Tumgik
#曇り空割って差し込む一筋の光
2ttf · 12 years
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Latin//Alphabet// ABCDEFGHIJKLMNOPQRSTUVWXYZabcdefghijklmnopqrstuvwxyz0123456789 !"“”#$%&'‘’()*+,-./:;<=>?@[\]^_`{|}~ Latin//Accent// ¡¢£€¤¥¦§¨©ª«¬®¯°±²³´µ¶·¸¹º»¼½¾¿ÀÁÂÃÄÅÆÇÈÉÊËÌÍÎÏÐÑÒÓÔÕÖ×ØÙÚÛÜÝÞßàáâãäåæçèéêëìíîïðñòóôõö÷øùúûüýþÿ Latin//Extension 1// ĀāĂ㥹ĆćĈĉĊċČčĎďĐđĒēĔĕĖėĘęĚěĜĝĞğĠġĢģĤĥĦħĨĩĪīĬĭĮįİıIJijĴĵĶķĸĹĺĻļĽľĿŀŁłŃńŅņŇňʼnŊŋŌōŎŏŐőŒœŔŕŖŗŘřŚśŜŝŞşŠšŢţŤťŦŧŨũŪūŬŭŮůŰűŲųŴŵŶŷŸŹźŻżŽžſfffiflffifflſtst Latin//Extension 2// ƀƁƂƃƄƅƆƇƈƉƊƋƌƍƎƏƐƑƒƓƔƕƖƗƘƙƚƛƜƝƞƟƠơƢƣƤƥƦƧƨƩƪƫƬƭƮƯưƱƲƳƴƵƶƷƸƹƺƻƼƽƾƿǀǁǂǃDŽDždžLJLjljNJNjnjǍǎǏǐǑǒǓǔǕǖǗǘǙǚǛǜǝǞǟǠǡǢǣǤǥǦǧǨǩǪǫǬǭǮǯǰDZDzdzǴǵǶǷǸǹǺǻǼǽǾǿ Symbols//Web// –—‚„†‡‰‹›•…′″‾⁄℘ℑℜ™ℵ←↑→↓↔↵⇐⇑⇒⇓⇔∀∂∃∅∇∈∉∋∏∑−∗√∝∞∠∧∨∩∪∫∴∼≅≈≠≡≤≥⊂⊃⊄⊆⊇⊕⊗⊥⋅⌈⌉⌊⌋〈〉◊♠♣♥♦ Symbols//Dingbat// ✁✂✃✄✆✇✈✉✌✍✎✏✐✑✒✓✔✕✖✗✘✙✚✛✜✝✞✟✠✡✢✣✤✥✦✧✩✪✫✬✭✮✯✰✱✲✳✴✵✶✷✸✹✺✻✼✽✾✿❀❁❂❃❄❅❆❇❈❉❊❋❍❏❐❑❒❖❘❙❚❛❜❝❞❡❢❣❤❥❦❧❨❩❪❫❬❭❮❯❰❱❲❳❴❵❶❷❸❹❺❻❼❽❾❿➀➁➂➃➄➅➆➇➈➉➊➋➌➍➎➏➐➑➒➓➔➘➙➚➛➜➝➞➟➠➡➢➣➤➥➦➧➨➩➪➫➬➭➮➯➱➲➳➴➵➶➷➸➹➺➻➼➽➾ Japanese//かな// あいうえおかがきぎくぐけげこごさざしじすずせぜそぞただちぢつづてでとどなにぬねのはばぱひびぴふぶぷへべぺほぼぽまみむめもやゆよらりるれろわゐゑをんぁぃぅぇぉっゃゅょゎゔ゛゜ゝゞアイウエオカガキギクグケゲコゴサザシジスズセゼソゾタダチヂツヅテデトドナニヌネノハバパヒビピフブプヘベペホボポマミムメモヤユヨラリルレロワヰヱヲンァィゥェォッャュョヮヴヵヶヷヸヹヺヽヾ Japanese//小学一年// 一右雨円王音下火花貝学気九休玉金空月犬見五口校左三山子四糸字耳七車手十出女小上森人水正生青夕石赤千川先早草足村大男竹中虫町天田土二日入年白八百文木本名目立力林六 Japanese//小学二年// 引羽雲園遠何科夏家歌画回会海絵外角楽活間丸岩顔汽記帰弓牛魚京強教近兄形計元言原戸古午後語工公広交光考行高黄合谷国黒今才細作算止市矢姉思紙寺自時室社弱首秋週春書少場色食心新親図数西声星晴切雪船線前組走多太体台地池知茶昼長鳥朝直通弟店点電刀冬当東答頭同道読内南肉馬売買麦半番父風分聞米歩母方北毎妹万明鳴毛門夜野友用曜来里理話 Japanese//小学三年// 悪安暗医委意育員院飲運泳駅央横屋温化荷開界階寒感漢館岸起期客究急級宮球去橋業曲局銀区苦具君係軽血決研県庫湖向幸港号根祭皿仕死使始指歯詩次事持式実写者主守取酒受州拾終習集住重宿所暑助昭消商章勝乗植申身神真深進世整昔全相送想息速族他打対待代第題炭短談着注柱丁帳調追定庭笛鉄転都度投豆島湯登等動童農波配倍箱畑発反坂板皮悲美鼻筆氷表秒病品負部服福物平返勉放味命面問役薬由油有遊予羊洋葉陽様落流旅両緑礼列練路和 Japanese//小学四年// 愛案以衣位囲胃印英栄塩億加果貨課芽改械害街各覚完官管関観願希季紀喜旗器機議求泣救給挙漁共協鏡競極訓軍郡径型景芸欠結建健験固功好候航康告差菜最材昨札刷殺察参産散残士氏史司試児治辞失借種周祝順初松笑唱焼象照賞臣信成省清静席積折節説浅戦選然争倉巣束側続卒孫帯隊達単置仲貯兆腸低底停的典伝徒努灯堂働特得毒熱念敗梅博飯飛費必票標不夫付府副粉兵別辺変便包法望牧末満未脈民無約勇要養浴利陸良料量輪類令冷例歴連老労録 Japanese//小学五〜六年// 圧移因永営衛易益液演応往桜恩可仮価河過賀快解格確額刊幹慣眼基寄規技義逆久旧居許境均禁句群経潔件券険検限現減故個護効厚耕鉱構興講混査再災妻採際在財罪雑酸賛支志枝師資飼示似識質舎謝授修述術準序招承証条状常情織職制性政勢精製税責績接設舌絶銭祖素総造像増則測属率損退貸態団断築張提程適敵統銅導徳独任燃能破犯判版比肥非備俵評貧布婦富武復複仏編弁保墓報豊防貿暴務夢迷綿輸余預容略留領異遺域宇映延沿我灰拡革閣割株干巻看簡危机貴揮疑吸供胸郷勤筋系敬警劇激穴絹権憲源厳己呼誤后孝皇紅降鋼刻穀骨困砂座済裁策冊蚕至私姿視詞誌磁射捨尺若樹収宗就衆従縦縮熟純処署諸除将傷障城蒸針仁垂推寸盛聖誠宣専泉洗染善奏窓創装層操蔵臓存尊宅担探誕段暖値宙忠著庁頂潮賃痛展討党糖届難乳認納脳派拝背肺俳班晩否批秘腹奮並陛閉片補暮宝訪亡忘棒枚幕密盟模訳郵優幼欲翌乱卵覧裏律臨朗論 Japanese//中学// 亜哀挨曖扱宛嵐依威為畏尉萎偉椅彙違維慰緯壱逸芋咽姻淫陰隠韻唄鬱畝浦詠影鋭疫悦越謁閲炎怨宴援煙猿鉛縁艶汚凹押旺欧殴翁奥憶臆虞乙俺卸穏佳苛架華菓渦嫁暇禍靴寡箇稼蚊牙瓦雅餓介戒怪拐悔皆塊楷潰壊懐諧劾崖涯慨蓋該概骸垣柿核殻郭較隔獲嚇穫岳顎掛括喝渇葛滑褐轄且釜鎌刈甘汗缶肝冠陥乾勘患貫喚堪換敢棺款閑勧寛歓監緩憾還環韓艦鑑含玩頑企伎忌奇祈軌既飢鬼亀幾棋棄毀畿輝騎宜偽欺儀戯擬犠菊吉喫詰却脚虐及丘朽臼糾嗅窮巨拒拠虚距御凶叫狂享況峡挟狭恐恭脅矯響驚仰暁凝巾斤菌琴僅緊錦謹襟吟駆惧愚偶遇隅串屈掘窟繰勲薫刑茎契恵啓掲渓蛍傾携継詣慶憬稽憩鶏迎鯨隙撃桁傑肩倹兼剣拳軒圏堅嫌献遣賢謙鍵繭顕懸幻玄弦舷股虎孤弧枯雇誇鼓錮顧互呉娯悟碁勾孔巧甲江坑抗攻更拘肯侯恒洪荒郊貢控梗喉慌硬絞項溝綱酵稿衡購乞拷剛傲豪克酷獄駒込頃昆恨婚痕紺魂墾懇沙唆詐鎖挫采砕宰栽彩斎債催塞歳載剤削柵索酢搾錯咲刹拶撮擦桟惨傘斬暫旨伺刺祉肢施恣脂紫嗣雌摯賜諮侍慈餌璽軸叱疾執湿嫉漆芝赦斜煮遮邪蛇酌釈爵寂朱狩殊珠腫趣寿呪需儒囚舟秀臭袖羞愁酬醜蹴襲汁充柔渋銃獣叔淑粛塾俊瞬旬巡盾准殉循潤遵庶緒如叙徐升召匠床抄肖尚昇沼宵症祥称渉紹訟掌晶焦硝粧詔奨詳彰憧衝償礁鐘丈冗浄剰畳壌嬢錠譲醸拭殖飾触嘱辱尻伸芯辛侵津唇娠振浸紳診寝慎審震薪刃尽迅甚陣尋腎須吹炊帥粋衰酔遂睡穂随髄枢崇据杉裾瀬是姓征斉牲凄逝婿誓請醒斥析脊隻惜戚跡籍拙窃摂仙占扇栓旋煎羨腺詮践箋潜遷薦繊鮮禅漸膳繕狙阻租措粗疎訴塑遡礎双壮荘捜挿桑掃曹曽爽喪痩葬僧遭槽踪燥霜騒藻憎贈即促捉俗賊遜汰妥唾堕惰駄耐怠胎泰堆袋逮替滞戴滝択沢卓拓託濯諾濁但脱奪棚誰丹旦胆淡嘆端綻鍛弾壇恥致遅痴稚緻畜逐蓄秩窒嫡抽衷酎鋳駐弔挑彫眺釣貼超跳徴嘲澄聴懲勅捗沈珍朕陳鎮椎墜塚漬坪爪鶴呈廷抵邸亭貞帝訂逓偵堤艇締諦泥摘滴溺迭哲徹撤添塡殿斗吐妬途渡塗賭奴怒到逃倒凍唐桃透悼盗陶塔搭棟痘筒稲踏謄藤闘騰洞胴瞳峠匿督篤凸突屯豚頓貪鈍曇丼那謎鍋軟尼弐匂虹尿妊忍寧捻粘悩濃把覇婆罵杯排廃輩培陪媒賠伯拍泊迫剝舶薄漠縛爆箸肌鉢髪伐抜罰閥氾帆汎伴畔般販斑搬煩頒範繁藩蛮盤妃彼披卑疲被扉碑罷避尾眉微膝肘匹泌姫漂苗描猫浜賓頻敏瓶扶怖附訃赴浮符普腐敷膚賦譜侮舞封伏幅覆払沸紛雰噴墳憤丙併柄塀幣弊蔽餅壁璧癖蔑偏遍哺捕舗募慕簿芳邦奉抱泡胞俸倣峰砲崩蜂飽褒縫乏忙坊妨房肪某冒剖紡傍帽貌膨謀頰朴睦僕墨撲没勃堀奔翻凡盆麻摩磨魔昧埋膜枕又抹慢漫魅岬蜜妙眠矛霧娘冥銘滅免麺茂妄盲耗猛網黙紋冶弥厄躍闇喩愉諭癒唯幽悠湧猶裕雄誘憂融与誉妖庸揚揺溶腰瘍踊窯擁謡抑沃翼拉裸羅雷頼絡酪辣濫藍欄吏痢履璃離慄柳竜粒隆硫侶虜慮了涼猟陵僚寮療瞭糧厘倫隣瑠涙累塁励戻鈴零霊隷齢麗暦劣烈裂恋廉錬呂炉賂露弄郎浪廊楼漏籠麓賄脇惑枠湾腕 Japanese//記号//  ・ー~、。〃〄々〆〇〈〉《》「」『』【】〒〓〔〕〖〗〘〙〜〝〞〟〠〡��〣〤〥〦〧〨〩〰〳〴〵〶 Greek & Coptic//Standard// ʹ͵ͺͻͼͽ;΄΅Ά·ΈΉΊΌΎΏΐΑΒΓΔΕΖΗΘΙΚΛΜΝΞΟΠΡΣΤΥΦΧΨΩΪΫάέήίΰαβγδεζηθικλμνξοπρςστυφχψωϊϋόύώϐϑϒϓϔϕϖϚϜϞϠϢϣϤϥϦϧϨϩϪϫϬϭϮϯϰϱϲϳϴϵ϶ϷϸϹϺϻϼϽϾϿ Cyrillic//Standard// ЀЁЂЃЄЅІЇЈЉЊЋЌЍЎЏАБВГДЕЖЗИЙКЛМНОПРСТУФХЦЧШЩЪЫЬЭЮЯабвгдежзийклмнопрстуфхцчшщъыьэюяѐёђѓєѕіїјљњћќѝўџѢѣѤѥѦѧѨѩѪѫѬѭѰѱѲѳѴѵѶѷѸѹҌҍҐґҒғҖҗҘҙҚқҜҝҠҡҢңҤҥҪҫҬҭҮүҰұҲҳҴҵҶҷҸҹҺһҼҽҾҿӀӁӂӇӈӏӐӑӒӓӔӕӖӗӘәӚӛӜӝӞӟӠӡӢӣӤӥӦӧӨөӪӫӬӭӮӯӰӱӲӳӴӵӶӷӸӹӾӿ Thai//Standard// กขฃคฅฆงจฉชซฌญฎฏฐฑฒณดตถทธนบปผฝพฟภมยรฤลฦวศษสหฬอฮฯะัาำิีึืฺุู฿เแโใไๅๆ็่้๊๋์ํ๎๏๐๑๒๓๔๕๖๗๘๙๚๛
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neige-biblio0413 · 2 years
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インヴェルノの星
ノスとウス準備号。 氷笑卿の過去170%捏造。書きたいところだけを書いたので、すぐ終わります。何でも許せる方向け。   
***
「インヴェルノの星」
春。麗しく咲き誇る花の女神が、全ての命を芽吹かせる時。  美しい季節。花が咲き、小鳥が歌う。もう一度手を取り合うことができればと、幾度も夢に見たもの。  わたしがわたしであるかぎり、訪れない泡沫の夢。    お前が滅ぼしたのだ。この地を。我々を。
わたしを弾劾する声が、罵る声が、幾度となくわたしを刺す。つららのように鋭い刃は溶けることがない。  花が咲き、小鳥が歌う、美しい季節? そんなもの。そんなもの。そんなもの。  「忌むべき子」。「何故こんなことを」。「なんてひどい」。「どうして」。  ──お前が殺したのだ、ノースディン。  どうして、母様。どうして、父様。あなたの希望になりたかっただけなのに。  「は、」  いくら叫んでも、どれだけ抗おうとも、この声はどこにも届かない。氷はただ、私の声を跳ね返すのみ。  わたしは冬だ。冬そのものだ。冷たい氷の季節。全ての命が眠り、雪の下に閉じ込められる。死神のように刈り取り、生まれる命が言祝がれることはない。わたしにできることは、ただ奪い続けるだけ。
ああ──願わくば、この呪われた身に、春など与えられませんよう。いずれわたしは、それすらも葬り去るだろう。その資格を、わたしはもう持ち合わせないのだから。  二度とこの地に花など咲くまい。  わたしはそういうものなのだ。そしてこれから先も──そうであらねばならない。
***
 「『一夜にして氷に覆われた悲劇の街。樹氷の森!』。ここを観光地にでもするつもりなんでしょうか、���らは」  トランシルヴァニアの北。かつて存在した……いまはどこまでも広がる冷たい大地に足を踏み入れ、ドラウスは道すがら聞いた人間の会話を、悪趣味だ、と吐き捨てた。  その隣を歩く彼の父親が、喜色を含んだ声で「見て。いっぱい雪合戦できそう」と答える。その表情は動かない。  「お父様。遊びにきたんじゃないんですよ」  嘘か真か冗談か。ほぼ9割の確率で本気で言っている父親を諫めて、ドラウスはため息をつく。目を離した隙に本当に雪像とかつくりそうなので、たまったものではない。このままでは一族全員で生き残りをかけた雪合戦など企画されかねないが、そもそもここまでやってきたのには、きちんとした理由があった。  「つい最近までここは」  すぐにその顔色が変わる。眼下に広がる、ガラスのような街を見てドラウスは声を失った。  そこでは水も、草木も、花も、そして──暖炉の炎さえも氷の下に縫い止められ、活動していたものすべてが時をなくしたまま、月明かりの下で冷たい光を放っていた。豊かな葉をつけ、実りの時期を待つ葡萄たちは、収穫されることなく覚めない眠りにつく。  つい最近まで、そこは美しい場所だった。小さくとも逞しく生きる、穏やかな地だった。  「見事だ」  そう言った竜の真祖が、変わらないその表情をほんの瞬きの間──曇らせたことに、ドラウスは気づかなかった。
***
   ゾッとするような感覚が背筋を駆け抜ける。こんなものは経験したことがない。それは否応なくわかる、本物の畏怖。  誰かがやってきた。推測するまでもない。隣の若い男は誰だ?いや、そんなことはどうでもいい。  あれが、話に聞く竜の──。なぜ、こんなところまで。  「こわい」。少しでもそう思ってしまったことに気づいた時には、もう遅かった。恐怖が、瞬く間に空気を冷やしていく。  ああ、そんな。だめだ、だめだ。頼む。お願いだから!  わたしは駆け出した。あたりはみるみるうちに灰色に染まっていき、身を切り裂くような氷の風が唸りを上げ始めていた。見つかってしまう。うなだれた砂糖細工の森を走りながら、少しでも遠くへ、遠くへとわたしは必死だった。差し向けられた侮蔑の視線を、かけられた糾弾の言葉が浮かぶ。まただ。このままでは、また、わたしは。  ──呪われたこの身が、いったいどこへ行けるというのだ? この世界にはわたしの居場所など、どこにもないというのに。  がむしゃらに走り、領地の端にある洞窟の奥へと駆け込んだ。膝をかかえ、落ち着けと何度も自分に言い聞かせながら、長く震えていたかと思う。相手はただの高等吸血鬼ではない。話に聞いたあの竜の真祖。わたしを探していることは確かだった。こんなところに隠れたところで、やりすごせるはずがない。見つかるのは時間の問題だっただろう。  激しさを増す風の中に聞こえてくる。雪を踏み、氷を割る音が、近づいてくる──わたしを殺しにきたのか。  死ねというのなら、犯した罪の重さに、わたしの命が見合うことを祈った。やはりわたしは生まれてくるべきではなかったのだと、そう突きつけてやるために。
やがて足音は止まり、最後に漆黒の大きな竜がこちらを見た。目が合う。だが喉をひゅっと鳴らしたわたしの耳に最初に聞こえたのは、別の声だった。  「お父様! 会話をしてください!」  そう言ったのは、あの若い男だった。男が喋ると、不思議と場の空気がやわらかくなった。2番目に聞いたのは竜の真祖の言葉だったが、これはカウントしないでおく。「めんご。緊張しちゃって」と彼は若い男に謝っていた。  そして結局、わたしに初めてかけられた言葉は侮蔑でもなく、糾弾でもなく──。  「ヘロー、少年。おヒマ?」  そんな、気の抜けた言葉だった。
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groyanderson · 3 years
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ひとみに映る影シーズン2 第六話「どこまでも白い海で」
☆プロトタイプ版☆ こちらは無料公開のプロトタイプ版となります。 最低限の確認作業しかしていないため、 誤字脱字誤植誤用等々あしからずご了承下さい。 尚、正式書籍版はシーズン2終了時にリリース予定です。
(シーズン2あらすじ) 私はファッションモデルの紅一美。 旅番組ロケで訪れた島は怪物だらけ!? 霊能者達の除霊コンペとバッティングしちゃった! 実は私も霊感あるけど、知られたくないなあ…… なんて言っている場合じゃない。 諸悪の根源は恩師の仇、金剛有明団だったんだ! 憤怒の化身ワヤン不動が、今度はリゾートで炸裂する!!
pixiv版 (※内容は一緒です。) ☆キャラソン企画第六弾 金城玲蘭「ニライカナイ」はこちら!☆
དང་པོ་
 アブが、飛んでいる。天井のペンダントライトに誘われたアブが、蛍光灯を囲う四角い木枠に囚われ足掻くように飛んでいる。一度電気を消してあげれば、外光に気がついて窓へ逃げていくだろう。そう思ったのに、動こうとすると手足が上がらない。なら蛍光灯を影で覆えば、と思うと、念力も���もらない。 「一美ちゃん」  呼ばれた方向を見ると、私の手を握って座っている佳奈さん。私はホテルの宴会場まで運ばれて、布団で眠っていたようだ。 「起きた?」  障子を隔てた男性側から万狸ちゃんの声。 「うん、起きたよ」 「佳奈ちゃん、一美ちゃん、ごめん。パパがまだ目を覚まさなくて……また後でね」 「うん」  佳奈さんは万狸ちゃんとしっかり会話出来ている。愛輪珠に霊感を植え付けられたためだ。 「……タナカDはまだ帰って来ないから、私が一美ちゃんのご両親に電話した。私達が千里が島に連れてきたせいでこんな事になったのに、全然怒られなかった。それどころか、『いつか娘が戦わなければいけない時が来るのは覚悟していた。それより貴女やカメラマンさんは無事なのか』だって……」  ああ。その冷静な受け答えは、きっとお母さんだ。お父さんやお爺ちゃんお婆ちゃんだったらきっと、『今すぐ千里が島に行って俺が敵を返り討ちにしてやる』とかなんとか言うに決まってるもん。 「お母さんから全部聞いたよ。一美ちゃんは赤ちゃんの時、金剛有明団っていう悪霊の集団に呪いをかけられた。呪われた子は死んじゃうか、乗り越えられれば強い霊能者に成長する。でも生き残っても、いつか死んだら金剛にさらわれて、結局悪い奴に霊力を利用されちゃう」  佳奈さんは正座していた足を崩した。 「だけど一美ちゃんに呪いをかけた奴の仲間に、金剛が悪い集団だって知らなくて騙されてたお坊さんがいた。その人は一美ちゃんの呪いを解くために、身代わりになって自殺した。その後も仏様になって、一美ちゃんや金城さんに修行をつけてあげた」  和尚様……。 「一美ちゃんはそうして特訓した力で、今まで金剛や悪霊と戦い続けてた。私達と普通にロケしてた時も、この千里が島でもずっと。霊感がない私やタナカDには何も言わないで……たった一人で……」  佳奈さんは私から手を離し、膝の上でぎゅっと握った。 「ねえ。そんなに私達って信用できない? そりゃさ。私達は所詮、友達じゃないただの同僚かもしれないよ。けど、それでも仲間じゃん。幽霊見えないし、いっぱい迷惑かけてたのかもしれないけど」  ……そんな風に思った事はない、と答えたいのに、体が動かなくて声も出せない。 「いいよ。それは本当の事だし。てかだぶか、迷惑しかかけてこなかったよね。いつもドッキリで騙して、企画も行先も告げずに連れ回して」  そこは否定しません。 「だって、また一美ちゃんと旅に出たいんだもん。行った事のない場所に三人で殴り込んで、無茶して、笑い合って、喧嘩して、それでも懲りずにまた旅に出るの。もう何度も勝手に電源が落ちるボロボロのワイヤレス付けて、そのへんの電器屋さんで買えそうなカメラ回してね。そうやって互いが互いにいっぱい迷惑かけながら、旅をしたいんだよ」  …… 「なのに……どうして一人で抱えこむの? 一美ちゃんだって私達に迷惑かければいいじゃん! そうすれば面白半分でこんな所には来なかったし、誰も傷つかずに済んだのに!」 「っ……」  どの口が言うんですか。私が危ないって言ったって、あなた達だぶか面白半分で首を突っ込もうとする癖に。 「私達だって本当にヤバい事とネタの分別ぐらいつくもん! それとも何? 『カラキシ』なんて足手まといでしかないからってワケ!?」 「っ……うっ……」  そんな事思ってないってば!! ああ、反論したいのに口が動かない! 「それともいざという時は一人でどうにかできると思ってたワケ? それで結局あの変態煙野郎に惨敗して、そんなボロボロになったんだ。この……ダメ人間!」 「くっ……ぅぅうううう……」  うるさい、うるさい! ダメ人間はどっちだ! 逃げろって言ったのにどうして戻ってきたんだ! そのせいで佳奈さんが……それに…… 「何その目!? 仲間が悪霊と取り残されてて、そこがもう遠目でわかるぐらいドッカンドッカンしてたら心配して当然でしょ!? あーそうですよ。私があの時余計な事しなければ、ラスタな狸さんが殺されて狸おじさんが危篤になる事もなかったよ! 何もかも私のせいですよーっ!!」 「ううう、あああああ! わああぁぁ!」  だからそんな事思ってないってば!! ていうか、中途半端に私の気持ち読み取らないでよ! 私の苦労なんて何も知らなかったクセに!! 「そーだよ! 私何もわかってなかったもん! 一美ちゃんがひた隠しにするから当たり前でしょぉ!?」 「うわあああぁぁぁ!! うっぢゃぁしいいいぃぃ、ごの極悪ロリーダァァァ!!」 「なん……なんだどおぉ、グスッ……この小心者のっ……ダメ人間!」 「ダメ人間!」 「ダメ人間!!」 「「ダメ人間ーーーっ!!!」」  いつの間にか手足も口も動くようになっていた。私と佳奈さんは互いの胸ぐらを掴み合い、今まで番組でもした事がない程本気で罵り合う。佳奈さんは涙で曇った伊達眼鏡を投げ捨て、私の腰を持ち上げて無理やり立たせた。 「わああぁぁーーっ!」  一旦一歩引き、寄り切りを仕掛けてくる。甘いわ! 懐に入ってきた佳奈さんの右肩を引き体勢を浮かせ、 「やああぁぁぁーーっ!!」 思いっきり仏壇返し! しかし宙を回転して倒れた佳奈さんは小柄な体型を活かし即時復帰、助走をつけて私の頬骨にドロップキックを叩きこんだ!! 「ぎゃふッ……あヤバいボキっていった! いっだあぁぁ!!」 「やば、ゴメン! 大丈夫?」 「だ……だいじょばないです���…」  と弱った振りをしつつ天井で飛んでいるアブを捕獲! 「んにゃろぉアブ食らえアブ!」 「ぎゃああああぁぁ!!!」 <あんた達、何やってんの?> 「「あ」」  突然のテレパシー。我に返った私達が出入口を見ると、口に血まみれのタオルを当てて全身傷だらけの玲蘭ちゃんが立っていた。
གཉིས་པ་
 アブを外に逃がしてやり、私は玲蘭ちゃんを手当てした。無惨にも前歯がほぼ全部抜け落ちてしまっている。でも診療所は怪我人多数で混雑率二〇〇%越えだという。佳奈さんに色んな応急手当についてネットで調べてもらい、初心者ながらにできる処置は全て行った。 「その傷、やっぱり散減と戦ったの?」 <うん。口欠湿地で。本当に口が欠けるとかウケる> 「いや洒落になんないでしょ」 <てか私そもそも武闘派じゃないのに、あんなデカブツ相手だなんて聞いてないし> 「大体何メートル級だった?」 <五メートル弱? 足は八本あった>  なるほど。なら牛久大師と同じ、大散減の足から顕現したものだろう。つまり地中に潜む大散減は、残りあと六本足。 <てか一美、志多田さんいるのに普通に返事してていいの?> 「あ……私、もうソレ聞こえてます」 <は?>  私もこちらに何があったかを説明する。牛久大師が大散減に取り込まれた。後女津親子がそれを倒すと、御戌神が現れた。私は御戌神が本当は戦いたくない事に気付き、キョンジャクで気を正した。けど次の瞬間金剛愛輪珠如来が現れて、御戌神と私をケチョンケチョンに叩き潰した。奴は私を助けに来た佳奈さんにも呪いをかけようとして、それを防いだ斉二さんがやられた。以降斉一さんは目を覚まさず、タナカDと青木さんもまだ戻ってきていないみたいだ、と。そこまで説明すると、玲蘭ちゃんは頭を抱えて深々とため息をついた。 <最ッ悪……金剛マターとか、マジ聞いてないんだけど……。てか、一美もたいがい化け物だよね。金剛の如来級悪霊と戦って生きて帰れるとか> 「本当、なんで助かったんだろ……。あの時は全身砕かれて内臓ぜんぶ引きずり出されたはずなんだけど」 <ワヤン化してたからでしょ> 「あーそっか……」  砕けたのは影の体だけだったようだ。 「けど和尚様から貰ったプルパを愛輪珠に取られちゃって、今じゃ私何にもできない。だってあいつが、和尚様の事……実は邪尊教の信者だとか言い出すから……」 <は!? 観音和尚が!? いや、そんなのただの侮辱に決まってるし……> 「…………」 <……なに、一美? まさか心当たりあるの!?> 「あの」  佳奈さんが挙手する。 「あの。何なんですか? そのジャソン教とかいうのって」 <ああ、チベットのカルト宗教です。悪魔崇拝の仏教版と言いましょうか> 「じゃあ、河童の家みたいな物?」  とんでもない。 「テロリストですよ。ドマル・イダムという邪尊の力を操ってチベットを支配していた、最悪の独裁宗派です」 「そ、そうなの!?」  ドマル・イダム。その昔、とある心優しい僧侶が瀕死の悪魔を助け、その情け深さに心打たれた悪魔から不滅の心臓を授かった。そうして彼は衆生の苦しみを安らぎに変える抜苦与楽(ばっくよらく)の仏、『ドマル・イダム(紅の守護尊)』となった。しかしドマルは強欲な霊能者や権力者達に囚われて、巨岩に磔にされてしまう。ドマルには権力者に虐げられた貧民の苦しみや怒りを日夜強制的に注ぎ込まれ、やがてチベットはごく少数の貴族と無抵抗で穏やかな奴隷の極端な格差社会になってしまった。 「この事態を重く見た当時のダライ・ラマはドマル信仰を固く禁じて、邪尊教と呼ぶようにしたんです」 「う、うわぁ……悪代官だしなんか罰当たりだし、邪尊教まじで最悪じゃん……」 <罰当たり、そうですね。チベットでは邪尊教を戒めるために、ドマルの仏画が痛々しい姿で描かれてます。まるで心臓と神経線維だけ燃えずに残ったような赤黒い体、絶望的な目つき、何百年も磔にされているせいで常人の倍近く伸びた長い両腕……みたいな> 「やだやだやだ、そんな可哀想な仏画とか怖くて絶対見れない!」  そう、普通の人はこういう反応だ。だからチベット出身の仏教徒にむやみに邪尊教徒だと言いがかりをつけるのは、最大の侮辱なんだ。だけど、和尚様は……いや、それ以上考えたくない。幼い頃、和尚様と修行した一年間。大人になって再会できた時のこと。そして、彼に授かった力……幸せだったはずの記憶を思い起こす度に、色んな伏線が頭を過ぎってしまう。 <……でも、一美さぁ>  玲蘭ちゃんは口に当てていた氷を下ろし、私を真正面から見据えた。 <和尚にどんな秘密があったのか知らないけど、落ちこむのは後にしてくれる? このまま大散減が完全復活したら、明日の便に乗る前に全員死ぬの。今まともな戦力になるの、五寸釘愚連隊とあんたしかいないんだけど> 「私……無理だよ。プルパを奪われて、影も動かせなくなって」 <それなら新しい武器と法力を探しに行くよ> 「!」 <志多田さんも、来て> 「え? ……ふええぇっ!?」  玲蘭ちゃんは首にかけていた長い数珠を静かに持ち上げる。するとどこからか潮騒に似た音が聞こえ、私達の視界が次第に白く薄れていく。これは、まさか……!
གསུམ་པ་
 気がつくと私達は、白一色の世界にいた。足元にはお風呂のように温かい乳白色の海が無限に広がり、空はどこまでも冷たげな霧で覆われている。その境界線は曖昧だ。大気に磯臭はなく、微かに酒粕や米ぬかのような香りがする。 「綺麗……」  佳奈さんが呆然と呟いた。なんとなく、この白い世界に私は来たことがある気がする。確か初めてワヤン不動に変身した直後だったような。すると霧の向こうから、白装束に身を包む天女が現れた。いや、あれは…… 「めんそーれ、ニライカナイへ」 「玲蘭ちゃん!?」「金城さん!?」  初めてちゃんと見たその天女の姿は、半人半魚に変身した玲蘭ちゃん。肌は黄色とパールホワイトのツートーンで、本来耳があった辺りにガラスのように透き通ったヒレが生えている。元々茶髪ボブだった頭も金髪……というより寧ろ、琉球紅型を彷彿とさせる鮮やかな黄色になっていた。燕尾のマーメイドドレス型白装束も裏地は黄色。首から下げたホタル玉の数珠と、裾に近づくにつれてグラデーションしている紅型模様が美しく映える。 「ニライカナイ、母なる乳海。全ての縁と繋がり『必要な物』だけを抜粋して見る事ができる仮想空間。で、この姿は、いわゆる神人(かみんちゅ)ってやつ。わかった?」 「さっぱりわかりません!」  私も佳奈さんに同じく。 「よーするにここは全ての魂と繋がる母乳の海で、どんな相手にもアクセスできるんです。私が何か招き入れないと、ひたすら真っ白なだけだけど」  母乳の海。これこそまさに、金剛が欲しがってやまない『縁の母乳』だ。足元に広がる海水は、散減が吐く穢れた物とはまるで違い、暖かくて淀みない。 「今からこの海で、『マブイグミ』って儀式をする。一美の前世を呼んでパワーを分けて貰うってわけ。でもまず、折角だし……志多田さんもやってみますか?」 「え、私の前世も探してくれるんですか!? えーどうしよ、緊張するー!」 「アー……多分、思ってる感じと違いますよ」  玲蘭ちゃんは尾ビレで海水を打ち上げ、飛沫から瞬く間にススキの葉を錬成した。そして佳奈さんの背中をその葉でペンペンと叩きながら、 「まぶやー、まぶやー、うーてぃくよー」  とユルい調子で呪文を唱えた。すると佳奈さんから幾つもの物体がシュッと飛び出す。それらは人や動物、虫、お守りに家具など様々で、佳奈さんと半透明の線で繋がったまま宙に浮いている。 「なにこれ! もしかして、これって全部私の前世!? ええっ私って昔は桐箪笥だったのぉ!?」 「正確には箪笥に付着していた魂の欠片、いわゆる付喪神です。人間は物心つくまでに周囲の霊的物質を吸収して、七歳ぐらいで魂が完成すると言われています。私が呼び戻したのは、あなたを構成する物質の記憶。強い記憶ほど鮮明に復元できているのがわかりますか?」  そう言われてみると、幾つかの前世は形が朽ちかけている。人間の霊は割と形がはっきりしているけど、箪笥や虫などは朽ちた物が多い。 「たしかに……このおじさん、実家のお仏壇部屋にある写真で見たことあるかも。写真ではもっとおじいさんだったけど」 「亡くなった方が必ずしも亡くなったご年齢で現れるとは限らないんですよ」  私が補足した。そう、有名なスターとか軍人さんとかは、自分にとって全盛期の姿で現れがちなんだ。佳奈さんが言うおじさんも軍服を着ているから、戦時中の御姿なんだろう。  すると玲蘭ちゃんは手ビレ振り、佳奈さんの前世達を等間隔に整列させた。 「志多田さん。この中で一番、あなたにとって『しっくりくる』者を選んで下さい。その者が一つだけ、あなたに力を授けてくれます」 「しっくりくるもの?」  佳奈さんは海中でザブザブと足を引きずり、きちんと並んだ前世達を一つずつ見回っていく。 「うーん……。やっぱり、見たことある人はこのおじさんだけかな。家に写真があったなら、私と血が繋がったご先祖様だと思うし……あれ?」  ふと佳奈さんが立ち止まる。そこにあったのは、殆ど朽ちかけた日本人形。 「この子……!」  どうやら、佳奈さんは『しっくりくる前世』を見つけたようだ。 「私覚えてる。この子は昔、おじいちゃん家の反物屋にいたお人形さんなの。けど隣の中華食堂が火事になった時、うちも半焼しちゃって、多分だからこんなにボロボロなんだと思う」  佳奈さんは屈んで日本人形を手に取る。そして今にも壊れそうなそれに、火傷で火照った肌を癒すように優しく海水をかけた。 「まだ幼稚園ぐらいの時だからうろ覚えだけど。家族で京都のおじいちゃん家に遊びに行ったら、お店にこの子が着てる着物と同じ生地が売ってて。それでおそろいのドレスを作ってほしいっておじいちゃんにお願いしたんだ。それで東京帰った直後だよね、火事。誰も死ななかったけど約束の生地は燃えちゃって、お人形さんが私達を守ってくれたんだろうって話になったんだよ」  佳奈さんが水をかける度に、他の魂達は満足そうな様子で佳奈さんと人形に集約していく。すると玲蘭ちゃんはまた手ビレを振る。二人を淡い光が包みこみ……次の瞬間、人形は紺色の京友禅に身を包む麗しい等身大舞妓に変身した! 「あなたは……!?」 「あら、思い出してくれはったんやないの? お久しぶりどすえ、佳奈ちゃん」  それは見事な『タルパ』だった。魂の素となるエクトプラズム粒子を集め、人工的に作られた霊魂だ。そういえば玲蘭ちゃんが和尚様から習っていたのはこのタルパを作る術だった。なるほど、こういう風に使うために修行していたんだね。  佳奈さんは顕現したての舞妓さんに問う。 「あ、あのね! 外でザトウムシの化け物が暴れてるの! できれば私もみんなと一緒に戦いたいんだけど、あなたの力を貸してくれないかな?」  ところが舞妓さんは困ったような顔で口元を隠した。 「あらあら、随分無茶を言いはりますなぁ。うちはただの人形やさかい、他の方法を考えはった方がええんと違います?」 「そっかぁ……。うーん、どうしよう」 「佳奈さん、だぶか霊能力とは別の事を聞いてみればいいんじゃないですか? せっかく再会できたんだから勿体ないですよ」 「そう? じゃあー……」  佳奈さんはわざとらしいポーズでしばらく考える。そして何かを閃くと、わざとらしく手のひらに拳をポンと乗せた。 「ねえ。童貞を殺す服を着た女を殺す服って、結局どんな服だと思う? 人生最大の謎なんだけど!」 「はいぃ???」  舞妓さんがわかっていないだろうからと、玲蘭ちゃんがタルパで『童貞を殺す服』を顕現してみせた。 「所謂、こーいうのです。女に耐性のない男はこれが好きらしいですよ」  玲蘭ちゃんが再現した童貞を殺す服は完璧だ。フリル付きの長袖ブラウスにリボンタイ、コルセット付きジャンパースカート、ニーハイソックス、童話の『赤い靴』みたいなラウンドトゥパンプス。一見露出が少なく清楚なようで、着ると実は物凄く体型が強調される。まんま佳奈さんの歌詞通りのコーデだ。 「って、だからってどうして私に着せるの!」 「ふっ、ウケる」  キツキツのコルセットに締め付けられた私を、舞妓さんが物珍しそうにシゲシゲと眺める。なんだか気恥ずかしくなってきた。舞妓さんはヒラヒラしたブラウスの襟を持ち上げて苦笑する。 「まあまあ……外国のお人形さんみたいやね。それにしても今時の初心な殿方は、機械で織った今時の生地がお好きなんやなあ。うちみたいな反物屋育ちの古い人形には、こんなはいからなお洋服着こなせんどす」  おお。これこそ噂の京都式皮肉、京ことば! 要するに生地がペラッペラで安っぽいと言っているようだ。 「でも佳奈ちゃんは、『おたさーの姫』はん程度にならもう勝っとるんやないの?」 「え?」  舞妓さんは摘んでいたブラウスを離す。すると彼女が触れていた部分の生地感が、心なしかぱりっとした気がする。 「ぶっちゃけた話ね。どんなに可愛らしい服でも、着る人に品がなければ『こすぷれ』と変わらへん。その点、佳奈ちゃんは立派な『あいどる』やないの。お歌も踊りもぎょうさん練習しはったんやろ? 昔はよちよち歩きやったけど、歩き方や立ち方がえろう綺麗になってはるさかい」  話しながらも舞妓さんは、童貞を殺す服を摘んだり撫でたりしている。その度に童貞を殺す服は少しずつ上等になっていく。形や色は変わらなくても、シワが消え縫製が丁寧になり、まるでオーダーメイドのように着心地が良くなった。そうか、生地だ。生地の素材が格段にグレードアップしているんだ! 「うちらは物の怪には勝てへんかもしれんけど、童貞を殺す服を着た女に負けるほど弱い女やありまへん。反物屋の娘の誇りを忘れたらあかんよ、佳奈ちゃん」  舞妓さんは童貞を殺す服タルパを私から剥がすと、佳奈さんに当てがった。すると佳奈さんが今着ているサマーワンピースは輝きながら消滅。代わりにアイドルステージ上で彼女のトレードマークである、紺色のメイド服姿へと変身した。けどただの衣装じゃない、その生地は仙姿玉質な京友禅だ! 「いつものメイド服が……あ、これってもしかして、おそろいのドレス!?」  舞妓さんはにっこりと微笑み、輝くオーラになって佳奈さんと一体化する。京友禅メイド服とオーラを纏った佳奈さんは、見違えるほど上品な風格を帯びた。童貞やオタサーの姫どころか、全老若男女に好感を持たれる国宝級生人形(スーパーアイドル)の誕生だ!
བཞི་པ་
「まぶやー、まぶやー、ゆくみそーれー」  またしても玲蘭ちゃんがゆるい呪文を唱えると、佳奈さんの周囲に残っていた僅かな前世残滓も全て佳奈さんに吸収された。これでマブイグミは終了だ。 「金城さんごめんなさい。やっぱり私、バトルには参加できなさそうです……」 「お気になさらないで下さい。その霊的衣装は強いので、多少の魔物(マジムン)を避けるお守り効果もあります。私達が戦っている間、ある程度護身してて頂けるだけでも十分助かります」 「りょーかいです! じゃあ、次は一美ちゃんの番だね!」  いよいよ、私の前世が明らかになる。家は代々影法師使いの家系だから、力を取り戻してくれる先代がいると信じたい。 「まぶやー、まぶやー、うーてぃくよー」  玲蘭ちゃんが私の背中を叩く。全身の毛穴が水を吹くような感覚の後、さっき見たものと同じ半透明の線が飛び出した。ところが…… 「あれ? 一美ちゃんの前世、それだけ??」  佳奈さんに言われて自分から生えた前世達を見渡す。……確かに、佳奈さんと比べて圧倒的に少ない。それに形も、指先ほど小さなシジミ蝶とか、書道で使ってた筆とか、小物ばっかり。玲蘭ちゃんも首を傾げる。 「有り得ないんだけど。こんな量でまともに生きていけるの、大きくてもフェレットぐらいだよ」 「うぅ……一美ちゃん、可哀想に。心だけじゃなくて魂も小さいんだ……」 「悪かったですね、小心者で」  一番考えられる可能性としては、ワヤン不動に変身するためのプルパを愛輪珠に奪われたからだろう。念力を使う時、魂の殆どが影に集中する影法師の性質が仇となったんだ。それでも今、こうして肉体を維持できているのはどういう事か。 「小さくても強いもの、魔除けとか石とか……も、うーん。ないし……」 「じゃあ、斉一さんのドッペルゲンガーみたいに別の場所にも魂があるってパターンは?」 「そういうタイプなら、一本だけ遠くまで伸びてる線があるからすぐわかる」 「そっか……」  すると、その会話を聞いていた佳奈さんが私の足元の海中を覗きこんだ。 「ねえこれ、下にもう一本生えてない?」 「え?」  まじまじと見ると、確かにうっすらと線が見えなくもない。すると玲蘭ちゃんが尾ビレを振って、私の周囲だけ海水を退けてくれた。 「あ、本当だ!」  それは水が掃け、足元に残った影溜まりの中。まるで風前の灯火のように薄目を開けた『ファティマの目』が、一筋の赤黒い線で私と繋がっている。そうか。行きの飛行機内で万狸ちゃんを遠隔視するのに使ったファティマの目は、本来邪悪な物から身を守る結界術だ。私の魂は無意識に、これで愛輪珠から身を守っていたらしい。 「そこにあったんだ。やっぱり影法師使いだね」  玲蘭ちゃんがファティマの目を屈んで掬い取ろうとする。ところが、それは意志を持っているように影の奥深くに沈んでしまった。 「ガード固っ……一美、これどうにかして取れない?」  参ったな。念力が使えれば影を動かせるんだけど……とりあえず、影法師の真言を唱えてみる。 (ナウマク・サマンダ・バザラダン・カン・オム・チャーヤー・ソワカ)  だめだ、ビクともしない。じゃあ次は、和尚様の観世音菩薩の真言。 (オム・マニ・パドメ・フム)  ……ん? 足の指先が若干ピリッときたような。なら和尚様タイプⅡ、プルパを発動する時にも使う馬頭観音真言ならどうか。 (オム・アムリトドバヴァ・フム・パット!)  ピクッ。 「あ、今ちょっと動いた? おーい、一美ちゃんの前世さーん!」  佳奈さんがちょんちょんと私の影をつつく。他の真言やお経も試してみるべきか? けど総当りしている時間はないし…… —シムジャナンコ、リンポチェ……— 「!」 —和尚様?— —あなたの中で眠る仏様へ、お休みなさい、と申したのです。私は彼の『ムナル』ですから……—  脳裏に突然蘇った、和尚様と幼い私の会話。シムジャナンコ(お休みなさい)……チベット語……? 「タシデレ、リンポチェ」  ヴァンッ! ビンゴだ。薄目だった瞳がギョロリと見開いて肥大化し、私の影から飛び出した! だけどそれは、私が知っているファティマの目とまるで違う。眼球ではなく、まるで視神経のように真っ赤なエネルギーの線維が球体型にドクドクと脈動している。上下左右に睫毛じみた線維が突き出し、瞳孔に当たる部分はダマになった神経線維の塊だ。その眼差しは邪悪な物から身を守るどころか、この世の全てを拒絶しているような絶望感を帯びている。玲蘭ちゃんと佳奈さんも堪らず視線を逸らした。 「ぜ、前世さん、怒ってる?」 「……ウケる」  チベット語に反応した謎のエネルギー眼。それが私の大部分を占める前世なら、間違いなく和尚様にまつわる者だろう。正直、今私は和尚様に対してどういう感情を抱いたらいいのかわからなくなっている。でも、たとえ邪尊教徒であろうとなかろうと、彼が私の恩師である事に変わりはない。 「玲蘭ちゃん、佳奈さん。すいません。五分だけ、ちょっと瞑想させて下さい」  どうやら私にも、自分の『縁』と向き合うべき時が来たようだ。
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 ……釈迦如来、文殊菩薩、普賢菩薩……。座して目を閉じ、自分の影が十三仏を象る様を心に思い描く。本来影法師の修行で行う瞑想では、ティンシャやシンギング・ボウルといった密教法具を使う。けど千里が島には持ってきていないし、今の私にそれらを使いこなせる力もない。それでも、私は自らの影に佇むエネルギー眼と接続を試み続ける。繋がれ、動け。私は影。私はお前だ。前世よ、そこにいるのなら応えて下さい。目を覚まして下さい…… 「……ッ……!」  心が観世音菩薩のシルエットを想った瞬間、それは充血するように赤く滲んだ。するうち私の心臓がドクンと弾け、業火で煮えくり返ったような血が全身を巡る。私はその熱量と激痛に思わず座禅を崩してしまうが、次の瞬間には何事もなかったかのように体が楽になった。そしてそっと目を開けてみると、ニライカナイだったはずの世界は見覚えのある場所に変わっていた。 「石筵観音寺……!?」  玲蘭ちゃんが代わりに呟く。そう。ここは彼女も昔よく通っていた、私達の和尚様のお寺だ。けどよく見ると、記憶と色々違う箇所がある。 「玲蘭ちゃん、このお御堂、こんなに広かったっけ……?」 「そんなわけない。だってあの観音寺って、和尚が廃墟のガレージに張って作ったタルパ結界でしょ」 「そうだよ。それにあの外の山も、安達太良山じゃないよね? なんかかき氷みたいに細長いけど」 「あれ須弥山(しゅみせん)じゃん。仏教界の中心にある山。だぶか和尚はこの風景を基に石筵観音寺を作ったんじゃない? てーか、何よりさ……」 「うん。……いなくなってるよね、和尚様」  このお御堂には、重大な物が欠けている。御本尊である仏像だ。石筵観音寺では和尚様の宿る金剛観世音菩薩像がいらした須弥壇には、何も置かれていない。ここは、一体……。 「ねーえ! 一美ちゃんの和尚さんってチベットのお坊さんなんだよね? ここにいるよ!」 「「え?」」  振り返ると、佳奈さんがお御堂の奥にある扉を開けて中を指さしている。勿論観音寺にはなかった扉だ。私と玲蘭ちゃんが中を覗くと、部屋は赤い壁のシンプルな寝室だった。中心に火葬場の収骨で使うようなやたらと背の高いベッドが一つだけ設置されている。入室すると、そのベッドで誰かが眠っていた。枕元にはチベット密教徒特有の赤い袈裟が畳まれている。佳奈さんがいて顔がよく見えないけど、どうやら坊主頭……僧侶のようだ。不思議な事に、その僧侶の周りには殆ど影がない。 「もしもーし、和尚さん起きて下さい! 一美ちゃんが大ピンチなんですーっ!」  佳奈さんは大胆にも、僧侶をバシバシと叩き起こそうと試みる。ただ問題がある。彼は和尚様より明らかに背が低いんだ。 「ちょ、佳奈さんまずいですって! この人は和尚様じゃないです!」 「え、そうなの? ごめんごめん、てへっ!」 「てへっじゃないですよ………………!!?!?!??」  佳奈さんが退き僧侶の顔が見えた瞬間、私は全身から冷や汗を噴出した。この……この男は……!!! 「あれ? でも和尚さんじゃないなら、この人が一美ちゃんの前世なんじゃない? おーい、前世さムググム~??」  ヤバいヤバいヤバい!! 佳奈さんが再び僧侶をぶっ叩こうとするのを必死で制止した。 「一美?」  玲蘭ちゃんが訝しんだ。面識はない。初めて見る人だ。だけどこの男が起きたら絶対人類がなんかヤバくなると直感で理解してしまったんだ! ところが…… ༼ ……ン…… ༽  嘘でしょ。 「あ、一美ちゃん! 前世さん起きたよ! わーやば、このお坊さん三つ目じゃん! きっとなんか凄い悟り開いてる人だよ!」  あぁ、終わった……。したたび綺麗な地名の闇シリーズ第六弾、千里が島宝探し編終了。お疲れ様でした。 「ねー前世さん聞いて! 一美ちゃんが大ピンチなの! あ、一美ちゃんっていうのはこの子、あなたの生まれ変わりでー」 ༼ えっ、え?? ガレ……? ジャルペン……?? ༽  僧侶はキョトンとしている。そりゃそうだ、寝起きに京友禅ロリータが何やらまくし立てていれば、誰だって困惑する。 「じゃる……ん? ひょっとして、この人日本語通じない!?」 「一美、通訳できる?」 「むむ、無理無理無理! 習ってたわけじゃないし、和尚様からちょこちょこ聞いてただけだもん!」 「嘘だぁ。一美ちゃんさっきいっぱいなんかモゴモゴ言ってたじゃん。ツンデレとかなんとか」 「あ、あれは真言です! てか最後なんて『おはようございます猊下(げいか)』って言っただけだし」  私だけ腰を抜かしている一方で、佳奈さんと玲蘭ちゃんは変わらずマイペースに会話している。僧侶もまだキョトン顔だ。 「他に知らないの? チベット語」 「えぇー……。あ、挨拶は『タシデレ』で、お休みなさいが『シムジャナンコ』、あと印象に残ってるのは『鏡』が『レモン』って言うとか……後は何だろう。ああ、『眠り』が『ムナル』です」 ༼ ! ༽  私が『ムナル』と発音した瞬間、寝ぼけ眼だった僧侶が急に血相を変えて布団から飛び出した。 ༼ ムナルを知っているのか!? ༽ 「ふわあぁ!?」  僧侶は怖気づいている私の両腕をがっしと掴み、心臓を握り潰すような響きで問う。まるで視神経が溢れ出したような紅茶色の長い睫毛、所々ほつれたように神経線維が露出した肌、そして今までの人生で見てきた誰よりも深い悲壮感を湛える眼差し……やっぱり、間違いない。この僧侶こそが…… 「え? な、なーんだ! お坊さん、日本語喋れるんじゃん……」 「佳奈さん、ちょっと静かにしてて下さい」 「え?」  残酷にも、この僧侶はムナルという言葉に強い反応を示した。これで私の杞憂が事実だったと証明されてしまったんだ。だけど、どんな過去があったのかはともかく、私はやっぱり和尚様を信じたい。そして、自分の魂が内包していたこの男の事も。私は一度深呼吸して、彼の問いに答えた。 「最低限の経緯だけ説明します。私は一美。ムナル様の弟子で、恐らくあなたの来世……いえ、多分、ムナル様によって創られたあなたの神影(ワヤン)です。金剛の大散減という怪物と戦っていたんですが、ムナル様が私の肋骨で作られた法具プルパを金剛愛輪珠如来に奪われました。それでそこの神人にマブイグミして貰って、今ここにいる次第です」 ༼ …… ༽  僧侶は瞬き一つせず私の話を聞く。同時に彼の脳内で凄まじい速度で情報が整理されていくのが、表情でなんとなくわかる。 ༼ 概ね理解した。ムナルは、そこか ༽  僧侶は何故か佳奈さんを見る。すると京友禅ロリータドレスのスカートポケットに、僧侶と同じ目の形をしたエネルギー眼がバツッと音を立てて生じた。 「きゃあ!」  一方僧侶の掌は拭き掃除をしたティッシュ���ようにグズグズに綻び、真っ二つに砕けたキョンジャクが乗っていた。 「あ、それ……神社で見つけたんだけど、後で返そうと思って。でも壊れてて……あれ?」  キョンジャクは佳奈さんが話している間に元の形に戻っていた。というより、僧侶がエネルギー眼で金属を溶かし再鋳造したようだ。綻んでいた掌もじわじわと回復していく。 「ど、どういう事? 一美。ムナルって確か、観音和尚の俗名か何かだったよね……そのペンダント、なんなの?」  僧侶の異様な力に気圧されながら、玲蘭ちゃんが問う。 「キョンジャク(羂索)、法具だよ。和尚様の遺骨をメモリアルダイヤにして、友達から貰ったお守りのペンダントに埋め込んでおいたんだ」 ༼ この遺骨ダイヤ、更に形を変えても構わんか? ༽ 「え? はい」  僧侶は私にキョンジャクを返却し、お御堂へ向かった。見ると、和尚様のダイヤが埋まっていた箇所は跡一つなくなっている。私達も続いてお御堂に戻ると、彼はティグクという斧型の法具を持ち、装飾部分に和尚様のダイヤを埋め込んでいた。……ところが次の瞬間、それを露台から須弥山目掛けて思い切り投げた! 「何やってるんですか!?」  ティグクはヒュンヒュンと回転しながら須弥山へ到達する。すると、ヴァダダダダガァン!!! 須弥山の山肌が爆ぜ、さっきの何百倍もの強烈なエネルギー眼が炸裂! 地面が激しく揺れて、僧侶以外それぞれ付近の物や壁に掴まる。 ༼ 拙僧が介入するとなれば、悪戯に事が大きくなる…… ༽  爆風と閃光が鎮まった後の須弥山はグズグズに綻び、血のように赤い断面で神経線維が揺らめいた。そしてエネルギー眼を直撃したはずのティグクは、フリスビーのように回転しながら帰還。僧侶が器用にキャッチすると、次の瞬間それはダイヤの埋め込まれた小さなホイッスルのような形状に変化していた。 ༼ だからあなたは、あくまでムナルから力を授かった事にしなさい。これを吹けばティグクが顕現する ༽ 「この笛は……『カンリン』ですか!?」 ༼ 本来のカンリンは大腿骨でできたもっと大きな物だけどな。元がダイヤにされてたから、復元はこれが限界だ ༽  カンリン、人骨笛。古来よりチベットでは、悪い人の骨にはその人の使っていない良心が残留していて、死んだ悪人の遺骨でできた笛を吹くと霊を鎮められるという言い伝えがあるんだ。 ༼ 悪人の骨は癒しの音色を奏で、悪魔の心臓は煩悩を菩提に変換する。それなら逆に……あの心優しかった男の遺骨は、どんな恐ろしい業火を吹くのだろうな? ༽  顔を上げ、再び僧侶と目が合う。やっぱり彼は、和尚様の事を話している時は少し表情が穏やかになっているように見える。 ༼ ま、ムナルの弟子なら使いこなせるだろ。ところで、『鏡』はレモンじゃなくて『メロン』な? ༽ 「あっ、そうでしたね」  未だどこか悲しげな表情のままだけど、多少フランクになった気がする。恐らく、彼を見た最初は心臓バクバクだった私もまた同様だろう。 「じゃあ、一美……そろそろ、お帰ししてもいい……?」  だぶか打って変わって、玲蘭ちゃんはすっかり及び腰だ。まあそれは仕方ない。僧侶もこの気まずい状況を理解して、あえて彼女と目を合わさないように気遣っている。 「うん。……リンポチェ(猊下)、ありがとうございました」 「一美ちゃんの前世のお坊さん、ありがとー!」 ༼ 報恩謝徳、礼には及ばぬ。こちらこそ、良き未来を見せて貰った ༽ 「え?」 ༼ かつて拙僧を救った愛弟子が巣立ち、弟子を得て帰ってきた。そして今度は、拙僧があなたに報いる運びとなった ༽  玲蘭ちゃんが帰還呪文を唱えるより前に、僧侶は自らこの寺院空間を畳み���めた。神経線維状のエネルギーが竜巻のように這い回りながら、景色を急速に無へ還していく。中心で残像に巻かれて消えていく僧侶は、最後、僅かに笑っていた。 ༼ 衆生と斯様にもエモい縁を結んだのは久しぶりだ。また会おう、ムナルそっくりに育った来世よ ༽
ལྔ་པ་
 竜巻が明けた時、私達はニライカナイをすっ飛ばして宴会場に戻っていた。佳奈さんは泥だらけのサマードレスに戻っているけどオーラを帯びていて、玲蘭ちゃんの口の怪我は何故か完治している。そして私の手には新品のように状態の良くなったキョンジャクと、僅かな視神経の残滓をほつれ糸のように纏う小さなカンリンがあった。 「あー、楽しかった! 金城さん、お人形さんと再会させてくれてありがとうございました! 一美ちゃんも、あのお坊さんめっちゃ良い人で良かったね! 最後エモいとか言ってたし、実はパリピなのかな!? ……あれ、金城さん?」  佳奈さんが振り返ると同時に、玲蘭ちゃんは焦燥しきった様子で私の首根っこを掴んだ。今日は色んな人に掴みかかられる日だ。 「なんなの、あの前世は」  その問いに答える代わりに、私は和尚様の遺骨(カンリン)を吹いてみた。パゥーーーー……決して癒しの音色とは言い難い、小動物の断末魔みたいな音が鳴った。すると私の心臓に焼けるような激痛が走り、全身に煮えたぎった血が迸る! それが足元の影に到達点すると、カセットコンロが点火するように私の全身は業火に包まれた。この一連のプロセスは、実に〇.五秒にも満たなかった。 「そんなっ……その姿……!!」  変身した私を、玲蘭ちゃんは核ミサイルでも見るような驚愕の目で仰いだ。そうか。彼女がワヤン不動の全身をちゃんと見るのは初めてだったっけ。 「一美ちゃん! また変身できるようになったね! あ、前世さんの影響でまつ毛伸びた? いいなー!」  玲蘭ちゃんは慌ててスマホで何かを検索し、悠長に笑っている佳奈さんにそれを見せた。 「ん、ドマル・イダム? ああ、これがさっき話してた邪尊さん……え?」  二人はスマホ画面と私を交互に三度見し、ドッと冷や汗を吹き出した。憤怒相に、背中に背負った業火。私は最初、この姿は不動明王様を模したものだと思っていた。けど私の『衆生の苦しみを業火に変え成仏を促す』力、変身中の痛みや恐怖に対する異常なまでの耐久性、一睨みで他者を黙らせる眼圧、そしてさっき牛久大師に指摘されるまで意識していなかった、伸びた腕。これらは明らかに、抜苦与楽の化身ドマル・イダムと合致している! 「……恐らく、あの前世こそがドマルだ。和尚様は幼い頃の私を金剛から助けるために、文字通り彼を私の守護尊にしたんだと思う。でもドマルは和尚様に『救われた』と言っていた。邪尊教に囚われる前の人間の姿で、私達が来るまで安らかに眠っていたのが何よりの証拠だ。観世音菩薩が時として憤怒の馬頭観音になるように、眠れる抜苦与楽の化身に代わり邪道を討つ憤怒の化身。それが私……」 「ワヤン不動だったってわけ……ウケる」  ウケる、と言いつつも、玲蘭ちゃんはまるで笑っていなかった。私は変身を解き、キョンジャクのネックレスチェーンにカンリンを通した。結局ドマルと和尚様がどういう関係だったのか、未だにはっきりしていない。それでも、この不可思議な縁がなければ今の私は存在しないんだ。この新たな法具カンリンで皆を、そして御戌神や千里が島の人々も守るんだ。  私は紅一美。金剛観世音菩薩に寵愛を賜りし紅の守護尊、ワヤン不動だ。瞳に映る縁無き影を、業火で焼いて救済する!
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abcboiler · 4 years
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【黒バス】TEN DANCER has NOTHING -2-
2015/01/03Pixiv投稿作
「脚本は人生によって汚されたのです」 ジョセフ・エル・マンキーウィッツ『裸足の伯爵夫人』
他人の熱をどうやって知ることが出来るだろう *** 「……あれ?真ちゃんは?」 「緑間くんなら三日は来ませんよ」 高尾と緑間が出会い、夕飯を共にした翌日、稽古の開始は午前十時だった。早朝ランニングの服のまま、高尾が稽古場入りしたのは丁度その一時間前で、板張りのがらんとした部屋に人影は無かった。彼は誰もいない稽古場に向けて「よろしくお願いします」と頭を下げ、靴を履き替えて入口から踏み入る。稽古場だろうと、舞台は舞台である。舞台には、敬意を払わなくてはけない。それは役者だけではなく、ダンサーも、或いはバスケットプレイヤーや野球選手も同じことだ。自分たちが立つ舞台へ、尊敬と畏怖の念を忘れた者から落ちていく。自分がどこに立っているのか、それを理解しない者に居場所が与えられるほど、世界は広くなど無いのだ。 初日にチェックしていた照明のスイッチを入れれば、窓の無い稽古場がぼうっと青く光る。どうやら設備が古いらしく、完全に点灯するまでに時間がかかるらしい。さして気にも止めず、高尾はミラーと椅子を引っ張り出す。歴史ある劇場に備え付けの稽古場は、その歴史にふさわしくあちこちに時間が刻んだシミや引っかき傷が残っていた。けれど、手入れをされていないという訳ではない。大切に使われてきたのであろうことは、机のネジ一つとってみても判る。広さざっと10メーター掛ける6メーター。天井の高さ5メーター。稽古場の中でも、ある程度の広さが確保されている部類だ。軽く準備運動をしていれば他の共演者たちもぽつりぽつりと入って来る。 挨拶を交わしつつ、高尾は共演者たちの目を見る。どうやら、誰よりも早く来て準備を済ませていた高尾に悪感情を抱く者はいないらしかった。高尾は、それなりに名の知れた役者たちの中に、突如紛れ込んだダンサーだ。どれだけ高尾が踊りの世界で名を馳せていようと、ここでは全くの初心者である。準備運動をしっかりとしたかったというのも勿論あるが、誰よりも早く来たのは、共演者達への敬意をわかりやすく示すためでもあった。 いつだって、どこだって、下っ端のやることは変わんねえよ、と言って笑った、高尾のスクール時代の友人がいる。 『誰よりも早く行って、雑用して、笑顔で挨拶して、どんなことでも引き受けるんだ。世界はこんなに広いのに、ボトムビリオンのやることは変わんねえし、逆に言や、それだけやっときゃどんな世界でも受け入れられるんだ。最高に笑えるよな』 全くもってその通りだと、その時の高尾は笑いながらくすねたスタウトで乾杯したものだが、いざ世界に出てみれば、九割は彼の言う通りだった。そして残り一割はといえば、表立ってはそのように従順な態度を示す人間を、侮蔑するタイプの人間だった。そういった人種の大抵はひねくれていて、人の好意を素直に信じない。ごく稀に、そういった「表面だけの従順さ」或いは「気に入られようという下心」を敏感に察知して嫌悪を示す潔癖な人間もいるが、高尾は滅多に出会ったことが無い。そして、この舞台に集まった役者たちは、皆、ある程度の癖はありこそすれ、真面目で、一本気な人間らしかった。そのことに彼は素直に安堵する。仕事を共にするにあたって、仲間は気持ちがいいほうが良いに決まっている。 (まあ、真ちゃんなんかは、割��残り一割の人間っぽいけど) にこやかに笑いながら、高尾は頭の中で気難しそうな緑髪を思い出す。そうして、稽古開始10分前になっても、その鮮やかな芽吹きの色の、影も形も見えないことに首を傾げた。顔合わせの時の緑間は、丁度30分前に現れた。一分の狂いも無かったのだから、それが彼の流儀なのだろう、こだわりの強そうな男だから、自分の決めたルールから外れるようなことはすまい。高尾は、そう思っていたのである。そう思っていた所に、突如かけられた声だった。 「緑間くんなら三日は来ませんよ」 「……三日? 三日は来ないって、どういうこと?」 「僕に驚かないんですね」 「いや、驚くも何も普通に話しかけられただけじゃん」 「そんな反応されたのも久しぶりです。いや、初めてかもしれません」 高尾の横に静かに現れたのは、水色の髪の少年だった。髪と同じ水色の、大きな瞳に感情は見えない。埃一つついていない燕尾服は、舞台の上ならば映えるだろうが、この稽古場では浮くばかりである。黒の燕尾服と青白い肌のコントラストは沈黙を発している。背は低く、線も細く、とても役者とは言い難い風貌をしていた。 そもそも昨日の顔合わせの時に、こんな男を彼は見た覚えがない。稽古場に燕尾服で現れるような人間を、忘れる筈も無いのだから、間違いなく高尾とこの男は初対面だ。けれどこの少年の佇まいは、高尾に既視感をもたらした。 この色を、この空気を、どこかで見たことがある、それも、つい最近。 脳みその奥でぐるぐると記憶が動き始めるが、その既視感よりも、少年の言葉の意味よりも、高尾には気になることがあった。頭蓋骨の奥で回転を続ける脳を放って、高尾は思ったままの質問をぶつける。 「えーっと、真ちゃん、三日は来ないって、マジ?」 「ええ、マジ、です」 「……なんでそんなこと知ってるの?」 「緑間くんはぶっ飛んでいるなりに真面目ですから、支配人に連絡はちゃんと入れますよ。欠席の連絡、ですけどね」 「……支配人?」 「ええ」 高尾の訝しげな瞳にも、鋭さを増していく視線にも動じることなく、水色の瞳はじいっと鏡のように見つめ返してくる。その静寂さを、高尾はふと思い出した。 これは、舞台が始まる前の沈黙だ。 例えば稽古場の照明を灯した瞬間のぼうっとした青い光。或いは、幕が開く直前に落ちた沈黙の色。目の前にいる人間は、舞台の上でスポットライトを浴びる人間ではなく、けれど必ず、舞台の始まりに潜んでいる影だ。既視感の理由を突き止めて、高尾はもう既に判りきった解答が与えられるのを待つ。 「君にこの舞台のオファーを出したのは僕です。顔を直接合わせるのは初めてですね」 「……まさか、こんだけ伝統ある劇場の支配人がこんな若いとは思ってなかったわ」 「童顔なんですよ、僕。年齢的には君や緑間くんと変わりません」 「それでも充分若いって」 「同世代の若造に雇われるのはお嫌ですか?」 「まさか。その逆。すげーよ、お前」 苦笑しながら高尾は右手を差し出した。雇い主に対して随分と馴れ馴れしい口を聞いてしまったとも思うが、恐らくこの人物はそういったことを気にしないだろう。支配人といえば、いつだって、劇場を我が物顔で歩き回り、まだ売り出されてもいないような若い卵を小間使いのように従えて歩いているのが常だった。黒子テツヤと名乗る男に、その虚栄の影も見えなかった。そして何より、入口で丁寧に揃えられた、曇りひとつない黒い革靴を、高尾は確かに視界に捉えている。黒子もまた、舞台という圧倒的な存在に、尊敬と畏怖を覚える人種なのだ。そんな確信と共に、高尾は、自分の右手が、冷たく青白い右手に握られるのを感じている。 「改めまして、この度はこのような歴史ある舞台にお招き頂きましてありがとうございます。高尾和成です」 「黒子テツヤです。この度はご無理を申し上げましたが、快くお引き受け頂き感謝致します。感謝の証に、この口調はやめましょうか」 「はは、助かるわ、こういうしゃちほこばったの、苦手でさ」 「僕も無意味なやり取りは興味ないです。虚礼廃止派なんですよ」 「へえ。劇場なんてトラディショナルマインドの塊かと思ったけど」 「伝統と歴史は大切ですよ。気持ちがこもっていなくちゃ意味が無いってことです」 「耳が痛いね」 別に君は、伝統も歴史もないがしろにする人間じゃあないでしょう。 そう言って静かに笑う黒子に、高尾は目の奥の苦笑を隠せない。出会って数分で、見透かしたようなことを言う。臆するどころか、一つも揺るがない調子で。黒子は、身にまとう静謐な空気とは裏腹に、その内面は感情豊かな男のようだった。いっそ、苛烈とさえ呼べるほど。 「しかし、なんでまたわざわざ俺に声かけたのさ?黒子さん」 「さん付けなんてしなくて良いですよ」 「いや、そりゃ流石に不味いだろ」 「緑間くんの懐に、一日目にしてあそこまで入り込んだ人ですから。『友達の友達は友達』、とまでは言いませんが、『奇妙奇天烈な友人の数少ない友人になりそうな人』は大切にしたいんですよ、僕も」 「……真ちゃんとは友達なんだ?」 「腐れ縁です」 僅かに剣呑な雰囲気を帯びた高尾に、黒子は内心で驚嘆と呆れの入り混じった溜息をつく。黒子も黒子で、この異端のダンサーには思うところがあった。勿論お首には出さないが、どうやら、この高尾和成という男の緑間真太郎への執着は、事前に黒子が伝え聞いていたよりも一段と強いようである。それは、噂の方が間違っていたということでもないのだろう。何せ黒子に高尾の存在を教え、その詳細な情報を伝えて寄越した男は、人を見る目だけは確かだった。口調や言動こそ軽い男だけれど、人脈の広さと内面を探ることに関しては黒子も認める所である。その彼の情報では、ここまでの執心はうかがえなかった。 どうやら『緑間真太郎』の実物と出会ったことによって、その執心が一段と深まってしまったらしい。そう黒子は察しをつける。 「……さっきの君の質問ですが」 「さっき?」 「自分で聞いたんでしょう。『何故俺に声をかけたんだ』って」 「ん? ああ、そうそう、そうだったわ」 「僕には、顔の広さだけは誇れる友人が一人いましてね」 「君の噂はかねがねお伺いしています」 そう黒子が告げた瞬間に、高尾は確かに薄く笑った。高尾和成の『噂』は、どうやら彼自身の耳にも届いているらしい。どこまで知っているのか、等という無粋な質問を、高尾はしなかった。その代わりに浮かべたのが、温かみの欠片も見つけられない、酷薄な笑みだった。会話の切上げ時だ、と黒子は感じる。そうして何故、自分の周りには、こうも厄介な人間ばかり集まるのだろうと考えている。舞台に立つ人間は、そこで輝く人間は、どれだけ真っ当に見えても必ずどこかが歪な形をしている。その歪みこそが輝きを生むのだと思わせるほどに、強烈な光を放つ物ほどその歪みは大きい。黒子の脳裏に浮かぶのは、神経質そうに眉をひそめて腕を組む、緑の友人。 (君は僕の友人の中でもとぴきり奇妙で扱いにくい人だけれど、変人は変人を引き寄せるんでしょうかね) 周りからすれば、はた迷惑な話だ、と一人で納得する黒子には、自分もその一員なのだという自覚は、少なくとも高尾和成からは同じカテゴリに分類されている自覚は、ない。 「長々とお喋りしてしまいました。もう立ち稽古始まりますけど大丈夫ですか?」 「いや、別に準備運動は済ませてっからいいけど……つうか、そうだよ、真ちゃん結局来てねえじゃん。そのこと聞きたかったのに話逸れすぎだわマジで」 「不思議なことです」 「お前なあ……まあいいや。俺は役者じゃねえけどさ、どう考えてもおかしいだろ。場当たり稽古で役者がいないって」 「そうですね」 時計の針は、十時一分前を指している。座ってストレッチをしていたものも立ち上がり、集合の声がかかる瞬間を待っている。もう、舞台は始まるのだ。片手に台本を持った場当たりの稽古だろうと、そのことには変わりない。そうして、高尾が待ち焦がれる緑色は、恐らくもう現れないだろう。 「彼とんでもない馬鹿なんですよ」 「……随分と知ってるんだね」 「腐れ縁だって、言ったでしょう。まあ、馬鹿さ加減なら、君もどっこいだと思いますけどね」 「さっきから、結構ずけずけ言うよなあ、お前」 「そうですね」 飄々と高尾の視線を交わす黒子の顔には罪悪感の一つも浮かんでいない。高尾には判る。この黒子テツヤという人間は全く悪びれていない。高尾が何も判らずに、少しずつ苛々の棘をあらわにするのをじいっと観察している。そうやって、高尾和成を見定めようとしている。そのことが、高尾には、わかる。何せそれは、形こそ違えど、高尾が朝、この稽古場で他の共演者たちに向けたのと同じ瞳なのだから。 「あー、なんかなあ、俺結構人あたり良い方なんだけど」 「自分で言いますか」 「言うね。高尾ちゃんだって顔の広さならそれなりだよ。でもなんかお前は、ちげーや。同族嫌悪ってやつかな」 「そうかもしれません」 集合の声がかかる。高尾は黒子に背を向ける。結局、緑間が何故来ないのか、その答えを黒子は一つも言わなかった。焦ることはない、と高尾は言い聞かせる。黒子が支配人というのならば、彼はこの劇場の住人だ。この劇場の中に、必ずいる。そして恐らく、隠れもしないだろう。練習終わりにでも捕まえればいいし、万が一捕まえられなかったとしても、三日後に緑間が来るという情報は確かなのだろうから。 「でも、君と僕は全然違いますよ。全く、一つも、何もかも、全部」 意外なことに、背中を向けた高尾にも黒子は言葉を続けた。背中でその言葉を受け止めながら、高尾は頭のスイッチをぱちりぱちりと切り替えていく。緑色を遮断して、水色も遮断して、その代わりに頭に浮かべるのは真っ白いスポットライトだ。幕が上がるまでの静寂と、布擦れの音、音楽と、軋む床。それを思い浮かべれば、今まで頭の中を占めていたことはゆっくりと消え去っていく。舞台の上は、もう違う世界だ。 そうやって段々と現世から消えていく高尾へ、亡霊のように、水色の声は続いている。 「僕は黒子ですから」 「……?」 「君はそちらの人間だ」 その声の、あまりの冷たさに高尾は振り返った。振り返った先に見えた瞳は、相変わらず鏡面のように静かで、そこに映りこんだ高尾自身まで反射して見えた。その姿を見たことを、僅かに高尾は後悔した。 「ステージもミュージックもミラーも、僕には手に入れられなかった」 深淵を覗く時、深淵もまたお前を覗いているのだと、そんな古い戯曲の一節を、何故か高尾は呼び起こした。成程確かに、この黒子テツヤという男は影だった。劇場に潜む、影だった。 * 「ああ、高尾くん、お疲れ様です」 「……お疲れ様です……ってかなんでここいんの? そんなケロッとした感じで?」 「ケロッと、というのが何を指しているのかよく判りませんが、そういえば緑間くんが来ない理由言い忘れてたなと思い出して」 「え?! いやそりゃ言われなかったけど、何あれわざとじゃなかったの? 嘘だろ?」 「すみません、忘れてました」 「マジかよ……」 あまりにもあっけらかんとした黒子の態度に、高尾は思わず頭を抱えて蹲る。あれだけ思わせぶりな態度で人のことを引っ掻き回しておきながら、自分は無実だと言わんばかりのこの態度はどうだ。 窓の外はもう日も暮れて、木枯らしの音と星の瞬きが聞こえるのみである。これが演劇初舞台となる高尾にも薄々察せられるように、どうやらこの劇場の練習はかなりじっくりと行われるようだった。公演までは一ヶ月、ほぼ毎日のように練習が入っているが、長い時では一日六時間近く確保されている。恐らく平均の倍近いだろう、というのは事前に高尾が関係者から聞いていた話との比較だ。それだけ、この劇場で行われる演目というのは重大なことなのだろう。それを高尾はこの日一日で感じ取っている。そして、その劇場を取り仕切っているのが、今、彼の目の前でぼんやりと佇んでいるこの男なのだ。 黒子、お前はとんでもない役者だ、という内心を口にするのも悔しく、獣のような唸り声を噛み殺して高尾は小さく文句を告げた。 「いやほんと、お前も大概だわ」 「失礼ですね。僕は少なくとも彼らよりはマシだと思ってます」 「いや本当にどっこいだと思うぜ。真面目に」 「そうですかね」 「はー……、ま、いいや、これ以上言っても無駄だろうし……」 頭をかきながら高尾は立ち上がる。見下ろす黒子はやはり存在感の希薄な何も無い少年で、一体全体この体のどこに熱が潜んでいるのか高尾には全く読み取れない。 「なあ、真ちゃんの連絡先って教えてもらえる? 直接行くわ」 「プライベートもへったくれもないですね。そして残念ながら、僕も知りませんよ」 「知らねえの?」 「自宅のベルという意味なら知っています。或いは郵便物の届け先なら。けど、少なくとも今は無意味ですよ」 「どういうこと?」 「見つけるのは……そうですね、君次第ですけど不可能じゃないです」 「待てって、黒子、ちゃんと説明してくれよ」 「緑間くんを連れてくるというならご自由に。まあ、できるなら、ですけど」 「黒子」 高尾が話についていけないことを理解しながらも黒子は喋り続ける。理解させるつもりが無いのかと苛立つ高尾に黒子が向けた瞳は、高尾の予想に反して一切のからかいを含んでいなかった。ただ、彼に覚悟を問いかけていた。 それは緑間真太郎という役者に、関与することの覚悟である。 「緑間くんはね、絶対に妥協を許さないんですよ」 「稽古には出ないのに?」 「サボりじゃ無いですよ。一応僕だけじゃなく、監督さんや演出さんにも連絡は入ってますし」 「いや、何してんだか知らないけど、来ないんじゃ駄目だろ」 「君だったら朝起きてどうしますか?」 「俺?」 正直な所、高尾和成は、今朝、確かに失望を覚えていたのだ。昨晩ともに夕食を食べた緑間は、少なくとも舞台に対して真剣な態度を示していた。舞台に命をかけている人間の目をしていた。彼は、緑間真太郎が、まさか初日から練習を欠席するような男だとは、ゆめにも思っていなかったのである。そんな男を追いかけてこの舞台に来たのかと自身をあざ笑いさえした。ただ、何より、高尾は、何故緑間がこのような行動に出たのかを問いただしたかったのだ。理由なく休む男ではないと信じていた。けれどその内容如何によっては、あの顔を殴ることも辞さないとすら考えていた。黒子の態度によって誤魔化されてはいたが、高尾が緑間に対して抱いていたのは、紛れもない怒りだった。 自分だったらどうするか、という問いは、高尾からしてみればナンセンスな質問だった。準備をして、練習をしに行くに決まっている。そうして高尾のその答えに、黒子は静かに首を振った。 「高尾くん、君は普段、朝起きて、何をしますか?朝起きて一番に、トイレに行きますか?顔を洗いますか?或いは真っ先に朝ごはんを食べる?それともご飯は食べない?食べるとしたら、パン?ライス?フレーク?それとも果物や飲み物だけ?着替えてから朝食を食べますか?それとも先に支度を全て済ませてから最後に着替えますか?靴を履くのは右から?左から?その靴は誰が選んだ物ですか?どこで買ったもので値段はいくら?新聞は手に抱えますかそれとも鞄?ニュースはテレビジョンで見るだけ?欠伸は噛み殺しますか?それとも手で隠しますか?そうですね、それから」 「ちょ、ちょいまって、なに、黒子、そんなに俺のこと知りたいの」 「そうですね、君には何の興味もないですけど」 「失礼すぎだし、お前さっき、友達の友達候補は大事にとか言ってたろ」 「成程、僕が言いすぎました。でも、そうでしょう? 他人のそんなところまで興味、ないでしょう、普通は」 「そりゃあ、まあ」 「そんな所まで気にするのは、緑間くんくらいです」 黒子の言葉に高尾は首を傾げる。たった一度食事をしたきりではあったけれど、緑間がそのような人間だとは彼にはどうしても思えなかった。彼は高尾に一切の詮索をしなかった。質問こそすれど、高尾が隠したいと望んだことを、隠していると気がつきながら、それ以上踏み入ることはしない男だった。 『そんな姿勢で人事を尽くせるのか?』 そう尋ねた緑間の瞳に燃える炎を高尾は覚えている。茨のような形をした緑の炎。けれど、高尾がその答えをはぐらかせば、その棘を突き刺そうとすることもなくしまいこんだ。緑間は、人の痛みに鈍感な男ではなかった。かといって、わざわざ人に関与しようとは思わない、自分の国を守ることができれば他は預かり知らぬ、そういう態度をとる男だった。 「真ちゃんなんて、他人に興味ないベストテンって感じの顔してるけど」 「君もなかなか失礼ですがその通りですね」 呆れたように笑う黒子の顔に怒りが見えないのは、黒子なりの肯定に他ならない。そう、緑間真太郎は他人などに興味が無い。興味を持たずに、生きてきたのだ。 「でも言ったでしょう。彼は妥協を許さないんですよ。だから、自分の役が、朝、何をしているのか、知らないなんてことを彼は許さない」 「……嘘だろ?」 「嘘なら良かったですね」 緑間真太郎。高尾和成が10点の顔だと評した男。彼が出る舞台のチケットは即日完売。舞台から徐々に人が、観客が失われていく中でも変わることなく、常にスタンディングまで客席は埋まる。赤いベロアの椅子が、その生地を覗かせることなどない。そこには常に、人影がある。高尾だって、チケットを手に入れるには、関係者のコネクションを辿りに辿って、ようやくスタンディングセンター一列だったのだから。 自分はもしかしたら勘違いをしていたのかもしれない、と、ふと高尾は閃いて、脳裏にちらついた空想に背筋を震わせた。この劇場の稽古だから、練習が倍量なのではない。 共演するのが緑間真太郎だからこそ、周囲は倍量の練習を、余儀なくされているのではないかと。 舞台の世界は、決して、顔だけではない。 「多分緑間くん、昨日家に帰ってから、『緑間真太郎』としての生活なんてしてないですよ」 「……真ちゃんは、さっきお前が言ったようなこと、全部、考えてるってわけ? 脚本家だってそこまで考えてないようなことを?」 「ええ、何せ、彼、超ド級の、馬鹿なので」 君はさっき、僕が緑間くんのことを馬鹿だって言ってた時に嫉妬していたようですけれど、それは随分と見当違いだったと言わざるを得ませんね。 腐れ縁じゃなくったって、一回でも彼とおんなじ舞台に立てばきっとわかりますよ。彼がどれだけ大馬鹿なのか。 黒子の言葉は高尾の耳を通り抜けて落ちていく。冷たい夜の床に、黒子の言葉は誰に拾われることもなく散らばっていた。 「緑間くんの役は、映画監督になることを夢見て、才能が追いつかず家賃を滞納し、食費も無くバイト代は全てフィルムに回す馬鹿な男でしたっけね」 「……つくづく真ちゃんとは真逆の男だよなあ」 「そうですね。だから緑間くんは突き詰めるでしょう」 自分には理解できない役だからこそ、その役がどういった人物なのか、どこでうまれ、何を考え、何を食べ、何を感じ、何を信じて今の瞬間にたどり着いたのかを理解するまで、緑間真太郎は止まらない。愚直なまでに、それだけを追い求め続ける。妥協という言葉は、緑間真太郎には存在しない。ある程度、などという言葉で彼を止めることなど出来はしないのだ。 『一つの物を極めるためには、他の物を捨てねばならないだろう』 「もう一度聞きます。君ならどこに行きますか?」 「俺なら」 「君がもし、映画監督になることを夢見て、才能が追いつかず家賃を滞納し、食費も無くバイト代は全てフィルムに回す馬鹿な男だとしたら、どこに行って、何をします?」 高尾の顔色は黒子に話しかけた時と比べて段々と悪くなっている。そこに浮かんでいるのは、一種の恐怖だ。或いは、畏怖だ。舞台に全てを捧げる男の、凄惨なまでの一途さは、人がたどり着いていいものではない。 「君が考えるこの役と、緑間くんが考えるこの役がもし一致すれば、きっと君は緑間くんを見つけられますよ。」 「そんなの」 「まあ、焦らなくてもいいんじゃないですか。彼が三日と言ったからには三日でつかめると判断したんでしょう。三日後には会えますよ」 「三日間、役になりきって生活してんのかよ、あいつ、一人で」 「妥協ができないんです彼は。それに一人とも限りませんよ。もしも彼がこの役を『女好き』だと判断したのなら女性の一人や二人や三人四人、引っ掛けていてもおかしくないですし。三日間、ヒモとして面倒見てもらってるかもしれません」 「……は?」 黒子の発言は、高尾の強ばっていた表情を一瞬呆けさせ、それから引きつらせるのに十分だった。 何かを口に出そうとして、何を口にしても藪蛇にしかならないことが目に見えて、高尾は二の句が継げずにいる。右手はさまよった挙句に、彼の頭を抱えた。そうしてその様子を興味深そうに最後まで観察した黒子は、きっかり三十秒後、高尾から一切の言葉が無いことを確認して背を向けた。今度こそ、用事は無いとばかりに。自分の出番は終わったとばかりに。 「それじゃあ、僕はここで。高尾くんも慣れない練習で疲れたんじゃないですか? 公演が終わるまで体調管理はしっかりお願いしますね。大楽が終わって幕が完全に降りたあとでしたらいつでも熱出してブッ倒れていいので、それまではどうか健康に。心身ともにとは言いませんが、出来れば両方整うと良いですね。それでは」
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trpgnomimimi · 4 years
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【cocシナリオ】4.DA.05
人数:2〜3人(既存PCで遊べる)
シナリオの舞台:現代日本、推理系
推奨技能:目星、聞き耳、交渉系技能
準推奨技能:心理学、戦闘技能
時間:RPを楽しんで5時間ほど
美術館へ行くシナリオです。(詳しくは上の画像をご覧ください)
以下シナリオのネタバレがあります。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 読み:4.DA.05(ヨンディーエーゼロゴー)
「どんなシナリオ?」
探索者たちに高校生3人のうち「誰が犯人なのか」を突き止めてもらい、暴走した生徒を(物理で)止めてもらうシナリオです。調べていけば必ず犯人に行き着くのと、戦闘も難しくないのでシナリオの難易度は低いです。
▼タイトルの由来
4.DA.05とは、石英をシュツルンツ分類というもので表したときの名前です。シュツルンツ分類とは、ドイツの鉱物学者カール・フーゴ・シュツルンツが1941年に鉱物学表で著した、化学組成に基づく鉱物の分類法のこと。(Wikipediaより)
「シナリオ全体の流れ」
探索者たちが美術教師(描本)の依頼を受けて美術館へ行く。
部員と一緒に搬入作業をする。
12時半に鐘望(かねもち)高校の鵜財が刺される「殺人未遂事件」が起きる。
警察が探索者に事件の協力を申し出る。
一通り探索し、犯人である小瀬を突き止める。
小瀬と戦闘を「する/しない」でエンド分岐。
エンディング
「登場する神話生物」
「キーザ(知性を持つ結晶)」という旧支配者が出てきます。(マレモンp157.158)
「小瀬との戦闘時の注意点」
装甲を壊してから戦う
「水」と「塩」両方を小瀬にかけて、装甲を「0」にします。
この両方を使わなければ、小瀬の装甲が破壊されず、探索者の攻撃が入らないので注意してください。「水」と「塩」はミュージアムショップに売っているので、店員NPCからさりげなく購入するようにおすすめしてください。もちろん露骨におすすめしても良いです。私が回したときは、記念にみなさん買ってくれていました。買っていない場合、クライマックス前に買いに行かせるチャンスを作っても良いかと思います。
「シナリオ背景」
昨年10月、美術館に改装工事が行われ、玄関ホールに天窓が設置される。
昨年11月冬、展示物に混じって美術館で眠っていたキーザは、改装時に設置された天窓から差す太陽光で覚醒する。その頃、有村才一(ありむらさいいち)という男子高校生が美術館に訪れていた。彼は他校の鵜財という生徒に弱みを握られている。心労でまともに寝ていなかったためにふらついて、キーザの入った展示ケースにぶつかってしまう。有村の強い負の感情を察知したキーザは、触手を伸ばして彼に乗り移る(このとき一瞬発光している)。取り憑いたキーザは、11月から日差しが強くなる夏にかけて、有村の精神をゆっくり蝕んでいく。
初夏の6月にキーザによる影響力が強くなり、7月に侵食がピークに達する。取り付いたキーザは、有村の精神に「鵜財(うざい)を殺して楽になろう」と語りかけるが、有村は強く抵抗する。勝手に動く手を押さえつけて何度も切りつけた結果、大量の血を流して失血死する。有村は自殺することで周りに被害が出る事態を防いだ。自力で動くことができないキーザは有村の体内に残る。
連絡がつかなくなった有村を心配して、杉内と小瀬が有村の家を訪れる。中学の頃から仲の良かった杉内は、渡されていたスペアキーで鍵を開ける。荒れた部屋の中心で、血溜まりの中に倒れ込んだ有村を発見する。手首には何度も切りつけた痕があり、結晶化している部分もあった。
杉内は警察と救急に連絡を入れる。小瀬が有村の体をゆすったとき、有村の体から小瀬にキーザが乗り移る(乗り移ったときに発光している)。落ちていた有村の日記を読んだ杉内は、駆けつけた刑事に見せる。だが刑事はただの自殺だと判断して適当にあしらった。警察への信用を無くした杉内は、とっさに日記を現場から持ち去る。同時刻、小瀬はキーザを通して有村の負の感情を感じ取る。有村と鵜財の取引現場を目撃していた小瀬は、後輩を助けられなかった後悔の念でいっぱいだった。キーザによって負の感情は増幅し、「後輩を死に追いやった鵜財を殺し、有村の無念を晴らす」と今回の事件を起こす計画を立てる。探索者たちは8月にちょうどその現場に居合わせることになる。
「登場NPC」
三見高校(みつみ)(高校名は探索者に合わせて変更可)
描本 紙杏(かきもと しあん)
美術部教師。33才。
美術展当日に抜けられない用事ができたので、あろうことか探索者たちに美術部の付き添いを頼む。
(読まなくてもよいキャラ設定です)
芸術一家の長男。画家の妹がいる。人並み以上に画力もあり幼い頃から絵を描くことが好きだったが、画家として大成できるほどのセンスは持ち合わせていないのだと学生時代に悟る。画家にならずとも、自分と同じように悩む学生たちのサポートに回ることはできるという考えから美術部教師になる。
有村 才一(ありむら さいいち)
最初にキーザに乗り移られていた人。故人。見る人を惹きつけるような魅力のある作品を描いていた。家庭環境が悪く、一人暮らしをしていた。仕送りも最低限で画材を買うにも一苦労だったため、気の迷いで店の商品に手を出してしまい、その現場を鵜財に見られて弱みを握られる。キーザによって精神を病み、鵜財を殺してしまう前に自殺する。
小瀬 仁也(こせ ひとや)
美術部部長。3年生。背が小さい。今回の犯人。部員を家族のように想っている。鵜財と有村の取引現場を街中で目撃する。個人的な理由から問い詰めることはできず、部員の自殺を止められなかったことを激しく後悔する。その感情を察知したキーザが有村の遺体から乗り移る。
杉内 大城(すぎうち たいき)
2年生部員。背が高い。不器用。有村とは中学の頃からの仲で、一番の理解者。シナリオ中、鵜財を問いただそうと館内を探していたが見つけた時には刺されていた。今日のために作品に細工を施し、中に包丁を隠している。
織田 夏菜子(おだ かなこ)
副部長。3年生。穏やかな子。有村とは恋人同士だった。有村の絵に影響を受けているため、絵の雰囲気が似ている。事件が起きたときは庭園で有村を思い出して泣いている。
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鐘望高校(かねもち)
鵜財 八津緒(鵜財 やつお)
鐘望高校の美術部。2年生。有村の万引き現場を目撃して弱みを握る。格安で絵を買取り、有村の絵を自分の絵だと偽って周りの評価を得ていた。キーザに取り憑かれた小瀬に刺されて生死をさまよう。とっても嫌なやつ。
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旧支配者(個人的な解釈あり)
キーザ:知性を持つ結晶(マレモンp157.158)
このシナリオで扱うときの設定です。(個人的な解釈を含む)
太陽光が当たる場所でのみ活動する。
キーザの触手に触れられた部分は結晶に変えられてしまう。
取り憑いた人や傷つけた人の「負の感情」を増幅させる。
鉱物を媒介して、己の思考と影響力を送れる。
キーザに取り憑かれた小瀬は装甲を「15」持っています。そのため、本体にダメージを与えるには「装甲を壊してから」戦う必要があります。
「タイムスケジュール」
美術館でのNPC達の動きをタイムスケジュールで表わしたものです。上の画像が本当に起きていた出来事です。
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「導入」
一人代表して描本と会話をしてもらう。(探索者全員に同じ連絡が来ています)この時点で、有村の事件から一ヶ月経っています。
8月上旬の金曜、知り合いの美術教師である描本紙杏(かきもと しあん)から着信が入る。
描本
「よお久しぶり!元気にしてたか?
いきなりで悪いんだけど、頼みたいことがあってさ。来週金曜日に東京郊外にある○○美術館で学生美術展があるんだが、そこで展示する作品の搬入と付き添いを頼みたいんだ」
「金曜日の午前中に搬入。
午後から審査員による作品の講評がある。土曜日に一般公開だから、金曜日のうちに準備と作品の講評まで終わらせるってことだな。
9時前には美術館に着くように向かってほしい。あと、午後まで作業があるから昼飯を持参してきてくれ!
一応駅の隣にコンビニがあるけど、美術館からはちょっと遠いから持ってきた方が楽だぞ」
探索者同士が知り合いでなければ、お互いの特徴が描本から伝えられる。
…美術部について知識
この学校の美術部に自殺した生徒が居た。名前は有村才一(ありむら さいいち)。
たびたび精神的に不安定な書き込みがSNSに投稿されていたという。
  
描本にその件について聞けば、
「知ってたのか。ニュースにもなってたしそりゃそうか。一ヶ月前に亡くなったんだけど、色々思い詰めてたのかな。自殺だったよ。
今日付き添い行けないのも、有村くん関係で片付いてない用事もあってさ。当日は迷惑かけちゃうけど、よろしく頼む」
「美術館に到着」
▼駅に寄る場合
駅の隣にはコンビニがあり、周りは見渡す限り田んぼか畑しかない。そこか���徒歩で美術館へ到着すれば、20分ほどかかるだろう。
▼美術館に直接行く場合
車を止め、美術館前の広場へ向かう。朝と言っても真夏の8月。20分ほど歩いただけで既に汗がとまらない。じりじりと照りつける太陽を背に、探索者たちはアスファルトの上を歩いていく。美術館への門を通り石畳の道を進むと、美術館の広場に到着する。広場は美術展に参加する県内の高校生たちでいっぱいだ。
美術館に目星
…最近工事でもしたのだろうか。外壁の汚れなどもなく、とても綺麗であることがわかる。
あたりを見渡せば、正面入り口の前に目当ての高校の制服を着た美術部員達を見つける。探索者に気づいた三人の生徒が駆け寄ってくる。
小瀬
「もしかして、付き添いにきてくれた方々ですか?先生から話は聞いています。突然のことなのに引き受けてくださり、ありがとうございます!」
探索者たちにペコリと頭を下げる。物腰柔らかな話しやすい生徒で、黒いリュックを背負っている。
「僕は小瀬 仁也(こせ ひとや)です。3年生で、美術部の部長をしています。それでこちらが副部長で3年生の織田さんと、背の高い彼が2年生の杉内くんです」
織田は礼儀正しくぺこりとお辞儀をし、杉内は軽く会釈する。杉内は背が高く筋肉質だ。運動部に所属していそうな見た目をしており、白いエナメルバッグをかけている。織田は大人しい見た目の女子生徒で、小さめのショルダーバッグをかけている。
小瀬が探索者たちに説明をする。
小瀬
「今日は主に作品の搬入…展示物を運び入れて飾るまでをするのですが、中にはとても重たい彫刻とか、一人では持てないサイズの絵があるので、一緒に運ぶのを手伝っていただきたいんです」
探索者が了承してくれたところで目星
…小瀬の横で、杉内が遠くを睨みつけていることに気づく。目線の先を辿れば、富裕層が通うことで有名な鐘望(かねもち)高校の方を見ているようだ。どうかしたのか聞いても「別に。何でもない」と返され、何事もなかったかのように目線を外す。
その後、扉の奥に職員が現れ、正面入口の鍵を開ける。広場に集まった学生たちは職員の後に続いて吸い込まれるように館内へ入っていく。
職員が歩きながら説明をする。
職員
「大きな荷物は二階の休憩室へ置いてください。休憩室は広いので、みなさんでお使いいただけます。スマートフォンや財布などの貴重品は、一階にある鍵付きのロッカーへ入れるか、肌身離さず持っていてください」
「搬入」
荷物を置いた探索者たちは作品の搬入作業に入る。学生による美術展は2階で行われるそうだ。この美術館にはエレベーターがないため、階段を使って2階へ運んでいくという。
小瀬
「落としたり傷つけたりしないように、慎重にお願いします」
絵画か彫刻、探索者にどちらを持つか選んでもらう。
探索者が3名の場合は、絵画へ2名割り振ると良い。
【絵画を運ぶ】
大きな油絵。木枠が付いているためとても重い。丁寧に梱包されているため中の絵は見れないが、表の作品票に名前のみ書かれている。そこには「有村 才一(ありむら さいいち)」とあった。
疑問に思う探索者に気づいた小瀬が話しかけてくる。
小瀬
「有村くんは暇さえあれば絵を描いてた人でした。明るくて前向きな絵を描いていて、そのどれもが人を惹き付ける魅力のある作品でした。身近にすごい才能のある人がいたら描く気が起きなくなることもあるんですけど、彼の絵からは、僕も頑張らなくちゃ!って元気をもらえたんです」
「でも有村くんの最後の絵は…。見てもらった方が早いかもしれないです」
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【彫刻を運ぶ】
梱包材でよく見えないが、石膏でできた彫刻だとわかる。とても重いので、STR×3で判定を行う。
…成功
持ち上げたとき少しバランスを崩すが、しっかり支えることができた。前にいた杉内がじっとこちらを見ている。
声をかければ、
「いや、それ俺の作品なんで気になって。重いっすよね、すんません」
と探索者を気遣う。何事もなくすたすたと階段を登っていく。
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…失敗
指先が滑って階段の角に落としかけてしまう。が、間一髪で拾い上げることができた。探索者の慌てた声に気づいた杉内がすごい剣幕で振り返る。
杉内
「おいっ!!危ねえだろうが!!」
しかし、すぐにハッと我に帰ると
「俺の作品だからついカッとしちまった。…すんません、怪我とかないっすか」といって探索者を気遣う。)
杉内はバツが悪そうにすたすたと階段を登っていく。心理学を振ろうとしても、落としそうになった探索者達は動揺してできない。
「有村の絵」
絵画や彫刻が展示室へ次々に運び込まれ、所定の位置に飾られていく。絵画を運び込んだ探索者のもとに織田が近寄ってくる。(このとき、彫刻を運んできた探索者も合流する)
織田
「有村くんの作品飾るの手伝います。私はまだ見ていないから楽しみなんです」
梱包材を剥がしていく。織田の表情が曇る。
織田
「これが有村くんの絵…?」
絵画を確認すれば、それは真っ黒なキャンバスだった。執念深く塗り潰されていて、一体何を描いているのかわからない。見続けていると胸の奥がざわつくような、不安に駆られる絵だ。
0/1の正気度チェック
(有村の現場に行った小瀬と杉内はこの絵画を既に見ている)
「嫌な奴」
「なんだい?その絵は」
探索者の後ろから、突然声が掛かる。振り返れば、鐘望高校の制服を着ている男子生徒だった。彼は有村の絵をしげしげと眺めた後、小馬鹿にしたように口の端を歪めてこちらに喋りかけてくる。
鵜財 八津緒(うざい やつお)
「その作品、最後の作品にしてはずいぶんと暗いんだねえ!自分の才能の無さに絶望したのかなあ…。僕の真似しかできない、彼の無能さがよく表れてるよねえ。
(探索者の方をじろりと見て)見ない顔ですけど、あなた方は?
(返事を待って)…へえ、そうなんですねえ。こんなに大事な美術展に、顧問が不在だって!笑っちゃうね!部外者に全部丸投げってさ。
(織田を見て)もしかして君たち、先生に大切にされてないんじゃない?」
まあいいや。今日の最優秀賞は僕の絵で決まりだよ。誰が見ても、やっぱり僕の絵が一番だからね。優秀な先生方が平等に審査してくれるよ」
高笑いしながら持ち場へ帰っていく。
〜〜
織田
「あいつは鐘望高校の鵜財。相手にしないほうがいいです。有村くんに特に突っかかってきてた面倒くさい奴なの。あれだけ人間性に問題あるのに、作品の方は世界観も技術力もすごいんですよね…。お父さんが審査員だからって調子に乗ってるとしか思えないわ」
鵜財の作品を見ると、絵を描かない人が見ても上手いと思うだろう。人を引き付ける魅力があるようで、通りがかる人は皆絵を見上げて感嘆の声を漏らしている。
「作品の印象」
作品も定位置に置き、搬入が一段落する。少し時間ができ、4人の作品を見ることができる。絵について詳しく見るには、目星または芸術系技能を振る。
(有村・杉内・小瀬・織田)
▼有村の作品
黒く塗り潰されて何が描いてあるかわからない。
目星
…塗りが甘い部分を見つける。暗い絵の下にうっすらと別系統の色が見える。塗りつぶされた下に別の絵があるのではないかと思う。
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▼杉内の作品
手の石膏像。
目星
…よく見ると荒い作りだ。作り手の努力が見て取れる作品。手の形や大きさから、おそらく杉内自身の手をモデルに作られたのだろう。
「まだ勉強中なんす。オレ、絵が壊滅的に下手だったんで、先輩や有村に立体で作品つくってみたらどうかってアドバイスもらってから彫刻を学んでるんです。最近やっと楽しさがわかってきたっていうか」
心理学
…作品に自信がないのか、あまり見て欲しくないように感じる。
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▼小瀬の作品
人物と建物が描かれた油絵。
目星
…部長というだけあって絵の完成度が高い。デッサンは正確で狂いがなく、物体が細部まで描かれていることで絵に説得力が出ている。そして、絵画からどこか悲しい印象を受ける。
「もうすぐ卒業で、美術部のみんなとお別れだと思い始めたら寂しくなってしまって。それが作品にも現れちゃったんですかね」
心理学
…他にも理由があるのではないかと感じる。
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▼織田の作品
動物モチーフの可愛らしい油絵。
目星
…鵜財の絵とどこか似たものを感じる。
鵜財と似ていると言われれば、織田に
「そんな!!あいつと似てるなんて嫌です!」と返される。
鵜財を相当嫌っているようだ。
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作品を見終わると、お昼ご飯を食べに休憩室へ移動する。
「昼休憩」
時刻は12時。講評は13時半なのでまだ時間に余裕がある。みんながお弁当を広げ始めると、小瀬が立ち上がる。
小瀬
「お昼忘れちゃったからコンビニまで行ってくるね。何か欲しいものあったらお使いします。溶けそうなやつは無しだよ」
…車で送るよと探索者に言われた場合、
「無理して来ていただいたのに、そこまでお願いするのは申し訳ないです。コンビニまで歩いて片道15分くらいですし、走って行ってくるので大丈夫ですよ!」と断る。
※事前に買ってきた物しか出せないので、用意できていないお菓子以外のものを要求されたら「売り切れてた・忘れてた」と嘘をつく
小瀬は荷物を背負って休憩室を出て行く。(この後、有村のスマホを使って鵜財を呼び出す)
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続いて、織田と杉内も順番に休憩室から出ていく
織田が急に立ち上がり
「緊張をほぐすために外の空気吸ってきます…」とふらふらと出ていく。
さらに杉内が立ち上がり、
「腹痛いんでちょっとトイレ行ってきます」と出て行く。
3人とも荷物を持って出て行ってしまう。
探索者がついていこうとしても姿が見えなくなってる。
聞き耳(3人が休憩室を出た後)
…遠くの方で着信音が聞こえる。音のした方を見ると、鵜財がスマホを凝視している。恐ろしいものでも見るような引きつった表情だ。
鵜財は慌てて休憩室から出ていく。
(有村のスマホからメッセージが来ていた。鵜財を誘き出すために、有村のスマホから小瀬が送信している)
「うわさ話」
隣で他の部員がお弁当を食べながら何やら噂話しをしている。
「あれ見たかったのにまだ見つかってないんだね」
「ね、もう闇市場とかで売られちゃったりしてるのかな」
【他の部員から聞けること】
噂話をしている部員…2年生2人と話す。
・水晶について
…11月に盗難事件があった。普段は常設展示で玄関ホールに置かれていたらしい。犯人はまだ見つかっていない。
・有村について
…とても絵が上手で優しい先輩だった。
だが一部で、「鐘望高校の鵜財の絵を真似しているのではないか」という噂が立っていた。誰もそのことを口に出さなかったが、色使いや表現がとてもよく似ていたという。
・有村の自殺の原因について
…知らない。だけど11月あたりから元気がないように見えた。部活も休みがちになっていき、6月ごろ急に体調をくずしていた。それからは学校や部活に顔を出さず家で制作していたらしい。
話を聞き終えると出て行った3人がバタバタと休憩室に帰ってくるが、なぜかそれぞれ顔色が悪い。小瀬は部員に頼まれたお菓子を配っている。
そうしていると、突然展示室の方から大人の男性の叫び声が聞こえる。
「事件発生」
声のした方に駆けつけると、そこは展示会で使われていないはずの展示室6だ。入り口の周りには人だかりができていて、その奥には中年男性が尻餅をついている。全員の視線は部屋の中央に釘付けになっている。
中年男性
「や、八津緒…!!!」
展示室6の天井につけられた小さな窓から真昼の光が部屋全体に差し込んでいる。その光の下では、鵜財が無惨な姿で横たわっていた。胸部が赤く染まり、流れ出た血があたりの床を赤く染めている。凄惨な現場を見た探索者は
1/1d4+1 の正気度チェック
近づく
…微かに息をしていることがわかる。すぐに治療を受ければ助かるかもしれない。
探索者達は、警察が到着するまで現場を調べられる。
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【鵜財】
目星
…胸部に刺し傷がある。家庭で使うような包丁くらいの大きさの傷だ。しかし、刺されたにしては血の量が少ないと感じる。そう思うのと同時に不思議なことに気づく。流れ出た血液と傷口の肉が、煙がかった透明感のある六角柱状の結晶に変化していた。
明らかにおかしい現象に 0/1 の正気度チェック
【周辺】
目星
…凶器らしいものは見つけられない。制服のポケットから鵜財の端末を発見する。不用心なのかパスワードはかかっていない。開くと、死んだはずの有村からメッセージが届いている。
『展示室6に来い』
これより以前のメッセージはない。削除したような形跡が見られる。
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【中年の男性】
話を聞けば、この美術館の館長で鵜財の父親だという。
中年男性
「先生方とお昼を食べてから生徒達の作品を見てまわっていたんです。使われていない部屋も確認のために一応まわっていました。そうしたら息子がここで倒れていて…!」
「警察」
「みなさん!この美術館からは一歩も出ないでください!!」
どたどたと警察と救急が駆けつけ現場に入ってくる。鵜財は救急に運び出され、警察が現場を調べ始める。探索者たちは展示室6の前で事情を聞かれる。探索者のアリバイについては、休憩室にいた部員と話していたこともあり証明される。
目隠警部
「君たちは学生じゃないようだが、どうしてここに?関係者かい?」
(探索者達の事情を聞いた後)
すると、展示室にいた警察官や鑑識が一斉に飛び出してくる。目の前を走り去って行く彼らは、皆慌てていたりや不安そうな顔をしている者ばかりだった。
※現場を詳しく調べられないように、キーザに取り憑かれている小瀬が結晶に触った警察官たちの感情をコントロールして部屋から追い出している描写です。
目隠警部
「な、なんだ!?一体どうしたね君たち!」
遅れて展示室から出てきた警察官が目隠警部に事情を説明する。
警察官
「け、警部ーっ!!!部下も鑑識も、急にみんな居なくなってしまいました…!外に干した洗濯物が飛んでいっていないか心配だとか、不気味で怖いから帰るって言ってるやつもいて…!捜査に人手が足りません!!」
目隠
「何だと~~!?お前たちそれでも警察官か!!!」
突然警官が「ううっ!」と頭を抱えた後、
「私も…私もなんだか家の鍵をかけてきたか心配で気が気じゃないので、帰らせていただきます警部!!」
と、許可も得ず走り去っていく。
※遅れて、この警察官もキーザに遠隔で操られています
現場を調べていた警察官は一斉にいなくなってしまい、目隠だけが残されてしまった。
〜しばし沈黙〜
目隠警部が探索者をじっと見て、何かを感じ取ったのか一人で頷いている。彼はコホンと一つ咳払いをすると、探索者に告げる。
目隠警部
「どういうわけか、私以外の警察がみんないなくなってしまった。このままでは捜査するにも人手が足りん。
…私は昔から人を見る目だけはあるのだが、君たちからは困難に立ち向かっていくようなアツい眼差しを感じる。
ぜひとも、この事件の犯人を暴いてほしい。協力してくれるだろうか」
【目隠警部から聞けること】
☆鵜財について
「犯行時刻は12時から12時半の間。つい先ほど刺されたようだ。鋭い刃物が凶器だろう」
傷口の結晶について話すと、次のように返ってくる。
「不可解な現象だったのでこの情報は一部の関係者しか知らないが、自殺した有村くんの傷口にも、このような結晶ができていたんだよ」
☆有村の事件について
・有村死体の第一発見者は?
「前任からの引き継ぎがうまく行っておらず名前がすぐに出てこない。申し訳ないが、追って連絡する」
※第一発見者は小瀬と杉内です。
 序盤から犯人の目星がつかないように
 後から情報を出してください。
・ほんとに自殺?
「カッターナイフで手首を切ったことによる失血死。SNSには去年の11月頃から『不安でたまらない、どうしたらいいのかわからない』といった書き込みもあり、精神的に不安定だったようだ」
「現場はめちゃくちゃで、部屋の物が散乱していた。財布などの貴重品は残っており、盗まれた形跡がなかったことから、有村君自身が暴れたあとだと思われる。事件性が見られないことから、自殺だと判断された」
「それと、有村は軽い日焼けをしていた。窓辺に置いてあった物が日焼けしていたことから、長い間カーテンが開きっぱなしで生活していたと思われる」
※キーザの動力源は太陽光だというヒント
最後に付け加える
「役に立つかわからんが、鑑識が置いて行ったこいつも持っていくと良い」
…ルミノール判定試薬が入ったスプレーをもらう。
(血液が付着していればその箇所が暗闇で光るというもの。)
※後に出てくる杉内の包丁が、事件に使われた物でないと判断するためのもの。実際の凶器は小瀬から出たキーザの触手のため、シナリオ内で反応が出る物は無い
「聞き込み」
アリバイのとれていない3人が犯行時刻にどこにいたのか話していく。
小瀬
「コンビニまでお菓子を買いに行っていました。頼まれたものならすでに部員のみんなに渡しています。急いでいたのでレシートはありませんが…」
杉内
「この美術館ぼろいんで、1階の綺麗なトイレに行ってました。腹が痛かったんでかなり長いトイレになっちゃいましたけど」
織田
「午後の講評のことを考えたら緊張して、いてもたってもいられなかったので、外の空気を吸いに行っていました」
以下の6箇所を探索できる
庭園 / 休憩室 / 玄関ホール 
ミュージアムショップ / 展示室1 
展示室6の前(学生3人・目隠と話をする場所)
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探索者が行く場所を決めた後で
聞き耳
…窓の外でぽちゃんという音が聞こえた。
(小瀬がみんなの目を盗んで庭園の池に有村の携帯とロッカーの鍵を投げた音)
「庭園」
最初に集まった広場を出て左にまわると、そこには小さな庭園がある。綺麗に剪定された木々に囲まれた池には何匹もの鯉がスイスイ泳いでいる。休館日でも散歩に訪れる人もちらほら見える。
その中で気になる人影を発見する。そこには身を乗り出して池を見つめている子どもと、それを止めようと引っ張っている母親がいる。
母「危ないし汚いからやめなさい!」
子「だってあそこらへんになんかあるもん!」
(探索者が声をかける)
母「この子が池に入ろうとするんですよ」
子「さっき、キラキラしたなんかがあそこから落ちてきてポチャンってなったんだよ」
 「あそこの窓からだよ」
子どもが指を指した先を確認すれば、先ほど自分たちがいた展示室6の前だ。
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子供に物が落ちた先を教えてもらうと、横切っていく鯉たちの間に光る物が見える。しかし、池のふちから3mほど先にあるため、ここからだと腕を伸ばすだけでは届かない。
▼池にある物を自由な発想で取ってもらう。
(例)
池にそのまま入って行って取る
周辺に幸運をし、網を見つけて取る
館内のトイレからモップを持ってきて取る
芸術:投げ縄を振って取る
どうにかして取る
…光るものを2つ拾い上げる。
①濡れたスマートフォン
電源は入らない。(美術部のみんなに見てもらえば有村のものだとわかる)
②小さな鍵
「056」と書かれたプレートがついている。→「ロッカー」が探索可能になる
子「なにそれ、キラキラの玉かと思ったけど違うのかあ。いらね〜。お兄さん(お姉さん)たちにあげるよ」
▼親から聞ける情報
(織田のこと。亡くなった恋人である有村のことを思い出して泣いている)
「休憩室(荷物を調べる)」
休憩室の荷物を調べる。判定無しで気になるものを見つけられる。
白いエナメル、黒のリュックサック、ショルダーバッグ
▼白いエナメルバッグ
…定規サイズのL字に曲がった「金属製の薄い板」が見つかる。使用方法は不明
▼黒のリュックサック
…ノートが見つかる。内容は、講評で言われた作品の良いところ・改善点などが忘れないようにメモ書きされている。その他、美術部の活動記録から部員の悩み相談まで書かれている。部員を非常に大切に想っていることがわかる。
リュックサックにアイデア
…朝見たときよりもリュックの膨らみが小さい。荷物が少なくなったのではないかと思う。
▼ショルダーバッグ
…気になるものが2つ見つかる。
①塩アメが入っている。熱中症対策だろうか。
②有村と織田の写真。背景は観光地のようで、二人の距離は近く親しげに写っている。服装を見れば春先くらい
(今年の春に撮った写真。デートで撮ったもの)
「玄関ホール」
搬入のためにすぐ二階へ上がったので、詳しくは見ていない。受付には女性と、少し離れたところにカラの展示ケースがある。
▼玄関ホールを見渡す
…吹き抜けのさらに上にある天窓から午後の光が差している。天窓は最近取り付けたもののように綺麗だ。そこから差し込む太陽の光が、カラの展示ケースに当たっている。
▼カラの展示ケース
…上部の空いた、大きめの展示ケースだ。作品説明を読むと「スモーキークォーツ」という結晶が飾ってあったことがわかる。前代の館長が一般の方から寄贈されたものを気に入り、それからずっと展示していたようだ。
▼「スモーキークォーツ」について知識
…水晶の一種。色彩は茶色や黒色をしており、煙がかっている。また、パワーストーンとしても有名な物だ。それを踏まえてネットで検索すれば、詳しい情報が出そうだと思う。
調べる
…以下のような情報が得られる。
パワーストーンは数多くの人の元を訪れており、その過程で様々な気を浴びているので定期的な浄化が必要。浄化をすると、石の持つ力はより強力になる。
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スモーキークォーツの効果
・精神の安定
・恐怖や不安の解消
・マイナスエネルギーをポジティブエネルギーに変換 
スモーキークォーツの浄化方法
[ 効果的な方法 ]
・水をかける
・塩をかける
[ 劣化してしまう方法 ]
・太陽光をあてる
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※キーザの効果はパワーストーンとは真逆。そのため、キーザに効果的なのは水・塩。
▼受付の女性
女性は俯いたまま視線を机の下に向けている。近づいてみればスマートフォンでゲームをしているようだ。話しかけると手で端末を隠しつつ、ばつが悪そうに対応する。受付の内側には小さなモニターがあり、そこから防犯カメラの映像が流れている。
・犯行時刻、誰か外に出て行った?
「今日は搬入で一般の人は入れないから、注意深く見てなかったわ。防犯カメラを見ればわかるかもしれませんけど…」
探索者が警察の手伝いをしていると伝えれば、防犯カメラの映像を見せてくれる。
▼防犯カメラ
…正面入り口に設置された一台のみ動いている。犯行時間、織田だけが外に出ているのが確認できる。美術館にお金がないため、他の監視カメラはダミーだという。
【以下、職員から聞ける情報】
・盗まれた作品ってどんなやつ?
…色彩は茶色みがかった黒色で、縦横50cmくらいの大きさ。この大きさではバレずに持ち帰るのは難しそうだ。
・盗まれた時の状況は?
…盗まれたのは11月。特にあやしい人物は写っていなかった。だが、一瞬だけ防犯カメラの映像が強い光で見えなくなる瞬間があった。
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※キーザが有村に乗り移ったときの光。その際、自身の大きさを変えて小さくなっているので、周りからは水晶が忽然と消えたように見える。
 
・美術館について
「10月に美術館の改装工事をしたの。通常なら、作品の保護のために人工照明をよく使うんだけど、玄関ホールにも自然な光を取り入れようって話が出てね。そのとき玄関ホールの天井にも天窓をつけたのよ」
・なぜ天窓の下に水晶を置いたのか
「通常なら水晶に太陽光なんで浴びせたら良くないのだけど、移動中にうっかり太陽の光を当ててしまったときがあってね。そうしたらなんと結晶の輝きが増した気がしたのよ。太陽光で輝く姿がとても美しいからって、あえて天窓の下に置くことにしたの」
その結晶を見に訪れるお客さんが押し寄せるぐらいには好評だったわよ。盗難にあってからはそんなこともないけどね」
・職員に起こった話
「去年の冬に友達と海外に行く予定だったんだけど、私ってばドタキャンしちゃったのよね。飛行機が墜落するかもって急に不安になっちゃって。今は大丈夫なんだけど」
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※活性化したキーザの近くにずっといたため、影響を受けてマイナス思考になっていた。キーザが消えてからは元通り。
「ミュージアムショップ」
レジには暇そうにしている店員がいる。ずっと暇をしており窓の外を見ていたので、この店員から情報を引き出すことはできない。
バイト
「本当は休みなんですけど、今日は学生向けに開けてるんです。警察の人が出て行ったり騒がしかったですけど、上で何かあったんですか?
(探索者の話を聞いて)
それは大変そうですね、警察のお手伝いか…。まあでもせっかくなので、何かお土産に買っていくのはどうですか!?」
商品を見れば、美術作品をグッズに落とし込んだものや、芸術家と地域の特産品とコラボしたパッケージの商品などが売っている。
▼ミュージアムショップの商品
・美術館オリジナルウォーター(500ml)…150円
・絵はがき…110円
・海の塩…500円
・手鏡…500円
・びじゅつかんちゃんキーホルダー…750円
・美術館オリジナルトートバック…1500円
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※商品の解説
水・塩
…戦闘時に装甲を剥がすために両方必要です。NPCからぜひおすすめしてください。
手鏡
…太陽光をこれで当てたりすると、小瀬による攻撃のダメージが倍になってしまう。買わなくて良いものです。
びじゅつかんちゃんキーホルダー
…白い長方形のぬいぐるみに、素朴な笑顔がついたもの。あまり売れない。
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「ロッカー」
細長いスペースにあるロッカー。突き当たりの小さな窓から光が差している。
詳しく調べるには、「池で拾った鍵」が必要となる。
056の扉を開けると、ロッカーに押し込まれた黒い手提げ袋がある。引っ張り出せばとても軽い。中身を確認すると、入っていたのは大量のお菓子だった。スナック菓子やガム、飴、おつまみまで様々。
お菓子の山に目星
…お菓子の山の中にくしゃくしゃになったレシートを見つける。広げれば驚くほどに長いレシートが出てくる。購入した日付は一ヶ月前で、散らばっているお菓子の品名がズラリと並んでいる。
お菓子にアイデア
…チョコ系の溶けそうなものはない。
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※小瀬がアリバイ作りのために用意したお菓子。コンビニに行かなくてもいいように大量に買っている。手提げ袋の中には大量のお菓子の他に、キーザ本体の欠片も入っている。
お菓子が見つかった時を考えて、あらかじめ手提げ袋に忍ばせているもの。
〜水晶の欠片イベント〜 
探索を終え、次の探索箇所が決まり次第イベントを起こしてください。
調べ終えたところで、背後でコロンという音がする。振り返ってみると、小さな結晶の欠片が落ちていた。突き当たりの小窓から午後の光が差し込んで、透き通った水晶はうっすらと輝いている。
よく見る
外の光で照らされているだけでなく、結晶の内側からも光っていることに気づく。結晶自ら光るなんて聞いたことがない。
そう思った瞬間、欠片からキチキチと石同士が擦れる音がする。探索者が危険を感じた瞬間、細長い霜のような形の鋭い触手が
勢い良く探索者に向かって伸びてきた。
DEX×5 または 回避
▼成功
ロッカーの入り口まで逃げると、触手の動きが途端に鈍くなる。雲で日差しが遮られたのだろうか、結晶のある場所が日陰になっている。シュルシュルと触手を引っ込めるとそのまま沈黙する。
これを見た探索者は、不可解な現象に1/1d5 の正気度チェック
次の探索場所へ
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▼失敗
逃げ切れず、触手からの攻撃を受ける。
①触手が1d7の場所に巻きつく
【目、胸、右腕、左腕、腹、右足、左足】
触手に傷つけられた箇所が凍りつくように煙がかった黒い鉱物組織へと変わっていく。
これを見た探索者は不可解な現象に1/1d5 の正気度チェック
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※一時的狂気に陥った場合は以下の狂気に陥る。
「極度のマイナス思考になる or 小さい悩みや不安に思っている気持ちが増幅する」
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ロッカーの入り口まで逃げると、触手の動きが途端に鈍くなる。
雲で日差しが遮られたのだろうか、結晶のある場所が日陰になっている。シュルシュルと触手を引っ込めるとそのまま沈黙してしまう。
▼結晶ができた箇所に塩/水をかけてみる
内側の光が弱まっていく。しかし結晶自体は消えることはない。
※効いてはいるが、本体である小瀬を倒さない限り探索者の結晶は消えない
「展示室1」
探索者たちが手伝った三見高校の作品が展示してある部屋。搬入の時は梱包材に包まれていたのと急いで設置していたので、作品を触ってみたり注意深く見ることはしなかった。
作品全体に目星
…杉内の彫刻が気になる。ぐるりと回してみれば、石膏像の底に細長いすき間がある。
専用の何かを差し込んで引っ掛ければ開きそうだ。
金属の板を使う
…石膏像の中は空洞になっており、そこに新聞紙で包まれた何かが入っている。
取り出すと包丁が入っている。
包丁にスプレーを吹きかける
…ルミノール判定試薬が入ったスプレーを吹きかけ、暗所で見てみるが特に反応はない。(犯行に使われたものではないとわかる)
「展示室6(殺害未遂現場)」
展示室の前には警察と学生3名がいる。各々と話ができる。
※犯人である小瀬が、杉内や織田よりも早く聞きこみされた場合は少し会話をしたあと、核心に迫られるより前に「少し休ませてください」など言い訳をして、他のNPCに聞き込みするよう促してください。
▼織田
・鵜財と絵が似ている気がするけど…
「あいつとですか!?私はあんな人の絵を真似したりしません!」
・誰かの絵を参考にしているのか?
「尊敬していたのは有村くんですね。彼には基礎的なことから、どうしたら良い絵になるのかなどたくさん教えてもらいました。でも、彼の真似をするのではなくて自分なりに落とし込んで描いています」
・写真を見たけど、有村とどういう関係だったのか?
…驚いた表情を見せると、照れた表情で話し出す。
「有村くんとは恋人でした。みんなに知られると恥ずかしいので、このことは誰にも話していません。でも突然有村くんが死んじゃって、一ヶ月経っても気持ちの整理がつかなくてどうしようもなかったから、犯行時刻は庭園に行って誰にも見られないように木の下で泣いていました」
「その写真は、今年の春に遊んだ時に撮ったものです。少しでも元気になるかなと思って…。何に悩んでいるのか聞いたのですが、教えてくれることはありませんでした」
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▼杉内
・有村について
「中学校からの付き合いだった。俺がやりたいことなくて部活迷ってたら、あいつが一緒に美術部でもどうだって誘ってくれたんだよ。俺自身絵は下手くそだったけど、先輩たちにアドバイスもらって彫刻に挑戦したりできた。有村のおかげで高校生活楽しく過ごせてたんだ」
ナイフの話を杉内に振られたら以下のイベントが起きる
〜杉内のナイフイベント〜
「俺は鵜財をやってない!…だけど」
目隠警部の様子を伺っている。どうやら探索者たちだけに話したいらしい。
「警察の捜査は適当だから、あの警部には話したくねえんだ。…あんたたちは信用できるのか?」
話していいものか警戒しているようだ。
交渉系技能に成功
…杉内の鋭い視線が和らぐ。
「包丁は俺が用意した。だけど本当に殺してなんかいない。鵜財を脅して、話を聞こうとしたんだ。でも見つけたときには誰かにやられてた。
それと…あいつの傷口にもよくわかんねえ結晶ってのがあったんだろ?有村のと一緒だ」
「俺、有村を見つけた第一発見者なんだよ。連絡が取れなくて心配したから、小瀬先輩と見に行ったんだ。そしたらあいつ手首切って死んでて…」
「あんたたちに見せたいものがある。有村の部屋で見つけた日記だ。あんたたちなら、ここに書かれている話を信じてくれるかもしれない」
そう言って、後ろのポケットから小さめの手帳を取り出す。
有村の日記を公開する
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有村の日記
「昨年9月
また賞を逃した。
今回は自信があっただけに残念だ。でも賞をもらえない理由はわかっている。全て自分のせいだ。思いつめないでおこう。
10月
鵜財へ作品を渡しに行った。代わりに金を貰う。これで何度目だろうか。
金が無く、気の迷いで画材を万引きしたところを鵜財に見つかってからこの取引を持ちかけられた。
弱みを握られているから仕方がないとは言え、金のために絵を鵜財に売っていることは杉内にも部活のみんなにも絶対知られたくない。
この生活を続けて良いことはないなんて自分でもわかっている。でもこれ以外に手っ取り早く稼ぐ方法なんてない。
もし置かれた環境が違ったなら、まともに生きていけたんだろうか。
渡してしまった作品も、 いつか自分の名前で出してみたい。
大学の学費を稼ぐまで我慢だ。
 
11月
気分転換に美術館へ行ってきた。
展示物が飾ってあるケースにぶつかってしまったのでヒヤリとした。帰る頃に美術館が騒がしくなっていたけど、何かあったんだろうか。
ひどい夢を見た。鵜財を殺す夢だ。
交わした会話や刺した感触がとてもリアルな夢だった。先輩たちや杉内に話すわけにもいかないので、黙っておく。
(日付が空いて)
6月 
あんなに好きだった絵が思い通りに描けない。美術展が来月に差し迫っているというのに。先月から悪夢を見る回数が増えつつある。全て鵜財を殺す夢だ。頭がおかしくなる。悩みの元凶を殺せと命令されているみたいだ。殺して解決だなんて冗談じゃない。 
最近は窓からの強い日差しで目が覚める。
そういえば、いつカーテンを開けたんだろう。覚えがない。
7月(自殺する前日)
あいつをころしてしまう
そうなるまえにぼくがぼくをころさないと」
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・なぜ警察に見せなかったのか?
「俺はこの日記を読んで、有村は自殺なんかじゃない。
何か別の物が有村の中にいたんじゃないかって思った。だからすぐに刑事にこれを読ませたんだ。
でもその刑事、最低な奴でさ…
『芸術家ってのはみんなどっかおかしいもんだろ。こいつも精神的におかしくなって壊れちまったんだよ』って言って全く相手にしてくれなかった。だから日記はとっさに隠して持ち帰った。
有村は中学の頃に両親を亡くして遠い親戚に引き取られたけど、そいつらは有村の養育費目当てだった。ずっとほったらかしにされて、今まで一人暮らしをしてたんだ。
有村は気楽でいいって言ってたけど、鵜財と取引して金を作ってたなんて知らなかった。
昔から一緒にいたのに、俺は気づいてやれなかったんだ」
杉内は最後に付け加える
「小瀬先輩が有村の体を揺すったときに、一瞬部屋が光った気がした。ちゃんと見ていたわけじゃないから見間違いかもしれないけど」
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▼小瀬
・ノートについて聞く
「部員のみんなが楽しく活動できるように配慮するのも部長の役目なので、ああやってまとめているんです。有村くんが苦しんでいたことには気づいていたのですが、深く問い詰めるのは逆効果だと思って聞き出せませんでした。でも今は、もっと話を聞いておけば良かったと本当に後悔しています」
心理学
…本当のことを言っていると思う。
・リュックの中に大量のお菓子を入れていたんじゃないか?
「そんなお菓子僕は知らないです。リュックの中には、搬入で必要な道具などを入れていたんです」
心理学
…嘘をついているように思う。
・正面入り口の防犯カメラに映っていなかったよ
「僕はこの通り背��低いので、大きな人に隠れてしまって見えなかっただけだと思います」
心理学
…嘘をついているように思う。
反論に苦しくなってきたら、「犯人の特定」へと移ってください。
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「犯人の特定」
探索者が犯人を特定した後、1つだけ行動ができます。
小瀬に塩/水をかける
突然のことに小瀬は呆然として水・塩を浴びると、胸を押さえて苦しみだす。
しかし、一瞬の隙をついて探索者達の間を抜けて廊下のさらに奥にある、空き部屋になっている「展示室5」へと駆け込んで行く。
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※戦闘前に装甲を壊せるチャンスになります。
ここで「水または塩をかける」と、装甲値が半分削れるので残り「7」。
それ以外の行動をとった場合、装甲値は「15」のまま進めてください。
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「展示室5」
探索者達が小瀬を追いかけると、その展示室には大きな窓がありそこからオレンジ色の夕日が差し込んでいる。逆光で照らされた小瀬が振り返れば、肩口から何かが勢いよく伸びる。
それは霜のような触手で壁や床を傷つけると、黒い結晶が凍りつくように広がって部屋の入り口を塞いでしまった。探索者達の後を追いかけてきた警察も足止めされてしまい、部屋には小瀬と探索者達だけが残されている。
小瀬がぽつりと話し始める。
小瀬
「去年の冬、学校の帰り道に有村くんが鵜財に絵を渡してるのを見たんだ。
その後、鵜財が財布からお金を抜き取って、有村くんに渡しているのも見た。
その現場を見て、鵜財の絵は有村くんが描いたものだって確信したんだ。
だって鵜財と有村くんの絵は、違うものを描いていても絵の共通点があまりにも多かったから。
でも僕は有村くんを問い詰められなかった。
もし二人のやり取りを先生に伝えてしまったら、美術館館長が父親の鵜財によって、僕の絵が正当に評価されなくなってしまう���思ったから。
 
だけど有村くんの死体を目の前にして、後悔しか残らなかった。
あのとき相談に乗っていれば、僕が保身に走らなければ、有村くんは死ななかったかもしれない。
有村くんに触れて気づいたんだ。
全部鵜財くんが悪い、彼を殺せば有村くんも報われる。僕にできることは鵜財くんを殺すこと、それしかないってわかったんだ」
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暑い夏の日だというのに、小瀬の吐く息が次第に白くなる。小瀬が呻き体を抱え込むと、露出した肌から凍りつくようにピキピキと黒色の透明な結晶が咲き始める。
知性を持つ結晶体に取り憑かれた人を見た探索者は1d2/1d8 の正気度チェック
小瀬
「ここで見逃してくれたら探索者に危害は加えません」
- 見逃す -
「Bのエンディング」へ移ってください
- 見逃さない -
戦闘に入る。
戦闘終了条件は小瀬を戦闘不能にすること。
【塩か水をかけていた場合の描写】
小瀬の肌を見れば、塩/水をかけられた部分が爛れている。ぜえぜえと息を吐き苦しみながら探索者たちを睨みつける。
装甲値「7」からスタート。
※水を買っていない場合、展示室5に目星をして、スプリンクラーを見つけても良いです。投擲で壊したり、煙を出してスプリンクラーを反応させ、部屋に雨を降らせるなどしても大丈夫です。  
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小瀬 人也(こせ ひとや)
DEX:11
CON:11
SIZ:10
HP:11
攻撃方法(2種類)
○触手    45% 1d3のダメージ
…霜のような触手が伸びて切り裂いてくる。
 切られた箇所は結晶化する。
○押しつぶし 30% 1d4のダメージ
…固い触手を振り上げて殴りつけてくる。
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▼小瀬に勝つ
口から黒みがかった透明の水晶を吐き出して倒れる。探索者の結晶化した部分から輝きが失せ、ゆっくりと煙になって霧散していく。
結晶のあった部分はしもやけのように赤い痕が残っていた。
入り口を塞いでいた結晶も煙になって消滅すれば、向こう側にいた警察と救急隊員が駆けつけてくる。そのまま探索者達は病院へと運ばれていく。
…Aのエンディングへ
▼小瀬に負ける(探索者が戦闘不能になる・見逃す)
小瀬は探索者を一瞥した後、展示室の窓を割って飛び降りた。探索者たちが窓の下を確認しても、そこに小瀬の姿は無かった。
入り口の結晶が急にガラガラと崩れ、向こう側にいた警察と救急隊員が押し寄せてくる。
そのまま探索者達は病院へと運ばれていく。
…Bのエンディングへ
「Aのエンディング」
病院に運ばれた探索者たちは治療を受ける。
体にできた結晶は全て消え失せ、しもやけのような赤い痕が残っていた。医者からは、その傷も数日すれば綺麗に消えるだろうと診断される。
後日、探索者達は事の経緯を説明しに警察署へ訪れていた。警察からも以下のような情報が伝えられる。警察の中に科学や常識では説明できない奇妙な事件を取り扱う組織があるらしく、そこが小瀬の精神に干渉した謎の結晶について調べているらしい。
小瀬の犯行については、情状酌量の余地があると見て捜査が進められるそうだ。
長い拘束から解放され、警察署の正面入り口を出たとき、探索者のうちの一人に電話がかかってくる。
電話口から聞こえる声は描本だった。
描本
「変な事件に巻き込んじまって、本当に申し訳なかった。体調の方は大丈夫か!?」
(会話した後)
「そうだったのか…。ああ、今日電話した理由は他にもあって、お前らに直接お礼したいって生徒がいてさ」
描本が言い終わるのと同時に、電話口からガタガタとスマホを持ち替える音が聞こえ、声の主が変わる。
杉内
「探索者さん達大丈夫っすか?
あの事件ではお世話になりました。
…あの後、鵜財の野郎が一命を取り留めたんで、小瀬先輩も殺人犯にならずに済みました。先輩はしばらくの間、気持ちを落ち着ける時間が必要らしくて、病院で治療を受けています」
「それともう一つ、探索者さん達に伝えたいことがあって。あの後、油絵の修復家に有村の絵を直してもらったんです。
そうしたら、あの暗い絵の下層から別の絵が出てきたんだ。その絵には美術部のみんなが…、小瀬先輩と織田先輩と俺が笑ってる絵が描かれててさ。
それ見て俺、有村のやつは最後に描きたいもん描けたのかなって思ったんだ。黒い絵の具も、絵を傷をつけないようにあえて塗りつぶしたのかなって。
あんたたちが来なかったら、あの絵の存在にも気づかなかったし、小瀬先輩もよくわかんねえヤツに取り憑かれたままだったかもしれない。付き添いに来てくれたのが探索者さん達でよかった。
本当にありがとう」
杉内は描本に電話を代わる。
描本からも以下のような話を聞かされる。
鵜財は有村の弱みにつけこんで格安で彼の作品を買い上げていた事、父親に頼んで、美術展の審査で自分の作品が優位になるように不正を行っていたことを白状した。今までの受賞経歴も見直されるらしい。杉内と織田は有村が残した絵と一緒に部長の帰りをゆっくり待つそうだ。
彼らは探索者の懸命な捜査によって救われたのだ。
[san値回復]
1d10
[結晶ができた箇所]
数日できれいに治る。
「Bのエンディング」
探索者は病院で数週間の治療を受けることになる。事情を聞いた描本が二人の見舞いに来て、「事件に巻き込んでしまい、本当に申し訳なかった」と詫びた後、その後について語る。
運び込まれた鵜財は一命は取り留めたものの、意識が戻らないということ。
そして、小瀬の行方は誰もわからないという。医師からは、結晶に変わった箇所の治療法がわからないと言われた。取り除こうにも結晶は恐ろしく硬く、傷一つつけられないという。
探索者達はあの日以来、突然不安に苛(さいな)まれる瞬間がある。しばらくすると落ち着くが、いつか自分もあの時の小瀬のように
行き過ぎた行動をとってしまうかもしれない。それでも、この結晶と上手く折り合いをつけて生きていくしかないのだ。
結晶はあなた達の体から消えることはなく、今も内側で不気味な光を放っている。
[san値回復]
1d5
[後遺症]
消えない結晶体
…時々恐怖や不安に苛まれ、感情が不安定になることがある。キーザに触れられたことによるものなので、別シナリオでキーザを倒すか眠らせるかすればどうにかできるかもしれません。
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▼あとがき
この度はシナリオをお手に取っていただきありがとうございます。初めて作ったシナリオのため、色々抜けているところがあるかと思いますが、説明されていない細かい部分はKPさんの考えで進めていただいて大丈夫です。改変はしていただいて構いません。大きく改変する場合はPLさん達に改変していることをお伝えください。
既存で遊べるシナリオになりますので、この探索者さん達が探偵っぽいことやってるの見たいな〜という時にでも遊んでいただけたらとても嬉しいです。
最後まで目を通していただき、ありがとうございました!
シナリオ製作者:みみみ(@trpgnomimimi)
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『ウエスト・サイド・ストーリー』シーズン1、終演しました。
2018年秋に 「これからは手がけた作品についてのブログを 真面目に書こう」と決めたので、 第2弾として、書き残しておこうと思う。 もちろん、演出作品ではなく演出補としての参加では あるので、その立場からの文章を。 IHI ステージアラウンド東京における 『ウエスト・サイド・ストーリー』、シーズン1。 (以下の文章はネタバレとは少し違うと思うが、 読み手が観劇済みであるという前提で書いたので、 真っさらな状態で観たいという人の楽しみを殺ぐ 恐れはある。 「『ウエスト・サイド・ストーリー』という作品を これから、そして真っさらで観たい」という方は、 良かったらどうぞ観劇後にご覧ください) わたしにはいわばシーズン0的な存在がある。 2018年1月に東京で、同年7月から8月に大阪で、 公演された宝塚歌劇団宙組の『WSS』に、 翻訳家として関わっていたのだ。 (訳詞は演出補も兼ねた稲葉太地さんが手がけられた) わたしの中で『ウエスト・サイド・ストーリー』は 【原点にして、頂点】だ。 誰もが知り、 また誰もが一度でも関われれば誇りに思う、名作。 この作品を境にミュージカルいや演劇そのものが 不可逆の変化を遂げた、まさに【原点】であり、 初演から62年の時を経てもあらゆる意味で 未だに超えるもののない、【頂点】でもある。 しかしそれはとても恐ろしいことだ。 そんな作品を今の日本の観客に届けるという 責任の大きさ重さ以上に、 「知ってるつもり」という恐ろしさがある。 「別プロダクションで(何回も)観た」 「原作の映画を見た」 (注:映画は舞台を映画化したものであって  【原作】ではないのだが、映画があまりに   有名すぎるため、しばしば目にする誤解だ) 「現代版『ロミジュリ』でしょう」 「曲は知ってるし大好き」 初演から62年間【名作】として君臨してきた せいで、演劇として取り組んだり見つめたりする ためには邪魔なる余計なブヨブヨが、たくさん くっついている。 作品にではない。我々の目に、だ。 ので、まずは目を開く必要があった。 いわば【曇りなき眼】を。 具体的には、ディスカッションの時間を多く取った。 これはアメリカ側演出補マストロの意向と重なった こともあり、集団で思考する時間を、通常より かなり多めに取れたのではないかと思う。 ディスカッ��ョンとはいえ、まずはこちらから、 1957年のアメリカNY市アッパーウェストサイド という、彼らが生きる場所と時代、その背景に 関する情報を、渡せるだけ渡した。 『WSS』は今でこそ【不朽の名作】だが、発表当時は、 劇場の数ブロック先で今まさに起きている社会問題を 鮮烈に切り取った、衝撃作かつ問題作だったのだ。 だから、情報といっても、本やインターネットで 調べれば出てくるような知識ではなく、 人物たちが生きていて感じただろう感覚に近そうな、 肌で実感できそうなことや、 大きな意味での時代の空気みたいなものを、 なるべくたくさん。とにかくたくさん。 わたしは偶然、作品世界を訪れるのが3回めだったし 別の演目だが時も場所も近い作品に関わった経験も あったため、それらの蓄積が大いに役立った。 それに加え、実際に普段ニューヨークで暮らす アメリカ側演出補 マストロ(イタリア系) 振付リステージング フリオ(プエルト・リコ生まれ) からの(時代は違えど)本物の実感のこもった言葉が もらえたことも、非常に有益だった。 トニーがポーランド系という台詞が印象的なので ジェッツはポーランド系と紹介されてしまうことが多いが 実際にはジェッツはイタリア系やアイルランド系も 入り混じっていると台詞にある。 だから我々はジェッツ側、シャークス側それぞれの、 いわば生の言葉が(時代は違えど)もらえたわけだ。 しかし、それだけでは足りないとわたしには思われた。 『WSS』で描かれる人種間の偏見や断絶は、 多くの日本人が無自覚に「他人事」と感じている問題だ。 差別をされる側としての当事者意識も、 差別をする側としての当事者意識も、持ったことがない ‥‥という日本人は多いのではないかと思う。 そういった土壌がないところに幾ら実感の種を ざくざく植えたところで、育つものは限られる。 そこで、日本生まれ日本育ち日本国籍でありながら 香港チャイニーズ移民2世でもあることで いわば日本における被差別当事者であるわたし自身の 体験や眼差し、実感も、積極的にカンパニーにシェア していった。 しかし、わたしは常々、 差別される側の意識よりも、 差別する側の意識を持つことの方が この作品にとってずっと大切だ、と考えてきた。 そしてそれは、日本で暮らす人にとって 差別される側の意識を持つことより 更に機会が少ない。 しかも、自分の中のそんな部分と向き合うことは、 人間であれば誰にとっても難しいことだ。 だから、その問題に対する免疫がない日本人でも 身近に、肌で実感できそうな手がかりを、少しずつ 見つけては、取り上げて、育ててゆくよう 心がけたつもりだ。 稽古を始めてすぐの時期には特に意識して このディスカッションの時間を多めに取ったが、 それにより、結果的に「対話しながら進める」という スタイルを、稽古の中に確立できたように思う。 そのおかげだろうか。 わたしは25年の間、 「外国人作家の戯曲や外国人演出家の演出を 日本人のカンパニーが表現する」という構図の 演劇作品に数え切れないほどたくさん、 それも橋渡しという立場で携わってきたが、 もしかしたらこの『WSS』シーズン1で初めて、 翻訳や通訳が介在したのでは追いつかないレベルにまで 表現を、そのためのコミュニケーションを、 探求することができたのではないか‥‥と、 そんな気がしている。 それはつまり、 外国の文化や価値観を基に与えられた作品や演出を 日本人側が咀嚼する、その咀嚼の仕方や、 そのためのコミュニケーションが、 今までのわたしの体験にないほどの頻度や深度や精度に 到達できた‥‥ということなのかもしれない。 一言で言うならば 「自分のものにする」といったようなことだ。 そうやってこの大きすぎる作品を カンパニーが自分たちのものにし、 世に届けるにあたり、 目指したことが、わたし個人として幾つかあった。 わたしはもちろん演出家ではないのだが、 送り手側に立つ以上、 そして演出家をやっている人間として 演劇作品に関わる以上、 どうしてもクリアしたいことはある。 1つめは、人物たちの筋を通すこと。 『ウエスト・サイド・ストーリー』は 【愚かな不良の若気の至り】という断定も できてしまう物語だ。 『WSS』の登場人物たちは1人として 社会的に恵まれた立場にない。 明るい未来を思い描くために必要なものを、 社会や大人世代によって、与えられていない。 ところが、作品を届ける我々スタッフキャストの 多くは、演劇という夢を叶えてそこにいる。 また、観劇する観客の多くも、1万5000円を 観劇という体験のために支払えるからそこにいる。 つまり、劇場に集まる我々はいわば、 人物たちの誰より、恵まれているのだ。 彼らより多くの選択肢を持ち、 彼らよりずっと広い世界を知っているのだ。 よほど意識しない限り、人間は 他者の苦しみを感じることができない。 ましてや自分より恵まれず余裕もない人間の 苦しみなど、なかなか理解できないどころか、 知らず知らずのうちに上からジャッジすること すらあるのではないだろうか。 しかしこの戯曲では、 若者たちの、一見若さの暴走とも取れる言動、 その一つ一つに、非常に丁寧に、筋が通されている。 選択肢が極めて少ない社会の中で、 「数の論理」「やられたらやり返す」という、 いつの時代でも国家すら動かす明快で単純な 理屈を基にして、この戯曲には全てにおいて 細かく詳細に、因果の鎖が描き込まれている。 人物たちはその因果の鎖の上を、 信じ、大切にしているものを 信じ、大切にすることによって、突き進んでゆく。 しかし、人物それぞれの筋や それが互いに分かち難く絡み合うように 編み上げられた因果の鎖は、 人物たちの背景という裏付けを知ることなくしては 読み取れないようになっている。 また、(これはもう作者たちが意図的に仕組んだ としかわたしには考えられないのだが) この戯曲ではきっちり編み上げられた因果の鎖、 それを繋ぐリンクのうち、最も重要なものが幾つか、 スコッと、抜けているのである! 我々は代数の問題を解くように、抜け落とされた 幾つかのリンクを割り出さなければ、 物語の真髄というか、ラストシーンまでも、 到達できないようになっている。 そんな戯曲なので、人物たちを上からジャッジ するような眼差しを持っているうちは、 物語のスタートラインにすら立つことができない。 だいいち観客の方だって、1万5000円も出して 人物たちを「愚かな若者たちだ」と一蹴にするより、 もっと奥へと分け進みたいものだろうと思う。 『WSS』を世に届ける上で、個人的に どうしてもクリアしたかったことの2つめは、 舞台上に生きる人物一人一人が常に、 本物の人間の感情を、とんでもない色濃さと とんでもない熱で、一瞬一瞬生きている‥‥ ということだった。 ‥‥まぁそれは、敢えて言語化するまでもなく、 全ての演劇が目指すことではあるかもしれない。 しかしこの劇場では、通常と少々、事情が違う。 何しろ機構が大掛かり。 何しろ美術が超リアル。 少し補足説明をすると、 IHI ステージアラウンド東京では、 客席の方が動いてくれるため、 まず舞台が8面も存在する。 そのため、転換をする必要がない。 動かす必要がないから、 舞台美術というよりは建築物と呼ぶべき 重厚なセットが建て込めるし、 本当に人が暮らしているかのように 小道具を細かく飾り込めるのだ。 そんな超リアルな美術が、 客席が回転するという大掛かりな機構が、 芝居を助けてくれると思ったら大間違いだ。 少しでも緩い芝居ぬるい芝居をしたら、その瞬間、 機構に、セットに、 役者は飲まれてしまう。 「アトラクションみたい」と言われる 機構の、美術の、インパクトを上回るほどに 必死に生きていないと、負けてしまうのだ。 本当に心が動いたわけでもないのに 唇が触れ合ったというだけで、 それをキスと呼び恋と呼ぶような、 そんなミュージカルや演劇や映画やドラマは 世界中にいくらでもある。 しかしそんな芝居は、この劇場では通用しない。 (本当は、どこでも通用しないのだが) これについては、 対話を重ねる稽古を通して 人物たちそれぞれの【筋】を通せたことで 俳優たちはその分、人物の言動を信じて 生きることができたのではないかと感じている。 自分の言動を信じて生きている人間には、 信じて生きている人間にしかない熱がある、と わたしは思う。 とはいえこの物語にはもちろん 理屈を超えたものも描かれているから、 【筋】=理屈だけでは太刀打ちできない。 しかし、理屈や筋といった理知の部分を 余すことなく追求し抜いた先でしか、 理屈を超えたり、打ち壊すような激情には 到達できないのではないかとわたしは考える。 人物たちが一瞬一瞬を精一杯命いっぱいで生き、 それを俳優たちが持っているもの全てを賭けて、 生きる。 わたしが演出補として観たいと願い 取り組んだのは そんな『ウエスト・サイド・ストーリー』だ。 そんな『ウエスト・サイド・ストーリー』に なっていたかの判断は、 観客ひとりひとりにお任せするとして。 そんな探求を共に歩んだシーズン1の 出演者たち一人一人についても書いておこう。 (これを目にする出演者たちへ。 一人一人への言葉、ここには全然 書ききれなくて、こんな感じになった。 書ききれなくって、ごめんね) トニー、宮野真守。 オーディションで見せてもらった、 全てを包み込むような圧倒的な包容力が、 わたしにとってはキャスティングの決め手だった。 (キャスティングは集団で段階的に行ったので 審査をした一人一人にそれぞれの決め手があったと 思うが、わたしにとっての決め手はこれだった) 宮野真守という表現者は世間から「器用」と 評されているのではないかと思うことがあるが、 わたしから見たマモはむしろその逆だった。 傷だらけになったり失敗したりしつつ恐れることなく 常に心の全てで、全力でぶつかってゆく、 不器用で人間くさいトニーを生きてくれた。 トニー、蒼井翔太。 「この人は本当に新しい世界、新しい自分が 見たいんだな」とオーディションから伝わってきた。 それこそまさに、トニーではないか。 与えられたり見つかったりした手がかりの 一つ一つを、一瞬にして、しかも物凄く本質的に、 捉える翔太持ち前のセンスと、 やはり翔太持ち前の、脱帽する他ない勇敢さで、 翔太にしか表現できないトニーを切り拓いた。 本当に対照的な2人のトニーだったけれど、 演じた2人のお名前にそれが象徴されていたことが わたしにはとても運命的に思われた。 大切な人や、自分なりの真実を、守りたいトニー。 新たな世界を求めて、蒼い空高く飛翔するトニー。 対照的でいて、確かにどちらも、トニーだった。 マリア、北乃きい。 オーディションの時から、一般的なマリア像、 通り一遍のヒロインとは一線を画すような、 熱と情念、そして同じだけの繊細さが、感じられた。 若さゆえに兄から色々と押さえつけられてはいても 既に情熱と官能が成熟した、プエルト・リコの女。 ベルナルドと同じ、熱く誇り高い血が流れていて、 たった1日だけでも、一生分の愛を生きることが できる——きいちゃんは、そんな説得力を持って、 マリアを生きてくれたと思う。 マリア、笹本玲奈。 これほどミュージカルを知り尽くした女優が これほど裸で飛び込むということそれ自体に、 オーディションでも、稽古でも、本当に多くを 教えてもらった。裸で飛び込むからこその、 少女が女になる直前の、儚い煌めきと愛らしさ。 舞台上で起きて転がった全て、命も死も、 本当に全てを、その身に引き受ける、 あのとてつもない大きさ。強さ。そして気高さ。 玲奈ちゃんに、大きな愛を、見せてもらった。 アニータ、樋口麻美。 太陽のように、熱くあたたかいアニータ! 全てを受け止め、全てを受け入れられるほどに 大きな器を、絶えず愛や悲しみでいっぱいに 満たして、アニータを生きてくれた。 アニータ、三森すずこ。 自信がなさそうにも見えた稽古の最初の頃が、 今ではもう信じられない。 花って、大輪の花って、こうやって咲くのかと思う。 愛と自信が大輪に咲き誇る、強く美しいアニータ。 リフ、小野田龍之介。 ブレなくて頼れるリーダーでありながら、実は一番 やんちゃで、負けず嫌いで、いちいち何でも悔しくて、 甘えん坊。本当はジェッツを一番必要としているのは リフだって、リフ之介は心から納得させてくれた。 リフ、上山竜治。 何も持っていない若者が、まるで全てを持っている 者かのような優しさで、仲間たちを丸ごと愛していた。 それがとても頼もしく、同時に切なくもあった。 男の気骨、その脆さは、竜治ならではのリフだった。 ベルナルド、中河内雅貴。 何て愛の大きい男だったろう。 でっかい夢を見て、仲間と家族を愛し抜き守り抜き、 手が届かないことを心底悔しがって、時に吠え、 世界に立ち向かう。男だね。雅のベルナルド。 ベルナルド、水田航生。 シャークスならではの隙のない物腰と殺気。 恋人はもちろん妹や仲間たちに対しても細やかで 紳士的で、余裕と器の大きさを感じるけれど、 敵に回すと実は一番怖い。それが航生のベルナルド。 ドク、小林隆。 こばさんのドクは、トニーだけじゃなくジェッツを、 そしてこの荒んだ街での営みの一つ一つを、 たゆみなく、時に父のような厳しさで、愛してくれた。 作品世界を映し出す、鏡のような存在。 シュランク、堀部圭亮。 シュランクの存在によって物語は常に追いつめられる。 戯曲より今回、それが際立ったのは堀部さんのお力だ。 現代東京とは全く違った警察という存在を 理屈でも理屈じゃない部分でも体現してくれた。 クラプキ、吉田ウーロン太。 作品世界において本当に大切な警察という存在の うち、シュランクとはあまりに対照的な一面を、 ウーロン太さんはたった1人で担ってくれた。 グラッドハンド、レ・ロマネスク TOBI。 TOBI さんは3つの役を通して、 物語が曲がり角を迎える時に必ずいてくれた。 大切な役回り、ありがとうございました。 アクション、田極翼。 超絶頼れる我らが(ダンス)キャプテン翼。 芝居の面でも、まるで生まれ変わったみたいに 目覚しい変化を見せてくれた! ビッグディール、樋口祥久。 矛盾を抱えて複雑なビッグディールという人物を、 ぐっぴーは繊細で柔らかな感性で演じてくれた。 A-ラブ、笹岡征矢。 ベビージョンとA-ラブの2人が物語で辿る旅が、 かつてのトニリフと完全に重なるということを、 征矢の芝居が教えてくれた。 ベビージョン、工藤広夢。 工藤広夢の【いま】に『WSS』上演が重なった 奇跡を、演劇の神さまに、幾ら感謝しても、 感謝し足りない。 スノーボーイ、穴沢裕介。 スノーボーイからリフへの愛とリスペクトが 徹底的に貫かれていたことが、ジェッツの底力の 基礎になっていたと思う。 ディーゼル、小南竜平。 無口で頼れるディーゼルそのもの!芝居の話を するたびに、竜平のまなざしの細やかさと深度に、 いつもいつもハッとさせられた。 エニィバディズ、伊藤かの子。 オーディションで一目惚れしたエニ子! この作品世界の描く希望を、そして絶望を、体現し、 背負い、繋ぎ、抱きしめさせてくれた。 グラッツィエーラ、酒井比那。 たった1人でリフとのあのとんでもないダンスを 78回踊りきってくれたことに拍手したい。 リフを亡くした後の芝居、好きだったなぁ。 ヴェルマ、今井晶乃。 一分の隙もない美しさとシャープさ、 これぞ誇り高きジェッツ・ガール! かと思えばバレエでは、浄化を体現してくれた。 ザザ、井上真由子。 ジェッツの複雑な男女関係を一手に引き受けた その姿、かっこよくて、哀しくて、大好きだった。 ホッツィ、笘篠ひとみ。 小柄でキュートなとまちゃんが、踊り始めると 空気が変わる。ジェッツ男子も顔負けの切れ味、 これぞ COOL! マグジー、鈴木さあや。 ダンスパーティでもスケルツォでも 子鹿のようなダンスと存在感を見せてくれた。 ジェッツにも希望がある、といつも思えた。 チノ、高原紳輔。 大人なチノだからこその悲劇を見せてくれた。 「一つ違ったら、チノは王子さま」それを 体現しつつ、それに囚われずにもいてくれた。 ペペ、斎藤准一郎。 表情の豊かさと、クールなシャークスの ナンバー2を、絶妙のバランスで生きてくれた。 コンスエロとの睦まじさ、好きだったなぁ。 インカ、前原雅樹 aka パッション。 パッションのインカが持つ熱さと暖かさと、 ジェッツに対して見せる猛烈な怒り。 その振り幅に、いつも釘付けだった! ボロ、東間一貴。 シャークスの中で突出して爽やかに見せて おきながら、真っ先にトニーに飛びかかっていく あの熱さ���忘れられない。 ティオ、渡辺謙典。 大人っぽい佇まいのけんけんティオなのに、 フェルナンダとのカップルっぷりは とってもキュートで‥‥素敵だった! フェデリコ、橋田康。 ダンスパーティでの色っぽさはシャークス 随一だったと思う。いつも目を奪われていた。 コンスエロ、大泰司桃子。 桃ちゃんの頼れるコメディエンヌっぷりが 思う存分発揮されたということは、シーズン1の 成果の一つではないかとさえ思う。 しかも、我らが頼れるヴォーカルキャプテン。 フェルナンダ、山崎朱菜。 あんなにハードな『アメリカ』のナンバーを あんなに嬉しそうに楽しそうにキラキラ踊る人が、 いや踊れる人が、他にいるだろうか! ロザリア、田中里佳。 ガールズにどんなにプエルト・リコを悪く 言われても、ロザリアの心のプエルト・リコは いつも変わらず、負けずに、美しい。その強さが 『アメリカ』には不可欠だった。 アリシア、内田百合香。 ブレないロザリアの隣で、プエルト・リコへの 悪口に心を痛めたり憤慨したり、そして最後には‥‥ くるくる変わる表情にいつも楽しませてもらった。 ベベシータ、淺越葉菜。 『アメリカ』では地に足ついて自信に溢れて‥‥ でもバレエの時は幻想を全て纏うかのような、 心溶かす美しさ! 最高に頼れる、我らがダンスキャプテン! スウィング、大��真佑。 ジェッツの一員アイスとして毎公演『Cool』を 踊り、公演によってはバレエもセンターで踊り、 アシスタントダンスキャプテンでもあって‥‥ 大活躍の、頼れるダイソン。 スウィング、畠山翔太。 翼の代わりにアクション役を務め上げた 勇姿はシーズン1の忘れ難き光景の1つだ。 日々シャークスのニブルスを演じ、 バレエも踊り、その上ファイトキャプテンも‥‥! スウィング、脇坂美帆。 シャークスとしてダンスパーティを艶やかに彩り、 時にはバレエもセンターで踊り‥‥ 頼れるアシスタントダンスキャプテンとしても 日々活躍してくれた。 スウィング、矢吹世奈。 『アメリカ』での、独特のウィットと女っぽさ、 茶目っ気ある色気に溢れた魅せ方は実に鮮やか! 存在感があって、流石だった。 41人の出演者全員、それぞれに、心から、 ありがとうございました。 「〜してくれた」という表現は ちょっと上からな印象を与えてしまうかも 知れないが、舞台に立って物語を伝えるということが どれだけ大変か、そして勇気の要ることかを知り、 かつそれを見せてもらう立場であった わたしなりの、精一杯の言葉のつもりです。 次は演出補でなく演出家としてみんなに 再会できるよう、精進したいと思います。 本当はこのままスタッフ一人一人についても 書きたいけれど、絶対に行き届かないことに なってしまう気がするので、割愛します。 最後に、 『ウエスト・サイド・ストーリー』シーズン1を ご観劇いただいた皆さま、 愛してくださった皆さま、 ありがとうございました。 次は演出補でなく、 わたしの演出家としての仕事をご覧いただけるよう、 精進したいと思います。 (敬称略) 薛 珠麗(せつ しゅれい Shurei Sit)
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ohmamechan · 7 years
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沖をゆく青い舟
 ※大昔に出した本の、短編を中途半端に再録です。  夏合宿の前に、一日だけ実家に戻った。  母が物置をひっくり返して大騒動をしているので何かと思えば、遺品の整理をしているのだと言う。 「来年はお父さんの十三回忌でしょう?久しぶりに、色々片付けようかと思って」  そう言いながらも、母が何一つ父に関わるものを捨てる気が無いのを知っている。七回忌の時もそうだったからだ。  仕舞い込まれていたものを取り出しては並べ、天日に干して、また元通りに収める。  各種大会で取ったメダルや額入りの賞状。トロフィー。くたびれた皮のジャケットやジーンズ、ぼろぼろのスニーカー。色あせた大漁旗。古びたランタン。  とりとのめのない、父を思い起こさせる物ものたち。  それらは、普段は目のつかないところに収められているけれど、その物ものたちの存在を忘れることは決してない。母は特にそうだろう。普段の食事や、居間で和んでい る時、ふとした会話の端々に、父の存在を滲ませる。父がいたこと、父が今はもうこの世にはいないこと、そのどちらも当たり前にしている。母はそんな話し方をする人だ った。 「このTシャツなんか、もうあんたにぴったりじゃない?」  時代を感じさせるスポーツメーカーのTシャツを、背中にあてがわれる。靴を脱ぎ終わらないうちから、母が玄関に飛んできてそんなことを言うのだ。  江は、居間にテーブルにアルバムを広げて、色あせた写真を眺めていた。 「いっつも思うんだけど、私もお兄ちゃんも、ちっともお父さんに似てないのよね。花ちゃんのとこは、みんなお父さんに似てるのよ。娘は父に似るって言うけどうちは違 うわね。全部、お母さんに寄っちゃったみたい」  などと、一人で何やら分析している。  そこへ母が戻ってきて「ほら、このTシャツよ。みんなで海へ出かけた時に着てたのよ」と手にしていたTシャツとアルバムの写真を交互に見ながら言う。どちらも見比 べてみた江が、ほんとだ、と感激する。  以前は、このやり取りを見ているのが苦痛だった。二人が、父の話を和気あいあいとする中に、うまく混ざることができなかった。父の写真を持ち歩きながらも、本当は 写真の中の父と目を合わせるのはこわかった。母に会えば、父の思い出や存在に嫌でも向き合わなければならなくなる。あからさまに避けていたわけではないけれど、あれ これと理由を付けて帰らなかったのは事実だ。  それなのに母は、いつも子ども部屋を出て行ったままにしておいてくれた。小学生の時に使っていた机も椅子も本棚も洋服箪笥も。そう広くもない平屋住まいなのだから 、ほとんど帰らない息子の部屋を物置にするぐらいのことをしても誰も咎めやしないのに。  荷物を自分の部屋に置いて居間に戻った。  アルバムを熱心に覗き込んでいる姉妹みたいな二人に自分も加わる。  どれどれ、と覗き込むと、 「お兄ちゃんは見ないで。この頃の私、太っててやだ」  と江がアルバムの左上のあたりを手のひらで覆い隠した。写真は見えなかったが、指の間から書きこまれた文字だけはなんとか読めた。日付からして、江が二歳、凛が三 歳の頃の写真が収められたページのようだ。 「お前、食っては寝てばっかだったもんな」 「そうね、江はおっとりしていてまったく手がかからなかったわ。おやつをあげればご機嫌で、あとはすやすや寝てたもの。お兄ちゃんがちょこまか動いて忙しかった分、 助かったものよ」 「そうだっけ」  おやつを食べかけたまま寝こける江の姿は記憶にあるのに、自分がどうだったかなんて、まるで覚えていない。 「そうよ。走り回るあんたをおっかけて、ご飯を食べさせるの大変だったんだから。一時もじっとしてなかったのよ」  ふうん、と頷きながら、するりとアルバムに置かれた江の手をスライドさせる。 「あっ、お兄ちゃんだめったら」  露わになった写真に写っていたのは、浜辺に佇む家族の姿だった。祖母の家があるあの町の海岸かもしれない。母に抱えられた江はベビービスケットを頬張っている。腕 はふくふくとしていて、顔はハムスターの頬袋のようにまるい。とてもかわいらしい赤ん坊だと思うのに、江は顔を真っ赤にして「見ないでよ」と憤慨している。  同じく写真に写っている自分はというと、父の肩にまるで荷袋のように抱えられて笑っている。浅黒く日焼けした父も笑っている。こうして顔が並んでいるところを見れ ば、つくりは多少違うけれど笑い方は似ている気がする。 「これ、お父さんが外海に出る前に撮った写真ね」 「全然覚えてないわ」 「おれも」 「まだ小さかったもんね。外に出れば一ヶ月は戻れないから、大変だったのよ。お父さんが」 「大変って?」 「離れてる間にあんたたちに忘れられちゃうんじゃないかって、不安がるのよ。お見送りの時はいっつもさめざめと泣いてたわ」  お父さんかわいい、と江が小さく噴き出した。  中にはいくつか風景写真もあった。眺めているうちに、見覚えのある海岸線が写っているものを見つけた。 「これは、おとうさんの船で島まで渡った時のものね」 「あ、ほんとだ」  母と江がそろって覗き込んで来る。小さいながらも、父は自分の船を持っていた。青い船体に赤い縁取りの漁船。普段は大型漁船の乗組員として沖合や外洋に出ていたが 、禁漁で船が出せない期間は、よく自分の船に乗せて近海に連れ出してくれたものだ。小島を渡って、釣りをしたり、磯で生き物を探したりした。  小学生の時も、オーストラリアにいる時も、父を思わない日は無かった。けれどそれは、こうして思い出に浸るようなものとは少し違っていた。自分が何のために泳ぐの か、今なぜここにいるのかを確かめるための座標のようなものだった。そこに、感傷はあるようで無かった。感傷を背負い込む余裕すらなかったのだ。 「今度、江も凛もここに合宿に行くんでしょ?」 「うん」 「まさか、またあのコーチに船出してもらうのか?」 「いいじゃない!結構楽しいよ」 「お父さんが生きていたら、喜んで船を出してくれたでしょうねえ」  ゆっくりと母が言った。  昨年の夏、あれほどの問題を起こしたのに、鮫柄高校水泳部と岩鳶高校水泳部は頻繁に合同練習を行い、大会前は対抗試合を行うほど親交が深まった。  許してくれる人間もいればそうではない人間もいる。部内には、凛に対して風当たりの強い部員も当然いる。岩鳶高校と交流を持つことをよく思わない部員もいる。そん な中でも、御子柴部長は率先して岩鳶高校を自校へ招待したし、自分たちも岩鳶へ遠征した。今春から後を引き継いだ新しい部長が今回の合同夏合宿を持ちかけたのも、O Bの意見を取り入れたからだ。  彼の言動というよりも人柄が、凛が水泳部に居座ることを不快に思う部員たちの意識を変えていった。 「だって、江くんと会える絶好の機会じゃないかあ」  などと茶化してはいたが、彼がどれだけ気を遣い、部内の雰囲気を良好に保つために力を割いてくれたのか、側で見ていた凛には痛いほどよく分かる。  自分にできることと言ったら、泳ぐことしかなかった。御子柴の厚意に甘えるばかりでは、何も示せない。ひたすら、どんな時も、誰よりも真剣に泳いで見せた。泳ぐこ との他には、先輩に礼を尽し、後輩を支えた。それは部員として当たり前のことばかりだったが、その当たり前を一心にやり通すこと。それが素直にうれしくもあった。  六月末、島へ渡り、例年通り屋内プールを貸し切っての合宿が始まった。昨年と異なるのは、岩鳶高校と合同だという点だ。  合宿の中日は、午前中のみオフタイムとなり自由行動が与えられた。五日間のうち、四日間は泳ぎっぱなし。合宿後はすぐに県大会に向けて最終調整に入る。ではここぞ とばかりに休もう、ではなく、遊ぼう、と考えるのは、まさに渚らしかった。 「ねえねえ、凛ちゃん。明日のお休み、みんなで海で遊ぼうよ」  合宿二日目、専門種目の練習の最中、隣のコースに並ぶ渚がのん気に話しかけてきた。そういう話は後にしろ、とたしなめても、彼はにこにこしながらなおも言った。 「絶対行こうよ。おもしろい景色、見せてあげるから!怜ちゃんが!」  そんなことを大声で言うので、やや離れたところでフォームのチェックをしてもらっていた怜がぎょっとしていた。  渚の言う「おもしろい景色」とは、まさにおもしろい景色だった。 「お前、なんだそのナリは」  晴天の下、焼け付く白砂の上に降り立った怜を見て、凛は顔をしかめた。 「し、仕方ないでしょう。これがないと、ぼくは海へ出ちゃいけないって、真琴先輩が…」  しどろもどろな怜の腰、両方の上腕にはヘルパーが取り付けられ、腕には浮き輪を抱えている。浮き輪はピンクの水玉模様。先日、江が押入れから取り出して合宿用の荷 物の中に加えているのを確かに見た。まさか、怜のためのものだったとは。 「おもしろいでしょ?怜ちゃんてば、去年色々やらかして大変だったんだから、まあしょうがないよね」  何をやらかしたかについては、大体聞いている。夜の海に出て溺れかけたらしい。一歩間違えれば大変なことになっていた危険な行為だ。だからと言って、これはあんま りだろう。 「お前、ほんとに水泳部員かよ」 「どこからどう見ても、水泳部員です!昨日見ましたか、ぼくの美しいバッタを!」 「あ?全然なってねえ。せっかく俺がじきじきに教えてやってるのに、もうちょっとましになったらどうだ」 「知識・理論の習得と実践の間には時間差があるものです。だから昨日あなたに教わったことはですね…」 「もうまた始まった!バッタの話になると長いんだからやめて、二人とも!」  そうして三人で波打ち際で騒いでいると、 「まあまあ、三人とも、とりあえず泳ごうよ」  やわらかい声がすんなりと差し込まれた。真琴がにこにこしながら海を指差す。 「ハル、待ちきれずにもう行っちゃったよ」  見れば、遙が波打ち際から遠く離れた場所をすいすいと気持ちよさそうに泳いでいた。 「なんて美しい…海で泳ぐ姿は、本当にイルカや人魚のようですね」  怜がうっとりした顔をしていた。男のくせになんつう比喩だ、と毒づきたくなるが、あながち外れてもいない。 「僕もあんな風に海で泳ぎたいものです」  怜が唯一泳げるのはバッタのみで、他の泳法は壊滅的にだめなのだそうだ。一年をかけて少しずつ特訓してきたが、どうしても上達しない。合同練習で会えばバッタの練 習しかしないので、遙と同じく「ぼくはバッタしか泳ぎません」というスタンスなのかと思っていたが、違うらしい。 「鮫柄の皆さんにカナヅチがばれてしまうのも時間の問題です」 「いや、ばれてるよ、怜ちゃん」 「怜…残念ながら」  渚と真琴がそろって悲しげな顔を作った。 「諦めんなよ。練習しろ」  とりあえず励ましておくことにすると、怜は「でも…」と暗い顔で俯いてしまった。その背中を渚が押して、「そうそう、練習しよう!」と無理やり水辺へと引っ張って 行く。 「さあ、特訓だ!松岡教室開講~!」 「いやです!今はオフです!」 「秘密の特訓をして、みんなを驚かせたくないの?」 「それは…」 「いいから来いよ、怜」 腰が引けているその手を取ると、怜は恐る恐る波に足を浸けた。 「やさしくしてください…」などと、目を潤ませ、怯えた小鹿のように言うので、笑いをこらえるのがやっとだった。 「たぶん大丈夫だろうけど」と言いつつ遙を一人で泳がせておくのが心配になったらしい真琴は、遙の後を追って沖へと泳いで行った。遙の姿はもう小さな点にしか見えな いくらい遠のいていた。一人で遠泳でもするつもりなのだろうか。  そういえば、遙とは昨日も今日もろくに言葉を交わしていないことに気付いた。練習中は専門種目が違うのでウオーミングアップやリレーの練習の時ぐらいしか接点がな い。オフだからと浜辺に集まった今朝は、黙々と一人で体をほぐしていた。 小島まで泳いで渡るつもりなら自分も行きたい。前もって伝えておけばよかったな、と思った。別に、必ず遙と一緒でなければならない理由ではないのだけど。 胸のあたりまでの深さのところで、怜の特訓が始まった。 潜ることは抵抗なくできるというので、とりあえずヘルパーを外して自分の体だけで楽に浮く練習から始めた。だるま浮きだの大の字浮きだの初心者向きの手ほどきは散々 やって来たことらしいのだが、それすら怪しいのだと言う。 「海水は水より浮力があるからな。少しは浮くんじゃねえの」  本当は波のないプールの方が断然初心者には向いているし、浮力が問題ではないと思われた。けれど、慰めにそう言ってみると、怜は「なるほど」と素直にうなずいてい た。なんだかすっかりその気のようだ。  怜はすう、と大きく息を吸って水に潜った。だるま浮きから水面近くに浮いて来たところでじわじわと手足を伸ばす。水面下10cmあたりのところで怜の体がゆらゆら と揺れる。 「わあ、海水マジック!浮いてるよ怜ちゃん!プールの時よりもずっと!」  渚が歓喜して大げさに拍手する。とても浮いているうちには入らないような気がするのだが。  次、バタ足を付けてみろよ、と指示を出すと、怜は恐る恐る水を蹴った。ぱちゃぱちゃとバタ足を数回繰り返したところでその体がずぶずぶと沈んでいく。 「おいおい」  掌を掬い上げて浮力を助ける。ぶはあ、と怜が苦しげに息を吐いて体を起こした。 「はあ…途中まではいい感じだったんですが」 「うんうん、進んでたよ」 「潜水艦みたいにな。もう一度やってみろ」  再度バタ足にチャレンジする怜に「もうちょっと顎を引け」と伝えると、すぐに言われたとおりにしてみせた。怜は理屈っぽいところがあるが、素直だ。力を伸ばすのに はそれは大切な要素だ。  顎を引いた分だけ浮力を得て、わずかなりとも浮きやすくなるはずだ。しかし、怜の場合は逆効果だった。頭の方から斜めに沈んでいく。まさに、潜水艦のごとくだ。 「わあ、頭から沈んでいく人、初めて見たあ」  渚の遠慮のないコメントに笑ってはいけないのに、こらえきれずに小さく噴き出してしまった。 「ちょっと!笑わないでください!ひどいです!」  びしょびしょに濡れた髪を振り乱して怜が喚く。 「わりい…いや、ちょっとした衝撃映像だったから」 「動画、とっとけばよかったね!」  渚と二人で笑い合っていると、怜はもう泣きそうな顔をしていた。 「しょうがねえよ。体質だ」  怜の肩に軽く手を置いて慰めた。 「体質?」 「お前、陸上やってたんだろ?」 「はい」 「筋肉質で体脂肪が少ない上に、骨が太くて重いんじゃねえの。ついでに頭も」 「怜ちゃん、頭いいもんね。脳みそ重いんだね」 「なるほど…」 「もうどうしようもなく浮くようにできてねーんだよ。そういうやつ、たまにいるぜ」 「そうなんですか?僕だけじゃなく?」  凛はしっかりと頷いて見せた。 「極端に痩せた人はもちろん、筋肉をがちがちに鍛えた人も当然浮きにくいよな」 「物理の法則からするとその通りですね。僕の体は、そもそも水に浮くようにできていない…」  しょんぼりと肩を落とす怜を、渚が心配そうに覗き込む。 「怜ちゃん…楽に浮けるようになりたかったら、脂肪を蓄えるしかないね。ドカ食い、付き合うよ」 「いや、脂肪は付きすぎると水泳にとっては邪魔なものです」 「そうだっけ?」 「ようはバランスだな」 「カロリー、体脂肪率、筋肉の質…僕の体にとってのこれらの黄金律を導き出さなければ…!」  怜はかけてもいない眼鏡のツルを押し上げる身振りをして、ぶつぶつとつぶやき始めた。 「ま、でもバッタが泳げりゃいいんじゃね?」  あまり思いつめるのもどうかと心配になったのでそう軽い調子で言うと、怜は切実そうに訴えた。 「あなたまで皆さんと同じことを。ここまで焚きつけておいて」 「だってよ、ここまでとは思わなかったからな」 「ひどいです。僕だって、みなさんと同じように泳げるようになりたい」  顔をくしゃりと崩す怜を見ていると、ふと幼いころを思い出した。こんな風に、父と海で泳ぐ練習をした覚えがある。海育ちは、潜るのは得意だが、わざわざフォームを 整えて浮いたり泳いだりはしない。潜って魚を捕ったり、磯で生き物をいじって遊んだりするのがほとんどだった。だから、幼稚園のプールでいざ泳いでみて、ショックだ った。潜水したままプールの床底を進む凛に、友だちが「それ泳ぐのと違うんじゃない」と言ったのだ。スイミングスクールに通っている同じ年の子どもが、それなりに様 になったクロールを披露してくれた。水の中にいるのなんて息を吸うように当たり前にできるのに、あんな風に泳ぎ進む、ということがどうやったらできるのかわからなか った。  しょげかえる凛を見かねて、父が特訓してくれた。当時は祖母の家の隣の長屋に住んでいて、目の前は海だった。幼稚園から帰ってすぐに海へ駆け出して行って、ひたす ら泳いだ。「がんばれ」と両手を広げる父まで、辿り着こうと必死で水を掻いた。毎日練習を繰り返して泳げるようになったとき、父はうれしそうに笑っていた。  もうずっと昔のことが鮮明に思い出されて、懐かしさで胸がいっぱいになった。  だからなのか、肩を落とす怜に思わず言っていた。 「わかった。とことん付き合ってやるから、がんばれよ」  怜が顔を上げて、その目を輝かせた。ええもう遊ぼうよお、と渚が後ろに倒れ込みながらぼやいた。  それから小一時間練習して、休憩に入った。  怜は、沈みがちではあったが、バタ足で10mほど進めるようになった。クロールのストロークはもとより様になっていたので、特に言うことは無かった。推進力はある のだから、ブレスでなるべく浮力とスピードを落とさないようにすれば、それなりに泳げそうだった。あくまでも、それなりにだったが。  三人で丸太のように木陰に転がり、ほてった肌を冷ました。 「感動です…ぼくでも何となく形になりました」 「怜ちゃん、感動したよぼくも!」  わざわざ凛を挟んで、渚と怜が会話する。凛は浮き輪を枕にして、二人のやり取りを聞いた。 「渚くんは、途中から変な顔をして僕を笑わせようとしていたでしょう!手伝っているのか邪魔しているのかわかりません!」 「心外だなあ。リラックスさせようと思ってやったんだよ。緊張したら体が硬くなるでしょ?怜ちゃんぷかぷか作戦の一つだったのに!」 「そ、そうだったんですか」 「なんてね」  渚はそう言うや、跳び起きて海へと駆けだして行った。怜からの反論を見越していたのか、見事な逃げっぷりだった。 「ぼくも、向こうの島まで行って来るねー!」  ぶんぶんと手を振り、あっという間に波間に消えて行った。 「あの人は、いつもああなんです」 「楽しそうだな」 「疲れます」  それには頷くしかない。 「あなたも、泳ぎに行かなくていいんですか?」 「ああ、いいんだよ。ちょっと、疲れも溜まってるし」 「…すみません。オフなのに疲れさせてしまって」  怜が顔を曇らせる。 「いや、お前のせいじゃねえよ。ついオーバーユースしちまうから、オフの日はなるべく休めってコーチに言われてんだよ」 本当は島まで遠泳できるならしてみたかったが、心残りになるほどでもなかった。ひんやりとした木陰の砂の上に転がって、潮風を受けていると、とても気持ちがいい。瞼 の裏に枝葉をすり抜けてきた光が差して、まだらにかぎろった。 「あなたが、ぼくに泳ぎ方を教えてくれるのは、昨年のことを気にしているからですか?」  まるで独り言のような小さな呟きが耳に届いて、凛は瞼を起こした。  怜が生真面目な顔でこちらを見ていた。 「なんだよ急に」 「すみません、確かめておきたくて」  怜が言っているのは、昨年の地方大会のことに違いなかった。彼を差し置いて、岩鳶高校の選手としてリレーに出た。彼らの厚意に乗っかって、大事な試合をふいにして しまった。得ることの方が大きかったけれど、負い目を感じないわけがない。しかし、負い目があるから怜に泳ぎを教えているのではない。それははっきりと、違うと言え る。 「あなたがいつまでも、ぼくに負い目を感じる必要はありません。ぼくが決め、あなたたちが選んだ。それだけのことです。そりゃあ、問題になりましたが、いつまでも引 きずっていても…」 「待て待て、怜」  怜の言葉をやんわりと止めて、上半身を起こした。乾いた白い砂の粒が、はらはらと肌の上を滑って落ちる。怜も体を起こして凛と向き合った。きちんと居住まいを正す ところが、怜の真面目で誠実なところだ。 「負い目って言われるとどうかと思うけど、それは一生無くならない。失くせって言われても無理だ。そういうもんなんだ。でも、罪滅ぼしのために、お前に泳ぎを教えて んじゃねえよ」 「ではなぜですか」  面と向かって問われると、答えざるを得ない空気が漂う。凛はがしがしと後ろ頭を掻いた。 「お前が一生懸命だからだ」 「一生懸命?」 「一生懸命練習しているやつがいたら、手伝いたくなるだろ。そういうもんだ」 「敵に塩を送ることになっても?」 「一人前なこと言うな、お前」 「だって、そうでしょう」  凛は口端を上げた。自然に笑みが湧いた。 「一にも二にも努力努力っていうけどよ。努力すらできないやつだって、ごまんといるんだよな。努力する才能ってやつも必要だ。お前にはそれがある。それは…すごいこ となんだ。そういうやつを、俺は尊敬してる」 「尊敬、ですか」  怜がしみじみと噛みしめるように言った。 「あんだけ見事な潜水艦だったのに、さっきの特訓では一度も音を上げなかったしな。俺だったら三分で逃げ出してる」 潜水艦って言わないでください、と怜はむっとした顔を作った。けれど、すぐにそれを解いて微笑んだ。 「ぼく、とても楽しみなんです。今度は、ぼくもあなたたちと一緒に泳げる。いつだってこうして楽しく泳ごうと思えば泳げるけど。試合で泳ぐのは、特別な気がします」 「確かにな」 「緊張もするけれど、わくわくします」  わくわくします。それはいい言葉だった。長らく自分が見失っていた感情に近い気がした。 「あなたは勝ち負け以外の何があるんだって、言っていましたが」 「どうしたって、勝ち負けはあるんだぜ」 「知っています。でも、ぼくはわくわくするんです。勝つかどうかもわからない。勝ったらどんな感情を抱くのか。負けたらどんな自分が出て来るのか。それは理論では計 り知れない。そういう未知なる気配が、おもしろいと思えるようになったんです」 「俺もそう思う」 「わくわくしますか」 「ああ、する」 「一緒ですね」  怜がふわりとはにかむ。隙だらけのあどけない顔をするので、思わずその頭をわしわしと撫でまわしてしまった。 「なんだよお前。ガキみたいな顔しやがって」 「だって」  怜は泣き笑いのように顔をくしゃくしゃにした。 「僕にも、皆さんと同じ景色が見られるんじゃないかって、今、すごく思えたから」 「そうかよ。楽しみにしてろよな」 「はい」 「怜、ありがとな」 「はい…えっ?」  まさか礼を言われるとは思っていなかったらしい怜は、戸惑っていた。妙に照れくさくなってしまって、そんな怜を置いて弾みをつけて立ち上がった。 「やっぱ泳ぐかあ。あいつら、どこまで行ったんだ?」  木陰から一歩踏み出ると、目が眩むほどの強い日差しに、何度か瞬きをした。  そこへ「せんぱあーい!」と似鳥の甲高い声が聞こえてきた。防風林の向こうから駆けて来る姿があった。 「自主練終わりました!ぼくも仲間に入れてください!」  そういえば、似鳥も海水浴に行きたいと言っていた。わざわざ断ってくるところが彼らしい。 「愛ちゃんさん、自主練をしていたんですね。見習わなければ」 「お前も自主練みたいなもんだろ」  似鳥はあっという間に、なだからかな浜を駆け下ってきた。 「御子柴ぶちょ…あ、元部長が差し入れにいらしてましたよ」 「暇なのか?あの人」 「そんなこと言ったら泣いちゃいますよ。ちゃんと後であいさつしてくださいね」 「わかってるよ」  怜を連れ出して沖まで行くか、と相談しているところに、今度は「おにいちゃーん!」と江の声が届いた。  見れば、ビニール袋を提げた両手をがさがさと振っている。言わずもがなのアピール。  「手伝います」という後輩たちを置いて、パーカーを羽織ると江のもとへ浜を駆けのぼった。怜は真琴の言いつけ通りの完全防備で、似鳥に浮き輪ごと曳航されて沖へと 出て行った。 「のんびりしてたのに、ごめんね」と江は詫びつつも、しっかり凛に重い荷物を譲り渡した。買い出しのために顧問に車を出してもらおうとしていたら、鮫柄の顧問から呼 び出しがかかってしまったらしい。 「ったく、買い出しくらいあいつらにさせろ。それか、マネ増やせ」 「そうね、マネも増やしたいなあ。時々、花ちゃんが手伝ってくれるんだけどね」  麦わら帽子をちょんと被りなおした江が、それにしても暑いねえ、とのんびり言う。  岩鳶高校が宿にしている民宿は、浜からそれほど遠くない。ビーチサンダルで砂利を踏みながら、江と並んで歩いた。太陽はますます高く、縮んだ濃い影が、舗装された 白い道に焼き付いてしまいそうだった。 「あ、ねえ、お兄ちゃん、見て」  江が白い腕を伸ばし、海のかなたを指した。 「あの船、お父さんの船に似てるね」  見れば、はるか沖を行く船たちの姿が、ぽつぽつとあった。マッチ箱ほどの小さな船影の中に、確かに、父の船と似ているものがあった。青い船体に、白い縁取りの漁船 だ。青い船は、白波を立てて水平線を滑るように進んでいく。やがてその姿は、小島の向こうに消えて見えなくなった。  二人で船を見送ったあと、わたしね、と江が言った。 「一つ、思い出したことがあるの」 「何を?」 「お兄ちゃん、お父さんが死んじゃったあと、よく海に出かけて行ってたでしょ?ひとりで」 「そうだったか?」 「そうだったよ。お母さんが、夜になっても戻らないって、すごく心配してたの。あの時、お兄ちゃんは、何をしに行ってたのかなあって」 「海に行くのは、いつものことだっただろ」 「そうなんだけど。お父さんが死んだあとのことよ。毎日、毎日、お兄ちゃんが帰って来ないって、お母さんが玄関の前でうろうろしてた。それを見て、わたしはすごく不 安だったことを思い出したの」  突然、遠い昔の話を出されて困惑してしまう。確かに、父が亡くなったあと、毎晩のように浜辺へ通っていた覚えがある。けれど、何のためにそうしていたのか、よく思 い出せない。 「でもね、お兄ちゃんは、ちゃんと帰って来た。お兄ちゃんが海から家に帰って来たら、ああ、よかったあ、ていつも思うの。待つことしかできなくて、とっても不安だっ たけど、ああよかった、お兄ちゃんは、どこへも行かずにちゃんと帰って来てくれて、って安心するの。そういう記憶」  沖をじっと見つめていた江が、また歩き始めた。歩調を合わせてゆっくり歩いた。 「お父さんが死んだとき、私はまだ小さかったから記憶はおぼろげなんだけど、最近は、よく思い出すんだ。お父さんが死んだ時の、お母さんの顔とか、海に出て行ったお 兄ちゃんが庭に放りだした自転車とか、お父さんの大きな手とか、声の感じとか、色々、ごちゃまぜに」 「そうか」 「なんでかな、今まで忘れてたわけじゃないんだよ。毎日、仏壇にお線香上げるし、お花の水も換えるし、お祈りもする。けど、そういう決まったことのように亡くなった 人のことを思うんじゃなくて、勝手に湧いてくるの。ふとした時に、お父さんの気配みたいなものが」  それは、凛にもわかるような気がした。さっきだって、怜に泳ぎ方を教えながら、それを感じたばかりだからだ。もう形を持たないはずの父が本当にそこにいるかのよう な感覚。五感のどこかに残っている父の記憶のかけらが、不意に集まって形作るような。 「海にいるからかな」 「そうかもな」 「お兄ちゃんが、お父さんの話をするようになったからかもしれないよ」 「どっちだよ」 「どっちもよ」  江がそう言うのなら、そうなのだろう。  並んで歩きながら、沖を行く船の姿を探した。けれど、もうあの青い船の姿は見えなかった。その名残のように、小さな白波がいくつもいくつも、生まれては消えた。太 陽の高度はますます上がり、水面に踊る光の粒がまばゆく目を刺した。  江を送り届けて海岸に戻ると、遙がぽつんと遊歩道に立っていた。もう海から上がっていたらしい。  江から、あと小一時間ほどしたら宿に戻って食事を摂り、午後からの練習に備えて休むように言ってほしい、と頼まれていた。それを伝えようと軽く手を振ると、遙はふ い、と顔を背けて再び浜へ下りて行ってしまった。なんだよ、とつい零したくなるような態度だ。迎えに来てくれていたわけではないのは分かっていたが、あまりにも素っ 気ない。まあ彼としては珍しくもない振る舞いなので、まあいいかとすぐに思い直した。  真琴や渚たちも沖から戻っていた。彼らは屋根付きの休憩所で水分補給をしていた。 「怜がちょっと泳げるようになってたから、俺、感動しちゃったよ」  真琴が声を弾ませて言う。怜はその隣ですっかり得意げな顔だ。 「浮く練習なら深いところがいいって愛ちゃんさんが言うから、やってみたんです。そしたらできました」 「へえ、やるじゃねえか」 「はい。…しかしまあ、愛ちゃんさんがすごく怖くて。ヘルパーも浮き輪も容赦なく外してしまうし」 「愛ちゃん、スパルタだったよ!」  渚の隣で、似鳥は恐縮したように肩をすくめた。 「凛先輩ほどじゃありませんよう」 「いや、おれよりお前の方がえげつない練習メニュー考えるよな。この合宿のメニューだってさ、一年が、青ざめちまってたもんな」 「え、そうですかあ?ぼく、もしかして、後輩にびびられてますか?」  似鳥が困惑顔で腕に縋り付いてくる。いや、それはない、とすぐに否定しておく。童顔な彼は、どうかすると後輩に舐められてしまいがちだが、面倒見が一番いいのでよ く頼られている。 「似鳥、俺たちはそろそろ戻るか」 「もうですか?」 「午後連の前にミーティングと、OBに挨拶があるんだろ?」 「そうですね…。もうちょっと、皆さんと泳ぎたかったですけど」 「え~、愛ちゃんも凛ちゃんも行っちゃうの?」  似鳥の縋った腕とは反対の腕に、渚がぶら下がる。重い。 「しょうがねえだろ。OB様は、大事にしておかねえとな」  残念がる似鳥を促して、荷物の整理をしていると、それまでベンチの隅にしゃがんでいた遙が、急に立ち上がった。もの言いたげにこちらを見るので、「なんだよ」と思 わず言ってしまう。そのくらい、視線が重い。何か機嫌を損ねるようなことをしただろうか。 「なんか言いたいことあるなら言えよ、ハル」 「別に」  何もない、と遙はまたそっぽを向く。明らかに何もないわけがない態度だったが、もう放っておくことにした。 「お前らもぼちぼち戻れよ。江が、メシ作ってるって」  ちえ、バカンスは終わりかあ、と渚は盛大にこぼし、真琴は部長らしく「手伝いに戻ろっか」とお開きのひと声を発した。まるでそれを待っていたかのように、ぷしゅ、 と空気の抜ける音がした。遙が水玉模様の浮���輪の空気を抜く音だった。無言のまま、ぎゅうぎゅうと体重をかけて押しつぶしている。むっと口を結んでいるところを見る と、やはりご機嫌ななめらしい。 ほんと、よくわかんねえやつ。  手伝うよ、と真琴が遙に歩み寄る。その様を見ているのがなんとなく癪で、凛は「帰るぞ」と似鳥を連れて宿に向かって歩き始めた。  明け方の白砂は、潮を含んで重かった。  少し足を取られながらも、波打ち際を流すようにゆっくりと走った。連日の猛練習の疲れは残っているが、だらだらと眠るよりも、こうして体を動かしている方がすっき りする。  夜の間に渡って来たらしい雲が、東の空から羽を広げるようにたなびいている。それを、水平線に覗いた朝日がうっすらと赤く染めている。波も、同じ色に染まっている 。  朝日の中を行く船があった。まばゆい光の中にあって、色はわからない。  ゆるやかな海岸線の中ほどで、凛は足を止めた。上がった息を鎮めながら、沖合に目を凝らした。  なぜ、父が亡くなった後、毎日海へ出かけたのか。  昨日、江にたずねられたことを改めて考えているうちに、あることを思い出した。昨夜、眠りに落ちる前に、ふとおぼろげな記憶の中から浮かび上がってきた。   父は、凛が五歳の時に亡くなった。��の終わりの大時化で、船と共に沈んでしまった。船そのものも、遺体も上がらなかった。何日も捜索が続き、母は毎日、港に通った。 何かしら知らせが来るのを待ち続けたけれど、ついに父は戻らなかった。船長を含めた十数人が行方不明のまま、捜索は打ち切られてしまった。だから今も、墓の下に父の 骨は無い。墓石や仏壇に手を合わせる時、どこか空虚な気がするのは、そのせいかもしれなかった。 飛行機に乗って世界中のどこへでも行けるし、ロケットに乗って月へも行けるのに、たった沖合3kmのところに沈んだ船を見つけることができないなんて、おかしな話だ 。捜索を打ち切って、浜から上がって来るゴムボートを眺めながら、そんなことを思っていた。 父が戻らないことを凛と江に告げる母は、やつれて生気を失ったような顔をしていたが、どこかほっとしているようでもあった。何か一つの区切りを迎えなければ、母は限 界だったのだろうと思う。毎晩、祖母に縋り付いて泣いているのを、凛は知っていた。江と一緒に仏間の布団に寝かされ、小さくなって眠る振りをしながら、母の細い嗚咽 を聞いた。母は、泣いて泣いて泣き伏すうちに、いつか細い煙になって消えてしまうんじゃないかと心配だった。朝になると、母は気丈に振る舞っていたので、その不安は 消えるのだけど、夜になって母のすすり泣きが聞こえてくると、家全体が薄いカーテンの中に包まれて、そこだけが悲しみに浸かっているような気がした。 捜索が打ち切られた数日後、形ばかりの葬儀が行われた。遺体の上がらなかった何世帯が一緒に弔いをすることになり、白い服を着た大人たちに連なって、海沿いを延々と 歩いた。波は嘘のように穏やかだった。岬で読経を上げる時、持たされた線香の煙がまっすぐに天へ昇っていったのをよく覚えている。  葬儀が終わると、生活のすべてがもとに戻り始めた。母には笑顔が戻った。友だちと外で遊び、お腹が空いたらつまみ食いをした。江は勝手に歌を作って歌い、ちょっと 転んだだけで泣いた。いつもと同じ毎日だった。  けれどもそれは、凛にとっては、大きく波に揺り動かされて、遠くへ投げ出されてしまったかのように強引で、拭いようのない違和感に満ちていた。誰もかれも、日常の 続きを演じているような奇妙さがあった。  四十九日が済むと、海辺の家を離れて、平屋のアパートを借りてそこで三人で暮らすことになった。父の船は、知り合いに引き取ってもらうことになった。新しい家も、 父の船が人の手に渡ってしまうことも、嫌だった。けれど、決まったことなのよ、と母に泣きそうな顔をされると、何も言えなかった。  引越しをする少し前から、毎日海へ通うことになった。  行き慣れた海岸は、潮が引くと、磯を渡って沖まで行くことができた。ごつごつとした岩場を歩き、磯の終わるところまで足を運ぶと、そこに座り込んで海を眺めて過ご した。  せり出した磯は、ずいぶん海の深いところまで伸びていて、水面から覗き込んでも海底は見えない。もっと小さい頃は、一人では行くなと言われていた場所だった。磯か ら足を滑らせれば、足の着かない深みにはまって危険だからと。  しかし、磯の岩場には、釣り人もいたし、浜辺には船の修理をする近所の大人の姿もあったので、凛は構わず出かけた。  手にはランタンを提げて行った。父が納屋で網を繕う時に、手元を照らすためにいつも使っていた、電池式のランタンだ。凛は、暗くなるとそれを灯して、いつまでも磯 にいた。  父が戻らないことは、幼心にもわかっていた。これから、父のいない生活を送らねばならないことも。  もう二度と、あの青い船に乗せてもらえないこと。泳ぐのが上達しても、大げさなくらい喜んで、頭を撫でてもらえないこと。大きな広い背中に抱き付いて、一緒に泳ぐ こと。朝霧の中を、船で進む父に手を振ること。お帰りなさい、と迎えること。そんなことは、もう、ないのだとわかっていた。  わかっていたけれど、誰も父を探そうとしてくれないことが、誰もが当たり前の顔をして日常に戻ってしまうことが、悔しかった。かなしかった。  海へ通い続けたのは、ぶつけどころのない感情を、なんとか収めようとしていたからなのかもしれない。海はただそこにあるだけで、凛に何も返さない。何を投げても、 すべてを吸い込み、飲み込み、秘密のままにしてくれる。父を飲み込んだ海なのに、憎いとか恨めしいとか、そんな感情は浮かばなかった。むしろ、誰よりも、そばにいて くれている気がしていたのだ。  ある風の強い日だった。その日も、いつものように海へ出かけた。波は荒く、岩にぶつかっては白い泡になって弾けていた。大きな雨雲の船団が、どんどん湧いては風に 押し流されていた。空は、黒い雲と青い晴れ間のまだら模様で、それを移す海も同じ模様をしていた。  嵐の日と、その次の日には海へ行くなと言われていた。嵐の後には、いろんなものが流れ着くからだ。投棄されたごみならよくあることだが、時に死体が流れ着くことが ある。入り組んだ海岸線が、潮の吹き溜まりを作っていたのだ。  父と海に出かけた時に、一度だけ水死体が岩場の端に引っかかっているのを見つけたことがあった、凛は離れているように言われたので、遠目にしか見えなかったが、白 くてふくふくとした塊を、父や漁協の仲間が引き上げていた。あとで父は、凛に諭すように言った。 「嵐の後の海には、こわいものがいる。海に引きずり込まれるかもしれないから、近寄ってはいけない」と。  あの時の教えを忘れたわけではなかったけれど、凛は横風に煽られながら磯の際を歩いた。いかにも子どもらしい発想だ。本当に見つけたとして、どうしていいのか何も わかっていなかったというのに。  雨雲の隙間から、光が差していた。波に洗われて、日に照らされた岩肌は、滑らかに光っていた。海面にはスポットライトのようにまるく光が差し込み、まるで南海のよ うにエメラルドグリーンに透き通って見えた。雨上がりの海の景色の美しさにすっかり心を奪われた。深い深い海の底に、何かもっと美しい景色や生き物がいるのではない か。凛は、父を探すのも忘れて、磯の際に手と膝をつき、夢中で覗き込んだ。きらきらと光のかぎろう碧が美しくて、ため息が漏れた。鼻先が海面に付くかつかないかとい うところで、びゅう、と背中から風が吹いた。ど、と勢いよく押されて、体が前に倒れ込んだ。あぶない、と気付いた時には遅かった。頭から海に落ちてしまう。海にはこ わいものがいる。引きずり込まれるかもしれない。近寄ってはいけない。あれほど言われていたのに。恐怖に体の自由を奪われて、抗えないまま海へ落ちてしまう寸前、後 ろから、ぐい、と強く腕を引っぱられた。 「危ないよ」  と声がした。  慌てて振り返ってみたが、誰もいなかった。ただ、小雨に濡れて黒々とした岩場が広がっているだけだった。  少し遅れて、心臓がばくばく鳴り始めた。  たった今、海に引きずり込まれそうになったこと。それを誰かが助けてくれたこと。その誰かの姿は、どこにも見当たらないこと。  なにか、今、不思議なことが起きたのだ。  凛は泣きそうになりながら、家へ駆け戻った。とにかく、怖かったのが一番。次には、懐かしいようなうれしいような気持ちでいっぱいだった。  危ないよ、という声が、父の声のように思われたからだ。  不思議な出来事は、その一度きりだった。二度と海が不思議な光を放つこともなかったし、助けてくれた声の主と出合うこともなかった。  海辺の家を離れて、母と江と三人で暮らし始めると、そんなことがあったことすら忘れていた。  あれはなんだったのだろうと思う。海面が光って見えたのは見間違いかもしれないし、引きずり込まれそうになったと感じたのは、ただの風のせいだったのかもしれない 。本当はあの時、通りすがりの釣り人がいて、海に落ちそうになっている子どもに声をかけただけかもしれない。  とにかく、奇妙な体験だった。海では不思議なことが起こるものだと感覚で知っている。言い伝えや昔話も多くあり、それを聞いて育つからだ。でも、自分の体験したこ とをどう片付ければいいのか、わからない。  今は、朝日を浴びて美しいばかりの海は、暗くて深い水底を隠し持っている。この海は、父の命を飲み込んだあの海とつながっている。このどこかに、今も父がいるのだ 。 「凛」  不意に声をかけられて、身をすくめる。  気づけば、足元を波にさらわれていた。慌てて、波打ち際から離れる。 「そのままで泳ぐつもりだったのか?」  遙だった。凛と同じようにロードワークに出ていたのか、汗ばんだTシャツが肌に貼り付いていた。  返事ができずにいる凛を、遙は不審そうに見ている。 「いや、泳がねえよ」  首を振ってこたえると、遙の視線が凛の足元に落ちた。 「濡れちまった」  波に浸かってぐっしょりと重くなったランニングシューズを脱いで、裸足になった。砂の付いたかかとを波で洗う。 「どこまで走るんだ?」  気を取り直すようにたずねると、遙は「岬の方まで」と答えた。答えたものの、凛の顔をじっと見つめたまま走り出そうとしない。  昨日は、午後練になってもろくに口を利かなかったからか、どこか気まずい。 「何を見ていたんだ」  遙が言った。 「何って…海しかないだろ」  凛の答えに納得したようではなかったけれど、遙は海を向いた。 「お前も、真琴みたいに海がこわいのか」 「そんなわけねえだろ。俺は海育ちだぞ」 「そうか。真琴みたいな顔をしてた」  相変わらず言葉足らずで要領を得ないやりとりだったが、どうやら心配してくれているらしい。  遠くから霧笛が響いた。大きなタンカーが沖へ向けて港を出て行く。 「船が…あっちの方に、船がいたから、見てた。それだけだ」  そう付け足すみたいに言うと、遙は船の姿を探して、沖合に目を凝らした。潮風にあおられて、彼のまっすぐな黒髪がさらさらと揺れた。遙の目は、「本当にそうか?」 と不思議そうにしていた。遙の目は雄弁だ。誤魔化さずに本当のことを言わなければならないような、そんな気がしてくる。だから、というだけではないけれど、凛はほと んど独り言をつぶやくみたいに、小さく言った。 「船、見てたらさ。俺、思い出したことがあんだよ。昔のことなんだけどさ」  遙を見ると、彼はまだ遥かな沖合に目を向けていた。凛の話を聞いているようでもあるし、波音や風の音に耳を澄ましているようでもあった。 「親父が死んだあと、毎日海に行ったんだ。何をするのでもなかったんだけど。ランタンなんか提げてさ。暗くなるまで海にいた。それで…嵐が来た次の日にも海に行った らさ、おかしなことがあったんだ」  遙がこちらを見ないことをいいことに、一方的に語った。昨夜ふと蘇った、海での不思議な出来事の記憶を。  遙にこんなことを話しても仕方がない。誰かに聞いてほしかったわけでもない。でも、船の姿を探しているような遙の横顔を見ていると、ほろりと漏れだしてしまったの だ。  彼にとってはどうでもいい話。きっと聞いたからといって、何をどうしようとも思わないだろう。  そういう気楽さがもどかしい時もあれば、救われることもあることを知っている。 「あれは、一体なんだったんだろうな」  話終えると、心の中も随分片付いていた。昔のことだから、記憶はおぼろげだし、端から消えていくように心もとない。事実とは異なるところもきっとあるのだろう。  けれど、あの時、海に落ちそうになった自分を助けてくれたのは父だったと思いたがっている自分がいる。  どうしようもない、独りよがりの感傷かもしれないけれど。 「俺も、見たことがある」  遙がふと口を開いたのは、いくらか時を置いてからだった。ごくごく小さく呟くので、凛が語ったことへ返されたものだとはすぐに気が付かなかった。 「見たって、なにを?」  たずねると、遙は、「海が光るのを」と言った。 「一人で遊んでいる時に。海が、とても美しい碧色をしていて、水底まで透けそうだった。子どもの頃の話だ。あの頃はまだばあちゃんが生きていて、話したら、近づくな って言われた」 「どうしてだ」  遙は少しだけ横目でこちらを見て、すぐにまた海へと視線を戻した。 「死は、時々美しい姿で扉を開くんだって言ってた。小さかったから、よくわからなかったけど」 「そんなの…迷信かなんかだろ」 「そうかもな」  でも、と遙は言い添えた。 「お前の親父さんだったかもな」  不意に父の話に繋がって、けれども相変わらずタイミングはちぐはぐで、理解するのにひと呼吸、必要だった。けれど、遙が言おうとしていることは分かった。凛の気持 ちを汲んで、そう言ってくれたことも。  あの海での不思議な体験は、幼かったので、本当はどうだったかわからない。けれど、それでいいのだと思えた。父が、海に落ちそうになった凛を助けてくれた。そう思 いたければ思えばいい。遙のまっすぐな言葉が、不確かだった記憶をすとりと凛の中に収めてくれる気がした。 「…んじゃあ、そういうことにする」  素直にうなずくと、遙はちらりと意外そうな顔をした。朝の美しい海を前に、わざわざ意地を張る必要もない。  凛は頬をゆるめて、遙かに向かって言った。 「あっちまで走るつもりだったんだろ。行って来いよ」 「お前は?」 「俺は、足、こんなだし。散歩でもして戻るわ」 「じゃあ、俺も散歩する」  一緒に波打ち際を歩き出しながら凛は言った。 「ハル、お前、昨日はなんで怒ってたんだよ」 「べつに、怒ってない」  遙が小さな波をぱしゃりと蹴り上げる。その態度が、すでに、なのだが。 「いーや、むすっとしただろ。言いたいことがあんなら言えよ」 「べつにない」 「べつにって言うのやめろ」 「べつにって言っちゃいけない決まりなんかないだろ、べつに」  ついさっきまで、たどたどしくも心がつながったような、そんな気がしていたのに、もういつもの言い合いが始まってしまった。陸に上がると大概そうなってしまう。  はあ、とわざとらしく長いため息をついて見せると、遙はやや口を尖らせて、ぼそりと言った。 「…島に、行きたかったのに」 「行っただろ、真琴たちと」 「いや、行ってない。泳いだけど、すぐに引き返した」 「行けばよかったじゃねえか」  そんなに行きたい島があったのだろうか。 「お前も、連れて行きたかったのに」 ※このあと、二人で海辺を散歩して、微妙ななんだかそわそわする雰囲気に雰囲気になって、宿の手前で、みんなに会う前にハルちゃんが不意打ちでチューをかまして・・・みたいな展開でした。中途半端な再録ですみません・・・
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yoml · 7 years
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[翻訳] Pretend (You Do) by leekay #2
原文→
Pretend (You Do) by leekay
Chapter 2: A Tired Heart and A Face of Stone
「うそぶく二人」
第2章
疲弊した心と石の表情
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 バンケット会場に溢れる知り合いたちの顔ぶれを眺めながら、ヴィクトルは厳しい面持ちで立ちすくんでいた。ここに来れば、きっといつも通りの魅力を取り戻して、氷上で世界選手権6連覇に輝いた男として振る舞えるだろうと思っていた。ヴィクトル・ニキフォロフ。だけどそこに立ちすくむその姿は、彼がもうかつての彼ではないことを証明するばかりだった。
 疲れていた。ひどく、ひどく疲弊して、経験したことのないほどに傷ついていた。持ち得る限りの希望と、パワーと、そして愛を勇利に注いだはずなのに、それでもなお、十分ではなかったのだ。勝生勇利がこんなに自分勝手だなんて思わなかった。
 ヴィクトルが勇利の腕から手を離すと、まるで崖からすべり落ちるような心地がした。だけど頭を冷やすためにも、二人の間には距離が必要だった。勇利の心を確かめるように、ヴィクトルは勇利から一歩離れる。彼の決意が崩れないことが分かると、さらにもう一歩。「ヤコフとリリアに挨拶してくるよ。みんなのところへ……行ってて……すぐに戻るから」そう言って立ち去るヴィクトルの動きが、二人の仲をさらに引き裂いた。
「ありがとう、ニキフォロフ」
 牙をむいたような勇利の声に全身がひるみ、ヴィクトルは思わず振り返りそうになったが、顔にかる銀髪で感情に燃える目を隠しながらその場を離れた。彼の名を、その偉業を知る人たちの間を無心でかすめるようにして、会場をジグザグに歩く。動くたびに頭がずきずきして、ヤコフとリリアがどこにいるのかすら分からない。とその時、強く伸びた手がヴィクトルの動きを止めた。
「ヴィクトル」耳慣れたロシアの妖精の声。
「ユリオ」と返す声には、この数週間感じられることのなかった明るさが表れていた。ヴィクトルは青年のなめらかな髪をくしゃくしゃっといじり、陶器のような顔がゆがむのを面白がった。ユーリがロシア語で悪態をつくと、ヴィクトルは久しぶりに、陽気な心から湧き出たような声でくすくすと笑った。
「金メダルをかっさらった豚は一体どこにいる?」
 お決まりの毒舌を聞くと、世界が少しだけ元通りになったように思えた。ヴィクトルは微笑み、その笑いが自然と出てきたことに自分で驚いていた。
「バーじゃないかな」とヴィクトルは答える。
「ちゃんと見てなくていいのかよ。去年の二の舞なんてごめんだぜ?」とユーリは顔をしかめる。昨年の勇利の泥酔っぷりは、一昨年のそれよりさらに悲惨だった。ほぼ全裸の状態で、バンケット会場に聞こえるような声で、今晩ヴィクトルとどんな夜を過ごすか事細かにしゃべりながらシャンデリアからシャンデリアへと小躍り。ヴィクトルはそのあと何日も、恥ずかしさとそれ以外の別の感情でずっと赤面しっぱなしだった。
「勇利なら一人でも大丈夫だよ」――そうであって欲しかった。
 ユーリはまるで信じちゃいないといった笑いを返すだけで、それについてはそれ以上何も言わなかった。
「で、いつ入籍すんだよ」
 
Never.
「それが、思ったよりも複雑でね」ヴィクトルはユーリから目をそらす。
「楽園にも問題が、って? ニキフォロフ」
 ユーリはいつもナイフのように鋭い。二人は彼が10歳のころからの知り合いだし、となれば当然、口ごもるヴィクトルの様子にも気付いてしまうのだ。
「いや……そうじゃなくて……。ちょっと法律がね、思っていたよりも面倒なんだよ」
 ユーリはヴィクトルをにらんで眉をひそめた。急にヴィクトルは、自分がこの青年よりもどれほどに年をとっているか気付かされた。初グランプリファイナルからの2年間で、ユーリはまたひとまわり背が伸びて、髪は少し暗くなり、人生をかけてトレーニングを積んできたことを物語るような筋肉が付いていた。もちろん、細いあごにはうっすらとしたものも見え始めている。
 ヴィクトルは自分がしばらく黙り込んでいたことにハッとした。が、そこにタイミングよく、ユーリの親友であるオタベック・アルティンが現れた。ユーリの腰に手を回したオタベックは、ヴィクトルに気付くと少し顔を赤らめた。
「オタベック、また会えてうれしいよ」
「こちらこそ。もうすぐ結婚だって聞いてる、おめでとう」
「ああ、そうだね……」
「まじかよ」ユーリがヴィクトルが答える前に口を挟んだ。「誰かかつ丼を止めろよ。もう2杯は飲んでんじゃね? あの連中じゃ役に立たねえよ」
 ヴィクトルは仲の良い友人たちに囲まれている勇利の方を見た。表面上は仲間同士の祝宴に見えたけれど、にも関わらず彼はなんとも言えない不愉快さを肌に感じた。
「俺かな」と、ヴィクトルは自分で思ったよりも穏やかな声で笑った。
 勇利の方に近づくにつれ、会話の断片が耳に届く。
「それだけじゃないでしょ……」「ゆうりぃぃぃ、もう一杯……」「……大丈夫?……」
 勇利のそばまで来ると、ヴィクトルは彼が唯一考えられたことをした。そっと近寄って勇利の腰に手を回し、輪の中に割って入ったのだ。一瞬だけこわばった勇利の身体は、ヴィクトルの腕に抱かれてすぐに力が緩まった。二人の心から、何かがこぼれ落ちる。
「みなさん失礼! フィアンセにちょっと話があるんだ。あとで構ってあげるからね」
 ヴィクトルはできる限りユーモラスに冗談っぽく笑って手を振ると、勇利を部屋の隅へと引き連れていった。
「ありがとう」とヴィクトルの目を見てささやく勇利。決して見返してはいけない。かつてばかみたいに愛した、そしてもう二度と愛さないと心に決めた、彼のその目を。
 ヴィクトルは、二人があやうく触れ合わないように距離を保った。「君があの場をどう乗り切るか、不安だっただけだ。またあんな状況になる前に、話をちゃんとすり合わせておこう」
 勇利の表情が曇り、「わかった」とそっけなく頷く。
「ちょうどさっきユリオに会ったんだ。法的な問題がやっかいだって話にしておいた。もしまた何か聞かれたら、君は雑務を片付けて両親に会うために実家に戻らなくちゃいけなくて、その間俺はロシアで結婚する可能性があるか考えるために向こうにいるってことにすれば……」
 勇利はすっと息を吐いた。
「ヴィクトル、もうそんな話やめよう。本当のことを言えばいい」
そう言われるのを、ヴィクトルは初めから待っていた。この大げさな芝居を正当化しようと、彼は肩を怒らせて口論に身構えた。が、勇利の目を見てしまうと、ヴィクトルの心はまたも打ち砕かれるのだった。
「勇利」
 こんな状況になってから初めて、ヴィクトルはちゃんと勇利の名前を呼んだ。「今はそんなことを話している元気がないんだ。こんなところで口論したら、すぐにみんなが噂する。疲れているんだ。君に言われたように、疲れ切っている。頼むから、君がぴかぴかの新コーチと金メダルを持って長谷津に戻るまでは、せめて俺の思うようにさせてくれないか」
 勇利は茫然と口を開け、目を見開いた。ヴィクトルは勇利がよっぽどつらい夜を送っていたことも知っていたけれど、もう後悔する気力すらなかった。罪悪感を覚えることにも、眠れない夜を過ごすことにも、骨が軋む痛みにも、すっか��疲弊しきっていた。勇利の褐色の瞳に映る、観客を驚かせようと身を粉にして抜け殻のようになった自分自身を見るたびに、心底うんざりした。彼は、尽きていたのだ。
「ヴィクトルは何もわかっていない」と勇利はつぶやく。「いいよ、そのゲームに乗ってあげる。それで今回も、僕が勝つから」 勇利は二人の距離を詰めると、アルコールで火照った唇をほんの一瞬だけヴィクトルのそれに押し付け、そして立ち去った。その熱はヴィクトルの皮膚へと移り、静脈をつたって体内に広がっていった。
 勇利がバーへ戻り、細い2本の指でドリンクをオーダーするのを彼は見つめていた。琥珀色のグラスが二つ、勇利の前に差し出されると、彼は立て続けに飲み干した。周りを囲む友人たちが盛り上がり、3杯目をけしかける。それはまるで、赤く光る自己崩壊ボタンが押されてしまったのを見ているようだった。
 ヴィクトルは少しの間目を閉じて、深いため息を吐いた。このゲームは二人でやるんだよ、勇利。
 疲労感を押しやって、ヴィクトルも元婚約者の後を追い、バーでダークラムのショットを注文した。喉元を通るそれは、シロップのように濃くて甘い。身体が温まり、肩の力が少し和らいだ。気まぐれにもう一杯頼むと、グラス越しに勇利の目を見つめた。かつてなら心もときめいたであろうこんな瞬間も、今は二人が交戦状態にあることを思い出させるだけだった。勇利の目は、怒りに燃えていた。
「ようやくパーティーに現れたね、ニキフォロフ」
 そう声をかけたのはクリスだった。
「俺のことを知ってるだろ、いつだってちょっと遅れるくらいがいいんだよ」と、ヴィクトルは肩を寄せてウィンクとともに答える。
「ていうか、ただの遅刻だろ」ユーリが割って入る。ユーリは勇利の肩を、握ったグラスが手から離れそうになるくらい強くぴしゃりと叩き、忠告した。「そのへんにしとけよ、かつ丼。また半裸でシャンデリアにぶら下がるとこなんて誰も見たくないぜ」
 勇利はアルコールくさい笑いを立てて、「ヴィクトルは見たいかもよ」と酔った目に皮肉の笑みを浮かべて言った。
 二人は思ったよりも近くに立っていた。ほんの少し歩み寄るだけで身体が近づきそうなほどに。アドレナリンか、あるいはアルコールのせいか、ヴィクトルは勇利の首の後ろに手を回して、「そうだね」と勇利の柔らかな肌に向けてささやいた。みんなにも十分聞こえるくらいの声で。世界中が知っているように、ヴィクトルはいつだってパフォーマーなのだ。
 ヴィクトルに触れられると、だけど勇利はもうだめだった。ぎこちなく目を閉じると、二人の破滅的な関係のことなんて忘れそうになる。顎を向け、小刻みに震えながらヴィクトルの首元を見つめる。ヴィクトルの心は葛藤していた。ゲームに勝つ満足感と、苦いノスタルジー。こんなにも近くで勇利を抱くことはもう二度とないのだ。この近さなら、あと少しだけヴィクトルが体を屈めさえすれば……
「うわっ! やめろよ胸クソわるい」 ユーリがブーイングを漏らす。
 勇利は驚いたように目を開くと、慌ててヴィクトルから身を離した。裏切られたような気持ちを隠すかのように顔をしかめる。ヴィクトルの目の奥が熱くなる。勇利は厄介事から逃れるようにヴィクトルから距離を取る。ヴィクトルはさらにショットを頼むと、溶けた金属みたいなラムを胃に流し込んだ。
「とにかく」とユーリが話題を変える。「そろそろディナーが始まるぜ」
 まさにその時、スピーカーからアナウンスが流れた。「間もなくバンケット開始のお時間となります。お料理をお持ちしますので、みなさまテーブルにご着席ください。どうぞ楽しい時間をお過ごしくださいませ」
「超能力だな」とユーリはニヤリと笑う。
「サイコだからねぇ」ヴィクトルがジョークを飛ばす。その頬と首元は、ラムでほんのり色づいていた。
 彼らは割り当てられたグループごとに席に付いた。テーブルは12人掛けで、6人のファイナリストとそれぞれのコーチ。ただし、ヤコフはヴィクトルとユーリの両方のコーチだし、ヴィクトルは勇利のコーチだから、数はきっちり12ではない。
 席順は決められていなかったが、彼らは自然とコーチ陣と選手陣に分かれて席に付いた。勇利はJJとスンギルに挟まれて、ヴィクトルの向かい側に座った。ヴィクトルはクリスとヤコフに挟まれて、コーチ陣と選手陣の境界に。ヴィクトルはテーブル越しに、勇利が自分を避けていることを感じとった。
 シャンパンが運ばれ、歓談とともにこの先だらだらと続くディナーがはじまった。ヴィクトルはマッシュルームを皿の端によけながら、勇利とJJの会話の断片を拾いつつ、クリスとヤコフが繰り広げる昔話を聞いている振りをしていた。
「それで勇利、ついに金メダルを掴んだわけだけど、来シーズンはどうするんだい」
 ヴィクトルの視線がさっと勇利に注がれる。すでに空になったグラスが3つに、手にはシャンパンが半分残ったグラス。姿勢は乱れ、目もさらにとろんとしてきている。これはすぐに酷いことになりそうだ。
「えっと……まだちゃんと決めていないんだ。ヴィクトルはロシアに戻るから、とりあえず僕は長谷津に引っ込むかな」
「勇利!」とヴィクトルは思わず口を挟む。「その……あ、マッシュルームいる? ほら、俺嫌いだから……」勇利とJJがヴィクトルの方を向いた。勇利は目を曇らせ、少しとまどった面持ち。自分が下手くそなカットインをしていることくらい、ヴィクトルにもわかっていた。
「ヴィクトル! 勇利はこのまま日本に残るんだって?」JJの声にテーブルの目が一斉にヴィクトルに向けられた。
「勇利も日本でやることがいろいろとあるからね、ご両親に会ったり……」
「ヴィクトルが僕に愛想を尽かして、日本に送り返すんだよ」勇利がぼそっとこう吐き捨てると、テーブルの何人かがくすくすと笑い、ヴィクトルは笑顔をこわばらせた。
「そんなわけないだろう、勇利」と言って、ヴィクトルはテーブルの向こうにいるかつての恋人と視線を合わせた。意地悪そうに光る目と、固く結ばれた口元に浮かぶ挑戦心。それはもう、ヴィクトルの知っている勇利ではなかった。
「で、結局来年はどうするんだい? 海を隔てて勇利のコーチを務めるなんて無理だろう」とJJ。
「ヴィクトルはもうコーチをしない」と、勇利は考えるより先に言葉を返した。ヴィクトルは黙ったままで、テーブルに気まずい雰囲気が広がった。彼らの見え透いた演技がばれていく。
「日本にいても――」ヴィクトルが慌てて訂正した。「勇利はひとりでちゃんと練習できるって信じている。それに、少し休みが必要だ。もうずっと頑張ってきたからね」
 一瞬、テーブル越しに二人の目が合った。ヴィクトルは勇利の目の奥に、動く何かを見た気がした。それはきっと、自分の目にも映っている。そして勇利は顔をそむけた。
「カツキのそばにいてやってもいいんだぞ、ヴィーチャ」とヤコフが提案した。そこで初めて、ヴィクトルはテーブル中が二人の会話に注目していたことを知った。スポットライトを浴びた、うそぶく二人。それはまさに、ヴィクトルが避けたかった状況だった。首元が苦しくなって、ヴィクトルはタイを緩めた。
「ロシアでやりたいこともあってね。来シーズンのことを考えたり、家族にも会いたいし」
「世界選手権6連覇の君にも休みが必要だしね」とクリスが穏やかに声をかけた。心配げに見つめる旧友の目を見たら、その友情にヴィクトルのこわばった表情は少しだけほぐれた。どうしようもない状況の中でも、決して変わらないものがあるのだ。
「俺なら大丈夫だよ、でもありがとう」ヴィクトルはやさしく答えた。
「いや、俺はただ……このまま燃え尽きたくはないんだろうって……」 そのセリフを聞いた途端、ヴィクトルは感情が溢れそうになって目を見開いた。クリスの声が遠ざかる。それはそっくりそのまま、あの日勇利が放った言葉だった。ヴィクトルを眠れない夜に陥れた、あの言葉。
「俺は大丈……」
「僕もそれが言いたかったんだよ」 勇利が口を挟んだ。「だけどヴィクトルは聞こうとすら……」
「大丈夫だって言ってるだろう! 俺は大丈夫なんだ。頼むから俺が燃え尽きるなんて話はやめて食事に集中してくれないか」
 テーブルが静まり返った。何人かが咳払いをして、目をそらした。向かい側に座る勇利の顔は、石のように冷ややかだった。
*******
 デザートが終わると、勇利は席を外した。よろめきながらトイレに向かい、個室に入ると鍵を閉めて座り込んだ。酔っぱらうのはきらいだった。またこんなところで、トイレに座って泣いたりなんてしたくなかった。静かに溢れ出る涙が、ペールブルーのスーツのベストを濡らしていくのを、彼は止めることができなかった。
 誰かがトイレに入ってきた気配がして、勇利は泣き声を殺した。低く口笛を吹いている。こらえきれない嗚咽が漏れて、トイレ中に響いた。口笛が止む。
「おいカツ丼、いるんだろ?」 個室の前で声がする。ユーリがトイレで泣く勇利を見つけるのは、これで2度目だ。
「違います……」 と鼻をすすりながら答えるその声は、彼の哀れみを10倍にも増幅させた。
「バカなこと言ってねーで出てこいよ豚」
 仕方なく勇利はドアを開けた。二人してあの時の出会いを思い出す。あれから一体どれだけのことが変わり、そして変わらないままであることか。
「何があったんだよ?」 同情よりも苛立の混じったユーリの声は、同時に勇利が信頼できる何かをも孕んでいた。
「別に」
「ふざけんなよ、あんなディナーの後でよく言うぜ。お前もヴィクトルも明らかに変だろ。何しでかしたんだよ」ユーリの顔はほんの数インチしか離れていなくて、勇利の顔に息がかかった。呼吸すら感じられる。勇利よりもずっと落ち着いて、自信に満ちた、年下の呼吸。
 勇利は深く息を吐くと、ことの次第を話しはじめた。
**
※作者の了承を得て翻訳・掲載しています。
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buriedbornes · 7 years
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ショートストーリー「終焉の序曲(2) - 蝕まれたもの」 - Short story “Overture of the end chapter 2 - Falling kingdom”
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人々の心の支えたるべき荘厳な礼拝堂も、近頃は足を運ぶ者も少ない。
「屍者に隣国が蹂躙され、滅びた」という事実は国中に暗い影を落とした。
信仰は、命を保証しない。
祭壇の前には、一人の女がうずくまり、無心に神への祈りを捧げている。
その様子を、背筋を正し長椅子に腰掛けた聖騎士が見守っている。
「王も王妃も、姿をお見せにならない。体調を崩されているそうだが…」
女性は答えない。
その肩は小刻みに震え、何かに怯えるように縮こまっている。
「残された時間は、思っているよりも少ない。何か、手立てを見つけないと…」
「私、怖いんです」
僧侶は、震える声で答えた。
聖騎士は動じない。
言葉を発する前から、僧侶の怖れは伝わってきていた。
とはいえ、どのような言葉をかけたら良いかが、わかるわけでもなかった。
返事を待ち切れず、僧侶は続けた。
「…こんなにも唐突に、世界は終わってしまうのでしょうか」
「そんな事は、私がさせない」
「でも、神が遺された予言と言われているのですよね」
「…そう言われているが、私には信じられない」
「神が残されたものであるなら、その予言を信じるのも信徒の勤めなのでしょうか」
聖騎士は、祭壇を見上げた。
慈愛の笑みを零す女神の尊顔が、あまねく人々を見下ろしている姿が、虹色に煌めくステンドグラスで表現されていた。
しかし、今はその笑顔さえも、どこか不吉で、また無責任にさえ感じられる。
「しかし、本当にそうなのだろうか?『いつか全ての信徒が、神のおわす国へと導かれる』という、教義と矛盾する予言だ」
「私、たとえ神のご意思であっても、死にたくないです…」
その言葉に聖騎士は向き直った。
あれほど気丈だった、信心の厚かった彼女が、もはや見る影もない。
しかし、たしなめる言葉も、背信であると咎める言葉も、励まし支える言葉も、空虚でしかないと感じ、口には出なかった。
代わりに出たものも、所詮は虚勢の言葉だった。
「教義のためなら、私は、いつでも死ぬ覚悟だ…」
「私は軍人じゃない!怖いんです、戦うのも、死ぬのも…」
神など、いない…
異端者に受けた言葉に激昂し、その者をいたぶった苦い過去が脳内に去来した。
今、その言葉が彼女達の背に重くのしかかっている。
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教会や礼拝堂には、古い文献が収められている事が多い。
歴史的な価値や、教義の伝搬、そして単純に学習を提供する役目を担っているためである。
夕日差す図書室の座席に戻ってきた聖騎士は、重い兜を傍らに置き、上半身の甲冑だけを向かいの机上に無造作に放り、また調査に没頭し始めた。
護身のために大剣だけは、手元に立てかけたままにしている。
無数の資料を取り散らかしたまま、手当たり次第に手繰っていく。
ここ数日で、どれほどの資料に目を通したか知れない。
それでも未だに、めぼしい情報のひとつも見つけられず、彼女の中に苛立ちは募るばかりであった。
「"未知の軍勢が、街と言わず城と言わず、全てを飲み込んでいった"…」
報告書に改めて目を通しながら、背筋の凍る感覚を覚える。
明日には、あるいはこの夜にでも、愛すべき故郷たる我が国にも、この軍勢が押し寄せるかもしれないのだ。
死が迫る切迫したこの状況をどうにか打開する方法を見出す事こそが、目下危急の課題である。
聖騎士団の内でも混乱が生じており、どのような対策を講じるべきか、意見が分かれている。
徹底抗戦のために防戦の準備を進める、謎の軍勢の出処を掴む、屍に鎮魂をもたらす術を探る、等…
ただ、問題の軍勢がもはや姿が見えず、亡国に徘徊するのは死した国民のみという状況で、手がかりひとつなく、ただ次の襲撃の可能性に惑い、震えるしかない。
彼女もまた、そうした聖騎士団の中にあって、藻掻き続ける者の一人であった。
しかし、彼女には他の者にない特殊な役割があった。
教会の剣として監視者の任を負ってから、彼女は研究棟と礼拝堂、そして図書室を行き来する日々を送っていた。
魔導師達の動向を監視し、祈りを捧げ、あてのない打開策を求めて様々な文献に目を通す。
だから、他の聖騎士達なら確実に素通りしていたはずの情報に、彼女は資料を手繰る指を止めた。
ここ最近起きた事件、事故、死亡者の目録の中に残された記録。
『鉱山から、古い装いでありながら新鮮な死体が見つかった』
数ヶ月前に見かけた、異様な、そして忘れ去られた事件。
『未知の軍勢』『古い装いの屍体』『犠牲者の屍が蘇った』『最も古い予言』
これらが符合する何かを、確認する術を聖騎士団は持たない。
しかし、古術や古代の記録も取り扱う、禁忌なき研究に携わる者なら、このつながりを紐解けるのではないか?
この屍体を彼らの目に通せば、今回の事件に関して、何かがわかるのではないか?
確証はないが、彼女には見過ごせない、何か胸騒ぎのようなものをこの記録に感じ取った。
そうして、資料もそのままに、鎧を身に着けて再び図書室を後にした。
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まだ明け方近くに、静まり返る街中で一人馬を静かに駆って荷車を動かす者の姿があった。
湖畔に面した港は朝靄に包まれ、朝日は曇り空に隠され、街は月夜のように薄ぼんやりしている。
港近くの塔の麓へと着いた馬は、いななきを上げて停止した。
馬の主は縄も繋がずに荷車から大きな荷物を肩に抱えて、部屋へと駆け込んでいった。
「邪魔するぞ」
人目を忍ぶために覆っていたフードを脱いで、聖騎士は挨拶しながら荷物を部屋の片隅に横たえた。
「…おはよ、今日は早いじゃない」
まだ寝ぼけ眼の魔女の傍らで、無数の猫達が主を起こすために鳴き声を上げている。
「もういいよ」
魔女の一声に、猫達は一斉にその声を止めた。
椅子に座ったまま眠っていたのであろう、彼女は大あくびと伸びとを終えてから姿勢を聖騎士に向け直した。
「…で、何?そのデカい荷物…」
「これが、何かの鍵になるかもしれない」
そう言いながら、聖騎士は荷物をくるんでいた布を丁寧に剥ぎ取った。
布の下から、土気色をした古風な兜と、その屍者の顔が顕になった。
それを目にした瞬間、直前までの気の抜けた魔女の顔に緊張が走り、机に立てかけた杖に手を伸ばし、左手で空を払うと、周囲にいた使い魔達が蜘蛛の子を散らすように部屋からいなくなった。
「…どこでこれを?」
「聖騎士団で保管していたものだ。数ヶ月前に、話題になっただろう。鉱山から、古い装いの屍体が…」
「すぐにこいつを破壊して!!」
次の瞬間、屍体は突然跳ね上がったかと思うと、近くに立っていた聖騎士を左腕で強かに打ち付けた。
ただの拳であったが、鎧はひしゃげ、聖騎士は薬棚に叩きつけられると、引きずられるように床に落ちた。
「な…ッ!?」
「なんてものを持ってきたの!?これは、まだ生きてる… 生ける屍よ!!」
魔女はそう言うと、詠唱を始めた。
布が完全に剥ぎ取られ、古風な兵士の屍体…生ける屍は、倒れもがく聖騎士を尻目に見つつ、魔女に向き直った。
(何故私のトドメを刺しに来ない?魔女を優先した?…理解しているから?)
頭を強く打ち朦朧とする意識の中で、聖騎士はその動く屍体の意図に思いを巡らせた。
生ける屍はその体で退路を遮りつつ、ジリジリと壁際へと追い詰め、やがて魔女の背に上階に向かうはしごが触れた。
逃げ場が完全になくなった事を確認したのか、屍体は跳躍し、両拳を振り上げて魔女へと飛びかかった。
「底が浅いわ!!」
次の瞬間、書物や薬瓶が乱雑に置かれた地面が白く瞬き、爆音と共に稲妻が中空にある屍体を貫いた。
電撃に囚われ、屍体は床に倒れ伏し、置かれていた物が弾け飛ぶ。
その下には、あらかじめ描かれていた魔法陣が姿を現している。
電撃を発した魔法陣は、黒く燻り、光の紋様がやがてただの炭の跡になった。
しかし、屍体は腕をついてもう立ち上がりつつある。
聖騎士はその様子を目の当たりにしながら、腕に深々と刺さったガラス片を抜きながら立ち上がろうとしている。
「悪いけど、せっかくだし資料になってもらうから… バインド<<呪縛鎖>>!!」
詠唱を終えた魔女が杖を高く掲げると、壁にかけられてあった鎖という鎖全てが独りでに動き出し、みるみるうちに屍体を包み込んだ。
屍体は、まるでミイラのように鎖に縛られた鉄の塊になり、身動きが取れない状態になった。
「こいつを、湖底へ!!」
聖騎士は頷くと、猛然と鎖の塊へと駆け出し、そのまま肩からタックルした。
鎖の塊は真横に吹き飛び、木板で閉ざされていた1階の窓にぶち当たり、窓を突き破って港の路地裏、小さな波止場に転がり出た。
突然の爆音や窓を突き破る音に、周囲の通りにざわめきが聞こえ始めている。
聖騎士は破れた窓から飛び出て、横たわった鎖の塊を今度は全力で蹴り込むと、再び屍体は湖面に向けてボールのように吹き飛び、波止場から少し離れたところに水音を立てて落ちた。
しばらくすると、建物の周りには爆音に目を覚まされた近隣住民が集まり、何事かと野次馬の人だかりが出来上がった。
魔女は帽子を脱いで戸口に立つと、作り笑顔で聴衆に応えた。
「ごめんなさい、朝ごはんを作っていたら、散った小麦粉に火がついてしまって…」
人々が部屋の様子を覗き込むと、数々の冒涜的な書物や薬瓶など姿なく、片隅に味気ない調理道具が幾つか転がっているだった。
「なんだい、お嬢ちゃん。気をつけなきゃあ駄目だよ」
「えぇ、聖騎士様がいらしていたので、張り切ってしまって…」
魔女は恥ずかしそうに後ろに目をやる。
その先では埃にまみれた聖騎士が鎧を手で払いながら何気なさそうな顔で割れた窓や木板を拾い集めている。
「そうか、聖騎士様がご一緒か。それなら、安心だ。特に報告もせんが、何かあったら、手伝ってあげるから、おじさん達に声をかけとくれ」
「ありがとうございます、おじ様。また、焼き立てのパイをお持ちしますわ」
そう言って朗らかに微笑み、しゃなりとお辞儀を返すと、まんまと騙された民衆は皆鼻の下を伸ばしながら去っていった。
「…随分周到な手際だな」
民衆が去ったのを確認すると、聖騎士は手に持ちかけた木片を放り出し、壁にもたれて座り込んだ。
折れた肋骨と深々と切った腕の痛みを押し殺して、咄嗟の魔女の演技に乗ったが、痛みやダメージがなかったわけではない。
「私は師匠と違って、実践派なのよ。聖騎士団の手入れに備えて、色々準備しといたのが幸いしたわ」
聖騎士は苦笑いを噛み殺しながら、自らに施す治療魔法の準備を始めた。
どこからか、小物を各々口にくわえた使い魔達が、ゆっくりと集まり戻ってきて、隠していた物を部屋に運び込んできていた。
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その日の夜、山が投げかけるほのかな明かりが映る湖面には、二人が乗る小舟も映っていた。
二人は並んで座り、鎖の塊が沈んだ水面を見下ろしていた。
「アレは、なんだったんだ…?」
「生ける屍… 屍体を術で操って、使役する業よ」
「それなら見たことがある。征伐した異端者どもが使っていたが、だがアレは…」
「そうね、異端の使うそれともまたちょっと違う、アレはただの生ける屍と呼べる以上のものだった」
魔女は指先で毛先をくるくる丸めながら思案している。
「本来の"屍者使役"は、死んで崩壊寸前の屍体、あるいは崩壊済みの骨を使うの。でも、あの屍体は古臭い装備に似合わず瑞々しい屍体だった、しかも屍者使役とは思えない機敏さと思考…」
「そう、それだ。気になっていたのは」
聖騎士は膝をぽんと叩いた。
「あの屍体は、どこかおかしかった。これまで対峙した、どんな屍体とも違った」
「そうね… あの屍体は、どこかとつながっていたのよ」
魔女は船上であぐらをかいて、前後にゆらゆらと揺れ始めた。
これが考え事に没頭している時の仕草である事を聖騎士は知っている。
「"どこか"?」
「まず前提としてね、通常の屍者使役は、空いた器にそれを操縦する使役霊を入れて使うのよ。で、使役霊に命令を与えて、動かしてもらうわけ。魔法人形操作なんかもそう。」
「ふむ」
「でも、アレは違った… 例えるとそうだな、えーと、紐が見えたのよ。どす黒い、縄みたいな、紐なの。それが、命綱みたいにつながっていた… あれはまるで…」
「紐?今は?」
「切れてないわ。水と鎖の外に出せば、多分また動き出すと思う。でも、届いてもいないわ。今は。そうしようと思って、沈めたのよ。水に」
「水に沈めると、止められるのか?」
「そうじゃあないわ、なんて言うのかな… 使い魔!そう、使い魔!私のは、なんだけど、高度な使役術は使役霊に力を借りるんじゃなくて、自分の霊体そのものを直接対象物に入れるの」
「自分自身を!?」
魔女は嬉しそうに頷いた。
「んでね、自分の霊体を切り出して、本体とのつながりを保ったまま、私自身の意識を埋め込んで、自分自身がその子自身になっちゃうの。だから、座ってる私と、飛んでる子と、走ってる子と、荷物整理してる子と… たくさんの私になるの」
「そんな事が、出来るのか…?」
「たくさんの子を一度に使役しようとする時は、この方が効率が良いのよ?使役霊だと一人ひとりのご機嫌を伺わないといけなくて、それがもう超めんどくさくてサ!文句言う子の面倒見てたら他の子が言う事聞かなくなっちゃう事もあるし… その分、自分の霊でやれば、思いのままなの。たくさんでやると集中力要るからお腹減っちゃって、おかげで最近ずっとおやつが増えちゃったんだけど…」
「…あの、すまん。話が逸れてる」
「あ、ごめんね!えーとだから… どこまで話したっけ?えーと… つまりね、そうやって自分の霊を直接のつながりを保ったままで使役するやり方は、"気の隔絶"��弱いのよ。」
「それが、水?」
「うーん、めちゃくちゃ分厚い水の層だとか、密度の高い鉄の箱だとか。使役霊だと一度お願いすればそういう隔絶があっても少しなら大丈夫なんだけど、自分の元の肉体とつながりを保つやり方だとその"つながり"が途絶えるとうまく伝わらなくなっちゃうの。だから、魚の直接使役は難しいって言われてるんだけど」
「…隣国を滅ぼした軍勢が、この水底にいる連中と同じだとしたら?」
「…まさか、でしょ?」
魔女は、しかめた顔を上げた。
「確かに、屍体に霊魂をつなぎ続けてさえいれば、その肉体が崩壊させようとする力… 例えば、風化や腐敗に抗える。だから、いつまででも"死にたて"の肉体が維持できる。でも、その理屈で言ったら、あの古代人が、今の今まで霊体をつながれっぱなしだったって事に…」
自分で話しながら、得心していく。
聖騎士は、既に確信していた。
最も古い予言、屍者の軍勢に滅びた国、霊体をつながれたまま出土した屍体。
判明した全ての事象が、予言されたものの存在を示唆している。
魔女は、呆れたように脱帽して、片手で顔を覆った。
その表情は、辛辣そのものである。
「無茶苦茶よ。無茶苦茶だけど、そう考えるしか、ないって事、よね…」
「現在に至るまで生き永らえる何かが、あの鉱山に隠れて屍者を操っていると考えるのが、妥当という事だな」
「…あの、鉱山…?」
魔女の視線は、水面に向かった。
光が、消えていく。
ぽつり、ぽつりと。
目線を上げると、山の斜面に見える村々の仄かな明かりが、ひとつまたひとつと、消えていく。
その闇の波は徐々に、音もなく広がっていく。
やがて、その波の中に蠢く影がちらほらと見え始める。
続けて、遠くの方に響く、悲鳴や叫び声が、霧烟る小舟へと届いてきた。
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城下の波止場から小舟で乗り付けた聖騎士は、すぐさま城内に兵達に警鐘を鳴らした。
「すぐに城門を閉めさせろ!!」
指示を出しながら、城内を駆け、自身は王の寝所へと向かう。
王や王妃の身辺に、既に危険が及んでいる可能性もある。
螺旋階段を駆け上る途中、塔の窓からは山際から湖畔沿いに侵攻するものと思しき軍勢の影が見えた。
時間がない。
塔の最上階へ駆け込むと、扉を開け放って叫んだ。
「陛下、すぐに船へ…!」
しかし、畏れ多くも駆け込んだ寝所に、王も、王妃の姿もない。
体調が優れず、休んでいたはずでは?
この状況下で、どこへ?
既に何者かが?
二人とも?
一瞬の内に思考が巡る。
そこに、爆音が響く。
音の距離から、湖畔から離れた城下町正面の門に、何かが着弾したものと思われる。
「陛下…!」
踵を返した先、下り階段の前に魔導師が待ち構えていた。
「陛下は、戦場へ向かわれた」
「貴様何を企んでいる!?」
「これは、陛下が望まれた事… 避けられぬ戦を知り、自ら民を守る事を選んだのだ」
言葉の代わりに、剣が走った。
しかし、振り抜いた先に男はいない。
振り向けば、扉の向こう、王の寝台の傍らに、魔導師は佇んでいる。
さらに、背後で再度の爆音。
続く金属音やとめどなく響いてくる破壊音、喚声。
聴こえてくる騒音は、城門近くで戦闘が開始された事を物語っている。
「くっ… お前の戯言に付き合っている暇はない!」
聖騎士は、魔導師を無視して階段を駆け下りていった。
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聖騎士が駆けつけた先は、地獄絵図に成り果てていた。
踏み潰されバラバラにされ燃え盛る屍体があちこちに転がっている。
城門下に面した多くの建物が、まるで子供がおもちゃの山をなぎ倒したかのように雑然と崩れ、粉々に壊されている。
市内で最も大きな老舗宿も、真上から巨大な岩石を落とされたかのように中央にひしゃげ潰れている。
一体どんな生き物であれば、このような破壊を尽くせるのか?
生存者を、そして斃すべき仇を求めて駆ける聖騎士の眼前に、巨大な、蒼白な姿が映った。
天に聳える双頭の巨人が、屍者の群れを、掴み潰し、殴り潰し、あるいは持ち上げて喰らい、蹂躙している。
どこから現れたものなのか、その巨人は、山岳から湖畔を迂回して暗闇を行軍してくる軍勢に立ちふさがり、城門を守って戦っている。
門前で暴れまわる巨人に近づき、見上げた聖騎士は、その顔立ちを見て、その巨人の正体を、理解した。
たとえ大きく膨れ上がり2つに増えようとも、その顔立ちを知らぬ者はこの国にはいない。
間違えようのない、面影。
失われゆく王、失われゆく国。
聖騎士は、つぶやいた。
「陛下…」
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~つづく~
終焉の序曲(3) - "Buriedbornes” (執筆中)
「ショートストーリー」は、Buriedbornesの本編で語られる事のない物語を補完するためのゲーム外コンテンツです。「ショートストーリー」で、よりBuriedbornesの世界を楽しんでいただけましたら幸いです。
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hitodenashi · 6 years
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24/青い鳥小鳥
(しょたろぎとちびゆきの話)
(※CoCシナリオ「ストックホルムに愛を唄え」のネタバレがあります)
 晴れた空はつきぬけるほどにたかくまで、あおくふかく、ほかのどんないろもゆるさないといいたげに、りんとすみわたっていた。いえいえのあいまに、木のこずえに、どんなところにもぎんいろをした、雪がふり満ちている。まるでそれらは、鏡をくだいて、そのかけらひとつひとつをふりまいたようにきらきらとさざめいて、ゆらいで、うたっている。
 幼いこどもの目には、眩暈を覚えるほど、眩しい風景だった。  明るくて、美しくて、――救いようがないほど、冷たい世界だった。
 未明、東京には珍しく、雪が降っていた。水をあまり含まない、ぱさぱさした雪だった。静かに、しかし確かに体積を町に埋め続けたそれは、夜のしじまでは物足りないと言わんばかりに、町の音という音をむさぼり尽くし、たった一夜のあっという間に、世界を真っ白に塗りつぶしたのだった。  とはいえ、都内の人の営みは、それらを厄介に思ったり足止めを食らったりすると言え、こんなもので遮られるほどにひ弱でない。朝も早い時間から、アスファルトの上に降り積もった白はその大多数が踏み潰され、びちゃびちゃに湿り、踏み固められた靴跡や轍が幾つも残っていた。  自宅から離れた、それなりに閑静で大きな家がたくさんあるこのあたりでも、車が通れるくらいの大きさの道路には、雪はもう殆ど残っていない。薄い残雪は、水分で溢れており、夜に冷え込んだらきっと氷になるのだろう。  黄色と緑の両目が、アスファルトを伝う雪水をぼんやりと見つめていた。
 空木晴は踏み荒らされた雪の合間を縫って、わずかに残された綺麗な雪のかけらを丁寧に丁寧に、集めて歩いていた。両の手に抱える程の雪が留められていた。彼は、雪だるまを作りたかったのだ。  誰のためと言うわけではない。ただ、雪が積もってする遊びといえば、彼の中にはそれしかなかっただけのことだった。  最初、家のベランダで作ろうとしたのだけれど、邪魔だからと言う理由で止められた。素直に外に飛び出てみても、遊べるような綺麗な雪は、マンションの他の子供たちにもう荒らされてしまっていた。  だから、あてどなく歩いた。  無垢な雪の残りを探して、ただ街を歩いていた。  いくら晴れているとはいえ、真冬の空の下は、きんきんと光るように寒かった。手袋のない手のひらはやがて赤く腫れ、じんじんと痺れ、剥き出しの頬は、刃物で切られるように痛かった。  行けども行けども、住宅街にも、踏み荒らされた積雪にも、終わりはなかった。  冬休みの今、どの家も子供たちは外に飛び出す機会を穴ぐらの子ぎつねのように伺っていたようで、綺麗な雪はもうあらかた誰かに占領されており、晴ひとりが息を潜めて遊ぶことができる場所なんて、どこにもなかった。  塀の片隅に、電信柱の陰に、草むらの上に。誰の手にも触れられていない雪を一すくいずつ集めては、胸に抱えた。  どこか、誰に邪魔されることもない場所で、雪だるまを作るために。  ただ、そのためだけに。
 ほうぼう彷徨って、やがて、一つの公園にたどり着いた。そこは、家のない部分を小さく区切って作った、空き地のような場所だった。ベンチと、一人漕ぎのブランコがある以外に、何もない場所だった。幸いにも、周囲には誰の気配だってない。遠くで、タイヤが水っぽい雪を掻き分けるときの、がしゃがしゃという音が響いている。  腕いっぱいに抱えた雪を地面に下ろすと、融けかけの塊はどさりと音をたて、公園の美しい無垢の上に寝転がった。ジャンパーの胸のところが冷たく濡れていた。  息を短く吸う。肺がきりきりと痛んだ。晴は赤く凍える手で、回りの雪をかき集めては、せっせとならし、凹凸のある肌をなめらかにならしていった。胴ができれば、次は頭を。柔らかな表層をすくい取って、手で丸くして、胴に乗せて、素手でならす。指が曲げる度に痛みを帯び、爪の先には少しずつ力が入らなくなっても、晴はただそれを繰り返していた。  ただ、ひとりで延々と、そうしていた。
「――星のおうじさま?」
 突然、音のないはずの公園で、後ろから声がした。  思わず振り向いてみると、一人の少女が後ろのベンチの上に立ちながら、じっと晴の姿を見下ろしている。肩で綺麗に切りそろえられた髪は、冬の河底のような密やかな青をしており、銀河色をした大きな瞳が、興味深そうに晴の姿をとらえているのだった。 「ん? や、ちゃうな。おう��さまのかみの毛は、麦の穂ぉのきんいろやったしな……」  声は、独特の抑揚を持っている。この辺りでは、まず聞かないアクセントだった。  少女はそんな調子でぶつぶつ独り言をつぶやきながら、ベンチからぴょんと飛び降り、雪を踏みしめて、晴のところまでてくてくと歩いてくる。  若葉色のゴムぐつが白を割って刺さるたび、まるでそこだけが春の日差しを受けて草花が伸び、生の息吹を受けて眠りから目覚めるようだった。 「あ、かみの毛ぎんいろ」 「、っ」 「じゃあ、雪のおうじさまなんかな?」  晴は、つい身を竦めさせた。  怖いくらい、どきどきしていた。  容姿に触れられたことが、まずひとつ。もうひとつは、公園に来たとき、誰もいなかったはずだったから。公園には誰の足跡もなく、気配もなく、息の音もなかった。今、さっきまで。彼女は音もなくそっと晴の背後に忍び寄り、ベンチの上から猫のように晴のことを見ていたのだ。  公園の反対側の入り口には、迷いなく真っ直ぐ、ベンチまで伸びる小さな足跡が一人分あった。きっと、向こうの入り口からやってきたのだろう。 「……」  晴は固まって、少女がこちらに近づいてくるのを怯えながら見ていた。少女の紺色のコートが、マフラーの裾が、ふわふわと揺れていた。彼女は晴の傍までずんずんと近づいてくると、固まっている晴の顔を覗き込んで、まじまじとその色の異なる両目をまっすぐに見つめる。 「うん。お星さまより、おひさまの下の雪みたいなかみの毛しとうもんね。でも、きみ、目ぇも綺麗やなあ! お空から降ってきた、宝石みたいや!」  少女はそう、屈託の無い笑顔で言って、ただにこにこ笑っている。  晴は。
 ――晴は、いよいよいたたまれなくなって、冷たい両手で、自分の顔を覆った。これ以上見られないように、夏の雨のように突然体を打ち据えた恐怖ごと隠すように、じりじりと二、三歩後ずさる。少女は「えっ」と驚いた声を上げて、夜空のような瞳をまん丸くして、その星図を広げる。しかし、逃げられた分の距離を、若草色のゴムぐつは迷うことなく歩を詰める。 「やだ」 「? なんて?」 「……きれいでも、なんでもないのに、なんでほめるの」
 どうして、この人、きもちわるいところなんて、ほめるの。
「だって、きれいやん」  彼の声の震えに気付かなかったのか、少女はきょとんとした顔で言った。星が大気の内側で歌うように、その銀河もまた息を吸って、ふるふると揺れる。逃げる意味を解釈することができないと言いたげに、困惑した表情を浮かべて、小鳥のように首を傾げる。 「やだ、」  晴はただひたすらに、ぞっとした。背筋にぴりっとした電流が走ったようだった。じり、と後ずさり、少女と距離をとる。小さな雪だるまの後ろに逃げ込むようにして、顔を、体を隠そうとする。 「なんで隠れんの!」 「や、だ!」  逃げた。  逃げるとは言っても、雪だるまを挟んで追いかけ合うだけだった。恐怖心が先立って足は縺れるし、混乱した頭では、公園の外へ飛び出すことなんて考えられなかった。少女は負けじと追ってくるし、諦める気配も無いようだった。 「待ってって言うとるやん!」  延々と続くかと思われた小さな鬼ごっこは、少女が晴の服の裾を問答無用でひっつかんだことで、あっけなく終わりを迎えた。二人がさんざん踏み散らかした雪の上に、晴がべしゃり、音を立てて転ぶ。 「あ、ごめ……」 「……ぅ」  雪の上に、じわりと涙がにじむ。  痛みからではない。どうしたらいいか、わからなかったからだ。そんな顔も見せたくなくて、暫く雪の上に伏せたままだった。冷たい両手は、鞭うたれたように痺れていた。  そんなところに、目の前に手が伸びてくる。それは、手袋に覆われた、少女の手だった。しゃがんで、申し訳なさそうに晴の顔を見ている。  真っ直ぐに、見つめている。 「ごめんなぁ? ……たてる?」 「……」 「だいじょうぶ?」  晴はただ、固まっていた。少女はじっと手を差し伸べたまま、動かない。冷たい風が、二人の前髪をさらさらと揺らした。どこかの木の枝から、やわらかく融けた雪の、落ちる音が聞こえた。 「……」  しばらく時間が経って、少女が寒さにふるりと身を震わせたころ、ほんとうに、ゆっくり、おずおずと、戸惑うように、躊躇うように、――晴が、少女に向けて手を伸ばした。彼女はそれを受けて、晴の体を引っ張り上げる。握られた指は鳴るように痛んだ。手袋の繊維の一本一本ですら、自分を攻撃しているような気分になった。  二人とも並んで立つと、少女の方が僅かに背が高かった。「ごめんなあ」としきりに謝りながら、ぱたぱたと晴の体についた雪や滴を払っていく。その様子を、晴は不安げなもどかしさを浮かべながら見ていた。 「……なんで、やさしくしてくれるの?」 「へあ?」 「……みんなぼくのこと、きもちわるいっていうのに」 「んなことあらへんよ」 「……なんで?」 「なんで、って……うちがきれいや思たもんにきれいって言うて、どーしてダメやって言われなあかんねん。うちはきれいだとおもたで。それで、ええことやないん?」  少女は「はい、もっときれいになった」と言って、もう一度すっくと立ち上がる。そうして、不意に思い出したように、自分の手袋を脱ぎ、素手のまま晴の両手を取った。突然手の指に重なるあたたかな人の体温に、晴の体が総毛立って硬直する。 「うわひゃっこ! なんでこんなんなるまで手袋せえへんの!?」 「……て、てぶくろ、ない」 「なんで!?」  晴がおろおろと眉根をよせて、ただ身を竦ませているのを見ると、彼女は大きく溜め息をついてから、とった両手を自分の顔の高さまで持ち上げた。そのまま、晴の両手にはあ、と息を吹きかけて、ゆっくりと摩(さす)った。  摩る、重ねられた手もまた、白く、小さな手のひらだった。赤く凍えて、濡れた皮膚を愛撫するように、少女は真剣な表情で晴の両手を温め続けた。晴は身を固くして、何度も手を引っ込めようとした。だが、少女の目があまりにも真摯だったので、何をすることもできなかった。  やがて、手のひらの冷たさは平等に二人の間に行き渡り、少女の手指が微かに赤らんだころ「はい」と言って彼女は自分の手袋を差し出した。 「はい。貸したる」 「……でも、ぼくがつけたら、寒くなっちゃうよ」 「だいじょーぶ、うち、替えのやつあるから。それに、うちがつけとったやつのほーが、ぬくいやろ」  躊躇していると、痺れを切らした彼女が無理矢理に手袋を嵌めてきた。抗おうとしても、両手で片手を握られてはたまらない。結局、晴の両手には、少女の手袋がすっぽりと被せられた。内側に、少女の体温が残されたままだった。誰かの寝ていた布団の中に、手を差し込んだ時のような暖かさだった。  晴がどうふるまったものか思案した挙句、そのままおずおずと雪だるまに手をつけ直すと、その様子を少女はじっと見つめていた。 「……雪であそぶの、すき?」 「……すき」  晴が頷くと、少女はどこか嬉しそうに、赤らんだ頬を緩めてにんまり笑った。 「うち、なまえな、“ゆきみつ”言うねん。いまあそんどる雪に、いっぱいになるっていういみの、満。で、ゆきみつ。みょーじがお風呂場にある鏡で、かがみゆきみつ」  自分を指さして言う。思わず、晴も指の指すほうに目線を吸い寄せられた。 「ゆき、みつ、……ちゃん」 「ゆき、でええよ。……きみは?」 「……はる。うつろぎはる」 「はるくんな!」  そう行って、雪満が差し出した右手の意味を、晴は理解できずに瞬きした。焦れたように、雪満が唇を尖らせて「あくしゅ」と言うと、晴はますます顔を曇らせる。 「あくしゅ?」 「ともだちになったら、そらあくしゅするやろ」 「……、……」 「どないした?」 「ともだちに、……なってくれるの?」 「うん? せやよ」 「……ほんとにほんとに、ともだちになって、くれるの」 「うん。だって、なまえ教えっこしたら、もうともだちやん」 「……、……、……やった……」  硬いつぼみが解けるような音を立てて、晴の目がきらきらと光る。焼けた石のような色をしていた。火に焼(く)べて融け出した、宝石の色だ。  そろそろと、ぎこちなく手を握る。雪満はその仕草に首を傾げてから、満足げに手をぶんぶんと上下させた。 「なあ、そんな小ちゃい雪だるまなんて作らんで、もっとおっきいやつ作ろや!」 「え」 「こーんなん!」  雪満が両手を大きく広げる。晴は目を大きく広げ、背伸びする雪満を目で追う。胸を張る雪満を、困ったように見上げた。 「え、でも、……おっきいのつくっても、こわされちゃうよ」 「そうなん? じゃあ、うちの庭につくればええ」  こっち。と言いながら、強引に手を引く。慌ててついていけば、公園を少し過ぎたところに、庭のある大きな邸宅が目に入った。塀は高く、門は優美で、前庭には常緑樹が茂っていた。表札を見上げる。晴にその漢字の意味はわからなかったが、苗字が一文字なのだということだけはわかった。  門は黒く、細いめっきのされた鉄で編まれていた。開いている。玄関に繋がるアプローチは、きちんと雪かきがされていた。
 周辺に公園ほど綺麗な雪は残っていなかったけれど、庭先には木から零れ落ちた雪が積もっていた。  それらを集めて、小さな雪玉をつくって二人で転がした。庭先には、雪玉の形にそって、除雪された道がくねくねと作り出される。土が混じり、茶色くなった雪玉は、限界まで転がした結果、二人の肩以上に大きくなった。葉っぱの切れ端や、小石が混じったせいで、雪だるまはでこぼこだらけの上、無骨で、どう評価したとしても不細工としか形容できない有様だったが、それは門の脇の木陰に堂々と聳え立っていた。  しかし、大きくなりすぎて、一つ問題ができてしまう。 「あかん! これじゃあたま、乗っけられへん!」 「どうしよう」 「うちがはるくんのことかたぐるましても、雪玉持てへんしな」  晴はおろおろと雪満と、土まみれの雪だるまを交互に見る。当の雪満は難しそうな顔をしながら、何かを考えていたが、暫く顔をもんもんとさせた後、 「うん、よし、むり。おとんにやってもらお」  と、あっけなく諦めた。 「えっ」 「おとーん! 雪だるま作ったから! 頭乗せてー!」  唐突に踵を返して、家の中へ向かって、高らかに吼える。  晴があっけにとられていると、雪満はそれを気にせず彼を引っ張って玄関へ走った。父親のことを呼びながら。晴は動転していたものの、雪満の手を握る力が強すぎて、振りほどくこともできなかった。  父親、家族。しかも、他人の。ぐるぐると晴の目が回る。落ち着いていたはずの胸が、またぎりぎりと締め付けられるようだった。  玄関ポーチの前まで来ると、中から呆れたような溜め息を吐きながら、彼女の父親らしき男性が姿を現す。晴が肩を跳ねさせた。 「なんやねんな……あ~、また日陰にえらいごっつい雪玉作りよって……」 「雪玉やないもん! 雪だるまやもん! はるくんと一緒に作ったんやで! どや、すごいやろ」 「はるくん……?」 「うん、おともだち」  ほら。と言って、雪満が手を引っ張る。晴は、おどおどと眉を下げたまま、萎縮したように体を小さくした。男性の目が、どこか品定めするように晴を舐める。思わず俯いて、足下を見た。  一瞬のような無限の時間、裁きを待つ罪人のような心持ちで天啓を待ちわびていると、「おーそか。雪満と遊んでもろてすまんなあ」と、思った以上に軽い声が降ってきて、思わず顔を上げた。 「お前らどんだけ遊び回っとったか知らんけど、全身びちゃびちゃにしとるやん……ほれ、おかんからタオルもろてきて拭いとき。風邪引いたら、たまらんで」 「そうする! おとん、雪だるまかっこよくしといてな!」 「顔くらい自分で作っとかんかい」 「ご近所でいっとーべっぴんにして!」 「オスにしたらええのかメスしたらええのか、わからへんぞそれ」  彼女らがするそんなやりとりを、あっけにとられて眺めていた。  また、ぐいと手が引かれる。雪満はほくほくとした顔で、晴の手を離さないまま、玄関の扉をくぐって家の中へ入っていった。腕の先の晴が萎縮していることに気がついているのかいないのか、雪満は「ただいまあ」と間の抜けた声を出した。  屋根の下の玄関も、庭に見合って広い。晴にとって、三人以上の人間が立って入ることのできる玄関なんて、マンションのロビーくらいなものだった。ほう、と息が出る。外界との空気が遮断されて初めて、体が芯まで冷え切っていることに気がついた。繋いだ腕がぷるぷると震える。 「お帰り。……誰やその子、ご近所の子?」 「せや! 雪のおうじさまやで!」 「アホな事言うとらんと。あんたに王子様なんておるわけないやろ」 「ちゃうてー! 外に積もっとうほーやてー!」 「はいはい。……んで、何くんやったけ」 「、はる、です」  母親からすっと目線を移されて、思わず体がぴんと張る。彼女は一瞬だけ顔の色を無くしたが、すぐにはあ、と息を吐いて、呆れたように笑った。 「はるくんも雪満も、全身びちゃびちゃやん。タオルやるから、ちゃんと服着替えて、身体拭いてき」 「おかん、おとんと同じこと言うとるな」 「やかまし。はよ着替えてきんさい」 「はぁい」  雪満がぽいぽい、と手早くマフラー、ゴムぐつを脱ぎ捨てて、玄関を上がろうとすると、ぐいと後ろにつんのめる。慌てて振り返ると、晴は困ったような顔をして立ち尽くしていた。母親と雪満が同じように不思議そうな顔をした。 「ぼく、きがえもってないよ」 「! パンツまでびちょびちょなんか!?」 「ち、ちがうけど、でも、おうちにとりにいかないと、」 「え、うちのパジャマのズボンくらいなら貸したるて」 「でも……」 「ええから! カゼ引くよりはまーし!」  それからは、追い剥ぎのようなありさまだった。濡れたジャンパーも、靴下も、ズボンまでが引っぺがされ、恥ずかしがる暇すらなく、タオルと替えのズボンを渡される。泡を食いながらも、流石に濡れた素肌では室内でも鳥肌が立ってしまうほどだったので、晴はしどろもどろになりながら、それらを身につけた。  柔らかな繊維からは先の先まで、柔軟剤の華やかな匂いがしていた。自分の家のものとは、全く異なる香りだった。  現状がめまぐるしすぎて、呼吸の仕方すら忘れそうだった。なぜ彼女の母親が、赤の他人の、それも今さっき自分の存在を知ったばかりなのに、手厚くもてなして、まるで“母親のように”自分に溜め息をつき、手を出してくれるのか全く理解の外にあった。
 着替えが終わると、雪満は彼を台所に引っ張って行った。そうして、二人で母親が淹れてくれたココアを飲んだ。暖かな甘さが、痛いほどに優しかった。目に見えないほど深い所の傷口に、沁みるような味をしていた。 「なあ、はるくんて、いましょーがくせー?」 「四月から、しょうがくせい」 「うちも! おないどしやん」 「いっしょのがっこう?」 「ご近所やったら、多分いっしょ! あそこの、かどまがったとこのピアノ教室をすぎたとこの……」 「あ、おんなじ」 「やった! じゃあ、春からもはるくんとあそべるんやね、うれしなあ」  雪満は上機嫌でココアを飲み干す。爪の先でマグを弾くと、きん、と高い音が響いた。 「ね、はるくんは他におともだちおらんの」 「……、いない……」 「きょーだいは?」 「お兄ちゃんが、……ぼくは、お兄ちゃんだと思ってるけど、」 「なか、良くない?」  その言葉には小さく頷いた。  正直に返すと、胸がじんじんと痛んで、思わず自分の膝を見た。冷たさに、心まで真っ赤に腫れ上がってしまったのだろうか。  寂しい子供だと、思われただろうか。やはり、彼女もまた、そんな独りぼっちで雪玉を固めて遊ぶ奴なんて、よくよく考えてみたら気持ちが悪いと、思っただろうか。マグカップを握る手に力が入る。  ぽっと出た杞憂の芽は、ふふふ、と隣から、堪えきれない笑いがこぼれたことでつまみ出される。
「ほんなら、今はるくんのなかで、うちがいちばんやん」  雪満は目を細めて、にやにやと、漏れ出る喜びを抑えきれないといった顔で笑う。晴は驚いた後、二度くらいゆっくりと瞬きをして、――彼女の笑いに釣られて、照れくさそうにへにゃ、と表情を歪めた。  それは笑ったわけではなく、反射的に口角が歪んだだけだったのかもしれない。上手な笑顔の作り方は、まだ彼にはわからなかったからだ。 「うちもねえ、まだ引っ越してきたばっかでともだちおらんし、一人っこやから、はるくんがいちばんやで」 「ほんとう? ……、……ぼくが、いちばん?」 「そー。うちら、いちばんどうしやね」 「……! うん!」
 軒先の雪が、固まって地面に落ちた。  窓の向こうに、くぐもった音で響いていた。壁のこちら側には、届かない。
 外は相も変わらず、底意地悪いほど青一色に晴れ渡っていたけれど、冷たい空気から室内の温さに染められてしまった二人は、ココアを飲んで肩を寄せ合って、他愛のないお互いの話に、面白そうに笑うばかりだった。  晴の赤かった指先は、いつの間にか血の気を取り戻し、柔らかくなっていた。痺れはなく、痛みも無かった。前髪だけが、少し水気に曝されて湿っているばかりだった。  雪満がマグカップを持って椅子を飛び降りる。晴もそれに続いて、流しにそれを押し込んだあと、雪満がくるりと晴を振り向いて自信たっぷりな顔で笑った。 「ね、うちの部屋いこ!」 「ゆきちゃんのおへや?」 「うん。はるくんが雪であそぶのすきなんなら、うちもうちのすきなこと教えたる」 「、うん!」  雪満の部屋は二階の、東側の部屋だった。朝の日差しが取り込めるように、東の壁が大きく出窓になっていて、水色の柔らかな色をしたカーテンが、ふっくら揺れていた。部屋の中はまだ越してきたばかりと言うこともあるのか、クリーニングの匂いがした。  ただ、それ以上に、紙の香りが溢れている。まるで森の中のようだと思った。暗い山の奥から厳かに運び出され、漂白され、苗を植え付けられた、白い森の中にいるようだった。 「うちねえ、本読むのすきなん」 「ご本?」 「そーやで」  招かれた部屋の中は、エアコンでこんこんと暖められていて廊下のような冷たさはない。足下から上ってくる冷えに耐えきれず、二人はそそくさと部屋の中に入った。淡い色のカーペットは足が長く、腰を下ろすと気持ちが良さそうだった。  真新しい勉強机が一つ、それについた椅子が一つ、ベッドが一つ。  それ以上に、晴が目を引かれたのは、部屋にぎっしり所狭しと押し込められた、本棚の群れだ。 「すごいやろ」  おおよそ、小学生に上がる子供の部屋とは思えないほどの蔵書量だった。本棚の足下にはキャスターがついており、左右に移動が容易だった。棚を動かしたその奥にも更に本が詰まっており、その中には晴にはまだ読めないくらい、難しい字のものもあった。  訳の分からない背表紙を一冊引き抜いて、小難しそうな表紙を開いてみる。中にある文字もまた、よくわからないものだった。本当に難しい字にはふりがながついているけれど、小学校で習うのであろう漢字には、ルビも何もついていない。 「よめない!」 「それはちょっとむつかしーやつやんな。うちもたまによめないもじある」 「ゆきちゃん、こんなのよんでるの……!?」 「せやで。ふふん、うちのこと、おねえちゃん扱いする気になったやろ」 「なった! すごい!」  本たちは整然と並べられている。文庫は文庫、菊判は菊判、四六判は四六判で、多少の背の違いはあれ、皆大人しく自分の与えられた隙間でじっと押し黙っていた。  雪満は本たちの背表紙を、そろりとなぞる。書棚の中でも下のほうには、子供向けの、判型がいっそう不ぞろいな絵本たちがわらわらと押し込まれていた。後ろからそれを眺めている晴にも、そのやたらめったら彩色が派手で嫌が応にも目を引くような、ページ数の薄くて紙の厚い本たちの存在は、ぴしっと背の揃った他の本たちに比べて、わやくちゃで、不ぞろいで、どこか親しみやすいものだった。  雪満はその中から、数冊の本を抜き出しては横に重ね、そうしてそれを胸に抱えて、ベッドに座る。自分の右側のスペースをぽんぽんと叩いて、晴を招いた。 「おねえちゃんらしく、うちがはるくんにご本よんであげよー」 「なによんでくれるの?」 「なにがええかなあ。いっこずつよんでこ」 「うん」  さんざん迷って、吟味して、白い小さな手はやがて恭しく一冊の本を持ち上げた。勿体ぶって、仰々しくページを開く。小さな紙面を、二人で覗き込むようにして、肩を寄せ合って、絵本を眺める。雪満の唇が、メーテルリンクの青い文字をなぞった。 「むかしむかし……」
 子供部屋は、やおら静かになっていった。
 そっと雪満の部屋のドアを開くと、エアコンが暖気を吐き出す音だけがごうごうと静かに囁いていた。晴と雪満は、二人揃ってベッドの上で丸くなり、寝息を立てている。絵本や、子供向け文学書や、たぶん、晴にはよくわからないような書籍なども、片づけられもせずその辺に転がっていた。  本を読みながら寝てしまったらしい。  母親は、雪満が頬を乗せている開いたままのヘンゼルとグレーテルの本をそっと抜いて、ページを閉じた。空っぽの絵本棚に戻す。
 幸せそうに寝息を立てるふたりのこどもを見下ろす目には、色も感情も、何もかもが、なかった。  ただ、底知れない目だった。  少なくとも、子供をもつ母親の目とは形容しがたかった。こんな目で、子供を見下ろす母親が、どのくらいこの世界にいるのだろうと、背筋の凍えるような、そんな眼差しだった。
 どこか値踏みするように一瞬息を止めた後、彼女は二人を起こさないように、ゆっくりと部屋を下がる。扉の音がしないよう、慎重に扉を閉め、廊下に立つと、その隣で父親がナイフで手遊びしながら、声を潜めて聞いた。 「殺らないんか?」  母親は目配せして、肩を竦めた。 「こんな引っ越してすぐ、ご近所の子ぉに手ぇ出したら、流石に足がつくで」 「まぁ、そうやのうても雪満が探すわなあ。恰好の獲物やったんに、流石うちらの子ぉ言うか、めざとい言うか」 「あの感じやと、おらんくなっても親も本腰入れて探さんやろ。一度相手の親御さんにもご挨拶しとかんとなあ」 「生まれながらに蚊帳の外っちゅうことか。けったいやのお」 「そういう家(の)がおるから、うちらみたいなんが居れるんやけどなあ」  二人して、にたにたと下卑た笑いを浮かべる。そうして、母親が何か思いついたような顔をして、より顔の皺をくしゃっと深めて、笑った。 「優しゅうされたことない子ぉはなあ、扱いやすいからなあ。きっとよう懐いてくれるやろなあ」 「お前、なんか悪いこと思いついたやろ」 「いやぁ? でも、せやなあ。ウチにしたら妙案やと思うわぁ。あの子、殺さんでおいて、大事に大事にしたるのも、ええんやないかって思っただけやで」 「またそら、どうして」  母親は、底知れない宇宙のような黒い目を、三日月のように細くした。
「そら、子供は肥らせたほうが、美味いやろお」
 魔女が食うもんなんやったら、余計なあ。
 たった一枚の扉だけを隔てて、廊下は寒々しく、血も凍るほどに冷たく。暖かな部屋の内側で二人はそんなことも知らず、ただ寄り添って夢を見ていた。  温い、柔らかな日だまりのようなこの夢が、どこまで続くかも知らないまま、ただゆらゆらと、まどろんでいた。  定められた最果てが、道行の無い断崖だなんてまだ知らない。  ただ、それだけ。それだけのこと。
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mashiroyami · 6 years
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Page 104 : 不在
 方角を頼りにして近道のために選んだ荒い林の中を潜り抜け、秋の陽に照らされて凪いでいる湖の表面を木々の隙間から見た時、ラーナーの胸に宿ったのは傷に沁みるような懐かしさだった。奥底からこみ上げてきてくると、まるでここが一つの故郷のような錯覚を覚えた。湖畔の町に滞在したのはほんの僅かだったというのに、何故だろう。或いは、安堵を勘違いしているのかもしれない。首都から歩き続けて辿り着くまでの道のりは長かった。はっきりとした目的地が、しかも既に見覚えのある場所であるというのは、真夏から地続きの旅の中で初めての経験だった。それは彼女が想像していたよりも大きな喜びを与えた。自ら決め、歩き出した旅で初めて辿り着こうとして辿り着いた場所。ここで味わったことを忘れたわけではないし、それもまた胸を痛めるけれど、今は達成感が上回った。  ゴールを目前にして、身体の倦怠感や痛みが和らいでいくのが分かり、足取りが自然と軽くなる。  湖の際をなぞる道はコンクリートで固められていて、その道をぼんやりとどこか夢心地のような感覚で辿る。エーフィが軽やかな動きで剥き出しの防波堤に跳び上がり、湖からほど近い境目を悠々とラーナーに合わせて歩き始めた。  風が無い。今日は天候も比較的良く、水面はとても静かだ。遠い向こう岸の小さな町並みも薄らと輪郭を視認できる。湖畔の町と銘打たれたこの町だが、湖畔という意味ではこの湖を囲う全ての町に当てはまるはずだ。それでもこのキリがその名を持つのは、最も繁栄しているからか、或いは、水神とやらの存在によるものか、もっと別の理由か。  けれどラーナーにとってはこの町こそが湖畔の町に値することは間違いない。  時折自動車が横切っていき、静寂を裂いていく。  長い舗装路を辿っていくと、背の低い白壁の家並みに入ってきて、いよいよ嘗て降り立った風景と重なる。昼間の日差しが白を余計に強調するけれど、その目映さは夏の頃とは異なった。町全体が馴染んだような、ぼやけたような、或いは枯れたような気配が漂っている。  しかし、すぐに以前訪れた時とは明らかな違いに気付く。  建物と建物の間、窓と窓を繋ぐように小さく色とりどりの旗がいくつも吊り下がっており、町を彩っていた。ポッポやムックルといった小型の鳥ポケモンがその旗の紐で足を休めては、飛び立って大きく揺らしていく。各住居の玄関口も掌大程のランプが秋の花と共に飾られている。夜になればランプの灯がともって、夜道を温かく柔らかな光が照らすだろう。  まるで祭りが催されているかのようだ。  町の静かな騒がしさを物珍しい目で眺めながら、ラーナーは道すがらに見つけた電話ボックスに入った。黒い公衆電話に小銭を投下し、鞄の中でいつの間にかくしゃくしゃに潰れてしまっていた一枚の手紙を丁寧に開いた。その中に記された電話番号を、間違えないように慎重に入力する。耳元でコール音が鳴るたびに、緊張で心臓の鼓動が早まっていった。五度目で目を閉じ、耳を傾ける。彼女の記した番号が間違っているとは到底思えなかった。だが、日中なのだ、電話に出られる状況でなくともおかしくはない。  時間をずらしてかけ直すべきか。七度目のコール音まで粘って受話器を置こうと耳から離す直前で、不自然に音が途切れた。  息を詰めて受話器を耳に押しつけた。薄い雑音が微弱に鼓膜を振動させる。電話が繋がっているが、相手からの声は無い。 「もしもし」勇気を出して震えるような弱々しい声を出してみる。「クレアライトです。ラーナー・クレアライトです」  祈るように受話器を握る手に汗が滲む。 「エクトルさんですか」  返答は無い。  寡黙で最低限のことだけ口にするような人物であるとは把握している。とはいえ反応がこうも一切無いと、ミスの無いようダイヤルを押したつもりでも自信が萎んでいく。  向こうで布を擦るような音がした。 『お久しぶりです』  冷ややかな低い声音には聞き覚えがある。威圧感をも与えるだけの不思議な迫力。それだけで、間違いなく本人だと確信し、一気に以前のこの町での記憶が走り抜ける。  安堵と緊張が同時に喉を通り抜けていって、生唾を呑んだ。 『この電話番号は、お嬢様に教わりましたか』 「あ……はい」  刺々しい口調に気圧されながら返答すると、受話器越しに溜息が聞こえてくる。 『解りました。それで、用件は』  感慨に耽る暇も他愛も無い談笑をする隙も無い。ラーナーもそれに乗じた。もう一枚手にしている、首都を出る間際に青年から貰ったメモに視線を落とす。つらつらと整った字体で書かれた手紙とは打って変わり、お世辞にも綺麗とは言えない走り書きの、まさにメモという言葉が当てはまるものだ。 「ザナトア・ブラウンという方を知っていますか」  返ってきたのは長い静寂であった。  僅かな溜息の後、返答が来る。 『存じ上げておりますが』  釣り餌に獲物が引っかかったような感覚に、ラーナーの胸が高鳴った。 「本当ですか」 『ええ、キリではそれなりに有名ですから』 「その人に会いたいんです」 『え』  珍しく狼狽の気配が露呈し、前のめりになりそうになったラーナーも瞬時にそれを察知した。 『……何故ですか』  冷静さを取り戻した声で尋ねられ、一呼吸を置く。 「昔、羽を失くしたクロバットをもう一度飛ばせることができたと聞きました。だから、会いたいんです。アメモースが、一枚翅が折れてしまって、飛べなくなったんです。もう一度飛ばせてあげたいんです」 『アメモース?』  疑うような声音。彼は鋭い人間だ。ラーナーの手持ちがエーフィとブラッキーのみであることを覚えているのなら、多少の違和感を覚えてもおかしくはない。しかし、事情を説明するのに今は時間も覚悟も足りていない。 「また追って説明します。とにかく、できるなら、その人に会わせてほしいんです」 『会うこと自体は、出来なくもないでしょうが』どこか歯切れの悪い口調だった。『承諾されないかと』 「どうして」  受話器を強く握りしめ、耳を澄ませる。  唯一の希望、ただそれだけを求めてここまで来たのだ。そう簡単には手放せない。 『……私も詳しくは存じませんが、羽を失くしたポケモンを再度飛ばせることに成功したのは、そのクロバットだけだったはずです。今、彼女がどうされているかは分かりませんが、恐らくもう手を引いているかと』  ラーナーは思わず足下で二又の尾を揺らしているエーフィに目配せした。  長い電子音が割り込んできた。通話終了が近いと報せる合図だ。ラーナーは片手で小銭を探る。 『ひとまず会って話しませんか。事情があるようですし、私も慎重になりたい用件なので』 「はい」 『今はキリにおられるので?』 「はい。キリの、駅に向かったら分かりやすいですか」 『いえ、以前お嬢様とおられた湖沿いの自然公園があったでしょう。あそこで落ち合いましょう。場所は覚えていますか』  自信があったわけではないが、湖畔に向かえば見つかるだろう。肯定し、すぐに会うとのことで約束をとりつけた。 「時間は大丈夫なんですか」  今更ではあるが、唐突にも関わらず妙にフットワークが軽いのが気にかかった。 『……ええ。以前より自由がきくようになりましたから』  皮肉めいたような言葉だった。  自分の旅の形が変わったように、周囲も変わっているのかもしれない。そんな火花のような予感を嗅ぎ取って、ラーナーは何も言えなくなった。 『それにこの番号にかけてきたら、すぐに駆けつけるよう言われておりましたので』 「……クラリスに?」 『はい。では後ほど』  そこで通話は途切れた。  ゆっくりと受話器を置き、ラーナーは長い息を吐く。  息の苦しくなる電話だった。目的も果たせるかどうか、雲行きが怪しい。しかし糸が完全に切れたわけではない。  鞄にメモをしまい、アメモースの入ったボールを見やる。フラネで飛行を試み失敗して以来、アメモースは諦めたように動かなくなった。暴れ回る気配も無く、無気力がそのまま生き物の形を成しているかのように、いつボールから出しても暗い表情を浮かべている。  飛べるようになったら、とラーナーは思う。そうしたら何かがきちんと噛み合って、うまくいくような予感がするのだ。  電話ボックスを出て、湖畔へと足先を向ける。元の道を辿り再び湖を前にし、自然公園に歩みを進めた。  殆ど車道しかない道を進んでいくと、やがて整備された白い歩道へと出る。雄大な湖を眺めながら散歩のできる贅沢な遊歩道帯だ。ここも心なしか人が多い。道に等間隔に備えられた街灯に、町中で見かけた情景と同じように花が添えられている。道に沿って一列に並んだ花壇に、成熟しようとしている稲穂のような植物がお辞儀をして茂っているのも印象的だ。車道と逆側に目線を移せば、ポッポが点々と湖上を飛び回り、水面と空の成す青い景色を眺めている人達が並んでいる。時間の流れ方が少しだけ遅れているような長閑な雰囲気が町全体をくるんでいる。  遊歩道の先に見覚えのある広大な芝生が一面に広がる自然公園へと辿り着いた。  のんびりと浮き足立った町の中で、周囲を見張るような目つきのネイティオを隣に���え、黒スーツを着こなしてだんまりとベンチに座り込み、小型のノートパソコンを打ち込んでいる彼は異質だった。座り込んでいても、体格の良さが背中越しに伝わる。派手ではないが、存在感があるのだ。  あの人はもう居ないのだ。男の背中を遠目に見つけたラーナーは改めて思いを致す。白く塗られた柵に寄りかかって明るい話も暗い話も交わしたあの人は。あの人達は。  ネイティオの首が不自然なほどぐるりと回り、大きな瞳に捉えられたラーナーは硬直する。いち早く感知したネイティオに気が付き、エクトルはパソコンを畳み振り返った。  現れたラーナーとエーフィを確認して、会釈をする。手本のような綺麗な所作だ。 「まさか戻ってこられるとは思っていませんでした」  出会って早々の言葉にしては棘があるようだが、以前と変わらない無表情を浮かべている。私もです、とラーナーは力無く流した。  居場所を迷っていたところに、促され、ラーナーは隣に浅く座る。居心地の悪さに腰から頭まで痺れるようで、背筋を伸ばす。その間にエクトルは鞄にパソコンをしまった。 「お仕事中にごめんなさい」 「いえ、休暇中なので」 「休暇?」  目を丸くしたラーナーは改めてエクトルを観察するが、群青のネクタイを形良く締め、皺も殆ど無いスーツをしんと伸びた姿勢で着て、嘗てキリで出会った時と印象は変わらない。その外見に休暇という弛緩した雰囲気はまるで感じ取られなかった。 「纏まった休みなんて随分取っていないので、結局仕事をしておりますがね」  他にやることもないですし、と付け足した。 「そういうものなんですか」 「さあ。私が欠けているだけです」  欠けている、という自虐の含まれた言葉にラーナーは口を噤む。それから、欠けている、と心の中で反芻した。  ぎこちない空気が流れている脇で、エーフィはネイティオの隣に歩いていき、二匹は目を見合わせる。ネイティオの表情は彫像のように変化が無い一方、エーフィは腰を下ろして尾を揺らし二人の様子を見守る。 「本題に移りましょう。アメモースは今居ますか」 「はい」  ラーナーは膝に鞄を乗せると、アメモースの入った紅白を取り出し、開閉スイッチを押す。閃光と共に同じ地点にアメモースが姿を現す。包帯を巻かれ翅を一枚失ったアメモースは触角を垂らし、やつれた様子で光を失った瞳をエクトルに向けた。  負傷したアメモースを前にエクトルの表情は静かに曇る。 「可哀想に」  口元で呟き、手を組む。 「……確かにあのクロバットは飛べるようになりました。飛べなくなった鳥ポケモンは珍しい話じゃありませんから、それ以来貴方と同じように彼女の腕を求めてキリの内外からトレーナーが訪ねてきました。けれど、結局クロバット以外を飛ばせることはできませんでした」 「それで、今も」 「今のことは分かりませんが、もう随分前から受け入れなくなったはずです」 「そう、なんですか」発する言葉が堅くなる。「あの、クロバットの話っていつのことなんですか」  暫し考え込む横顔に、望郷に似た雰囲気が滲んだ。 「二十……五、六年程前でしょうか。お嬢様が生まれる前ですから」  思わぬ過去の話にラーナーはたじろいだ。当然、彼女も生を受けていない頃のことになる。同時に、平然と語る目の前にいる人物が急に一回りも大きな人間に見えた。 「そんなに前の話だったんですか」 「ええ。なので余計に驚いたということもあります。噂がまだ残っているとは」  一瞥する視線に非難や憐れみの色が滲んでいるような気がして、ラーナーは肩を狭めた。 「自分で調べたわけじゃないんです。知り合いが教えてくれて、それに縋ってきてしまって」 「そうですか」 「でも、アメモースを飛ばせてやりたいのは、本当なんです」  口調に力を込める。  当事者は理解しているのかしていないのか、彼女の膝で黙り込んでいる。弱り切ったその様子を横目で見やり、エクトルは沈黙した。 「正直なとこ���」苦言を呈するように続ける。「私自身はあまり気が進みませんが」言葉に迷い、選び抜いたものを慎重に発しているような口ぶりだった。「希望を託したくなるトレーナーの気持ちもあるでしょう」  ラーナーが視線を上げると、相変わらずエクトルは難しい顔つきをしていた。 「私は事情がありその方とは会えませんが、話はしておきます。うまくいくかは分かりません。後は貴方次第です」  徒労に終わることも覚悟していたところに、僅かな光が差し込んだようだった。可能性は残されている。芯から広がる安堵に腰が抜けてしまいそうになり、ほっとエーフィに視線を投げると、相手も微笑んでいた。 「ありがとうございます」  声を絞り出すと、エクトルは首を振った。 「大したことではありません」 「いいえ、本当に有り難いです。危うく、何のためにここに来たのか、水の泡になるところだったので」 「頼りにするのは構いませんが、後先は考えた方がいいですよ」  直球な意見にラーナーは面食らい、そうですよね、と弱々しく返した。 「それに安心するにはまだ早いです。私の話を聞いていただけるとも限りません」 「エクトルさんのお知り合い、なんですか?」  彼の眉間が僅かに歪む。 「何故」 「なんとなく、そうなのかなって」  気分を害しただろうかと萎縮したが、次の瞬間には彼の表情は元通りになっていた。 「……昔お世話になっていた時がありました。ですが、もう長らく会っていません」  ネイティオを見やり、指に力を籠めた。 「あちらはもう私の顔なんて見たくはないでしょうし、私も合わせる顔がありませんから」  含みを持たせた言葉が気にかかる。  ザナトアという人物と彼の間に存在しているのであろうただならぬ気配に、これ以上踏み込んではいけない過去を想像させた。 「……なんだか」ラーナーは顔色を窺う。「元気が無いですか」  エクトルは細い漆黒の目を少しだけ丸くして、鼻で笑った。 「失礼。話しすぎると良くないですね」 「何があったんですか」 「特には。お嬢様の元を離れたというだけです」  水流のようにさらりと打ち明けられた事実は、ラーナーに与える衝撃の大きさとしては充分だった。  絶句したラーナーを振り返る男の淡々とした表情からは、感情が見えてこない。 「貴方こそ、以前より弱っていらっしゃるように見受けられます。あの二人の少年はどうされましたか。アメモースも貴方のポケモンではなかったはず。別行動をされているので?」  ラーナーはぐっと喉の奥を引き締める。  痛いところを躊躇無く突いてくるが、当然の事項だろう。出会った時から違和感を抱いていたに違いない。彼女たちを知る誰かからいつか必ずこの質問が来ることなど、とっくに理解している。  エクトルはラーナーを観察するが、彼女の顔色は何一つ変わらなかった。晴れも曇りもなく、寸分も変化の無い表情で口を開く。 「あの二人は今首都にいます。元々、一人で旅をするはずだったんです。漸く本来の形になった、ただそれだけなんです」  呪文のように言い切り、黙り込んだ。そうですか、と呟いたエクトルもそれ以上は追随しなかった。  深く尋ねられるほどお互いに親密な関係でもない。この短期間の変化についてそれぞれで疑問を抱いたまま、しかし干渉しなかった。少なくともラーナーにはそれをするだけの力が残されていなかった。欠けている、エクトルの発した言葉を再び思い返す。欠けたのは彼だけではない。ここにいる誰しもが、きっとどこか欠けている。 < index >
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kurihara-yumeko · 7 years
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【小説】鳴かない (上)
 あと何回だろう。
 そんな風に、「残り」をカウントするようになったのはいつからだろうか。
 新しい場所に足を運んだ時、私はあと何回、死ぬまでにここを訪れるだろうかと考える。二回目はないだろうなと思う時もあれば、数え切れないくらいの回数だろうと思う時もある。
 仲間と楽しく談笑している時、こんな風に心から笑って人と語り合えるのは、あと何回だろうと考える。
 何か良いことがあった時、悲しいことがあった時、あと何回、と考える。
 こうやって、自分の人生にあとどれだけ可能性が残っているのか考えるのは、やっぱりおかしいことなのだろうか。自分の余命が宣告されている訳でも、近いうちに世界が滅ぶ訳でもなく。それとも、長い長い学生生活の終わりが、もう足音が聞こえてきそうな距離にまで迫って来ている大学四年生というこの時期が、私をそういった思考に導いているのだろうか。
 夏の夜は暑い。
 雑音のような蝉の鳴き声も、気付けばすっかり耳に馴染んでいて、もう五月蠅いと感じなくなってしまった。熱を孕んだアスファルトが、一歩一歩と歩く度、ビーチサンダル越し、足の裏に熱烈なキスを繰り返す。見上げた銀河は何もかもが遠い。ミルキーウェイは滲んでいて、存在自体がどこか頼りない。
 身体は重く、足を引きずるようにして歩いていたら、左足が蹴り上げた小石が右足に当たった。いて、と思わず独り言を零すと、私の背中に乗っている、大きな熱源が言葉を返してきた。
「すいません先輩、こんなに酔っ払っちゃって……」
 私は考える。
 こうやって酔った人間をおぶって道を行くことは、人生であと何回あるのだろう。酔った、年下の男をおぶるのは。
 サークルの後輩である彼は、酒にめっぽう弱い。本人はもちろん、サークルの仲間たちも皆そのことを知っている。彼は飲み会ではいつも壁際の席にひっそりと佇み、周りがどんなに騒ぎ立てようが、ウーロン茶片手にいつも静かににこにことしている。無理に酒を勧められることもない。文化系のくせに飲み会のノリだけはやたら体育会系なうちのサークルで、上級生から酒を無理強いされない彼は、珍しい存在だった。
 根暗な訳ではないけれど、声を上げてはしゃぐような人種ではなく、じっくりと人の話を聞き、柔らかい返事をするにも関わらず、あまり多くは語らない。人の輪の中心にいるけれど、いつもどこか遠くに思いを馳せているかのような、どれだけ一緒にいても決してその実像を掴むことのできない、影のような人。それでも彼が周囲に遠ざけられることなく、集まりの席に必ず呼ばれるのは、その優しい表情と、柔らかい物腰のためだろうと思った。
 そんな彼は今、私の背中に揺られながら、私の家へと向かっている。
 部の飲み会に現れた彼は、いつものように隅に座って、声を立てずに笑っていたのだけれど、いつの間にかその手にはビールジョッキが握られていた。向かいの席に座っていた私が気付いた時には、彼はもう呂律が回らず上手く話せないほど酔っていた。
 どうして気付かなかったのだろう。飲み会での光景を思い返して、そういえば、いつもは私に一言、二言は話しかけてくる彼が、今日は一度も私に声をかけてこなかった。そして私自身も、どこか無意識のうちに、彼を意識しないよう、視界に入れてはおくものの、深く触れないように、頭の奥底の方に仕舞ってしまったようだった。
「紡紀(つむき)が飲むなんて珍しいな」
「お酒飲んでるとこ、初めて見たかも」
 そんなことを仲間たちは口にしたが、彼はもうへらへら笑った顔で、無言のまま頭をぺこぺこ下げるのが精いっぱいだった。
 飲み会が終わり、二次会へ行こうかと、皆が席を立った時、今まで壁に頭を預けてうとうとしていた彼が目を開き、向かいにいる私を見つめ、酒に飲まれた真っ赤な顔で、やけにはっきりした声で言った。
「美茂咲(みもざ)先輩、僕を連れて帰ってくれませんか」
 それはつまり、「お持ち帰りしてくれませんか」というお願いだった。
 その場にいた誰もが、その発言にぎょっとした。彼はそういう浮ついた雰囲気が一切なく、恋愛のにおいを窺わせる素振りも全くなかった。見てくれも悪くないし、誰にでも優しい彼のことだから、恋人がいてもおかしくないとは皆思っていたけれど、実際のところは誰も知らなかった。
「どうするんだ」
 私の右隣の席に座っていた、同じ学年の鷹谷が、いつもの仏頂面のまま、無骨な声で私に訊いた。柔道部とうちのサークルを兼部しているこの男は、いくら酒を飲んでも顔色ひとつ、声音ひとつ変わらない。
「じゃあ家まで連れて行くよ。こんなに酔ってるんじゃひとりで帰せないし、ここからだと私の家が一番近いから」
 そう答えると、鷹谷は無言のまま私を見つめ返し、そして、
「大丈夫か」
 とだけ言った。
 その声の硬さに、鷹谷が何についてそう尋ねているのか、一言に込められたいくつもの意味を感じ取った。大学一年生の頃からずっと一緒の相手なだけに、お互いの考えていることは大抵わかる。私は静かに頷いた。
「大丈夫だよ」
 男性としては小柄で華奢な後輩が自分の足で歩けたのはわずか五分ほどのことで、私はすぐに彼に肩を貸すこととなった。さらにその五分後には、支えても自立できなくなり、彼を背負う形となった。女の割には上背があり、力もある私は易々と彼のことを背負えてしまった。いくら二つ年下とはいえ、成人男子を、だ。私が今日、たいして酒を飲んでいなかったことも少なからず関係しているのだろうか。
 酒のせいだろうか、彼の身体は熱を帯びていた。密着している背中が、じっとりとした汗をかいている。
「先輩、すいません……」
 まだ酔いが醒め切らぬ声で詫びる、その首筋にかかる吐息さえも熱い。
「大丈夫だよ」
 私はそう返す。
 思う。あと何回、私はこの言葉を口にするのだろう。何回、誰かをそうやって安心させ、自分にそう言い聞かせるのだろう。
 聞き取ることができない、不意に眠りを妨げられた人間が発するような、意味のない小さな呻き声を上げ、彼は火照ったその腕で、後ろから私をきゅっと抱いた。彼の骨ばった両腕は、月明かりと道端の電灯の濁った白い光に照らされて、はっきりとした明暗を持って私の視覚に迫りくる。
 私が男性というものを意識するのは、決まって、その身体に触れた時、その身体をまじまじと見た時だ。そこには確かに、女の人にはない質量と感触、造形がある。
 ああ、男の人の腕だ。
 この人、男の人なんだ。
 そんな当たり前のことを���めて思いながら、私は彼を部屋へ運ぶ。
 彼を背負ったままアパートの階段を上るのには苦労した。やっとの思いで私の部屋へと運ぶと、恥ずかしいことに、朝起きた時のまま敷きっぱなしだった布団へと彼を寝かせる。すいませんすいません、と繰り返し口にし続けている彼をなだめ、台所でコップに水を汲んでやった。
 戻ると、彼は布団から起き上がり、神妙な面持ちで正座をし、私のことを待っていた。渡した水を、喉を鳴らして飲み干し、深い溜め息をついて言う。
「すいません、突然お邪魔してしまって……。どうしても先輩にお訊きしたいことがあって……」
「何?」
 脳裏を掠めた嫌な予感に、目を向けないように発した私の声をまるで無視するかのように、彼は言った。
「先輩の、手帳に挟めてある写真の、あの人は誰ですか」
 ああ。
 やっぱりそうだ。
 諦め��も似た後悔が、私の胸の中を濡らしていく。
 近いうちにこういう日が来ることは、以前から薄々わかっていた。
 いつもにこやかに、親しげに接してくれる彼が、最近になって突然、妙によそよそしくなったこと。仲間たちと大勢で話をしている時、いつも何か言いたげに、じっと私の表情を窺っていること。そんなことが、彼が私に抱いている疑念の存在を感じさせていた。
 私は、そんな彼の変化に気がついてはいたが、それをずっと黙殺してきた。私に何か言いたいことがあるのを知っている上で、彼と目を合わせず、そのきっかけを与えなかった。彼が人のいるところでその話を持ち出すような人間でないことは、もうとっくに知っていた。
 うっかり、持っていた手帳を落としてしまい、挟み込んでいた一枚の写真が彼の足下にはらりと落ちたのは、つい先週のことだ。
 大切な写真であるが故に、手帳に挟んでどこへ行くのにも持ち歩いてはいたが、裏を前にして挟めたそれを、取り出して眺めるということは日頃ほとんどしない。久しぶりに見たあの人は、写真の中で相変わらず優しそうに笑っていた。
 写真を拾ってくれた後輩の彼は、複雑な表情をしていた。何か言いたげな顔で手渡され、ありがとう、と私が礼を言った時、側にいた鷹谷が私の手元を覗き込み、「郡田さんか、懐かしいな」とつぶやくように言った。
「郡田さん?」
 後輩の彼がそう訊き返した時、鷹谷は三白眼で彼を睨みつけるかのように見やり、「この部の設立者だよ」とだけ低く答えたのだ。
「――あの人は郡田さん。私たちが一年生の時に、四年生だった人」
 布団の側に立ったまま、私は答える。正座したままの彼は、湿った目で私をじっと見上げていた。
「どうして先輩は、その人の写真を持っているんですか」
「どうしてって……。彼は、私のことを一番可愛がって下さった先輩だったんだ。親しい人の写真を持っているのって、そんなに変かな」
「変です」
 はっきりと、通る声で彼は言う。
「美茂咲先輩がその人の写真を大事に持っているなんて、絶対おかしいですよ」
「……どうして?」
「だってその郡田って人、部内の女性、全員抱いたんでしょう?」
 吐き捨てるかのような、声音。
 そのくせに、彼は今にも泣きだしそうな表情をしていた。
「……知ってたんだね」
 私の口からは、自然とそんな言葉が零れた。
 郡田さんの存在は、もう長いことサークル内で最大の禁忌とされていた。彼が大学を卒業しサークルと疎遠になって以来、仲間内でその名を口にすることも、彼について話をすることも禁止となった。誰かがそう命じた訳でもないのに、自然とそうなった。それは暗黙の了解だった。
 彼のことはもう忘れよう。彼とのことはなかったことにしよう。それは容易いことではなかったが、ただ過ぎて行く年月は、少しずつそれを可能とした。
 今年度、私たちが卒業すれば、もうサークル内に郡田さんを知る人はひとりもいなくなる。ただのひとりも。口をつぐむことで過去を清算しようというこの計画は、私の代がこの秘密を守り続けることで完了するはずだった。
 私が誰にも言わず、手帳に挟んで隠し持っていた、たった一枚の写真。郡田さんの存在を抹消するように、過去の名簿も書類も写真も、全て処分してしまったうちのサークルで、恐らく唯一、彼の存在を示すもの。
「先輩は、その人と付き合っていたんですか」
「付き合ってないよ」
「その人に、抱かれたんですか」
 感情をじっと押し殺すような声で、彼は言う。机の上を這う小さい羽虫を、爪の先で押さえつけ、あと少し力を加えれば虫が圧死してしまうであろう、そんなぎりぎりの力加減の、声。
「抱かれてはいないよ」
「嘘だ」
「嘘じゃない」
 彼は私の言葉を信じなかった。騙された、裏切られたと、怒りで小さく震えていた。
 私はできるだけゆっくりとした口調になることを心がけて口を開く。力加減を間違えて、彼を潰してしまわぬように。
「郡田さんがサークルの女子全員を抱いたなんて、そんなの嘘だよ」
「そんなはずはないです、僕は四年生の先輩がOBの人と話しているのを聞い――」
「郡田さんは、私だけは抱かなかったよ」
 遮るようにそう言った私の言葉に、彼の目が大きく見開かれる。彼の顔をじっと見下ろしていられたのはそこまでだった。私は目を逸らし、自分の足の剥げかかったペディキュアを見つめることに専念する。
「だから、全員を抱いたっていうのは、嘘なんだよ」
「そん……な…………」
 彼の声は、震えが大きくなっていた。けれど混じる感情は怒りではない。それは落胆のようにも聞こえたし、屈辱のようにも思えた。もしかしたら、泣いているのかもしれなかった。
「そんな、そんなことって…………先輩は……」
 彼はそこまで言って、口をつぐんだ。私は彼の方を全く見ないままに、リモコンをローテーブルから拾い上げ、エアコンを稼働させた。小さな唸り声を上げながら、やや緩慢な動作で、今まで閉め切られていた室内に、冷気を排出し始める。
「先輩は、その人のこと、好きだったんですか」
 絞り出すかのような、声だった。
 私はその問いに、すぐに答えることができなかった。彼に背を向けて台所へと戻り、そこでやっと、どうだろうね、と曖昧な返事をして、蛇口を捻った。マグカップに、今度は自分のための水を汲む。後ろからは彼の泣く声が、私を責めるように背中を叩いてくる。
 私は考える。
 一体、私は人生であと何人と出会い、そして別れていくのだろう。
 ひとつだけ確かなことがある。たとえあと何人に出会おうとも、残りの人生で、郡田さんのような人間に出会うことはもう二度とない。
 郡田さんは私の、人生、最初で最後の人だ。それだけは、間違いない。
 ***
「文化部」に入りたいと言い出したのは、私ではなく由美の方だった。
 由美は私と同じ女子校からこの大学に進学してきた友人で、高校時代は二年間クラスが同じだった。
 大学に入学した当初から、お互い以外に知り合いがいなかった私と由美は、「サークルに所属して友達を作る」という話をよくした。といっても、中学・高校と万年帰宅部で、運動が得意な訳でも、絵が上手い訳でも、楽器が演奏できる訳でもない私たちに向いていると思われるサークルを探すことは、容易ではなかった。
 高校の三年間を女子まみれの環境で、恋など知らずに過ごしてきた私たちは、男子と何かを一緒にするということがどんな感覚だったのかも忘れかけていたし、酒を飲んだこともなく、「飲み会」の三文字は恐怖でもあった。
 活動が頻繁ではなく、飲み会や合宿などお金がかかる行事が少なく、強制参加でもなく、それでいて運動部でも美術部でも音楽系でもない、男子が優しくしてくれる、そんなサークルを私たちは求めていた。
 二百近いサークルが存在しているというのに、理想のサークルをなかなか見つけられないまま、一年生の四月がもうすぐ終わるという頃、由美はそのサークルについての情報をどこからか仕入れてきた。
「ねぇ、みもちゃん、文化部に入らない?」
 各サークルが配布していたチラシを収集し、どれが良いか吟味をし、気になったサークルには連絡をしたり食事会に行ったりしていたにも関わらず、私はそのサークルの存在を知らなかった。なんでも、新入生を積極的に勧誘する活動は、ほとんどしていないのだという。
「なんかね、いろんなサークルを見て回っても、『なんだかここじゃないんだよなぁ』って入りたいサークルが見つけられない人たちが集まってるサークルなんだって。『ここじゃない同好会』っていう別名なんだって、学科の先輩が言ってた」
 どんな活動をしているサークルなの、という私の問いに由美はそう答えて、目を輝かせて言った。
「私たちにぴったりなサークルだと思わない?」
 ここじゃない同好会こと、文化部の部室は、サークル棟の最上階である五階の最奥、玄関から一番遠い、北向きの部屋だった。割れたガラスにガムテープが貼られているドアには、「文化部」と書かれた紙が貼られている。
 ドアを叩くと、はーいはいはいはい、と男の人の声がして、思わずどきりとした。開いたドアから顔を覗かせたのは、ひとりの男子学生だった。
 最初に思ったのは、背が高い人だ、ということ。身長百六十八センチに加え、十三センチヒールの靴を履いている私よりも背が高い。百九十、もしかしたら二百センチあってもおかしくないほど、長身な男性だった。身体つきは、ひょろっこい訳でもがっしりしている訳でもなく、適度な筋肉と適度な脂肪がついているのが一目でわかった。手足がそんなに長いようには感じられず、けれど身のこなしは軽やかで、それは人懐っこそうな彼の顔つきにも影響しているような気がした。
 彼が郡田三四郎さん。文化部の設立者である、大学四年生だった。
 私と由美が初めて文化部のドアを叩いたその日、部室には他にも部員が何人かいたはずだけれど、今となっては誰がいたのか思い出せない。部室に私たちを招き入れてくれた郡田さんから部の活動――活動といっても特にこれといって何かをする訳ではなく、時間が空けば部室に集まり、人が集まればカードゲームに興じたりどこかへ出掛けたり、飲み会をしたり食事会をしたりするだけなのだという――について説明を受け、その場で入部することに決めたのだった。
 居場所がない人にとっての居場所をつくりたい。
 そう思って、文化部を創設したんだと語る郡田さんに、少なからず感銘を受けたのもあった。
「ちょうど、明日、新入部員の歓迎会をしようと思ってたんだ。二人も良かったらおいでよ。大学の近くのタコーズっていう居酒屋で、午後六時からね。上級生のおごりだから、お金の心配はいらないよ。まぁ俺らは酒飲むけど、一年生は飲まなくても全然かまわないからさ」
 郡田さんは優しそうな笑顔でそう言った。私は始めたばかりのバイトのシフトが入っており、行けないと言ったが、由美は行きますと活き活きした顔で答えた。
 その歓迎会で由美は郡田さんから、肩を抱かれたり太ももを撫でられたり、胸を触られそうになったりキスされそうになったりして、すっかり嫌気が差したのだろう、一ヶ月もしないうちに文化部を辞めて去って行った。
 文化部が性行為を目的としたサークル、いわゆる「ヤリサー」だと周囲からは思われていること、そして、それが事実ではないにしても、所属部員に異性交遊関係の乱れている人間が何人かいるということ、中でも郡田さんは、ずば抜けた女たらしの遊び人であるということを私が知ったのは、ちょうどその頃だった。
 夜九時以降、文化部の部室の前に来たら、まず、部屋の灯かりが点いているか否かを確認する。
 入口の扉にはめ込まれた、割れかけている曇りガラスから灯かりが漏れていたら、誰かい��。真っ暗だったら誰もいない。でもこのことに、ほとんど意味はない。この部室で行われているかもしれない行為は、灯かりを点けたままのこともあれば、わざわざ消して行っていることもある。
 だから重要なのは、いかに耳を澄ますかだ。部室の隅に置かれた、古いソファのスプリングが軋む音なんかが微かにでも聞こえたら、ドアを開けてはいけない。何も言わずに引き返す。
 一年生の頃は、そんなことの連続だった。誰に教わった訳でもなく、自然とその癖が身についた。私と同じように文化部に入部した一年生の女の子が、中で行われている行為に気付かずにドアを開け、思わず呆然と立ち尽くしていたら、手を引かれるがままに室内に入り、行為に参加させられてしまった、という真偽が定かではない話も聞いた。
 部室に集まる人たちも、昼間は和やかに談笑しているのに、飲み会に行けば上級生が下級生を酔わせては「お持ち帰り」している。皆が皆、そうだという訳ではなかったが、「要注意人物」と呼ばれている部員は実際、何人かいた。そしてその「最要注意人物」が郡田さんであるということも、とっくに知っていた。表向きは別として、活動内容という内容がないサークルだけに、自分が何故このサークルに所属しているのか、入って二ヶ月もした頃には、その意味を完全に見失っていた。
 大学で友達を作るという名目だけは、かろうじて達成された。同じ学部のみならず他学部の先輩とも知り合い、どの教授がああだとか、どの講義がこうだとか、何年生の何月はこうだからああした方がいいだとか、このバイトは良い、これは駄目、何年生の何月までにいくら貯金した方が良い、など、いろんな話を聞かせてもらった。
 同じ学年の部員たちとは、先輩たちとよりもさらに仲良くなった。「一年飲み」と称して、皆ろくにお酒も飲まないのに、一年生の部員だけで居酒屋に集まり、まさかこんなに乱れたサークルだとは思わなかったよね、という話でひそひそと盛り上がった。
 一年生の部員の大半は、「もうこんなサークル辞めたい」と口々に言っていた。けれど、「どのサークルにも馴染めそうにない」という理由で文化部に流れ着いた者が大半だったので、
「でもなんだかんだ、居心地いいんだよね」
「先輩たちも、優しいしね」
「そうそう、トラブルに巻き込まれたりしなければ、結構良い環境なんだと思う」
 なんて話に流れていってしまい、きっぱりと退部を決意する子は少なかった。
 私が特別親しくなったのは鷹谷で、彼は一年生の中では珍しく、他のサークルと兼部していた。坊主頭に、がっしりとした筋肉質な身体つき。目つきが悪く、顔が怖い彼は、言葉の選び方や態度のぶっきらぼうさも相まって、仲間内では恐れられ、敬遠されがちだった。どうして文化部に入ったの、と私が訊くと、彼は無骨に「逃げ場が欲しかった」と答えた。
「逃げ場?」
「ひとつの集団にずっと属しているの、苦手だ。嫌気が差してくる。二つ入っておけば、片方嫌になったらもう片方、って、ふらふらしていられるだろう」
 十八歳の私には苦すぎて飲めなかったビールを、まるで水のように飲み干していく鷹谷は、眉間に皺を寄せた表情のままそんなことを言った。
 鷹谷とは少しずつ親しくなり、部室で二人きり、話をすることも多くなった。彼は見た目によらず思慮深く、がさつだけれどもその行動には、他者への優しさが満ちていた。
 よく夜に部室で出くわし、そこから遅くまで話が盛り上がる、なんてこともあったが、彼は必ず日付が変わる頃になると、「そろそろ帰れ」と言い、そして例外なく私を家まで送ってくれた。
「美茂咲のこと、押し倒せよ」
 あれは一年生の夏休みが始まったばかりの、ある夜ことだった。
 私と鷹谷が二人きりで部室にいた時、たまたまやって来た三年生の男子が、鷹谷にそんなことを言った。その先輩は郡田さんほどではないにしろ、要注意人物と言われているひとりだった。
「お前ら、よく二人で一緒にいるよな。デキてんだろ、ホントは」
 その言葉に、鷹谷が明らかに不機嫌になったのがわかった。鷹谷の全身がわっと殺気立つ。それをまるで面白がるかのように、その先輩は言った。
「なぁ鷹谷、美茂咲のこと、押し倒してみろよ。俺の目の前でヤッてみろ。簡単だろ、好きなんだから。あ? それともあれか? 童貞にはまだ難しいか?」
 鷹谷は何も言い返さなかった。先輩はそれを、図星だと判断したのだろう、この後も畳みかけるように鷹谷を挑発する言葉を連発し、けれど何も言わずただ睨みつけるだけの彼が気に食わなかったのか、最後は殴る蹴るの暴行を加え始めた。
 鷹谷は、一切抵抗しなかった。私は彼が、高校時代、全国でもトップクラスの柔道の実力者であることを既に本人から聞いていた。けれどその本人は、ただ大人しく暴力を振るわれるがままになっている。きつく噛み締めた唇の端が切れて、血が滲んでいるのを見ていられず、私は誰か人を呼ぼうと廊下へ飛び出した、のだったが、ちょうどすぐそこに、部室に向かおうとしていた郡田さんがいたのだった。
 当時の私は、郡田さんに全くと言っていいほど、良い印象を抱いていなかった。
 一緒に入部した由美が彼のセクハラに耐えかねて退部したというのが理由としては大きかったが、やはり彼の女たらしぶりは、目を背けたくなるほど激しかった。
 夜中に部室で性行為を行っているのも十回に九回は郡田さんだったし、飲み会の席で女の子を「お持ち帰り」するのもほとんど彼だった。飲み会の後、酔っ払って彼について行ってしまった一年生の女子部員を、その後部室でとんと見かけなくなってしまうという事例も、もはやひとつ二つどころではなかったし、郡田さんが一年生の女子全員を「いただいて」しまうのも時間の問題だ、なんて上級生の間では噂されていた。二年生以上の女性部員は皆、彼と肉体関係を持ったことが一回はある、なんて話もあった。
 私は郡田さんを極力避けて行動していた。彼が「出席」の欄に丸をつけた飲み会には何がなんでも行かなかったし、彼が部室によく来る月曜と金曜の夜は、もうサークル棟にすら近付かなかった。
 だから、私が彼と関わりらしい関わりを持ったのは、この時が初めてだった。
 郡田さんは、部室から飛び出してきた私の顔を一目見るなり何か察したのか、部室に飛び込んで行き、鷹谷に馬乗りになってぼこぼこにしていた先輩に飛び蹴りを食らわせ、逆にぼっこぼこのばっきばきにしてくれたのだった。その部員は、郡田さんに襟首を掴まれてどこかへ連れて行かれてしまったかと思うと、一体どんなことを言われたのだろう、帰って来た時は顔面蒼白で、鷹谷に、すいませんでした、もうしません、と土下座をして去って行った。
「悪いことしたな。よく我慢したね」
「郡田さんのせいではありません」
 唇から垂れた血を手の甲で乱暴に拭いながら、淡々とした声でそう言う鷹谷に、郡田さんは言った。
「あいつ、最近彼女ができて調子乗ってるんだ。そのうちあいつの彼女を寝取って、こらしめておくから」
 そんなことをあっさりと言って、けらけらと笑う、そしてそれを本当に実行してしまう、郡田さんはそんな人だった。
 鷹谷に暴力を振るったその先輩は、後に文化部を辞め、さらに大学まで自主退学した。退学時は重度のうつ状態だったというが、その原因が郡田さんであったのかどうかは、私の知るところではない。
 その一件以来、郡田さんは鷹谷を気に入ったようだった。本来は力があるにも関わらず、挑発に乗らずに、一発も殴り返さず、暴力に耐え続けた鷹谷の姿勢に、心の琴線が触れたのだろう。郡田さんは彼をよく遊びに誘うようになり、そして鷹谷と親しい私にも、その声がかかるようになった。
 鷹谷と一緒に郡田さんの待つ居酒屋に顔を出しても、彼が私に手を出すことはなかった。部員が大勢集まるいつもの飲み会では、女の子に次々と酒を飲ませ、家まで送るからという名目でことに及ぶというのに、三人で飲む時の郡田さんは、酒を勧めてこないどころか、自身が飲まない時さえあった。
 郡田さんは、鷹谷のやや無骨すぎる態度にも、嫌な顔は全くせず、常に寛容であったし、私たちに何かを無理強いすることはなかった。だからだろう、他人に頑ななところがある鷹谷も、郡田さんには心を開いていた。部で郡田さんが何か指示した時、いつも真っ先に従うのは鷹谷だった。
 郡田さんと私のアパートが近所だったということがわかってからは、飲み会の帰りに郡田さんが送ってくれるようになった。部室で遅くまで過ごした日に送ってくれるのは鷹谷であったが、彼のアパートは私のアパートとは反対方向なので、申し訳ないといつも思っていた。送りは必要ないといくら言っても、鷹谷は絶対に言うことを曲げない。他の人が代わり���送ると言っても、いや俺が行きますと断��てしまうほどだった。けれど鷹谷は郡田さんにだけは、私を送る役目をあっさりと譲った。
 部室にいれば毎日のように、郡田さんの女性事情の噂を聞くだけに、彼に送ってもらうのは不安もあったが、彼はここでも私に何もしなかった。
 飲みすぎてべろんべろんに酔っ払ってしまった日も、郡田さんは私を部屋まで連れて行き、布団を敷いて寝かせてくれただけだった。私の部屋を出て玄関の鍵を閉め、ドアの新聞受けの中に鍵を落としてくれるほどの親切ぶりで、家まで送った後、酔って抵抗できない女子を押し倒すという、話に聞く彼の手法がまるっきり嘘のように思えた。
 その年の夏休みはほぼ毎日のように、郡田さんと鷹谷と顔を合わせた。文化部の皆で海へ行ったり花火大会へ行ったりしたのに加え、親しい部員何人かに声をかけて、飲みに行ったりカラオケに行ったりという個人的な遊びにも、郡田さんは私と鷹谷を呼んでくれた。郡田さんがそうやって私たちを可愛がってくれていたおかげか部の「要注意人物」たちがちょっかいを出してくることは全くなくなった。
「美茂咲ちゃんと鷹谷くんに何かしたら、郡田さんに何されるかわからないって、皆そう思ってたんだよ」
 先輩のひとりにそう言われたのは、ずっとずっと後のことだ。
 結局、郡田さんは夏休みの間に、私を除く一年生の女子全員に手を出した。今まで「なんだかんだ居心地が良い」という理由で残っていた部員たちも、それを機に何人か退部していった。何もかもを割り切って部に残り続ける子もいたが、それは少数派だった。
 ここまでやっておきながら、誰にも訴えられることなく、咎められることのない郡田さんが、不気味で恐ろしくもあった。彼に抱かれた女の子たちは皆、彼の罪を訴えることができないような、弱みでも握られていたのだろうか。でもそのことを、女子たち本人に尋ねることはためらわれた。
 こないだの飲み会で誰々が郡田さんと寝たらしいよ、という噂を口にする女子部員自身も、彼と関係を持ったことがあるにも関わらず、そんなことを平気で言う。へぇ、そうなんだ、びっくりだね、あの子、清純そうに見えるのに。なんてことを返す子もまた、先月は違う誰かに、同じように話のネタにされていたりする。
 それでも、郡田さんは部の誰からも嫌われているようには見えなかった。
 郡田さんが来れば誰もが笑顔で彼に挨拶をしたし、三年生の部長よりも彼の方が部員に慕われていた。彼が遊びに行こう、飲みに行こうと一声かければ、何人もの部員が行きますと言い、それは口先だけではなく実際に人が集まった。
 郡田さん自身が、自分の女性関係について気にしている節は全くなかった。誰といつ、どんな一夜を過ごしても、その後、本当に何事もなかったかのように振る舞う彼からは、サークルの女子を次々と食い物にしていく人だなんて印象は全く感じられなかった。彼はサークル内のみならず、同じゼミの女子とも関係を持っていたし、バイト先でも手を出していたというが、きっと誰に訊いても、郡田さんはそういう人に見えない、と答えるだろう。けれど恐らく誰もが、彼のそういう一面を、意外だとは思わない。ああ、そういう人なのか、と妙に納得してしまう。
 郡田さんは、そんな不思議な人だ。
 夏休みも終わりの頃だった。
 私は郡田さんに誘われて、部員の何人かと一緒に河原に花火をしに来ていた。バーベキューも兼ねて夕方から始まったこの集いに、鷹谷は柔道部の合宿が被り、参加していなかった。
 始まって早々に酒が配られたこともあり、九時くらいになって、花火をやろうかとなった頃には、私はすっかり酔ってしまっていた。楽しそうに水辺ではしゃぎ回る部員たちを、河原に敷いたブルーシートの上でひとりぼーっと眺めていた。「飲みすぎだ」と注意してくれる鷹谷がいない結果だった。
 灯かりなどない、私たちの他には誰もいない夜の河原では、河川敷に生えた背の高い草たちが黒い大きな影となって、まるで一匹の生き物のように、そのたてがみを風に揺らしていた。さっきまで私も人の輪の中にいたというのに、そこから一歩外に出てしまえば、孤独と暗闇の中に背中から吸い込まれて落ちて行ってしまうような、そんな錯覚に心が震える。
 立ち上る煙の向こうに、眩しいほどの光を放つ花火が見える。光に照らされる部員たちの笑顔と歓声が、今は眩しい。その火花が川の水面に反射して、揺れる波間に煌めく。花火のにおいは、もう終わりかけの夏の存在を確かに感じさせた。
 どこかで蝉が一生懸命鳴いている。短い命を燃やして鳴いている。この夏が終わるまでに、ひとりぼっちの暗闇を抜け出るための伴侶を求めて、ただただ身体を震わせている。
「魚原」
 名字を呼ばれて振り向くと、そこには郡田さんが立っていた。美茂咲なんて名前のせいか、友人には名字よりも名前で呼ばれることの方が多い。私のことを名字で呼ぶのは、しかも呼び捨てでそう呼ぶのは、鷹谷と郡田さんくらいだった。
 郡田さんは、この日、珍しくかなり酔っ払っていた。いつもは白い顔が、今日はほんのり赤味が差している。さっきまで他の部員と一緒に花火に参加していたはずだが、ふらふらとした足取りはどこかおぼつかなく、少し休憩したいのだろうと思った。
 郡田さんは私の隣にすとんと腰を降ろし、そして何を思ったのか、そのまま私に横から抱きついてきた。身体に伝わる感触は、それが確かに男の人の身体だと、頼みもしないのに教えてくれた。回された腕も、肩に触れた彼の胸板も、思っていたよりもずっと、「男の人」のそれをしていた。どきっとして息が止まりそうになる。彼がこんな風に私に触れるのは初めてで、思わず身体が硬直した。彼の女性関係のことが一瞬で頭を過ぎり、まさか、と思った。
 咄嗟に、花火をしている部員たちがいる川面の方に目を走らせたけれど、こちらを気にしている人はひとりもいないようだった。皆、それぞれの手元で燃え盛る夏の最後に夢中だ。
 郡田さんは、いつものなんてことのない声で私に言った。
「魚原さぁ、背高いし、女の子の割にはガタイいいけど、何かスポーツしてた?」
 高校まで空手と剣道を十年ほど、と正直に答えると、へー、かっこいい! と郡田さんは笑う。
「じゃあさぁ、もし俺が魚原を押し倒しても、抵抗できるよね?」
 その言葉に、背筋がぞっとした。
 私の頭に自分の頭をもたれさせるようにして、身体を密着させている郡田さんが、今、一体どんな表情をしているのか、私にはわからない。腕の重みも、伝わってくる鼓動の音も、全て初めての感覚だった。毎日のように会っている人なのに、私は彼を何も知らない。ただただ、いつもと同じ熱量を持った声だけが、私の耳には聞こえる。
「――できると、思います」
 私はそう答えた。うん、と郡田さんはすぐに頷く。
「もし、俺が魚原を押し倒そうとしたら、抵抗して。遠慮なくやっちゃっていいよ、骨、二、三本折られても、文句言わないから」
「……どうして、ですか」
 私の喉は渇いていた。酒ばかり飲んでいたからだろうか。それとも、彼に触れられていると、身体の熱が上がるのだろうか。夏の終わりの夜は涼しいのに。蝉の鳴き声に混じって、鈴虫が鳴いている声がする。
「どうして、だろうねぇ」
 郡田さんは酔っ払った時特有の、くくくくく、という笑い声を漏らした。それと同時に、私のことを抱き締める腕に力が入る。けれどそれは、決して振りほどけないほどの力ではない。まるで愛しいものを壊さないように、慎重に抱きかかえようとしているかのような、そんな力の入れ具合だった。優しい力の使い方だ。世界の誰のことも傷つけない抱き締め方だ、と思った。
「郡田さんは、私を抱かないんですか」
 そんなことを訊いたのは、きっと酔いのせいだろう。普段なら、絶対にこんなことは口にできない。
 私には、女としての魅力がない。私は小柄でもなければ華奢でもない。女の子らしい丸みのある身体でもないし、服や持ち物の選び方も機能性ばかりを重視している。髪だって、肩につくほど伸ばしたことなどないし、化粧道具すら持っていない。多くの女を抱いてきた郡田さんは、きっとこんな女には興味がないのだ。
「魚原は俺に抱いてほしいの?」
 郡田さんの返事は、声音ひとつ変わっていなかった。
 尋ねられてから考えた。彼に抱いてほしいのだろうかと。
「わかりません」
 私はしばらく考えた末、そう答えた。うん、とまたすぐに郡田さんは返事をしてくれる。
「魚原にだけ手を出さなかったから、傷ついた?」
 その声が少しだけ悪戯っぽく響いたのがわかった。
 ――傷ついた?
 私は彼に抱かれなくて、傷ついたのだろうか。彼に抱いてほしかったのだろうか。他の女の子たちと同じように。
「ごめんね」
「どうして謝るんですか」
「気にさせて、悪かったよ」
 気にしていません、と言おうとして、口をつぐむ。本当に気にしていないのか、それとも気にしているのか、もうそれすらわからなかった。
 風に揺れる葉の音が、耳の奥で響く。花火を振り回している部員たちが、今はあんなにも遠い。ここは世界の果てみたいだ。
 何を言っていいのかわからなくなり黙っていると、不意に、私の火照った頬に、何かが触れた。ひんやりと冷たく、柔らかい弾力のあるそれが、ちゅっ、と音を立ててついばむような動作をし、離れていった。
「魚原」
 彼が私を呼ぶ。私は返事もできない。振り返る勇気もなかった。微塵も動けずただ黙っていると、彼はまた少し両腕に力を込める。
「すきだよ」
 なんて優しい暴力だろう。
 ああ、この人の優しさは、きっと人を殺せる。
 <続く>
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y24klogs · 4 years
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フロストガルド戦記1
ゼノン君、ナインス君ちゃん、アルテュールさんといっしょ
バッフィア : おや、ゼノン君じゃないか ゼノン : んー? ゼノン : お、バッフィア! バッフィア : 久しいねぇ。あの依頼以来かい。 バッフィア : 元気にしてたかい? ゼノン : 俺はまー順調に稼いでるよ。そっちは? バッフィア : あぁ、最近は順調だねぇ。武具も新調したし ゼノン : っへー………… バッフィア : もしかして、人待ちだったかい? ゼノン : そだねー……今日はもう打ち合わせ済みってやつ。 バッフィア : そのようだねぇ。頑張るんだよ ゼノン : お母さんかって……。そっちも怪我無くね~。 ナインス : (ゆらゆらと尾を揺らしつつ近づいてきて) バッフィア : あっはっは、またねぇ。 ナインス : おや、取り込み中かい? ゼノン : んーん。今終わったとこ。 ナインス : (首を傾げればまた、肩の子竜もまた同様に首を傾げた) ナインス : ああ、そうかい アルテュール : やあ、こんばんは、ゼノン。いい夜だ。 ゼノン : おー。 ナインス : ゼノン…は、久しぶりだね。 アルシエル : なんだ居たのかゼノン アルテュール : 依頼の同行者は君と……あとはそこの二人かな? ナインス : クルル、ルルルル………今日はよろしくお願い頼むよ。 ゼノン : ……さ。そろったね、行こう。 ナインス : クルルル(「人がおおいな」と喉で鳴きながら合流する) ナインス : ああ、よろしくね ゼノン : ん。 アルテュール : さて、ゼノン君は知っているだろうが…俺はアルテュールという。アルトと呼んでくれ。 ゼノン : ああ、自己紹介からか……。終わったら言って…… ナインス : ワタシはナインス。肩に乗っているこの子は、フィフスというよ。 アルシエル : アルシエル、アルで構わん アルテュール : 君はどうにも全員と面識があるみたいだしね、友人が多くて羨ましいよ。 ナインス : (指をさした子竜はクルルルと鳴いて挨拶をして) ゼノン : 友人っていうか……顔見知り、仕事仲間……友人か……! アルテュール : ナインスとフィフスか、よろしく(小さく手を振った……。 ナインス : なるほどね…交流関係が広いのは良いことだ ナインス : 戦闘はワタシではなくこの子が行うから、よろしく頼むよ アルテュール : ……おや、なるほど、君か。アル奪いのアルシエルというのは。 ゼノン : あい。 ナインス : アル奪いのアルシエル? ナインス : (アルテュールの言葉に興味深そうに尾を大きく振って耳を傾ける) アルシエル : お前もアルか。まあ今日は気分じゃないから良いけど。 アルマ:おかえりなさい。  今日はどうするの? ゼノン : (また変な異名ついてるな……) アルシエル : そら、依頼書はこれだ。行くぞ。 アルテュール : 何でも名前のアルを奪って自分のものにするとかしないとか。 ナインス : ほう…? アルシエル : 違う。4倍にして返す。 ゼノン : 長旅になりそうだなー。準備は大丈夫? アルテュール : そうなのか……。まあ噂のアルに会えて光栄だ。いこうか。 ナインス : クルルルルルル……?(「そうなのか?」と首を傾げながら鳴いた) ゼノン : アルシエルの言う事は話半分で聞いて。 クエストを開始します。 君はリーン北門へ向かっている。
ダマ山に棲んでいた山賊達を本国へ移送するため、 その護衛依頼を受けたのだ。 その本国というのが【北国フロストガルド】。 寒地らしく、アルマとハンスが防寒具の用意を勧めて来た。 それについては依頼人側で用意してくれるらしいので、 出費は嵩まずに済んだのだった。 北門へ到着すると、馬車が二台着いていた。 衛兵が手枷を填められた山賊を連れ、手続きを行っている。 依頼人が書状を渡し、それは終わった様だ。 待っていた君に気付いたらしく、近付いてくる。 依頼人 「貴方が依頼を受けた冒険者ですか。  私はベイオウルフ・アラキア・ノース。  フロストガルドの神殿騎士です。」 ナインス : ベイオ…… ナインス : 長い名前だね ゼノン : 向こうには長い名前が多いのかな。 アルシエル : じゃ、ベオだな。長い。 アルテュール : やあ、依頼を受けた……そう���な、ゼノン一行だ。よろしく。 ゼノン : え。 ゼノン : はい。ゼノン一行です。 ベイオウルフは慣れていなさそうな笑顔でそう言った。 青の長髪が目立ち、端正な顔だが神経質な目をしている。 チェインメイルの上に聖職の装衣を纏い、 細見だが長身でしっかりとした身体だった。 ベイオウルフ 「依頼の詳細を説明したいのですが、  もう一人依頼を受けた方が居ましてね。」 アルシエル : 誰だ。 アルテュール : ……うん?俺たちだけじゃないのか。 ゼノン : ……え。聞いてないけど。 ナインス : ほう、そうなのか 他にも依頼を受けた冒険者が居るらしい。 君達はその人物を待つ事にした。 ベイオウルフ 「...来た様ですね。  お久し振りです。グレン。」
グレンデル 「何だお前かよ。  で、他に依頼を受けた奴ってのは...。」 アルシエル : …… アルシエル : お前か。なんだ。 ゼノン : うえ。 アルテュール : うん…?知り合いか? アルシエル : グレンデル、酒場によく居る。同業者なのだ。 ナインス : …見覚えがあるかな。ワタシは少し見かけた程度だけど ゼノン : 顔が濃い。 グレンデル 「あ。」 ゼノン : とりあえず悪い奴じゃないよ…… あ。 アルテュール : なるほど、同業者か…色んな縁があるものだな。 グレンデル 「お前も護衛か。それなら安心だな。」 ナインス がログインしました。 君��信用しているのか、彼は頷く。 グレンデル、彼と言えば 髪を纏めたバンダナと髭に目が行くだろう。 布鎧の上にスケイルアーマーを着込んでいる。 動きが鈍らない様に工夫しているのだろう。 グレンデル 「ベイオ、依頼の詳細について教えてくれよ。」 ベイオウルフ 「...分かりました。」 アルシエル : ベイオと略すのか…… アルテュール : 短くなっていいじゃないか。 ナインス : その方がワタシは話しやすいな ベイオウルフは拘束された山賊達を指差す。 四人居り、彼等を移送するのだろう。 アルテュール : 俺のアルトのようなものさ。 ベイオウルフ 「元神殿騎士ヴロノス、兵士バルダ、  盗賊イリーナ、魔術師レンダーク。  この罪人四名を本国に移送します。」 ゼノン : あだ名か。 ナインス : 元…? アルテュール : 移送任務か、それはまた……まあ、護衛任務と思えば冒険者の依頼としては珍しくないか。 アルシエル : 更迭か、いいよ。 レンダーク 「もがもごご。」 イリーナ 「俺はフロストガルド出身じゃない、ってさ。」 彼は魔術師であるためか、詠唱を封じるため轡を噛まされている。 何か異議がある様だが、ベイオウルフは構わず続ける。 ゼノン : 国を跨ぐのは珍しいよ。 ベイオウルフ 「逃亡の見張り、及び魔物や野盗からの護衛をお願いします。  旅費に関しては全額此方から支払いますのでご安心を。」 疑問 目標値:12 <= 3d++パーセプション ゼノン : んー・・・何もなきゃいいけど。 アルシエル : ま、何かあってもどうにかするが。 アルテュール : そうなのか……。でもそうだな、リーンをそうそう出はしないし アルシエル:成功!(14)([6,2,6]) ゼノン:成功!(13)([2,5,3]+3) ナインス:失敗・・(11)([3,3,5]) アルテュール:失敗・・(4)([1,2,1]) ゼノン : ま、上出来でしょ? アルシエル : 簡単 アルテュール : おっと…見なかったことにしてくれ…。 ナインス : ふむ… ナインス : クルル…(ああ…嘆かわしいね) 何故、一介の山賊をここまでして移送するのだろうか? 何か理由があるのか、君はベイオウルフに尋ねた。 ベイオウルフ 「ヴロノスは優秀な騎士でした。  それを妬んだ者に貶められるまでは。  王は彼の復帰をお望みです。」 それを聞いたヴロノスは嘲る様に笑う。 ヴロノス 「クッ。罪人を騎士に戻すか。  王のお人好しもここまで来れば阿呆だな。」 ゼノン : うわもう身なりからして悪い…… ナインス : 戻れることは嬉しいことじゃ ないのかい アルテュール : ふむ、なかなか神殿騎士…というにはイメージが違うな。 アルシエル : あまり賢い選択には見えんがな。罪人を戻すとあればそれだけ危険も伴う。外聞も悪い。 ナインス : ワタシには そういうのはよくわからないな… ベイオウルフ 「黙れ。お前は【掃討戦】の駒に過ぎない。  王が赦そうが国に泥を塗った奴を許す気は無い。」 表情を崩さずに彼は告げるが、青筋が立っている。 依頼の説明に戻る頃には怒りを抑えていた。 ベイオウルフ 「失礼しました。」 アルテュール : ……いや、俺は気にしていないが。 ゼノン : (国のごたごたに巻き込まれちゃたまんないな……) ベイオウルフ 「国境を越えた辺りから気温が下がるので、  此方で用意した防寒具の着用をお願いします。」 ナインス : ……(怒っているのか…と尾を下げる) アルシエル : 掃討戦……ふむ……(少し聞こえた単語に気を留めるが、すぐに防寒着を着に戻った) ゼノン : 俺は別に……既に温いけど…… アルシエル : ゼノン、寒さを舐めると死ぬぞ。 アルテュール : …防寒具な…まあ、着れる限りは、ね……。 ゼノン : ……はい。そうですね……。 ナインス : 元々高山出身なのでね、寒さは平気な方 だけど ナインス : フィフスが寒がってしまうかもしれない 助かるよ ゼノン : ちっちゃいもんね。 グレンデル 「あいよ。とっとと出発しようぜ。」
乗り手 「旦那ァ!出発ですかィ?」 ベイオウルフ 「では、出発しましょう。」 一台は荷車となっており、 君達はもう一台の方へ乗り込む。
グレンデル 「...妙な里帰りになりそうだな。」 アルシエル : さて、行くか。 アルテュール がログインしました。 ボードイベント同期中。 馬車は街道を進んでいる。 ナインス がログインしました。 ボードイベント同期中。 魔物や野盗の気配は無く、順調だ。 今の所は。 ベイオウルフ 「中継地点まではまだかかりそうですね。」 バルダ 「【掃討戦】に送り込むって本気か?神殿騎士さんよ。」 ベイオウルフ 「賊に話す事等無い。」 バルダ 「怖ぇなあ。」 出発前にも聞いた【掃討戦】という言葉。 フロストガルドは一体何と戦っているのだろうか? 君はベイオウルフに聞いてみた。 アルシエル : ベオ、その掃討戦とやらについて聞かせろ ゼノン : (さらに略されてるな……) ナインス : …(ゆらゆらと尾を揺らし、相棒の子竜を抱き抱えながら周囲の様子を眺めている) アルテュール : 掃討戦ね……俺も随分と物騒な話にまで巻き込まれるようになったことだ。 ゼノン : (フードに積もった雪をはたく) ベイオウルフ 「我がフロストガルドには禁足地が有り、  其処には敵対種族が棲んでいるのです。」 ベイオウルフ 「種の王を倒すまで、この【掃討戦】は続きます。」 ナインス : ……なるほど アルシエル : ふぅん……(聞けば興味をなくしたように視線を外に逸らした) アルテュール : ……それはそれは。なるほど、掃討戦だ。 ナインス : 種族間の問題は …どうしてもね… ゼノン : 依頼追加しないでね……。 ナインス : ワタシたちもよくそんな目に遭うよ ナインス : 竜、と亜人だもの ベイオウルフ 「前回が三年前でしたか、  昔はグレンの両親もこれに参加していましたね。」 グレンデル 「...ああ、そうだな。」 アルシエル : 結構高頻度だな。 どうにも歯切れの悪い終わり方になった気がする。 ... アルテュール : ………身近なエルフと人間ですら色々とあると聞くからね。純粋ではない俺はそこらあたりは、よく分らんが…。 馬車の乗り手は車内を一瞥したが、 気に留める事も無く干し肉を齧り始めた。 そんな彼は小柄だが筋骨隆々の身体に長い髭を蓄えている。 ドワーフだろうか? ベイオウルフ 「ドワーフはフロストガルドの主要種族の一つです。  気難しい頑固者と言われていますが、  話せば意外と陽気な者達ですよ。」 乗り手 「気難しさで言やぁ旦那には敵いませんがね。ガハハ。」 乗り手の軽口にベイオウルフは苦笑する。 ベイオウルフ 「良ければフロストガルドについてお話ししましょう。  旅の暇潰しになれば幸いですが。」 ゼノン : 笑えるんだな、あんた……。 ナインス : それは、嬉しいな グレンデル 「俺は見張ってるからよ、好きにしてて良いぜ。」 何を聞こうか? アルテュール : ああ、ありがとうグレンデル。いつでも交代するから言ってくれ。 ゼノンが[フロストガルドという国]を選択しました ベイオウルフ 「放浪者ガーランドが女神イスペリシアのため興した国。  それが【北国】、【霜の国】のフロストガルドです。」 ベイオウルフ 「中央にフロストガルド城があり、  今回の依頼は此方へ向かう事になります。」 ベイオウルフ 「目的地までに通る南から中央にかけては、  比較的温暖で、畜産が盛んです。  慣れぬ者には寒いと感じるかもしれませんが。」 ナインス : ほう、畜産 ベイオウルフ 「情勢としては、現在は敵対関係にある国も無く、  敵対種族への【掃討戦】と国内の安定に注力していますね。」 何を聞こうか? ゼノン : …… ゼノン : おいしいものないかな。 アルテュール : フロストガルドか…どんな植生か楽しみだ。 アルシエル : 何を食べてもそれほど変わらんだろうに…… ナインス : 盛んなら…食文化は豊かそうだね。 ゼノンが[おすすめの店]を選択しました ベイオウルフ 「ふむ...?食事処という事でしょうか。」
ベイオウルフ 「城下町であれば大酒場の【モロウの大鍋】が良いでしょう。  労働層が多く通っており、"安く多く"がモットーだとか。」 ベイオウルフ 「燻製肉やソーセージとエール、ミードを頼む者が多いですが、  カブとムールー肉のシチュー  【ムルホブ】という家庭料理も有ります。」 ナインス : ムールー…? ベイオウルフ 「【アルディーン亭】は  英雄アルディーンが好んでいる菓子の店です。」 ゼノン : ホブ。 ベイオウルフ 「店主に聞けば  フロストガルドの英雄譚を嫌ほど聞かせてくれますよ。」 ベイオウルフ 「彼が使っていた神器、【アルヴェテニル】が飾られていますし、  観光として行くのも良いかも知れませんね。」 何を聞こうか? アルテュール : 俺の地方は比較的暖かったから、寒い北の方に行くのは初めてだし……食事も楽しみだな。 ナインス : ……難しい言葉が多いな ゼノン : 鍋かあ。寒いとこにはぴったしだなあ。 アルテュール : ……植物をスケッチする時間があればいいが。 アルシエル : 知らん固有名詞ばかりだな。 ゼノン : んなもんでしょ。異国だし。 ゼノンが[種族について]を選択しました ベイオウルフ 「まずは【ヒューマン】。一般的な種族ですね。  フロストガルドではヒューマンと他種族の混血は、  ヒューマンと見做されています。」
アルテュール : そうだな……俺も聞いたことが無い。 アルテュール : ふむ、じゃあ俺もヒューマンになるか。 ベイオウルフ 「他種族との交わりが多い国ですので。 主要種族であり、人口の三割ほどを占めています。」 ナインス : その言い方だと 固有種が多いのかな… ゼノン : んー……。 ベイオウルフ 「【ドワーフ】は先程も言いましたが、  頑強で採掘、冶金、鍛冶技術に優れた人種です。」 ベイオウルフ 「地神モロウの加護を受け、防護や回復魔法に適性が有ります。  こちらも主要種族であり、人口の三割を占めています。」 ベイオウルフ 「次に【ナイトエルフ】。"夜空の様な"肌の色を持ち、  非常に長命で知識、魔術、エンチャントに優れた人種です。」 ベイオウルフ 「水神マナの加護を受け、血魔術に適性が有ります。  主要種族ではありますが、人口の二割程です。」 ベイオウルフ 「最後に【ホークマン】。有翼人種と呼ばれており、  背中に翼を持ちます。国内の流通業は彼等の領分ですね。」 ベイオウルフ 「風神セルディの加護を受け、風魔法に適性が有ります。  主要種族ではありますが、人口の二割程です。」 何を聞こうか? ゼノン : ……、耳慣れない種族いたね。 アルテュール : ヒューマン種が混血を含めて3割か、なかなかやはり変わった国のようだな。 ナインス : ああ、リーンでは聞いたことのない種族もいるんだね ゼノンが[宗教について]を選択しました ベイオウルフ 「我が国では  【女神イスペリシア】を主神とする【血教】のみ存在します。」 ナインス : ワタシ達のような種族にも寛容そうで嬉しいな ベイオウルフ 「他国の者は血と聞いて物々しさを感じる事が多い様ですが、  この北の地にて  暖かき生命の魔法を伝える役割を持っています。」 ベイオウルフ 「【女神イスペリシア】【地神モロウ】【水神マナ】【風神セルディ】。  以上の【四神】がこのフロストガルドを護っているのです。」 アルシエル : ふぅん…… アルテュール : ふむ、女神を最上位として、残りの三柱……といったような感じかな? アルテュール : 残念ながら俺は宗教学は専門でないが…。 ゼノン : 宗教はよくわかんないや…… ベイオウルフ 「気を付けるべき点は"血の通わぬ者"を認めない。という事です。  魔法人形...ゴーレム等の類は持ち歩かない方が宜しいかと。  無論、貴方がそうであるなら隠しておいた方が良いでしょう。」 ナインス : ふむ…? ゼノン : (……連れてこなくてよかった。) ベイオウルフ 「...私も命の通わぬ土くれは嫌いですので。」 ゼノン : (よかった………………………………。) ナインス : ……そうなのか アルシエル : そ���ま、価値観はそれぞれ。 アルテュール : なるほどな……機工の街とやらに彼らがきたら大騒ぎだろうな。 何を聞こうか? ゼノン : …………もう聞くことおもいつかない。 ゼノンが[聞き終えた]を選択しました ... アルシエル : じゃ、何も聞かなきゃ良いんじゃないか。私は着くまで寝るぞ ベイオウルフから話を聞き終えてから暫く経ち、 喚く山賊をよそに旅路を見つめる。 遠方の北西に山岳地帯が見える。 あれがフロストガルドだろうか。 グレンデル 「ありゃグリーデンの山だな。  俺の記憶が正しけりゃあ、友好国だったハズだ。  山岳の迂回路を通って行けばフロストガルドに着く。」 ゼノン : あんた今回やる気無さ過ぎなー…… アルテュール : グリーデンか、それは聞いたことがあるよ。 アルシエル : 昼は眠いのだ…… アルテュール : リーンに騎士団がいただろう、たしか。 アルテュール : おや、夜型か。俺と一緒だな。 ゼノン : あー。あの……脳筋たち! アルテュール : ははは!脳筋たち!たしかにな。 ナインス : ああ、あの騎士団の国か アルシエル : お前も夜の方が活動的というわけ…… グレンデル 「このまま着いてくれると楽なんだがな。」 ゼノン : ウケるんだ…… 旅路はまだまだ続く様だ。 アルシエル : ま、私は夜であれ眠いがな・ 馬車はグリーデンの迂回路を通り、 フロストガルドの国境も間近に見えて来ている。 辺りは急に冷え込んできたため、 君達は防寒具を身に纏っていた。 山賊達にも凍傷になられると困るとの事で配られている。
旅路はもう終わるだろうか、そんな事を考えている時だった。 ふと、馬車が止まる。 アルテュール : ……しかし今日は曇ってくれていて助かったな。……ん? ナインス : ? 乗り手とベイオウルフは神妙な面持ちで言葉を交わしている。 何があったのだろうか? 気配 目標値:13 <= 3d++パーセプション アルシエル : む…… ゼノン : …… アルシエル:失敗・・(8)([3,2,3]) ゼノン:成功!(15)([1,5,6]+3) ナインス:失敗・・(11)([1,5,5]) アルテュール:失敗・・(12)([6,3,3]) ゼノン : ま、上出来でしょ? アルテュール : おっと…見なかったことにしてくれ…。 アルシエル : うん? ナインス : クルル…(ああ…嘆かわしいね) 前方の草原に何かが潜んでいる。 そして、敵意と悪意。 ベイオウルフ 「何者だ?姿を現せ!  我等はフロストガルドの者だ!」 がさり、と草原から現れたのは、 毛皮の装備に身を包み、武装した男だった。 肩に斧を当て、下卑た笑いを浮かべている。 ゼノン : 起きて。 アルシエル : 嫌だ。ゼノン……お前がどうにかしろ。 ゼノン : うるさい。いいから起きて。 ナインス : ……襲撃かい? アルテュール : ……なんだ、何かいるのか? アルシエル : うるさい……(鬱陶しそうに起きた) ゼノン : ……雰囲気、おかしいよ。 * 「いやいや、バレちまうとはねえ。」
* 「まあこんな身なりだ、アンタも事情は分かるでしょ。  食料と装備、後は女も居るかね。ここに置いてきな。」 典型的な野盗。国境付近のキャラバンを襲っているのだろう。
気配を察知された事に驚いてはいるが、随分と慣れている。 雪の積もっている箇所もあり、 その裏に他の輩が隠れているのだろうか。 ナインス : ……ふむ? グレンデル 「フン、野盗か。」 戦闘が回避出来るならば、それに越した事は無いのだが、 ベイオウルフの山賊達への態度を見るに、それは有り得なさそうだ。 アルテュール : なるほど、護衛任務、ね。 ゼノン : 慣れてるね……。 ベイオウルフ 「我等は王の勅命を受けている。  貴様の行いは王へ弓引く事と同義だぞ。」 ナインス : これは、対処することになる かな? 野盗 「そりゃあおっそろしいねぇ。  アンタ等をここで始末すれば報告する奴は居ないワケだ。」
ベイオウルフ 「ならば此処に骨を埋めるがいい。  願わくば水神の導きのあらんことを。」 野盗 「野郎共!出番だぜ!!」 * 「ヒャッハー!」 ベイオウルフは乗り手に馬車の護衛を頼んだ。 ベイオウルフ 「馬車と山賊達を頼みます。」 乗り手 「父オステロと地神モロウの名に誓い、守りますぜ!」 ベイオウルフ 「では皆さん、野盗狩りと参りましょう。」 グレンデル 「おう。」 ゼノン : 防寒着汚したくないのになー…… ナインス : …ああ、行こうかフィフス 君は頷き、武器を取った! アルシエル : 汚さんようにやるが良い。 ゼノン : 無理なんだよ……! ナインス がログインしました。 ボードイベント同期中。 ベイオウルフ 「雪原に注意してください。  迂闊に足を踏み入れれば、身動きが取り辛くなります。」 グレンデル 「野盗の割にゃ手練れが揃ってんな。  気ぃ引き締めて行くぞ。」 アクティブシーンになりました。 Round 1 自動スクロールを解除しました。 アルテュール : さて、頼むよ。俺は援護担当だ。残念ながらね(ケープを状の防寒具を強く巻き付けた。 ゼノン : はー。いつもの感じで動けないな、寒い…… アルシエル : 焼き払う。寄るなよ。 アルシエルは移動した。    アルシエルは[5,9]へ移動した。 ナインスは移動した。    ナインスは[6,9]へ移動した。 ゼノンは移動した。    ゼノンは[6,9]へ移動した。 野盗の風使い : 風の壁! 野盗の頑強戦士に風の鎧が与えられる!  達成値:18 ([6,1,1]+10)    野盗の頑強戦士は[風殺]になった ベイオウルフ : 岩の皮膚! アルテュールに加護が与えられる!  達成値:17 ([4,2,6]+5)    アルテュールは1のSPを回復した。      アルテュールは[岩の皮膚]になった 野盗の堕落神官 : 水神の大雫! 周囲に水神の癒しが与えられる!  達成値:17 ([2,3,6]+6)    酷薄のガザンは[水神の大雫]になった    野盗の堕落神官は[水神の大雫]になった    野盗の頑強戦士は[水神の大雫]になった    野盗の頑強戦士は[水神の大雫]になった    野盗の血魔術師は[水神の大雫]になった    野盗の血魔術師は[水神の大雫]になった    野盗の風使いは[水神の大雫]になった 野盗の頑強戦士 : 防護! 野盗の頑強戦士に加護が与えられる!    野盗の頑強戦士は[防護]になった 野盗の頑強戦士 : 防護! 野盗の頑強戦士に加護が与えられる!    野盗の頑強戦士は[防護]になった グレンデルは移動した。    グレンデルは[4,9]へ移動した。 野盗の血魔術師 : 奉血! 野盗の血魔術師は血を水神に捧げた・・・ 野盗の血魔術師は[奉血カウンター]を3つ獲得した。 野盗の血魔術師 : 奉血! 野盗の血魔術師は血を水神に捧げた・・・ 野盗の血魔術師は[奉血カウンター]を3つ獲得した。 酷薄のガザンは待機した。 アルテュールは移動した。    アルテュールは[7,9]へ移動した。 野盗の血魔術師 : 奉血! 野盗の血魔術師は血を水神に捧げた・・・ 野盗の血魔術師は[奉血カウンター]を3つ獲得した。 野盗の血魔術師 : 奉血! 野盗の血魔術師は血を水神に捧げた・・・ 野盗の血魔術師は[奉血カウンター]を3つ獲得した。 アルシエル : 拡散! アルシエルの魔力が増幅する! ナインス : イリュージョン! ナインスがゆらりと移動した。    ナインスは[6,7]へ移動した。 ゼノンは移動した。    ゼノンは[6,7]へ移動した。 ナインスのジャグリングは距離が合わず失敗した。 アルシエル : 黒曜の矢! 魔法の矢が飛んでいく!  達成値:19 ([2,3,6]+8) アルテュール : プレイ!    アルテュールは祈りを捧げた。    アルテュールは1のSPを回復した。      野盗の頑強戦士に24のダメージ  ([5]+27) アルテュール : ああ、助かる。 グレンデルは[浸雪]になった    ナインスは[6,9]へ移動した。    酷薄のガザンは8回復した。  (([4]+12))/2    野盗の堕落神官は8回復した。  (([3]+12))/2    野盗の頑強戦士は9回復した。  (([6]+12))/2    野盗の頑強戦士は7回復した。  (([1]+12))/2    野盗の血魔術師は7回復した。  (([2]+12))/2 野盗の血魔術師は[奉血カウンター]を1つ失った。    野盗の血魔術師は7回復した。  (([2]+12))/2 野盗の血魔術師は[奉血カウンター]を1つ失った。    野盗の風使いは9回復した。  (([6]+12))/2 Round 2 アルテュール : ……む、変わった魔力だが……回復の類か? ゼノン : ……こっちじゃ見かけない魔法が多くない? アルシエル : 何だ来んのか。同地点を狙う。踏み込むなよ。 ナインス : そうだね アルテュール : 俺は待機だ、必要があれば前に出よう。 ゼノン : ……様子見する。 キャンセルしました。 ゼノンは移動した。    ゼノンは[6,8]へ移動した。 野盗の風使いは移動した。    野盗の風使いは[5,3]へ移動した。 野盗の血魔術師は移動した。    野盗の血魔術師は[4,4]へ移動した。 野盗の堕落神官 : 施し! 野盗の頑強戦士に回復の施しが与えられる!  達成値:18 ([1,6,5]+6)    野盗の頑強戦士は10回復した。  (([1,6]+12))/2 野盗の頑強戦士は移動した。    野盗の頑強戦士は[5,6]へ移動した。 酷薄のガザンは移動した。    酷薄のガザンは[6,6]へ移動した。 グレンデルは移動した。    グレンデルは[浸雪]でなくなった    グレンデルは[4,8]へ移動した。 野盗の血魔術師は移動した。    野盗の血魔術師は[8,4]へ移動した。 野盗の頑強戦士 : 防護! 酷薄のガザンに加護が与えられる!    酷薄のガザンは[防護]になった アルシエル : 拡散! アルシエルの魔力が増幅する! ナインスは移動した。    ナインスは[6,7]へ移動した。 アルシエル : 黒曜の矢! 魔法の矢が飛んでいく!  達成値:19 ([3,2,6]+8) アルテュール : プレイ!    アルテュールは祈りを捧げた。    アルテュールは1のSPを回復した。      酷薄のガザンに21のダメージ  ([4]+27)    野盗の頑強戦士に24のダメージ  ([5]+27)    野盗の血魔術師に23のダメージ  ([2]+27) アルテュール : ああ、助かる。        野盗の頑強戦士は[重傷]になった 野盗の風使いの雷撃は距離が合わず失敗した。 野盗の血魔術師の吸血は距離が合わず失敗した。 野盗の堕落神官 : 施し! 野盗の頑強戦士に回復の施しが与えられる!  達成値:19 ([4,4,5]+6)    野盗の頑強戦士は9回復した。  (([1,5]+12))/2 野盗の頑強戦士の攻撃は距離が合わず失敗した。 酷薄のガザンの攻撃は距離が合わず失敗した。 野盗の血魔術師の吸血は距離が合わず失敗した。 ナインス : ジャグリング! ナインスは曲芸を披露する!  達成値:33 ([6,6,3,6]+12) アルテュール : プレイ!    酷薄のガザンは抵抗しようとした。([4,4,4]+14)    アルテュールは祈りを捧げた。    酷薄のガザンのクリティカル! 命中判定の最も低いダイスを6に変更した。([6,6,3,1] => [6,6,3,6]) ナインスは[劇的カウンター]を1つ獲得した。        酷薄のガザンはクリティカルで抵抗した。    酷薄のガザンに0のダメージ  ([2,5,1,3]+18) グレンデルは[浸雪]になった    酷薄のガザンは9回復した。  (([6]+12))/2    野盗の堕落神官は9回復した。  (([6]+12))/2    野盗の頑強戦士は7回復した。  (([1]+12))/2    野盗の頑強戦士は8回復した。  (([4]+12))/2    野盗の血魔術師は7回復した。  (([1]+12))/2 野盗の血魔術師は[奉血カウンター]を1つ失った。    野盗の血魔術師は7回復した。  (([2]+12))/2 野盗の血魔術師は[奉血カウンター]を1つ失った。    野盗の風使いは7回復した。  (([2]+12))/2 Round 3 ナインス : …凌いだかい アルシエル : 2発続けて撃つ。巻き込まれるなよ。 アルテュール : すまないな、俺も魔力を回したんだが……一歩及ばずだ。 ゼノンは移動した。    ゼノンは[6,7]へ移動した。 野盗の風使い : 雷撃! 野盗の風使いは雷を放った!  達成値:20 ([1,3,6]+10) アルテュール : ミラージュ!    幻影が攻撃を惑わせる。        ナインスは回避した。  達成値:27 ([1,1,6]+19) 酷薄のガザンは攻撃した。  達成値:20 ([1,2,3]+14) アルテュール : ミラージュ!    幻影が攻撃を惑わせる。        ナインスは回避した。  達成値:32 ([4,5,4]+19) 野盗の血魔術師 : 寒気! ナインスの体温を��う!  達成値:17 ([1,6,2]+8)    ナインスは抵抗しようとした。        ナインスは抵抗に失敗した。  達成値:15 ([6,1,5]+3)    ナインスは[寒気]になった グレンデルは移動した。    グレンデルは[浸雪]でなくなった    グレンデルは[4,7]へ移動した。 野盗の頑強戦士は移動した。    野盗の頑強戦士は[8,6]へ移動した。 ベイオウルフ : 障壁! アルテュールの周囲に障壁を作り出す!  達成値:18 ([2,5,6]+5)    アルテュールは1のSPを回復した。   アルテュールは[障壁カウンター]を10つ獲得した。 野盗の頑強戦士は移動した。    野盗の頑強戦士は[5,7]へ移動した。 野盗の血魔術師 : 吸血! ナインスの生命力を奪い取る!  達成値:18 ([2,3,5]+8)    ナインスは防御した。        ダメージを5軽減!  ([]+9)    ナインスに9のダメージ  ([6,6]+11)    野盗の血魔術師は9回復した。   野盗の堕落神官の施しは距離が合わず失敗した。 アルシエル : 拡散! アルシエルの魔力が増幅する! ナインス : イリュージョン! ナインスがゆらりと移動した。    ナインスは[6,9]へ移動した。 ナインス : ショータイム! ナインスが演目の始まりを告げる!  達成値:25 ([4,6,3]+12)    酷薄のガザンは抵抗しようとした。    野盗の頑強戦士は抵抗しようとした。        酷薄のガザンは抵抗に失敗した。  達成値:16 ([6,1,2]+7)        野盗の頑強戦士は抵抗に失敗した。  達成値:17 ([3,1,4]+9) ゼノン : ありがと、助かる! アルテュール : ああ、助かる。 アルシエル : お礼は���っておく アルシエル : 黒曜の矢! 魔法の矢が飛んでいく!  達成値:20 ([5,6,1]+8) アルテュール : プレイ!    アルテュールは祈りを捧げた。 アルテュールは[障壁カウンター]を2つ失った。    アルテュールは1のSPを回復した。      酷薄のガザンに22のダメージ  ([5]+27)    野盗の血魔術師に22のダメージ  ([1]+27) アルテュール : ああ、助かる。        野盗の血魔術師は[重傷]になった        野盗の血魔術師は[気絶]になった ゼノン : フェイント! ゼノンは攻撃するふりをする!    酷薄のガザンは3のAPを失った   野盗の頑強戦士の攻撃は距離が合わず失敗した。 野盗の堕落神官の施しは距離が合わず失敗した。 ゼノン : クイックトリック! ゼノンは素早い攻撃を行った!  達成値:24 ([5,6,6]+7) 酷薄のガザン : ディフレクション!    酷薄のガザンは武器を使って敵の攻撃を回避しようとした!        酷薄のガザンは回避に失敗した。  達成値:21 ([4,1,2]+14)    酷薄のガザンに12のダメージ  ([4,3]+15) アルシエル : 黒曜の矢! 魔法の矢が飛んでいく!  達成値:19 ([5,1,5]+8) アルシエルはWillを使用した!    アルテュールは1のSPを回復した。      酷薄のガザンに20のダメージ  ([3]+27)    野盗の頑強戦士に21のダメージ  ([2]+27)    野盗の血魔術師に27のダメージ  ([6]+27) アルテュール : ああ、助かる。        酷薄のガザンは[重傷]になった        野盗の血魔術師は[重傷]になった 野盗の頑強戦士は[浸雪]になった    ナインスは[6,7]へ移動した。    酷薄のガザンは9回復した。  (([5]+12))/2    野盗の堕落神官は7回復した。  (([1]+12))/2    野盗の頑強戦士は9回復した。  (([6]+12))/2    野盗の頑強戦士は7回復した。  (([1]+12))/2    野盗の血魔術師は9回復した。  (([5]+12))/2 野盗の血魔術師は[奉血カウンター]を1つ失った。    野盗の風使いは8回復した。  (([4]+12))/2 Round 4 アルシエル : 2発。わざわざ当たりに行くなよ。 ナインス がログアウトしました。 ナインス がログインしました。 グレンデル : エンゲージ! グレンデルが立ちふさがる!    野盗の頑強戦士は[移動禁止]になった    グレンデルは[移動禁止]になった ゼノン : クイックトリック! ゼノンは素早い攻撃を行った!  達成値:19 ([3,6,3]+7)    野盗の頑強戦士は防御した。([1,1,1]+7)    野盗の頑強戦士のファンブル! ナインスは[劇的カウンター]を1つ獲得した。    野盗の頑強戦士に11のダメージ  ([4,5]+15) 野盗の風使い : 風の壁! 酷薄のガザンに風の鎧が与えられる!  達成値:20 ([1,5,4]+10)    酷薄のガザンは[風殺]になった 野盗の血魔術師 : 奉血! 野盗の血魔術師は血を水神に捧げた・・・ 野盗の血魔術師は[奉血カウンター]を3つ獲得した。 野盗の頑強戦士は攻撃した。  達成値:20 ([6,1,6]+7)    ゼノンは回避しようとした。        ゼノンは回避した。  達成値:27 ([4,4,2]+17) 野盗の頑強戦士 : 防護! 野盗の堕落神官に加護が与えられる!    アルシエルの反射は距離が合わず失敗した。    アルテュールは1のSPを回復した。      野盗の堕落神官は[防護]になった 野盗の堕落神官 : 施し! 野盗の血魔術師に回復の施しが与えられる!  達成値:14 ([1,5,2]+6)    野盗の血魔術師は10回復した。  (([5,2]+12))/2 ベイオウルフ : 悪性解除! ナインスの異常が取り除かれる!  達成値:14 ([2,6,1]+5)    アルテュールは1のSPを回復した。      ナインスは[寒気]でなくなった 酷薄のガザン : ソードダンス! 酷薄のガザンがまるで踊るかのように辺りを切り裂く!  達成値:28 ([2,6,6]+14) アルテュール : ミラージュ!    幻影が攻撃を惑わせる。    ナインスは防御した。    ゼノンは回避しようとした。        ゼノンは回避した。  達成値:30 ([4,6,3]+17) アルテュールは[障壁カウンター]を2つ失った。        ナインスは回避に失敗した。  達成値:28 ([1,2,6]+19)    野盗の頑強戦士に29のダメージ  ([3,3,5,6,5]+20)        野盗の頑強戦士は[気絶]になった ナインス : ジャグリング! ナインスは曲芸を披露する!  達成値:25 ([2,5,1,5]+12)    野盗の頑強戦士に19のダメージ  ([4,2,3,5]+18) アルシエル : 拡散! アルシエルの魔力が増幅する! アルテュールは移動した。    アルテュールは[6,7]へ移動した。 グレンデル : バッシュ! グレンデルは武器を力強く叩きつけた!  達成値:21 ([5,4,1]+11) 野盗の頑強戦士 : 魔法の盾!    野盗の頑強戦士の前に魔法の盾が現れる!        アルテュールは1のSPを回復した。          ダメージを12軽減!  ([4]+12)    野盗の頑強戦士に0のダメージ  ([2,1,2]+16) 野盗の血魔術師 : 吸血! ゼノンの生命力を奪い取る!  達成値:22 ([3,5,6]+8)    ゼノンは抵抗しようとした。        ゼノンは抵抗に失敗した。  達成値:9 ([2,1,1]+5)    アルテュールは1のSPを回復した。      ゼノンに11のダメージ  ([1,1]+11)    野盗の血魔術師は11回復した。   アルシエルの黒曜の矢はAPが足りず失敗した。 ゼノン : クイックトリック! ゼノンは素早い攻撃を行った!  達成値:18 ([3,3,5]+7)    野盗の頑強戦士に4のダメージ  ([1,1]+15) 野盗の堕落神官 : 施し! 野盗の血魔術師に回復の施しが与えられる!  達成値:15 ([4,3,2]+6)    野盗の血魔術師は10回復した。  (([3,4]+12))/2 酷薄のガザンは攻撃した。  達成値:25 ([1,4,6]+14) アルテュール : ミラージュ!    幻影が攻撃を惑わせる。 アルテュールは[障壁カウンター]を2つ失った。        ゼノンは回避した。  達成値:30 ([3,3,5]+19) アルシエルの黒曜の矢はAPが足りず失敗した。 アルテュールは[浸雪]になった    酷薄のガザンは9回復した。  (([6]+12))/2    野盗の堕落神官は7回復した。  (([1]+12))/2    野盗の頑強戦士は7回復した。  (([2]+12))/2    野盗の血魔術師は8回復した。  (([4]+12))/2 野盗の血魔術師は[奉血カウンター]を1つ失った。    野盗の風使いは7回復した。  (([1]+12))/2    酷薄のガザンは[水神の大雫]でなくなった    野盗の堕落神官は[水神の大雫]でなくなった    野盗の頑強戦士は[水神の大雫]でなくなった    野盗の頑強戦士は[防護]でなくなった    野盗の血魔術師は[水神の大雫]でなくなった    野盗の風使いは[水神の大雫]でなくなった Round 5 ゼノンは、ポーションを使った。    ゼノンは6回復した。  ([3]+3) 野盗の風使いは移動した。    野盗の風使いは[5,6]へ移動した。 野盗の血魔術師 : 吸血! アルテュールの生命力を奪い取る!  達成値:19 ([4,4,3]+8)    アルテュールは抵抗しようとした。 アルテュールは[障壁カウンター]を2つ失った。        アルテュールは抵抗した。  達成値:30 ([5,4,6]+15)    アルテュールは1のSPを回復した。      アルテュールに3のダメージ  ([4,6]+11) ベイオウルフ : 障壁! ゼノンの周囲に障壁を作り出す!  達成値:20 ([5,4,6]+5) ゼノンは[障壁カウンター]を10つ獲得した。 野盗の頑強戦士は移動した。    野盗の頑強戦士は[7,7]へ移動した。 野盗の堕落神官は移動した。    野盗の堕落神官は[6,2]へ移動した。 グレンデルの移動は状態によって失敗した。 酷薄のガザン : ソードダンス! 酷薄のガザンがまるで踊るかのように辺りを切り裂く!  達成値:26 ([4,5,3]+14)    ゼノンは回避しようとした。 ゼノンは[障壁カウンター]を2つ失った。        ゼノンは回避に失敗した。  達成値:27 ([2,6,2]+17) アルテュール : 夜霧の森は抜けさせない! ミラージュ!    幻影が攻撃を惑わせる。 アルテュールは[障壁カウンター]を失った        ナインスは回避した。  達成値:28 ([1,4,6]+17)    野盗の頑強戦士に24のダメージ  ([2,3,5,1,3]+20)        野盗の頑強戦士は[重傷]になった アルシエル : 拡散! アルシエルの魔力が増幅する! ナインスは移動した。    ナインスは[5,6]へ移動した。 アルシエル : 黒曜の矢! 魔法の矢が飛んでいく!  達成値:14 ([4,1,1]+8)    アルテュールは1のSPを回復した。      酷薄のガザンに22のダメージ  ([5]+27)    野盗の血魔術師に27のダメージ  ([6]+27) アルテュール : ああ、助かる。 野盗の風使いは攻撃した。  達成値:17 ([1,3,3]+10)    グレンデルは防御した。        ダメージを7軽減!  ([]+14)    グレンデルに0のダメージ  ([1,3]+12) 野盗の頑強戦士は攻撃した。  達成値:18 ([2,5,4]+7) アルテュール : ミラージュ!    幻影が攻撃を惑わせる。        アルテュールは回避した。  達成値:31 ([5,5,4]+17) 野盗の堕落神官 : 施し! 酷薄のガザンに回復の施しが与えられる!  達成値:17 ([2,6,3]+6)    酷薄のガザンは9回復した。  (([3,2]+12))/2 グレンデルのバッシュはAPが足りず失敗した。 ナインスは移動した。    ナインスは[5,4]へ移動した。
自動スクロールを有効にしました。 Round 5 Round 6 自動スクロールを解除しました。 ナインス がログインしました。 アルテュール がログインしました。 アルシエル : 奥のを狙う。 キャンセルしました。 グレンデル : エンゲージ! グレンデルが立ちふさがる!([2,2,2]+8) グレンデルのファンブル! ナインスは[劇的カウンター]を1つ獲得した。 野盗の風使い : 風の壁! 野盗の堕落神官に風の鎧が与えられる!  達成値:24 ([5,6,3]+10)    アルテュールは1のSPを回復した。      野盗の堕落神官は[風殺]になった ゼノン : チャージ! ゼノンは力をためた!    ゼノンは[チャージ]になった アルシエルは移動した。    アルシエルは[6,7]へ移動した。 野盗の頑強戦士は攻撃した。  達成値:17 ([1,3,6]+7) アルテュール : ミラージュ!    幻影が攻撃を惑わせる。        ゼノンは回避した。  達成値:27 ([3,2,5]+17) 野盗の堕落神官は移動した。    野盗の堕落神官は[6,3]へ移動した。 ナインスは移動した。    ナインスは[5,7]へ移動した。 グレンデル : バッシュ! グレンデルは武器を力強く叩きつけた!  達成値:23 ([2,4,6]+11) 野盗の頑強戦士 : 魔法の盾!    野盗の風使いの前に魔法の盾が現れる!    野盗の風使いは回避しようとした。        野盗の風使いは回避に失敗した。  達成値:22 ([1,4,5]+12)        アルテュールは1のSPを回復した。          ダメージを11軽減!  ([3]+12)    野盗の風使いに17のダメージ  ([6,3,6]+16) ゼノン : インビジブルアタック! ゼノンは、敵の死角を突いて攻撃した!  達成値:28 ([5,6,5,2,3]+7) アルテュール : プレイ!    アルテュールは祈りを捧げた。    野盗の風使いは回避しようとした。 命中判定の最も低いダイスを6に変更した。([5,1,5,2,3] => [5,6,5,2,3])        野盗の風使いは回避に失敗した。  達成値:23 ([6,1,4]+12)    野盗の風使いに24のダメージ  ([5,2,3,2]+15)        野盗の風使いは[重傷]になった        野盗の風使いは[気絶]になった アルシエルは移動した。    アルシエルは[6,5]へ移動した。 ナインス がログアウトしました。 野盗の堕落神官 : 施し! 野盗の頑強戦士に回復の施しが与えられる!  達成値:19 ([4,3,6]+6)    野盗の頑強戦士は10回復した。  (([1,6]+12))/2 ナインス : チャージ! ナインスは力をためた!    ナインスは[チャージ]になった ナインス : ジャグリング! ナインスは曲芸を披露する!  達成値:29 ([6,6,2,3]+12)    野盗の風使いに38のダメージ  ([3,4,2,6,2,6]+18)        野盗の風使いは[昏睡]になった アルシエル : 理よ綻びろ、貪り、嘗め尽せ、 混沌の焔! 地を焼き尽くす焔が奔る  達成値:24 ([2,6,2,6]+8) アルシエルはWillを使用した!    野盗の頑強戦士の魔法の盾はAPが足りず失敗した。 アルテュール : プレイ!    アルテュールは祈りを捧げた。    野盗の堕落神官は抵抗しようとした。 命中判定の最も低いダイスを6に変更した。([2,6,2,1] => [2,6,2,6])        野盗の堕落神官は抵抗に失敗した。  達成値:16 ([4,1,4]+7)    アルテュールは1のSPを回復した。      野盗の堕落神官に29のダメージ  ([5,5,4]+23) アルテュール : ああ、助かる。        野盗の堕落神官は[重傷]になった        野盗の堕落神官は[気絶]になった ナインスは[浸雪]になった    ゼノンは[チャージ]でなくなった 酷薄のガザン 「こ、コイツ等...。」    ナインスは[チャージ]でなくなった 酷薄のガザンを撃破した! 酷薄のガザン 「俺とした事が、相手を見誤っちまったか。  まあ良い、ここは一旦退くとする...」 その時だった。 * 「グルルオオオオオォォォ!!」 * 「うわあああ!」 腹の底に響く様な恐ろしげな咆哮。 それを聞くと同時に一人の野盗から悲鳴が上がる。
ナインス : む アルテュール : っ、なんだ……! 見るにそれはトカゲに近い姿の獣だった。 だが、その四肢に生える爪は尋常の物ではなく、 喰らう為では無く、ただ引き裂く為の存在と感じさせた。 ゼノン : あ。 * 「たっ、たすげぶっ」 抵抗虚しく、野盗は引き裂かれた。 酷薄のガザン 「お、おい...。何でコイツがこんな所に居るんだよ!?」 ベイオウルフ 「馬鹿な、国境に【血族】が現れるのか!?」
野盗の長が困惑している最中にも、 その獣は次々に獲物を引き裂いた。 何人かは這うように、散り散りに逃げ始める。
しかし、逃げようとした彼等は何かに引き摺られる様に、 一点へと吸い寄せられていく。 アルシエル : ……? ゼノン : ……、どういう…… * 「ホホホホホ」 ナインス : あれが 敵対してる種族なのかな? その先に居たのは異様な雰囲気を身に纏った亜人だった。 傍らに先程の獣に似た物を侍らせている。 ��が手を翳した先に野盗達が転がり寄せる。 亜人が何かを詠唱すると、彼等は苦痛に悶え始めた。 * 「あぎいいいいいいいっ」 アルテュール : ……妙じゃないか…?……っ…。(左腕を枝に絞め上げられ、顔を少し歪めた……。 野盗達の顔が瞬く間に蒼白へと変わっていく。 生命か、血か、吸収しているのだ。 一通り吸い飽きると、萎びたそれを放り捨てる。 ゼノン : ……うわあ。 そして、君達をじっと見つめる。 ベイオウルフ 「あれらは【血族】。この地に居た堕ちた戦神の落とし子。  そして、我らがフロストガルドに敵対する種族です。」 アルシエル : ふぅん…… アルテュール : …なる、ほどね……っ……。 ナインス : あれらと戦っているのか… ベイオウルフ 「目に付く人間を次々に襲う、悪意に満ちた存在。  だが、彼等の生息地は遥か北西の筈...。」 グレンデル 「馬鹿野郎!なにくっちゃべってやがる!」 野盗を引き裂き終えた獣が、 グレンデルへと爪を振り下ろしていた。 彼は直剣でなんとかそれを防いでいる状態だった。 ベイオウルフ 「グレン!今助ける!」 ナインス : 加勢しよう、このままじゃ ワタシ達も危ないな ベイオウルフ 「すみません、残りの二体を宜しくお願いします。  私は彼の補助へ回ります!」 アルシエル : 良いよ。 ゼノン : ……連続か。 アクティブシーンになりました。 Round 1 * 「カロロロ」 * 「ホホホホホホホ」 自動スクロールを解除しました。 アルテュール : まずい…か……集中させてくれ、頼むから…っ…。 ゼノン : ……アルト。振り絞って。 ナインス がログアウトしました。 アルテュール : ……ああ、勿論、だ…。 ナインス がログインしました。 血族の裂爪獣 : 飛びかかり! 血族の裂爪獣が飛び掛かった!  達成値:22 ([5,3,2]+12) アルテュール : ミラージュ!    幻影が攻撃を惑わせる。        アルテュールは回避した。  達成値:33 ([5,4,5]+19)    血族の裂爪獣は[6,11]へ移動した。 ナインスは移動した。    ナインスは[6,9]へ移動した。 アルシエルは移動した。    アルシエルは[5,9]へ移動した。 ゼノンは移動した。    ゼノンは[6,9]へ移動した。 血族の獣乗り : 奉血! 血族の獣乗りは血を水神に捧げた・・・ 血族の獣乗りは[奉血カウンター]を3つ獲得した。 アルテュールは移動した。    アルテュールは[6,9]へ移動した。 血族の獣乗りは移動した。    血族の獣乗りは[5,4]へ移動した。 ナインスは移動した。    ナインスは[6,7]へ移動した。 アルシエルの黒曜の矢は距離が合わず失敗した。 ゼノンは移動した。    ゼノンは[6,7]へ移動した。 血族の獣乗り : 拉致! 血族の獣乗りは手を翳した!  達成値:13 ([1,4,6]+2)    アルテュールは抵抗しようとした。        アルテュールは抵抗した。  達成値:29 ([6,4,2]+17)    アルテュールは[5,4]へ引き寄せられた。 アルシエルの黒曜の矢は距離が合わず失敗した。 アルシエルの黒曜の矢はAPが足りず失敗した。 アルテュールは[浸雪]になった 血族の獣乗りは[奉血カウンター]を1つ失った。 Round 2 アルテュール : …なっ……! ナインス : ショータイム! ナインスが演目の始まりを告げる!  達成値:23 ([4,6,1]+12)    血族の裂爪獣は抵抗しようとした。        血族の裂爪獣は抵抗に失敗した。  達成値:20 ([5,4,4]+7) アルテュール : ああ、助かる。 ゼノン : ありがと、助かる! アルシエル : お礼は言っておく ゼノンは移動した。    ゼノンは[6,9]へ移動した。 血族の獣乗り : 奉血! 血族の獣乗りは血を水神に捧げた・・・ 血族の獣乗りは[奉血カウンター]を3つ獲得した。 血族の裂爪獣 : 狩り! アルシエルは牙と爪で攻撃した!  達成値:26 ([4,6,6]+10) アルテュール : ミラージュ!    幻影が攻撃を惑わせる。        アルシエルは回避した。  達成値:28 ([3,5,3]+17) アルシエル : 理よ綻びろ、貪り、嘗め尽せ、 混沌の焔! 地を焼き尽くす焔が奔る([6,6,6,4]+8) アルシエルのクリティカル! アルテュール : プラーナ!    血族の裂爪獣は抵抗しようとした。    アルシエルの力を呼び覚ます!        血族の裂爪獣は抵抗に失敗した。  達成値:21 ([4,5,5]+7)    アルテュールは1のSPを回復した。   ナインスは[劇的カウンター]を1つ獲得した。    血族の裂爪獣に40のダメージ  ([6,6,6]+23) アルテュール : ああ、助かる。 アルテュールは移動した。    アルテュールは[浸雪]でなくなった    アルテュールは[6,8]へ移動した。 血族の獣乗り : 拉致! 血族の獣乗りは手を翳した!  達成値:17 ([6,4,5]+2)    アルシエルは[5,4]へ引き寄せられた。    アルシエルは[拉致]になった ゼノン : チャージ! ゼノンは力をためた!    ゼノンは[チャージ]になった ナインス : イリュージョン! ナインスがゆらりと移動した。    ナインスは[6,10]へ移動した。 ナインス : ジャグリング! ナインスは曲芸を披露する!  達成値:35 ([6,6,5,6]+12) ナインスはWillを使用した!    血族の裂爪獣は抵抗しようとした。        血族の裂爪獣は抵抗に失敗した。  達成値:22 ([6,3,5]+8)    血族の裂爪獣に27のダメージ  ([3,4,3,5]+18) 血族の裂爪獣のクイックトリックは距離が合わず失敗した。 アルシエル : 理よ綻びろ、貪り、嘗め尽せ、 混沌の焔! 地を焼き尽くす焔が奔る  達成値:28 ([3,5,6,6]+8) アルシエルはWillを使用した! アルテュール : プレイ!    血族の裂爪獣は抵抗しようとした。    アルテュールは祈りを捧げた。    アルテュールはWillを使用した!        血族の裂爪獣は抵抗に失敗した。  達成値:26 ([3,6,4,5]+8)    アルテュールは1のSPを回復した。      血族の裂爪獣に29のダメージ  ([4,3,5]+23) アルテュール : ああ、助かる。 ゼノン : インビジブルアタック! ゼノンは、敵の死角を突いて攻撃した!  達成値:35 ([6,6,5,5,6]+7) ゼノンはWillを使用した!    血族の裂爪獣は回避しようとした。        血族の裂爪獣は回避に失敗した。  達成値:28 ([3,6,5]+14)    血族の裂爪獣に20のダメージ  ([4,2,1,6]+15)        血族の裂爪獣は[重傷]になった 血族の獣乗りは移動した。    血族の獣乗りは[5,5]へ移動した。 血族の裂爪獣の攻撃は距離が合わず失敗した。 ナインス : ジャグリング! ナインスは曲芸を披露する!  達成値:31 ([4,5,5,5]+12) ナインスはWillを使用した!    血族の裂爪獣は抵抗しようとした。        血族の裂爪獣は抵抗に失敗した。  達成値:22 ([3,5,3,3]+8)    血族の裂爪獣に22のダメージ  ([3,1,4,4]+18) 血族の獣乗りの吸血はAPが足りず失敗した。 アルシエル : 理よ綻びろ、貪り、嘗め尽せ、 混沌の焔! 地を焼き尽くす焔が奔る  達成値:27 ([4,6,6,3]+8) アルシエルはWillを使用した! アルテュール : プレイ!    血族の裂爪獣は抵抗しようとした。    アルテュールは祈りを捧げた。    アルテュールはWillを使用した!        血族の裂爪獣は抵抗に失敗した。  達成値:24 ([6,3,4,3]+8)    アルテュールは1のSPを回復した。      血族の裂爪獣に25のダメージ  ([2,1,5]+23) アルテュール : ああ、助かる。        血族の裂爪獣は[気絶]になった ゼノン : インビジブルアタック! ゼノンは、敵の死角を突いて攻撃した!  達成値:32 ([5,6,5,6,3]+7) ゼノンはWillを使用した!    血族の裂爪獣に26のダメージ  ([4,6,4,5]+15) ナインス : ジャグリング! ナインスは曲芸を披露する!  達成値:31 ([5,5,6,3]+12) ナインスはWillを使用した!    血族の裂爪獣に23のダメージ  ([4,1,2,6]+18) アルシエル : 理よ綻びろ、貪り、嘗め尽せ、 混沌の焔! 地を焼き尽くす焔が奔る([5,5,5,3]+8) アルシエルはWillを使用した! アルシエルのクリティカル!    アルテュールは1のSPを回復した。   ナインスは[劇的カウンター]を1つ獲得した。    血族の裂爪獣に38のダメージ  ([6,6,6]+23) アルテュール : ああ、助かる。 ゼノン : インビジブルアタック! ゼノンは、敵の死角を突いて攻撃した!  達成値:35 ([6,6,4,6,6]+7) ゼノンはWillを使用した!    血族の裂爪獣に21のダメージ  ([3,6,2,3]+15) アルシエルは[浸雪]になった    ナインスは[5,8]へ移動した。 血族の獣乗りは[奉血カウンター]を1つ失った。    ゼノンは[チャージ]でなくなった Round 3 アルテュール : よし、獣は片づけてくれたな…助かった。 アルテュール : あとは、本体か…… ゼノン : あーこわ…… ゼノンは移動した。    ゼノンは[6,7]へ移動した。 血族の獣乗り : 吸血! 血族の獣乗りの生命力を奪い取る!  達成値:18 ([4,1,6]+7) アルシエル : 反射!    魔法を反射する!        アルテュールは1のSPを回復した。   対象を 血族の獣乗り に変更した。 アルテュール : ああ、助かる。    アルテュールは1のSPを回復した。      血族の獣乗りに11のダメージ  ([6,3]+12)    血族の獣乗りは11回復した。   アルシエル : 混沌の焔! 地を焼き尽くす焔が奔る  達成値:28 ([2,6,6,6]+8) アルテュール : プレイ!    血族の獣乗りは抵抗しようとした。    アルテュールは祈りを捧げた。        血族の獣乗りは抵抗に失敗した。  達成値:22 ([3,5,5]+9) 命中判定の最も低いダイスを6に変更した。([2,1,6,6] => [2,6,6,6])    アルテュールは1のSPを回復した。      血族の獣乗りに24のダメージ  ([1,2,5]+23) アルテュール : ああ、助かる。 ナインス : イリュージョン! ナインスがゆらりと移動した。([4,4,4]+12) ナインスのクリティカル! ナインスは[劇的カウンター]を1つ獲得した。    ナインスは[5,6]へ移動した。 アルテュールは移動した。    アルテュールは[6,6]へ移動した。 ナインス : ジャグリング! ナインスは曲芸を披露する!  達成値:23 ([3,2,4,2]+12)    血族の獣乗りは抵抗しようとした。        血族の獣乗りは抵抗に失敗した。  達成値:17 ([1,4,2]+10)    血族の獣乗りに20のダメージ  ([1,4,5,3]+18) ゼノンは移動した。    ゼノンは[6,5]へ移動した。 血族の獣乗り : 吸血! アルシエルの生命力を奪い取る!  達成値:15 ([1,3,4]+7)    アルシエルは抵抗しようとした。        アルシエルは抵抗に失敗した。  達成値:13 ([6,2,5])    アルテュールは1のSPを回復した。      アルシエルに9のダメージ  ([1,2]+15)    血族の獣乗りは9回復した。   ナインス : ジャグリング! ナインスは曲芸を披露する!  達成値:28 ([5,4,2,5]+12)    血族の獣乗りは抵抗しようとした。        血族の獣乗りは抵抗に失敗した。  達成値:18 ([1,4,3]+10)    血族の獣乗りに22のダメージ  ([5,4,4,2]+18) ゼノン : フェイント! ゼノンは攻撃するふりをする!    血族の獣乗りは3のAPを失った      ナインスは[5,8]へ移動した。 血族の獣乗りは[奉血カウンター]を1つ失った。    アルシエルは[拉致]でなくなった Round 4 ナインス : ショータイム! ナインスが演目の始まりを告げる!  達成値:0 ナインスの失敗した。 ゼノン : フェイント! ゼノンは攻撃するふりをする!    血族の獣乗りは3のAPを失った   血族の獣乗り : 奉血! 血族の獣乗りは血を水神に捧げた・・・ 血族の獣乗りは[奉血カウンター]を3つ獲得した。 アルシエルは移動した。    アルシエルは[浸雪]でなくなった    アルシエルは[6,7]へ移動した。 ゼノン : フェイント! ゼノンは攻撃するふりをする!    血族の獣乗りは3のAPを失った   血族の獣乗りの拉致はAPが足りず失敗した。 ナインス : イリュージョン! ナインスがゆらりと移動した。    ナインスは[5,6]へ移動した。 アルシエル : 混沌の焔! 地を焼き尽くす焔が奔る  達成値:28 ([6,6,4,4]+8) アルテュール : プレイ!    血族の獣乗りは抵抗しようとした。    アルテュールは祈りを捧げた。        血族の獣乗りは抵抗に失敗した。  達成値:22 ([5,2,2,3]+10) 命中判定の最も低いダイスを6に変更した。([6,2,4,4] => [6,6,4,4])    アルテュールは1のSPを回復した。      血族の獣乗りに19のダメージ  ([1,2,3]+23) アルテュール : ああ、助かる。 ゼノン : クイックトリック! ゼノンは素早い攻撃を行った!  達成値:16 ([6,2,1]+7) アルテュール : プレイ!    アルテュールは祈りを捧げた。 命中判定の最も低いダイスを6に変更した。([1,2,1] => [6,2,1])    血族の獣乗りに13のダメージ  ([5,6]+15)        血族の獣乗りは[重傷]になった ナインス : チャージ! ナインスは力をためた!    ナインスは[チャージ]になった 血族の獣乗りの吸血はAPが足りず失敗した。 ナインスは攻撃した。  達成値:23 ([4,4,3]+12)    血族の獣乗りの防御はAPが足りず失敗した。    血族の獣乗りに22のダメージ  ([5,1,2,3,6]+18) ナインスは[浸雪]になった    ナインスは[5,8]へ移動した。 血族の獣乗りは[奉血カウンター]を1つ失った。    ナインスは[チャージ]でなくなった Round 5 アルテュール : そろそろ向こうさんもお疲れだ、魔力を回すから頼んだよ! ゼノン : さむい……身体動かない…… ナインス : …支援に回ろう キャンセルしました。 ゼノン : フェイント! ゼノンは攻撃するふりをする!    血族の獣乗りは3のAPを失った   血族の獣乗り : 拉致! 血族の獣乗りは手を翳した!  達成値:18 ([6,6,4]+2)    ナインスは抵抗しようとした。        ナインスは抵抗に失敗した。  達成値:10 ([1,2,6]+1)    ナインスは[5,5]へ引き寄せられた。    ナインスは[拉致]になった ナインス : ジョーク! ナインスは軽快なジョークを飛ばした。  達成値:20 ([1,3,4]+12)    アルシエルは2のAPを回復した。   アルシエル : お礼は言っておく アルシエル : 混沌の焔! 地を焼き尽くす焔が奔る  達成値:17 ([3,3,1,2]+8)    血族��獣乗りは抵抗しようとした。        血族の獣乗りは抵抗した。  達成値:27 ([6,2,4,5]+10) アルテュール : 世界樹の一滴になり得ればよいが! プレイ!    アルテュールは祈りを捧げた。([2,2,2]-4)    アルテュールのファンブル!    アルテュールは1のSPを回復した。      血族の獣乗りに11のダメージ  ([2,3,5]+23) アルテュール : ああ、助かる。 ゼノン : フェイント! ゼノンは攻撃するふりをする!    血族の獣乗りは3のAPを失った   血族の獣乗りの吸血はAPが足りず失敗した。 ゼノンは攻撃した。  達成値:17 ([3,6,1]+7)    血族の獣乗りに8のダメージ  ([4,2]+15)        血族の獣乗りは[気絶]になった ナインス : ジョーク! ナインスは軽快なジョークを飛ばした。  達成値:19 ([4,1,2]+12)    アルシエルは2のAPを回復した。   アルシエル : お礼は言っておく アルシエル : 混沌の焔! 君は血族に勝利した! 地を焼き尽くす焔が奔る  達成値:28 ([4,6,6,4]+8) アルテュール : プレイ!    アルテュールは祈りを捧げた。 命中判定の最も低いダイスを6に変更した。([4,6,3,4] => [4,6,6,4])    アルテュールは1のSPを回復した。      血族の獣乗りに26のダメージ  ([4,6,3]+23) アルテュール : ああ、助かる。 あちらの二人もどうにか倒したようで、 こちらに向かって来る。 アルシエルの混沌の焔はAPが足りず失敗した。 ナインスは[浸雪]になった グレンデル 「倍額でも割に合わねぇぞ、こりゃあ。」 ベイオウルフ 「申し訳ない、これは想定外でした。  通常、血族は南方に現れる事は無い筈...。」 ゼノン : それな!!!!! ベイオウルフ 「早急に王へ報告する必要があります。城へ急ぎましょう。」 ゼノン : さむいさむい…… グレンデル 「おう、とっとと出ようぜ。」 アルテュール : 夜も来るしね、早く移動しよう。 ナインス : やれやれ、なんとかなったかな アルシエル : あわただしい事だな…… 君達は野盗と血族の残骸の痕を抜け、 フロストガルドへと向かうのであった...。 自動スクロールを有効にしました。 ボードイベント同期を開始しました。 イベント同期が完了しました。 君達はようやくフロストガルド城下町へ到着した。 時間は昼頃で、頭上には日が差し、それを雪が反射している。 門の前で、ドワーフの門番が馬車を制止する。 門番 「はいはい、ここで止まってくれ。  後ろの髭面とそのツレについて話して貰うぜい。」 ナインス がログインしました。 ボードイベント同期中。 アルテュール : 冒険者、ゼノン一行だ。 グレンデル (髭面は手前もだろ!) ベイオウルフ 「こちらは山賊の護送依頼を受けたリーンの冒険者達です。  奥に居ますのは山賊の四名、書状はこちらに。」 門番 「書状は結構、通ってよーし!」 ベイオウルフ 「有難うございます。」 神殿騎士であるベイオウルフが信頼されているのか、 それとも門番の検閲が緩いのか、 とにかく、手間もかからず通る事が出来た。 城下町は人々でごった返し、露天商が並んでいる。 樽のジョッキを描いた看板の店は酒場だろうか? この時間から営業しているらしく、 奥では赤ら顔のドワーフが騒いでいるようだ。 グレンデル 「あそこが【モロウの大鍋】だな。  大鍋だってのに看板は樽なんだぜ。  俺もこっちに帰った時はあそこで一杯やってるぜ。」 アルテュール : ふふむ、あれが話に聞いた酒場か ナインス : 食事が気になっているから、それはとても嬉しいな ゼノン : ……当然のように言ってるけど、グレンデルってこっちの出身なんだ? 上空にはバッグをさげた有翼人が移動している。 グレンデル 「アレはホークマンの運び屋だな。  ベテランは人も運べるんで、重宝されてるんだと。」 アルテュール : (誤字修正点 アルシエル : 寒い。早く行って休むぞ そんな話をしている内に、馬車は城門前に到着した。
ベイオウルフは馬車から降り、 門兵に山賊達を引き渡す。 つまり、ようやく依頼が終わったという事だ。 ベイオウルフ 「護衛の依頼、有難うございました。  では、今回の報酬を...。」 グレンデル 「ちょっと待て。」 グレンデル 「血族の件はどうした?  あんなモンと戦わせてシケた金じゃ困るぜ。」 ゼノン : それな!!!!! アルシエル : ディードみたいな事を言うな…… ナインス : …む、たしかし? アルテュール : おお、流石熟練冒険者。しっかりしてるな。 ナインス : (に ベイオウルフ 「しかし、契約内容に則っていますので。」 グレンデル 「おいおい、  フロストガルドの王は随分とケチ臭ぇなあ?」 アルテュール : ……だってさ、ゼノンリーダー? ゼノン : あ……? ベイオウルフ 「...何だと?」 グレンデルはベイオウルフを挑発しつつ、 君に同調する様に目配せする。 ゼノン : 二度と来ねえ…… 君は、ベイオウルフに 「確かに、これでは割に合わない」という旨を伝えた。 ベイオウルフ 「...ふむ。分かりました。  私から王に掛け合ってみましょう。」 ベイオウルフ 「報酬は城にてお渡しします。  私用が終わりましたら、来てください。」 グレンデル 「ククク、期待してるぜ。」 ゼノン : ほんと騎士って…… ナインス : では、それまでは観光かな グレンデル 「うし、俺はオミロへ帰るぜ。」 ナインス がログインしました。 ボードイベント同期中。 グレンデル 「じゃーな、今度はリーンでな。」 グレンデルはオミロという街か村に帰るそうだ。 君はこのまま城へ向かっても良いし、 フロストガルドの城下町を見回ってもいい。 アルテュール : ああ、また。道中気を付けて。 アルシエル : ではな。 ゼノン : ……どうする。 アルシエル : どうする?私は眠いのでさっさと休みたいのだが。 自動スクロールを解除しました。 店主 「はい、特製のアイスだよ!買った買った!」 魔術師のナイトエルフ 「パピルス紙の買い付けに行ってる所さ。」 ナインス : 広い街だね、見て回っていたら時間が掛かりそうだ 英雄アルディーンが愛したポンヌの店!
_____オキュレオスの【アルディーン亭】 目利きのホークマン 「ん~、そろそろ買い時かね。」 運び屋 「ん?何処か行きたいトコがあんのかい?」 労働者のドワーフ 「昼休みだ。」 店主 「朝採れたてのオレンジは如何かね~。」 ゼノン : ……活気あるな。人々が元気だ。 キャンセルしました。 店主 「回復のスクロール、要るなら払いな。」 アルテュールは、ベリーアイスを使った。 *しゃくしゃく*    アルテュールは1のSPを回復した。   店主 「回復のスクロール、要るなら払いな。」 ゼノンは、フロストバーを使った。 *しゃくしゃく*    ゼノンは1のSPを回復した。   アルテュール : んー……!……こんなところで、氷菓子とは……頭がキーンとするな……。 アルシエル : よく食うな……寒いのだが? アルテュール : いやあ、たしかにそうなんだが、美味いよ? アルテュール : 本当は暖炉の前で食べるのが一番良いのかもしれないがね。 ナインス : (キョロキョロと周囲を見渡し、興味深い物を見かけると子竜と共に走り出す。その姿はまるで子供のようだ) アルテュール : ナインス君!転ばないでくれよ?(駆ける背中に声をかけた……。 ナインス : だいじょうぶ だいじょうぶ…クルルルルル ゼノン : ……どっか店入ろうよ。さむい! ナインスは、アイスムルームを使った。 *しゃくしゃく*    ナインスは1のSPを回復した。   ナインスは、フロストバーを使った。 *しゃくしゃく*    ナインスは1のSPを回復した。   アルテュール : じゃあ、ナインス君が楽しんだら件の酒場に行こうか?少し飲み食いしてからでも怒られないだろう。 ナインス がログアウトしました。 ナインス がログインしました。 英雄アルディーンが愛したポンヌの店!
_____オキュレオスの【アルディーン亭】 樽のジョッキを描いた看板がある。 飲むならココ!
_____【モロウの大鍋】 ナインス : ……ポンヌってなんだろう ゼノン : ナインス、こっち。 ナインス : ゼノン、ポンヌってなぁに? ゼノン : ……え、んー? ゼノン : ごはん。 ナインス : (すんすんと目の前の飲食店の香りに興味を示す) ゼノン : 向こう行くよ、はーやーく。 ナインス : ……こっちが気になったけれど、わかったよ ゼノン : はしごできたらしよ。 アルテュール : ……ん、観光は満足したかい?行こうか。 自動スクロールを有効にしました。 ナインス がログインしました。 陽気なドワーフ 「もっともってこーい!」 赤ら顔のドワーフ 「うぃ...アンタ等冒険者かぁ?  まあ一杯飲んでけよ。」 ヒューマンの兵士 「いつもここでランチを取ってるのさ。」 ナイトエルフの兵士 「南の野盗退治は進んでいるのだろうか。」 静かなナイトエルフ 「スクロールを作るのは大変さ...。」 気怠いヒューマン 「昼間っから酒盛り、最高だよぉ~。」 ゼノン : ちょうど四人席。 店主 「あいよ!注文は?」 アルテュール : ふむ、これがムルフホブか……。(店主の煮込む鍋を見つめている……。 取引をしました。 [ムルホブ] を手に入れた。 11ルド失った。 [フロスト・ハート] を手に入れた。 ナインス : 席は空いてたようだね アルシエルは、ムルホブを使った。 *むしゃむしゃ*    アルシエルは2回復した。   アルテュール : (修正、ムルホブ) アルシエル : 寒いしちょうどいいな アルシエルは、フロスト・ハートを使った。 *ごくごく*    アルシエルは1のSPを回復した。      アルシエルは3のSPを失った   ナインス がログアウトしました。 ゼノンは、エールを使った。 *ごくごく*    ゼノンは1のSPを回復した。   ゼノン : あーーっ!おいし。 アルテュールは、フロスト・ハートを使った。 *ごくごく*    アルテュールは1のSPを回復した。   ゼノン : もうほんと疲れた……、エールうま……。(机に突っ伏す) ナインス がログインしました。 アルテュール : ……ん、おいしいなコレ…(グラスを口から離してにこにこと笑った…。 ゼノン : ここのエール、風味豊かで美味い…… ゼノン : 稲が強いのかな…… アルテュール : 酒といえば俺はエールばっかりだったんだが、なかなか果実酒もいけるな。 アルテュール : お、いいな……。俺も夜に飲むときはエールにするかね。 ゼノン : 果実酒ねー。あっまいのがあんまり…… ナインス : …お肉のお料理も多いんだね ゼノンは、燻製肉を使った。 *むしゃむしゃ*    ゼノンは2回復した。   ナインス : (注文した肉料理を子竜へと分け与える) ナインスは、燻製肉を使った。 *むしゃむしゃ*    ナインスは2回復した。   アルテュール : 俺は甘いのも得意だからあまり参考にはならんかもしれんが…これはなかなかしっかり酸味があるぞ。 ナインスは、ムルホブを使った。 *むしゃむしゃ*    ナインスは2回復した。   アルテュール : 北の寒冷な育ちだから、甘味がそこまで出ないのかもね。 アルテュールは、ムルホブを使った。 *むしゃむしゃ*    アルテュールは2回復した。   ナインス : ……ワタシはお酒は、苦手 ゼノンは、ムルホブを使った。 *むしゃむしゃ*    ゼノンは2回復した。   アルテュール : おやそうか。人それぞれ得意不得意はあるからね。 アルテュール : この果実を使ったジュースもあればよかったんだが……オレンジだけかな? ゼノン : あの独特の苦みとか苦手な人多いし。 ナインス : ああ、苦味や味の強いモノは苦手少しなんだ。果実程度であれば問題はないのだけど ゼノン : ……もうなくなっちゃった。おいしかった、 アルシエル : 暖まったしそろそろ城に行くか。 アルテュール : そうなのか、何かここで気に入るものがあればよいね……と、酔う前に行くか。 ナインス : ……うん、お腹も満たせたよ。 アルテュール : さすがに泥酔して城内入りはまずいしね(立ち上がった…。 ゼノン : はー、次は向こうの方行くか・・・ ボードイベント同期を開始しました。 イベントは既に終了しました。 ナインス がログインしました。 樽のジョッキを描いた看板がある。 飲むならココ!
_____【モロウの大鍋】 フロストガルド城へ向かいますか? (クエストクリアのイベントとなります) アルシエルが[行く]を選択しました 君はフロストガルド城門に向かって行った。 ボードイベント同期を開始しました。 イベント同期が完了しました。 君は、兵士にベイオウルフの元へと案内されていた。 ナインス がログインしました。 ボードイベント同期中。 到着すると、高貴な出で立ちをした黒い肌のエルフと、 ベイオウルフが口論をしている。 エルフ 「報酬を上げろだと?  全く、最近の冒険者は欲をかき過ぎるのでは無いかね!  さらに城へ入らせたらしいな!?」 ベイオウルフ 「しかしながら、オロウード様。  "はぐれ"の【血族】を倒してのける力...。  先に手を打ち、我らの戦力とするのが上策かと。」 オロウード 「甘い、甘いぞベイオウルフよ。  あのような力の持ち手の"欲"というのは、  我々の想像を超えるのだ。」 オロウード 「何より何処の馬の骨とも知らぬ奴を  頼るような国と思われたくも無い!」 ベイオウルフ 「"放浪者を歓迎せよ"とは  フロストガルドの信条ではありませんか。  ともかく、全ては王が決める事でしょう。」 オロウード 「ふん、先に玉座の間に戻る!  王にはよ~~~��く言っておくからな!」 オロウードはしかめ面で玉座の間へと向かって行った。 ベイオウルフは君に気付くと、ばつの悪そうな顔をした。 ベイオウルフ 「失礼しました。あの方は大臣補佐のオロウード様です。  どうも、過去にエルフの男冒険者に痛い目を見たそうで...。  いえ、これは関係の無い話ですね。申し訳ありません。」 ナインス : …嫌われちゃった のかな アルテュール : ……彼の前では学者と名乗っておこうか。 ゼノン : ああいうのは余所者には誰に対しても基本ああだよ。 アルテュール : いや本業だしね、うん。 ベイオウルフ 「王が"冒険者を玉座の間へ"、との事です。  分かっているとは思いますが、  くれぐれも、粗相の無い様にお願いしますね。」 君はフロストガルドの王へ謁見する事になった。 ただ、報酬を受け取りに来ただけなのだが...。 ... 玉座の間は荘厳という程では無く、 最低限の装飾が施された武骨な物であった。 近衛兵が控え、玉座にはフロストガルドの王が座していた。 ベイオウルフが片膝を付き、首を垂れる。
君は... アルシエル : 大袈裟な事になったな? ナインス : …? ナインスが[特に何もしない]を選択しました オロウード 「無礼者!!」 王 「ハッハッハ!放浪者はこうで無くてはな。」 玉座に坐するは"武人"と称するに相応しい大男だった。 その頭には肩身の狭そうな王冠が乗っている。
ゼノン : うっさ・・・。 アルシエル : めんどくさい…… 王 「私がフロストガルドの王、ガーランドだ。」 君は王へ名乗った。 ガーランド王 「貴公の活躍は聞いているぞ。  野盗のガザンのみならず【血族】までも下したとか。」 ガーランド王 「南部に出たあれらは"はぐれ"と呼ばれている。  通常有り得ない事象、これが意味する事は、  新たなる【柱】の誕生だ。」 ベイオウルフ 「!!」 ガーランド王 「大臣!説明を。」 アルテュール : すまない、そういう作法…とかいうのは…よく知らなくてね…。 大臣 「ひゃい!」 大臣 「だ、大臣のトリトットです。  以後お見知り置きを...。」 ガーランド王 「こやつは此処では珍しいハーフリングでな。  性根は臆病だが、知恵者だ。」 ナインス : 柱? トリトット 「【柱】は一際強力な【血族】の別名です。  血族は禁忌の地に在ると言われる、  【戦神の遺体】から生まれているとされています。」 トリトット 「これまでに確認された【柱】は  【戦の子、グローレイン】【復讐者ウェヴェ】  【氷纏い、ビサルカ】の三体です。」 トリトット 「ウェヴェ、ビサルカの二体は既に亡く、  残すは最初の柱であるグローレインのみ...。」 トリトット 「しかし、新たな【柱】が生まれた時、  【血族】は活発な動きを見せる事が多く、  王の仰る通り、今回は柱の出現を意味する事かと。」 ガーランド 「早急に【戦神の地】を調査する必要が有る!」 ガーランド 「ベイオウルフよ、  "はぐれ"を倒した冒険者はもう一人居たと聞くが?」 ベイオウルフ 「彼はデラークの者でして、  オミロ村に帰郷しております。」 ガーランド 「ヴォリッドのせがれか...。  それならば、期待は出来んな。」 ガーランド 「では、貴公に【戦神の地の調査】を依頼する!」 君は、まず今回の報酬を受け取りたいと伝える。 アルテュール : …ん?んー……? ゼノン : 帰ろう・・・もう・・・。 アルテュール : そんなにさらっと追加依頼してくるかい? ナインス : むずかしいお話?(首を傾げながら子竜の頭を撫でて) ガーランド 「おお、すまん!  先ずは報酬が先だったな。」 アルテュール : とりあえず最初のお金をもらうシンプルな話さ…。 【フロストガルド戦記_第一章】
おわり to be continued... クエストをクリアしました。
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shibaracu · 5 years
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★群雄割拠の戦国時代
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★群雄割拠の戦国時代 いろんな趣向で説明ページは賑やか。 味方の裏切り 身内の猜疑心 などで他人を信用出来ない時代であった。 一騎当千のものがアッチコッチに出現した。 最近はおかしいと言われている豊臣秀吉。 歴史書では 水飲み百姓から掛け登っていったと言われている。 ソレも伝説に過ぎなくて後で書き直されているのだと思う。 家来として蜂須賀小六が付いたのはおかしいのではと言われている。 彼は当時一介の武将なのに猿と言われていた秀吉に付くのは腑に落ちないと言う感じ。 秀吉は元々 勧進元の家柄で全国の総元締めだったと誠しやかに囁かれる。 出自はハッキリとしないけれどもトンデモ話で 忍者 盗賊 芸人 その他の仕事に勧進は関わる。 その元締でないと蜂須賀小六は手懐け(てなずけ)られない。 ネットでは探してもこの事に関しては出ていない。 歴史の裏は何も出てこないから解からないけれど事実なら面白い。 伊達政宗や柳生十兵衛などは 片目でなくて見えていたのではとも囁かれている。   楽しい話は沢山有る。 どの本で読んだかはっきりしないので正しいとは言えない。 昔は何万冊と手元に置いていたから何で読んだかなんて覚えているわけはない。 もう手元にもないし。   こんな事が繋がるとモット話が広げられるけど。     ●蜂須賀小六(蜂須賀正勝) 豊臣秀吉の腹心 -1100記事 https://senjp.com/hachi-2/ 2020/01/19 蜂須賀小六(蜂須賀正勝)は、1526年、蜂須賀城主・蜂須賀正利(200貫)の長男として誕生した。続柄は不明とする説もある。 母は宮後城主・安井重幸(安井弥兵衛、安井弥兵衛尉重幸)の娘・安井御前。 豊臣秀吉の父・木下弥右衛門は、この蜂須賀正利に使えていたとされ、その縁で豊臣秀吉は少年時代に、蜂須賀正利の子である蜂須賀小六とも面識があった。   ●蜂須賀小六正勝 野武士の荒くれ首領と思ったら意外に心配性の頭脳派でした https://歴史ゆっくり紀行.com/yusho/hatisuka-koroku/ 2018/06/08 三河の国の矢作橋(やはぎばし) 蜂須賀小六と言えば、三河の国岡崎は矢作橋での日吉丸(後の豊臣秀吉です)との出会いが有名です。 「橋の上で眠りこけている日吉丸の頭を、通りかかった野武士の頭の小六が一蹴り。 起き上がった日吉丸、恐れ気も無く小六を睨みつけ、「人の頭を蹴りて挨拶も無しとは無礼なり。詫びていけ」。 小六はこの小僧面白い奴とその場で手下に引き入れ、「初手柄を見せよ」とけしかけます。日吉丸はすぐさま、橋の東に店を構えた味噌屋の松の木によじ登り、内から門を開いて小六の一味を引き入れ・・・」   ●蜂須賀 正勝(はちすか まさかつ)http://bit.ly/zF0DZJ 戦国時代から安土桃山時代にかけての日本の武将。羽柴秀吉(豊臣秀吉)の重臣。 通称は小六(ころく)もしくは小六郎(ころくろう)で、特に前者は広く今に知られているが、のち、彦右衛門(ひこえもん)に改名している。 官位は従四位下修理大夫。   ●蜂須賀小六  http://bit.ly/zghfwX 天文年間の後半、蜂須賀小六は母が安井の娘であったので、  故あって母の在所に住むことになり、木曽川の川並を支配した。 尾張国地名考に宮後村は「この村に蜂須賀小六の屋敷跡あり」 と記し、昭和43年頃までは「小六屋敷」といわれ、外堀、古井戸 も残っていたが、都市化の波に抗しきれず、跡もない。    ●勧進元とは - はてなキーワード http://bit.ly/wMCYuL ●勧進(かんじん) 「勧進」とは仏と縁を結ぶように勧めることで、転じて寺院の再興などのために寄付を集めること、またその役を担う僧のことを指し、それらの主催者を元来は勧進元と呼んでいた。 その後、近世に入ると相撲などの興行が盛んになると篤志家や大名・大商人も興行に乗り出すようになり、興行を主催するようになると、その興行の実際の運営・プロデュースをするものも「勧進元」と呼ばれるようになった。 しかし、当時の相撲興行などは喧嘩沙汰がたえなかったこともあり、実際の勧進元は、商人と任侠ざたの人間が主に担当するようになり、それが近代に入り、芸能・スポーツ・プロレス・格闘技の興行が行われるようになっても、基本的には変わらず、大企業や篤志家がスポンサーになり、実際に運営・プロデュースをするのは、任侠系の人間が江戸時代からの伝統で多くを担うことになる。 (それは、美空ひばりの勧進元をつとめていた人物が、全国最大手の暴力団の組長であったことからも有名。 また近年東京ドームが応援団をかたった総会屋・暴力団系の団体と癒着し、優先席を割安で競争なしでほぼ無条件に与えていたことが発覚し、暴対法違反の疑いで社長が陳謝に追い込まれたことからも分かるように、社会的常識倫理観から問題にされることはあっても、近世からの伝統で、芸能・スポーツ・プロレス・格闘技の興行ではなかなか、ヤミ社会とのつながりが絶ちがたいのが現実である).....   ★戦国時代 (日本) - Wikipedia http://bit.ly/yPhx3k 日本の戦国時代(せんごくじだい)は、日本の歴史において、15世紀末から16世紀末にかけて戦乱が頻発した時代区分である。 乱世により室町幕府の権力は完全に失墜し、守護大名に代わって全国各地に戦国大名と呼ばれる勢力が出現した。 ほぼ恒常的に相互間の戦闘を繰り返すとともに、領国内の土地や人を一円支配(一元的な支配)する傾向を強めていった。 こうした戦国大名による強固な領国支配体制を大名領国制という。
★戦国浪漫/戦国時代の総合サイト http://bit.ly/AADMlm  Dec. 06 2013 武将の逸話、合戦記録、時代考証。 戦国時代、それは自分の力しか信じられなかった特異な時代。時には親兄弟妻子であろうとも敵味方に分かれて争ったこの時代には、歴史の奔流の中で個性的な人間たちの織りなす数多くのドラマが演じられました。 ※画像は織田信長に抗した伊勢長島一向一揆の牙城・願證寺(三重県桑名市) 当サイトでは戦国大名・武将はもとより、忍者・剣豪・文化人や女性に至るまで、伝承・推測も含めた戦国時代の人間模様を、多角度からご紹介していきたいと思います。   ★戦国武将とゆかりの地 http://www.busyo.org/ 日本45都府県別に有名な戦国武将を紹介。 ご自身の出身地やこれから行かれる旅行先にかかわりのある戦国武将をお探しいただけます。   ★戦国時代データベース - BUSHOO!JAPAN(武将ジャパン) https://bushoojapan.com/category/bushoo 戦国時代データベース 戦国武将や合戦に関する記事を大名毎にまとめ! 各人物の主要な事績などをコンパクトにまとめた人物伝を中心に、合戦などの解説も同時に記載しております。 まんが日本史ブギウギ147話『麒麟がくる』将軍家vs細川家の流れがわかる!   ★戦国武将伝「九戸政実」part1 - YouTube https://youtu.be/HtSeLk85ZPs 大河ドラマ「時宗」と「炎立つ」の原作者、高橋克彦氏の著作「天を衝く」の主人公「九戸政実」についての動画です。   ★戦国武将伝「九戸政実」part2  2009/10/08 https://youtu.be/uQNv5kaMN1k   ★戦国武将伝「九戸政実」part3  2009/10/09 https://youtu.be/XtgQrS8xXVM   ★戦国武将伝「九戸政実」part4  2009/10/09 https://youtu.be/9r-wfLCkSdg   ★戦国武将伝「九戸政実」part5  2009/10/09 https://youtu.be/qnT8iylM4I4   ★【MAD】戦国武将かぞえ唄 https://youtu.be/mpByFAou4Jo 意外と違和感がいい仕事しないのでびっくり。某所で『この発想はなかった』『謎の発想』『吹いたら天下統一』と云う素敵極まりないタグを賜りましたが動画削除されますたorz ツイッターで協力頂いたフォロワー達に無限の愛を込めて。   ★中津市中津城前の『黒田官兵衛資料館』 2014-05-26   テーマ:黒田如水 https://ameblo.jp/bushouhistory/ 本日は、津城前の 『黒田官兵衛資料館』について紹介します。 中津市二ノ丁の中津城前に今年1月開館した 「黒田官兵衛資料館」が16日、来館者10万人を突破しました。 10万人目の来館者には記念品が贈られました。   ★戦国武将研究会   https://sengokuken.tokyo/ 戦国武将研究会の概要 戦国武将研究会(せんごくぶしょうけんきゅうかい)は、戦国時代を中心とした武将を日本全国的に広く調査・研究・発表し歴史学の自由と発展に寄与している団体です。 2015年1月に発足し、無料会員を合わせると約2300名のメンバーがおります。(2018年11月現在) 基本的には会員による個人研究となりますが、年に1回以上は首都圏を中心に「研修会」(イベント企画・研究会・親睦会・旅行会など)も開催致しております。
・研究発表の例 城郭からみた豊臣秀吉の権力 ~秀吉の城と城郭政策~ 小山田記~ 現認・小山田氏400年の存亡【小山田氏関連の考察とまとめ】 碓氷城~迎え撃つ北条勢最前線「愛宕山城城址探索記」 安土城~それは織田信長が天下に示した最新のアトラクションだった 長尾為景~二度主を殺した「奸雄」謙信の父の苛烈な生涯 風魔党の風魔小太郎(風間出羽守)~北条家の忍者集団の謎   ★風雲戦国史-戦国武将の家紋- http://bit.ly/wQenYn 信濃中世武家伝 発刊 ・田中 豊茂(家紋World)著 ・定価:本体1,400円+税 信濃の兵(つわもの)は真田氏のみにあらず!  鎌倉時代から戦国時代まで、顔ぶれ多彩な信濃武家の興亡の歴史を、家紋の由来とともにたどります。 信濃四大将といわれた小笠原氏、諏訪氏、村上氏、木曾氏をはじめ、とりあげるのは、安曇郡の開発領主・仁科氏、滋野氏一族の海野・真田氏、 清和源氏を称する北信の井上氏・高梨氏・須田氏や伊那郡の片切氏・飯島氏、 佐久地方で勢力をふるった大井氏、伴野氏など県内全域の三十二武家。群雄割拠した信濃武士の生き様を語り伝える一冊です。   ★戦国武将の鎧兜 http://bit.ly/Ah8NwX 足利 尊氏. 毛利 元就. 織田 信長. 豊臣 秀吉. 徳川 家康. 武田 信玄.上杉 謙信. 伊達 政宗.など   ★戦国武将の具足(鎧兜)特集 ‐ ニコニコ動画(原宿)  http://www.nicovideo.jp/watch/sm4165607   ★風変わりな兜  2017/10/27 https://youtu.be/vdCPGhlcWqA 嘘でしょ…こんな兜あるんですね。 きっとあなたは見終わったあとにこう言うでしょう。 「んー、結局なんでもありなんだね☆」 っと。... ギリギリあともうちょっとで某ダースベーダーから、 ほぼほぼただの巻き貝まで。 動植物や神仏ものが多いですが、 こんなにもこぞって多種多様にし、 こんなにも日本人の感覚が特異なのには感嘆です。 上杉景勝が目を引く神仏モノを、 黒田長政も奇抜な縦長兜をつくりがち。 徳川家康だって大釘後立一の谷兜という尖ったモノを。 とはいえ左右非対称は少なめで、だからこそ伊達政宗の兜は異質。 (長時間かぶってたら片方の筋肉だけが凝ってしまいますもんね。) 江戸後期になるとかぶらないようにするのにネタ切れなのか突拍子の無いモノが多めに。 ちなみに5月によく飾られるあの兜は義経(牛若丸)のモノ。 稲葉貞通 森長可 佐賀藩 諫早家伝来 池田光政 雁金形兜 蒲生氏郷 徳川家康  大釘後立一の谷兜 山本勘助 細川家 田原三宅 立花宗茂 谷津主水 佐竹 義宣 天海僧正 伊達成實 浅野長政 藤堂高虎 本多忠勝 加藤嘉明 仙石権兵衛秀久 紀州徳川家 水野勝成 福島正則 後藤 基次 豊臣 秀次 森蘭丸 前田 利家
頭巾形兜   ★【戦国武将】戦国の世に集うお洒落さん!甲冑コレクション! https://youtu.be/PfXdL6aeNtM **おすすめ動画** 関ヶ原の戦いで西軍が勝ってたら今の日本ってどうなってたと思う? https://youtu.be/ERYBhJVmYII
戦国武将・偉人の年収ランキング 2位 徳川家康 年収1000億円 https://youtu.be/_Wz-BvRDabs
関ヶ原の戦いとは? https://youtu.be/OG9bF2Ax9ic
戦国武将・偉人の年収ランキング 2位 徳川家康 年収1000億円 https://youtu.be/_Wz-BvRDabs
徳川家康が恐れた戦国武将リスト https://youtu.be/R6kpSyT-xvA
【真田丸】真田幸村だけじゃない!真田一族がすごい!Yukimura Sanada https://youtu.be/mrlhVmZPFJw   歴史ミステリー 真田幸村はなぜ死を覚悟して突撃したのか? https://youtu.be/OkW1z4gq5EY   歴史ミステリー 真田幸村はなぜ死を覚悟して突撃したのか?2 https://youtu.be/mHYiJLPN67w   出典:https://matome.naver.jp/   ★色々な戦国武将の甲冑 まとめ:【2ch】ニュー速VIPブログ(`・ω・´)  http://bit.ly/AvwrlC   ★武将兜ペーパークラフト無料ダウンロード 米沢・戦国 武士[もののふ]の時代 http://bit.ly/zBD4Oc 企画制作したのは、直江兼続公、上杉謙信公、上杉景勝公、最上義光、武田信玄、前田慶次郎、伊達政宗、織田家所用、本庄繁長、本多政重、豊臣秀吉、徳川家康、酒井忠次、榊原康政の兜です。   ★戦国武将特集 | 精密クラフト | Webプリワールド | エプソン http://webprint.epson.jp/mypage/craft/real/sengoku.jsp エプソンのWebプリワールドは素材豊富な無料のコンテンツサイトです。織田信長や真田幸村など戦国時代の武将がまとった甲冑をイメージしたペーパークラフト特集です。 細部までこだわったリアルなペーパークラフトを作ろう。   ★最上義光歴史館/ペーパークラフト http://mogamiyoshiaki.jp/?p=list&c=1858 太刀掛ペーパークラフト 2017.04.23 「太刀 銘 安綱 号鬼切」ペーパークラフト 2017.04.23 「素槍」のペーパークラフト 2015.08.19 槍立ペーパークラフト 2015.08.19 「天下三槍 ver2.0」のペーパークラフト 2015.08.19 「刀/打刀」「脇差」「小柄」「笄」のペーパークラフト 2015.08.14 刀掛けペーパークラフト 2015.08.13   ★城攻め体験イベント、ドレスコードは甲冑で :: デイリーポータルZ https://dailyportalz.jp/kiji/151116195066 2015/11/16 攻め入れ、国宝 今年国宝に指定された、島根県の松江城で甲冑がドレスコードの城攻めイベントがあるらしい。 ところで城攻めってなにをするんだ。ドレスコードってどの程度のものなんだろう。行ってみたら、参加者の手作りの甲冑が見応えあるイベントだった。   ★戦国の大名・武将285名を紹介(肖像画あり) | 戦国ガイド https://sengoku-g.net/men/ 戦国に活躍した大名・武将285名の肖像画、生没年月日、出身地を一挙紹介。 戦国ガイドは日本唯一の戦国時代総合サイトです。   ★【前田慶次の性格】傾奇者は本当なのか?実在した彼の人物像とと伝説 https://rekijin.com/?p=28826 2018/11/08 歴史上には奇想天外な人物がたくさんいますが、前田慶次(利益)もその一人といえるでしょう。慶次の名前はさまざまな創作作品で知られますが、その人物像はほぼ江戸中期以降に作られた逸話集に端を発するもので、一次史料はほとんどありません。慶次という名前自体も通名で、実際は複数の名前を使用していたといわれています。 今では豪傑で型破りなイメージが定着している慶次ですが、戦国時代に生きていた実際の彼はどんな人物だったのでしょうか。今回は、慶次の性格や残されている逸話について解説します。 目次 1.傾奇者として知られる前田慶次  1-1傾奇者とはどんな性格なのか  1-2創作作品での慶次について 2.実在の前田慶次!気になる性格は?  2-1有名な”水風呂”の逸話  2-2猿舞で目上の人を翻弄! 3.前田慶次をもっと知りたい!  3-1京都で浪人生活をしたことも  3-2実在の慶次は教養が高かった  3-3直江兼続との関係性とは? 4.人気武将の本当の性格は? 戦国武将は鎧兜に個性的なものが多い。   ★日本の戦国期の武将いろいろ(覚え書き) (更新20/02/01・作成04/06/05) http://bit.ly/xwo3dJ ・天下を取った武将  豊臣秀吉  徳川家康  明智光秀(ただし、11日天下)   ★兜(冑、かぶと) - Wikipedia http://bit.ly/y5x3di   ★鎧(よろい) - Wikipedia http://bit.ly/tSeVZI   ★具足(ぐそく)とは、http://bit.ly/yVj9Og 1.日本の甲冑や鎧・兜の別称。頭胴手足各部を守る装備が「具足(十分に備わっている)」との言葉から。 鎌倉時代以降から甲冑を具足と呼ぶ資料が見られるが、一般的には当世具足を指す場合が多い。また鎧兜に対して、籠手などの副次的な防具は小具足とも呼ばれた。 ちなみに室町時代には、大型の弓矢や薙刀を「大具足」と呼ぶこともあった。 2.道具。馬具足とは馬具の事。三具足、五具足は仏具の事。   ★甲冑(かっちゅう)http://bit.ly/ucySbu 主として刀剣や弓矢を用いた戦闘の際に兵士が身につける日本の伝統的な防具である。   ★大鎧(おおよろい)https://ja.wikipedia.org/wiki/大鎧 日本の甲冑・鎧の形式の1つ。 馬上で弓を射る騎射戦が主流であった平安 - 鎌倉時代、それに対応すべく誕生・発達し、主に騎乗の上級武士が着用した。 その成り立ちから格の最も高い正式な鎧とされ、室町時代ごろには式の鎧、式正の鎧(しきしょうのよろい)、江戸時代には本式の鎧と呼ばれた。 あるいは胴丸や腹巻などと区別して、単に鎧ともいう。また古くから着背長(きせなが)という美称もあった。
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lostsidech · 6 years
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 宇宙に流れる音楽を、聞き取ろうとしたのは誰だったか。  ケプラーか。いつかの夏、穏やかな声で聞いた講義が宙をたゆたう。眠りそうな心地良さ。
 舞台を踏んでいる自分から意識が遊離して、幻想の夜空に放り出されているようだった。  神楽を舞っている春は、ただひたすらに手足に集約した肉体。  宇宙に浮かんでいる春は、目を閉じ音楽に耳を澄ませている精神。 (きれいだ)  自然と思った。世を統べる不明の、ただそこにある摂理が。 『春。春』  宇宙の向こうから、かすかに、春を呼ぶ声が聞こえた。  春ははっと目を開いた。 『姫さま?』  あれ、と思った。自分の声も、姫さまがいつも発していたのと同じように実体のないものとして響いたのだ。当たり前だ。春の身体から出している声ではない。 『春……春……』 『姫さま、いるの?』 『春……春……』  声はまだ遠い。いつも傍に感じていたけはいも感じ取ることはできない。  春はえいと念じて姫さまを探した。たちまち、応じて金色の光がきらりと天空に光り、瞬くような時間のあいだに春の身体の目の前までやってきてふわりと渦巻いた。 『春!』  春はきゃあと叫んで嬉しくなった。きっと初めて、巫女として彼女を呼ぶことに成功したのだ。去年までは彼女のほうが近くにいてくれたから呼ぶことはなかったし、それにあの頃のあまりにわがままだった春では、こんなふうに精神だけで神域に至ることはできなかっただろう。  春のもとにやってきたそれは金色の粒々の寄り集まった無形の靄だったが、それでも姫さまの姿が無色透明ではなく目に見えるかたちを持っていることが春には嬉しかった。 『会いたかった!』 『わらわもじゃ』  やさしい声が響いて春の周りを靄が取り巻く。再会した友人をかき抱くような動作。 『姫さま、わたしのためにわたしから離れるって言ったんじゃないの? もういいの?』 『そうとも。わらわがいては春はいつまでも己の人生に出会えぬと思った』  くるくるとその靄が春の手の周りに集まっていく。 『どうじゃ。出会えたか?』  春はすこしのあいだ思いをこれまでのことに馳せたあとで、頷く。 『うん』  もう、誰かの見る夢を羨むだけの春ではない。春には春の考え方があると、少し照れるけれど言うことができる。  きっと春がすこしおとなになったから、姫さまはいつも母のごとくある必要はなくなったのだと思う。そうだといい。まだほんとうのおとなには程遠いけれど。 『見せてやろう』  姫さまを宿す靄が舞い上がって天空にさっと広がった。光を映す天幕みたいに。 『わらわも嬉しかったのじゃ』  初めて春と出会えたとき。  言いながら、その靄がまさしく銀幕のように色を宿してちかちかと瞬く。そこに映し出されている景色に、春の精神は吸い込まれていっていつしか俯瞰するように眺めていた。  ――赤子を、年若い女性が抱いている。女性は身体が強くなくて、産後しばらくを経たその時点でも出産の負担が色濃くその相貌に残っている。父親の姿は見えない。この頃にはすでに、家庭より政治の人であったのかもしれない。  けれど、赤子を抱く、そのひとの頬には赤みが差していて。  ――春。  恐る恐るといった口調で、呼びかけた。  ――わたしの、春――  窓の外に咲く爛漫の桜を、赤子の春がふと見上げてきゃっきゃっと笑った。  瞬間、その桜の中に春の意識はきゅうっと吸い寄せられた。  吸い寄せられたと思った瞬間、枝葉の間から飛び出して宙を滑空する。嬉しかった。爆発するほどの幸福に見舞われたから、心が空を飛んで嬉しいと叫んだのだ。太陽に手が届きそうなくらい高く高く飛び上がって、一気に急降下して母子の寝室に飛び込んだ。  ――きこえる? きこえるか? この声がわかる?  ――あう、う。  ――呼んでみよ、呼んで、わらわのことがわかるのじゃろ!  赤子が人を呼べるわけがない。わかっているのに、嬉しくて話しかけてしまう。自分でも滑稽だと思っている。思っていたら、ふと病身の母親のほうが可笑しそうに噴き出した。  やつれた頬に赤みを乗せて、とても明るく笑っている。  ――もう。なんて呼べって言うの、あなたは。  きょとんとしてその母親の顔を見つめた。彼女はしばらく堪え切れないように笑っていた。彼女にはもう神の声は聞こえないはずだ。  その証拠に、母親は、自分の話しかけている相手がどこにいるのか、わからないようだ。見当違いな方向を見やって、独り言のように言う。  ――わたしにはお喋りなんて一度もできなかったけど。  かつては巫女だった、子を為し母になった少女は。  ――なんだか、あのお姫さまがいる気がするのよね。こんなに桜が咲いていると。  それでもまだ、どこかで、信じているのかもしれなかった。  名もなき姫の存在を。いつか降りていた神を。  あるいは、この××のことを。  茫然と思案した。  神奈の少女たちはとても強い。きっと赤子のうちにこちらに笑いかけた彼女は、この愛に包まれて、もっとはっきりと神の声を聞くようになるだろう。  自分に人が呼ぶための名前はない。作るべきだろうか。それとも、と考える。けれど、こそばゆくも思う。  ――姫さま、で良い。  それ以上の呼び名は要らない。  ――姫さま、で良いのじゃ。わらわはおぬしの姫になる―― 『――おぬしがわらわを一〇〇〇年の向こうから拾い上げたのじゃ』  夜空の風景に戻りながら、姫さまは言う。 『だから嬉しくて、思わずべったり一緒にいたがってしまった。それが良うないと気づいたから、己で母の子離れを課した。神の巫女離れ』  妙な言い方が面白くて春は笑う。姫さまだって自分のことをお母さんみたいだと思っていたのか。  完璧な存在じゃなくて、きっと失敗して傷つきながら春を見守っていた。とても人間らしい、と春は思う。遠い理解できない神さまなんかじゃなくて。 『姫さまはここにいるの?』  この美しい、雅楽の流れる、精神の宇宙に。姫さまは、首を傾げる身体もないのに靄の動きで首を傾げる。 『春には春の見えるように見えるのだろうよ』 『星が、見えてるわ』 『星空が? そうか。それならそれが春の心じゃ』  人によって、神が、あるいはその人の大切に思う何かが、存在する場所は違って見えるらしい。そういうことかと春は認識する。  春の心が星空なのはきっと、なつめがくれた景色が見えているからだ。  胸がつんとする。  なつめを好きでいる限り、姫さまとはお別れなのかと思っていた。良かった、と思う。なつめのくれた宇宙で姫さまに会えて。 『ねえ姫さま』  靄の手を(靄の手を?)取って、 『わたし、なつめさんが好き』 『知っておるとも』  鷹揚に、姫は頷く。 『前の好きとは違う。ぜんぶ一緒じゃなくても、あのひとが間違ってると思っても、それでも好き』 『そうじゃろ。それが、春の愛じゃ』  愛、という言葉を噛み締める。盲目の恋から、春は愛を知った。 『だからね、なつめさんを知りたいの』  宇宙から眼下を眺望する。 『なつめさんはどこにいる?』 『まかせよ』  姫さまがふわりと流れていざなった。手をとったままの春はすうっと引っ張られて神社を上空から見る形になる。  思わず痛ましい顔になる。  春のいた幻想的な風景とは一変して、夜に差し掛かりつつある神社は慌ただしく荒れていた。  神職や客人たちが走り回っている。神木に手を出したらしい「無用者」を閉じ込めるために門扉が立て切られている。 『いた』 『冬子もな』  なつめと冬子が、人目を避けるように蔵近くの塀際で樹木に身を埋めて何かを話している。なつめは麻見家の風格に紛れるために武家の家来のような恰好をしている。それでもいつもの帽子だけちょこんと被っているところが可笑しい。  可笑しがっている場合ではなかった。冬子が手のひらを開く。その上に大きな火傷痕がある。 『どうしたんだろう』  春は身を乗り出した。 『手を怪我してる?』 『わらわにもわからぬ。桜のもとで強い力に弾かれたようじゃな。……これも見よ』  ぱちんと場面が切り替わった。さっきまで見えていた冬子は少し前の時系列だったらしい。なつめが周囲を気にしながら塀沿いを走っていくのが見える。出口を探しているふうではない。  どこへ向かっている? 『本殿……』  自然と思った。神木でやろうとしていたことに失敗したから、別の媒介を探しているんじゃないか。  急いで春は自分の身体の中にひゅうっと戻っていった。  ちょうど舞が終わるところだった。春は手の中に鈴と扇のかわりに神刀を持ち替えていた。視界に急に陰影が戻ったような気がする。実際には見ていたのはずっとこちらの景色なのだけど。生きている身体に戻ったから、また姫さまの姿は見えない。ただどこかで見ているとは思う。春は最後の動作に移りながら姫さまに一時の別れを告げた。 「止めに行くわ」  なつめさんを。刀を構えながら、春が急に喋ったから周りの奏者たちがびくっとする。  最後の琴の音に合わせて、小ぶりな懐刀を喉に向け、胸、腹へとなぞるように空中で動かして膝を突いた。弔花お決まりの動作。  楽が終息する。  薄曇りに一瞬の黄昏を挟んで秋日は暮れに転じていた。いつの間にか野次馬に行ったはずの観客が何人か戻ってきて口をあけて春を見ている。  この状況だと文字通りの見世物だろう。春は笑って立ちあがった。逆に最初はいたはずの誉がいない。  周りの撤収を待たず、抜き身の刀を構えたままで駆け出した。 「春様!?」  誰かが呼ぶが、構っている場合ではない。走りながら髪飾りが重くて邪魔なので抜き取って庭に放り投げる。母は呆れるかもしれないが、ごめんなさい、あとで拾うわ。探せたら。  廊下をまわって本殿へと駆けていく。  正確には神奈神社のような零細神社にも、本殿の前に拝殿が設けられている。一般客が踏み入ることができるのは観覧目的の拝殿までだ。幣を捧げる幣殿が間にある。本殿には本来決められた目的での神職しか入ることができない。今朝の春のように眠ることなんて神降ろしの巫女の特権だ。  聖堂への最初の入り口である拝殿の手前に、わいわいと人波が集まっていた。この夜神社にいるはずの人びとのほとんどみなが騒ぎ交わしている。 「ここに無用者が入っていった」  血気盛んな者が言う。どこかの武家筋の男かもしれない。 「しかし」押しとどめているのは御陵の宮司だった。「無関係のみなさんが神殿に立ち入ってはなりません」 「無関係とはなんだ」「幾らも奉納したんだぞ」「御陵のもやしと爺さんだけで捕まえられるのか?」  春は歩み寄りながら息を整え、高らかに呼ばわった。 「騒がないで。神の御前です」  人々の目線がばらばらと春に向いた。ぎょっと不出来な娘を見つめるふうさえあった。  春が清子の求めるほどりっぱに巫女の役割を果たしてこなかったことは、きっと神社と付き合いのあった家々ならおよそ誰だって知っていただろう。その娘が、まさに今舞を終えたという風貌で刀を提げて、ぴんと胸を張って歩いてきたのだ。  真ん中に清子がいた。春は清子の隣まで真っすぐと歩を進める。  母はこの場にいる誰よりも驚いたように、じっと春の顔の上に視線を注いでいる。その表情はどこか頼りなくも見えた。とっくに諦めつつあった希望が、あらためてちらついたような迷いの顔。 「清子」  春は巫女として、かつての巫女の名前を呼んだ。 「わたしに任せて」  あなたの夢を、わたしに頂戴。  母の顔がこどものようにくしゃりと歪むのを、春は最後まで見なかった。  神殿に踏み入る。あの夜空とはまた違う、人が作った神域。拝殿の木の階段を上る。灯りのない神殿の空気はひやりと暗い。  ひとつ礼をして、幣殿を越える。本殿に踏み入る。その向こう、すっかり闇と化した簡易神体の前に、奉納品の山に背中を半分隠して、覚えのある帽子の少年が座っている。なつめの手元だけがほの明るい。――粉屋の窓辺にいつも置いてあったランプ。  春は足を止めた。  なつめが気づいて立ち上がった。その手元で人工のともしびがかたりと揺れた。  静かな、見つめ合いがあった。 「こんな形でごめんよ」  なつめが先にそうやって口火を切った。 「けれど君は、同意はしないと思ったから」 「勝手」  春も口元を笑わせた。 「あなたは最初から、わたしを利用する気だったくせに」  なつめが黙って春を見つめた。春がそんなふうに事実を認識していると思っていなかったのかもしれない。  春は一歩進み出る。互いの距離は五歩。触れるには遠く、見違えるには近い。なつめの瞳に炎がちらちらと映っている。 「あなたは春ではなく、神に触れる力そのものに会いにきた」  そもそも、なぜ彼らは関東からはるばる京都まで来たのか。合流する前から誉に脅されていたにもかかわらず。最初から、書物上で、類似の事例を知っているとなつめは言っていた。幼い頃から、全知に憧れて、ハルキという糸口を作ったと。  神奈神社に土地を借りにきたのも。  その日、目が合った春に笑いかけたのも。  ぜんぶぜんぶ、自分のためじゃないか―― 「ぼくは」  なつめが、遮るように口を開いた。  表情に迷いはなかった。春に糾弾されていることを、恥じる様子などない。 「最初はね。君の信用を得てから、協力を願おうとずっと思っていた。どうか姫さまに頼んで、神域の色々をぼくに教えてくれないかってね。だけど」  なつめの側からも一歩近づいた。あと四歩。 「君はきっと、誉の側の人間なんだと思ったから」  それはなつめから発されるものとして、考えうる限り最大の、春に対する鮮明な拒絶。 「神奈神社がそもそも、高瀬誉の役割と対を為していることを知ったから」  春はなつめを制止するために刀を構えた。  なつめはそのままそこで立ち止まった。春は小刀で少年の心臓をぴたりと指したまま言葉を繋いだ。 「それだけ知って」  そう、知っただけで。 「神奈とあの人たちの関係だけで、春もそうだと決めつけたの?」 「ううん」  なつめは首を傾げる。刀に臆した様子はない。  細い前髪が帽子の下でさらりと少年の瞳を隠して不思議な表情を作る。 「君は、こどもだったから」  十二歳のこどもだったから。 「そういう大きな枠組みに逆らってまでこっちに来させるのは、不憫だと思った」  春は脅迫するように神刀を振った。  灯火の光がきらりと白刃に照り返った。なつめが傾げていた頭を戻した。春の手は力を込めて白くなっていた。 「そう思、」  息が切れた。 「まだそう思う?」  子どもだから守らなくてはいけないと、勝手に言うな。勝手に守った振りをして、勝手に不憫がるな。そんな言葉がちかちか浮かんでは消えた。だけど全部言葉になんかならなかった。  なつめは薄く笑う。 「春、ぼくが好き?」  ランプの光に照らされて、その笑顔はひどく妖しくそれゆえに美しく見えた。  春は頷いた。間を置かずに。 「好き」  今でも好き。こんなふうに、刃を突き付けていたって絶対に好き。  なつめはもう一歩近づいた。あと三歩。お互いが手を伸ばせば触れられてしまいそうな距離だ。 「それならね、一つ、聞いてほしいんだ」  有無を言わさぬ口調で、少年は切り出した。 「春はぼくのことを、ただの我がままでここまでしたと思ってる?」 「さあ。そう訊くからには違うのでしょう」 「うん。ぼくはね、ぼくの考え方で世界をひとつにしたかった」  世界をひとつに、という言葉の教科書のような響きが、春の刀を構える手をすこし揺るがせた。どういうこと? 「すべてを知って。  そのすべてに通底する絶対の法則を見つけたい」  古今東西の探究者が最後に狂った命題だ。 「誰もが納得できる真理があれば、ねえ春、誉やぼくたちだって、殺し合わなくていいと思わない」  たった三歩の、遠い遠い、  触れるにも抱き締めるにもキスするにも遠い、深淵だった。零れる神殿の闇。 「それはね、なつめさん」  春は諭すように言った。優しく、愛する人の顔を見上げながら。 「ただの、あなたの我がままよ」  なつめはそれ以上聞かなかった。そう言われるのは分かっていて、それでも言って、問いかけたのだという、満足げな会話の終わりだった。  なつめは背を向けた。触れられる距離から抜けて、神体を備えた神棚に向かう。それは小さな祠だった。扉に付いた錠前は古く、なつめの持っていた硬い板きれで梃子のように傾いて、手でも開けられるようになる。  桜で失敗したから、次に神力に触れられる場所をと考えて、本殿を選んだのだろう。けれど、 (わかってない)  そこにあるのは確かに神を連想させる簡単な桜木の像だ。だけど神奈神社は本殿の神体に恐らく、他の神社がそうであるほど重きを置いていない。 「なつめさん」  だって、神奈神社の神座はここにいる。  神奈神社の神は、巫女の身体に宿る―― 「わたしを見て」  なつめがぎょっとしたように振り向いた。ようやくその表情に意想外を引き出すことができて春は安堵した。  己の喉に神刀をあてがう。 「最初の巫女はね」  笑いながら、 「こうやって、神に『なった』んだって――!」  突き下ろした。  春の血しぶきがあざやかに視界を彩った。
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ln-vino-veritas · 7 years
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Alone
Alone
「1人でいたいから………」
そう断った。
心臓を震わせる振動で俺の心臓は勝手に震える。
声を掛けられても、
「はっ………? よく聞こえない………!!」
そう言って、何も無かった事にしてしまうほど、
本当に何も聞こえない。
本当に何も知らない。
本当に、何も何も分からない。
分かる、
必要性がない。
孤独を味わうために何をするかといえば、人が多くいる場所に行くことにしている。
何処か田舎へ行って、誰もいない所でひっそりと住んでみたいけれど、それが出来るほど俺は達観できていないし、
1人でいたいときは、1人でいたいし、
1人でいたくないときは、いたくない。
その時、その日、いつかさまざまな諸条件で色々と心は変わる。
元々、社交的なタイプでもないが、自分から声を掛けるタイプではないけれども、
本当はとにかく寂しいので、
本当はとにかく誰かといたいのだが、
じゃあ、誰かといつも一緒にずっといると心が疲れてしまう。
何処かに行く時は、誰かが付いてくるならばそれを拒まないが、自分からは声を掛けない。
今日は、1人になりたかったから…、
誰かの声なんか聞こえない世界に飛び込むことにした。
ネオンカラーが仰々しい。
俺の足元は先の長めの革靴で、歩くとスキニーの太腿が、右と左と動くのを確認しながら、
「…………………」
道路のアスファルトの上に昼に降った雨が、上のネオンを革靴の底に映し出している。
アスファルトの上に流れたガソリンの油染みが、虹色に光っていて、少しのもやの中に、ネオンが薄暗く彩っている。
店じまいを終えて閉まっている鉄格子向こうの店の奥を見ると、そこはLPレコードの店で、店の前に出されたゴミ袋の中から割れたレコードがビニールの中から出ていた。
黒いビニール袋に映し出される極彩色のネオン。レコードの円盤に映し出される回る光。
俺は眩しく感じ、目を細めれば、
「……………………」
くるくると回るレコードの円盤が、回ってもいないのに脳の中に溢れ出てきた。
脳の中から溢れ出て来たレコードを道端に後ろ足に捨てて、袋小路に突き当たれば、
そこにある扉を開くしか選択肢は無い。
ドアノブの色が不特定多数の人間が触りすぎて、暗闇の中、ドアノブだけが光っている。
俺は光った場所は触りたくなかったので、ジャケットの裾の中に手を隠し、ジャケットの裾でドアノブを掴んで回せば、もやがかった暗闇以上の極彩色の世界が広がっていた。
何がしたいかって、1人になりたいのだ。
目的が目的の様で目的でない。
ドアを擦り抜けて、クラブの中に入れば、夜なのに、不特定多数の大勢の人数がいて、階段を上がろうと、上を向けば、俺の目の前で階段を上がる女の脚が細くて、太腿の隙間をステージの光が後光が差すみたいに、太腿の間から光が差し込んで俺を照らした。
女が階段を上がり切って右に向かえば、階段というこのステージは俺だけのものになったので、俺はわざと、少しだけ、脚を開いて歩いて、誰だか知らない後ろの者に脚の隙間から見える光を、
後ろの世界に見せ付けてやりたくなるのだ。
聞こえないくらい大きな爆音の中に身を沈ませてしまえば、音で震える空気が心臓を撃ち込む。
空気圧ってけっこうすごいんだなって思うくらい、勝手に心臓を動かされるこの感じ。
ただ突っ立っているだけなのに、勝手にリズムが心臓を俺の鼓動のリズムを無視して、鼓動を撃ち込んでくる。
誰かに、
「………1人………?」
「………? 聞こえない」
声を掛けられたし、俺は1人になりたくてここに来ているのだから、適当に返事をすれば、
「…………………」
笑われて、彼は手に持ったマジックペンで俺の顔に、
「………………?」
何かを描いた。
俺は、咄嗟にその知らない奴を振りほどけなくて、知らない誰かに、何かを描か���てしまい、
「…………………?」
驚いた顔だけしていれば、
『分からないなら分かる必要ないけれど、
気になるなら、鏡を見て来いよ』
と、言ったから、俺は彼を押しのけて、
クラブの汚いバスルームへと向かった。
イライラとした足音を響かせながら、全ての足音を吸いこむ絨毯の中に足音を吸いこませて、階段下のバスルームで鏡を見てみれば、
「……………………」
目の周りに蛍光のマジックペンでゴーグルが描かれていた。
バイク用のゴーグルの様なデザインで、
「………………」
短時間でよく描いたなと思った。
俺は1人になりたかったから、この仮面の様なゴーグルが俺の心に響き、俺は絵に描かれたゴーグルで、
やっと心を孤独に落ち着かせることができた。
ステージ前に戻って来て、さっきの奴を探そうと思ったが、いつでもそうだが、探し人を探すのは難しい。俺は顔を左右に視線を向けて、さっきの彼を探せば、照明の光を受けて、俺の顔に描かれたマジックのゴーグルが極彩色に光るだけだけだった。
カウンターで飲み物をオーダーする。その時に、下げていた顔を上げれば、
バーテンダーはピエロみたいなメイクをしていて、俺はそれを見て、
「いくら………?」
と、聞けば、
「仮装してれば、2ドル安くなる………それは何の仮装だ?」
と、言われたから、俺は笑ってポケットの中からドル札を取り出しながら、
「さあ………? アンタのは何のメイク?」
5ドル札をカウンターに置けば、透明のジンを渡されて、
「見て分からないか………? ピエロにしか見えないだろ………?」
俺は彼に、
「………何のため? 自分の心を隠すつもり?」
笑って、トールグラスを掴み、彼を後にした。
音に酔いたい。
酒に酔いたい。
誰かが吸う煙草の香りに酔いたい。
酔ってしまって、一人になりたい。
狼がコヨーテが遠吠えをするみたいに…、
顔を上に上げて、睫毛は下げ切って、
目は閉じて、音に酔う。
誰かが俺の身体にぶつかれば、俺はより、孤独を味わうことになる。
こんなに人がいるのに、誰も俺のことを気にしない。
こんなに人がいるのに、誰も俺のことを見ちゃいない。
誰も俺のことを知らない。
俺を知らない心地よさ。
孤独という名の心地よさに身を任せてしまえば、俺の心は少しずつ、
度数の高いアルコールで、
心が溶けていく。
顔に描かれたゴーグルで俺の顔を隠してしまい、俺は両手を耳に当てて、耳で防音のヘッドフォンを作れば、爆音の世界に陶酔する。
全身がジンの中にアルコールの中で溶けていくような心地よさ。
そう、本来はそう、きっと、誰が誰かなんて知らなくていいし。
そう、誰が誰かなんてどうでもよくて、
本来はどうでもいいこと。
俺は生まれた時から1人でこれからも1人で生きていくと再確認できれば、
心が覚えた違和感を全部、足元に落とし、
俺は、用済みになった世界から、
泥の様な人との繋がりとかごちゃごちゃとうるさいSNS 至上主義の世界から抜け出して、
空になったグラスをカウンターに返しに戻った。
さっきのピエロに、
「………そのメイク好きだ…」
と、言えば、彼は笑って、
「俺もそのゴーグルメイク好きだ………」
そう言われて、俺は、自分が目の周りにゴーグル描かれていたのを今さら、思い出して、
「………………」
恥ずかしくなり、目元を手で覆って、
…彼の視線から目を反らした。
目元を擦って、その場から立ち去る。
急に褒めるから、
急に俺を見るから、
急に彼を意識してしまったのか分からないが、俺はなんだかとても気恥ずかしく、
「…………………」
やはり、ジンを最初に手渡された時と同じ反応をとってしまった。
俺は彼にすぐに背を向けて、
「……………」
階段を降りて、
ドアを開けて、
外に出て、
靄のかかったネオンが目に響く街に出て、街灯を見上げて安心をした。
良かった、俺は、やっぱり、1人だと、再確認した。
まだ、23時だ。
俺は中に戻ろうか色々と考えて、歩道の淵に腰を下ろして、街灯の光を見上げていたら、野良猫が俺の足元に近付いてきた。
警戒心を持っているわりには、目に光が宿っている。
好奇心で近付いてきている。
彼か彼女は俺なんか何も知らないかのように、俺の横を一旦、通り抜けた。
俺は決して、彼か彼女を追うことなく、
彼か彼女に声を掛けた。
「………オレは1人だよ………」
その言葉が分かったのか分からないが、
彼女か彼か彼女は、
俺の背中側から半周、回って俺の足元に戻って来て…、
尻尾で俺の膝を撫でて、何気なしに俺を振り返った。
尻尾の下を見て、彼だと分かり、俺は笑いながら…、口を大きく開いた彼の頭を手を伸ばして、
撫でつけた。
「………なんで、まだいるんだ?」
猫を撫でていると、急に頭上から声を掛けられた。
俺は鼻先を上げると、バーテンダーのピエロがそこにいた。
「………まだ…中に戻るかもしれないと思ってたから…」
戻るかもしれないし、家に帰るかもしれなかった。まだ、何も決めてなかった。
彼は、ポケットから煙草を取り出して、
「………ふうん。けっこう優柔不断なんだな…」
1本、摘まみだし、摘まんだままで、ライターで火を点けて、
火の吐いた状態の煙草を俺の口元に近付けて、
「………吸うか…?」
まるで世界中の人間が喫煙者であることが前提の様に俺に、煙草を差し出した。
俺は、煙草を吸わないので、
「………いや、いい…」
と、言えば、彼は、頷いて、
「………今、休憩なんだ…」
と、言って、まずは煙草を一口、吸って…、
一口、吹かして…、
人、1人分、間を開けて俺の横の歩道の淵に腰を掛けた。
野良猫が俺達の間の人、1人分の隙間を煙を尻尾で掻き混ぜるように、通り過ぎて行った。猫の尻尾が通るのを俺は、
「…………………」
目で追えば、彼は、
「猫が好きか?」
と、聞いた。
俺は、
「ああ…たぶん………」
と、答えた。
何事も明確な答えを俺は持ってないし、あまり考えようとしない。
彼は、笑いながら、煙草を吸いながら、
「猫のどこが好きだ………?」
と、聞く。
俺は、
「明日の不安をしないところだ………」
と、言った。
俺は、上空に舞う薄曇りの煙を見ながら、
「………猫は明日の飯の心配もしないし、明日、何が起こるかなんて何も想像しない。脳が小さいからそこまで考えないんだろうな。猫がうらやましい………」
と、言えば、
「脳が小さいのが、うらやましいのか?」
と、言われたので、
「………そうじゃない、けれど、人間でこの脳の小ささは問題だが、猫としてはこのサイズの脳は適しているんだろう………」
煙の一部が鼻腔をくすぐる。
「適当な大きさで生きてみたい………」
と、言えば、彼は煙草を持たない手の親指で、俺の眉間の間に親指の腹を押し当てて、
「そんなに…寂しそうな顔をするなよ………」
と、言った。
その距離感の無い態度に、俺は、脳の大きな猫だから、
「…………………」
…少しだけ肩を上げてしまった。
0という数があって、彼は0の距離で俺に話し掛けてくる。
「キスしていいか………?」
俺はそう問われて、
「………えっ? ………ん」
返事できないままで、彼は煙草から離したばかりの唇が自分の唇に押し付けられたのを感じた。
彼の口元に煙草の火が、燃える火が近くにあったからだろうか。
彼は俺にキスをすれば、
そのキスは俺が思う以上に熱く。
俺が思う以上に甘かった。
唇だけを重ねて、
ぴったりと重ねるだけの、
ティーンエイジャーのようなキスをした。
煙草が短くなるのも惜しくなく、煙草が短くなっても、彼は俺にキスをした。
煙草はとっくに地面に投げ捨てられていて、火はもう灯されていないのに…、
1人でいる以上の心地よさを感じたので、俺は彼とキスをし続けていた。
ギトギトと輝くネオンの中に、常夜灯が優しいオレンジ色で俺達を照らして、少しのアルコールと少しの煙草の匂いが、嫌いじゃなかった。
彼は俺の耳元に唇を寄せて、俺の耳元で煙草を吸うみたいに、
「………俺の部屋に来ないか?」
と、聞いた。
俺は、
「仕事は何時まで………」
目を細めて遠くを見ると、ネオンの光が筋になるのを見つめながら、
「………ちょっと、調整できないか聞いてくる………」
言って、俺は煙草を吸わないのに、1本の煙草を俺に渡して、ライターを投げて寄越した。
彼は、
「煙草の火が消えるまでに俺が戻らなかったら、仕事は朝までだから………」
そう言い、彼は扉の中に消えて行った。
俺は知らない人の誘いにこのままのっていいか、自分で考えるのが面倒だったので、
「…………………」
言われた通りに、慣れないライターの火を点けて、煙草に火を点けて、吸わない煙草が灰になるのを、ぼおっと見ていた。
別に何をするわけでもなく、ただ、時間の流れに身を任せる。
これから何が起こるかなんて想像するだけ無駄し、不安に感じるだけ無駄だし、なにより。
この、1本の煙草が燃えるだけの時間を待つのが。
「……………………」
愛おしかった。
すぐに彼は扉から出て来て、俺の指に挟んだだけの煙草を見て、
「俺、仕事はやいな」
笑って出て来た。
「その煙草、吸っていいか?」
俺は、
「………勿論」
言って、彼の口元に、煙草を近付けた。
彼は、自分の手で煙草を持たずに、俺の手元から煙草を吸った。
煙草を砂時計のように使う人間を初めて見たし、それに喜んでいる彼が年上なのに、年下に見えて、煙草を待った時間と同じくらい、
なんだか愛おしく感じた。
彼は砂時計の砂が落ちきるまで、最後まで俺の手元から煙草を吸った。
彼の部屋の玄関で彼は俺にキスをした。
壁に背中を押し当てられて、唇をそっと寄せられて。
俺も唇をそっと寄せ返し、彼にキスをした。
道端でしたキスは唇と唇を触れあうだけだったが、部屋の中に入ると彼のキスは豹変する。
すぐに俺の心の中をこじ開けるように、彼の柔らかく温かい舌が俺の心を触り出す。
「…………んぅ」
その舌の感触に、俺は彼に自分の大事な孤独を奪われてしまう気がして、
「……………ヤ、やだ…」
性急すぎるキスから逃げようと、顔を反らすと、
「…………っぁ………」
閉じた瞳の奥から生理的な涙が溢れ出て来てしまって、
「……………シャワー浴びる…」
と、言いながら、両手の拳の付け根で彼の肩を押した。
彼は、悪戯をした子供の様に笑って、
「俺も一緒に浴びていいか………?」
と、聞いた。
「……………………」
俺はドアの鍵を思わず見たが、
俺が彼に付いて来たのだ。
全て合意の上。
こうなることは部屋の中に入る前から分かっていたはずだった。
シャワーブース前で、彼はコットンにクレンジングウォーターを染み込ませて、メイクを落とした。
俺は、横からそれを見ながら、彼の指に自分の手を寄せて、
「オレがメイク落としてやるよ………?」
と、言えば、彼は薄く笑って、俺にコットンを渡したので、見様見真似でコットンにクレンジングウォーターを含ませて、彼のメイクを目元から落として。
「………………ん」
彼は長い睫毛を閉じて、金色の睫毛がバスルームの光の中で濡れて光った。
俺はメイクをしたことがなかったのに、どうして、彼のメイクを取ろうと思ったのか。
なんとなくだが…、彼の素顔を徐々に見たくなったのだ。
「………………」
頬のメイクを落として。
少しずつ、彼の素顔を見れば、
「……………かっこいいな…」
彼は俺が想像したより、整った顔をしていた。
彼は笑って、
「お前のメイクも落とすだろ?」
そう言って、俺は鏡で自分を見たが、俺は顔を両手で覆って、
「………オレは…落とさなくていい………」
と、顔を隠した。
俺は素顔を心をまだ彼に見せたくない。
「…………っひぃ…」
シャワーブースの中で四つん這いで胸から上を、
「…………っぁ、うあ………」
ブースの外に水が垂れ流されるのも構わずに、
「ココ、気持ちいいだろ………?」
上半身を箱の中から出した状態で、下半身を抱え込まれる。
名前をまず聞いた。『アンタ、名前は?』聞けば、彼は、『コラソン。みんな、コラさんって呼ぶ』、俺は、『そう…コラさん、オレは、ローだ』、と、簡単に自己紹介をした。名前だけ情報を交換し、次に、今日の夜の交渉をする。金とかの話じゃない。合意でこの場にいるのだから、『どっちが、トップで、どっちがボトムをする?』役割の交渉に入れば、彼は、『俺はどっちでもできるけど、どっちが好みだ?』と、また、悪戯に聞いた。俺は聞かれると、急に戸惑ってしまい、『………オレもどっちもできるけど………』言えば、彼は、『けど?』と、聞いて、クスリと笑い、『けど、そうだな、俺は、トップがいいな、オマエ相手には………』と、言った。彼はワセリンを棚から取り出して、『自分で準備できるか?』と、聞い��が、俺は、首を横に振った。そして、彼は、俺の顔を覗き込んで、『ローは可愛いな………』と、俺の心を、メイクをしたままの俺の心の奥底まで覗き込んだ。
熱い雨を頭の上から被り、換気の悪いバスルームは湯気だらけで薄曇りの中、彼に服を脱がされて、シャワーブースの中で抱き締められた。
俺が背を向けていたままなのに、彼は、俺を背中側から抱き締めて、首筋に何度もキスをした。
そして、
俺に彼の名前以上の情報量を、
愛撫をして注ぎ込んでくる。
「あっ、…ウァ………」
俺の身体は彼の情報で情報過多になり、少しずつパニックを起こす。
「コラさん………はやい……オレ、追い付かない………」
「何がはやい? 何が追い付かない………?」
それを慰めるように、彼は後ろから抱き締めて、俺の背中に唇を何度も押し付けた。
「心の動きがはやすぎる。心が追い付かない………」
そう言えば、彼は俺の背中で、笑って、笑った彼の吐息で、
「ひゃぁ………」
俺は変な声を上げて、背中を反らした。
彼はパニックになった俺を、
シャワーブースの中心に座り、
俺を彼の膝の上に座らせて、
俺の心が少し落ち着くまで、待ちながら、何度も俺の身体にキスをした。
俺の目元を大きな手の平で覆って、視界からの情報を遮って、
「俺の身体に体重を預けて………力を抜け…」
俺は彼の大きな手の平に頭を預けて、熱い情の雨の中で息をした。
彼は俺の身体を後ろから抱き締めただけで、手は動かさずに、唇を髪の毛から、耳元、肩へと滑らせて、優しいキスの雨を降らせた。
「………………」
「不安になったら、俺の名前を呼んでいいから………」
頷いて、
「コラさん………コラさん………」
ただ、呟いた。
その度に、彼は優しいキスを濡れた唇で俺の肌の上を流れていく水の粒を吸い取る様に、
キスをした。
「コラさん………」
俺はその優しいキスの雨に体重を、心の負荷を全部、預けて、渦を巻いて流れていく排水溝の中へと、重荷を全て流した。
「……………っぁ」
熱さとキスで頭が身体が弛緩をしてきた。
熱さとキスで鼓動が速くなってきた。
熱さとキスで脈が速い。
脳が痺れ出す。
脳が熱さで痺れだす。
キスをされながら、後ろから裸で抱き締められているだけなのに、
心が熱い…。
俺の身体から力が抜けたのを確認した彼は、俺の目元を覗き込み、
「なんだ………水性の顔料だったのか………」
「……………?」
「メイクだよ…ほとんど落ちてる………」
そう言って、俺の目元を親指で拭った。
「ほら、メイク、全部とれたぞ………」
俺の心を隠すものはもう何もなくなってしまった。
俺は彼の前で逃げも隠れも出来ず、向かい合って、膝の上で裸で抱き締められて、
「………そんな顔するな…」
彼は笑った。
「………どんな顔?」
彼に聞いた。
俺は今、自分がどんな表情をしているか、素直に分からないから、素直に聞いた。
「………困った…とか、戸惑ってる…というか…」
彼は言葉を選びながら、俺の両腕を折り畳んで、俺を彼の大きい胸板の上に載せて…、
俺に雨が降る様にキスをした。
「…………んぅ…」
俺は自分の反応も忘れて夢中になって彼とキスをしていれば、彼は俺を抱き締める腕に力を込めて、俺の手首を握った。
俺の顔は上を向いている。
熱い雨以外に彼の鼻先、顎、頬からも熱い雨が流れて来て、俺の顔に零れ落ちる。俺の頬を顔を全身を濡らす。
息苦しくなり…、
「………んぅう…っつ」
俺が喉から声を溢すのに、
きっと、もっと困った顔をしているのに、
「んふっ…んんっ………」
目頭から涙が溢れて来たし、目頭の涙は目尻に流れていく…。
涙で擦りガラスのような瞳で、
彼を見れば、
彼は、熱に浮かされた瞳でじっと俺を見ていた。
そして、
「………んぁっ………っはぁ」
唇を離されれば、シャワーの水とは違う、粘性の高い唾液が、俺と彼の唇の間で糸を引いた。
「あっ………はぁっ…はぁっ………」
荒い息で心を落ち着かせていようと思えば、下肢に手を伸ばされる。
キスだけで俺のペニスは反応をしたし、彼のペニスも熱を持っている。
耳がじんじんと痺れる。
快感を感じると、耳がじんじんと痺れ出す。耳の痺れはすぐに脳に到達し、脳が痺れる。
ペニスに手を寄せられて、長い指を絡められると、
「っひ………ヤ、ダメ………」
腰が引けた。
彼は優しく微笑みながら、俺をシャワーブースの熱い雨が降る、
檻の中、
俺を隅に追い詰めた。
やっぱり、俺は、
「心が………心が、追い付かない………」
そう言うのだ。
「………それはだから、どういう意味なんだ?」
いつもはセックスだけなのに、今日は何故か、心が追い付かない。
俺は腕で顔を隠して、
「分からなっ………ヤァ、ァア………」
「……………………」
彼は俺のペニスを触りながら、投げ出した脚の付け根を触る。
「………ひぁ………」
「はは、かわいいなぁ………」
腕の隙間から自分の下肢を見れば、
トロトロと本音を垂らしながら、彼の煙草を持っていた指が、俺の身体の中心に伸ばされて、
セックスの準備が本格的に始まるのだと思い、俺は、彼の手を咄嗟に握って、
「………まって、まって………」
制止し、
「………ダメ、…ダメだ………」
逃げようとした。
彼は笑って、
「悪いな………逃げようとすれば、俺は、追いたくなるんだ………」
そう言って、両手を下界へと伸ばし、両手両足、四つん這いでシャワーブースから逃げようとする俺の背中から覆い被さり、
「………気持ちいいことが、きらいか?」
と、俺に聞いた。
俺は濡れて湿った髪の毛で、頭を左右に振って、
「………好き」
「じゃあ、コレ好きだろ………」
アナルに長い指が差し込まれて
「……っひぁ、やぁん、………」
熱い感覚が襲う。
ぬるりと指が入り込み、水を流し込まれて、洗浄をされているだけなのに、
「うあ、っあ………」
本当に心が追い付かない。
「やだぁ、………やぁ、ああ………」
腰を抱き込まれて、洗浄と言いつつ、2本の指で上下に広げて、腹の方も押されると、
「っくぅ………うあぁ………」
ビリビリとした快感が太腿に走り、手を突っ張った。
彼は、俺の身体の反応はあまり気に留めずに、指を抜き差しして、
「………なんだ、キレイじゃないか………」
俺の直腸の確認をして、
「はぁ、………っつぁ………」
俺のうなじにキスをして、楽しそうに彼は、
「………すぐに突っ込めそうだな………」
と、言った。
俺は、
「ヤダ、ヤダァ………無理…無理………」
彼のペニスを見て、シャワーブース外へと逃げ出した。
腰を掴まれて、引き戻されて、
「それ、みんな最初、言うけど、だいじょうぶだから………」
言われて、アナルにまた指を差し込まれる。
「んっひぃ………ひぃい………」
「イくなよ………イくと、アナルが締まるから………」
「ムリ、ムリ………っひぁっ………」
中の気持ちが良い所を探られると、条件反射で腰が震える。
突っ張っていた手から力が抜けてしまい…、
「………俺の指は好きか………?」
言われて、後頭部を床に擦り付けながら、
「好き、好きだから………指だけで終わらせて………」
言えば、
彼は、鼻で笑った。
「やだ。……こわい……っひぁあ………」
「………もっと俺のこと好きになるようにしてやるよ………」
指だけで狂いそうなのに、
「うっ、うん、あっ………あぁ………やら………」
泣きじゃくりながら、快感の拒否を懇願する。
熱いし、耳がじんじんと痺れっぱなしだし、腰は彼に突き出したままだ。
彼の指が入り口を薬指で広げて、長い中指で、入り口をぐるりと撫でると、
「っひゃぁあん………」
変な声が出た。
「わるいわるい………」
言いながら、また指を2本、同時に、
「ア、ッア………」
差し込まれれば、
「ヒドイ…ひどい………」
もう尾骨まで震えた。
ベッドに連れて行かれて、濡れた髪の毛のままで、寝かされて、
「っくん……んん………」
ワセリンをアナルに塗られる。
俺はシーツを指先で握りながら、それに耐える。
「もう入るけど、………もうちょっと遊んでいいか?」
「えっ?………」
俺は溢れる涙で視界が薄らぼんやりしているし、
熱い湯のせいで、思考も薄らぼんやりしている。
彼は、俺の瞳を覗き込んで、
濡れた目で俺を愛おし気に覗き込んで、俺の視界を一瞬、彼だけにした。
彼の右手の人差し指と中指でピースを作った状態で親指と人差し指と小指を曲げて、
「っひぃ、いいっ、いぃいい………っ」
ピースの部分でペニスを挟み込まれて、
「うあ、ヤダ、やだ…っ」
親指で睾丸の間を押される。
彼の指が上下するたびにペニスは扱かれて、同時に、親指で表面から前立腺を押される。
「コラさんっ、…イく、イク………っ」
太腿が引き攣り上がり、足先が上がった。
「イっちゃダメだ………中が締まるから………」
彼は、ピースの指を押し上げて、俺のペニスが俺の腹に当たるくらい持ち上げられると、男の身体の構造上、射精が出来ない。
「………っ!? ………っつう?」
俺は目を大きく見開いて、
「もうすこし、我慢しろ………」
「…………………!?」
身体だけはガクガクと震えるのに、射精が一旦、止まる。
中がイったわけではない。
射精が出来なかっただけだ。
俺の腰の震えが収まるまで、俺のペニスをピースで押さえつけて、
「………っん………」
「…………………」
彼はベッドサイドのショットグラスにパッケージを外されて、並べて入れられた煙草に火を点けた。
「コラさん、手ぇ…、っ…離してっ………」
彼はピースサインを一旦、離して、俺のペニスは角度を持って、
腹からは離れた。
「イきたい………」
彼は、煙草に火を点けて、
「………ダーメ」
煙草を吸いながら、俺に笑い掛けた。
その後は、ずっとピースでペニスを弄り続けられる。
イきそうになれば、ピースでペニスを上に押し上げられる。
すると、射精が出来なくなる。
ぐちゃぐちゃのドロドロになっても、
「コラさん、もうヤだ、ヤダァ………」
俺はもう何を言っているか分からないが、イかせてもらえないの連続。
射精欲の感覚が短くなってくる。
「何がヤダ………?」
俺は、口元を震える指で覆って、
「………煙草、吸わないで………」
本音を言うのが恥ずかしく、そう言うと、彼は少し、目を見張って、片手の煙草を見て、
残り半分、
「じゃあ、ローが吸ってて………」
言って、震える俺の指に煙草を持たせて、俺の唇に煙草の吸い口を咥えさせて、
「………っかは、ぁっ………っはぁあ………」
ピースで押さえたままのペニスを扱きながら、俺のペニスをフェラチオした。
「かはっ………ぁあ、かはっ………」
じゅくじゅくと先端から染み出てくる液を彼は舌で舐め取りながら、
煙草に何か匂いが付いている。
脚を大きく開いて、下半身を彼に固定されて、されるがままで。
「っはぁ、かはっ、………はぁあ………」
煙草に咳き込みながら、
涙を溢しながら、
フェラチオされながら、
煙草を吸った。
ジェニパーベリーの香りがする煙草の香りの中、
「っひぃ、イク……イク………」
と、言えば、
「まだ、ダメだ………」
そう言われ続けて。
俺は吸い終わった煙草を手にしたまま、
「もう…もう……疲れた………」
と、素直に言った。
何度もイかせてもらえないのが続いたから、身体が力が入るのか入らないのか分からない。
「…………………」
震えた手で限界まで短くなった煙草を持ったままだった。
彼は俺の胸に落ちた灰を指を伸ばして取り除いてくれて、短くなった煙草を手に取り、火を消して、
俺は、涙で溢れる瞳で、
「………コラさん、優しくして………」
彼にそう言った。
「うん………分かった………」
ここまでされないと、俺は、自分がセックスを求めているのではなくて、彼の優しさを求めているということに気付けなかったのだ。
彼は俺を全身で抱き締めて、
「………コラさん、なんで煙草にジンの匂いが………?」
と、彼に尋ねると、彼は俺の頬にキスをしながら、
「うん………? ショットグラスに煙草とジンを含ませたコットンを入れておくと、煙草にジンの香りが移るんだ………」
彼は俺に優しくキスをしながら、
緩慢な動きで、
俺の中に入ってくる。
「…………んん……そう………」
ゆるやかに俺の中に彼のペニスが入って来て、先ほどの攻め立てた同じ彼とは思えなないくらい、優しく、
俺を抱いた。
「…………はんぶん、入った………」
「うん………」
俺の肩に何度もキスをしながら、
「つらくないか………?」
と、俺に聞いた。
俺は唇を薄く開いて、
「………きもちいい…」
と、言った。
彼は笑って、俺を見詰めて、
「そうか………」
「うん………」
俺も彼を見詰めた。
「これで、ぜんぶ………」
「うん………」
俺は頷いて、彼の唇にキスをした。
「………………」
「………………」
暫く長いキスをした。
2人で吸った煙草の香りがした。
甘く疼く痺れを持て余しながら、
彼と長いキスをした。
「………動いていいか………?」
「いいよ………」
「どのくらいの速さで………?」
俺は笑って、
「すぐにイっちゃうくらい………」
彼にそう言えば、彼は笑って、
「俺もすぐに…イきそうだ………」
途端に、ペニスを動かした。
「………っひい、ィイイ………」
俺の喉が反り、高い声が出た。
ペニスを抜き差しされる。
気持ちの良い所を彼の心がかすり触っていく。
気持ちの良い所を刺激される。
心を刺激される。
両腕を折り畳まれた状態で彼に腰だけで抱かれる。
脚が彼のペニスが入り込んだ時に、跳ね上がり、
彼のペニスが去れば、俺の喉から嬌声が漏れる。
爪先まで緊張したままで、毛穴がぶわりと広がる。
汗が零れ落ちる。
全身を性感帯にして、彼に、抱かれる。
優しいセックスに心も身体も何もかも奪われる。
魂だけを大事に自分の物にしようとするみたいに、腕を胸の中で抱え込み、
「………んっ、っひ、っひ………」
彼の与える快感に耐えた。
律動が収まらなく、鼓動は大きく打ちっぱなし、何もかもが止まらない。
何もかもをセックスに持って行かれる。
驚くくらいの甘い快感に全てを奪われる。
彼に何もかもを奪われる………。
「イく…、イく……、コラさん! コラさん………」
腹筋が引き攣れて、汗がどっと出て来た。
「うん…うん………いいぞ……イって………」
オーガズムの波が押し寄せる。
彼の腕を掴み、
「ああ、うああ、アアァア!」
俺は泣きながら、太腿を震わせて、彼の腰を挟み込んだ。
下半身だけが緊張し、断続的に震えた。
射精とドライオーガズムを同時に味わい、
「………うあぁ、…ぁあ! コラさん、なに? なにこれ?」
涙が止まらなかった。
1回の挿入とは思えないくらい、濃いセックスをして、俺は彼が達した後、ベッドから起き上がれなかった。
彼はけっこう平気で、使い終わったコンドームを縛り、ティッシュに包んでゴミ箱に捨てて、煙草を手に取った。
ジェニパーベリーのジンの匂いが俺の鼻腔をくすぐった。
震える肩で彼の方を向き、
「ねえ………俺にも、ひとくち…」
と、彼に煙草をねだれば、彼は笑って、
「甘えん坊だな………」
言って、煙草を自分の口で吸って、
俺に口付けをして、
「……………ん…」
煙を俺の口内に押し込んで、
「………っは、かはっ………」
やっぱり、俺は煙草の煙にむせるのだった。
END
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