通の当たり前な日常』なんてな、どこにもないんだ! 他人がいるからな! どんな世界だろうと、突然全てがひっくり返るんだ! 起こり得るんだ! いつだって突然、何もかもが理不尽に、力づくで変えられてしまう! そういう、怖くて、悲惨で、辛くて、救いのない場所に俺もお前もずっといるんだよ! 民家に熊が侵入して、生きたまま食べられてしまった人がいる! 買い物帰りのいつもの道で、飛び降り自殺者の下敷きになって死んだ人がいる! みんなこう思ってたよ! 『こんなことあるわけない。ここは私の世界じゃない』って! 理由なんてないんだ! 救いなんてないんだ! どうやっても防ぐことはできない! だから、怖くて、怖くて、怖すぎるから、怖くないようにするんだ! みんな、ちょっとずつ発狂するしかない! いつ爆発するかわからない爆弾をキャスキッドソンの可愛いキルト生地で包んで飾り付けてんだ! 俺たちは全員、頭がおかしいんだ! 『この世界は普通。どこにでもある毎日』って思い込むんだ! 妄想と共に歩いていくんだ! 物語にするんだよ! 世界を自分の物語に組み込んで、恐ろしさを見えないようにするんだ! 耐えきれないから! 物語にして、相手を自分の主観で組み立て直して、無害にするんだ! そうでもしなきゃ、怖くて、怖くて、身動きとれなくなるから! 現実は物語だらけで、嘘だらけで、存在してるふりをして、存在しないものが存在してるんだ! ごちゃまぜなんだよ! そりゃ、確かに俺は元々動物園の猿で、『俺は人間としてこれこれこういう過去を過ごしてきました』っていうのは、突然後付けで出来上がった過去なんだろうよ! だからなんなんだ! 後付けだろうがなんだろうが、俺の過去だ! この俺の、過去だ! 俺の物語だ! 物語は妄想で、妄想は現実なんだ!」
「煙に巻こうとしてるだろ! はっきりしないことばっかり言って!」
「はっきりしたことが知りたいか? 現実と非現実の狭間とは? 自意識と世界とは? 私とは何者か? そんなことが知りたいのか? 世界の真理とはって! コンビニで売ってるタイプの哲学か宗教の本でも買ってきて読んでろ! 最終的にはふんわりしたことしか書いてないし、途中からキラキラした素敵なポエムになってしんみりした少年時代の思い出語り出してあとがきに突入するような本がテメェの頭をなでなでしてくれるだろうよっ! お好みの真理を選んで、ご都合主義の理屈で固めて、後生大事に抱えたまま『これでいいんだ』って喚いてろ! はっきりしたことが知りたいっていえば、はっきりしたことを答えてもらえるなんてなぁ! イージーモードだな!」
「妄想は所詮妄想だ! 現実じゃない! 存在する意味がない!」
「存在しない存在が世界を変えることなんてしょっちゅうだろうが! ついさっき、『俺のお母さんが殺される物語』に助けられたのはテメェだろうがよ! 物語は干渉するぞ! 物語は心を動かし、世界を塗り替えるんだ! ただの現象なんだ! 良いも悪いもねぇんだ! 存在しない何かが、思い込みの残像が、いないはずの人が、誰かや何かを動かす場合もあるんだ! 影響はあるんだ! 意味はあるんだ! 存在しない思い込みに引きずり回されてボロ切れにされることもあるし! 反対に存在しない思い込みに救われることだってあるだろう! 物語は、ただの傘を日本刀に変えるんだ! 物語は、ただ10って書いてあるだけの赤いユニフォームを存在しない学校の、存在しないバスケ部の、存在しない人物のユニフォームに変えるんだ! 物語は、痛くて痛くてとても耐えきれないような大怪我をした時に耐えられるようにしてくれるんだ! 存在しない超格好いい人が、俺にうろ覚えのカオス理論で天啓を与えるんだ! テレビを通してしかしらない芸能人の物語が、俺を支えるんだ! 物語はな、ただの夜をクリスマスに変えて! ただの惑星を神様にして! ただの人生をサーガにするんだ! 物語はホオジロザメを全滅に追い込んで! 物語は子供達に水槽の金魚をトイレに流させるんだ! 良いも悪いもない! とにかくそれが起きるんだ! もしも俺が、俺がお前の言う通り本当は存在しない空想上の物語だったとしても! 本当にそうだったとしても、ぜってーちげーけど! ぜってーちげーけど、そうだったとして! お前にはそう見えてるんだろうから、そうだったということにしておくが! この俺がお前になんの影響も与えられないわけがねぇんだ! そうだろう! おい! 間抜け! 俺はお前が持ちうる��ての中で最上の存在だ! お前は自分の世界を吹っ飛ばした! もう俺だけだ! テメェには、俺しかいねぇんだ! テメェは俺に希望をみるしかねぇんだよ! 俺はお前が持ちうる全てのものの中で最良の物語だ! チュウ兵衛親分か俺かってくらいのナイスでガッツな産物だよ! クソみてぇな真似してくれた、クソみてぇな、うんこたれ蔵をお前を前進させるからだ! だから俺を手放すな! 物語を手放すな!」
「……お前が俺をそこまで助けようとするのは、俺があの沼でお前の命を救ったからだ。それだって、本当にはなかったんだ。だって俺が助けたのは猿で、猿はもうどこいもいないんだ。お前が上書きされたから。だからお前の俺に対する友情も元々存在しないんだ」
「バーカーなーのーかーおーまーえーはーっ!」
 俺は大声で叫んだ。
「バーカーなーのーだーおーまーえーはーっ!」
 大声で断定してやる。
「図々しいにも程がある! 今まで一度として『林田は俺の親友さ。だって命を助けてくれたから!』なんて思ったことねぇからな! テメェに沼から引っ張り上げられたことも、特別に思ってねぇ! 恩義も感じてねぇよ! テメェが思ってるほど、大したことじゃねぇんだ! 俺が何でテメェみてぇなクソ面倒臭い、本当に、本当に、本当にクッッッソ面倒臭いヘタレ地雷と20年近く友達やってんだと思ってんだよ!」
「……それは、それが俺の願いだから」
 俺は体が2倍、3倍と膨らむんじゃないかってくらい息を吸い込んで叫んだ。
「惰性に決まってんだろ、バカがーっ!」
 林田の顔からサーッと血の気が引いていく。知るか! この! 林田がっ!
「惰性だ! 惰性! その場のノリだ! 惰性だ! 特に理由なんかない! なんとなくだ! なんとなく! それ以外になんだと思ってやがったんだ! 流れでなんとなくだよ! そういう流れがなんとなく続いたんだ!」
「ふっ」
 林田が肩を震わせた。
「ふざけんな! そんな理由が通ってたまるか!」
「テメェが通ろうが通すまいが俺の知ったことか! それにふざけてんのはお前だ! お前、惰性が一番強いんだぞ!」
「そんなわけあるか!」
「ある! 理由のある好きなんてへなちょこの好きだ! ゴキボールだ! 優しいから好きとか、クールだから好きとか、努力家だから好きとか、困ってくれた時に助けてくれたからとか、逆に助けてあげたくなっちゃうからとか、性格がどうたらこうたら、そんなのカスなんだよ! ゴミだ、ゴミ!  理由がなくなったら好きじゃなくなるだろうがよっ! 『出会った頃と変わったから嫌い』とか言い出す程度の好きだろうがよっ! その点! 惰性は! ただなんとなくだから何があろうと消えねぇんだ! テレビでしか知らない芸能人をふわっと嫌いになったら、その後もずっと嫌いだろうが! そいつがどんなにすごいことして、どんなに評価されても、心ん中にあんのは『あいつなんかをアレして不幸になんねぇかな』って気持ちだけだろうよ! ほらな! なんとなくの方がずっと、ずっと、ずーっと強いだろうが! 惰性は無敵なんだ! なんとなくは重力に一番近い揺るぎなさなんだよ! 人がな、人を嫌いになるのなんか一瞬なんだよ! テメェがこの俺を一瞬で『偽者』にして、お前のテリトリーから外に弾き出したのも一瞬だったろう! ほんの一瞬、ほんのささいなことで、お前は俺を、世界を憎悪して、俺を拷問しただろうが! 俺を『本当にはいないんだから何してもいいや』って枠にぶち込んだだろうが! 今も、今もお前にとって俺はその枠ん中なんだろうよ! 極端なんだ、テメェは! 普通、幾らわりきったからって友達の目玉抉ったり、手足切り落としたり、目の前��家族殺したりしねぇよ!」
 死んで行った家族を思い出して、俺は耐えきれなくなり、大声で泣いた。
「このっ、クソ野郎っ、よくも、よくも、俺の家族をっ、テメェ、妹はな、関係なかったんだ! お母さんは俺の過去ができた時にもう死んでたさ! でも、妹は死んでなかったんだ! それを、お前、このバカ野郎、テメェが俺の手足を切り落としたせいで、巻き込まれて死んだんだ! よくそんなことができるよ!」
「俺はただそうすれば……」
「いい! 何も言うな! 何を聞いても怒り以外に何もわかねぇ! いい! 保留! 今の保留! 後回しだ!」
「俺は」
「保留だっつってんだろ!」
 林田は黙り、俺は荒く呼吸をする。頭がクラクラするし、目が霞む。貧血だろう。ふと視線を下げてみれば、俺の周りには血だまりができていて、それがほぼ乾きかけていた。人間はどれだけの血を失えば意識を失うんだったか。わかんねぇけど、もうだいぶ際どいとこまできているのはわかる。
「俺が言いたいのは……つまり、人間関係なんて1秒あれば壊れるんだ。今まで、俺とお前が一緒にいた間、ずっとその『1秒』は起きる可能性があったんだ。全ての『1秒』がそうなり得たんだ。惰性っていうのはその『1秒』を飲み込んできた『1秒』の連続なんだよ! 今となっては思い出せないような、すげぇどうでもいい、ほんっとうにどうでもいい1秒の重なりなんだ! わかるか! 思い出せないんだ! だからって、なかったことにはなってないだろ! 理由もなく、ただのふわっとした、弱い感情の重なりが、妥協とか、諦めとか、忌むべきものだと思われている、惰性が1番強いんだ! お前はどうかわかんねぇし、わかりたいとも思わねぇけど、俺はまだ惰性が続いてんだよ! そうだよ! 惰性のど真ん中だよ! テメェが憎い! テメェなんか死にゃぁいい! それでもまだ惰性が消えないんだ! ほら、強いんだよ、惰性はな! お前が、お前が俺を、世界をぶち壊しにしたのは、理由があるからなんだろう! お前なりの! 理由がある、きっかけがある『嫌い』なんだ! ちょろいぜ! テメェの『嫌い』は超ちょろいぜ! 理由がなくなりゃ、それで解決する程度の『嫌い』だからな! 俺にはもう、腕そのものがねぇよ。傷の位置がどうしたこうした以上の違いだろうが。俺は変わり続けるし、同時に少しも変わらないんだ。お前が俺を、俺だと認識してる限りは。お前が俺を俺だと思っている限りは。俺は俺なんだ」
 目の前が真っ白になる。体が後ろに傾くのを感じる。衝撃で、自分が仰向けに倒れたのだと知る。とても寒い。どうやらもう限界のようだ。 遠く上の方で流れる銀色の輝きを見つめながら、俺は話す。言いたいことを全部出し切った後の心をイメージする。それは星空ではなく、お茶を飲み干した後の湯のみの底だった。茶葉は十字架にも見えたし、仏の笑みにも見えた。俺が、それを見たいと望んだからだ。
「林田」
 俺は姿の見えない林田に話しかける。「俺んとこ(惰性)に戻れよ」 答えがあったのか、それともなかったのかはわからなかった。 意識はもう消えかけていて、全てが遠くに感じられた。
 林田が立ち上がり、どこかに向かって歩いていく足音が聞こえた。目を開けて、音がした方に顔を向けると、ピントのあっていない視界に林田のシルエットだけが見えた。こちらの背中を向けている。
 銀色の欠片達があいつの前に集まっていく。
 それはみるみるうちに林田よりふた回りくらい大きくなり、合体して1つの欠片になる。
 林田がなんと言ってそれを撫でたのかわからなかった。聞こえなかったから。
 欠片が光り、俺は笑う。
 欠片の中にあったのは夕暮れの坂道だった。自転車のベルの音が聞こえる。
 俺は笑う。どうか林田が、なるべく早く、俺を消してくれればいいと思った。
 それで、意識を失った。もう戻らなきゃいい。
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skf14 · 5 years ago
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10311615
「Hang down your head, Tom Dooley,Hang down your head, and cry.」

「Hang down your head, Tom Dooley,Poor boy, you're bound to die.」
「...にーに、」
舌足らずに呼びかける、無垢な声で意識が引き戻された。
「にーに...」
少しだけ開いた扉の隙間から、太陽に透ける焦茶色の髪と、潤んだ目が覗いていた。兄妹揃って白いが、さらに青白くすら見える妹の肌が、ろくに食べていないガリガリの身体を引き立てているように見えて、俺はベッドに横たわったまま、妹を直視することが出来ずに視線を天井へと戻した。どこでなにを間違えたのか、そもそも、俺が、誰が間違えたのか、答えは神のみぞ知る、のだろうか。
「どした。」
「おじさん、もう、かえったよ、」
「そっか、ありがとう。ちょっと待っててな。すぐ、飯つくるから、」
「にーに、さくら、おへや入ってもいい...?」
「...、いい子だから、リビングで...」
その時、ふと視界の端に写った、ドアから覗いた桜の細い手に、妹のお気に入りの、キティちゃんのタオルが握られているのが見えた。まだ幼い、俺よりも6つも下の可愛い妹は、大人でも顔を顰めるような悪事をなにも言わずとも空気で察し、その上で最大限の配慮を持って来てくれたらしい。断れない。重たい身体を起こして、扉に背を向け床に散らばった服をモタモタと身につける。どうせ洗うのは俺だ。ぐちゃぐちゃに乱したシーツで身体を拭い、丸めて床に放る。部屋にはむわっとした栗の花の匂いが充満していて、こんな部屋に妹を招き入れなければいけない自分に反吐が出る。手を伸ばし、窓を開けると、外の温かな空気が流れ込んできて、少しは息が出来る気がした。
「いいよ、おいで。」
「にぃに、」
桜は薄暗い部屋の中、よたよたとベッドへ近付いて、タオルを持った左手を差し出した。微かに、震えている。俺の目線が、タオルではない箇所に注がれていることに気付いたんだろう、一瞬表情を曇らせた桜は俺から隠すように右腕を背中に回した。
「......さくら。右腕、見せて。」
「だいじょうぶ、なんにもない。」
「さくら。」
「.........���んとに、だいじょぶなの、」
眉をぎゅっと寄せた桜のまんまるな目に膜が張って、じわりじわりと溢れていった涙が玉になって零れ落ちる。そっと腕を取り長袖のTシャツを捲ると、赤黒く熱を持った、丸い痕。桜は静かに、壊れた蛇口のようにただただ涙を溢していた。気味が悪い、年端もいかない子供が、こんな泣き方をさせられるなんて。
「誰が、やったの。にーにのお客さん?」
「ううん、ちがうの、おとうさん、さっき帰って来て、おさけ、飲んでて、さくら、おこられて、また、おとうさん出ていったの、」
「...分かった、気付かなくてごめん。おいで。」
桜を抱っこし、手に持っていた濡れタオルを自分の腕に当てさせて、俺は薄暗い部屋を後にした。
リビングにもうもうと立ち込める煙草の煙。まだ4歳の桜の肺は、とうに副流煙でもたらされたタールに侵されているんだろう。咳き込むことも無くなった。俺は冷凍庫にあった氷をビニール袋に包み、濡れタオルの上から当てて火傷痕を冷やすよう告げた。すん、と鼻を啜ってもう泣き止んだ桜は俺を見上げ、「ありがと、にーに。」と笑って、タオルに描かれたキティちゃんを見つめている。
リビングの箱には、父親が放り込んだぐちゃぐちゃのお札が数枚、入れられていた。今月の生活費、まだ16日もあるのに、もう、4千円程しかない。先程取った客の分、追加されるんだろうか。そうすれば少しは増えるのに。
痛みを感じることはやめた。通常、やめられないことではあったが、俺はやめた。桜の前ではせめて、お兄ちゃんをしていたかった。
もう時刻は夕方の4時を過ぎていた。朝から何も腹に入れていないであろう妹は、わがまま一つ言わず黙って客が帰るまで隠れていたらしい。
冷蔵庫を覗くと、粗末だが炒飯が作れそうなメンツが顔を揃えていた。具になりそうなものは、魚肉ソーセージと玉ねぎしかないが。キッチンの床に座り込む桜に、屈んで目線を合わせる。くるん、と俺を見上げる純粋な目。
「夕飯、炒飯でいいか?」
「さくら、にーにのちゃーはんすき。たべる!けど、チチチ、使う?」
「うん。向こうのお部屋で、待ってな。」
「うん。にーに、ありがとう。」
桜は、火が苦手だ。あの子の腕以外、背中や脚、服で隠れるところに、いくつも煙草の押し付けられた痕があった。熱いもの、赤い火、大きくても小さくても火を見るたびに、桜は怯え、静かに泣く。コンロのことがまだ覚えられないらしく、「チチチ」と呼んで、使う度に怖がっていた。
具材を準備しながら、フライパンを握る俺の手がカタカタと微かに震えていた。...馬鹿馬鹿しい。桜が心配していたのは、自分じゃなく、俺だ。
俺は、火が怖い。料理の度に喉元を掻きむしりたくなる衝動を抑えて、早く終われと、そればかり願っている。脳裏から離れないのは、あの日、煌々と燃え盛る、自分の家だった火の塊。
確か幼稚園の卒園を間近に控えていた日、突如として、俺の家は燃えた。呆然と立ち尽くす俺の横で、無表情の男、俺の父親は、消し炭になっていく家と、そして母親を見ていた。父親の手の中には己の大切にしていた時計のコレクションと、貯金通帳があった。母は2階で寝ていてそのまま火に巻かれ、翌日ようやく鎮火した家の中で炭になった姿を掘り起こされた。
俺の目には、あの言葉にし難い恐怖を与えた火が、焼き付いていた。美しい、強いなんて到底思えない、ただただ畏怖する存在。
流しに捨てられていた吸殻を捨て、食事の支度をしながら考える。
子供は親を選べない。
学校に行かせず、客を取らせ、気に入らないことがあれば手を出す。程よく金を与え、自由を与え、力で支配し気力を奪う。その上、他人からはそうは見えないよう、極めて常識人のように振る舞い、見える場所には決して痕をつけなかった。人を飼い殺すことに関しては類稀な才能がある、と、他人事のようにあの男を評価して、虚しくなってやめた。
家が燃えてすぐの頃、ボロアパートに引っ越した俺の前に、新しい身重の女が連れて来られた。髪の長い、幸薄そうな女は程なくして子供を出産し、そして子供を置いて、姿を消した。
帰った男の片腕に抱かれた赤ん坊を見たとき、ひどく不釣り合いだと思わず笑ってしまい、腹を立てた男に殴られたことを鮮明に覚えていた。
父は、その赤ん坊に名前をつけるのが面倒だと、俺に命名するよう言った。じんじんと熱を持つ頬を押さえ、さっさと決めろと怒鳴られた俺の視界に、ふと、窓の外の景色が映った。隣の雑居ビルだとか猥雑な看板だとかが見えるその中に、ひらり、現れた影。俺は窓を開け、外に立っていた大きな桜の木を見つけた。ばさり、ゆらり、風に吹かれて、彼は、彼女は、頭を揺らして花弁を振りまいて、呼吸が聞こえてくるような錯覚を覚えた。恐怖と、感動と、僅かばかりの哀しみと、俺は初めて見たわけでもない桜に怯え、同時に魅了された。気づいた時には口から「桜」と零していた。男は大して興味がなさそうに窓を閉め、俺に桜を渡して、また部屋を出て行った。
あの男は、桜が"女"になったらいい商品になる、と思って、捨てずに置いている、と言っていた。妥当だろう。あの男が思いつきそうなことだ。俺が、16になれば。働き口も見つかる。あの男からも逃げられる。それまで辛抱すれば、桜に、この世界がもっと美しくて、広いことを、教えられる。
「This time tomorrow,Reckon where I'll be.」

「Down in some lonesome valley,Hanging from a white oak tree.」
俺は買い物やらゴミ出しやらがあって、男の監視下で外に出ていたが、一度だけ、桜を連れて、男の許可なしに外へ連れて行ったことがある。茹だるような暑さが少しだけ鳴りを潜め、喧しい蝉が死滅しつつあった、夏の終わりだ。そう、俺の、15歳最後の日、桜が9歳の時だった。仕事で遅くまで帰らない、と言い残した父親、あっさり一発だけ抜いた後、内緒だと言って千円札を握らせた上客。俺は客が帰った後、また物置で眠っていた桜を揺り起こした。
「桜、どこか行きたいところないか?」
「うーん...あ、海行きたい。お兄ちゃんの持ってた、本に載ってたから。」
俺は桜を自転車の後ろに乗せ、くしゃくしゃの千円札をポケットに突っ込み、海を目指した。桜のポシェットの中には、俺の愛読書、三島由紀夫の「潮騒」が入っていた。生まれた記録がどこにもない子供だ。桜が学校に行かない代わりに、俺の見える世界の全てを、桜に教えた。日本語の危うさと淡い色彩を、桜の美しさを、海の青さを、全てを。桜は賢い子で、俺の言葉をスポンジのように吸収して、キラキラと目を輝かせ、あれこれ質問した。
「お兄ちゃん、空が広い!」
「あぁ。しっかり捕まってな。」
「気持ちいいね、お兄ちゃん!海、もうすぐ?」
「もうすぐだよ。」
自転車は残暑の蒸し暑い風を爽やかに変えながら、空気を切って下り坂を降りていく。俺の腰にしがみつく、太陽を知らない青白い細い腕。その日桜は、生まれて初めて、外に出た。
浜辺には人が見当たらなかった。もう彼岸が近いから、わざわざ海に近づくことなど誰もしないんだろう。桜はゴミの散らばる都会の砂浜に歓喜の声をあげ、ぼろぼろの靴を脱ぎ散らかし、砂浜を走り回っていた。
「お兄ちゃん!早く早く!」
「怪我するなよ、桜。」
どこかで拾った麦わら帽子を被った桜が、太陽の下でくるくると踊っている。自転車を止めた俺は遠目でその姿を見ながら、浜辺をうろうろと彷徨き、一つ、綺麗なシーグラスを見つけた。真っ青で丸みを帯びた、ただのガラスのかけら。退屈そうにワイドショーを見ていた海の家の親父に札を渡し、ブルーハワイのかき氷を1つ買った。
「桜、おいで。」
足の指の隙間に入った砂を気にしながら戻って来た桜に、青に染まったそのかき氷を見せると、元々大きい目をさらに大きく丸くして、俺の隣に座り、それをマジマジと見つめていた。思わず笑って、その小さな手に、発泡スチロールの容器を持たせてやる。
「食べていいの?」
「早く食べなきゃ溶けるぞ。」
「わっ、いただきます!!ん〜〜〜冷たい!甘くて、美味しい!」
「そか。よかった。」
サクサク、シャクシャク、夏の擬音語が聞こえる。首元を流れる汗も鬱陶しい蝉の鳴き声も、今日だけは何も気にならなかった。
「これ、やるよ。」
「何、これ。ガラス?」
「シーグラスっていって、波に揉まれて角が取れたガラス。綺麗だろ?」
「それなら、私も一つ拾ったの。見て、綺麗でしょ?交換しよう、お兄ちゃん。」
「うん。」
桜の拾った半透明のシーグラスを受け取り、いつか、このガラスでアクセサリーでも作ってやろう、と、ポケットへそれを捻じ込んだ。照りつける太陽が頭皮をじりじりと焼く。かき氷を食べ終えた桜と俺は、ただ黙って目の前に広がる青黒い海を見ていた。
「お兄ちゃん、私がどうして海がすきか、知ってる?」
「潮騒、気に入ったからじゃないのか。」
「それもあるけど、私、青色がすきなの。」
「青?」
「そう。海の青、空の青、どこかの大きな宝石、学校の大きなプール、一面の氷、色んな青がある、って、お兄ちゃんが教えてくれた。」
「...そうだな。」
「お兄ちゃん、私、お兄ちゃんがいたら、大丈夫な気がするの。」
「あぁ、大丈夫だ。桜は、俺が守る。」
「さすがお兄ちゃん。」
「...たまにはにーに、って呼んでもいいんだぞ。」
「バカ。もう私、大きくなったもん。ねぇ、お兄ちゃん。世界って、広いね。」
桜の横顔は、とても狭い世界に閉じ込められ続けたとは思えない、卑屈さも諦めも浮かばない、晴々とした表情だった。
「あ、お兄ちゃん、見て!」
ふと、太平洋に沈もうとする太陽の方を指差して、桜が笑顔を浮かべた。
「空が、私と、お兄ちゃんの色になってる。」
指差した空には淡く美しい桜色と、そして、寂しさを湛えた葵色が、広がっていた。
桜は、俺が世界を教えた、というが、終わりだと思った世界から俺を助け出してくれたのは、桜だ。眩しくて、夕陽をありのまま映し出す瞳が、言葉にならない。ごめん、と、ありがとう、と、愛してる、と、色々が混ざり合って、せめてみっともなく嗚咽を漏らさないように、となけなしの見栄で唇を噛み締める。
「お兄ちゃん、そろそろ、戻ろう?」
「......あぁ。もうすぐ、全部終わるからな。」
「うん。お兄ちゃん、だいすきだよ。」
その夜、いやに上機嫌な父親が帰宅して、持ち帰った土産の寿司を3人で食べた。ビールを飲み、テレビを見て大笑いする父親は、俺にも桜にも珍しく手を出さなかった。風呂に入った桜が、日焼けした。と顔を押さえてぶすくれていたのが可愛らしかった。
「お兄ちゃん、眠いの?」
「ん...あぁ、先、寝てな。」
「今日、ありがとね。私、お兄ちゃんの妹で、良かった。忘れないよ。」
俺は気が緩んでいたんだろうか、飯の後ベッドに戻る前に力尽き、床に横たわ���たまま眠りについた。
痛みと、嫌に焦げ臭い匂いで目が覚めた。眠った時のまま、床の上で目覚めた俺を蹴飛ばした男が、舌打ちをこぼす。
「起きろ。あと1時間で客が来る。」
「...はい。桜は、」
「消えた。逃げたんだろ、俺が起きた時にはいなかった。」
「消えた、って、そんなはずは、」
「...あぁ、そうだ、今日の客は上客だがちょっと特殊でなぁ。歯ァ食い縛れ。」
「え、」
言葉を挟む間もなく、男の手に握られたビール瓶で頭を殴打され、先程まで寝ていた床に逆戻りする。俺に馬乗りになった男が指輪を嵌めた手を握りしめ、笑う。
「傷モンを手込めにしたい、と。声出すなよ。」
意識の朦朧とする中で、俺に跨った客がもたもたと腰を振り、快楽を得ていた。頭も、腕も、どこもかしこも痛む。左肩の関節は外された。でっぷり太った身体が俺を押し潰して、垂れる汗や涎が身体に掛かる。豚の鳴き声に似た声を上げた客が、俺の顔に精液をかけ、満足そうな顔をしてにちゃり、唇を舐めた。
半日近く拘束され、太陽は沈みかけていた。軋む身体を起こした俺は体液を拭う時間すら惜しかった。桜を、探さなければ。男にどこかに連れて行かれたのかもしれない、本当に嫌気がさして、どこかで一人彷徨っているかもしれない。「明日は誕生日のお祝いするから、晩御飯、お兄ちゃんは何もしないでね!」と海で笑っていた桜を思い出し、俺はスニーカーを履いて外へ出た。
そして足の向かった先を見て、俺は、諦めにも似た絶望を感じていた。漂っていた違和感を拾うことを、人間は辞められないのだろうか。
男の所有する山の一角が、黒く焼け焦げていた。男が、都合の悪いものを燃やしたり捨てたりする場所だと、ゴミ捨てをさせられる俺は知っていた。何もない更地に、灰が少し残っており、土だけが真っ黒に変わっていた。安心した俺の目にきらりと光るものが映る。吐き気を堪えながら灰の中から拾ったそれは、昨日海で見つけた、真っ青なシーグラスだった。
自宅に戻ると、まだ男は帰っていなかった。俺はふらふらと、桜がよくこもっていた物置に入った。心がズタズタに、ぐちゃぐちゃに引き裂かれて、言葉が何も紡げない。手の中には、シーグラスが二つ、淡い色が肩を並べて寄り添っていた。
物置に入ってすぐ、玄関の方から乱暴な足音と、話し声が聞こえてきた。男が、電話で誰かと話しているらしかった。
『.........って、仕方ねぇだろ。』
『なかなか生理も来ねえから、俺が折角女にしてやろうと思ったのに、抵抗しやがって。挙げ句の果てに、「お兄ちゃんに酷いことしないって約束して、」なんて、生意気なこと言いやがる。元々そのお兄ちゃんも、お前をダシにして仕事させてたのによ。ハハハ。あのメスガキ、俺をアイスピックで脅しやがったんだ。笑えるだろ?』
『はっ、大変じゃねえよ。二人殺るのも三人殺るのも、同じだっつーの。あー、暫くは葵に稼がせるしかねぇな、だから女は嫌いなんだよ、バカだから。』
俺はその夜、男を殺した。
丁度10歳の女の子を攫って燃やした時、炎に包まれ、ギギギと軋みながら仰反る死体を見ながら、桜も、こんな風に燃えたのだろうか、と思った。お気に入りのポシェットも、キティちゃんのタオルも、桜色のTシャツも、こんな風に、無惨に炭と化したのだろうか。
「This time tomorrow,Reckon where I'll be,」
「Had't na been for Grayson,I'd have been in Tennessee.」
今日の子は、16歳。あの日の俺と同じ歳の、女の子だった。燃えて独特の匂いを振り撒く子供を見つめながら、俺はその火で子供の身分証やら手袋やらを燃やし、これで32人、桜の友達を向こうに作ってあげられたことに気が付いた。知らぬ間に、火が怖く無くなっていた。学校を知らない桜はよく、「一年生になったら」を歌っていた。もう、通常ならとうに1年生になっている年齢だったのに。舌足らずで甘い、キャラメルのような声が今も脳裏に蘇る。にいに、お兄ちゃん、そう呼ぶ声は、何度だって再生出来る。
「妹はこんなこと、望んでない?」
桜の望みは、変わらず俺と、生きたい。それだけだった。もう望みは叶わない。望むことすら出来ない状況で、何を否定出来る?
「不毛だって?」
あの日、冷蔵庫の中には、俺の好きなオムライスの具材が入っていた。あの男に頼んだのか、隠していたお小遣いで買ったのか、分からない。が、普通に手に入れたわけではないはずだった。火の苦手な桜が、オムライスを作ろうとしてくれていた。それに応えられなかった。今更不毛などと、考えること自体が不毛だ。
「あと、67人。」
一年生になったら、一年生になったら、友達100人出来るかな。
「桜、最後は、お兄ちゃんがいくからな。」
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