一文字の間違いで物凄い意味が違った事
【ご注意】
今回のエピソードは、かなりお下品です。っていうか、ガチで下品です。それでも大丈夫って方なら、どうぞ👇
私が前に勤めていた会社は珍事件の宝庫だった。特に、ユニークで面白いというか個性的(変な人とも言う)が非常に多く、常に誰かがネタを落としてくれていた。
私が新人の頃、嘱託で読書家だったZさんはスペイン語、フランス語、イタリア語、ポルトガル語を話すマルチリンガルで、若い頃の記者時代はキューバ革命や冷戦中のキューバ危機、コロンビアの紛争など、主にスペイン語圏の中南米の記者だった。そして、かのカリスマ革命家のチェ・ゲバラにも会ったという事で私も含めて若手記者達の目標と憧れでもあった。(ちなみに私は、アル・カイーダのウサマ・ビンラディンに会ってみたかったが、終ぞ、彼に会う事は叶わないまま、ビンラディンは死亡してしまった)
ただ、Zさんはラテン語は物凄く上手なのに、英語は超が付くほどド下手だった。ハッキリ言って、そこら辺にいる小学生や、中学生の方が遥かに英語が上手だろうと思うくらい、英語が下手で、普通に英単語の発音が間違っていたり、ラテン語が混ざっていたりするので、Zさんが使う英単語が何を意味するのか理解出来ない人がほとんどだった。例えば、イギリスのチャールズ皇太子(現チャールズ国王)をラテン語読みで「シャルル皇太子」と言うので、理解できるまで???状態になってしまう事もしばしばだった。
ある日、所属長のMさんと同期のS君と私との3人でのんびり過ごしている時、Zさんが我々の部署にやってきて、私の隣の席(もともと誰も座っておらず、常に空いている)に座り、声をかけてきた。
Zさん「なぁなぁ、みずほちゃん、今暇?時間大丈夫?」
私「暇なわけじゃないですが、立て込んでないので大丈夫ですよ」
Zさん「よかった。ところで、みずほちゃん、『ペニスの商人』って知ってる?」
私は教皇の間に呼び出されたミロのように、思わず、「はっ?」と言ってしまいそうになったのをグッと堪えた。
『ペニスの商人?なんじゃそりゃ????臓器売買のブローカーのことかな???いや、ペニスは臓器じゃないか(👈どうでもいい)...ペニスを除去するのなら、私が子供の頃はモロッコ、今はタイが主流だけれど、何の事だろう???そもそも、ペニスを取り除くって需要があるのは知っているけれど、ペニスが欲しいって需要なんかあるのかな?それとも、私が知らないだけで、ペニスの売買っていう市場があったのかな?しかし、需要と提供のバランスはちゃんと取れているのかな?ペニスを提供する人は何の為に提供するのかな?ひょっとして物凄い高額な市場なのかな?でも、聞いた事ないしな~???』
私の頭の中は疑問符が飛び交っていた。
私が珍妙な表情をして黙りこんでしまうと、Zさんは、「おーい、みずほちゃん、聞こえてる?」っと尋ねてきた。
「聞こえてますよ」
「じゃぁ、返事くらいしてよ」
「いや~、Zさんが仰った『ペニスの商人』って何だろう?って思って、考え込んでしまったんです。『ペニスの商人』って何ですか?臓器売買のブローカーか何かですか?」
「臓器売買のブローカーって恐ろしい事いうなぁ...ペニスの商人は明るい話で、有名な小説だよ。知らんの?」
「小説ですか。初めて聞きました。」
Zさんが、『ペニスの商人』が小説だと言うので、私はそのとき、ふと小松左京さんの『アダムの末裔』という小説の事を思い出した。以下がアダムの末裔の簡単なあらすじである。
ポルノ小説作家である主人公は、恋人と幸せに暮らしていたが、自分の作品がマンネリ化している事に悩んでいた。新しい小説の連載の締め切り期限が近づいているが、一向に新鮮なネタが思い浮かばず、悩んでいるとき、自宅のリビングの飾り棚に物凄く巨大なペニスのオブジェがある事に気付く。恋人と自分の関係もマンネリして、恋人がこの巨大なオブジェを買ったのだろうか?と疑問を抱きながら、主人公がオブジェを見ていると、なんと、そのオブジェが動き出した。ビックリ仰天した主人公は腰を抜かしてしまう。そして、気が付くと、自宅の周りには、その最初に見たオブジェと同じぐらいの大きさのペニスのオブジェが溢れかえっていた。恐れおののく主人公。巨大ペニスの大群が自宅の中を好き放題荒らしていったが、一匹(と言っていいのか分からないが💦)のペニスがネズミ捕りの罠にかかり絶命してしまう。その他のペニスはいつの間にか忽然と消えていた。すると、巨大な人がやってきて、そのペニスはずっと未来の人間の男性の姿なのだと言う。遠い未来、男性の役割は子種を残す為だけのものとなり、進化の過程の一環で、身体はペニスだけとなり、文明の繁栄をもたらす女性は巨大化したのだという。絶命したペニスは未来からやってきた女性に持って帰られ、主人公は男性の未来の姿がペニスだけになるという事い愕然とする一方で、男性で人類の祖先と言われている聖書の「アダム」の「末裔」が「巨大化したペニス」という小説のネタを思い浮かぶ
30年以上前に、親友に借りて読んだ小説なので、あまりはっきりとした事は覚えていないが、アダムの末裔のあらすじはこんな感じだったような気がする。私は、Zさんが言っている「ペニスの商人」と言うのは、ちょっと内容は異なるが、ひょっとして「アダムの末裔」のことではないかと思った。
私「ペニスをテーマにした題材なら、小松左京さんの『アダムの末裔』なら知ってますけど、「ペニスの商人」は初めて聞きました。誰の作品ですか?」
Zさん「ペニスの商人の作者は、日本人じゃなくて、外国人の作家。有名な作家だよ。けど、ボクは作者の名前を発音できないけど、ファーストネームは『ギジェルモ』で、ラストネームは『○×◆□×////』ダメ、ボクは発音できない。しかも、ペニスを売るからペニスの商人っていうタイトルじゃなくて、ペニスっていうのは地名だよ」
私「『ペニスの商人』は、ギジェルモ・ナントカさんって人が書いた小説なんで、ペニスは地名ですか...?」
私の頭の中は益々混乱した。
ギジェルモって誰だろう?有名な外国人作家でギジェルモなんて人はいたかな?トーマス・マン、フランツ・カフカ、オスカー・ワイルド、アレクサンドロス・デュマ、エミリ・ブロンテ、ビアトリクス・ポター、アーネスト・ヘミングウェイ、ドストエフスキー、レフ・トルストイ、チャールズ・ディケンズ、ヘルマン・ヘッセ...やっぱり、ギジェルモって人は知らんなぁ...
しかも、ペニスなんて地名はあっただろうか?一体何処だろう?未承認国家の山の奥地かな?それとも、インドネシアのジャングルの奥地に住んでいる原住民みたいなペニスケースを衣服としている人々の集落かな?うーん、検討もつかない...Zさんは、一体何の何処の場所を言っているんだろう??
私の頭の中は、益々激しく疑問符が飛び交っていた。
私「ペニスってどんな場所ですか?未開の地のジャングルか山奥の原住民が暮らしている集落ですか?アフリカの奥地ですか?それともアマゾンの奥地ですか?もしくは、鎖国している国にある秘境か未開の場所ですか?」
Zさん「違う違う!ペニスはキレイな事で有名な街だよ。そうだな~一番の特徴は、お面を付けるお祭りがあることかな」
私「ペニスには、お面を付けるお祭りがあるんですか?」
Zさん「そうそう!お面を付けた華やかなお祭り!いっぱい観光客が来るよ♪」
私の頭の中はまたもや疑問符だらけになってしまった。第一「ギジェルモ」なんて名前の有名な小説家は聞いた事が無いし、お面を付けたお祭りなんて、ひょっとこのお面にドジョウ掬いぐらいしか思い浮かばなかった。ひょっとこのドジョウ掬いは、島根県に由来する事は知っていたが、私の頭の中で、島根県に『ペニス』なんて地名はない。島根県のドジョウ掬いを、外国の有名な作家が、わざわざ舞台にして小説化するだろうか?ドジョウ掬いの祭を見に行ったことはないが、観光客が押し寄せるとも考えにくい。しばらく考え込んでから、私は再びZさんに尋ねた。
私「お面を付けたお祭りって、もしかして、島根県でやる、ひょっとこのお面を付けたドジョウ掬いの事ですか?」
Zさん「違う違う。そんなんじゃなくて、もっと洗練されたカッコイイお祭!」
私「洗練されたカッコイイお祭りですか。ペニスってお面を付けたお祭り以外にも、何か有名な物ってないですか?」
Zさん「ええっとねぇ。まず、ヨーロッパにあって、観光客が常にいて、車の乗り入れが禁止されていて、アドリア海に面していて、昔都市国家だったときに凄く繁栄していた街。それでね、物凄く街並みがキレイで、世界遺産にもなっていて、ペニスは別名として『アドリア海の女王』とも呼ばれている所!」
私は、『アドリア海の女王』という言葉を聞いて、やっとZさんが言っていた「ペニス」が何処であるかを分かった。都市国家、車の乗り入れ禁止、物凄くキレイな街並み、かつては都市国家として栄光の歴史を歩んでいる、『アドリア海の女王』、これはすなわち、アドリア海に面した運河の街、イタリアのヴェネツィアで間違いないだろう、と。
私「Zさん、ペニスって、イタリアのヴェネツィアのことですか?」
Zさん「そうそう!ヴェネツィア!ヴェネツィアを舞台にしたギジェルモ・ナントカの喜劇小説!」
私「やっと分かりました。ウイリアム・シェイクスピアの『ヴェネツィアの商人』の事ですね」
Zさん「そうそう!その通り!」
ヴェネツィアは、英語読みすると『ベニス』と発音する。Zさんは、英語が恐ろしく苦手な人なので、濁音の「ベ」が半濁音の「ペ」になってしまっていたのだろう。そして、ウイリアム・シェイクスピアのファーストネームであるウイリアムはスペイン語読みで「ギジェルモ」と発音する。『シェイクスピア』をZさんは発音できなかったのだろう。
この後、Zさんとどういう会話をしたか、あまり覚えてないが、チラっとMさんとS君の方を盗み見ていると、PCの画面に顔を埋めて肩が小刻みに震えていた。恐らく我々の会話を聞いて、吹き出したいのを堪えていたのだろう。
私は、Zさんに、ヴェネツィアの英語読みは、『ペニス』ではなく、『ベニス』と発音すると教えてあげるかどうか迷ったが、Zさんに恥じをかかせる事になると思い、黙っておくことにした。
しかし、一文字の違い、しかも濁音か半濁音かの違いで、トンデモナイ意味の違いがあるのだなぁと改めて思った。同じ事を意味のつもりでも、『ヴェネツィアで、仮面を付け、仮装した人々でカーニバルが開催される』と『ペニスで、お面を付けたお祭りがある』では、Zさんにとっては同じヴェネツィアのカーニバルの事を意味していても、聞く方になってみると、全く違うモノを想像してしまう。
一文字の違いが、こんなに大きな意味の違いになってしまうとは、字書きとして、気を付けなければと思った瞬間だった。
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エミリとフレンドとファニーのホリデーナイト styling 紹介
こんばんは。
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本日は先月の22日に開催された”エミリとフレンドとファニーのホリデーナイト”での、アーティスト加納エミリさんのスタイリングをご紹介させて頂けたらと思います。
あまり、スタイリングの解説をするというのも恥ずかしいので、簡単にさせて頂く形にしますが、少しだけこんなことを考えてさせて頂きましたというお話をさせて頂ければと思います。
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まずはその前に明日からの営業予定をお知らせさせて頂きます。
11/11 (月) ~ 11/17 (日) までの営業予定
11/11 (月) 12:00 ~ 21:00
11/12 (火) 14:00 ~ 21:00
11/13 (水) お休み
11/14 (木) 14:00 ~ 21:00
11/15 (金) 12:00 ~ 21:00
11/16 (土) 12:00 ~ 21:00
11/17 (日) 12:00 ~ 21:00
とさせて頂きます。
よろしくお願い致します。
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さてそれでは早速本日の本題へ。
改めて、スタイリングを振り返ると、あまりこういった機会も無く、とても貴重な経験をさせて頂きました。
色々とあらかじめ準備をしていたのですが、まあ、事前の準備等全くもって役に立ちませんでした。笑
当日お会いして、ほぼ準備していたアイテムが使えないという事態に。
一応念の為、予備としていくつかアイテムを持っていったのが非常に功を奏した形となりました。
ただそういった点で本人の良さを最大限引き出せたかというと力不足だったことは否めません。
非常に勉強になりました。
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では早速1着目から。
ちょっと写真が僕の撮った写真で誠に申し訳ございません。
光も逆光で分かりにくいのでは無いかと思います。すみません。。
今回のイベントのお話を頂いた段階でこれまでのアイドルっぽいスタイリングというより、ちょっとシックでエレガントな雰囲気をというお話を頂きました。
なので、まずはそういった意図を込めてモノトーンでまとめてみたスタイリングになります。
スカートは一見パンツにも見えるような仕掛けのあるグレーのスカートになります。
広がりも抑えられ、丈も膝下に来るようなスカートになるので非常に大人っぽい雰囲気をイメージしてみました。
その反面、トップスは袖に穴を開けたようなデザインでインパクトのあるアイテムを持ってきました。
ネックの部分や身体にフィットするようなトップスなのでそういった点では女性らしさを少し感じられるアイテムかなと思い、ボトムスの雰囲気に少し女性らしさを出したトップスを合わせてみました。
なので、今回のお話を頂いた際に、一番意向に沿うように考えさせて頂きました。
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続いて。2着目ですが、先ほどと反対に可愛らしい雰囲気を出してみました。
エレガンスかと言われるとちょっと疑問となってしまうのですが、これまでのイメージには無い、アイドルというよりはアーティストとして、可愛らしさを出してみたいと思いこのように合わせてみました。
個人的には今回このスタイリングが最も上手く行ったかなと思っております。
このアイテムを選んだ理由として、どこかレトロでノスタルジーを感じる音楽をされているというイメージを最初に受けたので、それに合わせ、少しレトロさを感じるチェックやニット柄が独特なアイテムを選びました。
”加納エミリ”さんの音に結構フォーカスして考えたスタイリングになります。
続いて3着目はトークショーのときのスタイリングになります。
先ほどのワンピースをベースに帽子やスカーフといった小物を主に使ったスタイリングになります。
可��らしいレトロな雰囲気を出そうと思いこのようにさせて頂きました。(この理由は先ほど2着目でお伝えした理由になります。)
一方で、少しだけ知的というか、そんな要素も感じられたらなと思いもあります。
色々とスタイリングをするにあたり、いくつかインタビュー記事や音楽を聞かせて頂きました。
計算されたダンスの仕上がりや、癖になる音などから、賢いというか、生き残る為の差別化等、彼女の非常にしたたかな部分を感じました。(僕のイメージです。)
またこれまでに非常に多くの音楽に触れてきていることも知り、そんなオタクというか、マニアの要素も感じられたのでそういった”知”を感じさせられたらなと思いました。
なので、そんな”加納エミリ”さんの一面をベースに考えさせて頂きました。
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そして最後ですが、ライブ衣装になります。
実は僕にとっては禁じ手とされる、上下同一ブランドの合わせになります。
ただ、同素材をつかった切替のアイテム同士ということでセットアップとして捉えております。
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トップスはミリタリー等のインナーに見られるワッフル地のカットソーにキルティングの切替を施したアイテムになります。
ライブなので動きやすいアイテムということをベースにしようと考え、選びました。
また、ダンス等で手を動かした際に、そういった動きの分かりやすくなるような、腕にアクセントのあるトップスを選びました。
”加納エミリ”さんのお話を聞いたり、インタビューを読むと、先ほども述べましたが、他との差別化や、オリジナリティを高め、厳しい状況でもサバイブするような強さや、戦う姿勢のようなイメージを抱きました。
そのため、ミリタリーに代表されるようなカーキのアイテムを選んでおります。
一方ボトムスのスカートは女性らしいスカートで、しかもきちんと目立つピンクのスカートをチョイス致しました。
キルティングとプリーツという全く違った表情を見せるスカートになるので視覚的にもおもしろかなと思って選びました。笑
めちゃくちゃゆるい理由ですみませんが。
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ということでこんな感じで今回はスタイリングを組ませて頂きました。
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サンプルを貸して頂いたブランド様には感謝です。
ありがとうございました。
ケア終了後速やかにお戻し致します。
以上簡単ではありましたが本日はそんなスタイリングの解説をさせて頂きました。
まあ、意図を持ってスタイリングすることも結構あるのですが、結局はかわいいか、可愛くないか、かっこいいか、かっこよくないかだと思います。
ぶっちゃけ僕はそれでいいのです。
可愛い、かっこいいって思ってもらえる、それを求めているのかもしれません。
なので、今回は何よりも、アーティストさんに喜んで頂けるのか、そして、来場頂いた皆様にそういったかわいい一面を見て頂けて、喜んで頂けたのか。
それに限ります。
主役はあくまでも彼女と来場頂いた皆様なので。
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ひとまず、非常に良い経験ができました。
このように決められた舞台でスタイリングを組むということは、少なくとも日常ではありません。
服は着る方のイメージを増幅させたり、逆に壊すこともあります。
そう考えると着る対象の方のことをじっくりと考えてスタイリングを組むということは普段とまた違ってとても良い経験になりました。
こういった機会を頂けたことに感謝しております。
とても楽しい経験が出来ました。
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それでは本日はこの辺りで。
また次回もお楽しみに。
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第28話 『ある術者の1日 (4) - “新しい夜明け”』 One day of a necromer chapter 4 - “New Dawn”
白々と太陽が夜の淵を染め、新しい朝がやってこようとする頃、屍体の兵士は美しい女性を抱きかかえて小屋に戻って来た。
「ダレン!」
待ち受けていたマルクが、ドアを開けてダレンを受け入れる。
魔法陣の向こう、椅子にもたれ目を伏せる自分が真っ先に目に入った。
意識のない自分の体を前にすると奇妙な心地になった。魂が繋がっているのが見えるが、そこで眠る自分とエミリアのには大きな隔たりがある。
ダレンはこのあとすぐに目覚めるが、エミリアは一生目覚めない。
「すまないが、マルク。エミリアに何か掛ける物を持ってきてやってくれ。俺はこの屍体を埋めてくる」
「分かった……気をつけて」
マルクが奥に引っ込んだことを確認してから、ダレンはゆっくりとエミリアを横たえさせ、外に出た。
屍体を隠すことももう慣れた手順のはずだ。地中に身体を埋め、隠すことなど、心が揺れるはずもない。
だが、今日は妙に疲れた。骨の折れる作業に思え、永遠にこの穴を掘り続けるのではないかと、絶望的な感情が湧いた。
接続を解いてダレンが自らの体に戻る。
「ダレン……」
傍に座り込んでいたらしいマルクが力なく名前を呼んだ。
振り向いたマルクは憔悴しきった表情をしていた。
ほんの数時間前、『これで生き延びられる』と瞳を妖しいほどに輝かせていた同一人物とは思えない。
この一晩でめっきり老け込んでしまった。
恐らく、それはダレンも同じだ。
「――……夜が明けきったら、ヘルマンを弔いに行こう」
ダレンの提案に、マルクは一瞬怯えたように目を丸めたが、やがて頷いた。
死は見慣れたと思っていた。
墓を暴き、死を冒涜し、それに慣れたつもりだった。
それがどうだ?
友人の死を目の当たりに――しかも凄惨な死を――した途端、心が怯んだ。
もう感じないと思っていた痛みや苦しみが込み上げて、深い悔恨がもたげる。
――人の命を弄ぶことに、何も感じないのか!?
ヘルマンの叫びが今では身に染みる。
感じなかったのは、その屍体が『他人』だったからだ。それだけ死の記憶を見ても、その個人の記憶を見ても、それは書物を読むような芝居を見るような感覚に過ぎなかった。
けれど、どうだ。
実際に目の前でヘルマンの死を見ても、同じことを言えるのか。
項垂れていたマルクはゆっくりと顔を上げた。
「……エミリアの屍体も、使うか?」
「……マルク……」
名前を呼ばうことしか出来なかった。
考えることを頭が拒否している。
「使える屍体も残り少ない……���のままじゃ朽ち果てるか、掘り返されて喰われるか」
マルクの口調も流石に力がない。
「誰か知らない奴らに、エミリアを使われるだけだと思う。それに……」
その先は畳んだ。
だが、ダレンだって分かる。
微かに首を振ることしか出来なかった。
「――一晩だけでいい。一晩、考えさせてくれ」
「分かった」
マルクが去った後も、ダレンは屍体に”なった”時の座った姿勢のまま、ただただ動けずにいた。
目を背けずに見れば、エミリアは既に生前通りではないことは分かる。
美しいエミリアが、徐々に永遠に時のない眠りに蝕まれていくのは仕方のないことだった。
輝くほどに白かった肌はくすみ、ハリを失っている。
抱き上げた身体も軽かった。それはBuriedbornesで、屍体の力を上げた影響だけではないはずだ。
やがて、ダレンはぎこちなく立ち上がった。
エミリアの伏せた睫毛を見下ろす。
この面影もいずれ消え失せてしまうのか、それとも、自分達の終わりが先か……。
マルクが言い淀んだ先の言葉を、ダレンだって理解している。
「エミリア……、このままでは俺達もみんな死んでしまう」
お願いだから、目を開けて微笑んではくれないだろうか。
「そっちはどうだい? いいところか? ヘルマンとは会えたかい?」
じっと見下ろしたまま語り続ける。自分自身の手でエミリアに触れることが恐ろしかった。
エミリアの死を本当に受け入れなければならなくなる。
彼女は永遠に変わらない、という思い込みを捨てなければならない。
それならば、
「……せめて、僕が死ぬ前に、君の想いを見せてくれ」
僕は、ずっと君を見ていた。君を愛していた。君を守りたかった。
ダレンは言えなかった熱烈な言葉を、その亡骸を前にしてさえ、やはり口に出来なかった。
ここまで来ても告げられない自分が愚かしく思えるが、エミリアに似合う言葉を探せないのだ。
自分達を救い、光をくれた彼女に陳腐な言葉は似合わない。
ダレンは振り向いた。Buriedbornesのためにマルクが描いたその魔法陣を。
魔法陣の前、先ほどまで埋もれるように座っていた椅子に戻る。
「エミリア……」
このまま死ぬならば、僕は、君のことを、君の想いを、見てから死にたい。
「欲しいものは、何でも買ってもらえるの。だって、私のおうちはお金があるから」
私が覚えているのは、お姉様が新しいお人形を買ってもらった時に、私にそう嘯いたことだった。
お姉様はその半年後、風邪をこじらせてあっけなく亡くなり、お人形は私の物になった。「お金があっても買えないものがあるのね」ってお姉様に話しかけた。棺の中のお姉様は綺麗な白いドレスを着せてもらっていたわ。
あのドレスを着たいと言って、お母さまを困らせたっけ。
そういう意味で、私はとても恵まれた環境に育ったのだと思う。
お父様は商人をしていて、お母様はいつも窓辺でレース編みをしていらしたわ。何人ものお女中がいて、私は乳母に育てられた。
ヘルマンと出会ったのは5歳のころだった。新しいドレスをこしらえてもらって、遊びに行ったお家の子がヘルマンだったの。
ヘルマンのおうちは将軍様の家系で、立派な騎士の末裔なんだって、お庭にある馬に乗った騎士様の銅像を見ながらヘルマンは教えてくれた。
私達は子供らしい無邪気さで、1日ですっかり仲良くなったの。
今なら分かるわ、私の家は家柄が、ヘルマンの家は経済力が必要だった。そこにお誂え向きの年の近い息子と娘。願ったりかなったり。
でも、そんな思惑なんて関係なかった。
私もヘルマンも、一目でお互いを気に入ったの。お父様とお母様のように暖炉のある暖かな部屋で子供に絵本を読む、年を取ったヘルマンと私が自然と思い浮かんだわ。
だから、帰り際にヘルマンが「おとなになったらお嫁さんにしてあげる」と言ってくれた菫のお花を、押し花にしてずっと大事にしているの。
乳母も家庭教師も厳しかったけれど、お父様とお母様は『愛しいエミリア』って一人娘の私を可愛がってくださった。
お母様は教会の活動にも熱心で、レース編みのベッドカバーや刺繍入りのハンカチーフを差し入れていたわ。
そういう時は厨房でたくさんのお菓子を作るから、こっそりいただいていたの。
「可哀相な人には優しくするのよ」
大きな帽子を被ったお母様は完璧な貴婦人で、私もそうなりたい��ドキドキしたものよ。
そんな中だった。
あの可哀相な子に出会ったのは。
「エミリア、何を見てるんだ」
ヘルマンがそう私に尋ねた声は、少し怖かった。
だってまるで命令するみたいだったから。
「……あの子、いつもああね」
「ああ、ダレンか」
大きな木陰に座っている男の子の名前を、何度聞いても私は忘れてしまう。
「親が殺されたんだって。孤児院に来たばかりで、全然馴染もうとしない」
「まぁ、可哀相じゃない」
可哀相だわ。
今まで風景の一部に溶け込むようにいたあの子が、急に立体的になる。
「何か読んでるのね。私、行ってくるわ」
「おい、エミリア!」
声変りを終えたばかりのみょうちくりんな声でヘルマンが咎めるけれど、私はダレンに駆け寄った。
「ねえ、何を読んでるの?」
――あら、あなた、案外綺麗な目をしてるのね。
私はそう内心で想いながら、ダレンの手元を覗き込んだ。
ダレンと一緒に遊ぶのは図書館が多かった。
ダレンは本が大好きで、孤児院の人達にもたくさんの本を与えられていたの。
そこに年下のマルクが加わって、自然と4人で遊ぶようになったわ。
図書館はいいところ。人目を忍べて、静かで、年若い恋人達にはぴったりの逢引の場所だった。
ヘルマンは時折、いきなり私を後ろから抱き寄せて、驚かせた。くすくす笑いながら抱きしめ合うことが本当に幸せだったわ。
慎み深い関係を続けていたけれど、人目を忍んで抱きしめ合うくらいは許されてもいいと思ったの。たくさんの書架は森みたいで、とてもロマンチックだった。
それに、私達は熱中していることがほかにもあった。
『医療魔術』について。
ダレンが1人で読んでいた本だったけれど、気が付けば私たち全員が夢中になった。
ヘルマンとダレンなんかはいつも話し合って、「ああでもない、こうでもない」って頭を抱えていたわ。
私が黙って見ていると、マルクが猫みたいにいなくなるの。
「……マルク?」
本の森に入り込んだマルクに声をかける。
マルクはいくつかの本を取り出して、パラパラと中を改めているところだった。
「エミリア……」
「その本、どうしたの?」
「ヘルマン達が話し合ってることの本。もう答えがここに書いてある」
私は驚いて瞬きをした。
そういえば、マルクはお医者様の息子だったことを思い出す。
「知ってたの? 教えてあげたらよかったのに」
「あの2人が話し合ってもいい案なんて出っこない。僕が新しい本を持って行かないと何も進まないんだ」
マルクは涼しい顔をして本を選び終えた。
「ヘルマンは図体はデカいし、力もある。ダレンは大人びてるよね。でも、2人ともそれだけだ」
「まぁ、マルク。そんなこと言っちゃだめよ」
私は驚いた。
いつもは2人について回っているくせに、内心では、そんな事を思っていたの?
「ふん。でも本当のことだ。僕がいないと、何も進まない、見ててごらんよ」
マルクの宣言の通りだった。
――確かに、2人だけじゃ、結論は出ないのだ。
私とヘルマンの関係はうまく進んではいかなかった。
私達は仲良くいたままだったけれど、家同士の折り合いが中々つかなかったようだ。
おかげで、私はお母様のウェディングドレスを受け継いだもののそれを眺める日々を過ごしていた。
けれど、そんな中ようやくその日は訪れた。
とてもよく晴れた日、ヘルマンの家に、一家で招かれたのだ。
母は私にとっておきのドレスを着るように言った。もう既にくるぶしの出る子供用のドレスは卒業していた私は、一生懸命ドレスを選び、侍女と浮かれながら髪を結わいた。
そっと、ドレスの胸元に子供のころもらった菫の押し花を忍ばせる。
ようやく。ようやくヘルマンと結ばれる。
夢見た幸せな生活が待っているのだと思うと、自然と微笑みが漏れた。
なのに。
「……ヘル……、マン……?」
何が起きてるの?
ねえ、ヘルマン、あなた、どうして私をそんな目で見ているの?
庭園でのお茶会。その時外から悲鳴が聞こえ、逃げるようにと従僕達が駆けつけた。
必死で逃げたの、お父様もお母様も見失って、それでもヘルマンの手を握って必死で走ったわ。
街は、見たことのないほど荒れていた。
そこかしこを歩くおぞましい屍者達の群れ、襲われた人達のなれの果て。
一体何が起きたというの?
この世の終わりが、来てしまったの?
必死で逃げたけど、限界が来て、私は転んでしまった。
あれだけしっかりと繋いでいた手が、呆気なく解ける。
「エミリア!」
あなたはそう叫んでくれたわね。
でも、すぐに立ち竦んだ。
はじめ、熱いって思ったわ。全身を貫くような熱さのあとに、壮絶な痛みが走った。
見たら、お腹から剣の先が飛び出している。
悲鳴を上げようとした口からは、かわりにたくさんの血を吐いた。
「何やってんだ!」
知らない男の人の声がして、するりと剣が背中へ抜けていった。
中年の男性が、スコップを振り回して屍者を追い払った。
胸にぽっかりと空いた穴から、湧き水みたいに血がどくどくと外へ流れていく。
「ヘルマン……助けて……」
足が動かない。必死で手を伸ばすが、動こうとするほど、もっと血がいっぱい出て、体が動かなくなっていく。
背後で、助けてくれた男性の悲鳴がした。
ヘルマンの足に私が縋りつこうとしたその時、ヘルマンは駆け出した。
駆け出し、た?
私を蹴るように振り払い、何も言うことなく、逃げ出した。
嘘。
嘘よ……ヘルマン、嘘でしょう?
私を、愛していたのではないの? ねえ、ヘルマン。痛いの、体が動かないわ。今なら許してあげる。怖かったのよね、あなたも。
だって、訳も分からない化け物が襲ってきて、驚いたのよね?
私は必死で這った。
あの木、ダレンが座って本を読んでいた木の根元、大きな根にもたれるように体を預ける。
もう動けない。寒い。
ああ、どうして誰もいないの。ヘルマン、ダレン、マルク、私はここに来たのよ。
友情のはじまりはここじゃない? だからここにきたの。
助けてもらえると思って。
ねえ、どうしていないの。
あんたちは、逃げたっていうの?
私を置いて?
ねえ?
生きてる? この街の中のどこかにいるの? 私を守りに来ないで、あんた達は逃げてるの?
ねえ。
なんで私なの。
なんで私が死ななきゃいけないの。正しく生きてきたのに。
なんで……あいつらじゃ、ないの。
優しくして、やったのに……――
マルクが浅い眠りから覚めたのは、物音のせいだった。
「……ダレン?」
すさまじくだるい。
だるい原因を思い返そうとすると吐き気がするので、慌てて頭を振って押しやった。
ただ、人影が小さい。
「……誰……?」
ふらり、と影が動き、緩慢に長い髪が揺れた。
「ダレン… …まさか、エミリ――」
マルクは最後まで口にすることが出来なかった。
影は抱き着くようにマルクの飛び込んできた。
そして、影が体を起こす――エミリアは無感動な目でじっとマルクを見つめていた。
その手には解剖用の短刀が握られ、深々とマルクの腹部に突き立てられている。
エミリアはずるりと、床に座り込んだ。
一瞬の間ののちに、糸の切れた操り人形のように、その場に倒れ込み、動かなくなった。
ダレンが研究室から、マルクの自室に移動した時、ベッドの上でマルクは痙攣していた。
それに目をやることなく、エミリアを見下ろした。
エミリアの目を通してみた過去は、ダレンの知るどの記憶とも形が違うものだった。
美しいはずのエミリアの最期は、ダレンの思っていた形とは違う残酷さを持ち、エミリアのダレンへ向けた優しさはただの自己満足だった。
「俺は何のために戦ってきたんだ」
エミリアは何と思うか、生き残ったからには恥じないように生きなければとずっと己に問うてきた。
Buriedbornesの術も、魔の契約も、『パーツ』の改造も、3人揃って生き延びるためだった。
「くふっ…… ふふ……」
ベッドに上体を横たえたマルクの体を片足で軽く小突くと、床にゴロリと転がり落ち、動かなくなる。
「何のためにィッ!」
マルクの脇腹を強く蹴り上げたが、ビクリともしない。
マルクも、ヘルマンも、エミリアさえも、僕の事を、軽蔑していたんだ、心の底で。
それが現実。
全ては幻だったのか?。
守るべき美しい記憶は、どこにもなかったのか?
守るだけの価値が、あったのか?
答えは、知ってしまった。
知らなければよかった。
でも、もう戻れない。
「ふ、ふふ、ははは」
再び乾いた笑いが、ダレンの口から零れ落ちた。
生き残ったのは自分ひとり��
この世にどれほどの価値があるだろうか?
夢も愛も信頼も、全て幻想だった。
どれもこれも、自分の都合に合わせて使うだけの詭弁だ。
人間も、地底の軍勢と何も変わらない。
誰も彼も、自分の事しか考えていやしない。
ならば、俺も、俺のために生きてやる。ここにある屍体を使って、全てを破壊し尽くしてやる。
それが生者であろうが、屍者であろうが。
もう弄ばれる側にはならないと決めたではないか。
今度は、自分が弄ぶ側なのだ。
「……なんだ、よく見たら大して美しくもないな…」
目を伏せたエミリアの目蓋はくぼみはじめ、色あせた肌は土色だ。
ダレンはエミリアを小脇に抱えるようにして、研究室に向かった。
幸い、マルクの行った処置のお陰で、死んでからかなりの時間が経ったにしては『新鮮な』屍体だ。
「俺は、生きる……」
手術台に横たえたエミリアの前に、鋸を手にして佇む。
その姿は、まるで亡霊のようだった。
空が白む。
また、ある術者の1日が、始まる。
奪い、殺し、壊すための、1日が。
~おわり~
原作: ohNussy
著作: 森きいこ
※今回のショートストーリーはohNussyが作成したプロットを元に代筆していただく形を取っております。ご了承ください。
「ショートストーリー」は、Buriedbornesの本編で語られる事のない物語を補完するためのゲーム外コンテンツです。「ショートストーリー」で、よりBuriedbornesの世界を楽しんでいただけましたら幸いです。
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