【牡牛座】2023年8月の運勢❤️神回!涙!感動の超重要メッセージ!✨愛/仕事/金運/人間関係/健康✨
#人生相談 #おうし座 #金運
#牡牛座 #占い #タロット
㊙️広末涼子さんと鳥羽周作さんを鑑定しました✨
https://ameblo.jp/takamiya-kahi/entry-12808416388.html
(阿部泰山流四柱推命学 直門鑑定士師範になります。)
💛8月 牡牛座さんの運勢を占いました💛
お好きな倍速でご覧ください✨
ゆっくり目でお話ししています。
カミカミなど、お聞き苦しい点や見辛い点もあるかと思います><
(そんな時は我慢せず、スルーしてくださいね✨)
チャンネルの成長も含めて、温かく見守っていただけますと、とても嬉しいです🥰
※視聴者様に楽しんでいただけるよう、日々の改善&研究を重ねている最中です‼︎
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はじめまして、美オーラ占い師 高宮加妃…
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【QN】ある館の惨劇
片田舎で依頼をこなした、その帰り道。
この辺りはまだ地方領主が収めている地域で、領主同士の小競り合いが頻発していた。
それに巻き込まれた領民はいい迷惑だ。慎ましくも回っていた経済が滞り、領主の無茶な要求が食糧さえも減らしていく。
珍しくタイミングの悪い時に依頼を受けてしまったと、パティリッタは浮かない顔で森深い峠を貫く旧道を歩いていた。
「捨てるわけにもなぁ」
革の背負い袋の中には、不足した報酬を補うためにと差し出されたパンとチーズ、干し肉、野菜が詰まっている。
肩にのしかかる重さは見過ごせないほどで、おかげで空を飛べない。
ただでさえ食糧事情の悪い中で用意してもらった報酬だから断りきれなかったし、食べるものを捨てていくというのは農家の娘としては絶対に取れない選択肢だ。
村に滞在し続ければ領主の争いに巻き込まれかねないし、結局考えた末に、しばらく歩いてリーンを目指すことに決めた。
2,3日この食料を消費しつつ過ごせば、この"荷物"も軽くなるだろうという見立てだ。
この道はもう、殆ど利用されていないようだ。
雑草が生い茂り、嘗ての道は荒れ果てている。
鳥の声がした。同じ空を羽ばたく者として大抵の鳥の声は聞き分けられるはずなのに、その声は記憶にない。
「うげっ」
思わず空を仰げば、黒く分厚い雨雲が広がり始めているのが見えた。
その速度は早く、近いうちにとんでもない雨が降ってくるのが肌でわかった。
「うわ、うわ! 待って待って待って」
小雨から土砂降りに変わるまで、どれほどの時間もなかったはずだ。
慌てて雨具を身に着けたところでこの勢いでは気休めにもならない。
次の宿場まではまだ随分と距離がある。何処か雨宿りできる場所を探すべきだと判断した。
曲がりなりにも街道として使われていた道だ、何かしら建物はあるはずだと周囲を見渡してみると、木々の合間に一軒の館を見つけることができた。
泥濘み始めた地面をせっせと走り、館の玄関口に転がり込む。すっかり濡れ鼠になった衣服が纏わり付いて気持ちが悪い。
改めて館を眺めてみた。立派な作りをしている。前庭も手入れが行き届いていて美しい。
だが、それが却って不審さを増していた。
――こんな場所に、こんな館は不釣り合いだ、と。思わずはいられなかったのだ。
獅子を模したドアノッカーを掴み、館の住人に来客を知らせるべく扉に打ち付けた。
しばらく待ってみるが、応答はない。
「どなたかいらっしゃいませんかー!?」
もう一度ノッカーで扉を叩いて、今度は声も上げて見たが、やはり同じだった。
雨脚は弱まるところを知らず、こうして玄関口に居るだけでも雨粒が背中を叩きつけている。
季節は晩秋、雨の冷たさに身が震えてきた。
無作法だとはわかっていたが、このままここで雨に晒され続けるのも耐えられない。思い切って、ドアを開けようとしてみた。
「……あれ」
ドアは、引くだけでいとも簡単に開いた。
こうなると、無作法を働く範囲も思わず広がってしまうというものだ。
とりあえず中に入り、玄関ホールで家人が気づいてくれるのを待とうと考えた。
館の中へ足を踏み入れ、後ろ手に扉を閉める。背負い袋を床におろし、一息ついた。
玄関ホールはやけに薄暗い。扉を締めてしまえばいきなり夜になってしまったかのようだ。
「……?」
暗闇に目が慣れるにつれ、ホールの中央に何かが転がっていることに気づいた。
「えっ」
それが人間だと気づくのに、少し時間が必要だった。
「ちょっ、大丈夫で――」
慌てて声をかけて跪き命の有無を確かめようとする。
「ひっ」
すぐに答えは出た。あまりにもわかりやすい証拠が揃っていたためだ。
その人間には、首が無かった。
服装からして、この館のメイドだろう。悪臭を考えるに、この死体は腐りかけだ。
切断された首は辺りには見当たらない。
玄関扉に向かってうつ伏せに倒れ、背中には大きく切り裂かれた痕。
何かから逃げようとして、背中を一撃。それで死んだか、その後続く首の切断で死んだか、考えても意味がない。
喉まで出かかった悲鳴をなんとか我慢して、立ち上がる。本能が"ここに居ては危険だ"と警鐘を鳴らしていた。
逃げると決めるのに一瞬で十分だった。踵を返し、扉に手をかけようとした。
――何かが、脚を掴んだ。
咄嗟に振り向き、そして。
「――んぎやゃあぁあぁぁぁあぁぁぁああぁッッッ!!!???」
パティリッタは今度こそあらん限りの絶叫をホールに響かせた。
「ふざっ、ふざけっ、離せこのっ!!!」
脚を掴んだ何か、首のないメイドの死体の手を思い切り蹴りつけて慌てて距離をとった。弓矢を構える。
全力で弦を引き絞り、意味があるかはわからないが心臓に向けて矢を立て続けに三本撃ち込んだ。
幸いにもそれで相手は動きを止めて、また糸の切れた人形のように倒れ伏す。
死んだ相手を殺したと言っていいものか、そもそも本当に完全に死んだのか、そんな物を確認する余裕はなかった。
雨宿りの代金が己の命など冗談ではない。報酬の食糧などどうでもいい。大雨の中飛ぶのだって覚悟した。
玄関扉に手をかけ、開こうとする。
「な、なんでぇ!?」
扉が開かない。
よく見れば、扉と床にまたがるように魔法陣が浮かび上がっているのに気づいた。魔術的な仕組みで自動的な施錠をされてしまったらしい。
思い切り体当りした。びくともしない。
鍵をこじ開けようとした。だがそもそも、鍵穴や閂が見当たらない。
「開ーけーてー! 出ーしーてー!! いやだー!!! ふざけんなー!!!」
泣きたいやら怒りたいやら、よくわからない感情に任せて扉を攻撃し続けるが、傷一つつかなかった。
「ぜぇ、えぇ……くそぅ……」
息切れを起こしてへたり込んだ。疲労感が高ぶる感情を鎮めて行く中、理解する。
どうにかしてこの魔法陣を解除しない限り、絶対に出られない。
「考えろ考えろ……。逃げるために何をすればいいか……、整理して……」
どんなに絶望的な状況に陥っても、絶対に諦めない性分であることに今回も感謝する。
こういう状況は初めてではない。今回も乗り切れる、なんとかなるはずだと言い聞かせた。
改めて魔法陣を確認した。これが脱出を妨げる原因なのだ。何かを読み取り、解錠の足がかりを見つけなければならない。
指でなぞり、浮かんでいる呪文を一つずつ精査した。
「銀……。匙……。……鳥」
魔術知識なんてない自分には、この三文字を読み取るので精一杯だった。
だが、少なくとも手がかりは得た。
立ち上がり、もう一度ホールを見渡した。
首なしメイドの死体はもう動かない。後は、館の奥に続く通路が一本見えるだけ。
「あー……やだやだやだ……!!」
悪態をつきながら足を進めると、左右に伸びる廊下に出た。
花瓶に活けられた花はまだ甘い香りを放っているが、それ以上に充満した腐臭が鼻孔を刺す。
目の前には扉が一つ。まずは、この扉の先から調べることにした。
扉の先は、どうやら食堂のようだった。
食卓である長机が真ん中に置いてあり、左の壁には大きな絵画。向こう側には火の入っていない暖炉。部屋の隅に置かれた立派な柱時計。
生き物の気配は感じられず、静寂の中に時計のカチコチという音だけがやけに響いている。
まず、絵画に目が行った。油絵だ。
幸せそうに微笑む壮年の男女、小さな男の子。その足元でじゃれつく子犬の絵。
この館の住民なのだろうと察しが付いた。そしてもう、誰も生きてはいないのだろう。
続いて、食卓に残ったスープ皿に目をやった。
「うえぇぇっ……!」
内容物はとっくに腐って異臭を放っている。しかし異様なのは、その具材だ。
それはどう見ても人の指だった。
視界に入れないように視線を咄嗟に床に移すと、そこで何かが輝いたように見えた。
「……これ!」
そこに落ちていたのは、銀のスプーンだ。
銀の匙。もしかすると、これがあの魔法陣の解錠の鍵になるのではないかと頬を緩めた。
しかし、丹念に調べてみるとこのスプーンは外れであることがわかり、肩を落とす。
持ち手に描かれた細工は花の絵柄だったのだ。
「……待てよ」
ここが食堂ということは、すぐ近くには調理場が設けられているはずだ。
ならば、そこを探せば目的の物が見つかるかもしれない。
スプーンは手持ちに加えて、逸る気持ちを抑えられずに調理場へと足を運んだ。
予想通り、食堂を抜けた先の廊下の目の前に調理場への扉があった。
「うわっ! ……最悪っ」
扉を開けて中へ入れば無数のハエが出迎える。食糧が腐っているのだろう。
鍋もいくつか竈に並んでいるが、とても覗いてみる気にはなれない。
それより、入り口すぐに設置された食器棚だ。開いてみれば、やはりそこには銀製の食器が収められていた。
些か不用心な気もするが、厳重に保管されていたら探索も面倒になっていたに違いない。防犯意識の低いこの館の住人に感謝しながら棚を漁った。
「……あった!」
銀のスプーンが一つだけ見つかった。だが、これも外れのようだ。
意匠は星を象っている。思わず投げ捨てそうになったが、堪えた。
まだ何処かに落ちていないかと探してみるが、見つからない。
「うん……?」
代わりに、メモの切れ端を見つけることができた。
"朝食は8時半。
10時にはお茶を。
昼食・夕食は事前に予定を伺っておく。
毎日3時、お坊ちゃんにおやつをお出しすること。"
使用人のメモ書きらしい。特に注意して見るべきところはなさそうだった。
ため息一つついて、メモを放り出す。まだ、探索は続けなければならないようだ。
廊下に出て、並んだ扉を数えると2つある。
一番可能性のある調理場が期待はずれだった以上、虱潰しに探す必要があった。
最も近い扉を開いて入ると、小部屋に最低限の生活用品が詰め込まれた場所に出た。
クローゼットを開けば男物の服が並んでいる。下男の部屋らしい。
特に発見もなく、次の扉へと手をかけた。こちらもやはり使用人の部屋らしいと推察ができた。
小物などを見る限り、ここは女性が使っていたらしい。
あの、首なしメイドだろうか。
「っ……!」
部屋には死臭が漂っていた。出どころはすぐにわかる。クローゼットの中からだ。
「うあー……!」
心底開きたくない。だが、あの中に求めるものが眠っている可能性を否定できない。
「くそー!!」
思わずしゃがみこんで感情の波に揺さぶられること数分、覚悟を決めて、クローゼットに手をかけた。
「――っ」
中から飛び出してきたのは、首のない死体。
――やはり動いている!
「だぁぁぁーーーっ!!!」
もう大声を上げないとやってられなかった。
即座に距離を取り、やたらめったら矢を撃ち込んだ。倒れ伏しても追撃した。
都合7本の矢を叩き込んだところで、死体の様子を確認する。動かない。
矢を回収し、それからクローゼットの中身を乱暴に改めた。女物の服しか見つからなかった。
徒労である。クローゼットの扉を乱暴に閉めると、部屋を飛び出した。
すぐ傍には上り階段が設けられていた。何かを引きずりながら上り下りした痕が残っている。
「……先にあっちにしよ」
最終的に2階も���べる羽目になりそうだが、危険が少なそうな箇所から回りたいのは誰だって同じだと思った。
食堂前の廊下を横切り、反対側へと抜ける。
獣臭さが充満した廊下だ。それに何か、動く気配がする。
選択を誤った気がするが、2階に上がったところで同じだと思い直した。
まずは目の前の扉を開く。
調度品が整った部屋だが、使用された形跡は少ない。おそらくここは客室だ。
不審な点もなく、内側から鍵もかけられる。必要であれば躰を休めることができそうだが、ありえないと首を横に振った。
こんな化け物だらけの屋敷で一寝入りなど、正気の沙汰ではない。
すぐに踵を返して廊下に戻り、更に先を調べようとした時だった。
――扉を激しく打ち開き、どろどろに腐った肉体を引きずりながら犬が飛び出してきた!
「ひぇあぁぁぁーーーっ!!!???」
素っ頓狂な悲鳴を上げつつも、躰は反射的に矢を番えた。
しかし放った矢がゾンビ犬を外れ、廊下の向こう側へと消えていく。
「ちょっ!? えぇぇぇぇっ!!!」
二の矢を番える暇もなく、ゾンビ犬が飛びかかる。
慌てて横に飛び退いて、距離を取ろうと走るもすぐに追いつかれた。
人間のゾンビはあれだけ鈍いのに、犬はどうして生前と変わらぬすばしっこさを保っているのか、考えたところで答えは出ないし意味がない。
大事なのは、距離を取れないこの相手にどう矢を撃ち込むかだ。
「ほわぁー!?」
幸い攻撃は読みやすく、当たることはないだろう。ならば、と足を止め、パティリッタはゾンビ犬が飛びかかるのを待つ。
「っ! これでっ!!」
予想通り、当たりもしない飛びかかりを華麗に躱したその振り向きざま、矢を放った。
放たれた矢がゾンビ犬を捉え、床へ縫い付ける。後はこっちのものだ。
「……いよっし!」
動かなくなるまで矢を撃ち込み、目論見がうまく行ったとパティリッタはぴょんと飛び跳ねてみせた。
ゾンビ犬が飛び出してきた部屋を調べてみる。
獣臭の充満した部屋のベッドの上には、首輪が一つ落ちていた。
「……ラシー、ド……うーん、ということは……」
あのゾンビ犬は、この館の飼い犬か。絵画に描かれていたあの子犬なのだろう。
思わず感傷に浸りかけて、我に返った。
廊下に残った扉は一つ。最後の扉の先は、納戸のようだ。
いくつか薬が置いてあっただけで、めぼしい成果は無かった。
こうなると、やはり2階を探索するしかない。
「なんでスプーン探すのにこんなに歩きまわらなきゃいけないんだぁ……」
慎重に階段を登り、2階へ足を踏み入れた。
まずは今まで通り、手近な扉から開いて入る。ここは書斎のようだった。
暗闇に目が慣れた今、書斎机に何かが座っているのにすぐ気づいた。
本来頭があるべき場所に何もないことも。
服装を見るに、この館の主人だろう。この死体も動き出すかもしれないと警戒して近づいてみるが、その気配は無かった。
「うげぇ……」
その理由も判明した。この死体は異常に損壊している。
指もなく、全身至るところが切り裂かれてズタズタだ。明確な悪意、殺意を持っていなければこうはならない。
「ほんっともう、やだ。なんでこんなことに……」
この屋敷に潜んでいるかもしれない化け物は、殺して首を刈るだけではなく、このようななぶり殺しも行う残忍な存在なのだと強く認識した。
部屋を探索してみると、机の上にはルドが散らばっていた。これは、頂いておいた。
更に本棚には、この館の主人の日記帳が収められていた。中身を検める。
その中身は、父親としての苦悩が綴られていた。
息子が不死者の呪いに侵され、異形の化け物と化したこと。
殺すのは簡単だが、その決断ができなかったこと。
自身の妻も気が触れてしまったのかもしれないこと。
更に読み進めていけば、気になる記述があった。
「結界は……入り口のあれですよね。ここ、地下室があるの……?」
この館には地下室がある。その座敷牢に異形の化け物と化した息子を幽閉したらしい。
しかし、それらしい入り口は今までの探索で見つかってはいない。別に、探す必要がなければそれでいいのだが。
「最悪なのはそのまま地下室探索コースですよねぇ……。絶対やだ」
書斎を後にし、次の扉に手をかけてみたが鍵がかかっていた。
「ひょわぁぁぁっ!?」
仕方なく廊下の端にある扉へ向かおうとしたところ、足元を何かが駆け抜けた。
なんのことはないただのネズミだったのだが、今のパティリッタにとっては全てが恐怖だ。
「あーもー! もー! くそー!」
悪態をつきながら扉を開く。小さな寝台、散らばった玩具が目に入る。
ここは子供部屋のようだ。日記の内容を考えるに、化け物になる前は息子が使用していたのだろう。
めぼしいものは見当たらない。おもちゃ箱の中に小さなピアノが入っているぐらいで、後はボロボロだ。
ピアノは、まだ音が出そうだった。
「……待てよ……」
弾いたところで何があるわけでもないと考えたが、思い直す。
本当に些細な思いつきだった。それこそただの洒落で、馬鹿げた話だと自分でも思うほどのものだ。
3つ、音を鳴らした。この館で飼われていた犬の名を弾いた。
「うわ……マジですか」
ピアノの背面が開き、何かが床に落ちた。それは小さな鍵だった。
「我ながら馬鹿な事考えたなぁと思ったのに……。これ、さっきの部屋に……」
その予想は当たった。鍵のかかっていた扉に、鍵は合致したのだ。
その部屋はダブルベッドが中央に置かれていた。この館の夫妻の寝室だろう。
ベッドの上に、人が横たわっている。今まで見てきた光景を鑑みるに、その人物、いや、死体がどうなっているかはすぐにわかった。
当然首はない。服装から察するに、この死体はこの館の夫人だ。
しかし、今まで見てきたどの死体よりも状態がいい。躰は全くの無傷だ。
その理由はなんとなく察した。化け物となってもなお息子に愛情を注いだ母親を、おそらく息子は最も苦しませずに殺害したのだ。
逆に館の主人は、幽閉した恨みをぶつけたのだろう。
「……まだ、いるんだろうなぁ」
あれだけ大騒ぎしながらの探索でその化け物に出会っていないのは奇跡的でもあるが、この先、確実に出会う予感がしていた。
スプーンは、見つかっていないのだ。残された探索領域は一つ。地下室しかない。
もう少し部屋を探索していると、クローゼットの横にメモが落ちていた。
食材の種類や文量が細かく記載されており、どうやらお菓子のレシピらしいことがわかる。
「あれ……?」
よく見ると、メモの端に殴り書きがしてあった。
「夫の友人の建築家にお願いし、『5分前』に独りでに開くようにして頂いた……?」
これは恐らく、地下室の開閉のことだと思い当たる。
「……そうだ、子供のおやつの時間だ。このメモの内容からしてそうとしか思えません」
では、5分前とは。
「おやつの時間は……そうか。わかりましたよ……!」
地下室の謎は解けた。パティリッタは、急ぎ食堂へと向かう。
「5分前……鍵は、この時計……!」
食堂の隅に据え付けられた時計の前に戻ってきたパティリッタは、その時計の針を弄り始めた。
「おやつは3時……その、5分前……!」
2時55分。時計の針を指し示す。
「ぴぃっ!?」
背後で物音がして、心臓が縮み上がった。
慌てて振り向けば、食堂の床石のタイルが持ち上がり、地下への階段が姿を現していた。
なんとも形容しがたい異様な空気が肌を刺す。
恐らくこの先が、この屋敷で最も危険な場所だ。本当にどうしてこの館に足を踏み入れたのか、後悔の念が強まる。
「……行くしか無い……あぁ……いやだぁ……! 行くしか無いぃ……」
しばらく泣きべそをかいて階段の前で立ち尽くした。これが夢であったらどんなにいいか。
ひんやりとした空気も、腐臭も、時計の針の音も、全てが現実だと思い知らせてくる。
涙を拭いながら、階段を降りていく。
降りた先は、石造りの通路だった。
異様な雰囲気に包まれた通路は、激しい寒気すら覚える。躰が雨に濡れたからではない。
――死を間近に感じた悪寒。
一歩一歩、少しずつ歩みを進めた。通路の端までなんとかやってきた。そこには、鉄格子があった。
「……! うぅぅ~……!!」
また泣きそうになった。鉄格子は、飴細工のように捻じ曲げられいた。
破壊されたそれをくぐり、牢の中へ入る。
「~~~っ!!!」
その中の光景を見て思わず地団駄を踏んだ。
棚に首が、並んでいる。誰のものか考えなくともわかる。
合計4つ、この館の人間の犠牲者全員分だ。
調べられそうなのはその首が置かれた棚ぐらいしかない。
一つ目は男性の首だ。必死に恐怖に耐えているかのような表情を作っていた。これは、下男だろう。
二つ目も男性の首だ。苦痛に歪みきった表情は、死ぬまでにさぞ手酷い仕打ちを受けたに違いなかった。これがこの館の主人か。
三つ目は女性の首だ。閉じた瞳から涙の跡が残っている。夫人の首だろう。
四つ目も女性の首。絶望に沈みきった表情。メイドのものだろう。
「……これ……」
メイドの髪の毛に何かが絡んでいる。銀色に光るそれをゆっくりと引き抜いた。
鳥の意匠が施された銀のスプーン。
「こ、これだぁ……!!」
これこそが魔法陣を解錠する鍵だと、懐にしまい込んでパティリッタは表情を明るくした。
しかしそれも、一瞬で恐怖に変わる。
――何かが、階段を降りてきている。
「あぁ……」
それが何か、もうとっくに知っていた。逃げ場は、無かった。弓を構えた。
「なんで、こういう目にばっかりあうんだろうなぁ……」
粘着質な足音を立てながら、その異形は姿を現した。
"元々は"人間だったのであろう、しかし体中の筋肉は出鱈目に隆起し、顔があったであろう部分は崩れ、悪夢というものが具現化すればおおよそこのようなものになるのではないかと思わせた。
理性の光など見当たらない。穴という穴から液体を垂れ流し、うつろな瞳でこちらを見ている。
ゆっくりと、近づいてくる。
「……くそぉ……」
歯の根が合わずがたがたと音を立てる中、辛うじて声を絞り出す。
「死んで……たまるかぁ……!!」
先手必勝とばかりに矢を射掛けた。顔らしき部分にあっさりと突き刺さる。
それでも歩みは止まらない。続けて矢を放つ。まだ止まらない。
接近を許したところで、全力で脇を走り抜けた。異形の伸ばした手は空を切る。
対処さえ間違えなければ勝てるはず。そう信じて異形を射抜き続けた。
「ふ、不死身とか言うんじゃな���でしょうねぇ!? ふざけんな反則でしょぉ!?」
――死なない。
今まで見てきたゾンビとは格が違う。10本は矢を突き立てたはずなのに、異形は未だに動いている。
「し、死なない化け物なんているもんですか! なんとかなる! なんとかなるんだぁっ!! こっちくんなーっ!!!」
矢が尽きたら。そんな事を考えたら戦えなくなる。
パティリッタは無心で矢を射掛け続けた。頭が急所であろうことを信じて、そこへ矢を突き立て続けた。
「くそぅっ! くそぅっ!」
5本、4本。
「止まれー! 止まれほんとに止まれー!」
3本、2本。
「頼むからー! 死にたくないからー!!」
1本。
「あああぁぁぁぁっ!!!」
0。
最後の矢が、異形の頭部に突き刺さった。
――動きが、止まった。
「あ、あぁ……?」
頭部がハリネズミの様相を呈した異形が倒れ伏す。
「あぁぁぁもう嫌だぁぁぁ!!!」
死んだわけではない。既に躰が再生を始めていた。しかし、逃げる隙は生まれた。
すぐにねじ曲がった鉄格子をくぐり抜けて階上へ飛び出し、一目散に入り口へ駆ける。
後ろからうめき声が迫ってくる。猶予はない。
「ぎゃああああもう来たあああぁぁぁぁ!!!」
玄関ホールへたどり着いたと同時に、後ろの扉をぶち破って再び異形が現れる。
無秩序に膨張を続けた躰は、もはや人間であった名残を残していない。
異形が歪な腕を、伸ばしてくる。
「スプーンスプーン! はやくはやくはやくぅ!!!」
もう手持ちのスプーンから鍵を選ぶ余裕すらない。3本纏めて取り出して扉に叩きつけた。
肩を、異形の手が叩く。
「うぅぅぐぅぅぅ~ッッッ!!!」
もう涙と鼻水で顔はぐちゃぐちゃだった。
後ろを振り返れば死ぬ。もうパティリッタは目の前の扉を睨みつけるばかりだ。
叩きつけたスプーンの内1本が輝き、魔法陣が共鳴する。
「ぎゃー! あー!! わーっ!! あ゛ーーーッッッ!!!」
かちゃり、と音がした。
と同時に、パティリッタは全く意味を成さない叫び声を上げながら思い切り扉を押し開いて外へと転がり出た。
いつしか雨は止んでいた。
雲間から覗いた夕日が、躰に纏わり付いた忌まわしい物を取り払っていく。
「あ、あぁ……」
西日が屋敷の中へと差し込み、異形を照らした。異形の躰から紫紺の煙が上がる。
もがき苦しみながら、それでもなお近づいてくる。走って逃げたいが、遂に腰が抜けてしまった。
ぬかるんだ地面を必死の思いで這いずって距離を取りながら、どうかこれで異形が死ぬようにと女神に祈った。
異形の躰が崩れていく。その躰が完全に崩れる間際。
「……あ……」
――パティリッタは、確かに無邪気に笑う少年の姿を見た。
翌日、パティリッタは宿場につくなり官憲にことのあらましを説明した。
館は役人の手によって検められ、あれこれと詮議を受ける羽目になった。
事情聴取の名目で留置所に三日間放り込まれたが、あの屋敷に閉じ込められた時を思えば何百倍もマシだった。
館の住人は、縁のあった司祭によって弔われるらしい。
それが何かの救いになるのか、パティリッタにとってはもはやどうでも良かった。
ただ、最後に幻視したあの少年の無邪気な笑顔を思い出せば、きっと救われるのだろうとは考えた。
「……帰りましょう、リーンに。あたしの日常に……」
「……もう、懲り懲りだぁー!!」
リーンへの帰途は、晴れ渡っていた。
――ある館の、惨劇。
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「何歳の時に一緒になることができるのか…。
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