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#北海道ウィン
ari0921 · 4 years
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櫻井よしこさんの論考をシェアさせていただきます。
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 日本の好機、米国の対中全面対決姿勢
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「ヒマラヤ山系からベトナムの排他的水域、尖閣諸島とその先まで、北京は領土領海紛争を煽動している。世界は中国の弱い者苛めを受け入れない、その継続も許さない」
7月8日、ポンペオ米国務長官の発言は、世界の屋根から南の海まで、ユーラシア大陸をグルリと囲む全域で、米国は中国の専横を許さないという宣言だった。
米国は長年領土領海紛争で中立の立場を貫いてきた。尖閣諸島が明らかに日本領であることを承知していながら─日本占領の約7年間、米軍は尖閣で軍事訓練を行っていた─米政府は尖閣諸島の施政権を日中どちらが有しているかに注目するばかりで、決して同諸島が日本領だとは言明しなかった。
しかしいま、年来の方針を大転回させたのだ。茂木敏充外相が即、歓迎を表明したのは当然だ。米国の方針大転回の新局面で、日本も世界も新たな対応を急ぐときだ。
ポンペオ氏はその後、13日、15日にも続けて中国への全面的対決姿勢を明らかにした。それを一言で氏はこう語っている。
「大事な事は、米中関係が変わったということだ。中国の指導層もそのことを理解している」(15日)
氏は米国民が中国リスクに晒されるのはもはや受け入れられない、余りにも長い間、適正な見返りのない、不公正な中国の行動を米国は許容してきた。
今、全てを反転させるときだとし、「実務において多くの仕事はこれからだ。トランプ政権の2年半は年来の米中関係反転の政策を積み重ねてきた年月だった」と語った。
米国政府の巻き返しには多くの行動が必要だとの認識だが、それはすでに私たちの眼前で展開されている。7月1日から中国は空母遼寧を中心に軍艦数隻を投入して大規模な軍事演習を南シナ海、東シナ海、黄海の3海域で行った。
米国も中国の演習と重なるように、7月4日から空母2隻及び攻撃艦を揃えて大規模演習を実行した。中国の軍事行動を見逃したり、勝手な振舞いを許したりはしないとの意思表示だ。米国の本気度を示している。
「最終判決」
米国の決意の尋常ならざることを私たちはポンペオ氏の発言が7月8、13、15日と続いたこと、他の閣僚たちも同様の発言を続けていることからも読み取っておくべきだろう。
6月24日にはロバート・オブライエン国家安全保障担当大統領補佐官、7月7日にはクリストファー・レイFBI(米連邦捜査局)長官、16日にはウィリアム・バー司法長官らが続けざまに同様の発信をした。
中国に対する強い異議は、中国問題が国際社会全体に広がることへの警戒でもある。香港やウイグル問題に、中国の主張するように国内問題であるから介入しないという姿勢で対処したら、西側諸国も中国の悪しき体質に変えられてしまいかねない。そのことを、ポンペオ氏らは十分に識っているのだ。
たとえば南シナ海問題だ。中国は「長い歴史」を持ち出して2000年前から同海は中国の海だったという。
ポンペオ氏は2016年7月12日の国際常設仲裁裁判所の判決こそ国際法に則った「法的拘束力」のある「最終判決」だと明言した。
中国の主張する「九段線」にも一貫した法的根拠はないと強調した。中国は「国際法を『力が正義』という定理に置き換える」と喝破し、それらは「完全なる違法行為」だと非難した。その上で南シナ海の島々の固有名詞をあげて次のように主張した。
スカボロー礁、スプラトリー諸島、ミスチーフ礁、第二トーマス礁は全てフィリピンの主権に属す。パラセル諸島のヴァンガード堆はベトナム領、ルコニア礁はマレーシア領、ナツナ諸島はインドネシア領、ブルネイも排他的経済水域を有する。
ジェームズ礁は中国が領土だと主張するが、満潮時には20メートルも水面下になる。中国の領土でも島でもあり得ないと述べ、米国は東南アジアの同盟国、パートナーと共に、国際法に基づいて彼らの領海及び海洋資源を守る側に立つ、と述べた。
目のさめるような力強い発言だ。なんという変化か。ポンペオ発言の重要性、日本に及ぼす限りない前向きの影響を、わが国は見逃してはならない。最大の好機ととらえ、対応してわが国の守りを強固にせよ。
バー司法長官の中国認識の厳しさもよく知っておこう。
「中国はウィン・ウィンの関係を築こうと言う。(当初我々は言葉どおり、互恵の精神だと受けとめていたが)それは中国が二度勝つという意味だと判明した」
実に的を射ているではないか。なぜ、中国は「二度」勝つのか。中国式手法を米国にも広げて、米国をも「接収」してしまうからだ。
ハリウッドの接収
バー氏は「中国に叩頭する」企業のひとつとしてハリウッドの映画会社を挙げた。ハリウッドは当初中国資本を受け入れ、現在は技術部門をはじめおよそ全分野で中国人を受け入れている。中国人は米国が世界に誇る映画産業のノウハウの全てを吸収し、中国国内で活用中だ。
中国の目標はハリウッドとの協力関係強化ではなく、ハリウッドの接収だとバー氏は断ずる。人間のあらゆる自由を尊び、権力への果敢な批判を売り物にしてきたハリウッドの中国支配への恭順振りこそ、卑屈だと氏は言っているのだ。
この間にボリス・ジョンソン英首相は27年までに全てのファーウェイ製品を5G通信網から排除すると決定した。
中国側は強い不満を表明し、駐英中国大使の劉暁明氏が7月18日、「タイムズ」紙の取材に応じた。中国は平和の国だ、全ての国に友好的だと一連の嘘をいつものように披瀝し、英国は25年までに5G通信網を全国に広げる計画だが、英国の力では難しい、だから中国は助力したいと申し出た。
その一方で英国がファーウェイ除外を決定したからには、中国の対英投資はもはやあり得ない、状況は変わったと述べた。中国の投資なしでやっていけるのかと、足下を見透かした発言である。
事実、19日には早速中国の動画投稿アプリ「TikTok」を手掛けるバイトダンスが、ロンドンへの拠点設置計画を棚上げした。
日本はいま、自らの立ち位置を明確に認識して戦略的に動くときだ。英国政府は日本に5G通信網づくりで協力を求めている。
ファーウェイに代わる調達先としてNECや富士通の名前が上がった。日本企業は周回遅れだが、ポンペオ氏はNTTを5G関係の技術を有する世界の企業の中でもクリーンな企業の内のひとつだと評価した。
わが国が直面する中国の脅威は5Gだけでも尖閣諸島だけでもない。南鳥島にも中国は迫っている。米国の側に立ち、行動を伴う協力を進めるときだ。それが日本の国益を守る正しい道であろう。
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leenaevilin · 4 years
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[Announcement]ドラマ「FAKE MOTION -たったひとつの願い-」(drama fake motion -tatta hitotsu no negai-)
season 2 is finally scheduled \(^^)/
the drama will start airing January 21st, 2021 @ 日本テレビ (0:59 ~ 01:29)
Cast:
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エビ高連合軍
板垣瑞生 as(土方歳鬼) 草川直弥 as(明智十兵衛) 田中洸希 as(井上紋太) 吉澤要人 as(伊藤俊介) ジャン海渡 as(市村哲) 池田彪馬 as(木曽義雄) 森崎ウィン as(近藤勇美) 佐野勇斗 as(高杉律) 古川毅 as(桂光太郎)
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天下布武学園 Aramaki Yoshihiko as Oda Sakunosuke (織田佐之助) Hirose Tomoki as Imagawa Yoshitomi (今川義富) Sadamoto Fuuma as Shiba Shinichi (斯波真一) 宮世琉弥 as(三木蘭丸) 大倉空人 as(仙道利休) Morita Touya as Takigawa Masaru (滝川勝) Yamagata Yuuki as Niwa Hideki (丹羽秀樹)
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薩川大学付属渋谷高校
草川拓弥 as(西郷吉之助) 小笠原海 as(島津晃) 村田祐基 as(中村ジローラモ) 船津稜雅 as(小松武明) 松尾太陽 as(海江田翔)
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謙信ソルト電子工学院
Someya Toshiyuki as Uesugi Tenma (上杉天真) Tamura Shougo as Houjou Tadanori (北条忠則) Seki Tetta as Yamaura Takayuki (山浦孝之) Yamashita Eiku as Naoe Tomohiro (直江智弘) Kamimura Kenshin as Kakizaki Jin (柿崎仁) Takao Hayato as Usami Reiichi (宇佐美礼一) Sawamura Rei as Amakasu Shintarou (甘粕信太郎)
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信玄明王高校
Tamaki Yuuki as Takeda Fudou (武田不動) Shimura Reo as Sanada Sora (真田空) Mokudai Kazuto as Sanada Kai (真田海)
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tutupooh · 5 years
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xf-2 · 6 years
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安倍晋三首相の訪中に先立つ4日前に、筆者は「透ける本音:なぜ中国は安倍首相訪中を促したか 中露の焦りは日本の主張を通すチャンス、明確に言うことが大切」(http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/54423)を掲載した。
 掲載時の「記事ランキング」で上位を維持し続けたのは、中国の反日や覇権志向に安倍首相がいかに対処するか関心が高かったからであろう。
 総じて、戦後の日本は媚中外交を展開し、ODA(政府開発援助)に見たように徹底的に利用され、今日の軍事強国に心ならずも貢献してきた。
 いままた、一帯一路で新植民地主義に走りつつある習近平政権である。その路線にストップをかけ、共生する国際社会に転換させる役割を、地球儀外交で世界を俯瞰してきた安倍政権に国民が期待した面もあろう。
 産経新聞は「『覇権』阻む意思が見えぬ 誤ったメッセージを与えた」と厳しい総括をしたが、他の全国紙は「安定した関係構築の第一歩に(読売新聞)」「新たな関係への一歩に(朝日新聞)」など、関係改善への期待を示した。
 媚中外交の是正なるか否か。筆者も注文を出した手前、成果を総括する義務があろう。
■ 3原則に対する認識問題
 安倍首相が中国の首脳との間で確認したとする「競争から協調へ」「隣国同士として互いに脅威にならない」「自由で公正な貿易体制を発展させる」について、双方に認識の違いがあるのではないかという問題が浮上している。
 首相は李克強首相および習近平国家主席との会談でこの文言に触れ、「日中関係を発展させていきたい」(対李首相)、「日中の新たな時代を切り開いていきたい」(対習主席)と発言したのに対し、中国側は「首相の表明を歓迎する」と表明したが「3原則」の文言を使わなかったとされる。
 官邸のフェイスブックやテレビ・インタビューで安倍首相は(李首相や習主席と3原則を)「確認した」としているが、取材が許された首脳会談の冒頭発言や共同記者会見では「競争から協調へ」などのフレーズを使って原則に言及するが、「3原則」という用語は使わなかったようだ。
 中国外務省も今回の会談で、習氏は「共同でグローバルな挑戦に対処し、多国間主義を維持し、自由貿易を堅持しよう」と発言し、また「『互いに協力のパートナーであり、互いの脅威とならない』という政治的合意を貫徹しなければならない」とも述べたと発表しただけである。
 最初に報道したのは、10月28日付「読売新聞」朝刊である。「日中『3原則』食い違い」「首脳会談 首相『確認』、中国は触れず」と、ゴシック体の2行見出しをつけ、リードでは「安倍首相が中国の習近平国家主席と『確認した』とする『3つの原則』を巡り、日中で微妙な食い違いが生じている」と書いた。
 2日後の「朝日新聞」(30日朝刊)も、「日中3原則 食い違い?」「首相『確認』、中国明言せず」と報道するが、読売新聞のゴシック見出しが明朝体になっただけでほとんど同じだ。
 西村康稔官房副長官や外務省幹部は、一連の会談で首相が呼びかけたが、「3原則」や「3つの原則」という言い方はしていないという。
 ただ、会談に同席した日本政府関係者は「会談で中国側からも反論はないし、一致している」と強調し、外務省幹部は「首相が言った3つは事前に中国側とすり合わせている」とも語る。
 菅義偉官房長官は29日の記者会見で、「中国側の説明に『3原則』の文言がない」との指摘について、「これらの原則の重要性は会談で中国側と完全に一致しており、日中で食い違いが生じているという指摘は当たらない」と否定した(「産経新聞」10月30日)。
■ 原則を守らない中国・守る日本
 中国は原則が好きだ。しかし、その原則を簡単に破り平然としているのも中国である。
 周恩来元首相とインドのジャワハルラール・ネール初代首相は1954年に会談し、国際関係を律する一般原則として「平和5原則」を打ち出した。それは、領土・主権の相互尊重、相互不可侵、相互内政不干渉、平等互恵、平和共存である。
 翌1955年のバンドン会議(アジア・アフリカ〈AA〉会議)では平和5原則を踏まえ、基本的人権尊重、自国防衛権尊重(国連憲章の趣旨尊重)、紛争の平和的解決、相互利益と協力促進、正義と国際義務尊重などを加えた「平和十原則」を打ち立てた。
 1978年締結の日中平和友好条約では「主権及び領土保全の相互尊重、相互不可侵、内政に対する相互不干渉、平等及び互恵並びに平和共存の諸原則」を認めた上で、「平和友好関係を発展させる」(第1条1項)、「紛争を平和的手段で解決する」(同条2項)と謳った。
 第2条では「覇権を求めない」し、「覇権を確立しようとするいかなる国にも反対する」という文言がある。
 当時の中国はソ連が覇権国となることだけは阻止しなければならないと必死であった。
 日本に覇権条項の文言化を強く求め、日中共同声明発表から6年弱も費やしてようやく条約締結に至った。その中国が今は覇権を求めているとみられ、日米を含めた世界の脅威になっている。
 第3条では、善隣友好の精神を説き、さらに平等・互恵・内政不干渉の原則を認めたうえで「経済・文化関係の発展と国民の交流促進」を謳った。
 日本はいつも原則や条約などでの約束事を守る努力をするが、中国側は靖国問題や尖閣諸島、東シナ海ガス田問題などでしばしば約束違反の行動をとってきた。
 WTO(世界貿易機関)加入後も中国は違反を繰り返して経済発展と軍事力の近代化を図り、反省するどころか、「太平洋は米中両国を受け入れるに十分である」などの発言で覇権志向をむき出しにし、一帯一路構想で具現化を図ろうとしている。
 こうした覇権的言動や自由、民主主義、人権、法の支配といった普遍的価値観の無視は、17世紀から続くウェストファリア体制に基づく国際秩序の転換を目指しているとしか思えない。
■ 3原則は合意のもの
 2006年10月の初外遊で中国を訪問した安倍首相は、胡錦濤・前国家主席との首脳会談で「戦略的互恵関係」を打ち出す。
 「両国はアジアと世界に対して厳粛な責任を負う認識の下、国際社会に貢献する中で共通利益を拡大し、日中関係を発展させる」というものであった。
 福田康夫政権は「『戦略的互恵関係』の包括的推進に関する日中共同声明」を発表し、「政治的信頼の増進」「人的・文化的交流促進と友好感情の増進」「互恵協力の強化」「アジア太平洋並びにグローバルな課題への貢献」として、この概念を具体化した。
 「共に努力して、東シナ海を平和・協力・友好の海とする」と謳ったのも、この共同声明においてである。北京オリンピックを3か月後に控えた中国の日本懐柔策でもあったようだ。
 安倍首相は第2次安倍政権でも「戦略的互恵関係」を日中関係の基礎と度々強調しており、中国の掲げる一帯一路をテーマとした国際協力サミットフォーラムでも戦略的互恵関係に触れてきた。
 中国の対日姿勢が軟化し始めた日中国交正常化45周年記念行事(2017年9月)頃から、首相は対中関係改善に意欲を示すようになる。
 同年11月には習近平国家主席および李克強首相と第三国での国際会議で立て続けに会談し、戦略的互恵関係に基づいて経済協力や朝鮮半島問題での連携で一致したと語っている。
首相は「大国である中国と、それを追う日本が協力し、時に競争することも必要」と述べており、財界も「戦略的互恵関係に民間の立場から貢献する」と表明したことから、日本政府は軍事利用されかねない港湾開発を対象外に指定しつつ一帯一路に関する日中民間経済協力指針を策定する。
 こうした最中の今年5月9日、李克強首相が来日した。首脳会談で一帯一路に関する第三国でのインフラ整備協力を具体化させる官民協議体の設置で合意し、10月の安倍首相の公式訪中で第三国でのインフラ共同投資など官民で52件の協力文書を交わした。
 こうした経緯を経て、安倍首相は日中新時代の3原則を打ち出したもので、中国は「3原則」という用語を使用していないが、十分な合意があったとみていいであろう。
■ 安倍訪中は媚中外交に終わったか
 11月1日付「産経新聞」オピニオン欄掲載の「China Watch」で、「日中首脳会談で得した中国」と評したのは石平氏で、安倍訪中は媚中外交に終わったとの見立てのようだ。
 中国側が得したものとして、通貨スワップ協定、第3国での経済協力、中国経済の延命、さらには尖閣諸島への中国の挑発を議論に乗せなかったことを挙げている。
 金融危機発生の可能性は中国側が高いので、通貨スワップ協定は中国側を助けることになる。
 一帯一路はEUやアジア諸国からも反発されているが、首相は「潜在力のある構想」と評価し、第3国での経済協力という形での関与は中国にとって干天の慈雨であるという。
 米国との貿易戦争で経済の減速が顕著となり、企業や国民の間には沈滞ムードが広がっていた。そこに安倍首相が「協調」を語ったことは国民の失望感を払拭し、中国経済を延命させるカンフル剤になるという。
 また、安倍訪中の直前に連日、中国公船が尖閣諸島周辺の接続水域に侵入したが、挑発行為の防止策は議題にすらならなかった。こうしたことから、経済の減速で深刻な打撃を受けつつあった習政権は再浮上の自信を深めたという。
 他方で、日本側の外交上の成果と見えるものは日本産食品の輸入規制緩和を求めたこと、拉致問題解決への協力の意思表明を引き出したことであるが、石平氏は「単なるリップサービス」の可能性があるとみる。
 中国を利する行動は新植民地政策に加担する日本とみられ、また対中冷戦状態にある米国にとっては中国接近が裏切りにみえ、同盟に亀裂を生じさせかねない。
 以上から、「日本側にとって成果は殆んどないが、大きなリスクを背負うことになった」と総括している。
 他方、櫻井よしこ氏は、日本が中国に注文をつけた今回の会談を、「安倍首相は日本優位へと逆転したこの状況を巧く活用した」と評価した。
 また、尖閣やガス田などの主権問題、慰安婦をはじめとする名誉にかかわる歴史問題、ウィグル人への弾圧や日本人の拘束などの人権問題などは何一つ解決していないが、「人権状況について日本を含む国際社会が注視している」と注文をつけたことは従来なかったことで、「日本外交の重要な転換点となるだろう」とみる。
 懸念事項として「第三国への民間経済協力」と名を変えての一帯一路への協力を挙げる。また、大規模通貨スワップ協定についても、「中国と必要な関係は維持しつつも、彼らに塩を送り過ぎないことだ」と注意喚起する。
 それは「(彼らは)自力をつければ、助けてくれた国に対しても牙をむく」からで、「彼らの笑顔は薄い表面の皮一枚のものと心得て、日本は戦略を読み違えてはならない」と警告する。
 宮家邦彦氏も「産経を除く主要各紙の前向きの評価は表面上の成果に目を奪われた」結果だと述べる。そして、元外交官らしく、共同声明などの発表がなかったのは双方が「合意内容に満足していない」暗示で、いつでも蒸し返す可能性があると指摘する。
 すなわち、「尖閣や歴史問題での戦略的対日譲歩はあり得ない」から、「現在の対日秋波は日本からの対中投資を維持しつつ日米同盟関係に楔を打つための戦術でしかない」と言い切る。
 戦術的な秋波でしかないが、「(強国路線に手を貸さずに)経済分野で可能な限り譲歩を引き出すこと」は日本に可能だと述べる。
 筆者は「3原則」を中国も確認したという前提で、原則から外れる状況では経済協力を唯々諾々と進める必要はないと思考する。
 中国は自己都合で約束事を朝令暮改し、稼いだ金を持ち出せないように平気でやる国である。どっぷり浸からず、いつでも引き返せるように命綱をつけておく必要があろう。
 なお、中国政府が共産党・政府系メディアに対し、日本のODAが中国の経済発展に貢献したことを積極的に報じるよう指導したという。
 安倍訪中の期間だけの報道なのか、それとも主要なインフラ施設で銘板表示などして恒常的に国民に知らせるのかは中国の本気度を見る指標として注視に値すると思料する。
■ 首相訪中のための対米対策
 なお、本節と次節は安倍首相の人となりから筆者が読み解くものである。
 「アメリカ・ファースト」「メイク アメリカ グレイト アゲイン」を声高に叫ぶドナルド・トランプ米大統領は、「ドナルド・シンゾ―」の友情などかなぐり捨てて、いつ日本に襲いかからないとも限らない。国際政治や覇権を目指す国家の非情でもある。
 米初代大統領のジョージ・ワシントンは「外国の純粋な行為を期待するほどの愚はない」と言ったし、フランスのシャルル・ドゴール将軍は「同盟などというものは、双方の利害が対立すれば一夜で消える」と述べ、独自の核戦力を整備した。
 安倍首相は首脳会談10日前に、谷内正太郎国家安全保障局長を派遣してジョン・ボルトン米大統領国家安全保障担当補佐官に訪中の意図を説明させている。
 それによって、日本の政府関係者は「対中接近ではないという点を米政府は十分理解している」と語っている。
 また、ちょうど1か月前(9月26日)の日米首脳会談で、「第三国でのインフラ整備」に関する協力については「トランプ氏と同様の協力を進める方針を確認していた」と、10月27日付読売新聞朝刊は報じた。
 こうした日米の意思疎通を図りながらも、安倍首相には「独立国家・日本」の立ち位置を改善する意志があるように思える。一帯一路に協力するような素振りは、そうした梃子の一つとして利用したとは言えまいか。
 覇権志向や歴史問題などはあるが、隣国である地勢はいかんともしがたく、上手くつき合っていくしかない。
 また、朝鮮半島問題、中でも北朝鮮の核や弾道ミサイル対処と拉致被害者の帰国では、北朝鮮に影響力を有するとされる中国の力にも期待するよりほかにない。
 加えて、日本が独立国家であるからには、対米自主性が必要である。在沖縄米軍が事故を起こしても、日米安保に基づく地位協定によって、日本政府のコントロールが効かない。
 横田基地に通じる航空機管制も同様であり、静内(北海道)では米空軍機の超低空飛行で、競走馬の被害がしばしば起きた。
 TPP(環太平洋パートナーシップ協定)でも日本は米国に翻弄され、今では日本に2国間協議を強要しかねない状況である。
 米国という国家に品格がないと言えばそれまでだが、国家の力関係、中でも日本の安全は日米同盟によって保障されており、特に核兵器において然りであり、致し方ない面がある。
 しかし、ドイツやイタリアは自国の主権を保持した地位協定を結んでおり、米軍が勝手に訓練などができる環境にはない。
 独伊同様の地位協定への突破口を開くためにも、米国に対し日本の地勢を戦略的に高く評価させると同時に、ある程度の焦りを持たせる戦術も必要となる。
 大袈裟に言えば、米国を一瞬慌てさせるような日本の対中姿勢は、日本が独立国である意思の対米示唆であり、米国に「そうだ、日本は独立国家だ」という意識をもたせる側面効果もあるであろう。
 郵政民営化は日本の主導性で進められたのではなく、米国が改革リストで示したものであった。この一事からも、米国は日本を従属国のように見る傾向がある。
ズビグネフ・ブレジンスキーがずばり、「ひ弱な花・日本」と表現した通りで、米国には「保護国」としか見えていないのだ。
■ 日中・日米関係史からの読み
 有史以来の日中関係を概観すると、朝貢外交をはじめとして、日本が中国(経由地としての朝鮮半島を含む)と関わりをもった時、日本は大陸や半島の混乱に巻き込まれている。逆に、関係をもたないときは平安が続いた。
 平家の天下は清盛の南宋貿易から一代の栄華で終わり、天下人の豊臣秀吉も半島出兵で一代政権に終わった。他方で、関東武士の流れを汲む源頼朝、足利尊氏、徳川家康は幕府を開き150年から270年の長期政権を維持した。
 江戸の太平を破ったのはペリーの来航であり、明治維新を経て再び半島・大陸に関わり日清・日露戦争、そして大東亜戦争へと繋がり、かつて経験したことのなかった敗戦で米国による占領政策を強いられた。
 戦後の約30年間は大陸と途絶し、日本は著しい復興を遂げた。しかし、1972年の日中国交正常化以降は中国への媚中外交に翻弄され、7兆円に上るODAや資源ローンを中華人民共和国につぎ込む。
 結果は期待に反するどころか、自由・人権や法の支配といった普遍的価値観を否定し、強大化した軍事力を背景に独自の社会主義世界を目指し、日本を敵視する今日の中国を出現させることにつながった。
 以上に見るように、対中接近・関与は歴史が示すとおりあまり良いことはなく、適当な距離が必要である。それでも、つき合わないわけにはいかない。
 第1次政権の安倍首相は、真っ先に中国を訪問して「戦略的互恵関係」を打ち出す。しかし、その後の日中関係は、戦後最悪とまで言われるようになっていく。
 政権に返り咲いた安倍首相は、中国の頑なな反日姿勢に動ずることなく、この原則を曲げることはなかった。
そうした中で、米国の高関税や新植民地主義と批判され始めた一帯一路の突破口を開くべく中国が日本に近づいてきた。そこに実現した今回の相互訪問による首脳会談である。
 安倍首相にとってはまたとない機会であった。
日本の基軸にある対米同盟関係を熟慮したうえで、許容できる範囲内で冷え込んだ日中関係を発展させる構想は不思議ではない。それが3原則に基づく「新しい日中関係」であるに違いない。
 中国を助ける思わせぶりで米国からも譲歩を引き出す。しかし、断じて中国の軍事強国化には与しない。そして日米、日中を共にウィン・ウィンの関係にもっていく。
 こうした高等戦術が今次の安倍訪中の深層にあったと思えてならない。
■ おわりに
安倍首相は中国首脳と会談して帰国した翌日、インドのモディ首相を山荘に迎え、中国首脳の安倍歓迎とは一味も二味も異なる振る舞いを見せた。
 そして翌日の首脳会談では、「自由で開かれたインド・太平洋」に向け価値観を共有することを確認した。日中協力を約した日本ではあるが、覇権志向で一方的に中国が突き進めば、日本は3原則を盾に非協力に出ることができる。前のめりの企業もあるだろうが、日中友好下でも共産党首脳部の考え一つでナショナリズム一辺倒に傾き、日本企業にも莫大な損害を与える「中国」であることを一時も忘れてはならない。
筆者の好きな言葉は「和して同ぜず」である。「日中関係は『友好ごっこ』である」と語ったのは古森義久氏である。今回の会談を筆者も冷めた目で見てきた。首相が確認したという3原則も、中国は一切触れていない。歴史認識では「過去を直視し」と、今回も語っている。尖閣周辺の動きも変わっていない。
日本の支援をどこまで進めるか、3原則に照らしながら進める必要がある。反するようであれば、手を引く、その決断を適切に行う必要がある。決して中国の覇権に手を貸すことがあってはならない。
油断すれば、ジョージ・オーウェルの『1984年』が中国に出現し、日本と世界に想像もできない災難をもたらすからである。
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carguytimes · 7 years
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車中泊旅で最大の難関かも知れない停泊場所さがし:キャンピングカー生活の日常・その7【車中泊女子の全国縦断記】
年間を通してキャンピングカーに住んで放浪の旅をしていると言っても、走行距離は1年で1万キロくらい。Rocky21は燃費がよくないので走れば走るだけ出費がかさみますから、移動してばかりもいられません。 しかし滞在するとなるとしかるべき施設を利用することになり、それはそれでお金がかかります。今回は、その停泊場所をどう探し、どう選んでいるかについてです。 キャンピングカーが普及しはじめた十数年前から車中泊関連のウェブサイトが増えていますが、停泊場所は話題の的となっています。 宿泊費を安く抑えられるのがキャンピングカーの利点のひとつでもありますが、毎日キャンプ場を利用すれば経済的負担は大きくなります。かと言ってタダで停泊したいとなると、場所探しが困難。 北海道には無料のキャンプ場もありますが本州以南ではあまり見かけませんし、しかも無料キャンプ場は整備が行き届いておらず「肝試しスポット」と見まごう荒れようを呈しているところもあるので、事前の下調べは必須です。キャンパーの聖地となっている人気の無料キャンプ場をネットなどでピックアップしておくと便利でしょう。 高規格キャンプ場にはダンプステーション(汚水処理設備)を備えているところもあり、そのために利用することもあります。もちろんゴミ処理もできるし入浴施設・シャワー、コインランドリーもあるし、お洗濯物を堂々と天日干しできるのも魅力です。 ただし、そうそう頻繁に利用できる料金ではありません。筆者は〝お一人様〟ですからなおさらです。仲間と一緒であれば別ですが、一人でキャンプ場を利用するメリットは上記くらいのもので、外で調理もしないし食事も車内で済ませます。 前回もご紹介した【くるま旅クラブ】では、車中泊旅ファンには馴染み深い『RVパーク』『湯YOUパーク』に続いて、レストランなどお食事処の駐車場で車中泊できる『ぐるめパーク』、駅などの鉄道施設で車中泊ができる『とれいんパーク』、さらには民泊ならぬ『民パーク』などを提唱、提携施設も続々と増えています。 施設により利用料が異なり、またトイレ・ペット・電源・ゴミなどの対応も様々なので、あらかじめ把握しておく必要があります。詳しくは【くるま旅クラブ】公式サイトをご覧ください(リンクはこの記事の最後に掲載しています)。 上記提携施設ではなくても、個人的にお店と交渉してお食事処や入浴施設、コンビニなどでP泊させていただいたこともあります。もちろん、そのお店で入浴なりお買い物をすることが大前提です。 山陰地方に多い【ゆとりパーク】や東北地方に多い【ポケットパーク】などをはじめ、ダムや公園、海水浴場、大きな橋梁など、トイレがある駐車場は数多あります。ただ、治安の面で決してお勧めはできません。 また、近所の方などに「ここで停泊したいのですが」とお話すると「ここは危ないから、あそこがいいよ」などと教えてくれたりしますので、地域の方とコミュニケーションをとってみるのも大事です。いきなり「出て行け!」と怒られることは、まずありません。 逆にコッソリ停泊すると、見知らぬよそ者はすぐ分かりますから警察に通報されかねません。普通乗用車で車中泊をしていて職務質問を受けたという話はよく聞きます。やはり「ご挨拶」は大切ですね。 車中泊でネット検索するともっとも多くヒットするのが【道の駅】でしょう。しかし国土交通省管轄の公的施設である道の駅は、あくまでもドライバーが「休憩・仮眠」するための施設であり、車中泊を容認しているわけではありません。そして深刻なのがマナー問題です。 駐車場でテーブル・椅子などを出す、オーニングを広げる、テントを張る、寒い/暑いからと夜中でもエンジンまたは発電機を作動する、ゴミを放置する、ペットのフンを拾わない、などなどマナーの悪い方を実際によく目にします。 これはキャンピングカーに限らず車中泊全般、またバイク・自転車・徒歩旅も同様です。電話ボックスや身障者用トイレに寝袋で寝ている旅人も見たことがあります。よく「営業終了してから開店までだったら迷惑にならない」という意見を聞きますが、決めるのは施設の責任者・所有者ですので、最低限ひとこと断りを入れるのがマナーではないかなと思います。 【長時間の駐車/車中泊・テント泊お断り】の看板を掲げている道の駅もありますが、逆に早朝から開店しモーニングを提供するところも徐々に増えてきました。双方が相手を思いやり、歩み寄ってお互いにウィン・ウィンの関係になれればと願います。 次回はキャンピングカーの「水道」、給水と排水について解説します。 (松本しう周己) 【関連記事】 くるま旅クラブ公式サイト http://www.kurumatabi.com 我が家=キャンピングカーについて:キャンピングカー生活の日常・その1【車中泊女子の全国縦断記】 https://clicccar.com/2018/01/29/554687/ キャンピングカーの維持費はどれくらい?:キャンピングカー生活の日常・その2【車中泊女子の全国縦断記】 https://clicccar.com/2018/02/02/555492/ キャンピングカーの光熱費ってどんなもの?:キャンピングカー生活の日常・その3【車中泊女子の全国縦断記】 https://clicccar.com/2018/02/03/555863/ インターネット環境と通信費:キャンピングカー生活の日常・その4【車中泊女子の全国縦断記】 https://clicccar.com/2018/02/04/556355/ 1年分の衣類や寝具の収納・洗濯はどうしてる?:キャンピングカー生活の日常・その5【車中泊女子の全国縦断記】 https://clicccar.com/2018/02/06/556800/ 車中泊旅の入浴場所さがし:キャンピングカー生活の日常・その6【車中泊女子の全国縦断記】 https://clicccar.com/2018/02/08/557164/ あわせて読みたい * 【JAPANキャンピングカーショー2018】ホワイトハウスが新型N-BOXをベースとした「N BOX Camper Neo」を初公開 * 【JAPANキャンピングカーショー2018】日産NV200バネット「マルチベッドワゴン」を初披露 * 【JAPANキャンピングカーショー2018】「NV350キャラバン リチウムイオンバッテリー搭載グランピングカー」が1000万円級で登場!? * 車中泊旅の入浴場所さがし:キャンピングカー生活の日常・その6【車中泊女子の全国縦断記】 * 「豪華さ」と「ゆとり」。コースターベースの2台のバスコンモデル【JAPANキャンピングカーショー2018】 http://dlvr.it/QFt21L
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karasuya-hompo · 6 years
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Skyrim:ガイコツさんの冒険18
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 イヴァルステッドへの道は、先日のサマーハウス探しで見つけていた。  地図で見ると、ヘルゲンを通ってリフテンに向かったあの街道の、途中で北上すれば良さそうだったし、そのとおり辿り着けたのだ。  迷う気遣いがないためか、私は少し寝過ごして、起きたのは朝6時少し前だった。空にはまだ月が残り、空模様もあまりよろしくない。出かけるのにいい天気とは言えないが、スカイリムでそれを言うのは贅沢だ。私は手早く朝食を済ませると、中洲にかかった新しい橋を南に渡り、さっそくヘルゲンに向かった。
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 ヘルゲンを通って山道にさしかかった頃には、雪になっていた。  麓のあたりで、レッドガードの男が2人、女性に絡んでいるのを見かけた。強い調子で詰問しているので、助けが必要だろうかと少し近づいてみたが、同じくレッドガードの女性は少しもひるまず男たちに言い返しており、私の手助けなど不要に見えた。  実際、助けてほしいなどとは言われもしなかったし、男たちも人違いだと認めた様子だったので、私はそのまま先を急ぐことにした。
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 イヴァルステッドに着いたのは、9時前だった。  一般的な社会生活を送る人たちはそれぞれの仕事にとりかかる時刻だ。あれこれと尋ねて回るのは迷惑かもしれないが、朝方や夜に訪問するよりは良かろう。
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 まずは宿屋で情報収集しようと、一週間ばかり滞在してすっかり馴染んだヴァイルマイヤーに立ち寄った。  時刻が時刻なので村人たちの姿は少なく、旅の巡礼者や商人が数名と、シフトの都合で休憩時間になるらしい民警員たちがいるくらいだ。
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 私は主のウィルヘルムに声をかけ、軽食を頼むとともに、ハイフロスガーについて知っていることがあれば教えてほしいと頼んだ。  宿の主である彼にとっては、時折やってくる巡礼者が貴重な客であることがなによりで、それ以上のことは知らなかった。そういった巡礼者たちは、グレイビアードに会うことはかなわずがっかりした様子で下山してくるという。また、グレイビアードたちが山を下りて姿を見せることもなく、下界からは完全に孤立した場所だという。  ウィルヘルムの関心は、ハイフロスガーよりも村の脇にある墓地にあるようだった。  先日もちらりと聞いたのだが、隠匿の炉床地と呼ばれるそこに、幽霊が出るという。そのせいでますます客足が遠のき、宿屋としては死活問題らしい。  私は、ドラゴンと戦おう、その謎を解こうとするのであればもっと強くならねばならないと考えていたから、こういった調査は望むところだった。  ウィルヘルムという男はお人好しで、客が減って困っているにも関わらず、行かないほうがいいと私を引き止めた。彼自身がその目で幽霊を見て恐れていたのもあるし、以前墓地に向かったウィン……なんとかという男が戻ってこないのもその理由だった。  無理はしない程度に見に行ってみると約束し、私はカウンターを離れた。  ついでに、吟遊詩人であり給仕でもある若い女性・リンリーにも話を聞いた。彼女にとってハイフロスガーは、どういった理由でか、一種の憧れの場所のようだ。実際に登ろうとは思うが実行はしがたいらしく、その代わり、あの上になにがあるのだろうと空想することが楽しいらしい。  巡礼者たちはこれから登ろうとする者、そして失望とともに降りてきた者で、彼等も具体的なことはなにも知らなかった。確かなのは、山の中腹、と言ってもかなり高い位置に僧院があり、そこまでは誰でも行けるということだ。しかし、僧院の扉はいつも閉ざされており、叩いても返事はなく、中に入ることはできなかったらしい。
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 宿を出れば、すぐそこに墓地の屋根が見える。これだけ近い位置にあって、しかも幽霊が出るとなると、穏やかでない。しかし今はまず、ハイフロスガーについて聞いてみることと、それから山を登ってみることだ。
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 山に向かう石橋の前では、ウッドエルフとノルド、二人の男が立ち話をしていた。  ノルドの男はクリメク、ウッドエルフのほうはグウェリン……いや、グウィリンだったか。二人とも気さくで人当たりのいい村人で、先日もいくらか話をしたことがある。 「やああんた。今度はなにを探しに来たんだい?」  私を見ると、グウィリンが陽気に声をかけてきた。  ハイフロスガーについて調べているのだと言うと、グウィリンは、山のいただき、いつも雲に隠れて見えないところになにがあるのか考えてみるのが楽しいと、それだけだったが、クリメクは月に一度か二度の割合で、捧げ物……食料や生活必需品を届けに僧院に通っていると言った。  誰も下界に下りてこないのだから、逆に誰かがそういったものを届ける必要があるのは道理だ。しかしもしクリメクのような男がいなかったら、グレイビアードたちはどうするのだろうか。元にクリメクは足を悪くして、近頃は僧院に行くのが大変だと語った。もし彼が届け物をやめてしまったり、あるいはできなくなったら、まさかただ飢えて死ぬだけということもあるまいが……。  それともグレイビアードとは、こういった俗世の存在とは違う、人ならざる者なのだろうか?  ともあれ、どうせこれから向かうのだからと、クリメクに変わって物資を届けるため、荷物を預かることにした。
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 山道を登っていくと、にわかに雲が晴れ日がさしてきた。険しい山道を登るのには丁度いい。  道の脇には、先日も見かけた狩人がいた。あのときは、「このへんで建材を運ぶ者を見かけなかったか」と尋ねて彼を面食らわせたが、今日聞きたいのはグレイビアードのことだ。  彼の知っていることも村人と大差なかった。ハイフロスガーやグレイビアードにも特に興味があるわけではないという。なのに何故この山にいるのかと問うと、この山がキナレス、カイネとも呼ばれる神に関わるかららしい。  キナレスは獣や植物といった自然物の神だ。狩りそのものを遊興と考えるハンターがデイドラ・ハーシーンを信仰するように、日々の暮らしとしての狩りを生業にする者はキナレスの加護と恩恵を望むという。  キナレスがハイフロスガーとどう関わっているかは、山道の脇にある標章を読めば分かるらしい。
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 それはそうと、狩人は「オオカミが出るから気をつけろ」と言ってくれるのだが、実際に出てくるのはフロストトロールである。  ろうそくを作るのに、以前はトロールの脂肪が必要だったが、今はホワイトランの謎の館からもらってきた巻物がある。だから出てきてくれてラッキーだとは思わないが、錬金の実験をしていると、失敗ばかりですぐに尽きてしまう素材だ。目などとともに、ありがたくいただいていこう。  さて、標章を読みながら登っていくと、晴れ間はほんのひとときで、またすぐに雪になってしまった。  標章に書かれているのは―――3つめを気付かずに読み飛ばしてしまったが―――人間がどうやってドラゴンとの戦いに勝ったかという、その過程だった。  本来シャウトはドラゴンのもので、人間はその強力な言葉、力に圧倒されるだけだった。しかし、それを憐れんだキナレスと、パーサーナックスなる者が、ドラゴンの言葉を人間に伝えた。それによって人間はドラゴンの支配から逃れることができた、といった内容だ。  ドラゴン語は非常に強力なものなので、むやみに使えば別の争いが生まれるからだろうか。ユルゲン・ウィンドコーラーという始祖は、声を正しく使うためにハイフロスガーを築き、そこで声の道を伝えることにしたらしい。
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 サマーハウスを探していたときは、3つめか4つめの標章あたりで引き返した。これ以上進むと山の裏側に回ってしまうし、「こつこつと自分たちで資材を運んで建てた」というのに、こんな険しい山道を、遠くまで往復したとは考えられなかったからだ。  今日はそれを越えて更に登り、ついに僧院に辿り着いた。  クリメクの言っていたとおり、僧院の前の供物箱に荷物をおさめる。そして、グレイビアードとはどんな存在なのだろうかと、いささか緊張しつつドアを叩いた。  巡礼者たちにその扉が開かれることはなかったが、私の前には、あっさりと開かれた。  現れたのは、灰色の僧服に身を包んだ老人だった。  見たところ、なにも食べずに行きていけるような人間離れてしたところはない。ただ、同じような年、長い顎鬚、僧服の老人が四人も集まってくると、何事だろうかといくらか落ち着かない気分になった。  彼等は、私が間違いなくドラゴンボーンであることを示すため、まずは”声”を出してみろ、我々に味わわせてみろと言われた。  そのとおりに"ファス"という言葉を発すると、風の塊のようなものが彼等をよろめかせる。グレイビアードはそれに満足した。  私はともかく、ドラコンボーンとはなんなのか、この声の力とやらはなんなのか、彼等ならば正確なことを知っているだろうと、尋ねられるかぎりのことを尋ねた。煩わせるかと思ったが、快く……というよりどことなく喜んで教えてくれているようなのは、私以前にここを訪れたドラゴンボーンたちが、自身がそうであるということに関心がなかったり、あるいはそもそも呼びかけに応えなかったりしたからだろうか……。  ともあれ、ドラゴンボーンとはシャウトの使い手だが、その中でも特に、竜の力を直接取り込んで自分のものにできる、竜の血脈に連なる者のことだと分かった。ドラゴン語を人間に教えたのはキナレスだが、力そのものは竜神とも言われるアカトシュが力を分け与えたらしい。  そのためドラゴンボーンき、シャウト使いではあってもただの人間であるグレイビアードたちが数年がかりでやっと理解し身に付けることのできる竜の言葉を、簡単にマスターすることができる。ただしそのためには、言葉そのものをなんらかの形で学ぶことと、その力を引き出すため竜の魂が必要になるようだ。  つまり、―――そうか。"ファス"という言葉を覚えたのは、ブリークフォール墓地だ。金の爪を取り戻しに行ったあの奥地で、私は妙な碑文を見つけた。そこで気づかないうちに学んでいたらしい。そして、西の監視塔でドラゴン一体分のソウルをしっかり吸収したことで、”ファス”が使えるようになったということだ。  とすると、私に話しかけてくるアーンゲールという老人以外の三人は、迂闊に口をきくと、その言葉で相手を害してしまから黙っているそうなのだが、では、それだけの力を身につけるのにはいったい何十年修行したのだろうか。  いや、それよりも私はどうなのだろう。簡単に身につけられるのはいいが、そのせいで、適当に話す言葉が彼等のように、相手を傷つけたり殺してしまうようなことにはならないのだろうか。  アーンゲールに尋ねると、ドラゴンボーンはその素質ゆえに言葉を最も正しく理解することができるため、意識して竜語、シャウトを出さないかぎりには、決してそんなことはないとのことだった。
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 ともあれ彼等は、ドラゴンボーンがシャウトを正しく使えるよう、導く役目を負っているという。  その一環として、”ファス”に続く次の言葉、”ロー”を私に教えてくれた。ファスは「力」を意味する。その力が相手を圧倒するが、「均衡」を意味するローをマスターすることで、より力強くなるらしい。  アイナース老人から私に、あの碑文から流れ込んできたように、言葉のイメージとその深い意味合い、”言葉そのもの”が伝わってくる。  ……彼等はこれを、何年もの長い修行で身につけただろうに、こんなふうにあっさりと誰かに伝授してしまうのは、悔しくないのだろうか。それとも、そういった自身の心も含めての修行なのだろうか。―――そうかもしれない。人にはない強力な力を身につけ、それに溺れず的確に使いこなすということは、力を暴走させる我欲や衝動を御すということでもあるのだろう。であればこそ彼等は恬澹としているのかもしれない。  たしかに私自身、他の人たちと大差なければこそ、人並みに真っ当に過ごしている。むやみと争ったり、他人を暴力で脅して言いなりにしようとしたことなどない。(少なくとも蘇ってから後は) しかし強大な力を手に入れた後にも、同じように判断できるのだろうか。  だが今は、彼等が与えてもいいだろうと判断したものを、身につけていくしかないようである。アーンゲールも、私がこの力を使いこなすための自制心と気質を備えているかはまだ分からない、と言った。
 “ファス・ロー”が使いこなせるようになったと判断された後、私は老人たちに中庭へと促された。
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 いつの間にかすっかり晴れていた空の下で、”ウルド”、「旋風」を教わった。  これは自分の体を風のごとく素早く前へと運ぶ力らしい。短時間だけ開くある門を、ウルドの力でここから駆け抜けてみろと言われる。老人の一人がやって見せたように、私もそれを真似してみると、思いの外簡単にこなすことができた。  素質は十分だとアーンゲールは認めてくれた。しかし、己の技量が知恵を上回らぬようにせよと、厳しく言いつけられた。言われるまでもない。……だが、折りに触れ言い聞かせてもほしい。今はつくづくそうだと思えることが、この先どうなるかは分からないのだから。  ドラゴン出現の謎を突き止め、解決するには、力が必要だろう。シャウトは間違いなくその力になるはずだ。しかし、慌てて進んだせいで私自身が暴漢と化しては話にならないのだ。少なくとも今の私には、自分をしっかりと律していけるという確信がないのだ。  解決が遅れるほど、犠牲者は増える。いくら兵士や冒険家、傭兵たちがドラゴンを倒してくれるとはいえ、いつもどんなときも誰も死なないというわけではないのだ。だが慌てるあまり、私がドラゴンと大差ない危険な存在になっては意味がない。
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 ウルドで駆け抜けた門の先から、ホワイトランが見える。意外に近かったのだなと驚いた。あのドラゴンズリーチにバルグルーフ首長がいて、ここに来れたらなぁと夢想していたりするし、町には宿や商店、民家があり、いつも人々が行き交い賑わっている。  おそらくここは私の故郷ではない。だがしばらく過ごしただけの土地でも、今では気に入りの我が家もあり、見知った人たちもいて、親しみは覚えている。だから、どうなっても構いはしないとは、言いがたい。  私は私なりに、自分にできることをしよう。それはともすると、ドラゴンボーンであるがために、他の人たちよりも少し多くのことかもしれないが、ただそれだけだ。
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 僧院を出たのは17時半を過ぎた頃だった。知らないうちに、ずいぶん時間を過ごしていたらしい。あそこにあるのはブリークフォール墓地だろうか。  私はアーンゲール師から、試練の一つとして角笛の回収を指示された。始祖ユルゲン・ウィンドコーラーのものであったという角笛を、ウステングラブなる場所から手に入れてくるよう言われたのだ。そこはシャウトを使わなければ進み難い場所らしく、この試練をこなすことで、必要最低限のシャウトを使いこなせるようになったという証になるらしい。  ウステングラブは、スカイリムのかなり北、湿地帯にある遺跡ということである。モーサルという要塞の北、首都ソリチュードの東だというから、私がまだ行ったことのないあたりだ。  しかしまずは、イヴァルステッドに戻って……クリメクにはちゃんと、物資を届けたという報告をしなければならないし、修行も兼ねて、明日はまず、隠匿の炉床地を調べてみるとしよう。
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 クリメクは宿の前で一服していた。ついでに、中にはいったということを言ってみようかと思ったが、いらぬ話だろう。聞かれれば正直に答えてもいいが、問われもしないのに喧伝することでもあるまい。  クリメクは、来月までに足が良くなるといいのだが、と案じている。届けているのは干し肉などささやかなものだから代価などもらっていない、と彼は言っていた。それなのに、ちゃんと届けてなければならない、届けてあげようと、足が治ることを願っているのだから、不思議なものだ。話を聞くかぎり、信心というわけでもないようだし、つまりはただの善意に違いない。なんの見返りもなく七千階段を登って降りて……立派なことだ。  と思っていたら、突然、妙な二人組がやってきた。  褐色のコートに、おかしな仮面をかぶった二人で、彼等は突然私に、おまえがドラゴンボーンかと尋ねてきた。  その言いようがひどく剣呑だったのと、自分からそう名乗るのはどうもおこがましい気がしたので、「グレイビアードたちはそう考えているようだが」と答えた。  すると彼等はいきなり私を嘘つき呼ばわりし、生かしておけないと身構えた。  別に私がドラゴンボーンでないならそれはそれで少しも構いはしないが、こんな町中で、近くには村人もいるというのに、なんと無法な者たちか。  ―――と私は応戦の構えをとったが、駆けつけてきた衛兵たちの力戦で、決着はあっさりとついてしまった。
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 私なぞ、味方を巻き込んではなるまいとと思えばこんな狭い場所で剣を振り回すのも躊躇われて、そてどうしようかと、ほとんど様子を見ているだけだったのだが……。  衛兵たちは、すべきことをしたというあっさりした様子で、さっさと持ち場に戻ってしまう。ううむ、見事なプロフェッショナル……。
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 小さな村の衛兵など取るに足りないとでも思って、町中で襲撃を決行したのだろうか。愚かな者たちだが、それにしても何者だろうか。変な仮面の下は、普通の人間の顔だ。  ただ、片方の懐に一枚の紙片が入っていた。  それによると、ソルスセイムなる場所にミラーク卿というのがいて、彼等はその信者らしい。そして、ミラークこそが本物のドラゴンボーンであり、それ以外の者は偽物、人心を惑わす騙りであるから、処分せよと……。  ソルスセイムがどこにあるのかは知らないが(ということは、生前もまったく聞いたことがなかったのか、よほど馴染みのない場所なのだろう)、私が西の監視塔でドラゴンソウルを吸収し、ドラゴンボーンだということになったのは昨日。その前のおこぼれをもらってしまったときから考えても、せいぜいで3日か4日だというのに、随分行動の早いことだ。  どうやら、この二人を片付けたところで、刺客はこれからも来るに違いない。ソルスセイムに行って調べれば、止める手立ても分かるのかもしれないが……、いずれは修行のために出掛けてもいいだろうが、今は、スカイリム、この近郊のことだけで手一杯だ。
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 ともあれ、宿の前に死体とは商売の邪魔でしかあるまいと、私は2つの死体を川に流してしまうことにした。乱暴かもしれないが、彼等の宗旨も分からないのだし、このへんに放置しておくよりはマシだろう。  この川はどこへ流れていくのだろうか。途中の岩場などに引っかからなければ、流されたものはいずれは海か、大きな湖などに行き着くのかもしれない。
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 ヴァイルマイヤーは、仕事を終えた人たちで賑わっていた。 「やあ、おかえり。グレイビアードには会えたかい?」  戸口の近くにいたグウィリンが、気さくに声をかけてくる。と思えば、突然、材木向上のんな主人テンバがやってきて、板のサイズが違うと彼を叱りつけ始めた。「腕の長さに切るように」と言いつけたらしい。グウィリンはそれを自分の腕の長さに切ったのだが、テンバはテンバで、自分の、つまりノルドの腕の長さに切ってほしかったようだ。  それなら、まぎらわして指示を出したほうにも落ち度はあると思うのだが、彼は一方的にグウィリンをなじり、「こんな長さでは役に立たない」と言う。それはまるで、小柄なウッドエルフである彼自身のことも言っているようで、私は聞いていてもあまりいい気分ではなかった。  しかし当のグウィリンは、今度から気をつけます、と素直に謝って、しかも、叱られたことを特に気にしている様子もない。私がつい、大変だなと声をかけると、 「まあね。でも彼女はただ吠えるだけで、噛み付いたりはしないんだ。それにテンバさんは近頃、クマの害でカリカリしてるからね。仕方ないよ」  と、少しもテンバに含むところはないらしいのである。  なんというか……たとえばグレイビアードたちがドラゴンボーンに嫉妬しないとしたら、ともするとそれは、彼等が優れて自制心と理性で、そういったものをしっかりと封じ、抱くべきでない邪な心だと、戒めているからかもしれない。  けれどグウィリンはそうではないような気がする。テンバに腹を立てはするが、怒っても仕方ないとか、彼女も大変なんだと理解を示してにこやかでいるのではなく、心から、彼女はよく怒るけど決して乱暴なことはしない、だからいい人じゃないか、と思っているような……。そんなふうに、人の良いところ、世界の良いところを真っ先に、そして自然と目にとめているのではないだろうか。  だとしたら、これこそ脱帽ものだ。
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 ところで、宿にはバシアヌスというなかなかハンサムな若者がいて、今日もなにやら悩んでいる様子だ。好きな女性がいるらしいのは、先日の来訪でもちらりと聞いている。  今日は彼と、たしか……ラエンといったと思うが、狩りを生業にしているウッドエルフが話していた。こうして見ると、ウッドエルフの男というのは本当に小柄だなと思う。ノルドがかなり大柄なのもあるが、バシアヌスのほうが体格がいいと、彼が座っていてもはっきり分かるのだ。  ……それではたしかに、ノルドである自分の腕の長さの板を求めていたテンバにとっては、グウィリンの切った板ははっきり短かったことだろう。
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 ところで私はというと、ノルドよりは小柄だが、ウッドエルフよりは大柄である。やはり私はレッドガードかブレトン、あるいはインペリアルに違いない。……個人差というものも普通はあると思うのだが、不思議とそういったことはない世の中である。
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 ともあれ時間的に混みあった宿ではなかなか座る場所もなかったが、ロフトのテーブルにあきがあった。そこも間もなく、老婦人との相席となったものの、居心地はいい。  ……ところで、どうもさっきからテンバに付け回されているような気がするのは、気のせいなのだろうか。グウィリンのような心持ちになれない私にとっては、あまり敵に回したくはないタイプなのだが……。  と思っていたら、クマ退治を持ちかけられた。なるほど、それを頼みたかったのか。この近郊に限らず、どこでもいいからクマを倒して、その証拠に毛皮を10枚持ってきてほしいという。近郊でなくてもいいのかとつい念を押すと、クマの害に腹が立つあまり、とにかくクマを減らせば自分のように困っている誰かが助かるのだから、それでいいとのことだった。  どれだけクマに恨みがあるのかも知れようという依頼内容だが、近郊に限らないあたり、本当に彼女は”吠えるだけ”で根のいい人なのかもしれない。無論、テンバでなくても誰か、街道を行く旅人なども助かる話なのだから、この依頼を断る理由もない。
 ヴァイルマイヤーにまた寝床をとり、ウィルヘルムには、明日 墓地に行ってみると告げると、「本当に気をつけてくれよ。危ないと思ったら、逃げても恥じゃないんだからな」と念を押された。彼はよほど、ウィンなんとかを止めなかったことを気に病んでいるらしい。  寝床はいつもどおり、質素だがよく手入れがされていて清潔だ。ジュニパー入りのハチミツ酒で一杯やって横になると、とろとろと心地好いまどろみがやってきた。  明日はとりあえば、墓地を調査することだ。それから、余った時間次第で、どうするかをまた考えよう。  ウステングラブへ行くのは、明後日か、明々後日、ともするともう少し先になるかもしれないが、……焦って力及ばないのも、力だけが過ぎて器が足りないのも、問題なのだから。  いくらかの人助けをしながら、自分の腕と器を鍛えるのが一番いい。そうして良き人たちと関わり、つながっていれば、そうそう道を誤ることもないだろう。  明日は無事に調査が済んで、ウィルヘルムを安心させてあげられるといいのだが。そんなことを思う私の耳に、リンリーの柔らかな歌声が���こえてきた。
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ari0921 · 4 years
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米国がコロナ禍中の今、台湾侵攻を狙う中国共産党
それを諫める『超限戦』の著者・喬良少将の手強さ
2020.5.12(火)
渡部 悦和
 新型コロナウイルスの感染拡大が米中関係に大きな影響を与え、米中は全面的な競争から全面的な対決に向かっている。
 歴史上最悪の米中関係の中で、中国共産党が行っている情報戦は、独善的で火に油を注ぐ結果となっている。
 一方で、1999年に出版され世界的なベストセラーになった『超限戦』の著者である喬良少将は、台湾武力侵攻を叫ぶ中国人タカ派とは一線を画し、「今は台湾を攻撃する時ではない」と非常に冷静な態度をとっている。
 冷静な喬良少将は手強い。
 喬良少将は『超限戦』で、「目的のためには手段を選ばない。制限を加えず、あらゆる可能な手段を採用して目的を達成する」と主張する一方で、「今日または明日の戦争に勝ち、勝利を手にしたいならば、把握しているすべての戦争資源、すなわち戦争を行う手段を組み合わせなければならない。(中略)すべての限界を超え、かつ勝利の法則の要求に合わせて戦争を組み合わせることである」と説いている。
 つまり、共産党の単純で露骨な宣伝戦ではなく、喬良少将はあらゆる要素を考慮に入れた冷静で実行可能な選択をすべきだと説いている。
 我が国にとっては、単純で粗野な共産党は扱い易いが、冷静に策を練る喬良は手強い相手だ。
歴史上最悪の米中関係
 北京大学国際関係学院の王緝思教授の「新型コロナウイルス流行下の米中関係*1」は、現在の米中関係における注目の論考である。
 そこには歴史上最悪の状況にある米中関係において、「中米両国は全面的な競争から全面的な対立に向かう可能性」について率直に記述されている。以下はこの論考の注目点だ。
●総体的に言って、41年の中米両国国交の歴史の中で私たちの米国に対する不信と反感は既に過去に例がないほど高まっている。
●今後、中米関係における矛盾は続き、日増しに緊張が高まるだろう。妥協する余地と引き返す可能性はますます少なくなる。中米両国は全面的な競争から全面的な対立に向かい、いわゆる「トゥキディデスの罠」に陥る可能性を排除することができない。
●この趨勢がこのまま続く場合、主要になる戦略は「新冷戦」を避けることではない。
●新型コロナウイルスの流行は中米関係に大きな打撃を与えた。両国関係の悪化のスピードは加速し、政府間交渉はほとんど凍結されている状態である。戦略の相互不信は日増しに深刻になり、国内における互いの国に対する反感は前例がないほど強い。
●長期間にわたって、中国では中米関係は最も重要な関係であると見なされ、米国に対しては爪を隠して対応をすべきだとする考え方が浸透していた。現在、この考え方はもう世論の主流から外れ、その代わりに中国は米国と真っ向から対峙し、恐れずに力を見せつけるべきだという意見が主流になっている。極端な例ではもう二度と米国には期待しないとするものまである。
●ある時期から、米国による反中言動に対する中国政府と国民の容認度は著しく低下した。米国による攻撃を中国が容認することはもうない。中米間の情報戦争、世論における論争、外交戦争はますます激しさを増し、今や後戻りすることが難しくなっている。
●米国が対中政策を大きく転換し、中国がそれを認識して戦略、考え方、具体策を変更し、競争、闘争の方向へ断固として舵を切ったことをこれらすべてが明らかにしている。米国に対する幻想を捨て去り、非常に危険な挑戦に対する備えを行い、恐れず、巧みに戦い、競争意識を高めなければならないと中国は総じて強調している。
 ここには鄧小平の韜光養晦を完全に捨てて、米国と本格的に対決するという中国の決意が満ち満ちている。
中国共産党の愚かな宣伝戦
 王緝思教授の論考を読んで思うことは、片手落ちだということ。
 中国からみた米国に対する怒りの原因は書いているが、米国の中国に対する怒りの原因を全く書いていない。
 米国の怒りは中国の所業の悪さに起因する。サイバー攻撃や人によるスパイ活動などあらゆる手段を使い米国の知的財産を窃取する。
 米国の開放的な市場を利用して経済活動を行うが、中国の市場は米国の資本に対して閉鎖的で、中国市場に進出する外国企業に知的財産の提供を強要するなどだ。
 米国の怒りに対して、その原因を真剣に解消しないで、米国との対立を強調する姿勢が根本的な問題なのだ。
 習近平氏が中国のトップについてから、「中華民族の偉大なる復興」で2049年までに世界一の国家になると宣言し、「海洋強国、宇宙強国、航空強国、科学技術強国、2030年までにAI強国になる」、「中国製造2025」など矢継ぎ早に発表したスローガンが覇権国である米国を刺激したのは事実であろう。
 習近平氏のやり方はスマートではない、あまりにもガサツな宣伝と言わざるを得ない。
 中国のプロパガンダ戦の特質を端的に表現すると「言っていることと、やっていることが違う」ということだ。
 習近平国家主席が常用するプロパガンダは、「我々は平和発展の道を堅持し、ウィン・ウィンの開放戦略を実施する。引き続き、世界各国の、人民と共に人類運命共同体を打ち建てることを推進していく」「世界の平和を断固として守らなければならない」というもの。
 中国の非常にアグレッシブな姿勢とこの演説の中身との乖離はあまりにも大きい。この点に世界の人々は不信感を持つ。
さらに酷かったのは新型コロナウイルス発生後の宣伝戦は愚かと言われても仕方のないものであった。
 中国は、新型ウイルスの世界的なパンデミックに際して、世界の人たちに対する謝罪をしていない。謝罪するどころか、ウイルスの由来は中国ではなく、米国であると主張した。
 そして、「ウイルスの拡散を防ぐため、中国政府は多くの国民を閉じ込める都市封鎖をやった。世界を救うために巨大な犠牲に耐えた。だから世界は中国に感謝すべきだ」と主張している。
 さらに中国当局は、習近平主席がいかに新型コロナウイルスを鎮圧するために活躍したかを宣伝する書籍を出版したが、あまりにも不評で数日で書店から回収された。
 これら一連の事実は、中国共産党の宣伝戦があまりにも独善的であることを示している。この宣伝が逆効果であることさえ分からないのか。
 王緝思論文では以下のように記述されているが、共産党の宣伝は失敗と言わざるを得ない。
「広報活動においては、中華文化を発揚し、中国式管理や統治による成功経験を発信し、世界の潮流を中国のやり方でリードできるという自信を向上させ、それらが中国にとってプラスのエネルギーとなり、その流れが主流になった」
「例えば今回の新型コロナウイルスへの対応が全体として非常に成功しているという評価を発信し、中国が世界の対応基準を打ち立てたと発表した」
さらに酷かったのは新型コロナウイルス発生後の宣伝戦は愚かと言われても仕方のないものであった。
 中国は、新型ウイルスの世界的なパンデミックに際して、世界の人たちに対する謝罪をしていない。謝罪するどころか、ウイルスの由来は中国ではなく、米国であると主張した。
 そして、「ウイルスの拡散を防ぐため、中国政府は多くの国民を閉じ込める都市封鎖をやった。世界を救うために巨大な犠牲に耐えた。だから世界は中国に感謝すべきだ」と主張している。
 さらに中国当局は、習近平主席がいかに新型コロナウイルスを鎮圧するために活躍したかを宣伝する書籍を出版したが、あまりにも不評で数日で書店から回収された。
 これら一連の事実は、中国共産党の宣伝戦があまりにも独善的であることを示している。この宣伝が逆効果であることさえ分からないのか。
 王緝思論文では以下のように記述されているが、共産党の宣伝は失敗と言わざるを得ない。
「広報活動においては、中華文化を発揚し、中国式管理や統治による成功経験を発信し、世界の潮流を中国のやり方でリードできるという自信を向上させ、それらが中国にとってプラスのエネルギーとなり、その流れが主流になった」
「例えば今回の新型コロナウイルスへの対応が全体として非常に成功しているという評価を発信し、中国が世界の対応基準を打ち立てたと発表した」
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tutupooh · 5 years
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