Tumgik
#屈斜路湖畔での夜明け
yoooko-o · 2 years
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14/09/2022 part1
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2ttf · 12 years
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buriedbornes · 7 years
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ショートストーリー「終焉の序曲(2) - 蝕まれたもの」 - Short story “Overture of the end chapter 2 - Falling kingdom”
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人々の心の支えたるべき荘厳な礼拝堂も、近頃は足を運ぶ者も少ない。
「屍者に隣国が蹂躙され、滅びた」という事実は国中に暗い影を落とした。
信仰は、命を保証しない。
祭壇の前には、一人の女がうずくまり、無心に神への祈りを捧げている。
その様子を、背筋を正し長椅子に腰掛けた聖騎士が見守っている。
「王も王妃も、姿をお見せにならない。体調を崩されているそうだが…」
女性は答えない。
その肩は小刻みに震え、何かに怯えるように縮こまっている。
「残された時間は、思っているよりも少ない。何か、手立てを見つけないと…」
「私、怖いんです」
僧侶は、震える声で答えた。
聖騎士は動じない。
言葉を発する前から、僧侶の怖れは伝わってきていた。
とはいえ、どのような言葉をかけたら良いかが、わかるわけでもなかった。
返事を待ち切れず、僧侶は続けた。
「…こんなにも唐突に、世界は終わってしまうのでしょうか」
「そんな事は、私がさせない」
「でも、神が遺された予言と言われているのですよね」
「…そう言われているが、私には信じられない」
「神が残されたものであるなら、その予言を信じるのも信徒の勤めなのでしょうか」
聖騎士は、祭壇を見上げた。
慈愛の笑みを零す女神の尊顔が、あまねく人々を見下ろしている姿が、虹色に煌めくステンドグラスで表現されていた。
しかし、今はその笑顔さえも、どこか不吉で、また無責任にさえ感じられる。
「しかし、本当にそうなのだろうか?『いつか全ての信徒が、神のおわす国へと導かれる』という、教義と矛盾する予言だ」
「私、たとえ神のご意思であっても、死にたくないです…」
その言葉に聖騎士は向き直った。
あれほど気丈だった、信心の厚かった彼女が、もはや見る影もない。
しかし、たしなめる言葉も、背信であると咎める言葉も、励まし支える言葉も、空虚でしかないと感じ、口には出なかった。
代わりに出たものも、所詮は虚勢の言葉だった。
「教義のためなら、私は、いつでも死ぬ覚悟だ…」
「私は軍人じゃない!怖いんです、戦うのも、死ぬのも…」
神など、いない…
異端者に受けた言葉に激昂し、その者をいたぶった苦い過去が脳内に去来した。
今、その言葉が彼女達の背に重くのしかかっている。
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教会や礼拝堂には、古い文献が収められている事が多い。
歴史的な価値や、教義の伝搬、そして単純に学習を提供する役目を担っているためである。
夕日差す図書室の座席に戻ってきた聖騎士は、重い兜を傍らに置き、上半身の甲冑だけを向かいの机上に無造作に放り、また調査に没頭し始めた。
護身のために大剣だけは、手元に立てかけたままにしている。
無数の資料を取り散らかしたまま、手当たり次第に手繰っていく。
ここ数日で、どれほどの資料に目を通したか知れない。
それでも未だに、めぼしい情報のひとつも見つけられず、彼女の中に苛立ちは募るばかりであった。
「"未知の軍勢が、街と言わず城と言わず、全てを飲み込んでいった"…」
報告書に改めて目を通しながら、背筋の凍る感覚を覚える。
明日には、あるいはこの夜にでも、愛すべき故郷たる我が国にも、この軍勢が押し寄せるかもしれないのだ。
死が迫る切迫したこの状況をどうにか打開する方法を見出す事こそが、目下危急の課題である。
聖騎士団の内でも混乱が生じており、どのような対策を講じるべきか、意見が分かれている。
徹底抗戦のために防戦の準備を進める、謎の軍勢の出処を掴む、屍に鎮魂をもたらす術を探る、等…
ただ、問題の軍勢がもはや姿が見えず、亡国に徘徊するのは死した国民のみという状況で、手がかりひとつなく、ただ次の襲撃の可能性に惑い、震えるしかない。
彼女もまた、そうした聖騎士団の中にあって、藻掻き続ける者の一人であった。
しかし、彼女には他の者にない特殊な役割があった。
教会の剣として監視者の任を負ってから、彼女は研究棟と礼拝堂、そして図書室を行き来する日々を送っていた。
魔導師達の動向を監視し、祈りを捧げ、あてのない打開策を求めて様々な文献に目を通す。
だから、他の聖騎士達なら確実に素通りしていたはずの情報に、彼女は資料を手繰る指を止めた。
ここ最近起きた事件、事故、死亡者の目録の中に残された記録。
『鉱山から、古い装いでありながら新鮮な死体が見つかった』
数ヶ月前に見かけた、異様な、そして忘れ去られた事件。
『未知の軍勢』『古い装いの屍体』『犠牲者の屍が蘇った』『最も古い予言』
これらが符合する何かを、確認する術を聖騎士団は持たない。
しかし、古術や古代の記録も取り扱う、禁忌なき研究に携わる者なら、このつながりを紐解けるのではないか?
この屍体を彼らの目に通せば、今回の事件に関して、何かがわかるのではないか?
確証はないが、彼女には見過ごせない、何か胸騒ぎのようなものをこの記録に感じ取った。
そうして、資料もそのままに、鎧を身に着けて再び図書室を後にした。
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まだ明け方近くに、静まり返る街中で一人馬を静かに駆って荷車を動かす者の姿があった。
湖畔に面した港は朝靄に包まれ、朝日は曇り空に隠され、街は月夜のように薄ぼんやりしている。
港近くの塔の麓へと着いた馬は、いななきを上げて停止した。
馬の主は縄も繋がずに荷車から大きな荷物を肩に抱えて、部屋へと駆け込んでいった。
「邪魔するぞ」
人目を忍ぶために覆っていたフードを脱いで、聖騎士は挨拶しながら荷物を部屋の片隅に横たえた。
「…おはよ、今日は早いじゃない」
まだ寝ぼけ眼の魔女の傍らで、無数の猫達が主を起こすために鳴き声を上げている。
「もういいよ」
魔女の一声に、猫達は一斉にその声を止めた。
椅子に座ったまま眠っていたのであろう、彼女は大あくびと伸びとを終えてから姿勢を聖騎士に向け直した。
「…で、何?そのデカい荷物…」
「これが、何かの鍵になるかもしれない」
そう言いながら、聖騎士は荷物をくるんでいた布を丁寧に剥ぎ取った。
布の下から、土気色をした古風な兜と、その屍者の顔が顕になった。
それを目にした瞬間、直前までの気の抜けた魔女の顔に緊張が走り、机に立てかけた杖に手を伸ばし、左手で空を払うと、周囲にいた使い魔達が蜘蛛の子を散らすように部屋からいなくなった。
「…どこでこれを?」
「聖騎士団で保管していたものだ。数ヶ月前に、話題になっただろう。鉱山から、古い装いの屍体が…」
「すぐにこいつを破壊して!!」
次の瞬間、屍体は突然跳ね上がったかと思うと、近くに立っていた聖騎士を左腕で強かに打ち付けた。
ただの拳であったが、鎧はひしゃげ、聖騎士は薬棚に叩きつけられると、引きずられるように床に落ちた。
「な…ッ!?」
「なんてものを持ってきたの!?これは、まだ生きてる… 生ける屍よ!!」
魔女はそう言うと、詠唱を始めた。
布が完全に剥ぎ取られ、古風な兵士の屍体…生ける屍は、倒れもがく聖騎士を尻目に見つつ、魔女に向き直った。
(何故私のトドメを刺しに来ない?魔女を優先した?…理解しているから?)
頭を強く打ち朦朧とする意識の中で、聖騎士はその動く屍体の意図に思いを巡らせた。
生ける屍はその体で退路を遮りつつ、ジリジリと壁際へと追い詰め、やがて魔女の背に上階に向かうはしごが触れた。
逃げ場が完全になくなった事を確認したのか、屍体は跳躍し、両拳を振り上げて魔女へと飛びかかった。
「底が浅いわ!!」
次の瞬間、書物や薬瓶が乱雑に置かれた地面が白く瞬き、爆音と共に稲妻が中空にある屍体を貫いた。
電撃に囚われ、屍体は床に倒れ伏し、置かれていた物が弾け飛ぶ。
その下には、あらかじめ描かれていた魔法陣が姿を現している。
電撃を発した魔法陣は、黒く燻り、光の紋様がやがてただの炭の跡になった。
しかし、屍体は腕をついてもう立ち上がりつつある。
聖騎士はその様子を目の当たりにしながら、腕に深々と刺さったガラス片を抜きながら立ち上がろうとしている。
「悪いけど、せっかくだし資料になってもらうから… バインド<<呪縛鎖>>!!」
詠唱を終えた魔女が杖を高く掲げると、壁にかけられてあった鎖という鎖全てが独りでに動き出し、みるみるうちに屍体を包み込んだ。
屍体は、まるでミイラのように鎖に縛られた鉄の塊になり、身動きが取れない状態になった。
「こいつを、湖底へ!!」
聖騎士は頷くと、猛然と鎖の塊へと駆け出し、そのまま肩からタックルした。
鎖の塊は真横に吹き飛び、木板で閉ざされていた1階の窓にぶち当たり、窓を突き破って港の路地��、小さな波止場に転がり出た。
突然の爆音や窓を突き破る音に、周囲の通りにざわめきが聞こえ始めている。
聖騎士は破れた窓から飛び出て、横たわった鎖の塊を今度は全力で蹴り込むと、再び屍体は湖面に向けてボールのように吹き飛び、波止場から少し離れたところに水音を立てて落ちた。
しばらくすると、建物の周りには爆音に目を覚まされた近隣住民が集まり、何事かと野次馬の人だかりが出来上がった。
魔女は帽子を脱いで戸口に立つと、作り笑顔で聴衆に応えた。
「ごめんなさい、朝ごはんを作っていたら、散った小麦粉に火がついてしまって…」
人々が部屋の様子を覗き込むと、数々の冒涜的な書物や薬瓶など姿なく、片隅に味気ない調理道具が幾つか転がっているだった。
「なんだい、お嬢ちゃん。気をつけなきゃあ駄目だよ」
「えぇ、聖騎士様がいらしていたので、張り切ってしまって…」
魔女は恥ずかしそうに後ろに目をやる。
その先では埃にまみれた聖騎士が鎧を手で払いながら何気なさそうな顔で割れた窓や木板を拾い集めている。
「そうか、聖騎士様がご一緒か。それなら、安心だ。特に報告もせんが、何かあったら、手伝ってあげるから、おじさん達に声をかけとくれ」
「ありがとうございます、おじ様。また、焼き立てのパイをお持ちしますわ」
そう言って朗らかに微笑み、しゃなりとお辞儀を返すと、まんまと騙された民衆は皆鼻の下を伸ばしながら去っていった。
「…随分周到な手際だな」
民衆が去ったのを確認すると、聖騎士は手に持ちかけた木片を放り出し、壁にもたれて座り込んだ。
折れた肋骨と深々と切った腕の痛みを押し殺して、咄嗟の魔女の演技に乗ったが、痛みやダメージがなかったわけではない。
「私は師匠と違って、実践派なのよ。聖騎士団の手入れに備えて、色々準備しといたのが幸いしたわ」
聖騎士は苦笑いを噛み殺しながら、自らに施す治療魔法の準備を始めた。
どこからか、小物を各々口にくわえた使い魔達が、ゆっくりと集まり戻ってきて、隠していた物を部屋に運び込んできていた。
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その日の夜、山が投げかけるほのかな明かりが映る湖面には、二人が乗る小舟も映っていた。
二人は並んで座り、鎖の塊が沈んだ水面を見下ろしていた。
「アレは、なんだったんだ…?」
「生ける屍… 屍体を術で操って、使役する業よ」
「それなら見たことがある。征伐した異端者どもが使っていたが、だがアレは…」
「そうね、異端の使うそれともまたちょっと違う、アレはただの生ける屍と呼べる以上のものだった」
魔女は指先で毛先をくるくる丸めながら思案している。
「本来の"屍者使役"は、死んで崩壊寸前の屍体、あるいは崩壊済みの骨を使うの。でも、あの屍体は古臭い装備に似合わず瑞々しい屍体だった、しかも屍者使役とは思えない機敏さと思考…」
「そう、それだ。気になっていたのは」
聖騎士は膝をぽんと叩いた。
「あの屍体は、どこかおかしかった。これまで対峙した、どんな屍体とも違った」
「そうね… あの屍体は、どこかとつながっていたのよ」
魔女は船上であぐらをかいて、前後にゆらゆらと揺れ始めた。
これが考え事に没頭している時の仕草である事を聖騎士は知っている。
「"どこか"?」
「まず前提としてね、通常の屍者使役は、空いた器にそれを操縦する使役霊を入れて使うのよ。で、使役霊に命令を与えて、動かしてもらうわけ。魔法人形操作なんかもそう。」
「ふむ」
「でも、アレは違った… 例えるとそうだな、えーと、紐が見えたのよ。どす黒い、縄みたいな、紐なの。それが、命綱みたいにつながっていた… あれはまるで…」
「紐?今は?」
「切れてないわ。水と鎖の外に出せば、多分また動き出すと思う。でも、届いてもいないわ。今は。そうしようと思って、沈めたのよ。水に」
「水に沈めると、止められるのか?」
「そうじゃあないわ、なんて言うのかな… 使い魔!そう、使い魔!私のは、なんだけど、高度な使役術は使役霊に力を借りるんじゃなくて、自分の霊体そのものを直接���象物に入れるの」
「自分自身を!?」
魔女は嬉しそうに頷いた。
「んでね、自分の霊体を切り出して、本体とのつながりを保ったまま、私自身の意識を埋め込んで、自分自身がその子自身になっちゃうの。だから、座ってる私と、飛んでる子と、走ってる子と、荷物整理してる子と… たくさんの私になるの」
「そんな事が、出来るのか…?」
「たくさんの子を一度に使役しようとする時は、この方が効率が良いのよ?使役霊だと一人ひとりのご機嫌を伺わないといけなくて、それがもう超めんどくさくてサ!文句言う子の面倒見てたら他の子が言う事聞かなくなっちゃう事もあるし… その分、自分の霊でやれば、思いのままなの。たくさんでやると集中力要るからお腹減っちゃって、おかげで最近ずっとおやつが増えちゃったんだけど…」
「…あの、すまん。話が逸れてる」
「あ、ごめんね!えーとだから… どこまで話したっけ?えーと… つまりね、そうやって自分の霊を直接のつながりを保ったままで使役するやり方は、"気の隔絶"に弱いのよ。」
「それが、水?」
「うーん、めちゃくちゃ分厚い水の層だとか、密度の高い鉄の箱だとか。使役霊だと一度お願いすればそういう隔絶があっても少しなら大丈夫なんだけど、自分の元の肉体とつながりを保つやり方だとその"つながり"が途絶えるとうまく伝わらなくなっちゃうの。だから、魚の直接使役は難しいって言われてるんだけど」
「…隣国を滅ぼした軍勢が、この水底にいる連中と同じだとしたら?」
「…まさか、でしょ?」
魔女は、しかめた顔を上げた。
「確かに、屍体に霊魂をつなぎ続けてさえいれば、その肉体が崩壊させようとする力… 例えば、風化や腐敗に抗える。だから、いつまででも"死にたて"の肉体が維持できる。でも、その理屈で言ったら、あの古代人が、今の今まで霊体をつながれっぱなしだったって事に…」
自分で話しながら、得心していく。
聖騎士は、既に確信していた。
最も古い予言、屍者の軍勢に滅びた国、霊体をつながれたまま出土した屍体。
判明した全ての事象が、予言されたものの存在を示唆している。
魔女は、呆れたように脱帽して、片手で顔を覆った。
その表情は、辛辣そのものである。
「無茶苦茶よ。無茶苦茶だけど、そう考えるしか、ないって事、よね…」
「現在に至るまで生き永らえる何かが、あの鉱山に隠れて屍者を操っていると考えるのが、妥当という事だな」
「…あの、鉱山…?」
魔女の視線は、水面に向かった。
光が、消えていく。
ぽつり、ぽつりと。
目線を上げると、山の斜面に見える村々の仄かな明かりが、ひとつまたひとつと、消えていく。
その闇の波は徐々に、音もなく広がっていく。
やがて、その波��中に蠢く影がちらほらと見え始める。
続けて、遠くの方に響く、悲鳴や叫び声が、霧烟る小舟へと届いてきた。
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城下の波止場から小舟で乗り付けた聖騎士は、すぐさま城内に兵達に警鐘を鳴らした。
「すぐに城門を閉めさせろ!!」
指示を出しながら、城内を駆け、自身は王の寝所へと向かう。
王や王妃の身辺に、既に危険が及んでいる可能性もある。
螺旋階段を駆け上る途中、塔の窓からは山際から湖畔沿いに侵攻するものと思しき軍勢の影が見えた。
時間がない。
塔の最上階へ駆け込むと、扉を開け放って叫んだ。
「陛下、すぐに船へ…!」
しかし、畏れ多くも駆け込んだ寝所に、王も、王妃の姿もない。
体調が優れず、休んでいたはずでは?
この状況下で、どこへ?
既に何者かが?
二人とも?
一瞬の内に思考が巡る。
そこに、爆音が響く。
音の距離から、湖畔から離れた城下町正面の門に、何かが着弾したものと思われる。
「陛下…!」
踵を返した先、下り階段の前に魔導師が待ち構えていた。
「陛下は、戦場へ向かわれた」
「貴様何を企んでいる!?」
「これは、陛下が望まれた事… 避けられぬ戦を知り、自ら民を守る事を選んだのだ」
言葉の代わりに、剣が走った。
しかし、振り抜いた先に男はいない。
振り向けば、扉の向こう、王の寝台の傍らに、魔導師は佇んでいる。
さらに、背後で再度の爆音。
続く金属音やとめどなく響いてくる破壊音、喚声。
聴こえてくる騒音は、城門近くで戦闘が開始された事を物語っている。
「くっ… お前の戯言に付き合っている暇はない!」
聖騎士は、魔導師を無視して階段を駆け下りていった。
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聖騎士が駆けつけた先は、地獄絵図に成り果てていた。
踏み潰されバラバラにされ燃え盛る屍体があちこちに転がっている。
城門下に面した多くの建物が、まるで子供がおもちゃの山をなぎ倒したかのように雑然と崩れ、粉々に壊されている。
市内で最も大きな老舗宿も、真上から巨大な岩石を落とされたかのように中央にひしゃげ潰れている。
一体どんな生き物であれば、このような破壊を尽くせるのか?
生存者を、そして斃すべき仇を求めて駆ける聖騎士の眼前に、巨大な、蒼白な姿が映った。
天に聳える双頭の巨人が、屍者の群れを、掴み潰し、殴り潰し、あるいは持ち上げて喰らい、蹂躙している。
どこから現れたものなのか、その巨人は、山岳から湖畔を迂回して暗闇を行軍してくる軍勢に立ちふさがり、城門を守って戦っている。
門前で暴れまわる巨人に近づき、見上げた聖騎士は、その顔立ちを見て、その巨人の正体を、理解した。
たとえ大きく膨れ上がり2つに増えようとも、その顔立ちを知らぬ者はこの国にはいない。
間違えようのない、面影。
失われゆく王、失われゆく国。
聖騎士は、つぶやいた。
「陛下…」
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~つづく~
終焉の序曲(3) - "Buriedbornes” (執筆中)
「ショートストーリー」は、Buriedbornesの本編で語られる事のない物語を補完するためのゲーム外コンテンツです。「ショートストーリー」で、よりBuriedbornesの世界を楽しんでいただけましたら幸いです。
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hitodenashi · 7 years
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20/アルファルド
.  地上を滑る流れ星を見た。  今思い返してみれば、あれは吹雪が見せた刹那の幻影だったかもしれないし、本当に雪原の大地を奔る流星だったのかもしれない。それでも、確かにあれは輝いていた。星のように眩くきらめいていた。それだけは、疑いようの無い事実だった。  星は何も囁かなかった。それでもそれを星と見間違えたのは、白く弾けた視界の中で、燦然と閃く青く冷たい輝きは、星以外に喩えようが無かったからなのかもしれない。  吹雪の中の出来事だったので、流星はすぐに雪にかき消えて、その尾の痕跡さえ残さなかった。しかし到底、ただ極北が見せた幻には思えなかった。なぜかそう思いたくはなかった。あんなに凍えるような光であったのに、網膜に焼き付いたように忘れられなかった。未だにその、言語にできない感情を覚えている。それはその後、彼女と出会うことになった切っ掛けだったからかどうかは、彼には終ぞ解らないままだったのだが。  流れ星に願い事を三度繰り返すと、願いが叶うのだって。  イフはそんなことを思い出した。誰が言ったことだっただろうか。母親か、兄弟か。もしかしたら、空の噂に星自身がさざめいただけだったかもしれない。しかし彼はそれを思うと、不快になるほど肺腑が締め付けられるのだった。重たい左腕に力が籠もり、拳を作ってしまうほどに。  だって、流れ星なんて見つけたその瞬間に消えてしまうものだ。願い事を言いたくたって、一瞬で消えてしまうなら、どう必死に唱えたってそんなもの、叶いやしないじゃないか。そんな噛み切れない固い泥のような不快感を、奥歯でぎりりと噛み締めながらそう考えたのだ。  誰の願いも受け止めることができず、堕ちていった星は、一体どこに行くのだろう。 † 「遭難しました」  サアレは取り留めて問題は無いような口調でそう言った。  イフは頭を抱えながら大きな溜め息を吐く。周囲は木立は茂っているものの、鬱蒼とまではいかない程度の山林だ。夕空の紺が、木葉の間に見え隠れしている。そしてそれらはじきに葉擦れの音ごと夕闇に飲まれてしまうのであろう。彼は木立を仰ぎ見て、そして空を睨んだ。  晩秋、冬に入る一歩手前の深山は落日。釣瓶落としの勢いだ。  この日は珍しく、イフとサアレは二人で狩りに入っていた。……そう説明をすると彼は機嫌を悪くするかもしれない。正しく言えば、イフの用事にサアレが相乗りをして着いてきただけで、彼としては伴なんていらない筈だった。照れ隠しなどではなく、割合本心からの思いだ。なにしろ、事実本当に彼女は相乗りをしただけだった。目的地に着くなり彼女は「じゃ」の一言と片手を上げる挨拶を一瞬しただけで彼のことなんてまるで居ないかのように山奥に滑るように潜って行ったし、本当にその後日が沈むまで彼の元へ帰っては来なかった。 苦い言葉の一つや二つ言いたくなって然るべきだろう。最初から一人で来るつもりであったとはいえ、一応伴連れで訪れているのである。ましてや率直に言えば夫婦であるのに――彼女のその振る舞いに、不可解な音色を持つ怒りが沸いて来たことは、イフには到底説明がし難いものであったが、妥当な感情だと言えよう。  結局彼は自分の用事を済ませた後、いや流石に置いて帰るのは、という憐憫を抱いたせいでサアレを探して山の深い所まで潜ってしまったのだった。その選択が今となっては大きな誤算となって彼を悩ませている。  結果として、山慣れをしている彼女は獲物を両手にひっさげてけろっとした顔をしていた。置いて行っても問題無かったのではないだろうか、とイフが考える前に、「なんでここにいるんですか」と、表情だけではなく発言をして真顔で首を傾げたサアレに、彼が激昂しなかったことは賞賛に値するべきだった。  深山は上ることも容易でなければ、その逆もまた然りであり、下山にも困難を要した。枯れかけた草木は、そう移動を阻害しなかったにせよ、如何せん山奥まで立ち入り過ぎた。下山が遅れたのが最も大きな理由で、更に徐々に暗くなっていく風景に珍しく焦ってしまったのか、二人は戻りの路を外れてしまったらしい。  気がつけば山中で立ち往生。黄昏はあっという間に闇へと色を変えていく。彼らは文字通り、遭難していた。  とはいえ、二人の表情には焦りも緊迫も、もっと言えば緊張もさほど見受けられなかった。強いて言えば、イフがわずかに「面倒な事になった」と言いたげに顔を歪ませている程度で、サアレはいつも通りのぼうっとした真顔のまま木立が揺れるのを眺めている。 「もう夜だが。……無理をすれば、下りられるか?」  イフが溜め息交じりにそう尋ねた。  夜という時間においては、彼だけでなくサアレも得手とする舞台である筈だ。お互いに夜目は利く。道は見えなくても、自分に聞こえる星の声と、彼女の聴力・視力さえあれば、そう困難も無く下山ルートを探し出せるだろう。最も、懸念していることはそこではない。夜間、魔物けだものが跋扈しているところに突っ込んでしまった時、それを対処できるかという意味を込めての問いだった。  サアレは耳だけを動かして、少しだけ考える素振りを見せたが、しかしすぐに頭を振り「いける、とは思いますが。……オレの目が少し厳しいですね今日は月が明るすぎるので」溜め息と共に、ぱちりと目をしばたかせた。瞼が持ち上がるのと同同時に、白い強膜がすうっと黒く反転した。赤い光彩がらんらんと輝くふちに、涙がこぼれた。  イフは空を見上げた。木々の切れ間に微かに見える月は大きく、明るく、丸い。満月が近いのだった。
「……下山は無理、か」 「いいんですよ別に放っておいて下りられても一夜だけ過ごせばいいだけですし夜は不眠でもなんとかなります。一人ならですが」  音も無くぼろぼろと後をついて零れる涙を、煩わしそうに手の平で拭う。辺りに噎せるような甘い香りが風に乗って広がった。イフは思わず顔を逸らす。同時に、首を横に振った。  夜に涙が出る体質の彼女は、更に月の満ち引きにより涙の濃度が影響されるらしい。つまり、満月に近い今は常日頃よりも強い香りをする代わり、良く“沁みる”のだった。そんな状態であれば、視界は封鎖されたようなものだ。夜目は利くとはいえ、此処は市街地ではなく森だ。滲みっぱなしの視界では、暗さも際だって、盲目に等しい。とあれば、強行軍をするのは得策ではないだろう。 「今日は野営だな」  イフの否定をする隙の無い断定的な言い方に、サアレが「そうですか」と小さくぼやいた声だけが、風の隙間に重なった。  周囲に廃屋が無いか散策しても、歩ける範囲内には何も見当たらなかった。  彼らは仕方なく薪を集め火を熾し、今日の獲物を早速捌いたものを串に刺して焼いたものと携帯食で、黙々と食事を済ませた。  何一つ滞りも緊張感もなく、それらは進んだ。夜闇に便乗してこちらを虎視眈々と狙う獣がいないとも思えないのに、それに対する切迫した思いすら、両名とも抱いてはいない。不思議な事だと、二人とも思っている。それは恐らく、自分だけの身なら守れるだろうという、希薄な逃走の意思とはまた異なったものだということも、なんとなく理解はできていた。  サアレだけは、なんとか言いたげな視線を時折、イフへ投げかけていたがそれも一瞬で、二人は暫く無言で焚き火を見ていた。イフが生乾きの枯れ枝を投げ入れると、火の粉がぽっと踊って、煙がもうと上った。焚き火の赤が、黒い片目に反射している。まるで炉みたいだ。サアレはぼたぼたと流れる涙の隙間に、何度目か考えたそれを見て、その熱さを思った。白い左目よりも、それはずっと明るく見えた。  不意にサアレは空に呼ばれたような気がして、すっと真上の空を見上げた。視界がぐるり、天球と枝葉で埋まる。  その視界の真ん中をさあっと光の筋が尾を引いて、消えた。涙が頬を伝って地面に滴るのと、ほぼ同時だった。  その一瞬だけ、ぼやけた視界はクリアで、満天の星の群れが見えた。涙の膜はすぐに瞳孔を覆って、曇らせる。 「流れ星」  子供のような声音で呟くと同時に、サアレはまず、イフがそれに反応して同じように空を見上げたことに驚いた。目を丸くして、「え、」と声のない声が漏れる。イフははっと気がついたように、直ぐに目線を地面に落とした。  少しの、無音。  不思議そうに首を傾けたサアレの視線を汲んで、イフは目線だけをサアレに向ける。彼女はもう一度空を見上げて、流れ星の軌跡を指でなぞっていた。もう視界に流星は残像すら残ってはいないだろうに。ぶつぶつと、夜空に散らばる星々の位置をぽつぽつ指さしながら、あれは、これは、と名前を呟いている。涙で潤む視界にも、星は見えているのだろうか。 「……北天の、」 「?」 「星の帯の隣、……白く大きな星が一つあるだろう」 「はい」 「それが、白鳥の尾。そこから南へ真っ直ぐ伸びて、それより一回り小さい星が、白鳥の胸」 「はい」  イフは空を見上げずに、書物を諳んじるような口調で淡々と空をなぞる。サアレはじっと空を見上げ、時折視界を覆う涙を手の平で拭いながらその言葉に従って星と星の間を指で繋いで行く。 「胸から左右、歪曲するように等間隔に伸びた暗い星の連なりが右翼、胸と同じ輝きをした星とその先の星、二つ結ばれる線が左翼」  薪が火の中で小さく爆ぜる。 「胸の星から南へ、二つ暗い星を越して、一回り明るい橙色の星、そこが、」 「白鳥の嘴。……終着点ですか」 「そうだ」  サアレの瞳は終点となった橙色に煌めく星を見つめている。空に引かれた白い星々の群体の隣、湖畔のほとりを飛翔するように、美しい尾を靡かせた白鳥が北天の空に翼を広げて優雅に飛んでいるのが、サアレにも解った。手の平を広げる。翼は遙か彼方、夜の闇の向こうにあって、サアレには掴むことが出来ない。  イフは何故、このような話をしているのか自問自答した。自らの血に所縁のある事象を、偶々耳に入れた為だろうか。  唐突にサアレが「あれ、」と声を上げた。釣られてイフは空を見上げてしまった。「あの」サアレは彼を見ずに尋ねる。視界の紺碧は遙か彼方の星雲の色を、滲んだインクのようにかき混ぜた紫と、青と、緑と、鮮やかな黒から成っている。己の翼にもあるそれらは触れることができるはずなのに、どうしてか苦しいほど、遠くに見えた。 「白鳥の嘴、あの橙色の星の直ぐ側にもう一つ小さな星がありませんか」 「、は」 「小さな白い星が重なっているように思います。見間違いでしょうか見間違いではないと思ったのですが。貴方ならご存じかと思いまして」  指の先が何処へ通じているのか、その線を追うことは難しかったが、彼女の口調から何を指しているのかは解った。きっと、白鳥の嘴を言っている。  イフは体内に冷たいものが広がるような奇妙な��覚を覚えた。冬空の下、冷たい空気を肺いっぱいに吸い込んだ時の、体の芯までがすっと痺れる時の感覚に良く似ていた。このまま口を噤むべきか否か悩んで、イフは躊躇いがちに唇を開いた。 「……二重星だ」 「ニジュウセイ」  はてと首を傾げるサアレの横顔にイフは頭を抱えた。 「双子星だ。あの星は一つに見えるが、遠くを見透かすと二つの星が重なっている。二つで一つの星に数えられている」 「上顎と下顎ですか。ははあなるほど色の違う星が双子とはオレも思いつきませんで。天の星には色々なものがあるのですね勉強になります」 「……あんな遠いもの、良く見えたな」 「目が良いので」  サアレは「あんなに近いところにあって、お互いぶつかってしまわないのでしょうか」と呟いた。イフは吐く息が冷たくなっていることに気がつかないふりをした。 「あれらは重なっているが、本当はずっと遠いところにお互い居る」 「側にいるように見えるのにですか」 「そう見えているだけだ。星同士なんて、お互いが俺たちにひとまとめのくくりにされていることなど知りもしないだろうがな」 「そんなものでしょうか」 「そんなものだ」  暫くサアレは、はばたく白鳥を大人しく眺めていたが、ふと思い出したように立ち上がって、焚き火の周りをうろうろし始めた。空を見上げながら。「おい」イフが咎めるように声を出しても、サアレはぶつぶつと人差し指をコンパスに、空を製図するようになぞり続けている。もう一度イフが声を出そうとしたとき、「イフ」不意に名前を呼ばれた。 「あれ、あの星は何という星でしょう」 「……どれだ?」  少し離れた場所、そこは枝葉の位置が異なるので、焚き火の側とはまた違った星模様が見れるのだろう。別に空なんて見上げなくても、翼を覗き込めば直ぐに探せるだろうに。という事を言いかけたが、イフはその言葉を飲み込んで同じように天を仰いだ。サアレの指先は、南西の空を指している。 「あそこの薄い橙色を帯びた明るい星です。山の縁視界が切れそうなところにいるでしょう。あれが貴方にとても似ていると思ったのでつい」  空の位置、得手がいったイフは一瞬だけ苦い顔をして、すぐ無表情に戻った。気取られてはいないはずだと思い直して、イフは言った。偶然の皮肉にしては、出来過ぎていると思えた。 「……海蛇の心臓」 「うみへび」  南西の夜空は確かに他の空と同じく、幾億もの星々もの囁きを集めたように輝いている。しかしどうだろう、彼女が指さした一点、海蛇の心臓に当たる赤い明るい星は、その空の中心で一人ぽつんときらきらしく瞬いている。その星の周囲には暗い星が散らばるばかりで、同じように強く輝く星が見当たらなかった。北極星は眩く、乳の道は白く美しく、空は彩られている筈なのに、どうしてかその星の周りは言葉に出来ない孤独で溢れていた。 「どうしてあれが俺だと思った?」 「はあ。強いて言うのであれば他の場所が星同士賑やかなのにたった一人意地を張って誰も居ない空にぴかぴか光っているあたりがとてもとても貴方らしいとおもったただそれだけなのですが」 「……意地を張っては余計だが、まあ、あんたの言いたいことも解らんでもない」 「おや珍しい」  天は広く、気が遠くなるほどに遠い。  例えば北極星がすぐ隣にある明るい星に手を差し出したとしても、その手は爪の先に触れることすらできないだろう。イフはそのことを知っている。見上げる空に涯はなく、追い求めたぶん疲弊するだけなのを知っている。どうせすぐ隣にも腕が伸びないのであれば、どこで輝こうと同じ事だ。双子と形容される星同士ですら、触れることすら叶わないというのに。  遠い。届かない。他の光に手を伸ばすことで、一体星の何が変わるというのだろう。人はそれを孤独と呼ぶのだろうか。それは忌むべきものなのであろうか。  そうであるのならば、サアレの言葉は酷く正しいものに思えた。 「そうかあれは俺か。釈然と行った」 「認めるんですか」 「……あんたが言ったんだろう」 「だっていつもは真に受けないじゃないですか」  今日の彼女はやたら正論ばかり言うな、とイフはぼんやり考えた。  小さくなりつつある焚き火を横目で見て、まだ何かを見上げているサアレの背中に「おい」と声を掛ける。薄ぼんやりとした風景の中、サアレの白銀がくるりと振り返りざまに翻った。  イフは呼吸を忘れる。  あの吹雪の夜に見た、流れ星に良く似ていると思った。 「イフ、貴方に似た星があの空の上にあるのならオレに似た星もあるのでしょうええきっとあるでしょう。オレの星はどれに見えるでしょう? 見繕えませんか?」 「……星は無理矢理、自分に合うものを見繕うようなもんじゃないと思うが。そもそも、あんたはあの空には居ないだろう」 「?」  確信めいた溜め息に、思わずサアレは疑問符を浮かべる。涙は音も無く零れた。見上げた空は、静かに輝く星たちで埋め尽くされている。暗黒は揺らめく兆しを見せず、押し黙ったままだった。空気を裂く、青い光はどこにも見当たらない。  瞬きの間に消えてしまう、青い冷たい、狐火のような燐光を翻す、あの。 「……あんたは、流れ星みたいなもんだろう。青い尾を引いて夜を奔る。……あんたそっくりだ」  サアレは押し黙っていた。無言で、目を丸くして――しかしその顔は驚きともとれない不思議な様相だった――イフを見ている。  サアレの網膜の上を、青い閃光が奔って行った。空はちりばめた星屑で彩られている。その隙間を縫う、青く冷たく、燃えさかるほどにあつい流星。先ほどの一瞬で瞳の中に焼き付いた、眩い程に白い青が、サアレの瞳の中に未だ瑞々しく残滓を残して生きていた。あれはもう死んでいるのに、死に向かう一瞬に一際強く輝く、今際の塵であるのに。 「失言した。今のは忘れろ」  イフははっとして、慌てて頭を振った。 「嫌だと言ったら?」 「……二度とは言わんからな。もう遅いしあんたもさっさと寝ろ。……無駄な事を話した」  イフはサアレの言葉に被せるようにして、我に返ったかのように寝支度を整え始めた。まるで空を見上げていた先ほどの一幕などそもそも無かった事だと言わんばかりに、荷物を纏め、バックパックを枕代わりにして、薄手の毛布を引っかける。  サアレは取り付く島を強制的に排除されて、非難めいた息を吹いたが、イフが足で焚き火に土を掛けている姿を見て、渋々自身も寝支度に入ることにした。くあ、と大きな欠伸をする。  サアレの荷は少ない。そもそも彼女は野営に荷物を持たないたちであるから、仕方が無い。雪山で遭難した所で着の身着のまま生きて帰ってこれる自信があるからこその無謀だと言うことはイフも知っていた。  サアレはまず周囲の枯れ葉のうち、綺麗なものだけを集めて土埃を蹴って払うと、その場にすとんと腰を下ろした。そうして、六つある大きな尾を器用に体に巻いたり、捻ったりして、まるで動物がそうするように自らの尾に包まってみるみるうちに寝床を作り上げた。  ……器用なものである。と端から見ていて、イフは無駄に感心をしている。尾に包まっている姿を見ると、本当に大きな狐一匹にしか見えない。顔が見えないのでなおさらだ。野営が嫌いな訳ではないが、そもそも今日は野営をする予定を組んでいない。バックパックの硬い枕と薄い毛布では、やはり寝心地は今ひとつだ。と、イフは地面に寝そべる為体を横にした。  視線が、合った。  焚き火はすっかり消えているので、辺りはサアレの持つランプが光る薄ぼんやりした青い光に照らされている。その仄かな青のベールの向こうに、煌々と燃える赤が水に滲んだ輪郭を持って、こっちを見ていた。目線が、切れない。イフは言葉を失って、起き上がる途中のような、寝ようとする途中のような、微妙な姿勢で固まっている。その姿を見て、合点が行ったかのようなサアレは、 「……使います? 尻尾」  そう、おずおずと聞いたのだった。 「何を、……どう解釈したら、俺があんたの尻尾を欲しがっていると、思えるんだ……」 「いえ寝心地が悪いと寝られない性分なのかと思いまして」 「バックパックはあるし、毛布だってある。簡易だが」 「ここに柔らかい枕兼厚い毛布が四本も余っています」 「いらん」  ぴしゃりと言い切られて、サアレは少し考え込む。何を考えているつもりだ、とイフが胡乱げな顔をする横で、サアレはぽん、と手を叩いた。頭の上に電球が現れるような、そんな勢いで。 「気が使えずにすみません」  何が言いたい。と、イフが声にするよりも早く、腰を下ろしていたサアレが立ち上がった。そのまま彼女は前屈をするように体を折り曲げる。両腕が地面を掴み、ぐうっと、動物が伸びをするように背中が仰け反ったかと思うと、瞬きの間にするりと体躯は銀色に覆われ、背骨は伸びて前肢は縮んだ。尾をひとふり、ふたふりして、後肢を交互に伸ばす。魔法のように一瞬の変化に、流石のイフも驚いて声が出てこない。 「人の姿のままでは使うのに抵抗があったのですよね?」 「誰がそんなこと言った」  てこてこと軽い足取りで側に寄ってきた大きな妖狐は、さあ使えと言わんばかりに白銀の尾を差し出してくる。ばふ、と顔が尻尾に埋もれて、イフは邪魔そうに尾を手で退けた。 「……邪魔だ」 「まあまあ折角ですしどうせ夜は冷えることですし」 「俺は固い枕と土の布団で十分だ」 「なるほどそこに毛皮を敷くだけで豪華な寝台のできあがりという手はずですねよくわかります」 「人の話を聞け」  払っても払ってもばっさばっさと巻き付いてくる尻尾の群れに、イフは呆れた顔になる。サアレはその姿から戻る意思を見せず、起き上がらざるを得なかったイフの背中側に寝そべった。お前な、と小声でまた溜め息。サアレは知らん顔をして地面に顎を置いている。  しかし、この姿のサアレをよくよく見たことがなかったのもまた事実であった。狐になれる事実は知っている。見たこともある。あるが、あるにしろ。触れる機会などそうそう無いし、第一そうする理由もない。興味が、……無いことも、無い、のだが。  恐る恐る、躊躇いがちにその背に手を伸ばす。背、横腹。この場合はどこになるのだろう。とにかく、寝そべっているその胴に手の平を埋める。もふ、と音を立てずに指先が細い毛の束に飲み込まれた。思っているよりも柔らかく、長い毛足をしている。サアレは顔を動かさず、耳だけでこちらの動向を伺っているようだった。イフは、釈然としない面持ちをしていた。  ごく短い間、その見事な毛並みを手の平だけで味わう。この柔らかさであれば、確かに枕としては上等だろう。だが、それは果たしてやっていいものであるのか否か、イフには判断が困難だった。  これがもし、野生の人なつこい狐であれば、特に何を思うこともなく枕代わりにしていたかもしれない。イフは考える。そうきっぱりと道具代わりにすることができないのは、勿論相手がサアレであるからなのは明白である。色々な意味で。 「……変な気を起こすなよ」 「何阿呆なこと言ってるのかわかんないですが突然頭噛んだりとかですか」 「大体そう言う事だ」 「では善処します」 「……しないように務めてくれ」  最終的にイフは折れた。本人が布団として使えと言っているのであれば、もう諦めて使ってやろうという結論だった。腰の位置をずらして、丁度白い腹が枕になるように仰向けに横になる。もぞ、と背中の下を尻尾が動く気配がして、イフの眉間に皺が寄った。 「おい、尻尾は要らないからな」 「まあついでですし」 「お前な、おいサアレ、ちょっ……」  ぐいぐいと地面と体の隙間にねじ込まれる尻尾が無理矢理イフの体の下に潜り込み、背中と腰を支える。十二分に敷き毛布として優秀な厚みをもったその上に、覆い被さるようにしてもう一本、尻尾がかぶせられた。毛布のつもりなのだろうか。先ほどの薄手の毛布とは比べものにならない厚みは、どっしりと重い。  獣の匂いはしなかった。諦めて、腹の毛皮に頭を深く埋めると銀の毛並みが頬をくすぐった。さらさらと揺れるそれらからは、甘い花の香りがする。……それはそうだ。姿は違えど、これは狐でも魔物でもなく、サアレ本人なのだから。  呼吸を深く、吸う、吐く。息を吐ききると、体が厚い下毛と同化するように沈んだ。  小さく、一定の間隔でどくん、どくんと低い音が聞こえる。心臓の、音がする。 「……暖かいな」 「それはそうですよ、生きていますから」  サアレはそう言って、小さく欠伸をした。微笑っているのかもしれなかった。  森は静かだった。空もまた静かだった。  星の海は凪いでいる。水面を揺らす青い閃光もなく、ただ穏やかに暗黒だった。ぼんやりと、重たくなりつつあるまぶたの隙間から、夜空を仰いでいる。星々は相も変わらず手も届かぬ所で何も知らず輝いている。空に向かって手を伸ばす。届くはずはないと解っている筈なのに、伸ばさずにいられなかった。例えば、手を伸ばして縋る頃には、そこにはもういない流れ星のことを思うと。  彼らの唄はどこから聞こえるのだろう。吐いた息が白くなった。体に巻き付くように掛けられた尾の重さが、少しだけ身に沁みた。  ふっと視界が刹那ぶれた。幻視かと瞬きをすると、まぶたの裏側に吹雪が吹いている。夢に落ちかけているのかと自覚をして���とろとろと落ちてくる帳に素直に従おうかと瞳を閉じる。横から叩き付けるような冬の嵐は、しかし幻である証拠に寒さも、痛みも無かった。ぼんやりと体は温かく、心地よく疲労している。  イフは傾斜のついた雪原の上で立っていた。それはいつかの大地を奔る流れ星を見た景色と同じだった。視界は霞んでいる。視界の端に煌めくものを見つけて、イフははっとした。おぼろげな、吹雪でそれと解らないのに、それだけは煌々と瞳に焼き付いてきた。青い、冷たい、まっしろな閃光。 「あ」 「? なにか」 「……なんでも。ただ、」 「はあ」 「流れ星」 「?」 「いや、あんただったんだなと、今更になって思っただけだ」 「……何の話���んでしょうね」 「さあな」  それは���地を駆けていた。吹雪の中を、それを苦ともせずに走っていた。青い燐光を残像に滲ませながら、白銀は雪を蹴散らしていた。流れ星なんかではなかった。しかしそれは、確かにイフが見た流れ星そのものだった。  それは一匹の獣だった。  白い体躯をした狐は一度瞬きをした合間に、もう雪原の向こうにいて、傾斜のついた丘を越えて見えなくなった。そこだけは、イフの記憶の中にある流星の光景と重なっていた。あれは、あの青い光は、尾だったのだ。流星の、尾。  暖かい。 「サアレ」 「はい」 「……流れ星は、最後にどこに行くと思う?」 「なんですかそれ。…………そのへんの地面にでもころがってるんじゃあないですか。解らないですけど」 「そうか。……そうだな、そうなのかもしれないな」 「話の流れがわからないですがわからなくていいですか」 「ああ」 「……変なイフ」    堕ちていった星は、一体どこへ行ったのだろう。  流れ星なんて、見つけた瞬間に消えてしまうものだ。そう思っていたけれど、それがただの石ころでも、屑鉄でも、隕鉄でも、そっと手の平に乗せることができるのならば、願いを囁くことくらい許されるのではないだろうか。  それに、案外すぐ側に、流れ星は転がっているのかもしれなかった。 「おやすみなさい」  とろり、融けるような眠気の波に覆われて、ゆっくりと夜の闇に意識は融けていく。サアレが顔を寄せて来た。その額を一撫でしてまぶたを閉じる。音が遠くなる。瞼の裏には、温かな闇が広がっている。あの日の吹雪は、もうどこにも見えなかった。
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kamolaboblog · 6 years
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180708~0711_ゼミ旅行@北海道
 今回筆を執りますのは修士2(?)年の市井です。
3月末より一人日本を離れ、イギリス・フランス・イタリアの先進的な保育・教育環境の実地調査をする遊学をしていました。
6月末に一時帰国し、様変わりした研究室に若干浦島太郎の様な気分で日々を過ごしていた7月初旬、ゼミ旅行に行くことに。
行き先は北海道。詳しい行程はM1が企画してくれました。
【7月8日(1日目)】
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朝7時に中部国際空港に集合し、新千歳空港行きの飛行機に乗っていざ北海道へ。
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新千歳空港からはレンタカーに乗り換え、最初の目的地である釧路を目指します。
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◇釧路市立博物館 / 設計:毛綱毅曠
最初に訪問するのは、毛綱毅曠設計の「釧路市立博物館」。
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天・人・地になぞらえた各階の展示計画を各スラブを、DNAを模した二重螺旋階段が貫くという非常にコンセプチュアルな空間が広がっていました。若干時代を感じるデザインでしたが、建築を通じて設計者の思想を強く感じ取ることのできる良い博物館です。
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◇釧路市湿原展望台 / 設計:毛綱毅曠
博物館から車を走らせること30分。次に「釧路市湿原展望台」へやってきました。
こちらも毛綱毅曠設計。釧路市立美術館と合わせて日本建築学会賞を受賞している建築で、外観の丸っこいデザインは釧路湿原に群生する「谷地坊主」をモチーフとしています。
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湿原を「天地が渾然とした場」と捉えた毛綱毅曠は、そこに「胎内潜り」という強烈なコンセプトの展望台を建てました。柔らかいドレープのカーブが重なる天井、そこから降り注ぐ光、、、幻想的な空気で満ちた場は、正に異世界。
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◇釧路フィッシャーマンズワーフ / 設計:毛綱毅曠
この日の最後は、夕食を取るために商業施設・市庁舎・多目的アリーナが複合した釧路フィッシャーマンズワーフへ。ここも毛綱毅曠が設計。釧路には彼の手がけた建築が数多く建っています。
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室内を散策していると、空中にいい感じの銀の玉が浮いていたので、今回のゼミ旅行初の記念写真を撮影。
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晩御飯は釧路フィッシャーマンズワーフにある炉端焼きのお店で新鮮な魚介類を堪能しました。
【7月9日(2日目)】
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2日目は2チームに分かれ、屈斜路湖、摩周湖、硫黄山へ。
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屈斜路湖、摩周湖と天候が少し不安定でしたが、壮大なパノラマを堪能しました。
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非常にきつい硫黄の匂いが充満している硫黄山は、辺り一面から蒸気が吹き出ており、本当にここは地球なのかと疑うほどの環境。
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◇水の教会 / 設計:安藤忠雄
夜は星のリゾート トマム内にある水の教会へ。
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この日は湖畔近くのバンガローで宿泊。
夜明けまで大富豪大会で盛り上がるなど、高校の修学旅行のような状況に。みんなタフです。
【7月10日(3日目)】
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3日目は4時に起床し、美しい雲海を一目見ようと雲海テラスに向かいましたが、残念ながら雨で雲が多く、景色は全く見えませんでした・・・・。
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雨でビショビショになりながらもみんなで記念撮影。雲海を見るため、またいつかここに来ようと心に決めたのでした。
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◇ファーム富田 / 設計(一部):五十嵐淳
次の目的地に車を走らせていると、いつの間にか良い天気に。ラベンダー畑が広がるファーム富田へやってきました。
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ラベンダー味のアイスクリームに舌鼓を打つ女性陣。
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ファーム富田から移動し、appleの壁紙に採用されて一躍有名になった美瑛町の青い池にやってきました。アルミニウムを含んだ川の水が池の水と混ざることでコロイドが発生、日光に反射することで青く見えるらしいです。
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◇旭川駅 / 設計:内藤廣
車で移動すること数時間、内藤廣が設計した旭川駅に立ち寄りました。170円の入場券を購入し、駅のホームを見学しました。
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巨大なトラス構造が大屋根を支えています。建築というよりもはや土木スケールの大空間には圧倒されました。
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◇岩見沢駅 / 設計:株式会社ワークヴィジョンズ
駅をはしごして見に行くのは建築関係者か鉄道関係者くらいではないでしょうか。次に訪れたのは、ワークヴィジョンズが設計した岩見沢駅。
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1882年の駅設立から現在までの歴史を様々なところで感じることができるのはもちろん、全体的にデザインの質が高い建築です。天井のプレキャストコンクリートのデザインが可愛くて良い。
【7月11日(4日目)】
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◇頭大仏殿 / 設計:安藤忠雄
ゼミ旅行最終日の朝は安藤忠雄が設計した頭大仏殿へ。大仏を囲むように建築を作った安藤忠生の発想には驚きです。
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◇聖ミカエル協会 / 設計:アントニン・レーモンド
次に聖ミカエル協会へやってきました。ハサミのようなシザーズトラスが特徴です。
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◇北菓楼札幌本館 / 設計:安藤忠雄
お昼時に1926年に図書館として建てられた建物を改修した北菓楼札幌本館へ。重厚なレンガ造の中に軽やかな天井が絶妙にマッチしていました。
ここで食べることができるホタテカレーとスイーツセットは絶品です。
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◇モエレ沼公園 / イサム・ノグチ
午後は「地球を彫刻する」というコンセプトで作られたイサム・ノグチの遺作、モエレ沼公園へやってきました。
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あまりにも巨大すぎるので自転車をレンタルして公園内を巡りました。それでもかなり時間がかかります。
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モエレ沼の山頂にて記念撮影。あまりにも風が強くて飛ばされそうでした。
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◇サッポロビール博物館
ゼミ旅行最後の目的地はサッポロビール博物館へやってきました。1890年竣工のイギリス積の煉瓦造の建物からサッポロビールの歴史を感じることが出来ます。
一通り施設を見学した後、ジンギスカンとサッポロビールを心行くまで楽しみ、その後無事に名古屋に戻りゼミ旅行の全行程が終了。
帰国してすぐのゼミ旅行、ほとんどミステリーツアーのようなものでしたが、質の高い建築、壮大な自然、後輩たちと打ち解けることが出来た良い機会となりました。
次回は誰でしょう・・・・お楽しみに!
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