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#幹事は私の高校の同級生っていう
kennak · 7 months
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 11日発売の「週刊文春」(文藝春秋)記事は、宝塚歌劇団の宙組トップスター・真風涼帆(まかぜすずほ)が、宙組トップ娘役だった星風まどか(現花組トップ娘役)に侮蔑的な言葉を浴びせるなど陰湿なイジメを行っていたと報じた。宝塚歌劇団をめぐっては昨年12月発売の「文春」記事で、演出家・原田諒氏がトップスターや演出助手だった女性スタッフらにハラスメント行為を行っていたと報じられ、原田氏が退団するという出来事が起きたばかりだったが、たて続けに不祥事が発覚する宝塚歌劇団の内部で今、何が起こっているのだろうか――。  一昨年の2021年に創立100周年を迎えた宝塚歌劇団は、「タカラジェンヌ」と呼ばれる劇団員が全員女性で、彼女たちが男役・女役を務め、花組・月組・雪組・星組・宙組の計5組と専科で構成されることが大きな特徴。歴代のトップスター、トップ娘役からは大地真央、黒木瞳、天海祐希、真矢ミキをはじめ今も第一線で活躍する女優が数多く生まれるなど、芸能界の貴重な人材育成機関としての顔も持つ。 「組それぞれカラーや特徴があり、公演も組ごとで行われる。たとえば宙組は真風涼帆のスタイルに象徴されるとおり、ステージでは長身のトップスターをはじめ男役たちがスリムなスーツを着こなす姿が印象的。また、月組は『芝居の月組』といわれ、女優の大地真央、黒木瞳、涼風真世、天海祐希、真琴つばさ、紫吹淳らを輩出してきた。ちなみに黒木はトップスターではなくトップ娘役だったが、トップスターとトップ娘役のコンビ内には厳しい上下関係があり、年次も基本的にはトップスターのほうが上。それが影響しているのかどうかは定かではないが、退団後に人気女優として息長く活躍するOGにはトップスター経験者が多い印象。  また、団員は5年目までは宝塚歌劇団の正社員という扱いで、給料やボーナス、退職金も支払われるというのは日本の劇団では珍しく、これも大きな特徴といえる」(宝塚歌劇団に詳しい週刊誌記者) トップスターとトップ娘役の関係性  その宝塚歌劇団には今、試練が訪れている。今月に入り、関係者から新型コロナウイルス感染者が出た影響ですでに花組、星組、宙組の公演が中止に追い込まれるという不運に見舞われるなか、前述のとおり内部の不祥事がたて続けに発覚し、宝塚ブランドが失墜しかねない事態に陥っているのだ。 「劇場の最寄り駅である宝塚駅では、先輩が乗ろうとする電車に後輩は乗らずに『お見送り』をしたり、宝塚線の線路沿いでは先輩が乗っていると思われる電車が通るだけで後輩が立ち止まって礼をしたり、宝塚音楽学校では上級生と下級生が班をつくって校舎の隅々まで完璧に掃除をするといった『鉄の掟』が有名だが、今ではそうしたルールはかなり緩和されている模様。それでも上下関係が厳しいのは確かだが、トップスターとトップ娘役の関係性というのは、コンビによってまちまち。  トップスターは相手役のトップ娘役の指導係の役割も担うので、基本的には明確な上下関係が存在するが、大地真央と黒木瞳のように熱い師弟愛で結ばれているケースや、特に最近では友だち関係に近かいケース、逆に真風と星風のように険悪なケースもあると聞く。トップスターの性格や考え方による部分が大きいが、歌劇団に所属するタカラジェンヌは総勢で約400人おり、各組のトップスターはおおむね3~5年で交代していくので、一概に『こう』というのはいえない。もっとも、真風の例はかなりレアといえるだろう。稽古中などに大勢の劇団員やスタッフがいる前でトップスターがトップ娘役を叱るというのは珍しくはないが、真風のように容姿を批判したり演技ができないと言い出すような凄惨なイジメは聞いたことがない」(同) 渦巻く嫉妬  そんな団員・スタッフたちが鉄壁の絆で結ばれているかにみえる宝塚歌劇団で、なぜイジメやハラスメントが起きているのだろうか。『自己正当化という病』の著者で精神科医の片田珠美氏はいう。 「宝塚もそうですが、一般に閉鎖的な空間ほど不祥事が起きやすいのです。しかも、私自身も中学生の頃に『ベルばら』ブームを経験した影響で、宝塚に憧れていましたが、このように憧憬や羨望の対象になっている組織では、理不尽な仕打ちを受けても告発をためらう傾向が強くなります。なぜかといえば、その組織に入ることができ、所属していること自体にブランド価値がありますので、自分が排除されることへの恐怖ゆえに、声を上げにくいからです。  ですから、最近宝塚の不祥事が『文春』によって立て続けに報じられていますが、必ずしもここ数年でとくに増えたというわけではないと思います。以前から同様の不祥事はあったものの、誰も声を上げることができなかっただけではないでしょうか。  しかも、宝塚は『女の園』で同性の集まりですから、どうしても嫉妬が渦巻きやすくなります。おまけに、男役トップスター、あるいはトップ娘役の座を目指してしのぎを削る世界なので、嫉妬の炎が燃え上がるのは当然でしょう。上級生が、自分の立場を脅かしかねない下級生に嫉妬を抱き、陰湿ないじめを繰り返すことがあったとしても不思議ではありません。  今回の報道で引っかかるのは、男役トップスターの真風涼帆さんが自分の相手役だったトップ娘役の星風まどかさんをいじめていたという点です。真風さんは男役で、星風さんは娘役ですから、普通に考えると星風さんが真風さんの立場を脅かす存在とはいえません。第一、真風さんは175センチと高身長のうえ端正な顔立ちであり、圧倒的な人気を誇っていますから、嫉妬する必要などないように思います。もっとも、それでも生まれてしまうのが嫉妬の怖いところで、星風さんの若さや歌唱力に嫉妬したのかもしれません。  もう1つ考えられるのは、真風さんが同じようないじめを過去に受けていた可能性です。真風さんは、星風さんを幹部部屋に呼び出し、反省するよう1時間の正座を命じたと『文春』で報じられましたが、真風さん自身も同様の仕打ちを上級生から受けたことがあったのかもしれません。宝塚には『軍隊並み』と称されるほど厳しい上下関係があり、上級生の言葉は絶対ということですから、真風さんが同じように正座させられたことがあった可能性は十分考えられます。  こういう場合、『自分も上級生からされたのだから、同じことを下級生にしてもいい』と自己正当化しやすくなります。また、『攻撃者との同一視』というメカニズムが働くことも少なくありません。  これは、自分の胸中に不安や恐怖、怒りや無力感などをかき立てた人物の攻撃を模倣し、自身が攻撃者の立場に立つことによって、屈辱的な体験を乗り越えようとする防衛メカニズムです。フロイトの娘、アンナ・フロイトが見出しました。  このメカニズムは、さまざまな場面で働きます。たとえば、学校の運動部で『鍛えるため』という名目で先輩からいじめに近い過酷なしごきを受けた人が、自分が先輩の立場になったとたん、今度は後輩に同じことを繰り返します。同様のことは職場でも起こります。お局様から陰湿な嫌がらせを受けた女性社員が、今度は女性の新入社員に同様の嫌がらせをするようになるわけです。   この『攻撃者との同一視』が宝塚では起きやすいように見えます。しかも、『舞台を素晴らしいものにするため』という口実があれば、正当化されやすいでしょう。ですから、同様の不祥事は実はいくらでもあり、今後も声を上げる人がいれば、表に出てくるのではないでしょうか」  ちなみに当サイトは今回、複数の宝塚歌劇団元関係者や日頃からメディアを通じて宝塚に関する情報を発信している人々に取材を申し込んだが、軒並み拒否されてしまった。 「全国紙をはじめ主要メディア各社には宝塚の担当記者がいるほど、メディアとのつながりは深い。日本中に数多くの熱心な宝塚ファンがおり、宝塚はメディアにとっても強力なコンテンツの一つと化していることから友好な関係を築いている。さらに、宝塚関連の書籍や雑誌の特集なども多く、宝塚の元関係者であったり強いパイプを持っていたりすれば、それだけでいろいろな仕事につながるという人もおり、意外にも宝塚批判というのはタブー視されている面がある」(前出・週刊誌記者) (文=編集部、協力=片田珠美/精神科医)
宝塚歌劇団ブランド失墜、トップスターが凄惨イジメ、文春報道…不祥事生む組織体質 | ビジネスジャーナル
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tokyomariegold · 8 months
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2023/7/10〜
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7月10日 週末に無印で買った風を通すズボン?を履いてみたら、いままでより格段に快適になってしまって、行きも帰りもバスに乗らずに歩いてしまってへとへと。
出勤して、たくさんの人とデートをしているから誰から聞いた話かわからない、と言っていた人が、その関係の話で「よかったね〜」と言われているのを朝の給湯コーナーで聞きかける。
とうもろこし茶をニューデイズで買った話をしたら「ニューデイズって何?」と言われてしまい、その方はコンビニの区別がつかないそう。 なんとなくの色でなんとなく区別しているとのことで、私も一人暮らしを始める前までは、コンビニ毎の違いをらそこまで気に留めた事なかった。なんか大体アメリカンドッグ売ってて、清掃剤の薬品の匂いで気持ち悪くなる場所だった。
お昼休み、向かいのデスクの方となんとなく話をして、その流れで一緒にスタバへ行くことに。 酷暑なのでお散歩に行くのは気が引けていて、でもどこで何をしていればいいのかわからなくなっていたので一緒に時間を過ごせてもらえて助かった。 と、いうか、ドタキャンを2回もしてしまった過去があるのに、こうやってお昼を誘ってくれてありがたいな〜と、久しぶりホットのチャイティーラテを飲んだ(学生時代、水野しずのしずラテ(ホットのチャイティーラテ豆乳へ変更シロップ半分シナモンパウダー追加)をよく飲んでいた。)!
やっぱりご飯を食べられていない私に、デスクへ戻ったあと「これなら食べられますか?食べないと心配!」とビスコを一袋差し出してくれる。
この週末は3連休が待っていることに気がついて、少し焦っている。
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7月11日 サーキュレーターを買おうか迷い中だけれど、この迷いはAmazonプライムセールに誘導されているだけの気もする。
川上さんのエッセイと女性作家のエッセイや短歌集の本が届く。楽天お買い物マラソンに参加してしまった。
職場にはいろんな人がいろんな思惑で仕事をして、同じ日本円の金を手に入れている(金額はまちまちだけれど)!と改めて実感した日だった。 いろんな星があるね、って思ってしまって、今は写真のことや暑さのことや身体のことがあって、仕事に割いてる人生は17.5%(いつもは20%)。 なるべく今年度は有給を使って持ち越せなかった分を出さないようにします。
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7月12日 サーキュレーターを買ってしまった! そのほかセールの日用品を購入して、ふと、amazonのセールっていつも同じものばかりセール品になる気がする。もっと楽しいセールのお買い物をしたくなる。
今週末、特に海の日、誰かと少しだけお茶をしたり美術館に行ったりしたくなり、でも当てを頼っては振られてしまい眼鏡を割り続けている。
今日はロキソニンを飲んだからか、ずっとぼーっとしながらも色々お仕事を進めることができた。
高校の進級や卒業が危うい娘・息子を持つ親達の職員さん達の話が飛び交っていて、でもみなさん意外と我が子の人生を「厳しい道を選んじゃってるな〜」とか言っていてあまりピリピリしていなかった。親からしたら子供の人生ってそんなものなのかしら。
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7月13日 昨晩私でも知っているタレントの方の急逝についてNHKのニュースから流れてきて固まった。 死は怖いことでもなんでもないのに。そのタイミングが早いか遅いかだけなのに。 それで、ちーちゃんがこないだ、お部屋が汚すぎてこれを残して飛び降りることはできない!と言っていたのを思い出して、死ぬってそれくらいの事でいいんだよね、と思ったりした。 掃除ができるかできないか、死ぬか死なないか。
でも、どんなにその人にとってポジティブな選択としての死だったとしても、残された側での憶測は飛び交うばかりで、死んだあとに、あ〜〜そういうことでなくて…!となってしまうのが嫌で(そもそも、死んだ後も天国で生き続けている?みたいな話は違うと思っているけれど)、私はできる限り生きていたいかもしれない。 それで、毎日とても気をつけて、死なないように気をつけているよ。
朝の電車で、川上未映子さんの深く、しっかり息をしてのエナジードリンクのエピソードを読んで、今の職場の方を思い出す。 その方は3月に入職してから、たびたびお休みをしていて、最近も体調不良でほとんど出勤できていない様子。出勤してもうつらうつはしたり、iPhoneを触っている様子が目立ち、周りの人にとっては簡単な入力作業もままならない感じで、みんな少し呆れてしまっている節があった。
たまに給湯コーナーで会うとお話しできて嬉しい、と言ってくれて、おしゃべりは好きなみたいで、私はいつもカラコンが似合ってるな〜、と思ってその場はなんとなくおしゃべりしていた。
そういえば彼女も息子さんがいて、私と2歳違いくらいだけれどもう小学六年生になるとか言っ��たっけ、と、彼女も昼休みが明けるといつもデスクにエナジードリンクを置いていたっけ、と、川上さんのエッセイと通じる部分があり思い出していた。
同じ職場で働く身としては、なるべく戦力になって働いてほしいけれど、でもそれ以上にそれぞれの星を守ることを大切にして欲しいかも。
なんで真面目に働けないの?と、私も思っていたけれど、お仕事は、自分の得たい生活以上に頑張りすぎてはいけないし、本を読んだり映画を見たり美術館に行ったりして、他の世界に触れておかないと星が死んでしまう。危ないところだった。
でもまた明日もし彼女の休暇の連絡を受けたら、やれやれムードを職場の人たちとやってしまうんだろうな。
午後の打ち合わせで、集中治療室の新生児と対面して、生命そのものみたいで戸惑ってしまった。
色々気持ちが落ち着かないので三連休が怖い。
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7月14日 少し涼しくて朝起きて4:30でも絶望的な疲労感がなくて、大丈夫な身体の調子の時に、やっぱりギリギリじゃないことが少し怖くなる。体感が麻痺している。
エナジードリンクを飲んでいる職員さんから、今日もお休みの連絡が入り、8月末までお休みされるとのこと。
お昼休みに1ヶ月後の旅行のために新幹線のチケットを取ろうとしたけれど、確定ボタンを押してカード会社のアカウントへログインしてまた確定ボタン画面へ戻る、をループし続けてしまい予約できなかった。 あとお散歩していたらカラスがぱたん、と倒れていた。
以前の上司から、某タレントさんが死について「彼が死を選場なくてはいけない世の中なんて悲しすぎる!」と、話しかけてもらう。 今の上司からナタデココブームは平成5年に会ったことを教えてもらう。
絶望的に疲れていないけれど、平たく積み重なった疲れ感と退屈感があって、やっぱりこの週末が不安なので、よく眠ろうと思う。
帰り際に向かいのデスクの方から、満点でなくて良いから、誰もが認識できる程度のミッキーを、誰もが描けるようになる職場環境をつくろうマイスターの研修を受けたエピソードを聞いた。
リップヴァンウィンクルの花嫁がYouTubeで配信されていたので、今晩は流しで過ごそうかな。
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tanakadntt · 1 year
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唐澤さんオタオメ〜
シリアス
大人のする未来の話
一 未来の話
「三輪くんは幹部候補じゃないよね」
問われた三輪秀次は何とも言えずに無表情で彼を見返した。
実際、何も言えない。わからない。わかるわけもない。
いや、どうだろう。遠征選抜試験の直前である。
隊員である自分には全容は明かされてはいないが、伺い知ることのできる内容を鑑みるにわかっておかないといけないことのようだ。
ボーダー内での自分の立ち位置、自分の能力、自分の意志をはっきりと認識しておく。
ロジカルにもフィジカルにもメンタルにも厳しい試験だ。三輪隊では、古寺の一次試験からの参加が既に決まっている。古寺頑張れ。古寺偉い。お前ならできる。
黙っているのをどう受け取ったか、
「そんなに警戒しないでも」
同じ城戸派だろと唐沢克己はニコリと顔に屈託のない笑みを乗せた。
まだ、誰も��ない会議室だ。出張から今朝帰ってきて時間が中途半端に余っちゃってね、早めにきたのだと言う。三輪は会釈をして壁際に立った。
あまり唐沢と話したことはない。苦手ではない。話すことがないだけだ。忙しい人であるし、接点も少ない。この人のおかげでボーダーがまわっていると皆が口を揃えて言う。三輪もそう思う。ボーダーがボーダーたり得る体裁を保っていられるのはこの人の働きによるものだ。
そして、今回の選抜試験の最終的な決定権を持つ一人でもある。A級部隊は正式には戦闘試験からの参加となるが。
この質問は、試験の一環なのだろうかと三輪は考えた。参考程度の。
「上層部の決めることです」
「自信があるんだね」
そう返されて、戸惑う。挑発的とも取れる言葉と裏腹に唐沢からは敵意は感じられない。むしろ、彼は不思議そうに首を傾けた。
「君はここについて知らないことが多いだろうに」
「……」
ボーダーには、旧ボーダー時代に繋がる秘密がある。古参隊員と言われる自分でも触れられない部分だ。
上層部と、さらに昔から在籍する者たちがその秘密を共有している。
その僅かな人間同士は、化かしあい、足を引っ張り合っているのを三輪は知っている。だから、深く知らないほうがいいと思っていた。
あの人たちが仲がいいのか悪いのか、いつも判断に苦しむ。真剣ではあるが、彼らの化かし合いは時として楽しそうにも見えるのだ。
現に目の前の唐沢など生き生きとしている。三輪は唐沢が自分との会話の時間を取りたくてわざと早く来たのだとようやく悟った。
「隊員ですから」
知る必要がないと判断されたら、知らないままでよい。
言外に伝えると、
「殊勝だねえ」
と笑われた。
「期待してるんだよ、頑張ってよ城戸派筆頭」
城戸派閥最大の人物はあなたではないかと言いかけて、三輪は黙った。
「未来の話だよ」
急に唐沢の体が大きくなってその影に入った気がした。
「ねえ、君、幹部候補じゃなかったら何だと思ってる?」
ニ 大人の話
唐沢克己は林藤匠を待っていた。
本部地下の駐車場へ続く廊下である。会議は遅くまでかかった。この時間は歩くものはいない。
「唐沢さん、何か…?」
「長期遠征選抜試験の前にね、ちょっと」
唐沢は話をしませんかと誘った。
駅前のコーヒーショップは酒類も出すから遅くまでやっていて、しかも喫煙席がある。年々、愛煙家は肩身が狭くなる一方だから、貴重な場所だ。唐沢は根付に苦い顔をされながらも本部建物内喫煙を死守している。林藤玉狛支部長は貴重な煙吸いの同士であった。
コーヒーを飲みながら煙草を吸う、という一見器用な真似を
しながら、唐沢は口を開いた。
「今回はお金を遣いますよ」
「ああ、まあねえ」
メディアの前で大々的に打ち出した長期遠征のことである。
のんびりと林藤は煙を吐き出す。
元々、ボーダーはお金を浪費するばかりの組織だ。近界の技術や情報を小出しに売ってもこちら側には役に立たないことも多い。玄界は役に立つことが金になる世界なのだ。
遠征の予算を計上した結果、はじき出された莫大な金額を思い浮かべた。
「でも、唐沢さんなら大丈夫でしょ」
林藤が続けると、私が何もしなくてもお金は入ってきますと唐沢は肩をすくめた。
「遠征とは随分魅力的な言葉らしくてね。
目ぼしいところはみんな我先に出してくれます。乗り遅れたくないんでしょうね」
支援者は国内だけではない。企業だけでもないことを唐沢は告げた。
思いのほか、でかい話になったと林藤は思う。
近界は、もはや得体のしれない異世界ではなく、利益を生み出す可能性を秘めた新天地であった。利権争いはもう始まっている。玄界は役に立つことが金になる世界なのだから。
拉致被害者の救出を掲げた遠征がどのような結果で終わろうとも、一度出来た道は閉じない。近界もこちら側も今までと同じではいられないだろう。トリオン研究も金があれば、さらに進む。
この遠征をきっかけとして、二つの世界は大きく変わっていくはずだ。
「この流れを作ったのが、わずか十五歳の少年とは、」
「随分、三雲を買って頂いているようですが」
林藤は唐沢の言葉を遮った。が、彼は構わず続けた。
「あの年齢であの胆力、気に入っていますよ。いやはや、先が楽しみだ」
唐沢は本当に楽しそうに最後まで言ったあと、不意に話題を変えた。
「遠征試験は幹部候補の人選も兼ねていますけど」
「そうですね」
唐沢は少し声を小さくした。
「僕も卒業の準備かなと思うわけです」
「ご冗談を」
林藤は二本目の煙草に火を点ける。唐沢との密談はたまにある。一方的に彼が誘い、本部側の情報を伝えて終わる。その情報に見合うだけのものを彼が欲しいときだ。
「外務部長のお仕事がさらに忙しくなるのはこれからでしょう」
「だからこそですよ。何事も準備がものを言います」
唐沢の言い分にも一理ある。支部長は気楽でいいと林藤は思ったが、心のうちに留めておいた。
そして唐沢は意外なことを言った。
「今度の遠征試験で見つけられたらと思ってますよ、僕の後継者を」
「後継者ですか」
五年近く前に城戸に請われて来た仕事請負人だ。請け負った仕事が終われば、いつかいなくなるかもしれないと思っていたが、後継者とは。
「唐沢派の誕生ですか?」
揶揄すると、動揺もせずにニコリと笑った。
「とんでもない。ボーダーに拾われて五年、城戸さんの元にいて考えを改めることもあってね、僕なんぞでも若者たちに残せるものがあればと思いまして」
若者たちの将来にね、と唐沢は言う。
若者のためと言いながら、辞めていく隊員の記憶操作をし、三雲を利用しようとする。二枚舌も甚だしい。林藤は本部の、城戸のやり口が嫌いだ。
わずかに眉を寄せて不快感を示した林藤にお構いなしに、唐沢は続けた。
「それで、城戸さんは誰を後継者に考えてるんでしょうね」
「先ほどね、会議前にちょっと三輪くんと話したんです」
話題転換が多い男だ。三輪秀次もまた利用されている子どものひとりだ。あれよあれよと言うに城戸派筆頭などというものに祭り上げられている。
「僕たち、こんなに先のことを考えてるのに今日、三輪くんと話したら、先のことを考えてないって言うんですよ。ただ、高校卒業後はボーダーに専念したいと」
参ったなあ、と煙草を持った手で形のいい眉毛をなぞる。そんな仕草が似合う。唐沢は伊達男だった。
「若者の特権ですよ」
「木ばかり見て森を見ない」
「それも特権です」
恐らく二つの未来があるんです、と唐沢は続ける。
「交流が始まっても、いや始まるからこそ、紛争が多発するのはどこの世界でもそうでしょう」
政治は血を流さない戦争であり、戦争は血を流す政治であると言ったのは誰だったか。
「ポストボーダーの未来の一つは現ボーダーをさらに拡充し、あちら側からの防衛を全世界に広げた機関」
地球防衛隊ですね、と呟く。その言葉はひどく滑稽に聞こえた。
「そして、もうひとつ。現在とまったく違うボーダー。
僕がここに呼ばれたのは、元々、民間組織として独立するためです。
ボーダーが民間組織である必要性を常々考えているんですよ。
国家に所属しない何か。こちら側にもあちら側にも与しない。
それはもう第三勢力と考えてもいいんじゃないですか」
「実は、僕は城戸さんは防衛機関をさっさと誰かに譲って、そちら側に行ってしまいたいんじゃないかと思ってる」
「旧ボーダー、現ボーダー、ポストボーダー」
歌うように唐沢は単語を並べた。
夢のような話だ。林藤は釘を刺しておくことにした。
「後継者を三輪とお考えのようですが、彼は選択外でしょう。未熟ですよ。もっと向いている人材はたくさんいる。幹部の中からさらに選ぶという選択肢が現実的ではないですか?」
「今のところ、城戸さんに一番考え方に近いと周りに認識されているのは三輪くんでしょう。あの通り、素直で真面目な子だ。城戸さんのやり方をそのまま残せる。近界民への敵意が難点でしたが、それも最近は落ち着いてきたようだ。
なに、若者はいくらでも伸びしろがありますよ。それに、貧乏クジを引いてくれそうな人物を考えていくと…」
「貧乏クジですか」
「貧乏クジでしょう」
唐沢はニコリと笑う。
他をあげるとすると、と続ける。
「唯我くんも候補にあがっていると言う話がありましたが」
「知っています」
林藤は固い声で答えた。
唯我尊がボーダーに入隊するにあたり、検討された事項である。
「ご実家の意向ですね。尊くん自身の適性というより利権の話になる。ここまで話が大きくなると、ボーダーを支えるのが唯我グループだけでは弱い。それに、組織が一企業に下るのは、林藤さん、あなたが許さないでしょう」
「…もう、事実上そうなっているでしょう」
そうおっしゃる? 私の力不足ですね、と営業部長は頭を下げた。
「ね、だから、貧乏クジなんです」
「あなた方はずっと喧嘩をしていらっしゃる」
「……」
誰と、とは聞くまでもない。林藤は否定はしなかった。
「あなたには、迅くんがいる。
それだけでも大きなアドバンテージを持っていらっしゃるのに、まだまだ満足されない。あの可愛らしい殿下のことは別としても、最近では、ヒュースを手に入れた。本部が排除できないように非常に巧妙に。
何より、空閑です。黒トリガーを持っている。最上氏の忘れ形見だ。実動部隊に影響力の大きい忍田さんは必ず空閑の味方になる。
そして、あの近界民が言うことを聞くのは三雲くんだけじゃないですか」
「あなたが三雲を評価するのはそのためですか?」
「普通の子ではできませんよ」
唐沢は悪びれもせずに言った。
「それだけじゃない。
風間くんは三雲くんに好意的だ。太刀川隊の、出水くん、唯我くんの弟子になったのは大きい。雨取くんのことで、東くんとも縁ができた。
鬼怒田さんは技術者だ。自分の能力が存分に振るえる場があれば満足する。そうだ、あなたにはもうひとり近界民がいましたね。根付さんも三雲くんを認めている。もちろん、僕も。
彼には大いに期待してるんですよ」
「大の大人が中学生に何を期待するのです?」
「ポストボーダーですよ」
ねえ、林藤さん。唐沢は肩をすくめた。
「子どもを利用するのはおたがいさまではないですか」
「…一緒にしていただいても困りますね」
「…喧嘩でもないんですよ。主義主張の違いという奴でね」
目指すものが違いすぎるのだ。
「喧嘩ですよ。あなた達は歩みよろうとしない。お互いに優位を競い合っている。林藤さん、また隠し玉を増やしているでしょう」
「何のことでしょう?」
ガロプラとの同盟の件は迅の予知も使って、慎重に行なった。
これは唐沢のブラフだろうと林藤は踏んだ。恐らく、本部で三雲と話して何かあると感じただけだ。
「結局のところ」
あっさり唐沢は引き下がったが、注意深くこちらを伺っている。
「鍵を握るのはあなた方二人の喧嘩の行方だ」
林藤は、腕時計を見た。
「もう、こんな時間だ。唐沢さんは明日も早いでしょう」
唐沢も客の少なくなった店内を見渡した。伝票を持ちながら、立ちあがる。それでも、なお言葉を紡いだ。
「迅くんにはどう視えているんでしょうね」
けれど、僕達にも見えますよね、未来。
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dazeheroganma · 5 days
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夢日記
書き溜めたやつの続き。2/2
4/20 月を小学校の先生に似た女性と一緒に追いかけた。月は思ったよりもよく動き、追いかけるのが大変だった。夢中で走っていると夜に沈んだ太陽も見えてきた。と思ったら体が浮き始めた。地球の重力圏からはみ出しそうになった。
6/25 友人と私の3人でとある目的地を目指していた。電車や新幹線を使うとお金がかかってしまうので徒歩で行った。しかし途中の中間地点の駅に向かおうとグーグルマップを活用するも砂嵐に巻き込まれたり蛇の洞窟に入ったり。息も絶え絶えに歩き続けたら元来た道に戻ってしまった。とある大きな勢力がループ構造にしたらしい。(恐らく鉄道会社を掌握しているグループだ)私はここまで散々な目に遭い結局鉄道会社に金に払う羽目になるのが嫌で目的地に行くのを諦めてしまった。
7/10 男性外国人にペットボトルか何かを投げつけられて、私はそれを蹴飛ばして歩いた。外国人はこちらを凝視しながら追跡してくる。怖くてコーヒーショップに駆け込みレジの黒人のお姉さんに「Help」と言った。レジの奥に男性が2人くらい見えた。お姉さんが無反応だったからもう一度でたらめな英語で助けを求めたが、奥の男性の1人が「分かっている」と言い追跡してきた外国人の方を見ていた。
8/7 ドアが壊れてしまった。虫がたくさん入ってしまう。途方に暮れているとある男がやってきて直すのを手伝ってくれた。この男はすらっとした体格で妖しい色気を持つ、まるで漫画の黒幕キャラのような男で、実際女性を騙しては殺していると専ら噂されている。 ドアが壊れる前、駅ビルにあるカラオケに行かないかと高校の同級生に誘われたが、それを乗り気じゃないのを用があると偽って断り、帰る準備をしていた時どこからともなくこの男が現れ優しい言葉をかけてきた。 私もいつかこの男に殺されると分かっていながら、でも心の片隅で自分は特別で殺されずに済むかもしれないという期待���していた。
9/4 コンビニとケンタッキーと教室が一体化したような建物の部屋で泊まっていた。何かの旅行の最中だった。 机で寝て起きたら部屋の前の方にあるレジが開店の合図を出したので、喉が渇いたから爽健美茶の500mlと、レジでホットスナックを買おうと思った。他の宿泊客で混み始める。私が行ったレジはやたらカウンターが高くて大変だった。「ファフィ」なるチキンを頼む。店員と雑談をする。自動車免許を持っていないと言うと信じられないというような顔をされた。 お店を出るとそこは高架線の下にある原っぱだった。向こう側には川が見える。まだ朝だったので辺りは薄暗く霧がかかっていた。近くにバス停がある。あれに乗って次の場所に行く。私は二度と会えない人々と話をしてしまった事が少し悲しかった。
9/18 海岸沿いにある観光名所に大人しくて独特なリズムを持つ男の子と一緒に来ていた。バーやコーヒーを売っている所。ブラジルのコーヒー豆も売っていた。高級で期間限定のお店もあった。黒い外装にワインや肉が並んでいて、テラス席には大人たちがたくさん食事をしていた。屋台街を抜けると海岸で、海の向こう側の岸に廃墟のような大きな岩でできた建造物があった。2人で見ていたがふと私はここに学校をサボるために通っていたことを思い出した。
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10/10 盗賊の白人の老夫婦を車に乗せて盗みのターゲットである場所に行き敵対勢力との銃撃戦に巻き込まれた。私はただ台風を避けてさっさと家に帰ろうとしていただけだった。
10/27 火星へ人類史上初めて足を踏み入れる事になった。真夜中、数人の子供と研究者らしい大人数人とロケットに乗り地球を出発した。ツイッターでその事を呟く。ロケットは3部屋に分かれていた。ロケットはすごい回転をしてあっという間に大気圏を抜けて月を通過した。月からは私は眠っていた。寒かった。 火星に到着すると私たちはロケットから降り、火星の地を踏みしめた。夜だった。荒っぽい灰色の大地にロケットが駐車場のように白い線で区切られたスペースに停まっている。船員の内の誰かが発した「地球とそんなに変わらないな」という一言をきっと誰もが心の中で思ったに違いない。 2回目の火星訪問。ガラス張りの建物の6階から続く渡り廊下を抜けた先に小部屋があり、そこがロケットの搭乗口に繋がっている。前と違う所に降りたのか、今度は人工物がたくさんあるところだった。多分研究施設か、火星移住計画が完成した暁にはターミナルになる場所。遠くにテーマパークのようなものや海まであった。写真を撮ろうとしたら建物の隙間にスマホを落としてしまった。世話好きの女の子(どうやら私は世話の焼ける子として周知されているようだった)が取って来てくれた。
9/8 潜水艦に乗っていた。水没した東京の駅近く水没する前に残された未知のものがあると地図に記されていたため、それを調査しに行く調査団に同行した。船の中は薄暗くて寒い。船の燃料が尽きそうだった。狭い隙間(地下鉄の改札へ行く地下通路だった所だろう)を通り、ようやく水面に船が顔を出した。果たして地図上に書かれていた場所には開発途中で放棄された土地があった。何かの記念館を建てる予定だったのだろう。地面に枠組みの残骸と道路の標識看板だけが転がっていた。船員達、とくに船長はがっかりしていた。私も内心肩透かしを食らっていたが、前々から噂で東京の鉄道記念館が建つ予定だった土地だと聞いた事があり、その確認ができただけ収穫はあったと言える。私は標識看板を手に記念撮影をした。発見を喜ぶフリをした。次の冒険に繋がるものがここには何も無くて、それだけがつまらなかった。
6/22 トンボの翅を学校から受け取って、トンボになりきれる能力を得た。昆虫を食べる。特にカブトムシの幼虫が美味しかった。そのままトンボの一生を終え、再び人間に戻り、次は蛇を学校から受け取って蛇になりきった。妹も入学してきて同じように蛇を貰った。黄緑色の蛇だった。いつも通りエサの昆虫を食べるとあまり美味しく感じられず、虫を見ても食欲が湧かなかった。なりきりに失敗したのかもしれない。貰った蛇に左手の親指と人差し指の間を噛まれた。
7/14 祖父の車に乗って祖父母が住んでいる土地へ向かった。妹と母も一緒だった。団地に囲われた見慣れない一軒家に入り、その裏庭に生えた白くてつるつるした裸の木の側に置いてあった椅子に座り、談笑しながらトマトやぶどう、リンゴなどを食べた。知らない男性がトマトを渡してきた。少し汚れていていかにも自家栽培といった風情のトマトだった。
12/12 白い犬が道路に飛び出しどこかへ行こうとしている。その犬は生霊の様に透明で、その後ろにあった一軒家から同じ見た目の生きている犬とその飼い主らしき高齢の女性が出てきた。私は生霊の犬が何か強い意志を持ってどこかへ行こうとしているように見えたので、女性に声をかけようとしたが何て言えばいいのか分からず、結局そのまま声をかけられず仕舞いとなった。
2/22 母と2人で神社のような所にいた。色々な展示物を見ながら一方通行の道を進む。母が後ろを尾けてくるモノに気付いた。水色の鳥の仮面に黒いローブを纏っていて、気付くとこちらに向かって走り出してきた。大きな鷲のような羽も生えていた気がする。こちらも羽を出して飛んで逃げる。その様子に気付いた他の参拝客達がその水色のモノを取り押さえていた。そのモノは押さえられる際刃物で刺されたようで、抵抗する力がどんどん弱まっていくのを冷めた頭で見ていた。
4/28 知らない仕事内容の事を詰められて困った。とりあえずスプレッドシートの数字を参考にしながら半紙を切る。上司は焦っていた。
5/8 油絵を2枚描く夢を見た。1枚目はデジタルで描いたような絵。青や赤を置いて後から白で上塗りして良い感じにする算段だった。2枚目は傷口の絵を一旦描いて、その上から白で塗ったり被せたりして治癒する作品。傷口の段階はグロいので周りの人々への配慮で、描いている部分以外の箇所には布を掛けて隠しながら制作した。
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mustachekiwi · 1 year
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水色のランドセルでヒョードルの夢を見る
言ってみろ、お前のお空は何色だ!
通っていた保育園の卒園アルバムの表紙には、園児がそれぞれ自分で描いたイラストが使われた。一人一冊、オリジナルのアルバム、なかなかオサレである。
1990年代当時、跳躍力といえばシカゴ・ブルズのデニス・ロッドマンか私か、という時代であった。私は自分が跳び箱を勢いよく飛び越える絵を描き、空を黄緑に、雲を水色に塗っていた。
すると先生が来て「ねえ、青空っていうくらいだから、お空は黄緑じゃなくて青じゃない?」と言った。
その頃、画家である父親が開いていたお絵かき教室に通っていた私は、その言葉に眉をひそめた。父はいつも「手を抜くな、てきとうに描くな、丁寧に描け」と口を酸っぱくして言っていたが、「○○は××色で塗れ」などと言ったことはなかった。だいたい、どうして先生に見えている空の色が、私にも同じように見えていると思っているんだ。空はいつでも青いわけではない。私は黄緑の空を見た。確かに見た。見たんだもん。トトロいたもん。先生がそういう空を見たことがないだけだろ。
当時”悪童”といえば、ロッドマンか私かという時代であった。ロッドマンは「さすがにレインボーの髪はおかしいんじゃない?」と誰かに言われてもそのクレイジーなスタイルを決して崩さなかっただろう。私も己の信念に従い、空を黄緑色に塗った。6歳の私、グッジョブである。自分で自分の色を選ぶということは、小さな人(子ども)にもできる、数少ない自己表現だ。幸い、家の中では、父も母も、青や水色のような「男の子の色」が大好きだった私に「女の子の色」を押し付けてくることはなかった。
だからこそ、家の外へ一歩出た時、周りの人間が私の選ぶ色について「女のくせに」と言ってくることは、耐え難い屈辱だった。
まともな奴ほどFEEL SO BAD!
卒園後、私は自ら選んだ水色のランドセルで小学校へ通った。
今でこそランドセルのカラーバリエーションは豊富だが、私が小学生の時は、男児は黒か紺、女児は赤かピンクで、それ以外の色はほとんど見なかった。当然、水色のランドセルは目立った。
「お前、女のくせになんで水色のランドセルなんだ」
同じ登校班の子供たちや、同級生、知らない上級生にまで色々言われてからかわれた。
言われたらとりあえず暴力で応えた。殴る蹴る首を絞める。「力こそが正義!私はこの水色ランドセルに全てを懸ける運命の『殉星(※1)』!」とまではいかなかったが、とにかく、私はまことに暴力的な女児だった。
この腐敗と自由と暴力の真っただ中の小学生時代、自分の好きな色を選ぶ権利を認めさせるために私は”たっぽい”になる必要があった。
”たっぽい”とは、TOM★CATが歌うアニメ『北斗の拳2』の主題歌『TOUGH BOY』に由来する言葉で、「たふぼーい」の「ふ」と「ぼ」が重なって「たっぽい」と空耳することから、この楽曲自体をそう呼ぶ。
つまり、小学生の私は誇り高き水色のランドセルの持ち主として、北斗の拳の世紀末の世界のような小学校時代を生き抜くべく、たっぽい(=タフなボーイ)となることを選んだ。私は誰かにからかわれて泣くような軟弱な人間じゃない、その辺の女子と違って水色のランドセルを選ぶ、たっぽいなのだ、と。もちろん、小学生当時の私は「たっぽい」という言葉は知らなかったが。
思い返せば、この経験が私の「女」としての自意識を歪ませ、「女」として扱われることに対する嫌悪感を抱かせるきっかけとなったのかもしれない。
60億分の1の男ッッ!!
思春期ど真ん中、中学生の私は父の影響で格闘技を見るようになった。 当時はPRIDEやK-1が大人気で、強い選手がばんばん日本に来て試合をしていた。ゴールデンタイムにもしょっちゅう試合があって、なぜ人が殴り合って血を流しているところを見ながら食事をするんだと、母にはけっこう嫌がられていた。
学校で仲のいい女友達にPRIDEやK-1を見ている子はいなかった。代わりに、別に友達でもない隣の席の男の子と時折、格闘技の話をしていた。
中でも私が夢中になったのが、ロシアの格闘家、エメリヤーヤンコ・ヒョードルである。格闘家には二つ名というかキャッチコピーみたいなものがついている。たいてい、出身地や生い立ち、外見、ファイトスタイルから名付けられ、ヒョードルもその氷のように冷たい瞳や、表情一つ変えぬクールなファイトスタイルと圧倒的な強さから「氷の皇帝」とか「ロシアン・ラストエンペラー」などと呼ばれていた。
しかし、彼の最も象徴的な呼び名といえば間違いなく「60億分の1の男」だろう。当時の世界人口およそ60億、その全員が武器を持たずステゴロでやり合った時、誰が一番強いか、その答えがこの男だッ!というニックネームである。
めちゃくちゃかっこよくない?
格闘家は試合前に睨み合ったり、言葉や態度で相手を罵ったりする、リング外でのパフォーマンスを見せることもあるが、ヒョードルはそういう”味付け”なしで、ただリング上での強さのみで観客を虜にする。シンプルな黒のパンツ、うすく脂肪の乗った理想的な体型、無表情な顔に冷たく光る氷の瞳。いざ試合が始まれば、そのクールな表情はそのままに、圧倒的な強さを見せつける。ヒョードルこそ、私のなりたい”たっぽい”の究極形。地球上で最もタフで強い人間。それが、60億分の1の男。
ある時、こんな調子で私がヒョードルについて熱く語っていると、いつも話し相手になっていた隣の席の男の子に「なんで女のくせにそこまでして男みたいになりたいん?」と言われた。
最初は意味が理解できなかった。しかし、どうやら彼の目には私が「必死に男についていきたくて、格闘技の話をしている女」と映っていたらしい。なんてこったい。恥ずかしい、悲しい、悔しい、むかつく……負の感情の詰め合わせが出来上がった。「お心遣いありがとよ。これは私からのほんのお返しだッ!!!」と重い一発を熨斗つけて食らわせてやれればよかったのだが、中坊の私は深く傷つき、そのまま黙り込んでしまった。
心の中では「ほらね、女のせいで、また私が馬鹿にされた」という声が響いた。そうか、「男の趣味」に興味を示すと、こんな風に扱われるのだな。私はまた一つ女が嫌いになった。
女には「本物」がわからない?
隣の席の彼は、まるで格闘技を好きでいることは男の特権のように言う。これは、格闘技だけの話ではない。スポーツ、車、プラモデル、歴史、こういうものは「男の趣味」と見なされて、つい女ごときが興味を持とうものならめちゃくちゃにマウンティングをかまされる。頼んでもないのにレクチャーをされる。挙句、「彼氏の影響?」などという屈辱的な言葉を浴びせられる。
何より、コンテンツを作る側も一緒になって、女はファンとしては二流だというメッセージを発信してくる。
『PSYCHO-PASS』というアニメ作品が結構好きだった。大変な人気作で、映画化もされている。周りにもファンが多い。
2014年にこの映画の舞台挨拶が行われた際、総監督を務めた本広克行は、会場にたくさんの女性鑑賞者が来ているのを見て次のようなコメントをしている。
「こんなはずじゃなかったんです。男が観る物語としてどれだけ骨太の物語のSFを作れるかというのでやってたつもりだったんです。ほとんど女性じゃないですか。『萌え禁止!』とか言いながら作っていたんですけど、残念です(笑)」 出典:https://news.nicovideo.jp/watch/nw1374107
はて。
【骨太】 [名・形動] 1 骨が太いこと。骨格のがっしりしていること。また、そのさま。「骨太な(の)からだ」⇔骨細。 2 基本や根幹がしっかりしていること。構成などが荒削りだが、がっしりとしていること。また、そのさま。「骨太の改革案」「骨太のドラマ」 出典:https://kotobank.jp/word/%E9%AA%A8%E5%A4%AA-631150
【骨太】という語には「ぽこちんが付いた人向けの」とか「社会的に男性として生きる人向けの」とかそういう定義でもあるのかと思わず辞書を引いたが、どこにもジェンダーやセックスに触れる記述はない。「私の辞書には『ぽこちんが付いた人向けの』とありました!」という人がいればぜひ知らせてほしい。
しかし、どうやら本広克行の辞書ではそう定義されているらしい。彼の辞書で【女】を引けば「骨太の作品が理解できない生き物」と書かれているのかもしれない。
これは本広に限ったことではない。女性が「男の趣味」に足を踏み入れると、よくこういう言葉を向けられる。
他にも、大好きなプロ野球OBのYoutubeチャンネルを見ていると、「このチャンネルの視聴者は9割男性だそうです。もう、女性ファンはあきらめましょう。男性のための◯◯チャンネルを今後もよろしく!」みたいなことをなぜか嬉しそうに言っていた。女性ファンが少ないことを自虐っぽく言いつつも、内心は「骨太」のファンに愛されていることを誇りに思っているのが透けて見える。吐き気がするぜ。心底女性ファンなんてどうでもいいと思っているんだな。
「男の趣味」に興味を示すと、女の「好き」は浅いと思われる。イケメンが好きなんでしょ、BLが好きなんでしょ、流行ってればなんでもいいんでしょ、そういう扱いを受け続ける。
女性に人気がある俳優が一生懸命下ネタ言って男性視聴者に”アピール”したり、女性ファンが多い芸人は「ワーキャー人気」と呼ばれて見下されたりするのも、根っこはみんな同じだ。男性から支持されないものは二流だと信じてる人は、みんな必死で自分が誰かのぽこちんを刺激する「骨太」な「ホンモノ」なんだと主張する。そうして、女性ファンをいつだって二流扱いする。
女嫌いの女を育てる社会
中学を卒業するころには、私はもうすでに「女」という性が、二流で、ダサくて、「ホンモノ」にはなれない性だと信じ込んでいた。女らしくなれば、見下される、強く賢く本物であることを示すには、もっと男に認められなければならないと本気で思っていた。
自分が「その辺の女の子」だと思われたくなくて必死だった。私はあの子たちとは違う。きゃぴきゃぴはしゃぐ、普通の女子じゃない。私は特別なんです、女だけど普通の女の子とは違って、ちゃんと個性を持って生きています。ピンク色なんて女の色、選びません。格闘技だって、本当に好きなんです。男の人が見るような目線で、スポーツを見ているんです。だから、私は、「その辺の女の子」じゃないんです。
こういう感覚をどんどん内面化させていくと、自分の好きなものを言うことが怖くなってくる。それが好きかどうかではなく、男に認められる行動かどうかが基準になってくるのだ。
私は当時のK-1MAXに好きなファイターが3人いた。初代王者のブアカーオ、無冠の帝王と呼ばれた武田幸三、そしてウクライナのアルトゥール・キシェンコである。私はK-1の話をするとき、男友達にはキシェンコのファンであることはなかなか言えなかった。キシェンコは”美しき死神”というキャッチコピーで、いわゆるイケメンファイター的扱いをされていた選手だったからだ。もし、キシェンコファンだと言えば、ミーハー扱いされる、顔ファン扱いされる、という恐怖があった。今考えるとクソしょうもないことだが、当時の私には大きな問題だった。
「男の色」である水色を選んだり、「男の趣味」である格闘技を好きになったりすると、「女のくせに」が目の前に立ちはだかる。男と同じように好きなんだと証明したくて、好きであることではなく男に認められることを求めて、私と私以外の女に線を引く。私以外の女は、弱くて、かっこわるくて、表面的で、「ホンモノ」じゃないと憎む。私は、そうじゃない。
女なんか大嫌いだ。女なんかに生まれたくなかった。女のせいで、私まで馬鹿にされる。15歳の私の心の中で、女性嫌悪はますます大きく膨らみ続けた。
女嫌いの女は、こういう環境に揉まれてすくすく育っていくのである。
「女」は「人間」
私は市外の高校を受験した。「国際○○科」みたいな名前の学科だが、ベースは商業科、簿記や情報系の資格をたくさん取るコースで、普通科に比べて女子の割合が多かった。(ちなみに同じ高校に音楽科もあり、そこは私の在籍した学科以上の女子率だった。)
自分の希望通りの学校に合格できて大喜びしていた反面、女子生徒の割合が高いクラスに入ることにかなり抵抗を感じていた。なんたって、この時の私は徹底的に「女」を見下していたからだ。
しかし、しばらくしてその意識が変わっていくのを感じた。40人中33人が女子というクラスの中で、私は「女子」としての自分より、一人の「人間」として生きている感覚を得られた。女だらけの環境にいると、なぜだか女が強調されることが少ない。クラスメートも私を「女子のクラスメート」ではなく「ただのクラスメート」と扱っている感じがした。
むしろ男子生徒のほうが、男性性を強調される場面が多く(それはそれとして問題なのだけど)、小中学校時代とちがって「女のくせに」と言われることもほとんどなくなった。それがとにかく生きやすかった。
クラスを一歩出て、普通科の仲間たちとごちゃまぜになる部活では、幾度となく「女」が強調される場面があったが、クラスに一度戻ると、自然と「女」という色が消えて、一人のただの高校生として生活の中に溶け込んでいく自分を感じられた。
資格試験や勉強にも熱心な学科だったので、がんばった分だけ先生に認められたし、将来を期待されるような言葉をかけてもらえ、私は家庭以外の場所で、初めて「女」から解放された気がした。
それと同時に、「女」に対する自身の偏見からも少しずつ解放されていった。私が一括りに「その辺の女子」と思っていた同い年の女の子たちは、誰も彼も個性的で、変わっていて、カラフルで、ちょっと可笑しなところがあった。誰一人として、小さな「女」という枠に収まっている人はいなかった。「女の子らしさ」という箱の内側にも外側にも自由に行き来して、楽しそうに、悩みながら、全力で生きていた。私と同じだった。
3年間担任をしてくれたS先生も自立的な女性で、強い言葉でみんなを励ましてくれるタイプの先生だった。「私、『女の腐ったような』って表現大嫌い。女を馬鹿にしすぎだよね。」と言っていたのをよく覚えている。学科長のK先生も女性で、簿記などの専門科目を担当している学科の他の男性3人の先生よりもいつも偉そうで、怖くて、陰で女王と呼ばれるくらいインパクトの強い人だった。「単語帳のページ覚えるでしょ?残ってたら、また見たくなる。だから、どうする?覚えたら食べるねん」などと、とにかくすごいことを言っていた記憶がある。そういう身近な強い大人の女性も、高校生の私にはすごく嬉しい存在だった。
「ヒョードル、かっこいいな!」
2007年の年末、私のアイドル、”60億分の1の男”ヒョードルが”テクノ・ゴリアテ”ことチェ・ホンマンという巨人と対決することになった。チェ・ホンマンの身長218センチに対しヒョードルは183センチと体格差の大きい対戦だった。が、しかし、私はヒョードルの勝ちを確信していた。そして、2学期の終業式の下校中、仲良しの女友達にヒョードルが大好きであることと、その試合が大晦日にあるのでぜひ見てほしいということを伝えた。彼女は「わかった。見てみるね。」と爽やかに答えた。
そして、大晦日の夜、私の期待通り、ヒョードルは大男の腕をあっさりとキメて、華麗な勝利を収めた。やっぱりね、ヒョードルかっこいいね。満足げにテレビを眺めていた私の元に一通のメールが届いた。例の友達からだった。
「試合見てた!ヒョードル、めっちゃかっこいいな!あんな風に強かったら気持ちいいやろうな!」
その時、今まで感じたことのない喜びで胸がいっぱいになった。ああ、「女にヒョードルの良さがわかるまい」と決めつけていたのは、他でもない、自分自身だったんだな。友達からの素直な言葉で、呪いが解けてゆく。
高校時代の女だらけの環境が、私の中のミソジニー(女性嫌悪)を少しずつ溶かしてくれた。自分が「女」ではなく「人間」として扱われたかったように、自分以外の女性も、「人間」として扱われたいと願っている。私が「女」を見下すことで、自分にも自分以外の女性にも、傷を与え、呪いをかけていたのである。もちろん、高校生の私は自分の女性嫌悪に気づくことすらなかった。「あれはミソジニーだったんだ」と認識できるようになったのは、二十歳を過ぎてからのことである。
同じく高校時代、私が周りの友達を「女」ではなく「人間」だと理解し始めたころ、私自身も一人の人間であることを教えてくれた友人がいた。
この友人は私に「君の生き方を見ていると、男や女ではなく、君という性別がこの世にあるって感じがする」と言ってくれた。
「ボーイッシュ」「男っぽい趣味」「意外と乙女チックなんだね」他人が息をするように突き刺す言葉で、私の心は穴だらけだった。その無数の穴を塞いでくれるような大切な言葉だった。
ずっと、自分のことを中途半端な人間だと思っていた。枠の中にある「女」というものにはまりきれず、かと言って心身ともに男ではない。では、私の性別は一体?他の人が言うように、女を捨てた状態なのか?まだ女になれない半人前の状態なのか。いつになったら、私は誰かに認められる性になれるのか。もがきながら生きてきた人間にとって、その生き方そのものを私の性だと捉え、受け入れてくれた友人の言葉は、心からの救いだった。
ミソジニーとの戦いは続く
私は怒りを向ける矛先が、女性ではなく、女性を「ホンモノ」として認めようとしない社会の在り方だと思うようになった。「普通の女子」とか「その辺の女の子」「量産型女子」、そんなもんはいない。私たち女性には、当たり前だが一人ひとり好きな色があって、好きなものがある。自分の意志も意見もある。そして、個性がないと言って女性を馬鹿にするような誰かの無神経な言葉に傷つけられていい存在ではない。
私が水色のランドセルをからかわれて傷ついたのと同じころ、ピンクのランドセルを選んで「やっぱり女の子だね」と誰かに言われ、自分の選択ではなく、女の子としての選択として、個性を踏みにじられた女の子がそこにはいたはずだ。
ピンクのランドセルを否定しても、私の水色のランドセルは決して報われない。セクハラを笑って受け流して耐える同僚を憎んでも、女性を軽視する奴らは蔓延ったままである。
私たちを苦しめる根っこは、いつも同じだ。女という物差しでしか私たちを計れない人々で、女の限界はいつも男よりも手前にあると信じ込ませる連中で、女は男に愛されないと価値がないという呪いをかけてきたクソったれ共だ。
THE BLUE HEARTSの「青空」には、聞く者の心を撃ち抜く一節がある。
生まれたところや皮膚や目の色で 一体この僕の何がわかると言うのだろう
生まれた身体で、性別で、一体この私の何がわかるというんだ。
私は自分が救われたい一心で、自分以外の女の子を傷つけてきた。たくさん見下してきた。でも、自分という存在が特別だと思いたいからと言って、自分以外の女を馬鹿にする必要などない。だから、もう誰の性も否定したくないし、誰の好きな色も馬鹿にしたくない。心無い言動に傷つきながらも、笑って受け流そうとする人の痛みを過小評価せず、その痛みに寄り添って、一緒に抗っていきたい。
女を苦しめる連中は、自分たちが勝手に作り上げた「女」という枠からはみ出した人間を見ると、「女を捨てたのか」と言って嘲笑う。私も大げさではなく、100回以上言われてきた。セクシスト(性差別主義者)たちは、息をするように他人の性を踏みにじる。ぐちゃぐちゃに傷つけて、自信を奪う。
だけどな、捨てられねえよ、クソッたれ。そんな簡単に。捨てられるものなら、ずっと昔にとっとと捨てたかったわ。そんなに簡単に捨てられるものじゃねえんだよ、バカヤロウ。人の性を軽んじるお前にはわかるまい。「女」という性と共に、自分を生きる苦しさが。
そういう苦しさを抱えきれなくなって、私は自分の中にある「女」を、周りのクソッたれ連中と一緒になって見捨てた。生まれた時から私と共にあった、私の大切な一部だったのに、自分を傷つけてくる人間の価値観に囚われて、自分も、自分の周りの女性のことも馬鹿にした。
だが、もうそれはやめた。私は自分の中にある、他の誰かの中にある、「女」を否定することはやめた。こいつと共に生きていくことを受け入れる。周りからさんざんボコボコに殴られて、好き放題刺されまくって、満身創痍の、私の中にある「女」を、これ以上傷つけさせてたまるか。
女性であることを恥じることも誇ることもせず、ただ受け入れる。それだけのことがこんなに苦しくて難しい。それでも、私はずっとこの性を生きることにした。見捨てずに、大切にすることにした。
そして、他の誰かの女性性と男性性を、その二つの枠組みの外にある性の在り方を、踏みつけていないか、大事にできているか、できるだけ慎重に歩くことにした。
どれだけ心に強く誓っても、私の中のミソジニーは、なべ底の焦げみたいに私の心にこびりついている。重曹でもお酢でも、簡単には落ちないほど、頑固にこびりついている。
それを取り除いて、鍋の底に映った自分の性と素直に向き合いたいと思う。そのためには、まず、このこびりついたミソジニーと向き合わなくてはならない。
私の水色を守る人
大学時代からの友人でかれこれ10年以上の付き合いになるMは、普段は温厚で、滅多に怒りを他人に向けたりしない人である。Mの喋り方は漫画『聖☆おにいさん』のブッダとほとんど同じだ。同漫画を読んだことがない人は、最寄りの仏をイメージしてもらえばいいと思う。
私が結婚の報告をしたときに、素晴らしいプレゼントをくれたのが、このMだった。
結婚式はしなかったのだが、Mは私への結婚祝いを包む祝儀袋を買いに某百貨店へ行った。そこで店員に女友達の結婚祝いのために探していると言うと、ピンク色の祝儀袋を勧められたらしい。
Mは私が青や水色が大好きなのを知っているので、その旨を伝えたうえで水色のものを選ぼうとしたらしい。ところが、店員はなぜか食い下がる。女性なんですよね、ご友人は、ならば普通はこちらの色ですよ。Mは、いや、他の人からどう見られるかは関係ないし、そもそも本人の好きな色を選びたいだけなので……と説明したが、なぜか店員は折れなかったらしい。
あまりにも頭の固い店員に腹を立てたMは「結構です」と言って祝儀袋を買うのをやめて、結局私を連れて買い物に行き「予算内なら好きなものを買ってあげる」と言ってお祝いしてくれた。その節はかわいいパジャマをありがとう。
「水色は女の色にあらず」というクソジェンダーステレオタイプが19年経っても変わってない事実にがっかりした。しかし、それ以上に���Mが水色の祝儀袋のことで店員にこだわりを見せてくれたという話が嬉しかった。水色のランドセルをからかわれ続けた私は、心が救われた気がした。
Mにとっては、店員との些細な小競り合いだったかもしれないが、私にとっては大きな意味がある。Mは私の好きな色を守った。ジェンダーステレオタイプから守り抜いてくれた。「女のくせに水色」を真っ向から否定してくれた。
子どもにとって自分の好きな色を選ぶことが数少ない存在証明の場なら、大人はその選択肢を決して奪ってはならない。大人が自分の声でジェンダーステレオタイプを否定する時、誰かの中の女や男やその枠組みを超えた性を救うことができると思う。
本広克行がしこしこ『PSYCHO-PASS』の映画を作っていた頃、アメリカでは『マッドマックス 怒りのデスロード』という「骨太」な作品が登場した。
同作品はシリーズとして知られているが、2作目の『マッドマックス2』は北斗の拳に影響を与えた(※2)、まさにたっぽいな作品の一つである。そのたっぽいな作品の主人公の一人を演じた俳優トム・ハーディは映画の記者会見で男性ジャーナリストと次のようなやりとりをしている。
カナダのジャーナリストからの「『マッドマックス』は男の世界の物語だと思っていたのだが、女性キャラクターが登場することについて違和感があったか」という質問に対し、ハーディは一言「ノー!」と答え、記者会見場から拍手が起きていた。 出典:https://www.google.com/amp/s/amp.natalie.mu/eiga/news/147372(日本語記事) https://metro.co.uk/2015/05/29/mad-max-fury-road-star-tom-hardy-has-the-best-reaction-when-asked-if-women-are-taking-over-a-mans-movie-5220250/(英語記事) https://youtu.be/tI6k_8tomRE (映像、10:00ごろ)
「これは男のためのものじゃないのか?」という問いに、私たちはハーディのように「ノー」と答えることができる。自信を持ってそう言える。
水色のランドセルを選ぶ少女が誰にもからかわれない社会がいい。格闘技好きの女子中学生が、誰にも笑われずに、ヒョードルに憧れていると言える世界がいい。
自分の好きな物を守るためにたっぽいにならねばと思ってきた私は、30歳を過ぎてからその必要がないことを悟った。弱いまま、臆病なままでも、誰にも好きなものを馬鹿されずに生きていく権利がある。女の私が、「60億分の1」に憧れる自由がある。私たちは、自分が唯一無二のスペシャルな女の子であることを、他人に認めてもらう必要もないし、誰かに証明する必要もないのである。
涙を拭け、6歳の私。拳を握りしめろ、15歳の私。”悲しみは絶望じゃなくて明日のマニフェスト”だぜ。(意味不明だと思った?私もこの歌詞の意味は未だによくわかっていないけど、かっこいいから引用した。)
家族や友人が私の水色を守ってくれたように、私も周りの人が自分の好きなものを誰かの言葉に傷つけられることなく愛せる世界を作りたい。誰かが「男の子だから青がいいよね」と言えば「そんなことはない。色に性別は関係ない」と言い、「女にこの良さはわかんないだろうな」と言えば「わかってねえのは貴様だ。もっと世の中のことよく見ろ。しばきまわすぞ」と言って黙らせたい。
それは偏見だ、あんたの思い込みだ、幻想だ、嘘だ、そう言って、ジェンダーステレオタイプを否定していこう。みんなでつまらないステレオタイプに「ノー」と言おう。
みんな、聞いてくれ。
この世にあるくそしょうもないジェンダーステレオタイプは一つ残らず、必ずぶっこわせる。たっぽいでなくても、普通の、ひとりの、よわっちい人間にも、それに抗う力はちゃんとある。
私は誰かの好きな色と自分の好きな水色を守るために、これからも一人の女として抗い続ける。そういう旅をしている。そして、あなたが一緒にその旅に来てくれるなら、ヒョードルよりも心強いよ。
※1……漫画『北斗の拳』の中で、一子相伝の拳法の使い手(拳士)たちが持つ星の宿命(宿星)の一つ。愛に殉ずる宿星。
※2……「北斗の拳生誕30周年記念特別インタビュー」内での原哲夫(北斗の拳の作画担当)の発言より。http://www.hokuto-no-ken.jp/hokutogatari/interview10-03
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jissoblog · 2 months
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自分の生命の実相が“神の子”であり、完全であるという真理を心に念じつづけた結果彼女は完全に癒された : 生きることの素晴らしさ
"生きることの素晴らしさ
自分の生命の実相が“神の子”であり、完全であるという真理を心に念じつづけた結果彼女は完全に癒された
2019/03/24 09:400
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真理を念じ続けて癌を癒された80歳代の
老婦人の実例である。
自分の生命の実相が円満完全であることへの「信」が
神癒をもたらした模範的な実例だ。
神のお造りになった自分や世界は
完全であるしかないという「信」が
神癒の根本だ。
(参考 奇蹟の時は今 J.E.アディントン 谷口雅春訳 日本教文社)
<癌の末期の80歳代の老婦人>
【こんな話がある。80歳代の老婦人が多くの医師から、“もうあなたは癌の末期ですよ”と宣言されたのであった。彼女をとりまく周囲の人々には実際そのように見えたのであった。なぜなら彼女は既に羸痩(るいそう)し切っていて、まさに臨終近しと見えるほどに衰弱していたからであった。彼女はどんな栄養をもとることができなかった、そして彼女の親族縁者は毎日、彼女の死のしらせが来るであろうと待っていた。】
<自分の生命の実相が“神の子”であり、完全であるという真理を心に念じつづけた結果彼女は完全に癒された>
【しかしながら、この患者自身は決して望みを棄てなかった。彼女は神癒が起るのを求めつづけていた。彼女は心霊治療家の言うことを信じ、その治療家と共に、自分の生命の実相(ほんとのすがた)が“神の子”であり、完全であるという真理を心に念じつづけたのであった。彼女は“自分”の実相は“神の心”の中に描かれた“聖なるアイディア”そのものであり、神は彼女を神のイメージとして神の如くに造りに造り給うたのであるから、神はそのつくりたる自分を完全健康であると見ていられるのである、という真理を素直に受け入れていたのである。彼女も心霊治療家も病気の力を否定した。そして“癌”という語に何の力もみとめなかった。ところが愈々“最後の時”と普通人なら言うかも知れない時が来て、彼女の症状に劇的変化が起ったのであった。彼女は完全に癒されたのであった。ふたたび彼女は以前の症状を全然あらわすことなくして、人生をエンジョーイすることが出来たのであった。彼女の神癒は、彼女を知っているすべての人々にとって明々白々の出来事であったので、どんな懐疑論者といえども、それを事実として認めざるを得なかった。医者はこの奇蹟に驚いた。どうしてあの女の癌症状が変化して消えたかを説明することができなかった。】
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神の像として神のイメージにつくられた人間は“完全”なる存在である
神はわれわれ皆のいのちの本源であり、創造主である、そしてその自覚の領域が神の国であり、それは常に我らの内にある天国である
凡て祈りて願う事は、すでに得たりと信ぜよ、然らば得べし
大いなる業(わざ)は「父の御許に往くこと」によって為されるのである
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pureegrosburst04 · 2 months
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無印04(11歳)「脳がどれだけ尖った発達をしようと生命活動が出来ない程萎縮しようと人は変わらない。力が無くては何も出来ないのが高遠夜霧(のんきで善良だから対等な相手に勝てやしない、しかしだからこそ癒しを見つける長所は高等な力を手にするに値する。能力に比例する幸福 {{俺の敵じゃないがな🥴}(赤き真実)})で力があったら自殺するのが表版仮想大鉱山だ(赤き真実:成長する上で避けられない勇気と教養が自分自身の人格を否定する、馬鹿にしてきたコンテンツを知る度に返ってくる嘲笑。強くなる度に現世に疲れる使えない小物)」4索グリーン/刀足軽「すげえ……俺達は逆境に強くてチート退屈が嫌いな優等種なのか……」無印04(11歳)「そうじゃないんだが…まあいい。森永雅樹から日記は受け取ったか?」1索グリーン/刀足軽「はいB(📘)」無印04「それじゃない」1萬レッド/手長「これですか?F(📗)」無印04「違う」1筒ブルー/闇甲冑「これ?TG(((📙)))」無印04「それだ」
表版仮想大鉱山下っ端3人「官能小説をその年齢で好きとはねえ、予言する。テメェは😁🖐️所詮俺達と同類よ」
一人になった無印04は未来予測TG(トゥルーグランド書)54ページを読み始めた
内容➡︎[この2次創造世界ですら中間のパワーバランス的立ち位置の“””霧島04(裏ストボス)”””ごときとは違って”””””エルンスト・フォン・アドラー(19歳)”””””はマジで別格。この人に対抗する為にはまだまだ戦力が足りない 共有緑知(ヴァストローデ)が4096人居れば63.22%の確率で勝てるかもしれないが、どんな絶望の象徴にも必ず牙が届く””””B(バグ)の本質””””とは異なり実力が近い敵に華麗な闘いを繰り広げる”””F(フェア)に特化”””したポリシーのような有り様を背負った彼女達にとって”””””ゲゼルシャフトの幹部単体”””””はこれ以下の人数で通用するような生温い色違い伝説厳選などでは決してない決定的な違いが幾つもある。ひょっとしたら一騎当千とは{{{🏴‍☠️一桁違う☠️}}}かもしれない(紫の真実) あと霊猫蒼海ファミリー(永遠の正統派処女童貞サドビッチーズ)は共有緑知・ザ・ヴァストローデ(Hなお姉さん、一部両刀買春してる)が色々な意味で苦手、タイマンだと命の奪い合いにならないばかりで自分だけ真価を発揮できず戦闘でも負け濃厚。もしも最上位現実だけにしか存在しない本体で動いてる時限定の純潔を守る究極絶対個性のローザミスティカ💠がない肉体を動かしている下位現実🌿でのケースだと……顔を赤く染めてもどかしく文字にならない鳴き声をあげながら無理矢理性的な意味で食われまくってる。その挙げ句に噂を聞いたF(フェア)の仲間にいい顔してる美形はみんな食べられかけ…w///はしたないと思わないのかなぁ?💚Wと理不尽に煽られてブチキレる💢(どうやらポケモン界では、””””デンボクさんとチャンピオンダンデとクラベル校長””””に貞操を守って貰えているらしい👍🫨。ヴァストローデ達が善良だからこそ頭を悩ませるガッカリ感と向き合わなくてはならないようだ)]]
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これと似た世界、複製電脳軍要塞の上級住人はテレビゲームがヘタクソで、……悪質な暴言を一般国民から受けて勝負に負けた場合、権力を使い、特定してからバレないよう麻酔ガスを送り込み、美形だったら眠っている間に種絞りプ◯スをして記念写真を撮って憂さ晴らしをする最低な個体が居るとの事。俺達が止めよう
純粋硬派柱PureEgrosburst04(11歳)「?🤔……著者の名前が書いてない😟?………人間が食用って事か?😯…❓❓❓」
B(バグ)の家族達は恋愛的な意味でも破滅王がまさかのこいつ👆だなんてこの時は想像もしていなかった。
F(フェア)の秀才方も理不尽に穢された被害者を地獄に蹴落として嘲笑う魔王なのがこいつ👆✖️2だなんてこの時は考えもしなかった
表版仮想大鉱山すら後に自分達を自殺に追い込む銀色の大空と無限の闇を持った神がこいつ👆✖️3だなんてまだ一応、疑いすらしなかった
御茶ヶ滝「アイエフさん💙むにゃむにゃ(^ν^)💤」超電波油「俺のかのじょーー💛スヤスヤm😌m」
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F(フェア):ヴァストローデ1「ここにチェリンボ🍒男子の水と油が寝ているんだってww」F(フェア):ヴァストローデ2「ガスは送り込んだよ、果実が甘酸っぱそうで美味しそうwww」
???「御茶ヶ滝くん達に手を出すのは、私が許さない」
F(フェア):ヴァストローデ3「何よアンタ、自分だって散々つまみ食いしてきた癖にww」ともちん「あの子達の恋を守りたいの。私がこんな事を言う資格がないのはわかってるけれど、見逃してくれないかな?」F(フェア):ヴァストローデ「そんな事聞くとでも…」F(フェア):ヴァストローデ3「果報は寝て待て、一年だけ待ってあげる(笑)」 彼女達は去っていった
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霧島狩魔と無印04は産まれた時から35種類の性病を体内に飼っていて一部のヴァストローデが懺悔しながら惨く酷く死んでいった(赤き真実)
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シックス(新しい血族)「霧島04は精液の代わりにサンブラ樹が入っている(赤き究極の真実☺️)」
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おかしいだろなんだこの検索結果😨by香氣04
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ゴールドバラバズー500Fより異質なサイコパスで悪質なソシオパスで遥かに邪悪で性暴力をナチュラルに振るう悪魔が女性ウケする理由がわからねえ…読み手の感性がぶっ壊れてる‼️‼️(΄◉◞౪◟◉`。。)‼️‼️‼️
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防聖孤島は女性を一番幸せにする味方だぞ😨 ちゃんと気遣い、思いやる未来永劫の正統派童貞。荒らしか?荒らしなのか⁉️(⌒-⌒; )
御茶ヶ滝「創作の世界は孤独なものさ、広い地球でもね🌏😑🌕」お地蔵さんのように、水の使い手は🍡を食べていた 超電波油「読み手の自由、スキニオシ。👍🥳🍜」
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manganjiiji · 3 months
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ドゥーイット・トゥーランドット
体力の回復に多大な時間がかかる。1回4時間の勤務で、往復2時間。乗り換えでまあまあ歩くのと立ち仕事なのとで、完全に寝たきりだった体が悲鳴を上げる道理はよくわかる。12月、用事のない日はひたすら寝ていて、ほとんど無事な日がなかった。1月に慣らし勤務のような感じで週2程度入れてもらったのがちょうどよく、ありがたかった。たまたまだが。今では8時間勤務の肉体労働のあとに、6時間以上ヒールで立ち仕事をしていたなんて完全に狂っていたと思う。そりゃ再起不能になります。今はさらに加齢したし、体重も重くなったので、体は愈々弱っている。もう立ち仕事(本屋)をやめなよ、と友人も言ってくれたことがあるのだが、だめだ、どうしても、本屋しか続かない。しかも本屋の中でも下っ端の下っ端で、とにかく高校生でも余裕そうな単純労働しかしていない。でもそれくらいのプレッシャーじゃないとすぐ病気が悪化するため、なにか根本的にどうにもならないものを感じている(そんな人間いる?!という感じだが、いるのである)。正社員に憧れた時代もあったが、結局はバイトリーダー的な階級でさえも仕事を回せなくて潰れた。無能なのだ。というより、体力が追いつかない。今考えれば、バイトリーダー的な立場の時は、どちらもバイトを掛け持ちしており、どちらも13時間以上働いていた時だった。もしかしたら、掛け持ちしなければ「ちょっと腕のいいバイト」くらいにはなれるのだろうか。もうこの歳でなってもおまえ…という感じだが、私は人間の年齢と性別をかなりどうでもいいと考えているので、まあ、心配なのは加齢による体力低下をどこまで抑えられるかということだ。ずっと本屋で働くということはできないが、この数年は本屋で働く。その間やはり通信制の大学に通って、精神保健福祉士と社会福祉士の受験資格を得たいと思う。あまり人生の時間がなくなってきた。先月誕生日を迎えたことで、もう自分に残された時間が少ないことを思う。この手足が、すでにかなり制約が多いが、それでも何とか動くのはあと20年もないと思う。そのあいだにこの世界に対してできることをやっておかなければ。現代思想や哲学を独学しながら福祉の勉強も、となるとどこまでできるのか自信がないが(わずかでもいいから英語の勉強も続けたい、やらないと忘れていくので)福祉職に転じるにしろ、福祉社会学を学ぶにしろ、早い方がいい。体力の無さが本当にネックになってくる。加えて小説も書きたい。ここでキャパオーバーになる。時間と体力をもう少し、どうにか融通したい。やりたいことが多すぎる。歌のレッスンもやめたくないし、楽器も吹きたい。そんな。そんな何もかもをできるわけがないのに、欲望は果てしない。でもやはり、将来を考えた場合、福祉の国家資格は早く取りたい、というか、その勉強をして早く知識を深めたい。まあ、現代思想は実学のあとにゆっくりやってもいいしな。ただ、小説はそうもいかない。これも急ぎたい。早く書かなければどんどん書かなくなって書けなくなる。今せっかく書き始められているので、このまま、頭を小説のモードにしたままスイッチを切りたくない。人間にできることなんて結局一つなのに、私はこの人よりだいぶ自由度の低い体をひきずって、いつまで夢を見るのだろう。どれか一つを選べと言われて、捨てられるのか。本屋を、学問を、福祉を、小説を。歌と楽器は気晴らし程度にできる気がする。でも小説だけは捨てられない。学問も結局は根幹で福祉と結びついている。本屋はやめられるとしても、いつまでも私は本屋のバイトの上の方だったり、正社員に準じる立場だったり、正社員を夢見るんだろうなあと思う。夢が叶わないからいつまでも夢を見ている。あっでも、諦められたというか、もうしなくてもいいかなと思えるものに、塾の講師がある。勉強を教えるのはもう本当に終わりでいいかなと思う。本屋も終わりにするはずだったが、結局終われていない。だって本屋って本当に楽しいんだもんな…出勤は遊園地に行くのと同じことだし、ふつうに考えて遊園地より楽しい。歌もまあ、なくても困らない程度には行動に現れなくなってきた(体力が落ちているせいもあるので、歌と楽器で体力を取り戻していきたいという気持ちもある)。最後に残るのはやはり福祉(ケア)と小説だろうか。こればかりは体が勝手に動きやめられない。小説に関してはかなりもう、意地!という感慨がある。まだまだいい小説が、自分はもっといい小説が書けるはずだと思っているし、書いても書いてもまだ足りなくて、満足するということがない。福祉職に関しては、これで現場に立って実際に意味のある支援をしたいというのと(今まで私費を投じて精神疾患者の友人たちを世話することを自然にしていたのだが、それは仕事にするべきだと思った)、世の現実をもっと知り、実際に世界を変えたいという欲望が強い。そのために小説ももっと書けるようになっている必要がある。まあ、「能力の高い書店員」になることはなかなか難しいでしょう。この夢はここで破れた、ということにしてもいい。社会人としての土台となる体力がないのだから、難しいですね。本屋は人員削減の急先鋒だし。は〜〜、20kg痩せて筋肉がついたら何もかも解決しないかな。筋肉をつけよう。
2024.2.8
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eii-m · 4 months
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士官学校での或る体験
50年前の夏は、職業軍人養成の陸軍士官学校に在籍していました。私はその前年(昭和19年)に試験に合格し、終戦の年の2月に入学したのです。 その士官学校も、本土決戦に備えるためだったのかどうか、8月には浅間山の麓に疎開していて、そこで終戦を迎えました。士官学校生徒の私たちは、捕虜としてカリフォルニアの炭坑に連れていかれるというような噂も一部で流れていました。 疎開前でしたが、「歴史の大きな改変」を校庭に集まった全生徒の前で予言した高級将校がいました。戦局は敗戦が必至だと解っていたのでしょうか。敗戦後、割腹自殺をしたという上級教官の話も聞きましたが、そういう人達とは違った理性的な勇気の持ち主が、この集団の中にもいたというのも、いまでは大きな教訓となっています。 短い期間であっても、士官学校でのあれこれのことは、私にとって忘れ難い体験でしたが、中でも次のことは、生涯をつらぬくような一つの教訓にもなっているような気がします。 当時の陸軍士官学校では、昔からの伝統を重んじたのでしょう、毛筆で日記を書かされていました。それは強制でもありましたが、一面では、わずかに許された自由な表現の時間でもありました。それまでの中学時代に夏目漱石全集などを読み漁っていた私などには特にそう感じられていました。 しかし、ある日、思っていたことを率直に書きとめたことから、思わぬ波紋が起こりました。 “将校生徒といえども一人の軍人だし、軍人もまた日本人の一員である。” 書いたのはこれだけのことですが、感じていたのは、この士官学校で将校生徒々々と強調されおだてられることへの自制だったのでしょうか。願っていたのは、この集団以外の兵隊たち国民たちを蔑視するな、ということだったと思います。そういう愛国少年の一人だったのでしょう。 ところが、それがどうして「彼ら」に知られることになったのでしょうか、この日記を盾にとられて「貴様は自由主義者だ」と、教官からではなく同僚の同級生から決めつけられ、ある日「彼ら」の集団から呼び出され、とり囲まれて袋叩きにあったのです。 自由主義者というのは、当時の日本では反社会的思想の持ち主として最悪の決めつけ語であり、非国民と同義語に使われたものです。 「彼ら」というのは「幼年学校」出身者のことですが、この「幼年学校」というのは他国にはあまりない、日本帝国陸軍独特のもので、「彼ら」はそこで13~14才の少年時代から特別の職業軍人幹部養成教育を受けていたのです。ここから士官学校へはもちろん無試験で、はじめは将校の子弟を育てるためのものであったのかも知れませんが、この学校の出身者でないと、士官学校から陸軍大学を出ていても、中将どまりで大将にはなれないというの��、帝国陸軍の不文律であるといわれていましたから、彼らはそこで徹底したエリート意識を植え付けられていたのではないでしょうか。 「彼ら」は、私たち中学校出身者よりも数ヵ月遅れて士官学校に入ってきましたから、はじめは私たちの方からいろんな規則を教えてあげていたのですが、何の何の、しばらくすると「彼ら」は自らを帝国陸軍の「貞幹」(幹部)中の貞幹だといい、われわれ中学校出身者を『馬』と称して軽蔑しているのが分かってきました。「彼ら」は教官についても差別をしていて、よく隊をこえて幼年学校出身者の教官のところに結集しているのを知り「彼ら」の派閥意識に味気無い思いをしたものです。 今でも忘れません。中学校出身者が万葉集を読んでいたといって「軟弱者」と批判し、廊下に張り出された新聞の変なところを見ていたと難癖をつけて非難するという、そういうことを繰り返していました。 しかし「彼ら」が最大の集団的暴力を発揮したのは「兵科選び」の時でした。 当時、負け戦を続けていた日本軍の航空隊は飛べる飛行機もなかったのでしょう。殆どが爆弾を抱えて敵地敵艦に突っこみ、生きて帰ることは絶対にない、日本独特の無謀な戦術「特別攻撃隊」の要員だったのですが、「兵科選択」に際して、その「航空隊」を選ばなかった者に、「命惜しみ」として集団リンチをかけたのが彼ら幼年学校出身者の一部集団だったのです。 しかも彼らは、規則を破って深夜同級生に呼び出しをかけ、「命惜しみ」として集団暴力を加えながら、そのくせ陰では「俺は航空参謀だ」などといい、後方で指揮をとる「命惜しみ」をしようとしているのですから、偶然それを聞いた私は、彼らの本音を知り「許せない」と思いました。 本音と建て前の違い、非科学的なものの見方を平然とまかり通していたエリート軍人の卵たちの認識方法、それは当時の日本の指導者達の思考方法と共通性がなかったでしょうか。彼らにとって国家とは、天皇とそれをとりまく指導者集団、そして国民は彼らに奉仕する『馬』や『道具』と見ていたのではないでしょうか。 私の場合は、兵科選びでは彼らに強制された「航空隊」は拒否して「工兵隊」を選びましたが、それはやはり生きて帰ることが許されない「特別攻撃隊」に繋がっていましたので、その点ではリンチを受けなかったのです。けれども、さきにも言ったように日記の件で呼び出され、「自由主義者」だとして白昼軍服が血だらけになるぐらい集団で殴られたのでした。それもはじめに呼び出すときは、ただの一人で、「話がある」と呼びに来たのですから卑怯なやり方なのです。 派閥的な集団主義は、しばしばこうした卑怯なやり口をもたらすのだということを身をもって知ったわけです。 野間宏の小説『真空地帯』では、将校間の反目の犠牲になった主人公(木谷一等兵)をかばうインテリの下士官がいましたが、私の場合は、軍服が血で汚れているのを認知していても教官はそのことには一言もふれませんでした。その教官は幼年学校出身ではなく、知的な人で、私も尊敬した人でしたが、そういう人でさえそうだったのです。いや、暴力をふるった「彼ら」でも、いま会えばどうということはない「普通の人」なのですが、皇国日本のエリート集団の卵たちの意識は、人を人とも思わないようにしてしまっていたのでした。 私はその頃、早くこうした汚い雰囲気から脱出して、死んでもよい、第一線に行って自由になりたいと思ったものでした。 自由を欲する気持ちというのは、いかなる場合も消すことのできない人間の本性だと今は思うのですが、勇敢な日本軍人の献身的な戦闘性というもののなかには、愛国心や周りの人々への愛情とともに、或いはそれとは別に、こうした半ば絶望的な自由への願望があったかも知れません。 苛酷な戦いを生き抜いてきた人たちが、戦争を語りたくないというのも、凄惨な極限状況とともに、こうした説明のできない非合理主義の横行が背景にあったことが影響してはいないでしょうか。 このようなせまい集団の派閥主義、官僚主義は、近代化の遅れた社会につきもののようで、今の日本でも払拭されていないように思えますが、軍隊という戦闘組織の中での派閥主義は暴力装置をもっているだけにいっそう恐ろしいのです。無謀な15��戦争を引き起こし、広大な戦線の中で非合理非科学的な戦略戦術で莫大な犠牲をもたらした、少なからぬ要因にもなったでしょう。 夏目漱石が明治の末期に“日本は滅びるよ”と喝破したのは、こうした日本の指導者層の非合理主義的体質が続くのを見抜いていたからかも知れません。 いずれにしても私にとっては、短い間の端的な体験が終生の教訓になったことは確かです。せまい派閥主義をどんな場合も嫌うようになりました。自らの体験や頭あるいは討論などで確かめないで、外から教え込まれたものを教条的に受けつけないようになりました。 戦後50年経って「経済大国」になった日本はもう「戦後」ではないという論もありますが、本当は、以前と同じではないにしても、似たような大きな矛盾を残したまま、日本の歴史は進行してきたように思えてなりません。 戦前のように、暴力主義の横行というのは露骨には見られませんが、矛盾を合理的に解決する努力の弱さや「派閥主義」は、残念ながらまだまだ続いているように思えます。矛盾を発見して、その解決方法を討論しながら推進していく民主主義の原点がまだ社会的に定着していないからでしょうか。 私の中学校時代の友人で、普通より早く4年生から当時の高等学校に入った秀才で、学徒兵として軍隊経験をもったM君が、終戦の年によこした手紙の中で言っていた言葉を思い出します。“天皇制が変わらない限り、日本はたいして代わらないのではないか”と。 「象徴天皇制」にはなったけれども、「お上依存」は克服されたのでしょうか。国民主権は確立されているのでしょうか。 日本の社会の、こうした困難な近代化の歩みの中で、『学習』は本当に大事なものに思えます。近ごろのように幼い時期からの受験本意の勉強は真の知性を損なわせ、またどんな分野でも余り早い時期から専門的分野に入りこむことは、視野を狭くさせ、大衆の存在を忘れさせ、民主主義と人間の自由な発展を遅れさせるような気もします。 “知を力として”この言葉の重みを、近ごろつくづく噛みしめています。そして戦後50年を経た今こそ、戦争の教訓から得た人類の貴重な歴史的遺産、「平和と民主の日本国憲法」をどうしても守り発展させ、子や孫たちに伝えないとと切実に願っています。
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kennak · 10 months
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同じ時期に就活した女だよ。2000年代も確かに氷河期だけど、この増田が書いている氷河期第1世代はもう一つ忘れてはいけない不遇がある。それは「団塊ジュニア」という、人数が多い世代だということだ。同世代の人数がとにかく多い。つまり競争相手が多すぎて大学受験が熾烈を極めたのだ。私は県内の公立の中でも有数の進学校に通っていたが、当時のクラス数は1学年14クラスもあった。この学校だけでなく、全体的にそうだった。そもそもこの学校に入るのも高倍率だったのだから、どれほど人数が多かったか。1972年生まれをピークに、前後数年はそれぞれ200万人の同学年がいた時代だ。今の子供の倍以上である。人数が多い世代だからといって、大学のキャパを急に増やしてくれるわけではない。受験倍率は早慶レベルでも10倍超。今みたいなAO入試などない。国公立は5教科が必須。浪人当たり前。予備校大繁盛。「予備校ブギ」なんてドラマもやってたほど、浪人は珍しくなかった。私も女子だったが現役では志望校に受からず一浪して入学した。進学校ではそれが普通だったのだ。親の意向で「女子が4大なんか行かなくていい」という家庭の女子は短大に進んだが(当時はまだそんな価値観があった)大半の同級生は4大を目指し、厳しい競争をなんとか勝ち抜いて有名大学生の切符を手に入れた。そうやって勝ち抜いて勝ち抜いて手に入れた有名大学生の肩書なのに、それが就活の段になって全くの紙屑になった。増田が書いていたように電話帳くらいの厚みがある(あ、今の人に電話帳と言ってもわからないか)資料請求ハガキ綴込みのリクルート本が家に届いて、ひたすら手書きで資料請求。300社くらい出したっけ。それくらい普通だった。そして女子というだけで資料すら送ってこない会社多数。インターネットがまだ普及していない時代、資料を送ってこない会社はそれ以上コンタクトが取れず、その時点で門前払いなのだ。会社説明会は電話申し込み。コンサートのチケットを取るが如く、電話をかけまくる。携帯電話などまだない。家の固定電話だ。やっと繋がっても「申し訳ありませんが定員になりました」と断られること多数。面接の段になっても、健康診断まで受けて絶対内定確定、と就職課に言われた最終面接で落とされた会社もある。曰く「諸般の事情で女子は今年は採用しないことにしました」だと!だったら最初から取るんじゃねーよ!結局大卒がやらないような職種の会社しか受からなかったが、鶏口牛後を目指そうと気持ちを切り替えて働いた。正社員で採用されただけまだ恵まれていた。数年頑張り会社内でも評価され、幹部候補生に選抜され高度な研修も受けさせてもらえた矢先。会社が倒産した。今の会社には見るに見かねた親戚のツテで入れてもらった。そういう裏ワザがないとまともな転職先すらなかった。前の会社の同僚はほとんど連絡が取れなくなった。大学の同期で働き続けている女子はほとんどいない。私よりはるかに優秀だった子達もいたけど、結婚を機にみんな仕事を辞めた。辞めたというより「辞めざるを得なくなった」。寿退社が暗黙の了解だった会社がまだまだ多かったのだ。女子社員の結婚とか妊娠とかは、会社側にとって体のいい「辞めてもらう理由」でしかなかった。仕事を続けたければ、結婚はできなかった。私は仕事を続けたかったので、結婚は諦めた。幸い自分1人食わせられるだけの稼ぎはあるし、同じような独身女性が多く、それなりに人生楽しんでいる。氷河期だし人数多いしろくでもない世代に産まれちまったが、それも運命と諦めている。
同じ時期に就活した女だよ。 2000年代も確かに氷河期だけど、この増田が書い..
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kachoushi · 6 months
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井上泰至「恋の季題」連載ⅢⅩⅥ
花鳥誌2023年11月号より転載
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日本文学研究者
井上 泰至
 川端康成の代表作の一つ『古都』は全九章からなる。「春の���」「尼寺と格子」「きものの町」は春、「北山杉」「祇園祭」は夏、「秋の色」「松のみどり」「秋深い姉妹」は秋、「冬の花」は冬、といった塩梅で、京都の四季を背景に物語が進行する。「冬の花」は最終章に当たる。
 じつに真直ぐな幹の木末に、少し円く残した杉葉を、千重子は「冬の花」と思うと、ほんとうに冬の花である。 たいていの家は、軒端と二階とに、皮をむき、洗いみがきあげた、杉丸太を、一列にならべて、ほしている。その白い丸太を、きちょうめんに、根もとをととのえて、ならべ立てている。それだけでも、美しい。どのような壁よりも、美しいかもしれない。
 杉丸太とは、京都北郊の北山杉のことを指す。そこで働く女性たちは、裾除け・半纏を着て、三幅前掛けを腰に巻き、最後にズボンに当たる「たちかけ」を着る。同じく京都北郊の「大原女」と似ている。虚子が「時雨」とともに詠んでいる。
大原女の紺の袷の赤だすき 虚子 時雨るゝと大原女のうち仰ぎたる 同 時雨つゝ大原女言葉交し行く 同
 地味な労働着で、健気に働く娘の魅力とは、そのイノセントさ故に醸し出されるものだ。シンデレラを思い出してみればいい。灰被りの彼女は、掃除ばかり押し付けられるが、自分の美しさに気付かない。それは心ある男によって見いだされ、磨かれてゆく。昨今のフェミニストから見れば、とんでもないと怒られそうな解説をしてしまったが、共に古都鎌倉に住んだ虚子と川端の女性の嗜好はほぼ同じだと見てよい。
 もはやこのような京女など絶滅種だと思っていたが、そうでもない。最近我が家の三軒隣に、新築マンションが建ち、一階には美味いコーヒーを飲ませるカフェができた。店の女の子の言葉の端に残るイントネーションから、「関西の方ですか?」と聞くと、ひと呼吸あって「ええ」と用心深い線で答えてくる。
 本店は京都で、スタッフも皆京都から。用心深く京都弁を隠しているが、見抜かれたと感じたようだ。そこで安心してくださいと、「いや、こちらも京都出身なんです」と京都訛りで返してみると、救われた表情。その後通い詰めるうち、すっかり常連となり、打ち解けることに。常連故の気遣いを受け、きちんとそれに応えれば、花に水をあげたように笑顔は見違えってよくなる。
 ちょうど我が家は、義母を介護することになり、七時からやっているこのカフェは、しばしの憩いの場となった。そして、彼女たちの働く姿には、東京という別の言葉の世界で、自分の言葉をも押し隠しながら、明日を夢見て健気に早朝から働いていて、その姿そのものが健気で美しいことを知った。大人になった、虚子や川端が、京都の娘たちに心惹かれたのも、このような感じだったのだろう、と思ってみる。
 それにしても、なぜ彼女たちには、「時雨」が似つかわしいのだろう? 時雨は強いものではない。強くては、いくら何でも悲惨だ。しかし、夏の気持ちのいい驟雨でもない。娘たちは、雨の様子を見計らい、仕事の手や、ものを担いで移動する足を急かさなければいけない。そこに、哀れがあり、健気さが生まれる。カフェで言えば、早朝がよかったのだ。まだ眠い朝の表情を残しながら、常連の私には、心を込めてコーヒーを淹れ、朝食を作ってくれる。
 そして、何より雨の小粒は、若さを引き立てる。アイドルの写真集には、必ず雨やシャワーに濡れて、少しはかなげな表情のショットを挟む。肌の保湿力は、水を弾いて若さの光を引きたてるし、元気ではつらつとした表情の合間に見せる憂いの表情こそ、ギャップの魅力だ。ただ、明るいだけでは単調でいけない。塩で引き立ててこその高級菓子の甘さなのである。写真のプロになった知り合いにこの意見をぶつけてみたが、否定はしなかった。
 カフェのスタッフには、「東京の風は強いね、京都は雨も繊細なんだけど」とでも声をかけてみようか。暮れを控えた、彼女たちの帰郷の想いをきっと引き立てることだろう。
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井上 泰至(いのうえ・やすし)   1961年京都市生まれ 日本伝統俳句協会常務理事・防衛大学校教授。 専攻、江戸文学・近代俳句
著書に 『子規の内なる江戸』(角川学芸出版) 『近代俳句の誕生』 (日本伝統俳句協会) 『改訂雨月物語』 (角川ソフィア文庫) 『恋愛小説の誕生』 (笠間書院)など 多数
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ganbarimasune · 11 months
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0603-篠宮社長
私の人生において、唯一してきたことといえば、保険をかけてきたことだ。 自分の体にももちろん健康保険がかけられているし、死ぬ前にシミまみれにならないように日傘も毎日差しているし、風邪は引き始めの始めに薬も飲んでいる。エレベーターの混雑を避けるために、始業の20分前にはもう職場に到着している。常に営業先には先方の情報を、SNSまで探っていくし、3分の遅れだって、交通情報の確認は欠かさない。 そんな私を呼び出して、突然の出張を指示したのはこの会社の社長である篠宮だった。 「今日の夜の最終便に乗って出発して、明日の朝に取引と新しい企画についての会議ね、その後は一緒に昼ごはんも行って仲良くしてきて」と一息で言い切った後、飛行機のチケットを私に手渡す。 社長室という名前の割に簡素な机を使用している彼は、私の同級生である。同じクラスで3年間を過ごした彼が採用試験に現れたときも、私は事前に調べていたので驚かなかった。むしろ、彼の方が驚きを隠すことができていなかった。そんな態度を気に入られたのか、よく知った人間がきたことが嬉しかったのか、あっさりと採用されて今では後輩に指導をするような立場を割り振られている。 周りを見て、人がいないことを再度確認をして「篠宮は、私がどう人か知っていて採用したはずでしょう」と小さく彼の深く刻まれた眉間に視線を寄せて言った。 彼が学生時代に、数学の葉山先生に眉間のことを持ち出され、授業中の教室がその話題で持ちきりとなった時の彼の中途半端な笑顔を覚えていたので、反抗のつもりでそうしていた。 すると、篠宮は、葉山先生の真似か?と言って眉間を誤魔化すように指で擦った。そして彼の正面、入り口の真上の壁面にかけられた時計を見た。 「新幹線の時間まで1時間しかないし、新しい企画のことなんか一言も言ってないし、そんな取引先があることも言ってないけど」と笑うので 「それでどうしろっていうの」と思わず答えた。 私が保険をかけ続けるのは、こう言った予測できない事態を生じさせないためだったはずだ、高校生のころだって今とかわらず日傘を指すし、青春特有の無茶だって全く行わなかった。後々に襲いかかる後悔の方が私のとっては、重要だったのだ。それをたしか篠宮に問われて、説明をした日が何度も何度もあったはず。まさか忘れてしまったのだろうか。 大丈夫だよ、と篠宮が言った。 椅子から立ち上がり、背後からキャリーバックを取り出す。 そして、また簡素な引き出しを開けた。 「これが俺の分の新幹線のチケット、後ホテルのチケット2部屋分、そして企画書の入ったUSB、と念の為印刷した企画書、それと向こうの担当者の名簿まあこれは勝手に作ったけど、後着替えとか諸々も頼んでホテルに入れてある、いやそれは同級生だしサイズも多少は予想がつくさ、後プレゼンに使う機材はこっち、パソコンは自由にこれ使っていいから新幹線の中で企画書読んでね、後今持ってる個人の仕事は無いって確認してあるから」 唖然として停止した私の横を通り抜けて、社長室の扉を開ける。 篠宮が「ほら遅刻するぞ、タクシー呼んだからさ」とこちらの様子を伺う。 学生時代から全く変わらない。忘れていたのは私の方だった。彼は私に何度もどうしてそうも保険をかけて動くのかと私に聞いた後、気が向いたらやってみるわ、と私に告げてどこかへ立ち去っていた。 荷物持ってきます、とその場を離れる。ただロッカーが並ぶだけの更衣室に入り、一目散に自分のロッカーを開ける。きっと彼は自分のかけた「保険」がどこまで通用するのか試してみたかったのだ。私を連れ出すために何から何まで用意して不測の事態を潰し、全て彼の範疇で起こるように試す。そして私を連れていくのもいわば保険でもあるのだろう。何故だか笑いが込み上げてきて、すぐ側の事務所に聞こえないよう、小さく笑った。 着替えやらはホテルにあると言う彼の言葉を信じて、最寄駅からと全く同じ必要以上に大きいカバンに手渡されたパソコンのみを追加で詰めて、社長室へ向かう。と思ったがその道中に自分が色々と教え込んでいる後輩へ遭遇したので「これから社長と出張だから、しばらくいないからね」と聞くと「知ってます、先週社長からメールが来ました」と元気よく答えてくれた。大きな笑いがまた込み上げてきたが、ゆっくり唾液を飲み込むことで対処して、なるべくいつもの通りの表情に戻した後、その場を離れた。あの調子だと、私がいない間も誰かがついているでしょう。 会社の入っているビルの前に停められたタクシーの前に立っていた篠宮の方へ駆け寄る。 そしてまた、篠宮の深い眉間の方へ視線を向けて「私も保険ってことで考えちゃうからね」と言ってしまおうかと思ったがそれは、なんとなくやめておいた。 ただ、一言、駅へ向かい始めたタクシーの中で篠宮に聞こえるように「楽しみになってきたかもしれません」と言った。 すると篠宮は、学生時代の記憶と全く変わらないあの様子で「まあ、気が向いたのよ」と答えた。
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johncoffeepodcast · 1 year
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ティエリの結婚
 晴れた日に洗濯物を自転車のカゴに入れて、公営の洗濯場に行った事がある。その日、その青年は家で洗濯物を干す時間が勿体ないと感じた。だから洗いざらしになった洗濯物を隣の家のご婦人に預けに行ったのだった。この青年の場合は一枚一枚手で、丁寧に洗って物干し竿に干していると、日が暮れてしまう。太陽が山の向こうに沈み込むまで、昼のうちは一生懸命働いているので、3度の炊事に加えて自分の洗濯物を洗うとそれ以外の事には手を付けられなくなってしまうのだった。だから膝をついて土埃を含んだズボンが去年の冬に編んだカゴの中に随時3本は溜まっている。この青年の日常は馬の世話で忙しく、陽が高いうちは厩戸にこもりきりなので、夕方、隣と軒を連ねる長家に帰ると、あとは眠るだけだった。1週間ぶりの休日に洗濯場で汚れた衣類を洗うと、掌出来たきり一向に治る気配のない切り傷の存在に気づくのだ。この青年の家で大量の洗濯物を干すには、ベランダの物干し竿が短すぎるし、長さも足りない。全て洋服をかけるには、隣人の家に持ち込む他に方法がなかった。それに、この青年が隣の家に洗濯物を預けに行く本当の理由は、単に2階のベランダが狭すぎるというだけでは無い。隣に住む、美しい娘に会えるからだった。この青年は自分の洋服を洗う。という行為に幸福を感じているし、労働後に疲労感を携えて家を清潔に保っておくのも好きだった。この一見素晴らしい青年の肌は浅黒く。この地域では珍しい彫りの深い顔をしている。青年は、都市で起きた弾圧を受けて片田舎にやってきていた。
 情勢は常に不安定だった。この土地には古典派と新鋭派の教会があって、それまで優勢だった古典的の教会は、武力を使って新しく出来た新鋭派の繁栄を抑えようとしはじめていた。戦火が日に日に増してきて、命の危険を感じた新鋭派の人々は、都市から離れ、田舎に租界をする様になった。このティエリという青年は、元々都市で馬を育ていて、父親は馬の鞍を作ったり、荷役の馬を移動手段として誰かの手に引き渡す仕事をしていた。大都市では新鋭派の人々は迫害され、新たに流れついた土地では元々暮らしていた人々と新たに流入してきた人々の間では新しく軋轢が生まれた。流入者は酒場の暗がりに連れ込まれると、秘密裏に粛清が下される事もあった。この青年が流れついた先でも、先例に違わず新たに流入してきた人は差別的な略称で呼ばれる様になった。流浪の民は様々な呼び名で呼ばれ、通常最も多い呼び名だとボニシェリだとか、ケラントマなどという俗称で呼ばれた。しかし、その様な流浪の民も、田舎がまだそれほど強く教化されていない事に気が付くと、融和を求める先住民族に対して、自分達の誤解を晴らす為に元々住んでいた場所の料理を振る舞った。新鋭派の言い分は、水辺で採れた鴨肉のローストや、戸棚にずっと置いてあったワインと共に、人々の体の中に流し込まれた。都市から離れた田舎では、新鋭派と古典派の間で徐々に融和が進んだ。新たに流入してきた人々は、経済的に貧しく依然として蔑まれていた存在だったのだが、辺鄙な土地に行けば行くほど徐々に土地は平和になっていった。それからと言うものの、融和が進んだ田舎の人々は、実権を握る教会に対抗する様に首領都市に伝道師を送り込む様になった。それでも新たな土地に受け入れられなかった人々は、流れついた土地の外で森を切り開いて新たに文明を作って暮らした。ティエリという青年は、都市で家族を失い、一度叔母さんのいる地方都市へ預けられた後、最近16歳になった。この青年は最近、酒場で人々を家まで送っていく馬の世話をする仕事を見つけたのだ。
 隣のアパートに暮らす美しい少女の名は、ウディーネといった。彼女はまだ学生だった。この時、中等教育を受けられる16歳ぐらいの少女は限られた家に産まれるか、とても裕福な家業を起こしている者だけだった。それも大地主か、医者の娘か、鉄道を建設する会社に勤めている人に限られた。畑を耕す傍らで小売や製粉業を営んでいる零細農夫たちは、教育を受ける機会を得られない。この地方にはガラスの天井のような物が存在した。その狭き門を通り抜けたウディーネは、あと一年で中等教育を納めようとしている。ウーディーネはとても優秀で有名だった。ウディーネの父親は坑夫で、母親はワインの製造に携わる家庭の娘だ。ウディーネは庭の手入れや家の手伝いの合間で机に向かい、初頭教育を受けた時、学力テストで全県で一番になった。それからは地域の人々からも初の女性医師になるのでは無いかとロレーヌ県全体から噂される事になったのだ。普通ウディーネぐらいの歳の少女は、初頭教育の学校を卒業すると、地元のブドウ畑に送られて、寒空の下枯れた蔓を素手で折り、収穫して干され、萎んだ葡萄を荒れ果てた桶の中で詰まなくてはならなかった。それからぶどうは、踏んで果汁を搾り取らなくてはならない。なので葡萄畑で働く少女達はスカートの裾から染めあげられて真紅色の素足になってしまう事が多くなってしまうのだ。だから娘達は、自然と編み上げのロングブーツを履いている事が多くなった。この地方の人々は一年を通じて生きる為にワインを作らなければならない。それはロレーヌ県では当たり前で、同級生が畑で働いている間、学校に通えているウディーネはみんなが憧れる存在だった。実際、ウーディーネが暮らす家も、この青年と居を隣合わす貧しい長屋だ。しかしそんなウディーネが何故、労働者階級に生まれついたのに中等学校に通えていたのかと言うと、ウディーネは去年、初等教育学校を卒業する間際に母の働くブドウ畑で、葡萄を潰してワインに瓶詰めにする最適な方法を見つけ出していたからだった。ウディーネは自分が発見した方法を、大人に臆する事なく畑で働いている全員に教唆した。ウーディーネはその功績を県の農務局から認められ、助成金で学校に通う事が出来ていたのだ。
 ロレーヌ県はフランスとドイツの間にある山岳地帯だった。山に沿って傾斜のある丘陵は、陽がかげると寒く、氷柱が垂れ下がる程街中が冷え込み、山陰から太陽が高く昇る12時ぐらいになればやっと暖かい日差しが街の上に降り注ぐ。それは荒涼とした空気の中、葡萄の幹を冷たく霜がつく程に厳しい風が撫で下ろした。岡から見下ろすロレーヌの街は、緑やオレンジ色で彩られていた。家屋の屋根は主に淡いオレンジ色の煉瓦で出来ていて、灰色の石畳で出来た道路と調和して、うまい具合に植え込みの草花と混じり合っている。2人が隣り合わせに暮らす長家は、農耕地の多い街の端っこにあった。その辺りは扇状地になっていて、ティエリが働く酒場や、ウディーネが通う学校は、街の中心部にあった。中心部の商工会議所の前には馬車が泊まる停泊所があって、その隣にウディーネの通う中等学校が建っている。学校の近くには、税務署や警察署、酒場や市場、それに市役所などが全て同じ一角に集っていた。ロレーヌの街は古典的な教会を中心に広がりを見せ、人々が各々得意な事業を営む事で何とか豊かさを育む事が出来ている。ティエリが来る前のロレーヌは、農業が中心の山岳地帯だった。この土地は新しい人々の流入によって最近産業が盛んになってきたのだ。新しく流入して来た人が来る前は、畑から採った作物を自分たちでロバを操って運び、移動手段として誰かが馬を携えて馬車を引かなくてはならなかった。しかし新たに流入者が来た事で、大規模な商業者達は大量に彼らの様な金銭を得る機会を得たい人々をすぐさま雇い入れた。代替的な産業の効率化はどんどん進んだ。新しく来た人々はそのような事情を加味する事なく、日々をこなし、地主や鉄道の経営者はその利潤を自分や社会の為に使った。新しく来た人々はそんな事よりも、飯を買う為のお金を懐に入れなければならなかったし、新しく生活を初める初期設備を揃えなればならなかった。そのような事が繰り返されて、街は徐々に栄えていった。ティエリの酒場が開くのは午後5時だ。ティエリは畑の側の厩戸から、数頭の馬を率いると、自分の馬を酒場に向かって走らせた。この青年の馬は毛並みに艶があって品が良く、筋肉が力強く張り詰めている。馬の蹄鉄が石畳を踏み締めると、長い立髪が風の様に頭上で靡くように震えている。この青年は毎日、酒場への道の途中にウディーネの学校に寄った。門の外でウディーネの帰りを待つ青年は、中等学校が終わったウディーネを見つけると、青年は手を振った。『ウディーネ。』青年は門の外から呼びかけら様にして言った。ウディーネは革の鞄を前後に揺らしながら、校門の外にいる一頭の馬に近づいてくる。ウディーネは、青年から馬の手綱を預かった。『今から酒場へ行くの?』とウディーネは青年に尋ねた。青年は頷いた。『今日はいつもより多くチップを貰えると良いわね。次に会えるのはいつ?明日?』『明日もこの時間なら会えるかな。』と青年は半ばそっけない感じに言った。『じゃあ今度うちに来た時には私の家族と一緒に食事でもとりましょう。良いわね?私が聞いたのは、洗濯物が溜まって、家に尋ねに来てくれた時。いつもの様にそそっかしく帰らないで。』ウディーネはティエリに言った。ウディーネは、ティエリが何か見当違いをしていると勘ぐった。ティエリは2本の手綱を持って、馬の鼓動を確かめる様に下腹に手を当てている。馬の鼻から息を吐かれると、ウディーネも黒い目の馬の胴体をさすった。それからウディーネは、編み込んだ長髪を揺らしながら、黒い馬の背中によじ登る様にして跨った。ウディーネはスカートをたくし上げ、鎧の鞍に足を掛けると、脚の内側で馬の胴体を締め上げる。馬は息を吐きながら唇を震わせて、ゆっくりと前に歩き出した。ウディーネは編み上げのブーツを馬の尻に当て、その合図で馬が走り出すと、馬は土埃を跳ねあげて石畳を走り出した。街の人々は、そんなウディーネの姿を見かけると男勝りな変わり者。だとか、学校に通い勉学に励む変人。など様々な噂話を街角で繰り広げたりしたが、ウディーネ当人はその様な風評を全く気に留めていない様だった。
 ティエリは厩戸から2頭の馬を率いて、馬を酒場の外にある停泊場に繋いだ。停泊場にはウエスで黒い塗料がかけられており、過敏な馬にとってはそれがどの様に作用するのか気掛かりだった。ティエリは酒場の両側に開く跳ね扉を開けると、すぐに酒場の主人が配達されて置いてある酒瓶のケースを貯蔵庫へ運ぶように言いつけた。ティエリは夕方の5時から夜の11時まで働いている。現在は週に5日、酒場に届けられた物を食物庫に運び入れ、数時間後に酔っ払いが帰路に着くため丸テーブルの椅子から立ちあがりだしたら、馬車を運転して送り届ける運転手として主人の酒場で働いている。酒場の主人はティエリが亡命してきたときにロレーヌの地で最初に出会った人物だった。まだこの街に来たばかりのティエリが、まだ何処へも行く当てが無く、3週間ぐらい続けて寝床の酒場のカートンケースに隠れて路肩でうずくまって北風を凌いでいると、主人が鍵をベルトから下げてティエリの元へやってきた。主人は店を開ける素振りを見せると、カートンケースの横で蹲るティエリの様子を眺めた。店主は店の中から戻ってくると、片手に鍋から掬い上げられた牛のスープを持っていた。ティエリはそれが実に2日ぶりの食事だった。『美味いか?』と主人は聞いた。そのスープが再び立ち上がる気力を繋いだのだった。『明日からもっと良いものが食べれるぞ。』と主人は煤だらけで寝そべるティエリに言った。『その為には、ここで働く事だ。』その瞬間の青年の目の輝きを店主は決して忘れたりはしない。スープを貰った次の日、その青年は何処かから3匹の馬を連れて店主の酒場にやってきた。店主は馬を持っている青年の姿に驚きを隠せない様だった。携えていた3匹の馬は、都市の戦果を切り抜けて青年共々傷だらけ。青年は酒場の主人に黒毛の馬と茶色い馬、茶色と黒の混血の馬の存在を告げた。馬はブルブルと頭を前後に震わせて、汗で濡れた立て髪から湯気を上げている。酒場の主人は傷だらけだが、この様に立派な馬を見るのは初めてだと目を丸くして呆気にとられた。それから流浪の民の青年は、『この馬と共に、私に何かできる事はありませんか?』と主人に対して請願をしたのだった。
 元々この青年は、都市で馬の鞍を作っていた。青年は、争いが激化すると自分が世話をする馬の中から最大限の無理をして8頭のうちの3頭だけを引き連れて都市から逃げてきていた。それからは酒場の前で寝ていた時も、長屋に落ち着いてからも、毎晩、夢の中で残こして来てた馬の事を考える様になった。酒場を営む主人は青年に話しかけてくれた命の恩人というだけでなく、親切な事に、ティエリの住居が決まるまで身の廻りの世話を焼いてくれた人物だった。ティエリが店を手伝出してからは、次の住居をどうするのかよく店主に相談をしていた。青年が働きだしてからしばらくたったある晩。酒場の主人の親友、ウディーネの父が酒場に南で取れた椰子酒を飲みに来た。その時、主人は青年が馬車に乗っている間、ウディーネの父親に流れ者を匿っている事を相談したのだ。ウディーネの父親は周囲を見回して、自分は違う事を考えていると言う振りをした。ウディーネの父親は、椰子酒をもう一杯飲み干した時、口が緩んだのか自分の住む長屋の隣が空いている。という話を酒場の主人に報告した。酒場の主人は、すぐさまティエリにウディーネの父親を紹介した。食料の貯蔵庫から出て来たティエリは、住める家があるかもしれない。と言う事を主人に伝えられると『屋根があるなら何処でも良いです。本当にありがたいです。』と食い気味に言った。その時、ウディーネの父親は眼を丸くして、青年の事をつま先から舐める様に見渡した。ウディーネの父親も酒場の主人と同じく、3頭の馬を携える褐色の肌の青年を初めてだった。『有り難いです。』とティエリはもう一度念を押すように言った。ウディーネの父親もティエリが食い気味に来るので、若干圧倒された様だったが、戦乱を免れてきた深刻な事態を飲み込み、快い返事で承諾をした。その様な流れで青年はウディーネの住む長屋の隣に引越して来たのだ。だから青年は酒場の主人に温情を感じている。青年は毎日、届いた酒を酒場の貯蔵庫に持って行く際、自分が此処に寝泊まりしていた時から感じていた先行きの見えない不安について思案した。酒場に客が入り始めてからは、店の外に立って酔っ払っいが出てくるまで辛抱強く吹き下ろされる北風の寒さに耐え忍ばなければならなかった。青年は最初の給料を馬にかけるキルティングの衣装と、ブランケットに変えた。それからは馬も、馬車の後ろに乗せた酔っ払いの臭気を一見気にしていない素振りを見せた。馬も青年も、今出来る唯一の事は馬の健康を守る事と、スープを恵んでくれた恩人の施しに報いたいと言う事だった。青年は送り届ける街の人々の家を覚えた頃、この土地にすっかりと溶け込み始めた。
 酒場にはティエリと店主以外にもう一人ティエリによく話かけてくれる人が居た。それは眼鏡をかけたシンディという女だった。酒場に来る役人はすぐに分かった。特に若い役人は綺麗な衣類を身につけていて、ウェイトレスの娘をからかうからだ。しかし彼女はウディーネと同様にそんな事など気にしない。ロレーヌの男達は、大概そういうものだし、シンディというウェイトレスの女は客が全員帰った後、店のカウンターの片付けをしながら、その場でエプロンの前ポケットに挟んだ自分の取り分のチップを数えるのが日課だった。『自分の強さを誇張する為に、誰かを貶めなければ役人の試験には受からないのよ。』とシンディは言った。シンディは度々手をタオルで拭いては、冗談を交えては、樽につけられた皿洗いながら、その時居合わせた従業員と共に笑っていた。ティエリはシンディの事を尊敬している。シンディの様な芯の通った女性が何故ロレーヌには産まれるのだろうと青年は考えた。酒場のテーブルに椅子をひっくり返しながらその胸の内をシンディに打ち明けた所、シンディは『知らないわよ。』と言った。シンディは『そんな事をいちいち気にしていると、人生が悲観的になるわよ。』とティエリに言った。シンディは誰からも頼られる人物だった。実は昨日、ティエリが酒場の看板を閉まっている時にシンディに『実はウディーネは、中等学校に通っている。』と勇気を振り絞って告げてみた。するとシンディは、その時もウディーネに対して卑屈な意見を述べなかった。代わりに『良いんじゃない。』と言って、シンディはエプロンの腰紐をキツく結んだ。シャツの袖を仕事で出来た力瘤がせっせと食器を運び、戸棚の中に仕舞われている。シンディは今、炊事場で水道から冷水を客がミートローフを食べ終えた鍋に当てている。泡立てた束子で皿を洗いながら、シンディはティエリに聞いた。『あなたはそのウディーネという人の事をどう思ってるの?』『どうもこうも。』と青年は答えた。『私に何か言って欲しいんでしょ?』ティエリは一瞬、返事をするのを躊躇った。『それがこの先、きっと結果いい結果をもたらすかも知れない、とかきっと貴方は考えているのよ。』『そうだ。』『だからもう、その子の事が気になっているんでしょ?あなたは違うって言いたいのかも知れないけど、何故か貴方の耳が赤くなっているのが顔を見れば分かるわよ。』揶揄われた事で恥ずかしくなったティエリは、いそいそとシンディのいる台所に入り、わざとらしく脅かした。皿を洗う事に夢中になってワッと驚いた。シンディはティエリに対して『馬鹿ね。』と嘲るように言った。
 月曜は朝から馬の世話をした後、畑で育てた作物を酒場に届けた。その日は朝からから馬具を取り付けて、鎧の位置を調節してそれぞれ合った馬具をあつらえたりした。3頭の馬はどれも肉の付き方が三様に異なる。黒い馬と茶色い馬と、混血の馬には其々にトラウマがあり、馬車に乗客を乗せて、ゆっくり馬車を引いていく事に慣れるまでには随分と時間がかかった。それから3頭の馬には、鞍とあぶみが背中からずれない位置に設置した。青年は普段から馬にストレスをかけないような世話をする事にしたのだ。昼にウディーネの住むアパートに出向いて、昨日貸した馬はどうだったのか乗り心地を尋ねたところ、『跨って、走っても大人しくて静かな馬ね。』と馬達の歩行を褒めた。今日のウディーネは、まるで何処かに行くのかとでも言う様に、着飾っていた。赤いチェックのスカートに緑のブラウスと、ブロンズの長い髪が澄んだ青い目を際立たせている。青い目はティエリと馬を見つめた。『今日は学校は?』と青年が尋ねると、『今日は休み。』と言った。ウディーネは今から何処か行かない?と言いたげな感じだった。それはまるで予期されていた事の様に、玄関のすぐ外では茶色い馬と、昨日ウディーネが乗ってきた黒い馬が立っている。ウディーネはティエリが厩舎から乗ってきた茶色い馬の様子を眺めた後、『疲れてそうだから休ませてあげたら?』と馬の様子を観察して述べた後、青年の返事を待った。青年はウディーネの背後に見える家の廊下の若草色の壁紙や、雉の絵柄が書かれている鍵置きのテーブルを眺めている様だった。『これ?気になるの?』ウディーネは鍵置きのテーブルの上に載ったブリキの剥製を指し示す。ティエリは、そうだ、何処か出かけようか、と機転を気掛けせて言いかけたが、ウディーネはティエリがインテリアに眼をとられている事を察すると、紅潮した表情を浮かべて家の中に入る様に誘った。ティエリは玄関の外でブーツを叩いて土埃を落とし、二階へ登る階段を上がった。狭いウディーネの部屋には、絨毯の上に読みかけの本が置かれていた。ウディーネは何処でも自由に座る様に言った。ティエリはこの日、初めてウディーネの家に呼ばれることになった。
 ウディーネの部屋は落ち着いた黄色い壁にクリーム色のカーテンが掛かっている。ウディーネは何処から出してきた小さな折り畳みのテーブルを絨毯の真ん中に広げた。テーブルを広げる前には、市場で売られている花柄のクロスが物を隠す様にかけられていた。ティエリは絨毯の上に座ったはいいものの、何処かそわそわと落ち着かない感じだった。ウディーネの部屋の辺りの見て、馬を操っている時とは対照的な様子だ。ティエリが絨毯の上座っていると、ウディーネが茶器から紅茶を注いで、スプーンでかけ混ぜながらティーカップを目の前に運んだ。『黒い馬は突然跳ねたりしなかった?』とティエリはウディーネに尋ねた。『全然。とても大人しかったわ。』ウディーネはティーカップの紅茶を一口飲むと、『私には懐いているのね。』と言った。『夜、馬車を引いていた時には結構焦っている感じだったんだ。』『本当?』『うん。だから帰り道に何かあったのかと思った。』ウディーネは首を左右に振った。『全然。そんな事無かったわ。』『ならいいけど。』しばらくしてウディーネは尋ねた。『黒い馬は、突然跳ねたりするの?』『いや通常ではそんな事は無いんだけど、たまに厩戸から連れて、貸したりするときに落ち着きが無くなって帰ってくる事があったたんだ。』とティエリは言った。それからティエリはロレーヌに来る前の事を話した。それから話を変えて、馬車を引く時に縛られたロープが体を強く締め付けるんだけど、その時馬が、瓦礫の中で、厩舎を抜け出してきた時の事を考えているような気がする。とウディーネに告げた。ウディーネは『何故、馬は厩舎を抜け出してきたの?』とティエリに尋ねた。『何故?』その理由をティエリがウディーネに告げかけたその時、ずっと前から居たように、工事現場から帰ってきたウディーネの父がウディーネの部屋の戸口に立っていた。ティエリが入って来た時から、ウディーネの部屋のドアは開け放たれていたのだった。『何だティエリ、来てたのか。』昼食を取りに帰ってきたウディーネの父親は自分の部屋に戻る途中で青年に向かって言った。ティエリは、ウディーネの部屋の絨毯から立ち上がり、頭に載せた茶色いフェルトの帽子を取った。それからティエリは、ウディーネの父に向き直って言った。『昨日はどうも。』『昨日の御者は君だったっけ?』ウディーネの父親は言った。『飲みすぎるのも程々にしないとな。外にいるのは君の馬かい?』『ええ。昨日引いていたのと同じ馬です。茶色い馬がユージーン。黒い馬がハビットと言います。』『馬に名前を付けているのか。』『ええ。』『そうか。それで、さっき、洗濯物が乾くからもうそろそろ取りに来いと、私の妻が言っていたぞ。頃合いを見て、ベランダに取りに行くといい。』『そうします。』と青年は言った。『外の馬も長い時間、貴方の家の灌木に繋いでいるのは悪いですから。』突然、ウディーネは、座りながらティエリと父親を交互に行き来するように仰ぎ見た。ティエリはウディーネに何?と表情で訴えかける素振りを見せた。するとウディーネはもう一度、2人の様子を見比べた。ウディーネの父親はウディーネを不思議そうに見つめた。ウディーネは父親が単に事実を述べただけの事である事を悟ると、『ティエリもお昼はまだよね?』と言った。それから、『折角ならお父様と一緒に食べて行ったら?』と付け加えた。父親はけったいそうに客間の入り口の木枠に肩肘を付いているが、特段、嫌な素ぶりを見せる事は無かった。それからウディーネの父親は申し出に悩む間もなく返答をした。『そうだな。ウディーネ。母さんを呼んでこい。ティエリの洗濯物を持って来て、ランドリーバックに入れて下の階に降りてきなさい。ウディーネ。ワインセラーの隣にハムの塩漬けが置いてあるから。戸棚から出して君が好きな様に皿に盛り付けると良い。』とウディーネの父親は言った。父親は一度ゆっくり話してみたいと思ってたんだよ。と言わんばかりにティエリの肩を揉んだ。ウディーネの父親はダイニングの椅子をティエリの為に引いて昼食に招いた。ティエリはウディーネの家族と和やかな昼食に同席する。食卓には質素だが、高タンパクの食事がティエリの皿の上にも並んでいた。『いっぱい食べろよ。』とナイフとフォークを持ったウディーネの父親はティエリに言った。『豆は良いから、肉を食え。』その席では塩漬けの肉は特別な時の為に取っておく物だとウディーネの父親から聞かされた。終いには、ウディーネの父親はその肉を、自分の皿からティエリの皿へ移した。ティエリはその時、ロレーヌ地方の男は父親から娘と同席してランチを摂る時、誰もがその様にされて来たのだと悟ったのだった。
 食事の席では、馬を操れるなら、工事現場によって1週間も働けば五ペンスにはなるぞ。とウディーネの父親に言われた。食事を終えてティエリを玄関へ見送りに来たウディーネの父は、ブーツを履いているティエリに忍び寄ると、『また来るといい。』と大袈裟にティエリに言った。ティエリは振り返ってウディーネの父親に『また来ます。』と精悍に言った。それからティエリは羊の毛で出来たコートを羽織ると、フェルトの帽子を被り直して黒毛の馬に跨った。内股であぶみに足をかける姿を見たウディーネは、父親の目線に気がついた。ウディーネは馬に跨るティエリから視線を外すと、ティエリが馬に走る様に合図を出すまで、馬の蹄を眺めていた。ガス燈が灯る街は静かで、夕闇が街を染めようとしている。ウディーネの父親は、日中は鶴嘴を握り、指の皮が厚くなった手の平をウディーネの肩に置き、『ティエリ、気をつけて帰るんだぞ。』と言い放った。ウディーネはティエリが馬に跨り、走り出すのを見守っている。母親も加わって、ウディーネの親子はティエリが走り出すのを見守っていた。母親は静けさに摘まれたような様子だった。馬に乗れる若者はみんなこの地域からは離れてしまった。都市で起きている戦争にこの地域の若者はすべて駆り出されてしまっている。戦争は長引いて、思想の中枢を司る都市では古典派の攻撃を受けて、もう壊れる物は壊し尽くしたという壊滅的な状況に落ち着いている事いう事をウディーネの母親は最近父親と話して知った。更に最近、主要都市では衝突が新たな動きを見せ始めた。古典派の人々と新鋭派の人々が自分たちがどちらの派閥に属しているのかを見かけで区別しようと思い始めたのだった。都市の人々は自らがどちらに属するのか知らしめる様になった都市では最近、外出時に古典派の人々が自発的に白い包帯を腕に巻くようになった。その慣習は、もうロレーヌの目と鼻の先の都市まで辿り着いているそうだ。隣町から酒を飲みにやって来た男から、その話を聞いたロレーヌの古典派の枢機卿は、その前触れを大いに心配していた。ロレーヌに暮らす古典派の人々や新鋭派の人々にとっても、それは争いが始まる前兆なのではないかと日に日に噂が広がっていった。
 ある日、酒場から住処に帰ったティエリは、街の中央部に警報が上がっているのを聞き付けた。ウディーネは翌日、学校に行く事になっていたのだが、今は中心街に行くのは危険だという父親の言いつけが下された。だからこの日、ウディーネは朝、ティエリの家を訪れると、2人で自転車を漕いでティエリの厩戸に来ていた。ウディーネが肩から斜めに下げている狩猟用のバックは、頑丈な革製で、ティエリが馬具を加工する技術を応用して仕立てた物だった。厩戸では干し草を馬の周りに敷き詰めてあり、水道から水を汲んだ陶器がすぐそばに置いてある。その陶器の水は茶色く、何回かブラシをボウルにつけては、ブラシを陶器に戻して馬の毛を綺麗に解かしていた。解かされた毛並みは太陽に当たると輝いていた。ウディーネは、ティエリが馬を磨く様子を観察しながら、茶毛馬が気持ちよさそうに目を細めていくの様子に心を奪われた。その時ウディーネの頭の中にあったのは、その気持ちよさそうな馬の表情に反して、ティエリが昼食の前に語った馬達が過去に都市を逃れてきた出来事だった。黒毛の馬は茶色い毛の馬の横で、脚を折り畳み積み上げられた干し草の上に座っている。黒い馬はまつ毛が長く、時々瞳を瞬かせては、厩戸の奥を見つめている。いま黒い馬の見つめているのは、厩戸に掛けられている振り子の時計だった。ウディーネは次第に、脚を折りたたんで干し草に寝そべっている黒い馬から目が離せなくなった。意思のある強い眼差しが瞬くたびに、潤みを帯びた眼差しが交互に織り交ぜられる。ウディーネは馬を見つめながら、その側に佇むティエリを見た。『どうした?』ティエリはブラシで馬の体を解かしながら言った。『都市で暮らしていた時に、結婚していた人はいる?』『まだ結婚はしてないよ。』ティエリは笑いながら言った。『じゃあ、あなたの家族で結婚した人はいる?』『いるとも。兄は都市で幼馴染と結婚して、今はこの国の何処かで暮らしているよ。』ウディーネは木箱に座って長い脚をぶらつかせている。黒い馬はウディーネを見ているようだった。『この街に来る前は、もっと馬を飼っていたんでしょ?』『そうだよ。全部で30頭ぐらいいた。』『それ以外の馬はどうなったの?』『戦争が酷くなる前に逃した。』ウディーネは今度は黒い馬に視線を移した。『父親が5頭馬を乗って行き、兄が4頭持って行った。それ以外は全て僕が都市の何処かへ行ってくれと願いながら厩舎にロープで繋がれた留め具を切った。』『その後逃げた馬はどうなったの?』『そうだな。』ティエリは少し黙り込んだ後に言った。『知らない。それ以来僕の馬以外には会えてないから。』『この3頭は幸せそう?』『争いから逃れてからは、段々幸せに近づいていると思う。』『仕事は大変?』『馬はよく頑張ってくれているよ。』『貴方は幸せ?』『本来はもっと馬を早く走らせたい。今は人の役に立つ事だけしかやらせてあげないし、多分この子達は息苦しさを感じているだろうね。』黒い馬は干し草の上に寝そべって白い息を吐いている。磨き上げられた筋張った脚は、綺麗に折り畳まれたままだ。厩戸の天井の隙間から迷い込んできた木漏れみが、馬の艶のある毛並みを照らし出している。馬は立ち上がって、少し辺りを歩くと、厩戸の干し草をはみ始めた。
 その後ウディーネとティエリは、一日中厩戸の中で今後の自分達の事を話した。夕方、ティエリが酒場へ働きに行く時間になると、自分達の結婚の話になって、ウディーネはティエリに『もし、君の父親が了承してくれたのなら、僕たちは結婚しよう。』と言った。ウディーネは勿論承諾した。そして厩戸の中で勢いよくティエリの胸元に抱きついた。しがみつくように抱きついたウディーネは、ティエリの汗や、干し草にまみれたオーバーシャツの汚れなど気にしていないようだった。ティエリは捲られた綿のシャツから腕をウディーネの腰に回した。汚れた自分の身体から少しだけ距離を作るとウディーネは『結婚しましょう。』とティエリに確認する様に言った。ティエリは誰かに請願する様に天を仰ぎ見ると、そのままウディーネの瞳を覗いて頷いた。『さっきの警報は何なんだろう。君は、街で何があったのか知っているの?』ウディーネはロレーヌの近くの街で何があったのか知っていたのだが、彼女は首を横に振った。警報が鳴った理由は、今朝、朝食の時に母親から聞かされた。それは中央都市の武装勢力がロレーヌの街にも流れ着くかもしれないという事だった。その時、ロレーヌの古典派の教会は、ロレーヌに安住する新鋭派の伝統師にも呼び掛けて、人々は動員して無駄な武力衝突を避けようとしたのだった。枢機卿の呼びかけに賛同した古典派と新鋭派のロレーヌに住む民衆は、共に協力をして、ロレーヌへわたる為の大河へかかる吊り橋を切り落としたのだった。ウディーネの父親は、酒場の店主と信者と共に、その戦乱を遅らせる行動に加わった。それが、父親がウディーネに学校に行くなと告げた1番の理由だった。今は一旦は都市からやって来た新鋭派の武装勢力が、これ以上ロレーヌの街に侵攻する事が出来ない様になっている。しかし、3日もすれば遠征をして裏の山を伝って数百人の兵士達がやって来てしまう事など誰に相談せずとも図り知れてしまう事だと分かっていた。ウディーネは、ティエリに『行かないで。』と言った。今度は、ティエリが腰に回した手を、自分の目の前に持ってきてウディーネは、土まみれの青年の手を握りしめた。この時、ティエリはウディーネの手を突き放したりはしなかった。しかし、ティエリは言った。『僕は酒場を見に行くよ。』ウディーネの目には、眼に一杯の涙が溜まっていた。街ではその暴動の時に続いて、2度目の警報のベルが鳴った。『絶対に帰って来てね。』とウディーネは言い放った。ティエリは帽子を目深に被り、黒い馬に乗って、酒場のある中心街へ民衆が働く葡萄畑の中を颯爽と駆け抜けて行った。
 中心街へ着いた時、まず立ち寄ったのは酒場だった。店主はティエリに中に入る様に言った。決起集会が市役所にある中央広場で催されていたのだ。『お前はここに居なさい。』酒場の店主は息を潜めてそう言った。『どうしてこんな時に来たんだ。』『警報が鳴って、胸騒ぎがしたんです。』とティエリは言った。『迂闊に外に出てはダメだよ。』酒場に居たシンディーの腕には白い紐が巻かれていた。それはシンディーが古典派である事を示すサインだった。『これからどうするんだ。』主人の問いかけにティエリが言い淀んだのは、脳裏に燃え盛る都市の残像がよぎったからだった。そしてティエリは言った。『僕はウディーネと暮らす事になるでしょう。』『何?』『結婚するんです。ウディーネにプロポーズをしてきました。』『本当か?』酒場の店主は尋ねた。ティエリは転々として来たが、この青年が本当に心を通わす事が出来たのは、ウディーネただ1人だった。ウディーネは、厩戸の中で自分の家族が古典派であるという事も聞かされていた。だが、それでもティエリはウディーネの事を愛している。ウディーネもその気持ちは一緒だった。シンディーは眼鏡の曇りをナプキンで拭きとりながらティエリに感心を注いでいた。『それでウディーネからは?』シンディーは聞いた。『何て返事をされたんだ?』と酒場の主人も聞いた。『ウディーネは了承してくれました。三月に葡萄畑で結婚式を挙げる予定です。』『じゃあ君も婚約するまでに改宗するんだね。』ティエリは一度、言い淀んで頷いた。茶色い毛の馬と真鱈模様馬は白い息を吐き、蹄鉄が石畳の上をを強く踏みしめている。馬が繋がれた停泊場の馬車は出払っていた。帷から見切れる人々は急いで家に帰っているようだった。店の中はがらんとしている。酒場には店主とシンディー以外は誰も居なかった。布で拭いた眼鏡を掛け直したシンディーは、泣いている。2度目の警報が鳴った理由は、中央広場で、元々ロレーヌの街で暮らしていた新鋭派の男が古典派の人間をナイフで刺し殺してしまったからだった。シンディは、ティエリに状況を説明する店主の説明を聞いているうちに、こんな時に幸せを掴みかけているティエリの事が不憫でテーブルに突っ伏して咽び泣いてしまった。帰った客の飲みかけのビールの瓶は、テーブルの上に置かれたままだ。ティエリは寂しげな目を向けた。その情景を生き写した鏡の様に酒場の壁や掛けられた時計、それに雉の剥製などに得体の知れない物が忍び寄っている気がした。
 中央広場で配られていたビラが、北風に飛ばされて屋根の上を舞っていた。その上には暗い雲が薄暗くなった夜空を隠してしまう様に覆い被さっている。ティエリは人々の流れに寄り沿うようにして中央広場まで走っていくと、教会の鐘付き堂の上に1人の男が立っていた。男は鐘の中にぶら下がる太い縄を引いて、鐘の音を街中に響かせていたのだ。音を聴いた人々が中央広場の集会場に集まってきていた。ティエリは中央広場に併設された証言台に向かって、押し寄せる人々の中から、後から遅れてやって来たウディーネを見つけた。ウディーネはティエリより後方の15m程離れた所に押し潰されそうになりながら何とか立っている。ウディーネも手を挙げた。ティエリの存在に気が付いた様だ。ティエリは、人々の流れを掻き分けてウディーネの元に歩み寄った。するとウディーネに近づく途中で、集会場の証言台に向かって罵っている男にぶつかってしまった。ティエリは少しよろめいたが、大事には至らなかった。男の腕には既に白いリボンが巻かれている。少しして、枢機卿らしき白い装束を纏った人物が証言台の前に立った。袂が長く、長い帽子を頭に被るロレーヌの枢機卿は、人々が静粛になるまで2分ほど黙って証言台の上で待った。枢機卿が佇んで、宣誓書を読み上げようとすると、人々の視線が枢機卿の袖の長い装束の袂に集まった。人々は襟元を保つように徐々に口数が途切れ、段々と自分達の周りが静まり返ると、枢機卿に注目が集まった。完全に静まり返ると枢機卿は幾つも折り畳まれ手に持っていた宣誓書を開いた。それから自分で、一度咳払いをして、更に群衆の視線を自分に集めた。枢機卿は荘厳に、一言一言、祈りの言葉を人々に授ける様に宣誓書を読みあげ始めた。『良いですか、皆さん。私たちはこれから逃れられない事態に突入するかもしれません。隣の街では既に戦闘が始まってしまいました。ロレーヌの街は山間部の田舎町でずっと平和が続いています。今回の殺傷事件を大事にしてはいけません。これ以上、私達の街では住民が誰1人としてかける事が許されないのです。私はこの街で無駄な死人を1人も出したくはありません。』何処からか枢機卿に反対意見をを述べる叫び声がした。その声の主は、ティエリにぶつかった白いリボンを腕に巻いた男だった。枢機卿は窪んだ目で、声がした辺りを探る様に睨んだ。そして再び咳払いをした枢機卿は、その男がいる辺りに曖昧な視線を送った。『これからは私たちは団結し、再び道を塞ぐ形で交戦します。相手に対する猜疑心を駆使して山を越えてくる新鋭派の義勇軍とは闘わなくても済むようにです。』その宣誓書が読まれた事で、ロレーヌの人々は外出する時には同じ色のリボンをつける事になった。しかしやり方に賛同できない者や、教義の再現���を重んずる者の中には枢機卿の宣誓の内容を破る者もいた。それらの人々は白いリボンをする様になった。そして次第にロレーヌの人々は新鋭派や古典派の無駄な争いを避けるべく、腕にリボンを巻いて外出する様になった。ティエリも腕にリボンを巻いて出掛けた。地方にもティエリの様な人々が逃げ仰せて来たのだが、ロレーヌの街でティエリの様なボニシェリの異邦人が、腕にリボンを巻くという事は、まるで地面が割れて、新たな芽吹きが起こる新たな地殻変動だった。
 翌日、ティエリは洗濯物を預けにウディーネの家にやってきた。ウディーネは二階で寝て居るふりをしていて、代わりにウディーネの父親がティエリの前に現れた。母親は葡萄畑に出掛けている様だった。『ティエリか。』『先日は昼食をご馳走様でした。』『ウディーネは部屋にいるよ。』ウディーネの父は言った。『今日も物干し場を借りに来ました。この洗濯物を奥さんに頼んで欲しいのです。』『すまんティエリ。妻は今朝、出て行ってしまったんだよ。』ウディーネの父親の腕には白い包帯が巻かれている。『昨日、あいつに家の中で、白い包帯を撒こうとしたら、拒絶されてしまった。俺はもっと彼女の言動に注意を払って接してあげるべきだった。ウディーネの母親は、平和の為に外出時の見せ物としたリボンを腕に巻く事には耐えられたのだが、それを家庭内に父親を軽蔑した。それから暫くして、ウディーネの父親は言った。『君は構わず、君はうちへ寄って是非とも中へ入ってくれ。』ウディーネの父親は言った。『ウディーネだけ幸せになってほしいんだ。』『奥さんは何処へ行ってしまったんですか?』『分からない。私の妻はより辺もないしロレーヌからは出ていないと思う。』ティエリの馬はウディーネ家の木に繋がれて静かに帰ってくるのを待っている。『戦争が近づいてきて、俺は尊厳を失ってしまった。』それからウディーネの父親は語った。ウディーネの父親は母親に拒絶され、妻の頬に強烈に手を挙げてしまったという事だった。ウディーネの父親はその事を悔いて、2匹の馬と、ティエリに見つめられながら玄関に膝から崩れ落ちた。父親は静かに泣いた。ウディーネも自分の部屋から出てこない。『ウディーネには幸せになって欲しい。ティエリ、あの子を幸せにしてやってくれ。』ティエリはウディーネの家から少し離れて、玄関から馬の繋がれた外に出た。ティエリはウディーネの部屋がある2階の窓を眺めた。風に吹かれた人影がカーテンの奥にウディーネが佇んでいる。ウディーネは物書き机に座っている様だった。カーテンの隙間から見てとれるのは、ウディーネ長い髪が一つに後ろで結ばれている様子だった。ウディーネは机の上で何かを記録している様だった。『ウディーネ。ウディーネ。ティエリが来たぞ。』ウディーネの父親は家の中からウディーネに向かって呼びかける。するとウディーネは憂鬱そうに立ち上がりながら、二階の窓枠の近くにある書き物机から自分の部屋のドアへ歩いた。ウディーネは誰にも悟られない様に自分の部屋の扉を締めた。ウディーネが部屋の戸口から書き物机に戻ってきた時、ウディーネは外の冷たい木陰に立ちすくむティエリの姿を捉えた。ウディーネの灰色のブラウスの腕には白いリボンが巻かれていた。
 
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なぜ腐った料理を経済学と呼ぶのですか。なぜこのようなネーミングがあるのでしょうか
なぜ腐った料理を経済学と呼ぶのですか。なぜこのようなネーミングがあるのでしょうか。
腐った野菜干し経済学、名前の由来は珠三隅後地区肇慶を代表として、それらの清遠、韶関、河源、梅州、雲浮、広西、江西、四川、河南、青海、甘粛、寧夏、これらの地区を一般的に指す。
これらの地域では、
1.優れた地理的位置はありません。
2.便利な交通がない、
3.多山は開発に不利であり、
4.海岸線には海岸埠頭がなく、
5.国家投資が不足し、外商投資が不足し、
6.地元の基幹産業がなく、工業が原始的に立ち遅れており、農業と観光業だけがあり、採掘できる自然資源がない、
7.人の人口が流出し、
8.人の高齢化が深刻、など
つまり、さまざまな最悪の状況が、これらの場所に重なり、さまざまな最悪のカードが、これらの地域に集中している。これらの地域を、私は「立ち後れた地域、腐った野菜干し地域」と呼んでいます。
地域食現象、地域生産現象を発見したため、
通常、物資が発達している地域、例えば広東省東莞、広東省中山、内モンゴル、新疆、浙江省金華、これらの地域、彼らは干物を作って、すべて蛋白質の干物です:例えば東莞ソーセージ、中山ソーセージ、内モンゴルチーズ、内モンゴルビーフジャーキー、新疆チーズ、新疆ビーフジャーキー、浙江省金華ハム。これらはいずれも経済発達地域、タンパク質物資発達地域である。
肇慶を代表とする立ち後れた地域、腐った野菜乾燥地域、例えば:清遠、韶関、河源、梅州、雲浮、四川、河南、甘粛、青海、寧夏、アフリカコーヒー豆、東南アジアバナナ乾燥、東南アジアボロ蜜乾燥、彼らの干物製造品は、野菜を主とし、植物を主とし、腐った野菜乾燥のようなものである。だから、私は彼らにこれらの地域に名前をつけました:腐った野菜の乾燥地区。蛋白質物資が発達していない地域。
最後に、私はこの経済学に名前をつけました:腐った野菜の乾燥経済学。専門的に記録し、検討し、研究し、最悪で最も立ち後れた地域、彼らの経済輪郭、経済状況、最悪で最も立ち後れた個人、群体、彼らの経済状況、彼らの最適な発展路線。目的は、下品な人、庶民、後進国、後進国の経済発展に適した道と方法を検討し、研究し、発展させることである。
現在世界で流行している経済学理論には、マルクスの『資本論』、アダム・スミスの『国民の富の性質と原因の研究』、フリードリヒ・リストの『政治経済学の国民システム』などがたくさんある。しかし、これらの経済学理論は、いずれも支配者の立場に立って書かれた理論と研究であり、経済的に遅れた地域、経済的に遅れ、困窮した個人に属する経済学研究書は一冊もない。
このような現象は、私は合理的ではなく、残念に思っています。
この経済学理論研究の現象は、貧乏を嫌って富を愛する現象である。
中国と西洋の歴史のように、すべて支配階級の歴史を記録するだけで、支配人物の歴史は、すべて大物の歴史だけを記録して、労働人民を記録したことがなくて、これまで下品な人の庶民の歴史を記録したことがなくて、更に下品な人の貧しい人の庶民の経済状況の歴史を記録していません。
歴史学界では、盲点を観察し研究する盲点が存在しているが、経済学は貧乏人の下品な人庶民の存在を無視することはできない。
経済学界では、庶民の下品な人、貧しい人、立ち後れた地域、腐った野菜干し地域の経済状況を実際に研究しておらず、最も立ち後れた地域、最も貧しい人にどのように経済格差を縮小し、追い越す道を実現するかを研究している。
この経済学を構築して、目的は探索、検討、研究、これらの立ち後れた地域で、最悪のカードを手に入れて、良い結果を出すことができますか?格差を縮め、追い越しを実現できるか。
これが腐った野菜の乾燥経済学の由来だ。
腐った野菜干し経済学の主張:
1、腐った野菜干地区の公務員吏治システムを整備し、優秀な人材を公務員に選び、公務員の仕事の効率を高める。不合格者は、断固として隊列を整理する。
2、投資環境を最適化し、行政審査・認可が減少し、企業創設の敷居が低下した。
3、地価地代を抑え、税収を下げ、税収政策は先進地域より30%-50%以上低くなければならない。できるだけ早く経済総量を拡大する。企業全体を拡大する。
4、個人が中小零細企業を設立し、信用支援を提供し、中小零細企業の発展と強大化を支援することを奨励する。
5、インフラ整備、道路、橋、電気通信、電力、水利、病院、学校の国家投資、外資投資の導入、
6、人材が腐った菜干地区に進出して創業し定住することを奨励し、信用資金の支持、土地の支持、税収の優遇支持を与える。
7、先進地域の産業移転を極力吸収し、世界先進国の地域産業移転を極力吸収し、
8、現地の特色のある産業を発展させ、この産業を大いに強化し、世界的に有名になり、世界競争力があるようにする。
9、思想を解放し、黄、ほうれん草、毒産業を開放する。
10、立ち後れた地域には金融業があまりなく、金融業を開放し、外資に金融機関を興すことができ、資金は立ち後れた地域で自由に出入りすることができる。外資の投資参入を容易にする。
11、情報の自由、教育の自由、出版の自由、放送の自由、立ち後れた地域のため、何も豊かになれず、豊かになる方法は何でも使うことができる。
12、国際的に通用する法律を制定し、双方の弁護士の相互執業を認める。
13、自然資源の売却を奨励し、自然資源の売却を奨励するお金は、教育に投資し、世界の産業チェーンに投資しなければならない。世界産業チェーンの株主になる。腐った野菜干し地域を世界の先進地域の一環とする。腐った野菜干し地域の人、資源、外に出ることを奨励します。世界の産業チェーンを引き付ける。
腐った野菜が乾いた経済地区は、発展するには、必ず発達地区とずれて発展しなければならない。先進地域の産業、人材、資金を吸収するだけでなく、国家投資、外商投資を奨励す���だけでなく、いくつかの産業を行い、先進地域を専門に穴をあける人が、急速に金持ちになることができる。伝統的な黄賭博、新技術、新産業、先進地域の金を稼ぐことこそ、格差を減らす方法だ。もし腐った野菜干し経済地域が、先進地域のセット、衛星、駒になるだけでは、格差の減少は永遠に実現できず、格差はますます大きくなるだけだ。これが腐った野菜乾燥経済学の核心的な考え方であり、資源を争う。先進地域の従属者やアルバイトになるのではない。
世界中の腐った野菜干し地域が多い。すべての腐った野菜干し地域では、経済が衰退し、人口が減少している。
米国のデトロイト、南アフリカ、ブラジル、アルゼンチンを含め、腐った野菜干し地域に属している。
中国だけでなく、腐った野菜干し地域があり、世界中にある。
腐った菜干地区、格差を減らすには、全世界の資金、人材、資源、技術、腐った菜干地区、多いのは土地、多いのは山を誘致しなければならない。
腐った野菜干し地域の発展を実現するには、先進地域の経済学理論では通じない。同質化が深刻だからだ。先進地域よりも開放的で自由でなければ、先進地域との差を縮めることはできない。
個人、貧乏で下品な人、庶民、腐った野菜干し経済学の思想啓発:
腐った野菜干地区に育った下品な人、庶民、貧乏人、早く走りましょう。これらの場所は、外国投資がなく、雇用もなく、給料も高くない国がないためだ。これらの場所に残るには、巻き上げて死ぬしかない。商売は日増しに萎縮している。アルバイトは打てばするほど貧乏になる。
腐った菜干地区に育った人は、自分の主観的能動性を発揮し、発達地区に渡り歩き、発達地区にアルバイトをしても、腐った菜干地区より強い。主観的能動性を発揮し、創造性を発揮し、自分のビジネス、自分のブランド、自分の事業を創造する。
腐った野菜干し地域に育った人は、生まれながらにして困難なパターンを選んだ。人生はでこぼこでうまくいかないに決まっている。脱出はコストが最も低く、収益が最も高い戦略です。デトロイトのように、多くの人がデトロイトを脱出しています。
腐った野菜干し地区の人は、決して子供を産まないでください。そうしないと、子供を産むのは子供を害することになります。子供を生まれてすぐにスタートラインに負けさせた。子供は一生貧乏で苦労するだろう。
国と外商は、腐った野菜干し地域に一銭も投資しないだろう。この運命を変えるには、下品な人で貧しい人だけが頼りだ。
出稼ぎに出かけ、ビジネスに出かけるには、協力とウィンウィンを求め、団結して協力し、現地の法律を守らなければならない。自分を他人の社会に溶け込ませ、他人の輪に溶け込ませる。あなた自身を発達地域にして、彼らの役に立つ一部、不可欠な一部にします。しっかりと先進地域で自分を経営して、自分の得意なことをしっかりやります。賭博には関与しない、ポルノには関与しない、違反には関与しない。自分の一生をよく生きる。
腐った野菜干し地域の人へのアドバイスです。腐った菜干地区の人が、腐った菜干地区から脱出し、外で素晴らしい明日を切り開くことができることを願っています。
これらの提案は、役に立たないように見えますが、すべて実用的で、とても理にかなっています。腐った野菜が乾いている地域の人は、一生努力して、一生まじめに仕事をしなければならない。自分のために今、自分の未来のために、子供の未来のために、努力して戦います。
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mori-mori-chan · 2 years
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読書感想文18
ひそやかな花園/角田光代
※ガッッッツリネタバレしているため未読の方はご注意ください
実は本作、裏表紙に記載のあらすじにて"(略)七人の父親は誰なのか──?"と物語の根幹ともいえる部分を結構ネタバレしていたりします。あんまりネタバレするのも興醒めかとは思うのですが、そうしないと(私の脳では)この作品の魅力を伝えるのは難しいかなと……許してにゃん。
親と共に毎年行われるサマーキャンプに参加している幼い少年少女達はふと、自分たちの繋がりが何なのか疑問を持つようになります。血縁者でもなし、親達が同級生というわけでもなし。この集まりは一体何のために始まり、続いているのだろう、と。子供達が繫がり、そして各々の親に違和感を感じ始めると同時に、サマーキャンプはぷっつりと開催されなくなります。
めっちゃくちゃネタバレして恐縮なんですが、この7人の子供達には伏せられたままの繋がりが一体何だったのかというと──それは、彼らが皆精子バンクを利用して生まれたことです。正直「お、おぅ」と思わなかったわけではないのですが、本作のすごいなぁ……と思ったところは、その衝撃的な内容を精子バンクの是非を倫理的・医学的に問う方向に持っていかず、最終的にいわば人間賛歌ともいえる、この世界での自己の存在の肯定に持っていったところです。何を言っているのか自分でもよくわからないのですが(わかれよ!)、角田光代が書きたかったのは医療ジャーナリズムではなく、血の繋がりがあろうとなかろうと誰が産み育てようと自身の中身が遺伝子によろうとそうでなかろうと、自分は自分でしかなく、自分の生き方を決めるのも自分でしかない事実なのではないでしょうか。……余計わかんねェ~!
これは私の主観ですが、本作の主人公は2人ならぬ2グループのように感じました。何も知らず純粋に"ひそやかな花園"を楽しんでいた樹里、弾、賢人、紀子、紗有美、雄一郎、そして波留の計7人の子供達と、生まれてきた理由で会ったり自らの遺伝情報を知ろうと"ひそやかな花園"と向き合うことを選んだ7人の大人達です。後者はそれぞれ不妊や自らへのDV、異性との関係が長続きしない自らの人間性への疑問、等悩みを抱えており、父親が誰なのかを調べようと思ったのもそういった経緯があるからなのです。いつもと少し様子の違う親達を横目に、子供達は日常生活で味わう疎外感や窮屈さを感じることなくひそやかな花園を楽しみます。いつまでも続いていくかのように思えた"それ"は、参加者の家庭が少しずつ綻び始め、その綻びが大きな裂け目となった時に終焉を迎えました。子供達が理由を知る術もないままに……。終盤に進むにつれ全ての謎が綺麗に解けていくのですが、幼い彼等が親の目を盗んで文通で情報交換したり、記憶を頼りに学校をさぼって独り電車でキャンプ地へ向かう描写などミステリさながらの緊張感がありましたね……子供ならではの非力さがまた歯痒くて。高校生くらいになればある程度のことは自力で出来るようになりますが、小学生とか実際何もできませんし、親に支配されざるを得ませんからね。
賢人の主導により再開した7人ですが、社会的に成功している者とそうでない者がおり、毒親とも言える母親の支配下で育ってきた卑屈で被害者ぶりがちな紗由美等は若干樹里や波留とは異なるスタンスで再会を喜んでいます。雄一郎を自分と同じく「人生をめちゃくちゃにされた」ものと認識し、勝手に懐き始めたり……(※雄一郎はどこか達観&諦観しており紗有美のその考えには同意していません)。樹里は彼女が8歳の頃に家を出ていった育ての父親と再会しますが、この辺が一番ウッとなりましたね……。樹里の両親は夫婦で同意の上で夫以外の精子で妊娠したわけですが、夫婦の子供であっても、(夫からしたら)自分の子供ではない。サマーキャンプは母子達には楽しかっただろうけれど、そこにいる父親は全員子供を作れない父親達であり、参加する度にそれを痛感させられる、と。結論から書きますと樹里は父との再会で落胆します。彼は父親ではなく父親を「やめた」人だったのですから。いつ悪化するともしれない持病を抱えた波留もまた、悲壮な覚悟を誰とも知らない生物的父親……かもしれない男性と再会しますが、まぁとんでもない胸糞案件でした。この物語のすべての根源である「光彩クリニック」自体が、まぁ……最初はちゃんと不妊に悩む夫婦への救済として営業を行っていたのですが、段々金満主義となりドナーの身分確認も杜撰で、お金稼ぎの為だけに何回も足を運ぶドナーまで現れる次第で……。
ここからが角田光代すんごい……と思ったのですが、最終的に希望溢れる美しい締めに持っていくんですよね。ここまでネタバレするとアレなので伏せますがエピローグが本当に良くて……この人物にこれを言わせるのか~!!こう変わったのか~!!と感動せずにはいられませんでした。良い作品でした。
私は自分が勉強も運動も出来ず、実家も自身も貧乏で外見もいまいち(母親似なら良かったのですが……)、父親が金銭感覚オワオワリで姉がその要素を色濃く受け継いでしまっていることから「私が子供を産んでもその子は間違いなく苦しむし間違いなくまともな人物には育たないだろう」と物心ついた頃から自覚があり、一度も子供が欲しいと思ったことはありませんし、今後もそれは変わりません。中盤で樹里が不妊治療中だと知った紗由美が言った、「子どもがほしいってことはさ、生まれてきてよかったって思ってるんだね。そりゃそうだよね。ずっとしあわせだったんだもんね。私は子どもをほしいって思ったことがないな。だって、私はとても言えないもの。生まれてくる子どもにさ、この世界にはこーんなにいいことがあるよって、言えないもの。ジュリーは言えるんだね」に全面同意せざるを得ませんでした。不妊治療に関する報道等を目にする度、内蔵されている使うことのない子宮に、これが本当に必要な人の元にあればどれほどよかったのかと、いつも思います。そんな自分が本作を読んだ感想が上記なのですが、子供が欲しくて成した人、子供を望んだが色々ありいない人、子供は欲しくなかったが生まれた人等、読んだ人によってまた感想が異なるのではないのかな……と勝手に思いました。
これは余談ですが、遥か昔に読んだ『八日目の蝉』でも不倫相手の子を誘拐し母親役を演じていた女性が数年間生活を共にする→ひょんなことから足が付き捕まる、という中々ショッキングな内容が描かれておりましたがこちらでも事件起きた背景に「余りにもクソすぎる不倫相手のせいで傷つけられ、犯行に及ばざるを得なかった女性」の存在があるんですよね。表面的な、起きた事柄の向こう側にある問題を描くのがうまいなぁと感じました(説明が下手すぎてすいません)。
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t82475 · 2 years
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高校生探偵 小江戸タケシの冒険
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1. 「アクション!」 カチンコが鳴った。 ブレザージャケットの制服を着た少年を黒ずくめの女性軍団が取り囲んだ。 少年は高校生探偵の小江戸タケシ。軍団は悪の組織『ZZ』の戦闘員である。 女戦闘員は歌舞伎の隈取のような化粧をしているので顔立ちは分かりにくいが、身体の方は超ハイレグレオタード、網タイツとブーツを着用して全員が相当なナイスバディである。 「へっ」 タケシは親指で鼻の下を擦ると、ジャケットを脱ぎ捨てワイシャツ姿になり空手の構えをとった。 彼はあらゆるスポーツ格闘技が得意なのだ。 「かかりなさい!」 組織の女幹部ミゼラブルが合図をすると、全員が一斉に襲い掛かってきた。 一斉にといっても一人ずつ順番に挑んでくるのがヒーローもの戦闘シーンのお約束である。 最初の戦闘員を正拳で倒し、次の戦闘員に回し蹴りを放つ。三人目はジャンプしてかわし、四人目にデコピンをかまして倒した。 女が相手だからといって悪の組織に容赦はしないのだ。 10人以上いた戦闘員が倒されるまで3分もかからなかった。 「へっ」再び鼻の下を親指で擦るタケシ。 そのとき物影から見ていた女子高生が叫んだ。 「タケシっ、後ろ!」 タケシと同じ高校の同級生である彼女は、名前を神木ユウという。 ユウがどうしてタケシを呼び捨てにするかというと、二人は近所に住む幼馴染なのであった。 「!?」 タケシが振り返ったその瞬間、ミゼラブルが巨大な棍棒を振り下ろした。 彼女は伊達に悪の組織の幹部に上り詰めた訳ではない、超セクシーな美女なのである。 101-59-92(公式)のダイナマイトボディの肌を覆うのは肩アーマーと乳爪の生えたブラ、Tバックボトム。あとは真っ赤なレザーの手袋と膝上丈のピンヒールブーツのみ。 ブラは左右に分かれてドッジボールのような乳房を両側から支えている。戦闘アクションの際はこの胸が大きく揺れて相手の目を錯乱するのである。 さらにピンヒールは高さ20センチ。バレリーナのような姿勢を強要されるので歩けるようになるまで1週間かかったと着用している本人がブログで告白したほどである。 説明が長くなったが、このように恐ろしい敵にタケシは背中を攻撃されたのである。 「ぐわ!」ダメージを受けて膝をつくタケシ。 「ほぉー、ほっ、ほっ」 ミゼラブル��高笑いしながら逃げようとするユウを捕まえた。 「さあ、可愛い彼女を無事に生かしておきたければ、いさぎよく組織の捕虜になりなさい!」 ユウの腕を後ろに捻り上げる、 「ああ、タケシっ。助けて・・」 絶体絶命である。 ヒーローものにおいて、時にヒロインはあまりに軽々しく敵に捕まりヒーローを困らせるのだ。 「卑怯だぞ!」 膝をついたままタケシは悔しがる。 と、何かを思い出したようにズボンのポケットから小さな包みを出した。 それはユウが探偵稼業の安全を願ってタケシにプレゼントした伏目稲荷大社のお守りであった。 「これだ!」 目にも止まらない速さでお守りを投げるタケシ。 それは輝く光線となってミゼラブルの胸に突き刺さった。 「ぎゃあ~っ」 ミゼラブルのブラが乳爪ごとはじけ飛んだ。 一瞬、ぶるんと揺れる巨乳が見える。 ちなみにブラをはじけ飛ばしたシーンはCG合成ではない。 マニアの熱い声に応え、ワイヤーワークを駆使してミゼラブルの胸から本当にブラを飛ばしているのである。 技術チームが執念で実現した特殊アクションなのだ。 「やったわね! おぼえておきなさい!!」 ミゼラブルは谷間を強調するように両手で巨乳を押さえ、くねくねと身を捩らせた。 その姿は次第に薄くなり。やがて背後の景色に溶けて消える。 後には、ユウ、タケシ、そして地面に転がったままの女戦闘員たちが残された。 「よぉ・・、お前を守ったぜ、ユウ」 タケシは力尽きてその場に倒れこんだ。 「タケシ!!」駆け寄るユウ。 「死なないでっ、タケシ!」 この程度のダメージでヒーローが死ぬ筈はないが、それでもユウは涙をこぼしながらタケシに覆いかぶさる。 「へっへっ・・。お、お前のこと、」 タケシはいいところまでセリフを言って意識を無くした。 「タケシぃ~!!」 ユウがタケシに抱きついた。 そのまま顔を近づけ、唇をタケシの口に押し付ける。 2. 「はい、カット!! OKです!」 「ぷは~っ!!」 ユウ役の少女は唇を離して大きく息をついた。 「由布子ちゃん、キスシーンでぷは~はないんじゃない?」 タケシ役の俳優が不満気に言った。 「だっていつまでもカットがかからないんだもん。息が苦しくて」 由布子と呼ばれた少女が返事をした。 ここは先週クランクインした映画『大転換! ~高校生探偵 小江戸タケシの冒険~』のロケ現場だった。 タケシを演じるのは玉木翔一19歳。変身ヒーロードラマでお母さんたちの熱い視線を集める長身イケメン俳優である そしてユウを演じるのは人気絶頂のアイドル羽村由布子17歳であった。 「じゃあ、皆さんそのままで。シーン #022 行きますよー!!」 「はぁ~いっ」 地面に転がったままの女戦闘員たちが返事をした。 続くシーンでも彼女たちはそのまま倒れて背景を務めるのである。 玉木が立ち上がり、替わりにやってきた少女が同じ場所に横たわった。 少女の髪は肩までぎりぎり届くセミショート。 顔立ちは玉木に似ているが、身長は150センチほどしかない。 それでいて身長180センチの玉木と同じサイズの男子制服を着ているからだぶだぶである。 胸だけは大きく育っていてワイシャツを内側から大きく盛り上げていた。 スタイリストが走り寄って彼女のシャツのボタンを上から三つ外し、肩と胸の谷間をでろんと露出させる。 少女はノーブラであった。 「OKですーっ」 待機していた由布子が覆いかぶさり、さっき玉木に抱きついたのと同じポーズで少女と唇を合わせた。 「シーン #022 行きますっ。・・3、2、1、キュー!!」 少女は目を見開いて、素っ頓狂な声で叫んだ。 「うへ?」 ユウを突き飛ばして立ち上がる。 ガニマタで立ち尽くして自分の身体をあちこち叩く。 「うお~!! 何じゃあ、これは~!!!」 「え? 何? どうなってるの・・?」 隣で尻をついたユウも驚いて少女を見上げている。 カメラがぐっと引いて、画面の中央に少女とユウの後ろ姿、そして背景に倒れている女戦闘員たちを映した。 だぶだぶのズボンが少女の腰から落ちた。いわゆる裸ワイシャツである。 カメラが回り込んで少女を正面から映した。 せっかくの裸ワイシャツがいまいち色気に欠けるのは、彼女が男性用の縦縞ガラパンを穿いているからであろう。 少女は自分のシャツの胸元を覗き込み、それからガラパンの中に手を入れ、股間を大げさに擦って確かめた。 「な、ない~!!」 素っ頓狂な叫び声が荒地に響き、彼女は両手で自分の頭を抱えた。 そのままカメラが再び後方に回り込む。 びゅうっと風が吹き、ユウの髪と少女のシャツが揺れた。 風の中でガラパンがずり落ち、ぷりんとしたお尻が輝くのであった。 さて、もうお判りであろう。 タケシはユウとキスすることによって美少女に変身(性変換)したのである。 なぜ、このような事態が生じたのか? それはかつてタケシが悪の組織に潜入して捕まったときに飲まされた薬のためだった。 変身に要する時間はわずか0.5秒。 タケシは女性とキスすると一瞬で女体化する体質になってしまったのである。 元の男の体に戻るためには、今度は男性とキス、ではなく同じ女性ともう一度キス、でもなかった。 もちろん某有名アニメのように熱湯をかぶることでもなかった。 その方法が判らず、タケシはこの先続くドラマの中で苦悶することになる。 3. この日の撮影が終了した。 「葵ちゃ~ん♥」 女体化したタケシを演じた少女をユウ役の羽村由布子が追いかけた。 少女は玉木葵。中学3年生15才で玉木翔一の実の妹である。 男性のタケシとよく似た顔立ち、小柄でキュート、さらにはおっぱいも大きいという理想のキャスティングは血の繋がった妹ならではといえよう。 葵は今までドラマや舞台の子役が長くその演技力は高く評価されているが、兄の翔一ほどの知名度はなかった。 兄妹揃ってのダブル主演となるこの映画。 所属事務所としては絶対に成功させて、葵をブレークさせたいところである。 「葵ちゃん、お芝居上手ねぇ~」 「ありがとうございます」 「葵ちゃんとキスできて幸せだったよー」 「私も羽村さんと一緒にできて嬉しかったです」 「由布子ちゃんって呼んで欲しいなぁ」 「年上の人にそれはちょっと」 「あたしは全然気にしないよー。・・ね、今夜一緒にお風呂入らない?」 葵に猛チャージする由布子である。 彼女が男性よりも女性に嗜好があることはアイドル界では有名である。 「葵ちゃんっ、本当に可愛い! おっぱい触りたい! エッチしたい!!」 人目もはばからず大声で叫ぶ由布子に、周囲のスタッフは「またか」という顔をする。 今や女の子好きを公言する女性アイドルは珍しくないが、由布子はそれに加えてやたら下ネタを口走るのだった。 「ねっ。何じゃこれは~っ、のところ、もう一回やってくれない?」「はい?」 「お願い! あのシーンで葵ちゃんのこと本当にすごいって思ったんだもん」 「じゃ一回だけ、」「うん!」 葵は両足を肩幅に開けて立った。いたって無表情である。 大きく深呼吸すると、やおら大声で叫んだ。 「何じゃあっ、これは~!!!」 ガニマタになり、落ち着きなく自分の身体を触って確かめる。 「お、お、お、」 シャツを引っ張って胸元を覗く。その場でズボンを下ろし下着の中に手を入れて股間をまさぐる。 「な、ない~っ!!!」 両手で頭をかきむしった。 「・・本当はここでお尻を出しますが、それは許してください」 葵は静かに言って、ぺこりと頭を下げた。 ぱちぱちぱちっ。 いつの間にか集まっていたスタッフが拍手をした。 この子、やっぱりすごい! 兄貴よりスゴイんじゃないか。 ・・あれ、由布子ちゃんは? 由布子は興奮のあまり地面に転がって悶絶していた。 4. 『高校生探偵』の撮影は佳境を迎えていた。 この日はユウとタケシ(♀)の最大のピンチシーンである。 薄暗がりの廃工場。 「ほぉー、ほっ、ほっ」 悪の組織の女幹部ミゼラブルが高笑いした。 相も変わらず肌を見せまくる露出狂的コスチュームである。 前回、タケシ(♂)の攻撃によって吹き飛ばされた乳爪ブラはより進化していた。 乳爪は一回り大きくなって先端から怪光線を発射可能である。 この光線を浴びた一般市民は男も女も悪の組織『ZZ』の戦闘員に変身してしまうのだ。 そして最大の目玉は『たゆんぱー』と呼ばれる新ギミックである。 小型の油圧機構によって戦闘中でなくても自動的にブラを振動させ巨乳を「たゆゆん」と揺らすのだ。 もちろんスタッフが離れたところからリモートで動かすことも可能である。 意図せず突然胸が「たゆゆん」するので腰が立たなくなり、慣れるまで1週間かかったと着用している本人がブログで告白したほどである。 説明が長くなったが、このようにパワーアップした敵によってユウとタケシ(♀)は捕られの身になっていた。 ユウは縄で後ろ手に縛られ、クレーンで高さ3メートルに吊られていた。 衣装は水色のミニスカワンピ。 空中で必死にもがくその姿をカメラがパンチラしない絶妙な角度で映している。 ちなみにユウ役の羽村由布子は衣装の下に着けたボディハーネスにワイヤーを掛けて吊られている。 両腕は縛られているが、体重はハーネスで受けるので苦痛はまったくないのだ。 「ユウを開放しろ!!」 タケシ(♀)が叫んだ。 衣装はユウから借りたという設定のジーンズとボーダー柄のTシャツである。 彼女は頭の上で縛られた手首を高く吊られ、爪先だけが床に届く状態で立っていた。 なおこの拘束にトリックはなかった。 スタッフからはハーネス使用の提案があったものの、タケシ(♀)役の玉木葵はガチで吊られることを希望したのである、 「ほぉー、ほっ、ほっ、・・はぅっ」 再び笑うミゼラブルの声が途中で途絶えた。 彼女の巨乳が突然「たゆゆん たゆゆん」といささか不自然に揺れたためである。 どうして不自然だったかというと、それは左右の乳房が逆の方向に揺れたからである。 どうでもいいことだがこれを乳房振動の位相が逆転しているいう。 まったく驚くべき『たゆんぱー』の能力であった。 ミゼラブルは眉間にシワを寄せながら、揺れまくる自らの乳房に何とか耐えた。 「はぁ、はぁ、高校生探偵もこれで終わりね」 「俺は絶対に負けないっ」 「女になったあなたに何ができるのかしら?」 タケシ(♀)のジーンズが地面に落ちた。 ミゼラブルが脱がせたのである。再びの裸ワイシャツならぬ裸Tシャツ! 「うふふ♥ 猫みたいに可愛いわ」 ミゼラブルはタケシ(♀)のシャツの裾を両手で掴んだ。 びりびり!! シャツが左右に裂けて開き、胸の谷間と下乳が現れた! 例によってタケシ(♀)はノーブラだった。 さあ、いよいよタケシ(♀)の被虐シーン。この映画一番の見せ場である。 哀れな少年いや少女を魔の手が襲う! ちなみに後日配信された動画では、この瞬間の一時停止率が98%に達した。 皆がタケシ(♂)いや葵の乳房を凝視したことはデータから明白である。 しかし破れたシャツとミゼラブルの手の位置が絶妙で、いくら目をこらして見ても乳首はおろかピンク色の片鱗すら分からないのであった。 わずか数秒のおっぱいシーン編集のために数十人のスタッフが心血を注いだという事実。 ああ、またどうでもよいことを説明してしまった。 タケシ(♀)の被虐シーンに戻ろう。 ミゼラブルはにやぁ~っと笑った。 ・・ごめんね葵ちゃん。 小さな声で謝ると両手でタケシ(♀)いや葵の胸を鷲掴みにした。 柔らかい乳房に食い込む指が大写しになる。 「ひ」 一瞬恐怖の表情を浮かべるタケシ(♀)。 構わずミゼラブルはその胸を揉み上げた!! 「うわああああっ」 小さな身体が跳ねた。 ショーツ1枚の下半身が暴れ、2本の足が宙を蹴る。 完全に両手吊りの状態である。 10秒、20秒。 ミゼラブルの攻撃は止まらない。 葵は苦悶の表情で叫びながら、罠に掛かった小動物のように激しく暴れ続けた。 手首に食い込む縄が痛々しい。 誰もが息をのむ迫真の演技だった。 5. 「カーットォ!!」 「映像チェックしますっ。そのまま待機して」 葵が動きを止めた。膝を折ってぐったりと縄に体重を預けた。 その身体をミゼラブルが抱きしめる。 「はい、OK!! 休憩に入りまーすっ」 スタッフが駆け寄って縄を解いた。 床に座り込んだ葵を毛布で包み、同時に医療スタッフが手首の状態を確認する。 「あたしも葵ちゃんを抱きたーい!」 由布子が空中で叫んでいるが構う者はいない。 次のシーンでもユウの拘束は続くので、由布子は休憩中も縛られたままで置かれるのだ。 「玉木翔一さん、入りまーす」 スタンバイしていた翔一が入って来た。 楽屋に下がる葵の頭をぽんと叩いて労う。 ここから先はタケシ(♂)が華麗に活躍するシーンである。 葵が責められていた場所に今度は翔一が立った。 その手にスタッフが縄を掛ける。 「オッケーでーす!」 「シーン #257 行きまーす。・・3、2、1、キュー!!」 ミゼラブルは目をむいた。 タケシの身長が伸びて20センチヒールの自分と並んでいた。 「あ、あなた、いったい・・」 「へへっ、覚悟しろよ」 タケシ(♂)は腕に力を込めて手首の縄を引きちぎった。 破れたシャツを脱ぎ捨てると、両手を広げてジムで鍛え上げた筋肉を見せつける。 完全に男性の肉体であった。 さて、もうお判りであろう。 女体化したタケシが男に戻る手段は胸を揉まれることであった。 それも軽く触る程度では効果なく、ぐいぐいと激しく揉み込むことが必要なのである。 なお、この設定は主人公の肉体を復元する最も効果的な手段として、原作者と構成作家が議論を重ねた結果決められたものである。 安直過ぎるとの批判があることは承知しているが、決して手抜きではないのである。 まして葵ちゃんのおっぱいを見たいとか揉みたいとか、そのような願望を抱いたことは断じてないと強調しておきたい。 タケシはミゼラブルに背を向けて地面に落ちたジーンズに足を通した。 ここでどうしてジーンズを穿くかというと、男が女モノのショーツ1枚で立ち回ると変態に見えるためである。 その辺りはミゼラブルもよく理解していて、彼の着替えの間に攻撃するような無粋なマネはしないのであった。 「へっ。待たせたな」 準備が整うと、タケシは空手の構えを取ってミゼラブルに向き合った。 上半身裸で下半身はジーンズ。 小柄な葵が穿いていたジーンズのはずなのに何故か長身の彼にぴったりなのは、気がついてはいけないお約束である。 「今度こそ決着をつけてあげるわ!」 ミゼラブルが手に持ったムチをぴしりと打ちながら言った。 タケシとミゼラブルの戦闘シーンが始まった。 ミゼラブルがムチを振るうとタケシは得意のバク転でかわした。 タケシがキックを放つとミゼラブルはしなやかに上半身を反らしてかわす。 ヒーロードラマでお馴染み、別撮りのジャンプ映像もふんだんに挿入される。 高く飛んで前転するタケシ。 180度開脚しながらコマのように回転するミゼラブル。 セクシーな肉体を見せつけように繰り出すミゼラブルの柔軟ポーズが光っていた。 さすがは悪の組織の女幹部。 映画を見る観客は彼女がただのお色気キャラではないことを知るのだ。 戦う二人の背後に高く吊られたユウが映る。 華麗な戦闘の背景に囚われの美少女。これもまたヒーローものにおけるお約束の構図といえよう。 「負けないでっ、タケシ!」 ユウが叫んだ。 任せろっといわんばかりに笑みを返すタケシ。 ミゼラブルの目が光った。隙あり! 彼女がムチを打とうと振りかぶったその瞬間、タケシが地面ぎりぎりに旋風キックを放った。 タケシはわざと隙を作って誘ったのである。 軸足を蹴られてバランスを崩すミゼラブル。 すかさずタケシが落ちたムチを拾う。それはするすると伸びてミゼラブルの身体に巻き付いた! 一瞬の神業だった。 タケシの手に渡った瞬間、ムチが長く伸びたのである。 いったいどんな技なのか。その詳細が語られることは永遠になかった。 説明を考えるのが面倒くさかったからである。 「へへっ」 全身に鞭が巻き付いて転がったミゼラブルの尻に足を乗ると、タケシは親指で鼻の下を擦った。 「お仕置きは受けてもらうぞ」 悪人のようにほくそ笑むタケシであった。 ・・フォン、フォン、フォン。 クライマックスのお約束、警察の到着シーン。 撮影費を節約するためパトカーの絵は省略され、駆け込んでくるエキストラの警官だけが映し出された。 そこにタケシとユウの姿はなく、一人ミゼラブルが縄でがんじがらめに縛られ天井から吊られて喘いでいた。 「ん、んんっ、んあぁっ・・!!」 聞く者をぞくぞくさせる声が響いている。 とても高校生によるとは思えないマニアックな緊縛であった。 実はこの緊縛はプロによる作品である。 わざわざ招いた超有名縄師がミゼラブル役の女優を3時間以上も掛けて徹底的に縛り上げた大作なのだ。 上半身は肩甲骨の後ろで高手小手縛り。 胸縄と右の太ももだけで吊られる女体は、口に噛ませた縄と右足首がわずか20センチの距離で連結されている。 よく見ると右のブーツの先端が後頭部に突き当たっていて、彼女はその足をわずかに動かすこともできないのだった。 左足は膝で折った状態で縛られ、その膝頭から伸びる縄は床に置いたコンクリートブロックに強い張力で繋がっていた。 彼女を縛るのは身動きの自由を奪う縄だけではない。 股縄、亀甲縄、乳房絞り縄と肌に食い込む細工がまるで工芸品のように女体を覆っているのだった。 悪の組織の女幹部の緊縛作品。 正にファン垂涎の逸品である。 そのあまりの美しさに、スタッフや他の出演者も驚愕し全員で記念写真を撮ったのは映画公開後に明かされたエピソードだった。 6. 映画『大転換! ~高校生探偵 小江戸タケシの冒険~』はこの後若干の後日談が描かれる。 タケシの女体化は日常の出来事になり、その度にユウが胸を揉んで男性に戻すのであった。 大好きな葵の乳房を揉めると知って由布子が狂喜乱舞したのは言うまでもない。 7. [おまけ・その後のミゼラブル様] 映画は全年齢対象で公開され、初日だけで観客30万人を動員した。 公開後に最も注目を集めたのは、玉木翔一でも妹の葵でもなくミゼラブルを演じた女優24歳だった。 そのセクシーな肉体と美貌が人目を引くが、実は空手の���段者で趣味はボ��ダリングと水泳という彼女。 器械体操とダンスも得意で、ミゼラブル役のオーディションではスタンフルツイフト(ひねりをつけた助走なしバク転)をやってのけたスポーツウーマンなのである。 女優としてはアクションだけでなくヌードもベッドシーンもOK。 16のとき、某サブカルホラー映画で生きたまま胴体を切断される女子高生を演じたのはコアなマニアの間では有名である。 インタビューで「あぁっはっはっ」と豪快に笑う姿や、天然トーク(得意な料理は「腕まくり」、大阪城を「あれお寺じゃないんですか」などと発言)も話題になった。 緊縛シーンの感想を問われたときは「切ないです。女ですから」と言い切り、男性ファンだけでなく女性ファンの共感も得て一気にブレークしたのだった。 ネットでは『ミゼラブル様』と呼ばれ、ドラマやコマーシャルの出演オファーも殺到。 ついには高校生探偵のスピンアウト映画『ミゼラブルの修行の日々』の製作が決定し、主演女優の座を射止めたのであった。 「・・ヘアヌードを撮ったぁ!?」 彼女のマネージャーが叫んだ。 「はい♥、週間〇△さんのグラビアで。ダメでしたか?」 「ダメに決まってるだろ、事務所の知らないところでヘアヌードなんて」 「わたしは全然構わないんですけど。どんなお仕事も断らないって方針だし」 「苦節5年やっとブレークしたんだぞ? そんな方針は当然撤回だよっ」 「じゃ、あれもまずかったかな?」 「まだ何かやったの!?」 「はい。Takenoko さんのモ��ルを」 Takenoko とは映画で彼女を緊縛した超有名縄師である。 「緊縛モデル? まさか全裸で!?」 「はい、そのまさかですよー。責め縄っていうの受けました。ほら三角木馬ってあるでしょ? あれ本当にお股の間で受けるんですよ。もうマジに裂けそうで、あっはっは」 マネージャーは頭を抱えた。彼女のプロモート計画が台無しである。 「その週刊誌っていつ発売?」 「今週の木曜日。あ、明日ですね!」 「・・緊縛は」 「Takenoko さんのサイトで本日公開。ちょっとバズってるみたい」 「げ」 慌てて SNS を開く。トレンドに『ミゼラブル様責め縄』が上がっていた。 「うわぁ~っ!!!」 「いやぁ、わたしもびっくりです。あぁっはっはっ」
~登場人物紹介~ 玉木翔一(たまきしょういち):19歳 映画『高校生探偵』小江戸タケシ(男)役。 玉木葵 (たまきあおい):15歳 翔一の妹。小江戸タケシ(女)役。 羽村由布子(はむらゆうこ): 17歳 神木ユウ役。葵のことが好き。 ミゼラブル役の女優さん: 24歳 スポーツ万能で天然なお姉さん。 放置メモのレスキュー第3弾。 男性ヒーローが女体化してしまう実写ドラマを、男性と女性の俳優がダブルキャストで演じるお話です。(ややこしい) 元々は映画ではなく、中学生縄師のようなテレビドラマを2~3話やるつもりで書き始めていました。 ヒーローは何度も女体化し、その度にピンチに陥ります。酷い目に合うのはもちろん女体化役の女優さんで、裸にされたり縛られたり、敵の女幹部から胸を揉まれたり^^。 ちなみに女体化したヒーローが男に戻る方法は胸を揉まれることではなく○○二ーすることでした。 しょうもない設定はいろいろ考えましたが、案の定続けることができず中断して放置。 このレスキュー版ではミゼラブル(とミゼラブル役の女優さん)に頼って強引に完結させました。 最後の章で、この女優さんの天然トークは綾〇はるかさんのトークを取り込ませてもらいました。 イラストはフリーのポーズ集に頼って描きました。ミゼラブル様のおっぱい、まだまだ大きさが足りないと反省。 さてこれで放置メモのレスキュー版シリーズは終わりです。 他にも放置中のメモはごまんとありますので再びレスキューするかもしません。 なお次回の更新ではレスキュー版ではなく、完全新作を投稿できるように頑張ります。 これからも程々にお付き合いくだされば幸いです。 ありがとうございました。 [2023.8.10 追記] こちら(Pixiv の小説ページ)に本話の掲載案内を載せました。 Twitter 以外にここからもコメント入力できますのでご利用ください。(ただしR18閲覧可能な Pixiv アカウント必要)
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