Tumgik
#ももしきや古き軒端のしのぶにもなほあまりある昔なりけり
kerrieprintco · 2 years
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プランクスターズ
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ichinichi-okure · 1 year
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2023.9.14thu_tokyo
ーーーーーーーーーーー この日記を読むあなたへ スマートフォンを横向き にして閲覧してください ーーーーーーーーーーー
昨晩は疲労困憊なのに百万遍を歩き回ったのち村屋※で飲んだ 帰りに天下一品に寄ったせいか 今朝は二度寝していた
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二度寝して現場に到着
午前中はトイレ前にあったデカい鏡を移設する準備をしていた ラジオは「今夜アレになる」「18年ぶりのAREだ」と繰り返す
鏡を取り外すと朽ちた内壁がバリバリと剥がれたので修復 車があるうちに2枚多めに合板(畳サイズ)を買っておいてよかった
京都「西ノ京」に開店する珈琲ヤマグチ※の工事を請け負っている 最高気温が35度を超えたことを意味する猛暑日は37日を数えた
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クライアントと友達
午後は昨日に引き続きクライアントが友達2人と助っ人に来てくれた ニュージーランド在住?サービス業従事者&僕の母校の教員
クライアントは真名美という 5年位まえ僕の飲み屋の客だった 真名美が現場に来るとアイデアを伝えてどう形にするか相談する
京都入りしてから2か月と1週間が経つ 7月7日に銭湯で買った石鹸はすっかりちびてしまった
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7月8日天井落とし
今日はこういうかたちで「回想」することをみとめられたので 日頃反芻していた言葉の断片を1行31文字以内で書き留める
高井戸ICからイッチー※のハイエースに工具を満載し片道460km 物件は元米屋でその前はパン屋 餅屋いずれも貸主の商売だった
東京から京都へたった1人で移住した借主の行動力に感服する 工事の相方で師のイッチーと真名美で3人であちこち飲み歩いた
METROでのGiftやKyoto TSUBAKI fm 3rd anniversaryは楽園だった 京都にいる内にできるだけ多くのリスニングバーやクラブを回りたい
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DJで一級建築士のタムラさん(DoitJAZZ)
築90年の町家建築を相手に序盤のほとんどは解体で難儀した 天井を落とし壁をめくり床をこじあけた裏側に幾千の生き物の痕跡
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イッチーと彼が連れてきたアルバイト
仕事終わりには若松湯で埃りと汗を流している 町場に用事があればその周辺の銭湯巡る 10数軒は回ったか
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文化財で銭湯にプチ遠征
ひと月かけて執り行われる祇園祭にも少し詳しくなった 通りの名前も徐々にしみついてきている
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祇園祭はカッコよかった
コーヒーを淹れる台は材木屋で50年眠り続けたラワンの一枚板 材木屋は現場の近くにあり親切※美大関係者へのサーヴィスが手厚い
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材栄さん
京都入りと同時に2級建築士製図試験対策の日曜講座に通い始めた しかしオンもオフもやることが満載で宿題の半分もままならなかった
めくった壁から90年前の大工さんがつくった壁がでてきた 新しく造る壁と並列させて見えるように設えている
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A剥がして現れた壁
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B古い壁と新しい壁
8月22日 イッチーはトリツカレ男の店番と都立家政での新しい 案件に着手すべく一足さきにハイエースに工具の半分を載せて帰った
いったん東京に戻り9月10日に製図試験挑んだが十中七八アウトだ 12月7日に結果が出る そのころには珈琲ヤマグチも板についている
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二級建築士製図試験問題
言葉を尽くし手を動かし工夫を重ねた内装工事も終盤 準備した200枚の名刺は徐々に京都人たちの名刺に換わっている
いろんな店で顔なじみになり「工事終わったら帰りはるんですか」 惜しんでくれるのは嬉しいが工事はあと1週間半くらいで終わらせたい
サウナで声をかけてくれた51才の紳士は音楽通だった いまやかけがえのない京都のともだちになっている
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レコード棚も造っています
場所柄外国人とも酒を酌み交わした フィンランド人、チリ人 トルコ、中国人、モンゴル、アイルランド…7か国位?
芸大(先端芸術表現科)の同級生や先輩とも久しぶりに会えた なぜか同級生の2人が医師免許をとっているが明日その彼らに会う
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先端の先輩が自転車に載せられる美術館をつくっていた
16時半 真名美は同級生と自然派ワインの店coimo wine & cafeへ 僕は若松湯のラジオで阪神タイガースの優勝の瞬間を見届けた
最寄りの定食屋兼飲み屋「たいたん はちべゑ」へ行くと 「あとアウト1つやで」と狂喜乱舞するファンに迎えられた※
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あれに乾杯
京都でピザ屋を開きたいという同い���の夫妻に出会った※ 早く眠るつもりがCOMOGOMO JURAKUで2人の夢を語りあった
もしかしたら彼らの店を造ることになるかもしれない 25時 今日も倒れるまで眠らなかった
灼ける盆地の風にも秋の成分がだいぶん添加されてきた もう猛暑日の38日目をカウントすることはないだろう
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イッチー、フィンランド人のイラリくん、やぎ
ーーーーーーーーーーー 注釈
※村屋 出町柳のカオスな飲み屋。自然派日本酒が豊富。
※珈琲ヤマグチ 現在自家焙煎コーヒーのオンライン販売とイベント出店。 2023年9月現在。中京区西ノ京左馬寮町にて喫茶店を開業予定。 御前丸太町下ル 若松湯東入ル。 https://www.instagram.com/_3_yamaguchi/
※イッチー 高円寺のタパスバー「トリツカレ男」店主。 2017年末この店をイッチーが造っているのを手伝わせてもらったことが 僕が内装を始めたきっかけのひとつになっている。 https://www.instagram.com/toritukareotoko/
※親切な材木屋 材栄 https://zaiei.shopinfo.jp/
※阪神タイガースのリーグ優勝 日記の中にアレの瞬間が2回あるのは ラジオ放送に遅れてテレビ放送がついてくる。 タイムラグは2分近くあったと思う。 その間検閲できちゃうのでは?という時間差。 ラジオは昔も今も最速のメディア。現場でもラジオが相棒。
※ピザ屋 ヨロシクピッツァ。 ポップアップ出店と窯ごと出前ピザしている。 https://www.instagram.com/yoroshiku_pizza/
※COMOGOMO JURAKU 現場から近いし深夜遅くまで開いているので 製図試験対策で力尽きたらここで晩酌していた https://www.instagram.com/comogomo_juraku/
-プロフィール- やぎ 38歳 東京 とんち造作計画・内装業
ペーパードライバーの個人事業主の内装業。 店舗設計、解体、壁の造作、什器製作、左官、給排水配管 などおおよそ全て自前で施工している。 佐橋※介。※の部分を景に替えてお読みください。 http://instagram.com/tonch_keikaku/ http://tonch.tokyo/
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yachch · 2 years
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新刊『光や風にさえ』試読
プロローグ アサイラムにて
 おぼえているかしら、ねえさん、裏庭にあったブランコのこと。古びたユーカリの木の枝からぶら下がっていた。嵐の晩にどこかへ飛ばされてしまって、どんなに探してもみつからずに、枯れ葉の下で朽ちて、土に還っていった。  妹の声がよみがえってきたのは、シャワールームにいるときのこと、わたしはバスタブに寄りかかってシャワーの水があたたまるのを待っていた。給湯器の調子が悪くて、適温になるまで何分もかかったから。わたしは両足を開いて床に座り、陰部にできたしこりをいじっている。クリトリスを挟むようにできたしこりは痛みこそないけれど、時間をかけ、ゆっくり成長している。  妹とは夕方に十五分くらいビデオ通話で話した。電話代だってばかにならないのに、水曜日になるとかならずかかってくる、儀式めいたもの。でも、このところの彼女は、どうにも歯切れが悪く、あたりさわりのない話題ばかり選んでいるようだ。衛星がぐるぐる回るように、迂遠な語りばかり重ねている。だからふたりの会話はいつも迷走して、着地点を見失って終わる。頻繁に話しているわりには印象に残りづらい、無意味な語りかけは、けれどもトゲのようにわたしの胸に刺さった。  かつて家族で暮らした一軒家には、たしかにユーカリの木があった。赤土にどっしり根を張り、枝という枝からボロ布のようにウスネオイデスをぶらさげていた。けれども、その枝にブランコをぶらさげたことは一度もなかったと記憶している。妹と一緒に暮らす両親すらおぼえていないと言うのなら、もうたしかめようのないことだ。火の不始末で、わたしたちの生家は祖母ごと燃えてなくなってしまったことだし。  でも、たしかめようがないからこそ、おぼえているかしら、と妹は語りかけてきたのかもしれない。記憶という本来わかちがたいものを共有したいと思い、願ったから。不幸にもその記憶はだれにも受けとめられず、宙に浮いてしまった。蓋然性を失し、空想の、あたかも物語であるかのような語りに変質していった。ただ生きているだけの、とるにたらない人間の記憶の正誤など、いちいち検証してはいられない。記憶を共有する誰かが、たしからしいと証明しないかぎりは。だから、記憶を共有できないというのは、物語と区別がつかなくなることに近しいのではないか、とわたしは思う。  眩暈が波のように押し寄せてくる。貧血からくるそれを床に伏せてじっとやり過ごす。気を取り直して、シャワーが適温になったことを手のひらでたしかめた。  バスタブに入り、半身に湯水を浴びて、肉体の痛みがどこか遠い場所に去ってくれることを期待する。湯気にかすむ天井をぼんやりながめていると、ふと、半年くらい前におなじ体験をしたのだ、ということに思い至った。あのときの彼女も、わたしに対してこのように語りかけた。Tal vez te acuerdes(おぼえているかしら)、と。耳朶に直接吹きつけられたかのように、息づかいや吐息の熱とともに、なまなましくよみがえるその声。  泡沫のように予期せず浮かび上がってきた記憶が、異なる記憶と共鳴し合い、痛みからの逃避を求めるわたしをその渦に飲みこんでいく。  ――きっかけはロドリゴだった。半年ほど前だったか、彼から電話がかかってきて、たまたまそれを受けた。テニュア審査に落ちた彼が市内の別の大学に転籍するのと、わたしが自分の研究室を閉めたのはほぼ同時期で、以来、一年半にわたって彼からの連絡を無視していた。だからわたし電話口に出ると、彼はとてもびっくりした。  彼は興奮ぎみに近況を話し、非常勤講師としてなんとか食いつないでいると言った。わたしはすでに大学を退職していたけれど、自分からは話さなかった。用件はこうだ――調査に同行してくれる日本語通訳者をさがしている。  たしかにわたしは日系三世で、日系移民の帰国事業を見越して親も桂(ケイ)なんていう日本的な名前をつけ、日本語の教育を受けさせた。でも、第一言語は彼とおなじスペイン語で、妹ほど流暢にはしゃべれない。正直にそう話すと、いいから、とロドリゴは言った。実は、日系移民の女性に会いに行くんだ。貴重な一世さ。スペイン語が通じなかったとき、ちょっと手助けしてくれるだけでも――本音をいうと、きみに会えるかもしれない、ってのがうれしくてたまらないんだ。ロドリゴの声は弾んで、涙まじりだった。すこし前だったら、不愉快になっていたかもしれない。あなたが想像したり、ときに期待したりするほど、あっというまに死ぬわけじゃないんだと嫌味を言っていたかもしれない。でも、電話に出る気になったのと同じ理由で、わたしは柄にもなく浮かれていた。病気が寛解し、経過観察になったから。血流に放たれたエクソソームが臓器を耕し、いずれはまた悪いものの芽を生やすとしても、たとえいっときでも心身をどろどろにする化学療法から離れられた。  ロドリゴは以前とかわらず、『トラタミエント』と呼ばれる処置を受けた臓器提供者たちの追跡調査を続けていると話した。くだんの日系移民の女性もそのひとりだった。長く非合法の臓器提供者として生計を立て、その最後の段階として、いまは心臓の提供先を探しているという。わたしの祖母と世代が近く、長く市内のアサイラムで暮らしているとの話で、どこかで祖母とかかわりがあったかも、と考えたことをおぼえている。昔からここに住んでいる日系人はめずらしかったので。  ��束をとりつけて、数日後には彼女のもとに足を運んだ。彼女の暮らすアサイラムまでは、最寄りのバス停からけっこう距離があって、何度も階段路地をのぼったりおりたりするはめになった。歩きながら、ロドリゴは飼っているデグーの話をした。わたしは適当に相づちを打ちながら、どうしてこのあたりはこんなに臭いんだろうと考えていた。アサイラムは移民街のなかほどに位置していたが、腐った歯のようにバラックが密集して、有機物の発酵しゆく臭いが充満していた。  さんざ迷った末に目的地に到着し、受付にいたアサイラムのスタッフに彼女の所在をたずねると、あのひとならいつも中庭よ、と言われた。日陰で根を生やして、じっとしているはずよ。案内された中庭は狭く、きたならしかった。年老いた女性が地面を転がりながら煤けた肌をかきむしっていた。なにをそんなに恐れているのか、ずっと声を震わせながら怒鳴っている男性もいた。でも、大抵のひとは、死んだように目を閉じて、その場でじっとしていた。コントロールしやすいように毎日多量の鎮静剤を与えて、市街からかき集めてきた浮浪者や精神異常者を押しこめているから。公的給付金を得るためだけに運営される福祉施設のひとつ。  狭い中庭をロドリゴは歩き、すぐひとりの女性に目をつけた。大柄な彼の影にすっぽり収まってしまうくらい小柄な女性で、膝を抱えて座りながら、じっと地面の一点をみつめていた。  ――なにをみているんですか?  地面に膝をつき、ロドリゴが問いかけるが、女性はひび割れたタイルを凝視するだけで答えない。まばたきをしないので、眼球がすっかり乾いて、充血していた。目許には脂(やに)が溜まって複雑な地層をなしていたことをおぼえている。  ロドリゴがしばらく無意味な呼びかけを続けていると、屋内からスタッフが出てきて、備えつけのホースで水をまきはじめた。ロドリゴがさっと立ち上がる。彼女の隣には排水溝があって、地面の傾斜に従って水がそこに流れていった――でも、彼女はくるぶしまで水に浸かっても平然としていた。みじろぎひとつせず、修行僧のようにじっと座り続けている。  事前に渡された診断書には、彼女が多数の臓器を喪失している事実とともに、認知能力が極端に低下していることが記載されていた。くずれゆく脳では記憶が更新されず、判断力と遂行力も消失する。外界からの刺激に鈍くなっていた。  スタッフがおもむろに歩み寄ってくる。水の通りが悪くなったのか、排水溝に引っかかるものをつかんで放る。  放り投げられたものは、偶然、彼女の目先に落ちた。  すると、はだしの指の先が、ぴくりと動いた。  彼女はまぶしそうに片目をすがめると、ささやくようにこう言った。  ――あれは蘭。アングロアの根。  何年ぶりかに話したかのように、声はかすれている。  ロドリゴはかすかに身じろぎし、前のめりになると自然と傾聴の姿勢をとった。彼女はスペイン語を話しはしたがひどくなまっていたので、正確に聴き取るためには用心深く耳を澄まさねばならなかった。  ――もともとは寒いところの花……だから、低地で育てると夏越えができなかった。毎年そうだった。  それだけ言うと、また押し黙ってしまう。  ――蘭を育てたことがあるのですね。私の実家の裏庭にも、原種の蘭がたくさん咲いていましたよ。  彼女の目線の先にあるものは、たしかに植物の根のようにもみえた。腐ってカビが密集し、もとが何だったのかは判別がつかなかったけれど。  ――私の家の庭には、アロエやベゴニアがあって……それから。  意外にもしっかり会話がつながったことにおどろいていると、彼女はゆっくり顔を上げ、相手と目を合わそうとすることさえ試みた。  でも、視線の先にいたのは話しかけたロドリゴではなく、どうしてかわたしった――彼女は表情らしき表情を浮かべていた。不自然に顔をしかめるだけだったが、驚愕ともとれた。  ――おぼえているかしら?  口の端にほほ笑みをにじませ、彼女は語りかけた。分かちがたく、不可侵の記憶の一片を、わたしが受けってくれることを願いながら。  ――わたしの庭に蘭があったこと、おぼえているかしら、アングロアの、赤ん坊の花。  あとになってわたしは思う。もしかしたら、あの瞬間、彼女はみずからをとりまいていた深い暗闇をぬけだして、くずれゆく自己をほんの一片でもつかみとったのかもしれないと。  この不可解なできごとを前に、ひとつ思い出すものがある。  いつかSNSで拡散されていた、ある動画のこと。再生をはじめると、どこかの高級な養老院とおぼしき明るいホールが映る。そこでは老人たちが談笑しており、カメラのレンズはそのなかのひとり、車椅子に座った老女に近づいていく。赤子のように無垢な目で虚空を眺めていた老女は、ホールに音楽が鳴り出すやいなや、不自由な上半身を繰って、何とも生き生きと踊りはじめる。見間違いようもなく、アルゼンチン・タンゴのふりつけで。タンゴは足さばきに目がいきがちだが、軸が置かれるのは上半身だ。上半身の動きがあってこそ、複雑なステップが生まれる。だからこそ老女が上半身をよじり、そらすだけで、タンゴという共通言語をもつ者の目には自然と優雅な足どりが浮かぶ――動画の最後には、老女がかつて一世を風靡したアルゼンチン・タンゴのスターであり、現在は深刻な認知症で自分の名前すら思い出せない旨が記される。奇跡の数分間。でも、そのうつくしい再現はけっして奇跡の賜物ではないことをわたしは知っている。単に彼女が長い時間をかけて軟骨をすり減らしながら、必死にタンゴのリズムを身体に記憶させたという証左でしかない。身体記憶は、自我や認知とは異なる場所に保管されるものだから。ゆえに自分の名前を忘れても、タンゴは忘れないという不可解な状況も成立する。  だから、彼女はあの腐った根をみて、土をいじる感触、花と緑葉の香りを想起したんじゃないだろうかとわたしは想像する。身体記憶をきっかけに、ほどかけかた自己が偶然にも結び直されて、泥河に沈んでいた物語に光が当てられたのではないかと。  そうでなければ、説明できないとも思う。  ――だいじょうぶ、ちゃんとやるわ、私。あなたのためなら、心臓をあげたってかまわない。約束したものね。  ――約束って?  ロドリゴの質問に、彼女は穏やかに話した。  ――仏さまに近づけるって、あなたが言ったんじゃない、マヤ。  ――マヤって?  ――私の娘。そうでしょう?  わたしはとっさにかぶりを振る。  すると彼女は語りはじめた。  真偽不明で信憑性に欠けた、一編の長い物語について。
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niyuuhdf · 5 months
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トキ/灯彦:『証言』
俺は先祖代々の故郷からは幾分離れた込み入った住宅街の一軒家で生まれ育った。 俺が産まれるって時に、俺の父の実父…つまり行屋のじいさんが単身故郷を離れて近場に越してきた。その理由を「可愛い孫のためだ」とかなんとか嘯いてたが。 じいさんには随分と可愛がってもらったもんだ。 そのじいさんがある時口にした 「俺たちは行灯の火を潜り抜けて現し世に偶然姿を晒しちまった。現し世の人々の目に、俺たちのこの姿が分け隔てなくうつるとは、ゆめにも思わずに。」 歌舞伎は東海道四谷怪談の提灯抜けに掛けたらしい言葉。 それは相変わらずの食えねえ薄ら笑みに紛れ溶け込ませるように、諧謔に包み隠しながらも深い悲哀と悔恨の織り混ざったような述懐であったことを覚えている。 その言葉は、まだ年若い俺の心のもっとも深部にある原風景をそのまま写し出したかのようであったから。
ある画家の手記 Part : 行屋虚彦 
『疾彦の証言』
海辺に故郷の土地があるなんてえのは、一つのもののたとえだと、じいさんは言った。 行屋の人間ーーーー随分と大雑把にして大袈裟で選民的な言い回しだと幼い俺は思ったが、他に言いようがなかったもんかねーーーーは、長く住み着いたそこに多少の愛着こそあれ、土地そのものを故郷だと強く体感してなどねえと。
ここからは俺のじいさんの語ったことだ。語るにも聞くにも死ぬほど退屈極まりねえんで適当に端折りながらじいさんの言葉を復唱する。 じいさんが俺に語ったことは、口伝とも言えねえ、じいさんも朧に伝え聞いただけの昔話 どれだけ眉唾か知れたもんじゃねえ そういう類の話だ
蔵を引っ掻きまわしゃ出てくる家系図では、行屋家は平安の武家まで遡る。かのエリート様、文武両道の色男にして若くに妻と幼児を捨てて旅の歌人の人生を選んだ、あの男だ。さもあらん。 そいつが真実どんな様相で生きていたかは知る由もない。ただ、「なにごとの おはしますかは しらねども かたじけなさに なみだこぼるる」なんて詠むからには、己の心に馬鹿正直ではあったかもしれねえ。 かろうじて行屋の血筋の生き様…様相を伺えるのは江戸から。 記録が片手落ちすぎて話にならねえが、その時代にはもう漠然と血縁同士で助け合い、どうにかこうにか支えあって普通に人里の中で生きていた、らしい。
行屋の血筋の者は見えるはずのないものをよく見た。 見えたものを人里でそのまま口にすれば何が起るかは自明の理ってんで、血縁同士で教え伝え合って戒めあった。見えるものを口にしすぎないようにと。 ごく稀に幼な子がうっかり口を滑らせちまって、ひどい仕置きも暴力も迫害も公然とあったらしいが、 行屋の血筋は遺伝的にそのほとんどが誕生からの発達と発育が異様に早く早熟…これは俺もナナも虚も例外じゃねえ。 だから幼い時分から言い聞かせ、親族の中での教育で悪しき事態を防いで沈黙することで、表向きには何事もなく暮らしていくことが可能だった。 それにも勿論個人差はあったろう、いずれ綱渡りには違いねえ気はするが。
まさに当時から、すべてを沈黙し隠蔽し尽くして生きることには限界があったらしい。なにごとにつけ全てが嘘ってのは具合が悪いもんだ。故に、何かしらが時折りふと見える程度の仄めかしを村の中で敢えて情報開示として行ってきた。 不運にも露呈するような形で知られるんじゃあ、周囲に不安と警戒心を与えて排斥されるってんで。そうじゃなくごく穏当に村の利益に繋がる形にして受け入れさせようと。 結果、この海辺の村では運良く受け入れられつづけたらしい。 村民にしてみりゃあ「ありがたい不思議な力、うまくご利益にあやかろう」てふうに…脅威として認識されることはうまく避けてたらしい。 まだ人知の及ばねえものがそこらを跋扈した時代でもあったろうし、…行屋の人間の立ち振る舞いや言動、人間としての気質もその印象に落ち着かせるのに一役買っただろうと。じいさんは言ってた、若い頃の俺が良い例だとな。 産まれてすぐにしっかりと大きく目が開き、よく笑い、人に懐く、すぐに立って歩き走りまわる、幼児に似つかわしくなく流暢によく喋る、運動神経がやたら良くて、口が達者な笑い上戸、周りを冗談や話術や手遊びで沸かせ賑わわせ、躊躇いなく道化にもなる、華やかにしてごく自然に人の輪の中心となり他者を牽引する、が、すべてを絶妙に抑制し、決して逸脱しすぎず飛躍しすぎず常軌を逸さず、己に人間としての分を弁えさせつづける。行屋の人間の若年期ってのは、代々こんなもんだったそうだ。まったく辟易するぜ、じいさんは学生の頃の俺しか知らねえからな、今の俺のざまを確と見ろと言いたくもなる。
昔の話に戻る。 この目は重宝がられさえしたらしい。村人に失せ物さがしなんかを気楽に頼まれたりな、都度その場で解決、不思議な力に村の皆で感謝しつつ宴会でもひらく、ってなふうに…楽観的で素朴なものとして受容されてたらしい。当然の如く例外はあったろうがな。 当時は30代よりかは多少長く生きてもいたらしい、当時はそれくらいの齢でくたばるのはそこまで異例でもなかったかもしれねえし、海が近いことも有利に働いたそうだ。
時代が進めば、怪奇も不思議も人地を超えた力も身幅が狭くなってくる。 里にも医者が それも西洋医学を軸に学んだ医療が及んだ。 行屋の人間の目と苦痛と短命が、放置されなくなった。 仁と医を尽くしてすべての人間に懸命に長寿を達成させようってえ向きだ。 しかし医者が手を尽くせば尽くすほど、行屋の人間だけは医学じゃどうにもできないことだけが只管に浮き彫りになってくる。
もっと時代が進むと、遠方まで容易に情報が行き交うようになった。 行屋の人間の一部は「霊能者」あるいは「エセ霊能者気取りの不気味で不謹慎な血筋」だってんで、一時期は強烈な迫害と少数の誤った信仰を招いて、非科学的なものを否定する世間の流行の猛威を浴びたらしい。
歳を負うごとに身体の苦痛が増し、自制を欠いた狂躁のような激しい気質を帯び、昂って暴走し、性的快楽に耽り、目には激痛が襲う、瞼を閉じ、家からふらふらと海へ向かって外へ出る、ふっつりと茫然自失になる、そういうさまから、行屋家の人間が遠方へ嫁いでいった先では、家に座敷牢なんて豪勢極まる代物も用意されたとか。
行屋の人間は、自分たちの目にも苦痛にも短命にも、名前をつけなかった。 苦痛は耐え忍ぶ。憐れむならそれを上回る快楽を。故郷の慣わしなんぞ何も知らねえ俺でさえ奇しくも似たような手段を取った。 目の激痛は光を遮断することで少しは和らげられる。暗く閉ざした部屋に行灯一つあれば充分。あとは多くの時間を瞼を閉じて生きるだけ。 今でも里じゃ親戚の中を見渡せば、ずっと瞼を閉じた者や、目隠しをした者がちらほら見受けられる。 今のように「病」だと呼ぶことも定義づけることもなかった。当事者間ではそのような認識ではなかったとよ。血族で似た者同士が群をなすと異質さはかき消える。道理だ。 あとは血族以外との折り合い、順応と適応の世界。 どれほどの苦しみであっても、家内で分かち合える以上それは体質に過ぎねえと。 しかし医学に割って入られると事情は変わる。そこから行屋の人間は「精神病者」と定義づけられて、積極的に私宅監置に置かれることになった。定義づけと命名が必要だったのは、医療を施すためだ。行屋の人間を捉える主体が当人らからそっちへ移ったわけだ。 即刻入院治療とならず私宅監置…座敷牢になったのは、もっと手に負えねえ精神を患った患者が病床を占めてたから。そいつらに比べりゃあ行屋の人間は意思疎通が可能で聞き分けがよく大人しい。
その後、また時代が変わって、医師の側の意識改革と医療の是正が始まった。 外部から調査にきた医師団が、親族の私宅監置の現状を調べて、あまりに杜撰で酷いものが多いことから、病院への入院治療を推し進める流れになった。 杜撰で酷い座敷牢ってえと目を覆うような惨状を思い浮かべそうなもんだが、それは東京って都会のど真ん中からカメラやら取材道具担いでやってきた人間の感覚で、その感覚は間違っちゃあいないが、当事者との齟齬は大いにあったとかなんとか。 おりしも行屋家の住む土地は人の少ない辺境の海辺、危険行為を繰り返す精神病者を完全に病院に隔離することなく開放的な入院治療と静養がかなうとして、里からほど近い静かな海辺に精神病院が建てられた。勿論行屋の人間のみのための病院じゃなかったろうが。
その後、この国の人口が増加したためか知れねえが、そんな海辺の田舎にも一般住宅が押し寄せひしめき合うようになり始めた。「海が綺麗だ」ってのがよそから好んで移り住みたがる人間の主な理由。 そいつらはいうにことかいて、古くから住む行屋を含めた住人も、そこに建つ不吉な精神病院も忌み嫌い、病院側に立ち退きを要求してきた。まあ海沿いのリゾート感覚で住み始めたんだ、そんなもんだろうな。 病院側は、「患者を院外に出さない」ことを条件に立ち退きを免れた。 これは行屋の人間にとって痛手だった。他の多くの患者にとっても自由と尊厳を踏み躙られる大きな痛手だったろうが。行屋の人間にとっては、思いのままに海へ出られない、これこそが痛手だった。 その後の大きな戦争と災害の度に、打撃を受けた精神病院から、一部の行屋家の連中が焼け出されて、そのまま身を隠した。 他の多くの患者は医師との信頼関係によって病院におとなしく留まったらしいが。 身を隠した連中が、海沿いの各地に散って、或いは村にひっそりと戻り、留まったのが、今のお里の実態なんだとよ。
他の地域の海辺で暮らす奴もいるらしい。面識はねえが。望みもしねえが。 海外に飛んだ奴もいるが、皆決して海から離れようとしない、離れ難いんだそうだ。 じいさん曰く、苦痛に耐えられなくなったとき、或いは茫然自失と化した状態で、招かれるように自ら海へ入っていく。そうして自らの火を、もといたあちらへ帰そうとする。火だるまになった身体の炎は海が消火し尽くしてくれる。 幼い頃から、耐え難い苦痛の際には海へ浸かるのがひとつの慣わしであり、自然な行動だったんだと。慣習と衝動のどちらが先だったかは判然としない。 はたから見れば判断能力をなくした入水自殺じみてうつるその行動も、案外現実的らしい。海へ浸かることで身体の苦痛が安らぎ、死に至るまでもなく平然と浜から自宅まで自分の足で戻ってくる場合のほうが多いらしい。 じいさんも七を知ってるが、七が月夜に招かれるように外へ出たがったのは、月より潮と呼応してたように見えたそうだ。
"死の先に帰る場所がある  我々はそこからやってきた  そこにしか我々のよるべはない  死の先に故郷がある  死そのものをのぞむのではない  死後になにかを期待しているのではない  死の先に明瞭な故郷の景色や幻想を抱いているのではない  ただ帰ろうとするときの帰路に偶然死が横たわっている  我々はただ帰りたい  我々は己らの生命、出生、誕生、人生を捉えられない  捉えられないものを無思慮に否定するものでもない  しかし  こちらにきたことは偶然だった  隔てなく人間の身に己がおさまることを知らぬ無知、隔てなく人間の目に我々がうつることを知らぬ無知故にここへきてしまった  その過ちは我々の目を焼き、腑を犯した  我々はただ帰りたい  この由来なき形容し難い感覚を、閉鎖的に、つい近年まで血族とだけ共有してきた  ただ帰りたいだけなのだ  ただ帰してやりたいだけなのだ  どうか行かせてほしい"
じいさんのそのまた祖父さんが遺してった走り書き。遺書か。 「行屋」の姓の字の由来がそんな詩的なもんかは置いといて、 幼い俺にじいさ���が零した戯言は、そんなような代々脈々と、連綿と続いた根深い感傷と言いしれぬ衝動に端を発していた。 走り書きの「我々」ってのが何を指してんだか知ったこっちゃねえんで検証にも足らねえが。 俺はそれらを言葉になった上っ面だけで聞き知ったとき、なんの異質さもねえ誰の内にも在るごくありふれた回帰願望の類だと思った。貶めようってんじゃねえ、ただ大袈裟に身内の中だけで秘める必要などなかったものを、ってな。 そういう意味じゃご先祖さんが一等賢い選択をしてる。家族を捨て、出家して、従者もなく一人、諸国をさすらい歌でも詠む、それで結構じゃねえか。 この回帰願望めいたなにか…理論立てれば幾らでも容易く突き崩せる穴だらけのなにか…が代々受け継げるほどに強靭に仕立てられていったのは、身体性…目と身体の苦痛に大きく依拠するだろう。身体の苦痛…身体的な経験の共有は同じ思想や信仰に染めるにもってこいの洗礼だ。おそらくなにより先立ってその身体性があった。 …ただ、「帰りたい」という情緒の言語化…、そこは解せねえ。積極的にそこを言語化して親族間で整えた環境と教育によって伝え刷り込んだという印象は薄かった。 共有したのは具体的な生き延びるすべのほうで、まあ生活様式に規範を揃えりゃそれだけで充分一つの具体的な信仰にはなっちまうが、情緒や思想にはなんの強要もなかったようだ。それよりかは、生来の生まれ持った形容し難い感覚に呑まれて苦しむ者を、血族がなんとかあとから帳尻合わせにそういう戯言を例外的に用いて掬い上げることもあった、程度。 そんな印象を抱いたのは、遠方の親族のことなんざ露知らず育った俺の中にも過去に似たような萌芽があったことを認めざるを得ねえからか、否か。
俺の実父は、俺が産まれる直前になって、抑制の効かない状態に陥ったらしい。意気揚々と里から離れた新天地に移ると言いはり、親族の反対を押しきって実行した。それをその父、つまりじいさんは、淡々と見ていた。 じいさんは、それに賭けた。 じいさんは息子を見張るような建前を身内には示しつつ、息子の移り住んだ土地に自分も移った。 奇矯を装いつつも、俺の父は薄々気付いていただろうとな。親族だけで寄り集まって閉鎖的に同じ場所に留まり続ける、その弊害と欺瞞に。 俺はそこから解き放たれて生まれ育った。虚も。 それは賭けだ。じいさんはその人生の行く末を見届けたかった。 七は大学入学まで里で生まれ育ったが、そこから七を連れ去ったのは俺だ。 その俺が、中学の頃、生家に火を放ち父母もろとも焼き滅ぼした。そのことにじいさんだけが目敏く気付いた、血は争えねえな。 尋ねられたわけでもねえのに、その時俺は動機めいた一言を口走った。嘘偽りない本心だった。「そろそろ帰してやらねえと」…と。
…………
虚の性的快楽への拒絶っぷりは血筋で言うなら異端中の異端だ。
ーーーーーーーーー
曽祖父:
海辺に故郷の土地があるなんてえのは、我々にとっては一つのもののたとえ。 行屋の人間はこの土地そのものを故郷だと強く体感してはいません。 勿論この土地に愛着はあります。何せ長く住み着きましたからな。
これから語ることは口伝とさえ言えない、伝え聞いただけの昔話で どれだけ眉唾か知れたもんじゃねえが…
辿れば平安の武家まで家系図はありますが、今のような様相で生きていたかは知る由もない。 かろうじて様相を遡れるのは江戸までです。 家業は本来なんだったか、記録が片手落ちなもので定かでないが、その時代にはもう漠然と血縁同士であることを感じ取って助け合い、なんとか支えあって普通に人里の中で生きていたようです。
行屋の血筋の者は、およそ見えるはずのないものをよくその目で見た。 見えたものを人里でそのまま口にすれば何が起るかは自明の理。 だから血縁同士で教え伝えました。見えるものを他者に口にしすぎないようにと。 ごく稀に、幼な子がうっかり口にしてしまい村の秘密を暴き、ひどい仕置きも暴力も迫害も公然とあったようですが。 しかし我々の血筋は遺伝的にそのほとんどが誕生からの発達と発育が異様に早く早熟です。 言い聞かせ、親族の中での教育でそのような事態を防いで沈黙し、表向きには何事もなく暮らしていくことが可能だった。 それにも勿論個人差はある。いずれ綱渡りには違いなかったろうが…。
当時から、すべてを沈黙し隠蔽し尽くして生きることにも限界があったとみえます。故に、何かしらが時折りふと見える程度の仄めかしを村の中で敢えて情報開示として行ってきた。 不運にも露呈するような形で知られるのでは、周囲に不安と警戒心を与え、排斥されます。そうではなく、受け入れさせるのです。 結果、この海辺の村では運良く受け入れられつづけた。 さしずめ村民にすれば「ありがたい不思議な力、うまくご利益にあやかろう」てなもんで…脅威として認識されることなく、ごく自然に受け入れられていた。 まだ人知の及ばぬものが許された時代でもあったろうし、我々の立ち振る舞いや言動、人間としての気質もその印象に落ち着かせるのに一役買ったでしょうな。若い頃の疾彦などが良い例です。 あの子はここで生まれ育ったわけでもないのに …否、だからこそだったのか、行屋家の人間の典型そのものでしたよ。幼い頃から見てきましたが。 産まれてすぐにしっかりと大きく目が開き、よく笑い、人に懐き、すぐに立って歩き走りまわり、流暢によく喋る。運動神経が良く、聡明で、口が達者な笑い上戸、周りを冗談や話術や手遊びで沸かせ、賑わわせ、躊躇いなく愛嬌ある道化にもなる、同時に泰然として威風堂々、自然に他者を牽引する人気者、…がしかし、すべての有能さを絶妙に抑制し、決して逸脱しすぎず飛躍しすぎず常軌を逸さず、己に人間としての分を弁えさせる。 行屋の人間の若年期とは、代々このような気質が多かった。
昔の話に戻りましょう。 この目は重宝がられさえした。村人に失せ物さがしなど気楽に頼まれたり、都度その場で解決してみせ、不思議な力に村のみなで感謝しつつ宴会でもひらく、というような…楽観的で素朴なものとして受容されていたそうです。当然ながら例外もありましたが。 我々も、当時は30代より少し長く生きたし、当時はそれくらいの年齢で亡くなることはそこまで異例でもなかった。海辺が我々に環境として合っていたのもある。
時代が進めば、怪奇も不思議も人地を超えた力も身幅が狭くなります。 ここにも西洋医学を軸とした医療が及びました。 我々の目と苦痛と短命が、放置されなくなった。 …そのことを、我々は沈鬱な内心を抱え、それでも静かに時代に従った。 仁と医を尽くしてすべての人間に懸命に長寿を達成させようとする向きです。 しかし医者が手を尽くせば尽くすほど、行屋の人間だけは医学ではどうにもできないことだけが浮き彫りになってくる。
もっと時代が進むと、遠方まで容易に情報が行き交うようになった。我々は「霊能者」あるいは「エセ霊能者気取りの不気味な血筋」として、一時期は強烈な迫害と少数の誤った信仰を招き、非科学的なものを否定する世間の流行の猛威を浴びたようです。 歳を負うごとに身体の苦痛が増し、自制を欠いた狂躁のような激しい気質を帯び、それが昂って暴走し、目には激痛が襲い、家からふらふらと外へ出る、そしてふっつりと茫然自失になるさまから、行屋家の人間が遠方へ嫁いでいった先では、家に座敷牢が用意された。
我々は、この目にも苦痛にも短命にも、名前をつけなかった。 苦痛は耐え忍ぶのみ。憐れむならそれを上回る快楽を。 目の激痛は光を遮断することで少しは和らげることができる。暗く閉ざした部屋に行灯一つあれば充分。あとは瞼を閉じて生きるだけ。 ここに住む親戚の中にも、見渡せばずっと瞼を閉じた者や、目隠しをした者がちらほら見受けられるはずです。 今のように「病」だと呼ぶことも定義づけることもなかった。当事者間ではそのような認識ではなかった。血族で似た者たちが群をなすと、異質さはかき消えます。 あとは血族以外との折り合い、順応と適応の世界になります。我々のうちではどれほどの苦しみであっても、それは体質に過ぎません。 しかし医学に割って入られると事情は変わります。そこから行屋の人間は「精神病者」と定義づけられ、積極的に私宅監置に置かれることとなった。定義づけと命名が必要だったのは、医療を施すため。我々を捉える主体が我々自身からそちらへ移ったわけですな。 我々はそれを静かに受け入れた。
その後、また時代が過ぎて、医師の側の意識改革と医療の是正が始まった。 外部から調査にきた医師団が、我々の親族の私宅監置の現状を調べ、あまりに杜撰で酷いものが多いことから、病院への入院治療を推し進める流れになった。 杜撰で酷い座敷牢と聞くと目を覆うような惨状を思い浮かべられるかもしれない。が、それは東京という都会のど真ん中からやってきた者の感覚です。その感覚は間違ってはいないが、当事者との齟齬は大いにありました。 おりしも行屋家の住む土地は人の少ない海辺であったので、危険行為を繰り返す精神病者を完全に病院に隔離することなく開放的な入院治療と静養がかなうとして、ここからほど近い静かな海辺に精神病院が建てられた。勿論我々のみのための病院ではなかったはずですが。
その後、全国で人口が増加したためか、こんな田舎にも住宅が押し寄せひしめき合うようになり始めました。「海が綺麗だ」というだけの理由で好んで住みたがる人間たちが、各地から集い出した。 その人間たちは、古くからここに住む我々も、そこに建つ精神病院も忌み嫌い、病院側に立ち退きを要求してきたそうです。 病院側は、「患者を院外に出さない」ことを条件に立ち退きを逃れた。 これは我々にとって痛手だった。他の多くの患者にとっても自由と尊厳を踏み躙られる大きな痛手であったでしょうが。我々にとっては、思いのままに海へ出られない、これこそが痛手だった。 その後の大きな戦争で打撃を受けた精神病院から、一部の行屋家の者が焼け出され、そのまま身を隠した。 多くの患者は医師との信頼関係によって病院におとなしく留まったそうですが。 身を隠した者たちが、海沿いの各地に散り、或いはここにひっそりと戻り、留まったのが、今の我々の実態です。
ここだけではなく、他の地域の海辺で暮らす者もいますよ。 海外に飛んだものもあるが、皆決して海から離れようとしない。離れ難いんでしょうな。 苦痛に耐えられなくなったとき、或いは茫然自失と化した状態で、我々は招かれるように自ら海へ入っていく。 そうして自らの命の火を、もといたあちらへ還すのです。火だるまになった身体の炎は海が消火し尽くしてくれる。 幼い頃から、耐え難い苦痛の際には海へ浸かるのがひとつの慣わしであり、自然な行動でした。慣習と衝動のどちらが先だったかは判然としない。 はたから見れば、判断能力をなくした入水自殺じみてうつるその行動も、案外、現実的なのです。海へ浸かることで身体の苦痛が安らぎ、死に至ることなどなく平然と浜へ自分の足で戻ってくる場合のほうが多い。 七が月夜に招かれるように外へ出たのは、潮と呼応していたように見えた。
我々の故郷はここに無い。 死の先に、帰る場所があるように感じている。 我々はそこからやってきた。 そこにしか我々の帰る場所はない、とも。 …この由来なき感覚を、閉鎖的に、つい近年まで血族とだけ共有してきた。 死の先に 故郷がある。 幼い疾彦に私が零した戯言は、そんなような根深い感傷に端を発していたのです。
私の息子…疾彦の実父は、疾彦が産まれる直前になって、抑制の効かない状態に陥りました。意気揚々とここから離れた新天地に移るのだと言いはり、親族の反対を押しきって実行した。 私は それに賭けた。 だから私は息子を見張るような建前を身内には示しつつ、息子の移り住んだ土地に私も一度は移った。 奇矯を装いつつ、息子も薄々気付いていたのでしょう。親族だけで寄り集まって閉鎖的に同じ場所に留まり続ける弊害と欺瞞に。 疾彦はそこから解き放たれて生まれ育った。…虚彦も。 行く末を見届けたかった。 七は大学入学までここで生まれ育ちました。ここから七を連れ去ったのは疾彦です。 その疾彦が、生家に火を放ち父母もろとも焼き滅ぼした。その動機を疾彦は呟くように私にこう一言語った、「そろそろ帰してやらねえと」…と。
それらすべてが間違っていたのかどうかは …………
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lemonmoonlimestar · 1 year
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『すくい』 by ももしきや古ふるき軒のき端ばのしのぶにもなほあまりある昔むかしなりけり
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kachoushi · 1 year
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各地句会報
花鳥誌 令和5年6月号
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坊城俊樹選
栗林圭魚選 岡田順子選
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令和5年2月2日 うづら三日の月花鳥句会 坊城俊樹選 特選句
厨女も慣れたる手付き雪掻す 由季子 闇夜中裏声しきり猫の恋 喜代子 節分や内なる鬼にひそむ角 さとみ 如月の雨に煙りし寺の塔 都 風花やこの晴天の何処より 同
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
令和5年3月2日 うづら三日の月花鳥句会 坊城俊樹選 特選句
山焼きの煙り静かに天昇る 喜代子 盛り上がる土ものの芽の兆しあり 由季子 古雛や女三代つゝましく 都 青き踏む館の跡や武者の影 同 日輪の底まで光り水温む 同
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
令和5年3月4日 零の会 坊城俊樹選 特選句
桃の日のSt.Luke’s Hospital 光子 パイプオルガン天上の春連れませり 順子 指を向け宙に阿弥陀の春の夢 いづみ 春の川大東京を揺蕩ひぬ 美紀 聖路加の窓ごとにある春愁 眞理子 雛菊もナースキャップも真白くて 順子 聖ルカを標としたる鳥帰る 三郎 印度へと屋根とんがりて鳥雲に 佑天 鳥雲に雛僧の足す小さき灯 千種 学僧は余寒の隅に立つてをり きみよ
岡田順子選 特選句
春陽に沈められたる石の寺 美紀 春空に放られしごと十字架も 同 春潮の嫋やかな水脈聖ルカへ 三郎 鳥雲に雛僧の足す小さき灯 千種 涅槃西風吹きだまりては魚市場 いづみ 聖路加の鐘鳴る東風の天使へと 俊樹 皆春日眩しみ堂を出で来たり 千種 桃の日のSt.Luke’s Hospital 光子
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
令和5年3月4日 色鳥句会 坊城俊樹選 特選句
春愁の揺れてをるなりだらり帯 愛 立子忌や飯とおさいにネモフィラ猪口 勝利 春眠し指に転がす砂時計 かおり ゆらめいて見えぬ心と蜃気楼 孝子 春潮のかをり朱碗の貝ひらく 朝子 ファシズムの国とも知らず鳥帰る たかし 立子忌の卓に煙草と眼鏡かな 睦子 毛糸玉ころがりゆけば妣の影 同 わが名にもひとつTあり立子忌よ たかし 波の綺羅とほく眺めて立子の忌 かおり 灯を消してふと命惜し雛の闇 朝子
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
令和5年3月6日 花鳥さざれ会 坊城俊樹選 特選句
この空のどの方向も春日燦 和子 思ひ出はいろいろ雛の女どち 同 うららかや卒寿に恋の話など 清女 鳥帽子の小紐手をやく京雛 希 耳よりの話聞きゐる春の猫 啓子 地虫出づ空の青さに誘はれて 雪 意地を張ることもなくなり涅槃西風 泰俊
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
令和5年3月10日 さくら花鳥会 岡田順子選 特選句
裏路地の古屋に見ゆる雛祭 実加 子等笑ふお国訛りの雛の客 登美子 彼岸会の約束交はし帰る僧 あけみ 筆に乗り春の子が画く富士の山 登美子 うららかな帰り道なり合唱歌 裕子
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
令和5年3月10日 鳥取花鳥会 岡田順子選 特選句
春夕焼浜の民宿染めてをり すみ子 青粲粲空と湖面と犬ふぐり 都 水車朽ちながらも春の水音して 和子 朝東風や徒人の笛は海渡る 益恵 枝垂梅御幣の揺れの連鎖して 宇太郎 春の婚オルガン春の風踏んで 都
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
令和5年3月11日 枡形句会 栗林圭魚選 特選句
啓蟄やボール蹴る子は声がはり 恭子 海近き山の椿の傾きて 和代 啓蟄の光を帯びし雲流る ゆう子 鳥鳴いて辛夷の甘き香降る 白陶 一人言増えたる夕べ落椿 恭子 小気味よき剪定の音小半日 多美女 一端の鋏響かせ剪定す 百合子 ふる里の椿巡りや島日和 多美女 剪定や句碑古りて景甦る 文英 剪定や高枝仰ぐ褪せデニム ゆう子
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
令和5年3月13日 武生花鳥俳句会 坊城俊樹選 特選句
雪吊の縄の解かれて睡り覚む 世詩明 家康公腰掛け松や地虫出づ ただし 捨鉢な女草矢を放ちけり 昭子 屋号の名一字継ぎし子入学す みす枝 花冷や耳のうしろといふ白さ 昭子 坐りゐて炬燵の膝のつつましく 世詩明 対座したき時もあるらん内裏雛 みす枝
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
令和5年3月13日 なかみち句会 栗林圭魚選 特選句
摘草のさそひ届きぬ山の友 ことこ 蒼天に光の礫初燕 三無 陽炎のけんけんぱあの子をつつむ あき子 朝戸風見上げる軒に初つばめ 同 摘み草や孫を忘れるひとしきり 和魚 かぎろへる海原円く足湯かな 聰 陽炎や古里に建つ祖母の家 ことこ 我家選り叉来てくれし初つばめ あき子 陽炎ひて後続ランナー足乱る のりこ 新聞を足してつみ草ひろげたり あき子 つみ草や遠くの鉄橋渡る音 史空
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
令和5年3月14日 萩花鳥会
熔岩の島生き長らへし藪椿 祐子 寝静まり雛の酒盛り夢の間に 健雄 田楽や子らの顔にも味噌のあと 恒雄 雑草も私も元気春日向 俊文 猫抱いて��くぬく温し春炬燵 ゆかり 子自慢の如く語るや苗���よ 明子 雲梯を進む子揺らす春の風 美惠子
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令和5年3月15日 福井花鳥会 坊城俊樹選 特選句
雪吊りのほどけて古木悠然と 笑子 落椿きのふの雨を零しけり 希子 夜半の軒忍び歩きの猫の恋 同 立雛の袴の折り目正しくて 昭子 桃の花雛たちにそと添はせたく 同 口笛を吹いて北窓開きけり 泰俊 手のひらを少し溢るる雛あられ 同
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
令和5年3月16日 伊藤柏翠記念館句会 坊城俊樹選 特選句
雪吊の縄のゆるみに遊ぶ風 雪 奥津城の踏まねば行けぬ落椿 同 まんさくに一乗川の瀬音かな 同 よき言葉探し続ける蜷の道 すみ枝 春眠の赤児そのまま掌から手へ 同 足裏に土のぬくもり鍬を打つ 真喜栄 強東風の結界石や光照寺 ただし 裸木に降りかかる雨黒かりし 世詩明
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
令和5年3月17日 さきたま花鳥句会
春雨に黙し古刹の花頭窓 月惑 震災の地に鎮魂の東風よ吹け 一馬 春昼や女房のうつす生あくび 八草 ととのへし畝に足跡朝雲雀 裕章 路地裏の暗きにありて花ミモザ ふゆ子 薄氷や経過観察てふ不安 とし江 拾ひよむ碑文のかすれ桜東風 ふじ穂 水温む雑魚の水輪の目まぐるし 孝江 薄氷の息づき一縷の水流る 康子 二月尽パンダ見送る人の波 恵美子 ほろ苦き野草の多き春の膳 みのり 梅園に苔むし読めぬ虚子の句碑 彩香 強東風老いてペダルの重くなり 静子 鉛筆はBがほどよき春半ば 良江
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令和5年3月19日 風月句会 坊城俊樹選 特選句
一族の閼伽桶さげて彼岸寺 芙佐子 隠沼に蝌蚪のかたまり蠢きぬ 幸風 セスナ機の音高くして地虫出づ 月惑 この山の確と菫の一処 炳子 石仏に散華あまねく藪椿 要 年尾とはやはらかき音すみれ草 圭魚 茎立の一隅暗き室の墓 千種 春塵の襞嫋やかに観世音 三無
栗林圭魚選 特選句
ビル影の遠く退く桜東風 秋尚 古巣かけメタセコイアの歪みなし 千種 寄せ墓の天明亨保花あけび 同 色を詰め葉の艶重ね紅椿 秋尚 ひとつづつよぢれ戻して芽吹きけり 同 信号の変り目走る木の芽風 眞理子 助六の弁当買うて花人に 千種
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
令和5年3月21日 鯖江花鳥句会 坊城俊樹選 特選句
元三大師夢のお告げの二日灸 雪 新しき雪夜の恋に雪女 同 恋てふも一夜限りを雪女 同 懐手もつともらしく頷けり 昭子 石庭に音立て椿落ちにけり 同 雛簞笥何を隠すや鍵かけて 同 貸杖の竹の軽さや涅槃西風 ただし 石どれも仏に見えて草陽炎 同 泰澄の霊山楚々と入彼岸 一涓 制服も夢も大なり入学児 すみ枝 露天湯に女三人木の葉髪 世詩明 歩きつつ散る現世の花吹雪 同
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
令和5年3月26日 月例会 坊城俊樹選 特選句
門出祝ぐ花の雨とてももいろに はるか 花色の着物纏ひて卒業す 慶月 街の雨花の愁ひの透き通り 千種 蹄の音木霊となりて散る桜 政江 フランス語のやうにうなじへ花の雨 緋路 大屋根をすべりて花の雨となる 要 花屑へまた一片の加はりぬ 緋路 永き日のながき雨垂れ見て眠し 光子 宮裏は桜の老いてゆくところ 要
岡田順子選 特選句
金色の錠花冷えのライオン舎 緋路 漆黒の幹より出づる花白し 俊樹 白々と老桜濡るる車寄せ 要 花揺らし雨のつらぬく九段坂 はるか 漆黒の合羽のなかに桜守 光子 花の夜へ琴並べある神楽殿 はるか 春雨や無色無音の神の池 月惑
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
令和5年3月 九州花鳥会 坊城俊樹選 特選句
今昔の小川にしのぶ蜆かな 成子 薔薇の芽の赤きは女王の予兆 ひとみ 潮こぼしながら蜆の量らるる 朝子 餌もらふ鯉をやつかみ亀の鳴く 勝利 突きあげし拳の中も春の土 かおり 持つ傘をささぬ少年花菜雨 ひとみ 涅槃西風母も真砂女も西方へ 孝子 亀の鳴く湖畔のふたり不貞だと 勝利 口紅は使はれぬまま蝶の昼 喜和 長靴の子はまつすぐに春泥へ ひとみ パグ犬と内緒のはなし菫草 愛 息詰めて桜吹雪を抜けにけり 孝子 ふと涙こぼれてきたる桜かな 光子 健やかな地球の匂ひ春の草 朝子
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
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recordsthing · 3 years
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鎖を花に 縄を糸に
 何もしてないのに、全部が解決してハッピーエンドで永遠に。そんな日が来ないことは重々承知していた。だからこそ、緩慢で怠惰で堕落した生活を受け入れようとしていたんだ。
 いつものように同じベッドの上、二人で寝ようとしていたある日、晴ちゃんが少し悲しそうに、でも何かを決心したような強い瞳でこちらを見てきた。
「頼みがあるんだ」
「……なーに?」
 一瞬だけ返事をためらってしまう。晴ちゃんはこの生活の中でずっと怯えているのか、話しかけてくるときはあたしの名前を呼んでから話すようにしていた。それなのに、どうして今日は呼んでくれないのだろう。こちらの様子を窺う余裕もないくらい、いや、窺う必要がないくらいに決めたことがあるのだろうか。
 ある程度ついている予測と嫌な予感を交えながら、晴ちゃんの口が動くのを待った。
「もう、こんな生活、やめたい……」
「…………そう」
「でも、わかんないんだ……どうしてこんなことになってしまったのか……プロデューサーも……家族も怖くて、ファンの人たちのあたたかった言葉が全部感じ取れなくなって……オレになにがあったのか……オレだけがわからなくて……このままじゃいけないって……わかってるのに……ごめん、ごめん……」
 せぐりあげる声で紡がれる謝罪の言葉が、あたしの心も心臓も切り刻んでいくようだ。あんなこと、その場凌ぎでなんの糧にもならないってわかってた。それでも、晴ちゃんにいつものように笑ってほしかった。何もかもが上手くいって、また日常に戻れるはずだという淡い期待が、今あたしも晴ちゃんも傷つけている。
「しきぃ……おしえて……オレ……どうすれば……」
 きっと、誤魔化すことだってできる。なんともないよ、あたしがなんとかするからって言ってもいい。でも、その先は?ずっとこのまま一生嘘をついて、地獄の釜で煮られるような苦痛を二人で共にしてていいのだろうか。自分は耐えられる。だって全部自業自得だから。でも、目の前の愛しい恋人は一体なにをしたというのだろうか。酷い目に遭わされて、記憶を無理やり封じてしまってまた苦しんで、今もこうして震えてる。
 ……大丈夫、細心の注意を払おう。できることさえちゃんとしてれば、きっとなんとかなるはずだ。
「あのね、晴ちゃん。前に交通事故にあったって言ったじゃん?」
「うん……?」
「あれはね、全部嘘。晴ちゃんが傷つかないように、またいつもの日常に戻れるようについたんだ。ごめんね」
「……そっか」
 初めて話したはずなのに、さほど驚いた様子がない。きっと薄々察してはいたのだろう。
「だから、これから本当のことを話すね?ずっとずっと残酷で、悲しい話をするけどいい?」
 言葉の代わりに、ゆっくり頷いてくれた。
 落ち着いて、できるだけマイルドに。変な表現を使いすぎないように。そのせいか、思考のために酸素を使ってしまって、声が上手く出ない。話をする度に晴ちゃんの顔がどんどん青ざめる。あたしに向けられたものじゃないってわかってるのに、胸が締めつけられるように痛い。
「あたしが助けられたら良かったんだよね……ごめんね……」
 そんな言葉で強引に話を打ち切った。話が終わって様子を見ると、両腕で自分を抱きしめるようにして震えている。
 特になにかを考えたわけじゃないけど、その震えを包み込むようにして抱きしめる。
「……思いだした……」
 ぽつりと零れたその言葉に少しだけ解放された気になる。
「ウソだろ……なんで、アイツが…………アイツがぁっ!!?」
「っ!!!」
 想像したくはなかった。晴ちゃんがこんなに傷ついてる理由。
 晴ちゃんを襲ってナイフで傷つけた犯人は、晴ちゃんが知ってる人だったということ。
 晴ちゃんが机の上に立っている。危ないよ、と駆け出そうとした足が動かない。天井から長いものがぶら下がっている。太くて長いソレは、人がぶら下がったとしても切れることはないだろう。
 嘘だよね?声を出そうとしているのに、口が開いたり閉まったりするだけで音が出ない。目の前の恋人の身長が少し伸びる。そして、少しだけ宙に浮かんだままになって空中で重力を失ったかのようにぶらん、と横に上下に揺れる。ぎし、ぎしと言う音が痛々しすぎる。まだ間に合う。まだ応急処置をすれば間に合うはずだから、動いてよ、ねえ。
「晴ちゃん!」
 はっ、となって目が覚める。今まで見た夢の中で間違いなく最悪の夢だ。背中も手も冷や汗が伝って���びしょびしょだ。両腕で包んでいたぬくもりはまだ確かにそこにあって、大きな息とともに安堵を覚える。ただし、その顔には涙の跡がしっかり残っていて、悲しい気持ちに襲われる。
 あの後、ひたすら晴ちゃんを落ち着けさせようと背中を一定のリズムで叩いてかけられる慰めの言葉をずっとかけていた。夜が明けてもずっとそうやって必死に声を出したせいか、喉が少し痛い。アイドル失格だな、なんてもう辞めてしまった世界のことに少しだけ思いを馳せる。
 でも、起きた晴ちゃんになんて声をかければいいんだろう。結局二度晴ちゃんを傷つけただけで、これからのことなんて何も考えられない。すぅ、すぅという寝息がなんとも愛おしくて今はこれだけでもいい。
 今のあたしにできることは、夢が現実にならないように、強く抱きしめて離さないことだった。
 不意の感触で目が覚めると、晴ちゃんの顔が目の前にあった。柔らかい感触があたしの唇に当たっている。
「起きたか?」
 口が放され、少し寂しそうな声でそう聞かれる。
「王子さまはお姫さまのキスで目覚めるのでした、あれ?逆だったっけ?どっちでもいいか♪」
 わざとらしく明るい口調でそう言うと、少しだけ微笑んでくれた。晴ちゃんの笑顔が見れたことで、少しだけ安心する。
「……どうすればいいんだろう、オレ」
 顔見知りの相手、程度だったらこんな風には思わないだろう。きっと晴ちゃんにとって身近な人間が関係しているのかもしれない。あまりこういう時に名案が閃くタイプじゃないから、とりあえず常識的な返答をすることにした。
「とりあえず……警察に行こうか?」
 旅館でチェックアウトを済ませて、タクシーを呼んで駅へと向かう。荷物は場所を転々としているのもあるけど、必要な時に必要なものだけ買っているので小さなリュック一つに収まる程度だ。できるだけ現場に近い警察署の方がいいだろう、ということで新幹線で晴ちゃんが元々住んでいたあたりまで戻ることにした。切符の買い方……というか乗り方は正直覚えてはいないけど、晴ちゃんがいればなんとかなるだろう、と思った。
 なんだかんだベッドの上で時間を使ってしまったせいか、駅に着いたころには日が落ちてしまっていた。ただ、そのおかげか人が少なくて晴ちゃんが怯えずに済みそうで良かった。もちろん、夜というより土地柄のせいもあるのだろうけど。
 券売機の前でフリーズしてると、晴ちゃんがさっさと操作してくれて支払い画面になった。金額が表示されて、少しだけ申し訳なさそうにする姿が少し愛らしい。カードを入れて支払いを済ませると、切符が四枚出てくる。晴ちゃんが取って、あたしに二枚渡してくれる。
「これ、ここに二枚同時に入れればいいから」
 改札に入れて晴ちゃんがホームの方に向かって行く。同じようにしてついていこうとすると、振り向いた晴ちゃんが目を見開いて驚いた。
「志希!切符取り忘れてるぞ!」
「あれ?持っとかなきゃいかないの?」
「ったく、しっかりしてくれよな……」
 なんだか慌てたり焦ったりしてるものの、少しずつ晴ちゃんが元々の話し方とか喋り方に戻ってる気がする。あたしといることでそうなってるなら、たまらなく嬉しいことだ。とっとと戻って改札から出てたそれをポケットにしまって、晴ちゃんの元へと向かう。
「なんか不安だから、オレが持っておくよ……」
「わーお、一蓮托生だねっ!」
 ポケットから切符を差し出して、晴ちゃんについていく。全然人がいない構内を進んで、エスカレーターに乗ると目当てのホームにたどり着いた。なんとなく贅沢、というか移動で不満を抱えたくなくてグリーン車の席をとった。夜の新幹線を待つ人はまばらにいるが、わざわざグリーン車に乗るような人はいなさそうだ。待ってる時間にも人が傍にいると、晴ちゃんが不安がってしまいそうなのでありがたい。
 十分ほどして、アナウンスが流れる。晴ちゃんが前に出すぎてたあたしを引っ張ってくれて、黄色い線の内側まで戻される。新幹線が目の前を高速で通って行って、髪型と服がたなびく。速度を落ちていって、静止したかと思うと扉が開いた。
「ねえ、本当に大丈夫?乗ったらもう引��返せないよ?」
 別にそんなことはない。途中下車したっていいのだから。これは、ただの確認だ。
「大丈夫、だって今度は志希がいるから」
 手を繋いで新幹線へと乗り込む。廊下側だと通る人が近いことがあるため窓側の席に座ってもらう。景色を見るのにも丁度いいし、気晴らしになってくれたらいいな、程度のものだ。しかし、晴ちゃんは席について早々眠ってしまった。そりゃそうか、気疲れもあるだろうしいっぱい泣いてたから。
 手を繋いであたしは起きておくことにした。しっかり寝ていて眠くないのもあったが、この二人だけの時間を少しでも長く感じていたかったから。
 数時間して、目当ての駅まで来た。晴ちゃんの家まではまだ大分距離があるが、眠そうにしていたため近くのビジネスホテルで一夜を過ごすことにした。さすがに都心に近いせいか、夜中に近い時間だというのに、人がそれなりにいる。人が降りて進んでいくのを見ながら、人ごみにぶつからないように待つ。少しすると、ホームに人っ気が少なくなって進みやすくなった。晴ちゃんの近くに人が来ないように警戒しながら、切符をうけとって改札から出る。
 こういう駅の近くには、格安のホテルが複数並んでいることが多い。別にわざわざ安いところを選ぶ理由もなかったが、晴ちゃんを早く寝かせてあげたかったため、とりあえず近場のホテルに駆け込んだ。未成年だからなにかうるさいこと言われないかな、と心配だったが向こうも慣れているのか問題なくチェックインできた。エレベーターに乗って、部屋へと向かう。明日はどうしようかな、シャワーは……明日でいいや。
 あたし自身も疲れていたのかもしれない。晴ちゃんを連れて部屋に入った途端に、二人共々ダブルベッドに倒れて意識を失ってしまった。
 目が覚めると、全く同時に起きたのか寝ぼけまなこの晴ちゃんと目が合った。
「おはよ、シャワー浴びよっか」
「うん……」
 二人で寝ぼけながら、服を脱いでシャワー室へと向かう。ユニットバスなのが少し嫌だけど、今更そんなことを気にしてもしょうがない。服を脱いで、狭い浴槽で二人重なるようにしてシャワーを浴びる。
「なんか……恥ずかしいんだけど」
 晴ちゃんとはずっとこうやって一緒にお風呂に入って、身体を洗ってあげたりしたけど、そんなことを祝てたのは久々だ。恥じらい、という感情が生まれたことが嬉しくもあり寂しくもある。
「まぁまぁ、疲れてるだろうしあたしが洗ってあげるから~♪」
「んぅ……」
 体に触れると、確かな体温と反応が伝わってくる。恥ずかしいところを手で隠そうとするのがなんともいじらしくて意地悪したくなっちゃうけど、今はまだ抑えておくことにした。一通りボディーソープで身体を包んで、シャワーで一気に洗い流す。身体から滴り落ちる水と泡が、垢を巻き込んで流してくれる。
「次はオレがやるから」
「そう?じゃあお願い♪」
 浴槽に座り込んで、目を閉じて待つ。晴ちゃんの指があたしの髪を掻き分けて、ごしごしと洗ってくれる。髪が長いせいで大変だろうに、しっかり洗ってくれる。こうしているときのあたしの背中は無防備だろうけど、後ろにいる恋人はきっと信頼に応えてくれるって思えるこの時間が心地いい。
 そんな時間に浸っていると、シャワーが頭の上から降り注ぐ。しゃあー、という水の音と共に頭が軽くなってスッキリしていくのがわかる。頭を振って目を開けると、晴ちゃんは自分の頭にシャワーを当てていた。
 シャワーを元にあった場所に戻して、一緒に浴槽から出る。ホテル特有の大きめのバスタオルが身体を包んでくれる。しっかり拭き残しがないようにして、着替える。朝食をとるには既に時間は過ぎている。今日のやるべきことは決まっているが、さてどうしようか。
「早く行こうぜ、こういうの後に残しとくと気持ち悪いしな」
「そうだねー」
 身支度をして、ホテルをチェックアウトする。向かうべきは、とりあえず警察署だろう。
 途中のハンバーガー屋さんで遅い朝食を取ってから、警察署で事情聴取を受けた。本当はあたしが付き添って上げたかったけど、守秘義務とかなんとかで同席させてもらえなかった。対応してくれたのは優しそうな婦警さんで、ちゃんと話を聞いてくれたらしい。どうやら騒動も知っていたらしく、ずっと心配していたとのことだった。正直そこまでいくと口だけじゃないのかな、って疑ってしまうのはあたしの悪い癖だ。
「それで、どうだったの?」
「うん、心当たりがある人がいるなら捜査しやすいから助かるって……でもやっぱり証拠がないと大変だって……」
「……そうだよね」
 あたしが余計なことをしなければもっと捜査が早くなって、意外にあっさりと事件が解決したのかもしれない。自分の身勝手さに嫌になる。
「あのさ、志希」
「なーに?」
 あたしの名前をわざわざ呼んだ。なんとなく嫌な予感がする。
「オレ、そいつの家に行きたいんだ。誤解ならいいんだけど、どうしてそんなことをしたのかって……聞かなくちゃ」
 その一軒家はオレの家の近くにある。アニキの友達で、家が近いこともあってかよく遊んでもらっていたんだ。これならプロデューサーの名刺を持っていたことも説明がつく。オレの家に遊びにも来ていたし、名刺を盗んだりこっそりコピーするのもそんなに難しくないだろう。オレが狙われたのも……わからなくもない。ただ、もちろん他人の空似だって可能性がある。その微かな可能性を信じて、呼び鈴を押した。少しして、インターホンがつながる。
「どなたですか?」
「結城……晴です」
「晴ちゃん!?ちょっと待ってね!」
 どたどたと音がして、玄関を開けて出てきたのは昔からのアニキの友達で、オレもよく遊んでもらった相手だ。アニキの一つ上だから、大学に入ったばかりだったっけ。髪は茶髪になってるしどことなく遊んでいる雰囲気がある。
「急にどうしたの?まぁいいや、上がって上がって!」
「……っす」
 前の印象通り、どちらかというと気のいい兄ちゃんって感じで、とてもオレを襲うようには見えない。家に上がらせてもらおうとすると、靴の様子から一人しかいないことがわかる。
「……一人なんすか?」
「ああ、両親は仕事でね。お茶とお菓子をもってくから先に部屋に行っててよ」
 少し古い木材でできた階段を昇って、部屋へと向かう。8畳の狭すぎず広すぎない部屋には、本棚と机とベッドがある。ただ、本当になんとなく机の上の写真立てに目線をやると、そこに映っていたものに驚いて思わず駆け寄ってしまう。
「オレだ……」
 そこに入っていた写真は、アイドルをやっているときのオレだ。よく机の上を見てみると、プラスチックの敷台の下にオレが載っている週刊誌の記事や写真が所狭しと敷き詰められている。疑念が確信に変わって、身体に力が入らなくなる。腰が抜けて膝から下の感覚がなくなって、その場に崩れ落ちる。
「あー、見ちゃったか」
 振り返ると、そいつは部屋の入口にお茶とお菓子を盆に乗っけてやってきていた。
「せっかくお茶に色々仕込んだのに……無駄骨になっちゃたな」
 盆をその場に落として、派手に食器が割れる。お茶とお菓子が飛び散って辺りを汚した。
「なんで……こんなことするんだよ……」
 その言葉に口端を歪める。汚い大人のような笑みを浮かべてこちらを見る。
「君と会ったのは、三年くらい前だったね。あの頃は小さい子供……弟みたいな子だと思ったんだよ。失礼かもしれないけど、見分けがつかなくてね。でも、そんな君がアイドルになったっていうじゃないか!驚いたね!サッカー仲間だった君が可愛らしい衣装を着てス��ージの上に立っていたんだから!その時の興奮といったら……もう言葉じゃ言い表せないほどだった。会って話をするために家にも行ったんだけど、忙しそうな君とは中々会えなかったんだ。そんなときにたまたまあいつの部屋で名刺を見つけてね。もう僕にはそれが天国へのチケットに見えたよ!あとはそういうことに詳しい友達に頼んで君を襲ったってわけさ!」
 あまりにも衝撃的な言葉が流れてきて、理解が追いつかない。
「そんな……理由で……オレを……」
「君はもっと自分が魅力的だということと、無防備であることを自覚した方がいいよ。あの時の続き……ここでさせてもらおうか!」
 そいつがオレに近づこうとした瞬間、声も出さずにその場に前向きに倒れた。立っていた場所に代わりに立っている人物がいる。
「正義のヒーロー志希ちゃん、ここに参上!……こういうのはキャラじゃないけどね」
「……ありがとな」
 こっそり家に入ってくれていた志希はぎりぎりのところで助けてくれた。後少し早かったら証拠が掴めなかったし、遅かったとしたらまた酷い目に遭わされていただろう。もっとも、志希がいるってわかっていたから、後者の状況になることは初めから頭になかったのだけれども。
「ナイスタイミングだったね~♪」
 志希がこちらに近づいて、オレのポケットからボイスレコーダーを取り出す。
「これがあれば警察もちゃんと動いてくれるでしょ~♪ささ、通報通報」
 確かにボイスレコーダーがあれば、さっきの発言で捕まえることができるだろう。しかし、よくよく考えるとなぜオレのポケットにそんなものが入っているのだろう。録音するなら別に志希が持っててもよくないか?確かにオレが持っていた方がちゃんと録音できるだろうけど、壊されでもしたらどうするつもりだったんだろうか。
「大丈夫、予備のボイスレコーダーを晴ちゃんに仕込んでるから♪」
「……なあ、それ聞いてねーんだけど」
 気まずい沈黙が流れる。そのうち、どちらからともなく笑ってしまって、全てが解決したことをお互いに喜び合った。
 あれからアニキの友達は逮捕されて、押収されたパソコンからもう一人の共犯者も逮捕された。何日も事情聴取に付き合った後、オレは家族の元へと帰った。両親もアニキ達も一日中泣いて、片っ端から出前をとったり、オレの好きなものばっかりの料理で祝ってくれた。ひたすらに喜んで騒いで、戻ってきたものをひたすらに喜んだ。いや、まだ取り戻してないものがある。それを埋めるため、今オレは志希と共に事務所の前にいる。ある資料を持って。
「晴ちゃんとアタシのアイドル復帰から二人の新ユニット結成と新楽曲!これは沸き立つよね!」
 今例の二人逮捕されて、またオレの名前が悪い方向に広まってしまっている。それを全部吹き飛ばすために、二人であれこれ作戦を練った結果これしかない!となった。
「でも上手くいくかな……オレら結構サボってたし」
「ん~?事前に連絡したけど別にいいって!アタシこう見えて優秀だからね~♪」
 ちゃっかりしている。でもそのおかげで、緊張とか色々そういうのが抜け落ちてしまった。
「……晴ちゃん、本当にいいの?」
「何がだよ」
「アイドル活動してたら、またああいうことになるかもしれないよ?」
「その時は、志希が守ってくれるんだろ」
 返事の代わりに、ウィンクで返される。
「せっかくならさー、付き合ってることも公表しちゃおうよ♪そっちのがやりやすいし」
「……好きにしろよ」
「あれ?否定しないんだ」
 当たり前だ。というか二人で失踪して復帰してって時点で、なにかあると勘繰られるのは普通だろう。
 だけど、本当の理由はそうじゃない。偶然降り注いだ不幸で鳥籠の中に一緒に縛られるよりか、お互いがお互いを愛し合って思いあって縛りあうように生きていくほうが何倍も何十倍も何百倍もいいから。
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ichinichi-okure · 7 months
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2024.3.2sat_tokyo
前日夜、明日は午後2時ではなく12時来てほしいと言われた。かつて僕のアシスタントだった、今は写真家のNY嬢からのメッセンジャー。展示していた写真の裏打ちしたが湿気かなにかで、その多くが、空気が入ってぶくぶくと膨らんでいるというのだ。現在再プリント中とのこと。僕はすぐに了解と返信。 6枚切りパンを一枚、トースターに突っ込み、チンと飛び出したらピーナッツと蜂蜜を塗ってたべた。冷蔵庫のアイスティ。 家から西馬込まで徒歩10分。都営浅草線に乗って、五反田乗り換え山手線。 迷路のような渋谷駅を上っておりて、井之頭線のホーム。タイミングよく鈍行が出発。 ずいぶん昔、本当に昔の1976年ごろ、僕は池の上の一軒家に住んでいた。敷地70坪、外人用の不動産屋が結婚したばかりの妻の知り合いで、2年間格安で借りることができた。台所6畳,和室を改造した洋室16畳、洋室6畳、6畳6畳、駐車場付きのひろびろした 古い平屋に住んでいた。近くに首相だった佐藤栄作の邸宅があり、その高級住宅の緩やかな斜面が僕の深夜のスケートボードの練習場だった。もっともただ緩いスラロームをするだけだったが、時代が時代、警備の警察官に怒られることもなかった。 池ノ上駅まで徒歩5,6分、下北沢は10分ぐらいかかったろうか。圧倒的に下北沢を利用した。 Jazzのレディージェーン、御茶ノ水ジロー、平和総合銀行、丸井、マクドナルド、神戸風お好み焼き屋、おいしいケーキ屋。そして駅前の薄暗い市場。まだ真新しい本多劇場、ラーメンのミン亭、安い寿司屋、開かずの踏切、ピーコック。そのうち友達が下北に引っ越してきた。下北は貧乏な若者の街だった。
井之頭線の下北沢のホームに降りたとき、まったく知らない景色が広がっていた。 すぐにiPhoneのグーグルマップで検索。目的地は世田谷区代田2-36-12-15。歩いて7,8分とある。さっぱり景色がわかならいが、指示通り足を勧める。 極端なS字カーブ。あ、ここに踏切があったな。鎌倉街道につながるこの辺りは裏道で、よく車で通った。かつては小田急の騒音で、あまりいい住宅地とは言えなかった場所が、何やら公園のように整備されている。 下北線路街という地区は日本にはあまり見ない景色が広がっていた。しばらくあるくとグーグルマップは目的地がこのビルだと教えてくれた。中に入ると、厨房みたいになって打ち合わせをしている。時計を見ると12時10分前。NY嬢はまだのようだ。 Aさんの打ち合わせが終わったので、入り口近くのギャラリースペースに案内された。 そうこうするうちにNY嬢がやってくる。 展示の準備は写真の入れ替えや、極端にカーリングした扱いづらい大判のプリントなど、そのほかに横幅2以上もあるしめ縄。設営にはそれなりに苦労したが6時ぐらいには終了。僕とNY嬢とアートディレクター嬢との3人で、ミン亭に行った、紹興酒と餃子と江戸っ子ラーメンを食べた。 実は翌日も夕方訪れ、夜、小田急線世田谷代田近くの居酒屋で飲む。酔う。
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-プロフィール- よこぎあらお 東京 写真家 https://www.instagram.com/alao_yokogi/ https://note.com/alao_yokogi
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heyheyattamriel · 4 years
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エドワード王 十一巻
昔日の王の一代記 十一巻
ロスガー山脈のふもと、レイヴン・スプリングと呼ばれる小さな村の、狭いけれど快適な宿屋で、コンパニオンたちは、一晩を過ごしました。翌朝彼らは東に向かう旅を再開しました。スカイリムとハマーフェルの国境に向かううねる丘を越え、次の2晩は澄んだ初夏の晴れた空の下でキャンプを張りました。彼らが旅を再開した3日めの朝、モラーリンは道の北側の斜面を見て、皆に南西に面している高い牧草地に通じる切り込みがあるのを見るように言いました。一団が突き出した岩の周りを曲がった時、ほぼ同時に全員がそれに気づきました。
シルクとビーチが適切なルートの偵察と、今夜のキャンプ地を探すために先行しました。黄昏までには、彼らは草地までの半分近くの道のりを終えていましたが、翌朝まだいくつかの崖を登らなければなりませんでした。もう一度キャンプを張る頃合いだと意見が一致しましたが、幸いにも翌日のお昼時にはピクニックができそうでした。
翌日の正午、それは年央の月5日の土曜日でしたが、アカトシュともう一匹のドラゴンが加わった仲間たちは、ドラゴンの村の草が生い茂る斜面で腹ばいになっていました。この二匹目のドラゴンはアカトシュよりも小さく、雌のように見えました。性格上、アカトシュはただそのドラゴンをデビュジェンと紹介しただけで、それ以上の説明はありませんでした。二匹のドラゴンは、人類たちと礼儀正しくおしゃべりをしながら自分たちの過去を懐かしんでいましたが、少し経つとデビュジェンは飛び去り、優雅に空を弧を描いて飛び、少し離れた草の茂った野原にいる雄の子牛に飛びかかりました。
アカトシュはこれに対するエドワードの反応を観察していて、そしてたずねました。「なぜしり込みをしたのだね、エドワード?このところデビュジェンは食べていなかったし、ただお前たちが今しがたしていたのと同じ振る舞いをしていたのに」
エドワードは少し微笑んで答えました「僕たちの食事はあんな風に野蛮じゃないと思うんです」
アカトシュは笑顔を返しましたが、やがて返答しました。「それはいい警告だ。我らは、同じというより似ているだけだという」
エドワードは口を閉じて真昼の太陽に目を細めました。それからドラゴンに向き直りました。「アカトシュ―どうしてあなたの村にこの場所を選んだのですか?」
「さて、山の中にあり、高さも十分で、我らにふさわしい。その上、家畜を育てるのに充分に平坦だ…鹿のための木もある…そして、我らすべてにとって、非常に防衛的だ。ここには人間が牧場と農場を作る場所もあるし、エルフたちは断崖の端の厚く茂った木々の中なら極めて快適だ。崖の表面を囲む坑道は、内部の鉱山にある我らのねぐらへの通路になる。全体として、多くの生き物の種族を含んだこのような実験を行うには、理想的な場所だ。その上、南西に面していることで、小さな生物たちを気温の低い月の間の要素から保護するのに合理的な暖かさも供給される」
エドワードが答えました。「真ん中に建物が集まっていない村って言う概念に慣れるのは難しいけど―多分、将来は発展するでしょうね。少なくとも、会議や社交のためのいくつかの建物は。それに、ここはきれいな夕陽が見られると思うな」
ドラゴンはまた笑って、そして答えました。「まったくそうだ。だが、ドラゴン族の中でそんなことに興味を持つのは我だけだ。そして、それは我らがこの場所を選んだ時には正当な考慮のうちに入っていなかった」それからもの思わしげに、「そのうちのいくつかを表す言葉を組み合わせられればいいのだが。数え切れないほどやってみようとしたが、結果はあまり…立派なものではなかった」と言うと、元気な調子に変わりました。「話は変わるが、人類のために会議場を建てるつもりにしている。取引と物々交換のための店を何軒かも」
モラーリンがぶらぶらとやって来て、腰を下ろして尋ねました。通常人類がドラゴンたちに見せる敬意の欠落は特筆すべきものでした。「こんなおかしな実験をしようなんて、何に憑りつかれたんだね、アカトシュ?」
ドラゴンは思慮深そうに間を置いてから答えました。「我が常に分析してきたように、この場合、ドラゴンの行動の歴史と言えるかもしれぬ。新しいオーレリアンの神々に対する抵抗の長い闘争は明らかに無駄なものであったが、我らがそのことを理解し、受け止めるには何世代もの時間を要した。そして、我らの次の様式は、互い同士からさえ孤立することであった。また、他のあらゆる存在からの侵入に対する抵抗でもあった。例外は、夫婦となり我らの種を再生産することだった。然りながら、その一つの活動を別にして、我らは我らの貴重な私生活を守るために戦ったのであるし、我らが特に頑固な種族であること以外には、何の正当性もなかった」
エドワードが言いました。「なら、理由がなくなってしまったずっと後も、その様式を維持してきたんですか?」
アカトシュは少し恥ずかしそうに見えました。彼は鼻をすするように言いました。「我はその通りのことを言ったと思う。我らだけがその餌食になる感傷的な生き物ではないのだ」
「アーチマジスターが多くの行動は生まれつきだって言ってました」エドワードが言いました。
モラーリンが彼に笑いかけました。「そして生まれつきの行動様式は、状態が変わるとゆっくりと変化する長命の種に顕著な問題なのだよ。お前たち短命種の人間以上に、我々エルフたちはそのせいで苦しんでいる。命は変化し、それに抵抗することになるにもかかわらず、我々がものごとをそのままにしておくのが好きな理由だ。ドラゴンはさらに長く生きる。エルフよりも長くだ。そして、結果として繁殖も遅い。しかし、社会的環境に生まれた変化が、良かれ悪しかれドラゴンの行動にどんな影響を与えるかは、誰にもわからないのだよ」
この時にはアリエラも会話に加わって、そして観察していました。「デイドラはドラゴンの行動に長らく喜んでいるに違いありませんわね」
アカトシュが答えました。「おそらくそうだろうが、我はこの提案のようなものとともに我らの…女王に接触を試みた。なぜなら、我らが種族として停滞状態に陥っていることは明らかのようであるし、我ら自身に活力を与えるために、この殻を破らねばならぬゆえに」
この時には、仲間たちは皆、声が聞こえる場所に座っていました。そしてマッツが尋ねました。「女王の許可が必要だったんですか?それと、いろんな種族との間にたくさんの困難を抱えてた?」
「許可はこの場合、極めて正確ではないな、マッツ。我らが存在している、それはなおさら、彼女が情報を手にできるように、我には彼女に伝える義務があったのだ。例を挙げるなら、他のドラゴンは軍事的な知識を求めて我を訪れる。従うことは準備を整えておくことと同一の哲学だ」
マッツはにやりと笑って言いました。「つまり、『念のため』ってことですか?だけど、エルフと人間については?」
「ああ、我が人類の王と淑女は、異なる姿かたちと習わしに対する敬意と忍耐の非凡な例となっておる。彼らはわが年若きブレトンの友エドワードと我とともに、寛大にも知識と技術を分け合ってくれる、ああ、私がここでの定住を試みるよう説得した鍛冶職人と鉱夫たちを貸し出してくれたモラーリンに感謝しているよ。ブレトンは、そうだな、多くのブレトンは、それが利益をもたらす限りは、長い間何事も徳を持って行ってきた。そして、そこから知識と技術を得ている。ノルドは個人の栄誉を渇望し、栄光がここで生産されたミスリルの鎧と武器をすばらしく利益のあるものにする―貴族以外には売らないことを主張するようになったアリエラは、まったくの天才であったよ―探索が新しいトンネルを開き、経路を提供してくれた―我らドラゴンが必要とするものに」アカトシュは少しずる賢そうに微笑みました。ドラゴンが何を必要としているかについて、彼はとても寡黙でした。「ビーチとウィローが、彼らの民にウッドエルフがここで歓迎されることを広めてくれている。ゆえに、長らく古来のハイロックのふるさとを追われた者たちが、この丘に戻ってきている」
「幸い俺は今公爵だから、ミスリルを着ることと持つことを保証されてる。あと二つばかり手に入れられたらなあ!だけど値段のせいで諦めなきゃいけないかも―」マッツが言いました
「諦めたらミスリルを手に入れられないぞ」モラーリンが指摘しました。
「俺の息子と娘はどうなんだ?その子たちのために、お前に土下座でもするか?」マッツが憤然として言いました。「俺の膝と呼吸がひと頃ほどじゃないのは認めるよ。どういうわけかここに残りたい誘惑に駆られてるのは事実で、俺は今ここにいる。だが、俺はまだ何にだって自分の斧を振るえるぜ!」
ミスが楽しそうに歯を見せて笑いました。「ノルドは勘定できないもんな。だからあいつらは利益でなく名誉と栄光を求めるんだ。名誉と栄光ってやつはあんまり多すぎて、人が指で数え上げるには向いてないからな。マッツ、もしお前が39歳だったら、俺が会ったか会ってみたいと思ってる人類の中で一番でかい10歳の人間だよ!」
「だけど、それなら探検も鍛冶もしないやつには何の利益があるんだ?」マッツが旧友を無視してこだわりました。「俺はこんな…別格の存在のすぐそばに住むのを怖がるやつがいっぱいいると思ったもんだ」最初の部分を言う時に、マッツは狡猾そうに笑いました。
「そうだな、一方ではその『別格の存在』の姿は、確実に手厚く守られていることを意味する。それに、この一帯は驚くほど肥沃で、作物がよく育つ…そして、彼らは我らのための肉を供給してくれるが、我らの食糧が占める割合は、彼ら自身が消費する分の五分の一だ。我らはまた、我が長らく疑念を持っていたことを発見してもいる―3組の種が組み合わさった場合、それぞれが孤立していると考える時よりも、より効果的に戦う―それは、それぞれの種が他の弱点を補強あるいは打ち消すからだ。少なくとも、ごく短期間でこの辺りのゴブリンが劇的に数を減らしていることは確かな事実だよ」
「その通りだ」エドワードが返事をしました。「モラーリンがモロウィンドでそう証明したよね」
「少しばかり友の助けを借りてね」モラーリンが認めました。「賞賛は享受するし、彼らが設定した基準よりも私が少々上のレベルにいるのは事実だが―時にそれは基準以上に標的のような気がするよ!」
彼の発言に笑いの波が応えました。エドワードはこだわります。「アカトシュ、あなたと他の仲間がここにいて、僕は自分の国の国境の守りが厚くなったと感じるけど、スカイリムは国境を西に動かす必要性に駆られる気がするはずだと思うの」
アリエラが尋ねました。「他のドラゴンたちにここに移ってくるよう説得するのは簡単でしたの?」
「実際に最も困難だったのは、我らの宝を新しいねぐらに運ぶことだった」アカトシュは怠惰な微笑を見せながら答えました。「蓄積した金属と、宝石や貴金属が役に立たないとわかると、すべてがうまく運んだ」でも、次にもっと深刻そうに言いました。「本質的に、我は他のドラゴンに個人的に近づかねばならなかったし、この考えには利益があると、彼らを…説得せねばならなかった。ここでもまた、我らのうちでも特に孤立した2、3の同類を説得してしまえば、ことを運ぶのか楽になった。しかし、この辺りに住んでいるのはたったの9体なのだ…そしてここには実際にあと2、3体分の場所しかない。今後の展開を見ずばなるまい」
アリエラが気が付いたように言いました。「今のドラゴンの行動を、神々と女��たちがとても好意的に捉えているのではないかと思いますわ」
「そうかもしれないな、アリエラ。だが、再び言うが、これはそのためではないのだ。しかも、彼らはまだ我らの長い敵対を覚えているかもしれぬ」
ビーチが恭しく尋ねました。「それより、この村の名前は何なのですか?」
アカトシュは嘆息して、やがて返答しました。「結論が出ることがないのではと恐れている。それぞれの種がそれについて意見を決めたゆえ。おそらく、最初の建設期間が完了すれば、そのような問題に関してさらに熟考できるだろう」
ビーチが応えました。「それは正しいことには思えません―どこにでも名前があるべきでは?」
ウィローがくすくす笑って言いました。「私たちにはそうだろうけど、ドラゴンがどう思うかなんて誰にもわからないわ。それに、人間とエルフは名前のスタイルだけじゃなくて、その詳細でも口論になるのは確実よ」
モラーリンがひどく劇的な調子で割り込みました。「エルフがとんでもなく頑固だと言っているのではないだろうね!?」そして議論は、彼らの中でひとしきりの笑いと揶揄の中に溶けてゆきました。
やがて、アカトシュが言いました。「我は『セクション22』という名が好ましい」
ビーチが彼を見つめました。「アカトシュ、詩作の難しさはよく知っていますよ。率直な意見を申し上げてもよろしいですか?それは私がこれまで聞いた中で最悪の村の名前です」
アカトシュは突発的にため息をついて、急いでビーチに詫びました―人類は、ドラゴンのため息は非常に不快で、時に本当に危険であることを発見しました。「ならば、我の意図がどう違うかわかっているのだな。我にとってはこれは大変意味があり、最も適切なのだ。『セクション16』ならもっといいのかね?違う?それなら、『セクション』という言葉が引っかかっているのかね?それは『砦』や『リーチ』や『峡谷』や『支配地』と比べてどう劣っているのかね?」
エドワードが言いました。「でもね、アカトシュ。名前は意味があるべきだと思うんです。少なくとも、人間はそう考えているよ。この場所を『22』にするなら、その前の21個のセクションがないと」
「本当?」アカトシュが言いました。「なぜだね?すべての数字は等価ではないのかね?一つの場所と他を区別するのに役に立つ。例えば、『グリーンヴェールズ』という村がいくつもあるかもしれん。そのような村を4つ知っている。『22』という数字は、魅力的だ…審美的にも。同様に、何らかの『意味』がある―少なくとも我には」
モラーリンが言いました。「アカトシュ卿は、我々が言うところの『内輪ネタ』を楽しんでいるんだと思う。私はドラゴンにそんなに無分別に教えたのだろうか―」
「モラーリンが分別がないなんて糾弾した人間がいるかしら?」シルクが言いました。
少しして、エドワードがアカトシュに尋ねました。「ちょっとだけ一緒に戦いのゲームをしてくれる?僕、ゲームの盤と駒を持ってきたんだ」
モラーリンが遮りました。「残念だが、アカトシュと私は今晩いくつかの件で話し合わねばならない―それに、お前はどうしたってまた負けるよ」彼は好ましい笑顔で付け加えました。
エドワードが返答しました。「だけど、僕は誰にだって勝てるんだよ…アカトシュ、僕があなたに勝つことがあるかしら?」
「ないね、エドワード、我に勝つことはないだろう」そしてアカトシュはエドワードの驚いた表情に少し混乱しました。そして、急いで心のこもった笑顔を見せました。
「あまり如才ない答えじゃなかったですね、アカトシュ。だけど、どうして僕は絶対に勝てないの?」
「我がお前よりずっと長い間やってきたからだ、エドワード。そして我が続ける限り、お前が追いつけることはないだろう。その上、このゲームは我が『有限の問題』と考え始めているもので、この類のものは最も簡単に解決できるものだ」
「その『有限の問題』ってのはどういうことです、アカトシュ?」マッツが尋ねました。
「起こりうる行動と結果を数えることができる問題ということだ、マッツ。このゲーム盤には81マスしかない、そして両軍は正確に27駒、それぞれの駒が特定の動きをする、そういうことだよ」
「だけど、そのゲームは本当の戦闘に似てるんじゃ?」スサースが尋ねました。
「いや、学習するにも、どのように戦闘を終わらせるかを考えるにも非常に良い練習になる―だが、我がエルフの射手は決して疲れることがないし、我がマスターメイジは常に私の求めることをする。現実の戦闘でそんなことはまず起こらぬ」
モラーリンが同意するように頷き、からかうようなずる賢さで尋ねました。「では、無限の問題の例は?」
「まさに現実の戦闘…だがまた、私にとっては詩が無限の問題だ」
「でも、すべての詩は分析できますわ、アカトシュ」アリエラがたしなめるように言いました。
「無論だ―だがそれは書かれたあとのこと。我はそれを書くという行いを決定し、あるいは固定することができぬ。だが…それは、創造する行いだ。もし我が詩を書き始めたら…可能性は数多くある」そして苦々しげに、「我は最初の1行を越えたことがない。なぜなら、1行目に書き込めるすべてのものを想像し始めるからだ…」と言いました。
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sorairono-neko · 5 years
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ヴィクトル・ニキフォロフは傘を持っていない
 クラブの建物から出ると、空は灰色で、雨になりそうだった。ロシアには晴れの日が少なく、いつも薄曇りの物静かな天気だけれど、いまはそれに増してどんよりと暗く、いまにも激しい雨が降り出しそうな空模様だ。勇利は傘を持っていなかった。 「雨宿り代わりに、戻ってもうすこし練習して帰ろうかな」  つぶやくと、隣にいたヴィクトルが「だめだ」と厳しく言った。 「今日、きみは何時間練習した? 早朝からずっといたよね。それ以上やりたいと言うなら俺にも考えがある」 「冗談だよ。ちょっとふざけただけじゃないか。そうがみがみ言わなくても」 「いや、勇利は本気だった。俺にがみがみ言わせる決意が感じられた」  勇利はほほえんだ。 「じゃあ降り出さないうちに帰ろう」  ふたりは足早に歩き出した。しかし、間に合わなかった。いくらも行かないうちにぽつりと最初の大きなひとつぶが落ちてきて、そのあとはあっという間に通りも建物も濡れていった。勇利はヴィクトルと一緒に駆け出し、ヴィクトルの家の庭を突っ切って、軒下に飛びこんだ。 「ひどく濡れた?」  ヴィクトルが心配して尋ねた。 「ううん。全体的に湿った程度。……すぐにはやまないかな」  勇利は低く見える空を見上げた。大粒のしずくがひっきりなしに落ちてくる。手を出すと、てのひらに当たってぱちんと音をたてた。勇利の借りている部屋まではまだずいぶんあるというのに。 「入って」  ヴィクトルが二重になっている鍵を外して勇利を招いた。 「しばらくは帰れないよ、勇利」 「でも……」  勇利はためらった。 「あの、傘を貸してもらえたらうれしいんだけど」 「俺は傘を持っていない」 「え?」 「雨の日は防水のフード付き上着を着て走ってクラブまで行くからね。必要ないんだ」  勇利ならともかく、ヴィクトルは練習へ行く以外にも用事が多いだろう。きちんとしたかっこうで出掛けなければならないことがあるはずだ。その場合は車だろうから、傘は必要ないのだろうか。それにしても、駐車場から歩くこともあるのだし、持っていたほうがいいとは思うけれど。まあ、ヴィクトルは変わっているから気にしないのだろう。 「ほら、おいで」  ヴィクトルがほほえんだ。 「……はい」  勇利はちいさくうなずいた。 「じゃあ……、お邪魔します」  ヴィクトルの家に入るのは初めてだった。ヴィクトルは遊びにおいでと招待してくれるのだが、練習ばかりであまり時間はないし、自由なときはロシア語の勉強をしているし、部屋でじっとしているのが好きだしで、応じたことはなかった。  ヴィクトルの家は、見たところ、勇利の感覚では「豪邸」だった。こんなところにひとりで住んでいるのかと思った。ああ、ひとりじゃないのか。マッカチンがいるから……。  そのマッカチンが奥から駆けてきて、ヴィクトルと勇利にうれしそうに吠えた。勇利の脚に鼻先をこすりつけてはしゃいでいる。 「勇利が来てくれて喜んでる」  ヴィクトルはマッカチンのつむりを撫でた。 「おいで。服を乾かさなくちゃ」 「あ、ちょっと湿ってるだけだから勝手に乾くよ」 「だめだ。風邪をひく。こっちだよ」  勇利は長い廊下をおそるおそる歩いてヴィクトルについていった。 「シャワーを浴びる? 身体が冷えただろう」 「いや、それは本当に大丈夫」 「そうか」  ヴィクトルが扉を開けて中へ入っていった。なんとなく、寝室だろうと勇利は見当をつけた。ついていくのも気が引けて、彼は廊下で待っていた。ヴィクトルが出てきた。 「なんでついてこない?」 「寝室でしょ? 悪いよ」 「寝室じゃない。ここは衣装部屋」 「衣装部屋? スケートの?」 「いや、生活的な衣装部屋だ」 「生活的な衣装部屋……」  普段着るものをすべてここに片づけているということだろうか。勇利としては、衣服に部屋をひとつ使うことが信じられないけれど、ヴィクトルならそういうものだろう。確かに彼は衣装持ちだ。それに、こんなにひろい家なのだから、そういった使い方もうなずける。 「これを着て」  ヴィクトルが、部屋着にしているらしいジャージを差し出した。 「着替えたら濡れた服をこっちへ。洗濯しよう」 「あの、乾かすだけでいいから!」 「そうかい? ああ、居間を使っていいよ。その廊下のさきだ」  ヴィクトルが再び部屋の中へ姿を消した。彼も着替えるのだろう。勇利は言われた通り居間へ行った。薄暗いのであかりをともし、室内を見渡した。大きなソファや大画面のテレビ、立派で味わいのある調度など、いかにもヴィクトルの家という感じの部屋だった。 「すごいな……」  勇利はぽかんとしたが、早く着替えなければと我に返って、急いでバックパックを下ろした。身に着けた服は、当然ながら、勇利には大きかった。これはヴィクトルが自分で洗濯したのだろうかとたわいないことを考えた。彼がそういうことをしている姿がどうも想像できない。もし勇利が「洗ってください」と頼んで濡れた服を渡したら、ヴィクトルがそうしてくれたのだろうか。なんだか可笑しい。 「勇利、着替えた? 入っていいかい?」 「あ、はい」  ヴィクトルが顔をのぞかせた。勇利はすこしはにかんで、あまった袖を示した。 「ちょっと大きいね」 「似合ってるよ」 「え? ……ありがとう」  借りた服を着て「似合ってるよ」という評価をもらうのは妙だと思ったが、ヴィクトルは変わったひとなのでこんなものだろう。 「えっと……」  さてこれからどうしよう、と勇利はすこし困った。 「お茶でも淹れようか」  ヴィクトルが、水の筋がいくつも流れてゆく窓のほうを見た。 「さっきよりひどくなってるようだね」 「お茶って、ヴィクトルが淹れるの?」 「そうだよ」 「淹れられるの?」  ヴィクトルは笑い出した。 「これでも、紅茶を淹れるのは得意だよ」  そういえば、ロシアで紅茶を飲むのはごく一般的なたしなみだ。 「何で飲む? はちみつ? 砂糖? ウォッカ入りジャム? 普通のジャム?」 「普通のジャムでおねがいします」  ヴィクトルは笑いながら「そっちに座っててくれ」と言った。勇利は濡れた服をヴィクトルに手渡し、居間のソファにちょこんと座った。マッカチンが寄ってきたので相手をしてもらうことにする。ヴィクトルは静かな音楽をかけ、勇利の服をどこかに持ち去り、戻ってきたらすぐ隣の台所で作業を始めた。勇利はなんとなくそわそわした。ヴィクトルと一緒にいることになんて慣れているけれど、いまはなぜか変な感じがした。 「お待たせ」  ヴィクトルが湯気をたてるお茶道具をひとそろい、トレイにのせてやってきた。 「はい、どうぞ。濃さは俺の好みで調整したけど、よかったかな」 「うん、ありがとう」 「さあ、お望みの普通のジャムだ。いまは身体をあたためるためにウォッカ入りのほうがいいんだけどね」 「そんなに冷えてないから」 「勇利、アルコールも時にはいい働きをするんだよ。勇利はかなり警戒しているようだけど」 「ヴィクトルみたいにお酒の強い人にぼくの気持ちはわからないよ」  ヴィクトルはくすくす笑った。 「勇利だって、よわいっていうわけじゃないだろう」 「酒で失敗するんだから、ただよわいのよりたちが悪いよ」  勇利はジャムを口にふくんで紅茶を飲んだ。たいへん美味しかった。ヴィクトルが淹れた紅茶を飲めるなんてすごいことだ。きっと過去の自分が知ったら気絶するだろう。勇利は流れるピアノ曲に耳を傾けた。聞きおぼえのある曲だった。ヴィクトルがプログラムで使用したことがある。ヴィクトルを見ると、彼も優雅にカップを傾けていた。しかし何も言わない。なぜしゃべらないのだろうと思うと、勇利はまたそわそわしてきた。 「やまないね」  もしかしたら、今日はもうずっと雨模様なのだろうか。勇利は考えないようにした。 「えっと、ヴィクトルの家って初めて来たけど、すごいね。大きいんだ。そうだろうと思ってたけど、想像以上。移動が大変そうだね」  勇利が笑うと、ヴィクトルもほほえんだ。 「慣れるとそうでもないよ。勇利の家だって大きいじゃないか」 「まあ、商売をしてるから……」 「勇利はこういう大きい家は嫌いかい?」 「え、嫌いとかそんなことはないけど」  勇利は慌てた。 「悪く言ったつもりじゃないんだ」 「それはわかってるよ。勇利の好みはどうなのかなということ」 「いや……すごいと思うよ」 「そうか」 「でも……」  勇利は考えこみながらつぶやいた。 「ひろすぎるとさびしいよね。マッカチンがいても」  あ、また変なこと言っちゃった。勇利は、なんとかとりつくろおうと口をひらきさした。しかしそれより早くヴィクトルが微笑して言った。 「そうだね。マッカチンとふたりでもさびしいかもしれない」  ヴィクトルは勇利をじっとみつめた。 「勇利、一緒に住んでくれるかい?」  ──びっくりした。本気で言ってるのかと思っちゃった……。  勇利は、テレビの画面にまっすぐ目を向けているヴィクトルの横顔をちらと見た。ヴィクトルは、驚いて口も利けないでいる勇利に笑いかけ、「そうだ、勇利に見せたいものがあるんだ」と言った。いったい何だろう、一緒に住むということに関係した何かなのだろうか、と身構える勇利に彼が示したのは、古い歌劇のディスクだった。 「ずいぶん前のだけどね。勉強になると思うよ」  勇利は目をぱちくりさせた。ヴィクトルはそれを再生し、「さあ、始まるよ」と言った。それきりまじめに画面に目を向けて、いまもふたりでその歌劇を観ている。勇利は、からかわれたのだ、あれはいつものヴィクトルらしい冗談だったのだ、と息をついた。そんなことより、せっかくヴィクトルが思いやりの気持ちで見せてくれているのだから、集中しなければ……。確かに勉強になる。  二時間ほどのオペラを鑑賞し終わったときには、外はすっかり暗くなっていた。勇利は窓辺へ寄っていき、街路灯のひかりに浮かび上がる雨粒を見た。まださかんに降っているようだ。 「食事をしていくといい」  ヴィクトルが勇利の背後に立って提案した。 「そのあいだに雨はやむかもしれないよ」 「うん……」  勇利はあいまいにうなずいた。 「いまからつくるよ。何があったかな……」  ヴィクトルが首をかしげながら台所へ行った。 「手伝うよ」 「簡単なものしかできないんだ。冷凍の何かと、それからサラダと……スープくらいかな」 「じゅうぶんだよ。ヴィクトル、普段から自分で料理してるの?」 「料理というほどでもないけど、まあ努力はしてるほうだと思う。以前にくらべたらね」 「前はどうだった?」  ヴィクトルは笑っただけだった。勇利は野菜を洗ったり、缶詰のスープを鍋に空けて火にかけたりした。ヴィクトルは冷凍してあったじゃがいもの不思議な料理をあたためた。ささやかながらも美味しそうだったし、ふたりぶんあると、ずいぶん豪華な食卓のように思えた。 「いただきます」  勇利は、ヴィクトルと食事をするのは久しぶりだなと思った。昼食はクラブの食堂で一緒だから、それは正しくないのだけれど、そういうこととはちがう、親密な、ほかの人とは持たない時間をこうして共有することは、ロシアへ来てからなかった。 「どうだい?」 「美味しいよ」  勇利は笑みを浮かべた。 「そういえばヴィクトル、昔インタビューで、家の冷蔵庫はからっぽ、って答えてた気がする。それやめたの?」 「まあね。最近のことだけど」 「いまはちゃんとこうして用意してるんだ」 「そう」  ヴィクトルはほほえんでうなずいた。 「いつ勇利が来てもいいようにね」 「…………」 「勇利は俺が家においでよと招いても応じてくれないけど……」  ヴィクトルは、勇利があたためたスープを美味しそうに飲んだ。 「何かの都合で勇利が来ることがあるかもしれないじゃないか。ごはんでも食べていきなよと勧めることができる。そうしたら、勇利と長く一緒に過ごせるだろう?」  ヴィクトルはにっこりした。 「今日は初めてそれが報われたね。ちゃんと支度していてよかった」 「…………」  どういう意味だろう……。これもヴィクトルの冗談なのだろうか? 勇利は困り、とにかく笑みを浮かべ続けた。 「勇利がここにいるなんて不思議だ」  ヴィクトルが静かに食事を進めながら言った。 「何度も思い描いたけどね。でも、どの想像より、いまのこの勇利がいる光景はすてきだよ」 「そう……」  勇利はよくわからないながらも、頬が熱くなった。とにかく、ヴィクトルが勇利に好意的であることはわかった。それがとてもうれしい。 「そういえば、ぼくも、長谷津の家にヴィクトルがいるの不思議だなって何度も思ったよ。すごいなって。それと同じかな」  焦って妙なことを言ってしまった。ヴィクトルはずっと勇利のあこがれのひとだったのだ。そういう相手が自分の家に現れることと、生徒が遊びに来るのとではまったく意味が異なるだろう。 「あ、いえ……ちがいますよね……」  勇利はまっかになってうつむいた。ヴィクトルは楽しそうに声を上げて笑った。 「いいね」 「何が?」 「勇利が」  たぶん、変なやつだと思われたのだろう。勇利は溜息をついた。  食事のあとも協力して片づけをした。それが済むと、勇利は窓辺へ寄っていった。まだ雨は上がらない。今夜はもう無理だろう。明日の朝まで雨模様なのだ。そろそろ帰らなければ。こんなことなら、明るいうちに濡れてでも帰っておけばよかった。いや──ヴィクトルと親しい時間を持てたことはうれしいから、そうしなくてよかったのか。でも、ヴィクトルに迷惑をかけたかもしれない。 「ヴィクトル、防水の上着、貸して欲しいんだけど……」  勇利は振り返ってヴィクトルに頼んだ。 「やっぱりやみそうにないし。一時的な雨宿りのつもりだったのに、ずいぶん長居しちゃって悪かったよ」 「そんなことは気にしないけど……」  ヴィクトルも寄ってきて、勇利の後ろからガラス越しに空を透かし見た。 「いまから帰るのかい? もう遅いよ」 「でもしょうがないから」 「今夜は泊まっていったら?」  ヴィクトルが気遣うように言った。 「こんな中、勇利を帰せないし……」  勇利はどぎまぎした。うちに入って。お茶でも淹れようか。食事をしていくといい。ヴィクトルは当たり前のように提案する。すべて彼の親切で、何もどきどきする必要はないのだが、なぜか勇利は恥じらいをおぼえた。どうしてだろう? 「どうしても帰りたいっていうならもちろん上着を貸すけどね。送っていくよ」 「それは悪いよ」 「いや、ひとりで帰られるほうが困る」  ヴィクトルはくすっと笑った。 「どっちでもいいよ。勇利の好きなほうで」 「えっと……」  勇利はどうしたらいいかわからなくなった。 「俺はどちらでもべつにめんどうはないから、気にしないでくれ。本当に勇利がしたいようにしてくれたらいい。ただ……」  ヴィクトルはそこでまぶたをほそめ、口元に笑みを漂わせた。 「俺としては、勇利ともっと長く一緒にいたいな」 「あ、あの、じゃあ……」  なんでこんなに気恥ずかしいんだ? 勇利はまた未知の羞恥をおぼえながら、おずおずとうなずいた。 「泊まらせてもらいます……」 「オーケィ。遠慮せずになんでも使ってくれ。さきにお風呂に入る? 着替えは……」 「あ、これでいいよ。いま借りてるやつで……」 「そうはいかない。ちゃんと別に出すよ。すぐお湯を溜めるからね」  一応断ったのだが、構わないとヴィクトルがうながすので、勇利がさきに風呂を使った。勇利は膝を抱えてひろい浴槽に入り、熱い湯におとがいまで浸かりながら、なんか変なことになっちゃったな、と考えた。でも、すこしわくわくしている。ぼくもヴィクトルと一緒にいたかったんだな……。  ロシアでは、長谷津時代と何もかもがちがう。勇利は毎日の生活に不満などないし、ヴィクトルはいつもそばにいてくれるけれど、決定的に変わったこともある。そう──彼と生活をともにしていないという点で。そこまで望むのはわがままというものなのだろう。わかっているし、身勝手なふるまいをするつもりはないけれど、しかし、さびしいと感じる気持ちはどうしようもない。  長谷津でめぐまれすぎてたからな……。  勇利は息をついた。ずいぶん贅沢に慣れてしまった。ちゃんと独り立ちをして、心配などいらないということをヴィクトルに見せなければ。今日のことは仕方がない。ただ、甘えすぎないようにしよう……。  勇利が風呂から上がると、入れ替わりにヴィクトルが入浴した。そのあいだ、勇利はマッカチンと遊んでいた。しかしマッカチンも疲れたのか、途中でまるくなって眠ってしまった。 「マッカチン、寝ちゃうの? さびしいよ。相手してよ」  起こすのは悪いので、ちいさな声でささやきかけると、「じゃあ俺が遊んであげようか?」とすぐ後ろから声がして勇利はびっくりした。 「いつ来たの!?」 「いま。普通に入ってきたのに勇利が気づいてないようだから、ちょっとおもしろかった」 「もう……」 「さて、何をして遊ぶ?」  勇利は答えに困った。ヴィクトルともっと話したかったし、彼との時間を大切にしたかった。しかし、では何を話すと訊かれたら答えられないし、また、ほかにすることもとくに思い浮かばなかった。 「もう寝ようよ」  仕方なく勇利はそう言った。 「勇利はこの時刻は、いつももう寝ている?」 「そうだね……だいたいは……。そうじゃない日もあるけど」 「よく寝る習慣はいいことだよ。じゃあ勇利はさきに寝室へ行ってくれ。寝てしまっていいからね」 「え、ぼくヴィクトルのベッドで寝るの」 「いやかい?」  ソファで寝る、と言おうとして、勇利は口をつぐんだ。 「……ううん、じゃあ、お邪魔させてもらう……」 「どうぞ。俺はちょっとすることがあるから」  きっと、勇利がいるせいでできなかったことがあるのだろう。勇利は素直にこっくりとうなずき、教えられた寝室へひとりで行った。あかりはつけず、眼鏡を外してひろいベッドにもぐりこみ、すぐに目を閉じた。しかし、眠りはいっこうに訪れなかった。ヴィクトルは何をしているのだろう。やっぱり何か話せばよかった。なんでもいいのに。スケートのことでも、ロシアの話でも……。  雨が窓を叩いていた。勇利は暗闇の中でその音に耳を傾けた。なつかしい気がした。なんて優しく、やわらかい音なのだろう……。  足音が近づいてきて、扉が静かにひらいた。勇利はヴィクトルに背を向けたままじっとしていた。ヴィクトルは勇利が眠りこんでいると思っているのか、物音をたてないようにしながらベッドに入ってきた。まくらべのほのかなあかりがともる。勇利は息をつめた。緊張してしまう。どうして? ヴィクトルと同じ部屋で寝たことくらいあるのに。  でも、同じベッドは初めてだ。  ヴィクトルはなかなか横にならない。何をしているのだろう? 勇利はそうっと首をねじってヴィクトルのほうを見た。彼はふとんに脚を入れ、その上に本を置いて、物静かに読書をしていた。勇利はしばらく、オレンジ色のひかりにいろどられている彼の端正な横顔をみつめていた。 「何を読んでるの?」  ヴィクトルがふと顔を上げた。彼は勇利と視線が合うとほほえんだ。 「起きてたのか」 「目を悪くするよ」 「眠れなくてね」 「本を読んでたら眠れないよ」 「そういう意味じゃない」 「そうなの?」  勇利はヴィクトルのほうへ身体を転がした。 「眠れないことがわかっているから本を読んでいるんだ」 「ヴィクトルって不眠症?」  ヴィクトルはよく動き、よく食べ、よく眠るひとだ。そんな話は聞いたことがない。もちろん、いつだって陽気というわけにはいかないだろうけれど……。 「それとも、何か悩みでもあるの?」 「今夜だけだよ。気にしないでくれ」  勇利は急に心配になった。 「もしかして、ぼくがいるから?」  肘をついてヴィクトルのほうへ身を乗り出した。 「ぼくのせいで眠れないの?」  人がいてはだめなたちなのだろうか。だとしたら悪いことをした。しかしヴィクトルは優しく笑って勇利の髪を撫でた。 「勇利にいけないところはひとつもない。俺の問題なんだ」 「でも……」 「もうおやすみ。俺もひと晩じゅう起きているつもりじゃないから」 「だけど眠れないんでしょ?」  勇利は起き上がり、ヴィクトルと並んで本を見た。 「ぼくも付き合う」 「勇利……」 「ヴィクトルが寝ないならぼくも寝ない」  ヴィクトルはくすっと笑い、困った子だなというように肩をすくめた。しかし、無理に眠るようには言わず、「わかった」とうなずいた。勇利が眠気に襲われて寝てしまうと見当をつけているのだろう。勇利は、絶対寝ない、と頑固なこころぎめをした。  ヴィクトルが読んでいるのはロシア語の本だった。慣れないキリル文字の羅列。もちろん勇利にはほとんどわからない。こういうものを見ていたら、眠くなるのが当たり前だ。けれど勇利は、どういうわけか、寝たいという気持ちにはいっこうにならなかった。寝ない、という決心のせいでもない。時間が経つにつれ、ヴィクトルの肩にもたれかかり、ゆったりとした姿勢になったけれど、眠気が訪れることはなかった。  どうして眠くならないのだろう。やはりヴィクトルと話したいのだろうか。ヴィクトルは眠れないと言っているのだから、この機会になんでも言ってみるべきだ。たわいないことでもいい。明日からはまた、こんな親密な時間を持てない、練習ばかりの毎日が続くのだ。もちろんヴィクトルと氷の上に立つのは幸福だし、勇利が望んでもいることだけれど、こういう時は貴重だ。いまのうちに──話せることを──話しておかないと……。  しかし、そう決心してもなお、勇利の口はひらかなかった。眠りたいとも思わなかった。勇利はおとなしくしていた。  やがてヴィクトルが息をつき、かすかに憂いをふくんだまなざしを勇利に向けた。勇利は静かに見返した。 「勇利……、俺は俺の問題で眠れないと言っているんだ」  勇利はじっとヴィクトルを見た。 「その意味、わかるかい?」 「…………」  わからなかった。わからなかったが、勇利は、ヴィクトルの顔が近づいてきても、動こうとはしなかった。くちびるが重なった。ヴィクトルの青い目はきわだってうつくしく、そこには勇利しか映っていなかった。 「……わかった?」 「…………」  勇利はヴィクトルにキスを返した。 「……わかった……」  そうささやきながら、本当に自分はわかっているのだろうかとあやぶんだ。あきらかにわかっているはずなのだが、気持ちがふわふわして、ものごとを上手く考えられなかった。ただ、直感と、身体だけが、すべてをいつの間にかわきまえていた。 「本当に……?」 「……うん」  ヴィクトルが勇利の手を取った。彼が動いた拍子に、膝から本がすべり落ち、ヴィクトルの身体の向こうで止まった。ヴィクトルに抱きしめられ、勇利は目を閉じた。頬が燃えるように熱かった。雨音はまだ続いていた。しかし、すぐに気にならなくなった。  ひと晩経てば、もちろん勇利の服は乾いていた。勇利はそれに着替え、ヴィクトルから借りたものはバックパックにしまった。 「洗って返すよ」 「気にしなくていいのに」 「ヴィクトルって、自分で洗濯してるの?」  勇利の質問にヴィクトルは目をまるくし、それからうれしそうにほほえんだ。 「そう。最近始めたんだ」  勇利はくすっと笑った。 「じゃあ」 「本当に朝食を食べていかないのかい?」 「うん。いろいろ昨日のままだし、このまま練習へ行けないしね」 「そうか……」  勇利が玄関まで行くと、ヴィクトルと、寝ていたはずのマッカチンが見送りに来た。扉を開けると空は真っ白で、あたりには雨上がりのしっとりとした大気がみち、うすく霧が漂っていた。儚く情緒的な、夢のようにうつくしい風景だった。勇利は朝の匂いを胸いっぱいに吸いこみ、ヴィクトルのほうを振り返った。 「じゃ、リンクでね」 「ああ、リンクで」 「ヴィクトル……」  勇利はヴィクトルを見上げ、ほほえんで言った。 「また、ここへ来てもいい?」  ヴィクトルが瞬いた。 「今度は、雨が降っていないときに……」 「……もちろんだよ」  ヴィクトルがうれしそうに、だがそれをどうにか抑えるような声を出した。彼の閉じた口元が、笑みのかたちでぎゅっと引き結ばれた。 「それから……、」  勇利は背伸びをし、ヴィクトルの耳のそばにくちびるを寄せた。 「あの質問だけど……、答えはイエスだよ」  ヴィクトルは瞬き、わずかに口をひらいた。彼は、いったいなんのことだとは尋ねなかった。 「本当に……?」 「うん」 「……いつから?」  ヴィクトルの声はかすれていた。 「しばらくして……」  勇利は笑った。 「ヴィクトルが、ぼくの料理とか洗濯の腕前を見きわめて、『俺と同程度にはできるな』って合格させてくれたら」  ヴィクトルは勇利のほうへ身を乗り出した。 「いますぐ」 「だめ」 「いますぐだ」 「だめ!」  勇利はほがらかに笑った。 「こういうことは慎重にしなくちゃ。一生のことだからね」  勇利は笑顔で手を振り、まっすぐに歩いて庭を突っ切った。門のところまで行くと、「勇利」とヴィクトルが呼んだ。勇利は振り返った。 「なに?」 「俺は、傘を持ってないのは本当なんだ」  ヴィクトルが真剣に言った。 「本当なんだ。うそじゃないんだよ」  勇利は瞬き、花がほころぶように笑い出した。ヴィクトルはいつだって誠実だ。偽り���ど述べず、勇利のことを考えてくれていて、たいへん優しい。 「じゃあ、ぼくが大きな傘を買うよ」
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myonbl · 5 years
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第14回露新軽口噺@動楽亭(2019年5月17日)
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露の新治・新幸師弟の研鑽の場「露新軽口噺」も回を重ねて14回、会場を「太陽の月(日本橋)」から「動楽亭(動物園前)」に移してからは3回目。今夜も多くの善男善女が集まって、至芸と熱演を楽しみました。次回は6月14日(金)、もちろん予約を入れて帰宅、美味しい酒で今週を締めくくることができました。
「東の旅発端〜奈良名所」露の新幸(15分)
開演時刻は18時30分、ところが出囃子が鳴り出したのは18時17分、おもむろに新幸さん登場。上方の寄席らしく、前座が前タタキをするという趣向。小拍子と張り扇で見台を叩きながら客の気を惹くという、昔ながらの演出ですね。口慣れた旅ネタで雰囲気を盛り上げつつ、開演ギリギリまで入ってくる客を迎えて師匠の登場につないでくれました。
「看板の一」露の新治(21分)
師匠の教えで一門は博打御法度、なぜなら噺家という選択が人生一番の大博打だから。客をスッと引き込んで入ったこのネタ、もちろん初めて聴きました。冒頭、町内の若い者が老人をカモにしようと「チョボイチ」に誘う。この老人、いまは好々爺然としていますが若い時分には相当ならした強者。結局若い者を懲らしめるために一度だけ賽を振る・・・。この老人の最初の穏やかな表情・口ぶりがよかったですね、いかにも多様な体験から得た処世知が体に染みているといった風情がありました。賭博と射幸心、決して無くならない人間の本性に触れるネタ、寄席の短い出番など重宝しそうですね。
「口合小町」露の新幸(21分)
数日前のブログで触れていた桂九雀師からあげていただいたネタというのは、このことだったのですね。口合、地口といった表現は日常語としては死語かも知れませんがやはり残って欲しい言葉、その意味でも良い演題だと思います。口合の得意な女房が、他人の入れ知恵でそれを武器にして亭主の浮気をやめさせるという展開。在原業平の登場は後の「竜田川」とつきますが(笑)この会ではOK、地口の部分は演者のセンスと工夫も生かすことが出来ます。初演ですからまだまだ口慣れない部分もありますが、大変新鮮で大いに笑わせていただきました。ぜひ十八番にして欲しい噺ですね。
「蛸坊主」露の新治(19分)
袴を着けての登場に所作が入る噺・・・、久しぶりに聴かせていただきました。私にとっての露の新治初体験、それは第4回露の新治寄席(2013年10月12日)のこと、その時の一席がこのネタでした。その時のブログを振り返ってみると・・・
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登場と同時に場内割れんばかりの拍手、全国各地からの追っかけや、同級生の団体など、本当に温かい、いや熱い歓迎ぶり。新治師もそれに応えて会場全体、もちろん二階席にもくまなく目線を送って丁寧なご挨拶。ネタは「蛸坊主」、私は初めて聴きました。あまりネタの中身を書くのは好まないのですが、少し紹介。
コトバンクにはシンプルに「古典落語の演目のひとつ。上方種。八代目林家正蔵が演じた。」と。大阪新聞連載中の相羽秋夫のお笑い食べまくりには「東京落語」と紹介されています。落語あらすじ事典千字寄席には、より丁寧な説明が。少し引用させていただくと、
原話は不詳で、本来は純粋な上方落語です。
明治以来、大阪方が「庇を貸して母屋を乗っ取られた」 演目は数多いのですが、この噺ばかりは、東京は ほんのおすそ分けという感じです。
大御所の桂米朝、故・露の五郎兵衛、桂文我ほか、 レパートリーとしているのは、軒並み西の噺家。
東京では、八代目林家正蔵(彦六)が、かつてこの噺を 得意にしていた大阪の二代目桂三木助(1884-1943)に 習い、舞台を江戸に移して演じたのみです。
マクラで、京・大坂・江戸の三都それぞれの落語事情を簡単かつ明瞭に解説し、ネタに入ると料理屋の大将、ゆすりの坊主、とりなす老僧、それぞれの人物の描き分け、終盤の芝居がかりの所作、いやいや本当にお見事! 落語概論実技付き、流れるような21分でした。
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よほど印象が強かったのですね、記事のボリュームにそれが現れています(笑)。もちろん、今夜も大変結構でした。
仲入り
「兵庫船」露の新幸(22分)
二席目はお得意の旅ネタ、本人は自信、こちらは安心。
「竜田川」露の新治(30分)
新幸さんの「兵庫船」はもちろん新治さんから、では新治さんは誰から教わったか・・・。客席に問いかけましたが、すぐに「桂文福師匠!」と正解が出ました。それもそのはず、新治さん自身が以前の会で紹介していましたから。この「兵庫船」の好演が評価されて「学校寄席」のメンバーに抜擢されたとの30年以上前の思い出話に繋がります。
実は、5月10日に東京で開催された「NPO法人東北笑生会」主催の落語会で新治さんがプログラムに掲載された文章で、柳家さん喬師との出会いについて触れておられました。いつかお聞きしたいと思っていたことなので、その文章を Facebook で嬉しく拝見していたのですが、今夜ご本人から直接その間の経緯をお聞きすることが出来たのはとても有り難い。五郎兵衛師のお付きとして東京へ行かれていたことは承知していましたが、それ以上に学校寄席を通じて東京の師匠方との交流があったこと、それが鈴本演芸場や三田落語会への出演という具合に展開していったこと、そしてそれは全て文福師からいただいた「兵庫船」から始まったこと・・・。いやぁ、マクラというよりも「随談」と呼べるような私には嬉しい内容でした。
本編が始まっても、私の頭の中は上記の「随談」が占めていて、気がつけば「撮影タイム」となっていました(笑)。
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bnb-special · 5 years
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vol.06【2019】 「お江戸」よりの使者。
ーー久しぶりですね、事務所でスペシャルページのインタビューさせてもらうの。
辻 ほんまやわ。あ、本日は���田さんが出張でいてませんので、ボクが独りで喋りますね。
ーーどうですか、スペシャルページのインタビューを、大阪店で公開トークとして何回かやってみて?
辻 面白いですね。でも、お客さんからの質問に「覚えてない」とか言うのは、これから止めようと思って。
ーーどうしたんですか?
辻 ホントのことを言うとね、覚えてないんじゃなくて、思い出すのに時間が掛かるんですよ。長いこと聞いていただいてるのに時間掛けたら申し訳ないでしょ。でも、これからはしっかり思い出して受け答えしますので、次回は4月6日の土曜日かな。どんどん質問お願いします! で、今日は何のお話を?
ーーちょうどいい季節なので、シャツの話をお願いしようかと。
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辻 シャツはね、意外と手間が掛かるんですよ。いろいろ縫うのにワザもいるしね。もしかしたらパンツより手間が掛かるかも。いまは工賃も安くないし。
ーー昔は安かったんですか?
辻 物が大量に売れた時代はね。たとえばシャツの後ろにタックが付いてるでしょ。それだけを作る機械とか、袖の剣ボロだけを縫う機械とかがあったんですけど、いまは多様化してきて、シャツのカタチもいろいろあるから、そういう自動機が使えないのよ。
ーーで、その都度、対応してもらうと工賃が上がる、と。
辻 そうです。あと、シャツってアイロンの工程がめちゃくちゃ多い。縫いしろを折って、そこをキレイにプレスするっていう。で、その工程がキレイで丁寧な工場ほど、いいシャツを作りはる。
ーーアイロンの上手い下手って、どこを見るんですか?
辻 角がちゃんと出てるかどうかとか、ポケットの丸みの出方とか。上手い工場で作ったシャツなんて、ポケットの裏側の縫いしろ、アコーディオンみたいにきれいなジャバラ入ってるからね。
ーーブルーナボインのシャツは難しいのが多そうですね。
辻 シャツ屋さん、いつも泣いてはります(笑)。生地も縫いにくいの多いしね。
ーー『タイムトラベル フードシャツ』も素材がツルッとしてますよね。光沢があって。
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辻 それはキュプラさんのお仕事ですね。
ーーキュプラ100%なんですか?
辻 いや、キュプラが53%で、コットンが47%。
ーー生地に何がプリントされてるんですか?
辻 プリントじゃないんですよ、それ。
ーーえっ!?
辻 全部、ジャガードで織り込んであるんです。
ーー手が込んでますね~。
辻 きょうび、そんなこと誰がする(笑)。したからどうってわけじゃないけど、服ってホントはそういうのが楽しいはずなんですけどね。
ーーそうですよね。ちなみにこれは、何が織り込まれてるんですか?
辻 虎でしょ、江戸の絵師でしょ、あとは花魁。
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ーーシャツのカタチも面白いですね。
辻 フーディーですな。トップスとしてもシャツとしても使えるデザインです。
ーー配色も江戸っぽくて。
辻 独特でしょ。和と洋がミックスされたような感じで。あと、開襟のショートスリーブとリラックス感のあるイージーパンツも同じ生地で作りました。あ、そうそう。昔にちょっとだけ話したかもしれませんけど、ブルーナボインのシャツにはひとつ特徴があってね。
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ーーはい。
辻 脇の下って縫いしろが重なってるので、普通に縫うと着心地がすごく損なわれるんです。だからそうならないように、縫いしろを敢えてズラして仕上げてます。
ーーそう縫うのって難しいんですか?
辻 難しくはないけど、縫うときって何か目的地が定まってる方が縫いやすいんです。縫いしろをズラしたら、ハッキリとした目的地がなくなるからね。仕様書を細かいところまで見てくれて、パターンのことをしっかり理解してくれてる工場じゃないと頼めない。
ーーそうなんですか?
辻 1~2㎝ぐらいのズレだったら、無理矢理合わせて上げてくるから。
ーーズラしてるんじゃなくて、ズレてると思われるんですね。
辻 そうそうそう。合わすのが常識なのでね。だから一般的には、こっちが非常識なことをしてるわけですよ(笑)。でも着る方にとっては、非常識なディテールの方が絶対に着心地いいから。それは自信を持って断言できます。
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ーーブルーナボインのシャツは全部ズラしてるんですか?
辻 いまはほとんどズラしてるかな。普通だったらシャツに使わないようなゴツい生地でシャツ作ったりもするし、そうなってくるとズラしてないと着れたもんじゃなくなるからね。昔は取引先に「ズレてるんですけど」って、よく言われたわ。次はどのシャツいきますか?
ーー『EDO チェック シリーズ』をお願いします。
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辻 ボク、昔から骨董屋に行くのが好きでね。その中でも定期的に行きたい店っていうのが何軒かあるわけですよ。で、その中に面白い古生地を揃えてる老舗があって。
ーー古生地、ですか?
辻 そうそう。能とか歌舞伎の衣装も扱ってるし、世界の民族衣装も置いてる。あとはインドとかヨーロッパの更紗もあるし、日本の昔の更紗とか、とにかく珍しい生地ばっかり。
ーーその店のお客さんは、そういう古生地を買って何に使うんですか?
辻 たとえば、茶道の道具を入れる袋とかね。それを名物布で設えるというのが、これまた粋な遊びなんですよ。
ーーそうなんですか。
辻 だって、一番最初に見るのって袋やん。で、これはどこどこの生地でね…みたいな感じで、茶の席での話が膨らんでいくから。
ーーなるほど。ということは、茶道のお客さんが多いんですか?
辻 それがそうでもないのよ(笑)。大学の教授とか世界的なデザイナーさんもいはるみたい。
ーーへー。
辻 店のご主人と話してるだけでも面白いもん。前もコーティングしたようなピカピカの更紗があってね。何百年も前の生地やし、どうやって作ったんでしょうねって話をしてたら、「これは玉子の白身を塗ってるんです。だから防水にもなってる」って。そんなことも教えてくれはったりするのよ。
ーーそれは面白いですね。
辻 それであるとき、その店で小さな布の切れ端を見つけたんです。格子柄なんですけど、よく見たら所々間違えてたりして。
ーー間違えてるって、どういうことですか?
辻 格子の配色パターン的に見ると、ホントはそこに来るべきじゃない色が、その場所に入ってたりしたのよ。で、「何ですか、この布は?」って聞いたら、「それは江戸時代に織られた格子です」って。
ーーまさかの!
辻 色もいいし、テーマにもピッタリやし、この生地で服作ったら面白いんちゃうかな、と思って、江戸時代の生地をリプロダクトしてみました。
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ーー"間違えてるところ"も、ですか?
辻 再現してる(笑)。
ーー江戸っぽいから「EDOチェック」かと思ってたら、リアルに江戸のチェックだったとは…。
辻 ほんまもんです(笑)。あと、東京と大阪の直営店では、この配色をチェックじゃなくてストライプで表現した別注バージョンを展開してますよ。
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ーーそろそろ時間ですね。最後にもう一回、次回の公開トークの日時をお願いします。
辻 4月6日の土曜日、夕方5時から、ブルーナボイン大阪店でやりますので、よろしくお願いします!
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khookhoo · 2 years
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最近、子供が死ぬ夢をよく見る。
大体、死因ははっきりとしない。突然死んでいることになっている。死んでしまってもう居ないところから夢が始まる。
これがきつい。
あるはずの物がなくなって初めて死を知るという感じだ。「居るはずの人」ではなくて「あるはずの物」という感覚が強い。
なぜ人ではなくて物と感じるのかははっきりと説明できないのだけど、赤ちゃんのころから家の中に子供というのは存在し、それを保護して育てていくので親としては「宝物」という感じに近いのかもしれない。「人」であるからには立場が対等でなくてはならないという暗黙の前提を置いてしまっているからかもしれない。親子関係は親が子供の教育責任と保護監督責任を負う。子供に対してはその責任を親が肩代わりしているのであるから、子供は親に従うべきであるというこれもまた暗黙の前提を置く。しかし当の子供本人には当然ながらそんな意識は無く、この世は基本的に自由であって、それに制限を課す親や先生、要するに大人は口うるさいものだという認識でいる。おそらくそれが健全な状態なのだろう。
夢の中で私はあるはずのものが存在しないことに気づいて空虚な気持ちになる。今まであることが当たり前だったものが失われて初めて自分が思っていた以上に大事であったことがわかった。そういった夢を見ることを繰り返す。
子どもたちは大体は存在していないが、たまに幽霊として会いに来ることもあった。幽霊だから、下半身はなかった。「パパ、今まで一緒に遊んでくれてありがとう」そう言っていつものように笑う。天国に行くでもなく、ただそこに居て笑うだけだ。しかし触れることはできない。幽霊だから。そのうちに喋ることもできなくなる。
非科学的なことではあるが、夢は常に暗示めいていて不安になる。
私の友人の一人が16歳の時に死んでしまった。本当に仲の良い友達であった。彼が死んでしまう1ヶ月ほど前から、彼は死後のことについてよく語っていた。まだ16歳、高校生だというのに「俺、生命保険をかけておいたほうが良いような気がするんだよね」とか、「俺が死んだらライブハウスに行って無料でライブ見るし、ラブホに侵入して生活するわ」などと。その後に死んでしまったことによって、その直前にあった関連しそうな記憶を恣意的に抽出しているのかもしれないが、それでもなお頭の中では何か神秘的と言うか、現状の科学では説明できない何かがあったのかと思ってしまう。
であるから、子供が死んでしまう夢というのは非常に気味が悪い。
今回の夢もそうだった。曖昧な記憶になってしまっているが、夢の中で私は子供を救うために何度か人生をやり直していた。
ある日。私は嫁さんと喧嘩して離婚に至った。それも繰り返した人生のうちで何度か発生したことだった。その時は、嫁さんが夕飯を作っている最中に突然怒り始めたのがきっかけだった。何故怒ったのかわからないが、しかし口論になっている。記憶をたどると怒り始めたきっかけは私が嫁さんに何か日常の一言を話しただけだ(セロハンテープはどこにしまった?とか、外出するけど買ってくるものはある?とかそんなものだ)。それだけで嫁さんは激怒した。料理中に話しかけるな、か何か言っていたと思う。
またある時は私が車を運転していて道を間違ったから激怒した。そのくらいで離婚に至るのは不条理だと思うが、しかし離婚に向けての話し合いはどんどん進んでいく。「猫はあなたにあげる」「でも子供は二人共連れて行く」「面会の権利はあるんだからそれで文句ないでしょう」などと言っている。なんとか離婚を避けようとするが、あまりにも怒っていて話が通じない。
結局、離婚に至る。
ある時は離婚に至ってから、私はタイで暮らしていた。大きな会社のブリッジSEみたいな仕事で現地の若いプログラマを指揮していた。宿舎はあまり綺麗ではなかったが小ぢんまりとしていて掃除も一軒家に比べれば楽だった。日差しが強いがそれが作られる木陰が部屋の中にも入ってきて暮らしやすかった。
ある時は浮間舟渡駅の近くに住んでいた。浮間舟渡は東京都北区にあって、埼玉との県境に位置する。現実では浮間舟渡駅近くには地元の友達が住んでいた事があって、何度か遊びに行ったことがある。駅を降りると駅前は暗くしずかで、まさにベッドタウンといった表現が近いように思う。ただ、私が行ったことがあるのは数えてみるともう10年前にもなるので、今はどうなっているのかわからない。
ある時は東京都府中市近辺を自転車で走っていた。細くてどこまでも続く街路を縫うように走り、どこかの家で夕飯を作るために食器や鍋の類をカチ���カチャとやる音が聞こえる。その時住んでいるアパートも小さくて暗くて古いものだった。もう家族は居ないのだから、安いアパートで何も問題ない。浮いたお金を余暇を過ごす楽しみに使えば良い。
そんな時にいつも電話が入ってくる。元妻からで、曰く、「子供が二人共死んだ」という。
死因はいつも共通していた。私の実家の二階の窓付近で遊んでいて、そのまま地面に落ちてしまった。(なぜ離婚した妻が私の実家に住んでいるのか、合理的な理由はない)実家の二階の窓は危険だと私は子供の頃から思っていた。天井から床付近まで高さがあるような、開けるとベランダに通づるようなよくある大きさの窓が設置されていた。しかし実家にはベランダがなく、その下はコンクリートで固められた地面だ。落下防止の柵が据え付けられているが、それも老朽化して体重を支えられるかどうかは怪しかった。
子どもたち二人はもう居ない。もう既にこの世に居ないのならば経緯や仔細はあまり気にならなかった。それまでに見てきた夢と等しく、ある日突然、そこにあるはずのものが無くなったという空虚な感想を持つ。離婚して会う機会が減ったとしてもそれは同じだ。我々は家族であれ友達であれ、離して暮らしている大切な人は皆、それぞれが何も問題なく幸せに暮らしていると思い込んでいる。記憶の中には病気にかかって床に臥している状態ではなくて、一緒に遊んでいたとき、一緒に笑っていた時が記憶として残る。けれども実際は事故に遭う危険は常に存在するし、生活が幸せかどうかもわからない。
目を閉じると子供が二階から落ちていくシーンが見える。私は幽霊のようにそこに存在して、子どもたちが落ちていくその瞬間には干渉できない。遠くに妻や私の母が居るのが見えるが、気づいていない。あるいは、気づいていたとしてももう間に合わない。下で二人を受け止めようとする試みは失敗する。受け止め損なうか、そもそも間に合わないか。パターンは違えど二階では人間だった我が子が地面の上では生々しい人形のように寝転がっているのを見ることになる。
それを見るたびに、なんとか助かってほしいと思うが、しかしそれはただ願うだけだ。それ以上のことは何もできない。だから、そういう未来に至らないように、何度も夢の中で人生を遡ってやり直している。
あるとき私は戦争に行った。私は空挺部隊の一員となって狭い輸送機に乗り込んでいた。皆、第二次世界大戦当時の装備を身につけて所狭しと輸送機の中に詰め込まれており、重くて大きいバックパックの群れに人間が挟まっているかのようだった。私が所属する小隊のメンバーの顔ぶれはとても懐かしいものだった。私が新入社員の時��配属された原子力計算機システム課のメンバー。皆、もう50代になっているはずだが、ほうれい線が深く刻み込まれた笑顔のまま、軍服と装備に身を包んでいる。これから戦争を始めるが、なぜかこの小隊ならば生き残れるという漠然とした安心感があった。
しかし、敵地に落下傘降下して小隊が集合するまでに半数の人が行方不明になった。秋、収穫が終わった小麦畑に降り立ち、畑に囲まれた教会を目指す。その教会のてっぺんには機関銃が一艇据え付けられており、弾が無限に存在するかのような水平射撃を浴びせてくる。それを迫撃砲で排除するまでにまた何人かが斃れた。
朝になって敵が潜む森を掃討するまでにまた何人かを失った。未熟な補充兵は片っ端から死んでいった。半分崩れ落ちたレンガの塀に身を隠す仲間のところに砲弾が飛んできて生き埋めになった。それを助け出そうと掘り進めていた別の仲間も砲弾の餌食になった。昔から知っている顔はもう一人か二人になった。それでも原発チームのメンバーはいつも笑っていた。
野営地で寝転んでいる時に手紙が届けられた。妻からだった。手紙を読んだ瞬間に妻は元妻になった。4人居た子供のうち、二人は連れて行く。もう二人は養子に出すと書いてあった。猫は飼う人が居ないので捨てるともあった。せめて養子に出す子供と猫を引き取りたいが、しかし戦地からではどうしようもない。戦中の混乱期に養子としてもらわれていった子供を見つけることはもはや叶わないだろう。その時点で子供は失われたようなものだった。
あるとき我々は大隊全員が集められ、大隊付きの士官に混じって師団長が出てきた。師団長が持ってきた紙を読み上げ、それでようやく戦争が終わったことを知った。それを知ってもあまり喜びはなかった。
そしてまた、電話がかかってくる。子どもたち二人が死んだと。
そしてまた、私は幽霊になって実家の二階に漂うことになる。窓際で子どもたち二人が遊んでいる。妹が窓を開けて身を乗り出してスリルを楽しんでいる。姉はそれを咎めているが妹は言うことを聞かない。そして姉が考えていることが頭に伝わってくる。ほんの少しだけ脅かして怖がらせてやろうと。そうすれば危ないことをしたことを公開するだろうと。その試みは失敗することが私にはわかっている。でもそれを伝える方法はない。姉は妹を脅かすが、そうしたときに妹が足を滑らせ窓枠にしがみつく。瞬間、姉は「妹が落ちたら私は怒られるだろう」と判断する。怒られるのが怖いから助けようとする。しかしそれも無理だ。バランスを崩した姉はそのまま前のめりに落ちる。妹もそのまま。
もはや何度も見た光景であったが、見るまでは忘れてしまっている。そして出来ることはもう何もないと諦める。
が、その時は違っていた。下に居た近所の大人ら数人が脚立や布団などで子供をキャッチする体制をすでに整えてあって、落ちた二人の子供は大人に抱えられたり布団に軟着陸するなどして、無傷であった。
ふと気づくと私はテレビの前のソファに座って戦争映画を見ている。その映画の終わりはハッピーエンドと言えるだろう。たくさんの人命が失われたが、今後は失われることは無い。祖国を守りきった軍隊が凱旋するのを人々は両手と旗を振って歓迎した。色とりどりの紙吹雪が舞い、従軍した兵士はいつものように微笑んで手を振り返していた。そのいくつかは知った顔だった。
「パパ、戦争で何人の人が死んだの」
横に座っている娘がそう尋ねた。
「日本だけで数百万人が死んだから、全世界では数千万人が死んだんじゃないかな」
と言うと、ふーん、と言って、それだけだった。
目が覚めてから少しずつ現実世界のことを思い出す。私はまだ離婚していないし二人の子供は横で寝ている。夢の中で何度人生を繰り返しても上手く行かなかったことが、現実世界では全て問題なくうまく行っている。
だからそれで良かったね、ということで落ち着くのだが、それと同時に不思議な気分にもなる。
もしかしたらああしてタイでブリッジSEをやっていた自分とか、浮間舟渡に住んでいる自分とか、あるいは可能性は低いけど戦争に駆り出された自分という状態もあり得たはずだ。
それぞれの人生において、それなりに自分は生活できていて、満足感があった。
子供が死んでしまった件は辛くて苦しいが、そもそも結婚をしなくて子供がいない人生だってあり得たはずだ。そうしたら世間一般の子供の死に際してわき上がる感情もだいぶ違ったものになっていただろうと思う。
別にこれらは特殊なことでは無い。戦争に駆り出される人たちは現代でも沢山居るし、独身で子供がいない人たちも沢山居る。海外で暮らしている人もいれば都市部の狭いアパートで暮らしてる人もいる。
どれもこれも考えてみれば当たり前であるが、人生は漫然と生きていくだけでも特殊化が進んでいく気がする。ある職業を長く続ければ別の仕事のことは疎くなっていく。独身で居れば既婚者の気持ちはいつまで経っても分からない。一方で既婚者も独身だった時の記憶はいつか薄れて想像できなくなる。
それぞれ違った人生で違った幸せがあるはずなのに、私は夢から覚めたときに夢で良かったと思う。もちろん、その理由の一つは子供が死んだことが中心に据えられた夢であったからだ。
ただ、別の人生を歩んでいれば今の人生では出会えなかった子供たちが沢山居たはずだ。なぜ私はその子供たちと出会えなかったことを悔やまないのだろうか。
そんなもん、知らない子供なんだから情も湧くわけないだろうも言われればそれで終わりな気もするんだけど、ああいう夢を見た後では何故か、不思議な気分になる。
このブログにも何度か書いているが、私は時々「偽の記憶」を思い出す。見たことが無い友達、見たことが無い部屋、住んだことの無い街を何かのきっかけで唐突に思い出して、とても懐かしい気分に陥る。
もしかしたら別世界の私が体験した記憶が流れこんでるのだろか?「量子宇宙干渉機」のように。そんなわけは無いのだが、やはりどうしても想像を広げてしまう。
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canty-essay · 2 years
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赤松林
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 朝のウォーキングをしている人は多いと思う。私も最近息子に勧められて、朝のウォーキングを始めた。愛犬との散歩は毎朝しているが、一人でただ歩くのは、はるか昔、実に妊娠中安産のために毎朝歩いていた以来のことだ。
 山梨に住んでいるとどこに行くのにも車なので、とにかく歩かない生活になりがちだ。そんな私の健康を気遣っての、息子からの提案だった。息子とふたり、犬を連れて散歩に出た朝、「るりちゃん、今日は気持ちいいよ、もっと歩こうよ」と誘っても、帰りたそうにしている。そうしたら息子が「るりは連れて帰るから、お母さん歩いておいでよ」と言ったのが始まりだ。
 急に解放された私は、さてどこへ行こうかと思いながら、歩き始めた。もうすっかり秋で、空気は少し冷たい。空は青く高く、雲が秋らしいうろこ雲を見せている。
 日頃から、あの交差点をどんどん行ったらどこに行くのかしらと思っていたところが近くにあったので、そちらに進む。この辺りは北に八ヶ岳があるので、横に進む道以外は全て上り坂か下り坂になっている。交差点まではずっと上りで息が弾んでくる。お尻の下の筋肉ががんばっているのを、久しぶりに感じる。
 目的の交差点から道は少し下りになり、道は大きくカーブして、私を知らない世界が広がっていた。しばらく行くと、大きな屋根の木造の家が現れた。外国にあるゲストハウスのような外観で、庭にはいく種類もの花が植っている。同じ敷地にもう1軒母屋より小さな家が建っている。手前の門柱には2枚表札が出ており、2世帯で住んでいるのかもしれない。「いいなあ。将来子どもがそばに居たらなあ」3人の子どもの顔を思い浮かべてみるが、これはどうなるかわからないことだ。
 さらに上って行くと、廃屋の手前にコスモスが咲き乱れている。この千メートルを超えた地帯は別荘が多く、山梨の地元の人はあまり住んでいない。みな寒さを避けて、もっと低い方に住んでいるからだ。地元の人の家は瓦屋根の和風の家が多いが、別荘地の家は洋風の家ばかりで、みな薪ストーブに憧れているので、屋根には煙突があり、家の外には薪のストックがずらりと積んである。しかしせっかくの別荘も、年を取って来られなくなったのか、廃屋と化しているものも多く見かける。
 曲がり角に来て、曲がるかどうか道を覗き込むと、乗馬用品と書いた店の看板が見えた。小淵沢の方にはいくつも馬場があるけれど、こんなところにもあるんだなぁと興味を惹かれて道を曲がる。乗馬用品のお店は開店時間前とはいえひっそりとしていたが、その後ろからずっと下りになっていて、長く続く赤松の林が見えたのに目を惹かれて、足を進める。赤松は背が高く、十メートルぐらいもあるだろうか。枝があまりなく、ひょろっとした幹が並んでいる。人の姿は無く、今この赤松林を見ているのは私しかいないみたいだ。赤松林の横からは舗装道路は終わり、細い砂利道が続いている。どこに通じているのかはわからないけど、とにかく歩いてみたくなった。
 ずんずん進む。赤松林もずっと続いている。はるか上の方で赤松の葉がざわざわと風に揺れている。不思議な音のシャワーを浴びているようで、なんだか頭の中からもつれた糸端が出てきて、すーっと風に乗って、糸端は引っ張られて、頭の中のもつれが解かれて行くようだった。
 赤松林と砂利道を挟んで反対側に、古いペンションだったと思われる建物が見えてきた。車が数台停まっているので、中に人はいるのだろうけれど、ペンションを営業しているようには見え��かった。そこを過ぎると、ぼろ��ろに老朽化したテニスコートが現れた。コートはぼこぼこで、もう到底テニスができる状態ではない。さらにもうひとつ、そしてもうひとつ古いテニスコートが続いていた。
 昔アンノン族というのが流行っていて、雑誌アンアンやノンノの読者層の若い女性たちが、こぞってテニスラケットを持って、清里やこの辺りの洋風なペンションに泊まりに来ては、ボールを弾ませていたことだろう。今街中でラケットを持ってテニスに行こうとしているのは中高年ばかりで、彼女たちもかつては夏にこんなところに来てテニスに興じていたのかもしれない。今若い人でテニスをしている人はほとんどいないようなのは、どうしたわけだろう。
 テニスコートが終わると今度は、ヨウシュヤマゴボウの群生地が続く。もしかしてこの辺りは元は畑だったのかもしれないが、今は耕す人も無いのだろうか。赤松林は終わり、今度は低い杉林に変わり薄暗いトンネルになり、砂利道はその中に続いている。今度は赤ずきんちゃんの心境だ。オオカミに会いやしないかドキドキする。いや本当のオオカミはいやしないが。木立の奥に小さな家が見えると、ヘンゼルとグレーテルの気持ちになる。でもその横にはダイハツの軽自動車が停まっている。現代人の誰かが住んでいる証拠だ。
 
 こわごわと進んでいたら、急にポンと舗装された明るい通りに出た。いったいこの辺りはどこだろう。ずいぶん遠くまで来た気がするけれど。方向音痴の私には見当もつかない。ポケットから携帯を取り出し、グーグルマップを開いてみると、意外や意外、ここは我が家のほぼ真横ではないか。ただし間に道がないので、Vの字型にずっと道を下って、角に来たら今度は上って行かないと帰れない。
 舗装された道は広いけれど、車はほとんど通らず、犬連れの人とすれ違っただけだ。この辺りでは、見ず知らずの人でも、すれ違う時には挨拶をする。人も犬もたいてい挨拶を返してくれる。
 ふと、そうだ、息子に言われたことを思い出す。脚はみぞおちから生えていると思って歩くんだよ、と。脚だけで歩くつもりでいると、ちょこちょこ歩きになりがちだ。みぞおちから脚を振り出すような気持ちで歩くと、歩幅も広くなるかな? そうやってしばらくは意識して歩くが、きれいな別荘、かと思えば崩れ落ちた別荘などを見ていろいろ想像しているうちに、いつもの意識しない歩き方に戻ってしまう。
 最後にやっと、近所のパン屋さんのところに出た。この道はこんなところに通じていたのねぇ。ここからうちまではずっと砂利道の上り坂が続き、10分ぐらい歩くと我が家にたどり着く。ウォーキングに出て50分ほど経ち、ずいぶん歩いたと思って携帯の万歩計を見てみると、わずか2.2キロほどだ。な~んだと思った。それでも、うっすらと汗ばみ、いい運動になった。
 翌日から、あの気持ちのいい赤松林の横を歩きたいと思い、またウォーキングに行く。赤松林まで来ると、頭からまた、するすると糸の端が出てくる。赤松の立てるギギギーという音に耳をすませていると、もうひとりの私が私に話しかけてくる。
「もう心配事はないね」
「え、そうだっけ? 」
「そうよ、じいとばあは死んじゃったじゃない。もう誰も死ぬ人もいないわ」
「そうか、もう心配しなくていいんだ」
私は両親の死に関しては、全くもって納得していて、父母は戦争中や晩年身体を悪くしてからは大変だったとは思うけど、何度も海外生活を送ったり世界中を旅をしたりの充実した人生だったと思う。それを全うしたことを見届けることができて、本当によかったと思っている。
「みもちゃん、さやちゃんは大丈夫かな」
「大丈夫よ。いい彼氏がついてるよ」
「そうだね」
ドイツにいる娘ふたりは、元気にやっている。
「うちの夫、頭おかしくないかな? 」
「何十年も結婚している人は、みんなそんなこと言ってるよ」
「そうか。普通かな、あの程度のおかしさは」
「うん」
「じゃあ、もう何も心配しなくてもいいか」
「うん」
 ふたりの自分が会話するのは久しぶりだった。昔はもっとしていたような気がするが。今はドームハウスに住んでいて、つまり家の中がひとつの空間なので、ほとんどひとりでいることがないからなのかもしれない。
 もうひとりの自分は、出てくる日も出てこない日もあるが、そんなことも楽しみにウォーキングに行く日々となった。これから冬となり、いずれ雪が降り積もる日も来るかもしれないが、そんな日にも、あの赤松林を歩いてみたい。
 
  2021年11月
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jaguarmen99 · 3 years
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52 名前:本当にあった怖い名無し[sage] 投稿日:2011/09/03(土) 20:55:49.79 ID:CUDIkzy40 [1/4]怖い話というより不思議な話我が家は東北の片田舎にある古い一軒家。ウチでは昔からクモを大事にする習慣があって、家には沢山のクモが住み着き、クモの巣だらけ。殺すなんてもっての外で、大掃除の時もクモの巣を必要以上にとったりしちゃダメって言われてた。兄貴も自分も、学校で掃除中に殺されそうになったクモを虫かごに入れてお持ち帰りする程度には大切にしてた。おかげで近所じゃ「クモ屋敷」って呼ばれてたけど、夏場にハエが発生することもなけりゃゴキも出ないという有益さも持ち合わせてたので、家族の一員みたいな感じで生活してる。たぶん軍曹もいるんじゃないかな、見たことないけど。53 名前:本当にあった怖い名無し[sage] 投稿日:2011/09/03(土) 20:56:13.58 ID:CUDIkzy40 [2/4]んで、高校の時に、同級生で授業中の居眠りがひどい奴がいたんだわ。話を聞くに、どうも毎晩、悪夢を見るんだと。夢の内容は残念ながらあんま覚えてないんだが、毎日同じ内容で、スゲー怖いとのこと。それを見るのが嫌で嫌で、結局夜に寝られなくなり、日中居眠りって形で睡眠を取るようになったらしい。高校三年の夏にそりゃマズイだろ、ってことで仲間内で何とかならないか相談した。そしたら兄貴が、留学先で買ってきた土産を持ってきて「コレ良いんじゃね?」って話に。その土産ってのが、ドリームキャッチャーっていう、悪夢を見なくするお守りみたいなインディアンの装飾品。「このクモの巣みたいな網目が、悪夢をからめとってくれるんだとよ」と兄。「クモの巣で悪夢を取れるなら、リアルクモならもっと良いんじゃね?」と自分。丁度我が家はクモ屋敷。というわけで、翌日そいつの家には虫かごに入った我が家のクモ様1匹とドリームキャッチャーが。54 名前:本当にあった怖い名無し[sage] 投稿日:2011/09/03(土) 20:56:38.87 ID:CUDIkzy40 [3/4]クモ様が新居に入ったその翌日のこと、そいつは何故か学校を休んだ。「え、まさかクモ様のせいとかじゃないよな……」と不安になって、兄貴と一緒に学校帰り、そいつの家に行ってみたんだ。何かあったらどうしようと不安で仕方なかったのに、なんとそいつは朝から夕方までずーっと惰眠をむさぼっており、単に寝坊で学校を休んだだけだった。親御さんもそいつの不眠を知ってたから、可哀想に思って起こさなかったらしい。「なんか良くわからんけど悪夢は見なかった、クモ様まじスゲぇ!」とそいつは興奮気味。「ほれみろクモ屋敷だの何だのバカにしやがって!クモ様の本気まじパネェ!超クール!」輪をかけて興奮気味の我ら兄弟。それじゃクモ様のご尊顔を拝見させていただきましょ、と虫かごをオープンした途端、そいつの手が止まった。「あれ…お前らからもらったとき、こいつこんなにデカかったっけ……?」自分らが渡したクモは、指の爪くらいのサイズ。でも、虫かごに入っていたのは明らかにデカイ。ジョロウグモとまではいかないけど、渡したクモより2倍以上はデカかった。「もしかして、悪い夢くってくれたんかなぁ」そうしみじみと言ったそいつは、それからクモ様が死んでしまうまでメチャクチャ大切に飼ってた。最後には虫かごが熱帯魚用のデカイ水槽にグレードアップしてて、冷暖房完備の部屋で餌も十分にもらうクモ様は実に幸せそうだった。今はもうそのクモ様は死んじゃったけど、未だにそいつから「クモを譲ってほしい」って電話が定期的に来る。
続・妄想的日常
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