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それでいいじゃないか、せつなくなる必要などないではないかという意見もあるだろうが、それがせつないのだ。なぜかというと、ちょっと読むというわけにはいかないほど熱中してしまう本が少なくないからである。そんな本は山ほどある。こうなると、どうしていいかわからない。すぐには読み切れない。そこで、ありとあらゆる時間の隙間にその継続読書をはさんでいく。そうすると、「ねえ、そんなふうには読まれたくはないんだがね」という、その書物からの���が聞こえてくるのである。
— 松岡正剛著「アルベルト・マングェル『読書の歴史』」(『千夜千冊エディション 本から本へ』平成30年5月Kindle版、角川ソフィア文庫)
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ハッピーエンドって作中人物が幸せになるっていう意味じゃないんですよ、本を閉じた読者が「ああおもしろかった、また明日からも頑張ろう」とか、そんなふうに思える結末のことなんです。
— 寺地はるな著『そういえば最近』(2025年3月Kindle版、U-NEXT)
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はじめはわたしの大すきなおねえちゃんについてかこうとおもいます。おねえちゃんは中学生で、わたしより六さい上です。おねえちゃんはやさしくて、わたしのしらないことをたくさんしってます。おねえちゃんにあれはなに? ときくと、おねえちゃんはいつもそれについておしえてくれます。雨の日は本をよんでくれます。わたしはそんな��ねえちゃんがすきで、わたしもおねえちゃんみたいになりたいとおもっています。
— 村崎羯諦著「私は漢字が書けない」(『余命3000文字』2020年12月Kindle版、小学館eBooks)
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カラオケの安っぽいソファに座っていても、本を読んでいる結城さんはそれだけで絵になるというか、姿勢が美しい。 真剣なまなざし、すっと伸びた背筋、本を持つ両手、表紙にそえられた細長い指……。 なに読んでるんだろ? さりげなく、文庫本の背表紙を確認する。『シラノ・ド・ベルジュラック』か。文学っぽい本を読んでいるな。 店員がドリンクを運んできても、結城さんはまだ読書を続けていた。
— 藤野恵美著『ぼくの嘘』(平成27年11月再版、角川文庫)
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わたしたちは向かいあって座り、読書をする。 すぐそばに古賀くんがいる。 手が届く距離。 お互いに黙って本を読んでいるだけだというのに、わたしは満たされた気分になる。
— 藤野恵美著『わたしの恋人』(平成26年7月Kindle版、角川e文庫)
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私は二階に上がり、哲学、宗教、歴史、建築などと書かれた書棚と書棚の間をジグザグに歩いてまわり、それを二度繰り返した後、背の高い書棚の一番下の段にある大判の本を一度しゃがんで引き抜き、書棚の奥にある細長い机の上に置いた。そのすぐ前の椅子に座り、なんとなく真ん中あたりのページを開く。
— 鈴木涼美著『グレイスレス』(2023年1月、文藝春秋)
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イゾルデがこれまで読んだ小説では、愛が生み出す苦悩が、その愛の大きさをはかる尺度だった。この堕天使を暗闇から救い出すには、筆舌に尽くしがたいほどの苦しみを味わうだろうと、イゾルデは知らぬまでも感じていた。
— ミヒャエル・エンデ著/田村都志夫訳「遠い旅路の目的地」(『自由の牢獄』1995年1月第4刷、岩波書店)
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僕はふたたび絵本に視線を戻した。 さて、次はどの絵本を読もうか。 そうしているうちに、待合室に僕以外の姿がなくなった。
— 井上悠宇著『誰も死なないミステリーを君に2』(2019年8月Kindle版、ハヤカワ文庫JA)
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「斜めの部分も、大切だ」 「え? だけど……揚げ足を取るみたいな読み方はよくないんじゃあ」 「つまらないだろう。批評してやる──本を開く前からそんなふうに構えた読書は、誰も幸せにしない。でもまっさらな気持ちで読んで感じたことなら……斜めでも脱線でも、どれもいい」
— 近江泉美著『深夜0時の司書見習い2』(2024年7月Kindle版、メディアワークス文庫)
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一時間ばかりそんな感慨にふけったのち、彼は手探りで寝室から書斎にはいり、グリ ―ンのほや付き燭台をつけた。そして五十年間指一本ふれたことのなかった蔵書から、行きあたりばったりに一冊を抜きだした。三世紀の年月に黄色くなり、三世紀の年月にぼろぼろになった本だったが、彼はそのページをひらくと、明けがたまでむさぼるように読みつづけた……
— レイ・ブラッドベリ著/伊藤典夫訳「永遠と地球」(『十月の旅人』2016年4月、ハヤカワ文庫SF)
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まさにそれなのだ。最初はまるでほとんど他人事として読む。誰かはわからぬが、そういう人がいたということだけははっきりとわかる。次に読む時には、もっと身内のものとして、そのつながりがわかってくる。それぞれの痛みを感じながら。それはどちらがいいということではなく、それぞれが違う立場で読んでいる。少しずつ近親者になっていく、不可逆的な経験をしているのである。そう考えれば、はじめて読む時に、正確に読めなくても仕方がないだろう。いや、読めなくて構わない。何しろ、そんな他人事として読めるのは、最初の一回だけなのだから。二度とは読めない読み方で読む、その一回きりであることが大切なのだ。
— 友田とん著『『百年の孤独』を代わりに読む』(2024年6月Kindle版、ハヤカワ文庫NF)
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井上由祐は新宿へと向かう西武新宿線の吊り革に摑まり、陽光を透かしてきらめくキャロライン・ホプキンスの肩のうぶ毛を眺めている。その視線に気付いたキャロライン・ホプキンスが、なんですか? とばかりに頭を上げる。話せば長くなりそうなので、ずっと昔から君のことを知ってるような気がしてね、と言った。 「イノウエ、それ、前も言っていたよね」と無関心そうに言うと、キャロライン・ホプキンスは再び手元の本に目を落とす。
— 上田岳弘著『私の恋人』(2015年6月、新潮社)
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ソファーベッドに突っ伏した勢いで、読みかけのヨーロッパ中世史の新書に、半分飲みかけのチューハイ缶の内容液が降りかかるのを視界の端に認めたが、浸水箇所はすでに読了した部分と信じ、照一はいつもよりだいぶ早く訪れる睡魔を優先した。
— 古谷経衡著『愛国商売』(2019年11月Kindle版、小学館eBooks)
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どうか笑わないでください。でも僕にとって読書している女性ほど美しいものはありません。そんな女性が本に心を奪われ、周囲のすべてを忘れるのは別世界にいるからです。特に息詰まる場面での瞳の動きや深い呼吸、あるいは何かユーモラスな一節で浮かべる微笑み。
— カルステン・ヘン著/川東雅樹訳『本と歩く人』(2025年6月、白水社)
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リーネさまやベル、そして住人たちに中身を読み聞かせて伝える以上、仕事として本を読まなければならなかったのだが、おかげで本の読み方というか、読書体力がついたようだった。そういう体力の存在を聞いたことはあったが、鍛えることができるのだなーと実際に読めるようになって気づいたのだ。 本についてあまり興味がなかった僕だが、まあ、そんな感じで最近は少し楽しく読書をしたりしてます。
— 三萩せんや著『異世界図書館へようこそ』(平成28年4月Kindle版、角川スニーカー文庫)
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いや、なによりも、時間とはつくりだせるものだ、ということを知りました。必須なのは、本に対する関心です。読みたい、知りたいというわくわくするような欲求です。それらさえあれば、たとえかつかつでも、なんとか時間をつかみだすことができる。
— 山村修著『〈狐〉が選んだ入門書』(2012年10月Kindle版、ちくま文庫)
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二人とも本が好きで、デートといえば図書館が多かった。 好きな本を借りて、隣に座って読書をする。読書に集中する彼女の横顔を、ちらりと見るのが好きだった。その視線に気づいて、彼女は照れくさそうに笑って、本で顔を隠したりして。今思えば、こんな自分でも青春をしていたのだ。
— 深海亮著『あなたの代わりはできません。 ズボラ女と潔癖男の編集ノート』(2023年8月Kindle版、富士見L文庫)
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