「優しいスピッツ」鑑賞記録
きり 2023/06/06
※これから見る予定の方はネタバレ満載なのでお気をつけください
※MCは他の人のレビューを読みつつ、うろ覚えなので、発言したメンバーの名前や中身など、正確ではないです。あしからず…
2022年1月にWOWOWで放送・配信されたオリジナルライヴ番組、『優しいスピッツ a secret session in Obihiro』。これにアフタートークなどが加わって映画になったということで、早速観に行ってきました!
ちなみにスピッツを映画館で観るのは、2015年に公開された『スピッツ 横浜サンセット2013 -劇場版-』以来、2度目。(余談:2013年の野外ライブ、横浜サンセットに参戦したことは、私の人生で数少ない自慢話の一つなのです…)
それはともかく、WOWOWやスペースシャワーTVなどの有料チャンネルに入っていない身としては、こうやって映画館でやってくれるのが嬉しい限り。ということで、例によって超長文でお送りします。
1.つぐみ
この場所(重要文化財の旧双葉幼稚園園舎)で響く音ってどんな感じなんだろう〜、ドルビーシネマってどんな風に聴こえるんだろう〜、とワクワクしながら、一曲目。
思ったより、普通のライブと同じように聴こえる!建物独特のこもってる感は無く、草野さんの歌声もいつも通り最高。ベースとドラムがいつもより大きく聴こえる気がする。ドルビーシネマ、低音がすごく響きます!ただ、もっとシアターの左右前後から別々に音が出て空間的に包まれる感じなのかなと思ってたけど、そこまでではありませんでした。
MC
草野さん「本番の方が、﨑ちゃんのドラムが大きい気がする」
﨑ちゃん (無言で「そうなのか〜」という表情)
三輪さん「気合い入ってるから!本番だから気合い入っちゃってるのよ」
みんな、微笑む。
なんていうか、音のバランスを確認するためには、本番で出るであろう最大レベルの音をリハでも出しておくべきなんだろうけど、プロでも本番でもう1段階大きい音を出しちゃったりするんだな〜。ほっこり。
田村さんがアンプの横に置いてあるペットボトル?ビン?の飲み物を飲んで、その蓋を落とす。落とした音が「カラーン」と響く。誰も突っ込まないけど、﨑ちゃんがそれを見て笑う姿がカメラに抜かれる。良い。
2.冷たい頬
三輪さんのアルペジオが沁みる。
このライブのセトリもコンセプトも何も知らずに観に行ったので、「優しいあの子」がタイトルになってるくらいだし、最近の曲を中心にやるんだろうな〜と予想していたけど、2曲目でフェイクファーの曲。今日は優しい曲が続く感じなのかしら。
MC
一曲終わると、すぐにローディーさんが楽器を入れ替える。そのスピードがめっちゃ早い。音が完全に無くなった0.2秒後には次の曲の準備に入ってる。ライブだとステージまで遠いし、転換の時は暗くなったりするから、こういうシーンを見れるのは結構貴重だなと思った。本人たちはあんまり余韻に浸ったりしないんだなあ。
でも、楽器を持ち��えてから次の曲を演奏するまでが長いのだ。一曲ずつMC(というより、今やった曲の感想と、次の曲のことを4人で喋るという感じ)が入る。
田村さんが、フードが嵩張るタイプのベストを着ているせいで、楽器を持ち変える時にストラップがフードに引っかかってグイってなってる。ローディーの人がそれを外してあげている。愛おしい。
田村さん「次の曲って久々?」
草野さん「ライヴではやってないね。10年以上…20年以上」
何やってくれるんだ!ドキドキ…
3.ハヤテ
イントロで感涙…。
ハヤテのイントロを聴くと、一瞬で「インディゴ地平線」のジャケ写が頭に浮かんで、インディゴ地平線をよく聴いてた頃のことを思い出し、ふわふわした気持ちになる。そっか、ハヤテってライブでそんなにやってないんだなあ。この曲のコードってなんか涙を呼ぶコードだ思うのは私だけでしょうか。
4.今
うわ〜〜〜〜〜!!!!
ハヤブサの曲もやってくれるのね!!!!
なんとなく、優しいゆっくりめな曲を中心にやるのかな〜という予想を裏切る疾走感たっぷりな選曲!!三輪さんのギターがカッコ良すぎるよぉ。三輪さん、スライドバーみたいな道具を使ってる。でもスライドバーじゃない。あれは何なんだ…?誰か教えて…。で、その謎の道具が右手前にある専用の台に置いてあって、使う度に手に取るからその間ピックを口で挟むんだけど、それがねえ、色っぽいよねえ。笑
確かこの曲はみんなでコーラスしてた。田村さんが「う〜」の口をしてマイクに近づいてる姿が可愛い。コーラスするといつもみたいに踊れないから、ちょっとベースの弾き方が不自然になるのも良い。
MC
草野さん「『今』も、久しぶり。つか今日、久しぶりな曲多いな」
三輪さん「久しぶりな曲な上に、寒いからね。ブラウン管…ブラウン管じゃないんだよね、今は。」
三輪さんは多分、寒いと指が動かない→その寒さが画面越しには伝わらないよね、と言いたくて、言い切る前に「ブラウン管越しって今は言わないよね」っていう話をしたかったんだと思う。だけど4人だけのノリで話しているからお客さんにちゃんと伝わらないのが面白い。
そして草野さんの、ふいに出る口の悪さ(「つか」「多いな」)にときめきpart1。
草野さん「ブラウン管越しって、若い子分かるのかな?」
三輪さん「分かんないよね」
田村さん「チャンネルは?“チャンネルはそのままで”は分かるか」
草野さん「チャンネルを回すっていうのは伝わらないよね」
田村さん、毎回フードが引っかかってて見逃せない。
5.Holiday
ハヤブサの曲が続くなんて!
クージーのコーラスが良いなあ。クージーが被っているニット帽、後ろに狐?の絵が描かれていて可愛い。で、クージーの手元が頻繁に映るんだけど、キーボードの上に直に楽譜が置いてあって。それが、B5のリングノート。今時、iPadとかじゃなくて手書きの楽譜(サイズ的に楽譜というより自分用のメモなのかな)を使っていることに、ときめきpart2。ぼやっとしか見えなかったけど、色を使い分けていてマメな感じ。クージー、学生の頃はノートをやけに綺麗にまとめていたタイプと予想。
カメラワークがころころ変わるんだけど、Holidayの時は控え室みたいな所から覗くように映し出されていて、それが歌詞とマッチしていて良いなと思った。私の中で、Holidayは誰かに対する気持ちを、コミュニケーションを取るわけではなく、一方的に吐き出しているような詩だと思っていて、その一方通行な感じが画角に表れている気がした。
MC
草野さん「次の曲も風景がここ(北海道)というか…まあドラマは長野だったけどね」
田村さん「それ言っちゃったら(何の曲か分かるじゃん)笑」
三輪さん「次の曲も、何十年もやってないね」
草野さん「実は影武者が演奏してるから。…テツヤ目瞑っても弾けるんじゃない?」
田村さん笑う。
三輪さん 「目瞑っては…(自分のギターに目を落とす)弾ける。弾けるよ」
草野さん「目瞑っては弾けないんじゃない?」
田村さん「テツヤ分かんないもん」(サングラスをかけているから本当に瞑っているのか分からないという意)
6.空も飛べるはず
田村さんのベースが原曲よりだいぶ歪んでる笑 すごいゴリゴリ笑 ちょっとそこまでいくとやりすぎじゃ…と笑ってしまった。もう「空も飛べるはず」を普通に弾くんじゃ物足りないのかな〜、なんて余計な邪推。
間奏の三輪さんのアーム使いに痺れる。前にミスチルのライブ日記でも書いたけど、私はアームが好きなのだ。ギタリストがあの細い棒を一生懸命引っ張ってる姿になんかグッとくる。
MC
草野さん「テツヤ、目瞑ってた?笑」
三輪さん「俺ずーっと瞑ってたよ。」
一同笑う。
三輪さん「今、鼻の頭冷たいね」
草野さん「(自分の鼻の頭を触って)本当だ、ワンコだ笑」
わ、ワンコ…(ときめきpart3)
確かに犬の鼻って湿ってて冷たいよね。
三輪さん「(真剣な顔で)大丈夫?赤くなってない?」
(誰も返さない)
これ最初よくわからなかったんだけど、三輪さんは「自分の鼻が赤くなってたら恥ずかしい」っていう意味で言ったんだよね。で、誰も返さないという笑
田村さん「こうやって一曲ずつ(間にMCを挟む)だと、ゆるいね」
草野さん「ね。でもなんか昔こういう形でやろうとしたことが…やったことがあった気がする」
田村さん「そうだっけ?」
草野さん「アマチュアの時かな?」
三輪さん 頷く
草野さん「でもなんか微妙な感じになってやめたんだよね」
普段のライブだと曲と曲の間がほとんどなくて、何曲か繋げてやったらMCで休憩、の繰り返し。無観客だからこその、この形式は、個人的にすごく良いなと思った。普段の形式も曲の流れに物語性があったり、繋ぎ方で興奮出来たりという良さがあるけど、前の曲の余韻に浸る時間は無かったり。「優しいスピッツ」では、毎曲メンバーの所感が聴けて嬉しい。ちきゅう通信にも入れてるけど、「所感」って良いよな。
7.漣
ここでまさかの漣。クージーがフルートを吹く。
クージー、何でも出来るんだなあ。フルートも、仰々しく無く、曲を邪魔せず心地よい。本当、クージーにはずっとスピッツのサポートをしてもらいたい。フルートは10代の頃に習っていたので、クージーを凝視してしまった。フルートのパートが終わると、すぐにキーボードへ。クージー大忙し。漣って弦楽器のパートが壮大だけど、バックバンドがいなくても、クージーのキーボードだけで全然違和感がない。これって、簡単そうに見えてすごく複雑な準備をしているんだろうなあと思う。…良いなあ。私も余力があったらキーボードを勉強して、色んな音の仕組みを理解してバンドで弾いてみたい。でも、ちきゅうではベースを弾くからキーボードは弾けないし…そもそも練習する意欲が無いし…という情けなさ。
そして三輪さんのギターソロ……もう、陶酔しながら弾いている感じがたまらなかった。三輪さんと言えば金字塔はアルペジオだけど、漣みたいなギターソロももんのすごくカッコよくて。はあ。
MC
次の曲が「優しいあの子」だったので、ここで草野さんが本題に言及。「今回、帯広に来られて本当に良かった。」という話をしていた。
MIKKEツアーでは帯広公演が延期になり(このライブの時点では延期だったけど、後に中止になったことが映画後半のアフタートークで言及されます。)、すごく残念だったこと。帯広で歌うのを楽しみにしていたこと。でもこういう機会をいただけて嬉しい、ということを話していた。
草野さん「ドラマ主題歌の話をいただいて、取材と称して十勝・帯広に来て…まあ旅行なんだけど。笑」
田村さん「その時は曲は出来る前?」
草野さん「うん、出来る前。でも車で走りながら、だいたい曲が降りてきて。自分の中で出来上がってきて。そういうインスピレーションを与えてもらった土地だから。」
みんな、そうなんだ〜という表情。
草野さん「ここは古い建物で…100年以上前だっけ?」
田村さん「来年で100年だってね」
草野さん「そっか。」
三輪さん「100年も前に建てられて、こんな(立派な)感じってすごいよね。」
草野さん「こういう…“音響のことをあんまり考えて作られているわけではない場所”で演奏をすることって無いじゃない?音のまわり方が違うことに、最初は違和感を感じたけど、それが楽しくなってきた」
三輪さん「そうだねえ。」
音響を考えて作られたホールは、もちろん素晴らしく聴こえるけど、敢えてそうじゃない場所で演奏することで新鮮な感覚があったんだろうな。
三輪さん「今日はご本人は登場しないのかな笑」
草野さん「ご本人って?笑 俺たち以外にご本人っているの?笑笑」
三輪さん「あのブランコ(園庭を指して)に草刈正雄さんが…笑 柴田牧場の皆さんが…笑」
2022年の夏にらっちゃんと行った、スピッツがゲストで出たフラカンのライブでも、三輪さんが「柴田牧場の〜」という話をしていたのを思い出す。あの時はツナギの衣装に対してそう言っていた。三輪さん、なつぞら大好きなんだな〜。笑
8.優しいあの子
満を持して、このライブのタイトルにもなっている「優しいあの子」を演奏。
やっぱり演奏にも一番力がこもっている気がした。ずっと帯広で演奏したかったんだろうなあ。
9.夕焼け
ここでMCを挟まず、流れるように「夕焼け」へ。
私は大感激。
夕焼けは特に好きな曲の一つだけど、ライブで聴いたことは無い。昔ファンクラブ限定のイベントでファン投票によって選ばれて演奏されたという話を知って、すごく羨ましかったのだ。
さらに感動したのが、ちょうど夕暮れの時間帯になっていたこと。イントロを聴きながら、あっ、“夕焼け”だ!→ 外からの日差しが綺麗だなあ。日が暮れてきたんだなあ。→ あっ、まさに「夕焼け」じゃん!!!という最高の流れで気付く。このロケーションの良さを改めて痛感した。
アフタートークでは、監督が「外からの自然光と、中でもこちらで計算して照明を調節していました」と言っていたので、自然の光だけでは無いのだろう。それでも、自然と人工の光のバランスが絶妙だった。言われなかったら中の照明は分からなかったなあ。
田村さんの運指をよく見ていたら、ダブルフィンガーをしているではないですか!最近、ちきゅうでフラカンの「深夜高速」をコピーしようと話になって、私がダブルフィンガー奏法出来ないからと違う曲にしてもらったのでした。正直、深夜高速のためだけに習得する意欲は起きなかった(ごめんなさい)のだけど、夕焼けを弾くためなら…頑張れるかもしれない。確かに音源でベースの和音が鳴っているもんなあ。そこもこの曲の好きなポイントだったし、いつか挑戦しよう。
サビの草野さん、めちゃくちゃ気持ちよさそうに歌っている。高い音で目を瞑る癖が愛おしい。
「君のそばにいたい このままずっと 願うのはそれだけ 難しいかな」
と歌う草野さんのアップを見つめていたら、すごく久しぶりに「恋がしたいなあ…」という気持ちが湧き起こってきたので、スピッツは凄い。凄いよ…。
ラスサビ前のピアノの時、クージーの音だけになる。もちろんイヤモニを付けているんだろうけど、全くリズムが狂わない。クージーすごいよ😭いつものライブのモニターより圧倒的にクージーが映るので、今日はクージーのすごいところをたくさん知ることが出来た。そう、この映画、結構5人平等にアップのシーンが入っていて良い。
10.雪風
確かここもMCが無かった。
私の中でなんとなく雪風はコンパクトな歌という印象があったから、そっか、北海道がピッタリ合う曲なんだよな〜、そう思うと案外スケールの大きいイメージなのかな、としみじみ。
MC
草野さんが「雪風はね、北海道だからやりたかったの。」というようなことを言っていた。
ここで、ギターを持ち替えた三輪さんが音を出して確認するんだけど、普通に曲のフレーズが分かるくらい練習をし始めて。笑
たぶん多くの観客が「あれ…?」って思ったところで、
すかさず田村さん「テツヤめっちゃ練習してるじゃん笑 (次の曲が)分かっちゃうよ!」
テツヤ「あっそうか!やべぇやべぇ。」
一同、笑う。
大好物、ですね!
11.大好物
シングルで発売されたのはこのライブの頃だったけど、「ひみつスタジオ」の一曲として今が一番聴いている時期なので、なんだかひみスタのツアーに参戦しているような感覚になって面白かった!
クージーのキーボード大活躍。こうやってじっくり見ると、ベースが忙しい曲だな。
MC
草野さん「これは新曲で…レコーディングとか以外で人前でやるのは初めてだよね。」
田村さん「そうだね。」
三輪さん「だから練習しないと笑 ��も、こうやって人前でやってみても、しっくりくるね。意外とこれもそうだけど、『夜を駆ける』とかも弾きやすいよね」
みんな「・・・(しばし沈黙)」
田村さん「『夜を駆ける』?笑」
草野さん「『紫の夜を越えて』?」
崎山さん 笑う
三輪さん「えっ俺今なんて言った?」
草野さん「『夜を駆ける』って笑 まあ『夜に駆ける』って言わなかっただけ偉いか(と言って上を見ながら頷く。)」
おそらく多くのファンが感じていたであろう「『紫の夜を越えて』って『夜を駆ける』と親和性あるよな〜」という感覚がメンバーにも共通していると知り、ちょっと嬉しくなる。
12.未来コオロギ
ここで小さな生き物から一曲。スクリーンの両端に黒い帯が出てきて、画面が小さくなる。小さな生き物っぽく見えるように?かな?
MC
草野さん「意外とアウトロが緊張するね」
三輪さん「あとちょっとってところで」
草野さん「ここまでノーミスで来たから、ここで間違えないように…」
田村さん「9回の裏だね」←野球好きらしい一言
三輪さん「野球以外で9回って無いよね」
草野さん「ソフトボールって7回だっけ?」
みんな「うん。…確かそう。」
未来コオロギって、緊張する曲なのか〜。確かに意外とテンポが早くて、曲の中の移り変わりが激しい感じする。
13.ガーベラ
このライブで一番印象的だった曲かもしれない。
三輪さんが後ろにあった椅子を持ってきて、それに座る。田村さんが「あ、座るんだ」というようなことを言った。リハでは座ってなかったのかな?
始まる前からギターのノイズが聴こえて、ああえっとこれは何の曲だっけ…と考えていたらイントロでガーベラ。三日月ロックからは、今回はガーベラなんだなあ。確かにこの場所にはガーベラが一番しっくりくるかも。この曲の後半で、また両側の帯が無くなって画面が広がっていく。
椅子に座った三輪さんがアルペジオを紡いでいく姿が綺麗だった。で、﨑ちゃんはサビ終わりとかで今日もどの曲でも右手をあげて弧を描く。あれを見ると、観ている側もリズムを取れるから不思議。
ガーベラ、音源では色んなノイズが左右から聴こえて壮大な感じがするけど、ライブだとほとんどのノイズが三輪さんのギターから出てくるわけで。容姿も相まって、本物の魔法使いみたいだなぁと思った。
どのMCだったか忘れたけど、三輪さんが「さっき竹内さんと喋ってて、今回アルペジオの曲がめちゃくちゃ多いんだよ。」と言っていた。それを聴いてみんなも「それは緊張するね」みたいな表情だった。
辺りはもう真っ暗になっていた。
MC
三輪さん「もう山は越えたね」
ガーベラが山だったのね。やっぱりスローでアルペジオが続くような曲って緊張するんだろうなあ…。
草野さん「ここって何角形だ?」
建物の天井が映る。
草野さん「いち、にい(天井を見上ながら数えている)…八角形?」
みんな「そうだね。」
草野さん「オクタゴンだ。…オクタゴンで良いんだっけ?(田村さんを見る)」
田村さん「うん。(力強く頷く)」
私は八角形=オクタゴン、なんてパッと出てこないので、草野さんもリーダーも凄いな!と思った。と同時に、疑問に思った時に真っ先にリーダーの方を見て聞いているあたり、草野さんは田村さんがそういう語彙に強い人って思ってるんだろうな…!尊い。
14.名前をつけてやる
ここで!昔の曲は嬉しいねえ〜〜〜。
こんな個性の強い曲を淡々と演奏出来てしまう今のスピッツに感嘆。三輪さんのオクターブ下のハモリがやっぱり良い!オバケのロックバンドでも、三輪さんが一番“歌い慣れてる”感じがしたな。
間奏のUh〜のところが音源より長い感じだった。北海道の広大さを感じた。
MC
草野さん「普段は演奏する場所ってすごく限られていて。ツアーでまわる場所も大体決まっちゃってるし、リハをやる場所も同じような所で。だから今日ここでやらせてもらって、アマチュアの頃に野外とか、学園祭に呼んでもらって体育館でやったり…そういう頃を思い出した。」
学園祭でスピッツを見れる世界線って…。
このMCの時だったか定かじゃないけど、こんな話をしていた。
草野さん「こうやって、4人向き合ってやることも無いよね。リハではある…俺と﨑ちゃんが向かい合うことはあるけど。」
三輪さん「そういう時は2人で目で合図したりしてるの?〜〜だネ!って感じで(茶化す)」
﨑ちゃん「合図はしないけど、誰かがミスったら“今、間違えたな”ってその人のこと見るよ」
間違えちゃうところも見てみたい。
草野さん曰く、「お客さんと一緒に盛り上がるような曲じゃなくて、メロディーを聴かせるような感じの曲が多くなったね。」とのこと。優しいあの子と雪風は絶対にやりたかったと言っていた。
確かに普段のライブだと、メモリーズとか8823とかけもの道とか、定番曲があるけど、今日は盛り上げる必要が無いからか、レアな曲がたくさん聴けて嬉しかった。
15.運命の人
突然打ち込みのドラムが流れてびっくり。ああ、運命の人か〜。このライブでも明るく終わるスピッツでした。
運命の人が終わると、メンバー達はスッと楽器を下ろしてハケて行きます。通路にあるカメラに一人一人お辞儀をしたりしながら帰っていくんだけど、リーダーがピース?か何かをしていてお茶目だった。
アフタートーク
監督の松居さんは若い感じの男性で、一見映画監督っぽく無い出立ちだった。「スピッツの皆さんに会えて…」と言ってるところで、「そこは“お会いできて”でしょうが」なんてツッコミたくなってしまう面倒くさいファンなのは私。メンバー4人は、たとえ相手が年下でも、立場が下でも、誰に対しても同じように礼儀正しくフラットに敬意を持って接しているのがよく分かる。監督が部屋に入って来た時、出て行く時、4人揃って深々とお辞儀をしている姿を見て、彼らのようなポジションとは無縁だけども、私も絶対にこういう風に歳を取ろうと思った。
アフタートークでは、セトリとか映像の撮り方の裏話が聞けて面白かった。﨑ちゃんがとうもろこしにうるさいのが本当に面白い笑
感想
音楽番組とライブの間みたいな感覚だった。
テレビの前に座っているようにじっくり聴ける良さと、映画ならではの丁寧なソロショットでわずかな表情の移り変わりや演奏する指先まで凝視できる贅沢さ。でもテレビ越しに感じるメンバーとの距離みたいな遠さが不思議と無くて、ライブを観に行った時に近しい満足感もあった。
ひみつスタジオはやけにプロモーションが活発で、ちょっと波に飲まれそうにもなるけど、上手く妥協もしながら波に乗り続けたいなと思った日曜日でした。
おしまい。
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ある画家の手記if.86 告白
愛してくれて ありがとう
クリスマス当日。
記憶がひどく欠けることがなくなってから、僕は慧の家に居候するのをやめて、ホテルの一室で生活してる。
安いビジネスホテルとかにすると部屋も狭そうだし、最悪サイズの問題でベッドで体が伸ばせないかもしれないと思って、ちゃんとしたホテルを選んだ。
昔は絵にサインを入れ忘れたとかで他県まで行ったりはしてたけど、そういうときも日帰りばかりでどこかに泊まったりはしないようにしてた、個展も海外や遠方からの誘いで僕も行かなきゃいけないようなのは断ってたし、なるべくアトリエ付近でいつも生活圏が落ち着くように…してたかも。絵を描くのに旅が必須な絵描きもいるけど、僕は同じ一つのアトリエで一生描き続けていられる静物ばっかりだったし。
ホテルは一応僕が選んだ場所なだけあって調度品も内装も僕好みの落ち着いた暖色の木造で、たくさんの人を迎えてきた証が木肌の美しい艶に鮮明だった。
洗濯してても毎日同じ服はさすがにだめかなと思って、仕事前に毎日服を一揃い買って着替えて出勤してたけど、今年の僕の仕事は一昨日で終わった。
それからは香澄にあげるクリスマスプレゼントを探し歩いてた。
なにもなくても僕はいつも香澄にいろんなものプレゼントしてるから、香澄の身の回りのちょっとしたものはどれも長く使える良い品に変わってきてたりする。慧に話したら「マイフェアレディか」ってつっこまれた。
だから今日あげるのは実用品とか高くて良い品とかじゃ全然ない、香澄 喜んでくれるかな
それで、今日の僕の服装はどうしようかなと思って、あれこれ迷って、まだ特に香澄とはどこに行くとも何をするとも決めてなかったから、普段の香澄の服装に合わせることにした。
僕の仕事着がいつも少しフォーマル寄りのスーツだから、カジュアルな感じに。もしロケーションや一緒に過ごす香澄の服とちぐはぐだったらデート中に合う服買って急いで着替えればいい。
下はチェック柄の細身のスラックス、シャツを着た上から木製のボタンがかわいいスーツベストを着て、首にゆるゆるしたざっくり編みのニットのスヌード、上からダッフルコート。靴はクロケット&ジョーンズとかいうとこのセミブロ……? お店の人が説明してくれたけど全然覚えきれなかった…
あんまり買ったことも着たこともない系統の服で、ファッションとしてこれでいいのか不安だから冷泉に写メ送ったら「粗を探せと言われれば妙なところが多い気がするけど色の合わせ方は良いから目を細めてものすごく遠目に見れば違和感はない。時間あるならベストかコートかスヌードのどれかを変えろ」って返ってきて、そのあともどこをどう変えればいいか続けて何回かやりとりしてたら最終的に「もう何もするな。動くな。そこでじっとしてろ」って言われて、ブランド店で買ったアイテムいくつも抱えてわざわざホテルの部屋に来てくれた。
慧は買ってきたものを僕の体にあてながら、全身少しずついじったり裾を折ってみたりあれこれ試しながら、最終的には自前の裁縫道具まで取り出して「応急処置だからな」って言いながら余った腰まわりの布とかを縫い縮めて僕の体型に綺麗に合わせてくれた。
慧はプロのスタイリストさながらの手際で僕を着付けて一仕事終えたらグラスの水をぐいっと飲んで一度も椅子に座りもしないままその足で職人みたいにすぐ帰っちゃった。慧らしくはある。
帰り際に振り返って見送る僕の顔をじっと見たかと思ったら、「全身かなりカジュアルに遊んでるからまぁアリか…」ってひとりごと言いながら僕をくるっと後ろ向きにして、髪のゴムを引き抜かれた。
かわりに髪を捻るみたいにしてそこに何か刺された。後ろだからよく見えない…「香澄は喜ぶかもな」って言ってたけど、髪になにがついてるんだろ。
香澄との待ち合わせに遅れないように時計(今日の服に合わせてかわいいのを新調した)を見ながら、大きなプレゼントを片腕に抱えてコートのポケットに手をつっこんで、ホテルを出る。
ホテルのロビーには本物の大きなモミの木を使ったクリスマスツリーが飾られてた。
待ち合わせ場所は去年のクリスマスに一緒にツリーを見た場所。
同じ場所に今年も大きなツリーがあった。
早く着いちゃったから二人分のコーヒーを買ってきて、香澄の分は手に持ってもう片手で飲みながら待つ。
すごく久しぶりにやっと香澄と会える…。って感慨に浸ろうとした瞬間、遠くを一人でうろうろしてる香澄が視界に入ってきてコーヒーが喉から変なとこに入ってめちゃくちゃ噎せた。
コーヒーを近くのお店の塀の上に一旦置かさせてもらって手で口元押さえながら咳がとまるのを待つ。その間も視線だけじーっと香澄を逃さないように追う。僕けっこう目が悪いほうだし今日は眼鏡かけてないんだけど、香澄がいるのは遠くからでもすぐ分かる。
真っ白だ…かわいい…髪の毛の色がよく映えてる…僕があげたマフラーしてくれてる…かわいい
呼吸が落ち着いたらすぐにうろうろしてる香澄のほうへ走り出す、手に持ってるコーヒーは走ると零しそうで邪魔だから道の脇のゴミ箱に二つとも投げ入れるように捨てた、まわり見てなくて途中で何人かぶつかっちゃった人に短く謝りながら走る 「香澄!」
少し離れた場所から声を張って呼んだら振り返って、ニット帽の先についたふわふわが跳ねた、僕を見つけて香澄がぱっと明るい笑顔になる、目の前まで走り寄って香澄の両脇に手を差し込んでそのまま腕を空に伸ばして香澄の体を高く抱えあげた「香澄、天使みたい!」
香澄は持ち上げられたまま、笑ってる僕の肩に手をついてバランスをとりながらわたわたしてる。「ちょっ…なおと、こ、ここデパート、の、往来、」なんか言ってるけど往来とか知らない、香澄がかわいい、白い、もこもこしてる…
持ち上げてた腕を離して僕の体の上に落として滑らせるみたいにして地面におろしてからぎゅーっと抱きしめる、僕の顔の横で帽子の白いふわふわが揺れてる…
「香澄かわいい~~」
声に出したらさらに愛おしくなってもっと強くぎゅうぎゅう抱き締める。香澄は諦めたのか僕をなだめるみたいに背中を撫でてくれた。
ひとしきりそうしてから香澄から体を離すと、香澄を抱えあげるときに地面に落としちゃった大きな包みを拾う。綺麗な道だったから見まわしても濡れたり汚れたりはしてない、包装もしっかりしてるから中身は綺麗なはず。
「それなに?」
「香澄にクリスマスプレゼント。でも今日は歩き回るしまだ僕が預かっておくよ。家に帰ってから、一人のときに開けてごらん」
そう言って包みを脇に抱えた。香澄の頭をわしわし撫でたら帽子がずれたから綺麗にかぶせ直す。香澄は中身が気になるのか大きな目をさらに大きくして包みをチラチラ見てる。喜んでくれるといいな。
「歩き回る? 直人行きたいとこ決まった?」
塞がってないほうの手で香澄の手をとった。手袋してる、親指しか指がわかれてないやつ、かわいい…。繋ごうとした香澄の手に、手袋に、頬ずりしながら笑って言う。
「うん、遊園地にいこう」
僕の一言で行き先が決まった。
二人で横に立ってるクリスマスツリーを見る。
「去年も見たね」
「去年より地面に置いてあるプレゼントのレプリカが増えてる」
「イルミネーションの色も変わった」
「よく覚えてるね」
「うん …覚えてたね」
香澄の体を後ろから抱きしめながら香澄のマフラーに顔を埋める。香澄が僕の体に体重かけてきた。そこは去年といっしょ。
二人ともこの流れを覚えてたのか、そのあと香澄にまたマフラー巻きつけられそうと思って先に香澄の両手を後ろから握って先制防衛したら香澄が笑った。
遊園地までの道すがら、香澄が僕の髪を見ながら言った。
「それ直人が買ったの?」目がキラキラしてる…
「出がけに慧が服装直しにきてくれたんだけど、帰り際に髪に何か刺されたんだ。なにが着いてるの?」
「簪みたいなのの先に小さい金色のかいじゅうくんのチャームが着いてる…」
僕は思わず笑った。
「慧はこれ刺しながら香澄が喜ぶかもって言ってたよ」
クリスマスプレゼントだったのかも、僕にっていうより香澄にって感じだった、慧も香澄に喜んでほしいんだ、香澄は慧から好かれてるね。って香澄の頭撫でながら言ったら香澄はへにゃっと顔を緩めて笑った。
「いま直人は先生の家にいるんじゃないの?」
「最初だけ少しいたけど、今は一人でホテルに移ってるよ」
ホテルの内観や雰囲気や調度品が好きだったから香澄に話したら「俺も行きたい」って香澄が隣ではしゃぐ。
遊園地の入り口に着いて香澄がチケット買ってる間に、ホテルに電話を入れて僕の部屋をスイートルームに変更して荷物の移動までお願いしておいた。散らかしてないからそんなに大変じゃないはず。
こういう賑やかな遊園地に来たのって、僕はもしかして初めてかな? 人混みとかは焦点に迷って人に酔うから昔から苦手だったけど、香澄だけ見てるから今はそんなに酔いそうな感じはしない。
手を繋いで歩く香澄の後頭部でふわふわが揺れる…
香澄が最初のお店で買ったカラフルなソフトクリームを僕の口に向けてくれる、首を伸ばしててっぺんを舌先で舐めた、甘くてひんやりしてて気持ちいい。
ソフトクリームも、他のパステルカラーのメリーゴーランドやお城やアトラクションも、白い香澄がさらに引き立てられてるし、よく馴染んでる、やっぱり遊園地に連れてきてよかった。スマホでたくさん香澄の写メ撮った、どう撮っても彩りも構図も美しい。
香澄に教えてもらってたら僕もスマホの扱いに慣れてきて、だいぶ使いこなせるようになってきた、文字を打つのもはやくなった。
観覧車の前まで来たから二人で乗る。
僕らの身長と体重だと向かい合って左右に座らないとゴンドラが傾きそうだからそうする。
正面に座ってる香澄の帽子が傾いてたから綺麗に直しながら、長く伸びた前髪を顔の横に流す。
「香澄が今日着てる服…」自分で買ったの?って訊きかけてピンときた。「絢が選んだ?」
「うん、ぜんぶ絢が今日のために選んでくれた」
香澄は嬉しそうににこにこする。絢が選んでくれたことが嬉しいみたい。二人が仲良しで僕もにこにこする。
「絢のセンスは間違いないと思うし、まこともいいって言ってくれたけど、直人こういうの嫌じゃない?」
「かわいい」間髪いれずに答えた。
真っ白ですごくよく似合ってる、その帽子すごくすき、ふわふわが揺れるのずっと見てたい、髪の色がよく映えてる、天使みたい、クリスマスツリーの前にいるのすごくかわいかった、羽が生えて飛んでいきそう、飛んでいかれたら僕が寂しいから困るけど、この場所ともよく合ってる、遊園地がぜんぶ香澄の背景のためにあるみたい、
って思ったことずらずら際限なく言ってたら香澄が目を丸くしながら顔を赤くした。かわいい…
キスしたかったけど久しぶりすぎてそのまま抑えが効かなくなるのが怖いから、香澄の手をとって一度手袋をとって、素手の白い手のひらを僕の口元に押し当てるようにして口付けた。
「香澄、ちょっとここでこれ持って待っててね」
観覧車から降りたらファンタジックでかわいい作りのベンチに香澄を座らせて、香澄に僕が抱えてた包みを抱えさせた。一瞬だけど僕が離れる間、香澄の番犬になってね。
近くにいたクラウンがたくさんの風船を手にして来場者に配ってる、後ろに引いてる揺りかごにも在庫なのか数え切れないほどたくさん風船が結んである。
大人が一度にたくさん欲しがったらだめかなと思いながらお金を差し出したら、クラウンは喋らずに笑顔で首を横に振ってお札を持った僕の手を押し返した。
僕に一つ、風船をタダで差し出してくれる。
受け取った僕は首を横に振る。
クラウンはもう一つ僕に風船をくれた。それでも僕は首を横に振る。
クラウンは困ったように腰に手をあてて大げさに首を傾げた。笑って少し離れたベンチに座ってる香澄を指差して言った。「あの子が宙に浮くくらいたくさんください」
クラウンは自分が両手に持っている風船を交互に見やってから、大きく頷いて僕に持っていた風船をぜんぶくれた。
片手にたくさんの風船を引いて歩きながらベンチにいる香澄のもとに駆け寄って、大事そうに抱えてる香澄の腕から包みをとりあげる。見張り番ありがとう。
香澄の手をとってベンチから立ち上がらせる。そのまま香澄の手を引いて広場の真ん中に導きながら香澄の両手に風船を、片手に5個ずつ、僕が持ってるのを全部持たせた。
風の弱い日、風船はみんな綺麗に空に向かって伸びる、数歩下がって、色とりどりの風船を持って真ん中で笑う香澄の写真を撮った。
スマホをコートのポケットにしまいながら香澄に歩み寄って頰をそっと撫でる。
「すごくかわいい、よく似合ってる」笑って帽子から出た香澄の髪の毛の先を指で梳いて、香澄をぎゅっと抱きしめた。
夕飯はホテルでちゃんと食べることにして、僕らはオモチャみたいなかわいいお菓子とか全然お腹が膨れないようなものばっかりたくさん買って二人で交互に食べながらあちこち歩きまわった。
大きなぐるぐるキャンディが舐めても全然溶けなくて減らないって香澄が言うから、香澄の持ってるキャンディに僕が噛みついた。硬い。歯に力を入れて思いっきり噛み砕いたらバキッてすごい音がして粉々に割れた。噛み砕いたカケラをそのまま口に咥えてたら香澄にそこを激写された。
香澄がたくさん風船もってて白くてかわいいから目立ってたみたいで、たまに遊園地のキャストと勘違いされたのか、来場者に写真を撮っていいかって聞かれた。
恥ずかしいのか、もごもご言ってる香澄の隣で「いいですよ、ただしSNSやネットには流さないで」って僕が答える。
写真を撮られるときに香澄の体を引き寄せて目元にキスしてわざと僕も一緒に映り込んだ。
写真を撮っていく人たちの記念写真も僕が必ず撮って、お互いにスマホで撮った写真をその場で交換していった。さよならしたあともずっと僕らに手を振ってくれる小さな男の子に、香澄は笑顔で小さく手を振り返してた。
カメラロールに僕が撮った香澄一人だけの写真じゃなくて、僕と香澄が一緒に写った写真が増えて、さらに全然知らないたくさんの笑顔の人たちの写真も増えた。
今日になるまで香澄を守ってくれた情香ちゃん、絢、まことくん、僕を守ってくれた慧、香澄を守ろうとする絢を助けてくれた人たち、大学の生徒たち、…兄さん、
それだけじゃなかった、僕らの周りに居たのは、
スマホに残った写真の中の名前も知らない、もう一生会わないような人たち、今日この日に数分だけ会って一緒に笑っただけで幸せな気持ちをくれた
「香澄の…僕たちのまわりに居るのは、香澄を害するような人たちだけじゃないよ」
メリーゴーランドの前で立ち止まって、香澄と向かい合って立つ。香澄の頰を両手で包んで、香澄の額に僕の額を合わせて微笑んだ。
「優しい、世界中のみんな、香澄を傷つけていくだけじゃない。僕はそう感じられるときが嬉しい」
それだけじゃないのは分かってる、無害で善意の人ばかりじゃない、今は服で隠れて見えない部分にたくさん重なった香澄の体の傷跡が、背中の刺青が訴える、忘れられない、でも世界はそれだけじゃない��
こうしてじっと見つめ合ってる僕らをほっといて素通りしていくたくさんの人に囲まれてる 傷つけてこないし関係しない、たくさんの人に、僕が香澄を守ろうとするのとはまったく違う形で香澄は守られてる 僕も たくさんの僕らにとって名も無い人に囲まれて、僕らは在る
「僕は香澄が生まれてきてくれたこの世界が好き」
香澄が風船を持ったまま僕の首にぎゅっと腕を回してきた 視界にたくさんの風船が揺れる
「俺も 直人 誕生日おめでとう」
少し震えるような声が耳元で囁いた
僕は香澄の背中に腕を回して抱きしめ返した。帽子の上から香澄の頭に顔を寄せて、頰をすり寄せる。
香澄が好き、香澄が生まれてきてくれたことが、香澄がいてくれる世界が、僕を愛してくれることが
香澄に愛してもらえることが 嬉しい 僕は…香澄に愛してもらえたことが 僕が愛してるだけじゃなくて 香澄と愛し合いたい 僕は
生まれてきて よかったんだ
「ありがとう。 愛してる 香澄… 」
僕を 愛してくれてありがとう
僕の滞在してるホテルは遊園地から歩いて帰れるくらいの距離にあったから、手を繋いでホテルに一緒に帰った。
途中の道で、ビル風に煽られて風船は香澄の手から離れてどこかに飛んでいってしまった。
香澄が追いすがるように素早くその場でジャンプして一個だけなんとか掴めた風船を、僕にくれた。僕は香澄がくれた最後の一個の風船を大事に手にして帰った。
香澄視点 続き
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