Tumgik
#朝・晩は肌寒くなりましたね。体調を崩さないようにして下さい
nvi143 · 7 months
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不燃愛
ぽたり、と鼻から血が垂れる。外に出るのが億劫だね、と家でポップコーンを食べながら映画を見ていた。ちょうどラブシーンで鼻血が垂れた。それがあまりにも単純なエロで興奮する男子中学生みたいで、馬鹿馬鹿しくて、2人して肩を震わせて思い切り笑った。君が丁寧に、優しくテッシュでそれを拭った。「今日はキスできないんだね」と眉を下げたぼくに対して、君は額に唇を落とした。鼻にティッシュを詰めてるとこ「見ないで」というと、「そういうところも可愛いよ」と微笑んだ。じくりと肺の横が痛んだ。これが、ときめきか、と思った。そうして眠った。
朝が来た。ピクニックに出かける予定だった。カーテンから溢れる日差しは眩しく、目を突き刺した。鼻血のせいだろうか、貧血のように体が重かった。隣で眠る君が額に手を当てると、自分の温度の高さに驚いた。試しに体温を測ると体温計は38.2を表示した。ピクニックは今度行こうか、と眉を下げる君に今日行きたかったのに、と怒鳴り拳で彼を叩き、ベットの上で泣き叫んだ。君は眉を下げながら「君のためだよ」と謝った。僕は泣いても涙が止まらなかった。最近不安定みたいだ。体調も、感情も、何一つとしてコントロールできない。情けなくてさらに泣いた。シーツがべちょべちょになった。泣いている間に君は落ち着きなね、と1人でどこかに行ってしまった。僕のことを置いていくなんて、大嫌いだと、叫びながら泣いた。そのうち涙も枯れて、だるさが襲い眠りについた。暫くして目が覚めると、君がキッチンに立っていた。きみはあたたかいお粥を僕に作っていた。ベットに運ばれたそれをゆっくり食べた。味はおいしいとは言えなかったけれど、君の優しい味がした。そのあとみかんゼリーを食べて、歯を磨いて、君に頭を撫でられながら寝た。不甲斐ない自分すら愛されている気がして、またじくりと肺の上が痛んだ。
朝が来た。お互いそれぞれ仕事をこなし、やり過ごす毎日が続いた。パターン化された毎日でも、君と過ごす時間があればそれは幸福になった。少しのスパイスで格段と味が上がるカレーのように、僕にとって君は特別だった。ただ一つ、変わったことがある。よく体調を崩すようになった。心ではなく、体が。鼻血を出した時から段々と体が蝕まれる感覚がする。前より呼吸が浅くなり、足首が誰かに掴まれてるのではないかというほど体が重くなった。ただの風邪だろうと流していたが、君の心配もあり病院に行った。風邪薬を貰うだけのはずが、アルコールの匂いを嗅ぎながら、多くの検査をした。医者に告げられた結果は、悪いものだった。病名は長すぎて頭に入ってこなかった。愛の病だと言われた。最愛の人と一緒にいることで寿命が縮まるらしい。所謂、末期癌のようなものだった。彼との生活を続けると三日ほどで君は死ぬと、そう言われた。治療薬はなく、彼と離れることで長生きできると言われた。その日は家に帰り、君が帰ってくるのを待った。帰ってきた君には開口一番に具合を問われた。「大丈夫だった?」「薬は飲んだ?」「ちゃんと食べないと」と。僕は、「ただの風邪だったよ」と笑った。心配する君の姿が母親みたいで、それがまた愛おしく、苦しくて、すぐにトイレに駆け込んで、君に見られないように涙をこぼした。思わず出てしまう声を必死で殺した。僕は選択を迫られている。君と居れば死んで一緒にいられないし、君と居なかったら生きれるけど君は居ない。どちらも地獄だと、そう思った。その夜、僕たちはシーツの中で深く深く交わった。冷たいシーツと、君の温かい体に挟まれ、君の熱いそれを受け止めた。僕の中でどくりと脈打つそれから、君の心臓を感じた。何度も奥が抉られ、息が上がる。心臓がじくりと痛い。君にこうやって近づく度に、死ぬんだと、それが実感としてあった。君の背中の皮膚に爪を立てて激しくしがみついた。君を離したくない、離れたくない、離れていかないで。涙が溢れるのは、快感のせいにして誤魔化した。君の生温い性液を腹の中で感じるのすら、尊くて、虚しかった。僕を忘れないでという気持ちで、君の首筋に沢山のキスマークを残した。
朝が来た。今日は仕事を休むと君に言い、部屋を出ていく背中を見送った。君がいない時間に、僕は決断を下した。全ての荷物をまとめた。君との思い出のCDや、本、日記帳はゴミ袋に入れた。一冊だけ、君にあげた本だけを本棚に残した。最後の悪あがきだったんだろうか。君に僕を覚えて欲しい、なんて、呪いをかけるような気持ちで残したのかもしれない。夜、君が帰ってくる前に家を出た。僕の痕跡をできるだけ残さずに、僕は君の前から消えた。さようならという言葉も残さずに、温かい場所から自分で去った。飛行機の窓から小さくなる街を指でなぞった。僕の体温が冷たくなる感覚がして、静かな機内で涙を落とした。
何度か朝が来た。君の側から去って、1ヶ月ほど過ぎた。肌にはまだじっとりと、君の温かい感触が残っているのが辛かった。君から離れた場所で、君のことをなんとか忘れようと必死だった。昼間は仕事に追われて平気だった。それなのに夜になると、毛布にくるまっているのに寒くて仕方なかった。医者には離れた時の副作用として、低体温になっていると言われた。耐えるしかないと、そう告げられた。君に会いたい。会いたくて、仕方がない。数少ない君の痕跡を辿った。電話帳から消したはずの連絡先がメモに残っていた。衝動的に10円を握りしめて外に出た。数が減った公衆電話を探し出し、10円を数枚入れて君の番号を打った。ちゃんと君にお別れを言って忘れられれば、僕の体温も戻るんじゃないかと、安易にそう思った。呼び出し音の後に君の声が聞こえる。「もしもし」と僕が口にしただけで、君は僕が誰か分かったようだった。「ちゃんと、さよならを言えてなかったから」というと、君は「そういうの辞めてよ」と怒った。僕はその言葉に動揺して、「また君に愛されたい」と呟いてしまった。君は、苦痛を搾り出すように僕に言った。「僕は、君との恋や思い出をやっと仕舞ったんだ」と。その言葉を聞いて僕は受話器を下ろした。まだ時間は余っていたようで、10円玉がカランと音を立てて数枚返却された。君との物語はもう終わったのだ、というのを理解した。
何度か朝が来た。あれからまた数ヶ月経った。時々病院の検診に行った。レントゲンを見せてもらった。「病気の進行は完全に止まった」と医者に言われた。レントゲンには、心臓や肺に白いツタのような物が巻き付いているのが写っていた。医者曰く、これは骨のような物で、最愛の人の近くにいるとこれを育ててしまい、これが育ち花のように咲く頃には、心臓や肺を締めて止めてしまうと言われた。死ぬ寸前だと言われたのがよく理解できた。僕は君を完全に忘れるために努力をした。夜の街に繰り出しては、孤独を埋めるための恋をして、お酒を飲んで、冷たいベットで肌を寄せ合った。「君は、すごく冷たいね」とその子たちは肌を撫でた。僕の体温は君といた頃の体温には戻らなかった。心臓が高鳴る、痛くなるあの感覚が、恋だったとは思いたくなかった。
朝が来た。朝が来るのが怖かった。何も楽しくなかった。映画を見るのも、ご飯を食べるのも、音楽を聴くのも。自分の中の大事なピースが欠けて、そこの空白がどうしても埋まらない。そんな毎日が続いた。たまたま用事があり、君の住む街に行くことになった。半年だと、何も変わってはいなかった。君と住んでいた街は、温かかった。というより、君との思い出が温かった。気が緩んだ。君を捨てて、僕は傷つかないことを選んだのに、その温かさに許された心地になった。用事を済ませた僕は、自然に君とよく行っていたカフェに足を運んだ。日曜日、いつもの窓際の席。そこに君はいた。君はまだそこに座って、僕があげた、本棚に閉まったはずの詩集のページをめくっていた。横顔を見詰めるだけで、涙が溢れた。声を掛けたい気持ちを抑えて、僕は君が見える離れた席に座った。机にあった紙ナプキンに、ぎっしりと君への手紙を書いた。もし、君がこれを受け入れてくれるのなら、僕は死んでもいいから君に会いたいと、そう思いながら言葉を綴った。謝罪と、君の思い出がどんなに尊いかということ、そして、君への愛。それを一心不乱に綴った。それを君に渡して欲しいとウエイターに渡し、僕はカフェを出た。あの日、ピクニックをするはずだった公園に行った。これで、君が現れなかったら、もう諦めようと、そう思いながらベンチで君を待った。しばらくして、僕の隣に君は座った。僕たちは何も言葉は交わさなかった。ただお互いの手を握り合って、指先で気持ちを伝えた。久々の暖かさに、溶けてなくなりそうだった。
朝が来た。君の腕に包まれながら、僕は目覚めた。「君はあたたかいね、」と笑った。あんなに冷たかった肌は、一晩にして戻ったようだった。帰りのフライトはキャンセルした。君の腕の中で死のうと、そう覚悟した。僕は、彼に逃避行がしたいと懇願した。旅行に行きたいと、君にワガママを言った。近場なら、と君は頷いて、僕たちは昼過ぎから出かけた。車を山奥に走らせて、僕らは現実から逃げた。君の助手席で、思い出の曲をかけて、窓を開けて息を吸い込んだ。心臓と肺が押し潰されて体は苦しいけれど、生きている、という心地がした。僕らはその夜、山奥のペンションに泊まった。焚火をして、思い出や、空白の期間何をしていたかを話し合った。君も君で、僕じゃない人を愛そうとして涙を溢したこと、僕は君じゃないと日常が埋められないと気付いた日のこと、色々語りながら、時に涙を溢した。夜空を見上げると、星が煌めいていた。僕は君に言った。「いつかあの星に、楽園に、2人で行こうね」と。君は優しく微笑んで頷いた。そうして、僕らは社会から離れた小屋で2人で眠った。僕は君の心臓の音を忘れないように、耳に刻むように、聴きながら眠った。
朝が来た。起き上がるのも、指一本動かすのも、辛くなってきた。息も上手くできず、視界が霞んだ。死が近づく気配がした。顔が青白い僕を見て、君は心配して帰ろうと諭した。僕は行きたいところがあるんだ、と君に頼み込んだ。どうしても最後に君と、最初に出会った場所に行きたかった。君はまた困った顔をした。僕は、一生のお願いだからと、君の手を握った。そうして、僕らは、僕らが出会ったキャンパスに向かった。ここで初めて、彼に出会った。卒業して暫く経ったキャンパスは、少しだけ変わっていた。僕らがよく逢瀬していた秘密基地は、綺麗に整理整頓されていた。授業を受けていた教室に行くと、あの頃の気持ちに戻れた。初めて、振り返って、後ろにいた君と言葉を交わした日を思い出した。君の前の席に座れたことは、僕の人生において1番の幸運だった。そして、屋上に向かった。今にでも倒れそうな僕に帰ろうと、不安そうに諭す君を振り切って、なんとか階段を登った。あの日、ここで、君のことが好きだと気づいた。カメラのシャッターを君に向けて切った時。僕の臓器に埋められた種は、この時に芽を出したのだと思う。ここで、きみとこうして手を繋げていることが、本当に幸せだと思った。そう思った瞬間、心臓が何かに突き刺される心地がして、血を吐き、鋭い痛みに耐えきれず、僕は倒れた。君は「駄目だ」と泣きながら僕を抱いた。朧げな視界の中で、君を目に映そうとして、僕は君の頬に手を伸ばす。暖かい涙が頬に落ちる。この暖かさが僕の拠り所だった。最後に言いたい言葉はたくさんあった。だけど、不思議と、この言葉しか出てこなかった。シンプルでありふ���た言葉だけれど、この言葉だけを言いたかった。「愛してる」きみを、世界でいちばん愛してる。急激な眠りに襲われ、僕は瞼を閉じた。幸せだと、心から思った。
君には朝が来て、僕には朝が来なかった。僕の体は燃やされた。けれど、僕の中で育ち、僕を殺した花は綺麗に咲いて、燃えなかった。遺骨のように、その花も残った。僕が死んでも、僕の愛は燃えなかったらしい。生まれ変わっても、この愛は燃えない。僕は、君への遺書にこう書いた。「もし、生まれ変わったら、どんな形であれ、君に会いたい」
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cafemeganebooks · 11 months
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11月の営業予定
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11月の営業予定です。
いよいよ11月のパフェ「ばくばくマロンパフェ』が登場します!
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ちょっとフライングして10月31日(火)から提供開始いたします!仕入れた栗が無くなり次第終了となります。
3日(金・祝)は実店舗営業しつつ「VISON絵本市」にイベント出店のダブル営業と初の試み。是非ハシゴして下さい!
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朝晩肌寒い季節になってきましたが、体調など崩さぬよう気を付けてお過ごしください。
よろしくお願い致します!
#CAFEめがね書房
#めがね書房
#11月
#営業予定
#営業予定カレンダー
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124770353 · 1 year
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20231003
ちはるん♪ @chiharu509 · 2023/10/03 (火) 22:21:00 Replying to @ojro_men まだ韓国ドラマ見始めてないのかな🤭🎶良かった😊 きしめんRI-nem @rijooki · 2023/10/03 (火) 22:14:56 Replying to @ojro_men やっった‼️\\\\ ꐕ ꐕ ꐕ //// 琥珀🎸✨🔥🎵 @c90fd72c0f0341f · 2023/10/03 (火) 22:14:45 Replying to @ojro_men やったー😆🎶 くう間もん @IF8nGTb3V31B1qa · 2023/10/03 (火) 12:52:35 Replying to @ojro_men おはようございます☀✨✨🌾🍁 秋晴れに鉄瓶お白湯🍵がしみます!!☺️ ジャスミンも先日、購入です😃 momo @momochi039 · 2023/10/03 (火) 12:39:57 Replying to @ojro_men おはようございます😃
まさか…まだ寝てますか? お昼過ぎましたが… yoshino @yoshino3996 · 2023/10/03 (火) 11:00:02 Replying to @ojro_men 治さん&チームオサムの皆さん。 私の代わりに 食べて~っ! 日本橋 千疋屋総本店 和栗のモンブラン(※マンスリーケーキ) https://sembikiya.co.jp/product-info/sweets[+] yoshino @yoshino3996 · 2023/10/03 (火) 10:55:09 Replying to @ojro_men もう一度💤眠れましたか? おはようございます☀️ megmeg🐰🐥🌸 @megmeg_fblc07 · 2023/10/03 (火) 10:11:16 Replying to @ojro_men ひぇ~6:40…🙀 おはよおさん🐥🐰✨☁️ びっくりしたなも~(  ・᷄-・᷅ )💦 2回目のおはツイもあるのかしら…🤭💕 琥珀🎸✨🔥🎵 @c90fd72c0f0341f · 2023/10/03 (火) 09:02:30 Replying to @ojro_men おはようございます😊 二度寝したかな❓ くみくみ @kumikotakuro · 2023/10/03 (火) 08:29:02 Replying to @ojro_men おはようございます😀 二度寝ですね😌気持ちいい気温ですから😴 さとみ @remisato · 2023/10/03 (火) 08:25:40 Replying to @ojro_men おはようございます(*´∀`*)ノノ
今日は健康診断なので朝ごはん抜きです(›´ω`‹ ) hiroちゃん (ひろiro) @iro_one_iro · 2023/10/03 (火) 08:08:55 Replying to @ojro_men はやいー! おはようございます🌞 逆に体調を崩しませんように💦 まるなぁす @NBcTNApWbaGQJPm · 2023/10/03 (火) 07:39:53 Replying to @ojro_men お早いでございますね😳 何度寝もしてくださーい😪 朝は涼しいですね🍂 れいか @ZEAYq5gbZ7GwLNz · 2023/10/03 (火) 07:37:28 Replying to @ojro_men おはようございます! 思う存分寝て下さいませ😴 くもうさぎ姫 @kumousagihime · 2023/10/03 (火) 07:37:24 Replying to @ojro_men おはようございます😊☀ スマイルりん @FT_lovelysmile · 2023/10/03 (火) 07:28:18 Replying to @ojro_men おは、ようござい、ます〜&オヤスミナサイw きしめんRI-nem @rijooki · 2023/10/03 (火) 07:14:21 Replying to @ojro_men おはようございます🌞
やった〜〜ワァァァ⸜(*˙꒳˙*)⸝ァァァイ出勤前に挨拶できた💕今日も研修頑張れる✨ ちはるん♪ @chiharu509 · 2023/10/03 (火) 07:12:49 Replying to @ojro_men おはようございます🐹🛁 二度寝かぁ…ずりぃ🥹私も寝たい! ٩(๑´0`๑)۶ midorichan0522 @midorichan05221 · 2023/10/03 (火) 07:11:45 Replying to @ojro_men あら👀お早いお目覚めですね✨ おはようございます😃 みーにゃん @minyan_3939 · 2023/10/03 (火) 07:08:26 Replying to @ojro_men 今朝は寒くてビックリしております☀️ とりあえず?おはようございます😊 sayaka @saya103 · 2023/10/03 (火) 07:06:31 Replying to @ojro_men おはようございま~す☀️ remiofan @remiofan · 2023/10/03 (火) 07:05:19 Replying to @ojro_men おはようございます☀️ 早起キ🙋 ももくるひめ @momokurumihime · 2023/10/03 (火) 07:03:08 Replying to @ojro_men おはようございます! 朝は肌寒いです、、気温がいきなり下がりました💦 もう一度ゆっくりお休みくださーい むーちょ(むーちゃむーちょ) @ringonoDANGO · 2023/10/03 (火) 07:00:00 Replying to @ojro_men あら〜っ早い🐓 同じタイミングで起きましたw 肌寒〜っっ gash @a_kie_1123 · 2023/10/03 (火) 06:59:16 Replying to @ojro_men おはよーございます😊 涼しいし寝ちゃってくだされ~😴 空雲 日晴 @soRaguMO_hisei · 2023/10/03 (火) 06:57:42 Replying to @ojro_men 神様、おはようございます🥰
昨晩はついに19時代に寝てしまいました😂 なので私はすっきり爽快ちゃんです😊☀️ 今日も良い日を過ごせますように! まき @H8_maki19 · 2023/10/03 (火) 06:52:26 Replying to @ojro_men おはようございます😊 二度寝、満喫してください😁 ayu @ayu_rf112 · 2023/10/03 (火) 06:50:52 Replying to @ojro_men おはようございます☀️ 寒いです🍂 hello-D(ヘロ) @helloD93779629 · 2023/10/03 (火) 06:49:53 Replying to @ojro_men おはようございます☀️ 二度寝しちゃうんですかw 笑歌走(🛩えりこ♡) @motuch71 · 2023/10/03 (火) 06:49:25 Replying to @ojro_men おはようございます☀
早起き素敵👏 と とろ @totolototoro · 2023/10/03 (火) 06:46:05 Replying to @ojro_men ありがとうございます😭 うれしいです♪ あんみつ彦 @anmitsuhico · 2023/10/03 (火) 06:44:14 Replying to @ojro_men おささん、おはようございます😃☀️ 今朝はついに10℃を下回る朝となりました😅寒いですよぉ〜😂 HARUKA @HARUKA55426150 · 2023/10/03 (火) 06:44:12 Replying to @ojro_men おはようございますm(_ _)m 二度寝宣言www 裕子(ヒロコ)🌸 @hiroko_fujimaki · 2023/10/03 (火) 06:42:59 Replying to @ojro_men えぇっ、早っ‼️ もう一度寝ると思うとのことですが、 一応おはようございます❗😊☀ ととろ @totolomen · 2023/10/03 (火) 06:41:57 Replying to @ojro_men おはようございます😃 Alice @Alice6499530073 · 2023/10/03 (火) 06:40:56 Replying to @ojro_men 🤭🤭🤭
おはようございます😃 行ってきます💨 あられ @0416_haha · 2023/10/03 (火) 06:40:41 Replying to @ojro_men おはようございます😊 akko @akkoro_men · 2023/10/03 (火) 06:40:33 Replying to @ojro_men おはようございます☀️
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idiotect · 4 years
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ちょっとだけ、クラウドがホラーちっくなおはなしでっす。
なんでもOKの方推奨~~~~!
「クラウド!!!!」
 目を離した刹那。本当にそれは一瞬で。  クラウドの身体を、ヤズーとロッズが放った銃弾が貫いていた。そして、次の瞬間、振りかぶった彼の大剣と沢山のマテリアから発動した魔法が衝突し、目も開けていられない程の白い爆発の後、どこを探しても、いくら名前を呼ぼうとも、世界中を何周としても、彼の姿はとうとう見つからなかった。  rêve ou réalité  あの日の雨で星痕症候群の患者が救われて幾日が過ぎただろうか。エッジの街はまだまだ遠方から病を治しに来る人々でごった返している。世界中に降った輝くような雨は、それを浴びた人、もの、すべてを浄化したけれども、その時、デンゼルのように屋根の下に居た人も多く、噂を聞きつけた人々で伍番街の教会は連日中に入れないほどの人出だそうだ。混乱が生じるといけないので、リーブをはじめとしたWROが指揮をとっているらしい。仲間達も手が空いている者はそれを手伝っているという。  そんな中、ティファは一人、店を再開した。  手伝いには行かなかった。仲間達も来なくていい、十分だ、と言っていたし、寧ろ、店もやらずに休んでいたらいいんじゃないか、とも言われた。それというのも、あの日から、ティファは連日連夜、クラウドを探していた。そして、そうなることは傍目に見ても分かりきっていたのに、精神のバランスを崩してしまったのだ。  特に深刻なのは睡眠だった。  ティファは、夢を見る。  その夢では、皆が見守る中、クラウドは教会の泉の中に現れて、ただいま、と言った。そして、マリンとデンゼルと4人で手を繋いで、セブンスヘブンに帰ってきた。仲間達皆で祝杯をあげてご馳走を食べて、これでもかと酔いつぶれてそして、二人、同じベッドで眠った。 「…ティファ?」  ふと、柔らかい音が響て、ティファは瞼を開いた。 「…マリン。…ごめん、寝てた?」 「うん。…あのね、そろそろ酒屋さん来る時間だな、って思って」  重たい瞼を持ち上げて、ティファは時計を見た。いつから意識を失っていたのか。確かに、もうすぐ納品の車が来る時間だ。 「もうこんな時間だったんだ。起こしてくれてありがとう、マリン」  マリンは少しだけ眉をよせて、うん、と小さくうなずいた。  睡眠障害。そう診断されて日が浅い。  日中、ぼうっとしているとすぐ寝落ちてしまうのだ。だからなのか、寝すぎて眠い悪循環で、ずっと、けだるさが体中にまとわりついている。病院にも行ったが、おそらく精神的ショックをやわらげようと、脳が眠るよう過剰に指示を出しているのでしょう、そういった診断だった。規則正しい生活をすれば、じきによくなりますよ、と。  その為、ティファは一旦クラウドの捜索を諦め、日中起きていられる時間をフルで使って店の開店準備をし、夜は精一杯働いた。働いている間は気がまぎれるし、寝落ちてしまう事もない。ティファだって、夢うつつのまどろみは望んではいなかった。そういう中途半端な眠りが、一番 精神的によくない夢を見せた。だから、ぐっすりと眠る必要があるのだ。潜在意識が届かないほどの、深い深い眠りに。 「こんにちはー!配達でーす!」  元気な声が裏口の方からして、ティファは慌てて走っていった。 「ごめんなさい、ぼんやりしてて… …あれ、いつもの方はお休みですか?」 「あ~… …あの、前の人、突然辞めたんっスよ」 「え!?何かあったとか…?」 「えっと、いや、う~ん、詳しくはわからないんです」  どこか言いにくそうに青年は笑うと、ティファが注文していた酒類の木箱を重たそうに置いた。明らかに慣れてなさそうな様子だ。   (…一昨日来た時は、いつも通りだったのに…)  顔なじみのいつもの酒屋の配達員は、もうセブンスヘブンの担当になって随分長かった。真面目な人柄で、仕事も丁寧で。それに、いつも、ちょっとした雑談とか、おまけとかしてくれるくらいには親しかった、と思っていただけに、何も言わずに突然やめた、という事実を、ティファはいまいち飲み込めなかった。人間関係のもめごとだろうか?職場環境が悪かった、とか…?そんなもやもやが、顔に出ていたのかもしれない。 「あ~、あの…」  悩んだ挙句、のような歯切れの悪���で、新担当の青年が口を開いた。 「ここだけの話なんですが、アイツ、クスリやってたみたいで…」 「え!?」 「中毒っぽくなって入院したって話なんですわ。…言わないでくださいよ。あ、オレも他の店のヤツ皆、クスリやってるヤツなんか後いませんから、そこは安心してください!」  それだけ早口で言うと、青年は帰っていった。 (クスリ、…)  世界が救われたからといって、すべてが平和になるなんて思ってはいない。ついこの間も、常連客の一人が最近店に来なくなったので、いつも一緒に飲んでいた人に聞いたところ、借金を踏み倒して蒸発したとか。 (分かってはいる、、けど…)  今更、正義漢ぶるつもりだってさらさらなかった。でも、命を落とした仲間達の事を想うと、気持ちの収まりどころが分からなくなる時も時々あった。 ***  それから数日後の事だ。その日も店は大繁盛だった。  けっして広くはない店の中、皆が幸せそうに笑っている様子を見渡していて、ふと、カウンター席の端に一人で座る男性にティファの目が留まった。彼もまた、常連客の一人だった。いつもは陽気に、他愛もない色々な話をしてくれる彼だが、今日は何かあったのか沈んだ表情をしていた。 「おかわり、作ります?」  それとなく近寄って話しかけると、空のグラスを両手で抱えて何か考え事をしていたらしい男性は、びくりと身体を震わせて、そしてあわあわと顔を上げた。 「あぁ、ティファちゃん。もう、たくさん飲んだから、この辺にしとくよ」 「ふふ、飲み過ぎは良くないですものね」  そう、ティファが頷くと、男性はほっとしたようだった。  ティファは皿を拭く続きに戻った。一枚一枚、丁寧に布巾で拭いて、棚にしまっていく。その工程をずっと見ていた男性だったが、最後の一枚が拭き終わった時、おもむろに口を開いた。 「ティファちゃんは眠れなくなったことはあるかい?」 「…私は、、最近寝すぎるくらいなので…。…眠れないんですか?」  男性はただ頷いた。 「最近、ね…。酒でも飲めば眠れるかと思ったんだけど、そうでもないみたいだ。…でも、…いや。気のせいかもな…」  そう独り言のように呟いて、そして顔を伏せた。 「あ、そうだ、これ使ってみます?」  ティファはポケットから小さな匂い袋を取り出した。ハーブの優しい匂いが香るそれは、精神を落ち着ける働きがある、とかでマリンとデンゼルと一緒に作ったものだった。 「なんだい?」 「お守りみたいなものです。昨日、子供達と作ったんです。眠れるようになるといいんだけど」  男性はその袋を受け取ると、すうっと匂いを嗅いで、そして微笑んだ。 「いい匂いだ。…よく眠れるかもしれない」  しかし、その後、それまで定期的に来てたその男性を店でみかける事はなくなった。 ***  ユフィが来た時、ティファはこの事を思い切って話してみた。 「え~、ティファの思い過ごしだって。そんなことないよ」 「でも…なんだか、気になって」 「そんなん、世の中にはごまんといるって。たまたま、店の常連客が2人来なくなっただけじゃん」 「酒屋さん入れると3人だよ」  ティファが即座に反論すると、ユフィはあからさまに大きなため息をついた。 「じゃ、3人。…だいたいさ、ティファ働きすぎなんだよ」 「そんなことないよ」 「そんな事あるって」 「だって……ユフィとか皆の方が働いてるでしょ…」 「アタシ達は、ほら、、、どこも悪くないからさ」 「私だって、ただ、寝すぎるだけで…」 「それが心配なんじゃん。皆心配してるよ。クラウドならぜったい止めてる……」  名前を出してしまって、ユフィはしまった、と顔をしかめる。  でも、ティファの表情はみるみるうちに曇っていった。 「寝すぎるとか、そんな事してる場合じゃないのにね。早く、クラウド探してあげないと…」 「あ〜……」     その時だった。ぐらっと視界が揺らいで、ティファはテーブルに手をついた。 「ティファ!?」 「ごめん、ゆふぃ、ちょっと横になる…」 「大丈夫!?苦しい??」 「ううん…だいじょうぶ…」 「全然大丈夫に見えないよ!…何か薬とか…」 「…ほんとうに、だいじょうぶだから…」  それは本当だ。これだけ強烈な眠気ならば大丈夫。今回は深い眠りに違いない。 「ねむいだけだから…」 「ティファ!」  ユフィの悲鳴のような声が遠くに聞こえて、そして、消えた。  ・  ・  ・  ・  無音の後の静寂。 「…ティファ」  真っ暗な世界に響いた、大好きな、やさしい声。  ティファは目を開いた。 「…クラウド?」 「おはよう、ティファ」 「…おはよう」  そして、そのままクラウドの首に抱きついた。 「…ティファ?」 「…怖い夢を見たの」 「……どんな?」 「…クラウドが居なくなる夢」 「俺はここに居る」 「うん。…でも、家出した」 「それはっ…ごめん。もうしない」 「絶対?」 「うん。絶対だ」  耳元で響いた、困ったような、でもどこか嬉しそうなその声に、ティファは少しだけ身体を離して、クラウドの顔を見た。  そこは二人の寝室で、そして、碧い瞳が少し心配そうに、こちらを見ていた。  だから、そのきゅっと一文字に結ばれた唇に、ティファはキスをした。即座にクラウドはそれに答えてくれて、彼女の閉じていた唇は割って入ってきた舌によって開けられる。顔の角度を変え、もう一度、と落ちてきた熱い吐息に、再度入ってきた舌に、身体の奥が疼いて熱を持ち始める。 「…ティファ」 「ん?」 「…もう少しだから」 「え?」 「…もう少しだ。だから…」  こつんと額と額が触れ、地肌に直に触れるクラウドの指に力が籠もった。次の瞬間、彼がティファを掻き抱いた腕が強くて、息が苦しい。 「……。」 「え?」 「」 「クラウド?なんて言ったの?」 「クラウド??」  パッと目が覚めた。  そこは夢に見たのと同じベッドの上。  ただ、そこにはティファ一人だった。 (…聞いちゃいけなかったんだ)    ティファは起き上がった。目を向けた窓の外は、空が白ばんでいる。夜明け前の静かな靄のかかった外の景色。窓にカーテンがかけられていないのは、そんな時間から眠っていたからだろうか。  ティファはただぼんやりと窓の外をみつめた。  徐々に外は明るさを増し、ふとした瞬間、光の糸が空に放たれ、じんわりと頭を見せた陽の輝き。それは一瞬で空を金色に染めた。 (…………そうすれば、まだ一緒にいられたのに)  深い夢は幸せに満ち溢れていて、そして残酷だ。夢はティファの発言を求めてはいない。いつも一方的に始まって、唐突に終わった。  夢の中で二人は言葉もなく飽きもせず、一晩中愛し合った。夢の中で目が覚めると、いつもそこにはクラウドの顔があって。そして、目が合う。唇が重なる。クラウドの手が服の下から肌に触る、その少しだけ冷たい感触までもありありと伝わってくる。だから、いつも全力でそれに答えてしまう。すると、煌々と濡れた唇がティファの身体中にキスを落としていく。全身に余すことなく、彼の、クラウドの感触が刻み込まれていく。そして、夜が明けるのだ。  ……でもそれは、最後まで、間違えなかった時。間違うと、今みたいに夜明け前に目が覚めてしまう。 (…次は気をつけなくちゃ)  話してはいけない、そう訴えるように、夢の中のクラウドはティファの問にはほとんど答えない。それなのに、今日の夢の中の彼は何か伝えたそうでもあった。それは、ティファが咄嗟に抱き着いてしまったからなのかもしれないが。でも、、、 (わかってる、所詮、あれは夢…)  触れる感触も、耳に響くその声も限りなくリアルで、今の生きる喜びで、でも、夢、なのだ。  と、行き場を失ったままになっていた身体の中の熱がうずいて、ティファは自分で自分を抱きしめた。  その時、違和感を感じた。  恐る恐る、自分の腕を見る。そこには、いつできたのだろうか、きつく握りしめられたような、赤い指の跡が浮かんでいた。 *** 「ティファさん…顔色悪くないですか?」 「え!?そ、そうですか…?」  常連客に突然指摘され、ティファは思わずグラスを落としそうになった。幸いにもそれはまた手の中に留まり、最悪の事態は防げたものの、一緒になって飛び跳ねた心臓はドキドキと大きな音を響かせている。 「疲れてるんじゃないかって、前から心配してたんですよ。最近、表情が暗い」  常連客は尚も続ける。  しかし、その彼の心配してくれているのであろう口調が、妙に耳に触るような気がして、ティファは俯いた。 「…昨日夜更かししたからかな。今日は早く寝ます」  ティファはそう言うと、素早く客に微笑み、そしてまた視線を落とす。  作業をしている風を装って、もう磨き上がれているグラスを再度拭き始めた。 「心配だな…僕が家族なら、早く休めって、今日はもう貴女を休ませますよ」 「ふふ、そうですね。もうすぐお店も閉店時間だし、今日は早めに閉めちゃおうかな」 「ティファさん、僕は本気で心配しているんですよ」  ああ、嫌だ、咄嗟にそう思ってしまって、ティファは耳を塞ぎたくなった。 「僕だったら、貴女みたいな人を一人で働かせたりしない」  私は、働きたくて働いているの。働かされているわけじゃない。 「そうだ、僕が代わりに皆に言いましょうか。今日は閉店しますって」  やめて。  それは、それは………クラウドの役目。  ―ティファ、休んだ方がいい。  ―すまない、今日は早いが閉店にする。  脳裏に心配そうな彼の姿が浮かんだ。その表情が夢の中のクラウドと重なる。ティファ、と心配そうにのぞき込む、吸い込まれそうなほど碧い瞳。  彼の、……クラウドの場所を、私から取らないで。  ティファは顔を上げると、にっこり、とほほ笑んだ。 「いえ、自分で皆さんに言ってきます。お会計もあるし…あ、先に頂いてもいいですか?」 「えっ、ああ…」  代金を受け取って、ティファはカウンターから出た。そして、テーブル一つ一つに声をかけていく。その後ろで、先ほどの常連客は店を出たようだった。  それからすぐの事だった。  ドン    そんな鈍い大きな音が店の外から響いた。 「なんだぁ…?」  誰かがそう呟き、誰かが外へ様子を見に行った。しばらくして戻ってきた男は、席に座りながら隣の客に言った。 「なんでも、近くで事故があったらしい。モンスター車だかに人がひかれたんだとよ」 「へぇ。千鳥足で歩いてた酔っ払いか」 「そこまでは分からなかったなぁ」  ・  ・  ・ 「ティファ」 「…クラウド?」 「おはよう、ティファ」 「…おはよう」  ティファはクラウドに抱きついた。 「…ティファ?」 「クラウド、どこに居るの?」 「………ここに居るだろ?」 「………。」  いやいやをする小さな子供のように、ティファは頭を横に振った。 「でも、」 「ティファ」  クラウドはティファの名前を呼ぶ。そして、その唇はティファの耳の外側をなぞるように触れたのち、その耳たぶを唇と唇で挟んだ。 「ん…」  漏れ出た声に、耳元に落とされた、ため息のような吐息。 「…もう少しだ」 「…。」 「……だから、それまで…」 「……。」  静かに身体はベッドの上に寝かされる。  一番最初は額だ。つぎにこめかみ。頬、そして、首筋。ゆっくりとクラウドはキスを落としていく。いつも決まった順番。むき出しの腕をなぞるように移動した唇は、手の甲で止まり、そして内側にも。指の一本一本までも。  その動きを見ていると碧い瞳と目が合う。そして彼は切なげに微笑んで、唇と唇が重なった。 「……俺は、ティファの方が居なくならないか不安だ」 「…え?」  覆いかぶさるその大きな身体が闇を作る。 「…………誰も、ティファに近寄らせたくない」 「え?」 「ティファは分かってない、」 「…クラウド?」 「…俺が…どれだけ……」 「クラウド?」  ・  ・  ・  店のドアベルが勢いよく跳ね上がり、近くのテーブルに座っていた初老の男性がそれに気が付いて顔を上げた。 「おう、いつも元気だな」 「あったりまえじゃん!」  その元気のよい声にティファが顔を上げると、それに気が付いたユフィがひらひらと手を振った。 「ティファ~お腹すいた~」 「先に連絡くれたら作って待ってたのに!」  呆れて言うティファに、ユフィは「忍がそんなことしないって」そう真顔で言い返しながらカウンター席に腰を下ろした。 「適当でいい?」 「うん。おいしーやつお願いね!」 「りょうかい」  ティファが調理を始め、ユフィはそれをにこにこ顔で眺めていたが、ふと、思い立ったように口を開いた。 「��れからは増えてない?」 「え?何が??」 「前に、ティファの思い過ごしだって言ったやつだよ」 「う~ん」 「え、また誰か来なくなったの?」 「うん…、でもそれは私のせいだから違うかな」 「ティファのせいって?」 「ちょっと、失礼な事をした、かも…」  その二人の会話が聞こえていたようだ。ユフィの隣に座っていた男が口をはさんだ。 「それさ、よくそこに座ってたヤツ?身なりの良いスーツ着て」  カウンター席はだいたい常連客が座る事が多いた��、それぞれが名前は知らずとも顔見知りであることも多い。その男も大概いつも同じ席に座っていたから知っていたのだろう。 「ええ、そうです」 「あいつ、事故にあったって言ってたから、ティファちゃんのせいじゃないさ。治ったらまた来るだろうから、覚悟しといた方がいいよ」 「なんだよ、覚悟って」 「ティファちゃんはモテるんだって」 「はぁ?知ってるし」  ユフィが客に失礼な態度をとっているにも関わらず、ティファはぼうっと呟いた。 「…事故?」  あの日、一番最初に帰った彼。あの後すぐに近くで事故があったと聞いたのは、数日たってからだった。街中に入ってきたモンスターと一般人が衝突したそうだ。もし、それが彼だったのなら。それが、ここに来ていた事が原因なのだとしたら。……これで4人目だ。 (なんだろう…怖い…)  背筋に悪寒のようなものが走って、ティファは身震いをした。次々と姿を消していく顔見知りの人達。それぞれ理由があるにせよ、重なりすぎじゃないだろうか。そして、そう、ティファ自身の体調不良。規則正しい生活を心がけてはいるが、一行に改善が見られない。それどころか、日に日に悪化しているような気さえする。 「ねぇ、ユフィ、やっぱり…」  そう言いかけたティファだったが、ユフィはあ、という顔のまま、丁度電話に出てしまったところだった。 「もしもーし!ユフィちゃんだよ。…え、今?…別にいーじゃん、どこでも」  不貞腐れた顔をした彼女だったが、途端に表情が変わった。 「ティファ今仕事中だから。は?ティファなら目の前に……。……。分かった。すぐ行くよ」  電話を切るなり、ユフィはティファを見て真剣な顔になった。大きく息を吸い込み、そして、 「…ティファ、落ち着いて聞いてね。  あのさ、クラウドが見つかったって。今から一緒に行こう」  その後のあれこれを、ティファはあまり良く覚えていない。  ユフィに手伝ってもらって、急遽店を閉めると、マリンとデンゼルを預けて、二人は迎えのヘリに乗った。暗夜の闇を掻き分けるように進んだ先に見えてきたのは、海の中にぽっかりと灯りを灯した孤島だった。  ヘリはその島に一つだけある診療所の屋上上空をホバリングし、二人は飛び降りるように建物に降り立つとそのまま迎えに来ていた看護師に連れられて中に入った。  そして、一つの個室へと案内された。 「…クラウド?」  壁もカーテンもベッドも、真っ白な部屋だった。そこにクラウドは眠るようにベッドに身体を横たえていた。 「今朝、ミディール沖で見つかったようです」  静かな声でリーブが言った。 「おそらく、海底のライフストリームから吹き上げられてきたのでしょう。驚いたのは、どこにも怪我ひとつなかった点です。どうやら、ライフストリームの中で再生していたらしい。身体中のライフストリーム濃度が極端に高くなっています。でも、人体に害があるレベルではない。あくまで、傷の再生にだけつかったようです。それがクラウドさんの意思なのか、ライフストリームの意思なのか、それはわかりませんが」 「……目は、覚めない…?」  真っ白な部屋で閉じられている金色のまつ毛。それは照明に透けるように輝いてはいるが、しっかりと閉じられたままだ。 「医者が言うには、いつ覚めてもおかしくない状態らしい。…何か刺激が必要なのかもしれない。それで、ティファさんに来てもらったわけです。ティファさんが来れば、反応があるかと思いまして…」  気遣わしげにリーブは言った。「ティファさんの体調を考えて、目が覚めてからの方が良い気もしたのですが…」そう言葉を濁した。  ティファはクラウドの傍までくると、身体の横に力なく置かれている手を取った。両手で包んで、暫く待ってみた。でも、特に何も変化はなかった。 「…少し、二人きりにしてもらうことは出来ますか…?」  リーブとユフィ、そして看護師はうなづきあって部屋を出ていった。  その真っ白な部屋に、ティファは眠ったままのクラウドと二人きりになった。 「…クラウド?」  呼びかける、でも、その声は白に吸い込まれていく。  眠るクラウドは、本当にただ眠っているかのようだった。規則的に胸が上下し、顔色も良い。でも、全身の力が抜けていて、意識はまだ、どこか遠い世界にいるのが分かる。 「……帰ってきて、クラウド」  ティファはクラウドの顔を見つめた。あの碧い瞳が見たかった。そして、言って欲しかった。『ティファ』と。クラウドが言うその言葉をどれだけ夢に見たことだろう。  ティファは、クラウドの眠るベッドの上に手をついた。そして、そうっとクラウドの額に唇を落とした。つぎにこめかみ。頬、そして、首筋。ゆっくりとティファはキスを落としていく。腕をなぞるように移動した唇は、手の甲で止まり、そして内側にも。指の一本一本までも。そして、クラウドの顔を見た。 「……………………ティファ?」  薄く開いた口から、細い小さな声が漏れて、そして、ゆっくりと、碧い瞳が開かれた。 「っ、おはよう、クラウド」 「……おはよう、ティファ」    碧い瞳と目が合う。そして彼は切なげに微笑んだ。顔をそっと近づけると、ようやく、唇と唇が重なった。抱きしめた体はまだうまく覚醒していないようだったけれども、クラウドはゆっくりとティファの背中に手を回し、そしてぎゅっと力を入れた。 「ただいま」 「うん、おかえりなさい…」  笑顔と共に堪えるように、きゅっと一文字に結ばれた唇。頭を少し持ち上げると、クラウドはそこにキスをした。ティファの紅い瞳から、涙がぽろぽろと零れていった。 ***    クラウドが帰ってきて、ティファの体調は瞬く間に良くなった。マリンやデンゼルはもちろん、仲間達も店に顔を見に寄っては喜んでいった。  そして、セブンスヘブンに戻ったクラウドを、家族以外で一番?大歓迎したのはまさかの年配の客達だった。そんなに仲良かった…?とティファが思ってしまうくらいだ。彼らは配達を再開したクラウドが仕事を終えて店に戻るなり、 「おお、クラウドさん良かったな~!俺たちもこれで安心して飲める」 「やっぱり、ここにはクラウドさんが居ないとダメだな」  そう彼を囲むとバシバシと酔い任せの遠慮なしに背中を叩くものだから、クラウドが嫌がらないかと少し心配した。しかし、 「当然だ」  そうキリッとした顔で返事をしていて、思わずティファはびっくりしてしまったのだが。  その後、酒屋の配達人は退院し、客として姿を見せた。「薬!?違いますよ、俺、アル中で…だから今日はジュースお願いします」そう情けなさそうに笑った。蒸発した、と言われていた常連客もまた店に来るようになった。「え!?出稼ぎに行ってただけだって」眠れなくなっていた男も、「眠れるようになったから、溜まってた仕事を片せてやっと来れた」そう笑った。あの事故にあった男も、退院したそうだ。  でも、4人共、クラウドと顔を合わせた瞬間、ぎょっとしたように怯えて見えたのは、ただの思い過ごしだろうか。  でも、あれから、魔晄色が少し強くなった瞳をのぞき込んでティファは言う。 「やっぱり、クラウド少し変わったね…?」  ティファの紅い瞳を見上げてクラウドは答える。 「…だったらティファが教えてくれ」  軟らかい微笑みをたたえて、ティファを抱きしめ、小さく呟く。「ティファが俺を完全にしてくれる」 「どうやって?」  クラウドの唇はティファの耳をなぞり、そして囁いた。 「……夢で見たように」 fin.
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ichinichi-okure · 4 years
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2020.10.8thu_kyoto
普段なら変わらず仕事の支度をしている平日の朝6時頃、息子の声に起こされる。 寝室の窓の方から雨音と息子の声。 「カタツムリだ。」
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10月に入り急に肌寒くなり、少しでも気を緩めると一気に体調を崩しかねない季節の変わり目。 ワタシは京都の西陣にある染工場、そこで染色職人としてかれこれ15年ほど勤めている。
本来なら平日の今日もそうだったが、所謂コロナの影響による休業の日となった。
少しゆとりが出来た朝の時間はやはり新鮮だ。 とは言え、ワタシが普段居ない時間の妻のやる事は変わらない。
少しでも分担を。
だが結局出発が何時になろうと朝の時間は忙しないものだ。 あっという間に幼稚園に送りに行く時間に。
息子の幼稚園は山の上にある幼稚園で、家から大人の足でも30分くらいは掛かる。雨の日は尚更大変だ。
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近くの公園まで送って、後は先生方にお任せする流れである。 コロナ禍に始まった幼稚園生活だった為、スタート自体が遅く6月からになり、新生活も慣れないまま夏休みになり、また幼稚園後期がスタートしたがやはりまだ慣れない。いつも泣いて暴れて連れて行かれていたと妻から聞いていたので、今日も泣きじゃくるんだろうなぁと思っていた。
しかし公園に入ると周りのお友達に話しかけたりこちらには笑顔を見せてくれたりと、少し余裕を感じさせてくれた。 彼なりの成長アピールもあったのかもしれない。
そんなこんなで無事朝の1番の仕事は終わり、ワタシはそのまま日々のやるべきリストの時間に。
普段の休日も朝7時過ぎから9時頃まではピアノなどを弾くようにしている。 もちろん夜も弾ける時は弾くのだが、休日の朝のこの時間の方が家族にとっても都合が良い。
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一通り作曲、バンドなどの練習も含め落ち着いたところで次は、近年組ませて頂いたバンド、折坂悠太(重奏)にてピアノを担当していて、その折坂くんが主題歌、劇伴を手掛けた映画の視聴タイムを妻とのお茶タイムにて。
有難い事に主題歌、劇伴共にピアノは全編担当させて頂きました。 しかしそんな事よりも折坂くんと映画監督さんのやり取りも間近で拝見していたので、ようやく完成した作品を��見出来て、こちらもほっとしたところがありました。 2020.11.20公開らしいので是非(ちゃっかり)
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仕事中とは時間の感覚が違う平日の休日。
何度か味わったこの感覚。なんだろう、当然時間の事は考えるし、それよりも生活や社会についての考えが行き過ぎる。。
改めて思うこともあるが、それはまた別に。。
映画を観終わったらもうお昼近く。 また少しピアノを弾いた後、息子を幼稚園に迎えに行くついでに近所の天下一品本店に妻と。
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久しぶりに美味しかった。 このニラニンニクはお酒のアテに作ろうと。
いつも満席(ソーシャルD的なのは完備した上)の天一が雨のせいか今日は程よいお客さんだったので息子を迎えるのにちょうど良い時間になった。
幼稚園の山の階段から降りてくる息子はどんなか?と思っていたが、これまた慣れた様子でワタシが迎えに来ているのもある種当たり前のように手を繋いできた。
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約30分ほど息子の手を引いて歩くこの時間。 当たり前にもなるだろうが、かけがえがない。
世の中はコロナ禍ずっと前からも如何に人間同士が直接触れ合わずに楽しむ!というようなSNSバーチャル世界が当たり前だったようなので、改めて握手やハグなど所謂スキンシップがどれだけ尊いかと。 コロナ含めてもう戻れなさそうですが。。
ビックバンにより宇宙が膨張を続けて、星と星の感覚も広がり続けている事に関係してそうな気がする、人間同士の距離の広がり。
これもまた別に。。
そして無事帰宅。
ここでまた家族でお茶タイム。
4匹いる猫の1匹と一緒に10分ほど昼寝したり。
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約1時間くらいかかりながら息子をお風呂に入れ、夕方はここ最近ずっと通っている歯医者に。いつまでも歯医者は嫌である。大嫌いである。先生にムラがある。医者も人間だからそれは当たり前なんだけど、あまり好きになれない。 この歯医者が何せ仕事場の近所にあるものだから、さらに少し損した気分になりつつ。
歯医者から帰ると19:00頃。 息子はもうご飯も済ませ寝る間際に。 一緒に寝るフリをしてようやく就寝。
3歳が全力で走り抜けた12時間オーバーの一日、、 おつかれさん。 また明日も元気に起きよう。
ワタシはこれから晩酌タイム。 これまで20年ほとんどビールのみだったが、ここ最近日本酒が大好きでよく飲んでいる。
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その原因?お陰様?の一つが間違いなく吉田類さんだ。
吉田類さんの酒場放浪記を観た途端ファンになった。 最高すぎるこの人。この価値観。
ニワカファンに近いからあまり言うことはないが、この人の飲み方、店主との接し方、ユーモア、グッとくるものがあります。
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あー、と今22時、明日も早いので日記はこの辺でまた。
ワタシはもう少しフラフラと行ってみます。 ありがとうございました。
-プロフィール- yatchi 京都 鍵盤奏者、ムーズムズ、折坂悠太(重奏)、染色職人
@yatchipiano
youtu.be/DB13uUoGmKE
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hirusoratamago · 5 years
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【QN】ある館の惨劇
 片田舎で依頼をこなした、その帰り道。  この辺りはまだ地方領主が収めている地域で、領主同士の小競り合いが頻発していた。  それに巻き込まれた領民はいい迷惑だ。慎ましくも回っていた経済が滞り、領主の無茶な要求が食糧さえも減らしていく。  珍しくタイミングの悪い時に依頼を受けてしまったと、パティリッタは浮かない顔で森深い峠を貫く旧道を歩いていた。
「捨てるわけにもなぁ」  革の背負い袋の中には、不足した報酬を補うためにと差し出されたパンとチーズ、干し肉、野菜が詰まっている。  肩にのしかかる重さは見過ごせないほどで、おかげで空を飛べない。  ただでさえ食糧事情の悪い中で用意してもらった報酬だから断りきれなかったし、食べるものを捨てていくというのは農家の娘としては絶対に取れない選択肢だ。  村に滞在し続ければ領主の争いに巻き込まれかねないし、結局考えた末に、しばらく歩いてリーンを目指すことに決めた。  2,3日この食料を消費しつつ過ごせば、この"荷物"も軽くなるだろうという見立てだ。
 この道はもう、殆ど利用されていないようだ。  雑草が生い茂り、嘗ての道は荒れ果ててい��。  鳥の声がした。同じ空を羽ばたく者として大抵の鳥の声は聞き分けられるはずなのに、その声は記憶にない。 「うげっ」  思わず空を仰げば、黒く分厚い雨雲が広がり始めているのが見えた。  その速度は早く、近いうちにとんでもない雨が降ってくるのが肌でわかった。
「うわ、うわ! 待って待って待って」  小雨から土砂降りに変わるまで、どれほどの時間もなかったはずだ。  慌てて雨具を身に着けたところでこの勢いでは気休めにもならない。  次の宿場まではまだ随分と距離がある。何処か雨宿りできる場所を探すべきだと判断した。  曲がりなりにも街道として使われていた道だ、何かしら建物はあるはずだと周囲を見渡してみると、木々の合間に一軒の館を見つけることができた。  泥濘み始めた地面をせっせと走り、館の玄関口に転がり込む。すっかり濡れ鼠になった衣服が纏わり付いて気持ちが悪い。
 改めて館を眺めてみた。立派な作りをしている。前庭も手入れが行き届いていて美しい。  だが、それが却って不審さを増していた。
 ――こんな場所に、こんな館は不釣り合いだ、と。思わずはいられなかったのだ。
 獅子を模したドアノッカーを掴み、館の住人に来客を知らせるべく扉に打ち付��た。  ��ばらく待ってみるが、応答はない。 「どなたかいらっしゃいませんかー!?」  もう一度ノッカーで扉を叩いて、今度は声も上げて見たが、やはり同じだった。  雨脚は弱まるところを知らず、こうして玄関口に居るだけでも雨粒が背中を叩きつけている。  季節は晩秋、雨の冷たさに身が震えてきた。  無作法だとはわかっていたが、このままここで雨に晒され続けるのも耐えられない。思い切って、ドアを開けようとしてみた。 「……あれ」  ドアは、引くだけでいとも簡単に開いた。  こうなると、無作法を働く範囲も思わず広がってしまうというものだ。  とりあえず中に入り、玄関ホールで家人が気づいてくれるのを待とうと考えた。
 館の中へ足を踏み入れ、後ろ手に扉を閉める。背負い袋を床におろし、一息ついた。  玄関ホールはやけに薄暗い。扉を締めてしまえばいきなり夜になってしまったかのようだ。 「……?」  暗闇に目が慣れるにつれ、ホールの中央に何かが転がっていることに気づいた。 「えっ」  それが人間だと気づくのに、少し時間が必要だった。 「ちょっ、大丈夫で――」  慌てて声をかけて跪き命の有無を確かめようとする。 「ひっ」  すぐに答えは出た。あまりにもわかりやすい証拠が揃っていたためだ。    その人間には、首が無かった。   服装からして、この館のメイドだろう。悪臭を考えるに、この死体は腐りかけだ。  切断された首は辺りには見当たらない。  玄関扉に向かってうつ伏せに倒れ、背中には大きく切り裂かれた痕。  何かから逃げようとして、背中を一撃。それで死んだか、その後続く首の切断で死んだか、考えても意味がない。  喉まで出かかった悲鳴をなんとか我慢して、立ち上がる。本能が"ここに居ては危険だ"と警鐘を鳴らしていた。  逃げると決めるのに一瞬で十分だった。踵を返し、扉に手をかけようとした。
 ――何かが、脚を掴んだ。    咄嗟に振り向き、そして。 「――んぎやゃあぁあぁぁぁあぁぁぁああぁッッッ!!!???」  パティリッタは今度こそあらん限りの絶叫をホールに響かせた。
「ふざっ、ふざけっ、離せこのっ!!!」  脚を掴んだ何か、首のないメイドの死体の手を思い切り蹴りつけて慌てて距離をとった。弓矢を構える。  全力で弦を引き絞り、意味があるかはわからないが心臓に向けて矢を立て続けに三本撃ち込んだ。  幸いにもそれで相手は動きを止めて、また糸の切れた人形のように倒れ伏す。
 死んだ相手を殺したと言っていいものか、そもそも本当に完全に死んだのか、そんな物を確認する余裕はなかった。  雨宿りの代金が己の命など冗談ではない。報酬の食糧などどうでもいい。大雨の中飛ぶのだって覚悟した。  玄関扉に手をかけ、開こうとする。 「な、なんでぇ!?」  扉が開かない。  よく見れば、扉と床にまたがるように魔法陣が浮かび上がっているのに気づいた。魔術的な仕組みで自動的な施錠をされてしまったらしい。  思い切り体当りした。びくともしない。  鍵をこじ開けようとした。だがそもそも、鍵穴や閂が見当たらない。 「開ーけーてー! 出ーしーてー!! いやだー!!! ふざけんなー!!!」  泣きたいやら怒りたいやら、よくわからない感情に任せて扉を攻撃し続けるが、傷一つつかなかった。 「ぜぇ、えぇ……くそぅ……」  息切れを起こしてへたり込んだ。疲労感が高ぶる感情を鎮めて行く中、理解する。  どうにかしてこの魔法陣を解除しない限り、絶対に出られない。
「考えろ考えろ……。逃げるために何をすればいいか……、整理して……」  どんなに絶望的な状況に陥っても、絶対に諦めない性分であることに今回も感謝する。  こういう状況は初めてではない。今回も乗り切れる、なんとかなるはずだと言い聞かせた。  改めて魔法陣を確認した。これが脱出を妨げる原因なのだ。何かを読み取り、解錠の足がかりを見つけなければならない。  指でなぞり、浮かんでいる呪文を一つずつ精査した。 「銀……。匙……。……鳥」  魔術知識なんてない自分には、この三文字を読み取るので精一杯だった。  だが、少なくとも手がかりは得た。
 立ち上がり、もう一度ホールを見渡した。  首なしメイドの死体はもう動かない。後は、館の奥に続く通路が一本見えるだけ。 「あー……やだやだやだ……!!」  悪態をつきながら足を進めると、左右に伸びる廊下に出た。  花瓶に活けられた花はまだ甘い香りを放っているが、それ以上に充満した腐臭が鼻孔を刺す。  目の前には扉が一つ。まずは、この扉の先から調べることにした。
 扉の先は、どうやら食堂のようだった。  食卓である長机が真ん中に置いてあり、左の壁には大きな絵画。向こう側には火の入っていない暖炉。部屋の隅に置かれた立派な柱時計。  生き物の気配は感じられず、静寂の中に時計のカチコチという音だけがやけに響いている。  まず、絵画に目が行った。油絵だ。  幸せそうに微笑む壮年の男女、小さな男の子。その足元でじゃれつく子犬の絵。  この館の住民なのだろうと察しが付いた。そしてもう、誰も生きてはいないのだろう。   続いて、食卓に残ったスープ皿に目をやった。 「うえぇぇっ……!」  内容物はとっくに腐って異臭を放っている。しかし異様なのは、その具材だ。  それはどう見ても人の指だった。  視界に入れないように視線を咄嗟に床に移すと、そこで何かが輝いたように見えた。 「……これ!」  そこに落ちていたのは、銀のスプーンだ。    銀の匙。もしかすると、これがあの魔法陣の解錠の鍵になるのではないかと頬を緩めた。  しかし、丹念に調べてみるとこのスプーンは外れであることがわかり、肩を落とす。  持ち手に描かれた細工は花の絵柄だったのだ。 「……待てよ」  ここが食堂ということは、すぐ近くには調理場が設けられているはずだ。  ならば、そこを探せば目的の物が見つかるかもしれない。  スプーンは手持ちに加えて、逸る気持ちを抑えられずに調理場へと足を運んだ。
 予想通り、食堂を抜けた先の廊下の目の前に調理場への扉があった。 「うわっ! ……最悪っ」  扉を開けて中へ入れば無数のハエが出迎える。食糧が腐っているのだろう。  鍋もいくつか竈に並んでいるが、とても覗いてみる気にはなれない。  それより、入り口すぐに設置された食器棚だ。開いてみれば、やはりそこには銀製の食器が収められていた。  些か不用心な気もするが、厳重に保管されていたら探索も面倒になっていたに違いない。防犯意識の低いこの館の住人に感謝しながら棚を漁った。 「……あった!」  銀のスプーンが一つだけ見つかった。だが、これも外れのようだ。  意匠は星を象っている。思わず投げ捨てそうになったが、堪えた。  まだ何処かに落ちていないかと探してみるが、見つからない。 「うん……?」  代わりに、メモの切れ端を見つけることができた。
 "朝食は8時半。   10時にはお茶を。   昼食・夕食は事前に予定を伺っておく。
  毎日3時、お坊ちゃんにおやつをお出しすること。"
 使用人のメモ書きらしい。特に注意して見るべきところはなさそうだった。  ため息一つついて、メモを放り出す。まだ、探索は続けなければならないようだ。  廊下に出て、並んだ扉を数えると2つある。  一番可能性のある調理場が期待はずれだった以上、虱潰しに探す必要があった。
 最も近い扉を開いて入ると、小部屋に最低限の生活用品が詰め込まれた場所に出た。  クローゼットを開けば男物の服が並んでいる。下男の部屋らしい。  特に発見もなく、次の扉へと手をかけた。こちらもやはり使用人の部屋らしいと推察ができた。  小物などを見る限り、ここは女性が使っていたらしい。  あの、首なしメイドだろうか。 「っ……!」  部屋には死臭が漂っていた。出どころはすぐにわかる。クローゼットの中からだ。 「うあー……!」  心底開きたくない。だが、あの中に求めるものが眠っている可能性を否定できない。 「くそー!!」  思わずしゃがみこんで感情の波に揺さぶられること数分、覚悟を決めて、クローゼットに手をかけた。 「――っ」  中から飛び出してきたのは、首のない死体。
 ――やはり動いている!
「だぁぁぁーーーっ!!!」  もう大声を上げないとやってられなかった。  即座に距離を取り、やたらめったら矢を撃ち込んだ。倒れ伏しても追撃した。  都合7本の矢を叩き込んだところで、死体の様子を確認する。動かない。  矢を回収し、それからクローゼットの中身を乱暴に改めた。女物の服しか見つからなかった。    徒労である。クローゼットの扉を乱暴に閉めると、部屋を飛び出した。  すぐ傍には上り階段が設けられていた。何かを引きずりながら上り下りした痕が残っている。 「……先にあっちにしよ」  最終的に2階も調べる羽目になりそうだが、危険が少なそうな箇所から回りたいのは誰だって同じだと思った。  食堂前の廊下を横切り、反対側へと抜ける。  獣臭さが充満した廊下だ。それに何か、動く気配がする。  選択を誤った気がするが、2階に上がったところで同じだと思い直した。    まずは目の前の扉を開く。  調度品が整った部屋だが、使用された形跡は少ない。おそらくここは客室だ。  不審な点もなく、内側から鍵もかけられる。必要であれば躰を休めることができそうだが、ありえないと首を横に振った。  こんな化け物だらけの屋敷で一寝入りなど、正気の沙汰ではない。  すぐに踵を返して廊下に戻り、更に先を調べようとした時だった。
 ――扉を激しく打ち開き、どろどろに腐った肉体を引きずりながら犬が飛び出してきた!   「ひぇあぁぁぁーーーっ!!!???」  素っ頓狂な悲鳴を上げつつも、躰は反射的に矢を番えた。  しかし放った矢がゾンビ犬を外れ、廊下の向こう側へと消えていく。 「ちょっ!? えぇぇぇぇっ!!!」  二の矢を番える暇もなく、ゾンビ犬が飛びかかる。  慌てて横に飛び退いて、距離を取ろうと走るもすぐに追いつかれた。  人間のゾンビはあれだけ鈍いのに、犬はどうして生前と変わらぬすばしっこさを保っているのか、考えたところで答えは出ないし意味がない。  大事なのは、距離を取れないこの相手にどう矢を撃ち込むかだ。 「ほわぁー!?」  幸い攻撃は読みやすく、当たることはないだろう。ならば、と足を止め、パティリッタはゾンビ犬が飛びかかるのを待つ。 「っ! これでっ!!」  予想通り、当たりもしない飛びかかりを華麗に躱したその振り向きざま、矢を放った。  放たれた矢がゾンビ犬を捉え、床へ縫い付ける。後はこっちのものだ。 「……いよっし!」  動かなくなるまで矢を撃ち込み、目論見がうまく行ったとパティリッタはぴょんと飛び跳ねてみせた。    ゾンビ犬が飛び出してきた部屋を調べてみる。  獣臭の充満した部屋のベッドの上には、首輪が一つ落ちていた。 「……ラシー、ド……うーん、ということは……」  あのゾンビ犬は、この館の飼い犬か。絵画に描かれていたあの子犬なのだろう。  思わず感傷に浸りかけて、我に返った。
 廊下に残った扉は一つ。最後の扉の先は、納戸のようだ。  いくつか薬が置いてあっただけで、めぼしい成果は無かった。  こうなると、やはり2階を探索するしかない。 「なんでスプーン探すのにこんなに歩きまわらなきゃいけないんだぁ……」
 慎重に階段を登り、2階へ足を踏み入れた。  まずは今まで通り、手近な扉から開いて入る。ここは書斎のようだった。  暗闇に目が慣れた今、書斎机に何かが座っているのにすぐ気づいた。  本来頭があるべき場所に何もないことも。  服装を見るに、この館の主人だろう。この死体も動き出すかもしれないと警戒して近づいてみるが、その気配は無かった。 「うげぇ……」  その理由も判明した。この死体は異常に損壊している。  指もなく、全身至るところが切り裂かれてズタズタだ。明確な悪意、殺意を持っていなければこうはならない。 「ほんっともう、やだ。なんでこんなことに……」  この屋敷に潜んでいるかもしれない化け物は、殺して首を刈るだけではなく、このようななぶり殺しも行う残忍な存在なのだと強く認識した。  部屋を探索してみると、机の上にはルドが散らばっていた。これは、頂いておいた。  更に本棚には、この館の主人の日記帳が収められていた。中身を検める。
 その中身は、父親としての苦悩が綴られていた。  息子が不死者の呪いに侵され、異形の化け物と化したこと。  殺すのは簡単だが、その決断ができなかったこと。  自身の妻も気が触れてしまったのかもしれないこと。  更に読み進めていけば、気になる記述があった。 「結界は……入り口のあれですよね。ここ、地下室があるの……?」  この館には地下室がある。その座敷牢に異形の化け物と化した息子を幽閉したらしい。  しかし、それらしい入り口は今までの探索で見つかってはいない。別に、探す必要がなければそれでいいのだが。 「最悪なのはそのまま地下室探索コースですよねぇ……。絶対やだ」    書斎を後にし、次の扉に手をかけてみたが鍵がかかっていた。 「ひょわぁぁぁっ!?」  仕方なく廊下の端にある扉へ向かおうとしたところ、足元を何かが駆け抜けた。  なんのことはないただのネズミだったのだが、今のパティリッタにとっては全てが恐怖だ。 「あーもー! もー! くそー!」  悪態をつきながら扉を開く。小さな寝台、散らばった玩具が目に入る。  ここは子供部屋のようだ。日記の内容を考えるに、化け物になる前は息子が使用していたのだろう。  めぼしいものは見当たらない。おもちゃ箱の中に小さなピアノが入っているぐらいで、後はボロボロだ。  ピアノは、まだ音が出そうだった。 「……待てよ……」  弾いたところで何があるわけでもないと考えたが、思い直す。  本当に些細な思いつきだった。それこそただの洒落で、馬鹿げた話だと自分でも思うほどのものだ。
 3つ、音を鳴らした。この館で飼われていた犬の名を弾いた。 「うわ……マジですか」  ピアノの背面が開き、何かが床に落ちた。それは小さな鍵だった。 「我ながら馬鹿な事考えたなぁと思ったのに……。これ、さっきの部屋に……」  その予想は当たった。鍵のかかっていた扉に、鍵は合致したのだ。
 その部屋はダブルベッドが中央に置かれていた。この館の夫妻の寝室だろう。  ベッドの上に、人が横たわっている。今まで見てきた光景を鑑みるに、その人物、いや、死体がどうなっているかはすぐにわかった。  当然首はない。服装から察するに、この死体はこの館の夫人だ。  しかし、今まで見てきたどの死体よりも状態がいい。躰は全くの無傷だ。  その理由はなんとなく察した。化け物となってもなお息子に愛情を注いだ母親を、おそらく息子は最も苦しませずに殺害したのだ。  逆に館の主人は、幽閉した恨みをぶつけたのだろう。 「……まだ、いるんだろうなぁ」  あれだけ大騒ぎしながらの探索でその化け物に出会っていないのは奇跡的でもあるが、この先、確実に出会う予感がしていた。  スプーンは、見つかっていないのだ。残された探索領域は一つ。地下室しかない。    もう少し部屋を探索していると、クローゼットの横にメモが落ちていた。  食材の種類や文量が細かく記載されており、どうやらお菓子のレシピらしいことがわかる。 「あれ……?」  よく見ると、メモの端に殴り書きがしてあった。 「夫の友人の建築家にお願いし、『5分前』に独りでに開くようにして頂いた……?」  これは恐らく、地下室の開閉のことだと思い当たる。 「……そうだ、子供のおやつの時間だ。このメモの内容からしてそうとしか思えません」  では、5分前とは。 「おやつの時間は……そうか。わかりましたよ……!」  地下室の謎は解けた。パティリッタは、急ぎ食堂へと向かう。
「5分前……鍵は、この時計……!」  食堂の隅に据え付けられた時計の前に戻ってきたパティリッタは、その時計の針を弄り始めた。 「おやつは3時……その、5分前……!」  2時55分。時計の針を指し示す。 「ぴぃっ!?」  背後で物音がして、心臓が縮み上がった。  慌てて振り向けば、食堂の床石のタイルが持ち上がり、地下への階段が姿を現していた。  なんとも形容しがたい異様な空気が肌を刺す。  恐らくこの先が、この屋敷で最も危険な場所だ。本当にどうしてこの館に足を踏み入れたのか、後悔の念が強まる。 「……行くしか無い……あぁ……いやだぁ……! 行くしか無いぃ……」  しばらく泣きべそをかいて階段の前で立ち尽くした。これが夢であったらどんなにいいか。  ひんやりとした空気も、腐臭も、時計の針の音も、全てが現実だと思い知らせてくる。  涙を拭いながら、階段を降りていく。
 降りた先は、石造りの通路だった。  異様な雰囲気に包まれた通路は、激しい寒気すら覚える。躰が雨に濡れたからではない。
 ――死を間近に感じた悪寒。
 一歩一歩、少しずつ歩みを進めた。通路の端までなんとかやってきた。そこには、鉄格子があった。 「……! うぅぅ~……!!」  また泣きそうになった。鉄格子は、飴細工のように捻じ曲げられいた。    破壊されたそれをくぐり、牢の中へ入る。 「~~~っ!!!」  その中の光景を見て思わず地団駄を踏んだ。  棚に首が、並んでいる。誰��ものか考えなくともわかる。  合計4つ、この館の人間の犠牲者全員分だ。  調べられそうなのはその首が置かれた棚ぐらいしかない。    一つ目は男性の首だ。必死に恐怖に耐えているかのような表情を作っていた。これは、下男だろう。  二つ目も男性の首だ。苦痛に歪みきった表情は、死ぬまでにさぞ手酷い仕打ちを受けたに違いなかった。これがこの館の主人か。  三つ目は女性の首だ。閉じた瞳から涙の跡が残っている。夫人の首だろう。  四つ目も女性の首。絶望に沈みきった表情。メイドのものだろう。 「……これ……」  メイドの髪の毛に何かが絡んでいる。銀色に光るそれをゆっくりと引き抜いた。  鳥の意匠が施された銀のスプーン。 「こ、これだぁ……!!」  これこそが魔法陣を解錠する鍵だと、懐にしまい込んでパティリッタは表情を明るくした。  しかしそれも、一瞬で恐怖に変わる。    ――何かが、階段を降りてきている。   「あぁ……」  それが何か、もうとっくに知っていた。逃げ場は、無かった。弓を構えた。 「なんで、こういう目にばっかりあうんだろうなぁ……」  粘着質な足音を立てながら、その異形は姿を現した。  "元々は"人間だったのであろう、しかし体中の筋肉は出鱈目に隆起し、顔があったであろう部分は崩れ、悪夢というものが具現化すればおおよそこのようなものになるのではないかと思わせた。  理性の光など見当たらない。穴という穴から液体を垂れ流し、うつろな瞳でこちらを見ている。  ゆっくりと、近づいてくる。 「……くそぉ……」  歯の根が合わずがたがたと音を立てる中、辛うじて声を絞り出す。 「死んで……たまるかぁ……!!」  先手必勝とばかりに矢を射掛けた。顔らしき部分にあっさりと突き刺さる。  それでも歩みは止まらない。続けて矢を放つ。まだ止まらない。  接近を許したところで、全力で脇を走り抜けた。異形の伸ばした手は空を切る。  対処さえ間違えなければ勝てるはず。そう信じて異形を射抜き続けた。
「ふ、不死身とか言うんじゃないでしょうねぇ!? ふざけんな反則でしょぉ!?」    ――死なない。    今まで見てきたゾンビとは格が違う。10本は矢を突き立てたはずなのに、異形は未だに動いている。 「し、死なない化け物なんているもんですか! なんとかなる! なんとかなるんだぁっ!! こっちくんなーっ!!!」  矢が尽きたら。そんな事を考えたら戦えなくなる。  パティリッタは無心で矢を射掛け続けた。頭が急所であろうことを信じて、そこへ矢を突き立て続けた。 「くそぅっ! くそぅっ!」  5本、4本。 「止まれー! 止まれほんとに止まれー!」  3本、2本。 「頼むからー! 死にたくないからー!!」  1本。 「あああぁぁぁぁっ!!!」  0。  最後の矢が、異形の頭部に突き刺さった。    ――動きが、止まった。
「あ、あぁ……?」  頭部がハリネズミの様相を呈した異形が倒れ伏す。 「あぁぁぁもう嫌だぁぁぁ!!!」  死んだわけではない。既に躰が再生を始めていた。しかし、逃げる隙は生まれた。  すぐにねじ曲がった鉄格子をくぐり抜けて階上へ飛び出し、一目散に入り口へ駆ける。  後ろからうめき声が迫ってくる。猶予はない。 「ぎゃああああもう来たあああぁぁぁぁ!!!」  玄関ホールへたどり着いたと同時に、後ろの扉をぶち破って再び異形が現れる。  無秩序に膨張を続けた躰は、もはや人間であった名残を残していない。  異形が歪な腕を、伸ばしてくる。 「スプーンスプーン! はやくはやくはやくぅ!!!」  もう手持ちのスプーンから鍵を選ぶ余裕すらない。3本纏めて取り出して扉に叩きつけた。  肩を、異形の手が叩く。 「うぅぅぐぅぅぅ~ッッッ!!!」  もう涙と鼻水で顔はぐちゃぐちゃだった。  後ろを振り返れば死ぬ。もうパティリッタは目の前の扉を睨みつけるばかりだ。  叩きつけたスプーンの内1本が輝き、魔法陣が共鳴する。 「ぎゃー! あー!! わーっ!! あ゛ーーーッッッ!!!」  かちゃり、と音がした。  と同時に、パティリッタは全く意味を成さない叫び声を上げながら思い切り扉を押し開いて外へと転がり出た。
 いつしか雨は止んでいた。  雲間から覗いた夕日が、躰に纏わり付いた忌まわしい物を取り払っていく。 「あ、あぁ……」  西日が屋敷の中へと差し込み、異形を照らした。異形の躰から紫紺の煙が上がる。  もがき苦しみながら、それでもなお近づいてくる。走って逃げたいが、遂に腰が抜けてしまった。  ぬかるんだ地面を必死の思いで這いずって距離を取りながら、どうかこれで異形が死ぬようにと女神に祈った。
 異形の躰が崩れていく。その躰が完全に崩れる間際。 「……あ……」    ――パティリッタは、確かに無邪気に笑う少年の姿を見た。    翌日、パティリッタは宿場につくなり官憲にことのあらましを説明した。  館は役人の手によって検められ、あれこれと詮議を受ける羽目になった。  事情聴取の名目で留置所に三日間放り込まれたが、あの屋敷に閉じ込められた時を思えば何百倍もマシだった。  館の住人は、縁のあった司祭によって弔われるらしい。  それが何かの救いになるのか、パティリッタにとってはもはやどうでも良かった。  ただ、最後に幻視したあの少年の無邪気な笑顔を思い出せば、きっと救われるのだろうとは考えた。 「……帰りましょう、リーンに。あたしの日常に……」
「……もう、懲り懲りだぁー!!」  リーンへの帰途は、晴れ渡っていた。
 ――ある館の、惨劇。
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kkagtate2 · 6 years
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乃々香の部屋に入ったのは、別に昨日も来たので久しぶりでも何でも無いが、これほどまでに心臓を打ち震わせながら入ったのは初めてだろう。今の時刻は午後一時、土曜も部活だからと言って朝早く家を出ていった妹が帰ってくるまであと三時間弱、…………だが、それだけあれば十分である。それだけあれば、おおよそこの部屋にある乃々香の、乃々香の、-------妹の、匂いが染み込んだ毛布、掛け布団、シーツ、枕、椅子、帽子、制服------あゝ、昨晩着ていた寝間着まで、…………全部全部、気の済むまで嗅ぐことができる。
だがまずは、この部屋にほんのり漂う甘い匂いである、もう部屋に入ってきたときから気になって仕方がない。我慢できなくて、すうっ……、と深呼吸をしてみると鼻孔の隅から隅まで、肺の隅から隅まで乃々香の匂いが染み込んでくる。-------これだ。この匂いだ。この包み込んでくるような、ふわりと広がりのあるにおい、これに俺は惹かれたと思ったら、すぐさま彼女の虜となり、木偶の坊となっていた。いつからだったか、乃々香がこの甘い香りを漂わせていることに気がついた俺は、妹のくせに生意気な、とは思いつつも、彼女もそういうお年頃だし、気に入った男子でも出来て気にしだしたのだろう、と思っていたのだった。が、もうだめだった。あの匂いを嗅いでいると、隣りにいる乃々香がただの妹ではなく、一人の���性に見えてしまう。彼女の匂いは、麻薬である。ひとたび鼻に入れるともう最後、彼女に囚われ永遠に求め続けることになる。だからもう、いつしか実の妹の匂いを嗅ぎたいがゆえに、言うことをはいはい聞き入れる人形と成り果ててしまっていた。彼女に嫌われてしまうと、もうあの匂いを嗅げないと思ったから。だが、必死で我慢した。我慢して我慢して我慢して、あの豊かな胸に飛び込むのをためらい続けた。妹の首筋、腰、脇の下、膝裏、足首、へそ、爪、耳、乳房の裏、うなじ、つむじ、…………それらの匂いを嗅ごうと、夜中に彼女の部屋に忍び込むのを、自分で自分の骨を折るまでして我慢した。それなのに彼女は毎日毎日、あの匂いを纏わせながらこちらへグイッと近づいてくる。どころか、俺がソファに座っていたり、こたつに入っていると、そうするのが当然と言わんばかりにピトッと横に引っ付いてくる。引っ付いてきて兄である俺をまるで弟かのように、抱き寄せ、膝に載せ、頭を撫で、後ろから包み込み、匂いでとろけていく俺をくすくすと笑ってから、顎を俺の頭の上に乗せてくる。もう最近の彼女のスキンシップは異常だ。家の中だけではなく、外でも手を繋ごう、手を繋ごうとうるさく言ってきて、…………いや声には出していないのだが、わざわざこちらの側に寄って来てはそっと手を取ろうとする。この前の家族旅行でも、両親に見られない範囲ではあるけれども、俺の手は常に、あの色の抜けたように綺麗な、でも大きく少しゴツゴツとした乃々香の手に包まれていた。
……………本当に包まれていた。何せ彼女の方がだいぶ手が大きいのだ。中学生の妹の方が手が大きいなんて、兄なのに情けなさすぎるが、事実は事実である、指と指を編むようにする恋人つなぎすらされない。一度悔しくって悔しくって比べてみたことがあるけれども、結果はどの指も彼女の指の中腹あたりにしか届いておらず、一体どうしたの? と不思議そうな顔で見下されるだけだった。キョトンと、目を白黒させて、顔を下に向けて、………………そう、乃々香は俺を見下ろしてくる。妹なのに、妹のくせに、小学生の頃に身長が並んだかと思ったら、中学二年生となった今ではもう十、十五センチは高い位置から見下ろしてくる。誓って言うが、俺も一応は男性の平均身長程度の背はあるから、決して低くはない。なのに、乃々香はふとしたきっかけで兄と向き合うことがあれば、こちらの目を真っ直ぐ見下ろしてきて、くすくすとこそばゆい笑みを見せ、頬を赤く染め上げ、愛おしそうにあの大きな手で頭を撫でてきて、…………俺は本当に彼女の「兄」なのか? 姉というものは良くわからないから知らないが、居たとしたらきっと、可愛い弟を見る時はああいう慈しみに富んだ目をするに違いない。あの目は兄に向けて良いものではない。が、現に彼女は俺を見下ろしてくる、あの目で見下ろしてくる、まるで弟の頭を撫でるかのように優しくあの肉厚な手を髪の毛に沿って流し、俺がその豊かすぎる胸元から漂ってくるにおいに思考を奪われているうちに、母親が子供にするように額へとキスをしてくる。彼女には俺のことが事実上の弟のように見えているのかもしれない。じたい、俺と妹が手を繋いでいる様子は傍から見れば、お淑やかで品の良い姉に、根暗で僻み癖のある弟が手を引かれているような、そんな風に見えていることだろう。
やはり、乃々香はたまらない。我慢に次ぐ我慢に、もう一つ我慢を重ねていたいたけれども、もう限界である。今日は、彼女が部活で居なければ、いつも家に居る母親も父親とともに出かけてしまって夜まで帰ってこない。ならばやることは一つである。大丈夫だ、彼女の持っている物の匂いをちょっと嗅ぐだけであって、決して部屋を滅茶苦茶にしようとは思っていない。それに、そんな長々と居座るつもりもない。大丈夫だ。彼女は異様にこまめだけど、ちゃんともとに戻せばバレることもなかろう。きっと、大丈夫だ。……………
  肺の中の空気という空気を乃々香のにおいでいっぱいにした後は、彼女が今朝の七時頃まで寝ていた布団を少しだけめくってみる。女の子らしい赤色のふわふわとした布団の下には、なぜかそれと全く合わない青色の木の模様が入った毛布が出てきたが、確かこれは俺が昔、…………と言ってもつい半年前まで使っていた毛布で、こんなところにあったのか。ところどころほつれたり、青色が薄くなって白い筋が現れていたり、もう結構ボロボロである。だがそんな毛布でも布団をめくった途端に、先程まで彼女が寝ていたのかと錯覚するほど良い匂いを、あちらこちらに放つのである。あゝ、たまらぬ。日のいい匂いに混じって、ふわふわとした乃々香の匂いが俺を包んでいる。…………だが、まだ空に漂っているにおいだけだ。それだけでも至福の多幸感に身がよじれそうなのに、この顔をその毛布に埋めたらどんなことになるのであろう。
背中をゾクゾクとさせながら、さらにもう少しだけ毛布をめくると、さらに乃々香の匂いは強くなって鼻孔を刺激してくる。この中に頭を入れるともう戻れないような気がしたが、そんなことはどうでもよかった。ここまで来て、何もしないままでは帰れない。頭を毛布とシーツの境目に突っ込んで、ぱたん…と、上から布団をかける。------途端、体から感覚という感覚が消えた。膝は崩れ落ち、腰には力が入らず、腕はだらりと垂れ下がり、しかし、見える景色は暗闇であるのに目を見開き、なにより深呼吸が止まらぬ。喉の奥底がじわりと痛んで、頭がぼーっとしてきて、このまま続ければ必ず気を失ってしまうのに、妹の匂いを嗅ごう嗅ごうと体が自然に周りの空気を吸おうとする。止まらない。止まらない。あの乃々香の匂いが、あの甘い包まれる匂いが、時を経て香ばしくなり、ぐるぐると深く、お日様の匂いと複雑に混じり合って、俺を絞め殺してくる。良い人生であった。最後にこんないいにおいに包まれて死ねるなど、なんと幸せものか。……………
だが、口を呆けたように開け涎が垂れそうになった時、我に返った。妹の私物を汚してはならない。今ここで涎を出してしまっては彼女の毛布を汚してしまう。--------絶対にしてはいけないことである。そんなことも忘れて彼女の匂いに夢中になっていたのかと思うと、体の感覚が戻ってきて、言うことを聞けるようになったのか、呼吸も穏やかになってきた。やはり、毛布、というより寝具の匂いは駄目だ。きっと枕も彼女の髪の毛の匂いが染み付いて、途方も無くいいにおいになっていることだろう。一番気持ちが高ぶった今だからこそ、一番いい匂いを、一番最初に嗅ぐべきだと思ったが、本当に駄目だ。本当にとろけてしまう。本当に気を失うまで嗅いでしまう。気を失って、そのうちに乃々香が帰ってきたら、それこそもう二度とこんなことは出来なくなるだろうし、妹の匂いに欲情する変態の烙印を社会から押されるだろうし、その前に彼女の怪力による制裁が待っている。……………恐ろしすぎる、いくらバレーをしているからと言って、大人一人を軽々と持ち上げ、お姫様抱っこをし、階段を上り、その男が気づかないほど優しくベッドの上に寝かせるなんてそうそう出来るものではない。いや、あの時は立てないほどにのぼせてしまった俺が悪いが、あのゆさゆさと揺れる感覚は今思い出してみると安心感よりも恐怖の方が勝る。彼女のことだから、決して人に対してその力を振るうことはないとは思うけれども、やはりもしもの時を想像すると先ほどとは違う意味で背中に寒気を覚えてしまう。
ならばやるとしても、少し落ち着くために刺激が強くないものを嗅ぐべきである。ベッドの上に畳まれている彼女の寝間着は、………もちろんだめである、昨夜着ていたものだから、そんなを嗅げば頭がおかしくなってしまう。それにこれは、もう洗濯されて絶対に楽しめないと思っていた、言わば棚から牡丹餅と形容するべき彼女の物なのだから、もう少し気を静めて鼻をもとに戻してから手に取るべきであろう。なら何にしようか。早く決めないと、もう膝がガクガクするほどにあの布団の匂いを今一度嗅ぎたくて仕方がなくなっている。
そういえばちょうど鏡台横のラックに、乃々香の制服があるはず。…………あった、黒基調の生地に赤いスカーフが付いた如何にもセーラー服らしいセーラー服、それが他のいくつかの服に紛れてハンガーに吊るされている。その他の服も良いが、やはり選ぶべきは最も彼女を引き立たせるセーラー服である。なんと言っても平日は常に十時間以上着ているのだから、妹の匂いがしっかり染み付いているに違いない。それに高校生になってからというもの、なぜか女生徒の制服に何かしら言いようのない魅力を見出してしまい、あろうことか妹である乃々香の制服姿にすら、いや乃々香の制服姿だからこそ、何かそそられるものを感じるようになってしまった。-------彼女はあまりにもセーラー服と相性が良すぎる。こうして手にとって見るとなぜなのかよく分かる。妹は背こそ物凄く高いのだが、その骨格の細さゆえに体の節々、-------例へば手首、足首やら肘とか指とかが普通の女性よりもいくらか細く、しなやかであり、この黒い袖はそんな彼女の手を、ついつい接吻したくなるほど優美に見せ、この黒いスカートはそんな彼女の膝から足首にかけての麗しい曲線をさらに麗しく見せる。それに付け加えて彼女の至極おっとりとした顔立ちと、全く癖のない真直ぐに伸びる艶やかな髪の毛である。今は部活のためにバッサリと切ってしまったが、それでもさらりさらりと揺れ動く後髪と、うなじと、セーラー服の襟とで出来る黒白黒の見事なコントラストはつい見惚れてしまうものだし、それにそうやって見ていると、どんな美しい女性が眼の前に居るのだろうと想像してしまって、兄なのに、いつも乃々香の顔なんて見ているのに、小学生のようにドキドキと動悸を打たせてしまう。で、後ろにいる兄に気がつくと彼女は、ふわりと優しい匂いをこちらに投げつけながら振り向くのであるが、直後、中学生らしからぬ気品と色気のある笑みをその顔に浮かべながら、魂が取られたように口を開ける間抜けな男に近づいてくるのである。あの気品はセーラー服にしか出せない。ブレザーでは不可能である。恐らくは彼女の姿勢とか佇まいとかが原因であろうが、しかし身長差から首筋あたりしか見えていないというのに、黒くざわざわとした繊維の輝きと、透き通るような白い肌を見ているだけで、あゝこの子は良家のお嬢様なのだな、と分かるほどに不思議な優雅さを感じる。少々下品に見えるのはその大きすぎる胸であるが、いや、あの頭くらいある巨大な乳房に魅力を感じない男性は居ないだろうし、セーラー服は黒が基調なのであんまり目立たない。彼女はその他にも二の腕や太腿にもムチムチとした女の子らしい柔らかな筋肉を身に着けているが、黒いセーラー服は乃々香を本来のほっそりとした女の子に仕立て上げ、俗な雰囲気を消し、雅な雰囲気を形作っている。------------
それはそれとして、ああやって振り向いた時に何度、俺が彼女の首筋に顔を埋め、その匂いを嗅ごうとしたことか。乃々香は突っ立っている俺に、兄さん? 兄さん? 大丈夫? と声をかけつつ近づいてきて、もうくらくらとして立つこともやっとな兄の頭を撫でるのだが、俺が生返事をすると案外あっさりと離してしまって、俺はいつも歯がゆさで唇を噛み締めるだけなのである。だが、今は違う。今は好きなだけこのセーラー服の匂いを嗅げる。一応時計を確認してみると、まだこの部屋に入ってきて二十分も経っていない。そっと鼻を、彼女の首が常に触れる襟に触れさせる。すうっと息を吸ってみる。-------あの匂いがする。俺をいつも歯がゆさで苦しめてくるあの匂いが、彼女の首元から発せられるあの、桃のように優しい匂いが、ほんのりと鼻孔を刺激し、毛布のにおいですっかり滾ってしまった俺の心を沈めてくる。少々香ばしい香りがするのは、乃々香の汗の匂いであろうか、それすらも素晴らしい。俺は今、乃々香がいつも袖を通して、学校で授業を受け、友達と談笑し、見知らぬ男に心を寄せてはドキドキと心臓を打たせているであろうセーラー服の匂いを嗅いでいる。あゝ、乃々香、ごめんよこんな兄で。許してくれなんて言わない。嫌ってくれてもいい。だが、無関心無視だけはしないでくれ。…………あゝ、背徳感でおかしくなってしまいそうだ。………………
----ふと、ある考えが浮かんだ。浮かんでしまった。これをしてしまっては、……いや、だけどしたくてしたくてたまらない。乃々香の制服に自分も袖を通してみたくてたまらない。乃々香のにおいを自分も身に纏ってみたくてたまらない。自分も乃々香になってみたくてたまらない。今一度制服を眺めてみると、ちょっと肩の幅は小さいが特にサイズは問題なさそうである。俺では腕の長さが足りないので、袖が余ってしまうかもしれないが、それはそれで彼女の背の高さを感じられて良い。
俺はもう我慢できなくって着ていた上着を雑に脱いで床に放り投げると、姿見の前に立って、乃々香の制服を自分に合わせてみた。気持ち悪い顔は無いことにして、お上品なセーラー服に上半身が覆われているのが見える。これが今から俺の体に身につけることになる制服かと思うと、心臓が脈打った。裾を広げて頭を入れてみると、彼女のお腹の匂いが、胸の匂いが、首の匂いが鼻を突いた。するすると腕を通していくと、見た目では分からない彼女の体の細さが目についた。裾を引っ張って、肩のあたりの生地を摘んで、制服を整えると、またもや乃々香の匂いが漂ってきた。案の定袖は余って、手の甲はすっかり制服に隠れてしまった。
---------最高である。今、俺は乃々香になっている。彼女のにおいを自分が放っている。願わくばこの顔がこんな醜いものでなければ、この胸に西瓜のような果実がついていれば、この股に情けなく雁首を膨らませているモノが無ければ、より彼女に近づけたものだが仕方ない。これはこれで良いものである。最高のものである。妹はいつもこのセーラー服を着て、俺を見下ろし、俺と手をつなぎ、俺に抱きつき、俺の頬へとキスをする、-------その事実があるだけで、今の状況には何十、何百回という手淫以上の快感がある。だが、本当に胸が無いのが惜しい。あの大きな乳房に引き伸ばされて、なんでもない今でも胸元にちょっとしたシワが出来ているのであるが、それが一目見ただけで分かってしまうがゆえに余計に惜しい。制服の中に手を突っ込んで中から押して見ると、確かにふっくらとはするものの、常日頃見ている大きさには到底辿り着けぬ。-------彼女の胸の大きさはこんなものではない。毎日見ているあの胸はもっともっとパンパンに制服を押し広げ、生地をその他から奪い取り、気をつけなければお腹が露出してしまうぐらいには大きい。さすがにそこまで膨らまそうと力を込めて、制服を破ったりしてしまっては元の子もないのでやりはしないが、彼女の大変さを垣間見えただけでも最高の収穫である。恐らく、いつもいつも無理やりこの制服を着て、しっかりと裾を下まで引っ張り、破れないように破れないように歩いているのであろう。あゝ、なるほど、彼女が絶対に胸を張らないのはそういうことか。本当に、まだ中学生なのになんという大きさの乳房なのであろう。
そうやって制服を着て感慨に耽っていると、胸ポケットに何か硬いものを感じた。あまり良くは無いが今更なので取り出してみると、それは自分が、確か小学生だか中学生の頃に修学旅行のお土産として渡したサメのキーホルダー、…………のサメの部分であった。もう随分と昔に渡したものなので、その尾びれは欠け所々塗装が禿げてしまっているが、いまだに持っているということは案外大切にしてくれているに違いない。全く、乃々香はたまにこういう所があるから、ついつい勘違いしそうになるのである。そんな事はあり得ない、----決してあり得ないとは思っていても、つい期待してしまう。いくら魅力的な女性と言えども、相手は実の妹なのだから、-------兄妹間の愛は家族愛でしかないのだから。…………………
ちょっと湿っぽくなってきたせいか、すっかり落ち着いてしまった。セーラー服も元通りに戻してしまった。が、ベッドの上にある妹の寝巻きが目についてしまった。乃々香が昨日の晩から今朝まで着ていた寝巻き、あの布団の中に六七時間は入っていた寝巻き、乃々香のつるつるとした肌が直に触れた寝間着、…………それが、手を伸ばせば届く位置にある。---------きっと、いい匂いがするに違いない。いや、いいにおいなのは知っている。俺はあのパジャマの匂いを知っている。何せ昨日も彼女はアレを着て、俺の部屋にやってきて、兄さん、今日もよろしくね、と言ってきて、勉強を見てもらって、喋って、喋って、喋って、俺の部屋をあのふわふわとしたオレンジのような香りで充満させて、こちらがとろとろに溶けてきた頃に、眠くなってきたからそろそろお暇するね、おやすみ、と言い去っていったのである。………その時の匂いがするに違いない。
それにしてもどうして、………どうして毎日毎日、俺の部屋へやって来るのか。勉強を教えてほしいなどというのは建前でしかない。俺が彼女に教えられることなんて何もない。それは何も俺の頭が悪すぎるからではなくて、乃々香の頭が良すぎるからで、確かにちょっと前までは高校生の自分が中学生の彼女に色々と教えられていたのであるが、気がついた時には俺が勉強を教わる側に立っており、参考書の輪読もなかなか彼女のペースについていけず、最近では付箋メモのたくさんついた〝お下がり〟で、妹に必死に追いつこうと頑張る始末。そんなだから乃々香が毎晩、兄さん兄さん、勉強を教えてくださいな、と言って俺の部屋にやって来るのが不思議でならない。いつもそう言ってやって来る割には勉強の「べ」の字も出さずにただ駄弁るだけで終わる時もあるし、俺には彼女が深夜のおしゃべり相手を探しているだけに見える。それだけのために、あんないい匂いを毎晩毎晩俺の部屋に残していくだなんて、生殺しにも程がある。
だから、これは仕方ないんだ。乃々香のせいなんだ。このもこもことしたパジャマには、悔しさで顔を歪める俺を慰めてきた時の、あの乃々香の大人っぽい落ち着いた匂いが染み付いているんだ。------あゝ、心臓がうるさくなってきた。もう何が原因でこんなに心臓が動悸してるのか分からない。寝間着を持つ手が震えてきた。綺麗に丁寧に畳まれていたから、後できっと誰かが手を加えたと気がつくであろう。だけど、だけど、このパジャマを広げて思う存分においを嗅ぎたい。嗅ぎたい。…………と、その時、するりと手から寝巻きが滑った。
「あっ」
ぱさり…、という音を立てて乃々香のパジャマが床に落ちる。落ちて広がる。袖の口がこちらを見てきている。たぶんそこから、いや、落ちた時に部屋の空気が掻き乱されたせいか、これまでとはまた別種の、-------昨日俺の部屋に充満した、乃々香がいつも使うシャンプーの香りと彼女自身の甘い匂いが、俺の鼻に漂ってくる。もうたまらない。パジャマに飛びつく。何日も食事を与えられなかった犬のように、惨めに、哀れに、床に這いつくばり、妹の着ていた寝間着に鼻をつけて思いっきり息を吸い込む。-------これが俺。実の妹の操り人形と化してしまった男。実の妹の匂いを嗅いで性的な興奮を覚え、それどころか実の妹に対して歪んだ愛を向ける男。実の妹に嫌われたくない、嫌われたくない、と思いながら、言いながら、部屋に忍び込んでその服を、寝具を、嗅いで回る変態。…………だが、やめられない、止まらない。乃々香のパジャマをくしゃくしゃに丸め、そこに顔を埋める。すうっ………、と息を吸う。ここが天国なのかと錯覚するほどいい匂いが脳を溶かしてくる。もう一度吸う。さらに脳がとろけていく。------あゝ、どこだここは。俺は今、どこに居て、どっちを向いているんだ。上か、下か、それも分からない。何もわからない。--------
「ののかっ!」
気がつけば、声が出てしまっていた。-------そうだ、俺は乃々香の部屋に居て、乃々香のパジャマを床に這いつくばって嗅いでいたのだった。顔を上げ、そのパジャマから鼻を離すといくらか匂いが薄くなり、次いで視界も思考も晴れてくる。危なかった、もう少しで気狂いになって取り返しのつかない事態になっていたところだった。だが、パジャマから手を離し、ふと首を傾ぐとベッドの下が何やらカラフルなことに気がついた。見ると白いプラスチックの衣装ケースの表面を通して、赤色と水色のまん丸い影が二つ、ぼやぼやと光っている。こういうのはそっとしておくべきだが、そんな今更戸惑ったところで失笑を買うだけであろう、手を伸ばして開けてみると、そこには嫌にバカでかい、でかい、………でかい、…………何であろうか、女性の下着ということは分かるが何なのかまでは分からない。いや、大体想像はついたけれども、まだ信じられない。これがブラジャーだなんて。……………
とりあえず目についた一番手前の、水色の方を手に取ってみると、案の定たらりと、幅二センチはある頑丈なストラップが垂れた。そして、恐らくカップの部分なのであろう、俺の顔ほどもある布地がワイヤーに支えられてひらひらと揺れ動いている。片方しか無いと思ったら、どうやらちょうど中央部分で折り畳まれているようで、四段ホックの端っこが二枚になって重なっている。俺は金具の部分を持って開いてみた。………………で、でかい。…………でかすぎる。これが本当にブラジャーなのかと思ったけれども、ちゃんとストラップからホックからカップから、普通想像するブラジャーと構造は一緒なようである。……………が、大きさは桁違いである。試しに手を目一杯広げてカップの片方に当ててみても、ブラジャーの方がまだ大きい。顔と見比べてもまだブラジャーの方が大きい。とにかく大きい。これが乃々香が、妹が、中学生が普段身に着けているブラジャーなのか。こんな大きさでないと合わないというのか。……………いや、いまだに信じられないけれども、ところどころほつれて糸が出ていたり、よく体に当たるであろうカップの下側の色が少し黄色くなっているから、乃々香は本当に、この馬鹿にでかいブラジャーを、あの巨大な胸に着けているのであろう。そう思うと手も震えてくれば、歯も震えてきてガチガチと音が鳴る。今まで生で見たことが無くて、一体どれだけ大きな胸を妹は持っているのか昔から謎だったけれども、今ようやく分かった気がする。カップの横にタグがあったので見てみると、32KKとあるから、多分これがカップ数なのであろうと勝手に想像すると、彼女はどうやらKカップのおっぱいの持ち主らしい。………なぜKが二つ続いているのか分からないが、中学生でKカップとは恐れ入る。通りで膝枕された時に顔が全く見えないわけだ。
-------あゝ、そうだ、膝枕。乃々香の膝枕。アレは最高だった。もうほとんど毎日のようにされているが、全くもって飽きない。下からは硬いけれど柔らかい彼女の太腿の感触が、上からは、………言うまでもなかろう顔を押しつぶしてくる極上の感触が、同時に俺を襲ってきて、横を向けば彼女の見事にくびれたお腹が見える。それだけでも最高なのに、彼女の乳房にはまるでミルクのような鼻につくにおいが漂い、彼女のお腹にはあのとろけるような匂いが充満していて、毎晩俺は幼児退行を経験してしまう。だがそうやって、とろけきって頭の中から言葉も無くなった俺に、妹はあろうことか頭を撫でてくるのである。そして、子守唄でも歌ってあげようか、兄さん? と言ってきて本当に、ねんねんころりよ、と赤ん坊をあやすように歌ってくるのである。あの膝枕をされてどうにかならないほうがおかしい。もう、長幼の序という言葉の意味が分からなくなってくるほどに、乃々香に子供扱いされている。-------だが、そこにひどく興奮してしまう。彼女に膝枕をされて、頭を撫でられて、子守唄を歌われて、結果、情けなく勃起してしまう。俺はもう駄目かもしれない。実の妹に子供扱いされて欲情する男、…………もしかしたら実の妹の匂いで興奮する男よりもよっぽどおかしいが、残念ながら優劣を決める前にどちらも俺のことである。…………あゝ、匂い。乃々香の匂い。--------彼女の布団が恋しくなってきた。動くのも億劫だが最後にもう一嗅ぎしたい。…………………
これで最後である。もう日が落ちかけてきているから、そろそろ乃々香が帰ってきてしまう。この布団をもう一瞬、一瞬だけ嗅いだら彼女のブラジャーをもとに戻し、パジャマを出来る限り綺麗に畳み、布団を元に戻して部屋に戻る。まだまだ満足とは言えないが、こういう機会は今後もあるだろうから、今日はこの辺でお開きにしよう。
そんなことを思いつつ体を起こして膝立ちの体勢でベッドに体を向けた。布団は、先程めくったのがそのまま、ぺろりと青い毛布とシーツが見えている。そこに吸い込まれるように顔を近づけ、漂って来るにおいに耐えきれず鼻から息を吸う。------途端、膝が崩れ落ちた。やっぱりダメだった。たったそれだけ、………たった一回嗅ぐだけで、一瞬だけ、一瞬だけ、という言葉が頭の中から消えた。ついでに遠慮という言葉も消えた。我慢という言葉も消えた。ただ乃々香という名前だけが残った。頭を妹の布団の中へ勢いよく突っ込んだ。乃々香の、乃々香ままの匂いが、鼻を通って全身に行き渡っていく。あまりの多幸感に自然に涙が出てくる。笑みもこぼれる。涎もだらだらと出てくる。が、まだ腕の感覚は残っている。手を手繰り寄せ、上半身を全て乃々香の布団の中へ。------あ、もう感覚というかんかくがなくなった。おれは今、ういている。ののかの中でういている。ふわふわと、ふわふわと、ののかのなかで。てんごくとは、ののかのことであったか。なんとここちよい。ののか、ののか、ののか。……………ごめんよ、乃々香、こんなお兄ちゃんで。----------------
  気がついた時には、いよいよ日が落ちてしまったのか部屋の中はかなり薄暗く、机や椅子がぼんやりと赤く照らされながら静かに佇んでいた。俺はどうやら気絶していたらしい。まだ顔中には信じられないほどいい匂いを感じているが、それにはさっきまで嗅いでいた���団とは違う、生々しい人間の香りが混じってい、------------あれ? ………………おかしい。俺は確か布団の中で眠ってしまったというのに、なぜ部屋の中が見渡せる? それに下からは硬いけれど柔らかい極上の感触が、上からは顔を潰さんと重々しく乗ってくる極上の感触が、同時に俺を襲ってきている。しかもその上、ずっと聞いていたくなるような優しい歌声が聞こえてきて、お腹はぽんぽんと、軽く、リズムよく、歌声に合わせて、叩かれている。……………あゝ、もしかして。……………やってしまった。乃々香が帰ってきてしまった。ブラジャーもパジャマも床に放りっぱなしだったのに、布団をめちゃくちゃにしていたのに、何もかもそのままなのに、帰ってきてしまった。きっと怒っている。怒っていなければ、呆れられている。呆れられていなければ、もう兄など居ないことにされている。…………とりあえず起きなければ。----------が、体を起こそうとした瞬間、あんなに優しくお腹を叩いていた腕にグッと力を入れられて、俺の体は万力に挟まったように固定されてしまった。
「の、乃々香。…………」
「兄さん、起きました?」
「あ、うん。えっと、………おかえり」
「ただいま。------まぁ、色々と言いたいことはあるけどまずは聞くね。私の部屋でなにしてたの?」
キッと、乃々香の語調が強くなる。
「あ、……いや、………それは、……………」
「ブラジャーは床に放り出して、寝間着はくしゃくしゃにして、頭は布団の中に突っ込んで、…………一体何をしていたんですか? 黙ってないで、言いなさい。--------」
「ご、ごめん。ごめんなさい。………」
「-------兄さんの変態。変態。変態。心底見損ないました。今日のことはお父さんとお母さんに言って、もう縁を切ってもらうつもりです」
「あ、………あ、…………」
もう言葉も出ない。ただただ喉から微かに出てくる空気の振動だけが彼女に伝わる。が、その時、あれだけ体を拘束してきた腕の力が弱まった。
「……………ふふっ、嘘ですよ。そんなこと思ってませんから安心して。------ああ、でも、変態だと思ってるのは本当ですけどね。………」
「あ、うあ、………良かった。良かった。乃々香。乃々香。……………」
「あぁ、もう、ほら、全然怒ってないから泣かないで。そもそも怒ってたらこんな風に膝枕なんてしてませんって。………ほんとうに兄さんって甘えんぼうなんだから。………………」
と、言うと、またもやお腹をぽんぽんと叩いてきて、今度はさらにもう片方の手で頭を撫でてくる。俺は、乃々香に嫌われてなかった安心感から、腕を丸めてその手の心地よさに身を任せたのだが、しばらくして、ぽんっ、と強く叩かれると、頭を膝の上からベッドの上へ降ろされ、次いで、彼女の暖かさが無くなったかと思えば、パチッ、という音がして部屋の中が明るくなる。ふと目を落としてみると、いまだ床にはブラジャーとパジャマが散乱していて、気を失うまでの興奮が蘇ってきて、居ても立ってもいられなくなってきて、体を起こす。
「あれ? 膝枕はもういいんです?」
隣に腰を下ろしつつ乃々香が言う。
「まぁ、ね。いつまでも妹の膝の上で寝ていられないしね」
「ふふふふふ、兄さん、いまさら何言ってるんです。ふふっ、昨日も私の膝の上で子守唄を聞きながら寝ちゃっていたのに。--------」
「うぅ。……………それはそれとして、ごめんな。こんな散らかして」
「別に、このくらいすぐに片付けられるから、何でもないですよ」
------それよりも、と彼女は言って俺をベッドの上に押し倒し、何やら背中のあたりをゴソゴソと探る。
「今日は何の日でしょう?---------」
今日、…………今日は確か二月一四日、…………あゝ、バレンタインデイ。……………
「せっかく、本当にせっかく、昨日兄さんに見つからないように作ったんですけど、妹のブラジャーを勝手に手に取る人にはちょっと。…………」
「ほんとうにごめんなさい。乃々香様、チョコを、--------」
と、ふいに、顔の上に白い大きな、大きな、今日嗅いだ中で最も強烈に彼女の匂いを放つ布、-------四つのホックと二つのストラップと二つのカップからなる布が、パサリと、降ってきた。
「ふご、………」
「兄さんはその脱ぎたてのブラジャーと、……この、特製の、兄さんを思って兄さんのために兄さんだけに作ったチョコレート、どっちがいいですか? と言っても、そこに落ちてるブラよりもっと大きいし、それに私さっきまでバレーしてて結構汗かいちゃったから、チョコ一択だと思うけど。…………」
ブラジャーのあまりにも香ばしいにおいに脳を犯され、頭がくらくらとしてきて、ぼうっとしてきて、またもや乃々香のにおいで気を失いそうだが、なんとか彼女の手にあるハート型の可愛いラッピングが施されたチョコレートを取ろうと、手を伸ばす。…………が、途中で力尽きた。
「落ちちゃった。……………兄さん? にいさーん?」
「ののか。……」
「生きてます?」
「どっちもほしい。…………・」
「そこはチョコがほしいって言うところでしょ。…………まったく、変態な変態な変態な兄さん。また聞きますから、その時はちゃんとチョコがほしいって言ってね。---------」
と、言うと乃々香は俺を抱き上げてきて、こちらが何かを言おうとする前に俺の顔をその豊かな胸に押し付け、後頭部を撫で、子守唄まで歌いだしたのであるが、いまだに湿っぽい彼女の谷間の匂いを嗅ぎながら寝るなんて、気を失わない限りは到底出来るはずもないのである。---------
  (おわり)
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kkagneta2 · 6 years
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妹の匂いはどんなにほひ?
お兄ちゃんが妹の部屋に忍び込んであれやこれを嗅ぐ話。
乃々香の部屋に入ったのは、別に昨日も来たので久しぶりでも何でも無いが、これほどまでに心臓を打ち震わせながら入ったのは初めてだろう。今の時刻は午後一時、土曜も部活だからと言って朝早く家を出ていった妹が帰ってくるまであと三時間弱、…………だが、それだけあれば十分である。それだけあれば、おおよそこの部屋にある乃々香の、乃々香の、-------妹の、匂いが染み込んだ毛布、掛け布団、シーツ、枕、椅子、帽子、制服------あゝ、昨晩着ていた寝間着まで、…………全部全部、気の済むまで嗅ぐことができる。
だがまずは、この部屋にほんのり漂う甘い匂いである、もう部屋に入ってきたときから気になって仕方がない。我慢できなくて、すうっ……、と深呼吸をしてみると鼻孔の隅から隅まで、肺の隅から隅まで乃々香の匂いが染み込んでくる。-------これだ。この匂いだ。この包み込んでくるような、ふわりと広がりのある甘い匂い、これに俺は惹かれたと思ったら、すぐさま彼女の虜となり、木偶の坊となっていた。いつからだったか、乃々香がこの甘い香りを漂わせていることに気がついた俺は、妹のくせに生意気な、とは思いつつも、彼女もそういうお年頃だし、気に入った男子でも出来て気にしだしたのだろう、と思っていたのだった。が、もうだめだった。あの匂いを嗅いでいると、隣りにいる乃々香がただの妹ではなく、一人の女性に見えてしまう。彼女の匂いは、麻薬である。ひとたび鼻に入れるともう最後、彼女に囚われ永遠に求め続けることになる。だから俺はもう、実の妹の言うことをはいはい聞き入れる人形と成り果ててしまっている。彼女に嫌われてしまうと、もうあの匂いを嗅げないと思ったから。だから、必死で我慢した。我慢して我慢して我慢して、あの豊かな胸に飛び込むのをためらい続けた。妹の首筋、腰、脇の下、膝裏、足首、へそ、爪、耳、乳房の裏、うなじ、つむじ、…………それらの匂いを嗅ごうと、夜中に彼女の部屋に忍び込むのを、自分で自分の骨を折るまでして我慢した。それなのに彼女は毎日毎日、あの匂いを纏わせながらこちらへグイッと近づいてくる。どころか、俺がソファに座っていたり、こたつに入っていると、そうするのが当然と言わんばかりにピトッと横に引っ付いてくる。引っ付いてきて兄である俺をまるで小さな子供かのように、抱き寄せ、膝に載せ、頭を撫で、後ろから包み込み、匂いでとろけていくその小さな子供をくすくすと笑ってから、顎を頭の上に乗せてくる。もう最近の彼女のスキンシップは異常だ。家の中だけではなく、外でも手を繋ごう、手を繋ごうとうるさく言ってきて、…………いや声には出していないのだが、わざわざこちらの側に寄って来てはそっと手を取ろうとするのである。この前の家族旅行でも、両親に見られない範囲ではあるけれども、俺の手は常に、あの色の抜けたように綺麗な、でも大きく少しゴツゴツとした乃々香の手に包まれていた。
……………本当に包まれていた。何せ彼女の方がだいぶ手が大きいのだ。中学生の妹の方が手が大きいなんて、兄なのに情けなさすぎるが、事実は事実である、指と指を編むようにする恋人つなぎすらされない。一度悔しくって悔しくって比べてみたことがあるけれども、結果はどの指も彼女の指の中腹あたりにしか届いておらず、一体どうしたの? と不思議そうな顔で見下されるだけだった。キョトンと、目を白黒させて、顔を下に向けて、………………そう、乃々香は俺を見下ろしてくる。妹なのに、妹のくせに、彼女が小学生の頃に身長が並んだかと思ったら、中学二年生となった今ではもう十、十五センチは高い位置から見下ろしてくる。誓って言うが、俺も一応は男性の平均身長程度の背はあるから、決して低くはない。なのに、乃々香はふとしたきっかけで兄と向き合うことがあれば、こちらの目を真っ直ぐ見下ろしてき���、くすくすとこそばゆい笑みを見せ、頬を赤く染め上げ、愛おしそうにあの大きな手で頭を撫でてきて、…………俺は本当に彼女の「兄」なのか? 姉というものは良くわからないから知らないが、居たとしたらきっと、可愛い弟を見る時はああいう慈しみに富んだ目をするに違いない。あの目は兄に向けて良いものではない。が、現に彼女は俺を見下ろしてくる、あの目で見下ろしてくる、まるで弟の頭を撫でるかのように優しくあの肉厚な手を髪の毛に沿って流し、俺がその豊かすぎる胸元から漂ってくる匂いに思考を奪われているうちに、母親が子供にするように額へとキスをしてくる。彼女には俺のことが事実上の弟のように見えているのかもしれない。じたい、俺と妹が手を繋いでいる様子は傍から見れば、お淑やかで品の良い姉に、根暗で僻み癖のある弟が手を引かれているような、そんな風に見えていることだろう。
やはり、乃々香はたまらない。我慢に次ぐ我慢に、もう一つ我慢を重ねていたいたけれども、限界である。今日は、彼女が部活で居なければ、いつも家に居る母親も父親とともに出かけてしまって夜まで帰ってこない。ならばやることは一つである。大丈夫だ、彼女の持っている物の匂いをちょっと嗅ぐだけであって、決して部屋を滅茶苦茶にしようとは思っていない。それに、そんな長々と居座るつもりもない。大丈夫だ。彼女は異様にこまめだけど、ちゃんともとに戻せばバレることもなかろう。きっと、大丈夫だ。……………
  肺の中の空気という空気を乃々香のにおいでいっぱいにした後は、彼女が今朝の七時頃まで寝ていた布団を少しだけめくってみる。女の子らしい赤色のふわふわとした布団の下には、なぜかそれと全く合わない青色の木の模様が入った毛布が出てきたが、確かこれは俺が昔、…………と言ってもつい半年前まで使っていた毛布である。こんなところにあったのか。ところどころほつれたり、青色が薄くなって白い筋が現れていたり、もう結構ボロボロである。だがそんな毛布でも布団をめくった途端に、先程まで彼女が寝ていたのかと錯覚するほど良い匂いを、あちらこちらに放ち初めた。あゝ、たまらぬ。日のいい匂いに混じって、ふわふわとした乃々香の匂いが俺を包んでいる。…………だが、まだ空に漂っているにおいだけだ。それだけでも至福の多幸感に身がよじれそうなのに、この顔をその毛布に埋めたらどんなことになるのであろう。
背中をゾクゾクとさせながら、さらにもう少しだけ毛布をめくると、白いふさふさとしたシーツが見え、さらに乃々香の匂いは強くなって鼻孔を刺激してくる。ここに近づけるともう戻れないような気がしたが、そんなことはどうでもよかった。ここまで来て、何もしないままでは帰れない。頭を毛布とシーツの境目に突っ込んで、ぱたん…と、上から布団をかける。---------途端、体から感覚という感覚が消えた。膝は崩れ落ち、腰には力が入らず、腕はだらりと垂れ下がり、しかし、見える景色は暗闇であるのに目を見開き、なにより深呼吸が止まらぬ。喉の奥底がじわりと痛んで、頭がぼーっとしてきて、このまま続ければ必ず気を失ってしまうのに、妹の匂いを嗅ごう嗅ごうと体が自然に布団の中の空気を吸おうとする。止まらない。止まらない。あの乃々香の匂いが、あの甘い包まれる匂いが、時を経て香ばしくなり、ぐるぐると深く、お日様の匂いと複雑に混じり合って、俺を絞め殺してくる。良い人生であった。最後にこんないい匂いに包まれて死ねるなど、なんと幸せものか。……………
だが、口を呆けたように開け涎が垂れそうになった時、我に返った。妹の私物を汚してはならない。今ここで涎を出してしまっては彼女の毛布を汚してしまう。--------絶対にしてはいけないことである。そんなことも忘れて彼女の匂いに夢中になっていたのかと思うと、体の感覚が戻ってきて、呼吸も穏やかになってきた。やはり、毛布、というより寝具の匂いは駄目だ。きっと枕も彼女の髪の毛の匂いが染み付いて、途方も無くいいにおいになっていることだろう。一番気持ちが高ぶった今だからこそ、一番いい匂いを、一番最初に嗅ぐべきだと思ったが、本当に駄目だ。本当にとろけてしまう。本当に気を失うまで嗅いでしまう。気を失って、そのうちに乃々香が帰ってきたら、それこそもう二度とこんなことは出来なくなってしまうだろうし、妹の匂いに欲情する変態の烙印を社会から押されてしまうだろう。いや、その前に彼女の怪力による制裁が待っているかもしれない。……………恐ろしすぎる、いくらバレーをしているからと言って、大人一人を軽々と持ち上げ、お姫様抱っこをし、階段を上り、その男が気づかないほど優しくベッドの上に寝かせるなんてそうそう出来るものではない。あの時は立てないほどにのぼせてしまった俺が悪いが、あのゆさゆさと揺れる感覚は今思い出してみると安心感よりも恐怖の方が勝る。彼女のことだから、決して人に対してその力を振るうことはないとは思うけれども、やはりもしもの時を想像すると先ほどとは違う意味で背中に寒気を覚えてしまう。
ならばやるとしても、少し落ち着くために刺激が強くないものを嗅ぐべきである。ベッドの上に畳まれている彼女の寝間着は、………もちろんだめである、昨夜着ていたものだから、そんなを嗅げば頭がおかしくなってしまう。それにこれは、もう洗濯されて絶対に楽しめないと思っていた、言わば棚から牡丹餅、僥倖、零れ幸いと形容するべき彼女の物なのだから、もう少し気を静めて鼻をもとに戻してから手に取るべきであろう。なら何にしようか。早く決めないと、もう膝がガクガクするほどにあの布団の匂いを今一度嗅ぎたくて仕方がなくなっている。
そういえばちょうど鏡台横のラックに、乃々香の制服があるはず。…………あった、黒基調の生地に赤いスカーフが付いた如何にもセーラー服らしいセーラー服、それが他のいくつかの服に紛れてハンガーに吊るされている。その他の服も良いが、やはり選ぶべきは最も彼女を引き立たせるセーラー服である。なんと言っても平日は常に十時間以上着ているのだから、妹の匂いがしっかり染み付いているに違いない。それに高校生になってからというもの、なぜか女生徒の制服に何かしら言いようのない魅力を見出してしまい、あろうことか妹である乃々香の制服姿にすら、いや乃々香の制服姿だからこそ、何かそそられるものを感じるようになってしまったのである。-------彼女はあまりにもセーラー服と相性が良すぎる。こうして手にとって見るとなぜなのかよく分かる。妹は背こそ物凄く高いのだが、その骨格の細さゆえに体の節々、-------例えば手首、足首やら肘とか指とかが普通の女性よりもいくらか細く、しなやかであり、この黒い袖はそんな彼女の手を、ついつい接吻したくなるほど優美に見せ、この黒いスカートはそんな彼女の膝から足首にかけての麗しい曲線をさらに麗しく見せる。それに付け加えて彼女の至極おっとりとした顔立ちと、全く癖のない真直ぐに伸びる艶やかな髪の毛である。今は部活のためにバッサリと切ってしまったが、それでもさらりさらりと揺れ動く後髪と、うなじと、セーラー服の襟とで出来る黒白黒の見事なコントラストはつい見惚れてしまうものである。それにあの後ろから見える、微かに撫でている肩の丸みや、その流麗さを隠しきれない腰や、ひらひらとお尻の動きに合わせて踊るスカートや、そこから伸びる細い、けれども肉付きの良い足の曲線、………などなどを見ていると、どんな美しい女性が眼の前に居るのだろうと想像してしまって、兄なのに、いつも乃々香の顔なんて見ているのに、小学生の男子児童のようにドキドキと動悸を打たせてしまう。で、後ろにいる兄に気がつくと彼女は、ふわりと優しい匂いをこちらに投げつけながら振り向くのであるが、直後、中学生らしからぬ気品と色気のある笑みをその顔に浮かべながら、魂を抜き取られたように口を開ける間抜けな男に近づいてくるのである。あの気品はセーラー服にしか出せない。ブレザーでは不可能である。恐らくは彼女の姿勢とか佇まいとかが原因であろうが、しかし身長差から首筋あたりしか見えていないというのに、黒くざわざわとした繊維の輝きと、透き通るような白い肌を見ているだけで、あゝこの子は良家のお嬢様なのだな、と分かるほどに不思議な優雅さを感じる。少々下品に見えるのはその大きすぎる胸であるが、いや、あの頭よりも大きい巨大な乳房に魅力を感じない男性は居ないだろうし、セーラー服は黒が基調なのであんまり目立たない。彼女はその他にも二の腕や太腿にもムチムチとした女の子らしい柔らかな筋肉を身に着けているが、黒いセーラー服は乃々香を本来のほっそりとした女の子に仕立て上げ、俗な雰囲気を消し、雅な雰囲気を形作っている。------------
それはそれとして、ああやって振り向いた時に何度、俺が彼女の首筋に顔を埋め、その匂いを嗅ごうとしたことか。乃々香は突っ立っている俺に、兄さん? 兄さん? 大丈夫? と声をかけつつ近づいてきて、もうくらくらとして立つこともやっとな兄の頭を撫でるのだが、生返事をすると案外あっさりと離してしまって、俺はいつも歯がゆさで唇を噛み締めるだけなのである。-------だが、今は違う。今は好きなだけこのセーラー服の匂いを嗅げる。一応時計を確認してみると、まだこの部屋に入ってきて二十分も経っていない。そっと鼻を、彼女の首が常に触れる襟に触れさせる。すうっ………、と息を吸ってみる。-------あの匂いがする。俺をいつも歯がゆさで苦しめてくるあの匂いが、彼女の首元から発せられるあの、桃のように優しい匂いが、ほんのりと鼻孔を刺激し、毛布のにおいですっかり滾ってしまった俺の心を沈めてくる。少々香ばしい香りがするのは、乃々香の汗の匂いであろうか、それすらも素晴らしい。俺は今、乃々香がいつも袖を通して、学校で授業を受け、友達と談笑し、見知らぬ男に心を寄せてはドキドキと心臓を打たせているであろうセーラー服の匂いを嗅いでいる。乃々香、ごめんよこんな兄で。許してくれなんて言わない。嫌ってくれてもいい。だが、無関心無視だけはしないでくれ。…………あゝ、背徳感でおかしくなってしまいそうだ。………………
----ふと、ある考えが浮かんだ。浮かんでしまった。これをしてしまっては、……いや、だけどしたくてしたくてたまらない。乃々香の制服に自分も袖を通してみたくてたまらない。乃々香のにおいを自分も身に纏ってみたくてたまらない。自分も乃々香になってみたくてたまらない。今一度制服を眺めてみると、ちょっと肩の幅は小さいが特にサイズは問題なさそうである。俺では腕の長さが足りないので、袖が余ってしまうかもしれないが、それはそれで彼女の背の高さを感じられて良い。
俺はもう我慢できなくって着ていた上着を雑に脱いで床に放り投げると、姿見の前に立って、乃々香の制服を自分に合わせてみた。気持ち悪い顔は無いことにして、お上品なセーラー服に上半身が覆われているのが見える。これが今から俺の体に身につけることになる制服かと思うと、心臓が脈打った。早速、裾を広げて頭を入れてみると、彼女のお腹の匂いが、胸の匂いが、首の匂いが鼻を突いた。するすると腕を通していくと、見た目では分からない彼女の体の細さが目についた。裾を引っ張って、肩のあたりの生地を摘んで、制服を整えると、またもや乃々香の匂いが漂ってきた。案の定袖は余って、手の甲はすっかり制服に隠れてしまった。
---------最高である。今、俺は乃々香になっている。彼女の匂いを自分が放っている。願わくばこの顔がこんな醜いものでなければ、この胸に西瓜のような果実がついていれば、この股に情けなく雁首を膨らませているモノが無ければ、より彼女に近づけたものだが仕方ない。これはこれで良いものである。むしろ最高のものである。妹はいつもこのセーラー服を着て、俺を見下ろし、俺と手をつなぎ、俺に抱きつき、俺の頬へとキスをする、-------その事実があるだけで、今の状況には何十、何百回という手淫以上の快感がある。だが本当に、胸が無いのが惜しい。あの大きな乳房に引き伸ばされて、なんでもない今でも胸元にちょっとしたシワが出来ているのであるが、それが一目見ただけで分かってしまうがゆえに余計に惜しい。制服の中に手を突っ込んで中から押して見ると、確かにふっくらとはするものの、常日頃見ている大きさには到底辿り着けぬ。-------彼女の胸の大きさはこんなものではない。毎日見ているあの胸はもっともっとパンパンに制服を押し広げ、生地をその他から奪い取り、気をつけなければお腹が露出してしまうぐらいには大きい。さすがにそこまで膨らまそうと力を込めて、制服を破ったりしてしまっては元の子もないのでやりはしないが、彼女の大変さを垣間見えただけでも最高の収穫である。恐らく、いつもいつも無理やりこの制服を着て、しっかりと裾を下まで引っ張り、破れないよう破れないよう慎重に歩いているのであろう。あゝ、なるほど、彼女が絶対に胸を張らないのはそういうことか。本当に、まだ中学生なのになんという大きさの乳房なのであろう。
そうやって制服を着て感慨に耽っていると、胸ポケットに何か硬いものを感じた。あまり良くは無いが今更なので取り出してみると、それは自分が、確か小学生だか中学生の頃に修学旅行のお土産として渡したサメのキーホルダー、…………のサメの部分であった。もう随分と昔に渡したものなので、その尾びれは欠け塗装は所々禿げてしまっているが、いまだに持っているということは案外大切にしてくれているに違いない。全く、乃々香はたまにこういう所があるから、ついつい勘違いしそうになるのである。そんな事はあり得ない、----決してあり得ないとは思っていても、つい期待してしまう。いくら魅力的な女性と言えども、相手は実の妹なのだから、-------兄妹間の愛は家族愛でしかないのだから。…………………
ちょっと湿っぽくなってきたせいか、すっかり落ち着いてしまった。セーラー服も元通りに戻してしまった。が、ベッドの上にある妹の寝巻きが目についてしまった。乃々香が昨日の晩から今朝まで着ていた寝巻き、あの布団の中に六七時間は入っていた寝巻き、乃々香のつるつるとした肌が直に触れた寝間着、…………それが、手を伸ばせば届く位置にある。---------きっと、いい匂いがするに違いない。いや、いいにおいなのは知っている。俺はあのパジャマの匂いを知っている。何せ昨日も彼女はアレを着て、俺の部屋にやってきて、兄さん、今日もよろしくね、と言ってきて、勉強を見てもらって、喋って、喋って、喋って、俺の部屋をあのふわふわとしたオレンジのような香りで充満させて、こちらがとろとろに溶けてきた頃に、眠くなってきたからそろそろお暇するね、おやすみ、と言い去っていったのである。………その時の匂いがするに違いない。
それにしてもどうして、………どうして毎日毎日、俺の部屋へやって来るのか。勉強を教えてほしいなどというのは建前でしかない。俺が彼女に教えられることなんて何もない。それは何も俺の頭が悪すぎるからではなくて、乃々香の頭が良すぎるからで、確かにちょっと前までは高校生の自分が中学生の彼女に色々と教えられていたのであるが、気がついた時には俺が勉強を教わる側に立っており、参考書の輪読もなかなか彼女のペースについていけず、最近では付箋メモのたくさんついた〝お下がり〟で、妹に必死に追いつこうと頑張る始末。そんなだから乃々香が毎晩、兄さん兄さん、勉強を教えてくださいな、と言って俺の部屋にやって来るのが不思議でならない。いつもそう言ってやって来る割には勉強の「べ」の字も出さずにただ駄弁るだけで終わる時もあるし、俺には彼女が深夜のおしゃべり相手を探しているだけに見える。それだけのために、あんないい匂いを毎晩毎晩俺の部屋に残していくだなんて、生殺しにも程がある。
だから、これは仕方ないんだ。乃々香のせいなんだ。このもこもことしたパジャマには、悔しさで顔を歪める俺を慰めてきた時の、あの乃々香の大人っぽい落ち着いた匂いが染み付いているんだ。------あゝ、心臓がうるさくなってきた。もう何が原因でこんなに心臓が動悸してるのか分からない。寝間着を持つ手が震えてきた。綺麗に丁寧に畳まれていたから、派手に扱うと後できっと誰かが手を加えたと気がつくであろう。だけど、だけど、このパジャマを広げて思う存分においを嗅ぎたい。嗅ぎたい。…………と、その時、するりと手から寝巻きが滑った。
「あっ」
ぱさり…、という音を立てて乃々香のパジャマが床に落ちる。落ちて広がる。袖の口がこちらを見てきている。たぶんそこから、いや、落ちた時に部屋の空気が掻き乱されたせいか、これまでとはまた別種の、-------昨日俺の部屋に充満した、乃々香がいつも使うシャンプーの香りと彼女自身の甘い匂いが、俺の鼻に漂ってくる。もうたまらない。パジャマに飛びつく。何日も食事を与えられなかった犬のように、惨めに、哀れに、床に這いつくばり、妹の着ていた寝間着に鼻をつけて思いっきり息を吸い込む。-------これが俺。実の妹の操り人形と化してしまった男。実の妹の匂いを嗅いで性的な興奮を覚え、それどころか実の妹に対して歪んだ愛を向ける男。実の妹に嫌われたくない、嫌われたくない、と思いながら、言いながら、部屋に忍び込んでその服を、寝具を、嗅いで回る変態。…………だが、やめられない、止まらない。乃々香のパジャマをくしゃくしゃに丸め、そこに顔を埋める。すーっ………、と息を吸う。ここが天国なのかと錯覚するほどいい匂いが脳を溶かしてくる。もう一度吸う。さらに脳がとろけていく。------あゝ、どこだここは。俺は今、どこに居て、どっちを向いているんだ。上か、下か、それも分からない。何もわからない。--------
「ののかっ!」
気がつけば、声が出てしまっていた。-------そうだ、俺は乃々香の部屋に居て、乃々香のパジャマを床に這いつくばって嗅いでいたのだった。顔を上げ、そのパジャマから鼻を離すといくらか匂いが薄くなり、次いで視界も思考も晴れてくる。危なかった、もう少しで気狂いになり、取り返しのつかない事態になっていたところだった。が、パジャマから手を離し、ふと首を傾ぐとベッドの下が何やらカラフルなことに気がついた。見ると白いプラスチックの衣装ケースの表面を通して、赤色と水色のまん丸い影が二つ、ぼやぼやと光っている。こういうのはそっとしておくべきだが、そんな今更戸惑ったところで失笑を買うだけであろう、手を伸ばして開けてみると、そこには嫌にバカでかい、でかい、………でかい、…………何であろうか、女性の下着ということは分かるが何なのかまでは分からない。いや、大体想像はついたけれども、まだ信じられない。これがブラジャーだなんて。……………
とりあえず目についた一番手前の、水色の方を手に取ってみると、案の定たらりと、幅二センチはある頑丈なストラップが垂れた。そして、恐らくカップの部分なのであろう、俺の顔ほどもある布地がワイヤーに支えられてひらひらと揺れ動いている。片方しか無いと思ったら、どうやらちょうど中央部分で折り畳まれているようで、四段ホックの端っこが二枚になって重なっている。俺は金具の部分を持って開いてみた。………………で、でかい。…………でかすぎる。これが本当にブラジャーなのかと思ったけれども、ちゃんとストラップからホックからカップから、普通想像するブラジャーと構造は一緒なようである。……………が、大きさは桁違いである。試しに手を目一杯広げてカップの片方に当ててみても、ブラジャーの方がまだ大きい。顔と見比べてもまだブラジャーの方が大きい。二倍くらいは大きい。とにかく大きい。これが乃々香が、妹が、中学生が普段身に着けているブラジャーなのか。こんな大きさでないと合わないというのか。……………いや、いまだに信じられないけれども、ところどころほつれて糸が出ていたり、よく体に当たるであろうカップの下側の色が少し黄色くなっているから、乃々香は本当に、この馬鹿にでかいブラジャーを、あの巨大な胸に着けているのであろう。そう思うと手も震えてくれば、歯も震えてきてガチガチと音が鳴る。今まで生で見たことが無くて、一体どれだけ大きな胸を妹は持っているのか昔から謎だったけれども、今ようやく分かった気がする。カップの横にタグがあったので見てみると、32KKとあるから、多分これがカップ数なのであろうと勝手に想像すると、彼女はどうやらKカップのおっぱいの持ち主らしい。………なぜKが二つ続いているのか分からないが、中学生でKカップとは恐れ入る。通りで膝枕された時に顔が全く見えないわけだ。
-------あゝ、そうだ、膝枕。乃々香の膝枕。アレは最高だった。もうほとんど毎日のようにされているが、全くもって��きない。下からは硬いけれど柔らかい彼女の太腿の感触が、上からは、………言うまでもなかろう顔を押しつぶしてくる極上の感触が、同時に俺を襲ってきて、横を向けば彼女の見事にくびれたお腹が見える。それだけでも最高なのに、彼女の乳房にはまるでミルクのような鼻につくにおいが漂い、彼女のお腹にはあのとろけるような匂いが充満していて、毎晩俺は幼児退行を経験してしまう。だがそうやって、とろけきって頭の中から言葉も無くなった俺に、妹はあろうことか頭を撫でてくるのである。そして、子守唄でも歌ってあげようか、兄さん? と言ってきて本当に、ねんねんころりよ、と赤ん坊をあやすように歌ってくるのである。あの膝枕をされてどうにかならないほうがおかしい。もう、長幼の序という言葉の意味が分からなくなってくるほどに、乃々香に子供扱いされている。-------だが、そこにひどく興奮してしまう。彼女に膝枕をされて、頭を撫でられて、子守唄を歌われて、結果、情けなく勃起してしまう。俺はもう駄目かもしれない。実の妹に子供扱いされて欲情する男、…………もしかしたら実の妹の匂いで興奮する男よりもよっぽどおかしいが、残念ながら優劣を決める前にどちらも俺のことである。…………あゝ、匂い。乃々香の匂い。--------彼女の布団が恋しくなってきた。動くのも億劫だが最後にもう一嗅ぎしたい。…………………
これで最後である。もう日が落ちかけてきているから、そろそろ乃々香が帰ってきてしまう。この布団をもう一瞬、一瞬だけ嗅いだら彼女のブラジャーをもとに戻し、パジャマを出来る限り綺麗に畳み、布団を元に戻して部屋に戻る。まだまだ満足とは言えないが、こういう機会は今後もあるだろうから、今日はこの辺でお開きにしよう。
そんなことを思いつつ体を起こして膝立ちの体勢でベッドに体を向けた。布団は、先程めくったのがそのまま、ぺろりと青い毛布とシーツが見えている。そこに吸い込まれるように顔を近づけ、漂って来るにおいに耐えきれず鼻から息を吸う。------途端、膝が崩れ落ちた。やっぱりダメだった。たったそれだけ、………たった一回嗅ぐだけで、一瞬だけ、一瞬だけ、という言葉が頭の中から消えた。ついでに遠慮という言葉も消えた。我慢という言葉も消えた。ただ乃々香という名前だけが残った。頭を妹の布団の中へ勢いよく突っ込んだ。乃々香の、乃々香ままの匂いが、鼻を通って全身に行き渡っていく。あまりの多幸感に自然に涙が出てくる。笑みもこぼれる。涎もだらだらと出てくる。が、まだ腕の感覚は残っている。手を手繰り寄せ、上半身を全て乃々香の布団の中へ。------あ、もう感覚というかんかくがなくなった。おれは今、ういている。ののかの中でういている。ふわふわと、ふわふわと、ののかのなかで。てんごくとは、ののかのことであったか。なんとここちよい。ののか、ののか、ののか。……………ごめんよ、乃々香、こんなお兄ちゃんで。----------------
  気がついた時には、いよいよ日が落ちてしまったのか部屋の中はかなり薄暗く、机や椅子がぼんやりと赤く照らされながら静かに佇んでいた。俺はどうやら気絶していたらしい。まだ顔中には信じられないほどいい匂いを感じているが、それにはさっきまで嗅いでいた布団とは違う、生々しい人間の香りが混じってい、------------あれ? ………………おかしい。俺は確か布団の中で眠ってしまったというのに、なぜ部屋の中が見渡せる? それに下からは硬いけれど柔らかい極上の感触が、上からは顔を潰さんと重々しく乗ってくる極上の感触が、同時に俺を襲ってきている。しかもその上、ずっと聞いていたくなるような優しい歌声が聞こえてきて、お腹はぽんぽんと、軽く、リズムよく、歌声に合わせて、叩かれている。……………あゝ、もしかして。……………やってしまった。乃々香が帰ってきてしまった。ブラジャーもパジャマも床に放りっぱなしだったのに、布団をめちゃくちゃにしていたのに、何もかもそのままなのに、帰ってきてしまった。きっと怒っている。怒っていなければ、呆れられている。呆れられていなければ、もう兄など居ないことにされている。…………とりあえず起きなければ。----------が、体を起こそうとした瞬間、あんなに優しくお腹を叩いていた腕にグッと力を入れられて、俺の体は万力に挟まったように固定されてしまった。
「の、乃々香。…………」
「兄さん、起きました?」
「あ、うん。えっと、………おかえり」
「ただいま。------まぁ、色々と言いたいことはあるけどまずは聞くね。私の部屋でなにしてたの?」
キッと、乃々香の語調が強くなる。
「あ、……いや、………それは、……………」
「ブラジャーは床に放り出して、寝間着はくしゃくしゃにして、頭は布団の中に突っ込んで、…………一体何をしていたんですか? 黙ってないで、言いなさい。--------」
「ご、ごめん。ごめんなさい。………」
「-------兄さんの変態。変態。変態。心底見損ないました。今日のことはお父さんとお母さんに言って、縁を切ってもらうつもりです」
「あ、………あ、…………」
もう言葉も出ない。ただただ喉から微かに出てくる空気の振動だけが彼女に伝わる。が���その時、あれだけ体を拘束してきた腕の力が弱まった。
「……………ふふっ、嘘ですよ。そんなこと思ってませんから安心して。------ああ、でも、変態だと思ってるのは本当ですけどね。………」
「あ、うあ、………良かった。良かった。乃々香。乃々香。……………」
「あぁ、もう、ほら、全然怒ってないから泣かないで。そもそも怒ってたらこんな風に膝枕なんてしてませんって。………ほんとうに兄さんって甘えんぼうなんだから。………………」
と、言うと、またもやお腹をぽんぽんと叩いてきて、今度はさらにもう片方の手で頭を撫でてくる。俺は、乃々香に嫌われてなかった安心感から、腕を丸めてその手の心地よさに身を任せたのだが、しばらくして、ぽんっ、と強く叩かれると、頭を膝の上からベッドの上へ降ろされ、次いで、彼女の暖かさが無くなったかと思えば、パチッ、という音がして部屋の中が明るくなる。ふと目を落としてみると、いまだ床にはブラジャーとパジャマが散乱していて、気を失うまでの興奮が蘇ってきて、居ても立ってもいられなくなってきて、体を起こす。
「あれ? 膝枕はもういいんです?」
隣に腰を下ろしつつ乃々香が言う。
「まぁ、ね。いつまでも妹の膝の上で寝ていられないしね」
「ふふふふふ、兄さん、いまさら何言ってるんです。ふふっ、昨日も私の膝の上で子守唄を聞きながら寝ちゃっていたのに。--------」
「うぅ。……………それはそれとして、ごめん。ほんとうにごめん。ごめんなさい。勝手に部屋に入ってこんな散らかして、しかも、しかも、……………」
「別に、このくらいすぐに片付けられるから、何でもないですよ」
------それよりも、と彼女は言って俺をベッドの上に押し倒し、何やら背中のあたりをゴソゴソと探る。
「今日は何の日でしょう?---------」
今日、…………今日は確か二月一四日、…………あゝ、バレンタインデイ。……………
「せっかく、本当にせっかく、昨日兄さんに見つからないように作ったんですけど、妹のブラジャーを勝手に手に取る人にはちょっと。…………」
「ほんとうにごめんなさい。乃々香様、チョコを、--------」
と、ふいに、顔の上に白い大きな、大きな、今日嗅いだ中で最も強烈に彼女の匂いを放つ布、-------四つのホックと二つのストラップと二つのカップからなる布が、パサリと、降ってきた。
「ふご、………」
「兄さんはその脱ぎたてのブラジャーと、……この、特製の、兄さんを思って兄さんのために兄さんだけに作ったチョコレート、どっちがいいですか? と言ってもそのブラって、床落ちてるのよりももうちょっと大きいし、それに私さっきまでバレーしてて結構汗かいちゃったから、チョコ一択だと思うけど。…………」
ブラジャーのあまりにも香ばしいにおいに脳を犯され、頭がくらくらとしてきて、ぼうっとしてきて、またもや乃々香のにおいで気を失いそうだが、なんとか彼女の手にあるハート型の可愛いラッピングが施されたチョコレートを取ろうと、手を伸ばす。…………が、途中で力尽きた。
「落ちちゃった。……………兄さん? にいさーん?」
「ののか。……」
「生きてます?」
「どっちもほしい。…………・」
「そこはチョコがほしいって言うところでしょ。…………まったく、変態な変態な変態な兄さん。また聞きますから、その時はちゃんとチョコがほしいって言ってね。---------」
と、言うと乃々香は俺を抱き上げてきて、こちらが何かを言おうとする前に俺の顔をその豊かな胸に押し付け、後頭部を撫で、子守唄まで歌いだしたのであるが、いまだに湿っぽい彼女の谷間の匂いを嗅ぎながら寝るなんて、気を失わない限りは到底出来るはずもないのである。---------
  (おわり)
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cosmicc-blues · 3 years
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2021/5/22
朝、Nからの連絡で目が覚める。その内容に飛び起きてガッツポーズ! 大慌てで支度をして、心のアンテナを調律しながら向かいます!
ちょっと胸の高鳴りが止まらないんだけれど、鈴の音を聴きながら歩いていたら落ち着いてくる。ぴょこっとした黄緑色のコケみたいのがかわいらしくて、しゃがんで写真をとる。12時ぴったりに駅に到着。改札前にはほかにも大勢のひとたちが個々に待ち合わせをしていて、人とひとが再会するところどころにぴこっと笑顔の花が咲く。改札から出てきた女のひとがお友達を見つける、とっても嬉しそうにおたがい駆け寄って、控えめながら抱き合っている。男の子たちの集団にさいごのひとりが遅れて到着する、男の子たちはまるでホームランを打ってベンチに帰ってくるチームメイトを迎え入れるように、うぇーいってさいごのひとりに肩をぶつける。そんな再会の様子を眺めていたら、泣いてしまいそうになって、上を向く。
5分になって、階段からまた大勢のひとたちが下りてくる。その中からNとKさんの姿を探す。あれれ、おかしいな、遠くからでもすぐにわかるはずなのに、と思ったら、下りてくるひとだかりの中から一本の手が挙がる。だけども、そのすぐ近くにいるはずのKさんの姿がいまだに見出せなくて、あのラピュタのパズーみたいなひとがKさん? いつもと雰囲気のちがうNの髪型と服装がチャイナかわいくて胸の♡に矢がズキュンと突き刺さる。そしてKさんと衝撃のご対面、経験的にこういうときにはそこに「関係」のような何かが発生して、居心地の悪さといったら大げさだけど、くすぐったさのようなものを感じる。それはぜんぜん悪いことではなくて、いい予感のほうがはるかに多いくらいなんだけど、Kさんの目をひとめみたとき、そこに関係のような何かがまるで発生しなくて、へぇ~って言いながらこっちを眺める生身のKさんがそこにいる。おたがいに初めましてって挨拶を交わしながら、え、これはいったいどういうことって思う。対面してひとのことを見ようとすると、そこに何かしらの機微を感じるっていうか、何かしらの関係のような何かが生じる。だけど、Kさんにはそれがまるでなくて、すんなりKさんのことを見ているし、Kさんにも見られていると感じている。え、なんだろう、あいだに関係みたいな何かがないから、おたがいにすれ違っているんだけど、それだけに相手をちゃんと見据えている? Mさんとはじめてふたりで会ったとき、Nとはじめてふたりで会ったとき、関係していくなかで喋っているじぶんの声が生身にきこえるときのことを思い出している。ふだんは関係みたいな何かの渦にからめとらて、わけがわからなくなって、その渦の流れにのまれるままに喋っているから、それは喋らせられている感じにも似ていて、じぶんでも何を言っているのかよくわからなくなる。だけども、ふたりと喋っているときは、不思議とじぶんの声が録音の声をきいているみたいにはっきりきこえていて、これと似たようなことが視線を介するだけで起きているような感じがする。じぶんの声がきこえるように、じぶんの投げ掛けている視線が見えるような。
NとKさんが今朝のことを相性抜群の夫婦漫才みたいにたっくさん話してくれて大笑いの連続! コッちゃんのこと、より子のこと、カラスのこと、不審な警備員さんのこと、お友達の野田さんのこと、Kさんの壮絶な部屋のこと。Kさんはコッちゃんはカラスをお友達と思ったんだよって言い、Nは怯えていたと思うって言う。不審な警備員さんに対して態度を豹変させるKさんのNの物真似がおもしろすぎる。それから、Kさんの部屋に入ろうとしたときのNの再現も!
Oさんの魚介カリー。三人で来たものだからOさんびっくりしている。Kさんは端がいいんだよね、とNがKさんを優しく気遣う。席についたとき、Kさんとふっと目が合って、涙がうるみそうになる。注文を済ませるまえからKさんのマシンガントークが止まらない! ポン、ポン、ポーンとどんどんはなしが飛躍する。生まれ故郷の島のはなしをしていたと思ったらビールをゼリーにしてみたはなしになっていて、そのふたつのはなしを繋いだのは船の回転するスクリューが起こした泡だったりする。お友達の野田さんのはなしが何度か浮上する。Kさんはけっこうズケズケと野田さんを批判したり、もう会わないようにしようと思ったとか言う。それでもKさんは今朝も野田さんに挨拶をしていたらしくて、批判は批判としてあるんだけれど、それとはすれ違って野田さんのことをありのままに見ようとしているのかなって思う。Kさんのマイスプーン、すっごく小さくて掬えるご飯が少ないうえに、大盛りだし、ずっとずっと喋っているから食べるのが誰よりも遅い。Nとふたり、Kさんの食べ終わるのを待つんだけれど、Kさんがまたベラベラ喋りはじめて、これだから食べるの遅いんだよねってじぶんでツッコんでいる。ごちそうさまでした。
公園に向けて歩きながら、Kさんのこと一瞬で好きになっちゃいましたって伝える。Kさん、首筋に冷たい風のよぎったみたいに、きらいにならないでねって言う。野生のルンバ。Kさんは色んなものを見たり触ったりしながら歩く。まるでそのひとつびとつに挨拶をしているみたいで、じ��さいに通りがかったひとにもこんにちはって挨拶をする。行きにかわいいなって思って写真を撮ったのと同じ種類らしき黄緑色のコケみたいなのにも触れる。これと同じかなって写真を見せる、うれしいな。墓場道、いい感じの葉っぱの下に赤い実が落ちている。しゃがんでその実を見ていたら、目のピントがだんだんと密かに蠢くそれに��ってきて、すぐ近くにアリさんたちの大行列ができている。
公園に帰ってくる。Nが大きくなったカモの赤ちゃんに大驚き! Kさんがいつもルリコンゴウインコのいる樹とすっと一体になる。長年この公園のことを見てきて、この樹と戯れているのはルリコンゴウインコとKさん以外知らない。かと思ったらKさん、雨も降っていないのに雨が降ったらこの池の水面に波紋ができるのかなって。まさに雨の波紋のことを考えていた矢先だったから、いきなりそんなことを口走るKさんはやっぱり超能力者なの? 雨の降っていないときでもアメンボがいれば波紋が見られるけど、いまはカモの赤ちゃんがぜんぶ食べちゃっていないって伝える。Kさんはコイたちに熱心な視線を注いでいる。Nが水面に浮かぶ赤い実みたいのをコイが食べては吐き出していることに気がつく、ベェーってすぐに吐き出しちゃう。えさをもらえると思っているのか、コイたちがどんどん集まってくる。コイからはこっちのことがどんなふうに見えているんだろう。Kさんはひらっと泳いだり、飛び跳ねたりするコイたちをみて、色んな芸があるって言う。
小学校のニワトリを見にいこうとするけれど、ニワトリ小屋のところには入れなくて、Kさんはよれよれの草花を持ち帰る。信号を渡って、100均とファミマ。メモ、こんど信号待ちのときみんなと足で踊るやつやりたい。念願のゴザがあって、ゴザを買う。青と黄色と緑。そういえばかよこさん、青の時計みつかったらください! Nに促されてボールも買う。ニンマリ。ボールも買う。Kさん造花を触りながら足に良さそうだと言う。え、どういうことって思って造花を触ってみると、たしかに足で踏んづけたら気持ちよさそう。お茶をひとつ選ぶのにもNのKさんことを想う真心みたいなのがポロっと出ていて涙がうるむ。買い物を済まして横断歩道で信号待ち。メモ、こんど信号待ちのときみんなと足で踊るやつやりたい。空の雲がどす黒い色をしていて、おおッ、きたなって気持ちが盛り上がってくる。さっそく雨が降りはじめる、Nが傘をひろげる。入る? (雨に打たれるの好きだから)まだだいじょうぶ。
屋根のあるベンチで雨宿り。大勢のひとが集まっている。何だったか忘れたけど、子どもが面白いことを言ってクスッと笑う。雨はすぐに弱まって、屋根のなかが少しずつ空いてくる。そこへTがひらひら手を振りながら登場する。(駅で雨宿りしてるってもっと早くに気づけたらな、傘あったから迎えに行きたかったな)大あくびを連発するKさんはコクッと一瞬寝かけている。Tとの挨拶がひとしきり済んで、KさんにTを紹介するときには、Kさんはまたずうっと喋りっぱなしのモードにもどっていて、Nといっしょにこれまでのいきさつをひと通りおさらいする。Nの物真似とか再現がなんど見聞きしても面白くって、面白くって大笑いするたびにKさんもいっしょに大笑いしてくれる。Kさんも気ままに笑っているのだから、いっしょに大笑いしてくれるっていう言い方も変なんだけれど、なんだか「いっしょに笑っている」という感じがして心がぽかぽかする。Kさんはわりと頻繁に、いつもこの時間なにしてる? って質問をする。じぶんのときはOさんのところにいるときだったから、ここにいるよって応えたけども、何かもっと言い方があったんじゃないかっていまになって思う。いつしかKさんの視線が一点に固定されるようになり、その視線の先にはTの目がある。KさんがTの真っ直ぐな眼差しを褒める、そう! そう! そうなの! って全力で同調する! じぶんのことのように嬉しいなぁ。と思ったら、きみはひとのはなしをよく聞けるね、おおらかだね、土地柄なのか、家族の影響なのかってKさんに褒められる。それで何故だか咄嗟に思い出したのがお母さんの家出のはなし。真夜中、お父さんと喧嘩をして激怒していても、一枚、二枚、三枚と、台所のお皿をゆっくりと丁寧に床に落として割っていく。そして、じぶんと弟を引き連れて高速道路で実家に帰る。Kさんはすごいな! そういう表現方法もあるんだなって、お母さんのことも褒める。音と形で、いちど壊れたものは直らないってことを伝える教育だったのかも、とまで。すごいなぁ、そんなこと考えたこともなかった。この家出のはなしはお母さんとの思い出のなかでもとくに好きなはなしで、いつも車に乗るときは弟と後部座席に乗っていたんだけれど、弟は爆睡しているし、子供心ながらなんかじぶんはお母さんの隣に座らないといけないような気がして、そのときはじめて助手席に座ってシートベルトをしめた。お母さんは一言も喋らずに脇見もせずに高速道路をひたすら運転して、くるりの『ばらの花』とか、フラワーカンパニーズの『深夜高速』を繰り返し大音量で流した。じぶんは音楽やその歌詞に耳を傾けながら、色んな光の過ぎてゆく高速道路の夜景をじっと眺めていた。我ながらいい思い出である。
みんなの出会いのはなしになったりして、ツイッターのはなしになったりして、そのKさんの言い回しがどうしても思い出せないんだけれど、ツイッターが歯車のようにうんぬんでみんなを結びつけてくれたんだね、とっても感動的なことを言ってくれて、Nを筆頭にわわわわわ~ってなる。Mさん、それからRとNちゃんもこっちに向かっているらしい。そしたらKさんがいきなり「Nちゃんはやれることちゃんとやっててえらいね!」ってNの肩をガシッと後ろから抱く。わああああっと泣きそうになっちゃう。巨乳になって小5と中2と高2の男の子にお願いしておっぱい触ってもらう夢みた。夢のはなしになって、毎晩眠りに就くとき、いい夢見れますようにってお祈りしていることをはなしたら、Kさんがそうだよね、お祈りって大事だよねって。その一言がとてもうれしい。
Kさんのはなしどれもテープレコーダーに録音しておきたいくらいいいはなしなんだけども、あとで思い起こそうとしても、その言葉の数々はびっくりするくらいあたまを通り抜けていて、なんとなくの印象だけは残っていても、不思議とその言い回しを思い出すことができない。Kさんのはなしには主に二種類あって、ひとつはこういうことがあったっていうある特定のエピソード、こっちのことはまだ思い出せるんだけれど、もうひとつの個別のエピソードに付随する人と人との関係性や繋がりの抽象的なはなしについては、そのどれもに深く共感しているのにも関わらず、具体的になにを言っていたのかはイマイチ思い出すことができない。とにかく大量の言葉を発しているからというのがひとつ、南方熊楠みたいにキーワードひとつではなしがどこかに飛躍して、いつかの絵しりとりのように文脈が途切れているというのがひとつ、でも、それだけではないような気がする。とにかく大量の言葉を発しているのに言葉はいらないんだ、とも言う。それでも言葉を発し続けるKさんのはなしをどうにか汲みたいと思って、とりとめもない全体像を思い浮かべる。ところどころのはなしに散りばめられた「挨拶」ってキーワード。もっとシンプルに声掛け? というか一歩その対象にこちらから素直な気持ちで歩み寄ろうとすること? そんなような何か。さいしょはKさんのことをとらえどころのない不思議なひとだなって思っていたけれど、だんだんとこのひとは、ものすごく小さくて細やかな信念みたいものをひとつびとつ丁寧に丹念に、いまにも崩れ落ちてしまいそうな積木みたいに、どうにか積み重ねようとしているんじゃないかってことを思う。やれることやっててえらいね! って言葉に、言葉はいらないと言いながら、それでも周囲の発する機微のひとつびとつを言葉にして掬わないと気が済まないKさんの律儀な性根。Kさんにいきなり歯並びきれいだねって褒められる。ほら、私もきれいなんだよって前歯を見せるKさん。そんなこと大昔に恋人に言われたっきりだから照れちゃう。
そんなこんなで雨上がり、芝生にゴザを敷いて、念願のキャッチボール! 楽しいなぁ、ほんとうに楽しいなぁ! 四人でぐるぐるボールを回し合う。そこにお待ちかねのRとNちゃんが池の石橋をてくてく渡ってくる。R髪の毛のびたね、いつものジャージだね。Nちゃんはじめまして。このあいだ思いがけずケンカの火種をつくってしまってごめんね。なんかぐるっと芝生の上で円になっていて、どっちが先に言ったか忘れたけれど、Nちゃんって呼びかけていて、Nちゃんも名前をただ呼びかけてくれる。そのたったの一言から、何でも知ってるよ、何でもわかってるよ、何にも知らないかもしれないし、何にもわからないかもしれないけど、だいじょうぶ、ぜんぶ何でも受け入れられるよって感じのすごい大きな朗らかな気持ちが伝わってきて、いい子だなって思う。Nちゃんは一人称がじぶんの名前で、それがとっても似合っている。なんとなくAさんのことを思い出す、Aさんも一人称がじぶんの名前で、いつも朗らかで、スクッとまっすぐ地面に立っていて、面倒見がよくて、良くないと思うことはちゃんと良くないよって言ってくれる。Nが「ね、みんないい子でしょ」って宝物を見せるように言うのがとてもうれしいね。Mさんから、美容室の予約があって、来てもすぐに帰ることになっちゃうから今日はやめとくって旨の連絡がくる。そのことをきいたKさんが「いいね、予約してあるから来られないってことちゃんと伝えてくれるのがいいよね」って旨のことを言う。次々とあたまを通り抜けてゆくKさんの言葉のなかで、このことはあたまにはっきりと残っている。あまりにも当たり前のことを当たり前に褒めているから、かえって耳に残ってしまったらしい。もしかするとKさんの名言の数々がすっぽりあたまを通り抜けてしまうのは、あまりにも当たり前のことを当たり前に肯定してくれているからなんじゃないかって、そんなことを思う。その当たり前のことは人と人とが関係していくうえで、うやむやに、曖昧に、何となくそこらじゅうの人に身についていたり、おろそかにされても大して気にもされないような些細なものかもしれなくて、でも、Kさんにとってのそれらは当たり前なんだけれど当たり前じゃない、当たり前じゃないんだけど当たり前なそんな些細のことを草の根の運動のようにひとつびとつ積み上げようとしているようなそんなような気概を感じる。お昼にはじめてKさんと出会ったときの不思議な感覚の謎が解けていくような感じがする。もしかしたら、あのときKさんとのあいだに感じた関係の途切れのような何かは、うやむやに関係の渦に巻き込まれるまえに、まず相手のことを関係されてしまうまえのありのままの生身の姿で見ようとする意志の表れだったんじゃないかってことを思う。ひとでも動物でも植物でもものでも、ありとあらゆるこの宇宙のものは個々にそれぞれにそれらだけの固有の光を発しているって思う。そう思っている。ナイーブに言えば、そういうものものと関係していくことは、そのひとつだけの、それだけでひとつの膨大な宇宙のようなものから、じぶん都合のものだけをつまみ食いするようなふうになってしまう。たとえば、掃除機をゴミを吸い込むための道具をみなすように。必ずしもそれが悪いことだとは思わない。人と人でも、人とものでも、関係してなんぼだと思う。関係していくなかで(たとえば、じぶんに固有の光を誰かにわかってもらえないとかして)傷ついたりすることもあるかもしれないけれど、ちょっとずつ、ちょっとずつでも、ひとつずつ、ひとつずつでも、完璧な関係なんてものはないかもしれないけれど、よりよい関係にしようとやっていきたい、そのための草の根の第一歩として、まずは関係するまえのありのままの姿を見ようとする、そんなようなKさんの気概が、ある道具をそれに求められている用途とはまるでちがう仕方で使おうとすることに表れているのかもしれない。こんなことを書き連ねるじぶん自身も、Kさんやみんなをじぶん都合のものに落とし込めているのかもしれない。この日記を書きはじめた当初、その日の空がきれいだなって思ってそのことを書こうとしたんだけれど、きれいって書いたらそれ以外の何かが欠落してしまうような気がして、そのことを書けないって書いたことををよく憶えている。それからはどう思ったとか、こう思ったとか、そういうことを書くのをなるべく差し控えて、みたものをそのままに書くようにしていたように思う。自然のこととか、じぶんとは直接あんまり関係のないひとのこととか、そういうことを。だけども、みんなと出会った頃からこの日記のあり方も変わってきた。じぶんと直接的に関係のあるものごとについても、その関係の渦中から書いていきたいと思った。きっかけは大好きなみんなのことを書き残しておきたいっていう素朴な理由なんだけれど、それは関係の渦中からしか書けなくて、いままでのようにはいかなくて、どう書いたらいいんだろうってことの以前に、どう関係したらいいんだろうってことがまるでわからなくて、そんなわからなさにさいしょのヒントをくれたのがHさんのからだを張ったさよならの仕方だった。それがものすごくうれしくって、みんなのことよくわかるような気もするし、ちょびっとしか知らないけれど、それでも、それでも、ちょっとだけでも、思っていることや感じていることを言葉やからだで表に出して伝えられたらなって���う。
友達が少ないってはなしをしたらRが意外だという。Kさんも友達が少ないらしい。でも、いまはこんなに友達できたよ! 円になってしばらく立ちばなしをしていたら肌寒くなってきて、円をひろげて6人でキャッチボールを再開する。ぐるぐる、ぐるぐる、隣から隣へボールを投げる。Kさんのボールをキャッチして、Rにボールを投げる。RはNちゃんに近距離にもかかわらずけっこうな速球を投げる。Nちゃん、ちゃんとキャッチしていてすごい! だんだんと野球部の練習みたいに捕っては投げ、捕っては投げが速くなる。逆回転、Rがイノシシみたいな怖い顔で剛速球を投げつけてくる。しかも、ためて、ためて、ためて、いきなり投げつけてくる。捕れたときは手のひらがジーーーン。捕れなくて池ポチャ、ボールが思ったよりも水を吸い込んで、水を切っていると、誰かがラーメン屋の湯切りみたいって、みんなラーメン屋の湯切りの真似をしている。なんて愉快なんだぁ! Kさんの胸をめがけて軽く抜いたボールを投げる、Kさんが捕り損ねると胸ポケットの小銭がチャリンと心地よい音を鳴らす。Kさんの投げ方はドカベンの殿馬みたい。このあいだTと投げ合ったときには容赦ない力の込められたボールがきたものだけど、Nに投げるときはとても捕りやすそうに投げている。またRが怖い顔で凄んでくる、顔が怖いよ~って言うと、Rはサイコパスみたいなヤバイ笑顔になり、それがもっと怖くて笑ってしまう。からだが温まるというか暑いくらいになってきて、みんなゴザのところに集まり、Rを誘って二人で投げ合おうよ。ちゃんと距離をとって投げ合う。Rにフォームがきれいって言われる。エッヘン! 真っ直ぐがいい感じにRの胸に届く。ためしにスライダーを投げたらくくっと曲がる。フォークを投げようとしたら指から抜けなくてワンバンになっちゃう、走らせてごめん!
お腹痛いのをおして来ていたTがひと足先にバイバイ。ひらひらと遠ざかって姿が小さくなってゆく。恐竜みたいとも思ういっぽう、名前のとおり蝶々みたいだなぁとも思う。またね!
ゴザに寝転がって主にKさんのはなしをきく。数時間まえからNが頻りに「Kさん今日はたくさん喋って疲れたねえ」ってKさんの背中を撫でながら優しく労わるんだけれど、Kさんのマシンガントークはいっこうにおさまる気配なし、それどころかより加速さえしているような……。ここでもNの物真似と再現が炸裂して、何度見ても大笑いしちゃう。それから今回がはじめてになる神社に参拝したときのKさんの物真似「きょうも元気で楽しいです、ありがとう!」Nが、私はお願いごとばっかしてたのにKさんはって。ううぅって、とうとう感動して泣いてしまう。それから話題は主にNちゃんとRのことに。Nちゃんがじぶんで「Nは男気あるからな」って言う。その自信にあふれた強い一言にとても好感をもてる。Rが軽くKさんに説教されるようなかたちになって、ニヤニヤしちゃう。ここでもKさんはごめんね、とか、ありがとう、とか、些細なあいさつのことを言っている。でも、きみは素直だな、飾らないところがいいよって説教しながらもRのことを褒める。同棲のはなしから、じぶんにも同棲生活が長くあったはなし、それから、頑張り屋さん、もがいているひと、あがいているひと、悪あがきしているひとが好きってはなし。たぶん、それはじぶん自身も悪あがき好きで、悪あがいているときに生き生きとしているからなんだと思う。なんでいっしょに暮らそうと思うんですかってRからの質問に、だって好きだったらずっといっしょに居たいと思うでしょって。それはそうだけどKさんが言うと不思議な感じってR。なんだかその一言が引っかかっていて、こんどどういう意味なのかきいてみたい。
重ねがさねにトイレ、Kさんの姿がふいに見えなくなってちょっと不安になる。まあ、だいじょうぶだろうと思いながらもKさんが帰ってきていないことをNに伝える。Nはとぼとぼ広場のほうに歩いてゆき、小さくなったNがぽつんと広場の片隅に立っている。空はもう暗くて、そのぽつねんとした後ろ姿を見ていたら何となく胸騒ぎがしてきて、そういえばKさんが空のペットボトルをわざわざ持っていったことが急に気がかりになってきて、じぶんもKさんを探しにいく。どこにもいないねってNと合流、星に帰ったのかな、公園を半周して元いた場所にもどってくるとKさんはふつうにそこにいる。かるく迷子になっていただけだったみたい。よかった! 信じられなかったことがちょっと悔しい!
さよならの時間、どぎまぎしながら駅に向かって歩く。それぞれに方向も状況もなにもかもちがう。Rが来たばっかりなのにもう帰るのかって。その素直な気持ちがうれしくて、それだったらうちに寄ってく? って言いたいんだけれど、早朝の朝5時から活動しているKさんとNのことを考えると口どもってしまう。そういうときにも素直に思っていることを伝えて、これこれこう思うんだけどどうってことをうやむやな関係に流されずに伝えていけたらって思う。そういうときいつも矢面に立って、どうにかしようと頑張ってくれているのがNだ。その姿勢を見習っていきたい!
まずNちゃんとRを見送る。電光掲示板の数字のことからNちゃんに、ひとよりちょっと目のいいことが唯一のとりえだよって自虐的に伝えてしまったけれど、そのことはけっこう本気で自慢に思っているよ。電車が走りだして、窓枠からNちゃんの顔が見えなくなったとき、Nちゃんがひゅっと顔を覗かせて、また(^^)/を見せてくれたとき、すごいうれしかった。階段を渡ってNとKさん���見送る。すぐに電車きて、ふたり乗る、向かい合う、いい表情、目がとってもいい、走る。
Kさんのようになりたいなって本気で思う。ちょうど10歳差、10年後、Kさんのようになれたら、いや、なってやるぞって強い決意をかためる。かためさん。
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itocaci · 4 years
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これからの時期にオススメ “spring coat”
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こんばんは。
先週に比べ、中津の駅前の公園の木蓮は満開間近。
ってか、木蓮って皆好きなのですかね?
分かりやすく、素敵なネーミングだとは思いますし、”The 花”って感じもあるので、ついつい目に入ってしまうのですが、正直、ちょっと不気味な感じしませんか。
葉っぱも何もない木に大きな白い花がめちゃくちゃ咲き誇るのを見ると、ちょっと怖さを感じてしまい、数年前までは凝視することもできませんでした。
なので、チラッとみて楽しむ程度でした。
ここ1、2年でようやく慣れてきてしっかり見ることもできるようになったのですが。笑
似たような思いをお持ちの方がいらしたら教えて欲しいです。
とはいえ、今はマシになったので、毎日木蓮の木をみて、もう少しだなと楽しみに思う気持ちはあります。
おそらく、今週中には見事な花を咲かすでしょう。
さて、まずは明日からの営業予定となります。
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3/8 (月) ~ 3/14 (火) 営業予定
3/8 (月) 13:00 ~ 19:00
3/9 (火) お休み
3/10 (水) お休み
3/11 (木) 13:00 ~ 19:00
3/12 (金) 13:00 ~ 19:00
3/13 (土) 13:00 ~ 19:00
3/14 (日) 13:00 ~ 19:00
※ 引き続き、新型コロナウイルス感染予防対策をしての営業となります。 
 また、大阪府を含める関西三府県に発令されていた緊急事態宣言は解除をされておりますが、引き続き、現状のままの短縮営業を継続し、様子を見させて頂きます。 
 何卒ご理解、ご協力よろしくお願いいたします。
それでは本日の本題に。
3月に入り、2月と比べると少し暖かくなってきたなと感じる場面も多くなりました。
それでもまだまだ朝晩は少し肌寒さを感じる日もございます。
また、寒の戻りで、急に冬のような冷たさを感じるような日もありますね。
非常にお天気が目まぐるしく変わる時期となります。
体調を崩しやすいのでお身体には気をつけてくださいませ。
ということで、こんな時期だからこそ、スプリングコート羽織りませんか?
ちなみにスプリングコート、僕はめちゃくちゃ持ってます。
ライトで軽くて羽織れるアイテムはインナーを調整するだけで肌寒い日から、少し暖かな日まで活躍するので、とても重宝しています。
活躍する季節も比較的長いのがオススメのポイントです。
特に近年は暖冬傾向でもあり秋も11月や12月の上旬くらいまで僕は羽織っております。
ということで本日は今から着たい羽織りものを簡単にご紹介させて頂きます。
それでは早速。
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amachi. : Elavation Coat (Soil Brown) ¥72,000 (+tax) 
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amachi. : Elavation Coat (Blue Green) ¥72,000 (+tax) 
“amachi.“のコットンとキュプラ素材のコートになります。
こちらは春夏のコートらしく、裏地もないため、これからの季節にぴったりな羽織ではないでしょうか。
身頃もゆとりを持っており、少し肌寒い日には少し厚手のニットをインナーに着用しても問題なく羽織っていただけるかと思います。
色味は”ソイルブラウン”と”ブルーグリーン”の2色展開となります。
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非常に構築的な作りが魅力的な1着となります。
前を全部閉じてしまって羽織っていただいてもクールな襟元なのですっきりとして見えますよ。
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また色の切り替えも非常にアクセントになった1着ですね。
布地の切り替えも寸分違わず合わさっており、とても素敵な仕上がりとなっております。
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切り替えに沿ってポケットがついていたりと、細かなデザインにも抜かりありません。
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着用してしまえば見えませんが、このように内側は全てパイピング仕様となっています。
細部にまで抜かりのない素晴らしい1着となります。
ちなみに、ご自宅で手洗いもできてしまうのは非常にありがたいですね。
さて、続いてはシックなブラックコートをご紹介させて頂きます。
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rihei : Over Coat ¥54,000 (+tax)
こちらは”rihei”のブラックコートになります。
非常にロング丈のアイテムとなりますので、女性が着用すると全身を覆うほどの着丈となります。
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男性が着用しても膝下くらいまではあるのではないでしょうか。
こちらも表地はコットン素材のコートになりますので、これからの季節に活躍してくれそうですね。
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ポケットも立体的で、非常に大ぶりなデザインとなっております。
また、ボタンは貝の素材を活かしたボタンを使用しております。
シンプルな黒のコートだからこそこういった遊び心にとても引きつけられます。
柔らかで、軽やかなコートになりますので、今の時期からインナーを調整いただくとお楽しみいただけると思います。
装いを引き締める黒のロングコート。1着あるととても便利だと思います。
ちなみに、こちらもご自宅で洗えてしまいますので、管理もしやすいかと思いますよ。
続いては1着は持っていたい、トレンチコートをご紹介させて頂きます。
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rihei : Trench Coat ¥55,000(+tax)
春の麗かな陽射しにぴったりなアイテムではないでしょうか。
ハリのある、タフなコットン素材のトレンチコート。
色味も定番のベージュカラーとなりますので、非常に使いやすいアイテムです。
黒やネイビー、グレー、白といった色味から赤やブラウン、ブルーなど色彩豊かなアイテムとの相性も抜群です。
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肩を落として羽織れるくらいのサイズ感ですが、計算されたシルエットのためだらしなく見えることはありません。
気張らなくて良いのに、きちんと美しいトレンチコートはなかなかとありません。
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また袖は取り外しができますので、ノースリーブのコートにもなりますよ。
その日の装いや気候に応じて着こなしを変えていただくことが可能な点もオススメです。
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トレンチコートは非常に使い回しの利く、1着は欲しいようなアイテムです。
ただオーバーサイズなトレンチコートは巷にたくさんありますが、オーバーでありながらも腕まわりはすっきりと見える、そして着こなしのバリエーションもある。
そんなアイテムをせっかくならオススメさせて頂きます。
そして本日の最後。
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hatsutoki : フランネルウールショートコート(キャメル)¥39,000 (+tax)
コットンをベースにウールを混ぜたショートコートになります。
一般的に高いと思われるかもしれませんが、正直コストパフォーマンスはめちゃくちゃ良いと思います。
上質なウールとコットンを用いて丁寧に織られた素材をベースとしており、非常に着心地の良いアイテムになります。
また、構築的なシルエットからは上品な雰囲気を感じることができます。
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付属のベルトでウエストマークを作っていただくとシルエットにメリハリも生まれるので装いの幅が広がりますよ。
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こちらのコートも裏地はございません。
なので軽やかなコートとして羽織っていただけます。
またウールが入っておりますが、肌に触れやすい内側は主にコットンが出るように設計されているので気持ちよく着用することもできます。
着用する方が気持ちよく羽織れるように、生地の設計から考えられております。
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こちらもゆとりのあるサイズのアイテムですが、袖口にダーツをとることで、腕まわりはふんわりとしたシルエットでありながら締まるところはしっかりと締まるというようなアイテムとなります。
シーズンやトレンドを問わないようなアイテムだからこそ、気持ちの良い1着を長く楽しんでみてはいかがでしょうか。
ということで、本日は今から着たい、春にオススメの羽織りもののご紹介をさせて頂きました。
近日中にちょっとオンラインでも取り上げてみようかなと思ってます。
なお、一部アイテムは現在オンラインショップでもご覧いただけますので、そちらも合わせてご覧くださいませ。
https://itocaci.thebase.in/
もし気になる方や何か質問などがあればSNSやメールでのお問い合わせも受け付けております。
メールは下記アドレスまでお願いいたします。
それでは次回もお楽しみに。
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kachoushi · 4 years
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各地句会報
花鳥誌令和3年2月号
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坊城俊樹選
栗林圭魚選 岡田順子選
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令和2年11月4日 立待花鳥俳句会 坊城俊樹選 特選句
柿の村皆同姓の十戸かな 世詩明 時雨るや鯖江は橋の多き町 ただし 脱がされし菊人形の薫りけり 同  紅の雲の棚引く崩れ簗 同  ここからは一人でゐたい十三夜 秋子
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
令和2年11月5日 うづら三日の月句会 坊城俊樹選 特選句
最果ての北の海より冬に入る 喜代子 秋晴に喜寿の体背伸びせん 同  落葉焚き黒き煙りの後白く 同  冬めくや手に息かけて背をまるめ さとみ 雨音もそれらしき音冬に入る 都   良き日よと地蔵微笑む小春かな 同
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
令和2年11月5日 さざれ会
木の葉髪お粥嫌ひは母似とも 雪   月上り来て万葉の月見石 同  四方の風四方にみだれて秋桜 匠   花の守る岩佐又兵衛墓に石蕗 数幸 園児等の声に色づく榠樝の実 和子 巫女一人ぽつんと座る神の留守 啓子 行く秋や足羽に眠る夫の墓所 笑
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令和2年11月6日 鳥取花鳥会 岡田順子選 特選句
鴨来たる巡礼のごと湖に下り 都   露天湯の頭上ゆらりと初紅葉 すみ子 遠巻きに棕櫚剥ぐを見る車椅子 幸子 木洩れ日を残して発たれ神の旅 悦子 此処もまた日溜りの椅子黄落期 都   どんぐりの打つ音の善し帽の縁 宇太郎 遠山にあえかなる日や初時雨 美智子
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
令和2年11月7日 零の会 坊城俊樹選 特選句
海猫帰るために汽笛の響くかな 三郎 瓦斯燈の昔へ落葉踏みながら 光子 万国旗揺らさぬやうに神渡  久   朱雀門肌やはらかく神迎へ 三郎 赤いバス白い巨船も冬帝の遊び 順子 冬帝の過ぎるや小船きしませて 小鳥 麗人よ冬靴大きすぎはせぬか 公世 纜の過去を流して冬に入る 三郎 浜風の手首に触れて冬に入る 小鳥 フィアットを皮手袋で埠頭まで いづみ
岡田順子選 特選句
港町初凩の吹く番地 荘 吉 海月とも舎利とも沈む今朝の冬 俊樹 啄木鳥やわが郷愁の奥処より 公世 標的は船首に立てる皮ジャンパー いづみ タグボートの波にて洗ふ冬の岸 眞理子 冬浅きナイフの音を立てし皿 久   冬鴉とは姑娘を嫉妬せり 俊樹 枯蔦へ古き楔へとほり雨 光子 冬が来し港に船を見送れば はるか 汽笛吸うて海黒々と冬に入る 眞理子
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
令和2年11月9日 なかみち句会 栗林圭魚選 特選句
見据ゑたる鷹の視点の空遠き 秋尚 枯葉舞ふ径学食へ急ぐ径 あき子 枯葉舞ふこの先通り抜け禁止 有有 急降下一直線に鷹の影 秋尚 ���照にしがみつきたる枯葉かな 有有 獰猛と記さる鷹の淋しき眼 三無 冬構大仰なほど周到に あき子
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
令和2年11月9日 武生花鳥俳句会 坊城俊樹選 特選句
信州の雲の中より林檎落つ 世詩明 天に星地に満天星つつじ燃ゆ 信子 小春日や臍見せ給ふ観世音 世詩明 庭下駄をあたためてゐる冬日かな 昭子 少年と岬鼻に舞ふ鷹仰ぐ 同  松手入れして青空へ引き渡す 信子 神の留守拍手の音の虚ろなる みす枝 行く秋の沖を指す舟帰る舟 清女 秋愁に横たふ夫は卒寿なる さよ子 霜月や日本海の色鈍し 久子
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
令和2年11月10日 萩花鳥句会
秋惜しみ老後を惜しみ苦吟の夜 祐子 ボール蹴り落葉と遊ぶスニーカー 美恵子 落葉掃く心の荷物はふり投げ 陽子 久々に子と過ごす日々冬ぬくし ゆかり 苔むしし石灯籠や石蕗の花 克弘
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令和2年11月10日 さくら花鳥会 岡田順子選 特選句
落涙も乾きたるかな小鳥来る 紀子 小春日や見返り阿弥陀拝観す みえこ 日本海黒光りして冬立てり 令子 黄昏や背中寂しき落葉道 実加 眠る子の時間ゆつくり小六月 同  静かなる朝さくさくと落葉踏む 紀子 早起きの母を手助け冬菜畑 登美子
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
令和2年11月13日 芦原花鳥句会 坊城俊樹選 特選句
柱時計止つたままに冬きざす 孝子 鰤起こし息子買ひきしカップ酒 寛子 ぬきん出て躑躅の奥の冬薔薇 よみ子
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
令和2年11月14日 札幌花鳥会 坊城俊樹選 特選句
初雪に老いの決意のあらたなる 独舟 水底に青空沈め冬たてり 同  蔦紅葉めらめら大樹登りゆく 美江 小春日や誘ひ出したき車椅子 同  冬に入る暗さの雲となりにけり 清   晩年をさらに孤独にマスクして 同  バスを待つ親子を包む木の葉雨 晶子 海光を宥め賺して冬耕す 岬月 風除を突き破りたる怒濤かな 同  冬眠の噴水かこむベンチかな 豊作 小春日や膝に針穴写真集 慧子
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
令和2年11月14日 枡形句会 栗林圭魚選 特選句
雲幾重風のきままよ芭蕉の忌 美枝子 俳句の目持ち旅に出で芭蕉の忌 瑞枝 蒼穹の臍となりける木守柿 光子 茎漬や茶は熱く濃く夜半の飯 同  熟る郁子の紫映ゆる玻璃戸かな 三無 耳動く猫と小春を頒け合ひぬ ゆう子 句碑温め遍し多摩の小六月 百合子 散りゆけるものに紛れて冬の蝶 光子
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
令和2年11月15日 風月句会 坊城俊樹選 特選句
神の旅見送る西に消ゆるまで 久子 だるまさんがころんだ銀杏散りつづく 千種 剥落の幹に小春の水かげろふ 斉   元禄の立膝仏へ落葉積む 慶月 綿虫の朝日散らしてさ迷へる 秋尚 泣き声の遠くにありて空高し 幸子 その下に影を吊して吊し柿 千種 朴落葉蹴りて砕きし罪重し 三無
栗林圭魚選 特選句
神の旅見送る西に消ゆるまで 久子 黄落の激しき静寂くり返す 千種 空と樹の十一月がやはり好き 幸子 冬ぬくし髪に宿りし日の砕片 ゆう子 山茶花や噂話が通り過ぐ 千種 機関車の缶に冬蝶縋りをり 幸風 冬の蜂如雨露の口に来て休む 久子 落葉道抜けて燿ふ母の塔 幸風
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
令和2年11月16日 伊藤柏翠俳句記念館 坊城俊樹選 特選句
曼珠沙華咥へて君を驚かす 雪   北風吹く越前岬海猫帰る ただし 雲水の跣足で駆ける初時雨 同  花八ツ手雨戸締めたるままの家 清女 日和得て足長く翔つ冬の蜂 同  うかつにも短き秋を逃しけり 和子 内蔵に何か貯め込み暮の秋 同  冬めくや北前船の大錨 月惑 秘め事の一つや二つ木の葉髪 英美子 時雨雲はりつき初める日本海 かづを
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
令和2年11月18日 福井花鳥句会 坊城俊樹選 特選句
クリームをつけて大根洗ひたる 世詩明 大根を洗ふ女ら尻向けて 同  能登半島かき消す時化や神の旅 千代子 和紙を貼り手遊びの箱小六月 昭子 マント着て父は時をり夢にくる 令子 犬の声重くて遠し冬の夜 同  亡き人をなつかしみゐるつはのはな 同  うかうかと道にまどふも小六月 よしのり 墓訪へば石蕗の浄土に入りにけり 数幸 黄を尽くし紫尽くし枯るるもの 雪   待ち人の訪るるごと初時雨 同
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
令和2年11月21日 鯖江花鳥俳句会 坊城俊樹選 特選句
死ねばそれ迄の事よと螻蛄の鳴く 雪   蓬けたる芒を風の素通りす 同  石蕗の花より生れきし番蝶 信子 今日一と日神の子となる七五三 同  露の世の日光月光菩薩かな ただし 黄落やピンヒール行く音楽堂 上嶋昭子 愛すべき俗物集ひ薬喰ひ 同  白といふ豊かなる色菊人形 中山昭子 晩学や粧ふ山を範として 一涓 闇汁の何とらへしや女の座 世詩明
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
令和2年11月25日 花鳥月例会 坊城俊樹選 特選句
神木の銀杏落葉の無尽かな 政江 黄落の骨董市の調べかな みもざ セーターに黒いクルスの祈り架け 順子 ハシビロコウの直立不動憂国忌 公世 歳市のいかがはしさを売る子供 公世 冬帝の指呼に配られたる香具師ら 順子 音深き方の落葉を踏みにけり 秋尚 帯解やわづかに父を遠くして 千種 何も無き冬空やがて白き鳩 和子 朴落葉大往生でありにけり 公世
岡田順子選 特選句
蓮枯れて水漬くかたちを晒したる 要 歳市のいかがはしさを売る子供 公世 根の国に恋ふ人ありや紅葉落つ 圭魚 手触れたきかの狼のたなごころ 公世 小春日や得体の知れぬ骨董屋 月惑 裏門の無垢の落葉を衛士の踏む はるか 花八手見ゆる一ト間に巫女の昼 梓渕 あの空に触るる銀杏は黄葉せり 俊樹 黄落や黄色だらけと子が父に 和子
栗林圭魚選 特選句
神木の銀杏落葉の無尽かな 政江 すずしろの首の蒼白一葉忌 公世 大綿や土の匂ひを纏ひつつ 炳子 黄の帽子冬を掴みて走り出す ゆう子 帯解やわづかに父を遠くして 千種 祀らるる兵の数ほど銀杏散る 梓渕 黄落にセーラー服のひるがへる はるか
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
令和2年11月26日 九州花鳥会 坊城俊樹選 特選句
幸せの皺を増やして木の葉髪 喜和 杣人に神の高さの銀杏散る 成子 ふつくらと媼座はりて胡麻叩く 佐和 まだ熱を蓄へ普賢岳眠り初む 洋子 根深提げ鞄を持たぬ暮しかな 伸子 黄落を踏みゆく人と掃く人と かおり 北窓を塞ぎ夜明けは訪れず 愛   木の葉髪家居の好きで遊び下手 光子 本屋の灯また一つ消ゆ獺祭忌 千代 海哭きて榾火に明かき老の顔 桂   木偶の衣の一糸ほぐれし寒さかな 洋子 霜夜更く鬼も天女も鬼子母神 伸子 罪人の離島へクリスマスローズ 愛   マスクしてうはさ話をする女 ひとみ 前衛の画風守りて木の葉髪 かおり 手品師のやうな黄落きりもなく 久美子 北塞ぎては鳴り止まぬ古時計 愛   人住まぬ生家に灯る返り花 由紀子 文化の日誉められしこと在りや無し 豊子
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
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yoml · 7 years
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1612-1911 断片、その先(全章)
1-1612 三年前 
「俺が勇利のコーチじゃなきゃいいのに」 
 ヴィクトルがコーチになったその年のグランプリファイナル。試合後のバンケットも終わり、それぞれの部屋に戻る途中のことだった。何の文脈もなく発せられたその台詞に続く言葉が予想できなくて、勇利は少し身構えた。エレベーターのボタンを押して、ヴィクトルは続ける。 「ときどき思うんだ。例えば勇利が絶不調のとき��。心がもたないよ。ただのライバルなら、今回は競争相手が一人減ったなって喜ぶだけで済むだろうに」  なんだ、とありがちな話に勇利は少し安心して、「ヴィクトルでもライバルが減るとうれしいと思うんだ」と笑って返した。 「思うさ。俺は勝利に貪欲だからね」 エレベーターの扉が開く。乗客は誰もいない。 「僕はヴィクトルがコーチじゃなきゃよかったなんて、思ったこと一度もない」  ヴィクトルが少し間を置いた。「うれしいことを言ってくれるね」と微かに笑う。 「だけどやっぱり俺は思うよ。コーチじゃなきゃよかったって。特にこういうときなんかは」 「銀メダルでごめんなさい……」 「うん、いや、そうじゃなくて」  ヴィクトルが勇利の目をまっすぐ捕らえた。青い目に違和感があった。 「勇利が欲しくてたまらないとき」  言われた言葉の意味がわからなくて、勇利は文字通りきょとん、とした。エレベーターの扉が開く。ヴィクトルが先に降りて、勇利は慌ててあとに続きながら軽く混乱する。今、この人なんて言った? 返事ができないまま歩いていると急にヴィクトルが振り返った。 「勇利の部屋はあっち」  ハッと気��く。 「おやすみ勇利。今回の滑りは最高だったよ」  コーチの部屋の扉が閉まり、オートロックの鍵が閉まる小さな機械音が廊下に響いた。  三年前のことだった。 
2-1710 新宿の夜 
 これはたぶん何かを超えてしまった。  そう勇利が悟ったのは、ロシアに拠点を移してから半年、スポンサーとの仕事で日本に一時帰国したときだった。一年間のコーチ生活ですっかり日本が気に入ってしまったヴィクトルは、ここぞとばかりに勇利に同行した。が、この時の彼はもう勇利のコーチではなかった。グランプリファイナルでライバルたちの勇姿を見た彼が浮かれた頭で思い描いたコーチ兼ライバルという関係は、とはいえ到底現実的なものではなかったのだ。それでも勇利がロシアに渡ったのはただ日本にふさわしいコーチがいなかったからで、その頃の勇利には、ヴィクトルのコーチであるヤコフ・フェルツマンの紹介で新たな(そして有能な)ロシア人コーチがついていた。  仕事の前に無理やり長谷津に立ち寄って、実家に一泊だけしてから東京へ移動しいくつかの撮影やインタビューを済ませると、たった四泊の慌ただしい日本滞在はあっという間に終わってしまった。日本にいる間は不思議な感覚だった。二人の関係は常に変わっていく。憧れ続けたスター選手とどこにでもいるスケーター。突然現れたコーチと再起をかけた瀕死のスケーター。そして、最高のライバルを得た世界トップクラスのスケーター同士。自分の立場の変化に、ときどき勇利の心は追いつかない。こんなに遠くまで本当に自分の足でたどり着いたのか、いまだに半信半疑でいた。「もしこの人を追いかけていなかったら」。ヴィクトルのいない人生を思うと、勇利はいつも自分の存在自体を疑いたくなるのだった。  日本滞在最後の夜、新宿のホテルの近くにある焼き鳥屋で、二人はだらだらとビールを飲んだ。小さな飲み屋が連なるそのエリアは外国人観光客で溢れていて、煙だらけの狭い店内に不思議と馴染んだヴィクトルは普段よりも一段と楽しそうに笑っていた。めったに味わうことのない観光気分が、彼の抱えるプレッシャーを和らげていたのかもしれない。「博多の夜を思い出すよ」なんて言いながら、コーチ時代の思い出を語り始める。妙に懐かしかった。あれから大して時間も経っていないのに、二人にはそれがはるか昔のことのように思えたのだ。 「ずっと聞きたかったんだけど」  店内の騒々しさを良いことに、勇利はこれまでずっと不安に思い続けてきたことを聞いてみた。 「コーチをしていた一年を、ヴィクトルは後悔していないの」  ヴィクトルはそれまで上機嫌に細めていた目を大きく見開くと、何を言ってる? と言わんばかりの顔で勇利を見返した。そしてすぐに、ふっと笑った。 「勇利はびっくりした?」 「した。今でもあの頃が信じられないし、ロシアに拠点を移した今の状況もまだ信じられないよ」 「俺もね、びっくりしたんだ」 「自分の行動に?」 「全部だよ」 「全部」 「そう、全部。勇利のコーチになれたことは大きな意味があったんだ」 「コーチになって良かった?」
「俺が勇利のコーチじゃなきゃいいのに」
 突然、頭の片隅で声がした。バルセロナで聞いたあの台詞。目の前のヴィクトルは何も答えず笑っているだけで、あの時のことを覚えていたかはわからない。だけどなぜかそれ以上聞いてはいけない気がして、勇利は飲みかけのビールを手に取った。
 その後もだらだらと話を続けた二人は、ホテルへの帰り道、どういうわけか、本当にどういうわけか、気付くとキスを交わしていた。何がそうさせたのか、勇利は今でもわからない。まっすぐ帰ればいいところを、なぜかわざわざ回り道をして、ときどき肩をぶつけては、時間を惜しむようにゆっくりと二人は歩いていた。ちょっとした流れのようなものだった。右足が出たら次に左足が出るように、それくらい自然に、歩く二人の距離が近づいた。それで唇が触れ合ったその瞬間、喧騒が消え、街灯が消え、視界は閉ざされ、過去から繋がってきた一つの線がそこで急にプツリと途絶えた。このあと一体どうすればいいのかわからない二人は、そのまましばらく唇の熱を分け合いながら、たぶんもう戻れない。そう思った。 
   ホテルの部屋は別々にとっていた。足早にエレベーターに乗り込むと、勇利はヴィクトルのフロアのボタンだけを押した。乗客は二人だけ。行き先は一つだけ。決定打を押したのも勇利だった。銀髪に触れるほどの距離で、彼は小さく囁いた。 「ヴィクトルはもうコーチじゃないよ」
 その夜、勇利は初めて男に触れられる感覚を知った。
3-1904 春を走る
 東京では浜辺を走れない。ランニングの途中で砂浜に降りて、ウミネコを眺めながらぼんやりする、そうした時間はここにはない。代わりに勇利は公園を走る。少年野球のチームや、体育大学の学生や、小洒落たウェアに身を包んだ若者や、犬の散歩をする老人に混ざって、長谷津よりもひんやりとした東京の春を彼は走る。トレーニングではない、ただの日課。帰り道、公園脇のカフェでショートサイズのコーヒーを買う。カップを持つ彼の右手に、かつてはめられていた指輪はない。マンションに着くと、シャワーを浴びて仕事のメールを確認する。マネージメントを任せているエージェンシーから、新しいアイスショーの話が来ていた。断る理由もないので、淡々と勇利は返信を打つ。
 新しい日々が始まっていた。一人のプロスケーターとして、日本のスケート史上に名を残したメダリストとして、人生の次のキャリアを進み始めた26歳の青年として、東京の勇利は忙しかった。
4-1908 ときどき思い出す
 スケートに関わっている限り、勇利がヴィクトルのことを避けて生きてくことはできない。お互いすでに引退した選手だとはいえ、レジェンドの称号を得た男がスケート界の過去になるには、まだまだ時間が足りなかった。    引退後のヴィクトルの活動は、悪い言い方をすれば多くの人の期待を裏切るかのように地味なものだった。セレブタレントの座に落ち着くことはなく、無駄に広告やメディアに露出することもなく、フィギュアスケート連盟の一員として選手強化と環境改善に従事した。もちろん天性のカリスマ性とスター性は裏方になってもなお人々の目を引き、解説者やコメンテーターとしてテレビに出れば視聴者は彼の一言一句に注目したが、いずれにせよ今のヴィクトルの活動は今後の主軸を定めるための調整期間のように見えていた。どこかふわふわしていたのだ。  コーチ業に転身しなかったことを不思議がる人もいなくはなかったが、多くのファンや関係者にとってヴィクトルが勇利のコーチをしていた一年間はラッキーな気まぐれのようなものとして記憶されていたし、あのシーズンの勇利が劇的な活躍を見せたのも、ヴィクトルのコーチ手腕というよりはライバル同士の妙なケミストリーの結果だと認識されていた。「コーチごっこ」とは当時の辛辣なメディアが何度も書き連ねた言葉だが、誰もが心のどこかでそう思っていたのだ。誰もヴィクトルにコーチになって欲しくなかった。まだ十分に戦える絶対王者として、華やかなその演技で自分たちの目を楽しませて欲しかった――ただ一人を除いて。勝生勇利、彼の教え子になり得たたった一人の男、彼の独りよがりな望みだけが、世界中の期待を跳ね除けたのだ。だけどそれも今となっては、たくさんの過去のひと幕に過ぎない。  今でも勇利が取材を受けるときは、決まってヴィクトルのことを聞かれる。ロシアで切磋琢磨した二年間(とはいえ勇利が渡露した一年後にヴィクトルはあっさり引退したわけだが)、帰国後の一年間、かつてのコーチでありライバルでもあった彼とはどんな関係を築いていたのか。それで今、二人はどんな関係にあるのか。そう言われても、と勇利は思う。  連絡は取っていなかった。取るわけがなかった。理由がないのだ。ロシアのスケート連盟と日本のプロスケーターが個人的に連絡をする必要はないし、人は二人を「元ライバル」なんて呼ぶけれど、正しく言うならばその関係は「元恋人」と言うべきもので、そんな二人が連絡を取らないことに説明は要らない。    勇利は昔から熱心にヴィクトルを追いかけてきたけれど、何かにつけて、彼を遮断するときがあった。自分のスケートに集中しきっているとき、成績が振るわずヴィクトルの栄冠を見るのがつらいとき、絶望しているとき、他に心奪われるものができたとき。今はそのどれでもないけれど、だから勇利はヴィクトルの遮断にわりと慣れていて、今もその最中だった。ヴィクトルのことはわからないし興味もないです、なんてことが言えるわけもなく、勇利は当り障りのない言葉でインタビュアーをごまかすのだった。  メディアで彼を見かけることもあった。勇利は別にそうしたものを一切視界に入れないようシャットアウトしているわけではない。見ても何も思わないよう、自分の心に遮断機を下ろすのだ。ヴィクトルは相変わらず美しく、今でも目を奪うには十分すぎる魅力がある。それでときどき、本当にときどきだけど、その細く乾いた銀髪を見ながら勇利はこう思う。 「僕はこの人のセックスを知っている」  だけどそれがどんなものだったか、あの途方もない感覚を勇利はうまく思い出せない。
5-1710 変化の朝
 初めて体の関係を持った新宿の夜、勇利はそれをセックスと呼んでいいのかすらわからなかった。ホテルの部屋のドアを開けるなり、二人は貪るかのようにキスをして、無抵抗の勇利はヴィクトルの手になぞられるままにその肌を露わにした。首筋から肩に流れるラインにヴィクトルの唇がひときわ強く吸い付くと、勇利はだけど耐え切れない恥ずかしさと緊張で相手の両肩をぐっと押した。「汗、かいてるし、においも、さっきの」。うまく繋がらない一言一言を、ヴィクトルはうん、うん、と逐一頷きながら拾って、どうしてもそれてしまう勇利の目をまっすぐ追いかけた。「じゃあシャワー行こう」と言って腕を引くと、バスルームの引き戸を開けてシャワーをひねり、自分はあっさりと服を脱ぎ捨てた。熱湯で一気に眼鏡が曇る。まだかけてたんだ、とヴィクトルは笑って、勇利からそっと眼鏡を外すと彼をシャワールームに引き連れた。肌を流れる水が、たくさんのものを洗い流していく。汗と、恥じらいと、ためらいと、キスと、手の感触。ぴったりと密着した下半身でどちらともなく硬くなったそこを感じると、勇利は思わず声を漏らした。ヴィクトルの大きな掌が二人のそれを握りしめる。流れ続けるシャワーの音が二人を世界から隔離したように思えて、勇利はただ耳だけを澄ませながら、見えない感覚に身を委ねた。腰が砕けたのはそのすぐあとだ。ヴィクトルの体にしがみつくと、水がベールのように二人の体を包み込み、発散しきれない熱にともすれば意識を失いかねない。立ち上る水蒸気に混じって、知らない精液のにおいがした。
 早朝に目を覚ました勇利は、しばらくベッドの中でぼんやりしていた。鼻の先にあるヴィクトルの肩は、まだ静かな眠りの呼吸に揺れている。頭が現実を取り戻してくると、突然今日のフライトを思い出した。慌ててベッドから起き上がり、銀髪の人を軽く揺らして声を掛ける。 「ねぇ、荷物まとめないと。僕、一度部屋に戻るよ」  ヴィクトルは目を開けなかったけれど、ん、と声を漏らしながら腕を伸ばすと、手探りで勇利の頬に触れた。 「キスをして」
 脱ぎ散らかした服を手早く身に付けると、勇利はヴィクトルの部屋を出た。誰もいないホテルの廊下を歩きながら、ああ、僕はゲイだったんだ、と思った。昨晩の衝撃と、今朝の納得と、変わりすぎた二人の関係に、勇利はどこかまだぼんやりしていた。ぼんやりしながら、踊り出したいくらいにうれしかった。
6-1909 走れない日
走りに行けない朝がある。 カーテンの端を見つめたまま、勇利の体はどうにも動かない。 一人分の体温と一人分の空白を抱えながら、ベッドの中で涙が乾くのをじっと待っている。
7-1812 男たちの別れ
 ヴィクトルが引退した翌年、勇利のロシア二年目のシーズン、勇利には今が自分のラストシーズンになる確信があった。それは別にネガティブなものではなく、肉体的なピークと精神的な充足感が奇跡的なリンクを成し、ごく自然なかたちで、彼は自分自身に引退の道を許したのだった。スケーターとしての勇利にとっては何の問題もない選択だったけれど、一方で一人の男にとって、ある種の偉業をなし得たとはいえまだまだ二十代も半ばを過ぎたばかりの未熟な男にとっては、巨大な不安がはっきりと顔をもたげ始めた瞬間だった。この先自分は何者として、どこで、誰と、どう生きていけばいいのだろう。
 その不安はヴィクトルとの関係において顕著だった。具体的に言えばその頃から、勇利はヴィクトルとのセックスを拒否するようになっていた。勇利の人生にとってスケートとヴィクトルは常にセットで、スケートを介さなければ決して出会うことがなかったように、スケートなしでは二人が恋人の(ような)関係になることはあり得なかった。だからこそ勇利はこわかったのだ。自分からスケート選手という肩書きがなくなったとき、すでに現役選手としての肩書きを捨てているヴィクトルと、果たして純粋に今の関係を続けられるのかが。  勇利が初めてヴィクトルと関係を持ってからの一年間、二人のセックスは、よく言えば情熱的な、悪く言えば無茶苦茶なものだった。スケートと同じくらいの情熱を持って何かを愛するという経験を持たなかった二人は、それまで溜め込んできた「愛する」という欲望のすべてを互いにぶつけ合った。セックス自体の経験値こそまるで違えど、ぶつかる熱の高さは競いようもなく、貪欲な絶頂に幾度となく体を震わせた。競技者という者たちが決定的に抱える孤独が、その時だけは確かに溶けていくと実感できた。その意味において、勇利にとってヴィクトルとのセックスは、特別な意味を持ち過ぎていたのだ。ヴィクトルなしでは成立し得ない彼の人生は、それまではスケートという枠組みの中だけに言えることだった。だけど今は、全部なのだ。全部。
「セックスがつらいから別れるの?」 「そうじゃない」 「わからない、じゃあなんで」 「ヴィクトルはそれでもいいの」 「セックスのために一緒にいるわけじゃない」   「違うよ、違う、だけどつらくて仕方がないんだよ」 「自分だけがつらいふりをして!」
 ヴィクトルにはわからなかった。勇利に惹かれ、勇利を求め、勇利といたい、それ以外の想いなんて彼にはなかった。肌を重ねるたび、互いの中に入るたび、全身でその気持ちを伝えてきたつもりだった。最初のためらいを超えて勇利がヴィクトルを受け入れるようになってからはなおさら、彼はどんどん自由になっているようにすら見えた。全身で愛されることの喜び、誰かを抱くことの自信、解放された感情、そうしたものは勇利という人間のあり方を確かにある面で変えていたし、スケーティングにおいてもそれは顕著だった。二人の関係を周囲が騒ぎ立てることもあったけれど、そんなノイズの一つや二つ、二人が気にするまでのものではなかったし、くだらないメディアに対して沈黙を貫く二人の姿勢は、彼らが作り出す領域の不可侵性を高める一方だった。なのに、なぜ。失おうとしているものの大きさに、ヴィクトルはただただ腹を立てていた。怒りに震えたその指では、掛け違えたボタンを直すことなんてできなかった。
 誰を責めるのも正しくはなかった。一度崩れたバランスが崩壊するのは不可抗力としか言いようがない。涙をためていたのはお互いだったけれど、それが嗚咽に変わることはないまま凍ってしまった。呆れるほどに強くなりすぎたのだ。外の世界と、あるいは互いの世界と、戦い続けている間に。
 ちょうどその頃、勇利は引退を発表した。そういうことか、とヴィクトルは思った。コーチでもない、恋人でもない、今となっては勇利の何でもないヴィクトルには、その勝手な引退の決意を咎める権利なんてなかった。コミットする権利を奪われたのだ。最愛の人に。ヴィクトルは何も言わず、勇利の帰国を見送った。本当はできることならもう一度、その黒髪に指を通し、こめかみに幾度となくキスを落としたかった。どれだけ腹を立てていようと、どれだけその後がつらくなろうと、もしかしたら何かが変わるかもしれない。そんな望みを、あるいは抱いていたのかもしれない。
 勇利の送別会が終わった翌日、ヴィクトルはベッドのシーツを剥ぎ取ると、壁に飾っていた一枚の写真を外した。どこまでも青く広がった、遠い異国の、���に揺れる、穏やかな海の景色だった。 
8-1807 ネヴァ川を見る
 サンクトペテルブルクに、海の記憶はあまりない。代わりに勇利は川を思い出す。いくつもの運河が入り混じる水の街の主流を成すネヴァ川。その川沿いに建ち並ぶ巨大で仰々しい建物の名前を、だけど勇利はなかなか覚えなかった。それが美術館だろうと大学だろうと聖堂だろうと、勇利にはわりとどうでもよかったのだ。ただこの景色がヴィクトルの日常であり、自分が今その日常の中でスケーティングを続けている、その事実だけが重要だった。  それでもいつだったか、早朝に川岸を走っていたときふと目をやったペテルブルクの風景は、日本からやって来た若い青年の胸を打つには十分な異国情緒があった。スマートフォンを取り出すと、普段めったに使わないカメラを立ち上げて、勇利は下手くそな写真を撮った。オレンジともピンクとも紫とも言えない朝日が、ついさっき暗くなったばかりのネイビーの空を、圧倒的な存在感で染め上げていく。混じり合う色と色のグラデーションが急速に消えていくのがなんだか妙に惜しくて、勇利はこのまま空を見続けていたいと思った。写真は全然素敵なものではなかったけれど、勇利は何年振りかに、それをスマートフォンの背景画像に変更した。  その日の夜、そういえば、と勇利はベッドサイドテーブルの上で充電ケーブルに繋がれていたスマートフォンを手に取って、ヴィクトルにネヴァ川の写真を見せた。 「これ、今朝の。きれいだった」  ヴィクトルは勇利が自分で撮った写真を見せてくれる、ということにまずおどろきながら、写真を覗き込む。 「勇利、写真にはもっと構図ってものが……」とヴィクトルがからかうので、勇利は彼の顔を枕でぎゅっと押しつぶす。 「うそうそ、ごめん、きれいだよ、本当に」 「あれみたいに飾れるレベルだといいんだけど」  ヴィクトルの寝室には一枚の海の写真が飾られている。コーチとして長谷津にいた頃、ロシアから雑誌の取材が来たことがあった。スチール撮影は海を背景に行われ、その時カメラマンが押さえた風景カットがとてもきれいで、ヴィクトルはスタッフに頼んでそのデータをもらったのだ。ベッドに寝そべるとちょうど目に入るくらいの位置に、大きく引き伸ばされたその海は飾られている。 「わかるよ、俺もそういう空が好き」  さっき枕を押し付けられたせいで、ヴィクトルの前髪は不恰好に癖がついている。それを気に留める様子もなく、彼は写真をじっと見つめる。 「あの時の衣装みたいだ」
9-1911 冬が来る
  玄関のドアを開けた瞬間、季節が変わった、と勇利は思った。寒さを感じるにはまだ少し遠い、それでも確かにひんやりと冷えた朝の空気。いつもと違うにおいをゆっくり吸い込むと、鼻の奥がつんとした。冬がやってくる。     四階の部屋から、エレベーターは使わず外階段をたんたんと駆け下りる。エントランスを抜けて通りに出ると、いつものランニングコースへ足を向ける。最初は少し歩く。駅へと向かう近所のサラリーマンたちとすれ違う。ぐいっと腕を上げて肩を回すと、おもむろに勇利は走り始める。もう一度風のにおいを嗅ぐ。十分ほど走って公園につくと、ドッグランを横目にそのままランニングレーンに入る。  一周二キロのコースの二週目に入ったあたりで、この日の勇利はなんだか急に面倒になって走るのをやめた。虚しくなった、というほうが正しかったかもしれない。普段あまり意識しない感情の重さに、勇利は少しだけうんざりした。それとほぼ同時に、ウェアのポケットに入れていたスマートフォンが鳴る。こんな朝から、と歩きながらスマートフォンを取り出した勇利の足が、突然ぴたりと止まる。手の中でバイブを続けるスマートフォン。動かない勇利の指。画面につと現れたあの名前。 「“Victor Nikiforov”」
10-1911 コーチの助言
「人というのは、自分が守られているとわかっているときにこそ心置きなく冒険できるものなんだ、ヴィーチャ」 ヴィクトルは時折この話を思い出す。大昔のことだ。 「お前の安心はなんだ? メダル? 名声? それとも尊敬?」  ヴィクトルは考えた。そのどれもが、彼にとっては確かに重要なものだった。 「もしお前の足が止まるようなことがあれば、そうしたものを一度見直してみるといい」  そう言われると、ヴィクトルは少し腹が立った。自分が心血を注いで獲得してきたものを、真っ向から否定されている気がしたのだ。 「自分を守ると思っていたものが突然自らの足枷になって、お前を縛り付けるかもしれないからな」
 目的地までの残り時間を告げる機長のアナウンスで、ヴィクトルは目を覚ました。モニターをタッチしてフライトマップを映し出す。飛行機はいよいよユーラシア大陸を超え、Naritaの文字まであと少し。あれからもう何年も経つというのに、いまだにコーチの助言は有効力を失ってはいなかった。まだ少し焦点が合わない目で明け方の空を眺めながら、ヴィクトルはその言葉を声に出してみる。
「安全基地を見失うな」
11-1911 ジンクスと可能性
 バゲージクレームのベルトコンベヤーの前で、ヴィクトルは荷物が出てくるのをじっと待っていた。レーンの先を真剣に見つめているのは、なにも焦っているからでも大切なものを預けているからでもない。ジンクスがあるのだ。ベルトコンベヤーに乗せられた自分のスーツケースが、表を向いていればその滞在はうまくいく。裏を向いていれば用心が必要。ベルトコンベヤーが動き出す。プライオリティタグの付いた彼の荷物が出てくるまで、時間はそんなにかからない。見慣れたシルバーのスーツケースが視界に入ると、ヴィクトルは思わず苦笑した。流れてきたスーツケースは、サイドの持ち手に手が届きやすいよう、行儀良く横置きされていた。  荷物を受け取ってロビーに出ると、時刻は朝の八時を少し回ったところだった。スマートフォンを取り出すと、ヴィクトルは自分でも少し驚くくらいためらいなく、勇利への発信ボタンをタップした。朝のランニングを日課にしている彼のことだから、今頃はそれを終えて朝食でもとっているか、その日の仕事に出かけるところだろう。だけど予想通り、その着信に答える声はなかった。スマートフォンをポケットにしまうと、ヴィクトルは軽いため息をついて成田エクスプレスの乗り場へ。「事前予告なんて俺らしくない」と思ってはみたものの、だけどヴィクトルには向かうべき先がわからなかった。東京に拠点を移したということ以外、勇利の居場所についてはなに一つ知らなかったのだ。唯一向かう先として確定している新宿へのルートを確認しながら、やっぱり羽田着にすれば良かったと思った。彼はいい加減に疲れていた。サンクトペテルブルクからモスクワ、モスクワから成田、成田から新宿。スムーズなルートではあるものの、これ以上時間をかけるのが煩わしい。その気持ちもあってかどうか、新宿に到着するのとほぼ同時に、ヴィクトルは勇利にメッセージを送った。 「しばらく東京にいる。可能性は?」
“可能性”?
 勇利がメッセージに気づいたのはその日の正午ごろだった。ヴィクトルの着信を無視して家に戻ってから、打ち合わせのためにマネージメント会社の事務所に向かった。スケジュール諸々の確認を済ませ、いくつかの事務的な話を終えて事務所を出ると、いつも無視するだけのSNS通知に混じってそのメッセージは届いていた。  精神的ヴィクトル遮断期の成果か、勇利は着信を見た時もメッセージに気づいた時も、思っていたほどのダメージを受けなかった。その代わり、「可能性」の文字が勇利の前に立ちはだかる。それはこの一年間、勇利がもっとも望み、同時にかき消そうと努めてきたものだった。メトロの入り口までの道を歩く間、勇利は逡巡した。が、地下に入って改札機にICカードをタッチすると、その瞬間に案外あっさり答えが決まった。募らせてきた孤独と愛おしさを開放するには、改札が開く小さなその電子音だけで十分だったのだ。 「どのホテル?」  メトロに乗り込む。5分ほどでヴィクトルからの返信。ホテルの名前を見た瞬間、勇利は一気に胸を掴まれた。スマートフォンをポケットではなく鞄に入れると、両手で思わず顔を覆ってひときわ大きなため息をついた。遮断機は壊れてしまった。抑揚のあるあの声を、肌に触れる乾いたあの髪の感触を、抱きしめたときの体の厚みを、汗と香水のにおいを、熱を、息を、そして氷上をしなやかに滑るあの姿を、勇利の体は鮮明に思い出した。メトロの中で、勇利はほとんど泣いていた。
12-1911/1812 言えなかった
 目が覚めると午後五時を回っていた。約束の時間まであと一時間。フライトの疲れはたぶん取れている。ヴィクトルはシャワーを浴びると、小ざっぱりとした自分自身を鏡越しに見つめた。現役時代と比べれば筋肉量は若干落ちたものの、傍目には変わらない体型を維持している。銀髪に混じる白髪は前からのことで、目の下のシワも見慣れている。だけどやはり変わったなと思うのは���その目元だった。ひとしきりの怒りとさみしさを通過したヴィクトルの目は、少し力なく、だけどそれ以上に、優しくなっていた。  話す言葉は何一つ用意していない。これからどうしたいかも決めていない。とにかく会えば、会えさえすれば、なんて甘えたことも思っていない。だけどヴィクトルは日本にやって来たし、勇利はそれをはねのけなかった。思えばあの時もそうだったのだ。自分が勇利のコーチになる可能性なんて本当はどこにもなかった。無茶苦茶なことをしている自覚もあった。持ち前の奔放さで周囲を驚かせてきた彼だったが、本当はいつだって、自分が一番驚いていたのだ。未知へと足を踏み入れたことに。不安を乗り越えられたことに。新しい安全基地を、確かに手に入れられたことに。ヴィクトルの冒険と不安を受け入れたのは勇利以外の何でもなかった。一緒に居れば何者にだってなれる。ただそれを、あの人に伝えたかった。 「ねぇ勇利」  鏡越しに独り言を呟く。
「今日から俺は勇利の何になる?」
 同じ台詞を、二人は別れる直前にも聞いていた。元師弟とも元ライバルとも恋人とも言える二人の関係を終わらせようとしている勇利の心を、ヴィクトルはどうしても知りたかった。いや、変えたかった。 「何だっていい。ヴィクトルはヴィクトルでいてくれたらいい」 「勇利は俺の何になる?」 「何だっていいよ」 「それがこわいのに?」  勇利は答えなかった。その通りだった。ヴィクトルがヴィクトルであること、勇利が勇利であること。口で言うには響きの良い台詞だけれど、その意味を、その事実を受け入れることは、思っていたよりたやすくなかったのだ。 「いつかこわくなくなると思う」 勇利は最後の最後になって、すがるようにヴィクトルの首元に腕を回し、鎖骨のあたりに顔を埋めた。自分勝手さなんて痛いほどわかっていた。ヴィクトルの手が軽く背中に触れたけれど、それはただ、触れただけだった。
「だからそれまで待っていて」とは、勇利はとても言えなかった。
13-1711 ゆだねる
「やっぱりこわい。ていうか……抵抗感がある」 「うん、無理にとは言わない」 「……ヴィクトルはどっちなの」 「どちらでも。勇利とならどっちでもいい」 「そういうもの?」 「俺はね。相手と一番気持ちいい関係でいたいから」 「どんな関係が一番かなんてわかんないよ」 「だから試さないと。そうだね、わがままを言うなら、俺は勇利に“受け入れる心地よさ”を経験してみてほしいかな」 「痛そうじゃん……」 「最初はね。でも相手にゆだねてしまえば、きっと良くなる。絶対に無理強いはしない」
 そう言いながら、これがハードルなんだろうな、とヴィクトルは思った。勇利は簡単に誰かに身をゆだねられるタイプの人間ではなかった。自信のなさはかつての彼の最大の欠点とも言えたが、言い換えればそれは一重にプライドの高さと自分への責任感であり、自分を支える存在を求めながらもその対象に依存するようなことは考えられないだろう。たとえそれが、氷上だろうとベッドであろうと。アスリートとして身につけてきた彼のストイックさを、怖れを超えたその先で解放される表現者としての素質を、だけどヴィクトルは何よりも愛していた。
「勇利の準備ができるまで、いつだって待つよ」
14-1910 空になったグラス
「どうせ誰かの専属コーチになることはないんだろ」  久しぶりに会った友人は、テーブルの企画書を片付けるとグラスに残っていたワインをゆっくりと飲み干した。 「おもしろいプロジェクトだと思う、君らしい。感情にさえ流されなければうまく行くんじゃない? まあそこが君の魅力だけど」 「余計な心配だ」  ヴィクトルの冗談を端的にかわすと、ポポーヴィッチは少し思案した後じっとヴィクトルを見つめた。 「真剣に聞いているんだ。このまま君が連盟の一員になっていくなんてとても思えない。コーチはしないまでも、その才能を裏方に回すなんて誰が望む? 凡庸なスケートショーに誘っているわけじゃない。一種のアートの試みだよ」  二年前、ポポーヴィッチはヴィクトルと同時期に引退し振付師へと転身した。もともと芸術家肌だった彼の野心は振り付けだけにとどまらず、最近ではショー全体のプロデュースに取り組みはじめ、スケート界の新しい動きとして一部から期待と注目を集めていた。 「とはいえ俺はアスリート気質だからねぇ。エンターテイナーでいることは苦手なんだよ、わかるだろ」 「エンターテイナーになれなんて言っていない。ヴィクトルという一人の人間として滑ってほしいんだ」 「ヴィクトルという人間、ねぇ……」  すでに空になっている自分のグラスを見つめながらそう呟くと、ヴィクトルはなぜか笑いたい気持ちになった。 「“お前は何者なんだ、ヴィクトル!”」  突然古風な芝居じみた口調で笑いだす友人に、ポポーヴィッチは呆れてため息をつく。 「本当に、ヴィクトル、これからどうするのかヤコフも心配している。最近じゃあのユーリですら……」  愛すべき友人の言葉を最後まで聞かずに、ヴィクトルはさっと立ち上がった。 「そろそろ決めてもらわないとね、俺が何者か」 「?」 「プロジェクトのことは考えておくよ、スパシーバ」  訝しげに見つめる友人の肩をぽんと叩いて、ヴィクトルは一人店を出る。帰りのタクシーの中でスマートフォンを取り出すと、ためらいなく成田行きのフライトを予約した。不思議なほどに、意気揚々と。
15-1911 それでも、なお
 ホテルのロビーで一人掛けのソファに腰を下ろした勇利は今、行き交う宿泊客をながめている。どうしていつも急に来るのだろうと、初めて彼が長谷津に現れたときのことを思い出す。頭の中で月日を数えて、勇利は思う。まだ4年も経っていないのか、と。どうしてヴィクトルが東京にいるのか、どうして勇利と会おうとしたのか、勇利には見当がつかない。これから会ってどんな話をするのか、勇利の方にだって何の準備もない。自分から離れた相手なのだ。どんな態度でどんな話をされたとしても、勇利はそれを受け入れるしかないとわかっている。それでもなお、勇利は思う。そこに可能性があるのなら。自分を失うこわさと引き換えに、別の何かを見つけ出す可能性があるのなら。自分を定義づけてくれる存在を、もう手放すようなことをしてはいけない。
 新宿に来る前、勇利は一度マンションに戻っていた。まっすぐ寝室に向かうと、クローゼットの奥から彼の持ち物の中では異質な黒い小箱を取り出した。最後にそれを見てから、もう一年近くが経とうとしている。「この歳になってもまだおまじないか」と苦笑いを混ぜて呟くと、それでも最大限の愛おしさを込めて、乾いた右手の薬指に小さな金の環を通した。それから右手を唇にぐっと押し当てるようにキスする癖は、一年経っても忘れてはいなかった。
 賭けをしよう。あの人の指にも同じものがあるだろうか。あるいは祈りを、あるいは冒険、あるいは。
 エレベーターがロビーフロアに到着する。数人の宿泊客とともに銀髪の彼が現れる。青い視線が黒髪を見つける。聞きなれたあの声が、勇利の名前をまっすぐ呼ぶ。
fin
8 notes · View notes
124770353 · 4 years
Text
20201010
みーにゃん@minyan_3939
21:38
@ojro_men はやい!もう1週間経ったんですね〜! バリバリC帯ですが、、今日はその時間に間に合わなそうです…残念
パンナコッタ@cham7786
20:59
@ojro_men 負けないくらいぐーたらしてました
琥珀@c90fd72c0f0341f
20:57
@ojro_men 軽ーくね←誰も信じない
さとみ@remisato
20:50
@ojro_men 軽くって言う詐欺?(笑)
midorichan0522@midorichan05221
20:47
@ojro_men はいそんな日もありますとも大事な事よんいつも真面目に頑張ってる治ちゃんは特に…ね
ちぃ@chiivremio
20:44
@ojro_men ごゆっくり
堕天使れいにゃん@hydrangea_rt
20:35
@ojro_men 同じく!
さくらこ@chmichil
20:34
@ojro_men うちももう入らないと
ルナゴ@sanjirose0930
20:33
@ojro_men そうなりますよねー
ルナゴ@sanjirose0930
20:32
@ojro_men 大いに結構ゆっくりのんびり ぐーたらしたーい
megmeg@megmeg07824
20:31
@ojro_men いーなーぐーたら… 激しく仕事して今抜け殻なわたし
sora*@monokuro_sora
20:23
@ojro_men 軽くなの?!(*´艸`)
Tanon@Tanon43808995
20:23
@ojro_men 軽く?楽しみにしています〜
カコ@plumeria3012
20:22
@ojro_men やっぱり!!
Alice@Maria04251
20:21
@ojro_men ごゆっくり
☆じゅんじゅん☆@junjun56o1
20:20
@ojro_men かるーく?!
リベロ@Zd6Q3jeUs9DK8eQ
20:20
@ojro_men やったー!
akko@akkoro_men
20:20
@ojro_men 1週間早っっ!! もうスプラの日か!!
itsuki*@RRnachos
20:18
@ojro_men たまにはいいですね
空雲 日晴@GoodDay_RMO
20:17
@ojro_men
hiroちゃん@iro_one_iro
20:14
@ojro_men 同じく私は引きこもりでした
サックー@Sakku_1112
20:12
@ojro_men 今日は何時までやります?笑笑
Alice@Maria04251
20:12
@ojro_men こんな天気だったから、仕方ないです。 私もゆったり過ごしました。 寒いので、クラムチャウダー作ってみました
すまいりん@FT_smiline
20:11
@ojro_men 私、MOS "ON:E"観ております
sora*@monokuro_sora
20:11
@ojro_men おさむくん 承認ありがとう今見ましたー!子どもが小躍りしてめっちゃ喜んでます♪そして、練習始めました(笑)
tomochan@tomotomo_412
20:10
@ojro_men ぐーだらいいですね 昨日は神経使ったしね 私もぐーだらしてました
やじさんk@yajik919
20:09
@ojro_men そんな日があっていいのです 心の回復できます
しーチャン@camuchann
20:08
@ojro_men たまにはゴロゴロするのも、ストレス発散でいいね〜 私は、朝からTwitterでやらかしてしまって かなり落ち込み中。。。
琥珀@c90fd72c0f0341f
20:07
@ojro_men いいと思います️ ゲームもゆっくりスタートですか
ちはるん♪@chiharu509
20:07
@ojro_men 同じくです
☆じゅんじゅん☆@junjun56o1
20:07
@ojro_men たまには良いです
晴 美@haru_sunnysmile
16:11
@ojro_men おそようございます 暖房をもうつけています
midorichan0522@midorichan05221
15:48
@ojro_men おはようございます 寒いですねぇ 温かくしてお過ごし下さいませ
パンナコッタ@cham7786
15:25
@ojro_men おはようございます! 寒いですねぎゅっつってやってお昼寝することにします起きたらぎゅっつってぎゃって…
めいぶ(くま)@R_meibu
14:59
@ojro_men おはようございます☀︎ 天気悪いしまだおふとんにひきこもってます
空雲 日晴@GoodDay_RMO
14:33
@ojro_men おはようございます! 関西はさっき一瞬晴れ間が見えました 雨上がりはもうすぐそこですよ〜
まき@H8_maki19
14:23
@ojro_men おはようございます 寒い〜〜
tomochan@tomotomo_412
14:15
@ojro_men おはようございます 今日は寒いですねぇ お昼寝するしかないパターンですね 笑笑
ルナゴ@sanjirose0930
13:33
@ojro_men 肌寒いです こたつを出しました(ΦωΦ) おはこんにちは
micu@micu0309ver2
13:32
@ojro_men おはようございます 昨夜の配信、意外と良かったです(笑) 娘がレミオロメンの頃のちょいロン毛の治さん、イケメンって言ってました♪
hiroちゃん@iro_one_iro
13:32
@ojro_men おはようございます外は冷たい風が吹きまくっております
さとみ@remisato
13:29
@ojro_men おはようございます( ^ω^) 今日ゎコタツ出します(ง •̀_•́)ง
しーチャン@camuchann
13:28
@ojro_men おさむくんの所は寒いんだね〜 私の所はまだまだ暑くてエアコン入れてるよ! もしかしたら、熱があるからかもしれないけど(笑)
カリコリ@KARI_KORI
13:27
@ojro_men おはようございます オフトォンから出られない季節になって参りました
まろんTierraViento@maron_BROS_3
13:26
@ojro_men おはようございます ドラムの日ですね
ちはるん♪@chiharu509
13:24
@ojro_men おはようございます 寒いですね 今夜はぎゅっつってやって欲しい
はるいろ@hruiro6
13:21
@ojro_men おはようございます 寒いです〜
さくらこ@chmichil
13:19
@ojro_men 今日は友達がflumpoolの山村くんや一生くんが出てるイベント行くみたいです 友達はAugustaメンバー目当てみたいですが…。 flumpoolやコブクロ見れて羨ましいなぁ
megmeg@megmeg07824
13:19
@ojro_men おさむいございます 風邪引くとアレなので ちゃんと靴下履いて下さいねって私も履いてないけど
すぎかな@kana_oromen
13:19
@ojro_men おはようございます 朝起きたら寒くて毛布ぎゅっつってやりました 昨日ところどころ見れなかったので今日ケーブル配信見てましたシュールな配信だなー、って思いながら(笑)
やじさんk@yajik919
13:19
@ojro_men おはようございます 体調崩さないで下さいね 昨夜のツイキャスは、失敗あり、SPゲストTELトークあり、ライブ出演決定発表あり、笑いありの話題豊富な4時間にお腹いっぱい ドラム“花になれ”の演奏ありがとうございました~
とんこつラーメン1/2@IcNsdh2nuvnQeOT
13:18
@ojro_men おはよう
Alice@Maria04251
13:18
@ojro_men おはようございます 寒いです風邪ひかない様に、暖かくしてね〜 絶賛、アーカイブ中です。 精密作業、得意ですね〜 作業クズ⁉︎を一ヶ所に纏めたり等々、 几帳面さ素敵ですね
さくらこ@chmichil
13:17
@ojro_men おはようございます、オサ 寒いですねぇ でも雨が上がって晴れ間も見えてきたけど、やっぱり曇ってるなぁ 明日から晴れるみたいですねぇ
みーにゃん@minyan_3939
13:16
@ojro_men 完成おめでとうございまーす 失敗があっての成功!すばらしいです〜 ドラマーも叩くだけじゃなくて…大変ですね〜
カコ@plumeria3012
13:15
@ojro_men おはようございます 肌寒いですー
サックー@Sakku_1112
13:14
@ojro_men 凍死間際。 おはようございます笑笑
RI-nem@rijooki
13:14
@ojro_men おはよーございますー 早くも床暖房を出動させてしまったデス
もえ@moero_men
13:13
@ojro_men おはようございます!
琥珀@c90fd72c0f0341f
13:13
@ojro_men おはようございます 寒いです~ お昼は温かいうどん食べました
sora*@monokuro_sora
13:12
@ojro_men おはようございます雨の中歩いてましたが、結構濡れました
☆じゅんじゅん☆@junjun56o1
13:12
@ojro_men おはようございます 寒いです明日は少し気温があがるみたいですけどねー
すまいりん@FT_smiline
13:12
@ojro_men おはようございます!
くみくみ@Hy72pMJ5kvxmmJW
13:12
@ojro_men おはようございます 寒いです~
akko@akkoro_men
13:11
@ojro_men おはようございます(*´°`*) ようやく雨が上がりました\♡/
さくらこ@chmichil
11:16
@ojro_men お疲れ様です
まろん@blue_navyblue
10:50
@ojro_men お疲れ様でした おさくんは色々な配信が出来ちゃいますね 無事に完成してよかった 私はただ観ていただけですが、皆さんの会話も楽しかったです よく考えると不思議な集い(笑) 観られなかった分はまたアーカイブを観ますね
ibukko@ibukko1
8:18
@ojro_men 昨日もお疲れさまでした ケーブル無事にできたようですねっ またアーカイブみてきますね!! お疲れさまでした
すまいりん@FT_smiline
7:54
@ojro_men おはようございます。 昨夜は、これから〜って時に、あくび、あくびで 後ほど、アーカイブで観ます。 いや〜、個人的にツボった配信でした〜w
☆じゅんじゅん☆@junjun56o1
6:23
@ojro_men お疲れ様でしたぁー ケーブルを作っちゃおって思うとこもスゴいですよね なんでも出来ちゃう 途中落ちてしまったので、アーカイブ楽しみます
しーチャン@camuchann
5:52
@ojro_men 前からケーブル作成配信するって言ってて、ちゃんと実現出来て良かったね〜
ちはるん♪@chiharu509
5:48
@kana_oromen @ojro_men ぎゅっつって絞めコロ…
Alice@Maria04251
3:01
@ojro_men お疲れ様でした。 久しぶりに、意識喪失 残念 アーカイブで復習します。
めいぶ(くま)@R_meibu
2:04
@ojro_men ハンダのプロも登場して楽しい配信でした また明日も配信あるので今日はゆっくりお休みください! おつかれさまでした!
えいむ@eimu_asuma
1:52
@ojro_men 無事出来て良かったですー。 おめでとうございます ドッキリもあり、花になるも聴けて、楽しい配信でした
megmeg@megmeg07824
1:49
@ojro_men お疲れさまでしたー 最後きれいに仕上がってよかったですね〜 何度でも納得行くまでやり抜くところ ちょっと尊敬しちゃいました
tomochan@tomotomo_412
1:49
@ojro_men ケーブル作る配信やっちゃいましたね! 途中ハプニングもありでしたが、 苦労した甲斐もあって、 大成功でしたね あんなに細かな作業は1人で集中した方がはかどるのに、見せて貰えて ありがとう楽しかったです! お疲れ様でしょうから、ゆっくり休んでくださいね♪
むらさん@gypsy_mura3
1:43
@ojro_men おざちさんのYoutube配信でツイキャスとコラボ配信しているのを知り、初めて伺いましたが、なかなかマニアックな会(笑)に遭遇できて、楽しかったです。 テスタもあったみたいで、無事良いケーブルが完成してよかったですねー。 また参加します!
すぎかな@kana_oromen
1:42
@chiharu509 @ojro_men 魚ぎゅっつって
空雲 日晴@GoodDay_RMO
1:42
@ojro_men キレッキレな治さん最高でした 花になるも叩いていただけて、 最後のえいむさんの報告を認知して下さって、、 ありがとうございました どんな配信でも着いて参ります
MoMo@LINEスタンプ発売中@tstsvv
1:41
@ojro_men ケーブル配信斬新で楽しかったです! 細かい作業してる姿もカッコイイです◎ お疲れ様でした〜✩.*˚
ちはるん♪@chiharu509
1:41
@ojro_men 完成おめでとうございます お疲れさまでした ケーブル作成見れて楽しかったです何か作る配信楽しいです次は…オリーブオイルを使った料理とか、魚の三枚おろしもお願いします
シシリア@siciliano18
1:41
@ojro_men まだまだ、配信ネタは沢山ありますね。
晴 美@haru_sunnysmile
1:40
@ojro_men 音にこだわる真剣な姿がカッコ良かったです 色々と。。 ありがとうございました
すぎかな@kana_oromen
1:39
@ojro_men ついにケーブル配信やっちゃいましたね想像以上に楽しかったです ぎゅっつってぇーーー笑笑 何を配信しても毎回予想を超える楽しさです台風のせいですかね?笑笑
さとみ@remisato
1:39
@ojro_men 良いのが出来て良かったです( *´꒳`* ) 花になる♬︎♡ ありがとうございました(=^▽^=)
やじさんk@yajik919
1:39
@ojro_men お疲れ様でした まさか配信になるとは思ってなかったけど、ケーブル配信やれてよかったですね~ 失敗してもボヤきながらもやってのけるおささんはステキですよ
あすりる( ¨̮ ol )@asu_ril
1:38
@ojro_men お疲れ様でした! ハプニングもありましたが、無事完成して良かったです! 花になるも、ありがとうございました 細かい作業で目も体もお疲れだと思いますので、ゆっくり休めて明日のゲーム配信に備えて下さい 本日もありがとうございました おやすみなさい
まき@H8_maki19
1:38
@ojro_men 完成して良かった〜 そして、音もクリアでさらに良かった〜〜〜大成功
まい@mairunrun
1:38
@ojro_men ケーブル作り、解説しながらで、とても大変だったかと思います。なんとか完成して良かったです。本当にお疲れ様でした⭐︎
琥珀@c90fd72c0f0341f
1:37
@ojro_men ケーブル無事完成おめでとうございます お疲れ様でした おやすみなさい
まみやん@may1130
1:37
@ojro_men お疲れ様でした! 無事完成してよかったですね おやすみなさい
ジオラch(フトアゴ&デュビア&DIY&晩酌ツマミetc.)@geora0228
1:36
@ojro_men だまーーーーーーーーって見守ってましたw 出来て良かった(*^-^*)
カリコリ@KARI_KORI
1:36
@ojro_men おめでとうございました 上手くいってよかったです! また明日おやすみなさい。
RI-nem@rijooki
1:35
@ojro_men 無事に完成良かったデス~
0 notes
brilliet · 5 years
Photo
Tumblr media
近頃、日中と朝晩の寒暖差があり体調崩してる方も多いかと思います💦 この時期は寒暖差などの影響で自律神経が乱れ身体がだるくなったり代謝が落ち肌も荒れやすくなるんですよ>_< 自律神経は副交感神経と交感神経のことでこの2つの神経がバランス良く働かなくなると自律神経が乱れてしまいます! 寒暖差だけではなくストレスや睡眠不足、体の冷えなども原因になるので規則正しい生活や自分なりのリラックス法を見つけ自律神経を整えていきましょう😊 エステなどのマッサージも副交感神経が優位になりリラックス効果がありますのでぜひお試し下さいね♡ #美容 #綺麗 #エステサロン #恵比寿 #恵比寿サロン #お肌つるつる #beauty #BEAUTY #Beauty https://www.instagram.com/p/B5EqtljnsA-/?igshid=1ndldx83qmlst
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yo4zu3 · 5 years
Text
すべてきみの思いどおりに(文庫再録版)
 これは一体……どういう罰ゲームなのだろう。思わずそう錯覚するほどに、今この空間のすべてが拷問のように感じられた。
 事の発端は数か月前、とある休日にまで遡る。
 秋の陽が落ち切った頃に練習が終わり、いつものように身支度を済ませ、最寄り駅までの短い道のりを大柴と共に歩いていた。
 俺たちが付き合い始めて既に三か月が過ぎていたが、互いに学業とサッカー中心の生活をしているため、デートらしいデートはあの夏祭り以来していない。学校でも部活でも、毎日嫌というほど顔を合わせているが、やはり好きな相手とは一日中一緒にいたいと思うものだ。こうして毎日駅まで送ってくれることが当たり前になっても、駅がすぐ近くに見えてくるとどうしても足取りが重くなってしまう。話すことといえば部活やサッカーに関することばかりで少しも変わり映えがしないのに、それでも離れがたく思ってしまうのはこの幼馴染の男がどうしようもなく愛おしいからだ。ゆっくりとした歩調で歩いていても、このささやかな時間に終わりはやって来るのだ。
「じゃあな」
 改札の前で向かい合い、一度だけ大柴の手を握る。人前では恥ずかしくてキスなんてできないけれど、離れる前の少しの間だけ、こうして大きな手に指を絡ませて、ぎゅっと握りしめるのが二人の別れの挨拶だった。冷えた指先から大柴の体温がじんわりと伝わってくるようで、それだけで満たされた気持ちになる。
 横目で電光掲示板を確認すると、そろそろ電車がやってくる頃だ。
「また明日」
 そう言って握った手を放そうとしたその時、繋がったままの手を大柴に強引に引き寄せられた。前方にバランスを崩すと、大柴の逞しい胸板に顔をぶつけ、思わず「ぶッ」と不細工な声が出る。そのままぎゅっと抱きしめられ、今しがた離れようとした決意がいとも簡単に揺らいでいく。
「おい喜一、電車が……」
「今日泊ってけよ」
 低く潜められた声が鼓膜を揺らすと、もう抵抗できる気がしなかった。どきどきとうるさい心音は、どうやら俺だけのものではないらしい。
「な、ちょうど姉貴も居ねえんだ……いいだろ?」
 抱きしめる腕に一段と力が籠められる。こんな誰が見ているかもわからない場所で……と思う反面、しかし今夜はどうしても帰りたくなかった。大柴も同じ気持ちなのだろうか。そう思うと素直にうれしくて、腕の中で俯いたまま「うん」と短く頷く。ガタンガタン、と高架を通り過ぎる電車の音がやけに遠く聞こえていた。
 自宅とは逆方向の電車に乗りながら、後輩マネージャーである生方の家に泊まるという旨のLINEを親父に送った。するとすぐに〈了解〉という短い返信と共に、可愛らしいスタンプが送られてきて、このときばかりは親父の放任主義に救われたような気がした。急な誘いで着替えも持ち合わせていなかったが、一晩ぐらいならまあ大丈夫だろう。明日も学校は休みだが、部活は通常通りの予定なので大柴の家から直接向かうつもりだ。
 そもそも大柴の家に訪れるのも夏祭り以来だった。あの日は浴衣を返すだけで泊っていかなかったので、つまり今日は付き合って以来、二度目のお泊りということになる。そこまで考えが至ると急に恥ずかしさがこみ上げてきた。恋人の家に泊まるということは、当然その先があるということなのだ。それを期待してついてきたはずなのに、今更何を緊張しているのだろう。電車を降り、そわそわと落ち着かない様子で大柴の手を握りながら、見慣れない夜道を歩いてゆく。
「あ、そうだ。晩飯のこと連絡すんの忘れてた」
 大柴が急にそんなことを言うので、「まあ、何かあるだろ」と適当に相槌を打った。忘れてたということは、恐らく大柴邸には一人分の夕食のみが用意されているのであろう。確かに練習後なので腹は空いているが、あの大きな冷蔵庫を漁れば何かしら作れそうだ。最悪、米さえあればそれでいい。
 そう思っていると、コホン、とわざとらしい咳ばらいが聞こえ、思わず大柴を見上げる。また少しだけ背が伸びたと思うのは気のせいだろうか。
「……ゴム買いたいから、コンビニ寄ってもいいか」
 ぼそぼそと喋る大柴の耳の端が赤くなっている。なるほど、夕飯の件はただの口実だったのか。それに気づくと思わず吹き出しそうになったが、笑いを堪えながら「ああ、行くぞ」と言うと、一刻もはやく大柴の家に帰りたかった。
 炊飯器にあたたかい米がまだ残っていて、それをよそうと大柴のおかずを半分もらって夕食を済ませた。軽いノリで一緒に入るかと言われた風呂は丁重に断り、大柴の後にシャワーを浴び、借りた上下揃いのスウェットを着てリビングへと戻る。先に戻っていた大柴は濡れた髪をそのままに、ミネラルウォーターの入ったグラスを片手にソファに深く座り込んで衛生放送を見ていた。その隣に腰かけると、二人分の重さを受けた革のソファがぐ、と沈み込む。
「寒くねぇか?」
「いや、大丈夫だ。つーか髪乾かさないのか?」
「あー、めんどいからいい」
 首にかけたタオルにぽたり、ぽたりと雫が垂れていた。いつもは派手な赤色が濡れていると少しだけ暗く見えるから面白い。まるで知らない人のようだった。
 その綺麗な横顔を見つめていると、俺の視線に気づいた大柴が振り向き、何も言わずにこちらに向かって両腕を大きく広げる。そこに凭れるように身体を預けると強く抱き返された。薄手の布越しに感じるしっとりとした肌や体温が、いつもと違うシチュエーションだと訴えている。自分の髪から大柴と同じシャンプーの匂いがすることにひどく興奮を覚えていた。
「んっ」
 見上げると大柴の濡れた口唇が降って来る。軽く触れただけの口唇がちゅ、と音を立てて離れ、ゆっくりと目を開けると、こちらを見つめるはしばみにとろりとした熱が宿っている。ずくり、と子宮が期待に疼くと、もう止められなかった。
「ん、んぅ……」
 時折はあ、と短い息を零しながら、互いの唇を貪った。大柴の首に両腕を回すと、二の腕にぬれた冷たい感触がしてそれさえも興奮材料になった。大柴が片腕で俺の身体を抱き、もう片方の手が服を弄り素肌に触れる。腰を撫でた手がそのまま上へとゆっくりと上り、膨らみに触れたところで「んあ?」と大柴が驚いたような声を出した。
「おま……下着どうした?」
「へ? あ、ああ……どうせ脱ぐだろうし、そもそも替え持ってきてねぇし、つけなかった」
「ってことは下もか?!」
「そうだけど」
「つーか、俺が渡したタオルと一緒に新しいの置いてなかったか?」
「え……?」
 何のことだかわからず呆然とする俺に、大柴は明らかに落胆した様子で「マジかよ……」と盛大に溜息をついた。だが言われてみれば確かに、預かった籠の底には下着らしいものがあったような気がする。まるで大柴の髪色を思わせる真っ赤なレース地は、ほとんど下着らしい面積はなく、とてもじゃないが履けそうな形状をしていなかった。元々下着をつけないつもりでいたものだから、それが大柴が俺のために用意した下着なのだということに気づ��なかったのだ。
「いや……あれ、てっきりお前の姉ちゃんのかと」
「んなわけねぇだろ! 姉さんがあんなの履いてたらフツーに引くぞ」
「なっ……そんなモンをテメェの彼女に着せようってか?」
「だあああ! それとこれとは話が別だろ!」
 よりにもよってあんなセクシーなものを着させようとしていたことに対して、俺は少なからずショックを受けていた。
 確かに彼氏に見せれるような可愛らしい下着は持ち合わせてはいないが、それでもこれはないだろう。大事な部分を何一つ隠せなさそうな、いかにも「私を食べて下さい♡」と言わんばかりの下着をこっそりと用意していただなんて、隠す気のない下心にいっそ呆れさえもしていた。
 それに何よりも、これではまるで俺たちの関係がマンネリ化しているのだと、間接的に言われているような気がした。それが一番ショックだった。
「そ、そんなに俺に魅力がないのかよ……」
「あ? んなわけないだろ」
「じゃあなんで……っん、」
 文字通り口唇を塞がれるように口づけられると、ぬるり、とあたたかな舌が滑り込んできて、俺の言葉を飲み込んだ。舌を絡めとるように吸われ、一度は冷めかけた熱は容易くすぐにぶり返す。粘度のある唾液を分け与えるような深い口づけに、胸の奥がぎゅっと締め付けられて堪らなくなる。
「はぁッ、……きい、ち」
「お、俺が着てほしいから、ってのはダメかよ」
 お前、いつもサイズの合わねぇのしてるだろ? だから俺様が新しいのを買ってやったんだ。偉そうな口調で言った大柴は、そのふてぶてしい態度に似合わず僅かに耳が赤くなっている。自分で言いながら照れているらしいこの男も、案外かわいいところがあるものだ。
「気持ちはうれしいけど、あれはちょっと派手すぎる」
 それに洗濯に出すには恥ずかしすぎるだろ。そう付け足すと大柴は「確かに」と、素直に納得したのが少しだけ可笑しかった。
「じゃあもっと無難なやつなら良かったか?」
「んー、程度にもよる」
「お前基準だとまた星柄とかガキっぽいのになるだろ」
「あ? あれ気に入ってるんだけど」
「マジかよ」
 時折ちゅ、ちゅっと啄むようなキスをしながら、なんでもない冗談のような軽さで「今度一緒に買いに行くか」と言うものだから、思わず「ああ、いいぜ」とその場のノリで答えると、それに気を良くした大柴の手が俺の身体を弄りはじめる。明らかに流されていることはわかっていても、それよりもその時はただ、目の前の男がどうしようもなく欲しかった。深くなる口づけと愛撫に理性がぐずぐずに溶かされてゆき、あっ……、と明らかな色気を含んだ声が漏れた。
「つーか、下着付けてねぇほうがエロいんだけど……」
 ほら、と大柴の長い指が、スウェット越しに俺の割れ目の上をなぞる。濃厚なキスを繰り返すうちに疼いた子宮から愛液が滲み出て、ライトグレーの生地をうっすらと汚していた。
「あ、ごめ、っんあ……ッ!」
 せめてソファを汚すまいと慌てて腰を浮かせ膝立ちになると、割れ目に触れていた大柴の指が陰核を強く弾き、びくっと小さく背が震えた。ぎぃ、と大きく軋む革の音と、大柴の喉仏がこくりと鳴るのはほぼ同時だった。
 それからソファでくたくたになるまで抱き合い、日付が変わる頃に二階にある寝室のベッドに運ばれて、もう一度身体を繋げたところで俺の意識は途切れてしまった。気が付いたときには素っ裸のまま大柴の腕の中にいて、中途半端に閉められた遮光カーテンの隙間からぼんやりと白んだ朝日が差し込んでいる。
 まだ起きるのには随分早い。毛布の中で触れる素肌は心地よく、目を閉じるとすぐに微睡みが迎えに来る。しあわせな温かさに包まれて、俺はこのときの口約束をすっかり忘れてしまい、後に痛い目を見ることになるとは思いもしなかった。
  
 二月。
 長いようであっという間だった冬の選手権大会も終わり、いよいよ三年生が引退するとようやく緊張の糸がほぐれる時期だった。今は無理して詰める時期ではない、という監督の意見で、以前よりはコンスタントに休みが取れるようになり、時期が時期なだけに浮かれていたのは恐らく俺だけではないだろう。
 冬は何かとイベントごとが多い。選手権と時期が重なることもあり、世間一般で言う一大イベントであるクリスマスや正月は、俺たちにとって手放しに祝えるものではなかった。だから余計に選手権後であるバレンタインが近づくと、部員たちがそわそわしていることをマネージャーである女子二人はなんとなく察している。それに便乗して、日頃の感謝と労いの意味も込めて、今年も監督を含めた部員全員にはマネージャーから義理チョコを用意するつもりだった(勿論その資金は、俺が秘かに別けておいた部費からやり繰りしている。)。
〈明日買い物付き合えよ〉
 久しぶりの休みを翌日に控えた夜、大柴からそんなLINEが入って丁度良いタイミングだと思った。翌週の平日がバレンタインデーなので、今週末は部員たちに渡すチョコを買いに行こうと思っていた矢先のことだった。これはいい荷物持ちができたと内心でほくそ笑みながら、手早く返事を入力する。
〈いいぜ。どこ行く?〉
〈××のショッピングモール。新しいスパイク見に行く〉
〈おい〉
〈スパイクならうちの店で買えよ〉
〈今日発売の限定モデル置いてんのかよ〉
〈……〉
〈ないから取り寄せる〉
〈ふざけんな。俺は明日買うぞ〉
〈そういうのは先に言えよタワケ!〉
〈まあ、とにかく見に行こうぜ〉
〈明日十時に駅前に迎えに行く〉
〈おう〉
〈おやすみ〉
〈なあ〉
〈あ?〉
〈俺にもチョコくれんの?〉
〈いつも通り、全員に義理やるけど〉
〈本命は〉
〈さあな〉
〈おい〉
〈おーい君下〉
〈無視すんなバカ〉
〈……〉
〈おーーーーーーーーい〉
 翌日、自分で指定した待ち合わせ時間に十五分遅れて大柴がやって来た。悪びれた様子の一切ない男の膝裏に蹴りをお見舞いし、電車に乗った。
 最近できたらしい駅直結の大型ショッピングモールは休日だということもあり、多くの家族連れやカップルで賑わっていた。ピンクや茶色のハートで彩られたポップがくどいほど飾りつけられ、嫌でもバレンタインを意識させるような企業戦略に早くもうんざりしそうだった。
「さっさと買い物してどっかで飯食おうぜ」
 何食いたい? と片手で器用にフロアガイドを開く大柴が、もう片方の手でさりげなく俺の手を拾った。指を絡ませ、そのまま大柴のダウンコートのポケットに招かれる。ポケットの底には丸まった紙くずや得体のしれないものがあったが、悪い気はしなかった。むしろ普通のカップルみたいだなと今更なことを思ってしまうと、急に頬が熱を帯びてゆくような気がした。
 目当てのスパイクの品番とサイズをしっかりと控えると、今買うと言って聞かない大柴を半ば無理やり引きずりながらスポーツ用品店を出た。その後も目移りの激しい大柴にあれこれと連れ回されて、まるで大型犬の散歩でもしているかのような気分にさせられる(この場合、引きずられているのは飼い主のほうだ)。
 その点、俺が入念に下調べをしておいた義理チョコレートについては、激混みの催事場でも難なく目的の商品を手に入れることができた。一応は名のあるブランドものを買ったことが意外だったらしく、大柴は少し感心したように「で、俺のは?」と聞いてきたが、それを華麗に無視して催事場から抜け出した。
 そうこうしているうちにいつの間にか昼時になり、混み合う前に館内にある適当な洋食屋へと入ると、ランチハンバーグプレートと大盛りのオムライス〜赤ワインソースがけ〜を平らげて、デザートのスフレチーズケーキまできっちり完食した。
 あたたかなカフェモカを啜りながら、向かいでブラックコーヒーを飲む大柴を見つめる俺はいつになく上機嫌だった。予定通り予算内でチョコレートが買えた上に、おまけでいくつか試食まで貰えたのだ。自分では絶対に買おうと思わない高級チョコレート店のサービスの良さに、自然と緩む口元をもはや隠す気などなかった。
「あ、そうだ。あと一軒だけ付き合えよ」
 頬杖をつき、窓の外を眺めていた大柴が、たった今思い出したかのように勢いよく顔を上げる。
「? いいけど」
 元はと言えば今日買い物に行こうと言い、散々いろんな店に引っ張り回した挙句、大柴は今まで何も買わなかったのだ。大量のチョコレートの入った紙袋を三つぶら下げ、当たり前のようにランチを奢り、これではまるで本当にただの荷物持ちとして来たようだった。連れ回されて既にくたくただったが、あと一軒ぐらいなら付き合ってやろう。そう思えるほど、この時の俺はすこぶる機嫌が良かったのだ。
「え、待てよ、喜一」
「あ? なんだよ」
 なんだよ、って何だよ。そう聞き返したくなるほどうまく呑み込めない状況に、俺は呆然とその場に立ち竦んでしまった。
 白、ピンク、ベージュに黄色、淡いブルーやヴァイオレットなど、思いつく限りの様々な色が、うるさく視界を埋め尽くしている。俺たちがこのパステルカラーで彩られたふわふわとした空間に迷い込み、かれこれ三十分が経過しようとしていた。
「お、これなんかどうだ?」
「お似合いだと思いますよ」
 新たに目の前に差し出されたのは、似たような装飾のついた明るいオレンジ色だった。シンメトリーの真ん中にはレースでできた大ぶりのリボンが施されている。今までの選択肢に比べると少し派手ではあるが、これはこれで可愛いかもしれない。ぼんやりとした頭でそう思っていると、これは、こっちは、と大柴の手が伸びてきて、目の前に新たな色が次々と現れる。
「やっぱり選べねぇから、全部買うか」
 にこにこと愛想のいい店員の勧めるまま、俺の手元で増え続ける色とりどりの下着の山。それをいつになく真剣な顔つきで選びながら、しまいにはとんでもないことを言い出す彼氏。
 地獄のようなこのシチュエーションは一体何なんだ? 回らない頭で何度考えてみても、脳裏にちらつくのはいつか大柴の家に泊まった際に渡された、真っ赤なレースの下着だった。
「いやいやいや、待て! 待ってくれ!」
「あ?」
 尻ポケットから財布を取り出そうとする大柴に、ストップの意を込めて抱えていた下着の山を押し付ける。こんなにいらねぇ、つーか、こんなに買ってもらっても悪いし、そもそもここに彼氏と居ること自体が恥ずかしいし、しかもサイズも分からねぇのに……など、言いたいことがぐちゃぐちゃになって、何から突っ込めばいいのかわからない。助けを求めるように店員を見るが、「よかったらご試着されますか?」と、サービスとしては的を得ているが微妙な見当違いの答えをされる始末だ。
「いや、そうじゃなくて……」
「うむ、そうか。先にサイズを合わせるべきだったな」
 勝手に納得した大柴に「とりあえず、これ合わせてみろよ」と手渡されたのは、控えめなフリルのついた淡いピンク色の下着。この店に入って最初に大柴が選んだものだった。
 店の奥にあるフィッティングルームに案内され、始終ニコニコ顔の販売員に「採寸されますか?」と聞かれ、そこでようやく我に返った。こんな店に来ること自体が初めてである。何もわからないことを正直に伝えると、彼女はかしこまりましたと少しだけ微笑んで、肩にかけていたメジャーを握り手際よく採寸を始める。大柴に渡された下着ではカップのサイズが小さすぎることがわかり、新しいものを用意してもらい、それを身に着けてまずそのフィット感に驚いた。
 苦しくもなく、寄せすぎず、かといって動いても容易にずれることがない。小ぶり(だと本人は思っている)の乳房がきれいな形を保ち、かわいらしいピンクの中にすっぽりと納まっている。今まで着ていた三枚980円の下着なんかとは比べ物にならない安定感に、これならサッカーで激しく動いても大丈夫だなと思うと満足した。
 結局その後も悩みに悩み、最終的に大柴がチョイスした下着を二組買った。そんなにたくさん要らねぇと言ったが、どうせ買うなら一も十も同じだという無茶苦茶な理論を投げられ、「どうせまたすぐに入らなくなるんだから、」の一言が意外にも効いたようだった。少しだけ大柴の頬が赤い気がしたが、追及するのも面倒なので気のせいだということにしておこう。存外長居してしまったようで、帰りの電車に乗り込むころには既に陽がだいぶ傾いていた。
「少し寄って行けよ」
 陽が落ちるのはあっという間だが、夕食時にはまだ早い。家の前で紙袋を四つ受け取ると、くい、と顎で家の中を指した。表の店はとっくにシャッターが下りていて、店主である親父はどこかへ出かけたようだった。いつも通りならば飲みに出ているのであろう。とにかくあと数時間は、滅多なことがない限り帰ってこないという確信があった。
 靴を脱ぎ、すぐに二階にある自室へと上がると、大柴はいつも通りベッドへと腰かけた。君下の部屋にはソファという洒落たものはなく、小学生のころから使い続けている木組みのシングルベッドと学習机のみという、女子高生の部屋にしてはシンプルすぎる内装だった。
「変わってねぇな」
「ん、ああ。そういやお前が来たのって、いつぶりだろうな」
 このベッドに後ろ手をついて寛ぐ大柴の姿を見るのはものすごく久しぶりなような気もしたし、そうでないよう��気もする。思い返せば高校に入ってからは、ほとんど毎日のように顔を合わせているのだ。それでも飽きずに一緒に居て、しかもこうして恋人同士になる日が来るだなんて、出会ったばかりの頃には考えられなかったことだろう。犬猿の仲であったはずの俺たちが、恋人という枠に収まっていること自体がほとんど奇跡のようだった。むしろ目の前の男を想う気持ちは日に日に強くなってゆくばかりで、抑えきれない気持ちをどうすることもできず、時折堪らなくなることがある。
「君下?」
 大柴の長い脚の間に立ち、とん、と軽い力で肩を押すと、その大きな身体が呆気なくベッドへと沈む。膝をついてベッドへと乗り上げ、大柴の顔の横で両手をつくと、驚きでまるく見開かれたヘーゼルナッツの瞳を覗き込んだ。
「喜一、プレゼントやるよ」
 バレンタインの、ちょっと早いけどな。そう言って、大柴が何かを言いかけた口唇に、ちゅっと触れるだけのキスを落とす。下唇を吸い付くように啄み、だらしなく開いたままの口唇を舌でなぞると、俺の腰に添えていた大柴の手がぴくり、と反応した。そのまま舌を差し込むと、誘われるように大柴の舌が伸びてきて、ちゅ、じゅっと音を立てながら絡みつく。ぱらり、と落ちた髪の束が邪魔だったが、キスを止める理由にはならない。俺の腰を掴んだ手が下り、スカートの布越しに尻を強く掴まれると、んっ、と声が漏れて、交わりが一層深いものに変わる。
「はっ……なんだ、やけに乗り気だな」
 大柴が両の手で尻を揉みしだきながら、下から突き上げるようにジーンズの膨らみを押し付けてくる。腰を跨ぐように馬乗りになった秘部に前立てが当たり、じわり、と下腹部が濡れる感覚がして、自ら腰を擦りつけた。
「! んっ、も、脱ぎたい……っ」
「じゃあ自分で脱げよ」
「あっ……!」
 いつもであれば何も言わずとも衣服をひったくられるところだったが、今日の大柴はどうやら違うらしい。にやにやと意地の悪い笑みを浮かべ、服の上からやわやわと尻を揉んだり、腰を掴んで前後に揺するだけでこれ以上手を出そうとしなかった。ジーンズの金具がショーツ越しの陰核に擦れ、あっやだぁっ! と漏れる自分の声が一層羞恥を煽った。何より俺からプレゼントだと言っておいて、自ら包みを開けさせられるだなんて恥ずかしいにも程がある。
「いじわる、」
「ふん、俺にマウント取ろうなんて百年早いんだよ」
 そんなもの、最初から取ろうだなんて思っていない。これはちょっとしたサプライズのつもりだった。だから俺は今日、大柴に下着売り場に連れて行かれたとき、正直に言うと内心で焦ってしまった。俺のこの企みがばれてしまったのではないかと、まさか気づいてここへ連れてきたのではないかと思ったが、どうやらそれは単なる思い過ごしだったようだ。
 大柴の腰に跨ったまま、俺はまるでストリップでもするかのように、ゆっくりとポップな色合いのニットに手をかける。じりじりと焦らすように裾をまくり上げながら、口元がにやけそうになるのをぐっと堪えた。クロスさせた腕の向こう側で、大柴が静かに息を飲むのがわかる。
 シャツを脱ぎ捨て現れたのは、数か月前のあの日大柴に渡された、真っ赤なレースの下着だった。
「! おま……それ、」
 完全に予想外だったらしい大柴は、ひどく驚いた様子で肘で上体を起こした。その鼻先にキスを落とし、へへ、と照れ隠しに笑うと、スカートのホックに指をかける。片足を開けてスカートを引き抜き、それも床に放り投げた。
 いつかあの下着を履いてやろうと思いついたのは、選手権が終わったあたりだった。
 たまたま大柴の家に遊びに行くと、散らかった部屋の隅にあの真っ赤が無造作に置かれていることに気づいてこっそりと持ち帰ったのだ。飽き性である大柴のことだから、この下着のことも今まで忘れていたのだろう。ほとんどがレース素材でできたそれは色素の薄い肌が透け、中央でぷくりと主張する乳首の色までもが丸見えなそれを、大柴が穴が開きそうなほど見つめている。
「プレゼントだ、今日だけだからな」
 大柴��首に両腕を回し、むき出しになった形のいい���へと口唇を押し付ける。ベッドの上で膝立ちになり、ちょうど大柴の顔に胸を押し当てるような体制になると、大柴が布の少ない尻を撫でながら、「やべ……すげぇえろい」と熱の籠った声で呟いた。
「んあっ、き、いち……っ!」
 ぢゅ、ぢゅぷ、と下品な音を立てて、勃起した乳首を下着越しに執拗に舐られた。普段の布越しよりも感覚が鋭く、それでいて直よりももどかしい刺激が絶妙だった。何よりもこんな破廉恥な下着を着た俺自身と、それに興奮しているらしい大柴の息遣いを間近に感じて、興奮しないほうがおかしな話だ。舌は乳首を愛撫し、右手は既に濡れそぼったショーツに伸び、左手で自分の前立てを取り出し、扱いている。俺はただその愛撫に感じ入って、あっ、ん、と声を上げそうになる口を手で押さえることで気を保とうとしていた。
「声、出せよ」
「ん、やだっ……聞こえる、からぁッ!」
 何も考えられずひたすらに手の甲に歯を立てていると、大柴がペニスを扱いていた手を止め、俺の手を絡めとった。唾液でぬるりと光る噛み痕に、労るようにキスを落とす。
「こっち……触ってくれ」
 俺の手を握ったまま、がちがちに勃起したペニスへと導かれると、二つの手で挟み込むようにして握らされる。手の中で脈打つ暖かなペニスはまるでいきもののようだ、といつも思う。太い雁首をぐりぐりと重点的に扱くと、大柴がう、と堪らず声を漏らして、バツが悪そうににやりと笑った。その顔が好きだった。決して温かくもない部屋で、ほんのりと額に汗を浮かべている、大柴のその快楽にゆがんだ顔がたまらなく好きだった。割れ目から先走りの雫がぷくりと溢れ、それを絡めとるように亀頭をつつんだ手を動かした。
「は、ぁ、んっ、んぅ……」
 手の動きが激しさを増し、たまらずに舌を伸ばして口唇を求める。低くセクシーな声を出す、少し厚い下唇をやわらかく挟んで吸いつくと、秘部に触れた大柴の指が入り口をぐちぐち、と掻きまわす。真っ赤なレース地のショーツはつけたまま、ずらすように脇に寄せると、そのままつぷりと太い指を沈めた。
「ああ……っ!」
 期待に濡れた膣は狭く、押し広げるように大柴の指が進んでゆく。ふ、あ、と途切れ途切れに息を吐きだすと、その息を食らうように深く口づけられる。中指がナカを擦りながら、器用に親指で陰核を引っ掻くように押されるともうダメだった。
「あっ、やだッ! きいち、き、あッ! んあ……っ!」
 頭の中が真っ白になる。ペニスを握っている手もまともに動かせず、ただひたすらに喘いでいると、わざとらしく耳元で「手、止まってるぞ」と意地悪く吹き込まれる。ぞくぞくと快楽が背を走り、じわり、とまた膣が潤いを増してゆく。あまりの快感にうっすらと生理的な涙が浮かび、喘ぎ声に嗚咽が混じっていた。
「うッあぁ……! も、ッ!」
「イきたい? おい、勝手にイくなよ?」
 膝立ちのままの脚ががくがくと震え、絶頂が近いのは明らかだった。大柴もそれを分かっている。分かっていて手を緩めようとはせずに、あえて快楽を得るポイントを外して焦らすようなことをする。これを焦らしプレイだとは思わずにやっているのだから、相当にたちの悪い男だった。
「も、やだ……ひぅ、うぅ……っ」
 追い詰めるように尖った乳首に歯を立てられ、大柴の肩を握る指先が、俺の意思を無視してただ快楽に耐えようと力を籠める。も、イきたいっ……弱弱しい声でそう絞り出すと、口唇をぺろりと舐めた大柴の指がイイところをトントンと弾き出した。
「ひッ…………あアァっ! イっ……んああッ!」
 陰核を擦り上げられ、きゅう、と腹の奥が熱くなる。もっと欲しい。もっと。そう訴えるように両脚が、膣が震え、びくびくと背をしならせて俺は達した。
「うお、すげぇ……吸い付いてる」
「んあッ! やめろ、ばかぁ」
 入れたままの指をぐりぐりと回しはじめるが、それでも物足りないと腹の奥が疼いている。ようやく指が抜け、肩で息をしながら達した余韻に浸っていると、いつのまにか服を脱いだ大柴に「これも脱げ」と雑な手つきで唾液まみれになったレース地のブラをひったくられた。
「んっ」
 先走りの垂れたペニスをゆるゆると扱きながら、そこへそっと口唇を寄せる。舌先で雫を掬うとじわりと苦い味がした。ぺろぺろとアイスクリームでも舐めるように亀頭に舌を這わせていると、「も、いいから早く入れたい」とぎらついた目で訴えられて、ごくりと喉を鳴らした。
 コンドームを手早く被せると、喜一は俺のシングルベッドに仰向けで横たわった。小さなベッドから足が少しはみ出ているが、そんなことはどうでもいいと言うように、こちらを見る雄の顔が「はやく来いよ」と俺の手を引いている。
 セックスの経験なんて数えるほどしかないが、大柴はいつも正常位で挿れたがった。上に乗ったことはない。恐る恐る大柴の腰を跨ぎ、反り立つペニスの上に膝立ちになる。上から見下ろす大柴の姿は新鮮で、期待に濡れた顔をしているのはお互い様だった。コンドームの張り付いたペニスを握り、下着をずらして自ら入り口に宛がうと、改めてその大きさを感じて怖気づきそうになってしまう。思わずこくり、と息をのむと、ふいに大柴が俺の腰を両手でつかみ、下から突き上げるように大きく腰を動かした。
「!! んあああッ!」
 ずんっと太い杭のようなそれが身体に打ち込まれたような衝撃があった。びりびりと甘い快楽が全身を走り、それだけで達してしまいそうになる。
「まッ……まて、きーちっ……ぁんっ」
 上に乗っていることでいつもよりも深く繋がっている気がする。腰を掴んだまま腹の奥をえぐるように揺さぶられ、あっ、うっ、とひっきりなしに声が出てしまう。あの大きな亀頭でごりごりと子宮の入り口を刺激されると、もう何も考えられなくなる。いつの間にか両脚が喜一の腰に巻き付くようにしがみつき、はしたない声を上げて腰を擦り付けながら、俺は呆気なくイった。
「ぅあッ……! イく! また、ぁあッ……!」
「くっ……締まりすぎだ、バカっ」
 達している最中にがつがつと突き上げられ、快楽の波が止まらない。いっそ恐ろしくなるほどの快感にぞっと鳥肌が立っていた。ぎちぎちに締め付ける膣が大柴の精を搾り取ろうとうねり、「はァ……も、出そ……っ」と眉根を寄せた大柴が絶頂が近いと訴えていた。
「ん、ぁあっ、また、ダメッ、イっ……!」
「あ、イく、っ……ああっ!」
 何度目かの絶頂を迎えるなか、奥へと突き上げた大柴が果てた。コンドーム越しでもはっきりとわかる、どく、どくと精を吐きだす鼓動を感じながら、大柴の身体に身を委ねると大きな腕が抱きとめてくれる。耳元で聞こえる力強い心音に、お前はおれのものだと言われたような気がした。
「あれ、その下着かわいいですね」
 新しいの買ったんですか? 急に声を掛けられ、思わずびくり、と肩を揺らした。練習着の袖に腕を通したままの格好で振り向く。同じく隣で着替えている生方が、この手の話題を振ってくるのは珍しいことだった。
「あ、うん。可愛いだろ……」
「もしかして大柴先輩に貰ったとか?」
「へっ?!」
 図星を突かれ、今度こそ素っ頓狂な声が出てしまう。二人しかいないロッカールームに声が響き、しまったと思ったがもう後の祭りだった。
 頭のいい後輩は恐ろしく察しも良い。まさかこんなところでそれが裏目に出るとは思わず、これ以上誤魔化しても無駄だと悟ると素直に頷いた。
「へぇ……なんかそういうのいいですね。愛されてるっていうか」
 意外だなぁ、と笑う生方は、なぜか当事者である俺よりもずっと幸せそうに頬を染めている。あまりこの手の話題を部内でしないようにしていたこともあり、同じ女子とはいえ生方にこんな話をすることに何とも言えない気恥ずかしさを感じていた。
 着替えを終えた生方がパタン、とロッカーを��めると、「あ」と思い出したかのようにこちらを振り向く。
「先輩、知ってます? 男性が女性に下着を送るのって、自分の色に染めたいっていうアピールらしいですよ」
「っ……!」
 いたずらっぽく笑う生方に、なんとなくそんな意味だとは予感していた。
 腕の下に隠れている自分の下着に視線を落とす。熱を孕んだ瞳でこちらを見つめる大柴を思い出し、すべてがあいつの思惑通りなのだということに気づくと、じわり、と下着が濡れたような気がした。
 
                   (すべてきみの思いどおりに)
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