Tumgik
#詠唱:古き護り手
tanakadntt · 1 year
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グッズのマリン三輪隊の話(二次創作)
あなたの詠唱はどこから?
 三輪秀次はビリジアングリーンの毛先を持つデッキブラシをぐるりと回して、コツンと甲板に突き刺した。風がデッキを渡り、身につけたセーラー服の襟がふわりと浮いて首を包む。腰の金ボタンが僅かに震え、陽光を反射し、古寺が一瞬目を瞑った。
 『詠唱』が始まる。
 しかし、その詠唱はお粗末なものだった。
「……世界を繋ぐ青い空‼ えーと、希望の空から降り注ぐおひさまのシャワー‼ ……んん、きらめくソード‼ キュア…」
「違います!」
「違う!」
「違うってよ〜」
「違うのか?」
 隊員たちからすぐさまダメ出しされ、隊長は詠唱を途中で遮られたことに不服のようだ。
「それは詠唱じゃないな」
 奈良坂は手旗をバツ印に重ねながら言う。こちらもセーラー姿だ。本日、三輪隊は嵐山隊他と一緒に広報の撮影に来ている。メインはやはり嵐山隊で、三輪隊も「他」に入る部類なので待ち時間が多い。
 スタジオ撮影ではない。わざわざ海近くの公園まで来て、観光用に係留されている帆船を借りての野外撮影だ。そんな場所だから、隊服の撮影ではない。隊それぞれに衣装が用意されている。マリンを意識した、水兵服風だ。
 そういうのは、広報部隊だけでいいだろうと思う人間は結構いるはずだが、どうしても必要だから、とメディア広報室長の根付から、ではなく、営業部長の唐澤に爽やかに笑ってポンと肩に手を置かれると誰も断れない。三輪も同様だった。
 時期を違えて、他の隊でも撮っていると聞けば尚更だった。
「さっきから何をやっている」
 やはり撮影待ちの風間が船底からデッキに出てくる。隣には緑川もいる。嵐山隊他の「他」の仲間はこの風間蒼也と緑川駿で、なぜこの二人が隊ではなく、それぞれ呼ばれたのかは唐澤にしかわからない。
 風間は蒼也の蒼にちなんでブルーの、緑川は緑にちなんでグリーンのセーラー服を支給されている。三輪隊は隊服カラーの紫だ。皆、まったく一緒という訳でなく、少しづつ違っている。
 そのことに言及すると、奈良坂から何を当たり前のことを?と言いたげな視線を送られたので黙った。
例えば、緑川と風間のセーラー服は造りはほぼ一緒と言えるが、色はもちろん、金ボタンの位置やズボンのデザインが違う。さらに風間はつばを深く折ったような帽子を被っていた。セーラーハットというそのままの名前の帽子らしい。一方、緑川は縁にリボンの付いたベレー帽だ。彼の衣装は横ボーダーのインナーと短い丈のセーラージャケットで、両襟をアクセサリーで留め、まるでアイドルのようだった。
「先輩たち、暇だから遊んでるんでしょ」
 中学生に訳知り顔に指摘されて赤面する。尊敬する風間の前で言われるのも恥ずかしい。しかも、図星だった。
「棒が二本あるだろ? だから、オレが槍の使い方を教えてたんだけど、スタッフさんに危ないって怒られてさあ」
 米屋陽介が説明する。
「陽介、棒じゃなくてデッキブラシだ」
「棒だろ」
 デッキブラシは撮影の小道具で三輪と古寺のふたりがブラシ係だ。奈良坂は旗係で、二本の旗を持たされている。気に入っているようでずっと持っていた。米屋は何故か皮袋だ。デッキブラシを持たせても槍にしか見えないと思われたのだろう。ネクタイも腰に引っ掛けていて、休日に出かける船乗りという設定なのか、ラフな感じがよく似合っていた。
「それで、この棒を槍じゃなくて杖ってことにして、詠唱ごっこしてた」
「詠唱?」
 風間が首を傾げる。三輪が横から説明する。
「魔法使いが杖を使って呪文を唱えるじゃないですか?」
「ああ」
「最初は適当な呪文を言ってたんですが、今度は何かを召喚してみようって話になって」
「召喚?」
 緑川が面白そう、と言っている横で さらに風間が首を傾げる。三輪は申し訳なくなってきた。元々、考えついたのは三輪ではなかったから説明もしづらい。今度は奈良坂が助け舟を出す。
「魔法使いのごっこ遊びみたいなものです。魔法で精霊を呼び出す呪文を、一番それっぽく言えた奴の勝ちというルールです」
 奈良坂は進学校の学生らしく説明が上手い。しかし、明快に言語化するとますますやっていることのバカっぽさが際立った。
「それで三輪先輩ダメ出しされてたのかぁ」
 緑川がニヤニヤする。
「……」
 彼は迅以外には大体こんな感じだから三輪も気にしないことにしている。
「三輪は全然ダメだった」
「……」
 それには反論しようもない。三輪が魔法と聞いて連想するのは、昔、姉と観ていた魔法で変身する女児向けアニメしかない。
「今度は奈良坂がやってみろよ」
米屋が言った。
「ああ」
 コホンと奈良坂は咳払いをして、旗を上に構えた。デッキブラシではなく、こちらにするらしい。奈良坂の衣装はダブル六つボタンの付いたジャケットのようになっていて、カチッとした印象だった。
 長い腕で、二本の掲げた旗をくるり回すと舞踊を見ているかのようだ。奈良坂の詠唱は短かった。
「エクスペクト・パトローナム!」
「へ? 短くね?」
 ハリーポッターに全く興味のない米屋が無表情になる。元々、目に感情が入らないから少し怖い。
「守護霊生成ですから召喚とはちょっと違うかと」
 古寺が遠慮なく指摘する。
「ダメか」
「精進しろ」
 風間もわからないながらも審査に参加する気になったらしい。
「はーい、次オレ〜」
「よねやん先輩、頑張って」
 三輪からデッキブラシを渡され 嬉しそうにひと振りする。ぶんと勢いよく、棒がしなった。槍にしか見えない。彼の上着もジャケット仕立てで、奈良坂と違うところはシングルボタンである。大きく開いた上着から青の縞模様を見せている。足元はビーチサンダルで裸足同然だ。
 彼は魔法、魔法だよなあと呟いた。
「陽介、ちちんぷいとかじゃあダメだからな」
「と、思うじゃん?」
 米屋はニヤリと笑って、デッキブラシの柄でカンッと床を叩いた。そのまま、柄を丸く滑らせていく。
「魔法陣グルグル トカゲのし…」
「パクリでしょう!」
 また古寺が突っ込む。弟が二人もいて、少年漫画に詳しいのは彼しかいないのだ。
「そういえば、作戦室で観てましたね」
「テストで誰もバトってくれねえんだもん」
「勉強しろ」
「よねやん先輩かっこ悪い」
「ちぇー、奈良坂はパクリじゃねえのかよ」
「おれが許します」
「贔屓ィ」
 古寺は咳払いだけして無視する。
「じゃあ、次は古寺だな」
 風間は冷静に順番を数えた。
「はい、風間さん」
 途端に古寺が自信のなさそうな表情をする。三輪は「がんばれ」と励ました。
 後輩はデッキブラシを三輪から受け取って、杖を握り横に構える。目を閉じる。他の隊員たちよりひとつ下の年齢を意識してか、かわいいデザインになっていた。サスペンダーをし、ネクタイもリボンのように結んでいる。靴も軽快なスニーカーだ。
 しかし、その時、周りの者には風にはためく不吉な黒いマントの幻想が見えた。
「原初の時空に彷徨う白き者よ、我が誓願を聴きたもう。我が名を持ってここに顕現せよ。我は古寺章平、黄昏の支配者にしてこの地の放浪者なり」
 みんなポカンとしていた。
「これより一切の慈悲なく我が敵を殲滅よ!」
「ハーイ、カットぉー、木虎ちゃんお疲れ様ぁ」
 向こうから嵐山隊と撮影スタッフの声が聞こえる。
「えーと、終わりました」
 デッキブラシのブラシ部分を床に下ろして、こちらを見る。いつもの古寺だ。
「なんで、そんな本格的な……」
 三輪がうめくと、メガネの縁に手をかける。
「弟とやるカードゲームによく出てくるんで覚えちゃいました」
 絶対に読み上げなければいけないルールで、と付け加える。
「スゲエよ」
 と、米屋。
「カッコイイ、古寺先輩」
「お前が優勝だな」
 奈良坂は旗をパタパタと振った。
 風間もウムとうなづく。
 頃合いよく、スタッフから声がかかる。
「そろそろ撮影に入りまーす」
「ハーイ」
終わり
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syadowverse-blog · 7 years
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【シャドバ】新カード「詠唱:古き護り手」はセラフへのカウンターに有効!?【シャドウバース】
新カードの「詠唱:古き護り手」の皆の評価は?
第7弾パック「時空転生/クロノジェネシス」の新カード「詠唱:古き護り手」の皆の評価をまとめました! 果たして実装後はどうなるのか・・・?
次の環境はコントロール環境?
ヘブンズゴーレムはものすごいアグロへの圧にはなってると思う 次の環境はコントロール環境なのかな…?
— ロココ (@rococover3) 2017年12月8日
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皆の反応
ヘブンズゴーレムの相手アミュレット消滅はきっとおまけ。 勝負決めるアミュレット出る頃には進化権尽きてるし
— わなわな@山田団 (@wana_MSL) 2017年12月8日
ヘヴンズゴーレムはアミュから出てくるやつなんだ。そのアミュのラスワでヘブンズゴーレムが消える
— ほろ (@horo_bep) 2017年12月8日
ヘブンズゴーレムはビショ版氷像ってとこだけどセラフがスタン落ちするし1ターンだけの守護で時間稼ぎして何するのか謎
進化使う分には強いとは思う
— qumu@膝下スネかじ郎 (@tetiteti1996) 2017年12月8日
古き護り手ってアミュレットにする必要あるん? ヘヴズゴーレムにそういう能力加えれば済むのに。 強いからデメリット付けたかったのか?
— Ai (@aiiro24) 2017年12月8日
・詠唱:古き護り手 ファンファーレでヘヴンズゴーレムを一体出して、ラスワでヘヴンズゴーレムをすべて破壊する効果を持つ4コスカウント1のアミュレット。ヘヴンズゴーレムについては後述だが、カウントを進めるのがデメリットになるため、新たなデッキが必要になりそうだ。 pic.twitter.com/AeHHlGAJjo
— 絶希 縷佳 (@dleonpy) 2017年12月8日
相手のアミュを消したがってる人多いけど、自分の場の古き護り手を消せばヘヴンズゴーレム残れますよー!進化権使うから、実質4/4/4守護と同じである。つまり、強い(使われるとは言っていない)#シャドバ pic.twitter.com/wDjnsKB1O8
— 霧谷霧夜@小説家になろう (@kiriya_narou) 2017年12月8日
ヘブンズゴーレムはビショップミラーにおいて最強と言われていたセラフへのカウンターカードとして絶大な力発揮しそう
— 團様を崇拝するTAZ (@Dan4Lfate) 2017年12月8日
モートンは、例えばロイヤルの先攻4Tジェノとかをうまく返せないから結構環境依存度が高そう。 マリオンはだぶったマリオンとかを対象にしてもいいから割と有用だと思う。 骸骨虫はアグロ環境対抗策としてなら入るかも? ヘブンズゴーレムは間違いなく強い。
— ブラドラ (@buradorafc) 2017年12月8日
ヘブンズゴーレムは進化切らないと氷像とあんまり変わらんね
— serin (@nn_esueirin) 2017年12月8日
ビショカスがヘブンズゴーレムとか言う氷像の上位互換出して来た。ゴーレムだったらウィッチだろうがサイゲ
— 咲夜 hurou15 (@hurou15_sakuya) 2017年12月8日
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まとめ
・ヘブンズゴーレムのイラストシャドバの中で一番好きかもしらん
・古き護り手 相手のアミュを消して中型を叩ければ流石に強く、セルフ消滅なら4/4/4守護と悪くない ただ、これらは進化前提なので、素置きで護りたい獣姫互換アミュがあるかにかかっている ウィードマン 後攻で2/2/2を捲るのは強いが、このカード自身も有利がとられやすいので環境の1コスや1点の数次第
・ハゲ2枚に古き護り手1枚はありありのあり
・古き護り手からのヘヴンズゴーレム進化で古き護り手消せるのも普通に強い
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2ttf · 12 years
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see also How to Edit a Glyph that is not listed on iFontMaker
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hisasagi · 4 years
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FKQ2振り返りとか感想とか その2
 前の記事の続きです。その2と言いつつ完結編。
・プロローグ
 諸々の事情(主に入村ロール書くのに手間取った)により入村が遅れた結果、既にいくつかのグループが出来ていた。既に出来上がっている関係に突っ込むのはとても難しい。プロローグでも開始後でも同じである。  ちょうど良くどこにでもいる大勢の一人(というRP)の少年Aが一人でスコーンを焼いていたので誘われることに。その後キョンシーのツェン、逃げ出してきた元実験動物のミタシュとともにプチお茶会が始まる。  この3人はみな不本意にゲームに参加することになった人たちで、当然嬉々として参加したポーチュラカに対して疑問を示してくれるのが話しやすく感じた覚えがある。
 解散後は"単純にいろいろな人と話したい"+"初動の秘話はプロローグで絡んだ相手に送られる傾向にあるため、既に絡んだ人と絡んでいない人と絡むことで広く情報を得られるかも"という打算から「少年A、ツェン、ミタシュと別方向へ」と意識し、ちょうど教会に1人でいたシスターのロイエの元へ。明らかに"型月"の世界の聖職者だったこともあり、話してみたかったのでちょうどよかった。
 ロイエの情報を頼りにカフェに向かい、語尾が特徴的な社畜パティシエのクリスマスに声を掛けたところでプロローグ終了。  プロローグ中に話しかけた5人+自分以外の参加者は、土佐の攘夷志士の余四朗、不良のバラダギ、壊れたナイフ投げ少女のキャロライナ、生意気かわいい優等生のヨリック、"強いババア"のボイド、初日犠牲者(ダミー)のパルック。  以上の12人(ダミーを抜くと11人)でゲームが始まった。
・サーヴァント召喚
 配布されたサーヴァントの情報は以下の通り。
[PDAにメッセージが届いたようだ……] 『役職:首無騎士』のあなたのこのゲームにおける役割は、【襲撃者】であり、【真犯人】ではありません。
【サーヴァント情報】 クラス:アヴェンジャー 真名:ヘシアン・ロボ 属性:混沌/悪 性別:男性
【勝利条件】 聖杯所持者が死亡した状態で黒幕と共に生存する
【宝具情報】 宝具[遥かなる者への斬罪]  ※GMスキル/アクティブ/真名開放 ゲーム中1度きり。表ログで自身の真名、宝具を宣言して使用する。 その日に限り、[死を纏う者] に以下の効果を追加する。
・護衛に属するシステムスキルにより襲撃スキルの無効化が行われていた場合、無効化を行ったサーヴァントを殺害する。
※この宝具は21:00までに宣言しなければ発動しません。 ※システムスキルでの襲撃に失敗した場合に、対象をGMが手動で殺害します。  そのため、襲撃スキルの無効化が行われていなければ効果を発揮しません。 ※殺害できるのは「無効化を行ったサーヴァント」のみであり、襲撃対象のサーヴァントは死亡しません。 ※光の輪を含むシステム護衛が対象となり、全ての襲撃失敗で発動するわけではありません。 ※倫敦が霧に包まれている場合、効果を発揮しません。 ※この宝具の発動を妨害するスキルまたは宝具が存在します。 ※発動のタイミングでこのサーヴァントが死亡している場合、この宝具は発動しません。
【スキル情報】 スキル[死を纏う者] ※システムスキル/アクティブ 襲撃スキル。毎日1人を選んで殺害できる。 ただし複数の襲撃スキルがあった場合、発動するのは1つだけ。 このスキルで殺害を行った場合、殺害方法は【斬殺】となる。
スキル[透明化] ※GMスキル/パッシブ サーヴァント名を指定しない調査スキルの指定先になった場合、 調査系スキルの効果を無効化する。
※相手への通知は「何らかのスキルの妨害を受け、効果を発揮しなかった」というメッセージとなります
スキル[堕天の魔] ※GMスキル/パッシブ 【黒幕】の正体を知ることができる。
※黒幕の正体は次の発言で通知します。
 首無騎士、念願の狼である。  勝利条件のメインは【黒幕】であるロイエとの生存であり、自分は【黒幕】にとっての"剣"のような立場であると想像できた。当然ロイエには開幕にコンタクトを取り、ロイエ最優先に生きることにする。また初動は【黒幕】を探すムーブで【黒幕】の敵、味方を探ることにした。
 ひとまず首無騎士であることは隠すことにする。普通のKQ村でもより大人数で終わらせるために露出したところ狼から吊るして狼全吊りエンドに向かうことは多く、加えて今回は下手に情報を開示して【黒幕】側とバレるのもまずいだろう。  さらに真名がバレるとFGOでの立ち位置から【黒幕】側の存在と知られる可能性が高く、また役職までバレる可能性がある(ヘシアン→首無騎士)。さらにロボの設定的に最悪の場合聖杯所持者を疑われる可能性もあるとデメリット尽くめなのでこちらも隠すことに。  騙り候補として同じくアヴェンジャーで混沌・悪の巌窟王を用意した。どちらも本で有名な存在ということも、適度にサーヴァントのヒントを出しつつ騙るのに適していた。
・作戦開始
 早速ロイエにコンタクトを取る。
 
 ファーストコンタクトは一番のアピールし所だ。ポーチュラカもロイエの"一番"になれるようにと強く献身を約束したり名前を10回も呼んだりした。しかしどうやらロイエ側からもポーチュラカが[布石]であるとの通知が来ていたようで、すんなり合流することに成功する。  モリアーティの勝利条件のメインは「ホームズの宝具の発動及び勝利条件の失敗」のようで、これは宝具が推理系でそれに失敗させるのが、という推測で一致した。  推理を間違わせる、が目的となると真名の隠蔽はより重要になり、自分は当初の予定通り巌窟王を、ロイエはエクストラクラスの女性、アビゲイルを騙る方針となった。ここでアーチャーCOって教授COみたいなものだもんね……。
 またロイエの役職は狂信者。自分の他にも余四朗、少年A、バラダギから狼の気配を感じたという。ロイエの言う通り、明らかに多かった。  自分��ヘシアン・ロボが配られたことから他の襲撃者も新宿に所縁のある燕青、エミヤオルタの可能性を考えたが、それでも1人多い。聖杯所持者や裏切者が混じってる可能性は高かった。そもそもエミヤオルタがいたとして彼も裏切者だし……  この少し後にロイエ経由でバラダギが狼血族、一日目終盤には余四朗が衰狼であることが判明。これにより狼数の多さ自体にはある程度納得がいった。
 ロイエと相談を始めると同時に、不特定多数に向け【黒幕】、さらにカモフラージュとして【真犯人】【聖杯所持者】を探している旨を撒く。相手はプロローグで絡んだ少年A、ツェン、ミタシュ、(クリスマス)と、絡めなかった中からボイド。相手によって��妙に内容を変えて情報の流れ方を見ようとしたが、正直後になって「彼には何を聞いたんだっけ……?」と見返す手間が増えただけだった。これ、KQ村初参戦の時から繰り返してるので次はやめます。  少年A、ミタシュ、クリスマスはこれらの役割に心当たりがないような顔であり、ツェンは「その3人を見つけてどうするか」を気にするも、彼の男性サーヴァントと共生したいという話から単純に共生相手を殺害されないか不安だっただけのようにも見えた。  そしてツェンの「【黒幕】【真犯人】【聖杯所持者】を見つけてどうするか」という質問、これをはぐらかすのは印象が悪く、かといって早々に【黒幕】側を明かしてしまうのも絶対に危険だろう。【黒幕】とは既に協力関係を築けているのもあり、ひとまず彼らの死亡が条件であると答えた。ごめんね真犯人……
 一方ボイドは「名探偵」の名を口にしており、さらにその対≒【黒幕】を探していると返答してきたのでマークすることに。
・狼血族バラダギの正体は?
 前項に示したようにバラダギが狼血族と判明した際、襲撃されることが勝利条件とも報告を受けた。本当なら心強い味方となってくれるだろう。  しかし、狼血族は狂信者を経由してほぼノーリスクかつ確実に襲撃者とコンタクトを取れるのだ。そのうえ席も取らない被襲撃条件は都合が良すぎないか?また、狂信者の感知内にトロイの木馬がいるとすれば、どう考えても非襲撃者である狼血族が第一候補である。
 隠しているものを後から教えることはできるが、一度教えてしまったものを忘れさせることはできない。バラダギへの襲撃者COはひとまず抑え、少し会話で探ってみることに。  とはいえ正体を隠したまま多少会話する程度で明かされる新事実など無く、結局バラダギは放置して名探偵探しや戦略面にリソースを割くことになってゆく。
・名探偵を探せ
 ボイドとサーヴァントの情報を交換したところ、エクストラクラスの色男…男性であることが分かった。  ……いやホームズでは?  つい勢いで直接聞いてしまうもはぐらかされるが、その後役割の有無を聞いて回っていたのもあってボイドへの疑惑は深まっていく。役割無しを探すヨリック、キャスターを探すミタシュ、男性サーヴァントを探すツェン…と、他のプレイヤーの動きにホームズらしさの欠片もないのも大きかった。  一方でキャロライナは条件が黒幕と真犯人の全滅だという。しかし四騎士とのことなのでこちらもホームズとは違うように感じた。
 ところで、ボイドから「名探偵」の話を聞いて以降  建前上は『【黒幕】【真犯人】を見つけたいけどツールがない……→「名探偵」なら推理のためのツールを持ってるはず!→「名探偵」を見つけて協力を仰ごう!』という理屈で直接「名探偵」も探し始めていた。  結果的にこれは良くなかったらしく、キャロライナと話しているなかで「実は本当に探してるのは名探偵なのでは?」と自分が怪しまれていることを知る。
・俺を呼んだな! 復讐の化身を!
 露骨に「名探偵」を探すのは止めたが、一度始まった疑いを晴らすのは難しい。サーヴァント騙りを利用して挽回を狙うことにした。
 ロイエからの情報によるとボイドのサーヴァントの属性は混沌・悪。  エクストラクラスので混沌・悪の男性かつ、ホームズにゆかりのある人物といえば思い当たるものがいる。そう、巌窟王である。もともとの騙り候補でもだったのでちょうどいい。  FGO1.5部の新宿ではホームズが巌窟王に変装して登場した。ヘシアン・ロボが調査を妨害するスキルを持っているように、ホームズが調査結果を巌窟王のものに偽るスキルを持っているとしたら……?
 偽のプロフィールとそれっぽい告白文をしたため、ボイドに送りつける。
 
 【共犯者】という"ない"役割を出すことで暗に巌窟王をCOしつつ、それまで「役割はない」と隠していたものを明かすことで「ボイドさんを信頼して明かした」風に。「巌窟王のマスター本人だからこそ、巌窟王騙りに気づいた」感も拾ってもらえるかなと思っていた。  ボイドからは【共犯者】には心当たりがあるとの回答。それなりに信用してもらえたらしく、しばらくして名探偵の「助手」COをゲットした。  即座に初手での襲撃候補に入れつつ「ホームズの助手をするサーヴァントって誰だ……?」と考えていたが、翌日発言が解禁されて早々に【名探偵】ホームズをCO。助手なんていなかった。どうやら巌窟王の偽装スキルはやはり実在したらしく、騙りがボイドの中で色々と噛み合ったようだ。やっててよかった新宿幻霊事件。
・二日目、立ち込める暗雲
 少し巻き戻り初日ラスト。  いつものように初日犠牲者(今回はパルック)の処分ロールが始まるのだが……
『ああ……神様
Ygnaiih……ygnaiih……thflthkh’ngha.
我が手に銀の鍵しろがねのかぎあり。
虚無より現れ、その指先で触れ給う。
我が父なる神よ。我、その神髄を宿す現身とならん。
薔薇の眠りを越え、いざ窮極の門へと至らん……!  
     <クリフォー・ライゾォム>      [光殻湛えし虚樹]』
 アビーちゃん、その詠唱は困ります。  ロイエの騙り案はまさかのダミーに潰されることになった。エクストラクラス、混沌・悪、女性という騙り情報は既に流れており、急遽該当するサーヴァントを調べた。  キアラに水着BBは論外であり、ゴルゴーンも場違い感が否めない。ティアマトはなんでここにいるの。
 消去法的に一番倫敦にいて違和感のなさそうなゴッホにしないかと相談するが、ゴッホ実装は去年の11月。新しすぎて騙り感しかしないのでは……?という不安しかなかった。  ちなみにFKQ2のwiki立ち上げは10月末。こっちの方が古いではないか。
 しかしこれは黒幕陣営苦難の序章に過ぎなかったのだ。
 まずロイエのホームズ盗聴スキルにより、ホームズ=ボイドがスキルで少年A=白狼をほぼ掴んだことが判明、さらにパルックは【真犯人】により【刺殺】されたとの話。  つまりここで【真犯人】=【襲撃者】が確定したということであり、直後の余四朗の動きと合わせ真犯人=少年Aは確定的となる。本人から聞いた名探偵ボイドの勝利条件は「宝具で【真犯人】を指名すること」だけなので、こうなるとボイドが勝利条件達成=ロイエが条件達成不可で死亡=自分も条件達成不可で敗北。絶対に避けたかった。
 そんな状況で余四朗から【黒幕】ロイエの殺害依頼が届く。ロイエ曰く、衰狼なので自分は衰退することで殲滅勝利にも協力できる狼なのでは?という話だ。そんなのってある???  余四朗が黒幕に敵対することで噛みを明確な"敵"に奪われる可能性が生まれた。さらにその"敵"は黒幕の正体を把握しており、ついでに殺害依頼をされることでこちらの条件騙りも崩れようとしている。加えて【真犯人】の情報も持ってるらしい。何なんだコイツ。  とりあえず裏の動きや人間関係を探るためにロイエ=黒幕の情報源だけでも聞こうとするが、こちらの開示不足を理由に交渉は決裂。やべ~!
 精一杯の足掻きとして「情報源が不明瞭だから不安」と吹聴して回ったり、誤爆してきたヨリックにわざと早とちり共犯者COをして責任を取らせようとした。
 一方ボイドはボイドで得た白狼のスキル情報から見事に少年Aを【真犯人】と予想。  さらに自分が「ミライさん(=少年A)秩序・善らしいし犯人っぽくないかも?」と問うことでかえって真名「ヘンリー・ジキル/ハイド」にたどり着かせることに。土下座。
・むりです
 ロイエの仲介により、実際に【真犯人】であった少年Aと本格的に協力姿勢と取ることに。  少年Aとはかなり話してる相手が違ったらしく(自分が限られた相手としかやりとりしてなかったとも言える)キャロル守護者などの新情報が得られた。また彼はこちらが騙っていた【真犯人】殺しの条件に警戒していたようだった。まあそうなるよね……
 そして、やっぱりというかポーチュラカ吊りに票が動いているらしい。こちらはロイエに襲撃をセットするであろう余四朗に票を集めることにする。しかし票が集まるだろうか……。  襲撃側と協力したいと言っていたツェンは余四朗にロイエのサーヴァントがモリアーティという調査結果を流した犯人だったらしく、バラダギもactで余四朗と仲良くやっている姿が見えていた。他はほぼボイド、キャロルの探偵側か、席の都合上襲撃者殲滅の方が勝てる人数が多いであろう中立勢力だ。まずい。それでもバラダギには一応連絡を取ってみたが、案の定襲撃者ってバレてた。むりです。  一応バラダギには真の条件を投げておく。これで無理ならなにやっても無理だ!
 さらにバラダギへの連絡と前後して、キャロライナからも「役職分かっちゃったって言ったらどうする?」などと秘話が届く。これ絶対裏で余四朗組と協力してポーチュラカ吊ろうって相談してるやつじゃんひどい……まだ誰も殺せてないのに……。  自分の中では半ば諦めムードが漂っていた中、表発言が動く。  ロイエさまの黒幕COである。
・真名開放
 ロイエさまの黒幕COを含めた表発言の内容は大まかに分けて2つ
1.モリアーティの勝利条件「ホームズの敗北と悪属性の生存」を公開し、名探偵陣営以外への無害さをアピール 2.余四朗を聖杯所持者でないか疑う。
 余四朗を聖杯所持者候補も含めたとして吊る動きだ。
 ところがこれに対抗して余四朗が真名開放。  真名「アンリマユ」  宝具【偽り写し記す万象】[ヴェルグ・アヴァスター]  を宣言し、投票したやつは斬るみたいなことを言い始める。  そんなねじれ天国の詐欺師(一度だけ、投票してきた相手全員に絆をつけられる狂人)みたいなツールがあってたまるか。
 ところでロイエさまが【黒幕】として露出したため、勝利条件「【黒幕】か【真犯人】の宝具での殺害」を騙っていたポーチュラカは真なら嬉々として宝具を使う場面なのだ。実際キャロライナから「ロイエに撃つよね」と圧をかけられる。キラークイーンRFSのドンの気持ちが分かった。  さらにツェンからは「きみってなにものなの……?」と不安がられる。そこまで得体のしれないものだという自覚はなかったが、そもそもバラダギや余四朗と上手く行かなかったのも隠し事が多かったからだろう。また、余四朗を聖杯所持者として吊らせることを狙うなら自分が聖杯所持者でないと信用してもらうことも必要だ。それに主かつ生死を依存する立場であるロイエさまが露出した以上、自分が隠れる必要はもうなかった。
 
 
 結果。表で主が戦っているのだ、自分だって戦わないと布石の名が廃る。  基本的に自身の情報の開示以外はロイエさまの発言に追認をかけ、ついでに余四朗の危険性を説く形にした。ビーストのマテリアル構文が使えて大変満足している。
 さらに余四朗を聖杯所持者塗りするために要素を洗ってまとめているうちに、「こいつ本当に聖杯所持者なのでは……?」と思えてきた。探偵側に噛みが奪われる可能性があるのむりすぎるし、噛み奪えて被投票で人殺せたら実質無敵の人では???  >>2:17を投下して追及を進めたところ、余四朗の動きはロイエさまに送っていた秘話とも噛み合わないことが判明。それ以外にも余四朗の発言は後出しや論点のすり替えが多く感じ(【真犯人】がいたら宝具発動しないんじゃなかったのかよ!とか)、聖杯所持者疑惑は話すたびに深まっていった。
 この辺りは吊り回避に必死だった一方で滅茶苦茶楽しくて、今見てもここはやはり表に出て正解だったと思う。  特にロイエさまに対して表で堂々と仲間ムーブができるのが、それまでactも使わないくらいには表から見た関係を切っていた(それでもレスポンスの時間差や情報量から協力関係は透けていたようだが)こともあり、本当に楽しかった。
・最後の希望
 表でのやり取りが白熱する一方、当然ではあるが秘話の着信は一気に減った。不安ではあるがこちらからメッセージを送るアテもptの余裕もなく、余四朗も同じくらい孤立していることを願う限りであった。  そんな中、仕事を終え帰宅したクリスマスから「あなたたちの描く地図って最終的にどんな着地考えてる?」と秘話が。どうやら自分と共存相手の席さえ確保されているならこちらに鞍替えもやぶさかではないらしい。クリスマスさんマジ天シーラカンス!
 
 ざっと試算してみたところ、処刑なら復活できるロイエさまや、襲撃されたいバラダギの存在のおかげで自分と少年Aの2W残りでも7人が勝利できる。7/11が勝てるなら十分だろう。  既に更新まで一時間を切っていたため急いでクリスマスに返信。どうやらクリスマスとは対立しない条件らしく、返答には共存相手(ミタシュ)の開示もあって感触は悪くなかった。  これは余四朗吊れるのでは?ロイエさまに牙を向けたこと、後悔せぇや!
・三日目
 吊られた。現実は非情である。
・あとがき
 三日目は順当に少年A、翌日には当然のように余四朗が吊られ、狼三連吊りでゲームセットとなった。途中ボイドが少年A=【真犯人】を当てたためロイエさまも死亡。名探偵の完全勝利である。
 蓋を開けてみるとバラダギは襲撃者殲滅が条件でキャロルは守護者じゃなくて錬金術師と、こちらが一方的に騙されていた形に。仮に余四朗を吊れてもキャロル噛みで自分か少年Aが落ちるってひどい。あと余四朗はやっぱり聖杯所持者だった。
 改めて読み返してみると、この村固有の要素である【黒幕】VS【名探偵】に気を取られてKQ村では必要不可欠な信頼関係の構築が疎かになっていたなと感じた。特にツェンや少年Aと初日から協力関係を結べていれば調査ツールを自分やロイエさまに使われず、むしろ使ってキャロルの役職騙りを見破れたかもしれないのだ。生きていたうちは欠片も知る由がなかったが、ヨリックという脱【黒幕】手段もあった。  それ以外の相手でも、情報の隠匿は協力できる相手と協力する機会を失うだけでなく調査ツールで調べられる理由にもなる。特に襲撃者であることはもう少し早く、多くの相手に開示してよかったように思う。まあそれはそれでバラダギから密かに命を狙われることになるのだが。襲撃者って辛い。
 以上で振り返りは終わり。RP面で書けていない部分(ポーチュラカって兄と姉が一人ずついるんだよ!知ってた?(自分以外知らない))もあるが、twitter等で機会があった際にだらだら話すことにしよう。  この記事が他の人の動き方の参考になったり、これを機にKQ村に興味を持つ人が出てきたりすれば幸いだ。でも個人的には、誰よりも今後KQ村に参加した際の自分への助けになればいいななどと思っている。  おわり。
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keredomo · 4 years
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短歌がわからなくて泣いていた
短歌が流行っている。たぶん世間的に流行っている。世間とはわたしの周辺でしかないし、カクテルパーティー効果?か何かでもともと世にはびこっていた短歌なるものが急に目につきだしただけかもしれない。でも、それでもなんか、なんか絶対に流行っている。と思う。どうも短歌を目にする機会が加速度的に増えている。Twitterに流れてくる短歌に、かわいい挿絵や写真がついていたりする。それらに怒涛のfavがつく。まあわかる。短くておしゃれで平面表現と調和する素敵っぽいものは感性にダイレクトに響くから当然流行る。短くておしゃれで、一見するとわかりやすい。しかしわからない。わたしには短歌がわからない。わからないのだが、短歌に挿絵や写真がつくのが妙に気に入らない。気に入らないのがなぜなのかわからない。自分の感覚を擁護できないので悔しくて泣く。
というわけで現代短歌がわからなくて泣いていた。泣いていたらこんな本のことを思い出した。三上春海・鈴木ちはね『誰にもわからない短歌入門』(稀風社、2015年)。「誰にもわからないんだ……」と思いながら買って読みはじめた。正直、誰にもわからなくても自分にはきっとわかるぞと思いながら読んだ。ところが読んでみて、やはりわたしにも短歌がわからない。しかしわかったこともある。「短歌の何がわからなかったのか」である。ありがとうございます。
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短歌の巧拙がわからない
 丁寧に暮らしている中年の女をすごく好きになって背後から性器をねじこむ
 きれいな男を見かけてなぐりつけおしたおしおかし孕むまで見る
前者はフラワーしげる(*1)『ビットとデシベル』(書肆侃侃房、2015年)に掲載の短歌で、後者はわたしが今テキトーに作った。別にきれいな男を見かけて殴って押し倒して犯したりはしてはいない。断っておくがそういう欲望も特にない。
さて、短歌の巧拙がわからない。丁寧に暮らしている中年の女をすごく好きになって背後から性器をねじこむことと、きれいな男を見かけてなぐりつけおしたおしおかし孕むまで見ることの事象の違いはわかるが、だいたい31文字におさまったこの2つの文字列の評価が短歌の出来としてどう優劣の差がつくのかわからない。当然、プロのフラワーしげるが七転八倒しながら作ったものは素人ですらないわたしが今テキトーに誂えたものより100億倍良いんだけど、それがなぜだかわからない。
というわけで、『誰にもわからない短歌入門』を読み通してみると、この問題についていくつかヒントが見えてくる。まず技術の巧拙という点では、現代短歌においては「韻律」「文字表記」「音の置き方」「定型の遵守/逸脱」などの選択に命が懸っている。そこにさらに文学的価値として「視点の単層性/重層性」「時間」「テーマ」「文体」「メタ度(偶発性)」などの大きな穴が被さってくるのだから難しい。本書ではこのような多種多様の論題について、38(+2)首の短歌を例題として著者の三上さんと鈴木さんを往復して論じてゆく形式をとっている。その往復のなかで挙がってくる話題をすべて拾い上げると長くなりすぎるので(ぜひ読んでください)、自分の最初の問題意識に沿ういくつかの主題についてわからないなりに感じたことを述べてゆくつもりです。
短歌の主体がわからない
さて、先ほど、別にきれいな男を見かけて殴りつけ押し倒し犯し孕んだりはしていないわたしが「きれいな男を見かけてなぐりつけおしたおしおかし孕んでも見る」、あ、間違えた、「孕むまで見る」と詠んだわけだが(*2)、そもそもこの作者のわたしと作中主体の〈わたし〉について、読者はかなり注意していないかぎり混同しがちなのではないかと思う。というのも、小説などと違って主語がほとんど明示されないため。小説では固有名詞の固有な物語が編まれることによって作者の影は薄れる(からこそ逆説的に作家論などが跋扈したのだろう)が、短歌はどうもそこがぼやけてしまう。これについては鈴木さんが言及していた。
昨今の短歌では歌の中の主体である〈わたし〉というのは、必ずしも作者の人格と同一なものではない。かといって歌の作者と〈わたし〉が全くの無関係であるとも言えない。卑怯な言い方をすれば、それは作者個々人の考え方にもよるし、また一首一首ごとにさえ揺らぐような関係性なのだろう。だから僕たち読者には一首の中の〈わたし〉と作者の関係を知ることは難しく、その判断を保留にしたまま歌を読むための便利な道具が「作中主体」なのだ。(鈴木、p.22)
「作中主体」の存在を頭に置いて現代短歌を読むと、主体のあわいが揺れて、何か深いことがわかったような気になるのだが、だからってその読みがすべてだと思ってしまうと危うい。鈴木さんが指摘したようにそれが留保に過ぎないことを、案外忘れがちだと思う。
便利なものはどんどん使っていくべきなのかもしれないが、その効果はあくまで判断を保留するだけであり、また便利な道具を使うときに捨象されるものがあることを忘れてはいけない。(同)
たとえば与謝野晶子が「柔肌の」「その子二十」と詠んだものをわたしたちはどうしても与謝野晶子の生として読んでしまう。彼女の歌は彼女の生き様とあいまって感動を呼び起こす(少なくとも大正時代の彼女の歌の読まれ方はそのようだったのではないかと思う)わけで、そこに別の「作中主体」を置いてやると途端に冷める歌の熱というものは間違いなくある。読みに正解はないが、それが便利だからといって作中主体の常用を惰性でおこなうことばかりを批評正当的な読み方だと思ってしまうと、見落とすものが多すぎるだろう。
与謝野を例にとってしまったので話が混乱しているけど、現代短歌というのは作者性を透過する傾向にあるんじゃないかな。葛原妙子などを見るとそうでもない気がしてくるが、とはいえ個人差(作品差)があるといって片付けられない程度には、現代短歌の特性として作者性の透過が発生しているのではないか。かといって透明の作者への志向性を認めてしまうと、こんどは「作中主体の存在を意識しすぎないようにする」ことが難しくなってくる。とにかく、便利なツールには警戒するべきだ。利便性と距離を置くことでしか見えないものも多い。
ところが。この慎重であらんとする態度を嘲笑うかのように、そして作者性の透過傾向などあまりに的外れな感覚だと指をさして笑うように、短歌で日記をやるという試みがよく(伝統的に?)なされているそうだ。本書に取り上げられているのは、望月裕二郎『あそこ』(書肆侃侃房、2013年)から掲出の以下の歌。
 十月十八日  ペリー公園で昼食。海沿いで育っていたらどうだったかな。
この歌については、文体の乾き、私性の乾きということについて三上さんが述べていて、それを受けて鈴木さんの往信では〈わたし〉の問題に触れている。
近代短歌と日記の相性がなぜ良いのかというと、それはおそらくどちらも自己同一性を担保にしているからだと思う。(……)近代的個人にとって日記と言うのは、過去の時分と現在の自分の連続性、同一性を確認するための宿痾的作業であって、その記述は同一性に担保されつつも、それ自体が同一性証明になっているという相互依存の関係にあって、短歌における連作もまた同様に、それ自体が〈私〉の同一性を担保にしつつも、その同一性は結局連作という制度によって保証されたものであるという循環論法に陥る。(鈴木、pp.72-73)
先ほど与謝野を例示したが、もしかするとこの「自己同一性」というものについては、むしろ読み手の方に、揺るがされたくないという意識があるのではないかな。近代短歌の時代にはありそうだけれど、現代にもあるのかな。(*3)やはり、作者の存在というのは原理的には連作のタイトル程度のものにすぎないことを心にとめることは、短歌を読み解くのに重要な前提となってくるのではないか。
そういえば、日記について考えるときに思い出されるのは俵万智のサラダ記念日かもしれない。よく知られているとおり、褒められたのはサラダではなかったし、その日は七月六日でもなかったのだが、S音のために、そして印象の手垢をかんがみて恣意的な操作をおこなった結果として、完成したのがあの歌であった。サラダじゃないって知ったときは結構衝撃だった。俵リスペクトで七月六日にサラダ食べてたのに。
この歌に詠まれているのは現在の〈私〉とその同一線上の存在である過去の〈私〉ではなく、「海沿いで育っていたら」という可能世界上に存在する〈私’〉への憧憬だ。同じ日記体であっても、そこには近代短歌的な規範とは何か根本的に異なる地平に立った〈私〉の存在があるように思われる。(同)
わたしを〈わたし’〉にまで遠ざけて、短歌の主体が一体どこまで走っていけてしまうのか、少し不安になる。どこかでリアリティにしっぽを掴まれたままでなければ、そこに書かれたものを読める人などいなくなってしまう。作者の一般的な想像力に全ての読み手を振り払うほどの飛翔が遂げられるのかはさておき、そうなったときに、表現とは一体何なのかと、霧中にて途方に暮れることは幸いではあるまい。幸いだからいいということは何ひとつとしてないのですが。どこかへ進む希望を与えぬ闇は表現の在る姿としてあまり幸福でない。
短歌に絵をつけるのが気に食わない理由はわかった
主体について、〈わたし〉の先にさらなる〈わたし’〉が出現しうることが明らかになった。これをふまえて端的に述べると、短歌に絵をつけるのが気に食わないのは、短歌に詠まれた世界の多層性を台無しにしうる(あくまで「しうる」ではあるが)所業のように思えるからだ。
三上さんが「二重写し」という言葉で説明しているが、短歌に乗るイメージは一元的ではありえない。言語それ自体を志向するような詩形態を除く言語芸術の多くはたしかに未だ写実主義的であり、小説などはことさら、一文に一つの意味を乗せ(*4)、それを緻密に積み重ねていくことでイメージの多義性と時間性を獲得していくものだが、現代短歌はその方法を脱構築して多層的なイメージを31文字に取り込んでいる。
掛詞や暗喩は「二重写し」の技法であると前項で述べた。星野しずるに用いられている「二物衝撃」や、上の句と下の句の呼応から生じる「短歌的喩」(吉本隆明)など、短歌の喩の多くはこの「二重写し」の技法によって成り立っている。特に前衛短歌は暗喩を基調とし、世界と反世界の「二重写し」を志向していた。(三上、p.62)
技法として挙げられた掛詞についてはこのような例が出ている。
「落ちる」のなかには「散る」が含まれて、また「落ちる」の古語である「落つる」には同じ部分に「吊る」が見いだされる。樹をしならせて花が落ちることがたとえば首を吊ることを匂わせる。単なる駄洒落と掛詞はだから微妙に違う。駄洒落は意味と無意味の重ね合わせからなるが(……)、掛詞においては複数のイメージが意味をまとったまま共存する。(三上、pp.60-61)
ひとつの言葉に意味の複数性を込めたり、並べた複数の言葉が二色のセロハンが重なるようにしてひと所に多層のイメージをちらつかせたりする。言葉を厳密に精査し繊細に扱うことによってのみ可能になる複層性が、この文字数の制限された言語表現においてきらめくのだ。
散文ではフィクションであってもノンフィクションであっても、単線的な記述をミルクレープのように何層も何層も膨大に積み上げていくことで、総体としての複線性、複層性を取り戻すことが目指されるのだが、韻文では文字列、あるいは語りそれ自体が単線的でありながら、同時に複線的であることが目指される(三上さんが言うところの「二重写し」)。(鈴木、pp.64-65、下線は本文中の傍点)
多層性、複線性は、冒頭に述べた主体の問題だけが担うものではない。そこに置かれた言葉にどれだけ深く潜れるかを問われる言語芸術というものに対峙するとき、とくに制限された文字数のために一字の重みを増している分野においては、「桜」を桜色の桜花としてのみ扱って過ぎてしまえば底はあまりにも浅い。イメージングの多層性の凄味があるものに対して、絵や写真をつけて揺蕩うものを固定されるのがいやだ。そんなところで楽をしたくないし、読みを蹂躙されたくない。されたくなくない?(*5)
ところが、イラストレーション=図説の是非ということについて考えると、今度は短歌がおこなう「写生」の問題が持ち上がる。
三上さんは本書の(11)で、木下こう「首飾りはづしてのち」『体温と雨』(砂子屋書房、2014年)から以下の短歌を取り上げて写生について言及している。
 昏れやすきあなたの部屋の絵の中にすこし下がると私が映る
この歌はすくなくとも「写生文らしく」はない。しかし私たちはこの歌に確かな手ざわりを覚える。「昏れやすき」「すこし下がると」は現実ではなく、このひとの〈現実感〉を忠実に描いている。そのようにして、「写生文らしく」ない歌にも宿るリアリティがある。茂吉的な意味での「写生」とはおそらくそれである。(三上、p.37)
「茂吉的な意味での『写生』」とあるので、茂吉の写生に徹したように見える歌を探して引いておくとこんなかんじ。料理歌集の『霜』(1941年)より
 かぎりなき稲は稔りていつしかも天(あめ)のうるほふ頃としなりぬ
広く輝き風に波立つ黄金の海が見えるようですね……ため息でちゃう……。しかし、茂吉にも料理歌集なんてあるんですね。かわいい。平凡社とかから出てそう、料理歌集。「クロワッサン焼いて待ってる 深夜2時・深夜3時・早朝4時」とかそういう。そういう料理の。はい。あ、出てない。出てませんか。そう。ですよね。はい。クロワッサン焼いて待ってるんで出してください。よろしくお願いします。
田山花袋らの自然主義文学が目指したのは「告白」によって人間の真実に迫ることであり、齋藤茂吉は生を写すものとしての「写生」と「万葉調」によって人間の「生命」に迫ろうとした。一方で戦後、塚本邦雄などの前衛歌人は、虚構の、句またがりと句割れを多用した非生命的な韻律の短歌を唱導した。だがそこにおいて志向されたものは「魂のレアリスム」(塚本邦雄『定形幻視論』一九七二)でもあった。(三上、p.70)
すなわち、ここで言われる「写生」は「写実」とは異なり、直接的な言及を避けながら感覚を包摂すること、そして時間の経過を包摂することが技巧としての写生であるということだろう。文字通り、ひろびろと豊かな「生」を写し、抱きこむこと、あるいは明け放つこと。「二重写し」によるイメージの空間的・時系的多層化に時間感覚の包摂を加えて、歌の世界観は主体を端緒に読者を巻き込み果てしない広がりを見せる。
作為への抵抗感
ところで、ここまでわたしは作者の作為と技巧に素直に感心し続けてきたわけだが、どうも作為は手放しに称揚していいものではないようだ。この本の第一章である(1)に鈴木さんが述べたところを読んでほしい。
これは多分に恣意的な読みであるけれども、同時にそうした読者の「恣意的な」読みへと誘導する、単なるレトリックではない呪詛のような深い作為がこの一首には強く潜んでいる。僕は正直に言ってあまり笹井の歌を好かないのだけれど、それはこの深いところに通底する作為への抵抗感なのだと思う。(鈴木、p.11)
これは笹井宏之「国境のどうぶつたち」『てんとろり』(書肆侃侃房、2011年)から
 どろみずの泥と水とを選りわけるすきま まばゆい いのち 治癒 ゆめ
という歌を引いて論じられたものの結語の部分なのだが、最初からびっくりしてしまった。作為への抵抗感。本書の中盤には、偶然短歌botや星野しずるの(半)自動生成短歌への言及があるのですが、作為というのは、「ことばによる表現から〈私〉の存在を消そうとする」(p.51)ことと対極に位置するのだろうか。
この返信として三上さんは以下のように述べている。
……命の実感は「まばゆい いのち 治癒 ゆめ」という高度なレトリックによって支えられている。鈴木さんはそれを『呪詛のような深い作為』と述べているけれど、これは笹井が病というその境遇において独自に編み出した方法であると同時に、現在というねじれた時空が彼の歌に要請したもの、であると思う。(三上、p.13)
主体の作為と主体である必然。表現をおこなう上で誰もが問い続けることになるこの操作と偶発のバランスがさまざまであるからこそ、すべての表現者が存在を許されるのかな、と少し感じ入るような、最適解を求める無謀さに背筋が凍るような、難しい話だなと思う。
ところで三上さんはこの返信の中で「『冥土』を挟むと『どろみず』に戻れてしまって、しりとりがいつまでも続くね」ということをおっしゃっていて、わたしはそれにも崩れ落ちました。まったく気づかなかった。わかることは読むうえでどれだけ言語感覚を鋭敏にできるかに懸かっているのだな。
ついでにほむほむの本も読んだ
まったく関係ないんですけど、短歌がわからない勢いに乗って穂村弘『ぼくの短歌ノート』(講談社、2015年)を読んだのでちょこっとだけ感想を書いておく。群像で連載されていたものをまとめた本であるらしい。この本も概説ではなく解題をおこなっているものであり、一章のなかに10ほどの短歌を並べておもしろがったり検証したりしてゆく。それにしても穂村はキュレーションと名付けがあまりにも巧い。いくつかの章についてはさすがの感性に舌を巻かざるをえなかった。女の短歌がお嫌いでない方は「花的身体感覚」の章だけでもお読みになるといいです。本章の解説文中の「そこに痛みがないからだ。」という一節は鮮やかだった。素敵な歌がたくさん紹介されていて楽しいので、気に入ったものをいくつか引いておく。
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 流れつつ藁も芥も永遠に向ふがごとく水の面にあり/宮柊二
 奔馬ひとつ冬のかすみの奥に消ゆ われのみが纍々と子をもてりけり/葛原妙子
 夜の新樹しろがねの日こゑうるみ貴様とさきにきさまが呼びき/塚本邦雄
 名を呼ばれしもののごとくにやはらかく朴の大樹も星も動きぬ/米川千嘉子
こうして並べてみると自分が好ましく思う短歌にはやはりイメージングの豊かさと色彩の移ろい、揺らぎがあるようです。そういう揺らぎを固定されることへの抵抗感に端を発したのがこの記事であるわけです。ここでの文脈に乗れば、時間感覚の重層性こそが短歌を短歌たらしめる条件だと言えなくもないけど、多分それは知の欺瞞。欺瞞ゆるすまじ。短歌を短歌たらしめる条件などはもはや雲散霧消し、条件の消滅した混沌の時代を迎えており、それゆえに現代短歌を読むことについてわかるよりも感じることを許す雰囲気が漂っているようにも思われる。感じることを許す雰囲気のなれの果てが挿絵。なんでやねんこのアホ!!!!いやポップカルチャー化して間口が広がることは文化として悪いことではない。悪いことではないが、間口が溶けて消え去ることには歯止めをかけたいじゃないか。短歌がわからない門外漢なりに。短歌がわからない門外漢だからこそ、門があってほしい、くぐることを許してほしいじゃないですか。
誰にも短歌がわからない
というわけで、やはり現代短歌がわからない。しかしわからなさがよくわかったのでよかった。わからないときに「何がわからないのか」を考えるための語彙が得られてほんとうによかった。もう泣かないと思う。怒ったり、苛立ったりはすると思う。でもそれはプラスにはたらくパワーになるからいい。
ついさっき、感じるばかりのアプローチを強く非難したが、わかるための、考えるためのきっかけは感じることだとは思う。現代短歌を見かけて「わからないけれど綺麗でいいね」「色っぽいね」「この感じ、あるね」と思っていい。それが美しく飾られた入口の役目となる。現代美術の前にぽかんと突っ立って「よくわからないけれどなんか好き」「大きい」「かわいい」「変」と思っていいのと同じです。ただ31文字にぶち込んだだけではないと意識していてほしい。ニューマンの赤が無意味に赤く塗ったわけではなく、クラインの青が適当に拾ってきた色ではなく、李禹煥の岩が博物学的な意味を主張しているわけではないと同じで、現代短歌の耳に心地よい言葉のむれに俊英で明敏な作為がはたらいていることに思いをはせてほしい。わからなさに対峙してほしい。3秒で読める31文字は、決して読み流されていいものではないのだから。
わからなさといえば、最初に誂えた2首の差についてちゃんと考えないことには示しがつかないので、がんばりましょう。
冒頭2首は巧拙においてどう違うのか
 丁寧に暮らしている中年の女をすごく好きになって背後から性器をねじこむ
 きれいな男を見かけてなぐりつけおしたおしおかし孕むまで見る
実は挿絵の不服について述べた際にとりあげた三上さんの「二重写し」のお話は、このフラワーしげるの「丁寧に…」の解説中にあるものだった。多くの短歌が複線性を志向し二重写しの技巧によって成り立っているのに対して、フラワーしげるの歌は一重写しを志向している。二重写しにおいて二層目に現れるはずの「怪異」を一重目として平然と出していることの異常性を三上さんは指摘していた。加えて、定型を逸脱しながら初句「丁寧に」と結句「性器をねじこむ」が定型に近い姿をとっているとおり、単純に定型を破壊するのではなく、定型に阿りながらも文体によって独創をおこなっていることについても言及している。(pp.62-63)
また、鈴木さんはこの作品の異様さについて、「着想の特異さや暴力性、大胆な破調になどにあるのではなく、彼の文体それ自体から来るもの」(p.65)と見ている。等速、単線的であるこの歌に、原思考への憧憬や身体への郷愁が存在しないことの不穏さが述べられている。
はーい、そこでわたしの「きれいな…」ですが、「丁寧に…」に文意の似たものを用意しようと思ってこしらえたので、とりあえず同じ視点を使って比べてみます。まず一重写しであることには相違ない。文体の等速もそれっぽい、が。ここで突如!文体というキーワードによって、わたしが常々感じてきた、いいかげんに作られた拙い短歌の気持ち悪さについてはっきりと明らかに!なった!なりました!おめでとう!はい。というのも、歌に詠みこむ怪異を一重写ししようとしながら怪異にあるべき矛盾を含まず、そのうえ文体すら獲得せずに、つまり状況説明するだけとなっている歌は、「で?」である。「だからなに?」である。それこそ作者というパーソナリティへの回帰を強制するようなナルシスティックなものに過ぎない。芸術性を帯びないナルシシズムに付き合わされるしんどさというのはやばい。暴力。つらい。悲しい。それは人間関係でしかありえない。表現は人間関係を担保におこなってはいけない。表現は人間関係から独立せねばならない。難しい。難しいがそれは表現者が乗り越えなければいけない困難である。表現者は彼自身がコンテンツになるべきではない(なってもいいけど)。
定型の遵守/逸脱という観点についても、全体が31文字前後になんとかおさまっているというだけで意味としてとれば 8・4・5・5・3・5・2 と、滅裂です……これはひどい……。「殴りつけ」以降はかろうじてリズムを尊重できていて良いですね。褒められて伸びるタイプなので良いところは褒めます。「きれいな男を見かけて」までが〈定型としての自己の生〉から逸脱した出来事であり、「なぐりつけおしたおしおかし孕むまで見る」行動に出る際には自己の生の定型を取り戻していると読むこともできます。
また、ついでに文字表現についても指摘してみます。平仮名が実にくどい。これはですね、「お」と「し」がたくさん出てきて可愛いから平仮名にしました。可愛いから以上の理由が述べられない表現選択はあまりよくないのかもしれません。「お」と「し」がたくさん出てきて口が気持ちいいことなんて読めばわかるので、文面にまで主張しなくていいのかもしれません。どうなんでしょう、見た目の良し悪し。自分ではよくわからないです。何事も悪口を言おうと思えばどうとでも言えるし褒めようと思えばどうとでも言えるから、妥当性の在り処がわからない。批評のための文化文脈がない。つまりこれがジャンルの文化文脈を持たない人間の限界です。門外漢というのはそういうことです。なので、ここでおしまいになります。お付き合いありがとうございました。なんでわたしは自分で作ったものを自分で評しているんだ。永久機関かよ。
おわりにおすすめ
というわけで、入門しただけで道を進んで行かないことには短歌についてなかなかどうして断定的なことが言えませんが、実践的な学びがおこなえる『誰にもわからない短歌入門』はおすすめです。幅広い種類の現代短歌を取り上げていて入門者にやさしく目新しく、解釈の参考書として実践的で、かつ読み物としての構成に優れているものでした。短歌と短歌をまたがって一つのテーマを論じているのはこの本の企画構成の成果で、企画自体が往復書簡のスタイルをとっているため、連綿と問題意識が接続していく。読み手としても問題意識をぶった切られることなく読めるのでとても快適です。また無為に冗長な解説を許さない枚数制限が論旨の一貫を確かなものに仕上げていて本当に読みやすい。短歌史・短歌批評史のような事柄には薄らとしか触れていないのですが、時々出現するそれらの重要性がはっきりとわかるし、好奇心をくすぐられる。とにかく良い本だったこと、面白かったこと、おすすめであることが伝わればわたしはうれしいです。以上、短歌がわからないわたしの読書感想文に長々とお付き合いありがとうございました。もしかすると、少しはわかるようになったのかもしれません。やったね!
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(*1) ところで今インターネットで検索してフラワーしげるの略歴を見たら「訳書にコッパード『郵便局と蛇』、……」とあり、フラワーしげるって西崎憲だったのかよ。びっくりした。わたしは2ちゃんねる世代なのでしげると言われて浮かぶイメージが松崎しげる一択で、フラワーしげる、という名前に印象されるイメージと言えばルドンのこの絵の顔部分に松崎しげるの真っ黒に日焼けした肌に白い歯の異様に浮かぶ良い笑顔が貼りついているものだったのですが、西崎憲だったのかよ。早く言ってよ。
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余談ですが学生時代に〈夏目漱石の作品とイメージ〉というテーマについて講義を受けていて、『夢十夜』第一夜にこのルドンの絵をあてた人間がいるとの噂を聞いてわたしは怒り狂い憤死した。死んだので大きな真珠貝の殻で地面を掘って埋めてもらった。それから天から降ってきた星の破片を墓標にしてもらった。今は生きてこれを書いている。百年はもう来ていたのだな。
(*2) 「孕むまで見る」と「孕んでも見る」とでは物語がまったく別の様相を帯びている。「孕むまで」の自己完結したまなざしと「孕んでも」の他者をまなざすことの不完全さみたいなもの、前者は狂気だし後者は切なさである。人生は他者を取り込みきれない切なさとわかりあえなかった挫折がつのるばかりであるから、いっそのこと狂気で自己完結できればいいのにね。人生はままならない。
(*3) 時間の変移のなかで自己同一性を確保することが近代的自我の発明の意義だったわけですが、ポストモダンにおいて自己の解体を推し進めがちな現在(もはやポストモダンなのか?)というのはいったいどこを目指しているのだろう。意識的・非意識的にかかわらず、自己解体の取り組みの発露として現代短歌というのは非常に、粗暴なまでに、あからさまに実現されている気がします。ちょっと怖い。
(*4) ただしコーマック・マッカーシー、ジョゼ・サラマーゴ、大江健三郎、金井美恵子などを除く(とはいえどんなに長い一文にだってやはり意味は一つしか込��られていないのではないか?)(意味とは?)
(*5) 絵画は写実から逃れて久しいものの、ダイナミックな時間の変化やイメージの多層性を内包するには少なくともセザンヌ、できればキュビズムをへて抽象表現主義へ至る必要があるような気がする。どうかな。時間ということなら古典主義的な宗教画だって複数の時間性と複数の物語のディメンションを包含しているよな(ボスとか)。でもあれはタブローが甚大だからなー。壁じゃん壁。人間身体を凌駕する壁。短歌は壁じゃないじゃん。写真における意味の多層性についてはよく知らないのですが、しかしわたしは直感的には写真がついている短歌のほうがいやだ。絵がついている短歌よりもいやだ。猫の短歌に猫の写真がついて、「その猫」にイメージの自由が奪われるのがいやだ。本文中で桜について述べたとおり、写真が単語に挿絵するのが腹立たしい。
とはいえ、Twitterで流れてきた歌にきれいな写真や絵がついていたら、そりゃあ、抗いようなくfavつけちゃうけどさ!きれいだもん!綺麗なものには抗えない。むかつく。あのなあ、綺麗もカワイイもただの暴力だよ、あんなもんに騙されてはいけない。騙されて奪われてはいけないんだ。わたしたちは読みの自由を死守しなければ死んでしまう。絶対に暴力を許さないぞ!
( 2016/05/24 18:09)
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buriedbornes · 7 years
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ショートストーリー「終焉の序曲(2) - 蝕まれたもの」 - Short story “Overture of the end chapter 2 - Falling kingdom”
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人々の心の支えたるべき荘厳な礼拝堂も、近頃は足を運ぶ者も少ない。
「屍者に隣国が蹂躙され、滅びた」という事実は国中に暗い影を落とした。
信仰は、命を保証しない。
祭壇の前には、一人の女がうずくまり、無心に神への祈りを捧げている。
その様子を、背筋を正し長椅子に腰掛けた聖騎士が見守っている。
「王も王妃も、姿をお見せにならない。体調を崩されているそうだが…」
女性は答えない。
その肩は小刻みに震え、何かに怯えるように縮こまっている。
「残された時間は、思っているよりも少ない。何か、手立てを見つけないと…」
「私、怖いんです」
僧侶は、震える声で答えた。
聖騎士は動じない。
言葉を発する前から、僧侶の怖れは伝わってきていた。
とはいえ、どのような言葉をかけたら良いかが、わかるわけでもなかった。
返事を待ち切れず、僧侶は続けた。
「…こんなにも唐突に、世界は終わってしまうのでしょうか」
「そんな事は、私がさせない」
「でも、神が遺された予言と言われているのですよね」
「…そう言われているが、私には信じられない」
「神が残されたものであるなら、その予言を信じるのも信徒の勤めなのでしょうか」
聖騎士は、祭壇を見上げた。
慈愛の笑みを零す女神の尊顔が、あまねく人々を見下ろしている姿が、虹色に煌めくステンドグラスで表現されていた。
しかし、今はその笑顔さえも、どこか不吉で、また無責任にさえ感じられる。
「しかし、本当にそうなのだろうか?『いつか全ての信徒が、神のおわす国へと導かれる』という、教義と矛盾する予言だ」
「私、たとえ神のご意思であっても、死にたくないです…」
その言葉に聖騎士は向き直った。
あれほど気丈だった、信心の厚かった彼女が、もはや見る影もない。
しかし、たしなめる言葉も、背信であると咎める言葉も、励まし支える言葉も、空虚でしかないと感じ、口には出なかった。
代わりに出たものも、所詮は虚勢の言葉だった。
「教義のためなら、私は、いつでも死ぬ覚悟だ…」
「私は軍人じゃない!怖いんです、戦うのも、死ぬのも…」
神など、いない…
異端者に受けた言葉に激昂し、その者をいたぶった苦い過去が脳内に去来した。
今、その言葉が彼女達の背に重くのしかかっている。
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教会や礼拝堂には、古い文献が収められている事が多い。
歴史的な価値や、教義の伝搬、そして単純に学習を提供する役目を担っているためである。
夕日差す図書室の座席に戻ってきた聖騎士は、重い兜を傍らに置き、上半身の甲冑だけを向かいの机上に無造作に放り、また調査に没頭し始めた。
護身のために大剣だけは、手元に立てかけたままにしている。
無数の資料を取り散らかしたまま、手当たり次第に手繰っていく。
ここ数日で、どれほどの資料に目を通したか知れない。
それでも未だに、めぼしい情報のひとつも見つけられず、彼女の中に苛立ちは募るばかりであった。
「"未知の軍勢が、街と言わず城と言わず、全てを飲み込んでいった"…」
報告書に改めて目を通しながら、背筋の凍る感覚を覚える。
明日には、あるいはこの夜にでも、愛すべき故郷たる我が国にも、この軍勢が押し寄せるかもしれないのだ。
死が迫る切迫したこの状況をどうにか打開する方法を見出す事こそが、目下危急の課題である。
聖騎士団の内でも混乱が生じており、どのような対策を講じるべきか、意見が分かれている。
徹底抗戦のために防戦の準備を進める、謎の軍勢の出処を掴む、屍に鎮魂をもたらす術を探る、等…
ただ、問題の軍勢がもはや姿が見えず、亡国に徘徊するのは死した国民のみという状況で、手がかりひとつなく、ただ次の襲撃の可能性に惑い、震えるしかない。
彼女もまた、そうした聖騎士団の中にあって、藻掻き続ける者の一人であった。
しかし、彼女には他の者にない特殊な役割があった。
教会の剣として監視者の任を負ってから、彼女は研究棟と礼拝堂、そして図書室を行き来する日々を送っていた。
魔導師達の動向を監視し、祈りを捧げ、あてのない打開策を求めて様々な文献に目を通す。
だから、他の聖騎士達なら確実に素通りしていたはずの情報に、彼女は資料を手繰る指を止めた。
ここ最近起きた事件、事故、死亡者の目録の中に残された記録。
『鉱山から、古い装いでありながら新鮮な死体が見つかった』
数ヶ月前に見かけた、異様な、そして忘れ去られた事件。
『未知の軍勢』『古い装いの屍体』『犠牲者の屍が蘇った』『最も古い予言』
これらが符合する何かを、確認する術を聖騎士団は持たない。
しかし、古術や古代の記録も取り扱う、禁忌なき研究に携わる者なら、このつながりを紐解けるのではないか?
この屍体を彼らの目に通せば、今回の事件に関して、何かがわかるのではないか?
確証はないが、彼女には見過ごせない、何か胸騒ぎのようなものをこの記録に感じ取った。
そうして、資料もそのままに、鎧を身に着けて再び図書室を後にした。
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まだ明け方近くに、静まり返る街中で一人馬を静かに駆って荷車を動かす者の姿があった。
湖畔に面した港は朝靄に包まれ、朝日は曇り空に隠され、街は月夜のように薄ぼんやりしている。
港近くの塔の麓へと着いた馬は、いななきを上げて停止した。
馬の主は縄も繋がずに荷車から大きな荷物を肩に抱えて、部屋へと駆け込んでいった。
「邪魔するぞ」
人目を忍ぶために覆っていたフードを脱いで、聖騎士は挨拶しながら荷物を部屋の片隅に横たえた。
「…おはよ、今日は早いじゃない」
まだ寝ぼけ眼の魔女の傍らで、無数の猫達が主を起こすために鳴き声を上げている。
「もういいよ」
魔女の一声に、猫達は一斉にその声を止めた。
椅子に座ったまま眠っていたのであろう、彼女は大あくびと伸びとを終えてから姿勢を聖騎士に向け直した。
「…で、何?そのデカい荷物…」
「これが、何かの鍵になるかもしれない」
そう言いながら、聖騎士は荷物をくるんでいた布を丁寧に剥ぎ取った。
布の下から、土気色をした古風な兜と、その屍者の顔が顕になった。
それを目にした瞬間、直前までの気の抜けた魔女の顔に緊張が走り、机に立てかけた杖に手を伸ばし、左手で空を払うと、周囲にいた使い魔達が蜘蛛の子を散らすように部屋からいなくなった。
「…どこでこれを?」
「聖騎士団で保管していたものだ。数ヶ月前に、話題になっただろう。鉱山から、古い装いの屍体が…」
「すぐにこいつを破壊して!!」
次の瞬間、屍体は突然跳ね上がったかと思うと、近くに立っていた聖騎士を左腕で強かに打ち付けた。
ただの拳であったが、鎧はひしゃげ、聖騎士は薬棚に叩きつけられると、引きずられるように床に落ちた。
「な…ッ!?」
「なんてものを持ってきたの!?これは、まだ生きてる… 生ける屍よ!!」
魔女はそう言うと、詠唱を始めた。
布が完全に剥ぎ取られ、古風な兵士の屍体…生ける屍は、倒れもがく聖騎士を尻目に見つつ、魔女に向き直った。
(何故私のトドメを刺しに来ない?魔女を優先した?…理解しているから?)
頭を強く打ち朦朧とする意識の中で、聖騎士はその動く屍体の意図に思いを巡らせた。
生ける屍はその体で退路を遮りつつ、ジリジリと壁際へと追い詰め、やがて魔女の背に上階に向かうはしごが触れた。
逃げ場が完全になくなった事を確認したのか、屍体は跳躍し、両拳を振り上げて魔女へと飛びかかった。
「底が浅いわ!!」
次の瞬間、書物や薬瓶が乱雑に置かれた地面が白く瞬き、爆音と共に稲妻が中空にある屍体を貫いた。
電撃に囚われ、屍体は床に倒れ伏し、置かれていた物が弾け飛ぶ。
その下には、あらかじめ描かれていた魔法陣が姿を現している。
電撃を発した魔法陣は、黒く燻り、光の紋様がやがてただの炭の跡になった。
しかし、屍体は腕をついてもう立ち上がりつつある。
聖騎士はその様子を目の当たりにしながら、腕に深々と刺さったガラス片を抜きながら立ち上がろうとしている。
「悪いけど、せっかくだし資料になってもらうから… バインド<<呪縛鎖>>!!」
詠唱を終えた魔女が杖を高く掲げると、壁にかけられてあった鎖という鎖全てが独りでに動き出し、みるみるうちに屍体を包み込んだ。
屍体は、まるでミイラのように鎖に縛られた鉄の塊になり、身動きが取れない状態になった。
「こいつを、湖底へ!!」
聖騎士は頷くと、猛然と鎖の塊へと駆け出し、そのまま肩からタックルした。
鎖の塊は真横に吹き飛び、木板で閉ざされていた1階の窓にぶち当たり、窓を突き破って港の路地裏、小さな波止場に転がり出た。
突然の爆音や窓を突き破る音に、周囲の通りにざわめきが聞こえ始めている。
聖騎士は破れた窓から飛び出て、横たわった鎖の塊を今度は全力で蹴り込むと、再び屍体は湖面に向けてボールのように吹き飛び、波止場から少し離れたところに水音を立てて落ちた。
しばらくすると、建物の周りには爆音に目を覚まされた近隣住民が集まり、何事かと野次馬の人だかりが出来上がった。
魔女は帽子を脱いで戸口に立つと、作り笑顔で聴衆に応えた。
「ごめんなさい、朝ごはんを作っていたら、散った小麦粉に火がついてしまって…」
人々が部屋の様子を覗き込むと、数々の冒涜的な書物や薬瓶など姿なく、片隅に味気ない調理道具が幾つか転がっているだった。
「なんだい、お嬢ちゃん。気をつけなきゃあ駄目だよ」
「えぇ、聖騎士様がいらしていたので、張り切ってしまって…」
魔女は恥ずかしそうに後ろに目をやる。
その先では埃にまみれた聖騎士が鎧を手で払いながら何気なさそうな顔で割れた窓や木板を拾い集めている。
「そうか、聖騎士様がご一緒か。それなら、安心だ。特に報告もせんが、何かあったら、手伝ってあげるから、おじさん達に声をかけとくれ」
「ありがとうございます、おじ様。また、焼き立てのパイをお持ちしますわ」
そう言って朗らかに微笑み、しゃなりとお辞儀を返すと、まんまと騙された民衆は皆鼻の下を伸ばしながら去っていった。
「…随分周到な手際だな」
民衆が去ったのを確認すると、聖騎士は手に持ちかけた木片を放り出し、壁にもたれて座り込んだ。
折れた肋骨と深々と切った腕の痛みを押し殺して、咄嗟の魔女の演技に乗ったが、痛みやダメージがなかったわけではない。
「私は師匠と違って、実践派なのよ。聖騎士団の手入れに備えて、色々準備しといたのが幸いしたわ」
聖騎士は苦笑いを噛み殺しながら、自らに施す治療魔法の準備を始めた。
どこからか、小物を各々口にくわえた使い魔達が、ゆっくりと集まり戻ってきて、隠していた物を部屋に運び込んできていた。
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その日の夜、山が投げかけるほのかな明かりが映る湖面には、二人が乗る小舟も映っていた。
二人は並んで座り、鎖の塊が沈んだ水面を見下ろしていた。
「アレは、なんだったんだ…?」
「生ける屍… 屍体を術で操って、使役する業よ」
「それなら見たことがある。征伐した異端者どもが使っていたが、だがアレは…」
「そうね、異端の使うそれともまたちょっと違う、アレはただの生ける屍と呼べる以上のものだった」
魔女は指先で毛先をくるくる丸めながら思案している。
「本来の"屍者使役"は、死んで崩壊寸前の屍体、あるいは崩壊済みの骨を使うの。でも、あの屍体は古臭い装備に似合わず瑞々しい屍体だった、しかも屍者使役とは思えない機敏さと思考…」
「そう、それだ。気になっていたのは」
聖騎士は膝をぽんと叩いた。
「あの屍体は、どこかおかしかった。これまで対峙した、どんな屍体とも違った」
「そうね… あの屍体は、どこかとつながっていたのよ」
魔女は船上であぐらをかいて、前後にゆらゆらと揺れ始めた。
これが考え事に没頭している時の仕草である事を聖騎士は知っている。
「"どこか"?」
「まず前提としてね、通常の屍者使役は、空いた器にそれを操縦する使役霊を入れて使うのよ。で、使役霊に命令を与えて、動かしてもらうわけ。魔法人形操作なんかもそう。」
「ふむ」
「でも、アレは違った… 例えるとそうだな、えーと、紐が見えたのよ。どす黒い、縄みたいな、紐なの。それが、命綱みたいにつながっていた… あれはまるで…」
「紐?今は?」
「切れてないわ。水と鎖の外に出せば、多分また動き出すと思う。でも、届いてもいないわ。今は。そうしようと思って、沈めたのよ。水に」
「水に沈めると、止められるのか?」
「そうじゃあないわ、なんて言うのかな… 使い魔!そう、使い魔!私のは、なんだけど、高度な使役術は使役霊に力を借りるんじゃなくて、自分の霊体そのものを直接対象物に入れるの」
「自分自身を!?」
魔女は嬉しそうに頷いた。
「んでね、自分の霊体を切り出して、本体とのつながりを保ったまま、私自身の意識を埋め込んで、自分自身がその子自身になっちゃうの。だから、座ってる私と、飛んでる子と、走ってる子と、荷物整理してる子と… たくさんの私になるの」
「そんな事が、出来るのか…?」
「たくさんの子を一度に使役しようとする時は、この方が効率が良いのよ?使役霊だと一人ひとりのご機嫌を伺わないといけなくて、それがもう超めんどくさくてサ!文句言う子の面倒見てたら他の子が言う事聞かなくなっちゃう事もあるし… その分、自分の霊でやれば、思いのままなの。たくさんでやると集中力要るからお腹減っちゃって、おかげで最近ずっとおやつが増えちゃったんだけど…」
「…あの、すまん。話が逸れてる」
「あ、ごめんね!えーとだから… どこまで話したっけ?えーと… つまりね、そうやって自分の霊を直接のつながりを保ったままで使役するやり方は、"気の隔絶"に弱いのよ。」
「それが、水?」
「うーん、めちゃくちゃ分厚い水の層だとか、密度の高い鉄の箱だとか。使役霊だと一度お願いすればそういう隔絶があっても少しなら大丈夫なんだけど、自分の元の肉体とつながりを保つやり方だとその"つながり"が途絶えるとうまく伝わらなくなっちゃうの。だから、魚の直接使役は難しいって言われてるんだけど」
「…隣国を滅ぼした軍勢が、この水底にいる連中と同じだとしたら?」
「…まさか、でしょ?」
魔女は、しかめた顔を上げた。
「確かに、屍体に霊魂をつなぎ続けてさえいれば、その肉体が崩壊させようとする力… 例えば、風化や腐敗に抗える。だから、いつまででも"死にたて"の肉体が維持できる。でも、その理屈で言ったら、あの古代人が、今の今まで霊体をつながれっぱなしだったって事に…」
自分で話しながら、得心していく。
聖騎士は、既に確信していた。
最も古い予言、屍者の軍勢に滅びた国、霊体をつながれたまま出土した屍体。
判明��た全ての事象が、予言されたものの存在を示唆している。
魔女は、呆れたように脱帽して、片手で顔を覆った。
その表情は、辛辣そのものである。
「無茶苦茶よ。無茶苦茶だけど、そう考えるしか、ないって事、よね…」
「現在に至るまで生き永らえる何かが、あの鉱山に隠れて屍者を操っていると考えるのが、妥当という事だな」
「…あの、鉱山…?」
魔女の視線は、水面に向かった。
光が、消えていく。
ぽつり、ぽつりと。
目線を上げると、山の斜面に見える村々の仄かな明かりが、ひとつまたひとつと、消えていく。
その闇の波は徐々に、音もなく広がっていく。
やがて、その波の中に蠢く影がちらほらと見え始める。
続けて、遠くの方に響く、悲鳴や叫び声が、霧烟る小舟へと届いてきた。
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城下の波止場から小舟で乗り付けた聖騎士は、すぐさま城内に兵達に警鐘を鳴らした。
「すぐに城門を閉めさせろ!!」
指示を出しながら、城内を駆け、自身は王の寝所へと向かう。
王や王妃の身辺に、既に危険が及んでいる可能性もある。
螺旋階段を駆け上る途中、塔の窓からは山際から湖畔沿いに侵攻するものと思しき軍勢の影が見えた。
時間がない。
塔の最上階へ駆け込むと、扉を開け放って叫んだ。
「陛下、すぐに船へ…!」
しかし、畏れ多くも駆け込んだ寝所に、王も、王妃の姿もない。
体調が優れず、休んでいたはずでは?
この状況下で、どこへ?
既に何者かが?
二人とも?
一瞬の内に思考が巡る。
そこに、爆音が響く。
音の距離から、湖畔から離れた城下町正面の門に、何かが着弾したものと思われる。
「陛下…!」
踵を返した先、下り階段の前に魔導師が待ち構えていた。
「陛下は、戦場へ向かわれた」
「貴様何を企んでいる!?」
「これは、陛下が望まれた事… 避けられぬ戦を知り、自ら民を守る事を選んだのだ」
言葉の代わりに、剣が走った。
しかし、振り抜いた先に男はいない。
振り向けば、扉の向こう、王の寝台の傍らに、魔導師は佇んでいる。
さらに、背後で再度の爆音。
続く金属音やとめどなく響いてくる破壊音、喚声。
聴こえてくる騒音は、城門近くで戦闘が開始された事を物語っている。
「くっ… お前の戯言に付き合っている暇はない!」
聖騎士は、魔導師を無視して階段を駆け下りていった。
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聖騎士が駆けつけた先は、地獄絵図に成り果てていた。
踏み潰されバラバラにされ燃え盛る屍体があちこちに転がっている。
城門下に面した多くの建物が、まるで子供がおもちゃの山をなぎ倒したかのように雑然と崩れ、粉々に壊されている。
市内で最も大きな老舗宿も、真上��ら巨大な岩石を落とされたかのように中央にひしゃげ潰れている。
一体どんな生き物であれば、このような破壊を尽くせるのか?
生存者を、そして斃すべき仇を求めて駆ける聖騎士の眼前に、巨大な、蒼白な姿が映った。
天に聳える双頭の巨人が、屍者の群れを、掴み潰し、殴り潰し、あるいは持ち上げて喰らい、蹂躙している。
どこから現れたものなのか、その巨人は、山岳から湖畔を迂回して暗闇を行軍してくる軍勢に立ちふさがり、城門を守って戦っている。
門前で暴れまわる巨人に近づき、見上げた聖騎士は、その顔立ちを見て、その巨人の正体を、理解した。
たとえ大きく膨れ上がり2つに増えようとも、その顔立ちを知らぬ者はこの国にはいない。
間違えようのない、面影。
失われゆく王、失われゆく国。
聖騎士は、つぶやいた。
「陛下…」
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~つづく~
終焉の序曲(3) - "Buriedbornes” (執筆中)
「ショートストーリー」は、Buriedbornesの本編で語られる事のない物語を補完するためのゲーム外コンテンツです。「ショートストーリー」で、よりBuriedbornesの世界を楽しんでいただけましたら幸いです。
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u-wolf-kansou · 3 years
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Unnamed Memory 著:古宮九時
ついにこの日が来ました。ネタバレだらけの叫びを始めます。原作小説1〜3巻までの内容を網羅。まだ読んでない人は読まないでね!
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以下感想文↓
ーーーーーーーーーーーーー
「今まで見ていたオスティナは?」
「推しが二度殺されるなんて」
この二つにつきます。
此処からは巻を追いながら、稀に見るガチ推しカップリング、オスカーさんとティナーシャちゃん。彼らの失われてしまった御伽話の感想を。
物語は子孫を残せない呪いをかけられたファルサスの王太子、オスカーさんが塔に上り切ったら願いを叶えてくれるという青き月の魔女と出会うところから始まります。聞くとその呪いは祝福に近く、子供が死ぬというより強すぎる子供に母体が耐えられないということだった。今すぐ解呪はできないができるだけのことはするという彼女に彼が求めたのは、その子供に耐えられるだけの魔女であるティナーシャちゃんを妻にして子供を産んでもらうことだった! まさかのプロポーズ。もちろんティナーシャちゃんはそんなの無理と言うのですが……守護者として一年間、ファルサスで暮らすという条件で二人は契約を交わしました。そこまでが彼らの出会い。
私なら呪いに耐えられますよって当たり前のように墓穴を掘るティナーシャちゃん天使では? 魔女ですが。オスカーさんも言葉選びがうまい。そりゃ墓穴掘りますわ。
そしてファルサスで小さな殺人事件などを解決しながら過ごすうちに周りの人間ともいい関係を構築していくティナーシャちゃん。そんな中、魔法湖というところにかつてティナーシャちゃんが相対した魔獣が現れます。ここで一回目の腹ーーー!!!もっとお腹大事にして……。
その次は通称ラザルくん不憫事件(私の中だけ)ですね。ラザルくんもともと振り回され体質で(主にオスカーさんの近くにいるため)大好きなんですが、この水の中に落ちるという章はそんなラザルくんが大活躍(?)してくれてとっても嬉しかったです。オスカーさんがラザルさんのことを大事に思ってることも見れる貴重な章。幼なじみっていいですよね。
そしてミラリスちゃん……ヴァルトさんは4巻に続くのだと思うのですが、違うけど同一人物だよね?今後どうなるかな。ちっちゃい魔獣かわいそうだったけど想像すると可愛いです。
というわけでここまでが一巻。
よーし2巻の話をするぞ!!!
2巻はクスクルというきなくさーい新興国へと希望を見出した男が剣に魂を定着させるという恐ろしい実験が明らかになるところから始まります。最初からかなり不穏ですね。そして町が燃える。ファンタジーラブコメなんて言ったのだれですか? ところでここで私の推しラナクさんが登場するのですが、彼に関してはあとで言います。
そして突然、オスカーさんの子孫を残せない呪いが解かれる。国王の誕生祭の朝にはナークをオスカーさんに託すんです。この時めっちゃ驚いてページ見返しました。ティナーシャちゃんがその後起こることを見越した二つの行動と考えると、胸が熱いです。
そしてあの扉絵のシーンがやってきます。うっ。
この時オスティナ推しだった私発狂寸前。でもティナーシャちゃんを後ろから抱きしめるラナクさんの姿は破壊力高すぎました(別段挿絵というわけでもないが)
ルクレツィアさんにより彼女が魔女になった理由が明かされ、ティナーシャちゃんを連れ戻すことを決めるファルサス一同。彼女がファルサスの中でどのように振る舞ってきたかがこのシーンだけでわかります。
クスクル滞在中のティナーシャちゃんは自らがどういう立場なのかよくわきまえていて、しっかりラナクさんの婚約者としての役割を演じきります。その中でちゃんと犠牲になりそうな街も助けるティナーシャちゃん、実は魔女じゃなくて女神なんじゃないか?してレナートとパミラが彼女に使えることを決めます。一言一言に優しさが垣間見えるティナーシャちゃん、天使か?
そして進軍の時、連合軍がクスクルに向けて出立しました。しかし進めど進めど景色が変わらない。魔女がかけたその魔法はおそらく皆を巻き込みたくないという彼女の思いそのものでしょう。しかし、魔法士長バルダロスにより彼らは人質としてあの場に連れて行かれます。
今は滅んだトゥルダールの大聖堂。彼女を魔女としたその場所で、物語は再び紡がれます。
そして魔法によって大陸を平定する目的を観客たちに明かすラナクさん。彼は、自らが四百年前に定義した名を連ね、詠唱していきます。
そして、定義名を言い終わったあと、ティナーシャちゃんが本来の目的を達成するため、その構成へと手を伸ばします。
「四百年前に貴方が殺した民の、魔法湖に溶け合って縛られた彼らの魂を、ようやく解放できる」
彼女の本来の目的に気づいたラナクさん。それまでの夢の中の彼は目覚め、怒りと憎悪が優しい彼を塗りつぶしていきます。始まった戦乱。
魔女はトゥルダールと共に絶えたはずの二重詠唱を使い、魔法湖の昇華とトゥルダールの王位継承をも成し遂げます。そして十二の精霊が出現する。その事実を目の前にしてクスクル陣営の士気は落ち、連合軍の勝利が確定します。
戦線から必死に逃げるラナクさん。アカーシアの剣士を前にして、彼は悟ります。あの夜、力に飢えて大事なものを踏みにじった時、純真だった彼女と共に彼自身も死んだのだ。それが、ラナクさんの最期。
──四百年前の自分が、何を思って魔法の眠りについたのかはわからない。ただ今の彼はそれを、彼女にもう一度会うためではなかったかと思うのだ。
彼がずっとその想いだけを持ち続けていられたら。弱者には手を差し伸べられる彼は、魔女となった彼女がまだ頼りない少女であると思い込むことだけで、自らが正しいと思い込もうとした。四百年前、彼がいかにして眠りについたかを忘れようとするかのように。
ラナクさんの中ではティナーシャちゃんはずっと、守るべき少女のまま、変わることはなかった、変わらないでいて欲しかった、変わってしまってはいけなかった。でも彼は気づいてしまったのだ。もし、ラナクさんの方がティナーシャちゃんより力があったら、トゥルダールが新体制派と旧体制派に分たられることがなければ、力はなくとも、ラナクさんがティナーシャちゃんを本当の意味で愛し、隣で支える選択が、できていたら。そうすれば、彼女は苦しみ魔女になることはなかったんだろうな。
孤独なトゥルダールの王候補としての生活で唯一家族と慕っていたラナクさんに裏切られる苦しみは一体どの程でしょうか。きっとそのまま命を落としてしまったほうがよかったほどにそれは計り知れなくて。でも、彼女は魔女に。なってしまったんですよね。
けれどこれでトゥルダールの足枷も外れた彼女は、もうラナクの花嫁、アエテルナではない。玉座に無き女王に。ティナーシャその人となったのでした。
2巻の前半まででとても疲れてしまいました。もうこれで良くない? 先進みたくないんだけど。いや、進みます。はい。
そのあとはルクレツィアさんの悪戯に振り回されたり、クラーケンを倒したり、そしてティナーシャちゃんはオスカーさんの誕生日を祝うのに、二スレの美しい洞窟へと連れて行きます。ラブコメじゃん!いいぞもっとやれ!!!
呪歌の話と、三巻のあの結末につながる白い箱の中の青い球が出てきます。はぁ、あんなことになるなんて。そして、緑の蔦ではもう一つの伏線、青い剣士の話が明かされました。それはある村に居た美しい娘と村を襲った騎馬民族の男との間に生まれた息子が、自分の存在が消えることも厭わず過去に戻り、母親を助けたという話でした。まさかこれが伏線になってるかなんて思わないじゃん。実際にあったとはいえ御伽噺の一種だと思うじゃん〜!!!もう〜!!!
そしてかつて神と呼ばれたものを打ち砕いたりなんかします。ほんとに体大事して欲しい……。猫バージ��ンティナーシャちゃんまじ可愛い。撫でたい。
そんなわけで不穏なクラーラを見ながら、2巻は終わりです。三巻にいきましょう。ほんとに?
ほんとです。三巻はティナーシャちゃんの相変わらずの恋愛ポンコツ振りから始まり、突然のファルサス襲撃。前回不穏だったクラーラが実行し、オスカーさんが大ピンチに。血清のない自然毒を盛られ、時を止める魔法が解けて仕舞えば命を落としてしまう彼を助けるために、ティナーシャちゃんは自らの体で血清を作ることを決心します。無事オスカーさんは復活しましたが、ティナーシャちゃんはほんとに、ほんとに体大事にしてよ……(三回目)
そしてティナーシャちゃんが迷走します。ここ私大好きなんですけど、「私ってオスカーのこと好きだと思う人ー!」ってなんですか???可愛くないですか???恋愛ポンコツすぎてびっくりしたよね。可愛いよねわかります。え?ポンコツだよな可愛い。そして私の推しカプ二人は結ばれこの物語はめでたしめで…ってならないのなんでですか!?
とりあえず結婚するまでにもうなんこかイベントがあります。最初にクラーラに襲われたじゃないですか、その裏で手引きしていたレオノーラさんがまたちょっかいをかけてきます。呼ばれぬ魔女と呼ばれヤルダの王子に取り入って居るという彼女がオスカーさんを殺そうとした事実に、ティナーシャちゃんは隠しもせず殺意を見せます。
そしてレオノーラさんとの決戦の時。その直前にオスカーさんがいつものようにこの戦いが終わったら結婚するかと聞くと彼女はお受けしましょうと返す。え??、ん???!!!?あ!?!!?この時点でレオノーラ戦どころじゃなくなりました。いや、かっこよかったですよ、挿絵通り、琥珀城凄かったし。でもこれ終わったら結婚する…結婚結婚!ってもうなんか集中できませんでした。……落ち着いてから読み直します。
そして実はティナーシャちゃん、レオノーラ討伐を引き受けた代わりにトラヴィスさんにファルサスには手を出さない約束をしていました。ほんとさーそうやって知らないところで守ってあげるの。すき。ティナーシャちゃん……(感無量)
そして待ちに待ったこの日がやってきました。純白のドレスにあのベールをつけたティナーシャちゃん。
「王よ、私は貴方の魔女。そして貴方は私の王。魔女が貴方に、永遠に変わらぬ愛情を捧げましょう」
そうして、長きに渡った魔女の時代は、この日を境にその幕を閉じることになったのでした。
めでたしめでたし。
……めでたしでしょう!?!?!?!?!?!?あとのこの100ページ弱なんなんですか!?!?あ、結婚後のいちゃつきを見せてくれるんですね!やった!!!!!!
ということで読み進めた私がバカだった。
はい。えっと…うん。え?うん。
とりあえず、私、2巻の感想を読んで分かるように、ラナクさんのことがめちゃくちゃ好きなんですけど。あのね、よくあるんですよ推しが死ぬこと。ね。うん。今回だってね、まぁ、そうなるよねって思ったよね、でもその夢の中に生きたラナクさんが私大好きなんです。なんですけどね。
推しが二回も殺されることありますか???????
ありますか?????
いや、何回も繰り返す作品とかならまだしも。あの。え??????まだ繰り返すんか???地獄?
それは今後を読まねばわかりませんがきっとどの世界線でもラナクさんは幸せにはならないんだろうな……つらい。
はい、本題に戻ります。
──叶うなら、初めの時に彼女の手をとりたかった。彼女が一番苦しんでいた時そばにいたかった。
そう思ってあの行動をしたオスカーさんは紛れもなくティナーシャちゃんを愛していたんだと思います。そしてそれは叶ってしまった。彼が愛した魔女とその歴史を犠牲として。
……はい。
実は三巻読んでた時、諸事情でホテルに一人でいたのですが、途中からもうやめて……って泣きながら読んでました。ホテルのベッドがめっちゃ濡れた。すみませんでした。ねえ、今まで読んでたオスティナは? 私が大好きだった玉座に無き優しい女王の魔女は? 
でも、そんな彼女が一番苦しい時に手を取ってあげたかったオスカーさんの気持ちは紛れもなく消滅史の彼だからこそ芽生えたもので、そうやってティナーシャちゃんを愛したオスカーさんは私が好きだったわけで。
あーーーーーーーーーーーーー。はい。みんな三巻まで読もうね。ちなみに私の周りでは約3人くらいに布教成功しています。同じ墓に入りましょうね。私もこちら側の人間となってしまいました。
そして物語は四巻へ。書き換えられた歴史を私はこれから追いかけていくことになります。実は四巻も途中まで読んでるのですが、Act2の細かい感想は6巻を終えてからにします。
ということでUnnamed Memory Act1の感想でした。
最後まで読んでくださった方、ありがとうございます、乱文失礼いたしました! そしてこの物語を紡いでくださった古宮先生、いつも本当にありがとうございます。あとコミックス一巻もおめでとうございました! これからもアンメモを応援し続けます!
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image-weaver · 6 years
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83 Jewel
舟から落下し、雲の結晶の守りを失った体を容赦なく砂粒の嵐が叩きつける。バルナバーシュは痛みのあまり目をかたく閉じ、またルドの甲冑が擦れて苛烈に鳴る音を近くに聞いていたが、やがて嘆き怒れるもの全てが遠ざかり、たった一刻が一年とも思えるほど引き延ばされた長い暗転と沈黙のあと、気づけば横たえられた背に砂の感触をただただ安らかに感じていた。胸元の懐中時計が心臓とともに脈打っており、フェレスの力がわずかでも主を守護したのかもしれなかった。嵐の精霊たちの金切声は耳鳴りとなって頭蓋に残され、いまだ混濁する意識に逆らいつつ身じろぐと、やはり体の節々は痛んだが、いずれも些細なものに過ぎない。物静かに降りそそぐ雨が砂に擦れた頬を優しげに労わり続けている――あの激しい航海から墜落したにも関わらず、バルナバーシュは大した衝撃も怪我もなく沙漠に仰向いて倒れているらしかった。
上半身を起こして辺りを見渡すと、依然としてそこは闇沙漠であったが、まるで夢まぼろしだったかのように嵐のあとは何一つとして見て取れない。風もなく、雨は温かだった。だが、砂丘群を越えた先から遠雷がどよもし、ヒトでないものの叫び声が聞こえた気がした……それはまさしく嵐の前触れだった。
「ルドは……?!」
息を呑んで立ち、ルドとマックスの姿を探したが、雨にけぶる視界が探索をさえぎってしまう。ディオレから非常用にと預かっていた七色の光る小石を携行ランタンに詰めこんでありあいの明かりとしたが、みずからの道行きを助けるのが精々だった。ルドを呼ばわる声にもいらえは返されず、バルナバーシュは見上げるほどの砂丘のひとつをさして孤影悄然と歩みだした。高みから眺めれば彼らの明かりや、あるいはディオレと雲の小舟を見出せるかもしれない。バルナバーシュはひとり、嵐によってどこか遠くの地へ投げ出されたのだと思った。
しかし砂丘をようよう登りきると、突如としてバルナバーシュの足元は融けるように雪崩れて、目的を果たさぬまま彼は短い悲鳴を上げ、砂丘の向こう側へ無様に転がり落ちていった。まるで何ものかの意思が働いて彼を妨げ、前進する意気を削ごうとしている。乱暴に低地へ投げ出され、雨と砂にまみれて重く伏した体をどうにか起こすと、なにやら地面から発せられる、多くの名指しできぬ色彩の光が目にちらついた。
まさぐる手で正体を探ってみると、無数の石――それも数々の希少な宝石のかけらだった。ひとつを手に取ればそれは燃え立つルビーの粒で、他にも新緑を空想する橄欖石、アメシストの混沌、明晰たるシトリン、深き青の瑠璃、夢見る真珠……その魅惑ゆえに強い力にさらされ、幾星霜、あまたの人々に求められた末にこの辺涯に流れついた亡がらばかりだったが、それが皮肉にも惻隠と玉石たちのもろく儚げな純美を訴えかけてくる。あたりには同様に宝石のなれの果てが鏤められ、沙漠の夜に浮かぶ星々のようにかすかに煌めき、いまや遠い人々の心と流された涙を汲んでいた。宝石はバルナバーシュの七色のランタンを反射してさだかならぬ小径を示し、彼は半ば魅せられながら砂地を進みはじめた。
嵐の気配が近づきつつあり、先刻、小舟で挑んだはずのそれとほとんど似通っていることにバルナバーシュは奇妙な違和感を覚えた。一度止んだ嵐が、ふたたび生まれようとしているのだろうか。闇沙漠の精霊たちの沸き立つ怒りが魔力に慣れ親しんだ肌にひりつき、地表を走る風塵に外套が宙高くなびいた。宝石の径を踏みしめながらさらに進むと、やがて前方に巨きな岩――枯れ草がぼうぼうと茂る岩らしきものの影が見えてきた。それから人の姿が見え、声も聞こえる。雄叫びを上げているようだった。人影はヒトの身長を上回る長大な剛槍を突き出し、一散に岩へ突き進んでいく。
(ハイン……?)
直感に打たれたバルナバーシュは、唐突に風に逆らい、砂に足をとられながらも駆けだした。フェレスが脈打つ。再会の喜びではなく、不穏な胸騒ぎに追い立てられて彼は限りなく急いだ。ハインの身が危ない……! 剛槍は巨岩――いや、巨岩と見まごう獣、腐らずにおかれた太古の鯨の死骸のごとく砂地にうずくまる鈍重な体に、体表は太い毛に覆われ、頭部と思わしき場所には無垢な色に濡れた二つの黒曜石の瞳が埋まっている――その眉間を狙って繰り出されようとしていた。駆けつけると確かに人影は黒衣の外套をまとったハインであり、日焼けした明るく健康的な肌に、外はねの銀髪をターバンで無造作にまとめ、瞳は楽園のコーラルブルーの輝きに溢れていた。丈夫な長靴で砂を蹴り、勇猛果敢に彼は獣へ突撃する。間に割って入るのは叶わず、ハインの槍は外すことなく獣の眉間を深々と刺し貫いた。だが致命傷にもかかわらず、獣はその場で微動だにせず体毛を震わせるのみで、固く、鉄が弾けるような音だけが獣の内外で幾度も打ち響かれる。
「ハイン……ッ!!」
バルナバーシュの呼び声にハインは振り向いて、思いもよらぬ人物の登場に驚き、目を見開いた。獣の内部で高鳴る心臓が不吉な波動を発し、眉間に食い入った槍の奥からスペクトラムの光を放ちながらその巨体が膨張していく。バルナバーシュはハインの腕をしゃにむに引くとともに二人で倒れ込んで伏せ、銀剣アルドゥールを抜いて砂地に突き立てると、詠唱を介さず、代償にありたけの魔力と精神力を柄から流し込んだ。刹那、無音が支配し、獣は内に溜め込み続けた膨大なエネルギーを爆発させた――轟音と数知れない愛惜を抱いた宝石が命尽きる甲高い悲鳴のなか、獣は木っ端みじんに爆散して、すさまじい爆風と礫がバルナバーシュとハインを襲う。だが、アルドゥールを触媒にとっさに展開させた障壁によって、わずかな剥片だけが防具を浅く傷つけるにとどまり、二人はどうにか惨事から守られていた。
「バルナバーシュさん、あんた……どうしてここに!」 「今のが宝獣イープゥか……?」
バルナバーシュはこの状況について何ひとつ答えられず、逆に聞き返すしかなかった。ハインはきびしい面持ちでうなずいた。
「案内人の――幸星の民のグレイスカルに頼んで、イープゥの領域に立ち寄ってもらったんだ。イープゥの持つ宝石、砂のなみだを手に入れるためにな」 「私は君が危険を冒してでもイープゥに挑んだかもしれないことを聞いていた。なぜだ? 君が金目のためにここまでやるとは思えない」 「そう考えてるならとんだ勘違いだぜ、バルナバーシュさんよ……」
ハインは自虐の笑みを浮かべながら身を起こし、砂をはらった。あたりにはイープゥだった破片が粉々に割れたガラスのごとく無残に散らばっており、血や肉といった生々しさはほとんど見られない。ハインは砂のなみだを探してイープゥの破片のひとつひとつを調べ出した。破片は様々な石が融け合わさり、あたかもイープゥの体内で未知の異次元を構成していたかのように名状しがたい形状で、ゆがみ、重なり合い、およそ現次元にはありえぬ強烈な色相の移り変わりを閉じこめた複雑怪奇な結晶が多くを占めていた。
砂のなみだがどんな宝石かハインに尋ねると、彼にも分からないと言う。嘘をついている様子はなかった。
「だが、見ればきっと分かる。そんな気がするんだ……」 「ハイン、急いだほうがいい。じきに精霊たちが宝獣の死を嗅ぎつけてやってくる」 「分かってる!」
ハインは徹して目的のものを探し、バルナバーシュも仕事を手伝ったが、長くはかからなかった。ハインは見つけたと声をあげ、砂に汚れて濁ったひとつの石を迷いなくつかみあげると、鑑定せずにすぐさま腰に下げた袋にしまいこんだ。
「バルナバーシュさん、助けてくれてありがとな」 「友の危機に駆けつけられてよかったよ」
ハインが親しみをこめてバルナバーシュの肩に手を置き、かつてオストル沼沢でハインに命を拾われたことに思いを馳せながら、感慨深げにバルナバーシュはうなずきを返した。だが先ほどのむやみな魔法の扱いで長くは立っていられず、膝をついてしまう。
「一体どうしたんだ?」 「すまない、力の消耗が……少し休めばなんとか。嵐は近い。君は先に行け」
ハインはともに腰を下ろし、その場から動かなかった。
「あんたを置いていけるわけないだろう」 「ああ、君はそういう男だったな……だが、仲間が待っているんだろう。それに私もルドを探さなくては」 「実は俺もはぐれちまったんだ。狂った魔道機の起こした砂嵐に巻き込まれて……アセナもグレイスカルも、ナナヤも」 「ナナヤだと?」
顔を上げて、バルナバーシュはハインの片腕をつかんだ。
「君に同行している獣人の少女というのは、まさかナナヤなのか」 「ああ、そうさ! あいつの口から、あんたたちのことは聞いてるよ。何があったのかもな……だが、俺がぜんぶ解決してやる。だからあんたは何も心配しなくていいんだ。この砂のなみださえあれば――」
ハインが宝石を収めた袋を叩いてみせた時、突風が糠のような雨を彼らに被せ、語られるはずだった言葉をさえぎった。言い知れぬ気配を感じて見上げれば、三匹の実体のあいまいな精霊らしき姿――それぞれが金、銀、青の、細い光の線が幾重にも渦を描いて形取った蝶の羽���を持つ、生命体とも超自然存在ともつかぬ者たちが、ひらひらと雨雲を背に舞い踊っていた。霊次元に存在する精神が現次元に具現化したのが精霊なる種族だが、彼らが固有の意思を持つのかは分からない。銀の羽の精霊が閃光と金切り声を放つと、二人のすぐそばに落雷の槍が閃き下り、宝獣を殺されたもだしがたい悲憤に地を焼き焦がす。雨と風塵ものたうちはじめ、もはや抑えられぬ徴候に二人の本能は粟立った。
「畜生!」 「ハイン、やはり君は行くんだ! 今の私では走れないし、さっきの爆発で仲間たちも気づいているかもしれない。助けを寄越してくれ」 「つまらない自己犠牲はやめてくれ。殺されるぞ」 「私を見くびるな。君に救われた命でもある。みすみす無駄には出来んよ」
それでもハインは迷っていたが、意を決して立ち上がると全速力でその場から離脱した。荒む景色にその姿はすぐかき消え、バルナバーシュもよろよろと立つと、アルドゥールを両手に構えて心気を研ぎすます。しぶきをあげて怒れる霊次元の大いなる破壊もものかは、これまで乗り越えた冒険の数々がならびない度胸となって彼を支えたが、蓄えたる魔力はいまだ回復せず、まじろがぬ眼光の奥で切り抜けるための知恵を必死に絞ろうとした。あたりに散らばる宝石やイープゥの欠片には力が残されており、寄せ集めれば代替にできるだろう。しかし……。
(……だめだ)
バルナバーシュは失意から剣を下ろした。石たちを自らの助けとするには、魔術の晦渋たる路を経て彼らと魂を通わせねばならない。今しも犠牲にされた��この亡がらたちと……。碧眼の虹彩が揺れる。嵐は、奪われ、損なわれた宝石たちのために慰めを超えて流される涙だった。紫電の矢が四肢をかすめて神経を突き刺し、砂の息吹にさらされ傷ついた額や唇は血が滲みはじめていた。だがその痛みに目の覚めたバルナバーシュはふたたび剣を構え、見据える瞳には手放しかけた生気がよみがえっていた。
瞼を閉じ、バルナバーシュは静謐の領域へ己れを送り込もうとした。自らの魂を縛るあらゆる枷をひとつ、またひとつと外し、闇沙漠の深く果てしない海淵のイメージに身を投げ、重々しく濃密な液体のなかを沈んでいく――彼はこれを魔術と呼ぶが、同時にディオレの語るセンスのなせる秘技であり、夢想へと導く力でもあった。感覚が次元流をとらえると、やがて時が意味をもたなくなり、安らぎも確かなものもない夜寒の洞窟へ彼はさらに落ち込んでいく。
暗く、身を切る隔絶のなか、そこでは海中に降る雪のように宝石たちが寄る辺なく蕩揺に浮かんで、記憶によってむなしく砕け散るごとに、秘めたる情景がおぼろな幻影となって現れるのだった。黒煙に巻かれて燃え上がる歴史のなかで、富や力の次元を超えた無欠の宝石――愛の似姿――のために、人々は争い、奪い合い、傷つき倒れ、いつしかその火も鎮まるころ、疲弊の末に関わりを捨てて立ち去り、多くの願いは遠く忘れられていった。あらゆる墓標への悲しみだけが無残にあった。流された血への後悔のまま流謫を選んだ者たちは、己れの種族の愚かなるを悔い、求めることをやめてしまった……。恐れ、目を背け、雲影の向こうへ隠しながら。求めずともヒトは生きていける。だが、闇沙漠――世界の涯に忘れられた宝石たちは今でも、あの無限の力を覚えている。時代は流転し、かつて願われたものを砂の大地に表しながら彼らは待ち続けている。人々がふたたび見つけ、目指してやってくることを。バルナバーシュは、太古の海で満たされた洞窟の縦穴をゆっくりと落ちながら、闇に没した底へと力の限り腕を伸ばして、ひとつの宝石を掴もうとした。かすかな青白い光がまたたく。それは沙漠の星――ハインもまたその命を懸けて求めた、砂のなみだの光だった。
「私たちから失われたのではない。ただ、思い出すだけ」
宝石の中から誰かの声がした。それはセニサのようでもあり、湖の水精たちやクヴァリックのようでもあり、まだ見ぬ未来の誰かのようにも聞こえ、砂のなみだは真円だったが、まばゆい光に守られて真実の姿は知れなかった……それでもバルナバーシュは手を伸ばす。指先に宝石を捉えたとき、胸元のフェレスが白熱して、目もくらむ光の奔流を解き放った。バルナバーシュの手にはアルドゥールが握られ、星々の光を集めた刀身に導かれて振るうと、稲妻を裂き、冷雨をしりぞけ、風塵を切りひらく手ごたえが息も詰まる震えとなって返された。視界が弾け、急速な勢いで意識は現次元の闇沙漠へと引き戻されていく。
魂の帰還を果たしたバルナバーシュの手のなかでは、アルドゥールはなおも光輝き、知らず精霊の放つ猛威を受け流していたようだった。精霊たちは狂おしく羽ばたき、バルナバーシュは振り返ったが、ハインが戻ってくる様子はまだない。彼はひとり、精霊たちへ決然と剣を構えた。
「フェレス――いや、全てのものに眠れる光よ。私はおまえを信じる。たとえおまえが世界を憎み、破壊し尽くしたとしても、私はおまえを祝福するだろう!」
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robatani-sabku · 6 years
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現在の装備
メインで使っているソーサレスさんLv58の今の装備。
武器:真:クザカ護符3(調合魔力の水晶-ゲルビッシュ*2) 補助:真:極・ヘリックタリスマン3(覚醒した精霊の水晶) 覚醒:真:極蠱惑のデスサイズ3 頭:真:極・ヘラクレスヘルム3(無限の魔力水晶-記録、カイディクトの水晶) 鎧:真:極・ヘラクレスアーマー3(調合魔力の水晶-ゲルビッシュ *2) 手:真:ベグのグローブ2(無限の魔力水晶-勇壮*2) 足:真:レモリアのシューズ3(無限の魔力水晶- 迅速) 首:アスラの赤き瞳のネックレス 腰:真:剣闘士シュルツのベルト2 指輪:真:三日月守護者のリング2 指輪:真:アスラの赤き瞳のリング1 耳:真:ツングラドのイヤリング1 耳:真:青い珊瑚礁イヤリング2 アバター:キースリヴクローク(古代精霊の水晶-迅速)
これで攻撃174覚醒163防御283、冒険名声454(大胆な冒険者) 詠唱、移動、クリティカルが5となります。
レモリアはスタック貯めでやけになって叩いていたらうっかり3が通ったので愛用しています。何で叩くのにレモリアなんて高いのを使っていたんだろう……。
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syadowverse-blog · 7 years
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New Post has been published on シャドウバース攻略速報
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【シャドバ】第7弾パック「時空転生」の新カード「詠唱:古き護り手」など5枚が公開!【シャドウバース】
新カード5枚の情報が公開!
Shadowverse(シャドウバース)の第7弾パック「時空転生(クロノジェネシス/Chronogenesis)」の新カード情報が公開!
もくじ
マインドルーラー・モートン
詠唱:古き護り手
ヘブンズゴーレム
憤怒のエルダーウィードマン
骸骨虫
マインドルーラー・モートン
クラス レアリティ タイプ コスト ネメシス ゴールド フォロワー 4 3/3 - 3/3 【進化時】コスト2以下の相手のフォロワー1体を消滅させて、それと同名のカードを自分の場に出す。
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詠唱:古き護り手
クラス レアリティ タイプ コスト ビショップ ゴールド アミュレット 4 【カウントダウン】1 【ファンファーレ】「ヘヴンズゴーレム」1体を出す 【ラストワード】自分の「ヘヴンズゴーレム」全てを破壊する
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ヘブンズゴーレム
クラス レアリティ タイプ コスト ビショップ ゴールド フォロワー 4 6/6 このフォロワーは攻撃不能 【守護】 6/6 (攻撃可能) 【守護】 【進化時】自分か相手のアミュレット1つを消滅させる
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骸骨虫
クラス レアリティ タイプ コスト ネクロマンサー ブロンズ フォロワー 2 1/3 自分の他のフォロワーが破壊されるたび、自分のリーダーを1回復。 3/5 自分の他のフォロワーが破壊されるたび、自分のリーダーを1回復。
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憤怒のエルダーウィードマン
クラス レアリティ タイプ コスト エルフ シルバー フォロワー 2 2/1 【ファンファーレ】自分の他のエルフ・フォロワー1体を+1/+0する。 4/3 -
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robatani · 7 years
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剣と魔法少女(その2)
 口入屋のロウナはやり手の女で、おれのような腕を持て余した技自慢の者達に仕事を斡旋する傍ら酒場付の宿を経営してそう言った輩を宿泊させている。元騎士や仕事にあぶれた傭兵どもには荒事を、学者や才能に恵まれない魔術師、雇い主を失った元官吏等には頭脳仕事を。それぞれに合った仕事を斡旋しロウナがおれたちに稼がせた金は酒代やら宿賃やらで巡り巡っておれたちの懐からすり抜けてロウナの懐に帰っていくという寸法で、ある意味詐欺じゃないかとも思える。だが、料理はうまいし部屋も粗末ながら心地よいしで誰も不幸になってはいないため、何だかんだで長い付き合いであるしロウナの店は実際繁盛している。おれも彼女の元で仕事を貰いながら、普段は店の用心棒をしてなんとか食いつないでいる。  襤褸を外套代わりに着せたサフィ――名家の令嬢じみた無難な方の服になっている――といつもの何倍も疲れた顔のおれがロウナの宿、金鶏亭へとたどり着いたのは夜近くのことだった。恥ずかしながら道に迷っていたのが一つ。ライヤボードの裏道は場所によっては異界に通じていると噂される位入り組んでいて、実際入ったまま出て来なくなる奴も多い。目立つサフィをどうやって連れて行こうかで右往左往していたのがもう一つ。結局行き倒れから襤褸を入手してサフィに着せた結果、面倒には巻き込まれず宿までは行けたが人目を引いたのは間違いない。サフィはサフィで行き倒れを見てわけがわからぬという顔で怯え、襤褸を剥ぎ取るおれの姿を野蛮人を見るかの如き形相で見つめ、襤褸を着るのもいやがる始末。なだめすかして脅してやっとのこと身に着けてもらったが、それでも布のすえた臭いが気になるのか時折顔をしかめている。相当恵まれた所で生活していたらしい。そういえば魔法少女云々以外の彼女のことについて全く聞いていなかった、そもそも魔法少女という概念すら魔術師の一種ではないかという推測の域を出ていない。レェロの仕事の件もどうしようもなくなってしまったが、まあ、そういった雑事は宿で一息ついてからだ――ロウナが行き場所のない(ように見える)少女(その実魔術師らしきなにか)に優しいといいんだが。
 一階の酒場の扉を開けると珍しく客は一人もいなく、黒髪を結い上げた南方風の四十女が奥の椅子に座って帳簿を付けている最中だった。これがロウナ、金鶏亭の女主人でありおれの命綱である。ロウナはおれをちらりと見てから物珍しいものを見るかのようにサフィをじろじろと眺め、話しかけてきた。 「お帰り、ケイウェン……とあらまあ。その小さい連れは何事かい」 「仕事の最中に少々な。後で詳しく話す。悪い子じゃない」 「そうかい。身なりもいいしてっきりあんたが何処からか浚って来たかと思ったが」 「冗談もほどほどにしてくれ」 「ああ、冗談だよ――で、レェロの仕事の方はどうだったんだい」 「無理だ。「手がしっかり握っている」」  ――盗賊ギルドが関わっている、と隠語で伝えた所、ロウナの快活そうな口元がへの字に歪み、眉の間に幾つもの皺が寄った。 「レェロも大概稼いでいたからねえ……とはいえ御愁傷様だ」  ロウナは損をどう埋めようかといった様子、おれの方は「で、今回の仕事は無理だったからしばらく飯代はツケにしておいてくれないか」というのをどうやって切り出そうかと考えはじめ、気まずい沈黙があたりに流れる。そんな沈黙を破ったのはサフィだった。 「やっぱり芋一個なの、ケイウェン」  それはまるでおれを心配するかのようで、言外に「あたしの分はいいから先に食べて」と言いたそうな気配を漂わせていた。わざとであったら大した女優だし、天然だとすれば泣かせる話である。 「芋一個だろうなあ。おれは一日くらい飯が無くても大丈夫だが、サフィ」  サフィに乗っかるようにおれも続ける。サフィはそういう遊びなのね、という風に納得したのかおれの声を遮って、 「ケイウェンが食べないならあたしも我慢するわ。助けてもらったのだもの」  純真そのものの目でこちらを見上げ、素早くウィンクした。意外としたたかな所もあるらしい。はたから見たら健気で世間知らずな少女が胡乱な男にだまされている図にしか見えないのが問題だが――背に腹は代えられず、実際問題背と腹が空腹でくっ付きそうな塩梅なのだ。  客がいないのをいいことにそんなくさい芝居を延々と続けていた結果。 「もう、ケイウェンあんたは……娘っ子を騙して新しい手口を見つけて」  ロウナが折れた。中々無い風景におれは心の中で快哉を叫び、勢い余って腹が鳴った。 「芋にスープをつけとくよ。どうせ客もいないから仕込んだ料理はパアだ。……そっちの嬢ちゃんもこんな男になんで関わってるんだか。身なりもよさそうだし……ケイウェン、まさか本当に浚ったんじゃないだろうね」  立ち上がり炉の方へ向かいながらロウナは真顔で聞く。側にあった椅子に腰かけ、そりゃあ真っ先に疑われるだろうしどう説明したものかと考えあぐねていると、 「ケイウェンに助けられたのよ! 悪い男の人たちに売られそうになっていた所を抱きかかえて救ってもらったの!」  サフィの助け舟。大きく見れば嘘ではないがそのように説明されるとと違うと言いたくなるこそばゆさがある。 「へえ、ケイウェンがね。こいつが金にならないことをやるなんて初めてだよ。まるで金にならない話は受けない誓いを立てているような男なんだから」 「金にならない依頼を寄越したばっかりのあんたに言われたくない――」 「今回はレェロの説明不足が悪い。こちらも被害者さ」  ああだこうだ言いあってる間に温まったスープの香りが漂ってきた。香草をふんだんに使った南方風のピリッとした味付けで、魚のあらでだしを取った安くて食べ応えのあるロウナ特製のスープであった。酒に大層あうが今日は酒を飲んでいる余裕が懐にはない。しばらくして蒸した芋と共になみなみと盛られたスープが運ばれてきて――。 「おい、ロウナ、どういうことだ」  サフィの方も芋とスープの椀が運ばれてきていたが、それに加えて蜂蜜で漬けた木の実や果物、チーズの入った椀が付いていた。明らかに贔屓である。 「うちの店は新顔には優しくするんだよ」 「こちらに厄介になってからこの方優しくされたことないというのに」 「そりゃああんたはライヤボード生まれの古株で、私よりもこの都市に長くいるだろう」 「おばさん、この木の実美味しいわ」 「そりゃあ秘蔵のレシピだからね。まったくお嬢ちゃん、器量がいいんだから気を付けなよ。ケイウェンが来たからいいものだけど、あんたは売られる寸前だったんだから――それにケイウェンだって下心がないとは限らないだろうに」  酷い言われようであった。 「ありがとうございます。でも、大丈夫。ケイウェンはいい人だし、あたしも魔法少女としてケイウェンを手伝うことに……あいたっ」  余計なことを言うなと机の下でサフィの足を踏む。普通あまり知らない人の前で自分の素性を話したりするか? 「魔法……なんだって?」  疑問符を浮かべた顔でロウナがこちらを向く。実は、で適当な話をでっち上げて切り出す予定が面倒なことになってきた。 「詳しく話すと長い話なんだが」  おれはゆっくりと周囲を見渡してからロウナに囁きかける。 「この嬢ちゃんは魔術師――本人いわく魔法少女――らしい。それも、もしかしたら二つ名持ち並みの「本物」かもしれん。現におれはこいつが魔術を使っている所を二度三度見た。おれのボロ鎧を変え、変身し、よくよく考えれば何重にも防護呪文のかかっているだろう「ギルド」内を遠見でやすやすと覗き見た」 「そんな、この界隈じゃ奇術以上のことが出来る魔術師なんて中々見ないけれどねえ」  サフィを横目で見ながらロウナは考え込んでいる。恐らく彼女の中では得体のしれない少女を養う面倒くささと、腕の良い魔術師がタダで転がり込んでくるメリットが天秤に掛けられてゆらゆらしていることだろう。 「ケイウェン、今日は店じまいだ。片付けが終わったら上からイード先生を呼んでくるよ。詳しい話は私の部屋で続けようじゃないか」  しばらくの後、ロウナの中の天秤が結果を出したようで、そう言い残し去って行った。
 イード先生ことイードニクセは三流と二流の間を行ったり来たりしているような腕前の魔術師で、指から火花を出したり物を動かしたり物の色を変えたりといったささやかな術を見世物にしながら暮らしている男だ。それでも魔術の理論やら様々なことについては詳しく、また鑑定や探知の呪文、錬金術に関してはこんなところでくすぶっているのが嘘のような腕前を見せる。普段は酒場で芸を見せ、路上で芸を見せ、ときおりロウナの手元に転がってくる奇妙な品々に関して鑑定をしたりしている。そして奴はおれの幼馴染であり、夢破れてライヤボードに戻ってきたときにロウナの宿にに口を利いてくれた頭が痛くなるほどのお節介焼きでもある。  ロウナの店じまいを手伝い、時間が過ぎること一刻半。サフィが甲斐甲斐しく皿洗い係を引き受けてくれたおかげでいつものおれの仕事は半分ですんだ。ロウナの部屋は様々な場所から拾ってきたり買い集めてきた一見バラバラな家具や絵画、置物等で溢れており、それらが不思議な調和を生み出している。適当な椅子にもたれかかりなけなしの金で買った酸っぱい葡萄酒をちびりちびりとやって天井の染みをぼう、と数えていると、部屋の外から必要以上に堂々とした鼻歌と足音が聞こえて来た。 「やあやあ、君達。この魔術師イードニクセに何用かな」  扉の方を見れば、大道芸人特有の大げさな身振りと言動が染みつききったインチキ野郎がゆっくりと入ってくる。麦藁色の豊かな髪を腰まで伸ばした涼しげな灰色の目の色男。それっぽい紋様が刺繍されたローブととんがり帽子は芸人仲間から安く買い取ったもので、本物といったら使いこまれた長い木の杖位。おれには意味のわからぬ文字と紋様ともわからぬ意匠が刻み込まれた手製の杖で、本人いわく三度の雷に打たれても生きていた樹から作った逸品だとのことだが、それがどれほど凄いことかはおれにはとんとわからない。イードニクセは目ざとくサフィの姿を見つけると、 「これはこれは、このような安宿には珍しいお客だ。お目にかかれて光栄です、小さなご婦人」  騎士のように跪いてからサフィの片手を取り口付けをする。女とつくものなら牝牛まで丁寧に扱う女好きであり、仰々しいことが大層好きな性質の幼馴染を、おれは思わずいつもの調子でブン殴るところだった。居城を安宿呼ばわりされたロウナはロウナで何ともいえない表情を向けている。イードニクセ本人は他人事のように受け流し、サフィの掌の上に幾つもの花を幻で作りだしていた。サフィは頬を赤らめながらわあ、ともきゃあ、ともつかない声でその幻に驚いている。素人目にも明らかにお前の方が凄いことをやらかしていたんだが、とふと思う。 「イード。こんなちっこいのにまで丁寧なことで」  呆れ声のおれ。 「紳士の嗜みというものだよ、ケイウェン」 「何が紳士だ。この気取り屋の奇術師が」 「小生がこうなのは昔からの付き合いで知ってるだろうに。何故今日はまたそんなに冷たいのかね」  おれの視界の端では、まだサフィが幻の花々と戯れていた。それを見ながら言い返す。 「まともな酒を一滴も飲んでいないのが一つ、仕事にしくじった苛立ちが一つ、そしてあんたに用があるからだ」 「そういえば、マダム・ロウナも用があると言っていたか。確か魔術絡みの話だとかなんとか」  おれはうなずく。 「何度も聞いた話だと思うんだが、改めて聞く。魔術というのは何の準備もなしにぽんと出来るものなのか」  イードニクセは何度も聞かれただろう質問にやれやれといった様子で答えた。 「魔術というのは一定の身振りと呪文、適切な道具を必要とするものなのだよ。普通の人が思っているほど万能ではないし、制限も多い。実際私も常にいくつか道具を持ち歩いている。付き合いの長い君なら小生が杖を側��持っていない時が殆どないのを知ってるだろう」 「ああ。第三の腕だとかなんだとか言っていたな」 「そう、それだ。この世の理に干渉するための霊的な腕が杖だ。意志を集め、燃え盛る炎のように羽ばたかせ、あるべき道を示し……」  熱中しはじめたイードニクセを現実に引き戻すようにおれは声を大きくする。魔術師のふわふわとした詩的な話を聞いているほど今は暇な気分ではなかった。 「話は戻るが、イード。初めて会った奴の心の底の望みを暴いて、それを形に変えることが出来るとしたらどれくらいの腕前が必要だ? もしくは、ちらりと見ただけの奴が何処にいるか遠見で見抜くとか。身振り手振りもなしに豪奢な衣装に一瞬で変身するとか」  イードニクセの気取った表情が真面目なものに変わった。 「何を考えてるか知らないがね、ケイウェン。「魔術の女王」の白い太ももにかけて、そんなことが出来るのは、「二つ名」持ちの魔術師位だし、それでも準備は必要だ。準備なしで出来るのは念視や読心に限れば「鏡眼」のオールーンや「盲目見者」アルビッセ位だろう。最後の変身術は嗜みで学んでいる魔術師も多いが普通は精々服の柄を変えたり意匠を付け加える程度が限界だ。何もなしに物質を変化させたり幻を纏うことは難しいのだよ。お伽噺の仙女や「女王」そのひとならば何でも即興で出来るだろうが――」  おれとイードニクセの間に沈黙が流れる。 「じゃあ、無理なんだな」  出てきた名前は一つを除き全く聞いたことのない物だったが、恐らく引き合いに出す位なのだからその界隈では有名な魔術師なのだろう。 「ああ、小生の知識にある限りかなりの手練れでない限り無理だとも。何ならばここにある一番良い酒をかけても良い」  おれは舌なめずりした。最初に出会った時のサフィの服と大きな蒼玉を思い出す。 「ロウナ! 今の言葉聞いたか! 一番いい酒を用意しておいてくれ。支払はイード大先生にだ!」 「ちょっとどうしたんだい、ケイウェン。さっきからイード先生に変なことを聞いていたと思えば今度は酒だなんて……」  何を言っているんだお前、という表情のイードニクセとロウナを無視しておれは続ける。笑いだしたくなった。サフィの姿が幸運の小妖精像に見える。今すぐ抱きつきキスさえしたいくらいだ。何せ彼女は世界最高の魔術師である不老不死の「魔術の女王」、半神めいたそのひとに匹敵する才能を持つ魔術師かもしれない上に、世間を知らぬ小娘と来た。そして世間を知らぬ小娘の魔術師は、おれの仕事を手伝うと約束してくれた。  人生最大の大当たりだ。 「来いよ、サフィ! おれ達に不思議を見せてくれ!」  花と戯れていたサフィは呼ばれて驚いた顔をする。おれは続ける。 「――魔術だ! めいっぱいの奇跡だ!」  サフィは少しためらった表情になったがおれら三人の顔を順繰りに見て意を決したようにこくりと頷く。立ち上がり首元のチョーカーを握りしめる。  途端にサフィの身体から青く煌めく光が放たれ、それと同時に妙なる音楽が何処からともなく鳴り響く。眩しさで目がくらむ中光と一体化した少女の露わな肢体を目にしてしまいおれは何故かどぎまぎした。しばらくして光が収まるとそこには最初にあった時と同じ、レースと羽根と宝石に包まれた奇妙な衣装に青玉の鳥が付いたロッドを握りしめた、どこかこの世ならざる愛らしさをたたえた格好のサフィがいた。サフィは劇場の踊り子のようにポーズを取る。イードニクセの出した幻の花々が一斉に咲き乱れ、どこからともなく色とりどりの小鳥の群れが現れて歌声を奏でる。そして、初めて会った時と同じように口上を述べた。 「凍える願いに寄り添う青い鳥、魔法少女ウィッシュ・サファイア煌めいて登場!」  おれは自慢げな顔で二人を見る。その口上はやっぱり必要なのかとか、最初にあった時よりも変身が派手だったような気がするとか聞きたいことは沢山あるが、めいっぱいの奇跡を注文した結果、十分に答えてくれたから野暮なことは聞きっこなしにしよう。今は。 「ケイウェン……あの宝石達は本物なのかい……? 盗品じゃないだろうね……」 「知らん。多分あいつのもんだろう」  やっとのことで言葉を口にしたロウナはどこか心配した様子で扉や窓の方をきょろきょろと見ている。  一方イードニクセは今まで知っている術の中でどれがいちばん近いか一人でぶつぶつ考え始めていた。 「変身術は多々あるがまるで衣装を召喚したかのようだ……それとも元々あった服を変成させたのか幻を被せたのか……「三枚外套」の呪文に近いような気もするが派手な演出は「リネスアレトミの早変わり」に近い……しかも詠唱なしで! ケイウェン! 後生だ! あの小さいご婦人を暫く触っても構わんか! 魔力の探知をしたい!」  奴が女と同じ位に呪文が好きだということを忘れていたことに舌打ちをする。 「どさくさに紛れて何を頼もうとしてるんだ、イード! この呪文馬鹿の女好きが――」 「いいわよ、魔法使いのお兄さん」 「サフィ!」  サフィとイードニクセの間におれは割って入った。何故だかわからんがそうしなければいけない義務感に駆られたのだった。別に保護者面したかった訳ではない。 「イードニクセ、この娘っ子はおれのもんだ。おれが駄目だと言ったら駄目だ!」 「貴君の好みが年下だとは知らなかったなあ」 「そうじゃない、仕事上の契約の問題だ」  サフィに聞こえないようにイードニクセに耳打ちする。イードニクセはふむ、契約ねえ、ふむと妙ににやついた顔でこちらを見てきたので文句あるかと睨みつけた。 「いっとくが閨での奉仕とかその類は契約に入ってないからな。おれもそこまで墜ちちゃいないし第一あんたも知ってのとおりこちらは昔から年上好みだ。胸も膨らんでない少女に食指は動かん」 「聞いていないことまでどうもありがとう。気が変わったら教えてくれたまえよ」  笑いをこらえながら返してきた。そりゃあどういたしま��て。 「ケイウェン、この子は瓶の中の魔神や妖精じゃないだろうね。私はてっきり魔術師の所から逃げ出してきた筋のいい見習い辺りかと思っていたよ――」  今見た物が信じられないという風にサフィを見つめているロウナ。 「どれでも構わないさ。サフィのことはあまり知らんが魔術を使える。おれはサフィの命の恩人でサフィはおれの仕事を今後手伝ってくれると約束したんだ。文句あるか」 「構うも構わないも……全くケイウェン、どうせあんたはこの子にライヤボードでどうやって働いているかなんて教えてないんだろう?」  何故か呆れ声のロウナ。さっきは腕のいい魔術師が手に入ると思っていただろうにこの態度である。おれは人類のの気まぐれな同情心と心配癖を心から呪った。 「こいつと同じくらいの子はライヤボード内でもせっせと働いているじゃないか」 「そうじゃない、そうじゃないんだ。私が言ってるのはあんたの仕事のことだよ」 「大丈夫よおばさん。ケイウェンは説明をしてくれたわ。街の面倒事をどうにかして、平和を守るお仕事。ごろつきを改心させたり、喧嘩している人を仲直りさせたり……」  サフィの説明に、ロウナは苦い顔になった。 「どうやら子供に分かりやすく粉になるまで噛み砕いて教えたようだね――どうせ流血沙汰や何や、この街の面倒くささは言わなかったんだろう」 「なあ、ロウナ。見ただろう。サフィは見た通りの娘っ子じゃなくて魔術師――」 「魔法少女!」  サフィが自信たっぷりに口をはさむ。おれは苦笑いを浮かべた。その称号がやけに気に入っているようだ。もしかしたら知らないだけでそういう二つ名の魔術師なのかもしれない。だとすると失礼なことをしているかもしれない。 「まあ、そういう類の生き物なんだ。ちょっとやそっとのことじゃやられやしないさ」  あのごろつき三兄弟ももしかしたらサフィ一人で蛙の群れにでも変えられていたかもしれない。そう思うと助けたといって恩を売りつけられたのは幸運中の幸運だ。 「そういう問題じゃないよ――そりゃあ身の安全の方も心配しているけどね。私がいってるのは心の問題だよ。幾ら魔術に優れているといったってこの子はまだ十二、三歳くらいじゃないか」 「それ位なら箱入り娘でもそろそろ世の中の厳しさを知るにはいい年頃だろう」 「お黙り、ケイウェン!」  ロウナが声を荒げた。サフィは心配したようにおろおろとおれとロウナの顔を見比べている。そんなサフィにロウナは近づき、 「サフィだったね。私はライヤボートに来てまだ十年少しだがこの街の厳しさはよく知ってるつもりだよ。あんたみたいな純粋そうな女の子がここのごろつきすれすれの剣士に騙されていいようにされるのが見ていられないんだ。例えそれが魔術師であれ「魔法少女」であれ、ね。ライヤボードに来る前の昔の私を見ているようで心配なんだよ」 「ごろつきすれすれだの騙すだのいいようにするだの酷いじゃないか。それにロウナ、あんたにすれていないときがあったなんて初耳だぞ――」  反論しようとするおれを完全に無視してロウナはサフィの肩を掴み、じっと彼女の目をみて言い聞かせている。憮然としているおれの様子を見てイードニクセが笑いをこらえていた。 「ライヤボードでの平和ってのは、盗賊ギルドやその他の面倒事の長い手がこっちに伸びてこないということさ。ケイウェンの言っていた面倒事というのは大体若い嬢ちゃんには見せられない類の事件だし、血が流れないことの方が珍しいくらいだ。分かったかい――」  サフィはロウナの話を真剣な顔で傾聴していたが、ふいに口を開いた。 「でも。あたし、ケイウェンに助けてもらったし。それにこの街に暗いことが多いならばそれを払うくらいに明るい光を灯すのが魔法少女の役目。最初は何でここに来ちゃったのかわからなかったけれど……多分、あたしがこの街に必要だからなんだと思うの。だから、ここに居させて! なんでも手伝うから!」  初めて聞く意志の強い声だった。自分が世界にとって必要だなんて甘い思い込みに幼いころの自分を思い出して苦くなる。曇りのない剣。白馬に乗った騎士の鎧は輝いて――。だがサフィは本気のようで、しっかりとロウナを曇りのない蒼玉のような目で見ている。ロウナはじっとそれを見返していたが、やがてどうしようもないという風にため息を吐いた。どうやら折れたか諦めたか、それとも呆れたのかもしれない。 「それに、帰り方もわからないし……」 「あんた、どこから来たんだい」  何のことかさっぱりだとロウナは聞く。 「前にいた所は「美羽根町」という所だったわ」 「ミハネチョウ。奇妙な響きの場所だね――南生まれだが私はさっぱりだよ。二人とも聞いたことはあるかい」  おれもイードニクセも首を横に振る。 「知らんなあ、西でも東でもなさそうだし」 「ハラドの海を越え極北の地に至るまでそんな名前は聞いたことない、マダム・ロウナ」  ロウナはしばらく考えた後じろじろとサフィの服を見た。 「……まあ、この世のどこかにある場所なんだろうね。ぽんといきなりこの世にあらわれた訳じゃないだろうし。まずはその派手な服をどうにかすることから始めようじゃないか、サフィ嬢ちゃん。そんな蒼玉を持っていたらこのライヤボードじゃあ一日も生きていられないよ」 「でも、この恰好じゃないと大きな魔法は使えない――」  言い返すサフィに有無を言わせぬ調子でロウナは続けた。おれは意外なサフィの弱点に世の中上手い話だらけじゃないと内心苦い顔になった。彼女の言う大きくない魔法がどの程度までにもよるが。 「それじゃあどうにかする方法が見つかるまで「大きな魔法」とやらは無しさね。こっちも「ギルド」や口うるさい警吏どもに目を付けられたくはないんだよ。それにあんたはケイウェン並みに変なことに巻き込まれる相をしているからね。死体になっての再会なんて考えるだけでもぞっとするよ」 「ロウナ、あんた占いまで出来たのか」 「経験だよケイウェン。この仕事をやってれば嫌でもわかるようになるさ」  そういうものなのか、と思う。ロウナから見たらおれがサフィ並みに変なことに巻き込まれる面をしているというのは納得いかなかったが、ライヤボードに来るまでも来てからも色々と辛酸をなめつつしぶとくやって来たであろうロウナの言葉にはある種の説得力があった。 「ロウナさん、あたしは何をすればいいの」 「皿洗いは出来るようだね。料理と掃除は出来るかい、嬢ちゃん」 「手伝う位ならば……教えてちょうだい!」  そこにイードニクセが首を突っ込んで来る。妙に腹立たしいことに奴はいいことを思いついたと言いたげな笑顔を浮かべていた。 「もしよろしければ小さなご婦人、この魔術師イードニクセの手伝いをしてもらえるかな。文字は読めて書けるかい?」 「うん! 書くのはちょっと慣らさないといけないけど文字は普通に読めたから大丈夫」 「よし、素晴らしい。給金は出すし術も少しは教えられる……君の知っていない術があれば、の話だが」 「おい、二人とも。サフィはおれの手伝いをだな……」  サフィを取られそうになっておれは慌てて会話の中に飛び込む。その様子を見たサフィはおれの袖を少し引っ張って囁きかけてきた。 「大丈夫。ケイウェンの手伝いも全部やってみせるわ。だってあたしは魔法少女だもの」  誇らしげなその声。脳味噌花畑な少女の言い分なのにおれはなんだか理由もなく嬉しくなってしまった。とうとう花畑が感染したか。 「それじゃあまずはその服だね」  ぽん、と音がしてサフィの服が令嬢然としたものに戻る。あの派手なふわふわとした衣装とこちらの服のどちらが元の服かだんだんわからなくなっているおれがいた。 「駄目駄目、それじゃまだ目立ちすぎるよ。ふーむ、背は小さいから、私の上着を縫い直して腰で縛ればそこそこ見れる格好になるだろうね。古着屋に頼む余裕はこっちにもないし……ああ、寝る場所も私と一緒だよ。この部屋の奥だ。丁度壊れていないソファがあるからそこで寝な。あの男衆二人と寝かせるのは危ないからね」 「おれは年上趣味だって言ってるだろう」 「失礼だがマダム、小生は花の愛で方を嗜んでいる男のつもりだ」  おれとイードニクセの声が重なった。 「魔がさすということもあるだろう? 下手に手を出したあんたら二人が赤カブにされて転がっているのは見たくないからね」  笑うロウナ。意味がわからぬといった顔のサフィ。全くもって酷い話である。  そんなこんなで夜が更けていき、金鶏亭には新しい住人――幼い看板娘――が増え、おれは人間ひょんなことから幸運が舞い込んでくるもんだと人生の不思議さにしみじみとしていた。最もその幸運はロウナの監視の下でささやかなものになりさがっていたが、そのうちサフィがライヤボードに慣れれば仕事の助手にすることも出来るだろう。派手な衣装の問題もそのうち何か解決策が見つかるさ――おれは何時にもなく楽天的かつ陽気な気分になっていた。  イードニクセに賭けの分の酒を奢ってもらうのを、どたばたの中で忘れていたということに気付いたのは自分の部屋に戻ってからだった。
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syadowverse-blog · 7 years
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【シャドバ】ローテーション・マスター70戦52勝「イージスビショップ」デッキレシピをご紹介!【作:ガイアール氏】
自慢のデッキをご紹介!
シャドウバース攻略速報の「自慢のデッキ投稿フォーム」に応募して頂いたデッキをご紹介致します! プレイングのコツやデッキについて解説つき! デッキ投稿者:マスターランク ガイアール氏
もくじ
デッキレシピ
デッキについて
このデッキの勝利数
プレイングのコツ
有利・不利なデッキ
マリガンの優先度
代用カードについて
デッキ名「ガイアール式イージスビショップ」
デッキコードを発行する
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デッキについて
ヘヴンリーイージスをフィニッシャーに据えたコンシードビショップです。頂きの教会は不採用。全体除去と個別除去がそれぞれ優秀で、現在流行中のランプドラゴン、ヘクターネクロに有利に戦えます。
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このデッキの勝利数
70戦52勝 最大8連勝
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プレイングのコツ
序盤は詠唱:翼の砂時計やスノーホワイトプリンセス、漆黒の法典などで相手のフォロワーを処理しつつ盤面を有利にしていきます。 ここで除去スペルを優先しフォロワーはなるべく残すようにすることがコツです。 中盤は鉄槌の僧侶、三月ウサギのお茶会などの1:2交換を狙えるカード、Wジャンヌの全体除去、神魔裁判所、清き殲滅などの確定除去カードでフォロワーを出しながら相手のフォロワーを処理していきます。 ヘヴンリーナイトの疾走で打点を稼ぐのも良いです。 終盤はヘヴンリーイージスやバハムートでフィニッシュ。
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有利・不利なデッキ
ヘクターネクロ、ランプドラゴンなどは有利です。極端に早いデッキ、また、除去が足りなくなれば不利になります。
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マリガン(初手交換)
低コストフォロワー、アミュレットや除去カードを優先して残しましょう。
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代用カードについて
詠唱:宝石の甲羅 ペガサスデュラハン 詠唱:古き護り手 白翼の守護神・アイテール
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この度はデッキ提供ありがとうございました! 皆さんのよりよいシャドバライフの参考になれば幸いです
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robatani · 7 years
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剣と魔法少女(その1)
「レェロの旦那からの言伝だ。あんたら悪戯が過ぎたようだな」  入り組んだ道をさらに曲がって奥の奥、廃屋の連なる寂れた路地の行き止まり。おれことケイウェンはやっと追いつめたごろつき達の前で見せびらかすように剣の柄を叩いて見せた。安い仕事だった。依頼主はケチで名高い護符売り――効能は眉唾物だが――の男であったし、内容も最近商売敵に雇われたらしいごろつき連中が邪魔してくるので逆に脅し返してこい、というだけの物。なに、剣の腕の立つあんたならちょっと脅すだけですぐに奴らもびびる――というのが口入屋の話。定職についていない剣士には仕事を選ぶ余裕などない。嬉しいことに今回は安い仕事だがただの商人同士のいざこざの始末、掴まる心配もなさそうだ。  もっともこのライヤボードにまともな警吏はいない。ほとんどは傭兵や騎士くずれ、悪党と紙一重の輩。奴らの天秤は罪ではなく金をはかるためにあるともっぱらの話。大体統治者自体お飾りで実際は盗賊達が行う「議会」が動かしているような都市だ。快楽を買いたければライヤボードへ、珍奇を求めるならライヤボードへ、ただし偽物多し、盗賊更に多し。お財布にはくれぐれご注意を。  さておき。ごろつきは三人。それぞれ剣を腰に下げてはいるが下げ方はずさんで、おそらく脅しの為に身に着けている品だろう――幸運だ。剣の腕の立つ奴がいたら値段に合わない仕事になるところだった。一発二発殴り倒して口入屋兼宿の店主のロウナからさっさと金を受け取り酒場で一杯やろう……。  着ている鎖帷子をわざと鳴らしながらごろつき達に近寄って行く。この鎖帷子も実は脅しの為に着ている品で、軽いが柔らかい鼠鋼製なので実戦では殆ど役に立たない。一撃受けたら終わりだが、嘘のまかり通る都市の中では偽物位でちょうどいい。というか馬鹿正直に輝く鎧を着こむ奴なんかライヤボードに殆どはいない。昔は憧れていたが、今はただの見せ掛けだけの品だとわかっている。あんなのを着込んで身軽に戦える奴はいない……。おれは腐った水の流れる石畳をかつんかつんちゃりんちゃりんとブーツと鎧を鳴らしながら近付いていく。 「さあ、二度とレェロの店には手を出さないと、盗賊の守り神にでも四千ゲドンの地下にいる妖魔どもにでも誓いやがれ。あと雇い主の名前も吐け。そうすりゃ剣は抜かないでおいてやる」 「てめえ、ケイウェンとか言ったか。この黒虎の三兄弟に指図するとはいい度胸だな」  陳腐な脅し文句と来た。目の前のごろつき三人には虎らしいところはなく黒といえば髪の毛の色くらい。 「三対一だ。負けるはずがねえ。野郎ども、やっちまえ」 「剣で訴えるつもりか? 三対一でも訓練を積んでいない奴に――」  遅れをとると思ったか、と言おうとした瞬間。頭上から悲鳴のようなものが聞こえてきた。 「わー!? ちょっと待ってこれどういう事ー!?」  見上げれば幼さを残す声とともに色鮮やかな塊が降ってくる。反射的に剣を抜くのをやめ上から来た塊を抱きとめるがそれが愚行であったと気付くのは一拍後。二拍目で来るはずの斬撃を覚悟して飛びのいたが、幸運なことにいきなりのことに目の前のごろつき達も剣を抜きかけたまま止まっていた。抱きとめた塊の��体は空色の奇妙な髪をした愛くるしい少女で、鳥の羽根を様々にあしらった奇妙な服装をしていた。目の前のごろつき達を見て少女ははっと息を呑み。 「お兄さん、危ない! 凍える願いに寄り添う青い鳥、魔法少女ウィッシュ・サファイア煌めいて登場!」  よく響く声で口上を高らかに述べた。あたりの空気が固まって止まる。  危ないのはそっちだ。というより魔法少女とは何だ。どこかから逃げ出してきた頭のおかしな娘だろうか……。それとも魔術師なのだろうか。いや、そもそも彼女は人なのか? 何かのたぶらかしではなかろうか。上から降ってくる少女がマトモなわけない。妖精か特殊な趣味をした魔術師の使い魔かもしれない……。  案の定ごろつきどもも少女の姿を見て、おれのことなど忘れて少女を売ったらいくらになるかなど皮算用を始めていた。 「なあ、ケイウェン」  しばらくの沈黙の後、ごろつきどもの頭が言う。 「どうせはした金で雇われてるんだろう。いざこざのことは忘れてこの娘っ子をちょっとこっちへ渡しちゃあくれないか。まさか独り占めするわけじゃないだろう。娘っ子を渡してくれればこっちはしばらく大人しくしているし分け前の六分の一は渡す」  とっさに思考を巡らす。頭の中で腕の中の少女と安い報酬を秤にかけた。 「このガキはおれのものだ。なにせ最初に捕まえたのはこっちであることだし」 「まさか、お兄さんたち、悪い人ね――!」  何か言おうとする少女の声を無視して商談は続く。 「ケイウェン、それは酷い話だろ――四分の一でどうだ」 「最低でも三分の二だ。いや、五分の四か、いややっぱり――」  さらば、報酬。 「こいつはおれのものだ。あんたらに渡したらどこに売られるか分かったもんじゃない」
 今や少女を幾らで売るかの相談に夢中になっていたごろつき達に背を向け、おれは走り出す。軽いといっても少女は人並みの重さがあり、どこまで駆けて行けるか不安だった。人数ではおれの方が負けているし、この道に慣れているとは言い難い。案の定数拍遅れて状況に気付いたごろつき達が追いかけてくる。 「黙れ、舌をかむぞ」  何か言おうとする少女を無視して駆ける。何度路地を曲がったか、数えもせずにただ直感のみで進む。やがて追いかけるごろつきの声が聞こえなくなった辺りでようやく撒いたと確信し、側の廃屋に転がり込む。数匹のネズミが驚いたように逃げていった。壊れた窓からは夕日が射し、少女とおれを照らしていた。 「お兄さん、助けてくれたの」  どうやらこの少女、楽観的な性質らしい。いくらで売られるか分け前はどうするかという話がされていた直後にその発想とは。自分でも独り占めしたかったのか助けたかったのか分からなかったので、答えずにおれは少女を床に降ろしまじまじと見た。  少女の姿をよく見れば、年のころは十二、三といったところ。全身が踊り子のようにレースと羽根と宝石――恐らく模造品だろう――で飾られていた。ひだの多いスカートの丈は短くふわふわと膨らんでいた。しかし一番目を引くのが胸元の宝石で、子供の拳くらいの大きさがあり、一切の濁りがない澄んだ蒼い石だった。もし本物だとすれば長いこと遊んで暮らせる金額になるだろう。硝子細工だとしてもかなりの値が付く。少女自体も器量が良く、奇妙な空色の髪の毛こそ気になるが、意志のしっかりしていそうな澄んだ大きな青い瞳と愛らしい口元が目を引く。幼さを残す体つきもあいまって一部の男が好む「純真な少女」をそのまま絵から呼び出したかのよう。おれ自身はどちらかといえば熟した果実のような妙齢の女が好みではあったが、少女の場違いな真っ直ぐな瞳は欲望と背徳の街とも揶揄されるライヤボードには似つかわしくなく、それゆえに興味を引かれた。 「ウィッシュ・サファイア――だったか」  格好も変なら名前も変だ。やはりこの娘、魔術師の類なのだろう。魔術師はよく本名を隠すものであるし、色々と奇妙な癖もあるもの。魔法少女というのが何だかは知らないが、魔術を使う女も魔女と呼ばれるのだから、そういうものなのだろう。魔術師にしては早咲きも早咲きで、この外見も何か幻で変えているのだろう……と思ったが、ふるまいは演技の様に見えず見た目相応の少女のように思えた。 「はい! 凍える願いに寄り添う青い鳥――」 「口上はもういい。聞きたいことがある」 「何かしら、お兄さん」  じっと、少女の目を見る。 「お前は、本当に、魔術師なのか」  少女は少し悩んでからこちらを見つめた。 「魔術師じゃないけど、不思議なこと……奇跡を起こすのが魔法少女だから」 「じゃあ、何か今やってみろ」 「え……」 「今目の前で、不思議をおれに見せてくれ」  ライヤボード、いやこの世界には魔術師達は様々いるが、だいたいがいかさま師すれすれの胡散臭い輩だ。二つ名持ちの高名な魔術師になると未来を知ったり、何もない所に壁を生やしたり、人を蛙に変えたり、自由に空を飛んだり、火の雨を降らせたりすることが出来るといわれている。しかし、そのような魔術師はだいたいが自分の庵に引き籠って研究に専念すること忙しいか、高い相談料を吹っ掛けて貴族やなにやの依頼を受けているかのどちらかだ。目の前の少女が頭のおかしい娘なのか、それとも本物の神秘なのか、おれは知りたかった。  少女は分ったというように頷き、祈るような姿を取った。呪文らしい呪文もなく、身振りもなく。  ――やはり、頭のおかしい娘なのか。  呪文の詠唱もなく、身振りもなく発動できるような魔術師は殆どいない。 「お兄さんの心の底の願いが、少しの間本当になりますように」  瞬間。おれの鎧が輝きを発し始めた。よく見れば装飾の施された板金鎧へと変化している。まるで物語の中の騎士が身に着けているかのような鎧だった。それでいて重さは全く感じない。おれは起ったことがわからない、という風にただただ戸惑うしかなかった。ライヤボードの廃屋の中で、おれの現実が砂のように崩れ去っていく。 「望みがこんなもんだとはな」  震える声で現実に対処しようとする。金塊やら宝石の山だったら分かりやすかったのに。輝く鎧……それがおれの中で意味するものに気付き、苦い思いが心をよぎる。ライヤボードでは消して叶うことのない夢。捨て去ったはずの幼い夢。悪をくじき善を助ける聖なる騎士達の煌めく鎧。決して呼ばれることのなかった声……。  少女はおれの内心に気付くことなく、鎧をじっと見ている。長い沈黙の後、光は薄れ鎧は元の鼠鋼製のインチキ鎖帷子に戻った。感想を求めるようにこちらを見てくる少女をおれも見返した。目の前の少女は文字通りの魔術師、いや彼女の言を借りれば「魔法少女」なのだろう。心の底を暴かれたのは業腹だが、不思議を見せろといったのはおれ自身なので何も言い返せない。 「つまり、本物、か」 「もちろんよ。夢と希望を叶えるのがあたしの使命だもの」  どこか誇らしげに胸を張って少女は答える。 「ところでお兄さん、ここは一体どこかしら」 「ライヤボード。あんたの好きそうな夢は腐ってるし希望は死んでいる、そんな都市さ」  ぱちくり、と少女は瞬いた。それから、口を開く。 「聞いたことないわ――「王国」でも「美羽根町」でもないことは分ったけど……」  答える声には戸惑いの色が感じられた。よほどの田舎者でも知っているであろう悪名高き大都市ライヤボードを知らないとはいったい何者なのか。少女は青ざめて慌てたように自分の衣を探っては様々なものを並べていく。それはきらきらとした色とりどりの宝石に飾られた二つ折りの鏡であったり、拳大もある蒼玉に象徴的な鳥の彫刻が施されたロッドであったり、もしライヤボードの人通りの多い場所で見られたら一瞬のうちに盗賊たちの餌食になるし、裏通りだったら持ち主が死体になって次の日港か河に浮き上がること間違いなしの品ばかりであった。 「コンパクトもロッドも生きてる……よかった!」  少女は大事そうに装飾過多な鏡とロッドを抱き締め小さく息を吐いた。反応から魔法の品なのだろう、とおれは察する。それも彼女にとって大事な品らしい。確かに古馴染みの三流魔術師曰く「杖は魔術師にとって第三の腕」という話だったが。 「で、嬢ちゃん。これからどうするんだ」 「どうするって……帰り道分らないけれど、ありがとうございました。きっと上手くやっていけると思います」 「上手くって馬鹿か! そんな恰好していたらさらわれるのがオチだ!」 「でも知り合いもいないし……昔の世界に飛ばされたときもどうにかなったから今回も大丈夫なはず」  能天気を訂正した。こいつは阿呆だ。泣きたくなるほどの阿呆娘だ。脳味噌の代わりに花が詰まっているに違いない。昔に飛ばされた、という言葉は聞かなかったことにした。魔術師の言うことにいちいち問いを投げかけていたら一日が終わる。奴らは基本的に生きている現実が違う生物なのだ。 「因みに前はどうしたんだ」 「どうするって、困っていた所を助けられて……で、そこの家に居候になって」  おれはため息をつく。 「お前なあ、助けてくれたっていうがそいつらに下心がないとどうやって信じられるんだ」 「だってみんな親切だったもの。そりゃあ意地悪な人もいたにはいたけれど」  この少女とおれの世界は一生交わることがないだろう。どれだけ強運なんだか、彼女のいた場所はライヤボードの真逆のような場所だったのか。 「あの、お兄さん……」  いつのまにか考え込んでいたおれを少女が心配そうに覗き込んでいた。 「ケイウェンでいい」 「じゃあ、ケイウェン。どうしてそんなに苦い顔になっているの」 「だからあんたが心配で」  そこまで言っておれは頭を抱えた。そうだ、こんな小娘一人騙すだけ騙して持ち物巻き上げうっぱらうのがこの都市の流儀のはずだし、そこまで行かなくても赤の他人の面倒なんぞタダで見る必要なんてないはずなのだ。その上この少女は魔術師もとい魔法少女で、騙されたところで呪文一つで困難から脱出できるだろう。おれのような剣以外に脳のない野郎とは違う。  ――じゃあ、何故心配になった――  心配になった理由が分からない。少女に惚れたわけでも、同情したわけでもない。「腕のいい魔術師に恩を売っておけば後々便利だ」という下心はあったが、それは心配ではない。おれの胸の中にあったのは理由のない心配だった。見捨てたらこの後延々後悔するであろうといった類の感情で、まだまだおれの中にそういった類のセンチメンタリズムが残っているのにため息をついた。  ――ここの流儀になれたつもりでいたのにな―― 「とりあえずだ、その派手な格好はやめろ。目立ちすぎる。魔術師なら格好を変える位は出来るだろう。ここで宝石なんて持ち歩いていたら盗まれるか警吏に難癖つけられて巻き上げられるかがオチだ」  こくりと少女は頷く。そして、瞬きする間に彼女の姿は変わっていった。見たことのない仕立てであったがあえて説明するならばレースで飾られた白いシャツに鮮やかな青いスカート。よく磨かれた青い靴。小さな青い石の付いたチョーカーが首元で揺れている。彼女にしてみれば地味にしたつもりだろうし、実際先ほどの姿と比べれば地味になった方だがそれでもどこかの名家の娘といった風合いで目立つことこの上ない。 「もうすこしどうにかならないか」 「そう言われても、これが元の格好だから」 「分かった分ったお嬢様」  ――こりゃあ、ずぶずぶ相手のペースに嵌って結局面倒を見る羽目になりそうだ――  苦笑いを心の中で浮べるが、ふとその時心の底で妙案が閃いた。どうして思いつかなかったのだという程の簡単な解決策だった。 「どうせ食っていくアテも泊まる場所もないんだろう。腕のいい魔術師だとしても――」 「あの、さっきから魔術師魔術師言われてるけど魔法少女、」 「似たようなものだろう。魔術の才能がどれくらいあろうと、ここであんたは一日無事に過ごすことは出来ない。無事に生き延びられたらおれは自分の剣を飲みこんでやる」  少女はおれの剣と口を交互に見比べた。 「で、おれだ。おれはライヤボード生まれでこの街の流儀にも詳しい。名前もそこそこ知られている。あんたがこの街になれるまで面倒を見ることが出来る……もちろん、タダで助けはしないぞ。タダほど面倒なことはないからな……だから、あんたに話がある」  状況が理解できないといった風の少女を無視して話を続ける。 「おれは街の面倒事をどうにかすることで日銭を稼いでいる。その手伝いをしてもらいたい」  曰く、どこかの街には魔術師を捕まえて何らかの手段で使役することに成功し、一攫千金を得た奴がいるらしい。だったら目の前の少女の力を借りて仕事を手伝ってもらうことなどささやかな行為じゃないか。少々プライドは削れるがギブアンドテイク、おれは懐が温かくなり、少女はここのやり方を覚える。誰も損をしない。 「さっきのごろつきみたいな奴を改心させたり、夫婦喧嘩の仲裁に入ったり、鼠やなにやの駆除をしたり、そういった物ばかりだが――出来るか」  少女はこくんと頷いて満面の笑みを浮かべた。 「もちろん! 街の平和を守るのが魔法少女の務めだもの。出来るわ!」  根本的な所で会話がすれ違っている気もしないでもないが、とりあえずは大丈夫らしい。 「そうか、じゃあ―��契約成立だ、サファイアの嬢ちゃん。呼びにくいからサフィでいいか」 「本当の名前は別にあるんだけど、ケイウェン��好きなように呼んで」  おれの出した手を少女改めサフィが握る。その手は小さくて、暖かかった。 「で、早速仕事なんだが」 「なあに」 「さっき取り逃がしたごろつき三人、どこにいるかわかるか? あいつらをどうにかしない限り、今日の夕食は芋一個、最悪悪友にたかりに行かなきゃいけない羽目になる」 「任せて!」  瞬間、ポン、という音とともにサフィの姿がまた最初に出会った時のひらひらきらきらしたものに変わる。 「おい、その恰好に意味はあるのか――」 「魔法は変身しないと使えないの。ごめんね!」 「どういう仕組みだ!」 「そういうお約束!」  物事がすべてうまくいくわけがない。この派手な少女を抱えてライヤボードの日々を乗り切る羽目になったという現実に、ため息をつく。やっぱり気が変わったと見捨ててもサフィはどうにかしておれのことを見つけ出すだろう。怒りと共に、ではなくはぐれちゃってごめんねとかなんとか言いながら。澄んだ大きな青い瞳は諦めることを知らないだろう。  サフィは宝石の付いた二つ折りの鏡を取り出して何事か呟く。肩越しに覗き込めば一寸の狂いもなく曇りもない鏡の中におれの顔が映る。癖のある赤毛。日に焼けた肌。世間に慣れた振りをしている疲れた男。こんな顔だったかと自分の顔を見つめていたが、ふいに鏡面が水面のように波打ち、先ほどのごろつき三兄弟の姿を映しだした。薄暗い酒場の中。目を凝らすと所々にぶら下がった旗がある。その旗に描かれた紋章は宝玉を握りしめる手――。 「どこか、分る?」  おれは舌打ちした。これはまずい。だいぶまずい。ロウナには苦情を言っておこう。何が簡単な仕事だ。レェロにはしばらく身を隠せとでも伝えておこう。お前何をしたんだ。 「サフィ、すまん、今日の夕食は芋一個……あんたもいるから芋半分だ」  どういうことか分からぬとこちらを見るサフィにおれは続ける。 「あいつらがいるのは、盗賊ギルドの中だ」 「ギルド?」  サフィはそんな単語聞いたことがないという風に目をぱちくりさせる。この娘、相当の世間知らずらしい。 「あー、なんだ。盗賊たち……泥棒に詐欺師に物乞いに、ライヤボードの胡散臭い奴らが集まっている所だ」 「じゃあ、悪い人達ね!」 「ああ。ライヤボード一有名な悪の秘密結社だと思えばいい。とても悪い奴らだし、危険だ。下手に首を突っ込むとそのままおしまい、四千ゲドンの地下に落ちた方がマシな目に合う……というか命が助かる見込みはない。……ライヤボードの実際の支配者が奴らだからな」 「誰も今まで戦わなかったの……」 「輝く鎧の騎士も、大胆不敵な無頼漢も、戦っては全員負けてきたさ」  サフィとおれの間に沈黙が流れる。 「もし、もし倒せたらこの街は平和になる……?」 「ならない。また別の奴らがのし上がるだけだ。こういう世界なんだよサフィ」  サフィはこちらの声に混じった諦めに何か言い返そうとしていたが、おれはその様子を遮った。 「とにもかくにも今は夕飯だ。もしかしたらあんたの姿を見て芋におまけがつくかもしれない」 「何処に行くの」 「ロウナの宿だ。まずはあんたの服とおれの胃ををどうにかしないといかんからな」
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syadowverse-blog · 8 years
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【シャドウバース】20戦17勝『陽光ビショップ』デッキレシピご紹介!【作:papiyonman氏】
自慢のデッキをご紹介!
Shadowverse(シャドウバース)におけるビショップクラスのデッキを紹介致します。 今回のデッキ紹介はMasterランク papiyonman様の陽光ビショップのデッキレシピをご紹介! 立ち回りのコツやキーカードについて、有利なデッキや不利なデッキについても解説付き!
もくじ
デッキレシピ
デッキについて
このデッキの勝利数
有利・不利なデッキ
マリガン(初手交換)
立ち回りのコツ
代用カードについて
デッキレシピ
デッキコードを発行する
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デッキ概要
デッキについて
古き良き部分を残しながらもバハムート降臨で確実に強化された陽光ビショップです。 個人的に現環境はテンポウィッチ、アグロヴァンパイア、コンボエルフの3強なのでこのデッキ全てに勝てる可能性が高く、さらに幅広いデッキに対応できるこのデッキは環境にとてもあってるといえます。
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このデッキの勝利数
20戦17勝 勝率85% 圧倒的にデータが足りていませんが、ドロシーウィッチに対する強さと幅広いデッキに対応できるという点は分かっていただけると思います。
クラス デッキ 勝率 エルフ コンボエルフ 1戦0勝 薔薇エルフ 1戦1勝 ロイヤル コントロールロイヤル 2戦2勝 アグロロイヤル 1戦1勝 ミッドレンジロイヤル 1戦1勝 ウィッチ テンポウィッチ 7戦7勝 超越ウィッチ 1戦0勝 秘術ウィッチ 1戦1勝 ドラゴン ランプドラゴン 1戦1勝 ディスカードドラゴン 1戦1戦 ネクロマンサー アグロネクロ 1戦1勝 ヴァンパイア アグロヴァンパイア 1戦1勝 ビショップ セラフビショップ 1戦1勝
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マリガン(初手交換)
詠唱:聖なる願い、マイニュ、スネークプリーストは確定キープ。 2コストが引けているのであれば3コストのカードもキープ対象。
先行の場合はウリエル、熟達調教師など先行4ターン目に強いカード。 後攻の場合は漆黒の法典、鉄槌の僧侶など後攻で輝くカード。
ビショップ相手にはオーディンをキープしても良いかもしれません。
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有利・不利なデッキ
【有利】 テンポウィッチ、コンボエルフ、ロイヤル全般、ネクロ全般
【微有利】 アグロヴァンパイア、ランプドラゴン
【不利】 冥府エルフ、超越ウィッチ、セラフビショップ
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立ち回りのコツ
テンポウィッチ、アグロヴァンパイア相手にはとにかく自分の体力を守るように立ち回ります。 そのため序盤に守護の陽光を置く暇が中々ありませんが、守護の陽光は中盤以降においても大修道女やレディアンスエンジェルに守護をつけれるので十分仕事ができます。
コンボエルフに対しては6ターン目以降からは毎ターン守護を置きたいです。 このマッチアップは守護の守護の陽光を引けなかったら勝てない可能性が高いです。 逆に引くことさえできればほぼ勝てると思います。 ドロー力に乏しいので一枚一枚のカードを大事に使うことを心がけましょう。
デッキの性質上進化権が余ることもありますが、ダークエンジェル・オリヴィエは進化権が残ってるときに絶対にだしてはいけないということはありません。 出せるときに出した方がうまくいくことが多いです。特にこのデッキは鉄槌の僧侶に加えてエンシェントレオスピリットも3枚入っているので効果を使いたいときに進化権がないことは出来るだけ避けたいところです。
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代用カードについて
まだ完全なデッキじゃないので変更できるところはいくつもあると思います。 ムーンアルミラージやルシフェルなど優秀なカードは他にもたくさんあるのでこうした方がいいんじゃないかという意見を皆様に聞かせていただきたいです。
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この度はデッキ提供ありがとうございました! 皆さんのよりよいシャドバライフの参考になれば幸いです
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