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壊れた眼鏡
[ 400字小説 / 10 ] お題:書く習慣、とりとめもない話
眼鏡が壊れた。右の柄の部分がバキッといった。眼鏡がないと生活できないわたしは、とりあえずセロハンテープを巻いて応急処置したのだけれど、案外、誰もそれに気がついていないようだ。 忙しさから美容室に行けず、伸ばしっぱなしの髪も幸いしたのかも知れない。ただ、支柱が定まらず、なんとも心許なくて、わたしは仕事帰りに行きつけの眼鏡屋に寄った。
「いやー、見事に折りましたね。真っ二つに」 いつものお兄さん店員はそう言って笑い、 「今日はどうしました?」 まるで病院の診察のように聞いて来る。 「踏みました。おしりで。机に置いたはずなのに何故か椅子の上に落ちてて」 新しい眼鏡を勧めるでもなく、彼は笑いながらお直ししますねと奥に引っ込んで行く。初めての給料で買った眼鏡。散々悩んで買ったことを覚えてくれているようでとても嬉しいのだけれど。
本当は新しいのが欲しいだなんて言ったら、彼はどんな顔をするのだろう。
2022/12/18
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くしゃみの原因
[ 400字小説 / 09 ] お題:書く習慣、風邪
「ふぇくしゅっ」 起き抜けにくしゃみをひとつ。隣り��眠る恋人が身じろいで、慌てて口を塞いだ。犯人は分かっている。足元で丸まって眠っている真っ白でフサフサな毛並みの子猫、クロだ。先��の黒猫のクロが亡くなった日に拾ったからこの名前をつけたが、名前に似つかないとても綺麗な美猫だったりする。
隣りで眠る恋人とクロを起こさないように、そっと布団から出る。足元に散らかった下着や部屋着を拾い集め、裸のままで洗濯機へと向かった。 「ふぇくしゅん!」 そこでまた大きなくしゃみをひとつ。ぶるりと身震いしながら、そう言えば今日は冷え込むなあ、なんて思ったりして。またくしゃみが出そうになり、そろそろ起きて来る恋人に聞かれてもいいように、 「へっくちっ」 極力小さく可愛くおさめた。着衣に付着したクロの毛を取り除くのに夢中になっていたわたしは、くしゃみの原因が彼女の毛並みじゃなく、風邪のせいだと気づかずにいた。
2022/12/17
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君がいない
[ 400字小説 / 08 ] お題:書く習慣、イルミネーション
仕事からの帰り道、少し遠回りして電飾屋に寄った。悪い癖が出て何時間か悩んでしまったが、足りない分はこれでなんとかなるだろう。 「ただいま」 その声に返事はない。玄関で靴を脱ぎ、揃えていたところで飼い猫のルルが擦り寄って来た。 「起きてたのか」 頭を撫でてやろうとしたらかわされた。気まぐれだとの通説の通りルルは容赦ない。 「さてと」 部屋着に着替える前にリビングに向かい、昨日、届いた電飾を確認していく。どうやらこれで足りそうだ。ただ、自分ひとりで飾れるのかどうか、少しばかり不安が残るのだけれど。
君がいないクリスマス。いかに君に頼りっぱなしだったか痛感する。ひとり息子の聖夜は年末ま��帰って来ないが、君がいないからといって、君が楽しみにしていた毎年恒例のハウスイルミネーションを絶やすわけにはいかない。 「さて。どうしたもんか」 何個もの段ボール箱に詰められた電飾を庭に運び、思わず独りごちた。
2022/10/15
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朝起きたらペットが美少女になっていたんだが
[ 400字小説 / 07 ] お題:書く習慣、愛を注いで どうしてこうなった。 「おい、ちょっと待て「待たない」 間髪入れずそう言ったポチが俺の上に乗っかって来る。ってか、ポチは真っ白な毛並みの子犬だったはずなのに、朝起きたら絶世の美女の姿になっていた。
「あーたん、わたしとするの、いや?」 舌っ足らずのその言い方は、聞き覚えがある。一週間前に別れたばかりの俺の恋人の口調だ。 ちなみにあーたんとは俺のことね。そう言えば家でする時は、ポチの前でする時もあった。と言うかあれだ。R指定なあれで申し訳ない。
どうやら愛の注ぎ方を間違ってしまったらしく、ペットらしからぬ言動で迫り来るポチ。甘えたような口調から首を傾げるあざとポーズまで元カノのそれで、俺は思わずポチから顔を背けた。 その顔で「子作りしよ?」だなんて言わないで欲しい。それってまんま元カノの口癖じゃん。
ってか、ポチってオスのはずなのに、なんでおっぱいついてんだ?
2022/10/14
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犬猫論争
[ 400字小説 / 06 ] お題:今日は何の日、わんにゃんの日
いつもくだらない話で盛り上がっていた友達と犬派と猫派で言い争いになったことがある。犬派の友達は忠実で天然おバカなところが堪らなく可愛いと言い、猫派の私は気まぐれなのに意外に寂しがり屋で気にしいなところが堪らなく愛しいと言い、一髪即発であわや喧嘩になるところだった。 「犬は呼んだら来てくれるし可愛げがあるよね」 「猫は呼んでも来ないけど、そこがいいんじゃない」 そう言うと友達は私のことをMだと言ったが、どちらかと言えば、寂しくて犬を飼い始めた甘えん坊の友達のほうがMだと思うのだけれど。私の場合は子供の頃は犬を飼っていたのだけれど、一人暮らしを始めてから猫を飼い始めた。手が掛かるようで意外に掛からない猫の魅力に取り憑かれてから、猫しか愛せなくなってしまった。
そんな私に友達は言う。 「まあ、どっちも飼ってみたらどちらも堪らなく可愛いんだけどね」 それに関しては同感だけど、私はやっぱり猫が好き。
2022/10/12
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フォークソングは聴こえない
[ 400字小説 / 05 ]
お題:今日は何の日、銭湯の日
カランコロンと下駄が鳴る。なんて言えば風流に聞こえるけど、隣から聞こえて来る音は、ペタンペタンとサンダルが立てる、ある意味耳障りな音だ。 「その歩き方やめてよ」 そう言ってみたけど旦那は何食わぬ顔で、ふわぁと大きな欠伸をひとつして、ポリポリと最近出てきたお腹を掻いた。
今日、調子が悪かったお風呂がとうとう壊れた。湯船に水を張り、沸かしたはずなのに張った水はお湯にはならず。お風呂が教えてくれた『お湯が沸きました』を信じた旦那の「冷たっ」という悲鳴がリビングのほうまで響き渡った。
ということで、私たちは今、近所の銭湯へ向かっている。銭湯といってもスーパー銭湯というやつで、地元のこじんまりした情緒なんてものはない。カランコロンと下駄の音もしなければ、手荷物も何も持たず手ぶらというやつだ。
結婚して三年。昭和のフォークソングのような同棲生活を送ることはなかったが、私たちは今も当たり前に一緒にいる。
2022/10/10
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異世界トリップ
[ 140字小説 / 04 ]
バイトからの帰り道。一匹の子猫に遭遇した。まだ目も開いていないような小さな子猫。周りを見渡しても親猫の姿は見えない。 「ちょ!」 その時、一匹のカラスが子猫に襲いかかった。弱った子猫を掴んで飛び上がろうとする。カラスが道路の真ん中まで子猫を引きずって行ったところで、俺は道路に飛び出してカラスを追い払った。
カラスを追い払うのに成功し、慌てて子猫に近づいたその時、大きなトラックが目の前に。思わず目をキツく閉じたが、思ったような衝撃は襲って来ない。恐る恐る目を開けたら、俺は見知らぬ川のほとりにいた。 「マジかよ……」 どうやら異世界に転移してしまったらしい。その川は仄暗く、対岸では先週亡くなったはずの親友が手を振っている。
異世界は異世界でも冥土に来てしまったようだ。ということは、異世界転移だけじゃなく、転生も経験できるのだろうか。ただ、子猫も一緒だったことに俺は少しだけ胸を痛めた。
2022/10/09
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140字小説
[ 400字小説 / 03 ]
ツイッターアプリを開いて、 「恋愛かあ」 そう呟いた。単語アプリでラン���ムに表示されたワードで140字小説を書く。そう決めた一発目がこれだった。一発目と決めたからには変更はできない。 もう何年も恋愛から遠ざかっている私は頭を抱える。その時、隣で『ブッ』と旦那が屁をこく音がした。
「これでよし。送信、と」 メモアプリで創作した140字小説をツイッターアプリにコピペして、送信ボタンをタップする。これで私が書いた小説が全世界に向けて発信された。 たかがワンツイートだと言う勿れ。140字でも立派な小説だ。次はこれをどうやって400字のショートショートにまとめるかで、私は頭を抱えた。
「うーん、これじゃまだ短いな」 どうせなら140字小説と同じように、制限文字数ギリギリまで使いたい。それに、胸を張って小説として公開できるようなちゃんとした文章にしたい。 そうこうしているうちに上限になり文字数
2022/10/09
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『登山の日だから』
[ 400字小説 / 02 ]
お題:今日は何の日、登山の日
『そこに山があるから登るんだ』 そんな名言を遺したひとを私は知らない。車で登るドライブとは違い、歩き登山は遠足でしかしたことがない私にとって、歩いて登ることは未知の世界だ。
苦労して登った山頂からの景色は最高らしいが、それが初日の出だったりしたら、もう夢物語でしかなくて。そんな私にとって山とは山そのものを眺めたり、山の景色を楽しむものであって、決して山頂から眼下の景色を楽しむものじゃない。だから、 「山に登ろう」 恋人にそう言われた時は、一瞬、何を言われたのか分からなかった。
「ドライブじゃなくて?」 思わずそう聞いてしまったけど、仕方がないと思う。 「そうじゃなくて登山ってやつ」 そう言われてピンと来た。真の登山好きなら『やつ』なんて付けない。またいつもの思い付きに違いない。 「なんでしたいか聞いていい?」 そう聞いてみたら思った通りで。単純でとても可愛いひとを私はよく知っている。
2022/10/03
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ひとの記憶に残る死に方
[ 400字小説 / 01 ]
お題:今日は何の日、豆腐の日
とある男が自殺しようとまで思い詰め、ついに遂行することにした。この男、承認欲求が強く、死んだ後も記憶に残る死に方をしようと考えている。
だとしたら、飛び降り自殺は却下だ。あまりにも有り触れていて知人の記憶にも残りそうもない。 入水自殺はどうか。海まで流れてしまうとそのまま行方不明になり、人の記憶に残るどころではない。一番手堅いものは駅から走行中の列車に飛び込むことだが、これは遺して行く家族を思うと忍びない。 そこで、男は今まで誰もしたことがない死に方を模索することにした。
つけっぱなしのテレビから『今日は何の日』と、耳慣れたフレーズが聞こえる。どうやら今日は豆腐の日らしい。 そうだ。豆腐の角に頭をぶつけて死ぬのはどうか。これで死んだ人間はいないのだし、この方法で死ねば間違いなく人々の記憶に残る。
そして男は地面に置いた豆腐を目掛け、マンションの屋上から飛び降りた。
2022/10/02
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こちらは上限400字のショートショート投稿サイト『ショートショートガーデン』に投稿している小説をまとめたアカウントです。本垢は上記の(@no3ito)です。
何故か本家のショートショートガーデンのURLリンクが機能しないので、創作系SNSくるっぷのURLリンクを貼り付けておきますね。
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