各地句会報
花鳥誌 令和4年3月号
坊城俊樹選
栗林圭魚選 岡田順子選
………………………………………………………………
令和3年12月2日
うづら三日の月句会
坊城俊樹選 特選句
しとしとと雨しとしとと冬近し 喜代子
護りうけ思ひ絡まる毛糸編む さとみ
冬河や網打つ人は何を漁る 都
冬怒濤雄島は人を寄せ付けず 同
寂聴の過去は激しく榾燃える 同
(順不同特選句のみ掲載)
………………………………………………………………
令和3年12月2日
花鳥さゞれ会
坊城俊樹選 特選句
秋風や消えゆく物にますほ貝 雪
蓑虫の纏へる物の哀れさよ 同
亡き友の顔をかぞへて師走かな 匠
裘かくしに去年の映画の券 同
なんとなく交はす言葉にある師走 かづを
こころして願掛けをせむ神還り 数幸
恋多き尼の死悼む歳の暮れ 清女
仲よしの三人の婆おでん酒 啓子
(順不同特選句のみ掲載)
………………………………………………………………
令和3年12月4日
零の会
坊城俊樹選 特選句
枯葉積む蝶のむくろを嵩として はるか
乃木将軍の墓ひとりぼち冬の蠅 佑天
枯葉舞ふ異人の墓は仰向けに 伊豫
赤信号ぬるき懐炉は胸の奥 ゆう子
冬霞あふひの墓の見つからず 佑天
黄落にころんと転び笑ひをり 久
坊城雀冬晴を祓ひに来 順子
十字墓影を寝かせて冬ぬくし 秋尚
冬の日に白装束の透きとほる きみよ
岡田順子選 特選句
百度石在らば祈らむ冬空に 炳子
墓一つ極月一つあるごとし 伊豫
冬晴や絵画館やや浮かみたり 佑天
塋域は枯野とならむ魂の黙 ゆう子
元勲の墓冬帝の貌をして 俊樹
極月の指墓碑銘を愛しみ 千種
冬晴や虚子の見守る墓一基 三郎
懐旧の情とは極月の男 千種
抱擁すマリアは寒き手を拡げ 俊樹
蝶も無き冬の墓標となりしかな 同
けふあたり上へと魂の日向ぼこ 慶月
(順不同特選句のみ掲載)
………………………………………………………………
令和3年12月10日
鳥取花鳥会
岡田順子選 特選句
面影山に半襟掛けて時雨虹 美智子
冬ぬくし赤子を丸く抱いてをり 栄子
冬ざれや修築の碑は沖を見て すみ子
ざらざらの風紋壁画冬日吸ふ 悦子
色鳥の木戸を飾りて飛び去りぬ 宇太郎
黄落の色に染まりて町の風 和子
(順不同特選句のみ掲載)
………………………………………………………………
令和3年12月11日
札幌花鳥会
坊城俊樹選���特選句
冬日落つ老いのひと日の終りけり 独舟
ペーチカやレコード針の飛ぶところ 晶子
君知るや時空を超える除夜の鐘 同
悴みて錠剤一つ転がりぬ 寛子
樽前山を背負ひ堂々たる雄鹿 のりこ
魔女の口笛かも知れぬ虎落笛 岬月
天空の乱れし夜の虎落笛 同
クロークに寒さ預けて席に着く 同
恋心捨てしを叱咤虎落笛 同
五稜郭兵を鎮める雪しきり 雅春
冬虹を翔け上らんと鳥一羽 同
榾爆ぜる音にも温みありにけり 慧子
故郷は遠し一夜の雪二尺 同
(順不同特選句のみ掲載)
………………………………………………………………
令和3年12月11日
ますかた句会
栗林圭魚選 特選句
みちしるべなき分かれ径枇杷の花 秋尚
中子師と歩みし坂ぞ枇杷の花 三無
杉樽に醤油の香り枇杷の花 ゆう子
新聞の折り目ずれなく漱石忌 同
枇杷の花不穏なること無き日々よ 同
布団干す母手作りの重さかな 多美女
立ち止まり見る人もなく枇杷の花 白陶
いぶかりつ人恋ふ猫や漱石忌 百合子
烏瓜色仕上りて句碑頭上 三無
日を回しながらゆつくり紅葉散る 秋尚
(順不同特選句のみ掲載)
………………………………………………………………
令和3年12月13日
武生花鳥俳句会(十二月十三日)
坊城俊樹選 特選句
色鳥の風と光に遊びをり 中山昭子
色足袋をはいていよいよ籠りけり 上嶋昭子
落つるもの大地に還し山眠る みす枝
一灯のともる社や神の留守 英美子
極月にして捨つるべきもの何もなし 世詩明
冬麗やこの郷土にて生かさるる 信子
吾町に煙突のなきクリスマス ただし
時雨るるや振子時計の重き音 信子
天界の星座の見ゆる大枯木 みす枝
妻が留守する小春日でありにけり 世詩明
天帝の光射す庭冬の蝶 錦子
誰かれと言はず着ぶくれ句座にあり 英美子
身籠りてふくらむ夢や毛糸編む 同
街路灯夜霧のうるむ一直線 一枝
外套の襟立て警邏街の辻 三四郎
外海も内海も凪石蕗の花 中山昭子
何処見るでなき見つめゐる日向ぼこ 英美子
鴨一羽急に羽搏き黙破る みす枝
(順不同特選句のみ掲載)
………………………………………………………………
令和3年12月13日
なかみち句会
栗林圭魚選 特選句
金色の曙杉や冬日向 美貴
お喋りは徐々に大声冬日向 あき子
松籟に静けさつのる炭手前 同
冬日向旧姓残る裁縫箱 美貴
山寺の燃える紅葉に冬日差し 迪子
ひと畝の冬菜を残し寺の畑 秋尚
彩りに冬菜を入れて中華粥 迪子
尉もまたかぐはしきもの桜炭 三無
晴れし日は富士仰ぎ見ゆ冬菜畑 貴薫
黒糖の飴舐め冬菜畑入る 同
(順不同特選句のみ掲載)
………………………………………………………………
令和3年12月14日
さくら花鳥会
岡田順子選 特選句
乾きたる白杖の音や枯木道 登美子
初めての柚子湯子の手に一つづつ 裕子
冬タイヤ着け替へる音響く町 紀子
根深持ち友わが家を探し来る 令子
母と娘のふところ温め根深汁 同
甥つ子の来福めがけ霰降る 紀子
冬夜空指輪のやうな月蝕を 光子
(順不同特選句のみ掲載)
………………………………………………………………
令和3年12月14日
萩花鳥句会
リハビリの迎へ待つ間や著ぶくれて 祐子
月蝕や三代並び膝毛布 美恵子
姿変へ伏兵地球を凍らせる 健雄
交差点スマホの生徒息白し 吉之
句仲間の声懐かしや忘年会 陽子
けたけたと笑ふみどり児日向ぼこ ゆかり
まつしろな書類重ぬる年の暮 明子
彼の宿の達磨火鉢を懐かしむ 克弘
(順不同特選句のみ掲載)
………………………………………………………………
令和3年12月16日
伊藤柏翠俳句記念館
坊城俊樹選 特選句
竜胆の花がこんなに似合ふ墓 雪
考へのあるとも見えぬ懐手 同
木犀の香にほころびの見えそめし 同
機嫌よく水の軽さや紙漉女 眞喜栄
音のなき竹百幹の霜の声 同
枯菊をくべ足し仕舞ふ畑仕事 同
マスクして美人の顔を半分に 清女
丸太棒の如き大根もて余す 同
嘗つて僧と梅見の宿の河豚料理 ただし
渡来仏残る若狭に牡蠣筏 千代子
越に棲み訛は二つ石蕗の花 同
青空に別れに来たか赤とんぼ 輝子
冬帝の足音もなく来る越路 かづを
黒手帳終へし師走の赤手帳 高畑和子
ふぐと汁喰べて睡むたくなりにけり ただし
鴨浮寝何れか父やら母子やら 玲子
酔漢の愚痴の繰り言忘年会 みす枝
大根を抜きて土の香漂へり 富子
虎落笛白きもの皆吹き飛ばす 山田和子
(順不同特選句のみ掲載)
………………………………………………………………
令和3年12月19日
風月句会
坊城俊樹選 特選句
重力の強くなりたる冬至前 久
遥か行く貉の怪や枯野径 三無
裸木の一木領す群れ鴉 菟生
寒鴉鳴くまだ釣果なき釣人に 佑天
神鈴を鳴らす冬帝鎮むまで 慶月
冬木立天は奪へるもの奪ふ 慶月
冬ざれの谷戸田貫く風太し 三無
径を問ふ人にやさしき頰被 亜栄子
むじな池人惑はせて氷りけり 久
焚火の香まさをな空へ消えゆけり 眞理子
古鏡なす日輪弾く冬の沼 菟生
燃えつきの悪き焚火やむじな池 千種
栗林圭魚選 特選句
痛きほどの青空尖る冬芽かな 斉
初霜の葉脈白く浮き立たせ 貴薫
霜枯の行く手阻みし杭一つ 炳子
女坂とても険しき水仙花 芙佐子
朝霜を畦の日蔭に消し忘れ 秋尚
田の氷罪あるごとく割られけり 千種
径を問ふ人にやさしき頰被 亜栄子
むじな池人惑はせて氷りけり 久
烏瓜空眩しみて破れけり 久子
霜光る崩るるままの藁ぼつち 炳子
(順不同特選句のみ掲載)
………………………………………………………………
令和3年12月21日
鯖江花鳥俳句会
新米を上り框にどさと置く 上嶋昭子
難儀やなあと呟きて懐手 同
真砂女の句厨に貼れば時雨くる 同
実印を押して腕組む冬座敷 同
寒雀あやとりの子に近づきぬ 同
秋霜や左近の陣に残る石 同
床の間の螺鈿煌めき冬座敷 中山昭子
暖炉燃ゆ三重奏の楽豊か 同
蓑虫の蓑の衰へ如何にせん 雪
炉話や若き日の恋爆ぜてをり みす枝
船頭の笑はせ上手冬日焼 洋子
奈落とも思ふ夜更けの雪起し 一涓
(順不同特選句のみ掲載)
………………………………………………………………
令和3年12月22日
第四十四回近松忌記念俳句大会
坊城俊樹選 特選句
お歯黒をつけし女の近松忌 世詩明
男云ふ今際の言葉近松忌 雪
心中はむかしがたりや近松忌 遊子
近松忌雨の鳥語を供華として かづを
忍び泣くお初時雨や近松忌 ただし
近松忌盗人被りの成駒屋 道夫
南座の木戸に盛塩近松忌 同
あでやかな傘をすぼめて近松忌 上嶋昭子
しぐるるや胸のほのほは消えもせず 同
近松忌今も名残の七曲り 節子
許されぬ恋の道行き雪深し 同
近松忌皆口紅の濃かりけり 匠
日野山の晴れて時雨れて近松忌 同
手枕の味を忘れて近松忌 千代子
恋に燃えし寂聴逝けり近松忌 みす枝
人情の深まる里や近松忌 同
近松忌お初の恋はありのまま 千加江
(順不同特選句のみ掲載)
………………………………………………………………
令和3年12月
九州花鳥会
坊城俊樹選 特選句
棘の威の死して残れる枯茨 洋子
クリスマス会果てまこと神の闇 古賀睦子
山の端にしたたる銀河神楽宿 佐和
独り三味線せめて一手間熱燗に 勝利
熱燗に火宅を忘れおほほほほ 美穂
棋士決めの王手の響き冬座敷 吉田睦子
スイミング二秒縮めて聖夜の灯 桂
北窓を塞ぎて画布の静かな絵 朝子
お尻立て鳰はするりと異次元へ 勝利
胴長と漁網干しゐる舟小春 由紀子
熱燗や三巡目なるあの話 成子
音楽会敢へて師走を忘れたく さえこ
かりそめに置く一本の冬の薔薇 由紀子
凍星や阿修羅は泪とどめたり 久恵
(順不同特選句のみ掲載)
………………………………………………………………
4 notes
·
View notes
第67回 日本「朝日廣告賞」獲獎作品欣賞(上)
朝日廣告賞(成立於1952年),在變動的社會中,不斷挑戰廣告表現的更多可能性。
評選分為兩部分:「一般公募部」(年輕創作者的競技)、「廣告主參加部」(以紙面刊載了的廣告為對象),此兩部分的獲獎作品由各界代表的評委評選而出。另設有「朝日新聞讀者賞」,由大眾讀者投票選出。
第67回朝日廣告賞「一般公募部」從應募的1724件作品中選出了22件獲獎作品,其中最高賞由松下廣告的創作者長岡華子獲得。 「廣告主參加部」則從375件參賽作品中評選出了31件獲獎作品。
本篇將為你介紹「一般公募部」的獲獎作品,下篇將為你介紹「廣告主參加部」 的獲獎作品。
一般公募部 1.朝日廣告賞松下evoltaneo乾電池廣告 - 長岡華子
此廣告要表達的是,即使本人死了成了骷髏,手電筒的光仍亮著。 --葛西薫
描繪了一個安靜的世界,表現力極強。 --川口清勝
死是中國人比較避諱的事情,但在這個廣告中,日本用了一種比較詼諧的手段來面對死亡。這個廣告能獲得最高大賞,包含了一定的日本人的冷幽默在其中吧。
2.準朝日廣告賞TOMBOW文具鉛筆廣告“從今以後,從這裡開始” - 除本綾乃
鉛筆所持有的一份脆弱和一定強度都表現了出來。 --箭內道彥
這個廣告能夠獲獎,原因之一應該是非常的點題。少女化身為蜻蜓,佇立在漂浮的TOMBOW鉛筆之上。少女是鉛筆的主要面向人群,而TOMBOW的品牌LOGO是蜻蜓。於是,少女是蜻蜓,鉛筆成了她在水中佇立的那根浮桿。當然整個畫面也是畫得非常美了。
3.準朝日廣告賞kameyama「ロウソク蠟燭」廣告洗澡篇;冥想篇;學習篇
- 滝沢奈津子
為面向年輕的消費群體,廣告主構建了一些蠟燭在當今生活中的使用場景。這些插畫畫得不錯,並在場景中運用了大量的ロウソク包裝的紋理。 --川口清勝
4. 準朝日廣告賞救心製薬「救心錠剤」廣告“心平氣和”
- 島田彩、平岡咲、本村仁
日本年號的公佈備受全國關注,而這個廣告運用了今年‘令和’年號公佈的段子。板子處於一種剛拿起的狀態,這個時刻是最讓人緊張,七上八下的了。由此引申到「救心」的主題,有意思。
5. 入選+朝日新聞讀者賞牛乳石鹸「赤箱」香皂廣告“不會被校規禁止的香水”
- 山形孝將、松金裡佳、竹內希光、鼎 由起子、吉田圭佑、牛嶋李紗、高瀬実李、加藤春日
能夠感受到香味的照片。 --佐藤卓
的確,最好聞的香水是洗完澡後身體散發出來的香皂、沐浴露、洗髮水的味道。
6. 入選TOMBOW文具「トンボ鉛筆」廣告“小星星”- 北上由理
把手放在皺皺的手繪鋼琴的紙上彈奏著「小星星」,我想他一定是很想彈鋼琴吧。一眼就被吸引住了。 --葛西薫
7.入選警視庁犯罪抑止対策本部「特殊詐欺」廣告“不同的,你注意到了嗎?”
- 呉屋勝正
廣告語是:不同的,你注意到了嗎。然後你就會不斷地去尋找這上下兩個標誌的不同之處。結果你會發現其實它們是兩個完全相同的警察標誌。右下角有句話:現在的欺詐就跟這一樣的巧妙。
這個廣告打得很巧妙,在與讀者的互動中讓他們領會其中的深意。警察的標誌,日常近乎真實的欺騙。
8. 入選TOMBOW文具「MONO橡皮」廣告“軌跡” - 橋本朔良
從橡皮擦出來的線條獲得發想。用噴氣式火箭的飛速,來隱喻橡皮擦拭的暢快。 --國井美果
9.入選富士急行「富士急遊樂園」廣告“在預先練習呢”- 宮田柊花
黑白的照片讓人想起了令人懷念的大阪時代。廣告語非「予行練習してんねん。」(在預先練習呢)這樣的關西腔不可。像這樣像傻子一般玩耍著的小孩,一定非常地快樂。這是最擊中我內心的一件作品。 --中島信也
10.入選大塚製薬「POCARI SWEAT」飲料廣告 - ミウラユウタ
這是個不用言語就表現了滿滿青春的廣告。 --児島令子
注:日本的初高中生在畢業的時候有個美好浪漫的“習俗”——向自己喜歡的男生索要製服上的從上面起第二個鈕扣(因為最靠近心臟),以此來表達自己的愛意,祈求幸福。
11入選講談社「讀書讓人開心」廣告“我的私人飛機” - 寺西徹
一個「本」(中文‘書’的意思)字,其中隱含了一架飛上雲端的飛機,而躺在飛機上的是一個正在讀書的人。以此來表現出讀書的舒適感和自由感。
12.入選NAIGAI襪子廣告“sex的時候也要穿襪子。 - ”高木俊貴、曽我部光一
最下面的一行字寫著這是基於科學的數據得出的,讓人感到非常溫暖。 --佐々木宏
13.入選Netflix企業廣告“來自Netflix的道歉” - 金山大輝、中島智哉
大紅字:本年的奧斯卡金像獎獲獎作品不能在電影院看。小紅字:Netflix原創作品「ROMA」獲第91回奧斯卡金像獎導演獎等三項大獎。 (圖解)
幾年前,Netflix在日本的認識度還很低,而如今憑藉其作品備受矚目。該廣告將「ROMA」獲獎信息以一種更便於理解的方式傳達,有點報紙廣告的感覺。 --副田高行
14.入選NAIGAI襪子廣告[1]對不起[2]想穿襪子[3]可以嘛[4]真的嗎? !- 三好百花
(圖解)
[1]右邊有強迫症的兩個章魚(都穿著同一款的襪子),其中一個生氣地說:“你遲到了,幹嘛去了?”左邊穿著各種不同樣式襪子的章魚笑瞇瞇地說著:“一直猶豫著不知穿哪隻襪子。”
[2]青蛙說:“成為大人後”。蝌蚪:“我也想穿襪子”。
[3]蛇說:“只穿一隻襪子感覺也不錯呢”。
[4]穿了襪子的喵說:“穿上了襪子,肉球變得軟綿綿的了”。沒有穿襪子的喵說;“真的假的”。
15.小型廣告賞TOMBOW文具「トンボ鉛筆」廣告“也許是:トンボ鉛筆”釣瓶
- 昂右、淺井花憐
這個廣告用了一種網絡搜索關鍵詞的形式,關鍵詞分別有:筆記用具+簡約、按壓穴位+推薦、眉+剃多了、便當+沒有筷子、告白+順利進行、發明王等,而這些關鍵詞都引出了你搜索的也許是:トンボ鉛筆。
不僅寫出了トンボ鉛筆的一些優點,同時導出了它的各種小用途。
16.小型廣告賞日本中央競馬會「告知沒有經驗的人如何享受賽馬」廣告
- 原田一穂
G1競馬從2月開始到12月共24場,比賽的主題各有不同。而廣告用了回形針的感覺,用線描繪了各種比賽賽道的形態。
17.評委賞/插圖賞NAIGAI襪子廣告“我的毛其實真的不想供給襪子” - 光島瑠菜
彷彿在說,羊毛的襪子我要留著自己用。
18. 評委賞/創意賞丸美屋食品工業「3色パック」廣告“早餐:米飯、魚、雞蛋燒” - 和田彩花
「3色パック」三合一佐飯調味料包括:雞蛋,鱈魚子,芝麻這三個系列。廣告的創意在於,在米飯上分別撒上這些後就組成了豐盛的早餐套餐,有雞蛋,也有魚。
19.評委賞/照片賞髙島屋廣告“表現在高島屋購物的雀躍感”
- 中嶋達也、中村力也、広瀬大
圖解:
[1]這裡有用錢能買的和不能買的東西;[2]最後我還是決定送不同的東西了;[3]購買者和被贈送者都開心,這才是真正的購物;[4]珍惜在店裡購買的東西。
20.學生獎勵賞1富士急行「富士急遊樂園」廣告“尖叫系”- 塚原菜緒
青椒的切口斷面像在尖叫,作者由此獲得靈感,用了紅黃綠的辣椒構成「尖叫系」的畫面。非常地有趣生動,戳的兩個洞是鼻孔,辣椒籽是牙齒,不同的顏色形態是不同的人。這個創意充滿了日本人的感性色彩。
21.學生獎勵賞2光文社新書廣告“下一代的” - 水上雄太
有個說法認為,年號從大正到昭和改變的時候,由於內定的「光文」被報導曝光了,所以後來換成了「昭和」。而「昭和」的下一個年號,「光文」很可能是其中的候補名稱。這個廣告就是玩了這個梗,在「令和」還未公佈之前,大膽地預測了新的年號。 --川口清勝
22.學生獎勵賞3牛乳石鹸紅箱香皂廣告“[1]戀と牛乳石鹸[2]朋友と牛乳石鹸[3]工作と牛乳石鹸”- 小蘆茉帆
圖解:
[1]如果變得更加干淨漂亮的話,這段戀情也。 [2]你用什麼洗臉的呢(兩個臉上有紅點的望著一個臉上沒有紅點的)。 [3]洗去今日所有的辛勞。
*Article from Ruogu Design
1 note
·
View note
【小説】龍とトラガス (2013)
「俺さ、卯年の大晦日から、辰年の元旦にかけて生まれたらしいんだよね。だから、龍と兎で、龍兎(りゅうと)って名前にしたんだって」
大きな透明のケースの中に積み上げられた、ウサギのぬいぐるみの山。アタシはそれを崩すべく、アームの操作に集中していた。横に立ってひとりで話していた男は、そう言いながら嵌めていた革の手袋を外し始める。
UFOキャッチャーのアームは、機械が古いのか調子が悪いのか、今にも止まりそうなほど、キリキリと音を立てて動く。ボタンから手を離すと、ガクガクと震えながらアームが開いた。その先端がぶつかった拍子に、山の中腹あたりにあった、ピンク色したウサギのぬいぐるみが、ぼとりと落ちる。その一瞬の落下を見て、飛び降り自殺をしたら、こういう風に落ちるのかなと連想した。
アタシはそこで、男の両手に目を移す。男は手袋を外し終えた両手を、揃えて突き出していた。
パッと目を引く、黒い影が二つ。
男の右手の甲にはウサギの、左手の甲には龍の、黒一色のタトゥーが施してあった。影絵のようなデザインのウサギと龍はそれぞれ向き合っていて、右と左で一対なのだという印象を与える。
タトゥーを見つめたまま、何も言わないでいると、男は笑いながら口を開く。まるで鼻で笑ったような笑い方だったのが、やけに耳に残った。
「自分の名前にちなんで、スミ入れたんだ。兎と、龍」
視界の隅で、開いたアームが再び音を立てて閉じ始めていた。アームが当たった先にいたぬいぐるみたちが、取り出し口へ向かってぼとぼとと落下していく。
アタシは黙ったまま、男の左手に手を伸ばした。
龍のタトゥーの上には、縦横無尽に切り傷が走っていた。ついさっき負ったばかりなのか、まだ血が滲んでいるような赤々とした傷もあれば、古い傷なのか、痕となって残っている傷まで、数えきれないほどの赤い線。
アタシの手が触れるよりも早く、男はすぐに左手を引っ込める。分厚い革の手袋をさっさと嵌め、留め具をぱちんと鳴らすと、何食わぬ顔でアタシを見下ろした。
「で?」
男は小さなピアスが三つ連なっている左眉だけを器用に上げて、表情を歪ませてアタシを見ていた。
唇の両端から牙のように覗く、尖ったキャッチの口ピアスが二つ、きらりと光る。その口の奥、舌の上にももうひとつ、ピアスがあいているのが前歯の隙間から見えた。右の小鼻にも、ピアスがひとつあいている。被っている帽子は耳まで覆うようなヒダがついているから、確認はできないけれど、この男、きっと両耳にもたくさんのピアスをぶら下げているんだろうと思った。
男は手袋を嵌めた左手を、UFOキャッチャーの台の上に置き、その長身をかがめるようにしてアタシと目線を合わせ、顔を近付けてきた。体重をかけているのか、ぎしり、と台が軋んだ音を立てる。まだ手袋を嵌めないでいた右手で、アタシの顎を持ち上げる。アタシの全身を舐め回すように見た後、男は言う。
「それで、あんた、いくら?」
UFOキャッチャーの景品受け取り口には、四匹のウサギが死んだように動かないで転がっていた。アタシの視界の隅には、男の手の甲で黒いウサギが歪んだ姿でいるのが見える。
アタシ、行くとこ無いんだよね。
そこで初めて口を開くと、男は蔑むような目でアタシを見つめたまま、小さく何度も頷いた。
上等だ、うちに来いよ。
男が低い声で、唸るようにそう言う。
――雪も降らなかったクリスマスの深夜。ピアスだらけの顔面と、ウサギと龍のタトゥーを持つ男、龍兎にアタシは出会った。
風俗店がずらりと並ぶネオン街の片隅。
安アパートの一室が、龍兎とアタシの住み家。
目の前に建つ廃ビルに日射しを遮られ、昼間でも薄暗いこの部屋は、アタシたちにお似合いに思えた。
アタシは分厚いカーテンの隙間から、外の様子を窺う。朝六時のネオン街は、白けていく空に反比例するように夜の華やかさを失い、ここから見下ろせる路地には、疲れた顔のホストや酒で顔がむくんだキャバ嬢が気怠そうに行き交っていた。
ベッドを振り返ると、龍兎は肩まですっぽり毛布にくるまって、静かに寝息を立てている。
そっとその毛布をまくって龍兎の左手を確認した。黒い龍の上には、真新しい赤い線が三本増えている。龍兎は毎日、新しい傷を左手の甲、龍のタトゥーの上に作る。テーブルの上にはカッターが置いてあった。そっと毛布を戻す。
床に落ちていた服を拾いながら、龍兎がゴミ箱めがけて投げたくせに入らず落下したままだった、使用済みの避妊具を捨てる。その時、真新しい薬のゴミが捨ててあるのを見つけた。
毎晩自傷行為して、毎晩薬を飲んで、毎晩アタシを抱く。龍兎はそういう奴だった。そういうアタシは、別段龍兎の自傷を止めるでもなく、なんの薬なのか尋ねることもなく、抵抗ひとつせず大人しく従う。
いつまでも裸でいるのはさすがに寒くて、パンツを履いてブラのホックを留めていると、首についている南京錠が小さな音を立てた。
アタシの首にはスタッズがいくつもついた首輪が嵌まっていて、自分では外せないように小さな南京錠が掛かっている。南京錠の鍵は龍兎が持っていると思うけれど、もしかしたらとっくに捨てたかもしれない。
アタシは龍兎に飼われている。
そして龍兎は、アタシを自分の好みの女にしていく。
出会ったその日にこの部屋に連れて来られ、最初に着ていたワンピースとコートを捨てられた。代わりに龍兎は自分のクローゼットの中から、アタシが着られそうな服をいくつか引っ張り出して、首輪と南京錠を嵌めさせた。
龍兎はアタシにピアスもあけさせた。今日もバイトが終わったら、ピアス屋へ行くと言っていたから、きっとまたアタシの身体には穴が増えるんだろう。
彼の服を着て、彼と同じ場所にピアスをあけて、アタシと龍兎はまるで仲の良い恋人同士みたい。アタシをそんな風にして、どうするつもりなのだろう。
でも、そんなの全部、どうでもいい。
アタシは服を着て、テーブルの上に出しっ放しだったピルケースを手に取る。今日の分のピルを一粒取り出すと、コップに半分ほど残っていたぬるい水と一緒に飲み込んだ。ごくり、とわざと音を立てて飲み込むと、アタシの喉は首輪が邪魔だと言わんばかりに、小さく震えた。
龍兎は朝の九時から夕方まで、ほぼ毎日、パンク系のヴィンテージものばかりを扱う服屋でバイトしている。バイト帰りにアタシをピアス屋に連れて行きたい時は、バイト先まで迎えに来るよう言ってから出掛けていく。
服屋は裏道に一本入ったところにあって、客はコアな常連客ばかり、店が混むといったことは滅多に無い。店員は龍兎だけで、店長はゴツいシルバーアクセばかりを身に着けた、ホスト風の若い男。
アタシが言われた時間の五分前に行くと、店内には店長の姿しかなかった。店の中はいつも潮風を連想させる香水の匂いがして、この店で買った服にも、この店で働く龍兎の身体にも、その匂いがこびりついていた。
「ああ、いらっしゃい」
店長がアタシに気付いてそう声をかける。もう何度もこの店を訪れているので、店長とも顔見知りだ。
「龍兎なら裏で今ちょっと仕事してるから、もう少し待っててくれる?」
アタシが黙って頷くと、悪いね、と店長は言う。
店長はいつも、いやらしい目でアタシを見る。アタシが以前売春していたことを龍兎が話したのだろう。龍兎がいない時、いくらだったらヤらせてくれんの? と訊かれたことだってある。以前ならば、なんのためらいも無く関係を持っただろう、それがお金になるのであれば。でも今のアタシには、そんな気力も活力も無い。
どうでもいい、と思ってしまう。自分の身体も、自分の未来も、自分の生死さえも、まるでどうでもいい。なんとも思わない、なんとも感じない。
最近のアタシの生きる世界は色彩を失い、まるで現実味が無い。長い夢を見ているような、そんな気分の毎日だ。龍兎に出会う前のアタシは、一体どうやって生きていたんだろう。何に希望を見出し、何を求めて生きていたんだろう。今では昨日のことまでもぼんやりとしか思い出せない。いつからこうなったのかもよくわからない。
ただひとつ確かなことは、アタシはもう疲れてしまったということだけ。生きることに疲れ切ってしまった、そんな感じがする。
龍兎はまだ出て来ない。いつの間にか店長はすぐ側にまで来ていて、アタシの胸を触ろうとしていた。
今日はTシャツの上から、ライダースジャケットを着ている。このライダースだけは、龍兎のサイズではどれも大きすぎて、この店で新しく買ったものだ。店長はそのライダースのジッパーを慎重に下げる。それから左手をアタシの腰に回して動けないようにし、右手で左胸を服の上から撫で回し始めた。
腰細い割に、胸デカいんだな。アタシの耳元で低く囁くように店長が言う。その吐息は思っていた以上に熱く、息遣いは興奮しているようだった。店長から、この店に漂う潮風の匂いがする。
アタシはぴくりとも動かず、店長のされるがままになっていた。今の自分の状況を冷静に見つめている一方で、なんの感情も湧いてこなかった。もっと触って欲しいという欲情も、やめてくれという拒絶も、今のアタシには抱けない。アタシには何も無い。生きているのに死んでいるような、きっとそんな虚ろな顔を、しているんじゃないだろうか。
店長の右手がTシャツの胸元から侵入してこようというところで、龍兎が店の奥に通じるドアから出て来た。咄嗟に店長はアタシから手を引く。お疲れ様でしたと言う何も知らない龍兎に、何事も無かったかのような平気な顔で、お疲れ様、と店長は言った。緊張も焦りもその表情には欠片も無い。余裕すら感じられる口元だった。たいしたものだと内心思いながら、龍兎に連れられて店を後にした。
龍兎は長身で細身、身体はさほど筋肉質でなく、どこか中性的な印象を与える外見。
黒髪は少し伸びていて、その襟足だけが脱色して白い。鼻筋はあまり通ってはいないけれど、目は切れ長の一重で、いつも冷めたような顔をしている。両耳と顔はピアスだらけで、すれ違う通行人たちは、思わず凝視するか、一瞬で目を逸らすかのどちらか。でもピアスとは違って、両手のタトゥーだけは、外出時には手袋を着用して、ひたすら隠していた。
店の外に出ると外気は驚くほど冷えていて、アタシはライダースのジッパーを上げた。両手をポケットに入れ、首をすくめるようにして少し後ろを歩いていると、ふとこちらを振り返った龍兎が、さみぃな、と言った。
アタシがそれに小さく頷くと、龍兎はウサギがいる方の手の手袋を外し、アタシの左ポケットに突っ込んできて、そのままアタシの手を握り締めた。龍兎の手は特別温かいという訳ではなかったけれど、黙ってそのままでいた。
あのクリスマスの晩、龍兎が声をかけてきた時、アタシはすぐにナンパだとわかった。一夜の宿のつもりで誘いに乗った。それからもう一ヶ月が経とうとしている。寝て金を貰ったのは最初の晩だけ。それでも龍兎は毎晩アタシを抱くし、アタシも未だに龍兎の部屋で暮らしている。
アタシたちは一体、なんなのだろう。龍兎は店長に、アタシのことを「俺の女」と紹介していた。アタシは、龍兎の恋人なのだろうか。龍兎はどういうつもりで、アタシを側に置いているんだろう。
訊こうと思えばいつでも訊けるけれど、尋ねる気にはならなかった。今の生活にこれといって不満も無いし、訊いたところで何かが変わる訳でもない。
アタシと龍兎はお互いの話をほとんどしない。龍兎の名字も年齢も知らないし、龍兎もアタシが亜野(あや)という名前なのは知っているけれど、小嶋という名字なのは知らないはずだ。
アタシが龍兎の側にいることに、大きな理由は無い。龍兎がそうさせているから。ただそれだけ。
ピアス屋は、龍兎のバイト先よりもさらに裏通りにある。ゆるやかな下り坂の途中にあるテナントビルの五階、それがピアス屋「蛇腹」の在り処だ。
薄暗い店内。壁には「なんでそんなことしたの」と訊きたくなるようなピアスをした人々の写真が飾られている。入ってすぐのところに小さなカウンターがぽつんと置かれていて、その奥に施術室があるのだけど、今は薄汚れたカーテンでその入り口は塞がれている。カーテンには「空室」と書かれたプレートが引っ掛かっていた。
「いらっしゃい」
カウンターの下の方で何やら作業していた男が、龍兎とアタシが店に入って来た物音を聞きつけて、カウンターの向こうに頭を覗かせた。
頭はつるつるのスキンヘッド、その頭頂部から額、鼻筋にかけて大蛇が渦巻いているデザインのタトゥー。龍兎みたいに耳も顔もピアスだらけ。この男は、この店の店主だ。
龍兎は彼のことを「蛇腹さん」と呼んで慕っている。古くからの知り合いらしく、龍兎のピアスをあけたのも、彼なのだと聞いた。詳しい年齢は知らないが、彼はその大蛇のタトゥーと大量のピアスという外見のせいでほとんど外出はせず、男のくせに透き通るような白い肌をしている。
蛇腹さんはこの日の空模様と同じ、灰色のパーカーを着ていて、フードを深く被っていた。彼の派手なタトゥーは、鼻筋よりやや左側に描かれた、蛇の尾の部分しか露出していない。
「待ってたよ。アヤちゃんに新しいピアスあけるんだろ?」
ハードな見た目に似つかわしくなく、ほんの僅かな空気の振動にすらかき消されそうなほど、淡々とした静かな声。
「今日はどこにあけようか?」
蛇腹さんがそう言いながらアタシを見た。その目線が髪に隠れている両耳を見ているのだと気付いて、アタシは耳が見えるようにサイドの髪を両耳にかけた。
アタシは右耳に三つ、左耳に二つピアスをあけていて、右はヘリックス二つにイヤーロブひとつ、左はイヤーロブ二つだ。ヘリックスは耳輪の上部のことで、イヤーロブっていうのは耳たぶのこと。ピアスをあけている人を見たことはあるけれど、自分の身体にそんな名前がついているなんて、ピアスをあけるまで知らなかった。
アタシの身体はアタシのものなのに、アタシはそこに名付けられている名称を知らない。アタシの身体にはあといくつ、知らない名前がついているんだろう。
アタシのピアスたちはどれも、龍兎が自分のピアスと同じ場所にあけるように蛇腹さんに頼んだものであり、どうやら龍兎は、自分とアタシの耳のピアスの位置と数がそっくりお揃いになるようにしたいらしい。お揃いになるためにはあと、右のイヤーロブに二つ、左はインダストリアルとコンクを、それぞれひとつずつあけなくてはいけない。
耳のピアスが完成したら、龍兎は顔のピアスまで真似させるだろうか。眉ピが左に三つ、鼻ピが右にひとつ、口ピは口の左右にひとつずつ、舌ピがひとつ……。それが終わったら、どうするだろうか。アタシの金髪は龍兎と同じ黒髪にされるかもしれないなと思った。
そして龍兎は、きっとアタシの身体にタトゥーを入れることを要求するだろう。ウサギと龍。その二つのタトゥーを。そしてアタシはきっと、何一つ抵抗せず、大人しく従うのだろう。そんな気がした。
「こないだは左のロブにあけたんだっけ。じゃあ今日は右にしようか。リュウと同じように、ロブでいいの?」
蛇腹さんは龍兎に向かってそう言った。蛇腹さんはピアスについて、アタシには一切意見を求めない。龍兎も同意を求めない。アタシも何も言わない。
右の耳にあけるとしたら、イヤーロブの残り二つのどちらかだ。左耳じゃなくて良かった、と思う自分がいることに気がついた。インダストリアルもコンクも、なんだか面倒くさそうなピアスだから。
「……いや、ロブは後でいいや。今日はこいつに、トラガスあけてやって」
��ラガス、という単語に一瞬アタシは戸惑った。咄嗟に振り返り、カウンターの上に常備してある耳ピアスの部位とその名称一覧表に目をやった。案の定、トラガスは龍兎の耳にはあいていない部位だった。「耳の穴の、顔寄りの方」、としかアタシには表現できない、ちょっとだけ指でつまめる軟骨部分が、トラガスだ。
「トラガス?」
蛇腹さんも怪訝そうな表情をしていた。
「トラガス、お前あいてないだろ」
俺もそのうちあけるんだよ、と龍兎が言った。
「俺の真似ばっかじゃつまんねぇじゃん。たまには俺がこいつの真似するわ」
「真似するためにやらせるんじゃ、意味無いだろ」
龍兎の言葉に蛇腹さんはうっすら笑いながらそう言って、じゃあトラガスね、とやっとアタシの方を見た。アタシは頷きもせず拒否もせず、ただ黙って立っていた。
蛇腹さんはカウンターの中から手招きして、施術室に通じるカーテンを開けた。アタシがいつも通りカーテンの向こう、施術室へ足を踏み入れようとしたところで、あれ、と蛇腹さんが声を上げる。
「リュウ、お前見に来ないの?」
アタシがピアスをあけてもらう時、いつも後ろに龍兎がいて、施術の様子を見ている。位置はどうしろだとか、穴の大きさはいくつにしろだとか、さんざん口うるさく指示して、蛇腹さんはいつもそれを適当にあしらって苦笑していた。てっきり今日もいつものようについて来るだろうと思っていたけれど、龍兎はカウンターのところでガラスケースに並んでいるピアスの数々を眺めていた。
「あー、うん。俺とおんなじとこにあける訳でもないし。よろしく頼むよ、蛇腹さん」
龍兎はふと顔を上げるとアタシの顔を見て、気の緩んだ表情をした。いつもぶっきらぼうで無愛想な龍兎のそんな顔を見て、ああこれがこの人の笑顔なんだと、アタシは少し遅れて気がついた。微笑んだのだ。龍兎が笑ったところなんて、今まで見たことがあっただろうか。でもそういえば、アタシが新しいピアスをあける時、いつも嬉しそうな顔をしていたような気がする。あれは、笑っていたのだろうか。
「あっそ。じゃあアヤちゃん、こっちおいで」
アタシが施術室の中に入ると、蛇腹さんはプレートをひっくり返して「施術中」にするとカーテンを閉めた。蛇腹さんが、そこ座って、と台の側にある椅子を目で示したので、アタシは黙ってその椅子に座る。すると、蛇腹さんは作業の手を止めて、隣までやって来ると、アタシを上から下までじろりと見た。
龍兎のバイト先の店長がするような、いやらしい目つきではない。無機質な、感情を感じさせない目だった。何故かアタシは、以前偶然立ち寄ったペットショップで見た、赤い目を持つ白い蛇のことを思い出した。
蛇腹さんはアタシの耳元で囁くように言う。
「ずっと気になってたんだけど、アヤちゃんってリュウとどういう関係? カノジョ?」
アタシを見つめる蛇腹さんの目は、飲み込まれそうなほど真っ黒だった。カラコンだ。すぐにそう気がついた。蛇腹さんは、黒目の大きなカラーコンタクトを両目に入れている。だから、爬虫類みたいな印象を与えるんだ。
「あいつとヤッてんの?」
瞳に圧倒されて、答えるのを忘れて黙っていると、さらに声を潜めてそう��ってきた。アタシは黙っていた。否定も肯定もいらないだろうと思った。
蛇腹さんは手を伸ばす。アタシの髪を耳にかけ、右耳に触れる。トラガスという、そういう名前がついていることを初めて知った、アタシの一部。蛇腹さんは「ここにあけるから」と言って、強くつねった。その痛みにアタシは僅かに顔をしかめる。
蛇腹さんは一度アタシに背を向け、台の上に置かれたピアスをあけるための道具をいじり始めた。
「人によってはイヤホンが耳に入りづらいとか、耳掃除が面倒になったりするけど、大丈夫? あと最初のうちは膿が出たり腫れたりするから、何かあったらすぐ連絡して。俺の番号は、前に教えたよね」
16Gと14Gならどっちがいい? と付け加えるように訊いてきたので、アタシは「16」とだけ答えた。わかった、と低く蛇腹さんは返事をして、棚の引き出しを開ける。ピアスはサイズの書かれたビニール袋に個別に入れて保管してあって、蛇腹さんはたくさんのピアスの中から16Gのものを探していた。
「あいつ、HⅠⅤだよ」
唐突に、蛇腹さんが言った。一瞬、何を言われたのかわからなくて、蛇腹さんを黙って見つめた。蛇腹さんはそんなアタシの視線に気付いたのか、ピアスを探す手を止めてこちらを見た。頭に描かれたタトゥーの蛇の目と、アタシの目が合う。
蛇腹さんの口元は微かに笑っていた。まるで卑しいものでも見るかのように、アタシのことを笑っていた。
「知らなかった? リュウは、HⅠⅤだよ。HⅠⅤに、感染してる」
蛇腹さんはそう言うとピアスを探す作業に戻る。あった、と小さくつぶやくように言って袋をひとつ手に取り、これからアタシの身体に食い込んでいくであろう、小さなピアスを取り出した。
あのピアスは、きっとアタシに痛みを与える。
そっと自身のトラガスに触れてみた。ここに穴があく。龍兎には無い、穴があく。アタシは一体、どこに向かおうとしているのだろう。アタシにはわからない。きっと龍兎にも、蛇腹さんにもわからないだろう。
じゃあ始めるよ、と準備ができたのか、蛇腹さんはそう言った。アタシは目を閉じた。ピアスをあけられている間は、目を閉じる。いつの間にかそういう習慣になった。
蛇腹さんの手が耳に触れる。突き刺さる痛みと同時に、ごりごりという音が、頭の中に響いた。
アタシがどこへ向かっているのか、誰にもそんなことはわからないし、そんなことがわかったところで、何の意味も無い。
その夜、龍兎はいつになく上機嫌で、スーパーで買ってきた、割引シールが何枚も貼られた売れ残りの惣菜を頬張りながら、アタシのトラガスに触れ、「どう?」と何度も訊いてきた。「痛かった」ぐらいしか感想が持てないアタシは、そう訊かれる度にその通り答えた。あんまりにもしつこく訊いてきて正直うざったかったけれど、日頃無表情で無愛想な龍兎が穏やかそうな顔をしているので、そこまで悪い気はしなかった。
シャワーを浴びて、いつも通り龍兎は薬を何錠か飲んでからアタシを抱いた。いつも通りの、前戯はほとんど無い、性欲をただ処理するかのような性交。言葉は何も発さず、短い吐息を鋭く吐き出して龍兎は果てた。もう事が済めばアタシなんか必要無いんだとでも言うように、すぐさま男性器を抜き、精液の溜まった避妊具を外してその口を結ぶとゴミ箱へ放り投げる。ティッシュ数枚で性器を拭うとそれも丸めてゴミ箱へ投げた。
龍兎はいつも通り枕元のカッターを引き寄せて、左手の甲、その龍のタトゥーの上に切り傷をひとつ新しく作ると、そのままカッターを投げ出し、アタシに背を向けた。ずっと無言のまま、毛布にすっぽりとくるまって、おやすみも言わずに眠ってしまう。いつもと同じだ。
龍兎が始めて龍兎が終わらせた一方的な行為に、アタシはまだ呼吸を上手く落ち着けることもできずに、同じベッドの上、しばらく天井を仰いでいた。
龍兎の寝息が聞こえ始めるのを待ってから、アタシはそっと起き上がって、枕元にあるティッシュの箱へ手を伸ばした。股間を拭い、ゴミ箱へ捨てる。
自分の鞄から、財布を取り出す。レシートが何枚も入っているその中から、見たことのある大蛇がデザインされた名刺を見つけるのに、たいして時間はかからなかった。
「これはお得意様にだけ渡してる、特別な名刺だから」
出会ったその日、この名刺を渡してきた時に言った、あの男の口元を歪めただけの笑みを思い出す。文字が何も印刷されていないその名刺には、携帯電話の番号がペンで走り書きしてあった。
アタシは龍兎が脱がせた服を、順に拾い上げて身に着ける。眠りに就いたばかりの龍兎を起こさないように気をつけた。物音をできる限り殺してブーツを履いて、ライダースを羽織る。スキニーパンツには携帯と名刺だけを入れた。行かなくちゃいけない。何かがアタシにそう急かす。
化粧もせず、髪もとかさずに、手ぶらのまま龍兎の部屋を出た。外の空気は冷え切っていて、その寒さに首をすくめた時、あけたばかりのトラガスが、ずきん、と痛んだ。アタシはまるで逃げ出すかのように早足で歩き出しながら、名刺に書かれた数字を携帯に打ち込み、迷わず「通話」ボタンを押した。
ピアス屋「蛇腹」まで駆けて行くと、もうとっくに閉店時間は過ぎているはずなのに、店の扉の鍵は掛かっておらず、カウンターの一番奥の照明だけが点いていた。
「待ってた」
掠れた声でそう言う蛇腹さんは、薄暗い店内でアタシを見て笑った。カウンターの中から出て、アタシの横をすり抜けると、店の表のドアを施錠する。
「施術室、入って」
振り返りもせずにそう言うので、アタシは黙って従った。「空室」のプレートの下がっているカーテンを開けると、施術室の中はカウンター同様に薄暗かった。部屋の隅に小さなストーブが置いてあって、オレンジ色の炎が闇の中で揺れていた。
アタシはトラガスをあけた時と同じ椅子に腰を降ろした。カウンターの灯かりを消した蛇腹さんが、施術室へ入って来る。蛇腹さんはカーテンを閉め、アタシからは一番離れた位置にある長椅子に腰掛けた。
「で、なんで電話してきたの」
蛇腹さんの声が、微かに部屋の空気を震わせる。その爬虫類みたいな目で、アタシを見ていた。
「リュウと別れたくなった?」
答えないアタシに、蛇腹さんはそう訊いてくる。
――アタシは龍兎に飼われている。あの部屋で抱かれることだけが、アタシの存在理由。
「……教えて、龍兎のこと」
それだけ言うと、蛇腹さんは素っ気無く答えた。
「言ったろ、あいつはHⅠⅤだって」
「……なんで、HⅠⅤに感染したの」
「あいつ、左手に刺青があるだろ」
アタシの脳裏に、龍兎の左手がよぎる。影絵のような、黒一色の龍のタトゥー。その上に刻まれ続ける、自傷の痕。
「あの龍の刺青入れた時、HⅠⅤに感染したんだよ。針の使い回しだったそうだ」
アタシは黙ったまま蛇腹さんを見た。蛇腹さんもアタシを見ていた。
「二年ぐらい前だったかな。あいつ、スミ入れたいって言い出してさ。それで、俺に蛇の刺青入れた、彫師を紹介したんだよ。先に彫ったのは右手の、ウサギの絵の方だった。左手の龍の絵を彫るってなった時、彫師がいろんなデザインを描いたんだが、リュウは全部却下した。刺青って一生モンだろ? リュウもこだわりたいし、彫師だって自分の作品にはこだわりたい。そんな時、あいつ、刺青のイベントに行ったんだとさ」
――タトゥーイベントで龍兎はひとりの彫師と意気投合した。その彫師が即興で描いてくれた龍のデザインに心惹かれ、その日のうちに下絵を彫った。後日続きを彫ってもらい、完成させるはずだったが、突然、その彫師と連絡がつかなくなった。それで中途半端なタトゥーはカッコ悪いと、最初の彫師に頭を下げて頼み、続きを完成させてもらったのだが、その数ヶ月後になって、HⅠⅤに感染していることが発覚した――。
「どうして発覚したと思う?」
蛇腹さんはそう訊いてきた時、嘲笑うかのような表情をしていた。蛇腹さんが決して、龍兎の前ではしない顔だった。
「あいつ、当時付き合ってた女にガキができたってんで、病院に行ったらわかったんだとさ。女の方が感染してるのがわかって、リュウも検査を受けたら感染してた。その頃になって、イベントの参加者に、HⅠⅤに感染した人がちらほらいるって噂になってきてな。リュウはその女と結婚するつもりでいたんだが、破局。子供は中絶。女は今もリュウから金もらって、リュウと同じ、エイズの発症を抑える薬を飲んでどっかで生活してる」
喉の奥を震わせるようにして、蛇腹さんは笑っていた。
「それからだ。それからリュウは、女をとっかえひっかえしてる。適当にその辺をぶらついては女をひっかけてきて、半ば無理矢理、自宅に軟禁して。新しい女ができる度にここに二人でやって来て、自分と同じ場所にピアスをあけさせる。あんたとおんなじだ。大抵、女たちは途中でリュウがどっかおかしいことに気付く。リュウが見ていない隙に、『あの人ちょっとおかしい』と俺に訴えてくるようになって、俺があいつの過去を話すと、皆、気味悪がって逃げ出す」
蛇腹さんはそう言いながら立ち上がり、アタシのところまでやって来た。椅子に腰掛けたままのアタシを見下ろし、首輪に手を伸ばす。蛇腹さんの指が、アタシの首に嵌められた首輪を少しだけ乱暴に引っ張った。その指が闇の中、ぼんやりと輪郭を失って、白く光っているのを黙って見つめた。
「だが、こんなの首に嵌めた女は、あんたが初めてだな」
蛇腹さんは首輪に掛けられた南京錠を手に取りながら、それに顔を近付けていた。
「ただの市販の南京錠か。近所に腕の良い鍵屋がいる。紹介してやってもいい。すぐに合鍵くらいできるだろ」
蛇腹さんは南京錠からも首輪からも手を放し、言った。
「リュウから逃げたいなら、こんな首輪さっさと外して、あの部屋を出て行けよ。あいつは女に捨てられるっていうのが一種のトラウマなんだ。女に捨てられた後は、まるで鬱病みたいになっちまって、逃げた女を探し回る気力も無い」
「……ほんとなの?」
蛇腹さんは怪訝そうな顔をした。
「俺の話を疑ってるのか?」
蛇腹さんの声は話している間、一貫して淡々としていた。それは不気味なほど、平坦な声音だった。まるで催眠術にでもかけられているみたいだ。
「疑ってるなら、部屋に戻って本人に訊いてみろよ」
アタシは何も答えなかった。返す言葉がアタシの中にはどこにも見つからなかった。
何も想像できなかった。この話を切り出した時、龍兎はどんな表情をするのだろう。アタシは龍兎のことを何も知らない。彼がどうすれば喜ぶのか、どうしたら傷つくのか、まるでわからない。
そうだ。一緒に暮らすようになって一ヶ月。アタシは今まで一度も、龍兎を喜ばせようと思って、何かをしたことなんて無かった。
帰る、と言ってアタシは立ち上がる。
「あの部屋に帰るのか」
蛇腹さんはどこか呆れたような声でそう言うと、眠たそうに欠伸をした。
「わかっただろ。リュウはそういう駄目な奴で、誰かをがんじがらめに束縛したいんだ。お前を必要としている訳じゃない。お前じゃなくたって別にもいい、側にいてくれる女なら誰でもいいんだよ」
蛇腹さんは台の上に無造作に置かれた煙草と、コンビニでもらえるような安っぽいライターを引き寄せながら、そのおまけだとでも言うような投げやりな口調で言った。その言葉に、ずきん、とアタシのトラガスが痛んだ。
「ああ、でもそれはお前も同じか」
蛇腹さんは煙草を咥え、火を点けながら言う。
「お前だって、泊めてくれる男だったら、誰でもいいんだもんな」
まるで全てを見透かしているかのような冷たい目で、アタシを見つめていた。アタシはありがとう、と礼だけ伝えて蛇腹さんに背を向ける。店を出る時、まだ施術室で煙草をふかしている蛇腹さんが何か言ったのが聞こえた��れど、アタシはそれに耳を貸さなかった。
右耳のトラガスに触れる。そこにあるピアスの感触を、何度も何度も冷え切った指先で確認しながら、この虚ろな世界のことをぼんやり思った。
初めての性交の相手は、義父だった。
アタシが小学四年生の時にママが再婚して新しくやってきた父親は、ママのいない時にアタシを素っ裸にしては欲情していた。
アタシはまだ初経も迎えていない子供だったはずだけど、当時の記憶はぼんやりとしていて、あまりはっきりとは思い出せない。思えば、あの頃からアタシの心は空っぽだった。
義父の次におかしかったのは、六年生の時、クラス担任だった若い男の教師で、アタシの成績が悪く、こんなんじゃ中学校に進んだらたちまちやっていけなくなる、補講授業を夏休みに行う、と言ってきたのが始まりだった。成績が悪かったのは本当のことで、アタシは元々勉強が苦手だった。担任の教師は、アタシを人気の無い教室に呼び出して、やってこさせたプリントを見ることもなく、持ってこさせた教科書を開かせることもなく、ひたすら卑猥な言葉を言わせるだけ言わせて、無理矢理にアタシを犯した。それは夏休みの間、ほぼ毎日続いた。
中学に上がってからは、男の先輩たちが近寄って来た。いかにも頭の悪そうな、不良の先輩たちは、遊びに行こうと誘い出しては、大勢で順番にアタシを抱いて楽しんでいた。先輩の家で、カラオケで、学校で。どこででもヤッた。
アタシはその頃も、家にママがいない日は義父に抱かれる生活をしていて、義父に連れられ産婦人科を受診し、生理不順だからという理由でピルを処方してもらっていた。定期的に性病の検査も受けた。
まだ義務教育も終えていない義理の娘と性交するような男を、尊敬の目で見たことなんて当然無かったけれど、義父の存在に感謝した。義父が変態じゃなかったら、アタシは何回堕胎手術を受ける羽目になっていたのかわからない。
高校に上がったばかりの頃、義父に犯されている場面をついにママに見られて、アタシの家庭は終わった。義父が家に来てから、毎日のように犯されて、五年が経っていた。
今までずっと黙っていたせいで、ママは何も知らなかった。ママの受けたショックは計り知れない。ママは頭がおかしくなって、アタシの顔を見て話すことすらできないまま、精神科に入院した。
親戚たちの手によって、ママと義父は離婚、義父は警察に突き出された。以来、ママも義父も、どうなったのか知らない。
その頃ちょうど、高校ではアタシが援助交際をしているという噂が立ち、アタシを停学にしようという話が職員室で持ち上がっていた。高校を辞め、「ひとりで自立した生活を送る」と、親戚たちにはそんな嘘をつき、短期のバイトと援助交際でお金を稼いで、その日暮らしを始めた。
最初は親戚たちを欺くために、小さな安いアパートを借りたけれど、契約が切れるのを機に、そこを出た。頭も愛想も悪かったアタシは、親戚たちにはこぞって嫌われていて、アタシの行方や生活の様子を心配する人はいなかった。
カプセルホテル、ネットカフェ、街角で出会った知らない男の家。そこを転々としながら生活した。
アタシの家族が崩壊して、三年。
身体を売って、金を得て、眠る日々だった。
この淀んだ、薄汚い、虚ろな世界。
アタシの身体も、心も、中はすかすかで、そこには何も無い。ただ空っぽだ。生きていても、空しい。死んでいるのと変わらない。
龍兎と出会った日、あの日はクリスマスだった。
街には一夜の相手になりそうな女を狩る男たちがうろついていた。アタシに声をかけてくる男は何人かいたけれど、もう自分の身体を売る気にもなれなくて、乾いた笑顔で見え透いた嘘をついて、男たちを振り切った。
どこにも行く気になれなくて、どこにも行く場所なんか無かった。
生きることにも、死ぬことにも、なんの興味も関心も湧かなかった。過去の出来事も、これから起こる未来のことも、全てなんだってよかった。
なのに、あの時声をかけてきた龍兎に、ついて行ってしまったのは何故だろう。でも、それはたいしたことじゃないのかもしれない。龍兎について行くか、行かないか、なんてことは。だって、興味が無かったんだ。それでこの先がどうなるのかなんて。
もうアタシはどこへも行けない。
だから、どうだってよかった。
そう、どうだっていい、全部。
ぜんぶぜんぶぜんぶぜんぶ、どうだって、いいんだ。
ずきん、
と、
アタシのトラガスが痛んだ。
ぼんやりした頭で目を覚ました。
アタシは知らないホテルの一室で、知らない男と同じベッドで、裸で寝ていた。テーブルの上には、酒の缶の��。どれくらい飲んだのか覚えていないけれど、頭ががんがんと痛む。気持ち悪い。吐き気がした。
今は何時だろう。時計を持たないアタシには知る術が無い。携帯をスキニーパンツのポケットに入れて来たはずだけど、床に落ちていたアタシの衣類を拾い上げて探ってみても、見つからなかった。まぁいいや。どうせ、連絡する相手もいないし、連絡してくる人もいない。寝ている男を起こさないように衣類を身に着けながら、笑った。
アタシには何にも無い。家族も、友達も、恋人もいない。家も、職場も無い、居場所なんて存在しない。大切な人もいないし、誰からも大切と思われてなんかいない。
アタシは何なんだろう。誰が、アタシのことをアタシだと証明してくれるんだろう。ピルをもらう時に必要な保険証だけが、存在を証明してくれるモノだなんて、笑える。
アタシはホテルの部屋を出た。吐きそうだったけれど、トイレで物音を立てたら寝ている男が目を覚ましそうな気がして、こらえた。
昨日の記憶が、だんだん蘇ってくる。
蛇腹さんの店を出て、龍兎の部屋に戻ることをためらってしまったアタシは、知らない男に声をかけられて、コンビニで酒を大量に買い、ホテルに入り、酒を飲んで、性交して、寝た。アタシは昨日、ピルを飲んだかどうかどうしても思い出せなくて、早く部屋に戻って確かめなくちゃ、と思った。そしてすぐに、部屋にいるであろう龍兎のことを思った。龍兎は目が覚めた時、アタシが部屋にいないと気付いたら、どう思うだろう。
怒るだろうか。それとも、最初からアタシなんかいなかったとでも言うように、いつも通りの日々を過ごすのだろうか。
わからない。わからなかった。アタシは、龍兎のことを何も知らないから。
じゃらり、と金属の揺れる音がする。首の南京錠が、いつもより重く感じた。
ホテルを出ると、外は眩しかった。太陽は真上に昇っている。昼だ。
と、ホテルを出てすぐ、数人の女たちがアタシを取り囲んで声をかけてきた。胃の中がひっくり返りそうだったのと、頭が割れそうなほど痛むのとで、女たちが何を言っているのかよく聞こえなかった。断片的に、「私の男」「ホテル」「一緒に」「見た」「許さない」「クソ女」という単語だけが、かろうじて聞き取れたけれど、その意味を頭が理解するよりも早く、女の拳が腹に食い込んで、アタシは滅茶苦茶に吐きながら崩れ落ちた。倒れたアタシの背を、胸を、顔を、尻を、足を、女たちが力いっぱい蹴りつけてくる。その痛みにアタシは呻き、変な動物みたいな声を上げた。
道路のアスファルトに思い切り頬をこすりつけながら、中学生の頃も、よくこんな目に遭ったことを思い出した。下校途中の路地裏で、女子の先輩たちがよく待ち伏せしていた。女子たちは大抵、アタシのことを輪姦した先輩たちの彼女か、その友人たちだった。一対一ならともかく、こうやって複数人に暴力を振るわれたんじゃ、抵抗の仕様が無いし、そもそも抵抗する気力すら湧かない。
思考も神経もおかしくなりそうだった。殴られても蹴られても、途中から痛みを痛みとして感じなくなっていた。身体は重く、意識は黒く染められていく。死ぬのかな、と思った。男と寝て、それを恨まれて女にボコられて死ぬなんて、汚れたアタシにはお似合いな末路だ。
幸せに生きて、愛に包まれて眠るように死ぬなんて、そんな温かい人生、アタシには似合わない。ドブに捨てられて、汚物にまみれて、他人から目を背けられ死ぬような、そんな最期しか、自分の人生の結末を思い描けなかった。
でも充分じゃないか。アタシは充分、今日まで無様に生き延びた。今更しがみついてみじめったらしく守るべき生なんか、アタシにはこれっぽっちも残っていない。
もう意識を手放そうとした、その時。
ずきん、と猛烈な痛みがトラガスに走った。
その痛みではっとした。
アタシの名前を、呼ぶ声がする。
一斉に、アタシの周りにいた女たちの気配が無くなる。走り出していく無数の足音と、こっちへと駆け寄って来るひとつの足音が聞こえた。アタシは重たく動かない身体に精いっぱい力を入れて、微かに瞼を持ち上げた。
男の声がする。アタシの名前を呼んで、ダイジョウブカ、ダイジョウブカと言ってくる。これがダイジョウブに見えるのかよ、と思わず言いたくなるくらいに。でもアタシの喉も、舌も、唇も、もう声を発する機能なんか持っていない。
おまけに、視界は霞んでいて、よく見えない。倒れているアタシには、地面しか見えていないのだけれど、地面の上に、何か白っぽいものが見える。なんなのかよくわからない。何か模様がついている、白っぽいものだ。なんの模様だろう。アタシは懸命にそれを見ようとする。
しばらく奮闘して、やっとそれがなんの模様かわかった。
それは、一匹の黒い龍だった。
身体にいくつもの傷を負い、その痛みに悶え、哭いている龍。
アタシは動かなくなった身体を無理矢理動かす。左腕が肩から外れそうなほど、強烈に痛んだけれど、それでも構わず、龍に向かって手を伸ばした。
その龍の傷に、触れた。
龍が哭いている。
傷が痛むから、哭いているの? 違う、きっとそうじゃない。そうじゃないはずだ。
男の声が、耳元でしているはずなのに、とても遠くから叫んでいるように聞こえた。
アタシの名前を、呼んでいる。
その声が聞こえなくなるまで、アタシは龍の傷を撫で続けた。
アタシの身体が、動かなくなるまで。
アタシの意識が、消えてなくなるまで、ずっと。
気がついた時には、病院にいた。
目を覚ました時、アタシの右手を握ったまま、ベッドに寄り掛かるようにして、ひとりの男が眠っていた。
龍兎だった。
龍兎は目の下にうっすら隈を作っていて、アタシが眠っていた一日半、ほとんど眠らずに側にいてくれたんだと後でわかった。アタシが寝ている間はずっと起きていて、目覚めた時に寝ているなんて、間抜けな男だ、と思った。
龍兎はあの朝目が覚めて、アタシがいないことに気付き、街中を探し回っているうちに、たまたま運良く、ホテルの前を通りかかったらしかった。
アタシは女たちからの暴行で全治一ヶ月の怪我を負った。極めつけは、上の前歯を二本とも折られていたことだった。前歯が無いとアタシの顔はとってもおかしなことになっていて、見舞いに来た蛇腹さんは、アタシの顔を見るなり思い切り噴き出し、病室中に響くほどの大声で笑った。普段は聞き取りにくいほど小さな声で話すのに、大きな笑い声だった。
それから蛇腹さんは、口の中をよく見せてみろ、と言い、折れた前歯をじっくり観察した後、「これなら大丈夫だ、差し歯が作れるだろうよ」と言った。
「いっそのこと、オリジナルの差し歯でも作ったらどうだ。豹柄とかさ。ギャルは好きだろ、豹柄」
そんなことを言ってにやにやと笑う蛇腹さんは、病院に来るために頭のタトゥーをフードで隠し、顔のピアスを全て外して、カラーコンタクトもしていなかった。病人には優しくしないといけないからな、攻撃的なルックスはやめただけだ、と言っていたけれど、ピアスも無い、瞳も小さい蛇腹さんの顔も、見慣れないからか面白くて笑えた。
龍兎は毎日のように見舞いに来てくれて、アタシの身の回りの世話を甲斐甲斐しくこなした。ずっと無愛想な表情で、口数もいつもよりずっと少なく、常に不機嫌そうだった。だからアタシは、いつも以上に龍兎に声をかけなかった。でも元からアタシたちは、会話なんてろくにしたことが無いのだ。
退院の日も、龍兎は来てくれて、まだ松葉杖が無いと上手く歩けないアタシの代わりに、荷物を持ってくれた。二人肩を並べて、そうするのが当たり前のように、龍兎の部屋へ続く道を歩いて行く。雪が降りそうな天気で、寒さのためか、黙って歩いた。
龍兎が口を開いたのは、もうすぐアパートがビルの向こうに見える、という距離に来た時だった。
「……蛇腹さんから、聞いたんだろ、俺のこと」
龍兎の声は、どこか投げやりな声音だった。龍兎は立ち止まって、しばらく黙っていたけれど、やがてポケットから何かを取り出した。
小さな金属片。鍵だ。
龍兎はアタシの首についている首輪の南京錠にその鍵を差し込むと、回した。鍵は呆気無く回る。
がちゃん、と音を立てて、南京錠が地面に落ちた。
この鍵が外れた時、それは龍兎にとってアタシがいらなくなった時だと、ずっと思っていた。
龍兎は首輪も外して、それを南京錠と同じように地面に落とす。龍兎の顔は不機嫌そうで、それは叱られた子供の表情に似ていた。
「嫌なら、出てけよ。もういいよ、お前なんか。いらねぇよ」
龍兎はそう言うと、突然、荷物が入った紙袋をアタシに押し付けて、自分だけさっさと歩き出してしまう。
アタシは松葉杖を両手で突いていて、荷物を持つ余裕が無い。紙袋の中を覗いてみたけれど、着替えが入っていただけで、大切なものは何も無かった。保険証はライダースのポケットに入っているし、携帯はどこに落としたのか、まだ見つかっていない。
大丈夫だ。必要なものなんか無い。アタシはいつも、何も持っていないのだ。
紙袋をそこに置いて、龍兎の後を追いかけた。入院中に松葉杖の使い方に慣れたとは言え、大股で歩く龍兎の足には追いつけない。それでもずっとその背中を追いかけていると、不意に龍兎は立ち止まり、こっちを振り向いた。
「……なんでついて来るんだよ」
その声は明らかに怒っている。
「もう知ってんだろ、俺がHⅠⅤだってことも、別れた女の治療費払ってるってことも、頭のおかしい奴だってことも。そうだよ、俺はそういう奴だよ。好きでもねぇ女に首輪つけておかないと、いてもたってもいられなくなる、精神異常者だよ。俺と同じとこにピアスあけさせて、俺と同じようにしてやらないと、俺のこと理解してもらえないんじゃないかって不安になる、馬鹿みたいな男だよ。ああ、わかってるよ、どうせ、理解なんかされないってことは」
龍兎はそう言った。その声は明らかに怒っているのに、どうしてだろう。
龍兎は、泣いていた。
立ち止まってそう言っている間に、なんとか龍兎に追いついた。両目から、ぼろぼろと涙を零す龍兎の顔を、アタシは黙って見上げた。
アタシは龍兎の左手を取った。手袋を外せば、そこに龍が姿を現す。
傷だらけの、龍。
アタシが入院している間、龍兎は自傷行為をしていなかったようで、新しい傷はひとつも無かった。思えば、初めて出会った時からずっと気になっていた、傷まみれの龍がいる左手。
「龍兎、ピアスあけてよ」
アタシは無意識のうちにそう言っていた。
「右耳のトラガス、あけて。アタシも、この龍のタトゥー、左手に入れるから」
龍兎の目が、驚いたように見開かれる。
右耳のトラガスは、龍兎には無いアタシだけのピアス。
まるで心臓のように、ずきんずきんと、何度も痛む。
――アタシは、ここにいる。
この先の人生が、どうなっても別にいい。いつどこでどんな風に死んだって構わない。この灰色の世界がどうなろうと興味なんて無い。龍兎がHIVのキャリアでも、精神異常者でも、どうでもいい。
アタシにあるのは、トラガスの、突き刺さるような痛みだけだ。
そしてアタシは知っている。龍兎にあるのは、あの左手の、自傷の痛みだけだってこと。
だから龍兎はトラガスにピアスをあけ、アタシは左手に龍を描かなくてはいけない。
龍兎は、よくわからない表情をした。口元を緩めたその顔が、笑っているんだ、と気付くのに、五秒かかった。その五秒のうちに、龍兎はアタシのことを、両腕で抱き締めていた。
龍兎の、アタシとお揃いのライダースの肩越しに、空から雪が舞っているのと、自分の息が空中で白く輝いて、霧散していくのを見た。耳元では、龍兎が声を押し殺して泣いている。アタシにはそれが、あの龍が哭く声のように思えた。
痛みに哭いているんじゃない。アタシたちはそんなことすら満足にできないくらい、不格好で哀れな生き物だ。
松葉杖を捨てた。どこにも行けないのだから、こんなもの、もういらない。空いた両手を伸ばして、龍兎の身体を抱き返す。
そうして、ふと、こんな風に龍兎を抱き締めたことも、抱き締められたことも、初めてのことだと気がついた。
龍兎の涙がアスファルトに落ちる。一滴、二滴と染み込んでいく。アタシは、最後に泣いたのがいつだったのかさえ思い出せずに、ただそれを見つめる。
アタシたちの身体も心も空っぽで、そこには何も無いとしても。いくら交じり合ったところで、この肉塊を温め合うことすら、できないとしても。
でもそれでもいい。それでもアタシは、この痛みを知っている。
冷たい風に晒されて、龍兎の身体は特別温かくはなかった。でもそれでも、充分だった。
それだけで、ただ良かった。
了
0 notes